衆議院

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第28号 平成14年10月10日(木曜日)

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平成十四年十月十日(木曜日)
    午後二時開議
 出席委員
   委員長 吉田 公一君
   理事 浅野 勝人君 理事 中川 正春君
   理事 上田  勇君 理事 土田 龍司君
      今村 雅弘君    大木  浩君
      高村 正彦君    新藤 義孝君
      武部  勤君    土屋 品子君
      中本 太衛君    丹羽 雄哉君
      馳   浩君    松島みどり君
      松宮  勲君    水野 賢一君
      宮澤 洋一君    伊藤 英成君
      金子善次郎君    木下  厚君
      桑原  豊君    前田 雄吉君
      丸谷 佳織君    東  祥三君
      松本 善明君    東門美津子君
      松浪健四郎君    鹿野 道彦君
      柿澤 弘治君
    …………………………………
   外務大臣         川口 順子君
   内閣官房副長官      安倍 晋三君
   外務副大臣        茂木 敏充君
   外務副大臣        矢野 哲朗君
   外務大臣政務官      新藤 義孝君
   外務大臣政務官      土屋 品子君
   外務大臣政務官      日出 英輔君
   政府参考人
   (警察庁警備局長)    奥村萬壽雄君
   政府参考人
   (法務省人権擁護局長)  吉戒 修一君
   政府参考人
   (法務省入国管理局長)  増田 暢也君
   政府参考人
   (外務省大臣官房参事官) 齋木 昭隆君
   政府参考人
   (外務省大臣官房参事官) 長嶺 安政君
   政府参考人
   (外務省アジア大洋州局長
   )            田中  均君
   政府参考人
   (外務省条約局長)    林  景一君
   外務委員会専門員     辻本  甫君
    ―――――――――――――
委員の異動
九月三十日
 辞任         補欠選任
  石破  茂君     大木  浩君
  原田 義昭君     武部  勤君
  細田 博之君     虎島 和夫君
十月二日
 辞任         補欠選任
  小坂 憲次君     佐田玄一郎君
  虎島 和夫君     杉浦 正健君
同月四日
 辞任         補欠選任
  佐田玄一郎君     新藤 義孝君
  西川 公也君     佐藤 静雄君
  望月 義夫君     土屋 品子君
同月八日
 辞任         補欠選任
  佐藤 静雄君     松宮  勲君
同月十日
 辞任         補欠選任
  杉浦 正健君     松島みどり君
  土田 龍司君     東  祥三君
同日
 辞任         補欠選任
  松島みどり君     馳   浩君
  東  祥三君     土田 龍司君
同日
 辞任         補欠選任
  馳   浩君     杉浦 正健君
同日
 理事土田龍司君同日委員辞任につき、その補欠として土田龍司君が理事に当選した。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 理事の補欠選任
 政府参考人出頭要求に関する件
 国際情勢に関する件


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     ――――◇―――――
吉田委員長 これより会議を開きます。
 この際、茂木外務副大臣、矢野外務副大臣、新藤外務大臣政務官、土屋外務大臣政務官及び日出外務大臣政務官から、それぞれ就任の発言を求められておりますので、順次これを許します。最初に、短くでありますが、外務副大臣茂木敏充君。
茂木副大臣 このたび、外務副大臣を拝命いたしました茂木敏充でございます。
 現在の我が国外交、重要な課題が山積をいたしております。矢野副大臣そして政務官ともども川口外務大臣を支え、外務省の改革そして力強い外交の推進に取り組んでまいりたいと考えております。
 短くという話でありますが、吉田委員長を初め外務委員会の先生方の御指導、御協力、心よりお願いを申し上げます。(拍手)
吉田委員長 次に、外務副大臣矢野哲朗君。
矢野副大臣 このたび、外務副大臣を拝命いたしました矢野哲朗でございます。
 大変問題山積する中での今回の拝命であります。責任の重さを重々感じつつ、川口大臣が総合的な外交、先見性のある外交、創造的な外交を目指しておりますけれども、茂木副大臣、三人の政務官ともども一つになって支えていきたいと存じます。
 吉田委員長を初め委員会の各先生方の御指導、御鞭撻を心からお願いを申し上げます。(拍手)
吉田委員長 次に、外務大臣政務官新藤義孝君。
新藤大臣政務官 このたび、外務大臣政務官を拝命いたしました新藤義孝でございます。
 我が国の外交に対する当面の課題、たくさん山積をしております。一方でまた、国民からの期待も大きくいただいているのではないかな、このように思っております。ぜひ、そうしたもとで、川口大臣を中心にして、茂木、矢野両副大臣に御指導いただき、我々政務官、精いっぱい働かせていただきたいと思っておりますので、どうぞ委員の皆様方そして吉田委員長様の御指導、御鞭撻を賜りますようにお願いを申し上げます。
 ありがとうございました。(拍手)
吉田委員長 次に、外務大臣政務官土屋品子君。
土屋大臣政務官 このたび、外務大臣政務官に就任いたしました土屋品子でございます。吉田委員長を初め委員の皆様に一言ごあいさつ申し上げます。
 我が国を初めとする国際社会がさまざまな課題を抱えている今日において、私は、外務省が一丸となって国益のために邁進できるよう、川口大臣の指導のもと、外務大臣政務官としての職務に全力で取り組んでいく考えです。
 吉田委員長を初め本委員会の皆様の温かい御指導と御協力をいただけますよう心よりお願い申し上げます。(拍手)
吉田委員長 次に、外務大臣政務官日出英輔君。
日出大臣政務官 このたび、外務大臣政務官に就任いたしました日出英輔でございます。吉田委員長を初め委員の皆様方に一言ごあいさつ申し上げます。
 外務省に対します国民の信頼を回復いたしまして、国益に沿った力強い外交が展開できますように、川口大臣指導のもとに、外務大臣政務官として全力をもって取り組んでまいる所存でございます。
 吉田委員長を初め本委員会の皆様方の温かい御指導と御協力をいただけますようよろしくお願いを申し上げます。
 ありがとうございました。(拍手)
     ――――◇―――――
吉田委員長 次に、国際情勢に関する件について調査を進めます。
 この際、お諮りいたします。
 本件調査のため、本日、政府参考人として外務省大臣官房参事官齋木昭隆君、大臣官房参事官長嶺安政君、アジア大洋州局長田中均君、条約局長林景一君、警察庁警備局長奥村萬壽雄君、法務省人権擁護局長吉戒修一君、入国管理局長増田暢也君の出席を求め、それぞれ説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
吉田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。最初に、浅野勝人君。
浅野委員 平壌宣言は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決して、地域の平和と安定に寄与すると述べております。不幸な過去の清算という命題が極めて高いハードルだとかねてから私は思っておりましたので、二条で、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。」と述べることによって、歴史認識の相違が一挙に克服されたことについて意外な感を持ちました。これは平成十年十月の日韓東京宣言の表現と全く同じでありまして、北がよくのんだと、外交交渉として高く評価できると私は思っているのです。
 ところが、東京宣言は、小渕総理の反省とおわびに対して、金大中大統領がこれを評価し、過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と友好に基づく未来志向的な関係に発展させると受けているんですが、平壌宣言では朝鮮民主主義人民共和国の認識が一切書かれていないので、具体的な様子が全くわからない。首脳会談に至る一連の折衝の中で、北朝鮮は歴史認識にどのような反応を示したのですか。
田中政府参考人 お答えを申し上げます。
 委員が御指摘になりました日朝の平壌宣言でございますけれども、この前文の中に、「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した」ということ。それから、パラグラフの一で、「この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させる」ということでございます。
 したがって、北朝鮮の認識として、不幸な過去の清算ということ、これは委員御指摘のとおり二の冒頭に書いてあるところでございますが、これのみならず、懸案事項を解決する、こういうことはまさに日本の主張でございまして、北朝鮮としても宣言の上ではこれをのんでいる。国交正常化というのも、こういう精神、基本原則に従った正常化であるということでございます。
浅野委員 平壌市内にある朝鮮労働党三号庁舎と呼ばれる大きな建物に、党中央委員会の対外連絡部、対外情報調査部、作戦部、統一戦線部の四つの部署が入っていると言われております。このうち作戦部は、工作員を日本や韓国へ送り込む潜入と移送を専門に行う部署ですから、恐らくこの作戦部が実際に日本人拉致を指示した、指揮したと推定されます。
 首脳会談で金正日総書記は、拉致事件は私の知らないところで起きたことと述べて、みずからの関与を否定しております。しかし、党中央委員会は総書記が主宰する最高意思決定機関ですから、そこでの論議をトップが知らないということは想定しにくいと思います。
 そして、朝鮮半島の情報に詳しいある研究所によると、工作員を日本人に成り済まさせるために、日本の町並みを再現し、日常の会話に加え生活習慣を教える日本人村が平壌市の郊外にあって、かなりの日本人が教育係をしているということであります。この情報筋は、拉致された日本人は最終的には三けたに上るのではないかと推定しています。
 平壌宣言はまさに、今政府側から指摘のあったとおり、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとると言っているわけですから、国交正常化交渉を始める前に納得のいく拉致リストの全貌を明らかにすべきである、それが明確にならない限り、日程は一たん決めたけれども、入りたくても交渉に入るわけにはいかぬ、そのぐらいの要求はすべきじゃないですか。
田中政府参考人 委員御指摘の拉致問題にかかわることでございますけれども、御案内のとおり、北朝鮮は過去一度たりとも拉致ということを認めたことがございませんでした。十数年にわたって、正常化交渉の中においても何回も問題提起をしましたけれども、拉致というものは存在をしない、行方不明者の問題として調査をすることはすると、そういっても結果的には、調査の結果、そういうものはないというような答えをしてきたわけでございます。
 したがって、今回におきましては、水面下の接触におきましても、何とか拉致問題を正面から認めさせて、安否について全貌を明らかにするということを繰り返し繰り返し求めてきた次第でございます。総理自身も、そういう問題をまず解明するという非常に強いお気持ちを持たれてピョンヤンに行かれて、日朝の首脳会談によって、初めて北朝鮮が拉致の問題を認め、謝罪をしたということでございます。
 ですから、政府といたしましても、日朝首脳会談に基づいて徹底的な真相の解明をやっていくということでございますし、その後の調査団の派遣、あるいは今回の生存者の方々の帰国、こういうことで、現在も調査団の収集しました資料に基づきまして、先方が言っていることの整合性、不明な点、精査をして、一つ一つきちんと事実の解明というのをやっていくということでございます。
 他方において、正常化交渉、これはまさに入り口でございます。いろいろな意味で平壌宣言はその具体的な前提が書かれている。まさにそういうものにのっとって、交渉の場がないと、なかなか交渉すべきことについてきちんと交渉ができないという点もございます。したがって、交渉の場を通じても、この拉致問題の事実関係の解明、それから問題の解決、こういうことに最優先で取り組んでいくというのが政府の方針でございます。
浅野委員 九月二十日の外務委員会で、「北朝鮮が死亡したと発表した八人は、いずれも病死または災害死と説明されています。本当はほかの死因ではないかと推定される、断片的ですが、信憑性の高い情報を入手しています。同じ日に二人が死亡したという不自然さを含めて、」どう分析をしておりますかと私は発言をいたしました。
 その後、自殺者が判明したり、そのほかの死因が公然と議論されるようになりましたが、あの時点であえて指摘したのは、自決した人が何人かいるという、未確認とはいえ信憑性の高い情報をことし前半のある時期に入手していたからであります。
 年月日までは不明ですが、かつて、拉致された日本人が再教育される場で、日本人がみんなで日本の歌、「故郷」を歌っていた。「兎追いしかの山」と涙ながらに繰り返し歌っていたが、そのことが先方をいたく刺激して、よくない状況を招いたようだというたぐいの具体的な情報を含めて聞いておりましたので、病死あるいは災害死という北朝鮮の当初の説明にあの時点で疑問を呈しました。
 拉致を認めさせ、双方が交渉のテーブルに着くことは、北東アジアの平和と安全にとって極めて重要なこと、成果だと評価をいたしますが、日本の国土から多くの日本人が連れ去られたという重大事件をあいまいにしたまま交渉の進展はあり得ない、その基本方針だけは堅持するように求めておきます。副大臣の決意を伺います。
茂木副大臣 浅野委員の御質問はいつも予算委員会等々でも拝聴いたしておりまして、きょうの御質問でも、まさに情報の分析であったりとか、それから調査のプロだな、こういう思いを持っておりますが、今回の拉致問題につきまして、そういった御指摘も受けまして、政府として調査団を派遣させていただいた。
 そして、今回の調査結果報告につきましては、特に死亡したとされる方々について、死亡を特定するのにはさらに具体的な情報が必要である、こんなふうに思っておりまして、北朝鮮に対しましても、関連文書を含みまして、詳細な資料の提供をさらに求めているところであります。
 また、委員御指摘のように、この真相解明問題を含め拉致問題を、再開される日朝国交正常化交渉の最優先問題として今後とも進めていきたい、このように考えております。
浅野委員 終わります。
吉田委員長 次に、上田勇君。
上田(勇)委員 公明党の上田でございます。
 きょうは、拉致問題について、短時間でありますが、何点か質問させていただきます。
 これまで、北朝鮮側から拉致事件に関しましていろいろな情報が提供されておりますけれども、これらの情報は、死亡したとされる年月日、それ以降に目撃証言があったり、あるいはいろいろな不自然な点があるというようなことで、マスコミ等でも疑問が提起されているわけであります。確かに、普通に考えるとにわかに信じがたいような内容があったりというのが私も率直に感じるところでありますし、先日、新聞に出ていました世論調査でも、国民の八八%が信用できないというような調査結果もございます。
 そこで、ちょっと率直なところをお伺いしたいんですが、政府として、北朝鮮からこういうふうにもたらされている情報をどの程度信用ができるものだというふうに認識されているのか、御認識を伺いたいというふうに思います。
茂木副大臣 上田委員の方から率直な御質問をいただいたわけでありますが、北朝鮮から提供された情報が現時点で十分かと言われれば、決してそのように我々は考えておりません。また、多くの国民もそのように認識していると思っております。
 また、先ほど申し上げましたように、今回、調査団を派遣させていただきまして、その調査結果内容につきましても、政府としては、特に死亡したとされる方々について、死亡を特定するのにはさらに具体的な情報が必要であると考えているところであります。
 現在、今回の調査チームが持ち帰ってきました種々のデータの分析であったり鑑定を実施しているところでありまして、また、北朝鮮に対しまして、引き続き、関連文書を含みますさらに詳細な資料の提供を強く求めているところであります。
上田(勇)委員 つまり、政府としても、現時点でもたらされているさまざまな情報、これだけでは到底納得のいくところまでは進んでいないという認識ではなかったかというふうに思いますけれども、そうした中で、この月末、二十九日、三十日、マレーシアで国交正常化交渉の再開の会合が開かれるということが決まりまして、政府としてもこの拉致問題を諸懸案の最優先事項として取り上げる方針というふうに伺いまして、これも当然のことであるというふうに思います。
