衆議院

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第1号 平成22年2月24日(水曜日)

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平成二十二年二月二十四日(水曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 鹿野 道彦君

   理事 池田 元久君 理事 岡島 一正君

   理事 海江田万里君 理事 伴野  豊君

   理事 松原  仁君 理事 山口  壯君

   理事 富田 茂之君

      石田 三示君    糸川 正晃君

      打越あかし君    小野塚勝俊君

      緒方林太郎君    岡本 充功君

      加藤  学君    梶原 康弘君

      金子 健一君    城井  崇君

      工藤 仁美君    沓掛 哲男君

      黒田  雄君    小泉 俊明君

      古賀 一成君    田中 康夫君

      平  智之君    津島 恭一君

      豊田潤多郎君    中野  譲君

      中林美恵子君    長島 一由君

      萩原  仁君    橋本 博明君

      畑  浩治君    平岡 秀夫君

      三谷 光男君    森本 和義君

      山田 良司君    山本 剛正君

      吉田  泉君    吉田 公一君

      若泉 征三君    渡部 恒三君

      大口 善徳君    笠井  亮君

      穀田 恵二君    阿部 知子君

      山内 康一君    下地 幹郎君

    …………………………………

   公述人

   (日本労働組合総連合会副事務局長)        逢見 直人君

   公述人

   (神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授)    二宮 厚美君

   公述人

   (慶應義塾大学経済学部教授)           駒村 康平君

   公述人

   (立命館大学国際関係学部教授)          高橋 伸彰君

   公述人

   (立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授)  高橋 紘士君

   公述人

   (日本金融財政研究所所長)            菊池 英博君

   文部科学副大臣      鈴木  寛君

   農林水産大臣政務官    舟山 康江君

   予算委員会専門員     杉若 吉彦君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十四日

 辞任         補欠選任

  岡本 充功君     加藤  学君

  奥野総一郎君     金子 健一君

  城井  崇君     中野  譲君

  黒田  雄君     石田 三示君

  小泉 俊明君     橋本 博明君

  田中 康夫君     萩原  仁君

  長島 一由君     工藤 仁美君

  畑  浩治君     吉田  泉君

  笠井  亮君     穀田 恵二君

同日

 辞任         補欠選任

  石田 三示君     黒田  雄君

  加藤  学君     平  智之君

  金子 健一君     奥野総一郎君

  工藤 仁美君     長島 一由君

  中野  譲君     城井  崇君

  萩原  仁君     田中 康夫君

  橋本 博明君     小泉 俊明君

  吉田  泉君     畑  浩治君

  穀田 恵二君     笠井  亮君

同日

 辞任         補欠選任

  平  智之君     山本 剛正君

同日

 辞任         補欠選任

  山本 剛正君     岡本 充功君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成二十二年度一般会計予算

 平成二十二年度特別会計予算

 平成二十二年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

鹿野委員長 これより会議を開きます。

 平成二十二年度一般会計予算、平成二十二年度特別会計予算、平成二十二年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十二年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず逢見直人公述人、次に二宮厚美公述人、次に駒村康平公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、逢見公述人にお願いいたします。

逢見公述人 連合で副事務局長を務めております逢見です。よろしくお願いいたします。

 本日は、このような発言の場を与えていただき、感謝申し上げます。

 連合は、働く者の立場から、我が国の経済社会の閉塞状況を克服し、希望と安心の社会づくりに取り組んでおります。具体的には、景気・消費回復、雇用・生活防衛のための総合経済対策の効果的な実施、雇用の安定とセーフティーネットの整備拡充、安心して暮らせるための社会保障制度の確立の三本を政策課題として掲げております。

 本日は、こうした考え方や問題認識を示し、予算委員会における審議の参考に供したいと思いますので、ぜひとも私どもの意見を反映していただくようにお願い申し上げます。

 お手元に資料を配付しておりますので、これらを参照しながら発言をしたいと思います。

 まず、底割れした日本社会という点でございます。

 米国のサブプライムローンに端を発した世界同時金融危機とその影響による世界同時不況は、我が国の実体経済に大きな影響を及ぼしました。二〇〇二年から日本経済は戦後最長の景気拡大が続きましたが、今般の金融危機の影響は、当初は限定的と言われておりました。しかし、実際には、経済の落ち込みの大きさとスピードは主要先進国の中でも際立ったものがございます。

 最近のGDP統計などを見ますと最悪期は脱しつつあるように思いますが、勤労者、国民は、雇用不安、所得不安、将来不安の中で、先行きの展望をなかなか見出せず、閉塞感に包まれております。これは、所得がふえない、あるいは仕事が見つからないといった現実、足元の問題もございますが、しかし、それだけではなくて、むしろ大きな問題は将来の安心が見通せないというところにあると思います。

 自民党政権は、新自由主義による、効率と競争を最優先する政策を推し進めました。市場は万能であるという発想のもとで、社会は規律と制御を失いました。企業は、ステークホルダーの存在を無視して、株主利益中心、短期的利益最優先の経営を行い、モラルなき競争を繰り返した結果、公正や安心、安全といった我が国の社会の基盤を揺るがしました。社会に持続可能性をもたらさないこの新自由主義の発想に支配された経済は、暴走の末、リーマン・ショックに象徴される金融危機によって破綻しました。

 この間、特に小泉政権のもとで、官から民へ、小さな政府、自己責任といったスローガンのもとに市場原理主義的な政策を推し進めてまいりましたが、その結果、雇用構造の変化、格差拡大、貧困層の増大など、我が国の経済社会に深刻な負の遺産を残したと言えると思います。

 幾つかの事例を、統計的なデータをもってお示ししたいと思います。

 まず、この十年余りで日本の雇用構造は大きく変わりました。

 お手元の資料の図表一をごらんください。

 一九九九年には正規労働者は三千六百八十八万人いたものが、二〇〇九年には三千三百八十六万人に減少しました。一方、パート、派遣社員等の非正規雇用は千二百二十五万人から千六百九十九万人に増加しました。およそ十年で、正規雇用が約三百万人減少し、非正規雇用が四百七十万人増加した結果、非正規雇用者は全雇用労働者の三分の一を占めるまでに至っております。

 賃金は、十年前の水準、すなわち一九九八年から二〇〇八年の間に約八%も下落し、世帯所得は九八年から二〇〇七年までの間に約百万円減少しました。

 図表二をごらんください。

 年収二百万円以下の労働者が一千万人を超え、不安定雇用と低賃金のため、社会保険の適用もなく、生活保護基準以下で暮らすワーキングプアなども増大しております。

 次のページに図表三を掲げてございますが、これは生活保護を受けている世帯数と人員の変化を見たものであります。二〇〇九年十一月時点で百二十九万世帯、人数にして百七十九万人と増加の一途をたどっており、十年前と比べて約一・八倍になっております。

 政府は、昨年十月に、日本の相対的貧困率を初めて公式に発表し、二〇〇六年時点で一五・七%であることを明らかにしました。図表四に示したように、OECDは、二〇〇〇年代半ばのデータで、OECD加盟国中、日本の相対的貧困率は第四位であるということを明らかにしております。

 資料には入れておりませんが、低所得者を中心に、国民健康保険料の未納が増大していることも深刻な問題であります。二〇〇八年度の保険料未納率は一割を超え、過去最高を上回る見通しとなっております。

 これらのデータは、国民生活の実態を見る上で、大きな問題を投げかけていると言っていいと思います。

 中間層の二極化、格差拡大や貧困問題、とりわけ若者、子育て中の女性、非正規労働者など、いわゆる社会的弱者にそのしわ寄せが行っております。家計の窮状ゆえに高校を中退するなどの報告も相次ぐなど、格差、貧困の問題が、次世代である子供たちにもその影響が及ぶとともに、出生率の低下、少子化に拍車をかけるなど、我が国社会の持続可能性をも脅かしております。

 連合総研が二〇〇九年四月に首都圏、関西圏の勤労者を対象に実施したアンケート調査では、年収四百万円以下の世帯の約六割、また、非正規労働者がいる世帯の四六%が、将来の生活設計が立てられないと回答しております。

 これまでの景気回復期においても、地域の中小企業、地場産業や農林水産業の衰退、人口流出、超高齢化など地域経済の疲弊も見られ、地域間の経済、財政力の格差が拡大しました。自民党政権は、こうした問題に対して、大企業が潤えばやがて中小企業、家計にも恩恵が及ぶというトリクルダウンの考え方をとってまいりました。しかし、結論から言えば、このトリクルダウン理論は機能せず、中小企業や家計には景気回復の恩恵は及ばなかったと言うべきであります。自民党政権下での新自由主義による政策のもとで、国民生活の安心、安全が崩壊し、日本の社会はまさに底割れの状況にあると言っても過言ではないと思います。

 次に、厚みのある中間層を基盤とした社会構造の構築という点に触れたいと思います。

 健全な市民社会は層の厚い中間層で成り立っております。この中間層が、雇用社会を支え、社会保障を支え、消費の主役でありました。もう一度日本を厚みのある中間層の国にしなければならないと思います。

 そのためには、税、社会保障を通じた公正な所得再分配の強化、労働分配率の向上、教育の機会均等の保障、さらに、公正で透明な企業間取引などが不可欠であります。

 図表五は、税、社会保険料による所得再分配の前と後を比較したものでございます。特にこの表の中で日本とスウェーデンに丸をつけて取り上げておりますが、日本とスウェーデンは、左側の市場所得、いわゆる所得再分配前の市場所得では大きな差はございません。しかし、所得再分配後の右端の数字でいきますと、大きな違いがあります。日本はこれまで所得再分配政策を軽視してきたことがこのような結果となってあらわれているのだと思います。

 格差社会の是正、貧困問題の解決、尊厳ある労働の確立、社会的セーフティーネットの再構築、地方分権に向けた税財源の見直し、そして、ワーク・ライフ・バランス社会の実現に向けた抜本的な政策転換が求められております。

 昨年九月に鳩山内閣が発足し、新しい政治の幕あけと同時に、新しい社会づくりがスタートしました。鳩山内閣への期待は、これまでの効率と競争最優先の格差社会から、公正と連帯を重んじる希望と安心の社会を構築することにあると思います。

 鳩山内閣のこの間の経済政策を見ますと、公共事業依存の景気対策ではなく、また、企業への直接的な支援によるものでもなく、個人や家計部門を通じて景気対策をとろうとしております。また、新しい公共や社会的企業など、市場経済とは異なる分野の政策を取り込もうとしております。さらに、健康、環境、観光など、新産業育成による成長戦略によって新たな雇用機会をつくろうとしております。これらは連合が考える政策の方向とおおむね一致しているように思います。

 次に、当面の政策課題について幾つか述べたいと思います。

 今通常国会では、景気回復、デフレ脱却、雇用危機克服に向けた予算措置や、二〇一〇年度税制改正、労働者派遣法、雇用保険法の改正、政治主導を確立するための統治機構改革など、国民生活や日本経済にとって極めて重要な法案が審議されることになっております。その中から、特に重要と考える点について、私ども連合の問題認識を述べたいと思います。

 まずは、景気回復、デフレ脱却に向けた二〇一〇年度予算の早期成立であります。国民生活にかかわりの深い子ども手当の創設、高校の実質無償化や緊急経済対策などが着実に実行されるよう、二〇一〇年度予算の早期成立、執行を求めたいと思います。

 次に、雇用に関するセーフティーネットの強化であります。日本は就業者の八六%を雇用労働者で占める雇用社会であり、雇用の安定は、社会の安定、発展の不可欠な要素であります。政権交代後、政府が矢継ぎ早に雇用対策を打ち出していることは評価しております。特に、雇用調整助成金の支給要件緩和など、労使双方が求めてきた政策が平成二十一年度第二次補正予算などによって成立したことは歓迎したいと思います。

 その上で、ここでは、第二のセーフティーネット、新卒対策及び最低賃金引き上げと中小企業支援について触れておきたいと思います。

 第二のセーフティーネット、訓練・生活支援給付の点でございます。

 雇用保険と生活保護の間を埋めるトランポリン型の第二のセーフティーネットは、労使が求めてきた施策であり、現状の緊急人材育成・就職支援基金制度との切れ目のない形で、早期かつ確実な施行をお願いしたいと思います。

 雇用・能力開発機構を廃止してその機能を他の機構へ移管する際に当たりましては、職員のモチベーションを踏まえて行うべきであり、職員が今まで培ってきた知識、技能を生かすことが重要であると考えます。機構の見直しはその観点に立って考えるべきであります。

 雇用・能力開発機構が行っている公的訓練は、セーフティーネットとしての訓練や物づくり分野の訓練の実施など、重要な職業訓練機能を担っております。職業能力開発は雇用のセーフティーネットの一つであり、国として、これまで以上に職業能力開発体制の充実と強化を図ることが必要ではないかと思います。その観点に立って、今後、制度の創設が予定されております求職者支援制度の根幹を担うことも踏まえまして、その受け皿としての機能が低下することのないよう、施策の充実を求めたいと思います。

 新卒対策についてでありますが、ことしの一月二十六日に日本経団連と連合で、若年者の雇用安定に関する共同声明、お手元の資料Aというところでございますが、これを発表しました。ことし三月卒業予定者の内定率の水準は過去最悪のレベルであるなど、依然、課題が多くあります。第二のロストジェネレーションの抑止に向けた政労使の責任は大きいと思います。対策の着実な実行を求めたいと思います。

 次に、最低賃金の引き上げと中小企業支援についてであります。

 非正規労働者の増大やそれに伴う低所得者層の増大に対し、賃金の最低限を保障するセーフティーネットとしての最低賃金制度の役割はますます大きくなってきております。それは、最低賃金の影響を直接的に受ける多くの未組織労働者やパートタイム労働者が、労働条件決定にみずから関与することができないからであります。

 地域別最低賃金は、二〇〇七年度に十四円、二〇〇八年度に十六円、二〇〇九年度は十円と、三年間で四十円の引き上げにつながりました。この地域別最低賃金の水準改善の流れをとめることなく、二〇一〇年度の地域別最低賃金の金額改定に当たっては、生活保護水準との乖離を速やかに解消した上で、より絶対水準を重視した審議を行う中で、生活できる最低賃金の実現を目指すことが極めて重要であると思います。

 あわせて、最低賃金を引き上げる上で、中小企業、地場産業に対する政策的支援は不可欠であり、厚生労働行政に加えて、経済産業省、中小企業庁などの関係する省庁が一体となってその具体的な検討を早急に始めていただきたいと思います。

 次に、社会保障改革と子供政策についてであります。

 日本は、高齢化の率、速度とも世界に類を見ないレベルにあります。二〇五〇年には高齢化率が四〇%を超えることが見込まれております。一方、二〇〇五年から人口減少社会に突入しております。非正規雇用が三〇%を超えるなど、労働市場も大きく変化しております。

 こうした社会の変化を見据えながら、私ども連合は、労働を中心とした福祉型社会を目指して取り組んでおります。就業が可能な世代は働くことを通じて経済的自立ができ、みんなで高齢化社会を支え、仕事と生活を両立しながら子育てが可能な社会をつくり上げたいと考えております。

 社会保障は、人々の暮らしと安心、安全を支えるセーフティーネット機能であるとともに、社会経済の活力の基盤となります。福祉、介護、医療、子育て、年金、最低生活保障など、今後さらに進む高齢化や次世代育成のために、中長期的視野に立った社会保障政策とその戦略が必要であります。

 一方、社会保障は、内需拡大につながる雇用創出分野であります。社会保障改革を国家戦略の柱と位置づけて、体系的かつ着実な社会保障改革と子供政策を推進していただきたいと思います。

 安心して子供を生み育てることができるために、連合としては、資料にございますが、子育て基金というものを提案しております。資料Bでございます。次世代育成支援策をより効果的に進めていくために、現在、施策ごとに財源が異なる多様な財源を基金に一元化して、施策間の連携や多様なニーズへの対応、現金給付と現物給付の適切な組み合わせ、政策効果の向上など、切れ目のない体系的な仕組みが必要であると考えております。

 最後に、持続的成長に向けた経済成長戦略の確立であります。

 内需主導型経済成長の基盤は、雇用の安定と質の向上と生活不安の払拭にあります。G20ピッツバーグ・サミットで、「強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み」の中で、質の高い仕事を回復の中心に置くということをうたっております。すなわちディーセントワーク、人間らしい働きがいのある仕事の実現を中心に置くということであります。成長戦略を考える際には、雇用の量とあわせて、こうした雇用の質についても十分な配慮が必要であると思っております。

 今国会は、生活の安定と不安解消を求める国民の期待に十分にこたえる必要があります。政府、そして与野党には、建設的な政策論争と国民の負託と信頼にこたえる国会運営を望みたいと思います。

 以上で、私の発言を終わらせていただきます。(拍手)

鹿野委員長 ありがとうございました。

 次に、二宮公述人にお願いいたします。

二宮公述人 神戸大学の二宮でございます。よろしくお願いします。

 時間が限られておりますので、私の公述内容の要点、結論を先に述べておきたいと思います。

 予算案全体を通じた問題でありますけれども、財政には所得再分配機能というのがありますが、これまで小泉政権以来の構造改革では、さきにも御指摘がありましたように、所得の再分配機能を全体としては弱体化する、これが小泉構造改革の特徴であったと思います。今回の政府予算案は、この所得再分配機能について言うと、基本的には強化しなければいけない、そういう視点に立って組まれておると思いますが、この点については、私は評価したいと思います。

 ただ、問題点は、所得の再分配機能を強化するという場合に、その再分配の財源をどこから確保していくのか。すなわち、水平型でやるのか、それとも垂直型でやるのか、これが問われるわけでありますけれども、予算案は全体としては水平型になっている、ここに問題点がある。垂直型の所得再分配の構造に徹していない、これが予算案の最大の問題点ではなかろうか、こういうことが私の話の中心です。

 もうここにいらっしゃる方々は御存じかと思いますが、財政は一般的に、所得の再分配の機能、それから資源の効率的な配分、経済成長の安定化、この三つの機能が基本的にあるというのが通説でありますけれども、先ほど指摘しましたように、小泉構造改革というのは、その第一の所得再分配機能というのを弱めながら、かつ再分配の構造を水平型に徹底していく、したがっていわゆる小さな政府というのができ上がる、こういう構造であったわけであります。

 さきに指摘しましたように、全体として財政の重要な所得再分配機能というものを強化するという、例えば子ども手当の創設、農家戸別所得補償制度、さらに公立高校の授業料の無償化、こういうものは全体としては所得再分配機能の強化ということでありますから積極的に評価できるのでありますが、例えば税制改革を取り出してみても、縦型の、いわゆる上層の富を、税や社会保障制度を通じて吸い上げて、垂直型でありますから下に回す、そういう構造には必ずしもなっていない。むしろ、後でも触れますけれども、流れとしては水平型の方に向かっている。

 例えば、将来の消費税を、増税を前提にして、福祉目的税化するなりしながら財源の確保を図る、さらにまた、事業仕分け活動というのは、私は基本的にそういうものだというふうに理解しておりますが、全体としては水平型に傾斜をしている、これをやはり問題として予算案を評価しなければいけない、こういうふうに考えています。

 なぜ垂直型の所得再分配が今問われているのか。さきの公述人の方の御指摘にもありましたけれども、およそ我々や日本社会に住む人間が今解決を迫られている難問でありますけれども、三つの大きな課題に私たちは直面をしている。

 一つは、この数年間、社会全体で問題になってまいりましたいわゆる格差、貧困の深まりの問題です。さきには社会の底割れという表現が使われましたけれども、まさに底が割れるように格差が拡大をし貧困がのさばる、こういう状態。これを打開していかなければいけない。

 第二番目は、経済的な不況の問題です。現在なお、二番底の可能性は遠のいたというふうに言われておりますけれども、基本的には内需の不振に基づいて、リーマン・ショック以来の日本の不況というのがまだ深刻な様相を解消していない。この経済的破綻にどう立ち向かっていくのか。

 それから三番目は、もう言うまでもありませんが、財政の赤字、すなわち財政危機にどう立ち向かっていくのか。

 社会問題と経済問題と財政問題、この三つの難問を同時に解決していかなければいけない。これが、予算案に限りませんけれども、現在の政治に問われている課題だ。

 そういたしますと、この三つの難問をいわば三位一体的に解決しようと思うと、一つの突破口が必要になる。私は、その突破口が垂直的な所得再分配の再構築にある、こういうふうに考えています。なぜならば、垂直的な所得再分配をやって初めて、所得の分配のゆがみ、不公平、すなわち格差の広がりに対応することができる。

 例えば、現在の格差といいますのは、雇用の格差、あるいはまた労働市場の自由化に伴う派遣労働の野放し、こういうところから進行したものでありますから、まずは、その労働市場の崩れに基づいて生み出されてくる所得の第一次分配上の格差を取り締まっていかなければいけない。

 そのためには、この国会で予定されておりますけれども、そしてさきの公述人の方の発言にもあったように、労働者派遣法の徹底した見直し、すなわち日雇い派遣については禁止をする、それから製造業派遣についても原則的に禁止をする。ただ、もう国会でも問題になっておりますように、常用派遣については当面解禁の状態のまま。

 こういう問題点を克服して、現在、民主党案では、例えば最低賃金の引き上げ、それから介護労働者についてはマニフェストで月額四万円の賃金改善ということをうたっておりますが、そういう方法を通じて第一次的な所得の分配の改善をまずやる。にもかかわらず、これだけでは、現在の日本では所得の格差というのはなお是正されない。

 例えば、昨年だったと思いますが、政府はこの予算編成に当たって経済見通しというのを発表しておりますが、来年度の名目雇用者報酬については〇・七%減というのを見込んでいるわけですね。要するに、これは第一次の所得分配で、雇用者報酬の面でいうと実際上はマイナスが続く。ということは、政府の経済見通しでは雇用者報酬については改善されない。これが来年の経済見通しになっています。

 したがって、個人消費も名目でマイナス〇・二%、つまり個人消費も伸びない。それから、実質では一・〇%、こういうことになっておりますが、全体としては、第一次の所得分配が改善されないという前提に立っているために十分に内需の回復も見込めない、こういう想定になっています。したがって、どうしても再分配の機能を強化して格差の是正を図る、これが第一に必要です。

 同時に、その格差の是正というのが、実は、今触れましたけれども、家計の消費、大衆的な消費の拡充を通じて内需の回復を少なくとも呼び起こす、その刺激になり得る。現在予想されているような景気の二番底を回避するためにも、所得再分配の垂直型、これによって現在の経済的破綻に対してその進行を防止する、そういう機能を見通すことができるのではないか。

 といいますのは、もともと私は経済学が専攻でありますので、この間の不況の分析をやってまいりましたけれども、大体、戦後最大の厳密な意味での過剰生産恐慌というのは、格差社会化というのが基本的な原因になって進行したものです。すなわち、格差社会といいますのは底辺で貧困が進行いたしますから、国内では大衆的な消費というものが伸びない。つまり、消費が立ちおくれてしまう。

 ところが、格差社会の中では、上層の部分、あるいはまた大銀行や大企業に過剰なまでに富裕資金というのが集まってくる。これがアメリカ合衆国の証券住宅バブルを呼び起こす大きな要因になったというのはもう通説でありますけれども、この過剰資金というものが実はアメリカ発金融恐慌の引き金をつくった。だから、この過剰資金というものを吸い上げて、他方で格差社会の中であえぐ貧困層、低所得層にこれを回す。そうすれば、今までおくれてきた消費というものが何とか後追い的であっても回復をする。だから、垂直的な所得再分配を徹底するというのが、実は経済的破綻の進行に対する大きな歯どめの役割を果たす。そういう意味で、さきに挙げました不況打開のためにも垂直的な所得再分配の視点が今問われているんだ。

 それから、三番目の財政危機についても、もう言うまでもありません。今この財政危機を打開しようと思えば、要するに過剰資金に課税をする、これがどうしても必要です。憲法で言うところの応能負担原則というものに立って、応益負担というのは水平的な所得再分配に向かいますから、応能型でもって税制改革を進めて、垂直的所得再分配の構造というものを再構築する。

 そのためには、現在、これは皮肉なことに格差社会が生み出した過剰資金というのがありますから、この過剰資金に対して適切な課税をする。そこから上がった財源をもって、福祉の実現、社会保障の改善、医療であるとか、さきに御指摘のあった待機児童を解消して現行の保育制度を拡充していく、そういう方向に向かって改革を進めていけば、財政危機についても少なくともこれ以上の深化に対して歯どめをかけることができる。

