衆議院

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第25号 平成14年7月26日(金曜日)

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平成十四年七月二十六日(金曜日)
    午前九時三十分開議
 出席委員
   委員長 吉田 公一君
   理事 浅野 勝人君 理事 石破  茂君
   理事 坂井 隆憲君 理事 西川 公也君
   理事 首藤 信彦君 理事 中川 正春君
   理事 上田  勇君 理事 土田 龍司君
      小坂 憲次君    高村 正彦君
      中本 太衛君    原田 義昭君
      細田 博之君    水野 賢一君
      宮澤 洋一君    望月 義夫君
      伊藤 英成君    金子善次郎君
      木下  厚君    桑原  豊君
      前田 雄吉君    丸谷 佳織君
      松本 善明君    東門美津子君
      松浪健四郎君    鹿野 道彦君
      柿澤 弘治君
    …………………………………
   外務大臣         川口 順子君
   外務副大臣        植竹 繁雄君
   外務大臣政務官      松浪健四郎君
   外務大臣政務官      水野 賢一君
   政府参考人
   (外務省大臣官房長)   北島 信一君
   政府参考人
   (外務省総合外交政策局国
   際社会協力部長)     高橋 恒一君
   政府参考人
   (外務省アジア大洋州局長
   )            田中  均君
   政府参考人
   (外務省北米局長)    藤崎 一郎君
   政府参考人
   (外務省経済協力局長)  西田 恒夫君
   政府参考人
   (特命全権大使中華人民共
   和国駐箚)        阿南 惟茂君
   政府参考人
   (海上保安庁次長)    津野田元直君
   外務委員会専門員     辻本  甫君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 国際情勢に関する件


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     ――――◇―――――
吉田委員長 これより会議を開きます。
 国際情勢に関する件について調査を進めます。
 この際、お諮りをいたします。
 本件調査のため、本日、政府参考人として特命全権大使中華人民共和国駐箚阿南惟茂君、外務省大臣官房長北島信一君、総合外交政策局国際社会協力部長高橋恒一君、アジア大洋州局長田中均君、北米局長藤崎一郎君、経済協力局長西田恒夫君、海上保安庁次長津野田元直君の出席を求め、それぞれ説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
吉田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。最初に、中川正春君。
中川(正)委員 おはようございます。
 今国会も質疑としては、質疑といいますか審議自体はきょうで最後ということになりました。その間、それぞれ厳しい局面はございましたけれども、大事な条約そのものはそれぞれ理解のもとに全部上げられたということ、これを改めて私からもお礼を申し上げたいというふうに思います。
 きょうは阿南大使に来ていただいたわけでありますが、大使、あなたがここへ来ていただくまでにどれだけ我々が苦労したか。外務省が抵抗するんですよね、だめだだめだということで。しかし、私は、本来は、こうした機会にそれぞれの赴任地での問題あるいはこれからの日本外交というものを大使みずからが国民に向かって話をしてもらう機会というのは、これは当然あっていいんだろうというふうに思うんですね。
 そういう意味から、何か理屈をつけるのに、あなた、私費でこっちへ来るということにしたんだという、そんなこじつけをわざわざやって、子供だましみたいな本当に情けない処置でありますが、そういうことで来たということなんですけれども、それが事実なのかどうか。それから、大使自身に改めて聞きたいのは、いいことですよね、これは。大使としてはやりたいでしょう、これから。そのことをまず冒頭、お話をしていただきたいと思います。
阿南政府参考人 今回、夏の休暇をいただきまして、私費で帰国いたしました。
 それから、こういう機会に所信を述べることをどう思うかという御質問でございますが、これは院の方で御判断されることだと思いますし、また、外務省の方でそういう判断があれば、私どもは出させていただくということにやぶさかではございません。
中川(正)委員 休暇中に国会に出ていただいたというような話になる、これも矛盾といえば矛盾なんですよね。外務省のやることというのは、こういう子供だましのようなことで世の中進んでいくというふうに思っているんですよね。大臣、この感覚というのが改めて問われなきゃいけない、これはもう笑い物になりますよということをまず指摘をしておきたいというふうに思います。
 そして、きょうは、時間が限られておりますので、瀋陽の問題について集中的にお尋ねをしていきたいというふうに思うんです。
 この問題について先般処分が下りまして、大使は厳重訓戒ということになりますね。私の感覚からいくと、中国に対する交渉、それから日本の外務省本館に対しての報告、それからその調整、現場の総指揮は総領事であったかもしれないけれども、全般の総指揮というのは大使だったと私は思うんですよ。
 どう考えても、今回、この瀋陽の事件に対する日本の外務省トータルとしての対応というのは、これは、外務省改革に結びつく、地に落ちたというか、本当に危機感を持って、こんなことでは外務省はだめだ、そういう評価に基づいたものでありました。
 その上に立っての処分でありますが、総領事は懲戒減給、これは国家公務員法に基づく処分でありますけれども、大使はそういうことじゃなくて、外務省の内規で注意を促した。減給は、自主返納ですから、みずから格好をつけて返しなさいよという程度のものであったということなんですね。この処分に対して、大使みずからどういうふうにお考えですか。
阿南政府参考人 今回の事件につきましては、中国に駐在する大使といたしまして、責任の重大さを痛感し、職責を十分に果たせなかった点があったことにつき、申しわけなく思っております。過日、大臣より厳重訓戒をいただいたことを重く受けとめまして、深く反省するとともに、今後は、私初め館を挙げて職務の遂行に遺漏なきを期し、最大限努力してまいる所存でございます。
 処分についてどういうふうに感じているかという御質問でございますが、これは、処分をいただいた立場の者として云々することは控えるべきことかと存じますので、お許しをいただきたいと思います。
中川(正)委員 まあ、非を認めておられるのは確かでありますね。
 それじゃ、改めて具体的に、どこをどうすべきであったのか、何が間違っていたのか、そこのところをさらに詳しくお述べをいただきたいと思います。
阿南政府参考人 私ども、今回の瀋陽総領事館事件に際しまして、大使館として最大限支援をするという当然の立場から、必要に応じ、瀋陽総領事館の方に助言もいたしましたし、また、それに基づいて瀋陽総領事館の体制強化のために支援要員を出したりもいたしました。
 ただ、幾つかの重要な点において、私どもの瀋陽総領事館員に対する助言が適切でなかったということがございます。
 これは私が厳重訓戒という処分をいただいた事由でもございますが、当日、瀋陽総領事館前の武警の詰所において事態が進行しておりましたときに、私ども大使館の公使からその場にいた瀋陽の副領事に対して出した助言、アドバイス、これが十分に適切でなかったということ、これは私も反省をしているところでございます。
 また、それから一日明けまして翌朝、瀋陽の岡崎総領事が大連に行ったわけでございますが、瀋陽総領事館事件に先立って発生しておりました航空機事故、邦人の方が三名搭乗しておられるということで、まだ安否のわからない状態でございましたが、その大連の航空機事故の処理のために、所管地域の瀋陽総領事が現場に行かれて陣頭指揮をすることが必要だということで、これは私の考えとして、大使館の公使を通じて岡崎総領事に伝えたわけでございますが、この瀋陽総領事館事件そのものの重大性を考えますと、やはり総領事は瀋陽にいて事態の収拾に当たるべきであったと。私は大連に行った方がいいという助言をしたわけでございますが、そういう点で適切ではない助言をしたということを反省しております。
中川(正)委員 その件については、後ほどもう少し詳しく私の方からも尋ねていきたいというふうに思うんですが、その前に、この事件が起こる八日の日の午前中、事件が起こったのは八日の日の二時でありますが、午前中に大使館で、日常といいますか、それぞれの部署の責任者に対して指示をしておられる。その中で、不審者は追い返せというふうな指示があったということで、マスコミも含めて相当これは波紋がありました。
 改めてお聞きしますが、これは具体的にはどういう指示をしたのかということと、その背景にある考え方、どんな考え方を持ってこの指示をしたのかということ、お尋ねをしたいと思います。
阿南政府参考人 五月八日の大使館の館内定例の全体会議におきまして私が申しましたことは、脱北者は中国へ不法入国している者が多いが、一たん館内に入った以上は人道的見地からこれを保護し、第三国への移動等適切に対処する必要がある、他方、大使館としては、昨秋来、テロに対処するという観点からも警戒を一層厳重にすべきことは当然であり、不審者が大使館敷地に許可なく侵入しようとする場合には、侵入を阻止し、規則どおり大使館門外で事情を聴取するようにすべきである、こういうことを申しました。
 この背景と申しますか、どうして五月八日の時点でこういう発言をしたかということにつきましては、御案内のように、三月の末に北京のスペイン大使館に、二十五名の北から来た人々が一斉に入ったということがございましたし、また、この私の話の直前に、四月の末でございますが、ドイツ、アメリカ大使館にもやはり入った人がいる。たまたま中国は、五月一日から七日まで日本と同じようにゴールデンウイークでございまして、その連休明けの館内会議で、担当官から、最近のそういう状況、そして、具体的に警備担当官としてどう対処すべきかということについて説明がございました。なかなか対処が難しいという話もございました。
 そういう報告を受けて、私から、いろいろ考慮すべきことはあるだろうけれども、大事なのはやはり大使館の警備をきちんとやることだ、そして、そういうことが起こったときに秩序正しく対応することだ、こういうことを言ったわけでございまして、私の真意と申しますか背景というのは、そういうことでございました。
中川(正)委員 その当時の報道では、侵入をした人たちに対する保護という部分については、大使はコメントはしていないということでございました。そこのところが一つ問題であったのと、それからもう一つは、不審者の侵入を阻止するということ、この指示をしておられるわけでありますが、これは受け取る方では非常に誤解に結びつくんです。
 本来、大使館の職員は侵入をコントロールする立場にはないんですよね。侵入をコントロールするのは中国の武装警官の方なんです。それで、入ってきた人たちにどういうふうに対応するかというのが大使館の職員なんですよね。その職員に向かって、不審者は排除しろ、こう言うわけでありますから、これは意図的に、どういう状況であれ、トラブルが起きないように怪しい者はほうり出せというふうな形で受け取られるということ、これに結びついていったんだと思うんです。
 恐らくは、どうもふだんの大使の言動の中からそういう背景を酌み取って、さまざまにそれを解釈しながら、本来の大使館の業務から逸脱したような形の受け取り方を高橋公使自身もしていたんではないか。そういうことがどうも、瀋陽に対する高橋公使の指示の中身を見ていても、あるいはその背景にある、私も高橋公使と現場で数時間お話をしたんですけれども、高橋公使がそれを一人で考えたわけじゃなくて、あの指示の背景の中には大使がいて、大使と相談の上で、何もするな、現状維持だけしていろというふうな指示で終わった、そういうことがあった。
 これは、私が高橋公使のその背景を直接聞いただけに、大使自身がどうもこの問題についてはもともと、トラブルを避けるだけの指示、トラブルにさせるなという指示、それをしていたというふうに断ぜざるを得ないような、そういうことであったということであります。
 先ほど、その瀋陽に対しての指示が間違っていた、こうみずから認められましたけれども、瀋陽に対するその指示だけじゃなくて、ふだんからの大使の姿勢というのがここではっきりと問われるんだというふうに私は解釈をしております。その点について、いや、実はこうだったんだという話があれば、どうぞやってください。
阿南政府参考人 中川先生の御質問の最初の部分は、侵入を阻止するという部分は中国の責任、この場合、武警の責任であって、大使館の警備は入ってからの責任ではないかという御指摘がございましたが、必ずしもそうではございませんで、大使館の警備員というのは、やはり不審者が館内に入ることを防ぐということが重要な任務でございます。
 先ほどちょっと申し上げましたように、スペイン大使館の例で、武警がいた、その武警を突破して、次に大使館の警備員の阻止を振り切って二十五人もの人が館内に一種なだれ込んだわけでございますので、そういうことのないようにということを言ったわけでございます。
 また、高橋公使の、先ほど私既に中身を申し上げましたけれども、中川先生も瀋陽で高橋公使にお会いいただいたと承知しておりますが、このときの公使の指示は、館内で相談した、そういう結果を伝えたわけではございません。
 三時ちょっと前に、もう既に詰所から向こうの武警のみならず公安も来て、公安の車で連れ去ろうというときに、現状維持という指示があったようでございますが、もう現状維持ができない、そういう状況でどうしたらいいかという助言を求められて、高橋公使がそういう、実質三十分近く副領事がその現状維持に努めていたわけでございますので、そういう状況であればもうそれ以上無理はできない、最終的に連行されてもしようがないということを、そういう緊迫した状況の中で伝えたということでございまして、ただいま先生おっしゃいましたように、私から何もするなという指示があってそれを伝えたということでは、事実関係はございません。
 それから、トラブルを避けよ、そういう基本姿勢で臨んだのではないかという御指摘がございましたけれども、事実関係としては、御案内のように、私どもが第一報を受けたときには既に、これは韓国の通信社だと思いますが、そういう情報が流れておりまして、午後の二時二十分過ぎに大使館に第一報が入って直後に、もう既に在北京の邦人プレスからもどういう状況なんだという問い合わせが殺到しておりました。したがって、そういうことはもう既にみんなが知っていた事実だったわけでございます。
中川(正)委員 ここで一つ指摘をしておきたいと思うんですが、私が直接高橋公使に聴取をしたときには、私の指示というのは、みんなと相談した上で、大使も含めてですよ、みんなというのは大使が中心だったんです、指示をしました、こういうことであります。責任回避していますよ、大使。最初の答弁と食い違っていますよ。大事なときに自分はそれに関与していなかったということですね。ここは一つ指摘をしておきたいというふうに思います。
 時間が限られていますので、次に進みます。
 この事件が起こってから中国に対して日本政府が公式な抗議を発表するまでの間、この時間的経緯というのは、八日の十六時四十分からずっと一覧表であるんですけれども、特に八日、九日、ずっと大使の名前が全然出てこないんですよ。九日の十九時、夕方になって初めて、劉古昌中国外交部部長助理に対して、大使が中国側から詳しい説明を要求した、こういうふうになっていますね。
 大使、なぜ現場に出向いて調査しなかったんですか。あるいは、調査に基づいて中国当局との事実のすり合わせや、それこそ外交官として本来しなければいけない情報交換、これをしたかどうか。あるいは、その調査に基づいて本省にはどのような報告を意見具申したか。
 これは、私も、あなたのカウンターパート、中国のサイドに確かめたんです。そうしたら、彼らが言うのには、こんなときにはすぐ日本の私たちのカウンターパートが駆けつけてきて、それで、事実関係はどうだったんだろうか、どんなふうな処置というのが両国にとって一番いい処置なんだろうかという、いわゆる外交現場というのはそういうものなんでしょうと。
 ところが、それに対して、日本側からは何の事前の、そうしたいわばこれまでの外交ルートを使ったコンタクトがなしで、ある日突然、中国はけしからぬ、謝れ、こうしたコメントが来た。一体日本の外交というのはどうなっているんですかというような、そういうニュアンスの話しかなかったんです。私は、これは非常に情けない話だというふうに思っております。
 これについて、改めて、それの総指揮をとっていた阿南大使としては責任を感じなければならないことだというふうに思っております。
 それからもう一つ。時間がないので全部含めて申し上げますが、実は内部告発が幾つも来ていまして、これも恐らく外務省の人間関係、人事の関係のそれぞれゆがみから、私たちのところへ向いてこういうのが届いているんだろうというふうに思います。
 前回ここで読ませていただいた第一弾目のものは、どうも阿南大使はすべてのことを岡崎さんになすりつけているんじゃないか、みずから責任をとっていない、そういう指摘がありました。
 その後、改めてまたもう一つ来たんですが、これは、大使は、さっき申し上げた、すぐに大連の方に戻れと岡崎さんに対して指示をした、これは認められているわけです。初めはそういう話じゃなかったんだけれども、これは認められた。それで、そのことを隠すために、大使は直接電話で、自分は竹内次官と同期だから君のことは悪いようにしないということを岡崎総領事に言って、それで、本省の明白な合意もないままに、在台湾の交流協会のある地域の事務所の所長、これは総領事のポストに準じるものでありますが、これを内々考えてやる、このポストと引きかえに、これまでの大使が関与したことを隠してほしい、こういうことを取引しようとしていた。
 このことに対して、総領事の弱い立場を利用して、総領事を黙らせる裏取引をしよう、こういう動きに対して、非常に失望をし、そして、こんな状況であるからこそ外務省全体の士気が上がらない、管理職がみずからの責任をとらずに、どうして私たちが命をかけてリスクのあるさまざまな外交活動に打ち込んでいけるだろうか、こういうそれぞれの部署での憤りがあるということ。このことが、内部告発でもありますが、それ以上に、恐らく若い人たちが今の外務省改革の行く末というものを見ながら憤りを感じて、やむにやまれず私たちに伝えてきた内容だろうというふうに思います。
 最後に、このことについて、最初にした問題もあわせて、どのようにそこのところを弁明されるのか、大使にお尋ねをしたいと思います。
阿南政府参考人 まず、高橋公使の瀋陽総領事館に対するアドバイスの件でございますが、最初の一報を受けてから館内でいろいろな問題点を検討したことは事実でございます。ただ、先ほど申し上げましたように、三時ちょっと前に現場の副領事から緊迫した状況のもとでアドバイスを求めてきた、それに彼がとっさの判断で答えたということも事実でございます。ただ、これは私の大使館の館員がやったことでございますので、私もその責任を回避するつもりは毛頭ございません。
 それから、八日当日、九日までに大使の姿が全く見えなかった、何をしていたのか、瀋陽に、現場に行って調査すべきだったのではないかという御指摘でございますが、これは、八日の段階では、二時に起こった事件について、たしか五時四十分だと思いますが、すべて現地時間でございますが、中国の外交部に公使レベルで抗議をいたしました。その段階では、正直申し上げまして、まだ事件の全貌というものがわかりませんでした。ああいうビデオで現場を見ているという状況ではございません、その一日前でございましたので。
 したがって、本省からの訓令も、ともかく中国側に抗議をして引き渡しを求めよという御指示だったと思いますが、私は、翌日、中国側のアジア担当の次官と会いたいということを朝から申しておりましたが、結局、こういう問題は領事担当の次官補、部長助理が対応するということで、先ほど先生おっしゃいました劉部長助理と九日の夕方に会って抗議を申し入れたわけでございます。
 もちろん、現地には瀋陽総領事館がございますので、北京の大使が現地に乗り込んで調査をするというようなことは、本省の御指示がない限り、そのとき考えなかったことでございます。
 また、事態の経緯を考えますと、八日の午後には、既に瀋陽の総領事館で地方当局に抗議をし五人の引き渡しを求めている、そういう措置をとっているわけでございまして、その夕方、既に北京で中央政府に抗議をしたということで、私どもの認識としては、本件は、当面、我々大使館に話が移ったなという認識がございました。
 それから、今先生おっしゃいました私の責任についてでございますが、私が今回の事件の責任を岡崎総領事になすりつける、こういう考えは当初から最後まで毛頭ございません。
 私どもは、今から考えますと、大連で起こった航空機事故の重大性ということに頭が行き過ぎていたということは確かにございました。そういう中で瀋陽の事件が起こったわけでございまして、私がまず感じ、考えておりましたのは、こういう小さな総領事館にとって本当にめったに起きない事故が実質二十四時間以内に続けて起こったわけでございますから、岡崎総領事がこの二つの重大事態に対して適切に対応してくれ、するようにということを我々みんな願っておりましたし、そのために、大連にもすぐ当館、大使館から四人応援を出し、その後、瀋陽にも応援要員を出したりいたしました。
 岡崎総領事に責任を押しつけるとかなすりつけるというような考えは毛頭ございませんでした。
 それから、次におっしゃいました岡崎総領事の人事のことでございますが、これは、今先生からお話を伺うまで私全く考えもしなかったようなことでございまして、確かに竹内次官は私の同期でございますけれども、そういう人事を取引材料にというようなことはあり得ないことでございますし、毛頭ございません。五月九日の朝の段階でそんなことを私が考えたというようなことはあり得ないことでございますので、はっきり申し上げたいと思います。
