衆議院

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第9号 平成26年4月2日(水曜日)

会議録本文へ
平成二十六年四月二日(水曜日)

    午前九時四十分開議

 出席委員

   委員長 小渕 優子君

   理事 中根 一幸君 理事 丹羽 秀樹君

   理事 萩生田光一君 理事 山本ともひろ君

   理事 義家 弘介君 理事 笠  浩史君

   理事 鈴木  望君 理事 稲津  久君

      青山 周平君    池田 佳隆君

      小此木八郎君    大見  正君

      神山 佐市君    菅野さちこ君

      木内  均君    工藤 彰三君

      熊田 裕通君    小島 敏文君

      小林 茂樹君    桜井  宏君

      笹川 博義君    新開 裕司君

      瀬戸 隆一君    冨岡  勉君

      中谷 真一君    中村 裕之君

      永岡 桂子君    野中  厚君

      馳   浩君    比嘉奈津美君

      宮内 秀樹君    宮川 典子君

      菊田真紀子君    中川 正春君

      細野 豪志君    吉田  泉君

      遠藤  敬君    椎木  保君

      三宅  博君    中野 洋昌君

      柏倉 祐司君    井出 庸生君

      宮本 岳志君    青木  愛君

      吉川  元君    山口  壯君

    …………………………………

   文部科学大臣       下村 博文君

   財務副大臣        古川 禎久君

   文部科学大臣政務官    冨岡  勉君

   政府参考人

   (公正取引委員会事務総局経済取引局取引部長)   原  敏弘君

   政府参考人

   (文化庁次長)      河村 潤子君

   政府参考人

   (経済産業省大臣官房審議官)           大橋 秀行君

   参考人

   (一般社団法人日本書籍出版協会理事長)

   (株式会社小学館代表取締役社長)         相賀 昌宏君

   参考人

   (日本大学大学院知的財産研究科教授)       土肥 一史君

   参考人

   (写真家)

   (一般社団法人日本写真著作権協会常務理事)    瀬尾 太一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     笹川 博義君

  工藤 彰三君     瀬戸 隆一君

  小林 茂樹君     中谷 真一君

  比嘉奈津美君     大見  正君

  吉田  泉君     中川 正春君

同日

 辞任         補欠選任

  大見  正君     小島 敏文君

  笹川 博義君     青山 周平君

  瀬戸 隆一君     中村 裕之君

  中谷 真一君     小林 茂樹君

  中川 正春君     吉田  泉君

同日

 辞任         補欠選任

  小島 敏文君     比嘉奈津美君

  中村 裕之君     工藤 彰三君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 著作権法の一部を改正する法律案(内閣提出第七三号)


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     ――――◇―――――

小渕委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、著作権法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として公正取引委員会事務総局経済取引局取引部長原敏弘君、文化庁次長河村潤子君及び経済産業省大臣官房審議官大橋秀行君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

小渕委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

小渕委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。馳浩君。

馳委員 おはようございます。

 著作権法改正案、質問させていただきます。

 法改正の趣旨は、健全な電子書籍市場の形成とインターネット上の海賊版対策がポイントです。出版関係者からは、単に配信を行っている事業者に出版権を設定され、そのような事業者に電子書籍の流通が独占されてしまうのではないかとの懸念が示されています。

 単に配信のみを行っている事業者に出版権を設定することができるのかどうか、大臣に見解を伺いたいと思います。

下村国務大臣 おはようございます。

 お答えいたします。

 お尋ねについては、法律の文言上は、従来の紙の出版の場合と同様に企画、編集を行うことが出版権設定の要件とはなっていないため、企画、編集を行わない事業者が出版権の設定を受けることが全くないとは言えません。もっとも、改正案では電子出版の権利を、紙媒体での出版の権利と同じ出版権の中に包含をしております。

 現行出版権制度は、出版を引き受け、企画、編集等を通じて出版物を作成し世に伝達するという出版者の役割の重要性に鑑み、特別に設けられたものであり、その趣旨は変わっておりません。

 このため、従前の紙媒体に係る出版の場合と同様に、電子出版を引き受け、企画、編集等を通じて電子書籍を作成し世に伝達するという役割を担う者が電子出版に係る出版権の設定を受けることが制度趣旨にかなうものと考えます。

 また、出版権設定のための契約交渉は原稿依頼時や入手時等に行われることが想定をされますが、企画、編集等の役割を担った出版者は、誰よりも先に著作権者と交渉する立場に立ち、出版権を設定することが可能であるわけであります。

 したがって、当事者間に信頼関係があれば、同一の出版者に紙媒体の出版と電子出版の両方の権利が設定されるようになると考えられることから、その懸念は当たらないというふうに考えております。

馳委員 出版権制度の趣旨から、電子出版を引き受け、電子書籍の企画、編集等に関与した者が出版権者として念頭に置かれているとのことですが、立法趣旨を明確にするため、条文上も、「公衆送信を行うことを引き受ける者」ではなく、出版や電子出版を引き受ける者に出版権を設定することができると規定すべきではありませんか。

河村政府参考人 現行の著作権法上の出版という用語は、著作物を文書または図画として複製し、その複製物を刊行物として発売、頒布することと解されております。ですから、その用語自体、先ほど大臣から言われましたように、企画、編集等が含まれるということには必ずしもなっておりません。

 このため、仮に新たな利用の態様を出版や電子出版と表現をいたしましても、そのことから直ちに、単に電子書籍の配信のみを行う事業者を除外するという、文言上のことでそのようなことにはならないというふうに理解をいたしております。

馳委員 結局、著作者と出版者との契約が重要であり、当事者間の信頼関係に基づく契約、これが重要であると思います。

 ただし、電子書籍が一定の広がりを持ってきている現状において、出版業界には電子出版に対応できる体制づくりがまだ十分ではありません。このことが今後求められてくると思っています。当事者間の契約で対応するとしても、今後トラブルが生じた場合のサポート体制をどのようにするのか、考えておられますか。

河村政府参考人 出版権制度が著作権者と出版者との設定契約を基礎とする制度でございますから、未然にトラブルを防ぐことは肝要であると存じます。そのためには、著作権者と出版者双方が協力して、新しい出版権制度を踏まえた契約慣行が形成されるように努力されることが大変重要であると考えます。

 文部科学省、文化庁といたしましては、当事者間での契約慣行の形成に資するために、改正法の趣旨や内容などについて、改正法の施行までの間に、著作権者や出版者に対して十分周知をしてまいりたいと考えております。

 このことについて、当事者のお一人でもあります、例えば公益社団法人日本文藝家協会からは、電子書籍の時代に対応する新たな出版契約に向けて、著作者と出版者で話し合って具体的な作業を進めることを提案する声明が出されております。また、出版界からも、著作権者に契約の範囲を明確に説明し、契約上明示していくことに加えて、著作者団体と話し合いながら、契約のガイドラインなどの作成を行うことを検討しているとも伺っております。

 しかしながら、トラブルが発生するということには十分気をつけなければいけないわけですけれども、このサポート体制として、文化審議会の出版関連小委員会における検討の中で、出版界が出版契約に関する著作者と出版者の間での問題を解決するための仲裁機関の設立を検討しているということも表明しておられます。

 文部科学省、文化庁といたしましては、実効性のある仲裁機関が設立されれば、契約に関する各それぞれの当事者の不安解消につながることが期待されると考えますので、このような取り組みなどについても継続的に十分注視してまいりたいですし、必要に応じて協力を行っていきたいと思います。

馳委員 次に、インターネット上の海賊版対策が実効的に行われるか確認します。

 第八十条第一項には「出版権者は、」「権利の全部又は一部を専有する。」とありますが、どういう意味ですか。一号や二号をさらに細分化した権利の設定も認める趣旨なのでしょうか。あくまでも、一号、二号の全部または一号、二号のどちらかという形にすべきではありませんか。

河村政府参考人 法律案第八十条第一項の「全部又は一部」とは、第一号の紙媒体による出版のための権利と第二号の電子出版のための権利について、第一号と第二号の全部または第一号と第二号のいずれか一方ということを基本的には想定をいたしております。

 しかし、現行の出版権と同様に、各号の権利をさらにもう少し細分化する余地というものも認めるものでございます。

 その権利の細分化の例といたしましては、例えば第八十条第一項第一号の権利を、紙媒体による出版権とCD―ROM等による出版権というように分けるということがあり得ます。

 しかしながら、どこまで権利を細分化できるかということについては、際限なくどんどん細分化できるというものではないと考えております。利用の仕方、利用態様としての区別が明確でなく、また、権利をどんどん細分化することによって実務等に混乱が生ずるおそれがある場合まで出版権の内容を細分化して設定するということが認められるのは、適当ではないと考えております。

 具体的な個々の事例については、現行の出版権をどこまで細分化できるかということが具体的に争われるとすれば、裁判所においての判断ということになろうかと存じます。

馳委員 例えば一号についても、単行本出版権、雑誌出版権、文庫出版権というふうに際限なく細分化が認められるような状況になれば、これではなかなか海賊版対策といったものは、イタチごっこというか、どんどん裁判になってしまって、それを後追いでどう対処するかというふうな状況になってしまって、これでは、出版者側は安心して出版権の設定というものに対応していくことができなくなる。海賊版対策をしっかり行っていくという前提が崩れてしまうんです。

 ここの部分は、際限なく細分化されないような注視、またその指導といったものが必要だと思いますが、いかがですか。

河村政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほど申し上げましたように、利用態様としての区分が明確でない、それから、細分化することによって実務上も混乱が生ずるおそれがある場合というような場合については、細分化はすべきではないというふうに考えております。

 端的に、例えば、単行本とそれから全集で編集する場合というものは極めて明確に分けられると思いますけれども、それ以外の、先ほどの文庫本とそうじゃない場合というのは、なかなかその区分がつきにくいというケースであろうかなというふうには考えております。

 このあたりについては、また法施行までの間に、さまざまな検討や周知をできる限りで努めてまいりたいと存じます。

馳委員 出版権の一部だけを有している出版権者は、十分に海賊版に対応することはできません。基本的には、契約によって紙媒体の出版と電子出版の両方の権利を設定すればよいということにはなりますが、紙の書籍のみでの出版を希望し、電子書籍については様子を見たいという著作権者もいます。電子出版の義務を伴うような出版権を設定してしまうと、出版者が電子出版をせざるを得なくなるからであります。

 紙の書籍のみを出版したい著作権者、出版者にとって、海賊版対策のためには、みなし侵害規定が必要なのではありませんか。

下村国務大臣 御指摘のみなし侵害規定の創設については、文化審議会の中の出版関連小委員会において検討が行われました。

 既に著作権侵害である利用態様をさらに出版権侵害とみなすことは法制的なハードルが高いとの意見や、電子書籍に対応した出版権を設定しない者に差しとめ請求を認めるのは法律としてバランスを欠くといった意見などから、立法化について合意形成に至らなかったという経緯がございます。

 一方、インターネット上の海賊版については、電子出版についての出版権の侵害であり、電子出版についての出版権を設定すれば、出版者みずから海賊版に対応することが可能ということになるわけでございます。

 また、著作権者が紙媒体の出版を希望し、当面電子出版を見合わせた場合においても、当事者間の契約で義務を柔軟に設定をし、電子出版についての出版権を設定するということが追加でできるということでございまして、みなし侵害規定を創設しなくても、出版者は有効な海賊版対策を行うことが事実上可能ということになるわけであります。

 なお、仮にみなし侵害規定を創設するとしても、紙のみの出版権者が第三者による違法な電子配信を差しとめるに当たっては、本来の権利者である著作権者の意向を確認することが必要であり、そのとき、著作権者によっては必ずしも同じ判断をしないということもあり得るわけでございます。

 このため、あらかじめ著作権者との契約により電子出版についての出版権を設定しておくというふうにした方が、みなし侵害規定による対応よりも、結果的に、より迅速に海賊版に対応することが可能であるというふうに考えます。

馳委員 別の観点から海賊版対策の有効性について伺います。

 インターネット送信のための出版権の内容には、公衆送信を行う権利は含まれているものの、複製権は含まれていません。文化庁の審議会の報告書でも、複製権と公衆送信権の設定が適当であるとしていました。

 複製権が含まれていない理由と、複製権を含めないと海外の海賊版対策が十分にできないのではないかという心配についてお答えください。

下村国務大臣 複製権が含まれていない理由についてでありますが、紙媒体の出版に当たっては、著作物を複製し頒布、譲渡するという二つの行為が行われるわけでありますが、現行著作権法は、出版者に頒布目的の複製権のみを専有させております。これは、出版者に頒布目的の複製権を専有させれば、独占的な出版と有効な海賊版対策を十分に行うことができるからであります。

 電子出版においても、著作物を公衆送信目的で複製し公衆送信を行うという二つの行為が行われるわけでありますが、現行著作権法と同様の観点から、独占的な電子出版と有効な海賊版対策を十分に行うことができるよう、公衆送信権のみを専有させることとしたものでございます。

 また、海外の海賊版対策についてでありますが、仮に公衆送信目的の複製権も出版権に含めたとしても、公衆送信を行う前段階の複製行為は、通常、公然と行われず、発見することが極めて困難であるため、海賊版対策においては公衆送信権が重要となると考えられます。

 海外でのみ公衆送信されている海賊版への対応については、基本的にその侵害行為の国における法律に基づくことが原則であるため、今回、国内法で出版権を整備しても、出版権者が海外の海賊版を差しとめられるかどうかは、その国の法律次第ということになるわけであります。

 一方、著作権者は、条約関係にある国であれば、その国の法律に基づき著作権の保護を受けるため、出版権者は著作権者と協力して、または著作権者から著作権譲渡を受けて、海賊版に対応することができるということになります。

 なお、とりわけアジア諸国においては、我が国の著作物に対する侵害事例が多く発生している状況があることから、二国間協議の活用等により、今後とも、著作権等の保護が十分に図られるように努めてまいりたいと思います。

馳委員 法案審査はちょっとここでおいて、大臣、やはりきのうの報道、理研の記者会見を私も拝見して、大臣もちょっと表明しておられますけれども、今は、理研の問題というふうに捉える段階に移ったと思いますね。小保方さんや、STAP細胞があるかないかという問題を超えて、やはり、理研にここまで税金を投入してきて、また、特定国立研究開発法人としての存在、役割をこれから認めていこうとしていたやさきに、あの管理体制では我々はなかなか承服することができないなという印象を持ちます。

 と同時に、どんな研究開発、論文においても、恐らく、必ず検証というものは必要でしょう。そういった理研の体制を含めて今後どのように指導していかれるのか、このことをお聞きして、私のきょうの質問を終わります。

下村国務大臣 昨日、理研の野依理事長が私のところに参りまして、STAP細胞に係る論文について、調査により、二件の不正やその他の事実が認定されたとの報告を伺いました。