 他方、北朝鮮側の一番の関心事項というのは、私は、これは日本からの経済協力の内容とか規模というような点にあるんじゃないかというふうに思います。もちろん、平壌宣言においても、この経済協力というのが重要議題の一つとして合意されているのはそうなんですが、しかし、今副大臣からもお話がありましたけれども、この拉致問題について、今の状況というのは納得できる状況にはないということでありますので、そうした中で経済協力に関する交渉を始めるというのは、これは私は適当ではないというふうに考えますし、また、国民の理解もなかなか得られないのではないかというふうに考えるところであります。
 先ほどちょっと申し上げました世論調査においてなんですが、実に四三%の人が今月からの交渉を再開することには反対している。これは、私が推測するに、やはり、交渉が再開すると、そうした経済協力みたいな話になってくるんではないか、この拉致問題が解決しないままそういうような話にずるずると引き込まれることについては慎重であるべきじゃないかという国民の意見ではないかというふうに思うんです。
 そういう意味で、この拉致問題について今後相当な進展がない限り、やはり経済協力の交渉ということは始めるべきではないというふうに考えますし、また、これから二十日間ほど残っているわけでありますけれども、その間にこの拉致事件の真相解明についてどういうような取り組みをされるお考えなのか、お伺いしたいというふうに思います。
茂木副大臣 委員の方から、今後の交渉の大きな枠組み、特に経済協力の問題も含めて御指摘をいただいたわけでありますが、何にいたしましても、この拉致問題の解決を国交正常化交渉の最優先課題としていく、同時に、この真相解明に全力を尽くしながら、拉致の被害者の方々そしてその御家族の御意向を最大限尊重して事実解明をしていきたい、こんなふうに考えております。
 そこで、国交正常化後の北朝鮮への経済協力の問題でありますが、日朝平壌宣言に基づきまして、その具体的な規模と内容を誠実に協議していく方針であります。いずれにいたしましても、北朝鮮が日朝平壌宣言の精神と原則に基づき誠実な対応をとること、それがこれから重要でございまして、北朝鮮にそのような対応が見られない場合は国交正常化交渉やその後の経済協力のプロセスを進めることはできないのは当然と考えております。
上田(勇)委員 おっしゃるとおりなんだというふうに思うんですけれども、私が申し上げているのは、やはり、一たん交渉が始まってしまって、こういう経済協力みたいな話し合いが始まる、そうすると、我が方としての関心事項について十分な納得のいく領域に達していなかったとしても、ずるずると交渉が進んでしまうんじゃないかということを私も懸念しておりますし、先ほどの世論調査の結果などにあらわれているような多くの国民の意識なんではないかということでありますので、そこはぜひ十分留意をしていただいて交渉に臨んでいただきたいというふうに思うわけであります。
 その中で特に、今、一部、人道支援については国交正常化交渉とは切り離して協議すべきではないかというような意見も聞かれますけれども、私はそれにも賛同できません。先方が重大な関心を持っている食糧支援などの人道支援についても、これは我が方の重要な交渉のカードであるというふうに思いますし、これからまさにその交渉がスタートしようとするときに、しかも、拉致問題はもちろんのこと、安全保障についても幾つもの重大な懸案がある中で、人道支援とはいえ、そういったことに安易に言及するということは、これからの交渉上も得策ではないというふうに思いますし、貴重なカードを切ってしまうというようなことになりかねないんではないかというふうに思いますが、その辺について政府の方針を伺いたいというふうに思います。
茂木副大臣 まず、次回の交渉の議題ですか、これは相手側、北朝鮮とこれから調整していくということでありますが、次回の交渉におきまして経済協力の規模であったりとか内容につきまして具体的な議論をすることは、現時点では考えておりません。
 それから、人道支援の問題でありますが、まず、現在政府として、北朝鮮に対する新たな食糧支援について具体的な検討を行っているという事実はございません。
 その上で、北朝鮮に対する食糧支援を今後どう考えていくかという問題でありますけれども、これは現時点では議論しておりませんので一般論として申し上げますと、政府として、人道上の考慮に加えまして、今後交渉の中で浮かび上がってくる種々の要素を総合的に勘案して慎重に検討していくべき問題である、そのように認識をいたしております。
上田(勇)委員 これから交渉が始まるわけでありますし、相手は、これまでの韓国やアメリカとの交渉を見ていましても、そうすんなりと協力して交渉を進めようというような相手ではないというふうに思いますので、ぜひ我が方としても、十分、その交渉に臨むスタンスについてははっきりとさせていただいて、毅然として臨んでいただきたいというふうに思うわけであります。
 それで、最後にちょっと警察庁にもお伺いをしたいんですが、警察庁では、これまで認定した事案以外にも、北朝鮮による拉致の可能性がある事案があるという認識を持っているというふうに承知をしております。それらについても、政府全体として協力して対応する必要があるというふうに考えますが、実際に先方と、北朝鮮側と交渉に当たっている外務省に、そうした認定されている事案以外の件についても十分な情報が提供されるべきであるというふうに考えますが、その見解をお伺いしたいのと、また、実際にその交渉に当たっている外務省にそうした事案についての情報が提供された場合には、これは速やかに北朝鮮側にそうした事実について照会をしていただきたいというふうに思いますけれども、そのお考えをあわせてお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。
奥村政府参考人 警察といたしましては、現在、十件十五名の方々につきまして北朝鮮による拉致容疑事案と判断をしておりますけれども、これ以外につきましても北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があると考えております。現在、所要の捜査、調査を鋭意行っているところであります。
 これまでも、拉致容疑事案と判断したもの以外の事案につきましても、外務省に対して必要な情報提供を行ってきたところでありますけれども、これらの事案につきましては、行方不明になっている方々の安否を確認し、また捜査、調査を進める上で外務省との連携が必要不可欠でありますので、今後ともさらに十分な情報提供を行っていきたいというふうに考えております。
茂木副大臣 御指摘のように、今後関係当局と連携を深めていくということでありますが、捜査当局からそのような判断がなされた場合には、外務省といたしましても、北朝鮮に対しまして当然しかるべき対応を求めていきたいと考えております。
上田(勇)委員 ありがとうございました。
吉田委員長 次に、松浪健四郎君。
松浪委員 保守党の松浪健四郎でございます。
 九月の十七日は、歴史的な日となりました。我々、外務省で仕事をさせていただいた政務官の一人として大変うれしく思いますし、歴史的な事実の場に立ち会わせていただいたことを光栄に思うものでありますけれども、小泉総理のピョンヤン訪問は、七三%前後の国民が、よかった、こういうふうに評価をしております。
 それは、あくことのなかった扉があいた、しかもちょこっと見えた、大変な成果であるということはうれしい限りでありますけれども、心しなければならないのは、我が国には世論があるということであります。かの国には世論がない。この違いを我々はこれからもよく知っておかなければなりませんけれども、その世論のことを考えますと、これは本論ではありませんけれども、質問に入る前、冒頭、政府と外務省に苦言を呈しておきたい、こういうふうに思います。
 と申しますのは、週刊誌や夕刊紙、またテレビを見ておりますと、政府専用機にマツタケを積んでおったのか積んでいなかったのかということが大きな話題になっております。たかがマツタケでありますけれども、されどマツタケであります。これを政府の要人が外交上の儀礼で明確にできない、あるいは関知しないということでは、国民はなかなか納得しないのであります。
 したがいまして、積んでいたなら積んでいた、だれが食べたのなら食べた、はっきりと国民に説明をして、この国は北朝鮮じゃないんですから、何でもオープンにする、そして堂々とすべきだ、私はこう思うんです。
 どうせうそをついてもばれるということは、政府専用機ですから、物を積むときには、この段ボールに何が入っているのかチェックしなければ総理の命が危ない、だからきちっとチェックしているはずですし、何を積んだかは明確であります。それをなぜ国民に明確にできないのか。私は、包み隠さずそういうようなものはオープンにしていくべきだ、そして国民の皆さんの理解を得るべきだ、堂々とすれば国民も理解してくれる、こういうふうに思うものであります。これが私の苦言であります。
 そこで、本論に入りますけれども、冒頭申し上げましたように、北朝鮮は扉を開いた、そして中を徐々に見せようとしてくれております。私は、これは外務省の大きな働きがあったし努力があった、このことに高い評価をするものであります。そこで、この拉致問題について北朝鮮側の対応の評価について、まず田中局長にお尋ねしたいと思います。
田中政府参考人 拉致問題につきましては、委員御指摘のとおり、これまで長い間北朝鮮との関係では不明であった、それを金正日総書記が首脳会談で認めて謝罪をした、これは全く今までにはない対応であったわけであります。私どもは、まさに拉致問題の解明というのはそこから始まるという認識でございますし、日朝首脳会談以降、北朝鮮は種々の情報の提供、調査団の受け入れ、その他の措置をとっていますけれども、私どもはそれで十分だとは全く思っていません。
 これから一つ一つきちんと情報を精査しながら拉致問題の事実の解明に努めていきたいと思いますし、国交正常化交渉におきましても最優先課題として取り上げてまいりたい、かように考える次第でございます。
松浪委員 これからもやっていくという局長の言葉を我々は信用させていただきたい、こういうふうに思います。
 ただ、国民は、七十数%もこの対応を評価していないわけですね。北朝鮮側からすれば、これは大変な前進をさせている、こういう思いなんでしょうけれども、日本国民は納得をしていないということ、このことを交渉される皆さんにぜひ頭の中にたたき込んでおいてほしいということをお願いしたいと思います。
 次に、この前、九月二十八日から十月一日まで、拉致問題に関する事実調査チームが調査をされ、その結果を公表されたわけでありますけれども、その調査の評価、これは、我々から見ますと一見大分進んでいる、このように思うわけなんですね。ところが、どうも一つ一つほころびが出てきて、本当に信用できるんだろうか。北朝鮮側の説明というのは、調査された、行かれた人たちに対して本当に説得力があったんだろうか。それとも、まゆつばものだなというような思いで聞いておられたのか。拉致事件で日本政府の調査団に対する北朝鮮の説明、これをどのように評価されるか、田中局長にお尋ねしたいと思います。
田中政府参考人 調査団は、基本的には、幾つかのインタビューであるとか政府当局者からの聴取、現場の視察等も含めて、一定の時間の間に可能な限りの調査を行ったということでございます。調査団の報告の基本的な結論というのは、一つは、生存されている方々については拉致された方々と断定して差し支えないという印象、それから、死亡されたとされている方々については死亡原因を特定するには具体的な材料が不十分であるということでございます。
 調査団の結論というのは今申し上げた二つの点でございまして、今後、調査団が持ち帰った資料、データ、それから科学的に解析を必要とされるものも含めまして精査をしながら、引き続き北朝鮮側に資料を求めていく、説明を求めていくということでございます。
 御案内のとおり、先ほども御答弁申し上げましたけれども、拉致を認めたのが九月の十七日ということでございます。その前に特別の委員会を立ち上げて調査をしたという説明がございましたけれども、私どもは、北朝鮮が一夜のうちにすべて変わるというような幻想は全く持っておりません。私どもとしても、粘り強く事実の解明を進めていく必要があるというふうに考えております。
松浪委員 そこで、この前は、実質的には二日間だけの調査でありました。日程上大変な困難が伴ったであろうことは容易に想像できるわけでありますけれども、この持ち帰った調査結果に八八%の国民は、不十分だ、こう言っているわけですね。ということは、国民の声はやはり、今局長からも粘り強く交渉していくというお話がありましたけれども、もう一度調査団を派遣すべきではないのか。
 今月の二十九日からクアラルンプールで交渉が始まるわけですけれども、その前にだって調査団を派遣することができるのではないのか、個人的にこう思いますけれども、再調査を、また調査団を派遣される予定があるのかないのか、副大臣にお尋ねしたいと思います。
茂木副大臣 まず冒頭、お答えする前に、先ほど来松浪委員は国民の支持、理解ということを強調されておりまして、それは、先日の外務省におきます副大臣、政務官の新旧交代式のときも、私もやはり、力強い外交を展開していくためには国民の支持がなければできない、このような認識を委員と共有させていただいておりますし、今月まで委員には外務政務官としてこの北東アジア地域も御担当いただいたわけでありまして、御意見を真摯に受けとめたい、このように考えております。
 その上で、調査団の北朝鮮への再派遣の問題でありますが、現在、調査団が持って帰ってまいりましたデータの分析、鑑定を急いでいるところであります。その結果、そして今回五人の方が一時帰国をされるということでありまして、その状況、それから御家族、御親族の御意向も踏まえて検討していきたい、このように考えております。
松浪委員 時間が参りましたのでこれで終わりますけれども、外務省、政府におかれましては、国民の期待にこたえるよう最大の努力をしていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
吉田委員長 次に、木下厚君。
木下委員 民主党の木下厚でございます。
 今回の小泉首相の訪朝が、拉致問題の全面解決につながるのかどうか、あるいは、武装工作船、ミサイルの開発、配備、輸出あるいは核兵器などの大量破壊兵器の開発問題に終止符を打ち、北東アジアの平和と安定に向けて大きく前進するかどうか。これは、我が国の主権や国民の生命財産を守り、国益を第一と考えながら、北朝鮮に対して日本政府がどこまで毅然とした外交姿勢を貫けるかどうか、この一点にかかっている、私はそう思います。
 しかしながら、これまでの日本外交、とりわけ北朝鮮あるいは対中国、対ロシア、この外交を見ていると、我が国の主権や国民の生命財産あるいは国益、そういったものよりもむしろ、相手側の機嫌を損ねないように、いわゆる腰の引けた外交、あるいは一部からは土下座外交、そこまで屈辱的な言葉を浴びせられるほどの外交姿勢に終始してきた、これが我が国の外交ではなかったか、そんな思いさえいたします。
 そういった観点から、改めて、今回の小泉首相の訪朝と、そこに至るまでの日本の北朝鮮に対する外交姿勢、これをきちんと検証し、拉致問題や武装工作船問題を含めた懸案事項の解決がなぜこれほどおくれたのか、その責任はどこにあったのか、これを明らかにしていきたいなと思っております。
 まず一点、小泉首相の今回の訪朝は、外務省の田中局長が、八月二十五日、二十六日の両日、ピョンヤンで行われた日朝外務省局長級協議の際、姜錫柱第一外務次官との間で最終的に確認したと言われていますが、日本政府が認定した日本人の拉致被害者八件十一人について、安否情報を含め、どの程度の情報を得て小泉首相の訪朝を決断したのか、これを明らかにしてもらいたいと思います。
田中政府参考人 委員御指摘の点でございますけれども、八月の二十五、二十六日にピョンヤンに参りまして、日朝のアジア局長レベルの会合を行いました。姜錫柱第一副相という名前で呼ばれていますけれども、その際行った議論もそうですけれども、これは日本が従来から主張していた点、小泉総理、外務大臣も従来から主張しておられた点、すなわち、国交正常化の基本的な問題並びに日朝間の懸案事項、特に拉致の問題、工作船の問題、安全保障上の課題、こういう問題について真剣かつ誠意を持って取り組む用意があるかないかという点が基本的な課題でございました。私どもは、その事後の記者発表でも明らかにいたしましたけれども、この二つの問題に真剣かつ誠意を持って取り組むということでございました。
 しかしながら、北朝鮮の体制、これは日本のような体制ではない。金正日総書記・国防委員長が実権を握り、首脳会談を行うということがなければ、いろいろなそういう基本的な問題が解決の方向に向かって動き出さないという判断もございました。そういう観点から、総理は、帰国の御報告を申し上げた上で、最終的に訪朝ということを決められたわけでございます。
 拉致の問題については、私どもの主張は、安否について完全な形で調査をして出してもらいたい、拉致を正面から認めてもらいたい、この点でございまして、事前に拉致、安否の内容については承知をしておりませんでした。
木下委員 ちょっと答弁が長いんですよ。もっと簡単に。私は聞いていないです、そんなこと。拉致問題についてどういう安否情報を確認したのか、その一点を聞いているだけなので。
 では、それについては、ただ日朝交渉を再開すれば明らかにするというだけだったんですか。それとも、もう何人お亡くなりになっているとか、そういった情報は全く得ていなかったわけですか。