 そういう意味で、私は、今財政全体に求められている最大の課題は、水平的ではない、あくまでも垂直的な所得の再分配構造の再構築がどうしても必要だ、こういうふうな結論に到達したわけでありますが、その視点で、さきに触れました政府予算案が水平型に向かっているのではないか、この懸念を三つの事例で確かめておきたいと思います。

 一つは、政府予算案の中では、言うまでもなく一部税制改革が行われたわけでありますけれども、税制の抜本的改革というのは基本的に先送り。この場合、抜本的改革をもし垂直的所得再分配の再構築という視点から進めるとすれば、これは、さきに触れましたように過剰資金を吸い上げる。すなわち、格差社会の中で生まれた膨大な富裕層、大企業、大銀行、これらのもとにため込まれた過剰な資金に課税する、この方向を徹底して模索する。これに、実は今回の予算案を眺めてみる限り向かっていない、むしろそれを回避している。これは大変大きな問題。

 さらにまた、これは財政需要の分野ではかなり多くの方が指摘をしつつあり、政府の税制専門委員会の中でも議論される予定になっておりますけれども、租税特別措置というものを見直して課税ベースを広げる、とりわけ企業優遇型の租税特別措置については見直して課税ベースを広げる、そういう措置を十分なさっていない。これは、水平型に向かっている一つの事例ではないか。

 それから二つ目は、さきに触れましたけれども、事業仕分け活動というのは、実は、国会議員の方でございますからもう周知だろうというふうに思いますが、もともとは小泉政権のときの構造改革の手法として小泉政権そのものが取り上げたやり方です。最初は幾つかの自治体でこれが進められました。私自身も幾つかの自治体を見て回って、例えば岡山市で構想日本のグループの方々が事業仕分け活動というのをやった。これはかなり乱暴な水平的所得再分配のやり方、しかも水平的所得再分配を徹底して縮小する、むしろ解体する、こういう流れになっているわけですね。

 なぜそうか。要は、公的な事業であるとかサービスの提供について、それの必要性については挙証責任を行政の側に預けて、徹底して、これは議会が問題にするのであればまだしもなのでありますけれども、議会の外で専門家と称する人たちが、必要か不要か、これを短時間のうちに決めてしまう。必要性がほとんどあるというふうに従来であれば認められてしまう。

 なぜかといいますと、行政がやっている仕事というのは、法律であるとかあるいは議会が決めた予算措置に基づいて行われているわけでありますから、何らかの存在理由があるわけですね。そこで持ち出されるのが、どちらで、つまり、公共機関が直接やるのが安上がりか、民間にゆだねるのが安上がりか、このいわゆる公民間のコスト比較というのをやります。

 今の状況のもとでは、民営化した方が安上がりになるというのは一般的に認められる。なぜか。民間の方が、今、派遣労働なんかを使って低賃金でやるからです。だから民営化させる。民営化するということは、アウトソーシングするということでありますから、皆さん方が問題にした、外注化の結果、官僚の天下りがむしろふえてくる。つまり、小泉構造改革の事業仕分けそのものが、実は天下り先をふやしてきたんですね。だから、これをたたいて無駄を削減する、こういうふうにマスメディアは報道したわけでありますけれども、これはイタチごっこです。

 すなわち、そういう民営化であるとか、例えば独立行政法人化、指定管理者制度を使って外注化する、そういうやり方そのものを実はもう一回、さきに言いました垂直的所得再分配の視点からすると、見直していかなければいけない、こういうふうに考えられるわけです。

 時間がありませんので、最後、三点目。

 さきに触れましたように、水平型に向かっているのではないかというふうに懸念されるのは、一つは、消費税の増税というのを自明のものとして、福祉目的型ないし年金目的型、これを想定した上での予算編成になっているということ。

 それから、地域主権という名前でもって、基本的には地域単位の受益者負担主義というふうに言っていいかと思いますけれども、地域を単位にして、受益者負担の受け皿を自治体につくってしまう、そこに土建国家的機能であるとか福祉国家的機能を挙げてゆだねてしまえば、とりわけ福祉の分野では、地域を単位にした水平的な再分配あるいは地域間の水平的な再分配、これに終わってしまう、そういう懸念が大変強いわけであります。

 そういう意味で、ぜひ今後、所得再分配の強化は水平型ではなくて垂直型で進めるべきだ、こういう視点に立って予算編成、行政改革、両方あわせて追求していただきたいという希望を申し上げまして、私の公述にしたいと思います。失礼いたしました。(拍手)

鹿野委員長 ありがとうございました。

 次に、駒村公述人にお願いいたします。

駒村公述人 慶應義塾の駒村でございます。

 こういう機会をいただきまして、大変ありがとうございます。私は、経済学、社会保障論を専門にする立場から、一般会計予算について意見を申し上げたいと思います。

 お手元に私の資料が配られていると思いますので、これに基づいてお話しさせていただきたいと思います。何分、資料は三十ページ近い大量なものでございますので、大変細かくお話しすると一学期分の授業に相当するようになってしまいますので、大変速くお話ししますけれども、御容赦いただければと思います。よろしくお願いいたします。

 まず最初に、予算もしくは政策に対しての全般的な評価をさせていただきたいと思います。

 最初に、現在、グローバル経済の中、あるいは雇用規制緩和、小さい政府、社会保障カットへの圧力強化という中で、世界的にも、企業あるいは資本の国際移動が非常に激しくなっていく、そういった動きを背景に、企業側に良好な社会資本にフリーライドしようという動きがあったわけです。これに応じてしまった前政権によって、社会保障制度はかなり圧縮された傾向に向かっていたわけですけれども、そういう流れをとめていくということが今回の予算では一つ重要なことではないか、こういうふうに思っております。

 もう一つは、日本全体が高齢化が進んでいきます、そして、社会保障制度のうちの年金制度も極めて不安定になり、貧困高齢者も増加傾向にあるということ。それから、非正規労働者の増加によって格差の拡大がある。それから、格差の拡大がさらなる世代間の連鎖、低所得者に生まれた子供がさらに不利な状態に置かれるという格差の連鎖というものも世代間で起きているのではないか。

 さらに、団塊ジュニアというグループ、これは三十代半ばまで来ているわけですけれども、このグループが非常に経済的には不利な状態に置かれたまま今日まで来てしまって、出生率も低く、家族も形成できない状態のまま今日を迎えてしまった。このボリュームの多い人口に対してサポートして出生率の逆転上昇を図るラストチャンスが近づいてきているのではないか、こういうふうに思うわけです。

 こういった中で、今回の予算については、与党の中の選挙公約でもありました、人や生活保障に重点を置くということで、社会保障分野に資源配分が強化されたということは大変評価できるのではないか、こういうふうに思っております。グローバル経済、少子高齢化社会への対応を明確にするということも、これは、政権交代があってからわずか数カ月でありますので、完全とは私も評価できませんけれども、そういう方向が出てきたのではないか。小さい政府路線の弊害への対応、それから未来への投資としての社会保障の位置づけ、そして新しい社会保障制度へ向けての方向性というものは一定出ているのではないかと私は評価しております。

 一方で、社会保障制度をどのように設計していくのか、どのような社会モデルをつくっていくのか、これは後ほど少し触れたいと思いますけれども、そういう理念についてはまだ不明確な部分もあるだろう。社会保障、雇用、税制の一体改革というものが余りまだ明確になってはいない。これは、国家戦略室というものに私は大変期待をしていきたいと思います。

 さらには、高齢化社会を迎えるに当たっては負担がどうしても不可避になりますので、これに対する説明、説得、それがきちんと実行できるような、歳入庁、社会保障、税関連の共通番号による所得捕捉というもののシステム設計もこれからますます重要になるのではないか、こういうふうに思います。

 人口減少、高齢化社会に向けての新しい社会システムの開発、あるいは、日本が工夫する社会システムの発明みたいなものもこれから必要になってくるのではないか、こういうふうに思っております。

 次のページをざっと。

 これは数字の問題でございますけれども、OECD各国の年金と生活扶助と課税最低限と最低賃金の上下関係でございます。縦軸は平均賃金に対する比重、次のページに細かい注は出ておりますけれども、これがそれぞれどういう位置にあるのか。

 ポイントとしては、日本が、最低賃金が先進国の中では相対的にかなり低い位置にいますねということと、最低賃金と公的扶助と課税最低限と基礎年金が非常にごっちゃにくっついてきている、中には逆転現象が生まれているものもありますという点も、これからこれをどう整合性のあるような形に見直していくのかというのが大変重要になってくるだろう、こういうふうに思うわけです。

 次のページはそれの説明、出典でございますので、これは省かせていただきたいと思います。

 次に、非常に暑苦しい表がございますけれども、これは、先ほど、どういう社会モデルを目指すのかということを申し上げたわけでありまして、先進国の社会モデルというのは、大きく、コーポラティズム型、それから北欧普遍型、アメリカのような自由主義型というものがございます。日本は、どちらかというと、今まではコーポラティズム型と自由主義型の中間型をとっていたわけですけれども、このグローバル経済、高齢化社会の中で、日本は、それぞれこういう特徴を持った社会システムのうちのどれに近い社会システムを選んでいくのかというのを決めなければいけない時期に近づいたのではないか、こういうふうに思います。

 そういう意味で、そういう理念、社会モデルを明確にしていただいて、今後の予算の議論もしていただきたい、こういうふうに思うわけです。

 次に、雇用を中心にした社会保障の議論に入らせていただきたい、こういうふうに思います。

 従来型雇用というのは、図として出ておりますけれども、学校を卒業したら働いて、そして女性は一部家庭に入る。男性は、一部、失業した人が労働市場に出入りするということがあって、最後には退職していく。こういう非常に単線型の雇用システムだったと思いますけれども、これが大きく変わってきているということだと思います。

 諸外国は、雇用の不安定化が進む一方で、しかし社会保障制度はきちんとつくろう、あるいは、教育システム、雇用、職業訓練システムをきちんとつくるということで、デンマーク型のような、黄金の三角形と言われていますけれども、労働市場は柔軟化を進めていく一方で、所得保障制度はきちんと行う、積極的労働政策で訓練給付はきちんと行うという、相互補完的につくっていくというモデルをつくっている国もございます。これはデンマーク型。次のフレキシキュリティーモデルというのもデンマーク型でございまして、こういうスタイルを選ぶという選択肢もあろうかと思います。

 ただ、これもなかなか難しい問題があると思います。後ほどこれもお話しさせていただきたいと思いますけれども、結局、新しい雇用システムというのはどういう構造になり得るのかというのが、次の、「新しい雇用システムと教育、社会保障制度」の関連というものがございます。

 私は、この図を見ながら、一番左に職業と教育の連携システム、仕事と暮らしを両立させるようなシステム、退職時の所得保障システム、それから失業時所得保障システム、この四つのシステムが人間の生活を支えるんだと。このそれぞれのシステムから要請されていく、真ん中に雇用システムを置いてありますけれども、そのすき間を、それぞれの政策、例えばジョブカードというものもあるかもしれませんし、訓練・生活支援給付、あるいはこれを諸外国では失業扶助というのかもしれませんけれども、求職者支援の制度を恒久化するような仕組みをこれから考えていく必要があるのではないか、あるいは失業した人に対する住宅手当、これが今後必要になっていくのではないか、こういうふうに思っています。

 こういう雇用を中心とした社会システムをどのようにつくっていくのか、このすき間をどうやって埋めていくのかというのは今後重要であり、予算においてもそういう視点で議論をしていただきたいなと思っております。

 次に、具体的な数字を見ながら、日本の社会保障、所得保障の問題点を見ていきたいと思います。「所得保障制度(格差・貧困問題)について」というところの次のページを見ていただきたいと思います。

 これは、全国消費実態調査、二〇〇四年のデータでございます。最新データでございます。四万世帯ほどのサンプルを使って、一戸一戸、世帯に、生活保護の水準を下回っていながら生活保護を受けていない人が何%いるのか、これを世帯主年齢を横軸にとって分析した結果でございます。生活保護水準としては、一級地の一を一応目安として置いているわけです。

 これを見てわかるように、九九年から二〇〇四年の間も、貧困率は特に若い人を中心に上昇傾向にある。つまり、貧困、格差の現象が、高齢化社会によって高齢者のウエートが上がったから貧困、格差がふえているんだという話ではなくて、実際、水平方向に貧困率が上がっているということがこれによってわかるわけです。これは個票データという四万ものデータを詳細に分析した結果ですので、こういう結果がわかるわけです。

 次のページは、これにさらに、世帯主が就労しながら生活保護水準を下回っている世帯がどのぐらいいるのか、しかも生活保護をもらっていないのはどのぐらいいるのか。これも世帯単位の、ワーキングプア世帯というものです。

 日本の政策のタームの中には、ワーキングプアという言葉はございません。ワーキングプアという言葉がないから、統計もございません。そこで、私がその統計をかわりにつくったということでございまして、これは若干、先ほども少し触れられたOECDの国際比較のためにつくられた貧困率とは数字が異なっております。

 そういう意味で、こちらは、真ん中の人の何%の生活というよりは、生活保護という国が定めたミニマム保障を下回っていながら生活保護にたどり着けない人がどのぐらいいるのかというのを見た数字でございます。かなり深刻な状態だと思います。特に若い世帯主のところが厳しい状態になっているということを押さえておかなければいけない、こういうふうに思っております。

 この次のページが世帯類型別貧困率でございます。これも世帯類型別に、先ほどと同じデータ、こちらの方は一応推計でございますので、一級地の一、つまり都市レベルの生活保護制度を適用した場合と、三級地の二、地方都市のを適用した場合で二通りの数字が出ておりますので、若干の差がありますけれども、これは恐らく半分、ちょうど真ん中あたりが真実だと思いますけれども、母子世帯の貧困率は非常に高いということで、生活保護水準を下回っていながら生活保護をもらっていない母子世帯が約四〇から六〇%近くいる。

 さらに、これとは別に生活保護をもらっている方がいるわけですけれども、その生活保護をもらっている母子家庭の方というのは、障害があったり傷病を持ったり、さらに二重のハンディを持っていて初めて生活保護を使えるようになっているということでございます。極めて深刻な状況が起きているというのが現状だと思います。

 こういった上で、先ほどのフィンランドのようなモデル、フレックスとセキュリティーを混合するような一つのモデルを御紹介しましたけれども、では、日本ではどうするのか。

 日本では、一方では、コーポラティズム、正社員という形の日本型雇用システムというのが一部ではきちんと、非常に面積は小さくなって対象者も小さくなっていますけれども、残っています。

 そして、次第にふえている非正規の労働者の方をどういうふうに処遇するのかというのは、これからの大きなテーマになってくると思います。こういう方たちもきちんとした、安心した生活ができるような仕組みをつくっていかなきゃならない。こういう人たちも安定して家族を形成できるような社会保障システムをつくっていかなきゃならない。

 そのためには、一つは雇用保険の適用の拡大、あるいは雇用保険が切れた後の失業扶助的なもの、さらには、流動性はあるんだけれども、経験がきちんと評価されて、キャリアが評価されながら賃金に上乗せされるような新しい雇用システム、これを専門職労働市場と言っていますけれども、これを規制をきちんとしない状態で単に市場に任すと小泉改革のような結果になりますので、ここにきちんとしたルールをつくって、新しい雇用システムをセットでつくっていくということを行って、部分的なフレキシキュリティーみたいなものを日本でも考えていったらどうなのかというふうに提案したいと思います。

 次に、年金の問題に入りたいと思います。

 これも、年金記録の問題、それから年金機構の問題等、非常に大きな問題を抱えております。今回は年金制度については大きな議論が行われない、財源としては、基礎年金の二分の一の部分の問題、この安定財源確保の問題が今後出てくると思いますけれども、一方では制度改革というのも非常に重要になっている。

 ここで年金についてポイントを申し上げておきたいと思いますけれども、年金制度改革の評価のポイント、どういう点で今の年金制度がいいか悪いかを評価するのかというのは、三つのポイントがあります。これは世界で共通した切り口でございます。

 一つは、制度の持続可能性。経済的、財政的、政治的に安定するのかということ。すべての国で高齢化が進むため、この問題はいずれの国も共通して大きな課題になっている。二つ目は、社会状況の変化に対応できているのかどうか。職業形態の変化、特に非正規労働のような形によって厚生年金から抜けてくる人はふえている、この結果、空洞化につながったという問題がございますので、こういう社会構造の変化に対して年金制度は対応できているのかどうか。それから、最低の保障というものも絶対必要だということ。

 この三点から、日本の年金制度はよくできているのかどうなのかということを評価しなきゃならない。となると、今の年金制度はいずれも大きな問題を抱えているだろうと言うべきだろうと思います。

 この三点は私が別にオリジナルで考えたわけではございませんで、次のページに「諸外国の年金改革の目標」というのがございます。

 これは、世界銀行が各国の、先進国の年金改革を行った専門家に対してアンケート調査した結果、あなたの国では何を一番重視しましたかというのに答えた結果でございます。一番重点を置かれたのが財政的安定性、二番目が低所得者の生活安定、それから三番目が労働者保護の適用拡大、多くの労働者をなるべくカバーするというのがございますので、こういうのがこれから重要な改革になるだろうと思います。

 その上で、日本の年金制度が諸外国の年金との関係でどういう位置にあるのかというのを見たのが、次の「各国の年金制度のイメージ図」というものでございます。

 十文字の絵が出ておりまして、諸外国の年金制度が相対的に位置づけられておりますけれども、縦軸には、賦課方式の所得比例年金、いわゆる厚生年金の大きさ、横軸には、税方式をとっているか、一階部分の保険方式をとっているかという位置づけでございます。

 日本は保険方式で所得比例の厚生年金を持っていた国ですけれども、これが若干、二〇〇四年改革で小さくなっている。もう一方、フィンランド、スウェーデンというのはどういうスタイルをとっていたかというと、全額税方式の基礎年金を持っていましたけれども、九〇年代後半からの改革によって、全額税方式の年金はやめて最低保障年金に動いているということで、この第二象限にある日本を右の方に持ってくるというのはかなり大きな改革になってくると思います。

 そういう意味では、次のページで、最後の年金改革であるということであるならば、今後も長期的に信頼される年金改革を目指す。ただ、それをやった場合、軸を大きく解体することになりますので、世界最大級の改革になりますので、これは人口と規模、計算も含めてかなり大きい改革になりますので、拙速な議論というのは回避しなきゃならない。最初に問題点の洗い出し、なぜ改革するのかというコンセンサス、新制度に向けての基本理念、哲学、社会的な合意の形成に向けてのプロセスの整備といったものも重要かと思います。

 最後に、残された時間で、次世代育成について若干の意見を申し上げたいと思います。

 次世代育成の役割というのは、政策目的としては、子育て世帯の経済支援と少子化、それから仕事と暮らしの両立支援というものがあるかと思います。その背景としては、子供、人々の可能性、生き方の可能性を広げていく、社会保障制度を維持するというものがあろうと思います。政策手段としては、現金、保育、両立支援、雇用政策というものがあると思います。複数の政策目的を達成するためには、当然、複数の政策手段が必要でありまして、現金給付とともに現物給付が必要になってくるだろうと思います。

 次のページに、諸外国で現金給付を行うことによってどういう政策効果があるかを紹介しております。

 これはOECD各国のデータでございますけれども、横軸に現金給付の対GDP比をとっております。つまり、これが大きい国であればあるほど、子ども手当等の現金給付が大きい国ということです。縦軸は子供の貧困率をとっております。日本はこれが小さかったわけですけれども、これが小さい国は子供の貧困率が高くなるということになります。子ども手当を充実することによって子供の貧困率を下げるという政策効果が期待できてくるのではないかと思います。

 先ほど申し上げたように、勤労世帯、特に若い世帯で子供を持つような世帯の貧困率が上昇しておりますので、そういう世帯へ向けてこういう支援を行うというのは有効な政策だ、こういうふうに思っております。

 この一方で、もう一つ、現物給付というものも充実して、保育サービスを充実していくという必要があると思います。

 社会保障制度が持続可能であるためには、出生率の上昇と女性の就業率の上昇というのが前提となってきますので、それをどう引き上げていくのか。これができなければ、社会保障給付は不安定になり続けて、人々は不安にさいなまれることが続くわけでございます。そういう意味では、今後、次世代育成支援の強化をしていただきたいと思っております。

 最後に、次世代育成支援政策強化のポイントを申し上げさせていただきたいと思います。

 子供たちに良好な育成環境を、特に不利な世帯の子供への保障というのは、再分配政策上も成長政策上も大変コストパフォーマンスのよい政策であるということが確認されています。投資収益率で一五%から一七%あるんだという研究もございます。出生率の回復と両立の確保こそが、社会保障の維持にも不可欠でございます。

 この上で、国と地方の役割分担が今後進んでいくと思いますけれども、重要な点を四点ほど申し上げさせていただいて、終わりにさせていただきたいと思います。

 一つは、やはり人口政策、社会保障政策にかかわる点でございますので、長期的な国家戦略の視点が必要かと思います。目の前の待機児童だけではなくて、本来であったらば働きたいというお母さんたちがいて、それが八十万人近い待機児童を潜在的に持っているわけですから、それにいかに取り組んでいくのかというのは国の責任で行うべきだと思います。

 それから、地方分権に任す部分も大事だとは思いますけれども、しかし、有権者の中に判断のバイアスがあるというのも気をつけなければいけないと思います。子育て期間というのは過ぎてしまえば関心が終わってしまって、次は介護だ、医療だ、こういうところに重点が移っていきます。結局、子供への関心は有権者の中の一部の人しか持てなくなり、後手後手に回るということになります。しかし、子育て支援がきちんとできなければ、高齢者は不安になるという悪循環が実は続くわけですね。そういう意味では、この有権者のバイアスをどう回避するかというのも大事。これは政治家の説明力を求めたいと思います。

 それから、地域間格差の問題もあるかと思います。特定の自治体が頑張っていくということを行っても、結局、サービスに地域差が生まれてしまえば、子育て世帯の地域間移動が発生するだけで、日本全体の底上げにはなりません。

 そういう意味では、分権化とともに、国がきちんと関与していく新しい保育システム、これは先ほど新しい社会システムを発明、発展させなければいけないと申し上げて、先ほど連合の方から子供基金というアイデアも出されたと思いますけれども、こういう仕組みを今後考えていく。そこには当然、安定財源というものもつながってくるだろうと思います。

 大変早口で恐縮でございます。また後ほど質疑でお答えしたいと思います。

 どうもありがとうございます。(拍手)

鹿野委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

鹿野委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。緒方林太郎君。

緒方委員 民主党の緒方林太郎でございます。

 この伝統ある予算委員会中央公聴会で発言の機会をいただきまして、委員長並びに理事各位には御礼を申し上げたいというふうに思っております。

 そして、この予算委員会での審議も終盤に入ってまいりまして、貴重な公述人の皆様方からの意見を聞く機会に一部野党の方が出席をされていないということは、一国会議員として非常に残念な気持ちでございます。

 本日は、三人の公述人の方々から貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございました。時間も限られておりますので、テーマを絞って御質問させていただければというふうに思っております。

 労働者派遣法の関係でございまして、昨今、過度の自由化によって非正規労働者の増大であるとか雇用の不安定化ということがございまして、政権交代後、今、労働者派遣法の改正ということで議論が進んでいるところでございます。その中では、答申も既に出ておりまして、登録型派遣、さらには製造業派遣、日雇い派遣といったものの原則禁止とか、違法派遣に対する直接雇用促進とか、そういったことが盛り込まれるのではないかと言われております。

 そういった中におきましても、私が若干懸念をいたしますのは、現代社会においては雇用の形態がかなり多様化をしているということもありまして、余り厳格に過ぎる対応というのは、結果的には雇用のミスマッチにつながることがあったりとか、かえって雇用の喪失につながるということもあるのかなと思っておりまして、制度設計においては慎重を期すべきであるという意見でございます。

 その中でも、私が非常に懸念を持っているのは、実は私は出身が北九州という町でございまして、一九〇一年、官営八幡製鉄所ができて以来、日本の物づくりを支えてきた町であると自負をしているわけでございますけれども、では、製造業派遣というものが物づくりにどういう影響を及ぼすのかということについて強い懸念を持つところがございます。

