衆議院

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第2号 平成19年2月22日(木曜日)

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平成十九年二月二十二日(木曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 金子 一義君

   理事 斉藤斗志二君 理事 実川 幸夫君

   理事 杉浦 正健君 理事 園田 博之君

   理事 萩山 教嚴君 理事 森  英介君

   理事 枝野 幸男君 理事 中川 正春君

   理事 赤松 正雄君

      井上 喜一君    稲田 朋美君

      臼井日出男君    遠藤 武彦君

      小野寺五典君    大島 理森君

      河井 克行君    河村 建夫君

      倉田 雅年君    佐藤 剛男君

      笹川  堯君    中馬 弘毅君

      中野  清君    西村 康稔君

      野田  毅君    馳   浩君

      深谷 隆司君    細田 博之君

      増原 義剛君    三ッ林隆志君

      三ッ矢憲生君    三原 朝彦君

      宮下 一郎君    山本 公一君

      岩國 哲人君    小川 淳也君

      大串 博志君    岡田 克也君

      川内 博史君    中井  洽君

      仲野 博子君    原口 一博君

      馬淵 澄夫君    前原 誠司君

      松木 謙公君    大口 善徳君

      丸谷 佳織君    佐々木憲昭君

      塩川 鉄也君    阿部 知子君

      糸川 正晃君

    …………………………………

   公述人

   (可児商工会議所会頭)  日比野良彦君

   公述人

   (キヤノンユニオン・宇都宮支部 支部長)     大野 秀之君

   公述人

   (東京大学医学部附属病院放射線科助教授・緩和ケア診療部長)        中川 恵一君

   公述人

   (政治評論家)      森田  実君

   予算委員会専門員     清土 恒雄君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成十九年度一般会計予算

 平成十九年度特別会計予算

 平成十九年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

金子委員長 これより会議を開きます。

 平成十九年度一般会計予算、平成十九年度特別会計予算、平成十九年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつ申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席をいただき、まことにありがとうございます。平成十九年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にさせていただきたいと思いますので、どうぞ忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず日比野公述人、次に大野公述人、次に中川公述人、次に森田公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、日比野公述人にお願いいたします。

日比野公述人 ただいま御指名をいただきました日比野良彦でございます。

 岐阜県の南部、愛知県の県境にございます可児市からやってまいりました。当地で、商工会議所の会頭として、地域の活性化のために頑張っている一人でございます。

 本日は、このような委員会で意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、厚く御礼を申し上げます。

 本論に入る前に、きのうホテルに帰りましたら、日銀の金利〇・二五アップの発表がございまして、唖然といたしました。全く現状認識に欠けているんじゃないかな、そう思って、本論に入りましていろいろ景気だとか中小企業のことについてお話し申し上げようと思っていたにもかかわらず、きのうの発表でございます。それで、きょう、こうして皆様の前で話をしろということですから、かえって運がよかったかな、または運が悪かったかな、そう思って、きょう参りました。

 原稿は持っているんですけれども、多少以後の順序が変わるかもわからぬなと思っております。やはり金利というのは、そう一カ月一カ月でチェックされて変えてもらっては困るということを本論の前に申し上げて、これから本論に入ります。このことについては、後ほどまた申し上げたいと思うことがございますので、ダブらせていただきます。

 財政状況の大変厳しい中、来年度予算につきましては、税制改正を踏まえ、我々中小企業対策に配慮いただいた予算編成となっており、評価するとともに、賛成の立場で、中小企業の経営者、そして地方の商工会議所の会頭として希望を述べるために上がりました。どうかよろしくお願い申し上げます。

 私は、ちょっと個人的に紹介しますと、一九八〇年、昭和五十五年でございますけれども、四十五歳で脱サラで独立開業いたしました。会社は株式会社エーワンパッケージということで、事業は、企画、デザインを中心にした美粧パッケージの製造販売会社です。拠点は可児市、東京、大阪、静岡でございますが、昨年、息子に社長を譲って、現在は代取の会長をしております。

 当可児市は、これといった地場産業はありませんが、県下というより日本有数の工業団地を有しており、自動車関連を含めた輸送用機器を初め、住宅産業、それから電気機器、その他各部品メーカー等々、業態のバラエティーに富んだ企業が六十社集積しております。業績はいま一つ上がっておりませんが、大変多忙をきわめていて、年間工業出荷額も一千七百億円に達しております。地元の企業の頑張りもございますが、市の財政に大きく貢献しております。岐阜県下では最も財政豊かで元気な町であると自負しております。

 そもそも可児市は日本の中心にございまして、そういった意味におきまして、全国に対するデリバリーの面では非常に恵まれた環境にあります。昔から言うじゃありませんか、物流を制する者は企業を制すると。

 可児市における現状の交通事情を考えますと、東海環状自動車道の開通、これがすごく追い風となっています。近隣都市で企業進出が顕著になっておりまして、インターチェンジ付近では大型店の進出も続いております。利便性の向上には、産業、観光両面の効果が大きい。しかし、まだ一部は片側一車線の対面通行での暫定開通であります。豊田から美濃まで開通しているんですけれども、片側通行ですから、安全面並びにさらなる利便性向上のためには、片側二車線の完全開通と、西回りルートの早期着工と早い完成を希望する次第でございます。

 全国的に言って、交通網の整備は地方への企業誘致には必要不可欠でございます。地域間格差の是正には、高速道路を含めた道路網の整備は絶対に必要だと考えます。

 ところで、景気と雇用の問題ですが、景気の回復と企業進出により、地元の既存企業において雇用の確保が困難な状態となっています。この辺がちょっと裏と表になるんですけれども、企業活性化に努めて、進出をお願いする、誘致も含めますね、それはすごくいいことなんですが、反面、今後は雇用問題が大変難しくなるだろうという一面もございます。

 したがいまして、今、可児市では、外国人労働者の依存度も高いと思います。今十万二千人の可児市の人口ですけれども、約六千七百人、占有率約六・五六%ですね。全国的に見ても、占有率は高い方だと思っています。生活習慣の違い、文化の違いからトラブル等が多発する、それから語学、未就学児童の教育等々、各種外国人対策に理解と配慮をお願いしたい。

 国際交流協会という協会がございまして、私、会長をやっているんですけれども、まちづくり推進課の配下にあるんですけれども、まだまだ市の方からは、行政の方からはなかなか予算が組めない状態で、一応ボランティアの方、NPOの方々が、働きに行かれる間お子様を預かるとか、せんだっても参ったんですけれども、本当にこのお母さんが、シルバーからもお見えいただいていますが、よくもまあ面倒を見ていただけるなとつくづく思っております。

 この辺の対策は、今後、日本経済において、トラブルを考える前に手を打つ必要があるだろうと思っています。

 話はかわります。

 現在の景気は、成長率は低いながらも全体として回復軌道に乗り、景気拡大は戦後最長を記録、イザナギ景気を超えました。私は、ここを重きに申し上げたいんだけれども、景気継続は、一九六五年から七〇年までのイザナギの五年間、それがさも長く景気が続いたんだという判断はおかしい。景気というのは、十年は、イザナギ景気そのものは十年ぐらいは続けなきゃだめなんだ。かじをとっている人が一年一年でああだこうだああだこうだと言って、なぶりものにされてはたまったものじゃない。だから、イザナギ景気そのものは、スパンは十年で考えていただいて、そのスパンの中で足腰を完璧に鍛えていきたい。

 そうでなかったら、後からまた申し上げますが、苦しんでちょっと喜んで、苦しんで喜んでと、病人に薬の合わないものを飲ませたりやめたりというようなことは、もちろん今の景気は、これは製造業を中心とした大企業が主に牽引しておりますが、我が国の経済の好調を生み出しているのは、大企業が牽引しているけれども、中小企業の力だと僕は思っている。

 中小企業の経営者は、原油価格を初め原材料価格の高騰に加え、大企業からのさらなるコストダウン等により、ますます厳しい状況に置かれていることも事実です。経営者を初めとする役員報酬の減額、社員、従業員には、賞与といっても名ばかりの金一封でお茶を濁しているんです。毎日毎日、必死に耐え、事業に専心しております。私も、御多分に漏れず、給料は半額にする。それも、三年続いています。

 景気拡大を持続するためには、中小企業がその活力を十分に発揮していかなければ日本の経済の発展はあり得ない。僕は、賞与というのは日本の文化だと思っております。給与体系に入っているんです。それがずっと来ておるわけですね。だから、例えば、一時金幾らとメディアに発表される、そうした場合に、中小企業だってどうしてもそれが目につきますね、そして金一封だと。この辺はちょっと私も、こそくですけれども、余り新聞に出ない方がいいなと思うときも実際あるんです。

 企業の九九・七%、雇用の七一%を占める中小企業の活性化は、従業員の給料アップにつながり、給与が上がれば消費もふえ、景気が上昇する。景気がよくなれば税収がふえる。中小企業がもうかれば国の役に立ちます。まさに、成長なくして財政再建なしではありませんか。九九・七%の会社を持っているんだから、中小企業は。雇用の七一%なんです。どうかお含みいただきたいと思います。

 幸いに、十九年度予算では、冒頭に申し上げましたが、ほとんどの予算が減額されている中で、中小企業対策は、〇・六%増の一千六百二十五億円が計上されております。また、その中身も、地域活性化のために中小企業を応援する内容になっております。さらに、税制改正では、商工会議所が長年にわたり要望してまいりました中小同族会社に対する留保金課税の撤廃、そして減価償却の抜本的改正などがあります。高く評価して、喜んでおります。

 それからまた、ちょっとこれは冒頭に入りますが、金融面での取引関係の問題をちょっと触れますと、必要なときに必要額の調達が難しい、収益、担保がないと融資額はおのずと制限される、制度融資枠も好況を理由に少なくなってきております。制度融資は、年商の大小にかかわらず一定になっております。例えば、年商三千万、年商六十億でも、大きな違いがありますが、一緒でございます。企業内容によって借り入れレートが高くなり、経費負担となります。したがって、今回の金利の問題もそこに起因すると思います。

 それから二つ目は、中小企業は、系列化、またはオンリーワンの製品を持たないと、つくらないと、事業継続は困難視されております。中小の大きな問題の一つに、中小企業は同業者がまだ多数あります。だから、現在は、中小企業は価格競争時代に入っております。

 昨今、産業界におきまして、中小企業といえども、ハード部門だけではなく、ソフト部門の必要性も重要視されております。機械を最新の設備にかえようとすれば、年商程度の資金が必要となり、難しい。現状維持では収益確保が本当に難しくなっておりまして、制度融資も借り入れ困難でございます。

 減価償却の抜本的な改正も、先ほどお礼を申し上げたんだけれども、十分活用することができない中小企業が多いですね。利益が出ないと償却できないんだ。

 それから、政府系金融機関での資金の安定供給ですね。商工中金、中小金、それから国民生活公庫等はありますが、これは統合される可能性もあると聞いていますけれども、融資で、長期、低利、月商範囲の無担保融資枠の設定が必要です。例えば、年商六十億円の会社、社歴十年であれば、五億円、十年以内、無担保でできるといったような制度でいっていただければ、一律でなくして、社歴と月商、年商、その辺のことも十分考慮したらどうかなと個人的に思っております。

 以上のように、中小企業の立場から思うままにお話し申し上げさせていただきましたが、本来の力を発揮できるように、今後とも、予算の確保、事業継承税制などの中小企業関係税制充実を図っていただきたいと思います。本日は、本当にどうもありがとうございました。

 時間延長になっちゃったようでございますので、御無礼しますけれども、金利問題ですね。これは去年の七月、それでことしの一月に、内閣府で勉強して、日銀だということで。今、中小企業では純益の三%を何とか上げようよというのが目標なんですよ。ところが、大企業さんはやはり違いますよ、額が違う、売り上げのパーセントが違う。そのかわり、中小企業は九九・七%持っているんですよ。

 きょうは、その中小企業を何が何でも育成して、日本経済の活性化もしくは生活安定、それから安心して安全なまちづくりに貢献できるんじゃないか、そのためにひとついろいろ勉強してやろう、そのようにお含みいただければ、ただ、まだきょうの金利だけでああだこうだ申し上げるとちょっと大人げないので言いませんけれども、実際はまだ言いたいんです、そう思っていますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

金子委員長 ありがとうございました。

 次に、大野公述人にお願いします。

大野公述人 労働組合キヤノンユニオン・宇都宮支部支部長大野秀之と申します。

 私は、栃木県宇都宮市にあるキヤノン光学機器事業所で請負労働者として働いています。本日は、議員の皆様の前で気持ちを伝えられる機会を与えてくださったことに、とても感謝しております。

 現場で働く請負や派遣、パート労働者を代表する思いでこの場に参りました。非正社員で働く現状を率直にお伝えできればと思います。特に、偽装請負問題や格差の問題、経団連などが要求している労働者派遣法改正要求について私たちがどう感じているか、お話しさせていただきます。新年度予算に、正しい格差是正に向け、検討していただければと思います。

 私の働く工場は、JR宇都宮駅から車で十五分、工業団地内に所在し、周辺にはホンダ、ミツトヨ、カルビー、松下電器、日本たばこなど非常に多くの工場が存在しているため、宇都宮の求人募集は自然と、派遣、請負など非正社員が多くなっています。キヤノンは、その中でも大きな敷地を保有し、従業員は八千人、そのうち半分の四千人が請負や派遣社員であると言われています。また、全国のキヤノングループには、二万人を超える請負、派遣労働者がいます。

