衆議院

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第2号 平成18年5月17日(水曜日)

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平成十八年五月十七日(水曜日)

    午後三時開議

 出席委員

  衆議院

   委員長 深谷 隆司君

   理事 井上 喜一君 理事 臼井日出男君

   理事 小此木八郎君 理事 船田  元君

   理事 宮路 和明君 理事 赤松 広隆君

   理事 細野 豪志君 理事 井上 義久君

      愛知 和男君    岩永 峯一君

      大野 松茂君    久間 章生君

      武部  勤君    津島 雄二君

      中川 秀直君    中山 太郎君

      丹羽 雄哉君    西本 勝子君

      細田 博之君    谷津 義男君

      保岡 興治君    小沢 一郎君

      中井  洽君    羽田  孜君

      鳩山由紀夫君    渡部 恒三君

      冬柴 鐵三君    志位 和夫君

      保利 耕輔君

  参議院

   委員長 今泉  昭君

   理事 保坂 三蔵君 理事 北澤 俊美君

   理事 小林  元君

      川口 順子君    櫻井  新君

      陣内 孝雄君    田村 公平君

      西銘順志郎君    藤野 公孝君

      真鍋 賢二君    江田 五月君

      西岡 武夫君    平田 健二君

      前田 武志君    魚住裕一郎君

      白浜 一良君    井上 哲士君

    …………………………………

   内閣総理大臣       小泉純一郎君

   総務大臣         竹中 平蔵君

   法務大臣         杉浦 正健君

   外務大臣         麻生 太郎君

   財務大臣         谷垣 禎一君

   文部科学大臣       小坂 憲次君

   厚生労働大臣       川崎 二郎君

   農林水産大臣       中川 昭一君

   経済産業大臣       二階 俊博君

   国土交通大臣       北側 一雄君

   環境大臣

   国務大臣

   (沖縄及び北方対策担当) 小池百合子君

   国務大臣

   (内閣官房長官)     安倍 晋三君

   国務大臣

   (国家公安委員会委員長)

   (防災担当)       沓掛 哲男君

   国務大臣

   (防衛庁長官)      額賀福志郎君

   国務大臣

   (金融担当)

   (経済財政政策担当)   与謝野 馨君

   国務大臣

   (規制改革担当)     中馬 弘毅君

   国務大臣

   (科学技術政策担当)

   (食品安全担当)     松田 岩夫君

   国務大臣

   (少子化・男女共同参画担当)           猪口 邦子君

   内閣官房副長官      鈴木 政二君

   政府特別補佐人

   (内閣法制局長官)    阪田 雅裕君

   衆議院国家基本政策委員会専門員          杉山 博之君

   参議院常任委員会専門員  大場 敏彦君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 国家の基本政策に関する調査


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     ――――◇―――――

    〔今泉昭君会長席に着く〕

会長(今泉昭君) ただいまから国家基本政策委員会合同審査会を開会いたします。

 本日、会長を務めます参議院国家基本政策委員長の今泉昭でございます。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

 この際、本合同審査会における発言に関して申し上げたいと思います。

 野党党首及び内閣総理大臣には、申合せの時間内で活発な討議が行われるようにするため、御発言はそれぞれ簡潔にされるようお願い申し上げます。

 それでは、国家の基本政策に関する調査を議題とし、討議を行います。民主党代表小沢一郎君。

小沢一郎君 前原代表の後を引き継ぎまして、民主党の代表に選任されました小沢一郎でございます。そのおかげで、久しぶりに小泉総理のまた御指導をいただく機会を得まして、どうぞひとつよろしくお願いいたします。

 本論に入ります前に、ちょっと総理に私から苦言と御提案、お願いを申し上げたいと思います。

 それは、先ほど昼過ぎに、衆議院の厚生労働委員会におきまして、自民党、公明党、与党の医療に関する法案の強行採決が行われました。しかも、民主党が以前から提案しておりますがん対策の法案につきましては、論議の場にも数の力でのせていただけないままに、この医療の法案が採決、強行されたということであります。私は、どうしてこんな、と言っちゃなんですけれども、法律でもってあえて強行採決をするのか、よく理解できないわけでございます。

