衆議院

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第14号 平成13年12月4日(火曜日)

会議録本文へ
平成十三年十二月四日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長代理理事 川崎 二郎君 

   理事 荒井 広幸君 理事 渡海紀三朗君

   理事 平林 鴻三君 理事 田並 胤明君

   理事 松崎 公昭君 理事 若松 謙維君

   理事 黄川田 徹君

      赤城 徳彦君    浅野 勝人君

      伊藤信太郎君    小西  理君

      河野 太郎君    左藤  章君

      佐田玄一郎君    坂井 隆憲君

      新藤 義孝君    滝   実君

      谷  洋一君    野中 広務君

      宮路 和明君    山本 公一君

     吉田六左エ門君    荒井  聰君

      伊藤 忠治君    大出  彰君

      金子善次郎君    玄葉光一郎君

      武正 公一君    中沢 健次君

      中村 哲治君    山村  健君

      高木 陽介君    山名 靖英君

      佐藤 公治君    春名 直章君

      矢島 恒夫君    重野 安正君

      横光 克彦君    三村 申吾君

    …………………………………

   総務大臣         片山虎之助君

   総務副大臣        遠藤 和良君

   総務大臣政務官      新藤 義孝君

   総務大臣政務官      山名 靖英君

   政府参考人

   (総務省大臣官房長)   團  宏明君

   政府参考人

   (総務省人事・恩給局長) 大坪 正彦君

   政府参考人

   (総務省自治行政局長)  芳山 達郎君

   政府参考人

   (総務省自治行政局公務員

   部長)          板倉 敏和君

   政府参考人

   (総務省自治財政局長)  香山 充弘君

   政府参考人

   (公正取引委員会事務総局

   官房審議官)       伊東 章二君

   政府参考人

   (経済産業省大臣官房地域

   経済産業審議官)     今井 康夫君

   参考人

   (横浜国立大学名誉教授) 成田 頼明君

   参考人

   (千葉市長)       鶴岡 啓一君

   参考人

   (政策研究大学院大学教授

   )            福井 秀夫君

   参考人

   (北海学園大学教授)   森   啓君

   総務委員会専門員     大久保 晄君

    ―――――――――――――

委員の異動

十二月四日

 辞任         補欠選任

  野中 広務君     小西  理君

同日

 辞任         補欠選任

  小西  理君     野中 広務君

    ―――――――――――――

十一月三十日

 法人事業税の外形標準課税導入反対に関する請願(松本善明君紹介)(第九九五号)

 同(矢島恒夫君紹介)(第九九六号)

 同(山口富男君紹介)(第九九七号)

 元日赤救護看護婦に対する慰労給付金増額に関する請願(安住淳君紹介)(第一一七二号)

 シベリア抑留者に対する未払い賃金の支払いに関する請願(大島理森君紹介)(第一二四九号)

 同(北橋健治君紹介)(第一二五〇号)

 同(辻元清美君紹介)(第一二五一号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一二五二号)

十二月三日

 法人事業税の外形標準課税導入反対に関する請願(矢島恒夫君紹介)(第一三一七号)

 シベリア抑留者に対する未払い賃金の支払いに関する請願(江藤隆美君紹介)(第一三一八号)

 同(小沢和秋君紹介)(第一三一九号)

 同(児玉健次君紹介)(第一三二〇号)

 同(佐藤剛男君紹介)(第一三二一号)

 同(田中甲君紹介)(第一三二二号)

 同(高木陽介君紹介)(第一三二三号)

 同(松本龍君紹介)(第一三二四号)

 同(石井啓一君紹介)(第一四四八号)

 同(仙谷由人君紹介)(第一四四九号)

 同(中西績介君紹介)(第一四五〇号)

 同(長妻昭君紹介)(第一四五一号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第一五二一号)

 同(奥野誠亮君紹介)(第一五二二号)

 同(塩崎恭久君紹介)(第一五二三号)

 同(高市早苗君紹介)(第一五二四号)

 情報格差是正に関する請願(徳田虎雄君紹介)(第一五一八号)

 離島航空路線に係る地方公共団体の財政負担に対する特別交付税の拡充に関する請願(徳田虎雄君紹介)(第一五一九号)

 元日赤救護看護婦に対する慰労給付金増額に関する請願(三塚博君紹介)(第一五二〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 地方自治法等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百五十一回国会閣法第六四号)


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     ――――◇―――――

川崎委員長代理 これより会議を開きます。

 委員長の指名により、私が委員長の職務を行います。

 第百五十一回国会、内閣提出、地方自治法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、横浜国立大学名誉教授成田頼明君、千葉市長鶴岡啓一君、政策研究大学院大学教授福井秀夫君、北海学園大学教授森啓君、以上四名の方々の御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ当委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと思います。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、各参考人の方々からそれぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。

 なお、念のため参考人の方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対し質疑をすることはできないことになっておりますので、よろしくお願い申し上げます。

 それでは、成田参考人、お願いいたします。

成田参考人 皆様、おはようございます。

 本日は、当総務委員会に参考人としてお呼びいただきましたことを大変光栄に存じております。

 私は、実は今回の地方自治法の改正につきましては、地方制度調査会の副会長としてかかわってきたという経緯がございます。本日は、全般についてもし御質問があればお答えいたしますけれども、そのうちでも住民訴訟、特に第四号訴訟が大きな争点になっておりますので、それを中心にして御意見を申し上げたいというふうに考えている次第でございます。

 時間が限定されておりますので、なるべく、細かい点は後ほどに譲りまして、概略の御意見を申し上げます。

 今回、地方自治法の改正案に盛り込まれております住民訴訟制度というものは、これも既に御承知だろうと思われますけれども、終戦直後に占領軍当局の示唆に基づきまして、昭和二十三年の地方自治法の改正によって我が国に導入されたものでございます。これはアメリカの諸州、アメリカの州といいますと四十幾つございまして、各州ばらばらですから、アメリカ全体がどうということはなかなか言えないわけですけれども、そのアメリカの諸州で活用されております、いわゆるタックスペイヤーズスーツ、あるいは最近はシチズンズスーツというふうにも呼ばれておりますけれども、それの日本版であるということでございます。当時、日本でも、やはりアメリカのそういう呼称に倣いまして、納税者訴訟というふうに呼ばれておりました。

 この制度は、これも御承知かと思われますけれども、住民の直接参政の手段、つまり、主権者としての地方公共団体の住民が直接参政をする手段の一環であるということ、それから第二に、地方公共の利益を擁護するということ、それから第三に、財務会計の運営に対する司法、裁判所の統制というもの、こういう三つの意義を持つものとして制度化されたわけでございます。

 昭和二十三年導入の納税者訴訟が現在のような住民監査あるいは住民訴訟制度になりましたのは、これも御承知かと思われますけれども、昭和三十八年の地方自治法の改正のときに、財務会計に関するかなり大幅な改正が行われたわけでございます。それと、三十八年の改正のもとになりましたのは、昭和三十七年の三月の地方財務会計制度調査会の答申でございます。この調査会は既にかなり前、三十四年ごろから設けられまして、地方財務会計全般にわたるかなり広範な問題について論議がなされたわけでありますけれども、その中で、やはり納税者訴訟を見直そうということで、当時、私も助教授の若いときでございましたけれども、たしか幹事か特別委員というような形でこれに参与したということを覚えているわけでございます。

 この制度改正後、住民の方々からの請求は、昭和五十五年、一九八〇年ごろを境にいたしまして、著しく増加してまいります。当時、地方の時代ということが盛んに言われたわけでございますけれども、この地方の時代における住民の地方行政監視の手段として重要性が高まってまいりました。

 ところが、住民訴訟は全部で四号あるわけでございますけれども、四号訴訟だけが際立って多くなりまして、判例でもその要件、範囲がかなり拡大してまいりました。私の印象では、行政訴訟でありますけれども、かなり民事的な運営がなされまして、その範囲等も拡大してきたというふうな印象を受けます。

 こういった状況のもとで、知事や市町村長その他の関係者の方々からは、地方公共団体の機関として自分は活動しているんだ、だけれども、財務会計上の行為というのは地方団体の機関として行っているのである、ところが、その前提となる政策の当否が個人という形で訴えられる、それで、不法行為等に基づく損害賠償責任あるいは不当利得の返還請求、返還責任というふうな、個人として法的責任を負わされるという制度は何とか改めてほしい、こういう要望が出始めてまいりました。学者の間からも、これはいろいろ単行本や研究論文を通じて、あるいは判例批評等を通じて、制度そのものへの疑問が出始めるようになったわけでございます。

 そこで、昭和六十三年に地方自治協会というところに研究会が設けられまして、全自治体を対象とするアンケート調査、あるいは意見の提出というものを求めたわけでございます。これを一応解析、分析いたしまして、これをもとにして、今度の住民訴訟制度の問題点、見直しの論点、それから基本的な方向、複数の選択肢を含めてそういう論点の洗い出し、見直しの方向性というものを探ったわけでございますけれども、ただ、これはまとまりませんで、具体的な改正への提言をするまでには至らなかったわけでございます。

 平成になりましてから、これは御承知のように、地方分権への動きが加速してまいります中で、住民や市民団体の監視が非常に厳しくなってまいります。特に四号訴訟の提起が全国的に極めて盛況を呈するようになるわけでございます。その結果、情報公開制度等と相まって、いわゆる官官接待とか裏金づくりとか旅費、給与、こういったものの実態が明らかになりまして、全国規模で過去のあしき慣習が改められるという結果になったわけでございまして、それはまさに住民訴訟が本来の機能を発揮したということで、これは評価すべき点であろうというふうに考えております。

 しかし、他方、公金支出等の財務会計に先立つ政策それ自体が争われるというふうなケースが出てまいりまして、例えば、これは三セクへの補助の問題でありますとか廃棄物処理場の建設の問題でありますとか、それから公共事業絡みの事件でありますとかイベントの開催、こういった前提になる政策問題というものが争われるということがしばしば起こってまいります。

 それからまた、長や職員が個人として到底負い切れないような、数億あるいは十数億に上る多額の賠償を請求されたり、あるいは訴訟マニアや政争絡みの、この制度の若干の行き過ぎないし乱用というものが行われたりするということで、ややゆがんだ面が出てまいります。自治体の方からは、悲鳴にも似た制度改正への要望が高まってまいります。

 そこで、平成十一年九月に、自治総合センターというところに第二次研究会が設置されることになりまして、見直しへの本格的な検討に入るということになったわけでございます。その結果は、その翌年、昨年の秋ごろにほぼ固まってまいりました。そこで、第二十六次の地制調に報告され、小委員会と総会の審議を経て、昨年の十月二十五日の答申に盛り込まれたということになります。

 そこで、今回の制度のねらいでございますけれども、今回の制度改正に初めから関係した立案者という立場から、まず、その趣旨を明らかにしたいというふうに思っております。

 先に触れました第二十六次の地制調答申は、地方自治の一層のさらなる充実強化を図ることを本旨とするものでありまして、これは御承知のように、直接請求署名要件の緩和あるいは市町村合併特例法への住民投票の導入、そういうものを盛り込むと同時に、住民訴訟制度につきましては、その本質や意義を損なうことなく健全な今後の発展を図るというふうに配慮したつもりでございます。

 地制調に先立つ研究会では、訴訟要件とか訴訟対象とか訴訟類型、乱用防止の方策あるいは四号訴訟については賠償額の限定等々、考えられる、あるいは既に提案されているすべての論点を全部論議の俎上にのせまして、一つ一つ検討してまいりました。それで、基本的には住民自治というものがかつてないほどの重要性を持っているということを重視いたしまして、この制度そのものの根幹を揺るがすような骨抜きはしないという基本方針で望んだわけでございます。

 しかし、四号訴訟につきましては、地方公共団体の政策決定、意思決定の実行として行われるのが財務会計行為でございますけれども、これにつきましては長あるいは職員個人に不法行為等の損害賠償責任というものを負わせることはおかしいのではないかという点で、委員の間にはほとんど異論がございませんでした。

 これを維持するということになりますと、これからの分権の時代、地方公共団体は自己決定、自己責任をしなきゃならないという時代でございまして、しかも、思い切った聖域なき構造改革あるいは行政改革というものをしなければならない。ところが、構造改革、行政改革というのは当然、地方公共団体にも痛みを生ずることになるわけでございまして、そういう中ではなかなか思い切った決断をしなくなるんではないか、重い賠償責任を負わされて決断しなくなるんではないか、こういうことで、やはりその点についてはもっと説明責任を尽くさせるというふうにすべきではないかというふうに考えたわけでございます。

 これに加えまして、国の行政責任者にはこういった制度はないということとか、あるいは国家賠償責任につきましても最高裁判決では直接個人が負うべきではないということになっております。そういうことも考えましたら、四号訴訟をこの際廃止して、三号訴訟に吸収するというふうな案もあったわけでございますけれども、結論としては、地方公共団体の機関である長や職員を被告にするという形に変えまして、四号訴訟は形成訴訟として、地方公共団体が敗訴した場合には、その判決の拘束のもとに、第二段訴訟によってその賠償責任を負ってもらう、こういうことになったわけです。この第二段訴訟では、賠償責任の有無をもう一度蒸し返すということはできませんし、訴訟終了まで非常に多くの時間を要するということもない、これは形式的な裁判であるというふうに考えます。

 そこで、できれば違法な公金支出がなされる前に、事前の差しとめ訴訟で事態を事前防止することが望ましい、そういうことで監査段階で請求人等が関与できるような手続を強化するとか、あるいは監査委員に暫定の差しとめ勧告をするというふうな権限を付与いたしました。また、すべての訴訟類型を通じて、住民が勝った場合には弁護士報酬を請求できるということにしたわけであります。

 これら全体を通じまして、今度の訴訟の改正の四号訴訟も含めまして、この制度を一層拡充し強化する、健全な方向に育てていく、こういうことでこれを立案したわけでございます。これに対していろいろな批判がございますけれども、それにつきましては、もう時間が参りましたので、皆様から後に御質問がございましたら、個別にお答えするということにさせていただきたいと思います。

 これをもって私の公述を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

川崎委員長代理 次に、鶴岡参考人、お願いいたします。

鶴岡参考人 千葉市長の鶴岡でございます。

 本日は、このような機会を設けていただいて、ありがとうございました。地方自治法等の一部を改正する法律案に賛成の立場から意見陳述させていただきます。

 今回の法改正は、地方公共団体の長や職員の個人責任に関する制度の基本は維持しつつ、分権時代にふさわしい住民監視制度の整備等を図ろうとしているものと思います。改正事項のうち、私からは、住民訴訟制度見直しについて申し上げます。

 住民訴訟制度のあり方は長や職員にとって直接のかかわりがある問題ではありますが、そのこととは別に、いわゆる四号訴訟を、地方公共団体の機関を被告として損害賠償請求するよう求める形に改めるという今回の改正は、地方公共団体の自律的責任の明確化と説明責任の強化という点で意味があると考えております。

 現在、四号訴訟で争われている事例のほとんどが団体としての政策判断や業務執行の是非が問われているものであり、本来の当事者は長等の個人ではなく、地方公共団体そのものではないかと思われます。

 ここで一つ、私にとって身近な事例としまして、千葉市の新清掃工場建設に関する住民訴訟を御紹介させていただきます。

 これは、清掃工場の建設に反対する十四人の住民が、建設費の支出が不当であるといたしまして、当時市長であった前市長個人に対し、二百六十三億円を超える建設費の支出相当額の損害賠償を求めているものであります。

 この訴訟は、当初、建設工事をする必要性がないこと、建設に関する契約が違法に締結されたことを理由といたしまして、執行機関であります千葉市長に対し建設費用の支出差しとめを求め、平成四年に提起されたものでありますが、建設費用が支出された後、前市長個人に対する損害賠償請求訴訟へと変更されまして、審理に九年を要しまして、今年、前市長勝訴の第一審判決が言い渡されたものであります。その後、控訴が提起されまして、現在、東京高等裁判所において係属中であります。

 ごみの処理については、各地域内において、ごみの収集から始まり、中間処理を経て最終処分の埋め立てにより完結するものであります。ごみの適正処理を行うに当たり、中間処理施設としての清掃工場は必要不可欠な施設であります。この施設を市が建設しようとする場合には住民の理解及び協力が重要なものとなり、理解や協力を得るには、行政側の施設建設に至るまでの政策決定に透明性が求められます。このため、廃棄物処理法を初めとする関係法律により建設までの手続が定められており、行政側はその手続に沿って着実に実施していくことが必要でありますし、都市計画手続及び環境影響評価手続もその必要な手続の中に含まれております。

 千葉市におきましては、清掃工場等の廃棄物処理施設を建設するに当たり、市の基本計画及びごみ処理計画の中で事前に位置づけをした上で、種々の手続を経て地域住民の理解を得て建設を進めてきたものであります。

 そのごみ処理計画についてでありますが、千葉市の状況をいいますと、人口につきましては、幕張新都心に代表される大規模団地の計画に基づく人口増加、大量生産、大量消費、大量廃棄によるライフスタイルの変化などによるごみの増加があり、市内二カ所の清掃工場で焼却処理をしておりましたが、ごみ量の増加、既存工場の老朽化及びごみ質の変化から、昭和五十二年度から始まる第二次五カ年計画からその後三次にわたる五カ年計画及び個別計画でありますごみ処理計画に、首尾一貫して清掃工場の建設が必要とされていたものであります。

 このように、千葉市における新清掃工場の建設につきましては、これらの計画に首尾一貫して位置づけられたものでありましたが、昭和六十二年の着工後にあっても、当時のごみ減量の施策として、分別収集の計画を盛り込む必要があるとしまして、平成元年六月から学識経験者や市民の代表により構成された検討委員会におきまして平成四年一月まで検討し、新たな分別計画や分別を前提とした清掃工場の施設規模の見直しを行い、議会の議決を得て、平成八年十月に竣工したものであります。このため、着工までに十数年を要したものであります。

 このように、市として、清掃工場の必要性や施設規模、その他周辺の環境に与える影響などを慎重に検討し、決定したものですが、訴訟では、新清掃工場の必要性ということで、その計画決定や政策判断の是非が問われたものでございます。

 少し時間をかけて千葉市の事例をお話ししましたが、全国的にはそのほか、下水道整備、廃棄物処理施設の建設、第三セクターの処理、大学の誘致等、いろいろなケースが争われております。これらは、先ほどの事例でお話ししましたように、議会の議決や審議会等での審議、行政内部での意思決定手続等、地方公共団体としての所定の手続を経た上で実施されております。したがって、これらの是非が争われた場合は、むしろ、当該地方公共団体として住民に対し考え方や経緯を積極的に明らかにする必要があります。いわば説明責任を果たす必要があります。このことは、地方分権の時代となり、地方公共団体の政策判断、意思決定に自由度が増し、自己決定、自己責任の時代に入ったことから、なおさらだと思います。

 一部の方は、今回の改正案について、被害者である地方公共団体と住民同士を争わせるものであるということをおっしゃっているようですが、私は、住民から選挙で選ばれ、その信託を受けて行政活動を行っている者であります。住民の代表者として、その負託にこたえるべく、常に最善を目指して日々の行政活動に取り組んでいますが、住民の皆様の中にはいろいろな意見があり、違う意見をお持ちの方にもでき得る限り理解を得られるよう努めているところであります。

 こうした現実の中で、行政による財務会計行為の違法性等に不満や疑念を抱いた住民が、住民監査請求を行った上で、なお地方公共団体側がその住民の指摘や意見を受け入れず、結果としてその住民にとって満足できる結果が得られなかった場合に住民訴訟が提起されるものであります。

 なぜこのようなことを改めて申し上げるかといいますと、住民訴訟が提起された時点においては、住民の代表者である長や議会が法令に定められた手続に従って政策決定をし、その執行を行っている地方公共団体と住民の判断が相反し、いわゆる対立関係となっているのであり、被害者同士という関係には実態としてもなっていないということを明らかにしておきたいからであります。

 しかしながら、地方公共団体としては、たとえ一住民による指摘や意見であろうと、そのような意見に対し、真摯に説明責任を果たすことが住民自治の見地から望ましいこともまた明らかであります。今回の改正は、こうした実態を踏まえつつ、地方公共団体の説明責任を強化するという要請にこたえているのではないかと考えております。

 現実の審理の過程を考えましても、問題とされる政策決定等に関する文書や資料は当該団体の公文書であり、個人として所有している証拠や資料はありません。したがって、その道路や下水道、廃棄物処理施設等の整備を行うに至った経緯やその必要性に関する資料は、当該地方公共団体が当事者として提出する方が審理を行う上での証拠や資料がより豊富となり、裁判官が事実に基づき的確に判断しやすくなると思います。

 また、住民訴訟の結果は、例えば廃棄物処理施設の整備やこれからどうするかなど、長や職員の個人の問題であるにとどまらず、団体における将来の行政運営や住民生活にも影響を与える場合が多いと考えられます。行政運営に対する住民の信頼にも影響します。この意味でも、単に原告と長や職員個人の間の問題とするのでなく、当該事業に責任のある地方公共団体が当事者の立場に立って充実した裁判を行うことが行政運営上も必要性が高いものと思われます。

 また、仮に裁判の結果として違法であるとされた場合、当該地方公共団体として個人に対し損害賠償を求めることになるでしょうが、それだけでなく、地方公共団体としてその結果を真摯に受けとめ、そうしたことが当該団体において二度と起こることがないように組織を挙げて適切な対応策を講じなければならないものであります。したがいまして、今回の改正は、住民訴訟制度本来の目的にこれまで以上に沿うことになるのではないかと考えられます。

 以上の御説明では、比較的大きな政策争点が争われる例を申し上げましたが、現実の四号訴訟では、市長の就任のあいさつ状の送付、審議会にかかった案件に異議がある者が審議会の出席報酬の支払いについて損害賠償を求めた例、広報紙に原爆の日の黙祷に関する記事を掲載したことが違法として損害賠償を求めた例とか、実にいろいろなことで長や職員が訴えられております。そして、裁判の結果は多くの場合被告側勝訴となっております。

 勝てば責任がないことが明らかになり、弁護士費用も地方公共団体が議会の議決を経た上で任意に負担できる制度もありますが、裁判が確定するまでの間の被告となった個人の負担は、勤務時間中の対応ができないとか訴訟関係の費用の負担をしなければならないとか、現実には大変であります。退職後も裁判をしなければなりませんし、被告本人が死亡すれば遺族が被告の立場を承継しなければなりません。しかも、冒頭申し上げましたように、ほとんどの場合、事案の内容は個人的なものではないのです。

 私は、今回の改正案は地方公共団体の機関を当事者とするもので、これは、冒頭から申し上げておりますように、充実した裁判にすることなど、いろいろな面で望ましいと考えております。また、これにより住民が訴訟により争う道が何ら狭められるわけではありませんし、むしろ、今回の改正では、一号訴訟の対象範囲の拡大、弁護士費用の公費負担の拡充など、住民にとってもプラスになる措置が取り入れられております。

 住民訴訟制度の改正について意見を申し上げさせていただきましたが、本法案にはこれ以外にも、直接請求の要件の緩和、住民監査請求制度の充実、中核市の指定要件の緩和などの改正事項が盛り込まれており、地方分権のより一層の推進のために、いずれも改正を行うことが妥当と考えております。以上のようなことから、今回の改正案につきましては、十分御理解をいただき、できるだけ早期に成立させていただきますようお願い申し上げる次第であります。ありがとうございました。(拍手)

川崎委員長代理 次に、福井参考人、お願いいたします。

福井参考人 政策研究大学院大学の福井でございます。

 総務委員会にお招きいただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、改正案のうち住民訴訟改正部分については反対という立場から意見を申し上げたいと思います。

 地方分権の本旨は、権限、財源を地方に移譲して、きめ細かい住民サービスと地域の発展を促すことにあるわけでありまして、首長などの自治体の幹部は、以前にも増して倫理的、法的責任が求められることになります。逆に、責任が軽くなるということでは、強大化する権力の歯どめがなくなり、腐敗と住民無視が助長されかねないわけでございます。

 自治法に基づく住民訴訟は従来、談合や不正経理など自治体の財政上の違法を是正する上で大きな役割を果たしてきております。現実に、住民勝訴例につきましては、議員野球大会、架空の接待、公有財産の格安売却、私有財産の高価買い上げといった首をかしげたくなるものが累々と並んでおりまして、最近五年間でも、こういった勝訴や和解など実質的に住民側の言い分が認められたものは住民訴訟全体の一〇%を上回っております。一部で言われるような乱訴にはほど遠い実態であります。

 九四年度から九八年度にかけて提起された住民訴訟件数がふえていると言われますが、八十九件が二百六十一件になったにすぎないわけであります。自治体の総数が三千三百、歳出純計が九十八兆円という巨大な部門での総計でありますから、四千億円近くの公金について一件しか起こっていないということで、首長等の負担が重過ぎるという議論が果たして広い支持が得られるものでしょうか。

 ところが、現在、審議中の改正案では、個人の首長ではなく機関の首長が被告になるということでありまして、これは、過度に慎重になって業務に事なかれがはびこるのを避ける目的があるとお聞きしています。また、被告が敗訴しても、損害賠償をさせるためには、監査委員が個人としての首長等を相手に新たに訴訟を提起する。また、談合業者など直接損害を与えた業者を被告にすることも禁じられることになります。こういった点には問題があり、慎重な検討が必要と考えております。

 第一に、住民訴訟は、首長等が住民全体に損失を与えたという事実がまず前提にあります。原告の住民は、自治体の利益を代弁する代理人としての立場に立ちます。その意味で、本来、被害者同士である住民と自治体の関係があえて敵対関係の構図に置きかえられるということは奇妙であります。被害者である自治体も、訴えられれば理由のいかんを問わず正当化するということは、公的機関あるいは訴訟担当者の職責でもあるわけです。

 私自身、建設省の職員として、成田空港訴訟、長良川水害訴訟を初め行政庁側の被告代理人を多数務めてきましたが、被告代理人の職責は、およそ原告の訴えが不適合である、あるいは理由がないといったことを不利な証拠をあえては提出しないことも含めて徹底的に主張することであります。しかも、行政庁の負担はすべて納税者により賄われておりますから、裁判の長期化は痛痒がないという事実もございます。仮に違法が存在していても、それが法廷で発見される確率は行政訴訟一般に非常に低いというのが残念ながら実態でございます。

 住民訴訟と類似する私企業の株主代表訴訟というのがありますが、これにつきまして、加害者、すなわち、取締役等の負担軽減を目的として、会社と株主という被害者同士を争わせるのが適切だという議論はないわけでございます。これと共通して申し上げますと、住民や株主から業務を任された首長や取締役の責任は、組織ではなくて個人としてのものであります。

 ちまたで政策判断について個人で裁判を受けるのはおかしいという議論もありますが、住民訴訟は管理をゆだねられた従業員たる首長等が起こした個人的な不始末の責任を追及するものにすぎません。だからこそ、改正案でも究極の賠償主体は首長等個人とされているのだと理解しております。

 これまでにも政策判断固有の是非はもちろん争われたものはございますが、それを理由として住民側が勝訴したという案件は絶無でございます。しかも、自治体の場合、首長等の報酬は住民から強制徴収された税金で賄われており、民間の役員よりも公金で賄われる首長等の責任が軽いという理屈は見出しがたいと考えます。

 住民訴訟の改正の方向には、大きく、首長等個人が被告となっている現行の枠組みは変えずに、まじめに職務を遂行される首長等の負担が過重とならないように措置するという改正の方向もあり得ます。それからもう一つは、個人としての応訴負担を一切発生させないようにするため、被告をそもそも機関としての首長等に切りかえてしまうという今回の案のような方向もあります。

 こういう被告を変更するという方向についてですが、メリットとしては、確かに、首長等が一切訴訟事務から解放されるために煩わしい手間がなくなるという点はもちろんございます。しかし、デメリットとしては、いかなる個人不祥事、例えば横領行為や背任行為も含めて、すべて自治体が組織を挙げて個人の首長等のために応訴をするという構造ができ上がってしまうという点であります。

 民事訴訟法上も行政事件訴訟法上も、被告は、自己に有利な証拠や資料を相手方に開示する法的義務は一切存在していません。存在している資料について存在していないと証言するようなことがあれば、偽証罪に問われるだけであります。

 また、証拠や文書については、およそ真実を明らかにする上でどのような証拠が存在しているのかは、行政庁の内部職員以外は知り得ない立場にあります。もし具体的な証拠や文書を原告側が特定できているのであれば、文書提出命令等によって法廷に提出させるということも可能でありますが、問題はそのような場面で発生するのではありません。いかなる証拠や文書がその事件に関連してそもそも存在しているのか否か、存在しているとしても、それは何かということがわからないことが多いわけであります。

 自治体との関係で原告に敵対する被告という位置づけを与えられてしまうのであれば、訴訟法上想定されておりますように、被告側から自己に不利な主張、すなわち、原告側に有利な資料等が提出される可能性は、残念ながら極めて小さくなるわけであります。違法の要件などが実態的に内容に変更がないとしても、攻撃防御の観点から、自治体が被告に変更になるということは、実質的に真実の究明を妨げる効果を確実に持つことになります。

 このような弊害を残したままで、これまでにもある違法支出の是正がこれまでどおりなされるということは困難と思われます。被告を変更することを前提とする以上、腐敗防止に寄与してきた住民訴訟の実を維持するということは極めて困難ということであります。

 第二に、改正案では、首長等は、弁護士費用を初め訴訟に関する金銭、労力的な負担をすべて自治体、すなわち、住民に負わせて争うことが可能となります。これは、加害者が被害者の負担で我が身を守るということにほかならず、一方、原告の住民は手弁当のために、両者はおよそ対等性を欠いてしまうという問題点があります。

 第三に、勝訴した場合、首長等の弁護士費用は個人負担とならないよう現行法でも措置されています。そのような意味で、みずからに恥じるところのない首長等が恐れることはないと考えられます。

 本人が死亡した場合、遺族が困っているという事例を法改正の理由に挙げる向きもございますが、そういうことであれば、むしろ賠償責任保険や賠償限度額を導入するという措置の方が直接対応した対案になろうかと思います。今般の改正案が仮に実現しても、何億も命じられたという賠償責任のその金額や負担が軽減されるわけではないということも御留意いただきたいと思います。

 第四に、住民の貴重な財産を回復する機会や権利を実質的に狭める機能を持つということであります。これは、規制改革や司法改革の流れにも逆行するおそれがあります。このような改正で実際上利益を受けるのは、攻撃防御の観点から見て、無尽蔵の訴訟資源を投入できる、むしろ、違法支出に覚えがある首長等となってしまう可能性も大きいわけであります。

 首長等は、現在でも政策判断の是非で責任を問われることはございません。最終的には、そういった訴訟はすべて被告側勝訴に終わっております。また、過大な負担が問題だということであれば、むしろ、住民訴訟の対象には政策判断を固有に争うような内容は含まれないのだということを確認する規定を置くのが筋だと考えます。

 第五に、誠実に職務を遂行する首長等に配慮することは極めて重要でございまして、その点、法の前提となる目的には私は全く異存はございませんが、そうであれば、より適切な対案があり得るかと思います。それを提示したいと思います。

 具体的な法改正事項としては、一つ目は、原告取り下げの場合の首長等に対する弁護士費用の負担制度を導入するということです。

 現在は、被告側が勝訴したときのみ弁護士費用が自治体から支出されますけれども、原告が一方的に訴訟を取り下げた場合についても、被告側がクロであると確定したわけではありませんから、このような場合についてまで個人に弁護士費用を負担させるのは酷であると考えられます。したがって、被告の違法是正措置を伴わない原告の訴訟取り下げの場合については弁護士費用は自治体負担とするという措置は、十分妥当性があると考えます。

 二つ目は、賠償限度額の設定であります。

 現在は、財務会計上の違法支出があると認定された場合に、それによって生じた自治体の損失は、いかに巨額になろうとも全額賠償を命じられる建前であります。それは、今般の改正案が通ったとしても、その実態に変更はございません。

 しかし、軽過失のものも含めてこのような巨額な賠償を背負うこととなるのは、当人に酷、あるいは遺族に酷という場合があり得ると思います。故意または重過失の責任についてはこれまでどおり全額賠償とするものの、善意で軽過失の首長等については、原因となった行為を行ったときの、例えば年収の四倍から六倍程度の賠償限度額を法的に導入する、こういった措置が十分考えられるかと思います。

 なお、現在も、会計担当職員の賠償義務は故意または重過失のあるときのみ発生しているという立法例もございます。

 六倍の根拠は、通常、一般人の住宅取得価額の年収に対する限度倍率が約五倍と言われていますが、それよりも若干高い倍率を、軽過失とはいえ、損害を発生させた首長等に命じるということは、国民感情にもそぐうものと考えられます。

 ただし、首長等に違法支出の利益が存在する場合にはこれを全額返還させるべきでありますし、また、談合企業など第三者に利得させた場合には、その第三者がいかなる場合も賠償義務を負うということは当然の前提だと思います。

 三つ目は、自治体の情報提供義務の創設であります。

 自治体による訴訟参加の有無を問わず、自治体は当該論点に関する証拠や文書を裁判所に提出する実体上の義務を負うということを、むしろ法改正で明文化するのが妥当だと考えます。

 もちろん、このような実体上の義務が導入されたとしても、その取捨選択の第一次的判断権者が依然として自治体である以上、これで証拠提出が完全に図られるということは考えられませんので、あくまでも補助的手段ではありますが、むしろこういった実体上の義務が訴訟資料、真実を明らかにする上で有効だということは明白だと思われます。

 四つ目は、政策判断を争うことは不適法であるということを条文に明記することであります。

 例えば、公共施設の立地選定で事業費の多寡が生じるケースで、仮に高い事業地を選定したとしても、政策的に正当な理由があるという場合はあり得ます。このような場合に住民訴訟の対象たるべきではないということもまた当然であります。また、赤字の事業に対して補助金を支出したとしても、あるいは当該事業を継続させたとしても、それが政策的に正当である場合も大いにあり得るかと思います。こういった場合など、財務会計上の違法には該当しない政策的な判断を争うものについては、不適法であるということを明記する道もあり得るかと思います。

 次は、法改正以外の措置としては次のようなことが考えられると思います。

 一つ目は、損害賠償責任保険制度の支援ということであります。これも、国や自治体が首長等に対する民間の保険加入を奨励するということは十分可能であります。株主代表訴訟でも、実際上、こういった賠償責任保険の導入が図られつつあります。

 二つ目は、共済制度であります。賠償責任についての共済制度を関係機関により導入する、こういうことも考えられるかと思います。

 三つ目は、情報交換の組織であります。自治体間の情報交換や連絡によって違法の発生を未然に防止するために、当事者がこういった協議会を設立するとともに国が支援する、こういった形もあり得るかと思います。

 以上が私の意見でございますが、最後に、配付させていただいた資料のとおり、ジャーナリズムの論調は、社説、論壇等を含めて、圧倒的多数が被告の変更には問題があるという立場でございます。

 また、お配りしたメッセージでございますが、日本の憲法、行政法研究者の大部分が加入する日本公法学会会員の中でも一級の業績を持つ百数十名の専門家が、やはり被告の変更を問題視しております。

 国会におかれては、法治国家の最高機関としての見識に照らして改正案を再検証していただき、ぜひ良識にかなう措置をとっていただきたいと思います。批判が多い無理のある改正案の当該部分、住民訴訟部分を急いで成立させる必然性は少ないと思われます。どうか本当の地方自治の定着を応援するための措置を衆知を集めて御検討いただければと念じております。

 以上です。(拍手)

川崎委員長代理 次に、森参考人、お願いいたします。

森参考人 市町村合併特例法の一部改正についての意見を申し上げたいと思います。

 合併というのは、行政区域の変更であるというような感じが表に出てきておりまして、そして行政の効率性、行財政基盤を強化する利益、メリットがある、こういうふうになっておりまして、現在、全国的に合併の促進が行われているところであります。

 今回のこの一部改正についての問題点と申しますのは、住民が合併協議会の設置を発議しまして、その発議したものを、協議会設置を当該議会が否決したときには、長または六分の一の連署で住民投票を行える、そういうことになりまして、そして住民投票を行った結果、過半数の賛成があったときには、議会が議決をしたものとみなす、こういうふうになっているわけであります。

 しかしながら、議会が、当該自治体市町村が議決をしていない、否決したものを、住民投票の過半数によって議決をしたものとみなす、していないものを議決したものとするという改正案であるわけですね。これは憲法九十三条で、つまり、日本の都道府県、市町村という地方自治体は、議会によって意思を決定していくという議会主義を、議会制度を原則として規定しているわけでありまして、それを、今回の合併特例法の一部改正によって、議会が決議をするものを住民等の過半数によって議決をしたものとみなすということは、議会制度を否認することになるのではありませんか。つまり、していないものをしたというような法律をつくってまで合併促進を進めようとするその意図を、法改正に当たって各議員の方々は考えていただきたい、こういうふうに思います。

 憲法の定めておりますのは、自治体は二元代表制でありますから、議会制民主主義と言うよりは代表制民主主義と言うべきでありますが、代表制民主主義の原則を憲法が定めているわけでございますので、この原則を覆すようなことを、いかに合併を促進したいといっても、一部改正でそのような法律を通すということは憲法の基本原則に反するの疑い十分これあり、こういうふうに思います。

 つまり、目先の考え方で、つまり、経済というものは大きく動いていくわけでありますから、アメリカの影響を受けて、日本も今大変不景気でありますけれども、やはり経済というのは、皆お互い努力をして、また好転する場合もある。ところが、大変な借金をしょっているものだから、聖域なき構造改革と称して、きのう等のニュースを見ますと、半世紀続けてきた社会保障費まで本人負担にする。背に腹はかえられないではないかという小泉さんの意見のようでありますけれども、半世紀かかって営々として築き上げてきた社会保障の制度を簡単に崩してよいのかという問題もあります。

