衆議院

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第5号 平成14年11月15日(金曜日)

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平成十四年十一月十五日(金曜日)
    午前九時二分開議
 出席委員
   委員長 池田 元久君
   理事 今村 雅弘君 理事 河野 太郎君
   理事 水野 賢一君 理事 首藤 信彦君
   理事 中川 正春君 理事 上田  勇君
   理事 藤島 正之君
      伊藤 公介君    植竹 繁雄君
      倉田 雅年君    高村 正彦君
      武部  勤君    土屋 品子君
      松宮  勲君    宮澤 洋一君
      伊藤 英成君    金子善次郎君
      桑原  豊君    前田 雄吉君
      山谷えり子君    丸谷 佳織君
      松本 善明君    保坂 展人君
      松浪健四郎君    鹿野 道彦君
      柿澤 弘治君
    …………………………………
   外務大臣政務官      土屋 品子君
   参考人
   (株式会社ゼネラルサービ
   ス取締役統轄本部長)   大野 元裕君
   参考人
   (名古屋大学大学院法学研
   究科教授)        松井 芳郎君
   参考人
   (財団法人中東調査会上席
   研究員)         水口  章君
   外務委員会専門員     辻本  甫君
    ―――――――――――――
委員の異動
十一月十五日
 辞任         補欠選任
  中本 太衛君     倉田 雅年君
  金子善次郎君     山谷えり子君
  東門美津子君     保坂 展人君
同日
 辞任         補欠選任
  倉田 雅年君     中本 太衛君
  山谷えり子君     金子善次郎君
  保坂 展人君     東門美津子君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 参考人出頭要求に関する件
 国際情勢に関する件(イラク問題)


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     ――――◇―――――
池田委員長 これより会議を開きます。
 国際情勢に関する件、特にイラク問題について調査を進めたいと思います。
 本日は、本件調査のため、参考人として、株式会社ゼネラルサービス取締役統轄本部長大野元裕氏、名古屋大学大学院法学研究科教授松井芳郎氏及び財団法人中東調査会上席研究員水口章氏、以上三名の方々に御出席をいただき、御意見を承ることにしております。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、大野参考人、松井参考人、水口参考人の順序で、お一人十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。
 それでは、大野参考人にお願いをいたします。
大野参考人 御紹介いただきました大野でございます。
 きょうは、十年以上イラクにかかわってきました経験を生かしまして、イラクの脅威とは何かということを簡単に述べさせていただきたいと思います。
 お手元の方に横長の資料があると思いますけれども、まず、イラクの脅威でございますが、アメリカの主張から振り返ってみたいと思います。
 アメリカは、イラクの脅威を二点、そして一つ加えて三点、集約すれば三つの点を指摘してございます。一つ目は、国際テロの支援、特にアルカーイダとの関係を指摘してございます。二つ目には、イラクが大量破壊兵器を現在においても開発あるいは隠匿しているということでございます。そして三つ目に、政権が独裁的あるいは強権的な性格を持っている。この三つをあわせますと、イラクが国際的なテロ組織に大量破壊兵器を引き渡し、それを使うのではないかということが一部では言われていることでございます。
 この個別の議論に関しまして、三枚目のページになりますけれども、まず国際テロ組織との関係でございますが、アメリカ政府は、アルカーイダとイラクが関係している、その根拠ということで幾つか挙げてございます。
 まず、CIAのテネット長官は、イラクはアルカーイダと継続的に接触を繰り返している、あるいは、アフガニスタンでアルカーイダの基地から生物兵器の計画図が発見されましたが、これはイラクと関係しているからではないのかという疑義を呈しています。さらに、ラムズフェルド国防長官は、イラクが北部、北部というのは今イラク政府の統治下にはありませんが、クルド自治区にありますけれども、そこでアルカーイダの分子をかくまっている。さらには、国防省筋は、アルカーイダでニューヨークのトレードセンターの爆破事件の首謀犯でありましたムハンマド・アッタが、イラクの諜報機関と二〇〇一年にチェコのプラハで会談を行ったということを言っております。
 しかしながら、これらすべてに関して、確固たる証拠というのは現時点では示されておりません。
 例えば、一番下の、ムハンマド・アッタとイラク諜報機関との会談でございますけれども、ムハンマド・アッタは、会談が行われたという二日前にはまだフロリダにいたことが確認されておりまして、その後、フロリダからプラハに飛んだ飛行記録あるいはファイナンシャルレコードというんでしょうか、銀行の引き落とし等の十分な証拠がありません。国防省はFBIとCIAの関係者を国防省に呼んで、この件に関して協議をした。その協議の後にFBIの関係者は、国防省から圧力があったことはないけれども、二日前にフロリダにいて、証拠がなくてもプラハにアッタがいたという可能性はあるということを証言しろというふうに言われたと言われておりまして、したがって、これらの主張は今のところ、少なくとも確固たる証拠はないということだと思います。
 それから、その次のページでございますが、そのほかにも幾つもの疑惑が取りざたされております。一々ここで挙げませんけれども、ただ、こちらのほとんどの疑惑の根拠は、一つはアメリカの女性の研究者、この方はイラクのことをずっと書いていますけれども、ミルローという人が言っていることか、あるいは反体制派から流れた情報です。
 一番具体的には、一番下にあります、ことしの九月、イギリスはイラクとアルカーイダとの関係の確固たる証拠を示す文書を発表するということをリークいたしました。しかしながら、実際発表された文書にはこの部分は削除されておりまして、イラクの大量破壊兵器の関連の問題のみが書かれていた。
 このことは、実はイラク北部でイラクがアルカーイダの関係者をかくまっているということが書かれていたようなんですけれども、イラク北部のアルカーイダと関係しておりますクルド組織の、イスラム系組織のアンサール・イスラムというのがあるんですが、このアンサール・イスラムはサダム・フセインの庇護を受けているというのがその文書の中身でございました。しかしながら、実際には、アンサール・イスラムはサダム政権との関係があったということがやはり証明できなかったというのが、恐らくイギリスが発表した、これは実際ブレア首相が発表しているんですけれども、この文書からその件が抜け落ちた根拠であろうかと言われております。
 さらに次のページですが、WMD、大量破壊兵器に関してなんですけれども、次のページは飛ばさせていただいて、その次のWMD破棄の状況ということでございます。
 イラク政府がどの程度脅威であるか、実際に大量破壊兵器は持っていた、あるいは持っているという意思を有していたということは、恐らくほとんどの方が指摘されて、事実であろうかと思っておりますけれども、九八年末の国連の査察団が出た段階での報告書によりますと、核兵器に関してはほぼ解明したと。九八年の五月の段階では、あと数カ月、近いうちにこれは全部終わりましたという報告をIAEAが国連に提出できるということまで述べております。
 これに対しまして、化学兵器と生物兵器に関しましては多くの問題が残っていると言われておりました。しかしながら、最も重要なことは、イラクがこれらの化学兵器、生物兵器を移動する手段をほとんど有していないのではないかと思われていることでございます。
 ミサイルに関しましては、イスラエルの主張だと二十発程度、イギリスは二十七発程度、いまだにイラクは射程百五十キロ以上のミサイルを有しているのではないかと言っておりますけれども、実際には、国連は、百五十キロ以上の射程のミサイル八百十九発のうち八百十七発の破棄を確認したということを、九六年ぐらいの時点で述べております。
 他方で、今回新しい決議にも入りましたけれども、すべての大量破壊兵器の運搬手段を破棄したかどうかというのはまだわかっておりませんで、特に、イタリアから輸入いたしました訓練飛行機、これを無人化して大量破壊兵器を移動させるのではないかということも、懸念としては伝えられております。
 しかし、いずれにせよ、これらの大量破壊兵器をたとえ有しているとしても、イラクがこれらの大量破壊兵器で、アメリカあるいはヨーロッパ、あるいはもちろん日本ですけれども、といったところに直接の脅威を及ぼす可能性はないというのが結論だろうと思います。
 最後に、結論でございますが、サダム・フセインの最大の目的は、自分の政権の維持であります。この政権の維持という目的が最も高度なところにございまして、九一年から現在に至るまで、イラクが外国人に対するテロを行った記録というのは、恐らく一件を除いて残っていないと思います。その一件というのは、九三年のブッシュ大統領暗殺未遂事件。この件につきましても、実は、イラクが首謀者かどうかは、まだ確固たる証拠は示されていないと思いますが、いずれにせよ、外国人に対するテロは行っていない。それから、湾岸戦争以降、大量破壊兵器、ミサイルの発射等も行っていない。
 これはどういうことかといいますと、これらのことにイラクが手を染めればイラク政権は終わりであるということをイラクが十分理解しているということであろうかと私は思っております。そして、この政権維持の目的のために合致した行動をイラクも今後はとっていくであろうと思っておりますが、そこには留保がございます。
 例えば、大量破壊兵器に関して、イラクはこれをすべてあきらめて、国際社会に屈服あるいは恭順したという姿勢を見せたくはないというのがイラクの一貫したやり方で、外交的な余地がある限りにおいては、何とか自分が持っている手段を確保しながら、あるいはレバレッジを確保しながら政策を遂行したいと常に考えているようで、したがって、その目的のもとに、アメリカや国連安保理、隣国あるいは国際社会に対する働きかけを行ってきたというのが、これまでのイラクの外交の歴史だと思っております。
 最後に、先ほど申し上げましたとおり、米国に対する大量破壊兵器あるいはテロによる脅威の度合いは低いと申し上げましたが、イラクが自暴自棄になるような状況に追い込まれた場合には、これはもちろんその限りではないと思います。政権維持が困難だと思ったときには、逆のパターンもあり得る。つまり、すべての持っている手段を利用する可能性があるというのは事実だと思います。
 そして、湾岸戦争以来現在に至るまで、すんでのところで、イラクは自暴自棄になる手前で終わってきたと私は理解しておりまして、政権維持の目的に合致した行動をこれまでとってきたと思っておりますので、今回の決議以降の動きがイラクを自暴自棄に追い込むような事態になるときには、これまでとは異なったシナリオが書かれる可能性もあると思っております。
 以上で私の発言を終わらせていただきます。(拍手)
池田委員長 ありがとうございました。
 次に、松井参考人にお願いをいたします。
松井参考人 名古屋大学の松井でございます。
 私、国際法を専攻しておりますので、国際法の観点から、二つの点についてお話をさせていただきたいと思います。
 もっとも、大変時間が限られておりますので、二つの点、一つは、国連体制下で武力行使禁止原則がどのような位置を占めているかという、かなり一般論、ちょっと大学の講義めいて申しわけないんですが、その点と、それからもう一つは、せんだって採択されました安保理事会の決議千四百四十一、これについて簡単に触れたいと思います。時間が限られておりますので、ここで申し上げることができるのはいわば結論に関することだけでございまして、その根拠、理由というふうな議論は、もしも御質問がありましたら、質疑の中で補わせていただきたいと思います。
 まず第一に、武力行使禁止原則でありますが、十九世紀ごろに支配的であった伝統的国際法では、戦争に訴えるということは規制されておりませんでしたが、二十世紀の初めのころから、さまざまな形で戦争や武力行使を違法化しようという努力が始まりまして、国連体制はいわばその一つのクライマックスをなすものであるというふうに評価されております。
 ここでは、国際関係における武力の行使及び武力による威嚇が全面的に禁止されまして、例外が二つだけあるというふうに考えられております。一つは自衛権行使の場合であり、もう一つが国際連合自体による集団安全保障の強制措置の場合であります。
 まず、一つ目の自衛権でありますが、この自衛権という概念も伝統的にはさまざまに広く解釈されてきましたが、国連憲章のもとでは、憲章五十一条のもとで厳しく制約されているというのは皆さんも御存じのとおりであります。武力行使が発生した場合にのみ自衛権が行使できるという考え方を憲章はとっております。したがって、武力行使のおそれがあるけれども現実に武力行使自体は発生していないというときの、いわゆる先制的自衛は憲章上認められないというのが圧倒的多数の学者の解釈であり、かつ、国連のこれまでの慣行でもそのことが確認されてまいりました。
 もっとも、武力行使が現実に発生して被害を生じるというところまでは必ずしも必要でないという理解が多うございます。つまり、自衛権というのは第二撃の権利には必ずしも限定されないんだということでありますが、ただ、武力行使の可能性というのは客観的に証明される必要がある、単なる主観的なおそれではだめであるというのが一般的な理解であります。つまり、主観的な要素を導入いたしますと必ず乱用の危険が生じますので、現実に発生していなくても武力行使の可能性が客観的にあるということでないと自衛権は行使できないものというふうに考えるわけであります。
 さて、本件、このイラク問題で議論になっておりますのが二点あるのは、先ほど大野さんのお話でも明らかにされました。特に、自衛権との関係で問題になるのは、湾岸戦争の後の安保理事会の決議で義務づけられました大量破壊兵器の軍縮をイラクが完全には実施していないということであるわけですが、軍縮義務に違反して禁止された兵器を保有すること自体は、これはとても武力行使に該当するとは考えられません。したがって、そのことだけで自衛権が行使できるとは考えられないわけであります。
 もっとも、軍縮義務に反して禁止された兵器を持っていることが平和に対する脅威を構成するということはあり得ます。しかし、それに対処するのは安保理事会でありまして、安保理事会がそのような脅威の存在を確認し、それに対してどのように対処するかを決定するということになるわけで、ここから問題は第二の例外である強制措置の方に移っていくわけであります。
 国連憲章の第七章が定める強制措置の制度では、安保理事会が平和への脅威や平和の破壊の存在を認定いたしまして、これに対してとるべき措置を決定するというふうにされております。御存じのように、憲章四十三条の特別協定が締結されておりませんので、本来の意味での国連軍というのは存在しないわけでありますが、したがって強制措置はとれないというふうには必ずしも考えなくてよいだろうと思っております。つまり、加盟国が軍隊を自発的に提供して、それによって強制措置をとるということはできるだろうと思います。
 ただし、この場合、あくまで集団的措置としての強制措置でありますので、この軍事行動については、国連、具体的には安保理事会がきっちりと統括をするということが不可欠であろうというふうに思われます。このような統括を欠く個々の加盟国への武力行使の許可ないし授権ということが、湾岸戦争を初め、時に行われるわけでありますが、これについては、憲章適合性に疑問があるのではないかと私は考えております。
 ただ、かなりこの慣行は積み重ねられてきましたので、どうも私の学説は少数説になりつつありますが、ただ、このことが可能だとしても、決議千四百四十一がその条件を満たすかどうかというふうに考えますと、これはとてもそのようには考えられないだろうというふうに思っております。
 この決議をめぐって、アメリカの当局者はしばしば、イラクが違反した場合には新しい決議の必要なしに武力が使えるということを言っておりますが、この決議をどの角度から見ても、そのような理解は出てこないだろうというふうに思っております。
 第一は、先ほど申し上げた憲章の基本構造ですね。
 憲章の集団安全保障体制では、平和への脅威を認定して対処を決定するのは安保理事会の権限でありますから、個々の加盟国がとってかわってそれを行うことはできません。また、個々の加盟国に武力の行使を許可する権限が安保理事会にあるとしても、これは原則に対する例外の関係にありますので、あくまでも明確に、疑問の余地のない形で明文で示される必要があると思われますが、そのような明文の規定はこの決議には存在しないわけであります。
 第二に、決議の内容も、今申し上げた集団安全保障の基本線に沿ったものであるように思われます。
 イラクによる重大な違反はUNMOVICの執行委員長とIAEAの事務総長が安保理事会に通報して、安保理事会が、状況及びすべての関連安保理事会決議の完全な履行を確保する必要性を検討するために直ちに開会するというふうに規定されておりまして、つまり、違反の最終的な認定と対処は安保理事会の権限であることが明記されております。
 第三に、決議をめぐる加盟国の見解も圧倒的にこのような解釈を支持しているというのも、さまざまな報道で御存じのとおりでありまして、一方的に武力が行使できるということを明言いたしましたのは、アメリカのほか、私の見た限りでは一国しかございません。三常任理事国、フランス、ロシア、中国を含め、圧倒的多数の加盟国が、安保理事会が役割を果たすべきであるという態度を表明しているわけであります。
 もっとも、決議千四百四十一は、御存じのように非常に複雑な政治過程を経て採択されたわけでありまして、アメリカの主張の手がかりになるような言い回しも二、三は見受けられるわけでありまして、いずれにしても、安保理事会決議も、皆さんが御存じの国内法と同じように、一つの解釈だけが正しいと言うのはなかなか難しゅうございまして、複数の解釈から選択をする余地が残されているというふうに考えられますが、もしもこの決議を一方的な武力行使が可能であるというふうに解釈したといたしますと、これは長年繰り広げられてきた武力行使を違法化するための努力に真っ向から逆行いたしまして、十九世紀的なジャングルの法則が支配する国際社会に戻ることに道を開く解釈だということを銘記しなければならないだろうというふうに思っております。
