衆議院

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第5号 平成14年6月13日(木曜日)

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平成十四年六月十三日(木曜日)
    午前九時三十分開議
 出席委員
   委員長 青山 二三君
   理事 高橋 一郎君 理事 土屋 品子君
   理事 林田  彪君 理事 森田 健作君
   理事 肥田美代子君 理事 山口  壯君
   理事 丸谷 佳織君
      小野 晋也君    小渕 優子君
      岡下 信子君    近藤 基彦君
      阪上 善秀君    谷川 和穗君
      増原 義剛君    三ッ林隆志君
      石毛えい子君    鍵田 節哉君
      武正 公一君    水島 広子君
      山谷えり子君    武山百合子君
      石井 郁子君    原  陽子君
    …………………………………
   参考人
   (財団法人麻薬・覚せい剤
   乱用防止センター理事長) 上村  一君
   参考人
   (多摩少年院教育調査官) 名執 雅子君
   参考人
   (日本ダルク本部代表)
   (NPO法人APARI副
   理事長)         近藤 恒夫君
   参考人
   (家族機能研究所代表)  斎藤  学君
   衆議院調査局青少年問題に
   関する特別調査室長    柴田 寛治君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月十三日
 辞任         補欠選任
  大野 松茂君     三ッ林隆志君
  鈴木 俊一君     近藤 基彦君
  黄川田 徹君     武山百合子君
同日
 辞任         補欠選任
  近藤 基彦君     鈴木 俊一君
  三ッ林隆志君     大野 松茂君
  武山百合子君     黄川田 徹君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 青少年問題に関する件(薬物乱用問題)


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     ――――◇―――――
青山委員長 これより会議を開きます。
 青少年問題に関する件、薬物乱用問題について調査を進めます。
 本日は、参考人として、財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事長上村一さん、多摩少年院教育調査官名執雅子さん、日本ダルク本部代表・NPO法人APARI副理事長近藤恒夫さん及び家族機能研究所代表斎藤学さん、以上四名の方々に御出席をいただいております。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位には、薬物乱用問題につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、上村参考人、名執参考人、近藤参考人、斎藤参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えいただきたいと存じます。
 念のため申し上げますが、発言はその都度委員長の許可を得てお願いいたします。また、衆議院規則の規定により、参考人は委員に対して質疑ができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
 それでは、まず上村参考人にお願いいたします。
上村参考人 財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事長をいたしております上村でございます。
 きょうは、民間におきます薬物乱用防止活動につきまして意見を申し述べる機会をいただきまして、ありがとうございました。
 初めに、麻薬・覚せい剤乱用防止センターが設立されました趣旨と経緯につきまして、簡単に御紹介させていただきます。
 当センターが設立されましたのは、昭和六十二年、西暦一九八七年の六月でございます。当時の薬物乱用の情勢は、欧米諸国を初め世界の多くの国々におきまして、急速に蔓延しておりまして、大きな社会問題となっている時代でございました。国内でも、覚せい剤の乱用が増大いたしまして、覚せい剤取締法違反によりまして検挙された者が毎年二万人を超えるなど、深刻な社会問題でございました。国際的には、薬物乱用を防止するためには、関係各国と国際社会が連携して、一丸となって取り組むことが大事であるという機運が高まってまいっておりました。
 こういうふうな状況を背景にいたしまして、昭和六十一年、一九八六年でございますが、東京サミットでは麻薬乱用撲滅に向けての各国首脳の決意が宣言されまして、翌一九八七年には国際麻薬会議が開催されるなど、国際的に薬物乱用問題解決への努力が強化されるようになっておったのでございます。
 薬物乱用をなくすためには、こういった薬物の不正な供給を絶つための取り締まり、これが一つ、それから、薬物の乱用が精神なり身体に及ぼす恐ろしい影響等を国民の皆様に正しく理解していただきまして、これを許さない社会環境を醸成していくことが何よりも大切でございます。そして、こういった未然防止を図る予防啓発のための活動は、国及び地方を通じました行政の活動にあわせまして、多くの民間団体、ボランティア等、広く国民各層の理解と御協力を得まして一層効果を発揮すると言うことができるのでございます。
 こういった観点から、昭和六十二年一月二十三日に開かれました閣議におきまして、官民一体となって薬物乱用防止啓発活動を強力に進めることとされたのを受けまして、同年六月一日に、財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターが厚生省、現厚生労働省と警察庁の所管法人として発足したのでございます。
 まず、活動の基本的な考え方について申し上げます。
 一般に人の健康につきましても、治療から予防へ目が向けられておりますし、治安の面でも、事後の刑罰よりも未然防止をということがよく言われておりますが、薬物の問題につきましては、まさにこの両方の観点から、予防あるいは未然防止ということが最も重要でございます。使用して検挙あるいは補導されたときにはもう遅い、ツーレートということでございます。
 薬物乱用がなぜいけないのか。改めて申し上げるまでもございませんが、主に二つの理由がございます。一つは、薬物乱用によって中枢神経、脳が侵され、そして、一たん侵された脳は決してもとに戻ることはなく、むしろ、弊害が一生ついて回るということでございます。もう一つの理由は、薬物乱用には、一たん使用すると自由意志でとめられなくなるという特徴がある、依存性でございます。
 この二つのことから明らかなように、薬物乱用は一度であっても「ダメ。ゼッタイ。」でございます。特に、小学生の高学年、中学生のころから正しい知識を身につけることが必要でございます。
 当センターの活動につきましても、発足以来、「ダメ。ゼッタイ。」を合い言葉に、現実に薬物乱用が起こってしまった後では手おくれであるということを徹底して、一度たりとも薬物乱用を許さない社会環境づくりを進めるということを基本にいたしております。
 そして、こういった問題というのは、教えられたり与えられたりしただけでは、なかなか身につかないものでございます。国民一人一人が自分の問題としてとらえて、積極的に薬物乱用防止活動にかかわることができるようにすることが重要でございます。こうした観点から、街頭キャンペーン等におきましても、青少年を初めとするボランティアの参加を広くお願いしております。
 もう一つ大事なことは、関係者間の連携協力ということでございます。先ほど申し上げましたように、薬物乱用を許さない社会環境づくりには、国、地方公共団体の行政ばかりではなくて、学校、PTA、警察、防犯団体、さらに、ライオンズクラブ、ロータリークラブ等の地域の民間団体が緊密なネットワークを形成いたしまして、地域社会が一体となってこれに取り組んでいくことが不可欠でございます。
 当センターは、ことし六月でちょうど設立十五年になりましたけれども、そうした考えのもとにこの問題の解決に取り組んでおるわけでございまして、薬物乱用防止のため、国からの委託費とか、関係団体からの補助金、助成金を財源といたしまして、いろいろな事業を実施しております。
 主なものを申し上げたいと思います。
 一つは、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動でございます。
 一九八七年に世界各国の麻薬担当閣僚会議が開催されまして、その会議終了日の六月二十六日を、毎年、国際麻薬乱用撲滅デーとすることが同じ年の国連総会で定められました。我が国では、平成三年、一九九一年から、この六月二十六日を中心に、六月中旬から七月中旬まで、厚生労働省、各都道府県と当センターの主催、国の薬物乱用対策推進本部、警察庁等関係省庁の協賛と関係団体の後援によりまして、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動を展開しております。
 この「ダメ。ゼッタイ。」普及運動といいますのは、各都道府県単位に関係者から成る実行委員会を設けまして、ヤングボランティア等の参加を得て、街頭キャンペーンを実施するものでございます。例えば昨年度は、東京・新宿での民間国連ヤング大使が参加いたしました中央大会のほか、全国各地の保健所等を起点といたしまして、六万八千人のヤングボランティア等が参加して、街頭キャンペーンを実施いたしました。
 この活動に際しましては、ポスターとかリーフレット等の啓発資材を作成して配布しておるのでございますが、去年はちょうど第九回の世界水泳選手権大会が福岡県で開催されましたことから、このポスター等には、イアン・ソープさんとか中村真衣さんといった、この大会に参加いたしました選手の写真を用いるなど、大勢の方々に広く関心を持っていただくような工夫をいたしております。
 第二は、国連支援募金運動でございます。
 今申し上げました「ダメ。ゼッタイ。」普及運動の期間を重点といたしまして、当センターが主催し、国連薬物統制計画、UNDCPと申しておりますが、国連薬物統制計画ほか関係団体の協賛、関係省庁、各都道府県の後援をいただきまして、国連支援募金運動を実施しております。
 この運動には二つのねらいがございます。一つは、青少年の健全育成とボランティア活動への積極的な参加意欲の増進を促しまして、地球的規模での薬物乱用防止に関する理解と認識を高めるとともに、浄財を募りまして、開発途上国において薬物乱用防止活動に従事しておる民間団体の活動資金として、国連を通じて援助することにより、薬物乱用のない二十一世紀の地球環境づくりに資することを目的としておるものでございます。
 この運動は、平成五年、一九九三年から開始いたしまして、平成十二年度までに、三億七千四百万円が国連薬物統制計画に寄附されており、これを財源といたしまして、延べ二百二十六カ国の開発途上国、三百十のプロジェクトの支援が行われております。
 なお、この国連薬物統制計画に寄附するに際しましては、毎年、この運動に積極的にかかわりました青少年の皆さん数名を民間国連ヤング大使として、国連薬物統制計画の本部がございますウィーンに派遣して、薬物問題についての見聞を広めていただいておるところでございます。
 三つ目は、麻薬・覚せい剤乱用防止運動でございます。
 これは、毎年十月一日から十一月三十日まで、厚生労働省と各都道府県の主催、関係省庁の協賛によりまして、乱用による危害を広く人々に知っていただく、国民一人一人の認識を高めていただくということで、麻薬・覚せい剤乱用防止運動という名前で全国的に実施しておるのでございます。これは、麻薬・覚せい剤乱用防止の全国的な機運の盛り上がりを期するために、全国を幾つかの地区に分けまして、各地区ごとに薬物問題を考える集会を開催いたしております。
 四つ目は、薬物乱用防止キャラバンカーの運行でございます。
 これは、センターの大きな事業の一つでございまして、特に麻薬乱用に染まっていない青少年に正しい知識を啓発することを目的といたしまして運行しているものでございまして、このキャラバンカーには、薬物標本、人体模型、パネルなどの展示コーナー、パソコンによる薬物乱用防止ゲームコーナー等々、青少年の皆さんが興味を持ちながら薬物乱用防止に関する正しい知識を身につけるように、工夫を凝らしております。
 このキャラバンカーには、通常、麻薬取締官のOBが指導員として乗っておりまして、専門家の立場から説明したり、見学者の質問に答えたりしておるところでございます。
 キャラバンカーが導入されましたのは、平成四年、一九九二年でございました。平成十年から増車が進んでおりまして、現在は、全国各地で八台が稼働しております。平成十三年度の実績では、延べ運行日数が千二百十四日、運行先は千二百七十二カ所に上っております。これらの自動車の運行は、四台は厚生労働省の委託費で、他の四台は社会福祉・医療事業団の助成金で行っております。
 最後に、研修事業でございます。
 今まで申し上げましたのは、主に一般の方々を対象にいたしました啓発活動でございますが、当センターにおきましては、これら以外に、国内及び海外において薬物乱用防止活動の指導者となる人材の育成を図るための研修事業を実施しております。
 国内におきましては、薬物乱用防止指導員等、地域で薬物乱用防止活動に指導的な立場で携わっておられる人々を対象にいたしまして、毎年、薬物乱用防止啓発活動団体指導者研修会を実施しております。関係省庁や地方公共団体の担当者、医学の専門家を講師にお願いいたしまして、広く研さんを積んでいただいております。
 また、アジア地域の各国におきまして薬物乱用防止啓発活動のリーダーとなる人材を育成し、アジア地域の麻薬対策の向上に寄与することをねらいといたしまして、毎年、アジア各国の方々約十名を対象に、国際協力事業団と協力しながら研修を実施しております。
 このほか、幾つかの事業を実施しておりますけれども、時間の関係で省略させていただきます。
 最後に、これからの民間薬物乱用防止活動の方向でございますが、これまでの経験を踏まえながら、若干の意見を申し述べさせていただきます。
 この六月で、センターが発足いたしましてちょうど十五年になるわけでございます。この間、乱用防止の重要性につきましての理解は相当進んだと承知しております。これまで、青少年の教育現場におきましては、どちらかというと、薬物問題というのは難しいところがあって余り触れたくないというふうな傾向も一部に見られたように思われますが、現在では、文部科学省はもとより、教育委員会や学校におかれましても、この問題について、早くから正しい知識を伝えるということに主眼を置いた積極的な取り組みが行われておるわけでございます。当センターが設立されたときに比べますと、今昔の感というふうに言えると思います。
 ただ、毎年、使う子供の低年齢化が進んでおりまして、一層こういう人に向けた活動をしていくことが大事じゃないかと思います。
 そのための具体的な取り組みといたしましては、まず、全国に二万人おります薬物乱用防止指導員の機能を強化するということでございまして、この点につきましても、当センターも何らかのお役に立っていきたいと考えております。今年度からこの活動について調査研究を開始いたしまして、実りのあるものにしたいと思っております。
 さらに、この防止活動におきまして、関係団体との連携なり協力をさらに積極的に図っていかなければならないと考えております。例えばライオンズクラブでは、当センターと共催で薬物乱用防止教育講師認定制度というものを設けておりまして、既に三千名を超える認定資格者が誕生しており、地域の学校等で活動しておるわけでございます。
 いずれにいたしましても、薬物乱用問題というのは、地道で息の長い取り組みが必要不可欠であると考えます。当センターといたしましても、微力ではございますけれども、これまでの経験を踏まえながら、さらに充実した活動を進めたいと考えております。引き続き、皆様方の御理解とお力添えをいただきたいと思います。
 以上、意見陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
青山委員長 大変ありがとうございました。
 次に、名執参考人にお願いいたします。
名執参考人 多摩少年院教育調査官の名執と申します。
 多摩少年院は、東京の八王子市にありまして、家庭裁判所から中等少年院送致の決定を受けた男子の少年を収容し、教育をしております矯正施設でございます。
 きょうは、少年院の現場からの発言として、薬物乱用少年の実情と、少年院での矯正教育の内容について紹介する機会を与えていただき、大変ありがとうございます。
 では、お手元のレジュメに沿って申し上げます。