 しかし、長らく、半世紀かけて自治というものをそれぞれつくり上げ、それぞれ苦心をしながら、主権者である地域の住民の意思に基づきまして、住民投票条例というものを困難をきわめながら制定し、住民投票によって住民多数の意思を表明することによって、地域の将来方向を住民が定めていくということの自治の歴史があるわけです。

 今回の改正案は、住民発議によって協議会を設置する、これは非常によろしい、これはよろしいのではないかと私は思います。さらに、自治体議会が決定したことについて、六分の一以上の住民がそうではないのではないかというふうにして住民投票にかけることを連署によって求めていく、この制度の創設も悪くない。半世紀にわたって地域で営々として築き上げてきた住民自治、それに基づく住民投票の考え方、制度、つまり、住民自治を強めていこうという方向が盛り込まれているものであるから、それはよろしいように思います。

 しかしながら、冒頭申し上げましたように、議会が議決していないものを法律によって議決したものとするというのは、憲法によって各自治体では議会制度をつくって、それを基本に運営していこうということを憲法原則に掲げているわけでありますから、これを否定することは国法としておかしいのではないか、十分慎重な御配慮を願いたいというふうに思います。

 そのことを前提にして、さらに進めて、バランスのある、将来を展望した判断をこの法一部改正の中でぜひ議論をしていただきたいというふうに思います。

 それはどういうことかといいますと、議会が協議会を設置するのに基づいて、あるいは、さらには経過を経て合併を決議したというときも、この場合も住民の六分の一の連署による請求があったときは住民投票にかけるというふうなことをあわせて入れるべきではないか、こういうふうに思いますね。

 つまり、これは憶測になるかもしれませんが、合併協議会の設置までこぎつけていけば、後は、今回、委員は合併促進を推進している方を委員に入れることになって、後は峠を越えたというように思われるのですね。問題は、要点は、合併というのは行政区域の変更ではなくて住民の自治区域の変更であるわけでありますから、法案の説明にありますように、住民の意思を尊重するのだ、これは結構であります。であるならば、合併の問題について、六分の一以上の住民が連署で住民の意思を聞いてもらいたいというような請求をした場合には、もっと重要な意味合いにおいて住民投票に付するべきではないでしょうか。これが論理というものだと思うのですね。

 合併協議会の設置については、住民投票によって議会の議決を覆すようなことを今回の改正で考えておきながら、最終的な合併の決議について、住民の多数に異議ありというような場合に住民投票を考えておかないというのは、冒頭のこの法案の趣旨のところに偽りありと言われてもやむを得ないのではないかと思いますね。だって、合併の決議の方が事の重大があるわけであります。

 でありますから、私が言いましたように、住民発議によって事柄が始まり、議会の決議といえども住民の多数の意思によってどこにあるかを見定めるということは、住民自治原則によっていることでありますから、それは結構だと思う。しかしながら、他方では、憲法で議会制度を創設して基本原則等を掲げているわけでありますから、みなすというわけにはまいらないのではないか。

 であるならば、合併協議会の設置のみならず、合併を決議したことに対しても異議ありという住民の多数による住民投票の請求に対しても、それぞれ議会の決議と違った住民の多数意思が表明された場合には、議会制度とのバランスをとるために議会が再議をする、改めて議論をする、当然、住民多数の意思を尊重して議会が決定をする、こういう制度をつくっておきますならば、憲法原則を否認せず尊重しながら、住民の意思をできるだけ取り入れていこうという、直接請求といいますか、住民自治の原則を尊重してこれを高めていくことになる、こう思いますね。

 そして、議会あるいは首長が、住民の多数意思であっても、自分の公約等によって、あるいは議員として得た知識によって、住民多数の意思と違ったことを決議する場合もあるでありましょう。しかし、これはあくまでも例外的でありまして、議員というものは、議会というものは、住民によって議会の権限を信頼委託、信託されたものでございますから、自分に権限を渡した、信頼委託した住民の多数の意思に従って、尊重して決議するのが一般的な場合でありましょう。

 しかし、場合によっては違う場合もある。そこで、そのときには住民自治の原則はどういうことを考えていくかということになると、既に自治法等でも規定をしておりますように、議会の解散請求ということになる場合もありましょう。あるいは、首長が決定した場合であれば、首長のリコールもございます。巻町原発等のときはそういうことになりましたし、それから、吉野川河口堰の場合には、徳島市議会では住民の請求を否決しましたけれども、直近の選挙におきまして議会の構成員を取りかえました。

 つまり、これは住民自治の発露なんですね。最終的には住民の多数の意思で決めていくということが原則でありますけれども、議会制度を採用している以上は、議会制度とのバランスをとっていくというふうに考えるべきである、こういうふうに考えるわけでございます。

 それから、憲法九十二条では、地方自治の本旨に基づいて組織及び運営を法律で決める、こう書いてございます。しかし、半世紀たちました。当初は、これだけの、現在ほどの住民自治、自治制度、住民投票条例の制定などというようなことは、夢にも、想定だにできなかったのではないでしょうか。しかし、五十年の経過の中で、日本の各地で自治の絶え間なき努力がありまして、制度、条例の制定も進み、この法案についても、地域における住民投票、住民運動、住民自治の成果をこの法案の中に盛り込んでいるということになっているではないですか。

 したがいまして、地方自治の本旨というのは、通常は団体自治、住民自治といいますが、団体自治は分権、住民自治は参加でございますね。それで、今回の地方分権推進委員会で制度分権はなされた、そして、明治以来続いてきた機関委任事務という統制も外した、大変結構でございます。この次は住民自治、つまり参加、参加を充実していくということ、国政にかかわる方々が望んでそれを求めていくべきではないでしょうか。

 つまり、自己決定、自己責任というのは、ただまくら言葉で言うことではなくて、不断の努力をしながら、いろいろな条件を乗り越えながら自己決定、自己責任をしていくものである。であるならば、半世紀経過しました地方自治の本旨というのは、例えば代表制議会主義をとる、代表制の制度をとる、あるいは自治権は住民にあるという原則を緩めてはなりませんけれども、具体的な地方自治の制度あるいはその運営につきましては、自治、すなわち、それぞれの地域でそれぞれの実態に合わせて定めるという方向を考えていくべきではないでしょうか。

 ということは、中央政府の法律で一律に制度を定めるものではなくて、地域の自治の実態に合った、自治の展開というのは多様でさまざまな展開があるわけでございますから、そういう地域の実情に応じて自治体で細かな具体的なものは定める、国法は準則という方向に向かっていくべきだと思うのですね。

 つまり、地方自治法を定めましたときには、当時は、戦後、全国的な一律の制度というのが長い内務省支配でありましたから、そういう慣行があった。それから、新しい自治の制度の出発でありましたから、いたし方ないこととして自治法で細々と規定をしている。

 多くの人が指摘をしておりますように、現在の地方自治法は、こんなことまで決める必要があるのか、しかも、全国一律に決める必要があるのか。北海道でいえば、音威子府のように一千人ちょっとのような村でも、札幌のような政令大都市、百八十万の都市でも、教育委員は全部五人いる、すべて同じ制度ですね。それは、自治のスタートをした半世紀前はいたし方がなかったかもしれない。今日のような自治の充実、成熟がある段階におきましては、それぞれの地域の実情に応じて決めるという方向を国政の場にいられる方はお考えになるべきではないのか、こういうふうに思いますね。

 それから、時間の関連もございますので、最後に申し上げたいのは、府県はこれから何をするのか。各省縦割りごとの機関委任の担当の代官の仕事をしていたわけでありますよ。それが機関委任事務が解けた、府県はこれから何をするのか。それは、国の代官ではなくて、自治体、市町村の側に立って、したがって、県庁などでは市町村課というふうな名前に地方課を改めているではないですか。つまり、市町村の側に立つ。

 そのときに、私も先日、秋田県のある町へ行きましたけれども、福島県の矢祭町などでは断じて合併はせぬという宣言をしたというのを、新聞をそこの場所で拝見しましたけれども、山の向こう側にある村、川の向こう側にある町と合併をさせられる、させられるということが生じているのであります。

 自治を強めていこうというならば、そういうふうなことを一律に強行するのではなくて、小規模の自治体は過疎が進み、少子高齢化でありますから、小さな人口の自治体が出てきます。その自治体が自治がやれるように府県が補完をする、この仕事とこの仕事については県でやっているのを返上したい、やめるというようなこともあっていい、自治の制度は多様に定める。そういう方向をぜひこの国会の中で御審議願いたいということを申し上げて、私の意見にかえたいと思います。(拍手)

川崎委員長代理 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。滝実君。

滝委員 自民党の滝実でございます。

 四人の参考人の先生方には、大変早朝からありがとうございます。順次、まず住民訴訟の点を先にお尋ねさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 まず、福井参考人に、二点について伺いたいと存じます。

 今、福井参考人の説の中では、例えば、商法における株主代表訴訟においては、今問題になっているように、代位訴訟をめぐっての議論はないようなお話でございましたけれども、私は、むしろ逆に、最近、商法の世界でも、株主代表訴訟といいますか、自治法の代位訴訟の範となった制度について、商法の中でも、例えば、東大の神田教授は大いに論点を挙げて議論を提起している、こういうようなことでもございますから、やはり今こういう見直しの時期に入っているのではなかろうかなという感じがございます。

 そしてまた、次の問題として、四号訴訟、この代位訴訟は、地方団体と住民の間では相反する関係ではないという前提で制度が仕組まれているのでございますけれども、実際問題としては相反する場合が結構多いということはたびたび指摘されております。現に、昭和五十三年三月三十日の最高裁の判決でもそういう指摘をいたしておるわけでございますから、まず商法の問題、それから地方団体と住民は相反する関係にもある、そういった点についての決めつけというのはいかがだろうかと思いますので、その点について御意見をちょうだいしたいと思います。

 それから二番目の問題は、政策判断の争いが多い、それを避けるためには、条文で政策判断を訴訟の対象にしない、こういうようなことを明記したらどうだろうか、こういう御提案がありました。私は、それは大変いい提案だと思うのでございます。

 しかし、現在の四号訴訟の条文でも、監査請求と区分して、監査請求では不当または違法というところを、四号の文章では違法というふうに限定しているんですよね。違法というふうに限定しているということは、政策判断を許さない、こういうわけでございますけれども、訴訟として提起されれば、幾ら法律に明記してあっても、裁判所は、この問題は却下というふうな手続をとらずに棄却という手続をとるという限界がありますから、文言を明記してもやはり訴訟の中身を争わなきゃいかぬ、こういう問題があるように思うのでございますけれども、この点についていかがだろうか。

 以上、二点について御意見をちょうだいしたいと思います。

福井参考人 まず一点目、例えば商法の神田先生が議論をされているということでございますが、商法の世界での議論と住民訴訟の議論とでは大分密度に差があるということは事実でございます。また、神田教授は、私どももメンバーになっております民間の研究団体の司法改革フォーラムで、住民訴訟の被告変更については明確に反対という意思表示もされておられまして、少なくとも、民間の役員と公共団体の首長さん等とはかなり位置づけが違うということは、御自身も明言しておられます。

 それから、二点目の四号についても、自治体と住民の利害が実際上相反することも多いという御指摘でございます。確かに、実態といいますか、見かけ上そのように見えることがあるということは、私も全くそのとおりだと思います。

 ただ、法的に根源的なところをさかのぼって考えますと、もともと、自治体というのは住民が集まってできた法人でございます。住民が、いわば強制的に設立させられた法人格を持つ主体、そして、首長にせよ、監査委員にせよ、いわば住民から雇われている、被用者という立場でございます。そういう意味で、監査委員が、首長などの非違行為を是正するというのも住民から負託された任務であります。

 監査委員と住民訴訟の原告が違うということはあるかもしれませんが、それは、被用者である監査委員が別の被用者である首長等と見解が一致するということでございますので、それだけを指して、自治体そのものと原告住民との見解が違うということにはなりにくいというふうに考えるわけでございます。

 また、監査委員の監査は、あくまでも行政内部の第三者の簡易迅速な違法是正措置でございますから、しかも、首長に任命されるという立場でもございますから、徹頭徹尾フェアに、本当にその雇い主の違法行為を暴くことができるかどうかということは、もともと懸念があったわけでございます。

 そういう意味で、行政内部の判断が適切に機能しないときに備えて、安全装置として住民が直接、当事者である相手方に訴訟を起こすという制度が置かれておりますのは、裁判を受ける権利から見ても非常に自然なことでございます。現在、行政不服審査制度という行政内部の違法是正措置というのも主観訴訟の方にはございますが、これがあるからといって行政事件訴訟法が必要ないということにならないのと同様ではないかと考える次第でございます。

 それから、最後に、政策判断を除外するということについては大変難しいのではないかという御指摘でございますが、また、現在の四号でも除外されているというのは確かにおっしゃるとおりでございます。

 ただし、現在提起されております住民訴訟の中には、確かに、御指摘のように、この法案を推進される方が首をかしげたくなるような極めて矮小なところをとらえたものがあるのも事実でございます。また、単純に政策判断の、例えば、立地についてAがいいかBがいいかCがいいか、こういうことを争っているものがあるのも事実でございます。

 ただ、条文が単に違法としか書いていないために、どういう場合がこの入り口を満たすのかということについて、いわば素人集団である住民側に混乱があるのも事実でございますから、少なくとも既存の判例等を踏まえてできるだけそれを明確化、客観化する条文を置くということは、被告を変更するか否かにかかわりなく大変重要な課題、具体的に裁判現場の混乱をできるだけ小さくする措置になり得るのではないかと考えております。

滝委員 ありがとうございました。

 時間の制約がありますので、一通りお尋ねしたいと思います。

 次に、鶴岡参考人にお尋ねをいたしたいと思います。

 千葉市におけるごみ清掃工場の事案で御紹介がございましたけれども、そもそもこの住民訴訟においては、市当局は補助参加と申しますか、訴訟参加をしていたのかどうかということが第一点でございます。

 それからもう一つは、市長さん個人として政策的判断について解明に努められた、こういう訴訟だと思いますけれども、その際の資料の提出、そういうようなことについては一体いかなる状況下でこの裁判が争われたのか、そういった点についてお尋ねをさせていただきたいと思います。

鶴岡参考人 お答えいたします。

 市は、訴訟参加いたしておりません。それから、資料等は、情報公開制度を利用して入手して、市長が出すという形で今訴訟を争っています。

滝委員 二百六十三億の金額の訴訟だと思うんですね、この事業の、御紹介の清掃工場の問題は。これだけの大規模なものについて、もちろん、個人の訴訟ということで、市当局が訴訟参加をしていないということになりますと、これはなかなか大変だろうと思うのですけれども、訴訟参加の申し出は、市長個人としてはおやりにならなかったのでしょうか。

鶴岡参考人 これは特殊なケースでして、最初、一号訴訟が市長あてに出てきまして、それが、さっき経緯を言いましたように、もう工事金を払っちゃったというところから、今度は松井前市長に対する損害賠償というふうに変わった経緯があったものですから、そこが、ほかのこういう訴訟とちょっと違う形になっているのじゃないかと思います。

滝委員 この問題は今高裁に係属中、こういうことでございますから、訴訟途中でいろいろな意見を申し上げるのはどうかと思いますから、この程度で、次に移らせていただきます。

 次に、成田参考人にお尋ねをさせていただきたいと思います。

 今御案内いただきましたように、昭和三十八年の財務会計制度の大改正の際に、現行の住民訴訟を最終的に形づくられた、こういう御紹介がございました。

 そこで、私ども、この訴訟の形態を見てみますと、不思議に思いますのは、監査請求というのは、あくまでも団体の機関を相手に監査請求をするわけですよね。したがって、その段階では、名あて人は機関である、こういうふうなことが言えると思うのでございますけれども、訴訟になりますと、いきなり、監査請求で住民が不満足な回答が得られました途端に、今度は、訴訟では個人、こういうことになるわけですよね。その辺のところの経緯は、昭和三十八年の改正のときには、そういう名あて人が違うということはどういうふうにお考えになっていたかというのが一つでございます。

 それからもう一点は、福井参考人にもお尋ねしたわけでございますけれども、最高裁の昭和五十三年三月三十日の判決では、団体と住民は相反する関係にあるのだ、こういうことを指摘されているわけでございます。そういった判決を踏まえて、今回の地方制度調査会の案というか答申をまとめる際に、そういったようなことは議論として念頭に置かれていたのかどうか、その辺のところもあわせてお聞かせをいただきたいと思います。

成田参考人 今御質問がございました二点についてお答えいたします。

 まず、昭和三十八年の財務会計制度の改正に先立つ審議におきましては、監査請求というのは機関になるわけですね、ところが訴訟では長なり職員個人が相手になる、その辺、名あて人が違うということをどう考えたのか、こういう御質問かと思いますけれども、もともと、昭和二十三年の制度のもとでは、損害補てんの裁判というふうに書いてありまして、この中身はよくわからなかったわけです。これは民事訴訟なのか行政訴訟なのかもわからない。また、損失補償なのか損害賠償なのかもわからない。

 そこで、その件につきまして性格をはっきりさせようということにいたしまして、いわゆる監査請求の段階でまず監査委員会の審査を受けるわけでございますけれども、この場合の監査委員というのは、おっしゃるように、地方公共団体の機関でございます。ただ、長の指揮監督を受けるような機関ではなかなか独立した監査ができないということになりますので、そこで、長から独立をした地位を持つ、監査を行うということになりますけれども、そこで表明される意見というのは、これは地方公共団体である機関の意思になるということになるわけですね。

 それでは、どうして訴訟だと個人になるのかということですけれども、当初、当該職員という概念は、これは個人ではなくて、むしろ財務会計を行う機関であるというふうに考えてきたわけであります。ところが、ある時期から、それは個人で、当該職員個人が被告になるんだという判例が出まして、それがもとになって、今のような方向に発展をしてきた、こういう形になるわけですね。ですから、当初考えておりましたのと違った形に発展してきたということが言えると思います。

 それから第二は、先ほど御指摘のございました五十三年の判決、これは私たちも非常に基本的な参考にしているわけでありまして、先ほど福井参考人も、被害者が被害者を被告にして争うのはどうか、こういう話をいたしましたけれども、これはまさに被害者であるかどうかということが争われているわけですね。

 地方公共団体が監査の段階で、監査委員を通じて、いや、自分は被害者でないというふうに主張している、それを住民は被害者だということで断定をして、争ってきている。そこで基本的に対立があるわけです。そういう構造を考えまして、機関を被告として争わせる方が妥当であろう、こういうことで、今度はこのような仕組みをとったということになりますけれども、そこで、今の政治や行政に求められる説明責任を裁判の場で十分に果たしてもらうというのが今度の改正の本来の趣旨でございます。

滝委員 ありがとうございました。

 今の御意見で、当初のねらいと、途中からの裁判での運用というか、流れの中で変わってきたということで、その辺のところがよく理解できたように思います。

 次に森参考人に、時間がありませんので二、三分でひとつお答えをいただきたいと思うのでございます。

 最後におっしゃった、規模の小さな町村、そういった点については、今回の法案では関係ありませんけれども、都道府県がむしろ前面に出て補完をするべきだ、そういうようなことも議論をすべきだ、あるいは考えるべきだ、こういうような御意見を賜りました。もう少しお考えを承れると、ありがたいと思うのでございますけれども、よろしくお願いします。

森参考人 小さなところは、何としても、合併しないでこの町をやってきたんだから、村をやってきたんだから、やりたいということは方々で私は目撃しております。最大の不安は、財源的に成り立たない。現在は、ほとんどのところが、人件費にもならないような、市町村は自主財源は人件費にならないわけですね。でありますから、交付税は、平衡交付金ということであったように、地方の金なんですね。それを中央が、おんぶに抱っこで面倒を見てやっているという思い上がりのような言動がありまして、そしてそれを削るということに不安があるわけです。

 しかしながら、財政全体が今ないわけでございますから、これはやむを得ない面もある。そこで、小規模自治体が自治を、自分たちのふるさとをどうつくるかということについて、国政全般からその可能な条件を探ってやる、探ってみるという必要はありますね。そうすると、県が、幾つかの仕事については、それでは広域的に、補完的な、広域行政と言っておりますが、府県というのは補完自治体なんですね。

 そこが、とても財源的に成り立たないような部分の仕事を広域的に引き受けて県が行うというようなことがあったときに、自治というのは、大都市、政令指定みたいなところもあれば、小さな千人のところも、それぞれ、地域や実態、地形の関係もございますので、成り立っていけると、多様なさまざまな形で、日本列島の中でふるさとをつくるという自治の動きをつくっていくことが国政の方向だと思います。

 今までは、都道府県は国の代官、取次代理店でありましたから、それをかわって、小規模のところを府県が担っていくという制度をつくっていくことを今回ぜひ御審議願いたいし、将来の方向は確認をしておくという方向もあっていいと思いますが、御審議の中でそういう御配慮があるならば、日本の自治というものは多様な発展を遂げていく可能性が出てくる、こういうことでございます。

滝委員 ありがとうございました。

 今のお話を承っておりますと、明治の最初のころに、明治十一年に郡区町村編制法というのが最初の制度としてでき上がったわけでございますけれども、その郡に当たる制度に近いような印象を受けるわけでございます。これは大正十年に廃止されるわけでございますけれども、何となくそういう郡が町村をカバーしていたというところに近いように思いますけれども、時間の関係で、これで質問を終わらせていただきます。

 四人の参考人の皆さん、ありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、中村哲治君。

中村(哲)委員 おはようございます。民主党・無所属クラブの中村哲治でございます。

 私は、ちょっと頭が悪いようでございまして、先ほど成田参考人のおっしゃった説明が理解できませんでした。

 物事は、手続法と実体法と両方の考え方をきちんと峻別して考えなくてはいけないと思います。自治体が違法支出等をその機関によってされて、それを争う場合に、その争う前提となる実体法的な考え方をしますと、違法な支出をされた被害者はやはり自治体ではないでしょうか。そして、自治体のマスター、主人というのは言うまでもなく住民です。首長ではありません。首長も監査委員も、あくまで自治体から雇われる、そういうふうな機関であるはずです。

 先ほどの御説明で私が一度聞いた限りでわからなかったのが、当初考えたのと違う形で発展してきた、そして、被害者が被害者を訴えるという見解もあるけれども、被害者かどうか、これを争うのがこの訴訟のあり方なんだからというふうなことを説明されました。私は、被害者が被害者かどうか争うというのはそれこそ訴訟法的な観点の見方であって、まず実体法は前提として法律の構造にあるわけですよね。やはり、どう考えても、機関を中心に考えるのではなく、自治体を中心に考えるべきである。自治体が損害を機関によって引き起こしているからこそ、こういうふうな訴訟類型が考えられたというのがそもそもの制度の趣旨だったのではないか、私はそのように考えますが、それについて、普通の国民が理解しやすいような形で説明をしてください。よろしくお願いいたします。

成田参考人 先ほどの御説明で足りない点があったかもしれませんけれども、当初の考えておりました損害賠償の対象になりますのは、例えば背任、横領とか、公金をくすねてポケットに入れた、今国で起こっているような事件を想定して書いているわけですね。こういった場合には、当然これは返還する義務があるし、返還しない場合には、それを返還する請求権があるというのは当然だと思うんですね。

 ところが、やはり、今問題になっておりますのは、いわば実体法の問題で、不法行為あるいは不当利得の返還請求権ということになるわけです。

 これまでいろいろな行政法の判例、戦後も発展してまいりましたけれども、一体、長のどういう行為が地方公共団体に対して不法行為責任として損害賠償責任を負うことになるのかという、この実体法については全くその規定がないわけですね。そういう問題があるのを、いろいろな判例を通じていろいろ扱われてきた。そういう中で、さっきからお話がありますように、政策問題にも触れるような形で問題が起こってきたわけでありますけれども、判例を見ていますと、やはり裁判所である以上違法であるということを言わなきゃならない。そのために、我々の目からいたしますと、かなり無理をして、単に不当な事案と思われるものが裁量権の逸脱、乱用というふうな行政処分一般の法理を使って解明されている。かなりそこには無理があるんじゃないかというふうな気がするわけです。

 そこで、やはり、被害者かどうかというのは、不法行為として本当に賠償責任を持っているのかどうか、それから、そういう賠償責任があるとしてその額がどうなのか、こういうことをまず監査委員を通じて監査をさせて、それで裁判の場でそこはちゃんと住民に説明をする。自分はこういうことで不法行為にならぬと考えている、あるいは損害額はそんな額じゃないと考えている、こういうことをその場に機関として説明をする、これが今度の訴訟の仕組みであるということでございます。

中村(哲)委員 今の御説明には何点か論点が含まれておると思いますので、それを分解して話をしていかないといけないと思います。

 ただ、今の御説明でも、被害を最終的に受けるのは自治体である、それは明らかになったと思うんですね。今の御答弁においても、最終的に首長の責任が認められた場合に被害を受けるのは自治体である、それは今の御説明でも私は明らかになっていると思います。

 あと二つ論点があるというのは、政策判断というのをそれ自体問う訴訟類型ではなかったのにもかかわらず、それが争われているので、それに対してどうにかしなくてはいけない、そういう点と、自治体が真実解明をするということに関しては、今でも訴訟参加という制度があるということだと思うんですね。だから、きちんと訴訟参加をしていけば、制度として今もきちんと運用できるのではないか、私はそういうふうに考えます。

 午後に提出予定をしております民主党の修正案では、政策判断というのをこの四号訴訟からは除外しよう、具体的に例を挙げまして、今までおっしゃったようなものを除外していこう、そういうふうな明文規定を置こうと考えております。それは、先ほど成田参考人がおっしゃった実体法の実体的な規定がない、不法行為、不当利得の返還請求をしていくときに、違法かどうか、それを判断する実体的な規定が明確でないことが問題だとおっしゃっていることに即応するものでございます。

 私は、やはり、被告をかえるということは、被害者が被害者を訴えることになる、そういうふうなことにつながってまいりますから、今おっしゃった弊害は、政策判断を明確に四号訴訟の範囲から除外するということを明文で確定すること、そして説明責任の観点からは訴訟参加ということをきちんと運用していくような形を明確にすることでできるのではないかと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

成田参考人 お答え申します。

 一つは、政策判断というものを民主党案ではっきりさせている、こういう御趣旨でございますけれども、私は、これまで憲法問題で、宗教に対する地方公共団体のかかわりあるいは宗教団体に対する公金支出、これは玉ぐし料とかいろいろな問題がございましたけれども、まさに憲法問題にまでさかのぼってこれが争われているわけです。

 これは、財務会計行為が単に違法であるとかいうふうな問題、形式的な財務会計行為の違法というふうなことではなくて、そのもとにある、そういうものにかかわった政策それ自体が争われているということになるわけなので、今度は確かに萎縮効果というものをなくそうということが目的ではありますけれども、ただ、我々も、それを非財務会計行為に限るとかあるいは議会の議決を経たものは一切争わせないとか、そういう選択肢はとらなかったわけであります。これは、今までいろいろの政策の問題が争われている、しかし今度はその政策を争われているということに対する地方公共団体の説明責任が非常に大事である、裁判の場で説明をさせるということで、この政策判断というものは訴訟から除外するというふうな選択はとりませんでした。

 これは、そういうことをもし書くとすると、私の判断では、それこそまさに骨抜きになるのではないかというふうに思われますし、それから、政策判断といいますと、それを法律に的確に書きあらわすことは非常に難しいのではないかというふうに思われます。

 それから、第二点の訴訟参加の点でございますけれども、この訴訟参加につきましては、現在でも、運用上、たしか八百何十件のうちの二百何十件ということですから、約四分の一については裁判所の訴訟参加を認めておりますけれども、これはそれだから、訴訟参加、それで認めているということは、両方に使える論理になるだろうというふうに思うのです。運用上それだけ出されているからいいだろうということにもなりますし、しょせんこれは裁判所の運用なんだから法律ではっきり書くべきだというようなことにもなるかもしれないので、この数字は両方に使える数字だというふうに思うのですけれども、訴訟参加というのは、今度、訴訟告知をすることによって明らかに相手方、その他の第三者に対してやはり訴訟に参加してもらう、参加していない者は、これは判決の拘束力で自分に有利な事実を主張できなくなる、こういう仕組みをとったわけでありまして、訴訟告知という形をとることによって訴訟参加を促す、こういうような形になっております。

 被告はあくまでも地方公共団体にするということになっているわけです。

中村(哲)委員 私の聞いたことに答えていただきたいので、福井参考人に今の二点について、答弁を聞いてどのようにお感じになるのか、また御自身のお考えをお聞かせください。

福井参考人 まず、一点目の政策判断については、先ほど答弁申し上げましたことと同趣旨でございますが、重要なことは、もちろん政策判断を完全に書き切るということは、これは神様だけができることでございまして、物理的に不可能です。そこは私も同感でございます。しかし、これまでの非常に豊富な判例の蓄積から、かなりの程度明確に、混乱を回避できるような類型ということは明らかに書ける、少なくとも明確に書ける類型がかなりのシェアで存在しているということは事実でございますので、完全に書き切ることは難しいけれども、できる範囲でできるだけ国民にわかりやすく条文を改めていくということは、これは自治体にとっても市民にとっても一定の意味があることだと私は考えております。

 それから、二点目の訴訟参加の件でございますが、今成田先生がおっしゃったように、私も二十数%のケースで行政事件訴訟法二十三条による訴訟参加を中心に参加がなされているということを承知しております。そして、現在の大部分は、民事訴訟法上の補助参加というものではございませんで、行訴法上の参加でございます。したがって、民事訴訟法上の参加というのは原告か被告かどちらかを応援するために、すなわち一蓮託生の運命にある者が参加するものですので、民訴法上の参加というのは基本的に住民訴訟では非常に認めがたいというのが現在の判例の運用であります。

 行訴法上の運用というのは、では何かといいますと、これは訴訟資料を豊富にするためということで認められるものでありますので、真実の究明に寄与するときには、ある意味ではこの行訴法二十三条の訴訟参加は極めて容易に認められるということでございます。

 しかし、現実を見ますと、訴訟参加をしているケースでは一部逆行している側面もあります。すなわち、訴訟参加した行政庁の弁護士が個人としての市長さんと同じ弁護士であって、実質的には個人の応訴の弁護士費用を機関として出されているというようなケースもございます。そういう意味では、実質的に公費による個人の応援というような側面が強いこともあります。そして、むしろそれ以外の訴訟参加していないケースでは、かえって第三者的立場から自治体から十分証拠提出がなされる、こういう実態も見られるわけでございます。

 したがって、訴訟参加自体がすべての決め手ということには必ずしもならないとは思いますが、少なくとも現在の行訴法二十三条の訴訟参加が訴訟資料を豊富にするためだという前提がある以上、そのような制度を、もし自治体が説明責任を果たすのであれば、積極的にその制度の趣旨に沿って活用していくということで、現在でも十分対応できると私は考えております。

 ただ、今ちょっと申し上げましたように、形式的に第三者にあるという現在の自治体の立場は、むしろ住民との間でもニュートラルな関係を築きやすい状況にありまして、かえってうまくいく、打ち合わせがうまくいく、証拠を実質的に任意で出してくれるということがございます。ところが、これが被告になってしまうと、やはり相手方を敵対関係とみなして争わないといけなくなりますので、先ほども述べましたとおり、極めて証拠の提出等にそごが出てくる可能性が強くなると思います。そういう意味では、本来中立的な行訴法の参加ですら事実上住民と敵対的に行動するという実態が広く見られるにもかかわらず、まして被告になってしまって原告と法的に敵対させられるという運命を自治体が背負ったときに、果たして本当に原告に有利な資料を中立的立場から積極的に出すというようなことが考えられるだろうかと考えるわけでございます。

 こういった点は、少しでも行政訴訟にかかわった者にとっては余りにも明白だというふうに私は考えております。

中村(哲)委員 福井参考人の説明、説得的だなと私は実感しております。

 成田参考人にもう一つ最後に聞きたい点ではあるのですが、もし訴訟類型が変わると、個人的不祥事を争う場合に、その不祥事を、自治体の責任といいますか、お金と、またスタッフで見ていくことになる。そのことに関してはどのようにお感じになっておられますか。

成田参考人 個人的な不祥事といいましても、それはいろいろな形態のものがあると思いますけれども、先ほど申しましたような刑事事件として違法なことをしたというふうなものについては、これは恐らく、判決が確定したり起訴されたりいたしますと、やはり責任を負うのは当然だというふうに思うのです。ただ、最近いろいろ問題に挙がっていますような、新聞で報道されているような個人の非行というのは、純粋に個人の立場で行った行為であるとすれば、これはやはり住民訴訟とは関係なしに個人として被害者とかそういうところに賠償すべきであるということになるわけでございます。

 恐らく、公務として行われたものについては、その非行の程度あるいは違法の行為の程度によって、やはり本当に損害賠償責任が生ずるのかどうか、地方団体に対する賠償責任が生ずるのかどうかということは、個々のケースによって異なってくるわけですので、一般的な形としてはお答えしにくい御質問だというふうに思っております。

中村(哲)委員 では、端的に言うと、背任、横領、先ほどおっしゃったようなケースでございますが、それについてきちんと答弁をなさっていただかないのがすごく不誠実な感じがいたしますけれども、同じことを、今度は福井参考人にお聞きしたいと思います。この点について、いかがでしょうか。

福井参考人 先ほど私も申し上げましたが、端的な横領、背任でも、だれから見ても犯罪行為ということでございますと、これは確かに住民訴訟などまつまでもなく、むしろ刑事法の世界で処理されるものと私も理解しております。

 しかし、この住民訴訟のかなり微妙な部分というのは、政策判断ではないけれども、公金を預かる首長等としてはいかにも注意義務を尽くさなかった、例えば倒産するに決まっている会社にお金をつぎ込んだというようなことは、もし銀行の役員が決裁をすればこれは通常背任で逮捕されて収監される、こういうことをしても住民訴訟だけで済んでいる例が、むしろ自治体の場合には多いと理解しております。そういう意味では、財政支出、会計支出に関する通常の注意義務を持って常識的に行動するという観点がむしろ首長には求められているわけでありまして、それを乗り越えたときに初めて住民訴訟で負ける立場になるという極めて常識的な判断が判例上も積み重ねられていると私は思います。

 したがって、そういうケースについてまで、なぜ被告をかえてまでこの防御の形を変えないといけないのかという点は、私はやはり必然性が十分理解できないでいるということでございます。

中村(哲)委員 成田参考人に、今の福井参考人の答弁に対する御感想をお願いいたします。

成田参考人 今の御答弁に対しましては、地方公共団体としましては、賠償責任を請求するかどうかということについて住民から監査請求があった場合に、監査の段階、それからそれを経た裁判の段階で、もしそういうことがはっきりしているような事実がある場合には、どうしてそれではその個人に対して賠償責任を追及しないのか、そういうことの説明をやはりしなきゃいけない。もし事情があってしないのであれば、それはそういうものとして今度はそこでちゃんと説明をするということになるわけですね。

 その結果、その裁判で、賠償する責任、賠償をしなきゃならない、賠償を命ずる義務があるということになりますと、第二弾の訴訟でそれは追及していく、こういう形になるわけでして、これはいろいろな談合なんかについても全く同じような状況になるだろうというふうに思います。

中村(哲)委員 それに対する福井参考人のお考えをお聞きいたします。

福井参考人 端的に申し上げますと、明白な犯罪行為等でないような、いわば個人的な明らかな判断ミスというのは、やはり住民訴訟の場で現実に争われているということがございます。こういった、いわば個人的不祥事に近いような個人的判断ミスで雇い主の自治体に損失を与えたというようなケースについても、すべて公費で弁護士費用や訴訟費用が賄われることになってしまうという点に、やはり今回の改正案の重大な問題点の一つがあると思います。

中村(哲)委員 時間が参りましたので、終わらせていただきます。問題点が明らかになったと思います。ありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、若松謙維君。

若松委員 公明党の若松謙維です。まず、四人の参考人の皆様、大変御苦労さまです。

 まず、私は、今回の、明確な反対の立場でリーダー的な役割を果たしました福井参考人にお伺いいたしますが、今回政府が提案しております住民訴訟の改正案について、何が一番問題だと考えていらっしゃいますか。二、三分以内でお願いします。

福井参考人 私は、今回の法案は、基本的に合併部分等賛成でございまして、住民訴訟の部分も、問題意識、まじめに職務を遂行する市長さんたちがちゃんと心置きなく職務に専念できるように、こういう配慮を与えようとする点、全く賛成でございます。唯一の問題点は、被告を機関に変更するということであると考えております。

 この点は先ほども申し述べさせていただきましたが、被告が機関に変更されるということは、私の一定の行政訴訟の被告代理人としての経験から、もう直観的、生理的に申し上げましても、行政庁の代理人というものは、訴えられれば、相手の主張に理由がない、あるいは相手の主張が全部不適法だということを、とにかくあらゆる証拠を捜し出してきて主張しなければならないという職業倫理を負った立場でございます。それが、個人のいわば雇われ人としての行為についての適否を行政庁がかわりに受けるということは、これは、何が何でも、その個人が何をやっていようと正しいことをしていたと、もちろんそうじゃない自治体もあるかもしれませんが、そのような行為が極めて普遍的になるということは容易に想像できるわけでございます。

 その点で、やはり機関が受けるというのではなく、本来の責任者と本来被害を受けたと称する住民の直接当事者同士で対決をしていただく、ただし、まじめにやっている方に過重な負担が生じないようにするという方向が私は適切な方向だと考えております。

若松委員 今、直観的に、先ほどの、被告を機関に変更ということが問題だと。私も、賛成論者と反対論者、私の直観的に、これはいつまでたっても同時平行だと。直観的に違うんですね、お互いに。私は、あくまでも個人と機関との一体という面を理解できる方なので、どっちかというと、直観的にこのくらいならばひとつ認められる範囲なのかなという認識は持っております。

