衆議院

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第19号 平成14年6月12日(水曜日)

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平成十四年六月十二日(水曜日)
    午前十時三十一分開議
 出席委員
   委員長 吉田 公一君
   理事 浅野 勝人君 理事 石破  茂君
   理事 坂井 隆憲君 理事 西川 公也君
   理事 首藤 信彦君 理事 中川 正春君
   理事 上田  勇君 理事 土田 龍司君
      今村 雅弘君    小坂 憲次君
      高村 正彦君    谷本 龍哉君
      中本 太衛君    細田 博之君
      宮澤 洋一君    望月 義夫君
      渡辺 博道君    金子善次郎君
      木下  厚君    桑原  豊君
      前田 雄吉君    丸谷 佳織君
      松本 善明君    金子 哲夫君
      東門美津子君    松浪健四郎君
      鹿野 道彦君    柿澤 弘治君
    …………………………………
   外務大臣政務官      今村 雅弘君
   外務大臣政務官      松浪健四郎君
   参考人
   (現代コリア研究所所長)
   (北朝鮮に拉致された日本
   人を救出するための全国協
   議会会長)        佐藤 勝巳君
   外務委員会専門員     辻本  甫君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月十二日
 辞任         補欠選任
  今村 雅弘君     渡辺 博道君
  水野 賢一君     谷本 龍哉君
  東門美津子君     金子 哲夫君
同日
 辞任         補欠選任
  谷本 龍哉君     水野 賢一君
  渡辺 博道君     今村 雅弘君
  金子 哲夫君     東門美津子君
    ―――――――――――――
六月七日
 普天間基地・那覇軍港の県内移設の撤回に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第三八九六号)
同月十二日
 核兵器廃絶国際条約締結促進に関する請願(中林よし子君紹介)(第五三〇九号)
 同(春名直章君紹介)(第五三一〇号)
 同(藤木洋子君紹介)(第五三一一号)
 同(松本善明君紹介)(第五三一二号)
 同(矢島恒夫君紹介)(第五三一三号)
 同(山口富男君紹介)(第五三一四号)
 核兵器廃絶条約の締結に関する請願(佐藤公治君紹介)(第五三一五号)
 核兵器完全禁止・核廃絶国際条約の締結に関する請願(金子哲夫君紹介)(第五五〇四号)
 同(高木義明君紹介)(第五五〇五号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 参考人出頭要求に関する件
 国際情勢に関する件


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     ――――◇―――――
吉田委員長 これより会議を開きます。
 国際情勢に関する件につきまして調査を進めます。
 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りをいたします。
 本件調査のため、本日、参考人として現代コリア研究所所長・北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長佐藤勝巳君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
吉田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 この際、参考人に一言ごあいさつを申し上げます。
 佐藤勝巳参考人におかれましては、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。何とぞ忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、佐藤勝巳参考人から十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることとなっておりますので、御了承いただきたいと存じます。
 それでは、佐藤勝巳参考人にお願いを申し上げます。
佐藤参考人 与えられた時間は十分ということでございますので、皆さん方の手元に問題提起という私のメモを配ってあります。朝鮮半島においては、大体ここに書いてある五つぐらいが大変大きな関心を呼び、かつ問題になっているところだと思います。
 まず最初の、ブッシュ政権の朝鮮半島政策なんですが、これは十分の中で触れることはできませんので、最近何が起きているかという事実関係だけを御紹介させていただきます。
 まず、三月十八日、ブッシュ政権は韓国にイージス艦三隻を売却いたしております。
 それから、三月の二十九日、駐韓米軍、これは三万七千おるんですが、これの基地の縮小。どれくらい基地が縮小されているかというと、四千万坪、米軍が使っておった基地を返すという動きが出ております。表面上の理由は韓国民の要望にこたえてということになっているんですが、これはクリントン政権時代から根強くあった駐韓米軍撤退問題と何らかの関係があるというふうに私は見ております。したがって、情勢の発展いかんによっては三万七千の駐韓米軍が引き揚げる、そういう可能性が起きてきている。
 それから、四月の一日、アメリカのロッキード社が、射程三百キロの地対地ミサイル、これを韓国に百十機販売いたしております。
 さらに、四月十九日には、アメリカのボーイング社から最新鋭機F15K四十機購入をいたしております。
 したがって、韓国の軍事力は、この三、四月でもって、前とは比較にならないほど強力なものに変わっております。
 それから、アメリカ海軍は、五月の八日、西太平洋、アジア水域なんですが、新しく、空母一隻、駆逐艦五隻、原子力潜水艦二隻、これの増派を決定いたしております。
 今、御案内のようにワールドカップで日韓は沸き立っているわけですが、その裏側では、今申し上げたように、韓国軍に対してアメリカの最新の兵器がどんどんと今投入されている。それだけではなくて、アメリカ自身が一機動隊を西太平洋に増派を決定したという動きです。
 後で御質問があるかと思いますから、この問題はこれくらいにしておきまして、第二番目の、北朝鮮情勢、深刻な経済危機が到来するであろう。
 テレビなんかでよく放映されておりますように、今北朝鮮は、亡くなった金日成主席の生誕九十周年、軍の創建七十周年、それを中心に据えて、ワールドカップにぶつけて、アリラン祭という大イベントを展開しております。これが終わったら経済的に大変な危機が訪れるであろうというのが朝鮮総連の関係者の一致した見方です。なぜ到来するかという話は、御質問があればお答えいたしますが、従来とは全く違う事態が到来するであろうというふうに我々は見ております。
 三番目の、亡命者、難民の問題ですが、今申し上げたような、言うなれば、ブッシュ政権が登場して、従来のクリントン政権とは全く逆な、軍事力を背景にした、つまり抑止力を背景にした外交を展開いたしておりますから、韓国からも食糧は余り入っておりません。御案内のように、日本からは全く食糧支援はない。
