衆議院

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第26号 平成17年8月2日(火曜日)

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平成十七年八月二日(火曜日)

    午後一時二十三分開議

 出席委員

   委員長 金田 英行君

   理事 江崎洋一郎君 理事 遠藤 利明君

   理事 竹本 直一君 理事 村井  仁君

   理事 中塚 一宏君 理事 原口 一博君

   理事 平岡 秀夫君 理事 谷口 隆義君

      小野 晋也君    岡本 芳郎君

      木村 太郎君    熊代 昭彦君

      倉田 雅年君    小泉 龍司君

      鈴木 俊一君    砂田 圭佑君

      田中 和徳君    谷川 弥一君

      中村正三郎君    宮下 一郎君

      森山  裕君    山下 貴史君

      渡辺 喜美君    井上 和雄君

      岩國 哲人君    小林 憲司君

      鈴木 克昌君    田島 一成君

      田村 謙治君    津村 啓介君

      中川 正春君    野田 佳彦君

      馬淵 澄夫君    村越 祐民君

      吉田  泉君    石井 啓一君

      長沢 広明君    佐々木憲昭君

    …………………………………

   財務大臣政務官      倉田 雅年君

   政府参考人

   (財務省理財局次長)   浜田 恵造君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      岩原 紳作君

   参考人

   (弁護士)        野間  啓君

   参考人

   (日本銀行総裁)     福井 俊彦君

   参考人

   (日本銀行副総裁)    岩田 一政君

   参考人

   (日本銀行理事)     武藤 英二君

   参考人

   (日本銀行理事)     小林 英三君

   参考人

   (日本銀行理事)     白川 方明君

   財務金融委員会専門員   鈴木健次郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

八月一日

 委員永岡洋治君が死去された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 金融に関する件

 金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

金田委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として東京大学大学院法学政治学研究科教授岩原紳作君、弁護士野間啓君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

金田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

金田委員長 この際、参考人のお二人に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、岩原参考人、野間参考人の順序で、お一人十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えをいただきたいと存じます。

 それでは、岩原参考人、よろしくお願いいたします。

岩原参考人 岩原でございます。

 本日、参考人として発言の機会をいただきましたこと、大変光栄に存じております。

 今回、偽造キャッシュカード等の被害が急増したことから、与党と民主党が速やかに預金者保護のための法案を議員立法として国会に提出され、与党法案が衆議院を通過、成立しましたこと、大変高く評価したいと存じます。参議院におきましても可決、成立することを期待したいと存じます。

 私は、二十五年にわたりましてこの問題に取り組んでまいりまして、平成六年には金融制度調査会における立法への努力が挫折した経験を持っておりますので、大変感慨深く、議員立法に尽力してくださっております諸先生に深く感謝申し上げます。

 与党と民主党の法案には若干の違いがございますが、いずれも基本姿勢といたしましては、預金者の資金を安全に預かるのが金融機関の使命であって、帰責事由のない預金者を不正な預金払い戻しから守り、預金者が安心して預金サービスを受けられるようにするという立場に立っている点では共通であると理解しておりまして、いずれも高く評価しております。

 両案の違いは、第一に、民主党の法案は預金者保護の基本原則を法案化しようとしたのに対しまして、与党案は実務的な考慮をより取り入れたものにしようとしたものであること。第二に、与党案の方が、預金者側の金融機関への通知義務ですとか説明義務を定めるなどして、いわゆるモラルハザードの問題や被害の偽装の問題に、より配慮しようとしたものであるということであります。第三に、与党案は偽造及び盗難キャッシュカードの問題に絞る規定をしているのに対しまして、民主党案はキャッシュカード以外の通帳取引あるいはインターネットバンキング等についても規定するなど、適用範囲を広くしている点に特色があるかと思います。

 与党案がより実務的であり、モラルハザードや被害の偽装の問題に、より配慮されているのは、私が座長を務めました金融庁の偽造キャッシュカード問題に関するスタディグループ報告書を参考にしていただいたものと理解しております。そして、スタディグループの案と比べますと、幾つかの点で、より預金者保護に重点を置いた法案になっております。私個人としては評価すべき法案であると考えております。

 ただし、与党案につきましては、附則三条に規定され、また衆議院の附帯決議にございますように、幾つかの点で課題が残されていることも事実だと考えております。

 まず、与党案の適用に当たっては、附帯決議にございますように、過失や重過失の意味について慎重に限定した解釈をする必要があると思われます。また、与党案六条ないし八条に定められておりますようなセキュリティー体制や不正行為防止体制を整備することが、今後の極めて重要な課題になると考えております。

 我が国の金融実務におけるセキュリティー体制は、諸外国に比べましておくれている部分が多いことは否定できないところであります。これは、最近まで我が国が他の諸国に比べて比較的治安が良好な国であったこと、また、金融機関を保護する約款や判例のもとで、不正行為による損失をいわば預金者に負担させることができたためであると思われます。しかし、今日では、治安が悪化してきておりますし、きちんとしたセキュリティー体制を整えないまま損失を預金者に負担させることは許されないと思います。

 実際にどのようなセキュリティー体制の向上策をとるべきかということにつきましては、ICカード化、暗号化、その他スタディグループの報告書が提案しているところをごらんいただきたいと存じますが、ただいま申しましたICカード化、暗号化、その他にも、金融機関にとってコストのかかる施策がいろいろ必要になってまいります。また、引き出し限度額の設定あるいはその引き下げですとか、暗証番号の設定の仕方の変更、あるいはその他預金者利便の、場合によっては低下につながるような施策も必要になってまいります。さらに、単独の金融機関だけの対応では不十分で、金融界全体が足並みをそろえて実行しないと効果の少ない対策も多いと考えております。

 このため、何よりも金融機関自身が、従来慣行的に行ってきた実務を見直し、業務のあり方や、場合によってはビジネスモデルの見直しを行う必要があると思っております。また、金融機関の間での協力関係の見直しも必要です。

 そして、料金体系の見直しや金融サービスの提供の仕方の見直しを通じて、預金者にも一定の協力を求める必要があると考えております。附帯決議にございますように、なるべく預金者の負担は避けるべきでありますが、安心できる金融サービスを提供してもらうためには預金者もそれなりの協力が必要であると考えております。

 そして、附則三条や附帯決議に示されておりますように、与党法案には含まれていない問題、すなわち窓口での通帳による払い戻しあるいはインターネットバンキング等につきましても、早急に預金者保護の制度整備が図られる必要があると考えております。

 特に、通帳による不正引き出しは多発して、判例も実に多数に上っておりますし、その判例も裁判所によってまちまちの判断が出て、混乱している状態と言って差し支えないと思います。それを受けまして、金融実務の方も、どのようなセキュリティー体制をとればよいか混迷しているように見受けられます。インターネットバンキングにつきましても、最近、不正事件が明るみに出ているところでございます。

 これらの問題に対処するためには、本人確認の方法の抜本的見直しや、金融サービスのビジネスのあり方まで見直しがなされる必要があると思います。簡単に答えの出る問題ではございませんので、直ちに取り組んで、附則三条に示す時期までに次の法制整備がなされることを期待したいと存じております。

 最後に一言申し述べさせていただきますと、平成六年に中断しました金融制度調査会におきます電子資金移動に関する法制整備の作業におきましては、この預金の不正支払いの問題だけではなく、多くの資金移動に係る問題を取り上げておりました。多くの国におきましてはそれらにつき既に立法がなされておりますが、我が国ではこの不正支払い等の問題以外手がつけられない状態でございます。金融機関の利用者保護や支払い決済システムの安全性保護の点で、我が国が他国に大きくおくれをとっているわけであります。また、次々と生まれてまいります新たな支払いサービスに対する法制整備も追いついていない状態であります。

 偽造キャッシュカードのように、実際に被害が発生してマスコミ等で取り上げられないと制度の改善がなされないというのではなく、今後は、不正支払い以外の問題につきましても先手を打って法制整備を行い、包括的な支払い法といったものを立法する方向に進むことを期待したいと存じます。

 以上、簡単ではございますが、私の意見とさせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

金田委員長 ありがとうございました。

 次に、野間参考人、よろしくお願いいたします。

野間参考人 弁護士の野間でございます。

 本日、意見を述べさせていただく機会をちょうだいしたことについて御礼申し上げます。また、本委員会で与野党の先生方、あるいは岩原先生を初めスタディグループの委員の先生方の真摯かつ非常に精力的な議論につきましても感謝申し上げたいと思います。

 私どもの弁護団、預貯金過誤払被害対策弁護団、私は事務局長でありますが、この弁護団は、盗難通帳被害の多発と被害救済の放置を感じ取りまして、平成十四年七月に弁護士有志で結成した弁護団であります。先ほど岩原先生が述べられた、判例実務の混乱を招いている張本人でございます。

 平成十四年九月、一一〇番活動をして、全国から悲鳴にも似た被害申告が殺到いたしました。本日配付させていただきましたけれども、一件当たり六百万を超えるような健全な国民の預金が失われて、銀行が全く責任をとらないという状態が長きにわたり続いたわけでございます。被害相談は現在までに五百件を超え、提訴原告は二百五十人を超えております。弁護団も全国六カ所できました。

 私は金融の全くの素人でありまして、申し上げたいことはただ一点、通帳が外れてしまったことであります。本日配付させていただいた資料も、この点に関するコメントであります。

 今回の与党案、カード被害、特にこれまで救済の枠組みが著しく狭かった盗難カードにつきまして、原則として金融機関負担という法制度ができましたことはまことに画期的であります。しかし、他方、カード以外の取引、とりわけ窓口における払い戻しが除外されたという点が、残念ながらこの法律の価値、輝きを著しく損なったという評価をせざるを得ません。すばらしく美しい山ができたわけでありますけれども、登った人間からしますと、北の壁から落ちれば助けていただけるけれども、南の壁から落ちると助けていただけない、こういう状況になったわけでございます。

 窓口取引は対人取引ですので機械払いのATMとは違うのだ、こういう御意見をお聞きいたします。確かに、それは別の法体系で対策を整備すべきだという理由にはなると思いますが、保護の要件を別にする、片っ方は一切保護しないという合理的な理由にはならないのではないかと考えております。預金者にとっては関係のないことであります。預金者にとっては、とられたものと手口が違うというだけで百八十度結論が異なるということに納得できる方はいらっしゃいません。また、現実の窓口取引は、印鑑照合も含めまして機械化が顕著でありまして、多くは派遣社員あるいはパートタイマーがマニュアルに従ってシステム操作しているというところでありまして、実態は機械払いとほとんど差がなくなってきております。

 次に、窓口はATMと違って本人確認をちゃんとしているからいいのだ、被害は起こらないのだ、こういう御主張もお聞きしましたが、これは私どもの被害相談が、全く異なる実態であるということを如実に示しております。

 書かせた住所が違う、氏名が違う、これを見落とす、こうした初歩的なものはもちろんのこと、金融機関の本部は、事件の情報、被害情報を各支店に十分に伝達あるいは注意喚起しておりませんでした。そのために、例えば、使用された偽造保険証の情報がほかの支店に伝達されていないために、同じ偽造保険証で何回も被害が起こったり、直前三カ月の間に二度も被害に遭った支店において、三度目の被害の後にその被害のことを窓口行員が知った、こういう事例もございます。

 あいた口がふさがらないような事案のオンパレードでありまして、私どもの弁護団が結束を持って被害救済に当たっているのも、その金融機関の対策に対する腹立たしさ、これが大きな要因となっております。そして、これらの事案について、多くの金融機関は、印鑑が似ているという点だけで返還に応じておりません。こうした実態を改善させるためにも立法的解決が望まれるところであると考えております。

 窓口における払い戻し、通帳取引が除外された問題性は、三点に整理できると思っております。

 第一に、今述べましたとおり、被害実態を無視した議論であるという点であります。

 昨年ぐらいから偽造カードの問題がかなり取り上げられ、ことしに入りまして犯人の逮捕がセンセーショナルに報じられまして、一気にここまでやってきました。しかし、先日の審議で明らかになりましたとおり、最近の被害でも、盗難通帳の被害件数あるいは金額は、偽造カードのそれを上回っております。払い戻しの件数そのものがATMの方が圧倒的に多いわけですから、被害に遭う頻度や危険性は通帳の方がかなりリスクが高いと考えられます。立法事実論から見て、今回の法案には若干疑問を感じざるを得ません。

 二点目は、法体系上の矛盾であります。

 民法四百七十八条は、預金者側の事情、預金者が善意であろうが悪意であろうが、金融機関が無過失であれば免責を認めるという、債務者の迅速な弁済を保護する規定であります。この迅速な弁済の保護の必要性は、対面せず少額な取引を多数処理するATMの方が、対面して高額な取引を少数取引する窓口よりも保護する必要性は高いことは明らかです。すなわち、民法四百七十八条によって銀行を免責する必要性はATMの方が高いと考えられます。それなのに、ATMの方だけに民法四百七十八条の適用の排除あるいは権利創設による救済を認めたわけであります。法律家としては、非常に気持ち悪い状況、矛盾を抱えた状況であると言えます。

 第三に、この問題はシステムの問題ではなくて預金の安全性の問題であります。しかし、このメッセージ、この価値観の転換が残念ながら発信されなかった形になってしまいました。勤勉に働いて貯蓄した国民の預金が全部なくなってしまう、そうしたことを避けるために預けているのに、いとも簡単に払い出されてしまう。そういう社会は不公平であり不正義ではないか。そうした価値観から私どもの活動はスタートしております。その価値観の転換を、国会という最高機関から発信していただきたかったというふうに考えております。

 最後に、私ごとで恐縮ですが、私はこれまで参考人の随行として二度ほど国会にお邪魔させていただいております。いずれも厚生委員会あるいは厚生労働委員会ですけれども、一度目は、東京HIV訴訟の原告弁護団員として、一九九八年の感染症医療予防法。衆議院厚生委員会において、参考人から憲法違反ではないかという指摘を受けまして、五年後の見直し条項が定められておりますが、いまだに見直しの議論はございません。二度目は、ハンセン病訴訟の原告弁護団員としてかかわりました二〇〇一年のハンセン病補償法であります。御承知のとおり、一九五三年に成立したらい予防法は、参議院の厚生委員会の附帯決議において、近き将来改正を期すと規定されましたけれども、廃止は実に四十三年後でございました。

 前回の審議におきまして、盗難通帳につきましては、「これに対する対応策という法律を必ずつくっていくべき問題」という答弁がなされております。本日、法案可決後に私が呼ばれて意見を述べさせていただいているのも、今後の活動に向けられた意見だというふうに存じております。ぜひ、このいびつな状態を早期に解消いただくよう御尽力いただければと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

金田委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人のお二人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

金田委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岡本芳郎君。

岡本(芳)委員 自由民主党の岡本芳郎でございます。

 質問に入る前に、永岡洋治委員に対し、哀悼の意を表したいと思います。私は、農林省時代から永岡委員とは同僚でございまして、一緒に仕事をしてきた仲でございます。今回の事故に対し心から哀悼の意を表し、御冥福をお祈りいたしたいと思います。

 さて、ただいま両参考人から意見陳述がございましたが、与党を代表いたしまして、岩原参考人に質問させていただきたいと思います。

 近年、偽造または盗難されたキャッシュカードを用いてATMにおいて預貯金が不正に引き出されるという事件が多数発生し、大きな社会問題になっています。被害者の方々が多大な経済的負担を強いられ、一般の国民もいつ自分自身が被害者になるかもしれないという不安を抱いている状況でもあり、私もその対策が急務になっていると認識しております。

 このような状況にかんがみ、与党におきましては、偽造・盗難キャッシュカード問題に関するプロジェクトチームが設置されるなど、この問題について真剣な議論が行われてまいりました。その結果、今回、預貯金者の保護を図り、あわせて預貯金に対する信頼を確保するため、偽造・盗難キャッシュカード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払い戻し等により預貯金者に生じた損害を原則として金融機関が補償するとともに、これらの犯罪が発生しないよう、安全性の高い、世界に冠たるATMシステムの構築を金融機関に求めるという趣旨の法案を提出したところであります。

 しかし、今回の法案は、偽造・盗難キャッシュカードを対象としたもので、盗難預貯金通帳を対象としておりませんが、委員会の附帯決議におきまして、「金融機関の窓口における不正な預貯金の払戻しについて、速やかに、その防止策及び預貯金者の保護の在り方を検討し必要な措置を講ずること。」としたところであります。