田中政府参考人 北朝鮮側は、誠実かつ深い調査をしているということでございました。したがって、その内容については事前には承知しておりませんでした。
木下委員 八月二十五、二十六日に協議をやったわけですよ。その時点でまだ調査をしている、そして九月十七日、そのとき結論が出たわけですか。そうじゃないでしょう。そんないいかげんなことで交渉を、わざわざ総理が北朝鮮に飛んでいったんですか。もっと明らかな事実を入手していたんじゃありませんか。どうなんですか。
田中政府参考人 これは先般、政府の調査団が参りましたときの先方の説明でもございますけれども、先方は深い調査をして、十六日の夜の段階で調査が終了したということで、十七日の朝の段階で、安否情報については私が先方の局長から受け取ったということでございます。
木下委員 あなた、そんないいかげんな情報でもって我が国の総理をわざわざ北朝鮮まで連れていくんですか。もし情報が出なかったらどうするつもりだったんですか。もっとはっきりした情報を確認した上で総理を訪朝させる、これが外務省としての当然の仕事じゃないですか。知っていたんでしょう、ある程度。もう一度聞きます。
田中政府参考人 御案内のとおり、拉致問題というのは、十数年の間、彼らは一切認めてこなかった、安否についても一切出してこなかった。しかしながら、北朝鮮側との接触あるいは外相会談、局長級会合を通じて、彼らはきちんとした調査をして安否調査の結果を出すということについては心証を持っておりました。しかしながら、具体的な情報については、十七日の朝、知り得たということでございます。
木下委員 そして、もしそれが事実ならば、十七日の朝、その事実を知らされたとすれば、日朝平壌宣言というのは、いつつくられたんですか。
 この前、同僚議員が質問しました。既につくられていた、そして交渉によって文面を少しも変えていない、そう答弁していますが、事実が、八人がもうお亡くなりになっていると言われながら、なぜ平壌宣言の文言を一行も変えない、一字一句変えない。そんなのが交渉ですか。もう一度答えてください。
田中政府参考人 私どもも、平壌宣言については事前にぎりぎりの交渉をやってまいりました。御案内のとおり、その中には、日本国民の生命と安全にかかわる遺憾な問題、懸案問題という表現もございます。
 十七日の朝の段階で安否の情報を知らされたとき、これは総理とも御相談をしまして、金正日総書記に対して首脳会談の場で厳しい抗議をする、事実の徹底的な解明を求める、それから拉致を拉致として認めるということを強く申し入れるということでございまして、午後の会談で金正日総書記が拉致を拉致として認め、謝罪をしたという経緯でございます。
 国家の最高責任者から拉致並びにその謝罪を引き出したわけでございまして、それを総理は全体として判断をされて、平壌宣言に署名をするという判断をされたわけでございます。
木下委員 拉致問題について平壌宣言に書いてある、どこに書いてあるんですか。拉致あるいは謝罪、何もないですよ。ここにあるのは、今おっしゃったように、三項目めに「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。」その後、「また、日本国民の生命と安全にかかわる」、このくだりがあるだけじゃないですか。
 「双方」とは何ですか、「双方」とは。我が国が北朝鮮に対して何か脅威を与えたことはありましたか。あったら言ってください。「双方」とは何ですか、これは。そしてその後に、拉致問題だと言われる「日本国民の生命と安全」、これはどういうことですか。「双方」とはどういうことですか。日本が何か北朝鮮に対して脅威を与えたことはありますか。答えてください。
田中政府参考人 当然のことながら、日本が北朝鮮に脅威を与えたということがあるとは思いません。ただ、北朝鮮が通常の国際法の中で、国際法に従った行動をしている国かどうかということについては、私どもは明らかにそうではないと思っているわけでございます。
 ですから、こういうものというのは明らかですけれども、日本は当然のことながら国際法を遵守して、互いの安全を脅かすような行動はとらない、これはもう当たり前のことでございます。北朝鮮という国が、従来の行動様式から見て、そういうことを約束すらしてこなかった、それを約束させるということに大きな意味があったということでございます。
 それから、「また、」以下は「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」、これは御案内のとおり、拉致の問題と工作船の問題というのは非常に不可分の関係にございますし、この両方を指しているということでございます。
木下委員 拉致や謝罪を認めたというのは、これは金正日総書記と小泉首相の会談のときだけでしょう。これは単に日本側がそう言っているだけなんですよ。北朝鮮側から見ても第三者から見ても、日本政府がそう発表していること以外、金正日総書記が謝罪をしたとか拉致を認めた、証拠としてどこにも残っていない。客観的な証拠がないんですよ。事実、北朝鮮では拉致や謝罪したなんという発表は、テレビあるいは国民に対して全く知らせていない。ただ我々だけが、日本だけが、いや、正日さん、拉致を認め謝罪したよと。歴史的に見たら、こんなのは何の価値もないんですよ。なぜ文言の中に入れなかったんですか。
田中政府参考人 金正日総書記が拉致の問題について拉致を認め、謝罪したということは、今や国際社会では幅広く知られていることでございます。
 それから、北朝鮮という国が、先ほども申し上げましたけれども、一夜にして変わるということを想定するわけにはいきません。私どもは、この拉致の問題というのは、まさに日朝首脳会談を出発点として徹底的な解明を行っていくということで、この問題の解決というのはこれからのプロセスの中で解決が図られなければいけない。
 工作船もそうだと思います。工作船についても、二度とこのようなことはしないという約束の中で、それを一々検証していくという作業がこれからあるということだと思います。
木下委員 世界が知っているなんといったって、こんなものは半月もすればみんな忘れてしまうんです。最後は、平壌宣言に何が書いてあるか、ここが歴史的に見たら評価されるんです。外交をやっていたら、そのぐらいのイロハは当然承知していなければいけない。
 しかも、平壌宣言を署名する直前に、いわゆる非公式のペーパーを見せられた。なぜ、それを十分確認し、そして平壌宣言に修正を加えなかったのか。一晩でも宿泊して、鉛筆なめなめ向こうの当事者と真剣な議論をするのが交渉じゃないんですか。なぜそこまで徹底してやらなかったんですか。これだけ重大な情報を得ながら、八人お亡くなりになっているという情報を得ながら、その事実確認もしないでサインをする。
 安倍官房副長官、どうですか。安倍さんは、一時は署名をすべきではないという意向だったと伝えられていますが、この点についてどうお考えでございますか。
安倍内閣官房副長官 今般、首脳会談によりましてもたらされた安否情報、八名の方々が既にお亡くなりになられているという北朝鮮の情報でございますが、これは極めて重い、重大なことであったわけでございます。
 それを受けまして、私ども、昼の打ち合わせどきにおきましては、金正日本人がみずからこの事実を認めて、国家の関与を認めて、その上で謝罪、遺憾の意を表明しなければ、それは当然署名するべきではないという考え方、総理もそういう考え方でございました。しかしながら、午後の会談において金正日みずからがそうした事実を認め、謝罪を表明したわけでございます。
 そしてさらに、まだまだ拉致問題についても当然これから解決を図っていかなければならないわけでございますし、また、核・ミサイルの問題もたくさん残っております。そうした諸問題について正常化交渉を通して、そのテーブルをつくって、そこで厳しく追及をしていく、そしてその中で我が国の安全も確保していく、拉致問題についても徹底的にはっきりさせていく、生存者はすべてちゃんと帰国させる、家族も含めて帰国をさせる、ほかの方々は本当にそうだったのかどうかということも究明していく、そのためにも、これは正常化交渉をスタートさせるべきであるという判断を総理がされたわけでございまして、私は、その判断が正しかった。その結果によって、今度十五日には五人の生存者の方々が帰国をされるということに結びついた、私はそのように思うわけでございます。
木下委員 それからもう一つ、今回の小泉訪朝で極めて異例だったのは、この訪朝を首相官邸で知っていたのは総理と福田官房長官、古川官房副長官、そして秘書官の二人。安倍さんは直前まで御存じでなかった、あるいは川口大臣も直前まで御存じでなかった。あとは外務省の竹内事務次官、田中局長、平松アジア課長、このライン。まさにごく一部だけのラインで決められたわけですが、安倍さんは三十日ですか、その発表の直前に知ったわけですか。どう思いましたか。
安倍内閣官房副長官 確かに、私が知りましたのは、発表された三十日の朝でございます。
 しかしながら、私は副長官でございますから、いろいろな重要事項について、私が知らないということはほかにもいろいろあるわけでございます。この件に関しましては、私がそれを知らされた後は、総理ともかなり突っ込んだ協議をさせていただいたわけでございます。
木下委員 外交の当事者である川口大臣、蚊帳の外に置かれていたことに対して反論はありますか。どう思いましたか。
川口国務大臣 この件につきましては、外務省といたしまして、総理の訪朝に至る過程において、私の、外務大臣同士の会談もございましたし、八月に局長の会談もございました。そして、その前からこれについては準備を進めていたわけでございまして、その過程で私は逐一報告を受けておりますし、プロセスについてはずうっとそれを把握しながら、そして、必要に応じて指示をしながら事を進めてきたということでございます。
 事柄の性格上、外務省の中で大勢の人が知っていたということではございませんけれども、限られた人数の中でこれはきちんと組織として仕事をしてきたということでございます。
木下委員 大臣、今回の小泉さんの訪朝というのは、これは拉致問題だけではなくて、不審船問題、あるいは核開発、ミサイル開発、あるいは化学兵器、北東アジアの安全保障にかかわる重大な問題が背景にあるわけですね。だとすれば、当然、拉致問題を追及していた警察庁、あるいは防衛を担当している防衛庁、あるいは公安調査庁、関係省庁、これがプロジェクトチームをつくって、北東アジアの軍事情勢とか北朝鮮の状況、金正日体制の行方、現状、こういったものを、十分現状と将来を見越した上で、むしろプロジェクトチームをつくって徹底的に情勢分析をして、時期なり、あるいは内容を含めてやるのが外交じゃないですか。民意も無視して一部だけが突っ走る、こんな危うい外交をやっていていいんですか。
 これまで、例えば韓国との日韓交渉あるいは日中国交回復、これも政治、経済、社会、国民を巻き込んで徹底的に議論した。そして韓国と国交を結び、中国とも国交を結んだ。何で北朝鮮だけ、これだけ、一部の人間だけがやるようなこうした外交をやるんですか。これは異常じゃないですか。
川口国務大臣 まず申し上げておきたいのは、ミサイルあるいは大量破壊兵器、工作船、拉致その他の日朝間の多くの問題、これ自体につきましては、我が国の政府の中で、関係の省庁あるいは外務省の中で密接に協議をし、連携をしております。また、国際社会の中でも、特に安全保障問題に関心を持っている国は非常に多いわけでございまして、こういった問題についても、アメリカ、韓国と連携をしながら議論をずうっとしてきております。
 私が限られた人数の中でこれについては組織として仕事をしたということを申しましたのは、国交正常化交渉を再開するかどうかということの事前のコンタクトあるいは事前の準備の段階の話でございまして、政策一般については、当然のことながら、警察庁とも、工作船の話については海上保安庁とも、関係の省庁とは密接に連絡をとっております。
 今回の総理の訪朝というのは、こういった問題について、先ほど来申し上げていますように、北朝鮮側が誠意を持って真剣に取り組むという姿勢を持っているかどうかということについて、総理として総合的な観点から見きわめるというためにおいでになられたわけでございまして、そういった準備ということについては、これは外交上のさまざまなことがございますので、事柄の性格上、少ない人数で行ったということでございますけれども、今や入り口に立ったわけでございまして、既に、今後どうやって進めるかということについては、十分に関係の省庁ともお話をさせていただいているわけでございます。
木下委員 いや、そんなことは聞いていないですよ。いつタイミングをはかるかはやはりチームを組んで、きちんと訪朝するという前提のもとでやらないで、いろいろな情報を集めてきて、あとは一部だけが独走する、こういう体制じゃ困るんですよと言っているだけなんです。
 時間がありませんので、もう一つ。
 先ほど、委員の方からマツタケの土産の話が出ました。午前中の参議院の外務委員会でもこの問題が出たようなんですが、どうなんですか。本当にマツタケがお土産として、トラック二台分と言われていますが、お土産があったんですか、なかったんですか。答えてください。
安倍内閣官房副長官 午前の委員会でもお答えをしているわけでございますが、私自身は、そういうお土産があったかなかったかということについては全く承知をいたしておりません。報道されているということは承知をしておりますが、そういうものがあったかなかったかということについては全く承知をしておりません。
木下委員 田中局長、どうですか。
田中政府参考人 承知をしておりませんし、確認もされていないということだと思います。
木下委員 そんなばかな話がありますか。いいかげんにしなさいよ。さっきも、安全保障上にかかわる危機管理の問題なんですよ。テレビにちゃんと映っているんです。知らないなんてふざけたことを言っちゃいかぬですよ。なかったんですか、あったんですか。もう一度答えてください。
安倍内閣官房副長官 先ほど来私も答えているわけでございますが、この問題について、私、全く承知をしていない、知らないということでございます。
 また、一般論として、こうした外交上の儀礼上のお土産等というのは間々あることでございますが、そのお土産はどういうものをもらったのか、あるいはまたそれをどうしたのかということは、基本的にはそれを公にするということについては議論があるところであろう、私はこのように思います。
木下委員 そんな矛盾した話、ないでしょう。なかったのならなかったと言ってください。知らなかった、知らないじゃ済まないんですよ。あれだけ報道されているんです。秘密でも何でもないじゃないですか。あったのならあった、お土産がありました、なぜそう言えないんですか。
 午前中の委員会では調査をするという答弁があったようですが、報道されてからもう何日たっているんですか。こんなものは、午前中に調査すると答えたらしいんですが、今までになぜ調べられないんですか。
 あったかなかったか、田中局長、あなたが知らないということはないんだから、どうなんですか。
田中政府参考人 答弁の繰り返しにはなりますけれども、今、安倍副長官が御答弁されましたように、北朝鮮という国といえども、やはり礼譲ということはございます。ですから、通常、お土産ということについては、そういう慣例に従って適切に処理がされるということでございますし、具体的なものが何であったかということについて公に議論すべきものではないというふうに思います。
木下委員 では、あったということですね。お土産があったと認めたわけですね。中身は言えないけれども、あったということですね。
田中政府参考人 お土産が何であったかということについては、確認をしておりません。
木下委員 そんな、マツタケぐらいのことで何で隠す必要があるの。あったのならあった、マツタケでしたと言えば済むことじゃないですか。何でそんなことにこだわるんですか。
 マツタケなんでしょう。もう一度答えてくださいよ、ちゃんと。そんなことで隠す必要はないんじゃないですか。日本からだって持っていったんでしょう、お土産を。
吉田委員長 木下厚君の質問は、あったかなかったかということでございますから、あるならある、ないならないと答弁をしてください。
安倍内閣官房副長官 申しわけないんですが、私は、今の段階ではあったかなかったかも承知していないということでございます。
木下委員 田中局長。
田中政府参考人 確認をしておりません。
吉田委員長 木下厚君、残念ながら時間が来ていますので。
木下委員 いや、さっきは儀礼としてそういうものはあり得る、今は確認しておりません、何でそんなことでぐらぐら揺れるんですか。
 委員長、これはきちんと理事会で確認してください。
 時間ですので、以上で終わります。
吉田委員長 木下厚君の時間はもうなくなりましたので、今理事会でということでございますが、その後、中川理事からの質問がございますので、引き続き中川理事からやってください。
 次に、松本善明君。
松本(善)委員 質問順位を繰り上げていただいたことに、委員長並びに同僚委員にお礼を申し上げます。
 我が党の総理訪朝並びに日朝会談についての見解は前回の委員会で申し上げましたので繰り返しませんけれども、私は、二日に公表された政府の拉致問題に関する現地事実調査結果を拉致問題の真相解明に向けた第一歩だと考えております。日朝平壌宣言を踏まえた国交正常化交渉を進めながら、政府に引き続いて拉致問題の真相徹底解明の努力を求めるものであります。
