衆議院

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第19号 平成28年5月20日(金曜日)

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平成二十八年五月二十日(金曜日)

    午後一時開議

 出席委員

   委員長 葉梨 康弘君

   理事 あかま二郎君 理事 安藤  裕君

   理事 井野 俊郎君 理事 城内  実君

   理事 吉野 正芳君 理事 井出 庸生君

   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君

      井上 貴博君    小田原 潔君

      大塚  拓君    大西 英男君

      門  博文君    上川 陽子君

      木村 弥生君    今野 智博君

      笹川 博義君    田所 嘉徳君

      辻  清人君    冨樫 博之君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      宮川 典子君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      若狭  勝君    黄川田 徹君

      山井 和則君    柚木 道義君

      大口 善徳君    吉田 宣弘君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      木下 智彦君    上西小百合君

      鈴木 貴子君

    …………………………………

   議員           門  博文君

   参議院議員        西田 昌司君

   参議院議員        矢倉 克夫君

   法務大臣         岩城 光英君

   法務副大臣        盛山 正仁君

   法務大臣政務官      田所 嘉徳君

   政府参考人

   (内閣官房内閣審議官)  田中 勝也君

   政府参考人

   (内閣府大臣官房独立公文書管理監)        佐藤 隆文君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 斉藤  実君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    三浦 正充君

   政府参考人

   (総務省大臣官房審議官) 宮地  毅君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    小川 秀樹君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  岡村 和美君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 飯島 俊郎君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十日

 辞任         補欠選任

  大塚  拓君     簗  和生君

  奥野 信亮君     大西 英男君

  鈴木 馨祐君     井上 貴博君

  辻  清人君     小田原 潔君

  宮川 典子君     木村 弥生君

  階   猛君     黄川田 徹君

同日

 辞任         補欠選任

  井上 貴博君     鈴木 馨祐君

  小田原 潔君     辻  清人君

  大西 英男君     奥野 信亮君

  木村 弥生君     宮川 典子君

  簗  和生君     大塚  拓君

  黄川田 徹君     階   猛君

同日

 理事鈴木馨祐君同日委員辞任につき、その補欠としてあかま二郎君が理事に当選した。

    ―――――――――――――

五月十九日

 部落差別の解消の推進に関する法律案(二階俊博君外八名提出、衆法第四八号)

同月二十日

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(第百八十九回国会閣法第四二号)(参議院送付)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 理事の補欠選任

 政府参考人出頭要求に関する件

 民法の一部を改正する法律案(内閣提出第四九号)

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(第百八十九回国会閣法第四二号)(参議院送付)

 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案(参議院提出、参法第六号)

 部落差別の解消の推進に関する法律案(二階俊博君外八名提出、衆法第四八号)


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     ――――◇―――――

葉梨委員長 これより会議を開きます。

 理事補欠選任の件についてお諮りいたします。

 委員の異動に伴い、現在理事が一名欠員となっております。その補欠選任につきましては、先例により、委員長において指名するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 それでは、理事にあかま二郎君を指名いたします。

     ――――◇―――――

葉梨委員長 内閣提出、民法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣官房内閣審議官田中勝也君、内閣府大臣官房独立公文書管理監佐藤隆文君、警察庁長官官房審議官斉藤実君、総務省大臣官房審議官宮地毅君、法務省民事局長小川秀樹君及び外務省大臣官房参事官飯島俊郎君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。安藤裕君。

安藤委員 自民党の安藤裕でございます。本日は、質問の機会をいただきましてありがとうございます。

 今国会、法務委員会で質問をさせていただくのは初めてでございます。岩城大臣、どうぞよろしくお願いをいたします。

 それでは、早速質問に入らせていただきたいと思います。

 今回の民法の改正案ですけれども、昨年の十二月に最高裁から違憲判決が出たということを受けて提出されたものだと承知をしております。

 裁判所に判断をされましたように、現行法のまま再婚禁止期間を六カ月ということにしておきますと必要以上に再婚禁止期間が長過ぎるという部分は、私自身も理解ができますし、再婚禁止期間を百日に短縮するという本法案は、一日も早く成立をさせるべきであると考えております。

 しかし、その一方で、この裁判において裁判官の意見の中にもありましたように、再婚禁止期間を設けること自体が必要ない、あるいは違憲であるというようなことも言われているところでございます。

 そのような意見もある中で、引き続きこの再婚禁止期間を規定し続ける意義、その必要性について、まず岩城大臣からお答えをいただきたいと思います。

岩城国務大臣 お答えいたします。

 民法が女性について再婚禁止期間を設けている趣旨は、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるものと理解をしております。

 仮に再婚禁止期間そのものを廃止した場合には、嫡出推定が重複した場合に子の父をどのように定めるかが問題となりますが、例えばDNA鑑定によりまして法律上の父子関係を確定するという制度を採用いたしますと、法律上の父子関係が子の出生時に確定せず、子の福祉に反する事態が生じ得るものとなります。DNA鑑定の信用性が高まっている現在におきましても、鑑定をしない限り父子関係が確定しない事態が生じ得るのは問題でありまして、再婚禁止期間により嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことによって子の利益を図る必要性は大きいものと考えております。

 昨年十二月の最高裁判決におきましても、再婚禁止期間を設けること自体については、子の利益を図る観点から合理性があるとの判断が示されております。もっとも、最高裁判決では、現行の再婚禁止期間のうち百日を超える部分は嫡出推定の重複を回避するために必要であるとは言えず、憲法第十四条第一項及び第二十四条第二項に違反するとの判断がなされましたため、今回提出した法案では、再婚禁止期間を六カ月から百日に短縮することとしております。

安藤委員 ありがとうございます。

 子供の嫡出推定をきちんとすることによって子の利益を守るということでこの規定を引き続き置くということと理解をいたしました。

 それで、次に、七百三十三条においては、前婚の解消もしくは取り消しのときに懐胎していなかった場合には再婚禁止期間の規定を適用しない、つまり再婚できる旨の規定が置かれております。

 女性が懐胎していなければ、当然に再婚を禁止する理由はないということになるので、この規定が置かれることはよくわかります。しかし、懐胎していなかったことを証明するのはどのような方法によるのか、この法律を実際に運用するに当たって、戸籍の実務において混乱が生じないような措置をどのようにとる予定でおられるのか、そのあたりについてお答えをお願いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 今御指摘ありました改正後の民法第七百三十三条第二項に該当するか否かについては、日本医師会、それから公益社団法人日本産婦人科医会、公益社団法人日本産科婦人科学会などと協議いたしまして、民事局長通達によって定める一定の様式による医師の証明書に基づいて判断することを予定しております。

 婚姻届につきましては、市区町村の戸籍窓口で受理することになるわけですが、戸籍窓口は、戸籍の届け出について、いわゆる形式的審査と申しますか、書面審査をするということになりますので、さまざまな様式での証明書、診断書が提出されましても、その記載内容について審査することが困難でございます。このように、届け出の受理の判断に混乱が生じ、時間がかかることになりますと、婚姻届け出をしようとしております国民の皆様に不利益が生ずることになりかねません。

 また、証明書を作成する医師の側にとりましても、一定の様式を用いることで、混乱なく診察していただき、証明書を発行してもらえるという利点がございます。

 したがいまして、戸籍窓口で混乱なく受理の判断ができるよう、先ほど申し上げましたように、一定の様式を定めることとしたものでございます。

安藤委員 ありがとうございます。

 しっかりと周知徹底していただきまして、戸籍の窓口の方で混乱がないように配慮していただきたいと思っております。

 それで、次に、七百四十六条についてお尋ねをしたいと思います。

 条文では、再婚禁止期間の規定に違反した婚姻については、前婚の解消もしくは取り消しの日から起算して百日を経過したときはその取り消しを請求することができないものとすると規定しております。

 それで、仮定の話でちょっと質問したいと思うんです。

 例えば、離婚後七十日目に再婚してしまった、七十日目に再婚の届け出を出してしまったとします。そうすると、本来であれば、これは百日以内なので受理されないはずですけれども、これが何らかの事情で過って受理されてしまった。そのときのことをこの七百四十六条では規定していると思います。

 もし、七十日目に再婚して、その再婚の日から二百十日目に女性が出産したとします。そうすると、婚姻の取り消しができる期間は既に経過しているので、まず、婚姻の取り消しはできません。それから、生まれてきた子供の父親は、離婚の日から数えると二百八十日になるので、離婚の日から三百日以内に生まれたということになりますから、前の夫の子供であるということが推定されるということになります。あわせて、婚姻の日から二百日が経過して生まれているので、後で結婚した、再婚後の夫の子供であるというふうにも推定されるということで、嫡出推定で父親が重複するということが想定されると思います。

 そのようなときに、この生まれてきた子供の父親はどのように定めることになるのか、そのことについてお答えいただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 再婚禁止期間の規定に違反した婚姻の届け出が仮にされて、婚姻窓口においてこれを過って受理してしまったという場合には、その婚姻は、先ほど御指摘ありましたように、取り消すことができることとされております。

 もっとも、婚姻を取り消したといたしましても、その効力自体は将来に向かってのみ及び、遡及しないとされておりますことから、出生した子につきましては、嫡出推定の重複が生じた場合にはこれを解消することはできず、子の父が当然には定まらないという事態になります。

 このような場合が生ずることを想定して、民法は、父を定めることを目的とする訴え、これは民法七百七十三条に規定されておりますが、こういった制度を用意しておりまして、この手続で、裁判手続の中で子の父が定められることになります。

安藤委員 ありがとうございます。

 そうすると、ちょっと今のでもう一つ追加で質問したいと思いますけれども、先ほどの大臣の冒頭の答弁だと、再婚禁止期間というものは、子の利益を守るために置いておかなきゃいけないということですけれども、今の話だと、結局、嫡出推定の重複する場合があり得るということになってくるんですけれども、それはそれでいいとお考えなのかどうか、そのあたりについてもう少し答弁をお願いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 原則としては、嫡出推定の重複が生じることによって法律関係が混乱しないように、その重複を回避するということで再婚禁止期間を定めております。

 ただ、先ほど申し上げましたように、再婚禁止期間の規定に違反した婚姻の届け出がされて、仮に戸籍の窓口でそういったものを受理してしまった場合は、嫡出推定の重複が結果的に生じてしまいますので、いわば念のために、そういった場合も想定して規定を置いているというのが民法の趣旨でございます。

安藤委員 ありがとうございました。

 ぜひとも重複がないように、戸籍の実務の方でも、百日以内の届け出がされたときにはしっかりとはねられるような、そこのところもしっかりとしていただきたいと思っております。

 それから、今回の規定とは少し外れるとは思いますけれども、いわゆる嫡出推定の規定が存在するために、民法の規定を適用して推定された男性と、実際に血のつながりの面から見た父親が異なるということは、現実には起きるわけですね。そして、民法の規定を適用して父親と推定される男性が戸籍上の父親として記載されることを避けるために子供の出生届を出さない、いわゆる無戸籍の子供の問題も、最近はいろいろなところから指摘されているところです。

 今回の民法の改正によってこの無戸籍の問題の解決にはつながらないとは思いますけれども、法務省としては、この無戸籍の子供の問題についてはどのように認識をして、これからどのように取り組みをなさっていくおつもりか、その点についてお答えをお願いいたします。

小川政府参考人 まず、実情でございますが、法務省では、全国の市区町村を通じまして、無戸籍の方の存在に関する情報を集約するという取り組みを行っておりまして、無戸籍となった理由がわかる場合には、それについても報告を求めております。

 その結果を見ますと、民法第七百七十二条により嫡出推定が及ぶ場合に、戸籍上、夫または前夫の子とされるのを避けることを理由として出生届を提出しない者が多いということでございます。

 他方、今回の改正は、再婚禁止期間に関する最高裁判所の違憲判決を踏まえ、違憲状態を早期に解消することを目的とするものでございまして、この機会にあわせて嫡出推定制度を見直すことは考えておりません。したがいまして、今回の改正によっても、先ほど御指摘ございましたように、いわゆる無戸籍者の問題が根本的に解決することにはならないところでございます。

 ただ、無戸籍者の方の問題につきましては、これまでも、法務省といたしまして、その解消に向けていろいろと取り組みをしてまいりました。まず、先ほど申し上げましたように、情報を集約していくということ、それから、個人の実情に応じて、丁寧な手続の案内、手続の案内と申しますのは、戸籍を有するようになるためにどういう手続をとったらいいのかということについて、それぞれの事情に応じて手続の案内をいたします。それから、関係府省を構成員といたします無戸籍者ゼロタスクフォースの設置などをいたしまして、連携を図り、認識の共有を図っております。

 こういったことで、今後とも引き続き、無戸籍の方の実態についてきめ細やかに把握するように努めますとともに、全国各地の法務局において相談を受け付け、一日でも早く戸籍をつくるために、一人一人の実情に応じて懇切丁寧に手続案内を行うなど、無戸籍状態の解消に取り組んでまいりたいというふうに考えております。

安藤委員 ありがとうございます。

 無戸籍状態の子供は本当にかわいそうな状況にあると思いますし、やはり戸籍を求められるという場面は、いろいろなところで社会的な存在を認知していただくという面でも大事なことだと思います。そして何よりも、やはり親御さんも、子供を無戸籍の状態でおいておくというのは、本当に忍びない気持ちでおられるんだろうと思います。今、DVの問題等もいろいろあり、子供の届け出ができないという親御さんもかなりの数おられると思いますので、ぜひとも、この無戸籍の状態が一人でも少なくなるような、そういった手段はこれからも法務省の方でも考えていただきたいというふうに思っております。

 そして、今回の法案とは少し関係がないですけれども、この十二月の判決が出た同じ日に、夫婦別氏の話も判決が出たところでございます。もちろん、今回は、これについては審議をされるというものではありませんし、今回の法案とは趣旨が異なりますのできょうは質問はいたしませんけれども、この夫婦別氏の問題も、やはり私たちは、あの判決の中でも裁判官が指摘していたとおり、国会において議論をしていかなきゃいけないということはそのとおりであろうと思います。

 しかし、私は、家族の問題、そして民法の改正された経緯というものを考えていきますと、昭和二十二年に民法が改正されたきっかけは、私たち日本の国が戦争で負けて、そして大日本帝国憲法から日本国憲法に憲法が変わったということがやはり一番大きなきっかけでございました。そして、そのときに、日本国憲法の中で、自由であるとか平等であるとか、あるいは基本的人権の尊重であるとか、そういったことが規定され、そしてこれが旧の民法にはそぐわないということで、家族法の部分も大幅な改正がされたわけでございます。

 しかし、やはり憲法の問題は、日本の国の、私たちの先人たちがどのような思いでこの国をつくってきたのか、そして、さまざまな先人たちのいろいろな工夫の中で当時の日本の制度は成り立ってきていたと思っております。これが、日本国憲法の制定によって、この憲法の趣旨に合わないから家族法の部分が変えられた。

 私たちは、民法の家族法の規定を考えるときには、長い長い日本の歴史を考えた上で家族の規定というものは考えていかなくてはいけないと思いますし、今の自由と平等、それから基本的人権の尊重、あるいは法の支配、こういったものは、それぞれ大事な概念であるとは思いますけれども、しかし、その上にさらにもっと大事にしなくてはいけない概念があるのではないか。そういった概念のこともしっかりと考えながら、やはり私たちは、二千年の長い歴史のあるこの国の先人たちのいろいろな思いを受けとめながら今この現代に生きているんだということを重く受けとめて、これからの国会の議論に臨んでいかなくてはいけないと思っております。

 今国会ではこの夫婦別氏の話は議論になることはありませんでしたけれども、裁判所の要請によるように、やはりどこかでこの議論はしなきゃいけないと思いますし、その折には、やはり私たちは、今の、現代の価値観のみによるのではなくて、先人たちがどのような思いでかつての日本の制度をつくっていたのか、そしてそれが本当に日本人の幸せに貢献していたのか、あるいはそうではなかったのか、そういったことも検証しながら、この家族法の部分についてはまた皆様と議論をしていきたいと思っております。

 少し早いですけれども、終わります。ありがとうございました。

葉梨委員長 以上で安藤裕君の質疑は終了いたしました。

 次に、井出庸生君。

井出委員 民進党、信州長野の井出庸生です。本日もよろしくお願いいたします。

 まず、法案に入る前に、前回の質疑で足らざるところを少し伺いたいと思います。特定秘密の件でございます。

 前回の法務委員会、この場所におきまして、警察庁と外務省の平成二十七年度の特定秘密の指定三件について、情報の中身がなかったから、ないことが確定したので指定を解除した、そういうやりとりをさせていただきました。

 その答弁を確認しますと、外務省の情報二件については、いずれも、国際テロ情報収集ユニットの新設に伴い指定をしたものであったと。警察庁の一件は何だったかというと、平成二十七年中に警察の人的情報源またはその候補となった者に関する情報。情報をくれる人、くれる人候補ということであって、極めて重要なことなのかなと思います。

 また、前回のやりとりの中で、独立公文書管理監の佐藤さんから、私どもの検証、監察の過程において、平成二十七年中に警察庁が指定した一件、外務省の二件、このことが判明したんだと。四月の二十五日に意見を出して、その意見を受けて、当該指定の解除が行われましたという御説明もありました。

 まず、ちょっと外務省、警察庁にそれぞれ伺いたいのですが、御自身で指定された特定秘密、警察庁一件、外務省二件、その中に該当する情報はないということに自分たちで気づくということがあったのかなかったのか、それを各省庁から教えてください。

斉藤政府参考人 お答えいたします。

 平成二十七年中の人的情報源関係の指定に関しまして、当庁が保有する個別の情報のうち、これに該当するものの有無について、特定秘密とする情報は必要最小限とすべきとの観点から慎重に検討を行い、当庁みずから、当該指定に該当する情報が現存せず、今後もこれが出現する可能性がないと判断をしたものでございます。

 また、その検討のさなか、内閣府情報保全監察室から特定秘密に当たる情報の有無について御質問があり、最終的に、先ほど申し上げました該当する情報がないという判断が確定した段階で、これにお答えをしたものでございます。

飯島政府参考人 お答え申し上げます。

 外務省は、五月の十二日に、平成二十七年中に指定した二件の特定秘密を解除いたしました。解除いたしましたのは、平成二十七年中の国際テロリズムに関する人的情報源、もう一つは、平成二十七年中に外国の政府等から総合外交政策局に提供のあった情報の二件でございます。

 この二件につきましては、指定した特定秘密である情報が記録された行政文書等について当省みずからにおいて確認、精査をいたしました結果、平成二十七年末の時点で結果的にゼロ件であったことを確認した次第でございます。

 その上で、法の解釈、運用については内閣官房とも協議をしてきた結果、上記の二件について指定を解除することが適当との判断に至ったものでございます。

井出委員 両省とも自分たちで、外務省さんは、わかっていて、内閣官房と取り扱いを検討していたと。警察庁は、みずから慎重に検討し判断しているさなかに、独立公文書管理監から質問をいただいたと。

 警察庁に伺いますが、この二十七年の人的情報源、人的情報源候補ですか、その説明を聞いていますと、一般的には、では、そうすると何か、二十七年の一月一日にはもうその箱ができていて、それで一年間やってきて、結果としてなかったのかなと思うんですが、その慎重に検討、判断していた時期というのはいつごろになるのか、教えてください。

斉藤政府参考人 お答えをいたします。

 二十七年中の警察の人的情報源に関する指定でございまして、それに関する情報が、例えば二十七年の末の時点でたちまち該当するものはないということは、当方も把握をしておりました。

 他方、その二十七年中に警察の人的情報源になったものについて、さまざまな角度から検証して、特定秘密に該当し得るものがないかというのは、年を越えた二十八年になっても検討はしていたものでございます。

井出委員 そうしますと、いずれも、二十七年の末には外務省も警察庁もゼロになり得るということがわかっていて、ただ、特定秘密というものは重要なものでありますから、慎重な検討をされていたということかと思います。

 独立公文書管理監の佐藤さんに伺いたいのですが、たしか四月の二十五日付で佐藤さんの方から御意見を出されている。例えば、独立公文書管理監の佐藤さんの方では、昨年の間に一度、調査の結果ですとか指定状況の結果について、検証の方はまだ途中段階でしたけれども、一定の報告を国会の方にもしていただいたと思うんですけれども、この件については、いつごろ、どんな調査をする中で気づかれて、四月二十五日の意見提出に至ったのかを教えてください。

佐藤政府参考人 特定秘密の指定の適否に関する我々の検証、監察におきましては、各行政機関から入手した特定秘密指定書の内容をもとに、その具体的内容、他の情報との区別等について室内において精査し、あわせて各行政機関からのヒアリングや書面による回答の徴収等を行っているところでございます。こういうプロセス、手続をとっているわけでございます。

 今回、御指摘の平成二十七年中に指定された合計三件の特定秘密につきましても、このような検証、監察の過程において、これに当たる情報が存在するかどうかということを質問したところ、ない旨の回答を得たということでございます。これによって、私どもとして事実関係を把握したということでございます。

 時期ということでございますけれども、書面の方で、ないという旨の回答をいただいたのは、外務省については、指定が二つあります関係で三月の十七日と十八日、警察庁については四月の二十二日でございます。

井出委員 今のお話であると、昨年末で公表されていた独立公文書管理監の検証結果にはこの件は当然なかったかと思いますし、そういうことだったのかなと思うんです。

 警察庁と外務省にそれぞれ伺いますが、年末に把握をされて、慎重な検討をされて、その中で公文書管理監からも質問が出てきた、そういう流れかと思うんですが、公文書管理監からの質問というものが今回の判断にどれだけ影響したのか。

 端的に聞きますと、どうしてもう少し早く自分たちで解除しますということを言っていただけなかったのか。その点について、警察庁、外務省、それぞれにコメントをいただきたいと思います。

斉藤政府参考人 お答えをいたします。

 まず最初に、該当する情報の有無について、先ほど来申し上げましたように極めて慎重に検討を行ってきたということがございます。

 それからまた、政府としてこの特定秘密の指定の解除の前例がないということもございまして、法律を所管する内閣情報調査室とも必要な調整を図る中で、ある程度の時間を要したというふうに承知をいたしております。

飯島政府参考人 お答え申し上げます。

 平成二十七年末時点において保有する特定秘密である情報を記録する行政文書につきましては、運用基準に基づく内閣総理大臣等への報告等のため、平成二十八年一月から作業を開始し、三月に入り内閣情報室等に確定値を報告したところでございます。

 今般、指定を解除いたしました二件は、上記の作業を経て、当該文書等が存在しないことが確定し、また、今後、二十七年中のものとしては新たに存在することとなる可能性も想定されないと判断されましたことから、指定を解除する可能性も含めて省内関係部局で検討を開始し、同時に、指定の解除については先例がないことにも鑑み、法を所管する内閣情報調査室等とも必要な調整を図る中で、これらの二件について今般解除に至ったものでございます。

井出委員 外務省に再度伺うんですが、二十八年の一月から三月まで作業されていたというのは、私の思いですと、運用基準に定められた年に一度の点検ということでよろしいかどうかという点が一点。

 それともう一点、前例がないということはわかるんですが、三月までにその作業が確定していたというのであれば、先般四月二十六日に各省全体的に発表された特定秘密の昨年の状況の中で除いておくということも可能ではあったかと思うんです。現実としては、この間、四月二十六日に国会に提出された報告の中にはこの件は含まれていない、そういうことでいいのか、外務省、もう一度お願いいたします。

飯島政府参考人 お答え申し上げます。

 一月から作業を開始し、三月に入り内閣情報調査室等に確定値を報告したものは、運用基準に基づいて内閣総理大臣等への報告を行うためにこうした作業を行ったところでございます。