 この問題は重要な検討課題であると考えておりますが、やはりATMによる取引と金融機関の窓口における取引にはかなり性質の違うところがあります。したがって、その検討に当たっては、特に、我が国の確立した商習慣である印鑑による文書の認証方式全体に及ぼす影響、そして金融機関の窓口における本人確認の厳格化などに伴う実務面での問題や、利用者の利便性の問題といった点を十分に考慮することが重要と考えておりますが、この点について、岩原参考人のお考えをお伺いしたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 確かに、今先生御指摘のとおり、キャッシュカードによる支払いと窓口による通帳の支払いにはいろいろ違う点がございます。したがいまして、支払いの効果に関する法制を定めるときは、そういった違いを十分踏まえたものである必要があるという点は先生御指摘のとおりだと思っています。

 基本的には、預金者がきちんと自分の注意を払っているのであれば安心して、預金の不正支払いがなされないようにするという効果の点では共通の結果が実現するようにすべきであると思います。ただ、それを実現するために、まず金融機関がそういう窓口対応がきちんとできるような手当てをしていく必要があるというように考えておりまして、そのためには現在の銀行の窓口支払いのいろいろな実務を根本的に見直していく必要がある、そのための検討する時間が必要であると考えておりますので、今回の与党案のように、時間をかけて、その間にそういった点を整備した上で法制の整備をするということは合理的かと考えております。

岡本(芳)委員 ありがとうございました。

 次に、具体的な質問に移らせていただきます。

 与党案では、偽造キャッシュカードによる損害については、簡単に偽造されてしまうような脆弱なシステムを使っている金融機関の責任が重いことから、預貯金者に重大な過失がない限り金融機関がその損害の全額を負担することとしています。一方、盗難キャッシュカードによる損害については、不正な預貯金の払い戻しが行われるに至った預貯金者の事情を考慮し、金融機関が預貯金者の過失を立証した場合は損害の四分の三を補償することとしております。このように、偽造された場合と盗難された場合とで補償ルールに違いを設けた点につきまして、金融庁スタディグループにおいても同様の結論だったと承知しております。

 そこで、盗難キャッシュカードによる被害の場合、民主党案では重過失以外は全部金融機関が負担することになっていますが、このことについて、岩原参考人の御意見をお伺いいたしたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 偽造の場合ですと、偽造はいわば預金者に防ぎようのない被害が生じる場合が多いのに対しまして、偽造されるようなカードの仕組みをつくった金融機関自体に、それはセキュリティー体制の構築に過失があるということが言えると思います。盗難の場合は、これに対しまして、金融機関側に過失があったとは直ちに言えない場合が通常でありまして、むしろ盗難に遭ったということは、カードを盗まれないように注意する預金者側の方にいわば原因がある場合もあるということを考えますと、両方の間で違いが生じてくることはやむを得ないかと思います。

 これは、外国を見ましても、国によって盗難と偽造で効果を変えている国はかなり多いわけでありまして、偽造の場合は、さっき申しましたように、基本的に、セキュリティー体制をつくった金融機関に過失があるということから、預金者側の保護の要件が異なってくることもあり得るということは合理的かと考えております。

 以上でございます。

岡本(芳)委員 最後に、事前予防策についてお伺いいたしたいと存じます。

 今回の問題は、スキミング等によって簡単にカードが偽造されてしまうなど、金融機関が安全なシステム構築への投資を怠ってきたという面があります。金融機関の責任は極めて重いものと認識しております。現在、このような反省を踏まえ、金融機関において、ICカードや生体認証の導入、引き出し限度額の引き下げ等、さまざまな事前予防策が講じられているところと承知いたしております。

 そこで、ICカードや生体認証の導入には、金融界全体として、おおよそどのぐらいの費用と期間が必要なのか、岩原参考人のおわかりになる範囲で御教示願いたいと思います。よろしくお願いします。

岩原参考人 残念ながら、私、具体的な数字は把握しておりませんで、ATM機全部をIC対応のものにかえなければいけませんし、あるいは生体認証についても同じ問題がございますので、全部を挙げますと、恐らく千億単位の費用が必要になるかもしれません。

 ただ、一方で、これはもう必ずセキュリティーは確立しなければいけませんし、長い目で見て、それは十分回収できるといいますか、金融機関としてコストを還元していけるものでありますし、それによって初めて預金者の信頼をかち得るものでありますから、それは必要な投資であるというように考えております。

岡本(芳)委員 岩原参考人、ありがとうございました。

 今回の法案成立により、これまで預貯金者がみずからの無過失を立証しない限りほとんど補償されていなかったのが、原則金融機関によって補償されることになり、預貯金者保護の観点から速やかに法案を成立させる必要があるという点を強調し、質問を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

金田委員長 次に、中塚一宏君。

中塚委員 民主党の中塚一宏でございます。

 参考人におかれましては、本日は大変に御苦労さまでございます。

 先々週、この委員会で与党案と民主党案が採決になりました。私どもはことしの三月二十五日に案をつくって提出をし、与党の方はおくれてお出しになってきた。両参考人の冒頭の意見陳述の中にもありましたとおり、やはり私は窓口での取引が含まれないというのは極めて大きな問題があるというふうに考えて、そこを何とか取り入れて修正できないかという話もしたんですが、なかなかそれも難しいということでしたから、与党案には反対をし、民主党案に賛成をするということで、参議院で本日この案についてまた審議が行われるというふうにも聞いておりますけれども、まず岩原先生にお伺いをいたします。

 二十五年この問題に取り組んでいらっしゃったということですが、冒頭の意見陳述で与党案と民主党案が若干の違いというふうにおっしゃって、これはちょっと私としては承服しがたい御発言だなと。だんだんと私も野党暮らしが長くなって人が悪くなったのかもしれませんけれども、私どもはやはり考え方というのを非常に大切にしておりまして、この両案が若干の違いと言われてしまうと、それは違うんじゃないかということを申し上げつつ……。

 また、岩原先生は、たしか去年の年末かあるいはことしの初めだったと思いますけれども、「金融法務事情」という雑誌に論文を御発表になられて、私ども実はこれを大変に参考にさせていただいたわけですね。私どもも初めは偽造カード問題ということで法案をつくり出したんです。ところが、偽造カードの問題をやっているうちに、何がこの問題の本質なのかということを考えていったときに、それはやはり金融機関がちゃんと本人確認をするということだろうと。だったら、偽造とか盗難とか関係ない、カードであろうが通帳であろうが印鑑であろうが関係ない、金融機関がちゃんと本人確認をするべきである、そういう結論に立ち至りましてあの民主党案というのを提出したわけなんでありますが、岩原先生も恐らく冒頭の御発言とは裏腹に、きっと心の中では民主党案の方がすばらしいというふうにお考えになっているはずだと私は思うんですが、いかがでしょうか。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 あるいは先ほど私の表現は適切さを欠いたかもしれませんが、私は、恐らく与党案も、まさに先ほど申し上げました附則あるいは附帯決議に示されておるように、窓口からの通帳による引き出しについても、この問題に取り組んでいこうという姿勢をとっておられる点では変わらないと思っております。

 ただ、さっき私も申し上げましたように、より実務を考慮して、実務がスムーズにそれに対応できるような仕組みをつくってからそういう法制化をしようとされていると私は理解しておりまして、基本原則は、さっき私申し上げましたように、きちんと自分自身の注意を払っている預金者であれば勝手に不正支払いがなされることがないように立法する、これは窓口についてもぜひ必要でありますし、できれば、まさにこの附則の三条に書いてありますように、少なくとも二年以内にその検討を終えて立法していただきたいと私も願っております。

 ただ、そのために銀行実務をかなり根本的に変える必要があると私は思っております。本人確認の方法について、現在のような印鑑照合だけで、それ一本で本人確認をするという方法では行き詰まっていることは明らかでありまして、それにかわる本人確認の方法、それが非常に合理的で、銀行実務でもスムーズに受け入れられるようなものをこれから開発して、そしてそれを実務が受け入れられるようにしなければいけない。それを検討する時間は必要だと思っておりまして、そういうことはきちんと与党の先生方は恐らくお考えいただいていると思いますので、それを前提に私は与党案に賛成したということでございます。

 したがいまして、基本的な考え方としては、先ほど申しましたように、民主党案にも高い評価を与えております。

 以上でございます。

中塚委員 金融機関が印鑑一本だけで確認をしないようにするべきだ、そういうシステムをつくるべきだと今先生おっしゃって、私も全くそのとおりだと思うんですね。そのためにはやはり民主党案のようなものが成立をしないことには、銀行はまじめにそういったことに取り組まないんじゃないのかということを私どもは考えておるわけなんです。

 次に、岩原先生と野間先生の順にお尋ねをしたいと思いますけれども、くだんの銀行の対応ということについてお伺いをしたい。

 先ほど、冒頭に一度挫折した経験があるということを岩原先生はおっしゃった。「電子決済と法」という本も私読ませていただいたんですが、その本のところにも書いてございました。そのときの挫折した経緯、銀行の対応ということについて御披露をいただきたいということと、次に、野間先生には、多くの被害者の皆さんを代弁されて交渉をされたり、また法廷にお立ちになったりと、大変に御苦労さまであると思いますけれども、この銀行の対応についてできれば例を挙げていただいたり、そして、それに対して被害者の皆さんがどんなことをお訴えになっているのかということを御披露いただきたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 私自身がこの問題の研究を始めましたのは一九八〇年ごろでございまして、アメリカで既に七〇年代に電子資金移動法という法律ができて、こういった無権限支払いに対する預金者保護の法制が進んでいることから、当時、アメリカに留学しておりましたので、その問題について勉強を始めまして、そして帰国してからすぐ論文を書きまして、この問題にずっと取り組んでまいりました。

 幸い、当時大蔵省も、昭和六十年ぐらいから、金融制度調査会におきましてエレクトロバンキング専門委員会というものをおつくりになりまして、そこでそういった問題を含めた電子資金移動の法制化の努力をされ、そして、特に法制懇談会というものをつくって、私もその座長代理を務めさせていただきましたけれども、そこでキャッシュカードの不正支払いの問題等を含めた立法の努力をしたわけであります。

 ただ、何分、その時分はこの問題が社会的にそれほど大きい問題として意識されていなかったということがありまして、金融界の態度が非常にかとうございまして、何よりも、ちょうどその後で平成五年に最高裁判決が出て、銀行の免責を認めた判決が出てしまったものですから、そういうこともあり、金融界は最高裁もそういう立場で銀行の免責を認めているのになぜ立法しなければいけないかということで非常に強い立法に対する懸念を示され、その結果、金融制度調査会としては無理に立法することを断念せざるを得なくなりまして、金融界が一定程度譲歩して、今回まさに問題になりましたような偽造についてのやや特例の規定を約款の中に設けるという形で、当時は一応それで検討を終えてしまった。実は、正式にはエレクトロバンキング専門委員会は終えたことにはなっていないんですけれども、検討を中断したままになってしまったということでございます。

 以上でございます。

野間参考人 まず、通帳の被害ですが、平成十年後半ぐらいから多発し始めた構造的な要因は、通帳の裏側についている副印鑑と呼ばれる印影をスキャナーで取り込んでプリントする、この手口が一般的に行われて被害の多発が始まったわけなんですけれども、この被害の多発の状況に対して、金融機関がその構造要因に対する対策を怠ったということがベースにあります。偽造が見抜けないわけですから、それは本人確認機能がないと言わざるを得ない。偽造紙幣を見抜けない自動販売機は、それは偽造の紙幣を見抜けないのと同じで権限確認機能がなくなった。この事態に対して、銀行側は全く通常のクレーム処理と同じような扱いで小手先の対応に終始した。これが平成十年から十五年ぐらいまでの間だったと思います。

 その中で、非常に預金者の皆さんが当たり前のことをお怒りになるわけですね。例えば、住所や生年月日が書けていない、誤字がある、これを見落としている。ところが、それは癖字であると強弁する。保険証の会社が違っているのに、出向されたんですかと聞いて、はい、そうですという答えで納得する。こういう冗談みたいな話がたくさんあるわけです。あげくの果てに、生年月日を一たん間違えたケースについては、それは痴呆症なりアルツハイマーの場合だってあるでしょう、こういうことを金融機関の支店の担当者はお述べになるわけです。

 私は弁護士として当然被害者救済運動をいろいろやっていますけれども、時に加害者の代理人あるいは弁護人をやることがございます。被害者側の代理人をやっていて、被害者の方が加害者あるいはその代理人の不注意な一言でどれほど傷つくかということを日々身にしみて仕事をしておりますので、加害者の代理人として行動するときは非常に丁寧にやるように心がけてやっておりますけれども、金融機関の皆さんは非常に笑顔を振りまいて、いらっしゃいませと言ってティッシュをくれたりするんですけれども、一たん預金者を裏切ったときの、いわば加害者というか、みずからが被害を与えてしまったときのマニュアルは全くない。そして、その金融機関の不用意な一言が集団訴訟の多くの原告の皆さんを立ち上がらせたということだと思っております。

中塚委員 次に、岩原先生にお伺いをいたしますが、スタディグループでいろいろな意見を聞かれたり海外の事例もお調べになられたと思いますけれども、被害者の皆さんの御意見をお聞きになる機会というのはあったのかどうかということ。そしてまた、そのスタディグループのメンバーの中に被害者の方の代表というのは果たして入っていたのかどうかということについて御披露いただけますか。

岩原参考人 スタディグループの中には、いわゆる被害者の団体等の代表の方は入っておられません。それからまた、その被害者の方に具体的においでいただいてお話を聞くという機会をスタディグループとして持つことはできませんでした。私個人としてはお話を伺いましたけれども。

 以上です。

中塚委員 今の岩原先生の御発言について、弁護団を代表されて野間先生はどういうふうにお思いになられますか。

野間参考人 結論から申し上げますと、大変残念に思っております。

 金融庁のスタディグループは非常に活発な御議論を展開いただいたのですけれども、スタートの段階でシステムの問題からスタートしてしまって、その流れの中で補償のあり方という流れに入っていってしまったのではないか。そのために、補償する側の三井住友銀行の業務担当者が全銀協の代表という形ではありますけれどもメンバーに入っている一方で、被害者側の意見は陳述させていただく機会すらなかった。私は厚生労働省とよくいろいろ薬害問題でやっておりますが、薬害問題では薬害被害者の発言の機会は必ずいろいろな場面でございまして、正直その落差を痛感した次第です。

中塚委員 それで、先ほど野間先生の冒頭の意見陳述の中で、民法四百七十八条の関係について与党案の問題点というのを指摘されておりました。偽造カードのところについては、実は私ども民主党のつくった案と与党案というのは、そこだけをとって見れば同じということになっているのですが、確かに判例なんかを見ましても、流動性のある預金については四七八を適用し、定期性の預金には適用しない、そういうような判例も出ているやに聞いておるのですけれども、この民法四七八との関係で与党案の問題点をもうちょっと詳しく御説明いただけますか。

野間参考人 民法四百七十八条は、本来の権利者に払っていないわけですから、本当は無効の取引をあえて有効にするという規定です。これは、通常外観法理と言われる民法の原則論の中ではこの規定はちょっと例外的で、いわゆる権利者の帰責事由を考慮しない。通常の表見代理は権利者側に何らかの帰責事由があることを前提に第三者の善意無過失が問題になるのですけれども、民法四百七十八条はこれを考慮しない。その理由は、迅速な決済、弁済の早期実現という点にあるわけです。

 したがいまして、当然、迅速性、定型性、大量性がより要請される取引の方が銀行を免責させる必要性は高いのではないかと。逆に、回数が余り多くなくて金額が高額でという取引については、本当の権利者の方をより保護すべきであって、民法四七八の免責を認める必要性は乏しくなる、こういう関係にあると思っております。そのために、窓口取引と機械取引、ATMとでは、当然のことながら窓口の方が高額であって、一件にかける時間もかけられて、数も少ないということですので、免責を認める必要性は低いのではないか。つまり、預金者を保護すべき要請はより高いのではないかというふうに考えている次第です。

中塚委員 次に、岩原先生にお伺いをいたしますが、冒頭で預金者のモラルハザードに配慮してあるということで与党案を評価されていたわけなんでありますけれども、お伺いをしたいのは、例えばカードを第三者に交付した場合、暗証番号を伝えた場合、これは重過失であるということなんですが、私は新聞報道で見たのですけれども、詐欺とか強迫の場合、これも同様である、そういう報道をされたのを私は見たことがあるのですが、瑕疵なき意思表示による交付の場合と詐欺、強迫の場合というのは本来同列には論じられないのではないのかというふうに思うのですけれども、法学者のお立場として、この場合はどうなるべきなのか、どういうふうに解釈するべきなのか、お答えをいただけますでしょうか。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 私が今回の法案を適切に理解しているかどうか、ちょっと自信がないのでありますが、法案自体が規定しているのは偽造の場合と盗難の場合だけですので、詐欺、強迫の場合については特に規定をしていないということになります。

