衆議院

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第31号 平成27年7月10日(金曜日)

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平成二十七年七月十日(金曜日)

    午前九時三分開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 盛山 正仁君

   理事 山下 貴司君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      大塚  拓君    勝俣 孝明君

      門  博文君    門山 宏哲君

      熊田 裕通君    今野 智博君

      新谷 正義君    助田 重義君

      辻  清人君    冨樫 博之君

      藤井比早之君    藤原  崇君

      古田 圭一君    堀内 詔子君

      前川  恵君    三ッ林裕巳君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    山田 美樹君

      若狭  勝君    黒岩 宇洋君

      階   猛君    鈴木 貴子君

      柚木 道義君    重徳 和彦君

      大口 善徳君    國重  徹君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   国務大臣

   (国家公安委員会委員長) 山谷えり子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   最高裁判所事務総局人事局長            堀田 眞哉君

   最高裁判所事務総局刑事局長            平木 正洋君

   最高裁判所事務総局家庭局長            村田 斉志君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    三浦 正充君

   政府参考人

   (総務省総合通信基盤局電気通信事業部長)     吉田 眞人君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          萩本  修君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  岡村 和美君

   参考人

   (SNS株式会社ファウンダー)          堀江 貴文君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

七月十日

 辞任         補欠選任

  菅家 一郎君     熊田 裕通君

  宮川 典子君     藤井比早之君

  宮路 拓馬君     前川  恵君

  簗  和生君     三ッ林裕巳君

同日

 辞任         補欠選任

  熊田 裕通君     山田 美樹君

  藤井比早之君     助田 重義君

  前川  恵君     宮路 拓馬君

  三ッ林裕巳君     簗  和生君

同日

 辞任         補欠選任

  助田 重義君     新谷 正義君

  山田 美樹君     堀内 詔子君

同日

 辞任         補欠選任

  新谷 正義君     勝俣 孝明君

  堀内 詔子君     菅家 一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  勝俣 孝明君     宮川 典子君

    ―――――――――――――

七月九日

 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第三三五〇号)

 同(池内さおり君紹介)(第三三五一号)

 同(梅村さえこ君紹介)(第三三五二号)

 同(大平喜信君紹介)(第三三五三号)

 同(笠井亮君紹介)(第三三五四号)

 同(穀田恵二君紹介)(第三三五五号)

 同(斉藤和子君紹介)(第三三五六号)

 同(志位和夫君紹介)(第三三五七号)

 同(清水忠史君紹介)(第三三五八号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第三三五九号)

 同(島津幸広君紹介)(第三三六〇号)

 同(田村貴昭君紹介)(第三三六一号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第三三六二号)

 同(畑野君枝君紹介)(第三三六三号)

 同(畠山和也君紹介)(第三三六四号)

 同(藤野保史君紹介)(第三三六五号)

 同(堀内照文君紹介)(第三三六六号)

 同(真島省三君紹介)(第三三六七号)

 同(宮本岳志君紹介)(第三三六八号)

 同(宮本徹君紹介)(第三三六九号)

 同(本村伸子君紹介)(第三三七〇号)

 同(藤野保史君紹介)(第三四八二号)

 選択的夫婦別姓制度導入の民法改正を求めることに関する請願(奥野総一郎君紹介)(第三三八八号)

 冤罪をなくすための刑事司法制度の改革に関する請願(清水忠史君紹介)(第三三八九号)

 盗聴法(通信傍受法)の改悪と共謀罪の新設反対に関する請願(清水忠史君紹介)(第三三九〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、特に裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化及び証拠開示制度の拡充について、参考人としてSNS株式会社ファウンダー堀江貴文君に出席をいただいております。

 この際、堀江参考人に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じますが、極めて時間が短い参考人質疑になっていますので、簡潔明瞭に委員の質問にお答えいただきたいと思います。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、堀江参考人から十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、堀江参考人にお願いいたします。

堀江参考人 よろしくお願いします。堀江と申します。

 きょうは、何で私、ここに来たかといいますと、今回の刑事司法制度改革というのは、十年間ほど、刑事司法の世界でいろいろやってきた私としましては、非常に重要な制度改革だというふうに思って注目をしていたんですけれども、いろいろ審議をして法案が提出されるというところまで来ましたが、私が期待していたような改革というのはほとんど盛り込まれず、今回の制度改革の趣旨というのは、恐らく、郵便不正事件で冤罪であるのにもかかわらず逮捕、勾留されて半年以上も大阪拘置所に入っていた村木さんであったりとか、ほかにも何件かそういった事件が相次いだということもあって今回の司法制度改革になったと思ったんですけれども、そっち方向の改革というのは、むしろ、前進したというよりもほとんど後退しているんじゃないかというような事態になっていることもありまして、今回、ここでしゃべってくれということだったので、ぜひにということでやってまいりました。

 最近のマスコミ等の報道を見ても、今回、すごく重要な改革であるにもかかわらず、全く注目をされていなくて、安全保障云々かんぬんの方がむしろすごく注目をされていて、正直言って、国民生活に一番関係してくるのは実はここなんですね。ということに実は私も十年以上前は全然気づいていなかったんですけれども、ここにいらっしゃる法務委員会の方々はもっと注目されてしかるべきだと思います。

 というのは、身近なところで、皆さん、事件や事故といったものに巻き込まれて司法の場に出てこざるを得ない人たち、たくさんいらっしゃいます。私、一年九カ月間、刑務所にいましたのでよくわかったんですけれども、そちらにいらっしゃった方々の半分以上はその辺で生活しておられる方々でございます。そういった人たちが逮捕、起訴されて、裁判を経て、有罪、実刑判決を経てそういったところにいるという現実、これをまず、皆さん、自分のことのように考えてしかるべきだというふうに思います。

 それこそ、本当に、今回、司法制度改革でデモをやってもいいぐらい。国会前で安全保障のデモをやっていますけれども、僕はどっちかというとこっちの方が大事だと思っています。

 具体的に言いますと、まず保釈の問題ですね。

 保釈の問題に関して言うと、先進諸国に比べると、日本は、保釈に対してはかなり厳しい状況、特に被疑者、被告人にとって非常に厳しい状況になっております。

 まず、警察官なり検察官が逮捕して勾留している期間、最大二十日程度なんですけれども、その後も、起訴された後も起訴後勾留というのが続きます。その起訴後勾留というのは、理論的には延々続けられるような状況になっていて、私の場合も、逮捕、起訴されて九十四日間、逮捕している期間、捜査期間も合わせてですけれども、九十四日間勾留されました。村木さんに至っては、その後、裁判で無罪判決が出たにもかかわらず、半年以上勾留されておりました。要は、結果として無罪になってしまう人がそれだけ勾留をされてしまう。その精神的負担というのは非常に大きいものがあります。

 単なる勾留ではなくて、私の場合は経済事犯でしたので、接見禁止命令というのがつきまして、担当の弁護士さん以外は誰にも会えない、そして雑誌、新聞の閲覧もまかりならぬということが九十四日間続きまして、非常に孤独で隔絶された世界におりました。これは、被告人、被疑者にとっては非常に精神的な不安になっておりまして、かなり精神的プレッシャーになるので、脳の記憶が書きかえられてしまうぐらいの記憶になります。

 これは村木さんもおっしゃっていましたけれども、自分がやっていないことをさもやっているかのように思ってしまう。例えば、あのときに事件になった、主犯格といいますか、書類を書きかえた元係長は、村木さんと一回も面識がないにもかかわらず、さも共謀したかのように供述調書とかそういったところで取り調べをやっておりましたけれども、そういったことが実際に起こり得る。その後の村木さんの話ですけれども、判決が出た後、実際にその係長と会って、私たちお互い会っていないよねというのを確認し合ったというふうに言われています。

 私の勾留中、にせメール事件というのがありまして、僕が送ってもいないような、自民党の元代議士の方にウン千万円送ったなんというメールを、民主党の方々ごめんなさいね、民主党の某議員が、送ったメールが出てきたといって大騒ぎになっていましたけれども、僕はそのとき東京拘置所に勾留されておりまして、そのときに、こんなの絶対俺やらないよなと。もちろん、そんなメールは送っていないんですけれども、それでも不安になってしまう。もしかして、何か万が一、酔っぱらって送ったかもしれないとか、本当に思っちゃうんですよね。絶対にそんなことを自分はしないと思っているのに、思ってしまうぐらい、精神的極限状態に置かれます。

 これは、司法の世界においては、本当に、被疑者、被告人と検察官というのは、立場的に言うとこんな感じなんです。検察官の方が物すごく立場が高い状況にありますので、これで本当にフェアな取り調べが行えるのかどうかというのは非常に疑問です。

 ですので、刑事訴訟法第八十九条の権利保釈について本当はもっと改善しなきゃいけないんですけれども、審議会の方で結論が出なくて、玉虫色の文章みたいになっていて、現状でも保釈については適切に運用されているということが前提になって、ろくに条文は書きかえられずに、今の現状とほとんど変わらないような状況になっている。罪証隠滅及び逃亡のおそれがあるときは保釈しなくていいというふうになっておりまして、私の場合も、結局、裁判官の裁量保釈で保釈されました。これは、公判前整理手続で証拠が一応全部提出されているということを前提にして、初公判と同じような状況だということで、否認をしているにもかかわらず、割と早期に、それでも九十四日間かかって保釈をされました。

 私のような人間、当然、逃亡なんかできないわけですし、これだけ衆人環視の環境にあって、パソコンとか全部押収されているのに、何が罪証隠滅だというふうなことを申し上げたんですけれども、否認の被告人に対してはそういう運用がされるのが通例となっております。

 そういった状況に関して、保釈に関しては、権利保釈をかなり広い範囲に認めるべきであろうというふうに思っております。少なくとも今提出されている条文では到底納得いかないというふうに私は考えております。

 それと、もう一つ言っておきたいのは、司法制度改革の中の司法取引制度なんですけれども、今回、日本で初めて導入されました。

 司法取引制度に関しては、皆さん御存じだと思いますけれども、日本でも司法取引的なことは実際行われています。例えば、日本では、最近、検察審査会でも起訴はできることになりました、起訴の取り消しはできないんですけれども。基本的に検察官が起訴できることになっています。検察官が不起訴であったりとか起訴猶予というのを判断することができる、検察官起訴便宜主義ですね、こういったことになっております。

 あと、検察官の独自捜査権限があります。だから、検察官は、独自に捜査をして、独自に起訴することができる。自分が捜査した案件というのは、間違いがないと思って、大体みんな起訴しちゃうんですけれども。

 検察官は、今でもそういったすごく強い立場を持っていて、特に、不起訴であったり起訴猶予にするという権限というのは、実は、主犯格の人たちを追い詰めるときには非常に有効な手だてで、要は、そういうのをにおわせて、不起訴になるかもしれないよとか、起訴しても大して求刑しないような感じの雰囲気を、実際に明言している人もいるみたいですけれども、そういった状況にある。

 それに対して、私は、司法取引を導入すること自体には反対ではありません。ただし、今回の司法取引に関して言うと、主犯格以外の人たちが対象、実質的にそういった人たちが対象になっていて、ターゲットとされる主犯格の人たちの罪を重くする方向で証言すると、あなたの罪一等を減ずるというような趣旨の改革になっておって、諸外国、特に例えばアメリカとかの司法取引制度というのは、主犯格の人たちも、自分の罪を認めることによって罪一等を減じますよ、例えば執行猶予にしますよとか不起訴にしますよとか、そういったことを交渉する余地があるんですけれども、今回、一方通行的な改革になっておりまして、これではむしろ検察官の権限拡大につながるのではないかというふうに私は懸念しております。

 特に、郵便不正事件を例にとりますと、その係長の証言というのはより強固になってしまっていたのではないかと。つまり、今の改革がそのまま通れば、村木さんが悪い、俺は何も悪くないというような方向の証言を恐らくしてしまうだろうなということで、これについても私は非常に懸念をしております。

 それ以外にもいろいろ言いたいことはあります。

 例えば、さっき言った検察審査会制度についても、不起訴になった案件を起訴相当にするというようなことはできますが、起訴になったものを不起訴相当にするとか不起訴にするというようなことはできない、起訴方向の一方通行的な検察審査会制度になっておりまして、例えば、政治家の方で言えば小沢一郎さんとかそういった方々は、二回ぐらい起訴相当が出て、裁判になって、結局無罪になったわけですけれども、そういったことが、今現状、検察官の権限というのは非常に大きな状況にありますので、これだと、またこれからも冤罪事件というのが恐らく起きてくるのではないか。

 それに対して私は非常に憂慮しておりますし、ある日突然、あなたが冤罪事件に巻き込まれて、投獄、長期勾留されてしまうというようなことにもなりかねないというふうに私は憂慮しております。その点に関して、ぜひここでいま一度議論を尽くしていただいて、せめて、特に司法取引制度と保釈に関しては、特に保釈に関してなんですけれども、見直していただければなというふうに思っております。

 以上でございます。ありがとうございました。

奥野委員長 ありがとうございました。

 以上で御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。若狭勝君。

若狭委員 自由民主党の若狭でございます。

 きょうは、堀江参考人におかれましては、お忙しいところ本当にありがとうございます。

 私の方からは、まず、先ほど、九十四日間ですか、勾留されていたけれども、ほかの事案に比べると比較的早期に保釈がされたのではないかというお話をいただきました。それは、公判前整理手続というのがそのころ本格的に実施されたということが大きい理由だとは思うんですけれども、それはそのような認識でよろしいでしょうか。

堀江参考人 恐らくそうだと思います。

 ただし、この公判前整理手続制度というのは、こちらにつきましても、弁護側、要は被告人、被疑者側にとっては非常に負担が大きい制度です。

 というのは、本当に、一カ月とか二カ月とか物すごく短い期間で、私たちは当時、当時というか今もそうですけれども、証拠開示請求がろくにできないような状況で、検察官等に押収されている証拠なんかを必死に調べたりとか、そういったことをやらなきゃいけない。そこで論点整理をやって、要は、後出しじゃんけんはだめよと。検察側も弁護側も証拠を出し合って、これ以外についてはもう本当にやらないよ、争いませんよということを明確にしてやるからこそ、早期保釈が恐らく認められていて、それは僕は弁護士さんに言われました。ここでも証言された高井康行さんなんですけれども、彼に言われました、どっちを選ぶかと。恐らく公判前整理手続をやると早期に保釈されるけれども、やらないと、ちょっと初公判までは難しいかもしれないと。

 そういう状況で、僕は早期保釈されることを望みました。なぜかというと、非常に苦痛だったからです。精神的に苦痛だったから、多少こっちが不利になることも受け入れた上で、早期保釈を選びました。

 これに関しては、証拠開示請求、今回の改革にもまた出てきていますけれども、こっちに関しては割といい方向に進みました。私のころは、検察官がどんな証拠を押収したのかわからない状況で、私たちの中から、こういう証拠があるんじゃないかということをたどっていって、やっと見つけたみたいなことがありました。

 これは、私の事件で言うと、余りにもおかしな、私に不利な証言をしていた元部下が、おかし過ぎるだろう、何かあるんじゃないかということで、私の弁護士は元検察官だったものですから、そういった捜査っぽいことをやって、ここにこういう通帳があるんじゃないかとか、この取引が怪しい、このお金の流れが怪しいということでどんどんたどっていったら、横領していた、それも数億円単位の横領をしていたという事実を、証拠開示請求を通じて見つけたんですね。

 ここでも司法取引まがいのことが行われていたんじゃないかと私たちは憂慮していたんですけれども、今回の証拠開示請求の改革では一覧が出てきますので、そういったことはなくなるのではないかなと思っています。

若狭委員 ただいま、証拠開示制度は前進ではないかというお話をいただきましたけれども、きょうは、保釈の点についてまずお聞きしたいんです。

 堀江参考人が保釈が認められなかったのは、逃亡のおそれということも一つあったと思うんですが、もう一つ、証拠隠滅のおそれがあるということで保釈がなかなか認められなかったということもあったと思うんです。それはそのとおりでよろしいですか。結論だけお願いいたします。

堀江参考人 それは定かではありませんが、わかりません。

若狭委員 それは恐らく弁護人の方から当時お聞きになっていると思うんですが、こうした共犯者がいる事件の場合は、証拠隠滅のおそれというのも、保釈を認めない、権利保釈の一つの除外事由にはなっているのが普通だと思うんです。

 それで、さかのぼって、堀江さんの今回の自分の事件というのは、最終的には有罪になったと思うんですけれども、その有罪になったことについては、今現在は、やはり間違っているというふうに思われるのか、有罪は有罪でやはり受け入れるというような思いでいるのかということについて、結論だけお願いいたします。

堀江参考人 私の事件につきましては、基本的には、私の中では、これが本当に有罪なのかというふうな思いはいまだにありますね。

若狭委員 いろいろとニュアンス的には難しいところの表現だと思うんですけれども、いずれにしても、今、完全に無罪だというような明確な返答があったわけではないというふうに承知したわけです。

 その場合、要するに、共犯者などが多いので、当時、少なくとも証拠隠滅のおそれがあるということで保釈が認められないということ自体は、通常考えるとよくあり得る話だなと、私は自分の経験に照らして思うんですよね。その点についてはいかがですか。

堀江参考人 その点につきましては、電子メール等、そういった客観的証拠というのは隠滅しようがない。既に私のパソコンなり、全て押収されておりますので、そういったところは隠滅のしようがありませんので、そういったことはないと思いますね。

若狭委員 メールなどの客観的証拠はともかくとして、やはり共犯者の供述というのが少なくとも一つの大きな証拠になっているということは当時あったのでしょうか。

奥野委員長 若狭さんはもともと検事ですから、何か取り調べのような感じがするんだけれども、もっとフランクにやってください。

堀江参考人 いや、そういう雰囲気を非常に感じるんですけれども。前の方に元検察官の方が結構いらっしゃるので。

 私の場合は、有罪部分というのは、確かに共犯者とされる方々の証言によって認定されている部分というのは非常に大きいと思います。

 ただ、その人たちに会うことというのは基本的にできないという条件で保釈されると思うんですよね。実際、私は、逮捕されてから、共犯者とされる方々に一度も会っておりません、いまだに。もう今は別に会ってもいいんですけれども、保釈のときの条件というのは、基本的に、そういう人たちに会ってはならぬという条件が通常ついて保釈されます。ですので、そういったことはできないと思うんです。

若狭委員 今回、堀江参考人におかれましては、捜査、取り調べ、裁判、それで受刑という、本当に我々にとっては耳をかさなければいけない数々の体験をされているということで、堀江参考人のお話しされていることは、私どもも十分に傾聴に値するというふうに思っております。

 ただ、少なくとも事実関係として、当時の自分の保釈の問題を今回の法制度のところに絡めて言う場合というのは、どうしても法制度は一般的な話をするものですから、その際に、堀江さんの個別的な事情というのを十分加味しないで堀江さんの話をそのまま受け入れてしまうと、全体としての法制度をどうするかというのとはちょっと違ってくるような感じがするので、若干根掘り葉掘り聞いた次第なんです。その辺は非常に恐縮の至りなんですが。

 それから最後に、先ほど証拠開示ということについては前進だという話がありましたけれども、今回、証拠開示の前提として、検察官が手持ち証拠の一覧表を弁護人の方に交付するという制度もあわせて改正案に盛り込まれているんですよね。そうした一覧表の交付ということによって、証拠開示の手がかりが、もっとできやすくなるという制度なわけですが、それについては積極的に評価できるかどうかという点だけお答えいただけますでしょうか。

奥野委員長 堀江参考人、なるべく簡潔にお願いします。

堀江参考人 そうですね、現状に比べるとかなり前進だと思います。もっと柔軟になってほしいんですけれども、少なくともここに関しては評価したいと思います。

若狭委員 私の質問は終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 きょうは、堀江参考人、お忙しい中、当委員会までお越しいただきまして、実体験に基づく貴重なお話を賜りましたことを感謝申し上げます。ありがとうございます。

 私は、若狭委員と違いまして、検察官ではなく弁護士ですので、気楽にお答えいただければと思います。余りどこかに特化して聞くというようなことではなくて、広くお伺いしていきたいと思います。

 刑事司法といいましても、被疑者段階、被告人段階、また実刑判決を受けて受刑者の段階というのがありますけれども、先ほどお話の中で、被疑者段階、被告人段階の拘置所生活、これが非常に精神的に極限状態にあったというようなことをお話しいただきました。私も、弁護士として活動しておりまして、そういったさまざまな被疑者、被告人の声も聞いてまいりました。

 そこで、被疑者、被告人段階における拘置所生活においてさまざまな支障があったかと思います。今回の改正では、取り調べの録音、録画とか、堀江参考人がおっしゃられた保釈の問題等もありますけれども、拘置所生活一般で、心身ともに追い込まれるようなさまざまな支障とか課題とかがあったと思いますけれども、そういった課題、支障、そしてそれをどのように改善していくべきとお考えか、このあたりのことをお伺いしたいと思います。

堀江参考人 拘置所に関して言うと、取り調べをしているときというのは、非常に面会時間が短いです。一日当たり十五分から三十分ぐらい。これでは、十分な打ち合わせができないんですね。土曜日はできることがあったんですけれども、もちろん、日曜、祝日というのは面会できません。

 これは、拘置所の職員の数の問題であるとかというふうに言われていました。特に東京拘置所は非常に過密スケジュールですので、私はかなり便宜を図っていただいていたように思いますが、本当に、一般の勾留されている方々は、非常に短い時間しか面会ができないようになっています。国民の目からすれば、拘置所なんかに予算をこれ以上割いていられるかというようなことなのかもしれないですが、職員の数が圧倒的に足りないのではないかなというふうに思います。

 そういったこともあって、面会時間が短くて、ろくに打ち合わせができないんですよ。だから、特に金曜とか土曜とかの面会というのは、本当に結構極限に追い込まれる。取り調べは日曜もありますから、土日で結構攻めてこられます。検察官の方がぐっと攻めてこられますから、月曜日まで持ちこたえられるかみたいな感じなんです。

 そういった部分で、もうちょっと面会の時間をとれるようにしていただけないかというふうに思います。起訴後勾留のときは、面会時間フルフルに面会をしてもいいということになっておりますけれども、捜査期間の面会の時間が短いというのは非常に問題かなと。

 だから、究極的に言うと、取り調べに弁護士さんを同席できるようにしてほしい。それが何か証拠隠滅につながるとか逃亡につながるとか、そういったことは一切ないと思いますので、では、弁護士さんを雇える人が、あるいは別に国選弁護人でもいいんですけれども、弁護士を横に同席させて取り調べをして何が悪いんだと。

 こういったことは今回の司法制度改革には全く盛り込まれておりませんけれども、弁護士同席を僕は認めるべきだというふうに思っています。

 以上です。

國重委員 ありがとうございました。

 今、土日等に固めて取り調べをされて、そこで追い込まれるというような趣旨の話がありました。私も刑事弁護の経験から、無罪を主張していた被疑者がいましたけれども、私が一日だけ、ちょっと九州の方に出張で、どうしても接見できない日がありまして、そのときに無理に自白調書をとられたというような経験もございました。これは公判でひっくり返しましたけれども。今、貴重な御意見だったと思います。

 続きまして、受刑者段階における刑務所生活、そこにおいても、入った者にしかわからない、さまざまな支障とか課題とかもあったかと思います。

 また、堀江参考人が入っているときに、周りの方の中に、再犯を繰り返している方とか組織に入っている方もいらっしゃったかと思います。今、堀江参考人は見事に社会復帰をされておりますけれども、そういった受刑者の方々が再犯を繰り返さず、また社会復帰できるようにするために、刑務所生活における運用においても、さまざまな改善点、このようにもっと改善していけばいいんじゃないかと思うところがあれば、お伺いしたいと思います。

堀江参考人 それにつきましては、私は文芸春秋社から「刑務所なう。」という本を出しておりますので、そちらに詳しいので、それをぜひ読んでほしいんです。

 端的に申し上げますと、一つは、刑務所の職員の数が圧倒的に足りません。

 今回、どこかの刑務所で、炊場、御飯をつくる係を外注するみたいな話がありましたけれども、これは受刑者の質もあって、御飯をつくる係の人というのは、割と能力が高くて、体力もあって、若くてみたいな人しかできないんですけれども、そういった受刑者は非常に減ってきておりまして、むしろ高齢の受刑者、障害者の受刑者がすごくふえてきているような現状があります。

 私が入っておりました長野刑務所の第十五工場というのは、いわゆる障害者と高齢者をお世話する工場なんですね。私は、そちらのお世話係で、衛生係というのをやっておりましたけれども、この人たちは、大体満期出所で、身寄りもなくて、更生保護施設にも入れなくてというような方々なので、恐らくまた再犯を繰り返すのではないかなと。そういった累犯受刑者の方々の対策をするには、根本的に生活を立て直すような、例えば研修とか職業訓練であったりとか、こういったものの改善が必要です。

 職業訓練に関しては、いわゆるガテン系の職業なんか、フォークリフトとか何かそういうのは割とあるんですけれども、それもエリート受刑者しか受講できない。本当に必要な、スキルが低くて再犯を繰り返しそうな人たちというのは、中に入っていても、そういった研修を受けられないような人たちなんですね。

 そういった人たちに対して、現代社会に即した形で、例えばプログラマー、IT系の仕事のエンジニアであったりとか、こういった研修を受けさせるとか、少なくともパソコンを使えるようにするとか、あるいは、少なくとも自動車運転免許ぐらいは、特に地方に行ったら自動車運転免許がないと採用されなかったりとかしますので、何か知らないけれども、玉掛けとかフォークリフトとか大型自動車とかそういうものの免許はとらせるのに、普通自動車運転免許というのを刑務所でとらせるのはまかりならぬみたいな形になっているのも、実際に再犯をさせないような支援をする意味では、職業訓練というのも何かちょっと非常に古臭い、全然変わっていないような状況が私はあると思います。この改善も求めたいと思います。

 職員の数が圧倒的に足りないのは予算が足りないからなんですよ。だから、再犯防止のために、予算をたくさん使って再犯防止をすることが社会にとって僕はいいことだと思いますので、予算をふやしてほしいです。国民はなかなか認めないかもしれないですけれども、受刑者に何でそんなぜいたくをさせるんだと。いや、そうではなくて、再犯をさせないため、つまり、社会に彼らは絶対帰ってくるんですね、懲役受刑者は絶対帰ってきますから、帰ってきた人たちをいかに再犯をさせない方向に持っていくのかが重要だと思います。

 最後にもう一つ言っておきたいんですけれども、私がいた刑務所の中で、性犯罪をたくさん繰り返して懲役六年の受刑者がいたんですけれども、彼が僕に何を言ったかというと、助かったと言っていたんです。彼は極悪人ですよ、社会的に言うと。何で助かったかといいますと、彼は強制わいせつ致死傷罪ではなくて強制わいせつ罪で収監されていたんですね。

 でも、彼が私に言ったのは、実際には強制わいせつ致死傷を何回もやっていると。にもかかわらず、強制わいせつで起訴されて、懲役六年である。そこは皆さんわかると思いますけれども、何でそうなっているかというと、これは裁判員制度の制度的欠陥なんですよ。

 というのは、裁判員裁判になると、要は被害者が裁判員の前で証言をしなきゃいけないんですね。その線引きが、強制わいせつ致死傷と強制わいせつの間になっているんですね。なので、被害者が、職業裁判官ではなくて一般の裁判員の前に出て証言するのが嫌だということで、強制わいせつにするケースが結構あるようなんですね。それによって、本来はもっと長い間社会から断絶されるべき人がたったの六年で世の中に出てきてしまう、社会に出てきてしまうという制度になっていること、僕はこれは非常に問題だと思います。

