衆議院

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第27号 平成23年7月13日(水曜日)

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平成二十三年七月十三日(水曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 石田 勝之君

   理事 泉  健太君 理事 大串 博志君

   理事 岸本 周平君 理事 古本伸一郎君

   理事 鷲尾英一郎君 理事 竹下  亘君

   理事 山本 幸三君 理事 竹内  譲君

      相原 史乃君    網屋 信介君

      五十嵐文彦君    石井登志郎君

      磯谷香代子君    今井 雅人君

      江端 貴子君    小野塚勝俊君

      大山 昌宏君    岡田 康裕君

      柿沼 正明君    勝又恒一郎君

      木内 孝胤君    小室 寿明君

      小山 展弘君    後藤 祐一君

      近藤 和也君    菅川  洋君

      空本 誠喜君    玉木雄一郎君

      豊田潤多郎君    中塚 一宏君

      中林美恵子君    三村 和也君

      水野 智彦君    皆吉 稲生君

      柳田 和己君    山崎 摩耶君

      和田 隆志君    今津  寛君

      齋藤  健君    徳田  毅君

      野田  毅君    村田 吉隆君

      茂木 敏充君    山口 俊一君

      斉藤 鉄夫君    佐々木憲昭君

    …………………………………

   財務大臣         野田 佳彦君

   国務大臣

   (金融担当)       自見庄三郎君

   財務副大臣        五十嵐文彦君

   農林水産副大臣      篠原  孝君

   内閣府大臣政務官     和田 隆志君

   政府参考人

   (東日本大震災復興対策本部事務局次長)      上田  健君

   政府参考人

   (内閣府大臣官房審議官) 小田 克起君

   政府参考人

   (内閣府大臣官房審議官) 鈴木 明彦君

   政府参考人

   (金融庁監督局長)    畑中龍太郎君

   政府参考人

   (総務省大臣官房審議官) 滝本 純生君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 宮島 昭夫君

   政府参考人

   (文部科学省大臣官房政策評価審議官)       田中  敏君

   政府参考人

   (厚生労働省医薬食品局食品安全部長)       梅田  勝君

   政府参考人

   (厚生労働省社会・援護局長)           清水美智夫君

   政府参考人

   (経済産業省大臣官房審議官)           朝日  弘君

   政府参考人

   (資源エネルギー庁電力・ガス事業部長)      横尾 英博君

   政府参考人

   (資源エネルギー庁原子力安全・保安院審議官)   黒木 慎一君

   政府参考人

   (中小企業庁事業環境部長)            伊藤  仁君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房審議官)           西川  健君

   政府参考人

   (環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長)   伊藤 哲夫君

   参考人

   (日本銀行総裁)     白川 方明君

   参考人

   (日本銀行副総裁)    山口 広秀君

   参考人

   (日本銀行審議委員)   白井早由里君

   参考人

   (日本銀行審議委員)   石田 浩二君

   参考人

   (日本銀行理事)     山本 謙三君

   参考人

   (日本銀行理事)     田中 洋樹君

   参考人

   (日本銀行理事)     雨宮 正佳君

   財務金融委員会専門員   北村 治則君

    ―――――――――――――

委員の異動

七月十三日

 辞任         補欠選任

  今井 雅人君     大山 昌宏君

  柿沼 正明君     磯谷香代子君

  木内 孝胤君     石井登志郎君

  菅川  洋君     空本 誠喜君

  松原  仁君     水野 智彦君

  柳田 和己君     相原 史乃君

  和田 隆志君     皆吉 稲生君

同日

 辞任         補欠選任

  相原 史乃君     小室 寿明君

  石井登志郎君     木内 孝胤君

  磯谷香代子君     後藤 祐一君

  大山 昌宏君     今井 雅人君

  空本 誠喜君     菅川  洋君

  水野 智彦君     山崎 摩耶君

  皆吉 稲生君     和田 隆志君

同日

 辞任         補欠選任

  小室 寿明君     柳田 和己君

  後藤 祐一君     柿沼 正明君

  山崎 摩耶君     松原  仁君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 財政及び金融に関する件

 財政及び金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

石田委員長 これより会議を開きます。

 財政及び金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 両件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁白川方明君、副総裁山口広秀君、審議委員白井早由里君、審議委員石田浩二君、理事山本謙三君、理事田中洋樹君、理事雨宮正佳君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として東日本大震災復興対策本部事務局次長上田健君、内閣府大臣官房審議官小田克起君、大臣官房審議官鈴木明彦君、金融庁監督局長畑中龍太郎君、総務省大臣官房審議官滝本純生君、外務省大臣官房参事官宮島昭夫君、文部科学省大臣官房政策評価審議官田中敏君、厚生労働省医薬食品局食品安全部長梅田勝君、社会・援護局長清水美智夫君、経済産業省大臣官房審議官朝日弘君、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長横尾英博君、原子力安全・保安院審議官黒木慎一君、中小企業庁事業環境部長伊藤仁君、国土交通省大臣官房審議官西川健君、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長伊藤哲夫君の出席を求め、説明を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小山展弘君。

小山委員 政務三役の皆様並びに日本銀行審議委員の皆様におかれましては、連日の御公務、復興への御尽力、大変お疲れさまでございます。心より敬意を表します。

 それでは、早速質問に移らせていただきたいと思います。

 まず、今、国債、あるいは復興財源として復興債といったことも議論されておりますが、こういった国債の日銀引き受けについて、非常時であり、またデフレ脱却のために必要であるとの意見がございますが、これについて、日本銀行審議委員の、本日お越しいただいている白井審議委員、石田審議委員の御見解を伺いたいと思います。

白井参考人 小山先生の御質問にお答えいたします。

 日銀の引き受けに関しましては、その趣旨はよく理解しております。

 私は、審議委員になる前は、大学で国際金融、国際経済を専門としておりましたけれども、その経験から踏まえまして、やはり中央銀行の国債引き受けというのは望ましくないというふうに見ています。

 例えば、欧州も私は専門としておりますけれども、EUの基本法では明確に禁止していますように、主として先進国を中心としてこういう引き受けというものは禁じているということからもわかりますように、日本が今非常に大変な時期であることはわかっております。しかし、大変な時期だからこそ、やはり世界、マーケットの視点もありますし、むしろそういったところで信認を確保していくということが重要だと思っておりますので、私自身としては、やはりそういうことはくみしないという立場をとっております。

 失礼します。

石田参考人 お答えいたします。

 本件に関しましてはいろいろな意見があることを承知しておりますが、私、つい先月末まで民間金融機関におりましたので、そういう視点からひとつ、マーケットがどういうふうに反応するのか、あるいはマーケットから見てどうなのかという観点から申し上げたいと思います。

 押しなべて、外国で、中央銀行の国債引き受けはやってはならない、あるいはやらないということになっておりまして、その実例もないわけでございます。そこで、我が国も、今までは、いわゆる借換債を除きまして、やっていないということでございまして、慣行が確立して、マーケットの参加者も、そういうものだということで理解しているものと思います。それをあえてやりますと、市場での消化が困難なために日銀に引き受けさせるんだというような理解がマーケットになされるおそれが強いのではないかと懸念いたします。

 そういたしますと、格付機関初め、その他のマーケットの参加者がマイナス方向に反応するというのは避けられませんので、せっかく安定している我が国の国債の市場、マーケットを不安定化させるような可能性のあることについては避けていくべきであろう、そう思いますので、私は避けるべきだと存じます。

 以上でございます。

小山委員 それでは次に、いわゆる二重ローン問題について質問いたします。

 私は、民主党内の二重ローン対策プロジェクトチームの一員として五月より取り組んでまいりましたが、本日は一議員として質問させていただきたいと思います。

 まず、基本的な言葉の使い方として、私は、二重ローンという言葉でこの問題を形容したことがそもそも間違っているのではないかと考えております。

 二重ローン問題は、今回の地震を機に廃業したり債務整理する人にとってはその問題は発生しない、新たに事業再生をするために借り入れをして初めて発生するというような発言もありますけれども、そうではなくて、やはりこの問題の本質はあくまで被災債権、被災債務の発生であり、債務者から見れば、ある日突然天災によって借金だけが残ってしまい、また金融機関にとってみれば、ある日突然天災によって返済困難な貸出金が大量に発生したということでございます。

 私は、三月から、債権買い取り機構等を創設し被災債権を買い取って長期に返済を棚上げするなどの解決策を、これは金融機能強化法もできる前ですけれども、申し上げてまいりましたが、さて、住専処理においては、全く状況や論理が違うとはいえ、もうけや利益追求の失敗のために、金融機関の債権放棄があったとはいえ、六千八百五十億円もの公的資金が注入されました。

 今回については、千年に一度、まさに市場経済ができる前から考えての大震災である上、もうけ話に欲がくらんだわけでもなければ事業に失敗したわけでもないのに、突然借金だけ残っちゃった。被災債権は、いろいろ業界団体へのヒアリング等によると大体七千億円程度と見込まれておりますけれども、国は、今回の二重ローンの問題の解決に予算措置としてどの程度を見込んでおりますでしょうか。これまでの取り組み状況等とあわせ、お答えいただきたいと思います。

五十嵐副大臣 小山委員にお答えをいたします。

 これまでの御努力を多としたいと思います。

 まず、金融危機の際の債権放棄に対する公的資金の注入について触れられましたけれども、あれはあくまでも金融システムの維持と預金者の保護のために行ったということで、性質が少し違うのかな、こういうふうに思うところでございます。

 それから、今お尋ねの点でございますけれども、まず、これまでに行った政府の対応について御説明をいたしますが、震災で被災された事業者、企業の既存のローンにつきましては、金融機関において、被災者からの返済猶予等貸し付け条件変更のお申し込みに積極的に対応するようにということで、政府としても協力をしているということだろうと思います。

 また、一次補正におきまして、中小企業や農林水産業者への実質無利子となる貸し付けを行うなど金融支援制度を措置しておりまして、これをこれからも積極的に活用してまいりたいということでございます。

 それから、今問題になっていますいわゆる二重債務問題でございますけれども、六月の十七日に、政府として二重債務問題への対応方針を決定いたしました。現在、その中身について三党の協議を経まして、その一次合意を盛り込みまして、中小企業向けの相談窓口の強化など関連予算措置七百七十四億円になりますけれども、これを二次補正に盛り込んだところでございます。

 この問題に関しては、関係省庁とよく連携をしながら、内閣全体としてしっかりと取り組んでまいりたいと思っておりますし、また、その税務上の対応なども、今国税庁で鋭意詰めているところでございます。

小山委員 今回は、この大震災によって大量の被災債権、また、返済がかなり困難と思われる貸出金の発生が当然予想されているわけですけれども、この被災地域の金融機関には、膨大な債権の管理等に関する事務負担がかかることが予想されます。とりわけ協同組合金融機関は、組合員やあるいは密着する地域に対して、事業に失敗したからといってすぐに撤退するということがなかなか機械的にできるようなものではないということもございます。

 こういった中で、一部の金融機関からは、後ろ向きの債権の管理、整理に時間をとられ、本来の復興に関する経営改善計画を立てたりとか、そういった前向きな資金やコンサルタント的機能を発揮できないんではないかというような懸念がございます。こういった事務負荷に、信金やあるいは農協さん、漁協、JFマリンバンクが耐え切れるのか、監督官庁の認識を伺いたいと思います。

自見国務大臣 小山先生にお答えをさせていただきます。

 事務負担に耐えられるのかという話でございますが、今は特に信金、信組を例にされて言われたわけでございますけれども、みずからも被災者としてのさまざまな困難を抱える中、こういった信金、信組、事務量に応じた人員の配置のほか、御存じのように、中央機関が信金、信組にはございますから、中央機関からの応援要員の派遣等の支援を得ながら復旧復興に向けて総力を挙げて取り組んでいるものと承知をいたしております。

 また、コンサルタント機能はいかに、こういう話でございますが、金融庁では、東日本大震災による中小企業等による影響を踏まえて、金融機関に対し、コンサルティング機能を発揮しながら、特に先生、今さっき言いましたように、中小企業金融円滑化法案、これは全党一致で延長させていただけたわけでございますけれども、この中でも、特にコンサルティング機能を充実しなさい、こういったことを盛り込ませていただいた後に、実はこの震災が来たわけでございます。そういったことを、しっかりコンサルティング機能を発揮しながら、適切かつ積極的な金融仲介機能の発揮に努めてまいりたいと思っています。

 また、今先生がお触れになりました金融機能強化法も、これもおかげさまで全会一致で通ったわけでございますから、こういったことも適時適切に、金融機能、仲介機能を高めるわけでございますから、当然、自己資本を増強するのは、これは自由主義の国でございますから、あくまで民間経営者の判断によりますけれども、先生御存じのように、もし判断によって自己資本をふやしたいということであれば、それは、そういうことをチョイスできるという法律をつくらせていただいたわけでございます。

 そういったことを踏まえて、被災地の信用金庫、信用組合、こうした要請も踏まえて、被災した顧客の避難先への相談窓口を設置、被災者向けの専用ローンの取り扱い、これは、被災地に約三十行ほど、信金、信組、労働金庫があるとお聞きしておりますが、約八〇%のそういった店で、金利優遇と申しますか、新規でございますけれども、低い金利の貸し出し、専用ローンの取り扱いをやっている、あるいは、復旧支援のためのプロジェクトチームの立ち上げなどをやっておるというふうにお聞きいたします。

 いずれにいたしましても、信金、信組、被災地の実情に応じてコンサルティング機能を発揮し、被災地の生活再建、事業再建のために、資金需要にも応じられるよう、体制整備を図っているものと承知しております。

 金融庁といたしましては、こういった取り組みを通じて、信金、信組を初め金融機関が復旧復興に向けて積極的な役割を果たしていくことを期待いたしております。

篠原副大臣 農協、漁協については私の方からお答えします。

 おわかりいただけると思いますけれども、漁協が海の近くにありますので、三漁協、三十一店舗が被害を受けております。それから農協も、九農協、二十八店舗、合計六十店舗がもう使えなくなっております。

 みずからも被災しておりますけれども、そうした中、震災直後から通帳を失った人たちに対する貯払い、それから休日、時間外の対応等について、組合員、利用者に対して、先ほど小山委員が御指摘になったように、きめ細かな対応をせざるを得ないので、そういうことを一生懸命やってきておるところだと承知しております。

 それから、全体でですけれども、農協、漁協、協同組合という相互扶助の理念がございます。ですから、農林中金、中央金融機関からも、相談窓口の対応とか、通帳等をなくして、カードをなくして再発行というのに膨大な業務が生じておりますので、何百人の単位で人的支援をしてまいりました。

 それから、今後の復興に向けてでございますけれども、やはりそうした人的支援を続けなければいけないということで、各県に復興プロジェクトチームをつくりまして、支援を続けていくということでやっておるところでございます。

 それから、このほかでございますけれども、業務が大変で、事務負担が大変なんだ、それを考慮しているのかという御質問でございましたけれども、それは考慮しております。金融庁と相談いたしまして、四月七日に金融庁と農林水産省の担当課長名で同じように通達を出しまして、いろいろな提出期限がございます、そういった提出期限の延期、それから報告内容の簡素化等、事務の簡素化ができるように特例措置を講じているところでございます。このような措置を今後とも続けてまいる所存でございます。

小山委員 今お話もございましたが、かなり大きな事務負担がこれから、多分、今後発生してくると思います。こういったものに対して全国からの支援というものもあろうかと思いますし、また、退職者の再雇用といったようなことも考えられると思いますが、こういった金融機関への事務負担に対する支援ということも今後検討をしていただければと思います。

 また、今、金融機能強化法の話が出ましたが、金融機能強化法は成立しております。しかしながらもう一方で、イコールフッティングを確保するための信用事業再編強化法がまだ通過していないというような状況でございますので、一議員として、この信用事業再編強化法の一刻も早い成立を心からこいねがうものでございます。

 また、このような返済不能資金に関する事務負担からも、実は、債権買い取りを行って、そうした債権管理についてはそちらの買い取り機関で行うということの方が望ましいのではないかということも考えられますけれども、二重債務問題への対応策として、新しい機構を創設し、被災事業者の債権買い取りを行うことについて、この買い取りの対象となるのは、津波なんかによって被害を受けた固定資産に見合う設備資金とか、あるいは在庫に見合う運転資金に関係する債権に限られるのか、あるいは人件費なども含む運転資金についても買い取りの対象となるのか、現在のところの検討状況等を伺いたいと思います。

伊藤(仁)政府参考人 先生にお答えいたします。

 二重債務問題の対策の一環として新たに設置します機構でございますけれども、旧債務の負担により新規融資を受けることが困難となっている事業者に係る旧債権をこの機構が買い取ることによって新規融資を可能として、迅速に再建を促進するというものでございます。

 先生の御趣旨でございますけれども、この機構の買い取る対象となっている債権につきましては、設備などに係る債権、それから運転資金に係る債権で区別するものではないと考えているところでございます。

小山委員 次に、連帯保証人制度について伺いたいと思いますが、今準備をされている私的整理ガイドラインではどのような方針でこの連帯保証人の問題に対応するのか。また、私的整理によらずに破産等の公的債務整理によった場合、連帯保証人への追及というものは緩和されないのか。そうすると、私的整理ガイドラインと公的な債務整理の場合で差が生じてしまうようになると思うんですが、公的な債務整理を行う場合に、例えば連帯保証人への追及を緩和するようなそういった指導も行うことができないのかどうか、お尋ねしたいと思います。

畑中政府参考人 お答えを申し上げます。

 被災者でありますところの住宅ローンを借りておられます個人、あるいは事業性ローンを借りておられます個人事業主、こういった方々に対しまして金融機関が債務免除を行いやすい環境を整備するということは大変重要でございまして、政府が六月十七日に公表いたしました対応方針におきましても、この私的整理ガイドラインの策定が盛り込まれているところでございます。

 現在、全国銀行協会事務局といたしまして、金融界、中小企業団体、法曹界、学識経験者等で構成されます個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会が発足をいたしまして、鋭意協議が行われているところでございます。

 お尋ねの、連帯保証人の保証債務につきましても、ここでの大変重要なテーマの一つだというふうに伺っておりまして、方向性といたしましては、主債務者が通常想定される範囲を超えた災害の影響により主債務を弁済できなくなった、今回そういうことでございますが、こういった事情を踏まえた保証履行のあり方について検討中ということでございます。できるだけ早く成案をまとめていただきたいと考えております。

 それからもう一つ、公的債務整理につきましては、これは法務省の御所管だと思いますので余り差し出がましいことを申し上げるつもりはないんですけれども、この保証人というのは、民法に基づいて、いわゆる民間と民間の私的自治の範囲内で契約に定められたいわゆる人的担保、その徴求でございますものですから、当局の指導によりまして金融機関による連帯保証人への保証履行請求を一律に禁止するということは、債権者の権利の侵害となり得るということでございますので、基本的には困難であると考えております。

小山委員 今回は千年に一度と言われるような大災害であり、また、幸運にも今回被災を免れた、そこに連帯保証の追及というような形で来て、せっかく免れたにもかかわらず自分も自己破産してしまう、主債務者でもないのに破産してしまう、そういったようなこともこれから想定され得るものですから、この連帯保証人の問題については今後も取り組んでいかなければいけないと思いますし、場合によっては立法措置も必要ではないか、連帯保証人への債務の追及緩和ということをやっていかなければいけないと思っております。

 次に、宮城県での特区構想についてお尋ねさせていただきたいと思います。

 この特区構想の中で、従来の漁業権制度を大幅に変更するようなことが検討されていると報道されておりますけれども、とりわけ、被災した漁業者の方も含めた地元の漁業関係者は大変な反発をしております。地元の漁業者がここまで反発しているものに対して、震災復興を名目に制度改革を行っていくというのは適当ではないのではないか、むしろ、原状復旧をまず急務と考え、力を合わせて、心を一つにして復興していくということが大事ではないかと私は思いますが、これについての認識を伺いたいと思います。

上田政府参考人 御答弁申し上げます。

 復興構想会議の提言におきまして、漁業の再生のために、必要な地域では、漁業者と民間企業との連携促進のために特区手法を活用すべきだというふうな御指摘がされております。これから特区の制度を具体化していくに当たりましては、これも含めまして、このような提言を尊重する方向で進めていくというのが基本的な考えでございます。

 一方、漁業権につきましてですけれども、御指摘のように長い歴史があるということで、一定の秩序を踏まえた上での体系になっているということは承知をいたしておりますし、これを変えるに当たりましては、その地域のさまざまな事情等もしっかり踏まえる必要があるというふうに考えておるところでございます。

 いずれにいたしましても、特区制度というのは地域の振興のために措置しようというふうに考えているものでありますので、地域の合意が大前提として不可欠であるというふうに考えております。このため、特区制度を実現、実施するということになります段階で、国としても、調整が必要だということであればその調整に努めていくという考えでおるところでございます。

 以上でございます。

小山委員 次に、二重ローンに関連しまして、新債務の負担軽減という観点から、激甚災害指定制度に関することで質問したいと思うんですけれども、激甚災害指定制度では最大九〇%までの補助が可能ですが、これは、同じ場所に同じ機能を持つ同じ施設を建てる場合に使う、災害復旧が原則となっています。しかしながら、地盤沈下であったりとか津波によって非常に大きな被害を受けて、同じ場所に原状復帰することができないというような場合には、そういうケースには対応できない。つまり、この制度というものは、津波被害というものをもともと想定していないのではないかと考えられるわけでございます。

 この制度全体についていいますと多省庁にまたがってしまいますので、本日は、被害の大きかった農林水産業に限定してお尋ねしたいと思いますが、農業共同施設、漁業共同施設が地盤沈下や津波などの被害を受けて、もとの場所に復旧できない今回のような震災の場合、どのような対応策を考えておられますでしょうか。

篠原副大臣 小山委員御指摘のとおりでございまして、農協や漁協が一番被害を受けております。被害額でいいますと、今わかっているだけでも、漁協の施設は、約千三百五十件、七百四億円に上ります。それから、農協は、約千件で百二十九億円でございます。

 農林水産業共同利用施設災害復旧事業というのがございます。この復旧事業は、原則は、もとの場所で原形復旧というのにしておりますけれども、地盤沈下や津波により、とてもじゃないがもとの場所には建てられないという事情はよくわかりますので、別の場所において、もとと同じような施設をつくるのも対象にしております。

 それから、農業者自身も共同利用施設をたくさん持っておりまして、こちらの方も被害は甚大でございます。これに対しては、東日本大震災農業生産対策交付金というのがございまして、こちらの方は、もとの場所にはできないところがいっぱいあるだろうということで、もともと、移転も含めて、再編整備も含めて、柔軟に対応できるように措置しているところでございます。

小山委員 政府の取り組みには敬意を表するところでございます。

 ただ、激甚災害指定制度に比べますと、かなり自治体やあるいは本人負担というものも重くなるかと思われます。内陸なんかに移転する場合に、必ず同じものを建てるわけではないかもしれないですけれども、激甚災害指定制度の枠を広げることなども検討すべきではないかというふうに考えます。

 次に、お茶の風評被害について伺いたいのですが、これは、セシウムが全国各地に飛んだということから原発の被害が出ておりますけれども、政府としてどこまで賠償の対象とする見込みなのか、風評被害にもしっかりと対応していただけるのか、お伺いしたいと思います。

田中政府参考人 御指摘がございました原子力損害賠償につきましては、現在、原子力損害賠償紛争審査会が、被害者の方々を可能な限り早期に救済するということで、相当因果関係が明らかなものから順次指針ということでつくってございます。

 先生御指摘のお茶につきましては、これまで一次、二次という指針で出てございまして、政府等による出荷制限指示が出された場合、この指示に係る生産者の方の減収、これは損害の対象になる、あるいは、当該地域で産出されたお茶を仕入れた流通業者の方が販売等の断念を余儀なくされたことによる損害、これにつきましても賠償の対象になるということは一次指針で示されているところでございます。

 それ以外のもの、いわゆる風評被害ということであろうと思いますけれども、これは、第二次指針で食用農産物が対象となった地域、具体的には二十三年四月までのことで二次指針ができてございますものですから、福島、茨城、栃木、群馬そして千葉県の一部でございますけれども、そういう地域のお茶の生産者の方の被害につきましては賠償の対象となってございます。

 それ以外については、これまでの一次、二次の指針の対象ということにはなってございませんけれども、この対象となっていない被害につきましては、今現在、七月末を目途に原子力損害の範囲の全体像を中間指針として取りまとめていただきたいというふうに考えてございまして、その中で種々検討が行われるというふうに承知してございます。

小山委員 次に、静岡県の御前崎市にあります静岡県温水利用研究センターのことについてお尋ねしたいと思います。

 これは、浜岡原発の温排水の余熱を利用して稚魚のふ化などを行って、海に放流し、水産資源の管理、回復に貢献している施設でございますが、これが浜岡原発の急な運転停止により余熱利用が困難となりまして、クエなどの一部魚種について、施設でのふ化、養殖に支障が出ることが既に懸念されております。国の決定によって操業に大変著しい影響が出るわけですから、国が積極的に対応すべきと考えておりますが、現時点での国の支援策について御答弁を願います。

横尾政府参考人 今委員御指摘の、静岡県の温水利用研究センターの養殖事業でございますが、浜岡の原子力発電所から送られる自然の海水と温排水を利用して実施する大変重要な事業であるというふうに考えております。

 今般、浜岡原子力発電所全基運転停止に伴いまして、発電所からの送水が困難になるということで、静岡県からも要望書をちょうだいしておりますし、具体的な対応策を今、県当局、同センター、それから中部電力で検討されているというふうに伺っております。

 私どもとしては、地元の方々の具体的な要望を踏まえながら、関係者と調整をして、支援の具体的な方策を検討してまいりたいというふうに考えております。

小山委員 以上で質問を終わらせていただきたいと思います。どうも御答弁ありがとうございました。

石田委員長 次に、斉藤鉄夫君。

斉藤(鉄)委員 公明党の斉藤鉄夫でございます。

 早速、質問をさせていただきます。

 まず、野田財務大臣に質問させていただきます。復興財源についてでございます。

 昨日、与謝野大臣が復興財源に言及されまして、これは新聞記事ですけれども、償還財源について、一つ二つの税に偏ったものではなく、広く薄く、いろいろな税から少しずつ拠出をお願いする形がとれないかと思っている、このように発言されております。そしてその後、消費税の扱いについて、消費税は社会保障に充当するため残した方がいいとの意見もあるし、復興に限って前倒しして税率引き上げができないかとの意見も出てくるのではないか、このように与謝野担当大臣は発言をされております。

 一方、野田大臣は、この財源について、復興の基本方針を今月中に定める中で、あわせて財源をどうするかという議論になるが、まだ一度も議論していないことなので、現段階で定まったことを言うのは適当ではないということで、新聞の見出しには「八月以降に本格検討」、こういう新聞の見出しになっておりました。

 野田大臣と与謝野大臣の発言の方向性が少し違うように感じます。内閣不一致だと言って騒ぐ気はありませんけれども、このことを、また与謝野大臣の発言を野田大臣はどのように考えていらっしゃるでしょうか。

野田国務大臣 お尋ね、どうもありがとうございます。

 基本的に、結論から申し上げると、閣内不一致ということではございません。私が申し上げたのは、本格的な復興予算、第三次の補正をつくっていくに当たりまして、まずは、復興構想会議から出てきた提言を踏まえて、今、基本方針を取りまとめる作業をやり始めたところでございまして、今月中にその基本方針を定めることになっています。その基本方針の中に、復興財源のあり方についてもあわせて検討していくことになりますが、いわゆる第三次の補正予算の準備、編成というのはその後という意味で、八月以降ということを申し上げたということでございます。

 与謝野大臣については、現段階における関係閣僚のお一人として、財源のあり方について御意見を開陳されたんだろうと思います。広く薄く、償還期間をどう置くかによりますけれども、なるべく痛税感のないようなやり方がないのかということを念頭に置かれた、関係閣僚のお一人としての現段階における御見解だというふうに受けとめております。

斉藤(鉄)委員 それでは、野田大臣は関係閣僚の一人としてこの復興財源についてどのようなお考えなのか、お伺いしたいと思います。

野田国務大臣 私のベースラインは、各党の御協力によって今般成立した復興基本法の八条そして九条、これが基本だというふうに思っています。要は、復興の財源、その償還の道筋等々をしっかりとあらわして透明化をしていく。こういう中で、歳出歳入両面からしっかりと見直しをしていくということが基本でございます。

斉藤(鉄)委員 それはよくわかるんですけれども、例えば、消費税について、また償還財源についてはそのほかの具体的な税項目について、先ほど与謝野大臣がおっしゃったのと同じようなレベルで何かお考えがあれば、財務大臣としてのお考えを聞かせていただきたいということです。

野田国務大臣 与謝野大臣も、具体的な税目についてはお話しされていないと思います。消費税についてはどう考えるかを両面から御指摘されていますけれども、具体的な税目はお話しされていません。私も、今、定まった形で具体的な税目を硬直的に考えているというわけではございません。

斉藤(鉄)委員 私ども公明党は、償還財源として消費税を充てるのはいかがなものかという考え方を基本的に持っております。これに対しては野田大臣、どのような御感想をお持ちでしょうか。

野田国務大臣 税と社会保障の一体改革の中で、消費税をもって将来の社会保障給付に充てていくということを定めておりますので、消費税の基本的な役割というのは一体改革の中での位置づけられているものであるというふうに私も承知をしております。

斉藤(鉄)委員 この議論は、きょうはこの程度にしておきたいと思います。

 次に、自動車損害保険、今回の震災で四十万台の自動車が被災をされたと言われております。

 私、五月十一日の本委員会で、この自動車保険を取り上げました。自動車保険ですけれども、地震、噴火、津波特約を附帯しておけばリスクは保障されるわけですが、基本的に保険会社に地震と自動車の損壊に関するデータが余りなくて、この特約を積極的に販売してこなかったということもあって、非常に限られていた。家屋ですと、ちゃんと特約をつけておけば、台風や地震、津波に関しても保険がおりる。その場合は、細かいことは抜きますけれども、政府が半分援助するという仕組みになっております。

 今回も、台風や水害被害では車両損害は補償されるのに、地震、津波に関して免責になっていてびっくりしたという声もたくさん来ておりまして、そのことを質問させていただきました。和田政務官がそのとき答弁をしていただきましたけれども、そのときに、今後検討するという御答弁でした。

 その検討状況がどうなっているのか。また、新聞情報によると、民間保険会社でも検討が始まったというような記事もございました。検討状況をお知らせ願えればと思います。

和田大臣政務官 斉藤委員にお答えいたします。

 今おっしゃったとおり、五月にやりとりさせていただいた後、私どもでも検討させていただきました。

 状況として、少しだけ繰り返させていただくと、この自動車に関する保険特約につきましては、やはり地震、津波等は、発生する頻度は自動車事故に比べればはるかに低く、しかし、発生すれば巨大な災害になるといったことで、民間自体、この引き受けには非常に慎重姿勢をずっと続けてまいりました。しかし、おっしゃったとおり、今回の大震災は国民の皆様方にも相当大きな意識を呼び起こしたようでございまして、やはりそうした自動車の地震、津波特約に対するお声は高まっているという認識が世間にも随分あるようだということは確認できました。

 そのため、いろいろ民間の保険会社の方にも、私どもから問題意識を働きかけまして、今現在、検討状況として申し上げれば、まずは民間の引き受けでできる範囲で始めてみようということで、今申し上げたような背景があればこそなんですが、自動車に乗っていらっしゃった方々が、津波で流された後、そのまま前の車をお乗りになるということを仕組みの前提にすると、相当な保険料を払っていただかないといけないということになってまいります。今、家屋については地震保険がございますが、それの加入状況もまだまだ、たしか三割、四割程度だったと思うんですけれども、そういった保険料との見合いで加入がどれだけ進むかということもこの問題の大きな論点だと思います。

 そういったことから、まずは最低限、津波で車が流された後、乗る車がないという状況だけは回避しなければいけなかろうということで、現在、民間で、おっしゃったとおり、ある程度発表もしましたけれども、来年一月をめどに始めようとしている保険の内容は、地震や津波で持っていた車が全損となった場合に五十万円という定額の保険金を支給する。つまり、乗っている車が、いろいろなレベルはございましょうけれども、五十万円あれば当座乗る車を確保する資金として考え得るのではないかといったところまでを考えております。

 当然のことながら、車両保険の延長線上にある概念でございますので、車両保険のカバーする保険金が五十万円より下回る場合にはその金額が上限になりますけれども、今まで乗っていた車をそのまま補償するのでは保険料が高過ぎるということから、保険料はたしか一年五千円の見当で今考えているようでございますが、そういったところで国民の皆様方のニーズがどれほど出るだろうかということを考えていくというところまで来ているところでございます。

 もう少し敷衍して申し上げれば、あのとき斉藤委員から御質疑のあった内容は、地震再保険のような仕組みが国の、要するにバックアップとしてとれないものかという問題意識もお述べになっていただきました。そういったことも当然将来的な課題とは思っておりますが、まず、先ほど申し上げたように、乗る車を最低限確保するという意味合いの保険料の方が国民の皆様方に入り口として入っていただきやすいであろうということから、そこから始めさせていただきたいと考えています。

