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第1号 平成15年2月25日(火曜日)

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平成十五年二月二十五日(火曜日)
    午前九時開議
 出席委員
   委員長 藤井 孝男君
   理事 斉藤斗志二君 理事 自見庄三郎君
   理事 杉浦 正健君 理事 萩山 教嚴君
   理事 宮本 一三君 理事 末松 義規君
   理事 原口 一博君 理事 細川 律夫君
   理事 石井 啓一君
      荒巻 隆三君    伊吹 文明君
      池田 行彦君    衛藤征士郎君
      尾身 幸次君    大原 一三君
      奥野 誠亮君    亀井 善之君
      栗原 博久君    高木  毅君
      高鳥  修君    津島 雄二君
      中山 正暉君    丹羽 雄哉君
      葉梨 信行君    萩野 浩基君
      原田昇左右君    松岡 利勝君
      松野 博一君    三ッ林隆志君
      持永 和見君    山口 泰明君
      上田 清司君    海江田万里君
      河村たかし君    小林 憲司君
      田中 慶秋君    中村 哲治君
      長妻  昭君    長浜 博行君
      細野 豪志君    牧  義夫君
      山田 敏雅君    吉田 公一君
      米澤  隆君    赤羽 一嘉君
      斉藤 鉄夫君    達増 拓也君
      中塚 一宏君    樋高  剛君
      佐々木憲昭君    中林よし子君
      藤木 洋子君    矢島 恒夫君
      金子 哲夫君    菅野 哲雄君
      中西 績介君    横光 克彦君
      井上 喜一君
    …………………………………
   公述人
   (東京大学先端科学技術研
   究センター教授)     伊藤 隆敏君
   公述人
   (専修大学名誉教授)   正村 公宏君
   公述人
   (中央大学経済学部教授) 長谷川聰哲君
   公述人
   (前都留文科大学教授)  中西 啓之君
   公述人
   (一橋大学大学院法学研究
   科教授)         水野 忠恒君
   公述人
   (東短リサーチ株式会社取
   締役チーフエコノミスト) 加藤  出君
   公述人
   (関西経済連合会理事・文
   化交流委員会委員(観光集
   客産業検討会座長))   山下 和彦君
   公述人
   (立正大学経済研究所長)
   (東京大学名誉教授)   侘美 光彦君
   予算委員会専門員     中谷 俊明君
    ―――――――――――――
本日の公聴会で意見を聞いた案件
 平成十五年度一般会計予算
 平成十五年度特別会計予算
 平成十五年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――
藤井委員長 これより会議を開きます。
 平成十五年度一般会計予算、平成十五年度特別会計予算、平成十五年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。
 この際、公述人各位に一言ごあいさつ申し上げます。
 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわりませず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。平成十五年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。
 御意見を承る順序といたしましては、まず伊藤公述人、次に正村公述人、次に長谷川公述人、次に中西公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 それでは、伊藤公述人にお願いいたします。
伊藤公述人 おはようございます。東京大学の伊藤隆敏であります。
 本日は、このような場にお招きいただきまして、ありがとうございます。私の方から、日本経済の現状と政策転換の必要性についてということで、二十分程度お話をさせていただきます。
 現在の日本経済について、私は次のような現状認識を持っております。
 第一に、デフレ、これは消費者物価の下落という形で定義できますけれども、このデフレは悪化しつつあり、デフレスパイラルが私は発生していると思います。これはデフレスパイラルの入り口にあると言う方もおりますが、私は既に発生していると思います。
 確認のため、図の一、これは、お手元資料の四ページに文章の後の方につけておりますが、図の一で見るとわかりますように、一九九八年半ば以降、消費者物価は下落に転じておりまして、過去三年、消費者物価は大体マイナス一%という率で下落をしております。これがデフレであります。
 二番目の認識として、伝統的な金融政策、これは金利を操作するということですが、これは、御存じのようにゼロ金利ということで最大限使われておりますが、これ以上金利を下げることはできない、名目金利をマイナスにすることはできないという意味で限界に来ているということだと思います。それで、日銀当座預金の積み増しといういわゆる量的緩和が図られてきましたが、これも余り効果がないということだと思います。
 三番目に、単に財政赤字の規模を大きくするという意味での伝統的な財政政策、これはしばしばケインズ型財政政策と呼ばれておりますが、これも余り効果を持たなくなった。これは、もちろん使ったお金の分の効果はありますけれども、それが民間の需要を派生して呼び込む、こういう派生需要のところが非常に効果が小さくなってきたというのが認識であろうかと思います。
 さらに、財政赤字を大きくしてきたために、国の債務が非常に大きくなっています。この債務・GDP比率が今年度末で一四〇%を超えると言われています。これ以上の財政赤字を積み増しというのは非常に危険ではないかというふうに私は考えております。
 これは、お手元資料四ページの図の二というところに、G7の国の一般政府債務・GDP比率の過去十二年の推移が書いてあります。一九九〇年には、日本とアメリカというのはほぼ同じGDP比の政府債務を持っておりました。六五%程度でありましたけれども、過去十二年の間に日本は非常に債務・GDP比率が高くなりまして、G7の中で最悪、一四〇%を超えていると。来年、来年というかことし末ですね、これは多分暦年だと思うんですが、OECDの資料でございます。多分暦年だと思いますが、一五〇%になるだろうと。このような状況でさらに財政赤字をどんどん拡大していくというのは、財政の危機に一歩一歩近づいているということだと思います。
 平成十五年度予算でも、前年度の当初予算に比べて財政状況というのは確実に悪化しております。歳入に占める公債発行額の割合は四四・六%、つまり、国の予算の半分が借金だということですね。発行額もふえている、税収は減っているということで、私は極めて財政状況は悪いというふうに思っております。
 四番目の認識としましては、不良債権処理。銀行のシステム不安、銀行の財務体質の脆弱性というのは、相変わらずこれは解決に向かっての進み方が非常に遅いということだと思います。
 したがって、以上の四点が私の日本経済に対する基本的な認識であります。
 先ほど、デフレスパイラルが発生していると言いましたが、これはどういう現象かということをお話ししたいと思います。
 スパイラル、これはいろいろあるんですけれども、私は、次の四つの悪循環、悪循環という意味でのスパイラルが発生していると思います。
 第一に、デフレ期待を通じたチャンネルであります。
 これは、デフレが起きている、消費者物価が下がると思えば当然デフレ期待というものが発生しまして、将来も下がるだろう、そうすれば消費を控えるということが起きます。あるいは投資を控えるということが起きます。したがって、消費のタイミング、投資のタイミングがおくれるということで、総需要が減る。したがって、総需要が減ることによって物価がさらに下がる。これで悪循環の輪が完結します。
 もう一つのチャンネルが、今言ったのはフローの意味での投資、消費を通じた効果でありますが、もう一つの効果は、積み上がったストックに対する効果であります。
 これは、デフレになりまして一般物価が下がっていくという状況の中では、これまで借りたもの、これは名目で借りています、住宅ローンにしても、設備投資のための資金にしても、これは名目の契約でありますから、その名目の契約の実質的な価値、つまり、幾ら稼いで返したらいいのかという実質的な債務が増大しているということであります。そうしますと、消費者ローンを借りている消費者にとっては、収入がどんどん減っていくのに同じ額を返していかなきゃいけないという意味で、実質負担が増加しているということで、その分消費に回す可処分所得が減っているということになります。
 したがって、このような名目の債務を負っている人にとって、物価が下落していくということは、可処分所得を減らして消費を減らす、あるいは、事業資金の場合には投資を減らすという形になって、総需要不足になってデフレになる。これで悪循環が完結するという、ストックを通じたチャンネルがございます。
 もう一つは、資産価格を通じたチャンネルでありまして、デフレであるということは、実質金利、これは名目金利マイナスインフレ率ですから、実質金利を上昇させます。インフレ率が下落するということは実質金利は上昇するということですから、これによって資産価値というものが下落していきます。金利が上昇するということは資産価値が下落するということですから、これによって住宅あるいは設備投資が抑制されるという効果がございます。
 したがって、買う人がいない、つくる人がいなければ資産価格というのは下落していきますので、資産価格の下落につながっていくということで、これで悪循環がもう一つ完結すると。
 もう一つは、実質金利の上昇、資産価格の下落から耐え切れなくなって破綻する借り手が出てきます。これが不良債権ですね。この結果として銀行の財務が悪化してまいります。これによって、御存じのとおりの銀行の貸し渋り、貸しはがしという現象につながって、中小企業の倒産あるいは総需要不足ということにつながっていくということで、さらにこれが物価を下落させると。これでもう一つのデフレのスパイラルが完結いたします。
 このように、デフレスパイラル、幾つかのチャンネルがあるわけですが、これらがすべてデフレがデフレを呼ぶという形での悪循環になっているわけです。
 そこで、このようなデフレの克服がなぜ重要かということでありますが、今説明しましたように、デフレというのは、放置しておくと、どんどんデフレがデフレを呼ぶという形で悪い方へ悪い方へ行って、自律的な回復の過程というものがないんですね。経済の多くの現象の場合には、何かショックがあった場合には自律回復機能というものがある場合が多いのですが、このデフレに一たん陥ってしまうと、それが働かなくなるという非常に危険な状況だと思います。
 それから、不良債権問題というものがそのチャンネルの一つだというふうに申し上げましたが、今既にその不良債権問題というのは非常に長い間苦しめられてきた現象でありますが、これをさらに悪化させる。つまり、過去の不良債権を処理したとしても、新しい不良債権がどんどん出てきてしまう。したがって、デフレが継続している以上、過去の不良債権を処理しても処理しても、どんどん新しい不良債権が出てきて銀行が苦しめられるということになります。
 三番目の恐ろしい点は、これは財政破綻の危険性であります。デフレが続くということは、どんどん税収が減っていく。一方、景気刺激のために財政の出動が要請される。税収は減って支出がふえるわけですから、当然赤字額はふえていく。先ほど申し上げましたように、既に政府債務・GDP比率というのはほぼ危機的な状況まで高まっているわけですから、これ以上デフレを放置するということは、さらに財政破綻の可能性を高めていくということでございます。
 もう一つは、デフレの状況では金融政策の力を発揮できないということであります。伝統的な金融政策の手段がない。つまり、実質金利を下げることができない。デフレがひどくなればなるほど実質金利は上がっていって、金融は自動的に引き締めになっていくという点がございます。
 このような点を総合して、デフレというのは経済を縮小均衡、悪い均衡へ向かわせているということが言えます。つまり、日本経済の潜在的な力を引き出すことができないというような状況をつくり出しているのがこのデフレという現象であります。
 では、このデフレというものから脱却するにはどういった政策が必要になるのかということでございます。
 今説明しましたように、伝統的な政策というものには限界があるということを申し上げました。したがって、非伝統的な政策というものを使わなくてはいけないというふうに私は考えております。
 それで、これは一つの政策でデフレから脱却できるわけではございませんで、恐らく、幾つかの政策を組み合わせるという、いわゆる政策パッケージというものが必要かと思います。
 私は、そこに五つの重要な要素を書いておきました。
 一つ目が、いわゆる非伝統的な金融政策というものでございます。これは、これまで日銀が購入していなかったような資産というものを購入して、そういう新しいチャンネルから貨幣供給を行っていくということでございます。
 二番目が、その金融政策の効果を高めるためにインフレ目標を導入するということでございます。これは、効果を早め、しかも副作用を抑えるという効果があると私は考えております。
 三番目は、非伝統的な財政政策という名前をつけましたが、いわゆる総額としての財政赤字をふやすのではなく、乗数効果の低いプロジェクトから高いプロジェクト、つまり、民間の投資を呼び込むような、誘い水となるようなものを探し出して、そこに支出を移していくということがぜひ必要だというふうに考えております。
 もう一つは、歳入の方であります税制、これの改革が必要だというふうに考えております。短期的な減税という消費刺激と、中期的には、先ほど言いましたように増税は免れないというふうに思っておりますので、中期的には増税することを組み合わせるということがぜひ必要ではないかと。消費、投資が落ち込んでいるわけですから、そこを刺激するような、住宅投資あるいは設備投資を刺激するような減税と、中期的には消費税の増税というものは私は不可避であるというふうに考えております。
 五番目は、不良債権の迅速な処理。これは皆さん口をそろえておっしゃることで、異論はないと思いますけれども、これがなぜおくれているかということは、採算がとれないような企業、債権放棄を何回やっても立ち直れない企業というものは、これには退場していただくということがぜひ必要であります。不良債権を切り離すということを行って、初めて銀行の財務は改善するというふうに思っております。
 このような五つの要素を書き出しましたけれども、これを同時に行うということが私はぜひ必要だというふうに思っています。これは、相乗効果をねらうということもございますけれども、一つだけ取り出してやると、かえってデフレは短期的には悪化するという政策、これは例えば不良債権の処理がそれに当たると思いますが、そのようなものもありますので、同時にやることによって、お互いの副作用を打ち消し合って相乗効果をもたらすという効果があるというふうに考えております。したがって、ぜひこのようなパッケージを導入して、デフレからの脱却を図っていただきたいというのが私の希望でございます。
 次に、財政規律のことについてお話しさせていただきます。
 今のままの財政赤字、これは、GDP比で七%あるいは八%というような数字になっておりますが、これをこのまま続けますと、私は、数年のうちに財政は取り返しのつかない事態になると思っております。
 それで、財政破綻が何かということと、どの数字まで行ったら危ないのかということについて、特に学界の定義があるわけではありませんし、国際的にも基準があるわけではありませんが、一般に、一般政府債務・GDP比率が二〇〇%になるということはもう実質的に破綻ですねということを言う学者の方は多いというふうに思います。
 では、この二〇〇%というのがいつ達成されるのかということですが、これは、今のままの七、八%の財政赤字を毎年出していきますと、六、七年のうちには二〇〇%になってしまうということですから、日本経済に、デフレ脱却それから財政規律のための財政再建というものに取り組むまでの時間というのはそう長くはないということでございます。したがって、今すぐにでもデフレ脱却、将来的に財政再建、すぐにはできないと思いますけれども、将来的には財政再建ということに取り組む、その道筋をつけるということは非常に大切だというふうに思っております。
 非伝統的な金融政策が重要であると申し上げましたが、その中身は何なのかというと、これまでは、国債の買い切りの増額ということを行っていわゆる量的緩和を行ってきたわけですが、これは必ずしもうまくいっていない。その理由は、銀行を通じたチャンネルということ、これが伝統的な金融政策でありますが、そこに集中していたために、銀行が不良債権に苦しんでいる中ではどうも効果が出ないということがわかってきたということだと思います。
 では、どうすればいいのか。非伝統的な政策、これは、例えば上場株式投信、いわゆるETFというものを買う、あるいは上場されている不動産投資信託、REITと呼ばれているもの、これを購入していくということによって新たな貨幣供給のチャンネルをつくり出すということを実行するということであります。
 これは、それまでETFあるいはREIT、不動産を持っていた人から資産を買い上げて貨幣供給をするわけですから、供給されたその貨幣がそれまでの投資家に渡る。彼らはまた株を買うかもしれないし、不動産を買うかもしれませんが、外債を買うかもしれないし、消費するかもしれないし、投資するかもしれない。どこに行っても悪いことはないわけですね。株に行けば株が上がるでしょうし、外債に行けば円が下落するでしょうし、消費すれば直接それで効果が出てくるということで、どこに使われるかはやってみなければわからないわけですけれども、悪いことはないという政策であります。
 つまり、ポートフォリオバランスを変えていただくということでリスクをとっていただく、あるいは、消費、投資をしていただくというためにこのような非伝統的な金融政策ということが重要だと思います。
 それから、インフレ目標政策というのはどういうことかといいますと、インフレ率が二年後に一から三%になるというようなコミットメントを行って金融政策を行うということで、これは副作用があると言う方がいらっしゃいますが、私は、むしろ副作用を抑えて、今言った非伝統的な金融政策の効果を高める効果があるというふうに考えております。
 最後に、ちょっと時間が超過しているかもしれませんが、一分だけいただきまして、円安誘導の話をさせていただきます。
 日本経済がこのようなデフレで不況になっているときに、円安をすることはいいことだということで、円安誘導したらどうかという意見がございます。円安になれば、これはもちろんデフレに対して効果的な対策になるわけですが、では、果たして円安にすることができるのか、あるいは、そういう政策を政策として行うことが適切かということでございますが、私はむしろ、先ほど言った政策パッケージというものを行えば自然に円安になる、自然に円安になったものを放置すればいいというふうに考えております。何もしないまま介入だけ行っても、恐らく円安にするのは非常に難しい、適切な政策パッケージを行えば確実に円安になると私は考えております。
 したがって、無用な摩擦を起こす必要はありませんで、適切な国内政策をとることによって自然な円安が起きて、それを放置するというのが適切な政策かと思います。
 以上でございます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
 次に、正村公述人にお願いいたします。
正村公述人 正村でございます。
 時間が大変制約されておりますので、私が重要と思うことを二点だけお話ししようと思っております。
 申しわけございません。二、三日前にレジュメを渡してしまいますと、それと違う話をするリスクがありますので、ぎりぎりまで考えておりまして、お手元に何もございません。
 大きな柱になるようなお話を申し上げます。
 最初に申し上げたいのは、財政のあり方についての基本的な考え方をここらで確定する必要があるんじゃないかと。
 私が率直に疑問に思いますのは、政府という組織は過去の教訓を学ぶということができない組織なのではないか、そういう疑問を持ちます。何を言いたいかといいますと、財政というのは経済という大きなシステムのサブシステムである。しかも極めて重要なサブシステムである。したがって、財政だけを眺めて財政の再建を考えたら必ず誤るということですね。財政だけを考えて、例えば、赤字減らしのために短期間のうちに何とかしようと思って抑制的な政策をおとりになると、経済が不均衡を起こしますから、必ずそれが財政にはね返る。今まさにそういう姿になりつつあると思いますが。
 今回の場合を含めて三つのケースを申し上げたいと思います。
 まず、一九八〇年代の前半、臨調行革ということをおやりになりました。そんな古い話をするのかということをお感じになるかもしれませんが、今につながる重大な誤りをしているわけです。なぜかと。臨調行革のときに、「増税なき財政再建」をスローガンにして年々公共投資を削りましたね、物すごい勢いで。あのとき私は、こんな財政運営をやっていたら、どんな国際競争力の強い経済であっても必ずおかしくなるということをしゃべったり書いたりしていたんですね。
 数年を経ずして貿易黒字が急拡大をいたしました。アメリカのレーガノミックスと時期が重なったという不運もあったんですけれども、あんなことをやったら貿易黒字が拡大するに決まっているんです。貯蓄超過になって黒字が拡大いたします。その結果、急激な円高が起こりましたね。三年間に円の対ドル価値が二倍になるような激変がありましたね。円高不況が起こり、アメリカからの黒字削減の圧力がかかり、内需拡大だと言ってアクセルを踏んで、それがバブルを引き起こして、その反動で九〇年代の深刻な経済危機が起こったわけですね。
 財政運営の誤りが経済の不均衡を拡大させて、経済を危機に追い込むということを学ばないといけないと思うんです。
 もう一つの例を申し上げますと、これは皆さん御記憶に新しいと思いますが、九七年の橋本内閣の財政構造改革という、財政再建の計画をお出しになりました。
 あのときも私はどういうことを言っていたかというと、私のアリバイを言ってもしようがないんですけれども、どういうことを言っていたかといいますと、財政の再建は重要であり、赤字は減らさなければならないけれども、三年とか五年とかという限られた期間のうちに何とか格好をつけようと思って財政を抑制したら、日本経済の安定成長は不可能になりますよ。財政再建は、三十年かかって赤字を広げてしまったわけですから、十年、二十年、三十年かけて何とか健全化するという粘り強い取り組みをしないといけないのであって、短期間のうちに格好をつけようと思ったら経済がだめになる。経済がだめになったら、財政の再建どころではなくなりますよ、改革どころではなくなりますよというのがあのときの私の発言でありました。
 残念ながら、私の懸念は的中したのであります。私の懸念が的中したということは、私にとっては喜ばしいことでありますけれども、日本経済にとっては大変悲しいことですよね。
 ところがなぜか、その後しばらくの間景気対策をいろいろ政府はおやりになったわけですけれども、今度の小泉内閣になって、改めてこれではだめだというふうにお考えになったんでしょうけれども、基本的にまた同じことをおやりになったと思います。財政改革を棚上げにして景気対策をやるか、景気対策を棚上げにして財政改革をやるかという二者択一を入れていらっしゃるわけです、政府のやっていることは。
 それをやっていたらじり貧になります。こういうことをやっていたら、国家と社会が破滅に追いやられます。絶えず中途半端なことになって、じりじりと追い詰められて、来年度予算案を拝見しますと、国債依存率が四四%。じり貧予算ですよね。なぜそうなったのかということについてお考えいただきたいわけです。
 繰り返しになりますが、財政は経済という大きなシステムの重要なサブシステムであって、経済を無視して財政再建を急げば必ず経済がおかしくなって、その経済がおかしくなったことが財政にはね返るということをお考えいただきたいわけです。
 そのことをもう三回も、今申し上げただけでも三回間違えているわけですから、ここらあたりで、財政を再建するということを日本経済の中期、長期、超長期の展望の中での安定成長の保証ということに関連づけて、こういう危機が深ければ深いほど周到な戦略が要るわけでありますから、議会及び政府の内部においてぜひ真剣に御検討いただきたい。これは、経済専門家の私どもを含めての責任でもありますけれども、考えないといけないと。今までのいろいろなでき合いの議論では処理できない深刻な事態にあるだけに、経済と財政の関係をしっかりお考えいただきたい、考えようではありませんかということを御提案申し上げたいわけであります。
 ついでにそれとの関連で申し上げますと、財政を引っ込めなければならない、いや、財政では景気のことはもう構っていられない、財政の切り詰めが先だ、あるいは再建が先だ、赤字減らしが先だということで、財政が引くということを一方で考えておられるために、ここしばらくの間の政府のいろいろな対応を拝見していますと、金融に過大な期待をかけていらっしゃると。しかし、金融というのは、それぞれが採算性を考えて行動するはずの企業とか家計とかいうものが、自分の判断でお金を借りて投資をするかしないかということが最後に問題なんですから、財政とは違うわけです。
 こういう深刻な不況のときに、しかも、ただ数量的に縮小しているという不況ではなくて、デフレが起こっている。数年前には、物価が大幅に下がれば国民の実質所得が上昇するからいいんだという気楽な議論がはやったことがありますけれども、とんでもないということを私は言っていたわけです。物価が大幅に下がるということはデフレですよ、デフレが起こったら大量失業が発生しますよ、規制緩和、規制緩和で物価を下げればいいなどという気楽な議論はちょっとやめてほしいということを言っていたわけです。今は皆さんはデフレを心配していますよね。これも私の懸念のとおりになった。これも、私のアリバイを言っているのでちょっと恐縮なんですが、当たり前のことを無視した議論が多過ぎるんですよ。
 そういう状態のときにお金をだぶつかせて、投資が起こってきますかと思うんです。投資がなぜ起こらないか。それは、目の前で物価がどんどん下がっているわけですから、物をつくっても採算がとれない。数量も落ち込んでいるわけです。そして、先ほど申し上げたいろいろないきさつがあって円が高くなり過ぎちゃって、中国を含めた新興国に生産設備が移動している。こういう事態の中でどうして国内で投資が起こりますかと。
 お金をだぶつかせれば投資が起こるというのは幻想であります。そういう幻想に基づいて、政府は財政を消極的に運営せざるを得ないから、金融何とかしてくれよ、日銀何とかしてくれよ、資金をだぶつかせるような運営をしてくれよというのは私は筋が通らない。そういう筋の通らない議論を何回も何回も繰り返しておられるというのは、私は知的な退廃だと思います。認識のリアリズムに欠けていますよね。認識のリアリズムと実践のリアリズムということを呼び戻してほしいわけです。いや、もともとあったのかどうか疑わしいですけれども。でも、それがなかったら滅びます、本当に。そのことを私は強調したいわけです。
 第二に申し上げたいことは、そういうふうに考えるならば、財政のあり方ということについて、新しい時代に合った前向きの対応をしなきゃいけない。前向きの対応というのは、過去にあったような公共投資の大盤振る舞いを繰り返すということでは絶対にあり得ないわけです。
 そもそも公共投資については、これも私は、三十年来の持論なんですけれども、景気が悪いからといって公共投資をばんばんふやすというやり方はやめた方がよろしい、景気がよ過ぎるからといって公共投資を一挙に絞ってしまうのもやめた方がいい。公共投資というのは、未来の世代のためにどういう国土を残すか、どういう都市を残すか、どういう生活環境を構築して次の世代に渡すのか、こういうことのためにやる事業でありまして、道路をどんどんつくって、一日に何台車が通るかわからないようなところに何本も道路をつくるようなことをやっているというのであるとすれば、そのことをやることで景気が多少よくなったからといって満足するわけにいかないでしょう。公共投資というのは、長期の社会資本整備の観点からきちんと計画を立ててじっくりやる。多少の弾力性は必要ですけれども、臨調行革のときのように急に締めたり、あるいは、七〇年代後半のように大盤振る舞いをばんばんやったり、こういうことはやらない方がいい。
 私は、二十一世紀、どういう社会をつくるのかということについてのしっかりした構想をお持ちになって、ナショナルゴールというのは、政府がつくって国民に押しつけるものではございません。国民のコンセンサスに基づいて、合意に基づいて、どういう社会を目指すのかということを考えなきゃいけないわけであります。しかしながら、そのコンセンサスづくり、二十一世紀の日本、二十一世紀の世界はどうするのかということについてのコンセンサスづくりのリーダーシップを政府が発揮していただく必要があると思うんです。そういうメッセージが見えるような予算編成をやっていただきたいわけです。
 何が課題か。明らかなことは、二十世紀型の、資源浪費的、環境破壊的、そして人間破壊的なこの文明はもたないことがわかっているわけです。私たちは、厳しくても、環境と教育及び人間形成、そして生活の安全保障のための福祉、こういうところにしっかり重点を置いて、環境が守られ改善されて、そして、教育がしっかり行われて信頼できる人間が形成される。今の日本の社会の最大の問題は、子供たちが自分たちの力で社会をつくって生きていく能力を身につけるということが困難になっているということです。社会力とかいう言葉を使っている社会学者がいらっしゃいますけれども、まさにそうなんですね。社会をつくって生きていくという能力を身につけることができなくなっている。学力云々というよりも、学力を本当につけていくような意欲、動機づけがないわけですよ。目標喪失の状態に子供を置いているわけですよ。テレビとかテレビゲームが彼らの精神を破壊しているわけですよ。こういう状態からどうやって脱却するかということを真剣に考えないといけないと思います。
 ですから、私は、新しいタイプの積極財政のようなものをお示しいただくことができないだろうかと。積極財政というと古いイメージかもしれませんが、社会の安定と安全を目指すためのポジティブな、前向きのプログラムを持った財政運営、予算編成というものを考える。それが、引っ込み過ぎる、削り過ぎるということを抑えて、大事なところにお金をちゃんとかけていますよ、そういう予算編成にするということにつながると私は思うんです。
 繰り返しになりますが、環境と教育と福祉。環境は、森林の保全とか、河川、湖沼、海洋、そういうものを本当に力を入れて浄化していく。不必要な埋め立てなんかはやらないようにして、生活環境をまず保全する、あるいは改善する。それから、都市化が物すごく進んでしまって、通勤時間が長くなって住宅事情が悪くなっているわけですから、省エネルギー化を一生懸命進めて新しい都市をつくるということと、通勤時間は短くしたり、あるいは通勤しないでも済むような働き方を工夫したり、二十一世紀型の働き方をつくるということとつながりますよね。そういうビジョンを持って、どこにお金をかけるかということをお考えいただきたい。
 教育については、私は差し当たり次のようなことを御提案申し上げたいと思うんです。
 家庭の教育力を強めることは、保育力と教育力ですよね。少子化が行き過ぎているわけですし、それをサポートすることが重要であることは改めて申し上げるまでもないわけですけれども、家庭と地域社会共同体の教育力が衰弱しているという現実を踏まえて、学校教育のあり方を強化する。学力、学力という話がありますが、私は学力を軽視するものじゃありませんけれども、繰り返しになりますが、さっき申し上げたように、社会力が問題なんです。