中川(正)委員 終わります。
吉田委員長 次に、首藤信彦君。
首藤委員 民主党の首藤信彦です。
 大使、本当に、休暇のところを参考人として来ていただいて大変ありがたいと思っております。
 しかし、私、同時にすごくショックを受けたんですね。せっかく多忙の中を日本に帰ってこられて、日本のひなびた温泉に入っておられる大使を、こういうところに国会の最終局面で呼び出して質問をしなきゃいけない、休暇の方を、私的なことで帰ってこられる方を、こういう公的なところに引き出して質問をするというのは、大変、いかがなものかなと思うんですけれども、大使、本当に御苦労さまだと思うんです。
 しかし、今のこの時点というのはどういう時点かというと、目前にASEANの会議を控えている。さらに八月になれば、また八月十五日の靖国参拝問題が起こって中国がどう動くかというような大変な問題がある。そういう物すごくこの東アジア全体が緊張しているときに、どうして私的な休暇をとられたのか。どうしてこんなことを、個人による私的な休暇を許可されたのか。外務大臣、いかがですか。
川口国務大臣 阿南大使には、今までさまざまな局面で一生懸命仕事をしていただいてきたわけでございまして、夏に入り、こういう状況で休暇をおとりになるということは私は非常に自然なことであると思います。やはり、三百六十五日、公に非常に忙しい状況にあるのが各国にいる大使ですから、その国の事情、事情で時間を見つけて休暇をとるというのは、当然、大使であっても持っている権利であると私は思います。
首藤委員 外務大臣、私はそれは納得しませんよ。この背後にある問題は、もちろん、公的に呼ぶと問題があるということで私的に呼ばれるということがあるんでしょうけれども、私は、これは制度をゆがめていると思いますよ。
 今はアジアが非常に緊張しているときですから、当然のことながら、そのことに専念していただかなきゃいけない。本当に難しい時期に、私的休暇という形で来て、ここに参考人で来ていただいたのはありがたいけれども、これはやはり筋が通らないんだと思うんですよね。これは一種の前線離脱ですよ。ですから、この点に関しては、そういう便法でやるというのは好ましくないということを私は指摘させていただきます。
 阿南大使、お聞きしたいんですけれども、今回のことで厳重訓戒ということになっておりますけれども、一体、その訓戒の根拠は何かということを考えますと、まず、例えば不可侵権の問題がございます。しかし、これも、外交のベテランである阿南大使よく御存じのとおり、在外公館の不可侵権というのは二通りあります。いずれもウィーン条約で規定されております。しかし、大使館の不可侵権と、もともとは民間の施設から発展してきたと言われる領事館の不可侵権というのは大きく差がある、違う法律であるということも我々はわかっています。そうすると、その不可侵権というものに関しても、警察が中に入ってきたことに関しても、絶対にそれだけで悪いということは、法律的には、国際法的には言えない。
 それからさらに、不審者を追い返せという発言をされた、指示をされた。これも実は日本国政府の難民対策に対する根本的な政策でありまして、何ら政府の方針と反するものでないわけです。我々はその方針がおかしいということで、現在、入管難民法を変えようと必死で努力しているわけですが、政府の方針としては、在外公館における難民申請というものは一切認めていない。これはもうごく当たり前の指示であります。
 三番目に、例えば領事への指示が悪かった、大連に向かえという指示もあった。しかし、領事業務というのは、御存じのとおり、邦人保護でありますから、大連の航空機の事故で邦人が亡くなっておられるということに関して領事が駆けつけていくというのは、これまた優先、プライオリティーからいうと当然そちらにあるということもあります。
 そういうふうに考えますと、阿南大使、一体どうして厳重訓戒を受けなければいけなかったのか、外交の専門家として一体なぜそれに対して甘んじたのか、大使自身は本当はどう思っているのか。それはいかがですか、大使。
阿南政府参考人 私が厳重訓戒をいただいた処分の事由は、先ほども申し上げましたが、事件発生当初の当館、大使館の公使から瀋陽総領事館に対するアドバイスがもう少しきちんとしたものであるべきであった、ウィーン条約、そういうことを副領事に伝え、抗議をし、引き渡しをきちんと求めるべきであった、それが十分に行われなかったということが第一点でございまして、第二点は、岡崎総領事に大連に行ってもらった方がいいという私の判断を、大使館公使を通じて総領事に伝えたということでございます。
 この第二点につきましては、総領事館にとって邦人保護ということは本当に重要な仕事でございますので、前日夜から起こっていた航空機事故の事態への対応のためにやはり総領事みずからが現場に行くべきだという判断が私はございました。そういう延長線上で、一回引き返したわけでございますが、一応事態が、瀋陽から北京に舞台が移りましたので、大使館から中国の中央政府に抗議するという段階になりましたので、総領事は速やかに大連の事態の処理に当たった方がいいと私は考えたわけでございます。
 しかし、この瀋陽総領事館事件の重大さということを考えれば、やはり総領事はそこにいて館内の体制立て直し、またいろいろな対外的な対応に当たるべきであったということで、私もそのときは何もおざなりな判断をしたわけではございません、私なりによく考えて忠告をしたつもりでおりますけれども、やはり考えてみれば、総領事はあの場合瀋陽にとどまっているべきだった。
 この点について、本省から御指摘があり、そして処分をいただいた、こういうふうに考えています。
首藤委員 大使、それだったら、結局あなた自身も納得していないわけでしょう。自分が間違ったことをやったとは思っていないわけでしょう。それなら、どうしてこの厳重訓戒に対して抗弁されないのですか、あるいは抗議して辞任されないのですか。
 外務省は今改革を言われていますけれども、本当に自分が正しいと思ったらそういうふうにしたらいいじゃないですか。そういうことがやはり大きな問題じゃないかというふうに考えているのですね。
 私は、この問題に関するあなたの責任をもし問うことがあれば、それはこうしたことではなくて、むしろ、この地域が非常な緊張感を持っていた。脱北者と言われるように、多くの人が、ある部分は出稼ぎ、ある部分は難民となって、ある部分は亡命者となって、延辺自治区を含め中国東北部に大変な数の人がいて、そこから確率的に亡命を求めてくる。その圧力がどんどん加わっている。そして、それをある意味で北朝鮮崩壊へのシナリオの一つのやり方として考える勢力もいたり、あるいはそれを支援するようなNGOもいたり、あるいは最近明らかになってきたように、それに対してアメリカからお金が出ているということもわかってきている。こういう各国の陰謀渦巻くこの瞬間、そしてこの地域において、こうした問題が起こり得ると思い、それに対応を怠った。あなたは、これこそが厳重訓戒の対象ではないですか。
 今の外務省の問題というのは、そうした今のアジアの情勢というものをきっちり把握して、それに対応できていない、そのことが日本の大使館の最大の欠陥じゃないですか。大使、いかがですか。
阿南政府参考人 今委員の御指摘になったような大使館としての、大使としての責任ということは、まさにあるわけでございますが、私ども、大使館に勤務をしておりまして、この三月ごろから、そして五月の瀋陽総領事館事件を経て、一応、北京の、そういう北から来た人たちの動向という点で事態はおさまりを見せておりますので、私は、短期間任地を離れて休暇をいただきたいということを本省にお願いをし、許可をしていただき、帰ってきたということでございます。
 その点について、特にそれが厳重訓戒の対象になるというふうには考えておりません。
首藤委員 大使、だんだん歯切れが悪くなって、何を言っているかさっぱりわからなくなってきましたけれども。
 では、もっと簡単な質問をします。
 今度、休暇でございますけれども、日本を代表する在外公館の大使でございますから、当然のことながら小泉総理にはお会いになりますね、大使。
阿南政府参考人 今現在、総理にお会いするというアポイントメントの時間をいただいているということはございません。
首藤委員 阿南大使、今やはり日本の非常に大きな問題というのは、そして、これはすべて関係しているわけですが、日本を取り巻く北東アジア、この辺が非常な緊張感を持っている。いろいろな問題があるのです。これは、例えば最近起こった韓国と北朝鮮の間の艦船の攻撃、戦闘であるし、それからもちろんこの亡命者の問題であるし、あるいは北朝鮮の国の体制そのものかもしれない。
 そういう中において、例えば中国との関係というのは非常に微妙なわけですが、来るべきものとして、八月十五日というものがもうすぐ参ってきます。これは、昨年大きな問題となって、昨年からずっとことしまで引きずっている問題でもございますが、小泉総理の靖国神社参拝という問題がございます。それに対しては、現在中国はどういう態度をとっているのか。そしてまた、大使自身は、仮定の話ではございますが、もし総理にお目にかかるとしたらどういうアドバイスをされるか。いかがでしょうか。
阿南政府参考人 御案内のように、昨年八月に総理が靖国神社を参拝された際は、中国、韓国から強い反発がございました。
 本年は、総理は既に四月に靖国神社を参拝されておりますし、私どもが承っておるところでは、その際も、八月に参拝することはないと御自身で言っておられるということでございますので、今私から総理に何を申し上げるとか、普通大使館からは意見具申という形でございますが、何を差し上げるというような状況ではないと思っております。
首藤委員 大使、せっかく来られたので、私たちにとっても大変有益な機会だと思うのですが、今世界の中で大きな問題がある。それは、中国の突出ですね。
 中国というものがこんなに大きくなると、アジア太平洋の平和のためには、今まではアメリカは日本と手を組むことによって中国の膨張を抑えようとした。最近、アメリカの中で、むしろ中国と手を組むことによってアジア太平洋全体の平和を守ろうとしている、そういう動きもあると思うのですね。
 ですから、今度の新執行部が中国で成立すると思いますけれども、中国の中において、中国の安全のためにはむしろアメリカと積極的に手を組んでいって、日本を外していく、そういう戦略的な動きがあるのかないのか、そういうことを中国大使としてどういうふうに分析されているか。その御意見をお伺いしたいと思います。
阿南政府参考人 過去の一時期、アメリカの日本パッシングというようなことが言われた時期がございますが、少なくとも現在のブッシュ政権は対日重視の姿勢を名実ともにしっかりと政策として持っていると思いますし、今のお尋ねの、中国の指導部が米国、日本との関係をどう考えているかということにつきましては、私は、中国にとって米国という国が非常に、いろいろな意味で、積極的にも消極的にも重要な国であるということは間違いないと思いますが、近年、表にあらわれてきているという意味では二年ほど前からだと思いますが、中国の対日重視姿勢というものは非常に明らかに表に出てきております。
 そして、それは当然理由のあることでございますが、中国にとって、改革・開放政策を進め、経済を少しでも発展させようと思えば、日本との関係を良好に保つことがいいということはだれが見ても明らかなことでございますから、そういう意味で、今先生が一つのシナリオとして、中国の執行部が日本を外してアメリカと組むというような発想はないかというお尋ねでございましたが、そういうことは、私ども、現地にいて全く感じるところはございません。
 むしろ、本年、日中国交正常化三十周年というこの年を本当に意義ある年にして、次のさらなる飛躍につなげたいという熱意は、中国政府は非常に強く持っております。
首藤委員 大使、ありがとうございました。
 そういう御意見をぜひ伺いたかったんですよ。我々も外務委員会として、大使がしょっちゅう外務委員会にも来て、一体、日本の外交は、出先機関である大使公館はどう考えているのか、こういうことをぜひ言っていただきたいと思うんですね。
 私自身は、大使の考え方はそれは甘いと言わざるを得ない。よくチャイナスクールと言って批判されていると思いますけれども、やはり中国寄りの、日本に親しい中国人だけを見ているからそう思われるのであって、やはり中国は大きく動いている。その点は、阿南大使、私は指摘したいと思いますよ。やはり中国の動きというのを、もっと冷静な、本当に客観的に厳しい見方で中国の分析を続けていただきたいと思うんですね。
 さて、外務大臣、これは前回私も質問させていただきましたけれども、ガザにおけるイスラエル空軍機の空爆であります。
 これは、最近わかったことは、今までやっていたヘリコプターからのピンポイントでのミサイル攻撃ではなくて、F16から一トン爆弾を落としたということになっています。ガザのようにばあっと、要するにスラム街のように家々が密集して、通るところは三十センチぐらいしかないというようなところへ一トン爆弾を落とせば、どんなに膨大な民間人の被害が出るかということはわかっているはずですよね。そんなことは、爆撃された後に大使館員を派遣すればすぐわかるんですよ。これは、ミサイルでピンポイントすれば、三階、五階のビルがしゅぽっと穴があくんですよ、ちっちゃな穴が。ちっちゃいといっても三十センチ四方ぐらいですけれども。それがバーンとああいうふうに壊れているのを見れば、これは、当然のことながら、完全に一トン爆弾だということがわかるわけですよ。
 それに対して、外務大臣、世界各国がこんなに非難しているのに、どうして日本政府の対応がおくれたのか。これは前にも質問させていただきましたが、どうして日本だけが、総理大臣でもなく、外務大臣でもなく、報道官の談話で終わっているのか。
 そして、これからは、では、それが間違いであったと、過去の問題だとしたら、こんなに明らかになって、人道的な見地からも、これに対して日本政府はどういう対応をおとりになろうとしているのか。外務大臣、いかがでしょうか。
川口国務大臣 委員がおっしゃいましたように、これはイスラエル軍によるガザ地区への空爆、しかも多くの一般市民を巻き添えにする形での空爆ということでございまして、大変に遺憾な行為だと私は考えます。パレスチナ人がイスラエルに対して抱いている憎悪をあおり立てるということになりまして、事態の改善には資さないと考えております。
 この点につきましては、さまざまな機会をとらえて、東京でも、またイスラエルでも、そして国連の場でも、私どもはイスラエル政府に対してこの考えを伝達してきているわけでございまして、委員がおっしゃるように、決して対応がおくれているということではないと考えています。
 今後引き続き、イスラエル、パレスチナ間の暴力の悪循環を断ち切るということが大事でございますので、我が国としては、この点について、関係諸国とも密接に連携をとりながら、両者に働きかけていき、和平の進展に貢献をしていきたいと考えております。
首藤委員 もう時間が終わりましたから答弁を求めることはございませんが、私はそれを聞いて本当にがっかりしますね。
 外務大臣のおっしゃったことは、三カ月前と同じですよ。これは何か火事になった現場で、古い昔のテープレコーダーが出てきて、昔の子供のときの声が聞こえているのと同じじゃないですか。昔と同じことを言って、こんなに事態が変化しているのに、どうして日本だけがこんなに出おくれているのか。どうしてきちっと対応できないのか。これは私はもう一回厳しく指摘させていただきたい。
 国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う私たちの努力、そしてパレスチナにつぎ込んだ膨大な私たちの税金、これを考えれば、人道的な見地からも、そして、小渕総理から、前からつながっている人間の安全保障の見地からも、真っ先に日本が出ていって、イスラエルの方にどういう理由があろうが、人道的な視点からこれは好ましくないとどうして言えないのですか。
 私は、これに対しては、この機会ですから、イスラエルに対する経済制裁をぜひ日本としても発表していただきたいと思います。
 ともかく今求められているのは、外務省改革ではなくて外交の改革なんですよ。外交の改革が一つもできていない。外務省を変える、変えると言っても、結局そこで何をやっているかというと、一方では改革するというその報告書をもらいながら、一方では経済協力局長を経済産業省から持ってくる。それも、何度も何度もどうなっているのですかと聞きながら、それは知りません、知りません。しかし、新聞にはもうみんな内定になっている、決まっちゃっているわけですよ。
 我々は、国民の代表として外務省や外交をどうやってチェックできるのですか。新聞に全部が、完全に辞令があって、辞令をもらわなければ我々は何にもできないのか。こんなことでは外務委員会の価値がないじゃないですか。
 この国会の最終局面において私はこのことを厳しく指摘して、もしこんなことが続くのであれば、私は、政治家として全力を挙げてODAの阻止をせざるを得ない。今までODAの問題点が指摘されているのに、さらにその問題点を上塗りするようなことをやるのだっだら、そのODAに関しては、一件一件、本当に一円に至るまで厳しく精査していかなければ、ODAは国民の支持を得ることはできない。
 そのことを言って、質問を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
吉田委員長 次に、前田雄吉君。
前田委員 民主党の前田雄吉でございます。
 本日は、阿南大使に瀋陽総領事館問題あるいは対中ODAについて伺いたいと思います。
 対中ODAについては、先般も質問いたしましたように、日本のODAによって、中国の、二千二百年間使われた、これは史記の時代から、史記にも載っている都江堰というユネスコの世界文化遺産が破壊される危機にある、これに対しての御所見を伺いたいと思っております。
 まず初めに、瀋陽の総領事館問題でありますけれども、私は、先般、外務省からいただきました資料をずっと見ておりましたときに、一つの事実を発見いたしました。
 外務省の外郭団体にラヂオプレス社がありますね。ここは、中国、北朝鮮等の電波を傍受して、モニタリングして国内向けに流す財団法人であります。その所属員の方が瀋陽の総領事館におられるという事実を発見いたしました。
 これは民間人であります。その民間人がどういう理由でこの総領事館におられるのか、どういう内規があってそのようなことができるのか、阿南大使にお答えいただきたいと思います。
阿南政府参考人 専門調査員という肩書で配属されていると思いますが、その採用の経緯等、これは私、北京の大使館の大使としてはかかわっておりませんので、今、官房長の方からお答えがあると存じます。よろしゅうございますか。
前田委員 では、官房長、お願いします。
北島政府参考人 お答え申し上げたいと思います。
 外務省には専門調査員制度というのがございます。これは、外務省からの委嘱によりまして、我が国の在外公館に通常二年間の任期をもって派遣されまして、在外公館の一員として、我が国の外交活動に資するために、当該国、地域の政治、経済、文化等に関する調査研究及び館務補助等の業務を行う、そういう制度でございますが、この専門調査員制度を使いまして、かつて瀋陽の総領事館に、委員が御指摘のラヂオプレス出身の者が二回、これは平成八年と、それから平成十一年から十二年にかけてでございますが、専門調査員として採用されて仕事をしたという事実でございます。
前田委員 今の御説明にありましたように、専門調査員でこのラヂオプレス社の所属の方が瀋陽の総領事館におられる。つまり、この瀋陽の総領事館というのは、日本の外交にとって、対中外交を推し進めるに当たって、例えば北朝鮮の情報を収集する前線の拠点ではなかったかと私は思うんですけれども、それだけ重要な位置にこの総領事館があるわけであります。
 先ほど、本当に岡崎総領事に責任をなすりつける気持ちはないとおっしゃいましたけれども、本当に重要なこの総領事館で発生した問題に対して、余りにも大使の御認識が甘いんではないか。御自身の責任についてもう一度御説明いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
阿南政府参考人 今回の瀋陽総領事館の事件につきましては、先ほども申し上げましたが、中国に駐在する大使として、責任の重大さを痛感し、職責を十分に果たせなかった点があったことについて、大変申しわけなく思っております。
 どういう点で職責を十分に果たせなかったかということは、先ほど、二点、私が厳重訓戒をいただいた事由として申し上げたところでございます。
前田委員 では、その責任を感じられて、もう一度よく振り返っていただきたいと思います。
 実際に事件が発生してから全世界にあの報道が流れるまで、映像が流れるまで、大使としてどのようなことをされましたか、お尋ねいたします。
阿南政府参考人 申し上げるまでもございませんが、事件が発生したのは八日の午後二時、今おっしゃった映像が流れたのが翌日九日の夜だったと思いますが、私どもは、第一報を受けてから、ともかく事情、どういう状況なのか、実際の状況を把握するようにという努力をしておりました。また、私は、その事情把握という中には、瀋陽の総領事館の体制がどうなっているかということも、岡崎総領事が大連に向かっている途中だったというようなことも含めて、まず現状を把握せよと。
 そして、その後、本省からの訓令に接しまして、私どもの公使が中国の外交部にまず最初の抗議を行ったわけでございます。
 そして、先ほど来申し上げておりますように、大連の航空機事故の対応ということも考えました。また、その中で私ども、これは内輪の話でございますが、人繰りを、大連の連絡事務所、瀋陽総領事館、どういう人を出すのがいいかというようなことも協議をしながら、どんどん送り出したわけでございます。
 そして、翌日、私は朝の新聞で、たしか映像ではございませんが、スチールの写真がもう出ておりました。そういうことも踏まえて、中国側の外交部のアジア担当次官に会いたいと思って、そのアポイントメントをとっておりましたが、向こうは、これは領事担当の部長助理が処理しているということで、そのアポイントメントがとれたのが夕方でございまして、それを行ったということでございます。