斉藤(鉄)委員 よくわかりました。

 将来的には家屋の保険のように国が何らかの形で関与するということも今検討している、こういう理解でよろしいでしょうか。

和田大臣政務官 明らかに検討課題と登録するまでにはまだ熟度が低いと思いますが、国民の皆様方が今申し上げたところからさらに一歩踏み込んで、やはり乗っていた車に乗りたいんだといったところまでニーズが高いというふうに判定されるときには、恐らく家屋と同じで、要するに、今まで住んでいた家にそのまま住もうと思えば、国の再保険システムがなければ民間の引き受けられる領域ではないというふうに思います。そこのところは国民ニーズを見定めた上でということでお答えさせていただきたいと思います。

斉藤(鉄)委員 わかりました。

 もう一つ、自動車関係で、一昨日、総務大臣が福島市内で発表されたんですけれども、東京電力福島第一原子力発電所事故による避難者らを対象に、自動車税、軽自動車税、固定資産税、それから都市計画税などの地方税を減免することとなったというふうに伺いました。

 四月の大震災対応の地方税第一弾に続く第二弾の特例措置でございますが、今回は原発事故被災に焦点を当てた措置として大変重要な対応でございますので、私も党の原発災害対策本部長をしておりますが、ここで総務省から簡単に御紹介をいただきたいと思います。

滝本政府参考人 お答え申し上げます。

 東日本大震災への地方税制上の対応でございますが、地震、津波等によります被災者の負担軽減を図る観点から地方税法を一部改正しまして、自動車あるいは不動産関係税などを中心に特例措置を講じているところでございます。これは四月の二十七日に公布、施行されております。

 しかしながら、自動車、不動産関係税に関しましては、資産の滅失、損壊等を要件としているために、原子力災害による避難区域等にある資産で滅失、損壊には至っていないものについては、特例措置の対象となっていない状況にございます。

 このため、今回、原子力災害の特殊性を考慮しながら、東日本大震災の原子力災害に対処するための特例措置を講ずることといたしまして、現在、法制化の準備をしているところでございます。その一環として、去る十一日に片山大臣の方から、その概要について福島県内十二市町村長に説明をしたところでございます。

 具体的には、まず、警戒区域内にある自動車につきまして、用途の廃止を事由とした永久抹消登録等がなされたもの、平たく申しますと、廃車をして被災車両の証明を受けたものにつきましては、平成二十三年三月十一日にさかのぼって自動車税それから軽自動車税が課されないようにする特例を講ずることとしたいと考えております。

 それからまた、永久抹消登録等がなされた警戒区域内の被災車両の代替自動車につきましては、平成二十六年三月三十一日までに取得した場合には、平成二十三年度分から平成二十五年度分までの各年度分の自動車税、軽自動車税を非課税とする特例措置も講ずることとしたいと考えているところでございます。

 このほか、不動産関係につきましては、警戒区域それから計画的避難区域、緊急時避難準備区域のうち、市町村長が指定する区域内における土地家屋に係ります平成二十三年度分の固定資産税、都市計画税の課税免除、それからまた、警戒区域内の資産の代替資産についての固定資産税、不動産取得税などの特例も講ずることとしたいと考えているところでございます。

 概要は以上でございます。

斉藤(鉄)委員 済みません。固定資産税と都市計画税については対象者が明確にわかりました。自動車税と軽自動車税、自動車関係諸税のいわゆる対象者をちょっともう一度明確にしていただけますでしょうか。避難者らというふうに報道されておりますが、その対象者をちょっと明確に御答弁いただけますでしょうか。

滝本政府参考人 自動車税、軽自動車税の非課税の特例を今回講じようとしている対象者でございますが、警戒区域内に車を放置したままにしている人でございまして、もう廃車して使わないという場合には、用途廃止を事由とした永久抹消登録を運輸支局の方に申請していただきます。そうしますと、被災車両の登録事項証明がなされますので、その証明書を持って市町村なり県の方に申請をしていただければ非課税となる、そのようなスキームを考えているところでございます。

斉藤(鉄)委員 ちょっと我々が希望していた範囲よりかなり厳しいので、実際に乗られる方も大変、今回、原発被災者の方、自分の家に帰れないわけですから、車が非常に重要な手段になっておりますので、そういうこともまた御検討いただければと。今使っている車についても何らかの対象になるようにならないかということを思っておりますが、これは答弁を求めてもなかなか難しいかと思いますが、何かございますか。

滝本政府参考人 避難されている方で、一時入りまして持ち出しているような車もございますし、それからまた、うちに何台もあって、一台しか持ち出せないので、そのほかは放置されているような自動車があって廃車までは至っていない、そういう車もあろうかと思います。

 そういうものにつきましては、それぞれの課税庁が、被災者の方々の状況でありますとか車の使用状況を見ていただきまして、減免の規定がそれぞれの税目にございますので、減免で適切に対応していただきたい、そのように思っておりまして、この法律が成立しました段階ではそういったことも含めまして通知をしたい、そのように考えているところでございます。

斉藤(鉄)委員 次に、災害義援金と被災者生活再建支援金、なぜおくれているかということについて質問させていただきたいと思います。

 一昨日でちょうど四カ月が経過をいたしました。日本赤十字社等に寄せられた義援金が被災者に届いていないということが、いろいろな委員会でも、昨日の復興特別委員会でも取り上げられました。例えば、被災後三カ月で我が党の山本博司参議院議員が指摘したときは一五%の配分でしたが、七月六日現在、二二・七%にとどまっております。おくれた理由として、配付は市町村にお願いしている、このように弁解されておりますが、この政権は義援金配付すらまともにできないのかと憤りの声も被災者の方から多く聞くところでございます。

 この点について、義援金がなぜこんなにおくれているのかということについてお伺いをいたします。

清水政府参考人 義援金につきまして、数字を交えて御説明させていただきたいと思います。

 日本赤十字社等に寄せられた義援金は、十二日現在、昨日現在で三千六億円ということになってございます。

 配分は二つに分かれてございまして、まず、四月に方針が定められました第一次配分、これにつきましては被災都道県に送金されたのが九百九億円ということになってございます。そのうち八百二十六億円が市町村に送金されている。被災者のお手元には、その七五・一%に当たる六百二十一億円が配付されているという状況にございます。

 もう一つ、六月に方針が定まりました第二次配分としましては、千四百六十八億円が被災都道県に送金されてございます。市町村にはその八割の千百七十一億円が送金されておりまして、これから順次被災者への配付が進み始めていく、そういう状況でございます。

 義援金の配付事務がおくれているではないかという御指摘でございますが、確かに、配付は市町村において行っていただいておるところでございますが、発災後しばらくの間は、避難所運営などの応急救助に最優先で取り組まれておったというような事情もお聞きしてございます。

 また、そもそも、義援金配付だけではございませんが、それの前提となります住宅被害の認定あるいは罹災証明書の発行、これに多大な時間を要しているという事情もお聞きしてございます。

 また、お一人の亡くなられた方あるいは行方不明の方に複数の御遺族があるような場合には、重複のチェックにこれまた相当時間がかかっているといったような状況があるというふうにお伺いしてございます。

 私ども、このため、まずは五月の段階でございますが、早期配付に向けての留意事項を通知させていただいてございますし、また、五月末から六月中下旬にかけまして、当省職員、私どもの職員を総務省の職員とともに、あるいは日赤、県の職員とともに現場市町村に派遣して、いろいろと実務の課題の把握を行いました。

 また、これらと並行して、やはり人手不足というところがございますので、総務省におかれまして、市長会、町村会の協力を得られて千人規模の他市町村の職員の派遣が決定し、行われているというふうに伺っておるところでございます。

 また、私どもの大臣も日赤を訪問したり、あるいは大臣名で日赤、被災都道県に対して早期配付の依頼を行った、このような取り組みを行ってきているところでございます。

 現時点では、先ほども申し上げましたけれども、第一次配分は約七五%、やっと相当進んできたかなというふうに考えてございます。今後も、義援金が被災者のお手元に速やかに届けられるよう、市町村の状況もよく伺いながら私どもとして必要な対応をとってまいりたい、このように考えております。

斉藤(鉄)委員 もう一つ。では、被災者生活再建支援金でございますが、これも申請に対して六四%しか振り込まれていない、このような報道もございます。被災者の立場に立つという意味で、大変これは問題ではないかと思いますが、今後の給付についてどのようになっているでしょうか。

小田政府参考人 被災者生活再建支援金の支給でございますけれども、支援金の早期の支給に向けまして、この支給事務を行っております財団法人都道府県会館に対しまして、種々改善策の要請を行ってまいりました。

 これを受けまして、都道府県会館におかれましては、事務処理要員の大幅な増員、現在約六十名まで増員されてございます、などを行ったほか、さらに、先々週には、支給システムの更新、処理能力の高いパソコンの導入、台数の増といったことも行っていただいておりますので、事務処理のスピードアップが図られるものと期待してございます。

 こうした結果、五月までは週当たりの支給処理件数、千件あるかないかといった状態でございましたけれども、六月中旬以降、ここ四週間、週当たり一万件を超す支給処理が行えるようになってきてございます。今後も改善に努めていきたい、このように考えております。

斉藤(鉄)委員 この義援金及び支援金、なお一層努力をしていただきたいと思います。

 次に、瓦れき処理でございますが、瓦れきの仮置き場への搬入済み率は三四%にとどまっております。これから本格処理に入るわけですけれども、被災地にとっては膨大な負担でございます。先日、本委員会で石巻に行きましたけれども、百年分の瓦れきがある、このような市長さんの声も聞いてきたところでございます。

 我々野党が議員立法でまとめまして、この瓦れき処理法案、これは、国が全額負担をするという法案になっております。政府案が突如出てまいりましたけれども、この政府案は、一割とはいえ地方の負担が残り、交付税措置をするといっても大変大きな負担になるという地方公共団体の声も聞いているところでございます。この点が野党案と政府案の一番大きな違いだと思います。

 この瓦れき処理について、国が全面的に責任を持って早急に実施すべきだと考えますけれども、政府の見解を伺います。

伊藤(哲)政府参考人 今般の震災に係る市町村における災害廃棄物処理の費用負担につきましては、東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律において、国庫補助率のかさ上げを行うとともに、残る地方負担分についても、特定被災区域内の市町村について全額を災害対策債により対処し、その後年度における元利償還金の九五%を基準財政需要額に算入して普通交付税により措置し、残余の五%につきましても特別交付税により措置することとしておるわけでございます。このように、国が前面に立ちまして、市町村の負担が実質的に生じないような措置を講じてきているところでございます。

 災害廃棄物処理事業は、これまで国と地方が一定の役割を分担する体制で進めてきており、国が一〇〇%補助するといった場合には、国、地方の役割分担を抜本的に変更することになるのではないか、こういうふうに考えている次第でございます。したがいまして、現行制度のように、補助金と地方交付税措置を組み合わせ、実質的に市町村の費用負担を生じさせない制度、こういうふうなことで取り進めているところでございます。

斉藤(鉄)委員 今の御答弁は、一割は地方負担だ、しかし、その一割の九五%は、交付税等いろいろな財政措置をするということですから、地方が負担するのは全体の〇・五%だという理解になりますが、違いますか。

伊藤(哲)政府参考人 失礼いたしました。ちょっと説明が舌足らずだったかもしれません。

 九五%を普通交付税により措置し、残余の五%についても特別交付税により措置する、すなわち、一〇〇%全部交付税によって措置するということでございますので、地方負担分は〇%、こういうことになっている次第でございます。

斉藤(鉄)委員 政府案でも地方負担はないと。

 では、なぜ、いろいろな新聞記事で、地方公共団体が、政府案ではとてもやっていけないと。これは説明不足ではありませんか。

伊藤(哲)政府参考人 私どもといたしましても、政府の行っている財政支援についてこれまでも説明をしてきたところではございますが、さらにきちっと説明をしていかなければならない。こういったことは、先生御指摘のとおりだというふうに思います。

 さらに、九割近くの補助金になるわけでございますけれども、その補助金がなかなか支給されないといった声もありました。これは、第一次補正が成立して直ちに補助要綱を出しまして、申請していただければできるだけ早急に概算払いもするということで進めているところでございます。また、その概算払いの実際の仕方につきましても、環境省の職員が現地に張りつきまして、いろいろ御相談に応じて今着実にそういったことも進めている、こういう状況でございます。

斉藤(鉄)委員 それからもう一つ、基本哲学。やはり廃棄物は地方自治体の責任なんだ、そのところを崩さないために、とにかく地方負担分を残すんだ、こういう御答弁だったと思いますけれども、これだけの大災害について、特別に今回の大災害については国が全面的に支援するという哲学があってもいいんじゃないですか。

伊藤(哲)政府参考人 まさに今先生おっしゃったような考え方に基づきまして、今回は特別に地方負担分についても全額国の方で地方財政上の措置を講じるということでございます。こういった全額見るということは、阪神・淡路のときにもそういうことにはしておりませんでして、今回、まさに初めてそういった措置を講じているということでございます。

斉藤(鉄)委員 ですから、哲学の部分も変えた方がいいんじゃないですかという質問ですが、いかがですか。

伊藤(哲)政府参考人 今回の震災は、本当に膨大な、かつて例のない量の災害廃棄物が発生したということでございます。そういったことから、まさにこれまでにない哲学で、一〇〇%、地方負担分についても地方財政上の措置を講ずるということで、従来より相当進んだ財政上の措置を講じている、こういうふうに考えている次第でございます。

斉藤(鉄)委員 では、最後に野田財務大臣に御見解を伺います。

 復興構想会議「復興への提言」の中でも、特区ですね、特区手法の活用を提案しております。我々も、特区というのを基本法の中に入れるべきだと公明党としても主張し、法への明記が実現をしたところでございます。被災地や被災自治体からも、今後の復旧復興の有効な手法としてこの特区制度が期待されているところでございます。

 この構想会議の特区の中に、特出しして基金について書いてございます。総務省によりますと、復興基金は、これまで阪神大震災でも中越地震でも設立され、柔軟な支援が可能となる使い勝手のよい仕組みである、このような評価が行われております。特区構想はさまざま話題になっておりますが、この復興基金構想、提言の中にもあります基金構想の設立について、ぜひ実施すべきと考えておりますが、野田大臣の見解を伺います。

野田国務大臣 特区については、御党からの御提起あるいは復興構想会議からの提言にも出ていまして、大変重要な考え方だと思いますので、今月中にまとめる基本方針の中でその制度設計を詰めていきたいというふうに思います。

 その中で、特に基金についてのお尋ねがございました。復興構想会議の提言でも、基金については、「地域において、これまでの震災時の事例や民間寄付金の活用事例も参考にしながら、国や県の支援を受けつつ、現行制度の隙間を埋めて必要な事業の柔軟な実施を可能とする基金の設立を検討すべきである。」というふうにされておりますので、まず地方団体の動きを、設立の動きを見守りながら政府としては適切に対応していきたいというふうに考えております。

斉藤(鉄)委員 基金というのは、ある意味で、地方自治体としても素早く手が打てる、また、将来、長い時間軸で展望した手が打てるということで大変期待をされておりますので、財務大臣としても、それらに対して積極的に支援をしていただくように要望をいたします。

 これで質問を終わります。

石田委員長 次に、山本幸三君。

山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三でございます。

 きょうは日本銀行から、白井、石田両審議委員にわざわざおいでいただきまして、ありがとうございました。大変楽しみにしておりまして、じっくり議論をさせていただきたいと思います。

 その前に、財務大臣にまずお伺いいたしますが、去る七月五日に、閣議後の記者会見で、赤字国債発行法案が成立しないと九月以降予算執行に支障が出るというような会見をなされましたけれども、これはどういう意図なり、何を目指しているのか。

野田国務大臣 山本委員御指摘の七月五日の記者会見でございますけれども、四月から六月までの予算の執行実績が出ました。加えて、七月から九月までの各省の要求というものが出てまいりました。こうした数字的な背景を踏まえまして、建設公債を財源とする事業等の執行分を除いた累積支出額が九月末で四十二・二兆円になるという見込みで、一方で、財源のある歳出許容額が四十八・四兆円でございますので、このままいきますと、早ければ十月、遅くても十一月中には歳出許容額に到達をするという状況になるという客観的な事実関係を会見でお示しさせていただきました。

 すなわち、今国会の会期末、八月三十一日でございますけれども、この会期末までに特例公債法案が成立をしない場合には、九月以降、予算の執行に支障が出る、そういう御説明をさせていただいたという次第でございます。

 今国会中に何としても成立をさせていただきたい。そのためには、四月二十九日の三党合意等もございますので、そういう協議をしながらでありますが、特に与党の方は腹をくくってこの法案の成立を期して全力を尽くさなければいけない、そういう覚悟も込めての御説明をしたということでございます。

山本(幸)委員 客観的なとは言いますが、新聞報道等から見ると、野党の協力が得られないからこの法案が成立していないんだというようなニュアンスが伝わっていますよね。大体、この法案が通らない責任はだれにあるんですか。

野田国務大臣 野党の協力が得られないからということを強調した会見は、したつもりは全くございません。この法案が通らない場合の現実的な対応をどうしなければいけないかということを危機感を持ってお話をしたわけでございまして、与野党の協議が大事であることは間違いありませんけれども、特に政府・与党の方がしっかり野党の皆様に御説明をし、御理解をいただく、そのことが基本だというふうに思います。

山本(幸)委員 こういう会見をすればそんな話になるんですよ。だれの責任なんですか、これがおくれているのは。

野田国務大臣 一義的には、政府・与党がしっかり御説明をして野党の御理解をいただくというその努力をこれからもさせていただくということで、責任は政府・与党だというふうに思います。

山本(幸)委員 政府・与党のだれですか。

野田国務大臣 政府では、特例公債法案を担当する私でございます。

山本(幸)委員 そのとおりですよ。予算の歳出が通って、歳入法案が一緒に通らないんだなんというのは、その責任者たる財務大臣、あなたの責任なんだ。私の責任でできませんから、私は責任とりますというような話ならわかるよ。

 あなたは、この法案が通るためにどんな努力をしているんですか。

野田国務大臣 きちっと説明責任を果たしていきたいと思いますし、これは政党間協議にゆだねている部分もありますので、特に与党側の交渉当事者とはしっかり緊密に連携をとっていきたいというふうに思います。

山本(幸)委員 三党協議ということになっている。しかし、そのためには与党側が譲歩しなきゃいけないでしょうね。そうしないと通らないんだから。

 では、譲歩するために、あなたは与党内で努力しているんですか。例えば子ども手当、所得制限をなくすようにしましょうなんて、そんな、説得して回っていますか。

野田国務大臣 例えば子ども手当ですと、御党、そして公明党さん、私ども、私どもは城島政調会長代理でございますが、城島政調会長代理とは意見交換をしっかりさせていただいております。

山本(幸)委員 政調会長代理と意見交換しているだけで、あなた、努力していることになるんですか。私は、そういう努力をしているという姿が見えないから、おかしいと思うんですよ。それで、こんな会見をするんだから。

 財務大臣というのはそんな生易しい職務じゃないんだよ。私は今まで随分大蔵大臣に仕えましたけれども、竹下大蔵大臣のときなんて、周到な根回しをしていますよ。必死で努力している。歳出法案と一緒に歳入法案が通らないなんというのは、財務大臣は首ですよ、自民党だったら。それぐらいの気持ちがあるんですかということですよ。どうなんだ。

野田国務大臣 背水の陣の覚悟を持って臨んでいきたいというふうに思います。

山本(幸)委員 背水の陣。法案を通すときにどういう努力をしなきゃいけないか。私は野党筆頭理事になったけれども、一度も大臣から頼まれたことはないよ。かつて、亀井さんなんというのは、平の理事でも頼みに来ていた、法案を通すためにはね。そういうものですよ、法案を抱えた大臣というのは。

 これからそういう努力を必死でやるという、与党内を早く譲歩するようにまとめるという覚悟のほどを示してください。

野田国務大臣 そういう覚悟で頑張っていきたいというふうに思います。

山本(幸)委員 財務大臣ならそれぐらい腹をくくってやらなきゃだめなんだ。通らなかったら責任をとりますと言うのが筋ですよ。本来、こんな記者会見をするんだったら、それぐらいのことを言うのが普通ですね。まあ、腹をくくってやるということですから少し見たいと思いますが、しっかり頑張ってくださいよ。

 次に、お待たせいたしましたが、両審議委員にお伺いいたします。

 私は、両審議委員は信任していないんだ、本当はね。石田さんの場合は、全会一致で反対のしようがなかったんだけれども、白井審議委員のときは、私は席を立ちませんでした。自民党の中ではもう一人立たなかった人がいる。河野太郎さんが立たなかった。普通は彼とは意見は余り合わないんだけれども、今回どういうわけか合いましてね。

 そこで、少しお伺いいたしますが、記者会見で述べられたことを中心に、そして、先ほど最初の小山さんが聞いた話が中心です。

 まず、石田審議委員。日銀の国債引き受けについて、あなたは、就任の記者会見のときには、日銀引き受けというのは今までやっていなかった、今までやっていなかった日銀引き受けをした場合に、マーケットがどうとらえるだろうかという話から始まっているんです。先ほどの小山さんに対する答弁のときには、借換債というのを除いてというふうにつけ加えられましたが、あなたは就任のときには、借換債で日銀引き受けをやっているということは知っていましたか。

石田参考人 詳しくは存じませんでした。

山本(幸)委員 つまり、日銀引き受けというのは、今までやっていなかったと言ったけれども、やっていたんですよ。それでマーケットが何かおかしいことを反応しましたか。

石田参考人 特にございません。

山本(幸)委員 それなら全然問題ないじゃない。

 借換債だったらいいんですか。

石田参考人 お聞きしましたところ、この借換債は、保有している利付国債、長期債の期日が来た場合に、短期国債で一時的に借りかえるということでございますので、全体的な資金需給の調整のためであるというふうに私は理解しております。

山本(幸)委員 借換債というのは、本来、償還しなきゃいけないんですよ。償還して、そしてまた新しく発行したのと同じことですよ。だけれども、償還をしないで借りかえしていけば、新しく発行したものを、今度は短期になるかもしれないけれども、持つわけでしょう。そんなの日銀引き受けそのものじゃないか、つまり市場を通さないんだから。

 常時やっているんですよ。去年は十一兆円ぐらいやったんだ。何の問題があったんですか。

石田参考人 借換債につきましては、一たん日銀が通貨発行等の関係から資金を保有して、その金を長期国債に投入する。自己責任で、単に直接引き受けをして何もないところから国債を引き受けるというのではなくて、全体の金融政策の上で一たん引き受けたものでございますので、その期日の資金の処理については短期債で調整するということについては、私は問題のないことだと理解いたしました。

山本(幸)委員 一たん買ったものを短期債で乗りかえる、それが財政法五条の「特別の事由」に当たるんですか。

石田参考人 今ちょっと聞き取れない部分があったんですが、申しわけございません。

山本(幸)委員 国債の引き受けは財政法五条で一応禁止している、それは御存じですね。

 「但し、」ということでただし書きがありまして、特別の事由がある場合には、国会の議決の範囲内でこれはできるということになっている、その限りではないとなっている。つまり、このただし書きの規定によって、日銀引き受けというのはできるわけですね。

 借換債というのは「特別の事由」に当たるんですか。

石田参考人 借換債についても特別な議決が出ているわけでございますけれども、それは、いわゆる直接引き受けに実質的に当たらないという観点から行われていると聞いております。

山本(幸)委員 ちょっと待って。直接引き受けに当たらないって、どうしてですか。直接引き受けそのものじゃないですか。どう違うんですか。

石田参考人 一たん通貨発行等によって得たお金で長期国債を買っているわけでございますので、これ自身は日本銀行が資金調達の一環としてやったことでございまして、その期日が来たときの資金の短期間における期日の変更ということについては、特に財政法で禁止されている趣旨に反しないというような理解があって、かつてから行われているというふうに私は聞いております。また、そのように理解しております。

山本(幸)委員 だから、一たん買ったものを短期に買いかえるのが財政法で禁止している趣旨に反しない。なぜ反しないんですか。

石田参考人 私もまだ勉強途中で、間違っていたら申しわけないのでございますけれども、財政法で禁止しておる直接引き受けというのは、日銀のお金が直接政府に行く。だから、それと同時に、日銀から政府へのいわゆる貸し付けも禁止されているように記憶しております。

 ですけれども、今回の場合は、当初の長期国債の保有自体が日銀の金融調節の目的として行われたものの最後の処分でございますので、それについては直接当たらないというふうに理解しているわけでございます。

山本(幸)委員 借りかえというのは、本来は償還しなきゃいけないんですよ。償還されるのが筋なんですよ。だから、借換債というのは、償還されてそれをまた新しく買っただけの話ですよ。それを引き受けでやったんだよ。そうでしょう。違いますか。

 では、借りかえだったら、ずっと何だって日銀引き受けでいいという話になっちゃうよ。

石田参考人 そういうことから、法律では、特別の事情のある場合を法律で認められた場合はよろしいということで、法律で認められたと理解しております。

山本(幸)委員 だから、借換債が何で特別の事由なんだと。借換債というのは、一たん償還されてそれで新しくまた買うのと同じことですよ。それは面倒くさいからそのまま引き継いでいるだけでしょう。

 だけれども、理念的には、償還されて、ところがまた新しく買うんですよ。そのときは引き受けで買うんだよ、直接。それをやっているだけの話でしょう。それはまさに、その部分について日銀が自分で判断するとか云々じゃなくて、市場を通さないで直接買っているのと同じことじゃないですか。それがほかの引き受けとどう違うんですか。理念的には一緒ですよ。

石田参考人 借換債の場合は、新たに日本銀行からの資金の供給が生じないというふうに思っておりますし、また、それを行った理由については、私もまだ二週間で細かいことはわかりませんけれども、いろいろな事務的な都合もあるように思います。というのは、日本銀行と大蔵省との間では日々大変多額の資金のやりとりがございますので、そういう範疇の中に、ある程度、借換債をやっていくという事情があったのかな、これは私の推測でございます。

 ただし、聞いておりますところでは、その借換債は短期の国債でございますので、期日になったら必ず返還を受けているそうでございますので、そこについては技術的な要因で行っているように私は理解いたしました。

山本(幸)委員 もう一回、ちょっと聞き方を変えますが、借換債といっているんだけれども、これは原理的には、満期が明けたら、政府は、持っている日銀に対して一たん償還するんですよ。そして、新しく短期国債を直接買うんですよ。それが行われているわけでしょう、経済理論的には。そうじゃありませんか、それはお認めになりませんか。

石田参考人 日本銀行として、多分、長期の国債を保有して、期日が来て、それをまた全体的な資金の調節を行う場合に一たん返却を行って、また買うということになれば、いろいろと手数もかかるでしょうし、その限りでは、私は技術的な要因ではなかったかなと思っております。

 ただ、一たん返却をしてまた市中から買うということでも、現実の手続の煩雑さはありますけれども、実際に行われることは同じでございます、経済的には同じでございます。

山本(幸)委員 それは違いますよ。

 もう一回確認しますが、経済理論的には、借換債というのは、一たん償還したものを、今度は短期だけれども、日銀は買うわけですね、短期債を。それは市場を通さないで直接買うわけだよ。そういうことをやっているということでしょう、それは確認されますかと言っているんです。

石田参考人 先生のおっしゃるとおりでございます。

山本(幸)委員 そんなの当たり前ですよ。だから早く認めてくださいよ。

 であれば、その借換債は、一たん償還した後にまた今度は短期を買うんだけれども、それは日銀が金を出しているんじゃないか、金を出して買っているんでしょう。そういう形になっているんですよ。だけれども、面倒くさいから、途中を省略してやっているんだけれども、理念的にはそういうことを行っているんですよ。明らかな日銀引き受けですよ。そうじゃありませんか。

石田参考人 引き受けという行為自体は行っているわけでございますし、だからこそ、法律上明確に、借換債の引き受けをやるということを認めていただきまして、我々の中の業務もそれに基づいて整々とやっている。ただ、もとになるお金が既に銀行券の発行から出た原資でございますので、それによって新たに新発の国債を引き受けたのとは違うのではなかろうかというふうに、金融的には考えているわけでございます。

山本(幸)委員 いや、それはさっきの答えと違うんだよ。理論的には、一たん償還した、しかし、また、今度は短期債だけれども、新たに金を出して買ったんですよ、日銀は。そうでしょう。それは市場を通さないで引き受けで買ったんです。全く日銀引き受けをやっているんですよ。

 借換債については、財政法第五条の「特別の事由」。では、復興財源については、こんな大震災が起こって、特別の事由じゃないんですか。

石田参考人 復興債といっても、結局は国債でございます。ですから、新発債ということで、全体の債券の、国債の発行の中で、枠組みの中で考えられる。ただ、それについてどのような返済の形をつくるのかというのは、ただいま、これから国会と政府とで議論されることだと聞いておりますので、私はコメントする立場にはございません。

山本(幸)委員 何を言っているんだ。あなたは金融政策を決める重要な立場にいるんだよ。その人が、この大震災という事象を特別な事由と思わないんですか。

石田参考人 もともと、復興債が幾ら出るのか、それからいつ出るのか、まだわからない状況でございますが、それは、市中消化ができないということを前提に日銀が引き受けるということになりますと、私は、それは避けるべきだと。もともと市中消化ができるのであれば、日銀消化、日銀引き受けはするべきではないというのが先ほどの私の見当でございます。

山本(幸)委員 では、ちょっと話をかえますが、市中消化ができればそんなものをしなくていいという議論をしているわけですか。では、あなたは、デフレをどうしたら解消できると思うんですか。

石田参考人 デフレについては、やはり私個人としては、雇用がふえていかないとなかなか難しいのかなという気がいたします。まず、需要がある程度の復活をして、一方で投資も出てこないと、全体としての経済活動の勢いが出てこない。現在は、私思いますに、やはり将来に対してそれほど大きな希望を持てない、あるいはプロジェクションが持ちにくいという方がいらっしゃいますと、どうしても手前で支出をしたり投資をしたりということが滞るわけでございます。

 そのあたりにつきましては、やはり、新しい雇用を創生するような、あるいは今の仕事からもう少し違う仕事にかえるようないろいろな施策が必要なんだろう、そういうふうに思っております。

山本(幸)委員 雇用がないとデフレは直らないか。

 あなたはフィリップス・カーブというのは御存じですか。

石田参考人 余り得意ではないんですけれども、デフレと失業率との関係を示したものだと思います。

山本(幸)委員 そのとおり。つまり、雇用が出てからって、デフレが進んでいたら雇用は出てきませんよ。日本では大体二・二五%、コアCPIがそれより低くなったら失業率ががあんと上がるんだよ。

 それから、投資あるいはその需要がどうして出てこないか。日銀の失敗でデフレ期待が起きているからですよ。金融政策が失敗しているからですよ。デフレ期待が変われば、投資も出てくるし、消費もふえますよ。そして雇用も、デフレがなくなって雇用もふえていくんだ。

 それをやらなきゃいけない。その課題とこの復興ということを一緒にやらなきゃいけないんですよ。そのときに、市場で消化できればいいというんですか。お金を出さないで、市場でやっていればいいというんですか。金利が上がって円高になって、いよいよ悪くなりますよ。そう思いませんか。

石田参考人 直接の引き受けということではございませんけれども、日本銀行としては、デフレ脱却のために包括的な金融緩和を強力に進めているところでございます。実際に現在、十年債で一・一%程度という、先進国でも、後進国も含めまして、世界的にも最も低いレートが出ているわけでございまして、私どもは、この方針を、実際のインフレ率が適正な水準に達するまで強力に進めていくということをコミットしているわけでございます。

山本(幸)委員 国債の金利が一・一と低いのは、デフレ期待が蔓延しているからですよ。つまり、日銀の金融政策が足らないからですよ。それで、適切なインフレ率に達するまでやりますなんて、いつまで待つんですか。今やりなさいよ。この震災と同時にお金を一斉に出せばいいんですよ。それが直接できるのは日銀引き受けだ。そう思いませんか。

石田参考人 日銀引き受けについては、冒頭、最初の御質問で申し上げましたように、非常に副作用が強いわけでございます。ちょっと申し上げますと、今、一・一という利付国債十年物のレートができているわけでございますが、実際の公的な債務はGDPの二倍、二〇〇%前後ということかと思います。

 今、海外でいろいろな問題が起きている国がございますけれども、押しなべて、彼らの数字は我が国よりもはるかに少ないところにあるわけでございます。それなのに、なぜ我が国がこういうような低いレートであるのかということについては、それは、ある意味でいいますと、国債のマーケットが、国債のマーケットというのは我々の国としてのライフラインだと思います。極めて貴重なインフラストラクチャーだと思いますが、そこが吸収する形に今なっているということでございまして、ここを万一にも傷つけることがあるというのは、私は避けるべきではないかと。

