衆議院

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第8号 平成19年4月6日(金曜日)

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平成十九年四月六日(金曜日)

    午前九時四十分開議

 出席委員

   委員長 桝屋 敬悟君

   理事 鈴木 恒夫君 理事 田野瀬良太郎君

   理事 西村 明宏君 理事 平田 耕一君

   理事 松浪健四郎君 理事 藤村  修君

   理事 笠  浩史君 理事 伊藤  渉君

      阿部 俊子君    秋葉 賢也君

      井脇ノブ子君    宇野  治君

      江崎 鐵磨君    小川 友一君

      小渕 優子君    大塚  拓君

      北村 誠吾君    小島 敏男君

      佐藤  錬君    柴山 昌彦君

      西本 勝子君    葉梨 康弘君

      馳   浩君    原田 令嗣君

      平口  洋君    福田 峰之君

      藤田 幹雄君    馬渡 龍治君

      大畠 章宏君    長島 昭久君

      長妻  昭君    野田 佳彦君

      松野 頼久君    松本 大輔君

      西  博義君    石井 郁子君

      保坂 展人君

    …………………………………

   文部科学大臣       伊吹 文明君

   外務副大臣        岩屋  毅君

   文部科学大臣政務官    小渕 優子君

   政府参考人

   (宮内庁書陵部長)    折笠竹千代君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 猪俣 弘司君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 谷口 智彦君

   政府参考人

   (文化庁次長)      高塩  至君

   文部科学委員会専門員   井上 茂男君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月六日

 辞任         補欠選任

  飯島 夕雁君     大塚  拓君

  加藤 紘一君     原田 令嗣君

  鈴木 俊一君     北村 誠吾君

  二田 孝治君     葉梨 康弘君

  山本ともひろ君    宇野  治君

  奥村 展三君     大畠 章宏君

  田島 一成君     長島 昭久君

  高井 美穂君     松野 頼久君

  松本 剛明君     長妻  昭君

同日

 辞任         補欠選任

  宇野  治君     山本ともひろ君

  大塚  拓君     飯島 夕雁君

  北村 誠吾君     鈴木 俊一君

  葉梨 康弘君     二田 孝治君

  原田 令嗣君     加藤 紘一君

  大畠 章宏君     奥村 展三君

  長島 昭久君     田島 一成君

  長妻  昭君     松本 剛明君

  松野 頼久君     高井 美穂君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 武力紛争の際の文化財の保護に関する法律案(内閣提出第五〇号)


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     ――――◇―――――

桝屋委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、武力紛争の際の文化財の保護に関する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として宮内庁書陵部長折笠竹千代君、外務省大臣官房審議官猪俣弘司君、大臣官房参事官谷口智彦君及び文化庁次長高塩至君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

桝屋委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

桝屋委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。笠浩史君。

笠委員 統一地方選挙中で、ちょっと声がかれているんですけれども、民主党の笠浩史でございます。きょうは武力紛争の際の文化財の保護に関する法律案について質疑をさせていただきたいと思います。ちょっとお聞き苦しい点があるかと思いますが、御容赦をいただければと思います。

 文化財と文化遺産というものについては、単にその国の財産としてではなく、まさに人類共通の財産として、過去から現在、そして一番大事なことは、未来へ向けて私どもが引き継いでいく、守っていくということが一番の責務であろうと考えております。にもかかわらず、残念ながら、紛争あるいは自然災害などによって、十分な保護が図れないケースというものもたくさんあることは事実でございます。そうした中、我が国としても、人類共通の貴重な財産、資産である文化財をしっかりと守っていくために国際協力を推進していくということは大変重要だと考えます。

 昨年の通常国会で、超党派で検討してきた海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律等も成立をさせたわけでございます。こうした中、我が国が今後、文化財保護の国際協力を推進し、さらには海外に向けて文化立国としての存在感を高めていくこと、これは大変重要であろうと考えております。

 まず、質問に先立ちまして、冒頭、伊吹大臣にお伺いをしますが、こうした文化財保護という面で国際協力あるいは国際貢献というものを積極的に行っていくことについて、大臣の御意思あるいは今後の決意というものをまず最初にお伺いいたしたいと思います。

伊吹国務大臣 先生が御指摘になっているように、単にその国のものだけではなく、国際的に見て、全人類の財産ですから、我々人間の業のような行いの中で、人間がそれを壊すということのないように、各国が自制心を持って対応する、そしておのおの、能力と技術を持っている国は、それのない国に対して手を差し伸べながら、一緒に地球、世界の財産を守っていくという意味では、この条約は一つの試みだと私は思います。

 戦争というのは、ちょうど選挙のときになると政治家がころっと人柄が変わるように、何が起こるかわからぬような事態でもあるわけですから、常にこういう規範的な取り決めをして、自制心を持ちながらやっていく。

 私は京都なんですけれども、アメリカの資料を読んでみると、当時、京都、奈良には歴史的な財産があるからここへ爆撃をしてはいけないという主張をしてくれた人がいたために、日本の文化財はある程度守られてきたというようなことも、やはり、いい意味で人間の良識のようなものもあると私は思いますから、ぜひこの条約の精神にのっとって、我が国は少なくとも諸外国から後ろ指を指されることのないように努力をしたいと思っております。

笠委員 そうした点から考えますと、武力紛争の際の文化財の保護に関する条約、いわゆるハーグ条約、あるいは同条約の議定書及び第二議定書の締結についての案件が、今回、この国会に提出をされたわけですけれども、ハーグ条約については、御案内のとおり、この条約起草会議にも日本は代表団を派遣して、そして一九五四年九月六日に条約及び議定書に署名もしております。しかしながら、その批准についてはこれまで見送っており、まさに今回、署名から五十年を経て、ようやく今締結しようということになったわけです。

 そこで、きょうは岩屋外務副大臣にもおいでをいただいておりますので、まず、なぜこれほどの時間が、半世紀にわたってかかってしまったのか。私は、ちょっと遅きに失したというような感もぬぐえないんですけれども、その点についてお答えをいただければと思います。

岩屋副大臣 おはようございます。どうぞお体に気をつけて、余り無理をなさらないように、体を休めていただきたいと思います。

 今お尋ねの、なぜ五十年もかかったかということでございますが、先生おっしゃったように、我が国は一九五四年に署名をしております。しかし、この条約は、ある意味では有事法制の一端をなすものでございまして、先生御承知のように、我が国におきましては、長年にわたって、この条約の実施法を含む有事法制について検討できる状況にはなかったわけでございます。ただ、近年、有事法制の整備も進んでまいりましたので、条約を締結する環境が整ったというふうに判断をしたところでございます。

 それから、条約の中身にもいささか問題がございまして、この条約の中では、特に重要な文化財に対してより高い保護を与える特別の保護という制度があるわけでございますが、この特別の保護が付与されるためには、文化財が軍事目標から十分な距離を置いて所在するという条件を満たす必要があるわけでございます。ただ、この十分な距離というのは具体的にどの程度か、必ずしも明確ではありませんでした。したがって、我が国としては、当初、特別の保護の申請対象として検討していた、例えば京都ですとか奈良等の地域が、大臣のお地元でもございますが、右要件を満たすことができるか不明確であるという問題がございましたので締結が困難であったということでございます。

 しかし、この点に関しましては、二〇〇四年に発効した第二議定書におきまして、特別の保護という、今申し上げた制度を改善する措置がとられました。それは今度、強化された保護という名前になったわけでございますが、距離の概念を条件に含めていない、そういう強化された保護という新しい制度が設けられましたので、この強化された保護の利用を通じまして、特別の保護と同程度の保護を文化財が受けられるということになりました。