 そこで、成田参考人にお伺いいたしますが、成田参考人は、地方制度調査会の副会長ということで長年お働きになられまして、今回政府が提案している住民訴訟の改正案のもととなった答申をまとめられたということですが、今の福井参考人に対する意見について、どのようにお考えですか。

成田参考人 基本的な立場が非常に違うということは、最初から私も申し上げておりますし、ここでもお話をしたとおりでございます。

 ただ、福井参考人のただいまの御意見のうちで、かかわられたのは、これは行政処分なんですね。行政処分取り消し訴訟、いわゆる典型的な行政訴訟の話をされたわけですけれども、行政訴訟というのは通常の民事訴訟とは違って、行政処分は公定力というのが働いている。その公定力をつぶすのがやはり抗告訴訟なわけですね。そこで、官庁として、やはり公権力の行使であるそういう行政処分というものの権威を守るために最大限の防御をしなきゃならない。そこで、書類も出さないというふうな問題が起こるんだと思うのです。

 これは、本来住民訴訟の方はそういう構造にはなっていないわけでありまして、やはり首長さんなり職員なりが当該地方公共団体の機関として行った行為、その中に、万般のいろいろな活動、特に司法上の活動も含めていろいろな活動が含まれているというふうに思うのですけれども、その違法性が問われているという事件であります。

 ですから、それは団体の意思決定としてやっているわけですから、行政庁という立場を離れて、やはりそれらの、それについて争われた場合には、裁判の場で、どうして自分はそういう判断をしたのか、どうして損害賠償請求をしなかったのか、そういうことをちゃんとそこで説明する、それがやはりこの訴訟が住民の参加、住民の参政の一種であるという制度の趣旨にも本来かなうんじゃないかというふうに思うわけであります。

若松委員 公定力という言葉が出ました。私も、正直言って、わかったようなわからないような感じなんですけれども、いずれにしても、今の成田参考人の御説明は私は大体理解できるんですが、それでは、実際に被告になり得るかもしれない鶴岡参考人にお伺いします。

 この改正案につきまして、最も強く要望されておるのが、まさに地方公共団体だと思うのですね。そして、きょう参考人の中で鶴岡参考人のみが、まさに住民訴訟のターゲットの立場であるわけですが、そういうお立場から、特に福井参考人は反対という意見であったわけですが、それについてどのようにお考えでありますか。

鶴岡参考人 お答え申し上げます。

 先ほど、改正案、特に四号訴訟についての考え方をるる述べたわけですけれども、私は、福井参考人の意見を聞いておりまして、今までは千葉市でいえば市長なり職員が被告であったものが、今度千葉市が被告人になると、そのことによって、何か大変、例えば市長なり職員が別の行動形態をとるとか、そういうことはあり得ないんじゃないかと。私の場合でいえば、選挙で選ばれ、毎日毎日市民からいろいろな意見も聞かされながら、職員もまた、厳しい今の時代の中で精いっぱい仕事をしているわけですから、そのことで、何か被告の主体がかわるということで、そういう福井参考人がおっしゃられるようなことは、ちょっと理解ができない。

 我々としては、先ほども言いましたように、あくまでも、今は、住民の参加を得てできるだけ説明責任を果たしながら行政をしないと、あらゆる分野でうまくいきません。それはこの四号訴訟の際にも、我々はそういう責任を果たしたいと思っていますので、そういう意味で、ぜひ機関としてきちっと裁判の場に出るような仕組みをつくっていただきたいと思っています。

若松委員 いろいろとお三方の御意見を聞かせていただいた上で、成田参考人に改めて、まとめる意味で、現行の住民訴訟制度について、何が最も問題であるのか、どう考えたのかということについてお聞きしたいのと、また、今回の改正案でその問題がどの程度解消できるものなのか、それについてお願いいたします。

成田参考人 何が一番問題であると考えたかということでございますけれども、これは先ほど申しましたようにいろいろございますけれども、大きな問題は、やはり個人、首長さんなり職員の方が、これは今、市長さんもおっしゃいましたけれども、市の立場でいろいろなことをなさっているわけです。ところが、訴訟になりますと、それがにわかに個人の責任で個人が被告にされて争われることになるという点だと思うのですね。

 これはもちろん、全体としての勝訴率は六・七%ということで高くはないわけですけれども、やはり非常に長い間、特に、ある訴訟、これは横浜市の、遺族である奥様が、未亡人が、亡くなったことで被告になられた事件なんかを見ますと、十年ほどかかっているわけですね。この十年の間、これは全部訴訟が決着するまで個人としてかかわってくる。一切の仕事を全部自分でやらなきゃならないし、市の立場で決定したことについては市からいろいろな資料をとらなきゃならない。ところが、それは個人である限りはなかなか出してもらえないし、市の職員にも手伝ってもらえない。大変な苦労をされたわけであります。こういった事例はほかにもいろいろあるというふうに思っておりまして、我々も、実態調査でそういった事例を非常にたくさん聞いたりいたしました。

 これは、大きな意味では、萎縮効果と申しますか、そういうくびきを背負っていたのではなかなか思い切った決断ができなくなるということを改めていくということ、それから、先ほど何遍もお話ししているわけですけれども、やはり説明責任というものを果たすことがいいんだろうと。

 それは、今の制度では、監査の段階では責任がないということを放言しておいて、訴訟の段階になるとまともに受けとめる、これはおかしいのではないかというふうに思うので、そこはちゃんと、監査の段階から訴訟の段階、両方通じて地方公共団体を被告とすることによって、機関として行った行為についての説明を十分にしてもらう。こういうことで今度の制度を考えたわけでして、私は、これによって、先ほど市長さんのお話にございましたように、そういった従来の問題点というのはかなり解消されるのではないかということを考えております。

若松委員 今、機関としての説明がしっかりできるということが今回の改正案で一番強調したい点だということですね。

 それでは、成田参考人にまた伺いたいんですが、今回の四号訴訟の被告が個人から機関にかわる改正案になっております。これももう何人か質問されたと思うんですが、住民訴訟が提起しにくくなる、これがいわゆる住民感情というか、そういったお立場を福井先生なんかが代弁されていると思うんですが、これについては、その住民の不安を解消する観点から、どのようにお考えですか。

成田参考人 新聞の社説とか反対論者のキャンペーンによって漠然とそういう感じが持たれているようでありますけれども、住民訴訟が提起しにくくなるといいましても、我々は別に、その提起する要件を、例えば一定の範囲のものに絞るとか、さっき言ったように政策問題は争えないとか、そういった要件は全然課しておりません。要件については、一号訴訟は若干手を入れたということはありますけれども、やはり全体として拡充する方向で考えたわけでして、四号訴訟についても実体の責任要件というのは全く変えていないわけですね。それから、賠償額の限定などもしておりません。

 そういった意味では、しにくくなるといいましても、それはどういうことかということをよく考えますと、恐らく、地方公共団体を被告にすると結局はその行為をした個人がその陰に隠れてしまうというふうなこと、あるいは地方公共団体が被告になるとなかなか文書が出にくくなるだろう、そういうことじゃないかというふうに思うんですね。

 ところが、文書が出にくくなるという点から申しますと、これもかなり誤解があるわけでして、現在は、昔とは違います。これまでは、住民訴訟が起こった場合に、往々にして地方公共団体が資料を出さない、それで何遍も何遍も裁判所に請求をしたりしてやっとその資料が出てくるというふうな事例があったことは事実でございますけれども、現在では、情報公開制度というものが既にできております。国にできまして、それに倣って、これは地方自治体の条例でも強化をされているわけですね。

 そういった制度もございますし、それから、民訴の文書提出命令の制度が、これも、御承知のように先般の国会で改正されまして、たしか十二月一日から施行になっていますね。さらに、マスコミが情報公開を通じていろいろな資料をとって、住民の請求があるとないとにかかわらずどんどん書き立てる、こういうふうな状況があります。また、パブリックインボルブメントなんという制度が入ってきたり、あるいはインターネットで住民との対話が行われたり、いろいろな形で、現在では情報というものが往年に比べて比べものにならないほど豊富に出てきております。

 そういう状況のもとでこの新しい制度を運用しようということになるわけですから、やはり文書が出てこないなんということはまず考えられないわけで、そこで隠せばこれは圧倒的に不利になる。それこそ、そういった場合にはリコールだとかいったことも起こりかねないということになりますから、そういった心配はないのではないかというふうに私は考えております。

若松委員 福井参考人、済みません、ちょっと時間の関係上、恐らく福井参考人に差し向けたら、いや、それが問題なんだというふうな形になると思うので、恐縮ですが、ちょっと次の質問に移らせていただきたいんです。

 いずれにしても、住民側とすれば、本当に資料が出てくるのか、やはりこれを懸念されているのは事実なんですよね。ですからこそ、私はぜひ、この国会の決議として附帯決議を提出させていただきたいわけです。特に、情報公開、住民訴訟があった場合に地方公共団体が隠さないように、証拠や資料を積極的に出すような、まさに情報公開、そして行政評価、こういった制度を活用した説明責任の徹底、さらに、違法な行為に対する事前、事後のチェック機能の充実を図る、こういう形をとって、住民に信頼される地方自治行政の実現に努める、これをやはりこの場で意思を確認したいな、そのためには、野党の先生方もこういう決議にはぜひ前向きな御理解もいただきたいな、こう念願しております。

 もう一つ成田参考人にお聞きしたいんですが、地方自治体の外部チェックという言葉がありますが、今、監査委員という制度があります。私の仕事は公認会計士ですから、そういう立場から見ると、監査委員の制度というのはかなり機能しておりません。ですから、特にイギリスというのは、オーディットコミッションをつくって、約数百ある自治体すべてに対して監査を義務づけておりまして、かなり厳しい監査ですから、おのずと自治体も効率的な行政につながる、こういうことで、いわゆるつまらないむだ遣いのたぐいの住民訴訟なんというのはもうクリアされているんですね。

 そういう意味で、ずっと地方制度調査会の副会長もやられましたので、地方公共団体にも、監査機能の強化という観点から、ぜひ外部監査制度をしっかり創設するべきではないか。今、包括外部監査制度というのはありますが、これはどちらかというと一部分の、取引監査的な部分監査なんですね。そうじゃなくて包括的な、まさに全体的な、網羅する監査制度、これはやはり義務化すべきだと思うんですが、それについてはいかがですか。

成田参考人 この制度を動かしていく場合にこれから大事なのは、やはり監査委員の役割だと思うんですね。監査委員がしっかりしていませんと独立の判断ができないわけですから、そこをぜひやってもらいたいと思うんですけれども、そういう監査制度を強化する一環として、地方自治法の改正で、御承知のような外部監査制度というのを導入したわけです。これは、包括的な外部監査、それから個別的な外部監査とありまして、住民が訴訟を提起するような場合には、恐らく個別監査請求で来るだろうと思うんですね。恐らくは弁護士さんあたりにやってもらいたいというようなことになるだろうと思うんです。

 ただ、問題は、現在、都道府県と大都市等についてはこれは義務づけられていますけれども、一般の市町村については、条例で決めなければこの制度が導入できない形になっているわけですね。これは、初めから一般的なそういう義務を課しても、小さな町村なんかへ行くとなかなかそういう外部監査人もいないんじゃないかというようなことを考えてそういう制度にしたわけですけれども、今後は、順次、そういう条例を制定して初めて活用できるというふうな制度を少し緩和していくということも考えなければなりませんし、おっしゃるように、包括外部監査制度、これの運用の状況を見ながら、やはり問題があれば改めていくといったふうなことをやらなければいけないだろうと思います。

若松委員 時間が参りましたのでやめますが、私も、この衆議院から、松崎委員と二人、地方制度調査会の二十七次の委員にさせていただきました。ぜひ二十六次までの貴重な経験をこれからも御教示いただきたいのですが、いずれにしても、地方自治体は今まで、合併なら合併、そして財政なら財政、別々に議論していたのですけれども、やはりこれは総合的に議論しないと大きな問題は解決できないと思いますので、それもこれからこの委員会で審議したいと思いますので、また時に応じて出席をお願いするかもしれませんが、本日の御参加、本当にありがとうございました。

 以上で終わります。

川崎委員長代理 次に、黄川田徹君。

黄川田委員 自由党の黄川田徹であります。参考人の皆さんには、本当にお疲れさまでありますけれども、引き続きよろしくお願いいたしたいと思います。

 私からは三点、市町村合併関係、そしてまた住民訴訟関係、さらには住民投票関係、逐次質問いたしますので、よろしくお願いいたします。

 まず、市町村合併関係であります。

 神奈川県のように人口三百四十六万人の横浜市を初め都市部の人口が何と九五・四%を占める県と、私の地元、岩手県でありますけれども、人口三十万人弱の、県庁盛岡市以外さしたる都市がないというところでは、合併の対応も本質的に変わってくるものと思っております。

 都市が存在するところはそれが核となり周辺の小規模市町村を吸収する形、そういう合併もあるかと思いますが、そういう都市の多いところでさえも財政的に余裕のある町村は自主独立を求めるところがあるかもしれません。一方、先ほど言いました私の地元の岩手県のように、地方によく見られる県は、財政力の乏しい小規模な市町村が多く、核となる都市が存在せず、周りを見ても同じようなところということでありまして、企業合併と同様、合併のインセンティブが働いてこないところであります。

 そこで、同じような町村が周りにあって、合併して果たして効果があるのか、また、合併しても単に市町村の面積が広くなるだけではないかという話もありますが、先ほど森参考人からもお話がありましたけれども、そういう中での府県の役割、また町村の中でも、例えば一部事務組合あるいは広域連合などのものがあるわけなんですけれども、そういう関係の中で、特に中山間地の町村が、これからどう生き残れるのか、どうやったら残っていくのか、成田先生、そして森先生に御意見があればお話しいただきたいと思います。

成田参考人 今の御質問、まさに私も全く同じように考えております。

 現在、日本の国土の中で八割を占める山地が非常に過疎化をしていて、そこに非常に貴重な国民全体の資産である水、それから森林資源、そういうものが豊富に存在している、しかし、それは荒れ果ててきつつあるということで、やはりそういう山村が振興されないと私は日本は滅びるんじゃないかというふうに思っておりまして、町村会の方にも、これからは町村の時代ということをどうしてもっと大きな声を出しておっしゃらないのだということを申しております。

 それはともかくといたしまして、そういう山間部の町村あるいは離島でございますね、こういったところはやはり合併をしてもなかなかうまくいかないだろうというふうに思うのですね。こういったところにつきましては、前から地方制度調査会では小規模町村のあり方ということでかなり長い間一応の検討課題には上っているわけですけれども、なかなかこれが進まない。どっちかといいますと都市部の方の制度の整備が急がれるというようなことがあって、なかなか進まない。

 そこで、私はこういった問題をこれから真剣に検討していく必要があるだろうというふうに思うわけでして、第二十七次の地方制度調査会でも、私は委員じゃございませんけれども、そういった問題が取り上げられるだろうと思うのですね。こういった場合につきましては、おっしゃるように、やはり仕事や組織をなるべく減らして、足りないところは府県が補完するなり周りの市が補完をするなり、あるいは、ちょうどODAみたいな形で、実力のある財政力の豊富な自治体がそういうときにいろいろな形で援助をするというふうな方式を考えられてもいいんじゃないか。

 そういうことを含めて、いろいろな観点からそういった町村のあり方というものを今後も考えていかなきゃならない、また同時に、そういう地域の振興ということも国家的な見地から考えていかなきゃならぬというふうに思っているわけでございます。

森参考人 御質問いただきました基本的な出発点は全くおっしゃるとおりだと私も思いますね。

 つまり、過密地域と過疎地域は異なって考えるべきでありまして、今日のように人口規模で一律に合併をさせていくというやり方は、まことに日本の未来にとってはよろしくないというふうに思いますね。つまり、交付税、財源ですべては合併をさせられていくということで、それは、自分の守り育ててきた、先代、先々代からつくってきたふるさとの地域を捨てる、捨てさせるということが今地域で行われているということなのですね。

 つまり、自分のふるさとを愛する気持ちとか自分たちの町に誇りを持つということを、大きく過密と過疎に分かれている現代日本社会の将来像を持つときに十分考えなければならないということでありますから、過疎地域の自治体が、存続をしなければなりませんから、自分の地域にそういう誇りと愛情が持てるような十二分な配慮を、今回の合併促進特例法をやるなら十分考えなければならないと思います。

 ところが、北海道の場合には、北海道の道庁は、市町村課という名前のみは変えましたけれども、全く旧自治省の属国のような態度でありまして、そして自治省がこうしろああしろ、ああしろこうしろと書いたとおりの文書をつくっておろしております。市町村の方からどう見ているかというと、非常に不満があるのですが、仕方がないという感じがあるのですよ。これは北海道に限らないのですね。ところが、全国の府県の中では、しかしその扱いはやはり府県知事の考え方によって違いがあるように思われます。

 しかし、私はここであえて申し上げておきたいのは、県が補完するということで小規模自治体、小人口規模体が生き残っていくことを配慮すべきであるというときに、小人口規模、小自治体が自分の町の誇りと愛情を結果的には消してしまうことのないという十分な配慮をした上で、国の各省からおりてくるような仕事を、従来は末端自治体がやったけれども、それは府県が統一的にやったらいいではないかと。仕事の内容を十分吟味して、自分の地域社会の未来を自分たちで決めていくという本論のところだけはきちんと残していくという配慮をした上で、県の補完ということを今考えるべき時期に、日本の過疎過密の分断化している中では考えるところにある、こういうふうに思います。

黄川田委員 最近、都市と地方との対立が際立っているような議論がされておりますので、そうじゃなくて、地方分権の時代、情報公開であるとか政策評価であるとか、地方でもどんどんやらなきゃいけない、そういう自治の原点といいますか、地方のあり方がどんどん論判されることを望みたいと思っております。

 それでは、時間がもう半分になりました、住民訴訟関係につきまして、福井参考人からお尋ねいたしたいと思います。

 まず、この住民訴訟問題を考える前に、新しい地方分権に沿った、時代の変化を先取りした公務員一人一人の行動原理、そういうものを考えていく必要があると思っております。行政サービスを提供する際に、政策決定のプロセスを広く住民に情報公開を行い、そしてまた、的確な政策評価を行うとともに、その評価結果を正しく住民に説明する責任があります。これは昔もありましたけれども、さらにこれから最も大事なところだと思います。そして、このような視点で公務員が自分の行動原理を変えていくことにより、住民との対話が深まり、本来不要な住民訴訟も少なくなっていくのではないかとも思っております。

 そしてまた、内部監査制度、外部監査制度を機能させることも住民訴訟が減少することになるのではないかと思っております。このような基本的な行政側の姿勢が大事でありまして、単に訴訟の類型の構成を変えるだけでなく、もっと広く国民の視点でそういう問題をとらえることが地方自治の本旨にかなうのではないかと思っております。

 そこで、住民訴訟に至る前の監査制度の充実について、もちろん、例えば監査委員にはOB職員の就任が制限されているとか、先ほどの個別監査あるいは外部監査等々、変わってきておるのでありますけれども、さらなる充実が必要と思っておりますけれども、その点について御意見をいただきたいと思います。

福井参考人 監査制度を充実させるべきという基本的問題意識、私も全く同感でございます。本来、住民訴訟は最終的な違法や非違行為の是正措置でございますので、こういった場面に至らなくても適切な行政執行が行われていることがより望ましいということは全くおっしゃるとおりだと思います。

 そういう意味で、監査制度については、例えば外部監査をもっと導入するとか、今のような実質的に首長等が任命するというよりは、もう少し客観的な立場で自由に意見が言える、証拠収集もできる、そういった方々ができるだけ入っていただくと同時に、監査のプロセスや監査の前提となる事実について住民訴訟以前の段階で住民に対してもっとオープンになっているというような制度的充実も非常に重要だと考えます。

黄川田委員 それから、鶴岡千葉市長さん、鶴岡参考人にお尋ねいたしますけれども、包括外部監査は、都道府県、そして政令市、中核市で実施することになっておりまして、千葉市でももう既に、どういう項目で契約したかはわからないですが、中身はちょっとわからないのでありますけれども、その現状といいますか、所期の目的を達しておるか、具体的にお話をいただけたらと思います。

鶴岡参考人 まず、外部監査人制度の前にちょっと述べさせていただきたいのですけれども、私も地方自治体の職員を長くやってきておりますけれども、ここ数年、本当に各自治体においては、監査委員自体も監査委員事務局も、機能が非常に充実されてきていると思います。それはぜひ認めていただきたいと思います。

 それから、外部監査人につきましても、千葉市の場合には本当に熱心にやっていただきまして、我々執行部にとっては大変参考になる、時にはつらい意見も出ていまして、出た後庁内で、どうやってそれに対応するかというようなプロジェクトチームをつくるほどの鋭い問題指摘もいただいておりますので、着実に成果が上がってきていると考えています。

黄川田委員 それでは、最後に、住民投票関係について、成田参考人、森参考人からお伺いいたしたいと思います。

 昭和五十一年の地方制度調査会で住民投票制度導入の問題が提起されて以来二十五年、四半世紀が経過いたしました。また、地方自治制度の根幹は代表民主制でありまして、住民投票などの直接民主制は補完的な役割ということになっております。一方、議会も住民に開かれたものでなければならないという方向性も出ております。

 現在、条例に基づき住民投票を実施した団体は十件程度で、そう多くはありません。しかしながら、その中に、岐阜県の御嵩町の産業廃棄物処理場問題のように町長みずから四十回以上も説明会に足を運んだという事例もあるほか、中には必ずしも議会における議論や住民に対する説明が十分になされないまま住民投票にかけられてしまった例もあると聞いております。この住民投票制度導入がにぎやかに話される反対側には、議会の機能低下あるいは議会と住民意思との乖離、こういうものが大きな要因の一つであるかとも思っております。

 そこで、この地方議会の問題点あるいは活性化について御意見をいただきたいと思います。また、住民投票といいますか、欧米では民主主義ということでもう根づいておるんでしょうけれども、我が国においてはなかなか定着しにくいところがある。何といいますか、特定の方に定着しないで、開かれた住民投票といいますか、いろいろな意味合いで位置づけがされるとよいと思うんですけれども、その辺もあわせてお尋ねいたしたいと思います。

成田参考人 ただいま議会の活性化というお話がございましたけれども、当初の御質問は住民投票問題ではないかというふうに思うので、住民投票を中心にしてお答えいたします。

 この住民投票につきましては、現在、何とかしなきゃならぬというふうな意見がここ二、三年前からかなり高まってきております。ところが、この何とかしなきゃならぬという意見には二通りございます。

 一つは、今、地方で、そんなに数は多くないかもしれませんけれども、原発の問題とか米軍基地の問題とか空港の問題とか、国家の基本政策、国の重要政策にかかわるような問題が、あたかも地元が拒否権を持つような形で住民投票で否決されてしまう、地方公共団体がそういう問題について拒否権を持つような住民投票というのは困るのではないか、だからこういうのはやめさせるようにしなさい、そういった意味での何とかしなきゃならぬという意見。それから、もう一つは、これは正論として、地方自治は住民自治であるから、やはりそういった意味ではもっともっと住民投票をちゃんと制度化して正規のルートにのせる、こういった立場から何とかしろという意見と、両方あると思うんですね。

 現在、公平に見ておりますと、学者の間でも、それからマスコミの間でも、完全に意見が一致しているわけじゃなくて、やはりその辺に見解の対立があるというふうに思われます。

 地方制度調査会でも、これはたしか十六次地方制度調査会から、かなり長い間この問題については議論してまいったわけでございますけれども、住民投票をとるかどうかという問題については、やはり具体的な制度設計をするような場合にいろいろな問題が出てまいります。今度も、住民投票は入っておりますけれども、それは市町村合併にかかわる限定的なものでして、一般的に制度化するということになりますと、まず対象事項というものをどういうふうにするか、地方公共団体の区域内でおさまる地域の事務だけに限るのか、あるいは地域に何らかの形で影響が及ぶような事案全体を対象にするのかというふうな問題がございます。

 もう一つは、さっきから問題になっておりますが、議会の権限との関係というのは当然あると思うんですね。基本的には、これは議会制度というのをとっておりますので、住民投票というのはそのもとで補完をする制度だというふうに一般にとらえられているわけでございまして、そこで、どの辺まで議会の議決があったとみなすというような形で議会の決定の力を破るのかというような問題は当然出てくるわけです。

 それから、住民投票というのは、討論抜きでイエスかノーかで結論を出しますから、やはり場合によっては非常に曲がった、あるいはゆがんだ結論が得られるというふうな可能性もあります。

 それから、最後に、投票結果について、これは拘束的なものと見るのか諮問的なものと見るのか、あるいはそのいずれの制度にするのかというような問題がありますし、拘束という場合にも、第三者が、例えばあることをやってほしいというような場合、それでその権限を国が持っているときに、国までも拘束するのかというふうな問題がありますし、一たん住民投票で決まったことの持続効果はどれぐらいになるのかというふうな問題もございます。

 さらには、提案権をだれに与えるのか。首長なのか、議会なのか、住民の請求なのか。これは、やはり議会制度との関係でいろいろ問題があります。

 それからさらに、有効投票数というものをどうするのかとか、いざ制度化しようと思うといろいろな問題が次々出てまいります。これは、現在、社会経済生産性本部というところでこの問題を少し国民的な議論にしようということで検討を行っているわけでございますけれども、まだそういった形で討議すべき問題が非常にたくさん残っているというのが現状だと思うので、いずれは採用されることになるだろうということは言えると思うんですけれども、現在では、少しいろいろ、実態として起こっている住民投票の様子を見た方がいいのじゃないかというふうに私は考えているわけでございます。

森参考人 住民投票は、住民自治を高める、地域から起きてきた、長い年月の中で積み上げられたものでありますから、これは大いに尊重すべきだと思いますね。しかし、これはあくまでも代表制民主主義を補完するものである。それはよろしい。補完するものであるから従だと考えてはいけないので、補完するということは、原点、基盤が住民の自治権にあるからなのですね。住民の自治権に基づいて、信頼、委託されて議会は権限を与えられている。その権限を与えられている信頼関係が薄れたならば、リコールあるいは選挙でその人におかわりいただく、取りかえると。つまり、原点は住民自治権にある。

 したがって、住民投票で結論が出た場合には、議会制度との関連で、今回の改正案のように議決していないにもかかわらず議決したものとみなすというような、白昼堂々国政の場で、国民感情では納得できない法案が通るということがあってはならない。しかし、議会はそれを住民の意思を尊重して再議するということがあって、そこに調和が保たれる、こう考えるべきであると思いますね。

 次に、住民投票に対して残念ながら嫌悪感を持つ人がいます。新聞等の報道によれば、国政の中にもいるようであります。

 国の基本政策に関するものは誤作動であるなどと言うけれども、例えば巻町の原子力発電所などについては、彼らは国のエネルギー政策に反対したのでは決してないのでありますね。したがいまして、当時話題になっておりました、東京の埋め立て湾などに原子力発電所を、それほど安全であると言うならばおつくりになれば、送電などの経費も大いに安く上がるではないかと。そんなことをしたら大変なことになるではないかというところに、住民は各地域で自治の問題として不安を感じているのであります。

 それから、自治体議会の問題につきましては、小規模自治体はどうしても老人。残念でありますが、女性が少ない、老人。なぜか。歳費が少ないのでありますね。余りにも極端に自治体間の歳費の違いがあります。これは一定の、自治的に、国ではなく自治的に歳費をプールして、ある程度配分するというようなことも将来あっていいのではないかという議論も私どもの研究会では出ております。

 さて、お尋ねの最後。お尋ねにありましたが、北海道などでは、自治体議会を、議長を中心にして、開かれた、住民の信頼を回復する自治体議会の努力が現実に行われております。したがいまして、こういう問題は国法で一律に対処するのではなくて、自治体が地域で現実的に、地域の実情に即した自治体議会の活性化について、邪魔をしない、可能な範囲内での条件を整えるということはあってよい、こういうふうに考えます。

黄川田委員 さまざまな御意見、ありがとうございました。参考とさせていただきます。

 時間でありますので、これで終わります。

川崎委員長代理 次に、春名直章君。

春名委員 日本共産党の春名直章です。四名の参考人の皆さん、きょうは本当にありがとうございます。お礼を申し上げます。

 まず、成田参考人にお伺いします。住民訴訟制度についてです。

 住民訴訟制度の見直しを検討された研究会の座長として頑張っていらっしゃったと記憶をしております。それで、研究会の検討結果が今回の代位訴訟の変更に反映されているということなのですが、政府案では代位訴訟という考え方が要するに放棄されているのかどうか。代位訴訟ですね。

 参考人は、第二段階の訴訟は民衆訴訟としての住民訴訟ではなくて、純粋の民事訴訟であるということをお述べになっていらっしゃいます。第一段階の訴訟はどういう性格の訴訟なのか、また、代位訴訟という性格がなくなっているのかどうか、この点はどういうふうに御認識されているのか、聞かせてください。

成田参考人 第一段階の訴訟につきましては、これは代位訴訟ではございません。

 それで、現在の地方自治法の規定では、現行の規定では、地方公共団体に代位して、原状回復とかそういうことも求められるというふうになっていますけれども、今度は代位訴訟というのをやめてしまっております。今度は、地方公共団体自体の損害賠償責任なり不当利得の返還請求権が成り立つか成り立たないかということを争う一種の形成訴訟ということになっているわけでして、ですから、第一弾目の訴訟は、これは客観訴訟でありますし、同時に住民訴訟、民衆訴訟である、こういう形にしております。ですから、代位訴訟ではありません。

 それから、第二弾目の訴訟は純粋の民事訴訟でありまして、第一弾の裁判で地方自治体が敗訴した場合、賠償責任がある、その額は幾らだということが決まるわけです。ただ、これは給付訴訟ではありませんから、その金を払えということにはならないわけでして、それを、その判決を実際に履行するために、履行させるために第二弾の訴訟に入っていくということになるわけで、これは第一弾の訴訟で成立しました地方公共団体の請求権を実現するための民事訴訟であります。したがって、これは行政訴訟ではないし、住民訴訟でもない。こういう性格を持っているわけでございます。

春名委員 そうしますと、第一段階からもう代位訴訟というものではなくなってしまうと改めて認識したわけですが、要するに、今までの制度は、住民が自治体に成りかわって、自治体に損害を与えた個人に対してこれはおかしいと自治体の損害を取り戻すために訴訟を起こす、こういう考え方で成り立っているわけですよね。つまり、自治体と住民は同格であって、身内であって、被害を受けたのは自治体である。個人がその中で違法なことをやったということで、成りかわってやる。だから、住民自治の非常に大事な体現だと私は思っているのです。

 しかし、その考え方がもうこの制度では根本的に変わってしまうということになると、それ自身がいいのかということを改めて私は非常に感じるのですね。住民自治という角度からも、それがふさわしいのかどうか、この点、福井参考人と成田参考人、両方に御意見をお伺いしたいと思います。

成田参考人 まず、代位訴訟というのは、これは一人の住民でも訴えられるわけですね。それから、もちろん外国人でも構いません。法人でも構わないわけですね。そういった意味で、その範囲が非常に広いわけですけれども、訴える者は、地方公共団体に代位してというのは、やはり一つの法律的な擬制なわけですね。実際に代位しているのはごく、何といいますか、今の市政なり県政なりには従えないというような人が一人で自分の意向を貫くために主張をしているかもしれないわけですけれども、そんなことは関係なしに、とにかく地方公共団体に代位をして、そして裁判所に請求する、そういう構成をとっていることは事実であります。

 ただ、この構成は私はやはりいろいろと無理があると。どういう弊害があるかというと、さっきもいろいろと説明してきたとおりでございますけれども、いろいろな問題が出てくるというので、そういう構成は今度はとらないで、別の制度設計にしようということに踏み切ったわけでありまして、それは住民自治とつながりがある、ないというような問題とはかかわりが余りないのではないかと思うのですね。そこでも、やはり住民が訴えるというふうな要件は変わっておりませんし、個人が被告にできなくなったというだけの話でありまして、地方公共団体を訴えてそこで説明をさせる、判決が第一弾で確定すれば、最終的には個人の責任を追及できるという姿は変わっていないわけでありますから、その辺、大きな、本質的な変更ではないというふうに私は考えているところであります。

福井参考人 私は現在の構造を支持するものですが、現在は、住民が自治体に対する一種の株主の立場で、自治体に対して与えた損害があるかもしれない、それはだれが与えたか、自治体が雇った被用者である市長等が与えたかもしれない、だから、その事実を明らかにするために住民が自治体に代位してその損害賠償を求めるのだというのは、私は極めて自然な訴訟構造だと考えております。

 これは、自治体という巨大な組織が出てくるので一見目くらましがあるわけですが、例えば個人商店の店主が従業員を雇っていて従業員に売り上げを使い込みされたという場合に、店主が店主を訴えるのかということがあるわけでございます。結局、一体だれが自治体の持ち主か。これはもう住民以外にはあり得ない。その住民が持っている自治体の雇った雇われ人が何か財務会計上の違法をして損失を与えたかもしれないというときに、やはりその個人の責任を明らかにしてくれという訴訟構造は極めて自然なものでありまして、違法の内容が変わらないから訴訟構造を変えるということは必然性も非常に乏しいものだと私は考えております。

春名委員 成田参考人にもう一つお聞きしたいんですが、お話の中で、最終的には個人の責任を追及することになっているから大して変わっていないんだというような趣旨のことをおっしゃったと思うんですけれども、第一次訴訟では、機関の長、機関を被告にする、そしてそこが敗訴して住民が勝った場合、そしてそれに不服を申し立てて第二次訴訟に行った場合に、今度は最終的には機関の長ではなくて個人に請求する、結局そういうふうになっていく。

 えらい複雑やなと思うんですよね。最終的に長個人に責任をきちっと賠償請求するという仕組みがあるのであれば、なぜ最初からそのままやらないのかというのが不思議でしようがないわけなんですね。どうしてそこについ立てみたいなものが、機関の長というのを最初に追及するということになるのか。機関の長が全部職務でやっていることなんだから機関を訴えるのが当たり前なんだというふうにおっしゃるわけなんだけれども、最後には、賠償の責任、個人に責任をとらせるという仕組みはそのままある。この整合性が私にはどうも合点がいかないので、少し説明いただけませんか。

成田参考人 それは、現在の制度が一番いいんだというお考えに立たれる場合にはそういうことになると思うんですけれども、我々の考えでは、公務員の個人的な損害賠償責任というものは全然なくしておりません。それから、その賠償額を限定するということもしていないわけですね。

 そうなりますと、やはりそういう責任を残した形で、しかもいろいろな点を考慮して機関を被告にする、こういう制度設計を選んだ場合には、どうしても第二弾の訴訟というのを入れないと制度設計として完結をしない。もちろん、そういう制度が一番いいと考えたからそういう制度をとったわけでございまして、我々の前提では必然的にこういう仕掛けになるんだということでございます。

 現行制度がいいということになると、これは全くその発想が違ってくるわけでして、その選択はとらなかった、そういうことで説明をさせていただきたいと思います。

春名委員 そう言われてしまえば、何とも言いようがないんです。

 もう一つ、今お話を聞いていまして、成田参考人からもお話が出たんですけれども、この制度設計では機関の説明責任が果たせるようになるということをお話しされて、これが自治に資するということだという話だと思うんですが、私、前の質問のときに大臣ともその点を議論したときに、素朴な疑問なんですけれども、やはり裁判といいますのは原告と被告がありまして、原告の勝訴のために、あるいは被告は被告の勝訴のために争うという形になるのが裁判だと思うんです。

 そうすると、被告の側に機関が立つと、その被告の側が自分たちに不利な資料を次々と開示していくということは、裁判である以上やはり考えにくいんじゃないかと私なんかは思ってしまうんです。それは、いや、良心があるからというようなことを言われているわけなんですけれども、しかし、そういう制度設計になると非常に難しくなるなという危惧を私は持っているんですね。それは多くの人たちの思いでもあると思うんですけれども、その点、成田参考人、それから福井参考人の御意見を伺いたいと思います。

成田参考人 これは攻撃防御ですから、やはり自分に有利な証拠を出すということになるのは当然でありますけれども、これまでは、やはり地方公共団体側が自分に不利になるような情報を出さないというふうなことで、いろいろこの訴訟の運用がうまくいかなかったという面があると思うんです。

 しかし、それは、この前も私が説明申し上げましたように、状況が非常に変わってきているわけですね。何よりもやはり情報公開法というものが非常に大きくきいてきている。それを受けて、裁判所の文書提出命令というのも情報公開にあわせて緩和されてきているわけですね。そういう状況のもとでは、やはり資料を隠せばそれは不利になるだけであって、隠せば負けることになるというのはだんだん必定になってきているわけです。

 それから、現在の制度が一番いいとおっしゃるんですけれども、ただ、現在の制度は逆にまた不公平があるわけで、それは個人として受けるわけですから、役所の文書は全く使えないわけですね。役所の文書を使って、しかもそれを自分でいろいろまとめて裁判所に提出すれば、ちゃんと勝てるケースもあるわけです。ところが、それができない。向こうはもう圧倒的な組織力とか情報力を持っていて攻めてくる。個人で受けた場合には、それはやはり個人ではできないわけですね。訴訟参加をすれば、訴訟参加で地方公共団体が入ってくればそれは文書をとれますけれども、どうもある人の訴訟では個人で被告になるとやられっ放しである、こういうこともあるので、長引くんだったら、例のストーカー事件じゃありませんけれども、早いうちに認めちゃった方が有利だというふうな判断にもなりかねないわけですね。それはかえってやはり大きな公正さというものを誤るんじゃないかというふうに我々は考えているわけでございます。

