衆議院

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第38号 平成27年8月28日(金曜日)

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平成二十七年八月二十八日(金曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 盛山 正仁君

   理事 山下 貴司君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      大塚  拓君    門  博文君

      門山 宏哲君    菅家 一郎君

      今野 智博君    助田 重義君

      辻  清人君    冨樫 博之君

      藤原  崇君    古川  康君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    若狭  勝君

      黒岩 宇洋君    鈴木 貴子君

      津村 啓介君    柚木 道義君

      重徳 和彦君    大口 善徳君

      國重  徹君    清水 忠史君

      畑野 君枝君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   外務副大臣        中山 泰秀君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   最高裁判所事務総局人事局長            堀田 眞哉君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           菅野 雅之君

   最高裁判所事務総局家庭局長            村田 斉志君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 河合  潔君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    三浦 正充君

   政府参考人

   (法務省大臣官房審議官) 高嶋 智光君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          萩本  修君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    深山 卓也君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    小川 新二君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    片岡  弘君

   政府参考人

   (法務省訟務局長)    定塚  誠君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  井上  宏君

   政府参考人

   (外務省領事局長)    三好 真理君

   政府参考人

   (文部科学省大臣官房審議官)           義本 博司君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

八月二十八日

 辞任         補欠選任

  辻  清人君     助田 重義君

  宮川 典子君     古川  康君

  階   猛君     津村 啓介君

同日

 辞任         補欠選任

  助田 重義君     辻  清人君

  古川  康君     宮川 典子君

  津村 啓介君     階   猛君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房審議官河合潔君、警察庁刑事局長三浦正充君、法務省大臣官房審議官高嶋智光君、法務省大臣官房司法法制部長萩本修君、法務省民事局長深山卓也君、法務省刑事局長林眞琴君、法務省矯正局長小川新二君、法務省保護局長片岡弘君、法務省訟務局長定塚誠君、法務省入国管理局長井上宏君、外務省領事局長三好真理君及び文部科学省大臣官房審議官義本博司君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局堀田人事局長、菅野民事局長兼行政局長及び村田家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。藤原崇君。

藤原委員 おはようございます。ただいま御紹介いただきました自由民主党の衆議院議員の藤原崇であります。

 本日は、一般質疑ということで三十分間お時間をいただきました。理事の先生方を初め多くの先生方に感謝をして、質問の方をさせていただきたいと思っております。

 本日、八月二十八日は何の日かといいますと、多くの人は知らないと思うんですが、実は、岩手県で県議選挙ということで、きょうが告示日でございます。本来であれば半年前の統一地方選のときにやっていたんですが、ちょうど選挙の直前に大震災があって半年間延期をしたということで、被災地はこれから統一地方選挙が始まるということであります。

 これがきょうの質問にどういうふうに関係があるのかというと、私の方できょう御質問させていただきたいなと思っているのは、選挙についてであります。具体的には一票の格差の問題、この問題について法務省の方に御質問をさせていただきたいと思っております。

 近年、この一票の格差の問題が非常に大きくクローズアップをされております。今国会では参議院で初めて合区が採用されるということで、非常に大きな動きが出ています。これは、基本的には公選法を管轄する総務省の問題、あるいは各地の都道府県の選管の問題ではないかというところがありますが、ここは法務委員会ですので、一票の格差問題、これを法務省に絡めて質問していきたいと思っております。具体的には、一票の格差訴訟の点について聞いていきたいと思っております。

 まずは、事実確認という意味でお聞きをしたいと思っております。

 過去の一票の格差訴訟、これについては高裁と最高裁で審理がされると思うんですが、高裁では平均何回ぐらい弁論が開かれているのか、この点についてお聞きをしたいと思います。

定塚政府参考人 おはようございます。お答えさせていただきます。

 一票の価値が平等ではないということで選挙区割りが違憲か否かが争われている、いわゆる一票の格差訴訟につきましては、委員御承知のとおり、公職選挙法によりまして高等裁判所が第一審とされているわけでございます。

 裁判所は、事件を受理した日から百日以内に判決するように努めなければならないというふうにされております。そのため、弁論終結までの口頭弁論の回数は、通常一回、多くても二回程度でございます。

 ちなみに、平成二十六年十二月十四日施行の衆議院議員総選挙について提起された訴訟、これは全国の高裁で十九件ございますが、うち弁論終結までの口頭弁論の回数は、一回のものが十二件、二回のものが七件、平均で約一・三七回でございます。

藤原委員 ありがとうございます。

 おおむね一回、あるいは多くても二回、口頭弁論を開くということであります。

 これは、法曹の実務に携わっている方々の感覚としては、一回結審、あるいはせいぜい二回で結審をするというのは、普通の民事の裁判であれば、特段争いがない、あるいは争えないような事案であれば一回、二回での結審ということはあるんでしょうけれども、裁判をやるとなれば、何回も口頭弁論を重ねていくというのが普通だろうと思っております。

 もちろん、一票の格差訴訟、基本となる選挙区の区割りあるいは人口というのは、これはもう争えない事実ですので、単なる評価の問題であるというふうに考えれば、確かに一回あるいは二回程度でも十分だというふうな考え方もできると思います。しかし、本当にそうだろうかというのがきょうの私の問題意識であります。

 もう少し事実関係を聞いていきたいと思います。

 この一票の格差訴訟、基本的には各都道府県の選管が被告になりますが、国の利害にかかわる事柄ですので、訟務検事の方々が代理人を務めております。過去の一票の格差訴訟で訟務検事の方々が具体的にどのような主張そして立証を行ってきたのか、この点についてお聞かせください。

定塚政府参考人 お答えいたします。

 いわゆる一票の格差訴訟につきましては、最高裁大法廷判決の判断枠組みに従った主張、立証をしてきたところでございます。すなわち、例えば衆議院議員選挙につきましては、国会が選挙区割りを定めるに当たっては、投票価値の平等を基本的な要素としつつ、市町村等の行政区画、地域の面積、交通事情、地理的状況などの諸要素を総合的に考慮した上で国会の裁量に従って定めるんだというふうにされておりまして、それぞれの具体的な選挙区割りは国会の裁量の範囲内であるという主張、立証をしてきたところでございます。

 また、仮に従前、投票価値の平等に反する選挙区割りになっていたとしても、憲法上要求されている合理的期間内に是正がされていないと言うことはできない、すなわち、是正のための合理的な期間内であるという主張をしてきたところでございます。

藤原委員 ありがとうございます。

 基本的には、その定数配分が違憲ではないという議論、それからもう一つが、いわゆる違憲状態であったとしても、合理的な相当期間が経過していないのであるから違憲ではないという、この二つの主張、立証を柱に据えているというふうに伺いました。恐らく、これは事前にちょっと聞いたところによると、区画審による勧告あるいは選挙制度に関する調査会の議論の状況、こういうものを証拠として提出しているということを聞いております。

 しかし、これは国会議員の中でも考え方が分かれるところだろうと思っておりますが、私として問題意識を持っているのは、国会議員の仕事というのは何なのだろうと。もちろん、こうやって委員会の場で審議をして、それぞれの法案について賛否を表明すること、議論をすること、これは一番大事な仕事だろうと思っております。我々国会議員は立法府の人間ですので、法案について賛否を表明する、それは有権者の代表として当然やるべきことだろうと思っております。もしそうであれば、それぞれの有権者の代表として一票の価値を完全に平等にすることというのは、確かに大事なんだろうと思っております。

 しかし、実際には、我々国会議員の仕事というのは、必ずしも法案の賛否を表明することだけではありません。もちろん、それぞれの党内においていろいろな議論をするということもありますが、特に、衆議院、参議院を問わず選挙区がある先生方は、それぞれの選挙区についていろいろなお手伝いをしたり、あるいは国政と地元をつなぐパイプ、そのような仕事をしているというふうに考えております。

 当然、国会議員の仕事というのは、何もこういう場で議論をしているだけではない、それ以外にも、地元に帰って、地元の課題を吸い上げて、それを立法ということもあるでしょうが、あるいは、事実上、各省庁あるいは必要なところと連携をして問題を解決していく、そういうような仕事もあるんだろうというふうに思っております。

 ただ、問題になるのはこの先でして、果たして、裁判官あるいは一票の格差訴訟をやっている弁護士の先生方にそういう認識があるのだろうかということです。

 政治家の仕事というのは、やはりかかわりがないとなかなかイメージがしづらいというふうに思っています。私も、議員秘書をやらせていただいて、今、こういう立場にならせていただいていますが、その前、普通の弁護士だったときは、政治家というのは何をしているのというふうに言われても、こうやって議論をして、テレビで、NHKなどで放送されますので、議論をして法案に賛否を出すんでしょうということぐらいしか正直言うとわからなかったところであります。恐らくここにいる先生方も、実際に議員になる前となった後では、大分仕事のイメージというのが変わったんだろうというふうに思っております。

 では、果たして、そういう政治とかかわりがない裁判官の方々、あるいは余りかかわりを持ってこなかった弁護士の方々に、事実上、我々議員には、地元と国政のパイプになる、そういう仕事をしているということについての認識があるのかということを私の問題意識として最近非常に強く持っております。

 もしパイプとしての役割というのがあるのであれば、人口が少ない地域だからといって本当にどんどん議員を減らしてよいのかという問題意識が出てきます。特に合区後、この前、合区の判断が法律でつくられました、この後、非常に多くの意見が出ております。

 例えば、これは、ことしの七月三十一日に高知県の知事が記者会見をしたときのお話でございます。ちょっと長いのですが、読ませていただきます。

  人口比例、一票の価値の平等、これも大変重要な概念で、ぜひ重んじていかなければならないことだと思っています。他方で、その一つの要因のみでこの国会の院の構成を決めた場合、人口の多い都会出身の議員ばかりが増え、国政のさまざまな論議が都会目線で行われることになります。政策セットがすべて都会有利なものになり、結果として、都市部へのますますの人口集中が図られ、地方がますます衰退し、国全体の活力が失われてしまう。そういうことでいいのか、そういうことになりかねないのではないかという懸念を抱いております。

 ほかにも、

  その中で、都会の人にとってみれば一票の価値が、格差が広がることになり、合意形成がなかなか難しいと思いますが、そこは都会の人々の暮らしなるものは都会のみによって当然成り立っているわけではないのであり、この日本という国土全体の中で田舎という価値と共存して都市の暮らしというのがあるわけで、その点をしっかり訴えていくことで、地方部を活性化させることの大切さを訴えていくことが大事だと思います。

 正直田舎というものが理解されていると思う場合と残念ながらされていないと思う場合があると感じます。田舎の果たす役割、その意義というものをもう一度田舎自身がしっかり訴えていくってことが大事なのでしょう。

 これは、高知県が今回合区になった関係で、参議院の方の議論として、こういうような記者会見でのコメントを知事さんが出しております。

 それだけではなくて、全国知事会においても、参議院の問題として、都道府県代表をしっかりと送り出していく、そのために改憲案の検討をこれからしていくというふうに報道等でもなされております。

 私も、岩手県を一応地元としておりますので、どうしても田舎の感覚でしゃべってしまうんですが、もちろん、都会の方々にしてみれば一票の価値というのが非常に重要だということもわかります。ですが、その中でどうやって調和をしていくかということが大事なんだろうと思っております。

 参議院だけではなくて衆議院も、今のままの人口の一極集中が続いていけば、参議院と同じように、ある県では小選挙区は県で一つ、さらに進めていけば、合区というのは、当然、人口が少ない県ではあり得るわけであります。

 国会議員、先ほど言ったとおり特に選挙区を持った国会議員には、国民の代表として議会で討論して採決をする、そういう活動のほかに、選挙区のさまざまな問題解決に取り組むという、地域と国政をつなぐパイプとしての側面がこのようにあるのではないかと考えています。

 そうであれば、なかなかこれは裁判所には通じない、憲法を見ても国会法を見ても、どこにもそんなことは書いていない事実上の作用ですので、この点について、実際上の国会議員の役割というのもわかりやすく裁判所に伝えていく必要があるのではないか。この一票の格差訴訟においては、国会議員の仕事というのは必ずしも法案の賛否を明らかにするだけではないのですよ、地元と国政をつなぐパイプとしての役割、そういうような役割もあるのですということをしっかりと裁判で主張、立証すべきではないかと思いますが、この点についての見解をお聞きいたします。

定塚政府参考人 お答えいたします。

 訟務といたしましては、先ほど申し上げたように、最高裁大法廷判決が示している市町村等の行政区画、地域の面積、交通事情、地理的状況などを総合考慮する、そうしますと国会が定めた選挙区割りは国会の裁量の範囲内であるというようなことを主張、立証してきたところでございます。

 委員御指摘のような、国会議員の職務として、それぞれの地域と国政をつなぐパイプの役割があることなどについては、先ほど申し上げたことに加えて特段の主張をしてきたということはございません。

 今般このような御指摘をいただきましたので、被告とされる各選挙管理委員会、あるいは関係省庁と協議の上、事案の内容等に応じて、さらに有効、適切な主張立証活動をしてまいりたいというふうに考えております。

藤原委員 ありがとうございます。大変前向きに答弁をいただいたというふうに理解をしました。

 今は、二倍以内であるということが当然の前提として裁判を進める、あるいは二倍以内が当然であるということを世論として感じるんですが、よくよく見てみると、二倍というのは必ずしも絶対の基準ではないということであります。

 委員の先生方には資料をお配りしておりますが、衆議院選挙における格差の推移、それから参議院選挙における格差の推移ということで見てみますと、もちろん中選挙区時代と現行の小選挙区比例代表並立制では少し違うんですが、かつては衆議院でもおおむね三倍以内であればいいであろうというふうに議論をされた時代、これは昭和六十一年とか昭和の最後、あるいは平成の当初ですね、三倍以内であれば合憲であろうというふうに議論をされていた時代もあります。参議院に至りますと、六倍まで許されるであろうと。これは昭和六十一年のときですね。

 でしたが、徐々に徐々に、その後、議論の流れとしては、一票の価値というのを重視すべきだということで、近年は、衆議院については、二・三、二・五ではよくないと。昭和六十一年の時点では二・九九でもオーケーということだったんですが、現在は、二・二、二・四三ではいけないということで、恐らく二倍以内であろう。参議院も似たように、徐々に徐々に一票の価値というのを重視する方向に来ている。

 これ自体は、裁判所が決めること、あるいは世論の流れの中で決まることですので、私の方からいいとも悪いとも言えないのですが、そういう中でも、やはり世の中の流れとしては、本当にそれだけでいいのかということは考える必要があるんだろうと思っております。

 昨今、地方創生ということで、地方を重視していく、これは何も地方だけのことではなくて、日本全体にとっても地方を重視していくことがプラスである、そういうことが議論として出てきております。はっきり言えば、従来と異なって、国民運動としてこの地方創生というものをやっていこう、そういう機運は昔に比べれば出てきているんだろうと思っております。それと同時に、そういう機運が出ているということも裁判所に伝えていく必要があると思います。

 また、直観的に本当にこれでいいのかという議論で、全国で一番広い選挙区、これは北海道十二区ですが、公式のデータはないんですが、新聞等で見ますと、全国で一番広い選挙区、北海道十二区は一万四千七百四十二平方キロメートル。これはどれくらいかというと、岩手県より少し大きいくらいの面積の選挙区ということになっております。本州で一番広い選挙区は、我々の岩手県の岩手二区、その次は岐阜四区となっております。では、どれくらいの大きさかというと、岩手県の第二区、七千六百九十四平方キロメートル、大体静岡県ぐらいの大きさというふうになっております。岐阜四区は、六千四十平方キロメートル、栃木県ぐらいの広さがあるという選挙区であります。

 もちろん、これは、理屈とはまた別なところで、据わりと呼ばれるものですが、人口が少ないものですから、こういう選挙区をさらに広くしていくこと、これが本当にいいことなんだろうかどうだろうかということは、やはり問題提起をしていただきたいと思います。

 そういう中で、先ほど訟務局長から御答弁がありましたが、この一票の格差訴訟、迅速に裁判をせよという、いわゆる百日裁判というふうに呼ばれている形式の裁判になります。

 ですが、これは、先ほど局長も努力義務ということはお話しいただいたと思うんですが、念のため裁判所に、厳密には百日を過ぎても審理を行うことはできるのか、通常の訴訟のように、証人尋問、あるいは専門家を呼んで鑑定類似でもいいと思うんですが、こういうことを行うことはできるのか、この点について最高裁の御見解をお聞きしたいと思います。

菅野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 まず最初の点についてですが、一票の格差が争点となる選挙無効訴訟におきまして、事件の受理から百日を過ぎて判決がされる事例はあるものと承知しております。

 それから、選挙無効訴訟について、証人尋問に関する民事訴訟法の規定が排除されているわけではありませんので、選挙無効訴訟において実際に証人尋問が行われているかどうかは別といたしまして、証人尋問を行うこと自体は可能であるという前提のもとに運用がなされているものと承知しております。

藤原委員 ありがとうございます。

 百日で終わらなくてもいいし、証人尋問もやってもいいということであります。

 一票の格差訴訟、相当期間の立証等も大事ですが、それと同時に、やはりその地域の人がどう考えているか、本当にそういう流れでいいのか。例えば、先ほどのように、選挙区が減ってしまう、合区になる地域の知事さんに証人尋問をお願いしてもいいんだろうと思っております。そういう形で、本当に地域の実情というのを裁判所に知らせる、知らせた上で、裁判所がそれでもまかりならぬと言うのであれば、それは仕方がないことですが、少なくともそういう材料を提供するということはやっていく必要があるんだろうというふうに思っております。

 今までの議論を私の方でさせていただいて、ぜひその点も御考慮をいただきたいと思っております。

 次は大臣にちょっとお伺いをしますが、この一票の格差訴訟、相当期間の立証も大事なのですが、同時に、やはり実際の政治家の役割を裁判所に理解していただく、そういうような立証が重要だと思っております。

 私は、実は、以前何度かお話をしたことがありますが、大学生のときに上川大臣の選挙区に住ませていただいて、有権者ということでやらせていただいておりましたが、静岡一区も、駿河区のような都市部だけではなく、葵区の本当の奥の奥、そういうようないろいろな地域があるということは大臣も御承知のとおりだと思っております。