 それから、公表につきましては、特定秘密の指定及び解除につきましては、従来、内閣官房において取りまとめた上で、政府全体の数値を半年に一回報告しているところでございますが、今回の指定の解除につきましても、本年六月末の指定件数を取りまとめて公表する際にあわせて公表する予定であったと承知しております。

井出委員 済みません、ちょっとくどくて恐縮なんですが、国会報告に向けて一月から三月まで作業をされたと。それは、運用基準に定められている、各省庁で年に一回点検をしなければいけない、それとは違うんですか。

葉梨委員長 どうなんですか。答えられますか。(発言する者あり)ちょっととめましょう。

 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

葉梨委員長 速記を起こしてください。

 飯島参事官。

飯島政府参考人 お答え申し上げます。

 今回解除されました外務省の二件の特定秘密の指定は、二十八年中に解除されたものでございますので、二十七年末時点の数値を修正する必要はないと認識しております。

葉梨委員長 答えになっていません。聞いたのは、年一回の点検かどうかということですよ。そうでしょう。(井出委員「そうです」と呼ぶ)運用基準に定められている年一回の点検の過程で調べたものかどうかと聞いたんですよ。

飯島政府参考人 ちょっと確認いたします。

葉梨委員長 では、速記をとめてください。

    〔速記中止〕

葉梨委員長 速記を起こしてください。

 飯島参事官。

飯島政府参考人 申しわけございません、この一月から三月の作業が点検であったかどうかは、この時点では確認できません。

井出委員 警察庁にも同じ趣旨で伺いたいんですが、二十七年の人的情報源、人的情報源候補について、その有無、あったかどうか慎重に検討、判断をしていて、二十七年末には把握をして、年を越えてからそういう検討をされてきたと。それは、外務省と同じように、今、国会報告に向けた作業というものが一つあると外務省はおっしゃった。運用基準には、各省庁は年に一回、自分たちの特定秘密というものについてきちっと点検をしなければいけない、そういうことがある。そのいずれにおいてこの事実を把握されているのか、ちょっと教えてください。

斉藤政府参考人 お答えを申し上げます。

 結論から申し上げれば、年に一回の点検でもございませんし、国会報告に向けての報告でもございません。

 当庁におきましては、常日ごろから、収集をした情報についての特定秘密の該当性について確認を実施しているものでございまして、二十七年中の人的情報源に関する情報について、特定秘密として指定をすべきかどうかの検討を行っている過程でこの判断に至ったというものでございます。

井出委員 警察庁に伺いますが、運用基準に定められた年に一回の点検というものを、平成二十七年度分についていつやったか、教えてください。

斉藤政府参考人 お答えいたします。

 申しわけございません、現在、その実施状況について手元にございませんので、また後刻、御報告させていただければと思います。

井出委員 年一回の点検をやったかやらないかはわかりますか。

斉藤政府参考人 特定秘密を持っている各所属ごとに行っておりますので、やっているものと思っておりますが、それは改めて確認をさせていただきたいと存じます。

井出委員 外務省さんの方は、国会報告に向けた作業であるのか、年に一回の点検であるのか、そこが今の時点では確認がとれていないということかと思うんですけれども、年に一度、運用基準で定められている点検というものをやったかやらないか、いつやったかというところは、きょう答弁できますか。

飯島政府参考人 お答え申し上げます。

 外務省におきましても、年一回の点検を各部局においてしているものと想像しますが、この時点では確認ができませんので、確認をした上でお答えしたいと思います。

井出委員 特定秘密の指定の解除というものは確かに前例がないものでありますし、ただ、きょう質疑をさせていただいて、独立公文書管理監から質問されるまで知らなかった、そういう状況ではないのかなというところはわかりまして、そこはよしとしたいと思います。

 ただしかし、運用基準に定められている年に一度の点検というものが、やっていると思われると。そういう状況は、やはりそれを了とするわけには私としてはまいりませんので、そのことについては、これからしっかりと今回の件については確認をいただきたいですし、そういうことのないようにしていただきたい、そのようにお願いをします。

 田中審議官に伺いたいのですが、この年に一度の点検、これを各省庁が果たしてきちっとされているのかどうか、そこを田中さんのお立場でもきちっと調査して把握する。二十七年中のものをチェックするのであれば、二十七年の末か二十八年の速やかな時期にやるべきだと思うんですけれども、その点について、何か、指示ですとかそういう取り組みをされているのか、されるおつもりはあるのか、伺いたいと思います。

田中政府参考人 御指摘の点検でございますけれども、閣議決定をされました特定秘密保護法の運用基準におきまして、「指定の理由の点検等」という項目がございまして、「行政機関の長は、その指定に係る特定秘密の取扱いの業務に従事する当該行政機関の職員に、当該指定の理由を点検させ、その実施年月日を書面又は電磁的記録に記載又は記録させるとともに、指定の要件を満たしていないと認めたときには、速やかに指定を解除するものとする。」こういった記述がございます。

 お尋ねでございますが、現時点におきましては、定期的にこの点検を実施しているかということにつきまして各行政機関から報告を受けるという仕組みにはなっておらないというふうに承知をしておりまして、御指摘ございましたが、その状況につきましては、確認すべきかどうか、今後検討してまいりたいというふうに思っております。

井出委員 指定の理由を点検する、年月日を書面に書く、そういう制度がきちっとあるのであれば、今回の件の、速やかな指定解除の、それが一助になったかと思います。それでも、前例のないことですので、こういう結果になったかもしれません。

 また、今、報告を受ける仕組みはないとおっしゃいましたが、別に過重な負担を求めるつもりもございませんし、とにかく国会報告が、二十七年の分は二十八年の四月に出たわけでございますので、その作業は取りまとめられるわけですよね。そこと一体でも構いませんが、各省庁で年に一回点検をする。警察庁さんのように常日ごろから、まあ、常日ごろからの点検というものもまた、質問が大変難しい、では、どうやっているんですかと本当は聞きたいところなんですけれども。その点検に関して、やはり田中審議官の方でもう少しきちっとかかわっていただきたいと思いますが、再度お願いいたします。

田中政府参考人 ただいま御指摘をいただきましたので、今後、その要否につきまして検討してまいりたいというふうに思います。

井出委員 ちょっと、要否の検討という話なので、大臣にも一言いただきたいんですが、前回と今回のやりとり、特に今回のところで、運用基準に定められた年に一度の各省庁の点検が、きょうの段階では、されているかもしれないけれども確認ができていない、また、田中さんの方でもそういう報告の仕組みはないと。

 特定秘密保護法というものはまだスタートしたばかりで、国民の疑問も大変多い。一方で、私などは、国の秘密について関心を持ついい機会にもなっているとは思っているんですよ。法律が始まってみて、評価をしている部分もあるんですが、ただ、当時の法律制定のいきさつなどを踏まえれば、やはりこの年に一回の点検というものを各省がきちっとやっているか、そういうことについて、もう少し事務担当の大臣としてかかわっていただきたいと思いますが、お願いします。

岩城国務大臣 今回の指定の解除の経緯等につきましては、もう質疑の中で明らかにされたとおりであります。

 そこで、今回、独立公文書管理監からは、指定された特定秘密に当たる情報が現存せず、今後もこれが出現する可能性がないことが確定した場合には、速やかに当該特定秘密の指定を解除することなどの意見が出されております。

 こういったことも踏まえまして、今委員から御指摘のありました運用基準に定められております年に一度の点検、これにつきましても、斉一的な運用がなされるように、法律の適正かつ円滑な施行に努めてまいりたいと考えております。

井出委員 しっかりやっていただくようにお願いをしたいと思います。

 それと、田中さんに中身の件で伺いたいのですが、今回、国際テロ対策のユニットができて、それに関する情報が外務省さんは二件ですね、ちょっとどういう情報かまでは定かではないんですが。警察庁さんの方は、二十七年の、要は情報源、情報源の候補者ですよね。大変重要であるなということはわかっております。

 ただ、その一方で、例えば警察庁さんのことを例にとりますと、二十七年中にそういう情報源や情報源の候補が出てくるだろう、それも、特定秘密を提供するような人が出てくるだろうという見込みで指定をされたのかと思います。

 田中さんは前回、現存しない情報、これから出てくるような情報であっても特定秘密の指定の対象としていい、ことし一年こういう情報が入ってくるだろうからそういう指定をしていいんです、そういうことが逐条解説に書いてあるというお話をされて、私、逐条解説を読んだんですが、確かに、現存しないが将来出現することが確実であり、かつ、完全に特定し得る情報、そういうものはいいということが書いてあるんですね。例えば、適合事業者に武器のテストを行わせる場合に、テストを行わせるのであればテストの結果が出るんだから、その結果をあらかじめ指定するということはあり得る、可能であるというようなことが書いてあるんです。

 私も、今回の件、例えば、サミットがある、一年前からサミットに向けた情報収集をする、箱をつくる。サミットが終わりました、そういうテロということもありませんでした。本当にテロの危険性が逼迫しているというような特定秘密にすべきような情報は、テロについて情報を集めたけれども、特定秘密にすべきものはなかった。それで、では解除となれば、みんな、よかったよかったという話になるんです。

 警察庁さんの場合、二十七年一年間の人的情報源と情報源候補という、年限で区切られているわけですね。また、外務省さんの方は、どんな情報をそこに入れることを想定していたのか、今はわかりませんが、国際テロ対策ユニットをつくったということが箱をつくるきっかけになっているかと思うんですけれども、逐条解説は、私、もっと確実に見込まれるような、ただ、警察庁さんの言うのも十分見込まれると思うんですよ。ただ、よりその箱に情報が入るように見込まれるようにするために、指定そのもののあり方が、やはり今回の二件については、私は、いささか見直す余地があるのではないかと思いますが、田中さんに見解をいただきたいと思います。

田中政府参考人 御指摘のとおり、逐条解説で挙がっております例は、適合事業者に武器の試験を行わせる場合に、試験結果が生ずれば直ちにこれを特定秘密として保護させることができるようにする必要がある場合の当該試験結果を挙げているところでございます。今回指定が解除されました特定秘密は例示されているものそのものではございませんが、いずれにいたしましても、逐条解説は、現存しない情報でも特定秘密の指定の対象になるというふうにしているところかと思っております。

 お尋ねは、恐らく、特定秘密の指定の範囲をいかに明確化するかということと関係することかというふうに思っております。

 この点につきましては、各行政機関におきまして不断に努力をされているところかというふうに思っているところでございます。対象となります情報を漏れなく特定秘密として保護するためにどういった形の指定をするか、そういったこととあわせて検討されるべきものというふうに思っております。

井出委員 こういうことを申し上げるのは大変僣越なんですが、いずれにせよという話では私はないと思いますよ。

 特定秘密というものは、法律の三条できちっと定めがあって、行政機関の長が、自分たちの所掌事務に係る、その中で別表に該当して、公になっていなくて、その情報が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがある。これは法律上は、やはり原則は、情報があって、それが公じゃないか、別表に該当するかしないか、国の安全にかかわるかかかわらないか。法律の原則は、やはりある情報を指定するのであって、ただ、武器のテストがあれば結果があるだろうと、そういう特例を認めていく。ですから、新しい組織ができたという箱で本当にいいのか、それからまた、ことし一年の人的情報ということで本当にいいのか。

 今、各省庁で不断の努力とおっしゃいましたけれども、では、その不断の努力について、まず警察庁さんに今回の件についての見解をいただきたいと思います。

斉藤政府参考人 お答え申し上げます。

 内閣府独立公文書管理監から、特定秘密に当たる情報が出現する前にあらかじめ特定秘密を指定する場合には、当該情報の出現可能性について慎重に判断することという御意見もいただいてございますので、これを踏まえまして、法を所管する内閣情報調査室とも調整をしながら、今後、適切に対応してまいりたいと考えております。

飯島政府参考人 お答え申し上げます。

 今回指定を解除いたしました二件に関し、特定秘密の要件に該当するものにつきましては、特定秘密とする情報は最小限とすべきとの観点から慎重に検討を行ってまいりましたところ、内閣府情報保全監察室から、指定された特定秘密に当たる情報が現存せず、今後もこれが出現する可能性がないことが確定した場合には、速やかに当該特定秘密の指定を解除することとの意見をいただいたところでございますが、今後とも、内閣情報調査室に協議を行った上、検討してまいりたいと考えております。

葉梨委員長 前回の質疑の関連であることはよくわかるんですが、そろそろ民法の方も。

 井出君。

井出委員 はい。

 この問題は、私の率直な思いとしては、やはり二十七年の国会報告にきちっと載せていただきたかった。前例がないということで慎重な検討をされたということは、そこは了としたいと思うんです。前回、善悪の評価は非常に難しいと申し上げて、ですからきょう、もう少し伺ったんですが、要は、国会とか佐藤さんのところでチェックをしていく、そういうときに、もともと箱にないものをチェックして、ないものの説明を受けているような、そんなことがもしこれからあったら一体どうなるんだ、そういう強い心配があります。

 そのことについては、やはり田中さんのところが一番重要なところだと思いますので、私の思いを少しはわかっていただきたい、そういうお願いをさせていただきたいと思います。

 では、特定秘密の件は終わりにしますので、どうもきょうはありがとうございました。

 法案の方の質疑に入ります。

 先ほど安藤委員の方が大分掘り下げてやっていただきまして、私は、最高裁から、この再婚禁止期間の短縮とともに、意見として別の判決で出た、国会で議論すべしというところ、選択的夫婦別姓の件なんですけれども、そのことについては、案を持っている政党がある、選択的夫婦別姓を認めるべきだと。まだ議論中だという政党もあるんですが、これは大変な議論であることは間違いなくて、私はむしろ、法務委員会で超党派で、がちがちに固めて、それは違う、これは絶対正しいというものではなくて、やはりこれは、本当に党議拘束すらも慎重にやらなきゃいけないぐらいの問題ではあると思うんです。

 ただ、とにかく議論をしていくということが大事であるかなと思いまして、きょうは一つ、本当に総論といいますか、何じゃこれというところからちょっと話をしていきたいんです。

 私は、日本の結婚、家族、夫婦別姓ということを考えるときに、まず一つ、嫁という言葉が大変気になっておりまして、おんなへんに家という漢字なんですが、私は、女性は家にあるべし、そういういきさつがあってこういう漢字になったのかなと思っております。

 まず、この嫁という漢字の語源について、大臣の思いを伺いたいと思います。

岩城国務大臣 大変難しい御質問をいただきました。

 嫁という言葉でありますけれども、広辞苑によりますと、嫁という言葉は、息子の妻を意味するものであります。必ずしも一定の価値観を前提とした言葉ではないものと思っております。

 他方、嫁入りという言葉がございますが、これは、一般に、嫁となって夫の家に入ることを意味するものでありまして、戦前の家制度を想起させるように感じる方もいらっしゃるのかな、こんなふうに思っております。

井出委員 決してこの嫁という字が私は嫌だというわけではないんですが、私の家庭におきまして、ちょっと怖くて使いにくいなという程度のことなんですけれども。

 もう一つ、今度は婿という字がございます。婿は、おんなへんに、右半分はショと読むらしいんですけれども、何か、辞書で調べますと、婿というのは、おんなへんが娘だと。右半分のショと読む部分、ここは、対をなす仲間の意を含むと。ですから、娘と結ばれてペアをなした男性のことであると。そんなような解説があるのを見まして、何か、男性が娘さんの家に入るとか、おとこへんに家では決してないわけであります。

 ただ、私は、長野県の中でも少し田舎の方でして、家を守る、お墓を守る、家族、特に家とお墓を守るということに対してはすごく思いの深い、そういう方が大変多いのかなと思うんです。

 先ほど、二千年来の先人の議論という話もあったんですけれども、私、年配の男性の方とよく話しておりますと、中には、自分は婿なんだという方がいるんですね。私は、余りそんなことにこだわらなくていいじゃないかと思って聞いているんですけれども、そのうち、そういう方がお酒を飲んで酔っぱらってくると、いや、俺はできが悪いから婿に出されちまったんだとかと言い出すわけですよ。酒の席なので、私もまあまあと言っているんですが、ただ、やはりこの婿という言葉が、酒の席でそう愚痴るぐらいかもしれませんが、何かちょっと心にひっかかっている男性もいたのではないかな、そんなことを思うんです。

 選択的夫婦別姓というものは、我が党も案を出しておりますし、法制審でも大分前からそういう話が出てきておりますが、家族制度というものを何か大きく変えるとか壊すようなものでは決してないと私は思っているんです。

 確かに、今の制度でどちらかの姓を名乗る、大半が男性の姓を名乗ってきた、それでずっと来ているんですけれども、中には、今私が申し上げたように、いや、その方も大変すばらしい家庭を築かれているんですよ。築かれているんですけれども、そういう話もあるんです。

 実際に、娘さんがいらっしゃって、一人娘だと。その人を結婚させるときに、本人同士はよくても親同士で大分話し合いがあるというようなケースも聞きますし、娘が二人いたら一人ぐらいは、どっちかは、やはり嫁に出すのではなくて、婿にしてほしいという話も間々あるんですよ。

 ですから、私は、選択的夫婦別姓というものは、何か、男女平等、個人主義という、そっちもそっちで大変大事なんですけれども、一方では、家族を、家を守っていくというためにも一つメリットはあるんじゃないかなと思います。

 大変雑駁な例えと質問で恐縮ですが、大臣にコメントをいただきたいと思います。

岩城国務大臣 委員からお話がありましたとおり、私の地元の方でも、家を守るとか、墓を守っていくとか、そういったことに強い思いをお持ちの方が多数を占めている、こんなふうに考えております。

 先ほど婿という字についての解説をいただきました。これは、広辞苑で調べますと、婿という言葉は娘の夫を意味する、そういうふうに記されておりますけれども、先ほど言ったようなことと反対に、できがいいから婿に迎えられるというふうにお思いの方もいらっしゃるわけで、事ほどさように、この問題については、家族制度とか、それから家の問題、そして婿、嫁についても、国民の間でさまざまな御意見それから考え方があるものだと思っております。

 そうした中で選択的夫婦別氏制度についての議論がなされているわけでありますけれども、このことにつきましても、国民の各界各層でさまざまな御意見等がありますので、そういった御意見等をよく伺いながら慎重に検討していくべき課題である、そのように私は受けとめております。

井出委員 もう少し私の思いをお伝えしたいんですが、夫婦別姓というものが、男性と女性の平等という意味の大切さもありますが、私は、家族を守っていくという意味でも必要であると。

 例えば、日本の戸籍は家族単位で、海外のように個人の戸籍でもありません。戸籍の筆頭、配偶者というところの扱いの議論はあるんですが、戸籍まで個人の戸籍とするとなってくると、それはますます大議論になってくると思います。私は、娘さんを持っている親、それから、嫁だ、婿だという話で、結婚、新たな家族、家を守っていくというときの一助に、別に、この夫婦別姓で全ての世帯が夫婦別姓にしなければいけないというわけではないんですよ。では、この家をどう守っていくか、娘があいつと結婚したいと言って、俺は全然気に食わないけれども、何か決意はかたくて認めなきゃいけない、そういうときの一助になればいいと思っているんですよ。

 そういうことをぜひ御理解いただけないかなと思うんですが、どうでしょうか。

岩城国務大臣 委員からお話のあったことにつきましては、私も理解できないわけではありませんし、また、そういった中でも、先ほど来お話がありましたとおり、家とか家族制度とか、そういった日本の伝統的なものにこだわりをお持ちの方々もいらっしゃることも事実であります。

 先ほど申し上げましたとおり、さまざまな御意見が国民の間におありになるわけでありますので、そういった御意見をこれからさまざまな形で議論していくことも必要だと思っておりますし、こういった、具体的に選択的夫婦別氏制度を導入するかどうかということにつきましては、そういった議論等も踏まえながら慎重に検討していくべきだと思っております。

井出委員 わかりました。

 ですから、これは、こういう私のような人間でもわかるような議論から、今の法律の何条がこうなっているとか、そういうところじゃなくて、こういうところからでも議論を始めていっていただきたいな、そういうふうに思います。

 再婚禁止期間の部分についてちょっと伺いますが、先ほど、無戸籍のお子さんの問題を安藤委員も指摘されました。

 私は、もともとこの民法の七百七十二、七百三十三条ができたのは、お子さんの親が誰であるか、そういうお子さんのために、当時、子供が誰の子であるかということを検証するのがなかなか難しい、子供のためにこういう法律ができた。ただ一方で、今、無戸籍の問題、根本解決にはならないというような御答弁が先ほどありましたが、それが、今は逆に、子供のためにならない、残念ながら子供をそういう無戸籍にしてしまう、そういう状況が出てきている。

 それを考えますと、私は少し安藤先生とは見解を異にするんですが、この再婚禁止期間があることそのものが本当にいいのかどうか、そのことについてやはりもう少し踏み込んで検討すべきではないかと思いますが、局長にお話を伺いたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 民法が女性について再婚禁止期間を設けている趣旨は、嫡出推定の重複を回避することによって法律上の父子関係を早期に確定し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防止することにあるものというふうに理解しております。

 したがいまして、再婚禁止期間そのものを廃止しました場合には、嫡出推定が重複したとしても、子の父をどのように定めるかが問題となるわけでございまして、例えば、DNA鑑定によって法律上の父子関係を確定するという制度を採用するようなことになりますと、法律上の父子関係が子の出生時に確定せずに子の福祉に反する事態が生じ得る、こういうような問題が出てまいります。

 昨年十二月の最高裁判決におきましても、再婚禁止期間を設けること自体については、子の利益を図る観点から合理性があるとの判断をされているところでございます。したがいまして、再婚禁止期間を設けること自体は適切であるというふうに考えております。

井出委員 百日という規定も含めて、再婚禁止期間を設けること自体を違憲とした裁判官もそのとき二人いらっしゃったと。今、百日を設けることは適切だというお話がありまして、それは、現時点では解決の方法として百日が妥当であると。

 引き続きの検討というものはやはり前向きにやっていった方が、それがどちらかというと最高裁の判決の全体ではないかと思いますが、どうでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 再婚禁止期間を存続させることにつきましては、もちろんさまざまな議論もあるわけでございますし、今御指摘がありましたように、最高裁判決におきましても、再婚禁止期間を定める民法七百三十三条第一項の規定が全部違憲である、そもそも設けること自体が違憲であるという見解が一部の裁判官から示されているものと承知しております。

 ただ、先ほど申し上げましたように、再婚禁止期間を設けている趣旨は、嫡出推定の重複を回避することにより、法律上の父子関係を早期に確定して、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐということでありまして、その点については、多数意見で合理的であるとされております。

 したがいまして、再婚禁止期間に係る制度につきましては、このような再婚禁止期間を設けていることの意義ですとか、あるいは、これを仮に廃止した場合には、廃止することによって子の利益を害することにならないかといった観点から、慎重に検討していく必要があるものというふうに考えております。

井出委員 もう時間なので終わりたいと思いますが、きょう、刑訴法ももう一度戻ってきて議論をする。昨年の刑訴法、それから、今国会の技能実習、そしてきょう、この再婚の部分の議論があって、選択的夫婦別姓の議論もお願いをしていきたいですし、大変大きな議論が法務委員会で続いていくのかなと。やれ選挙だ何だと言われておりますが、私も全力をもってこの法務委員会の議論に引き続き参加をさせていただく、そういうことを申し上げて、質問を終わりたいと思います。