 まず、少年院における薬物乱用少年の実情について申し上げます。レジュメの二枚目のグラフをごらんください。
 全国の少年院に平成十三年に入院した少年の数は六千八人で、うち、本件非行名が覚せい剤取締法や毒物劇物取締法違反など薬物関係である者は約九%ですが、これに非行時に薬物を経験していたことのある者も含めますと、約五人に一人が何らかの薬物を使用していた経験があることになります。
 女子少年の場合は、実に入院者の三〇%が覚せい剤取締法違反、また、二人に一人は薬物を使用していた経験があり、男子少年とでは薬物使用の様相も若干異なっております。
 ここでは、これら経験者も合わせて薬物乱用少年としますと、その特徴としましては、概して、調子が軽く、人づき合いもよく、周囲に影響されやすいところはありますけれども、性格的な偏りが著しいなどの目立った資質的な問題はそれほど認められません。
 ただ、不良文化や反社会的なものに対する親和性というか、あこがれが強く、暴走族や暴力団との関係がある者が多いということが挙げられます。
 実際、少年の話からは、不良交友の仲間内で先輩や友人に勧められて、いとも簡単に手を出しているという状況がうかがえます。例えば、先輩に勧められて、これを断ったら自分が小さい男になるような気がしたとか、友達にやったことがあるかと聞かれて、見えで、あると言ってしまい、引っ込みがつかなくなったとか、本当につまらないことで、少年は手を染めております。これは、やらないと仲間でばかにされるとか、薬物をやることに仲間との一体感とか格好よさを感じているということで、薬物をやるという行為自体に、不良関係を維持し、反社会的態度を示したい、そういう意識が見られます。
 そのため、薬物乱用少年も、単に薬物だけの問題ではなくて、暴走族内の不良交友をもとに引き起こした共同危険行為ですとか、傷害事件ですとか、恐喝事件ですとか、別の事件にも同時にかかわっている少年が多いのが特徴です。
 このように、不良交友を求め、親和していく背景には、家庭や学校における居場所が得られない、職場での人間関係にも行き詰まって長続きしないなど、不良仲間の中でしか自分を認めてくれる場が見つからない、そういう状況がございまして、その中で、一回くらい大丈夫という安易な気持ちで手を染めてしまう、そういう構図があると思います。
 次に、薬物乱用少年に対して少年院ではどのような観点から教育を行っているかということについて、お話し申し上げます。
 ただ、幻覚が著しいなど精神症状が既に進んでおり、専門的医療措置を必要とする少年につきましては、医療少年院の方で治療を受けますので、ここでは、医療的な措置を必要としていない少年を対象とした教育についてお話し申し上げます。
 まず、現状の問題点です。
 入院した当初の少年は、大抵、今回捕まったから、もう意志を強く持って絶対やりません、僕は大丈夫ですとか、少年院を出たら一回だけやって、それでやめることにします、やめられる自信はあるんですとか、そういうことを申します。この発言からもわかりますとおり、少年たちは、薬をやめることは自分の意志の問題であると思っておりまして、薬物に対する依存の問題には気がついていないことが多いのです。
 しかも、少年がいずれ戻っていく社会を考えてみますと、今は社会全体に享楽的な風潮があって、薬物を手に入れようと思えば比較的簡単に手に入る状況であり、周りの同年代の友人たちも、薬物に対する警戒心が薄いまま気楽に使用しているという状況があります。こういう中に少年たちを帰していく、このことを前提にした指導でなければならないという難しい問題もあります。
 以上のことを前提にして考えますと、少年院での教育の力点は、次の四点になろうかと思います。
 第一点は、薬害に関する知識を与えるという直接的な働きかけです。
 ただ、対象者は、既に薬物乱用少年で、違法性とか薬害については知っていても手を出してきたわけです。ですから、より具体的で身近な例を出して薬物の恐ろしさを浸透させることが必要です。
 第二点は、薬物に対する考え方、価値観の偏りを正すということです。
 薬物をやることが格好いい、みんながやっているから平気、やることは個人の自由だ、だれにも迷惑をかけていない、そういう考え方が誤っていることを悟らせるということです。
 第三点は、自分が薬物に依存している、少なくとも依存への道に足を踏み入れていることを知るということです。
 自分は意志を強く持つから大丈夫などと簡単に言えるものではないこと、自分は既に薬物を乱用している状態であることを認識させることが出発点になります。そこから初めて、ではどうしたらいいのかを考え始めることになります。
 第四点は、各自が薬物乱用の背景にある原因を知るということです。
 不良交友、その中での力関係、人に流されやすい性格、人間関係がうまくとれないなど、薬物に手を出してしまった背景を知って、それを自分の問題点として受け入れ、これに対する改善の方法を探り、最終的には改善するということです。
 これは、その少年の生い立ちや資質的な問題も含め、ある意味、一人の人間全体の変容を遂げようとするような、そういう難しい問題です。なかなか一朝一夕にはいかないものですが、このことこそが大切なポイントになると思います。
 次に、薬物乱用少年に対する教育のプログラムについて申し上げます。
 今述べました四点のポイントを具体化するためには、単に薬物問題に焦点を当てたプログラムだけではなく、物の考え方、人とのつき合い方、日常の生活習慣、勤労意欲の喚起など、少年の持つ問題性にかかわるすべての問題に働きかけていくことが必要となります。これを実現するため、少年院では、まさに二十四時間丸抱えで少年を処遇する中で、個々の少年の非行にかかわる問題性の改善、解消に当たっているわけですけれども、その範囲は膨大ですので、ここでは、特に薬物の問題に直接働きかけるための教育プログラムの概要を紹介いたします。
 少年院では、非行の態様別、または非行の原因となっている問題に応じて対象者をグループ分けして行っている、問題群別指導と言われるものがあります。
 多摩少年院での覚せい剤事犯少年への実施例を簡単に紹介しますと、そのカリキュラムの中では、家族の立場に立って自分にあてた手紙を書かせる役割交換書簡法というものによって家族の気持ちを実感させるとか、出院後に友人に誘われた場合にどういうふうに対応するかをロールプレーイングで演じさせて再犯の危機場面への対処方法を考えさせることなど、さまざまなことを行っておりますけれども、特に薬物乱用に至った原因や弊害について認識させるためには、集団討議に重きを置いて実施しております。
 最近では、新しい試みとしまして、さらに少人数のグループをつくり、グループ内での支え合いをもとに、みずから体験させる中で非行に特有の問題点に自分で気づかせる、またはそれを表明させることによって再犯防止に役立てようということを始めております。
 覚せい剤事犯者のグループでは、やめるかやめないかは自分で決めなさい、この時間はそのための自由な話し合いの場ですと少年たちに言っております。ですから、最初のうちは、やって何で悪いかというような本音もたくさん出てきます。そのうちに、手を出したときの気持ちですとか、乱用していた当時の惨めでつらい毎日の話ですとか、薬物により失った家族や友人の話、もしかしたら自分は一生やめられないのではないかという不安などが次々と語られます。そして、使用に至ったそれぞれの背景や、やめられないのは意志の問題ではないことに自分で気づいていき、何とかしなければという思いに心底到達していきます。結局のところ、他人に教えられても、自分が納得して問題に気づかなければ自分が変わる力にはならないということだと思います。
 少年院の効果としましては、これらの講座を受けたから即効果があらわれるというものではなくて、すべての処遇を通じてどれだけ非行に係る問題点が改善されたかということではありますが、これらのプログラムを受けた少年の感想を見ますと、大半の者が、やめたい気持ちが強くなった、自分が依存していたことが理解できた、自分の問題点がわかった、やめるためにどうしたらいいか考えられたなどの肯定的な意見を書いております。少年院の中だからだと思われるかもしれませんけれども、書くことも他人に対して自分の意見を表明することであり、その意味は大きいと思います。
 また、今回、平成八年から十三年までに多摩少年院を出院した者のうち、保護観察が終了した者五百五十三人の保護観察成績を調べてみましたら、薬物が本件非行少年の百十五人のうち、約五%が保護観察中に何らかの再犯を犯したことがわかりましたが、あとの九五%は少なくとも保護観察終了までは持ちこたえてくれたことがわかりました。
 最後に、薬物乱用少年に何が必要かについてお話しさせていただきます。
 以上申し上げましたとおり、少年院で行っている教育は、薬物乱用に至った不良交友などの背景に目を向けさせ、薬物乱用をしている自分を認めさせ、そして最後は、価値観、生活習慣、勤労態度、物の考え方などすべてを変容させようとする、長い時間がかかる大変な作業でございます。
 何でも、人からやめろと言われてもやめられないものではございますけれども、それでも、自分で納得して決意した者は、少なくとも、前の友達のたまり場には近づかないようにしますとか、誘われたら、嫌われてもいいからまだそんなことをやっているのかと言ってみますとか、想定された場面での対応を自分なりに具体的に考えることができるようになってきております。また、少年たちは、最初は突っ張っておりますけれども、自分を支えてくれる人がいることに気づきますと、このままではいけない、成長したい、変わりたい、そういう気持ちを見せるようになってくると現場で感じております。
 少年院では、このような信頼関係を少年と教官との間でつくり上げ、これを基礎に少年に素直に自分の気持ちを語らせる一方で、寮生活、それは集団生活なんですけれども、集団生活を通して人間関係の適切な結び方を勉強させ、規則正しい生活を送らせ、職業訓練を通じて勤労意欲を養い、享楽的な物の見方以外に関心と生きがいを見出せるような、そういう健全な人生観を確立して出院後の生活設計につなげていく、そういう地道な営みを日々続けております。
 少年院の目的は、最終的には、少年が社会に出ても、さまざまな危機場面を超えて、薬物をやめているという状態をきょうも一日延ばすことができた、そういうことを繰り返して、それがいつしか長くなって、気がついたら結構人間的にも成長して社会にも適応できてきたな、そういうものだと思っております。
 また、そのためには、社会の中で少年にとって大切なもの、かけがえのないもの、これをどれだけつくり上げることができるか。これは覚せい剤をやったら失ってしまう、失ってしまうことには耐えられないような大切なもの、それはかけがえのない家族であったり、まともな友人であったり、やりがいのある仕事などだと思いますが、これを少年がみずから獲得できる力を育てることも大切だと思います。
 遠回りなようですけれども、本当に薬物から立ち直るためには、以上述べましたことが必要だと考えております。どうもありがとうございました。(拍手)
青山委員長 大変ありがとうございました。
 次に、近藤参考人にお願いいたします。
近藤参考人 日本ダルクと申しましても、とても貧弱な施設でございます。現在、二十六カ所に増殖しました。つまり、たくさん薬物依存者がふえたということよりも、行く場がない人たちがどんどんふえてまいりました。
 十七年前のちょうど今の時期に、第一号のダルクが荒川区東日暮里に誕生しました。古い一軒家を借りて、そこで共同生活をしながら、お互いに励まし合ったり、ミーティングをしました。一九八五年のことでした。
 その次の年に、昼集まる場所が必要になってきた。これも、倉庫を借りまして、倉庫を改造しました。そして、そこで大家さんに、何に使うんだと言うから、グループ活動です、サークル活動ですと言った。薬物依存者が集まるということは、その時期、とても考えられませんでした。
 荒川区東日暮里に一軒家を借りましたのと、もう一つのデイケアセンター、それがダルクの始まりです。その後、どんどんとダルクはふえていきました。今現在、南は九州、北は秋田まで、二十六カ所にふえております。その中で、全部、私がコントロールしているわけではありません。ダルクをつくる人が勝手にダルクを始めるという、とてもシンプルな考え方です。
 依存症は、支配と依存の関係性の病ですから、だれかのために何かをしようとか、あるいは家族のために薬をやめ続けようとかという程度では、とても薬がとまるはずはありません。ですから、自分たちが気づきながら、自分たちがいろいろなことに直面しながら成長していく過程が必要だというふうに思いました。
 そして、プログラムはとてもシンプルです。一日三回のミーティングに出席するだけでいいわけです。規則もありません。規則を守れない人たちの集団の中でまた規則をつくることは、余り得策ではありません。規則がないことがとても大切なんです。その中で、何か大きな問題が起きたということは全くないということではありませんけれども、規則はありません。ただミーティングに三回出席するという、とてもシンプルな規則です。
 その中で、中学生から高校生、退学になった子供たちや不登校になった子供たちが、薬物問題と一緒に何カ所かの施設に入ってくることがありました。そういう子供たちを排除していくということがまた新たな薬物問題をつくっていくということに気づきました。私たちのダルクの中では、次の人たちを支援していく、そういう命のリレーというんでしょうか、一度立ち直った人たちが次の人たちを手助けしていくということでやめ続けることができる、つまり、次の人たちを手助けしないでいるとまた再発するということです。私たちは、ダルクは二十六カ所ですけれども、ダルクを卒業した人たちが次のアフターサポートグループにつながっていくシステムが必要だと思います。
 ダルクは施設ですから、その中で薬はやめることができますけれども、ダルクを卒業して、地域社会に戻って、社会復帰して、お仕事につくようになってから、次にそれをサポートするグループを、その核をつくることはとても大変でした。そのグループは、アルコールで言うとアルコホーリクス・アノニマス、AAというグループがあったり、私たちのダルクはNA、ナルコティクス・アノニマスという、電話帳を調べると出ているという世界的なグループです。AAは一番目に出ていますね。どこの世界へ行っても、そのグループが、自助グループが活性しております。
 そういう組織的なことで活動を広めていくという考え方ですけれども、私たちは、日本では活動が広まっていくのは恨みとコーヒーカップがあればいいということです。つまり、コントロールすることではなくて、勝手に、私はあの人たちが嫌いだから、じゃ、二人いればミーティングができるじゃないかというので、ミーティングができます。また新しいミーティングがある。つまり、仲よしグループじゃなくて、どんどん広がっていく。そういうシステムは、私たちのとても斬新なところです。
 そこには、政治的なお金も一切ありません。もちろん、ダルクは、二十六カ所になりましたけれども、この十七年間、政府からの支援もなく、とても気軽に自由にやってまいりました。それはニュートラルな施設、考え方ですが、厚生省とか法務省とか、そういういろいろな省庁がありますけれども、そういう制度の中に組み込まれない、自由な施設でやってこれたというのはとてもよかったと思います。
 しかしながら、そのために、スタッフを養成するお金がない、研修するお金がない、それから、そういう人たちにきちんとした給料を支払っていけない、そういう悪いことも同時に出てまいりました。
 予防されるべき子供たちは薬を使っているんでしょうか。薬を使っていない子供たちに薬をやめろと言うことはちょっとおかしい。大事なのは、薬を使ってしまった子に再発させない予防、その発想がどうしてないんでしょうか。再発させない予防、これこそが日本の最も欠けている部分ではないかと私たちは思うんです、再発予防プログラム。
 私、省庁のことは余り文句を言いたくないんですが、例えば、厚生省は予防をやっておりますね。再発予防をやっていません。取り締まりをやっております。厚生省はなぜ取り締まりをやっているんでしょうか。僕にはわかりません。厚生省がやるべき仕事は再発防止プログラムですね。薬物依存症に一度なった人たちを再発させないためにはどうするかということを考えてほしいと思います。
 もう一つは、最近の状況ですけれども、子供を持ったシングルマザーの、覚せい剤をやる若い女性がとても多くなりました。しかし、母子寮とかそういうところには、薬物問題と一緒に入ってきたときには受け入れてもらえません。と同時に、子供と一緒に生活しながら回復できるような施設は日本にはありません。施設の中に保育園があったり幼稚園があったり、そういう施設はありません。
 また、その子供たちは気分が悪いですから、当然、世代連鎖、次の世代に同じように気分の悪い子供ができ上がって、またその子が薬を使って気分を変えていくということをやり始めるはずです。これは斎藤先生の分野ですから、後で斎藤先生にお聞きしていただいたらよいと思います。