 これは、多分その改善案は幾つかあると思うんですけれども、僕は全事件に対して裁判員裁判を選べるような仕組みが必要なのではないかなというふうに思っています。そうしないと、そうやって本来はもっと懲役を長くすべき人が短くなってしまうというような状況、彼は多分氷山の一角だと思いますので、これを直さないと、また恐らく彼は再犯をして、マックス六年でいいのかというようなことになってしまう気がしますので、そこも憂慮しております。

 以上です。

國重委員 以上で終わります。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、階猛君。

階委員 民主党の階猛です。私も弁護士ですので、多分そんなに厳しいことは言わないと思います。

 先ほどのお話の中で、冒頭、司法改革は期待していたほどではない、あるいは冤罪防止は後退しているということでした。そうしたことから考えると、堀江さんはこの法案には反対というふうに理解したんですけれども、それで間違いないでしょうか。

堀江参考人 いや、一部反対、一部賛成ということです。特に証拠開示請求に関して言うと、もっとよくはなってほしいんですけれども、かなり前進したと思いますので、一部賛成ということです。

階委員 一部賛成、一部反対と。

 反対の部分というのは、先ほどのお話だと、司法取引のところとか保釈要件のところが出てきたかと思いますが、ほかに何かございますか。

堀江参考人 僕は、証拠開示請求以外の部分というのは、ほかも基本的に余り前進していないと思います。むしろ後退している部分が多かったように感じます。

 例えば、捜査の可視化であったりとかそういった部分も、一部、独自捜査事件であったりとかそういったところに限るみたいな話もありますし、何か、機器の問題でコストがかかるからとかなんとか言っていますけれども、そんなことは多分ないと思います。もっと安い機材を使って安く保存することは今の技術を使えば僕は可能だと思いますので、全事件に対して、被疑者だけではなくて、任意で取り調べをしているような周りの人たちの取り調べの方が実は重要だったりするので、それこそ、検察官が取り調べるのは全部録音、録画すべきであるというふうに私は感じますし、もっと言うと、弁護士を全部同席させてもいいように制度改革をすべきだと思っています。

 あと、通信傍受の問題に関しても、一部、例えばオレオレ詐欺であったりとか、そういったところの通信を事前に傍受して捜査をすることというのはいいと思いますけれども、その範囲が余りにも広過ぎるなと。これは、全てに拡充されてしまうおそれがあるので、ここに関しても憂慮しております。

 以上です。

階委員 我々も悩んでおりますのは、この法案というのは、方向性としては正しいものと、むしろ冤罪防止という意味でマイナスに働くものと、玉石混交といいますか、いろいろなものがまとまって一つの法案で、それで賛否を決めろと言われているわけですね。

 私たちは、そうじゃなくて、一つ一つテーマを分けて賛否を諮るべきだ、法案も分けて賛否を諮るべきだと言っております。しかしながら、今現状を前提としますと、この一括した法案について賛成か反対かということを決めざるを得ないわけです。

 今、堀江さんのお話を聞いていますと、問題点は多々あるということをおっしゃったわけでございまして、そういうことからすると、全体として仮にどっちか選べというふうに言われたら、どっちなのかということを改めて教えていただけますか。答えられる範囲で。

奥野委員長 それは誘導尋問のようであって、余り芳しくないですね。

 堀江参考人、率直に言ってください。

堀江参考人 ここで審議を尽くされて、少なくとも、私は、保釈と司法取引について私が言っているような形で、保釈については、刑事訴訟法第八十九条の第四号の部分の修正をちゃんとやればいいと思いますし、司法取引に関しては、全ての被疑者、被告人というか、共犯者、主犯格も含めてその制度を利用できるようにすればいいと思いますので、そこさえ修正すれば、私は賛成です。そこさえ修正すれば。

階委員 ちょっとテーマをかえますけれども、マスコミが注目していない、国民生活にかかわることだけれども注目されていない理由の一つに、司法取引という制度を導入するんですが、法案上は、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度という、聞いても何だかよくわからないようなネーミングがされているということがあると思うんですね。

 私は、もっとわかりやすい、つまり、国民にとって、これは危ないよね、ちゃんと考えなくちゃねというふうな注意喚起ができるようなネーミングをすべきではないかと。

 例えば一つの案として、密告奨励型司法取引だとか、何か、国民の耳目を引きやすいようなネーミングにすべきだと思うんですけれども、堀江さんは発信力があるので、もし、この司法取引、今回のタイプの司法取引について新たなネーミングをするとすれば、どんなことを考えられますか。

堀江参考人 それはなかなか難しい話なんですけれども、一方通行なんですよね、一方通行型の司法取引制度なんですよ。これは本来の司法取引では多分ないと思うんですね。フェアではない司法取引制度であります。これは圧倒的に主犯格が不利になります。そこをより強調した形で言うべきかなと思います。

 何でこんな話になったのか僕はちょっと理解がしがたかったんですけれども、そちらに関してはもうちょっと厳しく詰めるべきなのかなと。多分、多くの人たちが理解していないのでこんなことになっちゃったんじゃないかなと私は思っています。

階委員 一方通行型とかフェアではない司法取引ということは、堀江さんの言葉として出てきたと思います。

 おっしゃるとおりでして、七月七日のこの委員会で、政府参考人の答弁で、今回のこの司法取引は、「組織的な犯罪等の解明を図るために利用されるものでございまして、末端の実行者を初めとする下位の関与者から首謀者等の上位の関与者に関する供述等を得ることを主眼とするものである」という明確な答弁がされているんですね。

 まさに一方通行型で、先ほどお話をされていましたけれども、特に身柄拘束下において、末端の人から見ると、自分がやったかやらないかということですら、本当はやっていないのにやったと言いたくなるような状況であるから、なおさら主犯格がやったかやらないかということについては、自分とは関係ないことですから、多少良心の呵責はあるにせよ、自分がやっていないことをやったと言うことよりはハードルは低い。

 つまり、虚偽の供述がなされる可能性が高く、冤罪の可能性も高いというふうに考えるんですけれども、その点、いかがでしょうか。

堀江参考人 そのとおりだと思います。

 現状でも起訴便宜主義なんかを使ってそういう状況になっておりますが、それが助長される。これは実はすごく危険なことで、私は、ブログであったりとかメディアを通じてそういったことをずっと訴えてきましたが、誰も聞いてくれません。主犯格は悪いものだというふうに思っているのかもしれません。

 僕の事件はとりあえずおいておいて、村木さんの事件、郵便不正事件に関して言うと、司法取引制度がないにもかかわらず、元係長さんは全く事実無根のことを、検察官に誘導されたにせよ、それを証言してしまって供述調書をとられたわけですけれども、それは、要は、罪一等を減じるよ、あなたは執行猶予になるよとか、あなたを不起訴にするよとかというふうに言われたら、ほいほい、みんな、特に逮捕されると、あるいは逮捕の危険をちらつかされると、ほとんどの人たちはころっといってしまうと思います。特にホワイトカラーの人たち、ホワイトカラーの普通の労働者、労働者というか社員みたいな人たちというのは、本当にそういう状況には非常に弱いので。

 だから、私は、セットだったらいいと思うんですよ。ターゲットとされている人たちも、執行猶予にするんだったら認めますよとか。攻められたら、これは防御しづらいというか、できない。実質的に被害がない、ほとんどないというような状況であればいいかなというふうに、車の両輪なので、片方がないと、僕は、多分これはかなり危険なことになると思うんです。

 自分は絶対主犯格になることがないというふうに皆さん思われていると思いますが、例えば、自動車運転をして人をひき殺しましたということは誰にでも可能性としては多分ある。そういう状況で、自分は本当は悪くないのに、そんなに悪くないのに、周りの、道端で見ていた人たちとか同乗者の人とか、あるいは何かそれにかかわった人たちが、例えば、飲酒運転じゃないのに、あいつは酒を飲んでいたとか、そういうふうに言う人がもしかしたらいるかもしれない。

 特に経済事犯というのは、言った言わないというのが非常に大きなところで、私の事件なんかでいうと、堀江に指示されましたというのと、自分が独自に判断してやりましたというのとでは、もう大きな違いなわけですよ。そういったことというのは、ほとんどのケースであり得ます。

 私はよく言われました、ライブドアの事件のときは、ライブドアの社長なんだから責任をとりなさいと。それは、こういったことになって上場廃止にもなったんだから、責任はとるべきだというふうに私は思いますよ。だけれども、だからといって、指示していないことを指示したというふうには、それはうそでしょうという話になるわけです。

 でも、要は、企業の代表者として責任をとらなきゃいけないよというところを明文化するといいますか、そういったのが多分司法取引なんだと僕なりに解釈しているんですよ。

 トップとしての責任、部下がやったことに対してトップがとる責任、それは当然あると思います。だけれども、自分が計画をして、自分が部下に指示をして犯罪行為をやらせたということを、やっていないのに、部下が、そういうふうに指示をされていないのに指示をされたというふうに言ってしまいかねない制度なんですよ、これは。

 だから、ちょっとおかしいんじゃないかなというふうに思います。

階委員 これで質問は終わりますが、ぜひ、今回の司法取引、いいネーミングがありましたら教えていただければと思います。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党の信州長野の井出庸生です。

 堀江さん、きょうは、たってのお願いをさせていただいて、来ていただき、ありがとうございました。

 私は、この場に堀江さんをお呼びしようと思ったときに、堀江さんは裁判で有罪判決を受けていらっしゃるので、大変つらいことをお話ししていただくことになるのかなと憂慮をしておりました。

 きょうの委員会、各議員の先生方にも法曹関係者、実務経験者の方が多いんですが、私は、そうした検察官や弁護士、今の委員には裁判官はいらっしゃいませんけれども、その人たちの、今までの実務者の常識の中で悪かった部分を変えていこうというのが今回の改革の魂だと思っておりますので、ぜひお力をおかしいただきたいと思います。

 まず、保釈の関係で、勾留のつらさというところについて伺います。

 私、かなり前なんですけれども、堀江さんが書いた本を読ませていただきまして、堀江さんが拘置所にいらっしゃるときに、お一人でいるときに大変孤独でつらい状況だった。そのとき、夜に刑務官が、顔は見えないけれども、姿も見えないけれども、余りつらいようだったら、少しの時間だったら話し相手ができるよ、そう言ってくれた。そのとき、堀江さんは、人間の温かみというか情が、その刑務官の気持ちがすごく伝わって、布団の中で号泣されたというようなエピソードを書かれているんです。

 一人で勾留をされる、接見が禁止される、そのことのつらさというものを改めて教えていただきたい。

堀江参考人 これは、人による部分もあると思うんですけれども、ほとんどの人たちは多分つらさを感じると思います。

 私も、それまで飲んだことのなかった精神安定剤であったりとか睡眠薬というのを処方していただいて、飲んでいました。そうでもしないと頭がおかしくなってしまう。僕は、それまで精神安定剤の類いというのは飲んだことがなかったんですけれども、勾留されて、初めて飲むに至りました。

 さらに言うと、私の場合は、有名だったりとかすることもあって、特に隔離されていました。運動の時間とかというのは、ほかの被疑者、被告人の人たちとちょっとだけ会う機会というのがあるんですね、通常は。ですけれども、私は本当に厳格に管理をされていまして、ほかの人たちとは一切顔を合わせないような運用がされていまして、そういった部分でも非常に精神的に圧迫されていた。

 だから、逆に言うと、そこまでやる必要はないわけですよ。そこまでやる合理性というのは全くなくて、それは、だって一応推定無罪の状況ですので、被疑者、被告人に対して、そこまで精神的苦痛を与えてまで社会から隔絶して、さらに一人でずっといさせる必要というのは恐らく、恐らくじゃない、絶対にないわけです。なので、少なくとも人としゃべれるような状況ぐらいはつくってもいいんじゃないかなと思います。そこに関しては非常に非人道的だと。

 孤独が好きな人はいいんですよ、そういう人ももちろんいますから。ですけれども、ほとんどの人たちは孤独は嫌だと思うんですよ。単純に僕の場合は罪証隠滅及び逃亡のおそれがあるから勾留されていたんだとすれば、それさえ担保されていればいいわけです。それ以上に精神的苦痛を与えることはないと思いますので、ほかの人たちと会う場がある、運動の時間ぐらいは別にいいとか、そういうふうなことをしていただいてもいいのかなというふうには思います。

 それ以外は、僕の場合は、雑誌、新聞も入れられないような制限がかかっていました。これは何でかわからないんですけれども、そういった部分も制限は必要なかったんじゃないかなと思います。

 あと、村木さんにこの間お伺いしたんですけれども、接見禁止が彼女の場合はついていなかったらしいんですね。それもわからなかったらしいんですよ。わからなかったというのは、通知されないのか、弁護士さんが気づかなかったのか、よくわからないんですけれども。でも、そういうことというのは余り考えられないと思うので、何かその辺、結構制度が複雑なんですよ、勾留なんかに関しても。

 あともう一つ、僕は二回逮捕されたんですけれども、ちょっと検察と警察の場合で運用は違うんですけれども、裁判所に、勾留延長というか勾留許可をとりに行くんですね。令状部のところに行って、地下の薄暗い部屋に何時間も閉じ込められて、裁判官がぽんと判こを押して、そのまままた拘置所に護送されるんですよ。そういう謎の制度があって、謎というのは、一応これは勾留を十日とか二十日できるようにするための制度なんですけれども、ほとんど、九割以上、ぱんと判こを押されて勾留されるんですよ。

 なんですけれども、それも正直、精神的には非常に、裁判所の地下に閉じ込められるので、朝九時とかに着いて夕方の三時とか四時ぐらいまで、窓もなくて、何か昔投獄された人の落書きとかがあってみたいなところに閉じ込められるんですけれども、これも非常に精神的負担になります。これもちょっと改善されたらいいんじゃないかなと思います、今回の案とはちょっと違いますけれども。

 以上です。

井出委員 ここ数年は保釈率が上がってきていて、その一つに、公判前整理手続が進むことで保釈が早まる傾向があるというようなこともこの委員会の議論であったんです。

 堀江さんが保釈された当時の記事をきのう、おととい振り返って見ますと、公判前整理手続のために当時は異例のスピードで保釈が認められたと。それは、裏を返せば、堀江さんの事件の保釈というものが、現状の保釈に対しての一つの問題提起だったのかなと思います。

 私から最後に質問したいのは、私は、今回の法改正の改革の魂というものは、冤罪を少しでもなくしていくことだと。刑事司法制度というものは、もちろん被疑者、被告人の人権もそうですが、真相究明、裁判で真実を究明するという治安の部分も当然あると思います。そのバランスが難しいと言われていることは私も理解をしてきましたが、ただ、今回に関して言えば、村木さんの事件やそのほか多くの冤罪事件に対してどう手を打っていくのかというのがこの改革の魂だと私は思っています。

 そういう意味で、この法案全体を見たときに、先ほど陳述の中でも、検察の権力、力の強さというものに触れられておりましたけれども、今回の政府案というものが、では、被疑者への配慮が行き届いたものになるのか、それとも、依然としてというか、より一層検察の力が大きくなると思うのか、そのあたりを少し大きな視点からお話しいただきたいと思います。

奥野委員長 堀江参考人、二分しか残っていないので、簡潔に。

堀江参考人 一言で言うと、焼け太りだと思います。郵便不正事件で非常に社会的にたたかれたにもかかわらず、いつの間にか捜査権限拡大に持っていくところは、さすが検察だなと。戦後の司法制度改革すら切り抜けた検察の力の強さを改めて思い知ることになりました。非常に強い政治権力もお持ちなんじゃないかなというふうに思います。

 ここに関しましては、今回の司法制度改革には盛り込まれていませんけれども、検察官の独自捜査権限を剥奪すべきだと私は思います。

 というのは、検察官一人で始められます、独任官庁です。検察官一人で捜査を始めて、自分がつくった事件、自分がストーリーを描いた事件は当然起訴したいと思うでしょう。そうすると、そういうことが原因になって、要は、無理やり起訴をしてしまう。例えば郵便不正事件なんかは多分そうだと思うんですけれども、自分で引き返せなくなってしまう。

 これが、捜査に関して分離した独立した機関、警察であったりとか、もしかしたらアメリカの連邦警察、FBIみたいな組織をつくってもいいと僕は思うんですけれども、そういった機関、独立した別の機関が捜査を行い、その捜査機関が送検してきた事件に関してダブルチェックをする、別の組織の観点から見て起訴をする。

 起訴に関しても、本来であれば、起訴陪審的なものを導入して、今の検察審査会を拡充すれば多分できると思うんですけれども、そういったものをやって、検察官以外も起訴に関して判断をすることができるような状況をつくり出すべきというのが、これが本来は今回の司法制度改革でやるべきことだったんじゃないかなと私は思いましたけれども、全く触れられていないのは非常に残念です。

 以上です。

井出委員 終わります。どうもありがとうございました。

奥野委員長 最後に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史と申します。きょう最後の質疑者となります。堀江さん、本当にきょうはどうもありがとうございます。

 きょうは朝から、元検察官あるいは元弁護士という方が質疑しましたが、私は元漫才師ですので、最後は気軽に、言い残したことをどんどん言って帰っていただけたらと思います。

 最初は国民の皆さんが一番関心があることを聞きたいと思うんですが、堀江さん、もうかってまっか。

堀江参考人 そんなに景気がいいわけじゃないですよ。

清水委員 といいますのは、やはり、勾留されたりあるいは刑に服された方が社会復帰して、従前の生活を取り戻したり、あるいはみずからの営業活動に赴くというのはなかなか困難を要することだというふうに思っております。

 それで、きょうは御自身の経験も含めてお伺いさせていただきたいんですが、先ほどから、検察官と被疑者、被告人の間には大きな力の差があるというふうにおっしゃられました。これを対等に持っていくためには、防御権を確立するためには、先ほど弁護人の立ち会いが必要ということも少し言われたと思うんですが、その他、どういったことが必要だというふうにお考えでしょうか。

堀江参考人 先ほども言ったとおり、検察官の権力が非常に強過ぎるというのがあります。一応行政府に属するわけですけれども、検察官起訴便宜主義に代表されるように、起訴、不起訴の権限を実質的に彼らは保有していますので、準司法的な役割を彼らは担っているというふうに私は思っております。

 もう一つ、重要な三権でいうと、立法府としての役割というのは、実は、準立法的な役割を検察は担っていると僕は思います。なぜかというと、特捜部、東京地検特捜部であったりとか、そういったところが起訴した事件というのは、大体最高裁まで行って判例が確定します。判例というのは法律に準じるものですので、判例が確定されます。

 あと、私の事件で言うと、ライブドア事件のとき何が起こったかというと、ちょうど金融商品取引法というのが成立しました。あのとき、ライブドア事件でわっと騒いだときに、あれの罰則の上限が、旧証券取引法は五年だったんですけれども、十年に拡充されました。これは非常に大きな厳罰化だと思います。そこまで必要なのかというふうに私はちょっと思いました。

 というのは、十年というと、詐欺罪とか、そういった結構重大犯罪といいますか、ほかにも、僕はそんなに法律に詳しくないので覚えていないんですけれども、かなり重大な犯罪として位置づけられるようになりました。これは明らかに私の事件が影響していると思います。つまり、事件を自分たちでプロデュースすることによって、立法府的な役割も彼らは担えるということです。

 つまり、司法、立法、そして行政という三権を彼らは牛耳っている、オールマイティーであるというふうに私は感じておりまして、ちょっと権力が強過ぎかなと思いました。それは、独自捜査権限があったりとか、起訴を独占していたりとかするからなんです。そこを改革しない限り力というのは絶対対等になりませんし、言ったら、彼らは総理大臣ですら訴追することが可能なわけですから、原理的には。

 なので、それは戦前からずっと連綿と全く変わらないような状況なので、こちらに関しては、国民は余りそういった人たちに接する機会がないのでぴんとこないかもしれませんが、いつ何どきあなたが事件に巻き込まれるかわかりませんので、そういったところはもうちょっと自分の問題として考えるべきだと思います。

清水委員 ありがとうございます。

 それだけ権限を持っている検察が、今回、証拠開示に関しまして、一覧表のリストは出す。しかし、権限を持った検察官の裁量によって例外規定が設けられているんですよね。例えば、犯罪の捜査に支障を来すおそれがあると判断した場合には一覧表から落としていい。

 こういう裁量を今回法案の中に設けているということについて懸念はございませんか。

堀江参考人 それに関しては、私は非常に懸念があると思います。

 ただ、一覧表を出すだけでも、これはすごい前進は前進なんですよ。だって、今まで、何にもない状況から、ここにこういう証拠があるんじゃないかということを一歩一歩探していって、こちらとしては、弁護側としてはというか被疑者、被告人側としては防御していたわけですけれども、一覧が一応出てくるという制度ができただけでも僕は非常に前進なんじゃないかなと思いますが、当然それは、原則、押収した証拠、持っている証拠というのは全部出しなさいよというのが基本だと思います。

 だって、別にこっちは罪証隠滅できるわけじゃないですからね。彼らが持っているわけですから、被疑者、被告人側が検察官が持っている証拠を隠滅することができるわけじゃないので、別に出したっていいと思うんですよ。それは当然だと思いますね。

清水委員 非常に説得力がある御発言だと思います。

 身柄を長期拘束するというのが実は自白を強要する手段になっていないかということがこの委員会でも議論されています。罪を認めれば出してやる、認めなければ勾留が続く、こういうのを人質司法というふうに言われるわけですが、それを改善するためにも権利保釈の拡大が必要だというふうにおっしゃられました。

 その辺、もう少し詳しくというか、堀江さん自身の思いがあればお話しいただけますか。

堀江参考人 世界的な趨勢でいうと、先進国の間では特にそうなんですけれども、普通は早期に保釈されます。早期というのは、一週間、二週間ではなくて一日、二日ですよ。特に経済事犯なんというのは、別に、野に放ったからといって、人をあやめたりとか人に危害を加えたりとか、そういったことをするわけではないので、危険性は著しく低い。既に強制捜査等を行って、証拠というのはほとんど保全されているような状況にあって、先ほど若狭さんおっしゃったとおり、要は、口裏合わせをするだとか、圧力をかけてこっちに有利なように証言をさせるとか、多分、それぐらいの話なんだと思うんですよ。

 でも、そこに関しても、それは保釈条件につければいい話なんですね。会ったらもちろん保釈を取り消しますよとか、裁判で不利になりますよという条件をつけた上で、何なら僕は、GPS発信機をつけてもいいぐらいな話ですよ、それこそ。そんな制度があったら使うのに。逃亡を防止するというのであればですよ。私なんか、逃亡なんか絶対できないですよ。堀江が逃げようとしているよとみんな言ってくるでしょう。だから、僕に逃亡のおそれがあるというのは全くわからないし、傍受したければすればいいと思うんですよ。保釈された被疑者、被告人の通信を傍受してもいいというふうにしてもいいぐらいだと僕は思いますよ、権利保釈の中の条件として。そんなに憂慮されるのであれば、通信傍受やGPSを入れるのだって、別に僕はいいと思います。

 逆に言うと、勾留されているということはそれぐらい物すごく精神的負担が大きくて、やっていないようなこともやっているというふうに思ってしまうぐらい精神的に追い込まれるということなんです。人間の記憶というのはそれぐらいあやふやなものなので、ストレスをかけられるとすぐに書きかえられてしまいます。

 そこに関しては、今はそういうテクノロジーもあるわけですし、罪証隠滅及び逃亡のおそれというのはほとんどなくなるテクノロジーがありますから、それを用いてでも早期保釈を実現すべきだというふうに私は考えます。

奥野委員長 もうほとんど時間がないですから。

清水委員 はい。

 最後に、この刑事司法制度改革、余りマスコミにも大きく広がっていないということなんですが、最後にお願いなんですが、堀江さん自身の発信力で、今こういう司法制度改革が議論されているということを大いに広げていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

奥野委員長 簡単に、一言でお願いします。

堀江参考人 私、きょうはそのために来たというふうに思っています。皆さん頑張ってください。

清水委員 終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 堀江参考人には、貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)

 堀江参考人は御退席いただいて結構です。

 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

奥野委員長 速記を起こしてください。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁刑事局長三浦正充君、総務省総合通信基盤局電気通信事業部長吉田眞人君、法務省大臣官房司法法制部長萩本修君、法務省刑事局長林眞琴君及び法務省人権擁護局長岡村和美君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局堀田人事局長、平木刑事局長及び村田家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 本日は、特に裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化及び証拠開示制度の拡充について質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。若狭勝君。

若狭委員 自由民主党の若狭でございます。

 突然ですが、きょう、堀江参考人が先ほどお話ししていただきまして、再犯防止というような話も出ていたので、そこについて若干お時間をいただきたいんです。

 今回、刑事訴訟法改正案というのは、まさしく、それに基づいて裁判を受けて受刑をするということもあり得るわけですが、実際、私は、三十数年来刑事司法に携わってきまして、本当に著しく変わっている点というのを実感しております。

 それは、裁判員裁判が始まったりとか、あるいは今回の録画、録音の取り調べに関してとかという形で、隔世の感があるわけですが、あと二つ、私の若いときに比べると非常に変わってきている点というのは、一つは、やはり被害者遺族に対して非常に光が当てられてきている。従前は単なる蚊帳の外に置かれていた被害者遺族の方々に、最近、本当に光が当てられてきている。まだまだの感がありますけれども、それが一つ大きな変化の特徴だと思います。

 もう一つは、やはり再犯防止の取り組みについても非常に光が当てられてきていると思います。

 きょうは、突然ですが、この再犯の問題について法務大臣に少しお聞きしたいと思います。

 刑務所から出所した人間で、いわゆる適切な帰住先、確かな帰るところがない人間は、その約六割が一年未満に再犯を起こしているというデータがあるんですよね。そうしますと、そうした再犯を起こさせないという、つまり、昨年十二月に犯罪対策閣僚会議において「犯罪に戻らない・戻さない」という宣言がなされたと思うんですけれども、その観点から申しますと、やはりしっかりとした帰るべき場所があるということが大事だと思うんです。

 その意味では、今、全国百三カ所に更生保護施設という民間の団体がありまして、ここにおいて、帰住先として受け入れて、宿泊場所の提供あるいは食事の提供というものを、それこそ熱心な職員が二十四時間、三百六十五日にわたって支援している。そうした更生保護施設というのが今後ますます必要になってくる。まさしく、犯罪に戻らない、戻さないという意味においては極めて重大な役割を今後担ってくると思うんですよね。

 そういう意味から申し上げて、この更生保護施設に対する法務省の支援について、まずは法務大臣の見解をお聞きしたいと思います。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

上川国務大臣 昨年の十二月でございますけれども、閣僚会議が開かれまして、そして、宣言「犯罪に戻らない・戻さない」が決定されたところでございます。

 今委員の方から、更生保護施設の役割は再犯防止の意味でもこれからますます大きなものになるということをおっしゃっていただきましたけれども、これまでも、更生保護施設におきましては、職員の皆さんが、親のような気持ち、お父さん、お母さんのような気持ちで、温かなお心を持って、丁寧に、また寄り添いながら、刑務所から出所した皆さんの立ち直りの支援をし、いわば最後のとりでのような役割を果たしてこられたというふうに考えているところでございます。