 議論を終えたら採決をすべしというのが私の持論でありまして、むしろ、日本社会の風土であります満場一致、まあまあの風潮ではなくて、特に議会ですから、きちんと賛否の採決をすべきであるというふうに私はずっと主張してまいりました。ですから、採決すること自体は一向に構わないし、採決すりゃ多数が勝つのは当たり前のことであります。ただ、野党がまだまだ質疑がある、議論したいことがあるということを言っている以上、私は、その時間を十分に与えてやっていいのではないかと思います。

 この医療の法案が、総理、一週間や十日おくれたからって、別にそんな大きなことではないじゃないかと私は思います。そういう意味において、何の法案でもそうですけれども、できるだけ議論を尽くす、その上できちっと賛否の採決をするという習慣をこの国会でもつけていくというのが私は大事だと思います。

 役所は、法律を出すと、早く通してくれ、通してくれ、通らないと何か大変なことが起きるみたいなことを言いがちでありますけれども、私は、そんなことはないと。そして、どっちかというと、本当に急いでやらなくちゃならないことはなかなか決断しないで、どっちでもいいことをできるだけ早くやれという、これがあって、私は、そういうのに大与党が引きずられる必要はないじゃないかというふうに思うわけであります。ですから、これは予算案であれ一般の法律であれ、同じであります。

 もちろん、これは役所といいますか、それだけの責任ではありませんで、まあ、それが大部分ですが、一方において、従来の野党にも大きな原因があったと思います。それは、例えば、予算が通らないうちに予算執行の準備をするのはけしからぬとか、法律が通らないうちにその実施の作業をやるのはけしからぬというような形で役所を牽制してきた経過があります。

 私は、そんなことを言うつもりはありません。政府が責任を持って法律案を提出した以上、その通ったときの準備作業を最初から始めるのは当たり前のことでありまして、私は、それはどんどんやっていて構わない、しかし国会での論議は尽くしてもらいたいと、そういう習慣を、ぜひ与野党でつくっていったらいいんじゃないかと思います。

 要は、その法案が、中身のある、いい、国民のためになる法案だったならば、それに対して野党が意図的にいろいろな議論を吹っかけ、口実をつけて引き延ばしたりすれば、それは国民の批判は野党に向かうわけですし、中身がない、余り国民にとってよくもない法律をやるとすれば、それは野党が一生懸命頑張ってその成立を阻むということも、これまた私は国民がそのことをきちんと見ていると思うんです。

 ですから、そういう意味におきまして、きょうの本論から外れましたけれども、議会制民主主義を我が国に定着させていく上において、与野党ともですけれども、特に多数をもって政府を構成している与党が、やはりそれだけの大きな度量を持って、きちんと議論をすべきは十分するというふうな態度になるべきではないだろうかというふうに私は思います。

 これからもう一カ月足らずしか国会はありませんけれども、どうか、そういう意味において、こういうようなことを繰り返して行わないように、総理に対して私から要望しておきたいと思います。

 こういうことについて、総理、もしお考えあらばお聞かせください。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 基本的に、小沢代表のお話は私も同感であります。

 小沢さんが、かつてこういうことを言っていますね。日本の戦後政治は多数決の原理を無視あるいは軽視してきた、それが無責任な政治を生んでいる、政権党が両院で過半数を得て法案を成立させるために一部の野党に譲歩、妥協するのはいいんだが、満場一致になるまで譲歩せよという、これだったら、少数のだだっ子がいて、その子をなだめるために、言いなりになってすべて変えてしまうのはおかしいんじゃないか、満場一致どころか少数決であるというようなことも小沢さんの書に書いてあります。