 その中で私は、光学機器事業所にて、ステッパー、いわゆる半導体露光装置という機械の核となる部分に搭載される特殊なレンズの研磨、測定工程を担当しています。この職場は、非正社員とキヤノン正社員とともに協力し合って、十年前に立ち上げた部署です。

 ステッパーとは、あらゆる電子機器に搭載されるICチップに回路を焼きつける機械で、世界で三社しか製造する技術がないと言われています。人間がつくることができる最も高精度な機械であると言われ、大変高額で、一台数億円から数十億円するそうです。

 その技術の核となっている特殊なレンズは、精度誤差はナノメートル単位で、百万分の一ミリ前後。一ナノメートルとは、一メートルを地球の大きさだとすれば、ビー玉程度の大きさに当たります。そのため、誤差をそこまで縮める技術や熟練した技能が必要となります。キヤノンが持つレンズ精度は世界最高レベルの精度と聞いています。

 生産工程ごとに加工、測定を何度も繰り返し、満足する規格になるまでは約三日から二週間ほどかかるものもあります。指示されたとおりに加工を続けても簡単にでき上がる製品ではなく、そのため、開発を担当する正社員との連携を要し、請負で製造するには最も不向きな製品です。そのため、職場内には正社員が常駐し、請負契約ではやってはいけない正社員からの直接指揮命令を受ける、いわゆる偽装請負の状態で働いていました。

 現場で働く労働者は二十代前半から四十歳、勤続年数は数カ月から十年と、長期間働いている者も多数いますが、皆、三カ月から六カ月の短い契約期間を繰り返し更新して、長年働いていました。

 勤務は三勤三休、連続操業で、三百六十五日二十四時間、休みなく稼働するためのシフトが定められています。昼勤務は、朝八時から夜八時三十分で、三日働き、三日休み、そして夜勤務は、夜の八時二十分から朝八時十分まで三日働くといったシフトを繰り返し、勤務時間は十一時間、立ちっ放しでの作業です。不規則な生活になりがちで、体調を崩す者も少なくありません。

 賃金は月給制度ですが、昇給制度は一切なく、何年働いても賃金は上がりません。年々、新しく入社する人の賃金額は下がってきています。昨年入社した人は月給二十二万五千円で働いており、年収にすると二百七十万円で、ボーナスはなく、退職金制度もありません。景気回復傾向と言われているものの、私たちには全くそのような実感はなく、むしろ、請負、派遣労働者の待遇は日に日に悪くなっているのが現状です。

 有給休暇もありますが、有休の使用は月二日間といった制限を受けており、三日以上有休を使用した場合、欠勤扱いにされていました。また、以前は五つの請負会社が入りまじって働いていたのですが、同じ職場で同じ仕事をする請負労働者間でも賃金格差があり、有休が全く付与されない労働者もいました。

 昨年七月、朝日新聞に、キヤノン大分工場の偽装請負問題が報道されました。キヤノンは外部要員適正化委員会を設置し、請負や派遣労働者を正社員化する方針を決定したという報道もされ、長年非正社員で働いてきた私たちにとっては、キヤノンがそうした方針を決めたことをとてもうれしく思いました。

 しかし、喜びもつかの間、請負会社から突然、五月に派遣契約から請負契約に変更されたばかりの契約を、再度派遣契約に戻すと通告されました。会社側の詳しい説明は一切なく、請負から派遣、そして請負、そしてまた派遣契約にと、ころころと契約形態を変えられることに疑問を抱き、個人加盟できる労働組合、東京ユニオンに相談しました。

 そして、組合からのアドバイスもあり、まず、職場の正社員の方に相談をしてみました。とてもやりがいがある仕事なので正社員になってずっとこの仕事を続けたい、非正社員のままでは将来の生活設計が立たない、新しく入社する人もどんどん退社してしまい、レンズ製造に影響が出ていると伝えました。

 正社員の方は私たちの話をちゃんと聞いてくれて、うれしく思いました。でも、目先の心配はあるだろうけれども、まずは新製品の立ち上げを何とかやってほしいという本音を聞き、正社員化に対する具体的な答えはありませんでした。キヤノンは自分たちの気持ちをわかってくれない、どうしたらいいかと考えるようになりました。もっと上の人と話せないか、そう思うようになりました。

 そんなところに、十年勤務している職場の仲間が退職する意思があることを聞きました。理由は、キヤノンで中途採用をしている、友人が採用されるらしい、それなら自分も受けようと思う、職場に愛着はあるが、正社員じゃないと将来が不安という理由でした。求人広告には、キヤノンで働いている派遣、請負社員は正社員の採用試験を受けられないと明記されており、それは社内で働く非正社員の常識になっています。

 そんな話を耳にし、また、正社員化に向けた動きや、必ず正社員になれるという保証もなく、さらに請負から派遣契約に戻すと通告され、さんざん悩んだあげく、自分たちが長い時間をかけ築いてきた仕事に対する誇り、そして職場の仲間との友情を失わないためにも、労働組合を結成し、キヤノン上層部の人たちに話を聞いてもらおうと決め、七人で労働組合東京ユニオンに加盟しました。

 その後、昨年十月十八日、大田区下丸子のキヤノン本社に正社員化を求める団体交渉の申し入れ書を提出しました。正社員になってもっといい物づくりをしたいという自分たちの気持ちをキヤノンは酌んでくれる会社だと思い、勇気を振り絞り、覚悟を決めて申し入れをしました。しかし、残念ながらキヤノンは、請負会社と雇用契約を結んでいる私たちとキヤノンの間には使用者性がなく、団体交渉に応じる義務はないと主張し、話し合いも拒否してきました。また、偽装請負についても、そういう事実は認識していないと完全否定されました。

 偽装請負があったかなかったかということはともかく、勤続七年、中には十年という長い年月にわたり日々切磋琢磨して働いてきた私たちと話し合いの場さえつくってくれないことは、物すごくショックでした。まるで私たちの存在そのものを否定されたような悲しい気持ちになりました。

 キヤノンは現在も、私たちが申し入れている団体交渉の申し入れを拒否しており、悲しみも怒りも感じています。それでも私たちは、キヤノンという会社が好きですし、だからこそこの会社で今後も働いていきたいと思っています。キヤノンが話し合いに応じてくれることを信じています。

 一方、私たちは、栃木労働局に偽装請負の申告書も提出しています。申告の理由は、偽装請負で長期間働いています、派遣法を適用して正社員にするようにキヤノンに是正指導をしてくださいというものです。当然、こうした申告をすることでキヤノンに解雇されることも想定しました。言ってみれば、自分の命をかけた申告でした。そうまでしても、栃木労働局には、私たち労働者を救ってほしいという気持ちを、私たちが本当に苦しんでいること、職場が危機的状況だったことを伝えたかったのです。

 申告翌日から、正社員が職場から机ごと移動するなどして、さも請負契約が成立していたかのように職場を変更し始めました。申告してから早くも四カ月が経過しましたが、いまだに労働局から指導が出ていません。なぜここまで時間がかかっているのか、相手がキヤノンだからなのかなどと考え、不安な気持ちで日々過ごしています。また、職場には新たに未経験の正社員が大量に配属されました。自分たちの首を切るための準備をしているようにも感じてしまいます。

 いまだに指導が出ていないことも不安ですが、偽装請負を行っていた企業に労働局がどのような指導を出しているのかも調べたところ、雇用の確保を守った上で正しい契約に是正するようにということがわかりました。こうした指導は、厚生労働省が統一の見解を示しているとの話も聞いています。また、正しい契約に是正するようにということは、職場を改善して請負が適正に行われているのであれば、請負契約が継続されますし、請負での作業が無理ならば、請負から派遣に変更されるだけの話ということになってしまいます。

 製造業の派遣は、今月末までは一年間の期間制限があり、一年を超えて派遣労働者を使用する場合、派遣先企業には、派遣労働者に対して直接雇用の申し込み義務が課せられています。ところが、偽装請負の場合、発注会社と受注会社間で請負契約が結ばれていたために、就労実態が労働者派遣であるにもかかわらず、一年以上偽装請負状態で働かされた労働者にこの直接雇用の申し込み義務が適用されないというのであれば、絶望的な気持ちになってしまいますし、到底納得できるものではありません。

 偽装請負は今社会問題化していますが、こんなことがまかり通るのであれば、一生懸命働いてきた労働者ばかりが損をして、安いコストで労働者をこき使ってきた会社だけが得をしてしまいます。ぜひ、厚生労働省、そして各都道府県の労働局には、偽装請負で働かされた労働者に労働者派遣法を適用して、企業が直接雇用するようにというような厳正な指導をしていただきますよう強くお願い申し上げます。そうしていただきませんと、労働者の真の救済にならないからです。

 一九八六年に施行された労働者派遣法は、法改正のたびに規制が緩和され、対象業務が拡大し、製造業の派遣まで認められるようになってしまいました。そのため、企業は次々と派遣労働者を投入し、先ほど私の職場の実態を報告した際に触れたとおり、低賃金でいつでも首を切れるように、一カ月から三カ月という細切れの契約を労働者と結び交わせています。何年働いてもボーナスや退職金も支給されず、交通費さえ出ない派遣、請負労働者がほとんどです。

 このような劣悪な労働条件で働く請負や派遣労働者のとりでとなるのが、さきに申し上げた派遣先の直接雇用申し込み義務や派遣期間の制限です。こうした法律があることによって、少しずつですが、幾つかの企業が派遣や請負から正社員登用するケースが出てきており、そうした報道を見るにつけ、私たち非正社員はとても希望がわいてくるのです。

 しかし、残念なことに、経団連の御手洗会長は、キヤノンの会長でもあるわけですが、この直接雇用の申し込み義務、そして派遣期間制限の撤廃を要求しています。御手洗会長は、期間制限をなくすことが派遣労働者の雇用安定につながるという趣旨を言われているようですが、私たちには、いつまでも、使い勝手がよく、派遣労働者のまま低賃金で、派遣先企業が何らの雇用責任も負わず労働者を使用させろと、まるで奴隷のように働けと言っているようにも聞こえてしまいます。

 私たち請負、派遣労働者は生身の人間です。正社員と同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金をもらいたい。安心して子供を産みたい。子供に十分な教育を授けたい。育ててくれた親の面倒を見たい。そして、自分自身も、社会に貢献しながら幸せな老後を送りたい、そんな生活をしたいです。

 こうした話をすると、そんなに非正社員が嫌ならば正社員になればいいと簡単に言う人もいますが、現実はそんなに甘くはありません。私の年齢は三十二歳ですが、十年前は就職氷河期真っただ中で、どの企業も正社員採用には極めて消極的でしたし、また、派遣、請負という雇用形態が多い北関東という地域性などもあり、正社員になりたくてもなれず、やむを得ず非正社員という雇用形態を選択せざるを得なかったというのが現実でした。

 私たちのように、一度非正社員の道に入り込んでしまうと正社員の道を歩むのがとても困難であるということを、どうか知ってください。そのためには、派遣、請負、パートなど非正社員の長期的な雇用の安定の確保や正社員登用制度、正社員との均等待遇など、具体的な待遇改善につながる法的整備をしていただきたいと切に願います。そうすることが格差社会の解消につながると信じています。

 ちょっとはみ出してしまいましたが、御清聴ありがとうございました。(拍手)

金子委員長 ありがとうございました。

 次に、中川公述人にお願いいたします。

中川公述人 おはようございます。

 東大病院の中川でございます。きょうは、資料をもとにお話しさせていただきます。

 私は、東大病院でがんの治療をしておりまして、立場としては、放射線科でがんの放射線治療、それから、東大病院には緩和ケア診療部というのができまして、その部長を兼務しております。

 御承知のように、昨年六月にがん対策基本法が成立いたしまして、この四月から施行に入ります。

 一ページ目の下側は、ウォールストリート・ジャーナルの一月十一日号でありますが、英語で書いてありますけれども、この右側、ディジーズデバイドと書いてあります。これは、がんの死亡数の日米比較。薄い方がアメリカ、濃い方が日本でありますが、ごらんのように、九五年では、おおよそ日米が同じくらいでございました。それが十年間で、アメリカはがんが減り、日本はがんがふえている。これは非常に重要な、一つの日米格差でございます。ただ、左側にヘルシーディファレンスと書いてある、一人頭の医療費は、アメリカはGDPの一六%、日本は八%程度でございますので、我が国のがんの治療というのは、少ない資源で頑張っているというふうに御評価いただいてもいいのかもしれません。

 めくっていただきまして、二ページ目でございますが、がんがふえているわけであります。一九八一年に脳卒中をがんが追い抜きまして、以降はどんどんふえております。がんが今どれぐらいあるかというと、二人に一人弱ががんになります。ですから、先生方、今、二人に一人が、隣の先生とお顔を見合わせていただくと、どちらかががんになるのでございます。これは本当でございます。皆さんお隣の先生がと思うんですが、なかなかそうはいかないかもしれない。三人に一人ががんで亡くなっておりまして、これは統計的な事実です。これは死亡診断書に書いております。

 がんがふえているということは本当にいけないことかというと、実は日本は、医療や衛生環境がよくなって、感染症や栄養失調のようなものがどんどん減っております。したがって、世界一の長寿国であります。平均寿命は八十二歳。そうすれば、がんで死ぬのであります。