 それから、世界のNGOが、ここ何年間ずうっと北朝鮮に入って食糧支援などをやってきたんですが、この数年間の中で明らかになったことは、援助をした食糧が飢餓難民には渡っていないという事実が非常にはっきりしてきたことです。したがいまして、主要な国際的なNGOが次から次へと今引き揚げをしておるということで、そういう意味で、北朝鮮の食糧事情は大変逼迫をしてきている、その中での難民というふうに位置づけてよろしいかと思います。
 きょうの朝刊も一斉に報道しておりますように、中国にある韓国大使館、もう既に十七人の亡命者が今たまっているわけです。これから亡命者がふえることはあっても減る情勢には全くないということで、今私たちは、北京の大使館、外国の大使館あるいは領事館にどんどん北朝鮮難民が入るのを対岸の火事のように見ておりますが、日本に入ってくるのはもはや時間の問題だと思います。
 私たち専門家の間で広く言われていることは、もと日本に住んでおった在日朝鮮人、これは九万三千人、一九六〇年、正確には五九年末から北朝鮮に帰ったわけです。この人たちは現在、私の知っている限りでは、日本に密入国してきている人たちは二十三人おります。もっとふえているかもしれません。この人たちが大挙して船で日本にやってくるという情報がずっと流れております。この大挙して船にというのは、二けたではなくて三けたと言われております。
 この難民問題が東アジアに大きな混乱を引き起こす兆候が、実は今中国で起きているものだというふうに私は見ております。金正日政権の行方がどうなるかと密接不可分の関係がありますけれども、私はちょっと違った見方をしているんですが、専門家の中には、東独崩壊の前夜と非常によく似てきておるという認識が比較的広まっております。つまり、この亡命者問題を見ておって、そう判断しているわけです。そういう意味で、この夏から秋にかけて、朝鮮半島情勢、なかんずく北朝鮮の動向は日本に大きな影響を与えてくるであろうと見ております。
 四番目の、朝銀への公的資金導入の問題なんですが、これは最近、衆議院の安保委員会かなんかで明らかになったことですが、破綻をした朝銀の理事長四人が朝鮮総連の幹部である、これは定款に、それはまかり相ならぬと金融庁の指導で行ったわけですが、実際出てきた名簿は、朝鮮総連の幹部ではなくて、朝鮮労働党の党員です。
 つまり、それを学習組と普通呼んでいるんですが、ハナ信用組合の理事長、これは朝鮮大学校に勤めておった学部長です。その学部長のとき、彼は朝鮮大学校の党の最高責任者です、労働党の最高責任者。それがハナ信組の理事長に横滑りをしてきたということですから、金融庁の立場からいっても、こういう金融機関に公的資金を導入することが妥当なのかどうかということが大きな問題になると思います。
 さらに問題になるのは、それまでに朝銀には、御案内のように、近畿朝銀に三千億、新たに受け皿になったその他三つの朝銀に約三千億、合計六千億出ております。これはもう出て、終わったわけです。今問題になっているのは、五千五百億。そうすると、金を出した朝銀の前の理事長たちは学習組と関係なかったのかどうかということです。関係あったということになると、外国の政党の党員が理事長を務める金融機関に我が国が公的資金を一兆一千億投入するという問題が起きてくるわけです。こういうことが許されるのかどうかということが、今、外交的に言っても大きな問題になってくると思います。
 五番目、拉致の問題です。
 拉致の問題は、横田めぐみさんが拉致をされまして、この十一月が参りますと二十五年が経過します。十三歳の少女が三十八歳になります。それと同じように、政府が認めただけで八件十一名。
 一番大きな問題だと私が思っておりますのは、四半世紀近く経過しているのに、拉致された人間が生きているか死んでいるかも我が国の政府は把握していないという事実です。外交機密費というのは、私に言わせるならば、こういう拉致された人たちが生存しているかどうかを確認するため、そのために使うお金だと私は理解しております。実際はああいう機密費の使い方をされておって、四半世紀にわたって、自国の国民が生きているのか死んでいるかもわからないというような状態が二十五年間続いてきた、この日本というのは何かということが大きな問題だと思っております。
 それから、不審船の問題。これは引き揚げるとはっきりするんですが、覚せい剤を大量に積んでおったとか、あるいは武器弾薬が搭載されておったということになりますと、日本の安全保障上大きな問題になってくると思います。
 武器弾薬の搭載というのは、それを使う人間が既に日本に入っているということを裏づけることになります。何のために入ってきているのかということになります。
 覚せい剤、これを使って、青少年たちの体がむしばまれていく。人によっては、覚せい剤、麻薬の問題は、明らかに形を変えた戦争だという見方をしている人がいらっしゃいますけれども、私は一定の根拠があると思っております。
 以上が私の問題提起です。御清聴ありがとうございました。(拍手)
吉田委員長 ありがとうございました。
 これにて参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。最初に、望月義夫君。
望月委員 それでは質問させていただきます。
 自由民主党の望月義夫でございます。
 ことしの三月に、いわゆる拉致問題に関して、有本恵子さんが北朝鮮により拉致された疑いがあるとして大きくマスメディアに報道されました。警視庁もこれまで、先ほどお話ございましたように、拉致疑惑が七件十名というようなものを改めて、やっとというんですか、八件十一名であるというようなことを公表いたしました。
 北朝鮮は、有本さんを誘拐したり拉致したことはない、このようにしながらも、中断していた、いわゆる行方不明者の消息調査事業の継続、そしてまた、日朝の赤十字会談の開催の用意がある、こういう表明をしてまいりました。これを受けて、四月の二十九、三十日に、中国の北京において日朝赤十字会談が行われ、行方不明者の調査再開が正式に確認されると同時に、引き続いて、両国の赤十字間の対話を今後も継続していくこと、こういうことになったわけであります。
 行方不明者という言葉を聞きますと、昨年の一月にハワイ沖で、えひめ丸とアメリカの原子力潜水艦のグリーンビル、これの痛ましい衝突事故を思い起こしますけれども、実は当時、私は外務大臣政務官として、宇和島の行方不明者の御家族の方と一カ月、ハワイで寝食をともにいたしました。その安否を気遣うと同時に、家族の方々の苦悩と申しますか、悲痛なる訴えを目の当たりにしてまいりました。
 もちろん、えひめ丸の問題とこの拉致問題は全く異なる案件ではありますけれども、行方不明者を思う家族の気持ち、これはもういかばかりかと心を痛めるものであります。政府としても、この拉致問題は我が国の国民の生命にかかわる重要な問題だとして、北朝鮮の真剣な対応を粘り強く求めていくことになっております。
 そこで、佐藤参考人にお伺いしたいのは、北朝鮮をめぐって、この拉致問題、先ほどの不審船問題、ミサイル、核開発疑惑それからテロ問題、我が国にとってもさまざまな安全保障上の問題が存在しております。いかなる意図で北朝鮮はこのような活動を行っていくのか、この辺について、専門家としてちょっとお話を聞かせていただきたいと思います。
佐藤参考人 今の御質問は、北朝鮮がいろいろなことをやっておる、拉致だとか不審船とかいろいろあるわけですが、意図は何かという御質問の趣旨だったと思います。
 北朝鮮を支配しているのは朝鮮労働党という政党でした。しかし、金日成主席が亡くなってからは、金正日個人の国という位置づけをしてよろしいかと思います。なぜなら、党大会は一九八〇年から開かれておりません。党中央委員会は、一九九三年十二月から今日まで開催されておりません。書記局会議、政治局会議は、開かれたという情報は公式にも非公式にも一切ございません。したがって、今の金正日国家国防委員長の指示のみで動いている。