福井参考人 仮に自治体が今でも本当に説明責任を果たしたいということであれば、行訴法の参加を申し立てて否定されるということは基本的にないわけでございますから、できるわけであります。さらに申し上げれば、行訴法の訴訟参加などしなくても、真実を明らかにするための訴訟資料について事実上求められて出せないということがもし今の制度ではあるとしたら、そういう自治体の姿勢こそ問われるべきであって、被告にならなければ出せないという想定自体が私は極めて異常なものだというふうに考えております。

 しかも、被告としてよりも中立的な立場が行訴法二十三条の訴訟参加であります。その状態ですら、先ほど私が指摘申し上げましたように、実質的には、極めて高圧的な態度で住民側に資料を出さないという報告が多々なされております。もし本当に訴訟資料を充実させるということであれば、現行の訴訟参加は言うに及ばず、事実上の証拠提出等が十分可能なわけですから、無用な改正でありますし、しかも、今度の改正は敵対する立場にあえて自治体を置くということですと、建前の説明責任を正当化あるいは充実させるんだというのとはむしろ全く逆行する可能性が強いと考えます。

 ちなみに、現在の改正案がもし実現すると、被告行政庁は、要するに機関としての長は答弁書をどう書くか、訴訟が提起されて答弁書をどう書くか。これは監査委員の判断どおりですから、棄却ないしは却下を求めるということを書くわけですから、訴訟の当初からもうそのスタンスを極めて旗幟鮮明にすることになるわけであります。ということは監査委員の判断をそのまま維持するわけですが、今、現に住民訴訟で被告側が敗訴している案件はすべて、監査委員の判断が間違っていたと裁判所が認定した場合だけが被告側敗訴になっているわけでございまして、それが実質的には一〇%強あるということはさっき申し上げたとおりでございます。

 この訴訟法の構造が変わることで自治体の行動が変わるか変わらないかという議論、先ほどもございましたが、これはもう法律論以前の常識でございます。訴えられて答弁に棄却を求めると書いた自治体が、今までの単なる中立的な訴訟参加、あるいは訴訟参加すらしない第三者の立場であるときと異なるのかどうか、異なるとしたらどういう行動をとるようになるのかということは、法律論以前の常識で御判断いただきたいことだと思います。

 それから、最後に、文書については情報公開や文書提出命令という制度があることは事実ですが、これも繰り返し申し上げますように、存否がわからない資料こそ核心的文書でございます。そのような資料について、役所の資料が参加している現在ですら出ないのに被告になって本当に出てくるのかということは、納得のいく、常識人が理解できる説明を私は聞いたことがございませんので、やはり依然として疑問が残ると考えております。

春名委員 大体わかったわけですが、時間もありませんので、福井参考人にあと一点だけ。

 先ほど陳述の中にもあったのですけれども、裁判そのもので自治体の政策判断の当否、それ自身を判決を下すというようなものは、私の知る限りはないと思うのです。もちろん、政策判断に伴う公金の支出、公益性があるのかどうかが争われるのは当たり前のことだと思うのですね。しかし、裁判そのものは政策判断そのものの当否を争うというものではなくて違法性を争うものでありますので、そういうものはないのじゃないかというのが、改めてちょっと確認をしておきたいということが一つです。

 それから、森参考人に、市町村合併の住民投票の問題について二点お聞きしたいと思います。

 一点は、最初にお話がありましたけれども、合併協議会の設置が議会で否決をされた場合にのみ住民投票制度を導入するという仕組みは、どう考えても、住民投票のつまみ食いだと私は言っているんですが、非常にゆがんだ導入の仕方だと思うのですよ、住民投票法そのものをつくる必要もあると思いますし。それと同時に、先ほどの陳述の中でもあったのですが、合併の一連の手続の中で、適切な時期、例えば合併協議会を設置するという時期ではなくて、もっと、本当に合併するかしないかという最終判断を下すときに住民投票をするということはあり得ると僕は思うのですよ。そういう住民投票制度を導入することの適否、この点について改めて御意見を聞きたい。

 もう一点は、過去の住民投票と比べてみても、有効投票の総数の過半数の賛成があれば議会の議決をひっくり返すというふうになっているのですね。つまり、過半数というハードルはあるけれども、有効投票の過半数ですので、非常にハードルは低いんです。町村合併促進法の住民投票では、議会の議決をひっくり返すには三分の二以上の賛成が必要だったし、新市町村建設促進法の住民投票は、有権者の過半数の賛成が必要という非常にハードルは高いものでした。それと比べても、有効投票の総数の過半数というのは非常に条件が甘くなっているというように思わざるを得ないのですね。

 この二点、どういうふうに御感想を持っておられるかということもお願いします。

川崎委員長代理 質疑時間が終了いたしておりますので、参考人には簡潔にお答えを願いたいと思います。

福井参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のとおり、政策判断固有の事項が争点となって、財務会計上の違法がないのに被告側が敗訴したという事例は、私の精査した限りでも一件もございません。

森参考人 住民投票というのは、議会の議決が住民にとっては重大な誤りである、地域の将来にとって問題があるという場合に住民投票ということが事実として起きてくるんですね。でありますから、今回、合併協議会の設置のときにのみというのは、いかにもそのねらいが別のところにあるように思えて仕方がないのであります。しかし、そういうことをおやりになるのならば、むしろ住民投票は、合併をするという議会議決があったときの是非についても多くの住民からの要望があったときには住民投票にかける、こうなさるならば、前段についてはとやかく申し上げなくてもいいのではないかと私は思います。

 それで、有効投票の過半数というハードルの問題につきましても、これはちょっと安易な点があるのではないかというふうにも思います。

春名委員 どうもありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、重野安正君。

重野委員 まず、参考人の皆さんには、大変お忙しい中、本委員会に御出席をいただきまして、本当にありがとうございました。皆さん全員に質問したいところでありますが、時間の制約もこれあり、お許しをいただきたいと思います。

 まず、成田参考人に質問をいたします。

 今回改正される住民訴訟制度は、一九四八年に占領軍が、自治法体系との整合性を十分整理しないままアメリカの納税者訴訟の内容を挿入した経緯がありまして、行政法の立場、地方自治の実務の立場からは、従来から、木に竹を接いだものとの指摘がなされているというふうに承知をしております。

 その後、納税者訴訟の制度は米国で行われています納税者訴訟に範をとったものでありますが、その規定が必ずしも明確でなく、解釈上疑問の点も少なくないために、所要の手続を整備するという基本方針で、一九六三年に地方自治法が改正されたと承知をいたしております。

 成田参考人はかつて地方財務会計制度調査会の幹事会で納税者訴訟制度の改正に携わってこられたと伺っております。六三年改正に対し、理想的な制度の確立は、なお将来の課題としてこれを残しているものと言える、やがて適当なときを見て一度手直しをすることによって、次第に制度として固めていくよりほかはないという見解を主張されていると承知をしております。

 そのような立場から見まして、今回の住民訴訟制度の改正は、残された課題を解決し、理想的な制度の確立になっているのかどうか、住民訴訟制度の疑問点あるいは疑義の解消にどの程度貢献しているのか、参考人の評価をお伺いしたいと思います。

成田参考人 今、御引用いただきました論文は、私自体もちょっと忘れていたわけで、改めて見直したりしたわけでございます。

 そこで、六二年の改正が、理想的な制度の確立は将来の問題だというふうに言っておりますが、理想的というのは、政治的、行政的な意味で理想的というふうなことではなくて、法制度としてちゃんと動き得るようなものになっているかどうかという意味で使ったわけであります。

 といいますのは、二十三年法に基づくそれまでの制度は、アメリカの制度を持ってきて、どうも木に竹を接いだような形になっておりまして、だから、日本法としてはなじまない面がいろいろあったわけですね。そこで、日本法になじませようとするのが、どっちかといいますと、六二年の改正ということになるわけですけれども、そこで、制度としての完結性を持ったような、例えば訴訟手続に関する規定とか、細かいことについては余り論議をしている暇もありませんでしたし、非常に安易に行政事件訴訟特例法を援用するような形、準用する形になっているというようなことで、いろいろ問題が残っています。

 そういった意味で、この制度ができましてからの判例の発展で、さっき申しましたように、またいろいろな問題が出てきたわけでありまして、今度は、いろいろ不明であった点あるいは判例の発展の結果起こってきた若干の問題点、そういったものをクリアするために今度の制度を設けたということになるわけであります。

 しかし、さっきも申しておりますように、制度の根幹を変えておりませんので、本当はこれは、地方の職員の方から言わせますと、今度の改正は個人の責任が残っているだけに不徹底であるといってしかられそうな、そんな気がするわけでございますけれども、そういった意味で、法制度として整合性を持った、いろいろな問題点というのは残っております。例えば、我々、第一号の差しとめ訴訟をなるべく使ってほしいわけですけれども、差しとめ訴訟についても、暫定的な差しとめのような命令を裁判所に出させるというふうなことも、これは我々の言う理想的な制度の中には入っているわけですけれども、そういうのが今度は実現していないという点で、まだ問題を残しているというふうに思っております。

重野委員 住民監査請求、住民訴訟制度の見直しと同時に、あるいはその前提条件として、自治体を本来チェックすべき監査委員の人選及び組織的独立性の強化や財務行政過程の透明感、情報公開の徹底等住民への情報の提供の充実、監視機関としての議会の役割が言うまでもなく重要であると考えますが、成田参考人の御所見をお聞かせください。

成田参考人 それは私は、全くおっしゃるとおり、そういう点が非常に大事だというふうに思っております。今度、監査委員が非常に重い職務を、責務を負うことになるわけですけれども、これまで監査委員は、先ほども御指摘があったように、やはり地方によって任命される、それで独立性といってもその独立性にはいろいろ問題があるというふうなことが指摘されているわけでございます。そういう点から、監査委員制度それ自体も、やはりこれからは運用の面でいろいろ改善をしなきゃなりませんし、さらに一層の、さっき申しました外部監査制度の充実等もあわせて、前審手続あるいは監査委員の役割というものをもっともっと強化しなきゃいけないというふうに思っております。

 それから、おっしゃったような情報公開その他の制度も、これはIT機器の普及の時代に、そういうものの活用も考える形でやはり考えていく。住民との対話がいろいろなところで成り立つような仕組みがこれからは必要だろうというふうに思っております。

重野委員 ありがとうございました。

 次に、森参考人にお伺いをいたします。

 機関委任事務の廃止によりまして県の仕事は今後どのように変わると考えておられるかが一つ。これまで県は専ら省庁の取り次ぎをしていた。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、国の代官であった。これから県は何をするのか、県の仕事の仕方と役割はどのように変わるのか、またどう変わるべきであるとお考えになっているのか、お聞かせください。

森参考人 今回の分権改革の最大の内容は、税源問題は置いていかれましたけれども、山県有朋さん以来の機関委任事務制度を、戦後における府県の機関委任事務制度を制度としてやめた、これが一番でありますが、そうなっていきますと、自治体間においては、広域行政の府県の役割が、機関委任事務のかかわる仕事が制度的にはなくなるわけでございますので、今後どうするか。今、学会あるいはいろいろな研究会では、府県ということが大きくテーマになっております。

 私の考えでは、もちろん、難病の問題であるとか、広域行政に関する道路のあるいは治山の問題とか、そういう問題は県という広域自治体が今後ともやっていくべきだと思いますが、まず、今後方針を変えるのは、基本的な立場は、国の施策を、縦割りのそれぞれの施策を市町村に伝達して取りまとめて伝えるという仕事から、今度は市町村の側に立つ。そういう考え方を、自治体のセクション名で、地方課から市町村課というふうな改名が続いているというのはそこにあるわけですね。

 その改名のときには事務局だと。事務局ということも、わかったようでわからない面もある。それは、各市町村が規模が違い、地域実情が違う、一つの県内でございましても。そういう地域事情や実態の違いに相応した各市町村の政策レベル、政策はこれから自治体が、市町村が考えていかなきゃいけないんで、政策とはどういう問題をどういう方法で実現、解決、達成していくかということでございますが、そういう自治体の政策の水準を上げることについて事務局的な役割を果たす。主として情報とか体験交流とか、あるいは自治体間では横に、自主的な、広域協議会の場合はできますけれども、ちょっと離れていますと横の場合なかなか情報が入りにくい場合もある。そういうものを府県の仕事としておやりになることがこれから主要な仕事に変わっていくのではないのか、こういうふうに考えております。

重野委員 十一月二十七日に、私、当委員会で総務省に質問をしたんですが、そのときの答弁の中で、小規模町村の事務を県が補完する、あるいは代行する新たな仕組みを検討すべきであるだとか、小規模自治体の事務返上の仕組み、手続の制度化、県の補完制度、こういうところに触れられた答弁がございました。今の先生の答弁と合致する部分が相当にありますし、今後そういう方向が加速していくのかな、こういうふうな感じを持ちました。

 次に、住民発議を議会が否決した場合に住民投票にかけることについてどのように考えておられるか、それから、合併協議会に限った今回の改正案についての所見を伺いたいと思います。

森参考人 県のこれからの役割は模索していくことになるのであろうとは思います。したがって、従来から、広域自治体、府県の位置づけは補完自治体であるというような定義がなされているのでありますが、その補完の内容がこれから模索されていくのでありましょう。

 そこで、人口は、地域は過密の方に人口がたくさん行きまして、過疎がどんどん冷える。そして、少子高齢社会である。老人の、小さな人口になっていくのがもう現実に起きておりますね。だから、合併しろではなくて、未来をつくるためにはいろいろな手厚い手当てを考えなければいけませんので、従来は過疎地域に対する財政的な援助をしていた。それを今回削る、四千人以下はまず削るというようなことを始めているわけでありますが、それはさておきまして、小さな自治体がワンセットですべて、市町村と一口に言ったら、市町村は大きなところから小さいところまでございますね、ワンセットですべての事務をやるというふうに考えなくていいのではないのか、こういうことが私の補完ということでございます。

 それから、後段の、合併協議会の設置についてのみ住民投票にかけるということについてどう受けとめるかといえば、どうも目的が合併促進のためにやっているなと受け取るのが多くの見方ではないか。しかし、六分の一の連署をもって住民が意思で投票に付してみろ、すべきだと意見があることについては、私はあながち悪いとは言わない、それでもいいかもしれない。しかし、それをやるのならば、合併の決議をしたことについて、住民の多くが、これはとても許せない、困る、いけないと思ったときに、同じように住民投票の制度が準備されるべきではないか。こちらの方を強く申し上げたいと思っております。

重野委員 時間がもうあと五分しかありませんから次に進みますけれども、議会制度と住民主権の関係についてお伺いします。

 今回の改正案は、協議会設置を議会が否決したとき、住民投票にかけて、過半数が設置に賛成したときは議会が可決したものとみなすものとされていますが、この点について、参考人はどのように考えておられますか。

森参考人 議決をしていないのでありますから、議決をしたというふうに言うのは、法のあり方として、国民感情からいっても納得できないものがあるのではないか、こういうふうに思います。そして、憲法の九十三条の議会制という原則に反するものではないか、憲法違反の疑いもある、こう申し上げたいです。

重野委員 次に、参考人は、市町村合併問題について全国各地から講演を依頼され、地域の状況に精通されていると聞き及んでおります。全国の地域と市町村の現場の状況についてお聞きします。

 まず、今回の事務次官の合併促進通知を都道府県はどのように受けとめているのかという点が一つ。市町村はどのような事態になっているのか、どのような意見があるのか、これが二つ目。それから、合併協議会の設置をめぐって自治体委員はどのような見解を出されているか。その三点について、参考人の見聞による所見をお聞きしたいと思います。

森参考人 私は、本州の各県の町村議員全員の研究会に何度となく呼ばれたり、それから、過疎の町が悩み苦しんでいるところに、何とか参加して議論に入ってくれというようなところも何度も行っております。

 合併について非常に苦慮している実情の中で目撃したことで申し上げるわけでありますが、まず、事務次官通知というものは、発信した方も受けた方も、後ろに通達ではなくて通知となっているのでありますが、中に書かれている文言はその前までの通達そのもののあり方なのでありますね。

 それから、次のような要綱をつくって合併促進の機運を盛り上げなさいと事細かく指示をなし、合併の利益はこれこれこういうものがありますよという机上のプランで書いたものがあり、これはとても納得できない内容であります。ところが、その次に続くのは、合併の懸念と書いてある。不利益とは書かない。ここに、通知の内容が明らかに不公正なものであるというふうになるではございませんか。

 したがって、市町村はどう受けとめておるか。こういう一連の最近の動きは、自分のところが歴史的に合併をする動きがあったところは篠山町のようにやればよろしい、しかしながら、合併するわけにはいかない、今まさに自治をつくろうとしているさなかであるというところには、極めて不正義な、不当に非道なものである。ところが、財源、兵糧攻めで有無を言わさぬという回答がおりてきているということに対して、非常に不信感があるように私は思います。

 それから、協議会の設置につきましても、現場では大変に混乱をし、もめております。例えば、なあ、合併の協議会だけとにかくつくらせてくれや、自治省との関係があるんだからというようなことを言ってやってみたり、お先棒を担いでいるリーダーは、その場で参加した首長によって強い非難を浴びておる。合併を前提に議論というのはおかしいではないか、今必要なことは、広域協議会などのものをうんと活用してこれを充実していくべき時期ではないか、これが正論であると思いますね。

重野委員 ありがとうございました。以上で終わります。

川崎委員長代理 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、厚く御礼を申し上げます。

 ありがとうございました。(拍手)

 午後一時三十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時三十四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時三十九分開議

川崎委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。

 この際、お諮りいたします。

 第百五十一回国会、内閣提出、地方自治法等の一部を改正する法律案審査のため、本日、政府参考人として総務省大臣官房長團宏明君、総務省人事・恩給局長大坪正彦君、総務省自治行政局長芳山達郎君、総務省自治行政局公務員部長板倉敏和君、総務省自治財政局長香山充弘君、公正取引委員会事務総局官房審議官伊東章二君及び経済産業省大臣官房地域経済産業審議官今井康夫君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

川崎委員長代理 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 この際、本案に対し、荒井聰君外一名から、民主党・無所属クラブ提案による修正案が提出されております。

 提出者より趣旨の説明を求めます。荒井聰君。

    ―――――――――――――

 地方自治法等の一部を改正する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

荒井(聰)委員 ただいま議題となりました民主党提案に係る修正案につきまして、その趣旨及び概要を御説明申し上げます。

 修正案の説明を行う前に、まず申し上げたいことがございます。

 それは、基本的な問題として、今回政府が提出した地自法等の一部改正案には内容が全く異なる改正案が混在しており、政府の提出の仕方に大きな問題があったのではないでしょうか。とりわけ、合併に係る改正は、対象法律も市町村合併特例法と別法であり、なぜこの自治法改正と束ねているのか、全く理解できないところであります。このような法律案の提出は、国会審議及び意思表明を阻害するものであり、政府は重大な反省をすべきではないでしょうか。

 そこで、本題に移ります。

 本改正案の最大のポイントが住民訴訟制度の類型変更であることは、多くの皆様の共通認識であろうと考えております。現行の四号訴訟については、団体として行った政策判断の責任まで個人に問われている、一部に乱訴の状況がある、職員等が過度に住民訴訟に反応し、行政執行において萎縮する可能性がある、住民訴訟を理由に職員が脅迫される、あるいは個人の裁判費用の負担が過大である等さまざまな問題があり、これらは、実際に地方行政の現場に当たられる自治体の首長または職員の皆様にとって大変深刻な問題であると私どもも認識してございます。

 しかし一方で、四号訴訟が、一部とはいえ談合の防止や不正経理の是正など、地方行政の適正化に寄与してきた事実は否めません。また、今後の地方分権が進む中で、自治体の首長等は大きな権限を有することになり、この執行に関して住民が直接的にチェックできる手段も確保する必要があると考えております。

 民主党は、地方分権を最重要政策の一つに掲げておりますが、それは、自立した市民によって支えられた地域が、地域としての主権を確立する社会を意味しております。この民主党の理念に照らしたとき、少なくとも現段階においては、個人を被告とする現行の四号訴訟の類型変更には賛成できません。よって、修正案を提出することといたしました。

 以下に概要を御説明申し上げます。

 最大のポイントは、政府案にあります四号訴訟の類型変更を削除していることであります。よって、現行四号訴訟の訴訟類型を維持し、結果的に四号訴訟の被告は、長または職員個人のままとしております。

 そのほかは、現行の四号訴訟の問題点を改善する観点からの規定を設けております。

 まず、政策判断を対象とする四号訴訟が数多く見られることから、四号訴訟の対象とならない行為の事例を掲げ、四号訴訟は政策判断を争うものでないことを明確にしております。

 次に、代位訴訟の被告の限定を規定しております。すなわち、四号訴訟の被告の対象から非管理職職員を除外しております。この除外の関係から、非管理職職員が違法な財務会計行為を行い団体に損害を与えた際に、首長が監査委員の監査を経て、当該職員に対し賠償命令を行う旨の規定を設けております。

 また、職員などが職務を行うにつき、善意にしてかつ重大な過失がなかったときの賠償額を、職員については年収の四倍、首長の場合は六倍を限度とする旨定めております。

 さらに、現在、四号訴訟において長または職員等が勝訴した場合にのみ認められている自治体による弁護士費用の負担の範囲を、原告の訴えの取り下げ、原告の請求の放棄及び裁判上の和解まで拡大しております。

 その他職員の賠償責任の転嫁、住民訴訟の迅速な処理、住民訴訟に係る地方公共団体の情報提供などを定めております。

 以上が、この修正案の概要であります。

 委員各位の御賛同をお願い申し上げ、趣旨の説明といたします。ありがとうございます。

川崎委員長代理 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 これより本案及び修正案を一括して質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大出彰君。

大出委員 民主党の大出彰でございます。

 質問に入ります前に、きょうは私は半から質問だということでございますが、定足数の問題で十分もおくれているわけでございます。提案を入れれば十五分になるんですかね。

 この法案は大変重要な法案であるという認識がないのではないでしょうか、与党の皆さん。こんなので通そうとしているんですか。我々は、この法案は民主主義、住民自治という観点から見たときに問題があるのではないかと考えているから真剣になっているのに、与党の皆さんが来ない。こんなのでは審議ができないじゃないですか。

 大臣、お答えください。

片山国務大臣 私どももこの法案は大変重要な法案と思っておりまして、大変、終始御熱心に御審議をいただいておりますことを感謝いたしておりますが、きょう開会の時間に関係の方がそろわなかったことについては、私、よく存じ上げませんので、いろいろ御事情その他があったと思いますけれども、定刻どおり始まればと、私はここに座りながら期待いたしておりました。

大出委員 どうも国会の中はかなり世間とのずれがあるようで、マスコミ等、この問題、多くの新聞等で取り上げているわけなんです。にもかかわらず、もともとこの委員会、三つの省庁が一緒になっているわけで、単純に言っても三倍の量の法案があって、実を言いますと、なかなか大変な、忙しい思いをさせられているわけなんです。それなのに来ておられないということで、一言申し上げたわけでございます。

 質問に入ります。(発言する者あり)そうですね。

 委員会を取り仕切っておられる委員長にも、一言御感想あるいは叱責等お願いをしたいと思います。

川崎委員長代理 開会を十分ほどおくらせました。定足数足りない、いや、足りていたんですけれども、もう少し与党側の出席、猛省を促したいという意味でおくらせていただきました。大変失礼いたしましたけれども、いい審議が続けられますよう期待いたしたいと思います。

大出委員 質問いたします。

 二百四十二条の二第四号の住民訴訟の類型変更、これについて質問していきたいと思います。

 現行住民訴訟は、地方公共団体、自治体の財政上の違法行為を住民だれもが地方自治体にかわって裁判所で追及できるという制度になっております。これは、会社の取締役の違法行為を追及する株主の代表訴訟の自治体版であると言えると思います。

 この現行法に基づく住民訴訟は、効果といたしましては、過大な官官接待や空出張、入札談合、土地の不当な高額購入とさらには不当な廉価売却などを明らかにし、情報公開制度とともに地方行政の適正、透明化に大いに寄与してきたと思っております。

 このような思いもございますので、今回、この類型変更を、つまりは改正をなぜ行うのか、お伺いいたします。

片山国務大臣 既に御議論をいただいておりますけれども、この法案を提出いたしましたのは、一つは第二十六次地方制度調査会の答申と地方分権推進委員会の意見に基づいたわけでございます。この住民訴訟制度、私はそれなりの効果は持ち活用されてまいったと思いますけれども、住民に対する説明責任の強化、行政の違法な行為に対する事前、事後のチェック機能の充実という意味では少し足りないのではなかろうか、個人ではなくて、やはり機関に着目しての訴訟制度に直して、しかも、機関だけじゃなくて個人もあわせる、こういう制度にした方がいいという御提言、御答申をいただきましたので、それに基づいて立法化いたしたわけであります。私は、少なくとも前の制度よりはこちらの制度の方がベターではなかろうか、こう思っております。

大出委員 その点についてはるる質問をしていきますが、民主党の方も修正の案を出しておりますので、民主党の方にお伺いいたします。

 この改正案に対して修正案を提出したのはなぜでしょうか。

荒井(聰)委員 大出議員にお答えいたします。

 私たちは、今回の、政府が提案をいたしました地自法等の一部改正案には内容が全く異なる部分が混在している、これは先ほどの趣旨説明でも説明いたしました。対象法案の市町村合併にかかわる部分については全く異存がございません。

 しかしながら、この四号訴訟の部分については、私たちは、住民の基本的な権利であり、また、この住民訴訟が果たしてきた役割というものは、ある意味ではかなりの成果があったというふうに認識をしております。ただ、この四号訴訟の中でも、必ずしも欠点がないわけではない。乱訴になっているとか、あるいは行政の、地方自治体の職員が萎縮しているといったような実態も確かに見られますので、その意味でこの四号訴訟の基本的な住民の権利というものを守りながら現行法の持っている欠点の部分を是正する、そういう趣旨で今回修正案を提出したわけでございます。

大出委員 民主党案なんですが、なぜこの四号訴訟の類型変更というのに反対をするのか、この間ずっとそこがぶつかっているところなんですが、民主党に御説明願います。

荒井(聰)委員 先ほども御説明いたしましたけれども、住民の基本的な権利ではないかというその部分を削除するということは、限定を加えるあるいは規制を加えるということは、民主党の掲げております地方分権、そういったものからいってもかけ離れていく、そういうおそれを持ったからであります。

 政府提案の前置の監査請求では個人が対象となっていず、監査委員の判断は必ずしも団体そのものの判断とは言えないわけですけれども、また、実態的に見て自治体の監査が機能していないということも事実ではないかと思います。このような状態の中で、監査委員の判断が自治体そのものの判断として、次の段階では団体と住民が裁判で争うということは、メリットよりもデメリットの方が大きいのではないでしょうか。

 民主党としては、現在の四号訴訟にさまざまな問題があることは先ほども御説明いたしました。また、繰り返しになりますけれども、代表的な事例を挙げれば、団体として行った政策判断の責任まで個人に問われている、一部に乱訴の状況がある、職員などが過度に住民訴訟に反応して行政執行において萎縮する可能性がある、住民訴訟を理由に職員が脅迫されている事例なども見られている、個人の裁判費用の負担が過大となる事例が見られているなどが挙げられております。

 しかし、一方では、四号訴訟が一部とはいえ地方行政の適正化に寄与したという事実は否めません。また、今後の地方分権が進む中で、自治体の首長などが大きな権限を有することになりますから、この執行に関して住民が直接的にチェックできる現行の手段を確保する必要があるのではないでしょうか。

 民主党は、地方分権を最重要政策の一つに掲げておりますが、それは自立した市民によって地域の主権が確立する社会をつくり上げていくということを意味しております。この民主党の理念に照らしたとき、少なくとも現段階においては、個人を被告とする現行の四号訴訟の類型変更には賛成できないということでございます。

大出委員 政策判断あるいは乱訴だとか萎縮効果だとか費用負担の問題等、問題点があるから修正案を出したということでございます。

 では、その民主党の今度の修正案によりますと、現行四号訴訟の問題点は解決することになるんでしょうか。民主党にお伺いします。

荒井(聰)委員 少なくとも政策判断にかかわる部分については、議会の議決を経て団体として議決をしたものについては政策判断として原則的に認めていこう、そういう法案の骨格になってございますので、今、議員の指摘した点はそのような形で改善をいたしました。

大出委員 これから政府の方にお聞きをいたします。

 この四号訴訟の原型となっているのが、アメリカのいわゆる納税者訴訟という代位請求の手法だと言われています。そこで、アメリカの納税者訴訟の場合、現在どのようなことになっているか、つまりは、個人に対して訴えるのか、あるいは今回みたいな改正があるのかというふうな点についてお伺いします。

芳山政府参考人 御指摘がありましたように、我が国の住民訴訟制度は、米国の納税者訴訟を参考に、昭和二十三年の自治法改正により導入されました。

 ただいまの御質問でありますが、米国における状況については、我が国におけるいろいろの文献をひもとくと、米国の納税者訴訟においては、違法行為の事前差しとめを求める訴訟が一般的であるということでありまして、長や職員個人に賠償を求める訴訟は余り利用されておらないというように書かれております。

 このような違いが生じている理由は、両国の法体系の違いないしは訴訟手続の違い等が背景にあるのではないかというぐあいに推測します。

大出委員 いろいろな、部門会議等でお聞きをしているわけなんですが、違法行為の事前の差しとめが多く使われていると。私がお聞きしたかったのは、制度として、個人を訴えるのか、機関を訴えるのか、その辺がどうなっているかというのをお聞きをしようと思ったんですが、余り使われていないというお答えでございます。

 調べてみましたら、どうも、総務省の方も御存じのように、もともとがコモンローで救われない場合にエクイティーだということで救済的に救うということになっていて、日本よりももっと広く、訴訟制度が違うというのはそういう意味だと思いますが、日本よりも広く、個人に訴えてもあるいは機関に訴えても、両方とも救済のために俎上にのるというのがアメリカの制度のようでございます。

 そうですと、もともとアメリカの制度を取り入れているわけですから、アメリカの方は基本的にその部分は変わっていないということでございまして、逆のことを言わせていただければ、機関を訴える、あるいは個人を訴えるという争点になっていますが、機関も個人も両方訴えられるという制度の方がすぐれているのではないかというふうな気がしますので、その点はどうでしょうかということなんです。

 ただ、その点について違う観点からの質問をしたいと思います。

 十一月二十七日、私が質問いたしまして、住民自治のさらなる充実についてということを片山大臣にお伺いをいたしました。大臣は、制度をもっと住民に使いやすい効率的なものにするというところがさらなる充実の意味であります、こうお答えになっております。

 私は、今も申し上げましたように、アメリカの制度を見ると、どうも個人もあるいは機関もという、もともとは個人だったわけですが、一九七五年ぐらいから機関を訴えてもいいということになっているようでして、むしろ、制度が違うといえば、確かにそれまでなんです。しかしながら、住民自治のさらなる充実ということになれば、どう見たって、国民の側、住民の側が、方法として機関を訴えていっても、あるいは個人を訴えていっても、両方を取り上げてくれるという方がさらなる充実になると思うんですが、いかがでしょうか。

片山国務大臣 住民自治というのは、住民がその団体の意思決定に参加できる、あるいは、その機関の長を住民が選べる、それとの密接な関係を持つ、こういうことですね。

 委員御承知のように、今までの制度は個人に着目しておったんですよね、もう釈迦に説法ですけれども。今回は、機関に着目して、しかし同時に、個人も外すんじゃないと。今までは個人だけだ、今度は、機関を中心にして個人も抱え込む、こういう制度にしたんですね。それで、首長さん個人あるいは首長さんの部下の個人と住民との間の関係じゃないんですよ。やはり、機関の長と住民との関係、機関の長を補助する職員と住民との関係で、個人との関係ではないんですね、住民自治という観点からいうと。

 そういう意味では、機関の長を中心にとらえる、機関の補助職員を中心にとらえて、しかし、個人の責任も同時にあわせ抱え込んでいくという今度の制度の方が、住民自治からいくと、この方がより徹底した制度だと私は考えております。

大出委員 今までの議論の中で、まず最初にその部分が議論がぶつかるわけでございますが、認識としては、現行法で考えれば、いわゆる個人は地方自治体という使用者に対する被使用者という形で、その被使用者が個人の責任を負うという構成になっているわけですね。このことは、先ほども申し上げたように、株主代表訴訟の自治体版でございますので、株主代表訴訟と同じ形態になっているわけですね。

 お尋ねをするんですが、現行法のいわゆる商法二百六十七条の株主代表訴訟について、今度の政府案のように、改正案のように、機関を訴えるというような法案提出はありますか。

芳山政府参考人 現在、株主代表訴訟について、限度額を制限する内容を持つ改正案が国会に提出されております。今お尋ねがありましたが、訴訟類型の再構成は含まれておりません。

 ただ、両者については、その本質が異なっておると我々は認識をしております。すなわち、住民訴訟制度は、住民による行政活動の監視活動の一環として公益を実現するという目的でありまして、行政事件訴訟法上の客観訴訟ということで位置づけられております。

 一方、株主代表訴訟は、株主という会社に対して特定な利害関係を有する者の取締役に対する監視機能ということでありまして、株主の経済的な利益の確保を目的にされた制度であるというぐあいに認識しております。そういうことから、両者について訴訟類型の再構成が今度違うということについては問題がないというぐあいに思っております。

大出委員 片や、利益を求める団体であるから、訴訟の形といいますか、変わってきても構わないというのが趣旨だと思うんですが、私はやはりこれはおかしいと思うんですね。

 会社の場合でもそうですが、被使用者である個人が使用者のために仕事をしているわけですから、その被使用者である個人が個人としての責任を負うというところは、それが会社であろうと同じ構造なわけですから、取締役よりも首長の方を、あるいは当該職員の方を有利に扱う理由はないと思うんですね。

 自分の責任で自分の属する組織に損害を与えた場合に個人責任を問われるのは、自治体も民間企業でも変わらないわけなんです。ましてや利益団体であれば、利益を求めるために集まった人たちに、こういう損害が生じたけれども我慢してくれというのは聞きますけれども、片方の地方自治体は公金を使っているんですよね、税金でやっているわけですからね。

 そうすると、首長ほか職員の方が軽くなるといいますか、軽くはなっていないというふうにおっしゃるんでしょうけれども、違う構造にあえてして、我々が危惧するように、責任が、軽くなるとは言いません、軽くなるように思われるような改正というのは合わないのではないかと思いますが、その点、どうでしょうか。

芳山政府参考人 両者の違いでございますけれども、株主代表訴訟においては取締役のみが被告でございます。ですから、住民訴訟における相手方もなければ職員もないというぐあいになっております。サークルの中の、株主の中の私益の追求ということで代位訴訟がなされており、なおかつ担保の提供義務が株主にはあります。こちらの方には、一人でも住民は訴えられますが、その規定もないということもございまして、先ほど申しましたように、いわゆる行政事件訴訟法の客観訴訟という位置づけで、公益をやはり追求するんだということが真の目的だろうと我々、認識をしております。

大出委員 担保がないというのは確かにそのとおりでございます、株式会社の方にはございますね。要するに、乱訴防止なわけですよね。

 その辺は確かにそのとおりなんですが、制度自体としての認識、確かに先ほどおっしゃったように、職員が云々とおっしゃいましたけれども、職員についてはまさに、不法行為なら不法行為の制度で使用者責任を問うこともできれば逆のことも可能ですので、必ずしも、そここそ制度が違うからということしか言えないんじゃないかと思います。

 それでは、次の質問をいたします。

 言い方が、いわゆる機関訴訟ということになっていて、直接間接と言うと語弊があるかもしれませんが、私なんかは個人を訴えるのを直接的な参政権の行使だと思うわけですが、それが、機関をという意味ですよ、機関をという意味での間接的な制度になっている点ですね。やはりどう見ても、先ほどお話ししたような住民自治のさらなる充実ということからすると、一歩後退をしたような印象を与えるだけでなく、そう思うのですが、不当なんではないかということが一個。

 と同時に、もう一個は、このような変更の改正をするんだとすると、現在、きょうも参考人を呼んでお話などを伺っていますが、広く国民の皆さんの意見を聞くような機会をもっと広げておかないといけなかったのではないか、あるいは、これからまだその必要があるのではないかというふうに思うんですが、その点、いかがお考えでしょうか。

山名大臣政務官 今回の改正につきましては、間接的な責任追及しかできない、こういうお話でございましたが、住民訴訟の対象事項は何ら変わりませんし、それから、長や職員の実体責任という面から見ましても、何ら変更はないわけでありまして、従来どおり、対象も中身も責任追及はできる、まず私どもはこういう認識を持っております。

 そこで、この改正に当たりましては、御承知のように、第二十六次地方制度調査会の審議を経まして、これには国会議員の皆さん初め学識経験者等、地方制度に大変堪能な皆さんで審議をしていただきまして答申を受けたわけでございます。

 さらには、行政監視のあり方に関する研究会におきましても、行政法あるいは民法、商法等の専門家あるいは裁判官の経験者、住民訴訟実務経験の弁護士さん、こういった方に参加をいただきまして、かつ地方公共団体からのヒアリングあるいはアンケート調査、こういったものも行いまして十分審議を尽くしたところでございます。そういう意味で、今回の改正案は、住民の権利や主張に十分配慮しながら慎重かつ十分な議論を経て今国会に提出をさせていただいた、こういうことでございますので、ぜひ御理解を賜りたいと存じます。

大出委員 そういうお話をするわけですが、この新しい改正案で問題なのは、正確に言いますけれども、例えば、現行法でいけば、談合によって不当な利益を得た業者やそれにかかわった職員を直接被告に据えて損害賠償を求める訴えを住民はできるのですね。改正案ではどうなりますか。

芳山政府参考人 現行制度におきましては、住民は、ある企業が談合を行うことにより地方団体に損害を与えたという場合におきましては、住民監査請求を経まして、四号訴訟により普通地方公共団体に代位して、当該企業自身に対して直接損害賠償請求を行うことができる、御指摘のとおりでございます。