 今、世界一安全な日本をつくるという意味で、再犯防止を大きなかなめとしておりまして、それに対して数値目標を決めて、特に居場所につきましても、数値目標をしっかりと実現すべく、国としても支援をしていくということでありまして、その大変大きな柱として、更生保護施設の皆さんに対しましては、よりよい機能を果たしていくことができるように支援をしていくということについては、全力で取り組んでいかなければいけないというふうに思っております。

 さらに、来年からは刑の一部執行猶予の制度がスタートするということでございますので、その意味も含めて考えると、更生保護施設の役割ということにつきましては、ますます大きな役割を果たしていただきたいというふうに思っているところであります。

 そのためにも、やはり更生保護施設で働いていらっしゃる、あるいは運営していらっしゃる皆さんのお声というのが大変大事であるというふうに思っております。まず現場の声をしっかりと聞かせていただきながら、また、その課題に対しても、解決に向けての取り組みということについても、これから全力で取り組ませていただきたいというふうに思っておりますので、委員の問題意識に照らして、法務省としてもしっかりと全力を傾けてまいりたいというふうに思っております。

若狭委員 非常に力強いお言葉、ありがとうございました。

 それでは、本日のテーマであります刑事訴訟法の改正案、そのうちの、まず証拠開示の点について、刑事局長に主にお聞きしたいと思います。

 一つ目は、いわゆる証拠開示の前提となる検察官の手持ち証拠に関する一覧表の記載事項の話なんですが、今回の法律案については、いわゆる証拠の標目とか作成年月日、供述者というような程度で足りるものだと。したがって、逆に、証拠の、供述調書でいえば、その内容については一々その一覧表には記載する必要がないということが前提となっている改正案だと思うんですよね。

 そこで、どうしてそういう、いわゆる証拠の標目とか作成年月日とか供述者程度で足りるものかということについて、これまでのここの法務委員会の審議において、法務省として、それは開示、一覧表の提出が迅速、円滑に行われる必要があるということとか、あるいは、検察官の判断を要するものを記載してしまうと、後々その記載の内容に関して争いが生じることを避けるためという説明がなされていると思います。

 私としては、この点について二つの質問、問題意識を投げかけたいと思います。

 一つは、仮に、一覧表の中に、例えば供述調書の内容についても記載するという取り扱いをするとした場合に、どのような負担というのが現実には想定されるのか。そして、一覧表を円滑に交付しようという場合に、そうした負担というものも含めてどういう支障が生ずるのか。

 つまり、私としては、弁護士として、やはり一覧表の中には、供述調書であればその供述内容についても記載してくれていれば非常に証拠開示の手がかりを得られやすい、一層得られやすいという問題意識があるがためにこの質問をさせていただいている次第です。

 刑事局長、お願いいたします。

林政府参考人 まず、一点目の証拠の一覧表に証拠の内容まで記載しなければならないといった場合の負担についてでございます。

 この場合、個々の検察官におきまして、弁護人にとっても意味のある記載内容にしなければならないわけでございますし、また、検察官の判断、評価の当否をめぐる紛争が後々生じないようにしなければなりませんし、また、被告人側がその証拠の内容についてミスリードされないように、こういうことに気をつけなくてはいけない。こういったことの観点で、全ての証拠ごとに、内容としてどのような事柄を、またどのように記載すればいいのかを慎重に検討しなければならなくなります。そのことに伴います一覧表作成までの負担というものには、相当な時間と労力を要するものと考えています。

 また、証拠の内容を具体的に記載するということにした場合の問題点、弊害につきましては、やはり、内容を記載するものとしますと、意図的ではないにしても、供述調書に記載されたさまざまな事項のうち、弁護人にとっては余り意味がない内容が記載され得る一方で、弁護人にとって意味のある内容が記載されないということも当然あり得るわけでございまして、一覧表に記載された証拠の内容について被告人側がミスリードされることとなってしまうおそれが生じます。その結果、一覧表に正しく記載されなかったという紛争を招きかねないわけでございまして、そういった紛争が生じるとなりますと、公判前整理手続の円滑な進行というものを阻害するおそれがあります。

 こういったことが、この制度はもともと手続の円滑な進行というものに資するための手がかりを与えるという目的でできたわけでございますが、そういった制度の趣旨にかえって反することになってしまうのではないか、こう考えております。

若狭委員 今、弊害が生ずるということをお話しされたと思うんですが、具体的に私のイメージとして、例えば目撃者の供述調書があったとしましょう。その目撃者の供述の中において、表現ぶりとして、目撃状況についてどちらともとれるような表現があったとした場合に、それを検察官が、意図するかどうかは別として、自分の立証に有利な方向で一覧表に記載内容として書いてしまうということだと、後々その記載内容をめぐって弁護人との争いが生じてしまうというようなイメージでよろしいんでしょうか。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

林政府参考人 今言われたように、記載内容でそこからイメージすることというものについて、それは弁護人との間で後々紛議になり得ましょうし、また、不要と思って内容に記載しなかった、しかし、されていなかったことについて、弁護側からすれば、それが記載されるべきであったという事項もございましょう。そういったことから紛議を招くおそれがあるということでございます。

若狭委員 一覧表の中に、例えば供述調書の内容については記載しないという取り扱いで今回の法律案ができているということについては承知しました。

 ところが、次に私の問題意識としてあるのは、法律案の三百十六条の十四第四項の一号ないし三号に、いわゆる証拠の一覧表の不記載事由、例外的に不記載にして構わないという条文があるわけですが、これについて、具体的に、例えば本日、平成二十七年七月十日ですけれども、その七月十日付のAという人の供述調書というのを例えて言うと、この一号、三号というのはどういったときに記載しないということになるのでしょうか。

林政府参考人 まず、今御指摘の例でいきますと、平成二十七年七月十日付、Aという人の供述書を例にしますと、標目としては供述調書となると思います。そして、作成年月日は平成二十七年七月十日、供述者の氏名というものについてはA、この三つの要素が証拠の一覧表に記載されるということになります。

 その上で、例えば一号を例にとりますと、一号について、Aという記載をした場合に、Aという者が捜査機関に協力したということが明らかになることによってAに対して加害行為がなされるというようなおそれがあると認められる場合、こういった場合には、このAという供述者の氏名の部分、この事項が不記載となり得るわけでございます。

 この場合、Aという氏名を不記載としましても、供述調書という標目とか平成二十七年七月十日という作成年月日につきましては、これらの事項が一覧表に記載されて交付されたとしましても加害行為等がなされるおそれはないことから、こういった事項は一覧表には記載されまして、供述者の氏名の部分が不記載となり得る、こういうふうに考えられます。

 また、例えば三号についての例でいきますと、三号については、「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」ということでございますけれども、例えば、供述調書が作成された参考人のAという氏名が記載されることによって、これが被告人側に明らかとなって、Aに対して、偽証でありますとか証言を拒絶するように働きかけて罪証隠滅工作が行われる、その結果、犯罪の証明に支障が生ずるおそれ等が生ずる、こういった場合には、Aという供述者の氏名が不記載ということになります。

 この場合におきましても、先ほど申し上げたような標目における供述調書という部分、あるいは作成日付の部分については、それ自体を交付したとしてもAに対しての罪証隠滅工作が行われるなどのおそれがないことから、これらの事項は一覧表には記載されて残るということになろうかと思います。

若狭委員 その点なんですが、あくまで弁護士としての観点でもう少しお聞きしたいんですが、弁護士としては、要するに、一覧表の中からざっくり、供述調書というものが一切隠されてしまうということを懸念するということもあり得ると思うんですよね。

 その観点で、例えば、具体的なAさんの七月十日付の供述調書というのが交付される一覧表の中から全てざっくりと、ですから、その存在自体も一切わからないということが運用上、事実上あり得る話なんでしょうか。

林政府参考人 そういったことについては、実際上は想定されないと考えております。

若狭委員 そうしたら、次に、今の制度、現行制度において、今の、犯罪の証明等に支障があることというのが考慮されている、つまり、現行制度においても証拠開示などで考慮されているという点は取り扱いとしてあるのでしょうか。

林政府参考人 現行の証拠開示制度におきましては、最終的に開示の判断をするに当たりまして、「開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度」、こういったものが開示の要件判断の際の考慮事情とされております。

 この弊害の内容としては、例えば、罪証隠滅のおそれ、あるいは関係者への報復でありますとか、関係者の名誉、プライバシーの侵害、こういったことが弊害の内容として解されているところでございます。こういった弊害が非常に大きいというふうに判断されれば、開示はされないということになるわけでございます。もとより、その開示がされないという判断については、最終的には、紛議があれば裁判所が裁定をいたしますけれども。

若狭委員 それでは次に、本法律案においては、公判前整理手続の請求権を当事者に付与するという改正を行おうとしております。

 しかしながら、裁判所が公判前整理手続に付する必要がないという判断をした場合の被告人、弁護人からの不服申し立て制度というのが設けられていないという改正案になっていると思うんですが、それはなぜなんでしょうか。

林政府参考人 被告人の保釈の判断や有罪無罪の終局裁判とは異なりまして、事件を公判前整理手続に付するか否かということにつきましては第一審の進め方でございますので、これを主宰する第一審裁判所の判断によって定めるべきものでございます。

 このことから、整理手続に付することの請求を却下する決定に対しては、即時抗告というものを設けて第一審にそもそも関与しない抗告裁判所にその当否を判断させることは相当でないと考えられたことによるものでございます。法制審議会においてもこの点については議論がなされましたが、そうした理由から、公判前整理手続に付することの請求を却下する決定、こういったものについては即時抗告を設けないこととされたものでございます。

若狭委員 もう少しイメージを具体的にお話をお聞きしたいんですが、弁護人の立場とすると、仮に公判前整理手続に付さないという決定がされた場合、やはり不服申し立てを抗告裁判所などにしたいという気持ちはあると思うんですよね。でも、それがある意味、有罪無罪とかあるいは勾留だとかという、終局的というか、被告人、被疑者に決定的な、人権に絡む問題ではなくて、いわば手続的に裁判所が一番よくわかっているわけですからその裁判所において判断すればいいということをおっしゃっているような感じがするんですけれども、例えば、証人の採否、実際の裁判において証人を採用するかどうかというようなことについての不服申し立てというのが、例えば抗告裁判所とかに持ち上がるということはあるんでしょうか。

林政府参考人 ただいま御指摘のあった証拠調べに関する異議につきましては、これは、異議は申し立てられますけれども、そのことに対しての裁判所の判断というものに対しての即時抗告というような形では設けられていないと考えております。

若狭委員 それは、例えば証拠の採否、採用するかどうかについても、やはり当該裁判所が一番よくわかっているし、それを抗告裁判所のような形でやったところで迅速性が失われるというようなことで、今回の公判前整理手続に付するかどうかの判断と類似しているというふうに理解してよろしいのでしょうか。

林政府参考人 原則として終局裁判に至るまでの手続に関する問題について個別に即時抗告というような手続を設けていないのは、今委員御指摘のあったような理由によるものでございます。

若狭委員 関連して、裁判所から検察の方に公判前整理手続に付するかどうかの意見を求められた場合、一般論として、検察官はどのような姿勢でその意見書を書く、つまり、公判前整理手続に付していいか、あるいは問題があるかというようなことについて、どのようなスタンスでその意見を裁判所に伝えるというのが実情でしょうか。

林政府参考人 この場合、検察官は裁判所から意見を求められるわけでございますが、一般的には、その事案に即しまして、その事案の性質、例えば争点が多岐にわたることが予想されるなどの複雑な事案であるか否か、公判で取り調べることが見込まれる証拠の内容でありますとか量、あるいは、これらを踏まえて予想される証拠調べに要する期間、開廷数、また、被告人側から証拠開示請求が見込まれている事案であるか否か、そういったことで紛議が生じて、裁判所の裁定まで必要になるような事案であるかどうか、こういったことなどを総合的に考慮して意見を述べることになろうかと思います。

若狭委員 ここでまた弁護士としての観点で疑問点をお聞きしたいんですが、あくまで証拠開示というのは公判前整理手続が前提となっていると思うんですよね。そうしますと、検察が弁護人に一覧表を提示したくない、要するに、証拠開示の幅を狭めたいというような思いで公判前整理手続自体に反対するというようなことが弁護人の立場とすると考えられてしまうわけですけれども、そういうことは絶対にないということは言えるんでしょうか。

林政府参考人 検察官が意見を述べる際に、例えば整理手続に付する必要はないという意見を述べるような場合はどんな場合かということでまず言えば、それは、公判前整理手続の趣旨、目的に照らして、事実関係にも争いがなくて、あるいは証拠開示も問題となっていない、そういったことから、そういう事案にもかかわらず整理手続に付することが迅速な審理等の観点からもかえって迂遠である、こういった場合には整理手続に付する必要はないという意見を述べるかと思いますけれども、そうでない場合において、一覧表の交付というものを免れるために、あるいはそもそも証拠開示を免れるために、その目的で、公判前整理手続の請求に対して、付する必要はないという意見を述べるようなことはないと考えております。

若狭委員 続いて、いわゆる任意開示というのがこれまでされてきていると思うんです。法律的な根拠規定に基づかずに、検察官が任意で弁護人に証拠を開示するという取り扱いですが、こうしたこれまで行われてきた任意開示という取り扱いが、今回のこうした法改正によって、今後、逆に制約的になるというか制限的になってしまうというようなことは、おそれとしてはないんでしょうか。

林政府参考人 現在、検察におきましては、公判前整理手続に付されている事件においても、また整理手続に付されていない事件におきましても、柔軟に証拠の任意開示というものを行っているものと承知しております。

 今回の法律案の制度の趣旨は、充実した公判審理を行うための公判前整理手続及び証拠開示の手続がより機能的に行われるようにすることによって、より充実した公判審理の実現に資するという趣旨でございますので、こういった趣旨の法律案が成立することによって、柔軟に行われております現行の任意開示の運用が逆に制限的になるようなことはないものと考えております。

若狭委員 それでは、続いて保釈の関係についてお聞きしたいんですが、今回の法案の九十条の改正案で、いろいろと項目が列挙されております。

 時間の関係で、ここの経済上あるいは社会生活上というのは、具体的にはどんなことを想定しているのかについて教えていただければと思います。

林政府参考人 今回の考慮事情の中の経済上というものと社会生活上というものの例をあえて挙げるとしますれば、まず、経済上の不利益というものについては、一例としては、被告人が自営業者であって、事業の問題があって、被告人みずからが関係先との連絡交渉を行うことが不可欠、そうでないとその事業に対して不測の問題が生じてしまう、こういったような場合が挙げられようかと思います。

 社会生活上の不利益として一例を挙げれば、例えば、学生であれば、被告人が受験勉強中であって、入学試験の期日が目前に迫っている、こういった場合などは社会生活上の不利益の一例として挙げられようかと思います。

若狭委員 私は、弁護士として、保釈というのはもっともっと認められるべきだと基本的に思っております。

 今、社会生活上、経済上というような、具体的に想定されることをお話しいただきましたけれども、それは一つの要素、ファクターであって、それがあるからといって必ずしも保釈になるということではないんですよね。その点を確認させていただきたいと思います。

林政府参考人 本法律案の刑事訴訟法九十条の規定は、保釈を判断するに当たって、まずは、裁量保釈の判断に当たって判断のベースとなるものとして、「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」というものを挙げておるわけでございます。その上で、個々の事案における具体的な状況に応じて、「被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」、こういったものが考慮されるということになります。

 したがいまして、先ほど例に挙げました不利益というものがございますが、こういうものがあるからといって必ず保釈が認められるということではもちろんございません。あくまでも、「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」ともあわせて、総合的に考慮して保釈が適当であるかどうかが判断される、これが法律の趣旨でございます。

若狭委員 最後ですが、保釈はやはり、人質司法と言われないようにどんどんと拡大すべきだと思うんですが、基本的には、裁判官の問題意識、裁判官それぞれにおいてきちんとした問題意識を持っていただきたいということを強く訴えまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、階猛君。

階委員 参考人質疑に引き続いて質問したいと思うんですが、身柄拘束下において取り調べをすることがいかに冤罪につながりやすいかということが堀江さんの御意見からも明らかになってきたのではないかと思います。

 そこで、前回の司法取引にも関連することで、前回積み残したことをお聞きしたいんです。

 そもそも、身柄拘束というのは、本人の被疑事実について調べるために身柄を拘束している、そして取り調べもしているということだと思うんですね。他人の事件について取り調べるということはそもそも念頭に置かれていないと思うんですが、そもそも論として、身柄拘束された状況で被疑事件と無関係な事件について取り調べるということは現行法上許されるのかどうか。これは刑事局長でも結構ですよ、お答えいただけますか。

林政府参考人 身柄拘束中の被疑者が他人の刑事事件の共犯者でないような場合、他人の刑事事件に関しては参考人の立場ということになる場合、こういった場合にも取り調べをすることは当然できますけれども、それはあくまでも同意を得た上で任意に取り調べができる、こういうことになろうかと思います。

階委員 そこで、法務大臣に確認したいんですけれども、今回、司法取引の制度で、まさに共犯ではない赤の他人についても取引ができるということで、しかも、捜査機関側の方から働きかけて司法取引の協議や取り調べができるというたてつけになっているかと思います。

 今の、あくまでも任意だということとの関係で、身柄拘束下において赤の他人の事件に関して司法取引の協議や取り調べが許されるのはなぜなんだろうかという疑問もあるんですが、この点についてお答えいただけますか。法務大臣、お願いします。

上川国務大臣 身柄拘束中の被疑者との協議ということで、合意制度におきまして、協議の開始からその終了、合意の成立に至るまで、原則として常に弁護人が関与する仕組みとなっているところでございます。

 弁護人が一貫して関与をするということでございますが、このことによりまして、協議、合意の適正公平が確保されるということ、そして、被疑者、被告人の利益が保護されるということになるわけでございます。したがいまして、身柄拘束中の被疑者、被告人と協議を行い得ることとするということにつきましては、問題はないというふうに考えているところでございます。

 現行法のもとにおきましても、身柄拘束中の被疑者の取り調べにつきましては認められているということでございますし、また、合意制度のもとにおきましては、被疑者、被告人は、遅くとも合意をする段階におきましては、弁護人との間で、合意をした場合にどのような供述ができるかにつきましても十分に相談をしておくこととなるわけでありまして、合意後の取り調べにつきましては、被疑者、被告人は弁護人とよくよく相談したところに従って供述をすることとなりまして、仮に不適正な取り調べが行われるようなことがございましたならば、まずもって弁護人に相談をするということが考えられるわけでございます。

 検察官といたしましても不適正な取り調べはできないということになりますし、また、被疑者、被告人が取り調べにおきまして心理的な圧迫を受けるということにもならないということでございまして、身柄拘束中の被疑者、被告人を合意に基づいて取り調べ得るとすることについては、それが自分の関係するものであろうと、赤の他人のものであろうと、それについては問題はないというふうに考えております。

階委員 ただし、それによって、自分と無関係な事件の取り調べ等で身柄拘束の時間が延びるということもあり得ると思うんですね。協議したからといって必ず免罪されるというわけでもありませんし、協議していく過程の中で、やはりこの人は余り価値がないということで取引が見送られるということもあるわけです。

 私は、身柄拘束をいたずらに長くしないような制度的な工夫もあってしかるべきだと思うんですね、司法取引を入れる以上は。そのあたりの配慮というのはないんですか。

林政府参考人 この場合の身柄拘束は、被疑者自身の事件に係る理由、必要性に基づくものでございますので、例えば合意に基づく取り調べのために身柄拘束を継続されているわけではないのでございます。

 したがいまして、合意に基づく取り調べがまだ終わっていない、継続中であるというようなことがあったといたしましても、被疑者、被告人自身の身柄拘束の理由、必要性が消滅すれば、その身柄は釈放されることになるわけでございます。そういった場合には、釈放された場合におきましても合意自体は残っておりますので、合意に基づき供述する義務というものについては、これは在宅の状態で取り調べる、そういうことに応じる義務は残っている、このような形になろうかと思います。

 いずれにしても、身柄拘束の問題は、合意が身柄拘束の要件を満たすようなことにはならないものと考えております。

階委員 私は、今、身柄拘束の話と司法取引の話は分けて考えるという趣旨だったと思うんですけれども、やはり司法取引というものが身柄拘束と結びついているから危険だと思っているんですね。

 身柄拘束下では、やはり、やっていないこと、自分がやっていないことですらやったと言いかねないんだと堀江さんも言っていました。ましてや、他人がやっていないことでもやったと言うのはよりハードルが低いのではないかということを言いましたら、堀江さんもそれは認めたということなんですよ。

 そもそもなんですけれども、身柄拘束下で自分自身の犯罪について無実を主張している場合、無実であるかどうか客観的にまだ認められていないけれども無実を主張している被疑者との間で司法取引をするというのは、私は危険ではないかと思っていますけれども、前回、そこがちょっとかみ合っていなかったと思うんですね。無実だと認定されたら司法取引にはならないということをお答えになったと思うんですが、認定される前ですよ、無実を被疑者が主張している段階で司法取引をするというのは私は危険だと思っていますけれども、こういうことは今回の制度ではできるのかできないのか。法務大臣、お答えください。

上川国務大臣 先回の質問の部分で少しかみ合わなかったというところの再質問ということでございますけれども、合意制度のもとで、検察官は無実を主張する嫌疑者との間で合意をすることができるかという質問でよろしいでしょうか。(階委員「はい、そうです」と呼ぶ)

 合意制度でございますが、これは被疑者に対象犯罪についての嫌疑があるということを前提にした制度であります。そして、被疑者によりましての協力行為を、その嫌疑に係る事件において被疑者に有利に考慮して処分の軽減等を行う、これが合意制度のルールということになるわけでございます。

 被疑者として一定の嫌疑があったものの、捜査の結果、嫌疑が解消された場合、その協力行為を考慮して不起訴処分等の有利な取り扱いをするわけではないということでございますので、そのような被疑者と合意をすることは制度上できないということになるわけでございます。(階委員「その論点は前回お答えいただいて、私が聞いているのはそこじゃなくて、嫌疑が晴れる前の状況です」と呼ぶ)嫌疑が解消される前の段階。

 嫌疑が解消されれば合意をすることができると……(階委員「できないです」と呼ぶ)できないということでございます。(階委員「では、もう一回質問します」と呼ぶ)

 今申し上げたのは、前回の私が答弁申し上げたことに対しての質問ということで、申し上げたところでございますが……

奥野委員長 もう一回質問を。階君。

階委員 私が、前回、今回の制度では、有罪ではないけれども司法取引をするということも可能ではないかと読めるんだけれども、そういう理解でいいかと尋ねたところ、「ただいま文言上ということで御質問がございましたけれども、捜査の結果において被疑者の嫌疑が解消された場合ということでございますが、被疑者による協力行為を考慮して不起訴の処分をするわけではございませんので、そのような被疑者との間で合意をするということについては、できない」ということを前回お答えになった。それに対して、「ちょっと私も質問を整理して、またお尋ねしたい」、これは前回言っています。

 これに関して、ちょっと論点がずれていたので、今改めてお尋ねしたいんですね。

 前回は、被疑者の嫌疑が解消された場合は合意はできないということを明確に答弁されました。それはそれで了とします。

 しかし、今私が言っているのは、嫌疑が解消される以前ですよ。被疑者の方は無実だと主張しているけれども、捜査機関は、いやいや、あなたは疑わしいということで取り調べなんかをしている。こういった状況で司法取引をすると、本当はやっていない人も、身柄拘束されていて、早く解放されたいということで、冤罪を生む可能性、危険が高まるんじゃないかということです。

 私は、無実を主張し、かつ嫌疑が残っている場合、こういう場合については司法取引はすべきではないと思うんですが、この点についての見解を求めます。

奥野委員長 では、ちゃんと答えてください。上川大臣。

上川国務大臣 嫌疑が認められるのに被疑者は無実ということで主張している、そういうケースにおいてということでございまして、検察官サイドから見ますと、これは虚偽の弁解をしているという形に映るということになるわけでございます。その者の供述を信用することができないということになりますので、そのような者とそもそも合意をするということにつきましては、制度上はともかくといたしまして、実際上は想定しがたいことでございます。

階委員 つまり、捜査機関としては、そういう人はうそつきだと思っているから、そういう人と司法取引をしてまたうそを言われたらかなわぬなということで、運用上それはしないというふうに受けとめました。

 国家公安委員長に確認します。

 今のような運用を警察段階でもされるということでよろしいかどうか。

山谷国務大臣 身柄拘束下で無実を主張する者と司法取引をすることの可否というお尋ねかと思います。

 そのような者と協議や合意を行うか否かというお尋ねについては、合意制度は検察官の訴追裁量権を根拠としており、合意及びそれに向けた協議の権限は検察官に帰属するものであるところでありまして、個別の事件、場面において、そもそも協議を行うかどうかなどについては、検察官がその権限に基づいて適切に判断することとなると考えております。

階委員 つまり、検察というか法務省、法務大臣からは、先ほどのように、捜査機関側が有罪だと思っているのに無罪を主張しているような人は信用しがたいから司法取引はしないんだということを法務省、検察の立場としてお答えになったと思うんですね。

 ですから、その判断を警察は当然受け入れるといいますか、それはもう検察官の判断に従うということで理解しますけれども、それでいいかどうか、端的にお答えください。

山谷国務大臣 従うといいますか、検察官が権限に基づいて適切に判断するというふうに考えております。

階委員 検察官が適切に判断したものに従うということでよろしいんですよね。(葉梨副大臣「従うんじゃない」と呼ぶ)従うということではないと。それだと意味がわからないんですが。どういうことなのか。

 要するに、司法取引の権限は検察にあるけれども、ただし、検察の委託を受けて警察でもできるということではないんですか。警察は全く独自の司法取引に臨む権限はない、どの人と司法取引をするかどうかというのは全て法務省の判断だということでよろしいんですか。警察には……

奥野委員長 ちょっと、質問もしっかり聞いていますから僕らもわかっていますが、答えるのは、僕が答えたらまずいから、それぞれの事務方から、大臣が答えたことを事務的にそれぞれやってください。

階委員 では、刑事局長、その点について確認させてください。

林政府参考人 司法警察員が今回の協議・合意制度の中でできることは、一定の場合に協議の一部の行為をすることができるにとどまっておりまして、最終的にその協議を開始するか否か、あるいは実際に合意するか否か、こういったことについては全て検察官の権限でございますので、その部分について司法警察員の判断というものは介在いたしません。

 したがいまして、先ほど法務大臣が答弁されたこと、こういったことは検察官の権限としてなされるものでございまして、そういった意味で、司法警察員がそれに従うとか従わないというような場面は生じないという意味でございます。

階委員 私は、一部かかわることはできるということは知っていましたけれども、どの程度かかわるんだろうと。さっき言ったようなケースで、もしも司法警察員の判断で、無実を主張しているけれども実はまだ嫌疑がはっきりしていないというような場合でも司法取引がなされる、そういう判断を警察も時によってできるということであればちょっと心配だなと思ってお聞きしたんですよね。

 一部できるということは、今の刑事局長の答弁だと、あくまで、どの人と司法取引するかどうかというのは検察の判断だから、個々の被疑者の供述内容を見て司法取引するかどうかというのは警察の方では関与することじゃないので、警察が無実を主張している人と司法取引するような懸念というのは当たらないということで、これは結論だけで結構なんですけれども、よろしいですか。

林政府参考人 検察官だけがその判断をできますので、司法警察員の判断でそのような協議の一部に関与すること、これはできません。

階委員 わかりました。

 そうしたらば、私は、先日質問したときに、この司法取引、なぜ虚偽の供述を防げるのかということで法務大臣にお尋ねしたときに、おおよそ三つの理由を挙げられていたと思うんですね。そのうちの一つとして言われていましたのが、裏づけ捜査によって問題があれば証拠から排除されるということだったと思うんですよ。