 今後の真相解明につきましては、当然、拉致被害者の意向を十分酌んで、世論も考えながら交渉することが必要だと考えますが、政府の基本的な方針を伺いたいと思います。
川口国務大臣 拉致問題の解明というのは、今後、国交正常化交渉を再開して行っていくに当たっての最優先課題、最優先の事項であるというふうに考えております。
 これについて、政府の調査団が事実関係の解明のために先般行きましたけれども、まだ引き続き資料の要求をいたしております。また、現在、持ち帰ってきました情報や資料を分析、解析をしている最中でございまして、それに基づいて、またさらなる、相手に、北朝鮮に対して要求をしたい事項があれば、それはしてまいります。そして、御家族の方の御意向も踏まえまして、必要に応じ、今後については判断をしていきたいと考えております。
松本(善)委員 この調査についての交渉というのはなかなか容易なものではないだろうと思いますけれども、今考えられる困難な問題点と、それを克服する方向、また、相手方北朝鮮の対応や、それを打開する展望等について伺いたいのであります。これは、十五日に帰国されると言われております生存している方々と、死亡したと言われている方々、それぞれについて問題があろうと思いますが、そのそれぞれについて御答弁をいただきたいと思います。
安倍内閣官房副長官 まず、死亡しているとされている方々についてでございますが、先般、調査団が北朝鮮に赴きまして、種々の調査を行ってまいりました。その内容を私ども今さらに分析をしているわけでございますが、私どもとしてはその中身について納得をしているわけではないわけでございまして、亡くなられたと言われている人たちについて、私どもが政府としての責任で確認をする必要がある、こう考えております。
 また、生存しておられる方々につきましては、その家族を含めての全員の帰国をあくまでも求めていきたい、この方針には変化は一切ございません。
松本(善)委員 今回調査報告があった人以外、四名の方々を拉致被害者と警察庁は認定したということでありますが、そのほかにあるのかどうか、これらの方々について、どういう方針で調査をし、そして交渉をするのか、まず警察庁からお聞きして、それから外務省に伺いたいと思います。
奥村政府参考人 北朝鮮による日本人拉致容疑事案につきましては、現在のところ、十件十五名と判断しております。これ以外の事案につきましても北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があると考えておりまして、現在、所要の捜査また調査を進めているところでありますけれども、今後とも、内閣官房あるいは外務省等と十分に連携して、これらの拉致容疑事案等の全容解明に向けまして最大限努力をしてまいりたいと考えております。
川口国務大臣 今警察庁からお話ございましたように、まず捜査当局において捜査をきちんとしていただいているわけでございますけれども、その結果として拉致であるということでございましたら、その場合は、国交正常化交渉の中で、これについてはきちんと解明をしていくということに全力を挙げていくということでございますし、それをやるに当たりましては関係の府省と十分に連携をとって行うということでございます。
松本(善)委員 大体わかったんですが、相手方北朝鮮の対応や、この問題を進められる展望というようなことについても話がありましたら伺いたいと思います。
田中政府参考人 先ほども御答弁申し上げましたけれども、私どもとしては、粘り強く事実関係の解明を求めていくということでございます。北朝鮮の全面的な協力を求め、北朝鮮は全面的な協力をしなければいけない、それが北朝鮮の誠意ある行動であるということでございます。
 ただ、資料その他一つ一つ精査をしながら、客観的な事実関係をつくっていくということを私どもはやっていきたいというふうに考えております。
松本(善)委員 総理も言われていますが、北朝鮮との関係が対立から協調、協力に転換をしますならば、東アジアの平和と安定、世界の平和に大きな貢献となることは言うまでもありません。
 きょうの答弁でもありましたが、政府は、米国、韓国と協議をしながらこの問題に対応しようとしておりますが、米国、韓国の対応はどうなのか、場合によっては中国、ロシアとの協力も必要と思いますが、これらの点についてはどういうふうに考えておられますか。
川口国務大臣 この問題につきましては、もちろん日朝の二国間の問題もございますし、同時に国際社会全体が懸念をしているさまざまな問題もございまして、この日朝関係を正常化するための交渉を行っていくに当たっては、韓国、米国との連携を緊密に行っていくことが非常に重要でございます。
 九月十七日の総理の訪朝が終わりました後で、私はそのときアメリカにおりましたけれども、ライス補佐官それからパウエル国務長官とその結果についてのお話を、会談を持ちました。その際、そのお二人の方から、拉致の被害者の方々及びその御家族に対するお見舞いの言葉があったと同時に、総理のなさった御努力について歓迎をし、サポートをする、支持をするということがあったわけでございます。
 ロシア、中国との間にも、これらの国々もこの問題に非常に関心を持っておりますので、今までさまざまな折に北朝鮮問題については話をしておりますし、今後とも、必要に応じ、これらの国々の支援、助力を得ながら、また連携をとっていくことが重要だと考えております。
    〔委員長退席、中川(正)委員長代理着席〕
松本(善)委員 米朝会談の状況と、特にその今後の見通しはどうなっているでしょう。おわかりでございますか。
川口国務大臣 米朝会談の後、米朝会談を行ったケリー国務省の次官補が日本を通って帰国をいたしまして、そのときにお話を聞きましたけれども、アメリカは北朝鮮に対してさまざまな懸念、これは大量破壊兵器の話もありますし、ミサイルの話もございますし、そして通常兵器の話もあります。また、人権、人道の問題もございます。そういった問題について懸念を表明したということでございます。そして、もし北朝鮮が米国とこれらの点について協力をしていくということであれば、米国と北朝鮮の関係についての改善につながっていくであろうという趣旨のことをおっしゃっていたというふうに記憶をいたしております。ケリー次官補の話では、アメリカと北朝鮮は非常に率直な話し合いを持ったということでございますし、その話し合いは有益であったということでございます。
 これからの展開については、これはアメリカの政策の話でございますので、我々としてはっきりした形で予測するということは難しいというふうに思いますけれども、これについて、ケリー次官補の報告を米国内でこれから検討するということではないかと思います。
松本(善)委員 アメリカは、悪の枢軸として、イラク、イラン、北朝鮮を挙げておりますが、北朝鮮とイラクとの進展の状況は全く違った状況になっていると思います。
 イラク問題が世界の平和に重大な影響を与えることは、もう言うまでもありません。もしイラクに対するアメリカの武力攻撃が行われるならば、また、それが非常に切迫しているということも言われておりますが、もしそういうことになれば、戦火はイスラエルを含む中東全体に波及し、そして、今、世界経済も大変重大なところへ来ていると思いますが、世界経済も含めまして、世界じゅうを大混乱に陥れるということは必至だと思います。この情勢について、外務省はどういうふうに考えておりましょう。
長嶺政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま松本委員御指摘がありましたイラクの点でございますが、まず、米国がイラクに対しまして軍事行動をとるということを予断することは適当ではないというふうに私ども考えております。と申しますのも、先般、十月七日ですが、ブッシュ大統領が米国民向けに行われました演説の中でも、軍事行動は差し迫ったものでも不可避のものでもないというふうに述べておるところでございます。
 仮に軍事行動が行われた場合の波及のことを御質問になられましたが、まずもって一番問題であることは、イラクが一連の安全保障理事会の決議を無視してきた、そういう事実。それは、米国だけではなくて、国際社会全体が懸念であるというふうに観念しているところでございます。
 我が国といたしましては、従来から一貫して、重要なことは、実際にイラクが即時、無条件、無制限の査察を受け入れ、大量破壊兵器の廃棄を含むすべての関連安全保障理事会の決議を履行するということでありまして、そのためには、必要かつ適切な安全保障理事会の決議が採択されるべきであるという立場をとっております。こういうことで、我が方といたしましても、このための外交努力を継続してまいりたいというふうに考えております。
松本(善)委員 外務大臣に伺いますが、今の参事官の御答弁では、安保理事会の決定を履行するということならば、これは国連の安保理事会の問題だ。国連の機関を通じてそういうことがやられるならば、全世界はそんな心配はしないわけです。
 しかし、国連抜きでもアメリカが攻撃をするということが何度も言われております。いろいろなところで、公式にも表明をされています。だから、中東はもちろん、フランス、ドイツなどのEU諸国、そしてカナダ、ロシア、中国の、イギリス以外の主要国は皆、反対の意思を表明しているわけです。イギリスでも、ロンドンで四十万人のデモ、アメリカでも、六日、ニューヨークで二万人のデモを初め、十数都市でデモが行われている。アメリカの有力者、マスコミを含めまして、世界の世論は反対が圧倒的であります。
 私は、軍事行動、国連を通じてすべてをやるというのは、これはいいですよ。これはそうでないという懸念が、アメリカの大統領や副大統領、あるいは国防報告や国家安全保障戦略報告などでうかがえるから、全世界が心配をして反対の意思を表明している。私は、日本はやはりそれらの諸国と同じように、そういう国連を通じてでなくて、通じないでやる武力行使に反対だということを表明すべきだと思うんですよ。
 今の参事官の答弁では、そういう情勢、もし行われれば、それで終わりなんですね、始まれば。やはりその前に態度を表明するということが、世界の平和のために非常に重要なんです。もし起こってしまったら、今私が申しましたような大変な事態になるから、だから質問をしているわけでございます。外務大臣としてどのようにお考えになっているか、伺いたいと思います。
川口国務大臣 今大事なことは、イラクが国連の決議を守って大量破壊兵器を廃棄するということであります。そして、そのために国連の査察官を受け入れるということであります。そして、それらのことをイラクに、国際社会全体としてイラクがそういったことを実行するために圧力をかけていく、そのために国連で決議をするということでございます。
 この点については、日本もアメリカも他の国々もみんな意見が一致しているわけでございまして、したがいまして、現在、安保理で決議を通すための話し合いが、あるいは交渉が行われているわけでございまして、我が国としても、こうした決議が通りますように、日本として外交努力を続けていくということでございます。
 委員の御質問の前提となっているアメリカの単独の武力行使、これにつきましては、アメリカとしては今別にそういうことを決めているわけではないということですし、それから、七日のブッシュ大統領の演説においても、軍事行動は差し迫ったものでもなく、不可避のものでもないということでございます。
 我が国として今やるべきは、国際社会全体がイラクに対して圧力をかけ、査察を受け入れ、そして大量破壊兵器を廃棄する、そのために決議を国連で、安保理でしていくということを国際社会と一緒になって外交努力をして、そういう事態をつくっていく、そういうことだと思っています。
松本(善)委員 しかし、ブッシュ政権が発表いたしました国家安全保障戦略報告では、対テロ戦争では単独行動をためらわない、必要なら自衛のための先制行動もするということを宣言しております。これには先制攻撃も含まれるということをホワイトハウスのアリ・フライシャー報道官が述べておりますので、一般的には先制攻撃戦略と言われております。このことが世界の懸念を引き起こしているんですね。
 言うまでもなく、国連憲章では、侵略された場合の自衛反撃以外は各国による武力行使を禁止している。自衛権に基づく各国の武力行使が許されるのは、加盟国に対して武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間だけである。単独行動をためらわない、必要なら自衛のために先制攻撃もするというのは、私は、国連憲章に違反をしている。
 今大事なことは、国連憲章を遵守する、これは全世界の人たちの共通の意見だ。それが、そういう国連の手続にすべて沿ってアメリカが行うということがはっきりしていれば、私は全世界はこんなに心配はしないと思うんですよ。そこが問題なんです。
 外務大臣は、アメリカが国連の手続にすべて従ってやっていくというふうに考えておられますか、また、この国家安全保障戦略報告についてどのように考えているか、お答えをいただきたいと思います。
    〔中川(正)委員長代理退席、委員長着席〕
長嶺政府参考人 お答え申し上げます。
 まず、ブッシュ大統領の七日の演説にもう一度触れさせていただきたいと思いますが、その中でブッシュ大統領は、イラクに対し、即時、無条件、無制限の査察を受け入れること及び大量破壊兵器の廃棄を含むすべての関連安保理決議の履行を要求するということ、そのために安保理において強力な決議を採択する必要性を述べております。それとともに、イラクによる安保理決議履行を確保するために、必要な場合に同国への武力行使を容認する決議、これは米国議会の決議でございますが、これを議会に対して求めるということを明らかにしたものでございます。
 次に、今松本委員がお触れになりました米国国家安全保障戦略でございますが、これは九月二十日にブッシュ大統領が米国議会に提出した年次報告でございます。この中におきましては、米国が自国のみの利益のためではなく国際社会の共通の目的の追求のために国力を用いると述べる等、他国との協調を通じまして紛争や国際テロ、大量破壊兵器の問題等に対処するということを述べております。
 この報告の中の法的な解釈の部分につきまして、我が方といたしまして有権的な評価をする立場にはございませんが、この国家安全保障戦略は、脅威に対しまして先制的に対処するために必ず武力を行使するということを言っているわけではございません。また、先制を侵略のための口実としてはならないということも明示的に述べておるところでございます。
松本(善)委員 参事官が言ったようなことが述べられていることも、それから、ブッシュ大統領の演説についても承知をしておりますけれども、この安全保障戦略報告に私が述べたことが書かれていることも間違いありません。
 そしてまた、報告は、大量破壊兵器に対して、脅威が現実になる前に抑止し自衛しなければならない。この論理でいきますと、核兵器保有国はもちろん、非核保有国に対しても、そういう大量破壊兵器を持つというふうに、アメリカが脅威と判断をすれば、いつでも攻撃することができる。これは今までの国際法に対する全く違った考えなんですね。
 それで、もしこれが一般化をするならば、国際法上アメリカだけに認められる権利ということはありませんから、インドとかパキスタンなど、これは緊張関係にある国が先制攻撃してもいいということに、非常に危険な国際法の論理になると思うんです。だから各国が今非常に心配をしているんです。
 そして、これは何も文章だけでなくて、国防報告や、大統領、副大統領、国防長官などの演説でもずっと一貫して出ているんですよ。だから、この問題について、重大な問題としてとらえているからこそ、イギリス以外の各国が意思を表明しているんです。
 私は、外務大臣がそのことを認識しておられるかどうかを伺って、質問を終わりたいと思います。
川口国務大臣 我が国が、米国の国際法の解釈について、これを有権的に評価するという立場にはございませんけれども、この国家安全保障戦略は、米国は、生起する脅威に対して先制的に対処するために必ず武力を行使するとしているわけではなく、国家は先制を侵略のための口実としてはならないというふうにも書いてあるわけでございまして、いずれにしても、米国は、行動をする際に、国際法上の権利と義務に合致をした形で行うというふうに考えています。
松本(善)委員 終わりますけれども、私はアメリカ信仰はよくないと思うんです。といいますのは、パナマとかグレナダなどでのアメリカの行動が違法だということを国連が決めたこともあります。私は、日本政府が世界の平和のために積極的な行動をとるべきことを強く要求して、質問を終わります。
吉田委員長 次に、中川正春君。
中川(正)委員 民主党の中川正春でございます。
 まず、木下議員の続きをやらなきゃいけないと思うんですが、マツタケ。こんなことで審議が中断するとか理事会を開かなきゃいけないとか、そんなことにならないように心して聞いていただきたいんですが、私は先ほどの議論を聞いていて改めて思ったんですけれども、まだ外交の展開というのが変わってきたんだということを認識していないんじゃないかなというふうに思うんですよね。
 国民世論というもの、これに対して余りにも鈍感ですよ。大体、今なぜマスコミが取り上げて、国民の人たちがあれを見て何だこれはという気持ちになっているか、そこのところをしっかり認識しなければいけないというところなんですよね。