 したがって、それこそ民法四百七十八条等の、民法等の一般規定に行くんだろうと思うんですけれども、ただ、恐らく解釈として、強迫でも非常に著しい強迫の場合、いわば強奪されたのに等しいような強迫のような場合は、これは盗難と同じように扱うべきであろうというように思いますので、そういう場合は今回の盗難に関する規定が類推適用されることになるのではないか。それに対して、単にだまされた詐欺、だまされてカードを渡してしまったという場合については、少なくとも今回の法案が直接カバーする問題ではなくなってくるのではないか。今回の法案の解釈としては、私はそのように考えております。

 以上です。

中塚委員 詐欺はこの法案はカバーをしないということは、重過失であるということですか。詐欺によってカードを交付してしまったという場合には重過失に該当するというふうに整理をしてよろしいんでしょうか。

岩原参考人 お答えいたします。

 私自身がドラフティングしたわけではございませんので、法案の正しい解釈かどうかわかりませんけれども、重過失と見るのではなくて、この法案がカバーしている問題ではなくなって、さっき申しました民法、商法の一般規定の問題になるというようにこの法案の解釈からはなってくるのかなと思っております。

 以上です。

中塚委員 今の岩原先生の御意見に対して、野間参考人、いかがお考えでしょうか。

野間参考人 恐らく岩原先生の御意見は、窃取されたカードに当たらないという御趣旨なのではないかと理解しました。

 ただ、先生の御質問は、恐らく暗証番号の詐欺ないし強迫的な第三者への告知の問題も含めて御質問されたのではないかという理解をして答弁しますけれども、一般論としまして、詐欺とか強迫の場合は第三者との利益を考慮しながら一定の取り消し等の、つまりもとに戻すという権利が民法で認められている部分がありますので、通常の何らそういう詐欺とか強迫的な要素がなく暗証番号を渡してしまった場合とは同列に論じられないのではないか。また、昨今問題になっておりますいわゆる振り込め詐欺的な、暗証番号を詐欺的な手段で獲得するという犯行の増加等にかんがみますと、重過失というふうに認定されることは非常に問題があるのではないかと私は考えております。

中塚委員 時間が来たのでこれで終えなければなりませんが、過失の問題にしても、やはり盗難カードのところを過失に応じてその補償の割合を変えるとか、そういう話をするから結局この手の議論をしなければいけなくなってしまうということだと私自身は思っております。

 それと、あと、窓口の取引について附帯決議に今回盛り込むことができたんですが、これも要は民主党が主張したからそれを盛り込むことができたわけで、当初はそういったことは何にも書いていなかったわけですね。検討するということは書いてはあったわけですが、検討して措置をするというところまでは入っていなかったわけで、今参議院で審議をされていてまだ成立はしていませんが、やはり今の与党案というのは不十分であるということを最後にもう一度申し上げまして、質疑を終わります。

 どうも本当にありがとうございました。

金田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 預金の安全性を確保して、安心して銀行に預けられるということが一番肝要な点でございます。ところが、偽造カードだけではなくて、盗まれたカードあるいは盗まれた通帳、印鑑、こういうものを用いて不正な引き出しを行うというのが非常に多いわけであります。私がこの委員会で確認をしたところ、金融庁は、この五年間で、偽造カードの被害が五百十六件、これに対して盗難通帳の場合は四千百四十件であります。金額にしますと、偽造カードの場合は十二億九千三百万円ですが、盗難通帳の場合は百三億九百万円、圧倒的に盗難通帳の被害が多いわけであります。したがって、私は、盗難通帳の被害も含めて対応するというものが求められる、預金者の安全、安心ということを考えますと当然そういうことでなければならないと思うわけです。

 そこでお聞きをしたいのですが、偽造カードあるいは盗まれたカードだけではなくて、盗まれた通帳あるいは印鑑を用いた不正引き出し、これは無権限者による取引であり、あるいは銀行から見ると過誤払いである、こういうことになると思うんですが、そういう基本的性格については共通しているというふうに私は思いますけれども、お二人の参考人の御意見をお聞かせいただきたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 確かに先生御指摘のとおり、基本的に申しますと、無権限者による引き出しという点では共通している性格の問題だと私も理解しております。

野間参考人 先生のおっしゃるとおりだと理解しております。

佐々木(憲)委員 そういたしますと、共通しているその性格に着目をいたしますと、預金者の被害を救済するという場合、これは偽造カードに限定するというのは、その性格からいうとまだまだごく一部の救済にすぎないわけでございまして、当然そういう銀行の責任というものを明確にした救済ということが求められると思いますが、今回の法案では、与党案はそこまでまだ行っておりません。しかし、答弁あるいは附帯決議等で検討の対象になるということでありますが、今後改めてこの法案を改正するとしたら、当然そういうものを入れるべきだというふうに私は思いますが、お二人の参考人の御意見をお聞かせいただきたいと思います。

岩原参考人 先ほど申し上げましたとおり、私も、速やかに窓口、預金通帳の問題も含めた立法がなされるべきだと考えております。

野間参考人 全く同意見です。

 なお、付言させていただきますと、金融機関は平成十年以降も十分な時間が何年もあって、十五年の秋ごろの段階では一定金額以上は印鑑以外の確認を既に実行しているという実態がございますので、それほど時間はかからないのではないかというふうに考えております。

佐々木(憲)委員 この問題は随分昔から問題になってきていて、先ほども御紹介がありましたように、欧米では七〇年代、八〇年代から対応策がとられているというわけでありますが、日本の場合もチャンスは幾らでもあったというふうに思うんです。

 岩原先生にお聞きいたしますが、一九八七年の金融制度調査会で金融消費者保護についての法整備が議論されていた、そのときに、先ほども少し御紹介がありましたように、調査会の中にエレクトロバンキング専門委員会をつくって、八八年に具体的な立法化の検討に入った、その段階でさまざまな意見が出されて、特に銀行業界が立法に反対をしたというふうにお聞きをしました。先生の本の中にも、「電子決済と法」という本で先ほども議論になったような紹介があります。

 具体的にお聞きしますけれども、銀行業界はどういう理屈でこれに反対をされたのか、それに対して先生はどういう批判的見地を持っておられたのか、もう少し詳しくお聞かせいただきたいと思います。

岩原参考人 当時の銀行業界の主たる反対の理由は、やはり先ほどの民法四百七十八条という民法の規定がいわば私法の大原則である、銀行の預金払い戻しに対して当然それが適用されるべきだと。そうすると、盗難キャッシュカード等についても、少なくとも銀行の方に過失がなく払い出した以上は免責されるべきであって、それを預金者を救済するようにその原則を変えるような立法というのは基本的に賛成できないし、さらに、銀行界が非常に強く主張しましたのは、いわゆる被害の偽装等の問題が出てきて、かえって問題を起こす可能性があるということを強く主張されたわけであります。

 それに対して、私は、民法四百七十八条というのは、本当は、もともとこれはフランスから来た規定でございますけれども、規定の沿革から申しまして、こういった預金の払い戻し等の場合に本来適用されるべき規定としてフランスから日本民法が引き継いだ規定ではなくて、こういう場合に民法四百七十八条でいわば銀行側の事情だけ考えて、銀行に過失がなければそれで免責されるというのは問題ではないかと。むしろ、預金取引というのは預金者が安心して取引ができることが大事ですので、預金者側に問題がなければ預金者は保護される必要があるということで、私はそれに反論したわけであります。

 そういう意味では、実はさっき私が申し上げたのは間違いがございました。詐欺の場合についてもさっき民法四百七十八条が適用されるかのように申し上げましたけれども、本来の民法の原則に戻って、民法の詐欺等の規定によって処理するのが本来であるというふうに考えております。

 以上でございます。

佐々木(憲)委員 最近も全銀協は、ここで参考人に来ていただいて会長の御意見を伺ったんですが、その際も、簡単に言いますと、法律をつくってもらっては困る、約款で対応させてもらいたい、あるいは行政上の対応でやってもらいたい、こういう話を盛んにされました。

 しかし、これは預金者の立場に立てば大変正反対の対応でありまして、もっと積極的に、これは国会が法律をつくって、一律に同一の基準で預金者を保護するという対応が当然必要だというふうに私は主張したわけですけれども、この銀行の対応について野間さんにお伺いしますけれども、最近は、多少、被害者に対して一定の柔軟な対応ということも見えるわけですけれども、この法律が通り、またさらに再改正ということを我々見通しておりますが、銀行の対応の問題点、それからまた、こうしてほしいという被害者の方々の要望、この点について御意見をお聞かせいただきたいと思います。

野間参考人 お答えになっているかどうかちょっと自信がないんですけれども、裁判の中でよく銀行側から主張が出るのは、例えば五百万、一千万という多額の預金をという主張に対して、当金融機関にとっては多額ではないという反論が出るんですね。ですから、迅速に取引して簡単に免責していいんだという主張につながるんですけれども。これは裁判所も同じですけれども、会社等の取引で五百万、一千万の売り掛けが焦げついたという事件と、国民が汗水垂らしてためた五百万、一千万がなくなるということの意味合いの違いを、銀行だけでなく、ぜひ関係者の皆さんに御理解いただきたいと思います。

 本当に、ある方は町に出られないとか銀行の前を歩くと動悸がするとか、そういう世界になっていますし、退職金をあらかたやられてしまった人の場合はうつ状態になっている方もいらっしゃいます。そうした実態をお金を預かっている金融機関の皆さんが本当に理解されていられるのか。窓口で実際に対応されている方の個人の預金に置きかえればわかることだと思うんですけれども、ぜひその点、首脳の方は本当に個人の預金を守る立場でやっていただきたいと思います。

佐々木(憲)委員 時間が参りましたので、終わります。どうもありがとうございました。

金田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人のお二人におかれましては、御多用中のところ御出席の上、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 参考人のお二人は御退席いただいて結構でございます。

    ―――――――――――――

金田委員長 引き続き、金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁福井俊彦君、日本銀行副総裁岩田一政君、日本銀行理事武藤英二君、日本銀行理事小林英三君、日本銀行理事白川方明君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として財務省理財局次長浜田恵造君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

金田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

金田委員長 去る平成十六年十二月三日及び平成十七年六月十日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、それぞれ国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁福井俊彦君。

福井参考人 日本銀行の福井でございます。

 本日は、日本銀行の金融政策運営につきまして詳しく御説明申し上げる機会をちょうだいいたしまして、まことにありがたく、厚く御礼を申し上げます。

 最初に、最近の金融経済情勢について御説明を申し上げます。

 日本の景気でございますが、IT関連分野におきます調整の動きを伴っておりますが、経済全体としては回復を続けております。

 この点をやや詳しく御説明申し上げますと、輸出は昨年半ばにかけて大幅に増加いたしました後、このところ中国向けを中心にやや伸び悩んでおりますが、IT関連分野の在庫調整が進むもとで生産は緩やかな増加傾向にございます。企業収益が高水準を続ける中、企業の景況感にも再び改善が見られるようになってまいりまして、設備投資は増加を続けております。また、雇用面の改善や賃金の下げどまりから、雇用者所得は緩やかながら増加しておりまして、そのもとで個人消費は底がたく推移いたしております。こうしたことを踏まえますと、我が国の景気は踊り場を脱却しつつあると言えると思っております。

 先行きにつきましても、海外経済の拡大が続くもとで、輸出の伸びが次第に高まっていくと見られますほか、国内民間需要も高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を背景に引き続き増加していく可能性が高いと考えられます。こうしたことから、緩やかながらも息の長い景気回復が続くと判断いたしております。

 物価面について見ますと、経済全体の需給バランスが基調として改善を続ける中で、国内企業物価は原油価格上昇の影響などから上昇しております。先行きは上昇基調を続ける可能性が高いわけでありますけれども、当面の上昇テンポは少し鈍化していくのではないかというふうに見ています。消費者物価の前年比は、規制緩和などに伴います電気料金、電話料金の引き下げの影響もございまして、基調としては小幅のマイナスとなっております。先行きにつきましても、当面はなお小幅のマイナスで推移するものと予想されます。ただ、ことしの末から来年初めにかけましては、お米の値段の下落あるいは電気料金、電話料金引き下げといった一時的な要因の影響が剥落していくという過程にございまして、消費者物価指数の前年比がプラスに転じる可能性が高いと考えられるところでございます。

 金融資本市場では、株価は総じて底がたい動きを続けておりまして、一方、長期金利は安定的に推移をしております。また、企業金融をめぐる環境は、総じて緩和の方向にございます。金融機関の貸し出し姿勢は積極化しておりますし、こうしたもとで民間銀行貸し出しは減少幅が緩やかに縮小してきているという状況にございます。また、CP、社債といった資本市場を通じた資金調達環境も良好な状況にございます。

 次に、最近の日本銀行の金融政策の運営について申し述べさせていただきたいと思います。

 日本銀行は、いわゆる量的緩和政策のもとで潤沢な資金供給を続けております。量的緩和政策の枠組みは、日本銀行が、金融機関が準備預金制度等により預け入れを求められている額、いわゆる所要準備額を大幅に上回る日本銀行当座預金を供給することと、そうした潤沢な資金供給を消費者物価指数、これは全国ベースで、除く生鮮食品の指数でございますが、その前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで堅持するということを約束する、この二つのことから成り立っております。先週七月二十七日の金融政策決定会合におきましては、三十兆から三十五兆円程度という当座預金残高目標を維持することを決定いたしました。

 この間、短期金融市場の状況を見ておりますと、金融システム不安の後退を背景に金融機関の流動性需要が減少しておりまして、いわば資金余剰感が強まってきているという状況にございます。日本銀行では、こうした情勢を踏まえ、五月の金融政策決定会合以降、市場機能への影響にも配慮しながら最大限の資金供給努力を行った上で、金融機関の資金需要が極めて弱いと判断される場合には、当座預金残高が一時的に目標値を下回ることがあり得ることとしております。これは、量的緩和政策の方針転換を企図するものではございません、むしろ量的緩和政策をより円滑に運営していく観点から実施しているものでございます。

 最後に、金融システム面でございますが、先ほど申し上げましたとおり、我が国の金融システムは安定を取り戻しつつございます。四月からのペイオフ全面解禁も円滑に実施することができました。今後、金融機関としては、顧客ニーズにこたえて創造的な業務展開を図りながら経済を支えていくことがより一層強く求められる状況となっております。このため、日本銀行の金融システム面への対応も、これまでのいわゆる危機管理重視という姿勢から、金融システムの安定を確保しつつ、リスク管理や経営管理の高度化など金融の高度化に向けた民間の取り組みを積極的に支援していく、そういう方向へ切りかえているところでございます。

 日本銀行としては、金融システムの機能度や頑健性の向上に貢献していくため、金融機関の新しい業務展開などの動きを積極的に後押ししていくほか、私どもの業務につきましてもさまざまな工夫を凝らしていきたいと考えております。

 以上申し上げましたとおり、日本経済は世界経済の拡大が続くもとで回復を続けております。先行きにつきましても、緩やかながらも持続性のある成長軌道に移行していくものと見込まれるところでございます。

 日本銀行といたしましては、今後とも、情勢の変化をよく見きわめながら、適切に政策運営を行ってまいります。現在、消費者物価指数がなお小幅の下落基調を続けているもとにおきましては、先ほど申し上げました約束に沿って金融緩和を続けることで、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現のために、金融面からの支援を行ってまいる所存でございます。

 こうした金融政策面での対応に加え、日本銀行が我が国の中央銀行として国民の皆様から負託された責務を適切に果たしていくためには、私どもが提供するさまざまな中央銀行サービスの高度化を進めるとともに、規律ある組織運営に努めていくことが一層重要になっていると考えております。このような認識を踏まえ、日本銀行では、今後五年間の経営方針を示した中期経営戦略を策定したところでございます。こうした取り組みを通じて、国民の信認を高め、経済の健全な発展に貢献するという使命達成のために、今後とも全力を挙げて努力してまいりたいと考えております。

 以上、簡単ではございますが、御報告とさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔委員長退席、遠藤(利)委員長代理着席〕

遠藤(利)委員長代理 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

遠藤(利)委員長代理 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。長沢広明君。

長沢委員 公明党の長沢広明でございます。

 福井総裁初め日銀の幹部の皆様、大変に御苦労さまでございます。どうかよろしくお願い申し上げます。

 今総裁の方から報告がございました。この報告に基づきまして、私の方からは、きょうは日本経済の景気の動向、そして人民元、あるいはペイオフ解禁というようなことで御質問をさせていただきたいというふうに思っております。

 まず、景気の判断の問題でございます。

 七月二十七日に行われた金融政策決定会合の後の記者会見で、総裁は、日本経済全体はじわじわとよい方向に動いているという印象を持っている、日本の景気が踊り場脱却に向けて着実に回復を続けているという認識を示されました。翌日の新聞では、踊り場脱却は間違いないというふうに総裁は発言されたというふうにも報道をされております。きょうの御報告の中では、踊り場を脱却しつつあると言えます、このような認識だったと思いますが、改めてここで伺っておきたいと思います。