 裏づけ捜査というふうに言うんですけれども、最初に証拠を集めて、後づけで供述を求めて、それで司法取引が行われる危険というのがあるのではないかと思っていまして、これは郷原さんが参考人で来られたときにも、供述の経過と証拠の収集の時期の前後関係がわかるようにしなくちゃいけないということをおっしゃっていました。捜査で得られた証拠の後づけで司法取引が行われる可能性を排除するために、協議時点で証拠開示を行うべきではないかと思っています。

 この点について、法務大臣、御答弁いただけますか。それとも、局長の方がいいですか。

林政府参考人 委員の御指摘は、裏づけをするのではなくて、既に収集されている証拠に沿うような形で供述を引き出す、いわば後づけで供述を引き出す、こういったことについて、それを防ぐために協議の時点での証拠開示、こういうことについての御指摘だと思います。

 協議の時点での証拠開示を義務づけるということにつきましては、まず、被疑者、被告人にこれから供述しようとする事件の証拠を開示したとすれば、それは非常に強い誘導となるおそれが大きいわけでございます。検察官としても、そういうことをした場合に、被疑者、被告人がどこまで自己の記憶に基づいて供述しているのかを判別できなくなります。したがいまして、その被疑者、被告人の供述の信用性を吟味することができなくなります。

 したがいまして、そういった形での証拠開示をするということは適切でないと考えております。

 他方で、合意に基づく供述につきましては、裏づけ証拠が十分にあるなど積極的に信用性が認められるべき事情がない限り、信用性は肯定されないと考えられます。この点について、既にある証拠に合わせて供述をつくり上げることが可能ではないか、こういった御指摘だと思いますけれども、合意に基づく供述が既に収集されている証拠に整合するというだけでは、積極的に信用性を認める事情があるとは言えません。合意に基づいて供述を得た上で捜査を行ったところ、捜査官の知り得なかった事実が確認されるでありますとか、あるいはその供述中の重要部分についての裏づけ証拠が新たに得られた、こういった事情がなければ、その供述自体の信用性というのを十分に認めてもらうわけにはいかないわけでございます。

 そうして、そのような事実が確認されたこと、あるいは裏づけ証拠が新たに得られたこと、こういったことなどは検察官が立証すべきことでございます。それらが立証できなければ、合意に基づく供述の信用性というものは肯定がされないことになるわけでございます。そういったことで、この点についての立証上のリスクは検察官が負うことになります。

 したがいまして、御指摘のような観点からの証拠開示を義務づけることは必要ないのでありますし、そもそも、そういったリスクを負う以上、検察官があらかじめ収集した証拠に沿うような供述というものを、いわば後づけで、この合意制度を使ってさせるようなことは想定されないものと考えております。

階委員 制度的な担保はないと思うんですよね、それは理論的にはそのとおりだと思うんですけれども。

 一番間違いがないようにするには、これは参考人の方々も言っていましたけれども、協議に入る段階で、今手持ち証拠がどうなのかということを被疑者とか弁護人の方に示した上でやるというのがいいのではないかと思います。これは証拠開示の話にも絡みますので、きょうお尋ねしましたけれども、司法取引で冤罪が生まれないようにするには必須だと私は思いますよ。

 話を保釈に移してまいります。

 今回、刑事訴訟法の九十条の裁量保釈の要件が見直しになったということなんですが、他方で、先ほど堀江さんも言っていましたけれども、八十九条の権利保釈といいますか、必要的保釈といいますか、こちらの要件を見直すべきではないか。

 具体的には、八十九条の四号、「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」というところで、今までは、否認しているとかあるいは黙秘しているとかいうところで、罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由が簡単に認められていたような疑いがある。だから、ここをもっと明確に、例えば、否認とか黙秘はこの保釈の例外事由には当たらないというようなことを明文で定めるべきではないか。

 堀江さんはそこまでは言っていませんでしたけれども、水曜日の参考人で来られた弁護士の方はそういうこともおっしゃっていました。

 この点についてどうお考えになるかということを、まずは法務大臣、お願いします。

奥野委員長 法文の内容だから、まず、刑事局長。

林政府参考人 まず、否認や黙秘をしている被告人が保釈について例えば不当な不利益を受けないようにするため、そういった旨の指針規定などを法文に盛り込む、こういったことについての御意見であろうかと思いますけれども、この点につきましては、やはり法制審議会の特別部会におきましても、そういった具体的な規定のあり方に関する検討が行われました。

 特別部会におきましては、そのような指針規定を設ける前提となる現在の身体拘束の運用についての認識の相違が大きく、いかなる現状認識を前提としてどのような指針規定を設けるのかについての意見の集約が困難であったことから、最終的に答申に盛り込まれなかったものと承知しております。

 いずれにしましても、その部会での議論でも問題になりましたように、いかなる趣旨から、また必要性から、どういった内容の指針規定を設けるかということについては、非常に課題が大きいことから、慎重に検討する必要があるものと考えております。

階委員 もう一つ、似たような話で、九十六条に保釈の取り消し事由というのがありますね。こちらは「被告人が罪証を隠滅し又は」というふうになっています。「又は」の後に、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」というのが保釈の取り消し事由になっております。

 必要的保釈の例外事由とかあるいは保釈の取り消し事由に、同じように、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というのがありまして、こういう「相当な理由」という表現、我々は、十分な理由とか、もっと厳しい表現にすべきだと思っていますけれども、何か、余りにも身柄拘束に対して無頓着過ぎるといいますか、本来保釈があってしかるべきところも、このような表現があることによって安易に身柄拘束が続けられる、あるいは身柄拘束が復活するということになっていると思うんですね。

 端的に言います。山尾委員からも指摘がありましたけれども、この「相当な」という表現、これを改める必要があるのではないかと思いますけれども、大臣の御見解をお願いします。

上川国務大臣 御提案をいただいた件に関連する御質問ということでございますが、御提案につきましては、現在の保釈の運用につきまして、裁判所によりまして罪証隠滅のおそれの認定が緩やかになされているという問題意識に基づくものというふうに思うところでございます。

 現在の保釈の運用の当否でありますとか評価につきましては、法制審議会の審議におきましても、その認識に大変大きな相違がございまして、共通の認識を得るには至らなかったということでございます。

 結果として、現在の運用について、特定の事実認識を前提とするような法改正につきましては適当ではない、そうした判断でございます。

階委員 司法取引とかも必ずしもみんな一致していなかったにもかかわらず、こちらの方は一致していないという理由で導入が見送られている。司法取引は一致していなくても導入されているわけですね。一致しないかどうかということで貫くのであれば、司法取引とか通信傍受についても入れるべきではなかったと思いますよ。

 あくまで、権利保釈とか裁量保釈について、今のあり方がいいのかどうか。確かに、裁量保釈については明確化されたということは一歩前進だと思いますよ。でも、堀江さんも言っていましたけれども、権利保釈のところに問題があるということであれば、こちらも直さないと。

 要するに、裁量保釈というのは、権利保釈で救えない場合に問題が出てくるわけですから、まず権利保釈があって、そのあと裁量保釈というのが物の流れだと思いますよ。そういう思考過程からしても、権利保釈について全く手をつけないというのは私はおかしいと思いますよ。

 ここについては、ぜひ今後検討して、今後というよりも、今からちゃんと検討していかないと、九月の二十七日まで国会がありますから、これはちゃんと検討していただかないといけないと思いますよ。

 人質司法という言葉、これは多くの人が言っていますよ、一部の人だけではなくて。確かに、有識者会議に出ていた人の中にはそうじゃない意見をされていた刑事法学者とかもいましたけれども、そうではなくて、多くの方は人質司法だと言っているわけです。

 この権利保釈のところを見直さないと、私は、十分な刑事司法改革ということにはつながらないのではないか、冤罪の防止ということにもつながらないのではないかと思っていまして、意見が一致しないからということではなくて、政治的なリーダーシップを発揮されて、この権利保釈については積極的に修正を図るべきだと思いますけれども、もう一度、大臣、お願いします。(葉梨副大臣「九十条を変えることで反射的に明確化されるんだよ」と呼ぶ)

奥野委員長 ちょっと不規則発言が両方多いから、減らして。

上川国務大臣 今回、裁量保釈のところにつきまして、九十条で判断基準について明確に規定をする、明記をするということ、これにつきましては、現状もそのような判断をしているということを打ち出しているわけでございますが、そうしたことをすることによりまして、保釈のあり方につきまして、裁判所におきまして運用の面でも十分にそれを踏まえた上でやっていくという確認をしていくわけでありますので、それによりまして適正な判断をしていくものというふうに確信をしているところでございます。

階委員 では、もうちょっと理論的なことを刑事局長に聞きますけれども、今、副大臣が、反射的効果で権利保釈の方も運用が改善されるんだというようなことを不規則発言で言われましたけれども、果たしてそうなんだろうかということで、ちょっとお尋ねします。

 今回、刑訴法九十条が改正されて、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により」云々かんぬん「その他の事情を考慮し、」という流れになっていますね。裁量保釈の段階で、「罪証を隠滅するおそれの程度のほか、」いろいろなことを考慮しということが書き込まれているわけですけれども、そうしましたら、権利保釈の段階では、「罪証を隠滅するおそれの程度のほか、」以下に書かれていることは考慮する必要はないということなのか。それとも、それは、反射的効果じゃないですけれども、九十条で書き込まれたら権利保釈の方にも影響があるのかどうか。この点についてはいかがですか。

林政府参考人 権利保釈につきましては、請求があった場合、必ず、要件に該当するか否か、該当性の判断がなされて、該当するとなれば一律に保釈は認められるわけでございます。ですから、ここの部分については、権利保釈は一定の要件を刑事訴訟法が掲げておりますが、これに該当するか否かということを判断する。

 他方で、裁量保釈となりますと、権利保釈には該当しない、だから一律に保釈が認められるということにはならないけれども、そういった状態を前提としても、やはり裁量では保釈をできるという規定が刑事訴訟法九十条にありますので、その段階におきましては、一方で、勾留を基礎づける、ベースになるような事情とその程度を考慮するとともに、後段に掲げております、勾留を継続されることによるさまざまな不利益というものを総合的に判断する、こういう関係になろうかと思います。

階委員 つまり、八十九条四号の文言によって判断する。他事考慮というか、先ほどのさまざまな事情については、八十九条の段階では考慮されないということだったと思うんですね。だからこそ、我々は、八十九条四号の文言にこだわっているということなんですよ。今のままでは八十九条四号については何も変わらない、九十条を変えたからといって反射的利益は何もないということが明らかになったと思っております。

 それで、そういう中で、身柄拘束をなるべくしないようないろいろな方策ということが法制審議会でも議論され、この委員会でも先般は鈴木貴子さんから御提案があったかと思うんですが、中間処分の話ですね。

 この中間処分というものが、私は、結構現実的に機能するのではないかと思っています。特に堀江さんのような事件においては、絶対逃亡するおそれもないですし、むしろ客観的な証拠は集められていて、それで何か問題があれば身柄を拘束するということであれば、罪証隠滅とかへの相当な抑止力も働くと思います。

 だから、この中間処分というのは前向きに検討されていいと思うんですけれども、中間処分の必要性について、大臣、いかがお考えでしょうか。

上川国務大臣 法制審議会におきましての被疑者、被告人の身体拘束のあり方に関してのさまざまな御議論の中で、この中間処分の仕組みということについても具体的な検討がなされたというふうに承知をしているところでございます。勾留と在宅の間の中間的な処分ということでございます。

 このことにつきまして、さまざまな御議論の中で、想定する対象者の範囲でありますとか、あるいは取り調べへの出頭確保のあり方などにつきまして、制度の根幹となる部分につきましての意見の隔たりが大きかったということから成案を得るには至らなかったということで、その点で答申に盛り込まれなかったものというふうに承知をしているところでございます。

 この問題につきましては、法制審議会におきましてさまざまな指摘がなされた問題点というものがあるということでございますので、慎重な検討が必要であるというふうに考えているところでございます。

階委員 中間処分ということもぜひ検討していただきたいということで、証拠開示の話に移らせていただきます。

 再審請求審における証拠開示については、もうこの委員会で多々ほかの委員からも議論されていますけれども、要は、現行法の制度のたてつけを壊すものだからなかなか導入できないということで、あとは、時間がないからというお話もありましたけれども、これはそんな悠長な話、建前にこだわっている話ではないと思うんですね。

 前回でしたか、清水委員からも指摘があったんですけれども、法務大臣というのは死刑執行命令にサインをされる立場でいらっしゃいますよね。もし、まかり間違って冤罪の人を死刑にしてしまったら、これは法務大臣、大変な責任というか、道義的にも大変な心痛を覚えられると思うんですよね。だから、これは本当に今すぐにでもやるべきだと思いますよ。

 これからは公判前整理手続で、死刑事件は裁判員裁判対象事件になりますから、だから、そういう意味では証拠開示というのはある程度進んで、これはいいと思うんですが、過去に行われた死刑の確定判決、それについて再審請求を申し立てているような方々に対しては証拠開示を積極的にして、まずはどういう証拠があるのかということを世の中に明らかにした上で、本当に罪を負わせるのは適当なのかどうかということをちゃんと判断して、その上で死刑執行というふうに持っていくべきだと思いますよ。

 これは、死刑執行をされる立場である大臣だからこそ一番問題意識があると思ってお聞きするんですね。大臣としては、この冤罪防止のために、特に重大事件、過去に証拠開示の制度がなかった時点で確定判決がなされた事件については今すぐにでも証拠開示をやるべきだと思うんですが、この点、大臣、いかがですか。

上川国務大臣 再審請求審の大変重い制度でございまして、ここの部分におきましても冤罪が発生するというようなことにならないようにしていくというのは、もう当然のことというふうに考えております。

 現在の制度におきましても、検察当局において、裁判所に対しまして証拠の提出、あるいは請求人側への開示などにつきまして、適切に対応しているものというふうに考えているところでございます。

 今回、特別部会の議論におきまして、このことにつきましても大いなる議論が行われたということでございますし、また、問題点も指摘された上で、そして答申に、今回につきましては法整備の対象としないという結論になったというふうに承知をしているところでございます。

 先回も申し上げたところでございますが、再審請求審につきましては、訴訟の構造が職権主義的な訴訟構造であるということがございますし、また、通常審におきましての証拠開示の制度ということにつきましては、検察官の主張、立証と被告人側の防御という当事者主義的な訴訟構造を前提としたものであるということでございまして、再審請求審にこの通常審におきましての証拠開示制度そのものを転用するということについては、構造の異なる手続に係る異質な制度を組み込むことになるということで、その意味での整合性がないのではないか、こうした大きな御指摘もございました。

 また、再審請求審においての証拠開示について一般的なルールを設けること自体なかなか困難である、そうした問題点があるということで、慎重な検討が必要であるというふうに考えております。

 再審請求審におきましても、必要な証拠につきましてはしっかりと判断に付すべく取り扱っていくということにつきましては、現行の制度におきましてもそのような運用がなされていくというふうに思っております。

階委員 先日の大澤参考人の意見をテープレコーダーで聞いているような感じがしましたけれども、私は、学者の意見を聞いているわけじゃないんですよ。死刑執行にサインをする法務大臣の意思を問うているんですね。

 これは本当に、冤罪の方がひょっとしたら無罪になるべき証拠があるにもかかわらず、現にこれまでそういう冤罪事件というのはあったわけですよ。これは本当に放置していていいんですか。これは絶対禍根を残しますよ。

 江川参考人も先日、せっかく九月二十七日まで延長になったんだから、この再審請求の証拠開示をちゃんと定めるべきではないかとおっしゃっていましたよ。これは、まさに政治のリーダーシップで一番やるべきことだと思いますよ。

 学者の意見ではなくて、大臣の意見を聞いているんです。お願いします、もう一回。

上川国務大臣 再審請求審に係る証拠開示制度につきましての御議論ということで、法制審議会そして特別部会におきましてもさまざまな御議論がなされてきた、その上で、またこの委員会におきましても、また参考人の皆様からもそうした御指摘が数々あったということについては、大変重いものというふうに受けとめているところでございます。

 再審請求審についての証拠開示の制度につきましては、先ほど来申し上げたような理由によりまして慎重な検討をする、また、まさに構造にかかわる大きな議論であるというふうに思っておりますので、慎重な検討を必要とするものと考えているところでございます。

階委員 私は、無理な要求をしているとも思っていませんで、理論的にも、先日の小池参考人、刑事訴訟法のプロという方も、現行法を前提としても、再審請求審の審理というのは実質的には当事者主義でされているわけだから、そういう中で証拠開示というのを入れることは理論的にも問題ないと言っていましたよ。

 何か、大澤参考人の意見だけ尊重して、そういった小池参考人とかほかの人の意見は聞いていないというのは私は不満ですし、それよりも何よりも、なぜそういう学者的な意見しか出てこないのか。

 これは本当に、冤罪をなくすというのが今回の改正の趣旨なんだ、私も何度もそれは確認しましたよ。そうであるならば、これこそまさに今すぐやるべきことで、これだけでもやっていただかないと、この冤罪防止ということの姿勢が疑われるのではないかと思います。

 大臣、もう構造とか理論の問題は結構ですよ。これは、冤罪を防止するという観点から入れていただけないでしょうか。

上川国務大臣 今回の刑事訴訟法の改正、一連のこの間の御議論をいただきながら、さまざまな御指摘もありましたし、また参考人の皆さんから大変真摯な御議論を、それぞれの立場は違いがあったとしても、共有する形で、この刑事司法の手続を新しい時代にふさわしいものにしていこう、その一歩を踏み出していこう、こうした御発言があったというふうに思っております。

 その意味で、今回の改正というものの位置づけについては大変重いものがあるし、またそれをしっかりと運用していきながら、その当初の目標の部分でありました冤罪防止において、今、問題があったということを踏まえた上でのスタートを切ったわけでありますけれども、さらにそうした問題点につきましても、その後の運用ということをしっかりと見据えながら対応していくということで絶えず改革をしていかなければいけない、そういう思いでここの場にも立たせていただいておりますし、また、この間、そうした思いを極めて強く持っているところでございます。

 再審請求のこの問題につきましても、そうした大変重い御議論の上での今の現状ということでございますが、これからさまざまな運用をする過程におきまして、また前進することができるような方向に絶えず努力をしていくべき課題であるというふうに思っております。

階委員 時間軸を明確にしていただけないというのは残念ですけれども、ちゃんと改革をしないと冤罪防止ということは果たされないということを再度強く申し上げます。

 それと、証拠開示のあり方ですけれども、今回、一覧表というものをつくるということで、一歩前進なのかもしれませんが、この委員会で指摘されているように、記載事項がちょっとアバウト過ぎるのではないかという指摘もあります。

 それから、表題は捜査報告書なんだけれども、その中に第三者の供述とかが含まれている場合などもある。こういう場合について、一覧表を見ただけではそういう重要な供述とかが含まれているということがわからないんだという問題点の指摘もありました。

 そんなに詳しく書けとは言いませんけれども、表題は捜査報告書とかそういうふうになっていたとしても、第三者の供述とかがその中に入っている場合は供述者の名前を備考欄に書くとか、そういうような扱いというのは考えられないものでしょうか。

林政府参考人 捜査報告書で特にその捜査報告書を作成した者以外の者の供述を内容とするもの、これについて、その書面の中に出てくる供述者というようなものを記載できないかという御指摘だと思いますけれども、まず、そういった書面につきましては、捜査実務を踏まえて検討しますと、非常にさまざまなものがございます。もとより、単独の者ではなくて複数の者から聴取した供述が記載されている一つの書面というものもございますし、また、その事件現場に臨場した直後の捜査官がそこで見聞きしたこと、こういったことの一部にそこにいた者の供述の内容が記載されている、こういったようなものもございます。また、こういった書面の中には、他の証拠、他の供述録取書の供述内容を多数引用しまして、その相互の関係でありますとかを分析したような書面もございます。

 こういった多種多様な捜査書類がありますことを前提としますと、そうした供述者の氏名というものをそこから抽出して一義的に示すというようなことは非常に困難でございまして、また、困難であるだけでなく、それに時間を伴うこと、作業の負担があること、ひいては、その内容次第によってはやはり後々の、記載した、記載しない、あるいは記載した内容にかかわることをめぐって将来紛争が生じ得ること、こういったことを考えますと、そのような形で供述者の氏名をそういった書面の中に記載することについては相当でない、このように考えたものでございます。

階委員 前回、山尾さんの質疑の中で、取り調べメモについても一覧表に記載されるんだという話もありましたが、その際の取り調べメモの扱いについてどうするかということがペンディングになっていたと思うんです。これは、通達か何かが出ているというふうにもその際おっしゃっていたと思うんですが、それは今、お手元にありますか。あるのであれば、即刻、この委員会に提出していただきたいんですけれども。

 あるかどうか、まずお答えください、刑事局長。

林政府参考人 取り調べメモに関する最高検察庁から出されている指針、これについては提出することが可能でございます。

階委員 それでは、後で理事会の方に提出していただいて、委員長、各委員にも配付されるようお取り計らいをお願いします。

奥野委員長 はい。

階委員 取り調べメモなどについては、これはどういうふうな書かれ方になるんですか。これは多分、供述者がいると思うんですね。供述者についても、メモですから、複数の供述者というのがあり得ると思うんですが、これについては、先ほど、一覧表には、捜査報告書の場合は供述者の名前は書きにくいという中で、複数いるからとかそんなこともおっしゃっていましたけれども、取り調べメモの場合は、供述者の名前とかどうなるんですか。

林政府参考人 取り調べメモを一覧表にどのように記載するか、その場合に、作成者ということでございますが、これは取り調べを担当している検察官の氏名というもの、すなわちメモを作成した者、これが一義的に記載されるものと考えております。

階委員 供述調書の場合は供述者の氏名が記載されるということでよろしいわけですよね。取り調べメモの場合は供述者の氏名は出てこないということになるわけですか。

林政府参考人 取り調べメモ自体は供述録取書ではございませんので、供述者の名前は出てまいりません。メモの作成者が記載されます。

階委員 そういうことで、一覧表を見ただけではなかなか、どういう人が何を語っているのかというのはわかりづらいものですから、やはりもうちょっと一覧表の記載事項は具体的かつ明確にすべきだということを申し上げたいんです。

 他方で、これも山尾委員が取り上げていましたけれども、一覧表に記載しなくていい例外事由として、「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」がある場合というのは何なんだと。極めて抽象的な表現なので、これは何なんですかという質問に対して、るる解釈について述べられました。それに対して、そういう解釈で確定しているんだったら、人の支配ではなくて法の支配にする観点から、ちゃんと法文に書き込むべきだという指摘があったわけです。

 私もそのとおりだと思っていまして、解釈上明確であれば法文化しても全く問題はないと思うんですが、なぜ法文化できないのかということについて、前回の確認ですけれども、改めて端的にお答えいただけますか。

林政府参考人 この点につきましては、例えば被告人を無罪に導く証拠などがこの例外規定からこの一覧表に載らないのではないか、こういったことの御意見から出てきた問題だと考えております。

 これにつきましては、本法律案において導入する証拠一覧表交付手続のまず趣旨、それから、その条文の規定そのもの、その二つから、検察官立証の妨げになる、すなわち、被告人を無罪方向に導く内容の証拠だからといって、犯罪の証明に支障を生ずるおそれというこの例外事由に該当するものではないことは明らかであると考えております。その意味で、法文上これを提示することは必要がないと考えております。

 まず、証拠一覧表の交付手続の趣旨というところから申し上げますと、現行の証拠開示制度といいますのは、一つは、類型証拠というものの開示規定がございます。これにつきましては、明らかに検察官請求証拠と矛盾する、そごする内容のものも開示されることを前提としております。また、主張関連証拠の開示がございますが、これも、むしろ被告人側の主張事実を裏づけたり補強するものも開示されることが前提となっております。

 すなわち、検察官立証の妨げになり得る内容の証拠も開示されることがあり、逆に、検察官立証の妨げになり得る内容の証拠だからといって不開示になるものではないわけでございまして、こういった証拠開示制度については、一般に異論なくこの趣旨については承認されているものでございます。

 そういったことから考えますと、今回の一覧表については、こうした証拠開示制度のもとに立ちまして、証拠開示請求をするための手がかりというもので交付するものでございますので、その趣旨からしても、開示の弊害の解釈との整合性からしても、当該証拠の内容が検察官立証の妨げになり得るものであるということがこの証拠の一覧表への不記載事由に該当するという解釈は成り立つ余地がないと考えます。

 もう一つ、本法律案の条文から申し上げますと、この条文において、不記載について定める三百十六条の十四第四項につきましては、これらの「記載すべき事項であつて、これを記載することにより次に掲げるおそれ」というものを書いて、その例外の事由としているわけでございます。

 すなわち、あくまでも、例えば供述調書の記載事項である供述者の氏名が記載されることによってこのおそれが生じるときにだけその当該事項のみを記載しないことができるのでありまして、一覧表に記載されることのない証拠の内容がどのようなものであるかによってこの条文の中の例外の事由に該当することはあり得ない規定となっております。

 この二つの趣旨、理由からしましても、証拠の内容が検察官立証の妨げになるということからこの例外事由に該当するのではないかということは、そのような解釈は全くとりようがないわけでございまして、そういったことがこのままの条文の中で明らかであろうと考えております。

階委員 今回、先ほども取り上げました刑訴法九十条の裁量保釈の判断については、確立している解釈の確認的な規定ということで、わざわざ条文に、先ほど申し上げたような諸事情を考慮するということを裁量保釈の方では入れているわけですね。解釈を確認するために法文化しているのが九十条、一方、こっちは解釈上明らかだから法文化しないというのは、つじつまが合っていないと思うんですね。

 なぜ九十条だけ解釈を明文化し、こちらは解釈を明文化しないのかというのは、理由がわからないんですが、御説明いただけますか、九十条との整合性を。

奥野委員長 林刑事局長。簡潔明瞭に答えてください。

林政府参考人 今申し上げましたが、九十条につきましては、適当と認める場合にという条文のみでございます。それについて、今回、実務上の解釈というものを考慮事情として掲げたものでございます。

 今回の三百十六条の十四第四項の記載の例外事由の、不記載についての規定につきましては、先ほど申し上げましたが、例えば、「記載すべき事項であつて、これを記載することにより次に掲げるおそれ」、こういった条文が明示されているわけでございまして、そのことから、先ほど申し上げたような解釈がなされるということでございまして、それは明らかでありますので、法文上十分なものと考えております。

階委員 解釈上明らかなのに先ほどの説明は非常に長くて、明らかなことを説明するのにそんなに時間がかかるのかと思いました。

 それと、最後に申し上げますけれども、公判前整理手続が行われた場合じゃないと、証拠の一覧表とか、あるいは証拠の開示とかがないわけでございまして、今までよりは公判前整理手続の請求権が弁護人とかに与えられたという部分は一歩前進ですけれども、この請求が却下された場合の救済措置もないということであります。

 先ほど申し上げましたとおり、やはり証拠を開示するというのが、司法取引の局面においても、再審請求の局面においても、あるいはそれ以外の局面においても重要でして、法制審議会でも証拠の事前全面開示ということが議論されたわけでして、何とか、この点については、さらに前進させていただくように法務大臣にお願い申し上げまして、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。

奥野委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時四十六分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