 そのような中で、相当期間の立証のほかに、実際の政治家の役割、これを理解してもらうようにする必要があるのではないかという点について、御所見をお伺いできればと思っております。

上川国務大臣 ただいま御質問をいただきまして、地域それぞれの選挙区、大きさも、また土地の状況につきましてもいろいろな顔を持ったところで、選挙の中でそれぞれの主張をしながら選択をされる、そうした制度でございます。

 いわゆる一票の格差訴訟ということでございますけれども、法務省といたしましては、いわゆる法務大臣権限法の七条によりまして、都道府県選挙管理委員会から求められて訴訟を追行しており、これまでの最高裁判所におきまして大法廷判決が示してきました判断の枠組みに沿った立証そして主張ということを行ってきたものというふうに承知をしております。

 確かに、委員御指摘のように、一般に、議員の職務につきまして裁判所に的確に理解していただくということにつきましては重要だというふうに考えられるところでございますが、いずれにいたしましても、訟務局におきましては、実際の事案に応じて、被告となっている都道府県選挙管理委員会から訴訟追行を求められる立場で、関係省庁と協議をした上で、委員御指摘の点も含めまして、有効かつ適切な主張、立証をしていくものというふうに考えているところでございます。

藤原委員 ありがとうございます。

 これに関連してもう一問質問をしたいと思います。

 訟務局、これはことしの四月から復活したわけですが、現在何人ぐらいの訟務検事が大体何件程度の事件を抱えているのか、簡潔にお答えいただければと思っております。

定塚政府参考人 お答えいたします。

 本省の訟務局及び全国の法務局に合計約百名の訟務検事がおります。本案訴訟の係属件数が全国で約一万件ございますので、単純計算しますと、訟務検事一人当たり平均百件の事件を受け持っていることになります。

藤原委員 ありがとうございます。

 普通の弁護士も、百件というのはかなり多いというか、多分、めちゃくちゃ多いと思うんですね。

 それで、特に過払いとかあるいはルーチンの事件だけではなくて、恐らく当事者訴訟もあれば、非常に大規模な原発訴訟のようなテクニカルな訴訟もあるんだろうと思っております。

 これから国の方でも予防法務を推進するということですが、やはり最後は裁判で国の行く末も決まっていくという意味では、ぜひ、この訟務局、力を入れていただいて、一人一人の訟務検事がそれぞれの事件に今以上に集中できるように取り組んでいただければということをお願い申し上げたいと思っております。

 これで一票の格差訴訟については質問を終わりますが、次に、ちょっと簡潔に法曹養成についてお尋ねをしたいと思っております。

 ことしの七月半ばに推進室が検討後の提言を出しました。これを受けて、法務省と文科省、おのおの現在どのような取り組みをなさっているんでしょうか。特に、この問題は両省が連携をして取り組まなければいけないと思っていますが、法曹養成制度の推進室廃止後は、両省の連携に支障が出ないようにどのように取り組んでいくのか、この点も含めて、法務省さん、文科省さん、それぞれお願いします。

萩本政府参考人 法曹養成制度改革推進会議決定では、法務省において、法曹有資格者の活動領域の拡大に向けた環境整備、法曹人口のあり方に関する必要なデータの集積の継続と検証、司法試験のあり方の検討、司法修習生に対する経済的支援のあり方の検討等を行うものとされました。

 この推進会議決定を受け、法務省としましては、まずは推進会議決定に掲げられた各取り組みを着実に進めていく必要がございますので、現在、それぞれの具体的な進め方等について関係機関等と協議を進めているところでございます。

 各取り組みを進めるに当たりましては、委員御懸念の文部科学省との連携にも遺漏のないように、推進会議決定にもありますとおり、文部科学省とともに必要な連絡協議等の環境をしっかり整備してまいりたいと考えております。

義本政府参考人 お答えいたします。

 文部科学省としましては、昨年十一月に法科大学院の総合的な改革方策をお示しさせていただきまして、不断の改革を進めているところでございますが、本年六月の法曹養成制度改革推進会議決定におきまして、平成三十年度までの期間を法科大学院集中改革期間と位置づけまして、法科大学院の抜本的な組織見直しや教育の質の向上についてのさらなる取り組みについて提言をいただいたところでございまして、文科省においては、中央教育審議会の中の法科大学院特別委員会においてその議論を開始するなど、法科大学院改革をさらに加速しているところでございます。

 改革を進めるに当たりましては、法務省からお話がございましたように、法務省と文科省の密接な連携が不可欠だと考えておりまして、連絡協議の場等の環境をしっかり整備して取り組んでまいりたいと思っております。

藤原委員 ありがとうございます。ぜひしっかり連携をとってやっていただければと思います。

 最後ですが、もう少しで司法試験の合格発表の時期が近づいてまいりました。近年、ロースクールに進む方というのは少なくなってきている。またもう一度学生がたくさん希望していただける、そのような法曹養成制度にしていただきたいと思いますが、この点に関する大臣の御決意を最後にお聞かせいただければと思っております。

上川国務大臣 国民に身近で利用しやすい司法の実現のためには、何よりも、有為な人材が法曹を志望し、また、質の高い法曹が多数輩出される、そうした魅力ある法曹養成制度となることが重要であるというふうに認識をいたしております。

 法曹養成制度改革推進会議決定を踏まえまして、さまざまな改革につきまして速やかに進める必要があるというふうに考えておりまして、先ほど御質問がございましたが、関係省庁、文部科学省ともしっかりと連携をしつつ、また、他の関係機関、団体の協力もしっかりと得ながら、法曹養成制度改革推進会議の決定に掲げられました各取り組みにつきましては、着実な進展を図るよう進めてまいりたいというふうに考えております。

藤原委員 ありがとうございました。ぜひよろしくお願いをしたいと思います。

 これで質疑を終わります。

奥野委員長 次に、黒岩宇洋君。

黒岩委員 おはようございます。民主党の黒岩宇洋でございます。

 ハーグ条約が昨年四月一日に発効してから一年たちまして、きょうは、この実施状況につきまして確認をさせていただきたく、法務大臣、また共管の外務省からは中山副大臣にもおいでいただきまして、質疑をさせていただきたいと思います。

 一年たって、それから既にもう四カ月たっている状況で、若干時間のずれがあるんですけれども、私は、このハーグ条約を進めていく段階のときに法務省の政務官でありましたもので、その前段階として、実施法をつくっていく、国内法をつくっていくための閣議了解の策定に当たった一人でありますので、そのときの我々の思い、方針が今の実施の状況また運用の状況にどのように反映されているか、この点についても一つ一つ確認ができればと思っております。

 また、この報告書については、外務省のハーグ条約室からは報告の概要ペーパーというものが出ておりますが、法務省、外務省からは、当衆院には正式にはまだ報告書が出ていない状況であります。ただし、参議院では報告書が提出されておりますので、当然その内容にも沿った形で質問させていただきたいと思います。

 それでは、まず、この条約締結までの経緯、総論的な部分について何点かお聞きをしたいと思います。

 このハーグ条約というのは、ハーグ私法会議において一九八〇年に採択され、発効されたのが八三年ですから、今をさかのぼるところ三十数年という、これだけの時間がかかって我が国がようやく締結に至ったわけでありますが、なぜこれだけの時間を要したのか、その点について、上川法務大臣そして中山外務副大臣の御見解、御認識をまずは確認させていただきたいと思います。お願いします。

上川国務大臣 御質問のハーグ条約の締結、大変長い時間が経過した後に日本として条約の締結をした理由ということでございますが、ハーグ条約が採択をされました昭和五十五年、一九八〇年当時でございますけれども、我が国におきます国際結婚の件数は約七千件であったわけでございますが、その後、その数がふえ続けている。そして、平成十八年には約四万五千件に上りまして、一時減少したものの、平成二十二年の段階で約三万件という状況でございました。

 こうした国際結婚の増加に伴いまして、離婚件数というのも増加をしてきたわけでございますが、平成二十二年、三万件の結婚に対しまして離婚件数は二万件近くにまで増加をしているということでございます。

 このような国際結婚、離婚の増加に伴いまして、国境を越えての子の連れ去り等の問題が顕在化することになったということ、こうしたことを受けまして、我が国におきましても、委員が当時、政務官ということで実質的な責任者としての取り組みをされたということでございますけれども、平成二十三年の一月からハーグ条約に係る副大臣会議の開催ということで、そして、この条約の締結の際のさまざまな問題点等につきましても御議論をされ、そして整理をした上で、五月の閣議決定において、この条約を締結するとの方針が決定されたものというふうに認識をしているところでございます。

 長年かかった理由といたしまして、中央当局の制度設計をめぐりまして、どの省庁に設置をするのかということにつきましてさまざまな御意見があったということについては承知をしているところでもございますし、また、日本人の女性におきましては、国際離婚をした際に、子供さんを連れて帰国される、里帰りをするというようなことが多くございまして、条約締結によりましてこうした日本人の母子が不利益を受ける場合が多いのではないかという御懸念もあったというふうに承っております。

 その意味では、慎重な検討を求める声があったことなどによりまして、時間的にこうした長い時間がかかったというふうに理解をしているところでございます。

中山副大臣 外務省といたしましては、ハーグ条約が作成されました一九八〇年当時、現在に比べまして、日本人の国際結婚及びその破綻に伴います、諸外国との間においての子の連れ去り等をめぐる問題が表面化するという事例が必ずしも多くなかったと認識いたしております。

 そのような状況下で、ハーグ条約の締結には、子の利益の保護という観点から意義があると認められる一方で、条約の締結について懸念する意見もあったという事実でございます。このため、こうした意見も十分に踏まえつつ、締結の是非について慎重に検討する必要があるという認識に立っておりました。

 加えて、仮にハーグ条約を締結した場合に、新たな裁判手続の導入、中央当局の制度設計など、これまで我が国になかった全く新たな制度の導入を中心として、条約を適切に実施するために検討すべき重要な論点も数多くあったというふうに思います。

 これらの事情から、締結に向けた検討に一定の時間を要したものというふうに考えております。

黒岩委員 ありがとうございます。

 また、上川法務大臣には、本当に踏み込んだ当時の事情についても御説明いただきました。前段は前段の、国際結婚、離婚、連れ去りの件数の増加、これはこれで合理的に私も考えております。中央当局の引き受け手の調整に手間取ったというのは確かに実務上ありましたけれども、これは実務上というか事務的な話であります。

 やはり重要なのは、今おっしゃられた、我が国の場合ですと、連れ去ってくる母親というケースが多かった。そしてまた、各国によって結婚観とか法制度が違うこともありまして、特に子が重要ではありますが、母子も含めて子の利益の保護というものが図られるのかという、このことに相当慎重な指摘もあったわけですから、当時、法務省としてもその点を非常に酌みながら物事を進めてきた、それにかなり年月がかかったんだということだと思っております。

 そこで、中山副大臣にお聞きしたいんですけれども、今、副大臣の答弁にもあったんですが、三十何年たって、今回の、特に条約締結そして実施法の施行の基本的な考え方、もっとわかりやすく言うと、最優先すべき課題というものは一体何なのか。

 というのは、今から三十数年前は、やはりそのころのケースというのは、欧米国から非欧米国への連れ去りの事例が多く、これは、ある専門家の指摘によれば、途上国に連れ去られた子を先進国の居住国にとにかく迅速に返還することが目的だ、そのこと自体が目的であるというような認識が当時はあったというような指摘もあるんですけれども、それから三十数年たった。そして、今の我が国の現況において、繰り返しますけれども、ハーグ条約締結そして実施法の最も基本的な、最優先する課題、目的とは一体何なのか、これを改めてお聞かせいただきたいと思います。

中山副大臣 ハーグ条約は、御承知のとおり、前文におきまして、「子の監護に関する事項において子の利益が最も重要であることを深く確信し、」と記されております。子の利益を最重要視しているという認識であります。

 国境を越えた不法な連れ去りによる一番の被害者は子供自身である。ハーグ条約は、子の監護に関する事項を決定するための手続は、子がもともと居住していた国、すなわち子がなれ親しんできた生活環境がある国において行うことがその子にとって最善であるとの考え方を基本としているという認識でおります。

 この条約は、そのような考え方に立って、子が不法に連れ去られた状況の原状回復とともに、国境を越えた親子の面会交流に向けた支援を行うものであるというふうに認識しております。

黒岩委員 ありがとうございます。

 これを改めて確認させていただいたのは、子の利益が最優先である、今、本当にお聞きしました。そうなりますと、子の利益にとって、その親の権利保障というものも大事になってくるわけですよね。ですから、こういったことをしっかりと認識しながら運用していくことによって、返還すべきは返還すべきということになりますが、何が何でも返還すること自体がありきではなく、慎重に考えるという実施、運用になるわけですから、やはりその最大の眼目は何であるかということを改めて確認させていただきました。

 そこで、連れ去られた側と連れ去った側、連れ去った側はテーキング・ペアレント、TPというんだそうですね。連れ去られた側はレフト・ビハインド・ペアレント、LBP。この両者は、やはり利害は相反するわけですよ。

 これは法務大臣にお聞きするんですけれども、当時、法務省にも、すごく慎重な母方のテーキング・ペアレンツの皆様からも、いざこの条約に加盟すれば、締結をすれば、その後、即返還かとか、そういったいろいろな懸念も示され、例えば常居所地国では、言語の不安だとか、ともすれば逮捕、訴追のおそれがあるとか、さまざまな不安も私たちのもとに届いていました。

 また逆に、特にこれは欧米の、当時のアメリカの国務長官が我が国の外務大臣に直接ハーグ条約の加盟をかなり促す、また、法務省におきましては、大臣室に欧米の大使が、当初、私の記憶ですと、二人ほどいらして非常に強く要請され、その次には、八人ほどいらしてかなり強く加盟を要請するという、連れ去られた側の、特に親の声を届ける、そういった場面も、大使が届けてくるという場面もありました。

 ですから、連れ去る側と連れ去られる側、もちろん、連れ去るということについても、我が国から見れば、やむにやまれぬ事情であるとか、先ほどの里帰りといったような概念であるとか、なかなか非常に複雑なケースがあるわけですので、ともすれば相反するその利害というものを、これは、実施法の中にもそれをちゃんと調整できるように落とし込めているはずだと思いますし、また、この一年間の実施において、運用においても、この利害の対立についてしっかりと調整が図られていると理解してよろしいのかどうか、その点について、法務大臣、お答えいただけますか。

上川国務大臣 ハーグ条約及び実施法におきまして、先ほど、テーキング・ペアレント、TPと、LBP、レフト・ビハインド・ペアレント、両方の利益対立というものをどう調整するかというのは大変難しい、まさにそこが大変大きな調整の鍵になってくるわけでございますが、子の監護をめぐる紛争につきましては、子供さんがもともと居住していた常居所地国で解決するのが望ましい、こうした趣旨にのっとって、子供さんを常居所地国に返還することを原則とするものであります。そのことによりまして、子を連れ去られた親御さんは、子がもともと居住していた常居所地国におきまして子の監護をめぐる紛争を解決することができる。こうしたことの中で条約及び実施法を制定してきた、そして日本の中でもそのような法律を制定してきたということでございます。

 その意味で、そのフレームワークにのっとって、しっかりと適正に子供さんの監護ができるように、子の権利を最優先しながら調整することができるようにということに基づきまして、今、運用が図られているというふうに考えております。

黒岩委員 そうですね。利害調整の運用ということについては常に最重要課題として念頭に置いていただきたい、そう考えております。

 そこで、先ほど私が、平成二十三年五月十九日に関係閣僚の了解事項というものが策定され、翌五月二十日に関係閣僚会議で了解を受けたということを申し上げました。主には中央当局のあり方と子の返還命令の手続のあり方だったんですけれども、さらに言うと、子の返還拒否事由について、これを、条約の文言に比してかなり詳細に決定事項の内容としたんですけれども、いざ実施法に書かれた規定ぶりというものは、今申し上げた了解事項の内容とはかなり違ったものになっております。これは一体なぜなのか。

 具体的には、子に対する暴力等、親に対する暴力等、また、帰国するときに相手方、親が入国できない場合などとか、そういったことをさらに細かく了解事項では書き込んだんですけれども、これが、実施法には規定ぶりとしてはそこまで入り込んでいない。

 これについて、一体なぜなのかということについてお答えいただけますでしょうか。

上川国務大臣 平成二十三年五月十九日の関係閣僚会議におきまして、ハーグ条約実施法案の作成に当たって盛り込むべき内容、これにつきましての了解事項として、具体的には、子に対する暴力等、そして相手方に対する暴力等、さらに、相手方が子とともに帰国することができない事情等が子の返還拒否事由として列挙されているところでございます。そして、これらの事由につきましては、いずれも、諸外国の裁判例において考慮されている、そうした事項を類型化したものというふうに認識しているところでございます。

 関係閣僚会議におきまして、その了解事項についても、具体的な規定の仕方につきましては法制上の問題も考慮した上で検討することとされているところ、法制審議会ハーグ条約部会におきましては、関係閣僚会議の了解事項自体をそのまま返還拒否事由として明示をすると、条約に明示的な規定のない返還拒否事由を設けることになりますので、条約に反するおそれがある、こうした指摘がなされたものというふうに承知をしているところでございます。

 そこで、ハーグ条約の実施法におきましては、了解事項の内容を十分に踏まえつつ、条約との整合性に配慮して、了解事項において子の返還拒否事由とされたものを、返還拒否事由そのものとして明示するのではなく、子の返還拒否事由の有無を判断する際の考慮すべき事情として盛り込むこととしたものと理解しているところでございます。

黒岩委員 私がやはりそこがなかなか当時も合点がいかなかったのは、今言った了解事項をつくっていく上には、特に法務省と外務省の副大臣級会合を開いたわけですね。すると、条約については専門家である外務省と、そして法律については専門家である法務省と、これが積み重ねて積み重ねてつくったのが了解事項である。これが条約に反するというと、ちょっと積み重ねがどうだったのかなというのが私は合点がいかないところです。これはちょっと、別にぎりぎりと詰めるわけではないんですけれども。