 私は、慎重に、十分時間をかけてやるということには賛成であります。十分に、慎重に、それぞれの法案、時間をかけて、そして、審議が終われば採決をするというのが一つの民主主義のあり方だと思いますので、今後、それぞれの委員会で法案審議が重ねられていくと思いますから、今言った点も参考にしながら、慎重に審議をして、できるだけ円滑に審議を進めていくよう心がけていきたいと思っております。

小沢一郎君 総理も、国会の審議については、お互いに十分意を尽くしてやっていくということについては賛成だというお話です。強行採決したばかりで賛成だと言われても、ちょっと困るんですけどね。まあどうぞ、ひとつその趣旨をですね……(発言する者あり)ちょっと聞いていてくださいね。総理のそういう言葉であるならば、どうぞ国会運営においても、総理から、野党が議論したいと言うならさせろと、そう指示していただけばそれで済むことですので、どうぞそういう……。

 僕は、全部が一致するまで延々とやれなんて言っているんじゃないですよ。お互い議論をして、そして、議論を尽くしたら採決すること、それは一向に構わないんですよ。ただ、我が方はもっと議論を尽くしたいと言っているときに、数でもって採決をやってしまうというのはよろしくないんじゃないかということを言っているわけです。

 いずれにしろ、私も九月で任期でございますが、総理も九月で任期ということでございます。どうか、今の国会運営についてのお話であれ、あるいはその他の問題であれ、在任期間からいえば、本当に大宰相の列に列する資格を得ているわけで、あとは中身の問題でございますので、どうぞ、そういう意味におきまして、議会制民主主義をきちんとやはり総理のときにも軌道に乗せていく、あるいは、その他のことについても、ぜひとも国民に対しまして、誠心誠意、誠意を持って政治の運営に当たってもらいたい、そうお願いいたします。

 それでは本論に入りたいと思いますけれども。

 最近のテレビであれ新聞であれ、マスメディアのニュース、記事、親の子殺しから子の親殺しに始まって、本当にひどい、信じられないような事件ばかり続発いたしております。私は、こんな本当にいろいろな、日本の国として、国家としていろいろな大事な問題はありますけれども、こういう日本人の心の荒廃、精神の荒廃、このすさんだ社会、これを本当に一日も早く、もちろん野党の我々も含めまして、政治がきちっとした対応をしていかなきゃならないんじゃないかと思うんです。

 特に、日本人は、いわゆる近代の工業化、産業化には立ちおくれましたけれども、しかし、心の豊かさ、モラルの高さ、その文化水準、それにおいては西洋に決して負けない、そういうことを誇りにしてきた日本人だったはずなんですね。ですから、物質文明、精神文化などと、わざと分けた言葉までありますし、和魂洋才なんという言葉もありますけれども。そういう日本がどうしてこんなふうにすさんだ社会に、そして、そういう心の荒廃につながってきてしまったんだろうかということ、これは本当に、まさに倫理観とか道義観とか、そんな難しい言葉を使うまでもなく、人間が社会生活をしていくための最低、最小限のルールさえ身につけていないというか、わからないというか、守ろうとしない、そういう状態に日本が陥りつつあると。

 せんだって瀬戸内寂聴さんと対談したときに、これを早く取り組まなきゃならない、今取り組んでもまだ三十年はかかるだろうと私は言いましたら、いや、三十年どころではとてもとても取り戻せない、百年かかるという話をなさいました。私は、そういう意味において、今日のこのすさんだ日本社会の状況、そういうことにつきまして、最高の責任者、総理としてどのようにとらえておられるか、それをちょっとお聞かせいただきたいと思います。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 今、日本の歴史を振り返りますと、豊かさの点においても、自由の点においても、最も恵まれている時代だと思っております。

 衣食足って礼節を知るという言葉がありますが、衣も食もいまだかつてないほど足りている状況にあると思います。にもかかわらず、礼節を失っていると多くの方が言われますが、さまざまな事件を報道で見ますと、そのような感じを私もいたします。