 そういうことで、結論だけを申し上げて、大変不十分でございましたが、とりあえず以上でございます。(拍手)
池田委員長 ありがとうございました。
 次に、水口参考人にお願いをいたします。
水口参考人 おはようございます。ただいま紹介にあずかりました水口でございます。本日は、こういう形で機会をいただきまして、大変光栄に思っております。
 僣越ですが、お手元に配付させていただきました書類に基づいて、少し私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、結論から申し上げます。お二方の参考人の方が非常に明確に、また細部にわたって御説明をしていただいておりますので、私はむしろ大局というか、マクロ的なところでこの問題についての結論を出させていただければと思っております。
 ありきたりの結論になってしまうんですけれども、グローバル化されていく国際社会の中で、国家の枠組みや既存の国際法、既存の国連憲章等において、秩序とかそういうもので対処できない状況が起きています。こういう問題をどういうふうに考えるかというところが非常に大きな問題になっていくわけですけれども、やはり国際協調という形で第三の道というものを今このとき考えなければいけないのではないかということが私の結論になります。
 では、お手元にあるテーマについて、紙に沿って少しお話をさせていただきます。
 まず一番初めのテロへの対応の姿勢ということで、二つの項目を列挙させていただいております。
 これは、先般社会学学会の方で議論されたものでございまして、一のところは、むしろ理想という社会を描くことによって、そういうものを描き続けることによってテロはなくなるんではないかというような、割と理想主義的な発想をした議論だと思います。二番目のところが、現実というものに即し、テロは壊滅しないんだ、少しずつ減っていくだけだ、そのためには、その都度その都度、実際的な効果を上げる政策をとらなければいけないんだ、こういうような形の議論が学会ではなされています。両方、非常に重要なことだと思います。長期的な展望、そして短期的な対応というものを両方とも書き切っているんだと思います。
 では、なぜテロというものが今こういう中で注目されているのかということで、その二のところをごらんいただければと思います。
 御案内のとおり、既に近代国家というものが達成されたところ、それから発展途上国というところ、そして、そういう近代化にも及ばないというような状況、また、近代化をなし得ても、そのものが現在統治できていないというような状態の国家、このような三つのグループに現在の国際社会は分かれていると思います。むしろ二の、近代化推進国家というんでしょうか、そういうものを描いている以下の国の方が多いと思いますね。
 こういう中で起こってくる脅威というのは、近代国家として建設されたり、または推進をする国家の間では、戦争というような形、国と国という既成の、ある程度の秩序というものが働く部分でルールはつくられ、また対応できるわけですけれども、テロというような形、国家というものの枠組みが見えない、そういう組織から起こる脅威というのは、やはり国のルール、それから既存のものでは対応できない。正対称の戦争とかいう表現になっておりますけれども、そういうものに対して、近代国家を建設した国々はどういうふうな対応をしていくのかという問題が出てきているわけです。
 主権ということを主張するならば、それに応じて、少なくとも義務があるんだということだと思います。内政不干渉というならば、少なくとも自分の国の中でテロ組織その他をしっかりとした統治をするということが大事なことだと思います。そういうものができない限り、では国際社会は、その体制に対して変革を求めるということが常識としてあるのではないかという議論が今起こっているわけです。
 次に、三番のところで、それをちょっと見ていきたいと思います。
 過去、歴史的に見ますと、その統治ができない国家に対しての対応、国際社会は三つのものしか行っておりません。一つとしては、三無主義というか、無関心、無視、無行動というようなことです。この結果として、あのルワンダの大虐殺が起こっているわけです。そして、今回アフガニスタンで見るように、二番目のところとして、軍事介入という形で一つの正当性をつくる努力がなされたというのもあります。もう一つが、北朝鮮等で見られるように、赤十字等を通しながら食糧援助をし、人道介入という形でその破綻国家を救っていくというような形が見られるわけです。
 だから、ここで出てくる問題として、既存の主権国家というもののつくっていく国際秩序、規範、そういうものでは対処できないということがある。ここは先ほど申し上げたようなところの繰り返しになりますが、この点は押さえていきたいと思います。
 そして、現状としてサダム・フセイン体制というものをどう見るかということになるんですけれども、やはり先ほど大野参考人からも御指摘がありましたように、イラクという国のある部分しかその統治権が及んでおりません。北緯三十六度以北のクルド地域においては自治区ができている。それから、三十三度以南のシーア派地域においての支配権は衰退しているというような状態です。そしてさらに、スンニ派の中心部においても、ティクリティーというサダムが出身している一族の血縁による支配であって、これは民主主義ではありません。
 こういうような状態が起こる破綻国家において、どのような危険が国際社会の中で起こったかというと、過去の事例を見ますと、実は隣国というものを二回も侵略しています。イラン、クウェートというところだと思います。そして、自国民においての化学兵器の使用というのを行っています。湾岸戦争のときにマスタードガスを使い、クルド人を制圧したという経緯もございます。さらには国連憲章を踏みにじってきているということ、それから、大量破壊兵器を継続的につくっているというようなお話もございます。こういう国家において、果たして話し合いというような形で物が進んでいくかということが非常に心配なところがございます。
 アメリカという国は普通の国になりつつありまして、国際社会においてやはり国益というものを優先して考える国になり始めています。こういう中で、国際協調がどれだけ大切かというものをやはりしっかりと考えていくべきだと思います。
 最後になりますが、日本の方向性について、二、三お話をして終わりたいと思います。私は、二つの問題として方向性を考えています。
 一つは短期的な問題、これには三つあると思います。
 既存のテロ特措法に基づいてできること、例えばアフガニスタン方面における支援ということだと思います。これは今出てきておりますけれども、船舶臨検に対する、ドイツ、フランスが動いておりますが、それに対する補給というものも一つだと思います。
 それからもう一つが、周辺諸国における支援ということだと思います。これは、ヨルダンとかトルコとかイランという国が挙がっておりますが、もし問題が起こったとき、難民という問題が起こりますし、経済苦という問題も起こるわけですから、こういう問題に対処できるような心構えというのが必要なんだと思います。
 次に、長期的な活動ということで見ていきたいのですが、平和の構築、軍縮ということについて言及したいと思います。
 日本は、一九九一年、国連のもとで軍備登録というものをすることに成功しております。これは二〇〇〇年の段階で百十五カ国が軍備登録をしておりまして、重火器に関しては登録の現状がわかっているというような状態です。
 ここであえて申し上げたいのは、二〇〇〇年七月に、九州・沖縄サミットにおいて、小渕首相が提案した小火器の、小型武器の登録という問題なんです。二〇〇一年の七月まで国連でこれは議論されておりまして、行動方向というんでしょうか、規範というんでしょうか、そういうものを決めようという段階に来ております。ぜひ、こういうものを確立することによって、中東地域、紛争地域に小型武器というものが入らないような状態にしていただければと思っております。
 もう一つが、国家の再建、国づくりというところなんですが、これはアメリカが非常に苦手なところです。こういう苦手なところにしっかりとした日本の対応を望みたいと思っております。これは、今までは国連と国家というところの領域で行われていたわけですけれども、NGOという新しい動きが見られております。こういう第三の力というものを利用した形で、ぜひ行っていただきたいと思います。
 フランスにおける国境なき医師団に関しましては、その活動の四八%が国家からお金が出ております。日本においては、公益法人に対していろいろな問題が出ておりますけれども、その公益法人に対する寄附という問題に関しては、まだ税制的な処置もないというような状態があります。こういうところもぜひ御審議いただければと思います。
 最後に重要な点を申し上げたいと思うのですけれども、日本社会において国際情報の共有化というものがなされていないという現象があると思います。こういう意味では、いろいろなレベルでマスコミが問題を流すような情報が出てくる場合もありますし、研究者のレベルも上がりません。したがって、少なくとも税金で活動し集められた情報、そういうものを一元的に管理し、共有できる、そういうシステムをつくる必要性があるということです。これはやはり今後のテロ対策、そして国際社会における日本の役割というのを考える基本的な部分になるということを申し上げ、お話を終わりたいと思います。
 御清聴、感謝申し上げたいと思います。(拍手)
池田委員長 ありがとうございました。
 これにて参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
池田委員長 これより参考人に対する質疑に入りたいと思います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。丸谷佳織さん。
丸谷委員 おはようございます。公明党の丸谷佳織でございます。
 きょうは、参考人としてお見えになってくださいました三名の方、大変に貴重な御意見を伺いまして、本当にどうもありがとうございました。短い時間でございますが、私の方から幾つか質問させていただきたいと思います。
 まず、水口参考人にお伺いをしたいと思います。大変大きな視点から今回陳述をしてくださいましたけれども、今回のイラクに対する問題というのは非常に複雑なものがあると私はとらえております。
 というのは、あの九・一一以降、テロ対国際社会という構図、また一方ではイスラム対欧米、特に非イスラムあるいは米国という対立の構図、そしてまた産油国あるいは消費国という関係も、それぞれ見方によって変わってきているでしょうし、また、安保理決議千四百四十一をつくるまでの間もそのような構図でいろいろな議論がなされてきましたし、また今後、査察がなされた後も、例えば、重大な違反が見つかったときにとられると思われるであろう軍事力の行使を国連が容認をするのか、あるいは、アメリカが単独でしてしまうのか等々、結果も非常に複雑なものが出てくると思います。
 そういった意味で、日本も国際社会の一員として、本当に今回外交で知恵を出していかなければいけないと思うんですけれども、先ほど情報の共有化が日本はまだなされていない部分があるというふうな御指摘もありました。こういったテロ対国際社会、あるいはイスラム対非イスラムといった文明対宗教との関係、いろいろな見方ができる中で、今回のイラクに対する日本の見方というのは、どのような視点でこの問題をとらえていくのがいいと思われるのか、この点についてお伺いします。
水口参考人 お答えさせていただきます。
 非常に難しい点だと思います。日本というこだわりになるのか、それとも、グローバル化されていく国際社会の中で各個人としての価値で今回のテロ問題を見るのか、そこが非常に難しいところだと思いますけれども、御質問が、まず国家というような枠組みでということでございます。
 私ども、やはりイスラムという問題を敵視してはいけないということで、まず、中東地域それからイスラムというものの啓蒙をもう少し日本の国内で行う必要性を感じております。その点がまず第一点ですね。
 それから第二点が、具体的なその対応としてですけれども、やはりパレスチナ問題、こういうところで憎しみの連鎖というものが起こっておりますので、こういうものが少しずつ解けるような、パレスチナ人やイスラエルの方が集まって話し合えるような会議を催してみるとか、それから、実際にはイスラム問題なんかは現地で、日本と直接石油がかかわるペルシャ湾の国々において、ペルシャ湾の安全保障、シーレーン、そういう問題についてももう少し話し合っていくというような具体的な政策をとっていくことによって相互理解というのが深まると思います。そして、その相互理解を深めることによって、まさに将来的なエネルギー問題というものも解決できるんではないかなと思っております。
丸谷委員 ありがとうございます。
 続きまして水口参考人にお伺いしますが、中東の専門家としてお話をお伺いしたいんですけれども、イラクを単体で見た質問なんですが、九一年に安保理決議六百八十七が採択され、査察も開始されましたが、九八年にはいろいろな経緯があって停止をしています。このときイラクは、決議を受諾したものの、結果的には停止に至るような困難な面があったわけなんですけれども、今回の国連決議千四百四十一というのは、六百八十七よりもより細かくというか、厳しい面も実際にあります。
 この千四百四十一をフセイン政権が今受諾に踏み切った背景というのは、九一年当時と何か違うものがあるというふうにお考えになっているのかどうか。また、よく報道でも言われていますけれども、大統領府関連施設等も含めて、本当に六百八十七ではかなわなかった完全な査察というのが今回行われるであろうという見通しをお持ちなのかどうか、この点について教えてください。
水口参考人 ありがとうございます。
 まず一番初めの御質問でございますけれども、大野参考人が御指摘したように、やはり基本的にサダム・フセイン生き残り戦略というのをとっていると思います。この点ではやはり先延ばしというような状況が見られるんだと思います。非常に今度のタイムスケジュールがきつい、アメリカ側から見るときつい状況だと思いますので、春に向かってそういうような作戦がとられるとしますと、化学兵器を使われるおそれがある、防護服を着なければいけないとか、そうしますと来年の秋というところまで極端に武力行使を先延ばししなければいけなくなるのではないかという懸念をしている論調も見られております。ですから、政権を延命するための一つとして、まず、そういう行動がとられているということを指摘できます。
 それから、二番目の点の御質問になりますけれども、少なくとも今回、一四四一という決議の中には経済制裁解除というテーマが盛り込まれておりまして、これはやはりイラクにとっては非常に魅力的な部分でございます。
 それから、もう一つが、実は、湾岸戦争の停戦決議におきまして、六八七でございますけれども、第十四項に当たると思いますが、そちらでは中東地域における大量破壊兵器の地域内での壊滅というのでしょうか、管理というものが出てきます。この問題は、実は、イスラエルの核とくっついてきますし、イスラエルの大量破壊兵器の削減という問題にまで絡んでくるわけでございます。ですから、単に自分の延命だけではなく、そういう中東地域全般、軍縮やまさに経済的な問題まで意識した対応になっているのではないかなと思います。
丸谷委員 どうもありがとうございました。
 それでは、大野参考人にお話をお伺いします。
 参考人のおっしゃってくださいましたお話は大変興味深く聞かせていただいたわけなんですけれども、最初に参考人が、米国の主張するイラクの脅威として三点おっしゃいましたよね、国際テロ支援と大量破壊兵器の開発、隠匿、政権の独裁的、強権的性格と。また、最後の結論の三点を比較したときに、果たして今回の国連決議に至る結果あるいはアメリカが主張するイラクの脅威というものが説得力がないのではないかなというふうに、一連のお話をお伺いして私は感じてしまいました。
 というのは、国際テロ支援というのは、アルカイーダとの関係、これによって脅威の大小は変わってくるでしょうし、また、大量破壊兵器の開発、隠匿に関しましては、今回の査察が成功すればこれは消えるわけです。また、政権の独裁的、強権的性格というのは、確かにこれは周りの国にとっては脅威ではあるけれども、脅威だからといってそれを例えば軍事力で変えるということは、これも余りにも乱暴な話でありまして、国際テロ支援国家なのか違うのかという点が唯一残ってくる問題なのではないかと思います。
 ただ、その視点におきましても、参考人がおっしゃいました、最近、イラクはほかの国の人に対してはテロは行っていないという御発言もありまして、そこからしますと、イラクの脅威というものが非常に薄れてくるというふうに私は理解をしたのですが、この点について、何かおっしゃりたいことがあればお願いします。
大野参考人 お答え申し上げます。
 もしも決議一四四一が、武力行使を意味する、あるいはアメリカが一カ国で武力行使を行うような理由を持っているものであるということであれば、イラクのアメリカに対する脅威というのは、そこまでのものではないというふうに言えると思います。
 その一方で、決議六八七、一二五四、それから一一五四、一四四一と、四回にわたりまして非常に厳しい決議をイラクが突きつけられて、それでもなおかつ大量破壊兵器を隠匿している可能性が高い、あるいは地域の安全保障に対して重要な影響を及ぼす可能性が強いという意味では、まさに決議六八七が採用された際の、国際社会がイラクを何とか非武装化して、あの地域に安定と安全をもたらそうという動機はいまだに続いているということだと思います。
 したがいまして、アメリカが今回武力行使をするという話と地域の安全保障、それからイラクの将来というのは、また違う話ではないかと私は考えております。
丸谷委員 また、大野参考人は長い間イラクを見られてきたということで、その視点からお伺いをしますけれども、よく言われますポスト・フセインという、例えばアフガニスタンにおきまして国際社会が協力をして新しい国家樹立に向けて行った行動、それに伴う成功という例がイコールイラクに当てはまるとは到底思えないわけなんですけれども、さきの選挙を見ても、一〇〇%の支持率を得てフセイン大統領が再任をされたということから、ポスト・フセインというものを国際社会が考えていくこと自体がちょっと難しいのかなというふうにも思うわけなんですけれども、イラク国内の反体制派と言われるような方たちの動向もあわせて、この点の見通しについてお伺いをします。
大野参考人 お答え申し上げます。