 理研において今後さらに、外部有識者による委員会を設置して、再発防止策等を検討し早急に取りまとめるということになっておりまして、理研として、適切なマネジメント体制によりこの問題にしっかり取り組んでいただきたいと思います。

 私としては、改めて、これが個別具体的な例外的なことであったのか、それとも理研そのものの体質から問題が出ているのかどうか、さらには、今国会で理研も新たな研究開発法人の対象になっておりますが、それにふさわしいのかどうかということについて、これは内部ではなくて外部の有識者会議の中で検討して、これは国民に、理研そのものがどんなガバナンスであったのかどうか、それから、今後このような問題が起きるということはもうあり得ない体制になっているのかどうかということについて、詳細に、内部、外部含めて、内部においても、野依理事長が本部長になってしっかりとしたガバナンス等対応するということでありますが、それを明らかにしていただかないとなかなか理研に対する国民の理解は得られないのではないかということをお願いをしたところであります。

馳委員 終わります。

小渕委員長 次に、中野洋昌君。

中野委員 公明党の中野洋昌でございます。

 公明党を代表いたしまして、今回の著作権法の一部を改正する法律案につきまして質問をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 今回の著作権法の改正、もともとの背景としてどういうものがあるかと申しますと、やはり高速ブロードバンド網が整備されて以降、音楽や動画、画像などのデジタルコンテンツというものをネット上でやりとりするということが大変に容易な時代になった、こういう時代状況の変化があるというふうに認識をしております。

 その中で、こうしたコンテンツを違法にインターネット上にアップロードする、こういう行為も大変に多発をしている。数字を見てみますと、平成二十四年の数字では、例えばこうした行為によって出版物の被害というのは幾らぐらいあるかといいますと、約二百七十億円ぐらいであるというふうに承知をしております。その二百七十億の中でも、特に漫画、これの被害が約二百三十億ぐらいある、こういうことを聞いております。

 漫画業界全体の売り上げ、なかなか私も正確な数値は承知しておりませんけれども、コミックの売り上げは約四千億ぐらいであると聞いておりますので、やはり二百三十億が、海賊版というか違法なこうしたインターネット上のやりとりで被害が出ている、こういう数字は大変に大きなものではないか、このように思います。

 ですので、今回私は特にこの漫画、これに着目をして質問をさせていただきたい、このように思います。

 そもそも、日本の漫画あるいはアニメーション、こうした文化というのは、国際的にも高い評価を受けているものだというふうに思います。時代でいいますと、やはり一九八〇年代ぐらいから、日本の漫画やアニメというのは大変にすごいな、こういうことで国際的にどんどん評価が高まっておりまして、ひいては、やはりこれを通じて日本に対する理解あるいは関心というのも深まっているんじゃないかな。漫画やアニメを見たけれども、日本というのはどういう国なんだろう、日本が好きだな、知ってみたいな、こういう大変にいい影響があるのではないかと思います。

 例えば、京都精華大学という大学がございまして、ここはマンガ学部をたしか日本で初めてつくったところだと思うんですけれども、京都市と共同で、京都国際マンガミュージアムという美術館というかミュージアムを建設いたしました。このミュージアム、何と二〇一〇年にはフランスのルーブル美術館と共同で展覧会を開催した。こういう大変に高い評価も受けております。

 この展覧会には、フランス、ベルギー、こうした国の作家さんたちが参加されたわけでありますけれども、もちろん日本からも漫画家の方が参加をされまして、「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画がありますけれども、これで有名な荒木飛呂彦先生が出展をされました。こういうこともございました。

 このルーブル美術館のエピソード、実は私、聞いたのは麻生財務大臣からお伺いをしたわけなんですけれども、このように、漫画は日本の大変に誇るべき文化であるなというふうに思います。

 他方、多発する海賊版の被害に対して、著作権者、今までは個々の漫画家さんが著作権者であるわけでございますから、これを対応する。しかし、これはやはり限界があるわけでございます。そうした意味で、出版権を電子媒体にも設定できるようにして出版者がしっかり対応する、こういう流れというのは、私は全面的に異論はございませんし、しっかりやっていく必要がある、このように思いますけれども、しかし、先ほど馳先生からもさまざま御指摘ございましたけれども、この電子出版、電子媒体に対する出版権ということで幾つか確認をさせていただきたい事項がございますので、質問をさせていただきます。

 一点目でございますけれども、これは当事者の皆さんでもひょっとすると混乱があるかもしれませんし、この議論を聞いている一般の方も大変わかりにくい専門的な部分ではあると思いますけれども、電子出版自体は今現在も行われている。今でも電子出版で配信をされている会社というのはある。今でもあるものについて、電子媒体についてさらに出版権というものを今回新たに設定をすることができる。この今までの電子配信というか、こういうものとの関係がどうなっていくのか、整合性の問題はどうなるのかな、こういう問題意識を持っております。

 今回の、電子媒体に対して出版権が設定をされるということで、一番今までと変わる部分は何なのか。では、今まで電子出版をしてきたこの権利との関係というのは一体どうなるのか。この法律の施行をするに当たって現場が混乱をしないようにしっかりやっていただきたい、このように思うんですけれども、政府の御見解を伺いたいというふうに思います。

河村政府参考人 お答え申し上げます。

 今でも、御指摘のように、公衆送信によるいわゆる電子出版というものが行われているわけでございますが、これはどのような契約で行われるかと申しますと、主に、出版者が著作権者から電子出版についての許諾を得る、ライセンスを得るということで行われております。この場合は、出版者は、みずからインターネット上の海賊版に対して差しとめ請求を行うことはできません。許諾を得た立場ということでございまして、みずからが主体的に差しとめ請求という権利行使ができません。

 改正案により、電子出版についての出版権が設定をされることで、出版者が権利者として独占的、排他的に出版をすることができるということに加えまして、出版者がみずからインターネット上の海賊版に差しとめ請求できることとなります。著作者ではなくて、出版者もできるようになるということでございます。この点が改正案によって最も変わる点であろうかと存じます。

 また、現在、著作権者から許諾を得て電子出版を行っている出版者でありましても、法改正後に、電子出版についての今度できる出版権を設定しようとする場合には、改めて当事者間で出版権設定の契約を締結することとなります。

 したがいまして、改正案の施行に当たり直ちにどちらの契約かというような混乱は起きないものと考えておりますけれども、施行に向けまして、改正案の趣旨や内容についての周知に努めてまいりたいと存じます。

中野委員 しっかりと対応していっていただきたいというふうに思います。

 もう一点でございますけれども、これはひょっとするとなかなか結論が出ない部分ではあるかもしれませんけれども、では、海賊版として流通している漫画というのは電子出版を行って購入されたものがそのまま出回っているかといいますと、必ずしもそうでない現状がある。

 これは何かといいますと、紙でまず雑誌とかを買ってきて、それをスキャンしてこれを流通させる。要は、いわゆる電子出版として流通しているものをそのまま流通させているわけではないという問題があるというふうに思います。さらに申し上げますと、吹き出しで日本語でせりふが書いてあるわけでございますけれども、例えば外国の方とかですと、紙で買ったものをスキャンして、これを勝手に翻訳して自分で手を加えて、加工したものをさらに流通させる、こういうこともよく起きているというふうに承知をしております。

 これは著作権の立場から見ると、確かに、明らかに侵害をしている、こういうふうに思うんですけれども、では、出版権を侵害しているということで果たしてしっかり対応できるのか、こういう論点があるというふうに承知をしておりますけれども、しかし、現実的にはこういうものが多いわけでありますので、しっかり対応していく必要があるというふうに思います。

 政府としては、どのような実効的な対策をこうしたものに対して講じていくのか、これをお伺いしたいというふうに思います。

河村政府参考人 紙媒体で出版されました漫画をスキャンいたしましてインターネット上に送信されているという形での海賊版については、今回設定できるようになります電子書籍に対応した出版権の侵害に該当いたします。したがいまして、電子書籍に対応した出版権を設定すれば、出版者みずからが海賊版に対応することが可能となります。

 また、せりふ部分だけ翻訳した海賊版というようなものでございますけれども、それがインターネット上に送信されている場合であっても、漫画の絵の部分というのはそのままであるとすれば、電子出版についての出版権の侵害となり得ると考えられますので、電子出版についての出版権を設定すれば、出版者がみずから海賊版に対応することが可能になると考えております。

中野委員 先ほど私が指摘した論点は、法律上本当にどうなのかというところで不安の声があるということも聞いておりましたので、しっかり出版権で対応するんだ、こういう御答弁でございます。しっかり対応していっていただきたい、このように要望を申し上げたいというふうに思います。

 この漫画あるいはアニメといったコンテンツ産業は諸外国で大変高い評価があるというお話をいたしましたけれども、私、アメリカに留学をしていたときに、大変に実感をいたしました。同世代の外国の方にお話をすると、日本の漫画、アニメについて大変に詳しいわけでございます。

 例えば、当時、アメリカでありましたけれども、「ドラゴンボール」という漫画がありますけれども、「ドラゴンボール」は普通にアメリカで放映もされておりましたし、特にアジア出身の留学生の方と日本の文化の話をすると、間違いなく皆さん日本の漫画が好きだ、こういうことがあります。具体的にどんどん名前が出てきます。私は「ワンピース」が好きだ、あるいは「ナルト」という漫画が好きだ、子供のころ「ドラえもん」をよく見ていたとか、あるいは「スラムダンク」が一番好きなんだとか、日本の同世代の人たちと見ている漫画、アニメというのはほとんど一緒だな、こういう感覚すらあるわけでございます。それを入り口にして日本に興味を持つ方が大変に多いな、こういう実感をしております。

 他方、こうした漫画、なぜ皆さん知っているかというと、やはりネット上で普通に違法にアップロードされているものを皆さん見て、日本のアニメ、おもしろいなというふうに思っている、こういうことを聞きました。実際、私の留学時代に、友人のところに行っても、日本のアニメ、インターネットで見られるよということで、普通に皆さん見ておられるわけでございます。これは、現地語に吹きかえを勝手にされていたり、字幕をつけるような方がいらっしゃって字幕もついたりして、それでどんどんどんどん流通をしている。

 こうした現状は、実は今でもほとんど変わっていないなというふうに思います。昨年中国にも行きましたけれども、中国の方から、日本のドラマは最近おもしろいのがありますね、見ていますよという話を聞きました。何を見ているんですかと聞いたら、「半沢直樹」が大変おもしろい、こういうことでございました。まだ日本でもちょうどやっている時期でございますので、どうやって見るんですかと言うと、インターネットで見られます、こういう話でありまして、一週間おくれぐらいでどんどん流通をしてしまうわけでございます。

 こうした海賊版による被害というのが海外でかなりあるんじゃないか、私はこう思うんですけれども、政府としては、どのくらいの被害なのかというのは把握はされておりますでしょうか、お尋ねをいたします。

河村政府参考人 お話しいただきましたように、海外において漫画、アニメなどの我が国の著作物に関する関心が非常に高まっていく一方で、これらの海賊版も流通し、インターネット上での違法のアップロードなどがふえてきているというふうに認識をいたしております。

 昨年六月公表の経済産業省の政府模倣品・海賊版対策総合窓口、二〇一三年版年次報告というものがございますが、これによると、我が国の企業、団体の二三%余りが海外で、ちょっとこれは広くなるんですが、特許、商標、意匠、著作権等を含んだ模倣品、海賊版の侵害に遭っているということでございます。国や地域別で見ますと、中国、台湾、韓国など、アジアでの被害が多く見られるところです。

 また、文化庁がシンクタンクに委託して行った、中国を対象とする、海外における著作権侵害等に関する実態調査、これも昨年公表いたしましたが、漫画、アニメは、ほかのコンテンツと比較してインターネット上での多くの侵害を受けているという結果を得ているところでございます。

中野委員 実際、先ほどのお話では具体的な額というのは出てこなかったわけでございますけれども、かなり大きな額になるという調査も私も見たことがございます。

 しかし、他方、海外の海賊版については、日本の国内法は及ばないわけでございますので、やはりそれぞれの国の著作権法制の中で対応していくしかない、こういう状況であるというふうに承知をしておりますけれども、政府として、こうした海外での海賊版の被害に対する対策はどのように対応していくのか、これをお伺いしたいというふうに思います。

河村政府参考人 海外における海賊版の生産、流通、あるいは違法アップロードを防ぐためには、我が国の権利者がみずから侵害発生地における民事や刑事のシステムを活用して対抗措置をとっていただくことが重要でありますので、そのための環境整備が不可欠と認識しております。

 文部科学省としては、海賊版対策として、知的財産推進計画、これは政府全体のものでございますが、これらに基づきまして、一つには、二国間協議の場を通じた侵害発生国や地域への取り締まり強化の要請、二つに、侵害発生国や地域における、法制面で実際に権利執行がされないといけませんのでその強化を支援することや、研修事業などの実施、それから企業などが権利行使できますような資料の作成、さらには侵害発生国や地域における著作権というものに対する普及啓発事業の実施、また、官民合同ミッションの派遣などの幅広い施策を講じているところでございます。

 また、漫画、アニメなどの権利者団体においても海賊版対策に取り組んでおられるところと承知をいたしておりまして、文化庁としても、さらに関係省庁や漫画、アニメの権利者団体の皆さんとも連携をしながら、海賊版対策にしっかりと取り組んでまいりたいと思います。

中野委員 海外での海賊版というのは、国内の著作者あるいは出版者の団体の皆様だけで対応するというのが大変に難しいと思います。こうした団体の皆様としっかり連携をして、政府としてしっかり毅然とした対応をしていく、こういうことが必要であるというふうに要請をいたします。

 海賊版が海外に出回っているというのは好ましい状況かどうかというと、難しいところではあるんですけれども、しかし、他方で、日本の漫画、アニメ等のファンの裾野というのが大きく広がっている、これは現状としてはあるというふうに思います。

 今後、大変に裾野が広がっている日本のこうしたコンテンツを好きな人たちに対して、これをどうビジネスにしていけるのか。これが、漫画、アニメなどのコンテンツの輸出、あるいはこうしたコンテンツ産業の振興というもので非常に大事な視点である。日本でもクール・ジャパンということでこれをやろうとしているというふうに承知をしておりますけれども、しかし、他方で海賊版の被害というのも大変に多い、こういう現状でございます。

 こういう中で、クール・ジャパン、日本のコンテンツ産業の輸出というものをどのように進めていかれるのか、経済産業省にお伺いをしたいというふうに思います。

大橋政府参考人 お答え申し上げます。

 経済産業省では、海外の需要を取り込む段階を、日本の魅力を発信することにより海外において日本のブームを創出する段階、それから、現地で関連商品、サービス等を販売する段階、そして、観光政策などと連携をしつつ、日本に関心を持っていただいた外国客を実際に日本に呼び込むことで消費を促す段階、この三つの段階に分けて、それぞれの段階にふさわしい支援をクール・ジャパン戦略として実施しております。