 というのは、がんというのは一種の老化でありまして、今この瞬間にも、我々の体の中にはがん細胞がいるわけです。六千個がん細胞ができるらしいんですが、これを毎日毎日つぶしている。六千勝零敗の日々の闘いを八十年、百年やっていけば、必ず取りこぼす。どんなに打率の低いバッターでも、打席を重ねれば、いつかはヒットを打つのであります。というわけで、日本は世界一の長寿国ですから、世界一のがん大国になっております。

 もう一つ重要なことが、二ページ目の下、がん死亡の内訳、がんの欧米化というものが起こっております。男性、女性、ちょっとわかりにくいんですが、左側が男性。

 まず、先生方、がんは男性に多い病気であります。そして、例えば男性側の一九六〇年、昭和三十五年、ここですと、この黄緑の胃がんが男性のがん死亡の三分の二程度を占めていた。もっと昔はもっと多かったんですね。つまり、かつて、日本のがんというのは胃がんだったんです。それはなぜかというと、例えば、冷蔵庫がない、古いものを食べる、井戸水を飲む、ヘリコバクター・ピロリなどの雑菌が原因の一つですので、どうしてもこうなる。これが減っております。胃がんが減っております。冷蔵庫ができれば胃がんは減るのであります。

 一方、このピンクの肺がんが急上昇している。つまり、アジア型のがん、胃がんなど、ほかに子宮頸がん、肝臓がんなど、これは減っているんですね。感染症、ウイルス、雑菌が原因となるようながんは減っておりまして、一方、肺がん、女性ですと乳がん、男性ですと前立腺がん、こういうがんが急増しております。つまり、アメリカ型になっている。ハンバーガーを食べれば、アメリカと同じようながんになります。

 次のページをお願いいたします。三ページ目。

 これはアメリカの状況であります。アメリカの男性のがん。まず、先ほど申し上げたように、アメリカではがんが減っております。日本はふえているんですが、アメリカは減っております。そして、今、肺がんが非常に多いんですが、例えば一九三〇年、一番左側を見ていただきますと、やはり胃がんが多かったんですね。アメリカでもやはり、冷蔵庫がない、井戸水を飲むということですと、当然胃がんが多かった。それが、このようにどっと下がっております。

 そして、肺がんと胃がんが逆転しているところが一九五〇年。ちょっと一つ戻っていただいて、二ページ目の下側ですが、日本の男性、ピンクと黄緑が逆転しているのは、おおよそ一九九〇年です。つまり、アジア型のがんの胃がんから、アメリカ型のがんの肺がんが逆転するのが、アメリカでは一九五〇年、日本では九〇年。つまり、日本はアメリカよりがんのタイプが四十年おくれている。ちなみに、昨年がん対策基本法が成立しましたが、アメリカでニクソンががん法をつくったのが七一年。つまり、やはり三十五年おくれている。三十年から四十年のギャップがあるということを御理解いただく必要があると思います。

 もう一つ、三ページ目の下ですが、日本のがんの特殊性というふうに書いてあります。つまり、申し上げたように、かつて、胃がんが日本のがんの代表でありました。これは確かにそうなんですね。ですから、がんイコール胃がんというような頭ができました。

 御承知のように、がんの治療というのは、はっきり効くものは三つしかありません。手術、放射線治療、抗がん剤の三つであります。大体どんながんにもこの三つは役に立つんですが、胃がんというのは非常に特殊ながんでして、手術しかほとんど役に立ちません。

 これは理由が二つありまして、胃というのは全摘できる珍しい臓器なんですね。脳の全摘や肺の全摘や肝臓の全摘というのはないんですが、胃に関しては、王監督もなさったように、全摘ができます。それは、非常に取りやすいところにあるんですね。おなかをあけると、まず出てくるのが胃であります。

 そういうわけですから、非常に特殊なことに、胃がんというのは治療が手術だけであります。そうしますと、がんイコール胃がん、胃がんの治療イコール手術ですから、がんの治療というのが手術ということになりました。これは制度上にもあるいは国民の心理の中にもあって、実は、このことがずっと引きずられてきた。

 ちなみに、がんをやるのは外科というふうに今はなっておりまして、抗がん剤も実は外科の先生がなさる。これは中国では何科がやるかというと、腫瘍内科という内科です。点滴ですから内科がやるのが普通なんですが、がんの治療というのは外科がやるようになっておりますので、日本では外科がやっております。

 ところが、このことは胃がんが全盛であったころはよかったんです。私も、胃がんになりましたら手術をします。それはいいんですが、ただ、今、がんの欧米化が起こってきて、胃がんが減っております。上のアメリカのグラフをもう一度見てください。胃がんは今、膵臓がんや白血病よりも珍しい。胃がんは一番下になってきております。日本もこれから四十年するとこうなるのでございます。このことを考えた上でがん対策をしていただきたいということでございます。

 まためくっていただきまして、四ページ目でございますが、がん対策基本法、我々、がんの臨床医の立場から見ますと、この三つにまとめられているかと思います。

 手術、これは大変大切なんですが、日本は実は手術が世界でトップのレベルにあります。むしろ、がんの欧米化に従って、放射線治療、抗がん剤、化学療法ですね、この放射線治療、抗がん剤をやっていく必要がある。

 それから、もう一つ日本が弱いのは緩和ケアであります。私も、母親から、痛いのは我慢が一番と習ったんですが、我慢していますと、実は寿命が縮まります。痛みはとった方がいいに決まっています、食べられますし、寝られますし。ところが、がんの治療においても、日本は先進国の中で最も痛みどめを使いません。モルヒネの使用量でいうと、カナダ、オーストラリアといった国の七分の一であります。ですので、世界でも最も痛い国なんですね、がん大国なんですけれども。

 それから、がん登録という問題もございます。

 放射線治療、四ページ目の下の灰色のカーブでありますが、このようにどんどんふえているんです。今、がん患者さんの四人に一人が受けております。この四人に一人、二五%、どれくらいの数字かといいますと、実はやはり少なく、アメリカでは六六%、がんの患者さんの三人に二人が放射線治療を受けます。イギリス、ドイツ等、先進国は大体六割なんですね。日本は二五%。

 ただ、日本でも、この率、二五%が、十年、十五年で半分になります。そうしますと、先ほど申し上げたように、二人に一人ががんになる国ですから、日本人四人がいますと、二人ががんになります、その二人のうち一人が放射線をやりますということになります、十年、十五年しますと。そうすると、日本人全体の四人に一人が放射線治療を受ける時代になります、一家に一人が放射線治療ということになります。

 次の五ページ目でございます。放射線治療、先生方は当然なじみがないんですが、喉頭がんがどんなふうに治るか。ちょっと医学的なあれなんですが、ここに、照射前、放射線治療の前に、このように右側にがんの塊がございます。これを一月通って、放射線治療というのは通いでできるんですね、そうしますと、一月やると、本当にぽちっと残るぐらいになります。さらに二週間もすると完全になくなります。これは、かさぶたがなくなるように、かさぶたが消えていくように治っていくというのが放射線治療です。

 これは、結局、がんが異物に見えるようになるわけですね。例えば、一回放射線をかけますと、がんの温度は二千分の一度だけ上がります。ですから、放射線で焼くなんという言葉がありますけれども、それは全くの誤解でして、何で治るかというと、がんが異物に見える、がんの面が割れるから、免疫細胞ががんを攻撃して、がんがかさぶたのように消えるのであります。ですから、そういう意味では、放射線治療というのは広い意味では免疫療法に属します。とても人に優しい。

 ところが、日本では手術が大変なされておりまして、五ページ目の下ですが、子宮頸がんというがんがあります。これを手術する割合を国際的に比較しますと、仏、独、英、米、日本、この緑の二期を見ていただくといいんですが、子宮頸がんの二期を、日本では八割方が手術をいたします。

 がんが完治するためには、実は手術か放射線治療かどちらかが必ず必要です。ですので、日本では、二期の子宮頸がんは、八割が手術、二割が放射線治療になります。ところが、ほかの国々では、この緑は二割。つまり、二割が手術、八割が放射線治療。同じがんに対して、日本ですと、八割手術、二割放射線、欧米ですと、八割が放射線、二割が手術ということになっております。

 この辺、まだ一般の方にもがんに関する啓蒙が必要。私は、初等教育から、がんのことをやはりもう少し知っていただく必要があるんじゃないかと思います。

 それから、次の六ページでございますが、放射線治療というのは安いんですね。医療費抑制という流れの中で、放射線治療にかかる年間の費用は四百三十億程度であります。これは医療費の〇・二%以下であります。これで国民四人に一人を賄うということでありますので、大変厳しい状況であります。

 具体的に、六ページの下ですが、肺がんを手術する、これは、VATSというのも手術の一つの方法なんですが、新しい治療法ですが、右三つが手術ですが、これが百八十万、百五十万といった金額がかかります、治療費として。放射線治療ですと、これが六十三万円で済みます、三分の一程度で済みます。そういう点では大変効率のいい治療ということになろうかと思います。

 七ページ目でございますが、ただ、お金をかけておりませんので、人も少ないということであります。アメリカと常に比べるのもいいかどうかわかりませんが、私のような放射線治療の専門家はアメリカには五千名おります。日本は五百人程度。それが決してふえておりません。

 それともう一つ、実は、放射線治療というのは、電子、エレクトロン、これを光の速さの八割ぐらいまで加速して行います。ですから、大変大規模な装置が必要であります。当然この品質管理が必要になってくるんですが、アメリカには専門医と同数の品質管理の専門者がおります。ところが、日本には実質的には二十人程度という、大変問題がございます。

 実際に、七ページの下、事故が起きます。誤照射事故、過剰照射事故というような事故が起きます。放射線治療の場合には、装置が誤りますと、それを使ったすべての患者さんに被害が及びます。ですから、旧国立弘前病院の例でありますが、示談総額が十億円といったことになります。

 一つ、専門医をふやしていただくという必要の中で、私は放射線科に属しておりますが、日本は、放射線科という中に、放射線治療それから放射線診断、この二つの専門家が同居しているという、今では珍しい国になっております。それから、装置の品質管理も重要でございます。ちなみに、緩和ケアに至っては、ほとんど大学の中に講座がございません。ですから、例えば東大医学部で、六年間で、緩和ケアの講義というのはたった二回だけでございます。

 八ページ、実は、これはおとといの新聞でありますが、また関西の方で同じような放射線の事故があったようでございます。これはコンピューターシミュレーションをする装置に誤ったデータが入力されたということのようであります。この問題、放射線治療の品質管理については、がん対策基本法の参議院附帯決議の中にもございます。この問題はやはり非常に重要だと思ってお話しさせていただきました。

 最後に、九ページ目、がん登録という問題がございます。海外では、がんに罹患しますと、まず、その病院の中で患者さんの詳しい情報を登録し、そして、どのような治療をして治ったのか、治らないのか、治った場合には体調はどうなのかということを五年、十年と追跡してデータを集める仕組みがございます。がん対策基本法の中にも、十七条として「がん患者のがんの罹患、転帰その他の状況を把握し、分析するための取組を支援するために必要な施策」ということもございます。これはまさにがん登録だと思います。

 ただ、実は、私が独自にアンケートを行いました。一般の方々千八百七十一人に、がん登録についてどのようにお考えか。賛成は八五%でありました。基本的に、このことはいいと。ただ、日本の場合に、告知をしていない患者さんがまだまだたくさんおります。恐らく三割から四割おられるんですね。そうすると、その方々、告知をされていない方々のデータを登録していいかということになりますと、これは、思うが四七%に減ります。つまり、がん登録そのものはいいんだ、ただし、告知していない患者さんを登録するということになると、かなりクエスチョンというのが現状でございます。

 したがって、がん登録は、総理も答弁なさったようですが、やはりこれはやっていく。世界一のがん大国ですから、世界一を目指したがん対策を行っていただきたい、その中でやはり必要な施策かなというふうに思っております。個人情報保護法との兼ね合いに関して、新たな立法化ということも含めた御議論をいただきたいと思います。

 以上であります。ありがとうございました。(拍手)

金子委員長 ありがとうございました。

 次に、森田公述人にお願いいたします。

森田公述人 お招きをいただきまして感謝申し上げます。

 この三日間、平成十九年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算、そのほかの附属文書、衆議院の事務局から送られた全文書を読みました。率直に言って、けさ早朝までかかりまして、相当のエネルギーを使いました。

 それは同時に、こちらにお集まりの予算委員の皆さんも、あれを全部読んで、頭に入れられてこの審議を行い、国政の方向を決定される議論を行われる、これは改めて大変なことだなと本当に敬意を表する次第であります。また、誤字誤植一つなくこの予算書をつくられた財政当局あるいは関係者、相当のものだったなと改めて感じております。

 予算書は何度かすべて目を通しておりますが、今回三日間の日程でしたので、相当苦労をいたしました。その読み終わっての感想はこういうことでありました。

 こういう言葉が頭に浮かびました。私は、十年か十五年ほど前から、なるべく格言を若い人たちに覚えてもらったらどうかということで、それを評論の際に使うようにしておりますが、使ったことのある一つの言葉に、孟子の中のこういう言葉があります。民をたっとしとなし、社稷これに次ぐという言葉であります。社稷、これは、古代、国家のことを社稷といいました。国家は祭礼でありまして、そこから来た言葉であります。社稷これに次ぐ、つまり、第一が民のことであり、国家のことは後回しにすべきであるという孟子の説であります。