 実際、これは非常に難しい問題でございますが、アフガニスタンのような国際管理のもとでイラクを管理していくという体制は一つにはあり得るとは思いますが、まず第一に考えなければいけないのは、あくまでも仮定の話ですが、フセイン政権が倒れる倒れ方にもよると思います。それが政権内部のクーデターなのか、軍によるものなのか、あるいは大衆蜂起が引き起こされるようなものなのかといったことにもよると思いますが、恐らく、今指摘すべき大事なことは、既存のサダム・フセイン政権をつくり上げた支配機構というものがすべて小さくなっている。端的に申し上げれば、バース党の見地からも弱くなっている、軍の力も弱くなっている、あるいは民衆、部族の力も弱くなっている。しかし、サダム・フセインとその周りの人は極めて強くなっている。したがって、九一年以来、あるいは七九年にサダム・フセインが大統領になって以来、恐らく今が一番サダム・フセイン政権は安定しています。
 その裏返しでいいますと、それぞれほかの小さいグループ、集団の力は弱まっている。ということは、サダム・フセイン政権はこれらのグループの力を頼って上に上り詰めたわけですが、これらの政権を支えてきた層が、制裁とか、あるいはその後のオイル・フォー・フード計画によって弱くなりましたので、それぞれが細切れになっている。ということは、もし何も上の覆いがなくなると大変な混乱が訪れる可能性がある。あるいは、部族勢力もそれぞれの能力を果たし得なくなるという可能性があると思いますので、私は、特に九六年以降、ここは非常に危険な兆候として見ております。
丸谷委員 では、時間がないので最後の質問になりますけれども、もう一つ、大野参考人にお聞かせ願いたいと思います。
 ある報道によりますと、イラクは、例えば経済や政治的な関係から諸外国を見たときに、日本はアメリカやカナダやオランダと並んで敵対国の一つに位置づけられているという報道もあったわけなんですけれども、実際にイラクから見て、今日本という位置づけはどのようなものだというふうにお考えになられていらっしゃるか。
 例えば経済の協力に関しても、日本は新しい道を歩み始めていたのではないかなと私は最近思っていました。というのは、昨年の例を見ましても、衆議院の予算委員会がイラクに視察に行ったり、いろいろな会談をしたり、参議院でもそのような行動が行われていたと思いますし、イラクからの要人も日本に訪れているといった、新たな機運をつかんでいるような時期だったと思うんですけれども、日本に対するイラクの見方というのはどうなっているか、お伺いして終わります。
大野参考人 お答え申し上げます。
 イラン・イラク戦争が終わって湾岸戦争に入る前の二年間、日本はイラクから見て最大の貿易相手国でした。そして、イラクは、アメリカでも当時のソ連でもない、日本に対して期待を持っていた、これは事実だと思います。
 その一方で、例えば逆に、九八年になりますと、アメリカが空爆をして、真っ先にアメリカを支持したのが日本であったということで、非常に簡単な言葉で言えば、かわいさ余って憎さ百倍といいますか、今まで最も仲のいい国が裏切るのはおかしいというのがこれまでもイラク政府の方から多々聞かれてきた言葉でございます。
丸谷委員 ありがとうございます。
 松井参考人、お時間がなくなりまして、申しわけございませんでした。
 ありがとうございます。
池田委員長 次に、河野太郎君。
河野(太)委員 自民党の河野太郎でございます。
 きょうは、お三方にお忙しい中お出かけをいただきまして、ありがとうございます。
 水口さんのお話の最後の方に、日本は国際情報の共有化がおくれているというお話がありましたが、どういう情報がどう共有化がおくれているのか、もう少し具体的に話をいただけるとありがたいのですが。
水口参考人 まず、縦割りの省庁間の問題というのは明確にあると思います。外務省が集められている情報、そして財務省が集められている情報、経産省が集められている情報、それぞれが海外でいろいろな拠点を持っているわけですけれども、それがばらばらな状態で一元化できていないという状態がございます。
 もう一つ、今外務省の改革というところで情報の開示という問題が出てくるわけでございますが、非常にレベル的に低い情報、例えば公開情報と言われている現地の新聞、テレビの情報、こういうものがデータベース化されておりません。したがって、どんなことが起こるかというと、電報自体が、担当官がごらんになってそのまま地下の倉庫に入ってしまう。
 実は、公開情報というのは、皆さん御案内のとおり、国際情勢を見る上で非常に重要なものになります。そこを小まめに分析することによって大体八割から七割の情報が分析できると言われておりますけれども、そういう公開情報を、中東の現地情報とそれから欧米情報とを組み合わせることによって密度が濃くなるわけです。そういう作業が実際はなされていないというような状態でございます。
 かような形で、もし公開情報が提示できるならば、それはメディアが扱うレベルが全然変わってきます。さらには、学校教育においてその情報が使えるという形です。各大学の独立法人化という問題も出てくるわけですけれども、一つのクロノロジーを、日誌といいますか、そういうクロノロジーをつくるだけでもお金がかかるわけですけれども、そういうものは、少なくとも国が集めたデータを、海外情報をデータベース化するだけで大きな財政削減にはなると思います。
 以上です。
河野(太)委員 ありがとうございます。
 イラク問題というテーマから少し外れますが、今のお話は大変重要な問題だと思いますし、この外務委員会で何らかの行動を起こすべきものだと思いますので、これはまた委員長並びに理事の皆様にお諮りをしたいと思います。
 アメリカが今、イラクの脅威と言っております。先ほどの大野参考人の中にも三つ主張があるわけでございますが、テロ、アルカイダとのかかわり、それから核兵器、生物化学兵器を開発している、だからイラクは脅威である、これは百歩譲って理解ができるとしても、アメリカが時々言う中に、イラクの政権は極めて独裁的であり、非民主的であり、強権的であるというようなことを言います。レジームチェンジというような言葉も出ているわけですが、私はこれは非常に危険なのかなと。イラクに対してイラクが独裁的ではないかと言った瞬間に、その隣にいるサウジアラビアなんというのはどうなってしまうのか。こういう論理を振りかざしてアメリカがイラクに言った場合に、中近東各国大半は、欧米で言う、アングロサクソンが言う民主国家とは違うわけでございますので、どちらかというと独裁的、強権的政府に分類されかねない状況なんだろうと思います。
 水口さんにお伺いをいたしますが、例えばイラクに対してアメリカが何らかの行動をとったときに、湾岸の中で今、政府は親米でありますサウジアラビアにどういうような影響が出ることが予測されるでしょうか。
水口参考人 お答え申し上げます。
 サウジアラビアという国は、ワッハーブ派というイスラムの復興主義、イスラム原理主義と皆さんが一般にお使いになっていますが、そういうところで国が成り立っている国でございまして、現状そこには憲法もございません。基本法という形ですけれども、議会も、まさに決議をできないような諮問議会という形です。民法、刑法においては、イスラム法、シャリーアというものを適用しているような状態でございまして、欧米的な民主化というレベルで見ますと、かなり差があります。こういうものを要求されることにおいて、サウジのサウド家の中で、アメリカというものが求めている民主化に対応できるグループとそうでないグループとが分かれてしまうというおそれがございます。
 国際社会の中で進んでいく方向として、例えばサウジアラビアはWTOに加盟しようという動きも自身でなさっておりますけれども、それは、ある意味では自分の国内で調整をしながら少しずつ改革をしていく動きなんですけれども、もしイラクという国が民主的な親米国家で、なお自由というものを標榜し、複数政党制が完備されるような国家になってしまいますと、バハレーンで見られているように、少しずつ民主化という声の中でサウジ王家が乱れてくる。特に、アブドラ皇太子とファハド国王というものの、高年齢ですので、年齢を超えた世代の交代というのが言われている時期でございます。そういう意味で、世代交代と政治体制の交代が重なってくるというようなことがありまして、人によってはサウジアラビアが四つの地域に分かれてしまうというような紹介をされる場合がございます。
 以上でございます。
河野(太)委員 日本と中近東というのは、少し欧米と違った関係にあると私は思っております。アメリカのようにイスラエルべったりというわけでもございませんし、ヨーロッパのようにかつてここを植民地にしていたという歴史もない、あるいは欧米と違って宗教色が非常に薄い、あるいは軍事産業というのをほとんど持たないのが我が国の産業の特徴でございますので、非常にニュートラルな形でこの中近東に入っていけるのではないか。そういう意味で、日米安保というのは非常に大事でありますし、私は日米安保をペルシャ湾までのシーレーンに拡大していくべきだと思っておりますが、その先の中近東にどう取り組んでいくかということについては少しアメリカと立場を違えるべきなのではないかなというふうに思っております。
 次に、大野さんにお尋ねをしたいんですが、サダム・フセインがいかにしてこのイラクをこういう形で支配するようになったのかということをお伺いしたいと思います。
 先ほど、湾岸戦争後の制裁あるいは国連のオイル・フォー・フードのプログラムを通じて、サダムの周りの力は強くなったけれどもそれ以外のバース党なり軍なりの力が弱くなったというお話がありましたが、そのあたりのことをもう少し詳しく教えていただきたいと思います。
大野参考人 お答え申し上げます。
 サダム・フセイン大統領は、もともと非軍人でございまして、バース党の党内政治の抗争の中で政権を握った人物でございます。その中で、非常に巧妙な組織政策と申しますか、あるいは簡単に言えばあめとむちの政策と言っておりますけれども、むちの方に関しましては、これまで何年も報じられてきましたとおり、まさに恐怖の政治を行ってまいりました。それは、複数の諜報機関が相互に監視をし合う、あるいは家庭の中のことまで、小学校で例えば先生がそれを聞いて密告する、そういった社会がつくり上げられてきた。
 その一方で、それだけでは二十七年間ですか、政権は維持できないと思っております。逆にあめの部分もございまして、それは、自分たちを支援する人に対してはグループとしてそれを取り込んで、組織の中に入れて自分の周りにつける、そして同じ運命共同体を構成しているという感触を一緒に抱かせることによって裏切りを防ぐ。万が一裏切る場合には、むちの政策の方に返っていって、見せしめの処刑やあるいは行方不明になったりといったことをテクノロジーとしては行使してきた。
 その一方で、サダム政権はスンニ派政権と呼ばれていますけれども、実はスンニ派だけではございませんで、シーア派やクルドも含めたみずからを支持する組織をうまく取り込んで、支持しない方の組織に対してぶつけていったというのがずっと経緯でございます。さらには、人口の六割を占めると言われておりますシーア派、彼らに対してはグルーピング、組織化を許さずに、なるべく小さく切りまして、そして支配していくということを続けてまいりました。
 この結果、九一年までにサダム政権は確固たる政権基盤を築きましたが、この後、九〇年に湾岸戦争に至るまでの間に制裁がかかって、特に九一年から九五年ぐらいまでが一番苦しいんですけれども、この制裁の中で、農産物の値段が上がって、部族、農業を主に営んでいる封建領主の力が上がります。このことによってサダム政権の力は極めて弱くなるというのが九一年から九六年までに発生したことです。そこでサダム政権と伝統的な封建領主の部族社会との差が縮まってきて、結果として、よく見られたんですが、九六年ぐらいまでは、爆破事件、騒擾事件、それから有名部族の関係者の亡命、こういったことが相次ぎました。
 今度、九六年になりますと、国連がオイル・フォー・フードというスキームを導入してまいりまして、これは、イラクの石油を国連の管理下で輸出をして、人道物資をイラクに入れるんですけれども、ここでイラクには全く無料の物資が大量に入ってきます。このことによって、今度は農民、部族勢力がほとんど力をなくします。これが、先ほど申し上げた、サダム政権の基盤となってきたグループが力をなくしたという基礎でございまして、軍もそうです。
 八八年にイラン・イラク戦争が終わって、百万人以上の潜在的失業者が出て、イラクは非常に困難な問題に直面します。それを湾岸戦争で一たん切り抜けるんですけれども、さらに、終わった後にどうしたかというと、アメリカのせいで我々はこれだけ大変な状況にあるといって、六十万人程度を解雇します。これで、みんながお互いに貧乏なんだから我慢しましょうということでやって、四十万程度になった軍隊を、サダム・フセインは再度ふやしません。というのは、自分を守るために最低限必要なものをそこに持っていればいい。それから、百万人規模に軍がふえて、職業軍人の力が上がってきて、サダム・フセインとの力の差をなくすような状態をなるべく避ける。
 したがって、部族も軍も、同様に諜報機関も、サダム・フセインとの力の差を九六年以降広げて、その結果、騒擾事件も亡命も、それから爆破事件も、九六年以降は比較的少なくなっているというのが現状だと思っております。
河野(太)委員 今のお話ですと、イラクの軍隊というのは、イラクを守るというよりは、サダム・フセインとその周辺を守る軍隊というような印象を受けるわけですが、そうしますと、仮にアメリカが軍事行動をとったときに、今のイラクの軍隊では、それこそ湾岸戦争と同じような状況に、極めて短期間で粉砕される、そういう見方でよろしいんでしょうか。大野さんにお伺いいたします。
大野参考人 湾岸戦争のときのイラク軍のパターンを見ますと、クウェートでの戦線で多数のイラク軍の兵士がみずから投降した、その後、砂漠の丸裸の地帯でイラク軍はアメリカの標的になったというのが、湾岸戦争の四十三日間の空爆と、それに引き続く陸上戦での事態だったと思います。
 現在、先ほど申し上げましたとおり、軍の規模というのは小さくなっている。そして、制裁下、最新兵器というものが入手できずに、恐らくアメリカとの力の差はかつて以上に広がっているというのが実情だと思います。
 しかしながら、イラク軍は精鋭部隊をバグダッドとティクリート、あるいはその周辺に固めて、あるいは防空ミサイルにいたしましても、バグダッドの周辺にはなるべく厚く、外に行くにしたがって薄くというのがイラク側の今の戦法です。したがって、政権は死守する、たとえ周りが落とされてもバグダッドとティクリートは死守するというのが今の現状で、なおかつ、精鋭部隊は、単に軍備的に精鋭なのではなくて、サダム・フセイン大統領と運命をともにしているという教育を受けています。つまり、彼らは利益を得ている層で、サダム・フセインが殺されるような場合には彼らも一緒に殺されますよというのを常にインプットされている。
 それからもう一つは、サダム・フセイン大統領の今の戦略は、かつてのような、砂漠にもう一度身をさらしてアメリカ軍の標的になるという戦術をとることは恐らく少ないのではないかというのが専門家の意見になっております。つまり、都市部に引っ込むとか、あるいは民家の横に隠れるとか、そういった地形を利用するとか、あるいは、今回の査察を引き延ばして、五月ぐらいになって砂あらしが起きる時期を利用する、あるいは暑さを利用するといった形で、弱者の戦争、国内でのゲリラ的な戦争というものを志向していくのではないかというふうに見ている方が多いと思います。
河野(太)委員 時間になりましたので、ここで質問を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
池田委員長 次に、首藤信彦君。
首藤委員 それでは、きょうは専門的な御意見をいろいろ聞かせていただけるということで、陳述人が陳述いたしました順序に従って質問させていただきます。
 まず、大野さんにお聞きしたいわけですが、現在、ゼネラルサービスというところでお勤めなわけですが、それは現在はどういう仕事をされていて、いろいろ御説明されましたけれども、いかなる根拠に基づいて御意見を陳述されたのか、それを簡単に説明いただきたいと思います。
大野参考人 現在の仕事は、基本的には流通の関係でございまして、イラクとは関係がございません。
 他方で、八九年から九一年にイラクに専門調査員として在勤し、その後、中東調査会、国際大学の中東研究所で研究員を行い、九六年から九九年まではヨルダン大使館のイラク班で次席をやっておりました。
 それが基本的な根拠ですが、その後、自分としても、これまでの研究者のネットワーク、あるいは反体制派とのコンタクトを通じて情報収集を続けております。
首藤委員 御説明の中で、これからいろいろ査察が始まるということで、タイムテーブルも示されるわけですが、この査察によりますと、一千カ所をチェックするというふうになると思います。そのうち、特に、これも極めてアバウトな話ですけれども、百カ所ぐらいはキーポイントであるというふうに考えられているわけです。
 そういうふうにしますと、それもバクダッド市内とか、それこそバスラにありますとか、そういうところは飛行機でも行ってちょっと見るとか、幹線道路を走っていくというのはあると思うんですが、現実に、ミサイル発射とか、あるいは砂漠の中で一般人を寄せつけないところにある秘密兵器の貯蔵所とか、こういうのは行くだけでも困難というふうに考えるわけです。
 陳述人の御意見でも、大野さんのつくられたテーブルの中で、例えば十二月の二十三日にMOVICが査察を開始してから、この一千カ所、あるいはキーポイントの百カ所でも結構ですが、一体どれぐらいの時間で査察が現実的にできるのか。現地感覚から、これが現実的なのかどうか、その辺の御意見をお聞きしたいと思うんですが。
大野参考人 お答え申し上げます。
 査察のイメージでございますけれども、まず第一に、ここにFACDと書いてございますが、完全かつ正確なイラク側の申告、これが行われます。この申告が本当のものであるのか、あるいは虚偽であるのか、まずこれをチェックする必要があります。したがって、そこに関しては、場所とかが特定されている場合がある。あるいは、場所が特定されていないで、例えば川にこのミサイル弾頭は捨てましたというときには、その川をさらうという時間のかかる作業がある。
 もう一つは、モニターの機能がございまして、例えばこの部屋が工場であって、そこで何かを製造している場合には、この部屋を封鎖する。あるいは、そこにある機械に対してモニターカメラをつける。あるいは、赤いテープなんですけれども、まあ赤だけじゃないんですけれども、テープをつけて、例えばその機械あるいは資材が使用できないようにする。それを定期的にチェックして回るというのが一つございます。
 それからもう一つは、九八年のケースをちょっと端的に申させていただきますけれども、このときにはやはり大統領関連施設の危機があって、その後、UNSCOMという当時の国連査察団が入ったということなんですけれども、このときは、やはり三月の二日に決議一一五四が採択されて、三日に最初の査察団が入って、まずは準備とモニターの状況のチェックを行いました。その後、三月二十六日、特別査察の開始と書いてありますけれども、特別査察と申しますのは、あのときには、大量破壊兵器を隠しているのではないかという大統領府に行く外交官との問題、それからもう一つは、専門の人だけを集めて、例えば化学兵器のVXガスの専門、そういった人だけを集めたチームを送るということがありますので、ここは、時期については、その頻度にもよる。