 このような状況の変化によりまして、今国会におきまして、条約等の締結につき承認をお願いすることができるようになったということでございます。

笠委員 では、ちょっと確認をしたいんですけれども。

 ということは、今お話がありましたこの第二議定書が一九九九年三月二十六日に策定され、そして二〇〇四年、今ありましたように、三月九日に発効しておりますが、この第二議定書が作成をされたから今回締結へ向けた具体的な動きに入ったということでよろしいんでしょうか。先ほどの前段の部分での理由、それ以外では、とりあえず第二議定書の発効が我が国の締結へ向けての動きを大きく加速させた一番の理由というふうに考えていいのかどうか、お答えをいただけますか。

岩屋副大臣 今申し上げたように、両方なんですけれども。一つは、有事法制の環境が整ったということと、それから、第二議定書の発効によりまして、つまり距離にかかわらず文化財を指定することができるという、強化された保護という概念が出てきた、これがやはり大きな理由になっているということでございます。

笠委員 その強化された保護についてなんですけれども、確かに、距離の問題、いろいろとあいまいな部分があったわけですね。それで、我が国としては、これまであった特別保護、そこから、今後の国内の文化財を守るに当たっては、この条約あるいは議定書の締結によって、強化された保護に準じて国内の体制づくりを極力進めていくというようなことでいいのかどうかの確認をお願いいたします。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生御指摘のように、二〇〇四年に発効いたしました第二議定書におきまして強化保護制度というものができましたために、この条約の批准に向けた動きが加速しているということでございまして、まさに強化保護文化財の制度につきまして、私どもとして今後検討してまいりたいというふうに考えているところでございます。

笠委員 具体的なことについては後に譲らせていただきますけれども、このハーグ条約については、二〇〇七年二月一日現在で、私がいただいた資料によりますと百十六カ国が締結をし、議定書についてはこの時点で九十三カ国が締結をしている。しかしながら、アメリカあるいはイギリスあるいはお隣の韓国は締結をしていないわけですけれども、外務省としては、特にアメリカですね、なぜ米英というものが締結をしていないのか、あるいは、今後締結へ向けて、具体的な動きが今あるのかどうか、その点についての今の状況についての説明をお願いいたします。

岩屋副大臣 お尋ねの米英についてでございますけれども、米国においては、当時のクリントン大統領が、一九九九年一月に上院に対して条約批准のための助言と同意を求める書簡を発出しております。しかし、その後上院ではいまだに本件に関する審議が行われていないということで、私どもも米国政府に照会をいたしましたが、米国政府としては条約の締結に関し問題があると認識しているわけではないけれども、議会において強い関心が必ずしも得られていないということで優先順位が上がっていないというふうに承知をしております。

 それから、英国でございますけれども、先ほどの距離の話などもそうだったと思うんですけれども、この条約に不明確な部分が多い、したがって英国もこれまで未締結であったと承知をしております。しかし、第二議定書が採択されたことによりまして環境が整ったとして、今英国におきましても締結に向けて作業が進んでいるというふうに承知をしております。

笠委員 アメリカについては、今お話があったように、クリントン大統領の時代には前向きであったと、大統領自身としては。

 これは実は全く違う案件なんですけれども、先般私も外務委員会の方で、例の国際刑事裁判所、これも実はクリントン時代には非常に積極的な動きがあったけれども、ブッシュ大統領の時代になってどうもその動きがとまっているというようなことで、そこは議会の、アメリカの問題でありますけれども、実際に武力紛争における文化財の保護ということになれば、この数年というか近年を見ても、やはりアメリカが締結していなくて果たして実効性があるんだろうかというようなことを私は大変危惧しているわけでございます。

 そこで、まず一つ確認をしたいんですけれども。これは事務方で結構なんですが、この締結をしていない国、例えば具体的にはアメリカは、仮にアメリカが当事者となって武力紛争を、イラクのような場合、起こしたときに、ではアメリカはイラクの文化財を守る義務というものがあるのかどうか、それともそれは全くないということなのかどうか、そこをまず御説明いただきたいと思います。

猪俣政府参考人 条約の問題でございますので私の方から答弁させていただきますけれども、締約国でなければ当然条約上の義務というのは生じませんので、その限りにおきまして、今の設定のお話でありますと、適用の対象にはならないということでございます。

笠委員 このアメリカについては、イラク戦争など武力紛争の当事者に、残念ながら、なる機会がこの近年多かったと思います。

 それで、イラク戦争でも、当時かなりの問題になりましたけれども、相当な文化財が失われたのは御存じのとおりで、とりわけ、占領後、イラク国立博物館が略奪の対象となって、文化遺産がそういう略奪行為の被害に遭うということが残念ながら起こったわけです。

 ただ、一方で、イラクは、ハーグ条約あるいは議定書、ともに一九六七年に締結をしているわけですね。ということは、そもそもの問題として、たとえ締結したとしても、このように、実際には守れなかったということについては、これはこれから日本としても、本当に実効性を高めていくために何をやらなければいけないのかということを考えていかなければならないんですけれども、当時イラクの国立博物館というのは、イラク的に言うと保護される対象、これはアメリカに対してということじゃなく、保護される対象としてはリストアップをされていたのかどうか、ちょっとお答えをいただければと思います。

岩屋副大臣 済みません、ただいまの御質問は突然の御質問だったので、博物館そのものが登録されていたかどうかというのはちょっと今確認できません。

 先生御指摘のように、あのイラクへの武力行使の際の混乱によって、博物館などで数多くの貴重な文化財が被害を受けたと承知をしておりますが、当時報道でもありましたように、それはどちらかというと自国民による略奪が多かったのではないかと承知をしております。米軍による文化財の組織的な破壊、略奪行為があったという情報には私どもは接しておりません。

笠委員 略奪が、そのほとんどがイラク人によって、自国民によって行われたとしても、占領下にあるわけですよね。ということは、アメリカ、あるいはイギリスであれ、その占領している側に、そういった文化財の警備をするあるいは守る義務というものは、このハーグ条約を締結していた場合には生じるのか、あるいは締結していないから守る義務というものはないんだということになるのか、その点をちょっと事務的にお答えいただければと思います。

猪俣政府参考人 条約の締約国であれば、その締約国が仮に占領しているという状況におきましては、占領下にある文化財を保護、守るという義務が生じます。

笠委員 ということは、すなわちアメリカやイギリスにはそれを守る義務というものは、少なくともこの条約上はなかったというか、締結していないからなかったということと理解するんですけれども。

 要するに、私が申し上げたいことは、紛争の際には、一方の当事国が締結していなければ、たとえハーグ条約を批准し締結していたとしても、実際には文化財が守られるという実効性というものが担保されていないという、この一面は大変大きな今後の課題ではないかというふうに私は思っております。

 そこで、実効性を高めていくために、我が国として今後、例えば未締結の国々、特段アメリカなどに対して、これは外交として締結を働きかけていく考えというものがあるのかどうか、岩屋副大臣にお伺いをいたします。

岩屋副大臣 先生おっしゃるとおり、より多くの国がこの条約を締結することが重要だと私どもも考えておりまして、私どもがこの条約を締結した後には、御指摘の米国を含む関係国に対しまして、条約等の締結に向けた働きかけを行っていく所存でございます。

笠委員 こういう文化財における外交というものは日本として大変積極的に貢献できる分野だと思いますので、その点は今後ぜひ政府として積極的に働きかけをして、せっかく半世紀たって加盟をするわけですから、この後日本がその中でどういう形でリーダーシップを発揮していくのかということは本当に大事な点だと思いますので、これはぜひお願いを申し上げたいと思います。

 ちょっと順番が前後するんですけれども、このことに関連しまして。

 ブルーシールドの国際委員会というものが現在あるんですけれども、これは、各国NGO等々が一緒になって取り組みを進めていくためにつくられているものなんですが、今、限られた国ですけれども、ブルーシールドの国内委員会というものを設置している国があるんですね。