 それから、日本に、ないものがたくさんあります。私たちは、よく、子供は日本の宝だ、青少年は健全に育成されるべきであると、いろいろな言葉が美しく語られております。しかし、そのために、健全にすくすく育った子供たちはいいですけれども、一度ドロップアウトしたり学校から落ちこぼれたりしている人たちをすくい上げる、そういう場がないんですね。
 ダルクは、全国二十六カ所全部、借家です。借り物です。財産や地位や名誉や、そういうものは大事な目的からどんどんそれていく。そして、社会福祉法人や何かを、法人を取りたい、法人を取るためにはお金が必要、土地が必要、ダルクはお金がないから取れないんですね。ようやく一つの法人を取ろうと思ったら、地域の反対です。怖い、恐ろしい、そんな人たちはうちのそばに来てほしくない、学校の通学通路は変わる。
 私、十七年間やって、体に傷は一つもありません。刑務所を何回も出た人たち、あるいは少年院を何回も出たような人たちでも、場とプログラム、きちんとしたそういうものがあれば必ずよくなるんだという信念を持ちながら、十七年間、やり続けてきました。
 しかし、もう私はことしで還暦ですから、今は、再犯刑務所に行って、毎週木曜日、刑務所からお金をもらわないで、自由な立場で、薬物依存になった人たちの、たった十人です。一年間で百人です。その人たちがダルクに来る。三%です。
 でも、やらないよりやるべきです。少なくとも、何もしないで言葉だけで言うよりも、何か一人一人ができることを一人一人がやっていくことが、青少年の薬物問題等を少なくしていくことだと思います。
 つまり、供給のことを余り考えない方がいいと思いますよ。地図を眺めて、一年間、海外からどういう薬物が来ているかといったら、もう全世界から日本に入っていますね。アフリカからもアルゼンチンの方からも、前は中近東ぐらいでしたけれども、もうほとんど、ヨーロッパからも入っているでしょう。そうすると、たった麻薬犬九十頭で供給をゼロにするなんという妄想はやめて、需要を少なくする、一人でも使う人を少なくするという具体的な発想がとても必要になってきたと思います。一人でも少なくする、そのためには、再発している子供たち、再犯している子供たちを一人でも少なくしていくということをぜひやっていかなければならないと思います。
 何か愚痴めいたことを言っていますが、十七年間、医療システム、司法システム、ソーシャルモデルシステム、これが全くなくて、ダルク一つで、医療システムも司法システムもソーシャルモデルのシステムも……。もうそろそろ、いろいろな分野で優秀な方々がたくさんいるわけですから、少なくとも、司法は司法モデルのプログラムをきちんとやっていただく。医療は、外国からいろいろな偉い人たちが来たら、日本の国が案内する施設は精神病院ですよ。おかしいじゃないですか。依存症と精神病は違います。依存症は依存症のちゃんとしたプログラムが必要だと思いますね。ソーシャルモデルでは、例えば母子家庭の薬物依存の回復プログラムとか、そういういろいろなもの。
 もう一つは、回復者をぜひ切り捨てないで、例えば、講師に呼ぶとか、刑務所に七回以上入った人でなければ入れない会社をつくるとか、そういう発想が必要だと思うんですね。私たちは怖い人たちではないですよ、ほんのちょっとしたずれですから。
 回復にとって何が必要か。底つきと出会いが必要だったとダルクの人たちは言いました。では、回復にとってどういうことが必要だったのかというところで、だれがどういう手助けをしてくれたのかというと、僕はちょっと僣越ながら本を持ってまいりましたが、この中で、一番かかわりのある人たちが余り役に立っていないですね。保護観察官というのは直接保護観察するわけですから、とても……。この二百五ページですか、クリーンになったとき、薬をやめようと思ったとき、どういう人たちが一番手助けしてくれましたかというアンケートをとったら、一番役に立ったのは仲間というのですね。つまり、共通の問題を持って、そこから立ち直った仲間が一番支援してくれた。次に家族というのもありますけれども、学校というのも余り役に立っていない。そうすると、制度を持ったところが余り役に立っていないということなんですよ。
 こんなばかな話はないでしょう。つまり、学校だって、あと三年間くらいしたらやめていくから、もう途中で退学、学校に来れない、それをじっと耐え忍んでいけばいいわけですけれども、こう考えてくると、制度を持ったところは余り役に立っていないんですね。保護観察官は最も役に立つべきところですけれども、余り役に立っていない。あるいは、病院も余り役に立っていない。保健師制度も余り役に立っていない。そうすると、だれが役に立ったのか。つまり、回復者をたくさん出して、その人たちを支援する、反対側の役割に立たせるということだと思います。
 長野県は、高校生への講演が今月だけで三十五校ですよ。薬物依存症で、今、回復途上の人たちが行って、学校で講演しているわけですよ。生徒は静かですよ。校長先生が一生懸命話していてもぺちゃぺちゃ話していますが、ダルクの人が話すと、みんな、しんとして静かに聞いてくれますね。特に茶髪の人たちは、みんな、前へ来て聞いていますね。
 そういうことで、今までの考え方をちょっと置いておいて、日本における青少年のオリジナルなプログラムをぜひ、有識者の、余り有識者じゃない方がいいかもわからないですね。保護司制度もそうですね。保護司の人は、微罪でも保護司になれません。そうすると、結局、お年寄りということになりますね。お年寄りが二十代の子供とかかわるというのは、余り意味がないと思いますね。
 どうか、そういう社会資源としてダルクの人たちをどんどん活用していく、そして、それによって、私は疎外されていない、私は生きていていい人間だ、こう思えるようになるから回復していくわけですね。薬をやめることではないんですね。やめ続けるためにどうするかということをもう一度考えていただければ幸いだと思います。
 終わります。(拍手)
青山委員長 大変ありがとうございました。
 次に、斎藤参考人にお願いいたします。
斎藤参考人 近藤さんが八五年にダルクをつくったというのかしら、何と言うのでしょうか、どうなるかと思って見ていましたけれども、その二年前まで、私は、松沢病院というところにいて、その前は久里浜病院という国の療養所、官のところにいたんですね。そこでアルコール依存を見ていて、ドラッグの問題が十分に対応できないということで、私が東京都に籍がえをしたのは、一つは、松沢病院の広大な敷地の中に、国はちょっと難しいということで、東京都の薬物依存施設をつくるという夢を抱いていたわけですが、結局、そう簡単なものではないということがわかって、これはだめだということでゲリラに転じたんですね。
 そのころ、私たちは近ちゃんと呼んでいますが、彼は、ダルクがないからマックというアルコールの施設の中で活動していた。それで、精神科医の多くは、この問題に関心を持ちません。私は、松沢病院で、近藤さんから回されてくるシンナー少年たちを、アルコール病棟なんですが、何とかそちらの方に入所させるというようなことをやっていたんですが、限界があって、余り彼の期待には沿えなかったというのが今でも残念です。
 私は、だんだん、その問題から、もともとの、ドラッグに走ってしまうような子供が出てくる基盤、つまり家族の方に問題を移していって、今は、児童虐待とか、児童虐待と密接した関係にあるドメスティック・バイオレンスの問題に取り組むようになってきたという経緯があります。
 私が医者としてここに呼ばれているゆえんというものを少し考慮して、薬物依存一般の話をちょっとしないとまずいのかなと思います。
 薬物というのは、いわゆる私たちが考える薬物に限りませんで、薬物乱用ないし依存と言うときには、精神活性物質は何でもいいわけですね。トルエンもそうだし、マニキュアの液でもいいし、ガスライターのボンベでもいいし、何でもいいんですが、そういったようなものを乱用していくときに、あらゆるアディクション、こういうのを嗜癖といいますが、アディクションというのは薬物依存を含めていろいろな嗜癖がある。
 最初の人間の嗜癖は指しゃぶりですよ。なくて七癖じゃないが、人間、いろいろな生活行動というのを親から教えられて、そのパターンの中で一生を送るわけですから、その中に、時々、親からの分離その他でもって、非常なクライシス、危機の時期というのがあります。思春期というのは一つのクライシスで、これは私は第三誕生と呼んでいるんです。第一の誕生が出産であるとすれば、第二は、母のひざからおりる時期、例えば三歳がそうでしょう。これはクライシスです。そのころ、二歳から四歳の間、母親の子供に対する虐待が急激にふえます。それから次は、家という、これは人工的な子宮ですが、ここからの出産、つまり家離れ、子別れの問題があります。この時期もクライシスで、ここでいろいろな問題が起こる中の一つが薬物乱用です。
 薬物乱用の対策を考えるときに、ドラッグがいけないんだと敵視して、そこから問題を始めるというのは、私は余り得策ではないと思う。家族の様態その他がどういうように反映して――日本では、例えば日本のコカインの依存者を見れば、アメリカの数十万人なんかに比べて、ずっと少ないですよ。ほとんどゼロと言ってもいいぐらい。では、日本にはいわゆるアディクション問題はないのかといったら、大いにあります。どういう形でか。それは引きこもりです。ドラッグという問題に余り縛られると、ドラッグ対策が見えなくなる。
 日本は、上海を舞台にしたアヘン戦争によって開国して、今の日本政府になったんです。アヘン使用の禁止は幕末のころからやかましく言われていて、明治三年の太政官布告、阿片禁止令に至ります。ごくごく早いときにつくられていて、これと並ぶ布告というと、例えば明治五年の学制頒布、学校の確立、公教育の確立などになります。日本はアヘン問題というものを非常に重視して、それの上陸をどうやって阻止するかということを中心にしてつくられた国で、だから、そのことについては非常に過敏ですが、過敏の余り、海外からの上陸を阻止すればそれで済むと思ってきた嫌いがある。しかし、シンナーを考えてください。シンナーは石油製品です。工業製品をどうやって海際で阻止できるか。
 だから、これは麻薬というものを、麻薬というのは法律用語です。医学用語ではない。一種の有害物質を幾つか決めてどうやって侵入を防ぐかというような発想は、先ほど近藤さんも言っていらっしゃったが、おかしい。無理です。幻想です。日本だけ特殊だという考え方の誤りがいろいろ指摘されていますが、そのうちの一つです。
 常用障害がなぜ思春期に起こるかについて今ちょっと言ったわけですが、思春期に起こる常用障害というのは、思春期心性の一つの表現にすぎない。では、思春期心性というのは何かといったら、それは、親に対する依存とか親を理想化していくという考え方が自分の中で弱くなってきて、そこから離れよう、そして、そういうのを自我理想といいますが、新しい自我理想をつくっていこうという、モデルを求める時期です。
 このモデルは、幸いにそういうような人に出会う場合もあるし、時には、もっとネガティブなものにいくこともある。かつての連合赤軍の問題とか、極左の集団がたくさんいたころは、若者たちはそういうものに引かれていった。最終的には、高校にまで闘争が及んだということがあります。ドラッグの問題も、これと同質のものだとお考えになっていいんじゃないかと思う。
 だから、青少年におけるドラッグ問題の特徴を言うと、まず、安い、入手しやすいということがある、たばこも含めて。それから、集団で乱用されやすいというのは、少年たちの感じる孤独ということを考えれば、友を求めるということからすれば当たり前です。それから、流行的で一時的なもので、その対象が時々移り変わります。それは、入手しやすさが変わるからです。それから、ほかの逸脱行動、例えば性問題を含めたいわゆる非行ですが、時には触法行動などと関連することが多い。最初はそうなんですけれども、それが進むと、逃避的になって、孤立して、引きこもりの方向に行く。
 それから、依存と急性中毒は区分けして考えてください。吸ったためにぼうっとしたり、時には呼吸麻痺で死んだりするのは急性中毒です。こういう事故が大人の場合よりはずっと多い。
 器質的な損傷、例えばシンナー少年の場合の歯の欠損ですとか、時には造血機能を侵して再生不良性貧血みたいな致命的な病気になりやすい。シンナーというのはもともと油を溶かすものですから、神経組織というのはほとんど脂肪分ですので、脳神経系に対する影響は非常に強いですね。お金が高い、例えばコカインみたいなものの方がかえってそういう意味では安全と言ってもいいぐらいです。
 それから、子供の場合は、多剤乱用が多い、大人のようにこれ一本ということがなくて手に入るものは何でも手を出す、こういうような特徴がある。
 それから、広がりですけれども、青少年白書なんかで出ているものを見ますと、皆さん、この問題の手がかりとしてそういうものを見るわけですが、そうすると、取り締まり件数が出ている。これは、奇妙なことに、毎年大体同じでして、例えばシンナーだと一万五千から二万、覚せい剤ですとその十分の一ぐらい、千五百から二千、これが毎年載せられている。あれは一体何か。我々からすると、ほとんど意味がない。
 実際には何が行われているかというと、例えば、顧客がついた携帯電話一台が百万円以上、時には数百万で取引されているという事実がある。この携帯電話を買う人も売る人も外国人です。こういうことを言うといわゆるゼノフォビアみたいに思われても困るんですが、しかし、実際はそうなんです。その人たちが携帯電話を持つことによって、顧客からの電話が入ってくるから、日本語さえできれば、どこどこの路上ですれ違いざまに現金と薬とを交換するというようなことは可能です。
 実際に、クラブと言われるようなところでヒップホップとかレゲエを大音響でかけてやるダンスパーティーなんかには、アシッド、LSDです。それから、エクスタシー、これは覚せい剤の誘導体ですが、非常に性的興奮を高めるということになっています。それから、マリファナ。こういうのがパックになって一万円程度で売られているという事実がある。
 しかし、これを取り締まり対象にしようとしても、しょせん無理じゃないか。取り締まらないよりも取り締まった方がいいと思いますが、しかし、それでもってそちらの方に対策を強化しても、それは若者文化の一部を破壊させるにすぎない。これらの子供たちをみんな、一過性にマリファナを吸う人たちをすべて、薬物乱用者として医療の対象にしたり犯罪の対象にしたりする、これは余り適切とは私には思えない。放置すればいいと言っているわけじゃありません。要するに、この者たちに注目しつつ、一体何が彼らをそのようにさせているかについて考える機運が欲しい。
 先ほど、家族のことをちらっと言ったのですが、結局、私たちがこの問題に対応するときの第一次介入といいますか第一段階は、家族、つまり、どういう親のもとにこの子が育って、今、何を求めているかということについての関心を持つことだと思う。
 私はそのように考えていまして、そうすると、先ほど言ったように、左の端に引きこもり、右の端に薬物乱用を初めとする顕在的な問題を抱えた一つのスペクトラムが見えてくるわけです。引きこもりだって一つのアディクションシステムです、同じことを繰り返してなかなかそこから離れられないということでは。そのいずれもが――引きこもりの少年を連れてきなさいと親に言って、どういう役に立つか。あるいは、引きこもりなんかになると、これは逮捕の対象者にならない。これは、要するに、親に働きかけて、悩んでいる親のケアをどうやってやるかということに尽きる。多くの場合、不在の父とか、孤独の中で母子密着を強めていく母だとか、そういうものが見えてきます。時には、これはアノミー型といいますけれども、全くばらばらになっちゃった家族もある。そのそれぞれに対して適切な家族介入が必要だと思う。
 それから、一挙に飛びますが、医療の問題はちょっと飛ばしまして、一つ言っておけば、この問題には医療は余り役に立たない。だから、自助グループというのが大事になってきた。アル中の場合のAAは一九三五年に、それから、NAは一九五三年にできています。ナルコティクス・アノニマス、先ほど近藤先生が言っていましたけれども、こういうようなものを活用するということは、薬物依存、乱用の問題を取り扱う人たちの常識になっています。
 それから、もう一つ指摘しておかなくちゃいけないのは、子供の覚せい剤乱用を考える場合、これは女児が多いということです。女性の問題です。統計的にも、取り締まられた人の五〇%以上が覚せい剤の場合は女性です。その氷山の海面下の部分にいきますと、もっと低い。十代初めですと、七〇%から八〇%が女児です。
 どうしてか。男が薬に誘うからです。ですから、これは、よく言われる少女期の、ひところ援助交際なんという問題がありましたが、そういう問題とも絡むのです。この問題を単独で取り上げないで、ぜひ、いろいろな問題の中の一つの現象とお考えいただきたい。