 我が町北九州には、官営八幡製鉄所におきましては、宿老という言葉がございまして、非常に技術の高い熟練工をそういうふうに指定して、会社として守り立てていくというような古い制度があるわけでございますけれども、余り製造業に派遣業の方がわあっと入ってくるようになると、技術の伝承ということがうまくいかなくなるんじゃないかということに懸念を強く抱きます。やはり日本の産業の基礎というのは物づくりでありまして、それを支えてきた技術、そこが失われることに対して強い懸念がある。

 ミタル・スチールという会社が新日鉄を買収しようとしたことがありました。これは何が欲しかったかというと、まさに日本の企業が持っている技術が欲しいからということだったわけでありますが、この日本の誇る技術というのを製造業派遣という形が損なわしめていくのであれば、製造業派遣について厳しい姿勢をとることは当然のことではないかなと思います。

 今いろいろ申し上げさせていただきましたが、今後の労働者派遣法改正のあり方について、逢見公述人、さらには二宮公述人に思いのところを述べていただければと思います。

逢見公述人 御質問をいただきました労働者派遣法の問題について、私の考えを述べさせていただきます。

 一九八六年にこの労働者派遣制度がスタートいたしまして、この間、何度か制度改正が行われてまいりました。全体として見ると、規制緩和を推進する、労働者派遣の数をふやしていくという方向での改正が行われてきた。この規制緩和の考え方の背景には、外部労働力をどんどん労働市場流動化という形でふやしていくということが労働市場政策としてあるべき姿なんだ、そういう考え方に基づいてやってきたんでしょうが、一方でこれは、短期的な契約、そして低賃金労働をふやすという形になってまいりました。その結果、いろいろな弊害が出てきたと思います。

 一つは、先般の不況の際に出てきた、いわゆる派遣切りの多発、あるいは雇用の安定性に欠ける派遣形態が横行したということ。その中で、派遣労働者が非常に大きな生活不安にさいなまれたということ。それから、派遣労働者の不透明な待遇、低い待遇、それが固定化するという問題が起こってきたこと。そして、偽装請負など違法派遣が横行したということ。

 これらについて、先般の労働政策審議会の答申では、事業規制の強化であるとか、あるいは派遣労働者の無期の雇用化や待遇の改善への方向を示すとか、あるいは違法派遣に対する迅速な対応を図るということがなされました。基本的には、私ども連合の考え方が反映されたものと受けとめております。

 御指摘の製造業派遣の問題については、従来、直接雇用または請負、請負というのは、それぞれの技能レベルを持った人たちがその企業の一つの生産工程のあるラインを責任を持って受け持つという形で、そこには技能の伝承がなされていたわけです。しかし、製造業に派遣を入れたことによって、技能の伝承ができなくなってきている、あるいは現場力が低下するという問題が起こってきました。

 そういう意味で、今般、原則禁止という形にしたわけですが、日本の持っている物づくりの強さというのは、現場力にあると思います。その現場力で技能を伝承していくということがきちんと行われるような改正になってほしいということを願っております。

二宮公述人 簡単にお答えしたいと思います。

 おっしゃるとおりでございまして、日本経済、とりわけ製造業の基本というのは、例えば、電機、自動車にしてもすべて大田が出発だというふうに言われておりますように、基本的に、技術だけではなくて技能の蓄積、とりわけ長い経験を通じた知的熟練を伴うようなスキルであるとかクラフトであるとか、こういったものが、日本の製造業、さまざまな分野の産業を支えてきた基本でありますので、派遣労働を無原則に製造業の中に導入していくとこれらが壊れてしまう、その懸念は全くそのとおりでございまして、その視点から見ても、製造業の派遣というのは大きな問題だというふうに思います。

緒方委員 十分というのはなかなか短いものだなというのが率直な感想なわけです。時間がもうあと残っていないわけですけれども、もう一点だけ、子ども手当について簡単にお伺いさせていただきます。

 少子化担当大臣というのが初めて選任されてもう七年ぐらいになるんですが、私も浪人の時代からずっと見ておりまして、省庁間の枠を超えて全体で統一的な政策を練るというのはなかなか難しいんだなということを感じました。

 そういった中、今回、一万三千円の子ども手当が導入をされまして、現物支給の方がいいんじゃないかとかいろいろな御指摘があるわけですけれども、これから生まれてくる世代へのサポート、そして、既に子育てをしておられる方へのサポートということで、インセンティブを提供することは非常に意味の大きいことだと思っています。

 ただ、働く環境をしっかりと整備しないと、これは単にお金を出すだけではだめだ、そういう御指摘があるわけでございまして、最後に、簡潔で結構でございますので、雇用の安定、さらには、女性が働く環境、子供を育てる環境整備まで、そういったことを含めて、逢見公述人から御意見を賜れればと思います。

逢見公述人 民主党が子ども手当をマニフェストに掲げて今度の中で予算を措置されたということは、大変大きな意味があると思います。これは、子供を社会が育てるということをはっきり政治的なメッセージとして伝えたということだと思います。

 ただ、実際に子育てをしている人たちの声を聞きますと、現金給付だけではなかなか安心して子育てすることができない、やはり現物給付的なサービス、特に保育環境の整備ということについてもしっかりした政策を立ててほしいという声がございます。

 また、さまざまな保育サービスがあるわけですが、これがそれぞれ省庁縦割りになっておりまして、そこにいろいろな切れ目がある。そういう切れ目のないサービスをつくっていく、そのためにも、私どもは、子育て基金という形で財源を一つにして、その中で切れ目のないサービスを、現物給付と現金給付とのバランスをとりながら提供していくということが望ましいのではないかと思っております。

緒方委員 終わります。

鹿野委員長 次に、阿部知子君。

阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 本日は、早朝から大変内容のある陳述をいただきまして、勉強になりました。私にいただきましたお時間が十分ですので、恐縮ですが、お三方にそれぞれちょっと違う質問を投げ、そしてお答えをお聞かせいただきたいと思います。

 まず冒頭、逢見公述人にお願いをいたします。

 いただきましたレジュメを見ましても、また私どもの社民党としての考えでも、やはり最低賃金の引き上げというのはやっていかなければいけない、いわゆる可処分所得をふやすためにもと思いますが、それが一方で、事業主の皆さん、特に中小企業の皆さんにはなかなか全体に負担になる。

 先ほど、いろいろな施策で、例えば企業がいろいろな技術力をアップできるように等々の施策はあろうかと思いますが、私が現場で伺いますと、やはり社会保険料負担が大変に大きいというふうに御意見を聞きます。ドイツなどでは、環境税をいただきまして、その一部をこうした事業主の社会保険料負担に入れ込んで、社会保険料負担を軽くすることで、しかし逆に、保険料をしっかり納めてセーフティーネットを張るという方策をとっているやに思います。

 この点について、公述人の御意見を伺いたいと思います。

 それから、二宮公述人には、私どもの政党でも、確かに、垂直的な分配、所得税の累進をもっと引き上げること、あるいは、法人税の租税特別措置法等を外していくこと、そして、金融・証券課税等ももっと、一〇%ではなく二〇%に戻す、相続税の問題などもこれあると思います。

 そして、この政権でもやっていきたいと思いますが、それらをやった上で、しかし、少子高齢社会を迎えておるので、間接税に頼らざるを得ない部分は出てくるのではないか。その一つが消費税だったり環境税であることも、社会構成の年齢分布、勤労層の減少そして高齢者の増加、そして、子供たちは育てていかなきゃいけないという社会の中で、ある程度負担を担い合っていくということは不可欠になってくるのかなと。もちろん前者の垂直分配をやった上でありますが、これについてはどうお考えであるかということを伺います。

 そして、駒村公述人には、いただきましたこの分厚いまとめの中でも、フレキシキュリティモデル、北欧型のモデルで、ある程度、労働市場の流動化と、そしてそれをカバーすべくさまざまな社会保障政策の充実ということを相伴ってやっていくことも道ではないかというお考えでありましたが、私は実は小児科医で、この場合一番問題になるのは何かというと、子供たちなんだと思うんですね。

 働く当事者は、失業保険とか長期のカバレッジがあったとして、次の仕事にトランポリンのように戻っていけたとしても、今の日本の施策のように、子供が親御さんの仕事の形態にくっついていて、例えば、常用雇用の親御さんを持つお子さんはやはり守られている度合いが高いし、非正規であれば、どうあったってその親御さんの状況に応じて非常に影響を受けるわけですね。ここに、日本が貧困の次世代送りをどうあっても断ち切れていない大きな問題があろうかと私は思うんです。

 ですから、こういう流動化を進めるに際しては、徹底して、フランスのように、非婚の女性でも、あるいは就労形態にかかわらず、子供は社会が育てるんだという強い決意を示さないと、子供が抜けてしまうというか、今のような少子化が来るんだと思うのですが、その点についての御意見をお聞かせください。

逢見公述人 最低賃金とかかわって社会保険料負担の点について御質問がございました。

 まず、最低賃金については、駒村公述人の発言にもございましたけれども、ワーキングプアが非常にまだまだ日本で多いわけです。就労していながら生活保護水準にも満たないという現在の最低賃金の水準は、早急に直していく必要がある。その上でも、今後も継続して最低賃金の大幅な引き上げということが必要だと思います。

 ただ、その上で、中小企業の人たちにとってそれが大きな負担になっているということも認識しなければいけないと思います。

 協会けんぽの財政事情について、私も運営委員の一人としてこの問題にかかわりましたけれども、標準報酬月額が、三千五百万人いる協会けんぽの人たちで下がってしまったということがありまして、中小企業をめぐる賃金の厳しさということが、この不況の中で大きく出てきているんだと思います。

 そういう意味で、この人たちの社会保険料負担をどのようにしていくかという中で、今、ドイツの環境税の使途の問題が指摘されましたけれども、これから平成二十三年度に向けて環境税についての検討がなされる。その中で、税の使途をどうするかということが議論されると思いますが、その際に、ドイツのケースも十分参考にすべきだというふうに思っております。

二宮公述人 ただいまの御指摘の前段の話はよくわかります。

 といいますのは、財政では量出制入という言葉がありますけれども、出る方をはかって、つまり社会保障など出す方をまず計算して、その必要な財源を、入る方を後でコントロールする、これが原則でありますから、前段おっしゃった、これから少子高齢化社会の中で社会保障がとりわけ多くの財源を必要とする、こういう考え方で税源を考えていく。

 その際に、これは憲法上といいますか税法上の大原則なんですけれども、税法学では、憲法上は税というのは応能負担しかない。つまり、憲法上許される税制の原則というのは応能負担であって、応益負担ではあり得ない。応益というのは税金を集めるときの根拠にはなるんですけれども、負担をかぶせるときにはあくまでも応能負担でなければいけない。したがって、課税対象は、この場合は所得と資産。資本主義社会でありますから、所得か資産か、どちらかを課税対象にする、課税ベースにする。

 それから、消費税について。

 例えば奢侈品税のような個別的な間接税というのは、これはいわゆる一般財源を調達するということ以上に、別の、例えば環境なんかは特別の目的を持った税ですね。だから、そういう目的税型の、例えば個別的間接税、酒税なんかそうなんですけれども、そういうものについては別途考えられると思いますが、日本の現在の一般消費税、これに依存することは憲法上はできない相談であって、やってはならないと私は思います。

駒村公述人 お答えします。

 先ほど紹介しましたデンマークモデルというのは、先ほども議論にございましたように、日本の現状とは若干違いがありまして、日本は物づくりの部分も重要でございまして、長期雇用は年功的な処遇という労働者もおりますので、部分的にこういうものが入ってくるのはいいのじゃないか。

 ただ、部分的に入れたとしても、先生おっしゃるとおり、安定的な雇用にいる方と、私は専門労働と申し上げましたけれども、こういう方でおのずと社会保障の方に差があるということになります。そうすると、子供がそれに巻き込まれる。親の労働条件が社会保障にもつながっている。ここがまず問題でございまして、当然、社会保障の一体化、特に所得あるいは応能負担の社会保険システムに統一するというのが大事かと思います。

 そういう意味では、仕事をかえても年金や医療保険や雇用保険に全く影響がないような仕組みにしなきゃいけない。ただ、すぐにそれができないとしても、例えば、今の問題であると、国保、国民健康保険においては応益負担、子供の頭数に応じて負担がありますけれども、その部分は子供の頭数はカウントから外すとかいう工夫があってもいいのじゃないかと思います。

 以上でございます。

阿部委員 大変貴重な御意見、ありがとうございます。骨太な論議に役立たせたいと思います。終わります。

鹿野委員長 次に、富田茂之君。

富田委員 公明党の富田茂之でございます。

 三人の公述人の先生方、きょうは本当にありがとうございます。

 私からは、まず駒村先生にちょっとお尋ねしたいんですが、先生の先ほどのお話の中で、保育制度は社会保障制度のかぎだ、特に年金財政の前提となっている有配偶女性の就業率、ここをアップさせる。これは、団塊世代が定年を迎えて、団塊ジュニアがあと何年かでお子さんを産める世代を通り過ぎてしまう。そういった意味で、ここをきちんと国の施策として対応しないと、本当に大変なことになるなというふうに私自身も感じています。

 調査室の方等でいろいろ資料を用意していただいて、先生の論文を幾つか読ませていただいたんですが、日経新聞の「経済教室」に御投稿されたものを見ますと、「保育所軸に抜本改革急げ」という論文を投稿されました。

 この中に本当に大事な視点、きょうもお話があった中で幾つかあったんですが、その中で、保育所サービスをきちんと充実させるための財源をどうするかというところで、先生の方から、児童手当拠出金と雇用保険から出ている育児休業給付とを統合してそういう財源にしたらどうだ、ワーク・ライフ・バランス拠出金制度というものをつくったらどうだろうという御提言がありました。

 政府の方で、今後、毎年五万人分ふやしていくというふうに数値目標を出しましたけれども、残念ながら、財源が明示されていません。また、国と地方の分担をどうするかという点もきちんとされていません。今、保育所の運営費、国と地方を合わせると約一兆円程度出ているようですが、数値目標を達成するために三千億必要なのに、この部分についてもきちんとした明示がされていません。そういった意味で、やはりこういう財源はどうだろうという提言が大事だと思うんですね。

 先生がこのようにワーク・ライフ・バランス拠出金というような制度はどうだろうと提言されている。ここのところをもう少し詳しく教えていただければと思います。

駒村公述人 申し上げます。

 保育政策というのは、現物と現金と、それから働く支援というものがきちんとマッチしていかなきゃならない。現金だけでもだめですし、保育所だけでもだめですし、働き方の支援も同時に必要なんだということです。

 その論文は、現状においては、子ども手当という議論がまだそのときはなかったわけでございますので、ちょっと状況は違いますけれども、子ども手当に、今、児童手当拠出金の位置づけが問題になってきております。私は、もう一つの選択肢としては、当然、子ども手当は国の財源として中心部分を担いつつ、児童手当拠出金は地方と企業が負担しておりますけれども、これと育児休業給付金を一体のものとして財源化して、これを保育所サービスの安定財源としておく。

 きちんとゼロ歳児保育をとらせている、ちゃんと弾力的雇用を行っている企業はこの拠出金を低くする。つまり、保育システムに負担をかけていないんですから低くする。そして、きちんととらせていないんだというところは高い拠出金を払っていただくというメリット制みたいなもの、これは障害者雇用でもいろいろ入っておりますけれども、メリット制みたいなものを入れて、結局それをやった方が企業にとっても得なんだという方に誘導できるシステムをつくったらどうなのかということでございます。

 そういう意味でワーク・ライフ・バランス拠出金というものを提案しましたけれども、これはもしかしたら、先ほどの連合のおっしゃった基金とかに似ているかもしれません。

 以上でございます。

富田委員 今、先生の方からお話がありました。連合の逢見さんの方からもお話がありましたけれども、逢見さんの資料を見ていて、資料Bの「「子育て基金」の運営体制」というところを見ますと、同じように児童手当拠出とか雇用保険の育児休業給付分を子育て基金の原資にするというようなシステムを考えられています。

 これはなかなかよく考えた案だなと思うんですが、今の政権の子ども手当を前提とすると、ここがちょっとなくなっちゃうんだと思うんですね。そうすると、子ども手当の部分は何か全部国費で負担しなきゃならない。それを前提としても、この子育て基金という方がいいというふうに逢見さんの方はお考えでしょうか。

逢見公述人 お手元の資料の中に、子育て基金の財源を国と事業主と被用者で、三者で賄うというイメージを出しておりますが、私ども、現在の児童手当の枠組みそのものを壊す必要はないと思っておりまして、子供を社会で育てるという中で、事業主にも一定の負担をお願いするということは論理的には十分成り立ち得るというふうに思っておりまして、こうした国だけではなくて事業主や被用者も出した中での子育て基金を、現物給付や現金の給付に充てていくという考え方でございます。

富田委員 駒村先生、もう一点お尋ねしたいんですが、先ほどの日経新聞の記事の中で、「新しい保育サービスとともに、低所得世帯への対応も不可欠である。」というふうにされまして、「非正規労働者のカップルでも家族形成・子育てができるよう、就労所得に応じて児童手当を上乗せする給付付き税額控除型の所得保障制度を導入すべきだ。」と。まだこのときは子ども手当が出ていなかったからこういうふうな表現をされたんだと思うんですが、給付つき税額控除というのは、民主党の皆さんも言っていますし、私たち公明党もそういう制度を今後考えていくべきだというふうに考えております。

 ここの点はどんな観点で書かれたのか、詳しく教えていただければと思います。

駒村公述人 この時点では、子ども手当というユニバーサルな、一種社会賃金というものがない状態でございました。先ほども少し申し上げましたけれども、専門的労働市場、つまり、日本型雇用から外れてしまったけれども、しかしきちんとした社会保険は使える、そして賃金もしかるべき、そしてその経験も全部評価されるような新しい労働市場をつくりましょうというのが前提としてあります。

 その上で、しかし、それでも賃金が不安定でありますので、夫婦で家族を形成できるような賃金があればいいんですけれども、それができない場合は、ここで言う所得制限つきな子ども手当か、もしくは逆に子供に着目した給付つき税額控除というものの形で、非正規カップルでも家族が持てるような所得保障制度を形成すべきではないかという問題意識で作成しました。

富田委員 ありがとうございます。

 もう一点、駒村先生にお尋ねしますが、年金制度の改革のお話をいただきました。きょう、ちょっとお話がなかったんですが、先生の論文の中で、年金制度をやはり持続的に考えていくためには、各政党が同じテーブルにきちんと着いて、みんなできちんと考えていくべきだという提言をされていました。本当に大事な話だと思います。

 政権がかわって年金制度が変わるというのは、先ほど逢見さんの方からもありましたけれども、将来不安につながってしまいますので、そういった意味で、きちんとしたラウンドテーブルというのが必要じゃないかと思うんですが、その点について、ちょっと先生の御意見がありましたら教えていただきたいと思います。

駒村公述人 先ほどの資料でも申し上げましたように、もし民主党が出されたような年金改革となりますと、第二象限から第一象限ということで、また非常に大きな改革になるかと思います。こういう改革を行うときには当然社会的合意が不可欠でございまして、しかし、年金というのは超長期の問題でございますので、一回一回の選挙で高齢者が有利か若年者が有利かというのを問うものでもないと思います。

 こういう意味では、各政党が年金についてかなり精通した方を中心にきちんと議論をするルール、とにかく合意はまず行うと。ただし、途中で気に入らないから席を投げるのではなくて、まず、何かしら途中でパフォーマンス的におりるということはない形で行っていく。そこにはかなり専門的な議論も出てくるとは思いますけれども、粘り強く議論をやっていただきたいというプロセスづくり、会議のルールづくりが実は重要なのではないかな、こういうふうに思っております。

富田委員 ありがとうございました。

 二宮公述人にお伺いしますが、先ほど来先生のお話を聞いていまして、垂直的な再分配が必要だというのはそのとおりだと思うんですが、具体的な税制改革とか、どこから税を取ってくるんだという話になったときに、過剰な資産のところから取ればいいじゃないかという先生のお話ですけれども、それが国民的な理解を得られるかというところがやはり問題なんだと思うんですね。

 一生懸命働いて所得が多くなった方たちから見たら、確かに収入があるんだから税を取られてもしようがないという部分もあると思うんですけれども、それは不公平になるんじゃないかというような思いもあると思いますし、理念として本当に先生がおっしゃるとおりだと思うんですが、具体論に突っ込んだときに、なかなか国民的な理解が得られるのか、そういった点については先生はどんなふうにお考えですか。

二宮公述人 私は、国民的理解がむしろ得られると思います。といいますのは、一定の高額所得層、例えば日本でいいますと、二千万円以上ぐらいの所得の大半は不労所得なんですよね。つまり、資産所得であったり、金融的所得であったりするわけで、今お話しになった、一生懸命努力をして自分で働いて手に入れた所得、これについて課税を強化するというわけではないんだ、そうではなくて、勤労所得軽課、不労所得重課という原則がありますけれども、ここをしっかり理解してもらうということが必要になるのではないかというふうに思います。

富田委員 ありがとうございました。

 時間ももうありませんが、最後に逢見公述人に、ちょっと政策から離れて。

 連合は民主党の最大の支援団体です。今、民主党の中で政治と金の問題がかなり大きな問題になって、きょうも自民党の皆さんは参考人等を要求して出てきていません。そういった状況を働くサイドから見て、やはり政治と金はきれいであるべきだ、透明性をきちんと確保すべきだ、また疑惑を持たれたらきちんと国民に対して説明をするべきだというふうに私は思うんですが、鳩山総理の問題、小沢幹事長の問題、そして北海道教組の問題が出てきました。次々とこういった政治と金の問題が出てくるということに関して、連合のお立場ではどんな考えを持たれているのか、最後にお聞かせ願えればと思います。

逢見公述人 政治と金をめぐる点についての御質問でございますが、この間ずっと政治改革ということについて連合も取り組んでまいりました。その一つの課題がこの政治と金の問題でございまして、やはり政治にとって必要な資金というのは当然だと思いますが、しかし、それはクリーンな形で賄うべきだ、そしてその透明性を高めるべきだということを言ってまいりました。

 そういう意味で、今こうした問題が起こっていることについて、これを今後どうするかという建設的な議論をぜひやっていただきたい。政治資金規正法の改正も含めて、こうした問題を起こさないための対応ということについてぜひ国会で建設的な議論をお願いしたいと思っております。

富田委員 ありがとうございました。終わります。

鹿野委員長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょうは三人の公述人の皆さん、お忙しいところ、大変に貴重な御意見、ありがとうございました。

 時間も限られておりますので端的に伺いたいと思いますが、まず、逢見公述人と駒村公述人に伺います。

 来年度の予算案全体をめぐる評価のことなんですが、先ほど二宮公述人から、いわゆる新自由主義的構造改革に対する評価とのかかわりで、来年度予算をどう見るかという御意見をいただきました。

 そこで、それ以外のお二人の方々に伺いたいんですが、旧政権は構造改革を進めて、強きをさらに強くすればその利益が国民の側に、暮らしに回り、経済も成長すると言い続けてきて、確かに大企業はこの間、空前の利益を上げたわけですが、国民の所得は落ち込んで格差と貧困が広がり、経済全体も、成長どころか日本はG7の中でも最も成長力のない国になってしまった。

 まさに、そういう旧政権がやってきた新自由主義あるいは構造改革が、先ほど逢見公述人は負の遺産をもたらしてきたという言い方をされました。そして、駒村公述人も、旧政権の路線からのということでお話があったんですが、まさにそういう路線からの根本的な転換が今求められているときだと思うんです。

 そこで、お二人の公述人に、今度の来年度予算案が、そういう根本的な転換に踏み出すようなものになっていると概括的にお考えかどうか、端的な評価を伺えればと思うんですが、いかがでしょうか。

逢見公述人 今回の二〇一〇年度予算につきましては、大変厳しい環境の中での予算編成だったと思います。

 景気低迷による大幅減収の中で、一方で財政規律の堅持もにらみつつ、景気回復に資する、そして、国民生活に直接給付できる財源をつくっていくという点で大変困難だったと思いますが、全体としては前年度に比べて四・二%増加して、財政の規模としても景気回復に資するものになったのではないかと思います。