前田委員 では、また大使にお尋ねしますけれども、大使から直接官邸への報告というのはありましたか。
阿南政府参考人 発生した直後、今委員が御質問になった時間帯で、官邸に私から何らかの御報告をしたことはございません。
前田委員 確かに、外務省を通してかもしれませんけれども、こうした緊急事態には大使から直接官邸への報告があってしかるべきではありませんか。こうした姿勢があやふやな雰囲気を醸し出してしまった。また、それへの処分も、非常に現場に厳しくて上に甘い、そんな状況になっていると思います。
 次に、私は、対中ODAの問題について質問したいと思っております。
 一方で、世界遺産を守るんだ、そのためにODAを支出していて、中国の紫坪鋪ダムについては、ユネスコの世界文化遺産を破壊するおそれがある、そんな状況が生まれているわけであります。先般も御質問いたしましたけれども、日本のODAによってつくるダムであります。日本の国民の血税を使うわけであります。しっかりとそこを御認識いただいて活動していただきたい。
 まず、中国大使として、この日本の対中ODA、これが今となっては削減すべきではないかという議論がさまざまなところでされています。これについて、大使はどのようにお考えでございますか。
阿南政府参考人 中国に対するODAにつきましては、御案内のように、一九七九年から一貫して中国の改革・開放政策支援、そういう大きな政策の柱として実施してきているわけでございますが、中国そして日本をめぐる情勢の変化、また日本の国内で、中国に対する見方等、さまざまな変化も当然あるわけでございまして、中国に対するODA、より一層効率のいいように、また我が国の経協大綱にしっかりなじむような姿で行われるべきだと思っておりますし、昨年十月に対中国経済協力計画というものが策定されまして、これは国内の状況やさまざまな御意見を踏まえた上でそういうものができたというふうに承知しております。
 そういう基本的な原則を踏まえながら、中国の経済発展、市場経済を導入してから目覚ましい勢いで中国が発展しているということが言われておりますが、先生も御案内だと思いますが、中国の全体の一人頭GDPというのは、まだ九百ドル以下の国でございます。そういう全体の貧しさを考え、まだまだ中国の経済発展というのは、日本では、相当先端技術なんかが開発されていて中国の経済発展恐るべしという見方もあるかと思いますが、全般の状況からいくと、まだまだ日本のODAを必要としているという状況が続いておりますので、もちろん我が国の財政事情、また国民の中国に対する見方等を十分に踏まえながら、しかし工夫を凝らしながら、引き続き、しかるべき時点までは続けていくべきであると考えております。
前田委員 いやもう、あいまいな表現でしか回答が得られないことに、ちょっと残念に思います。
 では、世界文化遺産の都江堰を破壊する可能性がある、日本のODAによる紫坪鋪ダムの建設に対して、大使はどのようにコミットメントされてきましたか。
阿南政府参考人 本件は円借款の案件でございますが、私は昨年三月に大使として中国に赴任をいたしまして、その三月末だったと思いますが、この紫坪鋪水資源開発事業計画というものを含む平成十二年度案件について中国側と交換公文に署名をした、そういう形で当然コミットをしております。
前田委員 私は、この紫坪鋪ダムの建設、これの資料を集めまして、その中に中国政府の環境アセスメント委員会での議論を手に入れることができました。ここには、このダム建設によってチベット民族あるいは先住民族を含む四万人の方が移住をしなければならない。
 この移住の政策がしっかりとなされているかどうか確認されましたか、大使。
阿南政府参考人 この都江堰の保護ということは、私も二度ばかり現地で見まして、まさに人間の英知、それが今まで保存されているということで、大変感銘を受けたことがございます。
 こういうものが日本の経済協力案件によって破壊されるということは、大変ゆゆしきことでございますし、そのこと自体、また今先生御質問の移住の問題、これは日本の案件ではございませんが、三峡ダムというもっと大規模なダムの建設に関しても、実は大変な問題がございました。もちろん中国政府は全力を挙げて対応に当たっていると思いますが、この件についてもそういう問題があるということを聞き及んでおります。
 ただ、具体的に今何をしているかということを私は必ずしもつまびらかにしておりませんので、経済協力局長の方からお答えさせていただければと思いますが、委員長、よろしゅうございますか。
西田政府参考人 お答えをいたします。
 住民移転に関しましては、今委員御質問のとおり、約四万人程度の方の住民移転が想定をされております。本件計画の検討時におきまして、そもそも我が方から中国政府に対しまして、かかる問題についての懸念を伝え、適切な対応を要請いたしております。中国側により適切な住民移転措置がとられるということをJBICの環境ガイドラインに基づき確認した上で、供与の決定を政府として行いました。
 具体的には、今中国側におきまして、国内の関係法規に基づき住民の意見を聴取、反映させながら詳細な移転計画を策定している途次というふうに理解をしておりまして、中国の国内関係法規に基づき当然補償も行われるというふうに承知をしております。さらに、補償にかえまして、代替住居の確保あるいは再雇用のためのトレーニング等が移転住民に対し行われまして、さらには住民の所得を回復するための調査ということもなされるということで、現在中国側において具体的に作業が進められつつあるというふうに理解をしております。
前田委員 実は、この紫坪鋪ダム、もう一つ第二ダムがありまして、これは都江堰からわずか三百メートルの距離につくられるという計画がございます。正確に申し上げると、これには日本のODAは使われておりませんけれども、第二ダムについては非常に批判を受けて、都江堰に対する影響、これの批判を受けまして、ただいまペンディングの状態にある。
 しかし、中国政府は、この莫大な円借款を返還するために、第一ダムだけでは四〇%の電力発電しかできない、電力総量しか得られないということでございますので、第二ダムの建設に踏み込む可能性があるんではありませんか、経済協力局長。
西田政府参考人 お答えをいたします。
 まず、御指摘のいわゆる第二ダムでございますが、この第二ダムにつきましては、今般のいわゆる円借款の対象とはなっていないということをまず念のために確認しておきたいと思います。
 御指摘のとおり、第二ダムにつきましては、中国側は、当初都江堰の約三百メートル上流に建設するという計画を有していたのでありますが、現在は取りやめられている。異なる場所に建設をしようかなという構想はあるようでございますが、まだ具体化には至っていないというのが現状というものと理解をしております。
 当然のことながら、外務省としましても、先ほど大使からも発言がありましたが、この非常に貴重な世界遺産である都江堰への影響ということについては今後とも注視してまいりたいと思います。
 それから、費用というか、電力総量を四〇%しか発電できないんじゃないかという点でございますが、我々の調査によりますと、このダムは第二ダムの有無にかかわらず計画の効果は発現されるということを確認しております。したがいまして、いわゆる第二ダムができないと本件計画に対する円借の返済ができないというふうには私たちは理解をしておりません。
前田委員 私は阿南大使にお願いしたいんです。しっかりとした中国側の四万人移住計画が明らかにされる、あるいは都江堰の安全性が守られる、これを確保できるまで、私は、中国政府にしっかりと、日本のODAはそのようなものに使わないという発言をすべきではないかと思うんですけれども、大使、いかがですか。
阿南政府参考人 この移住計画ということも進行中であろうと思いますし、今、経協局長から御答弁申し上げたような二つ目のダムがどういう意味を持つか、消極的なわけでございますね、そういうことについても十分実態を確かめた上で、また本省とも十分協議をした上で必要な措置をとってまいりたいと思います。
前田委員 瀋陽の領事館の問題にしても非常に責任論があいまいである、そして、このユネスコの世界文化遺産を破壊するかもしれないという対中ODAに対してもあいまいな御認識しか持たれていない。私は、これに対して非常に残念に思います。国民の血税である対中ODAをあなたに任せるような気持ちはない、そうじゃありませんか、国民の皆さんの声は。
 あなたは辞任される決意はありませんか。
阿南政府参考人 委員の御質問が、この円借款案件を直ちに中断するように中国政府へ申し入れる、そういう考えがあるかということでございますので、これは私の一存で決められることではございません。今まで継続しているということもございましょうし、諸般の事情を考えて、当然本省の判断も仰いだ上で、出先としてそういう申し入れをするなりということになるわけでございます。
 今、全般的に責任を果たしていない、辞職するか、こういうことでございますが、瀋陽の事件についても私いろいろさまざまなことを考えましたけれども、やはり事件全体の評価、総括の中で私の責任というものも明らかになると考え、そして、先般のような処分をいただいたわけでございまして、自分で軽々にどうこうと言うべきものではないと考えております。
前田委員 私の質問を終わります。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、木下厚君。
木下委員 民主党の木下厚でございます。阿南大使には、休暇中のところ、本日は当委員会に御出席をいただきまして、本当にありがとうございます。
 さて、私も瀋陽事件について阿南大使にお聞きしたいと思います。
 先ほど来さまざまな質問が出ております。私自身、今回の事件を振り返ってみまして、本当に現地総領事館あるいは現地の大使館だけの責任に帰していいものかどうか、その点を常に疑問に思ってきました。
 といいますのは、いわゆる日本政府の対中政策、あるいは対中国だけではありません、先ほど話が出ました中東政策あるいはロシア政策も含めて、とりわけ日本政府の対中政策あるいは難民問題あるいは亡命者問題に対して、日本政府が常にあいまいのまま推移してきた、そのしわ寄せをすべて現地大使館に責任をとらせる、そして、何かトラブルがあれば現地大使館あるいは総領事館に責任をとらせて、外務省本体あるいは政府側はだれも責任をとらない、こうした問題が今回の瀋陽事件の背景にあるのではないか。
 もしあの時点で、領事館の中に入った二人、あれを、体を張って阻止して、受け入れる、あるいは、門の外でトラブっていた三人に対して、強引に中へ引き込む、体を張ってですよ、引き込んだ後、これは質問通告していないんですが、どういう手続が必要でしょうか。
 これは大変な外交問題に発展する、あるいは日本政府にとっては大変なトラブルを抱えたことになる、これをすべて、恐らく政府は素知らぬ顔で現地の大使館に対応を任せる、そういう形になったんじゃありませんか。そこだけちょっと質問させていただきます。
阿南政府参考人 今回のケースで、仮に五人の人を総領事館の中に連れ戻すという事態になった場合には、これはもう対応ははっきりしておりまして、まず、その人たちが危険な存在ではないかどうか、すなわち安全を確保する、そして認定、そういうことをきちんと確かめた上で、ここから先は、今委員がおっしゃいましたように現地で判断をするということではございません。そういう段階になって、必要な情報を得た段階で本省に指示を仰ぐというのが大原則でございまして、これは総領事館のみならず大使館の場合も、基本的に、その該当者をそこから先どう扱うかというのは、本省の指示を仰ぐということになっております。
木下委員 その件で言えば、例えば、先般、北朝鮮の金正日総書記の息子さんが日本に来ました。あのとき田中前外務大臣は、当時、トラブルになるのは嫌だからこっそり帰しちゃえと言いました。そして、こっそり帰しました。ああいう政府の対応があるから、恐らく現地大使館としては、できるだけ受け入れたくない、トラブルになりたくない、事前に回避したい、そういう思いが常に在外公館、大使館の皆さんの根底にあるのではないか。どうですか、大使。
阿南政府参考人 これはもう、そういう人が館内に入った場合には、これは正面から入ってくるというケースが最近よくあるわけでございますが、実は、館内に外部の人が入るというのは、最近の例でも、前の晩に入っている、余り騒ぎが起きないんだけれども、朝、警備員が見つけるというふうなケースもございます。そういう格好で入った人は、よほど中国側から何か現行犯とかそういう正当な理由で引き渡しを求めてくるという以外は、保護をする。
 これはもう、最近の事例で、各国大使館みんなそういう対応をしているわけでございますので、好むと好まざるとにかかわらず、それはきちんと認定を確かめた上で、本省の指示を仰ぎ、しかるべき第三国に移送するという手続をとる。これは今、北京で駆け込みが行われている各国公館、どこでも同じような対応をしております。私どもも同じでございます。
木下委員 いずれにしても、第三国に移送するにしても、これは今の日本政府、あるいは外務省本体の外交姿勢からいうと、五人を受け入れたら、もちろん中国側も相当厳しい対応に出てくる。そうすると、例えば一カ月とか、下手をすると三年あるいは一年、そういった期間、総領事館なりそういったところにとどめ置かれる、そういう心配はございませんか。
阿南政府参考人 こういう事態が頻発する中で、中国政府としても、外国公館は庇護権があるわけではないということから、なるべくそういう受け入れをしないように、したがって入られないようにということを中国側の警備も心しているわけでございますが、今委員がおっしゃいましたように、中に入って、みんなこれは中国側と交渉するわけでございます。
 そして、最近の例に即して申し上げれば、韓国が、北朝鮮の人は韓国から見ると同胞でございますのでほとんどの場合受け入れるという現実がございますから、中国側も、いろいろ言いながらも、最終的に人道的見地からそれを認める、同意するということでございますが、先生がおっしゃいました一カ月とか三年という例がかつてなくはなかったわけでございまして、これは主として中国の人でございますね、中国の人が、いわゆる政治亡命的な形で外国の公館に入って、一年大使公邸にいたという例もよく知られております。
 ですから、入ってきた人たちを第三国へ移送するというのも、当然中国側と協議、交渉した上でのことでございますので、おっしゃったような事態が起こらないとも限らないわけでございます。
木下委員 いずれにしても、今回の事件は、まさに人道的観点、あるいは不可侵権の侵害、そういう点から見ても、いかに日本の外交体制が脆弱であるか、あるいは事なかれ主義が日本全体を覆っているか、この端的な例だと思うんです。まさに国益上、あるいは世界から見ても、日本の外交は何をやっているんだということで、日本にとって大変大きなマイナスになった。
 そういう意味では、これをぜひ教訓にして、やはりしっかりした大使館としての体制づくり、あるいは日本外交のあり方、あるいは対中政策、対中交渉のあり方、これを単に外務省だけの責任にするのではなくて、あるいは現地だけの責任にするのではなくて、日本政府あるいは我々も含めて、政治問題としてしっかり考えていかなきゃいけない。ただ現地の大使だけを、責任とれといって責めたところでこの問題は解決しない、そのことを私は強く訴えておきたいと思います。
 それからもう一つ、先ほど同僚の中川委員に、当日、瀋陽総領事に対する私、大使の助言、アドバイスが適切ではなかったという御答弁がございましたが、このアドバイスというのはどんな内容だったわけでございますか、助言は。
阿南政府参考人 これは、岡崎総領事から私どもの公使にそういう相談がございました。前日、御案内のように大連の方に向かっていたわけでございます。そして、瀋陽で事件が起こって引き返した。しかし、大連の事態も重要であるということで私どもの公使に相談があったわけでございまして、私の方からは、瀋陽の事態も大変重要であるけれども、既に瀋陽の総領事館から地方の当局に抗議をし、引き渡しを要求している、そしてそれを受けて、北京でもその日の夕刻、既に中央政府に抗議をしておるわけでございまして、翌日私がもう少し高いレベルで抗議をしたわけでございますが、そういう事情等を勘案して、まだ事故機の搭乗者の安否もわからなかった時点で御家族が到着されるという、常にある非常に難しい状況でございますので、総領事みずから出向いてその現場の指揮をとった方がいいと、これは私の考えとして総領事に公使を通じて伝えたわけでございます。
木下委員 中国の大使館あるいは総領事館には、いわゆる難民や亡命者に対する対処法、そういったマニュアルは常備されておられますか。あるいは、常日ごろどのような教育、指導をされておられますか。
阿南政府参考人 これはもう、警備マニュアルというものは、恐らくまず全般的なものがございますし、それから、各国に応じたものを、その国に駐在している公館から本省と意見のやりとりをしながら、その国に適応したマニュアルというものをつくっております。
 今回の北京の事態、北から出てきた人たちが大量に中国の東北地方にいる、また北京にも移ってくる、こういう事態に即して、私どもの大使館としても、これは本当にそういう事態がきょうにもあすにも起こるかもしれないということでございますので、何となくマニュアルを座右に置いておくというようなことではございませんで、そういうことを常に考えてマニュアルを整備しております。
 ここで大事なことは、中身は警備担当官とか政務の参事官とかがしっかりと頭に入れておくことなんでございますが、大使館の門の前で例えばこの間のような騒ぎが起こったときに、これはだれがその場に出くわすかわからないわけでございますね。ですから、当面の対応ということは館員全体がきちんと知っていなくちゃいけない。簡単に言えば、まず警備担当官にすぐ連絡せよということでございますが、そういうことについては常日ごろから館内で徹底するようにしております。
木下委員 今回の瀋陽総領事館においても、いわゆる外務省の職員だけではなく、各省庁から出向されている方がおられました。例えば厚生省から出向された方もいた。こうした他省庁からの出向者の方と、いわゆる本当に外交を一筋にやってきた方との認識の差、あるいは外交姿勢に対する差、こういったものは現実に、大使としてじかに接していて、あるんでございますか。それとも、こういったところに何らかの問題はあるのかないのか。率直に御感想を披瀝していただきたいと思うんです。
阿南政府参考人 各省庁からの出向者は、これは個人によって外務省に、在外公館に二度、多い人は三度というような人もおりますが、大体は一回出向される人が多いわけでございまして、そういう点では、同年配の最初から外務省で仕事をしている人間に比べて、こういう在外公館での経験とか、また同僚や先輩からそういう場合についての話を聞いているというようなことに関しては、それは違いがおのずからあると思います。
 ただ、ああいう場面に責任感を持って臨んだかということに着眼すれば、それはどの省から来た人も皆外務省員でございますし、現場で最善を尽くしたと私は思っております。
木下委員 それから、もう一つお伺いしたいんですが、阿南さんが公使だった九六年、北京の日本大使館の会議で、北朝鮮の難民、亡命希望者を入館させないようにと発言していたと報道されていますが、これは事実でしょうか。
阿南政府参考人 正直に申し上げまして、九六年当時、館内会議で私がどういう発言をしたか記憶が定かでございませんが、この当時のことを考えますと、今のような北から大勢の人が出てきているというような状況ではなくて、むしろ政治亡命的な、非常に大きな事件は翌年九七年の二月にファン・ジャンヨブという金正日さんの先生と言われた人が亡命したことがございますが、そういう個別のケースがあった時代だと思います。
 私は、当然、大使館の次席として館の警備とかそういうことに責任を持っておりましたから、こういう発言をしたとしても不思議ではないわけでございますが、どういう状況でどういう文脈で正確に何を言ったかは、記憶にございません。
木下委員 しかし、今お話にありましたが、その年の五月に北朝鮮の科学者を、日本は亡命を受け入れていないということで説得して、韓国大使館で引き取らせたという、これは事実ですね。
阿南政府参考人 この件も私、北京に在勤中に起こったことでございますので記憶にございますが、これは夜中に起こりまして、警備担当官から政務担当の書記官に連絡が行って、そして彼が、言葉ができる人でございましたのでこの人物と接触したところ、韓国大使館にどうコンタクトするかを教えてもらいたいという話だと。私は、たしかその翌朝、対応した本人からその報告を受けた記憶がございます。
木下委員 時間がありませんので。
 私自身も、中国へは三回ほど参りました。行くたびに、これは恐らく大使館からのあれだと思うんですが、必ず盧溝橋の抗日戦争記念館、ここを訪ねないとなかなか例えば江沢民さんに会えないとか、昨年十月に小泉首相が訪中したときも、この抗日戦争記念館を訪問させられている。
 ここを見ればわかります。もう日本がどれだけ残虐な行為をしたか、三十万人殺したとか、そういった写真、それから犯罪をオンパレードしてある。そこへ行かないと中国要人に会えないというようなことが常にあるとすれば非常に問題だと思うんですが、この点について、大使はそれを中国側に何らかのアドバイスなり抗議なり、そういったことはされたことがございますか。
阿南政府参考人 これは、国会議員の訪中団がいらっしゃったときに大使館から、盧溝橋にぜひ行っていただきたいというようなことを申し上げたことは、事実関係としてないと思いますし、今委員がおっしゃいましたように、盧溝橋に行かないと中国要人に会えないというようなこともございません。最近の例でも、盧溝橋にいらっしゃらないで江沢民国家主席や朱鎔基総理に会われた方はたくさんおられますし、そういうことはございません。したがって、もしそういうことを条件にしているならおかしいんじゃないかという申し入れをしたこともございません。