 七〇年代に、私は、ドイツ並みに日本の小学校も二十五人学級にしたらどうですかということをある団体のプロジェクトで提案したことがあるんですけれども、まじめに聞いてもらえませんでした。でも、今思うに、先生の目が行き届くような教育にしなきゃだめなんですね。十年かけて二十五人学級をつくる、そのために優秀な人材を集めて、育てて配置する、そういうプログラムをおつくりいただけないか。成熟した社会は、成熟した社会が存続するために、明確な目的意識を持って、子育て、あるいは、子供を育てるというより子供が育つ環境、条件をつくる、そういう取り組みをする必要があると思うんです。
 それから、福祉の分野については、時間がありませんから要点だけを申し上げますけれども、何が足らないかというと、いろいろな事業は民間の主体にゆだねることは結構だと思うんです。いろいろな民間の主体が出てきて、それが介護やその他の事業を行う。そういうところにゆだねるのは結構だと思うんです。一番欠けているのは何かというと、相談なんですよ。
 ケースワーカーという仕事がありますけれども、ケース・バイ・ケース、それぞれの人の抱えている問題ごとに、あなたならこういうサービスが受けられますよ、こういう施設がありますよ、こういうことをやったらどうでしょうかという、そういう真剣に、親身になって相談してくれる人が非常に少ないんです、日本の場合には。地方公共団体の側が、ケースワークとかケアマネジメントとか、そういう仕事をする人をもっと抱えないといけません。
 現実はどうかというと、多くの自治体で、ケースワーカーというのは大変だから、大学を出たばかりの若い人をちょっと配置して、三年ぐらいここで我慢しなさい、そうしたら君の希望するところへ回してあげるからとやっているわけですよ。すべての自治体とは言いませんが、そういうことをやっているところは多いんです。しかも、人数が非常に少ないから雑務がいっぱいあって嫌がるわけですよ。こんなことをやっていて、豊かになった社会と言えるかというんです。
 この国会の中を見て愕然としますけれども、そこらじゅう階段だらけで、めちゃくちゃにバリアフリーでないですよね。昭和初年の建物だと思いますけれども。このバリアフリーでない社会が、物理的なバリアフリーだけじゃないんですよ、ヒューマンウエアの面でバリアフリーになっていないんです。家族のだれかが倒れたときに、あそこへ相談に行けば必ずちゃんとやってくれるということを、周りを見て経験して知っていれば、安心感がありますでしょう。
 そういうところに人材を育てて配置するということにお金をかける。これは、道路をつくるよりも少ないお金で効果があります。そして、短期的な経済的効果は限られているけれども、国民に安心感を与え、目標を与えるという効果がありますね。こういうメッセージをちゃんと込めた予算編成をやっていただかないと、いつまでもじり貧財政になると私は思います。
 最後に一言、哲学みたいなことを申し上げますけれども、二十世紀初頭の世界の知的状況と二十一世紀初頭の世界の知的状況の決定的な違いがあります。それは、計画経済はだめだということを、深刻な物すごい犠牲を払った二十世紀の大実験の結果、多くの人が認識しているということです。やはり、高度の文明を維持していくには市場経済を使うしかないかということをみんな思っているということです。
 しかし、市場経済には、御存じのようにたくさんの欠陥があります。放置すれば、環境を破壊し、社会を破壊し、文化を破壊する。子供の生育環境を破壊し、家族の機能を低下させるんです。だから、その市場経済をどうやって制御するか、コントロールするかということについて、しっかりした考え方を持たないといけない。小さな政府論は破産しています。政府は、小さければいいんじゃないんです。強くて信頼のできる、しっかりした、やることをきちんとやっている政府をつくっていただかないといけないんです。この思想転換をやっていただかないと、日本はじり貧に追い込まれます。そのことを御提案申し上げて、私の話を終わらせていただきます。
 御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
 次に、長谷川公述人にお願いいたします。
長谷川公述人 おはようございます。中央大学の長谷川でございます。
 予算委員会の場で皆様に発言する機会を与えていただき、感謝しております。
 国際経済と産業構造を研究するエコノミストの立場から、我が国が置かれている国際経済の環境の中で、産業構造の変化、将来のあるべき姿について、政府がどのようにかかわらなければいけないかを、中長期的視野の中でお話しさせていただきます。
 経済政策としての構造改革とは、規制によってゆがみを持っている評価基準を市場の評価基準に引き戻すこと、その結果として、産業間の価値のウエートを変化させていくことではないかと考えております。そうした構造転換が進む過程で旧来の分野から解き放たれる資源は、直ちに社会的に望ましい分野で利用されずに、ある部分遊休設備となり、ある部分失業などの痛みが生じます。
 私たちの経済は、長期にわたり各国は同じような産業構造の変化を経験してまいりました。今日の先進工業国の産業構造は、G7諸国の就業人口に占める部門別雇用の割合を見ても、またGDPに占める部門別生産高の割合を見ても、サービス産業に既に七割近くの労働が投入され、国民経済の七割近くがサービス産業による付加価値によって成り立っていることが知られています。製造業のウエートは三割弱にまで縮小し、農業のウエートは雇用比率で四%弱、GDP比率で二%弱となっています。
 我が国の二〇〇〇年における農業のGDPに占めるウエートは一・四%、総労働人口に占める農林水産業従事者の比率は五・一%にまで縮小してまいりました。ちなみに、二〇〇〇年時点の農林水産業従事者の労働人口は三百二十六万人という規模になっています。
 戦前戦後の我が国の経済発展の過程で、我が国の産業は、農業から製造業へ、製造業からサービス業へと、その核となる部分は大きな変化を遂げてまいりました。先進工業国は、日本も例外なく、その経済構造はサービス産業に傾斜してきたことがわかります。これらの長期的な産業構造の変化は、既に配付してあります図五・一及び図五・二、及びその下の「戦後の日本の農業」と題した表からおわかりいただけると思います。
 ところで、こうした構造変化が起こってきたと同じ時期に、世界の経済取引は自由貿易への歩みを着実に進めてまいりました。一九四七年以来、ガットそしてWTOは、戦後一貫して、国際貿易における数量規制を禁止し、関税による産業保護を原則的に認める立場をとってまいりました。
 八回を数える多角的貿易交渉の最大の成果は、一九九四年にたどり着いたウルグアイ・ラウンドでの交渉でありました。
 WTOを成立させたこのウルグアイ・ラウンドの交渉は、農業分野における自由貿易への大きな成果を上げることになりました。農業分野における最終合意事項とは、市場アクセスとして、非関税障壁のすべてを関税化すること。そして、ミニマムアクセスとして、一部品目を初年度国内消費量の四%から六年目に八%まで拡大すること。そして、一定水準の輸入量や価格の変化に対して特別セーフガード措置を認め、追加的関税の賦課できる余地を残しました。市場アクセスを前進させたことに加えて、国内助成、輸出補助金に関しても削減していくことの合意が行われたのであります。
 我が国は、米の輸入についてこのミニマムアクセスを前倒しして、関税化を回避する交渉を図りましたが、最終的に、貿易の自由化、関税化が例外分野であった農業の分野でも、ウルグアイ・ラウンドにおいて例外のない関税化の対象とされ、これを受け入れることになりました。従量税で課されることになった米の関税は、従価関税率に評価し直すと約四九〇%の水準になり、国家統制品の大豆などの穀物も一〇〇%を超える水準を示しています。
 WTOの合意を受けての我が国政府は、ウルグアイ・ラウンド農業合意対策要綱を定め、一九九五年から二〇〇〇年までの六年間に、その内訳は、公共事業費の三兆五千五百億円、構造改善事業費八千九百億円から成る合計六兆百億円の対策費を支出してまいりました。
 先進工業国の産業の国際競争力が喪失し、製造業が縮小する原因は、開発途上国からの安い商品が流入する貿易が主因ではないと言われております。
 米国の経済学者ポール・クルーグマンによれば、実質賃金の伸び率の低下は、ほぼすべて国内要因にある、非熟練労働者の実質賃金低下も、貿易の増加に大きく起因しないと述べております。その原因は、国内生産、国内支出に占める製造業の比率の低下していること。第二に、製造業の雇用比率の低下は労働から資本への代替が起こっていること。第三、賃金の停滞は経済全体の生産性の低下していることが原因である。そして第四に、非熟練労働の需要縮小はハイテク経済の特徴であるという説明がなされています。
 日本の場合は、欧米に見られるような、途上国からの輸出攻勢に社会的ダンピングであるという批判を浴びせて、外国からの輸入制限の圧力を行使することはなかったのではないでしょうか。しかし、輸出国に対する輸入国による制裁は、非効率な産業を温存させ、経済構造の転換の促進を損なうことを意味することになります。
 ところが、我が国がこれまで採用してこなかった産業の緊急救済であるセーフガード措置が、二〇〇一年春に突如現実のものとなりました。我が国の農家との輸入品に対する利害の衝突により、中国からの輸入農産物を規制し、国内産業を保護しようとしたセーフガードの暫定措置が発動されました。農林水産省、経済産業省、財務省の三省がセーフガードの発動要件についての検討に当たり、二〇〇一年四月十日、関税引き上げ、緊急輸入制限を閣議了承、二〇〇一年四月十八日、政府は課税方法などを定めた政令を決定いたしました。
 これにより、生ネギは五千三百八十三トンを超えると一キロ当たり二百二十五円、従価税に計算し直しますと、二五五%等価分の関税を賦課することになりました。同じく生シイタケは、二六六%相当分の関税を賦課しました。そして、畳表の場合も、一〇六%相当分の関税を賦課いたしました。暫定措置が半年続いていく過程で、これに対抗する中国政府は、二〇〇一年六月二十二日、日本からの自動車、携帯電話、空調機に対し、報復関税として一〇〇%の特別関税を課す決定をいたしました。
 このように、我が国が農業保護のために価格を支持するセーフガード措置の暫定発動を行い、あわや日中間の貿易戦争かとマスメディアに報じられたことは、まだ私たちにとって記憶に新しい出来事であります。
 WTO、世界貿易機関が多角的な自由化への枠組みを提供し、WTOの多角的通商交渉を通じたグローバリゼーションの動きに対して、一方で、EU、NAFTA、北米自由貿易地域などで知られるリージョナルに市場統合を進めていこうという自由貿易協定を締結し、FTA、自由貿易地域を形成する動きが、一九九〇年代に入ってにわかに活発になってまいりました。昨年初めに、我が国は日本・シンガポール新時代経済連携協定を締結したとはいえ、欧米やアジアにおけるこうした動きは、もっと急速な勢いで進んでいると言えます。
 近年のFTAの特徴は、商品やサービスの関税障壁の撤廃に限定することなく、生産資源の資本、労働、技術などの障壁を取り払っていこうとする特徴を備え、これが国内と地域の経済活性化に寄与するとの認識が広まっています。
 中国は、二〇〇一年七月に、トウカセン外相により、十年以内に二国間協力を基礎にASEANと農業、人材育成、情報通信、投資などの分野で相互協力すると同時に、ASEANプラス3の枠組みでも協力するとの姿勢を打ち出し、昨年、中国・ASEAN自由貿易地域を形成する首脳間の合意を取りつけ、ASEAN市場を取り込んでいく選択を行いました。
 一方で、多角的な自由貿易交渉と、財貨・サービス取引の障壁撤廃や生産要素の移動の自由化、制度の共有化なども視野に入れる近年のFTA形成の潮流の中で、我が国がどのような産業構造を構築していくのか、先を見通した農業対策、製造業対策の構造調整施策を慎重に策定しておかなければならないと私は考えております。
 そこで、国際社会と競争し、また補完し合うこれからの我が国の産業の国際競争力を考えるときに、その高コスト構造を問題とする必要があります。世界で最も高い人件費を使って物やサービスを供給しなければならない状況にあることを謙虚に認識しつつ、国際的に閉ざされた市場の中で、甘んじていつまでも旧来の産業構造の権益を温存させていくのではなく、どのような方向に是正していくかが問題となってまいります。
 労働市場について言えば、特定の専門職に限って国内入国、滞在基準を緩和することが、日本経済の活性化に私は好ましいと考えております。
 高齢化社会における医療、介護サービス市場における人材、そしてIT業界における高度なプログラマーの確保など、国内における高度なサービスを提供することのできる人材養成を進めていかなければならないことは当然としても、国際的にかけ離れることのない競争的な労働市場が機能しなければ、非効率な産業がこの先も温存されてまいります。
 財やサービスは、国内からその生産、供給拠点が東アジアに出ていってしまい、産業の空洞化が問題となっているのでありますが、市場が制度的に規制されたままでは、国際市場の標準に収束しないまま、ゆがんだ価格構造が残ってしまいます。国際的なソフトウエア産業のITビジネスにおける競争力を確保する上で、海外への下請、委託生産にシフトしていくことが企業にとっての重要な選択肢としてある一方で、国内の基幹部分を担う技術者の確保に当たり、シリコンバレーなどに見られるような、インド、中国などからの人材を積極的に確保していく努力が我が国でも必要であると考えるのであります。
 我が国の産業は、どのような構造に変貌していこうとしているのか。IT不況が起こっていると言われる反面で、ITを基盤に据えた産業社会は現実のものとなって世界の経済が成長してきました。BツーB、産業間電子経済取引は無論のこととして、BツーC、電子小売取引の場でも、ますますデジタルな経済取引の実態が膨らんでいます。
 政府は、内閣総理大臣を本部長にしてIT戦略本部を設置、二〇〇一年一月からe―Japan戦略を推進しています。このような今後の社会構造をにらんだ重点計画のもとで、社会的基盤を中心に整備が進んできたことは、一方で評価できるものであります。しかしながら、こうした社会基盤の恩恵が、利用者としての家計、ユーザーに行き渡っていないことや、国際競争力という視点から問題をとらえるとき、現状を楽観できるのか、いささか疑問を持たざるを得ません。
 e―Japan重点政策には、世界水準のネットワークの形成、教育、学習の振興と人材の育成、電子商取引などの促進、行政、公共分野の情報化、ネットワークの安全性、信頼性確保といった分野で、民間分野を主導的役割とした上で、政府が環境を整備し、民間が実現できない分野では政府が対応していくという立場をとっております。公共財としてIT技術がユーザーに広く利用されるためには、企業による技術の囲い込みを制度的に好ましい方向へ誘導することも重要な政府の役割と私は考えます。
 IT産業の国際競争力を強化する上で、技術開発の促進と高度な人材育成が不可欠となります。技術開発に当たっては、戦略技術の開発を集中的に支援するフォーカス21において実用化を後押しする施策が導入されています。また、人材育成についても、技術者を制度として育成していこうという基盤整備への予算化が行われていることを評価するものです。世界から取り残されることのないよう、政府は必要な環境を整備していくことが求められます。
 景気指標を見ると、開業と廃業の企業数がこれまでと逆転しているのが現在の我が国の経済の姿です。これは、景気が後退する短期的な局面と、産業構造が長期的に転換していく過程で生産資源が移転する際に短期的に市場から取りこぼされてしまう局面が、重なって生じていることによるものです。このような状況の中で、既存の利益に遠慮して、国民経済全体にとっておびただしい遊休資本設備や失業を生み出し、その状態を長引かせてしまいました。こうした状況下では、構造転換を促すだけの経済政策では、短期的な遊休設備や失業を回避することは困難であると言わざるを得ません。景気刺激策を伴った構造改革に向けた政策こそ、経済の潜在能力を引き出すのに有効な政策であると私は考えております。
 そのためには、国際経済との調和ある発展を目指し、新時代の産業構造をにらんだ社会基盤づくりと、新しい社会を担うべき人材育成を促進する予算措置を大胆に行っていくことが必要ではないかというのが私の考えであります。
 政府は、IT戦略本部を設置し、総務省、経済産業省を中心に、各省が連携してデジタル社会への基盤整備が進められています。二〇〇五年までに我が国の国際競争力を世界のトップに位置づけようとのねらいであります。こうした夢のある、政府が呼ぶe―Japanという次世代の社会は、他方で、スキルを持ちその恩恵を享受する人々と、スキルを持たない労働者との間に、デジタルデバイドと呼ばれる所得分配の不平等が生じることが指摘されています。
 こうした経済の成長の果実を分かち合うべき施策や制度こそ、構造調整のために整備しておかなければならない政府の役割ではないかと私は考えます。
 御清聴ありがとうございます。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
 次に、中西公述人にお願いいたします。
中西公述人 おはようございます。御紹介いただきました都留文科大学の中西でございます。
 本日は、平成十五年度予算に関連いたしまして、三つの問題について、私の意見を申し述べたいというふうに考えております。第一は、所得税制の改革方向についてであります。第二番目は、公共事業と社会保障の問題であります。第三番目は、地方財政、特に地方交付税財源との関連で、市町村合併の問題について申し述べたいというふうに考えております。
 私は、たまたま一昨年の三月から八月にかけまして、オランダのハーグのISSという、これは国立社会科学研究所というふうに一応訳されておりますけれども、そこの客員研究員として半年留学する機会がございまして、オランダの福祉や税制について若干調べてまいりました。
 福祉国家といいますと、日本ではスウェーデンやデンマーク等々が主に紹介されているようでありますが、オランダも一味違った非常にユニークな福祉国家でありまして、そこの国の税制であるとか福祉のあり方について、多々参考にすべき制度をつくっているんじゃないかというふうに思いまして、現在も私研究中でございますけれども、その一端を御紹介しながら、日本の財政問題というのを考えていきたいと思っております。
 表がお配りしてございます。表一は、オランダの所得税の税率表であります。
 日本の所得税の税率につきましては、もう既に皆さん方御承知のように、一〇%から三七%まで四段階の税率区分になっておりますけれども、表一はオランダの所得税の税率表でございまして、ここにございますように、最低税率が三二・三五%。オランダでは、いわゆる住民税、日本の住民税に当たる地方の所得課税はございませんで、所得課税はすべて国税の所得税でやられているわけですね。最低税率が三二・三五%、最高税率が五二%で、四段階に分かれております。ここで一万五千三百三十一ユーロ以下の所得については三二・三五%というふうに書いてございますが、これは日本円で大体二百万円弱の所得について三二・三五%の税率を掛ける。
 ところで、この三二・三五%、その次が三七・八五%でありますが、この最初の二段階の税率で課税されて国に納められた税収のうち、一〇・五%が特別医療保険会計、つまり日本で言う介護保険の財源にこの最初の二段階の一〇・五%がそっくり充てられる、こういう構造になっております。さらに、この最初の二段階の所得課税の一七・九%がAOWという国民年金の財源に充てられる、こういう構造になっております。
 ここの注一に書いてございますように、現在、オランダは二〇〇一年度から税制改正が行われまして、それまではいわゆる所得控除、日本式の所得控除をやっていたのですが、税額控除という制度に変更いたしました。この日本の基礎控除に当たる税額控除が千六百四十七ユーロでございますが、これを今の為替レートで日本円に換算すると二十万円程度になります。これは税額控除でありまして、例えば、税率が三二・三五%でありますから、割り戻しますと、基礎控除に換算すると大体六十万円程度になるということであります。
 問題は、今の為替レートで所得六十万以下の人には、日本の介護保険料であるとか国民年金の保険料に当たるとか、そういうものがかからないという仕組みになっているわけですね。逆に言いますと、日本の場合、ほとんどの低所得者に介護保険料あるいは国民年金の保険料というのがかかっているわけですけれども、これは、日本で言う課税最低限以下の世帯にはこれをかけない。かけないけれども、この制度を受ける権利は与える、こういう仕組みになっているわけですね。したがって、現在の日本のように、膨大な国民年金のいわゆる未納であるとか、あるいは介護保険の保険料の重圧であるとか、そういうことから低所得者は解放されているということであります。
 さらに、いわゆる国民年金部分とそれから介護保険部分、さらにもう一つ、孤児手当という片親の子供に対する手当が一・二五%この財源から出るわけですが、それ以外がいわゆる日本で言う普通税収入、一般財源ということになるわけですね。そうしますと、最低税率が、実質的には最初の段階の税率が二・九五%、次の第二段階が八・四五%、さらに四二%、五二%というふうな税率になるわけでありまして、非常に累進度が高いということが言えるわけであります。
 翻って日本の税制はどうかというふうに考えておりますと、表二で、一九八六年当時の日本の所得税の税率を資料に出してみました。このときは、日本の所得税におきましては、最高税率が七〇%でありまして、これを六〇%に下げ、五〇%に下げ、三七%に下げ、どんどん高額所得者についての減税を景気対策として行ってきた、こういう経過がございます。
 私は、先ほど来指摘がございますように、所得減税と公共投資の増大という景気対策は失敗をしたのではないか、こういうふうに考えているわけですね。そうすると、国民一般の所得、特に低所得者を含めた中低所得者の所得をいかに高めていくかということを真剣に考えないと、日本経済というのは依然としてうまくいかないのではないか、こういうふうに考えております。
 そういう意味で、私は、所得税の最高税率を八六年当時に戻すということを考える必要があるんじゃないか。これは、アメリカがレーガン政権のときに三五%に引き下げて、これはちょっと下げ過ぎたということで、その後、クリントンのときに引き上げたという経過があるわけでございまして、一挙に八六年当時まで戻さなくても、それに近づけるということをまず試みるということが私は必要ではないか。
 翻って、ことしの平成十五年度予算の国民の負担増というのを一覧にしたのが表の三でございますけれども、これは、医療保険制度を変えるとか、あるいは介護保険料を引き上げるとか、あるいは年金給付額を引き下げるとかいう形で、合計いたしまして四兆四千億の国民負担増になっております。
 先ほど来も話に出ております、九七年のときの消費税率の引き上げと医療保険制度の改正によって九兆円の負担増、あれで消費不況が進んだわけですけれども、現在は、給与が引き下げられるというふうな傾向とあわせて、この十五年度予算における負担増がさらなる不況の原因になるんじゃないかということを大変心配しているわけであります。
 したがって、私は、所得税制の改革が重要であって、これはやはり最高税率を引き上げていくという方向で考える、それを財源にしていくべきじゃないかというのが私の意見であります。
 第二番目に、社会保障と公共事業について申し上げたいわけでございます。
 表の五に、各先進国の総固定資本形成対GDP比の国際比較というのがございまして、黒い部分が公的固定資本形成でございますから、いわゆる公共事業費に当たるものですね。これは、日本が五・一%、アメリカが一・九%、イギリスが一・三%、ドイツが一・八%、フランスが三%で、依然として日本の公共事業費、これは二〇〇〇年度の数字でありますけれども、非常に高いわけです。
 これが平成十五年度の予算でどういうふうに変わったかということを見てみたわけでございますが、私のレジュメ、公述要旨に書いてございますが、公共事業費の比率が三・数%減少しております。
 これは、一見、公共事業費を減少させようという御努力をやったかのように思われるわけですけれども、しかしながら、中身をよく分析していきますと、例の本四架橋の膨大な赤字が発生しております。道路特定財源を一般財源に変えるという措置が行われたわけですけれども、その道路特定財源を一般財源に変えた部分が公債費に変わって、本四架橋の借入金の返済に充てられるという形で予算に組まれておりまして、これが二千二百四十五億円ございます。さらに、先ほど来指摘されております、デフレによって公共事業の経費そのものが縮小しているというふうなことを考慮に入れますと、数字上は公共事業費が減らされているように見えるけれども、実質的には余り減っていないんじゃないか。
 ここにつきましては、今後とも、高速道路でありますとか新幹線でありますとか空港でありますとか、こういう大規模公共事業が本当に今緊急に必要なのかどうかということについての十分な見直しが必要であろう、こういうふうに考えるわけであります。
 これに関連いたしまして、私がオランダで調査いたしましたことを一つ御紹介しておきたいわけです。
 オランダは干拓によってできた国であります。この干拓事業を最近は中止しております。
 何で中止したのかということを調べて、ヒアリングをしてきたわけでありますが、これは、財政問題もあるけれども、一つは環境保全の問題がある。もう一つは、本当に干拓による土地が現在必要かどうか、ここを我々はよく考えなきゃいかぬ。現在、EUでの食糧需給といいますか食糧供給はもう飽和状態になっていて、これ以上農地をふやす必要はない。環境保全の上からも食糧供給の上からも、これ以上干拓の必要が認められないから、国会で論議をした結果、中止にしている。これは廃止とまではいかないけれども、もう非常に長い間中止をしている。こういうふうな回答がございまして、やはり本当に公共事業が必要かどうかという判断が大変大事かというふうに思うわけであります。
 三番目の問題は、最近の地方財政の状況でございます。
 これは、国の財政危機と連動いたしまして、特に、国税五税の一定割合を交付税の財源にするというふうにやっておりますけれども、国税五税そのものの税収が低下するというふうなこともございまして、いわゆる地方財政計画における歳出に交付税法で規定されている国税五税が決定的に足りない、不足する。従来は借入金をやってまいりましたけれども、それだけでは不足するということで、このところ、臨時財政対策債というふうな地方債を発行して、その償還を後年度の交付税に繰り入れる、こういうふうな措置をとっております。
 これが市町村では非常に大きな誤解を生みまして、交付税が減った減ったというふうなことが広がって、今後は交付税の見通しがないということで合併に走るというふうなことがございますが、私は、合併が一体地域に何をもたらすかということについて、一言申し上げておきたいわけです。
 皆さん方にお配りしております表の四ですね、これをごらんいただきたいと思います。これは、一九五〇年代のいわゆる昭和の大合併が地域に何をもたらしたのかということを調査して表にしたものでございます。
 新潟県で一番小さな自治体が粟島浦村と申しまして、二〇〇二年の人口は四百八人であります。一九五五年当時、粟島浦村の人口は八百二十九人でございました。そのすぐ近くに、これは山形県でございますが、飛島という島がございます。これは五〇年代の昭和の大合併で酒田市に合併いたしました。この五〇年代当時、この飛島の人口が千六百二十一人ございました。当時、粟島浦村の人口が八百二十九人ですから、二倍の人口があったわけですね。
 これが五〇年代に酒田市に合併されて、その後どういう運命をたどったかということでございますが、二〇〇二年の数字で比較いたしますと、粟島浦村の人口が四百八人、飛島の人口が三百四十一人。しかも、二十歳以下の人口を見ていきますと、飛島の二十歳以下の人口が三人、粟島浦村の人口が七十二人。保育園児は、飛島がゼロ、粟島浦村が八人。小学生は、飛島がゼロ、粟島浦村が二十二人。中学生が、飛島が一人、粟島浦村が十三人。役場職員が、粟島浦村が二十七人に対して飛島は四人。こういう状況でございまして、合併というのがいかに地域を崩壊させ、若者が住めなくなる地域にしてしまうかという、これが非常に明瞭に示されております。
 昨年の十一月、地方制度調査会の西尾私案というのが発表されまして、これが全国の町村に大変な衝撃を与えております。一定の、例えば人口一万以下の小規模自治体は、事務を取り上げて、府県に委託させるか、あるいは近辺の市に委託させるかというふうな形で、もう少しずばり申し上げますと、こういう小規模町村に対する交付税を交付しないということをねらっているのではないか、こういうふうに思われる節があるわけでございまして、これが現在大変な反響を呼んでおります。
 私は、この日本の小規模町村というのは、二十一世紀の日本を考えた場合に、食糧供給の面からも、あるいは環境保全の面からも、あるいは伝統文化の保存という点からも、非常に重要な役割を果たすわけでございまして、これを財政的な誘導によって合併に追い込まないということが非常に大事なことではないかというふうに考えておりますので、議員先生方もこの問題について御検討いただければ幸いだというふうに思っております。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
    ―――――――――――――
藤井委員長 これより公述人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。松野博一君。
松野(博)委員 自由民主党の松野博一でございます。
 公述人の先生方、本日は御苦労さまでございます。早速質問に入らせていただきます。
 伊藤先生にお伺いをさせていただきます。時間の制約がございますので、質問が総論的なものになりますけれども。
 先生は、現状の経済の認識に対して非常に厳しい見方を示されました。その中において、平成十五年度予算案でございますけれども、この予算案が、経済の主要な二つのプレーヤー、企業と家計から見て、どういった国の意図をそれぞれのプレーヤーが分析し、行動し、その結果がどういうふうに経済に影響してくるか、それに関しての御所見をお伺いさせていただきたいと思います。
伊藤公述人 平成十五年度予算案については、法人税の減税でありますとか、企業の活動を刺激するということは確かに含まれていると思います。
 ただ、一番重要なのは、消費に回る、それから投資に回るということですから、むしろ投資にピンポイントした、投資に対する税額控除であるとか、あるいは、住宅の税額控除という制度がありますけれども、これの拡充、あるいは適格要件を緩やかにするといったようなことも考えられたかなというふうに考えております。
 そういう面で、方向性としては確かに、企業、家計に働きかけて経済活動を活発にしようという意図は感じられますけれども、方法については、まだもう少し工夫の余地があったかな、議論いただきたかったなという感想を持っております。
松野(博)委員 今、経済に対する議論、景気回復に対する議論をいたしておりますと、とどのつまりは、財政規律に関してどういうふうにとらえるかというところに終始するわけでありますけれども、先生は、先ほどのお話の中で具体的に、対GDP比率が二〇〇%、時期的に言うと、もう数年、六、七年というお話でありましたけれども、例示をしていただきました。
 ただ、一方で、国債の保有の状態ですとかその他の要因を含めて、そう短期に財政規律、財政赤字の問題をとらえずに、長期的な中で、景気回復をさらに優先しながら施策を打っていった方がいいんじゃないという議論もございます。これは、もうそれぞれの方の視点によって違ってくるものだと思いますけれども、しかしながら、この方向性が確定をしませんと、なかなか建設的な議論ができません。
 そこで、今後、この財政規律の問題ということに関してどういった方法論で整理をされるべきなのか、そのことについての先生のお考えをお聞きしたいと思います。