 漫画、アニメなどのコンテンツの輸出は、この三つの段階のうち、最初の日本ブームの創出と二つ目の現地での販売に当たるもので、海賊版対策も、この海外の需要を取り込むクール・ジャパン戦略の一環として実施をしております。

 具体的には、二十五年度の補正予算に、コンテンツ海賊版対策強化事業を計上し、業界横断的に海賊版情報を共有した上で、侵害サイトに対して海賊版の削除要請を実施することで、侵害サイトに掲載されている海賊版を減らし、海賊版による逸失利益を回復することに取り組んでおります。

 また、このように海賊版を取り締まる一方で、海外の海賊版の視聴者に対して、正規サイトを利用するよう普及啓発を行うなどして正規のコンテンツ市場が育つよう取り組んでおります。

 さらに、日本語のコンテンツに字幕や吹きかえをつけて現地ローカライズを進めたり、事業プロモーションを行ったりする費用を補助したりして、正規のコンテンツの輸出促進に努めてもおります。

 世界的に人気の高い日本の漫画やアニメなどのコンテンツには大きなポテンシャルがあるというように考えております。

 経済産業省といたしましては、ただいま申し上げましたような取り組みを重ねていくことで、本来の力が発揮されて、海外の需要を取り込んで適正な利益が日本の権利者に還元されるよう、今後も引き続き取り組んでまいる所存でございます。

 以上です。

中野委員 しっかりと取り組んでいっていただきたいと思います。

 最後に、ちょっと時間も参りましたけれども、済みません、簡潔で結構でございますので、大臣に、今回、電子媒体に出版権の設定を与えようとなるとこうした海賊版対策の対応も可能になるということでございますので、漫画などデジタルコンテンツの著作権侵害の対策、最後、大臣の御決意をお伺いして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。大臣、よろしくお願いいたします。

下村国務大臣 違法配信などから我が国の著作物等の権利の保護を図るためには、海賊版対策の強化に向けて法制度を整備するとともに、正規品が流通する環境整備を進めることが重要であるというふうに考えております。

 国内においては、この法律案におきまして、出版権者みずからインターネット上に出回っている書籍、漫画等の海賊版を差しとめることができ、効果的な海賊版対策が行われることが期待されるとともに、新たな出版権制度による契約慣行が形成され、電子書籍の正規流通が進むことが期待されるというふうに考えます。

 また、海外における著作権侵害への対応については、二国間協議等の場を通じた侵害発生国・地域への取り組み、取り締まりの強化の要請、侵害発生国・地域対象の研修事業等の実施、また官民合同ミッションへの派遣など、官民の連携の強化等施策を積極的に講じているところでありますが、今後とも、著作権侵害へのさまざまな対策を通じ、著作権の適切な保護が十分に図られるよう努めてまいりたいと思います。

中野委員 以上で終わります。ありがとうございました。

小渕委員長 次に、中川正春君。

中川(正)委員 おはようございます。民主党の中川正春です。

 本論に入っていく前にちょっと、事前の通告はないんですが、さっきの馳議員の理化学研究所の関連で一つだけ確認をしておきたいと思うんです。

 改めて第三者機関を入れてガバナンスあるいはコンプライアンスについて再点検をしていくということ、これは大切なことだと私も思います。その上で、ちょっと新聞の中でもコメントを大臣はされていましたけれども、次の新しい理化学研究所のステージといいますか、世界に対して通用すると同時に、世界のそれこそ知能を集めて研究活動を弾力的にやっていく法人改革をしていきたいということ、これがもう一つあるんだと思うんです。

 私たちの政権時代から、そこは一つの展望として進めていきたいということでやってきたんですが、そのことと今回の事件の関係、これはもうひとつ整理をして、そして、大臣自身のこれからの対応というのを説明されるべきだというふうに思います。そこのところを一つ確認したいと思います。

下村国務大臣 御指摘のように、今我が国は三十七の研究開発法人がある中で、まさに科学技術イノベーションが世界で最も適した国にしていく、そしてその中で、世界の中でトップレベルの研究が行われる。人材の配置の問題や、あるいは、研究がより柔軟的に、しかしクリエーティブに行われるという意味で、新たな研究開発法人の設置をする必要があるだろうということで、法律改正を今国会にぜひ出したいと思っております。

 その中で、先日、総合科学技術会議の中で、産総研と理研がそれに該当するのではないかということについては御意見をいただきましたが、最終的にはこれは閣議で決めることになっております。

 しかし、今のまま理研をそれに該当させるということについては、やはり、今、中川委員が御指摘のように、前提条件があるだろうということの中で、一つは、今後さらに理研において外部有識者による委員会を設置して再発防止策等を検討し、早急に取りまとめを行う。理研として、適切なマネジメント体制によりこの問題について取り組むという姿勢が必要であるということと、それから、そもそも、外部有識者による委員会において、理研そのものがそういうマネジメント能力がきちっと発揮され得る体制になっているのかどうかというような、第三者から見ても間違いなく新たな研究開発法人としての適性に該当しているのかどうかというような、そういう客観的な取りまとめがなければ、これは政府として判断はできないというふうに考えております。

 当初は四月の中旬ぐらいに閣議決定する予定でありましたが、これは閣議決定そのものを先に延ばして、しかし、できたら今国会でこの法案は成立をさせたいと思っておりますが、今後、理研からどのような報告書が出てくるか、それから、第三者、外部有識者会議からどのような報告が出てくるか、その結果を踏まえて、最終的に閣議決定をお願いするかどうかも判断してまいりたいと考えております。

中川(正)委員 いずれにしても、信頼ということが基本になるんだと思います。それを回復すべく、国として理研に対して何ができるか、そんな観点から、ぜひ理研の改革も含めて対応していただきたいというふうに思います。

 著作権でありますが、私の思いの中で、改めて、ここまで法案としてまとめてきていただいたということ、感謝を申し上げたいというふうに思います。

 こうした問題というのは、クリエーター、著作者、出版者、あるいはまた今回の場合はプラットフォーマーも入るんだと思うんですが、特に読者といいますかユーザーを含めて、それぞれが、こうした著作権を整理していくことによって全てにウイン・ウインの関係といいますか、それぞれが制度としてメリットを出していくような、そんな方向でステークホルダーの利害関係を調整していくというプロセス、これが一番大事なところだったんだろうと思います。

 私たちが政権をとったときにこれをスタートさせて、なかなか途中思うようにそこがいかずに時間がかかってきておりましたけれども、そんな中で、関係者の皆さん、精いっぱいの議論をしていただきながらここまで来たんだということ、まず第一歩として評価をしたいというふうに思うんです。

 その上で、さはさりながら、法文化したものが十分にその趣旨と、それから、実際にこれを使ってマネジメントしていく過程でどうなっていくんだろうという疑義というものがまだあるということもこれは事実であります。そこのところをできるだけこの国会、委員会の議論の中ではっきりさせていくということ、それと同時に、本当に私たちが目指していたところがそれなりの形で入れられているのかどうかということ、こんなことをひとつ確認していきたいというふうに思います。

 そういった意味で、ちょっと逐条的に一つ一つ問いかけをしたいというふうに思いますので、その辺の課題をクリアに答弁いただきたいというふうに思います。

 まず七十九条関係でありますが、これは出版権の設定についてということです。

 まず出版の意義についてでありますが、現行著作権法においては、出版の意義について、著作物を文書または図画として複製をして、当該複製物を刊行物として頒布するということと解されていますけれども、少なくとも現在においては、紙媒体であろうが、あるいは今度新しく出てきた電子媒体であろうが、それを問わず出版であるというのが出版業界での一般的な認識であるというふうに私は承知をしております。

 紙媒体書籍か電子書籍かどうかというのは著作物が世に出る時点での態様の相違に過ぎず、出版物の刊行に向けられた企画、編集の過程、すなわち著作者と出版者との一連の共同作業こそが出版と呼ぶべきものであるのではないか。

 そうすると、紙媒体書籍か電子書籍かどうかというその切り口のみをもって、あるいは、紙なのか電子なのかというその切り口のみをもって出版行為かそうでないかという区別をするのは、これは間違っているのではないか。実務とかけ離れた用語の整理であるということになるのではないかということ。

 ここを、近時における出版形態の多様化に照らして出版の概念を拡張して、インターネットを利用した公衆送信を含むものとして整理をすべきではないかというふうに思うんですが、ここについての答えをいただきたいと思います。

河村政府参考人 改正案第七十九条におきましては、著作物をインターネット送信することについて、出版ではなくて公衆送信という用語を用いております。

 これは、通例、出版とは、著作物を文書または図画として複製し、その複製物を刊行物として発売、頒布することを意味するものとされていること、これは現行法の解釈もそのようになっておりますし、また、さまざまな、社会的に現在使われております用語は、一般的にそのような意味として使われているものと承知をいたしております。

 このように、刊行物などの形あるもの、有体物を発売、頒布することを念頭に通例用いられているのが出版という用語であるところから、インターネット送信については、ちょっとその態様が違う、有体物を頒布するものではないということで、書き分けているものでございます。

中川(正)委員 出版の意味について、制定当時においては紙媒体書籍が想定されていたということ、これはそのとおりであると思われますけれども、現行法の七十九条一項は、「文書又は図画として出版することを引き受ける者」と規定をしておって、文書または図画として以外の出版も、これで配慮はされていないのではないか。

 法令用語としての出版の中に電子書籍の出版を位置づけるというのが難しい理由というのは何なのか、明らかにしていただきたいと思います。

河村政府参考人 先ほど申し上げたところでございますが、通例、出版という用語は、著作物を文書または図画として複製し、その複製物を刊行物として発売、頒布することを意味するものと考えておりまして、刊行物などの有体物を発売、頒布することを念頭に用いられるものでありますため、インターネット送信は有体物を頒布するということではないものですから、書き分けているということでございます。

中川(正)委員 ちょっとすれ違いで答えになっていないように思うんですが、進めていきます。

 電子書籍の出版を出版の中に位置づけるのが難しいということであるとすれば、例えば、CD―ROM出版あるいはDVD等の記録媒体を利用した頒布、これについてはなぜ出版行為の中に含めることができるのか。

 結局は、紙媒体か電子媒体かということではなくて、頒布かあるいは公衆送信かという区別なのではないかというふうに理解ができるんです。紙媒体だけでなくて、電子媒体であっても出版に含めることはできるが、頒布できるもののみが出版であって、公衆送信するものは出版に含めることができないということを言っておられるとすれば、それは理論的な説明をもう少ししっかりとしていただきたいということです。

河村政府参考人 先ほど申し上げましたように、通例、出版とは、刊行物などの有体物を発売、頒布することを念頭に用いられている用語でございます。

 したがいまして、CD―ROM等の記録媒体を用いるという頒布等につきましては、著作物をCD―ROM等の有体物に記録して、その複製物を頒布するという態様でございますため、文書または図画としての、紙媒体として出版する、印刷で出版するということとあわせて「出版行為」との略称を用いることとしたものでございます。

中川(正)委員 有体物と無体物という定義を持ち出していただいたんですけれども、本来は、紙や、あるいはCD―ROMも有体物の中に入るという解釈なんだろうけれども、これで区別するんじゃなくて、その中にあるコンテンツ、著作物なんですね。これは、媒体が有体物であろうが電子媒体であろうが、やはりコンテンツなんだというふうに私は解釈しているんです。

 そこのところが一つ解釈の違いとしてあるのかなというふうに思うんですけれども、そういうことでいいんですか。

河村政府参考人 現在の法律案の書きぶりとしては、出版というものが、有体物の発売、頒布ということを念頭に用いられるのが現在の通例であるということから、そのような用語といたしております。

 インターネットで送信する、公衆送信するということについては、形あるものを頒布する態様ではないために、「公衆送信を行うこと」という用語、つまり、利用のその態様をそのまま法文上表現をいたしたということでございます。

中川(正)委員 そこのところで区別をすると、あといろいろな問題が出てくるんじゃないかなというふうに思います。そこについては、改めて論理的に、もうちょっと後ほど、後ほどというか次の委員会の中で議論をしていきたいというふうに思います。

 次に、引き受ける者についてでありますが、公衆送信行為を引き受ける者について出版権を設定することができるということは、さっきの話で、発行、いわゆる出版物を出版するというその行為を公衆送信行為のみで規定をして、それを引き受ける者として出版権を設定することができるということは、プラットフォーマー、例えばアマゾンやグーグルなど、みずからは企画、編集等を行わないプラットフォーマーについても出版権者となり得るということ、こういうことだと思うんですね。

 そうすると、一つの著作物について一つのプラットフォーム限定での配信となってしまう、そこで独占権ができるわけですから。そうすると、電子書籍の流通を阻害することになってしまうんじゃないか。普通は、出版者が独占権を得て、そこから複数のプラットフォーマーに出していくというような形態が一つのビジネスモデルなんだろうというふうに思うんです。

 それが、プラットフォーマーが直接契約をして、それに出版権が与えられて独占権ということになると、結果的にはユーザーにとって支障が出てくる。いわゆるユーザビリティーというんですかね、読者にとっても、限定されたところに独占された形でのプラットフォーマー配信になってしまう、こういう可能性があるんではないかということなんですが、これについてはどのように整理をされていますか。

下村国務大臣 お尋ねについては、法律上の文言上は、従来の紙の出版の場合と同様に企画、編集を行うことが出版権設定の要件とはなっていないため、企画、編集を行わない事業者が出版権の設定を受けることが全くないとは言えない。つまり、アマゾンやグーグルなどが対象にならないかというと、ならないとは言えないという部分がございます。

 もっとも、改正案では、電子出版の権利を紙媒体での出版の権利と同じ出版権の中に包含をしております。現行出版権制度は、出版を引き受け、企画、編集等を通じて出版物を作成し世に伝達するという出版者の役割の重要性に鑑み、特別に設けられたものでありまして、その趣旨は変わっているわけではありません。

 このため、従前の紙媒体に係る出版の場合と同様に、電子出版を引き受け、企画、編集等を通じて電子書籍を作成し世に伝達するという役割を担う者が電子出版に係る出版権の設定を受けることが制度趣旨にかなうものであると考えられます。

 また、出版権設定のための契約交渉は、原稿依頼時や入手時等に行われることが想定されるわけでありまして、企画、編集等の役割を担った出版者は、誰よりも先に著作権者と交渉する立場に立ち、出版権を設定することが可能となるわけでございます。

 したがって、当事者間に信頼関係があれば、同一の出版者に紙媒体の出版と電子出版の両方の権利が設定されるようになると考えられることから、そのような御懸念は当たらないというふうに考えております。

中川(正)委員 続いて、第八十条の関係にいきたいと思います。

 例の「全部又は一部」、八十条一項の範囲について。先ほどもこれは話が出ましたが、これをもう一度確認していきたいと思うんです。

 「全部又は一部を専有する。」ということは、同項一号アンドまたはオア二号のみなのか、それとも一号や二号をそれぞれ細分化した設定も認めるのか。先ほども同じような問いが出ましたけれども、改めて確認をしたいと思います。