 これは一般的には、中国人から見ると、日本の人に歴史の反省というものをしっかり持ってもらいたいな、そういう気持ちがあることは事実でございますが、今おっしゃったような具体的な盧溝橋行きというようなことはないと私ははっきりと申し上げたいと思います。
木下委員 以上で質問を終わらせていただきます。大使には、どうも本当にありがとうございました。
吉田委員長 次に、東門美津子君。
    〔委員長退席、首藤委員長代理着席〕
東門委員 社会民主党の東門美津子でございます。
 阿南大使には、せっかく休暇で御帰国されているということですが、きょうは外務委員会でこのように政府参考人として出席されているということ、本当に御苦労さまだと思います。
 五月八日のあの瀋陽総領事館の事件というのは、瀋陽だけではなくて、中国全土、そしてむしろ外務省全体、いや、私は、日本の外交不在があの映像によって全世界に発信された象徴的な事件ではなかったかと思うんですね。そういう意味で、本来でしたら、こんなに時間がたってからではなく、もっと早くこういう場が設けられていたらよかったのにという思いをしながら、阿南大使には二点ほど質問をさせていただきたいと思います。
 五月二十二日の衆議院予算委員会での我が党同僚議員の横光議員の、阿南大使の五月八日の定例会議での発言が大使館職員の間でさまざまな受け取られ方をしているという質問に対しまして、川口外相は、会議には大勢の館員がいたことを理由に、伝言ゲームの例を挙げられて、「とり方が異なってくるということはあることかと思います。」と答弁をなさいました。
 しかし、我が国の対中政策を遂行するに当たり、本省で政策が決定され、方針が在外公館に伝達され、公館長が大使館職員にそれを訓示する過程で、伝言ゲームのように、指示を受け取る職員の間でとり方が異なるような事態が生じていては、首尾一貫した政策を実施することは到底不可能です。公館長の指示というものは、百人が聞いたら百人が皆同じ対応がとれるようにする、そういうためのものでなければなりません。
 本来、五月八日の阿南大使の発言は、難民の保護という人道問題に関する政策を職員に対して正確に示すためのものであったはずです。しかし、この大使の発言は、実際にはそれを聞いた側に千差万別の受け取り方をさせてしまうようなものであり、館員に対し我が国の政策を徹底できない、そういう公館長のもとでは、一貫した対中外交の推進は達成できません。
 このようなことで、今後大使は、在中国日本大使館職員をまとめ上げて適切に指揮していくことができるとお考えでしょうか。御意見をお聞かせください。
阿南政府参考人 今委員から、私の五月八日の館内全体会議での発言が館員にさまざまな受け取られ方をした、大事な話をみんながばらばらな解釈で受けとめて、そんなことで館の秩序、仕事はきちんとできるのかという御指摘がございました。もしそういうことであれば、ゆゆしいことでございます。
 ただ、私のこの際の発言は、全体会議という場で次々に担当官が所管の事項を報告する、そういう中で私も気づきの点があればそれに対して応答する、こういうような形で行われるものでございまして、先ほど申し上げたようなことを私の考えとして伝えたわけでございますが、この私の発言が五月八日の午前に行われまして、これが報道で出てきたのはほぼ一週間後のことでございます。
 そういう事情もございますし、私は、いろいろな館員に自分の発言を、もちろんあれだけ大きく取り上げられ、世間をお騒がせした発言でございますので、みんなにも聞きました。決して先生おっしゃったような千差万別ということではございません。新聞の記事でも複数の館員が明らかにしたということでございますので、そういう受けとめ方をした人がいる、全員がきちっと理解してくれなかったということについては私の責任があると思いますが、そういう、全体が全く千差万別の解釈をしたということではなかったと思っております。
 私は、着任以来、五月の時点では一年二カ月ぐらい過ぎておりましたが、その間にはそういうことは一回もなかったわけでございまして、やはり私の発言の直後に起こった瀋陽総領事館事件というのが非常にインパクトの大きい事件でございました。そういう中でこういう報道にもなり、複数の館員がそういうことを明らかにしたという記事が出たということで、私はもちろん反省はしておりますけれども、そういう状況で館をきちんとまとめられるのかということについては、もちろん今後さらに意を用いなくてはいけないと思いますけれども、みんながそう違った解釈を、全員が千差万別の解釈をしたということではございません。
東門委員 いや、千差万別という言葉は使いましたけれども、一人一人が全部違うという意味ではないんですよ。かなり異なった解釈のされ方がされたということがすごく残念だなと。そういうことがあるということは、やはり発言そのものもそうですが、発言の仕方にもいろいろあったのかなということを私も考えた上での質問です。
 次に、我が国の対中外交なんですが、我が国の対中外交は、いわゆる外務省のチャイナスクールと称される一握りの専門家集団が事実上取り仕切っていることにより、バランスのとれた政策決定が行いにくい体制になっているとの指摘があります。
 安倍官房副長官も、五月十八日の民放ラジオ番組において、瀋陽総領事館での日本側の対応について、友好第一で外交なしという日本の対中外交に起因していると指摘した上で、これを奇貨として対中政策を再構築する必要があると述べられておりますが、官房副長官のこの発言を大使はどのように受けとめられますか。お伺いします。
阿南政府参考人 委員が冒頭指摘をされました、いわゆるチャイナスクールというものが日本の対中国政策を事実上取り仕切っているのではないかということでございますが、これはもう、日本の外交政策決定過程からいって、そういうことはあり得ないことでございます。
 外務省に入って中国語を勉強し、中国を専門とする人間が、私自身がそうでございますが、そういう者が、例えば中国課長になり、アジア局長になる。当然、アジア政策、中国政策に携わるということはございますけれども、こういう中国の専門家の集団が事実上政策決定を取り仕切っている、そういうことは実態としてございません。
 また、安倍官房副長官の御発言でございますが、私、直接伺っておりませんので、コメント申し上げることも失礼だと思いますが、友好ということは当然大事なんでございますね。しかし、友好ということの中で我が国の国益をおろそかにするとかそういう事態があれば、そういう外交は当然改めなければいけませんし、私どもは、中国との友好関係を維持発展させていくということは日本外交の大きな柱でございますから、そのこと自体には信念を持って当たっておりますが、友好という名において国益を損なうとかそういうことがあってはならない、そういうことは常に私どもが心がけている点でございます。
東門委員 ぜひ、友好も確かに大事ですから、それはしっかりと持続しながら、また本当の日本の対中政策というものをしっかりと励んでいただきたいと思います。
 きょうはありがとうございました。
 次に、沖縄の関連で質問をいたします。
 一昨日の委員会で質問した件ですが、今回のキャンプ・シュワブでの被弾事件ですね。その中で、危険性が指摘されているキャンプ・シュワブ演習場のレンジ10について、在沖米海兵隊は、過去に流弾事件が相次いだことから、同レンジでの五十ミリ口径機関銃訓練の中止を決めていたが、日本政府に通知せずに再開していたことがわかったとの報道がけさありました。
 米軍側が自主的にとめていたという報道ですが、それは危険性があるからなんです。それを日本政府に説明や通知もないまま訓練を再開していたということですが、それは事実でしょうか。それとも、政府は訓練再開を知っていましたか、局長。
藤崎政府参考人 お答えいたします。
 今委員が御指摘になりました報道でございますが、私どももこの報道は承知しております。ただ、この内容につきましては、私どもとして確認できません。したがいまして、この危険性を米軍が認知して中止したということ、そして、それを日本側に通告なしに再開したというような報道の内容については、私どもとして確認できない次第でございます。
 どういう経緯があったかということについては、私ども、調査したところでございますけれども、日米間でそういう合意があったというような事実は把握しておりません。
東門委員 私の質問は、政府に再開するという通知や説明がありましたかというのが一点です。
 今の局長の答弁では、恐らく、自主規制していたかどうかもわからないから、それはどうだろうということかもしれませんが、しかし、防衛施設庁の資料によりますと、訓練は行わないことが明記されているということも報道されておりますね。そういうこともあわせてお伺いします。
藤崎政府参考人 今委員御指摘の資料については、私どもも承知しております。ただ、この資料がどういう経緯で作成されたものかということについては、私どもの方で作成したものではございませんので、申しわけございませんが、承知しておりません。
 したがって、外務省として、この内容について確認申し上げるということはできない次第でございます。
東門委員 では、伺いますが、政府は、この訓練が続行されていたということは御存じでしたか。
藤崎政府参考人 お答え申し上げます。
 各種訓練がこのキャンプ・シュワブのレンジを用いて行われているということについては、承知しておりました。
東門委員 レンジ10、それは使わないということで私は申し上げた。その件はどうでしょうか。それも含めて、すべて行われていたというふうな理解ですか。
藤崎政府参考人 お答え申し上げます。
 私ども、このレンジ10におきまして、どの口径のどの機関銃についての射撃訓練がいつ行われ、いつ中止されたというようなことについて、詳細を実は承知しておりません。
 したがいまして、今おっしゃったような資料の内容についても、確認できないところでございます。
東門委員 いつも申し上げることなんですが、本当に機敏にぱっと、大臣のおっしゃる、スピーディーに、毅然とした態度で当たってほしいなと思います。
 もう、二十三日ですから、時はどんどん経過している。地元では、実際にその場にいた男性、島袋さんは、本当に恐怖の中にいるんですよ。それを思いやったら、私は、もっと機敏に動けると思うんですけれども、とても残念です。
 きょうは今国会最後の外務委員会ですから、地位協定見直しについてお伺いいたします。
 一月二十一日に召集された今回の国会、いよいよ終わりになっております。この半年の間にも、沖縄の米軍基地に起因する事件、事故が数多く発生しました。
 本委員会で取り上げたのは、その中のほんの一部にすぎませんが、それでも嘉手納基地での照明弾落下事件、普天間飛行場での燃料タンク落下事件、F15の風防ガラス落下事件、嘉手納基地での米軍機の燃料漏れによる緊急着陸、水陸両用車の民間道への侵入などがあり、米軍による通報体制が全く機能していない、というよりもむしろ、米軍側が、明らかに事故であるこれらの出来事を事故とは認めず、通報する気持ちを持っていないことが明らかになりました。
 また、二月に北谷町の基地返還跡地からコールタールの入ったドラム缶が発見された事件や、前回指摘した楚辺通信所の移設現場での赤土流出、辺野古におけるジュゴン保護問題、さらには、もはや日常的にすらなっている米軍機による騒音被害など、環境面においても米軍基地が存在することにより多くの問題が生じています。
 米軍人軍属、その家族による事件、事故についても、本委員会で何度も触れなければならないほど増加しており、地位協定第十八条やそれに関連する日米間の合意では、被害者の補償としては不十分であることも指摘してきました。
 また、今月初めの米兵の窃盗事件では、急使に特権があることも明らかになりました。さらに、有料バスやベースタクシーの問題では、米軍が、主権国家であるはずの日本国内において治外法権とでもいうべき特権が与えられ、好き勝手に振る舞っていることもわかりました。そして今週には、一歩間違えれば人命にもかかわるような名護市での流れ弾の事件がありました。わずか半年の間にこれほど多くの問題が明らかになっています。
 そこで大臣に伺いますが、川口大臣は、このような在日米軍、とりわけ沖縄駐留米軍の現状についてどのように感じておられるのか。このまま何もしなくてもよいと思っておられるのか。外務大臣の認識をまずお伺いしたいと思います。
川口国務大臣 今委員が、さまざまなことし起こった事件について触れられたわけでございますけれども、それをお聞きしながら、改めて、再度、沖縄に在日米軍の施設・区域が集中をしているということ、その結果として、そういったことが沖縄の県民の方に負担を及ぼしているということを具体的に感じたわけでございます。
 政府としては、今までも申し上げておりますように、そういった沖縄県民の御負担をできるだけ軽くすることができるように、SACOの最終報告の実施を初めといたしまして、さまざまな努力を積み重ねてきたつもりでございますし、今後とも、それらが必ずしも十分でない部分もあったと思いますので、この面の努力を続けていきたいと思っております。
 それからあわせて、そういった我が国の外交努力によって、この地域の緊張が緩和をするようなそういった努力も積み重ねていく必要があると考えております。
東門委員 大臣は、本当に沖縄県民の思いをわかっておられるのかなと、そういう御答弁しかいつも返ってこないのがとても残念です。
 現在の日米地位協定は、余りにも米軍に特権的地位を与え過ぎ、そのことが米軍や米兵による事件、事故が一向に減らない一因にもなっているんですよ。国民の権利保障という観点からすれば、地位協定の抜本的な見直しが必要不可欠であるはずなんです。
 それでも政府は、その時々の問題について運用の改善によって機敏に対応していく、そういうことが合理的である、これが十分に効果的でない場合には日米地位協定の改定も視野に入れていくという答弁を繰り返し続けています。この政府の決まり文句、昨年の二月、沖縄県で連続放火事件を引き起こした米兵の身柄引き渡しを米軍が拒否したことに対し、当時の河野外務大臣が初めて述べたものです。
 この事件を契機に、政府は運用改善において、起訴前にも身柄拘束できる特定の場合の中に放火などの凶悪犯罪も含めるよう米側と交渉することになり、また、昨年六月末に北谷町において米兵による女性暴行事件が発生した際、運用改善に基づく米兵の起訴前の身柄引き渡しがおくれたことから、引き渡しの迅速化についても協議が行われたはずです。
 特定の場合に放火などの凶悪犯罪も含める見直しについての協議は、開始から既に一年半経過しています。この間、内閣も森内閣から小泉内閣にかわり、外務大臣も河野大臣から田中大臣を経て、現在の川口大臣で既に三代目です。引き渡しの迅速化を求めた昨年の女性暴行事件から既に一年がたち、大臣も、あのときは田中大臣であったのが現在は川口大臣です。大臣がその権限を行使できるのは御自分の在任中の間だけであり、大臣が三代もかわるような長期間に問題が解決できないのでは、それはとても機敏な対応などと言えるものではありません。
 放火事件から一年半、女性暴行事件から一年、運用改善がその時々の問題について機敏に対応していく手段であるのなら、もはや当然その成果が得られていなければならないはずです。この二件について、運用改善の成果を伺いたいと思います。
藤崎政府参考人 今委員が御指摘のとおり、起訴前の被疑者の拘禁移転につきまして日米地位協定の運用改善を行うということで、今まさに委員が御指摘のとおりの二点、つまり、その他の特定の場合の特定化及び拘禁の迅速な引き渡し等につきまして協議を重ねているところでございます。
 この協議につきましては、刑事裁判手続に関する特別専門家委員会といった専門家の会合も重ねておりますし、それから、その他のレベルにおきましても種々会合を重ねまして、何とか速やかな日米間の了解を得たいということで努力をしているところでございます。
 まだ、今日の時点で、こういうふうに今合意がまとまったというようなことを御報告できる状況にございませんが、引き続き鋭意努力を重ねまして、何とか日米間の了解を達成したいというふうに考えて努力中でございますので、よろしく御指導をお願いいたします。
東門委員 今の答弁からしますと、運用の改善も全然だめだということじゃないですか。時間がかかっているわけですよ。それなら抜本的な見直しに入った方がいいですよ。今までずっと運用の改善で事足れりとするのが外務省の見解でした。
 やはり運用の改善ではだめだ、それも時間がかかる、それならばもう抜本的な見直し、これは国民の要求であり、沖縄県知事の要求であり、名護市長も同じです。全国の知事会でもこの間決議しております。何よりも、この外務委員会でも昨年決議をしております。そういう中で、やはり国民の意を体して仕事をしていくのが政府だと私は思います。
 外務省、地位協定の抜本的見直しに踏み込めないのはなぜなんでしょうか。それからまずお聞きします。
藤崎政府参考人 この日米地位協定の運用改善でございますが、これは、委員にも前に御説明したことの繰り返しになって恐縮でございますけれども、SACOの最終報告におきまして九項目ございました。航空機事故の調査報告、合同委員会の公表、公用車両の表示、任意自動車保険の加入、検疫手続の改善等でございます。また、その後におきましても、事件・事故通報体制の整備に関する合同委員会の合意、これは平成十一年でございますが、低空飛行訓練に関する具体的措置の公表、十二年には環境原則に関する共同発表、十三年には在日米軍施設・区域内への緊急車両等の立ち入りについての合同委員会合意ということで、例年運用改善については図ってきているところでございますが、今委員御指摘のとおり、一部のものについてはより速やかに合意が図られるべきというのは私どもも同じ考えでございまして、さきに申し上げましたとおり、合意の達成に向けまして努力を重ねてまいりたいというふうに思っているところでございます。
東門委員 同じことを繰り返さなくても本当に結構です。時間がもったいないです。
 それでは運用の改善になっていないと何度も申し上げたはずですよ。今実際に運用の改善をすべきなのは二点だと私申し上げました。それができていないんです。それで、端々のものができている。実際にどれくらいそれが効果があるかもわからないようなものだけですね、今挙げられたのは。本当にこれまで運用改善の協議が行われているのは、地位協定第十七条に関連する刑事裁判手続に関してだけだと思います。
 しかし、この半年に生じた問題だけを見ましても、一連の航空機関連の事故では、第三条に関連する基地への地方自治体の立ち入り権の問題、北谷町のドラム缶事件では、第四条による原状回復義務の免除問題、ベースタクシー問題では、第三条の管理権が余りにも無制限であること、米軍人軍属、家族による事件、事故の補償においては、十八条では全く不十分であることなどが明らかになっているわけです。
 地位協定は全体的に見直す時期に来ております。もし運用改善で対応するとしても、第十七条に関連するわずかばかりの改善では、もはや国民への悪影響を排除することはできません。地位協定自体も、第二十七条で、「いずれの政府も、この協定のいずれの条についてもその改正をいつでも要請することができる。」と規定しており、時代の変化に合わせて協定を見直すことはごく自然なことであります。それなのに、運用改善のセールスポイントである機敏な対応が不可能になっているということがはっきりしている現在においても、なぜかたくなに地位協定見直しを拒み続けるのか、大臣、お聞かせいただきたいと思います。
川口国務大臣 幾つかの点について、私どもがそうしたいほどスピーディーに解決が見られていないということは確かにあると思いますけれども、私としては、引き続き機敏な対応を可能にすべく、運用の改善に鋭意努めてまいりたいと思っています。
東門委員 それでは、いつになったら、これだけはやれますよ、こういうものは大体このあたりまでには持っていきますよということを提示できるのでしょうか。それも、相手があることですから、いつになるかわかりません、でも頑張っておりますということだけで済ませていくのでしょうか。これまで何十年も過ぎてきました。これからもそうなのでしょうか。では、外務省は何のためにあるんですか。
藤崎政府参考人 今まさに委員が御指摘のとおりでございまして、できるだけ早く合意を得られるようにということで努力をしていきたいというふうに考えておるわけでございます。
 ちなみに、先回御質問いただきましたタクシーの問題につきまして……(東門委員「それは聞いていません」と呼ぶ)調査をしておりますが、これについて御報告しなくてよろしゅうございますでしょうか。
東門委員 結構です。私、今これは聞いておりません。後でそれはレクをしてもらいたいと思います。
 時間がありませんが、一点どうしてもお伺いします。
 報道によりますと、普天間飛行場移設問題を話し合う代替施設協議会開催に向けて、政府と県、名護市が最終調整中であり、政府は今月二十九日にも協議会を開催する方針であるということです。開催されれば九回目になり、昨年十二月二十七日以来となるわけですが、昨年十二月二十七日に開催された第八回代替施設協議会では、代替施設の建設場所や規模、工法などに関して政府と地元市町との間で議論がなされました。この際、次回協議会において基本計画策定について協議することとされています。
 政府は次回の協議会において基本計画案を最終決定する方針であるとも言われていますが、基本計画の策定に当たっては、地元との緊密な相談と合意が必要不可欠であり、地元の声を無視した基本計画の策定はあってはなりません。
 政府は反対者の声を押し切って基本計画策定に突っ走ることはないと言い切れるのか、そのことを確認するとともに、現在の基本計画策定の進捗状況について確認したいと思いますが、最初に大臣の方から、反対者の声を押し切って基本計画策定に突っ走ることはないということをおっしゃれるかどうか、そこからまずお願いしたいと思います。
    〔首藤委員長代理退席、委員長着席〕
川口国務大臣 七月の二十九日に開催されることになっております代替施設協議会、ここにおいては、防衛庁長官から報告を受けるとともに、これを参考に基本計画の策定に係る協議が行われるというふうに承知をいたしております。
 ここで最終的にどういうような結論になるかということは私が予断するということはできないわけでございますけれども、いずれにしても、よく御相談をして進めさせていただきたいと私としては考えているわけでございます。