伊藤公述人 財政規律だけを取り上げて議論できるような状況に現在はないというふうに考えておりまして、私が強調いたしましたように、政策パッケージというものをつくって、その中で財政の規律を、中期的には回復するんだけれども、短期的には財政を、少し刺激を考える。ただそれも、単に規模だけに焦点を絞るのではなくて、中身を考える必要がある。最大限、財政の刺激効果というのがあるような中身に歳出も歳入も考えていくということが重要だという点。
 もう一つは、やはり金融による景気刺激のサポートというものがぜひ必要ではないかということで、財政の面ではその中身の入れかえ、それから、短期的には減税だけれども中期的には増税、それから、財政だけではなく金融も最大限、非伝統的な政策も含めて対策を考えていくというパッケージが重要だと思います。
松野(博)委員 その政策的なものでございますけれども、非伝統的な財政政策という中で、先生は、乗数効果の低いプロジェクトから高いプロジェクトに移行していくべきだというお話が先ほどありました。これは、乗数効果の高いプロジェクトというのは具体的にどういった施策をお考えになっているのか。
 その中において、今非常に重要な問題として雇用政策の問題がございます。乗数効果の低いプロジェクトから高いプロジェクトに移行するに当たって、雇用の問題とはどういうふうに関連してお考えになっているのか、その点についてお考えをお聞きしたいと思います。
伊藤公述人 乗数効果の高いプロジェクトの例としましては、都市再生型の公共事業が一つ挙げられる。都市で、明らかに利用者の方がその供給を上回っているような箇所、道路の箇所でありますとか、それから下水道の整備のおくれているところでありますとか、そういうところの都市を再生することによって、より利用者がその町に来る、あるいは買い物が便利になるということは、高い消費刺激効果があるというふうに考えております。
 それから、もう一つはIT関連でありまして、これも、光ファイバーの敷設でありますとかケーブルテレビの容量を上げるといったようなことも考えられて、これによって経済活動が電子的なものに移っていく、これによって景気が刺激される、活動が活発になるということが考えられるので、そういう都市再生型のものが乗数効果が高いプロジェクトの例でございます。
松野(博)委員 以上で質問を終わらせていただきます。
藤井委員長 次に、石井啓一君。
石井(啓)委員 おはようございます。公明党の石井啓一でございます。
 本日は、公述人の先生方には、予算委員会の公聴会にお越しをいただきまして、大変ありがとうございます。心より御礼を申し上げたいと存じます。
 まず、伊藤先生にお伺いいたしますけれども、私は、先生の本日の公述に大変共感をするところでございまして、特に、日本の経済の現状について大変厳しい御認識をお持ちであり、デフレ克服の重要性を強調され、さらにその政策パッケージを打ち出されているというところは、私も同じ意見を持っております。
 私も、デフレ克服というのが今非常に日本経済の中で最重要事項の一つであるというふうに思っておるわけでございますけれども、一方で、このデフレ克服について、デフレというのは日本経済の実態が悪化している結果であって、経済の実態を改善することが先決だと。すなわち、産業の競争力を強化したり、あるいは新産業を生み出したりということをすればいいのであって、病気で例えれば、そちらの方が根本治療であって、デフレというのは熱のような症状だから熱をおさめるというのは対症療法にすぎない、こういう意見もございます。私は決してそういうふうには思っておりませんけれども。
 そういった点、極端に言えばデフレ下の経済成長もあるではないか、こういう主張もあるわけでございますが、この点について伊藤先生はどういうふうにお考えなのか、御所見を伺いたいと存じます。
伊藤公述人 私の資料及びプレゼンテーションで強調しましたように、デフレにはスパイラルという悪循環を引き起こす状況がありますので、デフレそのものが、私は、一つ大きな問題になっている。したがって、新産業でありますとか産業競争力の回復というのは大事なことですけれども、これもデフレの克服がなければ非常に難しいのではないかというふうに考えております。
 そういう意味で、デフレを克服するための政策パッケージというのは、必要条件であって、それなくして産業競争力、新産業もないというふうに私は考えております。
石井(啓)委員 私も同様でございまして、熱がひどいときに熱をおさめないとやはり病気も治らないわけでありますから、やはりデフレの克服というのは非常に重要であるというふうに思っております。
 ところで、先生のこの政策パッケージの中で、非伝統的な金融政策といたしまして幾つか例示がございますけれども、この中で、例えば、ETFの購入、REITの購入、これについては、現在マーケットの規模が小さいため、購入してもそんなに実際にマネーが出ていかないんじゃないか、効果は少ないんじゃないか、こういう批判がございますけれども、この点についてはいかがでございましょうか。
伊藤公述人 ETFといいますのは、株式の全体をあらわす指標と連動している投資信託でございますので、これは、つくろうということになれば簡単につくることができる商品であるというふうに認識しております。したがいまして、日銀が購入するということになれば、証券会社は一生懸命こういうものをつくるでしょうし、もしできないのであれば、日銀が幅広くTOPIX連動のようなパッケージのものをマーケットで買うということができると。したがって、ETFに関しては、日銀自身もできるでしょうし、日銀が購入すると言えば証券会社が提供するというふうに認識しております。
 REITの方は、確かに、不動産で、証券化できるようなものが限られているかもしれないという御批判はそのとおりですけれども、これも、やはりそういうものを購入するという意識がはっきりすれば、そういうものをつくるというところが、商品が提供されるということが必ずや起きるというふうに思っております。
石井(啓)委員 需要が供給をつくる、こういうことだと思います。
 もう一つ、この非伝統的な金融政策の中で、通貨の信認に傷がつくと資本逃避が起きるのではないか、あるいは、最終的に国債の暴落につながるのではないか、こういう批判もございますけれども、この点についてはいかがお考えでございましょうか。
伊藤公述人 通貨の信認に関しては、経済が健全であるということが第一でありまして、デフレがいつまでも続く、あるいは財政赤字が非常に巨額になってくるということになれば、いずれ通貨の信認に傷がつく。したがって、何もしなくてもいわゆる通貨の信認に傷がつくという状況が発生し得るというふうに私は考えております。
 したがって、それよりは、積極的な政策によってデフレを克服し、経済成長を潜在成長のところまで持っていくという政策をとるということがあれば、一時的に非伝統的な政策の期間があったとしても、最終的にむしろよい状態になるのではないかというふうに私は考えております。
 国債の暴落についても、経済の状態がよくなるという政策をとることによって、たとえ名目金利が上がるような状況が将来生じたとしても、それまでに経済がよくなっていれば、これは暴落ということには当たらないというふうに考えております。
石井(啓)委員 次に、正村先生にお伺いいたしたいと思います。
 きょうの先生のお話も大変啓発に富むお話でございまして、特に財政のあり方について、これは経済と財政の両方を考えていくべきだ、経済の中の大きなサブシステムだ、こういう指摘はもっともであるというふうに存じますし、また、新しい時代に合った前向きの財政を考えるべきだ、こういう指摘も私も共感をするところでございます。特に、二十一世紀の日本の社会のあり方として、環境、教育、福祉を重視すべきであるという御主張でございますが、これは私ども公明党も志向している方向でございまして、大変共感をさせていただきました。
 ところで、十五年度の政府予算は、重点四分野ということで、一つは、教育、文化、IT、二つ目に少子高齢化、三つ目に、都市の再生、地方の町づくり、四つ目に環境対策ということで、この重点四分野につきましては全体的に緊縮的な予算の中で予算を伸ばしておりまして、それなりのメッセージは発しているかなというふうに私は思うのでございますけれども、この点について、正村先生、御評価はいかがでございましょうか。
正村公述人 メッセージというのは、ちゃんと伝わらなければメッセージにならないわけですね。
 二つのことを申し上げたいのですけれども、一つは、行き当たりばったりはだめだということです。
 日本は、単年度予算、これは理由があるんですけれども、そういうことであるために、単年度ごとに、これをやりました、あれを盛りましたという格好になりがちなんです。硬直的な計画をつくってそれにこだわって状況に合わなくなるのは困りますけれども、先ほどの、十年かけて二十五人学級をつくったらどうですかというようなことを申し上げましたけれども、中期、長期の展望の中で何を考えているかということが伝わらないとまずいと思うんですね。
 もう一つは、こういうところに重点を置きましたというのであれば、それが見えてくる程度には予算をつけないと。例えば環境関係でも、いただいた資料を見ましても、ふえている部分もありますけれども、合計のところを見ると、ちょっぴりですけれどもマイナスになっていたり、これは、本当にやる気があるのということになりますよ。
 地球環境問題での国際会議での日本のスタンスもよく見えないですね。ヨーロッパとアメリカ、すっかり腰が引けちゃっているアメリカと、もう少し真剣に新しい文明をつくろうという取り組みに進んでいるように見えるヨーロッパの間で、ちょっと悪い言葉を使えば、右往左往しているような印象がある。日本のメッセージがない、それが問題だと思うんです。
 私は、そういう基本的な、腰の据わった取り組みをしているよということをやはり国民にも伝え、格好をつけるということでは困りますけれども、やはりそれなりの実のある施策を組んでいただかないと困る。
 教育、文化、科学技術、重点だとおっしゃるけれども、科学技術振興費というのは確かに力を入れておられるように見えるけれども、では、教育はどうなんですか。残念ながら、私には伝わりませんね、そういう点では。
 私は、率直に言いまして、十二月に政府予算案についてのコメントをある新聞社の方に求められたときに、最初に言ったのは、こういう中途半端が国を滅ぼすと。残念ながら、その言葉は活字になりませんでしたけれども、私はそれが印象なんです。その印象は今も変わりません。一般歳出が久しぶりに、何年ぶりか知りませんが、久しぶりにちょっとふえた。ふえたといったって〇・一%じゃないですか。それはだめですね。
 そういう点では、これをやりましたという、書いてあるだけの話で、国民には伝わっていないと思います。御一考いただきたいと思いますけれども。
石井(啓)委員 もっと頑張りなさいという御激励だと受けとめさせていただきました。
 ありがとうございました。
藤井委員長 次に、井上喜一君。
井上(喜)委員 保守新党の井上喜一でございます。
 まず、伊藤公述人からお伺いしたいのでありますけれども、今の日本の経済の深刻な現状ですね、こういう現状から、デフレの克服というのが最大の課題だ、こういう御意見でありまして、そのためには政策をパッケージにしてやっていかないといけない、これはそのとおりだと思うのでありますが、その中で、私は二点お伺いしたいのです。
 円安誘導策について触れておられましたが、御発言は、適切な方策により円安が誘導できるというような御趣旨だったと思うのでありますが、適切な政策とはどういう政策なのか。結果において円安になればいいんだけれども、しかし何かあれば、その政策とはどういうものなのか、お伺いしたいと思うんです。
伊藤公述人 私が適切な政策と申し上げたのは、前段でお話ししました政策パッケージの中身でありまして、特に、非伝統的な金融政策によって貨幣供給量をふやす、これまで使っていなかったチャンネルに働きかけるということを行えば、これは円安効果があるというふうに考えております。
 したがって、政策パッケージの中で、金融緩和のところは必ず円安に働きかけていくというふうに考えております。
井上(喜)委員 そうしますと、インフレターゲットにつきましてもお触れになっておりましたけれども、これにつきましても同じように、要するに、パッケージであればおのずからそういう結果が生まれる、こういう御趣旨でございますか。
伊藤公述人 はい、そのとおりです。インフレターゲットによって、将来、デフレが克服されて、インフレ率がマイルドですけれどもポジティブになるということがマーケットに伝われば、これは円安方向にマーケットは動くというふうに私は考えております。
井上(喜)委員 次に、正村公述人にお伺いしたいのであります。
 環境とか教育とか、それからあと福祉ですね、こういったことに重点を置いていく、この御趣旨は全く賛成でありますけれども、公述人が最初におっしゃいました、経済と財政の問題を言われましたけれども、こういう三分野を重点化することによって、それは大事なのでありますけれども、果たして経済の再生がこれでできるのかどうか。もっと別途何か必要なのではないかと思うのでありますが、この点いかがですか。
正村公述人 二つのことを申し上げたいと思うんですけれども、一つは、この数年来、経営者の代表の方と労働界の代表の方との間で雇用の創出ということをしきりに言っておられますね。その雇用の創出、つまり、失業が現実に出てしまっているわけですけれども、失業をこれ以上ふやさないようにする努力の方が私は非常に重要だと思うけれども、しかし、雇用機会、就業機会をふやすということは確かに重要なんです。
 そして、百万人雇用創出計画とかいろいろな文書がつくられておりますけれども、その中を見ましても、どういう分野で雇用をふやすか。それは、社会が本当にこれから必要としている分野の事業を拡張するということのために就業機会をふやすということでないと、迫力を持つことができません。それは、具体的に見ますと、やはり教育とか福祉とかを織り込んで議論しておられるわけです。当然なんですね。
 しかし、教育で、ではどうやって雇用をふやすんですか。今の体制でもって教員の数を、現状維持でいったら、少子化が進むわけですから、要らないことになってしまいますね。私は、教員の数をふやすことは、就業機会をふやすためにふやすのではなくて、先ほど申し上げましたように、社会の機能が低下している状況の中で、子育て機能が全体として衰弱していることを補う意味で、働き方や生き方全体を見直さないといけませんけれども、そういう状況の中で、二十五人学級を十年間かけてやりますよということはどうですかと。
 百万人雇用創出ということをおっしゃっても、雇用というのはすぐに、数をふやせば、数が合えばいいわけじゃないんですね。やはり、責任持って仕事のできる人材をちゃんと育成して配置していかなきゃいけないのであって、一年二年でできることじゃありません。十年かけてやりますよということで、この分野には日本はまだ欠けているんだから働いてもらう機会がありますよ、それをバックアップする用意が政府にはありますよというメッセージをお送りいただくということが重要なことだと思います。そしてそれは着実に効果をあらわしてくると思います。
 二十五人学級をやれば、恐らく二十万人とか、ちょっと私細かく計算しておりませんけれども、百万人の教員の一〇%、二〇%ふやすということは十分に可能になると思います。中学や高校でも、もっと多様な人材を教師として採用して、いろいろな内容の教育をやりましょうということで国民を挙げて取り組めば、それが新しい就業機会になります。それを財政でバックアップするということが私は非常に重要だと思います。
 もう一つ重要なことは、経済は人間のやることだということをしばしば忘れるんですね。人間が将来についての、つまり、日本人が将来についての確信を失ってしまっている状態では、投資も消費も起こってこない。そういう状態を脱却するためには、将来について、こういう点に重点を置いて新しい文明をつくろうじゃないですかということをはっきりお示しいただいて、それを予算の上でも裏づけようと努力をしていますよという、この姿勢が重要なんだというふうに私は考えているということを申し上げたいと思います。
井上(喜)委員 ありがとうございました。
 続きまして、長谷川公述人にお伺いしたいのでございますけれども、お話を聞いておりますと、農業を含めて経済社会には原理原則のようなものがあり、それは全世界的に通用するようなものじゃなくてはいけないので、そういう尺度に照らしてすべてを競争さすというんですか、自由化をさせていく、グローバルなものにしていく、こういうようなお考えだったと思うのであります。
 特にそこで農業について触れられていたのでありますが、農業の場合は、御承知のとおり、人も、労働力ですね、これも移動が自由じゃないし、資本の土地、これも移動しないんですね。そんなことで各国各様の農業がありまして、調整もWTOの交渉の中では一番難しい分野になっているわけです。
 そういうことで、仮に公述人がおっしゃるようなことになりますと、私は日本の農業なんか果たしてこれはどうなるのかという、やはり農業も非常に大事な分野でありますから、そういう配慮は必要だと思うし、アメリカなんかも、あれは何でもかんでも自由に競争しているように言っているけれども、例えば、価格支持のために、私は正確な数字はわかりません、二兆円ぐらいのそういった金を出しているわけで、もうはるかに日本なんかよりも手厚い政策をやっているわけですね。
 だから、経済政策の、特に各国間の調整というのは、それは余りしゃくし定規なものではいかぬのではないか、特に農業の場合はそうじゃないかという感じがするのですが、いかがでございますか。
長谷川公述人 先ほど、グローバルな取り組みというのが、WTOの方で自由化が推し進められてきた反面で、FTAなどリージョナルな経済統合が非常に激しい勢いでこのアジア地域においても進みつつあるというお話をさせていただきました。
 実は、その問題と農業問題とは密接にかかわっているということは恐らく推測されるのではないかと思いますが、アジアから大量の農業産品が入ってきて、先ほど申し上げましたように、セーフガードの問題が我が国で一昨年起こってしまいました。今中国がASEANで展開しているような、市場の障壁を外して、お互いに開放した、統合された市場を一気に進める、そういった状況を私たちは蚊帳の外で見ているということを、非常に日本経済の先行き、表に外されてしまうようなおそれを抱くわけであります。
 もし、韓国なりあるいは中国なりと、ある部分において私たちが協調し、そしてその市場を統合することができるとするならば、私たちの経済にとって、これまで閉塞状況に置かれている不況の中の経済を、一気に拡大された市場の中で資源を活用する機会が得られるのではないかということが一つ。
 ただし、今、井上先生御指摘のように、農業には非常に複雑な問題、要素がかかわっている。特に、我が国では以前から、農業は多面的な機能が存在するのであるという観点から、多くの主張を国際的な交渉の場において展開してまいりました。
 この問題は、私ども経済学者の立場からいたしますと、原則論を離れて最初から政治的な視点で議論をされてしまうということに、非常に不満を持っております。この際、私どもエコノミストは、原則論はこういうものであるということを改めて主張するということをするべきではないかというのが私の考えです。
 そして、その際に、果たして今後の将来において農業というのが産業構造の中にどう位置づけられるべきなのかという社会的な合意を求めていくというのは、それは政治的な問題として、皆様方の仕事なのではないか。
 私の立場からは、エコノミストとして、資源配分を効率的に行う、そして、国際協調をしていかなければいけない日本経済にとってどういうことが経済学的に好ましいのかということを主張させていただきました。
井上(喜)委員 どうもありがとうございました。終わります。
藤井委員長 次に、長妻昭君。
長妻委員 民主党の長妻昭でございます。
 本日は御足労をいただきまして、まことにありがとうございます。質問をさせていただきます。
 まず、正村先生にお尋ねをいたしたいのでございますが、先ほどのお話でも、公共事業の大盤振る舞いだけではいけないんだ、財政の中身なんだと、その中では、環境とか教育、福祉、そういう重点を挙げられました。
 その観点から、今この委員会では平成十五年度の政府の予算案を審議しているわけでありますけれども、先生からごらんになられて、この政府案、予算案はどういうように御評価をされておられるのか、その中身と、もしできましたら、百点満点で点数をつけるとしたらどのくらいの点数になるのか、その両方をお教え願えればありがたいと思います。
正村公述人 昨年三月、大学を三十四年間勤めて定年退職したのでありまして、点数をつけるというのはうんざりをしているのですけれども、もしつけろと、何でもいいから数を言えといったら、五十点ですね。その五十点というのは、私の大学では合格すれすれということであります。不可ではないというところですね。お情けの、単位を上げるという点であります。
 これはジョークとしてお受けとめいただきたいのですが、先ほどもちょっと申し上げましたように、内容の面でも規模の面でも私は中途半端だと思うのです。
 政策、つまり、冒頭申し上げましたような意味での財政の位置づけについて、政府は考えを改めたよ、財政の再建はどうしてもやらなきゃいけない、非常に危機的な状態にある、しかし、国家は、破産宣告をしてもう何もやりませんというわけにはいかないのだ、会社更生法方式でやるしかない、過去につくってしまった巨額の赤字、当面何かやらなきゃならないとすれば、ふえていく赤字は時間をかけてきちんと処理をするということを考えましょうと。
 もし、経済をだめにしてしまって、教育もだめにしてしまって、経済を破壊し、社会を破壊してしまって、子供の数をどんどん減らしてしまって、そしてそのことを放置して財政赤字を減らしますということを優先課題にするというのは、愚者のやることですよね。聡明な人間のやることではありません。ここまで追い詰められてしまった、なぜ追い詰められたということを真剣に考えなければいけないけれども、だけれども、今はやるべきことをちゃんとやるということで、もう少しめり張りのきいた予算編成をし、そして規模ももう少しふやすということをおやりにならないといけないと思うのです。
 一つ、非常に気になりますのは、負担の問題です。あるいは社会保障全体についても言えることですけれども、社会保障、社会福祉が日本の場合、既にがたがたになっているのに、総合戦略がちゃんと議論をされていて、真剣に首相が先頭に立って大いに議論をして、社会保障、社会福祉の長期的な立て直しを図るということを努力しておられるという、まさにメッセージが伝わってきませんね。
 社会保障については、私はこれこそ総合戦略が要ると思うのです、二つの意味で。
 一つは、分野別にばらばらに扱わないということです。
 例えば、介護あるいは障害者福祉に重点を置いて一生懸命やる、十分にやる。さっき申し上げた相談業務とかそういうことを含めて、安心の給付なんです、社会保障というのは。お金の給付が目的じゃないんです。安心を給付するという観点から見て抜本的に変えていくということをおやりになれば、不当に医療に依存し過ぎている状態から脱却できますよね。医療費の節約ができます。スウェーデンでやっていますけれども、福祉を充実することで医療費を節減しているんです。こういう戦略が要るのです。
 それから、医療とか、介護とかそういうことを含めて福祉について、政府が中央、地方、一丸となってしっかりした政策をとっていれば、年金水準は下がっても大丈夫なんですよ。不安があるからみんな貯蓄をする、不安があるから年金をもうちょっとということになっていますよね。
 こういう分野別の総合戦略をぜひ御検討いただきたいわけです。今まで、私は寡聞にして知らないのかもしれませんけれども、政府を挙げて、あるいは議会を挙げて、社会保障、社会福祉の総合戦略を考えようという熱気のある議論をしているということが伝わってきませんね。やっていたんなら教えていただきたいのです。私は知りません、聞いていません。これではだめなんです。
 もう一つは、負担と給付を総合して考えるということが重要であります。
 給付をしっかりする、公平なやり方で、本当に必要としている人にはちゃんと給付をしますよという体制をつくるならば、負担に応じてもいいですよという空気が国民の間にあるんですよ。そういうことをきちっとセットにして考えないとまずいと思うのです。それをやらないから、ずるずるずるなんですよね。そして小出しに負担をふやすということをおやりになっている。これは不安を募らせるだけであって、制度に対する信頼は揺らいできます。これはまずいわけです。
 そして、今日本でどういうことになっているかというと、小さな政府論をイデオロギー的におっしゃる方もいるのが、私は非常に害悪を流していると思いますけれども、余り、税や社会保険料をふやすということに対して消極的な、あるいは非常に控え目な態度、ちょっといい言葉で言えば控え目な態度を政府がおとりになってきたために、負担と受益の関係がマッチしなくなっている。相対的に負担は小さいわけですよ。そして、可処分所得をたくさん残しているわけです。
 その残した所得に対して、国民の皆さんよ、もっとリスクテーキングな投資行動をしてくださいよ、株をもっと買ってくださいよ、投資信託を買ってくださいよ、外貨建ての預金をもっとしたらどうですかというお勧めをしていますね。これは、国民の生活をますますアメリカ型のカジノ資本主義、ギャンブル資本主義にゆだねるということになるわけですよ。
 それよりは、子供が健全に育つ社会をつくって、将来みんなで支え合う社会をちゃんとつくっていきましょうというビジョンをお出しになって、その中で、租税、社会保険料の負担はこうなりますよという形をきちんと、きれいな形でなくてもいいんですけれども、方向をお示しいただくということが重要だと思います。
 私は、言葉は悪いですけれども、イデオロギー的に近いぐらいに、しかしイデオロギーではないんです、理性的に考えてなんですが、高負担なくして高福祉なしだと考えています。しかし、高負担あれば必ず高福祉ではありません、むだ遣いしてはいけませんから。こういう負担と受益の関係をセットにした統合的な社会保障、社会福祉の戦略をお考えいただかないと、ことし、あるいはここ数年おやりになっているように、なし崩しに負担増の問題をちらちらお出しになるというのは最もまずいやり方だ、政治的にも経済的にも社会政策的にも最もまずいやり方だと私は思います。
 負担はふえなければならないということは、国民に覚悟していただきたいと思うんです。しかし、今はその場ではありません。まず経済の安定成長を優先しなきゃどうしようもないわけですから、小出しに負担をして、消費を冷え込ませるようなことをやるのは愚策であります。
 もう一つは、歳出の構造なり給付の構造なりについての合理的で公平な体系というものが示されていない状況のもとで負担増を求めるというのは、筋が通りませんね、これはセットに扱わないことですから。
 ですから、私は、二重三重の意味で、セットにして総合的な戦略をお考えいただきたい。そういうものがなければ、五十点でも点はちょっと甘い、四十五点でもう一度勉強し直しなさいと突っ返したいところなんですけれども、控え目に申し上げました。
長妻委員 ありがとうございます。
 今、社会保障の総合戦略という話がありましたけれども、先進国における社会保障給付費の対GDPの比率については、日本が一三・一%、アメリカが一四・五%、イギリスが二〇・八%、ドイツが二八・二%、フランスが二七・六%ということで、ドイツ、フランスに比べると二分の一ぐらいだと。
 先ほど中西先生も言っておられましたけれども、その一方で、公的固定資本形成、いわゆる公共工事の比率というのが、これはGDPに占める割合ですね、日本が六%、アメリカが一・九%、イギリス一・二%、ドイツ一・八%、フランス二・九%ということで、日本の公共工事は先進国に比べて二倍から三倍もGDP比が高いという、ちょっといびつな予算になっているというふうに思います。
 先ほど伊藤先生が、乗数効果の低いプロジェクトから高いプロジェクトへというお話がありました。私も同感でございまして、都市再生型公共事業あるいはITという例を挙げられましたけれども、その観点から見て、先生にもお尋ねしますけれども、この平成十五年度の予算案の評価と、また、できればその点数を、どのぐらいなのかというのもお教え願えればと思います。
    〔委員長退席、萩山委員長代理着席〕
伊藤公述人 私も、先端科学技術研究センターというところに所属しておりまして、研究を中心にしておりまして、大学院の生徒は持っているんですけれども、大きな教室の授業は行っておりませんので、点数をつけるということになれておりませんので、そこは勘弁いただきたいんですけれども、質的な面として、都市再生型あるいはITといったことの方向性は感じられると私は思っております。
 方向性は感じられる中で、もう少し量的にやることがあったのではないかというふうに考えると、あったかもしれないという点で、量的な面では、大転換をするということは将来の経済にとっていいことではなかったかと思いますけれども、質的な方向としては間違っていないというふうに私は思います。
 ただ、先ほど強調しましたように、私は、政策はパッケージ、財政だけを取り上げて云々というのは少し苦しいかなということで、財政、金融それから金融システムの改革というのをセットで行うということが、今のこのデフレという非常に困難な状況から抜け出すためにはぜひ必要だというふうに考えております。
長妻委員 ありがとうございます。
 我々民主党も、平成十五年度の予算案の対案というのを出しておりまして、これは、約八・八兆円をまず削減していく。これは、公共事業の削減、あるいは、補助金というのをやめてこれを地方に一括交付金にしていく等々で八・八兆円を浮かせて、そのお金を人を雇用するのを中心に使っていこうということで百万人雇用、こういうような予算案を出しまして、グループホームとか、学童に希望される方は全員入所していただくとか、あるいは三十人学級とか等々で人件費の比率の高いところに公共投資を振り向けていこう、こういうような発想で対案を出しております。
 そして、伊藤先生が今も言われましたけれども、パッケージということは本当に私も重要だと思っておりまして、その中で一つ懸案なのが、不良債権の処理ということだと思うんです。
 これは、私も先生と同様に、繰り延べ税効果を自己資本に算入するというのはおかしいと思っておりまして、私は、竹中大臣が就任直後、その問題を指摘して、一時、期待をしたのでありますけれども、そのときに竹中大臣がこの繰り延べ税効果を認めずに算入をさせなければ、ある部分のメガバンクはBIS基準が八%を割れていくという銀行が出て、そこで公的資金の注入をして準国有化をして、きちんと不良債権処理をすべきだと。
 私は、そのときに迅速な処理をすればよかったものの、タイミングを逸してしまったというような意識を持っているのでございますけれども、その私の今申し上げた点については、伊藤先生はどうお感じでございますか。
伊藤公述人 不良債権処理の方法についてのお尋ねかと思いますけれども、私も、不良債権処理の加速が必要だというときには、もう少し政府が積極的な対策をとることは可能であったというふうに考えております。今からでも遅くはないと思います。
 自己資本算入の点については、昨年十月にいろいろ議論があった点で、必ずしも当初の伝えられていたような案にはならなかったようですけれども、早く見直すということで見直しも俎上に上がっていることと思いますが、これもやはり方向としては決して間違った方向ではないし、スピードを速くしていくということが重要ではないか。
 一番重要なのは、やはり、銀行自身が行うか、あるいは、それができなくて最終的には政府が行うことになるかわかりませんけれども、不良債権を切り離す、悪いものとよいものを確実に分けて、いいところを生かしていくということをやらなくてはいけない。今いろいろな方法が取りざたされて、産業再生機構とかいろいろありますけれども、とにかく、銀行自身がやるか、あるいはそれができなくて政府の役割になってしまうかは別として、それをやらない限りは、やはり不良債権問題というのは最終的に終わらないというふうに思っております。