 ただ、あえてやはり確認をしておきたいのは、何といっても関係閣僚会議、閣議了解でありますので、この閣議了解で示された了解事項というものは、今回の実施法でいうと二十八条の二項に考慮すべき事情として三項目にわたって入っているわけですけれども、ここには完全に明記されていなくても、先ほど申し上げた了解事項の考え方という内容自体は盛り込まれている、今の御答弁はそういう理解でよろしいですね。

上川国務大臣 関係閣僚会議においての了解事項につきましては、法制審議会ハーグ条約部会におきましての審議で御議論されたわけでございますけれども、まさにそのことが盛り込まれていると理解しているところでございます。

黒岩委員 大変重要なので、そこをしっかりと法務大臣がそう答弁していただけると、今後の運用においても非常に合理性を持った形で了解事項が生かされてくる、そのように今認識をさせていただきました。

 それでは、若干通告を飛ばしますね、ちょっと時間がなさそうなので。

 各論の方に入っていきたいと思うんですけれども、特に今、返還拒否事由についても触れましたので、やはり子の利益の確保ということに対してどのような実施状況になっているのか、また、どのような運用がこれからなされていくのか、この点についてお聞きしたいと思うんです。

 特に議論になったのが、条約でいうところの十三条一項のb、子が常居所地国に返還されたときの重大な危険ですね。重大な危険がある場合には、返還拒否、要するに戻らなくてもいいですよという、これは条約で書かれているわけです。この部分について、実施法では二十八条一項の四号に包括的に書いて、そして考慮事情として二十八条の二項に落とし込んだという形になっているんです。

 そこで、お聞きしたいのは、二十八条の二項の一号においては子に対する暴力等のおそれの有無、二号においては相手方の親に対する暴力等のおそれの有無とあるんですけれども、このおそれというものは何をもって判断基準とするのか、この点についてお聞かせいただけますでしょうか。

深山政府参考人 条文の書きぶりは今委員御指摘のとおりです。それぞれの、二項の各号のおそれ、これは将来の予測的判断ですから、実際にそのおそれがあるかどうかの認定で一番重要な間接事実といいますか、推認する事実は、過去にその人が暴力を振るっていたという事実があったかどうか、これが認定する際の一番重要な推認事実になると思います。

黒岩委員 深山局長がそう答えてくださると大変ありがたくて、了解事項においては、私どもも、過去にそういった暴力等があったこと、かつ、将来にわたってのおそれということで書いたんですけれども、法文には過去について何も触れていないものですからね。

 深山局長のおっしゃるとおり、将来予測というのは確かに非常に難しい部分がある。ただ、過去の事実というものは明らかであります。もちろん、過去の事実があっただけで、それでイコールおそれがあるというわけではない。当然、相手国の保護措置、シェルターだとかさまざまな保護措置との兼ね合いになりますけれども、ただ、今の局長の答弁は大変重要なことで、文言には落とされていませんけれども、あったという過去の事実については、一定以上、相当なる要素としてこれを考慮されるということですので、これは私たちも非常に合点がいきました。ありがとうございます。

 そうしましたら、この重大な危険についてもう一点お聞きしますけれども、これは二十八条の二項三号になりますけれども、監護が困難な事情の有無ということです。

 これは、外務省の法案概要ペーパーには、あえてこのような例示があります。帰国した場合に相手方の親が逮捕または刑事訴追されるおそれという例示があって、こういうおそれがある場合は監護が困難な事情であるというふうに示されているんですね。

 今申し上げた逮捕そして刑事訴追のおそれというのは、先ほど申し上げた閣議了解においては文言として明記されていたわけですよ。ただ、これは、残念ながら今の実施法では条文から外されましたけれども、外務省のガイドラインとしては、例示として、やはり今言った、いざ、子とともに帰国したら、その国の、例えば誘拐罪等、そういった違法性があるということで逮捕、刑事訴追されるおそれがある場合にも監護が十分にできませんねという二十八条の読み方だと私は理解しました。

 そこで、また同じ質問になるんですけれども、その逮捕そして刑事訴追のおそれ、このおそれというのはどうやって判断するんですか。

深山政府参考人 これは、国によって、今まさに委員も御指摘されましたように、夫婦間で子供を相手方の了承なく他国に連れ去ったことが刑事犯罪になる国がございます。夫婦間の誘拐罪と言われるもので、アメリカなどでは広く認められておりますので、既にそういうことで被害届を一方の親が本国で出し、場合によっては逮捕状も出ているというようなケースもございます。

 こういうことになれば、もう既に自分は、入国したら逮捕される状態、逮捕状が発令されているということが子の返還手続の裁判の中で主張、立証されるということになれば、これは、逮捕されるおそれは極めて強いということにもちろんなります。

黒岩委員 わかりました。

 暴力等の未来予想のおそれに比べれば、これは判断しやすいということですね。

 さらに、そういったおそれを払拭する意味を踏まえて、ちょっと上川法務大臣にお聞きしたいんですけれども、ミラーオーダーという手法は御存じでしょうか。少し御説明いただけますでしょうか。

上川国務大臣 アメリカ等の事例を今紹介したところでございますけれども、返還先の国におきましては、先ほど来の答弁のとおり、お母さんの方が訴追をされるというケース、あるいは逮捕されるというようなオーダーがもう出ているということでありまして、そうなりますと、子の返還ということについては、その俎上に上るということはなかなか難しいわけでございます。

 そこで、ミラーオーダーということで、鏡のちょうど映しのような形で、子を連れて帰国した者につきまして刑事訴追をしないということが法的に担保されるということになりますと、それを前提に返還を命ずることができる。こうしたことで、子の返還申し立て事件の両当事者の利害を調整することができる、こうしたルールだというふうに理解をしているところでございます。

黒岩委員 そうですね。これは、我が国には制度としてはないのかもしれませんけれども、今、国際的には、ハーグの返還事件においては頻繁に使われている。これは、我が国からすれば、外国に返還させるかどうかというときに、その外国から申し立てた親が自国の裁判所に申し立てて、自国の裁判所ときっちりと約束をする、命令を出してもらう。それは、今言ったように、被害届を出していれば被害届をおろすとか、被害届は出しませんよとか、ないしは渡航費は自分が持ちますよとか、いざ返還されたときの子や親の居住費を経済支援しますよとか、そういった命令をあえて自国の裁判所に出してもらう。そのことによって、我が国から返還する子も親も返還しやすくなるし、いざ返還後も子と親の利益が保護されるという手法なんですよね。それを企図しているんですよね。

 これは、私が申し上げたのは、今、国際的には非常に頻繁に使われている手法でありますので、我が国ですぐ制度化しろとまでは申しませんけれども、今後、我が国もハーグ裁判官ネットワークに二人任命して送っているわけですから、各国のさまざまな司法手続等の認識共有も相当進んでいるわけですから、そういったものを、今言ったミラーオーダーといったような手法も一つ参考にしながら、何せまだ条約に入ってから一年ちょいなわけですから、さまざまな環境変化もありますし、また、締約国、先に締約したという意味の先進締約国のいろいろな事例も参考にして、そして、結果として、今申し上げた子や親の利益というものを最優先に保護していただきたいということを重ねて申し上げさせていただきます。

 そこで、今度は外務省にちょっとお聞きしたいんですけれども、では、この一年間の実施状況で、返還拒否事由の適用によって返還されなかったという事例はあるでしょうか。

三好政府参考人 お答え申し上げます。

 ございません。

黒岩委員 これはまだ事案の件数も少ないですし、何とも評価しづらいんですけれども、私の懸念事項は、今申し上げたように、我が国は、返還拒否事由については、多分、他の締約国に比べても結構詳細に詰めている国であります。しかし、残念ながら、これは残念なのかどうかはちょっと評価は難しいんですけれども、この一年間ではこの返還拒否事由が適用されることがなかったと考えますと、冒頭申し上げた、いざ申し立てが行われたら結局はどんどんどんどん返還されちゃうんじゃないかというテーキング・ペアレンツの不安がそのまま残ってしまうのではないかという私の危惧がわかっていただけると思います。

 これは、事例を重ねることによってどういう状況か、推移は見たいと思いますけれども、その中で、せっかく条文立てしたものが、これは裁判手続でありますのでそこには踏み込めませんけれども、何かこの条文の運用等においてまた改善すべき余地が出てくるかもしれないということを、今この場では指摘にとどめさせていただきます。

 そうしましたら、では、いざ返還されました。今回、一年間で三つの事例が、要するに返還が実現した事例があるわけですけれども、ハーグの目的は返還までです。そこまではわかっています。ただ、子の利益を最優先、また、そこに符合するように親の権利の保障ということも考えれば、やはり返還後についても、在外公館を中心に、外務省を中心に、一定以上のケアをしていくべきだと私は思っていますし、そして、しているのかどうか。別に何百人も返還しているわけじゃない、一年間で今のところ三の事案でありますし、その三の事案について実際どのようなケアをしているのか、その点について教えていただけますか。

中山副大臣 外国への子の返還後は、当該外国での、子の親権等を決定するための裁判等の手続が想定される場合、在外公館におきまして、その国の無料法律相談、公的司法支援制度、保護、救済、裁判制度に関する情報提供、また、弁護士や通訳の御紹介を行っております。また同時に、子を連れて常居所地国へ帰る親がDV被害につき懸念を有する場合には、要望に応じ、現地のシェルター、それから被害者支援団体等に関する情報提供を行っております。

 このような対応が可能になるよう、日ごろから在外公館は、管轄地域の家族法制度それから刑事制度、紹介可能な弁護士、通訳、家族問題、DVそれから児童虐待支援機関等の情報把握に努めています。

 また、各情報の調査結果は、在留邦人等が参照できるように、外務省のホームページでも公開されております。

黒岩委員 ありがとうございます。当初、事務方から説明を受けていた以上にさまざまな方策をとっているということが今理解できました。

 それで、改めて、これは質問通告とちょっと前後しちゃいますけれども、この条約の実施体制というところで、やはり中央当局、これは外務省が担う。条文上は中央当局は外務大臣ですけれども、岸田外務大臣が何から何までやるということはないでしょうから、ハーグ条約室が実際担っているわけです。

 中央当局は、他国の例でも、外務省が担ったり法務省が担ったり、国によっては厚生労働省が担ったりと、いろいろな例があったんですけれども、当時の議論で、やはり在外公館が、さまざまな、今言った、外国の子の所在地を特定するとか、常居所地であるかどうかの確認をするとか、そういったことにおいては非常に機能性が高い。そういう意味で、やはり外務省が中央当局に最も適しているのではないかということが外務省が担当になった一つの大きな要因でありましたので、改めて確認します。

 中央当局は、今、二十人からの陣容だと聞いています。外務省が七人、法務省が三人、最高裁が一人、あと九人が民間からの公募だということで聞いていますけれども、やはりこの二十人が中心となってですけれども、今言った在外公館との連携システムというものが、何かガイドラインとか、明文化されてとか、そういった形できちっと図られているのかどうか、この点ついて確認させてください。

中山副大臣 外務大臣が援助をすることに決定した案件については、当事者が在住する地域の在外公館と情報を共有し、今先生御指摘のとおり、必要に応じて在外公館による対応ができるよう、体制を整えさせていただいております。在外公館においては、ハーグ条約発効を受けて、現地での家族問題対応につき、改めて在外公館への指示を徹底し、しかるべき研修を受けた領事がハーグ条約案件の対応に当たらせていただいております。

 例えば、外国中央当局との連絡調整、そしてまた、手続上の困難が生じた場合、在外公館が外国中央当局との連絡や調整を行う、そういうことがございます。また、子の安全な返還の支援の一環といたしまして、子の返還時に返還先の国の在外公館の緊急連絡先を伝えるなどして、問題が生じた際に対応できるようにいたしております。

黒岩委員 そうなんですね。原則は中央当局同士での連携で対応するということだと今もおっしゃられていましたけれども、この後、これは望むことではないんですけれども、申し立て件数がふえたり、また返還の実現がなされていった場合、これは、中央当局同士だけでは十分な対応が図れない場合、やはり在外公館がその常居所地国の外国の中央当局との連携を担っていくことも含めて、今言ったネットワーク化というものは、随時領事と連携を図るとおっしゃっていましたので、これはもう外務省としての体制構築をしっかりと今後も続けて、また拡充をしていっていただきたいと思います。

 それでは、質問通告というところでまた子の利益の方に戻るんですけれども、先ほども常居所地国という言葉が出ました。この常居所地国、ふだん余り我々使わない言葉ですけれども、常居所地国の定義を、これは法務省、外務省、それぞれ教えていただけますか。常居所地国の定義とは何ぞや。

深山政府参考人 常居所地国というのは常居所がある地の国ですけれども、常居所という概念……(黒岩委員「禅問答みたいな話じゃなくて」と呼ぶ)いえ、これは前置きです。

 常居所というのは、ハーグ国際私法会議が創設した新しい概念です。従来、普通は住所というのがどこの国にもございますが、住所という概念は法律にそれぞれ規定があって、国によって何をもって住所というかが既に違う状態で法制度ができていますので、相当長期間にわたって居住する場所のことを常居所と言おう、その程度の理解で国際的に共通の概念をつくろうということで、このハーグの国際私法会議でできた条約にはしばしば登場する概念で、現在では、各国でもそれを使って、我が国の法律にも使ったものがございます。

 ただこれは、ハーグの国際私法会議の中でも、何度か、詳細な定義を設けようという動きがあったようですけれども、既に多数の条約に使われて、その解釈が各国少しずつ微妙にずれているというようなこともございまして、国際的に共通の定義というのは設けられていないというふうに承知しています。

 したがって、我が国の法制度にも常居所地の概念は使われていますけれども、これも解釈に委ねられると言わざるを得ない。あえて言えば、この言葉どおり、相当長期にわたって居住する場所のことを常居所というという程度のことで、あとは解釈でございます。

中山副大臣 ハーグ条約上、常居所の定義規定は置かれていないということであります。他方で、一般的に常居所は、ハーグ国際私法会議において用いられている事実上の概念であり、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当な長期間にわたって居住する場所をいうものと解されているということであります。

 我が国におきましては、中央当局に援助申請を行うためには、子の常居所地国に子が常居所を有していたことを明らかにする書類の写しを申請書に添付することを求めております。こうした添付書類に基づきまして、当該国に子が常居所を有していたと認められるか否かを認定しているということであります。

黒岩委員 今、深山局長が、その程度のものだと。本当にその程度のものなんですよね。

 だから、これはすごく問題でして、あえて両省に聞いたのは、中山副大臣が実務上のこともおっしゃいましたけれども、返還援助申請は、外務省、中央当局にするわけですけれども、では、それで決定するかどうかは、まずは外務省が書類で一義的に判断するんですよね。しかも、その場合は申し立ての親としか会わないわけですから、申し立てられた、要するに連れ去り側の親からの意見聴取のない中で、写真とかで見て、ああ、これは常居所地国だなという判断になるわけですよ。

 では次に、これが裁判の申し立てになったときに、今度は裁判所の方、これはくどいようですけれども、別に民事局ではない、裁判所ですけれども、裁判所も、では、その申し立てを受理するかしないかは裁判所で判断しなきゃいけない。しかも、これはさらに精緻な判断が求められると言われているわけですよ。しかし、それでも、その程度の基準だったら、本当にその場その場で判断しなきゃいけない。

 しかも、私が非常に不合理だと思うのは、少なくとも常居所地であるかどうかは在外公館を持っている外務省の方がまだ把握する機能が高いと私は思っているんですけれども、裁判所がさらなる精緻な判断をしなきゃいけないというのは、これはすごく酷なことだと思いますよ。これは、ちょっと問題指摘にとどめさせていただきますけれども。

 今、近時のハーグの返還裁判においては、最も精査しなければいけない、最も重要な事実認定が、常居所地であるかどうかなんですね。というのは、三十年前と違って、特に今、若い家族というのは、ある意味非常に海外を移動する、ともすれば複数の拠点を持っているとなると、ではどこが常居所地なのかということをはっきりしなければ、本当に連れ去っているのか連れ去っていないのかがわからない。

 いざ申し立てた側が連れ去ったと言っても、連れ去ったと言われている側は、いやいや、ここが常居所地だもんとなるわけですよね。または、いやいや、どう考えてもこれは不当な連れ去りだといって申し立てたけれども、裁判所も、いやいや、これはやはり違うな、却下と言えば、こっちの側にとっても、今言ったように、連れ去った側も、連れ去ったなんて思ってもいないのに、常居所地がはっきりしないことによって申し立てられちゃうわけですよ。あんた、連れ去りだ、ともすれば誘拐罪だと言われちゃう。今度は、本来なら正当に申し立てていると思っていたら、今言った、常居所地がなかなかしっかりと把握しづらい。今言ったように、何せ条文上も定義がないし、各裁判所に委ねられていることによって却下される。

 ですので、これは確かに我が国だけでは決められないことかもしれませんけれども、せっかく締約国になったわけですから、ハーグ私法会議の中でも、我が国が主導的に、常居所地国なるものの定義づけでありガイドラインをもっともっと厳格化していかないと、今、どんどん国際的に移動している。今、ハーグの返還裁判では、親が移動した程度では常居所地が変わったとは認めませんからね。今、そういうようなかなり融通を持った常居所地の判断。昔は違ったと思いますよ。どこの国に住んでいるかと聞かれれば、大体誰もがわかった。今は、どこに長期住んでいるかということが、なかなかそんなことだけでは判断できなくなってきた今のハーグ条約環境なんですよ。

 この点については、どうしてもこれは条約関係になりますから、外務省、しっかりとその認識を持って、締約国の中で主導的なリーダーシップを発揮していただきたいと思います。

 時間がなくなってきたので、ではもう一点、面会交流権についてお聞きします。

 面会交流権。中央当局の役割は、返還援助と面会交流援助と二つあります、外国と日本とを分ければ全部で四つになりますけれども。その面会交流援助、面会交流について、外務省の概要ペーパーでは、ではその実績はどうかというと、こう書いてありますね。ほぼ全ての事案について仲介の連絡が実現と。