 そういう観点から、非常に危険な一つの、直ちにインフレが起こるということではございませんけれども、原理原則の非常にかたいかぎをあけるのはいかがなものかなと思っておるところでございます。

山本(幸)委員 副作用があるとおっしゃいましたが、どういう副作用があるんですか、日銀引き受けをしたら。国債のマーケットが吸収する形になっているからそれでいいか。日銀が吸収しちゃえば一番いいじゃないですか、マーケットに影響しないんだから。

石田参考人 日銀というよりも、マーケットがどういう影響があるかというと、多分、今ありますのは、なぜこれだけの低いレートができているか、そういう非常に強固な国債のマーケットができているのか。それは一つは、我が国の経常収支黒字に見える貯蓄の超過。それからもう一つは、やはり、政府なり国会なりが財政規律についてどこかでしっかりとした対応をとってくれるという信頼、あるいは、人によってはどうとられるかわかりませんが、日本銀行の金融政策に対する信頼感。もう一つは、これは非常に、人によって違うかもしれませんが、今まで長い間にわたって低位安定してきたという国債のレートの推移の事実をとらえて、これからもレートは低いだろうという期待の醸成。

 こういうようなものは、今はあるんですけれども、これが何らかのきっかけで変化してきた場合には、我々は国債マーケットの悪化、状況の変化については非常に失うものが多いんだと思います。そういう観点から申し上げているわけでございます。

山本(幸)委員 全く説得力を感じないんですがね。

 国債マーケット、何でレートが安いんだ。それはデフレ期待があるから安いんですよ。

 それで、国債マーケットは今はいいけれども、日銀引き受けをしたらどうして国債マーケットは壊れるんですか。

石田参考人 直接引き受けをすると、それは日銀が財政のファイナンスを直接やるというふうに見られますから、それによって財政規律が緩むというふうに見られて、金利が上昇の圧力を受けてくる。直ちに受けるかどうかは別にして、基本的に今マーケットを構成している一つのコンフィデンスが壊れてくるというふうに思います。

山本(幸)委員 そういうでたらめな、日銀が言っているような言葉で毒されてはだめですよ。

 財政規律が緩む。では、財政規律というのは何ですか。財政規律というのが問題だというのは、公債の対GDP比率が拡散することが問題なんでしょう。それを確認してください。

石田参考人 先ほども申し上げましたように、どこかでこの増勢がとまるような規律が生じるであろうというマーケットの期待があると申し上げましたけれども、そういう意味では、拡散していかないことが問題なわけでございます。先生のおっしゃるとおりでございます。

山本(幸)委員 そうしたら、分子が公債発行残高だ、分母が名目GDPですよ、どうしてこれはどんどん上がっていったんだ。

 それは、デフレで名目GDPが下がって、税収が下がったから国債を発行せざるを得なくなって分子が上がり、それで分母の名目GDPが、九二年から変わっていないんだから、デフレで。そうでしょう。

 これを直すためには、まず、名目GDPを上げればいいんですよ、財政規律を確立するというのは。名目GDPを上げるためにどうしたらいいですか、デフレをなくせばいいんですよ。デフレをなくすための仕事は日銀しかできませんよ。政府が幾らやったって、政府は規制緩和とかなんとかで実質成長率の部分は直せるかもしらぬけれども、物価の部分は日銀しかできないんだから。その名目GDPを上げるという、つまりデフレをなくすという仕事を、やらなきゃいけないのはあなたの仕事なんですよ。

 それについて、復興と一緒にやるのは、一番いいのは、お金を出してデフレ期待を反転させるということが一番いいんでしょうと私は言っているんだよ。それがむしろ財政の規律を確立することになるんでしょうと。どこが日銀引き受けをやったら財政の規律がおかしくなるんだ、逆でしょう。デフレが解消して名目GDPは上がるんだから。違いますか。

石田参考人 資金の供給については、日銀としてはとり得る限りの量を投入しているというふうに思いますし、先般の大震災発生の直後から、大変多量な資金をマーケットに出しているところでございまして、その辺については十分理解しているつもりでございます。

山本(幸)委員 これは結果で判断されるんだ。デフレ期待がなくなっていなきゃ、十分にしていないということですよ。一時的にばっと出したって、また引っ込めちゃったんだから。しかも、リーマン・ショックの後は世界各国が物すごく出したのに、日銀はほとんど何もしなかったんだから。だから円高になっているんですよ。

 今度、どんどん円高になりますよ。復興財政で財政出動を拡大していけば円高要因になるんだから。それでお金を出さなかったらいよいよ円高になりますよ、きのうは七十九円になったと言っているけれども。それをどこがやっているんですか、やっていないよ。それをあなたは変えてやらせるようにしますかというその覚悟のほどを聞いているんだよ。

石田参考人 ただいま、日銀の調節におきましては、短期を非常に潤沢に、じゃぶじゃぶにしております関係で、通常の入札については札割れが続いている状況でございます。札割れというのは、日銀が出すという金額に対して応札する人たちの金額が足りないということでございますけれども、そういうように私どもも精いっぱいの努力を今後とも続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

山本(幸)委員 札割れをしないようなものを買えばいいじゃないですか。長期国債は本当の長期国債を買えば、買えますよ。金融機関はどんどん、あなたも金融機関にいたけれども、たくさん持ち過ぎているんだから。札割れするようなものを買うからそうなるんだ。だから、そういうこと。札割れしないような長期国債を買ってどんどん金を出すということを約束しますか。

石田参考人 個別の品目はわかりませんが、マーケットが必要とする、日本国が必要とする資金を供給するのは私どもの責任でございますので、精いっぱい供給していく所存でございます。

山本(幸)委員 石田さんにはもうこれぐらいでやめますが、しっかりしてもらいたい。日銀の、当局の話だけ聞いて、それにコントロールされるようじゃだめですよ。どうも、今のを聞いているとその心配がある。それでは審議委員としての仕事は果たせないんだ。腹をくくってデフレを脱却するという覚悟がなきゃ、やめてもらいたいんだ、私は。

 そのことを白井さんにもお聞きしなきゃいけないので、ちょっとストップしておきます。

 白井審議委員は、日銀引き受けについて、国際コンセンサスがEUであるというような話で、否定的だというようにおっしゃいましたが、国際コンセンサスというのは一体何なんですか。

白井参考人 御質問にお答えします。

 国際コンセンサスというのは、私、かつてIMFに勤めておりまして、それ以降もさまざまな国際会議で、いろいろな政策担当者の方、もちろんアカデミアの方とも議論いたしますが、そこでのコンセンサスというのは、これはもう先進国で明らかだと思いますけれども、やはり中央銀行の役割というのは、その国で発行される銀行券の信認を確保すること、それから物価の安定を維持すること、物価の安定を維持することから国民の生活も安定してきますので、それが大事だということが認識されていると思います。

 そこで、それを確保するためには、例えば政治側の方で、景気循環の局面において、例えばもっと金融緩和をという声があったときに、そういうのとは別に、やはり第一義的な目的である物価安定と通貨の信認を維持しようということで、多くの国が、先進国はほとんどだと思いますが、中央銀行の独立性を維持してきているということで、それを私はコンセンサスというふうに呼んでおります。

山本(幸)委員 物価の安定を維持する、そのために中央銀行の独立性がある、これは結構だと思いますよ。だけれども、そのときに、物価の安定の目標というのは政府が決めるんだ。それが国際的なコンセンサスじゃないですか。

白井参考人 物価の安定を政府が決めるということの意味がちょっとよくわからないのですが、私たち日本銀行では、中長期の物価安定の理解というものをお示ししておりまして、四月には、中心値としては一%というものを示しております。

 もちろんそれ以外に政府の御見解があるのかもしれませんが、日銀としては、一%というのはどのようにしてつくられているかと申しますと、一つは、CPI等の物価指標が持っている上方バイアスの部分、それから、やはりデフレスパイラルが起こってしまうかもしれないということで少しのり代をあげようということ、それから、日本の場合ですと、過去の消費者の皆様それからマーケットの皆様の物価観、そういったものを参考にして、私たちでそれぞれの数値を出し、その中心値を一%というふうにしております。

 私たちの目標は、その中長期の物価安定の理解に基づき、そこに到達するように、そして、かつ、インフレ率が低い水準で安定するとともに、経済、景気も安定させるということを目的にして、常に必要な政策を考えております。

山本(幸)委員 私が言っているのは、いわゆるインフレ目標政策というのは国際的なコンセンサスだよと。ちょっと、事務方、下がれ。

石田委員長 どうぞ質問を続けてください。

山本(幸)委員 国際的なコンセンサスというのは、インフレ目標政策をほとんどの国が採用している、先進国。変動相場制で採用していないのは、日本とアメリカぐらいなものですね。だけれども、アメリカだってもう二%と言っていますよ、バーナンキは、議会証言で。

 それは、アメリカと日本はのけて、ほかの国は、インフレ目標政策の採用国は、目標については政府が決めているんですよ。そして、その達成手段については中央銀行の独立性でやっていただきましょうというスキームになっておる。それが国際的なコンセンサスじゃないんですか。

白井参考人 御質問にお答えします。

 例えば私の理解ですと、ECBはECBが決めております。それから、FRBはFRBが数値を出していると思います。政府が決めているというのは、私の理解の中では、ございません。

山本(幸)委員 では、ほかの国はどうですか。ほかのインフレ目標政策の国はどうですか。

白井参考人 少なくともイングランド銀行はしていないと思いますし、先進国は基本的には、インフレーションターゲティングをとっている国ととっていない国がありますが、それぞれの目安、あるいは国によってはインフレーションターゲティングですけれども、それは中央銀行が決定していると理解しております。

山本(幸)委員 違いますよ。イングランド銀行なんて政府が決めていますよ。インフレ目標政策はほとんど政府が決めているんだよ、目標は。政府と中央銀行が相談するところもある。しかし、最終的には政府が決めているんだよ。達成手段は、中央銀行の独立性で、尊重してやりましょう、それが国際的コンセンサスですよ。

 ECBとアメリカは、おっしゃったようにアメリカは難しいんだ。物価と雇用、二つ目標が課されているからね。物価だけになかなかできない。だけれども、それはFRBがはっきりと、バーナンキが、二%を下がったら危ないとしょっちゅう言っているんだから。そういう国際的コンセンサスがある。だから、大体二%前後の国際的なコンセンサスですよ。

 それに対して日銀は、中心値が一%、わけのわからぬ、中期的な理解だと言ってごまかしているわけですよ。つまり、目標じゃないから責任を逃れられるわけだ。責任逃ればかりやっているんだ、日銀は。あなたはどうしようと思っていますか。

白井参考人 先ほどの発言に誤りがありましたので、訂正いたします。

 イングランド銀行に関しましては、政府と中央銀行の合意に基づいて行われているということです。ただ、それにいたしましても、それは、中央銀行もさまざまな要因を検討した上で、その上でのインフレの目標の設定だというふうに理解しております。

 今の御質問は、済みません。(発言する者あり)インフレーションターゲティングについてどう思うかと。

 日本銀行は……(山本(幸)委員「二%ぐらい」と呼ぶ)はい、二%ですね。二%というのは、例えばECBの例で申しますと、やはりそれは、国あるいは地域、社会によって違うと思うんですね。例えば欧州大陸の場合は、過去の趨勢を見ましても、インフレというのは非常に、どちらかというと高目に来ています。大体平均で二%前後です。

 ですから、やはりインフレの目標、目安として決めるときには、過去の消費者の皆様、あるいは企業それからマーケットの皆様が持ってきたインフレ観、物価観というものを参考にする必要があって、我が国の場合は、過去十年等を見ますと、やはり低目ですので、必ずしもアメリカやヨーロッパが二%だから我が国が二%にする必要はないと思っています。

山本(幸)委員 過去十年低かったって、当たり前でしょう、日銀が失敗してデフレにしているんだから。

 それを国民が望んでいると思うんですか。あなたは、デフレでどれだけ国民が苦しんでいるかという気持ちがないんですか。失業者はふえているんだ、倒産もふえているんだ。これが、実質成長率が二%で名目成長率が四%成長していたら、九二年から四%成長していたら、今GDPは倍になっていますよ。失業者も半分以下だ。倒産も減っている。円高もない。そういうことについて、過去の日銀が失敗したもので、それでいいと言うんですか。

白井参考人 日本が長い間デフレに苦しんできたこと、それは、山本先生と同じく、私も常に考えておりました。

 日銀の失敗によってデフレが起きたのかどうかということなんですけれども、私自身としては、では、なぜ日本がこれだけ、GDPデフレーターで見ると長い間デフレが続いてきたのかというふうに考えますと、これは、例えば今は、震災がありましてGDPギャップが大きくマイナスになっていますから、瞬間的に非常に需要が落ちているという面がありますが、それよりもやはり重要なのは、構造的に日本の場合は成長が期待できない。企業の皆様と話しても、金融機関の皆様と話しても、何を金融機関の方がおっしゃるかというと、やはり投資先がないと言うんですね。

 やはりそこは、もし企業が、あしたがよくなる、二年後にはよくなると思えば設備投資を国内でやっていきますし、家計の皆様も、安心して使える社会である、収入が上がっていくという期待があれば消費をしていくわけですが、残念ながら我が国の場合には、そういう先行きに対して期待が持てない、そういうところで来てしまっている。つまり、専門的に言ってしまいますと、先生が御承知のように、潜在成長率が非常に低いという状況で来ているということだと思うんです。

 ですから、だからこそ日本銀行は、過去にも、現在もそうですが、大量なベースマネーを供給しております。しかし、それは貸し出しの方に回っていかないわけですね。

 やはりこの現実というのを考えますと、もちろん、日本銀行がやるべきことというのは私自身も審議委員として常に考えてまいりますが、やはりそこには構造的に、みんなであしたがよくなるというふうな気持ちを持てるような、そういう社会をつくっていかないと、デフレの脱却というのは難しいというふうに見ております。

山本(幸)委員 その点は午後に総裁とゆっくりやりますが、潜在成長率が低いからと。潜在成長率なんというのは日銀が決められるんですか。決められませんよ、そんなものは。日銀ができるのは物価を上げるか下げるかですよ。それは、物価といっても、単純な、量をふやした、そのままずばっというんじゃなくて、予想物価上昇率。これはベースマネーをふやせば上がっていきますよ。後で、午後に証拠を示してやるけれども。

 そのときに、今まで日銀がやってきたことは、せっかくよくなりかけたときにすぐやめるんだよ。二〇〇〇年の八月、速水さん、ゼロ金利解除。私は大反対した。声明文まで持っていった。やめて半年もしないうちに、量的緩和解除とか、大失敗だったでしょう。その後、福井さんになって量的緩和をやって、もっとやっておけばいいのに、二〇〇六年の三月にまたやめちゃったんだよ。

 つまり、物価がゼロを超えてくるとすぐやめるんですよ、ベースマネーの拡大を。だからデフレ期待が一向に直らない。その結果、それでまた金を出すんですよ。金を出したって何の効果もないんだよ。

 それは、ちゃんとベースマネーを上げていくということについて市場がまさに信認をして、デフレ期待がインフレ期待に直るという信認を得られない限り変わりませんよ。今は、信認されていると言うけれども、日銀はデフレ目標をしているということについて信認しているんだよ。

 マーケットの期待を、緩やかなインフレ期待、つまり二%ぐらいのものについて、どうしたら変えられると思いますか。

白井参考人 先生の御質問にお答えします。

 最近の例で申しますと、私は四月に日本銀行に勤めるようになりましたが、それ以前から見ておりまして、やはり日本銀行は、私の率直な意見としては、かなりほかの先進国と比べてもいろいろな手段をとって、踏み込んでやっていると思うんですね。日本銀行はすごくデフレのことを、山本幸三先生と同じぐらい懸念しております。ですから、普通の中央銀行ではやらないところまで踏み込んでいるということをぜひ御理解いただきたいんです。

 例えば、昨年の六月には成長基盤強化のためのオペレーションというのをやっています。これはもう非常に踏み込んだやり方なんですね。それを承知の上で、やはり私たちはデフレをすごく懸念しております。ですから、本来は中央銀行がやることではないかもしれませんが、それを一歩踏み込んで、やはり少しでも金融機関の皆様に新しい、そして成長力のある企業を見つけてほしい。私たちは直接企業に融資するわけではないですから、金融機関に融資をするわけですから、金融機関の皆様に成長という意識を持って開拓してほしい、そういう呼び水になりたいということで、一兆円の枠を設定し、ほぼ使い切りました。

 それで、四月に、さらに踏み込んで、日本の場合には担保がないとなかなか企業がお金を借りられません。ですから、ABLとか担保のない形での金融支援を支援しよう。そこには、新興企業や新しい企業の方に担保がなくてお金を借りられない人たちがいる。ですから、そこに何とか日銀が呼び水になりたいという気持ちでやっておりますので、私どももできる限り、日銀としてできること、つまりデフレ克服というのを常に考えておりますので、御信頼いただければと思います。

山本(幸)委員 全く信頼できないから言っているんですよ。いつから日銀は政策金融公庫になったんだよ。そんなものはやらなくていいよ。

 本当に潜在成長率を上げるような産業がわかるんだったら、日本でデフレも起こらないし、成長していますよ。そんなものは、石田さんじゃないけれども、銀行だって本当はわからないんだよ。わかるのは、企業経営者しかわかりませんよ。必死で金を借りて、コストをかけて、命をかけて仕事をしている人しか、そんなものはわかりませんよ。高給取りで、いいオフィスを持って、車もついて、そんなものわかるわけないじゃないですか。そんなことは、そんな、何かやっていますからと言いわけになるようなことはやらなくていい。

 そうじゃなくて、ちゃんとデフレ期待をなくすように、お金をふやせばいいんですよ、お金を。それしか変わらないんだから。それを、いろいろやっていますとか、言いわけするようなことばかり日銀に吹き込まれて、そればかり繰り返すようだったら、あなたはもうまさに仕事なんかできませんよ。どうですか。

白井参考人 先ほどちょっと言い間違えてしまいましたので、訂正いたします。

 成長基盤強化支援資金供給における新たな貸付枠は三兆円でした。訂正いたします。

 御質問は、済みません。(発言する者あり)日銀に毒されるなと。

 全く毒されていません。私は今も、日銀のMPM、金融政策決定会合で、納得のいかないことはもうびしばしと発言しておりますし、全くそういうことはありません。もし自分が納得がいかなければ、それは伝えております。

 私の正直な、審議委員に就任して三カ月ちょっとになりますけれども、私が今実感していることを申し上げます。

 一つは、金融政策というのを考えるときは、大学で私は教えていましたけれども、大学のマクロ経済でいうシンプルな金融政策とはちょっと違うということですね。金融政策を判断していくには、大量な情報、それからヒアリング、そして日々のマーケットの動きというものを見て、非常に大変な時間がかかるんですが、そういったところで理解をしてやっているということです。ですから、そこにはやはり相当な情報を受けて、その上で判断しているということを申し上げたいんです。

 ですから、私は日銀に感化されたわけでもなく、常に私自身として最適と思うことを発言してきております。

山本(幸)委員 そう思えない。だって、あなたが説明したことは日銀と一緒で、成長基盤拡大融資を一生懸命やっています、中期的なインフレ期待というのはこうです、日銀が言っていることを繰り返しただけじゃないですか、今までに発言したことは。

 そうじゃなくて、じゃ、デフレ期待を一掃するために何をやるんですかと。日銀引き受けをやると覚悟するのならいいよ。

白井参考人 先ほどから申し上げていますように、デフレに関しては、私自身も個人的に、そして日本銀行でもみんな真剣に考えて取り組んでおります。

 そして、私たちは、その一環もありまして、昨年の十月に包括的金融緩和というものを導入し、中長期的に見通している物価安定の理解、つまり一%というところですが、そこに到達するまで事実上のゼロ金利を維持するということを伝えておりますし、私たちはそういうものを見通せるまでずっとやるというふうに伝えているわけですね。

 ですから、私たちは、それ以外に、今も申しましたように、一歩踏み込んで、成長のための資金というものも供給しているわけですから、それに関しては私は日銀は一生懸命取り組んでいると思います。

 ただ、なお、今後、やはり今いろいろな問題が起きています。ですので、常に私たちも誠心誠意取り組んでまいりますので、必要に応じて必要な対策をとっていきたいと思います。

 日銀の引き受けに関しては、やはり、私はどっちかというと海外が長いんですけれども、その引き受けをするということ自体、私たちはマーケットから基本的には買っております。先ほどの乗りかえの話はまた別のルールがありますけれども、基本的には私たちはマーケットで買っています。

 やはり、私たちが国債をマーケットで買うときに一番気をつけなければならないのは、マーケットによってその国債を買うということが財政ファイナンスと思われてしまったとき、それはもう信認を失っていくわけですね。そのときに何が起きるかというと、それはマーケットがいつ信認を崩すかにもよりますけれども、それはリスクプレミアムというものにはね返ってき、それは長期金利の上昇ということになる。

 マーケットの皆様が国債の利回りの動きを見るときに何を重視しているのかというものの二つ目に入るのが、財政要因ですね。ですから、ギリシャの危機の経験もあってわかりますように、やはり今、非常に、新興諸国よりも先進国の方が財政状況が悪いわけですね。今、世界は、かつてと違って、情報が非常に簡単に入ります。格付会社も、世界の三大、四大格付会社がありますけれども、常にそういう格付というもので判定します。

 そういう時代において、やはり国際的なコンセンサスというのはありますので、そのもとで、私たちは日銀として、やはり銀行券の信認を失わないこと、そして、財政規律の喪失とみなされないように、我々としてできる限りのことをやっていくというのが大事だというふうに思っております。

山本(幸)委員 財政規律の話というのはさっき私が話しましたので、もう一回よく考えておいてください。むしろ、デフレをなくさなきゃ財政規律なんてよくならないんだ。

 それから、国際的コンセンサスと言っているけれども、国際的コンセンサスでもっと大事なのはインフレ目標政策でしょうと私は言っているんだよ。そっちの方がコンセンサスですよ。そして、それに近づけるような金融政策をやれと。そのための手段をいろいろ新しく考えてほしい。

 だけれども、あなたの説明は、ほとんど日銀が言っていることをそのまま繰り返していただけで大変危惧を感じますが、今回だけじゃなくてまた来ていただきますから、よろしく。

 質問を終わります。

石田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 昨日に続きまして、一体改革成案、それと消費税の増税の問題についてお聞きをしたいと思います。

 昨日は、二〇一〇年代半ばまでに段階的に一〇%に引き上げる、こういう点をただしました。このことに関連をして、与謝野経済財政担当大臣は、七月七日の東京都内のシンポジウムで、こういうことを言っているんですね。恐らく、二〇一六年くらいからあと五%とか、二〇年くらいにはもうちょっと上げないとやっていけない、こういう発言をされています。それから日経ヴェリタス、これは七月十日付ですけれども、この中では、この成案は、このままでは財政が破綻してしまう、ようやく血どめだけはできるという段階だ、一五年を過ぎれば、消費税で考えてさらに五%ないし一〇%の引き上げを迫られ、欧州先進国並みの税率負担に当然近づいていくと思う、今回の五%引き上げ案はほとんど予告編にすぎない、こういう発言をされていますけれども、野田大臣も同じ考えでしょうか。

野田国務大臣 お答えをいたします。

 今回の成案の中では、佐々木委員御指摘のとおり、二〇一〇年代半ばまでに段階的に消費税率、国、地方、一〇%に引き上げると。その目的は、社会保障の安定財源を確保することと同時に、財政健全化の同時達成という意味であります。

 財政運営戦略は、委員も御承知のとおりでありますけれども、二〇一五年までに基礎的財政収支を対GDP比で今の半分にして、そして、二〇二〇年まで財政運営戦略は書いておりますが、そのときには、基礎的財政収支、対GDP比黒字化をする。

 こういう流れの中で、多分、与謝野大臣の念頭にあるのは、財政運営戦略でいえば二〇一〇年代半ばまでの措置をとっているのであって、二〇二〇年までの税制の姿もまだこれから考えていかなければいけないという意味での御指摘なんだろうというふうに受けとめております。

佐々木(憲)委員 一〇%に上げること自体も大問題なわけでありまして、その先、さらに五%上げる、一〇%上げる、こういう発言であおって増税を推し進めようという姿勢に私は重大な問題があるというふうに思っております。

 消費税の逆進性については、野田大臣はあるというふうにお考えでしょうか。

野田国務大臣 消費税については所得が低いほど負担感が強い、いわゆる逆進性の問題点が指摘をされていることについては、これは十分に念頭に置く必要があるというふうに思います。

佐々木(憲)委員 今度の一体改革では、逆進性を是正するということに関連をして、食料品などの軽減税率の導入が検討されたようですけれども、これは有効な方策とは言えないということで、排除をされております。

 この軽減税率の導入というのは逆進性を是正するための効果はない、こういう判断に大臣も立っておられるんでしょうか。

野田国務大臣 逆進性の本格的な対応については、いわゆる法制化をしていくときの具体的な制度設計の中でしっかり議論していきたいというふうに思いますけれども、どちらかというと、これまでの民主党の税と社会保障の調査会の中間整理であるとか、そういうものを踏まえると、軽減税率、いわゆる複数税率よりは、いわゆる給付型の、税額控除等々の方が有効であるという考え方が出ております。

 ということが基本的にはベースにあると思いますし、一般的に諸外国を見ても、軽減税率を取り入れている場合には標準税率が高目になったりする。あるいは、軽減税率と標準税率の境目をどうするかとか、これは多分相当な議論が必要だと思うんです。例えばフランスだと、キャビアとトリュフと、もう一つ高級珍味は何でしたっけ、余り食べたことがないので。例えばキャビアが標準税率でトリュフとフォアグラが軽減税率、わからないものが随分ありますね。

 だから、そういう議論は相当大変だろうということもあっての議論かとは思いますが、軽減税率を含めて、基本的に低所得者対策等々、逆進性をどうするかという議論は、これから具体的にさせていただきたいというふうに思います。

佐々木(憲)委員 今回の成案には、軽減税率を初めとして、逆進性対策というのは入っておりませんから。税を上げるだけなんですから。しかも、その先のことはこれから考えるというような、私は、最初に増税ありきで、低所得者対策というのは二の次、三の次になっている、そういうものだというふうに思うんです。

 従来、政府の説明は、社会保障に回すんだから、つまり、税収、消費税の増税分を社会保障に回すんだから、社会保障というのは低所得者に厚く回るということになるから逆進性の緩和に役立つ、全体として見ればですよ、消費税だけで見ると逆進性はあるがという説明をされてきたんです。

 例えば、この図を見ていただきたいんです。一ページの上の図は逆進性を示す図でありますが、これは、全部皆様方の検討の過程で出てきた資料であります。

 二ページ目に書いてあります図は、左側に低所得層、右側に高額所得層が入っております。そういうものですけれども、前提は、消費税一兆円の負担が行われた場合、それを社会保障に配分すると、低所得者、左側の方は、その負担率は、消費税は重いけれども、社会保障で回る分はそれ以上に大きい、こういうものを示してきたわけであります。

 これは間違いないと思うんですけれども、その上で、今回の税と社会保障一体改革案では、消費税の負担分がどのように社会保障の拡充に回るのか、これが問題になるわけであります。

 三枚目を見ていただきますと、これは今回の成案の内容を図で示しているわけですが、右側の方に消費税五%分がどのように配分されるかというのが書かれておりまして、消費税引き上げに伴う社会保障支出等の増が一%相当、機能強化が三%相当、機能維持が一%相当。機能強化の分、この中はまた三つに分かれております。制度改革に伴う増、高齢化等に伴う増、年金二分の一の分、こういうふうに書かれております。

 さて、そこで、これまでの社会保障の水準をさらに上乗せして各家庭に配分される、その部分というのはどの部分でしょうか。

野田国務大臣 この図表でいうと、一%分ということだと思います。

佐々木(憲)委員 その一%というのは、機能強化の一番上にある制度改革に伴う増、これだけが家計にプラスになるわけでありまして、それ以外は家計には回らないんですよ、簡単に言いますと。

 なぜならば、高齢化に伴う分というのは、回るといえば回るかもしらぬ。しかし、これは自然増の分でありまして、従来受け取っていたものを各家庭でさらにプラスになるということではないわけであります。年金について言いますと、今回ふえる部分ではなくて、これは財源の置きかえにすぎないわけであります。それから、一番上の消費税引き上げに伴う社会保障支出の増というのは、これは増税になりますから、社会保障関連の部分で消費税を払わなければならない、その負担分がこれだけあるということでありまして、家計に回るわけではない。

 したがって、この図でいきますと、五%上げて消費者からいただきますけれども、その分を家計に明確に返還、返す分、これは一%、若干あってもプラスアルファ、こういうことになると思うんですね。

 そうしますと、先ほど見た二枚目の、これは一兆円負担をして一兆円を家計に返すという前提で計算をしたものでありますが、今回の社会保障の拡充分というのはこういうふうにはならぬわけですね。したがって、消費税増税十二・五兆円、社会保障の拡充に回るのは二・五兆、そうなるとこの図が変わってくるわけですね。上の方が五分の一に変わる。そうなれば、当然、低所得層は増税はされても受け取るものが少なくなる、こういうことになるんじゃありませんか。

野田国務大臣 少なくとも、こういう改革をしないと家計における社会保障給付のいわゆる支援というのができなくなるという意味でやろうということであるということで、今、一%プラスアルファということがございましたが、ちょっと数値的に正確に押さえるのは難しい話でありますけれども、そういう意味での理念があるということを御理解いただいた上で、さっきの逆進性の話題に戻りますけれども、消費税の税率とか税額控除の問題だけじゃなくて、今回の成案の中では、社会保障の機能強化として低所得者対策も入っているわけでございます。ということは、そういうことも総合的に判断しながらの逆進性の議論をすべきではないかなというふうに思います。

佐々木(憲)委員 それでは、この二枚目の図にありますような、今回の増税分のうち家計に回るのはこれだけだ、その差し引きがどうなるかという結果を後で示していただきたいと思いますが、いかがでしょう。

野田国務大臣 努めたいというふうに思います。

佐々木(憲)委員 今回のこの成案の社会保障の拡充という点を盛んに強調されますけれども、例えば、こういう内容がいろいろ盛り込まれております。例えば、医療費の窓口負担の引き上げ、年金の支給開始年齢の先延ばし、生活保護支給水準の引き下げ。これは、社会保障の拡充ではなくて、社会保障の引き下げなんですよ。私は、こんなことをやると、ますます逆進性が一層大きくなると思うんです。

 少し振り返ってみましても、これまで自民党政権のもとで大変な改悪が行われてまいりまして、医療負担は、本人負担が一割だったのが今や三割ですし、老人医療の自己負担は、外来月四百円が今は毎回一割または三割取られる。国民年金の保険料の負担も、七千七百円だった、それが一万五千百円、さらに上がる。厚生年金の支給開始年齢も六十歳から六十五歳におくらせてきております。介護保険の導入で、保険料の徴収が今までなかった人たちが、全国平均でさらに四千三百円取られる。これはその時点の少し前の数字ですけれども。それから、障害者自立支援法の問題で定率一割の応益負担、後期高齢者医療制度。挙げればもうこんな山のように、庶民負担、低所得者に対する負担というのが行われてきたんですよ。

 それで、民主党政権は、この国民の怒りに乗って、これはもう今までの政権を変えなきゃいかぬ、政治を変えるんだということで政権交代をしたんだけれども、何も直さない。直さないばかりか、消費税の増税はやるわ、社会保障もまともな拡充をやらない。これでは、今回の一体改革というものが国民の役に立つかというと、私は全く逆だというふうに言わざるを得ないというふうに思うんです。

 それで、もう一つお聞きしたいんですけれども、生涯所得で見ると逆進性はなくなるという議論が今回の一体改革の中で行われております。これはどうもわけがわからぬ議論でありまして、お配りした資料の一枚目の下の方に載せてありますけれども、集中検討会議に配付された資料で、生涯所得で消費税の生涯負担を割りますと累進性になると。

 所得税なら累進性というのはわかりますよ。しかし、消費税で計算すると何で累進的になるのか。理由がよくわからない。その理由を説明していただきたいと思います。

野田国務大臣 これは内閣府が取りまとめたリサーチペーパーでございまして、消費税のいわゆる逆進性を考えるに当たって、ある一時点の所得だけではなくて、生涯所得と消費税負担といった視点からの分析も踏まえる必要があるとの観点から、海外であるとか我が国のこれまでの研究における生涯所得で見た逆進性の計測の例を紹介しているということでございます。

 例でありますので、個々の研究についてコメントをするということは差し控えたいと思いますけれども、内閣府のこのリサーチペーパーでは、生涯所得で見ると一時点の所得で見るよりも逆進性が小さくなる、生涯所得で見ると高所得者層の方がより大きな負担をしている、対生涯所得で見ても、消費税は依然逆進性を持つが、生涯所得で見た方が逆進性はやや緩和されている、そういう研究の紹介をしているということでございます。

 これについての評価はいろいろあるかと思います。

佐々木(憲)委員 研究の成果をここで紹介するという場合は、その研究がどういう根拠に基づいてそのような結論になったのか、そのはっきりした理由を理解した上でやらないと、もうあちこちから研究を持ってきて都合のいいものを載せておくと。