長妻委員 私は、銀行の貸し渋り、貸しはがしというのが今激しいということで、ある意味では、国有化を一刻も早く、特にメガバンクの国有化すべきものはしていく必要がある、一時国有化ということが必要だと思っておりまして、その策といたしましては、例えば、優先株を普通株に政府が転換して議決権を持つというのも一つでしょうし、強制注入という枠組みをつくるのも一つでしょうし、BIS基準割れ、この繰り延べ税効果を認めないということで、八パー割れということで注入するのも一つだと思うんですが、先生は、国有化すべきという議論はどう思われますか。
伊藤公述人 これは、銀行の自己資本がある一定水準を切った場合には、政府が金融システム安定化のために一時国有化をするということは適切な政策であるというふうに思っております。
長妻委員 そして、この金融政策にもかかわるんですけれども、御意見を伊藤先生と正村先生にもお伺いしたいと思うんでございますが、日銀総裁に福井さんという方が内定といいますか、国会の承認の人事でありますので国会に福井さんという案が出てくると思うんでございますけれども、福井さんという方は、いわゆる世間では、インフレターゲット策は消極的、そして不良債権処理は積極的、ある意味では公的資金の注入というのも基本的には積極的と言われている方でありますけれども、この福井さんという方が日銀総裁という案が出ておりますけれども、それに関しては、伊藤先生と正村先生、どういう感想をお持ちか。もしその感想があれば、伊藤先生からお聞かせを願えればと思います。
伊藤公述人 福井さんに内定という報道で、そういう方向で話が進んでいるということは承知しておりますが、福井さん自身が総裁としてどのような政策を打ち出すかということについては、新聞報道等でまだこれからと御本人もおっしゃっているようですし、明確にインフレターゲットに反対ということもおっしゃっていないようですので、実際に総裁としてどういう政策をおやりになるかということを伺ってからでないと、論評は差し控えたいと思います。
正村公述人 私も、その福井さんを存じ上げているわけでも何でもありませんし、この人事そのものについてコメントする立場にはないと思いますので控えさせていただきますけれども、金融政策についての考え方の一端を述べさせていただいて、お答えにかえさせていただくのが妥当かと思います。
 時間がありませんから結論的なことをかいつまんでしか申し上げませんけれども、私の今の意見は、冒頭の陳述で申し上げましたように、財政が引くかわりに金融が何とかしてくれよ、こういう政府の無責任な態度を改めることが先決だと思います。日銀にあらゆるものを押しつけるみたいな格好、デフレ対策を日銀だというのは間違いであります。
 デフレスパイラルが起こっている状況の中で景気の底割れを防ぐ最も有力な政策手段は、財政であります。ゼロ金利政策は景気回復のための政策ではないと私は理解しております。役に立ちません。金利がゼロであっても、金を借りて投資をするということはやらないわけですよ、将来の見通しがなければ。借金は返さなきゃならないわけですから、返せないことになったら困りますからね。こういうときにビルを建てたり工場を建てたりするはずがないわけですから。そういうものなんです、金融というのは。ですから、こういう危機的な、いや、危機の深刻化している状況の中で金融に期待をするというのは、幻想であるというふうに私は思っています。
 ですから、それに関連して申し上げますならば、インフレターゲットという議論が数年前から専門家の間でいろいろ言われていますけれども、私は無意味な議論だというふうに考えております。これは、伊藤さんと後で食事のときに激論になっちゃうかもしれないのでちょっと言いたくなかったんですけれども、私は反対というよりも、無意味ですね、そんなことは。インフレが進んでいるときに、抑えるために何%まで下げようというのは、金融はききますよね。もしそれを言うならば、資産インフレを抑えるために八〇年代にターゲットを早く示して発動すべきだったと思います。
 ゼロ金利というのは金融の機能を崩壊させているわけです。超低金利のもとでは銀行はリスクがとれませんから、貸し出しに慎重にならざるを得ないわけですよ。貸出先のどれだけかが不良債権になったらパアですからね。利ざやが低いわけですから。金融の機能を破壊しているんです。
 では、ゼロ金利は何のためかというと、債務を抱えている企業の倒産を延ばすということをやっておられるんだと思います。そういう性質のものであって、金融に過大な期待を寄せて、インフレターゲットを掲げれば何とかなるというのは、私は多分非現実的だろうというふうにずっと考えておりましたし、ずっと頭の中で考えたのじゃありません。いろいろな専門家の言っていることを読んで、どれが説得的かということを自分なりに考えて、これは私は支持しないという立場であります。
 不良債権処理についても、最近の時点では、多分銀行が抱えている不良債権の半分ぐらいは、バブルの後遺症ではなくて、デフレが長期化し深刻化したために、そんなに不健全でなかった経営が行き詰まっているということから生じている部分があると思いますね。
 ですから、私のこれも結論だけを申し上げれば、不良債権処理は急ぐべきではない。金融の自由化ということを言うから間違いなので、自由化じゃないんです。金融に対する政府のコントロールのやり方を変えるという規制改革なんです。預金者は銀行の経営はよくわからないわけですから、預金者にかわって金融機関を厳しく監視し監査するという責任は、以前にも増して、いわゆる自由化後の金融においては必要になるわけですよ。
 ですから、銀行の経営に対して監視、監査を強めていただいて、この銀行はどうしてもこれでは成り立っていないよ、この中身はこうなっているよということを公開して一時国有化という措置をおとりになることは、私は否定しません。でも、全体の不良債権を一、二カ月あるいは半年の間に全部きれいにしちゃおうなどということをやったら、倒産がふえますから、デフレがまた深刻化して、不良債権が、際限もなくと言うと大げさですけれども、ふえますよね。少なくとも、その危険が非常に大きいということを見なきゃいけないと私は思っていますから、優先課題ではないと。不良債権の一括迅速処理というのは優先課題ではないどころか、リスクが大き過ぎる政策であると。デフレ克服をどうするかということをもっとリアルに議論していただくことの方が重要だというのが私の意見だということを申し上げておきたいと思います。
    〔萩山委員長代理退席、委員長着席〕
長妻委員 そして、私の質問としては最後になります。
 四人の先生方に一言ずつお答えをいただきたいと思うんでございますが、私は、日本のこの経済の問題も含め、大きな変革の一つが、やはり高齢化、どの先進国にも見られないような非常に加速度的な高齢化が、今後大きな日本経済に対する要因になってくると思いまして、調べてみますと、二〇〇〇年には日本人全体の平均年齢というのが、四十一・四歳。二〇〇〇年ですね。今は二〇〇三年ですから、今、二〇〇三年は四十二・五歳が平均年齢です。日本人の平均年齢が五十歳ちょうどになるのが、これは厚生労働省の資料ですけれども、二〇三六年には日本人全員の平均年齢が五十歳になる。これほど平均年齢がこの時点で高くなる先進国というのは日本だけというふうに聞いておりますけれども、その意味で、働き手が少なくなる等々のいろいろな大きな変革が出てくるわけでございます。
 これに対していろいろな対応等があると思うんでございますが、先生方が考えられる、一点だけで結構ですので、高齢化に向けてこのポイントが重要なんだというのを、今まではちょっと伊藤先生、正村先生から行っておりましたので、中西先生、長谷川先生、正村先生、伊藤先生の順番で、このポイントを忘れるなという点を一言お教え願いまして、私の質問を終わりたいと思います。
中西公述人 確かに、これまでの統計から分析する限り、高齢化のスピードが非常に速いということは確かであります。しかし、今後、つまり将来予測は、あくまで過去の傾向が将来もこのまま進むということを前提にした予測になっておりまして、つまり、政策的にこれを変更することが可能であるというふうに私は考えております。
 そういう意味では、少子化に対して、例えば女性の社会進出というのは非常に進んできておりますし、そういう点で、もっと子供を育てやすくしていく環境を整備していくと。
 これは、いわゆる文言では厚生労働省もそういう少子化対策というのを出しておりますけれども、実質的には非常にこそくな少子化対策になっているんじゃないか。やはり、安心して子供が産めて安心して子育てができる、こういうふうな環境をつくり出すことによって私はこの少子化というのをある程度是正することが可能であると。そういう環境を整える、そういう点では児童福祉政策の充実ということが私は非常に重要ではないかと。これはヨーロッパに比べて非常におくれております。そこを克服するということが大事な課題だというふうに考えております。
長谷川公述人 先ほど私が長々と説明した中の一つに、高齢化時代において老人医療そして介護サービスに対しては、従来の高コスト構造を打破するためにも、海外の専門労働を我が国に導入する選択を考えるべきではないか、それが現在の課題の一つになってきているという認識を持っております。
正村公述人 私は、現代は一つの原理で割り切れないということをしっかり考えないといけない時代だと思っていますので、たった一つだけ答えろという質問には大変答えにくいんですね。一つのイデオロギーで何かが割り切れるというのは二十世紀型の発想であって、違うんですよ。というのは、これも半分ジョークなんですけれども、お答えするとすれば、次のようなことになります。
 二つの対立する価値あるいは目標をどういう形で組み合わせるかということを、私たちの体制選択の中で考え抜いていかないといけないと。その一つは、安心と安定ということを保障する。ミニマムを保障し安心を給付する。あるいは、治安の維持を含めて、あるいは対外的な脅威の問題も含めて、本当に真剣に安心と安定ということを考えるということが重要です。国民生活の安心、安定のための制度を拡充する、継ぎはぎじゃなくて、思い切って拡充するということを考えないといけない。
 もう一つは、対立すると申し上げたんですけれども、挑戦するという精神ですよ。何かに挑戦する。これは、若者もそうですし高齢者もそうです。挑戦するということがなくちゃいけない。安心、安定が安住につながるのではなくて、挑戦を可能にするような安心、安定の基盤づくりをするということを真剣に考えないといけない。
 このことは若者にも言えますよね。子供たちに対して、やはり信頼感、社会に対する信頼、安心、家族に対する信頼、安心ということを大事にするということと、自分の能力いっぱいに頑張って挑戦するということができる社会をつくらなきゃいけません。高齢者も同じなんです、それぞれ違いますけれどもね。
 そういう中で、私は、一つやはり真剣に考えなきゃいけないのは、先ほどちょっとオランダの話が出ましたけれども、オランダで実践して注目されている例なんですけれども、もっと多様な働き方を保障する制度をつくっていく。パートタイマーは正社員じゃないよと排除するんじゃなくて、パートタイマーであるかフルタイマーであるかということの区別と、正社員であるかないかという区別は基準が違うわけですから、教員でも、福祉の専門家であっても、一般企業であっても、パートタイムワーカーでありながら、重要なスキルを持って、知識を持って社会に貢献するという機会を用意するということができれば、女性はもっと働きやすくなりますし、子育てをやりながら働くこともできますし、高齢者だって、能力と適性のある人は働き続けることになりますよね。それを、一律定年でもうお払い箱ということをやってしまうのではないやり方をする必要がありますね。
 そういう意味で、二つの対立する価値をちゃんと組み合わせることができるような混合型の、まさに混合しか人間は生きる道がないわけですから、混合型の社会システムを選択し、その中で働き方も変えていくということがかぎだと私は思っております。
伊藤公述人 いわゆる少子高齢化というのは、年金、財政、それから経済の潜在成長力を低くするという経済的な悪い効果も持っています。これに対応するためには、女性の労働参加、高齢者の労働参加、それから人材の適正配置ということが必要になってまいります。
 それで、女性の労働参加、これは、先進国の中で日本だけが、育児をしているときの労働参加率が下がる。年齢を横軸にとって、M字型の労働参加率というのが残っている国なんですね。これを是正するためには、やはり、出産、育児の負担を軽減する。それから、労働参加することに対するいわゆる経済的なペナルティー、これは税制にあるわけですけれども、そういうことを取り除くということが必要になってくる。
 それから、高齢者の労働参加についても、介護あるいは看護の充実を図るということで、女性が高齢者の面倒を見る負担を軽減するということが必要になってきます。
 具体的な措置としては、介護、看護に関しては、資格を持った人の一時的な時限の移民というものを考えることが重要ではないかと私は思っています。彼らは税金も払うわけですし、消費もするわけですから、経済にとってはプラスになるということで、二重にいいことであるというふうに考えています。
 人材の適正配置も、これもやはり税制の問題が大きいというふうに考えています。
長妻委員 どうもありがとうございました。
藤井委員長 次に、達増拓也君。
達増委員 伊藤先生から順番に一問ずつ伺っていって、時間があればまた戻ってくるような格好で質問させていただきたいと思います。
 まずは伊藤先生に、消費税税率引き上げのタイミングの問題について伺いたいと思います。
 中期的な増税ということで、確かに、余りに早過ぎますと、消費や投資を控えさせて、かえって経済を悪化させてしまう。しかし、余りに遠い先、まだやらないかもしれないみたいなことをほのめかすと、これはかえって財政の持続可能性というものを国民が信頼しなくなり、社会保障や福祉など、かえって不安が大きくなる。
 そういう意味で、今、小泉内閣総理大臣が先頭に立って、任期中は絶対やらないと言い切っていることについては、その任期がそもそもひょっとしたら年内前半なのかもしれないな、それであれば余りに近過ぎる話ですし、御本人が物すごい野望で十年とかそういうのを考えているとしたら、十年間消費税率を引き上げないというのは、これはかえって無責任な話。そういう意味ではよくわからないんですけれども、その辺、どういうタイミングが中期的ということになっていくのか、伺いたいと思います。
伊藤公述人 具体的にその年数を言うのは難しいんですけれども、形態として、徐々に引き上げていくということで、例えば毎年一%ずつ上げていって五年間というようなスケジュールを示すということは、かえって消費に対する刺激効果というのがあるんではないかと私は思います。
 それから、これはアメリカの経済学者のフェルトスタインという人が二年も前に書いた論文の中で提案しているのは、一たん消費税を下げる、例えば今五%のものを三%に直ちにする。そうすると消費が刺激されますよね。それで、その六カ月後にそれを四%にします、一年後には五%に戻します、さらにそれから先上げていきますということで、一たん下げて階段状に上げていく、それで駆け込み需要を何回も何回も起こしていくというような形で前倒しに消費を行う効果を持つといった方法も提案されていますので、そういった形で段階的に上げていくということが重要ではないか。それで心配であれば、最初ちょっと下げてから段階的に上げて、最終的にはもう少し高いところに持っていかないと、財政の危機を解決することにはならない、そのように考えております。
達増委員 次は正村先生に伺いますけれども、非常に気合いのこもった公述で、やはり、財政に魂を込めていかなければならないんだなというふうに思いました。政府の、あるいは、広く国の政府、国会、そうしたリーダーとして国をどういう方向に持っていくのかという気合いがこもったそういう予算をつくっていかなきゃならないということで、予算委員としても、改めて覚悟、身を引き締める思いなんでありますが、新しいタイプの積極財政、そういう新しい財政を打ち出していかなければならない。環境や教育や福祉に重点を置いた積極財政、それが今うまくいっていないその構造要因について伺いたいと思います。
 確かに、リーダーの基本的考え方の問題、特に、トップリーダーの基本的考え方の問題というのが今一番問題だとは思うんですけれども、実は、改革ということはもう十年、二十年続いているわけでありまして、その改革がなかなか進んでいかない構造要因というものについて、改めて正村先生のお考えを伺いたいと思います。
正村公述人 改革ということをしきりにおっしゃっているけれども、本当に中身は何だろうかと考えたら、やむを得ないんですけれども、過去の整理なんですね。過去の失政の後始末と言ってはちょっと言葉がきつい、評論家風になっちゃうかもしれませんが、それがほとんどなんです。それで、これが済まない限りは前向きのことについては余り物が言えないよということをもしお続けになれば、これは縮こまるしかないわけです。
 それで、私は多分政治や行政のアウトサイダーで、バイスタンダーでしかないからこういう言い方をすることになってしまうのかもしれませんけれども、国家のあり方、政府のあり方について考えるときには、スクラップ・アンド・ビルドではだめだということをやはり真剣にお考えいただく必要があるんじゃないかと。まず整理をして、更地になったらそこに工場を建てますよ、しばらく待ってください。道路公団はこうします、郵便局はこうします、それが先ですよと言って、その先はまだ何も見えない。持っているけれどもお出しにならないのか、持っていないのかはわかりませんけれども、でも、それでは国はつぶれるわけですよ。
 工場は更地にしますよ、スーパーマーケットを建てかえますよ、しばらく休業にしますとか仮店舗でやりますよ。仮店舗でやるわけですね。国家、社会は、人間は一日も生きないわけにいかないわけですから、国民の生活について言えば、しかも、パンだけで生きるわけじゃないんですよ。ビジョンがあり、未来についてのいろいろな可能性があって生きているわけですからね。だから、ビルドとスクラップを同時並行にやる。一遍にはできないかもしれないけれども、ビルドの展望をちゃんと示して、二十一世紀、こういう文明を目指すんですよということをやらないといけない。
 社会主義のイデオロギーに懲りたからといって、ビジョンを示す努力を忘れてはいけないんであって、我々の社会は混合型のシステムしか持たないということはわかった。一つの理論でもってすべて割り切って、単一の計画経済か自由放任市場経済かというのはだめだということがわかった。混合しか人間の社会に適合しないということがわかった。
 でも、混合しかないからこそ知恵が要るわけですよ。その知恵は、技術的な知恵も必要だけれども、人々を鼓舞する知恵が要るわけですよ。それは、扇動するという意味じゃありません。生きがいを与える知恵が要るわけですよ。子供を育てるのに、細々した知識を教えるだけじゃないでしょう。やる気のある子を育てる、何かを発見する、そういうことをやることが重要なんですね。
 改革ということをおっしゃるならば、そういう種類の書生っぽい議論をもっとやっていいんじゃないでしょうか。日本のカルチャーに問題がある。そういう議論をしないといけないんだと思います。
達増委員 では、長谷川先生に伺います。
 私は、日本の生きる道として、もう積極的な貿易の自由化、FTAも、むしろ日米FTAですね。アメリカと自由貿易協定を結ぶくらいの、まさにそういうビジョンを出していかなきゃならないと思うんです。
 そのときの問題が農業ですけれども、お示しされた資料にもあるように、生産額は七兆円くらいなわけですね。であれば、所得補償を半分全部補償したとしても、三兆五千億円で済むと。であれば、そこは所得補償的な補助金になるのか、買い上げになるのか。そうした施策で対応しつつ、より大きな完全自由化、全面自由化で得られる日本経済の発展の可能性、果実を優先して、そういう積極的な貿易自由化政策をしていくのがいいと考えているんですけれども、この点、いかがでしょう。
長谷川公述人 ウルグアイ・ラウンドが農業の問題で合意をした際に、先ほどの私の説明にもありましたように、我が国のウルグアイ・ラウンド対策費は六兆円を上回るものでありました。これが、九五年から二〇〇〇年にかけての六年間にわたってどれだけ農業の効率化に資したかということに関して、いささか疑問が残ると思います。
 その予算がどれだけ必要かということは、先ほど正村先生も触れられたかと思いますけれども、それが効率的にいかに使われたかということ、それがどのように使われるのかということが、しっかり私たち見ていかなければいけない問題だというふうに思っております。
達増委員 中西先生、申しわけありませんが、時間が切れてしまいました。基礎的社会保障については、保険料じゃなく、やはりオランダ的に税制でやるのがいいと思っていましたので、そのことを申し上げて、私の質問を終わります。
藤井委員長 次に、佐々木憲昭君。
佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。
 まず、質問がなかなか順番が回っていかない中西参考人の方からお伺いをしたいと思います。
 先ほどの意見の陳述の中で、公共事業と社会保障の関係についてお触れになるはずであったと思うんですけれども、この社会保障給付の問題について触れる時間がなかったんだと思うんですが、この部分の説明を一つはお願いをしたいなと思っております。
 それから、大型公共事業の問題点についてお触れになりましたが、公共事業の中にもいろいろな種類があると思います。その中で、特に、福祉的な公共事業といいますか、あるいは地域密着型といいますか、これの雇用ですとか、あるいは中小企業に対する波及的な効果というのは私は大変大きいと思うんですけれども、公共事業の内容の問題についてどのようにお考えか、この二点についてまずお伺いしたいと思います。
中西公述人 社会保障給付について少し時間がなくて飛ばしたわけでございますが、先ほども御発言がありましたけれども、各国の社会保障給付のGDP比は、これは一九八八年から九九年の資料、二〇〇二年十一月の「世界の社会福祉年鑑」によりますと、日本の場合一四・六%、ところが、イギリスは二六・九%、イタリアは二五・三%、ドイツは二九・六%とか、さらに三〇%を上回っている国々もございまして、GDP比にして日本は先進国の大体半分という現状であります。
 これが問題は、社会福祉とか社会保障の現場でどういう問題を引き起こしているかということが問題になるわけですが、これは非常に複雑でありまして、一言で言うことは難しいわけですが、一つは、底辺で働く福祉の労働者の非常に劣悪な労働条件をつくり出しているわけであります。
 先ほど、正村先生が、オランダにおけるパート労働のことをちょっと出されましたが、日本で社会福祉労働というのは圧倒的にパート労働者によって行われているわけですが、オランダにおけるパート労働について、時間差による労働差別禁止法という法律がつくられていまして、基本的に同じ質の労働であれば、正規の職員と時間当たりの単価賃金は変わらない、こういう状況をつくり出しております。したがって、労働の形態というのが非常に多様でありまして、圧倒的にパート労働が多いけれども、働いている人の疎外感というのはない、なおかつ、報酬としても非常に劣悪というわけではないという状況がございます。
 それと、もう一つ非常に重要な点は、この社会福祉の水準が非常に高いということでありまして、私が訪問いたしましたロッテルダムの老人福祉施設で、例えば、重度の高齢者に対して職員を、今は二人に一人だけれども、これを一対一に今後変えていきたいと。なおかつ、その一部屋の面積が五十三平米ございました。これはもう私にとって大変な驚きでございまして、つまり、社会保障給付の額や率の違いというのが福祉の水準の違いを生み出しているということが非常に重要ではないかと。
 こういう点で我が国は非常におくれているわけでありまして、これを計画的にどういうふうに引き上げていくかという、これはやはり福祉労働者の労働条件の改善ですね。これは厚生労働省にぜひ頑張っていただきたいということが一点であります。
 それから、二番目の御質問でありますが、私が申し上げたかったのは、これまで高度成長期に、高速道路であるとかあるいは新幹線であるとか、そういう大型公共事業について非常に大きな財源を投下してきたと思うわけですが、しかし、現状では、それが緊急を要しない大型公共事業に非常に大きな金がかかり過ぎているんじゃないか、こういう意味でございまして、そういう点では、例えば今非常に深刻なのが、老朽化した住宅をどうするかとか、あるいは住宅の改修をどうするかとか、これは、新築の住宅がどんどん今建設されております。これはもう明らかに過剰投資になっていくわけでありまして、そうじゃなくて、実際の生活で非常に深刻化している老朽化住宅をどういうふうに補修するかというふうな、ここのあたりにもっと目を向けていくならば、これは、庶民の暮らしの向上と公共事業投資というのが結びつくわけです。
 それで、御参考までに申し上げておきますと、オランダのアムステルダム市の住宅の八割は公共住宅です。プライベートな住宅は二割です。この公共住宅の家賃は極めて低廉であるということを申し上げて、御参考に供したいと思います。
佐々木(憲)委員 それでは、伊藤公述人にお伺いをしたいと思います。
 先ほどのお話では、デフレスパイラルに既に入っているんではないかと、こういう御認識でございました。特に、消費、投資が冷えて、総需要が不足し、さらにデフレが加速しと、こういういわば悪循環のような状態になっている。私は、この中で特に、全体としての総需要をどのように拡大していくかというのが視点として非常に大事だと思うわけでありますが、伊藤公述人は、この中で、とりわけ、GDPの約六割近くを占めます個人消費の位置づけ、家計消費の位置づけ、これをどのような位置づけをされておられるのか。
 お話を聞きますと、それも重要であるという感じも受けますし、また、場合によってはこの負担もやむを得ないというような感じも受けますし、その点の位置づけといいますか、私は、個人消費というのは非常に大事な分野で、これこそまさに、今政府が挙げて刺激をしっかり与える、支えるといいますか、そういうことが大事だと思っておりますので、その点の御認識をお伺いしたいと思っております。
伊藤公述人 もちろん、GDPの中の六〇%を占める個人消費というのは非常に重要なところで、ここが刺激されなければ、最終的にGDPの成長というのはないというふうに思っております。
 したがって、消費を促進するような方策というものが重要で、その中で、やはり一番重要なのは不安感をなくすということで、将来に対する不安感、あるいは、経済システムあるいは銀行システムに対する不安感というものをなくすることによって、安心して消費ができる、安心して広いうちを買う、家具を買うといったものに結びついていくような、それを少し後押しするような政策が重要ではないかというふうに思っております。
佐々木(憲)委員 個人消費の問題でいいますと、税制というのは非常に重要だと思うので――もう時間が来ました。ちょっと一点だけ、済みません。
 中西参考人に、先ほど、直接税というところの、特に最高税率の引き上げのお話をされましたが、間接税の部分も含めて、全体の税のあり方といいますか、簡潔に、どういうふうにお考えなのか、そこをお聞かせいただきたいと思います。
中西公述人 私は、先ほどの正村先生の御発言とちょっと共通したところがあるわけですが、消費税の引き上げについては、非常に国民のいわば反感といいますかアレルギーといいますか、そういうものがございます。
 それで、ヨーロッパで消費税が非常に高いと言われますけれども、食料品は実は非常に低いわけですね。オランダでいいますと、六%据え置きで、その他は一九・五%と、これは非常に高い。高いけれども、食料品や住居とか生活必需品は安い。イギリスなんかでも、ゼロ税率とか、あるいは、イタリアのように四%とか一%とか、そういうふうな、つまり生活必需品には税率を低くして、例えば奢侈品であるとかそういうものには高くするというふうなやり方をとっているわけですね。ここは、私は大いに研究する必要があるんじゃないかというのが一点ですね。
 それで私は、消費税の問題というのは避けて通れない問題だとは思いますけれども、しかし同時に、所得税の最高税率をこれだけ引き下げてきた、こういう経過があるわけで、ここをいじらないことには国民はちょっと税制改革について納得しないんじゃないかということで、ここが先だろうというのが私の意見です。
佐々木(憲)委員 わかりました。
藤井委員長 次に、横光克彦君。
横光委員 社民党の横光克彦でございます。
 きょうは、公述人の皆さん、それぞれのお立場からの貴重な御意見、大変ありがとうございます。
 まず、伊藤公述人にお尋ねをいたしたいんですが、大変なデフレ状況、先生は、デフレスパイラルとかなりもうはっきりとおっしゃられました。それほどに深刻な状況であるということを認識されているんだと思うんですが、そういった状況の中で財政赤字は拡大する一方、そして、もうこの数年後には日本の財政はこのままいけば破綻するであろうというような御意見でもございました。その財政破綻を回避するには、もうデフレの克服しかない、ここまでは大体ほとんど同じ認識だと思うんですね。
 しかし、そのデフレを克服する政策として、政策パッケージという、いろいろな案を組み込んだ案をおっしゃいましたが、この中で、一、二の、いわゆる非伝統的な金融政策、あるいはインフレターゲット、この目標を定めるという御意見でございますが、この非伝統的な金融政策、これは、ある意味では、中央銀行の踏み込んではならない分野にまで踏み込むべきだというようなニュアンスもございますし、また、このインフレターゲットというのは、これはあくまでもハイパーインフレを防ぐためにやる政策であり、このようなデフレ状況でこのようなことをやった国はかつてないわけで、果たしてこれが効果をあらわすかというのは、これは非常に疑問点が多いわけですね。
 そういった中で、先生は、中央銀行の信頼よりも、いわゆる中央銀行のバランスシートよりも、経済状態、これを回復することの方が国益にかなうということもおっしゃっております。しかし、私今申し上げましたように、この一、二の政策によって本当に経済的な効果が上がれば先生のおっしゃることになろうかと思いますが、これは、非常に可能性というのはわからぬわけですね。そして、ただ一つ可能性があるのは、私は、中央銀行のバランスシートを傷つける可能性はかなりはっきりしていると。
 そうしますと、中央銀行の信頼や通貨の信頼をなくした上に、経済状態の方も回復しないということさえあり得るんじゃないかという気がするんですが、そのあたり、先生、いかがお考えでしょうか。
伊藤公述人 一項に挙げているその非伝統的な金融政策、ETF株、それから証券化された不動産、これは実物資産が裏にある証券なわけですから、紙くずを買っているわけではないわけですね。そういう意味では、資産を買って、その対価として貨幣を供給するという意味では、私は中央銀行の役割の範囲内だというふうに思っております。
 むしろ、一部の方が主張されているような、財政法に違反するような、新規国債を発行、直ちに日銀が引き受けるという形の政策というのは私はむしろ反対でありまして、このETFや証券化されたものを買うという方がまだ中央銀行として健全だというふうに思っております。
 それから、インフレ目標は、高いインフレの国が採用する政策であって、デフレの経済に適用されたことはないということはありますが、そもそも、先進国でこれだけ長い間デフレが続いている国はないわけですね。もともと、こういった国にどういう政策がきくのかといった前例がないわけで、一九三〇年代の大恐慌のアメリカまで戻れば別ですけれども、戦後の先進国ではない経験をしているわけですから、新たな政策を考え出すということが必要で、これは前例がないわけですから、きくかきかないか確実に答えろと言われればそれは答えられないわけですけれども、私は、理論的に考えて、これは非常に確率の高い政策、しかも副作用がむしろない。失敗というか、どれくらい期待に働きかける効果があるかと言われれば、それは確実に答えることはできませんけれども、少なくとも、多少はあるだろうと。それも多少後押しになるだろうと。