 それで、国際会議等々の中で、この国際委員会と、国内委員会を設置している国々が一緒にいろいろな会議をやって、文化財を守っていくための枠組み、あるいはそういう実効性ということについてもかなりいろいろな議論をしているというように伺っているんですけれども、今回、我が国が締結後に、そうしたブルーシールド国内委員会などについても、我が国として国内の委員会を設置するような考えがあるのか、このことを外務省にお伺いいたしたいと思います。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生御指摘になりましたブルーシールドにつきましては、国際委員会というものがございまして、これは一九九六年に設置されまして、国際公文書館会議、それから国際博物館会議、記念物及び遺跡に関する会議、国際図書館連盟により構成されるいわゆるNGO、非政府組織でございまして、条約の遂行につきましても、ユネスコを支援するということを目的としておるものでございます。

 お話のございましたブルーシールド国内委員会は、その国際委員会の活動を国内で支援する組織でございまして、現在、十以上の国で設置されているというふうに承知いたしているところでございます。これらの国内委員会につきましては、災害等の緊急事態への対応などでその活動への期待が高まっている。

 我が国におきましても、既存の組織等の活動を視野に入れまして、この法案の成立を踏まえまして、国立国会図書館を初め関係の機関とともに、国内委員会についての検討を行ってまいりたいというふうに考えております。

笠委員 次長にちょっと確認したいんですけれども。

 ということは、設置の方向で検討をしていくということでよろしいでしょうか。

高塩政府参考人 私ども承知していますのは、今、国立国会図書館中心にそうした動きがございますので、そうした動きと連携してまいりたいということでございます。

笠委員 この点については、今確かに国立国会図書館の方でということですけれども、ぜひ政府としても後押しをしていただき、これはいいことだと思うんですね。まだ十数カ国ですから、日本としてこの国内委員会というものを設置して、他の先進国はまだ設置がおくれていますから、五十年ぶりと、ちょっとおくれた分、今後のことが大事なので、ぜひ設置へ向けて積極的な働きかけをしていただきたい、そのことを申し上げておきたいと思います。

 次に、今回の法律案について幾つか具体的に確認をさせていただきたいと思います。

 まず最初に、今回我が国は、この議定書にある文化財の返還の義務、このことについての規定を留保するということになっておりますけれども、議定書3の規定によって認められているこの留保宣言によって、我が国は文化財の返還の義務については留保をすると。この留保した理由というものを、まず最初にお伺いいたしたいと思います。

岩屋副大臣 この議定書は、締約国の義務として、武力紛争の際に占領地域から自国に輸入される文化財を管理する、それから、武力紛争終了の際に、管理していた文化財を占領地域に返還することを定めているわけでございます。

 我が国といたしましては、このような義務を履行するために、今国会に提出されております武力紛争の際の文化財の保護に関する法律に基づき、次のような措置をとることにしております。

 まず、占領地域から輸出された文化財が我が国に流入することを防ぐ、水際で規制をする。輸入を承認しないという措置になろうかと思いますが、それをやる。にもかかわらず輸入された文化財については、散逸、滅失を防止するための規制を課すということにしているわけでございます。

 さらに、領域内に輸入された文化財のうち、国が管理しているものについては、武力紛争終了の際に、占領された地域の権限のある当局に返還することといたしております。

 他方で、善意の所持者が管理をするもの、そういう、文化財であって、盗品である、略奪されたものであるということを知らないで、善意で所持をしているものについては、民法の第百九十三条の規定によりまして被害者に返還することになりますが、その規定によれば、盗難または遺失のときより二年を超えた場合にはその物の回復を請求することができなくなる、基本法であります民法にそういう規定がございますので、この部分については留保せざるを得ないというふうに判断をしたところでございます。

笠委員 今御説明があったように、民法の百九十三条の規定によってというお話がるるあったんですけれども、善意の取得者に対しては、盗難または遺失のときより二年間その回復を請求できるのみだということですよね、言いかえるならば。

 占領地域から流入した文化財、これは水際でとめられればいいんですけれども、そうでない場合もやはりあると思うんですよね。民法だけでは、売り手というのは逆に責任逃れをしやすくなるし、今度は買い手の側からすれば所有権が与えられるということにもなりかねない。ちょっと私は、これだけでは非常に甘いんじゃないかというような気がしておるんです。

 今の二年を、例えばもっと期間を、十年にするとか、延長するとか、そういう何か対応をしていかなければ、なかなかこの流入というものを防ぐことはできない。そういうふうなことを非常に危惧するわけですけれども、その点について、今後どういうふうな形で対応していくのか、もし今検討されていることがあればお伺いをさせていただきたいと思います。

岩屋副大臣 その点はちょっと外務省の範囲を超えると思いますが、基本法であります民法を、その部分を先生おっしゃるように改正してまで締結をすべきことなのかどうか。やはり全体の法体系のバランスとかいろいろなことを考えなきゃいけないというふうに思っておりますので、不十分ではないかという御指摘は承りますが、現在においては、国内法との関連上、民法の規定を改定してまで締結するには及ばないのではないかということで、その部分は留保させていただいた上で条約を締結させていただきたい、こう考えているところでございます。

笠委員 私も、これは本当に、現在の法体系では確かに留保せざるを得ないということは理解できます。ただ、その点も今後検討していく課題として、ぜひ御認識をいただきたいということを申し上げたいと思います。

 もう一点、被占領地域から流出した文化財を輸入する場合には経済産業大臣の承認が必要であると本法律案の第五条に規定をされているんですけれども、基本的に、輸入が認められることは恐らくないのではないかと思います。

 ただ、輸入が認められなかった場合に、所有者がその所有権を放棄することも考えられると思うんですよ、恐らく認められないので。そうした場合には、その文化財の保管とか、あるいは返還についてはどのような措置がとられるのか。これは事務的にお答えをいただければと思います。

高塩政府参考人 今先生御指摘のように、これは輸入の規制をいたしまして、被占領地域の流出文化財であれば、その時点で輸入を認めないということでございます。

 それから、今先生御指摘のように、輸入した者が放棄した場合には国が没収するということになりまして、国の方においてその文化財を流出した国に返還するという手続になるというふうに考えております。

笠委員 それでは、次に、ブルーシールド、いわゆる特殊標章、このことについて幾つか具体的にお伺いをしたい。

 済みません、先ほど冒頭にちょっとお伺いをしたんですけども、先に強化保護の文化財の指定についてお伺いをしたいんです。

 この締結をした後、国内では、いろいろな形で、何を具体的に指定していくのか、どの文化財を強化保護の文化財として指定していくのかということの作業に当然入っていくことになると思うんですけども、まず最初に、この条約が締結をされた後、もう速やかにその指定をしていくような段取りになっていくのか。それともう一点は、指定される範囲ですね、どういう基準でこの指定を行っていくのかということを文化庁の方にお伺いしたいと思います。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生御指摘のありました強化保護文化財につきましては、現在、武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会、これはユネスコの方でございますけれども、におきまして、強化された保護の付与に係る詳細な手続、基準について作成中であるというふうに承知いたしております。

 私どもといたしましては、この手続それから基準を踏まえまして、どのような文化財を対象にしていくかということを検討するということになるわけでございますけれども、第二議定書におきましては、強化文化財の要件につきまして、例えば、人類にとって最も重要な文化遺産であること、また、当該文化財が文化上、歴史上特別の価値があり、最も高い水準の保護を確保する適当な立法上、行政上の国内措置により保護されていること等々の要件がございますので、こうした要件も踏まえまして、今ユネスコの方で検討されております基準等が作成されるのを受けまして、今後検討を行っていくということになろうかと考えております。