 もちろん孟子は一思想家でありますから、権力者に協力したこともありますが、権力は権力の生態があります。権力は権力の事情でもって動くわけでありますから、孟子の考え方がどれだけ影響を与えたかということを歴史を振り返りますと、無視されたことが多かったのではないかと思います。

 ただ、我々は、言論に当たる者は絶えずその視点を持って国民を守る側に立つべきである、私個人はそう考えてやってきましたので、そのことを絶えず意識しているんですが、予算全体を一生懸命に読んでみまして、これはこういうことではなかろうか、社稷をたっとしとなし、民これに次ぐというものではないのかと。

 国と民とは絶えず対立するものではありませんけれども、しかし、対立した場合には、それを調和させる努力がだれかによってなされなければならない。そのだれかとは何か。私は、国会議員の先生方なんだ、国民によって、直接投票によって選ばれた国会議員の先生方にやっていただくしかないんだ、そういうように考えております。

 予算書は、多くの人間の集積によってつくられてはおりますけれども、それは一つの思想を発揮しているものだと思います。その思想を、つまり現代における政治権力の思想を表明しているんだと思います。私は、国家と民とのバランスに異常を来しているのではないか、それを先生方の御努力で修正していただきたいという気持ちできょう参ったわけであります。これが、第一の読んだ感想でありました。

 第二に私の頭をよぎったのは、これも中国のことわざで孔子の言葉なんですが、古いやつだと思われるかもしれませんが、そういう言葉が思い浮かぶんです。遠慮なければ近憂あり、つまり、遠くをおもんぱかる、長期的な展望を持って初めて現実のことに当たるべし、もしそれをしなければ必ずつまずきが起こるであろうという、論語の中の有名な孔子の言葉であります。

 私の個人的な見方では、この二〇〇七年、二〇〇八年という二年間は、世界史的転換ともいうべき変化の時代に入っていく、その大きな転換期に直面しているのではないかと思います。

 私はこう考えているんです。一九八〇年の終わりに登場しましたレーガン政権以来、今日のアメリカのブッシュ政権が世界の方向を引っ張ってまいりました。よきにつけあしきにつけアメリカの時代だったと思います。ブッシュ政権がもう二年後に終わって、その後どういう時代になるかは、一つの予測でしかありませんが、こうした、強力な軍事力を背景にして世界を統御していく、強烈な自由主義市場経済理論をもって世界の経済をリードしていくという時代は明らかに終えんしつつある。一つの大きな時代が終わって、新たな秩序の模索に入っているんだと思います。

 その秩序をつくるに当たって、できる限り調和の思想を持っていただきたいと私は思っておる者なんですけれども、そうした大きな変化の時代の中で、古い時代が継続するということを前提にして日本の国の施策を決定するというのは、私は大きな禍根を残すおそれがあるというように思っておりまして、そうした先の展望を持っての方向づけの中で国の運営をやっていただくのがいいのではないか、そういうように考えまして、そのことを先生方にお願いしたいと思います。

 もちろん、そうした大きな課題、これはそう簡単にできることではありませんので、国会において一年、二年議論がされる必要のあることだとは思いますけれども、そういうことをお願いしたいと思いました。

 それから、私は、仕事の大部分が原稿を書くことと講演をすることであります。最近は全国各地から講演を依頼されまして、全国各地を回っておりますが、私に全国各地の人が講演を依頼する理由の一つを聞きましたところ、幾つかのところがこう答えてくれました。

 私は、徳富蘆花の言葉を使いまして、国家の実力は地方に存する、百年前徳富蘆花が「思出の記」の中で書いた一文でありますが、これをずっと話し続けてきたわけであります。我々は地方を大事にしなきゃいけないんだ、地方と大都会地、あるいは地方と東京との均衡ある発展こそが日本の将来につながるんだということを長く主張してまいりました。このことが、多くの地方の商工会議所や商工会やもろもろの団体から私に声がかかる原因の一つだということを聞きました。

 私は、今度の予算を見るに当たりまして、地方を本当に大事にしているだろうか、東京や中央と同じようにこれは重要なものなんだということを考えてやっているだろうか、その点に欠点はありはしないかということを感じておりまして、そういう点で、地方に対する、より厚い、温かい御配慮を賜りたい、そういうことをお願いしにやってまいりました次第であります。

 さらに言えば、我々は、何のために政治があるんだろう、現代の政治は何のためにあるんだろう。それは、一言で言えば調和ではないか。調和というもののモラルを確立する、これが政治の大きな責任ではないのか。抑圧とあきらめ、これの時代を終わらせるのが民主主義における政治の役割ではないのかというように考えるわけです。

 例えば、この二百年間、世界は自由と平等の間を揺れてまいりました。平等を極端にした共産主義体制は崩壊いたしました。自由を徹底化させたアメリカは、ここ数十年の間、世界のリーダーになりましたが、私は、歴史を見て、これが長続きするとは思えません。自由と平等と、その時代時代において、どうバランスをとり、あんばいするかというのが政治指導者の役割なんだというように思います。

 そういう点からしますと、現在の日本社会を見て、貧しい人がふえていることは、もう否定しがたい現実だと思います。そして、このままの勢いを放置するならば、このままの政治の流れをそのまま認めるならば、より貧しい人が増加するおそれなしとしないというように考えるわけです。そういう点からいって、政治における調和を、日本において、極端ではない、極端から極端へという流れではない調和の流れを確立する、そのことをこれから取り組んでいただきたいというように考えております。

 抽象的なことをお話ししましたが、現在、私は、もう一つ申し上げたいのは、これは古い政治家が時々使った言葉で有名な言葉でありますが、一利を興すは一害を除くにしかず、これはジンギスカンの政権の宰相を務めました耶律楚材の残した言葉でありますが、現実に今の日本において、ある一害を除く、このことに政治の使命があるんだ、むしろ、そういうものを一挙に全部一遍にやるための革命とか大きな一利を興すことよりは、一つ一つの一害を除く仕事に政治は専念すべきではないのであろうかというように思うのです。

 改革、改革ということの底に、すべてをひっくり返せばうまくいくんじゃないかという幼稚なる思いがあるとすれば、共産主義革命運動家の間違いを繰り返すことになるように思います。私は、ぜひとも、そういうことを注意しつつ国政に取り組むことをお願いしたいと思います。

 率直に言います。このまま我々が今の方向についての反省なく進むことになれば、日本は、将来、井の中のカワズ大海を知らずというおそれなしとしないと思います。そうした時代を切り開くためには、私は、今の事態についての冷静なる反省、冷静なる見直しというものをぜひともお願いしたい。

 二〇〇七年から八年まで、私は大きな変わり目であると申しました。二〇〇八年の終わりにはアメリカ大統領選挙が行われます。ことしは多くの国で選挙が行われます。ヨーロッパにおきましても、大きな国で選挙の時代を迎えました。中国においては、二〇〇八年にはオリンピックが開かれます。かなりの大きな政治的イベントが次々と行われる中にありまして、我が日本国が、その新しい変化の方向を読み取ることなく、今までの延長で進むんだと判断して政治に臨むとすれば、世界に対して対応するとすれば、井の中のカワズ大海を知らずの轍を踏むおそれあるんだというように思っております。

 最初に申し上げました。だれが国民のことをやってくれるのかといいますと、国民の選挙によって選ばれた政治家以外にないんだ、私はそのように思います。選ばれない人にそのことを幾ら説いても、通ずることはあるかもしれませんが、基本的な責任の問題と考えられないケースが多いと思います。そういう点では、政治家の先生方にそれをぜひともお願いしたい。

 つまり、もう少し国民に温かく、社稷これに次ぐぐらいの決意を持つ。国家のことは確かに重要です。本当に重要ですよね。現在のような世界においては特に重要ですが、それでもなおかつ、国家を優先させて国民に負担を強いるという政治は、絶望とあきらめを生むおそれがあると思います。

 古いモラルは抑圧とあきらめだったと思いますが、今の流れをそのままずっと続けることは、国民に大いなるあきらめを強いるおそれがある。国民があきらめるということは国民のエネルギーがなくなることなんだ、国民のエネルギーがなくなれば国は衰退していくんだと思います。

 いかに国民に勇気を与えるか、希望を与えるか、自信を与えるかというのが、政治家の、国に対して、社会に対して負っている大きな責任なんだと思いますので、そういう方向への御努力をぜひともお願いしたいと思います。

 二十分の時間でありますが、抽象論を長々と行うことは非礼に当たると思いますので、少し時間を余して、委員長には申しわけありませんが、降壇する次第です。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

金子委員長 どうもありがとうございました。

    ―――――――――――――

金子委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。三ッ矢憲生君。

三ッ矢委員 自由民主党の三ッ矢憲生でございます。

 公述人の皆様方には、朝早くから、また遠路からお越しいただいた方もおられます。また、先ほどは大変貴重な御意見を賜りまして、心から御礼申し上げる次第でございます。本当にありがとうございました。

 さて、我が国も戦後六十年以上を経過いたしまして、戦後の復興から高度成長、そしてバブル、そしてそのバブルの崩壊というような過程をたどってきておるわけでございますが、今、そのバブルのはじけた後始末をし終えて、これから新しい日本の体制づくりに邁進しようということで、我々、日々一生懸命やっておるわけでございます。また、国民の皆様方も、それぞれのお立場で大変御努力をされているということだと思います。

 しかし、考えてみますと、日本というのは、戦後、非常にいいシステムをつくってきたんじゃないかな。ある意味では、何も考えなくてもいいシステムをつくってきたわけですね。

 例えば、サラリーマンの方個々人の生活をとりましても、ある程度の学校を出て、就職をして、無事に大過なく定年まで勤め上げれば、そこそこの退職金をいただいて、年金ももらって、あしたのことを心配しなくても暮らしていける、また、まじめに働いていれば毎年給料も上がっていくというような状況だったと思うんですね。

 ところが、これは右肩上がりの経済を前提にした制度でございます。しかも、それに応じて社会保障の制度も非常に充実してきた。世界に冠たる医療の制度ですとか、あるいは、いろいろ御不満もある方もおられると思いますけれども、年金にしても介護にしても、それなりの制度が整ってきた。ところが、バブルがはじけてしまいまして、後始末をしないといけないという状況の中で、要は、既得権になってしまったものを削らざるを得なくなってきている。

 御承知のとおり、国民所得の一四八%にも及ぶような大変な国家財政の赤字、借金を抱えておるわけでございますから、今までどおりのような形で、いろいろな面での保障を国民の方にすべからくするわけにはいかなくなってきている。これは社会保障の面だけではなくて、例えば公共事業につきましても最盛期の半分になっておりますし、そういう意味で、いろいろな面で、国民の方々から、言ってみれば既得権になっていたものを多少削らざるを得なくなってきている。

 新しい、先の制度といいますかシステムが見えていれば、それはそれで国民の方は安心できると思うんですけれども、まだ多少それが見えていない面がある。したがって、それに対する不安、それから既得権が削られることに対する不満、これが両々相まって非常に混沌とした社会状況になっているんじゃないかなという気がするわけでございます。しかも、我が国の場合、これが少子化あるいは高齢化ということと軌を一にして起こってきたものですから、余計影響が増幅されているんじゃないかなという気がするわけでございます。

 そういう認識のもとに、きょうは、日比野公述人にまずお伺いしたいと思うんですが、可児市の商工会議所の会頭でいらっしゃいます。

 実は、私は三重県の伊勢でございまして、人口規模は多分似たようなものだと思うんですね。一番元気な中部圏でございますから、先ほど公述人御自身がおっしゃいましたように、可児市は非常に元気だということでございました。ところが、私の地元を見てみますと、同じぐらいの人口規模なんですけれども、どうも元気がない。

 実は三重県でも、北と南では随分格差があります。鈴鹿ですとか亀山ですとか四日市ですとか、これは非常に元気なんですね。

 先般も、亀山の市長と話をしておりまして、あそこは今、シャープのアクオスが亀山ブランドということで世界じゅうに売り出されておりますが、あの工場ができる前、固定資産税は幾らだったんですかと聞いたんです。山林だったんですね。年間百万円の固定資産税だった。今幾らか。固定資産税ばかりじゃないですよ。三十億なんだそうです。

 私が子供のころは、亀山市といいますと、ろうそくと国鉄の町だったんですね。ほかは何もなかったんです。今や不交付団体になっている。交付税は要らない。これも、先ほど会頭がおっしゃいましたが、道路ができたからということもあるんだと思うんですね。これは明らかでございます。

 可児市の場合も、東海環状が開通して、まだ東側半分だけでございますけれども、非常に交通体系が整備されてきているということもあろうかと思います。

 そこでお伺いしたいのは、幾ら元気といっても、やはり都市と地方の格差といいますか、格差という言葉がいいのかどうかわかりません、いわゆる格差と申し上げたいと思いますが、それは可児市の場合でもお感じになっておられるでしょうか。

日比野公述人 御質問にお答えします。

 企業というのは、あくまでも人、物、金でございますね。それとあわせて、土地をどう有効利用できるかというような問題がございます。

 今先生がおっしゃいましたように、非常に三重県、今、愛知県、岐阜県、三重県という順番で活気があると思っています。シャープさんが相当な勢いでございます。そのシャープさんは、大阪万博のときに、こんなことを言っていいかわからないけれども、土地を買うか万博に出展するかという問題を含めて、今のシャープの工場ということでございますから。