 今回の改正案では、住民は、住民監査請求を経た上で、地方公共団体の執行機関に対して、当該企業に対して損害賠償または不当利得の返還請求を行うよう求める訴訟を提起するものでございます。

 そういうことで、この新四号訴訟におきましては、地方公共団体の機関が敗訴をしますと、当該地方公共団体は、当該企業に対して損害賠償請求または不当利得返還請求の支払いを請求することが義務づけられておりますので、当該企業の実体責任は何ら変わらない、従来どおりでございます。

大出委員 今おっしゃったのは、二段構えの方でカバーできるということで言っておられるので、第一段階の、直接は請求できない、損害賠償請求ができないということなわけですから、その部分を問題視しているということなんです。

 今度の制度というのは、訴えることを訴える格好なんですね。ですから、直接に、今までのように直接に訴えるというわけじゃないのですね。現行法だと、自治体と被告になる首長さんや職員等の利害は対立する建前になっているのです。だから、自治体というのは表立って被告であるところの訴えられた首長さんや職員の方を応援するわけにはいかないというのが建前になっているのです。しかし、改正法では、訴えられた側、つまりは自治体は当然、談合などの違法はなかった、つまり、シロとのスタンスに立つことになるわけです。そうして、住民側の主張が成り立たないということを立証することになるのです。

 いわば自治体が公務として公金を使って住民に立ち向かうという構造が構造的にでき上がってしまうのです。もっと言えば、自治体は、被害者である住民の納めた公金と公的組織である職員を使って、悪い場合には最高裁まで徹底抗戦することができて、住民はどうなるかというと、手弁当で争っているので疲れ果てて訴訟を断念する可能性が高まるということが起こってしまう、自治体の方は粘り勝ちによる違法行為隠しも起きるというようなことが考えられるのですね。

 仮に住民が勝ったとします。勝ったとしましても、第二段階では自治体という法人が、先ほど住民側がクロだと主張していたのと同じことを掲げて業者や職員に損害賠償を求めていくということになるのです。先ほどまでシロだったのに、今度はクロだと言わなきゃならない、そういう立場の混乱が生じるような法案になっているのです。

 改正案では、先ほどのように、業者に直接損害賠償請求ができないわけです。そうだとすると、業者という当事者抜きで住民と機関としての首長との間で談合の有無を争うことになるわけですから、そういう意味では真実を解明するのが難しいのではないか、こういう危惧を実はしているところでございます。

 時間がございませんので、お答えをいただいても、多分もともとの考えが違うということで終わりになってしまうのだと思いますが、これについては多分、そのとおりですというか、あるいは、そうではございません、第二段階でできて説明責任を果たしたら大丈夫なんだというふうにおっしゃるのかもしれませんが、では、一言お答えください。

芳山政府参考人 ただいまの構図で申しますと、住民と企業が談合の有無を現在争うわけですけれども、問題は、自治体が第三者として傍観者的にその談合行為について無関心で、第三者で、実態は、自治体が企業を追及すべきなのに、訴訟の形態から申しますと、現在は自治体自身は蚊帳の外なわけですね。争われているのは、多分、自治体が損害賠償を請求すべきなんですよ、そういうときは。そういうぐあいに思います。

 それを今回は正面に据えて、自治体の、そういう責任を追及してもらう。そのときに訴訟告知をしますので、企業自身も参加をします。そうしますと、住民の方から見ますと、自治体も企業も両方追及できるわけです。それで談合の有無を争うという構図で、今言われましたように、説明責任を自治体がしっかり果たして、自分の行為として、それは談合行為がない、損害賠償を請求しないのはこういう理由だと言うことが本質であろうと思っています。

大出委員 民主党枠の中で、ちょっとだけ、民主党の提案者に今のことについて御質問します。

荒井(聰)委員 今回、民主党が提案した修正案の骨格、骨子というのは、まさに今、大出議員が指摘したそこにあるわけでして、本来、四号訴訟というのは、政策判断の是非を争うものではなくて、職員の財務会計上の不祥事について議論をする、そういうものだったのだろう。ですから、談合でありますとか不正経理でありますとか、そういうものについて直接訴訟を起こせる、またそれが最も簡明であり、かつ訴訟の場合にイコールフッティング、同じ立場で議論をし合う、そういう整合性が保たれていたのだろうというふうに思うのですね。また、そのゆえに、談合問題でありますとか不正経理問題というものが随分解明され、それが地方自治体の是正につながっていったという実績もあるわけです。

 ところが、今度の政府提案の場合には、これを団体にしてしまって、被訴訟者を団体にしてしまったがゆえに、訴訟のイコールフッティングという個人と団体というもののレベルがまた一つ違ってきたということと、それから、今御指摘がございましたように、まず団体を相手にして訴訟を起こし、そして団体が負けた場合に、今度は団体がその個人に対して訴訟を行うという、この二段階というのはいかにもわかりづらく、かつ地方自治の透明性を失うことになるのではないか。また、談合問題でありますとか不正経理問題でありますとかそういうものが、突如として立場が変わるわけですので、この場合には大変問題が生じてくるのだろうというふうに考えております。

 その点、私どもの修正案というものは、政策のテーマについては除外いたしますけれども、不正にかかわる部分についてはやはり直接個人との関係であるという認識の上で修正案を提出しているところであります。

大出委員 今のように、民主党の案、先ほどもお聞きしたように、問題点はある、現行法で問題点があるのだけれども、それを修正する形で提起をしていて、住民自治を今までのようにより広げられる方向でつくってあると私も思っておりまして、今の提案者の発言は当を得ているのではないかと思っているところでございます。

 時間が参りましたので、これで質問をやめることにいたします。ありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、山村健君。

山村委員 民主党の山村健です。

 今回の地方自治法改正案につきまして質問ということなのですが、この懸案、この法案に関しまして、私ども民主党の方も修正案を出させていただいてはおるのですけれども、質問に当たって勉強といいますか調査等をしてくる段階において、一つの大きな疑念というものを私、持ちました。

 そこで、個別法案ではございますが、もっと大きな話で、原点に立ち返って、大臣、副大臣にいろいろと御質問させていただきたいと思う次第です。

 ことしの一月六日に総務省が、巨大省庁ということで、旧郵政、自治省と合併といいますか一緒になりまして、総務省として新たな一歩をしるしたわけですけれども、この間、この一年の国会の中で、私どもも総務委員会の一員といたしまして常に感じておりましたのが、余りにも守備範囲が広過ぎるよなと。情報通信省という形で、特にITを中心とした新たな省庁という形の方がよかったんじゃないかなということを常々申し上げてまいった次第なんですが、その中で、今回の法案、地方自治という形で、大きな流れとして、これは自民党さんも、いわゆる与党も野党も含めまして、地方分権という流れは異存はないところだと思うのです。

 そこで、四月に小泉内閣が発足いたしまして、聖域なき構造改革という形で、新たな日本のビジョンといいますか、そういったことを掲げておられると思うのですが、その構造改革の中での地方分権の位置づけ、そしてまた、内閣の一員を占める片山総務大臣の、地方分権ということについてどのような考え方、理念を持ってみえるのかということをお伺いいたしたいのです。

片山国務大臣 今、山村委員からお話がありましたが、小泉内閣は、聖域なき構造改革ということで、六月の終わりにいわゆる骨太方針というものを出しまして、九月の終わりに改革工程表、緊急改革プログラムというのも決めまして、現在、その具体化ということで、今月中を目指していろいろなことをやっているわけであります。私は、小泉内閣の閣僚の一員でございますし、経済財政諮問会議等のメンバーでございまして、積極的に構造改革の中身の策定に参加しておりまして、その中で、私は、やはり地方分権というのは構造改革の中で大きな柱だと思いますね。総理もいつも、民間でできることは民間に任せる、地方にできることは地方に任せる、こういう基本的な方向でございまして、私は、やはり構造改革、いろいろなことが言われておりますけれども、地方分権は最大の眼目の一つではないか。

 今までのどちらかというと徹底していない、中央集権とは言いませんけれども、地方分権が徹底していない仕組みを、二十一世紀に本格的に地方分権のシステムに直していく、地方を本当の意味の主役にしていく、そういう中でもできるだけ住民に身近な市町村を主役にすべきだ、こういうことで、今、権限移譲、事務移譲に次いで、税財源の再配分ですね、そういうことを中心に議論いたしているわけであります。やはり、今の二層の地方行政体制を将来どうしていくかもいろいろ議論いたしているわけでありまして、構造改革が成功するかしないかも地方分権のありようにかなりかかっている、こういうふうに考えております。

山村委員 まさしく構造改革が成功するか否かということは、本当に地方分権というスタイルが、この国の二十一世紀の姿、形というものがそうなり得るかどうかということが問われていると思うのです。そのように私も、党派は違えども、地方分権論者という形でいけば、同じようなイメージをこの国の未来に対して抱いておった次第なんです。

 そういうときに、今回の地方自治法の一部改正案という形、このような形で出てきますと、どうも、旧自治省、今の総務省が地方に対して、いわゆる国の標準、日本国の標準はこうだよということを示している。まあ、すぐに変えるということはできないのかもわからないのですが、幸いにして、委員長もそうですが、私どもは改革先進県と言われる三重県の出身でございまして、日常の一県民であった時代、情報公開制度を初め事務評価制度等々、自然な形で住民として受け入れていた県民にとりましては、去年、この国会に出させていただいたときには、三重県というのは進んでいたんだなというふうにしか、漠然としか考えていなかったのですけれども、今回、このような形で合併の問題であり、住民投票の問題でありということが出てくると、まさに地方自治は民主主義の学校だよというようなことをよく評されるのですけれども、地方のNPO団体でありとか、いわゆるオンブズマンの皆さんでありとか、県民、市民というのが民度が高まってくれば、必然的に、その地域の、地方の行政にしろ首長にしろ、進化していくなということを身をもって感じている次第なんです。

 ということは、今、中央省庁でこのような形で、このような枠組みで、このように変えていくという指導をしなくても、今の地方は、進んでいるところ、おくれているところ、それぞれあると思うのですが、もともと、特に地方自治法といいますかこの法案に関していえば、全面的に地方に権限をゆだねてもいいんじゃないかなというふうに思うのです。

 現実的な問題は別といたしまして、将来的な意味合いも含めて、大臣、いかがお考えでしょうか。

片山国務大臣 言われるとおり、できるだけ地方のことは地方で決めて、地方でできるようにするというのが私は基本だと思いますね。

 東京におる人が物がわかるわけじゃなくて、現場におる、現地におる人が一番わかるわけですから、そこにおる人がみんなで相談して一番いい方法を考えて、一番いいようにやっていく、そのための権限や税財源を与えていくということが私は地方自治だ、こういうふうに思っております。

 今回の地方自治法の改正は、何度も申し上げますけれども、第二十六次の地方制度調査会の答申、地方分権推進委員会の御意見に従って出したものでございます。基本的には、住民自治をさらに推し進める、住民自治が動きやすいようにしよう、こういうことで、住民訴訟の訴訟類型の再構成をいたしましたし、直接請求の要件を緩和したり、中核市の指定要件を緩和したり、合併協議会設置に係る住民投票制度の導入など、これは中央がどうするということじゃないのですね、地方における住民自治が動きやすいようにするようないろいろな仕組みをつくっていこうということで、すべて緩めているのですね。

 ただ、この住民訴訟については、本当に残念なことに少し見解が違うのは、我々は、機関をつかまえて機関の責任を明らかにする。住民と機関との関係ですから、地方自治は個人との関係じゃないのですね、個人間の。だから、機関の責任を明らかにしながら、同時に、まさにその機関の個人、一体である個人の責任もあわせて追及する。

 そこはおまえ、二段階になっているからちょっと手間がかかるではないかと。まあ観念論としては二段階になっているのですけれども、しかし、事実上は一発の訴訟で終わっちゃうのですよ。訴訟を告知しまして、効力が即及ぶのですから。

 だから、私は、今までは機関の責任が後ろに寄っちゃって個人の関係にだけなっているから、談合業者のことをよく言われますけれども、業者と住民の関係というのは、その業者を選んで仮に談合させたとすればその機関の責任なんですよね、まず機関の責任を問わなければいけません。それから後は機関と業者との関係になるので、そこの論理構成を整理しているわけでありまして、そこのところがストレートではないではないか、まあストレートではなくなるのですね。

 しかし、機関が後ろに寄っちゃって機関の責任を問えないような制度という方が、むしろ行政事件訴訟、住民訴訟としては私はおかしいのではなかろうか、こう思っておりまして、今回の地方制度調査会の答申は、そういう意味では、私は、住民自治を徹底したものだ、こう考えております。

山村委員 大臣から、具体的な事例もいただいて上手に改正法案、この答弁の方に結びつけていただいたのですけれども、せっかくですので、これは質問の通告はしていないのですが、我が党のNCの大臣はこっちにいるのですが、その方からも、地方自治のあり方といいますか地方分権ということに関して、詳しくお伺いしたいなと思うのです。

荒井(聰)委員 我が民主党も、地方分権というのが大変重要な、恐らく一、二を争う私たちの基本的な政策というふうに認識をしておりまして、玄葉大臣のもと、地方分権政策というのを鋭意まとめているところでございます。

 それから、私、個人的な話なんですけれども、地方分権推進法、一九九五年だったと思いますけれども、その地方分権推進法のときにも、この法案の作成に携わっておりまして、私自身も、地方分権というものが日本の政治の改革にとって極めて重要なものだという認識をしてございます。

 しかし、地方分権推進法や、あるいは地方分権一括法などが提起されたのですけれども、私は、国からの地方分権政策というのは思ったほど進んでいないんではないだろうか。もっと私は徹底した地方分権というものが進むのではないだろうかとあの推進法のときに予想していたんですけれども、実際はそれほどでもないな、そういう印象を持っております。

 しかし、一方、地方自治体の方は、情報公開でありますとか行政の透明性でありますとか、あるいは身近な行政といった、そういう点については、国よりはるかにここ数年進歩している、あるいは成功しているのではないかというふうに思います。これはもちろん、幾人かの大変すぐれた知事さんの努力ということもあるんですけれども、そのほかに、やはりこの直接請求、住民訴訟の四号訴訟が果たした役割が私はかなりあったのではないだろうか。さまざまな形で住民が直接地方自治体のさまざまな問題点について訴訟提起をしていく。確かにこれが行き過ぎて乱訴という形態も一部には見られたんですけれども、しかし、地方自治体が緊張した行政を、あるいは自分たちの行政を工夫していくという、そのきっかけになっていったんではないだろうか。

 私は、今回の政府提案のこの二段階方式の訴訟類型というのは、むしろ規制を強めて、地方自治の行政の透明性みたいなものを失わしめることになりはしないだろうか、そういう心配を持っているところでございます。

山村委員 まさしく私も同感でございまして、ここの部分というのは、本当に事前のやりとりも全くない状態なんですけれども、ではほかはあるのかと言われると困るんですが、党内の議論の方が非常に白熱した議論で、我々もまとめさせていただいている次第なんです。

 地方の方がなぜこれだけ進んでいるのかといいますと、私、思うには、情報公開というものがあって初めて一般の市民、県民が情報を入手できる。それに対して、行政のやっていることがおかしいんじゃないかという追及をするわけです。今までのところというのは、そういう情報が公開されていないから、こういうものだなと、いわゆるお上から流れてきたとおりにやれば済んでしまう、そういうような流れがあったと思うんです。

 身近な問題だから身近に感じられるということもあるんですけれども、これはよく三重県の北川知事が言われるんですが、情報公開というのは役人の皆さんが楽になるよと、責任を市民と共有するわけなんだからどんどん情報公開しろというような形で、当時一市民であった我々にしてみますと、行政の方からどんどん情報を提供されるから、それにのっとった形で、三重県の国づくりといいますか、県に置きかえて例を挙げてお話しさせていただくんですが、それにのっとって、では、民間はどのようなアクションが起こせるんだ、それに準じて、では、県の行政は、市町村の行政はそんなことやっているのかというと、残念ながらまだまだ行政の皆さんの方が、一般論ですけれども、その流れについていけないというような職員の方が大勢みえました。

 ということは、その当時は我々は一市民でしかなかった。直接、知事であり、市長でありというような首長のところへ押しかけていって、あなた、このように言っているのにこうなっているじゃないかと、デモ行進であり、そういうような形をするとか、それとも少しだけ知的に、賢くなってくると、情報を入手できるようになれば、これはオンブズマンを通じて堂々と、要するに、マスコミも含めてですけれども、この懸案を問題点として提起しようじゃないかというようなことをやってきたわけなんです。

 今回の四号訴訟の対象を規定しているというようなこともあるわけなんですけれども、どうも法律が拡大解釈して使われているから、今回、個人じゃなく機関の長を対象とした形に変えようかというふうに移っているわけなんです。

 単純に考えた場合、大臣にしても、今、肩書が、内閣の一員を占める総務大臣という公的な肩書、参議院議員という肩書、そしてプライベートの肩書といろいろあると思うのですけれども、ただ、言っていることというのは一人の人間でございまして、では、総務省の末端の職員の行き過ぎた行動すべてを全部、大臣が責任をとるのかというようなことまでいってしまうわけなんです。

 そういうことを考えたときに、今回の四号訴訟の問題になるわけですけれども、個人を通して機関を追及するか、機関を通して個人を追及するかというときに、機関の長相手にといいますか、機関の長はこう言っているのに、行政の担当者レベル、いわゆる権限を持っている行政マンがちょっとだけ解釈を違ってやっていますと、一般市民にとってみたときに、こんな不条理なことあるかよ、そういうようなことにつながるわけなんですよ。

 そのときに、私ども、具体的な例を申し上げますと、尊敬すべき北川正恭知事に対して訴訟を起こすのかという話になったわけです。要するに、知事がこのような方向性を示してくれているにもかかわらず、我々民間のNPOとかそういったメンバーがそのような動きをした、県からのいわゆる助成金も出るような方策も見つけたというときに、県の職員の担当者、いわゆる課長、部長レベルの人の解釈の違いによって破談になってしまった、あんたの言っていることは、知事の言っていることと違うじゃないかと言っても、行政はしっかりと議会で決められたことだから、そのように施行しているんだと言われれば、行政上の手続としては、何ら問題はないわけです。

 というときに、政治家として知事が発せられた言葉と、知事として発せられた言葉と違うのかといえば、そんなにもずれもないわけなんですよ。我々としてみたら、はっきり申し上げまして、北川勝手連として、自分たちがつくった改革派の知事だという自負心を持っていましたから、そういったことで、マスコミを通じて北川県政の批判をするような、いわゆるオンブズマンと一緒になったようなことをやったとして、決してプラスにはならないよなということで、断念したことがございます。そういう問題というのがあるわけなんですよ。

 そういうことから、すべてが機関の長を通じてという考え方じゃなく、個人を通して、具体的な名前を挙げてでも、行政に携わる人間というのは、公のお金を使ってお仕事をなさっているわけですので、そのぐらいのやはり責任を持ってしかりじゃないかなというふうに考えるのですが、いかがですか、大臣。

片山国務大臣 今、山村議員が言われましたように、今の制度は、職員個人を通じて機関の責任を問うているんじゃないですよ。あくまでも個人だけなんですよ。今回の制度は、機関を通じて機関の責任を問いながら、さらに個人の責任も問うんです。

 そこで、三重県の場合に、北川正恭さんは個人ですよ。三重県知事北川正恭、こうなると、これは機関の代表者ですよ。だから、三重県の場合で、今オンブズマンさんや皆さんのいろいろなお話がありましたが、三重県の知事という職名、執行機関の代表者をまず訴えていただいて、そこで、もし三重県の職員の方に問題があるとすれば、今度は監査請求を事前にやって、訴訟をやって、三重県知事さんの方が負けますね。負けたら、今度はその職員の方に三重県知事が、執行機関がその個人に損害賠償をする。

 ただ、その場合には、最初の裁判でもう全部終わっているんですよ。判決が出るなら、当然その職員にも訴訟告知で効力が及びますから。そこでこの職員は責任をとって損害賠償をする。三重県に損害をかけたことの賠償をとろうという制度ですから、それはその職員が払う、こういうことなんですね。

 しかし、その職員は三重県という県の執行機関の一員であるんですよ。しかも、その仕事は職務としてやったんですよ。横領や窃盗は別ですよ、刑事事件なんか別ですけれども、やっていますから、機関の責任を問わないというのはおかしいんですよ。機関の責任とやった個人の責任を両方問うべきなんですね。

 私はその方がいいと思っておりまして、北川さんは私もよく個人的には存じ上げていますが、北川さん個人と知事の北川さんというのは、これは同じ人だけれども、性格が違うんです。そこのところをぜひ御理解賜りたいと思います。

山村委員 その部分というのは非常に、私どもにとりましても、衆議院議員の肩書がついたときと個人のときでは違うよという形のお話もさまざまな場でさせていただいておりますので、重々承知している次第なんです。

 時間が時間ですので、ちょっと話題を変えさせていただきまして、現実的な問題として、今回の改正案、そして、民主党が出された修正案ということで質問させていただきたいんです。

 今回の民主党の修正案についてなんですが、四号訴訟の対象を規定しているわけなんですけれども、その目的は、どうやって規定しているのか、また具体的に、どのような事業が四号訴訟の対象案から除外されるのかということをお伺いしたいんです。

松崎委員 山村議員にお答えを申し上げます。

 結局、今の議論もそうだったと思うんですけれども、この四号訴訟を変えるという本質にすべてポイントがあるんではないか、そんなふうに思っております。結局、午前中の成田先生の答弁でも大事な発言がございました。代位訴訟がなくなってしまうということなんですね。ですから、これは民主主義の原則である住民の直接訴える力、こういうものがなくなってしまう。

 特に間違いが多いのは、私、聞いていまして、これは一号から四号まであるんですね。一号から三号は、正式に政策を含めてしっかりと住民が訴えられる。この四号だけが、やはり個人の責任をあえてそこで選んで、長い間、今日まで住民の基本的な権利としてやってきた。

 ただ、現在いろいろ問題が起こっている、先ほど荒井議員からもお話がありましたように、さまざまな具体的にお困りな点が確かにある。そこにやや矛盾があるんじゃないかというところで、今回、私どもの法案では、四号訴訟の政策的なものをなるべく外していこう、そうすることによって住民の本来的な権利を奪わないようにしよう、これが目的でございます。

 純粋な違法な財務会計行為、これを今まで対象としていたわけでありますけれども、今までの議論のように、対象が広がってしまった、それでいろいろ不都合があった。そこで、今回、我々は、法案の中に書いてありますように、議会の議決を経て行いました政策上の決定に基づく幾つかの例を挙げております。売買、貸借、請負その他契約、そういった正当なものの締結とか、それから、団体が出資をしております団体の事業で継続的な財政援助、これが正当な理由に基づくもの、それから、法令に基づいて地方公共団体が実施しなければならない正当な公金支出、それから、職員の正当な職務執行に係る行為、こういったものを外そうではないか、こういう案が今回の私どもの案でございまして、当然、同じような性質の事案であれば四号訴訟の対象にはしない、そのように我々は書かせていただいた次第であります。

山村委員 そうしますと、今は、目的といいますか、具体的に御答弁をいただいたんですけれども、今度は四号訴訟の対象というものを、機関の長であるとか個人であるとか、非常に難しい表現でここまで来たわけですけれども、自治体というくくりに、呼び名にした方がわかりやすいんじゃないか。自治体といいますと、我々みずからが治めている、文字どおりなわけですけれども、自治体の説明責任というものも、もっともっと強化されるのじゃないかなというふうに考えるんですが、いかがでしょうか。

松崎委員 御質問は、多分、四号訴訟の対象を自治体にした方がという、いわゆる政府案の説明が、そうですね。

 ただ、我々はそういう立場には立たないわけでございまして、今までも補助参加で訴訟参加ができた、ですから、団体がみずから説明責任を果たすべきだと考えれば参加できたわけでありますね。

 それから、今までの例で、総務省からの資料が出ておりますけれども、平成六年から五年間の間で提起されました住民訴訟が八百七十八件、そこに団体が訴訟参加したものは二百四件、約二三%でございます。また一方で、団体が訴訟参加を行う意思がない、これが七六%、六百七十件。こういう数字から、現在の四号訴訟においても、自治体みずから説明すべきであるというふうに考えた事案は全体の四分の一しかないということであります。

 ですから、すべての四号訴訟の事案の被告を団体とするということは、逆に今はそう多くないんですね。団体に逆に過重な負担を押しつける、ひいては税金のむだ遣いにもなる、そんなふうに感じておりますので、我々は、やはり現行のままの方が効率的である、そういう解釈でございます。

山村委員 同じ質問を、副大臣、先ほど手を挙げていただいたので、回答をお願いしたいんです。

遠藤(和)副大臣 本来、損害賠償の請求をすべきか否かを判断して実施するのは、違法な行為により被害を受けている地方公共団体がみずから行うのが当然である、このように考えます。したがいまして、地方公共団体は、この責務に関して十分な説明責任を果たす必要がある。

 今回の改正案は、この機関を、真の当事者でありますから、これを真っ正面に被告の座に置く、こういうことによりまして、情報を全部開示できる、開示せざるを得ない、こういう状況にしたものでございまして、政策決定の過程、そして、公金支出の過程そのものを全く明らかにすることに大きな意味があると考えております。

山村委員 私の予定時間はちょうど来たわけなんですが、最後に、この改正案からちょっと外れてまたもとに戻るんですけれども、大臣にお伺いしたいんです。

 まさしく、本当に、この総務委員会の管轄している領域だけじゃなく、日本が今混沌とした状態、出口が見えない状態でもあります。そういう中で、単刀直入にお伺いいたしますが、大臣は改革派ですかということをお伺いしたいんです。

片山国務大臣 小泉内閣は全部改革派でございまして、私も、私の所管につきましては、国と地方は構造改革のパートナーということで、地方行財政改革推進プランというのを経済財政諮問会議に出しまして、その中でいろいろ私の構想を説明しまして、そのかなりな部分は骨太方針なり改革プログラムの中に取り入れられておりますので、今後とも、総理が言う聖域ない構造改革の私の所管する分野については、力いっぱい推進してまいりたいと考えております。

山村委員 まさしく本当にその骨太の改革案、推進はしていただきたいんですけれども、ただ、今回の法案を通じて冒頭にも私、述べさせていただきましたが、今本当に、改革というより革命に近い形で、スピードを持って変えていかなければならないんじゃないか。

 大臣の管轄する総務省の中においてというのであれば、具体的な例を挙げさせていただければ、今、全国の市町村が合併問題ということで、はっきり言いまして右往左往といいますか、どうなるんだというような不安な面持ちで、合併の協議会をつくったりとか、今回こういう法律の中にも、住民が直接請求できたりとかいうことを決めていただいているんですけれども、一つのアイデアとしてぜひ考えていただきたいのが、総務省という省庁を小さくするために、いわゆる旧自治省の職員の皆さんを、第三機関という形で結構ですので、地方の合併推進のために地方へ応援部隊として出していただいて、しかも、今度はその県ごとといいますか、将来的には私は州法的な、道州制を取り入れて州法という形でいいと思うんですけれども、現実的には、各県の条例においてそういったことが決められると。

 そのために、県の職員だけではどうしてもまだまだ、失礼ながら、その資質として伴わない部分を、中央省庁の総務省に聞くのじゃなく、総務省の職員を、初めから地方に、送り込んでと言ったら失礼になるかもわかりません、地方を強くするために地域に戻していただいて、地方分権というより地方主権というような国家像を、骨太の改革案というよりも、革命案という形で中へ入れていただければなというふうに願う次第です。どうも、本日はありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、田並胤明君。

田並委員 民主党の田並でございます。ちょっと風邪を引いてしまって、聞きづらいと思うんですが、少々御勘弁願いたいと思います。

 先ほど、民主党の提案者の方から、今回の地方自治法等の一部改正案の中に、地方自治法等一部改正案ということで、市町村合併特例法が一緒に、紛れ込んでいるというんでしょうかね、一緒に出していると。これは、私ども民主党としてもいろいろこの法律の中身を審議したんですが、市町村合併特例法については賛成をするという立場をとったんです。ところが、採決が一緒なものですから、我々も反対せざるを得なくなる。こういう法律の提出の仕方というのは、今回限りでやめてほしいと思うんです。我々の審議権と、まあ審議権は別にあるんですが、採決をするときに、これは一緒にやらないと採決ができないということになりますと、私たちの採決権を侵害するような気がするんですよ。

 この辺について、先ほど提案者の方から提案いたしましたけれども、政府の提案ですから、この法律は。政府の考え方を、これからの取り組みとして聞かせてもらいたいと思うんです。

 あわせて、今は地方自治法の改正案とそれから合併特例法になっていますが、これにさらに例のワンストップサービスもついていたんですね、官署法が。それをどういうわけだか分けてくれて、官署法はやってこの二つが残った、こういうやり方なんです。

 ですから、我々が賛成するものと問題があるものを一緒に出して、ごちゃまぜにして何とかやっちゃおうという、これは、私は今まで逓信委員会に長くいましたけれども、旧の郵政省の関係はこういう法律の提案はなかったと思うんです。自治省というのは相当頭がいいんでしょうけれども、とにかくこういうやり方はやめてほしいと。我々の採決権を侵害すると思うんです。よろしくどうぞ。

片山国務大臣 官署法は、郵政官署に地方自治体、市町村の仕事をやってもらうワンストップ法は新法ですし、新しい制度をつくるものですから、しかも、条文もたくさんございますから、単独法で出させていただきました。

 合併特例法の一部改正を今回、地方自治法の一部改正と一緒に出しましたのは、住民自治の徹底といいますか、そういう観点で共通しているものですから、しかも、合併特例法の方は合併協議会設置の住民投票制度だけの規定でございますから、これは本来は別でもいいんですけれども、単独立法にするには中身もそれだけでございますので、自治法の中にあわせてということでございますが、今後は、田並委員の御指摘もありますので、出し方については、よく与党の国対の皆さんとも相談しながら検討させていただきたいと思います。

田並委員 どうぞそういうふうにお願いをしたいんです。

 それで、法案の審査に当たっては、それぞれ理事会がありますから、これは、では一つにしてやろうじゃないかとか、別個にやろうじゃないかとか、それは現場の方に任せていただくことにして、政府の方の提出は、あくまでも一本ずつ出してもらう、このことをぜひお願いをしたいと思います。

 そこで、本題に入ります。

 先ほど大臣は、現在までの個人を被告とする四号訴訟、これについて一定の成果があった、このようにお述べになりました。私は、一定の成果じゃなくて、うんと成果があったというふうに思っているんです。

 全国のオンブズマンの皆さんや住民訴訟を真剣にやってきた方にしてみると、大変な努力だったと思うんです、それこそ手弁当で、自分の仕事を持ちながら。それで、仮に勝ったとしても、一銭も自分の得にはならないわけですね。一銭の得にもならないわけですよ。あくまでも、自治体に対して損害を与えた首長さんなり職員がいた、それを、自治体が本来ならば損害賠償を請求しなくちゃいけないのを、代位訴訟という格好で、首長さんや職員に対して、財務会計上の違法行為があった、こういうふうに疑われる人を住民訴訟として起こしてきたわけですから。

 それで、先ほど言ったように、勝訴に近い和解も含めて約一割勝っている。この一割というのは、行政訴訟の関係からしたって大変な成果だと思うんですね。大きなものだと思うんです。

 ですから、そういう意味では、これまで架空接待であるとか官官接待であるとか空出張、やみ手当、さらに談合疑惑、相当効果を発揮してきたし、そのことが一定の放漫財政の抑止効果になったし、談合についての抑止効果を発揮した、私はこのように高く評価をするんです。これについて、ひとつ大臣の所見をもう一回聞かせてもらいたいと思います。

片山国務大臣 田並委員の言われるとおりで、私も、この四号訴訟といいますか、納税者訴訟が一定のと、こう申し上げましたが、大きな成果を上げてきたと思いますね。それは、普通の訴訟じゃないんですよね。言われるとおりなんですよ。この訴訟は、勝っても一銭の得になるわけでないし、地方団体全部の利益のために機関にかわって訴訟を起こす、こういうことでございます。

 ただ、私が何度も言いますように、個人に着目している、その個人というのは機関の一員で、いわば職務で、政策判断や議会の議決に基づいてやっていることがほとんどでございますので、そこのところの訴訟としては整理をした方がいいんではなかろうか、こういうことでございまして、我々もこの行為を認めているからこういう制度に直したい、こういうふうに考えているわけでございますので、その辺は同じ認識のもとにあると思うんですね。ただ、方法論が少し違うんです。

 我々は、これも何度も申し上げて恐縮なんですが、地方制度調査会の権威ある答申をいただいておりますから、それはいろいろな方が議論をされての結果でございますので、衆参の与野党の代表の方もおられるわけですから。そういうことで制度化させていただいた次第でございます。

田並委員 地方制度調査会のいろいろな意見を参考にして今度の法律ができたというんですが、私は、願うならば、もうちょっと幅広く意見を聞く機会がなかったんだろうかと。実際に住民訴訟をやっているオンブズマンの人たちだとか、あるいは真剣にこれを研究している学者さんもいるし、そういう方々の意見も聞きながら、果たして変えるべきなのか変えざるべきなのか、これはやはり論議をする必要があったと思うんですね。

 それで、ちょっと民主党の提案者に聞くんですが、今、大臣が言ったのは、私が言った個人訴訟も、今度の機関訴訟も、結果的には個人責任を追及するんだから、今までより以上に地方自治の拡大につながるんだという趣旨のことを先ほども言いましたし、今も同じようなことを言ったんです。

 そこで、なぜこの改正案がいけないのか、民主党の提案者として、具体的に幾つか列挙をされていますが、ぜひ考え方を述べていただきたいと思うんです。

荒井(聰)委員 本来、四号訴訟というのは、自治体に損害を発生させた個人や企業に対して、住民が自治体にかわってその賠償というものを求める、そういう意味であるわけですね。その意味では、自治体も被害者であるわけです。

 ところが、今度は、政府提案の四号訴訟の変更でいきますと、被害者同士が裁判を行う、そういう論理矛盾に陥っているのではないか、そこが一番問題なのではないだろうかと。私は、どうして審議会などでそういう点が議論されなかったのか、よくわからないんです。

 さらに、自治体が応訴するわけですので、当然、税金をもって応訴費用に充てていくわけですね。そうすると、これは、住民が出した税金で、そして、住民の代表である団体がそれにこたえて税金でまた応訴するという、これもわけのわからない形態になってしまうのではないかというふうに思います。

 四号訴訟というのは、住民による地方行政の適正化を行うことが趣旨でありますが、自治体が機関として応訴をすれば、人的、財政的には自治体の団体としての能力というのは個人をはるかに上回っているわけですので、仮に一審で敗訴した場合でも二審、三審と応訴し続けることによって、結果的に、住民による地方行政の適正化と、今までなされてきた効果というものが著しく減退するのではないかというふうに思います。

 先ほども私も説明いたしましたけれども、談合問題などでは住民訴訟が大変有効に効果を発揮したわけですけれども、被害者同士を争わせるというこの形になりますと、談合問題などの解決あるいは一定の成果というものも、逆に今度は望めなくなるのではないだろうか、そんな心配をしております。

 なお、民主党の私たちも、この問題については、審議会ほどではないかもしれませんけれども、専門家を交えて随分議論をいたしました。時には、賛成者側と反対者側のそれぞれの見識のある方に、両方のそれぞれの立場から討論をする、そういうような方法もさせていただきました。

田並委員 大臣、今答弁者の荒井さんから話がございましたが、本来、四号訴訟というのは、自治体に損害を発生させた個人、企業に対して、住民が自治体にかわって損害賠償の請求を起こすわけですね。その意味では自治体も被害者であるというのが、これまでの法律の建前だったのです。

 ところが、今回の場合は代位訴訟じゃないんだというふうに成田先生がはっきり言ったのですが、それはそのようになっているということなんですね、今回の法律改正は代位訴訟ではないと。

片山国務大臣 今、自治体も住民も被害者だと、代位訴訟ですよね、そういう意味では、今度は代位性がかなり薄れていますよね。

 というのは、被害者は団体なんですよ、自治体なんですよ。ただ、これをやったのは執行機関なんですよ。そこで、団体と機関を分けて考えていただかなければいかぬのですよ、団体と機関を。機関の長なり機関の補助職員としてやったことが団体に損害を与えているのですね。だから、住民と団体が被害者であるというのは同じですけれども、やったことの責任を問われるのは、個人の職員ではなくて、機関の長であったり機関の補助職員だ、我々はこう思っておるわけです。ただ、個人の責任がありますから。そうでしょう。

 仮に機関の方が負けた場合には、機関の中での内部関係として、機関の長が、個人である職員に、あるいは個人である長に、場合によっては二面性がありますから、損害賠償をとる、こういう構成でございます。だから、我々の場合には、機関と個人と両方の責任を問う、こういう制度なんですね。

田並委員 なかなか変な解釈なんですね。要するに、団体が損害を受けたから機関の長に対して、だれかが不法な支出をしたから賠償としてとれ、こういう訴訟を起こすわけですね、機関の長に対して。すると、機関の長イコール首長が違法な財務会計支出行為をやった。これは一人なんですよね、個人の長であり、機関の長で。そういう場合、では、どういうふうに自分を弁護するのですかね。機関の長と個人の長、こんな区分け、できるわけないですよ。

 例えば、機関の長にした方が、いろいろな説明資料がどんどん出てくる。今までは、機関じゃなくて個人だったから、個人は書類を持っていない、機関の長を訴えれば、機関の長だから、機関として持っているものをどんどん出してくる。こういう話があるのですけれども、前段があるわけですよ。

 前置の住民監査請求というのがあるわけです。住民監査請求をやって、門前払いを食うわけですよ。門前払いを食ったから、住民訴訟が起きるわけですから。今までだったら、首長は空出張を知っているのに不当な支出をしたとか、あるいは、やみ超勤だということを知っていながら故意にやった、いろいろな事例があります。