 まさに人間社会というのは難しいなと。昔の先人の方々が、何とか平和な時代に持っていこう、食べ物に困るような時代をなくそうと言っていて、そこに到達して、今想像のできない憂うべき事態が山積している。まさに心の問題、法律以前の問題、人間として何のために生きているのかというのが問われている時代だと思います。

 教育も大事でしょう。家庭の教育、学校の教育、地域の教育、そういう今までの人間としての生きる姿というもの、これからの子供たち、将来、三十年かかるか、いやいや百年かかるかということでありますが、まさに今、親の世代が人間としてどうあるべきか、大人の責任は子供に対してどうなのか、こういう点を率直に心の中で問いただす時代ではないかと思っています。

 その中で、政治の役割、法律面においてどういうことができるのか。心の問題の内部まで干渉するわけにはいきませんけれども、法的な問題で整備できるところがあったら整備していかなきゃならない、そう思っております。

小沢一郎君 ただいま総理からも現状の社会についての憂い、認識をお聞きいたしましたが、今日の社会の、かつての日本ならばあり得ないような事件ばかり起きているというこの日本社会の現状を考えるときには、やはり戦後体制というものからひもといて考えていかないといけないんじゃないかというふうに思います。

 敗戦によって事実上アメリカの占領下に日本は置かれました。そのアメリカの占領政策のもとで、今までの日本のいろいろな制度や仕組みやあるいは考え方そのものが否定され、全く新たなものに改変されたわけであります。それが今日、もちろん国民にとって非常にいい結果をもたらしたところも多々あると思いますけれども、今日の今言った状況、世の中の状況を考えたときに、この俗に言う占領政策ですが、戦後の仕組みや制度、体制そのものに、やはり大きな制度疲労というよりは、いろいろなゆがみとかひずみとか矛盾とか、そういうものが、今、世の中のいろいろな現象になってあらわれてきているんじゃないだろうかというふうに私は思っております。

 そういう意味で、戦後体制というもの、それは敗戦、占領という形の中でつくられてきましたけれども、総理は、そういう体制の中で、いい点も挙げていただいても結構ですが、今日までいろいろな形で尾を引きずっているという制度や仕組みや、何かそういうことで総理が思いつくのを、ここはやはり一番の問題じゃないだろうか、こういうところは直さなきゃいけないと思うというような、思いつきのままで、突然ですので結構ですから、お話しいただけないでしょうか。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 戦後の、敗戦、そしてアメリカによる占領、そして独立をかち得て、今、日本は平和のうちに繁栄をかち取ることができた。そして、言論の自由、民主主義を守りながら、これからも豊かな社会を築き上げていかなきゃならないという大事な地点にあると思いますが、まず戦後を語る場合には、なぜ、戦前といいますか、日本はあのような無謀な戦争に突入してしまったのか、こういう反省から戦後の今日があると思っております。

 二度と戦争を起こしてはいけない。そして、平和のありがたさをかみしめる。さらに、自由、言論の自由、民主主義を大切にしていこう。さらに、いわゆる統制経済よりも市場経済、自由主義経済、この手段によって、社会主義よりも自由主義経済の方が国民の自由な発想を生かすことができるのではないか。いわば、自由と民主主義と市場経済の原理、これを重視して、日本の経済を発展させていこうという基本理念のもとに、今日までやってきたと思います。いわば、その当初、敗戦後目標としていた一つの目標は達したと言ってもいいと思うのであります。

 まず、戦後六十年間、周辺の国は戦争を経験しております。日本は、戦後六十年間、戦争に巻き込まれることもなく、海外で自衛隊の諸君もPKO活動、あるいは今アフガンとかイラクに復興支援活動、人道支援活動を展開しておりますが、自衛隊諸君も平和維持活動に貢献しておりますが、一発のピストルも撃っていない、一人の人間も殺していない。日本国は一度も戦争に巻き込まれないでこの平和を維持してきた。これは、あの戦争の反省を踏まえて、日米同盟と国際協調体制、これを実践してきたからにほかならないと思っております。