 どうもありがとうございました。

葉梨委員長 以上で井出庸生君の質疑は終了いたしました。

 次に、逢坂誠二君。

逢坂委員 民進党の逢坂誠二でございます。

 きょうは、ストレートに、今議題になっております民法改正法案、このことについてお伺いをしたいと思います。

 今回の民法改正法案に関連して、先ほど安藤委員からも質問がありましたけれども、戸籍のない方々の問題、これも惹起されているわけであります。

 きょうは、傍聴席に元衆議院議員であります井戸まさえさんも来ておりまして、井戸さんがこの問題に相当長い間取り組まれていて、社会の中では余り顕在化していなかった問題を、いや、実は社会にこんな大きな問題があるんだということを明らかにしてくれたのが私は井戸さんだと思っております。だから、逆に言うと、私がここに立つよりも、井戸さんがここに立ってやった方がいいんだというふうには思うんですが、そういう意味では、きょうは代議士としての役割をちゃんと果たして質問したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 まず法務省にお伺いしたいんですけれども、無戸籍の実態、これを法務省はどのように把握しているかということと、無戸籍となる主な理由、私の調べでは、無戸籍となる主な理由というのは嫡出推定制度が大きいんだろうというふうには思っているんですけれども、このあたり、まず法務省の認識をお知らせください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 法務省では、全国の市区町村を通じまして、戸籍のない方の存在に関する情報を集約するという取り組みを行っております。その結果を見ますと、平成二十八年五月十日現在で法務省で把握しております戸籍のない方の人数は、六百八十九名ということでございます。

 それから、いわゆる無戸籍者が生ずる理由として主なものということでございますが、無戸籍となった理由がわかる場合につきましては、先ほど申し上げました情報集約の中で報告を求めております。その結果を見ますと、民法七百七十二条により嫡出推定が及ぶ場合に、戸籍上、夫または前夫の子とされるのを避けることを理由として出生届を提出しない者が多うございます。

 数字で申し上げますと、平成二十八年五月十日現在において法務省が把握しております戸籍のない方の人数、先ほど申し上げました六百八十九名のうちの五百二十四名、パーセントで申しますと七六%の方が嫡出推定を避けることを理由としているというところでございます。

逢坂委員 新しい法務省の調べによれば、六百八十九名の無戸籍の方がいるということでありますが、多分これは、把握できている最少という言い方は変でありましょうけれども、実態としては多分把握し切れていない方もいるということを考えれば、これよりも数は多いのかもしれないということは想像がつくのかなと思っております。

 そのうち、無戸籍となる理由というのは嫡出推定の問題によるというものが七〇%以上、八割近くがそうなんだということでありますので、この嫡出推定制度と無戸籍の問題、これは切り離して考えることはできないというふうに思います。

 そこで、まず一つですけれども、無戸籍の方については法的にどんな不利益があるのか、法務省で把握している範囲で構わないんですけれども、お知らせください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 戸籍は、人の親族的な身分関係を登録し公証するものでございますので、戸籍のない方々は戸籍謄本等によって身元を証明することができないということになります。

 その結果として、各種行政サービスを受ける上でさまざまな困難が生ずる場合があるものと考えられます。具体的によく言われますのは、パスポートの発給などについては、原則的な取り扱いとしては発給を受けることができないといったことが典型例として説明されるところでございます。

逢坂委員 私がいろいろ聞いたところによりますと、当然といえば当然なんですけれども、戸籍がないと住民票がつくれないということもあって、選挙権の行使ができないとか、印鑑登録ができないとか、マイナンバーの取得ができない、国民健康保険、国民年金への加入ができない、あるいは運転免許証の取得などにも障害があるといったようなこと、場合によっては銀行口座の開設もできない、あるいは賃貸借契約、こういうこともできない、平たく言えば携帯電話の契約などの法律行為もなかなかしづらいんだというのが、戸籍のない方がこうむる不利益の実態ではないかというふうに思うわけです。

 戸籍がないことに加えて住民票との関連もあるわけですが、ここで総務省からちょっと教えていただきたいんですけれども、住民票というのは生まれたら自動的にできるものなのか、住民票というのが最初にできるきっかけというのは、どういうきっかけで住民票がつくられるのか。そこを、余り国民の皆さんはわからないと思うんですけれども、教えていただけますか。

宮地政府参考人 お答え申し上げます。

 住民基本台帳法上、日本人が出生した場合につきましては、記載の正確性を確保するという観点から、戸籍の記載が行われた上で、これに基づいて行われるということになっておりまして、具体的に申し上げますと、出生届が市町村に提出をされますと、この出生届に基づいて住民票を記載するという形になっておりますので、出生届が提出されなければ住民票は作成されないというのが原則でございます。

逢坂委員 そうなんですね。戸籍法による出生届が出て初めて住民票がつくられる、そこに人が存在しているから自動的に住民票がつくられるものではないんだということであります。すなわち、出生届が出されなければ住民票もつくられない。

 それでは、もう一点だけ総務省に突っ込んでお伺いしますけれども、そういうケースであっても何らかの方法で住民票をつくる、要するに、戸籍がなくても何らかの方法で住民票をつくれるケースというのは全くないんでしょうか。

宮地政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたように、出生届が出された上で住民票が作成されるということが基本ではございますが、民法第七百七十二条に基づきます嫡出の推定が働くことに関連いたしまして、出生届の提出に至らずに結果として住民票の記載がされないという事例が生じておりましたことを踏まえまして、一定の場合に限りまして特例的に市区町村長の判断で住民票の職権記載ができる旨を助言として通知しておりまして、この通知に該当するような事案の場合には住民票の記載が可能であるところでございます。

逢坂委員 具体的にどんな事案ですか。

宮地政府参考人 失礼しました。

 具体的に申し上げますと、認知の調停手続などで外形的に子供の身分関係を確定するための手続がもう進んでいるというふうな場合には、将来的に戸籍の記載が行われる蓋然性が高いと認められるということを踏まえまして、市区町村長の判断でそうした場合には住民票の職権記載ができるという取り扱いといたしております。

逢坂委員 今話がありましたとおり、認知などの件について法廷で議論をしている、そういった事実があれば住民票をつくることができるんだということでありますけれども、そもそも戸籍を持てない方というのは、さまざまな理由で出生届を出さない、出せない、出したくないということが背景にあるわけですから、そういう方があえて認知のさまざまな手続を法廷の場でやるというのは、なかなか考えがたいケースの方が多いのではないかというふうに思うんですね。

 そういう意味でいうと、そもそも戸籍のない方が自発的な行動によって住民票をつくっていくということにつながるケースというのは、そんなに多くないのではないかなと私自身は思うんですけれども、いずれにしても、戸籍がないということはこういう実態であるということは、多くの皆さんに改めて認識をしていただきたいと思います。

 総務省、住民票の関係はこれで終わりますので、後はお引き取りいただいて構いません。お忙しい中、ありがとうございました。

 それでは、嫡出推定の制度と無戸籍が非常に大きな関係があるということなんですが、まず先に、今回の法案の柱、肝になっております再婚禁止の期間百日のことについてお伺いしたいんです。

 今回、百日というふうにした理由、この算定の根拠といいましょうか、これについて教えていただけますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 御案内のとおり、現在の民法七百三十三条一項は、女性の再婚禁止期間を六カ月と定めております。再婚禁止期間が前提といたします嫡出推定の規定でございます七百七十二条によりますと、婚姻成立の日から二百日を経過した後または離婚の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定される結果、夫の子と推定されるということになります。

 しかし、例えば離婚直後に再婚することを認めますと、再婚後二百日を経過した後には後夫の子と推定される期間が開始されるにもかかわらず、離婚後三百日以内はなお前夫の子と推定される期間が残存するということになりまして、その結果、嫡出推定が重複するということになります。これによって、出生時に子の父を定めることができなくなるということになります。

 昨年十二月の最高裁判決は、民法七百三十三条第一項のうち百日の再婚禁止期間を設ける部分、これは数字で申しますと、先ほど申しました三百日から二百日を差し引いた数字になるわけですが、百日の再婚禁止期間を設ける部分は、このように嫡出推定の重複を回避するという立法目的との間に合理的な関連性が認められるが、百日を超える部分は嫡出推定の重複を回避するために必要であるとは言えず、憲法十四条一項、二十四条二項に違反すると判断をいたしました。

 このように、本法案は、最高裁判決を踏まえまして、嫡出推定の重複する期間が生じないようにするため、民法第七百三十三条第一項が定める再婚禁止期間を六カ月から百日に短縮することとしたものでございます。

逢坂委員 今の説明は、聞いている方もおわかりになったと思いますけれども、百日と決めた根拠は、民法七百七十二条の嫡出の推定、これの第二項に規定しております、婚姻成立の日から二百日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する、この二百という数字、それから、同じ第二項ですけれども、婚姻の解消もしくは取り消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定するという、この三百という数字、この二つから導き出されたのが百だという説明、そういうふうに理解をするわけです。

 であるならば、今回のこの再婚禁止期間の百が妥当であるかどうかは、嫡出推定の二百あるいは三百という数字が妥当であるかどうかというところにも多分起因するんだろうと思うんですね、ここから導き出されているわけですから。

 そこで、まず最初に、この七百七十二条の二項の二百日、婚姻成立の日から二百日を経過した後に生まれた子は、言ってみると婚姻中に懐胎したものとするという規定なんですけれども、私は、この規定が機能しているのかなという気がしないでもないんですね。本当に機能しているのかどうかという説明を少しわかりやすくしていただきたいんですけれども。

 というのは、一つは、婚姻から二百日以内の出産であっても、戸籍の窓口では嫡出子として何ら問題なく出生届を受理しているという現実があるように思うんですけれども、このあたりはいかがでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 ただいま御指摘がありましたのは、昭和十五年に出されました民事局長回答に基づく取り扱いのことかというふうに認識しております。

 この民事局長回答は、内縁中に懐胎し、適法に婚姻した後に出生した子は、婚姻届け出と出生との間に二百日の期間がなくても、出生と同時に嫡出子としての身分を有すると当時の大審院が判示いたしました判例を前提といたしまして、実務運用上は、婚姻届け出の前に内縁が先行しているかどうか、出生した子が内縁期間中に懐胎したものであるかどうかといった事実関係については、これは基本的に書面審査ということになりますので戸籍の窓口では判断し得ないということから、そういう点を考慮して取り扱いを定めたものでございます。

 しかし、この民事局長回答により嫡出子として受理された子については、民法七百七十二条に規定する嫡出推定は及ばないということになりますので、利害関係がある第三者は、いつまでも親子関係不存在確認の訴えによって父子関係の存否を争うことが可能でございます。

 そういう意味では、いわば父子関係が不安定な状態になっているという点では、いわゆる嫡出推定の婚姻成立後二百日の状態とは違うということでございます。

逢坂委員 それでは、二百日を超えて生まれた子は嫡出推定の及ぶ子ということで、実は私も、今回調べてみたんですが、両親が結婚してから五百日か六百日目ぐらいに生まれているようでありますので、私は民法で言う七百七十二条の第二項該当ということになるんでしょうか、二百日より後に生まれているから。それでよろしいんでしょうか。

小川政府参考人 もちろん、七百七十二条全体として嫡出推定が働く例だと思います。

逢坂委員 そこで、もう一つお伺いしたいんですけれども、昭和十五年の、先ほど言いました、内縁関係があって、その後に婚姻して二百日以内に生まれていても嫡出子だということでありますけれども、これを設けた理由といいましょうか、これの実数といいましょうか、あるいは、こういうことを発するわけですから、これは法律ではありませんので、立法事実という言い方をするのは適切かどうかわかりませんけれども、これに該当する件数というのはどういうふうに把握しているんでしょうか。

小川政府参考人 先ほど申しましたように、昭和十五年の民事局長回答でございますので、その段階でどのような立法事実、あるいはこの回答に至った事実があったかどうかということは定かではございません。

 一般に教科書などで説明されますのは、やはり戦前、婚姻に至る前に一定の内縁関係を持つような例も多かったので、そういったことも踏まえた例だということを書かれている文献を読んだ記憶はございますが、その程度でございます。

逢坂委員 要するに、昭和十五年の、二百日以内でも嫡出子ですよという、このことについては、実際、事実がどれぐらいあるのかわからない。

 あるいは、さらにまた、二百日を超えた後に生まれた子、これは七百七十二条の二項に規定するところでありますけれども、嫡出の推定、これは多分数限りなくある。もしかしたら一般の子供のほとんどがそうなのかもしれない。結婚して時間がたてばたつほどそういうケースが多くなるわけですから、ほとんどがそうなんだろうということになると、純粋な法議論として、この規定の存在する意味というのはどう捉えたらいいのかなというのが何かわからなくなってしまうような気がするんです。

 すなわち、現在のさまざまな婚姻は、ちょっと言葉は俗っぽくて過ぎるかもしれませんけれども、できちゃった婚というのも結構あるわけですね。結婚式の当日におなかが大きいなんという結婚式にお出になった方もいらっしゃるかもしれません。私もそういうケースを幾つか散見している。そして、みんなで、おめでたいね、早くできてよかったねというようなことを言うわけですが、そういうケースも非常に多いわけであります。

 だから、それも戸籍の窓口ではある種当たり前のように出生届が受け付けられているわけですね。そして、二百日を超えたものについては七百七十二条二項の嫡出推定の適用だということになるんですけれども、この区別を設ける意味というのはもう少し積極的に説明できるでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 二百日以内に生まれたお子さんは、嫡出子としての出生届をすることが可能でございます。したがいまして、戸籍の上では嫡出子として、そういう形で受理されることになるということでございます。

 しかし、法律上の嫡出推定はされないということでございますので、つまり、七百七十二条の条文上、嫡出推定の対象にならないということになりますので、こういった嫡出推定をされないお子さんたちにつきましては、嫡出否認の訴えを提起しない限り父子関係は確定する、そういう法律関係ではございません。すなわち、親子関係不存在の訴えなどによって、親子関係が後になっても否定される関係でございます。

 それに対しまして、七百七十二条の推定規定によって嫡出推定を受けた方につきましては、夫が子の出生したときから一年以内に嫡出否認の訴えを提起しない限りは、父子関係は確定する。

 そういう意味では、法的安定性の観点から申しますと、両者に違いはあるということでございます。

逢坂委員 法的安定性で両者に違いがあることは理解はするんですけれども、であるならば、法的安定性の少ない方、すなわち、二百日以内に生まれたというところを少しでも減らすということは非常に大事なことかもしれないと思うんです。

 その上で、二百日と決める合理性はどこにあるのかというのはいかがでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 二百日の根拠につきましては、これは明治民法のときからございまして、一般的な懐胎と出産の時期との関係ですとか、それから諸外国の嫡出推定の期間などを参考にしたと言われているというふうに承知しております。

逢坂委員 正直申し上げまして、私は、このルールがいいとか悪いとかということを判断できるぐらい知識がまだ深まっていないんですけれども、聞けば聞くほど、なぜこの二百日があるのかなというのがだんだんわからなくなるというか、立法事実といいましょうか、そういう点でも、これを本当に存置する意味があるのかないのかというところは、もう少し勉強しなきゃいけないなと思っているところであります。

 なぜこれにこだわるかというと、今回の再婚禁止期間の百日に直結する数字の二百だからであるわけであります。

 それでは、もう一つの問題の数字、三百なんですけれども、三百日でありますね。これは、民法七百七十二条、「婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」ということで、離婚前の夫、前夫の子と推定される期間が三百日ということなんですけれども、これの立法事実といいましょうか、これは年間どれぐらいの届け出があるとかということはわかっているんでしょうか。

小川政府参考人 婚姻解消後三百日以内に生まれた子についての統計資料はございません。

逢坂委員 余りこういう問題をぎりぎりやっても仕方がないところもあるのかもしれないんですけれども。

 通常、我々が議員立法なんかをつくるときにいつも言われるのは、立法事実があるのかどうか、社会にそういうニーズがあるのかどうかということをよく言われるわけですが、この点については、これは明治からずっと続いているという認識でいいんでしょうか。特に立法事実がどうこうということは、法務省としては特段、現時点でも考えていないということなんでしょうか。

小川政府参考人 これも先ほどの二百日と同じように、一般的な懐胎から出産までの期間ですとか、特に外国の状況なども、同じく三百日というような例も多いように伺っておりますので、そういった点を考慮したものだというふうに理解しているところでございます。

逢坂委員 それでは、民法七百七十二条二項の三百日規定についての例外というのはあるんでしょうか。これについて教えていただけますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 例外は、法律的に、七百三十三条二項の規定の適用除外というのが、今回も一つの改正事項でございますが、それがございますが、運用としてで申し上げますと、離婚後三百日、離婚後懐胎したということの証明書を添付して出生届け出がされました場合には例外的な取り扱いをするということがございます。

逢坂委員 今御説明いただいたのは、七百七十二条の規定にかかわらず、離婚後、婚姻の解消後の新たな懐胎であることが証明できれば嫡出推定の三百日以内というものは適用しない、これは平成十九年五月の民事局長通達というふうに理解していいでしょうか。

小川政府参考人 離婚後に懐胎したことを証明した場合には前の夫の子供として取り扱わないということでございますとすれば、民事局長通達、平成十九年一〇〇七号通達のことでございます。

逢坂委員 それでは、今の、平成十九年の一〇〇七号通達に該当するケースというのは年間どれぐらいあるんでしょうか。

小川政府参考人 これは、平成十九年に通達を発出した以後、取扱件数の統計をとってございます。平成二十六年度で見ますと、年間二百三十七件でございます。

逢坂委員 平成十九年通達、年間、二十六年でいうと二百四十件程度があるということでありますけれども、この通達の意味するところ、なぜこういう通達が出たのかということ。なぜこういう通達を出したか、出した理由、出す意味、これについて、もう少しかみ砕いて説明いただけますか。

小川政府参考人 平成十九年の段階で、民法七百七十二条の嫡出推定によって、それが重複した場合に、前夫の子として届け出をすることになるということを回避したいというお話がございました。これは無戸籍者の問題と共通するものでございます。そういった方々への一つの対応策といたしまして、離婚時に懐胎をしているかどうかということにつきまして、離婚時に懐胎していれば取り扱いは構わない、そういう取り扱いとしたというのがこの趣旨でございます。

逢坂委員 すなわち、何でこんなことをくどくど一々聞いているかというと、三百日というふうに決まっていると、三百日を何かそのまま額面どおりきっちり守る、これが嫡出推定の基本ルールだというふうには思うんですけれども、目的というのはそうではない。三百日を厳格に適用することが目的ではなくて、きちんと子供の親が特定できるということが多分一番大きな目的なんだろうというふうに思うんですね。

 そこで、改めてなんですけれども、嫡出推定制度の意義というか、これは本質的にはどういうことなんでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 最初に、先ほどの御答弁の中で、離婚時に懐胎という表現を使ったかと思いますが、離婚後懐胎の誤りでございますので、訂正させていただきます。

 嫡出推定の制度につきましては、先ほど来御説明いたしておりますように、まず第一に、婚姻中に妻が懐胎した子をその夫の子であると推定した上で、嫡出推定が及んでいる子については、夫が子の出生を知ったときから一年以内に嫡出否認の訴えを提起しない限り、その夫と子の間の父子関係を確定させる、そういう制度でございます。その趣旨は、一般に、法律上の父子関係を早期に確定して、子の利益を図る点にあるというふうに説明されております。

 このように、嫡出推定が及んでいる子につきましては、この制度によって父子関係が早期に確定するということになりますが、民法七百七十二条は、まず、一般的な経験則をもとといたしまして、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子であると推定した上で、懐胎時期は必ずしも明確ではないということを考慮いたしまして、婚姻成立の日から二百日経過後または婚姻解消の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定するということでございます。

 嫡出推定の制度を仮に廃止するといたしますと、その場合は、法律上の父子関係を別の方法により定める必要が出てくるわけでございまして、裁判の手続によって、具体的には例えばDNA鑑定を使うということになろうかと思いますが、そういった方法を用いなければ父子関係が確定しないというのが問題ではないかというのが一般に説明されるところでございます。

逢坂委員 まず一つ確認したいんですけれども、嫡出推定制度というのは、子供の法的身分関係を早期に安定させるんだ、お父さんが誰かということを決めるというのは直接的な目的でありますけれども、本当の目的は子供の法的身分関係をちゃんと安定させるんだ、そのことによって、最終的にはそれは子供の利益、子供のための制度だという確認でいいですよね。子供のための制度なんだということですよね。

小川政府参考人 法律関係を確定することによって、扶養を受けられる地位ですとか、あるいは監護、教育を受ける地位につくわけでございますので、その意味では子供のためのものであるというふうに言えようかと思います。

逢坂委員 それで、局長、ちょっと誤解しないでいただきたい、私は、嫡出推定の仕組みというのを全廃すればいいというふうには必ずしも思っていないんですね。ただ、嫡出推定の現在の仕組みがあるがゆえに、冒頭にも言いましたとおり、戸籍のない人たちが出ざるを得ないという実態がある、これをどうやって解消していったらいいのかなということを何か探りたいという思いで、こういう質問をしているんです。

 それで、今話を聞いてみると、私にはやはりどうしてもまず一つわからないのは、二百日規定というものが本当に機能しているというふうに言っていいのかどうか。実務上は全く関係ないわけですよね、戸籍の窓口へ行ってみると。結婚した後五十日目に生まれた子も、結婚した後二百一日目に生まれた子供も、戸籍の窓口の実務上は、何か変わるものはありますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 今挙げられた例で申しますと、記載は特に変わりません。

逢坂委員 そうですね。ただし、その違いがあるというのは、先ほど言いましたとおり、二百日を一つの境にして法的安定性に違いがあるんだという説明だったわけですね。

 ただ、その法的安定性に違いがあるんだという説明ですけれども、それは人の決めでありますから、ではなぜ二百日を決めたんだというところが問題になるわけで、それは、明治に決められた民法の二百日という規定そのままであり、その二百日という規定は、諸外国の例なども見て、それで合理性があるだろうということでありますけれども、本当にその二百日というのは今の時代においても合理的に説明がつくのかどうか。

 ここのところは、今の段階で私は説明をつけてくれと言うつもりはないんですよ。これはなかなか簡単なことではないというふうには思うんですね。ただ、その二百日というものが先ほどの再婚禁止期間百日の算定の根拠になっているということであるならば、そこは、今回、確かに最高裁の判決は、百八十日、六カ月を、百日を超える期間というのはそれは違憲ですよということが出たので百日にするという、それはストレートに私は受けとめなければいけない、立法府として受けとめなければいけないとは思っているんですが、そのときに、それはそれとしながらも、今回のことを一つの契機にして、いろいろなことを考えてみる必要があるのではないかというふうに思うんですね。

 それはなぜかというと、繰り返しになりますけれども、これほど戸籍のない方々、子供も大人も含めて戸籍のない方がいて、世の中では余り一般化しないで相当御苦労されているし、人生そのものが場合によっては台なしになるというような御苦労をされている方もいらっしゃる。そういう問題もあるわけですから、相当慎重に、今回のことを契機に、今一気に直すのは難しいかもしれないけれども、問題意識として持つ必要があるのではないかなというふうに私は思っています。

 だから、二百日と三百日のところは、もう少し、本当にそれでいいのかなというところを考えてみていただきたいし、私自身もこれから考えていこう、そんなふうに思っております。

 さて、そこでなんですが、今回、六カ月を百日に短縮したわけですけれども、それはそれとしながらも、再婚禁止期間という制度は残っているわけであります。これについては、国連から、女性差別であるからさらに改善をといったような話も出ているわけですが、これに対しては法務省はどういう見解を持っておりますでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 御指摘ありましたとおり、国連の女子差別撤廃委員会は、本年三月、我が国に対しまして、再婚禁止期間そのものを廃止するように勧告したものと承知しております。