 それから、彼らは、親からの愛着から離れることによる絶望感というとちょっと強いかもしれないが、当惑あるいは不安の中に漂うわけですから、提供されなくちゃいけないのは人でありまして、処罰ではありません。ストップと言ってみても、財団の活動はよく存じ上げていますし、尊敬もしていますが、「ダメ。ゼッタイ。」と言っているだけじゃだめなので、彼らにクラブで彼らが交友を求めるような魅力的な場をどうプロバイドできるかというのが我々にとっての必要なことだろうと思う。
 それから、治療についても同じことです。私たち医療がこの問題の対策に失敗したのは、近藤さんがやっているような活動との連携が、私みたいに孤立した一人一人の精神科医にしか、自分の範囲でしかできなかったからです。ゲリラです。これじゃだめだ。
 例えば司法的介入は、私は否定しません。今、回復の途上にある子供たち、かつての子供の乱用者を見ますと、残念ですが、ほとんど、鑑別所や少年院を経ています。そこでもって、裁判官の適切な判断によってプロベーションの期間を置いてもらう。これは、法的なプロベーションというよりも、執行猶予をつけてもらって、その間に治療を進めてもらった子がよくなっているんです。
 その間に何をしているかというと、多くは、ダルクその他。こういう民間のささやかな活動が生き残っているというのは世の中の人が必要としているからで、決してお国の機関じゃない。公的な機関というのは、そこで働く人のものです。決して利用者のものじゃない。そうなってしまうので、むしろ、NPOというものができてきて、本当にこれは期待できると思うのですが、これをもう少し充実して、使いやすいものにしていただいて、これを中心に問題が展開されるようになると、いわゆる一般市民の中から大勢のこの問題に関心のあるボランティアが育ってくるはずだと思います。そういうようなことがこれからのこの問題に対する対策になろうかと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
青山委員長 大変ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
青山委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小渕優子さん。
小渕委員 おはようございます。自由民主党の小渕優子でございます。
 本日は、短い時間ではありますが、質問の機会をいただきましてありがとうございます。
 また、参考人の皆様方におかれましては、早朝より御説明をいただきました。それぞれの経験の中で、大変貴重な御意見をいただいたと思っております。私自身、初めてお伺いする話ばかりでありまして、自分自身の勉強不足を感じながら、また、薬物に関する問題の深刻さを改めて認識した次第でございます。
 十五分という短い時間でありますので、早速、質問に移らせていただきたいと思います。
 参考人の皆様方よりお話があったとおり、薬物使用の低年齢化ということが大変大きな問題であると認識しております。薬物といいましても、たくさんの種類があるのかもしれませんが、先ほど斎藤参考人からお話がありましたように、決して遠いものではなくて身近なものであるような気が自分自身もしております。
 それは何でかと申しますと、例えば、私の学生のころを思い出してみますと、十年近く前のことでありますけれども、決して薬物というのは遠いものではなくて、手に入れるのもすごく簡単で、また、だれだれが薬を持っているとか、だれだれがそういう経験があるとか、そうしたことが、うわさの段階でありますけれども、すぐに耳に入ってきて、私は問題のある学校に行っていたわけでも問題のある友達を持っていたわけでもない、普通の学生だと思うんですが、普通の学生であっても手に入れることが大変簡単であり、薬というものが決して遠い存在ではなかったように思います。
 その前のもっと昔のこと、例えば小学校、中学校のころを考えますと、確かに教育の段階で、そういうものは絶対にいけないんだ、恐ろしいものなんだということは、先生であったり保健の先生であったり、テレビであったり、教えてもらって、怖いものだ、恐ろしいものだ、いけないものだということはありながらも、年齢を重ねていく、例えば高校生になり大学生になると、身近な分だけ、そういうものに対して罪悪感もなくなり、また、ファッション感覚であったり、先ほど、若者文化であるという話もありましたが、遊び感覚のような形で薬物に手を出してしまう。そうした大変身近なものであるがゆえに、大変恐ろしく、深刻であり、さらにまた、若年層が手を出し始める。そして、どのくらいの人が手を出しているかということに対しては、本当に幅広く拡大していくのではないかと大変心配しております。
 そうした中で、私自身、大変心配していることが一つあります。それは情報化ということです。
 私の学生のときというのは、携帯電話がまだここまで普及しているころではありませんでした。ちょうど大学三年、四年ぐらいになって、友達の中でも携帯を持っている人が少しずつふえてきた、そうした時代でありましたが、インターネット、携帯電話、そうした情報通信のものを通じて薬物もますます手に入れることが簡単になってきたのではないかと思っています。
 先ほど上村参考人のお話の中で、そうした啓発活動に大変力を入れていらっしゃるというお話をお伺いいたしました。私の学生時代というのはちょうど十年ぐらい前になりますが、前とはかなり違って、最近の若者たちというのは、生活環境で、そうした情報化も含めてかなり大きな変化がされているのではないかと思います。ですから、そうした啓発活動についても、最近の情勢をきちんと踏まえて、そうした情報化にどう対応していったらいいのか、そういうことも考えていかなくてはならないのではないかと思っています。そうした情報化の中で、もちろん、いいところを取り入れて、そうした情報というものを通じて逆に正しい知識を身につけるという意味で、いい意味で利用していきたいわけでありますけれども、決して、影の部分を見落としてはいけないのではないかと思います。
 上村参考人、斎藤参考人に御質問したいのですけれども、上村参考人のお立場で、そうした情報化の中で今後どのような啓発活動をしていったらいいのか、もしそのような取り組みがありましたら教えていただきたいのと、私は、この十年ぐらいで世の中の変化が大きくあるのではないかと思っています。といいますのも、先ほど、家族という話がありましたが、家族、家庭、地域、学校、こうしたコミュニケーションの場というのが、コミュニケーションをとるということが子供たちはすごく難しくなっているような気がいたします。子供たちが孤立というか、個として存在しなければならない、それにさらに拍車をかけるのが情報化ということだと思いますが、この十年ぐらいの期間を通じて何か変化というものが見られるようでしたら、教えていただきたいと思います。
 斎藤参考人にも、先ほど、こういうものが若者文化であり、そういうものを否定するのはいかがなものか、でも取り締まらないわけにもいかないしというお話もありましたが、この十年間、大きな変化があるのではないかと思います。そうしたものを踏まえまして、今後の情報化ということも含めて取り組みで御参考になる意見をいただけたらと思っております。
上村参考人 今お話にございました携帯電話が非常に乱用されているということは、警察当局からも私ども聞いております。
 先ほど申し上げましたように、大事なことは、若い人たち、殊に高等学校の子供とか中学校の子供がそういうことには触れないんだという気持ちを持ってもらうことが何よりも大切だと思いますので、先ほど来申し上げておりますようなボランティア活動の中で身につけていただくことが一つと、それから、文部科学省が乗り出される前のことでございますけれども、私どもが中学生、高校生の保護者向けの啓発の資料をつくりまして、各学校を通じまして配ったりいたしております。やはり大事なことは、若い人たちがこういう問題について深い関心を持ってもらうことでございます。それには、若い人たちがあこがれているような人たちにこの運動の手伝いをしていただくということで、いろいろ工夫しておる次第でございます。
斎藤参考人 いろいろなドラッグに興味を持つ子供がいて、そのドラッグを使用したことが仲間内で一種のステータスになったりするというような状況もあるのです。
 かつて、コデインという、一種の麻薬ですが、これは合法的に使える止瀉剤、下痢どめとか、せきどめとかで有効なものですから、それを含む某製薬会社の、幾つかありますが、商品が非常に売れた。甘いシロップ液で、飲むわけですが、せきどめシロップです。この乱用のときに、例えば、固有名詞を出して申しわけないが、慶応の日吉の薬局が、これが非常にたくさんはけるのでびっくりしたと。それで、NHKの報道との兼ね合いもあってちょっと調べてもらったんですけれども、その放送記者の調べによれば、今、名前を出しておいてなんですが、某高校の半分が何らかの形でせきどめシロップを、乱用とまではいかないかもしれぬが、千四、五百だったかを使っていたということがあります。
 このように、一過性に、集団的に使うという特徴がありまして、私が申し上げたいのは、これを水際でとめれば何とかなるというふうに安易に考えるな、こういうことなんでして、取り締まるなということじゃない。だとすれば、そのようなものにはまって、中には、多くは遊び型といいますが、一過性に過ぎますけれども、これが精神依存ないし身体依存に至るという例もありますので、こういうものを前提として対策をお考えになった方がいい。
 となると、一部の取り締まり機関や団体に頼るのは無理だ。今、その対策費をどういうふうに査定するか、いろいろ問題あるでしょうが、ほとんどは、明示的な、目に見える、お国の機関に使われているはずです。多くは、これは司法に流れています。それはそれでいいんですが、しかし、一方で、ダルクのような民間の任意の組織にもう少し注目していただきたい。
 それから、できれば、そういう公的な機関を使うにしても、もう少し薬物治療のセンター的な機能を持ったものが一つ必要なんじゃないかというふうに考えています。そこで人材を養成しながら、各地のボランティア組織がまたボランティア組織の中で自分たちの養成をしているので、行政というのは民間の団体が効果的に動いているときに補助金を出して助成するということがいいんでして、官僚その他が一生懸命頭を使って、これがよかろうと思ってつくったようなものは、大方うまくいきません。ひとつそのことをお考えいただきたい。ダルクは十七年たっていますから。何とか生き延びたんです、自分たちだけの力で。ひとつそのようなことをお願いしたいと思います。
小渕委員 ありがとうございました。
 残り五分ということなので、すぐ、次の質問に移らせていただきたいと思います。
 名執参考人、近藤参考人に質問したいと思います。
 先ほど名執参考人からは、少年院での詳しいお話をお伺いいたしました。子供たち、少年に接する上でのいろいろな問題点とか、また、心の問題であるとかいうことをお伺いいたしました。また、近藤参考人には、ダルクでのそうした青年たちに向けての御自身の取り組みをお伺いいたしました。
 そこで、お伺いしたいのですけれども、先ほど斎藤参考人より、家族という話がありました。私もびっくりいたしました。例えば、女性がすごく多いとか、シングルマザーで薬物に手を出す人が多いというお話を聞きまして、大変びっくりいたしました。薬物を使う連鎖という意味でも大変心配でありますけれども、例えば、少年自身がもう薬を使うのをやめようと決めたところで、家族の中でそれに対する理解や知識が不足していたり、また、一番身近なコミュニケーションを図らなければいけない親がどのくらい理解を示せるのか、少年たちが新たなる出発をする上で大変重要なことなのではないかと思います。
 親に対してどのような指導をされるか、また、例えばダルクの中で一日三回のミーティングがあると言いましたが、そういう中で、家族というものはどういうふうにかかわってくるか、親とか家族とかいうことに関しましてどのような取り組みをされているのか、お二人にお伺いできたらと思います。
名執参考人 ただいまの件でございますけれども、家族に対する働きかけというのは大変難しいものがございまして、もともと、薬物などに手を出すとか、その以前に不良行為に染まっていく過程の中で、どうしても家族の問題が、もう一〇〇%と言っていいぐらい、どの少年にもございます。
 少年は、少年院の中に入って、いろいろなことを考えたり、変わっていこうという気持ちを持って、少しずつ変わっていこうとしているんですけれども、戻っていく家族の方がそれと同じぐらい変わっていけるかというと、なかなかそうではなくて、もう一度家に戻ったときに、ああ、また同じ環境に戻っちゃったということで、がくっとして、再犯に至るなんということも時々ございます。
 少年院の方では、家族との接触というのは、面会のときに、ほんの短い期間ですけれども、そこへ教官が一緒に立ち会いまして、ただ単に、少年と親が会って、大丈夫、元気というような、そういう話し合いの場ではなくて、より深い話ができる、少年の問題を一緒に考えていく場にできるように、教官が介入しながら指導しております。
 また、最近は、最近に始まったことではないんですけれども、親だけを呼びまして、そこで少年との面会の前にじっくりいろいろな問題について話し合って、それから少年を入れて話し合うとか、あるいは、宿泊面会と申しまして、本当に時間がかかるような場合については、出院の前に、それでも短い期間だとは思いますけれども、一日かけてゆっくり話し合うとか、そういう機会を持って、何とか少年と家族、一番大事な場はいずれ戻っていく家庭ですので、そこで少年が受け入れられる体制をつくっていこうというような、そういう努力をしております。
近藤参考人 私たちのところでは、当然、半分以上は家族が最初に登場してきます。本人が直接ダルクに来るわけじゃないですね。半数以上は、家族が子供たちを引っ張ってくるわけです。
 これはとてもアジア的なんですけれども、私たち家族が困るから子供をダルクに入れてくださいという考え方ですね。これはおかしいでしょう。ダルクは、本人がよくなりたいから、アイ・ニード・ヘルプ、私が薬がとまらないから助けてくださいという。
 家族が困るから息子を入れてください、つまり、家族も相当困惑しています。その期間が余りにも長過ぎます。薬物開始年齢が十四・五歳ぐらいから始まります。最初に薬物とかかわる平均ですね。それから十八歳くらいで、どうもやめられなくなる。もうほとんど学校も行けなくなる。もう仕事も行かない。そして、毎日、薬を使うようになる。たった三年間でそういう状態。これを依存形成と言っています。それから二十六歳になって、初めて、どうもおれの薬は自分の力でやめられそうもないなというふうに気づく。つまり、治したくない、治りたくない病気ですから。そして、次に家族が登場します、その時期に。もうほとほと、どうすることもできなくなって、家族が登場します。最初にダルクに相談に来る。それは、使ってもう十年たっていますね。十年、さすが家族は辛抱強いですね。
 これは、だれが来るかといったら、お母さんです。大体、おせっかいお母さんと放蕩息子のカプセルになっていますね。それから、いい子はお父さんの子ですから、お母さんは、いい子も悪い子もお母さんの子です、日本の家族は。そうすると、お父さんは外で待っていても、中に入ってきませんね。お母さんだけは必死です。そういう状況が十数年続くわけです。
 そのほかに少年院とか精神病院とか、その間、いろいろ回ってきていると思いますよ。最終的にダルクに来るわけです。それから、お母さんが登場して三年ぐらいたってから、本人がダルクにようやく登場するんですよ。ダルクに登場するのがそれからまた三年です、二十九歳から八歳の間です。その人たちがダルクで薬を本当にやめようと思うのは、ダルクに来てぴたっとやめるわけではないですね。それからまた二年ぐらいかかるわけです。
 こう考えると、もし、公のシステムで大きなトリートメントセンターとか、そういうものをつくった場合に、結局それが、同じように、刑務所化していく、規則でコントロールしていくというシステムができ上がるわけですね。そうすると、小さいユニットの施設がたくさんあった方がとてもいいと思うんです。大きくある必要はないと思いますね。十人単位のものがたくさんあった方が回復率はとてもいいと思います。
 家族が一番困っている問題は、サラ金問題です。もうどうしようもなく、家族が払っちゃうんですね。払っちゃうから、息子さんは、あるいは娘さんは、また同じような繰り返しをします。そういうことで、経済的な問題で登場してきます。
 私は、家族は家族の人たちで話し合うべきだと思っています。家族は、カウンセラーとか、いろいろなところに相談に行っていますけれども、ほとんど信用していませんから、あちこちのいろいろなところを渡り歩いて、最後は、大体、新興宗教ですね。おはらいとか、そういうところにまで行くわけです。そのくらい本当に切実に悩んでいるのは家族、特にお母さんなんです。