 私、役所の文書にして、ほぼ全てというのは非常に珍しい書きぶりでびっくりしたんですけれども、まず一点目、ほぼ全てというのはどういう意味ですか。

 二点目。面会交流が実現したかどうかの実績を報告しなきゃいけないのに、なぜか、両当事者の仲介を連絡したことの実績、しかも数じゃないですよ、ほぼ全てのという。なぜ、今言った仲介の連絡というものを実績で報告しているのかが二点目。

 三点目。実際には面会交流の申し立てが六十九事案ありました。では、このうち何件、面会交流が実現したんですかというのが三点目。多分答えられないと思いますけれどもね。

 では、包括視点ですけれども、四点目、面会交流たるものの定義は何ですか。

 この四つ、まとめて局長で結構ですけれども、お答えいただけますか。

三好政府参考人 お答え申し上げます。

 条約におけるいわゆる接触の権利に関する規定を踏まえまして、実施法では面会交流の援助の申請の手続などが定められておりますけれども、面会交流の内容についての具体的な定義は条約でも実施法でも定められておりません。これがまず一つでございます。

 その上で、我が国といたしましては、条約の規定を踏まえた実施法の運用上、面会交流とは、子供と離れて暮らしている親が子供と直接会って話をしたり、夏休みなどに一緒に過ごしたり、電話や手紙等の方法で交流することを指すと理解いたしております。実際に、これら各種の方法で親子の交流が行われて、面会交流が実現してきているということでございます。

 他方で、個々の当事者の置かれた状況によっては、当事者の方々が求めている面会交流のあり方あるいは頻度というのは変化し得るものですから、実施法に基づく面会交流援助決定が有効である限り、申請者の要望に応じて、継続的な面会交流の実現のための援助を続けることといたしております。

黒岩委員 そうなんですよ。今、苦しいながらも、外務省なりの一般的な面会交流の、ある意味、定義というよりは認識をお示しになったけれども、では、その認識に沿うか沿わないかで六十九事案中何件かと答えられないわけですよね。ですから、ほぼ全てのという言葉を使わざるを得ないし、実際、報告書では、一部を除き多くのとか、こういう表現しか使えないわけですよね。それはやはり面会交流の定義がないからですよ。面会交流で、月に二回会ったら面会交流が実現といったことは難しいんですよね。というのは、今局長がおっしゃったとおり、その当事者によって面会交流のあり方というのは主観的な部分が入ります。

 ですから、私の提案とすれば、せめて、両当事者がこういう形を面会交流にする。それはわかりません、半年に一回の手紙というのかもしれません、月に二回、土曜日の午後に会うということかもしれません。ただ、今言ったように、両当事者の合意に基づいた面会交流、こういう概念を用いれば、それが実現したかどうかということを、これからの、附帯決議による年一回の国会報告に盛り込めるわけですよ。それを盛り込んでいただかないと、我々も、どのように進んでいるかが、この後、検証したり精査できないわけですから。

 今、私は一つの提案をいたしましたけれども、それが可能ならば、そういった一つの当てはめというものをしていただきたい。よろしくお願いいたします。副大臣、リーダーシップでよろしくお願いしますね。

 もう最後になりました。

 我が国が締約して、今現在九十三カ国。ただやはり、いまだに締約国のほとんどが欧州そして北中南米の国なんですよね。そして、アジアの国というのは非常に少ない。我が国を入れても六カ国・地域。地域というのは、中国本土を除く香港、マカオを入れて六カ国・地域ということで、地政学的にも我が国と大変近いアジア、中国とかフィリピンとかインドネシアとかが加盟していないということによって、やはりこれは当然不都合も感じているでしょうから、ぜひ、我が国も締約したわけですから、他のアジアの国にもこの加盟を広げていく。多分、その御意思はおありだと思いますし、その御意思と、また、それに対する今後の方策というものを最後にお聞かせいただけますでしょうか。

中山副大臣 我が国としましては、日本人の国際結婚の相手方として上位に上っております、今先生御指摘のアジアの国々との間においては、子の連れ去り等をめぐる問題が生ずる可能性が潜在的に高いと考えてございます。

 このため、我が国は、ハーグ国際私法会議事務局主催のアジア太平洋地域の締約国及び非締約国による国際会議の場や二国間協議の場を活用させていただいて、アジアの非締約国に対して、我が国の条約加盟に至るまでの国内法整備等の経験や加盟後の経験を共有するとともに、先方からの照会事項に積極的に応じることによって、これらの国のハーグ条約加盟に向けた取り組み支援を行ってきておりますし、これからもしっかりと取り組んでまいりたいというふうに思います。

 ベストプラクティスのこういったお互いの情報共有を継続し、これらの国に対してハーグ条約加盟の重要性を積極的に訴えてまいりたいと思います。

黒岩委員 中山副大臣、その姿勢を推し進めていただきたいということと、最後にお願いします。冒頭申し上げた、このハーグ条約の最大の眼目は子の利益の保護、そしてそこに符合する親の権利の保障でありますので、このことを念頭に置いて、しっかりとした運用、実施を強く強く求めまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、鈴木貴子君。

鈴木(貴)委員 皆様、おはようございます。

 きょうも、一般質疑を始めさせていただきたいと思います。

 きょうは、まず、主に三つ項目を用意させていただきました。一つが、法務省サーバーへの不正アクセスに係る件。そしてもう一つ、これは大変重い話かとは思いますが、死刑制度に係る質疑。そしてまた、成年後見制度。大きく分けてこの三つのテーマについて質問をさせていただきます。

 まず、法務省サーバーへの不正アクセスの件なんですけれども、本委員会におきましても、七月三日、民主党山尾志桜里委員がこの件について説明を求めさせていただいております。不正アクセス、去年の九月、そしてまた本年六月にもこういったことが起こったんですけれども、原因究明をもちろんしていくというふうに、法務省の方からもプレスリリース、発表もなされているところであります。

 しかしながら、その七月三日の質疑の答弁の中でも、政府参考人から、「原因というと、正確に言えば、誰がいつどのような態様の行為を行って、どういう結果が生じたといういわば事案の全容は解明されておりません。」と。つまりは、いまだこの案件に関しては原因の特定がなされていないということを明確に答弁いただいたわけであります。

 きょうはもう八月の二十八日であります。去年の九月に起こったサーバーへの不正アクセスから考えると、もうほぼほぼ一年が経過していると言ってもいいわけでありますが、ここで、改めて、原因究明の進捗状況、そしてまた同時に情報漏えいの有無についてもあわせて答弁を願います。

高嶋政府参考人 お答えいたします。

 まず、昨年九月の事案は、法務局の通信ネットワークシステムに属する端末が外部と不審な通信をしていた、このシステムに属するサーバーに外部から不正アクセスがあった、こういう事案でした。

 それから、委員御指摘のとおり、ことし六月の事案、これは法務局ではありませんで、それとは独立しております法務本省内のLANシステムに属している端末について、六月十七日に不審な通信先への通信が試行されていた、結局は未遂に終わっているわけですけれども、これが判明しまして、二十四日に、端末につき、これは不正なプログラムによるものだということがわかった、こういうものでございました。

 それで、先ほど御指摘がありましたとおり、調査は、昨年九月のものにつきましてはその直後から、それからことし六月のものについてもその直後からずっと調査をしているところでございます。

 七月の段階でもなお調査を継続中ということでございましたが、昨年九月の案件につきましては、民間のデジタル・フォレンジックの専門業者に依頼して調査をやりまして、報告書は受領している段階でございます。ただ、法務省内での調査といいますのは、今後、このような同種事案が生じないよう、あるいは生じたとしても外部にデータが出ていったりしないよう、そういう対策を含めて、今いろいろ検討、調査しているところでございます。

 それから、六月の部分につきましては、実は、これも民間のデジタル・フォレンジックの専門業者に調査を依頼しているのでありますが、これについてはまだ調査が終了しておりません。

 したがいまして、現状については七月の段階と同じなのでありますが、いずれの事案につきましても、警察にも連絡しまして、捜査も並行して行っている、こういう段階にございます。

 進捗状況という御質問でございますが、まだなおそういう調査段階でございまして、捜査も並行して行っているということでございますので、この段階で、中身ももちろんですが、進捗状況も含めてお話しすることになりますと、さらに、この情報を悪用する、そういう者が出てくる可能性等もございまして、この委員会での答弁は差し控えさせていただければと承知しています。

 なお、いずれのネットワークにしましても、法務省それから法務省に関係する全てのネットワークについては、ウエブ閲覧は現在も停止中でございまして、できないような状態になっておりまして、それで我々としても非常に業務に支障が生じているのでありますが、できる限り早く調査を終えた上で再開したいというふうには考えておりますが、なおまだ進行中ということで御理解いただければと思います。

 以上です。(鈴木(貴)委員「情報漏えいの有無」と呼ぶ)失礼しました。

 情報漏えいでございますが、昨年九月の事案につきましては、不正アクセス、情報流出の有無等につき調査をしておりますが、現段階までのところで情報漏えいは確認されておりません。

 それから、六月の事案といいますのは、これは外部とアクセスしようとしたが失敗に終わった、これは法務省内のセキュリティーにひっかかりまして通信が遮断されておりますので、ここからの情報漏えいはございません。ただ、それ以外にもあるのではないかという観点から徹底した調査を行っているところでございます。

 以上でございます。

鈴木(貴)委員 民間の専門事業者にもお願いをして調査をされているということなんですけれども、調査をされている、そしてまた警察の方にも届けを出している、今後の対応も考えている、これは至極真っ当といいますか、当たり前のことだと思うんですね。重要なのは、調査を依頼しただけでなく、なぜこういったことが起こったのかというところまで、しっかりとした文字どおり原因の究明に徹しない限り、今後ももしかしたら同じような、未然に防ぐという観点からも、しっかりとした原因の調査というものが求められていると思います。

 特に、きのう、参議院の委員会でもマイナンバーの法案が委員会を通ったわけであり、報道機関などでも成立かといろいろ言われておりますが、まさに今、情報化社会であります。そして、山尾委員も七月三日の質疑の中でも指摘をされておりましたけれども、やはり法務省、特に人権にかかわってくる、非常にプライバシーにかかわってくる、尊厳にかかわってくる、そういったことを扱っているところという特殊性も鑑みて、しっかりと、調査だけでなくて、調査をしているという報告ではなくて、調査の中身についての報告というものが求められていると思うんです。

 その七月三日の際に山尾委員が理事懇にしっかりとした情報を出してくれということを求められまして、しかしながら、理事懇でも結局、目下調査中ですということで、中身、根本についての説明というものが特段なかったというふうに私も把握をしております。

 ここで、委員長に改めて協議もお願いをさせていただきたいと思うんですが、まず法務大臣に、所管の大臣として、そしてまた政府、閣僚の一員として、この不正アクセスの問題といいますか、この対応のあり方について、ぜひとも、今後の対応の重要性も含めて、大臣の御見解を一言いただきたいと思います。

上川国務大臣 今回の不正アクセスの事案でございますけれども、二つ、昨年九月の事案ということと、そして本年六月の事案ということで、ただいま御説明をしたとおりでございますけれども、いずれにしても、法務局の情報の一部が外部に送信された可能性が生じた、可能性として生じたということについては、これは非常に重大な問題であるというふうに考えているところでございます。

 また、いずれの事案につきましても、先ほど説明したとおり、現時点におきましては情報流出の事実は確認されていないということでございますけれども、なお内閣官房の内閣サイバーセキュリティセンター、NISC等の関係機関の協力を得ながら徹底した調査を重ねているということでございまして、その結果を踏まえまして適切に対応をしてまいりたいというふうに思っております。

 原因究明、さらにそれに対しての対応ということについては、万全を期すべく、調査、そしてその上での対策ということについてはしっかりと取り組んでまいりたいというふうに考えております。

鈴木(貴)委員 先ほど官房審議官の答弁の中で、民間事業者による報告は受けている、報告書というものは出てきたという答弁をいただいたと思うんですけれども、これについて、今この場で、その内容といいますか、説明をいただけますでしょうか。

高嶋政府参考人 お答えいたします。

 昨年九月の分につきましては、先ほど御説明申し上げましたとおり、報告書は既に受領済みでございます。ただ、今後、同種の事態が発生しないようにどういう対策を講ずるべきかということで、その点を含めて、鋭意、調査検討を継続しているところでございます。

 最終的な対策というものをまだとっていない段階で公にすると、さまざまな点で先ほども申し上げたような差し支えが生ずるところがございますので、現段階での提供、その内容をつまびらかにすることにつきましては御容赦願えればというふうに思っています。いずれ、この結果につきましては御報告できる段階になるというふうに承知しております。

鈴木(貴)委員 全てつまびらかにというのは確かに難しい、さまざまな事情から、この問題の特殊性から鑑みても難しいと思うんですけれども、しかしながら、内容がわからない限り、どういった対応をとっていくべきか、そしてまた我々も知る権利、また国民の皆さんに対してしっかりとした情報を提供していく責務を抱えている者としても議論をしなくてはいけない。

 そういった上でも、委員長、ぜひ、民間事業者から出てきたこの報告書の取り扱いについて、理事会でこの扱いについてだけでもまず協議をしていただきたいと思うんですが、いかがですか。

奥野委員長 理事会で検討させてもらいます。

 しかし、少しのろいね。いつごろまでにやるかぐらいは少し言ったらどうですか。

 高嶋審議官。

高嶋政府参考人 お答えいたします。

 確かに、昨年九月からもうすぐ一年たとうとしている、そういう時期でありますし、かつ、法務省それから法務局の職員自身も非常に業務に差し支えているということでストレスがたまってくる、そういう状況でございます。情報収集等、非常に差し支えが生じております、そういうことになっております。

 したがいまして、できるだけ早くやらなくちゃいけないという意識は十分ございますので、もう少し、ただ、具体的な時期についてこの場で明らかにすることについては御容赦いただければと思います。我々も、ただ何もせずに傍観しているわけではなくて、できるだけ早く再開したい、ネットにつないで情報収集等、業務に使うことを再開したいというふうに考えております。その点、御理解いただければと思っています。

奥野委員長 いずれにしろ、理事会で検討しましょう。

鈴木(貴)委員 理事会で協議をしていただけるということと、あと、今委員長の方から、遠慮がちな、そして気の小さい私をフォローしていただく温かい御提言もいただきましたことにも、この場をかりて感謝を申し上げさせていただきます。もっと積極的に私も頑張らないといけないなと改めて意を強くしております。

 そして、一点だけ今答弁の中で気になったのは、業務に支障があるから原因究明に取り組みますではなくて、人権に、まさにプライバシーに関する、人生に関する、本当であれば家族であっても誰にも出したくないというようなことを相談している、そういった情報も含まれているというところが問題なわけであって、皆さんがネット閲覧できないから、いや、僕たちも早く原因究明したいんですというのではおかしいし、逆に言えば、今の答弁を聞いて、やはりしっかりと理事会の方でもこの資料の、そしてまた今後の議論のあり方についても協議をしていただかなくてはいけないな、このように一言申し添えさせていただきたいと思います。

 そして続いて、死刑制度について質疑をさせていただきたいと思います。

 私は、今回の質疑の中で、是非を問う、もしくは、大臣に、死刑制度、いいですか、悪いですか、そういった議論をしようという趣旨ではありません。

 しかしながら、死刑制度、極刑でありますし、個人の信条であったり思想であったり、これまでのバックグラウンドに鑑みていろいろな考え方がある。ゆえに、しっかりとした基礎知識、死刑制度もしくは死刑というものに対しての基礎知識、こういったものも全体で共有をしていく、特に裁判員裁判が導入されて、国民への情報提供であるだとか啓発、啓蒙活動というものも一段と重要視されている中で、私は、まずそういった根本的なところから皆さんと共有させていただきたい、このような思いで質問をさせていただきたいと思います。

 まず、大臣にお尋ねをします。

 死刑というのは極刑、刑罰なんですけれども、死刑を設けているそもそもの、期待しているという言葉が適切かわからないですけれども、目的、意義というものは何か、教えてください。

上川国務大臣 我が国の刑罰の目的、意義ということでございますけれども、さまざまな考え方があるわけでございます。

 一般に申し上げますと、応報、すなわち犯罪を行ったことに対する報いとして科すものであるとの考え方でありますとか、犯罪を予防するために科すものであるとの考え方があるものと承知をしているところでございます。

 そして、犯罪の予防と言われる中には、犯人に刑罰を科すことによる威嚇力によって、犯人以外の一般人の将来における犯罪を予防しようとする一般予防、さらに、その犯人自身が将来再び犯罪に陥ることを予防しようとする特別予防が含まれているものというふうに承知をしているところでございます。

 刑罰の一種であります死刑につきましても、基本的には同様な考え方であるというふうに考えております。

鈴木(貴)委員 今、いわゆる応報刑、教育刑という観点、そして一般、特別予防、るる説明をいただきました。

 それぞれの方がそれぞれのお考え、死刑制度というものに対して考えを持っていただきたいというのが私の思いなんです。生まれたときから日本に死刑制度がある、だから死刑をずっと続けていくべきなんだといった価値観というか考え方ではなくて、それぞれ、一人一人、個別で全然いいと私は思うんです、十人いれば十人十色の考えでいいけれども、やはり何らかの考え方を持ってこの制度を直視してもらいたい、このように思っているんです。

 ここで次の質問なんですけれども、今現在、日本においては死刑制度があるわけでありますが、死刑制度が今もなお、例えば国際社会においてもいろいろ議論があります、国連拷問禁止委員会の方も日本政府に対して申し入れといいますかがあった中でも、いまだに続いている。

 死刑制度というものが続いていることを支えている背景、いろいろあると思うんですけれども、ぜひとも示していただけますでしょうか。

林政府参考人 基本的に、死刑制度というものが現在維持されているわけでございますけれども、これにつきましては、一つには、死刑に相当するような凶悪犯罪というものが後を絶たないということ、さらには、それに対して、国民においてやはり死刑制度の維持というものを支持する意見が非常に大きいものに至っているということ、こういったことが死刑制度が維持されている理由であろうかと思います。