 今度は個人じゃなくて、機関の長を訴える。機関の長と個人である長というのは一人なんですよ。そのときに、例えば裁判が始まって、前置の住民監査では住民の要求を退けた、それで機関の長に対して訴訟を起こした。機関の長は、個人の長に対してどうするのですか。守らなくてはならないでしょう、同一人物なんですから。住民監査請求は、もうシロだというふうに出てしまっているのですから。

 それで、政府の方が言うのは、監査委員も自治体も同じものなんだというふうに言っていますが、それは違いますよ。たまたま意見が一致しただけで、別な団体ですから、個人、資格ですから、そういう意味では非常に矛盾があるのですよ。

 例えば、職員だったら別ですよ。あるいは談合業者だったら別ですよ。場合によれば機関の長を訴えて、訴えてというか、談合業者に損害を与えられたから返すように請求しろ、こういう住民の訴訟が起きる。それに対していろいろやり合うというのはわかりますが、機関の長と個人の長は同じなんですよ。それで、公正に機関が持っている書類を出したり、裁判所に行って有利な証言をしたりなんてことは絶対にしませんよ、と私は思います。その辺、どうでしょうか。

芳山政府参考人 ただいまの御質疑の、住民訴訟制度の本来の意義でございますけれども、先ほど午前中に参考人からも御意見がありましたが、五十三年の三月に最高裁の判決があるのは御案内のとおりですけれども、その中で、住民訴訟の本質ということで、職員等の財務会計上の行為の適否やその是正の要否について、地方公共団体の機関の判断と住民の判断とが対立しているという状態が生まれているわけでございます。そのときに、住民がみずからの手によってその違法の防止を行う、また、是正を図るというのがこの住民訴訟の本質だろう、最高裁の判決が出ておるわけですけれども、それがずっと今流れております。

 その中で、現行の四号訴訟は三十八年にこういう規定になったのですけれども、訴訟技術上の観点から、代位訴訟という形で整備されておるわけですけれども、その本質は、職員等の違法な財務会計上の行為に係る損害の補てんを求めるということでございまして、今度の訴えの場合には、機関である長に対して、職員に損害賠償を請求しろ、その相手は長であり、個人であるわけですけれども、請求しろという、今度、義務づけ訴訟に相なるわけでございます。

 それで、そこの本質をとらえまして、今回の場合、真の当事者であります地方公共団体の機関を被告にそのまま据える、今までは個人が相手でしたから、個人と住民との間で、地方団体は横におったわけですけれども、機関を被告に据えることによって説明責任を果たすというのが説明だろうというぐあいに思っております。

田並委員 非常に迷える迷答弁で。

 今のは答弁になっていないんですけれども、人格はどうなっちゃうんですか。機関の長と個人の長というのは同じでしょう、同一人物でしょう、ただ名称が、機関の長であり、個人の長というだけで。それで、機関の長が個人の長に対して、あの人は損害を与えたから賠償するように機関の長として個人の長に訴訟を起こせ、あるいは賠償請求しろ、こういう格好になるわけでしょう。自分が自分に言うんですよ。人間なんというのはそんなに器用じゃないんですから、表を向いて後ろを向いて、そんなことできるわけがない、私は矛盾があると思うんです。

 それともう一つ、二段目、三段目訴訟がある。要するに、機関訴訟で機関の長が訴えられたときに、訴訟告知をするから、もし裁判で一回目に機関の長が負けた場合は、当然、例えば職員なら、職員が損害を与えたということで住民訴訟が起きたときに、その職員の人に対して訴訟告知がしてあるから、第一段の判決ですぐそれに従わなくちゃいけないんだ、こういう言い方をされていますね。ところが、これはちょっと私は違うような気がするんですよ。

 もし、第二段目の訴訟に移行する以前に、万が一、第一段階の訴訟で自治体、機関の長が裁判で負けた、認めたと。ところが、訴訟告知をされた職員個人が補助参加をしていて、部分的にも過失なしとその裁判で主張した場合に、私は過失がないんだ、だけれども判決は、だめだよと、あなたの負けだ、機関の長、だめよ、これはちゃんと請求しなさいよ、こういう判決が出たときに、訴訟告知がしてあるからといって、その職員に対して損害賠償請求というのは、それはできるけれども、職員は争うこともできるはずですよ、民事訴訟で。そうじゃないですか。

 それともう一つは、会計職員の行為について機関としての長が敗訴した場合に、機関としての長は当然、当該会計職員に賠償命令を出せますよ。当然のことなんです、これは今度の新しい法律だと。これに対して、責任を問われた会計職員は取り消し訴訟を提起することもできるんじゃないですか、取り消し訴訟。私は責任ないよと、そうなった場合に、当然、機関の長は訴訟を起こすと思うんです、損害賠償の。それがもし裁判所で、職員が私には罪がないんだということでその判決の取り消し請求を出した場合に、取り消し請求が棄却をされた。だから、職員が負けたわけですよ、職員が負けた場合に、また改めて機関の長は民事訴訟を起こさなくちゃならない、損害賠償の。法的にはそういうことができるんだと思うんです、民事訴訟で。

 そうなると、今まで、住民が直接職員の人を訴えたり首長さんを訴えておった。それが二段、三段になることによって、その二段、三段には訴訟を起こした住民は参加できないんですよ、できないんですよ。それで、いつの間にか、時間が長引けば変な和解か何かでごまかされてしまう、こういう可能性もあるんです。

 それともう一つは、今度の場合、機関の長が被告になるわけですから、そうすると、被害者である住民の納めた税金を使って裁判をやる。一審がもし不満なら高裁へ行く、高裁も嫌だったら最高裁へ行く、この道がつながっているんです。どんどん延ばされる、裁判を。冒頭に言ったように、住民の人は、手弁当で何の利益もなく毎日の仕事をしながらその訴訟対応をする、こんな不公平はないでしょう、今度の法律改正というのは、と私は思うんです。いかがでしょうか。

芳山政府参考人 二、三点ありました。

 一つは、訴訟が起こった場合に、機関となる長から個人である職員、または首長、その他相手方……(田並委員「首長でいいですよ」と呼ぶ)首長に対して訴訟告知がなされます。機関の長から個人である長に対して訴訟告知がなされます、それは個人と機関で違いますから。そうしますと、訴訟参加をするというぐあいになるわけですけれども、その効力は、言われます第二番目の方に効力は及ぶことになります。そして、二番目の訴訟に効力が及びますから、二段目の訴訟を争う実益はほとんどないわけでございます。一段目の判決に基づいて機関である長が個人である長に請求をします。請求をすると、第一番目で確定をしておりますので、ないし訴訟の効力が及んでおりますので、払うことになる。払うのがおくれれば遅延損害金が加算されるということで、これは専門家にもお聞きしましたけれども、二番目の訴訟は基本的にはほとんど起こらないというぐあいに考えております。

 それで、先生から御指摘がありましたけれども、参加する職員なりと機関である長が意見が対立することもあるんじゃないかという御指摘がありました。前段の、多分、長と機関である長は、そういうことはないと思います、同じ人ですから。同じ人ですから、第一番目の訴訟で確定すれば、第二番目の訴訟で個人になって急に争うということはほとんど考えられないと思います。

 それで、職員の場合、相手方の場合において、意見が中で対立する場合があるかもしれない、これはほとんど想定されませんけれども、訴訟参加して自分の利益をおのおのが追求するわけですから、そういうことで、意見が対立する場合には、すぐそこ、一番目の訴訟は終わっちゃうだろうと思います。終わって二番目の方で争う、これはもうほとんど考えられませんけれども、場合によって先生の御指摘の一部はあり得る。

 ただ、先ほど三点目、職員で賠償命令が出た場合の話でございますけれども、賠償命令が出た場合には、例外的に職員が取り消し訴訟を提起する場合もある。これもめったにないと思います。一号の一番目の訴訟が二番目に、遡及効が、判決効が及んでおりますので、ないですけれども、場合によって例外的に取り消し訴訟を提起することがあり得るということですけれども、そのときに、当該団体の方から職員の方に民事訴訟が起こります、先ほど言われましたように。起こりますと、両者の調整規定を設けておりまして、民事訴訟の方を中止を一たんしてもらうということですが、おのおのこれも判決効が及びますので、取り消し訴訟と民事訴訟ともに係属が生じた場合には、一段目の訴訟がおのおのに及びますから、これについても、専門家にもお聞きしますけれども、速やかに終結がなされる、ないしは住民訴訟の遅延の懸念はないというぐあいに聞いております。

 以上でございます。

田並委員 考えるとか、そう言われているとかと言うのでは、どうにもならないでしょう。そういう法的な強制力がきちっとあるのかどうかですよ。民事訴訟だって出せるんですよ、個人として。それはほとんどないというのは、局長の希望的な観測であって、これからいろいろな事例というのは出てくると思うんです。

 ですから、そういう意味では、さっきも言ったように、最初の裁判のときには住民も参加できますけれども、第二段、第三段になると、もう全然住民は関係なくなっちゃうんですから、それで時間だけずるずる延ばされる。だって、全然ないということはないでしょう。考えるとか、そう聞いているとかと言うのでは、これは本当に問題ですよ、この部分は。うなずいているんじゃなくて。

芳山政府参考人 先ほど申し上げましたように、万が一あり得るとしても、訴訟の効力は、判決効は二番目に及んでおりますので、争う意味がないという意味で、ほとんどあり得ないということを申し上げました。

田並委員 別にそれは法的にきちっとした強制力があるわけじゃないでしょう、幾らでも民事訴訟を起こせるんですから。大変問題だと思うんですね。

 それから、きょうは公取委さん来ていますね、ちょっと公正取引委員会にお聞きをしたいんです。

 ことしの十月の十七日に、ごみ焼却施設談合事件をめぐる公正取引委員会の審判記録を原告住民に開示しないようにというふうに求めた五社の企業の請求に対して、東京地方裁判所は、五社の請求を退けて原告住民に開示をすべきだと。要するに、公取が持っている審判記録を閲覧させたりコピーをすることは結構だ、自由だ、こういう判決を下したんです。

 これについて、この判決の中の原告住民の法的地位というのが当然問題になるわけですよ。普通だったら、どういう利害関係があるんだかわからないからというので、裁判所で門前払いを食っちゃうかもしれません。訴える資格がないじゃないかというふうに言われれば、それまでですから。

 ところが、原告住民の法的地位について、裁判所は、談合によって余分な支出を強いられる自治体と同様の立場にあると、原告住民は。法的地位が同様の立場にあると。原告住民も自治体と同じように談合の被害者であるということを認めたわけですよ。そして、独占禁止法に定められた利害関係人として、コピーだとかあるいは証拠資料の閲覧、公取が持っているのを許可した、こういうことなんです。

 この判決について、公正取引委員会はどういう評価をされているのか。もちろん、控訴中ですから、まだ決定を見たわけじゃないんですが、結審をしたわけじゃないんですけれども、これはもう非常に画期的な判決だと思うし、今まで公取がいろいろな証拠資料を見せてきた、そのことについて私は高く評価をしたいと思うんです。この判決をどういうふうに評価するか、ちょっと聞かせてください。

伊東政府参考人 御指摘の東京地方裁判所の判決でございますが、若干経緯を申し上げますと、現在、公正取引委員会で、地方公共団体が発注するごみ処理施設の談合事件について審判手続を行っております。

 一方で、その談合によって被害を受けたとする地方公共団体の住民が、所定の手続を経て住民訴訟を起こしておる状況ということで、住民訴訟の原告住民から、独占禁止法六十九条に基づきまして、先生がおっしゃいました事件記録の閲覧、謄写の請求があったわけでございます。

 この六十九条は、利害関係人に閲覧、謄写を認めるということになっておりまして、この利害関係人は、最高裁判所の判例等によりまして被害者を含むということになっておるわけでございまして、この被害者の中に地方公共団体が含まれるということは明らかでございます。では、住民訴訟の原告はどうなるかということでございましたが、住民訴訟において原告が地方公共団体の有する損害賠償請求権を代位して行使するというような仕組み等々考えまして、公正取引委員会としまして、利害関係人に該当するということで、閲覧、謄写を認めることとしたわけでございます。

 それについて、その取り消しの請求が東京地方裁判所に出されたということでございまして、東京地方裁判所は、御指摘のとおり、十月に公正取引委員会の決定を妥当とする結論を出したわけでございます。そういう意味では、我々としては評価できる判決だと思っておりますが、これも御指摘のとおり、現在、控訴審、東京高裁で係属中ということでございます。

田並委員 もう一つ、公正取引委員会に聞きたいんですが、公正取引委員会としては、今日までの住民訴訟に関係する談合疑惑、談合入札、これらについて、今までの住民訴訟の運動というのがどういう抑止効果を持ってきたのか、どういう結果が出ているのか、公取の立場からお聞かせを願いたいと思うんです。

伊東政府参考人 一般に入札談合等の独占禁止法違反行為につきましては、公正取引委員会で排除措置を命ずる、あるいは課徴金の納付を命ずる等の行政措置を講ずるわけでございますが、それに加えまして、被害者による損害賠償請求が行われるということは、全体として違反行為の抑止力を高めるものだというふうに考えております。

 そういう意味におきまして、入札談合によって発注者である地方公共団体等が損害をこうむったといたしまして、住民が当該発注者にかわってその損害の賠償を求めて提訴する住民訴訟につきましては、現に、住民、原告側の請求が認容されて、事業者に対する賠償命令が出された事例等もございますこと等を考えますと、入札談合に対しまして一定の抑止的な効果があったというふうに考えておるところでございます。

田並委員 大臣、そういうことなんですよ。今、公取の方からも話があったように、これまでの住民訴訟の結果、入札談合というのがかなり抑止をされてきた、一定の成果を上げてきているということなんですね。

 それで、私が心配するのは、法律の改正によって、これは公取にも聞きたいんですが、個人訴訟から機関訴訟に変わった場合に、先ほどの参考人の成田さんでしたか、代位訴訟ではない、今度のこの法律の枠組みは。代位訴訟じゃない、要するに、自治体にかわって住民が、成田参考人、代位訴訟じゃないというわけですよ。そうすると、今度、機関訴訟に変わりますと、代位訴訟じゃないというんですから、公取の方へ、審判記録を見せてください、いや、見せられませんと。今度は裁判に行った、裁判に行ったら、あなたは利害関係人じゃないですよと。代位訴訟じゃないんですから、自治体にかわってやるわけじゃないですから。

 だから、自治体が被害者で住民も被害者だから、談合疑惑で損害を与えたであろう業者を住民が今自治体にかわってやっているわけですから、それに対してこういう東京地方裁判所の第一審の判決が出たと思うんですよ。

 機関訴訟になった場合、公取はいかがいたしますか。もし住民から同じような、何とか談合疑惑で公取が排除勧告を出した、それにも従わない、あるいは従った、そういう事例に対して、住民が審判記録についての閲覧もしくはコピーをお願いしたい、こういうふうに言っていったときにどういたしますか。

伊東政府参考人 現在の考え方は、先ほども申し上げましたように、代位訴訟的な側面を見まして利害関係人に該当するというふうに考えておるところでございまして、それが東京地方裁判所でも認められたという状況でございますが、新しい制度でどうなるかということは、当然前提が変わりますので、新しい事態での請求の内容あるいはどういう段階でだれがそういう請求をしてくるのか、前提となる制度はどうなっているのか、さらには独禁法六十九条でございますが、そういう制度の趣旨等を踏まえて個別に検討することになろうかと思っております。

田並委員 私が危惧をするのはその辺なんですよ。間違いなく公取だって今度は資料は出せなくなりますよ。

 東京地裁の判決は、先ほど言ったように、代位訴訟である住民が自治体と共通の損害を受けた被害者だ、こういう判断をして、公取さんの持っている資料を閲覧しても、コピーしてもいいですよ、こういう判決が出たんですね。今度は機関訴訟になるわけですから、はっきり言って敵対関係になるんじゃないですか。被害者と被害者がともに争う、こういう図式になると思うんです。

 今度の法律改正は代位訴訟じゃないというんですから、これは大臣がしきりに言っている、今度の法改正というのは、地方自治をさらに拡大して、住民訴訟がもっと幅広くできるようにするものだ、こういうふうに言ったとしたって、これ一つ見たって、かなりの制約が出てくるんですよ。そう思いませんか、大臣。

片山国務大臣 私は先ほど、代位性は薄れると言いました、今回の制度改正で代位性は薄れると。だから、代位訴訟とはあるいは言えないかもしれないと思いますが、性格は代位性は残りますので、代位訴訟じゃないかもしれぬけれども。

 それから、前の場合には個人にやるんだけれども、個人と一緒に業者も訴訟の対象になりますよ。しかし、その業者を選定して、事業を発注しているのは地方団体ですからね。だから、そこでは、それは住民が代位したかもしれぬけれども、今、田並委員が言われるような関係では、利害関係はむしろ業者に近いんですよね、団体は。団体が選んだから、その業者は。その団体が業者に発注をしたんだから。だから、それが機関になったからといって、そこで特別に今までと違ってあれするということは私はないと思いますけれども、むしろ、機関の責任が明らかにされるという意味で、より厳粛に受けとめて対応するんじゃないでしょうかと私は思います。

田並委員 大臣の言うこともわかるんですが、これは機関の長が、公取の持っている審判記録を見せていいとか悪いとか、裁判所に訴えるんじゃないですよ。業者が訴えるんですよ、業者が。機関訴訟になったとしても、談合の疑惑のある業者を、住民が前段の住民監査請求がはねられてもおかしいというので、機関の長を訴える。機関の長は、はっきり言えば、住民監査請求では談合の事実はないということではねたから、退けたから住民に訴えられるわけですから、機関の長は談合疑惑の業者の解明のために動かないと思うのです、私は、はっきり申し上げて。

 それで、公取の書類を、記録を見せてもらっちゃ困るというのは、機関の長が訴訟を起こすのじゃないんです、業者が起こすんですよ。業者についている弁護士が、今度は代位訴訟じゃないですよと、成田さん、はっきり言うわけですから。そうすると、裁判所は、代位訴訟じゃない、これは住民と自治体の被害は一緒じゃないんだ、住民ははっきり言って関係ない、こういうことで門前払いを食う可能性がありますと思うのですが。

芳山政府参考人 ただいま大臣が申し上げましたように、現在の談合事案の問題点は、住民と企業が直接争っている構図でありまして、間に立つ地方公共団体、発注者としての地方公共団体が、いわゆる局外者、何ら関与しない第三者としての立場におるということでございまして、住民と企業が談合があったかないか争っている、こういう構図であります。

 今回の改正案では、地方公共団体の執行機関が被告になるということでありますので、正面からその問題を争うということになりますと、談合について企業に損害賠償を請求する、請求しないということを争うわけでございます。なぜ自分が、地方公共団体の機関がそういう適切な行動をとるのかとらないのかということが裁判上明らかになるわけでございます。

 なおかつ、今、先生から御指摘がありました閲覧、謄写の関係でございますけれども、今回のこういう改正に、地方団体が被告になるという改正になれば、それ以上に、これまでもそういう解釈でございますが、地方公共団体の執行機関、地方公共団体は利害関係人ということでございますけれども、今回の改正後においても、地方公共団体からの閲覧、謄写の請求が期待されるというぐあいに考えております。

田並委員 全然答弁になっていないですよ。だって、機関の長が公取に対してそういう書類を出してくれなんてことは言わないと思うのですよ。そんなことをする人はいないですよ。だって監査請求で退けられているんですから、住民は。シロだということでやり始めるわけですから。だから、公取が頑張っても、ちょっとこれは難しい局面になるんじゃないだろうか。もちろん、法律が通れば、それでやらざるを得ないかもしれないけれども、これでは、地方自治の進展だとか、あるいは地方分権に対応した住民参加、あるいは住民監視機能、これがさらに高まるんだということは、私はうそになる、こういうふうに思うのですね。

 ちょっと話題を変えますが、実際に、法律が仮に、これもぜひ廃案にしてもらいたいんだけれども、万が一通った場合に、実際の運用の中でこれが出てきたときに、局長、どういう責任をとりますか、そういう事例が出てきたときに。実際に公取に対して審判記録のコピーだとか謄写をさせてくれと、しかし業者が、もう代位訴訟じゃないんだから、そんなもの見せる必要はないんだというふうに裁判所に提起をする。裁判所がそれもそうだということで、もし敗訴になった場合に、これはもちろん裁判ですから、そのときの状況によって違うのかもしれません。今の状況だと、私は勝てるというふうに思うのです。

芳山政府参考人 謄写の制度そのものは、独占禁止法の所管であります所管省庁において、この法律の趣旨、目的に従って方針の決定がされるというぐあいに認識をしております。

 今、利害関係人の点につきまして、地裁で先ほど御紹介がありました判決がなされて、現在、控訴審においてその問題が係争中であり、なおかつ、開示処分の決定の執行が今高裁で停止をされているというようなことでございまして、その行く末等も関心を持って見守りたいと思います。

田並委員 東京高裁へこれ、上がっていったんですよね。東京高裁が判決を出すまでにどのくらいの時間がかかるかわかりませんけれども、その間にこの法律が通って施行された、そのときの裁判所の判断というのは、恐らく住民に対しての、請求は棄却されるんじゃないかというふうに思いますよ、代位訴訟だからこれは認めたんですから。原告と自治体は共通の利害関係人だ、これで判決が出たんですから、一審は。

 それで、今控訴されている。東京高裁で審判をする間にこの法律が通った場合に、恐らくその書類の閲覧やコピーはだめだと、私は、代位訴訟でなくなるだけに、そういう心配をします。それだけ間違いなく住民訴訟の枠というのは相当狭まってくる、こういう心配をします。だからこそ、こういう法律はやめてもらいたいんですよ。

 やるんだったら、民主党が提案をしているように、あくまでも個人訴訟を担保しながら、裁判費用が大変なら、裁判費用を何とかしようじゃないか、あるいは政策判断に基づくものだったら、それはもう列挙をして、こういう事例についてはやめようじゃないかとか、住民訴訟をできないようにしようじゃないかとか、あるいは限度額が大変だったならば、商法の改正と同じように一定の限度額を設ける。それから、一般職員まで住民訴訟が及ばないような法的な措置もすればいいじゃないですか。原則を曲げれば全部曲がっちゃいますから、そういう心配を私は強く持っています。

 これは、確かに地方制度調査会がいろいろな意見を言いながらまとめたのかもしれませんが、この内容というのは、住民にとっては何の利益もないということです。利益があるのは、今まで個人で訴訟を起こされておった首長さんやそういう方ですよ。大変だ、弁護士費用はかかる、何も大変だということで、旧自治省の方々が、それは大変だなということで、恐らくこういう法律をつくったんだろうと思うのです。本当に残念でなりません。

 総務大臣は大変立派な方で、うんと尊敬してきたんです、今まで。どうも、でも、この法律を総務大臣が出しちゃったら、弱っちゃったな。まだ参議院がありますから、参議院でいろいろ論議をするでしょうけれども、非常に残念です。これはもう今までの評価ががたっと落ちた、また何かやれば上がりますけれども。

 ところで、時間になりますので、最後に、これはもう何としてもやめてもらいたい法律なんですよ。それで、もう総務大臣もあるいは役所の人も、いろいろと新聞論調だとかマスコミ論調を見ていると思います。これまで、団体としては、全国オンブズマン連絡会議だとか日弁連であるとか日本公法学会の有志であるとか、マスコミは、日経、朝日、読売、毎日、産経、そのほかローカル紙に至るまで、この新しい機関を被告とする住民訴訟というのは問題がある、やはり従来のものを残しておいて、そして必要な修正をするものはするべきだ、こういう論調ですよ。

 ですから、この法律改正案というのは世論に逆行するものだ。おとなしい私がここまで言っちゃうのはなんだと思うんですが、仏の田並と言われていたんですから。それまで言わせるということは、本当にひどい法律だということなんです。大臣に、ぜひこの法律の撤回を求めます。

 以上で終わります。

川崎委員長代理 次に、黄川田徹君。

黄川田委員 自由党の黄川田であります。午前中の参考人質疑に引き続きまして、質問させていただきます。そしてまた、本年最後の質問となると思いますので、よろしくお願いいたしたいと思います。

 まずもって、このたびは、皇太子妃殿下雅子様の御出産、内親王が御誕生され、母子ともにお健やかでありますことに、謹んで祝意を表する次第であります。同時多発テロ、また狂牛病など、最近の世の中、本当に暗いわけでありますけれども、この中にあって、国民にとって本当に明るいニュースであり、これをきっかけといたしまして、消費者の心理の好転などにより、低迷する日本経済の一日も早い回復を期待したいと思っております。

 さて、最近、第二十七次地方制度調査会が、会長に諸井さんを迎え新体制でスタートいたしました。当面は、来年度の地方財政対策を審議し、そして年内に意見を答申する予定でありますが、地方行政体制については、いよいよ団体規模に応じて仕事や責任を変える仕組みを検討する見込みと聞いております。これは改革工程表で既に示されているところでありまして、一例でしょうが、人口三十万人以上の自治体には一層の仕事と責任を与え、逆に小規模市町村には仕事と責任を小さくし、都道府県が肩がわりをする考え方であると理解しております。

 そこで、初めに、私は常々、地方の軽視といいますか、弱小市町村の切り捨てを危惧するわけでありますけれども、片山大臣に、第二十七次地方制度調査会の基本課題、特に団体規模に応じた役割分担の見直し方針をどう考えておられるのか、お聞きいたしたいと思います。

片山国務大臣 今、黄川田委員お話しのように、第二十七次地方制度調査会が本年の十一月十九日に発足いたしました。総理から、社会経済情勢の変化に対応した地方行財政制度の構造改革について、地方自治の一層の推進を図る観点から、調査会の調査審議を求める、こういうことでございますが、その補足の説明の中で、私は、新しい時代における地方の行政体制のあり方についての御審議もお願いいたしたい、こう申し上げましたが、それは、今、黄川田委員が言われたように、団体規模等に応じた事務配分のあり方をもう一遍見直してみると。

 御承知のように、今、政令市、中核市、特例市、それから普通の市、町村、こういうふうに分かれておりますけれども、これは法律の根拠に基づいてやっておりますが、こういうやり方でいいのかどうかということについて、もう一度この二十七次の調査会で御審議を賜りたい、こう思っておりまして、我々の方も、かつて御答弁申し上げたかと思いますが、省内に研究会をつくりまして、新しい行政体制のあり方についての勉強も始めております。

黄川田委員 大臣からさまざまなお話をいただきましたけれども、地方分権の推進に当たってはなお一層の事務事業の移譲を進めなきゃならないことは、やはり論をまたないことだと思っております。そこで、重要なことは、移譲された事務、権限に見合った財源の確保といいますか、財源の地方への保障であります。

 今後、地方の自立を促す観点も踏まえれば、この財源保障の柱は自主財源である地方税であることが望ましいわけでありますけれども、残念ながら、さきの地方分権一括法のときには税財源移譲が実現されなかったところであります。あえて極端な言い方をすれば、地方分権にふさわしい財源なきままの分権であったと言えるかもしれません。

 そこで、私もこの一年間、地方分権をさらに推進していくための税財源移譲について何度かお聞きしておりますけれども、年の締めくくりとして、改めてその実現について大臣の所見をお尋ねいたします。

片山国務大臣 実現はなかなか大変なんですね。骨太の方針の中で、税源移譲と書いてもらいました。そういう中で、来年度の予算編成を今月中には終えなければなりませんし、十三年度の一次補正、二次補正、一次はせんだって通していただきましたし、二次補正はこれから編成にかかるわけでありますけれども、とにかく国の方も財源がなくて、一次では、御承知のように二十八兆三千億の国債発行、ぎりぎりの三十兆近くまで国債発行することによって財源を捻出したわけですね。二次補正は、国債を三十兆ということが一つの公約だということで、三十兆以下にしようというので、御承知のように、NTT株の売却代金の国債整理基金であったお金を財源にして、これを活用して二次補正の財源にする、二次補正予算を組む、こういうことにいたしましたので、国の方も大変ですね、地方も大変ですけれども。

 そういう中で税源移譲というのは私は大変だと思いますけれども、しかし、これは粘り強く、息長くやっていかなければいけませんし、地方分権改革推進会議というのをつくっていただきまして、地方分権推進委員会の後身の団体でありますけれども、そこで議論を始めていただいておりますので、ぜひできるだけ早く税源移譲を実現する方向に持っていきたい、こう思っております。そうでなければ、仕事だけ地方に持ってきて、税財源の方はおかしいではないか、こういう意見を地方六団体等からもらっておりますので、ぜひこれの推進方に力を入れてまいりたいと思っております。

黄川田委員 国も地方も財政状況が本当に厳しいということはよくわかります。しかしながら、税財源の移譲なくして地方分権はなしでありますので、その枠組み等々、さまざまな課題がありますけれども、これについては引き続き議論していきたいと思っております。

 次に、市町村合併について幾つかお尋ねいたしたいと思います。

 さきに触れました第二十七次地方制度調査会では、市町村合併が進んだ段階の都道府県のあり方から道州制への議論にも進むようであります。小泉首相も、国、都道府県、市町村の三層構造のあり方も議論すべきであるとしていると聞いております。

 そこで、二年任期の間の地方制度調査会で市町村合併がどこまで進むか、これもわからない中で、少々飛躍した議論でありまして、現状では着実に市町村合併を推進させることが先決であると思っておりますが、この点についての御見解をお聞きいたしたいと思います。

遠藤(和)副大臣 片山大臣もしばしば明言されているんですけれども、二十一世紀は地方の時代、なかんずく市町村の時代である、私どもは一致してそういう認識をしております。

 国と地方のあり方というものを考えていくに当たって、やはり、住民に一番身近な自治体でございます市町村が、これからの住民の大きな、増大する多様なニーズにこたえていくためにも、もっと実力のある、力のある団体になっていかなければならない、そうでなければ責務を果たしていけないと思っておりまして、政府はただいま、当面、今あります三千二百二十三の市町村を平成十七年三月を目途に、千ぐらいにするという与党の合意に基づきまして、地方自治体の皆さんの自主的な努力をいただきながらその目標を達成したい、私どももこのように考えているところでございます。

 今、全国の市町村で、約半数を超える千六百五十七市町村で具体的に検討が進んでおりまして、市町村合併に対する熱意がだんだんと波及しておる、このように思っておるわけでございます。さらに一段と皆様の御協力をいただきながら進めてまいりたいと考えているところでございます。

黄川田委員 市町村の合併、そのとおりでありますけれども、これまた道州制についても過去いろいろな議論がなされております。

 私は、将来の課題として、隣接する県同士の連携あるいは合併の可能性があると思っております。私の地元の岩手県の場合でありますけれども、隣り合う、地域環境が類似している青森県、また秋田県と一緒に、産業廃棄物処理の共同化のほか、福岡県に三県合同の九州事務所を開くなど、十五前後の連携事業を始めております。現在の事務処理方式は変えずに、統合化でコスト削減を図ろうとするものであります。

 そこで、制度論から入るのではなく、実際に一緒にできることを考えるシナリオの方が現実的と思うのでありますけれども、大臣の長期展望はいかがでしょうか。

片山国務大臣 道州制の議論がにぎやかでございます。しかし、なかなか、直ちに道州制ということには少しまだ時間がかかるのではないか、私はこういうふうに思っております。そういう中で、今、黄川田委員言われましたように、都道府県間の連携や事務の共同処理ということはあり得る、こう思います。

 かなり昔に、中京ですね、愛知、岐阜、三重の三県の合併だとか、阪奈和ですね、大阪、奈良、和歌山の合併がかなり議論されたことがあるんです。しかし、いざとなるとなかなか難しいんですね。だから、私は、合併よりも、そういう意味では今の、個別の事務について共同でやるあるいは連携を密にとっていくということがベターではなかろうか、こう思っておりますが、いずれにせよ、基礎的な自治体である市町村の再編成にめどがつくとすれば、次は広域的な自治体である都道府県制をどうやっていくか、これを本気で考えていかなければならない、こういうふうに思っておりまして、今後とも、地方制度調査会や地方分権改革推進会議での御議論を待ちながら、我が省としても検討を重ねてまいりたいと思っております。

黄川田委員 次に、さきの全国町村長大会等で強く要望されている課題も含めて、三点お尋ねいたしたいと思います。

 全国町村会では、「二十一世紀の日本にとって、農山村が、なぜ大切なのか」の提言をしております。

 その中では、

  農山村と町村の実態に関する基本認識を欠いたまま、都市と農山村の対立をあおり、複雑な事柄を単純な二分法で割り切ることによって、真の問題から、人々の眼をそらそうとする議論のしかたは、「構造改革」を進める上で実りある合意形成には、けっして役立たないというべきではないでしょうか。

  産業の新旧交替によって職を追われ、あるいは過酷な企業競争の中で辛苦を余儀なくされている都市住民の苛立ちや不満を、農山村と町村にむけさせて、それで都市住民の支持を得られるものでしょうか。もし得られたとして、それが本当に日本の再生につながるのでしょうか。

  都市住民が求めていることは、農山村との対立を鮮明にして、かろうじて農山村と町村を成り立たせてきた財源を都市に取り戻すことなのでしょうか。そのようにして、農山村をさらに疲弊させて、どのような利得が都市住民にあるというのでしょうか。都市も農山村も、今までのあり方を真剣に反省し、互いに学びあい、日本再生にむけて新たな国民的合意を創り出すことこそが時代の要請であるはずだと思います。

このように訴えておるわけなのであります。

 そこで、まず、市町村合併を促進する過程で、合併の強要を意図した交付税算定の見直し等が行われていないことを望む次第でありますけれども、総務省の見解はいかがでしょうか。

香山政府参考人 現在私どもが検討いたしております段階補正の見直しに関連してのお尋ねと存じます。

 行政経費につきましても、いわゆるスケールメリットというものが働きますので、人口一人当たりの行政経費を見ますと、小規模団体はどうしても割高になることは避けられないということで、そういう団体に対して割り増しをするための段階補正というのを適用しておるわけでありますけれども、この段階補正、私どもとしては、国が法令で地方団体にいろいろな歳出の義務づけをしているという制度のもとで、そういう市町村の合理的な財政需要と関係なく合併促進のために交付税を減額する、そういうことで行う考え方は持っておりませんで、それは交付税の趣旨に反するものと考えております。

 現在私どもが検討いたしておりますのは、小規模団体でありましても、職員の兼務を進めるとかあるいは外部委託を進める、そういったことで合理的、効率的な財政運営に努めておる団体がありまして、そういう実態を反映したような割り増しの係数を見直してみようということで作業をいたしておる次第でございます。

 そういう意味で、これらの団体も法令に義務づけられたような仕事を行うために支障が生じないように私ども対処するつもりでおりまして、その意味で、合併の強制をいたしたものではないということで御理解賜りたいと存じます。

黄川田委員 あわせてお尋ねいたしたいと思いますが、今日、山村では、地勢、立地の制約、それから住民の生活実態等から見て、また周辺も同規模の町村ということで、国や都道府県が指導する方向での市町村合併が困難な状況が見られるところもあります。これらに対し、地方交付税の段階補正の見直しなどによる合併を誘導することは、山村自治体の存立と山村住民の生活基盤を弱体化するおそれがあるわけであります。これらの地域は、国土と環境の保全等の機能を担い、下流域の都市住民の安全で健康な生活を維持していることを認識してほしいと思うわけであります。

 この視点の大臣の所見を伺いたいと思います。

片山国務大臣 我が国は山村が大変多い国でございますけれども、国土の保全だとか水資源の涵養だとか自然環境の保全等の上で重要な役割を果たしている、こういうふうに私は思います。現に、山村振興法だとか過疎対策特別措置法だとかがありまして、法的にも国が援助をいたしているわけであります。

 一方、山村は極めて高齢化、過疎化しておりまして、一つの自治体としてちゃんとしたサービスをやるとかいろいろなことで、存立していくというのは大変条件が厳しくなっておりますね。だから、山村をどうやっていくかということは、私はこれからの地方自治行政における大きな課題だ、こういうふうに思っております。できるところは合併を検討していただく、しかし、できないところをどうやっていくかですね、ぎりぎりできないところをどうやっていくか。

 また、合併を検討していただく場合にも、最初の山村の特色やその地域が一体的に整備できるような何らかの方途、例えば合併しても旧村単位で地域協議会なんかをつくってもよろしい、そういうことも言っておりますので、あるいはそういう旧村単位での地域協議会の活用だとか、特別にその地域についての何らかの援助、財政援助を含めて何か援助をやるとか、そういう方途を検討しながら合併を進めていきたいと思いますが、どうしても合併できないところ、これにつきましては、黄川田委員も先ほど言いましたが、これから、今の市町村行政の体制をいろいろ特色において差をつけていく、一様なものにしないで多様なものにする、そういう御意見も確かにありますので、そういうことの中で検討していきたい、こういうふうに思っております。

黄川田委員 さらに、総務省によりますと、市町村合併により、原則として住民の負担をふやさずに、行政サービスの質を落とさずに財源を捻出することが可能になる例として、次のように述べております。

 すなわち、全国の市町村の決算統計で見ると、行政サービスの水準では違いが余りないにもかかわらず、人口一人当たりの歳出額の平均は、人口二千人以下の町村では百五十万円であるが、人口十万人の市では三十万円であり、経済規模のスケールメリットが働くこととなる。

 また、財政基盤においても、人口五千人の町村と人口十万人の市の財政指数を比較すると、財政力指数では、前者が〇・二〇、後者が〇・八一であり、決算額の歳入の合計に占める市町村税と地方交付税の割合では、前者がそれぞれ九・二%、四三・三%であるのに対して、後者はそれぞれ四三・三%、一一・四%と大きく異なることがわかるとしております。