 では、そういうお母さんをどうするかというと、私たちが何かできることではなくて、あなたと同じような人たち、子供を持ったお母さんが何かそういうグループをやっていますから、どうぞそっちのグループに行って自分の困っている問題を話してくださいと。それは、ダルクの会はめぐみ会という会もありますし、ほかには、ナラノンという家族のグループがあります。そういうところで自分の問題に気がついていく。情報を伝えてあげたり、あるいは、回復した家族と、やはり同じですね、回復した家族と出会うことです。その家族からまたいろいろなサジェスチョンを受けたり、いろいろな子供とのかかわり方を教えてもらうというのが一番理想的ですから、そういう家族会に参加させたり、あるいは各地でやっているフォーラム、斎藤先生の講演とか、そういうところに行って家族が団体で勉強する。家族の勉強がとても大事だと思いますね。
小渕委員 時間が参りましたので、以上で質問を終わります。ありがとうございました。
青山委員長 次に、山口壯さん。
山口(壯)委員 よろしくお願いします。民主党・無所属クラブの山口壯と申します。
 きょうは、本当にいろいろな貴重なお話をありがとうございます。
 きのう、資料をいただきましたので、私、一ページ残らずきちっと読んで、また、近藤先生の本も、きのう夜中に一生懸命読んで、一ページ残らずきちっと読ませていただきました。
 今、いろいろお話しになった中で、多分、お話し足りないと思っておられることもたくさんあると思うんです。なかなか、十五分で言い足りなかったこともたくさんあろうかと思います。
 それぞれが違うお立場あるいは違う役目で同じ目的のために邁進されておられますし、我々はこれからどういう社会をつくりたいのか、私自身は、だれも取り残されることがない社会、すべての人にチャンスが与えられる社会、そういうことが非常に大事になると思うんです。
 今、上村さんの方から未然の防止、あるいは近藤さんの方から再発予防、ある意味で少し違った役割、それぞれ大事な役割を果たしていただいていると思うんです。
 お話の中で、近藤さん、例えばダルクは今二十六カ所おありになるというお話で、メリノール宣教会ですか、宣教師さんのグループから、何だかんだ言いながらも、最初の二年間、月々八十万の貴重な援助があった、その後二年間は、さらに月々四十万の支援があった、それでやっと何とかされてこられたんじゃないのかなと。そういう意味では、予防の方には大きな予算が回されているけれども、再発予防、一たん薬物に手を出してしまって困っておられるというその再発予防、これはスリップと言うんでしょうか、クリーンな状態からスリップしてしまうことを予防する、そのための予算がなかなかないんじゃないのかということを指摘されたと思うんです。
 どうでしょうか、近藤さん、これからダルクというのがそういう政府からの支援なしに自由にやっていかれた方がやりやすいのか、あるいは、何らかの支援があればさらにこのダルクという活動が支えられることになるのか、その辺についてお聞かせいただけますか。
近藤参考人 とてもすばらしい、うれしいですね。もうこれだけで十分ですけれども。
 確かに、アメリカの宣教会からお金が投げられました。それから、大分前に、多分、ブッシュさんが来日したときに、何でお金を置いていったのか私もよくわかりませんけれども、アメリカのコンピューター会社のプログラムマネジャーが来て、何か必要なものがありませんかと言うから、お金が必要ですと言ったら、ああ、そうですかと小切手を切っていったんですね。うそだろうと思って次の日に銀行に行ったら、ちゃんとお金になりました。
 日本の会社は、財団もそうですが、机やコンピューターや要らないものを買う。欲しくないもの、必要ないもの、しかし、領収書と請求書と見積書が出るものを買う。ダルクは、テーブルとか、いすとか、コンピューターとかは要りません。最も必要なのは、スタッフを養成して、そのスタッフが次の人たちに役に立つような教育を受けたり、カウンセラーの免許を取得するために海外へ行って勉強したりする、そういうお金が必要ですね。人にかけるお金が必要、それがダルクなんですよ。テーブルや建物、そういうものは必要じゃないんですね。そうすると、どこの財団もお金を出してくれません。
 そういう意味では、人を育てていくということは、「ダメ。ゼッタイ。」運動の方もやっていらっしゃると思いますけれども、薬物に関係のない人たちを教育してもだめだ。余り意味がないですね。
 先ほど言ったように、どういうことが回復にとって役に立ったのかといったら、回復者が一番支援してくれたと。つまり、昔、薬を使って、今、立ち直った人たちを再教育して、そういう人たちをリカバードカウンセラーとか、あるいは何か免許を取得する、そういう国家の試験を国が制度をつくっていく、そういうことをやっていかないと、薬物をやったことのない人から、おまえ、薬は悪いからやめろよと言われたときに出てくる言葉は、やったこともないやつに言われたかねえよというのが、これがほとんどの子供たちの反抗です。つまり、同じ立場じゃないんですよ。
 そういうことでは、当事者をどんどん登用していくために、その当事者にお金をかけていくということがとても貴重だというふうに思います。
山口(壯)委員 ありがとうございます。
 確かに、近藤さん、今おっしゃっていただいて、この本を全部読ませていただいたものですからついつい頭に入ってしまっているんですけれども、近藤さん御自身もそういう御経験をお持ちの中で、今そういう立場で仕事をされているということはこの本でよくわかりました。
 アッセンハイマーさんという神父さんにお会いになられたときも、アッセンハイマーさんが、自分もアルコホーリックだということで、最初は、またそんなことを役割柄言っているんだろうというふうに御反発になったということも書かれておりましたけれども、確かに、そういう経験を持たれた方が次の仲間を救っていくための支援というのは、したがって、近藤さんの今のお答えでいけば、非常に有要だ、特に人を育てるための支援は有要だということとして受け取らせていただいてよろしいですね。
 上村さんにもせっかく来ていただいていますし、そういう意味で、私自身、非常に興味を持ったのはキャラバンの車ですね。全国に八台、お持ちになっている。例えば若い人が薬を使うことによってどういうことになるかというのを、ビデオとか写真とか映画とかで、そのキャラバンの車の中で、一台当たり大体二十人というふうに資料で出ていましたけれども、そういうことで、全国で八台持っておられる。
 どうでしょうか、こういうことでもって若い人が視覚的に、ビジュアルにそういうことを感じるということが予防という観点からいったら大事だと思うんですけれども、そういうキャラバンをたくさんの方が使っておられるんでしょうか。あるいは、質問をもう少しつけ加えさせていただくと、学校でキャラバンの車にあるようなビデオとか映画とかを見てもらう、あるいは見せるということについての上村さんの御意見はどうでしょうか。
上村参考人 キャラバンカーに、ビデオとか模型とか、そういうものを搭載しておりますが、あわせまして、その啓発のためのビデオをつくりまして、関係方面に貸し出しをしたり、お配りをしたりいたしております。
 キャラバンカー八台で全国を回っておるわけでございますから、どうしても限度があるわけでございますね。民間のいろいろな啓発活動の団体がございますから、そういう人たちがそういう活動をするのに役に立つようなビデオとかパンフレットとか、そういうものは相当たくさんつくって配っております。
山口(壯)委員 名執さんにもいろいろな意味で現場で御苦労いただいて、特に私自身、今御意見いただいた中で、それぞれの少年が、変わりたい、変わりたいというふうに思うところまで持っていくのが一番大事だということを非常に印象的に承りました。多分それが、実は今の日本社会全体についても言えるんじゃないかと思うんですけれども。
 名執さん、いろいろ現場で仕事をされていて、国会で予算を扱ったりいろいろな法案をつくっていく中で我々がこれから参考にさせていただくために、名執さんの御希望として、例えばこういうことができればいいのになということがあればお聞かせいただけますか。
名執参考人 ただいまの件でございますけれども、近藤参考人からもありましたとおり、やはり矯正の方も人が原則だと思っております。
 少年たちが少年院を出るときに何を一番言っていくかというと、先生ありがとう、それから、支えてくれた仲間ありがとう。この先生や仲間との出会いというのは、少年院を出た瞬間にすべて切れるものなんです。ですので、先ほどのダルクのように、ずっとその後も支えてくれる人というのは今度は社会の中で見つけていかなければならないんですけれども、それであっても、少年院での先生とそれから仲間に支えられた思い出、それを胸に出ていくんです。
 そのときに、職員は、本当に二十四時間、少年を抱えて働いておりますので、なかなか専門的なものについての勉強をする時間もありませんし、何せ、人が本当に足りません。やはり人間ですので、みんな、人との中で成長し変わっていこうとしていくものですから、少年院の中でも、やはり先生の数それから質、その向上が一番大事ではないかと思っております。
山口(壯)委員 どうもありがとうございます。
 斎藤先生、先ほどお話しいただいて、ダルクの自助グループ、そしてまた医療の専門家であられる先生方の連携というものの大事さということに言及されたわけです。
 もともと近藤さんと斎藤先生とは非常に連携して仕事をされているのかなという印象を本の中からも承ったわけなんですけれども、先ほど名執さんに私がお聞きしたのと同じ趣旨で、例えば予算面とか、これから法律をそれなりに整えていくという観点から、斎藤先生の御専門の観点から、こういうことを厚生労働省の関係でもできればいいんじゃないのかな、こういうことができれば予防というか、あるいはさらに再発予防というんですか、スリップ、そういうことを防げたりということ、もしも何か具体的なことがあれば教えていただけますか。
斎藤参考人 まさに一番難しいところが、だからやられていないんだろう。よく明示されている部分については、それぞれ担当部署があり、責任者がいる。だけれども、それでは効果的でない。
 要するに、問題というのは、物に名前がつけられて初めて、そこに存在するものとか、その質とか、その対策がわかるんです。私、子供の薬問題というのは、まだ日本では名がついていない問題だと思う。だから、二万人だとか一千五百人だとか、そういう話がいつまでもまかり通る。これは児童虐待やDVの問題と全く同じです。名前がそこにつけられない限り、そこに問題があるようには思えない。ありふれた問題であれば、これを一つの機関が対処して済ませられるとは思えない。
 だから、法的な整備というのは、児童虐待からDVの問題から、皆さん御努力いただいて、このごろの展開に私自身も市民として驚いているが、ありがたいと思うが、しかし、今できているものは欠陥が多過ぎる。この薬物問題については、何もない。まさに名がついていない問題である。それに名前をつけていただき、その実態を把握していくという仕事はこれからだろうと思う。
 そのときに、法的な整備の問題からいうと、これは、薬物乱用問題、DV問題、児童虐待問題、ドメスティック・バイオレンスというのは何と言ったらいいのかな、夫婦間暴力問題ですね、これらすべてを通じて、ダイバージョンシステムといいますか、これを司法で、刑務収容して三食食べさせるというのはコストが高過ぎるし、場所もつくらなくちゃいけない。そういうようなことでもって、高額なもの、高額なものと考えて施設をつくっても、その施設が、それが法務省下であろうと厚生労働省下であろうと、それは施設職員のものになってしまう。それが私の考えです。ダイバージョンシステムというのは、振りかえシステム、つまり、例えば殴る男、触法少年と言われるようになっちゃった子供、これを少年院に入れるのではなくて、振りかえシステムの中に入れて、それがちゃんと活用されているかどうかを査定する。例えば、ダルクがその受け皿になる可能性はあります。だけれども、それを支える法的整備がない。
 DVや児童虐待にも同じ問題がある。加害者はどうするんだという加害者対策が全くない。被害者保護の問題だけ。だから、下手をすると、被害者がずっと逃げ回ったまま一生を送らなくちゃいけない。加害者を刑務所に入れる。あれは犯罪ですから刑務所に入れる。そのお金は大変かかります。そうじゃなくて、これを、受け皿、治療機関にちゃんと通っているか、週一回のミーティングに出ているかということを査定し、それを裁判所が一々チェックする。私はアメリカのDV法廷を見てきましたけれども、三十分ぐらいの間に二十数人をチェックしていました。それで、その間に殴っている夫がいれば、手錠をつけて、隣がジェイルですから、そこへ入れちゃう。このような機能的な制度というものが日本には見られない。ごめんなさい。DV問題の会じゃないんですが、しかし、すべてがそうだから。
 この青少年薬物問題では、ダルクというものが本当に必死の思いで生き残ってきているんですから、これを受け皿にして、今度は法的整備として、すぐ少年院とか矯正施設じゃなくて、まずそこに執行猶予をつけて、執行猶予をつけなくてもいいのかな、とにかく裁判官判断で通わせるというシステムをつくる。そして、それを査定する人をつくる。この人材というのはダルク自身が養成すればいいし、あるいは、一般ボランティアの中から一定の人を訓練して、コセラピストといいますか、専門職としての心理職の資格じゃなくても、別な資格制度も必要になってくるでしょう。こういうような、民間人で志のある人が一定の講習のもとに自分のカウンセリングの使命感に燃えてやっていただくようなものを制度化できないものか。
 例えばアメリカの犯罪被害者法では、アドボケートという制度があります。アドボケートは何と訳すのでしょうか、権利代弁者とか権利擁護者とか言われていますが、これは別に法律家じゃなくても精神科医じゃなくてもいいんです。裁判に付き添ったり、例えば、性的被害を受けた、レイプされた女性に付き添って警察官の二次被害がないように見張ったり、そういう制度ですよ。これはみんな、市民が応募して講習を受けたりしてなります。そのことは犯罪被害者法の中に、このアドボケートというシステムが明示されています。書かれています。法文、条文に書かれていないと日本では機能しませんので、どこの国でもそうでしょうが、そういうことが今私が皆さんに一番申し上げたいことでございます。
 どうもありがとうございました。
山口(壯)委員 どうもありがとうございます。
 我々みんな、それぞれ使命を持っていると思いますし、立ち直ろうとしているそれぞれの少年たちも使命を持っていると思います。そういう意味で、すべての人が使命を実現できるような、そういう社会に向けてともに頑張らせてください。
 きょうはどうもありがとうございました。
青山委員長 次に、丸谷佳織さん。
丸谷委員 公明党の丸谷佳織でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 十五分という短い時間ですので、早速、質問に入らせていただきたいと思うんです。
 本日、四名の参考人の皆様から御意見を賜りまして、この青少年と薬物乱用の問題に関しまして取り組むべき四本柱というか、一つ目は、興味本位から青少年たちが薬物の乱用に走っていくことを事前に食いとめるための予防策、二つ目は、興味本位であっても、一回使用した、次の二回目あるいは三回目、四回目をどうやって防いでいくかというそのやめさせ方、三つ目は、自分でやめようと思ったときにどのようにリハビリあるいは社会復帰への道の手助けをしていってあげるのか、そして四つ目としては、再発をどのように予防していくのか、この四点について、政治の面からでも環境整備でできることは非常に多いなというふうに感じながら、お話をお伺いしておりました。
 そこで、まず上村参考人にお伺いしたいのです。
 公明党としましても、この青少年と薬物の問題にずっと取り組んでまいりまして、薬物乱用防止キャラバンカーを少なくとも全国八ブロックに一台ずつは欲しい、増設するべきだという議論を今までしてまいりまして、今は八ブロックに各一台ずつあるわけでございます。それは非常に大きな結果を生んでいると思いますし、また、全国二万人の指導員の積極的な活動により、子供たち、それからお母さんも一緒に見ていただいて、こういうことを子供たちにやらせてはいけないというふうに学習されているという話、体験談も多く聞いているわけなんですけれども、八台の稼働実施状況を見てみますと、地域差があるなというふうに思います。多く稼働している地域と、あるいは、あき、あいている日がある地域というのは実際にあるわけなんですね。
 私たちも、いろいろな党の活動を通しまして、お母さんと子供たちにこの薬物乱用防止キャラバンカーを利用していただくような機会を多くつくっているわけでございますが、ぜひ財団としても、営業というと実利を得るわけでないのでちょっと言葉が違うかもしれないのですけれども、どんどん積極的に活用していただけるように、地域あるいは教育委員会ですとか、そういうところにもっと働きかけをしていくことによってこのキャラバンカー八台がフルに使われることになると思うんですけれども、この点について、今後の努力も含めて御意見をお伺いしたいと思います。