東門委員 私が申し上げたのは、反対者の声を押し切って基本計画策定に突っ走ることはないということをおっしゃることができますかと。大臣としてです。大臣もその会のメンバーです。外務省の立場、沖縄県民の負担の軽減をしたいと常々おっしゃっている大臣のお立場から、はっきりとそうおっしゃっていただけますかということなんです。もう一度お願いします。
川口国務大臣 この件についてはさまざまな意見がおありになるだろうと思います。七月二十九日の会合でどういう結論になるかということについて私が予断をするということはできないわけでございますけれども、私としてはいろいろな方々と御相談をして進めていきたい、そういうふうに考えるわけでございます。
東門委員 時間ですから終わりますが、大臣、常々県民の負担の軽減をしたいとおっしゃるのであれば、そこのところは外務大臣として、私はこうです、外務大臣としてはこれだけは許せませんとおっしゃれるはずなんです。常に、さまざまな方々のいろいろな意見を聞いてということではないんじゃないか。主張するべきは主張する、これが大臣のモットーじゃなかったのでしょうか。それを申し上げて終わります。進捗状況については後で伺います。
 ありがとうございました。
吉田委員長 次に、松本善明君。
松本(善)委員 外務大臣に伺おうと思いますが、瀋陽の総領事館事件につきましては、事実関係についても国会で再々議論され、きょうもされておりますし、それから処分もされました。しかし、やはりこの最大の問題は、北朝鮮脱出者に対する日本政府の基本政策がしっかりしているかどうか、これが確立されているかどうかということが最大の問題ではないかと思います。
 外務大臣御自身が国会で、難民・亡命者問題が最大の問題と言って過言でない、こういうふうに答弁をされているわけでありますけれども、この事件、私は個々の処分よりも、むしろ外務大臣あるいは内閣、この姿勢こそが問題なのではないかと思いますけれども、この問題について基本的な考え方が確立されたのかどうか、そして外交政策全般にわたってどのようにしようとしているのかということをまず最初に伺いたいと思います。
川口国務大臣 我が国における難民の受け入れに関しまして、これは委員がつとに御存じのように、難民の認定は法務省の所管であるわけでございます。そして、法務省において、難民条約と出入国管理及び難民認定法にのっとりまして適正な運用を行っていると承知をいたしております。
 一方で、難民やいわゆる亡命者への対応につきまして、瀋陽総領事館事件を受けまして、内閣官房において今関係の府省とともに協議を行っているわけでございます。これについて、すぐに手を打つ必要のあるもの、それから中長期的に対応する必要があるもの、さまざまな問題がありますけれども、そういったことを整理して、検討を今進めていると私は承知をしております。
 難民の受け入れの問題というのは、これは、文化や宗教や言語や生活習慣や、そういったさまざまなものが異なる人たちを我が国の社会に受け入れていく、そして一緒に暮らしていくということですから、我が国の社会の基本的な問題にかかわる問題であるわけです。こうした中長期的な課題につきましては、政府はもちろんのことですけれども、広く国民の皆様とともにこういった問題については検討を重ねていく必要があると考えております。
 外務省としては、この問題について、人権あるいは人道といった幅広い観点で参画をしていきたいと考えています。
松本(善)委員 阿南大使、御苦労さまでございます。
 阿南大使に伺いますが、きょうも御答弁をされましたが、いわゆる五月八日の大使館内定例会においての発言、これはいろいろ、どういう発言があったということの議論もありますが、日本大使館が五月十四日に発表いたしました発言内容は、こういうものだということで言われている。それは、一たん館内に入った以上は人道的見地から保護をする、第三国へ移動等適切に対処する、それから、不審者が大使館敷地に許可なく侵入をしようとする場合は侵入を阻止し、規則どおり大使館門外で事情を聴取するようにすべきである。
 これは、きょうもこういう趣旨の御発言があったと思いますが、瀋陽事件が起こってから、我が国の大使館、総領事館などの対応は変わったのですか、この基本方針どおりですか。伺いたいと思います。
阿南政府参考人 私の五月八日の発言も、日本政府のこういう事態への対応の基本的な立場を踏まえて行ったものでございまして、そういう意味では、基本的な考え方が瀋陽総領事館事件前後で変わったということではないと思いますが、七月四日に、この事件の反省、教訓に立って改善策が打ち出されましたので、この改善策に沿って各公館が、意識の面でございますとかハードの、実際の警備の問題等についてさらに心構えを新たにして対応していると思います。
 私ども大使館としては、警備の強化ということは当然でございますけれども、同時に、やはりこういう事態が起こったときに混乱が生じないことが大事だ、秩序を保ってきちんと対応する、そういう観点から、私ども大使館なりの改善策も考えているところでございます。
松本(善)委員 瀋陽事件の前後で基本的には変わっていないということで、果たしてそれだけでいいのだろうかということを思います。
 といいますのは、これはなかなか難しいですよ、大使の言われたことは。初めは侵入を阻止する、それで大使館内に、あるいは領事館内に一歩でも入ったらどうなるのか、あるいは両足入ってどうなるんだ。そこで急激に変わるわけでしょう。中へ入ったら保護をする、外にいたら阻止をする。これは中国側の警備の問題についても同じ。中国側は、日本大使館や日本の総領事館を警護するという任務で、入るまでは阻止をする、日本側は協力する態度になるわけですね。ところが、中へ入ったら途端に中国側とは対立をするということになる。
 私は、これは、言うはやすく実行するのはなかなか難しい、大使館の、現場の責任だけにすることは到底できない問題であろうかと思います。だからこそ、根本問題だということを言って、大臣にも伺ったのであります。
 もう一度説明していただきたいのは、韓国の対応との関係です。際立った日韓の違いがマスコミでも指摘をされております。
 六月十三日に韓国大使館領事部で発生した亡命希望者連行事件では、韓国大使館職員は中国警察から暴行を受けてまで亡命希望者を守ろうとした。ただ、韓国政府は基本的に北朝鮮の難民はすべて受け入れる方針なのに対し、日本政府の難民政策は追い返すなどあいまいで、それが現場の対応にも影響をしている。
 韓国の通信社は、「日本総領事館職員が、武装警察が落とした帽子を拾うなどしたのとは対照的に、韓国大使館職員は詰め所前に立ちふさがり、警官らとにらみ合いを続けた。この結果、瀋陽では一家が一時間で連行されたのに対し、北京では五時間もかかった」、こういうふうに比較をしている。これは日本のマスコミの報道であります。
 この韓国側の対応と比較をして日本の対応は、韓国側の場合は非常に簡単であります。これとの関係で、やはり現場の人たちが困らないように、この方針が決められるかどうか、ここの点を、現場の状況も踏まえて、大使から御説明をいただきたいと思います。
阿南政府参考人 現場の対応は、先生がおっしゃいましたように、本当に判断が難しいところでございます。
 それで、スペイン大使館に駆け込みがあった例等で、私どもの大使館の警備担当官も、実際起こったときに具体的にどう動くかということについて、仕事の面で非常に苦慮しておりました。したがって、私が先ほど来申し上げているようなことを館員に対する指示として言ったわけでございまして、入ったときには保護する、入るまでは不審者、身元がわからない人は入らないように阻止をしなさい。
 これは、おっしゃるように、一歩入ったらいいのか、入らない人とどこが違うのかということは、大使館、在外公館の不可侵権ということがその一線になるんだろうと思うのであります。大使館の門を一歩出れば中国の主権が及ぶ中国の領土でございますし、大使館の中、総領事館の中はウイーン条約で不可侵権というものが認められています。やはりそこは一つ線を引かざるを得ないということです。
 ですから、例えがいいかどうかわかりませんが、窮鳥懐に入ればという言葉があって、懐に入った人は保護しなくちゃいかぬ、しかし、入る前の人は、これは中国の主権の地点にいるわけですから、そこはそういうことで区別せざるを得ないという、まさに委員もおっしゃったように、言い得て実行が難しいというより、言う方も難しいぐらいの話だと私は思っております。
 それから、韓国との対応の違いということにつきまして、韓国大使館領事部の外交官がああいう対応をしたことについて、私から評価をすることは差し控えたいと思います。なぜかと申しますと、やはり、韓国と北朝鮮との関係、いろいろ日本とは状況、背景が違うこともございますし、また、現場の状況も明らかに違う状況でございました。そういうことから韓国大使館としてはああいう対応をされたと思いますが、私から、どちらがどうということを申し上げるのは控えさせていただきたいと思います。
 我が方館員の対応については、最後の総括が行われて処分をいただいたときに、それなりの御指摘があったとおりでございます。
松本(善)委員 韓国とはいろいろな事情が違うことはそのとおりだと思いますが、それにしても、日本はサミット諸国の中で難民受け入れの門戸が狭いということが言われております。
 これは外務大臣にお聞きしようと思うんですけれども、法務省の資料でも、難民として認定される認定率は、一九八二年から二〇〇一年までに一一・五%、最近のデータでは、一九九〇年からでは認定率は五・八%、ヨーロッパ各国の一四%と比べても極めて低率であります。
 正規の旅券を持たずに空港や港に到着した外国人に難民の可能性がある場合、強制送還をしないで一時的に入国や滞在を認める一時庇護の上陸許可制度があります。これも事実上、死文化しているのではないかと思います。これと、大使館、領事館、在外公館へ入る場合は違いますけれども、やはりそういうようなやり方ということは考えられないんだろうか。外務大臣、どう考えられます。
川口国務大臣 まず、我が国の難民の受け入れ状況でございますけれども、確かに数が少ないということで消極的であると委員が思われるのかもしれませんけれども、これを比率で見ますと、我が国は平成十二年で見ますと一四%になっておりまして、これは、この年のイギリスの一二%、ドイツの一五%、オランダの七%、スウェーデンの二%と比較しても決して低いものではなくて、UNHCRからは、国際的な基準によっても満足のいくレベルに達しているという評価があるわけでございます。たまたま、言語が違うとか、地理的な関係とか、交通手段に制約があるとか、そういったことで難民認定申請の件数自体が少ないということでございます。
 これは先ほど申しましたように法務省の所管でございますけれども、この認定については総合的な観点で考えるということでございまして、在外公館において日本への亡命を希望する外国人がいた場合に、その外国人から我が国での庇護を求める目的で査証の申請があって、その申請理由が人道上の配慮などから特別な考慮が必要であると認められる場合には、査証ないし渡航証明書の発給の是非も含めて、どのような対応が可能であるかということについては総合的な見地から考えるということになると思います。
松本(善)委員 在外公館の不可侵権に基づいて人道的な配慮をするというのは、瀋陽事件前もその方針だったということは阿南大使も言われている。そうだったら、私は、ああいう、いわば国際的に醜態をさらしたと言っても過言ではないような日本側の対応ということにはならなかったと思う。外務省の調査でも、一時間ぐらい、退去を求めるということはなかったわけです。阿南大使が訓示をされたことがもし徹底をしていれば、ああいうことにはならなかったろうと私は思います。
 それは根本的には、私は、北朝鮮からの脱出者というのはとにかく来てもらっては困る、その方が在外公館で徹底をしていたのではないか。だから、そこのところをやはり政府の基本方針から変えないといけないのではないか、こういうふうに思うわけでございます。
 それで、少なくも国際水準にする。外務大臣はそういうふうには言っておられませんけれども、国連難民高等弁務官事務所の難民白書でも、庇護申請に対して時間的制約が設けられていて、並外れて高水準の立証が必要になっているということで、少なくもこれを国際水準にする必要があると思いますが、この点は、外務大臣、重ねてでありますが、どうお考えでしょうか。
高橋政府参考人 先ほど大臣からも御答弁させていただきましたけれども、今回の瀋陽総領事館事件を契機といたしまして、現在、内閣を中心にいたしまして、関係省庁におきまして、我が国の難民それから亡命者等の受け入れ政策についての対応について見直しが行われております。今委員御指摘のような点も含めまして検討をしているというところでございます。
松本(善)委員 外務大臣に伺いますが、先ほども阿南大使が言われましたが、数年前は政治亡命という感じ、今は経済難民、数万から十万ぐらいの北朝鮮から中国への不法入国者がいる、こういうふうにも言われております。やはりこれに対しては国連難民高等弁務官事務所でありますとか韓国、中国などとの国際的な協議が必要である、こういうふうに思いますが、その点の我が国の政府の対応、どこまで構えているのか、どこまで進んでいるのか、伺いたいと思います。
川口国務大臣 世界の難民問題については、UNHCR等々の国際会議の場で今までかなり取り上げられてきているわけでございまして、我が国もこうしたことに参加をいたしておりますし、それから北朝鮮からのいわゆる脱北者との関連におきましても、そういった多国間の場以外にも、二国間でこの問題については協議をいたしております。
松本(善)委員 この問題とのかかわりもありますが、北朝鮮の外務大臣と川口外相はお会いになって協議をされるということが報道されておりますが、まず、これは事実でありましょうか。
川口国務大臣 七月三十一日に北朝鮮の白南淳外務大臣とお会いをするということでございます。
松本(善)委員 これは、私どもはかなり前から、一九九九年十一月の衆議院代表質問で、正式の対話と交渉のルートを確立するべきであるということを言ってまいりましたが、その方向で進んでいることは歓迎すべきことだと思いますが、この難民問題についてもお話しするお考えがありますか。
川口国務大臣 これは、相手があっての会談ということでございますけれども、私といたしましては、朝鮮半島問題についての日本の立場を明らかにしていく、そして国交正常化の交渉の今後の進め方について議論をするほか、我が国にとってあるいは双方にとって重要な関心を有する日朝間の諸懸案がたくさんあるわけでございますので、それについて議論をしたいと考えております。
松本(善)委員 我が国としては、拉致疑惑問題など幾つかの紛争問題も持っておりますし、これもありますが、やはり北朝鮮というのは、戦前の侵略戦争と植民地支配によって日本が被害を与えた国々の中で、その清算が全く未解決のまま残っているただ一つの国であります。いろいろな現在の問題と同時にこれらの問題もすべて解決をしていくという構えで臨まれるのかどうか、重ねて伺いたいと思います。
川口国務大臣 我が国と北朝鮮の間にはさまざまな問題があるわけでございます。こうした双方が関心を持っている日朝間の諸問題について議論をしたいと考えています。
松本(善)委員 今、食糧問題がいろいろ問題があるんだと思いますが、北朝鮮のみならず、八億の飢餓人口が世界にある、この問題が議論をされておりますけれども、国際的な食糧備蓄制度について、外務大臣はどういうふうにお考えになっていますか。
川口国務大臣 国際的に食糧を備蓄するというふうにおっしゃられたと思いますけれども、食糧については、世界的に、FAOを初めとしていろいろな考え方があると思います。
 私は、備蓄をするということが、これはほかの商品、商品穀物あるいは商品作物についても言えることですけれども、必ずしも常にベストな策ではないかもしれない。当面、我が国としては米の備蓄も行っていますけれども、そういった食糧の安全保障政策というものについては、やはり費用対効果とか、さまざまな要素を考えていかなければいけないということでございまして、そういった問題については、食糧を世界的に備蓄することが食糧安全保障政策としてベストな考え方かどうかということは、専門家に少し議論をいただく必要があるのではないかと思います。
松本(善)委員 減反、減反で苦しんでいる日本の農民は、そういう強い要求を持っているということだけ申し上げておきたいと思います。
 最後に、一つただしておきたいんですが、核問題で、十二日の外務委員会で私は、核態勢見直しというアメリカの新戦略問題についてお聞きしました。外相の答弁は、国際社会において、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しているわけで、核兵器のみを他の兵器と切り離して取り扱おうとしても、それは現実的ではなく、かえって抑止のバランスを崩す、安全保障を損なうこともあり得るわけでありますと。
 この発言は、私は、核兵器のみを他の兵器と切り離して取り扱う、これは抑止のバランスを崩すということになりますと、通常兵器の廃棄が実現しなければ核兵器の廃絶も実現しないということになるんじゃないか。そういう点では、この発言は、核兵器の廃絶を世界の先頭に立ってやろうとしている日本の政府としては、甚だしく後退したものではないかと思いますが、外務大臣の御意見を伺いたいと思います。
川口国務大臣 国際の安全保障が、結果的には核を使用しない形で維持されることがいいということは言うまでもないと私は思います。
 他方で、現実の国際社会を見ますと、核戦力を含む、通常兵器も含む大規模な軍事力というものが存在をしているわけでございまして、核兵器だけを他の兵器と切り離して扱おうとしても、この前申し上げましたように、それは現実的ではない、かえって抑止のバランスを崩して安全保障を損なうということもあり得るわけでございます。
 安全保障を考えるに当たっては、関係国を取り巻く諸情勢に加えまして、核兵器などの大量破壊兵器や通常兵器の関係などを総合的にとらえて対処する必要があると思います。これは、この前も申し上げたことと全く変わっていないわけでございます。
 いずれにしても、我が国としては、核兵器が二度と使われるような事態があってはいけないと考えておりますので、核軍縮につきまして決議案を国連総会に提出をしたり、外交努力を行ってきたりということを重ねてきているわけでございます。この努力を引き続き重ねていって、平和な国際社会が到来するように努力を続ける必要があると思います。
松本(善)委員 それでは、具体的にお聞きをしましょう。
 第一回国連軍縮特別総会では、日本も賛成をいたしました最終宣言を採択した。この第二十項では、核軍縮の効果的な措置及び核戦争の防止が最も高い優先度を有すると。だから、核兵器は軍縮全体の中でも最も優先なんだということを言い、これは我が国ももちろん賛成もしているわけですけれども、これに反対なんだということを言われるつもりなのかどうか。
 もう一つ、核兵器の使用については、九六年七月に、核兵器の使用に関する国際法上の判断を国際司法裁判所が下しました。核兵器の使用や威嚇は、国家の存立にかかわる自衛のための極限状況では結論を留保しつつも、戦争に関する国際法の規則、特に人道法の原理と原則に一般的に反すると。これは国際法に一般的に反するという結論を出しております。
 核兵器の使用について、あるいは核軍縮について通常兵器と同列に、それとの関係で考えるということになりますと、核兵器が非常に残虐な、人道に反する兵器だから、使用についても、あるいはこれを廃絶するということについても、国際社会は一致をしてこの方向で進んでいると思うんです。通常兵器とのバランスで考えるということになりますと、これは、核兵器廃絶や核使用に反対するという立場から実質的には非常に後退したことにならざるを得ないと思いますけれども、今私が引用しました国際的な動き、軍縮特別総会や国際司法裁判所の見解との関係で、重ねて外務大臣の御答弁をいただきたいと思います。
川口国務大臣 核兵器だけを切り離して扱うということが抑止のバランスを崩して安全保障を損なうこともあり得るということを先ほど申し上げたわけでございまして、それは、通常兵器の削減をやっていく、あるいは核兵器の削減をやっていくという考え方と全く矛盾をしないというふうに私は考えています。
 それから、二番目の核兵器の使用についてでございますけれども、これについては、先ほど申しましたように、核兵器国が非核兵器国に対して核の不使用を約束するということは非常に望ましいというふうに考えております。
 我が国としては、核兵器が二度と使われるような事態があってはいけないと考えておりますので、核軍縮そして不拡散体制のための外交努力の堅持、強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような社会をつくっていくということを考えているわけでございまして、核兵器を使用した場合に、それは人道上問題ではないかと委員がおっしゃられたわけですけれども、人道上問題であると考えます。
松本(善)委員 時間が終わりましたので、若干承服できない部分もありますが、それは今後の問題として、質問を終わります。
吉田委員長 次に、土田龍司君。
土田委員 大臣には、いよいよ二十九日から海外出張ということですから、御苦労さまでございます。
 特に、七月の三十一日に、今質問に答えておられましたが、北朝鮮の外務大臣との会談がセットされたということでございます。大変に喜ばしいといいましょうか、膠着した状態になっておりましたので、私は大きな期待をしたいと思っております。
 北朝鮮の外務大臣との会談の切り口といいましょうか、どういった話し合いになるのか。大臣は、昨晩の会見では、国交正常化についての話し合いだというふうにおっしゃいましたけれども、もう少し具体的に聞いておきたいと思うんです。
 赤十字会談は、四月の二十九、三十で行われて、そのときに、六月中に次の会談を約束した。それが、日程調整がつかないでいまだにはっきりしないわけでございますし、あるいは日朝交渉の本会談も、中断されてから間もなく二年になろうとするわけですね。
 さて、外務大臣は、北朝鮮の大臣との会談の中で、どういった話を中心に会談を進められていくのか、答弁願いたいと思います。