河村政府参考人 お尋ねの第八十条第一項の「全部又は一部」とは、第一号の紙媒体等による出版のための権利と第二号の電子出版のための権利について、第一号と第二号の全部または第一号と第二号のいずれか一方ということを基本的には想定いたしておりますが、現行の出版権と同様に、各号の権利をもう少し細分化する余地というものも認めるものでございます。

 権利の細分化の例としては、第八十条第一項第一号の権利を、紙媒体による出版権とCD―ROM等による出版権とに分けるということがあり得ます。

 しかしながら、どこまで権利を細分化できるかということについては、際限なく細分化できるというものではないと考えている次第です。

中川(正)委員 そうすると、例えば、紙媒体書籍の出版についてはA出版社に、そしてCD―ROM出版及び電子書籍の配信についてはB出版社にといった形でそれぞれ設定するということも可能になるということですね。

河村政府参考人 お尋ねのような出版権の設定が可能であると考えております。

中川(正)委員 その場合、例えば、B出版社において、電子書籍の配信は行うつもりでもCD―ROM出版を行う予定がないというようなこともあり得るのではないかということですね。

河村政府参考人 出版権の設定を受けた者は、権利を専有する、独占的に持つということになりますので、権利に対応した義務を果たすべき立場になります。したがいまして、CD―ROMでの出版と例えば公衆送信による電子出版についての両方の権利を有する出版権者は、CD―ROMでの出版とそれから送信による出版の両方の義務を負うということになるわけでございます。

 しかしながら、両方の権利の設定を受けても、著作権者の側が当面CD―ROMでの出版を見合わせたいといったようなときに、より柔軟な設定行為の定め方をするということは可能でございます。

中川(正)委員 次に、特定の出版物に係る権利の可否についてお尋ねをしていきたいと思うんです。

 一号または二号の細分化を認めるというのは、特定の紙媒体書籍のみあるいは特定の電子書籍のみについて権利が物権的に限定された出版権の設定を可能としていく、そういう意味に受け取っていいのかということです。

河村政府参考人 出版権の設定というものは、著作権者、紙の場合ですと複製権者ということになりますけれども、複製権者がみずから持っている権能の中で出版者に対して設定をするというものでございます。ですので、どこまで出版権を細分化して設定できるかということについては、もともとの著作権者が持っている権利でありますところの複製権等をどこまで分けられるかという、その意味での可分性というものに応じるということになろうかと存じます。

 一般的に申し上げれば、利用態様としての区別が明確ではなくて、また、権利を分割、細分化することで実務などに混乱が生ずるおそれがある場合にまで出版権の内容を細分化して設定する、おっしゃられた物権的に細分化した権利を設けるということを認めることは適当ではないと考えております。

 個々の事例については、最終的には司法判断ということになろうかと存じます。

中川(正)委員 それでは、例えば雑誌に係る著作物、これは、雑誌というのは、出版者については相当今気を使っているんですけれども、出版権の設定ができないということになってしまうのではないかという懸念があります。

 出版関連小委員会の報告書によると、「侵害される出版物の多くは雑誌である」というふうにされておって、他方で、雑誌に出版権設定が行われた事例がこれまではないと。

 効果的な海賊版対策を行うためには、雑誌を構成する著作物についても出版権設定を可能とすることが大前提であるということ、これが必要であると思うんですけれども、その点についての法的な手当ては、さっきの話でいくと、範疇にないというか一切ないというふうになってしまうということですか。

河村政府参考人 雑誌についての出版権の設定ができるべきではないかということについては、この出版権の問題を議論いたしました文化審議会の出版関連小委員会でも十分な議論が行われたと考えております。

 結論といたしましては、雑誌を構成する著作物についても、著作権者と出版者との設定契約により、出版権を設定することができると解しております。

 これまでは、出版権を設定してもインターネット上の海賊版に出版者みずから対応することができなかった、つまり、紙の出版権だけでしたのでインターネット上の海賊版対策ができなかったということもあり、雑誌への出版権設定はなかなか実例としてはされてこなかったというふうに承知をしておりますけれども、今後は、新たな制度を活用することで出版者みずからがインターネット上の海賊版対策を行うことができるようになりますことから、雑誌にも出版権が設定され、活用されることを期待いたしております。

中川(正)委員 特定の出版物に係る出版権設定を認めた場合に、その物権的効力の及ぶ範囲は当該契約に係る特定の出版物限りということになってしまうために、同一著作物について複数の一号出版権、二号出版権を設定できるということになるというふうに思われるが、そのような理解でいいのかどうかということ、これを確かめていきたいと思います。

河村政府参考人 お答え申し上げます。

 第八十条第一項の「全部又は一部」をさらに各号ごとで細分化した場合についてのお尋ねかと存じます。

 これについては、各号別に加えて、もう少し細分化する余地があるというふうに申し上げましたけれども、どこまで細分化して設定できるかということについては、先ほども申し上げさせていただきましたが、利用態様としての区別が明確ではなく、また、権利分割によって実務等に混乱するようなおそれがある場合にまで細かく分けていくことの設定を認めることは適当ではないというふうに考えているものでございます。

中川(正)委員 質疑時間が来たようであります。

 まだ細部いろいろあるんですけれども、後ほどに譲るとして、一つ一つこうして確かめていくことによって立法者の意思が将来生きてくるというふうに思います。それぞれの答弁の中でも、ここはひとつ、もう少し詰める方がいいなというところもありましたので、改めて時間をいただいて詰めていければと思いますので、よろしくお願いします。

 ありがとうございました。

小渕委員長 次に、鈴木望君。

鈴木(望)委員 それでは、著作権法の一部を改正する法律案について質問をさせていただきたいと思います。

 実は、電子書籍に関係する議連がありまして、先ほど、馳先生また中川先生がいろいろと御質問をされました。核心に触れる部分の御質問だったというふうに私は認識しておりまして、そういう意味では、また同じようなことを幼稚な格好で質問をさせていただくということになろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。

 その前にまず、最近の出版市場の動向について少し大臣の御見解等をお伺いをして、本論に入っていきたいと思います。

 まず、最近の出版市場が非常に縮小をしている。出版文化の前提となる文化そのものの縮小、弱体化に、市場が縮小していくというのはつながっていくのじゃないのかなという危惧さえ覚えるわけであります。

 その意味で、出版市場の動向、特に縮小の傾向についてどのような御見解を持っているかお伺いしたいと思いますが、その前に、縮小の実態について文化庁の方からお願いいたします。

河村政府参考人 出版市場の動向について、出版物の販売額という点から申し上げます。

 我が国における出版物の販売額は、書籍、雑誌を合わせて、平成八年の約二兆六千億円、二・六兆円をピークに減少してきておりまして、平成二十四年ではおよそ一・七兆円という規模となっております。

 また、我が国における電子書籍の販売額ですけれども、これは、平成十四年度の十億円から平成二十四年度の七百二十九億円へと増加をいたしておりますけれども、先ほど申し上げた紙の書籍、雑誌等の販売額の減少を補うには至っていない状況でございます。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 きれいな右肩下がりの傾向を示しているというふうに認識できるわけでありますが、その原因はどのようなところにあるのか。若年人口が日本の場合は減っているということがあって、やはり、これからだんだん大きくなっていく子供であるとか知識の吸収期の若者であるとかが活字によってという部分が非常に大きいんじゃないのかなと思います。そういう意味では、若年人口が減少している、また、活字離れという問題もある。

 そのようないろいろな要因がある中で、今回の著作権法の主題の一つでもあります、インターネットの普及等というのがあるわけであります。電子書籍、また、電子書籍だけじゃなくて、例えば、図書館に行って調べるところをヤフーのウィキペディアで調べたりだとか、誰かにこういういい回答は何かないでしょうかというような問いを発すると、日本だけじゃなくて世界から、こういうふうにやったらいいよというようなことがわかるという意味で、情報なり知識を得るという観点で、インターネットというのは相当大きな役割をしていると思います。

 当然のことですけれども、それが出版文化、出版市場というものに大きな影響を与えていると思いますが、そういうものも含めて、ちょっと時間が足りませんので、インターネットの影響について、これは不可逆的なものなのかなという感じもしますが、大臣の御見解をお願いいたします。

下村国務大臣 御指摘のように、インターネットの普及が出版市場に与える影響は多面的にわたるものと認識をしております。

 具体的には、インターネットの普及等に伴い、電子書籍の販売額が大きく増加しておりますが、一方で、インターネットを通じて容易に情報を入手することができるようになるということから、書籍や雑誌の購入を控えることにつながり、雑誌等の販売額の減少の要因となっているとも考えられます。

 また、出版物が違法に複製されインターネット上にアップロードをされるという海賊版被害も増加しておりまして、こうした海賊版が拡散することは、出版市場に悪影響を与えるのみならず、著作権等の保護の観点からも問題であるというふうに考えます。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 大臣の御答弁の中でもありましたように、プラスマイナス大きな影響を、これから不可逆的にインターネットというものがさまざまな分野に影響を与えていくんだろうと思います。

 今回の著作権法の改正、大きく分けて二つの目的がある。馳先生も言われておりましたけれども、一つは、インターネットによる電子書籍の健全な発展、もう一つが、インターネットによる海賊版の有効な規制、それに対応した法改正であるというふうに認識をしているわけであります。

 まず、電子書籍の健全な発展のために著作権法をどのようにしたらいいのかの議論をさせていただく前に、海賊版対策について議論をさせていただければというふうに思うわけであります。

 まず、海賊行為ということでありますが、著作権者の知らないうちに例えばインターネットに掲載をされているというようなことで、さまざまな海賊行為があろうかというふうに思います。どのような海賊行為が一番多い、漫画であるというような御指摘もありましたけれども、どういうようなものが一番多くて、それに対して有効な手だてがとれない、だから従来の法規制をこういうふうに変えるんだということで海賊対策を考えておられるんだろうと思います。そこら辺のところについて、文化庁の御見解をお願いいたします。

河村政府参考人 これまでに報告されている海賊版、著作権侵害の事例の大半は、紙で出版されたものの、その紙面がそのまま複製をされてその複製物がインターネット上にアップロードされるということによって行われていまして、侵害される出版物の多くは雑誌であるということが言われております。

 これに対して、今回、公衆送信権ということについての、公衆送信行為についての出版権を設定できるようにすることが対策として考えられたものでございます。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 議論の中で、今、結論をぽんと次長さんの方は言われましたけれども、特定の版面権というような議論があったんじゃないのかなというふうに思います。

 一番海賊版の被害として多いのが雑誌である。雑誌の中の一部分の記事のみを、どういう格好、自炊というようなことなのか、それとも、また違う格好なのかでもって複製をして、それでそれをインターネット上に流してしまうという格好で、そういう意味からすると、特定の版面を対象とした送信権を、雑誌を出している出版社、紙の出版権者に与えることが海賊対策に一番有効であって、そういうことをやればいいんじゃないのかという議論があったんじゃないかと思います。

 この案について、どういう見解を持って、どうしてこの案が消えてしまったのか、お答えをお願いいたします。

河村政府参考人 御指摘のありました、特定の版面に対象を限定した権利と申しますのは、当事者の特約によって発生して、企業内の複製やイントラネットなどの利用にも対応するような権利として考えられたものでございます。

 これについては、文化審議会において法制化の適否について議論を行いました。

 しかしながら、企業内複製やイントラネットでの利用などにも対応するというまずそういう趣旨の面について、現在稼働しております日本複製権センターというのがございますけれども、ここで権利処理を行って集中管理を行っているわけなんですけれども、特定の版面に対象を限定した権利を創設いたしますと、著作者単位で行っていた管理から、出版物や特定の版面ごとの管理に変更しなければいけなくなるという実務上の問題が生じまして、同一の著作物に複数の特定版面が生じた場合などには、複数の権利者が発生し、複製管理の主体が出てきてしまうということで、実質的な集中管理が機能しなくなって、運営業務に支障を来すおそれがあることですとか、それから、出版者への権利付与の趣旨で、現在御指摘のありました、インターネット上の違法コンテンツ対応を出版者みずから行うことを認める点からは、企業内複製まで及ぶような改正は整合しないのではないかという議論がありました。

 それからもう一つ、特定の版面に対象を限定した権利を法制化するということについての難しさとしまして、漫画家とか絵本作家が制作する原稿や原画と版面といったものの区別が難しいこと、それから、電子書籍については、表示画面が固定されないリフロー型というものがございます。文字の大きさが変わったりして版面の特定が困難であるということもございまして、反対する意見が多数となりました結果、法制化に向けた合意には至らなかったということでございます。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 だから、公衆送信権を、電子出版に対応した権利を二号出版権として設定をすることで対応できるというふうに結論づけたということですね。よろしくお願いします。

河村政府参考人 議論の経過としては、そうした理解をいたしております。

鈴木(望)委員 次に、みなし侵害規定の創設についても検討をされているわけですよね。違法複製物のインターネット送信について、伝統的な紙の出版権者に対する侵害があるとみなすという規定を設けたらどうか。今言った特定版面権についてはいろいろな難しい問題があるというのは、私も理解をいたします。

 みなし侵害規定の創設をしたらどうかという議論があったということでありますけれども、みなし侵害規定が実現しなかった理由、また、この問題は法改正によってどういうふうに解決をされたのかということについて、お答えをお願いいたします。

河村政府参考人 みなし侵害規定を創設するかどうかということについても、文化審議会出版関連小委員会において検討が行われました。

 その中では、もう著作権侵害となっているもの、そういう利用についてさらに加えて出版権侵害とあえてみなすということについては法制的なハードルが高いという御意見、また、電子書籍に対応した出版権が今改正後に設定できるということになれば、そうした出版権を設定しない者、設定して権利を持ち、また義務を負うという地位がとれるようになるわけですけれども、そうした主体とならない者に差しとめ請求を認めるということは法律としてはバランスを欠くのではないか、こういった御意見等がございまして、立法化についての合意形成に至らなかったわけでございます。

 一方、インターネット上の海賊版については、新たにつくられる電子出版についての出版権の侵害となりますので、これについての出版権を設定すれば、出版者がみずから主体的に海賊版に対応することが可能となるものでございます。

 また、著作権者が紙だけの出版を希望する場合にはやはりみなし侵害があった方がいいのではないかという御議論があろうかと思いますけれども、著作権者が電子出版を当面見合わせたいという場合におきましても、海賊版対策はしっかりやりたいという御意思をお持ちであれば、著作権者と出版者の当事者間の契約の仕方によりまして、電子出版の例えば時期を柔軟に設定するということで電子出版についての出版権の設定ができますので、みなし侵害規定というものをあえて創設しなくても有効な海賊版対策を行うことが可能と考えております。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 さて、海賊版の議論はしようと思えばまだいろいろあるわけですけれども、次に、既存の出版文化を守りながら電子書籍の健全な発展のために出版権はどうあるべきかという、もう一つの著作権法の改正の目的のところに議論を移させていただきたいと思います。