 そこで、質問にお答えしますが、彼は、朝鮮労働党もそうですし、金正日もそうなんですが、一貫した目標は、韓国を自分たちの力で統一、併呑することです。これが主目的で、日本人の拉致とか、それから工作船の問題というのは、韓国を赤い色で統一するための手段として発生してきているものだと理解いたしております。それは、公的文献ではっきりと確認することがもちろん可能です。
 そういう意味で、韓国の国内に北朝鮮を支持する勢力が、これはもう根強く存在しております。今韓国でアメリカ出ていけという運動をやっている人たちは全部、いわば北朝鮮の直接の指示によるものと御理解していただいて結構です。
 以上です。
望月委員 北朝鮮に大変造詣の深い佐藤参考人の御意見、非常に参考になりました。ありがとうございます。
 先般、アメリカのブッシュ大統領は、皆さん御存じのように、一般教書演説において、北朝鮮は、自国民を餓死にさらす一方でミサイルや大量破壊兵器による軍備を進めている、こうして世界平和に脅威を与える武装国家であると非難いたしましたけれども、それでは、北朝鮮は、日本、アメリカ、韓国との関係ではどんな外交政策を今後とっていくか、そのことについて、時間がございませんが、最後にお伺いしたいと思います。
佐藤参考人 簡単に申し上げますと、アメリカは、テロ国家並びにテロ支援国家、テログループも含めてですが、これに妥協する意思は全くない、それから、話し合いをする意思もほとんどないと考えて結構だと思います。
 したがって、アメリカがこれから展開するであろうと想像される方法は、核兵器の生産、ミサイルの生産に対する査察問題です。これは、アメリカがやるのではなくして、国連の下部機関である国際原子力機関、これを通じて行う。
 特別査察が理事会で決定されているにもかかわらず北朝鮮は拒否をしておりますから、IAEAの理事会決定を実行するという形で多分あらわれると思います。それで北は当然拒否します。拒否すると、拒否されたということが国連安保理に報告される。そこで国連安保理が、このような国際法を守らない国家に対してどうするか、制裁をとるかとらないか。
 皆さん御記憶あると思いますが、これと同じ現象が九四年、細川内閣のときに起きました。全く同じ現象です。そこで、カーターが、戦争になったら大変だということで、ピョンヤンに入っていって金日成と話し合って戦争の危機を回避した。
 今、金日成はおりませんから、金正日のパーソナリティーからいって、私の私見ですけれども、妥協はないと思います。そうすると、かなり緊張した状態がこれから起きてくるであろう。つまり、大量破壊兵器の査察問題をめぐって発生してくる。アメリカはこの点において妥協なしというふうに私は見ております。
望月委員 ありがとうございました。質問を終わらせていただきます。
吉田委員長 次に、丸谷佳織君。
丸谷委員 公明党の丸谷佳織でございます。
 参考人におかれましては、本日、御意見を賜りまして、本当にどうもありがとうございます。
 時間も短いので、早速質問に入らせていただきたいというふうに思いますけれども、我が国の平和と安全、また北東アジアという地域性を見たときに、やはりこの北朝鮮との問題というのは非常に大きな位置を占めてくるものだというふうに思いますし、また、我が国と北朝鮮を考えるときに、米支援の問題あるいはKEDO、それから拉致の問題という大きなテーマが横たわっているわけでございます。
 米支援におきましては人道的な観点、あるいはKEDOにおきましては核拡散を防いでいくという大きな目的、ただし、政治の大きな使命として国民の生命と財産を守らなければいけない、この観点からいいますと、拉致問題というのは、我が国において最も高いプライオリティーを占めているというふうに私は認識をしております。
 そこで、これらの点についてお伺いをさせていただきたいというふうに思うんですけれども、本日の御意見の中でもございました米支援の件なんですが、いろいろな雑誌あるいは世界週報等を見てみますと、米支援というものは、昨年、五十万トン日本が行ったわけなんですけれども、これはWFPを通じて行われた。このWFPを通じて行ったことが非常によかったという報告が載っておりました。
 監査体制がうまく機能しているということでございましたけれども、実際には、先生のお話は若干違うようでございましたが、北朝鮮の中において、監査した地域とされなかった地域において地域差があるのかな、そのようにも思うわけですけれども、そうであるならば、本来の人道的な支援という意味で使われるならば、地域差なくすべての子供たちあるいは飢餓に苦しむ人たちに配られるべきで、全土的な監査体制を迫る必要があるかというふうに思ったわけですけれども、この点についていかがお考えですか。
佐藤参考人 今まで我が国の政府、正確に申しますと、村山内閣、橋本、小渕、そして森内閣、この四つの政権はアメリカのクリントン政権の方針に従って、いわば物を北朝鮮に与えることによって考え方を変える、俗にソフトランディングと呼んできた政策です。それから、金大中さんは、もっと別な意味で太陽政策という言い方をしておった。その結果どうなったかということなんですね。
 我が国の政府が北朝鮮に支援した米は、一九九五年から二〇〇〇年までの間に百十八万トン、金額にして約一千七百億円です。これは物すごい量であり、金額ですね。御指摘のように、世界食糧計画を通じて援助したものが圧倒的に多いです。しかし、村山内閣のときは借款として有償援助で出したものがありますから。
 我が国の外務省が直接北朝鮮に行って、先ほど御指摘があった二〇〇〇年の五十万トン、これを調査に行った佐藤審議官に、いかがでしたかというふうに私が直接尋ねました。私たちの見た範囲内においては配給されております、こう言っているんですね、見ていないところはわかりませんと。どこをどれぐらい見たんですかと聞いたら、一日とか二日、そこら辺をちょこちょこっと見たという話です。
 それから、国の仕組みからいって、北朝鮮という国家の仕組みからいって、一番飢餓状況にある難民に配給が渡るというシステムにはなっておりません。
 これは国家の仕組みを調べていただければすぐわかることですけれども、あの国は、国民を大きく言って三つに分けています。一つは、金日成親子に対して忠誠を誓う人たち、これを核心階層、時代によって違うんですが、これは大体人口が四百万ぐらいです。それから、北朝鮮で何か事が起きたら親子一族に対して敵対的行動をとるであろう、これが敵対階層、約四百万です。その中間に、動揺階層というのを規定しております。この三つの区分けによって、食糧の配給する量も質も全く異なるシステムになっています。
 したがって、あの国のシステムからいって、外国から援助された食糧が平等に分配されるとか、一番困っている人たちに配給されるなどというふうなことは、システム上ないんです。
 だから、そこを国連の世界食糧計画は承知しているのかどうか、私は、極めて疑わしいと見ております。あの人たちは、アメリカの議会でもそういう、今御指摘のような証言をしておりますし、いろいろなところでそう言っておりますけれども、それならば、なぜ、非政府組織の諸君が、自分たちが援助した食糧が一番困っている人に渡らないからもうこれで援助を打ち切ると言って、続々と引き揚げているのか。もう一度、世界食糧計画の対北朝鮮政策を検討し直す必要があるというのが私の意見です。
 以上です。
丸谷委員 そうしますと、今御発言の中にもありましたけれども、民衆というか、三階級に分かれている。それで、難民の話にもつながってくることだとは思うんですが、脱北者、今非常にふえております。脱北者は、九六年から九七年のピーク時には二十万から三十万ぐらい中国に潜伏していたという結果も出ているわけなんですけれども、このような大量の脱北者を生むような結果になっているのも、この北朝鮮の棄民政策というか、そういうものが背景にあるのかというふうに思われるんですが、この点についてはいかがですか。