 そして、需要サイドを重視した予算編成、国民の生活を第一に考える鳩山政権の姿勢を示したものではないかというふうに思います。

 社会保障関係費は、前年度比で九・八%増加しました。これは、前政権まで社会保障費を抑制するという考え方が強かった中で、政権交代を強く印象づけたものではないかと思います。また、セーフティーネットにつきましても、雇用保険の適用拡大など、一定の評価ができると思います。

 現在の厳しい雇用、経済環境を克服して、日本経済を力強い回復軌道に乗せるために、予算の早期成立を図るとともに、今後、持続的な成長軌道に乗せるような経済運営をお願いしたいと思っております。

駒村公述人 私は、評価も先ほど少し申し上げましたけれども、グローバル経済の中で、企業側による国際的な資本移動をそのまま真に受けて、社会保障給付カット、あるいは雇用規制緩和を行ってきた前政権から、その方向性ははっきり変わっている。社会保障給付もふえておりますし、その給付対象は子供、それから新婚世帯、不安定労働世帯に向かっておりますので、完璧に、もうこれですべて手放しで大丈夫というほどのものではございませんけれども、政権交代から短い期間であるということを考えれば、評価できるもの、こういうふうに思っております。

 以上です。

笠井委員 二宮公述人に伺います。

 先ほど御意見をいただきまして、垂直型所得再分配を再構築、そういう構造に転換すべきという指摘は、私も同感であります。

 今度の予算案は、公述人も触れられた中でありましたが、子ども手当の創設というのが目玉の一つになっていて、これを契機に、昨日、本会議も含めて、この予算委員会でも、子育てに対する国の責任とは何かということが議論となっております。

 子育てのためには、保育所の待機児童の解消とか、義務教育の完全無償化とか、あるいは給食費、教材費、修学旅行の経費など、義務教育の必要経費は保護者の負担にしないという、いわば子育ての土台を整備する、そのことと相まってこそ、子ども手当などの現金給付も効果が出ると思います。

 そういう点で、今の垂直型所得再分配への転換あるいは再構築とのかかわりも含めて、子ども手当への評価の問題を伺いたいのが一点と、もう一点は、あわせてなんですが、社会保障政策を立てる上でも、現金給付と現物給付のバランスある体系というのが非常に大事で必要だと思うんですけれども、子ども手当に対する評価と、社会保障政策を立てる上でのバランスの問題について、お考えを伺いたいと思います。

二宮公述人 御指摘のとおりでございまして、私は、子ども手当は、従来の日本の児童扶養手当的な考え方を、子供一人一人に、子供というのは社会が育てるんだ、だから子ども手当を出すんだ、こういう理念に転換させたという点では非常に評価しているわけでありますけれども、その考え方にもし立つのであれば、子供の生活といいますのは、一般の、衣食住に代表されるような日々の生活、食事をとり、眠り、外で遊びながら生活をする。と同時に、もう一つは、赤ちゃんを見れば明らかなように、ケアが必要なわけですよね。子供のケアというのは、文字どおり、保育、それから看護、それから教育という、先ほど御指摘のあった現物給付型のサービスというものが必要なわけです。

 現在問題になっている子供の貧困というのを考える場合にも、暮らしというものが子供の分野でも非常に荒れてきている、貧しくなってきている。これを現金給付の子ども手当で何とか支えていくという考え方と、それから、保育だとか、教育であるとか、あるいは乳幼児の医療であるとか、いわゆる対人社会サービスというふうに呼んでおりますけれども、その分野は徹底して現物給付原則に立つ。

 この場合、現物給付というのは、現物のサービスが提供されますよという単なるそういう意味ではなくて、公教育に見られるように、先ほど御指摘があった、公的に必要な教育や保育やまた福祉のサービスについては公共機関が責任を持って提供する、これが現物給付ということの本来の意味でございますので、現金を与えて、例えば、保育サービスを市場から買いなさいとか、教育サービスを塾のようなところから買いなさいよというのが教育サービスにおける現金給付型。

 だから、子ども手当というのは現金給付でありますから、これでもって学用品を買いなさい、子供の生活に必要なものを買いなさい、こういう思想になっているわけですけれども、その一面は評価するんですが、同時に、御指摘があったように、教育そのもの、保育そのもの、あるいは医療サービスそのものについては、これは明らかに、公共機関、または医療の場合には公的社会保険ということになりますが、これが現物をちゃんと最後保障する、そういう体制でもって、子供についても、これはお年寄りの方についてもそうだと思いますが、貫くべきである。

 ところが、現在の民主党のプランを見ておりますと、去年の十二月に、私は、これは突然出てきたので非常におかしいと思っているんですけれども、保育制度について現金給付型に転換するという。これは、厚生労働省の中でも検討はされてきておりますが、しかし、まだまとまったわけでもない。麻生政権のときのこれはあしき遺産なんですけれども、それを、実は民主党及び連立合意では別に採用するというふうに言っていたわけではないにもかかわらず、突然、景気対策のところで打ち出して、利用者補助金方式であるとか、契約型利用方式であるとか、実質上は、これは保育サービスを現金給付に転換するものです。

 だから、現金給付型のものを突然出してくるということは、明らかに、現在の政府の政策において、現金給付は多少重視してもいいけれども、今までの教育や保育や医療やというところで重視されてきた現物給付型の、公共機関が責任を持って社会サービスは提供するんだ、この仕組みを突然見直すような案を出されちゃっているものですから、子ども手当だけをもって、今の両立支援だとか少子化に対する政策だとかというものを評価するわけにはいかない。

 現物給付の面で非常に大きな後退が見られるような、そういう政策になっているという点で、御指摘のように、現物給付と現金給付、両方ちゃんとした体制をとっていかないと、現在の若い人たちの子育てに対するニーズに十分こたえることはできないというふうに思っています。この点、強調しておきたいと思います。

笠井委員 もう一点、二宮公述人に伺いたいんですが、垂直型所得再分配の構造に転換すべきなのに、今度の予算案というのはそうなっていなくて、水平に向かう危険性、可能性が高いと言われました。将来の消費税を前提にしているとも指摘されました。

 先ほど、お答えの中で、消費税というのは憲法上やってはならないと最も強い理屈を言われたので、そこが一番強いんだと私は思うんですが、消費税というのは、考えてみますと、医療や介護を最も必要とする人たちに重くのしかかる最悪の逆進性を持つ税であって、その消費税を財源とすれば、社会保障が持っている所得再分配機能が失われる。

 そういう点でいうと、暮らしを壊す税を暮らしを支える制度の財源にすることに一番問題があるというふうに思うんですけれども、二宮公述人は消費税増税で福祉予算を確保するということについてどのように考えていらっしゃるか、問題点があるとすればどういうふうに見ていらっしゃるか、伺いたいと思います。

二宮公述人 御指摘のように、福祉目的税型の消費税に転換をする、その上で増税を図っていくというのは非常に大きな問題があって、私は大体三つぐらい問題点があると思うんです。

 一つは、今御指摘のように、反福祉の財源でもって福祉財源を調達するというのはもともと論理的には矛盾しているので、逆進的財源でもって福祉をやるというのはおよそ論理的には矛盾したことであるというのが一点目。

 それから二点目は、福祉目的税型にすれば、国民全体が負担する消費税なんだからいいんじゃないかという理屈があるんですけれども、実は、目的税ということで消費税を福祉とリンクをしてしまうと、今度は社会保障とか福祉の側が変質するわけですよね。

 というのは、日本の憲法は二十五条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」こういういわゆる福祉の権利というのを憲法で保障しているわけですね。憲法で保障された一般的、普遍的権利ですよね。これは一般財源から賄うというのが当然なのでありまして、ある一定の税金とリンクして、その財源の範囲内でやるんだということにしてしまうと、実は一般財源によって支えられるべき福祉や社会保障そのものが変質してしまう。

 つまり、これは国家財源全体によって支えられた国民の権利だ、そういう性格が逆に不鮮明になってしまうので、年金にしても医療にしても、これは国民の一般的権利であって、一般財源から調達されてしかるべきなんだ、この関係が逆に危うい、陰りを持ってくる、そういう問題点があるということ。

 それから、今の話とかかわるんですけれども、およそ何らかの極めて特定の場合を限って、目的税という形でこれを特別会計で処理する、別途社会保障勘定で処理する、そういうやり方は、財政の民主主義から見て、租税民主主義という視点から見て大体問題があるんだ。それを、まして反福祉の消費税でもってやるというのは二重三重の問題点を残すということで、何だか今のメディアの状況では、福祉のためなんだから消費税を上げてもいいんじゃないかみたいな、現在の福祉財源が貧困であるだけに、そういう動向がありますけれども、これはやはり問題ではないかというふうに思います。

笠井委員 もう一問伺いたいんですが、二宮公述人、税制とのかかわりで、先ほど来ありましたが、昨年末に内閣府が発表したミニ経済白書を見ますと、日本の所得税や社会保険料が、米国やユーロ圏と比べても、それよりも累進性が小さいという分析もあります。これはもうかなり言われていることであります。これは、歴代の自民党政治のもとで日本の税制が富裕層を不当に優遇してきたためだというふうに思うんです。

 今、そういう点でいいますと、税制の問題で応能型負担ということも先ほど言われました、格差拡大に追い打ちをかける税制にするのか、それとも格差を是正する税制にするのかというのが鋭く問われている。その中で、いろいろな税見直し、あるいは税制の問題というのが必要だと思うんですけれども、所得税の最高税率、この問題、引き上げということが当委員会でも論議になっておりますし、この間もいろいろなところで議論になっておりますが、これは大きな課題の一つだと思うんですが、具体的にこの問題についてどうお考えか。

 それから、それを含めて、税制改革の中で、私は、やはり軍事費の削減ということもあわせて、それをやはり無駄遣いに使ってはしようがないわけで、社会保障、教育、中小企業とか農林漁業など、国民の暮らしに回していくというのは、当然リンクしなきゃ意味がないわけですが、その辺のことに関連して、公述人の御意見をいただければと思います。

二宮公述人 今、軍事費の削減というお話があったわけですが、私は大賛成なんですけれども、その根拠というのは、先ほども税制でも申し上げましたけれども、やはり憲法に基づいて、第九条を持つ国になぜこういう軍事費が必要なのか、おかしいじゃないの、根拠はやはり憲法にあると思うんですね、もともとは。したがって、憲法に基づいて、一体、財政支出面では何が優先されなければいけないのか。

 だから、先ほど私、民主党の地域主権国家構想について若干疑問を出しましたけれども、福祉なんかは、教育も含めてですけれども、憲法で保障された国民の権利ですから、これは単純に分権化するのではなくて、やはり国家がナショナルミニマムを最優先で保障していく。

 この視点に立つと、どういう形で無駄を洗い出すかという場合に、憲法上のいわゆる公共性の原則、これで優先順位を決めて無駄を洗い出すということが一つは必要である。同時に、憲法に基づく課税原則というのは、先ほど申し上げましたように、応能負担原則で、かつては所得の最高限界税率も七五%ぐらいあったわけでありますから、これが戦後の一般的な、長い期間の累進課税の原則であったわけですね。

 だから、おっしゃるように、累進性を強めなければいけない。現在、私も財政学会に属していますけれども、財政関係者からすると、累進強化というのはもうほとんど現在の財政状況の中では合意されているんじゃないかと思うんですが、そのぐらいある意味で常識的なことなんで、それをなぜ今やらないのかが私は不思議なんですよ、逆に言えば。これだけ過剰資金があり、富裕者がいるわけですから。

 したがって、ぜひ累進強化に努めていかなければいけないというふうに思っています。

笠井委員 ありがとうございました。

鹿野委員長 次に、山内康一君。

山内委員 みんなの党の山内康一と申します。

 冒頭、おわびを申し上げたいと思います。

 実は、ちょっと私こちらへ参るのがおくれまして、かわりに共産党の笠井委員に長目に質問していただいたんですが、本日、衆議院議長の招きでイランの国会議長がこちらへお見えになっていまして、私は予算委員と議院運営委員会の委員を両方兼ねておりまして、今ちょうど歓迎のレセプションをやっておりまして、その関係でちょっとおくれまして、その関係で前の委員の質問を残念ながら聞くタイミングがありませんでした。質問に重複があるかもしれませんが、その場合は御容赦いただければと思います。

 まず最初に、逢見公述人にお尋ねします。

 いただいた表を見ると、正規の雇用が減って、その分、非正規の雇用がふえているという表がございます。正規の雇用が大幅に減っているのは事実ですけれども、同時に、非正規でふえている部分は正規が減っている分よりもさらに多い。大体、ここで計算すると百七十万人分ぐらい非正規の純増の部分もあると思うんですね。

 そういった意味では、非正規がふえている部分で、一部は雇用の増大に貢献している部分、あるいは正規では働けないけれども非正規だったら働ける、そういう人たちの雇用をふやしている、そういうプラス面もあるのかなと思うんですね。

 どんな政策でもプラス、マイナス両方あると思いますし、思いがけないいいところ、悪いところ、あると思うんですけれども、そういった非正規雇用のプラス面を生かした上で労働市場を変えていく、そういう方策は何かできないんでしょうか。

逢見公述人 資料の図表一に示したように、この十年、正規労働者が大幅に減少して、その分さらに非正規がふえたという中に、長期の不況の中で、企業行動として、総額人件費の抑制という中で正規から非正規に置きかえるという企業行動があったことと、それから、それを政策的に後押しするように、労働者派遣法の規制緩和などによってそうしたものがやりやすくなったということがあると思います。

 非正規がふえるのは世界的な現象でもあるんですが、日本の特徴としては、正規に比べて非正規の人たちの賃金が非常に低いということがあります。そのために生活できないというような人たちが出てきている、これが現在の貧困の問題にもつながっている。多様な働き方、本人が希望して非正規を望むというのはいいと思うんですけれども、しかし、それが生活できない賃金ということになってはいけないわけであります。

 そういった意味で、均等待遇の促進とかあるいは不当に低い最低賃金を上げていくというような形で、こうした非正規の人たちの労働条件の引き上げとあわせて、セーフティーネットの拡充ということが必要であるというふうに思っております。

山内委員 おっしゃるようなことは大変結構ですし、私も、同一の仕事には同一の賃金という方向で日本社会全体を変えていかなくちゃいけないんじゃないかなというふうには思っております。

 他方、今のいろいろな制度を見ていると、どうも日本の労働市場というのは余りにも終身雇用の人に有利になっているけれども、途中でいろいろな事情があって終身雇用の会社をやめてしまった人、あるいは最初から終身雇用につけなかった人には不利な制度というのが大変多いように考えます。

 そこで、駒村公述人に伺いたいと思いますが、私自身も実は大卒で入った組織を四年ほどでやめたんですけれども、もし終身雇用が非常に有利で、終身雇用以外だと不利ないろいろな制度があると、どうしてもそこでためらう人が出てきてしまうんじゃないかな。ある意味、終身雇用以外が不利だから嫌々会社に残り続ける人というのは、これまでのシステムを、終身雇用を当たり前だと考えてしまうと、実はすごく多いんじゃないかな。

 転職しやすい社会、転職しても不利にならない、そういう仕組みづくりという意味では、御紹介のあったデンマーク型のフレキシキュリティーでしょうか、そういう制度の充実というのが大事だと思うんですが、他方で、終身雇用を好む人というのもやはりかなりの人数いらっしゃると思います。そういう意味では、終身雇用のよさとそういう柔軟性と両方あわせた仕組みづくりとして、今後どういう政策が必要となってくるんでしょうか。

駒村公述人 私が先ほど申し上げたデンマーク・モデルとともに、失業扶助と制度補完的な専門職労働市場という提案をさせていただいております。

 御指摘のように、日本型雇用システム、長期安定雇用と年功賃金を望む方もいらっしゃるわけでして、私も先生同様に何回も転職している方でございますので、そういう意味では、そういうのを好む方もいれば、動きたい方もいるんだろうとは思います。

 そういった中で、動いても、社会保険上、社会保障上不利ではないシステム、そして、経験をきちんと賃金に反映してもらう、資格がきちんと評価されていくキャリアラダーの仕組みを持った新しい働き方、専門職労働市場を、特に家族や住宅に着目した所得保障とセットにして、手当と、それから経験を評価される賃金構造の新しい労働市場、この合計収入で貧困ラインはクリアして家族が形成できるような、労働者が働けるような生活ができればと思っています。新しい市場をそういうふうに考えております。

 ありがとうございました。

山内委員 今、駒村公述人からお話があったような制度について、労働組合の代表として、逢見さんはどのようにお考えでしょうか。

逢見公述人 日本的な雇用慣行の中で長期安定雇用というのは一定の合理性があって、経済を成長させる上でも大きな役割を果たしてきたと思います。

 ただ、今は三分の一が非正規の人たちであって、すべてが終身雇用権で守られているわけではないという点で、非正規の人たちのセーフティーネットがカバーされ、そうした人たちにも雇用の安定の場が確保されるということが必要だと思います。

 そういう意味で、一たん非正規になるとなかなか正規雇用になれないというところを、いわゆるトランポリン型の労働市場をつくることによってそういった人たちが正規雇用に行けるようにしていくということと、あわせて、そういう人たちの能力開発を、終身雇用権の人たちは企業の中でいろいろな能力開発の機会がありますが、非正規の人たちは企業の中ではできないので、公的な能力開発政策によって職業能力を高めていって、よりよい、質のいい仕事についていくということが必要だというふうに思っております。

山内委員 それでは、お三方にお尋ねしたいと思います。

 共通して言えるのは、皆さん、小さな政府を否定されているというふうに私は理解しますけれども、そうすると、どうしても財源というものを考えなくてはいけないと思うんですが、その財源についてどう思われるか。特に、消費税を増税するということについてどう思われるか。それぞれ短くお答えをいただきます。

 では、まず最初に、逢見さんからお願いします。

逢見公述人 小さな政府のもとでセーフティーネット機能が弱まってきたとか、あるいは社会保障に必要な財源が行かなかったということを直していくために、小さな政府を直していかなきゃいけない。そのための財源としては、資産、所得、そして消費、そうしたものにバランスのとれた税制にしていくということと、国民の理解と納得のもとで税制改革を進めていく。そのためには、税の捕捉率を高めるとか再分配機能を強めるとか、そうした点について国民にも問いかけて、そうした合意をつくっていく中で税制改正をしていくべきというふうに思っております。

二宮公述人 実は、私はもう既にその点については答えをやっていますので、簡単に。

 所得と資産を課税ベースにして、できるだけ累進化して財源を調達すべきだ、これが憲法上要請される課題になっているということを既にほかの方の質問で答えてありますので、それだけ指摘させていただきます。

駒村公述人 前提としては所得税の累進構造を回復するというのはありますけれども、世代間でこれから発生する高齢化の負担を負担するためには、最終的には消費税の引き上げはやむを得ないのではないかと思っております。

 その際には、逆進性がないように、低所得者に対しては、消費税で負担が発生した分については給付を戻すような、給付つきのような形で問題を解消する。それから、前提としては、政府の透明化、つまり、きちんとお金が無駄遣いなく使われているかということがあると思いますけれども、最終的には、世代間の社会保障制度を安定させるためには、薄く広く負担する消費税はやむを得ないのではないかと思っております。

 以上です。

山内委員 どうもありがとうございました。

 以上で質問を終わります。

鹿野委員長 次に、自由民主党・改革クラブ所属委員の質疑に入ることといたしておりましたが、御出席が得られませんので、これにて公述人に対する質疑は終了いたします。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時九分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時一分開議

鹿野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成二十二年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。平成二十二年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず高橋伸彰公述人、次に高橋紘士公述人、次に菊池英博公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、高橋伸彰公述人にお願いいたします。

高橋(伸)公述人 高橋でございます。

 多少席に空席が目立つようでありますが、ふだんの私の講義よりもはるかに出席率が高いので、個人的にはとてもうれしく思っております。

 昨年八月に政権交代が行われたわけでありますが、政権交代というのは、まさに政策の失敗と成功が選挙の結果とリンクするという意味で、日本もいわゆる普通の民主国家になったというあかしではないかというふうに思われます。

 そこで、まさに有権者が昨年八月の総選挙でどのようなチェンジを政権交代に期待したのかというのであれば、それは私は、昨年の政権交代後の政府の月例経済報告に象徴的にあらわれていたというふうに思います。

 実は、政権交代前の昨年九月の月例経済報告の総括は、「失業率が過去最高水準となるなど厳しい状況にあるものの、このところ」景気、すなわち、景気といえば大企業の生産動向でありビジネスでありますが、ビジネスの方は「持ち直しの動きがみられる。」というふうにされておりました。しかし、政権交代後の昨年十月の総括では、「景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。」というふうに変わったわけであります。

 テレビなどに頻繁に登場するエコノミストの中には、政権がかわっても景気に関する判断は持ち直していると同じであり、言葉の並べ方を変えただけではないかと皮肉を言う人もいましたが、私は、この並べ方を変えたことにこそ、日本経済を判断する視点が、景気すなわちビジネス、もっと言えば大企業の生産動向から、国民生活、雇用そして家計の所得へとチェンジされた政権交代の意義が象徴されていたというふうに思うわけであります。

 言うまでもなく、日本経済イコール景気、ビジネスではありません。国民の生活が回復するということ、すなわち、雇用が安定し、社会の構成員としてすべての人々が社会に参加できるだけの所得を得られるような状況にならなければ、幾ら大企業の生産が回復しても、いわゆる日本経済が回復したとは言えないわけであります。日本経済とは、企業活動だけで成り立っているのではなく、国民生活も重要な構成要素であるということを決して見落としてはならないというふうに思うわけであります。

 実際、グローバル化の進展によって、ドイツの社会学者ウルリヒ・ベックという人は、グローバル企業について次のように指摘しています。まともに人を雇わない、まともに賃金を支払わない、加えて税金も納めない、これがグローバル企業の実態だという言い方をベックはしております。

 つまり、働く人たちとだけではなく、グローバル企業は国家財政の利害とも対立している存在だということになるわけであります。つまり、グローバル企業の景気が回復しても、その成果は必ずしも国民生活にはトリクルダウンしない、滴り落ちないということは今や明白であります。グローバル企業の利益の増分は、国境を越えた事業展開のためにまずは社内に内部留保され、その次に株主に配当として還元され、従業員には回ってこないという状況が続いております。

 小泉改革時代に、竹中元総務大臣は、改革によって雇用者は百万人ふえた、これは改革の成果だと自画自賛していましたし、今もしているようでありますが、統計をよく見れば、確かに雇用者はふえましたが、企業の支払った人件費全体の総額もまた同時に減少しているわけであります。すなわち、企業は雇用者の賃金を削って雇用をふやしたのであり、改革によって雇用がふえたわけではありません。もし小泉改革の成果があったとするならば、雇用者を買いたたくことができるような労働の規制緩和を図ったことによって雇用をふやした、それこそが唯一の成果だったと言えるのではないでしょうか。

 また、小泉内閣時代には景気対策を講じずに景気が回復したというふうに一般に言われておりますが、しかし、実際には、為替介入という隠された景気対策が史上最大級の規模で行われました。数字を申し上げれば、二〇〇二年から二〇〇三年にかけての一年間だけで三十兆円にも上る為替介入が行われ、その後の介入も含めれば、小泉内閣時代には、五十兆円規模の為替介入が行われ、それによって円安が演出され、輸出主導の成長が実現されたわけであります。この当時、日本に海外から来た留学生は円安を大変歓迎しておりましたが、日本から海外に留学した学生は、私どもの大学の学生も含めて、悲鳴を上げておりました。

 しかし、この輸出主導の成長のてんまつ、結果こそ、実は、日本経済を世界の貿易の変動に対して極めて脆弱な構造へと変容させ、今回の経済危機で、先進国の中でも最も厳しい、戦後最大のマイナス成長を引き起こす主因となったわけであります。

 実際、二〇〇七年から二〇〇九年までの二年間で、日本の名目GDPは五百十五兆円から四百七十五兆円へと四十兆円も減少し、十八年前の一九九一年の水準に逆戻りしております。何のための改革だったのでしょうか。改革の芽は出たという話は聞いておりますが、その後、実がなったとか花が咲いたとかそういう話は聞いておりません。しかも、今回の経済危機によってその芽さえつぶれてしまったのではないかというふうに思うわけであります。