 景気の現状について、今どのような判断か、そして、その根拠、判断の背景についてもお示しいただきたいと思います。

福井参考人 ただいまのお尋ねに対しまして、まず結論的に申し上げますと、現在は、我が国の景気はいわゆる踊り場的な局面を脱却しつつあるというふうに考えています。そして、この先でございますが、先行きにつきましても、緩やかながらも息の長い景気拡大が続いていくというふうに判断をいたしております。

 その背景でございますけれども、昨年を振り返ってみますと、世界的に、IT関連の分野におきまして生産、在庫の調整ということが行われる局面になりました。二〇〇〇年から二〇〇一年にかけてのような大幅な調整ではございませんけれども、比較的ミニサイズの調整が世界的に起こり、その中に日本経済も例外ではない位置づけがあったということでございます。日本経済自身も、IT関連の調整を軸にして経済の循環メカニズムが一時的に停滞色を示す、そういう局面に入った、これが踊り場的な局面に入っていたということでございます。

 最近までの状況を見ておりますと、そのIT関連分野の生産調整、在庫調整がほぼ当初の想定どおりの線で進展しつつございます。そのもとで、国内の生産も緩やかな増加傾向を示すようになってきているということでございます。私どもの短観調査などを見ましても、企業収益が高水準を続ける中、企業の業況感にも再び改善が見られるようになっておりまして、設備投資は増加を続けているというふうな状況でございます。経済の循環、需要がふえ、生産がふえ、企業収益、つまり企業の所得がふえ、そして次の投資が行われる、こういう循環メカニズムが再びしっかりと動き始めているというのが今の状況でございます。

 その中で、まず、需要について申し上げますと、これは外需と内需と両方ございます。外需、つまり輸出の方でございますが、これは中国向けの財・サービスの輸出を中心にまだ少し伸び悩んでいるという感じはございます。しかし、輸出全体としては再び緩やかに伸び始めているというのが現状でございますが、もう一方、内需の方、特に個人の消費という面からいきますと、非常に幸いにも、最近は企業収益の好調ぶりが次第に家計部門にも及びつつある。つまり、雇用面の改善がかなり明確に見られるようになっている。続いて、賃金が下げどまり、全体として雇用者所得が緩やかな増加局面に入っているということでございまして、個人消費が事前の予想よりは比較的底がたく推移しているというふうな状況にございます。

 これらをあわせて考えますと、IT関連の調整、進捗を軸に踊り場を脱却しつつある。加えて、家計面の動きが少しずつ前向きに転じつつあるということが加わってまいりまして、景気の回復が少しすそ野の広い形で今進みつつあるというふうな状況でございます。

 この先、海外経済の拡大が続くもとで、輸出の伸びが次第に高まっていくというふうに私どもは見ておりますが、そういうふうになりますほか、今申し上げましたとおり、国内民間需要の面で高水準の企業収益、そして雇用者所得の緩やかな増加を背景に、これは引き続き増加していく可能性が高いと見ておりまして、先ほど申し上げました、先行きを見ても緩やかながら息の長い景気回復が続いていく可能性が高い、こういうふうな判断に至っているわけでございます。

長沢委員 今の、踊り場的な局面は脱却しつつある、その後も、先行きについても緩やかな息の長い回復が続く可能性が高いということを踏まえて、総裁は先日、この踊り場脱却は間違いないというような表現を使われたということで、そのところをちょっと見てみますと、これは総裁の会見ですけれども、私どもの情勢判断では日本経済は踊り場的な局面から脱却しつつあるという判断である、いつまでも脱却しないというような前提での物の考え方はしていないと。この後、いわゆる、踊り場を脱却したらすぐに量的緩和の枠組みの修正に着手するかどうかという問題について、非常に厳密な判断が要るというふうに言われて、もちろんデフレに戻らないという判断のもとでということを言われて、その上で、踊り場脱却云々ということと金融政策の基本スタンスの修正ということは一応切り離して考えていただきたい、その上で、踊り場脱却については私どもはほとんど間違いないと思っている、それですぐ皆さんに右から左に走っていただく気は全くないので、わらじを脱いで待っていただきたいと思う、このような発言をされたということです。

 確認ですが、このときの御発言と今の御発言とは同じ意味というふうにとらえてよろしいでしょうか。ちょっと確認だけさせてください。

福井参考人 全く同じというふうに理解していただいていいと思います。

 そのときの記者会見の場での記者の方からの御質問は、踊り場を脱却して量的緩和の修正に入るのかというニュアンスの質問でございました。したがって、我々は、踊り場脱却が長引くから量的緩和の修正の枠組みに手をつけるのも遅くなる、こういう話ではなくて、踊り場脱却は比較的早く達成できるんではないか、しかし、それは達成しても量的緩和政策の枠組みを修正するまでにはさらに厳密な判断が要る、さらに時間も要る、このことを説明したかったがために、踊り場脱却は間違いないと、少し強目の言葉を使わせていただいたということでございます。

長沢委員 よくわかりました。

 その上で、もうちょっと細かく見ますけれども、七月六日の支店長会議でまとめられました地域経済報告によりますと、地域経済にも足元の景気には明るさが広がりつつありますが、北海道や東北では依然としてまだ横ばい圏内と判断を据え置いておりまして、地域間にはまだばらつきが残っております。地域を私ども回っておりますと、特に地方都市の市街地の空洞化というのは依然として続いておりまして、いまだに厳しい状況が続いているようにも見えております。

 また、個人消費の面ですが、堅調さが見えるということではありますけれども、例えばスーパーの売上高などは依然としてそれほど高くなっていない、低調なところで推移をしているということを見ますと、今総裁御指摘になられました、幾つかの指標においては踊り場状況の局面の脱却に向けた着実な動きが見えるというものの、いまだ本格的な回復に至るには、ある意味では、おっしゃった踊り場状況の脱却は、そこへ向けてのこの方向性は非常に間違いないというぐらいまで方向性は行っているけれども、いわばここからが正念場というような段階にあるのではないかというふうに考えております。

 また一方では、IT関連の調整の動きはまだ続いておりますし、輸出の伸び悩みや原油高、WTI、ニューヨークで最高値を示したようでもありますし、エネルギー、素材価格の動向もあります。そういう不安な要素もあります。そういう意味では、踊り場状況の脱却への今の流れにはまだまだ不安要素、そういう懸念の声もございまして、そのような意見も踏まえて、踊り場脱却への流れを阻害する要因があるか、また、それをどのように見るかということについて御所見を賜りたいと思います。

福井参考人 さまざまな不確実性を伴いながら、それでも日本経済全体としては少しずついい方向に動いているというのが実態ではなかろうかというふうに思っています。

 さまざまな不確定要因、これは数え上げれば切りがないわけでありますけれども、最初に申し上げましたIT関連分野におきます生産及び在庫の調整につきましても、ほぼシナリオどおり順調に進んでいると申し上げましたけれども、まだ現時点で調整が終了したとまでは言えない、まだ少し調整の締めくくりが残っているというふうな状況でございます。ここはきちんと見届けなければいけないというふうに思いますし、それよりも、最近、御承知のとおり、原油価格が高騰を続けている。昨日あたりも非常に高い値段に上がっておりますけれども、その動向並びにその影響ということはやはり非常に大きな不確定要因だというふうに思っています。

 そのほか、中国を初めとする海外経済の動向など、一応順調な拡大傾向を続けていると私どもの基本的な判断でございますが、何せ海外のことでございますので、さまざまなリスクをはらんでいる可能性がある、十分注意して見ていかなければならないというふうに思っています。

 原油高につきましては、日本は他国に比べましてエネルギー効率が非常に高いわけでありますので、一見、直接のインパクトが小さいように見えるわけですけれども、原油価格の上昇というのは、エネルギー多消費国、特にエマージング諸国の経済を中心に、実質購買力の低下などを通じてじわじわと成長を鈍化させる、そういう心配があります。

 エマージング諸国だけ心配かというとそうではなくて、例えばアメリカのような先進国について見ますと、これはインフレ予想の上昇につながる心配があるということであります。その場合には、長期金利の上昇などを伴って、国際金融資本市場への影響が予想以上に強く及んでくるという可能性も全くないわけではないというふうに思います。そういうふうに、海外を経由して日本に来る影響ということをよく見ていかなければいけない。

 なお、日本に対して直接的影響は少ないと申し上げましたけれども、日本の原油の輸入のうち、依存度が高い中東産の原油がなお高値圏で推移しているということは、やはりもう一枚加えて注意をしておかなきゃいけない点だというふうに思っています。

 経済につきましては、先ほど、中国向けの輸出、つまり中国から見ますと輸入が大幅に鈍化しています。中国国内の投資の過熱抑制策の影響ということがこういった面にも出ているんではないかと思いますが、中国経済全体の動きをさらに注意深く見ていかなきゃいけない。

 そして最後に、国内経済の歩みとしては、中央、地方の格差を引きずりながら、しかし次のやはり持続的なパスに到達しようと、これは民間部門の努力が時の経過とともに強められながら続いているという状況でございます。その辺の変化も詳しく見ながら、最終的な判断につなげていかなければいけないというふうに思っております。

長沢委員 踊り場脱却、踊り場という局面を脱却しつつある、そしてその流れはほぼ確実であるけれども、非常に大きな幾つかの不安要素も抱えながらということで、非常にそういう意味では大事な局面を迎えているというふうに見ていいと思いますし、その意味ではこの景気回復を着実な軌道に乗せていく努力ということを、私たち国会でも、政治でもその努力を進めなければいけません、そういうふうに思います。

 踊り場脱却を阻害する要因という質問を今させていただきましたけれども、総裁には関係ありませんが、最も阻害する要因は政治的空白だと私は思いますので、政治的空白をここで絶対設けてはいけないという、別に総裁にお聞きするつもりは何もございません。ひとり言でございます。

 中国の人民元の問題、ちょっとお話を伺いたいというふうに思います。

 周知のとおり、中国人民銀行は、人民元を、事実上の固定相場から、通貨バスケットを参照するという管理変動相場に移行する改革に踏み切りました。ドルに対する切り上げ幅自体は二%ということで、非常に、ある意味では吸収をされてきている、短期的には大きな影響は出ていないとも見られておりますが、中国が世界経済の中で市場メカニズムを今まで以上に生かすという姿勢を示したということは、大きな一歩としてとらえることができるのではないかと思っております。

 そこで、まず基本的な認識として、今回の人民元の制度改革をどのように評価されているか、伺いたいと思います。

福井参考人 中国の人民元の為替相場制度の変革につきましては、ただいま長沢委員から正しく御指摘のあったとおり、私どもの認識と相違はございません。この変更によりまして、人民元は今後、複数の通貨のバスケットを参照しながら外国為替市場の需給を相場に反映させて変動させるということになったわけでございます。

 中国経済は、これまで目覚ましい高成長を続ける一方で、さまざまな分野で一層市場メカニズムを生かした経済システムを構築するという方向で努力が続けられてきたところでございますが、今回の措置は、そうした取り組みの一環として位置づけられるものでございます。さまざまな取引あるいは金融取引の規制の緩和が進められてきておりますし、そのほかにも、金融機能がより円滑に作動するように制度的な工夫も加えられてきておりますけれども、最終的に人民元が米ドルに対して固定化されている場合と固定化されていない場合とでは、今後そうしたもろもろの規制緩和の効果というものがより一層発揮されやすくなるという点で、高く評価さるべき今回の措置であったというふうに私どもは見ております。

 今回の措置によってより柔軟に為替レートが決定されるということで、中国経済の成長が従来に比べてよりバランスのとれたものとなっていく可能性が出てきたということで、そこに期待を持っているということでございます。

    〔遠藤(利)委員長代理退席、委員長着席〕

長沢委員 今回の制度改革では、今御指摘のありましたとおり、複数の通貨を連動させるバスケット制というのが導入をされているということでございます。ただ、中国当局は通貨の構成を、詳細を明らかにしておらないというか、つまり、バスケットの中身は明らかになっていないわけでございまして、一般的には、ドルとそしてユーロと円が加わっているのではないかというふうに見られているということでございますが、この人民元の制度改革、今大変高く評価するという総裁のお話がありました。

 この人民元改革、いわゆる切り上げというところからずっとこれまで議論が進んできたわけですけれども、事実、ここでドルに対する切り上げ、そしてバスケット制という形で改革が進められたのをきっかけに、アジア経済がこれからどう動くのかという議論が非常に大きくなっております。

 これは先日、日本経済新聞に載った香西先生のコメントですが、「(人民元が)変動相場制に移行すれば、アジア域内の通貨統合構想が浮上してくる。」「今回の通貨制度改革はアジアの経済緊密化の第一歩となる可能性がある」、このように言われておりますし、また、ある人は、人民元とは切り離しても、FTAとかEPAとかという、アジア域内での緊密化が進んでいくと同時に、将来的には、かつて国際的な通貨の互助組織みたいな形でIMFは創設されたけれども、その意味では、アジア域内においてもアジア版の通貨安定組織が必要になっていくのではないかというようなことをお話しされたのを、私は聞いたことがございます。

 それはそれとして、いずれにしても、人民元の改革は今後中国当局の運用いかんというところに大きくかかわってくるわけでありますけれども、中長期的に見て、世界経済、特にアジア経済、我が国の経済に与える影響というのはどのように考えられるかということで御助言賜りたいと思います。

福井参考人 アジア経済全体としてこれを見ますと、既にもう過去十年あるいはそれ以上の期間をかけてアジア経済相互間の依存関係、相互依存関係というものが急速に高まってきているという実情にございます。そういう意味では、まず実体経済の面から、アジアの共同市場の萌芽がかなり整ってきているというふうな状況だというふうに思います。これから先は、そうした経済がより一層、資源再配分機能が合理的に行われて、効率のよい、全体としてのアジア経済という姿を目指して、さらに前進していかなければいけない。単に高成長というだけで満足するのではなくて、資源の有効利用と、そしてそれぞれの国の持っている競争優位なところをさらに伸ばしながら、全体として、経済的福祉がより高く実現する経済として前進していかなければいけないということだと思います。

 そういう意味では、中国が人民元制度を改革し、通貨バスケットの内容は公表されていないわけでありますけれども、管理通貨制度というものが、いわゆる恣意的な管理でなくて、やはり複数通貨のバスケットを見るということは、中国の貿易構成の中身を見ながら、名目的な実効為替レートの変化というものに即して為替相場を管理していくということでありますので、その結果は、中国経済自身がよりバランスのとれた経済になる、そして中国とそれ以外の諸国、特にアジア諸国相互間との関係で見ますと、資源の再配分機能がより合理的に発揮されて、いわゆる比較優位の原則が貫きやすい経済として、将来へのさらなる発展の基礎が自然に築かれていく、そういう出発点を今回築くことになったんではないか、こういうふうに思い、かつ今後の方向性について期待しているというところでございます。

長沢委員 もう一点、今度はペイオフのことについてですけれども、きょうの報告の中でも、ペイオフ全面解禁、円滑に実施できましたというふうに報告をされております。本年四月に実施をされて、この四カ月を経過して、改めてペイオフ解禁の意義と今の現状についてどのように考えているか、簡単に御報告をお願いします。

福井参考人 ペイオフの全面解禁が大変スムーズに行われているということは、これまでの日本経済が過去十年以上も背負ってきた苦しい課題をかなり見事に克服したということの事実と、それから今後新しいダイナミズムを伴った日本経済をつくり上げていく上の出発点ですね、円滑なスタートを切った、こういう意味で、大変重要な関門を通過したというふうに思います。

 八〇年代以降、世界的な経済の新しい潮流の変化、グローバル化、あるいはIT革命の進展、これに対して、それ以前の成功物語を築き上げた日本経済の姿、形というものがうまくマッチしなくなって、これを調整するための構造改革の過程、その間の摩擦現象として、企業の過剰投資、過剰債務、過剰雇用というふうな現象が起こりましたし、その裏返し現象として、金融機関において大きな不良債権問題が起こったわけでありますけれども、そうした摩擦現象の解消に大変な期間と努力とエネルギーを要して今日に至った、その成果がかなりいい形で上がった証左として、今回のペイオフの全面解禁がスムーズに進んでいるということであろうと思います。

 今後は、企業の立場から見て、新しいリスクをとって新しいフロンティアを開拓していかなければいけないわけでありますけれども、金融機関の側から見ますと、そうした企業の新しいチャレンジに対して、必要な資金を仕立て上げて供給していく必要がある、こういうふうに思うわけでございます。