佐藤参考人 御指摘のように、今私が説明したような三つの階層に分かれている。生きていかなきゃしようがないわけですから、一生懸命に中国へ出て、今先生が御指摘のあった二十万とか三十万という数字は、圧倒的にこれは出稼ぎです。一定期間働いて、そして戻ってくる、こういう人たちです。今、大使館に飛び込んでいる人たちは、ある意味では例外と考えていいと思います。
 中国に出稼ぎをして働いて帰ってきた人たちは、実は、北朝鮮の外貨事情に大変大きく寄与をしている、あるいは、あそこで密貿易がやられておって、その貿易によって北朝鮮の食糧事情が賄われている、これが実態です。
 それで、スペイン大使館に二十五人飛び込んだ後、一番国境を越える区間、激しい区間に北朝鮮は監視カメラを設置したんです。監視カメラを設置したら、今度は、みんな捕まっちゃいますよ。やみの商売をしておった人たちも捕まっちゃって、今、北朝鮮のブラックマーケット、やみ市には実は食糧が欠乏し出してきているという極めて深刻な事態が起きております。
 したがって、ああいう、今回の瀋陽のような問題とか、外国の大使館などへ飛び込ませる、あのやり方が妥当なのかどうかということは、NGOの間においても非常に意見の対立を生んでいる、これが実態です。
丸谷委員 では、もう時間がありませんので、最後に一つだけお伺いしますけれども、拉致に関しては、日本政府は八件十一名というふうに言っておりますけれども、実際にどのくらいの事案があるというふうに思われるのか、最後にお伺いします。
佐藤参考人 これはいろいろな説がございますが、四月二日だったと思いますが、ロイター通信が、日本の情報当局の話として、四十名という数字を発表しております。私が得ている話では、四十名というのは日本の領土から拉致された人たちですね。
 この拉致に含めるか含めないかということは、どこに線を引くかによって人数がいろいろ違いが生じてきているという問題で、石原東京都知事は何か百名とか百五十名とか言っておりますね。だから、線引きによって人数が違ってくるという事情があります。
 外国を旅行中によど号の妻たちが拉致をした人たち、外国だけではなくて、よど号の妻たちは日本国内からも拉致をしておることはほぼ間違いないです。この総数が二十名と言っておりますから、我々の推定では、多分、六十名台から、ひょっとすると七十名ぐらいいるんではないかというふうに推定をいたしております。
 以上です。
丸谷委員 以上で終わります。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、中川正春君。
中川(正)委員 民主党の中川正春です。きょうはありがとうございます。
 時間が限られているので、端的にそれぞれお話を聞きたいと思うのですが、私たちの日本の対北朝鮮外交だけじゃなくて、韓国も太陽政策に対する大きな転換期の議論を始めております、そういう意味で、一つの総括をしていかなければならない。
 まず、端的に述べていただきたいのですが、なぜ外務省、あるいは日本の歴代の政府ということかもしれませんが、それは、特に拉致問題、あるいは北朝鮮に対する総合的な対応に対して、これだけ、弱腰とよく言われる、やるべきことをやってこなかったか。
 最初に、特に拉致問題については、拉致だと認定をするまでに時間がかかり、認定をしてからも、さっき御指摘があったように、それに真っ向から取り組んでこなかったということがありますね。これはなぜなのかというところなんですが、どういうふうにここは御認識をいただいていますか。
佐藤参考人 先ほど申し上げましたように、もう二十四年経過している。それで、国会が決議をしたのはつい最近ですよね。私に言わせますと、なぜ国会が決議をするのに今日までかかったのかという疑問が一つ。皆さん方みんな国会議員の先生方ですから、そういう疑問が率直に民間人としてあるわけです。
 しかし、質問に即して答えますと、拉致という問題について、私も含めて、日本全体の認識が非常に甘かったのではないか。大きく言って、これが一つあると思います。
 なぜならば、マスコミも何もかんも含めて、拉致の問題が取り上げられたのは、今から五年前です。つまり、横田めぐみさんが北にいるぞということがわかって、大きく取り上げられた。さらに、有本恵子さんを私が拉致しましたという八尾恵証人の発言があって、これはいよいよ本当だなということで、大変な関心を呼んだということですね。
 ですから、基本的には、外国の国家権力が日本の領土内に来て、日本人を暴力で拉致していくなどということはあり得ないというふうに日本人は認識しておったと思うんです。それがそうではないんだというふうに認識が変わるまでに長い時間を必要とした。
 時間がありませんからそれしか申し上げることはできないんですが、外務省などがなぜ弱腰になるのかということにつきましては、大きく言って三つあると思います。
 一つは、植民地支配に対する反省という認識が、考え方が外務省にかなりあります。前の槙田さんにしたって、今の田中さんにしても、全部そういう考えを持っております。これが一つ。それからもう一つは、先ほど申し上げた、日本国民全体がこの問題に関心を持っていないという、いわば人権意識の希薄と言ってもいいと思います。それからもう一つ、外務省に即して言うならば、自分がいすに座っている二年間、局長なり、課長なり、審議官なり、この間に事を荒立てたくはないという、いわば保身の思想があると思います。この三つが重なって、今日まで拉致の問題がなかなか大きな国民的課題になり得なかったというふうに考えております。
 以上です。
中川(正)委員 具体的に、先般の八尾恵さんの証言をめぐって、例えば、今この時点でも、与党議員、しかも北朝鮮とのこれまでの体系の中で朝鮮総連との窓口になってきたような、そういう位置づけの人たちが、これはもう拉致というような受け取り方をするよりも、もともとよど号というのは日本人同士の話だ、そういう日本人同士の話を頭から取り上げて向こうとけんかするようなことをするよりも、もう少し穏便な話があるんじゃないかということで、有本恵子さんの両親に対して話を持っていく、こういうことがありましたよね。
 ただ、これはそうした一般的な話じゃなくて、我々見ていると余りにも異常であるし、どうも朝鮮総連、もっと言えば北朝鮮そのものと、我々の政権中枢といいますか政治中枢が癒着の関係にあったんじゃないか、その中に取り込まれていたという構図があったんじゃないかということをほうふつとさせるような事象なんじゃないかというふうに私は思っているんです。
 佐藤さんの著書の中に、そういう指摘を具体的にされているところもありまして、そこのところを、確証を持って具体的な話がこういうことなんだということをもしここで証言していただけるとすれば、ぜひ我々もここを聞かせていただくということが本筋だと思うんですけれども、少しお話しをいただけますか。
佐藤参考人 今先生の御指摘になった本は、「日本外交はなぜ朝鮮半島に弱いのか」というこの本です。これは、ごく最近、私が草思社から出版をしたものですが、この本の中に書かれていることは、私の体験も含めて、朝鮮総連からどういう買収がかけられてきたかという体験をこの中に具体的に書いております。
 それで、拒否をした。拒否をしたことによって、私と朝鮮総連の関係は決定的な敵対関係に変わっていく。買収をされるのを拒否したから、あれは韓国の情報部の手先だというふうになっていった。これは六〇年代の後半の話です。だから、随分古い話です。