 もっとも、再婚禁止期間を設けた趣旨は、先ほど来申し上げておりますように、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあって、嫡出推定の重複を回避するために百日間の再婚禁止期間を設けること自体は合理的なものであるというふうに認識しております。したがいまして、我が国として再婚禁止期間を撤廃しないことが女子差別撤廃条約に違反するものというふうには考えてございません。

 女子差別撤廃委員会に対しましては、今後も、このような我が国の立場あるいは状況などについて十分な説明をして、理解が得られるよう適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

逢坂委員 政府としてはというか法務省としては、これは合理的な理由があるということで、その合理的な理由について、これからも国際社会に説明をしていきたいというような趣旨なんだろうと思いますけれども、この百日の再婚禁止期間についての例外というのはあるんでしょうか。

小川政府参考人 七百三十三条の二項に法律上の例外規定がございまして、今回新しく一つの事由を加えてございますが、そういった事由に該当する場合にはそもそも一項が適用されない、そういう意味では例外事由でございます。

逢坂委員 大変恐縮です、もうちょっと言葉として詳しく説明していただけますか。その例外規定です。

小川政府参考人 現行法の七百三十三条二項では、離婚後に出産した場合、この場合は、もう前の夫の子供を懐胎するという推定が働く余地はございませんので、適用除外としております。

 それに加えまして、今回は、離婚時に懐胎していなければ、これも、その段階で前の夫の子供と推定される余地はございませんので、同じように適用除外の規定として加えるということとしております。

逢坂委員 そうなんですね。この再婚禁止期間を設ける理由というのは、要するに、誰の子供かわからないといったような混乱を避けるためなのが大きな理由でありますから、今の、離婚後に出産をしたとか、離婚後の新たな懐胎であるというようなことがわかれば、それは当然結婚を認めていいものだろうというふうに思うんです。

 私は、この百日の規定、確かにそれはそれで、今までのルールから導き出すと百日という再婚禁止期間が出てくるんだとは思うんですけれども、制度の目的あるいは法の目的を考えてみると、これをいろいろな工夫によって少しでも短くしたり、ああ、こういうケースは結婚できるんだねというようなものを積み重ねていくということが、やはり国際社会からの要請にも応えることだと思うんですよね。

 あらかじめ決めた、今新たに法律につけ加えられたことだけではないことが、場合によっては、もしかしたらあるのかないのか、今の時点で私は言いづらいところはありますけれども、でも、とにかくこの百日という規定を金科玉条のように適用することが正しいということではなくて、法の目的からすれば、これを少しでも減らして、合理的な理由があれば結婚を認めていくということがその方向なのではないかなと思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。

小川政府参考人 七百三十三条二項の趣旨は、基本的には、嫡出推定の重複が生ずる余地のないような場合については、もはや七百三十三条一項の適用を受ける必要はございませんので、そういう意味では外すということでございます。あるいは、例えば実務上も言われておりますような、そもそも推定が及ばないような場合、こういった場合も同じような取り扱いも可能でございまして、実務的にはそのような取り扱いをしております。

 そういう意味では、この事由に特定するというよりも、嫡出推定の重複が生じない場合、あるいは嫡出推定を受けないような場合といった観点からの検討が必要ではないかというふうに考えているところでございます。

逢坂委員 ありがとうございます。

 そこで、改めてもう一回、無戸籍のことに、全体に戻らせていただきたいんです。

 無戸籍者をつくらないために、つくらないというのは変な言い方かな、そういうものを生み出さないために法務省としてはどんな工夫というか努力というか、されているでしょうか。以前は、そういう存在すらなかなか認識していなかったと思うんですけれども、ここ数年、そういう方がいらっしゃるんだということを認知した上で、法務省としては、そういうものを新たに生み出さないということのためにどんな努力をされているか、御紹介ください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 無戸籍者の方々は、戸籍がないことから、先ほども申し上げましたように、行政サービスを受ける上でさまざまな困難が生じている場合があると考えられるわけでございます。そこで、そのような無戸籍の方が生じないようにすることは、当然のことながら重要であるというふうに認識しております。

 法務省では、これまでも、戸籍のない方の情報集約ですとか、あるいは戸籍をつくるための法務局での手続案内を行ってまいりましたが、これらのほか、法務局においても一人一人の実情に応じた相談を行っておりまして、このような取り組みは、無戸籍となることをできるだけ防ぐことに資するのではないかというふうに考えているところでございます。

 特に、このうち相談の関係でございますが、これは、法務省との連携のもとで日本弁護士連合会が行った全国一斉無戸籍ホットライン、昨年の十一月十一日に実施したものでございます。この結果の報告を受けまして、例えば、子が出生する前の母親から相談を受けて対応したというような事例がございますので、事前の相談ということも大きな意味があろうかというふうに考えております。

 そういった報告もございましたので、今後も、このような相談を法務省としても進めていきたいというふうに考えております。

逢坂委員 ぜひいろいろなPRをしていただいて、戸籍のない人を新たに生み出さないという努力をしていただきたいと思います。

 と同時に、現在、もう既に戸籍がない状態で長い間人生を送られている方々もいるわけですので、法務省として、戸籍のない方々を、現に、もう既になっている方ですね、この不利益な状態をどのように解消していくかということについて、何か考えがあれば教えていただきたい。

 例えば、文科省は文科省なりに、就学ができるようにということで、自治体の教育委員会にいろいろアドバイスをしたり、あるいは厚労省は厚労省なりにいろいろやっているということは承知はしているんですけれども、法務省として、どういう基本的な心構えでこれをやっているのか、あるいはやっていくのか、もしお考えがあればお願いします。

小川政府参考人 お答えいたします。

 法務省といたしますと、今戸籍に記載されていない方々につきましては、先ほども申し上げましたように、行政サービスなどを受けられる前提としての戸籍への記載をしていただくように努めるというのが基本的な方針でございます。そのために、そういう意味では、無戸籍の方を解消していくということ自体が大きなテーマでございまして、実態についてきめ細やかに把握するように努めますとともに、先ほども申し上げましたが、各地の法務局において相談を受け付けて、一日でも早く戸籍をつくるために、無戸籍の方に寄り添い、懇切丁寧に手続案内を行うなど、無戸籍状態の解消に取り組んでまいりました。

 また、関係府省とも連携をとりまして、その他、PRなどもいたしますことによりまして、無戸籍であることによる不利益状態の解消に引き続き努めてまいりたいというふうに考えております。

逢坂委員 民事局長、どうもありがとうございました。

 それで、次、ちょっと目線を変えて、事務的な質問をさせていただきたいんです。

 戸籍事務は国の事務でありますけれども、実際の事務は自治体がやっているということで、法定受託事務であります。戸籍の原本は市区町村の役所に置かれている。戸籍の副本がそれぞれ法務局に置かれているということになろうかと思いますけれども、この戸籍の副本というのは、公文書管理法で言うところの行政文書に当たるのかどうか、お知らせいただけますか。

小川政府参考人 ただいま御紹介いただきましたように、戸籍の副本は市区町村の方から送付されてくるものでございますが、これは、国の行政機関が取得いたしましたということで、いわゆる公文書法における行政文書に当たるというふうに考えております。

逢坂委員 それで、あわせて、その行政文書ですけれども、公文書管理法の規定、例えば保存期間満了後の廃棄、移管の手続でありますとか、いわゆる公文書管理法の一般法の規定は適用されるのかどうかという点と、それから、もし適用されないんだとするならば、それぞれの保存年限、これは原本ではなくて、国の行政文書に該当する副本、戸籍、除籍あるいは改製原戸籍などがあろうかと思いますけれども、この保存年限についてお知らせいただけますか。

小川政府参考人 まず、保存期間の点でございますが、戸籍の副本、除籍の副本、それから改製原戸籍、いずれにつきましても百五十年でございます。

 それから、戸籍の副本などにつきまして公文書管理法の適用があるかどうかという点でございますが、戸籍の副本の管理、具体的には、保存、廃棄などの保存期間完了後の措置に関する規定が戸籍法施行規則に定められておりまして、この規則は戸籍法の委任を受けた命令に該当することから、公文書管理法第三条の「他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合」に該当すると考えられます。

 したがいまして、公文書管理法の規定の適用はないというふうに考えているところでございます。

逢坂委員 どうもありがとうございました。

 公文書管理、あるいは先ほど我が党の井出委員も特定秘密についてやっていただきましたけれども、私の持論は、民主主義において、さまざまな情報というのは民主主義を動かす原動力だと思っています。この情報が適時適切に提供されることがなければ民主主義は壊れてしまうというふうに思っていますので、公文書管理については非常に大きな関心を持っているわけですが、戸籍についてこういったことも確認させていただいて、これからの公文書管理がどうあるべきかということの参考にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

 それで、実は、今回の民法改正は、昨年十二月十六日の最高裁の違憲判決、そのことによって、政府として、当然その違憲判決に沿った形で法律をつくったわけであります。

 しかしながら、それを一〇〇%受けとめてやるのは当たり前だと私は思うんですけれども、この再婚禁止期間と、あるいは嫡出推定の制度については、いろいろ課題も指摘をされている。

 それで、きょうのやりとりの中で、必ずしも明らかにならないというか、中には釈然としない部分も私なりにはあるわけでありますけれども、そういう点からすると、頭から今の制度を否定するという気はないんですけれども、相当課題も多い、そして、できれば見直すべき点も多いだろうというふうに私は思っています。

 その意味で、今回のこの閣法に対して、私たちは、多分全会派に御賛同いただけるのではないかと思うんですけれども、施行後三年を目途にして、この再婚禁止に関する制度のあり方についての見直し規定というものも閣法に加えて入れさせていただこうというような意向で今いるところであります。

 大臣、この再婚禁止期間で、国際社会からそれは差別ですよと言われているようなこと、あるいは嫡出推定制度によって戸籍のない方が生まれざるを得ないという現実、こうしたことを踏まえて、大臣として、この制度、あるいは今後この制度のあり方についてどうあるべきか、総論的なお考えをお聞かせいただきたいと思います。

岩城国務大臣 さまざまな御指摘を逢坂委員からいただきました。

 嫡出推定制度ですけれども、法律上の父子関係を早期に確定することによりまして、先ほど来議論がありましたとおり、子の利益を図るものであります。また、再婚禁止期間につきましては、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐために必要なものでありまして、これは昨年十二月の最高裁判決でも同様の指摘がなされております。

 このように、再婚禁止期間と嫡出推定制度、これはいずれも子の利益を図ることを目的とする有用なものであると考えておりまして、現在のところ、これを維持していくべきものと思っております。

 もっとも、本日の審議におけるさまざまな御指摘を踏まえまして、本法案による改正後の運用状況、これらもしっかりと見ながら、これらの制度のあり方についてこれからも検討してまいりたい、そのように考えております。

逢坂委員 ぜひ、大臣、やはりこの制度の持つ意義というのは、百二十年続いているわけですから、ある一定程度は私はそれは認めるところだと思いますけれども、そのことによって不利益をこうむっているという現実もありますので、あるいは、本当にこの制度の存続がよいのかといった意見も社会の中にあるようでありますので、そういったことも踏まえて真摯にこの問題に取り組んでいただきたい、そのことをお願い申し上げまして、また事務方の皆さんもありがとうございました、お礼を申し上げて、終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

葉梨委員長 以上で逢坂誠二君の質疑は終了いたしました。

 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 民法の一部改正案について質問いたします。

 政府が、昨年二〇一五年十二月の最高裁判所の違憲判決を受けて、女性だけに課せられた再婚禁止期間について百日に短縮するという法案を提出したのは、当然のことです。長年の多くの女性たちの運動、また裁判によって実現をかち取ったものであり、一歩前進だと言えます。

 同時に、衆議院の民進党、共産党、生活の党、社民党の野党四党が五月十二日に提出した民法改正案は、選択的夫婦別姓制度の導入、再婚禁止期間を百日に短縮するとともにその廃止を検討すること、及び婚姻最低年齢を男女とも十八歳とするものです。

 そこで、まず岩城法務大臣に伺います。

 民法の改正の答申から再婚禁止期間を百日に改める今回の法案に至るまで、二十年かかっております。そもそも、憲法の時点でこうした問題を変えなくてはならなかったと思います。さらに、一九九一年には、西暦二〇〇〇年に向けての新国内行動計画(第一次改定)が作成されて、男女平等の見地から、夫婦の氏や待婚期間のあり方等を含めた婚姻及び離婚に関する見直しを行うということで、そして一九九六年、ちょうど二十年前に法制審答申が出されたということです。

 なぜ二十年もかかったのか、伺います。

岩城国務大臣 お答えいたします。

 まず、これまでの取り組みについてお話し申し上げます。

 法制審議会は、平成八年二月に、女性の再婚禁止期間を百日に短縮すること等を内容とする民法の一部を改正する法律案要綱を答申いたしました。この答申には、女性の婚姻年齢を十八歳に引き上げること、選択的夫婦別氏制度を導入すること、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分と同等とすることも含まれておりました。

 法務省は、平成八年及び平成二十二年に、法案の提出に向け、法制審議会の答申を踏まえた改正法案を準備しておりました。しかしながら、この答申の内容については、国民の間にさまざまな意見がありましたことから、改正法案の提出にまでは至らなかったものと認識をしております。

 本法案は、昨年十二月十六日の最高裁判所大法廷の違憲判決を受け、違憲状態を速やかに是正するために提出するものでございます。

畑野委員 女性だけに課せられている再婚禁止期間は、差別的規定であって、廃止すべきだという声が起こっております。法律に残された女性への差別は、世界から見ても異常な、日本の男女平等への改善のおくれ、そして民主主義のおくれを示す大きな問題点の一つだということで、廃止を求める声は当然です。

 それでは伺いますが、再婚禁止期間を廃止しないで百日の期間を存続させることにどのような合理性があるんでしょうか。

岩城国務大臣 再婚禁止期間を廃止しない理由から申し上げさせていただきます。

 再婚禁止期間を設けている趣旨は、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにありまして、嫡出推定の重複を回避するために必要な百日については合理的なものであると考えております。その点は、昨年十二月十六日の最高裁大法廷判決においても確認されております。

 仮に、再婚禁止期間そのものを廃止した場合には、前婚の夫と後婚の夫の嫡出推定が重複したときに、DNA鑑定等の手段をとらない限り法律上の父親が定まらず、父子関係を早期に確定することができない事態が生じ得ることとなり、かえって子の利益を害するおそれがございます。したがいまして、再婚禁止期間を設けることは適切であると考えております。

 再婚禁止期間が前提とする民法第七百七十二条の嫡出推定の規定によりますと、婚姻成立の日から二百日を経過した後または離婚の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定されます結果、夫の子と推定されることになります。

 しかし、例えば、離婚直後に再婚することを認めますと、再婚後二百日を経過した後には後夫の子と推定される期間が開始されるにもかかわらず、離婚後三百日以内はなお前夫の子と推定される期間が残存することになりまして、嫡出推定が重複することになるため、出生時に子の父を定めることができなくなります。そこで、再婚禁止期間を百日とすることとしております。

畑野委員 今大臣から嫡出推定のことについてお話がありました。私、この問題も、本当に議論をしていく必要があるというふうに思っているんです。

 戦後、新憲法が制定されて、戦前の家制度が廃止されました。しかし、再婚禁止規定の前提となる嫡出推定は廃止されませんでした。現行の民法の嫡出推定の制度の趣旨について伺います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 嫡出推定制度と申しますのは、婚姻中に妻が懐胎した子をその夫の子であると推定した上で、嫡出推定が及んでいる子については、夫が子の出生を知ったときから一年以内に嫡出否認の訴えを提起しない限り、その夫と子の間の父子関係を確定させる、全体としてそういう仕組みでございます。その趣旨は、法律上の父子関係を早期に確定し、子の利益を図る点にあるものと認識しております。

 このように、嫡出推定が及んでいる子については、この制度によって父子関係が早期に確定するということになるわけでございますが、民法第七百七十二条は、まず一般的な経験則をもとといたしまして、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子であると推定した上で、懐胎時期は必ずしも明確ではないということを考慮いたしまして、婚姻成立の日から二百日経過後または婚姻解消の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定している、こういう仕組みでございます。

畑野委員 戦前の制度から見直すということ、これが求められている、嫡出という用語についても意見が出されているところです。

 価値観が多様化している現代において、何が子の利益にかなうのか、これは議論があるところだと思います。

 それで、さらに伺いますが、嫡出推定の趣旨について、子の利益という説明について、具体的にもう少し言っていただけますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 子が出生したときにはできる限り法律上の父親が定まっているべきであるというのが、民法などが規律いたします家族法の基本的な構造となっているということが言えようかと思います。

 例えば、子は生まれた直後から監護、教育、扶養を受ける必要がございますが、それをする義務を負っておりますのは、基本的には親権者、すなわち子の父母でございます。したがいまして、子の法律上の父が定まらないということになりますと、子はその父から出生時から安定した監護、教育、扶養を受けることができない、こういったおそれが生じます。

 また、相続などにつきましても、法律上の身分関係が定まることを前提とした制度でございます。

 嫡出推定制度によりまして、多くの場合には、子の出生後直ちに安定した父子関係が与えられるのでありまして、この制度が存在することによってもたらされるこれらの利益は、全体として見ますと非常に大きいものというふうに考えております。

畑野委員 そもそも、嫡出推定は明治時代の当時の知見によるものです。

 最高裁判決の反対意見で次のように述べられていることに私も注目いたしました。

 旧民法が施行された明治三十一年ころとそれ以降の医科学水準の変化について見ると、例えば、ABO式血液型が発見されたのは一九〇〇年、明治三十三年、産婦人科医荻野久作がオギノ理論を発表したのは一九二四年、大正十三年。旧民法制定から約百年余の間に科学的、医学的研究は急速な発展を遂げており、生物学上の親子関係の証明は造化の天秘に属することで不可能という前提のもとに、離婚した全ての女性に対して再婚禁止を課すなどという手荒な手段をとらなくても、血統の混乱を防止することが可能になったと述べております。

 嫡出推定は、明治民法の制度趣旨を引きずったもので、時代おくれではないかと言わなくてはなりません。

 先ほど大臣も言われましたが、必要であれば、DNA鑑定の技術など、現代の科学的知見によって早急な父の確定が容易にできるのではないでしょうか。いかがですか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、DNA鑑定などの科学技術を用いることによりまして、血縁上の父子関係を確定することは可能であるというふうに考えております。

 しかしながら、仮に、嫡出推定制度を廃止して、DNA鑑定により科学的に血縁上の親子関係が存在することを確認した上で法律上の父子関係を確定するという制度を採用した場合には、法律上の父子関係が子が生まれた出生時には確定せずに、その意味で子の福祉に反する事態が生じ得るというふうに考えられます。

 また、DNA鑑定につきましても、鑑定試料が本人の検体であるかどうかをどのように判断し、その信用性をどのように担保するかといった問題もありまして、DNA鑑定によって父子関係を確定するためには、裁判手続あるいはそれに準ずるような相当慎重な手続が必要になり、かなりの時間を要することも考えられるところでございます。

 DNA鑑定の信用性が高まっている現在におきましても、鑑定をしない限り父子関係が確定しないというのは問題であり、嫡出推定制度によって法律上の父子関係を早期に確定し、子の利益を図る必要性はなお大きいものというふうに考えております。

畑野委員 先ほどから、父子関係、父子関係と言うんですけれども、子供を育てるのは誰か。父だけじゃないですよ、母もいるわけですよ。また、周りの、今でいえば保育園問題も問題になっておりますけれども、あらゆる社会制度がある現代と、女性にも選挙権がなかったその時代と、これは大きく変わっているということを私は言った上で、今、科学技術を含めて、いろいろ混乱をする、紛争も起こると言うんですけれども、そういう事態になるのはたくさんありますか。本当に、ほとんど生じない、まれなケースですよ。

 それをよもや全体に強いるということはないでしょうし、それよりも、今の規定を置くことによって多くの皆さんが苦労している。後でお話をしますし、先ほど無戸籍の話もありましたけれども、そういう実態の問題が多く出ている。こちらの方が私は今や不合理であると言いたいと思います。

 私、昨年の法務委員会でこういう質問をいたしました。

 法務省が調査しているように、戸籍に記載したくない理由の第一に、夫の嫡出推定を避けるためという実態がある。これが、先ほどあったように、理由全体の七〇%も占めている。実の父親を認定する強制認知でも、場合によっては、裁判官が、例えばDVをやった元夫を呼ぶなどという事態が生まれて、これはもう、呼ばなくてもいい状況なのにわざわざ呼んでくるとか、それで、本当に裁判所に行きたくないというふうに女性が思うということもあると伺っている。夫の嫡出推定を避けるためという最も多い理由を見ても、この問題というのは、民法七百七十二条による嫡出推定に係る問題ではないかということを私は申し上げました。

 そもそも、親子を早く確定するための規定が、今、これだけの無戸籍の方をつくっている。そして、本当の父親でない元夫が戸籍に記載されることは、真実でない、不実の記載になる。だから、選ぶとしたら、不実記載か、それとも無戸籍か、どちらかにならざるを得ないという実態があるということを私は申し上げました。

 子どもの権利条約第七条、「児童は、出生の後直ちに登録される。」という子どもの権利条約にも違反するものだと思うと、嫡出推定があるために無戸籍の子供たちが生まれる事実をそのときに申し上げました。

 嫡出推定制度を維持したまま無戸籍児をどのように解決すると言われるのか、伺います。

岩城国務大臣 法務省では、全国の市区町村を通じまして、いわゆる無戸籍者の存在に関する情報を集約するという取り組みを行っておりまして、その理由がわかる場合には、それについても報告を求めております。

 その結果は、委員御指摘のとおり、嫡出推定が及ぶ場合に、戸籍上、夫または前夫の子とされるのを避けることを理由として出生届を提出しない者が多いのが実態であります。

 他方、今回の改正は、再婚禁止期間に関する最高裁判所の違憲判決を踏まえ、違憲状態を早期に解消することを目的とするものでありまして、この機会にあわせて嫡出推定制度を見直すことは考えておりません。

 したがいまして、今回の改正によっても、無戸籍者の問題が根本的に解決することにはならないものと考えております。

 嫡出推定制度の見直しは、法律上の父子関係をどのように設定するかという家族法の根幹をなすものでありますため、改正の要否や改正する場合の制度設計のあり方などについては慎重に検討する必要があると考えております。

 そこで、無戸籍者問題についてでありますが、これまでも、その解消に向けて情報を集約し、一人一人の実情に応じて戸籍に記載されるための丁寧な手続の案内をしたり、関係府省を構成員とする無戸籍者ゼロタスクフォースを設置して、関係府省との間で連携強化を図るなどの取り組みを行ってまいりました。

 これからも、引き続き、無戸籍の方の実態についてきめ細やかに把握するよう努めますとともに、全国各地の法務局において相談を受け付け、一日でも早く戸籍をつくるために、一人一人の無戸籍の方に寄り添いまして、懇切丁寧に手続案内を行うなど、無戸籍状態の解消に取り組んでまいりたいと考えております。

畑野委員 ですから、大臣がお答えになりましたように、いろいろ、もちろん直ちにやらなくてはならないと思いますが、解決のためにするべきことはするんですが、根本的に言えば、この嫡出の制度そのものを見直す、このことが必要だというふうに申し上げたいと思います。

 さらに伺いますが、そういう点で、やはり再婚禁止期間を廃止する、その上で、必要に応じて、当事者の請求によって父子関係を確定するということなどを含めて検討していく必要があると思うんです。どういうことがいいのかと御懸念の点もあるというふうにお話がございましたが、私はそんな心配は大してする必要はないというふうに思いますけれども、そういうことを含めて検討していく必要があると思いますが、いかがですか。