 そういう意味で、金融機関は顧客のニーズにこたえて創造的な業務展開を図る、経済を前向きの姿勢でしっかり支えていくことがこれから強く求められるようになってきている、そういう重要な転機を今過ぎたというふうに思っております。

長沢委員 今、金融機関としては、いわゆる創造的な業務展開を図りつつ、経済を支えていくことがより一層求められているという段階に入ったというふうに伺いました。

 一方で、金融機関が破綻しても全額保護されるということで、決済用預金の口座数が大幅に伸びるという現象が起き、その一方では、個人が銀行預金を取り崩して、よりリスクの高い金融商品、投資信託や外貨建て商品というような方に投資をするという動きも拡大をしている。こうした動きというのは、ペイオフの意義の一つの側面をあらわしているというふうに思います。それは、消費者、ユーザーの側が金融機関を監視するようになる、そして選ぶようになるという、いわゆる金融リテラシーの向上という面でも一つの大きな意味をここに見出せるというふうに思います。

 しかし、まだ一般の消費者、ユーザーの中には、ペイオフ解禁に伴って金融サービスをどう見るか、また、金融にどう自分が個人としてかかわっていくかというようなことについて、十分な知識や理解というものが不足している場合も多いのではないかというふうに思います。特に、高齢者に対する丁寧な説明というものは必要ですし、また、若い人、将来世代への十分な対応ということも、この金融リテラシーの向上という面では非常に大事な問題だというふうに思っておりまして、私が今このペイオフの話をさせていただいたのは、今、日銀が金融教育の重要性というものを掲げられて、そういう側面でもお仕事を始められているということを知りまして、大変大事な仕事をされているというふうに思います。金融教育ガイドブックを作成するというようなことで啓蒙活動に励んでいらっしゃいまして、投資や貯蓄に関する国民の知識や関心を高めるためには大変意義あるものと考えております。

 ペイオフ解禁を機に、一層このような金融教育というものは大事になってくると思いますし、それを一般化する、広げることも大事になってくるというふうに思っておりますので、この金融教育の重要性について、また、金融教育を進める上での課題も含めて、総裁のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

福井参考人 大変重要な、かつ大きなテーマについてのお尋ねをちょうだいいたしました。

 先ほど、私、これからは企業が新しい分野にどんどんチャレンジしていく、そこで必要なお金を円滑に金融組織を通じて流していかなければいけない。金融機関の役割は、金融機関のプロとして、企業が挑戦する新しい事業の価値とリスクというものを正確に評価しながら、これをさまざまな組み立てを行うことによって、投資家あるいは我々消費者に対して金融商品を提供していく。そこに我々がお金を投じていくということによって、お金の流れが前向きの姿として完結していくということでございます。

 金融機関はプロとして腕を磨いていただかなければいけないわけですけれども、我々素人はプロにはなり得ないわけでございます。プロにはなり得なくとも、従来に比べますと、やはり我々一人一人がそれぞれの責任を持って、主体的に、お金の使い方、置き方、投資の仕方について意思決定することが重要になってくるということは確かでございます。その場合に、つまり、別の言い方をしますと、これから先、人々はお金と密接な関係を強めながら絶えずいろいろな意思決定をしていくことが重要になる。金融教育というのは、そうした意思決定に関する判断基準や価値観を磨くためのお手伝いの仕事ということだと思います。これがうまくいけば、人々の生活をより豊かにし、国民経済の発展をもたらす道に通ずるというものだと私どもも考えているところでございます。

 日本銀行では、金融経済の基本的な仕組み、あるいは全体の金融に関する知識、情報の提供に今後とも努力をしていきたいというふうに思っています。ホームページの充実とか日本銀行の見学会、金融経済をテーマとした、特に若い人というお話が今ございました、学生向けのコンテストなどの取り組みを通じて、金融教育の重要な一翼を担っていきたいというふうに考えています。

 日本銀行だけでは力は十分ではございません。関係省庁、教育機関、それから金融広報中央委員会というものがございます。これらの諸機関と緊密な連携をとりながら活動の範囲を広げていきたいというふうに考えております。

長沢委員 これに関連をしてもう一問用意していたんですが、ちょっと時間が中途半端になりますので割愛させていただきます。

 実は、今申し上げた、ペイオフの関連からいわゆる金融リテラシーを高めるという意味での金融教育の重要性ということが一点なんですが、もう一つ別の角度からいいますと、人口減少社会の中で日本の活力をどこに求めていくかという論点からも非常に大事な観点だということを実は私は申し上げたかったんです。

 一つは、人的な資源を今まで以上に拡大するということがこれからの日本にとっては非常に大事になっていくわけでありまして、若い人については、将来世代については、その働き方、その人の能力の生かし方、あるいは高齢者もその経験と能力の生かし方、あるいは女性の活躍の仕方、いろいろなことを含めて、さまざまなライフステージで、社会そして経済活動に貢献をしていく、そういう人的資源の拡大ということが非常に大事な角度になってきている。その意味でも、国民の側から産業や経済を育てられるような下地づくりという意味で、この金融教育というのは非常に大事な側面だということを実は申し上げたかったわけでございます。

 聞くところによりますと、東京大学が来年度から経済学部に金融学科を創設するということで、かつての日本のエンジニア中心の人づくりから金融経済の人材づくりへというところに動きが始まってきているというふうに思います。

 日銀でつくられているこの金融教育ガイドブックを私も見せてもらいましたけれども、幼稚園から高校に至るまで各種のさまざまな取り組みを丁寧に解説されて、非常に重要な資料提供をされているというふうに思っております。これからも資料、材料、人材の提供という面で、日銀もこの金融教育にかかわっていかれるというふうに思うのですが、今後とも、金融庁、そしてもちろん文部科学省とも連携を強くして、金融教育の充実を図っていただきたい、また力を果たしていただきたいということをお願いして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

金田委員長 次に、津村啓介君。

津村委員 民主党・無所属クラブの津村啓介と申します。

 きょうは、貴重な時間をいただきありがとうございます。

 本日、私は三十五分間の時間をいただいておりますが、私のこれまで一年半の国会議員としての経験の中で、中央銀行の総裁が、欧米では比較的一般的だと思うんですけれども、こうした議会の場で財政と金融の関係についてある程度まとまった時間の証言をなされるということが余り日本では見られないのではないかな、そういう印象を国会審議の場を通じて感じたものですから、きょうは、この衆議院議員、今回の任期がいつ終わるのかわかりませんけれども、財政政策と金融政策の関係につきまして、福井総裁からさまざまな御見識をいただければと思っております。

 後半、多少時間もありますので、国債管理政策との関係や、あるいは公的部門のリストラという言い方を福井総裁はされるんですけれども、政府系金融機関あるいは郵貯の限度額の段階的な縮小などの問題についても幾つか御質問を用意しております。また、最後には、今般の機構改革につきまして、昨年から何度か機構改革が見られていると思うんですけれども、そのあたりの一貫性といいますか、目指すものにつきましてお話を伺いたいというふうに考えております。

 本日、私が参考にさせていただいておりますのは、実は、昨年の十月の二十二日に財政制度等審議会におきまして、当時も新聞各紙で日本銀行総裁としては異例の発言として大きく取り上げられたわけですが、「我が国経済と財政について」という総裁の御発言がございます。この御発言の中身に即しまして、現在の日本の財政との関連を一つ一つ伺っていければと、そういうふうに思っております。

 済みません、少し敷衍させていただきますと、これは私の率直な感想なんですけれども、これまでの日銀の独立性をめぐる経緯の中で、日本では、旧大蔵省、現在の財務省と日本銀行の金融政策決定のあり方についてさまざまな経緯と議論がこれまであったかと思います。そうした中で、日本銀行としては財政政策に対して余り積極的に発言してこなかったという経緯があると思っております。先ほども申し上げたことの繰り返しになりますが、海外では、例えばアメリカのグリーンスパン議長もそうですけれども、積極的にこうした財政あるいは経済政策全般について中央銀行総裁が見識を示されることで、反射的に金融政策そのものに対する信認を高めるという効果もあるのかなというふうに思います。

 日本銀行が独立性を高めた新日銀法施行からかなり年数がたっておりますけれども、これまで日本銀行の金融政策に対する信認は高まってきていると私は思います。こうした中で、財政政策についても、あるいはその他の経済政策一般についても、ぜひ福井総裁あるいは今後の日本銀行のリーダーの方々に積極的な御発言をしていただければと、そういう思いの中で御質問をさせていただきます。

 まず一問目ですが、先般の財政制度等審議会での御発言の最後に、総裁は四点要約をされているんですが、その冒頭、第一点として、基本哲学とおっしゃりながら次のようなことを述べられています。財政再建が成功するためには、財政再建は長い時間がかかるプロセスであることを認識した上で、着実に取り組むという継続性と、財政再建の道筋や手段について長期的な方向性を市場や国民に信頼できる形で示す透明性が重要ですということで、継続性と透明性のこの二つがキーワードだということをおっしゃっているんですが、私自身の率直な感想といたしまして、現在の日本国政府は、一方で景気回復を喧伝しながら、国債の発行残高は当初の公約に反して引き続き増加をしておりますし、その一方で増税論議についてはふたをして、消費税については特に議論を表立ってしようとしない。そうした中でおもむろにサラリーマンに対する大増税の議論を始めるというような、国民から見ると信頼することが大変難しい議論のプロセスをたどっているように思うんですが、現在の財政運営に対しまして、総裁の評価と、そして総裁がお考えになる今後の課題についてお伺いしたいと思います。

福井参考人 まず、経済全体の局面でございますけれども、先ほど申し上げましたとおり、民間部門におきますいわゆるリストラは、相当程度今日までのところ進展した。したがって、第一関門であるペイオフ全面解禁は無難に経過したということでございます。これから経済をより持続的な回復の軌道に乗せ、同時にデフレから脱却させ、さらに将来に向かって新しいダイナミズムを身につけていく、こういう創造的な過程が今始まりつつあるということだと思います。そういう点で公的部門の姿を見ますと、今後処理すべき課題、なかんずく公的部門のリストラということに属する大きな宿題がたくさん残っているということが事実だというふうに思います。

 これからの経済を真にダイナミックスに富んだものにしていくためには、国民の持てる資源を公的部門と民間部門が分かち合って使っていく、ともに有効に使っていくという組み合わせがなければ、ねらいとする望ましい経済の姿は実現していかない。特に民間部門の方から見ますと、公的部門のリストラが進み、特に委員御指摘の財政規律という面からいけば、これが確立していく、堅持されていくということが、民間部門が十分に力を発揮するために絶対必要な前提条件、不可欠な条件になっている、こういうふうに思います。

 したがいまして、公的部門のリストラの中で中心的な課題になります、委員もお尋ねにありました財政再建ということになりますと、現在の財政状況の悪化ぶりから見ると、これは相当重い課題であり、かつ、しっかりしたプログラムを持ったとしても非常に時間のかかる仕事だ。常にこのプロセスは国民のしっかりした合意をベースに着実に実行していかなければいけない。こういう意味で継続性、そして常に国民に信頼できる形でという意味で透明性が重要だということを申し上げたわけでございます。財政再建の道筋や手段について長期的な方向性を透明な形で示す、これは、歳入歳出両面にわたる思い切った見直しを行うという姿を国民の目の前に明確に示して信認を得るということであります。

 そして、第二に、日本経済が持続的な発展の軌道に復帰するのを今後確かめながら、財政再建を継続性を持って一歩一歩着実に進めていく。経済の実態に目をつむってという意味ではなくて、経済の実態には十分目を見開きながら、しかし、長期的な方向性は決して見失わずに着実に進めていく。国民の合意のもとに長期的なこういう課題にしっかり取り組んでいかなければいけない、今、重要なターニングポイントを我々は迎えている、こういう認識でございます。

津村委員 先般の財政審での御発言をさらに敷衍していただきまして、言葉を尽くして御説明いただけたかと思っております。

 続きまして御質問させていただきたいのは、これもやはりその当時挙げられた四つのポイントのうちの二つ目になりますけれども、総裁が、今の御発言でもかなりかぶるところがあるんですが、財政再建のために歳入歳出の思い切った見直しあるいは中長期的な経済の潜在力を高めていくことが必要であるということをおっしゃっております。しかし、これは先ほどの質問とちょっと重ねさせていただくんですけれども、私が先ほどお尋ねしたのは、現在の日本国政府あるいは財務省の取り組みに対する評価をお尋ねしたつもりなんですが、あるべき姿についてお話しをいただくにとどまったかなと思っているんですけれども、現在、継続性、透明性の観点から見て政府の取り組みは合格点と、そういうことでしょうか。

福井参考人 財政政策は、広く国会の審議を経て物事が決まっていく民主主義のプロセスが土台になっております。したがいまして、日本銀行総裁の立場で、これを評価するというふうなおこがましいことは到底できる立場にはないというふうに私自身思っておりますけれども、現在、政府は、二〇一〇年代初頭をめどに日本の財政についてプライマリーバランスを回復する、ある程度の黒字に持っていく、こういう明確なターゲットを持って財政政策を運営されておられる。こういうプログラムのあるなしというのは、非常に大きな差でございます。このプログラムをしっかり確立して、そして、むしろ今後これをより、実行可能性ということが国民の目にもより強く印象づけられるように肉づけをしていく。歳入歳出面からどういうふうな措置を講じてやっていくんだと。これは個々の国民の立場から見れば、かなり利害が衝突する問題もたくさん入ってくると思います。これが、大変おこがましいんですけれども、議会での議論のスクリーニングにかかって、将来の経済のよりよき姿に結びつくような結論を逐一取り上げていっていただく、このプロセスが非常に大事だというふうに私どもは思っています。

 大きな目で見たプライマリーバランスの黒字化、この線は絶対に重要ですけれども、現在抱えている公的部門の大きな債務残高、これを最終的に減らしていかなきゃいけないプライマリー黒字の大きさはどういうことなのか、それに到達するための歳入歳出面からの措置はどういうことなのか。恐らくは、社会保障制度の全面的な見直しということまで範囲を広げながらでなければ、このプログラム全体として国民の信認を得ることは難しいのではないかと私は思っておりますけれども、そういう絵をこれから時の経過とともになるべく早く国民の選択肢の中に入れていただきたいというふうに思うわけであります。

津村委員 ありがとうございました。

 きちんとしたプログラムを持つことが非常に重要だ、そこに大きな意味があるというお話だったかと思いますけれども、私たち民主党もまさしく今、今御着席ですけれども、野田ネクスト大臣をリーダーに、財政健全化プランというものを策定しつつありまして、国民の信頼にたえ得るプランを明確に示していきたいという決意を新たにしておるところです。

 そうした中で、今のお話は全くおっしゃるとおりなんですけれども、どうしても財政政策というものが議会の場で審議に付され、今スクリーニングというお言葉を使われましたけれども、いずれにしても、政治的プロセス、民主主義プロセスの中で、これは議会というものが歴史上始まって以来ずっと扱われてくる中で、中央銀行の仕事というのは、必ずしもその一部分として存在するよりは、政治からの独立という言い方をしますけれども、議会のある意味ではらち外にあって、一定の緊張感あるいはチェック・アンド・バランスの中で運営していくことがより国民経済にとって望ましい結果をもたらすというのがある意味では資本主義社会の経験則として学ばれてきたことで、その結果、このような形で今総裁とお話をしているのかなというふうに理解をしておるんです。

 そうしますと、今総裁は評価はおこがましいということで避けられましたけれども、私自身は先ほど申し上げたような現在の財政運営に対する評価、つまり、継続性の観点からも透明性の観点からも不十分だという評価を実はしておりまして、そうした中で、一方で日本銀行の金融政策は、これはよいしょをするつもりはないんですけれども、非常に努力をされていて、努力をされ過ぎているんじゃないかというふうに思うんですね。つまり、しわ寄せが行っているんじゃないかと私は思うんです。

 量的緩和の目標水準の引き下げをめぐりまして、先ほど来なお書きの話も出ているかと思いますし、この後同僚議員も質問するようですけれども、いずれにしましても、財政政策と金融政策の関係というのは古くて新しい大変重要なテーマであると思うんですが、一方で景気回復を言いながら、あるいは総裁御自身も先ほど踊り場脱却についてああした非常に前向きな御答弁をされる一方で、量的緩和の解除に関しては非常に慎重と。もちろんさまざまに御説明いただいているんですけれども、どうしても財政政策との関係でわかりにくさ、あるいはしわ寄せをされているんじゃないか、そういった印象を持っている向きが市場にもあると思います。そこを少し詳しく御説明いただければと思います。