 それで、具体的に何があるのかという話ですが、これで一番端的な例は、一九九〇年の九月、自民党と当時の社会党の訪朝団がピョンヤンを訪問して金日成と会談をした。それで、帰ってきて、金丸先生が脱税容疑で国税庁の強制捜査を受けた。そのときに、金丸先生の金庫の中から金の延べ棒が、私は数えておりませんからわかりませんでしたけれども、大量に出てきた。当時、もうテレビで放映されていますから、みんなは見ていらっしゃるはずです。
 実は、あれが放映される一カ月ぐらい前だったと思いますが、金丸先生に非常に近い国会議員、今はもう亡くなっております、その方に会う機会があって、新年のあいさつに行ったら、金丸先生から、実はこれは金日成さんからもらってきた金の延べ棒だと言って見せられた、生まれて初めて、なるほどと言って感心して見た、あれ一枚だと思っておったら、金庫の中からたくさん出てきたのでびっくりした、こういうお話を直接聞いております。
 それで、あの金の延べ棒には刻印がないんです。つまり、金の含有量を証明する刻印がないわけで、今国際市場で流通している金の延べ棒で刻印がないのは北朝鮮のものだけです。だから、金丸先生の金庫から出てきた金の延べ棒は北朝鮮のものと断定していいと思います。
 では、あの先生、どうしてそんなたくさん持っているのか。九〇年の九月の訪朝のときに、あれは特別機で行っていますから、その帰りに持ってきたというふうに想像されます。いただいてきたんだと思います。
 それから、北朝鮮の文化。韓国も同じです。私、五十年こういうことをやっておって感じますことは、政治と金の関係というのは日本とは質的に違います。トップがお金を集めて、そしてお金を配る、これが政治です。南北ともに共通しています。したがいまして、自分の意思を通じさせるためにお金を与えるということは、朝鮮半島においては常識です。我が国にとっては非常識きわまることです。そこの文化の違い、政治文化の違いをはっきりとわきまえておらないと、大変な事態が起きてくるというふうに考えております。
 そのほかいろいろな事例がございますけれども、その具体的な事例は、時間がありませんからこの本を読んでいただきたいと思います。つまり、左側の人たちについても、朝鮮総連とどういう関係にあったかという具体的な事実を書いてあります。
 以上です。
中川(正)委員 先ほど冒頭で、今北朝鮮の情勢というのは非常に深刻な、いわゆる経済危機を迎えてきているという御指摘がありました。これは恐らく、食糧の問題だけじゃなくて、日本からの資金というものが、朝銀の崩壊によって、あるいは朝鮮総連の崩壊によって切れている、切れ始めてきているということ、こんなこともその背景にあるということだと思うんですが、具体的にどれくらいの規模のものが日本から北朝鮮に流出をしていたのか、それで、それがどういう形態をとって向こうへ流れていたのかということ、これをひとつ、お調べになった範囲で開陳をしていただきたい。
 それからもう一つは、これはさっきの政治と金の関係ですが、政治資金というのを調達するのに、北朝鮮から金を持ってきているだけじゃなくて、逆に、国内のそうしたさまざまな団体と、団体とというより朝鮮総連を中心にした、あるいは朝銀のさまざまな架空口座を使いながら、そこで調達した金を政治を動かすために使ったというふうな御指摘、これも著書の中でされているというふうに思うんですが、そこのところを、具体的にこうしたことがありました、こういう事実ですということをできるだけわかりやすく説明していただきたいと思います。
佐藤参考人 どれくらいの金が流れておったのかというのは、時代によって全く違うと思います。
 一番大量の金が流れておったと推定されるのは、一九九〇年、バブル崩壊の一年前。九一年に崩壊しておりますから。このとき、大体千八百億円ぐらいの金が日本から動いている。これは日銀の調査です。日銀は否定しておりますけれども、日経新聞はちゃんとそう書いておりますから、間違いないと思います。
 このお金は、簡単に申しますと、バブル期に朝鮮労働党が在日朝鮮人商社にお金をよこして、その商社が株を買った、土地を買った、そして、もうけて売るわけですよね。売った金は当然北に動かさなきゃだめなわけですから、そういう金がちょうど流通している時期だったんですね、今申し上げたように。
 現在はもう景気が悪くてめちゃめちゃですから、とてもそんなにお金は行かないと思います。行っていないと思います。個人の親戚に生活費を渡すというようなことで、総連を通じてかつてのような大規模な裏金が流れたというのは、もう昔話だと思います。したがって、幾らということは、これは朝鮮総連自身もわからないはずです、個人が持っていくお金ですから。金の問題はそういうこと。
 それから、どうやってお金を調達したのかという問題なんですが、まず、調達の問題よりも、お金をだれに幾ら配るかというシステムの問題です。
 これは、朝鮮総連に国際局というのがありまして、それが国会議員の先生を初めとして、文化人だとかいろいろなところと接触を持っている。それの朝鮮総連並びに北朝鮮に対する貢献度、勤務評定の表があるんです。これを本国に送ります。それで、最終的な決裁をしているのは金容淳、キム・ヨンスンというあの対日関係、対南関係の書記です。彼から最終的に、では、この人に幾ら金を配れという指示が来る。そうすると、その指示に基づいて、多くは、例えばここは千代田区、あるいはわかりやすく言えば豊島区、みんな商工会という組織があります。そこに総連中央が、この先生に幾ら持っていくようにという指示をする。そういうやり方です。
 お金はどこから集めるのか。朝銀です。朝銀は、仮名口座、借名口座というのを持っておりますよね。あそこの金の中から総連中央に金が上がっていく、あるいは地域の商工会が総連の命令によって政治家のところに金を配る、こういうシステムです。
 つまり、朝銀の破綻になった原因というのは大きく言って三つあって、一つは、預金を北に送った。もう一つは、朝鮮総連の、いわば北朝鮮の考えが日本の政治の中にうまく入っていくための政治資金、このお金ですね。もう一つは、バブルによって日本の金融機関が同じような被害を受けている。破綻の原因は、大きく言ってこの三つだと思います。
 したがいまして、公的資金の投入という問題は、私の本の中で繰り返し言っているように、朝鮮総連が朝銀から金を集めて、それをいろいろなところへ配って、破綻したから国民の税金でもってそれを穴埋めするということは非常に奇怪な話であって、先ほど申し上げました労働党の党員が理事長になっているということも奇怪きわまりない話ですけれども、破綻した理由、これをもっと国会並びに行政機関がしっかりと調査をして明らかにする必要がある。
 以上です。
中川(正)委員 最後に、トータルなこれからの戦略というのをひとつお聞かせいただきたいというふうに思いますが、私は、特に北朝鮮の問題は、拉致をどうするかということ、これは、もうしっかりのどに突き刺さったとげみたいなものでして、ここはあると思うんですよ。
 しかし、それを、どうもこれまでは国内の議論、国内の問題に集中しながら、その力をもってという対応だったんですが、実はこれは、さっきの前半の難民問題を含めて、あるいは北朝鮮の今の状況を含めて、韓国、それからアメリカ、あるいはまたヨーロッパ、そうしたそれぞれの国の連携と、かつ、国連の難民高等弁務官事務所、この辺を使いながら中国を説得してという、そういう大きな枠づけの中で再出発をするということ、これが一つ北朝鮮に対する一番大事なところではないだろうかというふうにかねがね思っているのです。
 そういうことも含めて、これからのあるべき姿ということを少し述べていただきたいと思います。
佐藤参考人 簡単に申し上げます。
 今までは、実は、アメリカに言っても必ず、政府は何やっているの、日本政府は何をやっているのという質問が必ず来る。ところが、余りやっていませんから、やっていませんとも言えないし、非常に困っておった。