 こんな累進性なんていうのは絶対にあり得ない。何でか。ここにはからくりがあるからですよ。この論文、私は、この人が書いた「論座」二〇〇五年十二月号を見ました。そうしますと、例えば、現役のときの年収が五百万の方は、消費税の支出が十九万、したがって負担率は三・八%。七十歳になると、年金所得が二百万円だから、消費税は十九万円だと九・五%の負担率だ、こういうふうにされているわけです。

 しかし、ここで貯蓄がどう扱われているか、これが問題なんです。つまり、貯蓄は、過去の所得で、それをためたものですよね。それを計算から外しているんですよ、これは。つまり、生涯所得で見ますと、貯蓄の多い人は、多ければ多いほど負担率は高くなるんですよ。なぜならば、それは貯蓄を取り崩す分を外していますから。年金生活になって、貯蓄を大量に取り崩して消費をする。そういう人は、貯蓄は計算に入れませんので、年金しか計算に入れませんから、当然高くなるんですよ。

 こんなでたらめなものを、ある学者がやったということで、これはおもしろい、今までの逆進性を全部否定するものであるなんといって載せること自体が、良識を疑われますよ。

 貯蓄についてどういう扱いになっているか、はっきりさせてください。

野田国務大臣 私は、出てきたリサーチペーパーしか見ていませんので、その「論座」を読んでいませんので、後でよく拝見させていただきたいと思います。

佐々木(憲)委員 貯蓄について、では、後で資料で、この一ページ目の下に載せてあります図の背後にある計算、貯蓄の扱い、この統計をぜひ示していただきたいというふうに思います。それは確認していただけますか。

野田国務大臣 リサーチペーパーを取りまとめるに当たって、内閣府が責任を持ってやったと思いますので、今の御指摘を踏まえた対応をさせていただきたいというふうに思います。

佐々木(憲)委員 ですから、今回、成案というのが出されましたけれども、増税だけがどんどん先走って、増税といっても消費税の増税ですよ。これはもう庶民にとっては耐えがたい事態になっているわけです。

 その上で、社会保障の配分は、五%のうちの一%分しか配分しないんだ。これは逆進性の解消にならない。逆に、社会保障の改悪まで入っているとすると、これは余りにも庶民の感情を逆なでするものであり、暮らしを破壊するものであると言わざるを得ないというふうに思いますので、消費税増税には絶対に反対である、財源はほかから持ってくるべきだ、このことを言って、きょうは終わりたいと思います。

石田委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十八分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

石田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 引き続き、財政及び金融に関する件について調査を進めます。

 去る平成二十二年六月十一日及び十二月十日並びに平成二十三年六月十日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、それぞれ国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁白川方明君。

白川参考人 日本銀行は、毎年六月と十二月に、通貨及び金融の調節に関する報告書を国会に提出しております。最近では、本年六月十日に、平成二十二年度下期の報告書を提出いたしました。今回、日本経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をいただき、厚くお礼を申し上げます。

 最初に、我が国の経済金融情勢について御説明申し上げます。

 我が国の経済は、三月十一日に発生した東日本大震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力の強い状態に陥りました。震災の影響で、広範囲にわたる地域において生産設備が毀損されたほか、被災地の工場で生産されていた部品や素材の供給に制約が生じたことなどから、サプライチェーンにも障害が生じました。さらに、発電設備が大きく毀損されたことに伴って、電力供給面での制約も生じました。これらの供給面の制約などから、生産活動が大きく落ち込み、輸出も減少しました。また、企業や家計のマインド悪化もあって、民間需要にも相応の影響が及びました。

 震災発生後四カ月を経て、現在、我が国の経済は、震災の影響による供給面の制約が次第に和らぐ中で、持ち直しています。生産活動は、サプライチェーンが当初の見通しを上回るペースで着実に修復されてきていることなどから、このところ持ち直しの動きが明確になっています。電力問題も、この夏場については、電力会社の供給能力の増強に加え、企業及び家計における節電や需要平準化の工夫などによって、当初懸念されていたほどには、経済活動の大きな制約とはなっていないと見られます。輸出は、生産活動の持ち直しを受けて、増加に転じています。国内民間需要についても、家計や企業のマインドが幾分改善するもとで、持ち直しつつあります。

 日本銀行が今月初に公表しました六月短観の結果を見ますと、企業の業況判断は、震災の影響がほとんど織り込まれていなかったと見られる三月調査対比では悪化しましたが、先行きについては、製造業を中心に、多くの企業が改善を見込んでいます。また、設備投資計画を見ましても、製造業を中心に三月調査対比で上方修正されるなど、しっかりとしたものとなっており、民間企業の設備投資が持ち直しつつあることが示されています。

 先行きの我が国経済については、供給面での制約がさらに和らぎ、生産活動が回復していくにつれて、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、復興需要の顕現化などから、本年度後半以降、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。

 金融環境を見ますと、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは低水準で推移しています。企業から見た金融機関の貸し出し態度は、引き続き改善傾向にあります。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場では、電力会社が発行する社債については、発行条件をめぐり、発行体と投資家の目線がそろいにくい状況が続いていますが、全体として見ますと、良好な発行環境となっており、発行体のすそ野にも広がりが見られています。こうした中、企業の資金繰りについては、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しいとする先が見られていますが、総じて見れば、改善した状態にあります。

 物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、四月に、二〇〇八年十二月以来二年四カ月ぶりにプラスになった後、五月も、四月と同様、プラス〇・六%となっています。先行きも、消費者物価の前年比は、小幅のプラスで推移すると見ています。ただし、本年八月には消費者物価指数の基準改定が予定されており、前年比のプラス幅が下方に改定される可能性が高いことも認識しています。

 以上を踏まえますと、日本経済は、やや長い目で見ますと、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられます。

 続いて、以上の見通しをめぐるリスク要因について御説明します。

 景気については、サプライチェーンに関する懸念は和らいでいますが、震災が家計マインド等を通じて及ぼす影響には、なお注意する必要があります。また、この夏を越えて、やや長い目で見た電力の供給制約については、不確実性が幾分増していると考えられます。海外経済をめぐるリスクに関しては、バランスシート調整が米国経済に与える影響や、欧州のソブリン問題の帰趨について、引き続き注意が必要です。新興国、資源国については、金融引き締めが続けられているにもかかわらず、高成長が続く中、インフレ圧力は鎮静化していません。このため、物価安定と成長が両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、不確実性が大きいと考えています。

 物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、我が国の物価が上振れる可能性があります。一方、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあると見ています。

 最後に、日本銀行の金融政策運営について御説明申し上げます。

 日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という三つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けています。

 強力な金融緩和の推進という点では、まず、オーバーナイト物の金利を、ゼロから〇・一%程度という実質的にゼロの水準にしています。その上で、この実質的なゼロ金利政策を、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで継続することを約束しています。また、短期金利の低下余地が限界的となっている状況の中で、金融緩和を一段と強力に推進するために、長目の市場金利の低下や各種リスクプレミアムの縮小を促す措置を講じています。具体的には、資産買い入れ等の基金という新しい枠組みをつくり、その基金を通じて、固定金利方式の共通担保資金供給オペレーションと多様な金融資産の買い入れを行うというものです。この買い入れの対象としては、長期国債、国庫短期証券のほか、CP、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J―REIT)といったリスク性資産も含んでいます。震災直後には、不安心理の広がりやリスク回避姿勢の強まりが実体経済に悪影響を与えることを未然に防止するため、基金を通じた金融資産の買い入れを、リスク性資産を中心に増額しました。この結果、当初三十五兆円程度の規模で開始した資産買い入れ等の基金は四十兆円程度まで拡大しています。

 こうした強力な金融緩和の推進に加え、日本銀行は、日本経済の成長基盤強化を支援するための資金供給を実施しています。

 日本経済は、震災前から、成長力の趨勢的な低下という課題に直面していました。こうした成長力の低下は、長期にわたる経済の需要不足をもたらし、デフレの根源的な要因にもなっています。今回の震災を経て、この成長力の引き上げという問題は一段と重要性を増しています。

 以上のような認識に基づいて、日本銀行は、日本経済の成長基盤の強化に資する融資や投資を実施した金融機関に対し、国債等の担保を裏づけとして、最長四年間、極めて低い金利で資金を供給しています。さらに、先月の金融政策決定会合では、本資金供給について、新たに貸付枠を設定することにしました。新たな貸付枠では、金融機関による出資等の資本性を有する投融資や、在庫や機械などの動産、あるいは売り掛け債権などの債権を担保に行う融資、いわゆるABLなど、従来型の不動産担保や人的保証に依存しない融資などの取り組みを対象としています。これにより、金融機関が金融面の手法を一段と広げ、我が国経済の成長基盤の強化に向けてさらに活発に取り組むことを期待しています。

 以上に加え、震災発生後、日本銀行は、我が国の金融機能の維持と資金決済の円滑を確保するため、民間金融機関とも協力しながら、被災地への現金供給や日銀ネットを初めとする主要な決済システムの安定的な稼働の維持に努めました。また、金融市場の安定化を確保するため、連日、市場の需要を満たす大量の資金を供給しました。さらに、四月には、被災地の金融機関を対象として、復旧復興に向けた資金需要への初期対応を支援するため、期間一年の資金を〇・一%の低利で供給するオペレーションを総額一兆円の規模で導入しました。同時に、被災地金融機関の資金調達余力を確保する観点から、被災地の金融機関が日本銀行から資金調達する際に差し入れる担保の要件を緩和するという措置も実施しています。

 日本銀行としましては、今後とも、震災の影響を初め、先行きの経済、物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には適切な措置を講じていく方針です。

 ありがとうございました。

石田委員長 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

石田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山本幸三君。

山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三でございます。

 午前中も審議委員に質問させてもらいまして、午後はいよいよ総裁においでいただいて、質問させていただきます。

 私は、総裁のいろいろ講演したものとか記者会見の資料をずっと読んでいるんですが、一番気になるのは、過去、GDPデフレーターでいえば十六年、CPIでいえば十三年、デフレが続いている。そして、その結果、日本の名目成長率は全く伸びていない、九二年と同レベルである。そういう状況をずっと続けてきて、そして今回、大震災という大ショック、デフレショックでしょう、そういうものも起こった。

 そういう状況にあるにもかかわらず、一貫して総裁が講演とか記者会見で述べていることは、自分たちは全部やっているんだ、しようがないと。デフレがこれだけ続いて、しかし、成長率がどんどん落ちるというデフレスパイラルになっていないからいいじゃないかと。やることはみんなやっているんだというトーンで一貫しているわけですね。

 これは私は非常に問題があると思っていまして、総裁は一体、過去十五、六年間のデフレを全く解消できない。僕はデフレの解消というのは日本銀行しかできないと思っていますよ。それについて、そのことがもたらす悪影響、失業者がどんどんふえた、倒産する人もふえた。泣いている人がたくさんいますよ。そういう人たちに対する申しわけないという気持ちが全く感じられない。そのことについて、総裁はどういうふうに考えますか。

白川参考人 お答えいたします。

 私は二〇〇八年の四月に総裁の職を拝命いたしましたけれども、それ以来一貫して肝に銘じていますことは、日本銀行法の使命達成のために全力を挙げるというこの一点でございます。日本銀行の使命は、物価安定のもとでの経済の持続的な成長を図っていくということでございます。そのために日本銀行としてできることを最大限行っていくという姿勢で参りました。

 日本経済の現状、過去十五、六年の経済の姿でありますけれども、残念ながら、デフレから脱却をできるという状況にはなっておりません。こうした状況について、日本銀行としてしっかり取り組んでいく必要がある、そういう認識は、これは山本議員の認識と全く同じでございます。

 私の記者会見あるいは講演原稿をお読みになってお感じになった感想ということで、今お話をお伺いいたしましたけれども、私が申し上げていることは、日本銀行として最大限の努力を行っていきます、これからも行っていきますということであります。同時に、日本のデフレという問題の本質を考えていきますと、日本の成長力をしっかり上げていくというこの取り組みがないと、日本銀行の力だけでは解決をしないということでありまして、決して日本銀行の行うべきことについて認識がないということではございません。

 日本銀行の努力と、それから民間の努力と政府の努力、これが相まって日本経済が持続的な成長軌道に復帰していく、そういう過程の中でデフレも脱却をしていくということだというふうに認識しています。

山本(幸)委員 その認識が非常におかしいんですね。つまり、あなたはデフレの責任は自分にはないんだと。私は、この十五年間のデフレを白川デフレと言いますよ。あなたは常に日本銀行の政策の中枢にいたんだからね。まあ、いろいろありましたよ、お互いによく知っているけれども。

 それで、デフレは、あなたの理屈でいえば、成長力が落ちたからだと言い張って、自分たちの責任じゃないというんだね。本当にそうかね。成長力が落ちて、どうしてデフレになるのか。

白川参考人 人々が消費あるいは投資を行うというときには、これは、その時点での経済情勢ではなくて、少し長い先の経済を見て消費や投資の計画を立てていくということだと思います。

 日本の経済が少し長い目で見ても十分に成長力を取り戻していかない、したがって、所得が十分にはやはりふえていかないということになりますと、これはどうしても需要が抑制されてきます。その時点の供給力に対してそうした低下した需要がぶつかってくることになりますから、当然、物価に対して下押し圧力がかかってくるということになります。その意味で、供給力を強化し、最終的に所得が今後ふえていくという力強い期待が生まれてきますと、その分需要もふえてくるということであります。

 このことは、金融政策の役割を否定するわけでは全くございません。日本銀行としては、需要がしっかり満たされていく、そうした環境をつくっていく、そうした責任があるというふうに考えています。

 したがいまして、先ほど、冒頭の説明でも申し上げましたけれども、日本銀行は包括的な金融緩和の枠組みの中で金融緩和を行っていますし、それから、成長基盤の強化という点では、日本銀行だけでできることは限られていますけれども、日本銀行の持てる手段を使って何とかこの面でも貢献していきたいというふうに考えております。

 したがいまして、日本銀行の責任ということを十分に認識して、日本銀行のできることについては、これは今後とも最大限努力をしていきたいと思っています。

山本(幸)委員 将来、少し長い先を見て、それで、投資をするか消費するか。それはそうでしょう。だけれども、それは何で決まるんだと。それは、私は、デフレ期待があるときにはそんなものはあり得ない。デフレ期待があるときにだれが買いますか。もっと待った方が安くなるんだから買いませんよ。デフレ期待があるときにだれが投資するんですか。つくったって安くしか売れないんだったら投資しませんよ。

 最大の問題は、デフレ期待を放置しているからですよ。成長力の期待がある、何だ、それは。具体的に定義できますか。それから、成長力が上がった、潜在成長力を上げれば供給がふえるんだから、むしろそれはデフレ要因ですよ。経済理論的にはそうじゃないですか。

白川参考人 まず、デフレ期待あるいはその逆のインフレ期待も含めまして、人々が将来を予想していろいろな経済決定をしていく、経済的な意思を決めていくというときには、これは少し長い目で見た予想インフレ率、予想物価上昇率であります。この点に関しまして、エコノミスト等のたくさんのアンケート結果というのがございますけれども、長い目で、例えば五年というタームで見て、今デフレ期待が定着をしているということではなくて、さまざまなアンケート調査を見ますと、大体これは今一%程度ということでございます。

 したがって、今デフレ期待が定着をしているというふうにおっしゃいましたけれども、必ずしもエコノミスト等の予測はそういうふうには現在なっていないということでございます。

 そのことを申し上げた上で、供給力の話でございますけれども、現時点での需要と供給のバランスだけを考えて、供給がふえた場合に物価が下がるという点については、今議員御指摘のとおりであります。

 私が申し上げましたのは、現在のこの供給力に対し将来所得が十分にふえていかないという期待が形成されますと、その段階で将来の期待が低下し、所得期待が低下し、需要が低下をするということであります。その結果、需要、供給のバランスからして物価が下がってくるということであって、これは私自身のユニークな議論ということではなくて、ごく普通に経済学でも議論されている議論でございます。

山本(幸)委員 いや、納得できない。

 まず、エコノミストたちが期待を言っているのを見ると、中長期的にはプラスのインフレ期待になっていると。今や物価連動債というのがありますからわかるんですよ、市場の連中がどう予想インフレ率を見ているか。震災前はマイナス〇・三ですよ。震災後は少し上がってきたけれども、それでもマイナス〇・一ですよ、三年後が。マイナスですよ。デフレ期待がまだ定着しているんだ。それで将来の投資や消費がふえますか。ふえるわけがない。それが一つ。

 それから、あなたの言っている所得期待がふえる、それはどういうことなんだ。所得期待がふえるというのは、それは僕に言わせれば、デフレ期待が解消して緩やかなインフレ期待になったときにはあり得るかもしれぬよ。そういうことじゃないんですか。

白川参考人 まず、物価連動国債の方からお答えいたしますけれども、議員御存じのとおり、物価連動国債については発行額がもともと非常に少ない上に、新規の発行額が減ってきていまして、市場自体の流動性が極端に低下をしております。したがって、物価連動債からいろいろな情報を読み取ることが非常に難しくなっているという状況でございます。

 私が先ほど申し上げました数字は、この予想数字が正しいかどうか、これは五年後になってみないともちろんわからない数字でありますけれども、いろいろな客観的な機関が出しているエコノミストの予測の数字を集計したものでございます。エコノミストがそういうふうな予測を出しているからといって、安心していいわけではもちろんございません。我々としては、デフレ期待が定着しないようにしっかりと政策運営を行っていきたいと思っています。

 それから、将来の所得の期待、長い目で見ますと、これは、釈迦に説法でございますけれども、所得というのは最終的に生産と裏腹の関係でございます。

 したがって、経済が十分な生産能力を持つ、供給能力を持つ、そういう中で所得もふえていくということで、これは、多少分解していきますと、労働人口の伸びとそれから一人当たりの労働の生産性の伸びというものに規定されてまいります。経済の実力が上がって生産能力も上がっていく、したがって所得もふえていくという期待は、そういう形で実は裏腹の関係にあるというふうに思っております。

山本(幸)委員 物価連動債、だって、今や客観的に見られるのはそれしかないんだから。あとは人の単なる予想だけじゃないですか。物価連動債から見ればマイナスですよ。それは確かに、ずっとデフレは続いているから、今マーケットは小さくなっているんだ。だけれども、それは、おたくらがそういうことを続けているからだよ。

 それから、所得環境云々と、あなたは潜在成長率を上げることを言っていますね。潜在成長率が上がれば供給はふえるんだから、デフレ要因でしょうが。違いますか。

白川参考人 先ほど来申し上げていますとおり、経済の実力が上がり、先々、供給能力がふえてくる、所得がふえてくるという期待が生まれてまいりますと、これは需要もふえてまいります。

 それから、先ほどの潜在成長力という中でもう一つ申し上げた方がいいことは、その中身を分解していった場合に、これは、現在の急速な高齢化の問題ということがございます。高齢化の進むもとで、財政のバランスも、これは全体に悪化する方向にございます。

 若い世代あるいは現役世代からしますと、これは、所得の中でみずからの支出に充てる部分が相対的に少なくなってくる。今のままの仕組みでいきますと、だんだんに、若い世代、現役世代の支出がなかなかふえにくい環境になってまいります。

 そういう意味で、日本の潜在成長率の低下の背後にある要因を考えてみますと、そのことは需要の減少要因として働いているということでございます。

 私は決して、供給力の低下、例えば労働人口の減少によるデフレ圧力は、これは政策的に対応できないということを言っているわけではございません。

 例えば、高齢者がふえ、若い人が、労働人口が減る場合でも、しかし高齢者の需要自体はふえてくるわけでございます。医療にしても介護にしても、さまざまな需要がふえてまいります。そうしたふえていく潜在的な需要をうまく現実の需要に取り込んでいく、そうした努力をしていけば、これは、一人当たりのGDPの伸び、つまり生産性の伸びにも反映されてまいります。

 そうした努力を重ねていくことによって、供給力もふえ、需要もふえ、物価はその中で少しずつ上がっていくというバランスになっていくというふうに思います。

山本(幸)委員 全然説得力がないと思うんですね。

 潜在成長率が上がれば供給はふえますよ。そのときに、どうして自動的に需要がふえるんだ。需要がふえるためには、デフレ期待がインフレ期待に変わらなきゃふえませんよ。それがポイントなんだ。

 世の中の、世界じゅうの中央銀行で、デフレが中央銀行の責任じゃないなんて言ったのは、あなたしかいませんよ。ほかの中央銀行の総裁は、物価についてはインフレもデフレも中央銀行でコントロールできると言っていますよ。

 つまり、あなたの書いていることとか言っていることは、自分の自己弁護ばかりやっているんだ。それに役立つようなデータばかりを使って、極めてふまじめだと私は思っているんだ。

 一つ例を言いましょう。これは五月二十八日の日本金融学会の講演で、いろいろなことを言っているんだが、勝手なことをよく言っていますよ。

 その中で、とんでもないと私は思っているのが、「過去二十年間の日本のデータをみると、歳入の増減率と物価上昇率の間にはほとんど有意な関係は観察されません。」そして、「歳入が増加しているのは実質成長率が高まっている時です。」ということを言って、それで、データで、GDPデフレーターと歳入の関係では横にフラットだ、しかし、実質成長率を見ると歳入は少しプラスになっているというグラフを出して、いかにももっともらしく言っているんですね。

 私は、こういう分析を見ていて、あなたは本当に京都大学の経済学の先生をしていたのかと思うんですよ。これは素人経済学的なアプローチじゃないですか。何か二つを並べて、関係ないと言えればそれでいいやと。大体、歳入という名目の数値と実質成長率という数値を比べることにどんな意味があるんだ。

 本来の経済学の理論というのは、そんな帰納的な、幾つかの類推的なものから結論を導くんじゃなくて、あなたは経済学者だったら、そんなものじゃ経済理論というのは説明できない。経済理論というのは、仮定と演繹的な論理構成があって、そして説明できるという演繹的なアプローチをしなきゃ、経済理論にならないんじゃないですか。つまり、経済モデルとしては、名目の歳入というのは名目成長率、名目GDPに一番関係するというのが本来の理論でしょう。

 あなたはこんなことを言っている。だって、こんなことをGDPデフレーターと比べたって、どこで税制改正をやって、どこで成長率と一緒に絡んでいるかわからないじゃない。

 それに比べて、もっとはっきり、私がその反証を示してあります。私の配った表の、これはちょっとページを打つのを忘れちゃったので申しわけないんだけれども、グラフとしては二つ目。このグラフを見れば一目瞭然なんですよ、増税とか減税したときも含めて。

 デフレで名目GDPが減ると、増税したって税収はふえないんですよ。逆に、減税しても、名目GDPがふえれば税収は上がるんですよ。これが基本的な経済理論に基づく演繹的な議論の仕方でしょう。

 あなたが言っているような、物価と税収が関係ないとか、実質成長率だけが意味があるんだ、そんなばかな話はありませんよ。どう思いますか。

白川参考人 私の、講演も含めて幾つかの場で、今議員がおっしゃった物価あるいは実質成長率とそれから歳入の関係について考えを申し述べております。

 私がそういう場で繰り返し申し上げていることは、名目の成長率が高まる場合に歳入がふえるということはそのとおりでございますけれども、名目GDPというのは、分解しますと実質成長率とそれから物価の上昇率でございます。それで、どちらが上がったときに税収の増加につながっているのかということを考えてみたいということであります。

 理屈の上でいきますと、名目GDPがふえますと税収がふえるわけですけれども、物価それから実質成長率について分けて考えてみるということは、これはこれで一つの作業の出発点としては意味のあることかなというふうに思います。

 先生のお配りになられましたこのグラフも、名目GDPとそれから税収の関係を見ておりますけれども、しかし、これも経済のさまざまな変数の中の二つの関係を見たということで、実際にはこの間にいろいろな変化がもちろん起きております。したがいまして、完全にすべての変数を考慮した分析というのがもちろん望ましいわけですけれども、これは先生の分析も私の分析もそういう面ではもちろん限定はございます。

 ただ、その上で、私の場合は、これは過去二十年間のデータを見たわけでございますけれども、過去二十年間を見てみますと、物価上昇率とそれから名目の歳入の伸びの間には実は余り関係がなかったということでございます。もちろん、この間にはいろいろな制度変更がありましたから、これは、いつもないというふうに言っているわけではございません。過去はどうであったかということであります。

 一方、実質成長率が上がってくる、つまり経済の力が本当に上がってくるときには、このときには税収が上がっているという関係が過去にはありましたということであります。

 しかし、私が申し上げたかったことは、名目の歳入もさることながら、一方で、名目GDPがふえるときには、これは歳出もふえてまいります。したがって、歳出歳入のバランスであります財政バランスというものは名目GDPとどういう関係にあるんだろうか、あるいは、その中で物価あるいは実質GDPとどういう関係があるんだろうかということで分析を行ったものであります。

 もちろん、これは完全な分析ではございませんし、さらに、先生御指摘の点も含めて、詳細な分析を今後ともしてまいりたいと思っています。

山本(幸)委員 要するに、あなたは、とにかく日銀には責任はないと言いたいから、実質GDPさえ上げるような成長戦略だけやっていればデフレはなくなるんだと言いたいから、こういうことをねじ曲げてつくるわけですよ。おかしいんだ。理論的に、名目の歳入と実質成長率を比べて何の意味があるんだ。それはいろいろ、経済はほかにもありますよと言ったら、じゃ、その次の、この裏のページを見てください。

 いろいろあるけれども、統計的に有意なというのは、もう結論が出ているんだ。名目GDPが一%ふえると、歳入、これは国と地方と社会保障基金すべて合わせると一・四%ふえる、九七年から二〇一〇年にかけての数字で見ると。そして、回帰分析すればこういう結論が出る。国税については物すごく大きいですよ。国税については、名目GDPが一%ふえると三・六八%ふえるんだ。これが大事なんだ。

 だから、私は、何か自分の保身で、自分たちには責任はないなんというような言いわけをするんじゃなくて、素直に、名目GDPを上げるようなことをやることが大事だということを認識すべきだと。それはデフレの脱却ですよ。そして緩やかな物価上昇。私は、コアCPIで二、三%ぐらいが世界の常識だと思っているんだけれども、それぐらいに持っていくという政策を、日本銀行しかできないんだから、これは。

 日本銀行で潜在成長率なんて上げられませんよ。それは政府の仕事だ。日本銀行は、通貨の供給量を調節しながら、あるいは通貨の出し方を工夫しながら、デフレ期待をインフレ期待に変えていく、そしてそのことによって実際に安定的な物価上昇に持っていくということが大事で、その結果、名目GDPがふえていくんですよ。

 ところが、あなたは、GDPデフレーターは関係ないから、成長率を上げない限りデフレは解消できませんよと言いたいがために、こんなことばかりやっているんだよ。

 そんな言いわけをするんじゃなくて、早くデフレを脱却すると。あなたは、理事のときからずっと考えると、もう既に脱却していないとおかしいんだよ、今まで言ってきたことをずっと見ていたら。

 ところが、市場は、白川デフレと、日銀はデフレターゲットでやっていると認識しているんですよ。そういう意味でのデフレについての日銀の信認はある。

 名目成長率を上げるということで物価を上げるということを何で早くやらないんですか。

白川参考人 たくさんの御指摘をいただきました。

 まず、データでありますけれども、私どもにとってデータというのは、これは命でございます。したがって、データについては、いろいろなデータを虚心坦懐に見ております。したがって、あるデータだけを都合よく見ていくということじゃなくて、さまざまなデータを使って分析をしていきたいということで、決して、都合よくデータを使うということは、こういう事実は全くございません。

 それから、名目GDPとそれから歳入の間に関係があるということを私は別に否定しているわけではございません。これは先生のグラフにあるとおり、名目GDPと歳入の間には関係がございます。

 ただ、名目GDPというふうに言いますと、例えば、実質の成長率が増加しなくても、物価上昇率だけがどんどん上がっていく。例えば、二%、五%、一〇%あるいは二〇%上がっていっても、その場合でも、あるいはそうではなくて、物価上昇率は上がらないけれども、実質成長率だけが上がっていくケースと、これは全く同じように歳入がふえていくんだろうか、そのあたりの関係はどういうふうになっているんだろうかというのが私の問題意識の出発点でございます。

 したがって、決して、名目GDPと歳入の伸びについて私は否定しているわけでは、これはもとよりございません。

 それから、日本銀行のデフレ脱却に対する構えでございますけれども、冒頭も申し上げましたけれども、日本銀行にとって、できるだけ早くデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが、これは極めて大事であるというふうに思っております。

 そうした思いは、これは私だけではなくて、日本銀行の政策委員会のメンバー九人全体の合議で決めております。先ほど、私の名前を冠したお話がございましたけれども、私一人が決めているわけではございません。これは九人で、知恵を集めながら、責任を持って、できるだけ早くデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰したいというふうに思っております。

 そのための政策手段について、先ほどは簡単に申し上げましたけれども、金融市場に対して潤沢に資金を供給しております。この席でも何度となく先生に対して御説明をいたしましたけれども、日本銀行は潤沢に資金供給を行っております。

 それから、資産買い入れの基金を設けて、今行っておりますけれども、例えばリスク性の資産、CP、社債、REITそれからETFを買う形で、現在、積極的な金融緩和政策を行っている中央銀行は、これは日本銀行だけでございます。中央銀行としては異例でございますけれども、しかし、こうした異例な政策を使っても、我々の目的を実現したいということでございます。

 それから、現在、実質的なゼロ金利政策を継続しておりますけれども、この継続する時期についても、物価安定が展望できるというふうに判断される時期までこの政策を続けるということを既に約束しております。中央銀行が将来の政策をあらかじめ、みずからの手を縛って約束するというのは、これはかなり異例のことでございますけれども、これも、そうした政策を物価安定が展望できる時期まで続けるということを示しています。日本銀行は、みずからの責任、みずからの日本銀行に定められた目的、これを決して放てきしているわけではなくて、責任を持ってこの問題に取り組んでおります。

 そう申し上げた上で、しかし、この日本経済が直面している問題に取り組むために、これは、みんなが力を合わせていく必要があるということも、責任ある中央銀行としてやはり申し上げる必要があるということで、先ほど来のことも申し上げております。

山本(幸)委員 何が潤沢な資金の供給なんですか。結果が出なきゃ、潤沢でも何でもありませんよ。だって、これはリーマン・ショック以降のほかの中央銀行と比べればすぐわかるわけですよ。ほとんど何もしていないんだ。だから円高になっているんだよ。それを潤沢にやっているなんという、言い逃ればかり言っているんですよ。結果が出なきゃ、潤沢でも何でもない。

 そこで、もうちょっと聞きます。

 あなたは同じ講演の中で、金融政策の話はするんですが、中央銀行のバランスシートの拡大の話があって、「量が拡大しても物価上昇率が上がる訳ではありません。実際、日本でも米国でも中央銀行当座預金やマネタリーベースが著しく増加しても、物価上昇率は上がっていません。」と言って、図表を示していますね。そんなことがあるんですか。

白川参考人 中央銀行が発行します通貨、これは、銀行券とそれから中央銀行に民間銀行が預けています当座預金でございます。この二つを合わせて、よくマネタリーベースという言葉が使われますけれども、このマネタリーベースというものの増減率とそれから物価の上昇率の関係を見てみますと、これは少なくとも、日本の物価がマイナスになった一九九七年以降、あるいは、今回アメリカでリーマン・ショックが起きて、FRBがバランスシートを拡張させた時期、こうした時期について、マネタリーベースの伸び率とそれから物価上昇率の関係を見てみますと、先ほど議員が御指摘の講演のとおり、両者の間には関係が見られていないということであります。これは、関係が見られていないとしても、将来さらにふやせばどうなのかという議論、これはもちろん、議論としてはあり得ると思います。

 この中央銀行の出す量とそれから物価の関係でありますけれども、バーナンキ議長、FRBはどうなのか、海外の中央銀行はどうなのかという意味での御質問だと思いましたので、お答えいたしますけれども、中央銀行のバランスシート、あるいは量とそれから金融政策の刺激度を結びつける考え方は、バーナンキ議長自身、繰り返し、これは適切ではないというふうに言っております。

 私は、中央銀行の通貨と物価上昇率がいつも無関係だということをもちろん言っているわけではございません。これはもちろん、両者には関係がございます。

 現在のように、アメリカもそうですし、日本もそうですけれども、金利がゼロのもとで中央銀行が幾ら通貨を出しても、これは、一方で通貨を保有することに伴うコストも、これはゼロに近いわけですから、同時に通貨の需要もふえる。したがって、通貨の供給もふえるけれども通貨の需要もふえるということで、ゼロ金利の環境のもとで、これだけでなかなか物価は上がりにくいということになっております。

 この点、例えば、非常にインフレのときに通貨量を絞っていくと、これは、いや応なしに人々が支出ができなくなりますから、当然、物価上昇率は下がってまいります。したがって、インフレ期に中央銀行が通貨の供給量を絞れば、これはもちろん物価上昇率は下がってきます。