 それからもう一つは、おっしゃるとおり、六十日というのは非常に短い期間で、決議六八七で、UNSCOMに対して、百二十日間の間にすべての大量破壊兵器を処理して報告をしなさいというのが最初の決議なんです。しかしUNSCOMは、到底それが無理で、百二十日はおろか、その後八年間にわたって査察を続けざるを得なかったというのが事実になりました。
 以上です。
首藤委員 現実に体験された知識から、非常に貴重な情報をいただいたわけですが、前回の九八年のときと違うのは、例えば、今回はインタビューがございますね。これはある意味では非常にキーとなるわけですが、これは、大量破壊兵器だけじゃなくて、サダム・フセインの政権そのものを追い詰めていくためにも使われるわけですね。ですから、その意味では、今回のレゾリューションというのはもっと深刻なわけですが、専門的な御体験から、今度、こういうものがつけ加われますと、一体それは、現実にはどれぐらいの期間を要するのかということを、推測で結構ですから、専門家としての御意見を陳述いただければと思います。
大野参考人 私、武器の専門家ではないので、ちょっとその辺はよくわかりかねますが、ただ、いずれにいたしましても、私は、最低限一年、あるいは二年は必要だし、サダム政権としては、政権側から見れば、少なくとも次のアメリカの大統領選挙ぐらいまではこの話は引っ張っていきたいと思っているのではないかと疑っております。
首藤委員 大変ありがとうございました。査察の難しさというのを改めて専門的な見地から開陳していただきまして、ありがとうございました。
 それでは次に、松井参考人に国際法の視点からお聞きしたいわけですが、まず最初に、大量破壊兵器というものは国際法的にどう定義されるか。
 WMD、WMDと、我々はもう何回も言って、大量破壊兵器と言っておりますけれども、内容は一体何か。核兵器、それはそうだろうという考え方はあります。しかし、細菌兵器などになりますと、例えばサルモネラ菌、一部には美容整形にも使おうという時代ですね。それから、スモールポックス、天然痘なんかも果たして本当に兵器なのかどうか。あるいは、兵器という恐ろしさを示すことによって、もうそれは兵器なのかという定義もございますが、国際法的にはWMDというのは一体どう定義されるのかを、まずお聞かせ願いたいんです。
松井参考人 お答えいたしますと申しましても、私、実はきっちりお答えができませんで、随分いろいろな国際文書で大量破壊兵器という言葉が使われております。それから、もちろん会話等でも出てくるわけですが、国際法的に、これが大量破壊兵器の定義であるという一般的な定義が定められたことは、私の知る限りではございません。
 ただ、生物兵器、化学兵器については、おのおの禁止条約がございますので、その禁止条約で禁止する対象については、おのおのの条約の定義がございますが、それはあくまでその条約の目的に限っての定義でありまして、一般的に通用する定義というふうには考えられていないわけであります。
 結局、お答えとしては、国際法上、一般的に大量破壊兵器を定義する文書等は存在しない。しかし、議論で使われております言葉は、今もおっしゃいましたように、核兵器、そして生物兵器、化学兵器、大体この三つを合わせて大量破壊兵器というのは常識的な使い方になっているようですが、おのおのの構成部分である各兵器の定義というのは、今も申しましたように、一部に条約上の定義があるけれども一般的な定義はない、そういう状態だと思います。
首藤委員 これはやはり、私はゆゆしき問題だと思うんですね。ぜひ法学の立場からも、世論というか学界を喚起しまして、やはり合理的な、もちろんまだ使われたことはないわけですから、実際、どれが本当の兵器かどうかはわからないわけですが、それは、やはり我が国はほかの英米と違う立場にあるわけですから、より行動に対して正確さを求められると思うんですね。ですから、やはり学界の統一意見なり専門家の意見として、単に言葉、WMD、WMDと言うだけじゃなくて、我が国が動くときには、大量破壊兵器、だから悪いんだ、これだけいけないんだということが我々が納得できるように、やはり学界としても理論化をぜひ構築を急いでいただきたい、そういうふうに私は要望したいと思うんですね。
 それを査察するわけですが、今度は、違反があったら、この査察プロセスを中止して、直ちに攻撃というのがアメリカの考え方ですね。アナン国連事務総長なんかは、いや、そういうことをしなくて、アメリカは一度引けみたいなことを一生懸命言っているわけですけれども、現実にアメリカは、もう最後のところまで周りを取り囲んで、ちょっとでも違反があったら攻撃しようということになっていますね。
 そこで、例えばライスさんなんかが、ゼロトレランス、要するに、もう一切妥協しない、ちょっとでも違反があったらこれは攻撃しちゃうよということになっているんです。ゼロトレランスということの意味は、例えばフセイン大統領の顔がある壁画があって、そこを、これはけしからぬということで、きっとこの壁画の裏には秘密の部屋があって、核兵器があるんだろうということで壊せと言ったときに、ばか言うな、うちの指導者の顔をこんなつるはしで殴れるかという人が反対する。これはもう当然違反なわけですよね。
 だから、そういう、ゼロトレランスというふうに言われてしまいますと、これはもう実行不可能なわけですが、国際法的な視点から、一体、違反というのはどの程度の違反だと国際社会では通念的に認められるとお思いでしょうか。いかがでしょうか。
松井参考人 実は、これは軍縮に限りませんで、条約で国際的な約束をした場合に、その違反を認定するというのは大変難しいわけですね。国内社会のように、公権力が確立しており、裁判所が整備されているというふうな状況に国際社会はないわけですから、違反を客観的に認定するのが非常に難しいというのが現状であります。
 そういう一般論だけではなくて、特に、今回の場合のように軍縮にかかわった事態でありますと、違反があった場合、場合によっては他国の安全保障に決定的な影響を及ぼす可能性があるというふうな事態が少なくありませんので、そのような場合には、やはり、単に一条約の違反、あなた、いけませんねというのでは済まないという状況が出てくるというふうに考えられます。
 一般的に、条約の重大な違反というのは、その条約の趣旨、目的を損なうような、そういう違反のことを申しまして、軽微な手続的なそごがあるというふうなことまでは重大な違反に含めないのが一般でありますが、軍縮条約の場合は、それに違反して、例えば禁止された兵器を製造しているというふうなことが国際の平和と安全に大きな影響を及ぼすという事態が、恐らく重大違反というふうに定義されるだろうと思います。
 そこで、問題は、結局、そのような重大な違反をだれが認定するか、客観的な認定が非常に重要なわけですが、従来の軍縮関係、例えば、先ほども触れました化学兵器や生物兵器の禁止条約などでは、いずれも、あの国が違反しているのではないかという認定をした国が安全保障理事会に通告をする、安全保障理事会が措置をとるという仕組みになっております。つまり、そのような軍縮条約の重大な違反というのは、平和と安全に脅威を及ぼす可能性があるわけですから、平和と安全の維持にとって主要な責任を負っている安保理事会が認定するという仕組みになっているのだと思われます。
 そこで、今回の一四四一決議も、最初のお話のときに私、簡単に申し上げましたように、UNMOVIC、IAEAからの報告が安保理事会に寄せられて、そこで最終的な認定が行われるという仕組みをつくっておりますので、従来の軍縮諸条約と同じ道筋がそこに想定されているというふうに考えられるわけであります。
 これは、今も先生がおっしゃいましたアメリカの立場とはかなり違っているわけで、その点にアメリカが十分に満足してないということは推測されるわけでありますが、国連の従来のやり方の線から考えれば、一四四一決議の仕組みというのは、大体正当な仕組みではなかろうかというふうに私は考えております。
首藤委員 これは国際法的な立場からぜひ説明していただきたいわけですが、アメリカが軍隊を派遣している。これは、自衛権に基づく形で、要するに、アメリカが攻撃されているから、国際社会がどうあろうが、うちは攻撃されたんだから攻撃する用意をするよということでやっているわけですね。一方、ここで国連決議が成りまして、特にアメリカ側が出した国連決議に基づいて一四四一が発効して動き出しているわけですね。そうすると、このスキームに乗っているわけです。ところが、同じスキームに上りながら、先ほど言いましたようなマイナーな問題で、いや、おれはおりた、やはり自衛権でいくよ、こういうことが国際法上認められるのかどうかということを、法律の立場からいかがでしょうか。
松井参考人 お答えいたします。
 今先生おっしゃいましたように、今の議論は、恐らく二本の筋で進んでいるだろうと思います。
 一つは、これももともとアメリカに根強くあった議論でありますが、自衛権の行使ということで軍隊を使う。この場合は、御承知のように、安保理事会の事前の許可は必要ないわけですね。しかし、先ほど最初の話で私申しましたように、自衛権の発動ができるというのは、現在の国際法では、特に国連憲章の体制のもとでは大変厳しく制約をされております。アメリカは、比較的といいますか、かなりこれを自由に幅広く解釈する立場に立っておりますが、これは必ずしも国際社会の一般的な理解とは一致しておりませんで、一般的な理解は、やはり事前に、あるいは、少なくとも客観的に武力行使のおそれが証明される必要があるというかなり狭い考え方をとっているわけです。
 したがって、現在の状況を考える限り、自衛権をもってイラクに対してアメリカが軍事力を使うということは、とても正当化できるものではないというふうに考えられます。
 もう一つの筋合いが、安保理事会決議を通じた武力の行使でありまして、安保理事会が加盟国に対して武力の行使を許可ないし授権をするというやり方が湾岸戦争以来一般化しているわけでありまして、私先ほども申しましたように、これには憲章上の問題があると思っておりますが、一般化しているのは確かであります。
 その前提で考えますと、この場合はやはり、安保理事会が明確にその趣旨の許可をしているということが必要だろうと思いますので、決議の中でほのめかしているとか、そのように解釈してできないことはないという程度のやり方では、とてもこれは安保理事会の決定に従って武力を使ったという言い方にはならないだろうというふうに思っておりまして、この決議、具体的に見まして、そのように解釈できる部分もありませんし、採択の経過から見ても、圧倒的多数の国連加盟国の理解も、やはり一方的な武力の行使はできないと考えている。
 したがって、今までの議論の筋の、その二本の筋どちらをとっても、現状では少なくとも、アメリカが武力を使うことの法的根拠はないだろうというふうに考えております。
首藤委員 本当にこれは重要な視点だと思うんですね。質問はもう二時間ほどしたいんですが、ちょっと時間が限られていますので、最後の質問をさせていただきますが、それは人道的な視点ですね。
 今までは戦争というのは人道面は余り考えなくてよかったんですけれども、今の戦争というのは、人道面あるいは人道法を考えながら戦争をするという、非常に複雑な状況になっていると思うんです。今はその人道という点に関しては、例えばイギリスの医師団体が、イラク戦争で大体死者が五十万人出るということで、実行に対して批判決議が出ている。それからまた、その実行に関して、アメリカの例えば宗教界でも非常に強い反対が出てきている。こういうように、要するにこの行為が、かつて九〇年のイラクが人の国の主権を侵害したという状況からかなり変わってきているわけですね。
 こういうところで人道的なものをよく考えなきゃいけないし、アメリカの攻撃に関しても人道面のチェックがかなり厳しくなると思うんです。そこで一つ考えられるのは、ちょっと簡単にお聞きしたいんですが、イラクは、例えばジュネーブ条約のプロトコール一、二に加盟しているかどうか、まずお聞きしたいんですが。
松井参考人 イラクの場合は、私、個別国家についてはなかなか覚えておりませんで、カンニングをさせていただきたいんですが、四九年ジュネーブ諸条約には参加をしていたというふうに思いますが、七七年追加議定書についてはいかがだったでしょうか。追加議定書には入っておりませんですね、イラクの場合は。
首藤委員 はい、わかりました。本当に、もう何時間でも質問したい気持ちなんですが、また別の機会に譲りたいと思います。
 最後に、水口参考人にお聞きしたいわけですが、時間もだんだんと迫っているわけですが、専門的な知識をずっとモニターされている状況において、例えば、一九九一年から二〇〇二年の間に、九一年でもう大打撃を受けて、それから一生懸命経済制裁の中をやりくりしながら武器を再生していくわけですね。特に、ただ人間が多いというものから、先ほどお話がありましたように、軍隊の総数は非常に限りながら、近代化、それから砂漠の戦闘に合わせて、それから大量に戦車が進攻してくる状況も考えながら、いろいろ手を打っていっていると思うのですけれども、一体この十年強の間にどれだけ武器の再生ができたかということですね。
 例えば、スカッドミサイルにしても、これはやはり、どこでつくっているというのはすぐばれてしまうわけですから、一体そんなものができていくのか。それから、地対空ミサイルとか、あるいは誘導対戦車ミサイルとか、恐らく自分をやがては攻撃してくるだろうという兵器に対する備えというものをこの十年間でどの程度再生、再構築できたのか、その辺の御意見をお伺いしたいんですが。
水口参考人 お答えをさせていただきたいと思います。
 経済制裁が入っている中で、今、イラクという国が密輸で年間稼いでいるお金が大体三十億ドルぐらいあると言われております。そういうお金をベースにして周辺諸国から武器を買うというようなお話が出てきていると思うのです。特に、旧ソ連国のエリアからその武器を購入するという形があります。
 御指摘があったスカッドとかそれから核に関しては、非常に施設が大きいとかその物体が大きいものですから、こういうものに関しての武器的な増加というものは余り考えられないと思います。むしろ、やはりイラクという国の現状を考えますと、非常に多くその周辺国が軍拡を続けておりますので、自国の脅威を守るために、特に生物兵器、化学兵器というものを持っているということを言うだけでも安全保障上の力を得られますので、そういうところで、そういう武器を開発しているおそれがあるということだけ申し上げられると思います。
首藤委員 御専門のところで一つ、重要な点だと思うんですが、ちょっとお聞きしたいのは、イラクが国連に対して査察受け入れ、本当に受け入れと書いていないじゃないかということで問題になっておりますけれども、私、気になるのは、一番最初のところなんですね。慈悲深いアラーの名において、そして、彼はこう言っているんです。その内容を御存じだと思うんですが、「ゴー・ザウ・ツー・ファラオ・ツー」云々とあるわけですよ。この二行は一体何を、コーランの中の何の一節に基づいてイラクは国連に、受諾ではあるけれども、受動的反撃だと思うんですが、この手紙を送ったのか。最初に出てくるこのコーランの一節は一体何を意味しているのか、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。
水口参考人 大変申しわけございません。勉強不足で、どこを引用しているかというのはわかりません。済みません。
 それで、今の御指摘なんですけれども、やはりイラクという国、バース党という政権は、どちらかというと世俗政党ですね。社会主義政党に近い、そういう世俗政党ですけれども、やはりアラブ社会全体に、自分の協力者に訴えるというところでコーランの一節を使ってきているということは考えられると思いますが、内容に関してはちょっとお答えできません。失礼いたしました。
首藤委員 大野参考人は多分アラビストだと思うんですが、このファラオに言え、ファラオに聞けという一節は一体何を意味されているか。いかがでしょうか。
大野参考人 たしか私の理解では、コーランではなくて、以前クウェートの物質的なリーダーを例えて言った言葉がございまして、それとサウジとかを非難した言葉もあったんですけれども、いわゆる物質文明の象徴と、それから恐らく彼らが言うところの帝国主義の象徴というものを最初に出してきたのではないかと想像しております。
首藤委員 済みません。これはニューヨーク・タイムズに載っていたところから来ておるわけですけれども、ニューヨーク・タイムズの中では、世界の真実はアラーだと言って、アラーの言葉としてこれを引用しているわけですけれども、これはアラーの言葉ではないわけですね。
大野参考人 たしかコーランではなかったと思います。
首藤委員 ありがとうございました。
 それでは、水口参考人に、時間もだんだんなくなってきて現実的な話をちょっとお聞きしたいんですが、こういう状況になりますと当然のことながら、どんな状況でも、ほんのちょっとした戦争でも、ちょっとした紛争でも石油業界、石油に与えるインパクトというのは物すごく大きいわけですね。
 特に、どこから侵攻するかというと、当然のことながら、南はバスラの方とかクウェート側から入ってくる、北はキルクークの方に向かって入ってくるわけですね。ということは、一番最初の段階で油田が戦場になってしまうわけですね。ですから、こうしたバイ・ハッサン、キルクーク等、こちらの方はまさに大変な問題があるし、今のナル・ウムールとか南部の油田、これはもう最初の段階で、要するに、極端なことを言えば十二月の末にこれは影響が出てくる可能性があるわけですね。
 そうすると、世界第二の産油国であるイラクにおいて、どういう影響が瞬発的に出るか。これは専門家としての責任を問うわけではありませんので、専門家としては、こういうことが可能性としてあるんではないか、全体的に石油に影響があるよというのだけじゃなくて、その瞬間に起こったインパクトはどういうことが考えられるのか、専門的な立場からぜひ、推測で結構でございますからちょっと言っていただければと思います。
水口参考人 お答え申し上げたいと思います。
 十一月十日のニューヨーク・タイムズに書かれた戦略的な方向から今御指摘があったと思います。三方から二十万ないし二十五万の兵力が入るという形だと思いますけれども、この中でデビッド氏が書かれている内容としては、油田地帯を確保するために、空爆と同時に特殊部隊を投入し、その油田を確保するということを述べておりまして、ほかにも公開情報の中には、イラクが攻撃をされる瞬間に油田を破壊するというお話もかなり出てきておりますので、それに対してアメリカは、今申し上げていたような作戦というものをとり、油田を守るという状況を考えているのではないかなということを御指摘できると思います。