福井参考人 現在は、政府も日本銀行もともに物価安定のもとで持続的成長の実現、こういう共通の目標を持って努力を進めているという状況でございます。物価安定のもとでと申し上げましたけれども、より詳しくは、やはりデフレを脱却する、物価が下がり続けるという状況でなくする、これが当面の物価安定の目標でございます。そういう意味で、共通の目標を持って財政政策と金融政策の方向性が平仄が合っているかどうか、政策の方向性が平仄が合っているかどうかについていつも政府と日本銀行との間で基本的な意見の相違がないように調整する努力をする。これは日本銀行法の精神にかなったことでございます。

 具体的な政策の中身をどうするか。財政政策については議会で審議をしてお決めになる。金融政策については私どもの金融政策決定会合、こちらの方で独立に決めていくということでありまして、その間相互干渉は一切ないということでございます。しわ寄せがあるかどうか、こういうことでございますけれども、現在のところは、財政政策、金融政策との間で大きなコンフリクトがある状況ではないというふうに思っています。

 しかし、これから先、経済がより順調に回復軌道に向かう、あるいは回復軌道に乗る、あるいは物価につきましてもデフレから脱却していくという過程になりますと、マーケットがより変化しやすい経済になってまいります。このときに、背景に財政規律がきちんと堅持されているかいないかによって市場の期待が大きく振れる。マーケット用語でいいますと、ボラティリティーの高いマーケットに移行しかねないということであります。これは、財政規律がしっかり堅持されていく場合には私どもの最良と思って判断をした政策決定がその意図したとおりの効果を発揮し得る、そうでなければ我々の政策の効果が減殺される、こういうふうなことになりかねない。そういう意味ではコンフリクトがあるわけなので、したがって、我々としては、今後、公的部門のリストラ、なかんずく財政規律の堅持ということはマクロの経済政策のよりよき効果発現のために欠かせない条件だということを今からかなり強目の言葉で申し上げているというのは、そういう次第でございます。

津村委員 これは関連して御質問したいんですけれども、先ほどの長沢議員とのやりとりの中で、あるいは今の御答弁の中で、問題意識としてストレートな形で質問通告させていただいていないんですけれども、量的緩和政策がこの間ずっと続いてきているわけですが、当初言われていた、三つか四つだったと思いますけれども、こういう積極的な効果があるから量的緩和政策に取り組むんだという御説明があったと思うんですけれども、現在はどちらかというと数値目標的なところに注目が集まって、例えば消費者物価指数が安定的にゼロ%を超えて云々というところとか、あるいは当座預金残高が三十から三十五がどうのこうのという数字に大変興味が、あるいは札割れが最近また続いているのかもしれませんけれども、そういったところに関心が移りがちなんですけれども、そもそも量的緩和政策の効果として、既に達成されたものも幾つかあると思うんですね、なお今後期待される量的緩和政策の効果としてはどのようなものが残っているんでしょうか。

福井参考人 これは極めて明確でございまして、量的緩和政策は当初より日本経済のデフレ的な状況を早く脱却させる、この目的に変わりはございません。効果も、その目的とするところにねらいを一点に定めているということでございます。

 これまでのところ、同じデフレ的な経済状況といっても、二年ぐらい前まではそれがさらに悪い状況、つまり、物価の下落と経済の後退が相互連関的に落ち込む形で進んでいく、いわゆるデフレスパイラルに陥りかねないというリスクを完全に防ぐことに成功して、これからは本当にデフレ脱却をしてより前向きの経済の姿を実現するという仕上げの過程に入っているわけですね。つまり、デフレスパイラルという最悪の事態に陥ることをまず防ぎ、よりよい方向に今導いてきて、最後の仕上げの過程に入っている。これは一連のプロセスでございます。したがって、我々の目的は何ら変化がない。

 そして、量的緩和政策の効果は、量の供給によって短期金利を中心に金利を低く抑え続ける、そして必要な流動性は隅々まで供給する。そして、経済が回復の方向に入ってきた場合には、現実の物価に先駆けて人々の先行きの物価観が上向きに変わってきているわけですので、御承知のとおり実質金利は同じ名目金利のレベルでもより低いところに行く、これはデフレ脱却のプロセスの最後の仕上げ局面を、金融政策の力、後ろから後押しする力がそれだけ強まっているという形で今継続しているということであります。ここのところは最後まで粘り強く我々はやって目的を達成したいということでありまして、目的は決してふらついておりません。デフレ経済からの脱却、この一点の目的に絞って今の政策をやり続けているということであります。

津村委員 質問通告にない突然の質問にもかかわらず、大変クリアな御説明、ありがとうございました。

 私は、民主党の中で国債管理政策に関する政策の議論の取りまとめを担当しておりまして、常在戦場のつもりでやっておるわけですけれども、政権準備政党と名乗るからには、この局面で財政政策あるいは国債管理、財政健全化も含めてしっかりとしたビジョンを今こそ打ち出していかなければいけない、そういうような思いを持っておるんですけれども。

 今までのお話と関連いたしまして、国債管理政策に関する御質問を一、二点させていただきたいと思います。と申しますのも、冒頭から何度も引用しております昨年末の財政審での御発言の中で、第四のポイントとして、財政資金を安定的に調達するためには、国債の保有主体の多様化を初め、流動性の高い効率的な市場の整備を一段と進めることが重要ですと、総裁御自身も財政健全化のために国債管理政策が非常に重要な一部分をなしているという御認識を示されているからでございます。

 ひとつ数字をまず確認させていただきたいんですが、昨年十一月、同僚議員であります原口委員からの御質問にお答えになって、多額の国債保有を今日銀はしているわけですけれども、長期金利が一%上昇すると含み損として一兆四千億円程度の含み損が見込まれるという御答弁があったかと思います。現在の状況についてお聞かせください。

白川参考人 お答えいたします。

 日本銀行では、民間におきます会計基準の見直しやあるいは長期国債の保有実態を勘案いたしまして、平成十六年度決算から国債の評価方法につきまして償却原価法を採用しております。このため、長期金利が上昇しました場合に、決算上の期間損益におきまして直ちに評価損失が計上されるということではございません。

 お尋ねの金利上昇に伴う財務面への影響ということでございますけれども、含み損益の変動を試算してみますと、平成十七年三月末時点では、長期国債につきまして八千億円程度の含み益がございました。仮に十年物金利が一%上昇しまして、他の期間の金利もこの十年物金利と同じ割合で上昇するというケースを想定しました場合、保有する長期国債の時価総額が一兆七千億円程度減少しまして、その結果、九千億円程度の含み損が発生する、こういうふうな計算になってまいります。

津村委員 ありがとうございました。

 今お話しになられたように、引き続き、若干の大きな振れを伴いつつですけれども多額の国債保有が続いているということなわけですが、その国債の保有主体の多様化を御提言される中で、具体的な数字も挙げられながら、やはり日本では公的機関あるいは民間の金融機関が大変大きな国債保有のプレゼンスを持っていて、個人や非居住者の保有拡大を進めていくことが重要ということをお話しになっています。

 しかし、そうした取り組みは自然と進んでいくものではなくて、やはり公的機関、日銀もそうですし、例えば郵便貯金もそうだと思うんですけれども、こういったところが市場に大きな影響を与えないスキームを考えていかなければいけませんけれども、段階的に規模を縮小していくことが、財政健全化というからには国債の発行残高を今後減らしていく方向のはずですし、そうした中で保有者の多様化を進めていくのであれば、当然、今集中的に持っている公的機関、公的部門が、まさしく先ほどの公的部門のリストラではありませんけれども国債保有を減らしていく、そういう環境づくりということが必要になっていくと思うんですけれども、例えば郵貯限度額の段階的縮小など、こうした公的部門のリストラについて総裁のお考えをお聞かせください。

福井参考人 ただいまのお尋ねの中で、日本銀行がかなり多額の国債を買い入れているという話は、少し話の中身が違う面が含まれているというふうに思います。日本銀行の国債買い入れは、先ほどから議論させていただいております量的緩和政策の遂行上、必要な手段としてこれを買い入れている。日本銀行が投資ポートフォリオを形成するために買っているというのとはちょっとわけが違うということは当然おわかりいただいていると。

 こういう前提で御質問にお答えすることになるわけでございますけれども、全体として日本の国債の市場はやはり引き受けといいますか保有者に偏りがあって、十分な流動性あるいは客観的な価格形成に難点があるとまでは言いませんけれども、そこのところが必ずしも万全のマーケットとしてまだ整っていないというふうに言えるのではないかと思います。

 したがいまして、国債の保有者の範囲を広げる、保有主体の多様化を進めるということの努力は今後ともかなり強力に進めていく必要がある。特に個人や非居住者の保有比率が極めて低いということでございますので、これを進めていく必要がある。これはある程度時間のかかる問題だというふうに思います。取引慣行を変えながら、そして、今まで余り国債をたくさん持っておられない方に国債の魅力を感じていただいて、これを持っていただくというプロセスが必要だからでございます。つまり、そうした方々が国債を保有しやすい環境をいかに整備していくかということが非常に重要でございます。

 これまでも、しかしながら政府におかれましては個人向け国債の発行とか商品性の多様化などにかなり積極的に取り組まれてきておりまして、実際見てみますと、徐々にではございますけれども、個人や非居住者の国債保有比率というものが上昇してきている現実でございます。こうしたこれまでの経過を頼りに考えますと、引き続きこうした努力を強めていくということによって、ねらいとするところは、ある時間の経過のうちに次第に実現していくことが十分可能ではないかというふうに思えるところでございます。日本銀行といたしましても、国債決済の円滑化などの面で流動性の高い市場整備にもちろん側面から貢献していきたいというふうに思っております。

 なお、郵貯を含む公的部門のリストラの進展というものは、これはうまく進めば、当然、これまた委員御指摘のとおり、国債市場全体の保有者の多様化、流動性の高いマーケットへという方向性に沿っていくものだと私自身も考えています。

津村委員 最後に、機構改革の問題について御質問をしたいと思います。

 こういう半期報告の場で、私はいわゆる金融政策あるいは先ほどまで財政政策との関連でいろいろ御質問させていただきましたが、日本銀行、中央銀行がどういう組織として、広い意味では金融政策ですけれども、さまざまな機能を持った日本銀行がどういう組織として、組織としての目標を共有しながら効率的な業務をされているのかということを見ていくことも大切な仕事かなと思っているんですけれども。

 今回、金融機構局、決済機構局という新しい二つの局が新設をされました。そのうちの片方、決済機構局につきましては、昨年、ちょうど一年ほど前に、たしか信用機構室から金融市場局の方に移されたという経緯があったかと思います。恐らく、現在、金融庁の方でも金融改革プログラムを新たに策定したり、あるいはペイオフが解禁されるといった金融行政の面でさまざまな環境変化が進んできていることは確かなんですけれども、ペイオフ解禁については以前から予定されていたことでもありますし、あるいは不良債権比率を半減させるという目標も以前から金融担当大臣から示され、昨年のこの時点においても順調に進捗しているというふうに公式に述べられていたことでもありますから、私としては、この一年間の間に、日本銀行が一年前に手を入れたことをまたこのタイミングで改革されるという、その間に判断の何か不連続があったのか、何か大きな新たな政策変更、判断の変化があったのか、そうでないとすれば多少朝令暮改的な印象も与えかねないのではないかな、そういうような気もするものですから、その点に限らずですけれども、今回の機構改革についての趣旨といいますか真意をお聞かせください。

福井参考人 ことしの機構改革は、去る三月に中期経営戦略を日本銀行が初めて採用し、言ってみれば五カ年計画というものを明確に打ち出して、その中でさまざまな新しい中央銀行サービスを展開していくということになったわけでございます。そのために必要最小限どういう機構の見直しが必要かと。そこで二点取り上げたということでございます。

 一つは、御指摘のとおり金融機構局。これは信用機構局と考査局を統合して新しい局にいたしました。先ほども触れましたけれども、ペイオフ解禁を無事経過して、これから金融機関の姿勢はより前向きになり、新しい金融機能を備えながら顧客のニーズにこたえていってもらわなければならないということでありますので、我々の視点も、従来のように危機対応ということにかなり強い焦点を当てたものから、金融機関の高度化というものを我々なりにサポートしていく。こういうふうに視点を前向きに変化させて仕事の哲学も仕事のやり方も変えていく、これが一つの機構改革でございます。

 もう一つは決済機構局。これは、今回の機構改革はツーステップ目ということで、委員御指摘のとおり少しジグザグ行進じゃないかというふうな印象をあるいはお与えしているかもしれないというふうに思っております。これは、実は昨年、決済システムの設計上、金融機関の破綻リスクへの対応、金融機関の破綻が即決済システムの不全を招くということで従来仕事をしてまいりましたけれども、だんだんそういう状況ではなくて、決済システムを望ましい姿に構築することによって市場機能を強めていくという、これまた前向きの方向にやはり転換すべきだと。そういう意味では、今回の金融機構局づくりよりもこの決済システムの面は一年早く視点を前向きに変えて、場所を信用機構局というどちらかといえば危機対応の仕事を中心にしていたところから金融市場局というところにとりあえず移したわけでありますが、ことしの春、全面的な五カ年計画を立てましたときに、やはり決済機構の整備ということは本当に前向きの視点でもって対応していかなければいけない重要な課題だということが再認識され、今後は安全で効率的な決済システムを一層強力に築いていくということで、ここにウエートをさらにもう一段かけたというのが正直なところであります。

 それに加えまして、震災その他自然災害対応、あるいは場合によってテロリズムに対する対応等さまざまなことを考えますと、いわゆるビジネスコンティニュイティー、業務の継続ということが非常に重要で、日本銀行はこれまでも業務継続ということは非常に重要性を持って仕事をしてきましたけれども中枢機能を持っていなかった、各局でそれぞれ分担してきたわけですけれども、やはりこのビジネスコンティニュイティーというのは、どこかに中枢機能を置きながらやった方がよりコンティニュイティーが保てるというふうに考えまして、これを決済機構局に第二のミッションとしてつけ加えた。もう一つは、通貨のセキュリティーの問題、偽造の犯罪、これは狭い意味の通貨だけではなくて、カード等も含め、こういった偽造犯罪が非常にふえて、これも広い意味での決済システムに対する悪意の侵犯でありますので、これをどういうふうに防御していくか、こういう仕事についても各局ばらばらにやるんではなくて中枢機能を持って対処したい。この二つの仕事を付加して一つの局としてつくり上げたということであります。

 さらに言えば、決済機構局の前向きの仕事が結実していけば、日本銀行のノウハウが、これからアジア諸国の新しいマーケットの発展のためにもノウハウとして役立っていけるようなものにしていきたい、そういう希望も秘めた新しい局でございます。

津村委員 時間になりますのでこれで終わりますけれども、私は、今の質問をさせていただきましたのは、機構改革をすることがよくないと言うつもりは全くないんです。総裁は民間での経験も積まれて、スピード感を持って日本銀行という大変大きな組織を経営されていくという仕事をされていると思います。これからもさまざまな新しいニーズが時として出てくると思いますので、ぜひ果断な決断をしていただければと思います。その際に、やはり国民の目としては、例えば局の数、課の数、こういったものを一定以上にしておくこと自体には余り意味はないと思いますので、必要なニーズについてしっかりとこうした場を通じて国民に説明していただきながら、決断をしていただければというふうに思います。

 時間が参りましたので、これで終わります。

金田委員長 次に、田村謙治君。

田村(謙)委員 民主党の田村謙治でございます。

 本日は、大変貴重な機会をいただきまして、まことにありがとうございます。

 まず最初に、当座預金残高目標をめぐる金融政策運営についてお尋ねをさせていただきます。

 報道によりますと、七月二十九日に当座預金残高が、六月初以来二カ月ぶりに誘導目標の下限である三十兆を割り込んだという報道がなされています。昨日は三十兆円を超えたということのようでありますけれども、あした以降多額の税金の払い込みが見込まれる、そういった状況もあってしばらく日銀当座預金残高の三十兆円割れは続くのではないかという観測を記事にも見かけました。

 このような、三十兆円を割り込む金融政策運営というものですけれども、それは五月二十日の金融政策決定会合で決定された、先ほどからも話に出ております、なお書きの修正というものを踏まえたものであるわけですけれども、総裁は、五月二十日の記者会見の際に、なお書きの修正が必要になった理由ということで、市場機能に過度なダメージを与えないことが今回の措置である、あるいは、市場機能を過度に封殺しないというような御説明をなさっていらっしゃったというふうに記憶をしております。

 総裁の御説明を理解するに当たりましてキーになるのが、やはり市場機能という概念であると思います。短期金融市場が曲がりなりにも維持されているという中で、少なくとも表面的には市場の中で需給を反映して金利等が決まっているということだと思いますけれども、いかなる機能、市場機能が低下したということなのでしょうか。