奥野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。柚木道義君。

柚木委員 民主党の柚木道義でございます。午後からもどうぞよろしくお願いいたします。

 午前中の堀江参考人やそれぞれの委員の質疑も踏まえて質問していきたいわけですが、その前段に、法務大臣が非常に思いを共有いただけている部分も含めて、ちょっと前回の質問の続きをぜひ。

 実は、冒頭の資料におつけしておるんですが、前回、神戸連続児童殺傷事件の「絶歌」の本に関連して、表現の自由と同時に犯罪被害者保護の視点からお伺いをさせていただき、表現の自由というものは当然憲法に保障される一方で、大臣からも、やはり御遺族の方の二次被害、三次被害、そういった部分に対する思いに寄り添うことが非常に大事だ、そういう本当に温かみのある御答弁をいただけたものと思っております。

 そういった中で、この「絶歌」という本が出版される少し前、二〇一五年の五月の月刊誌に、家庭裁判所の審判の決定全文が実は公表されておるわけでございます。

 少し「絶歌」出版と意味合いが違う部分があると思うんですね。もちろん、出版の自由等について私がここで何か申し上げたいということではなくて、裁判官の守秘義務等を含めてこの後少し議論をさせていただきたいわけです、元職も含めて。当然、犯罪報道の自由というものが認められる反面、やはり裁判官のみならず、国家公務員を含めて守秘義務についての規定がある中で、元といえども、こういった形で全文が公表されているということでございます。

 まず、法務大臣、この雑誌の存在そのものについて認識をされているか、それから、内容をごらんになられたことがあるか、御答弁いただけますか。

上川国務大臣 御指摘の記事については、掲載されたということについては承知をしているところでございます。ざっと目を通させていただきました。

柚木委員 この元裁判官の方は、要旨が既に公表されている以上、守秘義務違反には当たらないという見解であったり、あるいは、全文公表であったとしても加害男性の名前は出ていない、ゆえに少年法に抵触しない、こういった主張をされておるわけですが、率直に言って私は少し違和感を覚えます。

 これは、少年法の六十一条の記事掲載禁止規定、あるいは二十二条第二項等に抵触するという見方があると思われるわけですが、これについてはちょっと最高裁の方から見解を御答弁いただけますか。

村田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 まず、決定要旨が公表されているということと守秘義務違反との関係について述べますと、決定要旨につきましては、本件が社会的に注目を集めたということを考慮いたしまして、委員御指摘の少年法二十二条二項により少年審判が非公開とされていることに抵触しない限度において、裁判所において決定要旨を公表したものと承知しております。

 他方、決定書の全文、雑誌に掲載されたものにつきましては、決定要旨には記載されていない極めてプライバシー性が高い部分などを公開するものとなっておりますことから、これは守秘義務に違反するものというふうに考えております。

 また、さらに、少年法の規定との関係で御指摘がございました。

 この点につきまして、少年審判事件の決定書全文を雑誌に掲載することは、関係者の氏名等が一部伏せられている、マスキングされているといたしましても、御指摘のような少年法の規定の趣旨に反し、少年審判に対する信頼を著しく損なうものであるというように考えております。

柚木委員 今の御答弁というのは、私の中でも非常に納得できる御答弁であると受けとめます。

 要旨と全文との違い、きょうは、分量もありますし、その表紙と当時の広告しかおつけしていないわけですが、前回の「絶歌」と同様に、十歳の女の子、十一歳の少年が命を奪われるシーンなども本当に克明に描写されていて、これは、後ほど私、学術的価値との関係についても申し上げたいんですが、この全文の中身、全く意味がないとは私も認識をしません。もちろん、出版の自由についても私も認識をしております。

 ただ、これが、こういった全文公表という形で雑誌掲載されるということについては、実は、当該の神戸家裁においても、これは裁判官が退職した後も負う守秘義務に反する行為であって、少年法で非公開とされている少年審判に対する信頼を著しく損ねる上、事件関係者にも多大な苦痛を与えかねないので遺憾であるということで、当該元裁判官並びに出版元、そして通信社の編集委員に対して抗議文を送付されております。今の最高裁の御答弁の趣旨と私は合致する見解だとも思います。

 何よりも、実は当時、事件発生時にも、九八年の三月に月刊誌において、たまたま同じ出版社の月刊誌なんですが、私は出版社個別に対して何か攻撃をする意図は全くありません、ただ、その月刊誌の中で、同様に、いわゆる検事調書というものが漏出、掲載されていたことがあったわけです。これは、それぞれの雑誌、共通する点は、実はここに書かれている部分でも私は共通していると思っていたんですが、情報公開、表現の自由、出版の自由、知る権利、こういった点について、それぞれの議論あるいは考慮、検討といったものを踏まえて掲載されているんですが、残念ながら、被害者御遺族の感情といった視点が九八年当時の月刊誌を見ても一言も出てこないんですね。

 こういう状況も含めて、そしてまた今の最高裁からの御答弁も含めて、法務大臣、少年事件を取り扱う家庭裁判所の関係者、とりわけこれは元裁判官でございまして、少年法が求める、少年の保護を第一に考える職業上の倫理、これは当然求められます。この事件後、少年法は改正されておりますから、その流れというものは私自身も必要な流れだと思っておるわけですが、それにしても、今回の元裁判官の行動というのは、これは明らかに、職業倫理からも、それから先ほどの最高裁の答弁も含めて、非常に問題があるというふうに考えるわけですが、法務大臣、見解をお述べいただけますか。

上川国務大臣 今回の記事掲載という形の中で、そのことにつきまして、先ほど委員から違和感を感じるという御発言がありましたけれども、個人的に読んだ状況の中でも、全く同じような思いをしたところでございます。

 ただいま御質問を受けた点でございますけれども、御指摘の元裁判官の行動が裁判官としての職業倫理に反するか否かという御質問がございました。

 少年審判の決定書の全文の公開ということにつきましては、プライバシーの保護等の観点から見ても、人権擁護上問題になる場合があるというふうに考えているところでございます。

 また、裁判官としての職業倫理に反するか否かということについてでありますが、法務大臣という立場でお答えするということにつきましては差し控えさせていただきたいというふうに存じます。

柚木委員 議員の立場としてのお考えというのはお伺いできたわけですが、法務大臣としての見解については控えたいということでございます。

 少し先に進めたいと思うんです。

 裁判官の守秘義務についてなんですが、裁判所法に合議体の裁判評議が示されている、これは七十五条の二項。それ以外は法令上どのように規定されているのか確認をしたいと思うのと、また、重大な守秘義務違反などがあれば裁判官分限法、弾劾法で職を解くことができるということでございますが、退官後の守秘義務についてはどのように法令的な措置が講じられているのか、確認の意味で、最高裁、御答弁いただけますか。

堀田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 裁判官につきましては、官吏服務紀律の適用があるというふうに解釈をされておりまして、同紀律の四条一項によりまして、裁判官は、公務員として職務上知ることができた秘密は漏らしてはならないこととされております。

 裁判官が官吏服務紀律四条一項等により負っております守秘義務については、退官後においても同様でございます。

柚木委員 退官後についても同様ということであります。

 ちなみに、これは、私もこれまでの経緯を調べてみると、もう御承知とは思いますが、過去には、少年審判というのは訴訟事件ではないので、憲法八十二条第一項、裁判公開原則が適用されない、そして、もちろんその裁判というのは非公開で、特定するような情報は公開されてはならない、通常の事件の判決文と違い、今回の決定要旨、こういう種のものについては公表は極めてまれなことであって、そういう意味では、こういったことは本来は起こり得ない、こういったことでございます。

 今、退官後の守秘義務について最高裁の見解があったわけですが、それも踏まえた上で、上川法務大臣、これをずっと過去にさかのぼって、明治の時代からずっと調べてみました。

 退官後も含めた裁判官の守秘義務については、今、退官後の守秘義務についても含むということであったわけでございまして、その上で、先ほど職業倫理についての見解を求めたわけであります。法務大臣として、やはりここはひとつしっかり見解を述べておいていただくことが必要だと思うんですが、今の最高裁の見解も含めて、いま一度御答弁いただくことは可能ですか。

上川国務大臣 ただいま最高裁からも述べられたところでございます。

 裁判官につきましては、官吏服務紀律の規定が適用されると解されておりまして、裁判官は、同紀律に基づきまして、在官中はもちろんのこと、退官後におきましても守秘義務を負っているということでございます。その意味で、その紀律に基づいて行動していただくということであるというふうに思っております。

柚木委員 もちろん、これは非常にデリケートな議論でございますので、私も、自身の見解が一〇〇%正しいということでこの議論をさせていただいているわけではございません。

 他方で、やはり前回の「絶歌」出版についてもそうですが、この雑誌掲載についても、まさに、被害に遭われた少年のお父様は、十八年もたった今になって全文を公開してどういう意味があるのか疑問に感じると。これだけの有名な雑誌ですから、当然、全国、不特定多数の方がそれぞれの思いでごらんになられるわけでありまして、こういった表現、出版の自由が保障される中で、とりわけこれは少年司法にかかわる情報でございまして、国民の知る権利も含めて、ここはひとつ、一定の見解、方向感というものを議論する必要というものを私自身は感じているところでございます。

 公開し得るとした場合に、例えば学術研究とか専門家の方とか、まさに犯罪や再犯の抑止効果とか、いろいろな意味で研究に資するという視点については私も理解をいたします。その場合の公開のあり方とか、あるいはそのための判断の基準みたいなものも含めて、何らかの手続というものを検討することがあってもいいのではないかと私は思うわけであります。そうでなければ、表現の自由、知る権利というものは当然尊重される一方で、犯罪被害者保護という視点が、前回の出版のこともそうだったんですが、余りにもこれは被害者の視点というものが欠落していると言わざるを得ないというふうに考えるわけであります。

 上川法務大臣、公開する、しないという判断も一つあります。それから、公開し得る場合、どういう形で公開することがバランスをとることになるのか。こういったことについて、御検討いただけるという考えはおありでしょうか。

上川国務大臣 ただいま、少年法の規定ということに関連づけて御質問があったというふうに理解したところでございますが、少年法の二十二条第二項によりまして、少年のプライバシーを保護するとともに、少年の社会復帰の妨げとなることを防ぐ、そうした趣旨に基づいて、少年審判につきまして、非公開で行うこととされているところでございます。

 また、少年法の六十一条には、少年の特定に関する情報が広く社会に伝わり、また、少年の社会生活に影響を与えることを防ぎ、その更生に資することを趣旨として、少年事件に関して、いわゆる推知報道の禁止を定めているというものでございます。

 先ほどの御指摘でございますが、規定に例外を設けるということになろうかと思いますけれども、それにつきましては、少年の社会復帰、更生に与える影響などを考慮して慎重に検討すべき問題であるというふうに思うところでございます。

柚木委員 今いただいた答弁というものは、私も、ちょっと議事録も精査して、もう少し私自身の考えもまた改めてお伝えをさせていただける機会があればと思います。

 私自身は、これは元ということですから、現職で守秘義務違反ということであれば、場合によっては国家公務員法違反、問題意識の部分について言えば、所管の大臣として告発義務も生ずるんじゃないかぐらいの問題意識を実は持っているんです。ただ、元ということも含めて、今の御答弁も含めて、私、ちょっと整理をして、また機会があればこのやりとりをさせていただきたいと思います。

 通告どおり質問に入らせていただきたいと思うんですが、資料の二ページ目以降、まさに今回の刑事訴訟法改正の大きなきっかけとなりましたいわゆる郵便不正事件、村木事件についての報道を幾つかおつけをさせていただいております。この記事をごらんいただきながら、委員の皆様にも、当時の状況、記憶についても思い起こしていただければありがたいんですが、二ページ目以降、「特捜部 崩れた威信」上、中、下ということで、今回の事件、まさに今回の法律改定の必要性がこの記事の中にもかなり述べられています。

 特に、「「構図」自作、密室の調書」、この中の部分であったり、それから、これは村木事件にかかわらないわけですが、下の部分の、「可視化要求揺れる検察」ということで、ちょっと赤線を引いた部分というのは、被疑者が「否認を続けると、取り調べ担当の検事が次々と入れ替わり、三人目の検事には「クズ野郎!」と怒鳴りつけられた。事件と関係のない娘と息子にも触れ、「今の会社にいられるか分からないぞ」と脅された。」とか、「「だますよりは、脅して調書を取れ」。特捜部に長く在籍した検事はこう教えられてきた。別の検事は特捜時代、見立て通りに調書が取れずに「無理です」と報告すると、上司から「バカ野郎。特捜部から出て行け」と言われたことがあった」。そういう中で、「密室での取り調べを少しでも透明化しようと現場も知恵をしぼる。」という中で、「どのような取り調べで自白に至ったかを容疑者本人に語らせ、調書に記録するよう部下に指示している。」とか、そういういろいろな動きが出てきているということでございます。

 私は、きょうの議論、午前中の堀江参考人の意見陳述並びに質疑を聞いていて、村木さんの点についても述べられていたわけですが、いわゆる人質司法、身体拘束について、この記事も含めて、まさに冤罪の温床になり得る、そういう側面を改めて再認識したわけでございます。

 それで、私、きょうは村木さんの記事を主につけているのは、ある程度、個別の事案であっても判決が確定している事案ですから、これを参考にしながら、法文と照らし合わせて、実際の法律改正がどれだけ実効性があるのか等について、そういう視点で議論をさせていただきたいと思っているんです。

 ちなみに、村木さん御自身は、百六十四日間勾留されたわけでございます。当時、そういう形で勾留されて、今回の保釈要件、九十条を見ると、きょうも議論になっているところですが、我々の党としての考え方もあるわけですが、実際に九十条に、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」とあるわけですね。

 伺いたいのは、この九十条は改正される、八十九条の権利保釈の部分についてはきょうも議論があるところですが、村木さんの場合は、恐らく堀江さんの場合と近いと思っているんですが、あれだけ公の立場の方で、かつ、御本人が明確に被疑事実を否認し、それを裁判において明白にしていくという意思がある中で、逃亡とか罪証隠滅、既にそれまでに多くの関連の方が取り調べも受け、実際にその中で有罪判決を受けられた方もおられる中で、私自身は、少なくとも改正前の九十条にも合致しないんではないかという思いもあるわけです。

 これは、改正された場合に、実際に勾留されるということは起こらない、あるいは起こらなかった、そういう判断ができるというふうに考えていいんでしょうか。そういう部分を確認していかないと法律改正の実効性があるかどうか確認できないものですから、お答えいただけますでしょうか。

林政府参考人 今回、刑事訴訟法九十条について考慮事情を明記するという形の改正を行うわけでございますが、そのような改正を行った場合に、過去の村木さんの事件について勾留がなされるかなされないかということについては、これは、当該事件についてのこの法への当てはめの問題が生じますので、それ自体はお答えすることは困難でございます。

柚木委員 常にそういう形の御答弁なんですが、冒頭申し上げましたように、これは、確定している事案、かつ、この村木事件、それ以外ももちろん含めて、この後やりますけれども、フロッピーディスクの改ざんも含めて、さまざまな問題が起こり、そして、捜査の可視化、さらには、今議論している保釈要件の明確化、証拠開示制度の拡充などなど議論されている中で、最もそのもとになった当該事案においてもその解釈が示されないということであっては、法改正の実効性はどこに担保されるんですか。

 こういったことを二度と起こさないためには、やはり法律改正によって同じことは起こらないんだということをこのやりとりの場できちっとお答えいただかないと、はっきり言いまして、今後も、九十条の保釈規定、裁量保釈、それぞれ、「程度」とか「適当と認めるときは、」とか、まさに例示もされて、その例に挙がったものであっても必ず保釈されるわけではない、先ほどそういう答弁もある中で、私は、運用上の実効性が非常に危惧されると思います。

 これは、村木事件、何で答えられないんですか、局長。

林政府参考人 この九十条に基づきまして裁量保釈をどのように許可するかということは、常に、その事件におけます証拠関係に基づいて、裁判所において判断をされる事柄でございます。

 そうしますと、実際の証拠関係に基づいた、まず前提となるさまざまな事実において、これを法務当局において確定することは困難でございますので、それを前提に、今回の九十条の解釈がどのようになるのか、それに基づく判断がどのようになるのかということについては、これはお答えすることは困難であろうかと思います。

柚木委員 非常に不安になる御答弁です。

 この後の証拠開示制度のところでも、フロッピーディスクのところでも触れますが、やはり個別具体的な事案で、もちろん、進行中のものである個別の事案に答えられないのはわかりますけれども、これだけ社会的に問題になって、それがもとでさまざまな審議会も立ち上がって、実際、当事者の方も委員に入って今これだけの大議論をしている中で、そのことについて言及できないというのは、私は非常に不誠実な答弁だと思いますよ。

 さらに、これは私は裁判所にも確認したいんですが、「私は負けない」という村木さんの本ですね。この間、参考人で来られた江川紹子さんが聞き手、構成になっていらっしゃるわけですが、この江川さんの見解の中に、私はこれはそのとおりだなと思いますが、「「人質司法」が冤罪の温床になっていると批判されて久しい。なのに、なかなか改まらないのは、身柄拘束を取り調べに利用する捜査機関の問題はもちろんだが、検察の意見に影響され過ぎる裁判所に最大の責任がある、」と。

 この批判に裁判所はどう答えられますか。今の局長の答弁も踏まえて答えられますか。

奥野委員長 最高裁はいないのか。(柚木委員「通告していますよ」と呼ぶ)

 では、もう一度。ちゃんと聞いていて。

柚木委員 これは本当に私、重大な問題意識だと思っているんですね。事前に、この村木さんの事案としてこういう内容のことをお聞きしますということを通告してあるわけです。当該局長が来ていないと、私、質問が続けられないんですが。質問できるようにしてもらえませんか。

奥野委員長 通告してあるとかしていないとかというのはよくわからないけれども、答えはできているの。呼んでこられるのか。

 先にちょっと別のものをやってくれないか。そうしたら、その間に引っ張れるかどうかわからないから、ちょっと研究してくれ。(発言する者あり)

 では、一回ちょっととめてください。

    〔速記中止〕

奥野委員長 では、速記を起こしてください。

 柚木さん。

柚木委員 うちの事務所の手違いがあったのだとすればあれなんですが、私自身は通告の中に、当然、九十条の裁判所の保釈規定について改正がある中で、こういう質問を準備していて、刑事局長が来ていないというのは、確認しますが、私自身非常に遺憾であります。

 先に証拠開示制度の拡充について議論させていただきたいと思います。

 資料にも、六ページ目に、当時の報道資料ですが、「検察に都合いい日付」、郵便不正、押収フロッピーディスク、「検事、同僚に「改ざん」告白 弁解「遊んでいるうちに」」という報道であります。

 これは、赤線を引いておきましたが、正確なデータが書かれた特捜部の捜査報告書が公判で証拠採用されていなければ、村木さんは冤罪になった可能性が高いと述べた。上村被告も弁護人を通じて、検察に対して恐怖心を覚える、こんなことが当たり前になると誰でも逮捕されてしまうと。

 これが明らかになったのは本当に偶然の産物なんですね。村木氏側から公判に証拠請求されたためで、「主任検事は、裁判を担当する地検公判部に捜査報告書が引き継がれたことを知らず、報告書はそのまま村木氏側に開示されたとみられる。」「捜査報告書の存在の重要性に気づいたのは、大阪拘置所での勾留中に開示証拠をチェックしていた村木氏本人だった。」ということでありまして、取材に応じた検察関係者が、主任検事が同僚に、見立てに合うようにデータを書きかえたと打ち明けたと証言、書きかえの理由は、フロッピーディスクを弁護側が公判に証拠として提出してきたら公判が検察側に有利に進むと考えたのかもしれないということで、こういうことがあって、今回の冤罪になりかねなかった状況、そして無罪になって、そして今まさに証拠開示制度の拡充の議論をしているわけです。

 こういう報道資料等、当時の記事を読み上げたのは、先ほど刑事局長の方からの答弁、私は非常に納得できないんですが、では、このフロッピーディスクの事例というのは、改正前の現行法であった場合に、これは実際には証拠開示の請求があって開示の対象になったわけですが、改正されて、同様に弁護団が証拠請求したときに、こういったフロッピーディスクが存在するものとして必ず提示されるかどうかについては、実は非常に疑念があるという指摘があります。

 実際に法律を改正することによってこのような捜査資料というものがきっちりと一覧表に記載されるということを、どの点が根拠になってそうなるということの見解を答弁いただくことは可能ですか。

林政府参考人 この村木事件でフロッピーディスクが改ざんされたということがわかったわけでございますが、これについては、フロッピーディスクの内容についての捜査報告書というものがあったわけでございます。この捜査報告書が、当然、この事件の中で証拠開示の制度がございましたので、その中で捜査報告書が開示されておりました。

 一方で、このフロッピーディスクについては、改ざんされた後に被告側に返却されておりました。そのことから、この捜査報告書の中身とフロッピーディスクの中身の対比の中で改ざんが明らかになったということでございまして、もとになる証拠につきましては、捜査報告書というものが開示されていて、それに基づいてこの改ざんという事実が発覚した。こういう経緯をたどっているものでございます。

 いずれにしましても、この捜査報告書については、当然、当時の証拠開示制度の中でも開示されたわけでございますし、他方で、フロッピーディスクそのものは証拠物でございますので、証拠物につきましては、現行の証拠開示制度のもとでも、類型証拠あるいは主張関連証拠という形で開示され得るものでございます。

柚木委員 今の御答弁自体はそれでいいんですけれども、私は、この村木さんの本の中で、今の答弁では逆に安心できないと思わざるを得ないんです。それは、フロッピーが存在して、これを捜査機関が押収しているということを弁護団が知るすべはそもそも本来ないんです。しかし、今回のように持ち主に返されて、仮に弁護団が証拠請求しようにも、存在するかどうかということがわからなかった場合には、結局、フロッピーは証拠として裁判に提出されない、そういうことになって、今回は本当に、ラッキーと言うとあれですけれども、捜査報告書の中にその記述があって、そして、その日付の記載についても御本人がおかしいと気づいたことによってこういう改ざんについて明らかになったわけですが、やはり一覧表にきっちりと、そういったフロッピーディスクのようなものが、重要な証拠物件が記載されるかどうかということに関する明文的な担保がされないと、今のような不安、懸念というものが解消されないと思うわけです。

 それをどういった形で法文上に明記することによってその懸念が解消されるか、これについて御答弁いただけますか。

林政府参考人 当時、フロッピーディスクは既に返却されていたわけでございますが、仮にこれが返却されていなかったという場合において、証拠開示におきましては、その当時は一覧表というものは存在しません。しかしながら、証拠の開示手続制度は当然存在しておりましたので、それについて、類型証拠あるいは主張関連証拠というものに当たるとすれば、それはそういう形で開示がなされたものだと思います。

 他方で、今回、そういった証拠開示制度の円滑な手続の遂行の手がかりとしまして、証拠の一覧表というものを交付することを制度として設けようとしております。その一覧表におきましては、当然、こういったフロッピーディスクが証拠として保管されていれば、それは証拠物でございますので、証拠物としてその品目と数量というものが一覧表に必ず記載されるということになろうと思います。

柚木委員 今の御答弁というのは、三百十六条の十四の中で、四項三号の「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」という規定があるわけです。当時、このフロッピーディスク、返されていたから実際にそのことが明らかになったというふうに思われるわけですが、改ざんされて以降の、当時の主任検事さんになるんですかね、捜査に当たられた方が、実際に裁判になって、このフロッピーについての証拠提出の必要性について非常に疑義を唱えられたとか、いろいろなそういう経緯を確認いたしますと、本当に今局長が御答弁になられたような形で運用されるのかどうなのかについて、これは疑念を持たざるを得ないんです。

 今おっしゃられた部分というのが、逆に、私が申し上げた四項三号の「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」などに合致して、むしろ一覧表に載らない、そういうことがあったりしないかと私は懸念を持ちますが、その懸念については間違っていますか、正しいですか。

林政府参考人 証拠物で保管している以上、この一覧表に品名と数量を載せる、このような規定となっております。

 他方で、今委員が御指摘になった、一覧表に記載しない場合ということの中の一つとして、「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」というものがございますけれども、これは証拠の内容に着目した規定ではございませんで、証拠の内容が、犯罪を証明する方向で働く証拠であろうが、それを否定する証拠であろうが、その内容にかかわらず、例えば当該フロッピーディスクというもの、その品名をここに掲げること自体からこういった捜査に支障を生ずるおそれ、犯罪の証明に支障を生ずるおそれというものがあるかどうかが問題となりますので、通常、そのようなフロッピーディスクという品名をここに挙げたとしても、この「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」というものになるとは考えられないと思います。

柚木委員 実際にそのような運用がなされるのかどうなのかについては、今そういう御答弁は結構ですが、私はまだ懸念を持たざるを得ないんです。

 それで、最高裁の刑事局長に来ていただいているんですが、もう一点だけ質問してから先ほどの質問をさせていただくので、もし既に今共有いただけているのであれば、この後お聞きしますので、よろしくお願いします。

 証拠開示制度の拡充について、先ほど階委員の方からも、再審請求審について、これは非常に重要である、つまり拡充対象に含めるべきだというやりとりがあったと思うんですね。

 私は同様に質問通告していたわけですが、法務大臣の御答弁を伺っていて、正直、これで本当にいいんだろうかという思いを強く持ちました。

 それはどういうことかといいますと、前回も質問で申し上げましたが、名古屋の闇サイト事件の、死刑執行権を当然持たれる法務大臣として、死刑を執行された。非常に重い事件で、私自身はそのことに対して異議を唱えるものではありません。

 他方で、私も、階委員とのやりとりなのでちょっと調べてみたんですけれども、実際に死刑判決を受けながらも、これはちょっと、私が調べた三月時点での数字なのであれですが、死刑執行判決を受けて未執行でいる方が百二十八人、これは当時の報道の数字です。そのうちの六割の方が再審請求をされているということから見ると、八十人近くの方がそういう状況にあるということであります。

 そうすると、当然、法律上は再審請求中であっても執行され得るわけですが、これは、慣例としてそうはなっていないというのはありながらも、法律上はそれはあり得るということです。そういう方の中にまさに冤罪の方がもし含まれていたとするならば、真犯人を検挙するというのは最も重要なことだと思いますが、真犯人でない方を死刑執行するということは、これはもっとあってはならないことだと私は思うわけでありまして、そういうことが起こらないためにも、ぜひ、やはり再審請求についても証拠開示制度の対象としてお考えをいただくことが必要だと私は思います。

 法務大臣、本当に無実の人を死刑執行しない、そのために、ぜひ、再審請求についても証拠開示制度の中に含むと御見解を答弁いただけませんか。

上川国務大臣 再審請求審の制度としての重要性につきましては、委員御指摘のさまざまな視点からしても大変重要であるというふうに私も認識しているところでございます。今回の法制審議会におきましても、そのところに大変着目をして、そして特別部会におきましても議論がなされたところでございます。

 答申においては法整備の対象とされないということ、これについては、制度導入に当たりましてのさまざまな課題、問題があったということでございまして、最終的には、現在のところ、そうした問題点の解決に至らなかったというふうに理解をするところでございます。その意味で、慎重な検討が必要であるということ。

 先般も答弁させていただきましたけれども、構造的な問題もございます。そして、そうしたことを含めての問題提起ということでございまして、このことについてはさらなる慎重な検討が必要であるというふうに思っております。

 そのことをもって再審請求審の重要性ということを否定しているわけではなく、また同時に、証拠開示ということにつきましても、大変重要なことであるというふうに思うところでございます。