 そこで、伺うのでありますけれども、この試算には土地面積当たりの人口集積密度の考え方等が入っておらず、私は疑問を感じるところもあります。例えば、面積の広大な県の場合は、幾つかの中山間地の町村が合併し十万人規模の新しい市が誕生しても、スケールメリットが働かず、総務省の計算例のようにはならず、多分合併前のもとの町村の指数に近い値になってしまうのではないでしょうか。総務省は、市町村合併の促進をPRしている立場もあるでしょうから、さまざま加味した計算例を提示してもらいたいと思っておりますけれども、副大臣の御見解はいかがでしょうか。

遠藤(和)副大臣 スケールメリットというものを人口別に見たら単純にどうなるかということをちょっと概算、計算をしてお示ししたというものでございまして、ただいま御指摘がありました試算のうち、人口一人当たりの歳出額の平均でございますけれども、これはその人口区分ごとに、例えば二千人のときはこうだ、十万人はこうだ、そういうふうに該当団体の人口と歳出額から一人当たりの歳出額を算出したものでございます。それから、財政力指数についても、人口別に最も多い市町村類型における各数値を比較したものでございます。

 市町村合併にはいろいろなメリットがあるわけですけれども、例えば総務とか企画部分に対する管理部門を効率化することによって役場の中のコストの削減に効果が及ぶ、こういうこともございます。

 今お話がありました面積とか人口の集積、こうしたものがどのような効果を及ぼすのかという問題は大変重要な問題でございますけれども、そういう条件を、いろいろなパターンがあるものでございまして、それを一々個別に類型化してお示しするというのはなかなか難しい。これは、進んで地元で計画をお立てになっていただくことが大変重要でございまして、そのために御協力をさせていただきたい、こういうふうに考えております。

 それから、総務省が今持っております資料で、人口だけではなくて産業構造、この要素によって市町村を類型化した類似団体別市町村財政指数表というものが作成されておりまして、人口だけではなくて、同様の産業構造を有する地域、例えば農林水産業が多い地域だとか、製造業が多い地域だとか、鉱工業が多いところ、商業、サービスなどの産業の人口分布がよく似ている地域とか、そういうところはどうなっているか、そういう一応の資料は持っておるわけでございまして、そうした面で、こういうふうなものが、あるべき市町村の姿の参考になればと考えているところでございます。

黄川田委員 類似団体の比較ということでさまざまありますし、一義的には地元が、周辺の町村がいかに、その地域はどうあるべきかというところが一番大事だと思いますけれども、いろいろな指標を使っていろいろな提示をしていただきたいと思っております。

 それでは、視点を変えまして、地方行財政に係る課題を幾つかお尋ねいたしたいと思います。

 失業率については、私はたびたび言うのでありますけれども、地方の経済が疲弊しておりますので、十月の完全失業率は五・四%と二カ月連続で過去最悪の記録を更新しております。我が国の経済情勢が深刻さを増す中にあって、地方経済は本当に疲弊しております。地元の中小零細経営者の多くは、過去十年間我慢してきた、さらにもう二、三年痛みを分かち合えと言われても、もう我慢ができないんだ、中国に生産を移すにも、資金も活力もないと叫んでおります。

 また、活力の低下している農山漁村地域の活性化と農林漁業の体質強化を図るため、これらの地域が果たしている公益的役割の見地から、後継者の育成あるいは定住促進対策等の取り組みへの支援も望まれるところであります。

 一方、技術開発力を持つ中小企業を対象に事業活動を支援する制度であるSBIR、中小企業技術革新制度の内容を説明する大会を、喫緊、東京、大阪、名古屋で開くと聞いておりますけれども、こういう時期だからこそ、むしろ地方での開催をこれまた強く望むものであります。

 そこで、このように疲れ切った地方経済の現状を政府はどう認識しておるのでしょうか。また、地域の創意工夫を促し、地域経済の再生を図るなど、活力が低下している地域経済の活性化にどう取り組む所存か、経済産業省の見解を求めておきたいと思います。

今井政府参考人 お答え申し上げます。

 経済産業省におきましては、四半期に一度、全国九カ所の地域経済産業局を通じまして、約千百社の企業に景況のヒアリングをしております。

 この十月にまとめました調査によりますると、アメリカの経済の減速を受けまして、全地域で非常に厳しい状況になっております。生産につきましてはITの関連を中心に一段と低下しておるということでございますし、設備投資につきましても電気機械の分野で投資抑制等が見られるところでございます。また、公共事業におきましても、前年度を下回る地域が多いという状況にございます。先生御指摘のように、価格競争力の低下、激化ということがございまして、付加価値の小さい、少ない商品、製品につきましては、海外に生産拠点を移すような動きまでございます。

 このような状況を踏まえまして、私どもといたしましては、産業構造改革・雇用対策本部で決定されました総合雇用対策に基づきまして、開業創業倍増プログラムということで進めておるところでございますが、特に地域につきましては、大変疲弊の厳しい現状を踏まえまして、これから、地域の特性を生かして、地域経済を支えながら、世界に通用するような事業が次々と生まれてくるような産業集積、私どもは産業クラスターと呼んでおりますが、そういうものを目指した計画に全力で取り組んでいるところでございます。

 具体的に申し上げますと、全国で十九のプロジェクトを立ち上げまして、地域の経済産業局、地域の局みずからが結節点になりまして、地方自治体と協力して、約三千社の企業、これは世界を目指そうという企業でございますけれども、そういう中堅・中小企業、それから百五十の大学、こういうものを含む産学官の広域的なネットワークをつくりまして、その中で、技術情報とか経営情報とかマーケット情報などの質とか量を飛躍的に高めて経営資源を補完していくということ、さらに、私どもが持っております各般の支援策を総合的、効果的にその中に投入していくということを考えているところでございます。今、実施しているところでございます。

 今般の補正予算におきましても、地域の技術開発ということで補正予算をちょうだいいたしているところでございますので、このような産学官のネットワークの形成と技術開発の支援、それから、インキュベーターと略称いたしますけれども、起業家育成施設の整備、こういうものを一体として進めまして、何とか地域経済の活性化に努力していきたい、このように思っております。

黄川田委員 過去において市町村は、県も含めてでありますけれども、企業誘致ということで一生懸命頑張ってきて、そして地方にも企業が張りついたということでありますけれども、本当に、製造業の海外シフト、アジアの中でも中国への集中化ということで、苦労に苦労して頑張ってきたけれども、もうほとんど限界だというのが現状であります、繰り返しますけれども。経済産業省の下支え、本当によろしくお願いいたしたいと思います。

 次に、来年度の地方の予算編成を踏まえて御質問いたします。

 最近の日経新聞の集計によりますと、来年度予算編成を前に財源不足額を公表している二十八都道府県の不足額の合計は、一兆七千六百億円にも達していると報じられております。これは、都道府県の財政規模約三十八兆円の四・六%に当たります。企業業績の低迷から法人関連税収の減少が確実なためで、各自治体とも地方債の増発あるいは歳出の削減など厳しい財政運営を迫られております。

 都道府県は、十一月下旬から本格的に来年度の予算編成に入っておりますけれども、来年度の予算編成は厳しいものになると思っております。そこで、来年度の地方財政における財源不足について、総務省はどう認識し、そしてまたどのような対応策を講じようとしておられるのか、その見解を求めておきたいと思います。

香山政府参考人 お答え申し上げます。

 明年度の経済見通し、これは税収が定まっていない現段階では確たることは申し上げられないわけでございますけれども、いずれにしても、税収は大変厳しいものになる見通しでございます。

 それから、歳出については、既に国の方が公共投資一〇%減額というような方針を出しております。それに呼応いたしまして、地方単独事業につきましても一〇%程度の削減を行いたいと考えておりますし、そのほかにも既定経費の見直し等に努める所存でありますけれども、一方で、公債費等の当然増経費もございますので、明年度、ことしに引き続きまして大幅な財源不足が生ずることは避けられないというように私どもは思っております。

 そういうことでございますので、財務省等に対しましては、地方の歳出を伴う国の施策の厳しい見直しというのを強く申し入れを行っておりますが、こういったことによりまして地方財政計画の規模あるいは財源不足の圧縮に努めますが、そうした上で、地方団体が必要とする交付税総額につきましてはきちんと確保いたしまして、地方団体の財政運営には支障が生じないよう対応してまいりたいと考えておるところでございます。

黄川田委員 まだ二、三質問を残しておりますけれども、いつも発言させていただいておりますので、きょうは時間調整をいたしまして、最後に、自治法改正の基本問題について改めてお尋ねいたしたいと思います。

 今回の自治法改正案は、住民自治の充実方策を中心として大変広範囲にわたる内容を含んでいると認識しております。中でも、その中心的課題となっている住民訴訟の訴訟類型の再構成につきましては、先週の本委員会で私も質疑をいたしましたが、まさに住民による行政の違法な財務会計行為の是正方策として、地方分権の推進に伴い地方公共団体の自己決定権が拡充する中で、この制度をどう生かし、どう育てていくのかが問われていると思っております。

 私は、現在のいわゆる四号訴訟が、関係する長や職員個人の責任追及という形をとりながら、財務会計上の行為の前提となる地方公共団体の政策判断や意思決定が争われている事例も中にはあり、長等に過大な負担をかけているという問題を内包していることは認識しておるわけであります。しかしながら、一方、今後、地方分権をより一層進めていかなければならないときに、住民の目線に立った地方公共団体の長等の違法な財務会計行為に対するチェック機能、このチェック機能が失われることになってはいけないとも思っております。

 そこで、今回の四号訴訟の改正に係る片山大臣の基本認識について再度お尋ねいたしますとともに、今後地方自治の役割の重要性がますます増大することにかんがみ、最近さまざまな基本法が出ておりまして乱立ぎみではありますけれども、新たに地方自治のミニ憲法とも言えます地方自治基本法の制定のお考えはいかがでしょうか。あわせてお伺いいたします。

片山国務大臣 何度も同じ答弁で恐縮でございますが、我々は地方制度調査会等の御答申をいただいてこの制度化をいたしておりますが、特に四号訴訟についてはいろいろ御懸念、御心配等についての御指摘もありましたので、運用上は、今までの制度のチェック機能が後退しないように、住民の皆さんが使いやすいように、今後とも関係の地方自治体と協議をしながらできるだけの工夫をしてまいりたい、こういうふうに思っております。

 私は、今の住民訴訟の機能を後退させようなんということは全く考えていないんですね。今よりは合理的な制度にしたい。もっと、ある意味では地方団体の責任が追及できるような、また地方団体側からすれば説明責任を全うできるような制度にいたしたい、こう思って導入を図っているわけでありまして、今後とも御指摘の点は十分我々の念頭に置いて対処してまいりたい、こう考えております。

 それから、地方自治基本法のお話がございましたが、今の地方自治法が地方自治基本法なんですね。ただ、あれはいろいろなことを書いていますから、基本法としてはちょっと大きくなり過ぎているという感じはややありますけれども、基本的には、あの総則を含めまして地方自治法が基本法だ、こういう認識を持っておりますので、また、地方自治の進展、地方分権の推進等の状況を見ながら、黄川田委員お話しの基本法の制定の必要があるかどうかも、今後とも検討してまいりたい、こういうふうに思っております。

黄川田委員 先ほど来、田並先生がお話しのとおり、この地方自治法の一部改正については、我が党としても、例えば中核都市の関係であるとか合併協議会の関係であるとか、異論のない方々が多数おられるわけなんですけれども、この住民訴訟については、さまざま広範にいろいろな議論があります。ですから、法案の提出の仕方といいますか、いろいろ気配り、目配りもしながらお願いしたいと思っております。

 以上で終わります。ありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、春名直章君。

春名委員 日本共産党の春名直章でございます。引き続きまして、四号訴訟問題について質問します。

 前回の大臣との御質疑の中では、被告を機関としての長へと変更することで制度の整合性が図れるということが繰り返されました。この問題で確認したいことが幾つかございますので、再び質問させてもらいます。

 現行の四号訴訟は、被告とされるのはあくまで私人としての個人です。改正案も、第一次の裁判に自治体側が負けて職員個人が損害賠償を支払わなければならないという判決が出て、職員が損害賠償を払わなかった場合には、その職員ないしは長個人に対して損害賠償の裁判を起こすということになっています。これは、私人たる個人に対する損害賠償を求める裁判だと思います。

 そこでお聞きをしたいんですが、第一次の裁判は執行機関が出てくる、負けると今度は個人が出てくるということになるわけです。私、これでは整合性がとれるのだろうかというふうに思ってしまうわけなんです。その点いかがでしょうか。

片山国務大臣 前回もお答え申し上げましたが、一回目の訴訟は機関である長等が被告になるわけでありますが、負ければ今度は個人である、個人としての損害賠償責任を問うことを義務づけていますね、法律は。だから、自動的に二回目というのは独立したあれじゃなくて附帯的な訴訟になる、私はこういうふうに思いますね。したがいまして、なるほど訴訟の被告というのは変わってきますね、それは変わってくる、こういうふうに思っております。

春名委員 大臣は、繰り返しこの議論の中で、個人は個人で仕事をしているのではない、すべて職務として仕事をしている、だから、第一次の段階で被告になるときにも、私人たる個人ではなくて機関としての長に変更するのがふさわしい、こう説明されているわけです。

 ですから、そうであれば、なぜ最後の損害賠償請求まで含めて機関が責任を持つとしないのか、逆説的な言い方ですけれども。その方が、私は整合性があると思うんですね。すべて個人ではなくて機関や組織として仕事をしているのだから、最後に個人の、いわゆる私人の個人の責任をとらせるという仕組みをそのまま残すというのが、御説明の中では矛盾しているように思うんですね。この点を聞いているんです。

片山国務大臣 財務会計行為ですから、原則としては議会の議決だとかいろいろな適法な手続に従ってやっているんですね。政策判断、そういうことが一回目では私は争いになると思いますよ。

 それで、二回目では、しかしそれは個人の行為として行われるので、その行為が違法なら、まさに違法の問題だから、それは個人の責任になる、こういうふうに思うわけでありまして、この制度の目的は、納税者として住民は、その地方団体にそこの機関の長や職員が損害を与える、その損害賠償は回復せなければいかぬ、こういう発想ですね。だから、そこのところで、一回目は恐らくいろいろなことをやったことの適法性が争われ、しかし個人が違法な行為を行ったということが明らかなら、それは損害賠償を個人が払う、こういうことになると思います。

春名委員 そこがなかなかちょっと合点がいかなくて、同じことを言って申しわけないんですけれども、要するに、今おっしゃったとおり、最終的にはその個人が違法なことをしたのかどうかを問うということになると思うんです。それを、今の住民訴訟、四号訴訟というのは最初からそういう問題提起をするわけなんですね。

 だから、最後のところの出口は同じだと言われるのかもしれないんですけれども、そうであれば、今現実の四号訴訟のやり方というのが合理性があるということを、逆に言えばお認めになっているように私は思えてならないんですね。なぜそういう二段階にしなければいけないのかというのが、申しわけないんですが、どうしてもなかなかわかりづらいということなんですが、それはどうでしょう。

片山国務大臣 地方団体の長や職員は、全く個人の仕事はしていないんですよね。何度も同じことを言いますけれども、もともとは職務としてやっている。それをやっているということは執行機関に責任があるんですよ。その責任を全くよそに置いておいて、執行機関が傍観者のようになって、やっている個人だけをつかまえて訴訟を起こすよりも、まず当該執行機関の責任を問う、その中で、職員の違法行為があるのなら職員に責任を問う、こうやった方が、論理的な整合性がとれるし、私は筋が通るんではなかろうかと。ここは場合によっては、残念ながら何人かの先生方とはやや見解を異にするところですけれども、私はそういうふうに思っております。

春名委員 そこのところがやはり見解を異にするというふうになってしまうのかもしれませんけれども、違法であるということを、個人の責任、個人の違法性を明確にするというそのことは有効であるし、必要であるということであれば、そのことをきちっと今やっているのが四号訴訟なんですね。だから、今あえて改変をしていくという趣旨がどうも薄らいでいるというふうに今のお話を聞いても感じるんですね。

 それで、これにかかわって、たとえ第一次訴訟で住民側が勝訴しても、それを不服とした二次訴訟では、訴えるのは機関であったり、長が被告の場合には監査委員なんです。つまり、訴訟を起こした住民はこの二次訴訟では全く出る幕がなくなってしまう。訴訟を起こした住民自身が裁判の最後までかかわれなくなってしまう。かかわれないというのは、訴訟自身を住民が起こしているわけですから、最後までかかわれるというのが世の常と私は思うんですが、こういう点はどう考えたらいいですか。

芳山政府参考人 今回の改正では、被告となります地方公共団体の機関は、個人としての長、職員や相手方に訴訟告知を義務づけております。そして、その判決の効力は原則として二番目の訴訟に及ぶということに相なるわけであります。したがって、長、職員、相手方は、二段目の訴訟で争う実益はなく、先ほども申し上げました二段目の訴訟が必要となるケースはほぼ想定できないところでございます。仮に、二番目の訴訟が必要となったといたしましても、一段目の判決の効力が及ぶことになりまして、速やかに裁判は終結をします。そういうことから、訴訟自体に住民が関与する必要はないというぐあいに考えております。

 なお、当然ながら、第二段目の訴訟においても、住民や議会の監視のもとに訴訟は追行されるわけでございまして、第二段目の訴訟に住民が法的に関与しなければならないということは要らないというぐあいに考えております。

春名委員 今の説明もなかなか矛盾しているわけなんですが、先ほどの田並委員のお話を繰り返しているわけなんですけれども、自治体が監視を引き続きやるから第二次訴訟にいくというのはもうほとんど考えられないという前提でもし考えたとしても、もしあったときに、先ほどのお話では、自治体が監視をするということがやられているので住民が出る幕がなくてもいいのだとあたかも言わんばかりの御答弁だったんですが、それでいいというお考えなんですか。

芳山政府参考人 先ほど申し上げましたように、二番目の訴訟でございますけれども、訴訟告知がなされておりまして判決効が及びます。なおかつ、二番目の訴訟については遅延損害金が年利五%でどんどん発生をしております。そういうことから、実際訴訟を起こしても勝つ見込みはない訴訟でございまして、実際に第二段目の訴訟が提起される事態は想定されないと先ほど申し上げました。

 なお、先ほど先生から御指摘がありました代表監査委員がどうして出るかということでございますが、機関である長が被告であります、そして個人である長を訴えるということで、同一人物でございますので、代表監査委員が自治体を代表して訴えるということでございますけれども、これもほとんど考えられない。と申し上げますのは、機関であります長が負けるわけでございまして、個人になったら急に争うということは、法文上は予定をしますけれども、ほとんど予想されないというぐあいに考えております。

春名委員 それはもう今議論済みだったんですけれども、また蒸し返されるものですから、法律上はそういう二次訴訟という仕組みまであなた方はつくって提案をされているわけで、それが想定されているから提案されているのであって、いいですか、だから、そういう仕組みをつくっておきながら、全く想定されませんなんということを言われると、私もだんだん声が大きくなるんです。

 それで、ちょっと、先ほど成田参考人と私が話をしたときにこういう議論になったんですね。第一次の裁判は代位訴訟だったと私は思っていたんですが、第一次の裁判は代位訴訟ではなくなるということを明言されたんですね。なくなると言われたんです。第二次訴訟は民事訴訟というふうになるんだろうと思いますけれども、第一段は行政訴訟なんだけれども、しかし、その性格である代位訴訟というのはなくなるんだということを、参考人、権威ある方ですから、御発言されたんですね。

 そして、先ほどの大臣の御答弁では、代位性は薄れるが性格は代位性は残るという全然理解できない御答弁をされているので、ちょっとこの違いをはっきりしておいてほしいんですよ。代位訴訟ではないのかどうか、なくなるのかどうか。この点、明確にしてください。

芳山政府参考人 午前中の成田参考人の御意見、私も聞いておりました。現在の訴訟は、地方公共団体が有している損害請求権を住民が代位するという意味で代位訴訟ということを言われたと思います。今回の改正案でございますけれども、被告である団体を訴えるわけですけれども、個人に請求せよという意味での義務づけ訴訟というわけで、履行請求訴訟ということを成田参考人は言われたと思います。私もそう理解しております。

春名委員 ですから、もう一度明確にしてくださいね。代位訴訟という性格というのは、自治体に成りかわるという意味なんです。損害を受けた自治体に成りかわって、住民がこれを、訴訟を起こして損害を回復させるというのが代位訴訟、それが四号訴訟だという位置づけなんですね。それが、今度の制度で、その成りかわるということはなくなるんだ、代位訴訟というのはなくなるんだということを参考人はおっしゃったわけなんです。

 それがそうなのかどうか、政府はそういう認識なのかどうか、そこをはっきり言ってほしいんです。

芳山政府参考人 御指摘のとおりでございまして、これまでは代位訴訟でございますけれども、今回の訴訟は、被告に対して、被告である県なり自治体に対して、地方団体に請求せよという義務づけ訴訟という意味でいいますと、代位訴訟にはなっていません。

春名委員 そういうことなんですよね。だから、この四号の根本的性格をこの仕組みは大もとから変えてしまうというものなんです。そこが私は非常に大きな問題だなと思っています。

 なぜならば、前回の議論のときにも私は思ったんですが、自治体と住民は一体であって、身内であって、同格であって、住民自治によって、住民によって支えられている、そういう仕組みと僕は理解しているんです。住民自治というものはそういうものだと思うんです。そういうものだからこそ、自治体が被害を受けたときに、それに成りかわって住民が訴訟を起こしてその被害をまた回復していくという中身だと思うんです。そういう根底がなかったらこの代位訴訟というのは成り立たないわけなんで、その理念を全部変えてしまうということになってしまうわけなんです。

 つまり、住民というのは、自治体、大臣に言わせたら自治体と機関をちゃんと区別してくれと言われるんで区別しますけれども、機関、執行機関ですね、ということで考えたときに、住民はみずからの代表者である自治体の執行機関に対してこれからは敵対するという制度設計をこれから持ち込むという意味になっちゃうんですね。だから、それが、果たしてそういうものを持ち込んでいいのかということを私は率直に思います。住民自治を拡充するという立場からこの法案を出されているというふうに言われるんですけれども、この大変大事な理念が根本から崩されるように思えてならないんですが、この点はいかがですか。

片山国務大臣 私が申し上げましたのは、団体と機関は違うということを言ったんですよ。なるほど、今の制度は代位訴訟ですよ。今度の訴訟は代位訴訟じゃありませんが、私が代位性が残ると言ったのは、訴訟告知や補助参加があるからなんです。

 それは、住民自治というのは、言いましたように、住民が団体の意思決定をできる、議決機関を選び、団体のいろいろな行為の執行を行う執行機関を選ぶということなんですよ。執行機関、議決機関と住民の間に一種の緊張関係があって、その機関は住民が選んで代表者を出すということなんです。

 だから、この場合に、それは監査請求前置で、そこでやったことは、執行機関がやったことは、監査委員さんが、結構です、それは正しいんだ、こういう判断をした後訴訟が起こるわけですから、住民とその執行機関が対立関係に立つことは当然ですよ。私は、それはそういう制度だと考えているので、そのことが住民自治を侵害するとか住民自治の後退になるということじゃありません。

春名委員 告知や補助参加があるからいいんだというふうにおっしゃるんだけれども、ただ、これは理念の大きな問題ですから、それを、変質というんでしょうか、変えていくというものになっていることは、これは明確に指摘をしなければならないと私は思うんですよ。

 そこで、例えばこういう場合はどうなるか、教えてほしいんですけれども、第一次訴訟で住民の側が勝訴したとします。その職員ないしは首長に損害賠償をこれだけの金額支払いなさいという判決が出たとします。局長に言わせれば二次訴訟はほとんどないと言われるんだが、実際こういう場合があったらどうするかということなんですが、ところが、本人は、高くてそんなのは嫌だと言います。当然、機関、あるいは長の場合だったら監査委員が第二次訴訟を起こします。その裁判で、一次訴訟の判決よりも例えば低額で和解するということも絶対ないとは言えません。その際に、第一次判決で出た金額と第二次判決で出た和解の金額の例えば差額分を、その分自治体に損害を与えたことになるんだということで、再び住民が住民訴訟を起こすというようなことはできるんでしょうか、なるんでしょうか。こういう問題、この制度設計ではどう認識すればいいんでしょうか。

芳山政府参考人 今御指摘がありました、第一番目の訴訟の結果、第二番目の方に訴訟効力があるということで、今、仮に万が一の訴訟が起こった場合に、追及としては、首長さんが職員の方に同じ額を請求するということで訴訟が起こる。それで、和解はないと思います。これは、いずれにせよ、その額を請求せよということですから、その金額について争うんですけれども、先ほど来言っていますように、効力は及んでいるものですから、その判決は直ちに終わる、口頭弁論は終結を見るということでございまして、ほとんどの場合そういうことはあり得ないというぐあいに思っております。

春名委員 なぜ和解がないのかということなんですけれども、それで私の質問は、こういう場合が出てくる可能性があるので聞いているので、もう一回聞きますけれども、第一次判決で出た金額と第二次判決での和解の金額が違う、低額で和解したということになったとした、これはあり得るわけなんで、そのときに、その分はまた自治体に損害を与えたということで、再び住民が住民訴訟を起こすということは可能ですかということを教えてください。

芳山政府参考人 仮定のお話でちょっと御答弁しにくいですが、和解というのは、議会の議決、九十六条で、どういう事由でございましょうか、議会にお諮りをして議決をすればあり得るわけです。あり得るわけでございますが、それは、住民の皆さん、議会の皆さん、みんなが見ている中での議決でございますので、どういう理由でございましょうか、和解の議決はほとんど想定されないなということを申し上げました。

 ただ、住民から見ますと、議会に対して訴訟した案件なり認めた案件は一切ありません。議会が問われたことはありません。ただ、それについては、首長さんは、議会を幾ら通っても住民から見ると首長がそういう判断をしたなということをとらまえて、住民訴訟は過去起こっております。

春名委員 要するに、例えば日弁連の意見書なんか、ごらんになっているとおりなんですけれども、住民は、第一次訴訟には参加できるけれども、第二次訴訟手続には参加できない、第二次訴訟手続では地方自治体、公共団体とその職員が当事者となることになるから、なれ合い訴訟の危険がある、弁護士の専門家集団がこういう指摘をしているわけですね。例えば第二次訴訟手続で低額の和解をする等、こういうことも考えられると。

 だから、そういうことは、制度上はほとんどないだろうというふうに言われるけれども、しかし、実際にはできることにはなっているわけなので、そういう問題について、やみにまだ隠れているということを、今お話を聞いて非常に感じました。

 時間が迫ってきたので、もう一点、どうしても聞いておきたいことがあるのです。

 例えば、私の住んでいる高知県の土佐山村では、前収入役が、その地位を利用して総額十五億円のお金を一時借り入れ等の形で金融機関から引き出しまして、それを私的に使い込んで、まあ、女性に貢いでいたといいますか、情けない話なんですが、そういう事件を起こしました。この金額は、村の年間予算に匹敵するという大変な金額でした。明白に収入役個人の犯罪であります。機関としての職員の犯罪ではありません。

 今度の改変によって、こうした明白な個人の過失でも、住民訴訟という手段でやろうとすれば、あえて機関を訴えるということになります。そして、自治体がこうした個人の肩を持つことになり、住民に対峙するということになってしまいます。弁護士費用も、税金から出すとならざるを得ません。つまり、被害を受けた住民と自治体、これが相対立して、自治体はその収入役とともに被告になって住民と争うことになってしまう。これはどう考えても理不尽なことではないでしょうか。この点はいかがでしょうか。

芳山政府参考人 一般論としまして、明らかな背任、明らかな横領、明らかなそういう刑事事件については、当然自治体の方が刑事告発をするでしょうし、当該該当事に対して損害賠償をするのが当然の姿であります。それをそういうことをしないと、明らかでもない、まだよくわからないという段階で横領行為と住民が認めた場合に住民訴訟が起こる可能性がある。そういう場合はまだあり得るとは思いますが、今、先生御指摘のような点については、今の高知県の村は別としまして、これは一般論として申しますと、当然に明らかな事件については、自治体がそういう毅然とした態度をとるのは当たり前だというぐあいに思っています。

春名委員 告発を自治体がしなかったときに、住民としての手段として、成りかわって住民訴訟というのが存在しているところに意味があるのですね。だから、今、これは極端な例ですので、こんな横領をしていたら告発するなんというのは当たり前のことなんですけれども、同時に、それを自治体がもし怠っている場合、住民が成りかわって自治体の損害をきちっと問題提起をして解決を迫る、そのために住民訴訟はあるのです。

 埼玉県の新座市では、市長が、有力な後援会員が市民税を滞納していたことを知っていながら、それを見て見ぬふりをして便宜を図ってやったことが明らかになって、税金裁判で高裁判決が確定しました。市長の重大な過失を認め、五十二万円の支払いを命じました。この事件も明白に私人としての犯罪で、機関の長としての属性からくる犯罪ではありません。こうした場合も、住民訴訟という手段になれば、損害を受けた機関が裁判を受けて立つということになってしまいます。

 二つの例を挙げましたけれども、これ以外にも、先ほどから議論されているように、空出張、観光的な視察、議員の野球大会への出張等々が四号請求の対象となって、かなりの部分をそれは占めています。これらの多くは、個人による公金の不正使用、個人的なつまみ食いともいうべき問題です。こうした個人的な違法行為にも自治体が公務として公金を支出しながら弁護していくというような事態は、これは住民から見ても、国民から見ても、どうしても納得できるものじゃないのじゃないかと私は思うのです。この点はいかがでしょうか。もう時間もありませんので、最後の質問にします。

芳山政府参考人 先生が言われるような事案、横領、背任、ないしは近ごろの空出張、まあ四、五年前はありましたけれども、ここ五年間の中でそういう割合はほとんど少のうございます。そしてまた、そういうのが仮にあった場合に、地方団体が責任追及しないということを、地方団体を被告にしてしっかり訴訟するのが今度のねらいでございます。

春名委員 いずれにしても、今度の改正というのは、住民自治にとって大きな後退になりかねないし、監視機能を後退させることになりかねないということを私は改めて感じておりますので、この部分は少なくとも撤回されるべきだということを強く申し上げまして、私の質問を終わります。

川崎委員長代理 次に、矢島恒夫君。

矢島委員 日本共産党の矢島恒夫でございます。

 私、先週の火曜日、十一月二十七日のこの委員会で、住民投票の問題、それから自治体の適正規模の問題、大きいことはいいことだとはならないというような点について、質問してまいりました。そこで、きょうは、その続きということで、市町村合併の問題、とりわけ、この合併を推進していくためのてことして使っているところの通達類の問題について、まず質問したいと思います。

 平成十一年八月六日、「市町村の合併の推進についての指針の策定について」という通達が出ております。平成十三年三月十九日、「「「市町村の合併の推進についての要綱」を踏まえた今後の取組(指針)」について」という通達が出ております。この二つの通達の目的と性格についてただしたいわけであります。この通達というのは、技術的助言なのか、勧告なのか、あるいは是正措置の要求なのか、指示のどれに該当するのかという問題です。

 時間の関係で、あわせて、この平成十三年三月十九日の総務事務次官からの各都道府県知事に対する通達を見ますと、平成十七年三月三十一日までに市町村数を千にすることを目標に、「各都道府県におかれては、今回お示しした新指針を参酌して、要綱を踏まえ、貴職を中心に全庁的な体制をとって、管内の市町村の合併に向けた取組についてより積極的な支援に努められるよう要請します。」こういう内容になっているわけです。

 そこで、もう一つの問題として、自治事務である市町村合併に対する政府の関与のあり方。この通達は、法定主義の原則や一般法主義の原則、公正、透明の原則、こういうものに反して、いわゆる地方自治権を侵害するものではないかと思うのですが、この二つの点について、大臣のお考えをお尋ねしたいと思います。

遠藤(和)副大臣 ただいまお話がございました両事務次官通知により示された指針ですけれども、これは、いずれも、市町村合併特例法第十六条第一項に基づきます必要な助言、情報の提供を行ったものでございます。(矢島委員「後半については」と呼ぶ)

 両方とも同じでございます。

矢島委員 時間の関係がありますから、あわせて聞きましょう。

 助言というのは、辞書を引けばすぐわかることですが、「傍から言葉を添えて助けること。」こんなふうに書いてあります。それから、地方自治百科大事典によりますと、行政用語として、地方自治の内容を質的にも向上させるため、国等が、技術、知識、経験をもって地方公共団体に援助、協力すること、このように定義されております。

 そうしますと、先ほど私が申し上げたように、十三年三月十九日の通達というのは、目標と期限を定めて合併計画立案の任務の遂行を求める、これはもう助言の範囲を超えているんじゃないですか。いわゆる指示の範囲に入るものだと私は思うのです。

 地方自治法の二百四十五条の四は、大臣はその担任する事務に関し、必要な助言をすることができると定めたものでありますけれども、大臣権限の事務でもなく、本質的に自治権に属するところの市町村合併の計画を立案する、あるいは目標と期限を定める、そしてその遂行を自治体に要求する、これは大臣の権限を逸脱していると思うのですが、大臣いかがですか。

芳山政府参考人 御指摘がありますが、総務省設置法ないしは合併特例法におきましても、この自主的市町村合併の推進については、自治大臣ないしは総務省の任務となっております。さきの合併特例法の改正のときにそこの部分が改正になりまして、都道府県に対して、総務省として、国として助言をするというぐあいになりました。

 この背景としましては、実は地方分権推進委員会の十二年十一月二十七日の市町村合併の推進の意見というのがございまして、その合併推進についての指針への追加という中で、各都道府県に知事を長とする市町村合併のための全庁的な支援体制を整備することの要請などを追加するというようなことも踏まえつつ、今回指針を出したものでございます。

矢島委員 政府のずるいところは、法律に基づく指導というのを避けて、通達でこの目的を果たそうとする。言うなれば、中央集権的な手法だと私は思うのです。つまり、合併勧告提起としますと、これは合併の強制になって分権時代には使えないから、そこで政府通達で県を動かし、合併構想提起、こういう形をとっている。つまり、中身は同じ目的を果たすために法律を使わずに通達で無理押ししている。これは、分権推進委員会が最も強く廃止を迫ったところの通達行政だと私は指摘せざるを得ない。

 次の問題について、総務省、お答えいただきたいのですが、総務省から都道府県へ出向している職員数、主な出向先のポスト、どうなっているか。また、政府全体の都道府県への出向者数、どういうふうになっているか、お答えいただきたいと思います。

團政府参考人 総務省から都道府県への出向者数についてのお尋ねでございます。

 昨年八月のものが一番新しい数字でございまして、ことしも余り趨勢は変わっておらないと思いますが、昨年八月の時点におきまして、旧郵政省から十六名、旧自治省から二百三名及び旧総務庁から二名、合計で二百二十一名の者が出向しているという状況でございます。

 なお、出向者の配置でございますけれども、この出向者の配置につきましては、都道府県からの要請を受けて配置をされているというものでございますけれども、結果的にその主な配置されている部局ないし課につきましては、部局では総務関係、企画関係、商工労働関係部局が多うございます。課におきましては、財政課、市町村課、企画調整課等が多いという状況でございます。

大坪政府参考人 政府全体での出向者数につきまして私の方から御説明申し上げますが、先ほど総務省の数字、説明がありましたけれども、それを合わせまして、平成十二年八月十五日時点で千二百二十六人が政府全体の都道府県への出向者数になっております。

矢島委員 二百二十一名、自治省関係あるいは旧郵政省、そのほか総務庁関係、その先が、ポストとしては総務部長、企画調整部長だとか市町村課長だとか財政課長だとか、それぞれのポストに行っています。

 つまり、私が言いたいのは、自分でつくった、先ほど来私が問題にしている通達、これを出先で自分たちで受け取って、住民が知らないところで市町村合併の線を勝手に引いて、合併の企画立案書をつくった、これを政府に報告した、期限を決めて市町村にその達成を迫る、これはそういう仕組みになっているのです。つまり、通達で出す、通達を受け取るのが、大体、総務部長とか企画調整部長とか、それぞれ出向者である、それで一体となってこの企画立案書をつくっていく。

 こういうやり方というのは、私はやはり、強制的な市町村合併には反対だというあの全国町村長大会での垂れ幕や決議、こういうものになってあらわれるように、まさに、強制しないと言うのですよ、ずっと、強制していません、強制していません、自主的です、こう言っているのですよ、しかし実際の中身というのはこういう仕組みになっているということを指摘せざるを得ない。いかがですか。

遠藤(和)副大臣 国と地方の職員の人事交流というのは、これはともに同じ立場、そして共同でいろいろな情報交換をする、あるいは研修にもなる、そういうことでやっているものでございまして、対等の立場で行っていくというのがその基本でございます。そしてまた、国から地方に行っている職員は、そもそも地方から要請されて、それにこたえて行っているわけでございまして、何も私どもが国の意思を地方で実現する意味を持って派遣しているものではございません。

矢島委員 そこで、私、確認しておきたいのですが、静岡大学の三橋良士明先生が「住民と自治」の中でこんな指摘をされています。「憲法の定める地方自治の原則からすれば、市町村合併の問題は、市町村や地域住民の自主的かつ民主的な判断に委ねられるべき自治的な課題である。」

 大臣、市町村合併は、自主、民主、公開、これが原則であると私は思うのですが、その点はよろしいですか。

片山国務大臣 当委員会でも何度も申し上げておりますように、今回の合併は自主的な合併、ただ、首長さんや議員さんには保守的な雰囲気もありまして、今のままでうまくいっているのに何で変えにゃいかぬ、こういう感じがあるので、やはり将来のその地域社会のありようを考えてくださいと。そういうことの指導や啓蒙は我々の役目ですから、これはさせていただきます。

 その上で、最終的にお決めになるのはその地域の住民であり、あるいは、具体的に言うと議会の議決が要りますので、あるいは首長さんの進達が要りますので、そういうことで進める、こういうことであります。