笠委員 確認なんですけれども、確かに、どちらかというと、今のお話にあったように、この第一の要件として、文化財が人類にとって非常に重要な文化遺産であることということだけで、各国共通の明確な基準が定まっていないわけですね。各国にその基準は今はゆだねられているというような状況だと思うんです。ということは、今のユネスコで検討されている、もう少し踏み込んだ共通基準というものができてから、我が国としてはその具体的な選定に入っていくということでいいのかどうかということと、ユネスコで検討されている共通基準的なものというのは大体いつぐらいに出てくるのか、その点についての見通しをお答えください。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生おっしゃられたとおり、ユネスコの具体的な基準等を受けまして、私どもで検討に入るということを考えております。

 この第二議定書は二〇〇四年に発効いたしておりまして、それから検討しておりますので、私ども、いつまでにその基準が示されるかということは必ずしも承知していないわけでございます。

 また、我が国におきまして、この強化保護文化財のリストをつくっていくということにつきましても、今すぐに我が国が武力紛争事態になるということを想定されないということもございまして、そういったさまざまな状況を踏まえまして、私どもとしては検討を行っていくというふうに考えております。

笠委員 確かに今すぐに想定はされないでしょうし、あってはならないことだとは思うんですけれども。本当に、何が起こるかわからないという中では、確かに、実際に指定をするのは、ユネスコの今の検討されている基準が決まってからでもいいと思いますけれども、ある程度、重要文化財なのかどうなのか、あるいは世界遺産に登録をされているものになってくるのか、その辺の国内における検討を政府として進めておくことは、これは別に並行してやっていても私はいいのではないかと思うんですけれども、その点について、伊吹大臣、どうですか、そこあたりは。

 もちろん、正式な決定はユネスコの基準が出てからということですけれども、せっかくこれから締結をするわけですから、それを受けて、独自に国内でやはり検討していくべきではないかということについてのお考えをお願いします。

伊吹国務大臣 世界文化遺産とかいろいろ既に指定されているものもあるわけですから、ユネスコでの審議の状況も見きわめながら、腹づもりをしておくということは大切だと思いますが、とかくこういうものはだれかがぺらぺらしゃべりやすいもので、陳情合戦とかいろいろなこともありますから。

 まあ、内々、先生の御注意を拳々服膺して、検討させていただきたいと思います。

笠委員 陳情というのがどれぐらいあるのかよくわかりませんけれども、その点についてはぜひ検討をしていただければと思います。

 それで、もう一点、今回の条約の第一条の(c)に規定する記念工作物集中地区の指定というものが、これは文化財が多数所在する地区を本条約の保護を受けるものとして定義をされているわけです。諸外国の例でも、特別保護文化財として登録されているバチカンでありますとか、あるいは記念工作物集中地区として挙げられているわけですけれども、我が国では、この記念工作物集中地区については文部科学大臣が指定をするということになっておるんですけれども、どのような地区を想定されるのか、その点についてお答えをいただければと思います。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生御指摘のございました、条約の第一条の(c)に該当いたします文化財が多数所在する地区、いわゆる記念工作物集中地区につきましては、この法律の第三条一項に基づきまして、文部科学大臣が指定することになるわけでございますけれども、実際にどのような範囲で指定するかにつきましては、武力紛争時に想定される状況や事態の対応など、文化財の分布等を勘案しつつ指定することが適当であるというふうに考えております。

 具体的には、多数の重要文化財等が集中しております神社の境内地、世界文化遺産などが対象になり得るものというふうに考えております。

笠委員 これはちょっと確認なんですけれども、この記念工作物の集中地区として、特別保護文化財として、例えば先ほど話があった京都であるとか奈良であるとか、世界から見ても本当に世界の文化遺産としてきちっと守っていかなければならないと認識されているような市、町というものを特定して、それを指定するというような考えというものがあるのかどうか、あるいはそれができるのかどうか、その点についてお伺いをいたしたいと思います。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 記念工作物集中地区につきましては、条約上、その明確な範囲というものは定められておりませんけれども、広く一つの県ないし市を単位として指定することにつきましては、各国の理解を得にくいものというふうに考えております。

 例えば、先生御指摘の奈良や京都全体を記念工作物集中地区として指定する場合には、平時から当該地域に対しまして一定の保全措置を図るということがございますけれども、関係省庁それから地方公共団体、当該地域住民等の協力が必要でございまして、広範囲にわたる指定につきましては調整が困難であり、それはなかなか難しいというふうに考えておりまして、もう少しそれよりも集中した形、例えば、京都、奈良であれば、世界遺産に指定をされております古都京都の文化財、古都奈良の文化財ということになっておりますので、県全体とか市全体ではない、そういった単位の指定になるのではなかろうかというふうに考えております。

笠委員 ただ、世界遺産に登録されているそういう文化財だけといっても、例えば町並みであるとか、あるいはそれに指定をされていないけれどもやはり町全体を残していかなければならないとか、きょう冒頭にお伺いしたように、日本がこれまで第二議定書ができるまで批准をしてこなかった大きな理由の一つとして、やはり京都やあるいは奈良といったところのその距離という問題で、そういったところを想定して、日本としてはそういったところが指定をできないのであればこれは難しいというようなことが大きな理由としてはあったと思うんですよね。

 ということは、今乗り越えていかなければいけない自治体の協力であるとか、いろいろあるにしても、やはりその範囲を広げて指定をしていくということも考えていいのではないかと思うんですけれども。先ほど言ったように、これはまだ全くそういうことは考えられないのか、確認なんですけれども、それともそういう指定をする可能性もあるのか、ちょっとその点、もう一度確認させてください。

高塩政府参考人 この記念工作物集中地区につきましても、指定の際には、文化財の専門家等から成ります会議におきまして御検討いただくということでございます。

 範囲につきましては、先ほど申しましたけれども、余り広い範囲ということではなかなか難しいですけれども、先生今の御質問の冒頭にございました、いわゆる町並みといった、伝統的建造物群というのが今全国に七十九カ所ございますけれども、そういうところを指定することは十分考えられるというふうに考えております。

笠委員 そのことはまたその委員会等々で検討されていくんでしょうけれども、そもそも、じゃ何を守るのかと。日本にとって、また世界にとって、これは文化財というものの範囲そのものにもかかわってくるテーマであると思いますので、この締結をされた後、またぜひ当委員会等々でも議論をさせていただきたいと思います。

 次に、ブルーシールドの特殊標章のことについて、若干お伺いを具体的にさせていただきたいと思うんです。

 本法律案の第六条で、武力攻撃事態において、次の場合を除いて特殊標章の使用は禁止されるということで、一つ目に、国内文化財の管理者が、武力攻撃事態において、当該国内文化財または当該国内文化財の輸送のために使用する車両を識別する目的で使用する場合、二番目として、武力攻撃事態において、国内文化財の保護に関する職務を行う国または地方公共団体の職員等を識別させるため交付された特殊標章を表示した腕章及び身分証明書を着用、携帯する場合ということがあるわけでございます。

 この一つ目の、管理者が、武力攻撃事態において、当該国内文化財または当該国内文化財の輸送のために使用する車両を識別する目的で使用する場合なんですけれども、これは任意であるということが第六条の第二項で規定をされていると思うんですけれども、任意ということで、わざわざ特殊標章を付す意義が、当該文化財が条約の保護の対象となる文化財であることを知らしめて攻撃を防止するということなわけですよね、そうすれば、任意ということで果たしてその意義というものが担保されるのかどうか、その点をお伺いいたしたいと思います。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のように、条約上、また法律上におきまして、この特殊標章を武力紛争時に文化財につける、識別させるためにつけるかどうかはあくまで任意だということでございますけれども、当然、文化財の保護というのは非常に大切なことでございまして、私どもといたしましては、この法律の制定後につきましては、文化財の所有者に対しまして、この特殊標章の制度につきましても十分周知を行いまして、こういった仕組みがあるということの理解を求めていきたいというふうに思っております。