 私の信念としては、人口の多いところで商売をやるのが一番勝ちなんです、実際、はっきり言えば。東京で商売をするか、岐阜県でも、非常に広うございますけれども、全然人がいないところ、そこで商売をするかといったって、ホテルなんか絶対だめですからね、観光しかないということでございますので。

 格差は今後ふえるだろう。それを解消するのは、もう道路しかないと思っております。それが第一ですね。それと、ネット社会になっていきますので、その辺のことも含めて、どういう形でそれを広げていくかというような問題を今考えております。

 それから、今の御質問とちょっと違うのでございますけれども、可児市としまして、どう活性化を図るか。それから、先ほど申し上げましたように、商工会議所というのは五百二十ございますね。可児市の会議所としても、行政と話し合いをもっとしようと。行政と会議所になりますと、どうしても許認可は行政だとなるので、そうではなくて、徹底的に話し合いをして、そしてお互いの共通点を見出しながら需要を創出していくということでございます。

 また、話はちょっと飛ぶんですけれども、これから景気というのはなかなかよくならないと僕は思うんですね。というのは、各企業が発明というか一つの新商品を開発しましても、それが十年、二十年続くとは限らないんですよ。だから、僕は、その辺のことが今わかっているかどうかということを先ほど申し上げたのは、イザナギ景気の問題になるんです。十年ぐらいは固定するぐらいの度胸がなきゃだめだと思う。そうすると、それを含めて、地方への波及効果、もしくは格差を是正できる方法がとれる可能性もあるということでございます。

 優秀な人が全部東京へ集まっちゃったらまたこれも困るということですから、可児の方で考えているのは、優秀な人、優秀というか、雇用問題が今後問題になってくるので、必ず可児の高校生は可児の工場で働いてくれるように。というのも、一つは、頭脳流出にならぬじゃないですか。こういうことも考えたりしております。

 今、格差問題一つのことで、地方と都市の問題で、私があちこちに行きますと、日比野さん、岐阜県でいいですねなんと言うんですよ。岐阜県でも一番名古屋寄りですから、名古屋区ですから、いいですねと言う。今度ちょっと岐阜県でも、入りますと大変だなということですから、この辺は本当に難しいと思っております。

 いずれにしても、やはり交通がなければ、道がなければ、道路がなければそこまで到達できませんから、私は、単純に考えれば道路しかないと思っておりますし、それはネットで結んで道路開発してもらえば最高だと思っております。

 それでよろしゅうございますか。

三ッ矢委員 どうもありがとうございます。

 可児市といいますと、私、実はゴルフぐらいしか行ったことがなくて、余り土地カンもないんですけれども、たしか、鉄道のJRも名鉄も通っていたと思いますし、そういう意味で、地理的には日本のへそに当たるところだと思うんです。その地理的な優位性もあると思うんです。

 今度、安倍内閣におきましても、地方に対するいろいろな支援策、頑張る地方応援プログラムとか、これは前からやっておりますが、今度拡充されますまちづくりとかあるいは中心市街地の活性化とか、いろいろなプログラムを組んではおるんです、メニューを用意してはおるんですが、私自身は、これはいわば対症療法的な対策かなというふうに思っています。

 もう少し長いスパンで、都市と地方、中央と地方の関係をもう一回整理し直して、どういう形で日本の国土そのものを、あり方というんでしょうか、それを変えるような、長続きするシステムを考えていく必要があるんじゃないかというふうには感じておる次第でございます。

 それから、ちょっと話はかわりますが、もう一点お伺いしたいと思います。

 先ほど大野公述人の方からも、正規、非正規雇用の問題、大変御苦労されているというお話を伺いまして、実態をよくお伝えいただいたと思います。我々も何とかしたいというふうに思っておる次第でございますが、特に地方の中小企業の方が、先ほど日比野公述人もおっしゃいましたが、金利は上がるし、それから雇用の問題も、正規、非正規の問題、それから外国人の労働者の問題も含めて、非常に御苦労されていると思うんです。

 企業の側からいえば、昔と違いまして、例えば製品をつくっているところでも、製品のライフサイクルも短くなってきていますから、できるだけ固定費を抑えて不測の事態にも対応できるようにしたいというようなこともあろうかと思いますし、また、こんな時代でございますから、余りにも人件費が上がるんだったらもう海外へ行くわ、海外流出してしまうというようなことにもなりかねないし、非常に難しい面もあろうと思います。

 先ほど公述時間の中で言い足りなかったこともあろうかと思われますので、金利が上がることによって資金繰りの面とか、あるいは今申し上げました雇用の面とかで日々御苦労されている思いのたけを、ぜひもう一度御披瀝いただきたいと思います。

日比野公述人 需給バランスですね。一〇〇対一〇〇の需要、供給であればうまくいくんですが、私はさっきから、デフレ脱却はまだしていないと。これはあくまでも、需給バランスが崩れたままずっといきますよ。例えば、百円ショップと十万円ブランド、こんなことも当然続いていますね。百円も、もっと下の方のポジションで動いているというようなこともございます。前は、カルテルだとかいろいろ問題がありましたね。不況カルテルだとかいろいろございましたけれども、一〇一と九九の需給であれば、これはそんなに苦労しなくてもいいんですね。

 ところが、中小企業を含めて多い状態の中で、一〇〇の需要に対して供給の果たす能力というのはどうしても一〇%ぐらい多いんですよね。そこで、先ほど申し上げたんだけれども、バブル崩壊後、今が一番価格の競争時代に入っていると思う。それは、流通の世界からそうでしょう、百貨店もそうですね。だから、今後の問題は非常に長期化するだろうと思っております。

 そういう意味で、需要、供給が、淘汰を待って供給を多少は調整できるような状態、言ってみればMアンドAとかTOB、そういう問題もございますし、大手は大手の強みがありますけれども、中小企業というのはそういうわけにはいかない。私のようにオーナーですと、そうはいかぬねとなる。企業間格差があれば、そううまくMアンドAもできない。そうなると、日本じゅうのことを考えれば、淘汰によって、言ってみればリストラ効果を上げているということで、しばらくは非常に難しいですね。

 だから私は、そんなに焦らなくてもいいよ日銀さんと言っているのです。本当に競争は激しい。これは先生、認識してください。価格競争がむちゃくちゃな時代に入っている、そういう感じでございます。

 よろしゅうございますか。

三ッ矢委員 どうもありがとうございました。現場の御苦労を体して我々も頑張ってまいりたいと思います。

 もう時間がなくなってきたので、森田公述人、大変貴重な御意見を賜りましてありがとうございました。私も、やはり地方と中央といいますか国の関係、これをもう少しきちんとしていかないと、環境の問題とか国土保全の問題とか災害の問題ですとか、そういうことも含めて地方をもう少し大事にしていかないと大変なことになるんじゃないか。今回の予算でもある程度は配慮されていると思いますけれども、我々、地域、地方から選出されている国会議員は特にそれを肌身で感じていると思います。

 それから、もう一つお話がありましたのは、民主主義の二大要素として自由と平等ということがあると思うんですが、その時代時代によって、どちらにウエートをかけるかということがあろうかと思います。私は、みんなが右と言ったらちょっと左に行ってみよう、みんなが左と言ったらちょっと右に行ってみよう、そういうバランスをとるのが政治家の役割だというふうに思っております。また、民主主義を支え得るのは、やはり健全な中産階級だと思うんです。これが薄くなってきますと、民主主義そのものの根底が揺るがされることになるというふうに私は思っておりまして、そこのところを下支えできるような政治をぜひとも心がけてまいりたいというふうに思っておる次第でございます。

 もう御質問はいたしませんが、きょうのお話は大変御示唆に富んでおりまして、我々も肝に銘ずるところが大変多かったと思います。本当にありがとうございました。

 ほかのお二方の公述人の皆様方、がんの話も、私も二分の一の確率でかかるなということで大変心配しておるところでございますけれども、いろいろお話も伺いたかったんですが、時間が参りましたので、これで終わります。

 ありがとうございました。

金子委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 きょうは、四人の公述人の皆さん、お一人お一人すばらしいお話を賜りまして、ありがとうございます。ただ、私は十分しか持ち時間がないものですから、中川恵一公述人に主に聞かせていただきたいと思います。

 いずれにしましても、可児商工会議所の会頭さんは、やはり非常に道路が大事だ、それから今回の中小企業の予算あるいは税制についても評価をいただきました。公明党としても、しっかり中小企業対策をやってまいりたいと思います。事業承継税制、これもしっかりやっていきたいと思っております。

 また、大野秀之様におかれましては、みずからの体験を語っていただきまして、現場の状況を聞かせていただきまして、本当にありがとうございました。しっかり対応していきたいと思います。

 森田実先生におかれましても、やはり政治は調和が大事だし、また地方が大事です。私どもも、中間層が厚みのある社会を目指していかなきゃいけない、そういうことで頑張ってまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 それでは、中川恵一公述人にお願いしたいと思うんです。

 最近も、京都府の医科大の照射ミスの問題がありました。先生の資料によりましても、やはり放射線治療の品質、これが大事である。そのためには、放射線専門医とともに、理工系のこういう品質管理をやる方も非常に人材として必要だ。こういうことで、アメリカは、五千人の専門医に対しては五千人のこういう理工系の専門の方がいらっしゃる。

 日本は、お医者さんは五百数十名ですが、この品質管理の方はどれぐらいいて、どういう状況なのか、お伺いしたいと思います。

中川公述人 日本は、長く診療放射線技師さんがこの分野を支えてこられました。日本の放射線技師さんのレベルは非常に高く、非常に努力もしていただいているのですが、申し上げたように、そもそも国民の四人に一人がこの治療をする、それから物すごく技術が進んできております。

 そもそも放射線治療というのは、がんと正常細胞を完全に識別できて、そしてがん細胞にだけ放射線をピンポイントに照射できたら、幾らでも無限に放射線をかけられるんですね、そうしたら絶対治りますよ、そういう原理でやっております。ですから、きちっと正確に当てる、これが今、ミリ単位にできてきています。数がふえるということとともに、その精度が非常に高くなっている。

 ただ、もう今の体制では無理があるということなんですね。今、放射線治療品質管理機構という仕組みができて、そこで認定された放射線治療品質管理士という方が四百三十一名おられます。ただ、この方々は、実は大半が診療放射線技師さんであります。ですから、御自身でなさっていることを御自身で管理するというような状況に今なっておりまして、この制度では、先生御指摘の誤照射事故というのがなかなかなくならない。

 これは、一たん起こりますと、場合によったら何百人という患者さんが被害を受けることになりますので、ぜひこの部分をやっていただく必要があると思います。現実に、申し上げたように、恐らく二十名程度が、アメリカの五千人に相当する方々になっている。ですから、大変厳しい状況でございます。

 以上です。

大口委員 放射線治療は免疫療法だ、体に優しいということでございます。また、今は患者の四人に一人ということですが、これが日本人の四人に一人ということで、五〇%ぐらいは放射線治療になってくるということです。また、肺がんは六〇から七〇%ぐらい安いということでもあります。

 これは、井上義久議員が当時安倍官房長官に質問をしたときも、診療報酬について、放射線治療について前向きの答弁があったわけでありますけれども、診療報酬等も含めて、放射線治療に対して財政的視点からのお考えをお伺いしたいと思います。

 先ほど、京都医科大学と言いましたが、正しくは、京都府立医科大でございました。

中川公述人 私の話の中で申し上げたように、実は、放射線治療というのは四百三十億円程度しかかけていない。効率的ではあるんですが、特に品質管理の部分に関しては、ここの予算化ということが一つお願いしたいことだと思います。

 もう一つ、医学部からしかお医者さんは育たないわけですね。その中に、申し上げた放射線科という中に、放射線治療と放射線診断という二つが同居しているという実態がございます。

 これはどちらかというと文部科学省ということになるんだと思いますが、現実に、防衛医大を含めると八十校、医学部がございますが、その中で放射線治療の講座があるのは十二校程度であります。それで、放射線治療をする教授がいないというところが六割でございます。そうしますと、若いお医者さんが入ってこないんですね。やはりボスがいなければ子分は入ってこないということでありますので、こういったところも考えていただく必要もあるかと思います。

大口委員 先生はよく、がんになっても痛まない、苦しまない、怖くない社会の構築ということをおっしゃっておられるわけでございます。これは、苦しむ患者さんの症状をとるということは医療の原点であるわけでありまして、そういう点でも、医学教育の中において緩和ケアというのは非常に大事であるな、このように思っております。この点についてお伺いしたいと思います。

中川公述人 どんどん寿命が延びますと、みんながんになります。例えば、平均寿命が二百歳になったら、もう全員がんになりますね。それは、申し上げた六千勝零敗の戦いをいつまでも続けられるはずはない。

 ところが、今、日本人の中に、死なない感覚というのでしょうか、死生観というのでしょうか、ここが、かつて諸行無常と言っていたものがなくなり、いつまでも生きるんだというような前提があるような気がいたします。もしそうだとしますと、痛みをとるというのは受け入れられないんですね。がんを治すということはいい、ただ痛みをとるだけでは嫌だと。

 結果的には、がんが治ったって人間死ぬのであります。ここにおられる方々の死亡率は一〇〇%。そういう前提に立つと、適切に治し、適切にいやす、両方とも必要です。

 治癒という言葉がありますが、これは、治すといやすという両方が必要なんです。病院に行って、お医者さんだけというのも変ですし、看護師さんだけも変です。両方とも要るということがなかなかできていないというのが、日本の医療です。