鈴木(貴)委員 今、局長の答弁にもあったように、日本国内においては、国民世論の支持、圧倒的支持のもと継続されているという見方そしてまた議論が多いんですけれども、大体五年置きぐらいに、死刑制度に関する世論調査というものがされております。そして、本年の一月に最新の世論調査が公表されたわけなんですけれども、今回の結果も、これまでもずっと、支持、死刑制度を望むというか賛成側の意見が約八割ほどと言われています。片や、廃止すべきだというのは一桁台だ、七%ほどとも言われています。

 そこで、私はその世論調査を見ていたんですけれども、一つ気になったのは設問のあり方なんです。

 実は、私、去年も超党派の先生で、死刑制度の世論調査の設問のあり方、これはもうちょっと専門家の意見も取り入れてバイアスのかからない問いをつくるべきだということで、当時の谷垣法務大臣の方に申し入れもさせていただきまして、実は、ことし一月に発表された今回の世論調査から若干設問が変わって、私どもの思いが届いたというふうに思っているんです。

 しかしながら、それでも理解できないというか理解に苦しむのが、問いなんですけれども、選択肢が三つあります。一つが「死刑は廃止すべきである」、「死刑もやむを得ない」、三つ目が「わからない・一概に言えない」なんです。これは、耳で聞くと、イエス・オア・ノーもしくはわからないということなのかなと思われるかもしれないんですけれども、「死刑は廃止すべきである」と断言的な、積極的な廃止すべき、片や、残置の方に関しては「死刑もやむを得ない」、積極的に肯定をしているのではなくて、容認なんですよ。

 普通、アンケートといえば、好きですか、嫌いですか、簡単に言えば反対語で聞くんだと思うんです。というのであれば、廃止の反対語は何かなと思って私も辞書を開いてみたら、廃止の反対というのは存置だそうなんですよ。もちろん、やむを得ないというのが廃止の反対語ではないということだけは皆さんおわかりだと思うんです。

 世論調査をとる、国民の皆さんが本当に何を考えているのか、公正公平な意見を聞きたいんだという趣旨でこの調査は行われていると私は思うんですが、廃止すべきである、死刑もやむを得ない、これは誘導尋問ととられてもおかしくないのではないか。この点について、上川法務大臣、御所見のほどを伺わせてください。

上川国務大臣 死刑制度に関する国民の意識を調べる世論調査、これは、トレンドというか動向を把握する上で大変大事な、基礎調査に近い大きな調査であるというふうに私は理解しております。

 その際、その選択肢の文言等をめぐってそうした御指摘があった上で、改めて死刑制度に関する世論調査についての検討会というのが開催をされまして、そして専門家の方々が、選択肢、設問の仕方でありますとか、あるいはその理由でありますとするならばその文言の書き方ということについて検討をした上で、結果として今のような選択肢になったというふうに理解をしております。

 委員御指摘のように、絶対的に支持とかあるいは絶対的に反対というような形の、スコアリングのような形でするケースというのはほかの調査でもあるわけでありますけれども、問題のテーマ、趣旨に鑑みまして、検討会において十分なる御議論をしていただいた上で、専門家の皆さんの御判断という形の中で今回の選択肢が決定されたというふうに理解をしております。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

鈴木(貴)委員 いろいろ質問、聞きたいことがたくさん出てきて、まず、死刑の在り方についての勉強会というものが、平成二十二年八月六日に第一回目がスタートしたわけなんですね。これは法務省のホームページでも皆さんごらんになることができるんですけれども、そこで添付資料というものも一緒に掲載されておりました。

 私、その資料を読んでいたら、資料四、タイトルが「死刑制度の存廃に関する主な論拠」と書かれているんです。だから、やはり、この在り方勉強会でも「存廃」と書いているということは、廃止の反対は存置なんですよ。やむを得ないというのは、死刑制度に対しての国民の考えを如実にデータで引き出すために本当に正しい、あるべき設問のあり方なのかということを、私は本当に疑念を感じているんですね。

 今、大臣の御答弁を聞きながら、改めて伺いたいんですが、今回の死刑制度の是非というか国民の意識調査、世論調査が行われているそもそもの目的、趣旨を改めて伺いたいと思います。

上川国務大臣 我が国の刑罰の中でも極刑ということで、死刑という刑罰につきまして、この制度に関して、長期間にわたりまして、なおかつ継続して国民の皆さんの意識のトレンド、動向を把握する、こういう趣旨で昭和三十一年から行われてきておりまして、十回にわたりまして実施をされてきているわけでございます。

 前回は平成二十一年の調査でありましたので、その後五年ということでありまして、内外におきまして、先ほど委員の御指摘のとおり、さまざまな死刑制度の存廃に関しましての高い関心が寄せられているということでございますので、引き続き、死刑制度に関する最近の国民の意識を把握するために実施したものというふうに理解をしているところでございます。

 なお、基本的法制度に関する世論調査ということでございますが、これにつきましては、平成二十一年につきましては、三千人規模の調査を実施してきたというところでございます。そして、平成二十六年についても、同じ規模の調査を実施しているところでございます。

鈴木(貴)委員 今御答弁いただいたんですけれども、時系列で何年に行われている、これまで何回行われているということを伺いたかったのではなくて、目的なんですね。

 先ほどちらっと答弁の中で触れられていたのは、まさに客観的な立場で国民の意識を伺うというか見るものだと。というのであれば、やはりこの問題も、私は、死刑制度を廃止すべきであるの次は、死刑制度を存置すべきである、もしくは存続させるべきであるというふうにそろえるのが妥当だと思うんです。でなければ、今大臣が御答弁いただいたように、大臣がお考えといいますか、政府としての考えである目的に沿っていないということにつながると思うんです。となれば、今の目的説明を撤回し、新しい目的をここで確立していただくか、もしくはこの設問のあり方を見直すという答弁をいただかないといけないと思うんです。

 改めて大臣に伺わせていただきます。

 国民の死刑制度に対する考え方を聞くという目的に鑑みて設問のあり方を見直すべきだと思うんですが、大臣、どのようにお考えでしょうか。

林政府参考人 この設問のあり方については、一つには、先ほど言われたように、余分なバイアスがかかったりしないようにするということなどの指摘がされてきまして、その都度、専門家、今回も専門家の検討会を開きまして、議論していただいたところでございます。

 その上で、現在制度として存在している死刑について、死刑が適用されるというのは非常に限られた凶悪犯罪でございます。そういったものについてやむを得ないというような判断で死刑の選択をするという制度が今存在するわけでございまして、それについて、これを廃止すべきであるかどうか、しかし死刑というものは存続するのはやむを得ないと考えるのか、あるいはわからないというのか、こういった三つの選択肢というものでこれまでも制度についての設問をしてまいりました。

 このことを今回さらにもう一度検討し直してみて、これが一方方向に誘導するような内容であるのかどうかということも含めて専門家の意見を聞きまして、そういうことにはならないということの御意見で今回の設問がなされております。専門家の意見を聞いて、委員も御指摘のあったように表現を変えた部分も一部ございますけれども、基本的には、これまでの設問の大きな枠というものは維持されたものでございます。

 これについては、長期的に継続的な意見を分析するためには、やはり設問自体が大きく変わってしまうということもさまざまな意識を正確に把握するには逆の方向に働いてしまいますので、そのことも意識されたものだと考えております。

鈴木(貴)委員 刑事局長が御答弁いただいた前段の方なんですけれども、今現在死刑制度がある、かつ死刑というのは非常に希有な例だ、ゆえにやむを得ないと。ならば、まず問い一で端的に存置するか廃止するかと聞いて、その後に、例えば、存置する、継続を求めるという人にサブクエスチョンのような形で、その中で、心の置きどころというか、例えばやむを得ないという判断なのか、もしくは積極的に継続を求めているのかというふうにスケール的な質問を、次にその問いを置いた方がより具体的な、より細かい、公正公平なデータ、統計がとれるものと私は思うんです。

 世論を誘導してしまっては、まさに我々も立法府の立場としても、そしてまた国民の代表である我々がこの資料を読んだときに、本当に国民の意向を反映できるかということにつながってきてしまうんです。

 この世論の誘導というのは非常に危ない要素があると私は思うんですが、例えば、この後、死刑廃止派の理由で、今回の最新の世論調査の結果でも、四六・六%、最多の理由だったのが「裁判に誤りがあったとき、死刑にしてしまうと取り返しがつかない」という理由だったんです。次いで、四一・六%が「生かしておいて罪の償いをさせた方がよい」。これは、両方とも客観的な見方による意見だと思うんですね。冤罪が、特に近年でいえば、袴田さんの問題もあったり、東電OL事件だとか、この間の刑訴法でこの冤罪問題についてはるる議論もしてまいりました。

 一方で、死刑というものが、先ほども犯罪の抑止に資するという理由も背景にあると述べられたんですけれども、では、具体的に、死刑制度があるがゆえに犯罪が抑止されている、予防されている、未然に防がれているという具体的な根拠、データというものはどこから引っ張ってこられたんでしょうか。

林政府参考人 死刑の犯罪抑止力というものは、時に問われておるわけでございます。それに対して具体的なデータとしての提示をさせていただいたことはございません。

 他方で、やはり一般に刑罰は犯罪に対する抑止力を有するものと認識されているわけでございまして、やはり今回の世論調査におきましても、国民の意識としましては、死刑がなくなった場合、凶悪犯罪がふえるという意見があるけれども、あなたはどのようにお考えになりますかという質問に対しては、ふえるという回答をした者が過半数を占めているということになりますと、やはり死刑が犯罪に対する抑止力を有するということは、国民にとっては認識されていると考えられております。この認識されているということが一つの抑止力につながるというのが、まず一点でございます。

 もう一つは、さらに長期的に見た場合、死刑制度の存在というものが国民の規範意識の維持に有用であるということもこれは否定しがたいものでございまして、これは、死刑制度というものが凶悪犯罪の抑止のために一定の効果を有しているものと理解できるところでございます。

鈴木(貴)委員 今、林刑事局長、統計的もしくは科学的な数値であるとかデータをもってして、死刑制度というものが犯罪抑止につながっているという具体的根拠は挙げられないという御答弁をいただきました。これは、今の局長答弁も、そして過去の政府答弁なども、私も、やりとり、議事録などを見たんですけれども、皆さんそろいもそろって同じように答えていらっしゃるんですね。

 また、ここで問題だと思うのが、世論調査でも、死刑制度が犯罪抑止に資すると思うかという問いを投げかけて、しかも具体的にそれは根拠がないのにですよ、どう思うかと投げかけて、世論はあるんじゃないかと思うと。これは、積極的にあると思うという回答もそうですし、どちらかといえばという容認的な数も踏まえて、そうなれば、もちろん過半数行くんですよ。抑止につながるんじゃないか、もしくは、つながってほしいという期待値も入っているんです。

 事実に即した情報でない、具体的な根拠がないにもかかわらず、まず設問に持ってくるというのはいかがなものなんでしょうか。この点について、まず端的に一言、答弁を求めます。

林政府参考人 世論調査自体は、抑止力があるかないかということを念頭に置いて設問をつくっているわけではございません。さまざまな角度から国民の意識を知るということで結果があらわれているわけでございます。

 それで、先ほど、世論調査において、死刑がなくなった場合、凶悪な犯罪がふえるという意見がありますが、あなたはどのようにお考えになりますかという質問に対して、ふえると回答した者が過半数を占めているということを指摘させていただいたのは、その前提として、一般に、刑罰というものに対しては、威嚇力によって犯罪に対する抑止力があるんだということを考えております。それが一つの一般予防効果というものでございます。

 そのときに、世論調査の結果、死刑制度がなくなったって凶悪犯罪がふえるとは国民が全く思わないというようなことがもしデータとしてあるとすれば、そうした場合には、前提となっている、死刑の犯罪に対する抑止力というものが働き得ないような状況がございますので、そういうことではございませんと。世論調査においても過半数はやはり死刑制度がなくなった場合に凶悪犯罪がふえるという意見を持っておりますということを、一つの裏づけ、支えとして申し上げたものでございまして、これがあるから必ず一般予防効果があるということを申し上げているわけではございません。

鈴木(貴)委員 ありがとうございます。

 今のは、逆に、すごく問題じゃないですか。つまり、設問をして調査結果を集める前に、こうなるであろうという考えをまず持っているわけですよね。それもまず私はどうかと思うんですよ。

 一般的に国民が、もちろん刑罰は必要だ、罪を犯した者、犯罪を犯した者、もしくは人の命を奪った者に対して刑罰は必要だ、これは当たり前だと思うんですよ。ただ、死刑というのは、刑罰の中でも極刑なんですよ。国というか権力が、国家が人の命を法的に奪えるというか断ち切るという非常に特異な、特殊な刑なんです。

 なので、林刑事局長が今おっしゃられたように、刑罰に対しての国民の理解がある、これは当たり前なんですよ。ただ、一般刑罰と死刑、極刑を一緒に考えるということは、私はそもそも間違っていると思うんです。

 では、抑止力だというのであれば、抑止につながるという考えから死刑を継続するべきだというのであれば、例えば、近年の凶悪事件だとかといいますと、自暴自棄に陥った人たちが、みずから運転をして、通行人がたくさんいるところだとか通りに突っ込んでいったという事件もありました。もしくは、みずからの命をもってして実行しなければいけないという誤った独特な信念、思想、信条、こういったものが起爆剤となって殺人を犯す人たちというのもいるわけなんです。その方たちにとったら、もし判決で死刑が出たら、逆に痛くもかゆくもないんですよ。抑止に全くつながっていないんですよ。

 そういった事件が実際にあるという点、そしてまた、抑止に対しては科学的データがないという一方で、実際に確定死刑囚が死刑を執行されて、その後に真犯人が出てきたという事例は実際にあった、これが事実なんですよね。東電OLも、あれは無期でしたけれども、袴田さんも検察が即時抗告したのでいまだにまだ死刑囚の立場ではありますが、具体的、科学的な根拠というのであれば、無実の者が死刑囚にされ、中には、これまでの刑事司法の歴史を見れば、無実の者が絞首刑に処せられたという事実があるんです。この矛盾点についてはどのように答弁されますでしょうか。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

奥野委員長 そろそろ時間が来ていますから、なるべく要領よく最後の答えをしてください。

林政府参考人 先ほど申し上げたのは、一般予防効果、抑止力の問題でございまして、今最後に委員が御指摘されたのは、誤判のおそれがある、あるいは冤罪のおそれがある、こういったものについて取り返しのつかない刑であるところの死刑の存在については、これを否定的に捉えられる意見というのは当然ございますので、その間は、特に論理的な関係、矛盾という関係には立たないと考えております。

鈴木(貴)委員 時間が参りましたので、次も引き続きこの件について質問をさせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、重徳和彦君。

重徳委員 重徳和彦です。

 きょうは、政府から提案されている外国人技能実習制度につきまして、まだ法案審議に入っておりませんが、ちょっと予習というぐらいの感じで質問をさせていただきたいと思います。

 まず初めに、大臣に基本的な認識をお聞きしたいんですが、外国人の技能実習生、失踪者が非常にふえているんですね。政府からいただいている資料を拝見しましても、平成二十一年ぐらいはまだ、少ないといっても千人以上はいましたけれども、千人から二千人ぐらいという規模でありましたが、平成二十五年には三千五百六十七人、平成二十六年には四千八百五十一人と、物すごい勢いでふえています。

 この失踪者の数が急増している背景を、大臣、どのように捉えていらっしゃいますでしょうか。

上川国務大臣 研修生及び技能実習生の失踪者につきましては、平成二十二年からの五年間をとってみましても、千二百八十二人から四千八百五十一人ということで、約三・八倍に増加をするということでございまして、近年、この著しい増加につきましては、法務省としても大変重く受けとめているところでございます。

 これまでの調査、数々してきたわけでありますが、失踪の動機などを調査してみますと、多数の者におきまして、技能実習に対してそもそも意欲が大変低いというようなケースもあるということもありますし、また、より高い賃金を求めて失踪しているということなども判明をしているところでございます。

重徳委員 いろいろな動機もあるとは思うんですが、今回法案を用意されているというのも、その原因、要因に対してしかるべき対策を講じるという適切な対応になっているかどうかというところが大事だと思うんです。

 これは想像しただけでもわかるんですが、そして実際聞いてみると、いろいろなケースがあるわけです。

 聞いていた話と労働条件が違っていた。これは、聞き方が悪かったのか、伝え方が悪かったのか、あるいは実際受け入れ企業側がおかしいのか。この原因はいろいろなところにある可能性があります。あるいは、労働法違反ですね、残業代未払いというようなこともあります。これは受け入れ企業側がルール違反を犯しているということだと思います。それから、いろいろなうわさ、情報を聞いて、そういう失踪というか、より高い賃金に、実習先からさらに転じていこうというふうに最初からもしかしたら思っている実習生の方もいるのかもしれない。あるいは、そういうことを誘導しようとしていた送り出し機関があるのかもしれない。さらには、真面目に実習を受けようと思って来たんだけれども、途中で、既に国内に入っている実習生その他の関係者から、もっとおいしい仕事があるぜという話を聞いて、誘惑に駆られて失踪してしまう。

 いろいろなケースがあると思うんですが、役所の方に事前にお聞きしますと、今大臣がおっしゃったような要因、必ずしも数字的にきちんと分析されていないのではないかなと思うんですね。失踪者が三千人、四千人、五千人に届こうとしている。だけれども、その原因というのは必ずしもきちんと数字上分析されていないような感があります。この点も、きちんと数字上も把握する努力をしていかなければならないと思うんです。

 それで、次の質問に入りますが、実習の内容だとか労働条件とか労働の環境というもの、これは、通常の国内の労働者と違って、外国の労働者、外国の方ですから、現地で送り出し機関からどう聞いて、そして受け入れる側の日本の監理団体がどのような対応をして、そして受け入れ企業がどのような対応をして、これはいろいろなところでいろいろな話になっていたりする可能性も非常にあると思うんです。

 実習生自身に対して、いろいろな条件について、いつ、どの段階で、どのように伝える仕組みになっているんでしょうか。

井上政府参考人 お答えいたします。

 技能実習生の受け入れの仕組みといたしましては、実習生の母国の方に送り出し機関というものがございまして、受け入れ側の日本の方に監理団体というものがございまして、この二つの機関が間に入りまして、技能実習を希望する者と受け入れを希望する者との間を取り持っていくわけでございます。