岩城国務大臣 父子関係を確定する制度を検討することはどうかというおただしだと存じます。

 まず、再婚禁止期間を設けている趣旨でありますが、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにありまして、嫡出推定の重複を回避するために百日の再婚禁止期間を設けることについては合理的なものであると認識しておりまして、その点は最高裁判決においても確認されております。

 そこで、再婚禁止期間を廃止いたしますと、嫡出推定が重複することが生ずるため、別途、裁判によりまして父子関係を確定する制度を検討することが必要になります。このような制度を採用するということは、法律上の父子関係が確定するまでの間はその子に父がいないことを意味することになりまして、子の福祉に反する事態が生じるものと思われます。

 また、父子関係を確定する方法としてDNA鑑定を利用することも考えられますが、DNA鑑定の信用性が高まっている現在におきましても、鑑定をしない限り父子関係が確定しないというのは、子の利益の観点から問題があるものと考えております。

 したがいまして、現状では再婚禁止期間を設けることは適切でありまして、それにかわる父子関係を定める制度を設けることは容易でない面があるもの、そのように考えております。

畑野委員 嫡出の相続分の区別が民法改正によって廃止されました。ですから、これは検討を、今いろいろとおっしゃいましたが、そういうことも含めてやはり議論をしていく必要が私はあるというふうに思います。

 実際がどうなっているのか。本当に多くの皆さんが御苦労されているわけですね。

 婚姻後二百日以内に生まれた子は、嫡出推定はされません。このような子は実務上どのような扱いを受けているのか、戸籍上どういう運用をされているのか、伺います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 婚姻後二百日以内に生まれた子は、民法第七百七十二条による嫡出の推定を受けないわけですが、夫婦の嫡出子としての出生届がされれば、その届け出を受理し、その夫婦の子として戸籍に記載されるという取り扱いでございます。

 この取り扱いは、内縁中に懐胎し、適法に婚姻した後に出生した子は、婚姻届け出と出生との間に二百日の期間がなくても、出生と同時に嫡出子としての身分を有するといたしました大審院の判例を前提といたしまして、実務運用上、婚姻届け出の前に内縁が先行しているかどうか、あるいは出生した子が内縁期間中に懐胎したものであるかどうかといった事実関係につきましては、戸籍の窓口では判断することができないといったことを考慮したものでございます。

 しかし、この嫡出子として受理された子につきましては、民法第七百七十二条に規定する嫡出推定は及ばないために、利害関係がある第三者はいつまでも、親子関係不存在確認の訴えによって父子関係の存否を争うことが可能でございます。

 なお、その子が夫の子ではないとして、嫡出でない子として出生届がされました場合には、民法第七百七十二条による嫡出の推定を受けないために、そのような届け出も受理されるというのが取り扱いでございます。これは昭和十五年の民事局長回答によるものでございます。

畑野委員 だから、実態は、規定が既に形骸化されているということなんですね。

 もう一つ伺いますが、婚姻の解消もしくは取り消しの日から三百日以内に生まれた子は、前婚の夫との間の子として嫡出推定されます。このような子は実務上どのような扱いを受けるのか、戸籍上どのように運用されていますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 前婚の解消または取り消しの日から三百日以内に生まれました子供は、民法第七百七十二条による嫡出の推定を受けるために、前婚の夫の子として戸籍に記載されるということが原則でございます。

 ただし、子の懐胎時期が前婚の解消または取り消しの日より後であることを証明する医師の作成した証明書を添付した上で出生届が提出されました場合には、民法第七百七十二条の推定が及ばないということといたしまして、前婚の夫を父としない出生届を受理することとしております。これは平成十九年五月七日付の通達に基づくものでございます。

畑野委員 大変なことなんですよね。こういうことが無戸籍を生むということになるんです。

 昨年の再婚禁止期間に関する最高裁判決の事実関係、新聞の記事などの報道も、次のように書いております。

 岡山県総社市に住む女性は、二〇〇六年二月に結婚し、夫の暴力により半年後に別居。同年十月には岡山地裁がDV防止法に基づく保護命令を出した。二〇〇七年三月に女性が離婚訴訟を提起し、十月には離婚を認める判決が出たが、夫が控訴したため離婚が成立せず、二〇〇八年三月二十八日、裁判上の和解で離婚が成立した。同年十月七日に女性は別の男性と再婚したが、本規定のため婚姻がおくれたことによって精神的損害をこうむったとして訴訟を起こした。そして、女性にのみ六カ月間の再婚禁止期間を設けている民法七百三十三条一項の規定が、憲法が定める、十四条、法のもとの平等、二十四条、両性の平等に反するかが問われた裁判で、最高裁は、百日を超えて再婚禁止期間を定める部分は憲法に違反すると認めたということです。

 婚姻関係がDVによって別居ということになり、裁判の手続などで離婚に数年かかり、その上さらに再婚禁止期間がある。これは本当に当事者にとって不利益ではないでしょうか。

岩城国務大臣 家庭内暴力等が原因で婚姻関係が破綻している場合であっても、その加害者が協議離婚に応じない、そのために被害者が離婚訴訟を提起することを余儀なくされ、離婚をするまでに一定の時間を要することがあるのは、御指摘のとおりだと存じます。

 他方、再婚禁止期間を設けている趣旨は、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにありまして、子の利益を図ることを目的とするものであります。

 再婚禁止期間は、女性に対してのみ再婚について制約を課すものでありますが、離婚に至る事情や離婚までにかかった時間の長短にかかわらず、両親の離婚によって出生時に子の父親が決まらないという事態が生じないようにするため、やむを得ない制約であると考えております。

 なお、本法案におきましては、女性が前婚の解消等の時点で懐胎していない場合には再婚禁止規定の適用除外を認めることとしておりまして、この点は、御指摘のような事案におきましても一定の効果があるものと考えております。

畑野委員 ですから、この間の裁判によって、そういう状況が最高裁でも憲法違反だというふうに言われてきて、今回こういう法案が出されているわけです。しかし、女性にとって、まだ待たなくちゃいけないという点でいえば、まだ男女間の差別がある、あるいは、女性だけに課するという懲罰的な感じがするという方もいると聞いております。これから本当に議論していく必要があると思うんです。

 世界の動きを含めてどうかということですが、ことし三月の国連女性差別撤廃委員会の第七回、第八回の最終見解で再婚禁止期間についてどのように言っているか、伺います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 御指摘の国連の女子差別撤廃委員会は、平成二十八年三月、本年三月に、我が国に対し、再婚禁止期間を全部廃止するように勧告したものと承知しております。

 もっとも、再婚禁止期間を設けました趣旨は、先ほど来申し上げておりますように、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあり、嫡出推定の重複を回避するために百日間の再婚禁止期間を設けることは合理的なものであるというふうに認識しております。

 したがいまして、我が国といたしましては、再婚禁止期間を撤廃しないことが女子差別撤廃条約に違反するものとは考えておりません。

 女子差別撤廃委員会に対しましては、今後も、このような我が国の立場あるいは状況について十分な説明をして、理解が得られるよう適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

畑野委員 国連の勧告を真摯に受けとめて、求められている、一部前進した、さらに頑張り検討するというふうにやはり答えるべきだと思うんです。

 各国の再婚禁止期間の現状について、先日伺いました。それで、再婚禁止期間を、今まであったけれども今度廃止したという国について、大臣に伺います。

岩城国務大臣 法務省が行った調査によりますと、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどにおきましては一九六八年から一九六九年ころ、ドイツ及びオランダにおきましては一九九八年、フランスにおきましては二〇〇四年に再婚禁止期間が廃止されたもの、そのように承知をしております。

畑野委員 あと韓国など含めて言われているんですが、これらの国々が再婚禁止期間を廃止した理由について、これはどのように承知していらっしゃいますか。

岩城国務大臣 まずドイツですが、一九九八年施行の親子法改革法によりまして、またフランスにおきましては、二〇〇五年施行の離婚に関する二〇〇四年五月二十六日の法律により再婚禁止期間が廃止されているものと承知をしております。

 これらの国においてその廃止をした理由につきましては、必ずしも詳細を承知しておりませんが、再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請を踏まえたものであると説明されているようであります。

 なお、これらの国と我が国における離婚制度や父子関係の確定等に係る制度は異なっておりますので、その一部である再婚禁止期間に関する制度のみを単純に比較することは相当でないもの、そのように思います。

畑野委員 やはり女性差別をなくそうという世界の流れと関係していると思うんですが、それでは、主要国で女性だけに再婚禁止期間を残している国はありますか。

岩城国務大臣 これも法務省が行った調査でありますが、女性に対して再婚禁止期間に関する規定を設けている国としては、イタリア、トルコ、タイ、イスラエル、インド、サウジアラビアなどが挙げられますが、その期間でありますけれども、九十日、これはイスラエルとかインド、三百日、これはイタリア、トルコなど、各国によって異なっております。

畑野委員 OECDに加盟しているような国というのは本当に少ないということですね。

 それで、嫡出推定の合理性の問題を私はこの間ずっとこの場で議論してまいりました。これまでの議論を踏まえて、嫡出推定を前提とした再婚禁止期間の制度、これは女性の再婚の自由を侵害するものだというふうに思います。

 これを早期に撤廃するという検討にぜひ政府としても入るべきだというふうに思いますが、いかがでしょうか。

岩城国務大臣 嫡出推定制度、これまでも説明してまいりましたが、法律上の父子関係を早期に確定し、家庭の平和が脅かされる事態を防ぐことによりまして子の利益を図るものであり、この制度が存在することによってもたらされている子の利益は、総体として非常に大きいものと考えております。

 また、再婚禁止期間につきましても、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐために必要なものであり、この点につきましては、昨年十二月十六日の最高裁判決でも同様の指摘がなされております。

 このように、御指摘の再婚禁止期間と嫡出推定制度は、いずれも子の利益を図ることを目的とする重要なものでありまして、現在のところ、これを維持すべきものと考えております。

 もっとも、本日の審議におけるさまざまな御指摘、そういったものを踏まえまして、本法案による改正後の運用状況等も見ながら、これらの制度のあり方については今後も検討してまいりたいと考えております。

畑野委員 ぜひ、検討に向けて議論を進めていただきたいということを申し上げます。

 ここで確認をしたいのは、先ほど伺った、ことし三月の国連女性差別撤廃委員会の第七回、第八回の最終所見で、夫婦同氏の強制、それから婚姻年齢の問題、このことについてどのような勧告を受けていますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 国連の女子差別撤廃委員会は、本年三月、我が国に対しまして、再婚禁止期間を全部廃止することとともに、婚姻適齢を男女ともに十八歳とすること、夫婦同氏制度を定める民法の規定を改正することを勧告したものと承知しております。

 男女の婚姻適齢、最低婚姻年齢を十八歳に統一すること、それから、選択的夫婦別氏制度を導入することにつきましては、平成八年に法制審議会からの答申を得ているところでございまして、その後、法務省といたしましても、法案の提出に向けて、法制審議会の答申を踏まえた改正法案を準備したことがございましたが、国民の間にさまざまな意見があったことなどから、改正法案の提出には至らなかったものと認識しております。

 女子差別撤廃委員会に対しましては、このような我が国の立場や状況について十分な説明をし、理解が得られるよう、今後も適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

畑野委員 選択的夫婦別姓の問題については、私もこの委員会で何度も取り上げさせていただきました。国会でも議論をしようということを訴えてまいりました。国ももっとイニシアチブを発揮していただきたいということも申し上げております。

 いよいよ政府内でこの問題についても議論をすべきではないかと思いますが、岩城大臣の御所見を伺います。

岩城国務大臣 何度も申し上げておりますけれども、昨年十二月の最高裁判所の大法廷では、夫婦同氏制度は合憲であるとの判断を示されました。

 夫婦の氏の問題は、単に婚姻時の氏の選択にとどまらず、夫婦の間に生まれてくる子の氏の問題を含め、我が国の家族のあり方に深くかかわる問題であります。

 選択的夫婦別氏制度につきましては、国民の間でさまざまな意見がありまして、例えば、直近の世論調査を例にとってみましても、反対が三六・四%、容認が三五・五%、通称のみ容認が二四・〇%などといった結果になっております。

 そのため、選択的夫婦別氏制度の導入の是非については、最高裁判決における指摘や国民的な議論の動向を踏まえながら、慎重に対応する必要があると考えております。

 なお、法務省では、ホームページにおきまして、選択的夫婦別氏制度や我が国における氏の歴史などについてわかりやすく説明したページを掲載しております。選択的夫婦別氏制度の導入の是非につきましては、国民的議論を深めていくには、まず、このような周知方策等により、国民の皆様に関心を持っていただくことが必要だと考えております。

 法務省としては、今後も、国民各層の意見を幅広く聞くとともに、国会における議論の動向を踏まえつつ、慎重に対応を検討してまいりたいと考えております。

畑野委員 大臣、これだけ議論をされていらっしゃるわけですから、ぜひ進めていただきたいと思うんです。

 最後に、婚姻年齢を男女とも十八歳にすることについても検討するべきだと思いますが、大臣の御所見を伺います。

岩城国務大臣 男女の最低婚姻年齢を十八歳に統一することについて、これは平成八年に法制審議会から答申を得ております。

 法務省は、平成八年及び平成二十二年に、法案の提出に向け、法制審議会の答申を踏まえた改正法案を準備しましたが、国民の間にさまざまな御意見があったことなどから、改正法案の提出には至らなかったものであります。

 もっとも、平成二十四年の世論調査におきましては、女性も男性と同様、満十八歳にならなければ婚姻をすることができないものとした方がよいと答えた方は四六%、女性は満十六歳になれば婚姻をすることができるということでよいと答えた方は二〇・九%であり、最低婚姻年齢につきましては男女ともに十八歳とする改正をすべきであるという意見の方が反対する意見よりも多い結果となっております。

 この問題は、我が国の家族のあり方に深くかかわるもので、国民の間にもさまざまな御意見がありますが、社会情勢や国民的な議論の動向も踏まえつつ、引き続き検討してまいりたいと考えております。

畑野委員 最後に、委員長、野党四党の共同提案の法案が出されております。ぜひ委員会で審議をしていただくように求めて終わりたいと思いますが、いかがでしょうか。

葉梨委員長 後刻、理事会で協議いたします。

畑野委員 終わります。

葉梨委員長 以上で畑野君枝君の質疑は終了いたしました。

 次に、木下智彦君。

木下委員 おおさか維新の会、木下智彦です。本日もお時間をいただきまして、ありがとうございます。

 きょうお話を聞いていて、ほとんどお話は網羅されているかなと。私が聞くことをほとんど皆さんが聞いていただいているので、大体クリアになってきているんじゃないかというふうに思うんです。ただ、すごく難しい言葉が飛び交っているなと思っていて、少しかみ砕いてもう一度質問に答えていただきたいなと思うんです。

 まず最初、今回、再婚禁止期間を百日にするということなんですけれども、なぜ三百日だったらだめで百日だったらいいのかということをもう一度易しく教えていただきたいんです。お願いします。

小川政府参考人 これは、まず現行の嫡出推定の制度から御説明することになると思います。

 まず、嫡出推定の場合は、婚姻中に懐胎した子供の父は夫であるということを推定するんですが、その婚姻中に懐胎したということを明確に示すことはなかなか難しゅうございますので、さらに二段目の推定規定がございまして、婚姻成立の日から二百日経過した後に生まれた子供、それから婚姻解消後三百日以内に生まれた子供については嫡出の推定が及ぶというふうにしてございます。

 その嫡出推定の重複を回避するためには、数字上は三百から二百を引いた百日を再婚禁止期間として用意すれば嫡出推定の重複を避けることができるということでございますので、それを超える部分については、いわば過剰な規制として最高裁判決が示したものでございますので、今回の法案におきましては、その考え方に基づきまして、三百引く二百という百日の再婚禁止期間を定める、そういう内容でございます。

木下委員 嫡出推定という言葉を使われているんですけれども、ここは法律的な観点で話すところだと思って、理解はしているつもりなんですけれども、果たして現実はどうなのかなと。私の周りも含めていろいろな人がいらっしゃいます。個々のケースを言っていたら、これは全てを網羅できるわけではないんですけれども。

 そもそも、ちょっと言葉が悪くなってしまうかもしれませんが、前に誰かと結婚していました。離婚して百日後にまた違う人と結婚します。現実問題としてどういうことが起こるかというと、離婚するわけですよ、何らかの理由があって離婚する。そして次に、言葉がすごく難しいんですけれども、違う方とまた再婚をする。子供はどっちの子供ですかと考えたときに、よくあるケースというのはどうだろう。離婚する人との間に新たな子、まあ、そういう人もいるでしょう。でも、それよりも、新しく次に結婚したい人との間に子供ができていることの方が私は多いと思うんです。

 これは法律的に嫡出推定というふうに言われているけれども、やはり現実を全部網羅することはできないし、これは私の感覚としか言いようがないのかもしれませんが、これで本当に法的な安定性は保てるのかどうかというと、果たしてどうなんですかね。ちょっと私、そこは、普通の人の、普通の人って誰なんだということはありますけれども、たくさんの方々がそういうふうに思うと思うんですけれども、こういう解釈のもとでは、百日というのは本当に妥当なんですかね。これはお答えになるのは難しいと思うんですけれども、一遍聞いてみたいなと思うので、お願いします。

小川政府参考人 お答えしたいと思います。

 先ほど申し上げましたように、婚姻成立から二百日経過後、それから、婚姻解消後三百日以内を嫡出推定の期間として定めておるわけでございますが、これは、いわば一般的な経験則に基づいたものという説明がされているんだろうというふうに思います。

 ただ、もちろんそうでない例外的な場合もあることについては御案内のとおりかと思いますが、制度として設ける観点からいたしますと、先ほど申し上げましたような一般的な経験則に基づく推定規定を設けているということが言えようかと思います。

木下委員 制度としてどこかに落としどころを求めなければいけないと。

 ただ、今の観点からいうと、果たして百日がいいのか三百日がいいのかというところは、三百日がだめで百日がいいということも逆の意味では一概に言えなくなってしまうんじゃないかなと。だから、ここはすごく難しいと思うんです。

 そういうことを考えると、先ほど来、いろいろな委員の方が言われていました、再婚禁止期間自体を設けることがどうなんだという話も出てくるかと思うんです。DNA鑑定の話もさっき出ていました、いろいろな問題があると。ちょっとこれも本当は言いたいんですけれども。

 では、そもそもなぜ嫡出推定が必要なんですか。これが聞きたいです。嫡出推定が何で必要なのか、これをまず教えてください。

小川政府参考人 嫡出推定の制度は、親とされる者の方から嫡出否認の訴えを提起しない限り、父子関係が嫡出推定に基づいて確定するというものでございます。それによって、いわば生まれた段階で父と子の関係が法律的に定まるということになりますので、そのことが、子供の利益、子供にとっての法的な安定に資するというのが嫡出推定の趣旨でございまして、そこから必要性を導くことができようかと考えております。

木下委員 ちょっと私も難しい言葉を使っちゃいました、嫡出推定と言いましたが、今、父と子の関係と言われました。

 言葉をもう一度かえて言うと、なぜ子供の男親が誰なのか明確にする必要性があるのかということを今聞かせていただいたんですね。父と子の関係を明確にして不利益をなくすというふうに言われました。それって、えっというふうに私は思っているんです。

 父が誰かということが確定されなかったらどういう不利益が起こるんですか。これを言ってください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 まず、民法などが規律します家族法の基本的な構造として考えられていますのは、子供は、出生時にはできる限り法律上の父親が定まっているべきであるということだろうと思います。

 では、なぜ父親が定まっていることの方が子供の利益にかなうのかということでございますが、子供は、生まれた直後から育てられるわけでございますので、監護あるいは教育の相手として考える必要が出てまいります。それから、当然のことながら、子供に対する扶養の問題が出てまいりますので、これら、監護、教育、扶養を受ける必要がございます。それをする義務を負っているのは基本的には親権者でございまして、すなわち、子の父母ということが言えようかと思います。

 したがいまして、子の法律上の父が定まらないと、子はその父から、出生時から安定した、先ほど申しました監護ですとか教育、扶養を受けることができないおそれが生じます。それから、相続ももちろんその段階で発生する場合もあるわけでございますので、相続などのように、法律上の身分関係が定まることを前提とした制度の適用を受けるという観点からも、やはり法律上の父と子の関係がはっきりしていることが必要でございます。

 子の父親が明確にならない状態が継続してもよいとすれば、このような家族法の基本的な構造に大きな影響を生じますので、極めて慎重な、あるいは広範にわたる議論が必要ではないかというふうに考えているところでございます。

木下委員 いいことを言っていただいたと思うんですね。慎重な議論は必要です。ただ、今言われたように、お父さんがわからなかったら不利益をこうむるという、この状態の方を直すべきなんじゃないかと私は思うんですね。

 いろいろなことを言われました。いろいろなことが起こり得る可能性がある、扶養の問題であるとか。では、お母さん一人だったら扶養の問題を抱えなきゃいけないかというふうなことも出てくる。今の言葉だったら、お父さんがわからなかったら、お母さん一人で育てることになる。そうしたら、そういう不利益があることを、言ったら肯定してしまっていることになるんじゃないかなと私は思うんです。現実問題としてまだそういう問題があるから、それこそ直すべきだ、私はここを言いたいんです。

 ちょっとここで切りますけれども、大臣、そういう意味で、先ほどの答弁でも同じことを言われていたと思うんです、相当深い議論が必要だと。ただ、この本質的な問題は何かというと、三百日だったのを百日にしようが何日にしようが、根本的にその問題を解決していくことの方が本当に重要なことなんじゃないかなと。

 これは相当難しいことだと思いますけれども、この議論をぜひとも続けていっていただきたいと思うんです。大臣、その辺は、そういうことを検討される余地があるのかどうかということをお願いします。

岩城国務大臣 本日の質疑の中では、木下委員を初めそれぞれの委員から、さまざまな御意見、そして御提言もいただきました。いずれもごもっともだなと考えております。

 ただ、現在審議をお願いしておりますこの法案でありますが、再婚禁止期間それから嫡出推定制度、これはいずれも子の利益を図るために有用性がある、私どもはそのような考えでおりますので、当面、このことは維持していく必要があると思っております。

 ただ、先ほども申し上げましたさまざまな御指摘を踏まえまして、この法案による改正後の運用状況もしっかりと見ながら、今後、これらの制度のあり方について、御指摘の点も含めて検討してまいる必要はあろうと考えます。

木下委員 先ほど来おっしゃられています、子の利益を最大限に考える、最優先に考えるということだと思うんです。

 そういうことからいえば、先ほど言われていました、DNAなんかも事後でどうこうとか、まだ確立されていないかのようなことを言われていて、子供の福祉の不利益がどうこうとか、いろいろ言われていました。

 でも、こういうことも積極的に考えていくべきだと思うんです。なぜならば、親には責任があるんでしょうと言いたいんです。親には責任があるんだったら、その親を確定するような、そういう法律を私はつくるべきだと。親が責任を持たなきゃいけないというために、誰が親なのかということを可能な限りとことん突き詰めていくような、そういう法律をつくってしまえば、私は、ここで問題はそんなに出てこないんじゃないかなと。ただ、先ほど来大臣も言われているように、法的な安定性という意味では、まずはここだということは理解できます。

 それからもう一つ、ちょっとつけ足しになりますけれども、先ほど、子供の不利益といったところで、またここもちょっと考えたいんですけれども、要は、相続について云々というふうに言われました。お父さんが確定しなければ相続が云々というふうに言っていますが、これは果たして不利益と思っていいのかどうかというのは、ここもまた私は微妙だと思っているんです。