 だから、インフレターゲットだけで事態がすごくよくなるということではありませんが、ほかのパッケージの中で使うことによってほかの政策をより効果を上げるというもので、むしろ、ハイパーインフレの防止のためにはインフレターゲットの上限があった方がいいんです。ハイパーインフレを心配される方であれば、むしろインフレターゲットに賛成するはずだというふうに私は思っております。
横光委員 正村公述人にお尋ねしたいんですが、今のように財政が厳しくなり、その中でそれを回避するにはデフレを克服するということは、私は先生も同じ考えだと思うんですが、そのデフレ脱却のために金融政策にもう余り期待をかけるべきではないというお話もございました。財政のことも、これまで財政再建で三回も大変失敗して、膨大な赤字をつくってしまったというお話もございました。
 しかし、ここに来て、デフレを克服するためには、先生は財政の拡大の必要性というものをお考えだと思うんですが、これによって財政破綻ということとの兼ね合いはどのようにお考えなんでしょうか。
正村公述人 財政を締め過ぎたら経済がだめになる、経済がだめになったら財政再建どころではないということを繰り返しやったわけですから、認識していただきたいと。
 でも私は、財政を大盤振る舞いして拡大しろと言っているわけじゃないんです。でも、前年度比と同じぐらいの一般歳出まで戻しましたよという程度では、これでは政策転換にはなりませんよね。あるいは、政府のスタンスを変えましたよという宣言にはなりませんね。三十兆円とかいう枠組みをつくって、その公約違反じゃないかとかという議論になっちゃうわけですけれども、枠組みをつくったこと自体が間違いであって、枠組みを破ったことが間違いじゃないわけですよ。破ったなら、破らざるを得なかったと、自分の財政政策思想が間違っていたということをお認めいただきたいんですよ。そして、過度に抑制的な政策はとらない、経済の安定のためにここは財政が頑張るしかないということをお考えいただきたいんですよ。
 そして、中長期の展望の中で明確なタイムスケジュールを示すことは無理ですけれども、この程度の財政規模で、この程度の租税、社会保険料負担をこういう体系でもって国民にお願いすることによって、将来の基本的なバランスを、公債ゼロということはあり得ませんけれども、基本的なバランスを回復する展望ですということをやはり隠さないで議論をちゃんとやっていただきたいんです。その中で私は、消費税は絶対不可欠だと思います。
 租税というのは、やはり、資源配分上の中立性を考え、そして水平的な公平を考え、所得の捕捉の状態が税務当局によって違うために税負担が変わってしまうというのはまずいですから、捕捉しやすい、こちらからも取るけれども、それでは不十分だからこちらからも取る、直接税と間接税を組み合わせるしかないと私は思っております。
 それで、一般消費税、消費税ですね。付加価値税というふうにはっきり言うべきだと私は思うんですけれども、消費税というのはちょっと間違ったネーミングだと思います。付加価値税をきちんと一五%、二〇%へ将来上げないと国民経済、国民生活はもちませんよということは、やはりアナウンスなさった方がいいと思う。でも、先ほど申し上げましたように、それには、税制それから歳出のあり方についての総合的な展望をお示しいただかないと納得しませんね。
 もう一つは、経済の安定化が優先課題ですから、どういう状態が安定化と呼ぶのかというのは議論の余地がありますし、試行錯誤ですよ。きれいな絵をかいたってしようがない。でも、今は財政を詰めちゃまずいですよ、でも、将来はやはりそこそこにちゃんと負担していただかないと困りますよと。
 税制も問題があるわけですよ。その場しのぎをどうしても、そう言っては悪いですけれども政府はおやりになって、ここを刺激しよう、ここをやろう、住宅をこうして、例えば住宅取得に関する減税をおやりになれば、偏るわけですよ。賃貸住宅に暮らしている人とそうでない人との間の負担の公平が保たれないでしょう。そして、大都市化しつつある中では、先ほどお話がちょっとありましたけれども、公共住宅であるか民間住宅であるかを問わず、私は、基本的に賃貸型だと思うんですよ。今、何かえらい東京の郊外の不便な、駅からバスで行かなきゃならないところに高層マンションを建てていますよ。こんなのを外国の人が見たら、何やっているんだと言われますよ。駅に直結するところにあってこそ、高層で、しかも賃貸で、家族構成が変わったらかわれるというこういう都市構造をつくらなかったというのは、皆さん、歯ぎしりしていただかないと困るんですよ。
 そういうことを含めて、税体系は、合理性と公平性を考えて、こういう方向に持っていきますよという、占領軍の時代にかつてシャウプ勧告というのがありましたけれども、外国の人に押しつけられて自分たちの税体系の原理を考えるんじゃなくて、日本人自身が租税、社会保険料の基本的原理を根底から考えるということをやらないといけないので、政府税調はそういう役割をしていないわけですよ。私もかつては専門員をやっていましたから。でも、やめました。こんなことをやっていたってだめだということですよ。それをぜひお考えいただきたいと思います。
横光委員 どうもありがとうございました。
藤井委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。
 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げる次第であります。
 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    正午休憩
     ――――◇―――――
    午後一時開議
藤井委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 平成十五年度総予算についての公聴会を続行いたします。
 この際、公述人各位に一言ごあいさつ申し上げます。
 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわりませず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。平成十五年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。
 御意見を承る順序といたしましては、まず水野公述人、次に加藤公述人、次に山下公述人、次に侘美公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 それでは、水野公述人にお願いいたします。
水野公述人 ただいま御紹介いただきました一橋大学の水野でございます。きょうはお招きいただきまして、意見を申し述べる機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。
 私の方、大体、原稿のような形で、既に配付していただいておりますけれども、万一に備えてこのようなものをつくらせていただきました。平成十五年度の予算案ということでございますが、こちらに書いておりますが、私、租税法、専門は税制でございますので、大体はそちらの方面からお話をさせていただきます。
 平成十五年度予算案につきましては、これは改革断行予算と呼ばれているということですけれども、デフレ下のもとで、さらに株価が低迷する中で、その中で活力のある日本経済を取り戻すこと、それから財政構造改革、こういった観点を踏まえて予算案が作成されたということでございますので、これが経済の活性化につながることを祈っております。
 また、他方で、七百五十兆円に迫る国公債の問題でございますけれども、やはりこれの経済に対する影響、こちらの方も無視できない問題でございますので、これについて検討を進めていくということも、何らかの解決策を求めていくということが必要ではないかと思っております。
 これが全般的なお話です。
 具体的には、平成十五年度の税制改正案ということでございますが、特にことし、ことしといいますか、来年度に向けた議論というものは、いわゆる企業減税をめぐりまして、かなり中立性という言葉が、いわゆる多年度中立というようなことが言われたり、どういう政策手段を使うのかということが議論されたわけです。簡単に申しますと、一つは法人税率を下げるという選択肢で、もう一つは、これは予算の重点的配分とも関連してまいりますけれども、特に、研究開発・設備投資減税の方に重点的に政策減税を行う、こういうものでございました。
 結果的に投資減税、設備投資減税というものが選択をされたわけですけれども、平成十年以来の、特別減税以来の我が国の状況を考えてみますと、法人税率、三七・五%から三〇%まで下がっておりますので、この状況のもとでやはり処方せんを変えてみる必要があるのではないかということで、私も、経済の活性化、喫緊の課題といたしまして、選択肢としては、思い切った研究開発・設備投資減税というものを、こちらを選択してみるのが残された可能性ではないかと思っております。
 二ページになっておりますけれども、以下、税制改正案につきまして若干の感想を述べさせていただきます。
 今お話ししたことでありますけれども、経済財政担当の竹中大臣は早々と減税というのを政策の手段として考えておられましたが、いわゆる法人税の税率引き下げ、こちらの問題としてとらえられておられたようでございますが、累次の引き下げ、先ほどお話ししましたように、三七・五%から現在では三〇%まで下がっております。こういう状況で、なおかつ税率の引き下げを行うということにどれだけの可能性があるか。やはりこういうあたりは議論をしてみる、あるいは分析、検討するということが必要なのではないか。当然、再来年度の税制のあり方を検討する場合に、やはり国の政策手段ということが問題になりますので、こういったことを継続していくことは必要ではないかと思っております。
 それから、これも1でございますが、ここにも書いてございますけれども、相次ぐ減税の結果、所得税の構造、それから法人税もそうでありますけれども、かなりゆがんだものになってきている。特に個人の所得税ですけれども、課税最低限が、前から言われておりますけれども、特別減税、それから平成十一年度以降恒久的な減税が続いておりますので、課税最低限が非常に高くなっている。そういうような状況のもとで、所得税の構造そのものがゆがんできている。これは近い将来直さなければいけないということでございます。
 そういう意味で、私のお話の副題になっておりますけれども、「あるべき税制の構築に向けて」、これは政府税制調査会の中で使われた言葉ですけれども、やはりそういった問題は近々出てくるのではないかということでございます。
 このことに関連して、経済財政白書が最近出ましたけれども、いわゆる法人税の国際的な比較をしている。従来は税率だけを比べたわけですけれども、税負担というものは、税率と課税のいわゆる所得金額というものを掛け合わせて決まるものですので、税率だけでは決まることがない。具体的に、所得の計算の仕組み、どういった特別措置が行われて政策的な減税が行われるかとか、そういったようなものとすべてが絡んだ上で出てまいりますので、税率だけを国際的に比較すること自体、それほどの、それほどといいますか、十分なものではないわけですけれども、経済財政白書を見ますと、仮定的な法人の所得と業種別の大体の平均の所得を出して、我が国と外国を比べた場合どうなっているかという検討がなされております。これはそれなりの意義があると思いますけれども、そういう問題というのは、やはりどういう形でシミュレーションを組み立てる前提の数字をつくるかということでいかようにも動いてしまうものでありますので、なかなか横に比べるということは難しい問題でございます。
 そこで、私が申し上げようと思っておりますのは、実際のところ、現実の税制というのはそういう使われ方をしているわけではございません。我が国ではまだ余り進んでいるとは思えませんけれども、いわゆる、特に大企業などは多国籍企業化しておりますので、どこの国の税率がこのぐらいであるということを、それぞれ、主に先進諸国、それから途上国の問題もございますけれども、それを全世界の国々の税制を見た上で企業活動を決定する。
 具体的には、例えば、企業の経営企画部などでこういうプランを練ったりしますと、アメリカ合衆国などでは、必ずそれを税務の審査を通さないと会社の行動が決定されない。いわば、簡単な言葉で言えば、税制というものが企業の戦略の要素として非常に重要に位置づけられているということでございます。
 ですから、こういう状況を前提といたしますと、税率を横に並べて比較するということでは十分ではないということが認識されるわけですけれども、我が国の場合は、まだどうも税率というものは最後に所得が決まったところで適用されるものであるという意識が強いようでありますが、実際には、我が国の問題はさておきまして、租税を考慮したプランニングというものが先にありまして、それから企業の経済的な活動の方針が定まる、こういうようなものが世界の流れでございます。
 法人税率の比較という問題については、ちょっと、こういうことでコメントを加えておきたいと思います。
 続きまして、ローマ数字の4のところへ行かせていただきますけれども、法人税率の引き下げ、いわゆる政策減税のところで、昨年、議論の中に、どういうわけか、一九八一年のアメリカ合衆国のいわゆるレーガン税制改革というもの、レーガン大統領が一九八一年に思い切った投資減税を行ったわけですけれども、アメリカが一九九〇年代、クリントン大統領の政権下になりまして、それまでの双子の赤字、貿易の赤字それから財政赤字、これは、貿易赤字は残りましたが、財政赤字がゼロにまで戻った、これは一体何が経済政策の効果があったのだろうということをいろいろ議論されておりますが、昨年、税制論議の中で出てきましたのは、一九八一年に行ったレーガンの税制改革の結果であるというようなことを言われる方がかなりございました。
 具体的にそのあたりを見てまいりますと、一九八一年のアメリカ合衆国、確かに政策減税ということで、投資減税ですけれども、加速償却ですとか、それから税額の一〇%を自動的に控除を認める投資税額控除、こういうものを採用したわけですけれども、その当時としましては、もう既にちょうど二十年前になりますけれども、レーガンの税制改革というものは評価を受けなかった。翌年には、さらに財政赤字が悪化したということで、むしろ増税に回っていったということでございます。
 しかも、表に減税というもので一九八一年に大きな改革をいたしましたので、むしろ一九八二年以降は細かい技術的な規定のところを穴埋めする形で税収を確保しよう、そういうような動きになったわけでございまして、その結果としてやはりアメリカでも所得税、法人税の仕組みがゆがんでしまったということで、一九八六年ですが、これが有名なレーガンの税制改革の二番目の方の税制改革ですけれども、課税対象をできるだけ広く、そのかわり税率を引き下げる、そういうような方向へ動いたわけでございます。
 ですから、どうもこの認識のといいますか、いわゆる根拠づけといたしまして、このアメリカ合衆国の税制改革の流れがいろいろに議論されたわけですが、私といたしましては、そのあたりが、それほどの効き目があったのかどうか、ちょっと疑問に思っております。
 ですから、今回かなり、政策減税ということで投資減税、研究開発減税それから設備投資減税へ中心を置かれておりますけれども、これがどういう効果を呼ぶのか、一つの経済回復の呼び水になればありがたいと思っております。
 三ページ目ですけれども、これは投資減税、いわゆる研究開発減税、設備投資減税の中身でございますけれども、その中にちょっと、いわゆる税率の引き下げとのいろいろな議論がございましたけれども、所得税の場合には簡単に、簡単といいますか、直接支払う人間になるわけですので、いわゆる所得減税というものは勤労意欲その他、直接納税者に響いてまいりますが、企業減税、特に法人税率の引き下げの問題というのは、これはなかなかどういう効果があらわれるのか。そもそも法人税をだれが負担しているかという問題自体が議論されますので、ストレートに、法人税の負担を下げると企業が活性化するか、こういったことについては、もう前々からいろいろな意見が出されているということでございます。
 ですから、かた苦しい言葉で言いますと、法人税の負担というものはどこへ行くのか、いわゆるその転嫁というものがはっきりされていない、こういうような弱みがありますので、なかなかこの点は難しいということでございます。
 以上が企業減税ですけれども、何度も繰り返しておりますけれども、平成十五年度は、いわゆる従来型の税率の引き下げにかえて、集中的な減税ということで研究開発と設備投資を中心に行われることになりましたが、処方せんを変えて効き目があらわれるということを期待しております。
 それから、あとはまた話は変わりますけれども、三ページの最後ですけれども、相続税と贈与税の一体化ということが出てまいります。
 これは多くの方々に関係のある問題でございますけれども、従来、我が国の贈与税というのは非常に高い。それが、生前贈与と申しますか、財産の管理運営、家族内での財産の運用・移転の仕方を難しくしていたということが事実でございます。
 四ページ目のところに、簡単に抜き出した税率を書いてございますが、大体、贈与税ですと、千五百万円の贈与を行っただけでも五〇%取られてしまう。これは実質を申しますと、生前の贈与というものを禁止するような効果を持っていたわけでございます。
 よその国は、相続税と贈与税を比べますと、贈与税がむしろ甘い状況であった。それを是正するために、何とか相続税の税率まで贈与税の税率を高める、あるいは生前贈与を累積させる形で、相続の段階で課税し直すということを試みてきたわけですけれども、我が国は出発点から、贈与税について非常に厳しい税率を置いていたわけです。
 このことが、いわゆる高齢化社会と申しますか、だんだん人間の、いわゆる相続の時点が、これも高くなってまいりますので、仮に被相続人としての母親が亡くなったのが八十代後半としますと、その時点には、相続人である子供たちも既に六十を過ぎたような状況になってしまっている。今さら財産の運用というものをあえて考えるほどの必要性も認められない、こういうような状況が予測できるということで、今回、贈与税と相続税の一体化という名前のもとに、生前贈与に対してかなり緩和措置を取り入れたわけであります。それによって、財産の生前贈与とともに、家族内の財産管理ですけれども、こういうものが期待されているということであります。
 細かい点は省略いたしますけれども、我が国がよその国と違うところは、これは六十五歳以上の人であれば、財産を持っている限りは生前贈与によって、暫定的ではありますけれども、税率は二〇%、特別控除二千五百万円という、かなりの救済措置がとられているということであります。
 こういう形で、家族内の財産管理、財産の移転というものが進みますと、これは特に目的として言われていることではございませんけれども、千四百兆円と言われる我が国の個人資産、これの流動化というものにも、促進することになるのではないかと期待しております。
 時間が来てしまいましたので、平成十五年度改正に絡みまして、私の感想、それから若干の意見を述べさせていただきました。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
 次に、加藤公述人にお願いいたします。
加藤公述人 東短リサーチの加藤と申します。
 本日は、お招きいただきまして、まことにありがとうございます。
 私、短資会社というところで、短期金融市場という世界で現場でやっております。少し前まで現場でブローカーとして、切った張ったといいますか、売買をやったりしながらマーケット向けにニューズレターを書いたりというような仕事をしてまいりました。
 現在、インフレ目標ということが非常に議論されておりますけれども、それを行うに当たって、実際金融市場で何が起きているかということを御説明申し上げたいと思います。
 最初のこのページ、「はじめに」の部分なんですが、コール市場というところをちょっと簡単に御説明しますけれども、一種、金融機関同士のお金の卸売市場のような場です。事業法人や個人の方は参加できませんけれども、金融機関が短期の余ったお金や足りないお金を融通し合う、そういう市場でございます。言ってみれば、お金の築地のような卸売の世界でございます。
 株式市場のように場立ちでやっているわけではなくて、実際は電話、主に直通電話を使ったテレホンマーケットです。
 それから、取引の期間としては、一番短いものはほんの数時間、二時間だけ五百億貸してほしいとか、そういうような取引もありますし、長いもので一年程度まで、通常は一日物、オーバーナイトと呼ばれますが、いわゆる宵越しの一晩物が一番主流の取引です。
 あと、コール取引というものには担保つきのものと無担保のものがあるんですけれども、大体百億円単位が通常の取引サイズです。あと、コールという言葉は呼べばこたえるというのが語源のようでして、期間が短いお金をやりとりし合うという意味です。
 日本銀行は二〇〇一年三月から量的緩和策というものを導入していますけれども、従来は操作目標が、操作対象が無担保コール、オーバーナイト金利でしたが、現在は日銀当座預金残高というものに変更しております。
 続きまして、次のページなんですが、具体的に穏やかな、マイルドなインフレというものをどうやって起こすかということの難しさがあるだろうと思います。インフレ目標を掲げること自体は、本来は金融政策の透明性を増すという点で否定するものではないんですけれども、具体的な手段に金融市場の目から見ても難しさがあるのではないかなと思います。
 まず、一番目なんですが、今ゼロ金利であることで市場機能というのが非常に悪化しております。お金が流れないということが起きております。
 このお手元のグラフの四兆円、四というところに薄い線が横に引いてあるんですが、これが準備預金の法定所要額、法律で必要とされる準備預金の額なんですが、本来はこの四兆円程度、日銀当座預金にお金があれば大体金融機関の資金繰りというのは足りるものなんですけれども、それを二〇〇一年の三月からふやし始めて、最初五兆円、順次ふやして、現在は二十兆円という量にあります。
 よく、日本銀行は金融緩和がまだまだ手ぬるいというような批判をよく聞きますけれども、我々短期金融市場にいる者にとりましては、これは物すごい金額でして、もう既に大胆な政策をやっているように我々のサイドからは見えてしまいます。ただ、当座預金が五兆円あるいは六兆円のころは、金融市場で運用できないお金を抱えて右往左往する資金運用サイドがたくさんいたんですけれども、最近では余りそういう様子が見られなくなってきております。本当に日銀当座預金が二十兆円もあるんだろうかということがとても実感できないというのが現状です。
 といいますのも、言ってみれば、二十兆円ということは、必要なのが四兆円ですので十六兆円お金が余っているはずなんですが、その十六兆円がほとんどヘドロのように日銀当座預金に沈み込んでしまっていて、まるで流れていないというのが現状でございます。
 続きまして、次のページなんですが、なぜお金が流れなくなってしまっているか。至って単純な理由なんですけれども、まず、超過準備、余分な準備預金を持つことのコストも限りなくゼロになりますので、持っていても気にならなくなるということがあります。
 ここの表は、百億円をオーバーナイト、一晩運用した場合の利息なんですが、仮に金利が一%ですと利息は二十七万三千円ぐらいなんですが、これがどんどん下がってきて、現在は〇・〇〇一%、千分の一%です。となりますと、百億円の一晩で利息が二百七十三円しかつかない。私ども短資会社が仲介しているんですが、手数料をどんどん下げていかないと利息より手数料が多くなっちゃうものですから、下げてきて、今百三十六円、百億に対していただいているんですが、これでも半分取るのかと怒られてしまったりして、というような状況です。
 これ以外にさまざまな取引コストがかかりますので、結局、運用してもむだだと。日本銀行の当座預金というのは本来リスクがないと見られていますので、置きっ放しにしておく方がいいということになりますので、そうしますと、もう運用することをみんなやめていってしまうわけです。
 あと、少し飛ばしますが、この3ですが、あと一方で、金融システム不安というのが依然として潜在的にありますので、これほど低い金利でお金を貸すということのメリットとデメリットを考えると、運用しないでそのまま手元に置きっ放しにしておこうというのが極めて合理的な判断になります。したがって、日本銀行はかなり必死になって資金供給をやっていますが、それはどんどんヘドロのようにただただ滞留していっているというのが現状です。
 このためにちょっと悪循環が起きていまして、市場で運用しようというお金が出てこないものですから、銀行というのは、たまに資金繰りが偶然の都合でぶれて、少し多目にお金を市場から取らなければならないという日がありますけれども、そういうときに市場にお金が余りないんじゃないかという不安感が常にあります。本当は二十兆円もあるはずなので、そんな不安が出るはずがないんですが、出てこないのでそういうふうに思ってしまう。そうしますと、予防的にいつも多目に準備預金を手元に置いておこうとしますので、ますます出てこないということで、これが一種悪循環となっております。
 あと、日本銀行は常に大量に資金供給していますので、日銀のオペレーションに参加すればお金は借りられるわけなんですけれども、これには担保というものが必要ですので、担保がない部分の資金繰りというのが必ず金融機関は必要ですので、その部分をふだんはコール市場で調整しているんですが、そこの市場が薄くなり過ぎている。あと、短期金融市場においてもぎくしゃくしているムードがあって、市場の間でうまくお金が流れていないという面もあります。
 したがいまして、ゼロ金利による流動性のわなというのが非常に大規模かつ深刻化しておりますので、金利が低過ぎるとお金が流れない。したがって、この状況で日本銀行が長期国債をより大量に買ったり、あるいはETFを購入といっても、日銀当座預金をふやすというルートからの緩和効果というのは極めて期待しにくいということになってしまうかと思います。
 したがいまして、長期国債買い切りオペ増額かなんということはよく頻繁に市場でも話題になるわけなんですが、長期金利が上がってこない、むしろ下がっていくというのは、インフレ期待に結びついていないということで、市場の方はそういう非常にさめた見方になってしまっております。
 あと、私が属している組織の立場で申し上げますと、このページの上の短資手数料というのをごらんいただければ、金利が上がれば私ども収益が上がるという仕組みですので、インフレになってくれる方がいいんですけれども、インフレになれば手数料もふえます。ただ、これだけお金を大量に供給していてもインフレ期待が出てこないというのを実感として感じておりますと、かなり無謀なことをしなければ起きないのではないかなということで、警戒心が出てくるわけです。
 次のページ、五ページ目なんですが、これは消費者物価とマネタリーベースの伸び率のグラフです。マネタリーベースは、お札、現金と日銀当座預金の合計ですが、例えば一九七四年のオイルショック後あたりの状況ですと、マネタリーベースの増加と消費者物価というのがある程度関連があります。ところが、その後、徐々にこの関連性が薄くなって、特に九〇年代後半以降というのはほとんど関連性が見えない。二〇〇二年の春にマネタリーベースが大きな伸びを示していますけれども、このときは、去年のペイオフ解禁の話もあって、一般の方々のたんす預金がふえたりとか、あるいは銀行間市場で念のためお金を抱えておこうということが起きたりして増加したお金の伸びなんです。したがって、決して前向きなお金の伸びではないんですけれども。
 こういう形でふえていても、消費者物価に反応が出てきませんので、これをふやしていくと、いつかはある日インフレが起きるのかもしれませんが、その経路が非常に見えにくいということで、どういう形で何が起きるかがなかなか予想できないという点では、一種、ギャンブルの要素もあるかと思います。
 ちょっと時間の関係もありますので少し飛ばさせていただきまして、六ページ目、次のページですが、日本銀行がETFを買うということなんですが、先ほど申しましたように、マネタリーベースをふやすということでの金融緩和効果というのは期待できないのだろうと思います。
 あと、仮にETFを買うことで現物株を上昇させることが可能になったとしても、実際、株式市場から消費者物価への影響というのは、通常は非常に小さいです。例えば、アメリカのナスダックを見ますと、ナスダックのバブルのピークのときの消費者物価と現状、株価が暴落した後の状況とで、消費者物価、ほとんど変わりがないということになってしまっていますので、なかなか株価から消費者物価への働きかけというのは弱いだろうと思います。
 ただ、消費者物価、CPIが目的ではなくて、資産デフレをとめるということでのETF購入となるとまた話は違ってくると思うんですが、これは、基本的には、企業収益を反映しない株価というのを中央銀行の購入で支えるということがいつまで継続できるだろうかという問題が出てくると思います。少々買うことで、呼び水的に景気回復のきっかけになるということならばいいんですが、そうでないとすると、漫然と中央銀行がETFを買っていってしまうという場合の国際的な信用という問題も出てくるのではないかなと思います。
 少し飛ばしまして、外債オペですけれども、外債を日本銀行が購入するとしても、金融緩和効果というのは、今まで何度も申し上げましたように、かなり期待しにくい。ただし、円安誘導自体はデフレに若干の効果はあるはずですので、あくまで円資金供給の一環というふりをしながらやるかどうかということになってくるのかと思います。
 それから六番目、コール取引のマイナス金利という、新聞などでも多少言われていますが、一月の下旬から、我々のマーケットでマイナス金利という取引が成立しております。これはお金を貸す人が利息を払うという、非常に倒錯した世界で、異常なんですけれども、これはきっかけとしては、日本銀行の銀行保有株買い取りを契機にして、外国銀行が日本銀行に対する信用枠を狭めるという動きがそこかしこで出てきました。資産劣化懸念ということなんですが。その中で、日銀当座預金に今まで多くお金を置いていた外国銀行が、そこにお金を置けなくなったものですから、一方、世の中ゼロ金利で、ほとんど借りる人がいないので、マイナス金利というおまけをつけて、それで借りてもらうというような動きが出ております。これはずっと連日続いていて、少額ですが、続いております。
 したがって、今後、日本銀行がさらに大胆な金融政策というときに、予想外のそういうリアクションが出てくるおそれもあります。
 それから、七ページ目ですが、インフレ目標といったときの、基本的にはインフレ目標は、最初申し上げましたが、政策の透明性を高めるのかとは思うんですが、内訳を見ていくと、いろいろ問題も出てきそうです。
 これは、七ページ目のグラフはアメリカの消費者物価ですが、一番太い線がコアCPI、消費者物価です。これを見ますと、とりあえず、現状、二%という理想的な数字なんですけれども、物の値段はもう完全にデフレ状態に入っております。サービス価格がプラスですので、全体としては二%なんですけれども、内訳を見ると、物のデフレ、サービスのインフレという状況です。これでアメリカの人々がハッピーなのかというと、医療費の上昇というようなのは、特に中低所得者層の家計をかなり圧迫しております。
 あるいは、ここの下の方に載せておりますが、大手製造業で、医療費の上昇が収益を圧迫する。一方で、売り上げの方はデフレのため伸びないというようなことも起きていますので、必ずしも消費者物価が二%にあればいいというものではないというケースです。
 続いて八ページ目なんですが、こちらは日本の消費者物価ですけれども、日本の方は、物のデフレはより激しいですが、サービスがプラス・マイナス・ゼロということで、若干のマイナスです。若干といいますか、一%弱のマイナスです。
 ここでプラス二%のインフレ目標というのを考えてみた場合に、物の、財のデフレというのは、海外要因がありますのでなかなか解消しにくい。そうすると、実際は、サービス価格を上げていかないとCPI全体を持ち上げにくいということになりますから、これは今まで進めてきた、国内の高コスト体質の是正という点に逆行する面もあって、一概に、物価を上昇すればいいというふうに言いにくい難しさがあるのかと思います。