 御記憶のある方も多いかと思いますが、今から四十年前に、朝日新聞で「くたばれGNP」という特集が組まれました。私は、今こそ「くたばれGNP」を政権に生かすような、脱GDPの新しい成長が求められているというふうに思います。

 マクロの経済政策といえば、GDPの拡大がいつも目標に掲げられますが、GDP、すなわち国内総生産という統計がいろいろな意味で限界を持った統計であること、つまり、GDP統計というのは、国の経済活動、あるいは生産、消費、投資の水準を示す指標ではあっても、経済的な福祉であるとか国民の幸せであるとか、豊かさをはかる指標としては限界があるということは、実はずっと昔から経済学の常識でありました。

 加えて、日本のようなGDPの規模が大きな国では、わずかな成長率の想定の差が国民に与える幻想の危険についても押さえておく必要があります。

 レジュメにも書きましたように、五百兆円のGDPは、成長率が三%なら三十年後には二・五倍の千二百五十兆円になります。二%でも一・八倍の九百五兆円になります。さらに、一%とたとえ低い成長率でも三十年後には一・三倍の六百七十四兆円、今よりも百七十四兆円もふえることになってしまうわけであります。もちろん、ゼロ成長なら五百兆円のままであります。

 だから成長率を引き上げてGDPをふやす必要がある、そういう戦略が必要なのだとかつての上げ潮派であるとか現在の成長主義者は繰り返し主張しますが、私はそうではないというふうに思います。逆に、甘い見通しを立てて実現できなかった場合には予想外の膨大な負債を将来世代に回してしまうという危険について、私は政府はもっと敏感であるべきだというふうに考えます。

 実際に、一九九一年度から二〇〇八年度までの十七年間にわたる政府の当初の経済見通しを実績が上回ったのは、名目でわずか四回のみです。勝敗に直せば四勝十四敗、惨たんたる成績でありました。

 そこで、仮に見通しどおりの成長が実現できていた場合と実績とを比較するならば、実は実績の方が、十七年間の累計で、名目GDPで換算しますと実に千六百兆円、国民一人当たりで千三百万円も下回っていた計算になります。もし見通しが当たっていれば、上回っていたという計算になります。

 つまり、実現もできない経済見通しを前提に歳出計画を立て、名目GDPの三割ぐらいを財源として見込んでいたとするなら、成長率の見込み違いによって、実に五百兆円以上に上る歳入欠陥が生じたということになるわけであります。つまり、今の財政赤字のうち五百兆円強は、過去の政権による甘い成長見通しが生んだ赤字というふうに考えることもできるわけであります。

 私は、鳩山首相と小泉元首相の違いが次の点にあると思います。

 小泉元首相は、何のための成長かを国民に問うことなく、ひたすらGDPの拡大を至上目的に掲げて新自由主義的な改革に奔走しました。これに対して鳩山首相は、命を守る分野に焦点を当て、従来型の規模の成長ではなく、人間のための成長を重視するといって、何のための成長かを明確に国民に示した上で、それを反映する予算を今回組まれたわけであります。

 例えば子ども手当というのは、私は、GDPの拡大、すなわち経済成長という回り道をしなくても、直接子供の成長を支援するという点で、今回の予算の中では極めて評価できる項目だというふうに思っております。ばらまきという批判もありますが、子供を社会で育てるという観点に立つなら、むしろ親の収入や財産に関係なく、平等かつ公平に手当を支給するのが筋であります。そして、裕福な親からは、きちんと税として国庫がお金を徴収すればよいのであります。

 子供がもし健全に育った場合には、その子供は生涯において二億から三億の所得を生み出します。そして、その中から六千万から一億の財源が国庫に対して納入されることになります。つまり、十五年間で五百万円の子ども手当は、その子供が生涯にわたって国庫に納める財源と比較すれば、低過ぎることはあっても高過ぎることはないということであります。

 こうした予算に対して、私は基本的に賛成の意を示すものであります。

 ただ、一点だけ気になっていることがあります。それは、現在の膨大な財政赤字をいかに処理していくかという問題であります。

 当然、無駄は削減しなければなりません。そして、その無駄の削減は、財政再建を進める上での必要条件であります。しかし、無駄さえ削減すれば財政が再建できるかと言われれば、そうではないわけでありまして、無駄の削減は、必要条件でありますが、財政再建の十分条件ではありません。構造的な財政赤字が既に三十兆から四十兆円にも達しているという状況では、歳出削減だけでは財政は再建できないことは事実であります。

 政府の元税調会長をされていた石弘光先生は、今や増税を国民に語らない政治家は国民を愚弄していると言っても過言ではないというふうに言われております。ただ、ここで誤解してならないのは、その税制改革の論議に際して、消費税率の引き上げだけが財源ではないということであります。税制改革に際しては、例えば所得税の累進率や控除額の見直し、相続税の強化、あるいは、法人税率を引き下げたいと言われるなら法人税率を引き下げた上で、しっかりと雇用税という形で企業に税金を払ってもらうなど、さらに検討すべき余地は多いと思います。

 今回の予算が通った後で、早急にこうした財源問題についても議論されることを公述人として望む次第であります。

 以上で私の発言を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

鹿野委員長 ありがとうございました。

 次に、高橋紘士公述人にお願いいたします。

高橋(紘)公述人 高橋紘士と申します。

 私は、社会保障政策の問題を中心にしながら、広い意味で社会サービスというものをどう考えたらいいかということを申し上げたいというふうに思っております。

 全体的に私のスタンスを申し上げますと、現金給付の移転だけでは何も問題は解決しない、そういうことであります。そういう意味では、私は、今回の子ども手当が最適な政策選択であったかというのは大変疑わしく思っている、そういう立場でお話を申し上げます。

 それから第二に、議論は地域のさまざまなローカルな視点で議論をすべきだ、それなしには、グローバリズムの中で日本経済を一面的にとらえる議論というのはもはやあり得ません。

 例えば、こちらにいらっしゃる田中先生が本籍を移した泰阜村は、私は何回も伺っています。泰阜村や、二十六人の七十歳以上の高齢者が住んでいる土喰集落というのが鹿児島にございます。そこの話と、それから、今やそれにまさるとも劣らない限界集落、私は限界集落という言葉は嫌いですけれども、例えば戸山の都営団地とかURの横浜の公田町の団地も、明らかに高齢化率は四〇%を超えております。

 そういう地域差を念頭に置きながら、そしてもう一つは、何よりも、生活困難を支える方々に対してどういう施策をとるべきか。これは、ホームレスの問題のことをきょうお話をいたしますが、他人事ではありません。実は、私たちも、ホームというのは確かにハウスではありますが、ホームがなくなりつつあるんです。これは、人と人のきずなが失われている。そういう時代の中で問題をこれからどう考えたらいいか。

 そして、残念ながら、政治の世界で国家百年の計ということが語られることが非常に少なくなりました。そういうわけで、やや書生論をあえてさせていただきたいというふうに思っております。我々の思考回路を少し変えないと問題は解決しないのではないか、そういう視点でお話を申し上げます。

 私はフィールドワーカーでございまして、日本全国歩いている、歩きながら考える、そういうタイプの人間でございますので、少し現実の実践の事例をお話ししながら、例えば介護の領域でいえば、療養病床の廃止を延期するというのは、はっきり申し上げますとさたの限りであります。これは、やはり既存方針どおりやっていただきたいというふうに思っています。なぜそういうことを言うのかということは、一目瞭然のデータを皆さんにお示しをしたいと思います。

 あるいは、社会保障というのは実は百年後の私たちを規定するわけですから、そのころ民主党はありますか、公明党はありますか、共産党はありますか。わからないんです。そういう意味で言えば、安全保障政策と同じように超党派で議論をしていただきたいものなのです。政局が変わったから政策がくるくる変わるというのは、生活を守ることができません。そういうことも含めながら、与えられた時間の範囲で少しお話を申し上げたいというふうに思っております。

 社会保障政策の問題というのは、先ほど申し上げましたように、社会保障というのが体系性を欠いております。このことはもう何十年来いろいろな方々が言われておりますが、その問題がございます。それから、やはり社会保障の問題を考えるときにファイナンシング、財源調達の問題を考えない議論は空理空論であります。来年の今ごろ何が起こっているんだろうか。菅財務大臣はどういうふうにおっしゃるのかわかりませんが、恐らく大変なことが起こるだろうと私は予想をしております。

 無駄というのは相対的なものでありまして、実は、そこで人がさまざまな価値を持ちながら生きているわけでありますから、無駄を削減するということは人を路頭に迷わすことでございます。鳩山首相は大変名言をおっしゃっていまして、コンクリートから人へというふうにおっしゃっておりますが、実は、私、フィールドを歩いてよくわかるのは、貧困ビジネスの最大の担い手は、建設業の仕事をもらった孫請の人たちが飯場に高齢者を入れているという事例がたくさんございます。不動産業者がお屋敷を借りてお年寄りを押し込んでいるという例に私は遭遇しております。そういうことを含めて、福祉というのが経済と深くかかわりながら、実は、貧困ビジネスは昨今のさまざまな変動の中で必然的に発生したものでありまして、道徳的な批判をしているだけでは解決いたしません。そういうことを含めて、私は、生活困難者支援のことを念頭に置きながら、何が必要かということをお話を申し上げたい。

 本論に入る前に、皆さんはベバリッジ報告というのを御存じでいらっしゃいましょうか。もう過去の話で、あれは戦時中に、挙国一致ですから、保守党のチャーチル内閣が構想をして、労働党のアトリー内閣で実現した。いわばナショナルコンセンサスをつくりながら、丁寧にコンセンサスをつくって、その上で政治主導が起こったわけでございます。そういう意味で、私は、子ども手当というのは、あれは何だろうかということを自問自答しながらお話を申し上げたい。

 そういう意味で、国家百年の計というのは、何を申し上げたいかというと、皆さんのお手元にやや大きな資料をつくってしまいましたが、これは後ほど見ていただきたいのですが、六ページの頭の、「日本の長期人口趨勢」だけは見ていただきたいんです。要するに、我々の議論の前提が、二〇〇七年ですが、二〇〇五年の後期高齢化の時点で大きくがらっと変わったんです。先ほど高橋公述人が経済成長の話をされましたが、我々は、これは長期趨勢なのでおもしろいんですが、一九〇〇年、二十世紀の初頭に人口が四千三百万になります。二〇〇五年にピークを迎え、そして、実は二十一世紀にこの人口に戻るわけです。このことを経済学的というか社会科学的想像力を働かせていかないといけないわけです。

 さまざまな、某政治家の方々が不動産をお買いになって大変話題になりましたが、あれは、これから二十一世紀の世界では全く意味をなさなくなります。もう既に不動産業で空き家が非常に多くなって不動産価値が低落しておりますから、もはや不動産というのは私的財の追求の対象ではなくなることが、恐らく二十一世紀の半ばには予想されるわけであります。

 そういうことを含めまして、我々が築いてきた通念は高度経済成長の通念でございます。これから二十一世紀に必要なのは、私はあえて縮小の社会技術と呼んでいるんですが、ダウンサイジングをしながら、なおかつ日本の国をどう豊かな社会にしていくかという発想の転換でございます。

 そういう意味で、今回の予算を拝見していると、なかなかそういう歴史的認識を感ずることがないのであります。これは大変に残念なことだ。せっかく政権交代をしたのに、相変わらず古い経済成長時代の発想でさまざまな政治行動が行われていることに大変憂慮しております。

 そういうことを含めて、実は、この右側の国立社会保障・人口問題研究所がやりましたデータを見ていただきますと、実は、七十五歳以上高齢化比率というのは、介護保険、医療、後期高齢者医療のターゲットでございますが、これから二倍になるわけです。二倍になることは何を意味するかというと、現在の給付水準を維持しても金は二倍で、介護保険でいえば十三兆になるわけです。後期高齢者医療もそういうふうになるわけです。もしその十三兆を捻出しなければあえて給付削減を思い切ってやらざるを得ない、そういう危機的な状況が、いわば二十一世紀の初頭に向かう二〇二五年、いわゆる団塊の世代が七十五歳になるときに起こるわけです。そのときに我々はどれだけの用意ができているんだろうか。

 実は、十年、十五年を先にお考えになるのは経済学では超長期予測と言いますが、これは超長期予測ではございません。老人福祉施設、病院等をつくれば、これは三十年回すわけでございます。ということは、今、不適切な四人部屋をまたつくり直すということは、不適切な施設が三十年、四十年生きることになります。今すぐやめていただきたいと言っているのは、そういう趣旨でございます。

 皆さんも多分その可能性があります。四人部屋にお入りになりたいと思いますか。もしイエスとおっしゃるんだったら、責任をとってつくってもいいです。嫌ならば、某首相のお母様は、個室の、最も日本で有名な有料老人ホームにお入りと仄聞しておりますが、そういう意味では、私たちが入るに足るケアの場をどうやってつくっていくかという当事者的な視点で考えていただきたい。これがこれから高齢化する人たちへの責務だというふうに私は思っておりますが、先を急がせていただきます。

 これから七十五歳以上の高齢者は特に都市部で急激に拡大をいたします。都市周辺部では三倍に高齢者がふえます。東京都は、特別養護老人ホームをつくるとして、現在の要介護者、四、五の重度者を入所させたらどのくらい金がかかるか試算をいたしましたら、三兆円という数字が出ました。三兆円ですよ。東京都だけで三兆円です。そういう意味で、特別養護老人ホームは大変高コストのサービスで、しかも私は無尊厳サービスだと思う。

 尊厳という言葉は、介護保険法一条に、民主党の皆さんも賛成された介護保険法改正案のときに、〇五年改革のときに入った大変大事な条項でございます。尊厳を守るケアというのは何だろうか、ぜひそういう視点から議論を考えていただきたいと思います。

 少し先へ参ります。

 十ページに、社会保障国民会議のことを申し上げた理由は、社会保障国民会議のあのデータはもはや政権交代で死児になってしまった、水に流された子供でありますが、あのシミュレーションは大変大事なシミュレーションでございます。そういう意味で、民主党も前政権の仕事だからといって粗略に扱わないでいただきたいということを申し上げて、そして、今私たちの課題は、尊厳のないケアから尊厳のあるケアをどう実現するか。

 皆さん、療養病床に行ったことはございますか、あるいは特別養護老人ホームに行ったことはございますか。十六ページに挙げた左側は、精神病院の療養病床の保護室でございます。これは今こういう形で動いています。しかし、実は右側は、私の大変尊敬する社会福祉士がやっている、制度外のデイサービスで支えている、要介護五の認知症と統合失調症のお年寄りでございます。この写真は許可を得てお見せしておりますが、この生き生きとした表情と、多床室、療養病床で死んだようになっている要介護と、どちらが幸せだと思いますか。

 まさに私が申し上げたいのは、これからは地域ケア、地域支援を中心にシステムを考えるべきで、実は、この下は、ホームレスの人たちの自立支援をしている、「プロフェッショナル」で大変有名になりました奥田知志さんがリーダーでございます北九州ホームレス支援機構の、この方たちは元ホームレスの方々。一人一人の履歴を聞くと、大変辛酸をなめた生活をしておられる方が、この雰囲気をごらんください、こういう自立した生活が実現できています。旧来型の四人部屋、三人部屋、あるいは最近問題が起きた宿泊所では、こういう顔は見ることができません。そういう意味で、尊厳あるケアというものを今後どういう形で地域で実現するか。

 あとは、大急ぎで幾つか紹介をいたしますが、施設の地域展開、これは大変有名な長岡市のこぶし園がやっていることで、何を申し上げたいかというと、ここでは施設を解体中なんです。二〇一二年に百人の施設はなくなります。そして、地域の人たちはそこで過ごす。そして何よりも、これは後でごらんいただきたいのですが、子供たちとおやじさんたち。おやじさんは何もないとだめでありますので、お酒をぶら下げてまいります。要するに、地域の拠点を地域の中につくりながら、そこに高齢者が一緒に住む。いわゆる共生型ケアとかいろいろなことを申しておりますが、そういうものをやりますと何が起こるかというと、療養型病床群や四人型の特養で寝たきりになっている人たちが生き生きと生活をし出す。私はその事例に何度も遭遇しております。とりわけ認知症の方々は、施設処遇、療養病床、相部屋は不適切でございます。そういう意味で、さまざまな地域ケアをこれからどういうふうに考えたらいいか。

 そして、実は、ホームレス支援機構の議論でいいますと、二十五ページの上をごらんください。これは、経済学者の方、鈴木亘先生とかが計算をしてくださいました。これは波及効果。菅大臣が乗数のことを御存じなかったと仄聞をしておりますが、長期入院層を百人地域に戻すとどういう波及効果が地域に起こるかということを計算した数字でございます。

 要するに、貧困ビジネス、精神病院、医療機関の中に月三十万から四十万の医療扶助を、ブラックホールに吸い取られるのではなくて、これを地域に出すと、地域に百三十三人の雇用をつくり、そして地代家賃産業を潤し、なお地域のお医者さんを支え、なお地域内消費を増大する。

 ということでいえば、ホームレス支援と、地域と一緒に仕事をする協働型という施設を、ふるさとの会という私が今ずっと一緒に仕事をしているNPOが始めております。おそば屋さんのおじいちゃん、おばあちゃんがぼけたので、月六十万、今まで三千万使った、それを何とか地域で見たい。それで、おうちを提供して、ホームレスの人たち、これはさまざまな、ネットカフェホームレスやそういう人たちを入れながらサポートするという新しいソーシャルビジネスモデルをつくりました。そして、そこに地域のお年寄りが毎日遊びに来るんです。実は、「たまゆら」ではそういうことは起こり得ないわけです。地域の人たちと支え合う支援の仕組みが、長岡でも山谷の近くの墨田区でもつくられつつあり、なお、先ほどのさまざまなところでもつくられ始めております。

 もう一つは、サポーターとして、北九州のホームレス支援機構も、実は、一つ申し上げたいのは、北九州市民が毎年一千八百万円の寄附に応じてそれを支えております。寄附金で、政府からの補助金ではなくてそういう自由なお金をきちんと使えるような、そういう仕組みをつくる。

 そういうことは、何を申し上げたいかというと、増税、私は消費税増税は絶対不可避だと思っておりますが、これは一五%から二〇%ラインの高齢化の国の方法であります。日本は、三〇%から四〇%の高齢化になりますと、それと同時に新しいパラダイムをつくり直さなければなりません。最後に、これからの市場経済と社会サービスを考えるというやや理屈っぽい表を出したのは、その理論スキームでございます。

 要するに、現金給付というのは、公共経済から移転をして消費を拡大させるという古いパラダイムの議論でございます。これから私たちに必要なのは、さまざまな現物の支援でございます。サービス、そういうものをつくり出すのは、お金ではつくれないんです。そういう介護の問題も含めまして、さまざまな価値を持つためには、実は、新しい公共ではなくて新しい民間が必要なんです。これがいまだに非常に誤解をされております。NPOというのはノンプロフィットオーガニゼーションですから、民間なんです。NGOが公共なんです。

 そして、そこに依拠するのは、我々が無視をしてまいりました家族や地域の相互扶助。これは、最近、社会関係資本という、アメリカ人が言い出すと日本でもはやるというばかなことが起こるのですが、実は、社会関係資本を組みかえながら、自助と互助を失われた人たちを支える新しい仕組みをどうやってつくり出すか。それをファイナンシングする仕組みは、例えば企業としてはソーシャルビジネス、コミュニティービジネスがあり、例えばノーベル賞をとりましたユヌス氏のマイクロクレジットという仕組みがある。これは相互扶助の仕組み。これは、日本でいえば無尽です。日本では無尽は金融化されましたが、相互扶助のツールとして使ったのがグラミンバンクでありますが、これは実はヨーロッパにもありますし、さまざまな国々にもあります。

 そういうことを含めて、新しい民間、新しい公共の、あえて申し上げたら連帯経済、そういうものをどうやって再構築するかということ、これが新しい我々のイマジネーションであり、これをぜひ国家百年の計の中に入れていただきたい。これが私の意見でございます。

 御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

鹿野委員長 ありがとうございました。

 次に、菊池英博公述人にお願いいたします。

菊池公述人 菊池でございます。

 本日、公述させていただきます資料をお手元につけてございます。クリップでとめてありますが、一枚、こういうレジュメ、A4の表裏になっております。それから、多く図表を使っております。私は、きょうは図表をかなり使いながら御説明申し上げます。私は、現在でも日本は財政危機だとは思っておりません。どういうふうにしたらいいか、そういうことは全部、公表されているデータをきちっと分析すれば明らかであるという趣旨に立っておりますので、データを少し多目に用意いたしました。

 それから、僣越ながら、私が書きました「消費税は〇%にできる」というのがございますが、この中身がきょう申し上げる一つの趣旨でございます。

 それでは、このレジュメに基づきまして申し上げたいと思います。

 私は、きょうは公述人の六名の最後のしんがりでございます。皆様方、大変お疲れと思いますけれども、こうすれば日本はよみがえるというのをきょうお話しいたしますから、ひとつ御清聴をいただければと思います。

 やはり今、国民が本当に求めているのは、大きく、チェンジなんです。民主党さん、それから連立政権が成立したということは、そのチェンジを何に求めるかということでございます。ですから、それはこの後半、私なりの意見を申し上げますけれども、それは先生方の場合、特にきょうは与党の方中心になってしまいましたけれども、御如才ないことだと思いますが、私が強く申し上げたい、具体的なことをきょう申し上げたいと思います。

 レジュメに基づきまして、時間の制約もございますので申し上げます。

 まず、二〇一〇年度予算、これは私は賛成でございます。

 二〇〇九年度歳入、これは、自公政権による税収入の大幅な見込み違いで、歳入に占める国債発行額が税収を上回るということになりました。これは、敗戦直後の一九四六年以来、六十三年ぶりの事態。これはまさに経済敗戦です。まさに日本は第二の敗戦を迎えた。完全な敗戦だととらえるべきです。第一回は武力で間違えた。第二回目は経済敗戦。これは壮大なる経済の失政です。実は、二〇〇一年から始まりました小泉構造改革というのは暗黒の十年だったんですよ。どこに原因があったか。これが二番目に書いてあります。

 まずは本年度予算でございますけれども、税収が九兆円も激減する中で、連立三党が選挙のときから三党合意で共通政策を掲げまして、その中で可能な限り実現されたものとして、実は大変高く評価しております。

 特に、コンクリートから人へと具体的に中身もちゃんと整理されておられますし、それから地方交付税の増額、しかも一兆円の予備費を使っておられる。こういうところにまだ含みを持っておられます。それから、埋蔵金を活用された、十・五兆ですね。それから、国債発行は四十四兆に抑えられた。

 いろいろな面で大変御苦労の結果だと思いまして、私はこの予算案に対しては賛成でございます。九月十六日に新政権が発足いたしましてから、短期間に本当によくおやりになられたと思いまして、私は高く評価しております。

 二番目に、税収激減は小泉構造改革とその後の自公政権の当然の帰結だと私は思っております。

 デフレというのは今に始まったことではございません。この後、データで申し上げますけれども、まさに一九九八年以来、GDPデフレーターはずっとマイナスです。長期デフレ。既に恐慌型のデフレに入っております。長期デフレの元凶は、財政デフレ、金融デフレ、リストラデフレ、この三つに集約できると私は思います。

 まず第一に、基礎的財政収支均衡策というのをとってまいりました。これは二〇〇二年からですね。実は、デフレのもとで緊縮財政をとるということ自身は、これは歴史的に見て絶対失敗しているんです。昭和恐慌もそうです。大恐慌もそうです。これはもう教訓で、こういうことをやるということは、おおよそ経済の歴史のイロハを知っている人では考えられないことです。

 それともう一つは、日本の体質に合わない均衡財政の政策をとった。この後、データで申し上げますけれども、実を言いますと、日本は均衡財政というのは合わないんです。それをとって、そして目標を定めようとした。それで、交付税交付金、こういうものをこの二〇〇一年度から八年間の間に六十兆を削減しています。この数字は二〇〇〇年度をベースにしまして、毎年ずっと削減していますから、全部累計いたしますと、二〇〇八年度まででちょうど六十兆になります。ですから、地方はからからになる。最近では、もうシャッター通りどころではありません。そういう状況になってしまったのは当然です。