 それから、不幸にしてそれが守れないという形で破壊活動が起こった場合、これは湾岸戦争のときのクウェートの油田が破壊されたときと同様な状況があるわけですけれども、現在、石油というものは非常に余りぎみでございます。一日二百三十万バレルぐらい量が多い状況がありまして、そのものが直接的に需要と供給に大きく影響することというのは最小限に食いとめられると思います。
 状況としては、例えば、一週間、高値で三十ドルから三十五ドルの間を推移するというようなことがあるかもしれませんが、戦況が割と短期間におさまるようでしたらば、価格は逆に下がっていくおそれがあります。これはどういうことかと申しますと、イラクというところが回復をして、油田の回復ができればさらに生産が上がってきますので、余剰量がふえてくるということも考えられますので、状況としては、戦況によりますけれども、下がる可能性もあるということです。
 それから、最悪の状態は、イラクが攻撃をされ、同時にクウェートそれからサウジ、そういう石油施設に対しテロ行為とか、例えば化学兵器をまくとかそういうふうな形がとられた場合、そこに技術者が入らないということがあります。こういうものが起こった場合、やはり石油価格は上がり、しばらくの間はね上がってしまい、三十五ドルあたりでずっと推移するおそれがあるわけです。
 このときに問題となるのは、やはり備蓄を持っているか持っていないかということでございますが、辛うじてIEAの加盟国においては備蓄は十分あるわけでございます。日本も百四十日、韓国も大体七十日ありますけれども、残念ながらアジアの国が、ほかには備蓄を持っている国はございません。このことは、ようやくよちよち歩きをしているアジア経済というものにインパクトを与えるおそれがあるということだと思います。
首藤委員 時間がなくなりましたので、ちょっと最後の質問は短く、御存じでしたらお聞かせ願いたいんですが、北の場合はキルクークが問題になるわけですが、南の場合はシャッタルアラブ川がありまして、もうシャッタルアラブ川というと、要するにイランですよね。ここへ攻めるということはイランの目の前で戦闘になるということなんで、これに対してイランの方が、例えば勢力を南下させているとか、そうした、もしイランの対応に関して情報がございましたら、開陳願いたいと思います。
水口参考人 ありがとうございます。
 イランが外交的に今度の問題で御発言しているのは、積極的中立という言葉を使っておりまして、恐らくこの危機をうまく利用しながらアメリカとの関係を模索するということも一つの方向性としてあると思いますけれども、そこまで極端ではないと思いますが、イラクに対しては、一定の距離を置き、難民が入らないような形で防御壁を張るという状況だと思います。
首藤委員 終わります。ありがとうございました。
池田委員長 次に、藤島正之君。
藤島委員 自由党の藤島正之でございます。
 まず最初に、イラクと米国の同時多発テロとの関係、これについて水口参考人と大野参考人に、どういうふうにごらんになっているのか、お伺いしたいと思います。
水口参考人 一番大きな問題として、グローバル化されていく国際社会の中で、経済的な格差があるということもさることながら、文化的な変容というんでしょうか、一元的な価値を押しつけられるような状況があるということで、アラブの方々の中にかなりアメリカ的な生活スタイルとかそういうものに、消費社会というものに対して反発を持っている方が多いです。これは民衆レベルは特に強いわけですけれども、そういう方々が抵抗意識を持つということは共通の認識です。
 その中で、過激的な行動をとる方というのは限られているわけでございます。イラクの方の中にも過激的な思想を持っている方がおいでになったと思いますが、現状これはかかわっていないということだと思います。
大野参考人 お答え申し上げます。
 アメリカにおきまして九・一一以降、テロ、ひいては、直接はもちろん関係ないんですけれども、イスラム社会あるいはアラブに対する見方が非常に強まっている、あるいは厳しい見方になっているのは事実だと思います。
 これは、先ほど丸谷先生の御質問にもございましたけれども、イスラム対文明社会とか民主社会とか、そういった形で置きかえられるのと、もう一つ、イラクに関しまして、今回アフガニスタンの後にイラクが来たというのは、よいムスリムと悪いムスリムという分類もあるんじゃないか。悪いムスリムの人たちは皆十把一からげであって、だからアルカーイダとイラクの間には戦略的なあるいは戦術的な関係があるに違いない。しかし、逆を返すと、イラク側から見ますと、あるいは悪いムスリムに位置づけられた国から見ますと、そういう状況に追い込まれてしまっている。戦術的に協力しなければいけない状況に追い込まれているというのも事実だと思いますので、私は実際にはイラクとアルカーイダの関係はないとは思っておりますけれども、戦術的な協力関係を結ばなければならないような状況に、世界がこういった国々を追い込んでいるというのも流れとしては一つあると思います。
藤島委員 今、アルカイダと直接的な関係はないとおっしゃられたんですけれども、ビンラーディンが生きているとか生きていないとか、テープが出てきた、こんな話があるんですが、専門家から見て、その辺の信憑性というのはどういうふうにごらんになっておりますか、お二人。
水口参考人 お答えさせていただきたいと思います。
 まず、結論から言いますと、多分生きているということだと思います。
 音声分析に関しては、いろいろなところで行われていますので、コンピューター上でつなぎ合わせたという御意見もありますが、それにしては非常にぶれのない、一つの単語の中にかなり広音域の同一性というのを見出されていますので、むしろ今の状況からいえば生きていると考えていいと思います。
 もう一つ状況を踏まえますと、実は、本年に入ってからだと思いますが、アメリカ軍はアナコンダ作戦というものをアフガニスタンの山岳部でとり行っていたわけです。それは、タリバンやアルカイーダの方々をゆっくりと地方から一カ所に集めて、最終的に捕まえようというような動きだったと思いますが、残念ながら、その行動をとっていく中でアフガニスタンの部族の方が一部裏切りまして、結局パキスタン側のトライバルエリアという自治地区に約六百名ぐらいの方が逃げたというような報告もありまして、そういう点から見ますと、ビンラーデン氏それからザワヒリ氏というような主力の方も逃げられているのではないかなと思います。
 なお、追加的ですが、ドイツの情報局、そちらの公開情報ですが、ビンラーデンは生きているというような報告も出されております。
大野参考人 申しわけございません。私、ビンラディンに関しましては、知識も独自の情報もございません。
藤島委員 ビンラーデンをイラクがかくまっているとか直接的に保護しているとかいうことになりますと、米国も自衛権の問題が出てくると思うんですね、イラクの攻撃に際しては。
 そこで、これは松井参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほど、自衛権はもちろん客観的に条件が整っていないといかぬということなんですが、この件に関しては、そういうことからしましても、先ほど首藤委員からも聞いたわけですけれども、自衛権そのものは全く成立しないんじゃないかというふうに思うんですが、いかがですか。再確認ということで。
松井参考人 テロ行為と自衛権の関係に限って申し上げますと、これは一応、アルカイダとかビンラディン氏のような、国家機関ではない私人が行うとして、私人が行うテロ行為に対して自衛権が行使できる場合は、そのテロ行為に対して領域を提供している国が相当実質的な関与をしている。例えば、単に訓練場所を提供するとか便宜を図るというにはとどまらずに、事実上、国家機関と同一視できるほどの強いコントロールを及ぼしているというときであれば自衛権の行使ができるだろうというのが、これまでの国際司法裁判所と国際社会で一般的に認められた考え方であります。
 こういう状態は現在のグローバリゼーションの状況に適合しない側面があるのは確かでありまして、どのように変えていくかという議論は必要でありますが、現行法を前提にします限りは、今先生の御質問のありましたような状況で、自衛権を根拠にして武力を行使することは、これはできないだろう。
藤島委員 そうしますと、先ほども議論がありましたように、一四四一の決議、これの根拠というのは非常に、先ほど御説明がございましたように、単にほのめかしている程度では、これに基づいてやるのはやはり難しいんじゃないか。そうしますと、国際法的に見ましても、新たな決議を求めないと米国もイラク攻撃はできないんだということでよろしいんですか。
松井参考人 結論的に申しますと、おっしゃるとおりだろうと思います。
 アメリカの高官の一部に、一四四一にはもう一つ新しい決議が要るとは書いていないではないかという主張があるようでありますが、これは決議に書いてある、ないというよりも、最初に申し上げましたように、国連憲章の全体の体制がそういうふうになっているわけでありまして、安保理事会が明文で許可、授権をしない限りは個別国家は武力が使えないというのは国連憲章の建前でありますので、したがって、一四四一にそういうことが書いていないからといって、ではアメリカが新しい決議なしに自由に武力が使えるんだということにはならないだろうというふうに思っております。
藤島委員 私も、湾岸戦争のときのような明確な決議がやはりあった方がいいし、我が国としては国連にそれを、やるのであれば働きかけるべきだろうというふうに外務省には言っておるんですけれども。
 それから、査察の関係でございますけれども、これは大野、水口参考人、どちらかがよろしいかと思うんですけれども、実際問題として、期間の問題もありますけれども、本当にスムーズにいくとお考えですか。
大野参考人 お答えいたします。
 先ほどお配りいたしました資料の一番最後に、国連査察団との危機のパターンというチャートがございますけれども、まずスムーズにいくの度合いでございまして、小さな問題が若干あり得る、それは一つとして可能性はあり得る。しかし、これが大きな危機になるかどうかは、国際社会側の受けと、それからアメリカの意思によるものだと思います。
 それから、イラクの場合には、今回もそうなんですけれども、九七年、九八年と繰り返された危機において、一度受諾したと言ったときには、二カ月程度は協力の姿勢を示して、いろいろな受け入れを行っている。前回の九八年でいいますと、二月の二十三日に調停が成立して、四月の三十日までは非常によい協力姿勢を示していた。五月の一日ぐらいから文句を言い始めて、それがだんだん高じていって、八月にはUNSCOMとの協力停止に至ります。したがって、このときも二カ月やって、なおかつ、五月の一日という砂あらしの時期あるいは夏の時期まではイラクは我慢いたしました。
 どちらが正しいかわかりませんが、過去の例から見ますと、今回も二カ月ぐらいは協力する可能性がある。ただし、今回は前回よりも査察が非常に厳しい状態になっているというのも考慮に入れなきゃいけない。
 もう一方は、五月まで我慢すれば、何とか夏までは乗り越えられるとイラクが思っているとすれば、より厳しい査察の中でうまく事態を引き延ばすことができるかどうかというのは、逆に言いますと、イラク側の忍耐と、もう一つは、国際社会が一致してイラク側に働きかけを行えるかどうか、あるいはイラク側が逆に国際社会に働きかけを行って、政治的に何とか落としどころが見つかるようなところがあるんじゃないかと思えるような環境に持っていけないか、その二つにかかっていると思っております。
水口参考人 地雷的と言っては変ですけれども、そのひっかかるハードルの高い部分が幾つかあるという御指摘がありました。首藤委員からも御指摘があったように、私も、まず研究者を海外に出せるというあの部分は非常に高いハードルになると思います。
 それから、細かい点になりますけれども、三十日後にリストをつくるというここですけれども、軍用のところはかなりチェックできると思いますけれども、民生のところ、ここに関しては、実は協議の途中で五十日という話があったわけですが、これが三十日として統一されてしまっている点、これもかなり厳しいと思います。
 それから、施設の封鎖、査察に入ったときに封鎖ができるというような項目が出てきていますけれども、これに関しては、例えば、ある宮殿は文京区ぐらいの広さになるわけですけれども、そういうところにイラク人を入れないというような形で排除すること自体が果たして理論的にできるのかどうかというような問題もございます。
 最後に、護衛兵という形で武器を持った者が一緒についていく、こういうときにやはりイラク関係者とトラブルを起こす可能性があるということで、かなり私はハードルが高いということしか申し上げられないと思います。
藤島委員 こういうことはあると思って、恐らくイラクも準備に準備をしていると思うんですね。丸裸になっていいとはなかなか考えていないんじゃないかと思うんです。そういう意味で、重大な違反にまではいかないけれども、違反をしながら引き延ばしていく、そんなふうなことも考えられるわけです。
 今、米国はかなりの兵力を配置しておるわけですね。これは半年も先まで、本当に今のまま延ばしておけるのかどうか、非常に疑問に思うわけですけれども、そうしますとアメリカも黙っておられるのかどうか。その辺はどういうふうにごらんになっておりますか。お二人に。
大野参考人 お答え申し上げます。
 湾岸戦争の際、危機が起こったのは九〇年の八月でございます。それで実際に空爆が始まったのは九一年の一月。このときにアメリカは二段階の軍備の増強を行いました。九〇年の八月の段階で、サウジあるいはほかの湾岸諸国に戦火が飛び火しないように、まず、艦船とか兵士を集めました。その後に政治的な働きかけがあって、最後に、九一年の空爆に向けて二カ月ぐらいかけての軍備の増強を行いました。
 九八年のときには、一たん二月に手を上げまして、それを縮小して、しかし通常のものよりは多くしたもので置いておいて、九八年の末に空爆を行ったという経緯がございます。
 今は、湾岸戦争のときと違って、プレポジションと彼らは呼んでおりますけれども、いわゆる武器を一カ所に集めておいて、それがまさにドーハのウデイド基地なんですけれども、なるべく即応態勢をできるような体制を整えているというふうに承知しております。
水口参考人 お答えいたします。
 現状、アメリカというのは、この軍事力と外交をもって大量破壊兵器を排除する、壊滅するという動きと、ほかに同時に、反戦勢力の支援をもってイラクという国の枠組みを変える、こういうこともやっております。それから同時に、もし全部査察を受け入れてしまった後、やはりサダム政権が残るということに対する懸念がありますので、戦後の戦争裁判、これはイラン・イラク戦争、湾岸戦争における非人道的な行為に関する裁判にかける。この三つのシナリオを持って臨んでいるのだと思いますけれども、今委員が御指摘があったような形で日にちが延びますと、アメリカ経済に対する影響が非常に強いということがあります。
 六月、七月のころに比べて、今アメリカの対応は非常にソフトな状態になっていまして、軍事力を行使するというよりは、むしろ大量破壊兵器を国際的な圧力のもとで吐き出させればなというような状況になっているのは、方向としてはあると思います。
 ただ、経済的な問題を考えれば、やはりよく言われていますが、十二月八日というイスラムのラマダンが明いた状況、そういうところに違反を見つけ、武力行使を行うというような御説明がよく情報では流れているというのが実態だと思います。
藤島委員 先ほど水口参考人が御説明になった中で、三、四の部分なんですが、統治能力を失いつつある国家、フセインに統治能力があるか、そういう御説明があったのですけれども、国家の意思としてフセインがやっておるというので、統治能力の問題よりむしろそういう問題なんじゃないかという感じがするんですね、北朝鮮にしてもそうなんですけれども。統治能力じゃなくて、国家そのものがやっているということで、これは許せない不法行為になるんですね。したがって、やはりやるのであれば徹底的にやっつける方向でないと、またぞろ出てくるということになろうと思うんです。
 そこで、仮に米国が攻撃に踏み切ったとすると、イギリスは応援する、サウジとかカナダなんかは、国連の明確な決議があれば応援するけれども、そうでなければ反対というような、応援はしないといったようなことを言っておるようですけれども、もし仮に攻撃が始まったとした場合に、これも大野参考人と水口参考人にお伺いしたいのですが、どういう様相が考えられるのか。ごく短期に終わってしまうというふうにごらんになっているのか、あるいはかなり長引くというふうにごらんになっておるのか。お二人にお伺いしたいと思います。
大野参考人 お答え申し上げます。
 長引くかどうか、あるいはどの程度かかるかどうかは、基本的に作戦にもよると思います。
 今、恐らく三つぐらい作戦の形が言われておりまして、一つは外側から大きな軍事力を持って中に攻め込むパターン、それからもう一つは空爆を中にかけてなるべく早いうちにバグダッドを落とすパターン、それから三つ目は、南と西と北、あるいは北と南に前線基地を置いてつぶれるのを待つ、あるいはそこから攻撃をするパターンというのが言われておりますけれども、いずれにいたしましても、私は、サダム政権が今生命線と考えている真ん中の地域に入った後は比較的もろいのじゃないかなと個人的には考えております。
 いずれにしても、四十三日間の湾岸戦争の空爆で起きたダメージを考えますと、ある程度やると恐らくイラクの部隊には相当なダメージが出ていると思いますので、そのときにイラクの軍の部隊が、そこまでしてサダム・フセインを守る必要があるか、自分はほかに選択肢はないのかということを考えざるを得ないかどうか、そのあたりが焦点になってくるんじゃないかと思っております。
水口参考人 ただいま大野参考人からお話があった流れだと思いますけれども、一点だけ補足させていただきたいと思います。
 今、アメリカが一番力を入れているというか意識を持っているものは、空爆というものをかけたときに、サダム・フセイン内から体制的な変化が起こるということだと思います。今、リストが大体十二名ぐらい、これはヘラルド・トリビューンか何かで、こういう人物は戦争責任をとって裁判にかけますという名前が発表されておりますけれども、それ以外の方で、このまま戦争が悪化することによって自分の生命財産、国民そのものを失ってしまうという危惧をする方がおいでになりますので、こういう方がサダム・フセイン体制に対して反旗を翻すということを強くお感じになられているんではないかなということだと思います。