上村参考人 改めて申し上げるまでもございませんけれども、全国八つのブロックごとに一台置いておりますので、地域によりますと、活動日数が少ないところもございます。お互いに補うように私どもの事務所で調整しておりますが、どうしても車の置いてある場所に近いところの方が出動しやすいことは確かでございます。
 近畿地方では、大阪の堺それから神戸に置いてあるわけです。神戸の方は四国までカバーする。北海道は札幌、それから東北地方に置いてあるわけですが、北海道の場合、冬は非常に動かしにくいというふうな事情もございまして、場合によりますと、関東の方に車を持ってきたりするような運用の仕方もいたしております。
 できる限り地元の、置いてある地域の要望にこたえられるように配車はしておりますけれども、どうしてもそこに凹凸ができてくることは避けられませんで、何とかそれが調整できるようにしていきたいと思います。
 平成十三年度の場合には、年度の途中で、余りにも方々から要請がありますので、自動車がうまく稼働できるかどうか心配になりまして、しばらく保留したような時期も出てこざるを得ませんでした。御要請があったように、何とか満遍なく、といいましても、要請される地域が多い地域と少ない地域がありますので、そこにどうしても限度が出てまいる点は御了承いただきたいと思います。
丸谷委員 今おっしゃったことを踏まえて、私が申し上げたいのは、もっと地域にどんどん積極的に使用してもらえるように、このキャラバンカーを十分使ってくださいというアピールを、町内会でだって使っていただけると私は思いますし、教育、学校の現場だけじゃないんですね、地域の問題、あるいはそこの全体の問題として使っていただけるような積極的な宣伝活動も、キャラバンカーの有効利用もしていただきたいというお願いを再度申し上げておきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
 続きまして、近藤参考人にお伺いしたいと思うのです。
 お書きになられました「薬物依存を越えて」という本を私も拝読いたしました。その中で感じましたことは、シンナーを吸い始めた子供に対して、家庭の中で何とかやめさせようとしていくうちに、大抵のケース、十数年が過ぎて、そして非常に残念な結果、親が子供を殺してしまうという事件の例も書かれていましたけれども、この十数年の間、本人も家族も何とかシンナーをやめようと思っている間、本人と家族の取り組みでしか、あるいは努力でしかなかったのかな、もっとほかに助ける手段がなかったんだろうか、しかも十数年も長い間、そういうことを感じながら思ったわけです。
 例えば、ハワイの例も挙げていらっしゃいますけれども、この解毒センターといいますか、やめようと思ったときに駆け込めるようなシステムは日本にはまだ足りないというふうに御意見でおっしゃっていらっしゃいましたけれども、環境づくりとして、これは政治の場ですぐできることだというふうに思いますが、この点についてちょっと参考の意見を聞かせていただきたいと思います。
近藤参考人 私は、三年前にグアム島に行きました。グアム島で、少年や青年たちが健康保険を使わないでトリートメントできるというので、そこがとても興味深かったのですね。なぜ、保険証を使わないでそういう治療に結びつけるのか、そのシステムをちょっと勉強したかったのです。
 グアムのシステムでは、びっくりしたのは、子供が治療しやすいように、お父さんやお母さんや家族にも知られない、学校の先生にも知られないようにして治療できるために、子供のアナニミティー、匿名性、そのためにそういうシステムがあるんだということを聞いて、つまり、何か制度があって、そうじゃなくて、第一にすべきことは、だれのために、どうして、何のためにそういうものが必要なのかということ。
 子供の薬物問題は、恥、家族の恥、社会の恥、そういう部分が日本は特に強いでしょう。そうすると、抱え込んでしまうわけですから、家族が何とかできると思って一生懸命やればやるほど、依存症ですから、どんどん強依存になって回復の方に向かわない。
 何か日本にも、未成年者の薬物乱用者に対するそういう具体的な対策というのですか、つまり、治療したいと思ったら、名前も何も要らないよ、それからインテークも要りません、あなた、薬物の問題を解決したかったら、名前も要らないし医療費も免除しますよ、どうぞ来てくださいというような、そういうシステムが必要だと思います。
 もう一つは、きのう夜中に韓国から帰ってきたのですが、韓国のケースはとてもひどかったのですけれども、とにかく、ダイバージョンですね。犯罪者をつくらないということ、犯罪者をつくると、犯罪者の家族、子供がふえていって、結局、国のために何にもならない。犯罪者をつくるだけじゃなくて犯罪から回復の方にそらしていく、そのシステムを、今、APARIという、そちらの方に資料が入っていますけれども、保釈で出た人たち、あるいは執行猶予で出た人たちが、その間、その中で勉強したりミーティングしたりする場所なんですが、それは群馬県藤岡というところにあります。
 古い、つぶれたホテルを月三十五万で借りて、一生懸命頑張っています。裁判の際、保釈金を積んで、つまり、保釈金を積めるような裕福な人ですが、保釈金を積んで出て、刑期を言い渡されるまでの間の教育をそこでやっているんですけれども、とてもすばらしい効果が出てきますね。一度また刑務所へ戻っていく人たちも当然います。でも、帰ってきてから、もとの場所に行かないで、直接またそういう場所に戻ってくるということで、アフターサポートの中では、APARIの保釈プログラムというのはとても有効に機能しております。
 もう一つは、何でしたか。(丸谷委員「例えば解毒センターとか、このような公的な機関があったらということについて」と呼ぶ)
 斎藤先生を目の前に、医者は役に立たないということは余り言いたくはないんですが、医療は、違う病気をまたつくってしまいます。病気にならないと病院に入らないでしょう。それから、病院というところは、薬物依存にどういう治療をするかというと、やはり投薬治療をします。依存症ですから、投薬治療に今度は依存していきます。つまり、生きる力をどんどんそいでいきます。
 だから、そういう人たちが、薬を飲みながらミーティングに出たり、いろいろな地域の自助グループに参加しても、余り効果がないということになりますから、何かトリートメントセンター、とりあえず急性期の一番最悪な時期に解毒していく、そういう場所はないんですね。電話をかけまくるんだけれども、ほとんどが、医者がいないとか、ベッドがあいていないというのが理由ですね。
 そういう意味では、精神保健センターなんかは、どこでも町の真ん中にあるんですから、医療もあるわけですから、ああいうところがそういう急性期の患者さんをやってくれたらとても助かるんですけれども。わざわざそのために病院をつくる必要もなく、そういうお医者さんがいて、カウンセラーもいるわけですから。ただ、土日が休みとか、何曜日は何時までということなので、曜日にかかわらず、いつでも急性期にそういう場所があれば、とても私たちは助かるわけです。
丸谷委員 斎藤参考人にお話をお伺いしたいのですけれども、先ほどの発言の中に司法に関する御発言もあったわけなんですが、日本の法体系と例えばオランダなんかでは、合法ドラッグですとか、そういったところで基準が違ったりします。こういったことも含めて、現在の日本における薬物を囲む法体系、法体制について、何か御意見があればお伺いします。
斎藤参考人 先ほど来話しているように、ドラッグ問題というのは一つのカルチャーだと思います。日本の場合は、一定の薬物に思い定めて、これをどうやって入れないかということに極力邁進してきた。そして、それらを、麻薬ないし覚せい剤、大麻というふうな取締法をつくって取り締まってきた。これが我々のカルチャーです。だけれども、それはちょっともう限界に来ているんじゃないですか、こうお話ししたわけですね。
 私たちが今必要としているのは、先ほどダイバージョンシステムの話が出た途端に近藤さんの体験が出てきましたけれども、今、そのような司法の直前の問題を治療で補うというような考え方、これは残念ながら日本の考え方ではないんですが、これを必要としていた国というのは、その問題に早くから名前をつけ、気がつき、その数が膨大であることに気づいた国、そうなると司法がこれを賄い切れないことがわかっている国で発達してきた。そういうところでは、自助グループや、さっき話が出たアドボケートを非常に活発に使っている。これは、そのような国が不幸だというふうにお考えにならないで、日本はそのような問題を見ないできた、こういうのを否認といいますが、否認してきたというふうに考えた方がいいのではないかと思う。
 それから、ドラッグの取り締まりについては、私もWHOのジュネーブの特別委員会に、九五年まで十年間にわたって参加してきました。そこでの一般的な傾向を申し上げますと、ハードドラッグと言われているもの、日本で麻薬と言われているものの一部を解禁していこうと。特にマリファナについては、たばこがなぜ公認されていてマリファナはだめかみたいな話まであるくらいで、マリファナ・イエス、たばこ・ノーなんという話もあるわけです。
 しかし、体制として、日本はせっかくこれだけ、百年以上かけて一生懸命やってきて、それなりに効果もあったんです。とりあえず、この問題が隠れた問題におさまっていたということはやはり認めなくちゃいけない。
 だから、これを全く転倒するような、例えば、コカインその他を市場に、マーケットにはんらんさせてしまえば、アメリカみたいにこれに悩んでいる国は、定価が下がりますから麻薬ビジネスが成立しないので、ブラックマーケットをオープンにしちゃうことによって効果が出てくる。
 それから、例えばヘロインにおけるコデイン、代替療法というのがありまして、割と軽い薬物、麻薬を使って、それを上げるからヘロインはあきらめてねという治療法ですね。
 それから、針でエイズの感染が大変問題になりますので、これはスイスとかオランダ、アムステルダムが特にそうですが、針を上げるからこれを使ってちょうだい、使い回しをしないでねと。
 でも、これらの国は非常に追い込まれているんです。私は、ジュネーブに毎年行っていたころ、土地のテレビを見ていましたら、ジュネーブですからスイスですが、山中にたくさんの血のついた注射器と針が発見されたみたいなニュースがあって、このような問題がもう日常茶飯事になっている。私がエイズになったのは国がヘロインを非合法化していた結果で、それでやみで使ったからこういう病気になったといって政府が告訴された国はスイスです。私たちがスイスという国に持っているイメージとは大分違うが、しかし、こういうのとは全然違う国を日本が目指そうと思っても、それは無理だと思う。
 そうなると、先ほど言ったような、効果的な、専門家に限ってそこで密室的に処遇しようとしないで、近藤さんが言ったように、私は精神科医として、このドラッグの問題の対策に失敗したこと、私の一人の力じゃどうしようもないことを認めます。我々ができるのは、せいぜい解毒治療です。デトックス、これは急性期の人を死なないように管理することですね。さめたら帰す。数日の入院です。多くは一日だけです。しかし、これ一つつくろうとしない。
 では、この人たちはどうやっているかというと、いわゆるトラ箱と呼ばれているのが、アルコール依存という薬物乱用についてだけは、警察官が処遇して、さめてから帰すということをやっている。この辺ですと鳥居坂、その他全部で四カ所あったと思いますが、これはデトックスです。
 しかし、デトックスが医療の中ではなく司法の中で取り扱われているのは、デトックスというのは解毒ですね、こういう国は珍しいのではないかというふうに私は思います。
丸谷委員 名執参考人、時間がなくなりまして申しわけありません。
 以上で終わります。ありがとうございました。
青山委員長 次に、武山百合子さん。
武山委員 自由党の武山百合子でございます。
 きょうは、本当に現場の忌憚のないお話を伺いまして、私は、実はきょうピンチヒッターで参ったのですけれども、胸の痛い思いをしながら聞いておりました。
 どこの国も、この問題はやはり大人が原因をつくっているということに尽きると思うんですね。やはり大人の力で解決していかなきゃいけないので、子供に対しても大人がきちっとそういう方向性をつけて、だめなんだということを教育しなければいけない。これはもう大人の問題に尽きると思うんです。
 まず、財団法人乱用防止センターの上村さんにお願いしたいと思います。
 欧米と比べますと、日本は、防止のために、もう大上段から構えて切り口をするわけですが、実際は、草の根できちっと対応していかないと、本当にこれを未然に防ぎ、予防するというのは非常に難しい問題だと思うんですね。
 それで、ダルクの近藤さんのところでやっているNPOとしての活動というのは、欧米では、近藤さんのようなNPOが物すごくたくさんあるんですね。そこが多種多様な活動をして、社会に、また学校に、そして地域に大きな影響を与えておるわけです。ところが、日本は、NPOとしてまだスタートしたばかりだということで、大変御苦労が多いと思うんですね。
 そこで、上村さんが、多種多様な団体、またお医者さん、少年院、それからダルクのようなところと連携して、よい意味の相乗効果を持たせるということが大事じゃないかなと私は思いますけれども、そういう連携はしたことがありますでしょうか。
 それから、この防止センターで、どれだけの人数で日本の国内をカバーしているのか。人数と、それから、支部みたいなものがあるのかどうか、防止センターの内容についてお伺いしたいと思います。
上村参考人 まず、覚せい剤の中毒になった方々の団体と連携して行動したことはございません。
 と申しますのは、私どもの団体というのは、「ダメ。ゼッタイ。」というスローガンで象徴されておりますように、一度たりとも薬物に染まらないようにというのが重点でございますから、専ら連携いたしますのは、若い人たちのボランティア活動でありますとか、ライオンズクラブでありますとか、あるいは薬剤師の団体でありますとか、そういうグループでございます。何といいますか、住んでいる世界が少し違うと申し上げた方がいいんじゃないかなと思います。
 今も私、お話を伺っていまして、皆さん、一度中毒になった方は、回復するために非常に苦労されているわけですね。苦労させないようにしようというのが私どもの運動の目的でございますし、一つの民間団体でございますから、自分の主張に沿って行動してまいりたいと考えております。
 それから、薬物乱用防止の指導に当たっておられる方々というのは、ボランティアでございますから、数えたことはございませんけれども、その中核になっている方々は全国で約一万九千人ぐらいというふうに御理解いただきたいと思います。
武山委員 全然連携していないというところで、びっくりして、がっかりしたのですけれども、そこの頭の切りかえをしないと、よくはならないと思います。
 この会ができたのは一九八七年ですか、それから社会状況は物すごく激変していると思います。その当時の、設立のままの考え方でやっていたら、それはもうお役所的な縦割り行政の中の事なかれ主義で、前に進まないと思います。ですから、ぜひそこは皆さんの考え方を変えることが、意識の転換、それが非常に大事だと思います。それをぜひお願いしておきたいと思います。考えてみていただきたいとも思います。その辺をぜひ考えていただいて、今、それによって、大きな、よい意味の相乗効果が上がるであろうと私は思いますので、ぜひそこはお考えいただきたい、まあ言葉足らずですけれども、お考えいただきたいと思います。
 それから、近藤さんにお尋ねしたいのですけれども、いわゆる回復してからどういうところに皆さんは就職されているのか、その就職状況をお聞きしたいと思います。
近藤参考人 依存症になった人たちが回復して社会復帰するというのは、とても大変なことです。
 つまり、私たちは、毎日七時からの夜のミーティングに参加することになります。毎日です。それがいつまで続くかというと、それはだれにもわかりません。とにかくミーティングに毎日出席する。そうすると、残業がまずできない。それから、休みのときもちゃんと出なきゃならない。そういうことが出てきます。
 それから、正業というんですか、ダルクの人たちが大会社に勤めているということはありません。ほとんど、フリーターとかコンビニ、時間給で働いている。
 それはどういうことかというと、生活をとるよりも人生をとるという、そっちの方をとった人たちというか、両方とれないんだ、とにかく今自分に必要なのは薬物をやめ続けることを第一にしていく、そのために、仕事は次でいい、生活できればいいという。だから、とても悲惨な、大変な――そして、月に一回くらい、グループのセレブレーティング、お祝いをしたり、自分の誕生日、一年やめた誕生日、二年やめた誕生日、それから仲間の誕生日、そういうところに行って一緒に喜びを分かち合うというか、そういうことをやっているわけですね。つまり、それが回復なんだよということなんですけれども、大変ですね。