 そういう意味で、中央銀行の通貨の量とインフレ率の関係、やや長い目で見た場合に、両者の間に関係があるということを否定しているわけではございません。バーナンキ議長が言っていることも私が言っていることも、これは現在のこのゼロ金利という環境のもとでの話をしているわけでございます。

山本(幸)委員 あなたはしきりに、バーナンキはバランスシートと関係づけるべきじゃないと言っていると言うんですが、調べましたよ。バーナンキはそういうニュアンスで言っていない。

 バーナンキが言っているのは、アメリカは物すごい量の国債を買い切りして、バランスシートを大きくふやした、それに対して、議会で、そんなことをやればインフレになるじゃないかと言われたときに、そんな心配はありません、バランスシートをふやしたからといってインフレになる心配はありませんし、我々はそれをコントロールする能力を十分に持っています、そう言っているだけですよ。だから、バランスシートをふやしたって物価と関係ないなんて言っていない。

 むしろバーナンキは、この前の質疑のときにあなたの発言とバーナンキの対比で示したけれども、バーナンキは、二%を落ちてきたらこれはもう危ないと言って、バランスシートをどんどん拡大すればいいんだと言ってやっているんですよ。だから、これはあなたの誤解ですよ、バーナンキの発言は。それが一つ。

 それから、おっしゃったように、マネタリーベースと物価、それだけを比べると、すぐには影響は出ないんだね。これは、私は予算委員会であなたとやったときに、大阪大学の先生の研究論文を引用して、VARモデルでやったら、確かに物価については有意な関係というのは得られなかったけれども、しかし、明らかに株価は上がるし、為替レートには影響するんだ。

 マネタリーベースと物価が一対一で対応するわけじゃない、量と物価が。それはすぐにはそうでしょう。しかし、大事なことは、実は、インフレ期待とデフレ期待の関係においては影響するんですよ、物すごく。

 それを示すために、最後から三番目、予想インフレ率とマネタリーベースの増加率という表があります。

 大事なことは、量と物価が一対一対応というんじゃなくて、そのやり方によって、人々のデフレ期待を緩やかなインフレ期待に変えるということが大事なんですよ。それは、マネタリーベースを拡大すれば、即影響するんだよ。

 日本の場合は、二〇〇四年の三月から二〇〇六年二月に量的緩和を猛烈にやったときに、やはりこの予想インフレ率は、物価連動債との関係で見ていますが、上がりましたよ。逆に、それをやめて、解除すると、一気にデフレ期待に戻っちゃうんだ。

 アメリカはもっと激しい。日本みたいにデフレをずっと続けていないからね。バーナンキは、はっきりと、二%になったら問題だと言っているから。

 マネタリーベースをふやせば、一気にインフレ期待はどっと上がるんですよ。これが私は大事だと思っているんですね。いかがですか。

白川参考人 日本銀行は、量的緩和の時期にさまざまな政策を展開いたしました。

 日本銀行のこの量的緩和というのは、この席でも何度も申し上げたことでございますけれども、潤沢に資金を供給することによって、金融システム不安から経済が落ち込むということを防ぐ上で、これは大いに効果があったというふうに思っております。私は、そういう意味で、量的緩和政策それ自体の効果について否定しているわけではなくて、今申し上げた意味でこれは効果があったというふうに思っております。

 それから、日本銀行は、この時期には、長期国債を買い入れてマネタリーベースをふやすということ以外にもさまざまなことを行いました。

 例えば、消費者物価指数が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を続けます、つまり、ゼロ金利政策を続けますという約束を行いました。そうなりますと、こういう約束がございますと、日本の景気が回復傾向に向かう中で、普通であれば、金利がゼロから少し離れてくるかなという予想が生まれるときに、そのときに日本銀行はそういう約束をしていますから、これは長期金利の上昇に一定の歯どめがかかってくるわけであります。こうしたことも、景気を刺激し、物価上昇率を上げていく上で効果がありました。

 先生のお示しになっているこのグラフは、これはマネタリーベースと予想インフレ率、この二つの関係だけに絞っておりますけれども、先ほど先生の御指摘のとおり、経済は、いろいろな変数が同時に動いております。

 日本銀行は、この間、マネタリーベースもふやしましたし、それから、先ほど申し上げたような約束も行いました。それからさらに、このグラフにはもちろん出てきませんけれども、例えば、金融機関が抱えているさまざまなリスクの中で、株式のリスクが非常に大きい、このことが経済を下押しする一つの圧力になっているということで、株式の買い入れも行いました。いろいろな政策を総動員して、この間、少しずつ予想インフレ率も上がってまいりました。

 そういう意味で、私は、金融緩和によってマネタリーベースがふえることのその効果それ自体を別にすべて否定しているわけではありません。これもそれなりの効果はあったと思いますし、しかし、いろいろな政策を総動員して我々は取り組んだということでございます。

山本(幸)委員 このファイルはマネタリーベースと予想インフレ率を見ているわけだから、その関係でいえば、統計的に有意な関係はちゃんと出ている。

 それから、あなたがおっしゃったように、ほかもやった、いろいろな約束をやったと。では、それをやればいいんですよ。それがインフレ目標政策でしょう、はっきりしているのは。それを、ゼロ%以上に、安定的になるまではというようなあいまいな言い方をするから、ちゃんときかないんだよ。二%から三%に、目標を持ちます、それまでは、考えられることはありとあらゆることをやります、株も買いましょう、長期国債も買いましょう、マネタリーベースをふやす。そういう政策運営、政策レジームというのだけれども、それをやれば、人々の期待感は変わりますよ。

 ところが、あなた方は、ちょっとゼロを超えたらすぐやめちゃうんだよ。マネタリーベースも、量的緩和もやめちゃうし、それから、その約束がどうなったのかわからない。今度は、おかしくなるとまた、約束についてはやると。しかし、量的緩和については、震災対応でちょこっとやるけれども、それ以降はまた減らしちゃう。

 行ったり来たりしたら、あなた方のねらいは何なんだと市場はずっと思っていて、それを見ているわけですよ。はっきりと目標が決まっていないから、市場は結局、白川さんの目標というのはデフレターゲットだ、そう信認しているわけですよ。

 だから、こういうのできいたというなら、もっとはっきりと目標を決めて、インフレ目標、コアCPIで二、三%に決めて、そしてマネタリーベースの拡大をどんどんやればいいじゃないですか。どうですか。

白川参考人 繰り返しになりますけれども、日本銀行の金融政策は、私だけで決めているわけではございません。国会でお決めになった他の政策委員と力を合わせて、九名で、政策委員会でしっかり議論をして、この日本の経済にとって最適な金融政策を運営したいというふうに思っております。

 今、そう申し上げた上で先生の御質問にお答えいたしますけれども、今先生がおっしゃった運営スキームは必ずしもインフレーションターゲティングではないかもしれませんけれども、インフレーションターゲティングということでお答えをしたいと思います。

 現在の日本銀行の金融政策の枠組みは、既にインフレーションターゲティングの長所を取り入れた上で、その欠点にも対処し得る枠組みとしてこれを導入しております。

 少し詳しく申し上げますと、日本銀行は、金融政策運営に当たって念頭に置く望ましい物価上昇率を、中長期的な物価安定の理解という形で明確にお示しをしています。また、この中長期的な物価安定の理解を判断の基準としまして、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、現在の実質的なゼロ金利政策を継続することを明確に約束しております。これらは、透明性の向上を通じて政策の効果を高めるというインフレーションターゲティングの長所を取り込んだものだというふうに思っております。

 一方で、日本銀行の現在のこの枠組みは、金融面での不均衡の蓄積などのさまざまなリスクにも目配りするものとなっております。

 今回の世界の金融危機の前を振り返ってみますと、先進国の物価上昇率は、非常に景気がいい中で、あるいは住宅価格が上がる中で、あるいは銀行の貸し出しが大きく上がる中で、物価上昇率は総じて安定をしておりました。そうした中で、低金利を長く続けたことがその後の先進国における大きなバブルを生む一つの原因になったという、これは大きな反省が先進国ではございます。

 こうした反省から、物価の動き、これは非常に大事でございますけれども、しかし、この物価の動きだけに機械的にとらわれ過ぎますと、結果としてバブルなどのより大きな不均衡を見逃してしまう、そうしたリスクもあるというのが、このインフレーションターゲティングを行ってのまた一つの経験でもあります。

 日本銀行としては、インフレーションターゲティングの持っている長所は最大限取り込み、それから欠点と呼ばれているものについては十分目配りし、その上で政策の透明性を高めた政策運営を行っておりまして、こうした政策運営のもとで、デフレ脱却し、物価安定下の持続的な成長経路をできるだけ早く実現したいと思っております。

山本(幸)委員 冗談でしょう。一番短所ばかりやっているんだよ。最大の短所は何か。責任がないということですよ。インフレ目標政策の最大のポイントは、目標をちゃんと示すから、達成できなかったら責任が生じるんですよ、中央銀行総裁に。オーストラリアでもイギリスでもそうでしょう。その責任が、だれが見ても、うまくいったかうまくいかないかわかるかという、責任の所在がはっきりしない限り、だれも信用しませんよ。あなた方は、わけのわからないような言い方で、責任は生じないようなやり方をしているんですよ。何が透明性ですか。

 では、あなたは、どれができなかったらどういう責任が生じるんですか。

白川参考人 日本銀行法は、日本銀行の使命を明確に定めております。

 日本銀行が使命を遂行する上で日本銀行の自主性を尊重しなければならないという形で、日本銀行法の規定はなされております。しかし、日本銀行の判断を尊重していく、いわゆる中立性あるいは独立性ということに伴う当然の責任として、中央銀行は、しっかりと説明の責任、なぜ日本銀行がこういう政策をとったのか、どういう判断のもとにどのような政策を行ったのか、これを明らかにしなさいということで、日本銀行に対して要請をしております。

 そうした要請のもとで、日本銀行はさまざまな形で議論の過程を明らかにしています。決定会合の後にその日の決定内容を発表すると同時に、私自身、記者会見を行っています。それから、議事要旨それから議事録という形で、九名それぞれがどういう議論を展開したのかということを世の中にはっきり明らかにする、それから、国会の場でもこういう形で説明をするように努力をしております。

 ほかの中央銀行の責任という、今お話がございましたけれども、多くの中央銀行への使命遂行に当たっての要請の仕方というのは、基本的には、金融政策の仕事の性格を反映しまして、しっかりとその議論の過程を明らかにしていく、そういう形で、我々自身、非常に大きな緊張にさらされております。そうした緊張あるいは責任感のもとで、しっかり政策を遂行していくということでございます。

山本(幸)委員 日本銀行法で云々と言って、日本銀行法で責任がはっきりわかる、書いていないんじゃない。これは日本銀行法に、あなた方にとっては一番いいんでしょうね。

 だけれども、インフレ目標政策というのは、独立性には二つある。目標設定の独立性と政策手段選択の独立性があって、目標設定については、政府、ないしは、政府ないし中央銀行が決めるんだ、そこで目標が決められる。それの達成に対して、政策選択については、中央銀行に自由な選択権がありますよという仕組みでやっているわけだ。これがインフレ目標政策の最大の長所ですよ。

 だから、あなたが何か、何年か約束するか、中期的には一年か二年だけれども、そこで決めた物価目標に達しなかったら、あなたは責任をとらなきゃいけないんですよ、イギリスだったら。責任をとって、なぜできなかったか言わなきゃいかぬ。それから、オーストラリアだったら首になるかもしれぬ。ニュージーランドか、ちょっとそこは、どっちか。それがない。明らかに透明性と責任の所在が不明確であるから、よくわからないんですよ。

 さっきのあなたの説明だって、聞いていたって、ことしの後半から緩やかな回復経路に移行すると思われると。だけれども、ああでもない、こうでもない、リスクがたくさんありますよと。何の説明ですか、それは。こうなるかもしれない、だけれども、こんなリスクもあります。だれだってできるわ、そんな言い方だったら。責任のとりようがないじゃない。

 はっきりとだれでもわかるように、あなたの政策運営、日本銀行の今の現体制の政策がちゃんとできたかどうか。だって、これは、要するに、さっき言ったように、名目成長率が一番大事なんだから、物価がちゃんと安定物価のところにいくかどうか。それをあなた方は、理解とかなんとかとごまかして、責任が生じないようにしているんですよ。

 これは極めて問題で、これは立法府の話でもありますから、いずれ日銀法改正なり、ちゃんと我々がやらなきゃいかぬと思っていますから、時間が少しなくなってきましたので、もう一個聞きたいことがあります。

 これは、五月二十五日に内外情勢調査会において講演されまして、要するに日銀引き受けについて否定的な話をしているんですが、「無から有を生み出す「打ち出の小槌」のような便利な道具は、そもそも存在しません。中央銀行による国債引き受けにせよ、民間金融機関による国債の市中消化にせよ、最終的には、企業や家計の貯蓄を原資として国債が発行されるという大きな構図は全く同じです。」と言っていますね。

 私は全く違うと思うけれども、どういう意味ですか。

白川参考人 金融学会という金融論の専門の学者の学会でありますので、多少……(山本(幸)委員「これは内外調査会」と呼ぶ)

 ごめんなさい、内外情勢調査会での会合でございます。失礼しました。

 中央銀行が国債の引き受けを行えば、すべて財源を容易に調達できるという理論があると思いますけれども、しかし、日本銀行も、それから民間の金融機関も、これは金融機関であります。バランスシートを持っているわけであります。

 民間金融機関の場合を考えてみますと、資産サイドに国債を持っている、負債サイドには預金があるという形で、つまり国民が貯蓄の中で預金をして、金融機関はその預金を原資に国債を買うということであります。

 日本銀行自身は、これはもちろん国民から直接預金を受け入れてということではございませんけれども、しかし、中央銀行のバランスも同じでございまして、資産に国債があって、負債の方に、右側に銀行券があるわけであります。銀行券はだれかが持ってくれているから、持ってくれて、その銀行券と見合いに国債を買っているわけでございます。もし国民が銀行券をもう持ちたくない、つまり将来インフレになると思う、そういうときには、国債を自動的に持てる、つまり、インフレなしに持てるというわけではございません。

 申し上げたいことは、中央銀行の出す通貨であれ、民間金融機関の出す預金という通貨であれ、これは最終的には、国民が貯蓄をしている、その中のある部分が、預金とかあるいは現金という形で回っているわけであります。つまり、国民の貯蓄を離れて、別途、最終的に国債の財源がずっと利用可能であるということではないということを申し上げているわけであります。

 中央銀行が国債を引き受けた場合に、引き受けたその瞬間で直ちにインフレが起こるということではないと思います。しかし、中央銀行が財政のファイナンスを行っていく、いわゆるマネタイズを行っていくということに、そういうふうに中央銀行が行動しているというふうに市場で見られるようになりますと、これは将来に対するさまざまな不確実性が増してまいります。そのことは、長期金利が上がってくるということになって、もともと順調にいっている国債の発行自体もうまくやっていけないということであります。

 そういう意味で、決して打ち出の小づちがあるわけではないというふうに申し上げたわけであります。

山本(幸)委員 私は、そこは、中央銀行理論、間違っているんじゃないかと思うね、あなたの。

 一回、自民党本部で、東大の岩本教授と私と議論したことがあるんですが、そのときに岩本教授は、通貨発行益というのは国債の利子で決まるんだから、ゼロ金利のときはほとんどないし、金利が今度上がっちゃうと損が出るという議論で、通貨発行益というのは当てにすべきじゃないという議論をした。その議論を、岩田さんを初め経済学者ときたら、よくそれで東大の教授をやっているなと言っていましたよ。

 それはどういうことかというと、日本銀行というのは民間の企業と違うんだ。民間の金融機関と違うんですよ。何が根本的に違うかというと、資産を持つ必要はないんですよ。資産がなくて負債だけ出せるんだ。つまり、管理通貨制度のもとでは、通貨発行権という権利に基づいて日銀券をどんどん出せるんですよ。それに見合う資産なんか持つ必要は別にないんですよ。だから、民間の企業とは全然違うんだ。その通貨発行権に基づいて日銀券を発行したものを財源に使えばいいんですよ。

 政府の予算制約式というのは、財政支出は、増税で賄うか国債の市中消化で賄うか、あるいはこの通貨発行益、どれかを使えばいいんですよ。だけれども、通貨発行益については日銀も財務省も黙っているんだよ。だって、そんなことをしたら増税路線がとれなくなるからね。

 通常は、インフレのときだったら、そのインフレが激しくなるということで限界があるかもしれぬ。しかし、今はデフレなんだ。しかも、またショックはある。ほかのことでも財政負担はたくさんある。こういうときに、この日銀の特殊性、つまり、資産を持たなくたって負債だけを出せるという中央銀行の特殊性を使って、これを利用すればいいんですよ。

 大体、もともと中央銀行なんて独立する必要はないんだよね。政府と一緒にしちゃえば、同じことがどんどんできるんですよ。だけれども、便宜的に分けたんだ。それは、インフレとかあるからね、過去の例がある。だけれども、本質的には一緒にして、政府が通貨発行するのと同じことなんです、それは。資産を持たなくたって金が出せるんですよ。打ち出の小づちそのものですよ。これを使ってデフレ脱却と復興を一緒にやるというのが最大の責務だと思いますよ。

 ちょっと時間がなくなったので、野田大臣、それについて最後の所見を伺って、終わります。

野田国務大臣 大変興味深くお二人の議論を聞かせていただきました。

 最後の御質問のところでありますけれども、要は、日銀の国債のいわゆる引き受けというのは、これはやはり、日本の場合には、過去の経験、これを重く見なければいけないと思います。戦前戦中のあのハイパーインフレの経験というのがあって、それで今の財政法の五条ができたというふうに思います。そして、例えば一九八〇年代、九〇年代のブラジルも、そしてアルゼンチンも同じような失敗をしております。

 加えて、今、国際社会の中で、主要先進国の中で、そういうやり方をしている国はございません。今、EUのソブリンリスクの問題が問題になっておりますけれども、ユーロ加盟国は、リスボン条約に加盟をして、中央銀行が国債を直接買い入れるということができないようにしている。そういういわゆる国際社会の一つの常識ができているというふうに私は思います。

山本(幸)委員 高橋財政の歴史についてはちょっと認識が間違っていると思うので、いずれゆっくりやりたいと思います。

 そんなことを言ったって、世界じゅうでデフレは日本しかないんですよ。そういうときに、それを脱却する手をして、名目成長率を上げなくて、財務大臣として税収を上げられるんですか。私は心配ですね。いずれまた改めてやります。

 終わります。

石田委員長 次に、齋藤健君。

齋藤(健)委員 自由民主党の齋藤健です。

 財務金融委員会での二度目の質問の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 前回も申し上げたんですが、私は、繰り返しになりますが、美学として揚げ足はとりませんので、正論の直球しか投げませんので、御答弁の方もストレートで返していただきたいなと思います。

 野田財務大臣、今の政権は、限度を超えてひどくないでしょうか。

 まず、まともな人事ができなくなっているんじゃないでしょうか。

 松本前復興大臣の任命は何だったんでしょうか。本人がやめれば済む問題なんでしょうか。過去の問題ではありません、任命した人が何の責任もとらずに残っているわけでありますから。

 浜田参議院議員の一本釣りは何だったんでしょうか。人事にはメッセージが込められていると言われているわけでありますけれども、一体どんなメッセージが込められていたんでしょうか。人事がめちゃくちゃで、私はお粗末だと思います。

 閣内で議論がまともにできなくなっているんじゃないでしょうか。

 経済産業大臣が玄海の原発の運転再開のために佐賀県に入りました。大臣が佐賀県に入って、国が責任を持つから運転を再開してほしいと言う以上は、事前に総理と相談をされているはずであります。それが常識であります。私も通産大臣の秘書官を務めておりましたが、直接大臣と総理が話すかどうかは別にして、そういう最終局面については総理と相談をするのが筋でありますが、大臣が行ってようやくうまくいくかなと思ったときに、今度は総理がそれをひっくり返すというようなことが現に起こりました。

 原子力というセンシティブで極めて重いテーマ一つとっても、閣僚間でこんな打ち合わせすらできないんでしょうか。こんな大事な議論なのに、閣内で議論を積み上げて、あらゆる可能性を視野に入れて検討するということができないのでしょうか。

 総理は、今さら、私はやめるとは言っていない、若い人につなげるとは言ったけれども、やめるとは言っていないと。小学校三年生のけんかの言いわけじゃあるまいし、出処進退という政治家にとって最も重要な事柄について、こんなくだらないことしか言えないような人間の言うことを、もはや国民は信用しません。今や、菅総理が何を真顔で言ったとしても、真に受ける国民はおりません。そんな総理に何ができるというのでしょうか。そんな内閣に何ができるというのでしょうか。

 だから、内閣支持率はどんどん下がっております。最近は一五%程度ということで、間もなく我が党の森内閣を抜くことになるんじゃないでしょうか。自民党が何十年もかかって達成したことを、わずか二年間で実現しようとしているわけでありまして、これは驚くべきことでございます。

 野田大臣、国難に対処しなければならないこのときに、こんな内閣で、野田大臣は本当にこれでいいと思っておられるのか、所見をお伺いしたいと思います。

野田国務大臣 前回も直球の御質問をいただいて、直球で答えてしまって、いろいろ皆さんに御心配をおかけしました。

 今も、ちょっと多岐にわたる御質問だったと思うんです。それぞれ、私は、御批判を甘んじて受けるしかないというふうに思っています。

 特に、あの原発の関連、先週の衆議院の予算委員会で、当然のことながら、関係閣僚と総理を中心にすり合わせはしてきたはずだったと思うんですが、それが未消化でございました。現場にいた閣僚としても、全閣僚がいましたけれども、座りながら立ちくらみがする思いがいたしました。

 やはり基本的には、関係閣僚がすり合わせをして、今ようやく方針が出てまいりましたけれども、もっと国民の皆様に御心配のないように、特に原発を抱えているような地域にきちっと説明をしていかなければならないというふうに思います。

 それから、政務官の人事の話もございました。これも会見で申し上げましたけれども、この七十日間国会を延ばした中では、大事な予算とか大事な法案があります。これについては、私は、与野党がしっかり心を合わせて政治を前進させることが大事であって、正面玄関に立って、コンコンとたたいて、頭を下げてからやるのが政府・与党の役割だということを申し上げてまいりましたので、これも私自身も大変驚きました。

 ただし、これは、私自身も菅内閣の一員でありますので、一体的な責任であります。これは自分たちも責めを負わなければならないし、だから、先ほど冒頭申し上げたとおり、御批判は甘んじて受けなければならないというふうに思います。

齋藤(健)委員 平時ならばある程度は許されると思うんですが、私は、今の菅総理のもとでは、一日この内閣が長引けば、一日被災者が余計な苦労をするのではないかと思います。

 菅内閣はだめだというのは、党利党略で言っているわけではありません。自民党にとりましては、菅総理がなるべく長くやってもらった方が得なわけですから。菅総理から若い総理にかわられたら、民主党の支持率はぐんと上がりますが、我が方は期待ができません。自民党のためにはならないわけであります。

 なぜやめるべきかといえば、菅総理のもとでは危なっかしくて、幾ら震災対応のためとはいえ協力ができないということであります。菅総理さえいなくなれば、自民党は震災対応にばんばん協力できるようになるわけです。だからおやめくださいと言っているわけです。そうですよね、竹下先生。竹下先生の一諾は値千金であります。どこかの総理の発言とは違います。

 もう一度伺います。野田大臣、この国難に対処しなければならないこのときに、平時じゃありません、こんな内閣で、野田大臣御自身は本当にいいと思っているのか。思っているとしたら、私は野田大臣に心から失望しますし、思っていないのであれば、野田大臣らしいアクションをとるべきだと考えますが、大臣の御所見を再度伺いたいと思います。

野田国務大臣 私は、総理が代議士会でお話をされたこと、そしてその後、記者会見でもお話しされたこと、これを私は額面どおりに受けとめております。やらなければいけないこと、三つほど挙げました。それを震災復興のために一定のめどという言葉であらわしましたけれども、これは額面どおりであって、震災復興のための一定のめどということは、だらだら延ばすことではないと。そういうことを、全力で最後、しっかりやり遂げたいというのが私は総理の思いだと思いますので、その総理の思いを踏まえて、私はその職責を果たしていきたいというふうに思います。

齋藤(健)委員 ありがとうございました。

 きょうは経済情勢の議論を、日銀総裁も来ておられますので、そっちの議論に移したいと思います。

 まず初めに、国交省に来ていただいていると思うんですが、私が調べたところ、日経新聞のウエブ版のデータですかに、建設工事受注という項目がありまして、これは民間の建設工事の受注、そういうデータであります。これが、前年比で見ますと、三月がマイナス一一・〇%となっているわけですが、四月は三一・四%プラスになっておりまして、五月は二五・五%のプラスになっておりまして、これは前年比でありますけれども、四月、五月と大変大きな伸びになっているところであります。

 国交省は、この建設工事受注というデータの伸びにつきまして、理由をどのようにとらえておられるか、御説明いただけたらと思います。

西川政府参考人 ただいま御指摘いただきました平成二十三年五月分の民間建設工事の受注高の件でございますが、私ども、二十三年の七月十一日に五月分の建設工事の受注動態統計を公表いたしました。それに基づきますと、五月は少し増加をしておりまして、民間建設工事の受注高は、建築工事・建築設備工事につきましては、前年同月比で二九・四%増加して二千六百五億円になっておりまして、土木工事及び機械装置等の工事につきましては、前年同月比一七・四%増加し、二千六百億円となっております。

 これらがふえている要因でございますが、一件五億円以上の工事につきまして、建築工事・建築設備工事の増加を見ますと、不動産業が発注者となる住宅に係る工事が増加したことが主な要因となっておりまして、また、土木工事及び機械装置等の工事の増加につきましては、一件五百万円以上の工事では、電気、ガス、熱供給、水道業が発注者となる工事や、発電所に機械装置を設置する工事が増加したことが主な要因となっております。

 ただ、これをどのように見るかでございますが、五月分の民間建設工事の全体の受注高の水準は、平成十二年から本統計調査を開始しておるわけですが、一昨年、昨年に次いで低い水準でございまして、増加についても、単月の動きであることから、今後の先行きについては慎重に見きわめる必要があると考えております。

 以上でございます。

齋藤(健)委員 ありがとうございました。

 それで、もう一つデータについてお伺いしたいんですが、これは内閣府になりますかね。

 公共工事の請負金額なんですけれども、これも前年比で見ますと、四月にマイナス一一・二%、五月にマイナス一四・一%と大変大きく落ち込んでおりまして、先ほど御紹介させていただいた民間の建設工事受注に比べて極めて対照的な動きとなっているわけでありますが、その理由をどのようにとらえておられますでしょうか。

鈴木政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のとおり、公共工事請負金額は、四月マイナス一一・二%、五月マイナス一四・一%と、前年比マイナスで推移しております。

 この背景としては、まず、平成二十三年度当初予算の公共事業関係費が前年比でマイナスとなっていたことがあると考えられます。また、五月二日に成立した一次補正予算を含めますと、特殊要因を除いた公共事業関係費は前年度を上回ることになりますが、予算成立から執行までは一定の時間を要するため、五月も前年比マイナスとなっているものと推測されます。

 今後、予算の執行が進むにつれ、震災後の復興需要も徐々にあらわれてくると考えております。

齋藤(健)委員 ここで私が申し上げたいことは、我々が押さえておかなくちゃいけないポイントは、先ほど日銀の方の報告でもございましたけれども、震災後の日本経済の回復が、とりわけサプライチェーンの回復が予想以上に早かったということで、全体として予想以上のスピードで回復していると言われているわけですが、それは主に民間の力によって回復をしてきている。まさに民間の涙ぐましい努力のたまものでありまして、震災時に本当は頑張らねばならない政府の、要するにマクロ経済政策のたまものではないのではないかということであります。

 今後の話がありましたけれども、これまでの経済情勢についてであります。

 確かに、私が伺うところによりますと、民間企業が物すごいスピードで自分の工場を立ち上げたり、サプライチェーンの回復に努力をされておったわけでありますが、残念ながら、これまでのところは、その民の努力によるところが大きいというふうに私には見えるわけでありますけれども、この点につきまして、野田大臣はどのようなお考えをお持ちでしょうか。

野田国務大臣 齋藤委員の御指摘のとおり、一つには、やはり民間の皆さんが寸断されたサプライチェーンの修復を急ピッチで進めていらっしゃること等々、いろいろな困難がある中で頑張っていらっしゃるということは、これは大変重要な事実だろうというふうに思います。

 加えて、政府においても、今執行中の二十三年度の予算と、そして、五月二日に各党の御協力をいただいて執行させていただいている第一次補正予算を含めて、この着実な執行を通じながら、政府は政府としての取り組みを行い、貢献をさせていただいているというふうに思っております。

齋藤(健)委員 内閣府と国交省の方は、これ以上質問しませんので、もうこれでお帰りいただいて結構でございます。

 ところで野田大臣、私はこのところの財務省の経済運営について幾つか腑に落ちないところがあるわけでありますけれども、そのうちの一つが、二十三年度予算における公共事業、施設費の五%執行留保であります。大臣は四月一日の閣議で、この公共事業、施設費の五%執行留保を他の大臣に要請されたと聞いておりますけれども、それはまず、いかなる理由でこのような要請をされたか御教示いただければと思います。

野田国務大臣 齋藤委員御指摘のとおり、四月の一日に各大臣に御協力の要請をさせていただきました。それは、平成二十三年度予算の執行に当たって、具体的には、公共事業、施設費について、五%を一つのめどとして執行を一たん留保していただくこととする内容です。

 これは、公共事業、施設費について、総額を減らすのではなくて、今後必要な事業を見きわめながら、まずは被災地への重点化を図っていくという観点から御要請をさせていただいたということでございまして、今後の執行についても、被災地の復旧や国民の生活、安全、安心の確保に資するよう、景気の観点も含めながら、諸情勢を勘案しながら適切に対応してまいりたいというふうに思います。

齋藤(健)委員 確認ですけれども、これは、これから被災地の財政需要がふえるので、そのために被災地以外のところは五%程度留保せよ、そういう趣旨と理解してよろしいでしょうか。

野田国務大臣 留保の対象から除外をされるというのが、東日本大震災による震災対応にかかわるもの、それから国民生活の安全、安心にかかわるもの、その他上記に準ずる経費ということで、基本的にはやはり震災対応を最優先にするための執行の留保であって、総額を減らすのではなくて、留保しながらまずは被災地から重点化してほしい、そういう思いを込めた対応でございます。

齋藤(健)委員 この要請は今も当然生きているというふうに考えていいと思いますけれども、私は、震災後のマクロ経済運営というのは大変繊細で、これからも細心の注意を払っていかなくちゃいけないと思っています。

 特に、被災地にみんなの目が向くのは当然なんですけれども、被災地以外の地域の経済にも十分な目配りをしていかないと、取り返すために今まで以上のコストを払わなくてはいけないということにもなりかねないわけで、今は、先ほどの日銀の御報告にもありましたように、思ったよりも民間の力が非常に強くて回復が早いということでありますけれども、喜んでばかりはいられないと思います。これから産業空洞化が大きく進展してしまう危険があって、それはまず何よりも地方を直撃する、そういう課題だろうと私は思っております。

 私どもが、言い方はいろいろ御批判もありますが、アンチビジネス政策と呼んでおります民主党のマニフェストにありました政策、すなわち、製造業への派遣禁止、最低賃金は千円にする、それからCO2の削減は、一九九〇年比で二〇二〇年までに二五%ということなんですが、もう過去はどうしようもないので、二〇〇五年から直してみますと、十五年間で三〇%削減しなさい、この目標はまだ取り下げていないので生きているということであります。それから、法人税は四〇%で世界最高水準、一ドルは八十円、きょうはついに七十九円台に突入したそうであります。

 一つ一つはそれなりの理由があることはわかりますけれども、これだけ重なって、それでも国内で製造を続けられる企業というのは本当に一体どれだけ残るんだろうかということを大変私は不安に思います。

 私は、今、我が国の経済というのは戦後最大の空洞化の危機にあると思います。これは前に野田大臣と議論させていただきました。素材産業まで外へ出ようとしている、そういう意図を隠さなくなってきております。

 これまで過去二回、大きな空洞化の危機がありました。一九八五年のプラザ合意のとき、それから一九九五年の一ドル七十九円になったとき、この両方のタイミングで、日本の企業は海外生産を一気に加速させました。今や第三回目の空洞化の危機であり、私は、最大の危機であると思います。

 第一回目の八五年のときは、前にもお話ししましたように、私は、この急速な円高によって日本の企業に大きな影響が出る、それを緩和するための法案の作成作業をしておりました。また、第二回目の九五年のときは、日米自動車交渉をやっておりまして、まさにそれが原因と言われながら、為替がアメリカの政府高官によって円高に誘導されていったという経験を持っております。

 過去二回の空洞化の危機のときは、いずれも私はそれを肌で実感できるところで働いておりました。今回の三度目の空洞化の危機は、その過去二回の比ではありません。本当に多くの大企業が真剣にもう出ようかという判断をしつつあるのではないか、そういう不安があります。