藤島委員 それでは、アラブ諸国家の対応なんですけれども、三月の首脳会議では、いかなるアラブ国家に攻撃があった場合でも、それは全アラブ諸国への攻撃とみなすというようなことを決めたりしているようですが、最近、大分腰砕けみたいになっておりますですね。シリアは唯一の安保理の理事国なんですけれども、今回の決議に賛成したりしているわけですが、アラブ諸国の対応についてどのようにごらんになっていますか。またお二人にお伺いしたいと思います。
大野参考人 お答え申し上げます。
 アラブ諸国、特にイラクの隣国というのは、基本的に、イラクに非常に強い、あるいは強権的な政権があるというのは好ましくないと考えているのは事実だと思います。しかしながら、その一方で、民衆のレベルと政治のレベルで二つの不安があると思います。
 民衆のレベルにおきましては、アメリカが反テロあるいはサダム・フセインがけしからぬということでしかけた戦争だとしても、アラブの民衆側は、それが一番大事な問題ではない。もちろん、自分たちの生活の問題もありますけれども、より身近にあるのは中東和平の問題であったり、違う関心を持っている。その人たちに、アメリカが不正義をしたというふうに大衆がもし感じたとすれば、それは大きな流れになってくる。そういたしますと、特に大衆の声が発揮しやすい国々、例えばエジプトとかヨルダンとかサウジアラビアとか、そういった国々では大きな内政不安が起きる可能性がある。
 それから、もう一つ目の不安というのは、イラクが封じ込められているがために得をしている国がたくさんある。それが今、十年間の秩序としてあそこに現実として存在しているということでございます。
 具体的に申し上げますと、一つは、イラクを経済的に封じ込めていることによって、経済制裁に協力することによって、アメリカに例えば恩を売っている国があります。それから二つ目は、イラクを軍事的に封じ込めることによって、この封じ込めに加担することによって自分の地位を上げている国がある。それから三つ目は、イラクの経済制裁がかかっていることによって逆にもうけている国がある。つまり、オイル・フォー・フードとかで密接な関係をつくったり、あるいは、イラクが石油を輸出しない分を自分で輸出している国がある。それから四つ目は、イラクという政権が今表舞台にいないがために大手を振っていられる国がある。それから五つ目は、イラクという悪者がいるために自分の悪さが目立たない国がある。
 これは、五つの厳然とした十余年間の秩序なんです。これが一気になくなることは、ある意味新しい秩序が必要でございますので、彼らは大きな不安を抱くと思います。したがいまして、日々の対応、目の前の対応もそうなんですけれども、長期的にも相当な揺れが出てくる可能性があると見ております。
水口参考人 ポイントだけ申し上げますと、十一月の九日の日に、イラクの外相とシリアの外相が会談を持たれておりまして、その中で、この安保理決議受諾についてシリアの外相がイラクの外相を説得するという話があります。それを受けて、十日、アラブ外相会議が、臨時外相会議ですが、開催されております。
 その中の流れは、この問題を平和的にイラクに解決させなさいという統一見解になっているんですね。ここでイラクを妥協させた大きな要因というのは、先ほど大野参考人が御説明したように、イスラエルというものの違法性そのものを強く国際社会にアピールしたいということを一つ申し上げています。さらに、二点目として、イラクの国民に対しては我々は全面支援でありますということを述べております。
 現状、湾岸戦争以降、中東の国々は国益というものを考え、アラブの大義とかパレスチナの大義というのが若干薄れているところがあったわけですけれども、この十一月九日、十日においては、かなりイラクというものを支援し、まとまっているというふうな政府レベルの動きも見られていると思います。
藤島委員 それでは、最後になりますけれども、日本の協力の問題ですね。
 これは先ほどちょっとお話がありましたけれども、今まで本当にイラクとの関係はかなりよかったわけですけれども、対米支援に踏み切れば踏み切るほどその件が逆になってくるわけですね。そうしますと、我が国が対米支援をするに際しては、小泉総理は何か他人事みたいなことを言っておるようですけれども、かなり腰を据えてかからないといけないと思うんですよ。
 テロの問題にしても、今まで、余り直接的な攻撃はないんじゃないかというようなちょっと甘い考えがまだあると思うんですね。日本の場合は本当に、ある意味でひ弱な面を持っているんですが、日本の今後の対応のあり方について御意見があれば、三人にお伺いしたいと思います。
大野参考人 お答え申し上げます。
 日本の貢献でございますけれども、当然、イラクとアメリカということを考えた場合には、恐らく日本にとってはアメリカの方が大事であるというのはほとんどの方が賛成なさることだと思うんです。
 他方で、だからといってアメリカ対イラクの構図の中でアメリカを一方的に支持するということだけが日本の道ではないと思っております。特に、アメリカがイラクに攻撃を行うことによって、逆に反アメリカの機運は盛り上がったり反アメリカのテロが起きるというのは、アメリカにとっても日本にとってもよくないことである。だとすれば、より多元論的な価値を持ってくるというのも一つの手ではないかと思っております。
 具体的には、例えば、アメリカは今悪い国をやっつけようということで力を入れておりますけれども、そのときに、例えばその周辺の国々、シリアであるとかレバノンであるとか、ああいったアメリカがもともと仲のよくない国々を説得することによってアラブの大衆の反米意識を説得するとか、あるいは、彼らが役割を果たすことによってこちら側にこれらの国々を引き込んであげることによって懐柔するとか、そういった手で、多元論的なやり方があると思います。
 それから、湾岸戦争のときもそうでしたけれども、対症療法でやるのではなくて、段階を予想して、そのときに日本が何をすべきかを最初からまず考えておくべきであろう。
 それから最後に、日本の利益というものを考えてもいいと思います。例えば、湾岸戦争のときもそうでしたけれども、今回もそうだと思いますが、イラクで政権がもしかわりました、そのときに行う日本の貢献というのは、新しいイラクの政権が感謝しないようなことではなくて、例えば日本が油田に興味があるのであれば油田の周りの地雷の除去を行うとか、そういった自分たちの利益に比較的近いところも、単に人道的なのもそうですけれども、両方の感覚を持っていてもいいのではないかと思っております。
松井参考人 私、外交政策というと苦手でありますので、一般的なお話だけで御勘弁願いたいのですが、もちろん、今のお話にもありましたように、日本と米国は安全保障条約を結んで特別の関係にあります。とりわけ重要な国際社会のパートナーであるということはよく承知しているわけでありますけれども、だからといって、まずアメリカが決定した政策なら何もかも日本が支持するというのが、同盟国で自然な関係だとも思えないわけであります。
 つまり、今回の事件につきましても、NATOの主要な国はほとんど、アメリカが一方的な武力を使うことには批判的なわけですね。ですから、同盟国であればこそ、国際社会全体の枠組み、とりわけ国連憲章の枠組みにのっとって米国も行動されるように日本としても働きかけるということが非常に重要ではないかと思っております。
 とりわけ、これも何度もお話が出ましたように、日本は、この地域については比較的クリーンハンドを持っておりまして、いろいろな発言がそれなりに国際社会で聞き入れられやすい立場にあると思いますので、その立場の有利なところを生かして、とりわけ国連の枠組みで公正な解決ができるように努力をすべきだと考えております。
水口参考人 お答えいたします。
 まず、アメリカの現状を私自身非常に懸念しているところがありまして、冷戦が終えんした時点でやはりアメリカは、心変わりというのでしょうか、そういうものが起こっていると思うのですね。どちらかというと使命感がなくなっているというような状態が見られているという点。それからもう一点が、ハード面、ソフト面でやはりぬきんでた超大国になっているという自信もある。
 こういう中で起こってくるものとして、やはりアメリカ一国主義というような行動がよくとられるわけですけれども、こういうものに対して、日本が、国際社会はやはり相互依存が大切なんだということを強く言い続けるということ、これが日本の一番の役割だと思います。
 現状、中東地域においては、アメリカのもとで秩序ができ、アメリカのもとで利益を得ている国が多いわけですから、ここで戦争があるから、じゃ、アメリカはけしからぬということで全部まとまるということではないんですね。そうなった場合、状況として我々が把握しなければいけないのは、アメリカとともに中東の枠組みをもう一度つくり直していくとか、それから我々自身がやれることをやっていくということだと思います。
 その意味で、先ほど申し上げましたように、イラクが武力行使にかかわる、かかわらないとは関係なく、やはり復興というテーマが出てくると思います。ですから、そういう意味で、復興というものに対ししっかりした位置づけをしていただきたいと思います。その際、必ずしも国家というものを出すわけではなくて、先ほど申し上げましたように、NGOというものをお使いになりながら進めていければよろしいのではないかなと思います。
藤島委員 ありがとうございました。終わります。
池田委員長 次に、松本善明君。
松本(善)委員 まず、松井参考人に伺いますが、国連の安保理事会決議の一四四一が採択をされた。これについては、決議の採択後のネグロポンテ・アメリカ国連大使も、本決議には武力行使に関して隠された引き金も自動性も含まれていないということを言わざるを得なかった。
 そういう意味では、当初、今にもアメリカのイラク攻撃があるのではないかというふうに言われていたのが、広範な国際世論、アメリカ、イギリスも含む大きなデモもありましたし、事実上支持したのはイギリスだけというような、そういう状態の中でこういう決議ができたということは、やはり世界じゅうの平和の世論というものがこういうところへ持ってきた、こういうふうに思うわけでございます。
 一番最初に、大前提としてお聞きしたいのは、先ほども、武力行使というのは今非常に限定された二つの場合だけということを申されましたが、国連憲章の根本精神というのはやはり国際紛争の平和的解決が大原則であって、そして主権尊重、内政不干渉、これも大原則だと思いますが、そういうことではないかというふうに、確認的ですがお伺いしたいと思います。
松井参考人 お答えいたします。
 決議千四百四十一が採択されるまでにさまざまな国際世論が、何とか平和的解決に、武力は使わずに事態を解決するように努力をした、その成果が一定程度この決議にあらわれているという先生の御指摘はそのとおりだろうと思っておりますが、他方では、ネグロポンテ氏は、必ずしも安保理事会が行動しないときには自分の国の判断で行動できないわけではないということも言っておりますので、まだ十分に安心できる状態ではないだろうというふうにも考えております。
 それから、国連憲章の基本原則でありますが、これも先生のおっしゃったように、武力行使の禁止と紛争の平和的解決、これが最も重要な二本の柱になっていることは確かでありまして、それと並んで、主権の尊重、内政不干渉ということ、そして、それとも絡んで人権とか自決権の尊重というふうな考えも出てくるかと思います。
 そういう一般論のレベルでは、多分どなたも異論を唱えられないだろうと思いますが、これを実際に適用すると、果たしてどちらが重要なのか、優先するのかというふうな点でしばしば意見の一致が見られないというのも、残念ながら確かなことでありますが、基本原則としては、どなたも今のような原則を争われることはないだろうというふうに思っております。
松本(善)委員 それを確認した上で、これからのイラク問題の焦点といいますのは、受諾をしたとはいうものの決議をイラクが非難をしている、それからアメリカも、今松井参考人もおっしゃったような、単独での行動もあり得るようなことも言っているという状況でございますので、やはり違反があるかどうか、その違反がどの程度のものであるか、そして国連が制裁、何らかの行動をとらなければならないかどうか、そういうような判断の問題がこれからいろいろ起こってくるのではないかと思うんです。その判断はやはりすべて安全保障理事会で行われるべきものではないかと思いますが、どうでしょうか。松井参考人に伺いたいと思います。
松井参考人 おっしゃるとおりだろうと思います。それは国連の安全保障体制の基本的な仕組みからもそのように言えますし、先ほども申し上げましたが、決議千四百四十一の構造、文言もそのようになっておりまして、違反は安保理事会に報告され、そこで対処を考えるという仕組みになっているわけでありますから、先ほどからお二人の参考人の方も繰り返しておっしゃいましたように、今後イラクが、このとおりに決議をそのまま履行する、遵守するということは大変考えにくいわけでありますが、違反があった場合のその認定と対処というのはそのような仕組みを通じて行われるというのが国連憲章の基本原則でもあり、また決議千四百四十一がみずからとっている態度でもあるというふうに私は理解しております。
松本(善)委員 それから、ネグロポンテ国連大使の言ったことについて少し伺いたいのでありますが、もし安保理事会がイラクのさらなる違反に対して断固として行動しない場合、本決議は、いかなる加盟国が、イラクによってもたらされる行為に対して自衛のために行動することも、あるいは国連安保理事会決議を実行して世界の平和と安全を守るために行動することも制約していない、こういうことを述べているわけでありますが、自衛権の行使というのは決議違反の問題とは全く別問題ではないか。武力攻撃がその国になされた場合に起こることであって、決議違反と自衛権の行使とは別問題ではないか。また、決議違反に対して、国連安保理事会以外の加盟国が勝手にというか、独自にこの国連安保理事会の決議の実行ということで行動することも許されないと思いますが、その点についての松井参考人の御意見を伺いたいと思います。
松井参考人 御指摘があったネグロポンテ代表の発言では、多分二つのことを言っているだろうというふうに思います。
 つまり、違反があって、安保理事会が措置をとれないという場合に、一方では、自衛のための措置をアメリカがとれるんだという態度であり、もう一つは、関連の安保理事会決議を実施して、平和と安全を保護するためにアメリカが行動できるんだ、この二本の筋で議論をしているように思います。
 まず、前者の可能性というのは、先生もおっしゃいましたように、常識的に考えると全く別問題でありますが、抽象的に考えると、そういう可能性が全くないわけではないだろうということは言えるだろうと思います。
 つまり、イラクが決議に違反して大量破壊兵器の作製をやって、それでアメリカを攻撃しようとしているということが客観的に証明されたならば、それがアメリカによる自衛権の行使につながる可能性は皆無ではないだろうと思います。普通に考えて、そういう事態はまず考えられないだろうと思いますが、全く可能性としてはないわけではない。
 他方、後者の方は、これは先生のおっしゃいましたように、専ら安保理事会が違反を認定し、もしそれが国際の平和と安全に対する脅威をなしているというふうに考えれば、それへの対処は安保理事会が決定すべき問題でありまして、それにかわって個々の国が判断するということは、国連憲章上は想定されていないわけであります。
 それから、ネグロポンテ氏が言っている、安保理事会が決定的な行動をとらなかった場合ということですが、これもやはり、決定的にどういう行動が必要かということは、つまりそれが決定的な行動かどうかということは安保理事会が判断すべきことであって、個々の加盟国が、安保理事会がとった行動が決定的でないという自国の判断のもとに独自の行動をするということは、国連憲章上では考えられていないというふうに思います。
    〔委員長退席、中川(正)委員長代理着席〕
松本(善)委員 先ほどの最初の陳述で、安保理事会の決定に違反をした場合にどうするかということについて、軍事的な措置も含めて述べられ、松井参考人の御意見が少数意見だということを述べられましたが、その点についてもう少し補足をして、理由その他述べられることがあれば述べていただきたいと思います。
松井参考人 この議論は多分、きょうもお話が幾つか出ましたが、湾岸戦争のときの決議六七八、それ以前にも、例えば朝鮮戦争の場合みたいに、全く先例がないわけではありませんが、湾岸戦争を契機に大きく議論をされるようになった問題だろうと思います。
 つまり、先ほども申しましたように、国連の集団安全保障の本来の建前では、四十三条に従って国連軍をつくるわけでありますが、それができなくても、安保理事会がきっちりと軍事活動を統括するならば、四十二条の強制措置が可能だろうということは多くの人が今までも認めてきただろうと思います。
 ただ、湾岸戦争のときの多国籍軍については、安保理事会はほとんど統括を加えることができませんで、活動について多国籍軍構成国から報告を受けるだけでありました。したがって、このようなやり方は、国連憲章の本来の立場とは大変違うだろうというふうに当時感じたわけであります。
 当時の学界の議論を見ましても、また国連の中でも、例えば、これも何度かきょうお話が出ておりますが、あの戦争で、イラク自体が侵略者だったことはどなたも否定されないと思うんですが、にもかかわらず、民間にも多数の犠牲が出、人道的な大きな問題も生じたということで、あのように何の統括も及ぼさずに一方的に加盟国に武力を授権するということについては国連内でもさまざまな批判や議論が出ておりまして、その後の幾つかの、とりわけ平和維持活動との関連で、多国籍軍に武力行使を許可する場合には、湾岸のときよりももう少しきっちりとした安保理事会との関係を規定することが多くなっている。
 したがって、あのような場合に、私は、本来憲章ではああいうことはできないだろうというふうに考えて、その考えは少数派でありますけれども、逆に、授権さえすれば加盟国が何でもできるんだと考える人もまたほとんどおりませんで、この許可された軍事行動については一定程度の安保理事会によるコントロールが必要だということは広く認められているだろうというふうに思っております。
松本(善)委員 それでは、大野参考人と水口参考人に伺います。
 今度のイラク問題というのは、アフガンの場合とも湾岸戦争の場合ともかなり状況が違うのではないか。湾岸戦争の場合は、イラクがクウェートを侵略したということがもう明白で、そして侵略者に対しての対処である。それから、アフガンの場合には、ビンラディンがみずから犯行を認めるということで、私たちも、これはビンラディンのテロであるということは言いました。今度の場合はイラクの決議違反。
 私どもも、緒方参議院議員、我が党の国際局長でありますが、これを団長とする中東、アラブ諸国の訪問団を派遣いたしまして、そして、イラクのいろいろな不誠意な対応について指摘をし、無条件で国連の安保理事会の決議を受け入れるように述べたわけであります。