 しかしながら、六十年たってきますと、それぞれゆがみも出ております。今の状況におきますと、財政の問題、あるいは環境の問題、さらには、これから世界で一番長生きできる国になったけれども、今後の社会保障制度をどうしていくか、今言われました子供たちの教育をどうしていくんだろうか、さまざまな問題、ひずみが出てきております。

 そういう点について、今後は、総論としては、私は、民主党とも自由民主党とも、あるいは小沢代表とも私とも、そんなに違わないと思います。各論に入って、どういう具体的な手段でやっていくかという点については、さまざまな意見があると思います。そういう点についてはよく議論して、協調すべきは協調する、あるいは意見の違う点は十分議論をするという形で、今後も引き続き、今まで戦後六十年間平和であった、これからも、五十年、六十年、百年、平和のうちに民主主義を守り、そして経済的に発展していき、日本が国際社会の中で有力な一員として世界の平和と繁栄のために貢献できるような、そういう日本にしていくのが我々政治家、政党の責務だと思っております。

小沢一郎君 ただいまの総理のお話は、戦後の結果としてのいい点を指摘されながらのお話だったと思いますが、私がお聞きしたかったのは、いわゆる国の、国家の組織や制度として、大きく戦前と戦後というのは変わりました。その中で、俗説的に言われております占領政策、俗に、あるいは日本の弱体化政策とかという言葉を用いる人も中にはおりますけれども、そういう意味で考えますと、国家の組織、制度という意味で考えますと、私は、いわゆる安全保障、軍のあり方、軍と国家の関係、それは今なお、自衛隊の、それこそ総理のやっておられることと我々の主張することと、いろいろな論議を呼んでおりますし、また、憲法の問題ももちろんあるでしょう。それから、今犯罪と関連して言えば、国家の機関としての問題としては、警察制度も治安の問題があるでしょう。

 きょうはそのことを申し上げようと思っているんじゃないんですが、一番の問題はやはり教育だろうと思うんですね。

 今、総理の話の中で、やはり大人の責任だという話があった。私もそう思います。子は親の背を見て育つ、そういう言葉がありますように、やはり大人が自分勝手に、目先の、自分のことさえよけりゃいいんだと。それは、今あれされておりますヒューザーの問題であるにしろ、それからホリエモンの問題であるにしろ、みんなもうお金のためなら手段を選ばず、自分の目先の利害さえよければそれでいいと。そういう大人の姿を見て育って、子供がよくなるはずはない。それも総理のおっしゃるとおりだ。

 ただ、私も総理もよわいもう六十過ぎて、これから私が変わると言ったら変わるわけないとおっしゃったそうだけれども。本当に本質から変わるというわけにはいきませんよ。ただ、そのことに関して言えば、人間は理性がありますから、自分の欠点を直す、お互いにこの年になってもその努力をせないかぬと思います。

 それはそれとして、ですから、結局、本当に日本の社会の今の荒廃というか何というか……(発言する者あり)今これから申し上げますので。

 それを考えるときには、子供の教育ということから始める以外にないんですね。ですから、三十年、百年ということになるわけですよ。そういう意味において、私は、戦後体制の問題をさっき言いましたが、この戦後教育の、まあ、教育には学校教育、家庭教育、社会教育がありますが、国が直接つかさどるとして教育行政の問題、この教育の問題がやはり大事なことである。そういう意味で、多分与党も教育基本法の改正ということになったんだろうと思いますが、現在、教育の基本的な責任は、総理、どこにあると思いますか。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 私は、基本的に親にあると思っているんです。まず親。親が子をかわいがらないで、どうして子供がしっかり育つでしょうか。私は、教育において、法律は大事でありますけれども、まず基本は、最初に、生まれた子に対してしっかり寄り添う。