 それに加えて、今回、福島の原発事故に起因しまして、電力供給が不安定化をいたしました。原発の定期検査以降の運転再開ができるかできないかによりましては、今度の冬あるいは来年の夏、本当に不安な状況になります。来年はさらに悪化するんじゃないかと言われております。そしてさらに、電力料金の高騰は、これはもう間違いなく、待ったなしだと思います。半端な金額ではないんじゃないでしょうか。

 例えば、東京電力は、福島第一の処理、これに兆円単位のお金がかかるでしょう。それから、原発が動かせなくなった分、燃料を買わなくちゃいけません。それが年間七千億、八千億になると言われております。また、補償、この補償も何兆円になるかわからない、人によっては五兆だ十兆だということにもなっております。

 東京電力の年間の売り上げはおよそ五兆円ですから、二割、三割の電力料金アップというのは簡単にイメージできるんだろうと思いますが、企業はそういうことを頭に入れておりますし、さらには、今度、総理が推進をしたい三本柱の一つであります固定価格買い取り制度、これによりましても電力料金の上昇が見込まれるわけであります。

 今や、民主党政権のマニフェストにありましたその五点セットに加えまして、今言った電力供給の不安定化、そして料金の高騰という七点セットになって、日本の製造業を襲っているわけであります。政府が本当に本腰を入れてこの空洞化対策をしませんと、一度出ていった企業はなかなか戻ってきません。財務省にとっても、税収を生む産業がなくなるということになるわけであります。

 そして、繰り返しますが、この空洞化という問題は地方を直撃するということであります。そんな瞬間に、何で、被災地以外の地方を直撃することになるこの五%留保をやるのか、私には理解に苦しむところなわけであります。

 私は何も公共事業がすばらしい、礼賛者ではありませんが、ただ、国の公共事業予算というのは、民主党政権になってから二年間で、まず二十二年度の予算で一八・三%削減をされました、そして二十三年度の当初予算では、地域自主戦略交付金を加えても、それでもなお五・一%の削減になっておりますので、トータルで二年間で二三・四%も削減をされているわけであります。これに五%執行留保を加えれば、被災地以外の地方では、二年間で約三割近い公共事業の削減になるという、激震と言っても過言ではないと思いますが、これでは、現実問題、地方の経済が大変になる。

 さらに、それに空洞化が加わる可能性があるということでありまして、このような空洞化の非常に大きな危機という現実に直面しながら、なお今年度の公共事業、施設費の五%執行留保をまだ続ける、それが本当に正しい政策なのか、私は大変疑問に思っているわけであります。

 それこそ、そこは政治主導で、地域の経済を一たん疲弊させると、また戻すのにはその何倍もコストがかかると思いますので、一たん冷え込ませないように、少なくとも今回削った後の当初予算の公共事業の金額をしっかり執行するぐらいの地方のための経済運営を政治主導でやるべきではないかと私は思うわけでありますが、この点についての野田大臣の御見解を伺えたらと思います。

野田国務大臣 齋藤委員の産業の空洞化に対する危機感は、これは全く私も共有をしています。

 過去二回、その取り組みをされてきたから、まさに御専門だと思いますけれども、今回の産業の空洞化というのは、一つは税の問題もあると思います。法人税については、でも、実効税率を五%削減するという税制改正案を提出させていただいておりますが、この問題がどうするかということと、それから、御指摘のあったとおりの為替の問題、加えてこの電力の不足、そしてその電力コストが上がるのではないかということ、これによって企業が国内の基盤を移して海外に出る可能性というのは、私はすごく危機的に感じています。

 特に、何より大事なのは見通しの問題だと思うんです。企業にとって大事なのは見通しだと思います。その見通しが立つように明確に方向性を示すという役割を早急にしなければなりませんし、特に企業の行動の場合、四半期ごとに拠点をどちらにするかということを決めることがありますので、気がつくと十月から一挙に流れるということもあり得ますので、それは危機感を持って臨んでいきたいと思います。

 その上で、五%留保のお話がございました。これも、先ほど御説明申し上げたとおり、各地の経済状況もよく勘案しながら適切な対応をしていきたいと思いますが、財務省は財務省として、全国の財務局長会議を開いて、各地の経済の点検はよくしているつもりでございますので、それを踏まえながら、適切な対応をしていきたいというふうに思います。

齋藤(健)委員 最後に、時間がなくなってきて大変恐縮なんですが、日銀総裁にお伺いをしたいと思うんです。事前に登録もしてありますけれども、一問だけ。

 今、日本経済の抱える最大の問題は、震災復興以外ということでいいまして何だというふうに、今、日銀として考えているか。

 そしてもう一つ、先ほどいただいた資料の中に、「「経済・物価情勢の展望」の公表」ということで、二十二年度から二十四年度にかけての経済・物価情勢の展望、これは議論を行ったというレポートが入っているわけですが、二十四年度の展望を行うときに、日本の企業がこれからやはり出ていくんじゃないかという懸念についてはどのようにこの展望の中にビルトインされているのか。あるいは、それは出ていってから考える話で、これから出ていく話については一切考慮に入れていないのか。その辺、お伺いできたらと思います。

白川参考人 お答えいたします。

 現在、日本経済が抱えている最大の問題、これはもちろん震災からのできるだけ早い復旧復興でございますけれども、しかし、日本経済は震災の前から非常に大きな問題を抱えておりました。それは、この二十年間にわたる成長率が徐々に低下をしていく、日本の成長力が徐々に低下しているという問題でございます。

 これにはもちろんいろいろな理由がございますけれども、一つは、急速な高齢化に伴う労働人口の減少、それからもう一つは、そのもとでの労働生産性が徐々に低下をしてきているという問題でございます。こうした問題にしっかり取り組むということが、これは日本経済の最大の課題だというふうに思っております。

 具体的にどういうことを行えばいいかということについては時間の関係で省略いたしますけれども、この問題に真正面から取り組むということが大事だと思います。

 それから、先生御指摘の日本経済の空洞化のリスクということでございますけれども、この問題は、私どもの先々の経済の見通しでも、これは意識をしております。

 ただ、空洞化という言葉は、これは日本銀行の立場で空洞化リスクというのをリスク要因として大きく掲げるのはどうかという思いもありまして、そういう形では表現しておりませんけれども、実は、昨日の金融政策の決定会合後の発表文でも、先々の見通しとして、中長期的な電力の不足、これが日本における製造コストの上昇を通じて日本の企業が海外にシフトをしていくとか、あるいは日本の企業、家計のコスト負担の増加となって、結局は実質購買力の低下、需要の減少をもたらすということで、リスク要因としてこれは意識しております。昨日私は記者会見で、強い懸念を、持っているという言葉を使って表現いたしましたけれども、持っております。

 私自身は、今、経済のグローバル化が進行しておりますので、したがって、最終的に企業が、地産地消といいますか、需要の拡大する場所で生産の拠点を持つこと、それ自体は、グローバル化の中で自然な動きだと思っておりますけれども、しかし、日本におけますさまざまな制度のおくれ、これが日本企業の海外シフトを加速するということであってはいけないというふうに思っております。

 このことも、結局は、先ほどの日本経済が直面している問題に日本が真正面から取り組むということが必要だということを物語っているように思います。

齋藤(健)委員 ありがとうございました。終わります。

石田委員長 次に、勝又恒一郎君。

勝又委員 民主党の勝又恒一郎でございます。

 きょうは、財務金融委員会での御質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 あの三・一一以降、本当に国会の議論が問われているということだというふうに思います。国民から見て、やはり、政策よりも政局をやっているというようなことは断じて思われてはならない、そういう意味では、本当に真摯な議論を重ねなければならない時期に来ていると思います。そういう意味では、野党の先生方も建設的な議論を展開していただいておりますし、私たち与党の議員も、与党だから政府のやることは何でもいいというのではなくて、やはり党内の議論の足らないものは足らないということでしっかり伝えなければならないし、国民から見てわかりにくいものは、しっかりわかるように、こうした委員会の場で説明を求めていかなければならない、そういう局面だというふうに思っております。

 そういう中で、最近の国会の中の議論、政府の議論を含めて、非常に不安定な状況なエネルギー政策のあり方、そしてまた原発問題を中心とするエネルギー問題が日本経済に大きな影を落としているというふうに私は思っておりますので、きょうは、エネルギー問題を中心に、原発の問題を中心に、最終的には日本経済の問題、さらにはきょうの日銀報告を受けた形での総裁への御質問へとつなげさせていただきたいというふうに思っております。よろしくお願いを申し上げます。

 そういう意味で、まず最初にどうしても聞かなきゃならないんですが、電力行政、あるいは政府、あるいは原発、こういうものの信頼性を考えた場合に、今回の九州電力によるやらせメールの問題、事件というのは極めて重い事件だ、とんでもない事件だというふうに私は思っています。このことによって、もしかしたら本当に短期、中期の日本のエネルギーは大きな危機を迎えるかもしれないというほどの重要な事件だと私は思っておりますけれども、経産省に対して九州電力からこの問題についての正式な報告はあったんでしょうか。

    〔委員長退席、泉委員長代理着席〕

横尾政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、この問題でございますが、九州電力から当初報告がございました七月六日に、資源エネルギー庁の長官から九州電力の社長に厳重注意をするとともに、徹底的な原因究明と再発防止策の報告を指示いたしました。その後、八日に、社長に対して、これは海江田大臣みずから、直接、早期の真相解明と信頼回復に努めるよう指示をしたところでございます。

 これを受けまして、現在、九州電力において調査中というふうに承知をしております。調査結果がまとまり次第、役所の方に報告があるものというふうに考えてございます。

勝又委員 今の御答弁だと、まだ最終的な調査報告を受けていないということですけれども、きょうの新聞各紙には出ているじゃないですか。もう既に、組織ぐるみの指示があったというふうに報道に出ている、そしてそれを九州電力の複数の幹部が既に答えている。まだ調査報告を受けていないというのはおかしいんじゃないですか。

横尾政府参考人 九州電力に対しては早急に報告をするようにということで、今週中には報告があるものというふうに考えてございます。

勝又委員 いや、ですから、もう既にマスコミに流されているような状況で、今週中などと悠長なことを言わないで、やはりきちんと九州電力に問い合わせた方がいいと私は思いますよ。やはり、こういうのを見過ごすから、経産省と電力会社はぐるなんじゃないかとか、国民から見てまだ隠していることがあるんじゃないかというようなことを言われると私は思いますよ。ぜひ、私はきちんとした対応をこの件については求めておきたいというふうに思います。

 それで、次の質問に移りますけれども、ストレステストの問題について伺います。

 ストレステストの統一見解というのを私も拝見いたしました。一次評価、二次評価というようなものがあるわけですけれども、率直に言って、これだけではストレステストなるものがどういうものかというのはまだよくわからないというのが私自身の受けとめ方であり、多くの国民ないしは国会内の議員の皆さんの受けとめではないかと私は思っています。そういう意味で、少し踏み込んで、きょうはお伺いをしたいんです。

 まず、この一次評価、二次評価というのはどう違うんでしょうか。

黒木政府参考人 お答えいたします。

 ヨーロッパのストレステストを参考にした我が国の安全評価でございますが、御指摘のように一次評価と二次評価に分かれているわけでございます。

 一次評価につきましては、定期検査中の起動準備の整った原子力発電所につきまして、安全上重要な施設、機器等が設計上の想定を超える自然現象、これは地震、津波でございますが、これに対してどの程度の安全裕度を有しているのかを評価するものでございます。

 他方、二次評価でございますが、欧州諸国のストレステストの実施状況、また福島原発の事故調査委員会の検討状況も踏まえて、すべての原発を対象に、総合的な安全評価を行うものでございます。

 これらの二種類の安全評価につきましては、さらなる安全性の向上と、住民や国民の安心、信頼の確保のため、おのおの独立して行うという目的のものでございます。したがいまして、一次評価は二次評価の途中経過を示す暫定的なものという位置づけではないという形になっております。

勝又委員 今の御説明で、一次評価は暫定的な評価ではないというんですが、そうすると、一次、二次とあって、その一次で運転を再開できる、再稼働できるということの安全性はどうして担保されるんですか、二次評価の前の段階で。

黒木政府参考人 一次評価の安全性の担保の問題でございます。

 我が国の原子力発電所につきましては、現行法令下で適法に運転が行われておりますし、さらに、これらの発電所につきましては、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けまして、私ども緊急安全対策等々の対策を実施してきておりまして、従来以上に慎重に安全性の確認が行われているところでございます。

 他方で、定期検査後の原子力発電所の再起動につきましては、原子力安全・保安院による安全確認についても疑問を呈する声も多く、国民、住民の方々に十分な理解が得られているとは言いがたいという状況にあるわけでございます。

 こうした状況を踏まえまして、政府においては、原子力安全委員会も関与するような形で新たな手続、ルールに基づく安全評価を実施することとしたところでございます。

 具体的には、現行法令では関与が求められておりません原子力安全委員会による確認のもとで、評価項目、評価実施計画を保安院の方で作成することとしてございます。また、これに沿いまして、まずは事業者が評価を行うこととし、その結果について、保安院がその内容を確認し、さらには原子力安全委員会がその妥当性を確認するという形をとってございます。

 これらのことを通じまして、安全性については十分担保されるというふうに考えてございます。

勝又委員 今のは、結論的には、要するに原子力安全委員会が最後確認するのが担保という意味ですか。

黒木政府参考人 お答えいたします。

 私どもの方におきましても、法令に基づいた規制、これをしっかりやっているという前提のもとで、私ども及び最後には安全委員会がしっかり確認するということが担保だということでございます。

勝又委員 この一次、二次というのは、なかなかこれは正直言ってわかりにくい議論だと私は思っているんです。

 というのは、これは別にけちをつけるという意味ではなくて、この一次、二次の一次が、いわゆる今の定期点検を終了したものの再起動ありきで一次評価というものがあるというように思われた時点で、私は逆にエネルギー行政がおかしくなるんではなかろうかというふうに思っていて、この一次評価というものの意味をしっかり、国民とか地元自治体、住民に伝えていかなきゃいけないと私は思うんですね。

 この一次評価をすることに、きちんとした安全性の担保がとれるんだということをきちんと理解してもらう必要があると思うんですけれども、今後、一次評価のあり方というものについて、いわゆる定期点検を終了している原発を持つ自治体や住民にどのように説明していこうというふうにお考えですか。

黒木政府参考人 御指摘の住民の方々への説明のありようでございます。

 十一日の政府統一見解におきましても、今回の安全評価の一つの趣旨として、原子力発電所のさらなる安全性の向上と国民、住民の方々の安心、信頼の確保のために行われるものだとしているところでございます。この趣旨を踏まえまして、地元の理解を得るためには、一次評価の内容を具体化し御説明を行っていくこと、これは極めて重要であると考えているところでございます。

 保安院といたしましては、原子力安全委員会と十分にその評価の中身を検討を進め、地方自治体等に対しまして、丁寧に真摯に御説明をしてまいりたいと考えております。

勝又委員 言うまでもありませんけれども、原発の耐震性能というのは地域ごとに非常に異なるんだろうというふうに思います。

 また一方で、そもそもストレステストというものは外的なものに対するテストですから、安全基準の見直しとは直接関係がないというふうに思うんですけれども、国民の安心ということでいえば、安全基準の方、これをきちんと、まず暫定のものでも設けて、それで自治体や国民の理解を得るべきではないかとも考えますけれども、いかがでしょうか。

黒木政府参考人 御指摘の安全基準の話でございます。

 私ども、暫定的という形でいえば、緊急安全対策それから電源の強化対策ということで、保安規定それから技術基準などの内規を変えまして、チェックを行ってきたところでございます。

 また、あわせまして、抜本的なという意味でございますが、先般、原子力安全委員会におきまして、審査の指針それから耐震設計審査指針も含めて、この見直しに着手したところでございます。

 私ども、安全委員会の検討に最大限協力をいたしまして、しっかりとした指針、これを抜本的に見直して策定していくという考えでございます。

勝又委員 それは、いつごろまとまるんですか。

黒木政府参考人 まずは、安全委員会の方では年内に検討を一つのめどとしてございますが、私ども、それに最大限協力して、検討が始まったばかりでございますので一定の時間はかかろうかと思いますが、努力してまいりたいと考えております。

勝又委員 年内と言わず、ぜひ急いでいただきたいと思いますね、やはりいろいろな意味でエネルギー需給が逼迫してまいりますから。

 ストレステストに戻りますけれども、そういう中で、一次評価、二次評価の具体的な内容、概要ではなくて、具体的な内容というのはいつ示されるんでしょうか。

    〔泉委員長代理退席、委員長着席〕

黒木政府参考人 お答えいたします。

 先般、七月六日の日に、原子力安全委員会の方から私ども経済産業大臣に対しまして、総合的な評価の手法それから実施計画を報告することが法律に基づいて求められたところでございます。また、十一日の政府統一見解においても、安全委員会の要請に従って実施するという趣旨が記載されているところでございます。

 私ども、この政府統一見解等を踏まえまして、一次評価、二次評価に関しまして総合的な評価手法及び実施計画について作成している、その作業を行っている状況でございます。

 この一次評価、二次評価の目的が安全性のさらなる向上、また安全性に対する国民、住民の方々の御理解を得るという趣旨でございますので、これを十分実のあるものとするとの意識を持ちつつ、できるだけ早くこの総合的な評価手法、実施計画を安全委員会に報告するよう努力しているところでございます。

勝又委員 できるだけ早くというのはわかるんですが、具体的にはどのぐらいのイメージなんですか。一、二週間の話なのか、一カ月かかるのか、もうちょっとかかると言っておられるのか。大体どのぐらいの期間で出されるか、こういうのは見通しというのが大事だと思うんですね。

 もうちょっとわかりやすく答えてください。

黒木政府参考人 お答えいたします。

 官房長官も申していますように、一週間とか数週間のイメージではなく、一日とか二日、そういう日オーダーで、できるだけ早く報告すべく、今検討を、努力しているところでございます。

勝又委員 近々に出るということですね、近々に出るという理解ですね。

 その場合、いわゆる定期点検が終了をしている原発の問題があるわけで、非常に切迫しているわけですけれども、この評価期間というのはそれぞれどのぐらいかかるものなのか。そしてまた、一次と二次評価というのは同時並行的に行うものなのか、別々にやるものなのか、お答えをいただきたいと思います。

黒木政府参考人 評価期間等の御質問でございます。

 まず、一次評価は、定期検査中の起動準備の整った原子力発電所を対象にするとなってございます。二次評価は、すべての原子力発電所を対象にするということになっているわけでございます。

 具体的な評価、これは、まず事業者が実施することになるわけでございますが、一次評価、これは、定期検査で停止中の原子力発電所の運転の再開の可否について判断するものでございますので、その趣旨を踏まえて、事業者が最大限努力するというふうに認識してございます。また、二次評価につきましては、欧州においてストレステストの検討開始から事業者が最終報告を行うまで、これが一応五カ月というふうになっております。私ども、これが一つの目安になるのではないかというふうに考えているところでございます。

 なお、一次評価、二次評価、この二種類の安全評価につきましては、先ほどお話しいたしましたように、おのおの独立した目的で行われるものでございます。このため、一次評価の対象である、定期検査中で起動準備が整った原子力発電所につきましては、事業者において、一次評価と二次評価、この評価を同時並行的に行うことになるというふうに承知してございます。

勝又委員 ちょっと一次評価のイメージがわかなかったんですが、一次評価は、事業者が努力して実施して、具体的にはどのぐらいで評価を終えるんですか。大体でいいので、どのぐらいの時間で評価を終える項目量なんですか。

黒木政府参考人 大変恐縮でございますが、現在その評価手法自体を検討しているところでございますので、それを踏まえて、できるだけ、事業者としての責任を全うするために、早くまとめるよう努力されるだろうということでございまして、ちょっと現時点ではどのくらいかということを申し上げられる状況にはございません。

勝又委員 ということは、今の時点では、一次評価の期間が、どのぐらいでできて、早くてどのぐらいで再開できるかという期間的なめどがないということですか。

黒木政府参考人 現時点では、めどとして何カ月というような形で申し上げられる状況にはないということでございます。

勝又委員 あと、今、調整運転の段階にある原発が二つありますよね、関電の大飯一号機と北海道の泊三号機。これに対して通常運転の前提になる最終検査の申請をするように求めたという報道がありますけれども、それは事実かどうかということと、この二基は一次評価の対象になるかどうか、お答えください。

黒木政府参考人 お答えいたします。

 御指摘の泊三号と大飯一号でございます。

 この両号機とも、三月七日、十日、それぞれ原子炉を起動いたしまして、私ども、運転をしている状況にあるので、調整運転というふうに呼んでございます。その調整運転に入っている状況にあるわけでございます。

 通常であれば、調整運転に入りまして約一カ月ぐらいのところで、出力が定格出力で安定したところになったところで、定期検査の最後の項目でございます総合検査を実施いたしまして、定検を終了するという形になっているところでございます。ところが、御承知のように、三月十一日の地震、津波と、それによります福島第一の原子力災害が発生したということもございまして、定期検査は申請主義なわけでございますが、事業者の方で緊急安全対策等を実施するということで、いつ最終の検査を受けるのか未定という形になっているということでございます。

 そろそろ四カ月たつわけでございますが、事業者の方では、緊急安全対策、それから私どもが指示いたしましたシビアアクシデントの対策を終了した状態になりましたわけでございますので、法定上受けるべき検査、これは早急に受けるようにというふうに指示しているところでございます。(勝又委員「それで、一次評価の対象になるの」と呼ぶ)大変失礼いたしました。

 一次評価の対象の施設については、定期検査で停止中の原子力発電所について、運転の再開の可否について判断するということになってございますので、私どもの方といたしましては、一次評価ではなく二次評価の対象の施設であろうかというふうに考えているところでございます。

勝又委員 また何かあると嫌なので確認しておきますけれども、今の調整運転中の原発が一次評価の対象外であるというのは、総理は了解していますか、あるいは地元自治体は了解していますか。

黒木政府参考人 まず、地元自治体につきましては、これはまず事業者としての対応でございますので、事業者の方で必要な地元自治体等にお話をされているというふうに承知してございます。

 総理につきましては、直接この話を私の方から上げたわけではございませんので、承知しているかどうか、承知していないという状況でございます。

勝又委員 二つ確認ですけれども、私が聞いているのは、地元自治体はまず了解しているんですかということなんです。このまま通常運転に入るということをその二つの自治体は了解しているのかということです。

 それから、二点目は、総理が聞いていないという中で、これはかなり重要な問題ですね。調整運転中というのはどっちに入るかというのはかなり微妙な問題なんですが、そういうことを総理、官邸が知らなくて、本当に判断として大丈夫ですか。

黒木政府参考人 一点目でございますが、事業者において、地元自治体のしっかりした御了解を得るべく、丁寧に説明を行っているという状況にあると私ども聞いております。

 二点目につきましては、現在、先ほどお話しした状況であるということでございます。

勝又委員 私は、こういう大事な話はきちんと調整された方がいいと思いますよ。極めて場当たり的にやるのではなくて、やはりきちんと経産大臣と総理としっかりと打ち合わせをして前へ進めていくということが私は求められているというふうに思っております。

 そういう中で、電力需給の見通しに移っていきたいんですけれども、今まで議論してきたように、これから定期点検が終わった原発が再起動するかどうか不透明な状況、さらには、今月以降も定期点検に入る原発が次から次へと出てくるわけですけれども、ことしの夏の電力需給見通しは大丈夫なのかどうか。さらには、東京電力管内、あるいは原発依存度が高い関電の管内、あるいは東北電力管内などは心配する向きがありますけれども、現状ではどうでしょうか。

横尾政府参考人 まず、原子力発電所が定期検査等で今停止をしているものがそのまま再起動できない場合ということでございますが、まず、東北電力と東京電力の管内は、これはもともと、震災の後、原子力発電所のみならず火力発電所も停止をして大幅な供給力不足に陥った中から、供給力の確保対策をこれまでやってきておりまして、現在の想定される最大需要のピーク時の供給予備率につきましては、東北電力管内がマイナス七・四%、東京電力管内がマイナス九・七%ということでございます。

 したがいまして、東京、東北両電力管区内におきましては、ことしの五月の十三日に、電力需給緊急対策本部において夏期の電力需給対策を取りまとめたわけでございまして、これに従って、昨年比マイナス一五%を目標に需要の抑制に取り組もうということで、今取り組んでございます。

 それから、関西電力の管内でございますが、これは、仮に再起動できない場合も含め、供給力の積み増しを関西電力で努力をしてございますが、現時点でマイナス二・八%というふうに承知をしております。

 引き続き、供給力の積み増しに取り組んでいるところでございまして、私どもとしては、その取り組みを精査し、需給バランスの確保に全力を挙げてまいりたいというふうに考えてございます。

勝又委員 首都圏は一五%の節電で何とか乗り切ろう、乗り切れるのではないかという御答弁だと思いますが、このまま冬に向けて、定期点検を終了したものが再起動せず、さらに定期点検に入っていくものが次から次へと出ていった場合、この冬は電力需給は大丈夫なんでしょうか。

横尾政府参考人 委員御指摘のとおり、原子力発電所が定期検査等に入りまして、停止をして、そのまま再起動できないという場合には、そのままですと、この冬の電力需給はこの夏以上に大変厳しくなるというふうに想定をしてございます。

 したがいまして、原子力発電所が再起動するのが一番いいわけでございますが、仮にできない場合の代替の供給力の検討というのも各社においては今行っておりますが、いずれにせよ、電力会社の取り組みを精査して、いずれ冬の需給の見通しというのも示していきたいというふうに考えてございます。

勝又委員 これは極めて重要な話なので、私は、ぜひ早いうちにシミュレーションしていただいて、国民にもきちんと周知をしていただきたい。原発がこのままとまっていった場合、冬はどういう冬になるのかということを、きちんとした見通しを政府として出すことを御要望申し上げたいというふうに思います。

 そういう中で、先ほど日銀総裁からもいろいろな経済状況に対する見通しがありました。企業というのは、経営環境とか投資環境というのは、中長期でかなりシビアに考えて経営しているというふうに私は思っています。そういう中で、今のこの日本のエネルギーの不安定さ、こういうものが企業マインドあるいは投資マインドに与える影響は非常に大きいのではなかろうかと私は思っています。

 そういう意味で、今の日本のエネルギーの不安定な状況が日本経済に与えるリスクとかダメージというものをどのように分析しているか、伺いたいと思います。

朝日政府参考人 お答え申し上げます。

 エネルギーにつきましては、国民生活、経済活動の根幹を支えるものでございます。その安定性の確保というのは、我が国の経済成長を図るための大前提でございます。

 そういった意味で、今般の災害、原発事故を受けまして、エネルギー政策の推進に当たっては、安全性の確保を大前提としながら、経済成長を支えるエネルギーという視点を忘れることなく、対応を進めることが必要でございます。日本経済のリスクダメージになる可能性がございますので、その不安を解消しなければならないと思っております。リスクダメージについて、対応に万全を期すということでございます。

勝又委員 そういう意味では、やはり短期、中期、長期にわたっての見通しや方針をしっかり出すということが私は大事だと思います。

 昨年六月のエネルギー基本計画はもう既に白紙に戻っているわけですから、経団連等からも指摘をされているように、中期的な見通しを含めた工程表を早く出すべきだというふうに政府に対して話が来ているわけです。

 ぜひ私はエネルギー基本計画のことも含めて早急に対応していただきたいと思いますが、どのぐらいの時期にこうした見通しを出せるのかお伺いをしたいことと、昨日、何か突然、原発事業の国有化という話も出ているやに聞きますけれども、そういうものは指示があるのかどうか、検討に入っているのかどうか伺いたいと思います。

朝日政府参考人 お答え申し上げます。

 今の我が国のエネルギー基本計画は、白紙に戻ったわけでございます。経済の活力の維持のためにはエネルギーの安定供給が不可欠でございます。政府としてはしっかりとした道筋を示すことが重要であるという認識は、私ども共有してございます。

 エネルギー供給の中長期的な見直しでございますけれども、エネルギー安定供給、経済性の確保、環境、ベストミックスという観点から、原子力電力供給も含む今後のエネルギー政策のあり方につきまして、幅広い国民各層の御意見を賜りながら、真剣かつ徹底的に検討を進めなければならないというふうに考えてございます。これは、ともかく徹底的な議論を今後進めていくということでございます。

 国有化に関する議論、今、現状、検討を開始したかどうか、私レベルでは承知してございません。

勝又委員 どちらも何か中途半端な御答弁だと思いますので、ちょっとしっかりやっていただきたいと思います。

 時間がもう本当に短くなりました。

 総裁、お待たせをいたしました。済みません。

 きょうのお話を聞いていて、報告書以上に、総裁もエネルギーの需給あるいは見通しが厳しいということが経済に与えるインパクトを懸念されているというのを私は聞いて、安心をしたという言い方はおかしいですが、認識は共有しているんだなというふうに思わせていただきました。

 私は、この問題は非常に深刻だと思っているので、今改めて総裁としては、この経済、景気に与える影響をどういうふうに考えているかということと、ちょっと時間がないのでまとめて伺いますが、このエネルギーの問題が日本経済に悪影響を与えた場合、何か日銀として対応を考えているかどうか、二つ目。それから三つ目に、総裁が会見の中で言っているんですけれども、いわゆる不確実性というものをできるだけ小さくしていくことが今後必要なんだということを言っておられますけれども、その不確実性という意味が何なのか。もしかすると、政治の今の迷走ぶりとか、エネルギーに対する方針がしっかり出ていないということに対して何らかの苦言を呈せられたのか。そういうことも含めて、この不確実性というのは何を指されているのか。

 三つお答えいただけたらありがたいです。

白川参考人 お答えいたします。

 一昨日、昨日と金融政策の決定会合がございまして、経済の現状、それから先々の見通しを改めて点検いたしました。その際、電力の不足の問題、電力制約の問題というのは、これは非常に我々自身、関心を持っております。

 足元の、この夏場に関する限りは、さまざまな需給両面での対応努力の結果、生産活動の大きな制約要因にはならないようにだんだんなってきておりますけれども、しかし、原発の再開問題とも関連いたしまして、中長期的な電力の不足の問題、これは非常に大きな影響を持ち得るものだというふうに思っておりまして、きのうの会見でも、私どもとして強い懸念を有しているという言葉を使って表現いたしました。

 その際のルートでございますけれども、一つは、量的に電力を確保できないというときには、これは直接的に生産を制約いたします。それから二つ目に、何らかの形で他の電力源にシフトする場合でも、これは追加的なコストをもたらします。企業収益あるいは家計の実質購買力を低下させますので、それを通じて経済に影響を与えます。それから最後に、日本での製造ということについてのコストが上がってきますので、日本のいわゆる空洞化のリスクということもございます。そういう意味で、強い関心を持って見ております。

 日本銀行は、電力の問題も含めましてですけれども、世界経済の動き、これも含めてさまざまな先々のリスク要因を認識しております。経済がどういうふうに展開していくのかということを十分に点検しながら、中央銀行として必要な政策をとる場合には、そうした点検を行った上で適切な対応措置を講じていく、常にそうした考え方を述べておりますけれども、そうした姿勢で臨んでいきたいと思っております。

 それから、最後の御質問でございますけれども、不確実性でございます。

 日本銀行はマクロ経済あるいは金融政策でございますから、政策一般について、私がその不確実性について語る資格はございません。

 ただ、マクロ経済あるいは金融市場という観点から見て、一つ、この不確実性という言葉で念頭に置いていましたことは、昨今のあのギリシャ情勢もそうですけれども、先々の財政のバランスをどういう形で確保していくのか、その道筋が見えていませんと、これはやはり、企業、家計に対して、決してプラスの影響はございません。マイナスの影響が大きいというふうに思っております。一たん事が起きてからでは、これは遅過ぎます。

 その意味で、私どもの専門の立場からしますと、こうした面での不確実性はできるだけ小さくしていくことが望ましいということを申し上げました。

勝又委員 ありがとうございました。

 副大臣、済みません。ちょっと時間がなくなりました。

 ありがとうございました。質問を終わります。

石田委員長 次に、中林美恵子君。

中林委員 民主党の中林美恵子でございます。

 きょうは、このような貴重な質疑のお時間をちょうだいいたしまして、心から感謝申し上げます。

 きょうは、日銀総裁初め、日本経済に関する御報告をいただきました。したがって、それに関連した質問をさせていただきたいと思います。

 特に、日本経済が抱えるリスクや、そしてそのリスクマネジメントについてお話を伺っていきたいと思いますけれども、既に、きょう午後になりましてからもたくさんの質問が集中しておりまして、私はなるべくそれにかぶらないようにというふうに思っておりますが、幾つか、今まで出た質問の中で一歩踏み込んだお答えをいただきたいというものもあるかもしれませんので、その辺もどうぞよろしくお願いいたします。