 しかし、今回は国会が決議をしていただいたわけです。このように国会も政府も一体となって解決を図っています、だからアメリカも何々を御協力をという話が筋なんです。こちらがちゃんとやらないで、人にやってくれなんという話は、自国民が拉致されているのに自分はやらないで、外国にお願いしますなんて、そんなばかな話、これは世界じゅう通用しませんね。
 今度、国会決議によってようやくそれが対外的にアピールできるようになった。そういう意味では、先生御指摘のように、中の力と外の力を合わせて、北朝鮮の反応を見ておりますと、やはり外国の反応にすごく敏感です。特にアメリカ、この動きに対しては非常に、私が見ておって異常なほど敏感ですね。ですから、国際的な力、これはぜひ必要だと思います。
 以上です。
中川(正)委員 時間が来たようです。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、土田龍司君。
土田委員 おはようございます。
 北朝鮮の経済状況といいますか、国民の暮らし、餓死がたくさん出ている。私のイメージがどうもちょっとはっきり浮かばないのですが、どういった国民生活をしているのか、餓死がどの程度出ているのか、その辺についてお話しください。
佐藤参考人 なかなか、先生も含めて私も、どういう形で餓死が出ているのかを想像するのは非常に難しい。亡命してきている人たちの話から、ちょっと紹介させていただきます。
 餓死をする直前というのは、先生、人間はどういう状態になるかおわかりですかと亡命者から質問されまして、わからないと言ったら、あらゆる肉がなくなって、つまり、おしりの肉も全部なくなるわけですから、そうすると、尾てい骨が飛び出て、いすに座ることが難しくなると。それで動けなくなりますよね、栄養失調ですから。
 これに関連しての、栄養失調をなくするために、子供が、親がどんなことをしているかという情報はたくさんございますけれども、もう時間がありませんからそれは触れることはできませんが、浮浪者が今物すごく多いのです。子供だけではなくして、一家族で、五人とか四人単位の浮浪者。これは大体何をやっているかというと、中国から北朝鮮に入ってくる、そこの駅の待合室でたむろしておって、そういう人たちが入ってきたら物ごいをする、くれなければ物を盗む、そういうことですよね。
 夏になりますと、豆満江、それから鴨緑江、こういうところに死んだ浮浪者たちの、だれも処理する人間はおりませんから、川の中へほうり投げて死体がぶくぶく流れてくる、こういう状態がずっと、もう数年前からある。
 北朝鮮の食糧事情が最も深刻になったのは、九五年、九六年、九七年、これが最も深刻な時期でした。私、ちょっと言葉がよくないんですけれども、私たちの研究所で推定した数字は、その間に大体三百万から三百五十万ぐらいが餓死した。もちろん、この中には病気という人たちも含まれているけれども、御案内のように、栄養失調になればちょっとした病気でみんな亡くなっちゃいますから、そういう人たちを含めて三百万は確実に超えている。
 その情報の根拠は、韓国に亡命してきたファン・ジャンヨブという偉い人がおりますよね、ファン・ジャンヨブという男ですが。彼が、党中央の書記ですから、秘書ですから、金日成から数えて二十六番目に偉い人です。だから情報は入ります。彼が持ってきた情報を根拠にしているんです。そうしますと、食糧事情から勘案して、三百万、間違いないというふうに想定しております。これは深刻です。
 それで、社会主義を唱えておりますから、食糧は配給なんですよ、原則として。ないです。ピョンヤンの一部でも配給はない。配給があるのは核心階層だけで、動揺階層並びに敵対階層には配給はほとんど行き渡らない。じゃ、生きているんだから、どうするのかというと、やみ市で物を買う以外にない。
 今、北朝鮮の労働者の平均賃金は大体百ウォンと考えていただいて結構です。ドルとの換算でいいますと、一ドルが二ウォン、公定レートで。ところが、実勢レートになりますと、一ドルが二百ウォンです。労働者の平均賃金は、ドルに換算すると五十セントです。日本の円に換算すると六十円程度です。こんな金で生活なんかできるはずがないですね。なのに、先ほど申し上げましたように、国境の警戒を厳しくしたから、中国から入ってきた食糧が今入らなくなってきていますから、これからまた餓死の問題は残念ながら浮上してくると思います。
土田委員 アメリカのCIAが何年か前に、三年後には北朝鮮は崩壊するだろうという報告を出してから、もう既に何年もたっていますね。そういったことが何回も報告されたり報道されたりしているわけでございますけれども、ソフトランディング、太陽政策がなぜうまくいかないんでしょう。
佐藤参考人 それは一言のもとにして、太陽政策あるいはソフトランディング政策を北の政権が受け入れたら、その瞬間に崩壊します。つまり、太陽政策やソフトランディング政策の最も中心的な問題は、独裁政権をやめろということです。今の独裁をやめて、中国がやったような企業内における党の力を排除する、つまり需要と供給、最も合理的なシステムを確立しようというのが改革・開放であり、アメリカが言うソフトランディングです。
 そうすると、金日成、金正日は瞬時にしてその地位を失ってしまいますから、だから受け入れるはずがないんです。それは全然北朝鮮を知らない、ナンセンスな主張なんですね。ソフトランディングを受け入れれば自分が倒れてしまうんですから、自分が倒れる政策を受け入れる政権なんかあり得ないです、そんなのは。ですから、クリントン政権や金大中政権は、全く北朝鮮の分析を基本的に間違えている。
 以上です。
土田委員 あめとむちの政策の中で、じゃ、むちの話。日本政府として今何をやるべきだと思いますか。
佐藤参考人 ずっと私が主張してきたことは、拉致の問題の解決あるいは東アジアの平和と安定を確立する最もいい方法は、北朝鮮に対して、拉致の問題を誠意を持って解決しなければ、しかじかかようの制裁を科すということを言うべきだし、やるべきです。そうしたら解決できると思っています。
 例えば今回、先ほどどなたかが質問の中でおっしゃっておりましたけれども、赤十字会談、南北会談、なぜ向こうが提案してきたか。あれは、小泉総理がソウルに行って、三月の二十二日、記者会見の場で、拉致問題が解決しない限り食糧支援は困難ですと明確に言い切った。その数時間後です、赤十字会談が提案されてきたのは。
 ですから、今までは、お金をやるとか物をやるとか、だから日朝交渉やりましょう、拉致問題話し合いましょうと。全然だめでしたよね。米出しません、出すわけにはまいりませんと言った瞬間に、提案でしょう。アメリカは、ブッシュ政権はこれから、先ほど申し上げましたようにがんがん力の圧力を加えていきますね。間違いなく米朝交渉の提案はなされると思います。つまり、抑止を行使したならば会話が成立していく。今までは逆のことをやっているんです。その中で拉致の問題も何もかも解決していく。
 だって、北朝鮮に在日朝鮮人は自由自在に行き来しているわけです。日本人妻千八百人、かつて日本国籍を持った人間は一万人いるんです、北に。日本国籍を離脱して帰った人間が三千名、国籍を持ったまま出ていったのが七千名。日本人妻というのは、その中の千八百です。この一万人の日本人について、北朝鮮は入国を認めませんよね。日本政府も要求しませんね。こんな不平等な話はないんです。
 だから、これはやはり平等か、ちゃんと対等な関係で外交を展開していただかないと困ります。そういうものを横に置いて、米だ何だ、ナンセンスです。
 以上です。
土田委員 北朝鮮の最後の目的は韓国の併呑だと先ほどおっしゃいましたね。北朝鮮は韓国に対して、最近、具体的にはどういった活動をしているんでしょうか。