 受け入れの条件、具体的に言いますと、労働条件、作業の内容でございますとか賃金の額、それから割り増し賃金のことでありますとか、あるいは賃金から控除されるもの、税金もございますれば寮費とか食費などもございます。そのようなものにつきましては、現地にいる段階で、日本に来る前の段階で、前もって、母国語によって作成した文書でそういう労働条件を明示して、それを確認の上で合意に至るような仕組みがとられてございます。

 具体的に、今ごく普通に使われております雇用契約書というのがございまして、その雇用契約書が、雇用部分については予約みたいな形になりますけれども、それが、日本に上陸したいという在留の申請をするときの添付書類になります。在留資格認定証明書の申請のときの添付書類を見ますと、今申し上げましたようなさまざまなこと、雇用条件書ということが、母国語と日本語を併記したモデルの書式がございまして、それに署名をもらうというふうな形で確認をとる、その運用が現在では一般的に行われるようになっていると承知しております。

重徳委員 入管局長の御説明によりますと、母国語ですから、母国の送り出し機関が主に御本人との間でやりとりをするということが実習生本人に対してのアプローチだとは思うんです。

 ちょっと確認なんですけれども、どうあれ、こんなはずじゃなかったというか、実習生が、示された契約書とかいろいろな条件で聞いていた話と、実際の受け入れ企業での働き方というのが随分違うなと。それは法規違反の場合もあるかもしれないし、そうじゃなくて、何らかの取り違えとか、いろいろなことがあったかもしれない。何にしても、実習生自身が悪いんだというような場合じゃないケースもあると思うんです。

 その一方で、日本に入ってきてから、仲間から、もっとおいしい仕事があるから失踪してみないかと、どんな言い方をされるのかわかりませんが、そういう誘惑に駆られる、こんなケース。

 一体どういうケースが多いんですかね。もし数字的にわかっているのであれば、その辺を御紹介いただきたいんですが。

井上政府参考人 お答えいたします。

 失踪した技能実習生等につきましては、多くは不法滞在状態になって不法就労をしておりますけれども、摘発をした段階等で、聞き取り調査というものを昨年度あたりからかなりやるようになりました。

 ただ、その聞き取り内容の精緻な分析ということになりますと、ちょっとまだ未熟な点がございまして、数字でばしっとお示しできないのがちょっと歯がゆいところではございますが。

 より高い賃金を求めて失踪するものが比率として圧倒的に高いんですが、その中には、思っているほどもらえなかったという事例と、わかっていたけれども、もっと高いところに行きたくなったという事例と両方あって、だまされたといいましょうか、そういうのが言えない状態で我慢していて失踪する事例、昔からそういうものはちょっとあったと思いますけれども、それに対して、同国人同士のネットワークなんかで、もっといいところがありますよということでそっちに移る事例が多くなってきているという感覚は、現場の方では持っております。

重徳委員 ちょっと分析が不十分だ、未熟であるというふうに局長が今お認めになったとおりで、何か、ちょっとまだ原因というか背景が十分把握できていないんじゃないかという印象が非常に強いです。

 それに対して、今回、法案を出していろいろな制度をつくろうということなんですが、それが果たして的確な対応になっているかどうかということが法案の一つのポイントじゃないかなと思っております。

 それから、次の質問に行きますが、実習生自身がいろいろなお金を、保証金という形で先に払っちゃって、それを取り返すためにもずっと働かなきゃいけないんだとか、あるいは違約金を払わなきゃいけない、だから、そうならないように我慢して働かなきゃいけない。そういういろいろな状況があるという中で、実際には、国内法上の基準省令によりますと、技能実習に関連して、送り出し機関、監理団体、実習実施機関、あっせん機関のいずれからも保証金徴収などが行われていないこと、違約金契約などが締結されていないこと、これが条件になっている。つまり、保証金、違約金の支払いというのは禁止されているんですよね。だけれども、それにもかかわらず、数的にはどのぐらいのシェアかわかりませんが、こういった問題が出ているということがあります。

 この支払い禁止の実効性は、現行においてどの程度あると思っていらっしゃいますか。

 それから、今出されている法案に、相手国との間でも、こういったことのないようにという、そういう取り決めを作成するということなんですが、これからの話もあると思いますが、その辺の御認識をお知らせください。

井上政府参考人 お答え申し上げます。

 現行の法令上の違約金等の取り扱いにつきましては、今委員御指摘のとおりでございまして、そのような約束とか現実の徴収が判明いたした場合には、その技能実習生の上陸は認めないこととしてございます。

 どのようにそれを審査するかといいますと、技能実習生の受け入れをする場合には、在留資格認定証明書というものを前もって申請してもらうわけでございますけれども、その段階の提出書類として、送り出し機関と監理団体との間の契約の書面というものがございます。その中で保証金等の徴収が禁止されているかどうかということがまず一つございます。

 あと、必要に応じまして、実地調査ということで、実習生が入ってきてからでございますけれども、入管が調査に行ったときは技能実習生から直接聴取いたしまして、そのようなことがないかどうかということを確認したりして、そこで判明すればそれは不正行為ということで処分をしていく、それが現状でございます。しかしながら、技能実習生の方でそれを正直に申告しないという事例も想定できるところでございます。

 もう一つ、一番の問題点は、送り出し機関は外国にございますので、入管が出ていって直接調査するということはできませんし、間接的な形での問い合わせ的なものにとどまっており、その意味で、外国の送り出し機関そのものに対する調査で十分な証拠を得るというところにやはり現行法上大きな隘路というか制約があるというふうな認識をしておるところでございます。

 そこで、今回、技能実習制度全般の見直しをするに当たりましては、送り出し国との間で二国間の取り決めを結びまして、その中で、各送り出し国の政府において自国の送り出し機関についてしっかりと監督してもらうような仕組みにしていこうと。つまり、送り出し機関の適格性を審査する仕組みをつくっていただきまして、しっかり審査していただくし、運用されましたら不正があるかどうかを調査していただいて、不正があるようであればしっかり排除してもらう、そのような二国間の取り決めを結んでいくようにしてまいりたいと考えておるところでございます。

 もちろん、国内でできることとして、監理団体でありますとか実習実施者の方に、相手国機関との確認とか実習生本人との確認、そのようなことはきちんとするようにさらに徹底してまいるような仕組みを明確に定めていくようにしたいと考えております。

重徳委員 ありがとうございます。

 これは、私も、恐らくここにいらっしゃる委員の皆さんも、それぞれの御地元で、全国で十七万人もの実習生がおられるわけですから、いろいろな問題、トラブルなどもお耳に入っているんじゃないかなと思っております。

 そういう中には、保証金とか違約金というのは国内法でもきちんと定めている内容でありますが、ちょっとこれはまだ確認できていないので、確認してみなきゃいけないと思っていることなんですけれども、国によっては、政府機関あるいは公的機関が労働者に、手数料という形なのかどういう形かわかりませんが、一定の負担をさせるような仕組みがあるというようなことも聞いております。

 国によっていろいろと制度が異なると思いますので、何にせよ、送り出し機関とか監理団体に対するお金の負担がかかっているんだとしても、最終的には実習生に負担が行くということになりますので、結局、アメリカの国務省の報告書なんかにもありますように、これは事実上の人身売買だとか搾取しているんだとか、そういうような指摘を受けるようなことにもつながりかねません。実際、去年の米国の報告書で指摘を受けているわけですね。

 やはり、国際間で、政府間で、相手の国だからちょっとよくわからないから踏み込めないというような状況は、実際には日本国内での問題に直結しており、また人権問題だというような批判も受けて、結局、日本の国益を損ねるようなことになりかねない、こう思っております。

 今、事務の方にもお願いしておりますが、各国の送り出し機関などに対する金銭面の負担の仕組みというものは、よくよく調べて確認していかないと実効性のある取り決めにならない可能性もありますので、この点、ちょっと私も今後確認していきたい、確認しながらまたこの辺は詰めていきたいなと思っております。

 そして、もう一点、これはよく言われることなんですが、これこそ本質的な話でありますが、この技能実習制度というもの、現場の企業においては、とにかく人手不足だ、できるならばできる限り安い労働力というものが手に入ったらいいな、こういう思いに駆られるのは、ある意味、企業としては当然のことであります。

 そのニーズに対して、あくまで技能実習という制度であるものですから、いわば国際貢献ですね、海外への技能移転ということを目的とする制度というたてつけになっているものですから、どうしてもギャップがあるんですね。ジレンマの中でこの制度は運用されてきた。ここまでは、多くの皆さん、ある意味しようがないかな、しようがないけれどもこういう制度なんだという面もあると思うんです。

 ただ、今回、やはり一部の不正な、非常に劣悪な労働環境に置かれているような実習生がいる、こういう問題に対応するためにさまざまな義務づけというものをしようということになっているんですが、これは本当に、何でしょうね、役所がやるからしようがないのか、日本は特にそうなのかわかりませんが、何か悪平等というか、悪い方に合わせていろいろな書類の提出だとかいうことを求める。ですから、本当に真面目に、しかも規模だって小さい監理団体も多いです、受け入れ企業だって小さなところも多い、そういうところにも、悪い、ひどいところと同じような余計な手間やコストをかけるような仕組みになりかねないと思うんです。

 まず、今回の法案の中身の説明を含めてですけれども、こういったギャップ、そして本来の技能実習としての運用がなされていないことに対してどのような対応をされようとしているのか、この点について御答弁願います。

井上政府参考人 お答え申し上げます。

 技能実習制度は、委員御指摘のとおり、技能等の開発途上国への移転を図ることによって経済発展を担う人づくりに協力することを目的とする制度であるということで、我が国の技能移転を通じた国際貢献ということで重要な意義を有しているものでございますので、この制度を安価な労働力の確保策として使うものは、それは制度の趣旨に沿った運用とは言いがたいものでございます。

 実際、この制度につきましては、送り出し国や実習生本人から、その国の人材育成に貢献しているとの評価も高いものでございますので、制度の趣旨に沿って適切に運用されれば、これは国際貢献としての意義が大いに認められるものでありますから、運用が趣旨と乖離しないような適正化策を講じることが重要でありまして、その上で制度を積極的に使っていくことが望ましいとの考えを政府として持っているところでございます。

 そこで、制度の趣旨を徹底するために、今回法案を提出させていただいておりますが、その中では、新たに技能実習計画というものの認定制という制度を設ける、また監理団体については許可制にする、そして制度を管理運用する機関として外国人技能実習機構というものを設立する、さらには技能実習生保護のための罰則の整備その他の保護の措置も充実させる、そのような適正化策を盛り込んだ法案を提出させていただいているところでございます。

 法務省といたしましては、厚生労働省その他関係機関と連携いたしまして、この法案に基づく適正化策を充実させまして、開発途上国等に対する技能等の移転による国際貢献という制度本来の趣旨に沿った適正な運用を確保してまいりたいと考えております。

重徳委員 認定制度、許可制度、そして技能実習を一定程度済ませたら試験をするというさまざまな仕組みが課されることになるんですが、繰り返しになりますが、不適正な運用をしている団体、企業に対してはそれは必要なことなのであろうと思うんですが、そうでないところに対しまして、ちゃんとやっているところに対して余計な負担というふうにとられるわけでありまして、これは本当に誰のためにもなっていないと言うと言い過ぎかもしれませんが、平等といいながら、頑張っているところがもうやれなくなってしまうようなことにもなりかねないと思うんです。

 一部優良な団体に対する取り扱いなんかも、受け入れ期間を延ばすとか、受け入れ数をふやしていいよというインセンティブのようなことも仕掛けとしてあるようですが、そもそも、優良な団体は、これまでどおりでいいよというか、そのままやってくださいというような、団体そのものに対する認定の仕方というような考え方もあるのではないか。

 あるいは、技能実習生も単なる安価な単純労働者では本来ないわけなんですが、それでもやはり能力や質の高い人材であれば、企業なら、当たり前ですけれども、そういう人だったらできるだけ長くいてほしいし、もっと人材育成の投資というものもして育てていきたいと。だけれども、どうしても三年だ五年だというところが限度になっているから、肝心の人材育成というところにも力が注がれないというような、これもジレンマがあると思います。

 一方、政府は、高度人材であれば、本当の学術上の、学歴上の高度人材であれば労働力として受け入れるというような制度もあるんですが、本当に地元の企業のニーズに合って、しかもこの人ならというような人であっても一律に送り返さなきゃいけないというような、そこもギャップになっていると思うんですね。

 ですから、最後にお尋ねしますが、優良な団体、あるいは特別に認められた、十七万人いる中でもこの人ならというような人はちょっと別な扱いをするとか、そういった少しずつの地道な取り組みというものが本当の意味での国際間の理解にもつながっていく、そして現場のニーズにも応えていくことができると思うんです。

 ちょっと大きな質問になってしまっていますが、この点について、現状でお答えになれることがあればお答えいただきたいと思います。

井上政府参考人 お答えいたします。

 優良な団体あるいは優秀な実習生に対する優遇措置といいましょうか、それにつきましては、今回の法案の中で、新たに三号の実習というもの、今までの三年にプラス二年をするというところにつきまして、まず一つ、そういう形があらわれていると思います。

 すなわち、実習期間を二年間延ばせる、三号に行けるのは、優良な要件を満たしました監理団体が、優良な要件を満たしました実習実施者のもとで、さらに試験に合格して技能が確認された優秀な実習生についてだけできるということで、要するに、ちゃんとやって技能がちゃんと習得される、きちんと技能の移転のためにやっている、そういう適正にやっているところに集約されていくような一つの仕組みとして構築しているところでございます。

 ただ、委員御指摘のように、では、その五年を終わった後で帰らないようにするのはどうかということになりますと、まず、この技能実習制度は、最初に申し上げました目的から、技能の移転による国際貢献でございますので、一旦は御帰国いただいて国で活躍していただくということが前提の制度でございますので、本制度の中においてそれ以上のことをすることには限界がございます。

 あとは、労働者の受け入れの全体のあり方についての御議論と関連してくると思いますが、その点につきまして、我が国政府の基本的な受け入れのスタンスは、専門的、技術的分野は積極的であります。分野につきましても、今回、入管法の改正法案で御提案申し上げていますけれども、介護福祉士の資格を取った人については新たな在留資格を設けようということで、専門的、技術的分野を少し枠を広げるようなこともしてございますが、さらに、そのほかのところをどうするかにつきましては、政府全体でこれから検討していくべきことでございまして、ただ、法務省が非常に密接な関連を持ってございますので、積極的にその検討に参画してまいりたいと考えております。

重徳委員 終わりますけれども、ちょっと言い方は悪いですが、しゃくし定規な制度になっていることが原因となって、最初に申し上げました失踪者をふやすような結果にも結びついていると思うんです。本当に現場のニーズに合った制度になっていきますように、私どもとしてもさまざまな提案をさせていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。

 きょうは再犯防止について伺いたいのですが、その前に、三浦刑事局長にきょうも来ていただいております。再度、通信傍受の件をちょっとだけ伺いたいと思います。一般質疑ですので、お許しいただきまして。

 前回の委員会の続きなんですけれども、私は、通信傍受、開発される機械が立会人の機能を万全に果たしている、そういう大前提があるという答弁は理解をした上で、それでも、機械というものは人が使うものだ、人によるチェック、立ち会いが大事ではないかと。

 それに対して、「御指摘をいただきましたように、通信傍受の開始前あるいは実施期間中、特に実施期間中が重要だということかと思いますけれども、また終了後の各段階において、例えば、スポット傍受の実施状況の確認でありますとか、あるいは傍受記録の作成などを含む法令手続面に関する指導、」などを考えているところでありますということで、実施期間中の指導というものの重要性は一定程度お認めいただいたのかなと思います。

 終了後のことについても、スポット傍受の実施状況の確認、そういうようなこともお話があったんですが、これは、確認してみて、いやこれはまずいだろうとなったら、それを廃棄したりやり直したり、そういうことというのは何か可能なんですか。何か、機械が自動的に暗号化されるすばらしい機械であると。その場で通信傍受が終了した段階でのチェックというものが現実的に可能かどうかを教えてください。

三浦政府参考人 傍受の実施が終了してしまいますと、これは、もう決して改変することのできない原記録として残されるということになるわけでありますので、やり直しをするとかそういったことはもはやできない。傍受あるいは一時的保存の場合の再生につきましても、それができるのは一回限りでございますので、それを後からやり直すといったことはできないというように認識をしております。

 そもそも、スポット傍受を行います際には、最初に時間などをきちんと設定して、そして、それは機械的に、一定の時間が経過をすれば自動的に音声はストップする、こうした機能を備えておりますので、それが不適正に行われるといったことはちょっと通常想定しにくいわけであります。あとは、傍受記録作成の際に、犯罪関連性の通信でありますとかそういったものをきちんと選び出して最終的に傍受記録を作成する、そうした過程などが的確に行われているか、そうした確認などを行うといったことが今のところ想定されるところでございます。

井出委員 そうしますと、通信傍受が終わった段階で、傍受したものについてはやはりいかなる優秀な指導官であっても手はつけられない、そういうことだと思います。そうすると、ますます実施期間中の、通信傍受をしているまさにそのときに優秀な指導者が立ち会っている、指導というよりも、私はこれから立ち会い指導と呼んでいただきたいなと思うんですが、指導、立ち会い指導というものを実施期間中にやっていくんですけれども、その点については、「指導を行う者が常時その傍受場所に所在をする必要があるというところまでは今のところまだ考えていない」と。今のところまだ考えていないわけですから、どんどん考えていただきたいわけですね。

 そして、「適時、巡回をするといいますか、現場に赴くことによりまして、そうした適正な実施というものがきちっとなされているかどうかということを常にチェックしていく。 実施をしている側からすれば、いつ何どきそうした指導の者があらわれるかわからないといった緊張感を持たせるといったような意味合いもあると思います」と。