 まず、今回、新しく半期に一度の報告を日銀の方から出していただきました。通貨及び金融の調節に関する報告書というものですけれども、今回、この半期に一度の報告書が出されるということで、過去の報告書と全く違う部分といえば、やはり東日本大震災の大きな大きな影響であろうかというふうに思っております。

 この東日本、東北地方の大震災は、実は日本各地にも大きな影響を及ぼしております。私の地元である横浜でも、特に例えば横浜税関、これは東北の税関の業務と連携しておりまして、被災した税関の多くの仕事を今、横浜税関で一手に引き受け、そして、本当に寝る間もなく仕事をするというような、大変なストレスがかかっている状況もあります。

 ただ、日本全国がいろいろな部分でこの震災の影響を受けているということからかんがみますと、もちろんそういった部分だけではなく、民間企業の方、一般の方々、そして節電に関するエネルギーの問題、これを日本じゅうがシェアしているんだというふうに思っております。そういった意味でも、これから経済が回復できるであろうという少し明るい見通しをきょうはいただきましたけれども、もし貿易などが活発になっていけば、当然、税関の業務といったものももとに戻らなければいけない。まだまだ私たちがニュースなどでは見落としている部分もいろいろあるのだということを、私の地元の横浜からも聞いているという次第です。

 そこで、今回の震災の対応の中で、日銀が例えば地元の銀行さんですとか被災地の方々からいただいている要望と、それに対して日銀がどんな対処をできたのか、そして、日本全体の経済への対処として日銀がどういう施策を講じているのか、ここを少し分けてお話をいただけたら私たちの理解につながるというふうに思っておりますが、白川総裁にお願いできますでしょうか。

白川参考人 お答えをいたします。

 被災地への対応と、それから日本経済全体への対応、これをできるだけ分けて御説明するということでございます。もちろん両者は関連しておりますから、多少重なる部分もございますけれども、まず、被災地でございます。

 震災が起きまして、私どもがまず意識したことは、被災地で現金の需要が高まってまいります。生活必需品を買うときにも、これはお札あるいはコインが要ります。こうした必要なお金が手当てできない、預金をおろそうと思っても現金がないということになりますと、それ自体が不安心理をかき立てて、ただでさえ問題の不安心理も広がっている状況の中で、さらに拡大してまいります。

 私どもとしては、被災地でしっかり現金が行き渡るような努力を最大限行いました。例えば、十一日金曜日の後、翌日の土、日と、これは仙台支店、それから福島支店もそうでございますけれども、これは休日ですけれども、日本銀行の店舗をあけまして、金融機関が日本銀行から現金を調達できるようにしっかり体制を組みまして、現実にもかなり大量の現金を供給いたしました。

 それから、被災地ということでいきますと、現在は、津波で、あるいは震災もそうですけれども、大変に汚れたお金が大量に今、日本銀行の方に持ち込まれております。これも、汚れてはおりますけれども非常に貴重なお金でございますから、被災者の方にできるだけ早くこれを引きかえて、もちろん銀行券の真偽は判定した上でございますけれども、これを引きかえるという作業を行っております。

 これは大変人手を使う作業でございますけれども、被災地の人の心情を思いますと、できるだけ私どもとして努力する必要があると思っておりまして、本店、それからほかの支店からも応援部隊を動員しまして、そうした作業に今全力で当たっているということでございます。

 それから、被災地の経済の状況がどうかということ、これは我々として正確に認識する必要がありますので、現地の支店長、これは仙台、福島、それからあと盛岡に事務所がございますけれども、その支店長から、また、支店は現地でのいろいろな職員を使って調査を行っていますけれども、そうした報告が詳細に私どもの方に上がってきております。そうしたことを踏まえまして、被災地も、それから日本経済全体についても、金融面で幾つかの対応措置を行っております。

 ここから先は多少被災地よりも少し広がってまいりますけれども、一つは、震災直後、金融市場に対して潤沢に資金を供給いたしました。リーマン・ショックの後、二〇〇八年の秋でございますけれども、そのときに出した資金の量をはるかに上回る大量の資金を供給しました。これによって、金融市場で不安心理が広がるということを防ぎました。

 それから二つ目には、これは多少専門的な言葉になりますけれども、リスク性の資産、先ほどETFとかREITと申し上げましたが、あるいは社債、CPと申し上げましたけれども、そうしたリスク性の資産の買い入れを行うことによって、不安心理からさらに金融市場が悪化したり、あるいは経済活動が落ち込むことのないように努力を行いました。

 それから、被災地の金融機関を支援するための資金供給措置というのをこの四月の終わりの決定会合で決定いたしました。これは、今、日本銀行は潤沢に資金を供給しておりますけれども、それに加えまして、被災地の金融機関に限定しまして資金を供給するという枠組みを導入いたしました。さらに、担保の面でも条件を被災地について緩和するという措置を行いました。

 もちろん、これで十分というわけではございませんので、これからも状況をしっかり見て、日本銀行としてできることをしっかりやっていきたいと思っております。

中林委員 ありがとうございます。

 日本全体でも相当、やはり資金供給という意味でも、それから金融面でもいろいろな御努力をされておられると思うんですけれども、海外からの声は、震災直後は、特に日銀関係、意外とよくやっているのではないかというような評価の声があったのを私も覚えております。

 例えば、阪神大震災のころと比較して進化した点、または、より工夫した部分などがありましたら、そこも教えていただけますでしょうか。

白川参考人 阪神・淡路の大震災は、私どもにとってもこれは非常に大きな経験でございました。

 この阪神大震災を機に、私どもとして、いわゆる業務継続計画、ビジネス・コンティニュイティー・プランで、よくBCPと呼んでおりますけれども、BCPのプランをさらに磨いていくということをとりました。これは必ずしも地震、津波に限定されるわけではありません。さまざまな障害が起こることを想定しまして、日本銀行として、いざという場合にどういう体制を組めるかということを点検いたしました。

 例えば今回、震災が起きまして、二時四十六分に起きましたけれども、その十数分後には直ちに災害対策本部を立ち上げまして、そのときに我々自身が何をやるべきかということを、あらかじめ、かなり詳細にプランはつくっておりました。

 例えば、こういう混乱、危機のときには、情報発信というのが非常に大事でございます。日本銀行の仕事に即して言いますと、日本じゅうの決済の元締めは日本銀行でございます。日銀ネットと呼ばれるシステムがございますけれども、そうしたシステムがきっちりと稼働をしているということを伝えて、とにかく安心感を持ってもらう必要があります。これを直ちにホームページで公表いたしました。

 このことも示しますように、そのように刻々と状況について伝えていくということが大事だということも、これはBCPの作成の中で我々は感じたことでございます。まだまだこれで完全ということではございませんけれども、今回またいろいろな教訓を積みましたので、それを生かして、本来起きてはならないことではありますけれども、さまざまな危機にしっかり対応していきたいと思っています。

中林委員 さて、きょういただいた報告書の中にもありましたけれども、世界に多くのリスクがまだ存在しているという指摘があります。

 日本経済は、当然ながら、世界の経済に大きく依存しているわけですけれども、今、大変な円高が進行中です。海外市場では七十九円台をつけたということで、大変、日本経済にとっても、これは大きな大きな意味を持っている。打撃にもなるでしょうし、あるいは、エネルギーを輸入するという国の立場からは、プラス面もなきにしもあらずかもしれません。

 ただし、今の日本の財政状況や、そして震災の後のこの大変な経済状況を見ますと、円が買われるということ自体、非常に不思議なことであるというふうに思います。ということは裏返してみると、それほど世界の経済が、今、投資先として魅力がないということの、逆に、世界経済に対する、日本以外の主要経済国に対する一つの危機感のあらわれなのではないかというふうに思っています。

 そういった意味で、今、世界にあるリスクということでは、例えば日本の原発事故における世界じゅうでのエネルギーの供給に対する不安であり、またはソブリン問題であり、EU関係国ですね、あるいはアメリカの雇用統計がやはり余りよくなかった、いまだに九%台前後をつけている、そして住宅の価格も思うように戻っていないのではないかとか、また、この夏に向けて、ガバメントシャットダウンと言われるような、政治の、財政の大変な危機が、今、目の前に迫っている、そういった部分もいろいろあろうかと思います。

 これを日銀としては、白川総裁、この日本の円高に振れている要因、そして、世界が抱えるこのリスクとの関係性というところに言及をしていただけたらと思いますが、いかがでしょうか。

白川参考人 為替相場の変動の要因、それ自体につきましては、これはいろいろな要因がございますし、中央銀行の総裁の立場として、余り詳しくコメントすることは必ずしも、市場との関係で好ましくない面もありますので、主として、今議員御指摘の世界経済のリスクということについて詳しく申し上げたいと思います。

 委員御指摘のとおり、現在、世界経済は非常に大きな不確実性、リスク要因に直面しているというふうに思います。ごく足元の動きと、それから少し長い目で見たお話を分けて考えた方がいいと思いますけれども、ごく足元の世界経済の減速につきましては、これまでの原油価格高の影響で、実質的な家計の購買力が落ちている、消費国の家計の購買力が落ちているという要因であるとか、あるいは、日本のサプライチェーン、これがアメリカの自動車にも、あるいは東南アジアの自動車にも影響を与えているという面がございます。

 ただ、そうした足元の要因を別にしましても、さまざまな要因がありまして、一つは、アメリカ経済の家計のいわゆるバランスシート調整の影響でございます。住宅価格が大きく上がって、それが下落をしておりますし、現在いまだにまだこれは低下をしております。家計は借金を、債務を抱えていて、この借金を減らしていくという調整がまだ終わってはおりません。日本のバブル崩壊後を考えてみてもそうですけれども、バブルが崩壊した後の経済が本格的に成長率を回復するには、やはりかなり時間がかかるということでございます。

 アメリカの経済を見てみますと、若干上がったり下がったりがございますけれども、しかし、そういった上がり下がりを繰り返しながらも、平均的な成長率は必ずしも高くないという状況で、しばらくこうした状況が続くリスクも意識しておく必要があると思います。

 それから、欧州については、ギリシャに端的にあらわれていますように、政府部門それから民間部門ともに債務が過剰でございます。財政のバランスについて持続可能性が疑われるというような状況に今なっているわけですけれども、そうしますと、財政の不安が金融部門に影響を与え、それがまた実体経済に影響を与える、そういうぐるぐる回る、そういうリスクが今ございます。

 それから、新興国は高い成長を続けておりますけれども、しかし、いかにもこれは高過ぎるという感じで、やはりどこかの段階でもう少し巡航速度の成長に戻っていくという必要がありますけれども、うまくそういう形でソフトランディングができるかどうかという問題がございます。

 以上、三つの地域の不確実性、リスク要因について触れましたけれども、ここのところ、そうした世界経済のリスク要因を意識する出来事が幾つか続きました。特に欧州の問題がそうであります。欧州の問題が出てきて、投資家が世界経済のリスクを認識するようになりますと、どうしてもリスクをとりにくい、したがってリスクを外すという行動につながりやすいわけでございます。

 日本の経済自体も今大きな問題に直面しておりますけれども、しかし、問題の出発点が欧州であったときに、そのときに、為替というのは相対的な、ある種のばば抜きのような感じがありまして、相対的にどこを選ぶかという中で日々さまざまな動きが起きております。

 いずれにせよ、円高ということは、日本の経済に対して短期的には大きな影響をもちろん与えますし、長期的には委員御指摘のとおり、またプラス方向の動きもございますけれども、しかし、短期的には日本経済に対する下押し圧力というのがかかってきやすいわけですから、私どもとしても注意深く見ていきたいと思っています。

中林委員 ありがとうございます。

 先ほど世界のリスクというお話の中で財政危機問題が出てまいりました。財政規律が崩れることによって金融商品として国債が扱われてしまうという意味で、非常に大変な危機に陥っている国がヨーロッパを中心に現在あるということになります。

 それを見ますと、日本の財政規律も大変、もっと数字的には悪いことになりますが、ただ、日本がそのターゲットになっていない理由は、ほとんどの国債を国内で消化しているという点が非常に大きいと思います。私も外に発信するときは、外国はせいぜい五%ぐらいしか日本の国債を持っていないんだからというふうに言って、外の方には安心してもらい、また、いわゆる何とかファンドと言われるような、金融商品として国債をターゲットにし、金もうけの道具にするようなものにされてはなるまいというふうに本当に思っているわけですけれども、この日本の五%ほどしか海外に買ってもらっていない国債といったものも、やはりどこまでその神通力が続くのかというところは確かに非常に不安があるところであります。

 ここで五十嵐財務副大臣にお話をお伺いしたいんですけれども、日本の国債が金融商品としてターゲットにならない理由にこの五%というのがあるんですが、五%というのは非常に少ないんですね。多分、五%だったら、海外に買ってもらわなくてもまだ日本国内で十分全部買えるという可能性もあるかもしれないんですが、それでも五%買ってもらっている理由というのはどういうところにあるんでしょうか。

五十嵐副大臣 お答えいたします。

 やはり日本国債が安全資産だという認識があって、それぞれの国で資金を運用する際に、それぞれのパーセンテージで買われているんだろう、こう思います。

中林委員 ありがとうございます。

 本当にこの五%が痛しかゆしの部分ではあるんですけれども、やはり、日本で機関投資家あるいは民間などが国債を買って、ある一方方向に一気に進んでしまうときに、海外に持っていてもらえればそのカウンターバランスになるというような考え方もあるというふうに聞き及んでおります。また、その意味でももう少しやはり海外に買ってもらわなければいけないということで、財務省では、IR、インベスターリレーションズということで、海外にいろいろ日本の国債の魅力を説いて回るということも行っているというふうに聞いております。

 これがどんどん行き過ぎますと、諸外国のように海外にたくさん国債を買ってもらうという依存体質にだんだんだんだんなっていくわけですけれども、その場合に、海外にどれくらい日本の国債を買ってもらっているかということ。今は五%に満たないぐらいですから、どの国が日本の国債をどれくらい買っているのかということに目くじらを立てて危機感を募らせるという段階には日本はまだありませんけれども、ただ、将来的に、日本の財政規律、財政問題、解決がまだ先に延びるなんということに万が一なれば、そうしますと、やはりどの国が日本の国債を持っているかということに関する関心というのは高まっていくであろうというふうに思います。

 特に、例えば私が見てまいりましたアメリカの財政などでは、アメリカ国債をどこの国がどれくらい買っているのかを経年的に折れ線グラフにして、毎回、アメリカの財政規律のなさ、そして海外に頼らなければならない危機感、そして、かつては日本がたくさん国債を買っていた、今は中国になっていますけれども、またイギリスなども買っていますが、そういった国々に対する警鐘を鳴らす。そして、政策的に外国とどういうふうにつき合うべきなのか、財政、金融、そして国際関係、すべてをにらんだ政策立案に役立てていくということに使っております。

 今、聞くところによりますと、日本の国債の購入状況というのは、日銀の国際収支統計というもの、あるいは資金循環統計というもののどちらかで、そういった海外でどれくらい日本の国債が買われているのかを見るような状況になっているようです。

 国際収支統計というのは、国債のみならず実はほかの債券なども全部数字に含まれてしまっているということですので、日本国債が外国の投資家に、民間かあるいは公の機関かを問わず、買われているのかの統計がどうもないようだと。それから、資金循環統計は、国債を買ってもらっているという統計はわかるんだけれども、それが国別になっていないということなので、日本は将来どういう国に日本の財政赤字を背負ってもらっているのかということも、恐らくわからない。

 本当に、先ほども申し上げましたように、まだ五%以下程度なのでその必要性というのはないかもしれませんが、ただ、将来に向けて、この辺の統計の十分さというものについて、また、今後何か改善する必要があるとお考えであるかどうか。いずれのお答えにしても、その理由も含めて、五十嵐財務副大臣、そして白川総裁、お二方に同じ質問でお答えをいただけたらと思います。

五十嵐副大臣 お答えいたします。

 おっしゃるとおりで、二十三年三月末現在で、日本銀行の資金循環統計によれば、日本の国債の海外の保有者割合は五%ちょうどでございます。そして、その国別の保有割合に対する統計はございません。

 ただ、国際収支統計、二十二年末によりますと、おっしゃるとおりで国債以外の中長期の債券を含むわけですが、その保有割合は、イギリス二一・一%、アメリカ一四・九%、中国九・五%の順になって、大体国債もその程度の割合だろうという類推ができるということになっています。

 この統計の整備については、私も実は個人的に必要性を感じておりまして、かつて日銀にも財務省にも問い合わせたことがございますが、わからないと言われたことがございます。これから工夫をできるかどうか検討してみたいと思います。

山口参考人 お答えいたします。

 基本的には今財務副大臣がお答えになったとおりでございますが、私どもも、統計の整備については、おっしゃられた統計に限らず、常日ごろからその重要性を感じているところであります。

 したがいまして、今おっしゃられたような国債関連の統計についても、何らか工夫をし、充実したものにできるかどうか、その必要性も含めてしっかりと検討していきたい、かように思っております。

中林委員 ありがとうございました。

 本当にすばらしい、力強いお答えをいただきました。今後、本当であればそれほど海外に国債を買っていただきたくはないところではありますけれども、国内のいろいろな社会保障の状況その他、ましてや十年、二十年積み上げられてきた財政赤字ですので、これをどうするかということも含めて、将来の最悪の事態に備えて、やはり統計というものもあれば日本国のためによろしいことだろうというふうに思っておりますので、ますますの御検討の方をどうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、もう一つ、白川総裁にお伺いしたいと思います。

 先ほど来から、デフレの問題ですとかインフレターゲティングの話などなど出ておりました。日本の景気、そして景気マインド、これに影響するためには、やはり日銀の総裁、中央銀行の総裁がマーケットとどういうコミュニケーションをとるのか、そのコミュニケーションのとり方も非常に重要になってしまった時代にあるのではないかというふうに思います。

 マスメディアにしても何にしても、一瞬のうちにすべてが世界に発信されるという時代ですので、そんなときに、各国それぞれの文化がありますし、それから制度の違いがありますので、必ずしも、例えばかつてのグリーンスパン神話のように、英語でも辞書を引かなければわからないような言葉を駆使しながら、そして、単に透明性というだけではなくて、結果を求めようとするがために、その裏の裏の裏をかいて、非常に短い言葉で、いろいろな解釈ができる、そういう言葉を使うという苦労をずっとしていたのを、私も間近で見る機会がありました。当時、彼が連銀の議長だったときですけれども。

 それに必ずしも日本の中央銀行の総裁が比較できるものだとは思いませんけれども、総裁といたしまして、マーケットとのコミュニケーションにおいて、日本の文化や制度を踏まえて、透明性といったこと以外に工夫されていること、あるいは日ごろお感じになっていること、考えていらっしゃること、どうするべきかということも、もしありましたら、結果を出すための大事な道具、ツールであるというふうに思いますので、お一言いただけますでしょうか。

白川参考人 中央銀行の金融政策が望ましい効果を発揮していくためには、政策の中身、これがもちろん一番大事でありますけれども、その政策の内容を、マーケットというよりかは、まずは国民、それからマーケットもそうですけれども、わかりやすく説明していくということが非常に大事だというふうに思っております。

 経済の現状もそうですし、先行きも、これはもちろん不確実性に満ちております。私どもとしては、経済の中心的な見通し、それからそれにまつわるさまざまなリスク要因を丁寧に説明していき、どういう判断で政策を行っているのかということについて説明していく姿勢が大事だと思います。

 その際何を意識しているのかということでありますけれども、もちろん各国それぞれ事情が違います、置かれた制度的な違いがございますので、一律には比較できませんけれども、自分自身、一番大事なことは、やはり組織として誠実に説明をしていくということだというふうに思っております。

 何かマーケットを相手に、マーケットを操作するというふうな気持ちで発言をしますと、その瞬間は思った方向にマーケットが動いたように見えても、これは結局、また大きなしっぺ返しを受けるということであります。そういう意味では、中央銀行としての一貫した説明、それも、割合、骨太の考え方をしっかり説明することが大事だというふうに思っております。

 以前FRBで副議長をされていましたブラインダーというプリンストン大学の先生がいますけれども、ブラインダーが退任後、本を書かれています。その中で、中央銀行の市場との対話、これは非常に大事なんですけれども、しかし、時として中央銀行自身が市場のいわばとりこになってしまう、つまり、中央銀行自身がとらわれの身になってしまう、つまり、短期的な反応を気にする余り、長い目で見て中央銀行が本来果たすべき仕事を忘れがちになる、そうした危険性も実は秘めているということを指摘しています。

 そういう意味で、私は、誠実な説明、わかりやすい説明、軸をぶらさない説明、そうしたことが大事だというふうに思っております。

中林委員 ありがとうございます。

 時間が本当になくなってきてしまいました。最後の問いを総裁にさせていただきたいと思います。

 海外におけるリスクといったものについては、先ほどいろいろな御解説をいただきました。国内については、昨日、白川総裁が記者会見で、消費者にとって将来の負担が合理的に予測できないと消費が抑制されてしまうというふうにおっしゃっていた部分に私は注目いたしました。やはりこれも一つのコミュニケーションの、特に記者会見という場ですから、一部であるというふうに思います。合理的な予測ができないと消費者が消費を手控えて景気に悪い影響を与えるということであると思いますけれども、当然、社会保障ですとか日本の財政の状況ですとかといった、将来的な政治が出せるプランについて指摘してくださっているんだろうと思いますし、先ほどの勝又委員への御答弁の中にもそのようなお話がありました。

 そんな部分で、私たちの政治側と、そして日銀側の対話、コミュニケーション、これはどの程度に、やはり連携するべきなのか、あるいはどの程度の距離をどういう理由で持つべきなのかというところを一言いただきたいというふうに思います。

白川参考人 日本銀行の使命は、これは国会でお決めいただいた日銀法にしっかり定められております。その目的に沿って日本銀行は金融政策を運営していますし、それから、金融政策の判断、これについては国会で丁寧に説明をしないといけないというふうに規定されております。

 この場も含めてでありますけれども、日本銀行として、こうした場で金融政策を説明していくということが非常に大事だというふうに思っておりますし、本日いろいろな議員の先生からお聞きしたそうした意見も十分に念頭に置きながら、最終的に、日銀法に定められた使命をしっかり全うしていきたいと思っております。

中林委員 ありがとうございました。

 各国では、大統領と中央銀行の総裁が週何回朝御飯を一緒に食べるかとか、そういったことも非常に話題になりますし、政策への大きな影響というふうにとらえられております。また、そういった面も、いろいろな試行錯誤の中にも入れていただけたらよろしいのではないかというふうに思っております。

 きょうは本当にありがとうございました。

石田委員長 次に、竹内譲君。

竹内委員 公明党の竹内譲でございます。

 きょうは、日本銀行さんを中心として、この半期報告を踏まえて、歴史的な視点、また世界的な視点から金融経済政策について議論を深めていきたいというふうに思っております。

 今回の大震災による危機というのは、リーマン・ショックとは異なりまして、供給サイドの危機であるというふうに認識をしているわけです。そういう意味では、供給ショックだというふうに思うわけであります。

 そこで、この供給ショックというのは、戦後というか、歴史的に日本においてどういうケースがあったのかというのをやはり考えてみる必要があるというふうに思うんですね。そういう意味では、実は、何回か前の財務金融委員会で、オイルショックのときの話を政府に対して質問したことがあります。きょうは、まず、戦後復興に当たっての政府、日銀がとった金融政策、経済政策について質問したいというふうに思っております。

 そういう意味では、明らかに、敗戦したわけでありますから、戦後は供給力が全く欠如していた時代であった。しかし、その後、日本政府は、戦時中に膨れ上がった国内債務のデフォルトといいますか、すなわち新円切りかえと、それから預金封鎖をやっているわけですね。復興金融債の発行、実はその日銀引き受けを当時やっているわけであります。多額の通貨が供給された。その規模は当時の財政の四割程度にも上ったというふうにも言われておりまして、しかし、もちろんその資金は、傾斜生産方式によって基幹産業、重点産業に回されたわけであります。

 その結果としてハイパーインフレが発生した。私どもの調査でも、一九四五年に三・五であった物価指数が、四年後の一九四九年には二〇八・八と約六十倍に四年間でなったというふうに言われております。そのぐらいのハイパーインフレが発生した。しかし、次第に、この間、傾斜生産方式等によりまして、日本は供給力を回復した。そして、ハイパーインフレにつきましては、一九四九年のドッジ・ラインで極端な財政引き締めが行われてようやく鎮静化した、こういうふうに伺っているわけであります。

 改めて、まず日本銀行さんの方からお聞きしたいと思いますが、この当時の日銀のとった金融政策の経緯とその効果についてどのように認識をされているでしょうか。

白川参考人 お答えいたします。

 復興金融公庫の債券が引き金となって生じましたいわゆる復金インフレにつきましては、今先生御指摘のとおりでありますけれども、日本銀行としてもこの件に関しまして大変関心を持っておりまして、私どもとして評価を申し上げたいと思います。

 復興金融公庫は、戦争によって壊滅しました我が国の生産力を回復し、経済復興を軌道に乗せるために、当時の傾斜生産方式に基づき、重要産業向け融資を行う機関として一九四七年一月に設立されました。その資本金は全額政府の出資というふうにされましたけれども、その払い込みまでのつなぎ資金の調達手段として、復興金融債券、いわゆる復金債が発行されまして、その多くを日本銀行が引き受けております。

 当時の財政難を反映しまして政府出資の払い込みが少額にとどまる一方、民間金融機関の消化能力も乏しかったことから、政府の要請によりまして、民間消化の応募未了額を日本銀行が引き受けたという経緯でございます。

 復興金融公庫は、業務開始後、石炭、肥料、電力、鉄鋼の四つの業種を中心に貸出額を伸ばしまして、当初百億円でありました出資金は、翌四八年に千四百五十億円まで増額をされました。これと並行しまして、復金債の発行金額も、一九四八年度にかけまして千六百八十億円まで増額されまして、このうち、日本銀行は千百五十六億円、全体の約七割を引き受けることになりました。

 この間、当時の我が国の物価動向を見ますと、先生御指摘のとおりでありますけれども、少し時間を追って申し上げますと、一九四六年半ばには、終戦直後に発生しました大インフレーションが一たんは鎮静化していたわけですけれども、一九四七年以降再び物価が急騰しました。四七年及び四八年の東京都の小売物価の前年比は、それぞれ、一七〇%、一九〇%の大幅な上昇となりました。この時期の急激なインフレは復金インフレとも呼ばれておりまして、同時期に行われました日本銀行の政府に対する直接貸し付けとともに、復金債のこの大量の引き受けが復金インフレの要因として挙げられております。

 こうしたインフレは戦後の日本経済に多大な混乱をもたらしまして、最終的には、先生御指摘の四九年のいわゆるドッジ・ラインによる緊縮財政のもとでようやく鎮静化し始めました。復興金融公庫の新規融資も同年九月には停止され、十二月には日本銀行が保有します復金債は全額償還されました。この復金債は厳密には国債とは言えませんけれども、これと同様の性質を有するものであります。

 ただいま申し上げました一連の出来事は、一たん中央銀行が国債引き受けを始めますと財政支出の増加に歯どめがきかなくなり、激しいインフレを招いた一つの例であります。一九三〇年代の高橋財政によって開始されました国債引き受けと同様、歴史の教訓としてしっかりと記憶にとどめておく必要があるというふうに考えております。

竹内委員 恐らく、先ほどからいろいろ議論があったこの国債の日銀引き受け、これについて非常にやはり危機感を持っておられる。私もそのように思うんですけれども、インフレというのは始まるとこれはなかなか大変なことになる。

 私も、当時非常に御商売が上手だった古い戦前の事業家のお話をいろいろ聞きましたけれども、戦後のこのインフレで、相当すぐれた手腕を持った方でもなかなかうまくいかなかったという話をいろいろ伺ったことがあります。そういう意味では、やはり危険性があるというのはわかるわけですね。

 政府としては、この間の経緯についてはどのように認識をしていますか。

和田大臣政務官 きょう御質問いただいてから私も歴史をひもといて調べてみましたが、先ほど日銀総裁の方から御答弁があった内容と、政府の認識も大体一致いたしておるというふうに申し上げてよいかと思います。

 実際に、インフレが起きたときの状況というのが、日銀引き受けによって賄われた資金が本当に傾斜生産方式等の設備投資資金にしっかりと回っていたかどうか、そういったところはなかなか検証しにくいということを、私、自分が研修当時に学んだことがございますけれども、実際に起こったことは相当なハイパーインフレでございまして、つまり、物の値段の方にお金が流れ込んだということだろうと思います。そして、政府として、これらを見たときの当時の担当者、そしてそのトップの方も、ドッジ・ラインに基づいて緊縮財政を組むことによってそれを収束させることを考えたということだろうと思います。

 基本的に、現象面での認識は、先ほど御答弁があったことと同じだというふうに申し上げてよいと思います。

竹内委員 戦後の間もない復金インフレの場合は供給サイドの問題があったということで、戦前の高橋インフレのときは需要サイドの不足だったというふうに私は思っておるんです。そういう違いはあるけれども、しかし、インフレの怖さというのは非常に我々としてはよく認識をしておかなければいけない事例だというふうに思っています。

 次に、今度は最近の世界経済の動向からお話を進めたいんです。

 日本では量的緩和と呼んでいますが、アメリカでは量的緩和と呼んでいないらしいんですが、アメリカのQE1、QE2、特にQE2によって米国経済はどのようになったと考えられるか、また、これが世界経済に対していかなる影響をもたらしたのか。米国の雇用情勢や住宅業界はどうなったのか、また、輸出や株価はどうなったのか。他方で、商品価格に対してはその高騰の原因となったとも言われておりますけれども、このあたりにつきまして、日本銀行としてはどのように認識をしていますか。

白川参考人 お答えいたします。

 アメリカのQE2でございますけれども、今QE2という言葉が一般には使われておりますけれども、連銀自身はみずからの政策を量的緩和、クオンティテイティブイージングというふうには表現しておりませんで、彼らは、大規模な資産の買い入れということでLSAPという言葉を使っております。ただ、ここではQE2という言葉を使わせていただきます。

 QE2が始まった経緯は、議員御案内のとおり、昨年の中ごろ、米国景気の減速感が強まりまして、市場のセンチメントが悪化していったほか、インフレ率の低下も続いておりました。そうした中で、FRBは、米国経済の回復を支え、またインフレ率をFRBの責務と整合的なレベルにまで戻していくことを確実にするということを企図しまして、昨年十一月に六千億ドルの国債の追加購入措置を導入したわけであります。このQE2については本年六月末に終了いたしました。

 議員の御質問のQE2の効果でありますけれども、経済は、QE2の効果ももちろんございますし、この間、いろいろな要因が動いておりますので、QE2の効果だけをとらえて議論することはなかなか難しいわけでございますし、それから、中央銀行の総裁として、他国の中央銀行の金融政策についてその効果を詳細にコメントするということはなかなか難しい面もございます。そのことを申し上げました上で、多少、幾つかの、どういう点が論点になっているかということで申し上げたいと思います。

 まず、昨年秋口ごろからQE2の導入期待が広がる中で、株価は上昇し、長期金利あるいは社債の金利に低下方向の圧力がかかりました。この低下の、最終的に経済に与える効果の大きさについては、これは効果がなかったという人と若干あったという、若干の差はありますけれども、いずれにせよ、方向として経済の回復を後押しする方向に今作用をしたというふうに考えられます。

 でも、もっとも、この間、国際商品市況が急ピッチで上がりまして、その典型は、石油製品の上昇、ガソリン価格の急騰でございます。アメリカは車社会でございますので、ガソリン価格が上がりますと、家計の実質購買力が低下をいたします。そのため、個人消費は現在弱くなっておりまして、これはQE2の結果でもあるというふうに言われております。

 そういう意味で、アメリカのQE2の効果を評価するときには、効果というふうに言われている部分と、それからその副作用と言われている部分が実は表裏の関係であります。ネットの効果がどれぐらいあったのかということで、これはいろいろな議論がありますけれども、私の立場で余り具体的に量的にどうだということを申し上げることは控えさせていただきますけれども、以上のような効果と副作用をバランスよく考えていく必要があるというふうに思っております。

竹内委員 アメリカではQE3があるのかどうか、その辺が大変な議論になっているというふうに伺っております。今後、いずれにしても、このアメリカのFRBの動きというのが、当然、日本の、日銀の、BOJの皆さんというかがどう動くべきかということに非常に大きく影響してくるんだろう、こういうふうに思っております。

 そこで、次に、中国の方に目を転じたいんですけれども、最近の中国の金融経済の動向でありますが、消費者物価指数、CPIが大変急騰してきている。最近の数字でも五・五%というような数字も出ておりますし、大変な高水準だ。それから、新築住宅価格も非常にバブルのような状況だというふうに伺っております。

 中国の地方政府は、地元経済の活性化と雇用機会の創出のためにインフラ投資を促進している。他方で、中央政府は、経済の過熱を抑制する対策を打ち出しているはずであります。にもかかわらず、このインフレと住宅バブルは解消されていないようでありまして、なぜ中国のような強力な統制がきいている国でインフレ抑制がうまく作用していないのか、うまくきいていないのか、この辺につきまして、日本銀行としてはどのように考えていますか。