 今回の改正では、出版権を、従来の紙の出版権、第一号出版権と、電磁的記録媒体を用いた公衆送信権、第二号出版権に分けたわけでありますが、検討の過程の中では、現行の出版権が電子出版にも及ぶような権利となるようにすべきである、仮にこれを一体的出版権と呼ばせていただきますと、要するに、紙の出版と電子出版を一体化した権利のことでございますけれども、そういった一体的出版権、この名前がふさわしいかどうかは別として、そういったものでいくべきじゃないのかという議論があったというふうに認識をしております。

 その根拠となる理由は、先ほども文化庁の次長が言われましたように、電子書籍の九七%は紙の出版物を底本としているという実態があって、インターネットの海賊版に対する差しとめ請求は、こういった権利の拡張で行うのが実は実態に合っていると思うわけでありまして、そっちの方が、事柄の通りからいくと自然じゃないのかなというふうに思われるわけであります。

 なぜこのような主張が退けられることになったのかについてお尋ねをしたいと思います。

河村政府参考人 紙媒体での出版の権利と電子書籍による電子出版の権利を全く融合した一体の権利として考えるかどうかということについて、審議会の出版関連小委員会では、関係者から賛否両論がございました。

 一体化に積極的な御意見として、海賊版対策ですとか、それから、出版者がこれまで果たしてこられた社会的役割や、今御言及のありました紙媒体の出版をベースとして電子書籍が出ているのではないかといったことが御意見としてございました。

 が一方、一体的であるべきではないという方の御意見として、主に著作者の団体や有識者、他の産業界などから、紙媒体の出版と電子の出版というものは、法的には、複製物をつくるということと公衆送信ということでやはり別の行為ではないかとか、それから、著作者の立場から見ますと、紙の出版と電子での出版について、みずからが必要だと考える部分だけシンプルな契約でいきたいという強い御意見もありました。

 そこで、検討を重ねまして、出版者の方も、紙媒体での出版と電子ということが権利義務関係ではやはり分けられるものであるといったような御意見もありましたので、制度的な差異、意義というものは特段出てこないのではないかという結論になりまして、具体的な立法の方法が政府に委ねられたという経緯でございます。

 そのような検討、各界の御意見を受けまして、現在の条文は、出版権制度という出版者の役割に鑑みてつくられている制度、出版を引き受け、企画、編集などを通じて出版物を作成して世に伝達するという出版者の役割の重要性に鑑みて特別に設定されている、著作権法の中での「第三章 出版権」、その制度の中にこの電子出版に対応する出版権を包含するということでの設計としたものでございます。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 私が聞こうかなと思ったことのお答えまでいただいたような感じもするんですが、要するに、書籍が実際に出版されるまでの役割では、出版者の役割、特に編集者の役割が非常に大きいというふうに言われているわけです。

 こういった実態を考えますと、出版権とは、従来の出版権も、単なる紙媒体の出版だけではなく、本質的にインターネットによる電子書籍も包含しているというふうに考える方が私は自然じゃないのかなというふうにも思うわけであります。

 残りの時間、その議論を少しやらせていただきたいなと思いますが、まず最初に、出版者は従来はどのように主張をしていたのか。もう先ほどの答弁で若干触れておられましたけれども、もう一回改めてお答えいただければなと思います。

河村政府参考人 先ほど少し言及させていただきましたが、電子書籍に対応した出版権のあり方について議論した文化審議会の小委員会におきまして、日本書籍出版協会からは次のような主張があったということを御紹介申し上げます。

 まず、現行の出版権の規定自体の内容を電子出版も含むものに拡大すべきである。また、著作者の意向によっては、紙と電子を別々に弾力的に運用する仕組みが内包されていることが適当であるということでありました。

 また、紙媒体での出版の権利と電子出版の権利を一体の権利とすべきか否かという論点につきましては、海賊版対策の観点からは極力一体化した権利が望ましいこと、企画、編集等の出版者の社会的役割からは紙と電子を分けて考えることができにくいこと、出版社が制作する電子書籍の約九〇%は、ある調査によれば、自社の紙媒体の出版物をベースとしているという実態となっていることが主張されておりました。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 さて、お配りした資料を見ていただきたいと思います。

 これは、週刊新潮のことしの三月二十日号の記事でございます。「「出版文化」の味方とうそぶく「文化庁」の欺瞞」とか、表現は週刊新潮特有のあくの強い表現がなされているわけでありますけれども、中身は意外と説得力のあることが、意外とと言ったら失礼ですけれども、書かれているんじゃないのかなと、私、読ませていただきまして、思いました。

 要約しますと、著作権法の改正案は、キンドルを持つアマゾンやグーグルが得するだけの、日本の国益をみすみす海外に売り渡すような法案である。その理由を、出版とは何かという議論をネグった結果、配信業者も出版者でよいという安易な考え方になってしまっているんだ。なぜかというと、出版の本質は企画、編集、校閲にあるとこの記事は主張をしておりまして、紙の出版のクオリティーを保っていた企画、編集、校閲がなくなり、例えば、単純にツイッターでつぶやいたものを集めただけのものが本になってしまうんだったら、これは本という名に値しない。この主張はなかなか説得力があるなと思うわけですけれども、今まで出版文化を保っていたものが、実は、本質として企画、編集、校閲にあるんだというふうに主張をしているわけであります。

 今回の改正は、単にグローバル化、アメリカ流の模倣であって、そういう模倣をすべきじゃない、いろいろ書いてありますが、その上で電子出版についても、電子書籍の企画、編集を行い、その上で公衆送信を行う者のみに出版権を与えたらどうか、要するに、単に公衆送信のみを行う者に出版権を付与すべきではないという主張をしているわけであります。

 私は、この主張に妥当性があるように思えてならない側面が、今回の改正法案に単純に反対というわけじゃないんですけれども、この主張に一面の妥当性があるんじゃないのかなというふうに思いますが、改正案はそうはなっていないわけです。

 なぜそうしなかったのかということについて、最後に、法案提出の責任者である大臣の御見解をお願いします。

下村国務大臣 改正案では、電子出版の権利を紙媒体での出版の権利と同じ出版権の中に包含をしております。現行出版権制度は、出版を引き受け、企画、編集等を通じて出版物を作成し世に伝達するという出版社の役割の重要性に鑑み、特別に設けられたものであり、その趣旨は変わってはおりません。

 このため、従前の紙媒体に係る出版の場合と同様に、電子出版を引き受け、企画、編集等を通じて電子書籍を作成し世に伝達するという役割を担う者が電子出版に係る出版権の設定を受けることが制度趣旨にかなうものと考えられます。

 これらを踏まえまして、企画、編集等に多大な労力を投下して紙媒体の出版を行っている出版者が、みずからも電子出版を行う意図があるのであれば、真っ先に著作権者と交渉し、電子出版についての出版権の設定を受け、利益の確保を図ることができるというふうに考えます。

 また、紙媒体の出版を行っている出版者の利益の確保のみならず、多様な読者層への対応や適切な海賊版対策の観点からは、同一の出版者に両方の権利が設定されるのが有効な契約パターンであると考えられます。

 このため、文科省としては、当事者間における契約慣行の形成に資するため、改正法の趣旨や内容等について、改正法施行までの間に、来年の一月一日ですから、もし今回、法律を成立させていただければ、年内に、十二月末までの間に、著作権者や出版者に対して十分周知してまいりたいと考えております。

鈴木(望)委員 大臣の御答弁なんですけれども、ちょっと得心がいかないのは、実際上、一番一体的に契約ができるのは、企画から編集までを請け負って頑張っておられる今までの出版権者だろうと思います。だけれども、そういうところが一番契約を一体的にしやすいというのは十分理解しますが、それなら一歩進んで、なぜ、いわゆる公衆送信を行うだけの業者に第二号出版権を与えるように法制化したのかなという疑問は相変わらず残るわけであります。

 やはり、公衆送信をするだけの業者には出版権を与えなくて、もし仮に電子書籍の公衆送信を行うということだったら、その前段階である企画、編集も、電子書籍についても、企画、編集をした上で公衆送信を行う業者に、要するにアマゾンであるとか、そういうものはその段階で排除できると私は思うんですけれども、なぜそういうことにしなかったのかという疑問はやはりちょっと残るような感じがいたしますが、時間が来ましたので、また再度質問をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

小渕委員長 次に、青木愛君。

青木委員 よろしくお願いいたします。

 著作権法第一条には、法の目的として、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、」「文化の発展に寄与すること」とあります。著作権法改正の歴史の中でも、デジタル化、ネットワーク化に対応するための近年の諸改正は大きな動きであり、こうした中で著作権制度の整備に当たってこられた関係者の方々は、大変苦労をなさってきたことと存じております。

 さて、今回の著作権法改正におきましても、社会のデジタル化、ネットワーク化への対応という流れの中におきまして、電子書籍の海賊版問題に対処するものと認識をしております。さまざまな問題の現状と本改正案の効果、そしてその影響について本日はお伺いをしたいと思います。

 何よりもやはり、著作権者の利益の保護についてまずお伺いをさせていただきます。

 今回の改正について著作権分科会における議論を拝見いたしますと、海賊版対策の必要性について関係者の認識は一致をしていると思います。出版権の拡大に際しては、作者側から、海賊版対策への取り組みとともに、電子出版契約の際のひな形をつくってほしいという努力の要請など、留意点が出されております。

 まず一点目といたしましてこの海賊版対策についてお伺いをいたしますが、著作権分科会における資料を見ますと、北米における平成十九年から二十三年の過去五年間の海賊版不正流通によりますコミックの被害推定額が一千五百億から三千億円に上るとされ、また、世界で出回っている漫画の海賊版の元データのほとんどがこの日本国内でスキャンされていると指摘をされています。

 海賊版対策について、現在でも、出版者から不正なデータの削除要請を行うなど対応が図られているとは思いますけれども、この削除要請に応じない例というのはどのくらいの割合があり、また、その要請に応じない理由というのはどのようなものがあるのか、まずお伺いをさせていただきます。

河村政府参考人 海賊版被害についての対応でございますけれども、ある会社のデータによりますと、専門のところに委託をして不正なデータの削除要請を行ったり、社内スタッフによる削除要請を行っていて、毎月一万件を超える不正削除要請を行っているということを承知をしておりますけれども、それで実際に削除されたとか、どれぐらいそれで結局は削除されていないか、そのことについての分析結果については承知をいたしておりません。

青木委員 削除要請は一万件あるということでございますが、今回の法改正も、その現状を鑑みての法改正だというふうに認識をしておりますので、まずは問題の把握という部分におきましては、応じない割合ですとか応じない理由が何であるのかという検証はまずもって必要ではないかなというふうに思います。また今後わかり次第、資料をいただければ助かります。

 このような問題について今回法改正が行われるわけですけれども、今回の出版権の拡大ということにおけるどれほどの効果を見込んで今回法改正をされるのか、その点についてもあわせてお伺いができればというふうに思います。

河村政府参考人 電子書籍の増加の一方、出版物が違法に複製されてインターネット上にアップロードされるという被害が増加しておりますところ、紙媒体での出版にしか対応していない現在の制度では対応が不十分でございます。

 このために、電子書籍に対応するための規定の整備を行いますと、電子出版を引き受ける出版者が著作権者から出版権の設定を受けることができ、その効果といたしまして、出版権者が権利を専有することから、出版権者がみずから、つまり、著作権者の名においてではなく、出版者が主体的にインターネット上に出回っている海賊版を差しとめることができるようになりますので、まずは、国内での被害、これが例えば一つの調査では一年間二百七十億円と言われている、このことについての相応の対策ができるようになるものと考えております。

 一方、海外のことにもずっとお話がございましたけれども、海外でのみ公衆送信されている海賊版への対応については、基本的にはその侵害の行為が起きている国の法律に基づくことになりますために、そのそれぞれの国内法制が我が国でのこの出版権についてどう評価するかということについての適用関係によることとなるものでございます。

青木委員 ぜひ、現在のその被害の状況とあわせて、これまでの現行の中ではなぜそれが対応できないのか、そして、今度の法改正によってその後の検証もしっかりと行っていただきまして、また御報告をしていただければというふうに思います。

 こうした海賊版対策については、著作権者あるいは出版者が独自に努力すべきことではありますけれども、やはりその努力にも限界もあろうかというふうに思います。

 国として、クール・ジャパンの取り組み等々、海外への我が国の漫画等のコンテンツを輸出しようというまた積極的な取り組みも一方でなされているわけではございますが、こうした国内外の海賊版問題に対して、国としてもやはりある程度の取り組みが必要なのではないかというふうにも考えるわけでございますが、この海賊版問題に対して国としてどのような取り組みを行っているのか、また行うつもりがあるのか、お伺いをさせていただきたいと思います。

河村政府参考人 海外における海賊版の生産、流通あるいは違法アップロードを防ぐためには、基本は、我が国の権利者が侵害発生地における民事、刑事のシステムを活用して対抗措置をとっていただくこととなるのですけれども、このための環境整備に向けて、国としてもしっかりとバックアップをしていかなければいけないと考えております。

 国全体、政府全体としましては、知的財産推進計画というものも立てておりまして、その中で各関係省庁が連携して対応することといたしております。

 具体的に文部科学省、文化庁として対応することを申し上げますと、二国間協議、例えばアジアの各国と日本との協議の場を通じて、侵害が実際に起きている国、地域に取り締まりの強化を要請いたしております。また、そうした国で、法律はできていても実際に権利者の権利を守るための執行の面が弱いという場合には、このことについてのさまざまな支援策をとる、また、研修事業を行うといったことをいたしております。

 そしてまた、その企業などが権利者として権利行使をする場合に、諸外国でさまざまな助けとなるような資料の作成、提供や官民合同ミッション、こういったことを進めているところでございます。

青木委員 国としても文化庁としても、各省庁との連携を図りながら、相手国の地元政府に対するさまざまな協力体制あるいは取り締まりの支援等々が行われているということでありますので、今後とも、ぜひ国としてのバックアップもお願いをしておきたいと存じます。

 続きまして、もう一つの要請でございますが、電子出版の際の契約書のひな形づくりについて一点お伺いをさせていただきたいと思います。

 往々にして、出版者と作者の間で作品についての権利関係が曖昧な例があるように伺っています。また、作者は個人事業主でありますし、特に立場の弱い若手の作家の方々などは、自分の権利、利益を主張することはなかなか難しいのではないかと推察をいたします。

 小委員会における議論におきまして、現在、電子出版の契約書には明確な基準もルールもないことから、著作者の権利や公平な利益配分に配慮した、新しい形の電子出版契約書のひな形をつくってもらいたいという意見が出ております。