 それから、国際的には、NAのワールドコンベンションですか、いろいろなところでコンベンションがあって、そこに参加して、回復者の人たちがお互いに元気でいると。後楽園くらいの球場でやりますから、そこがびっしりになります。世界じゅうから五万人くらいの人たちが集まってきます。そういうときに、その場に行って、よし、おれもこれからまた頑張ろうという気になってくるわけですね。
 なかなか日本社会の中で薬物依存者が回復する土壌が、難しいわけです。そういう意味では、何かそういう人たちの特殊な仕事が本当に必要になってきます。
 それは、一つは、ダルクということもそうですね。二十六カ所には二人ぐらいのダルクのスタッフがいるわけですから、それだけで随分、職場づくりにはなっていると思います。それから、長野県で今始めたのは、古い温室を七棟借りて、そこで白菜をつくって、キムチをつくって売っているとか、そういうダルクもあります。
 ですから、薬を使わないんだったら昼寝しても十分だというふうに、いつも励ましています。薬さえ使わなきゃ、あなたはそれだけで十分で、社会復帰なんか考えないで、もう薬を使わない、それだけで家族はどんなに幸せかわかんないよという激励の仕方をしていますから、余り社会復帰に対して、いい会社につきなさいなんというのは、ほとんど学力もないですね、大体十四歳からほとんど勉強していませんから。
 そういう人にもう一度勉強できるようなチャンスが、今、廃校とかいろいろあるわけですから、文部科学省も、ダルクの人たち以外の青少年のためにそういう場を提供して、その場があれば、つまり巣があれば、そこで必ず、役割を持つ人が必要になってきます。必ずそこで、回復できる役割を持つ、担う人たちが育っていきます。場がないと何もできません。
 だから、青少年が困ったときに飛び込んでいけるような場をぜひ国家的に、意識的にですか、つくっていただければ、そこに、場に必要な青少年が必ず育っていくと思います。場がなければ、何もそこからは発生しません。
 ありがとうございました。
武山委員 どうもありがとうございます。
 そういう方々が、財団法人、国で行っているのは財団法人しか今ありませんけれども、そういうところに就職できるような社会になったらいいかと思います。
 例えばアメリカは、アルコール依存症を克服した方が州とか市町村の、いわゆるアルコール依存症で捕まった人たちの対応に当たっているんですね。自分たちが克服してきたものですから、よく対応がわかっているわけなんですね。そういう職場が、門戸が開かれているというふうにアメリカ社会はなっているわけですね。
 例えばアメリカでは、地方分権されているわけですけれども、市町村の中学校、高校で、親子で年に二、三回、私も子供がアメリカ生まれなものですから、私もあちらで生活していた中で、必ず親子で薬物の、夜、必ず開かれるんですが、必ず出席するようにということで、親子で出席するんですね。そういうものが非常に地元にネットワークができておりまして、それはPTAと地域が主催するわけですけれども、日本の場合はそこまでいっていないんじゃないかと思うんですね。ですから、学校の先生も右往左往して、どう対応したらいいかわからない。それはもうグラスルーツでそういう多種多様な依存症に対する知恵を出し合って、そして、NPOが育っていないという現実があるわけですね。
 そこで、斎藤参考人にお聞きしたいのですが、今、日本が縦割りでそれぞれの立場で活動はしておるわけですけれども、先ほど、どうもそれに連携がないというところが欠陥だと。私も、お話を聞いていて、そのとおりだと思うんですね。それで、片や財団法人の方としては、趣旨が違うからそういうつもりはありませんとおっしゃったのですけれども、まず何をしたらいいか、幾つか提示をしていただきたいと思います。
斎藤参考人 ストップ・ザ・ドラッグの運動もそうですけれども、アルコールにもアルコールの、厚生労働省の人が天下っている財団があるわけですよ。ああいうところは全く役に立っていない。ない方がいい。ああいうものに資金が流れ込んでいて、何の効果もない。今あるものだから活用するというお考えは賛成です。それはいいと思う。
 しかし、なぜ本当に有効なものに金が使われていないかと言えば、それは難しいからです。例えば刑法の改定なんというのは、これはいまだに明治語で書かれているようなものをどういうふうに直していっていいんだか、総力を結集して知恵を絞らなくちゃいけない。それは、考えたって、考えている人たちは個々に考えていて、それが一つの運動体にならない。これこそ、まさに政治家の仕事だろうと私は思います。
 私は、児童虐待防止法、簡単にそう言いますが、それができるのに、あとこの世紀の半分を経なければいけないと思っていたのに、できたじゃないですか。私はびっくりした。それは、そういう意識を持った方が議員の中にいらっしゃってできたんです。驚くべきことで、欠陥はあると先ほど言いましたが、しかし、ないとあるとじゃ大違い。
 私は、今必要なのは、アメリカ流に、AAのアドレス帳だけで東京の電話帳ぐらいありますよ。各種のAAがありまして、例えば、日本で出されている英字新聞だって、どこでイングリッシュスピーチのAAの会合があるかが一面に載っています。それを見て、アル中のビジネスマンは、ビジネスミーティングの後、バーに行かないで教会に行くんです、そこでAAミーティングをやっていますから。このようにして、地域の中に互助的なあるいは自助グループ的なものが組み込まれているという社会にいずれならなくちゃいけない。
 私たちは医療専門家ですけれども、その限界をよく知っています。その限界はどこにあるかといったら、今私が幾つか挙げたような問題、家族の中に生起する問題や、患者さんが治してほしいといって出てこないような問題、隠れた問題について無力です。無力であれば、それはどこかと連携しながらやっていかなくちゃいけない。
 そのようなものにお国が対策というと、必ず財団をおつくりになる、あるいは何とか委員会、あるいは精神衛生審議会みたいなもので審議なさる。まず医学がやらなくちゃいけないことは、教育でしょう。新しい医者がドラッグ依存のことを知らなくちゃいけないし、アルコール依存のことを知らなくちゃいけない。
 私はそのことについて生涯をささげてきたと言ってもいいぐらいだからいろいろなことを知っていますが、私は客員講師としてはずっと慶応にいましたが、しかし、教える機会がありません。なぜか。教える必要がないと現在の教授たちが考えているからです。この二十年あるいは三十年にわたって、医学教育の中にドラッグ依存の問題や、まして自助グループとの連携の問題が説かれていることは一切ない。むしろ、私と連携しているのは、今は弁護士ですし、かつては内科医でした。私は精神科医の一人として恥ずかしいが、しかし、これが現状だ。私は、そのことについて皆さんにこうしたらいいんだということを申し上げるような立場ではない。むしろ、皆さんと一緒に考えたい立場でございます。
武山委員 どうもありがとうございました。
 今までの発想の財団はもう役割を終えたと思うのですね。これからはNPOが育つ時代ですので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました。
青山委員長 次に、石井郁子さん。
石井(郁)委員 日本共産党の石井郁子でございます。
 薬物乱用という大変深刻で、しかし重大な問題、そして、それにかかわる今日の日本の青少年の状況等につきまして、きょうは、四人の参考人の方々それぞれの立場からの取り組み、そしてまた御見解もお聞かせいただきまして、本当にありがとうございます。
 私も、きょう伺って認識も新たにいたしまして、薬物というその独自な問題もございますけれども、やはりいろいろな問題と関連しているなということもいろいろ教えられた気がいたします。そういうことで、そういう広い視野でも取り組んでいかなければいけないというふうにも思いました。
 そこで、最初に、この薬物乱用と言われるような実態ですね。皆様方はもう取り組んでいらっしゃるから前提として余りお触れにならなかったのかなと思いましたので、改めて、今日の危惧されるような状態、これは一九九〇年代になって日本社会で大変大きな問題になっているという言われ方もされるかと思いますけれども、今日的な深刻な実態をどういう具体的な内容で考えていらっしゃるかということを簡潔に教えていただければというふうに思いますが、お一人ずつ、いかがでしょうか。
 薬物の深刻な実態という問題について、どういう具体例で把握されていらっしゃるかということです。だから、量が広がっているという問題なのか、学校でももう子供たちが吸って、そして検挙されているというような実態でいうのか、いろいろあるかと思うんですけれども、具体的に一、二例、お示しいただければと思います。
上村参考人 日本の場合、薬物の中でも覚せい剤の乱用というのが、今、第三期と言われるほどにはびこっておるということはよく承知しておりますので、重点というのは、やはり覚せい剤の乱用を未然に防ぐというところに置いております。
 そう簡単に減らないというのは、私は、これは警察からお伺いした話の受け売りになりますけれども、先ほど来話が出ていますように、携帯電話による売買があったり、あるいは国内でつくらないでみんな国外から入ってくるわけでございますが、水際で防いでおっても末端価格が上がらないというのは、たくさんまだ入ってきているということだと思うわけでございます。そういう実情を踏まえながら何とか未然の防止を図りたいというのが、私どもの認識と心構えでございます。
名執参考人 二点あるかと思います。
 一点は、本当に簡単に手に入る状況だなというのを少年の話から感じます。
 それからもう一点は、薬害がどうだとか、こんな大変なことになるんだということを余り知らないままに遊びの中で使う状況があるかと思います。
 この二点でございます。
近藤参考人 これは警察の統計だけですけれども、一万九千人が捕まっている。それは、捕まっているのか、捕まえてくださいと言っているのか、わからないのですね。警察の場合は、ほとんど、別に捜査しなくても勝手に飛び込んできますから、覚せい剤の人は幻覚、妄想で。つまり、同じ人が何回もやっておるわけですね。それが一万九千人ですね。
 そうすると、刑務所は六万人から七万人ぐらいでしょう。その間ですね。実際、三〇%とか二〇%とか言っていますけれども、そのうちの四〇%は薬物に絡んでいて、ほかの犯罪があるから薬物が消えていっているというのがほとんどでありますから、四〇%と見ていいでしょうね。そうすると、今、二万四千人ぐらいが収容されている人たちで、その人たちが出てくるわけですね、ずっと刑務所に入っているわけじゃないですから。それが順繰り、順繰りです。
 私は、東京はよくわかりませんけれども、そういう人たちが出てきたときに、再犯させないために、もうちょっと真剣に考えて、つまり、あの人たちは大変なんですよ。僕の経験からいうと、履歴書にうそを書かなきゃならないんです。どこからどこまで刑務所に何年と刑務所の履歴書を書いたら、絶対、どこの会社も採用してくれませんよ。そうすると、それを考えているだけで疲れちゃうんですよ。また薬を使いたくなっちゃうんですよ。
 そうすると、地域と刑務所あるいは少年院との中間の、何か生活を支援するシステムを半分ずつつくって、半分は刑務所だけれども、まあ大使館みたいなところをつくって支援していく、そういうシステムをぜひつくっていただきたい。
 それから、治療をするということで生活保護ということがありますけれども、これはなかなか、薬物に対して移送費、交通費もまだ出ていないわけですね。せっかくやめて頑張ろうとしているときに、生活支援もしていない、それから、ミーティングに通うための交通費も出ていないということで、議員にお願いしたいのは、一方では社会復帰をしているんだけれども、ミーティングのチャンスがどんどん薄れていってまた再発してしまう、そういうこともありますから、ぜひそういう人たちに支援をしていただきたい。
 つまり、社会の顔が、どなたか言っていましたけれども、鎖の一番腐っている部分が鎖の全体の強さですから、今までのやり方ですと、その腐っている部分を投げりゃいいじゃないかと。そうじゃなくて、その腐っているところを、弱っているところをどうやってカバーしていくか、補強していくかというのが私たちの役割だというふうに思いますから、ぜひ、否認しないで、日本には薬物問題は予防だけで十分だなんて考えないでいただきたい。
 一九四一年生まれの私の高校時代は、ハイミナールがとても繁盛していました。そして、ヒロポンのときには、学生が、私たちの先輩が京都駅で裸で走ったものですから、ここでヒロポンをやっているのは手を挙げてくださいと言われて手を挙げたら、おまえとおまえとおまえは修学旅行に行かないでくれというとても甘い裁定でした。
 そういう意味では、その時代でも、薬物、つまり薬に酩酊している少年たちがいたわけです。そして、大半が睡眠薬でラリって登校してくるような学校でした。それはひどい学校ですけれども、しかし、いつの時代にも、青少年の薬物問題というのは延々とあったんです。なかったわけじゃないんですね。
 ですから、今はとても低年齢化したとか、では僕たちのときには低年齢化していなかったかというと、決してそうではないです。やはり低年齢で、薬で気分を変えよう、変えたいという子供たちはいつでもいるということをぜひ知っていただきたいなというふうに思います。
斎藤参考人 一般人口調査は皆無と言っていいほどありません。ですから、取り締まり数で代用しているわけですが、これが非常に問題のあるものであることは先ほど申し上げたとおり。
 わずかに、私、世田谷区の研究所にいたときに、世田谷区内でランダムサンプリングした世帯について、たばこを含む調査をしたことがあります。たばこ、アルコール、お茶、カフェイン、それから、シンナー、有機溶剤です。そのときには、〇・一%、つまり千人に一人。これはごく普通の一般家族、小学生以上の子供を含む家族、十八歳までについてです。これが唯一の一般人口調査ではないかと思う。
 皆さん、対策を立てるんだったら、研究費を下さい。私は、かつて、一九七〇年代の終わりに、日本のアルコール依存症者が二万人と言われていた時代に、余暇開発センターというところから当時のお金で二千万円いただいてやった研究で、日本人のアルコール依存症者の数を二百三十万と算出しました。これによって、大幅に対策が変わりました。事実が大事だと思います。
石井(郁)委員 ありがとうございました。
 私も、今、斎藤参考人が最後におっしゃいました、事実が大事だ、そういう立場で御質問させていただきまして、当委員会としても、今回が事実上初めてこういう形での研究というか質疑に入ったということですので、しっかりとこの実態の把握から始めたいという思いがしております。
 やはり統計だと、検挙者数という形でしか出てこない。こういうものでいいのか。隠れた実態、それをどうつかむかというのも大事なまず一歩だ。近藤参考人の本だと、覚せい剤乱用者数、百万〜二百六十万という数字、百万から二百六十万というのは余りにも幅があり過ぎるわけですけれども、その辺もしっかりつかみたいなという思いがしています。
 それから、もう時間がありませんので、私の意見として申し上げれば、まだ御質問いたしますけれども、再発予防というお考えを近藤参考人から伺いまして、なるほどというふうに思いましたし、大変示唆をいただきました。
 それからまた、近藤参考人が、これはどこかでおっしゃっておられますけれども、薬物依存者は共通の問題を持った仲間に希望を見出した、学校の先生、医療、警察、刑務所、保護司も役に立たなかったということが書かれていたかと思うんですけれども、先ほどの陳述の中でも、若い人には若い人の力が要るということを強調されていたように思うんですが、私も、日本のいろいろな制度の中で、そういう意味で、若い人たちの中に病んでいる人たちがふえているわけですから、病んでいる人同士が助け合うというシステムがもっともっと広がることが大事かなというふうに思っておりまして、幾つか大変共感をさせていただきました。
 また、自助グループの役割というのも、そのとおりだというふうに思います。
 そこで、もう時間が来ましたけれども、もう一点、近藤参考人と、できれば斎藤参考人に伺いたいのは、私は、今日の日本の社会でこういう問題にどう取り組むかというときに、医療や司法や、また、いろいろな社会システム全体の問題もあるかと思うんですけれども、社会背景の問題として、いろいろなシステムがある中で、家庭も学校も社会も、どこをどう正したらいいかというのは、私たち政治の場にいる者としては当然考えるわけですね。
 そういうことで、近藤参考人から、薬物依存者の半数以上が学生時代にいじめに遭っていたという指摘もありましたし、また、斎藤参考人からも、オントップ・ワンダウンというこの相関関係ですか、ということで、やはり優劣関係、いじめ関係というのがあるんじゃないかという指摘があったと思うんですが、そういう意味で、学校が協力的な人間関係になっていなくて、やはり競争社会で上下関係になっているという問題を前から私たちはいじめとか不登校問題に取り組んで感じておりましたので、もう時間になったのですけれども、一言、斎藤参考人に、社会のシステムとして政治、行政が取り組む問題を御指摘いただければと思います。