山口参考人 お答えいたします。

 中国では、このところ、自動車の販売ですとかあるいは生産の増勢といったようなものについては鈍化しているという状況であります。したがって、やや弱目のデータが出てきているということでありますが、全体として見ますと高い成長を続けているというのが現状評価だというふうに思っております。

 一方で、先行きでありますが、中国経済については、金融引き締めの影響から、成長テンポは幾分鈍化していくだろうというようには見ておりますが、引き続き高目の成長を維持する可能性が高いというふうに思っております。

 幾つか要因があるんだろうと思っておりますが、一つは、個人消費についてでありますけれども、所得水準の向上を背景に、やはり堅調に推移するのではないかというように見込んでおるところであります。それから、先ほど述べました、ここに来てやや伸びに鈍化が見られるという自動車販売につきましても、いずれ再び増勢を取り戻していく、こういうような見方が多いようであります。

 また、これは固定資産投資にかかわる話でありますが、ことしは中国の第十二次の五カ年計画の初年度に当たっております。まだスタートダッシュが十分でない感じがありますが、これから新規プロジェクトが立ち上がっていくというように見られますので、それらを踏まえますと、固定資産投資につきましても、全体として高い伸びを続ける、このように見られるということであります。

 これが中国の景気に関する足元とそれから先行きについての見方ということでありますが、一方で、先生御指摘のとおり、物価の面につきましては、インフレ圧力が根強い状態が続いております。六月のCPIの前年比は、何と六%を超えておるということであります。幾つか要因があるわけでありますが、一つは、食料品価格の上昇ということがあります。それからもう一つは、賃金の上昇圧力が高い、強いということもありまして、これらが相まってCPIの前年比が六%台になってきているということであります。

 先生御指摘のとおり、中国では金融引き締めをやっておるわけでありますが、そうした引き締めにもかかわらず、実際には、マネーの伸びですとかあるいは貸し出しの伸びというのは依然として高目に推移しております。こうした金融環境の緩和といったものがインフレ圧力の高さにつながっている面があるんだろうというふうに思っております。

 したがいまして、中国経済にとっては、今後、適切な金融政策運営によって物価安定と成長の持続をどうやって両立させていくのか、これが非常に重たい課題になっていると思います。先生御指摘のとおり、中央政府の考え方とそれから地方政府の考え方にギャップがあるのかもしれません。このあたりもどのように調整をしながら適切な政策運営を行っていくのか、これが重要なポイントになっているというふうに思っております。

竹内委員 私の問題意識は、要するにインフレなんですよね。インフレというものをある程度作為的に起こした場合に、これをどうコントロールできるのか。そういう意味でいうと、アメリカや、そして今の中国の話ですね。中国のようなところでどのようにこれをコントロールできているのか、あるいはできていないのかということをよく分析しておくことが非常に日本にとっても重要であろう、そういうことで質問をさせていただいているわけであります。

 もちろん、中央と地方の今の政策の違いということもあるでしょうし、それから、中央の方でもそう高金利にはまだしていませんよね、金利政策としては引き上げには。ですから、その辺が今後されるのかどうか、その場合どうなるのかということも私どもも注目をしているわけであります。

 そこで、翻って、日本の問題に返ってまいりたいと思うんですけれども、先ほど申し上げましたように、今回の大震災というのは、原発問題を引き起こして、非常に供給ショックであるというふうに認識をしております。

 日銀のこれまでの景気見通しなどでは、大震災の影響はあくまでも外部的な一時ショックと位置づけたような文書もありました。しかし、現在の原発稼働をめぐる混乱は、とても一時的とは言い切れないんじゃないかというふうに思うんですね。

 先ほどの報告書でもそこは十分に書かれていませんで、二ページに、「先行きのわが国経済については、供給面での制約がさらに和らぎ、」というふうな感じで、輸出も増加というような感じで、割合、ちょっと楽観的過ぎないかと。事態はどんどん変化しているんじゃないかな、こういうふうに思っているわけであります。

 そういう意味で、来春に全原発が停止した場合には日本の三〇%近くの電力が制約されるわけでありますし、今までの質疑の中でもありましたように、製造業を初めとする企業群が新たに海外進出を検討しているわけであります。さらに、足元の円高進行が日本産業の空洞化を加速しているわけでありまして、まず、日本銀行としては、今回の電力の供給制約を改めてどのように認識していますか。

白川参考人 お答えいたします。

 電力の問題につきましては、一言で申し上げますと、これは重大な関心を持って見ているということでございます。

 震災発生直後と、それからその後、それからごく足元の状況で、それぞれ少しずつ電力をめぐる情勢も変わってきているように思います。震災発生直後は、現在の五十四基の原発の定期点検が終了後、稼働がもしかしてできなくなるかもしれないというそこまでの事態は、これは想定をしておりませんでした。

 現在、いろいろな努力がなされておりますし、この後、原発がどういうふうになっていくのか、これ自体は日本銀行の領域を超えておりますけれども、しかし、最悪の場合、そうしたことが起きた場合、経済がどうなるのかということも、これはリスク要因としてしっかり認識しております。日本銀行としてこれをメーンのシナリオとして想定するということはできませんけれども、しかし、そうした事態が起きた場合に何が起こるのかということで、リスク要因として明確に認識しております。そのことは、私は昨日、記者会見の後でも、強い関心を持ってこの問題については見ているというふうに申し上げました。

 どういうふうにこの電力問題が、中長期的な電力の不足の問題が経済に影響を与えていくのかということでございます。

 これは先ほどほかの先生の御質問に対してお答えしたことと多少重複いたしますけれども、仮にすべての原発が停止された場合、それによる電力供給の減少を他の手段で完全に補うことは難しいというふうに考えられます。その場合は、夏場や冬場を中心に電力不足が恒常化しまして、これが経済活動を制約する可能性が高いというふうに思っています。

 第二に、これは量というよりかコストの方からとらえたアプローチですけれども、原子力発電を火力発電である程度代替していく場合でも、あるいは安全対策を強化して原子力発電を継続する場合でも、これまでよりもコストがかかってまいります。再生可能エネルギーも、割高と言われているコストを短期間で大幅に引き下げることは難しいわけでございます。いずれにしても、電力コストには従来よりも上昇圧力がかかるというふうに考えられます。その分、企業収益や家計の実質購買力が圧迫され、したがって、設備投資や個人消費が抑制される可能性があるというふうに考えています。

 第三に、電力の安定供給に対する懸念やコストの増加が、日本経済の中長期的な成長力の低下要因となるリスクも認識しておく必要があります。日本企業が日本での生産から海外での生産にシフトしていくという可能性でございます。

 ただ、一方で、市場経済でございますから、エネルギーの価格が上がってくる場合に起こる変化ということも同時に意識しておく必要があると思います。この夏の東北あるいは関東の電力不足は、企業や家計のさまざまな工夫や努力によって、当初懸念されていたほどには経済活動の下押しにはつながっていません。このことを見ていますと、明確な課題が設定された場合に日本人の示します問題解決能力の高さが発揮されている、そうした可能性を示しているような面もございます。

 ただ、いずれにしましても、中長期的に見た電力の不足については、これは日本経済にとって大きなマイナス要因、こういうことで懸念材料でございますので、そうした可能性も踏まえながら、経済、物価動向を注意深く点検してまいりたいというふうに思っております。

竹内委員 そこで、これからの日本経済がこのような電力制約という中でどういう金融経済政策をとっていったらいいのかということを最後にお尋ねしたいと思うんです。

 まず私の認識を申し上げますと、今回の震災復興を資金の需給面から考えた場合、これまでは、銀行が、企業貸し出しが少なかった、投資先がなかったということで国債を買い続けてきたわけでございます。ところが、これから、恐らく十兆、二十兆と巨大な復興資金需要が出てくるであろうというふうに思うんですね。そうすると、当然企業は借り入れをふやします。必然的に金利が上がってくるでしょう。

 金利が上昇すると、住宅や企業投資の復興がおくれて、社会資本復旧のための国債の消化にも重大な支障が生じるおそれがある。また、日本の金利が高くなると、海外から資金が流入して円が買われて、これは円高リスクにさらされるというふうに思います。

 他方で、今度は、円高になれば輸入がふえて、電力不足による国内生産の制約を輸入で補うことになりますよね、さまざまな輸入品で。一方で、今度は、円高は輸出の減少をもたらす。

 結局、電力制約という供給制約のもとで復興需要が高まると、その分をいわゆる輸出マイナス輸入、国内総生産、GDPの中で輸出マイナス輸入という部分が、輸出が減って輸入がふえるんですから、そこがGDPとしては減少して、結局、復興需要が高まった部分を純輸出が減るという形でバランスするのではないか、こういうふうに思うんですね。

 しかし、金利高とか円高というのは、輸出企業の利益減少とか、先ほどから話が出ています産業の空洞化、それから国債の消化を困難にさせるという弊害もあるために、恐らく日本銀行さんとしては低金利政策、金融緩和政策を継続することになるのだろう、こういうふうに推測されるんですけれども、まず、その点についてはどのように考えますか。

白川参考人 日本銀行の金融政策の運営スタンスでございますけれども、これは、足元から先々、二年あるいは三年程度の経済、物価情勢を展望しながら金融政策を運営していくという方針で、毎回、決定会合で点検しております。

 先ほど別途の議員の質問に対してもお答えしましたとおり、現在、実質的なゼロ金利政策を継続しております。物価の安定が展望できる時期までこうした政策を続けるということを明らかにしております。したがいまして、その上で、経済、物価情勢、総合的に点検してまいりますけれども、この物価情勢ということが一つの大きなファクターになります。

 それから、復興が進んでいく中で国債の消化がどうなっていくのか、あるいはその後金融機関の貸し出し余力がどうなのかという趣旨での御質問をちょうだいいたしました。

 現在、この震災という大変大きな危機の後も、国債は順調に消化されております。国債は、発行と投資、これが市場でマッチするわけでありますけれども、市場での金利を受け入れていく、それから中央銀行が物価安定のもとでの金融政策運営をしっかり行っていく、それから政府も財政バランスの改革に取り組んでいく、そういう姿勢がしっかり維持されている限りは、国債市場が混乱をしていくという事態は、これは起こらないと思います。

 逆に言いますと、そうした中央銀行の金融政策の運営スタンスあるいは政府の財政バランスに対するスタンスについて疑念が生じますと、その面から追加的ないわゆるプレミアムというのが市場で要求されますから、そうした事態になりますと、先生が御懸念のような国債の問題は出てまいりますけれども、逆に言いますと、そうした事態にならないように、しっかりとした政策運営を行っていく必要があるというふうに思っております。

竹内委員 実需の面で考えますと、片や二十兆円の復興需要が出てくる。電力制約がなければデフレは解消するんですよ、恐らく。二十兆円も復興需要が出てくれば。どんどん需要がふえて、デフレが解消する。ところが、電力制約がかかっているために、それが三〇%も仮にマイナスだとすれば、供給に制約がかかっているから、当然クラウディングアウトで、金利が上がっていきますよね。そうすると、なかなか単純にはいかないというふうに思うんですよね。

 だから、どこかを抑えないといけないんじゃないか。そのほかの、復興需要以外の需要を抑制しないと、日本経済としては回らないはずだ、これは実需の経済理論ですよね。

 資金循環としても、先ほど申し上げたように、復興需要が高まってきて、企業が銀行からの借り入れとかをふやしてくる。そうすると、資金はそっちへ行きますから、銀行は国債を買う余力がなくなってくるおそれがある。

 今、楽観的におっしゃっていましたけれども、二十兆円というのはかなりの金額でして、二〇〇九年の日本の総投資額は九十八兆円なんですよね。そのうちの二割、いや四割にも当たるようなもの、まあ、二年間でやるとしても、十兆円、二割ぐらいが一気に出てきた場合は、相当やはりこれは影響が出てくるんじゃないかなというふうに思うんですよね、そういう供給制約がある中では。

 資金の需給が逼迫して、金利が上がってくる可能性がある。そうすると、国債の償還に非常にこれは困難を生じる場面がひょっとしたら出てくるかもしれない。そういうことを想定しているわけです。今はまだ、第二次補正も出ていませんから、大したことはないんですけれども、これからはそういうことを予想する必要があるんじゃないかな、こういうふうに思っているわけであります。

 そういう観点から、かといって、インフレ政策をとるというようなことで、日銀引き受けをやって、消費を一気に落としてしまうようなことはできませんから、と思うんですね、一般的には。山本先生は反対ですけれどもね。私は公明党の財政・金融部会長ですから、中立的に今物を言っておりますけれども。そういう危険性もいろいろ心配されるから、なかなか踏み切りづらい。

 そうすると、思い切ってやはり資金を潤沢に提供していく、最低限していく必要があるんだろうなと。

 そういう意味では、今申し上げたような経済政策の観点から金融政策を考えておられるのかどうか。そしてまた、資金の、出す意欲といいますか、そういうのは、FRBの動向なんかも見ながら、やるときはやはり思い切ってやる必要があるんじゃないかなと思うんですが、その辺はいかがでしょうか。

白川参考人 日本銀行は現在極めて緩和的な金融環境をつくっております。資金の供給量という面でも、これは潤沢な資金供給を行っております。その上で、日本銀行として必要と判断される場合には適切な行動をとっていくということでございます。

 現在、各国の中央銀行を比較してみた場合に、欧州の中央銀行は、これはことしの春から金利の引き上げ局面に入っております。例えばカナダもそうでございます。アメリカはこの六月末にいわゆるQE2を、これは終了いたしました。日本銀行は、これは現在も資産買い入れ基金の中で買い入れを着実にふやしております。

 それから、将来の金融政策についても、ゼロ金利政策を物価安定が展望できるまで続けるということを明示的に明らかにしておりますので、仮にこの後経済が弱くなってくる、その結果、物価が弱くなってくるというときには、そういう意味では自動的にゼロ金利政策を行う時期も延びてくる、そういう意味で自動的に金融緩和を強化する、そういう仕組みが内在されているわけでございます。

 そういう意味で、今議員の御質問の中で、日本銀行が必要なときには大胆に動くということについての御質問がございましたけれども、日本銀行は現在も実は動いているわけでございます。ほかの中央銀行は今、引き締め、あるいは緩和をやめた、QE2をやめたということでございますけれども、日本銀行は現在も金融緩和が着実に進んでいるということでございます。

 そういうふうに申し上げた上で、今後とも適切な金融政策をやっていきたいというふうに思っております。

竹内委員 時間が来ましたので終わりたいと思いますが、本当は和田政務官に政府の対応を聞きたかったんですが、それはまた次回にさせていただきます。

 ありがとうございました。

石田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 初めに、景気の現局面と見通しについてお聞きしたいと思います。

 先ほどの白川総裁の概要説明では、我が国の経済は震災の影響による供給面の制約が次第に和らぐ中で持ち直しています、こう述べておられます。七月四日の日銀支店長会議でも同様の見解を述べておられますし、六月末のオランダでの講演、ここでも、東日本大震災直後に落ち込んだ生産活動について、徐々に回復し、七―九月のいずれかの時点で震災前の水準に復帰する、こういうことを述べたそうでありますが、その根拠を説明していただきたいと思います。

白川参考人 お答えいたします。

 経済活動の中で、これは製造業の生産活動ということで申し上げているわけでございますけれども、議員御案内のとおり、三月の震災によって日本の鉱工業生産は一五%も落ちました。これは、この統計を開始以来、単月では最大の落ち幅でございました。リーマン・ショックのときにも単月ではこれだけの落ち込みはなかった、それぐらい急激な落ち込みでありました。言うまでもなく、これは、生産設備が毀損する、あるいはサプライチェーンが障害を起こす、あるいは電力が調達できないということによるものでございました。この後、企業は懸命の努力を行い、特にサプライチェーンについては修復の努力を重ねた結果、徐々にサプライチェーンの障害も弱まってくるということでございます。

 そうしたことをどういう方法で確認したのかということでございますけれども、一つはマクロのデータでございます。日本の企業は経済産業省に対して生産の数字を報告するという統計上の義務がございまして、その統計を集めたのが鉱工業生産指数でございます。この数字は、四月、五月とふえておりまして、それから、六月、七月についても、これは企業自身の予測の数字が出ております。そうしたものを積み重ねますと、先ほど申し上げたことになりますし、それから、別途、日本銀行は、本店、支店を含めまして、膨大な量のヒアリング調査を行っております。そうしたことを総合しますと、この七―九月期には震災前の生産水準に戻すということでございます。

 ただ、あくまでこれは生産水準ということでございまして、製造業の生産でございます。非製造業については、例えば旅行であるとかあるいは飲食を見てもおわかりのとおり、これは全体にやや弱目という状況がなお続いております。したがいまして、経済活動についてどうなのかといいますと、これはまだまだ注意すべき点がございます。

 私どもは、どうしても短期の経済見通しを毎回毎回発表していく必要がございますけれども、そうした短期の見通しとは別に、先ほど来議論になっています中長期的なリスク要因、特に電力の不足という問題、これは原発をどう考えるかという問題とは別にしまして、とりあえず経済活動にどういう影響が出てくるのかということを考えた場合に、これは大きな要因でございます。そうしたことも含めて、短期それから中長期と分けて考えております。

佐々木(憲)委員 そこで、地域のそれぞれの状況ですけれども、日銀の地域経済報告では、七つの地域が上向きで、近畿と四国のみが横ばい、こういうふうに評価されていると聞いておりますが、震災、原発事故の被災地域も上方傾向といいますか、あるいは上方修正というふうにされている、こういう認識と理解していいんでしょうか。

山口参考人 お答えいたします。

 私ども、七月上旬に地域経済報告というものを公表いたしました。その中では、東北地方における景気情勢について、地域差はあるけれども、震災直後の四月の初めに比べれば改善しているという判断をしたところです。

 これについては、二つばかり要因があるなというふうに思っております。一つは、震災の影響から大きく毀損しました社会インフラ、あるいは企業の生産、営業設備の復旧といったようなことが徐々に進んでいるという面がございます。それからもう一点は、震災直後大幅に落ち込みました消費活動が持ち直しの動きを見せているといったようなことがございまして、これらを踏まえた上で、先ほど申し上げたような情勢判断をしたということでございます。

 ただ、そうした改善の動きはもちろんあるわけでありますが、やはり東北地方の景気情勢というのは、震災の被害が極めて大きかったということでありますので、そうした地域を中心にしまして、引き続き厳しい状況に置かれているという判断を私どももしておるところでございます。

 決して被災地を中心にしての現状を楽観視しているわけではないというふうに御理解いただきたいと思います。実際に、地域経済報告におきましてもこういう指摘をしております。東北地方の太平洋沿岸部については、生産設備に甚大な被害を受けたことなどから、引き続き、生産活動の停止ですとか、あるいは減産を余儀なくされている先が多い、このような指摘もあわせ行っているところであります。

 いずれにしましても、私どもとしては、今後とも、本支店の調査機能を十分に生かしながら、被災地を含む日本経済の実態の把握を的確に行ってまいりたい、このように思っておるところでございます。

佐々木(憲)委員 確かに四月の初めと比べれば、それは、震災直後のいわばどん底に落ち込んだ状態から必死になってはい上がろうとしている、いわば一番の底になったところから少し上向きになり始めたという程度の状態だと思うんですよ。被災地に行ってみたらわかりますよ、それは。瓦れきのあの状況の中で事業活動というのは、なかなか深刻な事態になっているわけであります。

 ですから、四月の初めに比べて持ち直しているから、近畿その他は横ばいだけれども東北地方は上向きなんだ、そういうふうに言われますと、これはなかなか実感とかけ離れた感じがしまして、何か表現に工夫が要るのではないかというふうに私は感じております。

 実際、日銀の仙台支店長のお話は、伝えられているところによりますと、被災地について、被災者が生活用品を買いかえるなどの需要は強いものの、工場の再建などは少なく、本格復興という段階にないと。金融庁の調査でも、岩手、宮城、福島の三県で、民間金融機関からの企業向け融資は四千五百二十億円、これは返済がとまっている。住宅ローンも、融資残高の一割を超える千四十五億円分が返済できない状態にある。こういう深刻な状況にあるわけですね。

 ですから、横並びで、七つの地域が上向きになっているというふうに東北も入れて表現すること自体、一つは再検討していただきたいと思っておりますのと、金融状況、金融の面でいいますと、これは、まだまだ本格的な設備投資を行って次の段階に進んでいくというところには至っていない。先日も、財務金融委員会で、石巻、仙台を視察に行きましたけれども、そのときの話でも、まだそこまではいかないと。つまり、展望がまだ自分たちで見出せる事態になっていないんだと。当面の資金繰りは、それはもう大変だからお願いをして、何とか回っているけれどもという話を聞きました。

 そういう意味で、この被災地域の金融の現状については日銀としてどのように認識をされているか、次にその点をお聞きしたいと思います。

山口参考人 最初に、地域経済報告について若干補足させておいていただきたいというふうに思います。

 実は、先生もう先刻御承知のとおりでありますが、地域経済報告は、今回の分について言えば、四月の支店長会議と七月の支店長会議との比較という格好で出ておりますので、それを並べたものだということでございます。

 その上で、では現状はどうかということについては、私どもも、さまざまな情報を入手した上で、東北地域の非常に厳しい状況についてはそれなりに理解しているということでありますので、ぜひそのように受けとめていただければというふうに思います。

 それから、被災地の金融ということでございますが、御指摘のとおり、本格的な復興に向けての資金需要が出てきているという状況ではまだまだございません。これからそうしたものが出てくるのかどうか、我々としても非常に注目しているところであります。

 ただ、一点申し添えておきますと、実は私どもも、被災地の金融機関が当面の流動性需要に対して十分に対応できるようにというような観点から、いわば復興に向けての初期対応を支援するという観点から、流動性を供給するためのスキームを用意いたしました。一兆円という枠を設けて、〇・一%の金利で提供するということでございますが、今までに二回、私どもはその募集をかけまして、今のところ、二千億円というようなことでございます。まだまだ私どもが設定した一兆円という枠との関係でも大きな動きにはなっておりませんけれども、とりあえず、スタートダッシュとしてはそこそこのお金が動きつつはあるなという感じは持っております。

 依然として、先ほど申し上げたことでありますが、復興に向けての本格的なお金の動きというものが見られるようになっているかというと、そういう状況ではない、お金の面から見ましても、被災地の状況は極めて厳しい状況が続いている、このように思っているところでございます。

佐々木(憲)委員 この被災地の状況からいいますと、二重ローンという問題にまだ至っていない、その前の段階で苦しんでいるという状況だと思うんですね。

 今、二重ローン問題で政策的な対応というものを、国会でも、あるいは政府の方でも考えつつあるところでありますけれども、ゼロからのスタートを支援するということになりますと、過去の債務をどうするか、これが一番の焦点になるわけであります。いわば事実上借金棒引きのようにしてもらわないとこれからやれないというような声があるわけです。

 そこで、この二重ローンの解消の問題について、日銀として、これは政策的に何か直接どうこうということにはならないとは思いますけれども、総裁としてこの二重ローンの解消という問題をどのようにお考えか、それから日銀としては何ができるのか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。

白川参考人 お答えいたします。

 先ほど来、被災地の状況についてのお話がございまして、私も被災地を訪ねまして、宮城県、石巻も含めて参りました。金融機関の経営者のお話もお伺いしましたし、それから石巻の本当に言葉を失うような地域にも参りまして、現地の金融機関のトップの方からもお話を聞きました。現地の金融の状況は、先生御指摘のとおりであります。

 それで、日本銀行は二重ローンの問題について、これは直接、政策的な当局者ではございませんけれども、どういうふうに考えているのかというお尋ねですのでお答えいたしますと、被災しました企業や家計が直面している、いわゆる二重債務の問題をどう解決し、今後の被災地の復興につなげていくのかというのは、これは大変重要な課題であるというふうに認識をしております。

 現在、この問題については政府を中心に幅広く検討しているところでありまして、具体的な対応策について私の立場からコメントすることは差し控えたいと思いますけれども、そう申し上げた上で、大事なことは、被害の深刻さを考慮するとともに、個別の債務者の置かれた多様な状況や、金融規律の維持、債務者の公平性といった観点も踏まえつつ、政府や金融機関、債務者が協力しながら、解決に向けて取り組んでいくことであるというふうに考えています。

 日本銀行として何ができるかということでありますけれども、二重ローンそのものというよりか、被災地の金融機関の置かれた状況を考えて、中央銀行らしい対応は何なのかということであります。

 先ほど山口副総裁がお答えいたしましたように、四月に、これは初期対応として、被災地支援の金融機関向けの資金供給を行いました。これも一つの対応策ですし、それから、この後、復興がもう少し進んだ段階でどういう対応があり得るのかということも、これは検討していきたいということを、既にそういう方針であることをこれは明らかにしております。そのためにも、現地の状況をよく見て考えてまいりたいというふうに思います。

佐々木(憲)委員 この日銀の対応としてはこれまでも、強力な金融緩和を推進とか、金融緩和を一段と強力に推進と、先ほどの概要報告でもそのように述べておられますが、問題は、緩和されてどんどん資金が供給されてはいるんだけれども、末端のところに流れていっていないというのが一番の問題で、例えば日銀集計では四月末の全国銀行の国債保有残高、国債の残高では百五十八兆七千八百億円、過去最高となっているわけですね。貸出先が、非常に、その資金需要がないと。したがって、金余りになっている部分については、国債を大量に保有するという形で資金が回っているわけですね。

 これは、金融の全体のあり方として、金融緩和を幾らやってもなかなか末端に行かない、それは一体どこに原因があるのか、その原因について、総裁の見解をお伺いしたい。副総裁で、よろしくお願いします。

山口参考人 もう先刻、先生御承知のとおりでありますが、銀行貸し出しについては、基調としては弱い動きが続いているということでありますし、銀行の国債保有残高は足元で過去最大の規模になっているということも事実であります。

 こうした事態の背景ということでありますが、三つほど指摘ができるのかなというふうに思っております。

 一つは、銀行預金が安定的に増加しているということであります。それからもう一つは、企業の借り入れ需要が盛り上がってこないということであります。これは企業の手元資金が潤沢だということが一つの背景になっていますし、大企業による社債調達の増加ということもあるんだというふうに思っております。いずれにしましても、企業の借り入れ需要が盛り上がってこないということが二つ目であります。三つ目は、日本の銀行が成長性の高い企業の活動を十分に引き出せていない、言いかえますと、将来性ある資金需要を上手に引き出すことができていないといったようなことも、何がしか影響しているのではないかというふうに思っております。

 特に三つ目の点と関連するところでありますが、今後、我が国の成長力を高めていくという観点に立ちますと、金融機関が成長性の高い企業をうまく選別しながら積極的にサポートしていくことが極めて重要だというふうに思っております。金融機関においては、成長性のある企業を適切に見きわめるということと同時に、融資手法などさまざま工夫を加えていくことによって、企業の前向きな活動を積極的に後押ししていくことが大事だと思っております。

 こうした工夫を多面的に行うことによって、お金の動きが鈍くなっているこの状態を少しでも改善できればというふうに思っているところであります。

佐々木(憲)委員 今言われた、預金がふえていると。なぜ、ふえているかといえば、将来不安があるから、あるいは、国の社会保障の制度が果たして将来安定的に推移するのかどうかという点で不安があるので、どうしても老後に備えて貯蓄をしなきゃならぬ、こういう傾向が強まっているということ。

 それから、企業の資金需要の面で見ますと、最終消費市場が低迷しておりますから、つまり、賃金も上がらない、下請単価も上がらない、したがって、最終的な家計消費という点ではそう大きく伸びないわけでありまして、したがって、設備投資につながっていかない、つまり、内需の低迷、これが設備投資の低迷を生み出している、そういう状況だと思うんですよ。

 そこで、大企業を中心に今非常に資金は潤沢にあるんだけれども投資先がないという話につながってくるわけでありまして、私は、昨年九月に当委員会で白川総裁にお聞きしたときに、総裁は、大企業については手元資金は非常に潤沢である、問題は資金を使う場所がないことだという答弁をされまして、私は、なるほど、私の実感と非常に合っているなというふうに思いました。その状況は、六月十七日の日銀発表の企業の手元資金を見ましてもこれはふえているわけですから、全然変わっていないんですね。これはやはり私は、日本経済全体に対する国の政策運営に非常に大きな問題があるだけではなく、企業の行動にも問題があると。

 例えば、賃金の引き上げとか下請単価とか、もっとそういうところに着目して、労働者の要求、下請企業の要求にこたえていくような企業活動というのがあるべきだと私は思うんです。それを促すために、国は、政策的な誘導、あるいは税制上の措置、さまざまな法的な措置がとられるということによって、そういう流れがつくられていくと思うんです。それが今、十分なされていない。逆に、消費税の増税ですとか社会保障を抑制するとか、そういうものが出てきている、ますます将来不安があおられる、そういうところに問題があるのではないかと感じているところであります。

 日銀の生活意識に関するアンケート調査を見ましても、被害の大きかった四県を除いているんですけれども、結果を見ますと、現在の景気が一年前に比べて悪くなったと感じている人は、三月の調査、これは四六・八%だったのが、七月の調査によりますと六一・四%、非常に高くなっているわけですね。やはり全体として、国民の生活感覚からいうと、景気の方は、一年前に比べて、三月の時点の調査に比べると逆に悪くなってきているというのが生活実感だと思うんですが、そういう実態についてどのように考えておられるか、お聞きをしたいと思います。

山本参考人 お答えします。

 日本銀行が公表いたしました生活意識に関するアンケート調査の結果は、今先生が御指摘のとおりでございます。

 まず、前回の三月の調査の調査期間というのは、本年の二月から三月七日にかけてでございました。一方、今回の調査時点は本年の五月から六月にかけての調査でございます。

 お尋ねの景況感の悪化の原因につきましては、その調査結果から直ちに確たることは申し上げられませんけれども、ただ、前回調査と今回の調査の間に東日本大震災が発生したということを踏まえますと、やはり震災の影響により生産活動が大きく低下したこと、そうしたことで日本経済に対する厳しい見方が広がったということ、それらが何がしか影響を及ぼした可能性があると見ております。

佐々木(憲)委員 その根拠として、この調査を見ますと、自分や家族の収入の状況から判断するとそうなる、つまり、一年前に比べて悪くなっているというのが一番多いんですね。それから二番目に多いのが、勤め先や自分の店の経営状況から見て、一年前に比べて悪くなっている。

 ですから、生活実感からいうと、これはやはり雇用対策ですとか、あるいは可処分所得をふやすための対策ですとか、社会保障の充実ですとか、そういうものがあって初めて、消費も最終的な個人消費の拡大につながり、企業の設備投資にもつながり、日本経済全体の好循環に移っていくことができるというふうに私は思うんです。一番のネックはそこにあると思う。政策の根本的な転換を考える場合には、そこに着目した大胆な転換をしていかないと、これはやはり従来型のやり方ではなかなか突破できないというふうに感じているところであります。

 最後に総裁の御意見を伺って、終わりたいと思います。

白川参考人 日本の経済がしっかり回復をし、そのもとで国民が安心して暮らせる、そういう状況を実現する、これは非常に大事なことでございます。日本銀行は金融の面から最大限努力していきますけれども、今先生御指摘のとおり、大企業はお金は余っております。金融機関もお金が余っていて、これが十分に有効に使えていないというのが現在の姿であります。

 このために、これは政府も、それから民間も、やはり力を合わせていく必要があるというふうに思いますけれども、その際、これはどうやって成長力を引き上げていくかということを考えますと、やはり私自身は、労働力人口の減少に少しでも歯どめをかけていく、いろいろな努力でございます。

 これは、今でも女性の労働参加率は、いわゆるM字カーブというふうに言われておりますけれども、参加率が低くなる層がありますし、そのことが女性のいろいろな人的なスキルの蓄積という面でも障害になっています。それから、男性、女性は問わずですけれども、現在のシニア層は昔に比べたら随分元気になっていますので、こういう方がいろいろな形で社会に参画をしていくということで、労働力の減少を少しでも歯どめをかけていく。そういう形で、一方で時間をつくりながら、その間に経済全体の生産性を上げていく努力が必要だと思います。

 生産性といいますと、コストをカットしていくというのが何となく生産性という言葉のイメージにありますけれども、必ずしもそういうことだけではなくて、もちろんそういうことも必要ではありますけれども、マーケットをどう大きくしていくかという観点が大事だと思います。

 そういうふうに考えますと、国内の市場は、高齢者の市場は今拡大しているわけですから、この市場をどう開拓するかということもそうですし、それから、いずれにせよ国内の市場はだんだんに縮小しますから、どうやって海外の需要を取り込んでいくか。こういう面ではやはり国内の市場をもっともっと開いていくという努力も、これはまた御意見が違うかもしれませんけれども、大事だと思います。

 いずれにせよ、総合的に経済力、成長力を上げていく力を高めていくということが大事だというふうに思っております。

佐々木(憲)委員 終わります。ありがとうございました。

石田委員長 次回は、来る十五日金曜日午前八時四十五分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時五十八分散会


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