佐藤参考人 実は、韓国は今、御案内のように十三日が選挙です。そして十二月は大統領選挙です。今は選挙の季節に突入しておりますから、もうとてもじゃないが外交政策も対北政策も、韓国は全く動けない。それから、金大中政権、これは完全にレームダックに陥って、息子さんが逮捕される、恐らくあと二人の息子さんも逮捕されるのは時間の問題だと思います。金大中さんがやめますと、きっと逮捕されます。
 今、そういう政治情勢の中で非常に混乱をしておりますから、北朝鮮の方としては、南を相手にして交渉してもうまみはないですね。北は今、新しい政権ができたらどうするかということの機をうかがっているというのが現状だと思います。
土田委員 以上で終わります。
吉田委員長 次に、松本善明君。
松本(善)委員 お聞きしますが、先ほどちょっと触れられましたが、我が国の国会では拉致疑惑問題についての早期解決を求める決議というのをやりました、本院で。これについては御意見があるんですか、それとも、これは同意をしておられますか、賛成ですか。
佐藤参考人 はい、賛成でございます。
松本(善)委員 この決議をした後、川口外務大臣が、「政府といたしましては、ただいま採択されました御決議の趣旨を踏まえ、引き続き日朝国交正常化交渉の進展に粘り強く取り組み、こうした努力を通じて、拉致問題を初めとする人道上の問題や安全保障上の問題の解決を目指す所存でございます。」こういう発言をされました。これは支持できますか。
佐藤参考人 はい、原則として支持します。
松本(善)委員 先ほど軍事力の増強の話もされましたが、今韓国と北朝鮮の国力の差は非常に大きくなって、国力はアメリカとメキシコぐらいの差があると言う人もあるぐらい。併呑どころか崩壊の危険の方が大きい。それで、韓国としては、崩壊したときに大量の難民が生まれるおそれがあることは確かなので、そういうふうになることは東アジアの安定にとっては大変なことになるので、むしろ、各国に北朝鮮に対する援助をしてやってくれよということを言っているということを聞いておりますが、それについてどう思いますか。
佐藤参考人 今回の中国の領土内で起きている難民問題で、世界で最も脅威を抱いている国が韓国だと思います。今先生御指摘のように、二千万の失業者を抱え込んだら韓国の経済はたまったものじゃない、みんな本心ではそう思っておりますから。
 今中国にある公館の中で、北朝鮮難民を困ると言って受け入れなかったのは韓国です。ところが、スペイン大使館の二十五人の問題、瀋陽の問題等が起きてきたことによって、韓国は何をしているんだということが非常に大きな問題になって、それで、先ほど申し上げましたように、今十七人を抱え込んで、どうするのか中国と今折衝をやっているわけですね、中国は引き渡せと言っていますから。そういうふうに韓国は非常に困っておる。
 それから、中国も困っています。自分のところに二十万も三十万も北から難民が来て、それを韓国のNGOが外国の公館に飛び込ませている。中国政府の側からすると、君たち南北の問題で何で我が中国はこんなにひっかき回されなければならぬのかというふうに考えております。
 それから日本も、先ほど申し上げましたように、三けたの難民がもし船に乗ってやってきたら、ルートがついたら、これは大変なことになります。
 したがって、私の考え方は、難民が来ないようにどうするのか。つまり、今から北の金正日政権を支えて助けるなんということは不可能ですから、難民が来ないために、日本と韓国と中国と国連、この四者が一体になって、いわば崩壊を前提にした難民対策を、危機管理をつくるべきである。その場合に、日本は積極的に百万トンでも二百万トンでも米を出した方がいいだろうというのが私の意見です。
 したがって、来た者をどうするかじゃなくて、大量にあふれ出ないように周辺国がどういうふうなプロジェクトをつくってやるかということを、今、日本政府は関係周辺国に積極的に提案して動くべきだろう。
 以上です。
松本(善)委員 瀋陽事件で、我が国が難民に対する門戸を広げるべきだということもいろいろ言われていますし、それから、大量の難民については、やはり一国だけで解決できないから、中国、韓国それから日本、その他国連を含めまして、この難民対策というものを早急に確立すべきではないかということについて我々も考えていますが、それは賛成ですね。
佐藤参考人 賛成でございます。だけれども、一部政治家の中で今、もっと難民を受け入れるべきだとか、元在日朝鮮人が来たら無条件で受け入れるべきだという意見に対しては、私は反対です。
 実際に北から日本に入ってきている人間は、先ほど申し上げたように二十三名ぐらいいるはずです。私、具体的な関係を持っている人間が何人かいるんです。その人たちと接してみて、文化の違い、そのことが社会的な摩擦を生じる、これは大変なことです。韓国と北朝鮮というのは、言語は共通しているにもかかわらず韓国が受け入れを何でちゅうちょしているのか。物すごい社会的摩擦が生じてきているからなんです。
 そのことをやはりきちっと踏まえた上で、なおかつ入ってきた人たちをどう人道的に扱うかということが重要であって、もと日本におったのだから無条件で受け入れるべきだなんという説には、私は反対です。
松本(善)委員 まあ、そういう説は余りありませんが。
 もう一つ、北朝鮮との外交、これはいろいろな問題のある、非常に問題の大きな国でありますが、やはり話し合いをしなければ、拉致されたと疑われている人たちの安全でありますとか返還でありますとかいうこともできないので、外交交渉が大変大事で、川口外務大臣のお話もそういうことであったと思います。
 あなたは先ほど、外務省の弱腰は植民地支配についての反省があるからだというふうに述べられたと思いますが、北朝鮮は、戦前の侵略戦争で植民地支配によって日本が被害を与えた国の中で、その清算が全く未解決のまま残っているただ一つの国であります。これはやはり日本外交として解決をしなければならない問題だ。外交交渉ですから、いろいろな紆余曲折はあると思いますけれども、これは解決をしなければならない問題だと思いますが、あなたはどう思っていますか。
佐藤参考人 解決をしなきゃいかぬ問題であることは間違いございません。しかし、今の、日本人を数十名も拉致をして、知らぬ存ぜぬと言い張っている、国際機関である国際原子力機関が特別査察を要求するものを拒否している、大量破壊兵器を生産している、そういう政権と私たちがなぜ話し合って解決をしなきゃいかぬのか。話し合いの解決が必要だとお考えの人たちは朝鮮労働党と直接話し合ったらいかがかというのが僕の意見です。
 つまり、先ほどから申し上げていますように、百十八万トンの米を出す、千七百億円のお金を通して、話し合いに応じてほしい、拉致問題を解決してほしいというふうに日本政府はここ七年間やってきた。にもかかわらず日朝交渉は一歩も進まない。なのに話し合いで解決ということは、それで解決できる見通しがあるのならいいけれども、私はないというふうに考えています。
松本(善)委員 最後に、あなたの「朝鮮統一の戦慄」という本の中に、「金大中はノーベル賞のために国を売った」という見出しの文章があります。金大中大統領は、日本においでになって、日本の国会でも演説をされ、党派を超えて、その演説は大変感動的に受けとめられたものでありますが、この考えは今でも変わりませんか。(佐藤参考人「最後の発言、ちょっとわからなかった」と呼ぶ)この考え、金大中はノーベル賞のために国を売ったという考えは変わらないかと聞いているんです。
佐藤参考人 はい、変わりません。
松本(善)委員 終わります。
吉田委員長 次に、金子哲夫君。
金子(哲)委員 社会民主党・市民連合の金子でございます。