笠委員 保護する対象としての文化財をどうするのかということは、先ほどまだ時間がかかるということなんですが、仮にその対象が決まってきたときに、実際にこのブルーシールドをいつの時点で、これは決まったらもう平時から、登録されたことを受けてすぐに、このブルーシールドをつけて表示をしていく、そしてまた認知をさせていく、周知をさせていくということになるのかどうか、その辺の段取りについてお伺いをできればと思います。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 この特殊標章、ブルーシールドにつきましては、あくまで武力紛争時において、まさに攻撃を避けるための文化財の識別を容易にするための標章ということでございまして、平時においてこのブルーシールドを表示するということについては格別の意義がないというふうに考えてございます。

 ただ、武力紛争時というのはいついかなる事態が起きるかわかりませんから、どういう形で表示のための準備をするかということについては、その所有者は日ごろから考えておらなければならない問題だというふうに考えますけれども、現時点においてこれを準備するということは私どもは考えていないということでございます。

笠委員 私は、武力紛争のときに表示するというのは、もう現実として無理だと思いますよ。いつ来るかわからないわけですし。ちょっと例は悪いかもしれませんけれども、北朝鮮あたりから突然の攻撃を受けるという事態になるようなことだって、これはゼロではない。そういったときには、文化財どれを守るんだなんていうことの前に、まずは人命ですよね。そうしたらやはり、平時からしっかりと。

 もちろん所有者の方が表示してほしくないということであれば、それは別かもしれませんけれども、基本的には、平時においてしっかりと指定をして、そしてこの文化財というものはそういう対象になっているんだということを、これは海外に向けてだけではなくて、我が国の国民に対してもしっかりと認知をさせておかなければ、恐らくこういう条約を批准しても、ほとんどの方はわからないと思うんですね。そんなことをやっているのかと。

 ですから、やはり意識をしっかりと高めていくためにも、ある程度、これは登録をされたら速やかに平時においてこのブルーシールドをきちっと表示していくべきであると私自身は考えているんですけれども、この点について、例えば大臣、何か御所見があればお願いいたします。

伊吹国務大臣 条約を読んでみると、平時において先生がおっしゃった標識を使用することを禁止しているわけではありませんのでね。ちょうど、赤十字というか、レッドクロスのようなものだと思います。戦争のときも、赤十字をつけているものについては攻撃をしないとか。

 ですから、平時において赤十字を使ってはいけないということはないわけですから、多くの方々にそれを理解していただいて、その精神をわかっていただくために、先生の御提案のことをやって悪いということはないと思いますから、よく事務的に検討させたいと思います。

笠委員 本当に大臣に前向きな御答弁をいただきましたので、時間が参りましたけれども、今回の条約を批准する、そして締結をするということは、私も大いに歓迎をしたいし、これは当然のことだと思っています。ただ、やはり、条約の締結をしたものの、これは世界全体として実効性をいかに担保していくか。あるいは、我が国の文化財を守っていくために、いかに、こちらの方の実効性も含めて、今後また政府内において、とりわけ文科省と外務省、関係の一番深い省庁でございますので、ぜひその点についての積極的な今後の施策についての御検討をお願い申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

桝屋委員長 次に、石井郁子君。

石井(郁)委員 日本共産党の石井郁子です。

 武力紛争の際の文化財の保護に関する法律案に関して質問をいたします。

 今回の法案は、武力紛争時に被占領地域から流出した文化財を被占領地域流出文化財として指定し、輸入の規制を行うものです。また、我が国に輸入された被占領地域流出文化財の損壊や譲渡等に罰則を定めるものであります。人類共通の財産である文化遺産を守ることは各国に課せられた課題ですから、当然賛成いたします。

 ところで、我が国が過去に他国を占領し、その地域の文化財を略奪のようにして我が国の文化財のように扱っているケースが多々ございます。東京上野の国立博物館が所蔵し、展示されております金銅透彫宝冠、金銅翼状冠飾、金製心葉形垂飾耳飾、ちょっと写真が小さくて恐縮なんですけれども、こういうようなものなんですね。宝飾とか冠とか耳飾り等々でございますけれども、など八点が国指定の重要文化財となっております。

 これらはもともとどこの国あるいはどの地域からのものなのか、これは大臣からお答えいただければと思います。

伊吹国務大臣 先生から御質問があるということで私も少し話を聞いてみましたが、これは、現在でいえば大韓民国の地域から出土したものであって、当時、小倉さんという方が購入をされ、そして国立博物館に寄附をされたものだと伺っております。

石井(郁)委員 朝鮮半島からのものだということを答弁いただきました。

 お話しのように、これは、一九八一年に、財団法人小倉コレクション保存会が国へ寄贈しました。それで国立博物館所有になったものです。終戦前の朝鮮半島において南鮮電気社長であった小倉武之助氏が、占領下の朝鮮で最も貪欲に朝鮮美術を収集され、密航船をチャーターして日本へ持ち帰った収集家として知られているところでございます。

 もう一点、これも大臣にお聞きしますけれども、東京芸術大学に保存され、重要文化財となっています金錯狩猟文銅筒、これはどこの国のものでしょうか。

伊吹国務大臣 これは、現在の韓半島の北朝鮮部分から出土をして、所有者から東京芸術大学に寄附されたというふうに伺っております。

石井(郁)委員 中国の漢時代のものだということになっておりますが、これも、昭和二年七月に、当時の東京美術学校が小場恒吉氏から購入した。昭和十六年に国所有の重要文化財に指定されております。

 そのほかにも、有名な、我が国には、十六世紀に豊臣秀吉の朝鮮出兵時に日本に持ち帰った文化財、また、日本が朝鮮併合や中国侵略によって朝鮮半島や中国大陸などから発掘や略奪によって日本に持ち帰ってそのまま所有している、所蔵している文化財というのは相当数に上るわけでございます。

 これらの実態について調査はされているんでしょうか。

高塩政府参考人 お答え申します。

 調査はしておりません。

石井(郁)委員 それは大変問題ではないかというふうに思います。

 少し申し上げますけれども、国立国会図書館の調査によりますと、東京根津美術館の庭園には、高麗青磁陰刻浄瓶などとともに李朝時代の石塔などなどがいろいろございますし、それから、宮内庁の書陵部の皇室図書館には朝鮮王室の儀軌があり、また、大阪市立美術館には、李朝時代の舎利塔、高麗時代の座仏像等々がございます。本当に一つ一つ挙げることはちょっとできませんけれども、各地にこうした文化財が存在しているわけですね。

 韓国の国際交流財団が、一九九三年から九六年にかけて、日本の国公私立の主な美術館や博物館、大学に所蔵されている朝鮮文化財の実態調査をされて、報告書が出ております。それによりますと、現在日本には、認知されているだけで二万九千点に上る韓国文化財が所蔵されている。国立博物館の小倉コレクションの先ほどの千百二十一点、大阪市立の東洋陶磁美術館の安宅コレクションの八百点、天理大図書館の夢遊桃園図など百点等々が挙げられております。これらは氷山の一角だと思うんですけれども、そのほか、個人コレクターによっての所蔵等々があると思いますが、韓国の文化財というのは三十万点に及ぶだろうと言われているんですね。

 私は、これらの実態、所蔵の状況についてやはり調査をすべきだと思いますが、この点、いかがですか。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 一般に、調査等を行う場合にはその目的を明確にする必要があるわけでございますけれども、御指摘のような相当膨大な業務量を伴うことが予想されます調査を、はっきりした目的もなく行うということは難しいものがあるというふうに考えてございます。

石井(郁)委員 今答弁でお認めになったように、膨大な量に及ぶ、これはお認めになったわけですよね。膨大な量だから難しい、そしてまた、目的を示さなきゃいけないというんだったら、目的をちゃんとお示しになったらどうですか。これは目的はあるんじゃないですか。目的をちゃんと示すことはできると思うんですが、いかがですか。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 私どもは文化財の保存管理を任務といたしておりますので、全国の文化財の状況について把握するという任は負っているわけでございますけれども、基本的には、私どもは、文化財保護法に基づきます指定文化財というものを中心に、その管理を行うということを任にいたしておりまして、全国津々浦々にございます文化財を把握するということはなかなか困難であるというふうに考えてございます。