 あの交渉の中で出てきた結果を見て、おめおめと何でああいう土産を持って帰ってきたんだという、この気持ちなんですよ。これがあるから、あの報道がされたときにこれだけ話題になって、どういうメディアであろうと、それが国民の心にはね返るんですよ。それに対して、どうして説明する手段を持たないのかということですよ。
 それが、そもそも、この拉致問題そのものについても同じようなことが言える。ここのところがいまだにわかっていないのが外務省であり、安倍副長官はわかっているのかと思ったら、全くそれに対して関知せずという他人事みたいな話をしている。ここから始まってくる不信感というのが、次、外務省が何か説明したときに国民の心が閉ざされてしまう一つのきっかけになってしまう。そういう今の時代背景というのをどこまで敏感に外務省が受け取っているかというのがこの議論で反映されているんだというふうに思うんです。
 そういう意味で、もう一回聞きます。これは素直に言ったらいいんですよ。説明する責任ありますよ、これだけ騒がれているんだから。この問題についてちゃんとした見解を説明しなさい、田中局長。
田中政府参考人 先ほどの御答弁の繰り返しになりますけれども、何をお土産としていただいたのかということについては確認をしておりません。けれども、どの国であっても、外交儀礼上の問題として、何をお土産として交換したかということを公にするということは、いずれにしても差し控えているということでございます。
中川(正)委員 これは、さっきの答弁でいくと、もらってきたものはもらってきたんだということは認めたということですね、中身が何であれ。どうなんですか。
田中政府参考人 私が申し上げていますのは、これは、どこの国、北朝鮮だからとか北朝鮮でないからということではございません。外交儀礼という形で、一体何を贈り物として交換したのかということも含めて公に議論をするものではないということでございますし、もらった物については適切に処理がされているということだと思います。
中川(正)委員 処理を、だれに何を配ったかということを非常に気にしているようですが、それ以上に私が気になるのは、あれをもらってきたという行為なんですよ。
 こういう外交儀礼を超えた交渉をしているわけですよね、拉致問題で八人も死んでいたという事実を聞かされた、その中で。それで、これをおめおめと持って帰ってきたという、このことに対して、副長官、改めてこれは弁明をする必要があると思うんですよ、これはあなたが知らない間にちゃんと積まれて帰ってきているわけですから。そのことについて知る知らないよりも、事実がそうしてある、マスコミもそういうふうに報道された、そのことに対する弁明はやはりすべきことであります。これはけしからぬ話です。
安倍内閣官房副長官 当日も、正常化交渉に向けて、再開すべきかどうかの判断をする、そしてまた調印をするかどうか、そういうことをその限られた時間の中でそれぞれ判断をしなければならないという中で、それに没頭して、また帰ってきたわけでございまして、翌日からは、調査団を出すかどうか、そしてまた昨日までは、生存者の方々を何とか日本に帰国させなければいけないということに没頭していたわけでございまして、このお土産がどうであったかこうであったかということについては、私自身は、はっきり申し上げまして関心がなかった、それどころではなかったわけでございまして、そしてまた、私は全くそれについては承知をしておりません。
 そしてまた、それを調査するかどうかということにつきましては、ただいま田中局長が答弁いたしましたように、相互儀礼上、それは基本的には公にはしないということなんだろうと思います。
中川(正)委員 国民の気持ちを代弁すれば、この際、これを受け取ってきた人間を処分すべきです。それぐらいの調査をして説明責任を果たすということ。いかにこの問題について皆が敏感になっているかということに対して、しっかりこたえていくということ。そのことを改めて申し上げたいというふうに思うんです。
 さっきの副長官の話は、説明じゃなくて言いわけですよ。これは格好悪い。そんな話をしないで、前向きに国民に対峙をしていただきたい。改めてこのことをお願い申し上げたいと思います。
 さて、本論に入っていきます。
 この委員会の議論でも、あるいは、当初、小泉総理が北朝鮮に行くか行かないかというそこの時点での論点でも、まず問われているのは、金正日体制、金正日という総書記が交渉相手として値するのかどうか、それだけ信用できるのかどうか、ここだというふうに思うんです。それを見きわめながらの交渉なんだというふうに言いたいんだろうと思うんですが、先ほどの議論の中で、この拉致問題に対して、遺憾であった、そういう言葉が出てきたという報道、それから、そのことを説明しているのは日本のサイドだけなんですね。
 これは改めて聞きたいんですけれども、あの会談が終わった後、金正日総書記みずからが、どこの場所で、どういう形で、世界に向かって、みずからがこのことを取り上げて話をしたか。それは日本としてはどういうふうに見ていますか。
田中政府参考人 大変残念ながら、北朝鮮という国が通常の、日本のような体制の国ではないという前提でございますし、私どもは、金正日総書記が国内あるいは国外でこの問題について発言をしたという情報は把握しておりません。
中川(正)委員 ということは、これは一つ一つ確かめていくという部分の一番大事なところ。先ほどみずから言われましたが、この北朝鮮というのは普通の国じゃないんだと。どこが一番違うかといったら、金正日総書記の独裁軍事国家なんだということだと思うんですよ。その独裁者本人がこのことについて何も言わない。
 そこで、北朝鮮の体質と姿勢が変わったという本質的な見方が前提になって、恐らくはこの二十九日、三十日の国交正常化交渉が始まってくるんだろうというふうに、日本のサイドは一歩踏み出しているんだろうと思うんですが、その根拠になることというのは何なんですか、大臣。
川口国務大臣 金正日総書記が、先ほど来出ていますように、この拉致問題について、これが遺憾であり、おわびをすると言い、そして再発防止をする、そして関係者を処罰したと言ったことは、これは事実でございます。
 これが外に出ていない、彼が外に向かってそれを自分自身で発言していないということでございますけれども、彼が、金正日総書記がこのことについて真剣に、そして真摯に対応していくかどうかというのは、まさにこれからの正常化交渉の中でこれは私たちにわかるわけでございまして、平壌宣言の精神と基本原則にのっとっていないというふうに我々が判断をすれば交渉の過程というのは前に進まないということでございまして、これは金正日総書記もよくわかっているということでございます。
 独裁国家云々というお話がございましたけれども、金正日総書記が現在北朝鮮の最高権力者であって、この問題について解決ができるという意味で金正日総書記が相手であるということは、これは間違いのないところであると思います。
 なお、金正日総書記の自身の言葉ではありませんけれども、北朝鮮外務省のスポークスマンは談話として、かつて日朝関係が不正常であった際にこのような問題が発生したことについて、これは遺憾である、今後このような問題が発生することを防止する、そして家族の方が面会できるように、そして、本人たちが希望する場合には帰国または一時帰国が実現できるように必要な措置をとる用意があるということは言っているわけでございます。
中川(正)委員 金正日総書記みずからの言葉で外に向かって、この拉致問題について遺憾であったということと、それから家族に対する補償、そしてさらなる調査、そういうような、本来、その交渉の過程の中で出てきたという言葉を外に向かってみずから話をすべきだ、それが大前提じゃないかというその話は、これからの交渉の中で当然、日本としては一つの条件として打ち出していくわけですね。そのことを確認したいと思います。
川口国務大臣 拉致問題の解明は、国交正常化交渉の中で最優先の事項であると我々は考えておりますし、昨日、関係閣僚会議で基本方針を決定いたしましたけれども、そこにもきちんとそういうふうに書かれているわけでございます。
 我々としては、平壌宣言の精神と基本原則、そして昨日決まりました基本方針にのっとって、拉致問題については、事実の解明について、これは全力を挙げて解明をしていくということでございますし、総理もおっしゃっていらっしゃるように、この問題を棚上げしては正常化というのはあり得ない、そういうことでございます。
中川(正)委員 大臣、ごまかさないで、直接問いに答えてください。
 私が言っているのは、北朝鮮国内の新聞にも取り上げられない、マスコミが入り込んでいって国民に確かめたら拉致ということさえ知らない、言葉も知らない、そういう状況の中で、我々が、日本のサイドがそのことを金総書記から閉ざされた密室の交渉枠の中で聞いたからといって、こちらから一方的な情報だけが世界には伝わっている。このいびつさなんですよ。
 このいびつさについて、相手の国が、北朝鮮という国がまともな国になってくれるのであれば、交渉する相手としてそれなりの信頼性を持ってくれるという国であるとすれば、それは、金総書記、変わってきたんですねという一番大きな証拠になるんですよ。自分がしっかり腹を決めてこの国の体質を変えていこうとする、そこが一つのメルクマールじゃないですか。それをなぜ交渉しないのかということを今聞いているんです。
 当然、直接、そうした報道と本人の言葉、外に出してもらえますねという確認はするんですね。どうなんですか。
川口国務大臣 先ほど来申し上げていますように、北朝鮮との交渉に際して拉致問題というのは優先課題、この事実解明については全力を尽くすということでございますし、そうした過程で北朝鮮が、平壌宣言に書いてありますように、この問題について誠意を持って真剣に取り組んでいくかどうかというのは、まさにそれを我々はその過程で見ていくということでございまして、その結果として、先方の北朝鮮の態度、行動がそれにのっとっていないということでしたら北朝鮮との正常化の交渉は前に進んでいかないということですから、そしてまた、このことは北朝鮮はよく理解をしているということでございます。
中川(正)委員 様子を見守っていくというだけで、こちらから一つのカードとして示さないというこの交渉姿勢というのが私はどうもわからない。そこが腰が引けていると言われる一つの大きな要因なんですよ、一つ一つ積み重ねていけば。このことを指摘しておきたいというふうに思います。
 それからさらに、今後の日朝交渉、いわゆる正常化交渉、二十九日、三十日というような予定が立っていますけれども、私は、これは話が早過ぎる、もっと整理しなければならない、あるいはまた国民に対してももっと説明しなければならない枠組みがあるというふうに思っています。
 これまでの報道で、この交渉の枠組みとして、国交正常化のその本格的な交渉というものと、それから日本人の拉致事件あるいは個別事件の解明のための分科会を設置していって、これを分科会ベースでやっていくという話と、それから安全保障協議会の設置、これは核やミサイル問題あるいはアメリカとの連携ということもあるんでしょうが、そうした問題と不審船問題、こうしたものをこの安全保障協議会という形で切り離してやっていく。
 ということは、この日朝の交渉、いわゆる正常化していく交渉の前提として拉致問題があり、あるいは安全保障問題があり、こうした問題が解決されて初めて本格的な正常化交渉に入っていくんだというイメージを我々としては当然持って見守っていたんですが、どうも、最近出てきている報道を見ると、そうじゃなくて、これは全部並行協議でいきたいと。正常化交渉は正常化交渉、それから拉致の問題は拉致の問題、安全保障の問題は安全保障の問題、これは並行協議でやっていきたいというふうな形で、分科会とかあるいは協議会とかというものをつくっていくというふうに受け取れるんですね。
 この姿勢というのは、もう一回私、確認したいんですが、これはやはり当初からの話で、安全保障にしても拉致問題にしても、あるいは人権という問題もあるかもしれない、そうしたトータルな話の前提が全部そろった上での正常化交渉というふうにこれは理解していいんですね。だとすれば、この分科会や協議会あるいは並行協議というのをどういうふうに説明するのか、どういうプロセスでやっていこうとしているのか、ここのところを説明してください。
田中政府参考人 委員先ほどから御指摘がございます、北朝鮮が本当に変わったのかどうか、私たちにはわかりません。だけれども、北朝鮮が本当に変わるまで待つということなのかというと、それはそうではないと思います。まさに北朝鮮を本当に変えるような努力をしていかなきゃいけない。そのために、平壌宣言の中に書いてありますように、この平壌宣言の基本的な精神、原則に従った正常化をやるというのが基本原則でございます。
 ですから、先生が御指摘になりました日朝国交正常化交渉もそうでございますし、安保協議もそうでございますが、あの宣言全体の中で連携をとって進めなければいけない。我々は、諸懸案というものを解決しなければいけないという大前提に立って国交正常化交渉も安保協議というものもやる。したがって、それは並行協議というよりも、日朝宣言の中に位置づけられた、連携をとって行っていく交渉であるということでございます。
 拉致問題についてどういう形で取り上げるかということは今後議論をしていく必要があると思います。最も効果的で適切な形で拉致問題を取り上げていきたい。これは政府の方針として決めていただきましたけれども、最優先の問題として国交正常化交渉の中でやっていくということですから、それが具体化されるように最も効率的、有効な方法でやってまいりたい、かように考えております。
中川(正)委員 大局的に見て、最終的にアジアの安定と平和という中で北朝鮮という国をどう位置づけていくかという観点からいくと、先ほどの話では、どうも日本が、日本がというよりも小泉内閣がということかと思うんですが、小泉内閣が功を焦り過ぎているという話だと思うんです。
 正常化交渉というのは何が具体的な話になるかといったら、向こうのカードですよね、これ。経済支援を具体的にどういう形で進めるかという中身になるわけですね。これと切り離して安全保障の話をやり、そして拉致の問題の解明をやる。これを同時並行的にやるというのだったら、こっちのカードはどうなるんですか。完全に向こうのペースじゃないですか、これだったら。
 こういう動きが出ているからこそ、アメリカのケリーさんがやってきて、北朝鮮に行って一方的に彼は言ったわけです、安全保障の条件を。私は、あの様子を見ていて、あるいは日本に帰ってきていろいろな人への説明を聞いていて、あるいは韓国の中の説明を聞いていても、どう考えてみても、北朝鮮に物を言いに来たんじゃなくて、日本にくぎを刺しに来たとしかとらえられないというふうに思うんです。勝手にやってもらっちゃ困りますよ、日本との国交正常化というのはこちらのカードじゃないですか、そのカードを先に使ってしまって、安全保障やら拉致問題やらをそのまま後にずれ込ませるような、そんな日程でやってもらっては困りますよ、そういう意思表示だと私は受け取りました。そのことが実際に行われるとすれば、もう一回根本的にこの交渉過程というのは考え直すべきだというふうに思います。
 どうして並行協議という考え方が出てくるんですか。どうして正常化交渉の前の条件にそれをしないんですか。どうですか。
川口国務大臣 カードという意味で申しますと、正常化をするということ自体が日本のカードでございます。
 ということで、この進め方については、その安全保障協議を立ち上げるということについては第一回の正常化交渉の場で話をしていくということでございますけれども、今の時点で、それぞれの問題、工作船とかミサイルとか、あるいは拉致とか、あるいは原爆被爆者の問題とか、さまざまな日朝間の問題がありますけれども、そうしたことを、何をどの委員会で、要するに安保協議でやるか、あるいは本筋の交渉ですね、そこでやるかということについては決まったわけではない。テーマをはっきり二つに分けないかもしれない、両方の委員会でやるかもしれない。いろいろな可能性があるわけでございます。
 その中で、拉致の問題というのは非常に大事な、我が国として最優先の課題、事項として考えているわけでございまして、これは当然ながら、先ほど来申していますように、全力を挙げて解明をする、そのために先方には強く迫っていくということでございまして、今の時点でこれを分科会でやるというふうに決めているわけではございません。
中川(正)委員 安全保障も協議会でやるというふうには決めていないんですか。これは決めているんですか。
川口国務大臣 第一回のといいますか、第十二回の国交正常化交渉におきまして、どのような議題でどのような進め方でやっていくかということを先方と話をしていくということでございます。
中川(正)委員 それでは、こういうことを発表している外務省の事務方、しっかり処分してください。これはしっかり出ているんですよ。
 そんなことを改めて指摘をしておきたいのと、ここで確認をしたのは、もう一回言いますよ。これは安倍副長官にも答えていただきたい。この日朝の正常化交渉の前提になるのは、拉致問題と安全保障、この辺を前提にして、この辺の議論がしっかり煮詰まらないとこの正常化交渉も始まらないというふうに、国民としても私たちとしても理解をしていいんですね。
安倍内閣官房副長官 小泉総理の立場は一貫しておりまして、原則としては、拉致問題については、拉致問題の解決がなければ正常化はしない、そういうことでございます。
 その上で、拉致問題につきましてもさまざまな問題がございます。どこで解決をすればいいのかということなんだろうと思います。一番結果が出しやすいところでそれを話し合い、また解決するのが国益を考えた上でベストであろう、こう考えております。ということは、正常化交渉の中で解決すべきものは当然ある、こう考えております。