 さらには、なお書きなしで量的緩和を続けると市場機能に過度なダメージを与えるということを意味していらっしゃるんだと思うんですけれども、どういった事態が生じることを懸念していらっしゃるのか、また、その場合に、日本経済に対していかなる副作用が生じるのかといったことを、具体的に御説明をお願いいたします。

福井参考人 お答えを申し上げます。

 金融市場の状況を、私ども、毎日つぶさに観察しながら市場の調節を行っておるわけでございますけれども、最近、特に昨年の末以降と申し上げた方がより正確でございますが、金融システム不安の後退という大変好ましい変化を背景といたしまして、金融機関の流動性需要が後退してきている、減少してきている、趨勢的に需要が減ってきていると言っていいというふうに思います。逆に言えば、市場の中で資金余剰感が強まってきているということでございます。その証左として、日本銀行が市場に流動性を供給しようといたしまして資金供給オペレーションを行いますと、金融機関の側からこれに十分応札が出てこない、つまり札割れ現象というものが発生し続けている、これが現在の市場の姿でございます。

 五月の金融政策決定会合で、今委員から御指摘のありました、いわゆるなお書きを修正したというのは、市場機能に配慮しながら最大限の資金供給努力を行う、それを前提にして、しかし、なおかつ、金融機関の資金需要が極めて弱いと判断される局面においては、当座預金残高が一時的に目標値を下回ることがあり得るという、例外的な規定を設けたということでございます。これは、申すまでもなく、量的緩和政策の基本的な方針転換を意味するものではない、むしろ量的緩和政策を今後ともより円滑に運営していく観点からの、市場の実態に即した現実的な措置ということでございます。

 具体的に申し上げますと、日本銀行が大量の資金供給を行っていきます中で、民間金融機関の資金調達におきます日本銀行のオペレーションへの依存度が非常に高まってきている、普通は市場の中で資金を調達する、この普通の姿がゆがめられて、日本銀行のオペレーションがあたかも唯一の蛇口であるかのごとく、資金の供給ルートになってしまう、つまり、金融機関の日銀オペへの依存度が非常に高まってきていて、金融市場における価格形成も日本銀行のオペに左右される度合いが非常に強まっているというのが実情でございます。

 そうしたことになりますと、結果として、市場参加者がみずからの金利観や資金ポジションの動向などを考えながら資金の取引を行うという市場本来の機能が必ずしも十全には働かない状況になっている、これが市場機能が阻害されている状況と私どもが表現している具体的な中身でございます。

 こうした状況が進みますと、資金の効率的な配分を阻害するだけではなくて、マーケットの動きから経済や物価の先行きに対する市場参加者の見方を読み取ることも困難となってくるということでございます。つまり、資金仲介の場としての市場の基本的な機能が損なわれる、同時に、経済や金融の姿を映し出す市場の鏡としての機能にも曇りが生ずる、こういうことを私どもは問題だと意識しているわけでございます。

 そうは申しましても、かつてのように金融システム不安が非常に強い状況、経済全体としてもそうした心配を内包しながらデフレスパイラルに陥る心配があるというふうな状況のもとでは、日本銀行のオペレーションが市場の機能に取ってかわる、代替してしまうということはある程度やむを得ない面があったわけでありますけれども、金融機関の健全性がここまで回復してきた状況のもとでは、市場本来の機能を必要以上にむやみに抑え続けるということは、かれこれ比較して害の方が大きくなってくるということでございます。

 今申し上げましたような悪影響が強まるということであれば、将来、日本経済が持続的な成長軌道へ円滑に移行していくことを、市場の連続性という意味で、そこは断絶が生じて難しくなる心配がある、こういうことを私どもは懸念し、そこに現実的な対応措置として、なお書き、資金需給の振れが著しく大きい場合の一時的な目標値割れということは、量的緩和政策の副作用の面を最小限にとどめながら、なおこの政策を続けていくことができる、こういう道筋を選択したということでございます。

田村(謙)委員 今総裁から御説明いただきましたように、まさに現在の日本の量的緩和というのは世界的に見ても非常に異例なものである、そしてまた、機能しなくなった市場の機能を代替するというような役割があったというのはそのとおりだというふうに思いますけれども、現在、金融市場の市場機能が回復をしている中で、改めて市場機能を阻害しないようにという観点を突き詰めていくのであれば、結局、その帰結というのはやはり量的緩和政策の見直しにつながっていくのではないかなというふうに私は思いましたことを一言だけ申し上げさせていただきます。

 続きまして、なお書きの修正後の政策運営の透明性ということについて触れさせていただきたいと思います。

 そもそも、なお書きの修正をする以前というものは、当座預金残高はまさに三十兆から三十五兆円という範囲にしっかりおさまっていて、政策委員会での議論の内容というものは、議事の要旨というのが公表されていますので、非常に透明性があったということだと思うんです。その一方、五月二十日になお書きの修正がなされて、それ以降どうかということなんですが、まさに数日前のように、当座預金残高が三十兆という下限を割り込むということが起きて、かつ、こうした下限を割り込むタイミングや期間あるいは割り込む幅については、オペレーションを担当するまさに日銀の事務方の判断により左右されてしまう。そして、こうした判断がなされた根拠というものが外部からはうかがい知れないといった面があるのではないかという懸念を持っております。

 もちろん、オペレーションの札割れというものが単純に事務方の御判断で左右されるというものではないとは思いますけれども、オペレーション運営を市場機能を封殺しない範囲で実施するとした場合に、どこまでやるかというのは結局まさに程度問題で、明確な数値として出てくるものではない部分がやはりあるのだろう。そうした日々のオペレーションについての判断というものは、結局事務方が行わざるを得ないというのが現状ですし、また、その判断の内部については、政策委員会での議論とは違って外部に十分伝わるというわけではないと思います。

 このように、なお書きの修正というものがなされて以降、先行きの金融政策のシグナルである当座預金残高の推移につきまして、政策委員会の判断だけではなくて、今申し上げたような事務方の判断というものが影響するというような状況になっているわけですので、見ようによっては政策運営の透明性が後退したという印象を私も受けております。

 その点についての見解をお伺いしたいということと、その関連、その延長としまして、最近新聞報道もございました。日本銀行は、オペレーションの札割れを惹起し、ひいては当座預金残高割れを自作自演しているという記事を私も見かけた次第です。私はその記事をうのみにしているわけではもちろんありませんけれども、そもそもこうした報道がなされるということ自体が、国民が日銀を見る場合に、政策運営というものの透明性がどうなんだというような不信感を持つということにつながってしまうのではないかなというふうにも思うわけですけれども、こうした事実があるのかをあわせてお伺いさせていただきます。

白川参考人 お答えいたします。

 五月の金融政策決定会合で修正されましたなお書きでは、「資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」というふうにしておりまして、なお書きの発動条件は明確に定められるということでございます。

 実際の金融市場調節運営に当たりましては、この調節方針に従いまして、市場機能への影響にも配慮しながら最大限の資金供給努力を行っております。もとより、金融市場調節は、日々の資金需要の動向など市場の動きを踏まえつつ機動的に実施していくものでございまして、より詳細な基準をあらかじめ示すということは、その性格上困難な面があることは御理解いただければというふうに思います。

 こうした金融調節の実施状況につきましては、随時、執行部の方から政策委員会に対して報告をしております。また、毎回の金融政策決定会合では、前回の決定会合後の、現実の、実際の金融市場調節運営につきまして点検した上で次の金融市場調節方針に関する判断を行っておりまして、この点は議事要旨でもその議事の内容を公表しているところでございます。

 そうした意味におきまして、政策運営の透明性はしっかりと確保されているというふうに思っております。

 なお、当座預金残高の目標割れは、以上のような考え方に従いまして金融市場調節を行っていることの結果として生じたものでございます。したがいまして、残高の目標割れをいわば自作自演しているということは、これはないということでございます。

田村(謙)委員 今お答えいただいたことにつきまして、事務方がちゃんと透明性を保ってやっているというのは、まあそう答えるだろうなということですので、これ以上あえて申し上げませんけれども。

 先ほどから申し上げているような微妙な政策判断について、私も、わかりやすさやガラス張りの透明性がとにかく必要なんだと、そればかりを強調するつもりはもちろんありませんけれども、新しい日銀法のもとで政策の透明性を今まで高めていらっしゃった、さまざまな努力をしていらっしゃったということが国民の日銀への信頼感に大きく寄与しているというふうに私も思っている次第でして、今回のように、こっそり何かをしているというような印象を与えるようなことがないように、正々堂々と政策判断を国民に問うていくという姿勢を今後も御期待したいというふうに思っております。

 さて、先ほども申し上げましたけれども、当座預金残高、八月一日、昨日は三十兆円を超えたということであると思いますが、あした以降、三十兆円割れがまた続くのではないかという観測もあります。今後の当座預金残高を占うには、資金供給オペレーションで十分な資金供給が可能かどうかということがキーになるんだと思います。少し以前には、期間の長いオペレーションを行っても札割れが頻発しているという報道を見かけましたけれども、例えば本日の報道では、足元の資金供給オペレーションの応札状況は好調になりつつあるといった内容のものも拝見いたしました。

 いずれにしましても、資金供給オペレーションにおける札割れの先行き見通しと、その結果、当座預金残高はどう推移していくのかということについて、日銀の現時点での見通しをお伺いしたいと思います。

 また、仮に、今後当座預金残高が下限割れを続ける事態が生じた場合に、なお書きを維持するのかどうか、目標水準の引き下げにより対応するのかが問題となるように思います。なお書きの適用はあくまで、一時的に生じる、そしてしばらくたてば解消可能な下限目標割れを念頭に置いた対応と理解されていると、先ほどの総裁の御説明にもあったかと思いますけれども、今後、下限目標割れが長期にわたるというような事態になった場合に、政策委員会の決定を経ることなく事務方の御判断によって誘導目標の変更が行われることにある意味等しいということにつながるのではないかという懸念を持っております。

 こうした配慮から、今後、当座預金残高が下限割れを続けて、当座預金残高目標水準の引き下げを検討せざるを得ないといった事態が生じる可能性があるのかどうか、総裁から御説明をいただければ幸いです。

福井参考人 資金需給の振れを事前に正確に読み取ることは現実問題としてなかなか難しいわけでありますけれども、我々、過去の経験則も踏まえながら、あるいは当面のさまざまな材料をできる限り集めて、資金過不足の振れを前もってなるべく正確に読むように努力をいたしております。

 それによりますと、先月末から明日以降と申しますか目先、この八月の上旬中、国債発行や政府による税揚げ、税金の引き揚げなどがありまして、そういう財政資金の動きに伴う大幅な資金不足の発生が見込まれる時期でございます。このため、今御指摘のとおり、先月二十九日に一日、日銀当座預金残高が二十九兆八千億円、ごくわずか目標値を下回ることになったわけでありますけれども、この先も三十兆から三十五兆円程度という目標値を下回る可能性がないとは言えないという状況でございます。

 ただ、資金需給は振れるものでございますし、今委員御指摘のとおり、その日その日のマーケットの中のイールドカーブの状況によって、我々のオペレーションに対する応札の状況も変わってくるという状況でございますので、実際に目標値を下回るのかどうか、また仮に下回った場合にも、それが何日ぐらい続くか、どの程度の期間となるかについては、やはり現時点で明確に予測することはなかなか難しい、日々のマーケットコンディションズとの闘いの中で結果的に決まってくるというふうにしか申し上げられないというふうに思います。

 いずれにいたしましても、先ほど申し上げましたとおり、昨年の秋以降、金融機関の流動性に対する需要は、少なくとも今日までのところ趨勢的に後退してきているという状況でございます。そうした点も含め、今後とも、毎回毎回の金融政策決定会合において、今の我々の市場調節のやり方で本当にいいかどうか、その都度正確に点検して必要な措置は決定していくことになるというふうに思いますけれども、目先に見えております資金不足の大きな波というものは、当面の財政資金の振れによって起こってくるものでございます。したがいまして、仮に下限を割るといたしましても、これが恒常化するということではなくて、比較的短期間のうちにまた目標値の中におさまっていく、これは確率が非常に高いことだというふうに私どもは思っております。

田村(謙)委員 ともかく、私としましては、早くほかの先進国のように普通の金利というものがある正常な世界に戻していっていただきたいというふうに考えておりますので、総裁にもぜひともそうした方向で御努力をお続けになっていただきますようにお願いを申し上げます。

 さて、後半、がらっと話題を変えまして、天下り問題について取り上げさせていただきます。

 といいますのも、民主党の特殊法人改革推進本部におきまして、特殊法人の改革の一環として、事務次官の天下り、二十四法人に対する調査追及、そしてそれに連動した各委員会における一斉質問というものを今回のこの通常国会においてしてまいりました。

 この財務金融関係ですと、日本銀行というものがその対象となりまして、私がその担当となっておりますので、この機会を活用させていただいて、残りの時間をそのことについて御質問をさせていただきたいと思います。

 ちなみに、天下り、さまざまな定義がありますので、その天下りの定義について議論するつもりはもちろんありませんが、広い意味で言う場合には、財務省から日銀に対して、副総裁が元財務省の事務次官、そして、現在ですけれども、六人の理事のお一人に元大蔵省の造幣局長がいらっしゃる、そして、三人の監事のお一人が元大蔵省関東財務局長であるというふうに聞いております。

 さて、まさに日銀の独立性を高めるということで議論になって、日銀法を改正されるその前の段階で、金融制度調査会が日本銀行法の改正に関する答申というものを出しました。その理由書にも「予算の公的チェックは、中央銀行の経理の自主性を阻害し、ひいては、中央銀行の金融政策の独立性に悪影響を与えるおそれがあるとの指摘がある。」というふうにはっきりと書いてあります。にもかかわらず、予算について財務省の認可制度としている理由についてお伺いをします。

小林参考人 日本銀行の予算の認可制度についての御質問でございますが、現在の日本銀行法におきます予算の認可制度の導入の背景につきましては、日本銀行法の改正が行われるときに、中央銀行研究会、あるいは、ただいま委員の方からお話がございました金融制度調査会の議論ということがさまざまな角度から行われております。そういった点を要約してみますと、一つには、日本銀行の経費というものが通貨発行益により賄われている、そういった日本銀行の性格を踏まえますと、経費を公的にチェックすることが必要である、こういうたぐいの議論。それから、もう一つは、このようなチェックのあり方といたしましては、金融政策の独立性あるいは業務運営の自主性というものを阻害しないような十分なセーフティーガードを設けておく必要がある、そういったものを設けた上で政府による認可にかかわらしめる、そういうことが適当である、このように整理されたものと理解しております。

 ただいまセーフティーガードということを申し上げましたが、そういったセーフティーガードというものといたしましては、現在の日銀法上では、次のような仕組みが手当てされているというふうに認識しております。

 一つには、認可の対象が通貨及び金融の調節に支障を生じない経費に限定されるというような点が一点でございます。それから、もし認可が適当でないと財務大臣が御判断される場合には、財務大臣はその理由を通知、公表しなければならない、また、その際に、日本銀行から財務大臣に対して意見を述べ、または必要に応じてこれを公表することができるという手当てもされております。また、日本銀行法全体の総則におきましても、金融政策の独立性、あるいは業務運営の自主性につきまして、尊重または配慮されなければならない、こういったような規定が現行法には設けられております。

 このように、日本銀行法は、経費の公的チェックの必要性と中央銀行の独立性確保という二つの要請にこたえるべく注意深く制度設計がされている、このように理解しております。

田村(謙)委員 少し聞き逃したかもしれないんですけれども、私はその公的チェックの必要性自体を否定するものでは全くありませんので、まさに予算という事前のチェックというものがどれだけ必要なのかということをお聞きしたつもりだったんですけれども。

 今お話にはありませんでしたが、当時の議論の中に、例えば憲法問題もあるという話も、まさに金制調の答申の理由書にも書いてありました。憲法の六十五条で、行政権は内閣に属すると。結局、そういう意味で、日銀の業務も行政権に入るから、広い意味では内閣に属しているから、そうすると、最低限、人事権と予算についてのコントロールというものが必要だ、そういう説があると。その説にある程度従ったのかなというふうに私は印象を受けているんですけれども。ただその一方で、必ずしも予算をコントロールする必要はないんじゃないかと。公的チェックというのは、事前の予算のチェックと、後のまさに決算のチェック、事後的チェックと両方ありますので、やはり、先ほどから申し上げているように、予算の、まさに事前のチェックというものは、ひいては金融政策の独立性を阻害する可能性がある、私も強くその考え方に賛同している立場であります。