 続きまして、次のページですが、インフレ期待といった場合、九ページ目ですけれども、現状では私もいろいろ、金融市場以外の人にも聞いてみましたが、景気が回復するというイメージの、結果としての物価上昇は歓迎されると思うんですけれども、単に物価が上がるという面を強調してしまうと、かえって実質賃金が低下してしまうということで、必ずしも消費意欲が増さないのではないかというリスクがあるかと思います。
 例えば、かつての池田内閣のときの所得倍増計画というのは、言ってみれば、形を変えたインフレターゲットというか、所得だけふえて物価が上がらないはずはないですから、そういう意味では非常に巧妙な表現だったと思うのですけれども、現状の、インフレ目標という言い方だと警戒心も出てしまうのではないかと思います。あるいは高齢者層という点で見ると、戦後のハイパーインフレ等を経験なさっているということで、もともとインフレに対する生理的嫌悪感が強いですから、この方々にいかにうまく説明するかという問題で、そうしないとかえって防衛的なスタンスに走ってしまうリスクもあるかと思います。
 少し飛ばさせていただきまして、十一ページ目ですけれども、「まとめ」ですが、現在のデフレというのは、単に金融面だけではなくて、さまざまな要因が重なっているのだろうと思います。したがいまして、非伝統的金融政策ということで刺激をしたとしても、その個別の問題に一つ一つ対処していかないと、しばらくすればまたもとに戻ってしまうということが十分考えられると思います。
 あるいは、では、財政政策はどうかというときによく引用されるのが、戦間期に行われた高橋是清による財政のリフレ政策ですけれども、当時、高橋是清が始めたときの財政状態というのは現状よりはるかに健全でしたので、今のように財政赤字が非常に累積した状況から高橋是清的な刺激策を行うということは非常に危険でしょうから、実際上は、財政資金の使い道を非常にピンポイントに絞って、効果のある形で、国際競争力がある産業を育成していくという方向性でいくべきなのだろうと思います。
 あと、インフレーションターゲティングを実際にやる場合に、最終的に、出口政策と申しましょうか、どうやって引き締めに転じるかという点で、インフレターゲットを設定していればそれで解決するというものでは、そうなればもちろんいいんですけれども、いろいろ問題が出てくるかと思います。したがいまして、いかにそこの部分を政治的に担保できるような枠組みをつくるかということは非常に慎重深くある方がいいのではないかなと思っております。非伝統的政策というのをやると、国民のモラルも全体的に緩みやすいということが過去あります。
 最後のところに戦間期の大蔵省の西村さんという方の回顧録から引用していますが、高橋是清の日銀国債引き受けのときに、初め非常に心配して、こんなことをしてえらいことになるのではないかと相当議論の的になっておったのが、これは簡単にできるよい制度だという空気に変わった、世間はそれになれてしまって、引き受け制度は当たり前、本来かくあるべきものだと考えたというように、非常に人のモラルというものも急激に変わりやすいですから、そういうことも踏まえた上での非伝統的政策ということの議論が必要なのではないかなと金融市場の立場からは見ております。
 本日は、どうもありがとうございました。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
 次に、山下公述人にお願いいたします。
山下公述人 こんにちは。関西経済連合会の観光集客検討会の座長をしております山下和彦でございます。よろしくどうぞ。
 私は、観光集客ということについてお話を申し上げたいと思いますけれども、その前説として、消費の動向が少し変わってきたということをまず申し上げたいと思います。
 実は、消費動向、一番経済の大玉でありますが、経企庁が出しております国民経済生活年表、それから電通が三月に一遍出しております消費動向調査、この二つの権威のある消費動向の調査が実は九五年に全く同じパターンを示したんです。これは、実は九四年までは消費の過半数が物だったんです。ところが、九五年からは、過半数が非物に変わってくるんです。
 非物というのは一体何だと申し上げますと、一つは、医療、介護、保険、スポーツなどの健康産業にお金を使うようになった、それが一番です。それから、これは順序はばらばらですけれども、音楽だとか美術だとか絵画だとか演劇だとか、そういった芸術産業にお金を使うようになった。それから三つ目は、御存じ情報通信産業にお金を使うようになった。四番目が、観光並びに観光にまつわる出費がふえてきた。この四つが非物の四本柱なんです。
 九五年以降、少しずつではありますけれども、非物は右肩上がり、物は右肩下がりになっておるわけです。国民生活消費というものがそういうふうに変わってきておることについては、まことに私は、何か目に見えない神の手が動いておるのか、あるいは人間の本能回帰とでもいうべき動きが九五年からは始まってきておるのではないかというふうに思います。
 一応それをベースにして、観光産業という問題について触れてみたいと思います。
 今、なぜ観光産業なのかということでありますけれども、まず現状を申し上げますと、二〇〇一年に外に出ていっておる人は千六百二十二万人、入ってくる人は逆に四百七十七万人。現在のところ、入り込み客のランキングでいきますと、日本は世界で三十五、六位というすこぶるつきの観光貧国でございます。出ていっておるのはベストテンに入っておるのですけれども。
 この結果、貿易収支風に言いますと、圧倒的輸入超過なんです、これは。そして、その実額は、三兆円とも四兆円とも赤字であるというふうに計算されております。現在の国際収支が六兆円内外でございますから、この方はだんだん見通しが立たなくなってきておる現状からすれば、観光産業の輸出入のアンバランスをせめてイーブンぐらいにしておかないと、国家経営の基幹にかかわるような問題になる可能性があるということでございます。
 このように、なぜ観光貧国になったかという原因でありますけれども、一つは、大変経済成長が進みまして、貿易黒字がどんどんどんどんたまってまいりました。いろいろな貿易摩擦が出てまいりました。ついにはプラザ合意というようなところまで進むわけですけれども、それでもなかなか黒字が減らない。したがって、外へ出ることについて、外でお金を使うことについてはむしろ奨励的、そして、内に入ってくる方々はむしろ消極的というような姿勢が底辺の一つにあった。
 それから、日本人が古来から持っておりますマインドとして、たかが物見遊山という考え方がありますけれども、そういうものも災いしておる。したがって、国及び自治体、それから経済界ひっくるめまして、観光産業というものに対する格付が低過ぎる、まずそれが第一番の理由であります。
 第二番の理由は、メニューに偏りがある。日本は歴史的古都遺産を大変たくさん持っております。ですが、どうもこれにおぶさり過ぎた。海外から来る人々は、歴史的古都遺産だけを見たいのか。そうじゃない。すばらしい都市の魅力にも触れてみたい、あるいはすばらしい自然景観にも触れてみたい、そういうところのメニューの開発あるいはPRというものが行き届いていなかった、こういう問題がその理由として挙げられるわけであります。
 格付が低いということについては、実は国の予算の問題というのも大変大きなかせになっております。
 例えば、二〇〇〇年の韓国の観光予算、二百七十八億円。それから台湾が百五十九億円。シンガポールが百五十七億円。それに対しまして我が国のそれは、当時の運輸省の三十八億円。これじゃ勝負にならないということがあります。ぜひひとつその辺のところを御検討賜りたいものであります。
 それで、可能性でありますけれども、可能性は随分あるんです。WTOです。ワールド・ツーリズム・オーガニゼーションという機関が発表しております世界のGDPに対する観光産業の割合は一一%と出ております。これは、例えばハワイとかグアムとかというような島嶼国は、もう五〇%ぐらいいっておるわけですね、これはおわかりいただけるとおり。日本の場合は、比較的ストックに恵まれておりますから平均値よりは上をいくだろう、私は一五%ぐらいというふうに考えていいんじゃないかと。そうしますと、五百兆の一五%、七十五兆円でございます。現在のそれは、国内産業もひっくるめまして二十兆、つまり五十五兆の期待値がここにあるということなんですね。
 マーケティングの原則からしますと、期待値のあるところへ向かって大いに走るというのが最も効率のいい作業であります。ここへ向かって走ろうではないか、こういうことでありますが、七十五兆というのは一体どれぐらいのものかということですが、二〇〇五年あたりのIT産業の規模、これが七十五兆円ぐらいになります。したがって、二十一世紀をリードしていく産業群の明らかに両輪になる可能性があるというのが観光産業だというふうに考えてよろしいかと思います。
 それで、その対策ということになりますけれども、先ほども申し上げましたように、格付をとにかく変えなきゃいけないというようなこと。それから、我が国には観光部しかございませんが、中国は、改革・開放以来、国家観光産業局というものをつくってしゃかりきにやってきた結果、何と二〇〇一年には三千万人を突破いたしまして、イギリスを抜いて世界第五位になっております。
 ちなみに、第一位はフランスの七千八百万人ぐらい。人口よりも多い数が、あそこは五千八百万人ぐらいですから、人口よりも多いお客さんが来ておる。だから、このエネルギーでフランスは威張っておれるということになるわけであります。二位がスペイン。これも四千六百万人ぐらい来ております。三位がアメリカ、四千万台。そして、四位がイタリアの三千五、六百万台。そして、イギリスが五位だったんですが、中国についに抜かれた、こういうことであります。
 したがって、何としてもまずお国に局をつくっていただきたい。それから、担当の大臣も決めていただきたい。それから、予算も近隣諸国に負けない程度には、せめて負けない程度には早目に調えていただきたい。それで、内閣の中に観光産業の戦略会議もおっ立ててもらいたいというようなことを、十一月の十九日に、関経連ほか関西の経済五団体でもって緊急提言という格好で実は御提出をしてございますが、そのほかにも、先ほど申し上げましたメニューの問題、これも考えなきゃいけない。
 ですから、メニューにはいろいろございますけれども、都市の魅力というのは、食い物それからショッピング、ファッション、おしゃれ、そしてエンターテインメント、何よりも安全が担保されておるということが大事であります。もう一つ、やはり自然景観。日本はすばらしい自然景観を持っております。これをストックとして活用していない。ここのところを大いに活用したい。
 最後に、時間がありませんので、その持つ意味でありますけれども、日本の少子化傾向に対応するために婦人の労働力、あるいは年長者、高齢者の社会参加、あるいは外人労働力の強化、規制緩和、こういうことをやらなきゃいけませんけれども、それでは追っつかない。流入人口で当面は賄わなきゃしようがない。ぜひこれをやっていきたい。それから、産業のソフト化ということで、何といっても観光産業というのは労働集約型の産業でありますから、必ずや雇用創出機会が大いにあるという期待がございます。
 その辺をひっくるめまして、私は、中国が改革・開放のときに唱えたコンセプト三つをそのまま日本に持ってきたい。一つは、公害のない産業である。二番目は、貿易収支の赤字補てんに役に立つ。三番目、世界の人々に接することによって中国人のマナーが上がり、やがて尊敬を受ける民になるであろう。こういうコンセプトを持ってこの観光産業に本気になって取り組んでいただく時期がもう来た。幸いにして、ようやく小泉内閣も動き始めていただいたし、ビジット・ジャパン・キャンペーンも動き始めようというところでございますので、ぜひこの勢いを盛り上げていただきたい、かように考えておるわけでございます。
 ちょっとオーバーしました、済みません。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
 次に、侘美公述人にお願いいたします。
侘美公述人 御紹介にあずかりました侘美でございます。現在は、立正大学経済学部で教鞭をとっております。
 きょうは、特にデフレ問題、デフレ対策に焦点を絞ってお話ししてみたいと思います。
 特に私が大変気になっております点は、デフレとかデフレ対策を論じるときに、デフレは何か一種類のもので、非常に簡単なもののようにデフレを考えていらっしゃる方が多い。一般のエコノミストも含めてそうであるというふうに思っております。ところが、デフレにはいろいろなものがございます。特にその中には、歴史を見ると三種類のものがございます。
 きょうお配りいたしました私の資料はただ一枚でございますが、その資料の一番左側に「資料A デフレの三種類」というのを書いてございます。その第一の型は通常のデフレでございまして、これは第一次大戦前の景気後退に必ずあらわれたデフレであります。それから第二は、構造的デフレでございます。これは、その典型が十九世紀の末、一八七三年から九六年のイギリスにあらわれた大不況でございます。そして第三番目が、悪質なデフレ、これをデフレスパイラルとも言うわけですが、これは一九二九年から三三年のアメリカ大恐慌で初めてあらわれたものでございます。このデフレはそれぞれ内容が異なり種類が違います。だから、それに対する対策もそれぞれ違うということが極めて重要であるというふうに考えております。そのことを少しずつお話ししてまいります。
 まず、この同じ資料の下に「資料B 世界の卸売り物価指数」というグラフがございます。これは学生に講義をするときにいつも使うもので、それを皆様にお見せして大変恐縮でございますけれども、一八二〇年代から一九九〇年代、最近ごろまでの世界の卸売物価指数をグラフにしたものであります。ちょうど真ん中あたりが第一次大戦になりますが、第一次大戦前はイギリスの卸売物価指数をとってあります。それから第一次大戦以後はアメリカの卸売物価指数をとり、それを結んであります。
 これを見るとぱっとわかりますが、第一次大戦以前には、物価は絶えず上がったり下がったりしている。それを何度も繰り返している。ただし、一八七三年から九六年までの間は、長期に物価が下がっている。先ほど申しました、これが構造的デフレ、イギリス大不況のときでございます。しかし、その中でも循環的に上がったり下がったりしています。それがまた二十世紀に入って、上がったり下がったりしながらだんだん回復してもとの一〇〇の水準に戻った。
 ところが、両大戦間期には、戦争によって激しいインフレが起こったこともありますが、この物価変動が極めて激しくなりました。激しく上昇し、激しく下落しました。一九二〇年恐慌、そして二九年恐慌のように、激しい物価下落、デフレが生じました。ところが第二次大戦後は、ぱっとごらんになっておわかりだと思いますが、特に五〇年代以後、物価は上昇し続けている、事実上デフレは姿を消していったというのが大きな物価変動でございます。
 それでは、この第一次大戦前の循環的にあらわれた通常のデフレ、好況期には物価が上昇し、景気が悪化すると物価が下がる、そのようなデフレはなぜ簡単に解消できたかということを御説明いたします。
 それは、この資料Cに「通常のデフレとデフレスパイラルの違い」というのを簡単に図示いたしました。まず、景気後退が起こり、物価が下落します。そうすると、それは基本的には投資条件の改善に向かいます。なぜかというと、原料価格が下落します。そこに、ちょっと斜め横に書いてありますが、原料の価格が下がる、賃金が下がる。このことは当然投資すれば利益が上がるということになるわけですから、弱小企業はもちろん景気後退で整理されますから、残った強い企業が生産性を上げるような投資を行う。そうすると、投資が拡大し、生産も増大し、雇用もふえ、需要も増大するので、景気が回復し、物価は上昇する。このデフレは、比較的簡単に解消しました。しかも当時は、第一次大戦前はほとんど景気政策がありません。景気政策がなくても、経済の自律的な動きで回復したということになるわけです。
 ところが、一九二九年恐慌にあらわれた史上最初の悪質なデフレ、デフレスパイラルというのは、これと根本的に違う点があるわけです。それは、その下にデフレスパイラルの図を書きました。景気後退が起こり、物価が下落します。そうすると、通常は投資条件が改善されるんですが、逆に悪化してしまう。
 それはなぜかというと、そこにちょっと斜めに書きましたが、当時、アメリカには既に寡占的商品があって、寡占的商品の価格はなかなか下がらなかった。大企業では操業率がそのために急激に悪化させる、生産縮小を行った。そして同時に、賃金の下方硬直性がある。このために、物価が下がりますから、実質賃金が猛烈に上がってしまう。だから、それが生産性の上昇率を超えてしまうから、投資条件が悪化してしまう。需要が減少して、投資需要が減少するだけでなくて、投資すればするほど利益が下がってしまう。投資条件の悪化が生じます。だから、投資は縮小せざるを得ない、激しく縮小する。そうすると、それが生産縮小、失業増加、需要減少を伴って、さらに景気後退がある、そしてさらに物価が下落するというわけで、これでぐるぐるぐるぐると回ってくる。これがデフレスパイラルであるわけです。
 二九年恐慌においては、アメリカの粗投資、総投資はマイナスになるというほど投資は大縮小しました。アメリカ大恐慌の基本的原因は、総投資の壊滅にあったわけです。株価の下落等は付随的な問題であるということが重要なんです。そして、激しい銀行恐慌が起きましたが、それもデフレスパイラルによって生産が縮小し、所得が減少し、経営が悪化した結果でありまして、金融恐慌もデフレスパイラルの結果であったということが重要であります。
 ですから、デフレスパイラルの基本的原因は、金融的原因にあるのではないんです。実体経済の縮小と物価の下落との悪循環なんです。金融は、促進的、補足的な原因にすぎないということが重要なんです。この点がかなり一般には誤解されているのではないかというふうに思います。そうすると、景気対策もどうしたらいいかということが、当然国によって違ってくることになります。
 それから、構造的デフレについてちょっと説明しておきますが、これは余り多くの人が語っておりませんので、実は詳しく話すと時間がかかってしまいますので、ごく簡単に行いますけれども、一八七三年から九六年、長期の物価下落の基本的原因はイギリスの産業蓄積にありました。特に、鉄鋼業にありました。それは、鉄鋼業ではそれ以前は錬鉄が主体だった、そこに鋼鉄が出てきた、その二つの、錬鉄企業、鋼鉄企業との間の競争が猛烈にあった。そこで生産過剰が生じ、その二つの競合体制をどうするかというまさに構造問題が基本的な原因でありました。
 それにプラスして、実は現在の日本と似ているわけなんですけれども、当時、アメリカでは、七〇年代、八〇年代に大鉄道ブームが起きました。西部の開発が起こりました。したがって、西部の安い農産物が東海岸に送られて、それがヨーロッパに大量に輸出されたわけです。したがって、それがイギリスに、そしてヨーロッパに入ってきて、農産物価格の激しい下落、これが当時の大不況を農業不況にしたその最大の原因であります。ですから、イギリスの中の過剰生産にプラスして、農産物価格の下落があったということになります。
 ただし、ここで、余り言われておりませんけれども、イギリスとアメリカの間は、金本位制ですから固定相場です。ところが、ヨーロッパの多くは、当時は銀本位制でした。銀は当時、この二十数年の間にどんどん価格は下落していきました。実は、銀価格が下落した、通貨価値が下落したんです。したがって、ヨーロッパにおいては、一種の変動相場制だった、だから、ヨーロッパにおける農業不況の影響はイギリスに比べると小さかったんです。農産物が大量に入ってきた直接の影響は、イギリスを直撃したんです。ですから、イギリスの大不況なんです。
 これをイギリスが回復するまでには、鉄鋼業の競争体制の再整備が行われた、それに二十数年かかったんです。そして、農業の多くはつぶれましたけれども、その農業は、高級農業に、そして牧畜業に転換しました。これにも二十数年かかりました。そして、十九世紀末にもう一つ、実は国際金本位制が成立するということが加わるわけですが、それが加わって、やっと物価が上昇に転じた。まさに構造的デフレの典型であります。
 ところが、重要なことは、その当時、イギリスに入ってきたアメリカの商品、輸入は大体GNPの八%ぐらいです。現在、中国から安い商品が入ってきて、これが構造デフレの原因だと大勢の人は言われておりますが、大体GDPの二%も超えておりません、二%以下であります。その影響を比べたら、はるかに差があります。しかも、中国には問題がありますが、変動相場制です。
 ですから、構造的デフレによって日本のデフレが起こっている、それが主要原因、構造的デフレが主要原因であると言うのは、私は間違っていると思います。それは、構造デフレは、日本のデフレ要因を促進しているだけだ、促進要因にすぎない。したがって、構造問題によってはこのデフレに対処できないということも、同時に含まれているということになるわけであります。
 これが三つのデフレについての主な説明でございますが、現在の日本は、私は何度もいろいろなところで書いているわけですけれども、日本のデフレは、事実上、九七年以後、デフレスパイラルの状態に入っている。それは、先ほどのこのグラフで言いました、投資条件が悪化して、投資意欲が猛烈に縮小してしまっている、それが実体経済を縮小し、さらに物価下落に結びつくという悪循環が起こっています。
 多くの人は、デフレスパイラルというのは、二九年の大恐慌のときのような激しい現象が起きないとデフレスパイラルではないと言っておりますが、それは間違いです。当時のアメリカにおいては、景気政策はほとんどありません。財政政策はごくわずかです。そして、金融政策は金利政策だけです。公開市場操作はありますけれども、ほとんど景気政策というものはなかったんです。それが大々的にできたのは、大恐慌以後、三三年から三四年、ニューディール政策というのができたわけですから、何の景気政策もないに近いわけです。
 ですから、現在の日本でも先進諸国でも、もちろん大きな財政支出がある、そして金融的セーフティーネットがあるのですから、デフレ現象は緩やかにしか進まない、緩やかにしか進まないが、しかし、本質は日本はデフレスパイラル、悪質なデフレであるということを理解すべきであるというふうに考えております。
 問題は、その場合大変難しいのは、このとき、通常の経済政策はほとんど効果を発揮しなくなるということになります。それは、通常的な金融政策は金融を緩和しますけれども、それが企業の貸し付けに向かわない。先ほどの加藤さんのお話のように、日銀当座預金はヘドロのように沈殿してしまっていて、それは、結局この余裕資金は企業の貸し付けには向かわない。なぜならば、投資が減少して、投資意欲がなくなって、投資条件が悪化しているから。
 それから、財政支出を行っても、それは一時的な効果は必ずあります、需要を拡大するわけで一時効果はありますが、しかし、連鎖的に企業の設備投資拡大には向かわない、いわゆるケインズの乗数効果は生まれない。ですから、一時的な効果しか持たない。ですから、旧来の通常の経済政策はほとんど無効化してしまっているということになるわけです。
 それから、もう一つよく言われる現象は、デフレやインフレは貨幣的現象である、要するに金融的現象であるという理論がアメリカ経済学を席巻しておりますし、日本の経済学界をも席巻しておると私は思っておりますが、これは大変に問題があるというふうに思っております。
 インフレもデフレも貨幣量とは問題があります。しかし、どちらが因果を決定した、実体経済と貨幣量とどちらが因果関係にあるかというと、貨幣量をふやすから実体経済が大きくなる場合もありますが、実体経済がふえるから貨幣量がふえるという因果関係もあるんです。ですから、ただ貨幣量だけで物価は、デフレ、インフレの場合でも決定できるわけではないのです。
 特にデフレの場合はそうでありまして、デフレスパイラルのときには、特に大恐慌のときの実証研究、私はそれが専門なんですが、すれば、当時、実はアメリカ連銀はかなりの金融緩和を行ったんですが、実は実体経済は拡大しなかった、貸し付けはふえなかった、むしろ貸し付け量は減少していった、貨幣量は縮小してしまったんです。ただ、フリードマンは、貨幣量が縮小したことが原因で金融恐慌が起こった、こういうふうに言っている、大恐慌が起こったと言っているわけですが、それは本末転倒の理論だというふうに思っております。だから、現在の日本のデフレ問題を解決するのに金融にウエートを置いて考えるのは私は間違っていると思っております。
 ですから、重要なことは、単にデフレをインフレに変えることじゃないんです。インフレに変えるということは、それと同時に、経済実体をいかに拡大するか、特に設備投資をいかに拡大するか、そのためにどういう政策を行うか、それに並行してインフレになっても構わない。インフレを起こすことが目標ではなくて、いかにしてデフレスパイラルから抜け出して実体経済をいかにふやすかということが経済政策の重要なポイントにならなければならないというふうに思っております。
 それで、実はエコノミストの間に多くの誤解があるので、一つお話ししておきますと、そのための資料が、資料D、右の上のグラフでございます。これは、アメリカの工業生産の長期趨勢からの変化率というものをグラフにしたものであります。
 一九二〇年から一九九〇年ごろまででありますが、ぱっと見てすぐわかりますね、大恐慌のとき異常な下落がありました、異常に縮小しました。そして、ニューディールがいろいろな政策を行いました。ちょっと景気がよくなってもなかなかよくならない、と思ったその瞬間、三七年恐慌の激しい恐慌が起こって、小さい字でリアーマメントと書いてありますが、再軍備が始まる直前に猛烈に経済がもとへ戻ってしまった。ニューディールによっては全くと言っていいほど景気は回復しなかったんです。
 アメリカの高度成長というと、多くの人は一九六〇年代を指します。このグラフで六〇年代を見てください。ベトナムウオーと書いてあるあたりが六五年あたりですから、それがかなり上に上がって、六〇年代に確かにかなりの成長をしております。確かに戦後一番成長したときであります。ところが、ぱっと一目見てもわかりますね、この戦時中の経済こそ、アメリカの大高度成長、アメリカの歴史上大高度成長の時代であったわけです。ここで何が行われたかということが大変重要であります。
 多くは、軍事経済は統制経済だと思っておりますが、実は統制経済の前、三九年から一九四一年十二月、日本に参戦するまでの間を普通、準戦時経済体制といいますが、このときに既にアメリカは完全雇用を達し、高度経済成長に入ったんです。そのときの経済は、民間の企業の勢いを尊重しながらも猛烈な財政支出を行った。しかし、財政支出を行うだけではなくて、その財政支出は、生産性の上昇、そして研究開発、そこに重点的に、もちろんこれは戦時のためですから軍事産業中心ですけれども、生産性のほかに設備投資をふやす、その財政支出を大規模に、大体GDP三〇%ぐらいですが、戦時中ですから当然ですけれども、それが多くなる。
 だから、ケインズ政策のように、需給ギャップがあって、その需給ギャップを埋めるためにただ財政支出をやればいいというのではないのです。それは、やれば、ケインズの言うように、どこか宝物を土地に埋めて、そして掘り出せば、それでも需要がよくなるというのがケインズ政策なんですが、本当にデフレスパイラルから抜け出すためには、設備投資をいかにふやすか、生産性をいかに上昇させるか、研究開発をいかに促進するか、それをいかに政府が援助して民間企業の発展を導くか、こういう財政支出を大規模に行わなければデフレスパイラルから解消しないというのが私の考えであります。
 まだ十分にいろいろなことはお話しできませんでしたが、ちょっとこれで一応お話を終えることにいたします。(拍手)
藤井委員長 ありがとうございました。
    ―――――――――――――
藤井委員長 これより公述人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。宮本一三君。
宮本委員 自由民主党の宮本一三でございます。
 きょうは、四人の公述人のすばらしい御高説を聞かせていただきまして、非常にありがたく存じております。我々の国政にいろいろな面で参考になる御意見でございますし、十分消化しながら参考にさせていただきたいというふうに思っております。
 つきましては、本当にいろいろありがたい御意見をちょうだいいたしました。その中で、今私が感じたことで各先生方に御質問させていただきたいと思うわけですけれども、まず最初に、水野先生、非常に税制に精通されておる先生でございますし、すばらしい御意見を聞かせていただきました。
 特に御意見の中でも、法人税の一般的な引き下げ、これも景気刺激策としてはもちろん効果はあるだろうけれども、やはり現在のこの水準から見て、そう引き下げが継続できるわけではないし、むしろ選択的に、そして特に投資、研究開発等の減税、これが非常に有効であるというふうな御示唆がございました。それともう一つ、贈与税についての減税措置についても評価をしていただいたと思います。
 私たちもいろいろな面で、税制の改正に当たっても、そういった先生方の御意見を十分踏まえながら作業をしてきたというふうに思うわけでございますけれども、このたびの税制改正を全体として見ていただきまして、先生、証券税制の改正も含めて、これでかなり景気を刺激する効果が出た、出せるというふうな評価でございましょうか、お伺いします。
水野公述人 水野でございます。今の先生の御質問にお答えさせていただきます。
 ちょうど、ほかの方のお話をかりるようで恐縮ですけれども、最後に侘美先生おっしゃいましたように、今のデフレスパイラルは、非常に経済そのものが縮んでしまっている。そういうことから考えますと、今年度といいますか、平成十五年度改正のための研究開発減税、それから設備投資減税、これは従来の法人税率引き下げに対して新しい処方せんですが、いわゆる経済に活性化を与える、そういう意味で何らかのプラス効果を持つのではないかと私は期待しております。
 恐れ入りました。
宮本委員 何らかの効果を持つのではないかという評価なんですけれども、実際にその作業をやってきた者にとってみますと、もうちょっと評価をしてくれるかなという期待を実は持っておったわけでございますが、それは当然効果はあると思うんですが、我々としても、その点をよくわきまえながら頑張っていきたいと思います。
 それから、消費税の問題について、特に先生の方からは詳しく御説明なかったんですけれども、将来の日本の税制を考える過程で、消費税は、ある意味では避けて通れない、もう少し上げざるを得ないだろうという感じがするんでございますけれども、先生自身はこれについてどんな考え方を持っておられますか。
水野公述人 お答えさせていただきます。
 先ほどの質問に対してでまことに恐縮ですが、先生おっしゃった、ちょっと誤解といいますか、少し言い方が弱かったようですが、研究開発減税、これは非常に効果的な作用を及ぼしてくれるものと私も期待しております。特に、経済の活性化、新しい、新規事業等に対して、そのような手法によって経済を大きくしていく、そういう意味を持っているものではないかと思っております。ということですから、決して先生、がっかりなさらないようにお願いします。
 それから、今の、いただきました御質問、消費税ですが、これはよくお話にありますように、ヨーロッパ社会は既にそうなっておりますが、我が国でも消費税、世代間の公平と申しますか、広く薄くということで、先行き消費税への依存が高まっていくことは、これは必然、必須の方向であると思っております。
 ただ、具体的にどうするかという問題でございますけれども、何分七百兆円の赤字を抱えている、それの埋め合わせのために消費税をということですと、非常に将来が見えないことになってしまいます。例えば家計の場合ですと、家を購入すると、確かに自分の所得の十倍もの借金を背負うわけですけれども、それを何十年かけてこういうふうに支払いをするという計画を立てるわけです。ですから、消費税の税率引き上げにつきましても、やはりある程度中期、長期の見通しを立てた上で税率の引き上げを考えるということが必要ではないかと思っております。