 安全保障問題については、安保協議もございますし、また正常化交渉もございます。しかし、正常化交渉を先に終えてしまって、安保協議の中で、重要な課題はそちらでやっていくということにはならないということでございます。
中川(正)委員 次に、拉致の問題に移っていきますが、先ほども責任者の処罰の話が出ました。この現地調査の中でも、二人の人間が九八年に処罰をされた、これも矛盾した話ですが、実はもう一つ、その実行犯の問題もあると思うんですね。
 例えばここに、よく話が出てくることなんですが、原さんのときに関与をした辛光洙が、韓国で一たん死刑の判決を受けて、特赦をされて北朝鮮に帰っていますね。この辛光洙が、このときの裁判記録、これは一九八五年のソウルの刑事地方法院判決の中で、そのときの拉致の状況が非常に詳しく供述をされている。これが裁判の中で有罪となったその根拠になっているわけですね。これは一九八五年に出た判決なんですけれども、これに対しても、日本の外務省、非常に鈍感なというか、鈍感を超えているんですね。そのころのコメントを見ていると、非常に情けない話が出ているんですよ。
 例えば、阿南さん、この人はたびたび登場しますけれども、今中国大使になっている阿南さんが、このころの本省の中の責任者であったころ、これは九七年のコメントですが、拉致疑惑については、亡命者の証言以外には証拠がないわけなんですから慎重に考えないといけないですね、韓国の裁判で証言があるからといったって、韓国にとらまえられた工作員だから、彼らが何を言うかわからない、こんなコメントを出しているというのは、これはよく報道されている事実ですね。あるいは、槙田氏も、これはよく引用される話ですが、当時アジア局長の時代に、日朝国交正常化がたった十人のことでとまっていいのか、拉致にこだわり国交正常化がうまくいかないのは国益に反すると。これぐらいの現状認識と、それから、日本の国益に対して全く背を向けた形のコメントをしていたということですね。こういうことについては、これは改めて外務省としても総括をする必要があるというふうに思うんです。
 一つは、そのことについてのまず国内の問題の総括ということについてお尋ねをしたい。どんな心づもりでいるのかということですね、これをお尋ねしたいというのが一つ。
 それからもう一つは、この辛光洙が、日朝の首脳会談の十五日前、だから九月二日ですね、首脳会談の十五日前の九月二日に板門店で辛光洙の帰国二周年の集会に参加をしていまして、代表して宣言を読み上げているんですよ。これは、息がとまる瞬間まで偉大なる将軍を絶対的に崇拝し、党と祖国と人民が呼び起こした信念と意志の強者らしくチュチェ革命偉業の完成のための聖なる道で自分のすべての知恵と力をささげると。それで、彼は英雄になっているんですよ。実行犯が、こういう形でたたえられて、大衆の前で宣言文まで読んで、このことを背景にしてあの首脳会談があったんです。それで、拉致問題がこうして今表に出てきているということなんです。
 その後、この辛光洙が捕らえられてそれなりの処罰を受けたという連絡はありますか。
安倍内閣官房副長官 ただいま委員が名前を挙げられた方々とも、私は随分激しく議論をしてまいりました。
 辛光洙の件につきましては、私は平成九年にこの場でかなり詳しく質問したこともございます。しかし、ただ、当時は、その辛光洙についても、質問したのは私と西村眞悟議員だけではなかったか、こう思うわけでございます。それだけではなくて、辛光洙が韓国で捕らえられたときに、当時の盧泰愚大統領に釈放の要望書を我が国から送ったわけでございますが、それには土井委員長も、また御党の大幹部も名前を連ねていたわけでございまして、そういう時代であったということも、また一方事実であるわけでございます。
 ただ、私どもとしては、今までそれぞれ、その当時、時々の外交が適切であったかどうかは常に謙虚に検証、反省する必要はあるんだろう、こう思うわけでございます。
 また、辛光洙につきましては、私どもは北朝鮮に対して引き渡しを要求しているということでございます。
川口国務大臣 先ほど委員が、阿南大使それから槙田大使の局長時代の御発言を引用なさったわけでございますけれども、私ども、そういった発言があったかどうかということについて記録を調べてみましたけれども、公的な場でそういった発言は見当たらなかった、確認できなかったということでございます。
 ただ、非公式の場でそういった発言がもしなされていたとすれば、これは、当時、拉致問題をどうやって解決していったらいいかということを外務省として考える、議論をしている中で出た話かもしれませんけれども、これについて誤解を招くようなことがあったとしたら残念であると私は思いますが、先ほど安倍副長官もおっしゃられましたように、国交正常化交渉すら始まっていなかったこの時期に、外務省として対応できるということについては制約が当然にあったということも御理解をいただきたいと思います。
 安倍副長官もおっしゃられましたように、外務省としては、常に外務省に対する批判は謙虚に受けとめていきたいと考えております。
中川(正)委員 いつも外務省の中の問題になると、同じような答弁から始まって、結局また内部から出てきた資料だとかあっちから出てきた資料だとかと追い詰められて、最終的には、済みませんでした、その事実がありましたということで処分しなければならないというパターンをずっと外務省は繰り返してきたんですよ。だから、今回も恐らく最終的にはそういうことになるだろうということを予告しておきたいというふうに思います。
 だから、やはりこれは、議員自体もそうです、先ほど官房副長官から出ましたけれども、私たちの総括も含めて、すべてがこの問題について日本のサイドも一遍襟を正すということが必要なんだろうというふうに思います。それが、改めて国民に対しての信頼というのをベースにしながら北朝鮮に向かっていく、一丸として向かっていく、そういうことになっていくんだろうというふうに思っております。そのことを指摘しておきたいと思います。
 改めてその関連で、辛光洙の例を取り上げましたけれども、実行犯については、辛光洙だけじゃなくて、何十人あるいは何百人という関連の中で組織的にやられたことだと思うんですね。そのことについてのそれぞれの調査と犯人の引き渡し。それから、よく今報道されていますが、北朝鮮の工作員だけじゃなくて、日本の国内でそれぞれこれに関与した人たちがいるわけです。これについての調査、そして過去にさかのぼった形での総括、これが必要だと思うんですね。
 警察の方に聞きたいんですが、日本の中でこれを幇助した、あるいはこの拉致に携わった人たちに対する捜査それから処罰、これについては今どういう対応をしていますか。
奥村政府参考人 お答えをいたします。
 北朝鮮による日本人の拉致事案、拉致容疑者につきまして、日本の中で北朝鮮に協力した組織とかあるいは人間がいるんじゃないかということでございますけれども、これは、私ども今いろいろな事案を捜査している最中でございまして、そういう事実を把握しているかどうかを含めまして、捜査中のことでございますので、お答えは差し控えたいと思います。
 ただ、一般論として申し上げれば、警察といたしましては、犯罪に協力した者が明らかとなり、またその協力行為が具体的な刑罰法令に違反する場合には、これに対して厳正に対処してまいりたいというふうに考えております。
中川(正)委員 現在、この拉致の人たち、まあ十五人まで認定が出てきましたけれども、実際にそれぞれの地方の警察署管内では、百人を超える人たちがうちも拉致の可能性があるというふうな申し入れをし始めてきているということですね。さらに、さまざまな情報を、NGO等々含めて、今錯綜していますけれども、総合すると、やはり七十人を超える、あるいは、韓国の例からいくと四百人を超えていますから、三けたのレベルに至る拉致という犯罪があったんじゃないかということが言われています。
 これについては、これからの交渉の中で、その前提でいくのか、それとも十五人の限られた人数を対象にした交渉でいくのか、そのこともはっきりしてください。
田中政府参考人 先ほど来警察当局からも御答弁がございましたけれども、私どもも、警察当局と緊密に連絡をし、内閣官房とも御相談をしながら対処をしてまいりたい、かように考えております。
中川(正)委員 わかりにくい答弁はしないでくださいよ。ちゃんと日本語をしゃべってください。どちらなんですか。十五人に限らないということですか。
 ということは、警察からの拉致という認定がないと外務省も動かないということなんですか。それとも、そうじゃなくて、もっと主体的な調査を中に入れていく、外務省なりの調査を入れていく、そういう誠意を私は見せてほしい、見せるべきだというふうに思うんですけれども、そういうようなことなんですか。どっちなんですか。
安倍内閣官房副長官 日朝国交正常化に関する閣僚会議のもとに拉致問題の専門幹事会が置かれておりまして、私は議長を務めておりますが、先般開かれましたこの幹事会におきまして、新たに、私の子供ももしかしたら拉致されたのではないかという情報が寄せられているわけでございまして、そういう情報につきましては、すべて警察におきまして調査、捜査をいたしまして、その中で北朝鮮側に問い合わせるべきであるという案件につきましては、これは外務省を通して北朝鮮側に問い合わせを行っていくということでございます。
中川(正)委員 時間が迫っておりますので、最後の課題を一つ取り上げたいと思うんです。
 これは先ほどから話が出ていますように、日本だけが功を焦って突っ走るんじゃなくて、世界の枠組みの中で北朝鮮を正常な形にしていく、あるいはまた国際社会の中に引き込んでいく、そういう戦略、これが周辺からやはり日本に対して期待されている、求められている、そういうことなんだろうと思うんです。
 そういう意味で、この拉致という問題も、一つ一つ誠意を持って解決をしていくという、これはもうもちろんのことなんですが、もっと言えば、日本の過去の歴史からいって、九万五千人の在日朝鮮人の帰国運動で帰った人たち、それについていった二千三百人の日本人妻、そういう人たちがあの北朝鮮にはいて、非常に専制軍事政権の中で苦しんでいる、いわゆる人権侵害と、それから非常な命にかかわる圧迫感の中で生活をしてきた、それが日本のそれぞれの親戚筋にとっても人質をとられているような形で資金が送られて、資金が送られたところが差別をされて何とか生き延びてきたというふうなこと、こんな報道が日々、それこそ帰還者から、北朝鮮から日本へ帰ってきた人たちからどんどん明るみに出されて、その中身というのが今明らかになってきている、こんな現状があるんですね。
 そんな中で、国際的な枠組みというのは、これは人権だというふうに思うんですよ。その人権ということの中で、やはり同じような境遇の中で、韓国も腰が引けながらその辺の交渉を続けてきたけれども、うまくいかなかった。それが、今経済的な大きな逼迫の中で、恐らくこの金正日という体制そのものが存続できるかどうかというその危機的な状況の中で、貨幣経済に変わり、そして北朝鮮の難民というのが中国にあふれ、これが二十万人から三十万人、NGOの中では、これは五十万人を超えていますよ、そういう指摘をしているアメリカのNGO団体もありますが、そういうことの中で進められてきた話ですね。
 実は、アメリカの方で、日本とネットワークをつくろうじゃないか、その中でアメリカとしては、中国を説得して、あの中へ難民キャンプをつくるために八千万ドルを政府として出していこうという法案が今、国会に上程をされています。そういう流れが一つ起こってきているんですが、これを大きくとらえて、日本もそうした世界各国との枠組みの中で、この拉致問題、そして北朝鮮の中でまだ苦しんでいる人たちの救済ということも、あるいはまた金正日という体制そのものに対して投げかけていくこちらのカード、外交カードという意味でも、そうした枠組みに同じような形で歩調を合わせながら協力して乗っていく。そして、そのためにも中国に対してはっきり物を言っていく、中国は難民と認めていないわけですから。そういうようなスタンスというのが今必要なんだろうというふうに私は思うんです。
 どうですか。中国をこの話に巻き込んで、特に難民問題について、こちらのキャンプの設置と、それからアメリカとの協力のもとにこれを進めていく、そういうスタンスをぜひ外務省のサイドからも持っていただきたいというふうに思うんですけれども、お答えをいただきたいというふうに思います。
川口国務大臣 北朝鮮から、人数はよくわかりませんけれども、多くの脱北者がさまざまな事情によって中国に出てきているということは全くおっしゃるとおりでございまして、国際的にも、そういった問題に対して何かやらなければいけないという動きがあるということも聞いております。
 おっしゃったような形で中国にキャンプをつくるのがいいのか、あるいはモンゴルにつくるという話をしている人もいるようですけれども、国際的に取り組んでいくという動きがあるといたしましても、これが現実化するためには、やはり関係の諸国がみんな合意をするということにならないと話は前に進まないということでございます。
 いずれにしても、これは北東アジア地域全体の非常に重要な問題ですので、関係国の間で、二国間で話をしていくということは大事なことだと考えています。
中川(正)委員 さっきのをまた最後に。
 私たち民主党を中心にした議員団が、韓国とそれからアメリカの議員のメンバーと、これについての国際議員団、調査団というのをつくっていこうという動きが今あります。こういった中でアメリカはもう既にアクションをとり始めておりますので、ぜひ政府のサイドでも、こうした大きな流れの中でこの問題を取り上げながら一つ一つ連携をして解決をしていくというスタンスをとっていただきたい。ひとりよがりで功を焦って、ただそれだけで交渉を進めるということ、このことについては断じて許さない、このことを申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、東祥三君。
東(祥)委員 自由党の東祥三でございます。
 川口外務大臣が大臣に就任されて初めて質問させていただきたいと思いますが、日朝国交正常化交渉に物すごく危機感と憂慮を感じている人間の一人でございます。二十五分間という極めて短い時間でございますが、厳しい発言になるかもわかりません、礼儀を失するような言葉になるかもしれませんけれども、外務大臣並びに副長官、副大臣、御容赦願いたいというふうに思います。
 私のスタンスを初めに申し上げたいと思います。
 今回の小泉総理の訪朝それ自体も、ありとあらゆる角度から考えて失敗だったんだろうというふうに私は思っております。世間では大半の方々が、ある意味で、だれもなし得なかった北朝鮮を訪問した、また安否情報もそれなりに確認されたということで評価されている多くの方々がいらっしゃいます。しかし私は、客観的な、外交というその本質から見たときに、これほど愚かな外交をしたことはないんだろうというふうに思っております。
 とりわけ北朝鮮という、日本との間に、安全保障の問題、そこには狭義では拉致の問題も含まれると思いますが、工作船の問題もある、ミサイルの問題、核の問題、あるいはまたいわゆる歴史の問題もある、請求権の問題もある、ありとあらゆる問題を含んでいる、極めて広範な問題を抱えている国との交渉でございます。
 まず初めに、外務大臣は、日朝国交正常化交渉における役割といいますか、鈴木大使が任命されているわけでありますが、それを総括する外務省における最高責任者であるというふうに私は理解してよろしいんですか。そうでなければきょうの質問というのはする意味がありませんから、責任者であるのかどうなのかということをまずお聞きしたいというふうに思います。
川口国務大臣 私は、外務省という組織の責任者という立場にございます。日朝の国交の正常化の話はさまざまな問題を含んでいて、外務省だけで話が進む話ではないということでございますけれども、その中で外務省は北朝鮮との交渉のところについては責任を持っているわけでございますから、そこについては私が最高の責任者であるということでございます。
東(祥)委員 訪朝したときの僕の衝撃をまず告白させていただきたいというふうに思うんですが、普通の国では、外国の政府、官憲が自国の主権を侵して、その領土から何の罪もない自国民を拉致して、しかもその大半が死亡、私は殺されたと思いますが、殺害されていたことが判明すれば、間違いなくその国と国交を断絶するはずであります。それを、小泉総理は、事もあろうに国交正常化のために交渉を開始することを決めた。これは一体何なのかということなんです。これは本質的な、素朴な疑問でございます。
 外務大臣、ウェンディ・シャーマンさんという方を御存じですか。アメリカのクリントン大統領の末期のときに、オルブライト国務長官のもとでいわゆる北朝鮮外交をやっていた国務省の役人さんであります。彼女は、いわゆる一九九九年のペリー報告の延長線上で、北朝鮮が改革を進めていけば、それに見合った形でいろいろなことをやっていく、それを拡大解釈いたしまして、ある意味でばらまきの外交をやろうとしたんです。そして、御案内のとおり、オルブライト国務長官も北朝鮮に行ったんです。現場を見て、そして状況の判断によって、クリントン大統領を訪朝させようとしたんです。クリントン大統領は、そこでぐっと押し黙ったわけですね。