 これは、医療者側も死なないことを前提に医療を考えている、そこに無理があるような気がいたします。医療の基本は、実は症状をとることなんですね。ところが、今まで、症状をとる、これを現場ではこそく治療と言っているんですね。ただ、こそくといっても、患者さんが一番望んでいるのはここなんです。そのギャップがある。その中に、やはり日本人の死生観という問題をもう一度考え直す必要があるように思っております。

大口委員 がん対策基本法、四月施行、そして七月には、がん対策推進基本計画が策定されるということです。今、意見交換会も、患者の代表の方も入ってやっておられます。これから、対策協議会等、議論していくわけです。そういったように、ことしは正念場でございます。

 先生、ことし、がん対策関係予算が、平成十九年度五百三十三億八千万、十八年度が四百十億一千万と、かなり大幅に伸びました。平成十九年度の予算について、最後に評価をお伺いして、終わりたいと思います。

中川公述人 厚生労働省あるいは文部科学省ともに、がん対策の予算を新た、あるいは増額していただいておりまして、これに対しては大変ありがたく思っております。

 特に、申し上げたように、医学部の教育というのは文部科学省、そしてお医者さんになった日からは厚生労働省、この辺の連携というのも、新たな予算の中で、がんプロフェッショナル養成コースなどの形で見えてきておりまして、現場にいる我々としては大変心強く、ありがたく思っておりますが、実は、医療費の中でがんの医療費というのは、私の記憶では二兆七千というような、国民の感覚としてはもうちょっとあっていいのではないかと感じているのではないかなというふうに思っております。

 今後とも、がん対策に関して、先生方の御指導をいただければと思っております。

大口委員 地方財政措置も含めて、頑張ってまいりたいと思います。本当にきょうはありがとうございました。

 四人の公述人、ありがとうございました。

金子委員長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 民主党の枝野でございます。

 四人の公述人の皆さんには、お忙しい中をおいでいただき、貴重な御意見をありがとうございました。

 私からは、まず、大野公述人にお尋ねをさせていただきたいと思います。

 現場の実態を大変切実にお話しいただいて、ありがとうございました。派遣とか請負とか、これが特に物づくりの現場で行われているということについて、私自身も、キヤノンの宇都宮での事例をいろいろと勉強させていただくまで若干誤解をしていたのかな、私だけの誤解でなければいいと思うのですが。

 先ほどの話を伺うと、大野さんのなさっているお仕事というのは、ステッパーというまさに世界に冠たる日本の技術の製品、その一番中核になる部分の、しかも、ちょっと新しい人に入ってもらって、朝来てもらって、では十時からできますかというような仕事では全くない、まさに高度熟練技術を要する、しかも製品の中核をなすような、こういうお仕事ではないかというふうに受けとめました。

 どうしても、正規雇用、非正規雇用とかという言葉のイメージで、何か中心部分は正社員の方がなさっていて、そうでない方は補助的なところをしているんじゃないかというイメージが若干世の中にあるのではないかというふうに思うのですが、どうも実態は違う。まさに物づくりの中核部分が請負に出されている、非正規でされている、こういう印象を受けたのですが、そういう観点から、もう少し、大野さんのなさっている仕事の具体的な中身のところを、素人にもわかるようにお話をいただけるとありがたいのですけれども。

大野公述人 質問にお答えします。

 私たちの仕事なんですけれども、入社したのは自分は七年前なんですが、そのころは正社員の方に仕事を直接教えていただき、物すごく厳しく、レンズもとても高価なものなので、取り扱いなど、例えば作業服にペンを挿していたりとか、そういうのも落としてしまったらレンズがだめになってしまうので、そういうものをまず取っ払って、時計をするなとか、そういう細かなところまですべて教えていただきました。

 そういう大変なものをつくっているんだなということと、仕事内容を教わっている間なんですけれども、約三カ月ぐらいは本当に実際に作業をさせてもらえないような状態で、ほとんど勉強の日々ですね。最初入ったときは、自分は派遣だと思っていたので、派遣社員というのは、先ほどおっしゃったように、もっと簡単な仕事なのかなと思っていたのですが、こんな難しい仕事をやらせてもらえるんだという、ある種喜びのようなことを感じました。だんだん続けているうちに、とても楽しいし、確かにこういう日本の技術の中核となるような部分に触れられているということは、すごく誇りだなと思いました。できるまでに三カ月と言ったんですけれども、あくまでも機械を扱える程度が三カ月ぐらいで、実際にその仕事を熟知するのには二、三年は要しまして、二年、三年ぐらいたってやっと一人前というか、そういう仕事です。

 とても神経を使って物すごく難しい内容だということを、期間だけで申しわけないんですが、わかっていただければと思います。

枝野委員 ありがとうございます。本当に、まさに世界に冠たる日本の技術を大野さん初め背負っていただいているんだなということを、我々素人にわかるようにお話をいただけたんじゃないかというふうに思っております。

 今度は、組合の支部長というお立場で、東京ユニオン全体としても、キヤノンに関連して、請負の方が、本来正社員になれるべき立場なのに、そういうことを教えてもらえなくて途中でやめさせられたりなどというケース、資料でもきょう用意をしていただいている中にあるようですが、おわかりになる範囲で簡単に、こういう話を聞いているということを教えていただければというふうに思います。

大野公述人 お答えします。

 事務系の派遣の方で、三年間勤務すると雇いどめというか、そういうことがあったという話を聞いています。中には、十五年ほど派遣をしていて解雇されてしまったという話も聞いています。そういうのを聞いて、とてもひどいな、十五年勤務していたら正社員という道があってもいいのではないかと思いました。そういうことがあったというふうに聞いています。

枝野委員 それから、きょう、資料で、キヤノンの正社員採用セミナー開催、こういうのをつけていただいています。

 念のためなんですが、一月二十七日とか書いてあるんですが、これは、ことし出たものということでよろしいんでしょうか。うなずいていらっしゃいますが、お答えでお願いします。

大野公述人 お答えします。

 それは、ことしの広告でございます。

枝野委員 そうすると、皆さんが立ち上がって何とか正社員にしてくれというようなお話を会社などともして、労働局にもお話をして、それ以降であるし、それから、御手洗会長が正社員化を進めますというようなことを報道された後であるということになるわけだなということを今確認させていただきました。そういうことですよね。

大野公述人 ええ、そうです。その書いてある内容は、以前からずっと同じもので、今も変わっていないということです。

枝野委員 今度は、日本の技術の最先端を担っていただいている物づくりの、職人さんという言い方がいいんでしょうか、エンジニアさんという言い方がいいんでしょうか、その立場として、キヤノンに限らずいろいろなところで同じようなことが起きているのではないかと一般的には報道等で言われております。物づくりは、今お話しいただいたように、大野さん御自身も三カ月勉強して、それでようやく機械が扱えて、一人前になるのに二、三年かかると。こういう技術を持っていらっしゃるエンジニアの方で日本の技術が支えられていると思うんですが、そうした皆さんのかなりの部分が、今の大野さんのお立場のように、不安定な状況に置かれている。

 日本の物づくりというのは、皆さん異論なく、こういう世界に冠たる技術を持って、他の国ではなかなかつくれないものをつくるというのが日本の売り物だ、財産だと思うんですけれども、こういう状況で実際に働いている立場として、そういうことが日本じゅうの物づくりで起こっている、あるいは起こっていきそうだ、こういう状況をどういうふうに受けとめられますか。

大野公述人 自分も、確かにそういう中核的な仕事、非常に大事なところをやらせてもらって、今エンジニアとおっしゃってもらったんですけれども、実際働いたときには、印象どおりの派遣社員だなという感じで入ったんですけれども、確かに、そういうことがどこの職場でも起きているというのを、いろいろな記事を目にします。

 いい製品をつくろうと日々努力もしていますし、それが物をつくる上で、すごく自分にとってはやりがいのあることだし、そう思っています。ただ、年々やはり賃金が下がってきたとか、そういうところもありまして、自分が入ったときはそこそこいい賃金をもらっていたんですけれども、最近入る人は自分とかなりの差があって、結局は、仕事を教えているうちに、その三カ月の間に彼らがやめていってしまう、そういうことが実際に次々と起きてしまいます。この難しい技術を自分たちが教わったように伝承しようとしたときに、新しい人たちに伝え切れないままやめてしまう。自分たちは、やりがいを持っているし、何とか伝えたいと思うんですけれども、結局伝えられないし、自分は自分で不安を抱えている。そういう状況が恐らくどこの職場でも起きていると思います。

 伝えたくても伝えられない技術が、だんだんだんだん物づくりに影響してしまう。自分一人ではつくれないですし、生産をふやせと言われても、ふやすことができない現状。今はいいかもしれないですけれども、これからどんどんそういう状況で、物づくりが徐々に壊れつつあるのではないかと、現場サイドですけれども、心配しております。

枝野委員 日比野公述人にもお尋ねをさせていただきたいと思うんですけれども、金利の話を触れておられます。

 日銀が金利をどうするかという話と別に、現実に中小企業を経営されている立場で、実際の借り受け金利と、それから、個人としては銀行に預金をお持ちだろうと思うんですね。これは実感として、このゼロ金利、低金利政策がずっと続いてきている間、どうも銀行に預けたときの預金の金利の下がり方と、銀行からお金を借りるときの金利の下がり方とに物すごいずれがある。つまり、預金金利は物すごく下がったんだけれども、借りているときの金利は下がらない、こういう実感は現場としてお持ちじゃないでしょうか。

日比野公述人 金利問題は非常に難しくて、経営しておりますと、個人の預金の金利なんか全然目じゃない、こういうことですね。

 経営していますと、それだけ設備投資をする、更新していかないとコスト競争に勝てない、どうしても新しく更新する。したがって、金利がすごくウエート的に、自分の預金の金利は幾らでもいいよということで、そのギャップは物すごくございます。やはり預金金利が上がって貸付金利が下がれば一番いいんだけれども、そういうわけにいかぬということのギャップでございますから、その時点では、預金金利の問題については、しばらくはやむを得ぬな、そう思います。

 というのは、バブルをあれだけ起こしておいて、それから残務整理をしなきゃならない、そういうときですから、そのギャップがあるというのはやむを得ぬなという気持ちでおりました。

枝野委員 ここは議論する場ではないので、いや、だからこそ、それで銀行は立ち直ったので、だから、貸出金利は上げずに預金金利はちゃんと払ってくれよ、こういう方向にならないと筋じゃないなと。バブルの崩壊の後の回復のときに、借りる金利はそんな下がらなかったけれども、預金金利はしようがないやと思って、皆さん頑張ってこられた。銀行は回復したことになっているらしいですから、今度は貸し出しを上げずに預金金利は少し回復させる、これが筋じゃないかなと思うんですが、どうですか。

日比野公述人 金融機関というのは、私はいつも言うんですけれども、あれだけのV字回復ができる企業なんか絶対ありません。もうその一言ですね。

 普通の、付加価値を求めて、仕入れコストをできるだけ安く求めて、そして先ほどキヤノンさんもおっしゃったように、技術で勝負するんだ、そういうことで一生懸命技術の継承及び先行投資をされておる企業も、なかなか、V字なんというのは、どこから出てきたのというぐらいの回復ですから、その辺は、ちょっとそういう感じを持っていました。

枝野委員 もう一点だけ日比野公述人に聞かせてください。

 日比野公述人は地元の商工会議所の会頭までされていますので、中小といっても上の方の中小だろうと思うんですが、実は私は零細企業の息子でございます。多分、父親と母親とそれ以外に正社員は一人か二人ぐらいで、あとは全部パートという、まさに零細企業の息子なんです。

 公述人御自身の会社あるいは周辺の中小企業の経営者の皆さんは、先ほどの話の中でもちらっとあったのかなと思うんですが、私が見る限りでは、景気が悪い、企業経営が苦しいと、まずは自分の取り分を減らして、それでも苦しいときに初めて従業員の皆さんに我慢してくれということで、給料をカットしたりリストラをしたり、これが日本の圧倒的な中小零細企業の経営者の皆さんのなさっていることだというふうに思うんですが、公述人御自身あるいはその周辺の皆さん、いかがでしょうか。

日比野公述人 金融機関の人、いないと思うんですけれども、傘の例でいきますと、天気がいいと傘を差して雨が降ると取り上げる、こういうことがありましたが、だから、必要なときに必要な、例えば登山をする場合、僕はいつも思うんですけれども、登山を始めた、八合目から九合目に行った時点で、あと一合目行くともうすばらしい景色が見えるよと。大体景気というのは、その辺までみんな零細も中小も大企業も我慢するんです。そこで、だめだといって、要するにあきらめるのが零細なんですよ。

 頂上まで行く、もうここだよと。それは、僕はやはりお金だと思うんですよ。だから、お金を、その時点で十万円なくても不渡り、そうすると二度と、今ちょっと問題になっているんですけれども、チャレンジできないんですよ。それじゃ日比野さん、あなた、代表かわってね、それで女房にかわる、女房がだめならそれじゃどうする、こういうことですね。だから、では、チャレンジする、再チャレンジの場合に何をもってチャレンジできるかというような問題を含めて考えますと、やはりお金ですね。

 ですから、可児の方も、商工会議所の会員が、私が会議所の会頭をしたときに千六百だったんです。今千七百なんですね。一生懸命勧誘をしてふやして、二百会員ふやして、淘汰されちゃうものですから、結局は八十社ぐらいしか残っていないということですから、今は全国的に零細の方が非常に苦労している、そう思っています。