 というのは、お父さんがわかっていたら、その人が資産を持っていたり相続できるようなものを持っていれば、そうしたら、本来享受できるはずのものが、相続できるはずのものがなければ不利益かもしれません。ただ、借金を背負っていたり、いろいろなことがあり得る。そういうことを考えたら、一概に子供のお父さんがわからないから不利益、それが相続の問題だというふうに、いろいろなところで書いてあります、ネットなんかでもそういうことを書いているところがありましたけれども、それは、僕はちょっと認識がどうなんだろうと。

 お父さん、お母さんがいたって、どこどこに生まれたら不利益なんだと、逆にそれを肯定しているかのようなものだと思うんですけれども、どうなんですか、実際、不利益と思っていいんですか。これは、ちょっと私、よくわからないんですよ。

小川政府参考人 お答えしたいと思います。

 相続は、基本的には死亡した方の地位を包括的に承継するものでございますので、もちろん、財産的な価値だけを捉えれば、得をするといいますかプラスになる場合もあれば、マイナスになる場合もあるし、マイナスの場合は放棄をするようなことも可能であるという仕組みでございますので、一概に、プラスになるから得だ、マイナスになるから得だというわけではございません。

 ただ、身分関係が定まることを前提とした制度そのものとしての相続についての適用を受ける余地は、父親が決まらなければありませんという趣旨でございます。

木下委員 そうなんです。不利益という言葉というよりも、実質的には、相続を受ける権利を持つか持たないかということだと思うんですね。それこそ、ネットなんかで書いてあること、例えば、弁護士の人が書いていたりもするんですね、不利益と。そういう言葉に不利益と使っていいのかどうかというところがちょっと私は疑問だったので。

 やはり、そういうことを考えたら、子の権利を本当に守るということはどういうことなのかということを、この法案を契機に、もう少し突っ込んでこれから先考えていただきたいなと思います。

 時間があと二分少々ですけれども、この後も私は質疑がありますので、きょうは、この法案についてはこれで終わりにさせていただきたいと思います。ぜひよろしくお願いします。

葉梨委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 この際、本案に対し、城内実君外四名から、自由民主党、民進党・無所属クラブ、公明党、日本共産党及びおおさか維新の会の共同提案による修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。逢坂誠二君。

    ―――――――――――――

 民法の一部を改正する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

逢坂委員 ただいま議題となりました修正案につきまして、提出者を代表いたしまして、その提出の趣旨を御説明申し上げます。

 本修正案は、法律案の附則に、政府は、この法律の施行後三年を目途として、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、再婚禁止に係る制度のあり方について検討を加えるものとする規定を追加するものであります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

 以上です。

葉梨委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより本案及び修正案を一括して討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、民法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。

 まず、城内実君外四名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

葉梨委員長 起立総員。よって、本修正案は可決いたしました。

 次に、ただいま可決いたしました修正部分を除く原案について採決いたします。

 これに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

葉梨委員長 起立総員。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

葉梨委員長 次に、本日付託になりました第百八十九回国会、内閣提出、参議院送付、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本案は、前国会で本院において修正議決の上参議院に送付したものを、参議院において継続審査に付し、このほど本院に送付されたものであります。

 したがいまして、趣旨の説明を省略いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

葉梨委員長 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁刑事局長三浦正充君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 質疑の申し出がありますので、これを許します。清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 本法案は、盗聴法の大改悪と司法取引を盛り込んでおり、決して一部可視化をもって一歩前進などと言えるものではありません。

 昨日の参議院法務委員会における、自由民主党を代表して賛成討論をされた三宅議員の内容は、さながら反対討論のようでありました。法案が新たな冤罪を生むのではないかとの懸念、真実でない供述に追い込むおそれ、法案を悪用する形で使われる懸念を持つと述べ、どのような制度も完璧ではありませんと賛成者が述べました。

 岩城大臣にお伺いします。

 どのような制度も完璧ではない、冤罪を生み出すおそれはある、この指摘を重く受けとめると述べたこの自民党議員の賛成討論に対して、どのようにお感じになられましたか。同じような認識でしょうか。

岩城国務大臣 昨日の参議院法務委員会では、本法律案につきまして、自民党の委員により、賛成の立場から討論が行われました。その討論におきましては、今委員から御指摘がありました、法案審議の過程で示された懸念や指摘を紹介しつつ、本法律案が証拠の収集方法の適正化に資するものであることや、適切な運用がなされることが重要であることが指摘されたものと理解をしております。

 本法律案について賛成討論をいただいたことは大変重く受けとめておりまして、今後の運用に当たりまして、その中で紹介されました本法律案に対する懸念や指摘をも踏まえつつ、適正な運用に努めていくことが重要であると改めて認識した次第であります。

清水委員 私は、自民党議員が述べたように、どのような制度も完璧ではないといったことがどうなのかというふうに、今、認識をお伺いしたんですね。

 この賛成討論では、このようにも述べておられます。人間は不完全、弱いものだ、現に、誤った思い込みや、成績を上げようと、不適切な捜査、無謀な起訴、公判維持活動などがなされ、裁判官も真実を見抜けず、冤罪を生んできた過去の歴史がある、こう述べているわけですよね。

 さらに、大半の警察官、検察官は今も適切に職務を遂行しております、大事なことは、そうでない一部の方が今回の録音、録画の義務づけによって適切に職務を遂行せざるを得なくなるとも述べておられるんですね。

 岩城大臣、大半の警察官、検察官は適切だが、そうでない一部の方は今回の録音、録画によって適切に職務を遂行せざるを得ないというこの賛成討論、賛成討論は重く受けとめるというふうに今おっしゃいましたが、これは同じ認識でしょうか。

岩城国務大臣 刑事手続は適正なものでなければなりません。被疑者、被告人の防御権が不当に侵害されるようなことがあってはならないことは言うまでもありません。この法律案にはさまざまな改正項目が盛り込まれておりますが、いずれも、被疑者、被告人の防御権にも適切に配慮した適正なものになっていると考えております。

 本法律案に盛り込まれている新たな制度や手続については、その趣旨等を十分に踏まえつつ適切な運用がなされるもの、そのように考えております。

清水委員 適切な運用がなされるものと考えておりますというふうにおっしゃられましたのでお伺いするんですが、例えば、数々の冤罪事件、布川事件、それから、八月に無罪判決が出ると言われております東住吉事件、多くの冤罪事件に共通するのは虚偽の自白なんですね。うその自白なんです。密室で長時間の取り調べを受けて、おまえがやったんだろうと机をたたかれる。責め立てられ、否定をしても信じてもらえない。認めなければ死刑になる、認めれば軽くしてやる、このように持ちかけられるなどして、ついには心が折れてしまい、犯してもいない罪を認めてしまうのが冤罪事件を生み出す一つのメカニズムと言われております。

 適切に職務を遂行しない者がいる以上、岩城大臣はこの制度によって適切に行われるという趣旨のことをおっしゃられたわけですから、裏を返せば、やはり全ての事件、取り調べの全ての過程において録音、録画するということが、全ての取り調べ官に適正に職務を遂行させるという担保になるとお考えになられませんか。岩城大臣、お答えください。

岩城国務大臣 本法律案の録音、録画制度は、対象事件について逮捕または勾留されている被疑者を取り調べる場合に、一定の限定された例外事由に該当しない限り録音、録画を義務づけるものでありまして、捜査官の裁量により録音、録画をしないことができるといった制度ではありません。

 その上で、本法律案の録音、録画制度には、機器の故障等のやむを得ない事情により録音、録画が実施できない場合、録音、録画の拒否等の被疑者の言動により、録音、録画をすると被疑者が十分に供述できないと認められる場合など、一定の場合を取り調べの録音、録画義務の例外事由としております。

 本制度につきましては、取り調べで供述が得られなくなり、真犯人の検挙、処罰ができなくなることがないようにするとの観点も重要であると考えております。捜査機関に原則として取り調べの全過程の録音、録画を義務づけるといたしましても、このような例外事由を設けることは不可欠であると考えられます。

 捜査機関が例外事由に当たると判断して録音、録画をしなかった場合に、公判で例外事由の存否が問題となった場合、裁判所による審査の対象となり、捜査機関側の責任で例外事由が存在したことを立証する必要があります。そのため、捜査機関としては、例外事由を十分に立証できる見込みがない限り、例外事由に当たるとして録音、録画をしないことはできず、例外事由が恣意的に運用される余地はないものと考えております。

清水委員 私の聞いたことにお答えになられていないんですね。

 結局、虚偽の自白をさせる違法な取り調べなどをさせない、防止するためには、あるいは、一部適切に職務を遂行することができないという与党の認識もあるわけですから、例外事由を認めるということはだめなんじゃないですかというふうに言っているわけです。

 さらに、裁判員裁判対象事件だとか、あるいは検察官独自捜査事件だとか、全事件のわずか三%しか義務づけされないわけですね。検察の方では運用で割方多くとるようにしているというふうに言うんですが、警察はそうではないわけなんですよ。

 だから、大臣、本当に適切な取り調べをしているかどうかでいうと、全ての事件、全ての過程、痴漢冤罪も含めて、録音、録画がなければ、違法な取り調べがあったかなかったか、後で検証することができないじゃないですかと私は聞いているんです。このことに明確に答えてください。

岩城国務大臣 本法律案の録音、録画制度は、原則として被疑者取り調べの全過程の録音、録画を義務づけることなどを内容とするものでありますが、おっしゃるように全ての事件を一律に制度の対象とすることは、その必要性、合理性に大きな疑問がありまして、また、制度の運用に伴う人的、物的な負担も甚大なものとなります。また、録音、録画制度は、捜査機関にこれまでにない新たな義務を課すものであり、捜査への影響を懸念する意見もあります。

 そこで、法律上の制度としては、取り調べの録音、録画の必要性が最も高い類型の事件を対象とすることが適当であると考えられ、そのようなものとしては、裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件が挙げられます。

 これに対し、裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件以外の事件につきましては、一律に制度の対象とするまでの必要があるとは言いがたいものがあります。もとより、録音、録画の必要性が高い場合もあると考えられるものの、個別の事案の内容や証拠関係などによることから、そのような場合、法律上の義務の対象として厳密かつ明確な形で適切に定めることは困難であります。

 他方、検察におきましては、平成二十六年十月から運用による取り調べの録音、録画を拡大し、事案の内容や証拠関係等に照らし、被疑者の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる事件については、罪名を限定せず、新たに録音、録画の試行の対象として、これに積極的に取り組んでおります。そのため、被疑者の供述が立証上重要であるものなどにつきましては、検察の運用において、必要な録音、録画が行われることになると考えております。

 本法律案におきましては、このような検察等における運用も考慮して、法律上の制度としては、裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件を対象としております。

 このように、制度と運用をあわせて見ますと、相当程度の割合の事件で録音、録画が行われることが見込まれるところでありまして、その範囲は必ずしも狭いものではない、そのように現在考えております。

清水委員 いろいろ言われたんですけれども、全てとるとはおっしゃらないんですよ。つまり、後から全てを検証するということができない以上、不当な取り調べを防止することはできないということを私は申し上げたいと思います。

 それから、資料をお配りさせていただいております。これは、五月十六日、産経新聞の記事であります。「可視化法案 日弁連内から異論 採決前「法務省解釈と相違」」こう書いております。

 それで、可視化法案につきまして、日弁連から異論が出ているということなんですね。日弁連内部という話でありますが、日弁連の山口健一副会長、日弁連副会長ですからね、この日弁連副会長が、起訴後勾留で別件について取り調べられた場合も可視化対象というのが日弁連の基本的立場、法務省局長の答弁、これは、別件逮捕後、起訴後勾留中はとる義務はないという法務省刑事局長の答弁ですが、これとはずれがあるので、関係機関と確認作業をしたいとコメントした、こう報じられているわけです。

 岩城大臣、この答弁のずれについて日弁連と何か協議されましたか。したか、していないか、それだけお答えください。

岩城国務大臣 五月十六日付の産経新聞の記事にかかわるおただしでございます。

 本法律案の録音、録画制度におきましては、起訴後勾留中の被告人を余罪である対象事件について取り調べる場合には、録音、録画義務を負わないものとしております。

 これは、法制審議会の特別部会においても、取り調べの録音、録画制度に関し、被疑者として逮捕、勾留されている間に対象事件について取り調べが行われる場合が録音、録画制度の対象となることが明確に示されて議論され、答申に至ったものと承知しております。そして、同部会におきまして全員一致により取りまとめられた答申案の記載も、その趣旨を明らかにするものであると考えております。

 このような特別部会の調査審議の経過等に照らしますと、委員に誤解を生じさせるようなことはなく、日本弁護士連合会出身の委員を含め各委員の御理解のもと、全員一致で答申案の取りまとめが行われたものと考えております。

 なお、現時点におきましても、日本弁護士連合会は、本法律案に全体として御賛同されているもの、そのように承知をしております。

清水委員 いや、私が聞いたのは、協議したかどうかというふうにお伺いしているわけで、そのことに全くお答えにならなかった。もう答弁は求めません、時間がなくなりますから。

 私が言いたいのは、日弁連は、政府の解釈の方が間違っているというふうに公表しているわけですよ。可視化の義務規定において、重大な認識の違いが法務省と日弁連との間で今生じているわけですよね。こうしたことを放置したまま、国民の代表である我々国会議員に対して十分な説明責任を果たしたということが言えるんでしょうか。国民の方々に説明責任を果たしたというふうにおっしゃられますか。このまま通していいんですか。

岩城国務大臣 日弁連とのやりとりについてお答えさせていただきます。

 法務省と日本弁護士連合会とのやりとりを通じ、現時点で、日本弁護士連合会においては、先ほど御説明した政府の見解を認識されているもの、そのように承知をしております。その上で、日本弁護士連合会からは、現時点におきましても、本法律案に全体として御賛同されているものと聞いております。

 なお、先ほどのおただしでありますが、本法律案につきましては、これまで衆議院及び参議院の両院において、長時間にわたり、さまざまな観点から、丁寧で充実した審議が行われてきたものと承知をしております。私としましては、国会における審議に真摯かつ誠実に対応してまいりました。何とか本法律案に御賛同をいただきたい、そのように考えております。

清水委員 何とかで賛同することはできませんよ、見解が違うんですから。

 逮捕、勾留後、とるかとらないかというのは、先ほども言いましたように、部分可視化というのは新たな冤罪を生み出す危険性があるというのがこの間の今市事件でもクローズアップされているわけですよ。非常に重要な問題を解決しないまま、このまま法律を通すことは許されないというふうに私は思います。

 あと、警察の方にも、盗聴の問題、あるいはデロイトトーマツに対する提案措置の問題、いろいろ聞かせていただく予定でした。しかし、もう時間が……

葉梨委員長 せっかく呼ばれているんですから、一問ぐらいどうですか。

清水委員 よろしいですか。委員長の配慮に感謝します。ありがとうございます。

 今回は、盗聴につきましては、通信事業者内だけではなく、データ化した通話音声を警察署内に転送する、そして立会人は置かないという新たな方式となりました。

 それで、資料の三枚目を見ていただきたいんです。

 これは、警察提案措置を調査したコンサルティング会社、デロイトトーマツ社の資料であります。暗号化できる特定電子計算機のリスクをどう回避するかということでいろいろ書かれているんですが、四十番の項目のところ、「傍受の実施」というところで、「アクター」、左から三列目になりますね、「通信当事者、被疑者、犯罪組織/一般大衆」と。なぜここに都道府県警察がアクターとして入らないのか。

 これは単純な問題なんですけれども、こういうリスクを解消するためには、都道府県警察においてデータが盗まれないかどうかということをしっかりと検証することが必要だと思うんですが、この点についてお答え願えますか。

三浦政府参考人 デロイトトーマツ社が行いました検討というのは、通信傍受に関して行われ得る、想定されるさまざまなリスクというものをかなり克明に分析いたしまして、その一つ一つについてどのような対応策が考えられるかということを整理したものというように理解をしております。

 今御指摘の四十番のところには確かに警察が主体という記載はございませんけれども、その他の項目では、警察がいろいろと、人為的なミス、あるいは意図的な、違法といいますか、そうした行為を行うことを想定し、それにどのように機械的に対応できるかということが詳細に書かれているわけでございまして、全体としてごらんをいただければ、あらゆるリスクに対して対応策が講じられているというように御認識をいただけると考えております。

清水委員 今の説明では十分理解することができませんでした。

 さきの国会では、デロイトトーマツだとか、あるいは通信事業者も参考人に招いて詳しく審議をしようということを委員長にお諮りをいただくということで、理事会協議にもなっていたはずなんですけれども、衆議院の方では終局してしまったということです。

 この法案、まだまだ聞かせていただきたいことがあります。

 最後に、大臣、冤罪被害者がこぞってこの法案に反対をしている現実があります。大臣、反対している冤罪被害者の方々の声を踏みにじって、この法案をどうしても通すんですか。大臣自身のお言葉でお答えください。

岩城国務大臣 これまで説明してまいりましたけれども、この法律案は、誤判等の要因とされる取り調べ及び供述調書に過度に依存した状況を改めるため、証拠収集方法の適正化、多様化と公判審理の充実化を図り、より適正で機能的な刑事司法制度を構築しようとするものでありまして、誤判防止に十分に資するものである、そのように考えております。

清水委員 十分に資するということは、今後は絶対に冤罪を生み出さないということの決意と思います。生まれたときには厳しく批判をさせていただかなくてはなりません。

 質問を終わります。

葉梨委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより討論に入ります。

 討論の申し出がありますので、これを許します。清水忠史君。

清水委員 私は、日本共産党を代表して、盗聴法の大改悪など、刑事訴訟法等改定案に反対の討論を行います。

 本法案は、我が国刑事司法の大問題であった冤罪の根絶と違法な取り調べをなくすことを目的としたものではなく、盗聴法の大改悪と司法取引を柱にした憲法違反の治安立法であることが、参議院での質疑、そして本日の質疑を通じて一層明らかになりました。

 衆参の参考人として出席した布川事件冤罪被害者の桜井昌司さんは、私たち国民がどれだけ冤罪に苦しんだら冤罪をなくす法律をつくってくださるのでしょうかと涙ながらに訴えました。これら国民の怒りに背を向け、成立を図ろうなど、断じて許されるものではありません。

 反対理由の第一は、盗聴法の大改悪です。

 憲法は、通信の秘密、プライバシー権の保障、刑事手続における令状主義を定めており、現行盗聴法は、そもそも憲法の規定を乱暴に踏みにじる法律です。

 それに加え、本法案は、対象事件を大幅に拡大するだけでなく、不正な盗聴を監視していた通信事業者の常時立ち会い義務までなくし、全国の警察署内においていつでも盗聴できる制度にしています。

 緒方靖夫宅盗聴事件について、今なお非合法盗聴の事実さえ認めず、謝罪もしない警察に、盗聴捜査を拡大、日常化させ、国民の通信の秘密を盗み聞きさせる権限を大幅に与えることなど、断じて認めるわけにはいきません。

 第二に、取り調べの部分的な録音、録画の危険性です。

 可視化の対象にならない別件で逮捕された場合、起訴後勾留中の可視化対象事件の取り調べや任意同行のもとでの取り調べは録音、録画の義務とならないことが法務省答弁で判明しました。取り調べ官の裁量によって可視化されない仕組みも温存されたままです。全事件、全過程での録音、録画でなければ、捜査機関側の違法行為や恣意的な編集を防ぐことができず、運用次第では新たに冤罪を生み出してしまうことが明らかになった、これは極めて重大です。

 最後の理由は、みずからの罪を免れるために他人を罪に陥れ、引っ張り込む危険を本質的に持っている司法取引を盛り込んでいることです。

 密告者の氏名、住所を公判においても相手側弁護人に隠し、防御権を侵害し得る仕組みも新たに判明しました。冤罪被害を大量に生み出してきたアメリカの経験に全く学ばない姿勢は、衆議院における参考人から愚の骨頂と痛烈に批判されたように、許しがたいものだと言わなければなりません。

 最後に申し上げます。

 本法案が衆議院に提出された昨年三月以降、冤罪被害者を初め多くの市民、弁護士、学者、研究者が反対の声を上げ、国会内外で無数の集会を開き、その危険性を訴えてきました。本法案は廃案にし、国民のための真の刑事司法制度改革を行うことを強く求めて、反対討論といたします。(拍手)

葉梨委員長 これにて討論は終局いたしました。(発言する者あり)

 静粛にお願いいたします。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより採決に入ります。

 第百八十九回国会、内閣提出、参議院送付、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

葉梨委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

葉梨委員長 次に、参議院提出、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案を議題といたします。

 発議者より趣旨の説明を聴取いたします。参議院議員矢倉克夫君。

    ―――――――――――――

 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

矢倉参議院議員 ただいま議題となりました本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案につきまして、発議者を代表いたしまして、提案の趣旨及び主な内容を御説明申し上げます。

 近年、本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由として、適法に居住するその出身者またはその子孫を、我が国の地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動が行われ、その出身者またはその子孫が多大な苦痛を強いられる事態が頻発化しております。かかる言動は、個人の基本的人権に対する重大な脅威であるのみならず、差別意識や憎悪、暴力を蔓延させ、地域社会の基盤を揺るがすものであり、到底許されるものではありません。

 もとより、表現の自由は民主主義の根幹をなす権利であり、表現内容に関する規制については極めて慎重に検討されなければならず、何をもって違法となる言動とし、それを誰がどのように判断するか等について難しい課題があります。

 しかし、こうした事態をこのまま看過することは、国際社会において我が国の占める地位に照らしても、ふさわしいものではありません。

 本法律案は、このような認識に基づき、憲法が保障する表現の自由に配慮しつつ、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みについて、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進しようとするものであり、いわゆるヘイトスピーチを念頭に、本邦外出身者に対する不当な差別的言動は許されないとの理念を内外に示し、かかる言動がない社会の実現を国民みずからが宣言するものであります。

 その主な内容は次のとおりであります。

 第一に、前文を置き、我が国において、近年、不当な差別的言動により、本邦の域外にある国もしくは地域の出身である者またはその子孫であって適法に居住するもの、すなわち本邦外出身者が多大な苦痛を強いられるとともに、地域社会に深刻な亀裂を生じさせており、このような事態を看過することは、国際社会において我が国の占める地位に照らしてもふさわしいものではないという本法律案の提案の趣旨について規定するほか、このような不当な差別的言動は許されないことを宣言することとしております。

 第二に、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の定義を置き、専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長しまたは誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉もしくは財産に危害を加える旨を告知しまたは本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本法の域外にある国または地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動をいうこととしております。

 第三に、基本理念として、国民は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに、本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならないこととしております。

 第四に、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みに関する施策の実施について国及び地方公共団体の責務を規定することとしております。

 第五に、基本的施策として、国は、相談体制の整備、教育の充実等及び啓発活動等を実施することとしております。また、地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じ、これらの基本的施策を実施するよう努めることとしております。

 第六に、附則において、この法律は、公布の日から施行することを規定するとともに、不当な差別的言動に係る取り組みについては、この法律の施行後における本邦外出身者に対する不当な差別的言動の実態等を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとすることを規定することとしております。

 以上が、この法律案の提案の趣旨及び主な内容であります。

 なお、定義の一部及び附則の検討条項については、参議院において修正を加えたものであります。

 本邦外出身者に対する不当な差別的言動が許されず、その解消に向けた取り組みが必須であることについては、参議院法務委員会において、実際にかかる言動が行われたとされる現地への視察や真摯な議論を通じ、与野党の委員の間で認識が共有されたところであります。

 何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。

葉梨委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房審議官斉藤実君及び法務省人権擁護局長岡村和美君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。國重徹君。

國重委員 公明党の國重徹でございます。

 いわゆるヘイトスピーチは、ターゲットとされたマイノリティーの方たちの尊厳を徹底的に傷つける、心にも体にも、そして生活にも深刻な害悪をもたらす。憎悪、また差別意識といったものを私たちの住むこの社会に蔓延させるこのヘイトスピーチは、到底許されるものではありません。