石井(郁)委員 国と国との間に関係する問題もありますし、それだけに、きちんとこういう実態というのを私は把握すべきだ、調査すべきだと思います。全くそれはやる気がないという状況というのは、私は非常に遺憾に思います。

 日韓条約のときには、陶磁器など千四百二十七点、韓国側に引き渡されているんですよね。だけれども、当時、小倉コレクション、これは私的なものでしたから返還の対象になっておりません。それで、日韓条約締結後の一九八二年に国立博物館に寄贈されている。だから、今これは国の所有になっているわけですよ。

 国立博物館に保存、展示されているこの小倉コレクション、それから、宮内庁の書陵部、きょうおいでいただいているんですけれども、皇室図書館所蔵の朝鮮王室儀軌など、つまり、公的機関が国指定の重要文化財ということで保存し展示している。これは、このままで済むんでしょうか。今後どのような対応がされていくのかということを、私はぜひこの機会に文化庁に伺っておきたい。

 それから、宮内庁にも、この朝鮮王室の儀軌というものについて、若干の説明を含めて、どういう対応をされていくのか、お聞きしたいと思います。

高塩政府参考人 先生から御指摘のございました韓国との関係でございますけれども、昭和四十年の十二月に、日韓基本条約の後でございますけれども、私どもは、日本にある韓国由来の文化財を韓国に返還する義務はないという基本的な立場は維持しつつ、当時、日韓間の友好関係の増進を考慮いたしまして、韓国政府との間で、文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との協定を締結いたしまして、日本にある韓国由来の国有の文化財のうち三百五十九件、千三百二十一点を韓国側に贈与いたしたところでございます。

 これらの文化財につきましては、日本に所有する韓国領域に由来するもの、また、当時は国立博物館は国立でございますので国でございます、現在は独立行政法人ということで国から離れておりますけれども、当時、我が国の国立博物館に所有する、また韓国に同種のものが多くないもの等を、韓国側等の希望を勘案して、協議の上、その文化財を贈与したという経緯がございます。

折笠政府参考人 お答え申し上げます。

 宮内庁の書陵部には、いわゆる儀軌と名のつく書籍は約八十部、百六十冊ほどございますけれども、この大部分は、大正十一年に、朝鮮総督府から当時の宮内省に移管されたものであるということで、それ以外のものでは購入したものもございます。

 これにつきましては、先ほど文化庁が答弁されたのと同じでございますが、昭和四十年の日韓両国間の協定によりまして既に措置が講じられた問題であると承っているところでございますので、当該物品の管理を担当しております宮内庁としてはお答えする立場にございませんので、御了解いただきたいと思います。

石井(郁)委員 こういう機会ですから、儀軌というのがどういう史料的なというか歴史的なものなのかについても、ちょっと一言御説明いただけたらと思ったんですが、いかがですか。

折笠政府参考人 儀軌と申しますのは、朝鮮王室儀軌と一般に呼ばれていますが、そういう名前の本はございませんで、いろいろな行事ごとに何とか儀軌というふうに名前がついて、それぞれの行事の次第あるいは作法などを図と文章で記録した書籍でございまして、そういったものが百六十冊ほどあるということでございます。

石井(郁)委員 私、先ほどの文化庁の答弁を聞いてちょっと驚いたんですけれども。だから、一部は寄贈という形にするのが、その表現はあれですけれども、返還している部分はやはりあるわけですね、日韓条約に基づいて。あるいはその以後もあると。しかし、今、国立博物館は独立行政法人だから国とは直接関係ないんだみたいな話をされたのは、私は本当に驚きました。独立行政法人だって国のいわば所管の中にあるじゃないですか。国から予算も出しているところでもありますし。だから、国とは関係ないんだみたいな話をされるのは、私は到底容認できないわけです。

 現実に国立博物館が所蔵している。公的機関、宮内庁も公的機関として所蔵されている。しかも、それは朝鮮王朝にとっての非常に重要な文化財だという問題が今起きているわけですね。今後、これについて、やはり返還というようなことが持ち上がるんじゃないでしょうか。そのときにどういう対応をされるんですか。あるいは、そのときに、返還というような方向でやはり考えなくちゃいけないことではないのかというふうに思うんですが、この点は、現場サイドはなかなか物が言えないような宮内庁の話がございましたから、大臣、いかがですか。

伊吹国務大臣 まず、先生、政治家としての道義あるいは感情ということは一つあります。それは私も決して軽視をするわけではありません。そのことは、翻って、国と国との間の友好あるいは品格ということにはなってくると思います。しかし、現実の国際社会というものは、国際法と条約によって国と国との関係が守られている、秩序は維持されているということは、これはもう厳然たる事実です。

 御承知のように、昭和四十年に、日韓の国交正常化に際して、我々は条約を結んだわけですね。そして、お互いの負っている賠償あるいはその債務についてどう処理するかということを国と国との間で約束をした。そしてその際に、先ほど政府参考人が申しましたように、文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協定というものを結んで、それについては国会での批准をいただいているわけですね。その中で、我が国は、文化財の三百五十九件、千三百二十一点を韓国に贈与するということによって、この問題は国際法上の決着はついているわけです。

 韓国あるいは韓半島由来の文化財がどういう形で日本に来ているかということについては、正常な商取引によって来ているものもあれば、あるいは、日本として韓国に対し贖罪的な意識を持たねばならないような形で日本に来たものもあるかもわかりません、それは。ですから、そういうことは私たちも十分心の重荷として背負いながら日韓関係を動かしていかねばならないということは、これはもうだれも否定できないことです。

 ただ、法律上は、国際法上の決着はついているという問題ですから、それは、法律と、政治家としての道義を考えて、これからの日韓関係をどう動かしていくかということは、少しそれを先生、余り混同してやってしまうと、国と国との関係はかえって情緒的になるんじゃないでしょうか。

石井(郁)委員 このことについて立ち入って余り議論する時間もありませんけれども。

 実は、最近では、ことし三月二十七日に、民間団体である朝鮮王室の儀軌還収委員会が北朝鮮の朝鮮仏教徒連盟と会合して、両団体は、日本の宮内庁が所蔵する朝鮮王室儀軌の七十一種と、重要な経典の貝葉経というのがあるようですが、その返還運動を共同で実施するという報道を見たわけでございます。

 ですから、この問題はやはり決着がついていないわけですよ。決着がついていないというか、これからの問題になっていくだろうというようなことで、私は、政府として、あるいは文化庁としての一定の対応が要るのではないかというふうに質問しているところでございます。

 それで、ちょっと、こういう状況を国際的に見てみますと、オーストリア政府というのは、一九八八年に美術返還法を策定しているんですね。ナチスが略奪したユダヤ人家族のコレクションに関して国立美術館のコレクションを調査している。それによって該当する作品をもとの持ち主に返還している。実際に、クリムトの作品を初め多くの作品が返還されているというんですね。

 ある日本の識者が、日本人はこの問題に無知と言っていい状態だ、日韓の意識のギャップを埋めることが大切ではないか、こういう指摘もあるわけでございます。

 ですから、私は、戦争時、あるいは、それはどういう経路というか、いろいろあったかもしれませんけれども、略奪をした文化財が中に含まれている、いろいろな問題があるという問題についての対応というのはやはり検討すべきだというふうに思うんですが、大臣、もう一言いかがですか。

伊吹国務大臣 先ほど私が申し上げましたように、国と国との関係は、国際法体系のもとで条約、協定によって、お互いに主権を持っているもの同士の約束として締結されたものは、やはり基本的には尊重しなければならないと思います。