斎藤参考人 要するに、これまたデータなんですけれども、精神的は除いて、いじめと家庭内の身体的、性的暴力との相関を見た最近の私の観察ですと、いじめっ子というのは、家庭内でさまざまな形の、程度はさまざまですが、虐待のあった人が有意に多いです。全員がじゃありませんよ。有意に多いです。
 ということは、家族というものを考えさせられるのですが、そこは子供に安全と秩序というものを与える場所、これが親から子供に上げられる最大の贈り物だと思います。必ずしも、すべての子供が安全の感じや秩序の感じ、きのうと同じようにきょうも続くだろうという感覚が与えられているわけではない。とすれば、これは、そういう人がいるんだということを前提に物事を考えていくというふうにならなければならない。
 いじめは、かつてはないことになっていたのです。うちのクラスにはありませんという話が蔓延していた。ようやっと少しこれに名前がついて、これがどういう性質のものかがわかり始めてきた。それと、もう一つの隠されていた問題、児童虐待との関連もはっきりしてきた。
 つまり、人間は二歳、三歳ぐらいまでの間で親との間に結んだ人間関係を繰り返していきますので、これが、自分に自信がない、親にさえ愛されなかった子供のクラス内での立場を決定してしまう。そこで、またもう一人そういう人たちがいれば、そこの中でいじめっ子といじめられっ子ができ上がるわけです。この二人関係の中核の周囲にいじめ関係というものが、集団的ないじめも発展してくる。ですから、いじめっ子は違う場所で、中学に行けば今度はいじめられっ子になったり、また高校でいじめっ子になったりする、それを職場にもわたって続けるし、妻をもらえば妻を虐待する。
 そして、薬物乱用というのは、そういう彼らにとって、自分に自信を持たせる、仮の自信を持たせるために使われることが多いので、特に、スピードといいますか、覚せい剤は自己拡大というか自己確信を持たせるという作用があって、彼らにとって必須のものになる。お酒もそうですね。大言壮語が出てきて、いっときの自信が得られる。そういうものだと思います。
石井(郁)委員 どうもありがとうございました。
青山委員長 次に、原陽子さん。
原委員 社会民主党の原陽子です。
 きょうは、貴重な御意見、本当にありがとうございます。
 早速、質問させていただきたいのですが、まず上村参考人にお伺いしたいと思います。
 この覚せい剤乱用防止センターは財団法人ということで国から年間幾らぐらいの補助を受けているのか、まず教えてください。
上村参考人 平成十四年度の予算に即して申し上げますと、国からの補助金収入が一億六百四万円でございます。それから、日本自転車振興会等からも補助金をもらっておりますけれども、そういった国なり公共団体からの援助と寄附金で会の運営をいたしております。
原委員 今聞いて、国から一億以上の補助が出ているということで、非常に驚いたのです。先ほどの御質問の中で、青少年の薬物乱用の実態についての上村参考人のお答えで、実態としてはなかなか薬物乱用の人数が下がってきていないというお答えがあったのですけれども、これだけたくさん国からの補助を受けていて、でも、実際はそうした薬物乱用の人数が減っていないということは、今までの啓発活動というものが実は余り効果がないのではないかというふうに私は受けとめたのですが、これだけ国からの補助をもらっている費用と効果、その費用対効果についてはどのようにお考えになっておられるでしょうか。
上村参考人 啓発活動に投下した経費に対してどれだけの効果があったということは、本当に測定しにくい問題でございます。お話しになりましたように、これまで国からも相当額のお金をいただいて啓発活動をしておるけれどもなかなか減らないというのも事実でございますが、本当にそれが空回りしているのか、空回りしていないのか。ここで、空回りしているんだとお答え申し上げることもできないし、極めて効果的なものだというふうにお答えすることもなかなか難しいと思います。
 ただ、啓発活動を通じていつも思うのでございますけれども、本当に啓発したい人に啓発するというのが非常に難しゅうございますね。
 若い人たちを集めまして啓発の講演会とか催し物をいたしまして、集まってくる方々というのは、髪を茶色に染めていたり、かかとの高い靴を履いておりましても、話はまじめに聞いていただいているんですね。そういう人たちが、問題点をつかまえて、仲間がそういうことになろうとしたときに、そういうことをしたらだめですよと言ってくれているということを期待しているわけですけれども、啓発活動にもかかわらずなかなか減らないというのは、青少年を誘惑しようとする勢力がより強いんじゃないかなというふうに私は思います。
 国際連合では、紀元二〇〇〇年までにこういった薬物乱用を世界からなくそうと言ったわけでございますけれども、結局また八年まで延ばそうじゃないかということになったのも、これは世界のどこでも抱えている問題じゃないかなというふうに思っております。
原委員 今、啓発活動の中で本当に啓発したい人たちになかなかメッセージが伝わらないというお話だったのですが、それをずっとやっていらっしゃるのがダルクさんのような活動であるわけですね。実績がある、こうした民間の力というものを、私はやはり大いに利用していくべきだと思うのです。
 先ほど、連携はなさっていかないというお話を伺っていたのですが、こんなに立派なキャンペーンカーをつくりました、こんなに立派な、ビデオテープでもいいんですけれども、つくりました、そういうところにお金を、新しいものにお金をかけていくよりかは、この薬物乱用を本当に真剣に考えていこうと思うのであれば、私は、もう既に実績のあるものをぜひこれから使っていっていただきたいと、これは要望とさせていただきたいと思います。
 私も、近藤参考人のこの本を読ませていただきました。その中で、回復プログラム、国全体として回復と希望のモデルをつくっていくことが大切だというお話を私は読ませていただいて、きょうもいろいろな立場から皆さんの活動を聞かせていただいたのですが、ちょうど名執さんが司法の立場で、近藤さんが民間というかNPOの立場で、斎藤さんが医療の立場ということなので、ぜひ、この希望と回復のプログラム、これを国全体として連携していくに当たってこれからさらにどんな連携の活動が考えられるかということをお三方にお聞きしたいと思います。
名執参考人 なかなかそのようなことにお答えできる立場にないので、全く個人的な意見なんですけれども、少年院のような矯正施設に入った少年というのは、半年なり一年なりそこで生活して、それで出ていくわけなんですが、そこで、ある意味、支えるものが一たん切れる。人間関係、少年でしたら仲間とか先生とか、そういうものが一たん切れる。その後、保護観察所、保護司さん、そういう保護の機関の方に連携でお渡ししていますけれども、少年院を出るときに、少年は自分を支えるものがこれで一回切れることと、それから、今は薬物のない環境、少年院ですから当たり前なんですが、にいます。それが、薬物が幾らでも手に入る環境に行く。そのときに、やはり何か支えが必要だな、僕はダルクに行こうかなとか、そういうことを言います。
 何でもいいんですけれども、社会の中で支えになる仲間とか、もちろん民間の団体とか、そういうところにぜひ支えの対象を求められるような、そういう環境であればいいなというふうに思っております。
近藤参考人 日本はそこのシステムがみんな分断しているということがよくわかると思うんですが、例えば、保護観察官の数がとても少ないですね。つまり、六万人、七万人以上入っている刑務所の受刑者ですが、その中の人たちが毎年出てくるわけですね。それで、全国で四百人足らずでしょう。一人の保護観察官が何百人のケースを持っているわけですね。一人一人丁寧に扱える時間もないし、したがって、ボランティアでやるお年寄りの保護司さんを利用している。
 この制度はよくない。足りなければ、ちゃんとお金を払って専門職の人たちを使って、とにかく、保護司さんでお茶を濁しているという時代ではないはずですよ。それは、お金を払わないからお金をもっと有効に使えるとか、そう思うと思うんですが、そういう制度を一新して、きちんと対処すべきだと思いますね。それは、一つは司法。
 それから、薬物依存は自傷行為、寂しさの痛みの病でもありますが、一つは、自分で使って自分でおかしくなっていく病気でしょう。そうすると、それは被害者と加害者も自分なんですね。犯罪という側面では、被害者も加害者も自分だったら、それは犯罪ということはないわけです。加害者がいて被害者がいて犯罪が成立するわけですから。つまり、そこのところがちょっと法的にあいまいなわけですよ。使っているから、持っているから犯罪なのか、薬が悪いのか、犯罪なのか、それとも自己使用が悪なのか、そこが余り説明ができないでしょう。
 いや、薬物を使って川俣軍司のように何か問題を起こした人は、それは犯罪かもわからない。薬物を使って自分がおかしくなっている人は、犯罪というか、なかなか本人たちも認めにくいわけですね、刑務所に入っている本人たちも。悪いことをしているんじゃないんだ、おれは自分のお金で自分で覚せい剤を買って使っただけだ、だれにも迷惑かけてないじゃないかと言うけれども、刑務所に入っているだけで一人百万円ぐらいかかるんでしょう。ダルクは十五万円ですけれども。どっちが経済的にいいでしょうかね。
 そうすると、塀がなくたって薬物依存者の刑務所はできると思うんですね、交通刑務所のように。一つは、塀のない刑務所をつくるべきですよ。そこでは、ただ単に勉強する。そうすると、看守の数も少なくて済む。規則も少ない、ただそういうシステムをつくる。
 もう一つは、思い切って罰金刑にしたらどうでしょう。どうせ国は、おまえら、勝手にやって、勝手に体をおかしくして自業自得だ、そんなやつらに血税を使えるかというのが大方の考え方だと思います。だったら、罰金を取って、その罰金で、国庫金を使って、立派な施設をどんどん建てていけばいいじゃないですか。もう日本はその時期に来ていると思います。
 毎年、約一万九千人の人たちが出入りしているのに、一万件はおかしいじゃないですか。目減りしたり、ふえたりする、もっと当然あるはずなのに、あれは捕まえても入れるところがないからですよ。そして、その人たちはまた出てきて、また街角に立ったり、あるいは、自分が仲間をふやしていく。生活に困るから、次の人たちをふやしていく。つまり、患者をつくっていくわけですね。
 そうすると、その人たちを何とかしなきゃならないですね。需要は減っていかないですね。僕は、先ほど言いましたけれども、需要を減らすことも、その大きな目標はいいんですけれども、そうじゃなくて、具体的に、きょう一人でも少なくしていく、そういう努力を私たちがしていくべきではないでしょうか。
 こういう委員会はきょう初めてですけれども、十年前に何回か、とある民間の施設という名前で、ダルクのことが出ていると思うんですね。でも、それは、善処しますとか、早急に各省庁と協力してやりますとか、それでいつも終わっちゃっているのですね。ぜひ、もっとたくさん予算をつけて、この委員会で何か具体的なことをやろうじゃないかという人が一人でもあらわれてくれることを心待ちにしております。
斎藤参考人 治療は、大ざっぱに分けて四つのフェーズがあります。
 第一期が、初期介入とか危機介入とか言われる。
 ここが結構大変で、時には、先ほどの話にもあったように、本人が登場するまでに十数年かかったりします。では、だれを例えば治療する場合の対象にするかといったら、家族です。主に親です。そのときには家族療法的な接近をとりますが、大概、家族内に、父ないし母ないしその交流の間に問題があります。これをしながら、多くは二年以内のうちに本人が登場します。
 次に起こるのが、解毒。
 これは医療行為ですね。多くの場合、残念ながら、非常に偶発的あるいは事故的にそれがわかるわけでして、それが、まさに幸か不幸かという話ですね、治療のきっかけになって、先ほど言った二年以内の間に偶発的に、警察に検挙されるというのは珍しいですよ、もっといろいろな暴力問題その他で、あるいは親が室内で注射器を見つけたとかというようなことを介して、当人の登場。
 大体は、当人が、先ほど底つきという言葉がありましたが、もうこれじゃ生きていけないという状態になったり、あるいは恋人に逃げられたりというようなことがあって、あるいは恋人へのバタリングがあったり、殴ったりして、そういうのがきっかけで私も治療に来ようと思うようになる。その前提というのは、やはり親が動いているということが大切。
 それが来た場合に、薬物の影響が非常に強い場合には、これは入院させて解毒治療をしなくちゃいけない。そのまま引き続いて第三期の治療になることもありますが、解毒治療そのものは、さっきのシンナーにおける再生不良性貧血のような重大なものがない限り、アルコール依存の人だとここに肝硬変だの糖尿病などいろいろなものがくっつくわけですが、第二期治療はそんなに長くなくていい。
 第三期、これが心の治療です。
 ここのところに、先ほど来話が出ている、人は人との関係の中で薬物に依存し、そして、人と人との関係の中でそこから逃れる、この原則が適用されます。つまり、カウンセラーないしサイコセラピストは、その患者との間で、今まで患者にとって出会ったことのない安全感や秩序を与える力がなくちゃいけない。これをやっていくのですが、しかし、一人の人物がそのような力を兼ね備えているとは限らない。そういう人が各地に一人なんというんじゃだめだ。
 そうすると、そこで自助グループという話が出てきて、多くの場合、私はAAやNAの話を強調しているが、AAといったって、グループというよりも一つのミーティングの集合体にすぎませんから、その中の自分がモデルにしやすい人を、患者さんの方、この場合は患者じゃないですね、参加者が勝手に選んで能動的にかかわっていくわけですね。もちろん、そのときに、体験者であることが望ましいと思います。これが第三期の要諦ですが、要は心の問題です。
 第四期に、社会復帰、自分が回復した立場でもってどうやって社会とかかわるかという問題がある。
 ここで御注意いただきたいのは、先ほど私、触れようかなと思ったけれども時間の都合で触れませんでしたが、雇用の問題、社会復帰はどういう形でという話が出ていましたが、薬物依存者にとって一番いい回復は、次の薬物依存者をつくらないような人になることです。つまり、リカバードカウンセラーになることです。
 多くは、きょう話から省いているプライドの問題がかかわっていますから、非常にプライドが損傷されて自己評価の低い人が薬物に手を出す。しかし、今や、彼はプライドを回復する絶好の機会を持ったのです。自分はシンナーにおぼれて二十年、しかし、今この瞬間に、やめて三週間というときに、彼らのプライドは、そのシンナーをやめている一日一日に重要な意味を見出す、そのときに彼らは回復の道についているわけです。
 なぜ、近藤さんがやっているようなものも含めてグループ療法が必要かというと、それを一人の個人の力でやるようなカリスマや超絶的な治療者は要らないと思うからです。そうじゃなくて、その集団の中で、その人は、集団を母として、その中で幼児でいられる安心感と秩序を取り戻すんです。今までの人間関係、つまり薬物乱用に汚染された人間関係から薬物をやめたことを祝福してくれる人間関係へと変わって、それが彼のプライドになったときに、彼は次の参加者にとってのいいカウンセラーになる。
 だから、このリカバードカウンセラーの制度をぜひお願いしたい。箱は要らない。役人も要らない。必要なのはソフトです。こういう考え方ですし、それから、それが一番難しいのです。
 しかし、ソフトとはいえ、すごく難しいのは法律です。これは、現行法でも可能な部分はそれを活用する。どうしてもそれで適用できない部分は、かつて酩酊者規制法がかなり昔にできましたが、あれでもって、アルコール依存者はかなり救われたんですよ。酩規法、皆さんは余り御存じないかもしれないが、今また、この問題についても新たな附則が必要なのではないかというふうに私は思っています。
原委員 ありがとうございます。
 今のお三方の意見がそうした青少年とかかわっている現場の生の声であるということを、私は、上村参考人に、本当に現場の声というものにもこれからしっかりと耳を傾けてもらいたいなと思っていますので、きょう、防止センターに帰りましたら、現場と今までコミュニケーションをとったことがない、連携したことがないというお話だったので、きょうのこうした現場の生の声をこれからの防止センターの活動にぜひ役立てていただきたいと思います。
 終わります。
青山委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時三十三分散会


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