 文化庁におかれましても、このひな形づくりについて、そうした取り組みを今後支援する必要があるとお考えかどうか、お伺いをしたいと思います。

河村政府参考人 御指摘のように、出版権制度は著作権者と出版者の間の契約を基礎とする制度でございますので、新たな出版権制度ができる場合にも、著作権者と出版者双方が協力して、有効な契約に向けた慣行が形成されるように努められることが大変重要であると考えております。

 まずは文部科学省、文化庁といたしましては、当事者間の契約慣行の形成にプラスになりますように、法律を成立させていただきました暁には、その法律の趣旨や内容等について、改正法施行までの間に、著作権者の関係者、出版者関係者に対して十分な周知をしてまいりたいと考えております。

 また、出版界からは、契約の範囲を著作権者に対して明確に説明し契約上明示していくことに加えまして、著作者団体と話し合いながら、契約ガイドラインの作成や、契約をめぐる紛争処理のための仲裁機関を設けるということを検討しているとも聞いておりますので、このような取り組みについて私どもも継続的に十分に注意して拝見していきますとともに、必要に応じて協力をしてまいりたいと考えております。

青木委員 ありがとうございます。

 最後の質問になりますけれども、出版権と著作隣接権についてお伺いをいたします。

 今回の改正内容について、やはり分科会での検討の際に、出版権の拡大という案のほかに、著作隣接権の付与という案がございました。結果としてこの案は採用されなかったわけでありますけれども、著作隣接権者にレコード会社や放送事業者が含まれております。ですので、こうした案が出てくること自体、理解できなくはないのですけれども、出版者には契約に基づく出版権であって、レコード会社などには著作隣接権ということでありまして、法律上異なる扱いとなった経緯をぜひお聞かせをいただきたいと思います。

河村政府参考人 今回改正にかかわらず、もう少し前からの経緯というお尋ねだと理解をいたしますと、我が国、出版者に関する制度に関しては、戦前から出版権の制度というものが発展してまいりました。出版権の制度は、我が国の文化や知識を創造、普及し、これを次世代に継承することに重要な役割を担ってきたものと考えております。著作者と出版者の間の権利義務関係をどう調整するかということでの、我が国独自の一つの工夫であると承知をいたしております。

 レコード製作者などについては、例えば国際的な状況で申し上げますと、一九六一年の多国間条約で、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約という国際的枠組みがございます。

 このように、国際的な標準といたしましては、実演家、レコード製作者、放送事業者というものに対して著作隣接権を付与するということが設計されておりますけれども、出版者の権利についてはこのような国際的な枠組みが現状では形成されておりませんで、保護のあり方は、それぞれの文化、制度によりさまざまとなっております。

青木委員 ありがとうございました。

 また午後の参考人質疑の方もぜひ参考にさせていただきまして、次の質疑につなげたいと思います。

 どうもありがとうございました。

小渕委員長 次に、吉川元君。

吉川(元)委員 社会民主党の吉川元です。

 午前中最後の質問者ということで、少しかぶるところもあるかとは思いますが、御答弁のほど、よろしくお願いいたします。

 さて、インターネットの普及に伴い、電子書籍に対応した出版権の整備ということは大変重要な課題だというふうにも考えております。

 ただし、電子書籍について言えば、小説、漫画、写真などの著作権者、出版者、あるいは電子書店、電子書籍の販売に至るまで、非常に多くの関係者が存在しております。これらの方々の利害を調整し、なおかつ、違法コピーや海賊版、海賊出版にどのように対応していくのか、さらには、紙媒体の書籍と電子書籍、双方の発展をどう図っていくのか、大変難しい問題も横たわっているというふうにも考えております。

 ただ、やはり基本というのは、出版の多様性をしっかりと確保していく、そのことを通じて国民がさまざまな考え方に触れることができる、そういう体制をどう維持していくのかということが重要だろうというふうにも思います。

 今、大変、出版不況というふうにも言われております。ピーク時に比べますと、ピークは二〇〇〇年だったと思いますが、書店数でいうと約四割減という形になっております。

 私も、本の題名がわかっている、本の名前がわかっている場合にはインターネット等の通販等々を通じて利用する場合がございますが、ふらっと入った書店の中でそれまで興味のなかった分野の本がたまたま目にとまって、それを手にとることによって新しい知識だとかというものを獲得する、そういう経験もしてまいりました。そういう面でいいますと、書店も含めて、出版にかかわる人たちがどう発展をしていくのか、それがやはり基本になければいけないというふうに考えております。

 そのような点を踏まえて、何点か質問させていただきます。

 まず初めに、今回の改正で、紙媒体の書籍と同様に電子書籍についても出版権が設定できるようになります。双方について同一の出版者が出版権を得ることも可能ですが、今ほどずっと質問の中にもありましたが、別々の出版権設定も可能になるというふうにも承知をしております。

 そこで、まず現状について伺いますが、紙媒介の書籍と電子書籍の双方が発行されている場合、出版者が異なるケースというのはどの程度存在をしているのでしょうか。

河村政府参考人 我が国に流通している全ての電子書籍について、紙媒体と電子書籍とで異なる出版者が出版を行っている割合というような網羅的な統計は持ち合わせておりませんが、一般社団法人日本電子書籍出版社協会の調査によりますと、この協会に加盟する出版社四十社が制作する電子書籍については、他社の出版物を用いて電子書籍の作成、配信が行われている割合は〇・三%であった、こういうデータを得ております。

吉川(元)委員 なぜ伺ったかといいますと、この間、電子書籍の出版権につきましては、これも既にほかの委員の方から質問がありましたけれども、著作隣接権を自動的に付与すべきだというようなそういう意見もございました。また、文化審議会著作権分科会の出版関連小委員会中間取りまとめに対する意見募集では、紙媒体の書籍と電子書籍の出版権について一体的に権利設定すべきという意見も少なからず出されております。

 その理由としては、紙媒体であろうと電子書籍であろうと、企画、構成、編集、作成、さらには流通に至るまで一貫して責任を負うのが出版であって、出版権の権利主体が紙媒体と電子書籍で別々になってしまう、恐らく、電子書籍の方が労を多くせずに出版できるということになる、そういう懸念があるんだろうというふうにも思います。

 いろいろな本を読みますと、筆者の、著作者の後書きの中には、必ず出版社、そしてそこの編集者に対する感謝の言葉が入っております。これはもうどの本を見ても大体そうだというふうに思いますが、そういう一貫した責任を負う体制というのが出版だろうと思います。

 また、権利主体が別々では、海賊版対策が有効に機能しないのではないか、あるいは、権利関係が非常に複雑になってしまうのではないかという指摘もされております。

 これらの指摘や懸念に対して、改正案はどのように応えているのでしょうか。

下村国務大臣 御指摘のように、著作物を世に出すに当たりましては、出版者は構成、編集等に多大な労力を投下することが多いものと考えられます。

 紙媒体の出版を行う場合に、みずから電子出版を行う意図があるのであれば、その出版者は、真っ先に著作権者と交渉し、電子出版についての出版権の設定を受け、利益の確保を図ることができます。また、利益の確保だけでなく、多様な読者層への対応や適切な海賊版対策の観点等からは、同一の出版者に両方の権利が設定されるのが有効な契約パターンであると考えられます。

 さらに、著作権者が出版権を別々の者に設定する場合、紙媒体での出版のために複製する権利と電子出版のためにインターネット送信する権利は明確に区分することができるため、権利関係が複雑になることはないと考えます。

吉川(元)委員 この点に関してはちょっと後ほどまた尋ねたいというふうに思います。

 きょうは公正取引委員会の方からも来ていただいておりますので、再販制度に関連して少しお聞きをいたします。

 紙媒体の書籍については、独禁法で原則禁止とされている再販価格の維持の適用除外となっております。ところが、電子書籍については再販制度禁止の適用除外とはなっておりません。

 実際にその価格引き下げに該当するかどうか、厳密にこれがそうなるのかということは議論があるかとは思いますけれども、電子書店のクーポンを利用すれば七割引きで電子書籍を購入できるキャンペーンというものが実施されたケースがあるというふうにも聞いております。

 紙媒体の書籍と電子書籍の価格設定には非常に微妙な問題があるというふうに思いますが、出版権の権利主体が今ほどお話しあったとおり同一の場合にはまだしもというふうに言えると思いますが、権利主体が別々の場合、片方は再販価格を維持、もう一方はそうではないというふうになると、これは不均衡を招きかねないというふうに考えますけれども、公正取引委員会はどのようにお考えでしょうか。

原政府参考人 先生御指摘のとおり、書籍につきましては、独占禁止法二十三条で適用を除外されております。この制度の対象になりますのは、現在、書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ及び音楽用CDの六品目でございます。電子情報として流通する電子書籍につきましては、これらの六品目とは異なり、独占禁止法の適用除外の対象とはなりません。

 この適用除外制度は、独占禁止法で禁止されている行為に対する例外的措置であることから、厳格な取り扱いが行われるべきであり、その範囲は限定的に解されるべきものと考えます。また、適用除外制度の対象となる関係業界におきましては、現在、消費者利益の向上が図られるよう、例えば非再販商品の発行、流通拡大等の弾力的な取り組みが行われているものと承知しております。

吉川(元)委員 限定的であるべきである、もちろんそうだというふうに思いますけれども、やはり再販制度、これがなぜあるのかということも含めて考えた場合に、最初に発言させていただきましたけれども、その基本となる考え方、出版の発展、そしてそれによって国民がいろいろなものに触れる、知に触れる、そういうことを考えた場合に、やはりここの部分についてはしっかりとトラブルがないように、また、先ほども言いました、書店の皆さん、今、出版不況ということで大変な状況に置かれておりますけれども、しっかり小さな書店が守られるような、そういう立場での政策というのが必要だろうというふうに思います。

 続きまして、古川財務副大臣にも来ていただいておりますので、若干尋ねたいというふうに思います。

 昨日から消費税が八%に引き上げられたわけですけれども、消費課税というのは国内取引と物品輸入が対象です。ところが、電子書店の中には、海外の電子書店で、サーバーを海外に置いて国外取引として課税を免れているケースというのが存在をしているというふうにも聞いております。ある民間の研究機関の調査では、九億ぐらいになっているんじゃないか、そういう試算も新聞報道等ではされております。

 日本のインフラを利用している以上、海外企業とされていてもこれについてはやはり納税の義務というのがあるのではないかと思いますが、この点についてどのように検討されているでしょうか。

古川副大臣 今お尋ねのありました、電子書籍等の国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税のあり方ということでございますけれども、平成二十六年度の与党税制改正大綱に沿いまして、国際機関や欧州諸国における対応状況等を踏まえ、平成二十七年度税制改正に向けて検討を進めていくということになっております。

 現状、これからということなんですけれども、その検討をする際には、おっしゃったように、提供者が国内、国外によって差が出てきます。このような経済活動に対する課税の中立性というものも確保されなきゃならない、あるいは国内外の事業者の事務負担に与える影響というものも見ていかなきゃいけない、あるいは適正な税務執行の確保ということなど、幅広い視点からやはり検討することがございますので、昨年の秋から、政府税調におきまして、有識者の方々に専門的な見地からの御議論をお願いしているところでございます。

吉川(元)委員 ぜひしっかりと検討していただきたいというふうに思います。

 いわゆる書店の利益率というのは大変低いのが現状です。消費税分を納めなくてよいということで、それがいわゆる販売促進に使われれば、恐らく国内の、これは紙の方になりますけれども、書店さんなどはもう太刀打ちができないというようなお話も聞いておりますので、しっかりとその点について配慮した検討をお願いしたいというふうに思います。

 では、続きまして、これも少し議論が、質問がされておりましたけれども、みなし規定について少しお尋ねをしたいというふうに思います。

 今回の改正でもって、電子書籍の出版権を得た者はネット上の違法コピーや海賊版に対処できるということになりますけれども、先ほども少しお話をしましたが、権利主体が分離している場合、紙媒体の出版権者は、いわゆるネット上における違法なコピーなどに対して制度の手助けがないまま対応していくのではないかというふうに思います。また、これも少し議論されましたが、著作者の中にも出版物はあくまで紙媒体という方もかなりの数いらっしゃるというふうにも聞いております。

 先ほどの答弁では、契約の際に電子出版について長い期間をとれば云々という話もありましたが、ただ、そういうことが行われない場合、もし仮に行われなかった場合においては、現状と同じようにネット上の違法コピーへの対応というのは極めて困難になるのではないかというふうにも考えられます。また、これは雑誌の特性として、出版権の権利設定がしにくい雑誌などでも同様ではないかというふうにも考えます。

 これらの点を踏まえて、やはり、私もみなし規定というものは少し検討しなければいけないのではないかというふうにも考えますし、また、そうした意見も寄せられているというふうにも聞いております。この点についてどのようにお考えでしょうか。

河村政府参考人 みなし侵害規定につきましては、審議会の場での議論におきましては、既に著作権侵害であるものをさらに出版権の侵害とあえてみなすということについての法制的なハードルが高いという問題、また、電子書籍に対応した出版権を今回設定できることになるので、それをまず活用することではないかという趣旨での御意見などがございまして、あえて立法化するということについての合意形成には至りませんでした。

 電子出版について新たに出版権ということが設定できるようになりますので、著作権者と出版者において、双方において海賊版にしっかりこれを活用して対応していこうという合意があれば、この二つの紙と電子をうまく組み合わせることでの対応が可能かと考える次第でございます。

 また、みなし侵害を創設いたしましても、現実に、その場面において侵害行為が起きたときに、著作権者がその侵害行為を必ずやとめたいと思うかどうかというのは、やはりそこで逐一確認行為が必要かとは存じます。例えばファンが行っている行為についてどうするのかとか、あるいは、その時点ではライセンスを得ていない人がやっていても、むしろ交渉してライセンスを与えることによって流通を進めるという考え方の著作権者がいるかもしれません。その意向確認ということは必要かと存じます。

 それを考えますと、あらかじめ著作権者との事前の合意によって紙の出版権と電子に関する出版権とを設定してそこの内容を柔軟にする方が、見方によってはより迅速に海賊版に対応することが可能というようにも理解をする次第でございます。

吉川(元)委員 ぜひ実効性を伴った対策を考えていただきたいというふうに思います。

 時間が来ましたので、これで終わります。

小渕委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十七分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時一分開議

小渕委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 午前に引き続き、内閣提出、著作権法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、一般社団法人日本書籍出版協会理事長、株式会社小学館代表取締役社長相賀昌宏君、日本大学大学院知的財産研究科教授土肥一史君及び写真家、一般社団法人日本写真著作権協会常務理事瀬尾太一君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、参考人各位から一人十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないこととなっておりますので、あらかじめ御了承ください。