 今、先生がおっしゃったオーストリアの件については、これはオーストリア人たるユダヤ民族の人たちもその対象に含まれているんでしょう。ですから、イスラエル国とオーストリア国との間の協定ではないと思います。それは国内法上のことを先生はおっしゃっているわけですから。

 ただ、先生のお気持ちは、私たち政治家として道義的に常に持たねばならないということを教えていただいているという意味では、どういう態度で大韓民国あるいは北朝鮮の人たちと接するかということの一つの重要な要素であるということは政治家として認めるべきだと私は思いますが、国と国との関係は、やはり協定、条約によって国際法上きちっと処理されていかなければおかしなことになってくるんじゃないでしょうか。

石井(郁)委員 時間が参りましたけれども、それはもちろん条約というのはあるわけですけれども、しかし、歴史的な制約もまたあるわけでございますから、絶えず見直していくということも考えなければいけませんし、また、私は、冒頭文化庁が全く調査をする気がないというのは、本当にそれで文化庁たり得るのかということをやはり申し上げたいというふうに思いますので、こういう問題で真摯に取り組んでいただきたいということを強く申し上げて、質問を終わります。

桝屋委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 私は、この法案に先立って、この委員会できょうを含めて四回目になりますけれども、日本美術刀剣保存協会の問題を大臣並びに文化庁次長にお聞きをしていきたいと思います。

 この委員会で、「今月中」、つまりは昨年度中ですか、三月の末までに何らかの報告書を得るということで、これは、委員長のお計らいで、理事会でも報告の概要を聞かせていただきました。

 そこで、文化庁の次長の方から、刀剣協会から文化庁に向けて出された三十日付の報告書について話をしていただいたんですが、説明を聞いていくうちに、窓口規制について、これはそのいろいろな改善策を示しているんだけれども、本音は違うんじゃないか、二月二十六日の文書について言及がないのではないか、人事刷新、協会批判をしてきた人たちが現実に追い出されるような人事が行われたんじゃないかということをその理事会でも指摘しました。

 次長に伺いますけれども、この報告書の、文化庁が概要ペーパーの中で、これはわざと落としたのか、どういう意図だったのかわかりませんけれども、三ページのところに、いろいろな改善策をするということはその前に書いてあるんですよ、会員か否かのチェックをするとか、申請人の名前を審査員が判別できないようにするとか、重要刀剣の審査などは関係者はしないとか書いてあるんですけれども、まず一番最後のところで、「審査の窓口については「法の下の平等」の精神に則って、資格制限を撤廃する方向で公正化を期したいと思っております」「これは今後貴庁と十分協議いたしたい」というふうにあるので、結局、平成十三年の文化庁の指導そのものについて、本心からは納得していませんよ、そこは話し合わせてくださいということを言われたんじゃないですか。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 三月三十日に協会が提出した報告書におきましては、先生御指摘のなお書きの前に、明確に、今後も理事等は申請をしないという方針を踏襲するというふうに記述されまして、この資格制限は引き続き行われるというふうに考えております。

 御指摘のなお書きの部分につきましても、今後貴庁、文化庁でございますけれども、と十分協議するというふうに記述されておりますので、協会の従前の主張と今回の報告は異なるものというふうに考えております。

保坂(展)委員 これは伊吹大臣にも答弁をいただいておりますけれども、こうして会長とのやりとりが次長に託されたわけなんですけれども、その前に、たびたび挙げましたけれども、二月二十六日に出された「文化庁とのやりとりについて」という文書の中に、文化庁の指導なんというのはもう間違っているんだという表記がされていますよね。

 要するに、理事や親族の申請を拒否するのは弊害が多いんだ、平成十三年は、文化庁の監督権行使(命令)ではないのだ、そして、この間もそういった文化庁からの指導というものが明確にあったわけではないとか、またさらに、橋本元総理が会長をされた時期の人事凍結というのは、御自身の亡くなった後の会長選任のことではないとか、まあこれはよくここまでいろいろなことが書けたものだなというぐらいに書いてありまして、文化庁は監督官庁でなくなる日が近いから、公益法人の取り消しなんて行うわけないだろう、こう書いてあって、最後に、「文化庁とは平成十三年の改善案に拘泥することなく、幅広くお話し会いをいたしておりますので、」こう書いてあるんですね。

 これについて、理事会などで配られたものであれば、きちっと撤回をして、間違っているところについては訂正なり、やはり不適当なところについては謝罪をしてほしいということを私は申し上げたんですが、これについての言及はあったんですか。次長、お願いします。

高塩政府参考人 御指摘の二月二十六日の文書につきましては、協会の内部の会議、理事会等で配付されたものであります。私どもの文化庁に報告されたものではございませんけれども、私どもといたしましても、このような文書が公益法人において作成されたことはまことに適切ではないというふうに考えておる次第でございます。

 三月三十日に提出されました今般の報告書には、この二月二十六日の文書につきましての直接の言及はございませんけれども、その内容を否定いたしまして、協会の責任を認める等々のことが記載されております。また、報告書提出の際に、協会の事務局長からの謝罪を受けたところでございます。

保坂(展)委員 私は、この報告が出される前に、文化庁の担当課長に電話でお話をしまして、二十六日の内容はちゃんとけじめをつけなきゃいけないですよと申し上げたところ、これは、協会に対しては報告書の中にそのことを明示するように求めていくと、これは文化庁の課長から聞いていますよ。にもかかわらず、ないということですね。

 つまり、文化庁次長、高塩次長は、二十六日について、この文書は不適当だった、申しわけなかったということが報告になくてもいいと。口頭で済みませんでしたと言ったのかどうか知りませんが、そういうことなんですか。

高塩政府参考人 大臣の命を受けまして、私、三月の二十七日に協会の佐々会長にお会いしたときには、私どもとしては、基本的には二点、平成十三年の文化庁の指導を受けまして協会が提出した改善措置内容につきまして、協会の責任において行ったことを認めること、さらには、今後の改善方策としてその方針を踏襲すること、この二点についてのことを強く求めたところでございます。

 したがいまして、この二月二十六日の文書、さらには、昨年の十月及び十一月に、私どもあてに、文化庁に対する報告が出ておりますけれども、そういったものについての逐一の言及はないわけでございますけれども、私どもとしては、内容的に私どもの指導の線に沿った報告が出たというふうに考えております。

保坂(展)委員 前回のやりとりで、次長は大変まじめな方だとお見受けしますけれども、多少強く言われたりすると、本当にこれは大丈夫ですかと。しっかり指導する。本当にこれはぎりぎりの事態ですよ、あってはならないことがずっと起きている。しかも、いろいろ非常識なことが書かれていますよね、この二月二十六日の文書には。厳重に抗議をして、そしてこれは報告に載せるなら載せる、こういうふうにしっかりやれるのかどうか、私は大変疑問に思いました。

 ただし、伊吹大臣は、自分がきちっと指導をしているんだから、進退も含めてこれはあいまいにできない問題だというところまで答弁をしていただいているので、きちっとやっていただけるかと思います。

 同時に、私は懸念があったんですよ。要するに、三十日には理事会が開かれて、そこで人事が行われる。聞くところによると、人事が、冒頭の理事会で動議が出て、これまで文化庁の指導に従うべきだという主張をしてきた方が会員除名、理事解任、こういう動議が通ったそうじゃないですか。私は、改革と言って、逆立ちになっていく、こういう懸念を申し上げておったわけです。

 報告書が出たといっても、これは本当にA4判で三、四枚ですよ。これまでの迷走をしっかり客観的に総括をして、橋本龍太郎元総理が会長時代にどういうふうに改革をしようとしたのか、それがどうできなかったのかということをしっかり整理をして、これにかかわった人たちは、皆責任をとったり、あるいはきちっとした形で信頼を得るように再出発するということが人事の刷新じゃなかったんですか。大臣、どういうふうに思われていますか。