 この教育の基本という言葉で私がすぐ思い出す言葉は、しっかり抱いて、そっとおろして、歩かせるという言葉であります。まず、子供が生まれた場合には、子供は、自分は親から、家族からしっかり抱かれているんだな、愛されているんだなということを口で言わなくても体全体で感じることが大事だ。それをすることができるのは親であり、周りにいる家族であり、周りにいる人たちであります。そのしっかり抱く、生まれてからの期間、幼児期。そして、早く自立しろ、早く自立しろといって一人でおっぽり出すと、かえって不安になる。だから、しっかり抱いてというのは、肉体的にも精神的にもという意味であります。そして、そっとおろす。突き放すんじゃない。そっとおろしていけば、自然と歩いていく。

 これは大人だってそうです。周りにいる人たちから私は認められていないと思えば、不安に感じるのであります。大人でもそうです。おれは周りから受け入れられていないと思うと、どうしても精神的に問題が出てくる。ましてや子供であります。まず幼児期においては、自分は周辺の人々からしっかりと認められているんだな、愛されているんだなということを十分植えつける、これが教育の原点だと思います。そうすれば、あとはむしろ、親が来いと言ったって、ああ、自分でできると言って駆け出していくような子供が育っていくと思うんですが、最初に不安定にさせると将来なかなか問題がある。

 ですから、私は、教育の原点、それは、まず幼児期において、周りの方々、不幸にして親がいないという場合には周辺の方々、身近な親戚の人たち、そういう方々が子供をしっかり抱く、受けとめる、しっかり抱いて、そしてそっとおろして、歩かせる、これは、私はいかなる法律よりもその以前の問題として、親が、大人がこれを十分認識して子供を育てるべきだと思っております。

小沢一郎君 今の総理の話は、家庭教育あるいは社会教育ももちろん含まれるかもしれませんが、その視点からのお話だったと思いますが、私がお聞きしたいと思いましたのは、学校教育、教育行政の今の仕組みについて、その責任はということをお伺いしたんですが、もう一度お願いします。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) まず文部省あるいは地域の学校、教育委員会、それぞれ責任がありますが、教師、子供たち、大事な子供たちを預かるということにおいて、教える側と学ぶ側、これがお互い信頼関係を持っていけるような、そういう関係をつくることが極めて重要であります。

 そういう中で、それぞれの子供においても能力差があります。ある科目については得意な子も、別の科目においては苦手なこともあります。そして基本的な、昔から読み書きそろばんといいますけれども、基本的な問題については十分よくわかった上で次の段階に進めていくというような、そういうような教育体制をつくっていかなきゃならない。

 すべて国民は平等でありますし、機会は平等に与えなきゃなりませんけれども、どの人間においてもそれぞれの能力において違いがあります。そういう点にも気をつけながら、いい能力というものはどんどん伸ばしていく、さらには苦手な分野におきましては、進めない段階においては進めるまで理解をさせていくような、俗に言えば、習熟度に応じてその次のレベルに進んでいくというような、そういう体制というのは必要ではないでしょうか。

小沢一郎君 再度、申しわけないんですけれども、私がお伺いしておりますのは制度論であり、今日の教育行政の責任がどこにあるかということ、それがさっきから言っていました戦後体制そのものの私は問題だと思っているんです。ですから、これは小さい問題ではなくして、本当に教育の根本に関する問題。

 要するに、では私から申し上げますけれども、今の教育行政の責任は市町村教育委員会にあるんですね。それで文部省は、いわゆる同じような、学校教育運営管理の点について、これは僕も覚えていない法律の名前ですが、地方自治法を受けて、地方教育行政の組織及び運営に関する法律というのがありますけれども、そこに定められているんです。ですから、文部省は、同じような、市町村教育委員会が持っている権限について指導助言を行うと同じ法律で定めている。これが結局、教育委員会だって財源があるわけではありませんから、財政的力が。一方で、文部省はお金を持っている。それが、指導助言という形でしかできないけれども、実質的にはやっている。しかし、一方で、この責任はと言われると、いや、私どもは指導助言だけですという話になっちゃうんですね。責任の所在が全然はっきりしていないんですよ。これが私が戦後体制ということを申し上げた基本なんです。