 例えば、シャッター通りがどうかとかいろいろございますね。それで、まちづくり三法が今後施行されていくということでございますので。

 どうも済みません。お金だろうと思うんですね。

枝野委員 ありがとうございます。

 これは、森田先生にお尋ねをするのはもしかすると筋が違うかもしれませんが、故事来歴から、今地方をいろいろ回っていただいて、地方の経済状況、いろいろ気になっていらっしゃると思いますので、今と同じ質問を。

 つまり、私が知る限りでは、日本の経済を支えてきた中小零細企業の経営者の皆さんというのは、苦しくなればまず自分の取り分を減らし、それでもどうにもならないとき初めて従業員の皆さんに我慢してくれと。これでやってきたから日本は強かったんだというふうに思いますし、今も地域の中小零細企業の皆さんはそれで頑張っていらっしゃるというふうに思うんですが、森田先生の御経験や、今いろいろな地域を回っている実感としていかがでしょう。

森田公述人 今の御質問なんですが、地域の人たちが非常に粘り強く頑張っているというのは事実なんですね。

 最近、いろいろな村や町から公的なものが少なくなっておりますから、これは公的なものじゃないんですけれども、商工会というのが活動が相対的に活発化しているんですけれども、実は商工会というのは辞典にも名前が載っておりませんし、百科事典にもいろいろな用語辞典にも一切載っていないんですね、商工会議所は載っているんですけれども。二百万近い会員で、本当に地域で若い人たちを集めて一生懸命やっているんですが、そのくらい社会そのものが商工会に対して無理解だ。私は、辞典の発行会社とか新聞社に電話したんですが、ほとんど対応できないというような状況で、その点が社会的には一つ大きいと思います。

 もう一点つけ加えさせていただきますと、地方分権しかこの状況を乗り切る方法はないんですけれども、地方分権を担って、さあやるぞという人たちがむしろ人数が少なくなってきている。非常に意欲が乏しくなっておる、あきらめの状況になってきているというところがありますので、地方分権の担い手をどう育てるかというのは国で検討していただきたいところでありまして、どうぞ枝野先生、よろしくお願いします。

 直接の答えになっていない点は御容赦いただきたいと思います。

枝野委員 ちょっと難しいことをお尋ねするかもしれませんが、大野さん、ちょっとお聞きをいただきたいんです。

 キヤノンの会長の御手洗さん、経済財政諮問会議という政府の機関の委員でもあられて、国際競争が激しくて大変なんだ、だからコストを下げなきゃいけないんだということを一生懸命おっしゃっていらっしゃるんですね。コストを下げなきゃいけないから、そう簡単に正社員にするわけにいかないんだみたいな趣旨のこともおっしゃっておられるんですよ。

 今お話しのとおり、大野さん御自身も昇給はないし、後から入ってくる若い人はもっと給料がどんどん下がっている、こういう実情にあるんですが、一方で、キヤノン本体の会計を見てみますと、例えば、平成十五年に決めたその年の役員の賞与というのは一億四千万円、その次の年は一億九千万円、その次の年は約二億円、一番直近、十八年の三月に決めたのは二億二千万円と、どんどんどんどん役員の皆さんの賞与は伸びておられるんですね。それから、同じように、株主の皆さんへの配当も、十五年三月に決めたのは百五十億円余り、それが、一番最近では六百億、百五十億から六百億へとふえているんですよ。

 そういうふうに、株主には配当するお金がある、役員の皆さんが取る収入はぐっとふえている、だけれども、国際競争が激しいから正社員になかなかできないんだ、こういう実態にあるんですけれども、どういうふうに思いますか。

大野公述人 お答えします。

 確かに、自分が勤めている会社は宇都宮なので、海外に流出されてしまっては働くところがなくなってしまうんですけれども、自分たちは現場の意見なので、会社の上の方のちょっと難しい意見まではできないんですけれども、自分たちが感じるのは、要するに、いい製品をつくるように任されていると思っているので、自分たちはいい製品をつくれるように頑張っているし、自分たちはその仕事でやりがいを持って、それが会社のためになって、会社の利益につながっているのであれば、それは自分たちにとってはうれしいことなんですけれども、結局、それをつくっている自分たちも、不安な状態で働いていて、要するに、これ以上続けられないかもしれないという状態である。先ほども申したように、伝承もできていない。

 現場の悩みというのはすごくあって、今まではよかったけれども、これからはひょっとしたら大変なことになるかもしれない、物づくりに関することに対しては大変なことになってしまうかもしれない、そういうふうに思います。

 もし、そういうことを会社の人と話し合えると一番いいんですが、自分たちの思いとは別に、そういうふうに配当されていったりとかというところがあるというのは、きょう聞いて、ちょっとびっくりしました。

枝野委員 私の残り時間、あと三分ぐらいなんですが、うちがお願いをして来ていただいているので、大野さん、もし言い残したこと、言い足りないことがあれば、どうぞ。

大野公述人 残り時間、ありがとうございます。

 経団連会長でもあってキヤノンの会長である御手洗さんに聞いてもらいたいんですけれども、自分たちは今まで、非正社員、正社員と関係なく協力して、日々努力して、すごくいい職場を十年かかってつくり上げてきました。最初、派遣社員二人と正社員二人でつくり上げた職場が、現在七十人。多いときは百人ぐらいいたんですけれども、そこまで成長してきて、生産量も物すごく上がった。そこの陰には、日々切磋琢磨してお互い頑張ってきた正社員と非正規社員のつくり上げてきたこの職場がたまものだと思っているので、この職場を守りたいというのが一番。できれば正社員となって、この職場をこれからも守っていって、さらにキヤノンに貢献できればと、そういう強い思いで働いているのと、今回は活動させていただいています。

 もちろんキヤノンが好きですし、いい物をこれからも誇り高く思ってつくっていきたいと思っています。もし届いたなら、それを御手洗会長に聞いてもらいたいと思っています。

枝野委員 本当にありがとうございます。

 個人的なことですが、同郷でございますので、ぜひ頑張って、世界に冠たる製品をこれからも安心してつくっていただけるように、我々もサポートできることがあればというふうに思っております。

 中川先生のお話も大変興味深く聞かせていただいたんですが、専門外のことなので、お尋ねをさせていただく機会がありませんでしたが、お許しをいただければと思います。

 本当に、四人の皆さん、きょうはどうもありがとうございます。終わります。

金子委員長 次に、塩川鉄也君。

塩川委員 四人の公述人の皆さんには、それぞれ貴重な御意見、ありがとうございます。

 私、最初に日比野公述人にお伺いしたいと思います。

 お話の中でも、景気回復は大企業が牽引しているけれども、そこには中小企業の力があるんだ、しかしながら、大企業からのコストダウンで厳しい経営が強いられているというお話がございました。

 政府の底上げ戦略というのが今回出された中でも、中小企業底上げ戦略というのがありまして、そういう中では、成長の成果を大企業から中小企業へと銘打つ中で、だから、大企業は成長の成果を持っているのに中小企業に行っていないじゃないかという話の中で、下請取引の適正化なんということも挙げているわけです。

 その点で、日比野公述人が実際、商工会議所の会頭としてお感じになっておられる、そういう活動の中で、あるいは御自身の会社における取引、大手のユーザー、発注者の方、大手の元請に対するいろいろな要求がある。そういう点で、単価の面ですとか、あるいはその他、取引条件などについて、いわば無理難題のようなことが現実にあるんじゃないかというお話が、このコストダウンということでのお話に含められているのかなと思っております。

 そういう点での、ぜひとも是正してもらいたいという、こういう取引慣行ですとか単価、コストダウンの内容について、具体的な事例がございましたら幾つか御紹介いただければと思っております。

金子委員長 日比野公述人、どうぞ御遠慮なく。

日比野公述人 大企業が下請として中小企業に発注しているわけではないんです。これはあくまでも、大企業と中小企業の設備によりまして相当変わりますね。それから、地域的に、全国に工場を持つわけじゃないものですから、地場産業的に、その工場の付近に、結局、需要があればそこへ我々はすっ飛んでいきますね。だから、そういうことによる販売先として大手を我々は求めていくわけです。

 だから、下請法にかかわるような問題で、例えば金利分だけ下げろとか、それから採算に合う値段にして持ってこいとか、そういう極端なことはないんですけれども、先ほど申し上げたように、価格競争に入っちゃっているんですよ。それが一番大きな原因でございます。

 というのは、技術が最優先する状態ですから、大手ではできないものを中小企業が持っていた場合でも、その技術を持っている中小企業が三社も四社もあれば、同じ状態で競争に入って、価格で少しでも量を多くとりたい、そういう状態でございます。

 よろしゅうございますか。

塩川委員 ぜひ、技術や技能が適正に評価されるような単価といいますか価格ということが求められているわけで、その辺が本当に見えるような、不公正取引の現状があれば、それを是正する取り組みが重要だと思っておりますので、そういう点でも、現場の実態を踏まえて取り組みを進めていきたいなと思っております。

 次に、大野公述人にお伺いいたします。

 現場の実態、製造業において、本来、技術、技能が必要なところで派遣、請負という雇用形態というのは、かえってその企業の技術力を弱めることになりはしないか、こういう懸念というのをお話の中でも改めて感じました。

 そこで伺いますが、ステッパー、半導体製造装置をつくる際に非正規と正規の方が一緒に作業している、これについて、労働局からの指摘もあり、キヤノンと請負会社は完全な請負を目指すということを言っているそうなんですけれども、十月以降、現場では何らか、完全な請負を目指すということでの、仕切りを直すですとか、何かそういう話というのは実態としてはどうなっているんでしょうか。

大野公述人 お答えします。

 申告日以降なんですけれども、事実、自分たちが言われたのが、完全な請負を目指すということで、それまであった正社員の机を職場外に移動して、あとは、床にラインを、テープを引き、そのときは請負会社は二社いたんですけれども、色分けをして、ここは自分が勤める請負会社、もう一つはもう一つの請負会社。同じ部屋内で、ここからここは請負会社、ここは違う会社ですという分け方、でも、一緒につくるところは共有設備です、そういう明示がはっきり書かれるようになって、それが、いうところの適正な請負かというところなんでしょうか。

 今はそういうところで、実際、正社員というのは職場には一度いなくなったんですけれども、ちょっと新技術が投入されて、その期間、先ほども述べさせていただいたように、正社員が大量に投入されてきまして、今は、自分たちの請負会社と正社員の人、同じ部屋の中で全く会話をすることなく作業しているような感じです。それが適正な請負というのかなと自分たちは疑問に思ってしまうんですが、同じ職場にいながら話をしない、そういう状況です。

塩川委員 半導体製造装置のレンズの研磨ということであれば、当然技術の向上が求められているわけですから、本来であれば、正社員と仕事して、一体で行われるべき話でありますが、現実には、かえってそれが不正常な事態を招くようなことになる。そういう意味でも、私は、コストダウンを目的にしたような製造請負というのはそもそも成り立たない、完全な請負というのはないんだと率直に思うわけですね。そういう点でも、国、労働局の指導の方向というのが間違っているということは、私は今の大野さんのお話を聞く中でも改めて実感をいたしました。

 その点で、今、全国でも、こういう請負会社、派遣会社で働く労働者が立ち上がって、直接雇用、それから正社員化を目指す取り組みを行っております。私も去年、予算委員会でも取り上げた、トヨタの系列の光洋シーリングテクノという会社におきまして、やはり請負労働者の皆さんが労働組合もつくって働きかけることによって、直接雇用、そして正社員化へという道を開くという合意を結んだということを聞いております。

 そういう意味でも、各地での、こういった不正常な雇用関係にあるような請負労働者、派遣労働者の直接雇用、そして正社員化を目指す、こういう取り組みについて、こういう運動の広がりについて、率直にどんなふうに受けとめておられるのかをお聞かせいただけないでしょうか。

大野公述人 お答えします。

 自分たちも、そういう動きを見て、なるほど、労働組合というのはこういうものなんだということを勉強し始めて、実際やってみて、とてもいいなと。働く仲間たちの意識もすごく高まり、実際、今かなりの人数の非正社員が世の中にはいると思うんですけれども、彼らは何もそういう組合のシステムとかを全員が知っているわけじゃなく、ちゃんと集まって会社に物を言える、そういう仕組みがどんどんできていけばなと思っております。

塩川委員 森田公述人に一点お伺いいたします。

 お話の中でも、国家の実力は地方に存するという徳富蘆花の言葉を紹介されて、地方に対する温かい配慮を賜りたいというお話がございました。また、貧しい人がふえているのは事実というお話もございました。

 今の政治が貧困と格差を拡大しているのではないかということが大きな議論にもなっておりますし、私もそう思っておりますけれども、貧困と格差を拡大している政治の実態について、どんなふうな受けとめ、御感想をお持ちでしょうか。

森田公述人 率直に言いまして、かなり異常な状態に日本は今なっているのではないかというように私は見ておりまして、例えば、地方の生活水準は明らかに東京に比べて相当低くなっています。計数的に出ておりませんが、実際に、もうほとんどの地方都市、中小都市、地産地消で生きているようなところがありまして、非常に格差は大きくなっています。

 これは、ある勢いで今行っていますから、地方が立ち上がらないとどうにもならない面があるんですけれども、ただ、スピードが速過ぎてあきらめを誘っているというのが、地方から見た今の日本政府の行き方ではないかと思います。