 ただ、この場合に、例えば一〇%を超えたりすることが考えられますけれども、副作用としてどうしても、一般の国民の生活用品に税金が及んでくる。現在五%ですけれども、これが一〇%、一五%になりますと、生活必需品、食料品、衣料といったような問題ですが、さてこれに対して、非常に国民の生活に負担が出てまいります。
 そこで考えられるのが、前から話ありますけれども、税額票といったものをきちんと表示する、あるいはそれによって非課税の商品などもふやしていくということですけれども、消費税を研究している者からしますと、こういう特例を設けるということは、率直に申しまして消費税を自滅させるような形になってしまう、かつての物品税のようなものに戻ってしまうような危惧を覚えるわけです。
 ということですので、税率を引き上げていく場合には、まず一つには、やはり、かなり長期的な展望の上に税率の引き上げを考えていくということが大切であろう。それから第二に、その場合に、国民の、特に生活必需品にかかる消費税の負担をどうするのか。場合によっては私、まあこれはちょっと乱暴ですけれども、所得税の方からその分を税額控除として差し引くような形を採用する、それによって現在の消費税の仕組みが今度は崩れないようなことを考えていただきたい、このように思っております。
 失礼いたしました。
宮本委員 ありがとうございました。
 それでは、加藤公述人にお伺いします。
 話を聞いておりまして、非常に驚くようないろいろなアイデアがありました。一口で言うと、マネタリーベース、これが少々ふえたぐらいではインフレにはならないよということを実証していただきましたし、また、物価対策としてETFを買うなんというのは冗談じゃないよといったような感じの表現だったと、一言でいえば言えると思うんですが、そういう意味で、金融政策がそれほど効果がないということを非常に強く言われたんですが、財政出動でやらざるを得ないと思うんですけれども、これは、国債がこれ以上どんどんどんどんたまってくることに対する金融面からの心配、それはどんな感じでしょうか。
加藤公述人 加藤でございます。
 当面ですと、少々国債発行がふえても、多分金融市場の方は需給的にはこなせるんだろうと思うんですが、ただ、財政政策の方針が大転換して公共事業の大幅拡大という方向になってくると、もう一度債券市場の方では、はっきりとした方向転換が示されると、一度ショックが起きるんだろうと思います。何分、今〇・八%台、あるいはきょう〇・七台にまた十年金利が下がっていますけれども、ここまで下がってしまっていますので、その大幅な方針の転換の場合は、長期金利が一度ショックを受けて上昇を始めるということは十分考えられると思います。
宮本委員 どうもありがとうございました。
藤井委員長 次に、赤羽一嘉君。
赤羽委員 公明党の赤羽一嘉でございます。
 四人の公述人の皆様におかれましては、大変御多忙の中、本委員会に御足労いただき、また貴重な御意見を賜りましたこと、まず心から感謝を申し上げる次第でございます。
 今、公述人の皆様のお話を伺っておりまして、まさにデフレスパイラルと言われるような深刻な今の状況の中で、これを打開するためには、まさに実体経済をいかに復活させていくのかといったことにキーポイントがあるといった侘美先生の御指摘、また加藤さんからも、今の日本のデフレは複合的な要因があって、それぞれについてしっかりした対策をとらなければなかなか脱却できないとか、あと水野先生からも、今宮本先生からお話ございましたように、単なる法人税だけではなくて、やはりインセンティブを与えて経済に活力を与えていくような税制に持っていかなければなかなかこの今の状況を脱却できないという御指摘があったというふうに理解をいたしました。また、そのために、今、そういった御指摘の中で、今回の政府・与党における税制改正はそれの方向に資するものではないかというふうに、そう確信をしたところでございます。
 その中で、山下公述人からお話がございました、要するに、実体経済といっても、なかなか経済を立て直すという非常に難しい中で、今の日本の現状、山下公述人の御指摘にもございましたが、人口の減少傾向やら産業の空洞化、物離れの時代の中でどうやって立て直すのかといった場合に、地域を活性化してにぎわいを取り戻すために、従来の製造業を立て直すといったことに加えて、それとは別に、新しい発想に基づいて国際観光業というものを育てていくということが大事なんだという御指摘は、私自身、また我が党の考え方にも大変即したものでございます。
 この旅行業というか観光業というのは、多分すごくすそ野が広くて、いわゆる旅行業の皆さん、また、航空業界、鉄道業界、また、旅館業界とか、また、物品なんかの販売なんかでいきますと商業とか、大変な雇用の広がりというかすそ野の広がりが大きくて、先ほど七十五兆円の経済規模の期待があるというような御指摘もありましたが、日本の中での内輪の試算でも、十数兆円の経済波及効果と百五十万人の雇用創出の期待がある、こういった数値も出しております。
 結構こういった数字は夢のような、何というか、バラ色の数字が出ているんですが、じゃ、実際何ができるのかというと、非常に、先ほど御指摘にもありましたように、国家予算八十兆円の中の三十六億円みたいな話でございますし、かつての行革の中で、観光局も、一つの省で一つの局をつぶせという号令のもとに観光局がいけにえになるような状況の中で、じゃ、実際公的なセクターが何ができるのかということで、非常に暗中模索のような状況なんじゃないかと思います。
 今回、ビジット・ジャパンのためのということでまとまった数十億の単位ですが、初めて予算がついた中で、そういったものをどう使っていくのかというのは、国土交通省としても大変な試行錯誤があると思いますが、この観光業を盛り上げていくためにどのようなことが公的セクターでできるのかということの御示唆があれば、御意見をいただければというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。
山下公述人 観光業というのは、二〇二〇年には恐らく観光ビッグバンが起きるだろう、こう言われておりまして、世界じゅうで動く人の人数は十六億人というのが既に報告が出ております。現在は六億人ぐらいが動いておるわけですが、二〇一〇年あたりで大体十億人ぐらい動く。とりあえず、我が国のウェルカムプランでは、二〇一〇年に一千万人の人を呼ぼうよというかけ声は既に出ているわけです。
 実は、さっき時間があれで申し上げなかったんですが、一千万人の人が来るということはどういう経済効果かといいますと、これは計算式がややこしいので省きますけれども、一千万人のお客さんが来るということは、二百万人人口がふえたのと一緒という理屈になるわけです。フランスは五千八百万人ですけれども、八千万人来ておるとすると、八、二、十六の千六百万人人口が多いのと一緒。つまり、実高は七千四百万人の人口を持っているエネルギーがあるわけですね。
 そういうところに向かって今どういうふうに走っていくかということについては、さっきも申し上げましたように、まず国が動き始めれば必ず自治体が動きますよ、自治体が動き始めれば経済界が動き始めますよということであります。経済界は、既にナノとかあるいはバイオとかというものについては、自社の業容拡大について大変勉強しております。だけれども、期待値としては、観光集客産業の方が多いんですね。ですから、こちらの辺にもうちょっとシフトをしていく。今もう曲がり角に来ているところだと思うんです。ある程度その臨界点に達するような仕組みを、まずはお国の姿勢で出していただくということが大事だというふうに思っておりますので、わいわい申し上げておるわけでありまして。
 では、とりあえずのビジットキャンペーンは、今はPR。とにかく、韓国と中国、香港を含めて、台湾、それからマレーシア、シンガポール、それから北米、このあたりが一番たくさん来てくれておりますので、その地域に向けての日本キャンペーンを展開しようという形で作業が行われるわけでありますけれども、もう少しやらなければならないことは、キャンペーンも大事だけれども、キャンペーンにふさわしい中身をどういうふうにつくっていくか。
 都市の魅力についても、町のつくり方をどう考えるか。ショッピングという問題一つ取り上げてみましても、値ごろ感があって品ぞろえがいいというだけではショッピングにならないんですね。買いやすさというところがあるわけです。だから、地図を片手にぶらぶら探しまくらなければいけないようなことではいけないわけでありまして、それなりの町づくりというものも、そういう配慮したような格好でやはりやっていかなければならない。つまり、名実ともにPRをするにふさわしいような中身をこしらえていかなければならない。
 自然環境については、我々は大変恵まれておりますけれども、ほとんど手がついていない。ですからとりあえずは、私は関西におりますので関西という広域圏の、すばらしいガーデンアイランドの池であるという認識に立って、瀬戸内海を大いに観光の材料として打ち出そうということで、もう具体的に関西は動きかけておりまして、そういうものをまた支援していただく。
 ですから、いろいろな地域でいろいろ起こっておる事柄をやはり国土庁を中心に吸い上げていただいて、どこにどういうふうな力と知恵を出したらいいかというところをきちっと認識をして、分析をして、そして満遍なくじゃなくて、重点的にプライオリティーを持った施策を実行していただくということが私は大事だと思うんです。お国の考え方というのは、えてして満遍なく、広く浅くというようなことがよく行われるように思いますけれども、この際はやはり重点的に、プライオリティーもちゃんと決めて、そしてお金も持ってやっていく。広く浅くでは今はだめなんじゃないか。
 今はとりあえずは、やはり重点的にどこを目がけて、どういうものを売り込んでいくか、それには地域の動きがどうなんだということをきちっと見きわめていただいて、そして司令塔を一本にして頑張っていただきたい。
 関西はもう、司令塔を一本にしようということを既に、先日行われました関西財界セミナーにおきましてその論議が集約の中で出ておりまして、ぜひ一本化していきたいというふうにも思っておりますので、御協力をお願いしたい、こういうふうに思います。
赤羽委員 どうもありがとうございます。
 時間もなくなりましたので、もう終わりにいたしますが、まさに観光業といいますと、どうしても物見遊山という話があります。
 かつて、有珠山で大変な災害があった。観光業は大変なダメージを受けたんですが、観光業は民間だから、まず自分たちでやれ、田畑は国がやるというようなことに私も大変大きな矛盾を感じておりました。世界的にも誇れるような観光資源があそこにあるのに、もうちょっと公的なところが手を加えればすばらしく再生できるのにという残念な思いをしましたが、今の公述人の御意見を貴重な意見としながら、政治の世界でもリーダーシップをとれるように頑張ってまいりたいということを述べさせていただき、終了させていただきます。
 ありがとうございます。
藤井委員長 次に、井上喜一君。
井上(喜)委員 保守新党の井上喜一でございます。
 きょうは、公述人の皆さん方、お忙しいところをお出ましいただきまして、貴重な御意見をお聞かせいただきまして本当にありがとうございました。
 それでは、順次お伺いしたいと思うのでありますが、まず水野公述人からであります。
 平成十五年度の税制改正というのは幾つかのねらいがありますけれども、一番大きなねらいは、いかにデフレを脱却するか、いかに日本の経済を再生させるかというところに視点があったと思うんです。私は、公述人が言われますように法人税の引き下げが必要だというふうに考えておりまして、できれば法人税の引き下げをやった方がいいんじゃないかというようなことを言っておりましたが、結果的には実現しなかったのであります。
 公述人、大変控え目に言っておられまして、幾つかの指摘はありますけれども、どうもわかりにくいんですね。だから端的にわかりやすく、もうちょっとこういうことをすればデフレ克服の対策になるんじゃないか、そこをお聞かせいただきたいんです。
 例えば、法人税であれば何%ぐらいだとかありますね、それから贈与税のこともありまして、幾つかありますけれども、幾つかの税目につきまして、この程度のことをやった方がもっとよくなるんじゃないか、そんなことがありましたら、お聞かせいただきたいと思うんです。
水野公述人 水野でございます。
 非常に難しい御質問をいただきまして、これは解答があればなかなか苦労しないわけですが、一つには、今の我が国の現状ですと、減税をいたしますとその分が国債の方にはね返る、こういうような状況で、経済活性化という目的のために減税をいたしますと、その分国債に響いてくるということ、こういうつながりになってしまっておりますので、やはりどこかでキャップをつけなければいけない。少なくとも、昨年のような国債は三十兆円なり、そういう限度をつけた上で法人税について検討を加えるということが一つ必要ではないかと思っております。
 それから税率の引き下げというお話でございますけれども、わかりにくいというお話だったんですが、確かに、そもそも法人税というものは一体どこに負担がいくんだろうかということ、これが所得税に比べてみるとはっきりしていないということがございます。ですから、結果的には、三七・五%を数年で三〇%に下げたわけですが、常識的に見まして、七・五%下げれば相当これは活性化につながっていいはずですけれども、これがつながらないというのは、やはりその間に何かそのとおりいかないものがある。
 いわゆる法人の所得から納める税金が減るわけで、法人の所得は残りますけれども、それが直ちに活性化につながるような利用のされ方をしていないということですが、ここに何か私にもわからない、負担の行方がどこへいっているのか、いわゆる法人税がそもそもだれに負担されているのか、このあたりに関連しているのではないかと思っております。
 非常に抽象的で申しわけございませんけれども、今お答えできるのはこういうことでございます。
 ありがとうございました。
井上(喜)委員 加藤公述人と侘美公述人、いずれも、金融政策ではデフレ対策にはもう限界があるんだ、そういうお話は共通していたように思うのでありますけれども、そこで、これは侘美公述人にお伺いしたい、どちらでも結構なんです、まだ質問をされたことがありませんので、侘美公述人にお伺いしたいと思うのであります。
 片や国債の依存度というのは、平成十五年度予算でもう四四%になっているんですね。平成十六年度、来年度になりますと、恐らくこれは五〇%を超えるような国債依存度になるわけでありまして、財政的にはまさに危機的な状況まで来ていると思うんです。
 ということで、財政支出といいましても大変限界がある、限度がある、こういうことだと思うのでありますが、こういう財政の状況の中で財政支出を考えるとすれば、どういうような財政支出が有効なのか、この点をお聞かせいただきたいと思うんです。
侘美公述人 財政支出をするということは、現在、おっしゃったように大変な赤字があって、それをさらに赤字をふやすということになって、非常に危険性があると考えられるわけです。ところが、現在の不況が続けば続くほど財政の赤字がふえていくことは必然です、どうしても財政収入が減っていくわけですから。だから、財政支出をふやさなくても赤字はふえていくわけです、解消できないんです。
 ですから、この赤字を解消するためには、その前提として、財政支出から赤字が一時的にふえてもまず実体経済を立て直す、実体経済を回復するということを大規模にやらなければならない。その後で長期の計画として、アメリカが二十年かかって財政赤字をなくしていきました。ただ現在はまたふえておりますけれども、そのように、長期計画でその後どういうふうにやるかということを考えなければならない。しかし短期には、現在には、幸い日本は、外国人によって国債が買われているわけではなく、日本の貯蓄はまだあるわけですから、一時的に財政赤字がふえても、まず経済実体を立て直すべきだと考えます。
 そして、そのためには何かといいますと、私は、具体的になかなか申し上げられませんけれども、生産性の上昇、そして研究開発投資を促進するような部門に集中的に財政支出をやるべきであって、従来のような公共投資ではだめであると考えます。現在の公共投資では、これまたヘドロにくいを打ち込むような効果しか、一時的な効果しかない、そういうふうに考えております。
井上(喜)委員 最後に、山下公述人にお伺いしたいのであります。
 確かに、観光といいますのは、GDPを伸ばす上にも、あるいは雇用という点から見ましても、非常に大きな効果があるわけですね。そういう総論的なことは皆さん共通しているのでありますが、さて、さあ具体的にそれではどうするんだということになりますと、なかなか具体の有効なのが出てこない、こういうことなんですね。
 それで私、けさもある人からお聞きしたのでありますけれども、飛行場があったり、いろいろな交通機関があったり、ホテルがある、あるいは、観光でありますから、名所旧跡とかその他いろいろなものがあるわけでありますが、結局、それをうまくつないでいくノウハウですね、もちろんコストの問題もありますけれども、これがうまく働かないと、なかなか観光というのは現実のものとしてお客が来ないわけですね。
 伺いますと、例えば、日本で観光学部があるのは立教大学だけなんだそうですね。何にもない。アメリカなんかは物すごくあるというようなことだとか、さらに伺ったところでは、一種の見本市みたいなことをやっているみたいですね。つまり、観光を提供する側が、バイヤーを呼びまして宣伝をしている、予約をちょっととっていくようなことをやっているというんですね。アメリカの例はそうらしいんですけれども。日本もやはり具体的にそういうことをやっていきませんと、なかなか、観光という言葉は走りましても、実際にはついていかないわけですよね。
 私は、役所なんかに任せておいたって、これはだめだと思うんです。やはり民間が中心になりまして、そういうことを組織化していく、実行していく、ここが必要だと思うんですけれども、関西なんかはそういう感覚が非常にすぐれていると思うので、どうですか、関西ではそんなことができるのかどうか、ひとつ御意見をお聞かせいただきたいんです。
山下公述人 観光というのは、点だけじゃなくて、やはりどうサーキットを形成するかというのが非常に重要な問題なんですね。
 一例として、東北の三大祭り。あれは、実は、個々ばらばらにやっておりましたのを、あるときセットにしましたら、一週間のサーキットにおさめたら、集まる人が二・五倍になったんです。これは延べもありますけれども、お金を使うのは二・五倍ですから。
 ですから、やはりおっしゃるように、観光というのは、点だけじゃだめで、面としてどういうサーキットをこしらえるかということが非常に大事でありますし、また、非常にすぐれて個々の問題、どういうふうに具体的に動くかということが大事であります。
 関西で言っておりますのは、例えば食。大阪食い倒れなんか言いますけれども、もう、すし、たこ焼き、てんぷら、刺身、この定番ではあかんよ、とにかく、世界の人々が関西に行ってあれが食べたいというような、言ってみると、二十一世紀の新世界三大珍味ぐらいをメニューとして開発しようよというようなことを言っておるわけです。
 それは、例えばトリュフ、フォアグラ、キャビアというのは三大珍味と言われていますけれども、あれは、だれかが言い出して上手にプロパガンダした結果なんですね。ですから、今日のIT社会になれば、だれかが言い出してうまいものをこしらえてプロパガンダをすれば、前の三大珍味ほど、百年もかかりません、三年でいけると思うんですね。こういうことを具体的にやっていかないかぬ。サーキットについても、種も仕掛けもいろいろあると。
 例えば、関西の場合は、七月の二十日から八月の末までに何と五十数カ所で花火が二十五万発上がるんです。そのうちの、PLは十二万発でもって世界最大の花火なんですね。この原資をほとんど観光に今は使っていないんですね。ですから、こういうところ、既にあるものをどういうふうにしてアピールするかということもある。
 それから、さっき申し上げた瀬戸内海というのをどういうふうに、例えば瀬戸内海というのは、皆さん御承知と思うけれども、地中海よりも水はきれいだし、三千幾つもの島影が織りなす景観というのは最高だし、一つでも世界に誇れる長大橋が三つもかかっておる内海は、世界にどこにもありませんからね。なおかつ、サンセットがきれい。だから、要するに、本四架橋公団は大変ひいひい言っておるとそこばかりを見られておりますけれども、これを観光資源としてどう活用するかということを具体的に考えないかぬというところにもう今来ているんですね。
 ですから、そういうことを皆さんで一緒になって考えようじゃないかというのが、今提案をしておる最中でございます。
井上(喜)委員 どうもありがとうございました。
藤井委員長 次に、山田敏雅君。
山田(敏)委員 きょうは本当にありがとうございました。
 最初に、水野公述人にお伺いいたします。
 最初の一ページに、今度の予算案、税制改正案について述べておられますけれども、最初のところで積極的に評価をしたいと思うと書いていらっしゃるんですが、よくお聞きしてよく見ると、余り積極的な評価をしていらっしゃらないような印象を受けました。そこで、ちょっと二、三お伺いいたします。
 最初に、先生の御意見は、税を改正するときにどの程度その効果があるか、それを、予測を間違ったというか、効果を間違ったという例をたくさん今述べていただいたんですけれども、今回の事業税の外形標準化、これについて、非常に大きなインパクトあるいはマイナスの要因があるのではないかというふうに予測されますけれども、先生の御意見はいかがでしょうか。
水野公述人 水野でございます。
 先ほど宮本先生のときも、ちょっと評価が弱いというお話でおしかりをいただきましたのですが、山田先生の方からも、初めに言っている割には評価していないという、決してそういうことではございませんで、ただ、やはり税制の効果というのはなかなか予測するのが難しい、これは本当にそのとおりで、何度も挙げてございますけれども、法人税の税率を下げたにもかかわらずなかなか効果があらわれないということで、慎重にならざるを得ないということでございます。
 それで、本題になりますが、事業税の問題、これも随分長らく課題となってまいりましたが、積極的な面は、いわゆる公共団体がサービスを住民に提供いたしますけれども、住民はそのサービスを受益する大きさに応じて税金を負担すべきであると。これが、従来のように法人の所得を標準としますと余りはっきり出てこないわけですが、経済の規模という形でそれに対して課税をすることにすれば、大きな工場を持っている企業は大きな税金を納めることになりますし、個人ですと、個人は納めませんけれども、小さな企業ですと経済規模も小さいのでそれだけ負担も少ない、これが理念だと思います。
 ですから、これが実現されるということになりますと、ある意味で受益と負担といったものがかなり明確になってくる。積極的にサービスを受けているところはそれなりの負担をしていただきたい、こういうようなことではないかと思っております。
 ただ、マイナス面ですが、ややもすると私、マイナス面を強調するのが癖になってしまいますけれども、やはり、経済活動の規模というものと、今度課税の標準になりますが、付加価値といったもの、これとが本当にマッチするかどうか、そこを企業の方で納得して支払えるかどうかという問題ですね。やはり納税協力がありませんと税制というのはうまくいきませんので、ここにひとつ協力を得られるかどうかということでございます。
 と申しますのは、やはり一年やってみたところで従来の事業税の負担がどうなるか、大幅な減税を受ける企業が出てくる、他方で増税になるような企業が出たりすることがありますので、このあたりで混乱が生じなければよろしいがという心配はちょっと持っております。
 差し当たりこれで失礼いたします。
山田(敏)委員 現場の声を聞きますと、これは非常に大きな心理的な負担になるというふうに私は聞いております。先生の、税の効果というのは非常に心理的な面というか、そういうものも大きいんだということを言っておられましたけれども、これは大いに懸念する問題だと思います。
 そこで、もう一つですが、七百五十兆円に達する国公債による経済への影響を認識する必要があるということなんですが、具体的にどういうふうに経済に影響があると認識されておられますでしょうか。
水野公述人 水野でございます。
 今の御質問ですが、いわゆる減税というときには、減税の代替財源というときに、国債を頭に置いて議論されるわけですけれども、やはり国債の、国公債の負担、これを頭に置いた上で減税の議論をしなければいけないのではないかというのが私のお話でございまして、ややもすると、常識的に見て、この七百兆円を超える財政の赤字ですけれども、これが経済に及ぼしている影響というものをもう少し深刻に検討してみる必要があるのではないか、こういうことを言いたかったわけでございます。
 失礼いたしました。
山田(敏)委員 今年度の税制改革なんですけれども、贈与税と相続税を一体化して、特に住宅の振興を図ろう、こういうことでスタートいたしました。
 きのう私は、ある一戸建ての住宅メーカーさんの販売の会議に行ってまいりました。御存じのように、三千五百万円を贈与してもいいです、どうぞ家を建てて、こういうことでございますので、これによって今の一戸建ての住宅がふえましたか、どうですか、こういうことを第一線の営業の方にお聞きしました。答えは、全く影響ないと。今建てる人はこういうことで家を建てるんじゃない、一般的に、親子が断絶している、だから、親がやろうとかいうのじゃなくて、親と別れて独立してやろうという人が多いんだと。現実の数字として、住宅の需要がこれによってどんどん上がっていかないというのを現場で聞きました。
 そういう、税を改正して本当に効果があるのかどうか、これを慎重に見てやっていかなきゃいけないと思うんですが、先生の贈与税と相続税についての御意見をちょっとお聞きしたいと思います。
水野公述人 水野でございます。
 今の相続税と贈与税の一体化のお話、確かに、先生がお話しされていましたように、本来の目的は、これによって親から子供へと、親が子供の住宅資金などを出して、いわゆる財産の運用の形で典型的には住宅を促進するというような目的を持っておりました。
 それが伸びないというのは、まだこれは法律になっていませんけれども、伸びないというのはどういうことかということですけれども、またそこに税制の難しさが出てまいると思いますけれども、恐らくそのような、親から子供に高額の資金を贈与する、こういうことが可能な方はもう既に行っている。できない、いわゆる普通のサラリーマン、普通のサラリーマンと言うと失礼ですけれども、一般の国民にとりまして、これだけのお金を動かすということが、恐らく今現在のこういう経済情勢のもとでなかなか心配である。中には、お金を動かすということに対して、今度相続税、贈与税の仕組みが変わるということ、これを御存じなくて、何かお金を動かしたことによって税金をかけられるのではないか、そういう漠然とした不安というのを持っている方もあるかとは思いますけれども。
 いずれにしましても、これは六月に税制改正の公の説明が出ますので、その時点でどういうふうになるのか、ちょっと見たいと思いますけれども、今先生がおっしゃったように不動産会社の方で全然効果が出ていないというのは、少し残念なことでございます。
 失礼いたします。
山田(敏)委員 先生は、法人税率、これをいじっても余り、ほとんど効果がない、それよりは個人所得税の方が目に見えていろいろな精神的な意味というか意欲の面で影響があるんだということをおっしゃったわけですが、私は、個人所得税が非常に、累進性及び各種の特別控除が複雑怪奇、これを、フラット税制という考え方があるんですけれども、一律に一〇%にして各種の控除を全部なくしてしまうと非常にすっきり、そして働いた人が消費がふえるというような考え方があるんですが、これについてはいかがお考えでしょうか。
水野公述人 水野でございます。
 今先生がおっしゃったフラット税、比例税率と言っておりますけれども、確かにそういう税制というものは考えられるわけです。日本でも、我が国でもいわゆる富の格差というものがだんだん縮小してきている。こういう状況ですと、税率の刻みもだんだん少なくして、一つ、二つの税率で対応する。これも、そういうことは将来的に、近い将来あり得るのではないかと思いますが、私の頭の中では、基本的な負担というものは、これは先の話ですけれども、消費税というものが大体一般国民に乗りまして、それよりもさらに財産のある方について所得税というものが負担される、こういうような何か二層建ての仕組みに税制がなっていくのではないかと思っております。
 ですから、そういうようなことを考えておりますので、フラットの所得税というものは税制を簡素にするという意味で非常にメリットはありますし、ただ、そういうようなことが行われる場合には、やはり消費税との兼ね合い、これを議論した上で出てくるかなと思っております。
 失礼いたしました。
山田(敏)委員 先生は、私たちがちょっと若干誤解していたレーガノミックス、これについて明確に言っておられるんですけれども、投資減税とか超加速の償却というものは、それによって経済がよくなったわけではないということなんですが、今私たちが、この十五年度の税制改革、投資減税、設備投資減税というのを積極的に、いいものだということでやっておるわけですね。
 これは現実に、地元の銀行の支店長さんに話を聞きますと、こういうものでどんどん設備投資の需要が起きてくるのかと。今支店長さんの悩みは、銀行の仕事がない、要するに資金需要がないんだ、だれに貸すとか、貸せる人はもう要らないと言うし、貸せない人は貸してくれと言うし、もうほとんど銀行としての仕事がなくなっちゃったと。そういう、非常に投資に対して、設備投資は冷えた状況、ではこれに減税をやりますからどうぞと。投資そのものがほとんど冷え切っている状況で、こういう税制改革というのはいいのでしょうか、悪いのでしょうか。
水野公述人 水野でございます。
 今のお話も難しい問題ですが、結局、減税というのは所得がプラスの企業でなければ働かないということですね。損失を繰り延べるといった手段もありますけれども、プラスの所得が多ければ多いほど減税の効果も大きいということですので、今お話しのように、冷えている、銀行自体非常に、利回りは、いわゆる貸出金利と預金の金利との差は随分あると思いますけれども、銀行自体の収益がそれほど上がっていない、こういう状況を前提とすると、特にそういう業種につきましてはなかなか減税の効果というものを実感することができないのではないかなと思っております。
 失礼いたします。
山田(敏)委員 相続税についてちょっと御意見をお伺いしたいと思います。
 世界の流れの中で、相続税を廃止しようという動きが過去十年間続いております。十年前にオーストラリアは相続税を廃止いたしました。それに続いてニュージーランドも相続税を廃止した。カナダ、スイスは、一部、相続税のない国もございます。アジアの国も、相続税という考え方はございません。働いて所得を持って、そして所得税を払った後のお金は私有財産ですから、この私有財産に対してもう一回相続税を五〇%とか七〇%かけるという考え方はどうもよくない、これが世界の流れだと思います。ドイツもあと二年後に相続税を廃止しよう、アメリカも今から八年後にはゼロに持っていこう、こういうことでございます。
 この相続税を廃止するということが日本の社会や経済に非常に大きなインパクトを与えると思うんですが、その点についてお考えになったことはございますでしょうか。
水野公述人 水野でございます。
 今のお話ですが、さて贈与税については考えたことはございますが、相続税を廃止するということは考えたことがございません。
 ただ、オーストラリア、それからカナダもそうですけれども、いわゆる相続税を廃止している国が今度は所得税としてどうしているかということを見てみないとちょっとわからないわけですが、いわゆる相続によって財産を取得するということは、これも所得になりますので、そちらの方の課税がどうなっているのかなということがあります。