柚木委員 残念ながら、私は、先ほどの階委員とのやりとりの御答弁の域を出ていないと思います。

 問題意識を、つまり再審請求審の重要性を共有いただけるとするならば、もちろん慎重な議論が必要なのはわかりますが、慎重を期す中にあっても、議論、検討を進めることと同時に、再審請求自体の裁判が行われるスピード、件数、そういったことも含めて、私は、ぜひこれは、大臣のリーダーシップで協議を進めていく、せめてそれぐらいは御答弁をいただかないと、死刑執行の権限を持った大臣、真犯人でない人を執行してしまうという懸念、八十人近くの方がそういう請求もされていて、今のような認識で、そういう方々の中にもしものことがあったときに、これは、司法制度そのものの信頼を揺るがす、そういう事案だと私は思いますよ。

 ぜひそこは、慎重でありながらも、証拠開示請求制度の中で再審請求審についても丁寧な検討を進めていく、問題意識がおありなのであれば、その一端はぜひここでお示しいただけませんか。

上川国務大臣 今回の刑事訴訟法の一部改正について御議論をいただいて、そしてその中でも、さまざまな制度について拡充をし、また新しい制度も含めて御議論に付すということで、今まさに議論をしていただいているわけでございますが、法制審議会におきましても、そうした論点あるいはそれについての真摯な御議論、また、この委員会におきましてもそうした御議論をいただいているということ、そしてその中で、再審請求審におきましての証拠開示のあり方につきましてもさまざまな御議論をいただき、また、参考人の皆様からもそうした御指摘を多々いただいているということについては、重く受けとめさせていただいているところでございます。

 刑事手続のあり方につきましては、国民の皆様から信頼をしていただくことができる制度にしていかなければいけないという意味も含めて考えてみますと、問題の一番発端になった大変厳しい案件の中の、大きな村木事件というのもございますので、そうしたことを大きく信頼に変えていくことができるようにしていくという意味で、極めて重要であるというふうに考えております。

 この制度の導入、さらにその後の運用の適正化、さらにそうした中でたゆまぬ改革をしていくという中にこの問題も含まれているというふうに思っているところでございます。

柚木委員 そのように思われるのであれば、これは全体的に言えることですが、今後の議論の中で、やはり冤罪を防ぐ、その中でも、とりわけ死刑判決を受けられている方というのは、もちろんそれが真犯人である場合、法の執行、その権限を持たれる、これはそうです。しかし、そうでない、実際に六割、八十人近い方が再審請求をされているという数字をどう見るかというのはありますが、そういう最も重い判決を受けられている方の再審請求について、やはりきっちりとそれを明らかにしていくこととスピードを速めていくこと、このことについては、この証拠開示制度の拡充はもとより、これはしっかり私たちも確認をさせていただきたいと思いますから、ぜひお願いをしておきたいと思います。

 先ほど最高裁の方に人質司法、身体拘束について伺ったくだりの中で、局長はおられますね、村木さんの「私は負けない」という本、これは江川紹子さんが聞き取り、構成されているんですが、江川さんのコメントで、私もこういう視点というのは非常に大事だなと思って質問させていただきました。

 それは、「「人質司法」が冤罪の温床になっていると批判されて久しい。なのに、なかなか改まらないのは、身体拘束を取り調べに利用する捜査機関の問題はもちろんだが、検察の意見に影響され過ぎる裁判所に最大の責任がある、」と、「最大の責任がある、」と表現されているんですね。

 この批判を受けて、実はこの前段の議論も聞いておいていただければよかったんですが、この法改正も含めて、その責任をどのように今回の法改正に反映させていくお考えか、御答弁いただけますか。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 個々の事件におけます勾留や保釈の判断は各裁判官の判断事項でございますが、勾留や保釈の判断は、被告人、被疑者の身体拘束にかかわる大変重要な判断であると裁判所といたしましても認識しておるところでございます。

 勾留や保釈の判断につきましては、裁判官の間でも議論が重ねられているところでございまして、当該事件で罪証隠滅の余地が本当にあるのか、被疑者、被告人に罪証隠滅の意図がどの程度あるのかなど、勾留、保釈の要件につきまして、抽象的にではなく、個々の事件の具体的な事情に基づいて具体的に丁寧に判断するという勾留、保釈の判断の基本を改めて徹底すべきであるという議論がなされておるところでございます。

 裁判所といたしましては、本法案が成立するか否かを問わず、勾留や保釈の判断につきましては、今後も一件一件丁寧に判断してまいりたいと考えておるところでございます。

柚木委員 資料の五に、元局長が保釈をされるまでに、四回目の保釈請求でようやく認められています。それまで三度については、大阪地検が不服として準抗告をしたりして、その保釈自体が受け入れられなかったりもしているんですね。四回もこういうことを本当にやらなければならなかったのか。

 先ほど、実際に法律改正された場合に、では、村木さんが百六十四日も勾留されなくて済んだのか、私がそういうふうに聞くと、刑事局長からは、それは答弁できないということなんですね。

 しかし、四回、百六十四日、これは最初の二ページ目につけていますけれども、都合四百五十四日。もちろん村木さんだけじゃありません、こうやって本当に無実の方が、村木さんの場合は、ある意味それが晴れてよかったわけです。

 先ほどの再審請求中の方も含めて、そういう勾留をされてきた、そういう事例があるという現実を受けとめるときに、では、せめてこの村木さんの事例が、法改正をされた暁には、こんな、三回目までこんな状態で、これは国民の皆さんから見たときに、公平にジャッジすべき裁判所が、本当にその運用において、今そういうふうに答弁されましたけれども、やっていただけるのかどうなのか、これが非常に重要だということを江川さんも述べておられるわけです。

 今の御答弁は、村木さんは四回目にようやくこういうことになっているわけですが、法改正されて、実際にこの事案についてもよく御存じだと思います、同じようなことにならない、こんな百六十四日も勾留されない、そういうふうにこの法律が運用される、そういうふうに私は理解してよろしいんですか。確認させてください。

平木最高裁判所長官代理者 個別事件につきましてのお答えは、恐縮でございますけれども差し控えさせていただきたいと存じますが、裁判所といたしましては、身柄にかかわる勾留や保釈の判断が被疑者、被告人に与える影響が大変大きいということを十分認識いたしまして、そこにかかわる法律上の要件を慎重に吟味し、一件一件丁寧に判断してまいりたいと思っておるところでございます。

柚木委員 午前中の堀江参考人のお話も含めて、本当に経験した方でなければわからない。もっと言うと、村木さんも、勾留期間も含めてこれだけ裁判も闘って、実際に心身ともに、精神構造が変わるというようなお話も堀江さんからありましたけれども、本当に無実の方がその後何年も、堀江さんの事例とはちょっと違いますが、村木さんの場合、本当に無罪で、時々フラッシュバックが起こるわけですね。三年ぐらいたってもまだそういうような瞬間があるという記述が出てきます。そういうことにもなるわけですね。

 ですから、一つ一つ丁寧に、もちろんそうなんですが、本当に裁判所がそこを自律性を持って判断いただかないと、これからも同じような人質司法、身体拘束は続いていく、私はそういうふうに言わざるを得ません。

 そこの部分については、今後のこの法律九十条の運用を見ないと、この条文のままで、実際に、八十九条の権利保釈の部分も含めて、今のままで運用されることで本当に答弁どおりになるかどうか、これはまだ私は留保せざるを得ません。ぜひその点については、そういう、本当に強いこれまでの反省に基づいて運用いただきたいというふうに思います。(発言する者あり)

 今、そういう声もあって、そのとおりなんですが、きょうはもちろん保釈要件の明確化だったり証拠開示の話なんですが、村木さんのことを事例に今回こういう議論が起きているので、見ていく中で非常に驚いたのが、今回、通信傍受についても今後議論されていくわけです。取り調べ過程の中でこんなことがあり得るのかと思って、こんなことがあり得るのであれば、今後、通信傍受が本当に無制限に拡充されていくともっととんでもないことになるのではないかと思う事案がこの捜査の過程であったんです。

 それは、村木さんの取り調べの中で、事件当時部長だった塩田さんという方がこういうふうに法廷で証言しています。

 密室の取り調べ室で検事から、あなたが当時の国会議員に証明書が発行されたことを報告する四分数十秒の電話通信記録があると言われ、それならば、記憶にはないが、きっと最初の依頼も自分がその議員から受け、村木さんへ対応をお願いしたのだろうと思い込んでしまったと。何度も何度も、交信記録があるのは本当か、本当なら見せてほしいと頼んだが、あると言うだけで、その検事は最後までそれを見せてくれなかったと。お互いにプロの行政官である信頼感があるので、それがうそだと思わなかったと。

 こういうくだりがあって、実際にその当該検事が裁判に検察側の証人として出廷して、実際にその裁判の場では通話記録の話を否定しているんですね。塩田氏の方から、通話記録があるなら教えてと言い出して、自分は通話記録があるとは一切言っていないというのが検事の言い分と。

 こういうようなことが実際に取り調べの中で行われるのであれば、通信傍受もそういう形で悪用、これは、実際にあるないはわかりませんよ。しかし、そういうことも含めて、この傍受の拡大が本当に悪用されるというおそれを改めてこのくだりを見て私は思ったわけです。

 私が聞きたいのは、そういうようなことがあり得るのかあり得ないのかということをクリアにする意味では、そういった取り調べ過程をちゃんと録音、録画していれば、そういったことが起こることを防ぐことができるわけですよ。ですから、録音、録画については、今回のこの改正の中では村木さんのような事案が対象にならないということなんですが、そういう対象の拡大を議論いただく中で、ぜひ今のようなことが起こらないようにしていただきたいと思うわけです。そうすれば、部内的にも事後的にチェックできるわけで、むしろ、私は、捜査側にとってもマイナスではないと思います。

 そういった観点からも、録音、録画の対象拡大について、上川大臣、こういうようなことが起こらないためにもぜひその拡大をお願いしたいと思いますが、答弁をお願いできますか。

上川国務大臣 録音、録画の事件につきましては、それに対して対象事件が限定するということではございますけれども、証拠につきましてしっかりと録音、録画をした形で、また公判にも資するということもございますので、こうしたことにつきましては、適正に運用し、また検証していくことが必要ではないかというふうに思っております。

柚木委員 以上で終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。きょうもよろしくお願いします。

 午前中に堀江さんが、安保より刑訴法の方が大事だと私の思いを代弁してくださいました。幸い、委員長の名采配をもってここまで慎重な審議をしていただいていることにまず感謝を申し上げます。しかし、これから議論は、私もちょっと修正の考えなどもいろいろ今頭を練っておりまして、私の思いとしては、サッカーでいえば後半キックオフだな、そんな思いでおりますので、引き続きよろしくお願いをいたします。

 では、きょうの質問に入ります。

 さきの参考人質疑のときに、私の方から、この法改正の魂、一体何のために今回法改正、改革をするのか、そういうことをお話しさせていただきました。

 法務省のお答えというものは、やはり取り調べの適正化と取り調べに過度に頼らない証拠の収集ですとか、また公判の充実、そういうことになるかと思います。

 ふだんであれば山谷国家公安委員長にお聞きするところなんですが、きょうは、裁判所にこのことをお伺いしたいと思いまして、平木さんに伺いたいと思います。

 私は、今回の法改正に至る一番のきっかけは、多くの皆さんが言っておりますが、村木さんの事件を初めとする冤罪の事件だったと。それによってこの改革が動き出して、長年の議論を経て今の形になっている。これまでの議論の中で、新時代の刑事司法制度、新たな刑事司法制度、そういうような言葉も出てきておりますが、この改革の本当の目的、また、新たな、新時代の刑事司法制度というものは、裁判所の側から見れば、今回は何なのかというところを語っていただきたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 平成二十三年五月に当時の法務大臣から、新たな刑事司法制度を構築するための諮問がなされ、これを受けて、平成二十三年六月六日の法制審議会第百六十五回会議において、新時代の刑事司法制度特別部会が設置され、そこでの議論を経て、今回の刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が提出されているものと承知しておりまして、裁判所職員一同も非常に注視しておるところでございます。

 もっとも、本法案の提出に至る過程で使われております新時代の刑事司法制度や新たな刑事司法制度という言葉の意味ですとか、本法案の趣旨につきましては、裁判所といたしましては、お答えする立場にないということを御理解いただければありがたく存じます。

井出委員 今回の法改正、取り調べの適正化や取り調べに頼らない証拠の収集、また、裁判で証人や被害者の保護を図っていく、証拠隠滅がないようにしていく、公判の充実も挙げられているんですけれども、そういうパッケージで示されているわけですね。ただ、やはりきっかけというものは、冤罪の事件があった、あれがなければ、ここまでの法改正というものがあったかどうかも私は疑わしいと思っております。

 今回、これだけのパッケージで法改正が示されている、新たな刑事司法制度というものが示されているわけですけれども、裁判所として、では、一体どういう役割が果たしていけるのか、果たしていくおつもりなのか、そういう観点からお答えをいただきたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 刑事司法制度がどうあるべきかということにつきましては、まさに制度論でございまして、立法事項でございますので、裁判所としましては、発言する立場にはございません。

 裁判所といたしましては、いずれにしましても、法律で定められた制度の中で、その法律の趣旨を踏まえつつ適切な運用をするよう心がけていくものになると考えております。

 最高裁事務当局といたしましては、運用のあり方について裁判所内で議論する場を設けたり、必要な情報提供をするなどして、適切な運用がなされるよう支援してまいりたいと考えておるところでございます。

井出委員 済みません、きょうは諦めませんよ。

 もう少しストレートに言いますと、今回の改革というものは、冤罪を少しでもなくしていこうという、それが新たな刑事司法制度のメーンだと私は思いたいんです、今のところ全体の中の一つという法制度だと思うんですけれども。

 冤罪をなくしていくということについて、裁判所はこれからしっかりとかかわっていけるのか、役割は何なのかというところを伺います。

平木最高裁判所長官代理者 本法案が成立するかどうかを問わず、裁判所といたしましては、法律と証拠に基づきまして、一件一件慎重に、丁寧に判断していくということには変わりはございません。

 本法案が成立した場合には、本法務委員会での御議論等の情報をも裁判官に周知するなどして、そしてまた議論の場を設けるなどして、適正な運用がなされるよう、最高裁事務当局といたしましては配慮してまいりたいと考えておるところでございます。

井出委員 きょう何度もこうやってお伺いをするのは、これまでの議論の中で、法務省、検察当局に、取り調べのやり方がまずかっただろう、冤罪を生み出してきた原因ということで、そのことはこれまで何度も何度も伺ってきました。

 ただ、その一方で、判決を出すのは裁判所ですし、問題になっております保釈の取り扱いも最終的には裁判所が認める、私が前に伺った接見の禁止も裁判所に権限がある。日本の裁判は九九%有罪だ。そして、勾留請求も、この間の御説明であれば、九割以上が容認をされている。接見の禁止も九割以上容認してきた。

 私は、これは検察がどんなに変わっても、やはり裁判所も変わらなければいけない、冤罪をなくしていくための一定の意識の変化というものがなければいけないと思うんですけれども、答弁をお願いいたします。

平木最高裁判所長官代理者 有罪率が九〇%を超えているといったような数字に関しましては、個別事件の集積でございます。個別事件につきまして最高裁事務当局者が言及することはできませんので、その集積である何%というあたりの委員御指摘のところにも言及することは難しいかと思っております。

 ただ、委員御指摘のような批判があることは裁判所といたしましても認識しておるところでございますので、いずれにしましても、法と証拠に基づいて、個別事件の適正な処理に向けて、今後も全力を挙げて取り組んでまいりたいと考えておるところでございます。

井出委員 最高裁が個別の裁判所の判断の集積について物を申すのはできないということは私も理解はしますし、最高裁が、国会から冤罪をなくせと言われたから、各裁判所に何か通知したりするのもだめだ、私はそういう理由はわかるんですよ。情報提供とか議論はできると思うんですけれども、最高裁が各裁判所に何か命令することはできないというのはわかるんです。

 そうすると、では一体、日本の裁判所というのはどうしたら変わるのかなというところは、私はとても疑問なんですね。

 保釈の関係で伺いたいんですが、今の刑事訴訟法の八十九条の中に保釈の条件がいろいろあって、八十九条の四号が、話題になっております逃亡と罪証隠滅なんですね。

 ここの法文がかつて議論されたことがありまして、それは昭和二十三年の国会での議論なんですが、そのときの政府の原案というものは、この八十九条四号は、「被告人が罪証を隠滅する虞」、そういう文章を用いていたんです。それに対して、衆議院の司法委員会の審議で、「今までの取扱いは事件を否認するものは絶対に保釈を許してくれませんでした。それとこの第四号とは相結んで被告人が罪証を隠滅するおそれがあるということにして、許されないようになりはしないか。」と。

 私がこの委員会でも、否認だけをもって保釈を判断しているんじゃないかということは申し上げてきましたけれども、まさに昭和二十三年にも同じような議論があったわけです。

 そのときに、結局、議論を経て、政府案の原案が修正をされて、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」という今の文言になったんですけれども、これは昭和二十三年の話、今は昭和九十年です、またここで同じ議論をしなければいけないのか、そういう思いをこれを見ていて持ったんです。

 裁判所が、個々の裁判体に指導もできませんし、それに軽々に口を挟むということはできないと思うんですけれども、私は、この保釈に関して、どうして昭和二十三年と、今は昭和九十年、この議論を、もう一回同じことをしているのか。それは、この保釈に関して言えば、やはり保釈の決定をする裁判所の意識の問題だったと思うんですけれども、いかがですか。

平木最高裁判所長官代理者 個々の事件におけます保釈の判断は各裁判官の判断事項でありますけれども、保釈の判断につきましては、裁判官の間でも議論が重ねられているところでございまして、当該事件で罪証隠滅の余地が本当にあるのか、被告人に罪証隠滅の意図がどの程度あるのかなど、保釈の要件について、抽象的にでなく、個々の事件の実情に基づいて具体的に判断するという保釈の判断の基本を改めて徹底すべきであるという議論がなされておるところでございます。

 そのような裁判官の間での議論の中では、まさに委員御指摘のように、否認していることが直ちに罪証隠滅のおそれありとする事情となるのかどうなのかといったあたりについても活発に議論がなされているものと承知しておるところでございます。

井出委員 ありがとうございます。今、私が思っていた以上に詳細なお話をいただいたと思います。

 今のお話の一例を私は用意してきたんですけれども、二〇〇六年に公表された松本芳希判事の書かれた「裁判員裁判と保釈の運用について」という論文がありまして、その中では、今まさに平木さんがおっしゃったように、保釈の判断基準について原点に返って見直す必要がある、八十九条四号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」、それをしっかり見ていかなきゃだめだ、そういうことをおっしゃられている判事もいらっしゃったということは、私もこの間勉強してきたんです。

 個々の裁判官の議論、意識の変化というものも、私も、この論文のように、平木さんがおっしゃるように、あるとは思うんですけれども、ただ、そうはいっても、有罪率ですとか勾留請求の容認、接見の禁止の割合が皆いずれも九割に達している。その数字というものについては、それが個々の集積だとしても、私の立場からすれば、何とかしてほしい、裁判所にもっともっと変わっていってほしいと思うんですね。

 そこで、私は、先日の参考人の議論を聞いていて思ったんですけれども、裁判所が最近一番大きく変わったのは、やはり裁判員裁判が始まったからだと思います。その一番は、やはり裁判に国民の目が、国民の感覚が直接的に入り込んできたからだと思います。

 午前中来ていただいた堀江さんの保釈の件もそうなんですけれども、当時、公判前整理手続が始まったばかりのときに、それも理由の一つとして保釈を認められて、それが現在の運用にも、現在も公判前整理手続が進んだからということで保釈が早まるケースもあるんですけれども、なぜ堀江さんの事件がそうなったのかといえば、堀江さんの事件というものは大変注目をされていた、世間の目が、国民の関心があった、それに対して裁判所がそういう結論を出したのかなと私は思っているんです。

 やはり国民の目が入った、開かれた裁判所であるということは、これは、最高裁が裁判所にいろいろな指導はできない、そういう状況の中で、裁判所が今よりももっともっと不断の進歩、進化を遂げていく上で、裁判が公開されている、国民の目があるということは決定的に重要だと思いますが、裁判の公開についてはいかがお考えでしょうか。

平木最高裁判所長官代理者 個別具体的な事件について言及は差し控えさせていただきますけれども、委員御指摘の公判前整理手続と保釈の関係につきましては、裁判官の間でも議論がなされておるところでございまして、一般論で恐縮ですけれども、公判前整理手続が開始されている場合には、検察官と弁護人、被告人の双方の主張、立証の枠組みと申しましょうか、そういった点が明らかになるといったことがございますので、そうしますと、裁判所といたしましても、罪証隠滅の客観的な可能性、主観的な意図がどのくらいあるのかといったあたりについて判断しやすくなるというようなことは指摘されているところでございます。

井出委員 公判前整理手続の話はもうちょっと後でお伺いしようかなと思っていたんですが。

 今私が伺いたかったのは、裁判所は、最高裁や国会が何かがあっと言って組織系統的にがっと変わるものではない。それが最近大きく変わったのは、やはり裁判員裁判、国民の目が入ったことだと私は思います。裁判所の意識も大きく変わったと思うんですけれども、憲法にも、裁判は公開でなければいけない、そういうことも書かれておりますし、私は、今回も証人の保護ですとか被害者の保護というところが盛り込まれておりますので伺いたいんですけれども、裁判の公開の重要性について御認識をいただきたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 委員御指摘のとおり、裁判の公開の原則は非常に重要な原則であると思っております。

 法廷における審理をまさに一般の国民の皆様方が傍聴されるわけですので、そういった中で検察官、弁護人、裁判所が訴訟活動を行うということは、非常にそのレベルを上げるということにもつながっておりますし、また、適正な判断の実現にも資するところが大きいものではないかというふうに認識しております。

井出委員 今回の法改正に盛り込まれております被害者の保護、証人の保護、ビデオリンクを拡充して別の裁判所でもできるようにする、そういうことも盛り込まれているんですけれども、私は、それは証人や被害者の立場に立てばよいことかなと思うんですね。だけれども、本来であれば、そこに被害者や証人に来ていただいて、つらいことも話をしていただいて、その上で裁判所が判断を下して、それを傍聴している人もそうです、取材に来ているマスコミもそうです、そういう国民の目によって、その裁判が世の中に対してどういう問題提起をするかというところが決まってくると思うんです。

 私は、そういう意味で、証人や被害者の保護というものは極めて重要だと思うんですけれども、それが優先されて裁判の公開性というものが失われるようなことがあってはいけないと思います。

 憲法の八十二条の一項で裁判の公開が言われている、八十二条の二項で公の秩序や善良の風俗を害する虞ということで非公開で裁判をやることもあり得べし、そういうことを挙げているんですけれども、ただ、それは必ず全裁判官の一致がなければいけないとも言われておりますし、裁判の公開については、今話題になっております長谷部教授が、裁判所は、非公開で裁判をする、その一部を非公開にするときは、きちっと当事者の意見を聞くべきだろう、そういうことも論文に書かれているんです。

 私は、前に、裁判員のときもちょっと伺ったんですけれども、裁判というのは、裁判員にとって最良の環境であるのが必ずしもよいとは思いませんし、被害者、証人にとってすばらしい環境が必ずしも裁判の本質かというところは疑問を持っておるんですけれども、証人の保護、被害者の保護というものと裁判の公開というもののバランス、私は裁判の公開というものは決定的に大事だと思いますが、そこについて、裁判所の現状のお考えを聞きたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 犯罪被害者等、証人を保護するための措置と裁判の公開との関係につきましては、立法事項、それから制度論にかかわる問題かと思われますので、裁判所としてはお答えする立場にはないということを御理解いただければありがたく存じます。

井出委員 裁判所は、もう何度も申し上げていますけれども、最高裁が指示はできませんし、個々の裁判体の自主的な、それぞれの裁判の進め方、判決、その集積で今の日本の裁判というのはこういう流れだよねというものが問題意識としていろいろあると思うんですけれども、私が申し上げているのは、裁判所が不断の改革、常に物事を変えていこうというときに決定的に大事なのは、やはり裁判が国民に見られているということだと思うんですね。

 裁判の公開性というものは極めて重要だし、それをきちっと担保していく姿勢や議論が欲しい、そう思っているんですけれども、いかがですか。

平木最高裁判所長官代理者 本法案におきましては、証人等の保護措置、種々のものが設けられております。改正法案が成立した場合には新しい制度が導入されるということになりますので、最高裁事務当局といたしましては、まさに委員御指摘のとおり、その運用のあり方などについて裁判所内で議論する場を設けるなどして、適切な運用がなされるように十分配慮してまいりたいと思っております。

井出委員 最初に私が、裁判所にとって、今回の新たな刑事司法制度、その新たなという部分は何なんですかというお話をしました。裁判の公開の原則、裁判を国民の目がしっかりと届く形でやっていくということは決して新しいものではないんですけれども、今回の法改正の議論のときに、裁判所にぜひ議論をしてほしい、意識をもう一度やってほしい大きなポイントだと思いますので、そのことを切にお願いしたいと思います。

 次に、証拠開示制度の関係でお話があった公判前整理手続のことについて、林刑事局長に伺いたいんです。

 公判前整理手続というのは、今、裁判員裁判では義務づけられている。その中で、今度、証拠の一覧表が出て、私も細かいところはまだ不十分ではないかなと思っているんですけれども、法務省として、この公判前整理手続、今度、弁護人や検察側に請求権を付与されるということですけれども、もっと広がっていった方がいいというお考えなのかどうか、今のお考えを教えてください。

林政府参考人 公判前整理手続につきましては、争点を明確にした上で、公判自体が継続的、計画的に遂行されて、その上で、適正、迅速な裁判というものが実現することを目的とした制度でございます。そういった意味においては、公判前整理手続というのは非常に重要な手続を定めた制度であろうかと思います。

 したがいまして、これは、それを拡大すべきかどうかという観点というよりは、やはり公判前整理手続が必要な事件については的確に公判前整理手続が利用されるということが非常に重要なことであろうかと思っております。

井出委員 今回、公判前整理手続の裁判について、証拠の開示が拡充されるわけですね。証拠の開示を私も広くやっていってほしいと思っていますので、そういう観点からすると、公判前整理手続も広がっていった方がいいんじゃないのかな、そういう問題意識を持っているんです。

 公判前整理手続の今回の証拠開示の拡充は中身も不十分だと思うんですけれども、公判前整理手続以外の裁判の証拠開示のあり方、そういうものも議論する必要があるのではないかなと思いますが、いかがでしょうか。

林政府参考人 公判前整理手続自体につきましては、証拠開示制度とセットの形で制度がつくられているわけでございまして、やはり公判前整理手続で、先ほど、その必要な部分については公判前整理手続が的確に利用されることが大変重要であると私は申し上げました。

 その一つには、当事者の中で争点がかなりありまして、証拠開示というものが非常に重要なファクターになるような事件があろうかと思います。そういったものについては、やはり公判前整理手続、あるいは第一回公判が始まってからであれば期日間整理手続かもしれませんけれども、そういった証拠開示手続を含んだ制度であるところの公判前整理手続などが利用されていくべきものだと考えております。

井出委員 現状の公判前整理手続の制度が運用されている状況を見ますと、平成二十五年は、全国の地裁で千五百九十人、このうち千四百十五人の被告が裁判員裁判。裁判員裁判は、公判前整理手続が義務づけられております。平成二十四年は、一千七百四十五人の被告が公判前整理手続に付され、そのうち千五百二十六人は裁判員裁判の対象だった、そういう数字もあるんです。