 しかし、そのときに、ヨルダン、イラク、エジプト、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、それぞれの政府と会談をいたしましたが、すべてアメリカのイラク攻撃に反対と。それから、アラブ二十一カ国とパレスチナの自治政府が加盟をしておりますアラブ連盟の代表は、イラク攻撃は中東で地獄の門をあけるものだと。それから、イスラム諸国五十七カ国の加盟するイスラム諸国会議の代表は、アメリカのイラク攻撃が実行されれば反テロの国際的連合が特に中東において維持できなくなる、こういうふうなことを述べております。
 私は、非常に複雑な問題が出てきておりますけれども、このイラク問題の処理を誤れば二十一世紀がどうなるか、本当に大混乱の二十一世紀になるのか、それとも、やはり平和を維持して、さらに国際社会が発展をしていけるかという非常に大きな課題であろうかと思います。
 お二人に伺いたいのは、ネグロポンテ・アメリカ国連大使が言いますように、もし単独で安保理事会の決議を経ないで武力行使をする、何らかの理由をもって武力行使をするというような事態が起これば、イスラエル、パレスチナを含めて中東に大混乱が起こる、世界に対しても非常に大きな混乱が起こるのではないかと思いますが、もし万が一そういうことが起こった場合には、中東、世界はどういうふうになるのか、どのようにお考えか伺いたいと思います。大野参考人からお願いいたします。
大野参考人 お答え申し上げます。
 先ほどの質問の際に、中東において十年間続いていた秩序が、もし今イラク政権が倒れると崩れる可能性がある、したがって、これまでの十年間の秩序にかわる秩序が求められるというお話はいたしました。
 それ以外の話をちょっとさせていただきたいんですけれども、松本先生御指摘のとおり、中東和平それからパレスチナ情勢というのが、逆に今緊張、緊迫化しております。この数年間そういう状況でございまして、アラブの大衆はそこで、イスラエルのパレスチナ民衆に対する圧迫と同時に、アメリカの不正、アメリカのダブルスタンダードが行われていると感じているのが実感だと思います。
 パレスチナにおきましては、パレスチナ人たちが、自分たちは外には出れない、いつの日か殺されるんであれば、それでは自分は自爆テロをやりましょうというような考えに至る人がだんだん多くなってきているというのが事実でございます。アラブ人が言うところのこのダブルスタンダードが中東全体に広まる場合には、中東全体において、アメリカ人に対して自爆テロをやってもおかしくはないというような考えを持つ人がふえる可能性もあると思います。
 それからもう一つ、武力行使の規模でございますけれども、たとえイラク政権が倒れない程度の武力行使にとどまる場合におきましても、それは同様に、アメリカが好き勝手をやったんじゃないかと考える人がアラブ世界では多くなると思いますし、それからもう一つは、一番大事なことは、アラブ人、あるいはイラクにおいてはイラク人が不在であるということでございます。
 アメリカの政府、イラクの政府の政策の中で犠牲になったのはイラクの民衆の命であるという感じをイラクの人たちは持っているし、したがって、アメリカがサダム・フセインの政権を倒せというふうにイラク国民に呼びかけても、アメリカに対する信頼が置けないというふうに感じるイラク人が多いがためにそういう行動が起きないということもございますので、武力行使がどのような規模で起ころうとも、恐らく、イラク人のアメリカに対する不信感、あるいはアメリカがイラク人というものを何も考えていないんじゃないかと思うような状況は今後も強まるか、あるいは最低でも継続するのではないかと私は危惧しております。
    〔中川(正)委員長代理退席、委員長着席〕
水口参考人 残念ながら、委員と私は感じ方が違っている部分がありまして、前半私が十分間のお話で申し上げたことが今でもポイントだと私は思っております。一六四八年のウエストファリア体制というものがやはり現在動いていない状態であるということをしっかり押さえていただきたいと思うんですね。難民が出ているとか経済的な混乱が起きている、秩序が乱れている、大量破壊兵器が拡散している、こういう状態で、世界の秩序というのは少なくともルールそれからシステムだと思いますが、こういうものをやはり新しいものをつくらなければいけないんだと。
 なぜこれが起こったかというと、まさにグローバル化されている国際社会であって、国民国家という役割が少し変わらなければいけない。既存五十年、四十年あったそのシステム、国連もそうですし国際法も変えなければいけない。それに対してどういうふうに我々は対応しなければいけないかということを考えた矢先の九・一一だったと思います。アメリカもそこは、九・一一問題、自分がアキレス腱が何かということをよく理解していたと思います。
 最終的には、現行法である程度国際的な秩序をつくらなければいけないということで、協調体制ということで一四四一を通すという努力をしておりますけれども、それは、一四四一で問題は解決できればいいと思います。
 そのときアメリカが理想と思っているのは、先ほどから申し上げているように、これはアメリカとイラクの戦いではないんです。国際社会においてどうやってテロを廃絶できるかです。大量破壊兵器をどうやったらなくせるかという話なんですね。イラクという国から取り除けるかという問題が出てくるわけです。これは、テロに適用されてしまうおそれがあるという懸念を持っている人からいえば当然の意識なんです。これを国際的に十五対零で決めたんです。ですから十五対零なんです。シリアという国はなぜアラブの国なのに協調したか。なぜアラブ連盟が、先ほど申し上げましたように、外相会議でイラクに物を申したか、協力をしなさいという話をしたのか。これは、国際テロという問題の恐ろしさを世界が認識したということです。
 今のままでいきますとテロの再発というのが防げません。先ほど私申し上げましたように、三つのカテゴリーで破綻国家に対する対応をしていますけれども、ルワンダがあってよろしいんでしょうか。アフガニスタンが同じような形でまたテロというか、そういうものが再発する温床になっていいんでしょうか。そういうものを考えますと、やはりテロの再発を防げる方法というのを我々は真剣に考えなければいけない。アメリカとイラクという国に限定して物を考えること自体が、グローバル化されていく国際社会の中で間違っていると私は思います。今こそ我々は知恵を出して、国際法や国連のあり方を見直すときであって、既存の法律でどう読むかということではないと私は思います。
松本(善)委員 大野参考人に伺いますが、今、政治的な影響について述べられましたが、世界経済あるいは日本経済に対して、アメリカ・イラク戦争が起こった場合、どういうような影響が出てくるでしょう。
大野参考人 お答え申し上げます。
 私、あらかじめ申し上げますが、経済の専門家ではないんですけれども、イラクをめぐる報道とかそういったところでよく言われておりますのは、まず一つ目は石油の問題で、まず最初に心理的な影響が大きくなるであろう。それから二つ目は、これが長期化した場合に、特に、イラクのみならず地域内を巻き込む紛争になった場合には、より大きな経済的影響が出るであろう。それから戦費の負担の問題。それから最後には、アメリカが何を考えているかわかりませんけれども、中東地域においてより一層インボルブメントを深めなければいけないような状況になる場合には、アメリカ経済それから世界経済のシステム自体を揺るがす状態になるのではないかという指摘が多くなされていると承知しております。
松本(善)委員 水口参考人に伺いますが、テロをなくさなければならない、これは二十一世紀の人類の大きな課題であり、国際的にこれに異論を述べる人はほとんどないだろうと思います。しかし、それを戦争で解決するのか、それからこれを犯罪として解決するのか、国際連合を中心にして解決していくのかという点では意見の違いは当然出てまいります。
 アフガニスタンの戦争の結果は、やはりアフガニスタンが安定した状態になったとはまだ決して言えないんじゃないか。ビンラディンも、先ほど参考人おっしゃったようにまだ生きているということで、テロ絶滅という方向に進んでいないんではないか。私どもは、テロを許さないという国際世論、テロ組織がどこにも存在できないような国際世論をつくる中でしかこれはなくならないんじゃないか、戦争でこれをなくすことはできないんじゃないかというふうに思っております。
 先ほど一般的なテロについて申されましたが、アフガニスタンの現状は、今度イラクをアメリカが攻撃した場合は同じことになるんじゃないだろうか。政情も不安定になるし、それから世界の平和という点でもマイナスになるという議論が既にマスコミにも出てきておりますが、この点では水口参考人はどのようにお考えですか。
水口参考人 ありがとうございます。
 テロというものが壊滅できないという御指摘はまさにそのとおりでございまして、先ほどからアフガニスタンの例も挙げましたが、それに対する武力行使を行うということに関しても、それでは成果が上がらないというのも御指摘のとおりだと思います。
 したがいまして、先ほどから申し上げていますように、少なくとも平和の構築という意味で、軍縮、小火器とか軍備管理というものをしっかり行わなきゃいけない。もう一つに、経済的な問題として、国という枠組みを超えて、NGOを使って富の格差をなくす努力をしなければいけない。一つ漏らしておりますのは、やはり国際警察という問題だと思いますが、そういう情報の開示、情報の共有性、そういうものの中で初めて国際的なテロというものが、長期的なものによって解決できるんだと思います。解決に向かっていく、減少していくんだと思います。
 現状置かれている問題、例えばイラクを攻撃した場合、イラクの社会は混乱すると思います。正直申し上げて、軍事体制というものがひょっとしたら出てくるかもしれません。サダムに近いというよりはサダムよりもちょっと外れていますけれども、軍というものが独裁的な体制になるかもしれません。それから、逆に民主的な手続によって政権ができた場合、それでもお互いの政権争いという中でなかなかイラクという国がまとまらないかもしれません。
 でも、ここで大事なことは、少なくともテロの再発をおくらすことが国際社会ではできるということなんです。こういうことに対して我々はどういう評価をするか。長期的な努力をしながら、やはり短期的な対応をしていくことの重要性というものも見失わないようにしなければいけない。なぜかというと、今ほっておくことにおいてのメリットはないと私は思います。
松本(善)委員 最後に、やはり私は、今、国連憲章を守る、そして国際紛争を平和的に解決するというためにあらゆる面から努力をするということが非常に重要になってきていると思います。この点と、いろいろ批判が起こってきておりますアメリカの単独行動主義、これについてどのようにお考えになるか、三人の参考人に伺いたいと思います。
大野参考人 お答えいたします。
 先ほどから何度も出ておりますけれども、アメリカが単独で行う場合には、イラク側のみならず、アラブ側におきまして大衆の怒りがアメリカに対して直接向くということになります。国際社会の今現状のやり方であれば、一致団結した姿勢を見せているというのはまた別だと思いますけれども。
 それともう一つは、多元的な価値を与えて、彼らに選択の余地と考える余地を与えるということも重要ではないかと思っております。
松井参考人 アメリカの単独行動主義と現在の国際秩序の関係でありますが、先ほどから水口参考人が繰り返して御指摘になりましたように、グローバリゼーションの時代で既存の国際法が時代おくれになっている側面があるというのは確かでありますし、それから国連憲章も、日本ではともすれば国連を理想視しがちなんでありますが、さまざまな問題点を抱えている、新しい状況に適応できないという側面があるのは確かだろうと思われます。
 ですから、そういう点で現在の国際秩序はさまざまな点で改革の必要があるわけでありますが、これを一部の国の一方的行為、とりわけ武力の行使によって行うというのはある意味では最悪の方向でありまして、やはり国際社会全体のコンセンサスが得られる方向で、時間はかかるかもしれませんが、議論を通じて行うというのが正当なやり方だろうというふうに考えております。短期的には、武力を使った解決というのが一見有効に見える場合もあり得るかと思いますが、そのような世界秩序が、恐らくこれは大部分の方が望む秩序ではないだろうと考えますので、やはり基本は話し合い、交渉というところしかあり得ない。
 また、グローバリゼーションだから変わらなければいけないという御議論は全くそのとおりなんですが、グローバリゼーション自身も実は国家が推進してきたという側面が非常に多いわけですね。グローバル化を可能にするような国際組織をつくり、条約を結び、国内法制を整備してきたという国の行為があってグローバル化が進んだわけでありますから、そのグローバル化に対処するのも、ある意味ではちょっと古典的に過ぎるかもしれませんが、国家を通じて対処する、国家を通じた国際的な話し合い、交渉で対処をするということしかないように考えております。
水口参考人 今お話のあった一国主義という考え方は古典的に、先ほど申し上げたように、どの国も国益を優先して考えている。その中で、アメリカだけがある意味で責任を持って国際社会の管理をしている。それが、先ほど申し上げました、冷戦終えん後、普通の国に変わりつつあるアメリカなわけです。そのアメリカが自国の利益というものを非常に考え始めますと、実はアメリカをもとにして我々の幾つかのシステム、先ほど御紹介があった国連やWTOや世銀やIMF、そういう機能すらも動かなくなる。例えて申し上げれば、京都議定書の問題もそうかもしれません、それから国際刑事裁判所の話もそうかもしれません、核の問題もそうかもしれません。
 アメリカを内向きにする、別ですけれどもサウジアラビアを内向きにする、そういうような形は国際社会で決していいことではありません。ですから、相互理解、総合的な関係の増進というのは大前提です。その大前提のもとで今国際社会のシステムが動いておりますので、アメリカという国が一国の孤立主義にならないように、日本という国が適切に相手に物を述べていき、グローバルパートナーシップを組んでいくということが一番大切なことだと思います。
松本(善)委員 三人の参考人、ありがとうございました。
 終わります。
池田委員長 次に、保坂展人君。
保坂委員 社会民主党の保坂展人です。
 三人の参考人の皆さん、きょうはありがとうございます。長時間ですが、最後になりますので、よろしくお願いします。
 私は、この間、きょうの議論もそうですけれども、大変今深刻なところに来ていると考えておりまして、これはイラク問題であると同時にアメリカ問題でもある、また日本問題でもあるという視点から、いろいろ議論をさせていただきたいと思います。
 大野参考人にまず端的に伺いたいと思うんですが、例えば十一月十一日にブッシュ大統領は、イラク国民は長年自国の指導者からの抑圧と恐怖に苦しんできた、新たな政権は彼らを解放することになるだろう、フセイン政権を打倒して新たな政権を樹立する必要について言及したと。この手のニュースというのは、大統領以外のアメリカ政府高官からもこのところたびたび出てきております。
 国連というステージでは確かに大量破壊兵器の査察の徹底と廃棄ということにありますが、実のところこれは、フセイン政権をもう転覆するんだという強固な意思がやはりアメリカにあるのではないかというふうにも思えるのですが、その点はいかがでしょうか。
大野参考人 アメリカがイラク政権と共存が難しいと考えているのは事実だと思います。他方で、私は個人的には、アメリカは、フセイン政権と手を結ぶわけではないのですけれども、フセイン政権をうまく利用して、湾岸地域により影響力を行使するという方法も考えているし、実際この十年間、それでうまくやってきたんだというふうには思っております。
 他方で、私はアメリカの専門家ではございませんので、アメリカ自体の意図というのはよくわかりませんけれども、解放するというロジック自体は、アメリカが持っている非常に強い説得力のあるロジックなのですけれども、他方で、イラクの国民やあるいはアラブの民衆は、このロジックは若干リザベーションがあるというのも事実であると思います。
保坂委員 続いて伺います。
 イラクが軍事大国化した、これはイラン・イラク戦争の際にイラク側をアメリカが支援をして、兵器、その中には生物化学兵器の原料などもあったという報道などもあります。一九八三年十二月にレーガン大統領の特使としてフセイン大統領と会談をしたのは今の国防長官のラムズフェルドさんだというようなことがあり、ある意味ではアメリカとイラクというのはとてもいい関係で、それがクウェート侵攻から反転をして湾岸戦争に突入していく。これらの歴史から見て、今ちょっと言われた、イラクのありようをうまく利用してということをこの二、三十年のスパンで見ると、どういうことが見えてくるのでしょうか。
大野参考人 お答えいたします。
 またさかのぼりますけれども、特に冷戦時代からイラン・イラク戦争の終わりぐらいまでは、湾岸地域における安全保障というのは、イランとイラクの二大国のバランス、もしくはそれ以前にはアメリカとシャー政権下のイランとイスラエルの二極主義で、中東における安全保障は保たれておりました。それが、イラン・イラク戦争で、パワー・オブ・バランスでうまくそこをアメリカが利用していた。しかし、これが、世界における一極支配的な、アメリカが唯一のスーパーパワーになった段階で、アメリカはあそこに対する考え方を変えたというふうに言われております。
 一説によると、アメリカがイラクにクウェートを侵攻させた、あるいはクウェート侵攻を容認したというのが本当かどうかは別といたしましても、少なくとも、アメリカはあの戦争で国際社会を率いて、湾岸戦争で、あるいは国連においてイニシアチブを発揮して、湾岸戦争の後の湾岸地域の安全保障あるいは経済体制というものに相当な影響力を持っていったというのは事実であると思いますので、そういった流れが、恐らく一回二回三回と、違った形で出てきている。この三つ目の最後、今の秩序の後のことにつきましては、今のところアメリカから何もビジョンは示されていないというのが現状だと思っております。
保坂委員 次に水口参考人に伺いたいと思うのですが、参考人がおっしゃるように、アメリカは余りにも強い軍事力とパワー、つまり対抗するパワーはどこにもない、そういった中で、先ほど言われたような、国連初めさまざまな機関が動かなくなるぐらいの力を持っているわけです。
 さて、今回、イラクの政権が大変問題があるということで、この事態の変転によってはやはり軍事行動が始まるということを、始まってほしくはないですけれども、予想しなければならない時点にいると思います。もしその軍事行動が始まり、そしてまた、それがどういうふうになるか予想できませんが、軍事力の差は圧倒的ですし、そういうことで、アメリカがイラクに対して、軍事占領を伴って、アメリカのいわばガードのもとに政権を樹立するというようなことが起きたときに、例えば悪の枢軸の一つと言われたイラン、あるいは産油量でいえばナンバーワンのサウジアラビア、これは王政ですよね。強権的な独裁的なということとは違うかもしれませんけれども、民主主義というふうに言えるのかといえば、そういった問題も出てくる。あるいは、テロ支援国家と言われているシリア等、湾岸諸国が受けるいわゆるプレッシャーというのは相当なものになるだろうということが予想されるのですが、そのあたりはどのように予想されますか。