 そのときに日本のスタンスというのはどうだったか。外務省の方々はみんな知っているわけですよ。少なくとも日本と北朝鮮との間には拉致問題がある、安全保障の問題がある。後ほど安全保障の問題について言及させていただきますが。なかなか簡単にはいきません。ウェンディ・シャーマン氏の、彼女の発想というのは、日本から経済協力を導き出せばいいと。日本の外交は少なくともそのときまでは極めて普通の感覚を持っていたんです。
 突然、今申し上げましたとおり、なぜ、罪もない自国民が拉致され、死亡しているというのが判明し、謝罪を受けたから、国交正常化に入っていけるんですか。普通の国では考えられないじゃないですか。外務大臣、どういうふうにお考えですか。
川口国務大臣 まず、ウェンディ・シャーマンは、私の知人というか友人でございます。彼女について、北朝鮮の話をしたことはございませんけれども、我が国は我が国としての考え方があって、国交正常化交渉の再開に臨むということを決めたわけでございます。
 これについてさまざまな考え方があると思います。委員のおっしゃったような考え方もあると思います。ただ、前提としてお考えをいただきたいのは、我が国は、北朝鮮というこれほど近くにある国と国交が正常化されていない状態で五十年以上を過ぎてきた。その過程で、工作船がうろちょろし、そしてミサイルが頭上を飛び、さまざまな、拉致といった多くのケースが起こったということでございます。
 国交を正常化するための交渉を再開し、その再開した交渉の過程の中でこういった問題について真相を究明し、北朝鮮を追及し、あわせて、我が国としても今まで行っていない戦後の清算の問題をきちんとし、そして話が両方の満足のいく形で進んでいけば、満足のいく形というのは平壌宣言の精神及び基本原則にのっとった形でということでございますけれども、そういうことであるということで初めて国交の正常化というところにたどり着くわけでございまして、現在、これから始めようとするのは、正常化のための交渉を再開、中断していたものを再開するということでございます。
 総理が言っていらっしゃるように、拉致問題についての事実関係も、総理が今回北朝鮮においでにならなければ全くわからなかった。再発防止をするということも、そういう総理の訪朝がなければできない。向こうはそういうことを言わない。おわびも総理が行かなければない。そういうことでございます。
 そういったことが起こらないように、この国近辺に平和と安全が、世界のほかの国々にもわかってもらえるような形、安全に資するような形で行われるということを進めていくというのが我が国の立場で、今取りかかったところでございます。
東(祥)委員 外務大臣に申し上げたい。同義反復はやめてください。何のために国交正常化するのか、答えはこうですという形にしてください。僕は、委員会で外務大臣の話も全部聞いています、今までの記録も全部読んでいます。そういう意味において、私の質問に対して端的に答えていただきたい。
 総理大臣が訪朝したときに、いわゆる八人の死亡を聞いたときに、ここにいらっしゃる安倍副長官、総理帰りましょうと。これは極めて、外交感覚からいくならば、ぎりぎりの線であります。しかし、謝罪したから調印せざるを得なくなった。世界から見れば、日本の国というのはどういうふうになるのかということです。日本に対して他国が、いわゆる拉致を含めた上で犯罪、国家テロ的な行動を行う、二十数年間にわたってそういうことが行われている、しかし、それをトップが謝罪すれば、日本の国というのは水に流す国なんだ、国交正常化のための交渉に入る、それがまさに今回出てきている共同宣言の本質ではありませんか。世界じゅうはそのように見るんですよ。
 その意味で、今の外務大臣の御答弁というのは不満きわまりないものがあります。安全保障上の脅威がありながら、何のために日本は国交正常化をするのか。だれ一人答えていないじゃありませんか。過程だけを答えている。外務大臣、長くなるから、きょう私の警告を発しておきますから、その次に答えていただきたい。具体的に質問させていただきますから。
 外務委員会において、多くの同僚議員が拉致問題についてお話をしてくださいました。安全保障の問題について詰めていきたいというふうに思うわけであります。
 政府は、国交正常化交渉と安全保障協議を切り離しました。あの共同宣言を見る限り、安全保障問題、これは双方で一生懸命ごちょごちょっとやっていきましょう。拉致問題は、訪朝後、いわゆる国民そしてまた世論が騒ぎ出してきて、この問題について安倍副長官中心に積極的にやっていらっしゃいます。徹底的にやっていただきたい。しかし、この問題が解決されない限り国交正常化はないと、拉致問題に関しては言われております。安全保障の問題についても本当に言えるのかどうか、それを詰めていきたいというふうに思うわけであります。
 国交正常化に際しては、経済協力と引きかえに、北朝鮮の我が国に対する脅威をいかに減少させていくかということが日朝交渉の最大の眼目であると思われます。ところが政府は、国交正常化をなし遂げたいという誤った、ある意味で、言葉はきついですけれども功名心にあおられていて、経済協力問題と安全保障問題を切り離したと私には思われます。
 国交正常化交渉の主要問題としては、もはや経済協力の金額の問題しか残っていないはずであります。政府は、困難な安全保障問題を別枠の協議に切り離して、だらだらと建前だけの安保協議を続けさせ、その傍らで国交正常化交渉という名のもとに経済協力の金額交渉を、表裏のチャンネルを駆使して一気呵成に行うつもりなのではないのか。このことを私は危惧しているわけであります。
 この並行協議方式というのは、皆さん、この二、三年の間、どこかで聞いた話なんだろうというふうに思うわけであります。つまり、鈴木宗男議員が、歯舞、色丹の二島返還を画策して国後、択捉を切り離そうとした領土問題に関する並行協議の手法と同じであります。目先の利益に目がくらんで、国益にかかわる最重要問題を棚上げ、先送りしようとする極めて危ない仕組みであると私は思います。
 この問題に対しても、まだ政府の方からちゃんとした説明もない、国民の合意もない。経済協力と安全保障を切り離したことは、私は、最高責任者がどんなに謝罪したとしても足りない大罪になってしまうのではないか、そのことを危惧しています。
 政府が北朝鮮外交においてこれほど安全保障を軽視する裏には、戦後ひたすら安全保障問題を米国に頼り切って自分の問題として考えてこなかったという政府の無責任な体質があるわけであります。安全保障政策の企画立案は、本来外務大臣が行わなくちゃいけない問題であります。この立案を米国に任せ切ってきて、自分はその下請に徹するという、ある意味で被占領国家の奴隷根性がまだまだある、さらにひどくなってきている、このように私には見えてならないのであります。
 日本ほどの大国が、安全保障協議を切り離して、その進展は、よく外務大臣いろいろなところで言われています、いや、米朝ともいろいろ協議しなくちゃいけないのでと。米朝協議の進展次第という無責任な甘えを見せることは、私には、本当に無残なものであって、こっけいを通り越して、まさに悲惨な状況に見えてくるわけであります。
 ちょっと長くなりますけれども、北朝鮮との安全保障問題には、御案内のとおり、核査察、生物化学兵器、DMZの通常兵器削減等多くの問題があります。一つ一つが極めて重い、重要な問題であります。本日は、時間の制約がありますので、ノドンミサイルの問題だけ取り上げたいというふうに思います。
 ノドンミサイルは、現在、百発以上が日本をねらっているわけであります。その多くには化学兵器や生物兵器が装てんされている、このように言われている。弾道ミサイルは、発射されたら、御案内のとおり防ぎようがないのであります。今でも、新潟の原発も、天皇陛下の住まわれている皇居も、国会議事堂も、霞が関も、一千万人の東京都民も、既に金正日の人質になっている、誇張した表現で言えば同じ状況になっているわけであります。日米ガイドラインも周辺事態安全確保法も、ノドンミサイルの前には紙くずにすぎないのであります。金正日のミサイルによる恫喝の前に、例えば新潟の原発と県民を犠牲にして、基本計画を承認することなんてできないではありませんか。
 ノドンミサイルというのは千五百キロしかない射程であります。つまり、日本しか入っていないんですよ。ノドンは日本攻撃専用のミサイルと言ってよい弾道ミサイルであります。米国はこのミサイルに余り関心がありません。米国が真の関心を持っているのは、第一に核兵器です。第二に、射程が五千キロを超えるテポドンであります。第三に、イスラエルを射程におさめる国々へのミサイルやミサイル技術の移転なんです。
 もし米朝協議が進展して、仮に北朝鮮が無条件で核査察を認めれば、ノドンミサイル問題は置いてきぼりにされる可能性が十分にある。日本は、ノドン問題を自分自身の手で解決しなければならないんです。外務大臣の手でやらなくちゃいけないわけであります。しかし、政府は、これまでこのノドン問題を真剣に北朝鮮に提起したことはありません。クリントン政権時代でさえ、ミサイル問題はアメリカにおんぶにだっこだったと思います。
 安倍副長官は、僕のテレビの質問に対して、この問題について小泉総理は言ったと言っています。記者会見の内容を見れば、強い憂慮を表明したという話で終わっているわけであります。懸念を表明しただけなんであります。これではアリバイづくりのための発言と言われても仕方がない。
 平壌宣言には、皆さん御案内のとおり、経済協力に十数行の行数を割きながら、ノドンミサイルには一行の言及もないじゃありませんか。総理は、金正日に対して本当に外交をやろうとするならば、国民の生命と安全をかけた外交をするとするならば、ノドンミサイルの廃棄、製造及び輸出の永久停止なくして国交正常化も経済協力もない、このように言い切らなければならなかったんですよ。そう言わなかったこと自体が、そもそも安全保障問題を棚上げしているというふうに言っても言い過ぎではないんだろうと私は思っているわけであります。
 そこで、外務大臣にお伺いします。
 主要安全保障問題、たくさんあることを申し上げました。特に、ノドンミサイルの廃棄、製造及び輸出の永久停止なくして国交正常化はない、経済協力はないと国民の前に明言することはできますか。国交正常化交渉の中でノドンミサイルは妥協できない最重要事項であることを国民に約束することができますか。イエスかノーかでお答えください。
川口国務大臣 初めにお断り申し上げたいと思いますけれども、東委員の御質問が非常にたくさんのものを含んでいましたので、勢い、私のお答えも長くならざるを得ないということをお許しいただきたいと思います。
 東委員の御質問は幾つかの仮定を含んでいると私は受け取らせていただきました。
 まず、国交正常化交渉と安保についての協議、これを二つに切り離して、要するに、安全保障問題を国交正常化交渉から切り離して、二つを並行に進めていくのではないか。そして、安全保障問題を置き去りにして国交正常化交渉の方で合意に達して正常化をし、経済協力をやっていくのではないか。そういうことが前提になっているように私には聞こえたわけでございます。ただ、それについては、そういうことではございませんで……
東(祥)委員 ちょっと待ってください、時間がないから。
 その前段はそのように御理解して構いません。問題は、私の質問の核心は、ノドンミサイルの配備の撤去、製造の永久停止なくして国交正常化はあり得ないと国民の前に断言できますか、この一点であります。そうであるとするならば、私が言っていた並行協議云々というのも、それは雲散霧消します。そのことだけ言ってください。
川口国務大臣 委員の御質問の前提でございます、そういった並行協議あるいは二つに分けるという前提が間違っているということでございます。これをまず、国会の場でございますから、きちんと申し上げさせていただきたいと思います。
 この平壌宣言をお読みいただければどこにもそういうことは書いてございませんで、ミサイル問題もそれからほかの安全保障、大量破壊兵器の話も、日本にとってもこれは大きな懸念でございます、問題でございます。こういったことをきちんと取り上げて話をするということでございまして、これを安全保障協議の場だけでやるということは必ずしも決まったわけではない、これが本番の正常化交渉の中の本会談でも行われるということは十分に考えられているわけでございます。
 これについては、これから北朝鮮側と第一回の再開をされた正常化交渉の中で決めていくということでございますから、我が国としては、そういった、片方を置き去りにして正常化をするということについては全く考えていない、そういうことを申し上げたいと思います。
東(祥)委員 よくわからない。そういうことというのは何ですか。
 僕の申し上げたとおり、それはノドンミサイルの廃棄、製造及び輸出の永久停止なくして国交正常化はない、その前に経済協力もない、そういうことを外務大臣はおっしゃっているんですね。明確に言ってください。安全保障問題における究極の日本自身が解決しなければならない、のど元に突き刺さっている問題ですよ。これに対して、日本の交渉戦略として、これは欠かすことのできないポイントなんだということであるならば僕は承服しますよ。言ってください。
川口国務大臣 こうした問題というのは、まさに安全保障の問題あるいはその他の日朝の間の、二国間の懸念、こういった問題を解決して、そして正常化をし、ここに平壌宣言に書いてありますように、正常化をしなければ経済協力はないというふうに書いてあるわけでございます。したがいまして、日本としても、この安全保障会議の場で、あるいは日朝の交渉の本会談のところで、こういった問題は真剣に取り扱っていくわけですし、先方が日本にこのことについて脅威を与えないようにということを確保していく必要があると思っております。
東(祥)委員 川口大臣、外交というのは目的を達成しなくちゃいけないんです。話し合いの場だけ持っていたとしても、問題の解決にはならないんです。ノドンというものが日本に向けられている、向けられていて安全保障上の脅威があって、話し合いだけをやっていきましょう、それだったら国交正常化のための交渉をずっとだらだらやっていくということです。何のためにやるのかということです。
 日本に対しての安全保障上の脅威であるノドンの配備を撤去させる、それがない限り国交正常化はあり得るはずがないではありませんか。どうしてそのことを明確に言えないんですか。総理大臣がそういうことを考えていないからですか。考えていなかったとするならば、それを総理大臣に勧告するのが外務大臣の務めなんではないですか。
 もう一度聞きます。
川口国務大臣 私は、話し合いだけをすればいいということを申し上げたつもりは全くございません。平壌宣言の精神と基本原則にのっとって話をし、そして国交正常化ができるということになればしていくということを申し上げたわけでございまして、平壌宣言をよくお読みいただければ、ここに「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。」というふうにございます。北朝鮮側に交渉の過程あるいは交渉の結果としてこの平壌宣言に違反する、あるいは守っていないということがあれば、当然国交の正常化は行われないということになるわけでございます。
東(祥)委員 時間が参りました。
 このように、国会という国民を代表する場で議論させていただいていたとしても、日朝国交正常化における基本戦略、日本が国交正常化のための交渉をやるに当たって、安全保障上の脅威があるにもかかわらず、それを明示して議論できないということほど無残なことはないんだろうというふうに思います。
 外務大臣の言っていることは、何を言っているかわからない。共同宣言を読めばわかる、共同宣言の精神と原則に基づいて、日本政府の国交正常化における安全保障問題に対してのスタンス、目標を明確に問いただしているわけです。それに対して答えることができない。これほど何のための国交正常化なのかということがわからない交渉というのは私はいまだかつて見たことがないということを申し上げて、そしてまた、安倍副長官、ぜひとも頑張っていただきたいというふうに申し上げて、私の質問を終わります。
吉田委員長 次に、東門美津子君。
東門委員 社会民主党の東門美津子でございます。いつものようにラストバッターです。あとしばらくですので、よろしくお願いいたします。
 九月十七日の日朝首脳会談については、各種の世論調査を見ましても、国民のほぼ八割が評価しており、国際社会からの評価も高いものとなっています。私としましても、今回の小泉総理の決断については率直に評価をしたいと思います。
 しかし同時に、北朝鮮との早期国交正常化については、世論調査では慎重な姿勢を示した国民が多かったということは、言うまでもなく拉致の問題が国民の心に大きな衝撃を与えたことを示しているものだと思います。拉致という非人道的な行為は決して許されるべきものではなく、それが国の特殊機関の手によって行われたことに対し、私は強い憤りを感じています。そして、拉致被害者とその御家族の方々の怒りと悲しみ、苦悩を考えると、申し上げるべき言葉も見つかりません。
 拉致問題は、北朝鮮の特殊機関と個人という圧倒的な力の違いがある関係の中で、特殊機関が個人に対し犯罪を犯したという絶望的な状況を突きつけられたものであり、国の武装組織と個人という関係を思うとき、多くの沖縄県民は、戦後二十七年間続いた米軍による占領、そして復帰後三十年を経た今日も巨大な米軍基地が存在し続けるという、個人の力ではどうにもならない悲劇的な状況を思い起こし、被害者と御家族の方々に深く同情し、悲しみを共有しています。私も沖縄県民の一人として、多くの県民と同じ気持ちであり、政府は、被害者と御家族の方々の思いを真摯に受けとめて、事件の真相究明に全力を尽くしていただくよう要望し、質問に入ります。