 今、的確に利用されることが重要と。今回の制度で公判前整理手続の請求権が付与されるわけですけれども、この現状、私は、裁判員裁判は公判前整理手続が義務づけられているから、その事件数に近い数字で公判前整理手続が行われているのが実態かなと思っているんですけれども、この実態について、よしとされているのかどうか、その評価を伺いたいと思います。

林政府参考人 公判前整理手続の運用の実態というものについては、今回、公判前整理手続に付することの請求権を付与するか否かという議論の際に、法制審議会においても議論の一つで少し出てきたように覚えておりますけれども、やはり、それについては、現状の運用において公判前整理手続に付されるべき事件が付されないでいるというふうな実態があるのかどうかということについては、必ずしも、そういった事態がある、だから今回その請求権を付与するんだ、こういうところの意見で統一を見たわけではございません。

 しかしながら、公判前整理手続に対して、これまでは裁判所が職権において判断されて、それに付するか付さないかが決まっていたわけでございますが、公判前整理手続の有用性というものについてはかなり共通認識があったものですから、やはりそれに対しては当事者からの請求権というものを認めていいんじゃないかということで、最終的にはこの請求権を認めるということになったものと承知しております。

井出委員 公判前整理手続に付されるべきものが付されていない、そういう議論になったわけではない、だけれども手続の有用性があって請求権を付与するということになったかと思うんですけれども、この公判前整理手続もやはり決定は裁判所の方で判断をされると思うんですが、近年の数字を見ますと、手続が義務づけられている裁判員裁判事件とほぼ近い数字でしか使われていないのかなと思うんです。

 今回、その請求権というものが明確に盛り込まれますが、公判前整理手続の現状の運用と、請求権の付与によってどう変わっていくのか。個別のというところからまた始めざるを得ないと思うんですが、裁判所内の議論や意見をお聞かせください。

平木最高裁判所長官代理者 委員お尋ねの件は、立法事項に関することでございますので、裁判所事務当局といたしましてはなかなかお答えするのが難しいところでございます。

 ただ、いずれにしましても、本法案が成立しました場合には、この法務委員会での御議論、あるいはそれに先立ちます法制審議会での議論の状況などを各裁判官に情報提供するなどして、そしてまた議論の場を設けるなどして、適切に改正法が運用されるよう環境整備を行ってまいりたいと思っております。

井出委員 法務省の林局長の話ですと、手続に付されるものが付されていない、そこまではいかなかったが有用性はある、そういう議論だったと思うんです。

 公判前整理手続というのは、確かにおっしゃるように、争点の事前の整理という意味ではよいのかと思うんですが、この制度を導入するときに、主な争点を法廷の場ではなくて当事者の中だけで整理をつけていいのか、そういう議論もあったかと思います。それは、私がさっき触れました裁判の公開性とも関係があるのかなと私は思っているんです。

 裁判所側として、この運用の数字を見ていれば、裁判員裁判、手続が義務づけられているものに対して、ほぼそれに近い数字でやってきているなと思うんですけれども、公判前整理手続のこれまでやってきた評価、公判前整理手続についての現在の裁判所内での議論というものを伺いたいんです。いかがですか。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

平木最高裁判所長官代理者 裁判所内における公判前整理手続に関する議論の状況でございますけれども、議論は、裁判員裁判における公判前整理手続のあり方が中心的に議論されております。

 裁判員裁判の公判前整理手続に関しましては、やや長期化しているのではないかというような指摘がなされておるところでございます。長期化しているという点につきましては、いろいろな指摘がなされておるところでございますけれども、裁判所といたしましては、裁判官同士、あるいは裁判官と検察官、弁護士、法曹三者含めて、そのあたりをどうやっていけばより適正な公判前整理手続の運用が可能となるのかというところを現在活発に議論しておるところでございます。

井出委員 林局長にまた伺いたいんですが、今回の証拠開示制度の拡充もそうですし、取り調べの可視化も裁判員裁判が義務づけになっているんですけれども、裁判員裁判だけが日本の裁判ではないと思うんですよ。だけれども、裁判員法の改正のときも、今回の可視化のときも、裁判員裁判が日本の刑事裁判の中心というものになりつつあるというようなことは私も申し上げてきたんです。

 今、裁判員裁判の終局した人数というものは年間一千五百人前後で、ほかのものも含めて第一審が全国で終局判決する人数というものは五万人だったり六万人だったりするので、裁判員裁判の事件だけ取り調べが可視化される、証拠開示制度が拡充される、果たしてこれからの新たな刑事司法制度はそれだけで十分なのか、きょうまでいろいろ勉強して、今そういう疑問を持っているんですけれども、いかがでしょうか。

林政府参考人 今回の新たな刑事司法制度ということが大きな意味でどの点が新しいのかというようなところについては、これは、私としましては次のように考えているところでございます。

 すなわち、これはよく当初からも申し上げておりますが、取り調べと供述調書に過度に依存する、そこからの脱却であるということでございますが、もう少しそれを敷衍しますと、刑事司法というのは、捜査と公判を経て、そして判決というものがなされるわけでございますが、これまで、公判と捜査で比べれば、やはり捜査の方にかなり重点が置かれていた刑事司法ではないか。さらには、捜査の中では、どうしても取り調べというものに重点があったのではないか。さらに、取り調べという形でも、やはり供述調書の作成というものに重点があったのではないか。

 こういった取り調べ及び供述調査に過度に依存するということからの脱却ということを通じまして、一つには、やはり公判審理の充実というもの、これが一つの目指すべきものとして出てきたものだと思います。また、それと同じ関係でいえば、取り調べ以外の証拠収集手段の多様化、適正化、こういったことも出てきたんだと思います。

 そういったことを考えますと、新しい刑事司法というものについては、必ずしもそれは裁判員制度、裁判員裁判だけを目指しているわけではございません。

 それぞれの制度におきまして、例えば録音、録画につきましても、確かに今回の義務づけの一番の対象事件は裁判員制度対象事件となっておりますけれども、他方で、それに限られるというわけではないわけでありまして、例えば検察官独自捜査がそれに加わっておりますし、また、検察の運用におきましては、当然、裁判員裁判とは関係のない、それ以外の事件でも録音、録画というものを積極的にやっているわけでございます。

 ですから、そこは、必ずしも裁判員裁判対象事件だけを念頭に置いているものではございませんし、公判前整理手続につきましても、確かに義務づけになっているのは裁判員裁判対象事件でございますけれども、今回、それ以外のものについて請求権を付与するという方向性といいますのは、やはり、裁判員裁判以外のものについてこういった制度を利用していくということを志向しているわけでございます。

 裁判員裁判ということが常にここで出てきますのは、実を申しますと、先ほど最初に申し上げました公判中心主義といいますか、そういったところを裁判員制度が先に実現しつつあるという関係にありまして、そのあたりで常に裁判員裁判、裁判員制度というものに焦点が当たっておりますけれども、全体の目指すべきところについては、別に、裁判員裁判というものだけを目指している、そこについての制度改革を目指しているわけではないということを申し上げたいと思います。

井出委員 裁判員裁判が公判中心主義に、かつての裁判は私みたいにぼそぼそしゃべる人が早口でやるだけだった、そういうものを変えていこうということで、また、申し上げましたけれども、国民の感覚を取り入れるということで大きい意味があると思うんですけれども、それは前の法改正のときに言いましたけれども、まだ完成ではない、見直しが必要だということは申し上げました。

 今のお話ですと、裁判員裁判だけではないと。ただ、例えば可視化、録音、録画は裁判員裁判というところが、今回、可視化法案と言われていますから、そこはどうしても私はひっかかるんですけれども、そこを解決するのは、裁判員裁判対象事件以外もいろいろ記録できるのは、いつも言っていますけれども、きょうは言いませんけれども、いろいろな機器の工夫があると思うんですよ。

 裁判所に、今の林局長のお話でやはり申し上げておきたいのは、公判前整理手続の請求権が検察と弁護側に付与されるようになる。今までも、たしか意見を聞いたりすることはできたと思うんですね。ですが、裁判員裁判事件とほとんど同数の運用でしたし、先ほどのお話でも、裁判員裁判の中での公判前整理手続のあり方が議論の中心になっているということだったと思いますが、ぜひ、請求権が付与されるということは重く受けとめて、意識共有をしていっていただきたいと思います。

 きょうはいろいろなテーマがあるので、幾つか伺っていきたいんですが、これも最高裁に、きょうは平木さんばかりで申しわけないんですが、証拠隠滅罪などの法定刑の引き上げ、証人の不出頭、宣誓・証言拒否などの法定刑の引き上げですとか、証人の勾引の要件が変わると聞いておりますが、これは、実際、各地の裁判所で、証人が来ないとか、宣誓しろと言ったら暴れて拒否するとか、そういうことで実務に障害が出ているのかどうか、そういう意見があるかどうかを裁判所に伺いたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 証人が不出頭となった件数、証人が宣誓または証言を拒否した件数、証人を勾引した件数につきましては、いずれも統計としては把握しておりません。

 もっとも、証人の不出頭により処断され刑罰を科した件数と、証人の宣誓または証言拒否により処断され刑罰を科した件数については統計をとっております。

 まず、証人の不出頭についてでありますが、平成十一年から平成二十七年四月末までの期間に終局した公判請求事件におきまして、証人として召喚を受けながら正当な理由なく出頭しなかった罪、刑事訴訟法百五十一条の罪が処断罪となった事件の終局人員はゼロ人でございます。

 また、証人の宣誓または証言拒否につきましても、同様の期間に終局した公判請求事件におきまして、正当な理由なく宣誓または証言を拒んだ罪、刑事訴訟法百六十一条の罪ですが、これが処断罪となった事件の終局人員もゼロ人でございます。

 なお、ほかのより重い事件とあわせて有罪判決を受けている事件や、平成十年以前に終局した公判請求事件、略式請求事件については、統計としては把握していないところでございます。

井出委員 私もそんなに多くは裁判は見ていないんですけれども、証人が宣誓を拒否するのは見たことがありませんし、来ないから期日を一旦キャンセルしてもう一回呼ぼうとか、そういうのも、私が記者をやっていて、八年のうち五年ぐらいは事件と裁判をやっていたんですけれども、私が傍聴取材に行った裁判ではそういうことはなかったなと思うんですね。今述べていただいた数字のゼロ人、ゼロ人というものを、これはどう評価したらいいのかというところはあるんです。

 ですから、私は、現状、証人が例えば来なかったら、来ない中でやりましょうと。法定刑を引き上げる前に、例えば証人を徹底的に来させるような取り組みがあるのか。法定刑が引き上げになれば、処断のゼロ人がいきなりばっとふえることも議論があると思うんですけれども、どうしても、今の数字ですとかを聞いていますと、法定刑の必要があるのか、法定刑の引き上げ以前に裁判所の取り組みの問題じゃないかと思うんですけれども、平木さんの見解をいただきたいと思います。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

平木最高裁判所長官代理者 一般論で恐縮でございますけれども、証人が現に召喚に応じず不出頭となった場合におきましては、新たな尋問期日を定めた上で再度召喚するか、あるいは証人を勾引することができますので、各裁判体としては、これらの方策により対応することも多いのではないかと考えておるところでございます。

井出委員 不出頭の人に対して、期日を延期してまた出頭を求める、勾引を求める、その取り組みを尽くした上で、いや、もうだめだ、最近のやつは全然裁判に協力しない、だから法定刑を引き上げよう、勾引の要件を変えようというんだったら確かにそれはそうだなと思うんですけれども、そこまでの実態、必要性があるのかなというところはちょっと疑問なんです。

 その実態というところはどう御認識されていますか。必要性はやはりありなんでしょうか。

平木最高裁判所長官代理者 委員お尋ねのあたりの問題につきましては、立法事項にわたるところかなと考えますので、お答えは差し控えさせていただきとう存じます。

井出委員 今ちょっと手を挙げかかった林さんにも伺いたいんですが、同じ質問で、出頭しない人に対してそういういろいろな取り組みを尽くした上で、それでもだめだ、法定刑の引き上げが必要だ、勾引の要件を変えることが必要だというのであればわかりますが、その必要性についての見解をいただきたいと思います。

林政府参考人 まず、証人の不出頭の実態につきましては、法務省において、全国の地検に調査をしたことがございます。その際、例えば、平成二十五年の一月一日から同年六月末、六カ月間に行われた証人尋問期日において、半年間の中で証人が出頭しなかった事例が八十一件、宣誓拒絶した事例が五件、証言拒絶した事例が七件という報告があったものと承知しております。そして、証人が出頭しなかった事例の中で、勾引をしたという事例も多うございます。

 そういったことから、刑罰としての統計数というものについては先ほど紹介があったと思いますけれども、実際の証人の不出頭の実態というのはかなり全国の中で存在しているということでございます。

 その上で、こういったことにつきまして、証人の出頭、証言確保というのは非常に重要でございますので、今回、法定刑を引き上げるという形で、まずは証人として出頭、証言する義務に違反する行為については厳正な対処をもって臨むべき犯罪であるという法的評価を示す、その威嚇力によって証人の出頭、証言を促す、こういったことは非常に意義があるわけでございまして、そういったことから、今回の法定刑の引き上げというものを考えているわけでございます。

 もう一つは、先ほど、不出頭の場合に、一旦不出頭になりますと、その召喚した公判期日は証言が行われずに終わるわけでございますが、今の中では、一旦召喚しないと勾引というものができない制度でございますけれども、実際の不出頭の中の少なからぬ事例の中には、あらかじめ不出頭が予想される、出頭される見込みがない、こういう事案も少なからずございます。

 そういった場合に、確実に高い見込みで、不出頭が見込まれるにもかかわらず、一旦召喚という手続を踏んだ上で勾引をしなくてはいけない、そういったことについては、実際に法制審議会の特別部会の中でも、極めて迂遠な事態があるということの意見もございまして、それで、今回、勾引の要件というものについても改めようということになったものでございます。

井出委員 裁判所に出頭する、証言する、そのことに重みを持たせるということなのかな、そういうことで理解をしておりますが、ただ、本来であれば、法定刑が引き上がるわけですから、ここはもう少し慎重な議論が必要ではないかなと思います。

 きょう平木さんといろいろお話をさせていただきまして、これだけ長時間やっていると、言葉だけでなくその表情で、思いはいろいろ、私の思いが届いていないなというときもあれば、平木さんの思いが伝わってくるなということもありまして、長時間の取り調べ、じゃなかった、長時間の審議というものは必要だなと思います。

 残った時間で、私は、改めて上川さんに伺いたいんです。

 今回の改革の魂の部分、私は、そのきっかけは冤罪事件だった、その議論をやっていくうちに、そういうものをなくしていくために、新しい証拠収集の方法ですとか、また公判の充実ですとか、いろいろなものが大きなセットとして出てきたと思いますし、きょう、新たに、裁判の公開性というものも極めて重要だということ、そういう視点からも提案をさせていただいたんです。

 きょう改めて確認したいのは、やはり冤罪の防止、被疑者、被告人の人権と真相解明、立証を尽くす、それが法治国家として重要であるということはわかるんですけれども、私は、今回の法改正という部分は、やはり一定程度、これからの刑事司法では今まであった冤罪をなくしていくということ、そのための議論の集大成が今ここにあると思っておりますが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 委員のただいまの認識については、私も同じ認識を持っているところでございます。

 まさに冤罪事件に端を発し、また、そうしたことを生み出す背景あるいは原因ということについてさまざまな論点から審議を尽くしていただきながら、最終的に、新時代の刑事司法制度、そうした中で、新たな刑事司法制度の構築、こういう形での表現をなされたというふうに思っているところでございます。

 もとより刑事司法の目的は何かという原点でございますが、適正手続の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにし、そして適切な処罰を実現する、こうした目的でございます。

 この改革が行われるか行われないかでこの目的が変わるということではございませんので、こうした刑事司法の目的に照らして、適正手続の保障をしっかりと全うしながら、先ほどおっしゃったような、人権についてしっかりと守りながら、また真相究明をしていくためのさまざまな手段を新たにつくりながら、その目的に照らして運用を適正にしていくということ、このことを絶えず意識し、また、組織の中でも、法曹の中でも十分に検証をしていただきながら、研修もしていただきながら、そして、向き合っていただくことができるようにしていくということが何よりも大事ではないかというふうに思うところでございます。

井出委員 刑事司法の目的というのは大臣がおっしゃるとおりだと思います。

 ただ、刑事司法の目的、真相の解明、それに見合った司法の判断というものを下していくということはおっしゃるとおりなんですけれども、その中で、事実と違う有罪認定があったりしてきて、その部分は今回の法改正で正していかなければいけませんし、私は、まだ政府の原案ではそれは非常に不十分である、そういう思いでいるんです。

 そもそも、今までの議論でもあったんですけれども、真相の解明、取り調べ、裁判、そういったものの中で人権に配慮していくということは、可視化をすれば取り調べに支障が出る、そういう議論もありましたし、バランスは大変難しいと思いますし、私は完成もなかなかないと思います。

 大臣も、さきの委員の方とのやりとりの中で、不断の改革が必要だ、そういうお話がありましたが、これからも見直し、不断の改革、検証というものが必要かどうかというところの認識を伺いたいと思います。

上川国務大臣 まさに先ほどおっしゃったように、完成されたものであるということはないわけでありまして、よりよく改革をしていくという方向性ということについては、これは絶えずやっていかなければいけない。

 今回の改革のもとになりました冤罪事件が、多くの無罪であった方に有罪を科すというようなことになったという事案があったことを十分に反省しながら、この制度改正につきましても、いろいろ御議論をいただきながら、今のようなパッケージでお願いをしているところでございます。

 制度そのものをその目的に照らして生かしていくことができる運用の適正化ということについては、冤罪を生まないためにも、これからさらにこれを徹底して実践していかなければいけない。その意味では大変重い責任を担っているというふうに思っているところでございます。

井出委員 今大変私の思いを酌んでいただいたなと思うんですけれども、きょう最後に一点御提案したいのは、この法律の附則、見直し規定なんですが、三年後に取り調べの可視化について見直しの規定がある。

 私は、取り調べの可視化がこの法律の一つのポイントではありますので、それに特化して見直し規定をつくって政府案に盛り込まれたというのは一定の理解はしているんですけれども、保釈の運用であったり、証拠の開示であったり、来週の議論になりますけれども通信傍受の件であったりですとか、私は、可視化ももちろん不断の見直しが必要ですけれども、可視化以外も刑事訴訟法は今回たくさんの改正があります、新たな刑事司法、今そういう節目だと思います。

 ですから、可視化はもちろんなんですけれども、可視化以外の刑事訴訟法のあり方についても、引き続き、きちっと今の附則にあるように時期を決めて、三年でも結構ですが、見直しをして、議論をする機会をつくっていただきたい。この附則の書き方というものも、今私が言った思いのような形に少し工夫できるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 制度というのは不断の見直しをしていくということ、そして必要に応じて改革をしていくということ、このことについては全てのものに当てはまるというふうに思っております。

 ここであえて、三年後を、附則に盛り込んだという趣旨につきましては、録音、録画の制度そのものが大変柱として重いものである、こういう認識の中で、また、三年後の検証、義務化をする、しかも全面録音、録画をするということでありますので、そうした蓄積をしっかりとした上で検証をするべきだ、こういうことをあえて明言したということでございますが、だからといって、ほかの制度を見直さないというものではない、私はそのように認識しているところでございます。

井出委員 可視化に特に焦点を当てていただいて、三年後の見直しを明文化していただいたことはよいと思います。

 ただ、その三年後の議論が、今の附則の九条で一体どういう議論になっていくのかというところは、私としては若干の懸念も、まあ、もう今までほかの先生がやってきていますけれども、拡大方向の見直しになるのか、そうではない、現状維持なのか、縮小になるのかというところもあるんですけれども、私は、もし三年後にこの法律、特に可視化に特化して見直しをする機会があるのであれば、今週の議論でした保釈ですとか、保釈なんかは昭和二十三年にも、否認しているだけで出してもらえないと言われているだろう、そういうことが国会の議論にもあったわけです。

 ぜひ、その三年後の見直しの機会に、もちろん可視化は重要ですけれども、それ以外のものも見直すべきものは見直す、そういう提案をこれからもさせていただきたいと思いますので、引き続きの審議をよろしくお願いします。

 きょうは終わります。どうもありがとうございました。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。よろしくお願いいたします。

 きょうは、テレビでしか見たことのないホリエモンこと堀江貴文さんが参考人で来ていただきまして、みずからの体験を通じて、証拠開示だとか裁量保釈の問題についてるる語っていただき、大変勉強になりました。この問題で国会前でデモをやるべきだというふうにおっしゃっていましたので、ぜひ野党三党とホリエモンでデモができれば大いに盛り上がるんじゃないかなというふうにも思いました。

 昨日、NHKの十二時からやっている「時論公論」で司法取引を取り上げていただいておりました。司法取引という捜査手法が、捜査機関側の大きな武器になる一方で、新たな冤罪を生み出す危険性もあるということで、両論併記して、まさしくこの委員会の議論を反映してくれていたのではないかというふうに思いますし、一層国民の関心が高まるような議論を行っていきたいというふうに思います。

 きょうの導入はここまでで、本題に入ります。

 実は、きょうは証拠開示と保釈の問題をやるんですが、その前に、いよいよ、私が待ちに待った通信傍受法、いわゆる盗聴法の本格的な各論について来週から議論を始めます。それに先立って、私自身が持っている問題意識を改めて整理させていただいた上で、来週、かみ合う議論をしたいというふうに思いますので、先にその部分についてお伺いさせていただきます。

 資料をごらんください。

 この資料は、一九九九年、まさしく現行通信傍受法ができた年でありますが、当時の議事録、野田聖子郵政大臣が通信傍受について答えたものです。「通信傍受に関しましては、憲法二十一条二項の通信の秘密を侵す行為ですが、」これは明確に、憲法二十一条を侵す行為だというふうに述べているんですね。上川大臣も、制約するとは述べております。その後、「しかし憲法の保障する各種の基本的人権も公共の福祉の要請に基づき必要最小限の範囲でその制約が許されると考えられます。」と是認されているわけです。

 その上で、赤線を引いているところ、「重大な犯罪の手段方法として通信が利用されている場合に、事案の真相を究明するため、厳格な要件のもとで必要最小限の通信傍受を行うことは憲法に違反するとは言えないとされているところ」であると述べておられる。いわゆる電気通信の主管庁として当時の大臣が答えたものであります。

 初めに、もともと現行通信傍受法は、その第一条で、対象犯罪を重大な犯罪に限定していたはずですね。ところが、本改正案では、これまでの四罪種に加えまして、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、児童ポルノ等々、大幅に拡大することとしております。

 これは法務省に最初に聞きたいんです。重大な犯罪の定義とはどういうものでしょうか。

林政府参考人 通信傍受の対象犯罪については、法定刑のみならず、その社会的有害性、危険性などから見て、通信傍受に伴う通信の秘密への制約に見合うものであるかという意味での犯罪の重大性、これを考慮して決めるべきものであると考えております。

清水委員 法務省や最高裁のホームページにおいて裁判員裁判対象事件について調べますと、こう定義しています。「一定の重大な犯罪であり、」とあるんですね。

 しかし、新たに通信傍受法の対象犯罪とされようとしている窃盗、強盗、詐欺、恐喝、児童ポルノ、これらは裁判員裁判対象事件にはならないですよね。ということは、可視化の対象事件にもならないということなんですね。

 一方で、通信傍受の対象は重大犯罪だと言って今回大幅にふやす。しかし、法務省や最高裁が、裁判員裁判で、国民の関心が高く、一定の重大な犯罪と言っているところには、今言われたような犯罪は入っていないんですよね。

 対象犯罪の拡大については私たちは大変懸念しておりますので、裁判員裁判や可視化の対象にならない、今回新たな対象犯罪になろうとしている窃盗、強盗、詐欺、恐喝、児童ポルノ関係がなぜ重大な犯罪なのか、わかりやすくちょっと説明していただけますか。

林政府参考人 裁判員制度の対象事件は、国民の感覚を裁判に反映させて司法に対する国民の理解と支持を深めるという制度の趣旨に鑑みまして、国民の関心が高く、社会的にも影響が大きい、法定刑の重い重大犯罪等を対象としているものでございます。

 他方で、通信傍受法の対象犯罪につきましては、通信傍受が憲法の保障する通信の秘密を制約するものである上に、捜索、差し押さえ等の従来の強制処分とは異なり、継続的かつ密行的に行われるという性質を有していることに鑑みまして、その犯罪が通信傍受に伴う通信の秘密への制約に見合うものであるかどうかという意味での犯罪の重大性などの要素を考慮して選択されたものでございます。

 このように、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律と通信傍受法、その趣旨、目的が異なるものでございますので、制度の対象とする犯罪の範囲が異なる、その重大性という観点での範囲が異なること、これについては、整合性に欠けるということの御指摘は当たらないものと考えております。

清水委員 私は整合性に欠けると思います。まあ、きょうは議論しません、今の考えを確認したかっただけですので。

 続いて、これは最新のニュースなんですけれども、実は、アメリカの人事管理局というところで、アメリカ政府の職員の情報流出が二千二百万件あったということで、年金情報流出問題もありますけれども、先日、民主党の山尾委員が法務省のサイバー攻撃についても質問しておられましたけれども、通信データを伝送するということについても私は非常に危惧しておりまして、来週以降、個別具体に聞いていきたいと思うんです。

 その前提に、いわゆる新たな制度に移行することによってどれぐらいの費用がかかると見込んでおられますか、ソフトの開発だとかいろいろあると思うんですけれども。一度この委員会でも三浦刑事局長答えておられますけれども、把握されているところの最新の金額でお答えください。

三浦政府参考人 通信傍受の新たな実施方法のために必要な機器については、具体的には今後詰めていくことになりますけれども、例えば、一時的保存をする方式による通信傍受を行うための装置や、傍受法第二十三条第二項に規定する要件を満たす特定電子計算機の整備を行う必要があるということでございます。

 機器の経費につきましては、詳細は今後また開発メーカー等の意見を聞きながら検討していくことになりまして、まだ確定的な数字というものを持っているわけではございません。ただ、新たな傍受の実施方法に係る調査を委託した民間のITコンサルティング会社からは、法の要件を満たす傍受機器の開発整備に要する経費は十億円程度以上となるという見解を承っているところであります。

 いずれにしましても、まだ確たる数字ではございませんので、今後必要な予算については詳細を検討してまいりたいと考えております。

清水委員 十億円程度以上というのが非常に持って回った言い方だというふうに思うんですが、私がデロイトトーマツ社からいただいた資料を見ますと、十億から三十億ということで、かなり幅があるんだなと。どうしてそんなに幅があるのかと聞きますと、まだない、これから新しいシステムをつくるので、もくろみが出ないからだという話がありました。

 これは、いずれにしても、国民の税金が使われるということですから関心が高いんですけれども、引き続き三浦さんにお伺いしたいんですが、今言われた費用の中に、通信事業者側に設置する通信傍受監視サーバーや通信傍受制御サーバーの費用は入っていますか。

三浦政府参考人 先ほど来申し上げた経費といいますのは、あくまで国としての開発に要する経費ということでありまして、御指摘のような通信事業者の方に負担していただくようなものにつきましては含まれてはおりません。