水口参考人 おっしゃられるとおりだと思います。オセロゲームの角をとるように、色がとんとんとんと変わってしまうということがよく言われております。
 アメリカが次に考えていくのは、やはり、中東和平において平和的なパレスチナ国家をつくるということが動きとして出てくるのだと思います。一月二十日にパレスチナの選挙が予定され、一月二十八日はイスラエルの総選挙という形が出てきます。ここで、やはりアラファト氏を中心としてテロというものを抑え切れない、その勢力に対し、やはりレジームチェンジというような状況が生まれてくると思います。
 それから、シリアに関しましては、むしろ現状においてレバノンの管轄というのでしょうか、そういうことをある程度アメリカは認めているような状況です。ですから、ここはレジームチェンジというよりはむしろリフォームというか、緩やかな政治体制の変化というのを求めていくのではないかなと思います。
 さらに、隣のイランに関しましては、北朝鮮も含め、悪の枢軸と言われている三つのうちの一つなわけです。実際に、レバノンにいるヒズボラという過激的な勢力に対して武器供与その他を行っているとか、それから北朝鮮との関係で武器開発を進めている、ノドン、シャハブという非常に飛行距離の長いミサイルを用意しているような状況で、イランとイラクを比べても遜色のないぐらいに、やはりテロという問題に関して懸念材料があると思います。
 ただし、ここで違うのは、イランという国は民主化が起こっております。今、イランという国にないのは自由化なんです。ですから、政党の自由、言論の自由というものを与えますと、ここにいる民衆というもの、若者層ですが、革命後に生まれた若者層がそこで政治的な変革をするということを考えております。
 かようにして、まとめていきますと、恐らくイラクという国にアメリカが占領を、二年というふうに申し上げているようでございますが、そのような形で占領していく中で、憲法、議会をつくっていくという形がとられていくと、緩やかに中東地域からその姿を消す可能性もあります。むしろ、中東地域において、自助努力のもとで変革を求めていくということが出てくると思います。そういう意味では、先ほどから申し上げているように、ここに兵器というものの管理が重要になってくるので、武器の解除という問題をやはり真剣にお考えいただきたいと思っております。
保坂委員 私どもが一番心配をするのは、フセイン政権がどのような問題を持っていても、イラクの一人一人の民衆というか、子供や老人等、そのような人たちが大量に戦争の犠牲になるというようなことがあってはならないし、湾岸戦争も、残念ながら劣化ウラン弾などが使われて、報告によれば、かなりの異常を持って生まれてくる子供だとか、がんで亡くなる方が相当多いというふうに聞いています。
 水口さんに続けてお聞きしたいのですが、先ほどパレスチナ国家の樹立ということを触れられました。私は、オスロ合意に基づくあのいわば緩やかな話し合いの路線が、今ずたずたに、無残な形で形骸化をしているということを認めざるを得ないと思う。もちろん、オスロ合意のあの時点に戻ってほしい。そして、一時は暴力の応酬もなかった、そのときに何とか立ち戻ってほしいと思いますけれども、しかし、御存じのように、この間、自爆テロがありました。テロがあるたびに、その首謀者と目されるパレスチナ側に軍事報復がある、あるいはねらい撃ちのような車両で幹部を殺すというようなことも行われる。それはテロとの闘いということで、ブッシュ政権はある程度容認をしてきたという経緯もあります。アラファト議長の何回かにわたる包囲にしても、かなり異常なことには違いないわけで、そういう意味では、やはりそのダブルスタンダード論というのはアラブ諸国の中に、イラク国内も含めて、出てくる状況だろうというふうに思います。
 今度の、もし武力攻撃が始まった場合、国連の査察、かつての査察のように、九五%は除去されたんだ、ミサイルなんかほとんど残っていないんだということならそういう心配はないんですが、しかし、幾らかでも残っていた場合に、イスラエルにイラクが湾岸戦争のときのように攻撃をしかける、それによっていわばパレスチナ問題をリンケージさせるということを湾岸戦争のときに試みました。しかし、それはアメリカが強力に説得をして、いわばイスラエルは耐えたという展開だったと思います。ところが、今回シャロン政権は、労働党の閣僚も離脱しましたし、少しでも来ればもうやるよということを明言していますね。こういった心配ということがすごく大きなことになっていかないかという心配があるんですが、そのあたりはどうごらんになっていますか。
水口参考人 イラクの暴発という問題として少しお話をさせていただきたいと思いますが、今申し上げられたように、イラクを追い詰めていく過程の中で、イラクが自分の国というものをどう守るか、そして国際世論をどういうふうに喚起させるかというときに、不幸にしてイスラエルに対してミサイルを撃ち込む、それからイスラエルの国内に対し化学兵器その他のテロ行為を行う、こういうおそれは十分あると思います。
 そこにおいて今対応をとられているものとしては、ヨルダンの空軍基地をベースにしてレーダー施設が設置され、恐らくイラクから撃ち上がって六秒以内にそれが感知できるような状態で、パトリオットそれからアロンミサイル、それを後ろに配備した状態で防衛体制をとっております。
 ですから、自分のところにおっこちてくる確率は、かなりイスラエルは低い状況になっていると思いますが、不幸にして撃たれてしまったということがあると、ではイスラエルは反撃をするのかという次のテーマが出てくるわけでございます。これに関しては、おっしゃるように、シャロン政権としては、なぜイスラエルにおける国内のテロが続いているかということにもかかわるわけですが、弱気ではだめだということを考える政権ですので、それは反発というものを強く打ち出してくる可能性があります。
 ただ、先ほどからちょっと申し上げていますが、国際社会においてアメリカは単独主義だけをとっているわけではなく、今回の国連の場合においても、大量破壊兵器を出すために協調というのをとっているわけですし、ここの中東においての一番の不安定要因、問題を複雑にする要因がイスラエルの反撃だというのは十分わかっていると思います。この点では、イスラエルに対する経済援助その他の経済問題をかけて、こういうものにブレーキをかけていくというふうなことが考えられるんだと思います。
 なお、反発のほかの要因として、アメリカ軍施設に対するテロというものがありますし、それからクウェート、カタールというようなアメリカ軍に協力する国の施設に対するテロ、これは淡水化プラントそれから電力発電所、そういう国の生命線になるところを破壊する可能性もあります。それから、化学兵器をまく可能性もあります。さらにタンカー攻撃という問題が残っておりまして、前から申し上げているように、狭い海域がございます、マラッカ海峡とかホルムズ海峡とか、そういうところにタンカーが通過するところを攻撃する、そういうような状況も考えられるんだと思います。
保坂委員 それでは、松井参考人に伺います。
 キューバ危機のことがアメリカの議会で随分この間語られたというふうに伝えられています。ブッシュ大統領は、当時ケネディ大統領が意図的なごまかしや攻撃的な脅威というのはアメリカは絶対許さないんだということで、この決議を議会が承諾することを求めたそうですが、それに対して民主党の長老議員などからは、そうじゃないんだ、ケネディ大統領は弟のロバート司法長官から、この攻撃をしてしまうと先制攻撃になってしまう、パールハーバーの逆になってしまうんだということで、ぎりぎりのところで、十三日間で、交渉で危機を乗り切った、こういうことが議会でもアメリカ国内でも随分語られた。
 そして、国連憲章五十一条が、いわゆる先制攻撃ということを自衛権の発動として、急に迫ってくる、もう時間、猶予がないということについてはその反撃を認める、自衛権の行使を認めるけれども、さしたる切迫をしていない状況での、やがて危ないからたたくということは明快に禁じている。これはアメリカ国内でも議論になったし、当然その国連の決議の場でも意識されて議論になったに違いないというふうに思うんです。この点について欧州各国も大分指摘をしたと思いますが、先生の見方というのを少しお聞かせいただきたいと思います。
松井参考人 お話しになりましたキューバ危機のときの議論でありますが、やはりあの当時、キューバに対して武力を使うという可能性は大変高かったと思うんですが、その抑制に、今お話しのあったような自衛権の問題を含めた国際法上のルールというのが一定程度存在したのは確かだろうと思います。
 例えば、御存じのように、あの場合にアメリカはキューバの周辺をいわゆる封鎖いたしましたが、これは国際法上の封鎖という言葉を使わずに、隔離という言葉を使いました。つまり、国際法上の封鎖ということになりますと、これは戦争行為になりまして、一種の侵略行為と見られる可能性があるから、事実上は同じことをやったわけでありますが、隔離という言葉を使ったというふうに、それなりにやはり国際法でもって行動が縛られているんだよという意識はあっただろうと思うんですね。
 ところが、いわゆる冷戦終結後、ちょっとその意識が端的に申し上げて希薄になっているのではないか。つまり、自分の国の行動を、国際法に適合して動くということのみならず、形の上でも国際法上合法だよというふうに説明をする、アメリカはその努力を余りやらなくなったという印象を受けているわけであります。つまり、どうせおれの国が行動した場合に、これに有効に反撃できる国はないんだろうというふうに考えると、どうもそのあたりをきっちり説明する手間をかける必要もないと考えているのかなという、うがった考えも出てくるわけであります。
 その点が、実は一方行動主義ということと並んで大変気になる。少なくとも国際法を勉強しております者の立場からは大変気になることでありまして、こういった国に対して、やはり国の行動というのは国際法上の枠内で行われるべきものであるということをきっちり押さえた発言というのを国際的にしていかなければならないだろうと思っておりますし、御指摘のように、千四百四十一決議が採択されるについては、フランスを初めヨーロッパ諸国はかなりその線でもってアメリカに対して説得をしたというふうに承知しておりますので、その意味では、今も国際法も捨てたものではないと他方では思っております。
保坂委員 それでは、大野参考人に再びお聞きいたしますけれども、イラクは第二の産油量を誇る国だと思います。石油資源が非常に豊富で、したがってアフガニスタンなどと大分状況が違って、医療水準や教育水準もかなり高いというようなことも聞いております。
 実は今回、アメリカ国内でも、戦争に対して危惧を申し立てる声が相当にありまして、その論者を見ていきますと、石油のために血を流すなということをアメリカ国内で言われている方も随分いらっしゃるんですね。
 したがって、大量破壊兵器の廃棄ということが当面ありますけれども、しかし、根底にはアメリカにおけるいわゆる石油戦略の問題、これが存在するのではないか。イラクに親米政権をつくることでアメリカが受けるメリット、そして同時にリスクも生じてくると思いますけれども、そのあたりについて、いかがでしょうか。
大野参考人 イラクに親米政権ができて石油をコントロールするということを想定する場合に、まず一つ目は、隣国への影響というのがあると思います。特にサウジアラビアは、これまでアメリカとの密接な経済的な関係で結ばれていたこと、これがある意味で自分たちの安全を保障する一つの有効な手段でありました。しかし、ビンラーデンみたいな人物を輩出して、アメリカ国内でもサウジに対する批判が高まってきた。そこで、もしもアメリカがイラクという石油国を抱えることができれば、サウジアラビアは真剣な危機感を抱くと思います。
 それから、イラクの石油に関しましては、これまで必ずしもひとしく国民にその富が分け与えられてきたわけではありません。したがって、もしも新しい政権ができましたときには、各国の石油企業、あるいはアメリカの政権の中でも石油産業に関係のある方が数多くおられるという話ではございますが、そういった企業を含めたところが石油の利権をとっても、これまで以上にイラク国民に対する福祉は上がる可能性があると思います。
 本件に関しましては、先週だったと思いますけれども、イラクの反体制派とアメリカとの間で、イラクの石油の将来に関する会議が行われる予定がございまして、その中には、今申し上げたような今後の石油の使い方と、もう一つ、今回の対イラク戦争の戦費をイラクの石油から出すべきかどうかということもアジェンダとしてあったというふうに聞いておりますが、この会議は将来に延期されたというふうに聞いております。
保坂委員 一番最初の大野参考人のお話の中で、一番関心の高い、九月十一日のテロ事件、そしてそれに関連する、現在も頻発をしている世界各国のテロ事件とイラク政府との、フセイン政権との関与、関係性について述べられたと思うんですが、イラク北部に、アルカイダと連携をしている、あるいはアルカイダをかくまっている勢力があると。しかし、おっしゃったところでは、それはクルド人の方々であって、フセイン政権がそういう、そのあたりは余り確認できなかったとおっしゃったと思うんですが、ちょっと詳しくお願いできますか。
大野参考人 お答えいたします。
 クルドのアンサール・イスラームという組織が、イラクの北部ですけれども、クルド地域の東部にイスラム組織として根を張っております。ここの指導者というのは、アルカーイダの、ビンラーデンの恩師というか、それと思想的なつながりを持っていた。それから、アルカーイダがいろいろな作戦活動をする際に、クルド地域を通じて、あるいはクルド地域からアラブ人とクルド人をアフガニスタンに送り込んでいたということが言われております。そういったロジスティックな関係と思想的な関係があった。
 九・一一以降、アメリカがアフガニスタンに対する締めつけと、それから実際の武力行使を行うに至って、これらの人々はどこかに行かなければいけない。そのうちの一部については、自分の家に戻るということで北イラクのクルド地域の拠点に戻った。あるいは、一部のアラブ人については、彼らを頼って、アンサール・イスラームの下で今庇護を受けているというふうにも言われております。他方で、いろいろな報道がございますけれども、アンサール・イスラームの勢力が、アフガニスタン以降、最大で二千人にまで膨れ上がったという報道もありますけれども、実際にはその十分の一ぐらいの規模ではないかということも言われております。
 最後に、イラク政府とアンサール・イスラームとの関係でございますけれども、これについては、テネットだったと思いますけれども、イラク政府が国内で起こっているテロ組織のことを知らないわけがない、したがって、これは反米という意味でお互いに戦術的な協力関係になり得る可能性がある、したがってそこにあるに違いないという議論はしております。しかし、それはあるという議論ではない。なおかつ、日本国内において、かつて例えばオウムとかそういう組織があったときにそれを日本政府が把握していたと同じように、サダム・フセインがアンサール・イスラームの動きを把握しているかどうかというのはよくわかりませんし、それ以上に、支援、あるいは一時期言われていたサダムの裏組織であるというようなことは、全く証明がなされていないというのが私の理解です。
保坂委員 もう一点確かめておきたいのは、イラク・バース党なりフセイン政権と、イスラム原理主義勢力との関係なんですね。恐らく大きな距離があって、例えば生物化学兵器あるいは大量破壊兵器などを彼らにフセイン政権は拡散させていく、手渡していくというような危険性、可能性というのは実際にあるのかどうか。大野さんに伺います。
大野参考人 お答えいたします。
 バース党はもともと社会主義で、アラブの民族主義を表明する政権でございまして、イスラムとの関係は極めて希薄であった。そのことをビンラーデンもあるいはホメイニも批判しておりました。したがいまして、もともと、いわゆる今言われている原理主義との関係というのは強くはない。他方で、湾岸戦争以降、自分たちの立場を擁護し、それからアラブ民衆の歓心を買うためにイスラム色を強めていったことも事実であります。これが背景でございまして、それからイスラム組織に対して武器を供与するということは、ある意味で、世俗政権、あるいはイスラームと必ずしも仲がよくないのにイスラームを標榜しているえせイスラムと思っている人たちに逆に兵器を与えるということは、自分の首をも絞める可能性があることがございますので、基本的にはなかなか考えにくい。
 それから、イスラム勢力というのは今、北部のモースルとか、南部でも、一部に関しましては、未来が見えないがために宗教に偏るイラク人の人たちが多くなっています。したがいまして、それがスンニ派にせよシーア派にせよ、潜在的な政府に対する脅威ととられる可能性が高いのが今のイラク国内の状況なので、少なくとも国内において、あるいは国内のイスラム組織と関係がある国際的なイスラム組織に対して何かそういった供与を行うというのは、自分の首を自分で絞める可能性が高いと思います。
保坂委員 ありがとうございました。
 大変困難な局面ですが、日本も力を尽くして、世界の破局などというような入り口を開かないように、戦乱ではなく交渉でこの事態を解決することを願うということを申し上げて、感謝をしながら終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
池田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げる次第です。
     ――――◇―――――
池田委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。
 国際情勢に関する件調査のため、来る二十日水曜日、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議はございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
池田委員長 御異議はないと認めます。よって、そのように決定いたしました。
 次回は、来る十一月二十日水曜日午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会をいたします。
    午後零時九分散会


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