 きょう、先ほどお話にありました、ブッシュ政権の朝鮮半島の政策の中で、韓国の軍事強化ということがお話に出ましたけれども、ちょうど六・一五の南北の共同宣言が出されてもう間もなく二周年を迎えますけれども、このことについての今の時点での評価をまずお伺いしたいと思います。
佐藤参考人 先ほど松本善明先生が御紹介された本に書いてあるんですけれども、全く二人の権力者が二人の地位を確保するための包容であって、現実には何の関係もない。今、南北対話は全部切れていますよね。正確に申しますと、二〇〇〇年の六月の十五日に共同声明が出て、そして南北対話が切れたのは、その半年後の十二月です。それからもう南北対話は事実上何にもないのです。ですから、あの共同声明を評価しろと言われても、私は全く評価することができない。
 以上です。
金子(哲)委員 全く評価されないということですけれども、少なくとも、両国民の中において人的な交流が進んだことは間違いない。少なくとも、南から北に行く人たちがふえたことは間違いないということが一つ。
 それから、何よりも、先ほど軍事力強化の話がありましたけれども、これによって、再びあの朝鮮戦争のような、お互いに同一の民族が血で血を洗うような解決ということをしなくていい。少なくとも、当時、軍事境界線ができて、離散した家族が争うことはないということでの国民の評価というのはあったように思うんですけれども、その点はどうでしょうか。
佐藤参考人 当時、御案内のように、金大中大統領は大変な評価、あすにでも統一が実現できる、みんな、日本でもそう報道しましたし、韓国でももっとひどかった。
 しかし、現実に、先ほど申し上げましたように、半年ほどたったら全部会談がだめになってしまった。そのだめになった理由というのは、北側が南と約束したことを守らないことなんですね。それから、南側が絶対に受け入れることができないような要求がどんどん来るということでだめになった。
 先ほど先生が、南北交流したからよかったんじゃないかとおっしゃったんですが、交流したことによって、南がいかに北よりも豊かであるかということが北の国民にわかったんです。
 一例を申しますと、一枚の板チョコを持っていって、南の親戚が北の親戚に渡す。子供たちは、板チョコなんか見たことも聞いたこともない。口の中に入れる。味わったことのないようなおいしい味がする。韓国はいいじゃないかという声がどわっと北朝鮮に広がったんです。それで、土産物をどんどん持っていくから、第二回目の離散家族のときから、北側が土産物の制限をしてきたんです。
 ということで、交流によっていかに南がすぐれているかということを北朝鮮の国民がわかって、金正日政権は離散家族の継続は難しくなってきて、どこでやったか。今度は金剛山でやらざるを得なくなった、ピョンヤンその他ではできなくなった。これが実態です。
金子(哲)委員 次にお伺いしたいと思いますけれども、米国の北朝鮮政策について、これはもし御存じでしたらお答えをいただきたいと思いますけれども、六月十一日の朝日新聞の報道で、朝鮮中央放送の放送ということで、「米政府が世界食糧計画(WFP)の呼び掛けに応じ、北朝鮮への人道支援として食糧十万トンを送ることを発表したと伝えた。同放送はさらに、米政府が昨年約束したWFP経由の食糧十万トン提供に続き、新たな五万トンを現在搬入中とも報じた。」という記事がありますけれども、これについて、参考人の評価と、そしてまた、もしアメリカ政府の意図があれば、お聞かせいただきたいと思います。
佐藤参考人 ブッシュ政権もクリントン政権もここは一致しているんですが、人道支援は応じる、国連からの呼びかけは。これはもう一貫しております、二つの政権とも。ですから、人道で支援するものと、それから政府が政策としてどうするかということは明確に分けております。だから、米は出しますよ、しかし、査察を認めなかったら軍事的圧力をかけますよ、こういう話ですね。
 非常にいい機会ですから、ちょっと紹介させていただきますけれども、北朝鮮という国がどういう国なのかということ、昨年の九月十一日のテロ……(金子(哲)委員「それは結構です。私の質問にだけ答えてください」と呼ぶ)はい。そういうことです。分けているということです。
金子(哲)委員 それではお伺いしますけれども、今、人道支援の立場に立って米国が行っているというお話でしたけれども、日本が今可能だとする、人道支援として考えられることはどういうことでしょうか。
佐藤参考人 先ほど申し上げましたように、アメリカの人道支援、それはアメリカは何か考えがあってやっているんだと思いますが、私に言わせますと、先ほどから申し上げているように、国民を三つの段階に区分して、いわば制度的差別を行っている国に対して幾ら食糧支援なんかしても、こちら側の意図とは違うことになる。したがって、人道支援という名にだまされてはいかぬというのが参考人の意見です。
金子(哲)委員 私は、いわゆる拉致問題と戦後補償問題を両てんびんにかけようということで質問するわけではありませんので、その点をまず申し上げておきますけれども、韓国との国交回復の際にも、例えば当時の韓国の政権のありように対していろいろ評価がありました。そしてまた、そのときにも戦後補償問題というのは一つの大きな課題だったと思うのですけれども、もし国交正常化の話し合いが進む、また政府間の話し合いが仮に進むとした場合に、この戦後補償問題というのはかなり重要な政治課題になると思うのですけれども、その点についての御評価をお聞かせいただきたいと思います。
佐藤参考人 今先生がお使いになった戦後補償という言葉なんですが、私は、そんなものは存在していないという意見です。つまり、戦前の補償を話し合いで解決するという課題は存在している。戦後の補償なんか、何で我が国が朝鮮半島に補償しなきゃいかぬのか、そんなものは全く存在しないということです。
 それと、恐らく質問の趣旨は、日朝交渉でもって戦前の植民地支配の後始末を早くしろという御意見だと思うんですね。
 実は、一九九〇年の九月の金丸訪朝団のとき、外務省のアジア局の審議官、後の川島次官です、彼が同行しようとしたら、北朝鮮の側は、政府高官を認めることは二つの朝鮮を認めることである、日本は日韓条約で韓国と交渉している、なのに、その日本政府の高官を受け入れるということは北朝鮮が日韓条約を肯定することになるからだめだと言って拒否したんです。それで、金丸さんは、仕方なく自分の随員として川島さんを連れていったんです。
 ですから、北朝鮮が日本に向かって戦後処理の問題で主張してきたことは、日韓条約を破棄しろ、しかる後に話し合おうというのが北の主張なんです。これは、二つの朝鮮に反対という主張です。
 したがって、戦後処理ができなかったのは、日本政府の責任でも日本国民の責任でも何でもない、北自身が交渉に応じなかったんです、九〇年まで。それで、金丸さんとの交渉になったら、日朝交渉をやろうじゃないかと突然言い出してきた。川島さんは、びっくり仰天して、それで本省に大慌てで連絡をとる。
 こういうことで、御質問の趣旨からいえば、日朝交渉がうまくいかなかった、戦後処理ができなかったのは、日本の政府の責任ではなく北朝鮮の責任です。なぜなら、日中の国交回復は七二年にできているんです。
 以上です。
金子(哲)委員 質問を終わりますけれども、私の質問に答えていただけなくて残念でした。
吉田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、佐藤勝巳参考人に一言御礼を申し上げます。
 本日は、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午前十一時五十九分散会


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