 それでは、まず相賀参考人にお願いいたします。

相賀参考人 一般社団法人日本書籍出版協会理事長相賀昌宏でございます。

 現在、急速に拡大しつつある電子書籍の流通に対応して、出版権の整備等を目的とした著作権法の一部を改正する法案が本国会において審議され、法改正が行われる見通しとなっております。まさにデジタル時代に対応した法整備の始まりとして、大変意義深いことであると考えております。

 法案作成に向け、昨年、九回に及ぶ文化審議会著作権分科会出版関連小委員会において論議を積み上げていただいた著作者団体を初め、法曹関係者、関係各機関の方々の御尽力に感謝を申し上げます。

 また、今回の法改正につきましては、そもそもの問題提起に始まり、最終的な条文案の細部に至るまで、電子書籍と出版文化の振興に関する議員連盟の皆様に論議をリードしていただきました。ここに改めて敬意を表させていただきます。

 私たち出版者は、紙の書籍に加え、電子書籍が普及する時代においても、これまでと同様、出版活動に持てる力を尽くして、読者や著作者に対する責任を果たしてまいる所存です。

 この出版という行為の社会的意義について、昨年末に公表された、前述の小委員会報告書では、「我が国の文化や知識を創造・普及し、これを次世代に継承するに当たり、出版は重要な役割を担い、我が国の活力ある社会の実現に寄与してきた。」と述べた上で、電子出版については、「電子書籍の企画・編集から配信に至る行為をすること」と定義しています。

 これらの点を踏まえて、本国会審議の過程において、ぜひとも、以下のような点が立法趣旨として明確に示されることを出版界として希望しております。

 一つは、現行出版権に対する一般的な解釈である、出版権者となり得るのは、みずから出版することを予定し、かつその能力を有する者という法解釈が、電子書籍に対応する出版権に関しても維持されることです。

 二つ目には、デジタル海賊版による権利侵害行為が国の内外において横行している現状に鑑み、今回の改正法のもとで、紙の出版物をスキャンしたデジタル海賊版に出版者みずからが対抗するための方法と法的根拠が具体的に示されることです。

 また、このデジタル海賊版対策については、今後、さまざまな技術の進展によって新たな侵害形態が登場する危険性が大いにあります。したがって、今回の法改正成立後も、引き続き有効な対抗策が法的に保証されるよう、立法府におけるさらなる検討をお願いいたします。

 出版文化は、我が国のあらゆる文化を支える基盤となっています。私たち出版者は、今回の法改正を契機に、さらに豊かで開かれた出版文化を発展させるべく、著作者や書店、取次会社、印刷会社など関係各位と緊密に連携し、尽力してまいる所存です。

 とりわけ著作者の方々とは、今後、信頼関係に基づいた契約慣行を定着させていくことが極めて重要であると認識しております。

 以上であります。失礼いたしました。(拍手)

小渕委員長 ありがとうございました。

 次に、土肥参考人にお願いいたします。

土肥参考人 紹介いただきました土肥でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 私は、著作権法を初めとする知的財産法の研究を続けておりまして、かれこれもう四十年ぐらいになるわけでありますけれども、今回は、出版権制度の検討を行いました文化審議会著作権分科会出版関連小委員会において主査を務めさせていただきました。そういう関係から、この法律案についてどのように考えるのか、こういう御質問を承るべくお呼びいただいたんだろうと思っております。このような機会を頂戴いたしましたことに、厚くお礼を申し上げたいと存じます。

 まず、最初に結論から申し上げると、私は今回の著作権法改正案に賛成の立場でございます。出版者が法律案にございます出版権の設定を受けますと、独占的に出版や電子出版ができるようになり、電子書籍の利用が一層促進されることになるからであります。

 また、インターネット上の海賊版に対しても出版者みずからが差しとめ請求を行うことができますため、これにより、出版者や著作権者は安心して出版や電子出版を行うことができ、電子書籍の普及を通じて出版文化の発展につながるものと確信をしているからでございます。

 本日は、法律案に賛成していることを前提といたしまして、三つのポイントから、この法律案を踏まえ、先ほども御紹介ございましたけれども、当事者間の契約慣行の形成と、そのための当事者間の信頼関係の構築こそが何よりも重要であるということを申し上げたいと思っております。

 それではまず初めに、審議会における議論を紹介しながら、著作権者と出版者との間の成熟した契約慣行の形成が重要であるということを申し上げたいと思います。

 この法律案では、電子出版を紙の本の出版と同じような出版権として位置づけております。このような条文となっていることにつきまして私としては異論はございませんけれども、審議会におきましては、電子書籍に対応した権利をどのように構成するか、この点について激しい議論がございました。

 審議会の議論の過程では、著作権者からは、必要な分だけシンプルに契約を行いたいことなどを理由に、現行出版権とは別の権利とした方がよいという意見が示されておりましたし、他方、出版者からは、電子出版と紙の本の出版を一体的な権利とすべきではないか、こういう意見も示されておったわけでございます。

 出版権制度は当事者間の契約を基礎にする制度でございますので、法律でどのように定めましても、最終的には、当事者間の契約によって権利範囲は定まってまいります。それにもかかわらず、電子書籍に対応した権利をどのように位置づけるかについて関係者間の意見に大きな隔たりがあったのは、これは、著作権者と出版者との間に成熟した契約慣行が十分に確立していないからではないかと思っております。

 一体的な権利として定めることを求める出版者側と、別々の権利とすることを求める著作権者側などで審議会の意見は二分され、難しい状況がございました。

 しかしながら、審議会においても、出版社を代表する立場の委員から、出版界として、著作権者との契約の透明性を高め、著作権者団体との話し合いから、契約ガイドライン、そういったものを作成するなどの発言があったところでございます。私はこういった動きに大きな期待をしております。

 出版権は、著作権者と出版者が契約することによって初めて出版者に生ずる権利でございます。出版権の設定のみならず、権利の内容や出版の義務、それから権利の存続期間などについても、当事者間の契約で決めることが求められております。

 したがいまして、電子書籍に対応した出版権がこの法律案によって整備された後は、この法律案を前提とした契約慣行が当事者間において可及的速やかに形成され、著作権者と出版者間に成熟した信頼関係が確立されることが重要であると考えます。

 第二に、プラットフォーマーへの懸念の観点からの意見を申し上げます。

 この法律案は、出版権の中に電子出版に関する権利を包含する、こういう形になっていますが、いまだ一部の出版社からは、外資系企業であるメガプラットフォーマーが著作権者と出版権設定契約を行い、権利を独占するのではないか、こういった心配があるように聞いております。したがって、著作権法の中にも何がしかの手当てをすべきではないかというような御主張なんだろうと思います。

 このような御心配はわからないわけではないんですけれども、プラットフォーマーが、例えばですけれども、出版社を買収するなどして出版機能を有するようになりますと、出版権の規定をどのように改正したとしても、防ぎようがないわけであります。プラットフォーマーの豊富な資金力からすると、三千ないし四千社あるとされる出版社の一つを買収することなどは、恐らく造作ないことだと思われます。

 やはりこの問題も、根本的には、出版社と著作権者との間の契約で対応すべき話ではないかと考えております。

 出版者が企画、編集などを行い、著作権者の創作する作品をより一層よいものとし、著作権者との間に信頼関係が形成されているのであれば、著作権者としては、紙の出版に関する権利だけではなく、電子出版に関する権利も同一の出版者に預けようとするはずであります。

 また、原稿の執筆を依頼する際などには、出版者が誰よりも先に著作権者と交渉ができますので、出版者は、メガプラットフォーマーに先んじて著作権者との契約交渉を開始できる地位にあります。

 したがいまして、著作権者と出版者との間においてこの法律案を前提にした契約慣行を形成し、出版者に権利を預けてもらうようなことこそが、メガプラットフォーマーによる独占を阻止する唯一の有効な手だてであると考えております。

 第三に、海賊版対策の観点からの意見を申し上げたいと思います。

 審議会では、海賊版対策のためにみなし侵害規定が必要ではないかという議論もございました。私は、この法律案を踏まえて十分に海賊版対策はできると考えています。

 電子書籍に関する出版権の設定を受けることにより、出版者はインターネット上の海賊版対策を行うことができます。

 審議会では、著作権者の側から、出版者が有効な海賊版対策を行うために著作権の一部譲渡を受ける、そういった契約も考えられるではないかというような御意見もありましたし、先ごろの日本文藝家協会の声明発表によりますと、電子書籍時代に対応した出版契約に向けて出版者と話し合いを行いたい、そういう提案も出ておるように聞いております。

 こうした著作権者側の協力を受け、出版者団体と著作権者団体との間で、今後、有効な海賊版対策を行うことができる契約ガイドラインの作成などが行われる結果、あらゆる海賊版に出版者みずからが対応できることになると思います。

 このように、法律案により出版者みずからがインターネット上の海賊版対策を行えるようになるとともに、契約ガイドラインの作成を通じて海賊版への対応も工夫されるようになると考えます。

 最後に改めて意見を申しますと、私は今回の著作権法の改正に賛成でございます。

 最後に一言だけつけ加えさせていただきますと、この議論がスタートした時点では立場の全く異なる方々も多くおいでになった中で、国会議員の先生方のもとで行われた検討とか文化庁の審議会の議論を通じてようやく幅広い関係者が合意できるところまで来たことに感慨深いものを感じますとともに、ネットワーク時代の出版文化、出版産業にとってもこれは重大な意味を持つものと確信しておるところでございます。

 本日は、御清聴いただきましてありがとうございます。(拍手)

小渕委員長 ありがとうございました。

 次に、瀬尾参考人にお願いいたします。

瀬尾参考人 日本写真著作権協会の常務理事をしております、写真家の瀬尾でございます。

 きょうは、このような発言の機会をいただきましたことにまず感謝申し上げます。

 私がまず幾つか申し上げたいことがきょうございますが、まず、権利者として写真家団体から来ておりますけれども、私が申し上げますことは、写真家としての権利者だけではございません。この間、四年、五年、たくさんの権利者団体、さまざまな分野の方たちともお話し合いをし、また、出版さんともお話し合いをいたしました。その結果として、今我々が提案されている条文に対してどのような考えを持っているのか、また、それに付随しまして皆様に一言御説明させていただきたいことをまとめさせていただきました。

 まず最初に、私は写真著作権協会の法人化から十数年、ずっと常務理事をしておりまして、権利者をできるだけまとめて、いろいろなことをしていこうということに努力しておりましたけれども、今、集中処理機構の執行役員、それからクール・ジャパンのプロモーションをする責任者の立場を持って、つまり権利者から発信するところまで、かなり広い範囲でいろいろなものを見せていただいております。その上に立った意見も入っているというふうに御理解ください。

 まず、今回のお話で一番不幸なことは、対立。出版者と著作者が対立している、そしていろいろな利害が対立していて、外国のプラットフォーマーと日本の出版も対立している。非常にわかりやすい二元論で最初から語られてしまったところに私は大きな不幸があったと思います。

 つまり、これは対立するものではなくて、連携していく、どのように協調していくかということが重要なテーマであったにもかかわらず、悪と善のような、または侵攻と防御のような言われ方をしてしまった、ここに一番大きな問題点があるのではないかなというふうに思っております。

 私は、たとえ外国のプラットフォーマーであっても、これからは融和をする時代に入ってきていると思いますし、例えば、ウィンドウズのパソコンそれからマッキントッシュのパソコンを使わずしてどのパソコンが今日本で動いているのか。でも、そのパソコンが動いていても、日本はきちんと日本の文化をつくり、そして新しい次の未来へも進もうとしています。そういうことは融合だと思います。

 ですので、そういった二元論ではなくて、私は、どのように協調して、どのように連携しながら日本の文化を発信していかれるのか、よりよい日本文化をつくっていくのかということが主眼ではないかなというふうに考えております。

 次に、具体的なお話として、この条文ですが、私、非常に最初のころ、三省デジ懇と呼ばれた三省合同の懇談会から隣接権ということが提案されて以来、文化庁で電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会、これが十四回、それからさらにその後、平成二十五年からは審議会の著作権分科会出版関連小委員会で九回、非常に精力的に関係の皆さんと一緒に議論させていただいたと思っております。

 正直申し上げますと、権利者として、もしくは著作者として、出版者と利害が相反する部分があることは確かでございます。ただ、出版者と著作者はパートナーであるということもまた真理でございます。つまり、どこを譲り合うかということが今回の焦点でした。

 そして、それについて非常に非常に細やかでかつデリケートな問題を、この四、五年、本当に鋭意お話し合いをさせていただいたと思います。また、それは誠意を持ってさせていただいたとここで申し上げてよろしいかと思います。

 ただ、その結果としまして今回条文が出てまいりましたけれども、この条文で全ての出版物をカバーできるような契約が可能になるというふうなことは、法律によってではなくて、当事者同士の信頼関係に基づいた細かな調整によって成るものだというふうに思っています。

 つまり、全てを法律で担保して、全部安心感でリスクテークを全くしない契約というのはあり得ないですし、例えば、今回の議論の中でよくわかってきたことの一つに、出版物についても各分野で大変違います。

 例えば写真。写真というのは、全面にしてしまえば、それは版も何もございません。ただ一枚の写真です。ただ、一ページの文書をつくるためには、構成者、著作者が何度も何度も、それこそ夜を徹してつくり上げるような一ページもございます。例えば漫画のように、著作者が、こま割り、いわゆる画面全てにまで描いてしまうようなつくり方をするものもあれば、そうではないものもある。

 その多様な出版物に対して、では一本の法律でいけるのかといったときには、やはりそうではなくて、大枠は法律に基づきますし、出版権を設定しましょう、ただし、その細部に至っては、個々で、これは力関係もございますし、強い著作者、弱い著作者、たくさんいろいろございます。その中できちんとお互いの信頼関係で細かく詰めることで、初めて両方が納得できる状態で物をつくり出せるというふうに考えております。

 ですので、今回は、どこまでを大枠とするのかということで話し合いを行ってきました。そして、その微妙な微妙な部分の一番大きいコンセンサスとしてできたのが今回の条文だというふうに私は考えております。

 そういうこともございまして、このプロセスによって生まれた今回の条文というのを、私としては、できるだけ速やかにこれを骨子として、第一歩として成立をお願いしたいというふうに思います。

 ただ、あともう一つ申し上げたいことは、この電子書籍の立法は第一関門であって、これが目的ではないと思っております。

 それは何かというと、電子書籍の流通というのが最初に言われたときに、いかに日本で電子書籍を流通させて世界に発信するかということを検討した上で、その最初の一番目として出てきたのが、まずはこの権利が必要であるという議論だったというふうに伺っております。

 そのような中で実際に私が思いますのは、やはり今の日本の立場で考えますと、これはちょっと今回の電子書籍の趣旨から外れますが、電子出版の権利創設は、ナショナルアーカイブ、それから、孤児作品の資料をきょうつけさせていただきました、まさにこれを今喫緊の課題として日本が施策としてやっていくことで、文化政策でもあり経済政策でもあるそこに入れる、いわゆる本丸に入れるというふうに考えております。