矢島委員 私、これは二回にわたって、先週と今週、この問題を取り上げてまいりました。市町村合併、これを強制するような内容の通達類は撤回すべきだと思いますし、一般的住民投票制度の導入を積極的に進めるべきだということを申し上げて、もう一つの問題、住民訴訟の問題で、残り時間わずかですが、私もお聞きしたいと思います。

 我が党は、ことしの四月、宮崎市の三セクリゾート施設であるシーガイアの調査をしました。四百億円かけて建設したのに赤字続きだというウオータードーム、利用される見込みのない、使用料が百万円もするような国際会議場、コンベンションルームサミット、一泊三十万円もするような豪華ホテル、オーシャン45、どう見ましても超豪華リゾート施設であります。このことをやったことによって、自治体本来の責務である住民の福祉、こういうものを切り下げる等の問題が生じて、現在、住民訴訟が進められています。

 そこで、総務省に聞きますが、このシーガイア事業や道路など周辺基盤整備に地方債や交付税などでどのような支援をしてきたか、お答えいただきたい。

香山政府参考人 お答え申し上げます。

 シーガイア事業は、いわゆるリゾート法の対象事業となっておりまして、この法律に基づきまして、固定資産税の不均一課税等を行った場合には地方交付税による補てん措置を講ずるというのがありまして、そういう措置を講じております。また、関連道路の整備等に対しましては国庫補助、その地方負担に対しましては地方債等による地方財政措置を講じております。

 私ども、第三セクターはあくまで出資者の主体的な判断によって設立され、その責任において運営されるものでありまして、こういう地域の地方団体が実施した事業に対して国が何らかの措置をしたこととは関係ないものというふうに考えている次第でございます。

矢島委員 バブルが崩壊した後、景気対策だということで地方財政が動員されてきたことは、これは事実だと思います。というのは、このことについて、当時の宮澤大蔵大臣も国会答弁で、国が公共事業をいたしまして地方に御迷惑をかけた、こういうふうな言い方で述べております。

 このシーガイアですけれども、県と市の出資金はそれぞれ七千五百万円、負担した周辺基盤整備などに約六百億円以上支出しております。さらに、これが破綻しまして、リップルウッドに譲渡されました。県はこのアメリカ企業に、シーガイア支援のためにつくった基金が五十八億円あるのですが、そのうち既に支出したものもありますから、支出残額として三十三億円、これを使って財政支援をすると言っているのです。

 そこで、大臣にお聞きしますが、こういう県民が利用しないような赤字リゾート建設への県費の投入、これは住民の安全とか健康とか福祉の充実、これを第一の責務とするところの自治体の仕事とはかけ離れている。地方自治法二百三十二条の二に言うところの公益上の必要性を満たしているとは到底認められないのですが、大臣のお考えはいかがでしょう。

片山国務大臣 今委員が言われたことの事実関係については、私は必ずしも承知いたしておりませんけれども、シーガイアそのものが倒れてしまうと、これは大変影響がありますよね。だから、その後継の会社が名乗りを上げてやる。

 例えば、雇用はそのまま維持するとか、物の調達はやってくれるとか、いろいろなことで支出をしてくれるというようなことがあれば、それはまさに知事さんなり議会なり、あるいは市でいえば市長さんなり議会なりの判断で、公益上必要があると思えば援助することは可能だと私は思うし、また、そういうことは自由に現場で判断してもらうというのが地方自治なので、ちょっとあれなら国から注文をつけてだめだとかいいだとかというのはまたおかしいので、一次的な、まさに公益上の判断は当該首長さんや議会にしていただく、こういうことであります。

矢島委員 この公益上の必要性、こういう問題が今争われているわけですので、その部分は大臣のお考えを聞くということにして、例えば、東京高裁の上尾都市開発に関する判決、それから岡山地裁のチボリ・ジャパンの判決、これを見ますと、例えば、平成四年二月のこれは浦和地裁の判決、東京高裁も大体同じですが、その営業目的とする再開発ビルの管理及び運営、不動産の売買、貸借等の業務は、地方公共の秩序を維持し、住民の安全、健康及び福祉を保持すること等を目的とする地方公共団体の事務とは性質を異にするものである、こういう、公共性を否定しておるのですね。

 チボリ・ジャパンの判決でも、いずれ結果として地域振興その他の公の利益にかかわってくる余地があるとしても、右仕事内容そのものが、地方公共団体のなすべき事務と同視するとは言えるようなものでないことは明らかである、こういう判決が出ております。

 住民が自治体に成りかわって首長に賠償を求めるという問題について、この委員会でいろいろ論議されてまいりました。自治体と住民とは一体の関係に置くことであって、これこそ住民自治の本質であると私は思います。住民が自治体に賠償を求めることができるのは、結局、住民が自治体により被害を受けて、その被害補償を自治体に求める場合に成立する関係であります。住民と自治体を対立関係に置き、首長の責任を免責するようなものである法案の撤回を求めて、質問を終わります。

川崎委員長代理 次に、重野安正君。

重野委員 本臨時国会、本委員会最後の質問になると思うのですが、お疲れと思いますけれども、しっかりした答弁をお願いいたします。

 私は、社会民主党を代表しまして、議題となっております地方自治法等の一部を改正する案について、特に住民訴訟を中心に幾つか質問をいたします。

 まず第一に、今回の改正案は、直接請求権の要件緩和、議会制度の充実、住民監査請求制度及び住民訴訟制度の改正、中核市の要件緩和、合併協議会の設置に係る住民投票制度の導入など、多くの改正項目が盛り込まれています。そうした中で、午前中の参考人質疑でも話題となりました住民監査請求と住民訴訟の問題については、賛否両論を含め、多くの議論がなされているところであります。

 そこで、まずお伺いしますが、自治体に監査委員が必置されておりますが、この監査制度そのものの意義について見解をお伺いいたします。

山名大臣政務官 御承知のように、地方行政の公正でかつ能率的な運営を確保するためには、それぞれの地方公共団体の長から独立した形で監査委員制度という執行機関を設け、監査を行って、より一層地方行政の公正化を図る、こういう重要な役割をこの監査制度は持っているわけでございます。

 当然、地方分権改革をより実効性のあるものにするためにも、住民の身近な行政はできる限り身近な行政主体において処理をする、こういうためにも、それぞれ地方公共団体の体制を一層整備するとともに、適正な予算の執行を確保することは必要不可欠のテーマでございまして、そういう意味からも、この監査制度の持つ意義というのは、今後ますます重要な課題であると認識をしております。

 その意味からも、平成十一年度から正式に外部監査制度というものを導入いたしまして、包括外部監査契約に基づく監査をすべての都道府県、政令都市、中核市に義務づけをいたしまして、監査制度の充実を図ってきたところでございます。

 今後とも、この監査機能をさらに一層充実していく、こういうことで私どもとしても努力をしてまいりたい、このように決意をしているところでございます。

重野委員 次に、地方分権のもとにあっては、自治体は、住民の意向を反映した施策の展開が求められておりますとともに、自立性もまた強く求められているところであります。

 そうした観点から住民監査請求制度についてお伺いしますが、言うまでもなく住民監査請求制度は、住民の請求に基づき、議会の同意を得て任命された独立の執行機関である監査委員が、違法な財務会計行為があるかどうかということのみならず、不当な財務会計行為についても審査できる制度でありまして、住民訴訟に前置されている手続であると理解をしています。自治体行政を住民がチェックする観点から、住民の求めに応じて監査委員が監査する住民監査請求制度についても、その機能の充実を図り、地方分権にふさわしい制度として再構築する必要があると考えています。

 そこでお伺いしますが、住民監査請求制度において暫定的停止制度が創設されております。これを設けた趣旨は那辺にあるのか、また、停止ができる場合が限定されていますが、その理由は何か、見解をお聞かせください。

芳山政府参考人 委員御指摘のように、地方公共団体における違法な財務行為については、事後的な措置よりも、事前の停止を求める住民監査請求を通じて行政のみずからの判断で事前に対処することが望まれるわけであります。したがいまして、停止を求める住民監査請求の実効性を確保するために、審査段階におきまして、監査委員が、一定の要件のもとに、監査手続が終了するまでの間、首長等に対して当該行為を停止すべきことを暫定的に勧告ができることとした規定を盛り込みました。

 その趣旨は、あくまでも監査結果が確定するまでの間の暫定的かつ予防的な措置でありますことから、当該行為が違法であると断定できないまでも、違法であると思料するに足りる相当な理由があればよいということが一つの要件でありますし、また、地方団体に生ずる回復困難な損害を避ける緊急の必要がある、当該行為を差しとめることが公共の福祉を害するおそれがないというような限定的な場合に限って、暫定的な勧告制度を創設したところでございます。

重野委員 暫定的停止制度創設の趣旨は理解いたしました。

 問題は、その運用であります。今回の改正では、このほかにも、専門家への意見聴取や、監査時の意見聴取の場への請求人である住民の立ち会いなど、審査手続の充実が図られています。こうした改正が実際の場で生かされるかどうかは各自治体の監査委員の判断によるものであります。すぐれた監査委員の任命や研修の充実を図ることはもちろんですが、こうした制度を十分活用することにより住民監査請求制度に対する住民の信頼を高めるように、この際、強く要望しておきます。

 そこで、次に、自治体の違法な財務会計行為についての司法による是正手段である住民訴訟制度の改正についてお聞きします。

 住民訴訟制度は、一九六三年に大規模な改正が行われて以来、若干の修正はあるものの、その骨格は変えられてきてはいないと思います。なぜ今回これについて大規模な改正を行おうとするのか、大臣にその経緯についてお聞かせいただければありがたいと思います。

片山国務大臣 何度も当委員会でも御答弁させていただいておりますが、今回の改正は、昨年十月に総理大臣に提出されました第二十六次の地方制度調査会の答申を踏まえているものでございます。

 三十八年に大規模な改正をやりました。制度そのものは昭和二十三年ですね。三十八年に改正をいたしまして今日まで来ましたけれども、地方制度調査会でいろいろな御議論があって、今の制度は今の制度でよさもある、しかし問題点もある、こういうことで、今回、住民が個人に対して訴訟を起こすやり方を、機関責任を明らかにするように機関の長にして、その場合に職員も訴訟告知であわせて責任を問うと。何度もここで議論がありますように、一段階目は機関責任ですから機関の長が対象になる、そこで負ければこれはもう違法な行為をしたとする職員に損害賠償を義務づける、そういうことでワンセットで行おうということでございます。今までは住民対個人で機関の責任というものが後ろに寄っておって、これは本来の住民自治のあり方からいったらやはりおかしいのではなかろうか、機関もはっきり当事者としての認識を持ってもらう、こういうことからこういう改正になったわけであります。

 いろいろな御議論が本日の委員会でもありましたけれども、我々はこの制度の方がベターだと。私個人も、この制度の方がいいのではないか、こういうふうに思っております。

重野委員 今日の住民訴訟制度が制度として確立することになった一九六三年の地方自治法改正について聞きますが、同年の改正では、自治体の財務会計制度が抜本的に見直され、その一環である住民訴訟も全面改正が行われたと理解をしていますが、その際、今問題となっています個人が被告となる四号訴訟に係る規定が整備されています。その趣旨はどういうものであったのか、見解をお聞かせください。

芳山政府参考人 二十三年の地方自治法改正によりこの住民訴訟制度は導入されたわけでございますけれども、現行の四号訴訟に係る規定でございますが、三十八年の地方自治法改正時に整備をされまして、これによりまして、長や職員、相手方は、個人として損害賠償、不当利得返還請求の被告となるものが明確にされました。

 三十八年の改正においてこのような四号訴訟が導入された経緯は十分明確ではありませんけれども、二十三年改正による地方自治法の規定の中で、当該地方公共団体の損害の補てんに関する裁判を求めることができるということが、初めの改正、二十三年の改正で規定されておりましたために、解釈、運用上の疑問が生ずる余地が非常に多かったというぐあいに聞いております。そういうことから、その明確化を図るという訴訟技術上の理由から、商法上の株主代表訴訟、また米国の納税者訴訟、こういうのを参考にしながら規定の整備が図られたというぐあいに承知をしております。

重野委員 ただいまの答弁では株主代表訴訟を参考にされたということでありますが、今回訴訟類型の再構成を行うことは、一九六三年当時参考とされた商法上の株主代表訴訟と構造が異なることになります。その点については問題はないのですか。

芳山政府参考人 株主代表訴訟と住民訴訟の四号訴訟でございますけれども、原告が特定の者に代位をして訴訟を提起するという構造は非常に類似をしております。

 しかしながら、制度の目的、趣旨が違いまして、住民訴訟制度は住民による行政活動の監視活動の一環として公益を実現する、いわゆる行政事件訴訟法上の客観訴訟ということで設けられております。商法上の株主代表訴訟は、株主という会社に対して特定な利害関係を有する者の取締役に対する監視機能の一環ということでありまして、株主の経済的な利益の確保を目的に設けられているというぐあいに思います。そして、四号訴訟は、昭和三十八年に、違法な財務会計行為を行った職員等に対して損害補てんの手段として制度化されたものですけれども、株主代表訴訟とはその目的は、今のように本来的には異なるのではないかと思います。

 また、現行制度上も、株主代表訴訟制度においては、乱訴防止のための担保提供制度の存在、被告を取締役に限定をしておるというような点、そういう点が今、住民訴訟とは大きく違ってきておるというぐあいに考えておりまして、両者が今回異なる構造になるということでもって問題が生じるとは考えておりません。

重野委員 重ねて聞きますが、現行の四号訴訟がそもそも株主代表訴訟も参考にしてつくられているということであれば、現在、株主訴訟でその制度改正が一方においては議論されておりますね。そういう中身の、例えば賠償限度額の制限を住民訴訟にも導入するという選択肢も生じかねないと言えなくもない、これについてどのような見解をお持ちでしょうか。

芳山政府参考人 今回の四号訴訟の改正は、個人が被告となっていたものを執行機関を被告とすることによりまして、説明責任を強化する、また地方団体が持っている資料を十分に活用する、そして地方団体として組織的に違法行為の是正を全体的に図ることが期待されるというような三つぐらいの期待があります。

 御指摘のありました賠償限度額の制限ということにつきましては、長や職員個人が被告となることには変わりがないということで、今言ったような目的は達成されないわけでございますが、こういうような賠償限度額の設定による実体責任の制限でございますけれども、結果として住民訴訟制度が持っております違法行為に対する抑止効果を減ずることになるのではないかという難点があるわけでございます。また、そうしますと、国家公務員の責任、住民訴訟で被告となります一般市民との責任というような均衡をどう考えるのかという問題も存します。

 それと、さらに、実体責任を制限した場合に、住民の税金といった公金によって運営されておる地方団体が損害をこうむっておるという状況でございまして、それに対して、損害賠償に制限を加えることが適切であるかどうか、また、地方分権の進展に伴って、自己決定、自己責任の原則に基づき、長や職員の果たすべき役割が大きくなっている、その中で実体責任を軽減することが果たして時宜に適しているかというようなこともいろいろ考えにゃいかぬというぐあいに思います。

重野委員 今の私の質問は、住民訴訟にも導入するという選択肢も生じかねない、そういうことが予想される、そのことについてどのように返事をするんですか。

芳山政府参考人 きょうも、朝、成田参考人から御発言がありましたけれども、今回の改正は、地方制度調査会の審議、答申を踏まえたわけでございまして、地方団体の説明責任をしっかり果たすという中で、前提として、根幹の部分については変更しない、住民の訴権については影響を与えない、被告にあります実体責任についても軽減しないという中で、地方分権に合わせた住民訴訟制度のあり方はどうかなということでございます。

 今御指摘がありましたように、株主代表訴訟における取締役の制限の方向は聞いておりますけれども、先ほどお話ししたことでございまして、実体責任は変えないで、説明責任を果たす、そして組織全体として防止策も講ずるということがねらいでございます。

遠藤(和)副大臣 ちょっと重ねてお答えをさせていただきますけれども、株主代表訴訟とこの新しい四号訴訟の本質的な違いがあります。

 それは、株主代表訴訟というのは私益保護の主観訴訟ですね。それから、こちらの方、四号訴訟は公益保護の客観訴訟です。また、私ども、公金、税金というものが、その使途がどうであるかということが問題でございまして、これに対して損害賠償限度額をつくるということはまさにおかしい議論である、このように思います。

重野委員 では、四号訴訟の見直しについて幾つかポイントを絞ってお伺いいたします。

 今回の改正によりまして、現在、長や職員個人等が被告となっています四号訴訟については、一たん自治体の執行機関が被告となることになります。このように変更することが、長や職員等に対して違法な財務会計行為を抑止する効果を減少させるのではないかとたびたび質問がありました。こうした危惧を払拭できなければ今回の改正は認めるわけにはいきませんが、今回の制度改正によって、現行四号訴訟が有しています違法行為に対する抑止効果は本当に失われることはないのか、これは非常に基本的な問題であり、重要なポイントと考えますが、改めて、また重ねてお伺いいたします。大臣の見解を聞かせてください。

片山国務大臣 今回の改正案では、長や職員の実体的な責任は何ら変更しておりません。

 それで、被告になるから抑止効果があるのか、悪いことをやったらお金を取られるから抑止効果があるのか、こういう議論なんですね。私は、違法行為によって生じた損害の賠償責任は必ず負わされる、これが抑止効果だと思いますね。

 したがって、執行機関の長がとりあえず被告になりますけれども、何度も言いますけれども、実体的には違法行為をやった長が個人でやる、あるいは職員が個人でやったその行為について判決の効力が及ぶわけですから、しかも訴訟告知をやるわけでありますから、私は、実体的な変更はないので抑止効果は減少しない、こういうふうに考えております。

重野委員 今回の改正で住民訴訟が二段階の構成になります。したがって、訴訟が複雑、長期化するのではないかとの指摘がありますが、これについてはどうお考えでしょうか。

遠藤(和)副大臣 これも大臣がたびたび答弁しておるわけでございますけれども、今回の判決の効力というのは、原則として二番目の訴訟の方にも及ぶというふうに、訴訟告知の制度を入れておりますね。したがいまして、恐らく、ほとんどの場合が一回目の判決で終わりということになると思います。

 したがいまして、訴訟が複雑になったり長期化する、そういう懸念はない、このように私どもは考えております。

重野委員 くどいようですが、今、副大臣は一回で終わると言い切ったんですが、その根拠は何ですか。

遠藤(和)副大臣 いわゆる一回目のときに訴訟告知をしておりまして、そこに補助参加をしているわけですね。したがいまして、その一回目の判決というものを覆すことはできない。したがいまして、二回目で闘う意味がない、こういうことではなかろうかと思っております。

重野委員 ただいまの答弁をもう一度確認するために、技術的な問題ではありますが、重要なことなので伺います。

 ただいまの答弁にあった訴訟告知あるいは訴訟参加、これはどういうものか、このような手続を踏むことで訴訟法上いかなる効果をもたらすのか、再度、くどいようですがお聞かせください。

芳山政府参考人 訴訟告知でありますが、訴訟の係属中に、当事者が訴訟参加することができる第三者に対して、訴訟係属を知らせる行為を言うということになっています。訴訟参加とは、係属する他人間の訴訟へ第三者が自己の名前において訴訟行為をするために加入していく行為というぐあいにある。

 今回の改正でございますが、被告であります地方公共団体の執行機関から、個人であります長、職員、相手方に対して訴訟告知を義務づけております。これによりまして、訴訟告知を受けた長、職員、相手方は、当該告知により参加できた時点に補助参加するものとして、参加の有無にかかわらず、地方公共団体の執行機関との間において、住民訴訟の判決内容を争えないという意味での参加的効力、訴訟的効力が及ぶことというぐあいに聞いております。

重野委員 今回の改正案では、通常の場合には、新四号訴訟の効力が、当該自治体と当該告知を受けた者との間においてもその効力を有する旨、条文上明記されています。

 賠償命令に基づいて訴訟を提起する場合における新四号訴訟の効力、その規定というのが、私はちょっとわからぬのですが、ないようであるんですけれども、これは問題はないんですか。

芳山政府参考人 御指摘がありましたように、職員に関する損害賠償の請求を求める新四号訴訟におきましては、住民訴訟の判決が、地方公共団体と訴訟告知を受けた者との間においてもその効力を有するというぐあいに規定を定めました。

 この規定は、本来なら、参加的効力は、訴訟における参加者と被参加者との間で生ずるわけでございますから、新四号訴訟では、執行機関が被告となります。そして、当該訴訟の判決の効力が当該執行機関の属する地方団体に対して及ぶかということになりまして、その旨を、当該団体に対しても参加的効力が及ぶということを確認的に規定したところでございます。

 また、今お尋ねのありました賠償命令につきましては、賠償命令の対象とされた債務の内容は、これまでの裁判例上、賠償命令によって確定されるというぐあいになっております。そういうことから、賠償命令を求める住民訴訟において、地方公共団体に対しても参加的効力が及ぶということを確認する規定は改めて設ける必要はないということでございます。

重野委員 今回の四号訴訟の見直しについて、住民が談合問題について適切に対応することができなくなるんではないかということが専ら言われていますし、疑問が出されています。

 今回の四号訴訟の見直しによって、いわゆる談合事件における業者を住民が直接訴えることができなくなるというのは問題ではないか、たびたびそのことが出されましたけれども、改めて大臣の見解をお聞かせください。

遠藤(和)副大臣 従来でございますと、地方公共団体は発注者でございますから、談合行為に最も関心を持たなければならないにもかかわらず、裁判には部外者として何らの関与もしていない、こういうことに対して批判があったことは事実でございます。また、談合行為が存在して被害をこうむっているという疑いがある場合には、本来、地方公共団体が進んで必要な調査を行ったり、あるいは企業に対して損害賠償を請求すべきであります。その発注者である地方団体のこうした無関心な態度というものがかねてから強い批判があったということでございまして、今回の改正案は、その発注者である地方団体を直接被告の座に置くということでございます。

 しかしながら、先ほども申し上げましたが、一番の訴訟のところできちっと業者に対しても訴訟告知を行いますから、業者も裁判の中に参加する、こういう形でございますから、より談合の実態というものが明確に追及できる、こういう仕組みになっているというわけでございまして、業者をほったらかしにしているというか、免責をするものでは全くございません。

重野委員 今触れましたけれども、今回の改正で談合事案についても自治体の機関が被告となる。今、副大臣の答弁を聞きましたけれども、いわゆる談合業者が陰に隠れてしまうということはもう避けられませんね。そのことが問題だというふうに私は思うんですが、どのように考えているか。

遠藤(和)副大臣 そもそも談合というのは発注者である自治体が被害をこうむる話でございますから、その被害をこうむっている自治体が損害賠償請求をしないというのは全く怠慢でございます。したがいまして、自治体の責任というものを追及する、こういうことが大事だと思うんですね。

 したがいまして、その中で、業者を訴訟告知することによって訴訟に参加させる、こういうことでございまして、直接談合の業者を被告の座に置かないからこれは潜ってしまうのではないかと考えますけれども、もし訴訟告知されているにもかかわらず自分自身が訴訟に参加しないと、そこで出た結論、判決というものは全部自分に影響するわけでございますから、これはどんなことがあっても談合の業者も訴訟に参加せざるを得ない、こういう状況になっていると私は理解しております。

重野委員 そうすると、自治体の機関が談合業者のために訴訟をしているということにもなるわけですから、少なくとも、談合に関する訴訟で自治体の機関が敗訴した場合には、自治体が要した弁護士費用を談合業者に負担させる、そういうふうなことをやはりきちっとすべきではないかという考えを持つわけですが、それについての見解をお聞かせください。

芳山政府参考人 談合行為の有無についてのお尋ねでございますけれども、被告としての執行機関は、企業に損害賠償を請求しない、また財務会計上の不作為はないということで、今、被告の立場に立っているわけですね。そういう主張をするものでありますから、地方団体の執行機関がみずからの判断の正当性を主張するために要した弁護士費用でございまして、地方団体が負担すべきものであります。

 また、一方、談合に関する住民訴訟においては企業も訴訟告知を受けるわけでございまして、参加的効力が及ぶということでありますから、企業みずからの利益を保護するために訴訟参加するわけでございます。

 そういうことでありますから、地方公共団体の機関また当該企業は、それぞれの立場で、それぞれの弁護士に委任をしてその立場を主張するということになります。そういうことでありますから、地方公共団体は、談合行為の存在が疑われている企業を擁護するために訴訟被告となるものは一切あり得ないわけでございます。したがって、弁護士費用について企業に請求するという性格のものではないと思料しております。

重野委員 今の議論を通じて、政府の考えていること、その根拠について説明がなされ、それなりに理解できる部分もある。

 しかし、感想を申しますと、国民あるいは住民というのは、より近いところできちっと答えが出る、それが大事なことだと思いますよ、やはり住民が主人公ですから。そういう視点で見ると、今度の新しい方法というのは、どうも靴の底から足の裏をかくような感じがするんですね。私の率直な感想です。そういう点は、本当に身近なところにどんどん近づいていかなければならない時代の流れからすればやはり問題がある、私はこのように言わざるを得ません。それが率直な私の感想であります。

 以上で終わります。

川崎委員長代理 これにて本案及び修正案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 この際、本案に対し、矢島恒夫君外一名から、日本共産党提案による修正案が提出されております。

 提出者より趣旨の説明を求めます。春名直章君。

    ―――――――――――――

 地方自治法等の一部を改正する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

春名委員 私は、日本共産党を代表して、政府提出の地方自治法等の一部を改正する法律案に対する修正案の提案理由及びその概要を御説明いたします。

 本修正案は、政府提出法案の内容のうち、国民から批判の強い代位訴訟制度の見直しと住民投票制度の問題に限定しております。現行代位訴訟制度のすべてを是とするものではありませんが、代位訴訟制度の根幹を変えるような改正には同意できません。また、市町村合併に関連して住民投票制度を導入するなら、合併そのものに直接住民の声が反映できるようにすべきであります。

 こうした考え方に立ち、修正案は、第一に、代位訴訟制度の改正部分を削除することとしております。第二は、市町村の合併そのものに係る住民投票を、一定数の住民から請求があった場合に、議会が合併の議決を行う前に実施することを義務づけるもので、その結果について長と議会に尊重義務を課しております。

 以上が、提案理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

川崎委員長代理 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 これより本案及び両修正案を一括して討論に入ります。

 討論の申し出がありますので、順次これを許します。武正公一君。

武正委員 私は、民主党・無所属クラブを代表して、ただいま議題となりました内閣提出の地方自治法等の一部を改正する法律案及び共産党提出の修正案に反対、民主党提出の修正案に賛成の立場から討論を行います。

 まず、私たちは、内閣提出法案に含まれている市町村合併に係る住民投票制度の導入、中核市の要件緩和、直接請求制度に関する要件緩和等については賛成です。しかし、本法案の最大の問題である四号訴訟の類型変更については賛成できないため、法案全体に対して反対を決めたわけであります。

 この点について、私たちは政府に重大な反省を求めたいと思います。今回の法案は余りにもさまざまな内容を含んでおり、これらについて一括して賛否を表明することは、困難というより無意味でさえあります。なぜ四号訴訟の類型変更と中核市の要件緩和が一体となっているのか、ここにどのような論理的関係があるのか、全く理解できません。

 政府のこのような政府提案の仕方は、国会の審議を混乱させ、さらに国民の代表者である議会の意思表明を混乱させ、国会軽視のそしりを免れ得ないものです。その結果として、本来ならさきの通常国会で速やかに成立し、実現のための準備が進められるべきであった市町村合併への住民投票制度の導入や中核市の要件緩和が、いまだに正式には取り組めない状況に陥っています。政府は、このような混乱、遅滞を招いた法律案の提出の仕方を厳しく反省し、二度とこのような事態を招かないようにみずからを律する必要があります。

 そこで、本法案の最大の焦点である四号訴訟ですが、現行四号訴訟には幾つかの問題点があります。代表的な事例を挙げれば、団体として行った政策判断の責任まで個人に問われ、一部に乱訴の状況がある、職員等が過度に住民訴訟に反応し萎縮する可能性がある、住民訴訟を理由に職員が脅迫される、個人の裁判費用の負担などです。

 しかし、だからといって、政府案のように現在の訴訟類型を根本から変更すべきではありません。なぜなら、四号訴訟による住民のチェック機能が働き、官官接待や食糧費の不適正支出や談合の防止など、地方行政の適正化に役割を果たした事実があるからです。私たちは、このような実績を正当に評価します。また、政府が地方分権を進め、自治体の首長等が大きな権限、財源を有するようになる中では、現在の形態のままが望ましいと考えます。

 一方、政府案どおりに被告を自治体に変更してしまえば、違法行為によって被害を受けた自治体と住民が、被害者同士で裁判を争うという矛盾を生じます。本来、四号訴訟は、代位訴訟という名称からわかるように、住民が団体に代位して行う訴訟です。これを応訴するのが自治体になってしまえば、代位訴訟本来の意味を失ってしまいます。午前中の参考人質疑でも、その旨の発言が成田参考人からありました。

 また、より大きな矛盾を感じるのが談合企業を訴える場合です。現行四号訴訟では、住民が直接的に当該疑惑企業を訴えます。しかし、政府案では、このような場合でも自治体を訴えることになります。これでは談合企業を自治体が裁判で代弁することになり、到底国民の理解を得られません。

 さらに、個人でなく機関を訴える方が裁判に資料が出しやすいというのは全くの詭弁であります。機関が被告になって、自己に不利になる資料を現行形態での訴訟以上に出すことがあり得ないのは、福井参考人の発言からも明らかであります。

 以上、被告の変更という四号訴訟の根本部分を変更することは適当でないと考えます。個人を被告とすることの意義を認め、この形態を残しつつ、問題点の改善に当たることが適当であると考えます。よって、その他の部分には基本的に賛成しつつも、住民訴訟の類型変更が適当でないという観点から、政府案に対しては反対いたします。

 また、共産党提出の修正案については、合併協議会設置協議について選挙人の投票に付することを求める請求に関する改正規定及び選挙人の投票に関する改正規定を認める立場から、反対いたします。

 民主党提出の修正案は、単に四号訴訟の類型変更部分を削除するだけでなく、自治体の長または職員を過重な負担から解放するために政策判断は四号訴訟の対象としないことを明確にし、自治体職員に対する脅迫という理不尽な行為を排除するために非管理職職員を四号訴訟の対象としないこととし、長または職員に関する過重かつ非現実的な負担を軽減するために賠償責任の限度額を定め、さらに、住民訴訟に係る弁護士費用の自治体負担範囲を現行の被告勝訴から原告取り下げ、和解等までに拡大する、また、戦後会計検査院の検定が行われている根拠となる予責法を参考とした職員の責任転嫁を可能とするなど、現在の問題点それぞれに具体的な改善策を講じているものであり、本来ならこのような提案こそ政府より行われるべきものと考え、賛成いたします。

 最後に、再度本法案の提出の仕方について政府の反省を求めて、私の討論といたします。ありがとうございました。

川崎委員長代理 次に、矢島恒夫君。

矢島委員 私は、日本共産党を代表して、政府提出の地方自治法等改正案に反対の討論を行います。

 反対の第一の理由は、住民の自治体への直接参政の手段の一つであり、間接民主制を補完する直接民主制の一つである住民訴訟制度を改悪するものであるからです。

 現行の住民訴訟は、住民自治の立場から、自治体に成りかわって住民が損害賠償請求や不当利得返還請求などを長や職員個人を相手に起こすものです。この現行制度のもとでは、住民と自治体とが敵対関係になることは想定されません。だからこそ住民自治が保障されるのです。ところが、政府案では、訴訟の被告を長や職員個人から自治体の執行機関にかえることで、裁判上、住民の前に自治体が立ちはだかるという、対立・敵対関係へと変えてしまうものであります。

 しかも、自治体は、住民の税金で弁護士を使うことも、職員を業務として裁判につかせることもできます。現状ですら住民側不利と言われる裁判において、住民側はますますハンディキャップを背負うことになります。被告を執行機関にかえることによって、自治体保有の資料が裁判で活用できると政府は説明しますが、被告に都合の悪い資料は隠されると考える方が常識ではないでしょうか。

 訴訟を二つに分け、第二次の裁判に住民を参加させず、最終的には行政の内部で損害賠償を決着させようという政府案は、住民訴訟の足を引っ張り、住民自治の拡充という時代の流れに逆行するものです。

 反対の第二は、本来、住民の意向を行政に反映する有効な方法の一つである住民投票制度を、合併促進のために導入しようとしているからであります。

 政府は、導入の理由は、住民と議会との間の意識の乖離とか、合併は市町村の存廃に係る重大問題と説明しますが、そうであるなら、合併の是非を住民が判断できる十分な材料を住民に提供した上で、合併そのものについて住民の意思を問う、そうした住民投票制度を導入すべきです。ところが、政府案は、合併そのものではなく合併協議会の設置に係るもので、しかも協議会設置が議会で否決された場合に限定されております。

 住民投票という地方自治を豊かにし間接民主制を補完する直接民主制の一つの制度が、合併促進のためにだけ。いわばつまみ食いも同然であり、容認できません。

 なお、直接請求に必要な署名数の要件の緩和、地方議会における点字投票の導入、緊急時の監査委員による停止勧告制度の導入などの改正については、住民の声を行政に反映させ、障害者の政治参加を保障し、地方自治の発展に資するものであるので、賛成する旨を申し添えておきます。

 最後に、民主党の修正案については、代位訴訟制度の見直し部分を削除することについては評価するものですが、提案されている内容について賛同できない部分がありますので、反対であることを表明して、討論を終わります。

川崎委員長代理 次に、重野安正君。

重野委員 私は、社会民主党・市民連合を代表し、ただいま議題となりました地方自治法等の一部を改正する法律案に対し、反対の立場から討論を行います。

 国、地方の対等協力関係の確立、機関委任事務制度の廃止など、今次地方分権改革に基づく新地方自治法の施行から一年余りが経過しました。今回の地方自治法改正の意義は、未完の改革の残された課題である住民自治の側面の改革、充実をどう図るのかにあったと思います。

 しかし、住民自治の充実の大きなテーマである住民投票も、住民発議の合併協議会設置案件が議会で否決された場合に合併協議会の設置について住民投票制度でクリアするという、合併促進のための抜け道づくりに矮小化されてしまいました。これは、第一に、最終段階で自治体の主権者たる住民が合併そのものの是非を判断するための本来の住民投票とは全く異なるものです。第二に、住民から見ると、合併協議会設置後の新しい自治体づくりを行政と議会に白紙委任するものでしかありません。第三に、住民投票の結果を議会の議決とみなすのは、議会制度の否定、議会制度の否認であり、総務省の言う代表民主制中心原理の自己破綻につながります。むしろ、住民意思を尊重して議会で再議する方法をとるべきであり、直接請求を議会が否決した場合は住民投票にかけることこそ制度化すべきであります。

 もう一つの課題である住民訴訟制度等の見直しについては、一九四八年に占領軍が唐突に、自治法体系との整合性を十分整理しないまま、アメリカの納税者訴訟の内容を挿入した経緯があり、木に竹を接いだものとの指摘がなされてきたものです。地方自治の公正の確保という公益的見地から設けられた本来の住民訴訟の趣旨に基づき、自治体の政策判断や意思決定そのものの合理性を問い直し、住民自治の発展に資するためには、本改正内容はいまだ国民には十分理解されているとは言えません。同時に、自治体における政策決定、意思決定過程の透明化、民主化、自治体を本来チェックすべき監査委員の強化、監視機関としての議会の役割、住民自身のチェック、参加のあり方など、多角的な角度からの検討をさらに深められるべきと考えます。

 本改正案には、直接請求制度の要件緩和等前進面もありますが、これまで指摘してきた法制度上の問題からすると重要な問題が多々あり、容認し得るものではありません。

 なお、民主党・無所属クラブ提出の修正案は、住民訴訟に係る代位訴訟の被告について「管理又は監督の地位にある職員として条例で定める職員に限る。」と限定しておりますが、これは行政事件訴訟法第四十二条との関係において問題があると思います。その点から賛成しがたいものであることを申し添え、私の討論を終わります。

川崎委員長代理 これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 これより採決に入ります。

 地方自治法等の一部を改正する法律案及びこれに対する両修正案について採決いたします。

 まず、矢島恒夫君外一名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

川崎委員長代理 起立少数。よって、本修正案は否決されました。

 次に、荒井聰君外一名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

川崎委員長代理 起立少数。よって、本修正案は否決されました。

 次に、原案について採決いたします。

 これに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

川崎委員長代理 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 この際、ただいま議決いたしました法律案に対し、平林鴻三君外二名から、自由民主党、公明党及び自由党の三派共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を求めます。若松謙維君。

若松委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、自由民主党、公明党及び自由党の三会派を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。

 案文の朗読により趣旨の説明にかえさせていただきます。

    地方自治法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

  いわゆる四号訴訟の改正は、地方公共団体の財務会計上の違法行為の予防又は是正を目的とする住民訴訟において、地方公共団体が有する証拠や資料の活用を容易にし、審理の充実や真実の追究に資すること等にかんがみ行うものであり、地方公共団体の長や職員の実体法上の責任の軽減や、訴訟対象となる違法行為の範囲を制限するものではないものであることから、地方公共団体においては、今回の改正の趣旨を十分認識するとともに、情報公開や行政評価等による住民に対する説明責任の徹底、違法な行為に対する事前・事後のチェック機能の充実等を図り、住民に信頼される地方自治行政の実現に努めるものとすること。

以上であります。

 何とぞ皆様方の御賛同をお願いいたします。

川崎委員長代理 以上で趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

川崎委員長代理 起立多数。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、総務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。片山総務大臣。

片山国務大臣 ただいまの附帯決議につきましては、その御趣旨を十分に尊重してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

川崎委員長代理 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

川崎委員長代理 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後六時散会


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