 まず第一点目ですが、政府は九月二十八日から十月一日まで北朝鮮に調査チームを派遣し、拉致問題に関する調査を行いましたが、その調査結果については、死亡したとされる方々の死因についての説明内容や、遺骨、遺品がほとんどないなど不自然な部分も多く、御家族の方々も到底納得できないとの思いを抱いているという報道が連日なされています。政府も再調査を検討しておられるようですが、次の調査はいつごろ行われるのでしょうか。また、そこでも十分納得できる調査結果が得られなければ、さらに調査を継続する予定なのか。今後の真相究明に向けての政府の基本方針を伺いたいと思います。安倍官房副長官、よろしくお願いします。
    〔委員長退席、中川(正)委員長代理着席〕
安倍内閣官房副長官 調査団が得てきた資料、情報等を今私ども分析をしているところでございまして、納得できない点も多々あるわけでございますから、私どもが確信し得る資料を提出するよう、今も要求をしております。必要であれば当然、その調査の延長線上において調査団を出すということも選択肢の一つなんだろう、こう考えております。
東門委員 といいますと、今の時点では再調査はいつごろという予定はないということなのでしょうか。いわゆる北朝鮮の方から資料が返ってきてからということなのでしょうか。
安倍内閣官房副長官 北朝鮮労働党と友党である御党でございますから、よく御承知だとは思いますが、調査団が行って自由に活動ができるということではないわけでございまして、それなりの成果を得るためには、先方の了解をこちら側が得ていかなければいけないという中で、今粘り強く先方といろいろと交渉を進めている、川口大臣のもと、田中局長が一生懸命今努力をしているというところでございます。
東門委員 北朝鮮の朝鮮中央通信は、二十六日、日本人数人が死亡したことをもって日本側が度を越した騒動を引き起こしては、事態が収拾できない状況に追い込まれる可能性があると論評したとのことですが、この朝鮮中央通信の反応は甚だ遺憾であります。
 拉致問題については、金正日総書記が拉致の事実を認めて謝罪し、このようなことが二度と起こることがないよう適切な措置をとることを発言しているのであり、この発言を意義のあるものとするためには拉致の真相解明は必要不可欠であり、北朝鮮側は誠実に対応すべきものであると思います。
 そこで、実際に現地に行かれて調査をした調査団の感触として、北朝鮮側は誠実に対応していると感じられたでしょうか。また、今後北朝鮮側の対応に誠意が感じられないようなことがあった場合、どのように対応するおつもりなのか。これは齋木参事官にお願いしたいと思います。
齋木政府参考人 私ども調査団で参りまして先方に会いましたときに、先方は冒頭、平壌宣言を誠実に履行していきます、特に私どもの拉致の調査については、先方として可能な限り十分に情報提供いたしますということを言いましたし、そのための最善の努力をいたしますということを事前に申した上で、私どもに対してさまざまな説明をしてきた、個別の情報も含めてでございます。
 私どもは、それに対していろいろと質問をいたしましたし、納得できない点については厳しく追及いたしまして、さらに情報を提供するようにということをその場で相当強くやりました。彼らなりに一生懸命準備したということなんだと思いますけれども、私ども調査団の立場からすれば、内容的には甚だ不十分であるという印象でございます。
 持ち帰りました、向こうから提供されたいろいろな情報、それからまた私どもなりに集めました情報、これを今精査しておるところでございますので、その結果を踏まえて今後どうするかということを考えてまいりたい、こう思っております。
東門委員 拉致被害者の御家族をサポートする支援室が、外務省ではなくて内閣官房に設置されました。私は出席していなかったのですが、九月二十日の本委員会で川口外務大臣は、この支援室は外務省内に設置すると答弁しておられたということですが、そうならなかったのは、御家族の方々の強い要望によるものであります。これは、いかに御家族の方々の外務省に対する不信感が大きいかを示すものであり、国民と政府の関係としてはこれほど不幸なことはありません。
 昨年からの一連の外務省不祥事により、国民の外務省に対する不信感はこの上ないほど高まったわけですが、今回の首脳会談に際しても、被害者の方々の安否に関するリストを隠したことで、さらに国民の怒りを倍加させたものだと思います。外交は自分たち専門家に任せておけばよい、国民は知る必要はないという外務省の姿勢は一向に改まらないのだなと感じております。
 外務省のたび重なる不祥事を受けて次々と設置された外務省改革のための審議機関で何度も指摘されていながら、また今回も同じことを繰り返しています。これでは、どのような立派な行動計画をつくっても、外務省改革など永久に不可能であるのではないかと思わざるを得ません。
 それでお伺いしますが、大臣は、支援室が内閣官房に設置されたことをどのように受けとめられ、外務省が国民の信頼を回復するため今後どのような措置をとっていくおつもりなのか、お聞かせいただきたいと思います。
川口国務大臣 九月二十日の国会で、確かに委員がおっしゃったように、御家族の方を支援する部屋を外務省の中に、部屋といいますか、チームをと申し上げたと思いますけれども、外務省の中につくることを考えているということを申しました。
 それで、この内閣にできた支援室でございますけれども、私も、直接家族の方と向き合う窓口として内閣に置くということが適切であるというふうに考えております。それはなぜかといいますと、外務省は外国との交渉については担当いたしますけれども、この問題については、警察の関係もあり、都道府県との関係もあり、その他さまざまな関係がございますので、そういった幅広い問題を、御家族と一緒になって、御家族のためにこれに対応していくという部署としては、内閣に置かれるというのが、政府全体として対応ができますので、より適切であろうと私は思っております。この支援室を支援するための人たちが外務省の中にいて、一緒に連携をして動いているということはもちろんでございます。
 外務省に対して御家族の方がいろいろな不信の感情をお持ちでいらっしゃるということについては、私は大変に残念だというふうに思っています。外務省として、今まで過去ずっと、この問題が始まって以来、お話を伺ったり、あるいはこれを第一回の国交正常化交渉の場で取り上げたりという努力はしてきたわけでございますけれども、それが今日に至るまで結果が出なかったということについてはもうそのとおりでございまして、そういう意味では残念でございますけれども、今日、今までの積み重ね、あるいはいろいろな方の思い、御努力が実って、こういった形で支援室が御家族の方と一緒にこの問題の解明をやっている状況になったというのは、前進をしたことだというふうに思います。
 外務省として、改革については行動計画をつくって、これをスケジュールに沿ってきちんとやっていくということをやることによって、国民の皆様の外務省に抱いている不信については、一日も早くこれを減らしていきたいと思っていますし、外務省の職員一同、上から下まで、そのように思って毎日仕事を、あるいは外交にいそしんで、一生懸命に成果を上げようと思っているわけでございます。
東門委員 当然ですが、日本は民主主義国家でありまして、主権者は国民です。もちろん、無定見な世論迎合は危険ですが、国民の意思を無視した外交は成り立ちません。政府と国民が一体となった外交を実現するためには国民に十分情報を開示する必要がありますが、先月、NPOが発表した中央省庁の情報公開度ランキングでは、外務省は二年連続最下位であります。本委員会での質疑でも、なぜこんなことまで隠さなければならないかと思うくらい、外務省の秘密主義は徹底しているというふうに感じられます。こんなことでは、到底国民の我が国外交に対する理解は得られません。
 外務省、より一層の情報公開を進めるべきだと思いますが、大臣、見解をお伺いいたします。
川口国務大臣 これは委員のおっしゃるとおりでございまして、外務省が情報公開をもっと進めていかなければいけないと私は思っております。
 同時に、これは外交の問題、あるいはよその国の問題がかかわることでございますので、我が国だけで一方的に情報公開をするということもできにくいという事情にあるということも、ほかの省庁と違った、外務省が持っている特殊性として御理解をいただきたいと思います。
    〔中川(正)委員長代理退席、委員長着席〕
東門委員 確かにそういう面もあるのも私もよく存じておりますが、しかし、この委員会で質疑をしているときに本当に感じるのが、なぜこれほどまでにということなんです。
 今冒頭、大臣が、やはりもっと情報公開をしていかなければいけないと感じておられるということ、ぜひ今後それを進めていただきたいと思います。できる限りやっていただきたいと思います。
 次に、米朝協議について伺います。
 十月三日から五日までの三日間、米国のケリー国務次官補がブッシュ大統領の特使として北朝鮮を訪問され、関係改善に向けて協議を行いました。日朝首脳会談を契機として、北朝鮮を悪の枢軸と呼んでいた米国も北朝鮮との対話再開に踏み切ったということは、東アジアの平和と安定のために非常に有意義なことであり、今後の展開に期待したいと思います。
 しかし、今回の米朝協議においては、双方がお互いの主張を述べ合ったのみであるということであり、次回の会談日程も決まらず、七日には北朝鮮の朝鮮中央通信が、米国は極めて圧力的かつ傲慢だったとのスポークスマン談話を伝えたとのことであります。
 大臣は、六日、ケリー国務次官補と会談され、米朝協議についての報告を受けたようですが、報告内容は新聞等でも報道されておりますので、細かいことは結構ですが、その報告を受けられて、今後の米朝協議の行方について大臣としてどのような見通しを持っておられるか、そしてまた、我が国としてはどのように対応していくおつもりなのか、お聞かせいただけたらと思います。
川口国務大臣 米朝会談の内容については新聞にも出ていたということでございまして、これを米国は国に持ち帰って、そして分析をし、協議をするということであるかと思います。
 よその国の政策でございますので、我が国にとって、今後米国がどういうふうに、あるいは北朝鮮がどのように対応していくかということについては予測をすることもできませんけれども、米国と日本とは、今後、北朝鮮の問題、特に安全保障の問題について引き続き密接に連携をしていくということについては意見が一致をしているところでございます。
東門委員 米朝会談の内容が新聞に出ていたんじゃなくて、報告の内容が出ていたということを私は申し上げたんです。それはよろしいです。
 次に、北東アジアの平和と安定と、そして在日米軍基地の整理縮小についてお伺いしたいと思います。
 日朝国交正常化は、今回の日朝首脳会談でようやく交渉を再開することが決まったという段階であり、国交正常化が実現するまでにはまだ長い道のりが残されています。米朝協議も先行きは全く不透明であり、米国が主張している北朝鮮の核兵器、ミサイル、通常兵器の問題、人権問題など、解決しなければならない課題はたくさんあります。しかし、いろいろと困難な課題はあっても、北東アジアの平和と安定のためには、この対話による緊張緩和という流れを後退させることがあってはならないと強く思います。
 冷戦終結後も、アジア太平洋地域には依然として不安定性と不確実性が存在するとの情勢認識のもとで、政府は日米安保体制を基軸とする防衛力整備を進め、沖縄にも巨大な米軍基地が置かれ、多数の米兵が駐留をしてきました。そして、この不安定性と不確実性の大きな要因として、名指しされてはいないものの、この北朝鮮の存在を念頭に置いていたことは明らかであります。
 この北朝鮮がみずから対話を求めてきたこの機会を逃がすことなく、孤立している北朝鮮を国際社会の一員として平和裏に組み込むことができれば、アジア太平洋地域の不安定性と不確実性は大幅に改善されるはずであります。
 それで、我が国の対北朝鮮政策は、日米韓三国の連携のもとに行われてきましたが、韓国の金大中大統領の太陽政策、ブッシュ政権が発足してからは悪の枢軸発言など、これまでは韓国や米国が主導し、我が国はどちらかといえば従属的な立場に甘んじていました。しかし、今回の日朝首脳会談を契機として、その成果を踏まえて、対話による緊張緩和という流れを後退させないためにも、今後は、我が国がぜひイニシアチブをとって対北朝鮮政策を進めてもらいたいと思うわけです。外務大臣のその決意を伺いたいと思います。
川口国務大臣 日朝国交正常化交渉を通じまして、安全保障の問題というのは非常に大きな課題でございます。こういった問題についてきちんと議論をして、我が国に対する脅威がなくなるように、そして北東地域の平和と安全が高まるような、そういったことに資する交渉をし、その成果を上げたいというふうに思っています。
東門委員 絶対にこの機会を逃していただきたくないと私は思うんです。特に沖縄県の人間として、強くそれを感じております。
 日朝国交正常化が実現して、北朝鮮が国際社会の一員として認められる状況になれば、これは国際情勢の大きな変化であり、在日米軍の存在意義にも大きな変化が生じ、米軍基地の整理縮小も可能となるはずであります。川口外務大臣がいつも答弁で読み上げておられる平成十一年十二月の普天間飛行場移設に係る閣議決定の中にも、「国際情勢の変化に対応して、本代替施設を含め、在沖縄米軍の兵力構成等の軍事態勢につき、米国政府と協議していくこととする。」と記されています。
 この閣議決定の趣旨に従えば、当然、在沖縄米軍の兵力構成も見直されるはずですが、懸念されるのは、米国がまた新たな理屈をつけて基地の現状維持を図ろうとすることです。冷戦の崩壊のときも大きな国際情勢の変化だったわけですが、あのときもアジア太平洋地域の不安定性と不確実性を理由として、駐留米軍のプレゼンスはほとんど変わりませんでした。朝鮮半島の緊張緩和が実現しても、また同じようなことが行われるのではないかと沖縄県民は危惧をしています。
 そこで、お伺いいたします。お願いも入っています。
 もし日朝国交正常化が実現することになれば、我が国としては、それを国際情勢の大きな変化と認め、米国に対し米軍基地の整理縮小の協議を申し入れることを今の時点で政府に確認しておきたいと思います。川口外務大臣、そしてでき得れば安倍官房副長官のお二人の見解を伺いたいと思います。
川口国務大臣 国際的な情勢の変化に対応して、在沖縄米軍の兵力構成等の軍事態勢について米国政府と協議をするということは前からも申し上げているわけでございまして、この北朝鮮の正常化の交渉がいい結果になったということで申し上げますと、それは一つの要素だと思います。
 ただ、そのときに国際的な安全保障の全般がどうかということをいつも考えておかなければいけないと思いますけれども、いずれにいたしましても、国際的な安全保障情勢において、起こる変化に対応して、日本と米国と、両方の必要性を最もよく満たすような防衛政策並びに日本における米軍の兵力構成、これを含む軍事態勢につきましては、日本と米国政府との間で緊密にかつ積極的に協議を継続していきたいと考えております。
安倍内閣官房副長官 まだ、日朝関係においても予断を許さない段階でございますので、委員の御質問自体、ちょっと気が早いんではないかという感じでございます。
 ただ、私ども、SACO最終報告について着実に実施していく、実現していくということについて、今までどおり努力をしていかなければいけないということでございます。
東門委員 お二人の御答弁をお聞きして感じることは、政府はやはり国際情勢に変化があっても動かないのではないか。前回もそうでしたけれども、今回も、今確かに安倍官房副長官が時期的に早いとおっしゃることもわからないではないのですが、国際情勢が変化したときはと常におっしゃってきた。国際情勢が変化したときにやはりアメリカと協議をして、その協議が全然違う協議、そういう形でしか日本政府は対応できない。常に国民あるいは県民の側を向いていなくて、私がいつも申し上げることなんですが、アメリカがどう考えるか、アメリカが何を要求しているか、そこだけに終始しているという考えを否めないということは本当に残念です。
 ともあれ、とにかく今回の国交正常化交渉、今月末から行われること、ぜひ私は進めていただきたいと思います。
 時間ですから、終わります。
吉田委員長 質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
吉田委員長 次に、理事の補欠選任についてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い、現在理事が欠員になっております。この際、その補欠選任を行いたいと存じますが、先例によりまして、委員長において指名することに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
吉田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
 それでは、理事に土田龍司君を指名いたします。
 本日は、これにて散会いたします。
    午後五時十七分散会


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