 私は財務省出身でありますけれども、そういった意味で、まさに日本銀行の独立性をより高めるべきだと。ある意味ではこちらにいらっしゃる皆様を応援する立場から申し上げていることを改めて念を押させていただきますけれども、そういった立場からさらに申し上げますと、例えば、小さな、私自身の話ですけれども、ちょうど私が、日銀法が改正される前、平成三年になりますが、銀行局の総務課に所属になって、当時は銀行局の総務課に日銀係がございました。ちょうど日銀係の係長、ノンキャリアの方ですけれども、その方が視察に行くということで、私は末端係員で随行でついていったわけですけれども、日銀の沖縄支店と福岡支店を視察をさせていただいて、大幹部の方々に係長と係員が大変歓迎をされたということを鮮明に覚えているわけであります。

 それとはもちろん時代が変わって、独立性は非常に高まったというのは非常にいい方向だと思いますけれども、予算の金融政策に関係ない部分、それは例えば人件費や一般事務費、そういった部分についてのチェックに限定をするんだ、それが本当にセーフガードになるのかどうかということに私は疑問を感じております。結局、幾ら財務省が予算の中で見る経費というものを一部限定したとしても、まさに人間関係として、日本銀行の幹部の方と財務省の幹部の方との関係を考えた場合に、どうしても影響が出るんじゃないかということだと思います。その点を強く申し上げたい。

 そういった意味で、やはり経費は事後的なチェックに一本化すべきだというふうに私は考えています。その中で、事後的チェックはどうなのか。今現在あるのは、外部からのチェックという意味では会計検査院のチェックがあります。ただ、大変残念ながら、今の自民党政権のもとで非常にそういう認識が甘い、会計検査院はほとんど機能していない、悲惨な状況にあると思います。我々民主党は、その会計検査院をいかにしっかりしたものにしていくかということを日々、民主党の案として今プロジェクトチームをつくって検討しているわけですけれども、会計検査院は現在当てにならないという中で、では、内部でのチェック体制はどうなのか。内部での監査体制を強化するということは非常に重要だと思います。

 その中で、やはり監事が果たす役割というものは相当大きいと思います。現在、監事は三人いらっしゃいますけれども、二人は日本銀行の出身の方です。そして、もう一人は財務省出身の人です。予算のチェックを財務省がして、財務省出身の監事が何か一体できるのか。普通に考えれば、厳正な監査というのを確保するんであれば、それこそ公認会計士とか民間の人材を登用すべきなんじゃないでしょうか。

岩田参考人 それでは、お答え申し上げます。

 日本銀行の監事につきましては、具体的にはどういう任務を持っておるかといいますと、事業年度の決算に関する監査のほかに、本支店におけます銀行券、有価証券、帳簿等の実地検査、あるいは経費関係、契約のチェック等を実施いたしております。ということで、業務の監査ということも同時に兼ねているわけであります。

 日本銀行の監事につきましては、よく御存じのことかと思いますが、日本銀行法のもとにおきましては、内閣により任命される役員であるという規定になっております。日本銀行の業務を監査して、監査の結果に基づいて、必要がある場合には財務大臣、内閣総理大臣または政策委員会に意見を提出することができるというような役割を担っているわけでございます。したがいまして、この監事の任命につきましては、私どもとしてはコメントする立場にはございませんけれども、ただいま申し上げましたような監事の職責を踏まえて、適材適所の原則のもとで任命が政府において行われているものというふうに理解をいたしております。

田村(謙)委員 持ち時間がなくなりましたのでこれ以上御質問はいたしませんが、大体、人事の話をすると、当然聞かれた側の方は適材適所と言います。ただ、先ほど申し上げたように、財務省出身の方が監事としてふさわしいと、まさに民間人、さまざまな、例えば企業財務をずっと経験していらっしゃった方あるいは公認会計士の方、そういった方よりもより適材であるというふうには私は到底思えないということを一言申し上げたいと思います。

 確かに、監事の任命というのは内閣ですので、そこは日銀の立場ではないんですけれども、私も詳しく調べてはおりませんが、恐らく、日銀と財務省で話して監事をこの三人にしようと決めたら、内閣の事務方が、はい、そうですねと。結局、内閣、今の自民党政権が気にするはずがありませんので、そのまま通っているというのが現状だと思います。そういった意味で、結局財務省から日銀への天下りポストの一つととらえられてしまうということなんだろうと思います。年収が千六百万円以上、そして退職金は一千万というような、財務省にとっての大事な天下りポストだと思いますけれども、そういった余り機能していないポストについては今後も厳しく追及をさせていただきます。

 どうもありがとうございました。

金田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 きょうは、少し角度を変えまして、日本銀行券、お札の問題についてただしたいと思います。

 当たり前のことですけれども、お金を正しく数えられるということは、だれでも生活する上で絶対に必要な条件であります。視覚障害者は全国で三十九万人おられますけれども、これらの方々にとってもそれは同じだと思います。

 まず福井総裁にお聞きをいたしますが、紙幣が視覚障害者にとってもきちんと識別できるということは大変大事なことだと思いますが、総裁の基本的な見解をお伺いしたいと思います。

福井参考人 今委員から御指摘のとおり、日本銀行券というのはまさにお金そのものでございますので、国民の皆様方が安心してこれを使っていただける、そういう環境を整えていくということは日本銀行の基本的な責務だというふうに考えています。その中に目の不自由な方々がいらっしゃる、銀行券にその目の不自由な方々にも識別対応をできる限り十分備えて提供させていただくということも重要な課題であると認識をいたしております。

佐々木(憲)委員 財務省にお聞きしますけれども、二千円札が発行されましたのは二〇〇〇年の七月であります。昨年の十一月からは一万円、五千円、千円と三種類の紙幣が新たに発行されました。確かに偽造防止については高い技術を持っております。では、バリアフリーという観点からはどうかということであります。

 確認したいのは、これらの新札を発行するに当たりまして、視覚障害者の要請をどの段階でお聞きになったのか、その際、どのような要望が出されましたか、紹介をしていただきたいと思います。

浜田政府参考人 お答え申し上げます。

 目の不自由な方々の団体の方から、日本銀行券につきまして、お札につきまして御要望等は随時伺っておるところでございますけれども、今回の改刷に当たりましては、平成十四年八月の改刷発表の直後から複数の全国組織の目の不自由な方々の団体にいろいろと御意見を伺い、御協力いただき、その識別マークの形状等を決定したところでございます。

 その際、御要望といたしましては、目の不自由な方々からは、まず識別マークについて、大きくかつ単純な形状にできないか、また、凹版印刷によるインキの盛りで区別できるわけでございますが、その盛りをもっと高くできないかという御要望、またさらには、紙幣の大きさにつきまして券種ごとにもっと差をつけてほしいとの要望が寄せられたところでございます。

佐々木(憲)委員 今御紹介をいただきましたお札の長さあるいは幅について区別しやすいようにという意見、それから、色についてもこれまでのような区別しやすい色を踏襲してもらいたい、こういう意見もあったと思うんですが、これはどのように反映をされたのか、その点についてお聞きをしたいと思います。

浜田政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、識別マークの方から申し上げさせていただきたいと思いますが、識別マークにつきまして、新一万円券につきましては大きなL字形、また五千円券につきましては大き目の八角形、千円券は長目の横棒をそれぞれお札の左右の下の方に配置いたしまして、丸形と線形、そして縦方向と横方向ということで、券種の間に違いを持たせるようにいたしております。また、インキの盛りの高さを可能な限り確保するとともに、マーク自体にメッシュ状のざらつき、マーク自体に凹凸をつけるということを持たせてその触感を高めるなどの工夫を施しておりまして、技術的に可能な範囲で最大限対応したところでございます。

 なお、御指摘の紙幣の大きさについてでございますけれども、それぞれに若干の差をつけておるところではございますけれども、我が国の場合、諸外国と比べてATMあるいは自動販売機等銀行券を扱う機器が多数普及しておりまして、これらの機器に対する影響についても考慮する必要があるということで、大幅な寸法の変更は難しいということで、これら寸法以外の各種識別の対応措置について工夫いたしまして、券種間の識別をより容易にできるよう対応をしているところでございまして、御理解賜ればと存じます。

佐々木(憲)委員 そのインクの盛りですとかあるいは識別マークというものは、これはなかなかわかりにくいというのが実際に使われた方々の御意見なんです。今のお話ですと、大きさは要望にはこたえられなかったというようなことでありますが。

 日銀にお聞きしますけれども、新札が発行された後、いろいろな意見が寄せられていると思いますけれども、障害者からはどのような要望があるか、お聞かせいただきたいと思います。

岩田参考人 それでは、お答えいたします。

 昨年十一月に新しい日本銀行券を発行した後、目の不自由な方々からも識別マークの改善及び銀行券のサイズ変更等の御要望をちょうだいいたしております。

 日本銀行といたしましては、こうした御意見を十分踏まえつつ、銀行券の使い勝手を一層向上させるにはどのような方策が考えられるのか、今後とも関係当局と検討を重ねてまいりたいと思っております。

佐々木(憲)委員 そこで、お配りした資料を見ていただきたいんですが、東京視力障害者の生活と権利を守る会、東視協では、二千円札の出回りから一年を機に、二千円札を中心にアンケート調査を行っております。これは二〇〇一年十二月にまとめられたものです。その結果はそこにあるとおりでございます。

 幾つか紹介をいたしますと、識別に時間がかかる六一・四%、金額を間違う五一・五%、おつりなどが間違っていると思っても相手に言えない三〇・七%、複数回答ですけれども、領収書など他の紙片と間違う二七・七%。このように紙幣の使用に当たってバリアがある。

 それから、こういう被害も出ているんです。一万円といって千円札を渡されたと。売り上げとして受け取った中にお札と同じ大きさの白い紙が二枚入っていたと。視覚障害者同士の金銭の授受の際にもいろいろな失敗例がありまして、例えば、紙幣と勘違いして領収書を渡してしまったとか、一万円札のつもりが千円札を渡してしまった、こういう事例がたくさん出ているわけです。

 日銀や財務省にはこういう意見は届いておりますでしょうか。

浜田政府参考人 お答え申し上げます。

 ただいま委員御指摘の団体の方の御要望につきましても私ども伺っておるところでございます。

 一点だけ補足させていただければ、先ほど申し上げませんでしたけれども、高額券、新一万円券及び五千円券にはホログラムを採用しておりまして、そのホログラムによっても触覚による判別をしやすくしたところでございます。また、五千円券と二千円券との違いにつきましても、寸法の上でも、若干ではございますけれども、五千円券のサイズを変更しているところでございます。

佐々木(憲)委員 ホログラムのお話がありましたが、これも、よれよれになったお札だとなかなかわからないというんですよ。

 昨年十一月に新札が発行されたために一層混乱しておりまして、新札が発行されても旧札が廃止されずに残ります。これが新たなバリアになるということなんですね。配付した資料を見ていただきたいんですが、現在発行されている日本のお札は、表面にありますように七種類、裏面も合わせますと二十二種類のお札が使用可能な状況になっているわけです。非常に複雑なんですね。

 見てわかるとおり、新五千円札の長さ、これは百五十六ミリメートルなんです。それで、旧五千円札は百五十五ミリ、二千円札は百五十四ミリ、それぞれたった一ミリずつしか違わないわけです。たった一ミリなんです。この一ミリや二ミリの区別では長さがわからない。

 私、ここに現物がありますけれども、これは本物のお札ですが、これも今言ったように一ミリずつの違い、幅は同じなんですね、長さがほとんど変わらないわけです。ですから、例えば何回か折りますと区別がつかなくなるわけです。識別マークも、先ほど言ったようによれよれになっちゃうとわからない。中途失明者や糖尿病などで手の感覚が敏感でない方には判別できない。

 そこで、日本点字図書館では、ここにありますように、こういうお札の識別シートというのを売っておりまして、これはなかなかいいアイデアなんですが、ここに長さの段差がありまして、これをお金と合わせて、この長さに合っていればこれは一万円だとか、五千円だとかと、こういうふうに区別をするものなんですけれども。これも、つくられた当時は、かなり前につくられたんですが、そのころは一万円、五千円、千円のお札はきちんと五ミリ違いです。五ミリ違いますと、このシートがなくても当時お札の区別はできた。もともと日本のお札というのはバリアフリーだったんです。しかし、今は、先ほど言ったように一ミリ違いですからね、そのためにこのシートには一ミリ違いが表現できないんです。印がつけられないということで、余りにも差が小さ過ぎる。

 しかも、視覚障害者の方が買い物に行ったときに、レジの前でこれを出して、この識別シートを使って確認するというのはなかなか勇気が要るわけです。とてもできない、こう言われるわけですね。毎日使うお札だから、せめて手でさわっただけで違いがわかるものにしてほしい、こう言っているわけです。

 日銀総裁にお伺いしますけれども、こういう視覚障害者の方々の御意見についてどのような感想をお持ちになっておられるか、お聞きをしたいと思います。

福井参考人 銀行券は、その性格上、大量に発行されて大量に処理しなきゃいけない、ATMその他の機械にも十分円滑にこれが流通するようにつくらなきゃいけない。一方、偽造対策も万全でなきゃいけない。一方、これをお使いになられる方々の具体的な使用勝手、特に目の不自由な方々への識別判定の便利さ、こういったさまざまな要請をできれば全部満たしながらやっていかなきゃいけないということだと思います。

 技術対応の、これは刻々と進歩しておりますけれども、それは十分取り入れながら、この三つのバランス、できれば三つとも追求するということで今後とも工夫を重ねていく以外にないと思いますが、おっしゃるとおり、大きさなんかについて一ミリの差というのは小さ過ぎるではないかと言われると、それはそのとおりかもしれないと私も思います。今後の工夫の余地がある点だというふうに思っております。

佐々木(憲)委員 ATM対応あるいは自動販売機、これは今これから御紹介しますけれども、例えばヨーロッパのユーロ、これは大きな違いがわかるわけですが、そういうもので結構進んでいるわけです、対応ができているわけです。今これをお見せしますけれども、資料を見ていただければわかりますように、ヨーロッパを中心とするユーロ紙幣は二〇〇二年一月一日に発行されまして、ユーロにおけるバリアフリーは徹底しているんですね。ここにあります。これは幅と長さというのは明確に違うわけです。それから、色もこういうふうにはっきりと違うわけです。

 ユーロ紙幣は、五ユーロから百ユーロまでのお札は縦が五ミリ、横も六ミリから七ミリずつ大きさが違うんです。二百ユーロと五百ユーロは長い方だけが六ミリから七ミリずつ違う。これでもATMで紙幣をきちっと扱っているわけです、扱えるわけです。色でもはっきり区別できまして、弱視の方やお年寄りにも判別しやすいものになっている。しかも、偽造防止もきちんと施されているわけです。この色の違いをそこに、もう時間がありませんから一々紹介しませんけれども、例えば五ユーロはグレー、十ユーロは赤、二十ユーロは青、五十ユーロはオレンジ、百ユーロは緑等々、はっきりと区別がされているわけです。これは、当然、今後ともこういうものも参考にすべきだと思いますけれども、財務省の見解をお聞きしたいと思います。

浜田政府参考人 お答え申し上げます。

 銀行券につきましては、国民の皆さんすべてが日々の生活において使用するものでございますので、各券種間の識別が容易であることが望ましい、当然でございますので、今後とも引き続き印刷局あるいは日本銀行と相談しつつ、障害者の方々の立場も考えた、よりよい銀行券をつくるよう努めてまいりたいと考えておりますが、一点だけ技術的な問題といたしまして、私どもの把握しておるところでは、ユーロ圏でも自動販売機はもちろんございますけれども、ユーロにおきますいわゆるATMは、ほとんどが出金のみの、お金が出てくるだけのキャッシュディスペンサーであるということ、あるいは自動販売機も、仄聞する限りではお札が使える自動販売機がユーロ圏においては日本よりも非常に少ないのではないかと伺っておりまして、その辺まだ技術的な検討の余地がいろいろあろうかと思っております。

佐々木(憲)委員 もちろん、もう時間がないから終わりますけれども、ユーロそのものを丸々まねなさいと言っているわけじゃありませんで、こういうものを参考にして、ATMも使えるような紙幣で、先ほど総裁がおっしゃったように、ATMも使える、偽造防止にも役立つ、そしてすべての視覚障害者が識別が明確にできるような、そういう紙幣を開発するというのが本来の役割だろうというふうに思います。

 二千円札については触れませんでしたけれども、障害者の方々は二千円札に対する批判が非常に強いんです。つまり、もうこれはやめてほしいと。この二千円札自身も流通がほとんどないですよね。今一生懸命……(発言する者あり)形も色も間違えるという話がありますけれども、これは二〇〇〇年九州・沖縄サミットの記念紙幣として残して、発行は凍結する、このぐらいの決断をしないと国民にとってよろしくないんじゃないかと思いますが、それは意見として申し上げまして、終わらせていただきます。ありがとうございました。

金田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時三十三分散会


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