 この巡回なんですけれども、巡回というのは文字どおり巡回だと思うんですが、通信傍受捜査というものは、極めて厳格な要件のもとで、限られた事件でやる。少なくとも、今、取り調べで、取り調べ状況をチェックするような制度の中で、いろいろなところに不意打ちにチェックする人があらわれるようなものではないと思うんですよ。警察本部でとりあえず通信傍受というものが想定され得るという議論は過去にあったんですけれども、私は、基本的には、一つの県警本部で通信傍受をやっているときに、そこに五つも六つも通信傍受の事件があって巡回する状況はないと。県警本部長指揮のもと、事件を一生懸命やってきたけれども、最後の手段として通信傍受をやると。

 ですから、そういう状況を考えれば、やはり常時立ち会いというものは十分可能だと思いますし、確かに、おっしゃるように、いつ何どきあらわれるかという緊張感もあるんですけれども、やはり私からすれば、最初から最後までいる緊張感の方が緊張感があって大変よろしいんじゃないかと思いますが、その点、もう一度、いかがでしょうか。

三浦政府参考人 委員の問題意識は従前からお伺いをしているところでありますけれども、この新たな方式による通信傍受では、傍受の適正は特定電子計算機の機能によって担保されるというものでありますので、この機器を確実かつ適正に使用するということが特に重要であるといった観点などから、必要に応じて指導するということを従前申し上げているわけでございまして、その指導をしっかりと行っていくということは当然でありますけれども、必ずしもそれが常時である必要があるというところは考えていないということを申し上げたところでございます。

 また、指導が傍受の実施期間中に傍受の現場において行われる場合には、当該捜査に携わらない警察官あるいは技官が存在をすることになりまして、そのことによって傍受の適正に対する意識が向上する面がある、また、その指導が抜き打ち的に行われることによってその効果がより高まるのではないかといったことも申し上げたところであります。

 いずれにしても、傍受の適正というものは、今回の新しい方式のもとでは、暗号化処理をされ、改ざんが不可能な原記録を通じて傍受の全ての過程が検証可能なものであることによって確実に担保されているというように考えておりまして、そうした指導が常時存在しなければ適正が確保されないというものではないということは重ねて申し上げておきたいというように思います。

井出委員 きょうこの場で指導体制の結論を求めているというわけではありませんので、前回お話があったように、今のところまだ考えていない、そういうところにとどめていただいて、また私の方からも、考えていただけるような質問をしたいと思います。

 あと、さっきの答弁の中で、再生は一回限りだ、そういうお話があったんですが、新しい機械ができれば、一時保存、事業者にデータをとっておいてもらって、それを警察の施設で聞くことができるようになりますけれども、余り想定はしていないですが、一時停止はできるんですか。

三浦政府参考人 ちょっと御質問の趣旨がよくわからないところがございますけれども、一時的保存をしている最中にそれを一時停止するということでは……(井出委員「再生するときです。再生するときに、音楽を一時停止するような、そういうイメージなんですけれども」と呼ぶ)

 それは、ちょっとまだ、これから機械にどういう機能を持たせるかということによるのだというふうには思いますけれども、いずれにしても、一時的保存をしたものを再生する、そこで初めて聞くことができるという状態になるわけでありますけれども、それはずっと流れていて、その間、スポット傍受をしながら再生を行うということになるわけでありまして、またさかのぼってそれを行うということはできないものというように認識をしています。

 一時停止ということは余り想定をしていなかった場面でございまして、ちょっとそのあたりについては、もう少し具体的に検討させていただきたいと思います。

井出委員 今申し上げたのは、再生を始めて、巻き戻したりリピートはできないけれども、きょうはここまで聞いておいて、続きはまたあした聞こうとか、そういう意味で一時停止ができるのかなというところだったので、また、何回でも質問をまだまだしたいものですから、そのときに答えをいただければと思います。

 それと、一時保存したデータなんですが、基本的には、今まで通信傍受というものはまさにリアルタイムでやってきたものなので、それが余り大きく変わるようだと困ると私は思うんですよ。それは御認識はあると思うんですけれども。

 要は、一時保存したものを一週間も十日もとっておいて、後で聞きますとか、とりだめすることは、するおつもりはないというようなことも恐らく前にいただいていると思うんですけれども、一時保存の定義について、令状が出ている期間に一時保存したものは、私のイメージだったら、翌日か、次の日の昼ぐらいまでに聞くのかなと。そういう本当に一時的なものかなというイメージがまず一つあります。その見解をいただきたい。

 あと、前にも話になったんですけれども、傍受記録が令状の期間内に聞き切れないというか、たしか、令状期間外でも、令状期間内のものであれば速やかに聞くと。それも、速やかにというのも、やはり一両日中に聞くような運用が、そもそもの通信傍受捜査というものの原則を踏まえればそうあるべきだと思うんです。

 その二点のイメージについて、ちょっとお考えをいただきたい。

三浦政府参考人 一時的保存による傍受につきましては、傍受から再生までの期間について何らかの時間的制約を設ける規定というものは存在していないと承知しております。

 ただ、改正後の法第二十一条第八項では、再生の実施につきまして、「傍受令状に記載された傍受ができる期間内に終了しなかったときは、傍受令状に記載された傍受ができる期間の終了後できる限り速やかに、これを終了しなければならない。」とされているところであります。

 施行後の運用の方針につきましては、今後具体的に定めていくこととなりますけれども、いずれにしても、こうした法の規定の趣旨に従って実施をすることになるものと考えております。

 また、捜査の実際を考えた場合にも、通信傍受というのはそもそも捜査上の高い必要性がある場合に行われるものでありますので、一般的に申し上げれば、一時的保存をしたならばできる限り速やかにそれを再生して、また捜査に生かしていく、次のステップに進んでいく、そういうことが想定をされるところであります。

井出委員 捜査の次のステップに進むという意味でも、一時保存の一時というものを本当に一時的なものにとどめていただきたいと思いますし、その辺はこれからの検討なんでしょうけれども、早く検討しろとも言いませんので、検討していただいて、検討している間にまたどんどん御提案もしていきますので、よろしくお願いしたいと思います。

 きょうも来ていただいてありがとうございました。もう大丈夫でございます。

奥野委員長 刑事局長だけですか。審議官もいるけれども。(井出委員「審議官は再犯防止で来ていただいていると思います」と呼ぶ)では、三浦さん、御苦労さまでした。

 井出君。

井出委員 そうしましたら、再犯防止について伺っていきたいのですが、東京オリンピックに向けて再犯の防止に力を入れていくというような資料が、そうした政策目標というものが発表されております。

 その中で、出所した人を受け入れる企業、会社をふやしていこう、三倍にするんだというような数値目標も出ていて、去年の十二月十六日、犯罪対策閣僚会議決定「犯罪に戻らない・戻さない 立ち直りをみんなで支える明るい社会へ」ということで、これも、私は、中心的な考え方というのは、やはり社会全体の受け入れ体制、一たび犯罪や非行をした者を孤立させるのではなく再び受け入れる、その考えが中心になっているのかなと思うんです。

 その中で、刑務所、少年刑務所、拘置所を出る人が年間で大体二万五、六千人いて、そのうちの六千人余りが行くところがない。その六千四百人を、行くところがない人を三割以上減らそう、そういう数値目標も掲げられているんです。

 例えば、年間、刑務所に入る人のうち、初めて入る人と再度入る人の割合、再入者の割合が五〇%から六〇%の割合で推移をしている。刑務所に入る人の全体数は、ここ二十年で見ますと、最近は二万五千人弱なんですが、多いときは三万人近くにもなっている。そのうちの半分が再入者だ。

 私は、刑務所に入る人、何度も何度も再犯をしてついに刑務所に入る人もいると思うんですけれども、刑務所に入る人の再入者の割合を減らしていくということは一つ重点的に取り組んでいただいてもいいかなと思うんですけれども、このあたりというのは数値目標というものがなかなか決めづらいものかどうかを教えていただければと思うんです。

高嶋政府参考人 御説明いたします。

 再犯の定義といいますか、再入者というふうに言う場合と、それから再犯者と言う場合と、いろいろ言葉がございます。再入者と言う場合には、刑務所を出てまた入ってきた者、こういう意味でございます。他方、再犯者と言う場合は、刑務所に入っているかどうかということは問わず、前に犯罪を犯した者であって、さらにまた犯罪を犯した者、こういうことでございます。

 その定義の仕方によっていろいろと数字が違ってくるというところがございまして、御指摘のように、どの数字に着目するかによって目標数値というものが少しずつ変わってくるという点がございます。

 そういう点では、今掲げている目標というのは、刑務所を出所してから二年以内にまた刑務所に入ってくる者、再犯者ではなくて、再び刑務所に入ってくる者が、平成二十三年当時で平均値で二〇%程度いたわけですが、これを二割程度減らして一六%まで減らそう、こういう目標値になっております。

 定義が非常に難しいところですので、数値目標の設定の仕方につきましても非常に難しいところがございますが、今はこういう目標を掲げているというところでございます。

井出委員 ありがとうございます。

 おっしゃるように、再犯、再入、再入者にも何年以内に入ってくる人、いろいろな考え方があると思うんですけれども、再入者を減らしていくということはその後の矯正の運用、矯正の予算にもかかわってくるので、一つ注目してもいいかなと思います。

 私が今、刑務所に入る入らないのところの段階を考えているのは、ここにも参考人で来ていただいた堀江貴文さんが前に講演でおっしゃっていたんですけれども、自分が刑務所に行ってみたら、九割はいい人だったと。それにみんな、うんっという反応をされている人は非常に多かったんですけれども、それは、当然、刑務所の中ですので、犯罪をするような環境ではありませんし、自由も制約されておりますし、そういう環境の中だと結構みんないい人なんだよねというような話で、もちろん、再犯を防ぐというところで、犯罪が悪いことである、そういう倫理、心の面の教育というものは大変重要だと思うんですけれども、堀江さんがそこでおっしゃったのは、ですから、心の面ももちろん大事なんだけれども、もう少し実際的な、社会復帰できる実務の面をもうちょっとしっかり、発想を転換して、そこに予算をつけて、やっていってもらえないのかな、そういう話がありました。

 先日、矯正医官の法律を審議したときに、刑事施設とそこにいる被収容者の処遇の法律を私は見ていたんですけれども、刑務所に税金をかけ過ぎてはいけないという意見が今あります。前回、その中でも、医療部分、健康部分は非常に大事、基盤ということは一つ言っていただいてよかったかなと思います。

 その法律を見ますと、そこでやらせる作業ですとか、面会、手紙を出すことですとか、運動時間とか、ちょっと意外だったのは、電話ができたり、外泊も認められるというところまで決まっていて、私も知らないだけで、結構いろいろなことが認められるケースもあるんだなと思います。

 その一方で、被収容者、受刑者がやっている作業というものが今大体どんなものがあって、それはどういう考え方、どういう基準で、作業の中身が社会復帰に直結しない、そういう声もよく聞くんですけれども、その作業についての考え方を教えていただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 刑務作業につきましては、受刑者の勤労意欲を高めて、職業上有用な知識、技能を習得させることによりまして、それが円滑な社会復帰に資するように配意することが刑事収容施設法に規定されているところでございます。

 したがいまして、刑務作業の内容につきましては、社会一般の生産活動と同様に生産的であり、かつ、受刑者の達成感を醸成するとともに、社会復帰後の就労に有益となる作業を選定するよう配慮しているところでございます。

 実際には、作業内容は、収容状況の変化であるとか、あるいは経済動向の推移であるとか、施設の立地条件などに影響を受けるといった制約も存在するところでございますけれども、一方で、社会の雇用ニーズに応じた職種につきましては、刑務作業の一形態として職業訓練として実施するということも実施しております。この職業訓練の受講を通じまして受刑者に職業に関する免許もしくは資格を取得させ、またはその職業に必要な知識、技能を習得させることにより、その円滑な社会復帰に資するように配意しているところでございます。

 以上でございます。

井出委員 刑務所のある立地状況によって作業が限られるというお話もありまして、確かにそうだなと思うところも一定程度あるんですけれども、やはり、おっしゃったような経済とか社会の変化に応じて、できるだけ社会復帰したときに仕事に直結するようなものを細かく細かく見直してほしいと思います。

 あと、もう一つ、これはちょっと難しい議論なんですが、服役をしておりますので、先ほど大臣がおっしゃっていた応報ですとか予防ですとか、そういうところで厳しくやってもらわなければいけない。その一方で、健康の問題ですとか、きちっと受刑者に配慮しなければいけないところもあるんですけれども、一つ、社会復帰するときに、運転免許がなければ放り出されても何もできないだろう、携帯電話が持てなければ誰とも話ができないだろう、そういう現実的な課題があると思うんです。

 運転免許というものは、服役中に失効してしまうというようなこともあると思いますけれども、そこを何とか運転免許ぐらいは、悪質な交通事故を起こした人とかに対してはちょっと議論はあると思うんですけれども、一般的に、運転免許を何とか出所までに与えられるということは検討できないかということが一点。

 あと、いろいろな作業を通じて、出所するときのその人の経済力はさまざまだと思うんですけれども、携帯電話を持てるぐらいの例えば作業でやった金ですとか、そういうものは現実としてあり得るのかどうか。

 その二点だけ教えてください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 刑事施設におきましては、さまざまな職業訓練等も行っておりまして、その中でいろいろな資格を取らせる、取れるようにするということもやっております。普通の運転免許につきましては、現在、その科目には入っておりませんで、運転関係でいいますと、例えば建設機械の運転免許であるとか、あるいは大型特殊免許の運転免許みたいなものにつきましては、その中に組み入れているところでございます。

 普通免許を持っていますと就労につながるということはよくわかるところでございますけれども、逆に、さまざまな受刑者がおりますし、また、刑務所に入って免許が取れたということが国民感情から見てどうかという問題もございますし、さまざまな観点も考慮する必要がありますので、一つの検討課題だとは考えておりますけれども、現在は実施しておりません。

 それから、出所するときに一定のお金、携帯電話を持てるぐらいのお金を持たせた方がいいのではないかという御指摘がございました。

 作業報奨金という制度がございます。これは、刑務作業に従事した受刑者に対しまして、原則として釈放のときに一定の金銭を給付するというものでございます。これは、金銭ではございますけれども、作業の報酬ということではございませんで、あくまで、主として、受刑者の勤労意欲を高めることによって改善更生の意欲を喚起する、また、所持金を持たせて釈放することによって円滑な社会復帰の一助とするということを趣旨としております。

 したがいまして、金額につきましても、通常の賃金と比べると非常に安い金額でございますけれども、改善更生の資金としての意義も有しておりますので、今後とも、諸般の事情に応じて適正な金額を支給できるように努力してまいりたいと考えております。

 ちなみに、平均的な数字でございますけれども、二十一カ月在所をした受刑者一人当たりの釈放時支給額としましては、平成二十七年度の予算では、七万二千百六十七円を計上しております。

 以上でございます。

奥野委員長 井出君、時間でございます。

井出委員 はい。

 ちょっとそのお金の件はまたいつか聞きたいと思いますが、運転免許の件は、交通犯罪を犯した人の議論は別だと思いますし、免許を持っていなかった人が刑務所に行って免許を取ろうみたいになっても、まさにおっしゃるとおり困りますけれども、持っていた人が失効してしまう、そこぐらいはまず少し前進できないかなという思いをお願いして、また私も取り上げさせていただきたいと思います。

 きょうはありがとうございました。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 私、本日は、司法修習生に対する経済的支援のあり方について、法務省、法務大臣、そして最高裁判所に伺いたいと思います。

 司法修習生とは何か。この制度は、司法試験に合格した人に対し、裁判所が命じまして、少なくとも一年間司法修習を行い、裁判官、検察官、弁護士になる資格を得るという制度であります。全国各地の裁判所、検察庁、弁護士会での実務修習、あるいは司法研修所、和光市ですか、集合修習に分けられるわけですが、個別指導のもと、しっかりと実際の事件の処理を体験的に学び、そして一年少しの司法修習を得て立派な法曹へと旅立っていくという国の制度であります。

 ことし六月三日、ビギナーズ・ネット、ビギナーズ・ネットと申しますのは、司法修習生の給費制復活のための、若手弁護士、法科大学院生あるいは大学法学部の学生、そういう人たちでつくられるネットワークなんですが、議員会館で、司法修習生への給費と充実した司法修習の実現を求める非常に大規模な集会を行いました。出席者は三百九十名、超党派の衆参両院議員が四十九名、本人が出席をし、代理を含め百二十九名、寄せられたメッセージが百三十六名ということでありまして、この問題に対する関心の高さをあらわしたと同時に、多くの国会議員が党派を超えてこの司法修習生への経済的支援について望んでいるということが明らかになりました。

 こうした取り組みも含めて、こうした運動、声、要望について御存じかどうか、法務大臣と最高裁判所に伺いたいと思います。

上川国務大臣 六月三日にそうした集会が開かれたということにつきましては、報告を受けているところでございます。

 さまざまな御意見が多く寄せられたということで、その中につきましてもペーパー等を出されておりまして、私もその報告の内容につきましても拝見をさせていただきました。

堀田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 最高裁判所といたしましても、国会内で司法修習生への経済的支援についての集会が開催されましたことは承知しております。

清水委員 大臣も最高裁も、こうした動き、運動があるということは十分承知しているということでした。

 ここで、そこに寄せられた国会議員のコメント集というのがありまして、本委員会にも所属されている委員の方、とりわけ自民党の法務委員の方からもコメントが寄せられておりますので、幾つか紹介したいと思うんです。

 ある方は、「修習生が司法システムの基盤の一躍を担える法曹になるために、当然に国家的な援助、すなわち給費制度があって然るべきだと考えております。」と述べた方がおられました。また、別の方は、「経済的な事情によって法曹への道を断念することがないよう、法曹出身の国会議員として、かかる問題に引き続き全力で取り組んでまいる所存でございます」、心強いですね。この方は、すばらしいんですね、予算措置についてまで踏み込んで、このようなコメントを述べておられます。「成果の上がらない法科大学院のために使おうとしている公的資金を司法修習生の給費制実現のために転用できるよう、一歩ずつ確実に対策を進めていくことをお約束いたします。」非常に心強いなというふうに思いましたよ。