 それから二番目には、金融三点セットの強行。これは、ペイオフ、時価会計・減損会計、それから自己資本比率規制ですね。ともにデフレのときにこういうことを強行すれば、金融はどんどん縮小します。特に時価会計。竹中さんがやられたことは、デフレをやっておいて、それで時価会計・減損会計を適用して、資産がどんどん下がりまして、不良債権をどんどんつくり上げる。つくり上げて自己資本を落とさせる、そして銀行をつぶす。UFJ銀行なんかは、あれは意図的につぶしたんです、私ははっきり本に分析してありますけれども。そういうことをしていったから、結局は金融機能がどんどん縮小している。これが二番目のことです。

 三番目には、無謀な規制緩和、特に二〇〇二年の労働法の改定です。これは、説明さえすれば解雇が自由になったんですね。これはまさに戦前ですよ。あるいは十九世紀かもしれません。

 ですから、そういうことで、結果は十年マイナス成長、十年デフレから恐慌型のデフレ。まさに構造改革というのは悪魔の改革です。事態を真剣にきちっと認識すべきだと思います。

 それで、現在はGDPは四百七十兆円程度ですね。これは一九九一年並みです。つまり、二十年前です。それから、税収三十七兆、これは一九八五年、つまり二十六年前。こういう形になってしまった。これは実は極端な投資不足というのがあります。この後、データでお話ししますけれども、経済のエンジンである投資が不足している。それから、まさにガス欠状態で失速ということですね。ですから、まずこれから重要なことは、いかにしてこの基本的な経済を持ち上げるかですよ。

 どうしてこんなことになったかといいますと、この二〇〇一年からの構造改革のベースというのは、アメリカのレーガン・モデル。レーガンが一九八一年以降ずっとやってまいりまして、その後、二〇〇一年からはブッシュですね。そうした共和党のモデルをそのまま、言うならば、まねごとでまねてきた。ですから、法人税、所得税を引き下げる、社会保障をカットする。その反面、消費税を上げよう、上げようと思ってきたわけです。

 そういうことで、結局、新自由主義とか市場原理主義、これをやったおかげで、実を言いますと、アメリカはレーガンの時代、皆さん御存じのとおり、一九八一年からレーガンが大幅な減税をやり、法人税も下げ、所得税も下げました。軍事拡大をやりましたから、歳出の増加もふえました。その結果、双子の赤字、貿易収支それから財政が赤字になりましたね。それで、一九八五年には債務国になったんですよ。だから、この考えをとれば、まさにその典型的な母国であるアメリカが債務国に転落しているわけです、日本だって危なかったんです。今だって国家陥没の危機に達しています。

 ただ、幸いなことに、戦後六十三年ぶりの、税収が国債よりも少ない国なんですけれども、我々は、現在二百五十兆から三百兆の対外債権、海外に金を貸しているんですよ。世界一の金持ち国家なんです。これは全然、敗戦国だけれども、違います。これをいかに活用するかということですね。

 それでその次、三番目は、日本はもはや平成恐慌、それから四番目は、クリントン・モデルが参考になると書きました。

 ここのところはちょっと図表をごらんいただけますか。恐縮ですが、めくっていただきますと、こういうのがございますね。カラーで下が黄色くなっていまして、上に図表がございます。ちょっと小さくて恐縮ですけれども。

 私は、こういう平成恐慌というような意見を持っておりますので、どういう根拠かということをしっかりと申し上げたいと思います。

 まず、左の上、上が昭和恐慌、下が平成恐慌です。実は非常に似ております。違いは、昭和恐慌というのは二年間でどかんと来た。しかも、平成恐慌は、実は始まったのは一九九八年からデフレなんですけれども、実際には二〇〇一年、小泉構造改革になってから加速されまして、まだ続いているんですよ。国民は真綿で首を絞められているようになって、ゆでガエルという表現がございますね、まさにゆでガエルで、微温の中でカエルがいい気持ちだと思っているうちにだんだんと干上がっちゃうという例がございますが、そういうような状況です。

 左上を見ていただきます。昭和恐慌は、実はこのときも、一九二五年からGDPデフレーターはマイナスでした。上のグラフの赤線で右下に点線がとんとんと落ちているのがGDPデフレーターの数字でございます。これは一九二四年を一〇〇にして、二五年から前年に比べてマイナスになってきましたから、それをこういうふうに指数化したものです。

 それで、一九三〇年に、当時の浜口雄幸、この方は大蔵省出身の憲政会の首相です。この方と、それから日銀出身の井上準之助大蔵大臣、この二人の方がタイアップして昭和恐慌ということをして、財政を、思い切って、前年に比べて五%、一〇%削減しました。その左上のグラフで黄色になっていますね。一〇、一五と落ちています。これで落ち込んで、それで結局、その下を見てみますとマイナス三〇とありますでしょう。つまり、デフレが始まってからもう三〇%もデフレになった。

 そこで、一九三一年九月に満州事変が起きたんですね。それで、その後、浜口さんも井上さんも二人とも暗殺されていますけれども、その後、政友会が政権をとりました。言うならば、政友会というのは党人派ですから、今回民主党さんが政権をとったのと同じように、官僚政治から党人派政治といいますか、そういう政治的な変換があったことは事実です。そして、今度は高橋是清が財政を中心にどんどんと支出をする。同時に、金本位制を緩めて、金融を緩め、金利も下げるということにしました。上のグラフの黄色が、三一年のところからぐっと上がっていますが、これが二二とか二〇とかありますが、これは財政支出の前年度比です。

 一方、下をごらんいただきますと、平成恐慌というのは、まさにこれと類似して考えますと、これを横にずっと伸ばしたような感じでして、GDPデフレーターと言われるこの赤ですね、これが一九九八年からマイナスで、既に現在はもう二〇%に達しています。非常に怖いのは、昨年十―十二の経済の速報値が出ましたね。そのときのGDPデフレーターはマイナス三%です。これは初めてです。デフレは一挙に進みます。

 それから、その下のところの黄色にありますね、これが投資項目でございまして、公共投資、それから地方交付税交付金をどんどん削減して、三〇%の削減。そうすると、数字の上で昭和恐慌に非常に似てきております。ただ、昭和恐慌のときはどかんと来たから、我々は満州事変なんかが起きて大変だと思ったんですが、今は、ゆでガエルみたいになっているということではないか。真綿で首を絞められているような状態ですね。

 その下をごらんください。日本は政府投資で民間資本を補完する経済体質だ。ここに実は日本経済を見る一つのポイントがあるんです。

 先生方は十分御存じと思いますけれども、グラフ化してみますと、これは、一番左が一九七三年、第一次石油危機のときから始まっています。それで、上のグラフは、赤いのが歳出額、その下が税収です。ですから、第一次石油危機以降ずっと歳出額の方が多いんですよ。つまり、財政はいつでも赤字です。この赤字分は、実はほとんどが建設国債なんですよ。

 どうしてかといいますと、第一次石油危機以降、日本は大変に輸出が伸びましたから、国民の預貯金がふえました。だから、この国民の預貯金を民間企業では使い切れなくなったんですよ。そこで、それを何とか国内で回さないといけないから、そういう面から公共投資というのが大きくクローズアップされて、それが社会資本の充実となってきたわけです。これははっきり言って大変成功でした。成功だったから、その一番下に、名目GDPが下から右に上がっていますね。こういうふうにして安定成長がずっと継続したんですね。

 それで、バブルで確かにこれはつまずきました。だから、その後、税収が減った。税収が減ったから、さあ大変だというので、一九九六年に橋本財政改革を発表して、九七年に増税と公共投資を削減するという財政改革をやった。ここで、がくんと経済が、今までのこういうパターンがとまってしまった。それで金融恐慌も起きました。

 それから、九九年から二〇〇〇年にかけて、小渕内閣のときですけれども、公共投資を出したりして一時は成功したんです。ところが、二〇〇一年から小泉内閣が構造改革と称してやったことは、前の橋本改革と同じことです。さらにそれを極端にやった。さっき申し上げております。国内を締めつけて、基礎的財政収支を一時は黒字というふうにしましたけれども、それは結局、輸出に伴う税収が主で、二〇〇八年のリーマン・ショックによって一挙にそれがついえた。それで、これがまさにワニの口のように開いちゃった。

 まさにこれで言えることは、日本はやはりまだまだ貯蓄があります。輸出が伸びていますから、貯蓄もこれからふえます。減ると言う人はいますけれども、高齢化に伴い減るということはあっても、まだまだ貯蓄は流れとしてはふえると私は思っています。ですから、そういうことを考えますと、やはりこういうふうにして、民間投資では賄えないものをしっかりと政府投資でやっていかなきゃいけないことは事実です。

 ただ、問題は中身です。

 その次のページをごらんくださいますか。右上の二ですね。この右上の二は、はっきり言いまして、国民がいかに今までだまされてきたかということです。

 二〇〇二年から七年ぐらいまで、イザナギ以来の好景気だなんて言われましたね。しかし、これは実質成長だったんですよ。実質成長というのは、これに書きましたとおり、デフレが進んでいるときには、デフレの裏返しにすぎないんですね。

 そこのグラフの下の方に、右下に点線ですとんと落ちているのがGDPデフレーターの推移です。一九九七年を一〇〇にしていきますと、ずっと下がりまして、今、ここのところではどかんと落ちましたから、右下に一三とありますけれども、これがもう一七、八まで、いずれ、すぐ二〇%になると思います。

 実質成長というのは名目成長からGDPデフレーターを引いたものですから、GDPデフレーターがマイナスですから、マイナス、マイナスでプラスになっちゃうんですよ。それで結局、実質成長だ、実質成長だと小泉さんがやった。特に自公政権時代、ついこの間までそうですが、言ってきた。しかも、イザナギ以来の景気拡大だと言ってきましたね。

 実を言いますと、イザナギ景気というのは一九六五年からほぼ五年間続きました。名目GDPは倍増しました。しかし、毎年減税しながらも、税収も二・二倍ぐらいになった。本当にイザナギ以来なら、税収も上がらなきゃいけないんですよ。上がっていないでしょう。

 論より証拠で、これはもう本当に国民がだまされた。本当に、自公政権というのはそういう意味では国民だましもいいところです。きょうお差し上げしました私の本の第一章は「国民はこんなに騙されている」と書いてある。全部客観的データです。

 その下をごらんください。

 名目GDP国際比較。これはやはり、一九九七年を一〇〇にして見ますと、一番右下でどかんと落ち込んじゃっている。今はもう四百七十だ。しかし、これは早晩、すぐ四百五十に落ちると思います。

 その次のページをごらんくださいますか。どうしてこうなっちゃったのかということです。

 実は、これは基本的には投資が足らないんですよ、経済の理屈からいいまして。

 それで、この投資が実際に名目GDPあるいは我々の国民生活にどの程度プラスになっているかという判断をする基準は、御存じと思いますが、純投資という概念があるんですね。純投資というのは、設備投資の増加から減価償却を引いたものです。

 それでいきますと、上のグラフは民間です。右の方を見てみますと、小泉デフレのときには少し上がったり下がったりしましたけれども、今はどかんとおっこちちゃった。それから、下は今度は公的資本、つまり公共投資の増加ですね。これを見ていきますと、この左上から右下に落ちている赤い線、これは公共投資の増加です。毎年落としてきました。それから、下から黒で右上にとろとろ上がっているのが資本減耗額、つまり減価償却。二〇〇七年からこれが逆転しています。

 つまり、完全に国家陥没の段階に入っているんです。ここに大きな問題があって、だから、民主党さんの、連立政権の方針で、まさに生活第一、そちらの方へお金を回していこう、この考えは正しいんです。もっとここにウエートを置かなきゃいけないということは、こういうところではっきりしています。

 その次のページをごらんくださいますか。

 実は、こういうときにどうしたらいいかというので非常に参考になるのは、アメリカのクリントン元大統領が一九九三年から五年で財政赤字を解消した、こういうのがございますね。これは余り日本では言われていないんですけれども、これを見てみますと、非常にはっきりと方法がわかると思います。

 まず、クリントンのモデルの上を見てみますと、まず、歳出総額、毎年三・二%。それを義務的経費と裁量的経費ということにして、問題は、歳出総額のふえた分を、その下に社会的共通資本と書いてありますけれども、これは政府投資、政府が有効需要喚起のために支出している数字です。道路・輸送、それから地域開発、教育訓練、ここに集中したんですよ。実にこれを八年間続けたんですよ。それで結果的には経済が活性化した。それから民間投資も出てきた。それから、ITなんかについては、当時出ましたけれども、投資減税を積極的にやっています。

 それで、その左下のグラフですね。

 時間の関係がありますから細かいことはちょっと御説明できませんが、このグラフは、右の方のところに一三三とありますけれども、財政支出というのはこの八年間で一・三三倍になっているんですね。ところが、中身を社会的共通資本とか公共投資に集中した結果、一・四六とありますね、一四六。だから、中身のウエートをそういう投資項目に集中して、その結果、その上の名目GDPが同じように比例して上がってきているということになります。

 それで、右下が財政赤字の解消です。クリントンの財政政策、その上の右の方に書いてありますが、毎年、歳出額を年平均で三・三%ふやした。アメリカはこのころ財政赤字で、しかも債務国ですよ。日本は債権国なんですよ。それでも、アメリカは債務国だけれどもこれをやった。

 それから、社会的共通資本、そういうようなところに政府投資をやって、有効需要を喚起した。

 中小企業に対しては投資減税をやった。

 それから、財政健全化のために、所得税の最高税率が三一%だったのを三六%に上げる。それで、さらに付加価値税というのを課しましたから、実は最高税率は三九・六です。所得税を上げたんです。累進課税を強化した。それから、法人税も三四から三五に上げました。それからまた同時に、加速償却分を調整するというようなことをした。

 要するにアメリカの民主党の考え方は、今、オバマも同じなんですけれども、有効需要が足らなければちゃんと政府がそれを喚起するようにしますよ、そのかわり、景気がよければ所得が上がるでしょう、法人所得も上がるでしょう、そうしたら、税率は上げておくからちゃんと政府に返してくださいね、こういう政策なんです。だから拡大均衡していくんです。

 その次を見てくださいますか。その次のページをめくってください。

 そうすると、皆さんの方からは、いや、そんな金は日本にないよ、財政赤字だとおっしゃいますね。しかし、そんなことはありません。私は、この表から、日本は財政危機じゃないということを申し上げます。

 純債務で見た日本の財政、左の方をごらんいただきますと、粗債務とありますね。そして、粗債務の下には八百四十七とありますでしょう。この数字は実は、二〇〇八年十二月末なんです。これは金融資産との関係でこういう形にしておりますが。

 これで見ていきますと、上の五百四十五というのは一般会計なんです。その下は特別会計なんです。特別会計が実は三百二兆ある。この特別会計というのは、実は国民の債務じゃないんですよ。先生方が十分御存じのとおりだと思います。

 その下をごらんください。もっと内訳にしていますね。そうすると、これは何かといいますと、政府が集めたお金を財政投融資で貸す、あるいは短期証券で集めたお金でアメリカの国債を買ったり、それから外貨を買ったり預金したりしている。そうすると、最終的に特別会計の債務を払ってくれるのは、右下のところに書いた最終借入人なんですよ。だから、これは全然国民の債務じゃないですよ。ですから、八百兆だ八百兆だ、大変だ大変だともう十何年前から言い続けていますが、全然オオカミが来るはずはありませんよ。

 ですから、先生方にお願いしたいのは、チェンジは、まずこれを変えてもらいたい。発表をやめることです。特別会計は別計上する。そうすれば、現在大体五百四十兆ぐらいです。少し今回上がるといったって、それはその右にあるとおり社会保障基金等でかなりカバーされていますから、純債務という形で見れば、真ん中辺にある三百九兆、現在大体三百兆ぐらいです。

 その次のページをごらんください。その次のページは、私の意見を裏づけるようにして、上には加藤寛さん、税制調査会長を十年もやられた方が産経に、純債務で見れば二百五十兆、債務の半分は二重計上と書いていらっしゃる。財政危機じゃないと。加藤寛さんがおっしゃるんだから間違いないんですよ。

 それで、その下を見ていただくと、私がさっき申し上げたとおり、日本の資金循環を見ますと、お金が余っているというのはこの数字でわかるわけです。一番左が個人ですね。これは、家計、企業、政府、海外と来ますと、最終的に余るのは一番右に行くんですよ。そうすると、これは、あの二〇〇二年のときには百五十兆ぐらい。ところが、小泉構造改革で国内をぎゅんぎゅん締め込んだものですから、余った金はどんどん海外へ行って、二〇〇六年には三百兆。今、少し下がっても二百五十兆あります。これだけの金はあるんですよ。

 こういうことを言いますと、反対する人は、いや、それはみんな使っているじゃないかと。とんでもない。使っているのもありますよ、アメリカの国債を買ったり。でも、証券投資した分なんか、日本の景気がよくなれば戻ってくるんですよ。十分使えます。

 それで、時間の関係で、恐縮でございます、最後にもう一度、一枚のメモに戻っていただけますか。最初に申し上げた一枚のメモの裏をごらんください。

 まず、民主連立政権は何をチェンジすべきなのか。今申し上げました。一番チェンジすべきなのは、やはり金融財政政策の全面的転換、デフレからの脱却だと思います。今までも、例えばアメリカ大恐慌もそうですし、それから昭和恐慌もそうです、政権がかわったときに何をチェンジしたかというのは、財政金融政策をチェンジして、国民にデフレから脱却しろと安心感を与えることです。まだちょっとこれからの段階でしょうね。これを一つぜひお聞きしたい。それから、その辺につきましては、今申し上げた財政危機でないということもきちっと国民にも言っていただきたい。

 それから、冒頭に申し上げた金融三点セットというのも、実はペイオフなんかでも、アメリカなんかでは今、全面停止しています、ヨーロッパでも。日本はこれをやっています、時価会計、減損会計。

 この辺のところは亀井大臣がかなり頑張っておられるようですけれども、本当ならこれはストップすべきです。アメリカは停止していますから。アメリカという国は大人なんですよ。こういうのをつくっておくけれども、いざというとぱっと変えちゃう。日本は、一生懸命でまじめなんですね。守り過ぎて、それで結局、首を絞めているのは末端、末端というか一般の企業です。

 それで、最後にデフレ解消策ですが、まず輸出大国から社会大国、これはもう既に内需拡大ということをおっしゃっておられますけれども、そういうことにしていただきたい。

 輸出大国というのは、皆さん御存じと思いますけれども、現在、輸出しますと消費税は五%還付されますから、依然として輸出業者には五%の補助金が出ているんです。だからみんな輸出するんですよ。私は、輸出がそう伸びることは否定はしません。しかし、国内をもっとグレードアップすることを考えるべきだと。

 それで、中心になるものが、医療とか医療産業、脱石油、環境、教育、農業ですね。特に、今いろいろと、既にもう昨年暮れに民主党さんが長期戦略を出されていますから、それは私は結構だと思います。ただ、焦点としては、医療、エネルギー、脱石油、それから環境、こういうものに焦点を絞って一つのプロジェクトをつくって、もう五年、十年単位ぐらいです。それでこれは、まず社会的インフラをつくり民間投資を呼ぶような形、これをぜひやっていただきたいと思います。

 重要なことは、消費よりは投資なんですよ、今足りないのは。投資を喚起しなければ経済は成長しません。ですから、消費減税をしろということを言う人がいますけれども、私は、消費減税をする余裕があるなら投資減税です、そっちの方にやるべきだと。

 それで、私が考える五カ年の二百兆プランといいますのは、毎年四十兆を五年継続する。そして、政府投資で三十兆、それから投資減税等で十兆、こういうものを続けていただくのがよろしいんじゃないかと。財源は、そこに書きましたとおり、私は、特別会計の埋蔵金、今まだ七十兆ぐらい、この三月末にも出ると思いますが、可能な限り、例えば五十兆なら五十兆捻出する。

 それから、特別会計は全面的に今見直しをされておられると思いますけれども、原則特別会計は廃止されるといいと思います。それによって、そこからきちっと捻出したお金で投資勘定に向ける、一般会計ですね。

 それから、あとは、法人税、今三〇ですね、これを四〇%に引き上げる。中小企業には投資減税をする。所得税の最高税率を四〇だったのを五〇に引き上げる。高所得者には控除削減をする。低所得者は減税する。それから、地方税のフラット税制、今一〇%フラットですが、これはぜひ累進課税の一五%、二〇%に引き上げていただく。こういうことによって、所得の再配分機能を強化していただく。

 それから、政府が投資する以上は、ちゃんと法人税も所得税も上げるんですよ。今、金持ちは裕福で、六本木族みたいなのがたくさんいるでしょう。あれはツーマッチなんですよ。この前、菅副総理があそこにはたくさん減税していると言うけれども、そのとおりだと思います。

 それで、最後に申し上げたいことは、こういうふうになりますと、私の計算では、名目GDPは四―六%、実質で三―四%、五年目には六百五十から六百八十兆。今民主党さんが十年で考えられているのは五年でできます。税収は五年目で七十から七十五兆。純債務で見た国民負担率というのは五年で四五%ぐらい、今これは七〇ぐらいいっているんですけれども、落ちます。

 最後に申し上げたいことは、未来にすくむな日本人、危機唱えるよりも行動をと。やはりしっかりと、もうみんな、何か評論家みたいなのがたくさんいるでしょう、あれが大変だ、これもだ。何かこうやりたいと言うと、ああでもない、こうでもない。これじゃだめなんですよ。本当に日本は、そういう意味では苦境に弱い国だなと私はつくづく思います。もともとそうじゃなかったと思うんですけれども。ですから、ぜひ、危機唱えるより行動を、そのリーダーとしてこの連立与党が多くの国民を指導していただきたいと思います。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

鹿野委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

鹿野委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中林美恵子君。

中林委員 民主党の中林美恵子でございます。

 公述人の皆様、本日は、大変お忙しいところ、そして大変貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございます。時間の関係もございますので手短に聞かせていただきたいと思いますが、まず、昨年のきょうといいますか公聴会の日は、私はそちらの公述人の皆様の方の席におりました。そういう意味では、きょうこちらで皆様に質問させていただけますこと、大変感慨深い思いがいたします。

 去年ですけれども、そちらに立たせていただきまして私が申し上げましたのは、日本の財政事情は非常に苦しい、そして長期的なプランで予算を編成していくことの難しさについて指摘させていただいたところです。そして、ことしはどうなったか。二十二年度予算をつくっていくに当たって、実はことしはもっと厳しいというのが実感でございます。

 そうした中で、もちろん、私の地元である横浜でも多くの有権者の方々から日本の台所は大丈夫かという声をいただきますけれども、ことし、昨年度の予算と比較いたしまして、税収は昨年と比較し一八・九%落ち込んでおります。ところが、ことしの、つくっておりますこの二十二年度予算では、昨年度の当初予算に比べまして国債費は二・〇%の伸びで済んでいるという点は、数字で見るだけでも、来年度の予算をつくるのに当たって非常に大きな努力がされたと高い評価をしていいのではないかというふうに私自身は考えております。

 公述人の皆様のお一人お一人の、来年度、平成二十二年度予算に対する評価を一言ずつ、お一人ずつからちょうだいいたしまして、あと幾つかの、新しい公共についてなどの御質問を続けさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、高橋伸彰公述人からお願いいたします。

高橋(伸)公述人 来年度、平成二十二年度の予算案については、先ほど申し上げましたように、いろいろ細かな点はありますが、私は基本的に賛成であります。

 ただ、非常に厳しい危機的な状況の中で組まれたものですから、いろいろな歳入歳出面で異常な数字が出ていることはやむを得ない。これは中長期的に直していくべきだというふうに考えます。

 以上です。

高橋(紘)公述人 私は是々非々でございます。

 基本的に、現金給付を巨大化するああいう政策はばらまきであります。これは、田中内閣のときには有効ですが、これからは有効ではない。むしろ投資は、さまざまな社会サービス投資といいましょうか、そういうものをきちんと考えるべきでありまして、私は、むしろ子ども手当は住宅手当であるべきだったという意見を持っております。

 そういう意味で、全体的に否定的でございます。

菊池公述人 私は、先ほど冒頭に申し上げましたとおり、非常にいい予算だと思っています。もともと自公政権の、本当にツケのツケですよ。

 まず、今年度、二〇〇九年度予算でも、税収が九兆も落ちているんですから、これは本当に今までの歴史になかったんじゃないでしょうか。きょう、残念ながら自民党さんがいらっしゃらないので、こういう重要なことを聞いていただけないのは本当に残念です。公明党さんがいらっしゃるんでしたら、公明党さんも責任がございます。やはりそれは、先ほど冒頭に申し上げましたとおり、日本がまさにこの十年間、経済政策の根幹を間違ってきたんですよ。はっきりそれを認識すべきだと思います。