 ですから、ここのところを、文部省が直接的権限を持っているなんてどこにも定めていないんですよ。それなのに実質的には文部官僚がみんな教育をやっている、こういうゆがんだ形が問題だということなんですよ。

 ですから、今度の教育基本法の、与党が提案されましたこれについては、この問題について、どのような考え方でこの教育基本法の法案ができ上がっているんでしょうか。総理、御存じでしょうか。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 教育委員会、そして文部省の指導助言のあり方、これについて、地方自治体の権限あるいは国の権限、財源のあり方、なかなか難しい問題もありますけれども、私は、国として、すべての子弟に教育の機会を与える、無学の子なからしめる、これは国の責任だと思います。そして、そういう中で、実際の教育において教育委員会の役割も大きいと思います。

 そういう中におきましては、私は今後、地方の団体におきましても、教育の権限も財源も与えてくれという要求が地方は強い、しかしながら、教育の権限というのは国にある、国が費用の問題、財源の問題についてはしっかりと持つべきだ、それが教育に責任を持つことだという議論もあります。

 そういう点については与野党ともに両論分かれておりますが、教育の重要性というものについては国としても十分責任を持たなきゃなりませんし、今後、教育基本法の議論のあり方におきましても、そのような問題についても、もうしっかりと与野党で議論を進めていきたいと思っております。(発言する者あり)

会長(今泉昭君) 御静粛に願います。御静粛にお願いします。

小沢一郎君 教育の問題がやはり大事だということについては同感であるというお話で、ただ、私は繰り返して言いますが、戦後体制、しかも教育、これについて今文部省が直接的な責任は負っていない形に制度的になっているんですよ、指導助言ということで。しかし、実質的にはやっている。私はそういう制度、仕組みをきちんとしないといけないという主張なんです、僕たちは。

 それで、私ども、日本教育基本法を今立法作業をしていますから出させてもらいますけれども、与党で出した教育基本法の新しい案にそういう、総理は多分御存じなかったろうと思いますけれども、そういう仕組みをきちんと変えるというような案ではないんですよ。それで、いろいろな文言は……(発言する者あり)ちょっと……

会長(今泉昭君) 御静粛に願います。

小沢一郎君 そういう教育の、私から言わせれば戦後のゆがんだ教育行政の是正というような視点が全くないんですよ。だから、私はさっきからいろいろ聞いているんです。

 私どもの日本国教育基本法におきましては、きちんと教育行政は国の責任ということをうたっております。それから、各学校には理事会をつくって、その内容については、先生やPTAや地元のいろいろな人も一緒になって、それぞれの地域の伝統や文化に基づいて、そして学校教育の中身、運営をしていこう、こういうのが我々のこれからやろうとする提案なんですよ。

 ですから、今のままで総理がよろしいとおっしゃるならそれでいいんですけれども、どうぞ、もう一度与党の案を開いてみていただきまして、本当にこれで、そういう制度や仕組みに全然メスを入れないという形で、総理が心配しておるようなそういう今の教育の、そして子供たちの人づくりをできるのか、そこをぜひとももう一度総理に御自分のところの提案した案を見ていただいて、考えていただきたいと思います。

 時間ですので終わります。ありがとうございました。(拍手)

会長(今泉昭君) ありますか。小泉内閣総理大臣。

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 国家がしっかりと教育に責任を持てという対案を出される。よく対案も、協議しながら、しっかりと委員会で審議を進めていただきたいと思います。

会長(今泉昭君) 以上で小沢一郎君の発言は終了いたしました。

 本日の合同審査会はこれにて散会いたします。

    午後三時四十五分散会


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