 こういったヘイトスピーチ問題に関する取り組みについては、思想的に右寄りであるとか左寄りであるとか、こういったものは関係ない、こういったものを超越した、人間性の尊厳にかかわるものだ、私はそう思っております。

 我が党といたしましても、一昨年九月にヘイトスピーチ問題対策プロジェクトチームを立ち上げまして、以来、ヘイトデモが実際に行われた現場の視察、被害者からのヒアリング、有識者との意見交換などを行って、対策の検討を重ねてまいりました。

 この検討結果を取りまとめまして、昨年七月、菅官房長官、また、当時の法務大臣でもありました上川陽子前法務大臣に、ヘイトスピーチ問題対策等に関する要望書を手渡しまして、三点にわたって具体的な申し入れをいたしました。

 その際、私どもがとりわけ強調しましたのは、ヘイトスピーチに関する実態調査について、政府がこれまで行っていないということでした。正確な実態の把握なくして実効性ある対策は期待できません。差別全般の調査は第二段階でやるとしても、まずは第一段階として、ヘイトスピーチは待ったなしの課題なんだ、予備費を使ってでもすぐにぜひやってほしいということで強く申し入れをいたしました。

 これを受けまして、菅官房長官らは、ヘイトスピーチに関する実態調査をすぐにやるということを言っていただきまして、その日の夕方の定例記者会見で早速、実態調査を行っていくということを明言されました。

 その後、我が国で初めてとなる、政府としてのヘイトスピーチに関する実態調査が行われまして、本年三月三十日にその結果が公表されました。

 そこで、まず法務省に、その調査結果の概要、また、それに対する所感について伺います。

岡村政府参考人 御指摘の実態調査では、ヘイトスピーチを行っているとの指摘のある諸団体のデモ、街宣活動は、一時期よりは減少する傾向にはあるものの、いまだ相当数存在する、また、デモ等における発言の中には、特定の民族について一律に排斥したり、特定の民族に対して危害を加えたり、おどすといった発言、さらには、殊さらに誹謗中傷する内容の発言、そういったものが大変多く認められまして、現段階でもいまだ鎮静化しているとは申せません。

 このような調査の結果を受けて、法務省の人権擁護機関といたしましても、いわゆるヘイトスピーチについては、今もなおしっかりと取り組んでいかなければならない深刻な状況にあると認識しております。

國重委員 今、人権擁護局長の答弁の中で、ヘイトデモ、街宣活動は鎮静化していないんだ、今なおしっかりと取り組んでいかなければならない深刻な状況にあるんだ、そういった認識をしているということがございました。

 今般の法務省の調査によって、ヘイトスピーチ、ヘイトデモの被害の状況が改めて浮き彫りになった。政府としても真っ正面から認識せざるを得なくなったわけでございます。ヘイトスピーチの根絶に向けて尽力されてきた多くの方々がいらっしゃいますけれども、今般の調査結果は、そういった方たちの思いを後押しする、立法化に向けた大きな力になったと私は思っております。

 本法案は、不当な差別的言動は許されない、ヘイトスピーチは許されないと国として明確に宣言をした初めての法律案です。

 現行法では、特定の個人や団体に対する差別的言動は規制の対象とされておりますけれども、不特定の集団に対する差別的言動については規制の射程外、むしろ表現の自由の範囲内であって許さざるを得ないという理解も少なからずありました。しかし、本法案は、このような不特定の集団に対する不当な差別的言動であったとしても許されない、こう明確に宣言をしております。

 本法案は、確かに理念法でございます。だから実効性がないんじゃないかと言う人がいるかもしれませんけれども、決してそうじゃない。

 発議者に伺います。

 本法案は、不当な差別的言動が許されないと宣言しているものであって、その他の法令解釈や司法判断において重要な解釈指針として影響を与える、実効性のある法案だ、私はそう認識、理解をしておりますが、これで間違いがないか、明快な答弁を求めます。

矢倉参議院議員 ありがとうございます。

 理念法として、本法案は、あのような不当な差別的言動を許さない社会を国民一体としてつくろうということを力強く宣言したものである。

 委員が今おっしゃってくださったように、今までは、特定人に対しての差別的言動については国は意思を明確にしておりました。しかし、不特定人に対しての差別的言動についても、我々国権の最高機関である国会の意思として、このようなものは許されないということを明確に明示をした。

 これがどのような効果を持つかといいますと、デモに対して、例えばさまざまな関連法があります、騒音防止条例であるとか。もしくは、その後の裁判の場で、司法の場に行きます。民法の規定であったりで、損害賠償の違法判定であるとか、そういう文脈もさまざまある。

 このような現行法令のあらゆる解釈の文脈において、例えば裁判所がその判旨において、このような法律が明確に、このような言動は許されないということを述べているということをしんしゃくして、引用し、解釈をする。このようなことが積み重なって、国民全般に対しても、このようなことは許されないという意識が醸成されるということになります。

 先生の御質問に答える上では、解釈指針にしっかりなるというところであります。

國重委員 今、本法案が、その他の法令解釈とか司法判断において重要な解釈指針となるんだ、実効性があるものなんだという答弁をいただきました。確認できました。

 では、次の質問に移ります。

 本法案の論点については、参議院の法務委員会で充実した審議がされまして、もうほぼ出尽くしたと思っております。ほとんどやっていただいたのかなと思っておりますので、私としましては、今後の取り組み等について確認をさせていただきたいと思います。

 ヘイトスピーチ問題については、これまでも法務省を中心に政府としてさまざまな取り組みをされてきたということは、私も知っておりますし、一定の評価をしております。でも、ヘイトスピーチで今なお苦しんでいる、傷ついている、おびえている人たちがいる、子供たちがいる。立法府また行政府にかかわる者として、私ども政治家が聞き逃してはならない悲鳴といったものがここにあると思っております。

 本法案が成立したのに、これまでと同じような取り組みであってはいけない。本法案に温かい命、希望を吹き込むような新たな取り組みをしていかないといけない。

 法務省に伺います。

 本法案が成立して施行された後、どのような取り組みを講じていくのか、答弁を求めます。

岡村政府参考人 本法律が成立し、施行された場合には、私ども法務省の人権擁護機関では、本法律の趣旨を十分に尊重した上で、地方公共団体、関係機関とも強く連携をし、その趣旨や内容をしっかりと周知させ、広く御理解を得つつ、不当な差別的言動の解消に向けた実効的な施策に取り組んでまいりたいと考えております。

國重委員 今、人権擁護局長から答弁いただきました。

 私も、これまで法務省ともさまざま協議、また意見交換等をしてきましたけれども、本法案が成立して施行された後、今、人権擁護局長は少し抽象的にお話しになりましたけれども、今まだ完全に固まったわけではないけれども、今後、具体的な取り組みをしっかりとやっていきたいということで聞いております。

 そのために、体制の強化もしていかないといけないと思っております。ちょっと更問いになりますけれども、今の人権擁護局の体制、何名体制でやっているのか、また、その体制についても強化していこうと思われているのか、これに関してお伺いいたします。

岡村政府参考人 法務省本省では、予算上の定員は約二十名でございますが、いろいろと応援を得ているところでございます。全国では約三百カ所の拠点で約二百六十名の者が日々取り組んでおりますが、これからは、そういった体制をさらに強化し、全員に、改めてヘイトスピーチに対する取り組みをしっかりと進めていくように、教育と研修を確実に進めていく所存でございます。

國重委員 今後、新たな取り組みをしていく、強化していくためには、体制自体も強化していかないといけないと私は思っております。今、わずか二十名程度の体制ということですけれども、私もしっかりバックアップしていきたいと思いますので、体制も強化をして、力を合わせてこのヘイトスピーチの根絶に向けた取り組みをぜひよろしくお願いいたします。

 続きまして、ヘイトスピーチが生じる要因というのはさまざまなものがあるかと思います。その中で、ネット社会の光と影の影の部分、ネット社会の病理の部分というのも私は見逃せないんじゃないかと思っております。

 手軽に情報にアクセスできる上に、発信もできる。匿名性が声を過激にする。そして、その過激さは加速度的に増していく。また、虚実織りまぜた情報というのがすさまじい勢いで拡散されていく。そのゆがめられた情報、またデマに触れることによって憎悪や偏見、差別意識が生まれ、それらが増幅されていくこともあります。

 例えば、先日も、熊本での地震の直後、ツイッター上で、熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ、こういう根拠のないデマが飛び交いました。これについては、そもそも内容が荒唐無稽な上に、うそだと反論する情報、そういった方たちも多くて、幸い、真実だと受けとめられるには至りませんでした。ただ、一時的な混乱を招いたことは事実でございます。

 そもそも、うそであることはわかるとしても、こんないわれのないデマは、在日韓国・朝鮮人の方たちの尊厳を傷つけるものであって、許されるものではありません。

 ヘイトスピーチやネット上の書き込みを見ますと、同じように根拠のないデマに基づいて在日韓国・朝鮮人の人たちを誹謗中傷するようなものが非常に多い。しかも、それらしく書いてあったりするので、見た人が本当だと勘違いしやすい状況にあります。

 そこで、法務省に伺います。

 こうした言動は、本法案で言う不当な差別的言動に当たって許されないわけでありますけれども、許されないというだけではなくて、デマが拡散していることを確認した場合には、それが誤りであるというふうに明確に打ち消していく必要があると思いますけれども、これに関する見解をお伺いいたします。

岡村政府参考人 委員御指摘のとおり、このような、虚偽の情報を流布するなどして差別や偏見を生じさせるおそれの高い情報が流布しているという事実に接した場合には、こういった情報の真偽も可能な限り見きわめた上で、国民一般に向けて必要な情報をタイムリーに提供するなど、私どもとしても、より一層発信力を強化していく必要があると考えております。

 本法律の趣旨も踏まえて、その方策についてもしっかりと検討してまいります。

國重委員 よく、在日特権とか、こういったものを振りかざして誹謗中傷するような言動がありますけれども、こういう荒唐無稽なものが原因で新たな憎悪とか偏見とか差別意識といったものが生み出されないような取り組みをぜひよろしくお願いいたします。

 では、最後の質問に移ります。

 私は、ヘイトスピーチは差別構造の一部であるというふうに認識をしております。一昨年十二月のいわゆる京都朝鮮第一初級学校事件の上告審におきましても、一連の示威活動におけるヘイトスピーチが人種差別撤廃条約に違反する人種差別に当たる、こういった司法判断がされました。

 ヘイトスピーチ、ヘイトデモは、差別の中でもとりわけ過激だし、被害も大きい、喫緊に取り組まないといけない問題だということですけれども、目指すべきは、差別のない社会、また共生の社会であります。

 冒頭、法務省に確認をしました調査の実施については、我が党のプロジェクトチームが、ヘイトスピーチを含む差別問題全般について調査をお願いしたところ、差別全般だとすごく時間もかかるというようなことで、しっかりと絞って、まずは、一刻の猶予もならないこのヘイトスピーチについてやっていこうということで、本年三月三十日にヘイトスピーチの実態調査の結果が公表されたわけであります。

 でも、それで終わりではなくて、今年度は、その第二弾として、ヘイトスピーチを含む人権問題全般についての調査を行うべく、今、法務省は、地方自治体とか関係機関と準備を進めているというふうに聞いております。

 そこで、法務省に伺います。ヘイトスピーチを含む人権問題全般に関する調査の進捗状況、今後の見通しはどうなっているのか、お伺いいたします。

岡村政府参考人 御指摘の調査につきましては、現在、多数の地方公共団体の御協力を得つつありますが、引き続き、公正中立の確保という観点から、公益財団法人に委託して実施することを予定しておりまして、現在、その公益財団法人に設置した有識者による会議体で調査項目等の検討を行っているところでございます。また、私ども法務省においても、調査項目等について、地方公共団体や外部の専門家から御意見を伺っているところであります。

 そして、この調査結果は、今年度中に公表する予定でおります。

國重委員 調査を着実に進めていただいて、その結果を踏まえてしかるべき措置をしっかりと講じていっていただきたいと思います。

 ヘイトスピーチを根絶する、また、差別のない社会、共生の社会を築いていく、私もそのためにしっかりと汗を流していくことをお誓い申し上げ、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。

葉梨委員長 以上で國重徹君の質疑は終了いたしました。

 次に、逢坂誠二君。

逢坂委員 民進党の逢坂誠二でございます。

 きょうは、いわゆるヘイトスピーチ対策法案について質疑をさせていただきます。

 参議院でさまざま、もう論点は出尽くしているかというふうには思いますけれども、確認の意味も込めて、法案の提出者にお伺いしたいと思います。

 まず、前提として、冒頭に、いわゆるヘイトスピーチでありますけれども、このいわゆるヘイトスピーチというのは、本邦外出身者である、あるいは本邦内出身者であるにかかわらず、あるいはまた、適法に居住している、あるいは適法ではない居住である、そういうさまざまな条件がある中で、何人に対してもいわゆるヘイトスピーチというのは許されないものであるという認識を私は持っているんですけれども、その認識でよろしいかどうか、まず確認をいたします。

矢倉参議院議員 委員おっしゃるとおりであると思います。

 いわゆるヘイトスピーチというのは、本来であれば、民主主義においては、言論には言論で対抗するというものである、ただ、その態様において相手方の対抗言論も許さないような形で、外部からわあっと言ってきて大勢で押しかけていき、社会を分断するようなものであります。

 こういったものを許容している社会というのはやはり健全な社会ではないという理念のもとで、かかる態様について、そのようなものは許されないということをしっかり宣言したのがこの理念法の趣旨であるというふうに理解もしております。

逢坂委員 それでは、次の点をお伺いします。

 今回の法律の制定の意義、これを制定することによってどんなことが想定されるのか、意義についてお知らせください。

西田(昌)参議院議員 今回の法律は、立法事実として、そういうヘイトスピーチが行われ、困っておられる方が実際におられるわけでございます。我々も、その現地に行き、視察をしてまいりまして、被害を受けられている方々の話も聞きました。そういうものは、やはり日本人としてあるまじき行為でありまして、根絶をしなければならないという思いで、皆が共通の認識を持ったわけであります。

 しかし、問題は、憲法に保障されている表現の自由、こういう一番大きな憲法事案について、禁止規定をつくるということがなかなかできない。しかし、禁止規定はできなくても、我々が国会の、この国権の最高機関で決議することによって、理念を明確に示すことによって、先ほど矢倉発議者からの説明もありましたけれども、あらゆる法律の解釈において指針となって、そういうことを宣言することによって事実上ヘイトスピーチを根絶させる方向に行くし、また、この法律には、差別のない社会をつくることの責務を国民にも課しているわけなんですね。

 だから、そういう共通認識を皆が持つことによって、わざわざヘイトスピーチをしている人間がまだいるわけなんですけれども、彼らに対して、そういうことは恥ずべきことだ、そういうことを我々がしっかり宣言する、それが大変大きな意義があることだと思っております。

逢坂委員 それでは、ちょっと具体的なことをお伺いしますけれども、今回の法案の成立によって、警察の対応というのは変わるのかどうかですね。

 例えば、警察の対応といいますと、デモについて、デモをやっていいですよ、このデモを許可しますよというようなことなんですけれども、この法律ができたことによって、その警察の判断基準というのは変わるのかどうか、この点についてお伺いします。

西田(昌)参議院議員 デモとかでは、道路使用許可でありますから、内容によって、またその使途によって、使用するとかさせないとかいうことは基本的にはできないんだろうと思うんですね。

 しかし、この法律をやることによって、そういうヘイトスピーチ自体を我々国会が否定しているわけなんですね。そうすると、その運用においては、例えば騒音防止条例もそうですし、名誉毀損ということもそうでしょうけれども、あらゆる法律を駆使することによって、警察は、している方が加害者であって、される側が被害者である、そういう認識も含めて、行政上の権限を行使することができるのではないか、またそれを我々は期待しております。

逢坂委員 ちょっと、今の答弁、若干わかりにくかったとは思うんですけれども、いわゆる警察の判断、本来警察は、表現の自由その他のことを考えますと、形式上、このデモをやってしまうといろいろと交通にも不都合になるから、それは厳しいですねというような判断はあるかもしれない、だが、内容によっては基本的には判断はできないというのがこれまでの前提であったかと思いますけれども、この法律の施行によってそれが変わるのかどうかということを法案提出者としてどう見ているか、改めて確認いたします。

西田(昌)参議院議員 先ほども言いましたように、いわゆる内容で事前にチェックするということは表現の自由にもかかわりますので、それはできないだろうと。

 ところが、現実問題、この法律をやることによって、警察権の行使をするときにおいて、さまざまな解釈の方向として、ヘイトをさせない、ヘイトということは恥ずべき行為でありますから、根絶させていこうと。そして、その中で、例えば大きなマイクを使ったり、それからいろいろな違法な、例えば公道の使用とかがあったりとかした場合、当然、厳正に警察権が行使されて、ヘイトが事実上行われることがないようになっていくと思うわけであります。

 もう一つつけ加えて言うと、恐らく、そういうことを例えば警察がすると、それは、自分たちのデモをしたりする権利を制限されたとかいろいろなことで、逆に訴えることもあると思うんですよ。しかし、そのときに、まさにこの法律が司法の場において、司法の判断としても、ヘイトは我々が、国権の最高機関が許さないということを宣言し、この理念を掲げているわけでありますから、その司法判断も当然我々の期待に沿うものになるものだと思っております。

逢坂委員 デモの内容によってその判断は変わるものではないというところは確認をさせていただきました。

 次に、今回の法案の対象ですけれども、これは本邦外出身者というふうになっているわけですが、本邦内出身者を加えなかった理由についてお知らせください。

矢倉参議院議員 本邦外出身者にまず規定をしている意味なんですけれども、これは理念法であります。理念法であるということはやはり、国民全体の意思としての発言や理念というふうなものをしっかりと表現をする、であるからこそ、どういう共通の事実に基づいて、国民全体が、このような言動は許されないというところの事実が、立法事実としてはやはり大事であるというところはあると思います。

 そう考えると、立法事実として今まで考えられていたのが在日朝鮮や韓国の方々、京都朝鮮第一初級学校事件のような、そのような立法事実から考えて、本邦外出身者という言葉を、限定を入れさせていただいたところであります。

 ただ、この趣旨は、それ以外の者に対するこのような不当な差別的言動というのが許されるという趣旨ではないということは、理念法のたてつけからもやはり明らかであるというふうに思っております。

逢坂委員 立法事実に基づいて本邦外出身者というふうにしたということですけれども、先日、このヘイトスピーチ対策法に関連してあるテレビ番組に出演しましたら、ジャーナリストの方が、本邦外出身者だけではなくて、本邦内の人に向けてもこういうヘイトのデモがあるんだということをおっしゃっておられましたので、この点については少しまた今後いろいろと検討すべき余地のあるところなのかもしれないという印象を、この間、私は、そういうことを教えてもらいまして、印象を持ったところであります。

 では、次に、今回の法律は適法居住者を対象とするわけですが、適法に居住していないという方も国内にはいるわけであります。それはさまざまな理由があります。悪意を持ってそうしている方もいれば、そうならざるを得ない方もいるわけでありますけれども、適法居住者以外の者を対象としなかった理由、これはどういうことでしょうか。

矢倉参議院議員 まず前提として、先ほども申し上げた、適法に居住しているか否かにかかわらず、このような言動というのはやはり許されないということ、これは理念としてしっかり訴えていくべきものでもあると思います。

 その上で、例えば難民の申請の方でも、やはり難民法の規定において、一時滞在であったりとか、そういった形の法に基づいた手続に基づいて滞在をされている、そういった意味でも適法というふうに認定もされ得る。また、オーバーステイのような方々、当然ですけれども、オーバーステイでいられた方は、その後正式な手続にのっとって処理、手続としてはされなければいけないところはあるわけですけれども、そのような方に対しての言動としてこれが許されるという趣旨ではないということは改めてお伝えをしたいというふうに思います。

逢坂委員 適法に居住していないからといって、いわゆるヘイトスピーチは許されないということについての考え方は私も共有しておりますし、そのことは冒頭にも確認をさせていただきましたが、今回あえて法律からそこを外している、要するに、適法居住者ではない人をこの法律の対象にしなかった積極的な理由というのを、もし、もう少し明確に説明いただけるのであればもう一回お伺いしたいんですけれども、いかがでしょうか。

西田(昌)参議院議員 もともと日本は法治国家で、適法に入国していただけない方は、これは強制退去していただくなり、そういう法の執行は当然されるべきであるわけなんですね。ですから、当然、ここにおられるのは適法に住んでおられるということを大前提としているわけでございます。

 しかし、かといって、その方々に対するヘイトスピーチが認められるということではない。要するに、法の執行として、適法に、入国管理法に基づいてしっかり住んでおられる方以外の方は、これは法の執行としてこの国内から退去していただくなりそういう措置がされるわけでございますから、それが執行されていると、おられないということになるんですね、事実上。

 ですから、そういう論理で書いているわけでありますけれども、だからといって、その方々にヘイトスピーチを認めているということではないということをまた重ねて申し上げておきたいと思います。

逢坂委員 なかなか微妙なところがあるとは思うんですが、適法に居住されていない方をこの法の対象にするというところに対しては少し悩ましいものがあるんだなという、発議者の心のうちは伝わってまいりました。ただ、これも、今後、場合によっては課題になるかもしれないなという気がいたしますので、ちょっと私も頭にとめておきたいというふうに思います。

 それでは次に、先ほど、西田発議者からの答弁の中にも一部含まれていたというふうに理解をしますけれども、今回のいわゆるヘイトスピーチを禁止するというような規定を明確に設けなかったというふうにこの法案は承知をいたしているわけですが、一部、やはり明確に禁止しないのはよろしくないのではないかという声もあるわけですが、禁止ということにしなかった理由について説明をしてください。

西田(昌)参議院議員 実は、ここが、我々、与党のワーキングチームで議論したときにも一番肝心なところであったわけでございます。

 つまり、我々は、禁止をしていないからといって、ヘイトスピーチに対して及び腰であったり、それを曖昧な形で放置しようということは全くないわけなんです。しかし、禁止規定を設けた場合、では、その禁止規定に外れた言葉はいいのかという逆解釈が生まれたりすることもある。そして、そうなってしまうと、法律の外のところの言葉を使ってやればいいんじゃないかということにもなりかねない。ですから、そういうことも含めて禁止規定をしなかったということがあります。

 それと、一番大事なのは、そもそも禁止規定をすると、公の方が、公権力の方が、ここまではいいけれどもここまでは悪いという形になるわけなんですね、行政側が。行政側がそうすること自体は、やはりこれは憲法上の大きな問題があると思うわけでございます。それは最終的には司法の場で判断されるべきことになると思うんです。ですから、あえてここは禁止規定を設けず、最終的には司法の判断になるでしょうと。

 しかし、理念ということを掲げることによって、我々が目指すべき社会は、そういうヘイトスピーチのあるようなことじゃなくて、差別を解消する、そういう社会なんだということを掲げることによって、国民全体にモラル意識、そして教育、啓発、そういうところでトータルで抑え込んでいこうと。その方が、より憲法上の問題もクリアになるし、また実効性も上がっていくと考えたからでございます。

逢坂委員 私も、実は、このヘイトスピーチの問題を考えるときに、憲法二十一条との関係というのはやはり相当悩ましいなというふうに感じております。とはいうものの、禁止しないから、これじゃ法律の効力が弱いだろうとおっしゃる方の気持ちもわからなくもない。それは、ヘイトスピーチの現状を思うと、やはりもう本当に筆舌に尽くしがたいものがあるというふうに思うんですね。