 間違ってきた理由を幾つか先ほども申し上げましたけれども、追加で申し上げますと、やはり、財政を締めて金融でやればいいという、アメリカの一種のマネタリストというか、そういう考え方が底流にあったんだと思います。竹中さんもそうです。大体、当時の御用学者さんの方はみんなそうだと思います。

 結果的にはどうですか。金はどんどん出たけれども、どこか行っちゃって、アメリカか何かで使われて、石油なんか暴騰して、日本もかえって首絞めちゃったということですよ。そしてデフレは解消していません。

 だから、はっきり言えば、過去の十年の一つの教訓は、マネタリスト的な考え方はもう失敗だということが証明されたんですよ。だから、先ほど申し上げたとおり、日本経済の体質から見て、財政支出のウエートをきちっと位置づけないといけない、こういうことが証明されたと思っています。

中林委員 ありがとうございます。

 財政運営といいますと、やはり所得の再分配機能、それから資源配分の調整、また経済の安定化というたくさんの要素を期待されている部分で、非常に幅も広く、奥の深い分野でありますけれども、さらに予算においては、長期的な見通しをかんがみながら、仕組みづくりから考えていかなければいけないというところで、鳩山政権は、一つ、この苦しい台所事情の中で、新しい公共という概念を打ち出しております。

 例えば、十二月三十日に出されました民主党の新成長戦略、このものをたくさんの方にお読みいただいているところだと思いますけれども、この中では、社会保障にしっかりと公共的な力を入れていく、財政的にも担保していく、さらには、グリーンですとか環境の問題にも力を入れていく、そして成長を目指していくんだということのほかに、新しい公共というものにも力を割いています。

 先ほど、高橋紘士公述人からは、新しい公共というのは民間であるという御指摘がありました。私も、新しい公共は民間力を高めることであるというふうに思っておりますけれども、これは例えば、人間のきずなを強めるということでもありますし、コミュニティーの力を強めるということでもあります。そのためには、寄附税制を改正するという案もありますが、具体的な、民間力を高めるというこの新しい公共について、これは一つなさなければならないというものがありましたら、教えていただきたいと思います。

高橋(紘)公述人 一言で言うのは大変難しいんですが、私は、歴史的なことを考えますと、渋沢栄一から始まり大原孫三郎まで至る、お金を持っている人たちがさまざまな社会的貢献をする、これは今、企業の社会貢献というふうに言っておりますが、これが今急激に収縮しつつあります。そういう意味で言えば、ビル・ゲイツもそうでございますが、アメリカは、金融資本主義の国ではなくて、巨大な寄附税制の国でございます。

 そういう意味で、ぜひ抜本的な寄附控除のことを考えていただく。私は、所得税を増税するという議論もさることながら、そういう自由なお金を社会的資金、志の金と呼ぶ方がいらっしゃいますが、そういうものを流通させる仕組みを開発していただきたいというふうに思っております。

 詳細はまた別の機会に。

中林委員 ありがとうございます。

 高橋伸彰公述人にお伺いいたします。

 新成長戦略、この中には、高橋公述人が御指摘くださった、命を育てる、そのための成長戦略がたくさん盛り込まれております。そして、できればGDPも上げたい。そうすることによって財政的にも非常に豊かになれる。クリントン政権時代の予算編成、そして財政赤字解消の話題も出ましたけれども、それの大きな原因はやはり経済成長がありました。

 CBO、コングレショナル・バジェット・オフィスというアメリカの議会附属の予算局によりますと、やはり約六割、七割は経済成長がアメリカの財政、一時均衡した時代をもたらしたというふうに分析しております。そういった意味でも、経済成長は非常に重要な部分ですし、それから、私、地元に戻りましても、やはり景気を何とかしてほしいという声が大変大きく出ております。

 この新経済成長戦略の中身につきまして、これから私たちの生活を支えていくのにどこが一番価値のあるものだというふうに高橋公述人はごらんになりますでしょうか。

高橋(伸)公述人 先ほども申し上げましたように、私自身、成長は大変重要な課題だというふうに思います。ただ、その成長を、旧来の統計であるGDPという形ではかることが適切なのか、そうではないのかということでありまして、その新戦略の中にも新しい経済指標を開発するということをうたっていますので、ぜひとも新しい指標を開発して、その指標の成長を目指すような政策を講じていただきたい。それが一つの新しい公共の核になるのではないかというふうに思います。

 以上です。

中林委員 社会保障は非常に需要が高い部分であります。たくさんの方が、介護、医療その他必要としております。そこに今までのコンクリートから人へという言葉の意味があるのではないかと思います。

 需要の高いところにより多くの公共投資をシフトしていく、かえていく。これからは、お年を召した方々が運転をなさる、その車の台数も減っていく中で、道路をたくさんつくっていくという時代ではなく、将来は、それこそ必要とされる高齢者の方々が、どういうふうにして日本で安心や安定を築けるかというところにお金をシフトするという意味では、そこに言ってみれば経済成長というものがあっていいのではないかと思いますし、もしそれをGDP以外の形で、数字あるいは指標、何らかの形で出せるものであれば、ぜひその辺の研究を続けていっていただきたいなというふうに心から思います。

 最後に一点、特に環境政策で、CO2を減らすという問題で、国内での排出権取引というのは非常に理にかなった部分がありますが、国外との排出権の取引については、日本の富という意味でどのようにお感じになっていらっしゃるか、高橋伸彰公述人に最後に一言お願いしたいと思います。

高橋(伸)公述人 お答えします。

 私は、やはり環境問題は、とにかく、できる国から、できる分野から早急に進めていくべき課題だというふうに思います。当然、国際的な調整は必要ですけれども、まず日本が率先をしていくということ、それが大変重要な課題だというふうに思います。

 以上です。

中林委員 ありがとうございました。

 ということで、国際的な取引については慎重にという御意見であったというふうに理解いたします。

 きょうは本当に貴重な、そして多岐にわたる御意見をありがとうございました。今後の審議の参考にさせていただきたいと思います。

 ありがとうございます。

鹿野委員長 次に、下地幹郎君。

下地委員 公述人の皆様には、本当に貴重な御意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございます。

 消費税の話を少し聞かせていただきたいんですけれども、今、三月から菅財務大臣は消費税の論議、税制全体と言っていますけれども、一般的に聞くと、財務大臣がいろいろと消費税の論議をすると。消費税が上がるんだなというようなイメージになってくるのかなと思うんですけれども、私が地元に帰っていろいろな生活者とお会いすると、今は消費税の論議をする時期ではない、本当に生活環境が厳しいので、まずは景気対策をきちっとやらなければいけないというのが私の思いであります。

 しかし、他方、財政再建もありますし、先ほどお話を聞いていますと、景気対策が必ずしも全部うまくいくというものではないと。だから、確実な財政再建をしていくことも大事なことだというお話もありましたけれども、どのタイミングで消費税を考えて、そして消費税の税率はどれぐらいでおやりになった方がいいのか。タイミングというのと、また、消費税を上げるまでに何か前提としてやらなければいけないものがあるのか。

 このタイミングだとか前提だとか税率だとか、消費税に対する考え方を三人の方にお聞かせをお願いしたいと思うんですけれども。

高橋(伸)公述人 私は、先ほども申し上げましたように、消費税は増税策の最後の手段だというふうに思っております。それ以前に財源はいろいろな形で確保できるのではないかと。ですから、そこからまず始めていくべきだろうというふうに思います。

 タイミング的には、やはり既に日本の政治は、先ほど申し上げましたように、政策の成否が選挙の結果にリンクするという普通の民主国家になったわけですから、これは次の総選挙までに、少なくとも議論だけは、展望だけは示す必要があるというふうに思います。

 以上です。

高橋(紘)公述人 私の資料の十ページに国際比較のデータをお見せしておりますが、日本は二〇%を超える世界で最も高齢化の進んだ国で、消費税五%、直間比率、いろいろ議論がありまして、いろいろな見方がありまして、比較というのは大変難しいんですが、韓国よりも実は消費税は小さい比率なんです。

 そういう意味で、先ほどいろいろな御意見がありましたが、そういう構造をつくるには相当時間がかかります。しかし、サインは出始めておりますから、消費税は即時上げるべきだ。そういう意味では、負担というのにヘジテートしてはいけない。ただし、政府が信用されているかどうかという問題があります。その問題。

 それから、消費税は、財政の赤字解消ではなくて社会保障目的税に使う。そして、そのことは、実は適切な形で社会的消費を拡大しますと生活の安心感につながりますから、そういう意味では、それで消費を拡大する、そういうスパイラルをきちんと国民に示す必要があって、財政再建のための消費税増税というパッケージングは国民は納得しないと思います。

 要するに、安心の国をつくるための消費税増税、そういう議論をきちんとメッセージを出していただきたいし、ヨーロッパでは野党が率先して消費税増税を言ってきた、そういう歴史があります。そういう意味で、三党合意は私は大変残念に思っております。

菊池公述人 消費税でございますけれども、まず、自公政権時代、昨年の三月に、先生方御存じのとおり、閣議決定をしておりますね。そのときには、二〇一一年に消費税引き上げの法制的な手続をとる、同時に、法人税を引き下げると言っているんですよ。これを忘れてはいけないんです。ですから、今まで自公政権がやってきたことは、実を言いますと、消費税というものについて引き上げて、法人税を下げるためなんですよ。

 数字の面から見ますと、はっきりしているんですよ。消費税が始まりましたのは一九八九年です。二〇〇八年まで二十年間展望しますと、消費税は累計で二百一兆円徴収しています。一方、法人税の減収分、減収額は百六十四兆円。つまり、消費税引き上げ分の、消費税収入の八二%は法人税引き下げで吹き飛んじゃった。今までずっと自公政権がやってきたのは、そういうことなんですね。

 つまり、これはどういうことかといいますと、財界の言いなりにずっとやってきたということなんです。ですから、まず、我々がここで消費税というものを考えるときには、そういうことを断って、それから改めて消費税というものを税全体の中でどういうふうにとらえるかということを考えるべきだと思います。

 それで、今たしか御質問ございました点で申し上げますと、まず、菅副総理が消費税議論を始めようというふうにおっしゃったと新聞で伝えられておりますけれども、これはまことに時期尚早だと思います。

 まず、先ほどから申し上げておりますとおり、経済は、こういうデフレで大変な、平成恐慌の段階に入っております。そこで、もしここで消費税を上げたらどうなるのかということを、実は、宍戸駿太郎先生という、前に筑波大学の副学長をやっておられた先生ですが、この方がモデルで分析したのがございまして、ちょうど手元にございましたので申し上げますと、まず、自公政権のときには、二〇一一年から一%ずつ上げて、七年間で一二%にするということですね。これをモデルで計算していきますと、そうすると七年後にはGDPが二〇%減ります。それから、十年後には三四%減ります。こういうモデル分析がございます。ということはどういうことかというと、現在のようなこういう経済が停滞しているときに、消費税というのは非常に圧迫感が強いということです。それを一番肌で感じているのは、やはり国民でしょう。ですから、今先生がおっしゃられたように、どこでも反対するというのは当然だと思います。

 それで、今後、では税制の中でどういうふうに考えるべきかということですけれども、消費税というものが国税の中でどういう位置づけになっているかということを考える必要があると思います。これは、私のきょう差し上げました本の百四十八ページに載っているんですけれども、実は、日本の消費税は五%ですけれども、国税は四%です。この四%に相当する、ざっと十兆なんですけれども、国税全体に占める比率が、国際比較をしますから、これは二〇〇六年の版なんですが、二二%です。スウェーデンは国税ベースでの消費税は二五%です。ところが、このスウェーデンが、国税収入全体に占める消費税のウエートは二二%。つまり、日本と同じなんですよ。このことはどういうことを言っているかといいますと、二つのことを言っていると思いますね。

 一つは、いかに日本の法人税とか所得税が少ないか。ということは、経済が活性化していない、マイナス成長だから上がらないわけですね。だから、経済を活性化させなきゃいけないということです。

 それからもう一つは、消費税が日本の場合にはほとんど全面的に適用されますね。一部、我々の診療費なんかとか学校の授業費がただですけれども、それ以外のものは全部適用されます。ところが、欧米諸国なんかで、アメリカでもそうですけれども、日用品ですとか、それから医療、病院の経費、こういったものは全部消費税はただです。

 もともと消費税というのはぜいたく品からスタートしているんですよ。それをどんどん入れてきたわけですね。入れてきたということは、一般の税制が苦しいからヨーロッパでも少し入れてきていることは事実です。しかし、ベースになっているものは、完全に除外例、減免率が物すごくあります。ですから、今みたいな数字が出てくるわけです。

 それからもう一つ言えることは、経済を活性化する、つまり、名目成長が増加していけば消費税の額というのは自然と上がっていくんですよ。今まで十万円で買っていたもの、その五%だった。それが、だんだんと物価が上がる、あるいは経済が拡張していけば、今度十五万円になる。そうすれば、その分だけふえますから。だから、経済成長をまず優先するべきであって、それをしないで消費税をやるということは非常に危険だと思います。

 それからもう一つある危険な議論は、こういう議論があるんですよ。社会保障費を確かに新設しなきゃいけない。例えば、それだけ、五兆要るでしょうと。では、五兆分消費税を上げてそっちに回せばいいじゃないですかと。これが実は、今民主党さん初め少しずつ出始めている議論じゃないかと思います。ある学者なんかも言っています。しかし、これは非常な劇薬なんですね。

 といいますのは、この宍戸先生にも御意見をお聞きしたんですけれども、まず、消費税を引き上げるそのマイナス効果の方がずっと先に出ると。それから後、確かに子ども手当だとか出してきますね。その効果が先に行って出ることは出るんです。しかし、劇薬の方がずっと経済的にはマイナス効果が大きい。つまり、劇薬部分というか消費税引き上げ部分が、名目GDPの足を引っ張る部分の方がずっとウエートが高いから、そういうふうにして両方バランスを合わせればいいというような考え方は非常に危険だということを聞いております。

 ですから、私は時期尚早だと思いますから、先ほど公述させていただいたとおり、あくまで経済成長、全体を引き上げるような消費税抜きでの税収増というのを考えるべきだと考えております。

下地委員 一問しか質問できませんでしたけれども、貴重な御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございました。納得する一問でありました。

鹿野委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口善徳でございます。三公述人の先生方、大変お忙しいところ、ありがとうございます。また、貴重な御意見、本当にありがとうございます。

 まず、子ども手当についてお伺いしたいと思います。

 昨日から子ども手当の審議に入りました。ここで、やはり財源の確保ということが一番の問題になっておりまして、その結果、政府内におきましても、満額、月二万六千円を二十三年度からできるのかどうかということが、やはり慎重論もある、こういうふうに言われております。

 そして、現金給付だけではなくて、やはり現物給付、保育所サービスあるいは放課後児童クラブ、こういうものも必要であって、これについて政府も、一月二十九日、子ども・子育てビジョンを閣議決定した。ただ、このために必要なお金というのが年間七千億円、そして、保育所料金の軽減、こういうものを含めますと一兆六千億円にも上る、こういうふうに言われているわけでございます。そして、ライフ・ワーク・バランス、こういうものがそろって少子化対策というのは効果があるということは、ドイツとフランスの例を見ても明らかではないかな、こう思っております。

 そこで、三公述人の皆さんには、今、子ども手当について、政府内でも満額について慎重論もある、あるいは、少子化対策というのは三本の柱、要するに、現金給付と現物給付、そしてライフ・ワーク・バランスということが大事である、こういう観点から、二十三年度以降、この子ども手当はどうあるべきか。しかも、国がすべて負担する、こういうこともおっしゃっているわけであります。ここら辺について、お伺いしたいと思います。

 それでは、順次お願いいたします。簡単にお願いします。

高橋(伸)公述人 かつては家族が家族を扶養していた、そういう時代が終わったわけであります。まさに、高齢者については社会が扶養するということで合意ができ、社会保障が整えられていると思います。今後は、子供も社会がやはり育児をする、育てるということが大変重要でありまして、私は、子ども手当はその試金石というふうになると思いますので、ぜひ満額で実施してほしいというふうに思います。

 以上です。

高橋(紘)公述人 世上、こういうことを言っているんですね。親が二万六千円もらって、子の世代に倍返しだという話があります。実は、私は、今回の子ども手当はバウチャーを考えたらよかったのではと。要するに、いわゆる保育所だとか現物給付、さまざまな諸サービス、そういうものに特定するような仕掛けを制度的に工夫すべきで、二万六千円配るというのは乱暴だと私は思っております。

 家族政策は足りないんです、日本は。しかし、ああいう政策は論外だというふうに思っております。もし財政的な余裕があればいいわけですが、子ども手当のために、重要な日本の科学技術開発や文化政策やさまざまなことが犠牲になる、教育が犠牲になる、これでは将来にはつながらないというふうに思っております。

菊池公述人 子ども手当、こういうふうに本格的に出すのは日本では初めてだと思いますので、これは私は賛成でございます。

 ただ、金額と、もう一つ、やはり子供の教育といいますか、そういうことを考えたときに、子供も含めた社会福祉施設、そちらとのバランスというものをどうとっていくのか。

 私は、先ほど申し上げましたとおり、日本はやはり政府支出を出して、それで経済の底上げを図っていくべきだという大きな、マクロ的な方針を持っておりますので、そのときにはやはり、生活に密着した分野への政府投資をして施設をつくっていく、その中には、こういう保育所ですとか、それから高齢者の福祉が入ってくるわけですね。

 ですから、保育所も、これはつくるという予定も入っていると思いますけれども、子ども手当とのバランスが、例えば、端的に言って、子ども手当を満額出すと、福祉施設といいますか、そういう子供施設に対するお金が足らないというようなことであれば、例えばそこをうまく調整するとか、ちょっとやってみて、状況をよく調べてやってみたらどうかなと思います。

 そういう意味では、社会的な基盤を強化する、本当にずたずたになった、そういう日本の経済の底をしっかりと固めるという意味では、賛成でございます。

大口委員 公明党は、児童手当を財源との見合いで、こつこつこつこつやってまいったわけでございます。二十二年度限りのものについては、児童手当プラスアルファという形の設計になっているということでございます。

 さて、実は本日、公明党は午前中、我が党の山口代表が首相官邸を訪れまして、鳩山総理に対して、介護保険制度の抜本的改革に取り組むよう、新介護ビジョン、これを取りまとめて申し入れをしたところでございます。

 昨年の十一月から一カ月間、全国三千人の議員が一丸となって、四十七都道府県で介護総点検を一斉に実施いたしました。そして、十万件を超える介護の現場の貴重な声を聞いて、それに基づいて新ビジョンを出させていただいたわけです。中でも、介護施設の不足、在宅支援体制の不足、そして介護労働力の不足、この三つの不足、これを不安に思っておられる方が非常に多いということでございました。

 そこで、高橋紘士先生にお伺いしたいと思います。

 先生は、介護保険について、本当にフィールドワーカーとして一番現場をよく御存じで、私どもとしても、先生のお話を聞いてこのビジョンづくりにも参考にさせていただいたわけでございます。

 そういう点で、介護保険の制度の施行から十年を迎えて、本当に今、介護現場では深刻な問題が山積しています。七十代の高齢者を介護する家族の半数以上が七十代以上という老老介護の実態、先生はこれはもう普通のことになっているんだと。それから、自宅で介護する家族の四分の一にうつ状態が疑われる、介護うつの問題も深刻。そして、シングル介護など、家族の介護のために転職、離職を繰り返し、収入面の不安を抱え、先行きの見えないまま介護に踏ん張っている実態もあるということでございます。

 平成二十四年には、診療報酬と介護報酬の同時改定がありますので、この介護保険制度の骨格の部分の見直しが必要だと思います。先生から、本当に地域の尊厳あるケア、そのためには地域ケアを主軸に、そして新しい民間というお話をいただきましたが、この抜本的な見直しについて、さらに先生のお話をお伺いしたいと思います。

高橋(紘)公述人 これはまたどこかでお話しする機会があります。

 私が申し上げたいのは、家族扶養補完型のシステムはやめないといけません。要するに、家族に頼る介護はやめるということ。そうしますと、今の居宅サービスの仕掛けを抜本的に変えないといけないというふうに思っております。

 これは、一方で効率化が必要です。そういう意味では、本当に必要な在宅中重度者、先ほどの、単身者が大都市では三倍にふえますから、そういうことも必要です。そういう意味で、介護保険そのものの改革、これは重要でございますが、もう一つ指摘しておきたいのは、「たまゆら」事件ではございませんが、住宅、要するに在宅の宅が、住まいが非常に貧しいんです。今までの政策は、私的市場で住宅を供給するという政策をとっておりましたが、住宅を社会保障として考える、そういうことをきちっとやっていただきたい。

 そういう意味で、私は、今の前原大臣がお取り組みになっているさまざまな住宅局の施策、これは大変高く評価をしているものでございます。ダムの方は評価しませんが、住宅局にかかわるさまざまな政策で大変見るべきもの、これは、前内閣の財産をきちんと創造的に発展させたというふうに評価しておりまして、そういうことを含めて、住宅と介護の連携、あるいは、権利擁護が非常に重要なんですが、このことも非常に不十分なままでございます。

 さまざまな介護保険内部の改革と同時に、介護保険をめぐるさまざまな政策を多角的にやる。これは、今やらないとだめです。一五年というのは、もう時間がありません。要するに、サービスというのは、人をつくり、さまざまな支援の仕掛けをつくるためには、団塊の世代が六十五歳になり、七十五歳になるのは意外と短いのです。それを想起しながら、早急に議論を始めていただきたいというふうに考えております。

大口委員 ケアつき住宅といいますか、こういうものも、我が党、今回の提言の中に入れております。いずれにしましても、住宅あるいは人権擁護、しっかりやっていきたいと思います。

 そういう中で、高橋伸彰先生、今回のことで、雇用税の導入をおっしゃられました。要するに、法人税の引き下げと雇用税の導入ということですが、この雇用税の導入については、これは雇用コストを高め、企業の海外移転を促進しないのか。今、海外への移転というものが、むしろそういう方向になってきていますと、逆に非常に心配だな。今、中国特需なんということも言われていまして、この前、大阪に行きましたときに、やはり中国への輸出がいいので中小企業は今もっているというお話もありました。そういうことで、雇用税の導入についてお伺いしたいと思います。

 それから、菊池英博公述人は、純債務が三百兆円、こういうことなんですが、これは財務省側の資料に基づいて、OECDでは、純債務の国際比較ということで、OECDの比較でいきますと、日本が一〇四・六%、純債務残高の国際比較ではそうなっていまして、イタリアよりも悪く、債務残高のGDP比の数字が一〇四・六となっております。

 先生は年金積立金についても引かれていると思うんですが、これは将来のためのことではないかな、こういうふうに考えるわけです。このあたりについてお伺いしたいと思います。

高橋(伸)公述人 雇用税に関しましては、私は、やはり人を雇うということに対しては、その人の生涯に対する責任の一端も担うということでありますので、きちんとした税金を企業が払うような仕組みをつくるべきだと思います。

 国際競争力の点については、これは、一部の企業だけがこの税金を払えばその企業が競争力を失うことになりますけれども、すべての企業に対して雇用税を求めるのであれば、国際競争力は為替の調整によって均衡されるというふうに思いますので、すなわち、雇用税を導入することによって、為替レートが円安に振れれば、そういう点では国際的な競争の面でも特に問題ないというふうに考えております。

菊池公述人 純債務のお話でございまして、二件ございました。

 まず第一に、私は、きょうお渡し申し上げました資料で、純債務は大体三百兆円台だというふうに申し上げました。これでいきますと、ざっと六〇%から七〇%台になりますね、GDP比が。ところが、OECD比だと一〇〇%いっているじゃないか、こういう御質問ですよね。