 それから、企業の関係の講演に参りましたときに企業関係者とお話をするんですが、大企業の経営者は昔とはっきり変わったと思いますね。自分たちは何でもできるというような感じになっておりますね。自分たちはどんなことでもできるんだ、首切りも自由なんだ、自分たち経営者と株主のために企業はあるんだというように思い込んでいる人がふえてきておりまして、次の経営陣になるような人たちが歯どめをなくしている。人間としておかしいんじゃないかと私は思うぐらい、歯どめを外してきているところがありまして、やはり政治は、資本主義の暴走に対して、それに歯どめをかける、そこまでやっちゃいけないよという役割を担っているんだと思いまして、そういう役割を政治に果たしていただきたいというように思っています。

金子委員長 塩川君、時間が参りました。

塩川委員 はい。

 時間の関係で、中川公述人、失礼しました。

 きょうはありがとうございました。

金子委員長 次に、阿部知子君。

阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 本日は、四人の公述人の方、日比野公述人、大野公述人そして中川公述人からは、非常に現場の声というかリアルなお声を届けていただき、ありがとう存じます。また、森田公述人には、大局的見地からのお話をいただきました。私に与えられた十分の中で、なるべく皆さんに御質疑できればと思います。よろしくお願い申し上げます。

 まず、大野公述人にお願い申し上げます。

 先ほどのお話を伺っておりまして、当初、工場の立ち上げからキヤノンでのお仕事をしておられて、キヤノン側の正社員がお二人と、大野さんともう一方が請負会社からそこに行かれて、最初、御自分を派遣と思っていらしたということのお話でありました。

 もともとこの請負の会社で働き方を会社と御自分が取り決めるときに、何か文書で、自分が派遣か請負かわかるようなものがあったのか。あるいは、これは本当に難しくて、恐らく、若い人たちに聞くと、自分が派遣なんだか請負なんだかよくわからないなという人が多いと私は勝手に思うのですが、そのあたり、働いている仲間とはどんなふうに話されているかを、一問目、お願いします。

大野公述人 お答えします。

 自分たちの職場が十年前から立ち上がったということで、自分ではないもう一人の非正社員と二人で築き上げた職場で、自分は七年間そこで働いています。

 そういうことを、請負、派遣という言葉、請負という言葉を知ったのも実はつい最近でして、そういうのは何も説明なく、恐らく、全国で働く請負、派遣の人で、自分が請負、派遣で、派遣はこういう制限があり、請負はこうだということを多分知らないで働いている人が多いのではないかと思っております。

阿部(知)委員 東京ユニオンの方でまとめられた資料の中にも、当然、派遣であれば、この三月、四月からは違ってまいりますが、一年間で契約が終わったときに正規の職員としての雇用の申し入れ等々を行わねばならないところを、そうした直接雇用申し込み義務をやらなかった事例とか、次々と出ております。特に、働く側も自分の身分がよくわからない、そして使っている側もルールを守らないとなると、本当に、働く場の雇用の安心とか、もっと言えば安全もないように、私は承りながら思いました。

 特に一点教えていただきたいのは、働いておられる場で、どなたか、労働災害のような形で事故ないしけがのあった方がおありだったか。労災の場合は、派遣と請負ではおのおの管理責任が違ってまいりますけれども、もし具体的にそういうことがおありであったら、どう処理されたかも教えていただきたい。また、御自身の身の回りでなければそれはそれで、ないというお答えで結構です。

大野公述人 労働災害ですね、小さいけがとかそういうことはあって、確かにそういうことに対して対策はなされるんですけれども、どうしてそういう対策がされているかとかということは自分たちは聞かずに、例えば眼鏡をしなさいとか、その程度の話でいつも終わる。そういう意味でも、労働災害に対して、請負と正社員ではちょっと温度差があるなと思います。

阿部(知)委員 ありがとうございます。

 日比野公述人にお伺いいたします。

 今、大きな企業、日本の大企業の代表であるキヤノンで働く若い皆さん、大変にキヤノンを愛して、そして何とか正職になりたいと求めるお声は、恐らく日比野公述人も今の若者を頼もしく思って聞かれたと思うのですが、もう一方、先ほど、例えば御地元では、高校を卒業した若い力をもっと活用したいというふうにもおっしゃっておられました。

 特に今、中小企業の皆さんにとって、大手は人件費の問題があるということを理由にこういうとても不安定な雇用を正当化なさいますが、むしろ中小企業の皆さんにとっても、本当は、人件費の部分は大変と思いますが、しかし、人を大事に育てていきたいという思いは中小企業の方がむしろ強いのではないかと思うのです。

 そのあたりで、今の若い人たちの働き方、それから経営者としてのお考えを少し御披瀝いただきたいと思います。

日比野公述人 経営していまして一番難しい問題と大切な問題というのは技術の継承ですね。いかに長くその人たちの技術を会社の資産として残すかということ。それは、やはり社員なんですね、機械じゃないんですよ。

 ですから、会社、会社によって、労務管理、雇用管理、雇用問題というのは違うんですよ。そういうことでございますので一概に言えませんけれども、私は、今後、例えば定年延長の問題、それから雇用関係で勉強して、どういう形で、例えば八時間なら八時間、十時間なら十時間というものを、どういうメンバーで技術を安定しながら伸ばしていくかというのは各社各様でございまして、一番ポイントは技術だと思います。それをどう長く続けられるかということにポイントを置いていくんじゃないかなと思っております。会社と業種によってちょっと違うんじゃないかなと思います。

阿部(知)委員 ありがとうございます。

 では、森田公述人にお願いいたします。

 きょう、長く政治を見てこられた森田公述人から、現在の政治の大きな過ちというか問題を御指摘いただきました。

 私は、もう一点、今、日本は外交的にも大変な岐路に立っておると思います。ちょうどチェイニー副大統領が来日中でありますが、恐らく日本にとって、今後、日米関係ともう一方での日中関係ということをきちんと方向性を見失うことなく進んでいかねばならないときと思いますが、そうした観点からの御意見がございましたら、お願いいたします。

森田公述人 日本の哲学といいますか日本の政府の哲学といいますか、そういうものが明確に海外に伝わらなくなっていて、海外からは、つまり、米国の海外政策と一体化しているという見方がどんどん強くなっている。日本独自の哲学に基づく外交なりそういうものが感じられないという状況になっていることは、日本外交の危機だと思います。

 もっと積極的に、日本は率直に言って平和でしか生きていくことができない国ですから、日本が強い軍事力を持って、そこで他国をおどしておとなしくさせて平和を保つという国じゃありませんから、やはり日本が積極的に飛び込んでいってやる外交が必要だ。

 私は、拉致問題についても、遠くで厳しい制裁を加えれば相手がおりてくるという期待は、率直に言ってむなしい期待でしかない。あらゆるチャンスをとらえて飛び込んでいって、向こうの国にいるならば解放してくる。直接やっていくという積極姿勢が乏しい点が問題だと思います。

 そんなところを感じておるところです。

阿部(知)委員 ありがとうございます。

 中川公述人には、なお国民の最大の死亡原因であるがんへの基本的、根本的お取り組みをよろしくお願いいたします。

 ありがとうございます。

金子委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 私も、持ち時間の範囲内で質問させていただきたいと思います。

 本日は、公述人の皆様、お忙しい中お越しいただきまして、また大変貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。

 まず、森田公述人にお尋ねをしたいと思います。

 私は、先日の予算委員会で、水道の公共事業の問題につきまして、こちらで質問をさせていただいたわけでございます。

 今、公共事業というと、どうも無駄な予算の代表選手のようなイメージがあるわけでございまして、先日の朝日新聞の記事にも、公共事業に対するイメージでは、税金を無駄に使っているとか、非常に悪いイメージと言う方が八割いらっしゃる。でも、公共事業の必要性については、必要とか、また、どちらかといえば必要だというふうに言っていらっしゃる方も同じく八割の方がいらっしゃるわけですね。

 そういう観点からすると、今、毎年大幅に公共事業の費用というものは削減されているわけですが、かつては確かに、景気対策として何でもやればよいんだというような公共事業の積み上げられた側面があったことは否めないことも事実なんです。ただ、今、小泉内閣において毎年毎年削減してきた結果、既に今年度予算というものは、昭和六十二年度以来二十年ぶりに、七兆円を切る水準まで下がってきたということでございます。

 一方、我が国にはまだ、地震ですとか台風、こういう天災も非常に多いわけでございまして、国民の安全、安心の基盤の確立のための公共事業というのは不可欠であるというふうに考えております。また、国際競争力の強化のために、インフラの整備もおろそかにはできないわけでございます。さらに、地域の自立、活性化のためにも、その基盤となる公共事業、これは必要ではないのかなというふうに考えるわけでございます。

 そこで、入札改革、こういうもので無駄なコストは削減しながら、これらの必要な公共事業については十分な予算を確保すべきではないのかなというふうに考えますが、御意見を賜りたい。

 そしてもう一点、国土交通省の試算でまいりますと、このまま毎年三%以上の公共事業の削減を続けていきますと、二〇二〇年には、既に存在しておりますインフラの維持管理、そして更新、これもままならなくなってしまうというような現状がございます。そうしますと、最低限必要な社会インフラを守るためにも、これ以上の公共事業費の削減を進めるべきではないのではないかなというふうに思いますが、この二点をお答えいただけますでしょうか。

森田公述人 現在、公共事業に関する考え方は、余りにも極端で、余りにも誤解が多く、政界、ジャーナリズム、学界、そういうところで非常にゆがんだ考え方をしております。

 新聞の社説の中には、公共事業というのはもともと不必要なんだということを書くところまで出ているんですが、果たしてそれで日本は大丈夫なのかといえば、一例を挙げますと、水道管の耐用年数はほぼ三十年とされているんですけれども、それが今、耐用期限を迎えておりまして、いろいろなところで事故が起こっています。事故が起こってからの手当ては大変費用がかかっておりますが、きちんと調査して、先手を打って手を打っていればかなり費用を節約できるのに、公共事業であるからやめようと。

 それから、下水道も四十年間、ほぼ耐用年数が来ておりまして、高度成長期でやったところのものが壊れてきておりまして、そのために道路が陥没したりバスが落ちたりという事故が頻発しているのは、最近テレビでも放送されたとおりなんです。こういうものもきちんと手当てをしていけば、事故が起こってからの手当ては非常に費用が高いんですけれども、やれるのに、それすらもやっちゃいけないというような異常な考え方が出てきているのが、今心配されるところです。

 もう一点、民間がとてもできないようなものがあります。長期的なものは民間は今やりません、みんな短期的な価値、短期的な利益だけを求めておりますので。そういうものを長期的な視点からやるのは政府の役割なんだと思います。例えば、環境などもそういう事業の一つだと思いますが、そういうことを片っ端から固定観念でやっていく。

 私は、新古典派の論理でもって日本がやっていくことは自滅につながるんじゃないかと考えています。せめて修正ケインズ主義ぐらいの考え方で運営しなければ、日本のような国はやっていけないんじゃないかとはっきり心配しております。

 以上です。

糸川委員 ありがとうございます。

 私も公共事業のことを大変心配しておりまして、先生の「公共事業必要論」というのを熟読させていただきました。大変感銘を受けました。

 次に、中川公述人にお尋ねをしたいと思います。

 厚生労働省から発表されております人口動態統計におきまして、平成十七年の死亡者数約百六万人の死亡原因の内訳を見ておりますと、悪性新生物という方が三十二・六万人いらっしゃる。心疾患が十七・三万人、脳血管疾患が十三・三万人になっておるわけでございます。いわゆる三大成人病の方が全体の約六割を占めていらっしゃる。

 特に、悪性新生物によります死亡が全体の約三割に上っておるわけでございますが、予防対策を含めて、国としてどのような対応をすべきなのか、お答えをいただければと思います。

中川公述人 先ほど申し上げたように、長寿国はがん大国なんですね。日本は、これからも恐らく世界一のがん大国。そのことをまず国民が知る必要がある。つまり、私もがんで死ぬんだよと。ところが一方で、死なない感覚、死生観の欠如という問題もありまして、そこに大きなギャップがあります。つまり、死ぬんだということを認識しますと、がんのことも素直に聞けるんですね。ところが、おれは死なないよという立場に立つと、がんのことは、縁起でもないということになります。

 したがって、初等教育というか、子供のころから命の大切さを教える。人は死ぬから殺しちゃいけないんだ、そういう気持ちを、いじめとか自殺とか、がんのこともその延長にあると思っております。その中で、では具体的にはどうするかというと、初等教育の中で、死生観を含めた命の大切さとともに、がんのことを教える。

 あるいは、日本はまだまだ喫煙の問題もあります。アメリカはがんの罹患数も死亡数も毎年一・一%下がっておりますが、この原因の多くは禁煙キャンペーンであります。この辺のことも考えていく必要があるんだろうなというふうに思っております。

 それから、がんの欧米化、がんの種類が変わっていく中で、やはり適切に対策を打っていくことも必要かなというふうに思っております。

糸川委員 もう時間が参りましたので質問はいたしませんが、そういう教育の問題も含めて、今後また、さらにこの予算委員会の場で議論をしていかなければならないなというふうに感じております。

 きょうは、日比野公述人、そして大野公述人には時間の関係で質問できませんことをお許しいただきたいと思います。

 終わります。ありがとうございました。

金子委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。改めて厚く御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十八分散会


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