川口国務大臣 三十一日の会談では、私といたしましては、朝鮮半島情勢に関する日本の立場を明らかにするとともに、国交正常化の今後の進め方について協議をしたいと思いますし、それから、双方が関心を有する日朝間の懸案というものがあるわけでございまして、そういったことについても意見の交換をしたいと思います。
 これは相手があってのお話ということでございますから、どういうことを取り上げて、どういうことについてどういう結果が出るかということは、まさに、今の時点でこうなるでしょうというふうに申し上げることはとても難しいわけでございますけれども、先ほど委員がおっしゃった赤十字の会談につきましては、今、日程を調整中であるわけでございますけれども、これについてはできるだけ早く実施ができるように私からも働きかけたいと思います。
 そして、国交正常化交渉でございますけれども、先ほど言いましたように、これについて、今後の進め方について議論をしたいと私は考えておりますけれども、結論的にどういう結果になるかということについては、先ほども申しましたように、予断を持って今の時点で申し上げるということは難しいわけでございます。
土田委員 北朝鮮との会談がなかなか進まない、あるいはこういった偶然でないと交渉が持てないという状況にありますので、ぜひ、大きな期待をしておりますし、注目をしておきたいと思います。
 それから、同じく外務大臣はミャンマーに行かれるわけです。日本の大臣としては何と二十年ぶりでございますし、西側の大臣としては初めてミャンマーに入られるということでございます。
 さて、アウン・サン・スー・チーさんとも会談なされる予定が決まったようでございますが、どういった会談を期待されておりますか。
川口国務大臣 どういうふうなことについてお話をするかということについては、今いろいろ考えをめぐらせているところでございますので、この時点でお話ができる用意はございませんけれども、私は、両方のサイドにお会いしたい。したがって、アウン・サン・スー・チーさんにもお会いしたいと思いますし、政権側ともお会いをしたいというふうに思っております。
 大事なことは、ビルマが民主化に向けてさらに前進をするということでありまして、そういう過程を働きかけたいというふうに思っています。
土田委員 瀋陽事件が発生してから間もなく、外務委員会として、中国大使の参考人としての御出席をお願いしましたけれども、なかなか実現しなくてきょうに至りました。今回の通常国会で、この外務委員会は最後になるわけでございますが、ここまで時間がかかってしまった。引き延ばされたんじゃないかという気持ちが僕らにはあるんですが、ここまで大使の出席に時間がかかった、しかも最後は休暇でという形をとられた。何でこういった形に大臣はされたんですか。
川口国務大臣 まず、それにお答えをする前に、私ちょっとうっかりしてミャンマーと言わなかったようでございまして、おわびをして訂正させていただきます。
 それから、何でここまでかかったのかということでございますけれども、これは、国会の委員会の中でさまざまな御議論をいただいて、また外務省にもお話をいただいて、そういうことになったんだと私は理解をいたしております。
土田委員 阿南大使には御苦労さまでございます。休暇でということで、きょうは外務委員会に御出席をいただきましてありがとうございました。
 さて、大使に幾つかお伺いしたいと思うんですが、まず、六月二十九日に韓国の西海岸沖で、黄海上で北朝鮮と韓国との銃撃戦が発生をいたしました。朝鮮半島の緊張を非常に高める事件であったわけでございますし、我が国としても非常に重大なことだというふうに思っておりました。
 この事件が発生したのは、韓国の国防省によりますと、二十九日の午前九時五十四分というふうに発表しておりますが、韓国の報道機関は午前十時二十五分ごろだということでございますけれども、いずれにしましても、大体午前十時ごろ発生をしたわけですが、阿南大使はこの事件をどういった形で知りましたか。
阿南政府参考人 突然のお尋ねでございますので、ちょっとそのときのことを明確に覚えておりませんが、私は通常の報道機関の報道で知ったというふうに記憶しております。
土田委員 報道で知ったということは、本省から連絡があったわけでもないし、部下からの報告でもなくて報道で知ったということですね。時間は何時だったんでしょうか。
阿南政府参考人 私が事件の発生を知ったのは、今申し上げましたように報道を通じてでございますが、何時の報道でということは、ちょっと私、記憶にございません。
土田委員 この事件があった直後、福田官房長官は談話を発表されまして、非常に重大な関心を持っているということを言われておりますし、たまたま事件が発生したのは中国国内ではございませんが、中国と日本の間にある極めて近い場所で発生をした。朝鮮半島は御存じのとおりの状況の中で大変な事件が発生したわけでございます。
 なぜこの時間を詳しくしつこく聞くかといいますと、六月の二十九日に日本から土井たか子社民党党首を団長とする訪中団が行っているんですね。二十九日の十三時十五分着の予定が三十分ずれ込んで、大体一時四十五分ごろ北京に到着をしております。そのとき大使は出迎えをされているわけですが、そのときにこの訪中団に対してこの情報を提供されていないんです。報告をされていないというふうに私は聞いているんですが、間違いございませんか。
阿南政府参考人 委員がおっしゃいましたように、土井先生御一行がいらしたとき、私も飛行場にお迎えに行っておりましたが、その場で本件について御報告したということはございません。
土田委員 この訪中団を出迎えられたときは、銃撃戦の事件は知っておりましたか。
阿南政府参考人 まことに申しわけございませんが、私、何時のニュースで事実を知ったか明確に記憶はございませんので、もちろん、そのとき詳しいことを知っていればそういうことを御報告したかと思いますが、全貌を知っていたかどうか、ちょっと私は記憶はございません。
土田委員 この土井さんを団長とする訪中団は、一時四十五分に北京に着いた後、四時から全人代の李鵬さんと会見をされております。その後、五時から在北京の日本人記者団との会見がありました。そこで初めて訪中団はこの事件を知るんです。記者から質問されて知らなかったので、記者も驚いた。ところが、訪中団もびっくりしたんです。えっ、こんな事件があったのになぜ大使は言わなかったんだろうと。午前十時に発生して、夕方までそれを知らされなかったということなんですね。
 これに対して私は、この訪中団は大体国会議員を中心とした二十一名で構成されているんですが、もちろん全員に聞いたわけじゃないんですが、何人かに聞いたところ、非常に憤慨しておりまして、大使はなぜこの情報を提供しなかったのか、職務怠慢じゃないかとまで言っているんですが、大使、どうですか。
阿南政府参考人 先ほど申し上げましたように、土井先生御一行がお着きになって、私からそういう御報告を申し上げませんでした。また、飛行場から御一行は宿舎に向かわれまして、それから李鵬委員長との会見に向かわれて、私もそれには同席させていただきましたが、その間に御一行に本件について詳しく御報告するということはございませんでした。職務怠慢という御指摘でございますが、反省をしております。
土田委員 この五時からの記者会見の後、六時から中国側との懇談会が始まったんです。この場でも、まだその詳しい内容を知らないわけですから、この訪中団は、中国の要人の方々とこの件について意見交換することもできない。懇親会が終わってから、おくれて到着された民主党の佐々木秀典先生から詳しい概要を教えてもらって、そうだったのか、こういう事件があったのかというふうにびっくりされたというんです。阿南大使、これは職務怠慢で反省しているではなかなか済まない問題ですよ。外交官としてのセンスを問われますよ。
 あるいは、この訪中団は二泊三日の日程でございましたので、北京に二泊しているわけですね。その間、とうとう最後まで具体的な説明はなかったと言っています。おくれて到着した佐々木先生、あるいは翌日到着された自民党の鈴木恒夫先生から詳しく内容は聞いたけれども、大使館からは一切なかったと言っているんです。外交センスを疑われますよ。どうですか、もう一回答弁してください。
阿南政府参考人 この御一行に対して情報を提供しなかったということについて、私は申しわけなく思っております。
 実は、皆様からそういう、憤慨しておられるということを伺ったのは今初めてでございまして、それも私どもの手抜かりかと思いますが、超党派でいらっしゃいまして、私どもも飛行場のお迎えと要人の会見には立ち会わせていただきましたが、それ以降はずっと中国側との意見交換をやっておられましたので、私どもは余り接触する機会もなかったということでございまして、私は別件で、たしかお見送りはしなかったと思います。
 いずれにいたしましても、先生おっしゃいますように、大勢の国会議員の方がいらしておられる間に、大使館からそういうことを御報告しなかったことは怠慢であったと考えます。
土田委員 確かに憤慨されておりましたことを、もう一回言っておきたいと思います。特に、この外務委員会の委員であります東門美津子さん、東門先生からも聞きましたけれども、同じように憤慨されておりました。大使館の態度は極めてけしからぬと言っておりますが、外務大臣、今のやりとりを聞いておられて、職務怠慢だったと本人は認めておりますけれども、どう感じますか。
川口国務大臣 多分、大使を初め大使館としては、お話をする要人訪問の場合の事前のブリーフとか、そういうことで頭がいっぱいであったのではないかというふうに推察はいたしますけれども、この件は重要な件でございますから、お話を申し上げる方が適切であったと私は思います。
土田委員 さて、瀋陽事件について、五月八日に発生した後、外務大臣も総理大臣も、不可侵権の侵害であるということで、中国に対して毅然たる態度をとっていく、毅然たる措置を求めると言い続けました。多分、何十回も言いました。
 私は、毅然たる態度も毅然たる措置もしていないと思うんですが、阿南大使に伺いますが、外務大臣から、そういった具体的な指示がありましたでしょうか。あるいは、毅然たる態度あるいは毅然たる措置を中国側に大使として求められましたですか。
阿南政府参考人 この瀋陽総領事館の事件に関しましては、五月九日、私から中国外交部の領事問題担当の劉副部長に申し入れをいたしました。そこでは、当然のことながら、瀋陽で起こった事態についての抗議と、それから関係者の引き渡しを強く要求したわけでございまして、これは当然のことながら、大臣の御指示に従って向こう側に申し入れをしたものでございます。
土田委員 外務大臣は、事件発生の後、今後とも繰り返し日本の立場を主張し、謝罪を求めるんだと言っているんです。大使を通じなくて直接やることは想定しにくいんですが、阿南大使を通じて繰り返し謝罪を求めておりますか。
阿南政府参考人 私は、中国政府に、先ほど申し上げましたような抗議をいたしまして、それから、この劉部長助理という人は領事担当でございますが、アジア、日本を担当しております外交部の副部長でございますが、そういう人にも話をしておりまして、それは五人の第三国への出国という過程を通じても、常にそういうことを言っております。
土田委員 この問題が発生した後、問題が二つあって、再発防止と謝罪の要求でしょう。毅然たる態度、毅然たる措置をしているかどうかを聞いているんです。大臣は繰り返し、やっているんだとこの外務委員会で答弁しているんです。ほかの委員会でも答弁しているんです。だから、それを実行していますかと参考人に聞いているんです。
阿南政府参考人 私が中国側とこの話をしているときには、この問題の両方の主張が衝突しているわけでございますが、日本側が同意を与えていない、こういう状況のもとで、中国側は調査の結果、同意を得たと言っておりますけれども、そういう対応、それがそのまま認められるとすれば、まさに今後の再発防止上ゆゆしきことでございますので、これは日本側の主張が正しいということを常に言っておりますし、最初の抗議のときから、向こうの非を認めるようにということは言い続けております。
 先般、外相会談でこの問題が取り上げられましたので、外相レベルにこの話が上がりまして、私どもは、さらなる御指示に従って中国側と話をしていきたいと思っております。
土田委員 再発防止についてはある程度話が進んでいると聞いておるんですが、外務大臣はこぶしを上げたんです。上げたこぶしをまだおろしていないんです。これまで外務委員会で答弁してきた内容と、今の阿南大使の答弁が違うじゃないですか。大臣、どうですか。
川口国務大臣 私は、異なると思っておりませんで、今、阿南大使が言いましたけれども、この件についての、すなわち不可侵が侵害されたということについての我が国の立場は変わっていない、不変であるということを私も申しました。こういった我が国の立場は変わっているわけではありませんで、大使そして外務省の職員も、すべてその方針のもとで今動いていると私は考えています。
土田委員 それは前の答弁と違いますよ。大臣は、毅然たる措置を今後とも求め続けると言ったんです。内容が違うでしょう。阿南大使は、何を言ったか余りわからないような答弁をされましたけれども、要するに、中国に対して、今度の五月八日の件では、そういった毅然たる措置あるいは謝罪を求めていないというような答弁をされているんですよ。外務大臣の答弁と明らかに違いますよ。
 だって、この事件が発生してから、小泉総理大臣も外務大臣も、毅然たる態度をとるんだ、不可侵権の侵害をされたんだ、中国に謝罪を求めるんだと言い続けてきた。上げたこぶしをおろしていないと言っているんですよ。
川口国務大臣 私どもの立場は全く変わっていないということでございまして、この間六月の十九日に、タイで私は中国の外交部長とお話をいたしましたけれども、そこでお話をしましたのは、我が国として、中国側により我が国総領事館の不可侵が侵害をされたということに関する主張は、毅然として貫いていくという立場に変化はないということを申し上げているわけでございます。ですから、全然、最初から今まで我が国の態度は一貫をしていると私は考えます。
土田委員 我が国の考え方は一貫している、これはもう認めますよ。毅然たる措置を求める、その行動が一貫していないと言っているんです。考え方が変わっていないのはわかっていますよ。行動が一貫していない。早い話が、何もやっていないじゃないですかということです。大臣が言っていたのと、現場である阿南大使がやっている行動と違うじゃないですかと言っているわけですよ。同じと思えないでしょう。
 ちょっと時間がないので、次の問題に行きます。
 まず、阿南大使に伺いますが、瀋陽事件が発生したわけですが、脱北者のこういった亡命事件というのが、現地の内情に詳しいわけですからお尋ねするんですが、再発する可能性はございますか。
阿南政府参考人 再発する可能性、これは常に可能性としてはあると考えております。
土田委員 阿南大使がアジア局長のころに発言された内容が最近になって問題になってきております。発言された当時はそれほどではなかったんですが、先ほどの木下委員からの質問についても、そのようなことを言ったような記憶があるというようなことを言っておられますけれども、当時アジア局長であった重い立場にある方が――済みません、今、北朝鮮の拉致問題を言っています。
 北朝鮮の拉致問題について御自分でそういったことを言ったということを認めておられるようですが、この文言のことでしょうかね。新聞に出ているのは、拉致疑惑には亡命者の証言以外に証拠がないんだ、だから慎重にやらなきゃいけない、亡命した工作員の証言なんですからね、韓国の裁判での証言があるといったって、韓国に捕まった工作員だから、彼らは何を言うかわからないんですよ、そういった発言をされている。
 なぜこれが問題になるかというと、当時のアジア局長の発言だということもございますが、北朝鮮に利用されるだけなんですよ。日本の中でも、拉致なのか、事故なのか、単なる行方不明なのか、まだわからないという議論があるじゃないかということを北朝鮮に利用される。こういった発言はしちゃいけないという戒めだと思うんですが、この辺のことについて、阿南大使、前のことではありますけれども、ちょっと御答弁ください。
阿南政府参考人 これは一九九七年十月末のことでございまして、私は非常によく記憶をしております。
 これは、アジア局長の毎週行う定例記者懇談の席上で、記者の方から、今先生がおっしゃったような、拉致問題というのは北からの亡命者の証言以外には証拠がないんじゃないですかという御質問がありました。私はそれに対して、証言以外に証拠がない、そういうことではありません、我々はその人の証拠をすべてうのみにしているわけではありませんが、日本の警察は七件十名についてきちんとした証拠を持って、それに基づいて我々は言っているんだということをお答えしたわけでございます。
 これは実は、アジア局長の懇談というのは、霞倶楽部所属の各社、全社の記者さんが大体二十名以上出席しておられまして、私の発言が今先生がおっしゃったような形で報道をされたのは、一紙、一社のみでございます。したがって、私は、言い方に誤解される面があったのかなとそのとき思いましたが、私の発言は先ほど申し上げたとおりでございますので、恐らくほかの社の人たちは別に不思議な発言だというふうにはお感じにならなかったんじゃないか。
 ただ、それが大きく報道された結果、今先生がおっしゃいましたようなことがございましたので、私も当時深く反省いたしまして、私の発言はこうでございましたということを関係方面に御説明して歩いたのを非常に鮮明に覚えております。
土田委員 外務大臣への質問も次の臨時国会まで当分ないわけでございますが、我々の関心事はもうただ一つ、外務省改革をぜひ進めてくださいということです。八月にその行動計画を策定される、大胆な構想でおやりになる、非常に期待をしております。特に、「変える会」あるいは変わる会、こういった二つのグループから答申が出され、自分たちの希望も、あるいは外部からの改革案も出された。ぜひ大胆な改革を望んでいるわけでございます。
 答弁は要りませんから、一つだけお願いは、ぜひこの議論の過程を今後ともオープンにしていただきたいと思うんです。国民に見えるような形で、だれがこういった発言をし、外務大臣はこういった発言をし、どういった措置をし、こういった発表をしたということをお願いしたいと思います。
 以上で質問を終わります。
吉田委員長 午後一時三十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時四十五分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時三十一分開議
吉田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。石破茂君。
石破委員 きょうは阿南大使にもお出ましをいただきまして、ありがとうございます。
 冒頭、一つお尋ねをしておきたいと思います。
 結局、今度の瀋陽総領事館の件というのは、主権とは何であるか、領土とは何であるかというようなことを私ども日本国民に問いかけたことなのだろうと思っています。残念ながら、我が国民は、主権であるとか領土であるとかそういうことについての意識が、ほかの国に比べて非常に希薄ではないだろうか。それは拉致問題でも一緒のことなんだろうと私は思っています。そのことの一環で少し気になることがありますので、お尋ねをいたします。
 本年の五月二十日に、竹島周辺で、鳥取県の漁船第二十八住栄丸と韓国の警備艇が衝突をしたという事件がございました。そう大きく報道されたわけではございませんが、今回の瀋陽の総領事館の問題でも、あれも私はある意味で作為的なんだろうと思っていますが、国際的に大きく報道されて意識が覚せいされたというようなところもある。この事件も本質的には似たようなところを含んでおるのではないかと私は思いますので、あえてお尋ねをいたします。
 この件の事実関係につきまして、海上保安庁から御説明をいただきたいと存じます。
津野田政府参考人 お答えします。
 第二十八住栄丸は、平成十四年五月二十日の十三時二十分ごろ、竹島に接近して航行しておりましたが、韓国警備艇から無線による呼びかけが英語でありました。三十分ごろ、竹島から約十一海里付近で停船をいたしました。その後、拡声機によりまして行き先等に関する問答を行いました後、再び航走を開始いたしました。その後、再び韓国警備艇が接近しまして、住栄丸に並走する形になりました。警備艇は急に速力を上げまして、その後右転しまして、十四時二十分ごろ、竹島の南南西十二・九海里の公海上におきまして、警備艇右舷船橋下付近と住栄丸左舷船首部が接触したものであります。
 公海上における船舶の衝突事故につきましては、海洋法条約によりまして、それぞれの船舶の旗国のみが刑事上の手続を行い得るということにされております。したがいまして、日本漁船である住栄丸につきまして、海上保安庁が所要の捜査を行ったということでございます。
 捜査の結果、住栄丸側には、衝突直前に避航動作のおくれがあったという事実を認定いたしまして、七月二十五日に関係書類を鳥取地方検察庁の米子支部に送致をいたしました。
 なお、韓国警備艇に係る調査につきましては、韓国側において行われるということになっているものと承知をしております。
石破委員 海上保安庁、ありがとうございました。結構でございます。
 結局のところ、今のお話でおわかりのように、日本の漁船は過失なしとしないということで検察庁に送られているわけですね。韓国の方はこれから先どうなるか全くわからないということですが、どう考えてみても、この衝突の主原因は、日本ではなくて韓国の警備艇にあるというふうに思わざるを得ない。
 そして、なお問題なのは、十二海里の中に入ったということで白い紙を提示して、さあ、ここにサインをしなさい、本国へ曳航します、韓国へ曳航していきますというようなことが船長さんの供述からは得られておるわけです。もしそれが本当だとするならば、竹島の十二海里の中において韓国の警備艇が自分の船の意思で動くはずはないのであって、韓国政府として、十二海里の中に入れば領海侵犯ということでこれは韓国が取り締まるということだとするならば、これは、我が国が竹島を我が国固有の領土であると言っておる点からしても、とても看過し得ないものだというふうに私は考えております。