 もともと、相続税の性格、議論するとどうも不明確なところがありまして、所得税の補完税である、所得税を補完するとか、あるいは、所得税の生存中取り損ねていた分を相続の段階で課税する、非常に何か説明自体があいまいでございましたので、そういう税制であるならばやめてしまう、これを所得税という形で一本化してしまう、そういうようなことではないかと思いますけれども。
 我が国の場合に、今現在、相続税の納税者の割合は相続件数の大体五%ということですので、その五%のために大きな税制改正を思い切ってやるかどうかというのは、かなりの決断といいますか、今までちょっと私も考えておりませんで失礼いたしますが、かなりの決断ではないかと思っております。
 その場合に、問題は必ず所得税の方へも波及してまいりますし、それからもう一つ難しいのは、消費税が恐らく将来的に、現在は五%程度ですけれども、これが上がってくる可能性が高い。そうなりますと、消費税というものは消費したものにだけしかかけませんので、貯蓄、投資した財産というものには消費税はかからないで残っていくわけです。消費税を支持する人というのは、最後に相続税でその辺はきちっと取ればいいということを論拠にしているわけですので、それと消費税との兼ね合いを考えた場合に、相続税をなくしてしまうということが、これがすんなりいくかどうかですね。ここがまた二つ目の論点ではないかと思っております。
 失礼いたしました。
山田(敏)委員 今、相続税の課税対象の七〇%は土地なんですね。それで、相続税がかかってきた人は、もちろん現金は持っていないんですが、土地があるわけです。もちろん、これに対して五千万払いなさい、一億払いなさいと。払えないわけですね。ですから、いろいろな悲劇が今起こっているわけですね。最近では正田邸のおうちです。
 これは、山下公述人にも、観光のことにも関係あるんですが、私もヨーロッパで仕事をしておりましたけれども、イギリスとかスペインとかフランスとか、二百年前、三百年前の町並みとか建物とか、非常によく保存されている。それが大きな観光資源になっていますね。
 日本の場合は、どこにそういうものがあるのか。確かに、古い伝統的な、歴史的な建物はあるんですが、一たんこれは三百坪とか五百坪になると相続税の対象になりまして、これは壊さなきゃいけないということが全国に起こっております。
 私の知り合いの方で陶芸家の方、四百年続いているおうちなんですけれども、十四代、歴代の傑作が残されております。その技術を伝承するために、伝統と技術を残すために残っていますね。ところが、戦後、一たんこれが相続税の対象になると、それが全部、これは一個三千万、これは二千万と四百年間の倉庫にあるものをやると。どうやってそれを払うのか。どんどん売ってくださいと。ではこれは五百万で売ってください、これは一千万で、現金にして払ってくださいと。そうすると、もう技術の伝承もできないし、歴史的な価値もなくなるし。
 そうやって、今山下公述人がおっしゃった、これから日本の観光の本当の資源をやっていこうというと、それに逆行することを毎日やっているわけですね。これはまさに、相続税をばっと何に対しても、現金、みんな持っていないから払えないわけですね。それに対してばっとやっちゃうと、こういうことが起こる。
 だから、何かの例外措置をとるにしても、相続税を考え直すことも、観光資源のというか、日本の町並みを残す、歴史を残す、文化を残す、非常に重要なことだと思うんですが、いかがお考えですか。
山下公述人 本当に重要な御指摘だと思います。古いものをちゃんと守って、それもまた観光資源として使っていくということは、非常に重要なことだろうと思います。
 そういう税制の仕組みというものを、何らかの方法で考えていただくような手はないだろうか。フランスだとかアメリカなんかには、美術だとかそういうものにかかわるメセナの作業については大変税制の優遇措置がございますし、そういったことにおいて逆に企業のメセナ活動が活発に動き始めるというようなこともありますので、一般的に、今おっしゃっておりますような相続税だとかそういった税制の問題ではなくて、文化というものに対する、あるいはメセナ活動というようなものに対する一つの切り口としていろいろお考えをいただいた方が、むしろ切り離した方が解決の道は近いんじゃないかというふうに考えております。
山田(敏)委員 加藤公述人にお伺いいたしますが、わかりやすく、コール市場のこともよくわかりました。結論は一つで、おっしゃったことは、ヘドロのように沈殿している、こういうことだと思うんですね。
 今政府がやろうとしている、日銀が頑張ればいいんだ、日銀しっかりやれ、日銀もっとやれ、こういうようなことでやっているんですけれども、今の加藤公述人の御意見は、そんなことはもう意味ないと。効果もないし、意味もないし、やめておいた方がいい、こういうことですね。
加藤公述人 加藤でございます。
 金利がある状況であれば、日本銀行にいろいろ工夫の余地があると思うんですが、何分、もうゼロ金利に達してしまっているということの実際上の重みというのが非常にあると思います。
 あと、海外でインフレターゲットを採用している国、実際は多いわけですが、イギリスにしろ、ニュージーランドにしろ、インフレ目標を設定する際に政府と中央銀行でいろいろ協議があると思うんですが、その目標に対して、政府サイドも協力的なスタンスをおのずとしていくという面があると思います。
 イギリスの場合は、政府が目標を設定していますけれども、その目標を維持できなくなるような財政活動を行うとか、あるいは一方的に公務員給与を引き上げるとかいうようなことは、自然とそこは自重、抑えられるはずでして、実際、インフレ目標といっても、両者がともに歩み寄りながら目標に向かっていくということでしょうから。
 何分、もう金利がゼロになっているという状況で中央銀行に期待をかけても、限界があるのではないかなというのが率直な見方でございます。
山田(敏)委員 侘美公述人にお伺いいたします。
 日本の今の状況、デフレスパイラルというふうに定義されまして、九七年から続いている、こういうことでございますけれども、デフレスパイラルの一つの大きなポイントになるのが寡占的な状況であるというふうにおっしゃいましたですね。通常のデフレの場合は、投資条件がよくなるから、回復する。しかし、デフレスパイラルの場合は、これは寡占的な状況がある場合には投資条件が改善されないということをおっしゃったわけですね。
 日本の場合は、この寡占的な状況とは何かというと、これは規制だと思うんですね。いろいろな分野に対する規制が厳しくあり過ぎて、まあ規制緩和は議論されておりますけれどもなかなか進まない、これが一つのデフレスパイラルのかぎになっているというふうに私はお伺いして思ったんですが、その点はいかがですか。
侘美公述人 この点について私が寡占的状態と申し上げましたのは、一九二九年恐慌のときのアメリカで、そのときは明確な寡占状態であったわけです。日本の場合は、寡占といいましても、例えば戦後、いろいろ寡占間競争とか、寡占間で価格を競争するとか、かなり弾力的な寡占体になってきました。したがって、寡占即そうなるというわけではありませんで、業種それぞれについてどういうような価格政策をとり、どういう価格弾力性があるかということで判断すべきであろうと思っております。その意味では、規制緩和はデフレスパイラルを防御するにはある一定の意味があるだろうというふうには思っております。それでよろしゅうございますか。
山田(敏)委員 わかりました。
 あと、先生の一番のポイントは、日本の財政出動は生産性と研究開発に絞ってやれ、こういうお話だったと思います。今やるべきことはそれだ、こういうことでございますけれども、冒頭にも申し上げましたように、日本の今の投資意欲、特に中小企業ですね、非常に、何をつっついても出てこない、こういう状況で、では一体何の設備投資をやればいいのかというお考えはございますでしょうか。
侘美公述人 具体的に、何というわけではございません。ただ、景気全体をよくするためには、もちろん重点産業、例えばハイテク産業とかナノテク産業とかそういったところへ集中的に財政支出をやらなければなりませんが、そこで生まれた設備投資が関連して他の部門の設備投資として拡大していく、乗数効果が生まれるようにしなければならない。その意味では、特定の産業だけではなくて、もちろん中小企業も含めて、全般的に投資条件が改善する策をとらなくてはいけないというふうに思っております。
 具体的には、もちろん、他の財政政策、投資減税等も一定の意味があるとは思いますが、それが大幅な財政支出と、そしてそれによって日本全体の生産性が上昇するということを目標にして、積極的に行われなければならないということでございます。
山田(敏)委員 時間が参りましたので、私の質問は終わります。ありがとうございました。
藤井委員長 次に、中塚一宏君。
中塚委員 自由党の中塚でございます。
 公述人各位におかれましては、大変御苦労さまでございます。
 侘美公述人にお伺いをしたいんですが、先ほど、お話の中で、やはり実体経済の問題ということを強調されておりました。ところが、予算委員会では、とある大臣が、物価は貨幣的な現象だというお話を盛んにされているんですけれども、貨幣数量説について、この貨幣数量説の限界といいますか、そういったことについて、もう一度御説明をいただけますか。
侘美公述人 貨幣数量説というのは、もちろん有名でございますけれども、これは本来は古典派理論でございます。十九世紀の理論でございます。
 そのころ、要するに物価が上がったり下がったりすることが貨幣量の増大、縮小と関連している、しかし、その場合、どちらがその因果関係の決定要因を持っているかということで大論争が生じて、そしてその一つの意見として、貨幣の方が決定しているという意見があったわけです。
 ところが、この見解は、両大戦間、大恐慌期にほとんど壊滅します。もうそのような理論は通用しなくなりました。もちろんケインズが出てきたこともありますけれども、古典派理論は一度なくなったわけです。特に大恐慌のときにはデフレスパイラルがあって、全くそれは妥当しなかったわけです。
 ところが、それが五〇年代以後、アメリカで復活してきたのは、比較的簡単な理由がございまして、先ほどのグラフでもごらんのように、以後、物価は絶えず上昇し続けてきたわけです。その場合、物価上昇率と貨幣の増加率、両方とも増加しているのですが、その増加率の大きさに一定の相関関係があるということがわかり、再び貨幣が物価を規定しているという新しい古典派理論が出てきたわけです。
 したがって、これは、大恐慌を全く無視しておりますし、もちろんデフレなんかはほとんど予測していないときの理論でありまして、それゆえにまさに新古典派理論と言うわけですが、ただ、それが、ケインズ政策がうまくいかなくなったときにアメリカ経済学を席巻して、そして現在それが続いているわけでありますから、歴史的な検証には私はたえるものではないというふうに思っております。
 フリードマンはその代表でございますけれども、フリードマンの大恐慌研究というのは、私はよく言っているのでございますが、金融市場とか金融政策というものは極めて細かい実証研究をやっておりますが、実体経済については、あの大きな本の中で一カ所も触れておりません。実体経済分析なくして、貨幣量だけで、金融だけで大恐慌を説明しているのでありまして、当然、大恐慌には貨幣数量説は妥当しないと私は思っております。
中塚委員 私はけさから財務金融委員会とかけ持ちをいたしておりますが、その某大臣が先ほどもフリードマンの話をいたしておりました。御報告をしておきたいと思いますけれども。
 そういうことで、金融緩和自体は否定をするものではありませんが、ただ、どんどん緩和をしても、本当に資金需要が生まれてこないわけですね。その他の政策ということにしても、ことしも補正予算案が編成をされて、それは税収が落ち込んだから補正予算を組まなきゃいけなくなったわけなんですが、ついでに公共投資が入るというふうなことになってしまっているわけですし、また、政府は円安ということをよく口にいたします。
 そういう意味で、実体経済を変えていく、生産性を向上させるということ、要は日本がこれからの時代に何で食っていくかということが大切なんだろうというふうに思うんですけれども、そういった意味では、金融緩和、円安待望論あるいは公共投資というふうな政策というのは、どっちかというと今の産業構造を温存するためのものであって、生産性の向上とかリーディングインダストリー創出というものへのインセンティブにはつながっていかないのではないかというふうに思いますが、侘美先生、いかがですか。
侘美公述人 デフレの一つの型として構造的デフレがあるということを先ほども申し上げましたが、構造的デフレと産業構造は非常に密接に関連しているというふうに思います。
 しかし、産業構造、経済構造というものは、景気とは直接の関係がないのです。例えば、日本の産業構造というのは、日本経済が長期に、趨勢的に、今後十年、二十年、三十年先に、世界経済のグローバリゼーションの中でいかにたえ得るような経済体制になるかというときに、極めて重要な見解、意見であり、また、それを実際に長期の計画のもとでやらなければいけないというふうに思ってはおります。
 しかし、景気というものは、いかに産業構造に問題があり、脆弱性があっても、景気回復をさせることはできるわけです。発展途上国においては、御存じのように、いろいろ経済構造問題があって、ここで説明するまでもないことですが、一時的な景気回復は必ずあるわけです。したがって、構造改革なくして景気回復なしというスローガンは間違っております。経済成長なしというのはまだある程度の意味がありますが、景気回復と経済成長は違うのです。
 したがって、構造改革を長期のもとで進めながら、他方で、別に、積極的な景気対策をやらなきゃならない、それがデフレスパイラル対策であるというのが私の考えでございます。
中塚委員 それで、今の我が国が抱える産業の問題ということで、例えば少子高齢化であるとか、IT化であるとか、あと過剰債務問題なんかもあると思いますけれども、その中でも、とりわけグローバル化の問題なんですけれども、日本も戦後の経済発展を遂げたのは、そういう国際分業的な中でここまでやってこれたわけですから、今デフレの一つの原因と言われている、中国を初めとする東南アジアからの安いものの輸入ということがあるわけなんですが、やはりここは、生産性を向上させていくという意味においても、しっかりとした国際分業体制をとっていく必要があるというふうに思うんですが、侘美公述人は御意見いかがでしょうか。
侘美公述人 グローバリゼーションというものが何かというのは、本当は定義が非常に難しいと思いますが、実は、私はこれは変動相場制に移って以後のアメリカ中心の対外経済政策であるというふうに思っております。
 要するに、変動相場制とは資本移動の自由化、金融の自由化と表裏の関係にあります。固定相場制はむしろ逆であり、為替市場については何らかの管理が行われておりました。それを自由化するというのが変動相場であります。そして、それを推し進めることによってアメリカのいろいろな経済政策、金融政策を広めて、負担を外国に押し寄せていく、それで日本に金融緩和を要求するということでありまして、グローバリゼーションはアメリカ中心の政策であるという一つのポイントを押さえておく必要があるだろうと私は思います。
 しかし、それにしても、市場経済のもとでの競争を推し進める上では、いつの場合でもそうなんですが、特にこの場合は、その国の各産業の国際分業というのは極めて重要になると思います。先ほどお話ししましたが、一八七三年から九六年の大不況の場合でも、イギリスは二十数年かかって鉄鋼業の構造転換を行った、しかも農業の構造転換も行ったというわけですから、中国が繊維とか農産物、安い商品を輸出する場合には、日本はそれに対抗して、農業なら高級化する、あるいは産業でも、中国とは違う品質のものをつくって分業化するということはぜひとも必要である。それはむしろ、市場の力として、市場の競争力で自然にそういうふうに民間において動いていくと思いますが、政府がそれをまた促進する政策をとるべきであろうというふうに思っております。
中塚委員 朝から御足労いただいて、大変短い時間で恐縮でございます。どうもありがとうございました。
藤井委員長 次に、佐々木憲昭君。
佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。きょうは、公述人の皆さん、大変御苦労さまでございます。
 まず水野公述人にお伺いしますけれども、法人税の引き下げ効果というものが実際にはあらわれてこなかった、税負担だけで国際比較をした上で引き下げる、そういう見方が正しくなかったといいますか、効果のない判断であったというふうにおっしゃっておりまして、私もそのように思うわけであります。国際化されたような状況のもとでの大企業の世界戦略の中で、各国の税制というのは既に組み込まれている、こういうお話でございました。
 同時に、私は、法人税を考える場合、単に税だけではなくて負担率というようなことも念頭に置く必要があるのではないか。つまり、社会保障の負担率などは、ヨーロッパと比較する場合には日本は比較的低い、統計上そういう数字が出ておりまして、実質的にいいますと、日本は、そういうものも含めますと、法人の税、社会保障の負担、全体としていいますと決して高くはなかったということがありますので、前提そのものが少し違っていたのではないかというような感じもいたしております。その点はどのようにお考えでしょうか。
水野公述人 水野でございます。いろいろ御指摘ありがとうございます。
 法人税の引き下げの問題、これは前にもお話ししましたので、ここではもうこれ以上申し上げませんが、国際比較の点につきまして先生がおっしゃってくださいましたように、企業というのはやはり非常にいろいろな戦略を練ってやるわけですので、特に多国籍企業でありましたらそのようなことは日常的に行われているわけですので、各国の法人税の税率だけを並べて比較しても余り意味はないということ、これは私が申し上げたんですが、先生も賛同いただいて、ありがたく思います。
 それで、負担率の問題ですが、確かにこれも、なかなか、我が国の場合にはこれは出せると思いますが、外国のも出てきたりいたしますので、この法人の負担率、いわゆるすべて、国のGDPに占めて大体どのぐらいであるという、個人所得税から始まって、法人税、消費税といったような形で統計などをとったりすることも見られますので、そういうものを活用することに意味があろうかと思われます。確かに、先生がおっしゃいますように、それによって日本の法人が実際にどのぐらい負担をしているのであろうか、これは全体としてしか出てまいりませんけれども、そういう形で一つの法人税のあり方というものを考えていくということ、これは非常に大事なことでありますので、私もちょっとこの点にはこれから留意したいと思います。
 どうもありがとうございました。
佐々木(憲)委員 山下公述人にお伺いをいたします。
 観光産業のお話でありまして、私も各地の観光産業の関係者の方々とお話をいたしましたり、あるいはシンポジウムなどにも参加してまいりまして、おっしゃったように、観光産業そのものをどのように国、自治体が位置づけるかということは大変重要だと思っております。同時に、それを発展させていくためには社会全体との関係というものをどう位置づけるか、これが非常に大事だと思います。
 例えば、ヨーロッパと日本を比較いたしますと、ヨーロッパの場合にはバカンスというのがある、それに対して日本は有給休暇もなかなかとれない、こういう差がございます。それから、ゆとりといいますと、これは時間的なゆとりだけではなくて所得の上でのゆとりがなければならない。こういうことをいろいろ考えますと、最近のデフレ状態、不況の深刻化という状態の中では、なかなか観光産業自体を発展させていく前提が整っていかないといいますか、そういう意味では、国の政策全体、経済、景気政策全体というものが大変重要になってくる。それから、国民の、働く側のゆとりをどうつくるか、これももう一つの観点として大変重要ではないかというふうに考えております。
 その上で、国の予算の面でありますが、国際比較をなされまして、日本は極端に少ないと。私も全くそう思いまして、これは予算をふやすべきだと思います。その上で、例えば具体的にどういう面で財政的な措置をとればいいのか。税制上の問題もあるでしょうし、それから地方自治体の場合には、観光地の自治体というのは、例えば水道にしろ、あるいはごみ処理にせよ、普通の自治体と比べますと、外から来るお客さんが多いわけでありまして、それだけ負担が重いんですね。そういうものに対する例えば交付税上の措置をふやすとか、あるいは補助金をどうするとか、いろいろあると思うんですけれども、この点での予算上、財政上の観光産業あるいは自治体に対する支援というものをどのように求めておられるのか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
山下公述人 今、先生の御指摘の前段の問題は、これはむしろ日本人のマインドの問題とか余裕の問題とかということでありますので、我々が今わいわい言っておりますのは、外からお客さんをどう持ってくるかという論議を詰めておるわけですから、それはちょっとおいておいていただきまして、外からどうして入りやすいように構築するかというところが大事なところだろう、第一点に関しましてはそういうふうに思います。
 第二点に関しましては、非常に難しい問題であります。観光立国というか観光日本をどう売り出すかということは、一つにはやはりおのおののメニューがしっかりしていなきゃいけない。それをどういうふうにサポートすればいいか、あるいはサポートしてほしいかというような実態をピックアップしまして、それに検討を加えなきゃいけないだろう。そして、ドレスアップもしなければならない。今我々の持っていますストックで一番強いのは、やはり歴史、古都遺産でありますけれども、これも、それだけにおぶさっておってはいかぬ、なおかつそれもドレスアップをしなきゃいかぬだろう。
 最近、歴史遺産ということで、恐らく来年は、今度は高野山と熊野古道が世界遺産に認定されるというようなこともありますが、そういう発掘もやはり一方ではメニューとして考えていって、世界に向けて提言をしていくというようなことも必要でありますし、そういうことを今度はどういうふうにPRしていくのが一番効果的なのか。
 考えてみてください。四、五年前に金大中さんが、あれは三カ月間、観光コマーシャルに出演をいたしました。あれは日本だけじゃございませんで、中国とアメリカとEUと四カ所に向かってやっているわけです。国を代表する大統領がその国の観光コマーシャルに出演をしているわけですね。やはりそういうPRということも今度はメニューに合わせて必要であろうかと。
 では、それにはどれぐらいお金がかかるのか、そしてドレスアップにはどれぐらい、インフラの整備にはどれぐらい、研究開発にはどれぐらいお金がかかるんだというふうなことを全部精査して積み上げていきながら、財界が担当すべきもの、そして自治体が担当すべきもの、国が担当すべきものというようなものを、お互いに寄り合いながら、意見を出し合いながらやっていかなければならない。
 私は、さっきお話が出ておりましたけれども、アメリカの大恐慌、このときに、時のフランクリン・ルーズベルト大統領の例のニューディール政策の中で最も効いたのはやはり文化支援だったというふうに承知しております。これによってニューヨークのマンハッタンのフォーティセカンドストリートはあそこで完成するわけですね。世界に向かって、エンターテインメントの町をついにパリからニューヨークに奪取するわけですね。しかも、ハリウッドがそこからできるわけです。世界の映画の都がそこからできてきた。これによって、アメリカ人は首を垂れておったのが上へ上げてくるわけですね。
 このマインドコントロールというのは、こういう景気支配について非常に重要な要素になりますから、金融政策も財政政策もいろいろ大事だとは思う、私はわかりませんから、そのところは。したがって、わかるところを申し上げているのは、マインドを上げないかぬ、そのためにどうすればいいかということも、財政政策、金融政策と同じように考えていただかなきゃいけないんじゃないかというふうに考えております。
 以上です。
佐々木(憲)委員 ありがとうございました。
藤井委員長 次に、横光克彦君。
横光委員 社民党の横光克彦でございます。
 きょうは、公述人の皆さん、それぞれ専門的なお立場からの御意見、ありがとうございました。
 最初に、加藤公述人にお尋ねしたいんですが、御説明の中で、日銀の量的緩和の連続で当座預金が二十兆円もある、しかもこの十六兆円はだぶついているというよりヘドロのように沈殿している状況であるということの説明がございました。
 ということは、これはもうこれ以上の金融緩和、これまでの伝統的な金融政策はもはや効果がないということなんでしょうか。
加藤公述人 加藤でございます。
 今のやり方を延長していってもほとんど効果は出てこないということだと思います。
 ただ、一方で、例えば日銀当座預金を三百兆円、四百兆円と物すごい量にふやしていったら何か効果が出るんではないかという意見は金融市場でもあるんですが、ただ、それはどういうふうな反応が出てくるか全く読めないですね。現状、二十兆円にしたことで消費者物価が緩やかに持ち上がってきているのであれば、これをふやしていけばよりデフレから脱却できるというイメージがわくのだろうと思うのですが、今全くそれが起きていない状況ですから、これを徹底して続けていったところで、むしろ突然物価上昇が激しい形で起きるかもしれないし、あるいは起きないかもしれないし。となると、政策手段としては非常にあやふや過ぎて、とるのが難しいのではないかなと思います。
横光委員 ということは、ある意味では、これだけのデフレ状況を克服していくというのが政府の方針なんですが、財政、税制、いろいろなことで、金融のやる役割、これは、今までのものが余りもうこれ以上効果が期待できないとなると、これまでにできなかったこと、いわゆる非伝統的な金融政策ですが、ここに踏み込むべきだというお考えなんでしょうか。
加藤公述人 非伝統的金融政策という場合、まず、なぜもともと非伝統的なのかという点がやはり大事だと思います。やはりそれなりに、禁じ手とされるものは必ず副作用を伴うので通常とらないわけですので、そういう政策を行う場合は、反動というものを必ず事前にきっちりと意識して、インフレターゲットを設定すれば大丈夫というような大まかな議論ではなくて、何が起きるかというそのメリットとデメリットをきちんと詰めていく必要があると思います。
 一方で、では具体的に非伝統的政策といっても、例えば中央銀行が株や不動産を買っていくということは、実際上は財政政策と大差がないといいますか、本来は国会の議決で行うべきことを中央銀行にやらせればその手続をパスできるという程度の違いで、国民からしてみると、国の勘定なのか中央銀行の勘定なのかという違いでしかないので、余り本質的な差はないんだろうと思います。
 あとは、国債の発行残高が非常に今大きいという状況ですので、そういうときに非常にリスクのある政策を行っていくことが日本の信用という点に問題を起こすことはないかという点に注意をする必要があるのかと思います。
横光委員 確かに、中央銀行の信用、通貨の信用というのが本当に崩れてしまっていいのかという問題も今提示されました、私もそこのところはちょっと同感するんですが、インフレターゲティングの制度化をしたとしても、適切なタイミングでの引き締めをどのように保障するかという疑問点を出しておりますが、これはやってしまうといわゆるハイパーインフレになるおそれがある、あるいはそれをとめようがないということは念頭におありなんでしょうか。
加藤公述人 ハイパーインフレということになれば、逆に、みんなが困る状況ですので引き締めやすいんです、まだ引き締めやすい。ただ、実際は、激しくインフレが起きたときに、プラス二、三%のところに軟着陸させるというのは技術的に難しいとは思いますが、ただ、まだ世論を誘導はしやすいんだろうと思います、それはもう危機的な状況ですので。
 ただ、一方で、例えば一〇%なりそのあたりのインフレ率のときに、現実にはいろいろ利害が対立する。まだ引き締めてほしくないという人たちも当然いっぱい出てくるわけですし、例えば、特に株価を持ち上げるということでのデフレ対策ということになりますと、なおさら、まだやめてほしくないという意見と、いろいろ交錯するでしょうから、事前にそのルールをきっちりと決めておかないと収拾がつかないということも、過去の歴史においても幾つか見られるのではないかなと思います。
横光委員 デフレの原因で複合的な問題があるというのは、これはみんな同じ考えなので、その中で不良債権の問題もございますね。この不良債権の処理ということも絶対必要なわけですが、このやり方、いわゆる迅速にやるべしという意見と、これはゆっくりとやるべし、デフレの中では次から次から不良債権というのは出てくるので、そういった二つの意見があるんですが、加藤さんはどちらのお考えなんでしょうか。
加藤公述人 余り早急にやり過ぎますとデフレショックが高まりますので、ただ、かといって、景気回復が完全なものとなるまで一切手をつけないという話になりますと、まるで話が進みませんので、一つ一つやっていく、着実にやっていくべきであろうと思います。
 今、金融市場でお金が流れないというのも、基本的に金融システム不安があるためなので、そういう障害を一つ一つ取り除いていかないことには緩和効果も出てこないということだろうと思います。
横光委員 侘美公述人にお尋ねいたしますが、デフレスパイラルに陥っているというお話でございました。
 ここで、いわゆる金融が原因ではないというお話でございましたし、いわゆる投資条件の悪化を食いとめるには、設備投資の拡大、いわゆる財政の出動ということを強くおっしゃっておられました。確かにそうでしょう。その財政の出動と、今度逆に財政の破綻という問題がございますが、この兼ね合いのところはどのようにお考えなんでしょうか。
侘美公述人 その問題は先ほどちょっとお答えしたことと関連があるわけでございますが、現在の不況が続いていく限り、財政赤字は解消できません。なぜなら、財政収入が減っていくからです。財政支出がふえなくても赤字は解消できないわけです。
 したがって、これを解消するためには、まず、どうしても景気がよくならなければならない。実体経済がよくなければ改善できません。財政赤字は物すごく大きくあるわけですが、それは構造的な問題として長期に十年、二十年以上かけてどういうふうに解決していくかという問題であって、景気対策とは別に考えるべきだというのが私の考えであります。
横光委員 山下公述人にお尋ねしたいんですが、本当に、観光ということが公害のない産業であるというお言葉、実に言い得て妙で、確かにそのとおりだと思います。
 以前、以前というか、いわゆる祝日法の改正をしまして、三連休という法改正をいたしましたね。これのときにも、いわゆる予算を投入しない景気対策であるということがある意味では趣旨だったんですね。法律を変えるだけで輸送やあるいは観光やこういった面に大きなプラス効果が期待できるんじゃないかということでああいった法律改正したわけですが、このことの景気効果というものはその後どのような状況になっているか、ちょっと御説明いただけますか。
山下公述人 私は、その連休の効用については、ちょっと今お答えする能力がございませんので、また調べておきまして御報告を申し上げたいと思いますが、なかなか、連休の効用というのは、確かに、レジャーとしての銭の使い方と、一方ではやはりある種の産業停滞が起きるというようなこととの兼ね合いをどう考えるかということが難しいので、こっちで幾ら使ったからというだけの判断でもいけないと思いますね。両面を見てみないといけないんじゃないかなという気はいたします。
横光委員 では、終わります。
藤井委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。
 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 明二十六日の公聴会は、午前九時から開会することとし、本日の公聴会は、これにて散会いたします。
    午後三時四十三分散会


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