 これは、私は、この資料はほぼ十年以上前からずっとつくってきているんですよ。そして、感ずることは、何だか債務がどんどんどんどんふえていくんですよ。それで、一度、内閣府に行きまして、どうしてこんなふうにしているんだということを聞いたことがあるんですよ。これは印象のお話なんですけれども、何か、特に債務を次々と追加しているんですね、いろいろな形で。これはOECDの一つの基準がありますから一〇四%というのを出している。ただ、これを出しているのは日本でございますから、日本の内閣府と恐らく財務省でしょうね、そちらが来て出しているわけですから。ですから、そう考えると、やはりOECDの数字はそうだ。

 ところが、私が申し上げている三百兆に近い数字が最近、財務省から出たんですよ。これは何かといいますと、財務省が二〇〇八年度末で国の貸借対照表というのを公表しています。御存じですね。これによると、債務は二百五十兆です。そうなると、純債務は私が言う三百兆に近いわけですよ。

 だから、いろいろな計算はあるかもしれませんけれども、私は、ちょっと基準は違うんですけれども、財務省さんも出しているんだから、二百五十兆から三百兆というのが妥当じゃないかなと思います。

 それからもう一つ、年金のことですね。これについては、こう考えているんです。

 つまり、端的に言いますと、一般会計五百五十兆債務がある。一方、年金の積立金二百二十兆あるとしますね。そうすると、年金は、今先生がおっしゃられましたとおり、これは国民から預かって、いずれ国民に払わなければならない債務であります。そういう意味では債務なんです。しかし、我々国民は全部拠出していますよね。拠出して、政府にこれを預けている。そして、政府は、それを政府の資産として運用しているわけです。

 ですから、我々国民から見れば、年金収支は今黒字ですから、全部拠出しているわけですね。そのお金をどう使うかなんですよ。だから、ある意味では、我々が出した二百二十兆というものが、ちゃんと、かなりのものは国債にも購入という形で直接使われておりますから、国全体としての債務だったら、その二百二十兆というのをそこの資産として入れてもいいんじゃないかと思っております。

 こういう例があります。一九九八年にマレーシアで通貨危機がございましたね。そのときに、マレーシアも同じようなシステムをとっていたんですよ、年金の積み立てについて。そのときの時のマハティール首相は、それは国民の拠出金なんだから、それを担保にして国債を発行して景気を振興しよう、そうすれば通貨危機後の債務が、通貨危機後の不良債権が少しでも楽になるだろう、こうしました。そうしまして、結果的に、今のような考え方、私のような考え方で国債を発行しました。そうしましたところ、これはうまく成功したんです。それに対して、後ほどIMFのコンサルテーションがありましたときに、非常に褒められています。だから、国際的にこの考えは通用すると私は思っています。

大口委員 以上で終わりたいと思います。

 S&Pの格付が引き下げられたというようなこともありまして、財政規律はしっかりやっていきたいと思います。

 ありがとうございました。

鹿野委員長 次に、穀田恵二君。

穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。

 公述人の皆さん、本当にきょうは貴重な御意見をありがとうございます。

 私は、今、多くの方々の、国民の暮らしの現状を見て、ほんまに大変やという実感をしています。特に雇用の関係でいいますと、規制緩和で派遣切りや、さらには使い捨て労働が蔓延している。中小零細企業というのは、単価の切り下げや発注切りなどで苦難を強いられています。こういう経済危機から国民の暮らしを守るために、政治の根本的な転換が求められていると私は考えています。

 そこで、自民党・公明党政権が、この間、構造改革、成長戦略の名前で進めてきた、強い企業をもっと強くすれば経済が成長し、暮らしもよくなるという路線は完全に破綻していると考えます。したがって、この路線の抜本的な転換が経済危機の打開の道であると考えています。

 高橋伸彰公述人は、トリクルダウンは幻想と批判しておられます。また、菊池英博公述人は、小泉構造改革のもとでよくなったのは大企業の収益、輸出の増加として、ビジョンなき破壊活動と批判しておられます。また、高橋紘士公述人は、市場万能主義ではないという形での、福祉の現場からさまざまな提言をされています。

 それぞれのお立場に、そして観点に立つとき、こうした路線の転換をする上で何が今肝心なのかということについて、お三方からお聞きしたいと思います。

高橋(伸)公述人 一言で申し上げれば、そのために政権交代が必要だったのではないかというふうに思います。

 以上です。

高橋(紘)公述人 私の考えの一端はきょう申し上げた中に含まれておりますけれども、私は、小泉内閣のときに増税をやるべきだというふうに、非常に皮肉な評価をしておりますが、最も重要なときに最も拙劣な施策をしたのは小泉内閣の政策だというふうに思って、唯一生き残ったのは介護保険です。要するに、三・六兆を七兆にしたのは、あの介護保険がいかにファイナンシングの仕組みを、小泉内閣の重圧の中で、三千二百億の重圧の中で伸ばしてきたかという知恵をもう一度考えていただきたい。

 従来型の思想はもうやめた方がいいだろうというのが、これは共産党さんのお考えも含めて、私の持論でございます。

菊池公述人 今、何が転換すべきなのか、求められているか。端的に言えば、やはり国民の多くが幸福になるためにはどういう政治をすべきなのか、こういうことだと思います。

 端的に言いますと、先ほど穀田先生もおっしゃられましたとおり、アメリカのレーガニズムといいますか、それから特に小泉構造改革は、一部の強者、金持ち、そういう者が幸福になれば、それで全体が引っ張られるんだということを考えてきたわけですね。

 ところが、国民は幸福になるどころか不幸になった。例えば、一人当たりの給与というのは既に十年間マイナス性向であります。それから、社会福祉関係も、ようやくここで何とかストップしようとしていますけれども、相当破壊されています。ですから、そういう意味では、政策の転換の基準というものは、できるだけ多くの人がどうしたら幸福になれるんだろうかということだと思います。

 釈迦に説法のようなことを申し上げますが、経済というのは経世済民の略と聞いています。これは荻生徂徠の弟子がつくった言葉だといいます。経世済民というのは、世を安定させ、そして国民を幸福にする。これが経済なんですよ。だから、経済学だとか経済を語る人は、やはり国民を本当に幸福にすることをしなきゃいけない。

 ところが、小泉構造改革時代、大変失礼ながら、御用学者と言われるような方々は全く逆のことをやってきたわけですね。すべて経済は結果ですから。ですから、そこをいかに転換するか、そこだと思います。

穀田委員 政権交代をして何をするのかという問題が問われていると私は思うんですね。

 ですから、高橋伸彰公述人には、こんなこともおっしゃっているので、そこの具体的な点についてもう少し聞きたいと思うんです。東京に派遣村ができるというところに日本の経済構造の深刻な問題があることを指摘されています。私は、まともな雇用への立て直しを図る上で極めて大事なことは何かということについて聞きたいと思うんです。

 特に、今、政権交代をした。でも、労働者派遣法の抜本改正というものを当時の野党三党は約束していました。政権交代というのは変化ですから、期待ですから、やはりそういう約束を守る必要が当然あると思うんですね。

 そうしますと、労働法制などのもともとの約束と現在の政府の対応について、どういうふうに考えられておられますか。

高橋(伸)公述人 私は、基本的に、市場の持っているメカニズムを全面的に否定するものではありませんが、しかし、営利の対象としてはならない分野というものがやはり人間が生活していく上であると思います。その一つは職業紹介でありましょうし、教育でありましょうし、医療でありましょうし、介護でありましょうし、今議論になっている郵便事業でもあろうかというふうに思います。

 つまり、そうした営利の対象としてはならないものは、市場に任せずに、政治が責任を持って、その公共サービスの配分について考えていく必要がある。お金がないから、不足する分は全部あとは市場に丸投げしてしまうというような改革は好ましくないというふうに思います。その意味で、何を営利の対象とせずに公共の対象とすべきか、そのことについてしっかりと議論を重ねていく必要があるというふうに思います。

 繰り返しになりますが、私は、職業紹介、教育、医療、介護といった公共サービスの分野は営利の対象としてはならないというふうに考えております。

 以上です。

穀田委員 労働法制のそういう今の改正といいますか、現実に起こっている、例えば派遣労働法の改正についての具体的な事実を少しお聞きしたかったんですが、またそれは次にしたいと思います。

 あと、お三方に財源論についてお聞きしたいと思っています。

 私は、これまでに大幅に引き下げられてきた法人税については上げるべきだと考えています。公述人の皆さんは、特に、弱者を救済し、消費の低迷を打開するためにも、所得の再分配機能を強化する必要があると。所得の再分配機能についてのことは大体皆さんお話しになっています。私は、その意味では、今、法人税率を引き上げるということが効果的ではないかと思っているんですが、いかがか。

 もう一つは、欧米に比べて優遇されている、大資産家に対するとりわけ証券取引への課税を強化すべきではないか。

 これが一番わかりやすいものですから、その点、二つについてお話しいただければ幸いです。

高橋(伸)公述人 法人税率の引き上げという形をとるかどうかは別として、私は、法人の負担をふやすことには賛成であります。

 ただ、今の法人税は法人の収益にかかわるものですから、大変大きな変動をいたします。二年前に十六兆あったものが、ことし、来年度は五兆に減ってしまうということでありますので。

 家計は赤字になっても税金を払っています。そういう意味では、企業が赤字になっても企業活動をしているという点では非常な社会サービスを受けているわけですから、それに見合った外形的な課税をかけるべきであり、それから、後半言われた部分については、私は、穀田先生の言われるとおり賛成であります。

高橋(紘)公述人 私は税制の専門家ではございませんが、公正さということをどう考えるかをきちんと議論しなければいけない、そういう意味では、私は、資産課税の問題は相当重要な問題だというふうに思っております。それだけ一言申し上げます。

菊池公述人 まず、法人税の引き上げでございますが、これは先ほど公述で申し上げましたとおり、景気振興策、需要喚起政策というのは、やはり政府がきちっとベースはやらなければいけないと思います。といいますのは、特に、大変なデフレ、私は平成経済恐慌だと思っているからです。ただ、それに伴って政府の負担もありますし、やはり法人税というのははっきり言って下げ過ぎですね。だから、これを上げるべき。やはり、法人税も所得税も、最高税率は一〇%は最低上げるべきだと思います。だから、そういう意味で、法人税というものを一〇%上げることをやるべきだと思う。

 それから、証券税制につきましても、いわゆる証券取引税は今もう日本は廃止されていますし、一方、キャピタルゲイン税でも、日本は相対的には税率は非常に低いですね。ですから、これもある一定の金額以上は高くするとか、そういうような累進性のものを入れていってもいいんじゃないかと思います。

 それから、資産課税の件ですけれども、これもやはり金額によってもう少し累進度を高めてもいいんじゃないかと私は思っております。現在ですと、五千万以下の場合ですか、その分は無税ですが、この辺のところは大体庶民の段階ですからいいんですが、特に、十年ぐらいの間にかなり所得の格差というのは拡大してきているんですね。

 つまり、高額所得者は減税の恩恵を実質相当受けている、それがやはり資産なんかの形で蓄積されていると思いますから、そういうものに対する課税を強化するという意味で、資産課税の税率をもっと上げていいと思います。ですから、相続税もやはりその対象としていいんじゃないでしょうか。そう思っています。

穀田委員 最後に、高橋紘士公述人にお聞きします。

 お年寄りや障害者が地域で人間らしい生活を送るためには、政治、行政による支えと、地域における人々の支え合いが大事で、それで結びついてこそ可能だと私は思うんですね。福祉現場の実情から見ますと、それを支える側の問題もあると思うんですね。

 それらを含めて、政治と福祉行政に対して、介護だけではなくて、少なくとも今これらの点についてぜひに改善する必要がある、こういう点を最後にお聞かせいただければと思います。

高橋(紘)公述人 一言では申し上げにくい大きな課題を出されましたが、一言だけ申し上げます。

 私は、地方自治体行政というのが非常に重要な役割を果たすというふうに思っておりまして、公務員の教育等もいろいろお手伝いをしておりますが、政策専門性等、地域がわかるコミュニティーワーカー型公務員と僕はよく言っているんです。要するに、机の上で仕事をしないで、地域に出て、そして課題を受けとめることのできる資質のある公務員。

 民主党さんの支持基盤は自治労さんでいらっしゃいますので、ぜひそのことを肝に銘じていただきたいんですが、総体的に高給をはんで、アウトソーシングするときに、二百万円というような形で専門職を使うという委託事業なるものが非常にふえているわけです。そういう意味では、私、素人行政官が多過ぎると。専門性を高めた誠実な地方公務員、もちろん国もそうでございますが、そういうものをどうやってつくるかというのが、意外と大きな、余り言われない課題でございますが、私、日々実感をしております。

 以上でございます。

穀田委員 高橋伸彰公述人に、最後にもう一度。

 先ほどの労働法制でいいますと、今、派遣労働についての問題がありますよね。当時、三野党で言っていたときの製造業の原則禁止などを初めとした問題を提起していた。それが今日、全体として大穴があくんじゃないかという形で私どもは問題提起しています。

 ですから、労働法制を見る上で、この間の規制緩和と今日のその強化していく必要性について、今日の政府の提案について若干私見をお伺いしたいと思います。

高橋(伸)公述人 派遣労働については、私は基本的には反対でありますし、特に製造業のような、いわゆる収入だけではなくて住居とセットになったような現場に派遣として送るということは、まさに収入を断たれたと同時に生活も断たれることになります。そういう意味で、職業紹介というのは営利の対象としてはいけないというふうに考えます。

穀田委員 ありがとうございました。終わります。

鹿野委員長 次に、山内康一君。

山内委員 高橋伸彰先生に質問させていただきます。

 先生は、グローバル企業は、人を雇わない、賃金は払わない、税金は納めない、とんでもないというような御意見かと思いますが、では、グローバル企業にかわるどういう企業なり、どういう経済をつくっていく必要があるとお考えでしょうか。

高橋(伸)公述人 なかなか短時間でお答えするのは大変難しい課題なんですけれども、しかし、グローバル企業という形では、今やはり無国籍企業という形になっております。ですから、グローバル企業に対してもしその活動を認めるのであれば、国際租税条約であるとか、タックスヘイブンの問題であるとか、それから法人税への国際的な協調であるとか、そうしたきちんとした国際的な基盤を整えた上で、国際的な公共財としての制度を整えた上でグローバル企業の活動を認めていかないと、全く無法的な状況の中でグローバル企業が活動してしまえば、そこには、いわゆる一国で暮らす、つまり国境を移動できない人たちに大変大きな負担がかかるというのが現状ではないかというふうに思います。

山内委員 同じく高橋伸彰先生にもう一つお尋ねします。

 GDP統計の限界ということをおっしゃいました。私もそういう点があろうかと。やはり経済だけじゃなくてほかの指標もいろいろな要素を考えていかないといけないし、例えば企業でいうと株式の時価会計とかROEとか、そういう指標に引っ張られて企業の形自体も変わっていったりとか、市場がゆがんでしまったりという意味で、指標の決め方というのは非常に重要だと思います。

 そういった意味で、GDPにかわる、あるいはGDPと並行して用いていく指標として、今後どういうものを想定していけばいいとお考えでしょうか。

高橋(伸)公述人 GDPは、先ほども申し上げましたように、恐らく中国のような新興工業国にとっては大変重要な政策目標となる経済指標だというふうに思います。しかし、最近の経済学の研究例で、GDP一人当たり一万ドルを超え始めると、日本でいうなら一九八〇年ぐらいに相当すると思いますが、GDP一人当たり一万ドルを超え始めるとなると、さまざまな幸福度、生活に対する満足度の指標とGDPの間には乖離が生じてくるということが研究例、計測例で示されております。

 ですから、そういう意味では、そうした生活の満足度ということの向上と相関のあるような指標を、これは政府として今後開発をしていく必要があると思います。四十年前にも一度試みられましたが、それはその当時は一応失敗に終わっているので、改めて挑戦すべき課題だというふうに思います。

山内委員 引き続き同じ件で高橋伸彰先生にお尋ねします。

 今の御意見、私も全くそのとおりだと思います。国連開発計画の人間開発指標とかブータンのGNHとかいろいろありますけれども、イギリスの議会なんかでもそういう指標を開発しようという議論が盛り上がってきていると聞いておりますが、どういうプロセスとかどういう手順が、政府で考えるにしてもどういうふうにつくっていけばいいんでしょうか。私は、やはり党派を超えて考えていかなきゃいけない大事な問題だと思うんですけれども、そのプロセスについて御意見を承りたいと思います。

高橋(伸)公述人 プロセスについては、統計はやはり長期的、安定的にとって初めて意味のあるものになりますから、党派を超えて早急に研究会を組織して検討すべきだというふうに思います。

 GDPは何がふえればいいかという統計だったかというふうに思いますけれども、これだけ豊かになってくれば、何が減れば人は幸せになるのかという問題がたくさんあると思います。失業も貧困も格差もいろいろな問題がありますので、むしろ、何を減らすことによって幸せになれるのかという視点から新しい指標の開発を進めていくことが必要ではないかというふうに思います。

 以上です。

山内委員 ありがとうございました。

 続いて、高橋紘士先生にお尋ねします。

 「新しい民間」という新しい言葉に大変感銘を受けたというか、全くそのとおりだなというふうに思います。障害者の福祉とか介護とかこういった分野では、実は、まだ規制の緩和というか規制の改革が必要な分野が非常に多いんじゃないかなと。最近は何かというと小泉・竹中改革で規制緩和が悪だみたいな感じで、分野によって、規制改革というのはいい分野、悪い分野両方あると思うんですね。

 そういった意味では、最近は規制改革一律悪みたいなマスコミ報道なんか多いんですけれども、どういった分野に関してはむしろ改革して、緩和して、もっと自由度を上げていって、NPOにしても建築基準にしても、もっといろいろな可能性を開いていく規制改革というのはあり得ると思うんですけれども、どういったことが必要とされておりますでしょうか。

高橋(紘)公述人 ありがとうございます。最後に申し忘れたことをお答えする機会をいただきまして、感謝いたします。

 最後に、ホームホスピスの資料をお渡ししてございますが、これは民間のNPOが、補助金とかそういうもの一切なしに、自分たちの力で非常にクオリティーの高いターミナルケアをやっている実例でございます。これはまさに、これを厳密に適用すると、届け出老人ホームでスプリンクラーとかそういう話が出てくるわけでございますが、さまざまな先駆的な実践というのは、役人は思いつきません。政治家も思いつきません。むしろ、現場の人たちがつくり出す。

 私は、政策は実践を超えることができないというふうに考えているんですが、そういう意味で、例えばもう一つ、がんを支えるマギーセンターという、イギリスに大変すばらしい医療ではないサポートセンターがある。これは、イギリス人たちがまさに自発的な拠金をしてつくり出してきたものでございます。日本ではホスピスは緩和ケア病棟という医療の制度に乗ることによって非常に使いにくくなっている等々含めて、創意工夫に満ちた実践をつくり出していく、それをファイナンシングで支える仕組み、そういうものをつくらない限りは単なる制度づくりに終わってしまう、そのことを最後にお答えにかえさせていただきたいと思います。

山内委員 続きまして、菊池先生にお尋ねします。

 日本は財政は本当は厳しくないんだ、借金も本当は大したことないんだということなんだと思うんですが、世間一般ではそうじゃないと考える人が大変多いわけだと思います。日本はすごく借金がたくさんあって、借金がたくさんあるから増税しなきゃみたいな、ある意味、財務省的には非常にありがたい社会通念みたいなものが今世の中的にはメジャーだと思うんですけれども、仮にそれが誤った考えだとするならば、それを改めるためにどういうことが必要とされるでしょうか。

菊池公述人 お差し上げしました資料の純債務のところに表をつけておきました。それのところでごらんいただきますと、私は、八百五十兆とか言われる国の借金を、一般会計と特別会計にきちっと分けて政府・財務省がまず出すべきだ。これは前から言っておるんですけれども、なかなか聞いていただけないんです。

 それで、特別会計というのは、そこに図表をかきましたとおり、国民からお金を集めています。借金と、財投債を出したり、政府短期証券、いずれもそれは我々の預貯金がそこに吸収されています、三百兆。しかし、それは、政府が特別会計を通して政府系金融機関等に渡し、そこから最終的に借り入れに貸しているわけですね。だから、特別会計の政府債務というのは、最終借入人が利息も元本も支払うわけです。したがって、特別会計というのは巨大な国立銀行と考えればいいんですよ。

 だから、国立銀行の債務が三百兆ある、それで一般債務では五百兆ある。ですから、三百兆というのは銀行に我々が預金しているのと同じですから、それも入れて、大変だから増税しなきゃいかぬということは、別の言葉を言いますと、結局、預金者には金利を払っています、しかし、さらに税金を払えということですよ。ですから、特別会計を除去して計上すべき。そうすれば一般会計だけになります。

 だけれども、私が強く申し上げたいのは、かといって財政を甘く見るということではありません。必要以上に危機をあおるということがまずいんです。それは純債務という見方できちっと見れば、もともとこれは、特別会計を除いた形で見ていけば、別にそんなに債務残高が多かったわけではなかったんです。この大失敗の初めが一九九六年にあったんですね。時間の関係がありますから、私の本にもちょっと書いてありますけれども、そこに原点があります。

 したがって、もう一遍、くどいようですが、特別会計を除くべきです。

山内委員 大変よくわかりました。

 それでは、高橋伸彰先生と菊池先生にお尋ねしますが、お二人は基本的にこの政府の予算案に対して賛成のお立場だと思いますが、その賛成の立場から見ても、ここだけはちょっと気になるなとか、ここだけは変えた方がよりよくなるなとか、そう思われる予算項目みたいなものはありますでしょうか。例えば高速道路の無料化とか、具体例は何でも結構なんですけれども、どこか改善すべき点があるとすればどこでしょうか。

高橋(伸)公述人 私も高速道路の無料化には余り賛成はしておりません。高速道路については、ある一定程度の維持費程度はやはり利用者が負担すべきだと思います。

 なぜなら、高速道路というのは道路として異端であります。道路というのは、どのような人も通行できるのが道路であり、車しか通行できないような道路はいわゆる道路ではないわけでありますから、そうしたものの利用に際しては、最低限、維持費等の徴収は必要ではないかというふうに考えます。

菊池公述人 中身を見ますと、やはりもう少し投資項目を新たにつくって、そこにもう少し資金を集中していくような形のものをとれないかなというふうに思います。

 現在のところ、中身、税収そのものが三十七兆ぐらいしかありません。それから、借金の国債発行高が四十四兆ということで非常に多いですから、なかなか苦肉の策だったと思いますけれども、例のクリントン・モデルで申し上げたとおり、一番重要なことはやはり国民の考え方といいますか、政府の支出も、投資項目、そこにもっと集中すべきです。今回は公共投資を削減して、そこで約一・五兆円の削減をして、それを子ども手当だとかそっちへ分け合われた。

 それから、もっと出してほしかったと思うのは地方交付税交付金ですね、地方に対する支出。しかも、その地方に対する支出は、教育だとか医療だとか、そういうことにある程度限定して、今一番地方が疲弊している分野に対してもっと予算を張っていただくとよかったんじゃないかなと思います。これは来年度の課題として、ぜひお願いしたいと思っています。

山内委員 続いて、高橋紘士先生にお尋ねします。

 先生の御専門の介護とかこういった分野というのは、例えば、市川市が導入している一%税みたいな、NPOにお金が流れる仕組みづくりという意味で、先ほど民主党の中林委員からも質問がありましたが、そういった分野を強化することが必要だと思いますが、その一%税を国レベルで導入していくという考えについて、どうお考えでしょうか。

高橋(紘)公述人 実は、宮崎市が地域コミュニティー税という大変おもしろい税金を、五百円超過課税をしまして、これはつい最近、もともと民主党さんの御出身の市長さんで退任されて、次の市長さんがそれを廃止するというふうに言っておられましたが、国よりは自治体です。現場の自治体できちんと財源を確保する。その中で地域性に応じた創意工夫ができるような、市民イニシアチブで使えるような、そういう財源というのが私は相当重要だと。

 残念ながら民間からお金が出てこない時代であれば、そういう工夫は、地域コミュニティーというのは、創意工夫によっては大変おもしろい制度だと思っているんですが、そういうことも含めた、国は要りません、地方自治体です、ただし財源の裏打ちを国がきちんとする、そういうやり方だと思います。

山内委員 以上で質問を終わります。

鹿野委員長 次に、自由民主党・改革クラブ所属委員の質疑に入ることといたしておりましたが、御出席が得られませんので、これにて公述人に対する質疑は終了いたします。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午後三時十七分散会


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