 小さなことだからまあいいやということではなくて、日韓の新漁業協定を結ぶときに、こういうことは絶対にないのでしょうね、そして暫定水域の中で、例えばいつ漁を休むとか、どのような方法で魚をとるかとか、そういうことについては韓国も日本も対等にやりますよ、だから新漁業協定を結びますよということで、主権者たる漁民の皆様方に納得をしていただいた。
 しかるに、今回、漁民の立場からしてみれば、自分たちは過失なしとしないということで送検された、しかし韓国は一体どうなんだ。どういう方針で取り締まりを行っておるのか、そして、ぶつけた韓国の船に対して一体どのような損害賠償が行い得るのか、その責任はどのようなことになるのかということについて、日本政府として毅然とした態度をとっていただかないと、これはとてもではないが、おさまる話ではない。
 瀋陽の総領事館の事件と同じように、これは主権の問題であり、領土、領海の問題であって、私は相共通するものがあると思いますので、お尋ねをしておる次第であります。大臣の御見解を承ります。
川口国務大臣 事件につきましては、事故発生の直後に、外交ルートを通じまして申し入れを行いました。
 その内容は、本件については、今後事実関係をきちんと調査する必要がある、ただし、仮に本件が、韓国警備艇による取り締まり行為の結果接触が生じたものであり、当該取り締まり行為が竹島に対する領有権を根拠として行われたのであれば、竹島は日本の領土であり、韓国側の対応は容認できない、その場合は厳重に抗議をするという内容でございました。
 その後も、韓国側に対しては事実関係について累次問い合わせを行ってきましたけれども、今般、先ほど海上保安庁から御説明がありましたように、捜査の結果、この接触は、竹島に対する領有権を根拠とする韓国側の取り締まり行為の結果生じた可能性が高いと判断されるに至りました。これを踏まえまして、外務省といたしましては、在韓日本国大使館のハイレベル、可能な限り大使レベルで韓国側に対して厳重な抗議を行うように指示をいたしました。
 いずれにいたしましても、竹島については、これまであらゆる機会をとらえて我が国の立場を韓国側に申し入れる等、外交上の努力を積み重ねてきているわけでございまして、今回の事案につきましても引き続き、冷静に粘り強く対応をしていきたいと考えています。
石破委員 大臣のもとで外務省改革が着実に行われ、外交改革も着実に行われるということで私ども与党としても期待をいたし、支援をしてまいりたいと思っているのです。
 ただ、この問題に関して、漁民が正直どう言っているかというと、外務省は何もしてくれないというふうなのが実際、現場の漁民の声ですよ。私たちが幾ら、日本政府は一生懸命、毅然とした態度でやるんだと言っても、例えばこういう問題についてきちんとした回答が得られない限り、あるいは今大臣がおっしゃったように、竹島の領有権を根拠としてということであれば、そのようなことは我が国としては絶対に認められないことだと思っております。
 これがうやむやになってしまって、粘り強く慎重に、慎重にという言葉はなかったかな、粘り強く交渉していくという言葉がどこかでひっくり返って、そのうちうやむやにということにとられてしまったならば、これは外交に対する国民の支持を失うというふうに思っておるわけですね。
 もちろん、ソウルにおります大使を通じてでも結構ですが、大臣と韓国の外務大臣がお会いになることもあるでしょう。そういう場において、友好と、述べるべきことをきちんと述べるということは別の話だと思います。友好を図るということと主権をきちんと主張するということは別に矛盾することでも何でもなく、むしろ、主権をきちんとすることから友好というものは生まれるはずだというふうに考えておりますので、もう一度その辺についてお考えをいただければ幸いです。
川口国務大臣 委員のおっしゃるように、言うべきことをきちんと言う、そして友好関係は友好関係という考え方はおっしゃるとおりだと思います。言うべきことをきちんと言ったことによって相手との関係が壊れてしまう、そういうことではないと私は考えております。
 いずれにしても、この件につきましては、先ほど申し上げたような事情がわかったばかりでございますので、そして在韓日本国大使館に指示を出したところでございますので、その結果を待ちたいと思います。
石破委員 阿南大使にお尋ねをいたしたいと思います。
 今回の瀋陽の総領事館の問題、私は、もうだれがどうしたとか、そのようなことを申し上げるつもりは全くございません。ただ、あれをテレビで見たときに、何か妙だなという感じを持ちましたのは私だけではないだろうと思っております。別に私は、報道をうのみにするわけでは全くございませんし、そのような質問をすることは不見識であることは百も承知の上ですが、先般、某新聞に、北朝鮮の脱出者支援に対して米議会から資金が流入をした、アメリカのNPOを経由して韓国のNGOに対して資金が渡された、こういう報道がかなり大きくなされました。
 私は、この問題は、偶発的なものでもなくて、中国政府の思惑、合衆国政府の思惑、私どもの思惑、いろいろなものが絡み合って、その中で生じたものだろうというふうに思っております。合衆国がこのことについて、つまり、合衆国の領事館には亡命が成功したわけですよね、我が国においてはああいう形になったわけですよね。この問題を米中関係という視点からとらえた場合に、大変雑駁な質問で恐縮ですが、どのような印象を大使はお持ちになりますか。
阿南政府参考人 石破先生のお尋ねの中にありましたようなさまざまな情報を私どもも聞いておりますけれども、今先生がおっしゃいましたような米国と中国の関係をこういう事件からどういうふうに解釈するか、まずその事実関係も私ども確認はしていないわけでございますので、例えば、先生がおっしゃいました米議会からNGOへということも、もちろん議会としてということではないだろうと思いますし、これが米中関係全体にどういうインプリケーションを持つ、例えば米側にどういう意図があったかということは、申しわけございませんが、私、ちょっと今の段階ではにわかに判断ができません。
石破委員 それでは、先ほど午前中の質疑でもありましたが、脱北者なるものが一万とか二万とか三万とかそういうことで、ボートピープル、ランドピープルではないですが、ボートピープルとしてやってくるということも我々としては想定をしておかねばならない。ありとあらゆることを考えて対策は打たねばならない。インドシナ難民のときのような話には多分ならないだろうと思うし、こんなことは公の場で言うことではなくて、きちんとした議論を私どもも詰めていきたいと思っています。
 大使、一つお尋ねしたいのですけれども、あのときに中国は、我が国は難民というものは存在しない、こう言いましたね。なぜならば、難民条約には入っているが国内法がないからであって、そうであれば難民というのがないのは当たり前だ、こういう話になっちゃうわけです。
 これは、中国において難民条約に入っておるからにはその国内法もきちんとつくるべきではないだろうか、こういう議論があります。もちろん内政干渉するわけにもいきませんから、私どもの国がそういうことを言うのはおかしいのかもしれませんが、いわゆる難民に対する普遍的な原理というものは、これは条約に入っていようが入っていまいがそれは適用されるものでありますけれども、陸続きの中国において、そこに難民キャンプでもつくった場合には、私どもも支援もいたしましょう、金銭的な支援もいたしましょう、そして北朝鮮に平和が戻ってきたときにはすぐ帰れるようにいたしましょうというのが本来あるべき姿じゃないかというふうに私は思っているのですが、中国においてなぜそういうようなことがなされないとお考えですか。
阿南政府参考人 石破先生がおっしゃいました、中国に難民がいないという中国政府の、どういう認識か、これを私が御説明する立場にございませんが、難民条約の難民というのは、御案内のように、政治、宗教、人種等を理由に迫害を受けるというようなことでございますので、そういう定義に当てはまる難民ではないという認識を言ったんだろうと思います。
 また、こういう事態に直面をして、中国の国内に難民キャンプを設置するというようなことが、国際機関でありますUNHCR等も巻き込んでそういうことができないかどうか。これは、中国という国を考えればなかなか容易なことではないと思います。すなわち、中国政府がそういうことを受け入れるかどうかということ。考え方によっては、そういう安全弁、受け皿みたいなものがあれば、またそこを頼って出てくる人がふえるかもしれないというような、いろいろな考慮がございます。
 いずれにいたしましても、北京の大使館ということを考えますと、どの大使館にでも駆け込む可能性がある状況を考えますと関係国も多いわけでございますが、我々大使レベルでもそういうことを話し合ったりしておりますし、一度中国とも、個別のケースを離れてそういう話をしてみようじゃないかという意見もございます。
 ただ、最近はずうっと個別のケースが続いておりまして、その当事者は、自分のところの問題が解決するまでは全体で中国と話し合うのはもうちょっと待とうじゃないかというようなことで、まだやっていませんが、先生がおっしゃいますように、これは本当にだれが被害者というのか、中国もある意味では、中国のせいであるというわけでもございませんので、みんなで知恵を出し合って協議していく必要があると考えております。
石破委員 これはもし御感想があれば教えていただきたいのですが、あえてお答えは求めませんが、この冬、二月十九日、ブッシュ大統領が参議院の本会議場で演説をされた。その中でおやっと思ったのが、米国は台湾の人々への約束を決して忘れることはありません、この地域の人々、そしてあらゆる地域の友邦、同盟国を守るために効果的なミサイル防衛計画を推進します、こういう一言がありまして、台湾の人々への約束を決して忘れることはありませんというふうにぽんと言われたので、私はやや、おやっという感じを持ったのであります。
 この議論は昔、大使ともしたことがありますが、要するに、大統領選挙が行われ、そして国会議員の選挙が行われ、本当に民主的な手法によって国が運営をされるということが確立をされた。昔、国民党支配にあったときは、中国全体を、国民党政府のものなのか、北京政府のものなのか、というか支配するのかというような議論であったのが、私は何か変質を遂げたのではないかなという感じは持っている。
 このブッシュ大統領が指摘をしたのは、中国に対して、間違っても武力侵攻なんかしてはいけませんよ、台湾の皆さん方、安心しなさいね、日本もこの問題を忘れちゃいけませんよ、こういう三つの含意があったような気が私はしておるわけであります。
 中国と台湾との関係を考えるときに、一番いいのは、中国が台湾の国連加盟を賛成することでしょうね。そうすると台湾もハッピーだ、中国もハッピーだという話だが、そんなことをやったらもう中国の国内がもたないから、そういうような選択も多分ないのだろう。一番よくない選択は武力紛争であろう。そして、中国が物すごい石油の輸入国になった、人口の高齢化は物すごい。そういういろいろな要素を考えていきながら、日本の政策というのは決定をしていかねばならぬのじゃないだろうか。中国の思惑、アメリカの思惑、あるいはロシアの思惑、そういうものを全部総合的に考えていかないと本当の外交政策にはならないのだろうと思っています。
 ただ、この通常国会の議論を通じまして本当に思いましたのは、これはまた野党の皆様方とも議論をしなきゃいかぬことですが、この委員会において秘密会のあり方というのをどうするんだろう。こういう場で、世界じゅうにわかるような場で何でもかんでもしゃべっていいという話じゃない。外交機密もあるわけです。私は、この国会を通じて、秘密会の運営のあり方とか国家機密保護のあり方とか、そういうものをきちんと確立をしないと、本当の民主主義的な外交というものにはならないような気がいたした次第でございます。
 以上をもちまして質問を終わります。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、浅野勝人君。
浅野委員 二十分時間をいただきましたので、今場所最初で最後の質疑をさせていただきます。
 二十八年前のことになりますが、第二次田中内閣の外務大臣をおやりになった木村俊夫衆議院議員が、就任のあいさつの中で、外務省は外交のスペシャリティーに安住してはいけない、なぜなら外交は内政の延長線上にあるからだと述べております。
 川口大臣、どんな思いでこの言葉を受けとめられますか。
川口国務大臣 その木村外務大臣のおっしゃったことというのは、私は今初めて伺わせていただきましたけれども、内政と外交と、よく対にして言葉を使いますけれども、私は、内政と外交の関係というのは非常に密接でなければいけないと思っております。外交を支えるあるいは外交の方向を指し示すということのために、内政のあり方というのは非常に重要であると思いますし、また、外交、国際社会の状況、あるいはそこにおける日本国の対処のあり方というのは、内政にも影響を与える、当然与えなければいけない。密接な関係にあると私も思います。
浅野委員 松尾事件以来、外務省を取り巻く不祥事は目を覆う惨状です。毎日税金を扱っている、毎日税金を使わせていただいているという自覚があったら、起きるはずのない事件ばかりです。外務省は、ほかの役所と比べてその意識が薄いのではないかと私には感じられてなりません。私の指摘は間違っていますか。
川口国務大臣 外務省の予算を使うときに、国民の税金を使っていると考える意識がほかの省庁に比べてより希薄かどうかということについて、私は残念ながら比較をすることができないわけですけれども、私が民間企業に七年おりまして、そしてまた霞が関に戻って感じますことは、民間企業でお金を使っていく場合に、やはり、それは営業部門が一生懸命に努力をして稼いだお金であるということを思いながら使っていると思います。
 予算でいただいたお金を、その予算の要求のベースになった事業のために使っていくということに際して、民間企業でお金を使うときに感じているお金のありがたさというほどの意識があるいはないのかもしれない、そういう感想は持たないでもないということでございます。
浅野委員 中国には、在外公館が五つあります。訓令は、まず本省から北京の大使館に行って、そこから総領事館に伝えられるという仕組みにはなっていない。在外公館は横並びですから、在外公館がそれぞれ独立して直で本省とつながっている。これが外務省の仕組み、組織論だと私は承知をしております。
 そうすると、瀋陽の総領事館の不手際を理由に北京駐在の大使が処分されるというのは、組織論から見てどういうことになりますか。阿南大使が処分されたのは、本当の理由は何ですか。
川口国務大臣 まず、私は、例えば中国にある総領事館が、大使館を経由してではなくて直接に本省とつながっているという組織のあり方というのは、正しいだろうと思います。何か問題があったときに、今、民間企業でもできるだけ意思決定の距離を短く、できるだけ速くということで、フラットな組織ということが言われているわけでございまして、大使館を経由して本省につながるということは時間がかかるという結果になると私は思います。
 そこで、阿南大使の処分の問題で、そういうことで、本件については直接総領事館を指揮する関係にはなかったということでございます。
 それなのに何で処分をしたかということでございますけれども、まず、瀋陽で初動に当たっていた総領事館の副領事は、副領事の持っていた携帯電話が国際電話がかけられなかったという、これは今直しましたけれども、その当時はそういうことでございましたので、そういう制約があったので、中国大使館の幹部に連絡をして助言を仰いだということでございます。それで、そのときに、実際にそうであったよりはもっと適切な助言をすることができたのではないだろうか、そういうことでございます。
 それから、もう一件、これは午前中の御議論の中にも出ていましたけれども、阿南大使が高橋公使を通じて、事件の翌日に、岡崎総領事に対して、当時飛行機事故で大変になっていた大連に向けて行ってほしいという意向を伝えたということについては、結果として適切ではなかったのではないかと思うわけでございます。
 そういった点を踏まえて、阿南大使に対しては、外務省の内規によりまして、責任を持って職務の遂行に当たらなかった場合に該当するということで、厳重訓戒処分をいたしました。これに対しまして、阿南大使は、給与の二〇%、一カ月分を自主返納したいというふうにお申し出がありまして、そして、私はこれを受け入れることにしたわけでございます。
浅野委員 阿南大使、あなたは、大使館の内部の会議で、駆け込んでくる亡命者は追い返せと言ったんですか。
阿南政府参考人 五月八日の大使館の全体会議で、私がそういう表現を使ったということはございません。私がそのときに会議の席上話したことは、既に繰り返し申し上げておりますので、ここで再度申し上げることはいたしませんが、今の御質問のような、そういう表現で私が発言をしたことは一切ございません。
浅野委員 そうすると、ためにするような情報にねじ曲げられた中身が外に漏れたということになります。日ごろの信頼関係に危うさを感ぜざるを得ない。むしろその意味で、大使の責任は小さくないと指摘せざるを得ません。いかがですか。
阿南政府参考人 私も、館内の会議の内容が外に出たということについて、先生御指摘のような責任を感じております。
 他方、事実関係を申し上げれば、私がこの会議での発言をしたのが五月八日でございまして、それからほぼ一週間後にこういう報道が出たわけでございますので、その間に、どういう形で外に出て記事になったか。あの記事を拝見しますと、複数の館員が明らかにしたということでございますから、そういう事実があったのか、直接だれかが言ったのか、私はつまびらかにしておりませんが、私、大使として着任以来、五月現在で一年二カ月たっておりましたけれども、その間にはそういうようなことは一切なかったわけでございまして、私の発言があった数時間後に瀋陽総領事館事件というものが起きて、私の発言がそれと関連していたということで、恐らく一週間後に記事になったと思うのでございますが、いずれにいたしましても、館内の、内部の話が外に出たということにつきましては、私自身も責任を感じております。
浅野委員 外務大臣、G8の外相会議で、中国へ脱出してきた北朝鮮の人たちによる各国公館への駆け込みが最近ふえているので注意を要すると発言しておいでです。これは意味が私にはわからない。積極的に受け入れるべきだと言っているんですか、それとも、追い返すべきだとおっしゃったんですか。
川口国務大臣 G8の外相会議で、私は北朝鮮の問題についてお話をいたしております。これは、追い返すべきだとも、積極的に受け入れるべきだとも、そういう含意の発言ではございませんで、そういった北朝鮮の、恐らく背後にはそういう情勢がありますでしょうし、それへの影響も多々あるわけで、そういったことを含めてこの問題に注意をする必要がある、そういうことを言ったわけでございまして、それぞれの状況でその駆け込まれた大使館がどう対応するかというのは、もちろん各国の問題でございますから、私から何か申し上げる、そういう性格のことではないと思います。
浅野委員 そうすると、その発言の趣旨は、北朝鮮の国内情勢と隣国中国との関係、それにかかわる各国在外公館のありようについてそれぞれ注意をしたらよかろう、そんな意味ですか。
川口国務大臣 これはG8でございまして、世界じゅうの外務大臣、世界じゅうといいますか、世界に広がった国々の外務大臣が集まっているわけでございまして、全部がアジアの国というわけではないわけでございますね。ですから、それぞれの地域に起こっていることについて、こういう問題があるという議論をしたわけで、例えばバルカン情勢についても議論がなされているわけでございます。
 そういった中で、私は、アジアにある国として北朝鮮の情勢について注意を喚起したということでございまして、国際社会として北朝鮮側が諸懸念に対して前向きになるように働きかける必要があるとか、いろいろなことを申しております。
浅野委員 日中民間緑化協力委員会という国際機関があります。国際機関ですから、会計検査院はノーチェックだろうと思います。平成十一年度の予算が百億円で、そのうち七十五億円は事務局長の個人名義で国債や社債を買っている、残りの二十五億円はやはり事務局長の個人名義で定期預金をしていると聞いています。ただ、その裏づけになる材料を私は持っておりませんから、未確認情報ではありますけれども、言いたいことは、北方領土支援の二の舞にならないように、あらかじめ外務大臣に注意を喚起しておきます。
川口国務大臣 この団体につきましては、ほかの委員会であったかもしれませんけれども、前にお話も出ているわけでございまして、その先ほどの理事長名義の預金といいますのは、私の理解では、これは権利能力のない社団ということでございまして、日本の銀行に預金をするときに、法人格がある団体と違って、個人名でしなければいけない、そういうことのために、基金の、百億近くあったという記憶がございますけれども、それを理事長の個人名義で預けるということをせざるを得なかった。
 ただ、個人名義といっても、個人名義だけではございませんで、日中緑化のその団体の理事長の何々ということで預けていると私は聞いております。
浅野委員 個人名義であることが問題であると言っているんじゃなくて、この協会全体に対する運営その他について十分な目配りが必要だというつもりであります。
 モスクワの日本大使館の建てかえ工事は、つくる前から悪評どころの騒ぎではありません。テニスコートにサウナつきの室内温水プールは、外務省改革と取り組んでいるさなかにしては無神経に過ぎます。テニスをおやりになりたかったら、町のテニスコートへ行って思う存分されたらいい。泳ぎたかったら、お金を払って町のスポーツセンターに行って健康管理をなさったらよろしい。室内プールは火災の折に防火用水になるという説明に至っては、世間の物笑いになっております。
 温水プールは、在外公館百八十九のどこにもありません。公邸を含む在外公館施設三百七十八の中に二カ所、阿南さんのところもそのうちの一カ所ですから、ありがたいと思っていただいた方がいいと思いますけれども、二カ所あるだけです。現地の公使が八十七カ所あると記者会見で言っているのは、恐らく、屋外の普通のプールを数えて、指して言っているんだろうと思います。八十七カ所もあるから余計なことは言われたくないと言っているように聞こえて、鼻持ちならない。