清水委員 では、今言われた通信事業者側に設置する機器、通信傍受監視サーバー、通信傍受制御サーバー、これは、対象犯罪がふえますし、伝送化するということになるとかなり回線の必要数がふえてくると思いますので、増設しなければならないと思うんですけれども、それらの費用についてはどこが持つんでしょうか。通信事業者か、警察庁か、法務省か。警察庁はどう考えておられますか。

三浦政府参考人 今現在のところは、そうした費用を国の方で負担するというような予算措置は講じられておりませんので、基本的には、一定程度は通信事業者に御負担をいただくことになろうかというように考えております。

 ただ、それが具体的にどれぐらいの額になるかといったことについて、これは事業者によりまして規模や構成等もさまざまでありますので一概に申し上げることは困難でありますけれども、いずれにしましても、今後、通信事業者等と協議をしまして、余り事業者の負担が過度なものにはならないようにということについては配慮をし、適切に対応してまいりたいと考えております。

清水委員 まだ確定していない、しかし、国でそういう予算をとっているというわけではないので、通信事業者と協議をし、一定程度御負担をお願いしたいということだと思うんですね。

 それでは、ちょっと総務省の方に。きょうは、来ていただきましてありがとうございます。

 電気通信の主管庁としてきょうはお伺いしたいんですが、この一九九九年当時の答弁で大臣が、「電気通信役務の円滑な提供を阻害しないこと、」あるいは「電気通信役務の円滑な提供についても配慮されているもの」、こういう言葉が出てくるんですね。

 いわゆる電気通信役務の円滑な提供というのはどういう概念でしょうか。

吉田政府参考人 通信傍受法におきましては、捜査機関により、傍受の実施手続に関しまして、通信事業者等に対しまして、例えば、法十一条によります傍受のための機器の接続その他の必要な協力、あるいは、法十二条におきます傍受の実施場所の管理者として立ち会いが求められる場合があるといったように認識をしております。

 この場合、通信事業者等におきまして、機器の接続や立ち会いについて、電気通信役務に支障が生ずるようなところまで求められるものではないというふうに認識しておりますし、また、さまざまなその他の要請ということもあり得るかもしれませんが、それについても、何らかの非常に過度な負担というものが求められるものではないというふうに認識しております。

 このような点から、当時におきましても、「電気通信役務の円滑な提供についても配慮されている」というふうな答弁をなされたものというふうに承知しております。

清水委員 今おっしゃったのは、通信傍受に係る接続だとか、あるいは立会人の協力ですよね。しかし、一般的な通信事業、電気通信役務の提供に必要とされない、そういう設備の購入まで通信事業者の負担を求めるというふうに主管庁としては考えていらっしゃるんでしょうか。

吉田政府参考人 多少一般的なお答えになるのを御容赦いただきたいんですけれども、通信事業者は非常に公共性の高いサービスでございますので、いわゆる捜査機関といったものにかかわらず、さまざまな機関からいろいろな任意の協力を求められることはあり得ようかというふうに思っております。

 その場合、こういう任意の協力を求められた場合におきまして、通信事業者として過度な負担を伴うものではなく、電気通信役務の円滑な提供が阻害されないような範囲でそういうことに協力をするということは、必ずしも否定されるものではないというふうに考えております。

清水委員 ということは、例えば通信傍受監視サーバーあるいは通信傍受制御サーバーというのは、私、NTTさんとかauさんとかソフトバンクさんとか、いろいろな通信事業者に問い合わせをしました、一台大体幾らぐらいするんですかと。いろいろありますから簡単には答えられませんというお話だったんですが、ざっと一台数千万。通信傍受令状発付件数がふえると、当然、傍受する回線というのが大幅にふえますから、場合によっては何億円ということを電気通信役務の提供に必要とされない設備の整備に求めるということになるんですね。

 過度なというふうにおっしゃったんですが、例えば、一台数千万円する、そういうサーバーを全額電気通信事業者の負担で購入させるということは、過度な負担ではありませんか。

吉田政府参考人 今御指摘の点につきましては、一般的に幾らでもって過度である、ないということを申し述べるのは、非常に難しい点であるのではないかというふうに考えております。

 先ほども申し上げましたように、通信事業者等に対しましてさまざまな要請がなされた場合に、その性格を通信事業者等として判断されまして、それがその通信事業者等にとってどのような意味合いであるのかというふうなことを個別に判断されることになるのではないかなというふうに考えております。

清水委員 余り時間がありませんので、続きはまた来週させていただきたいと思いますけれども、念のために、現行通信傍受法の第十一条、通信事業者等の協力義務について読み上げますと、「検察官又は司法警察員は、通信事業者等に対して、傍受の実施に関し、傍受のための機器の接続その他の必要な協力を求めることができる。この場合においては、通信事業者等は、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。」ということなんですね。「機器の接続」とありますが、機器の購入というのが「その他の必要な協力」の中に含まれるかどうかというのは、先ほど総務省も、過度かどうか、任意に求められる協力だというふうにおっしゃっておりました。

 つまり、大臣、この通信傍受サーバー、一台数千万、各携帯電話会社が大量に購入しようとすれば、それこそ莫大な費用になりますよ。これを国民が負担するのか通信事業者が負担するのか、そういうところもまだ詰まっていない段階だということをきょうはお知りおきいただきたいと思いました。

 次に移ります。裁量保釈について。

 裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化、九十条ですね、お伺いします。

 先日の参考人質疑において日弁連の宮村参考人は、身体拘束が長期化すれば、仕事を失うことがあること、弁護人との打ち合わせの機会が制限されることなど防御権を弱体化させることを指摘されました。きょうの堀江参考人も、長期間勾留される中で、飲んだことのない精神安定剤を服用しなければならない、また、自分が送ったメールかどうかということについてもはっきり確信が持てないほど弱ってしまったというお話をされておりました。

 やはりこうした問題を解決するということが大事なんですが、今回、裁量保釈の考慮事情を明記することで、いわゆる裁判所による判断のあり方をより明確なものとする、このように私は説明を受けているんですが、これまで不明確な点があったんですか、法務省。

林政府参考人 今回、九十条に考慮事情を明記したということについては、これまで実務において共有されていた解釈、これをここの文言に加えたものでございます。

 したがいまして、これまでも、ここの文言に加えられたところの考慮事情を考慮して、裁判所においては適切に保釈の判断をしてきているものと承知しております。

清水委員 今のお話をお伺いしますと、今まで実務で運用してきたものを明文化したということなんですが、では、今回、九十条を明文化することで、裁判官の実務が何か変わりますか。

林政府参考人 この九十条の解釈に基づいて、この考慮事情を考慮して、裁判所においては保釈の判断を、特に裁量保釈の判断を行うわけでございます。そういう意味で、この条文についてどのように判断がなされるかということについて、法務当局から申し上げることはできません。

 いずれにいたしましても、今回の法律の文言に即しまして、これまでは「適当と認めるときは、」というだけの条文でございましたが、ここに明確に考慮事情というものが掲げられておりますので、こういったものを確認しつつ、適切な保釈の判断に資するものと考えております。

清水委員 いや、それはおかしいでしょう。今まで運用でやってきたものをただ明文化しただけですよね。明文化するに当たって、例えば、裁量保釈の条件が緩和されるとか、新たな条件が設けられるということではないんですよ。ただ書いただけ。これで一歩前進と言えるんでしょうか。

 無実を訴えている被疑者、あるいは否認または黙秘していることなどを理由にして、裁判所が容易に、検察官の言うところの、罪証を隠滅するとかあるいは逃亡すると疑うに足りる相当な理由を認めてしまって、勾留をずっと決定してきたわけですよね。弁護士が一生懸命保釈請求しても、なかなか認められない。本来導き出す結果は、明文化とともに保釈要件の緩和じゃないですか。

 大臣、今お話を聞いていただいてわかりますように、今まで運用でやってきたものを、裁量保釈の要件を書いただけなんです。緩和されていないんですよね。裁判官も今までの実務にのっとってやっているわけですから、これは何も前進していないんじゃないですか。どうでしょう。

上川国務大臣 今回の裁量保釈についての明文化ということについては、これまで判断の基準としていたところについては表に出ていなかったということがございまして、「裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」という旨の記述のみだということでございます。

 これを法文上に明示するということ、つまり、厳格な判断基準にのっとって適正に行うということについて、極めてわかりやすい形で皆さんに理解していただくことができるということでございますので、私は、ない状態と比べまして前進しているというふうに思っているところでございます。

清水委員 今の大臣のお話をお伺いしますと、明文化されたことによってその理由がはっきりしたんだと。今言った罪証隠滅、それから逃亡のおそれに加えて、例えば、「健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、」と。

 つまり、いい意味で捉えれば、弁護側は、保釈請求を出すときに、今ある要件に沿って明確に請求を出せば、裁判官がこれまで運用してきた実務にのっとって、保釈が認められる道がより開かれるだろうというふうな解釈ですか。

上川国務大臣 こうした明文化した基準にのっとって、しっかりと保釈の適正な判断を行うということでございますので、これまで明文化していなかったということでなかなかわかりにくかったというようなことにつきましては、しっかりと明文化をすることによって、今、弁護人の方からの保釈の云々ということがございましたけれども、そうした判断を加えながら今までもやってきたということでありますが、これからも適正に判断をされるというふうに思っております。

清水委員 わかりやすくなることと保釈の要件が緩和されるということとはイコールじゃありませんからね。この間の参考人質疑で問題になったのは、いわゆる自白をとる手段として身体拘束をする、認めれば保釈が認められる、こうした人質司法についても随分議論になったんですね。

 私、江川紹子参考人の意見が印象的だったんです。こう述べられました。「先日、法制審議会のメンバーの方に話を伺って、びっくり仰天したことがありました。それは、検察や法務省常連の学者の先生だけではなく、裁判所なども、人質司法は日本に存在しないとの認識だというのです。」「まさか、この法務委員会では人質司法がないなどという前提での議論はされていないと思いますが、どうなのでしょうか。」と述べられました。

 上川大臣、どうなのでしょうか。

上川国務大臣 ただいま、人質司法ということでの問題が表現されたところでございますが、いろいろな形で批判があるということについては承知をしているところでございます。

 今回、一般論としてということで、先ほど来の答弁になるところでございますけれども、裁判所におきましては、あくまで刑事訴訟法の規定にのっとって、具体的な一つずつの事案に応じて、それぞれ具体的な事情に応じて適切に判断されているものというふうに承知をしているところでございます。

 今回の改正につきましては、現在の運用についての特定の事実認定というものを前提とするものではないということではございますが、裁量保釈の判断に当たって考慮すべき事情につきましてはこれを明文化するということ、このことは、保釈の適正な運用に資するものというふうに考えております。

清水委員 大臣、アメリカにはミランダ・ルールというのがあるそうです。よくドラマでも映画でもやっていますね。逮捕したら、あなたには黙秘権があるというものですね。供述をした場合は不利な証言となる場合があるとか、あるいは弁護士を呼ぶ権利があるとか、お金がなければ国費で雇ってやる、こういうのがあります。

 韓国にも韓国版ミランダ・ルールというのがあるんですよね。韓国のミランダ・ルールというのは、供述しないことをもってその被疑者、被告人は不利な扱いを受けないということなんですよ。

 ですから、人質司法という認識を少しでもお持ちであるならば、本来ならば、九十条の裁量保釈の明文化と同時に、自白しないことをもって、供述しないことをもって保釈しないという要件にはしないという旨の一行が入れば、それこそ段違いに、より刑事司法改革の名にふさわしい保釈の要件、前進になったのではないかというふうに思います。

 あと一問しかできませんので、再審請求審についてお伺いさせていただきます。

 もうるるありましたので、繰り返しはいたしません。ただ、大臣が何とおっしゃったか。いわゆる確定審と再審請求審の構造的な違い、それをそのままルールを代用していいのかどうかという問題提起もあるというふうにおっしゃっておられました。

 私、先日の参考人質疑での大澤裕参考人の私に対する答弁が実はすごくヒントになったんですよ。

 それは何かといいますと、つまり、現在の証拠開示制度が導入されて以降、また再審請求審をやる。現行、証拠が今のようにたくさん出てくるもとで、また再審請求審で証拠全面開示をやる理由があるのかどうか。これは確かにそういう見方はあるでしょう。

 しかし、現行証拠開示制度が始まる以前に結審した、確定した事案の再審請求審であれば、当時、まだ今のルールが運用されていませんから、例えば布川事件だとか東電OL事件だとか、袴田事件もそうですけれども、そういう個別の事件について聞いているんじゃないんですけれども、そうした新しい証拠が出てきて、それが無実を立証する有用な証拠となる場合があると思うんです。

 大臣自身が、構造的な問題、そのまま代用できるかどうかというふうにおっしゃったので、私は、これに対してやはり慎重に検討していく必要があると思うんですよ。大臣も慎重な検討が必要というふうにおっしゃったので、ぜひこの委員会で慎重な検討を引き続き加えたいと思うんですが、大臣のお気持ちをお聞かせください。

上川国務大臣 この法務委員会におきましては、大変丁寧な御議論をいただくということで、私も、命がけでやります、こういうふうに申し上げたところでございます。

 この間も、それぞれ一つずつの制度につきまして丁寧な御議論をいただいているということで、その中での御議論ということで、大変重要な課題というふうに拝聴しているところでございます。

 そうした御議論をしっかりと承りながら、また、この制度そのものの後押しをいただきまして、適切に運用できるように努めてまいりたいというふうに思っておりますので、そういう意味でも、いろいろな視点からの御議論は大変ありがたいものというふうに思っております。

清水委員 もう終わります。

 命がけでという新たな決意が聞かれました、以前から言っておられましたけれども。まさしく無罪を訴えて再審請求されている方も命がけなわけですから、ぜひしっかりと議論を深めていきたいと思います。

 きょうはどうもありがとうございました。

奥野委員長 次に、上西小百合君。

上西委員 上西小百合でございます。

 きょうの質問の機会をお与えいただいたことに感謝を申し上げ、質問に入らせていただきます。

 まず、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化について質問をさせていただきます。

 きょう午前中の堀江参考人のお話を伺い、改めて身柄拘束のつらさを認識させていただいたところでございます。

 そこで、今回の改正案第九十条についてお伺いをいたします。

 改正案では、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」と明記することになっていますが、逆に、これまでなぜ明確化することができなかったのか、どうして明記してこなかったのかということ、そして、今回、検察不祥事に端を発する刑事司法制度改革がなければこれは改正されなかったのか。大臣、そのあたりを教えていただけますでしょうか。

林政府参考人 今回の刑事訴訟法九十条の改正でございますけれども、これにつきましては、まず出発点といたしましては、さまざまな一連の事態があって、検察の在り方検討会議が提言を出しました。それを受けて、法制審議会で、新しい時代の刑事司法制度を考えるということでの議論がなされてきました。

 その中で、身柄拘束のあり方ということが一つの論点となりまして、その中でのさまざまな議論を経まして、この身柄拘束の部分につきましては、その審議の過程で、やはり現在の身柄拘束の実態の認識について意見の隔たりが十分ございました。そういったことから、一定の事実認識を前提としたこの問題に対する対処というものは困難であろうということでございました。

 その一方で、やはり刑事司法制度が、わかりやすく国民の生活や権利に大きく影響するものですので、できる限り制度というものの内容が明確化されて国民にわかりやすいものであることが望ましい。そういった観点から、身柄拘束の、特に保釈の部分については、これまで、「適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」という非常に抽象的な規定でございましたので、これまでの共通の実務の解釈を前提として、ここにわかりやすい保釈の考慮事情というものを明記するということに至ったものでございます。

上西委員 大臣から、これまで明確化してこなかったことに関してどういうふうに考えていらっしゃるのかということもお伺いをしたかったんですけれども、ちょっと時間もございませんので、次に参りたいと思います。

 今、これらの点を具体的に明確化する、明記するというふうなお答え、その明記をするという点だけは一定の評価ができ得るものだ、こういうふうに考えていますが、きょうの午前中に刑事局長の御答弁を聞いておりましたら、その中でちょっと腑に落ちない点がございますので、質問をさせていただきます。

 若狭委員から、経済上、社会生活上とは具体的にどのような点を想定しているのかというふうな質問に対して、経済上という点に関しては自営業者の事例を、社会生活上という点に関しては学生が受験する場合、こういうふうに答弁をされていました。特に、社会生活上の、学生が受験をする場合、こういうふうなことは、余り、そこまでないような想定かなというふうに感じたわけなんですけれども、身柄を拘束されていて受験がそんなにあり得るのかな、もう少し実生活上あり得る事例、こういう議論とかは出てこなかったのかな、そういうふうに思いますので、ちょっとその点のところをお聞かせいただけますでしょうか。

林政府参考人 午前中に私が申し上げたのは、あくまでも経済上あるいは社会生活上の不利益の程度という一例を申し上げたものでございます。

 特に、社会生活上というところでの、一旦勾留はされたわけでございますが、保釈をするかしないかという段階に至りまして、実際の受験というものがどのように考慮されるかということについては過去に具体的な判例というものもあったものですから、そういったことで例として挙げさせていただいたものでございます。

上西委員 一例を挙げられたということなんでしょうけれども、国民も当然この法案にかかわるわけなんですから、もっと国民の実生活上で、ああ、そうだなというような例がなかったのか。そういう議論というのはなかったんですか。

林政府参考人 これそのものについての議論ではないわけでございますが、社会生活上といった場合に、時々、勾留の執行の停止も含めましてですけれども、例えば葬式、葬儀というようなことも考慮されることがございます。

 いずれにしましても、これは、社会生活上の不利益の程度、そこにそのまま勾留されていることについての社会生活上の不利益というものはもちろんさまざまなものが考えられまして、そこは九十条の判断において総合的に考慮されるということになろうかと思います。

上西委員 ありがとうございます。

 こういった点でも、実際保釈されるのかどうかというのはやはり検察官との力関係で決まるのじゃないかなというふうに感じるわけなんですね。

 今回の刑事訴訟法改正案、これは非常に多くの論点が盛り込まれ過ぎていて、全体の評価が本当に極めて難しいというふうに私は感じております。私も、十分な議論を尽くしていかなければ、そして誠実で前向きな御答弁といったものをいただかないと、やはり賛否の判断はまだまだ難しいんじゃないかなと思うんですね。ですから、もう少し刑事局長もはっきりした御答弁をいただきたいなというふうに思うわけなんです。

 次の質問に参ります。

 証拠開示制度の拡充についてお尋ねをさせていただきます。

 大臣、なぜ全ての証拠が開示されないのか、お聞かせをいただけますでしょうか。

奥野委員長 ちょっと質問がよくわからなかったよ。もう一回ちゃんと質問して。

上西委員 証拠開示制度の拡充についてお聞かせをいただきたいんですけれども、証拠全てが開示をされるわけではないということなので、そこのところをお聞かせいただきたいと思います。

奥野委員長 刑事局長、証拠が開示されない理由は何ですかと言っているんだけれども。(発言する者あり)

上西委員 通告しています。

奥野委員長 では、大臣、答えて。

上川国務大臣 ただいまの質問は、検察官の持っている手持ちの証拠をあらかじめ被告人の側に全て開示する制度というような御質問でございましょうか。

 これは、現行証拠開示制度を導入した際、司法制度改革でありましたけれども、そのときにおいても長時間御議論をしていただいたものでございます。そして、その結果といたしまして、被告人側の主張というものが明らかでない段階におきまして全ての証拠を開示するということにつきましては、争点及び証拠の整理が十分にされなくなるというような弊害が指摘されて、採用されなかったというふうに承知をしているところでございます。

 そこで、ではどのように証拠開示をするかということにつきましては、平成十六年の刑事訴訟法の改正によりまして、公判前整理手続におきましての争点及び証拠の整理と関連づけまして、まず、検察官請求証拠の証明力を判断するために必要な一定の類型の証拠を開示する、これまでも委員の皆様から類型証拠開示ということで御理解をいただいているところでございますが、それに加えて、被告人側の主張が明示されてから主張に関連する証拠を開示する主張関連証拠開示、こうした現行制度が導入されたところでございます。これによりまして、被告人の防御の準備のために必要かつ十分な証拠が開示されるようになったというふうに理解をしているところでございます。

 今回、法制審議会が行われた際にも、十六年に改正になりました事前全面開示制度につきましても、特別部会において改めて議論されたところでございます。そして、その結果、構成員の総意によりまして基本構想が取りまとめられたわけでありますけれども、その折に、現行制度の運用状況を鑑みて、現行の証拠開示制度の枠組みそのものを改める必要はない、そういう結論に至ったところでございます。

 そして、この法律案につきましては、法制審議会におきまして全会一致で採択されました答申を踏まえた上で、現行の証拠開示制度の枠組みというのを前提とした上で、被告人が証拠開示請求をするに当たっての手がかりとして、検察官が保管する証拠の一覧表を交付する手続など、証拠開示制度の拡充を行う、こうした改正を行うこととしたところでございます。

 この間の一連の制度そして運用、さらにその評価、さらにそれに加えての拡充、こうした段階を踏まえて今御審議をいただいているところでございます。

上西委員 今いろいろ御答弁をいただいたわけなんですけれども、大臣、検事の仕事というのは全て公務であって、税金によって支えられているものだと思うんですね。いろいろな事情があるんだということを御答弁いただきましたけれども、やはり被告人は証拠を全部押収されているわけですから、一覧表を出されても、何も資料がない中で弁護士ともども闘わなければいけないという状況になるわけなんですね。

 今申し上げましたように、検事の仕事は公務、税金によって支えられている。基礎的な資料を集める印紙やコピー代、有力な情報源と接する際の交通費もみんなそうだと思うんですね。集めた証拠も税金、公金が原資。なぜこれを全て開示しないのか、こういうことをやはり私は改めて感じるわけなんですけれども、そのことを踏まえて、大臣、いかがお考えでしょうか。

上川国務大臣 平成十六年の刑事訴訟法の改正によりまして、公判前整理手続において、争点と証拠の整理と関連づけてということで、類型証拠の開示、あるいは主張関連証拠の開示、一連の段階を踏まえた証拠をお出しすることによって適正な手続がしっかりとなされるようにと、こうしたことについての大変大きな評価をいただいているというふうに思っているところでございます。先ほど申し上げたとおりでございます。

 全面開示ということになりますと、争点及び証拠の整理、これにつきましては十分なされなくなる、こうした弊害が指摘され、その上で、特別部会におきましても、現行制度そのものにつきましての枠組みを改める必要はないということでございます。事前の全面開示制度につきましては、弊害がある一方で、この枠組みそのものを改める必要もないということでございますので、この採用につきましては慎重な検討が必要ではないかというふうに思っております。

上西委員 いろいろ弊害があるということでありますけれども、今回の改革、法改正の発端は、お恥ずかしい話ですけれども、私の地元、大阪地検特捜部の証拠改ざんが発端なんですね。証拠全てを開示しないと、歴史は繰り返す、またこういうふうな同じような事件が起こるのではないか。

 それこそ、表面上の改革というか、お茶濁しにすぎないような感じがするんですけれども、それでも、今回の改正で、また再びこういった改ざんが起きない、そういう制度だと大臣は保証されるんでしょうか。お聞かせをいただけますでしょうか。

上川国務大臣 まさに、刑事手続の改正におきまして、この制度改正に至る、冤罪を防止しよう、こういう大きな問題提起の上で、さまざまな、法制審議会、あるいは検察の在り方に関する検討会議、ちょっとさかのぼって申し上げたところでありますけれども、こうしたことを二度と繰り返さない、そうした問題意識を踏まえた上で新しい刑事制度の改革をしていこう、こういう中で提起されている問題であるというふうに思っております。

 全ての制度は、やはりしっかりとした適正な運用を絶えず図っていくべく努力を重ねていかなければならないというふうに思っておりますので、どの制度も完璧ではない。そして同時に、その運用次第では、それを改善することもできるし、改革の実を上げることもできる。まさに、適正な運用を図っていくということが、この制度が成立した暁にやらなければならない大変重要なことであるというふうに思うところでございます。

上西委員 ほかに、大阪府警は証拠物を紛失するということも結構あるわけなんですけれども、そういうことを考えても、捜査側は、やはりいろいろな事情があって証拠物を全て開示できないのかなというふうに思ったりなんかもするわけなんです。

 一覧表に記載しなくてもよいという例外規定に、「人の身体若しくは財産に害を加え又は人を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ」というふうにあるんですけれども、具体的にはどのような行為がなされることを想定しているのか、刑事局長、よろしくお願いいたします。

林政府参考人 この三百十六条の十四第四項第一号に該当する場合の例としましては、例えば、証拠の一覧表に供述調書が作成された参考人の氏名が記載されたといたします。その場合に、参考人の氏名が被告人側に明らかとなりまして、その者に対しての報復としての加害行為などがなされる場合、こういったものが考えられます。

上西委員 ありがとうございます。

 同様に、「人の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」についてもお聞かせをいただけますでしょうか。

林政府参考人 まず、三百十六条の十四第四項第二号に該当する例としましては、証拠の一覧表に供述調書が作成された参考人の氏名が記載されまして、それが明らかとなったことによって、その者がこの事件と関係していたことなどが知られて、その名誉、社会生活上の平穏が著しく害されるおそれがある場合、こういったものが例として挙げられます。

 もう一つ、同項の第三号に該当する場合の例といたしましては、これにつきましては、やはり一覧表に供述調書が作成された参考人の氏名が記載されて被告人側に明らかとなった場合に、その者に対して偽証でありますとか証言拒絶するように働きかけて、罪証隠滅がなされるおそれがある場合、こういったものが考えられます。

上西委員 ありがとうございます。

 この例外規定の全てにおそれという表現がついているわけなんですね。結局、そうすることを考えてみると、検事がおそれがあると言い出したらどんな証拠も隠匿できてしまうんじゃないかな、こういうふうに思ってしまうわけなんですけれども、例えば今、刑事局長が御答弁くださった内容を法案に書き込むこと、こういうことはできないんですか。大臣、お答えいただけますでしょうか。

奥野委員長 刑事局長だな。(上西委員「通告はしているんですけれども」と呼ぶ)いや、だけれども、これは、法案に書き込むことができるかできないかというのは事務的なことだよ。先に事務的なことを答えさせる。その後で大臣に判断させればいいでしょう。

林政府参考人 今私が述べましたのは、例を挙げさせていただいたものでございまして、この条文に対して、当たる一例をそれぞれの条項について挙げさせていただいたものでございます。したがいまして、その具体例をそのまま法文に書き込むということは困難であろうかと思います。

奥野委員長 いいんですか、大臣は。(上西委員「お願いします」と呼ぶ)

 大臣、何かつけ加えることはありますか。上川大臣。

上川国務大臣 不記載の事由につきまして、抽象的、包括的なものではなく、三つの事由ということで限定列挙しているところでございます。

 今、局長の方から一例ということで申し上げたところでございますけれども、こうしたことによりまして、恣意的に記載しないことができるというものではないというふうに考えております。

奥野委員長 上西君、時間ですよ。

上西委員 ほかの先生方もおっしゃられていましたけれども、私は、これはぜひ書き込んでいただかないと、おそれがある、おそれがあるでは何にも前に進まないと思うんですね。ここはやはり大臣の政治判断でしっかりとやっていただかないといけないなというふうに思います。

 この法案なんですけれども、拝見させていただくと、当然、賛成できる部分もたくさんある。ですが、やはりいろいろなものを詰め込み過ぎていて、なかなかきっちりと審議ができていないように思いますけれども、会期も延長されましたし、そういった意味で、これからもしっかり十分な議論をさせていただきたい、こういうふうに思います。

 どうもありがとうございました。

奥野委員長 次回は、十四日を予定していますけれども、後日、最終確認後、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時三分散会


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