 ちなみに、奥野信亮先生ということでお写真とお名前がありまして、「法曹界の充実に向けてしっかりした議論を期待しております。」とコメントを寄せておられるんですね。

 私は、三月二十日のこの委員会で、大臣の所信に対する質疑におきまして、この給費制の問題を取り上げました。そのときは、七月十五日を期限として最終的な見解、方向性を改めて発表したいというふうな答弁だったと思うんですね。

 その後、法曹養成制度改革推進会議が、法曹養成制度全体について議論を進め、六月三十日、「法曹養成制度改革の更なる推進について」を決定した。推進会議決定と呼ばせていただきます。

 お手元に、資料を抜粋したものを皆さんに用意させていただいております。

 そこには、冒頭赤線を引いておりますが、司法制度改革が、「制度創設当初に期待されていた状況と異なるものとなり、法曹志望者の減少を招来する事態に陥っている。」こう述べているんですね。

 これは法務省に聞くんですが、具体的に、どう期待されていたことが期待と違う状況になっているのか、この認識をお聞かせください。

萩本政府参考人 委員御提出の資料の、下線を引かれたその前に二つ例示が挙がっておりますけれども、具体的には、本来、法曹養成制度の中核たるべき法科大学院全体の修了者の司法試験合格率が、法科大学院における教育の目標とされている水準に達していないということ、それから、法曹有資格者の専門性の活用が大いに期待される自治体や福祉の分野、あるいは企業の海外展開の分野などにおいて、実際には法曹有資格者の活用の広がりが必ずしも十分とは言えない状況にあること、そうしたことから、法曹志願者の減少を招来する事態に陥っているということを指摘したものと理解しております。

清水委員 司法修習生への経済的支援のあり方が大きく変わった要因に、今述べられた法科大学院の合格率の問題や、司法試験合格者、法曹資格者が、企業や福祉の分野で、いわゆる裁判所や弁護士だけでなくいろいろな形で活躍できるということを前提に行ってきたものなわけで、しかし、それが期待されているものではなかったと認識されているわけです。

 ここにありますように法曹志願者が減少していることは政府も認めているので、その要因の一つに司法修習生への経済的支援の問題がある、全てではないかもしれませんが、一部にはある、そういう認識が法務大臣と最高裁判所にございますでしょうか、お答えください。

上川国務大臣 法曹志願者の減少を招来している事態に陥っているという状況の中で、その要因の一つとして、委員御指摘のような御意見があるということにつきましては承知をしております。

堀田最高裁判所長官代理者 法曹志願者の減少につきまして、推進会議の決定に記載されておりますような事情があるということは承知しているところでございますが、私どもとしましては、少なくとも、貸与制の導入と法曹志願者の減少に関連性があると言えるだけの資料は持ち合わせていないところでございます。

清水委員 最高裁としては、制度移行したことについて、分析や検証という段になかなかまだ至っていないというところできょうはとどめておきたいと思います。少なくとも法務大臣の中には、今、経済的な要因が法曹志願者の減少の一因であるというふうな答弁がありましたので、これは非常に重要だと思っております。

 この決定文書には、「第五 司法修習」という、一から四はちょっと略しているんですが、推進会議決定をどう行っていくかというところで、「法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するもの」とあるわけですね。

 この決定文書にあります下線の部分、司法修習の実態、これは一体何の実態を踏まえるということで承知したらいいでしょうか。これは法務省にお伺いします。

萩本政府参考人 ここの推進会議決定が、司法修習生に対する経済的支援のあり方を検討するに当たっての考慮事由としてこの三つを掲げておりますけれども、そのうち、今委員御指摘の一点目、司法修習の実態としましては、貸与制のもとでの司法修習生の修習の状況、具体的には、しっかり専念できているかどうかといったこと、あるいは司法修習生による修習資金の貸与の申請の状況、あるいは司法修習生の生活の状況、そういった事情が考えられるのではないかと思っております。

清水委員 今まで以上に、司法修習生の置かれている生活実態、経済状況についてしっかりと調査、把握をしていただきたいと要望しておきたいと思います。

 それで、三つ目にあります、司法制度全体に対する合理的な財政負担のあり方というところで、私、いろいろ調べてみました。これはちょっと大臣も聞いていただきたいと思うんですけれども、十年前に、いわゆるこの司法制度改革、例えば裁判員裁判制度をつくるとか、あるいは法科大学院をつくるとか、そのためには、法曹人口を、毎年司法修習生を三千人ぐらいにふやしていくんだとか、いろいろあったと思うんですよね。もちろん、新しい制度に移行するに当たってはさまざまな財政的な問題が出てきますし、そのための予算の捻出というのが必要です。

 二〇〇六年と二〇一四年とを比べてみますと、例えば裁判員裁判の制度に係る費用、これは例えば、法廷を新しくつくるだとか、周知するための広報をするだとか、そういう費用がかかると思うんですね。もちろん、裁判員への報酬というのもあるでしょう。それプラス、法科大学院の設置だとか、この運営に係る費用ですね。この二つを合算した費用が、二〇〇六年は二百五億円かかっているんです。

 しかし、それから約八年経過いたしまして、二〇一四年度までの推移を見ますと、裁判員裁判と法科大学院に係る費用でいうと七十六億円に減少しているんですよ。二百五億円から七十六億円に減少しているんですよ。つまり、差額百二十九億円。約百三十億円、司法制度全体にかかわる予算としては、もちろんこれは、最高裁の予算であるとか、法務省の予算であるとか、文科省の予算であるとか、いろいろあるとは思うんですが、全体としては百三十億円減少している。

 それで、これは日弁連も求めている給費の実現の問題なんですが、司法修習生一人当たり月額二十三万円を十三カ月、司法修習期間給費した場合にかかる予算というものは四十五億円なんです、これは千五百人で計算させていただいておりますけれども。ですから、そうした合理的な財政負担のあり方ということを考えるときには、ぜひこの数字を参考にしていただきたいと思います。

 ここで、ことし二月、ビギナーズ・ネットの集会で経済的負担から法曹への道を諦めた学生が悲痛の訴えをされたんですけれども、その一文を紹介させてください。

 私は司法試験を目指して法学部に入学しましたが、三年生の十二月に進路を変更しました。その大きな理由は、経済的な問題、司法制度、司法修習に対する不安でした。私は既に大学四年間で二百二十万円近くの奨学金を借りています。司法試験に合格できたとしても、司法修習は副業禁止で貸与制のため借金をふやしてしまうだけ。借金を返済することに気持ちが焦ってしまうのではないか。それに最近の弁護士の就職難問題、仕事の減少。弁護士として働くためには時間がかかるということは承知の上でしたが、両親にかける負担が大き過ぎるため進路変更し民間就職を決めました。私の同期や後輩にも、法曹を目指していたが経済的な事情で断念したという人が何人かいます。そもそも、お金に余裕がある人じゃないと法曹を目指すのは厳しいです。今後、経済的な理由、司法制度、司法修習に対する不安によって法曹になることを断念せざるを得ないことが起こらないような制度改革が行われることを願っています。

 これは、本当に心からの叫びだと思うんですね。本当は法曹として働きたかったけれども、これ以上親に面倒をかけるわけにはいかないということで断念したと。

 この声を最高裁と法務大臣はどのように受けとめられましたか。最高裁から聞きます。

堀田最高裁判所長官代理者 去る三月二十日の当委員会におきましても、委員から、給費制から貸与制になったことで経済的に困難にある者がいる旨の御紹介をいただいたところでございまして、最高裁判所といたしましても、そのような声があるということについては承知しているところでございます。

上川国務大臣 司法修習生、またこの分野について、若い世代の皆さんが本当に希望して、そして夢を持ってこの魅力ある職種にしっかりとついていただくことができる、そうした環境をつくっていくということは大変大事なことだというふうに思っております。

 しかし、実態におきまして、今の御意見のように、大変厳しい経済的な事情があってなかなかその目標が達成できないという、自分自身の将来像をそうした理由によってということにつきましては、有為な人材が、それによって将来の芽が絶たれるというようなことは、大変残念なことであるし、悲しいことであるというふうに思っております。

 その意味におきましても、経済的な支援ということにつきましても今回の課題でございますので、真摯に取り組んでまいりたいというふうに考えております。

清水委員 やはり、こうした日弁連やビギナーズ・ネットの皆さんの声がしっかりと最高裁や法務大臣に届き、優秀な人材が経済的困難の問題を理由にして法曹を諦めるというようなことがあっては残念だというお言葉は、非常に重いというふうに思います。

 やはり弁護士の収入も減ってきているんですよね。年収五百万未満という人が年々ふえてきている。一部には何千万という人もいますが、相対的に仕事が減少しているというのは日弁連のアンケートでも明らかになっております。

 貸与制の問題で一言言いますと、もちろん、返済していかなきゃならないわけですよ。その返済状況を見なきゃならないということもありますが、基本的にこれは保証人が要りますからね。貸与制を申し込むときには保証人が要る。普通、弁護士は、人の保証人になってはなりませんと言いますけれども、司法修習生になるとまず保証人を見つけてこないといけないという矛盾するような状況も生まれているわけですから、こうしたこともしっかりと検討していただきたいと思っております。

 それで、この決定を受けて今後どうしていくのかということが非常に問われていると思うんですね。推進会議決定は、それは重要なものなんでしょう。しかし、この決定文書にあるように、法務省と最高裁との連携協力のもと、今後検討していくというふうにあるんですよね。六月三十日の決定から二カ月たちました。この間、検討してきたということは、最高裁、法務省、どういうことなのか。

 そして、連携協力は結構なんですけれども、最終的に、経済的支援のあり方に対する最高責任者は誰なのか、これをちょっと明確にしておきたいと思うので、最高裁の方からお答えいただけるでしょうか。

堀田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 御指摘の推進会議決定に基づいて、司法修習生に対する経済的支援のあり方についての検討につきましては、政府におきます具体的な検討状況に対応して、その事項に応じて最高裁の事務総局のいずれかの部局で担当するということになります。

 法制度に関する問題でございますので、法務省において行われる検討に必要な連携協力をしてまいりたいというふうに考えております。

萩本政府参考人 法務省におきましては、司法修習生に対する経済的支援のあり方の検討を含めまして、まずは推進会議決定に掲げられた取り組みを着実に進めることが肝要というふうに考えておりまして、現在、その具体的な進め方や具体的な検討事項等につきまして部内で検討を行うとともに、関係機関等と協議を行っているところでございます。

 最高責任者といえば当然大臣になるわけですが、事務局においてどこが所管しているかという意味では、大臣官房の司法法制部の所掌でございます。

清水委員 今、最高裁と法務省の答弁を聞かせていただきましたが、法律をつくるのは法務省ということですので、最高裁としてはそれに関連して必要な協力や情報提供をしっかりさせていただくと。最終的にはやはり法務大臣という答弁もあったというふうに思いますので、そういう意味では、推進会議決定については、官房長官だとか、あるいは文科大臣だとか、そういう人たちとともに、中心になって法務大臣がかかわってきたということですから、その責任の所在についてもしっかりと自覚をしていただきたいと考えております。

 次に、最高裁にお伺いしたいと思います。

 これも三月に紹介したんですけれども、裁判所のホームページには、司法修習生についてこういう記述があるんですね。読み上げます。「司法修習生は、国家公務員ではありませんが、これに準じた身分にあるものとして取り扱われ、兼業・兼職が禁止され、修習に専念する義務(修習専念義務)や守秘義務などを負うこととされています。」

 これは間違いございませんね。

堀田最高裁判所長官代理者 ウエブサイトに記載されているとおりでございます。

清水委員 これは非常に重要な記述だと思っておりまして、国家公務員ではないんですよ。しかし、これに準じた身分として取り扱うこととされている。司法修習生は、何かアルバイトの片手間に適当に裁判所やあるいは弁護士事務所や検察庁に行って実態を学べばいいということではなくて、それにしっかりと集中する、そして、集合修習期間には和光市まで行って、合宿みたいな形で徹底的にたたき込まれるというサイクルになっておりますので、生半可なことではだめだ、修習に専念しなさいと。兼業については、一部アルバイト、塾の採点なんかは認められていますけれども、それはあくまでも副次的なものであって、基本的には修習に専念しろという義務があります。

 あと、守秘義務、これは当然です。私は経験がございませんが、やはり裁判所で実際に裁判に立ち会ったりするわけですから、実習を受けるわけですから、当然そうしたことの守秘義務もありますし、勝手に海外旅行に行けない。国家公務員はそうなんですけれども、我々だって許可がないと海外に行くことができませんが、準じた身分であるにもかかわらず、司法修習生は海外に勝手に行っちゃいけないということなんですね。

 私は、三月のこの委員会で、国家公務員ではないが、国家公務員に準じた身分でいろいろ義務を課しているわけだから、国家公務員並みに給料を払わなくていいから、それに準じた形で給費を行うということはやはり矛盾することじゃないのではないかという質疑をしたんですよ。

 そのときに、法務省の方の答弁は、いやいや、国民の理解が得られないとか、あるいは、公務員でない者に給料を払うのは極めて異例です、こういうふうに答えられたんですが、今、この裁判所のホームページに記載されているようなことに鑑みれば、私は、極めて異例どころか、公務員に準じて、しっかりとした修習専念ができるような経済的支援を行うということは重要だと思うんです。

 ちょっと法務省に一問聞きたい。

 これまで法務省が貸与制に移行した理由の一つとしておりました、公務員でない者に給料を払うことは極めて異例だ、この答弁に本当に私は頭にきているんですが、必ずしも異例ではないというふうに私は考えております。だからこそ、これまでは、公務員に準じて何十年も払ってきたわけです。

 そもそも、司法修習生に給費をしてきたことに対して、国民から批判が上がったことがありましたか。

萩本政府参考人 先日の答弁につきましては、法務省の現時点の考えとして申し上げたというよりも、私としては、当時の議論として、議論の中でそのような指摘があったということを御紹介したつもりでおります。

 今御質問いただいた、国民からどのような批判があったのかということにつきましては、批判という言葉が直接当てはまるかわかりませんが、例えば、平成十三年六月の司法制度改革審議会の意見書におきましては、「修習生に対する給与の支給については、将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり、新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ、その在り方を検討すべきである。」という指摘がされております。

 また、給費制から貸与制への移行は、平成十六年の裁判所法の一部改正によって導入されたものですけれども、それに先立って内閣に設置された司法制度改革推進本部のもとで法曹養成検討会が開催されておりまして、この検討会の中においてやはり議論がされております。その議論の中で、一部の委員から、修習専念義務等との関係から給費制を維持すべきとの意見もありましたが、他方で、司法制度改革全体としてかなり多額の費用がかかることになるが、国の財政全体の中で給費制をずっと死守するということが適切なのか、一般的な国民的な常識という観点からすると、政府全体で財政問題を抱えている状況での大改革の中で給費制の維持というのは難しいのではないか、厳しい財政の中での法曹養成制度のプロセス全体に対する経済的な資源の効率的、合理的な配分という観点で考えた場合、給費制の維持が合理的な選択であるとは考えがたいのではないかといった意見もあったものと承知しております。

清水委員 確かに検討会ではそういう意見は当時あったでしょうが、この推進会議決定文書にあるように、その前提が期待を裏切るものになっているわけですね。そう総括しているわけですし、財政的な問題でいうと、全体に係る予算でいうと百三十億から減少しているというようなことが重要なんです。

 そして、今、検討会での意見をおっしゃったけれども、国民の声を私は聞いたんですよ。

 法曹養成制度検討会議中間取りまとめに対するパブリックコメントというのをやっていましたでしょう。このときに、全体で三千百十九通なんですよ、約三千通。その中で、司法修習生への経済的支援について言及するものは二千四百十二通ありまして、その二千四百十二通の九二・五%が給費制を復活させるべきという意見なんです。これが国民の声なんですよ。

 私は、そういうところにしっかりと耳を傾けなければ、せっかくこうして推進会議の決定をつくったものの、また、その中で「司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討する」とは言っているけれども、検討の方向を見誤っては絶対いけない。もう検討とか議論している場合じゃないんですよ、ずっと償還が始まっていきますから。今期についても貸与制になるんじゃないか、来年はどうか、再来年はどうか、それによって、法曹を目指すかどうか、質量ともに有望な若者を確保していくという国の責務を果たせなくなる。これは真剣に受けとめてもらいたいと思うんですね。

 最後に法務大臣に質問をして終えたいと思うんですね。

 今申し上げましたように、質量ともに法曹を養成するということは、これは国民の利益にかなうことでありまして、財政的な問題のみによってはかられるものではないというふうに指摘した上で、今ずっと紹介しましたように、日弁連やビギナーズ・ネットの声と運動は大きく広がっています。それに賛同する国会議員も党派を超えて大きく広がっているんです。これ以上、議論と検討だけ続けて遅滞すれば、国会の不作為というようなそしりも免れないというふうに私は思うんですね。

 きょう、最終的な責任者は誰かということで、法務大臣ですというやりとりもありましたので、ぜひ、これまでの経済的支援の枠にとどまらず、ビギナーズ・ネットの皆さんや日弁連の皆さんや法曹を目指す若者が、よし、これからも頑張ろうと思っていただけるような検討、実施をぜひ行っていただきたい。

 最後に決意をお聞かせいただけますか。みんなが注目しています。

上川国務大臣 今、御議論の中でも、明確にさまざまな課題があるという実態につきましては十分に理解をしているところでございまして、今回の推進会議の決定は、ある意味で、大胆な改革をしながら当初の目的に合致することができるようにしていくという大変大きな課題を与えられたというふうに思っております。

 その中の一つとして、まさに経済的な支援のあり方ということについては重要な要素であるというふうに認識しておりますので、しっかりと検討をしてまいります。

清水委員 もう終わりますけれども、三月の大臣の答弁のときには、さまざまな取り組みをやるんだけれども、それはあくまでも貸与制を前提として検討していくんだという答弁があったかと思うんですが、今の答弁にはそれがありませんでしたので、ぜひそういう点で前向きな検討を早期に行っていただくことを強く希望いたしまして、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。

奥野委員長 これにてきょうの質疑は全部終了しました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時三十六分散会


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