 外務省改革の最も大切なことは意識改革にあると思っております。決められた予算を執行するのは、行政の裁量の範囲内のことですから、立法府がこれをとめることはできませんけれども、私は、こんな無神経なプランが実行に移されるまでの間に、考え直してみてはどうだろうか、手直しする必要はないだろうかと、省内でだれ一人指摘していないということは、驚き以外の何物でもありません。立法府が差しとめるとか、とめるということはできませんけれども、私個人は到底祝福することができません。なぜなら、日本じゅうの人たちが私と同じ思いを持っているからであります。
 外務大臣、それでもこのまま強行させますか。
川口国務大臣 このロシアの新しい大使館につきましては、ことしの二月に着工をして、十七年度中に完成予定ということであるようでございますが、どういう経緯を経て、設計あるいはその設備等について今のような形になったかという過程については、恐縮ですが、私はちょっと直接には存じませんが、問題とされていることが二つあるだろうと思います。
 一つは、百億円を超える工事の費用というのが高過ぎるのではないかということがあると思います。建設費用については、これは複数の業者から相見積もりをとっておりまして、そして、競争をして決めたということでございまして、低減化には努めておりますけれども、モスクワには若干の特殊性がございまして、そういうことでいきますと、我が国の大使館を他の国につくる場合と比べて高いことにならざるを得ない事情があるということをまず申し上げたいと思います。
 簡単に幾つか申し上げたいと思いますが、一つは、秘密保持、セキュリティー対策が必要であるということでございまして、これをきちんとすることが重要ですので、建物は、例えば構造を、盗聴防止という観点から鉄筋コンクリートではなくて鉄骨構造にしているということで高くなる。あるいは、壁とか床材の建材をエックス線で透視して検査をしている等々のことがございまして、例えば、秘密保持を全く考慮しないで建設をする場合と比べると四五%ぐらい高くなるという話もございます。
 それからもう一つは、同じようなことですけれども、資機材を第三国で調達しなければいけない。これは、性能が満たされるかどうかといったようなこと、あるいは、ロシアの国内で調達ができない、そういったことで高くなる。例えば、九九年にモスクワで英国大使館がつくられていますけれども、規模としては我が国の大使館と大体同じ水準ですけれども、総工事費は少なくとも六千万ポンド以上ということで、これは当時の為替レートでいうと百億円以上ということになりますので、金額的にいえばそういうことにならざるを得ないということでございます。
 それから、その次にございますのが、プールとかサウナとかテニスコートとか、そういうことが大使館の持つ設備としてぜいたくではないか、そういう御批判があるかと思います。それについて、これは今まで申し上げさせていただいているところの繰り返しになりますし、委員がそういう理由は賛成できないというふうにおっしゃられましたので繰り返しませんが、基本的には、モスクワが寒いというところで、ほかの国のように屋外にプールを設けることができないというような事情もございますし、館員の健康が重要であるということもございますし、それから、先ほどおっしゃいましたけれども……(浅野委員「わかった」と呼ぶ)というようなことがございます。
 いずれにいたしましても、事務所に設置のプールというのは在留邦人の方に利用していただくことも考えていますし、現に生活用水として活用されたというケースも湾岸危機の際にはあったわけでございます。
 考え方についてはこういうことで申しましたけれども、いずれにしても、経費節減ということが非常に重要であるということは申すまでもないということでございますので、現在経費節減の検討を進めているということでございますので、プールについても最終決定を行ったということではないということでございます。
浅野委員 私が伺っていることは、秘密の保持がどうでもいいとかそんなことを言っているんじゃなくて、せっかく外務省改革に取り組んでいる、その姿勢の延長線上にそういう課題はあるんですよということを御指摘しているので、外務大臣のような清廉な頭のいい方は、今のような答弁を役人が書いたからせざるを得ないかもしれませんけれども、よくお考えいただいて、今のような答弁を全部覆す高度の政治的判断をされるのがあなたのお立場だろう、そういうふうに感じます。
 お金のことが出たから、ちょっと時間が来ちゃったけれども、今場所最初で最後だからちょっと許してくださいね。
 大臣、私、中部ヨーロッパのスロバキアという小さな国の議連の会長をやっているんですよ。三十数カ国大使館があるのに日本大使館がなかったものだから、一生懸命努力して、ことしの一月、三十数カ国目、やっと――プラハは世界じゅう、首都の名前を知っているけれども、スロバキアの首都の名前は外交官だって知らないんですよ。そんな小さな国。二、三億あると、まだ土地が安いから大使館がいいのが建てられるというんだけれども、どうしても予算がないということで、それでも家賃二百万円で古いビルを借りて、この一月にブラチスラバに日本大使館がスタートしたんです。百億というと三百三十年分の家賃だということだけは頭の中に置いていただきたいと思います。
 長くなりましたけれども、国家が中心で奪い合った二十世紀から、個人と世界が単位になって分かち合おうとする二十一世紀を目指す中で、外交官の存在というのは一層大切になってくるだけに意識の改革が求められているということは、私自身への戒め、自戒の念を含めて、私は改めて外務省に自覚を促しておきたいと存じます。
 最後に、吉田委員長に委員会運営に対する深い配慮と御苦労に深甚なる謝意と敬意を表して、質問を終わります。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、上田勇君。
上田(勇)委員 公明党の上田でございます。
 今度の国会の最後の質疑になるかというふうに思いますけれども、きょうは阿南中国大使にもお越しをいただきまして、瀋陽事件などを中心といたしまして何点か質問させていただきたいというふうに思っております。限られた時間でございますので、通告を申し上げました質問を全部はカバーできないかというふうには思いますけれども、どうかよろしくお願いをいたします。
 まず初めに、これは大臣の方にお伺いをしたいというふうに思うんですけれども、瀋陽事件では、その後、事件が起こった後で、在外公館における対応ぶりの問題であるとか、それから中国政府のウィーン条約違反の問題、それとの交渉の問題などが大きな話題になってきたんですけれども、ただ私は、今申し上げたような問題も非常に重要ではあるんですけれども、今回の事件が提起している本質的な問題というのは、北朝鮮での生活に耐えかねて国から脱出してきているたくさんの人々がいるんだ、こうした事態に対して、日本もそうですし、国際社会がどう対応するのかというようなことが今回の事件が提起している問題なんではないかというふうに思います。
 危険を冒して総領事館に駆け込んだ五人の人も、また、その映像を映していてそれを世界じゅうに配信した人たちも、こうした悲惨な現実、あるいは中国政府の対応といったことを、日本を含む国際社会にもっと関心を持ってもらって、これに関与してほしいというメッセージを送りたかったんではないのかなというふうに感じているわけであります。
 中国国内には今、いろいろな報道によりますと、二十万人とも三十万人とも言われる北朝鮮からの脱出者、いわゆる脱北者がいるというふうに言われております。中国側は脱北者に対する取り締まりを強化したいと言っているというふうに聞いておりますけれども、これが送還されると、大変厳しい刑罰を受けたり、場合によっては命の安全すら危険にさらされるとも言われておりますし、本国での大変な困窮から、またその迫害から逃れてきた人たちを追い返すというようなことというのは、人道上大変な問題があるというふうに思っております。
 そういう意味で、我が国としては、今、こうした中国の対応についてどのように考えているのか、そして、現実にこうした多くの人たちが命からがら北朝鮮から脱出してこなければいけないというような事態に対してどういうふうに考えているのか、また、中国に対してどういうような我が国としての立場の表明を行っているのか、お伺いをしたいというふうに思います。
川口国務大臣 北朝鮮の状況といいますのは、これはなかなか不透明なところが多うございまして、どういう状況になっているのかは必ずしも明確にはわからないわけでございますけれども、大勢の、何万あるいは何十万と言われる脱北者が中国に出てきているという状況は、それなりに、食糧あるいは経済といった面で不安定要因が非常にあるのではないかと思います。
 そういった状況にあるということはサミット等の場で私は話をしたということを先ほども申しましたけれども、この脱北者の問題に対してどういうふうに対応したらいいかということは、今までも関係の国の間で集まって話はしているわけでございます。また、それぞれの国が全体としてどういう役割を果たしながら問題を解決したらいいのかということについても、これはそれぞれの国ごとに違う部分もあると思いますが、引き続き話をしていく必要があると思います。
 中国との関係では、これは中国にとっては難民というよりはむしろ不法に中国に入ってきた人たちという立場もあるわけでございまして、中国ともこの問題については話をしたということもございますし、いずれにしても、たくさんの関係の国々でかかわって話し合っていく必要がある問題だと認識しています。
上田(勇)委員 関心を持っていただいて、いろいろな場で問題を提起していただいているということはわかりましたけれども、今回の事件というのは、私は、いろいろとその後の報道とか見ていて、やはり北朝鮮の今の状態というのが、もう故国を捨てて逃げざるを得ないような大変厳しい状況になっている、そういう人たちが何十万人も何百万人も実際北朝鮮にいるということを我々は改めて知らされたんじゃないかというふうに思います。
 今、いろいろと関係国と協議をする、これも大切なことだというふうには思いますし、また、それぞれの国、特にやはり中国の場合には国境も接しているし今までのいろいろな歴史的な経緯もあるので、いろいろな立場があるということもよくわかりますけれども、じゃ、このまま放置しておいていいのかということが今国際社会に問われているんじゃないかというふうに思うんですね。
 ですから、我が国も、そういう意味では、直接国境を接しているわけではありませんけれども、同じ北東アジアの地域の中で、この問題というのはやはりこの地域の安定のためにも重要なことですし、今北朝鮮の中で苦しんでいる多くの人たちというのは、中国に対してもまた日本に対しても、やはり何とかしてほしい、救済してほしい、手を差し伸べてほしいという気持ちを訴えようとしているんじゃないかなというふうに思うんで、もう少し我が国としてもしっかりとこの問題、これはどうしても韓国や中国との連携なしにはできないことでありますけれども、ぜひ積極的にかかわっていかなければいけないんじゃないのかなというふうに思っているわけであります。
 そういう意味で、今、まずはいろいろと協議をしなければいけないということもよくわかります、国際世論をもっと喚起していかなければいけないということもよくわかるんですが、本当に日本のすぐ近くにある国の話でありますので、ぜひもっと積極的なかかわりをしていただきたいというふうにお願い申し上げる次第でございます。
 そして、もう一つ、もうちょっとこれは大きな話になってしまうんですが、いわゆる脱北者の人たちが出てくるというのは、今申し上げたように、北朝鮮の中の経済がもう極めて困窮している、そして今の政治体制のもとではそうした経済をきちんと直すというようなことがほぼ難しいというのが現実なんではないかというふうに思います。
 そうした今の経済を立て直して政治体制を改めていかなければいけないわけでありますけれども、日本も、それから韓国も、当然中国も、近隣諸国として、この地域の安定というのは当然我が国の国益にもかなうことでありますし、こういう近隣諸国の一つとして、主要国の一つとして、この北朝鮮のあり方の問題を、そうした北朝鮮の人々を救済していく、そういう努力をしていくということは我が国にとっても大きな責任なんではないかというふうに思うわけであります。
 そういうことで、ちょっと大きな、漠然とした言い方で申しわけないんですけれども、我が国として、こうした北朝鮮の政治システムの改革や経済の再建のためにどういう姿勢で取り組んでいくべきなのか、また、北朝鮮に対して最も影響力があると言われている中国に対しては、どういうような働きかけを行っているのか、あるいはこれから行おうとしているのか、見解をお願いいたします。
川口国務大臣 北朝鮮との間には、我が国は安全保障上の問題、人道上の問題、さまざまな問題があるわけでございます。
 今回、私がARF、PMC出席のためにブルネイに行く折に、北朝鮮の白南淳外務大臣とお会いして、お話をする機会を持つことになりました。こういった場で、我が国としては、我が国と北朝鮮との間の国交正常化の問題について議論をし、それから我が国の朝鮮半島における緊張緩和についての考え方についても話をし、そして我が国と北朝鮮の間の諸懸案についても話をするということをしたいと思っています。
 北朝鮮に対しては、米国やあるいは南との対話を進めるということが大事で、それによって朝鮮半島の緊張緩和をして、南との間で民族の、同じ民族であるわけですから、対話を持っていくということが大事だということも働きかけたいと思っております。
 そうした努力を通じて、これは日本だけではなくてほかの国も同じことを考えているわけですけれども、国際社会の一員として行動するという形に北朝鮮がなるということが望ましいと思っています。中国も同じように考えていると私は思っています。
上田(勇)委員 いろいろと各国と協議をしていくということも非常に大切であります。ただ、この問題について、日本としてどういうふうにしたいのか、どうあるべきなのかというようなスタンスももっと明確にして、この問題に積極的に関与をしていくべきではないのかなというふうに思いますので、その点、お願いをしたいというふうに思います。
 阿南大使にお伺いをしたいというふうに思います。
 これは報道でございますけれども、大使が、本年四月の館内の定例会議において、経済担当者がまとめた楽観的な中国マクロ経済の報告に対して、こんな書き方ならODAがなくてもいいということになるとの趣旨の発言を行って、修正を指示したというふうに報じられております。
 この発言がもし事実とすれば、これはODAの予算を確保するために経済の実態を偽って報告するというようなことを指示していたということにも受けとめられるわけであります。
 もちろん、ODAを供与するかどうかという判断というのは、経済状態、そういう客観的なデータだけじゃなくて、いろいろな外交的な要素を含めた上で判断される。それはもう当然であるし、むしろそうあるべきなんですけれども、だからといって、一番客観的な情報を持っている在外公館、一番情報量が豊富な在外公館が集めたデータ、それを偽って報告するというようなことがあるとすれば、それはいろいろ政策判断の方法として誤り、非常にとんでもない話だというふうに思うわけであります。
 そういう意味で、これも、これまでこの委員会でも何回も取り上げられてきた問題ではありますが、きょうは大使に来ていただいていますので、ぜひ、この発言の真意をお伺いしたいというふうに思います。
阿南政府参考人 中国に対するODA供与につきましては、国内にさまざまな御意見があるわけでございますが、その中の一つとして、中国は非常に経済が順調である、既に相当のレベルに発展している、したがって、そういう国にいつまで日本がODAを供与するのかという一つ大きな論点があると思います。
 私は、この館内の会議で意見を言いました。それは、むしろ今委員がおっしゃったのと逆に、中国の経済というものを、私の目から見ると、非常にただ数字だけで分析したような報告が出てきたものでございますから、まさに大使館という第一線にいる人間が、東京でもどこでも手に入るような数字だけで中国の経済の実態を分析、判断するべきではない、せっかく中国の現場にいるわけですから、もっといろいろな角度から中国経済の実態をしっかりと判断しなくちゃいかぬ、そういうことを言ったわけでございまして、これは委員もおっしゃいましたように、こういう判断でODA全体が変わるというようなことではないと思いますが、私はむしろ、中国経済の実態、実像というものをあらゆる角度からしっかりと、できるだけ実像に近いものを把握する努力をするのが大使館の任務だということを館員にも話した、そういうことでございます。
上田(勇)委員 大使は、対中国のODAが外交上の重要な役割を果たしているという認識だろうというふうに今受けとめたんですけれども、じゃ、この中国に対するODAがどういうような効果を上げているのかというようなことはやはり検証する必要があるんじゃないかというふうに思います。
 今、御承知のとおり、我が国の財政事情が非常に逼迫している中で、中国の経済成長に伴ういろいろな通商問題なども起きております。中国の軍備増強などというような問題もあるわけでありますし、ちょっと今話も出ましたけれども、中国が他の国に対するODAを行っているというような現状もある中で、やはりその中国に対するODAを減額すべきではないかという世論が非常に高まっているわけであります。多分、中長期的にはそういう傾向にならざるを得ないんだろうというふうには思うんですが、ただ、そうなると、この対中外交についていろいろな影響が出ることも考えられるわけであります。
 そこで、中国に対して我が国がずっとODAを供与してきたことによって、対中外交にどういうような効果が上がってきたのか。また、これからそれが減額されることになると、外交上どういう影響が出てくるのか。できれば具体的に御説明をいただければというふうに思います。
阿南政府参考人 対中国ODA供与が外交面で具体的にどういう成果を上げてきたかということでございますが、私、中国各地で日本の経済協力に対する謝辞が聞かれますというようなことを申し上げたことがございますが、それは、支援をもらった方が感謝するのは当たり前だ、外交面でどういう実際の効果があらわれたかということについてどう思うかということを再度御質問いただいたようなこともございます。
 これは、なかなか目に見える形でどういうふうに御説明したらいいかわかりませんが、中国への経済協力というのは今から二十年前に始まったわけでございますが、中国が経済的にも政治的にも安定した存在になるということが日本にとって国益だ、こういう観点から当時の日本の指導者が判断されたと思いますけれども、そういう意味で、中国は、改革・開放政策を進めて一応の経済レベルに達しようとしております。
 それで、中国は今、アメリカとの関係も大変重視はしておりますが、私は、日本との関係を近年非常に重視しているというふうに感じておりまして、それは、中国の外交でございますから、日本だけに偏るというようなことはないと思いますし、いろいろな思惑があるかと思いますが、少なくとも中国は対日重視姿勢というものを明確にしている。それは、日本が一貫して中国の改革・開放政策を支持した、そのことに対する評価だと思います。
 そういうことで、その改革・開放政策支持ということの具体的柱であったODA供与というものは、外交面での成果であったと言うことができると私は思っています。
 また、これが将来減額された場合、どういうふうな影響が外交面で出てくるか。これは既に、御案内のように減額をいたしましたが、日本の経済事情、財政事情から対中ODAの量がある程度減ってくる、こういうことについては中国の方も問題なく理解しているわけでございますので、そういうことであれば、それでいきなり対日感情が悪くなるとか、対日重視の姿勢が変わるとか、そういう影響が出るというふうには考えられません。
上田(勇)委員 もう時間が参りましたので、これで終わりますけれども、いろいろと今中国に対するODAについての世論が大変厳しい中で、やはり、どういう効果が上がるのか、どういう影響があるのか、我が国にとっての国益にはどういうものがあるのかということがもっとはっきりわかってこないと、なかなかそれに対する国民的支持が得られないんじゃないかというふうに思います。
 私自身も、何となく、今の日本と中国との関係の中において必要な分野というのはあるんだろう、やはり日本が支援していかなければいけない、協力していかなければいけない分野はあるんだろうというふうには感じますし、そういう意味では、乱暴な対中ODA削減ということにはくみするものではないんですけれども、ただ、やはり、いろいろな今の諸状況を考えたときに、それを国民に御理解をいただくというのは大変難しい環境にあるというのは、ぜひ考えていただきたいというふうに思っております。
 外務省も、昨年秋ですか、対中ODAの見直しを発表したところであります。私は、むしろそこに示されておることをもっと角度をつけてもいいんじゃないのかなというふうに思います。日本に対して直接被害が及んでいるような酸性雨とか黄砂みたいな環境問題、そういったことには力を入れるだとか、また、地域的にも、中国の政治的な不安定要因になっているような少数民族が居住しているようなところの経済開発といったところにはもっと力を入れるとか、そういう意味では、方向としては私も正しい方向だというふうに思いますので、もっとそういう意味での角度をつけた方が理解が得られやすいし、効果的な援助になるんではないのかなというふうに思っております。
 これは引き続きいろいろなところでまたいろいろと意見交換させていただければというふうに思いますので、これで終わらせていただきます。ありがとうございました。
吉田委員長 各委員の質疑は終了いたしました。
 次回は、来る七月三十一日水曜日に委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後二時三十八分散会


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