伊吹国務大臣 保坂先生、我が方がしっかりやらなければならないことは、法のもとの平等を考えて窓口審査を云々というようなことも書いておりますけれども、法のもとの平等ということは、何をしてもどういう立場であっても同じように扱うということじゃないんですよ。例えば、競馬関係に携わっている人は馬券は買えないんですよ。証券関係の仕事をしている者は株式は買っちゃいけないということはあるんですよ。ですから、刀剣の審査は、少なくとも自分あるいは身内の者が当該協会の審査を受けて、それで指定をされるとその値が上がるというような社会的不公正を許さない、これが我々がやらなければならないことです。

 このことが担保できれば、あと、協会内の組合の問題だとか人事の問題だとかということは、本来、公権力が介入すべきことではないんです。ですから、公益をしっかり守るということだけを私は必ずやれ、その過程で先生と私のやりとりが何か間違って伝えられたとかそういうことについては十分注意をして謝罪を求めておけと。

 一々大臣が、社会的に問題になった団体の会長に会うなんということをやっていちゃ切りがありませんから、これは担当の次長に、そのことをきちっと相手に伝えるように、そして社会的に不公正なことをすることは、私が所管している団体である限りは大臣は許さないということをきちっと伝えろということが今回の結果ですから、あとは、内部の運営のことについては、だれを首にしちゃいかぬとかだれを理事にしろとかということは、少なくとも監督官庁が余り容喙すべきことではないと私は思っております。

保坂(展)委員 大臣は原則を述べられたんだと思います。私としては、結局、この問題がこれだけ長く尾を引いて、最終的な報告書を求めて、私が求めたわけですけれども、その報告書を決める理事会で、むしろ文化庁の指導に従うべきだと言っていた人が解任をされていくというようなことがあっていいのか。個人的には、これから大丈夫なのかなと非常に思います。

 文化庁の仕事が一つあるわけですね。三年に一回の実地検査というのが、ことし該当年になっているそうですよ。そうすると、いろいろなことを言われた、疑惑があるんじゃないか。今大臣はおっしゃいましたよね、いわゆる関係者はやっちゃいけないんだ。しかし、関係者はやっていたわけです。これについて、しっかりした鑑定眼を持っている、識見を持っている人を連れて、しっかりと過去の審査がどうだったのかと検証することも含めて、今度、文化庁の仕事じゃないですか。それを速やかにやるべきだと思います。いかがですか。

高塩政府参考人 御指摘の協会に対する実地検査につきましては、この報告書の報告を受けまして、今月中の早い時期に準備を整えます。実地検査の通知及び調書の作成を依頼しまして、なるべく早く実施をしたいというふうに考えております。

 また、その際には、今回の報告書の内容も踏まえまして、刀剣審査の公正性を担保するため、刀剣の専門家、私どもの工芸担当の調査官も交えて厳正に行ってまいりたいというふうに考えております。

保坂(展)委員 もう一点、協会に対しての補助金や展覧会事業などへの協賛、後援などについて、今どう対応されているんでしょうか。

高塩政府参考人 協会は、私どもの選定保存技術の玉鋼製造の保存継承のために、協会の行う後継者事業に対して、これまで、その経費の一部を補助しております。また、協会が行っております現代刀作家作品コンクールにつきましては、文化庁として後援名義等を交付しているところでございます。

 文化庁といたしましては、今回の協会から出されました報告書の内容また今後の運営状況を踏まえて対応を決定することということで考えておりまして、十九年度の補助金の交付につきましては留保いたしますとともに、新作名刀展の協力につきましても判断を保留しているという状況でございます。

保坂(展)委員 私は、きょうはこの問題はここで終わりますけれども、大変心配しております。たたらということができなくなると、刀剣文化の根のところが成り立たなくなると専門家からお聞きをしておりますので、今何が内部で起きているのか、私も十分わかりませんけれども、しかし、だれもが信頼できるところになってほしいという思いは同じですから、その点、よく御指導をお願いしたいと思います。

 法案についてなんですけれども、先ほど笠委員からもありましたけれども、私は、武力紛争時の文化財ということで思い浮かべるのは、やはりメソポタミアの大変な襲撃事件。当時、ラムズフェルド国防長官は、これも自由の代償だと言ってしまったんですね。そして、自由な人々が自由に過ちを犯し自由に犯罪に走る、今回のバグダッド市民の略奪行為によって、これまで長年抑圧されていたイラクの人々が解放されたことが相殺されてしまうのかとまで言ってしまった。私は、これは非常に不穏当な発言だと思います。

 また、先ほどもお話ありましたけれども、京都、奈良、鎌倉などの文化財が多くある都市が米軍の爆撃から免れて、結果として保存されている、その点の配慮がしっかりあったんだなというふうに私たちも思ってきましたけれども、どうも京都も原爆投下予定の中に入っていた、こういう話もあって、そう簡単じゃない。

 やはり戦争というのは、今のメソポタミアの博物館の例もそうですけれども、文化財ということは、その国の人々、民族あるいは歴史、文化のアイデンティティーの根幹をなすものです。これを破壊してしまうということは自身を失ってしまう、あるいは戦意を喪失させてしまうということにもつながるんだということを思うわけですね。

 今までのことについて大臣の所感を、基本的な考え方をお聞きしたい。そしてまた、文化庁次長に対しては、こういった中で保護の取り組みが強化されることに意義があると思いますが、特別の保護や強化された保護の対象となるのは日本の場合はどういうものになっていくのかということについて。それぞれ、大臣から答弁をいただきたい。次長、後でお願いします。

伊吹国務大臣 先ほども民主党の笠委員にお答えしましたように、人類共通の資産ですから、お互いに自制心を持ってそれを守っていくということは当然のことで、その原則を今回の条約で記述しているという理解を私はしております。

 ですから、戦争というのは国と国との主権のぶつかり合いであるわけですから、お互いに国家の存亡をかけて戦っているわけで、文化財があっても攻撃をしかねない場合もあるでしょうし、また文化財を盾にとって軍事施設をつくりながら防衛をしていきたいというような動きもないわけではない。しかし、お互いにそこで、この条約を結ぶことによって、人間にはやはり良心があるんだということを示すということがこの条約のねらいだと思いますし、結果的に、戦争が終わった後、品格のない国家であるというそしりを世界の中で受ける国はどの国かということはその戦争の中の行為でわかってくるということだと私は思っております。

高塩政府参考人 お答え申し上げます。

 ハーグ条約に基づきます特別の保護制度につきましては、その制度の利用がしにくいということから第二議定書が締結されまして、強化された保護制度というのが創設されたという経緯がございます。

 この強化された保護制度につきましては、現在、武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会、ユネスコにおきまして検討されておりまして、その中で詳細な手続、基準が作成中ということを承知いたしております。

 したがいまして、私どもといたしましては、当該手続、基準を踏まえまして、我が国としてどのような文化財を対象として要請していくかについて検討を行ってまいりたいというふうに考えております。

保坂(展)委員 もう一問だけ。

 本法案の七条、八条で、正当な理由がないのに戦闘行為として文化財を損壊した者に懲役刑を定めているんですが、この場合、罰せられるのはその戦闘員個人なのか作戦の指揮官なのかということについて、文化庁次長にお答え願って、終わります。

高塩政府参考人 処罰の対象者につきましては、実際にどのような者が処罰されるかにつきましては、なかなか一般論としてお答えすることは難しいわけでございまして、それぞれの事案におきまして証拠に基づきまして個別に判断されることになるというふうに考えてございます。

保坂(展)委員 終わります。

桝屋委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

桝屋委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、武力紛争の際の文化財の保護に関する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

桝屋委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

桝屋委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

桝屋委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時十三分散会


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