 片や一方で、禁止を入れるとちょっと危ういかなと。先ほどまさに言いましたとおり、禁止が入ると、公権力がその現場でいろいろ判断をせざるを得ない場面が出てきやしないか。そうなってしまうと、その場その場で公権力が判断するということになりますと、それもまた国民生活がちょっと不安定になるのかな、特に憲法二十一条の関係がどうかなということで、どっちも悩ましいなというのが、正直申し上げまして私の思いなんですよ。だから、今回、禁止を入れなかったというのも、ある一定の考え方だろうなというふうには思います。ただ、この問題というのは、いつまでも多少じくじくする問題かなというような感じはいたしております。

 さて、そこでなんですが、これは先ほどの答弁の中にも若干ありましたけれども、禁止が入っていない、それからもっと言うと罰則も入っていませんよというようなことを指摘する方もいらっしゃいますけれども、その上で、この法律が成立したときの実効性について改めて言及いただけますでしょうか。

西田(昌)参議院議員 これがまさに一番大事なところだと思います。

 禁止規定はないんですけれども、何度も言っていますけれども、理念法ではありますけれども、国権の最高機関がこれを許さないということを宣言しているわけであります。当然、行政府は、国権の最高機関の意思に従って、さまざまな、警察官に対してもそうでしょうし、また例えば市役所の行政に対してもそうでしょうけれども、要するに、ヘイトをさせない、許さない、そのためにはどういう形で行政権を行使したらいいのかというところで、必ず彼らがこのヘイト根絶に向けて法解釈をしてくれるものと思っておりますし、また、しなければならないと思います。

 といいますのは、具体的に、多分、この法律をつくっても、やると宣言している人がいてますから、何かしかけてくるかもしれませんよね。しかし、そのときに、我々が、国権の最高機関が決めたその理念が生かされずに放置されるとなると、これはとんでもない問題になってまいりますから、私は、この法律が成立しましたら、行政府の方ではしっかりそのところを職員の皆さん方にも教育をしていただいて、法の執行を厳格にしていただきたいと思っております。

逢坂委員 私は、この法律もそうなんですけれども、こうした事態が生じて、これを法律で対応せざるを得ない状況になっていることに本当に心痛む思いであります。本来、こうしたことというのは、常識の範囲内で本当は対応されるべきが社会としてあるべき姿なんだろうと思うんです。法で対応することには法としての実は限界も私はあると思っていまして、だがしかし、そうせざるを得ない状況になっている、現状になっていることに対して本当に憂慮、心痛む思いであります。その意味で、やはりこれは喫緊の課題であるということも全く事実なんだろうと思います。

 それで、もう一つであります。

 今回の法案には、附則の規定で検討条項、見直し条項が入っているわけでありますけれども、現時点で、法案提出者としてどんなことを今後検討条項、見直し条項によって検討されるというふうに想定をしているのか、このことについてお伺いをしたいことと同時に、今回の検討条項には期間が入っていない。一般的に検討条項を入れるときは、期間を入れる場合も入れない場合もございますけれども、例えば、施行後三年を目途としてといったような言葉を入れた上で検討条項を入れることもあるわけです。

 期間が入っていないんですけれども、期間的なもし見通しみたいなものをお持ちであれば、想定される内容と期間的見通しみたいなものを、提出者として何かお考えがあればお知らせいただきたいと思います。

矢倉参議院議員 まず、この問いに答える前に、委員が先ほどおっしゃってくださったとおり、これは本当に、これが第一歩でありますし、私も参議院の方で視察に行ったときに視察先で言われたのですが、ある方が、これまでヘイトデモに対しての反対の意見というのはなかなかなかったんだけれども、最近になって反対の意見というのがすごく強くなってきた、これは日本社会が成熟してきている意味なんじゃないかというふうにおっしゃっていた被害者の方の言葉が印象的でありました。

 これは、表現のあり方云々というよりは日本社会のあり方そのものが問われているし、それをどう国民全体で共有していくのかという大きな大きな問題であると思います。

 何か規制をしてどうこうというふうに簡単な問題ではなくて、これを一歩として、どうやってそのような共通の理念を国民全般に広げていくのかという、やはり我々の責務も非常に課されているところであるというふうにまずお伝えをしたい、そのための理念法であるというところであります。

 その上で、御指摘のところですけれども、検討条項においては、やはりさまざまな分野の検討はあると思います。行政や民間においてもいろいろ、啓発活動もそうでありますし、まず、これまでは、自治体の取り組みなども法律がないということを理由にしてなかったりとかしたわけですけれども、これが、法律ができることで、やはり行政の側も発信の仕方も変わってくるし、取り組みも変わってくると思います。そのことの検討をしっかりしていく。

 また、民間の中でも、デモに対して声を上げる、いろいろな意見、それから教育啓発という部分での取り組みもいろいろと広がってくると思います。そういった取り組みをまたしっかり見ながら検討していくというようなことになると思います。

 時期についても、これは本当に、日本社会全般をしっかりこのような言動がない社会にしていくという取り組みであります。どこまでというのを決めるものでもとりわけなく、やはり適宜適切にしっかりと検討していくということになる、このように思っております。

逢坂委員 終わります。ありがとうございました。

葉梨委員長 以上で逢坂誠二君の質疑は終了いたしました。

 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 ヘイトスピーチの根絶に向けて、私は、本法案、いわゆるヘイトスピーチ対策法案について伺います。

 まず、提案者に質問いたします。

 この法案は、その前文において「不当な差別的言動は許されない」ということを宣言しています。つまり、ヘイトスピーチはあってはならない、許されないということを宣言した法案です。

 三月三十一日に参議院の法務委員の皆さんが川崎市桜本に視察に来られました。私も神奈川県川崎市の生まれでございます。桜本は、差別に立ち向かい、大変な労力を強いられながら、長い歴史をかけ、違いを認め合い、ともに生きる町づくりを進めてきました。視察に行かれて、そういった町であることも御確認されたと思います。

 その桜本で、子供から高齢者まで利用する地域の施設で仕事をされ、多文化共生の町づくりの先頭に立たれてきたのが在日コリアン三世の崔江以子さんで、参議院の参考人として陳述されました。きょうも傍聴に来られていらっしゃいます。民族差別を助長する、聞くにたえない口汚い言葉を発し、ののしりながら、居住している桜本にやってくる、このヘイトデモに対して、命の危険、恐怖と絶望を感じながら、ヘイトスピーチ根絶のために勇気を持って声を上げられています。

 今度の法案はいわゆる理念法ということですが、地方自治体、警察など行政がさまざまな判断をし、ヘイトスピーチをなくすために、この法案はどのような効果をもたらすのか、伺います。

西田(昌)参議院議員 今おっしゃいましたように、先ほどからも答弁させていただいていますけれども、直接的な禁止規定は設けておりませんが、理念を国権の最高機関で決めていただいた、ヘイトは許さないというのが国民の意思だ、こういうことになるわけでございますから、当然その意思に従って法の執行をしていただく。

 例えば、警察の場合、先ほど言いましたように騒音防止条例ということもあるでしょうし、実際に桜本地区で、わざわざその地区に対してデモをするなんということは許されないわけでありまして、例えば、平穏な暮らしをしている方々のところに、不当なそういうヘイトデモにならないように、コース変更を指導したりということも含め、いろいろな方策があろうかと思います。

 さらに、ああいう実際のヘイトされている現場を見ていますと、それに反対する方々との間でトラブルになったり暴力事件が起きたりしていた事案もあったようでありますから、そういうことを未然に防いで、警察がしっかり、今まではこういう法律がなかったものですから、表現の自由ということで、ある種、野放しと言ってはなんでございますけれども、事実上そうなっていたところが、今度はこの理念法を掲げることによって、自由はあっても何でもかんでも自分たちができるんじゃなくて、やはり不当な、つまりいわれなきそういうヘイトは何人も受ける必要はないわけなんですよね。そこをしっかり、やはり警察側が抑止してくれるものと期待しております。

畑野委員 おっしゃったように、二〇一五年十一月八日、そして二〇一六年一月三十一日、川崎市桜本に向かってきたヘイトデモによって、抗議をする住民、警察も含めて、町は騒然となりました。私は、ヘイトデモは許さないという強い思いで、ことしの一月三十一日に川崎のその現場に行きました。

 また、三月二十日に、川崎駅前で、民族差別をあおるヘイトスピーチに対して抗議をする市民に対して、ヘイトスピーチをした側が市民を殴る蹴るという傷害事件を起こして大変な混乱状態になりました。後日、逮捕者が四人出ました。

 今度の六月五日に、ある団体が川崎発日本浄化デモ第三弾を実施するという呼びかけで、川崎を攻撃拠点にというヘイトデモの告知をインターネットサイトで行っております。これは、再び混乱を起こすことが予想されるのではないでしょうか。

 川崎市桜本のようにヘイトデモのたびに混乱が起こる場所では、この法案と現行法とあわせてヘイトスピーチをなくす効果が発揮できる。これはまさに川崎市桜本地域ではないかと思うんです。提案者がおっしゃっている、この法律の効果を発揮するのはこの地域だということですが、いかがでしょうか。

矢倉参議院議員 まさにおっしゃるとおりであります。

 私も桜本へ行きました。本当に、デモが起きたと言われているところをちょっと入ったら、普通の一般の住宅街なんですよね。こんな平穏な場所に、外からやってきた人間がわあっと来てデモをやる。

 私も聞いて本当に悲しい思いになったんですけれども、あそこの地域は、日本人の方とそれ以外の方がみんな共生しているわけなんです。子供たちもそうなんですけれども、その子供の中で、日本人の子供が在日韓国人の方の子供に対して謝る、子供同士が大人の汚い感情に巻き込まれて謝り謝られるなんという環境に追い込まれるというのは、本当に許せないことであると思います。

 まさにこういった対抗言論も許さないような、相手の人格をおとしめて、そしておまえたちはここから出ていけ、こういうことを言う、相手には何も言わせないということを表現の自由なんだという言葉で、範疇で、権利のようにやってくるということを社会からなくしていこうという理念をしっかり訴えた。

 それを多くの方は悪いことだとわかっていても、それが声に出せなかったところがあるけれども、今回、法律をしっかりとつくることで、そういった方々もどんどんお声が上がっていくことになると思います。

 それも踏まえて、さらには、現地の行政もそうです。法律がないからとかいうことではなくて、法律ができた、こういうのは許さないんだということを現地の行政の方でも声としてしっかり上げていく。さらには警察も、先ほど西田発議者からも話のあったような文脈の中での解釈、取り締まりということもしっかりやっていく、総力を挙げてなくしていくべきであるというふうに思っております。

畑野委員 この法律でヘイトスピーチをなくす、そういう効果を発揮することができるというふうにお答えいただきました。

 次に、警察庁に伺います。

 この法案が成立した暁には、全国の警察に対して、法律の趣旨そして提案者のこうした意思を伝えて、現行法とあわせて行政がヘイトスピーチを解消する取り組みを進めるように通知、通達を出す、このことを求めますが、いかがでしょうか。

斉藤政府参考人 お答えいたします。

 本法律が成立、公布された際には、全国都道府県警察に対して、不当な差別的言動は許されないとする法の趣旨や本法を踏まえた警察の対応について通達をすることを考えております。

畑野委員 それで、ぜひ、差し迫った六月五日の川崎でのヘイトスピーチ、これはしっかり対処していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。私は、ヘイトデモなどに警察の許可を出すなんということは間違ってもやらないでほしいと思うんですが、いかがですか。

斉藤政府参考人 お答えいたします。

 六月五日に御指摘のデモが計画をされているということは承知をいたしております。いまだ申請がない段階でございます。

 今後、御指摘のようなデモが行われるとなった場合には、引き続き、違法行為の防止、関係者の安全確保等を図る観点から、必要な態勢を確保して的確な警備を行いますとともに、違法行為を認知した場合には、法と証拠に基づき、あらゆる法令の適用を視野に入れて厳正に対処してまいる覚悟でございます。

畑野委員 本当に、崔さんが言っているのは、ヘイトデモによって、どんなに傷つき心が殺されたか、法整備が進み、思いが国に届いた、希望だった、しかし、またヘイトデモが来る、絶望です、法律を最大限活用してやめさせてほしい、子供たちの目に二度と触れさせないでほしいという思いも私は伺ってまいりました。

 最後に、岩城大臣に伺います。

 ヘイトスピーチをなくすことを多くの皆さんが求めている、そのことへの御認識とヘイトスピーチ根絶に向けた決意を伺います。

岩城国務大臣 これまでも私は、いわゆるヘイトスピーチにつきましてはあってはならないもの、そのようにお答えをしてまいったつもりであります。

 本法律案はその前文で「不当な差別的言動は許されないことを宣言する」などと規定しているとおり、同旨のことが法律において明確にされるものであると認識をしております。

 そこで、本法律が成立、施行された場合には、今後、国及び地方公共団体がより一層連携するなど、このような不当な差別的言動の解消に向けた取り組みを推進していく契機となるものと認識をしております。

 法務省といたしましても、本法律が成立、施行された場合には、不当な差別的言動の解消に向けて本法律の趣旨を十分に尊重し、これを踏まえた取り組みを適切に推進していく必要があると認識をしております。

 そうした観点から、相談体制や啓発活動等の人権擁護施策について、これまでの取り組みについて見直す点はないか、あるいは今後新たに推進すべき施策はないか、そういったことをしっかり検討してまいりたいと考えております。

畑野委員 以上、ヘイトスピーチ根絶に向けてしっかりやっていただきたいということを求めて、質問を終わります。

葉梨委員長 以上で畑野君枝君の質疑は終了いたしました。

 次に、木下智彦君。

木下委員 おおさか維新の会、木下智彦でございます。

 本日は、本当に難しい問題だと思うんですけれども、まず理念ということで提出をされました、きょう来ていただいていますお二人も含めて、そのほかにもたくさんの方々で議論されたと思います、そういった方々にまず敬意を表したいというふうに思います。

 きょう、十分間なんですけれども、先ほど来、いろいろな方がお話しされていたことに対して、西田議員を初め、しっかりとお答えされていたと思うんです。まずは理念だけでもやっていかなければいけない、これはもう確かだと思うんです。それに、この趣旨の中にも書いてあるんですね。「表現の自由は民主主義の根幹をなす権利」だと。「表現内容に関する規制については極めて慎重に検討なされなければならず、何をもって違法となる言動とし、それを誰がどのように判断するか等について難しい課題があります。」まさしくそうだと思うんです。

 そういった中で、いろいろな判断をされてこういう法律案になったんだと思うんです。

 そうはいいながら、その中で、あえてもう一度聞かせていただきたいんですけれども、本法案における差別的言動というのは、どうやってそれが差別的言動かということを認定するか、認定すると言ってしまっていいのかどうかも含めてですけれども、これをどう判断すればいいのかということについてお話しいただけますでしょうか。

西田(昌)参議院議員 まさに、そこが一番大事なポイントだと思うんです。

 それで、具体的に、これこれ、これです、これだけですとかいうことを実はやっていないんですね。といいますのは、先ほど言いましたように、そういう定義をして、禁止規定をつけると、逆に定義をしっかりするからこそ禁止ができるんですが、では、その定義から外れたものはいいのかという話になってしまう。

 そうではなくて、そもそも理念を我々は掲げています。そういう不当な差別的言動がまかり通るような社会を我々は認めない。そして、言葉の一言一句ではなくて、全体の文脈として、これはもう不当な、いわれなきそういう差別を扇動する、そういう行為である、それはだめじゃないか、やめるべきじゃないかということになっているわけでございますから、具体的に個別に、この言葉を使ったら、この言葉以外だったらいいとか、そういうことじゃないんですね。やはり全体の流れの中で判断をしていかなきゃならない。

 そのことを行政府側が、この法律の理念を踏まえた上で、例えば警察官が、この法律では禁止されないけれども、他の法律を使って、こういうヘイトをやっている現場があって、その現場の中で、いわゆる加害者側ですよね、彼らがやっている不法行為が少しでもほかで見受けられたら、当然、厳正に対処して、事実上ヘイトスピーチがとめられる、こういうことになろうかと思っております。

木下委員 同じお答えだったと思うんですよ、今までの答弁と。

 もう一つ、西田議員がおっしゃられていたのは、最後は司法の判断と。結局は司法の判断で、どうなのかということを判断しなきゃいけない。

 ただ、私はこれがすごく残念だなと思っていて、残念と言ったら本当に申しわけないですけれども、本来、やはりこういう法律をつくらなくても、道徳上、やってはいけないことなわけですよ。それをあえて、ここで理念として出さなきゃいけなかったというところ。

 どうしてもそこに限界がある。ならば、やはり行政側としても、ある程度の責任、リスクをとって、何らかの形で、そういうことはだめですよと。前もって決めるんではなくても、何かそういう事象が起こったときに、それに対して、いや、これはだめだよという判断、これは、最後は当然のことながら裁判所、司法の判断だとしても、行政としても、これはだめだよというふうなことを指し示してやってもいいんだと思うんです。それがなければ歯どめにならない。

 歯どめにならないということはどういうことになるかというと、先ほど逢坂委員も言われていた、この法律で実際に実効性があるのかということになってしまうということなんです。

 ここで、ちょっとこれは手前みそになりますけれども、もう西田議員も矢倉議員も恐らくよく研究されてのことだと思うんですけれども、大阪市の条例、一月に可決しましたヘイトスピーチに関する条例ですけれども、あの中では、結局、有識者による審議会を行って、事後であったとしても、ヘイトスピーチとその審議会の中で認定したものについては、誰がどういうところでどうやってやったかということを公表する。これは事後です。しかも、ヘイトスピーチ、一般、公に対してやっているものを、あえてまた大阪市として、審議会として認定して、公表する。

 これは表現の自由を逸脱していないと私は思っているんですけれども、それはどういうふうに考えられているか。

西田(昌)参議院議員 その辺が悩ましいところでございますが、私は、審議会でやっても、行政府側がヘイト認定をするというのには実は少し問題があると考えております。

 むしろ、この法律は何が大事かというと、ヘイトが何か定義をして禁止するんじゃなくて、ヘイトというのは恥ずべきことであって根絶しなければならないということを、国民が、そして立法府がそういうふうに宣言したわけですね。そうすると、ヘイトをとめるのは、ほかの法律でとめているわけですね、実は。

 これは、先ほど言いましたように、例えば個別の騒音防止条例であったり、例えばちょっとした道路交通法違反行為があったり、いろいろなことがありますよね。そのときに、判断基準としてこの法律が使われることによって、事実上とめられてくる。だから、ヘイト認定を実はしているわけじゃないんですね。そこが非常に大事なところだと思っております。

 そして、そのことを、とめられた側は、それは不法行為じゃないかということで訴えるかもしれません。しかし、訴えられたときに、裁判所の方の司法の判断も当然、我々立法府の意思を尊重してされてくるだろうし、そして何よりも、この法律ができたことによって、まず、行政側が解釈指針としてこれを使って動けるということですよ。今まで、これがなかったために、そういう指針がなかったために、とめられなかった。とめるものがなかったわけですね。

 だから、ヘイト禁止ということよりも、こういう理念を掲げて、だめだということを言うことによって、他の法律を駆使して行政権が発動できる、そこが一番大事なところだと考えています。

木下委員 理念としてはそういったところがあるだろうと。

 ただ、行政としての責任も同じくそこは裏腹で持っているんだと私は思っていて、やはり、そういった意味ではもう少し踏み込んでいただきたかったというのが私の思いなんですね。

 なぜならば、やはり書いてあるんです。これは、私たちが言ったことというよりも大阪市が書いていることで、最後、この条例の附則のところに書いてあるんです。「市長は、国においてヘイトスピーチに関する法制度の整備が行われた場合には、当該制度の内容及びこの条例の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と。

 これは、やはり国に期待していたんですよ。国がそれなりのことをやったらこの条例も必要なくなる、そういう世の中を期待したい、そういう思いがここに私は詰まっていると思ったので、あえてちょっとそういうお話をさせていただきました。これについてはもう答弁は結構です。

 最後、ちょっと残念だなと思ったことなんです。これも御答弁されなくても結構だと思うんですけれども、この趣旨説明の最後に書いてあるんです。「差別的言動が許されず、その解消に向けた取り組みが必須であることについては、参議院法務委員会において、実際にかかる言動が行われたとされる現地への視察や真摯な議論を通じ、与野党の委員の間で認識が共有されたところであります。」と。

 参議院っていいなと。私たち、きょうこれだけなんですよ。きょうは何分でしたっけ、全部合わせても一時間ですよね。本来であれば、これは私たち、こちらの衆議院の委員にやはり言いたいと思うんですけれども、こういう審議時間をとって、このことは、まあ、これは早期に可決していかなければならないけれども、やはりこうやって言われたら、衆議院議員側はしっかりこれを考えなきゃいけないと思うんです。ということを最後につけ加えさせていただきまして、終了とさせていただきます。

 ありがとうございました。

葉梨委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 参議院提出、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

葉梨委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、城内実君外四名から、自由民主党、民進党・無所属クラブ、公明党、日本共産党及びおおさか維新の会の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。井出庸生君。

井出委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案に対する附帯決議(案)

  国及び地方公共団体は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

 一 本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に照らし、第二条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであるとの基本的認識の下、適切に対処すること。

 二 本邦外出身者に対する不当な差別的言動が地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、その内容や頻度の地域差に適切に応じ、国とともに、その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること。

 三 インターネットを通じて行われる本邦外出身者等に対する不当な差別的言動を助長し、又は誘発する行為の解消に向けた取組に関する施策を実施すること。

 四 本邦外出身者に対する不当な差別的言動のほか、不当な差別的取扱いの実態の把握に努め、それらの解消に必要な施策を講ずるよう検討を行うこと。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

葉梨委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

葉梨委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。岩城法務大臣。

岩城国務大臣 ただいま可決されました本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

葉梨委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

葉梨委員長 次に、二階俊博君外八名提出、部落差別の解消の推進に関する法律案を議題といたします。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。門博文君。

    ―――――――――――――

 部落差別の解消の推進に関する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

門議員 ただいま議題となりました部落差別の解消の推進に関する法律案につきまして、提案者を代表して、提案の趣旨及び内容を御説明申し上げます。

 まず、本法律案の趣旨について御説明申し上げます。

 現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って、部落差別に関する状況の変化が生じております。全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのっとり、部落差別は許されないものであるとの認識のもとに、これを解消することが重要な課題であることに鑑み、部落差別の解消を推進し、もって部落差別のない社会を実現すべきと考え、ここに本法律案を提案した次第であります。

 次に、本法律案の内容につきまして御説明申し上げます。

 第一に、基本理念として、部落差別の解消に関する施策は、全ての国民が等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう努めることにより、部落差別のない社会を実現することを旨として行われなければならないこととしております。

 第二に、国は、部落差別の解消に関する施策を講ずるとともに、地方公共団体が講ずる部落差別の解消に関する施策を推進するために必要な情報の提供、指導及び助言を行う責務を有すること、地方公共団体は、部落差別の解消に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとすることとしております。

 第三に、国は、部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図るものとすること、地方公共団体は、そのような体制の充実を図るよう努めるものとすることとしております。

 第四に、国は、部落差別を解消するために必要な教育及び啓発を行うものとすること、地方公共団体は、そのような教育及び啓発を行うよう努めるものとすることとしております。

 第五に、国は、部落差別の解消に関する施策の実施に資するため、地方公共団体の協力を得て、部落差別の実態に係る調査を行うものとすることとしております。

 なお、この法律は、公布の日から施行することとしております。

 以上が、本法律案の趣旨及び内容であります。

 何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。

葉梨委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時四十二分散会


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