 ヨーロッパもアメリカもこの問題に取り組んでいます。そして、その中で非常に強いリードを今受けております。いち早く日本もこの問題を端緒として、そのナショナルアーカイブをどのように使っていって流通させるのか。

 それともう一つ、それこそコンテンツの埋蔵金と言って申し過ぎではないと思いますが、著作者不明の著作物が五割とも六割ともあると言われています。これは使えないまま眠っているわけです。これをきちんと流通させて発信する、それが、日本の文化、ひいては経済政策、全てにとって私は重要な問題であるというふうに考えております。そのためにまずここを通らなければいけないということがあるというふうに考えております。

 最後に一つだけつけ加えさせていただきますと、今お話ししているのは、今政府で行っていらっしゃるクール・ジャパン政策、ジャパン・ブランド、日本がいかにアジア、世界にコンテンツを皮切りにして、そしていろいろな流通を図り、この前、知財が過去最高を更新したという輸入の報道もございましたけれども、もっともっと日本は世界に発信して、経済的にもコンテンツを利用していくべきではないかなというふうに考えております。

 そのような大きい施策を後ろに控え、ここの電子出版権をまず御審議いただいて、一刻も早く、日本の文化、そして知財、コンテンツが海外にも評価され、国内でもちゃんと流通し、かつ、豊かな創作を生む創作者たちが自由に物をつくれるような時代を迎えていただきたいというふうに考えます。

 このことについてぜひ御審議いただき、前向きにかつ喫緊な課題として御検討いただければというふうに思います。

 以上でございます。(拍手)

小渕委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々からの意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

小渕委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。馳浩君。

馳委員 自由民主党の馳浩です。

 きょうはお三方にお忙しいところお出ましいただきましたこと、まず御礼申し上げます。ありがとうございます。

 また、きょうの質疑、またあさっての質疑もございまして、ここに至るにもう三年近く、特に中川正春先生には、勉強会の開催また論点整理等、大変御指導いただきましたことに改めて御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 では質問させていただきますが、まず、出版者代表の相賀参考人にお伺いいたします。

 さあ、いよいよこうして法的に海賊版対策もできるようになる、そして我が国の出版者も参加をするとなると、やはり、今までの皆さん方が努力をして育成をしてきた新人の発掘、あるいは辞書の作成、こういったことに、これまでのシステムとこれからと大きな影響が出てくるのではないのかというふうに思われます。

 しかし、情報通信機器等がこうして発達してきた現代においては、それを踏まえた出版者としての事業展開も必要です。そういうことを覚悟しておられるとは思いますが、特に、文芸的な登竜門として各出版社がいろいろな新人賞を設けたりして頑張っておられますが、これは、一気に電子書籍が流通するに当たってそのプロセスがないがしろになってしまうんじゃないかという心配があります。こういう率直な問題についてどういうふうにお考えか、お答えいただきたいと思います。

相賀参考人 馳先生の御質問のうち、今後、出版者としては、新たな条文の中でデジタルが出版権の中に入るということでどのように変わるかというふうにまず考えているわけですけれども、今までは、著作権者との間には紙の出版権ということがまずありました。ほとんどの、約七〇%以上の出版者は、今まで紙の出版という契約をしておりましたけれども、さらにその中で八割以上が、著作権者との間には、出版権登録という形ができる権利をとっております。

 ただ、現実には登録制度というものは、実は登録費用が三万円なので、それで一々払っていると大変だということで、もし登録が必要な事態が起きれば登録しますよという形で著作者の間には契約書がなされております。これは日本書籍出版協会のひな形ですので、個々の契約書の内容は全部見ることはできませんので大づかみな話なんですけれども、今後デジタルになると、その契約がさらに必要になってきます。

 そうしますと、もう一度、登録制度自体の見直しがまず必要で、それに対して出版界はこれから努力しなきゃいけないだろう。必ず紙と同時にデジタルの契約を結び、その可能性について、あらゆる可能性をこれから考えていくべきだと思います。

 特にデジタルの場合は、今までの紙と違って、目が見えない人、視覚障害者は三十万人おります。それから、脳機能障害で、例えばディスレクシアのように、文字が難読でできない、こういった方々も含めた、今までの紙というだけではなくて、もっと概念あるいは知的な刺激を与える内容のものを、あらゆるメディアを通じてあらゆる人に提供するためにこのデジタルが非常に役に立つというときに、この登録制度がいかにあるべきか。

 さらにその登録制度の幾つかの問題点を申し上げますと、実は、登録するとどうしてもオープンなものになりますので、著者の本名あるいは出版者のいわゆる著作権料の内実、これもオープンになるとちょっとまずいなと。この辺の、どこまで開示できるのかといった話し合いも含めて、これについては早急にぜひ皆様方の、文化庁並びに政治家の方々の力をかりて、国際的にも通用するものをつくっていきたいと思っております。

 ただ、おっしゃるように、仕事の仕方としては、やはりいろいろなプラットフォーマーとも手を組みながらさまざまな展開が可能になったということで、これは、やはり小さな出版者の場合、その経験が足りません。ですので、そういう今までやったことのない出版者を今度は少し援助する、それを助ける組織もつくらなきゃいけないということで、出版デジタル機構というものをそれにできるように今つくりつつあるところですが、まだちょっと足りないかなと。

 それと、これは馳先生から早くつくれと言われたことなのでつけ加えますけれども、出版ADR、済みません、すぐつくると言いながら、ずっとばたばたしていて二カ月ぐらいおくれちゃっていて、僕は、本当にここに立っていて済みませんという感じなんですけれども、御存じのように、各業界にあるADR、オルタナティブ・ディスピュート・リゾリューションという、いわゆる裁判外紛争解決手続というふうに言われているような、つまり、裁判に一々出していたらとてもみんなお金がないので大変だ、特に、弱い立場の執筆者あるいは弱い立場の出版者もやはりあるわけなので、そういう人たちが、これは困ったな、あるいは、契約を結ぶときになかなかわからないまま契約をしてしまったとか、あるいは、契約の後にちょっとトラブルが起きたというときに、一々裁判にはかけられませんので、そういった方々の駆け込み寺、ちょっとした問題については過去の事例を紹介する、あるいはさらに、弁護士が必要なときには、本当に安い、安いと言うと失礼ですけれども、五千円とか一万円ぐらいの値段で十分に相談に乗ってもらえる、こういった組織を今準備中です。

 大変おくれていて申しわけないと思っているんですけれども、既に代表理事、副代表理事までは内諾をいただいていますが、これは組織ですので人名はここでは控えさせていただきますけれども、もう近々立ち上げるべく準備しておりますので、その辺も対応していきたいと思っております。

 お答えになっていますかどうか。

馳委員 次に瀬尾参考人にお伺いしたいと思います。

 契約のガイドラインが必要だということは土肥参考人もおっしゃっていただきましたが、著作権者と出版者というと、どちらかというと、やはり会社の方が優越的な地位を持って圧力をかけてくるのではないだろうかというふうなおそれがある中で、今、相賀参考人もおっしゃいました出版ADR、この存在は今後なくてはならないし、そして、海外とのやりとりということも含めてここが整備されていかなければいけないと思います。

 きょうは、写真家協会というよりも著作者側の代表として、自分たちの権利を守り、そして、よいパートナーシップを出版者側と結ぶためにどのような出版ADRを望んでいるのか、このこともお伺いしたいと思います。

瀬尾参考人 出版に関するADRにかかわらず、著作権全般につきまして、実は、頻繁かつ軽微な利用というのは大変多うございます。それについて、逆に侵害を誘発するような状況もございます。その中で、やはり裁判所にいきなり行かずに解決できる方法としてADRは大変有効ですし、もっと浸透すべきものではないかなというふうに思っております。

 ただし、ADRであっても、紛争は紛争でございます。その前に契約できちんと形がつくことが望ましいと思っていますが、日本での契約慣行の中で、フェアな契約というよりは、やはり、先ほど馳先生のおっしゃった力関係による優劣が出てしまう。これは、実は非常に権者側としては問題にしております。例えば、著作権譲渡を迫る、それを全てよこさない限り発注をしないという契約が実はございます。

 このようなことは、結局、創作者を摘んで、回り回って自分の首を絞めると私は思いますけれども、こういうふうな慣行を直していくためのガイドラインを個人ではつくりがたいものがございますから、団体の中で、そして、またそれを公表してフェアな契約慣行が根づくように、ただし、出版さんも欲しいところがある、著作者も不安なところがあるとしても、出版さんが欲しい部分を何でもかんでも嫌だというようなことは、もう著作者でも言わなくなってきています。一部分きちんと出版さんの言うことにも譲りましょうということも来ていますので、その辺についてのガイドラインはぜひ早急に出版さんと権利者団体の間で確立したいし、その後のADRにつきましては、複数あってよろしいと思います。

 つまり、現在、知財関係のADRが私の記憶によりますと二つございますけれども、そのほかに出版さんのADRもあっていいでしょうし、たくさんのADRがあり、もし一カ所で決まらなければ次へ行くこともあり得るような、多面的な解決をするADRであるべきではないかなというふうに思っております。

 そうしませんと、母体とかメンバーによって一度外れたものがそこで決まってしまうのではなくて、いわゆるお医者さんのセカンドオピニオンのような部分での、融通性があるADRというのを私は望ましいというふうに考えております。

 ただ、どちらにいたしましても、ガイドラインとADRに関しましては、これは出版さんと一体になってできるだけ早く実現すべきもので、それがあって初めて今回の権利も生きるというふうに考えております。

 以上です。

馳委員 そうなると、最後に土肥参考人にお伺いいたしますが、今回の著作権法を改正した次に視野に入れるのが、ナショナルアーカイブの整備であります。

 我が国の知的財産をいかに創造し、そして世界に発信をし、たくさんの方に利用していただいて我が国の文化力を高めていくか。と同時に、それによって我が国のやはり経済的優位性も、そういった分野からも考慮に入れるのは私は必要だと思っているんですよ。

 そう考えると、いわゆる出版権登録制度、これをどのように今後整備していったらいいのかという大きな話が一つと、済みません、ちょっと小さい話になるかもしれませんが、価格の設定なんですね。これはアーカイブの件とちょっと別な話です。

 出版者側が紙の出版で出版する本の価格と、同じものを電子出版するときの価格と余り差が開くようなことがあっては、それはちょっとそもそも違うんじゃないのかな。ある程度のそこら辺の価格の設定ということには、これは著作者側もそして出版者側も、より話し合いを詰めて、合意の上で設定していくべきだと思っているんですよ。

 この点についての、価格設定の見識の部分と、その前の大きな意味でのナショナルアーカイブに向けての出版権登録制度、この二点お伺いして、私の質問を終わります。

土肥参考人 御質問ありがとうございました。

 まず一点目、ナショナルアーカイブの設立ということでございます。

 もちろん、このナショナルアーカイブの設立というのは、重要な国のソフトローのパワーを示すものになろうと思いますので、極めて肝要なものと思うわけであります。問題はやはり、それを進めるべく必要な財源、マンパワー、こういうものをどうするかということだと思います。

 したがって、かつて国会図書館でPDFファイルにした、ああいう機会が継続的にあるということは望ましいことだと思っているんですけれども、やはりそこは国の予算、財源の問題がございましょうから、全て財源の問題として片づけるわけにはいかない。

 その場合、著作権法として出ていくこととしては、格別的な著作権法上の手当てをしていくことが必要なのではないか、そのあたりを詰めていく必要があるというふうに思います。

 これを進める場合、大体、ヨーロッパというのは公的な団体がそれを進めているというふうに承知をしておりますし、他方、アメリカでは私的な組織がこれを進めているというふうに思っています。我が国は、これをうまく中庸的な形で両方ともうまく使っていって、ナショナルアーカイブとか、さまざまな資源、文化資源、伝統資源のアーカイブをつくっていく必要があろうというふうに思います。

 著作権法としては、オーファン、孤児著作物の取り扱いの問題というのが現在視野に入っておりまして、法制小委あたりでもその議論の一端を検討しておるところでございますので、また今後そういうお話がこういう場に出てくることもあるのではないかと思います。

 それから価格ですけれども、価格の設定というのは、少なくとも現在、独禁法上再販の指定を受けているのは、書籍、雑誌、新聞、こういうものになっていると思います。これは基本的に有体物でございますから、北海道、九州、東京、そういう地理的な障壁を越えて、均一の価格でもって、同じ文化あるいは情報、こういったものを国民皆ひとしく享受すべく、その観点から決められているんだろうと思うんですけれども、ネットの場合は、これは障壁を越えます。地理的な障壁を越えるところがございますので、価格の問題は、やはりそういうところに頼ることはできないというふうに思います。

 したがって、やはり出版者と著作者と、成熟した契約慣行の中でおのずと決まっていくことに期待をするというのが御質問に対する私の答えにならざるを得ないんですけれども、よろしゅうございますか。

馳委員 ありがとうございました。終わります。

小渕委員長 次に、笠浩史君。

笠委員 民主党の笠浩史でございます。

 きょうは、相賀参考人、また土肥参考人、瀬尾参考人、本当にお忙しい中、当委員会においでをいただき、また貴重な、本当に示唆に富んだ御意見をいただきましたことに心から感謝を申し上げたいと思います。

 時間も限られておりますので、幾つかちょっと端的にお伺いをしたいんですが、まず相賀参考人の方に、やはり今回、電子書籍、電子出版というものに対応できる大きな第一歩を踏み出したというふうに私も認識をしております。ただ、その中でデジタル海賊版というものにどのように対抗していくのかという、先ほど御指摘があった今後の課題というものがやはり幾つかあるんだというふうに考えております。

 相賀参考人の方も、このための方法あるいは法的根拠が示されるということが今後必要だろうというようなお話をいただきましたが、少し具体的に、こういった点を次のステップとして考えていくべきじゃないかというようなことがございましたら、お話をまずいただきたいと思います。

相賀参考人 海賊版については、例えば、雑誌の一部を勝手にデジタル版に載せているときに、その時点では雑誌の執筆者と出版者の間に契約書が普通はないんですね。ですので、明らかに本からとられているよねというときには、みなし侵害規定というものがあったらどんなにいいだろうということを私どもは言っておりましたし、また、みなし侵害規定にかわるようなものを何らかの形で、法案あるいは制度をお示しいただきたいということを申し上げておりました。

 一つだけ、可能性としては、非常に海賊版が出るということは、それ自体が物すごく売れている作品が往々にして多うございます。ですので、その作家と話し合って、雑誌の掲載に限り特別に、いわゆる著作権上、デジタル版についての契約を結ばせてくださいというような、まだそういう経験はないんですけれども、そういうような契約を、つまり、信託的譲渡であり、また一定期間内に限るというようなやり方で、まさに著作者と一緒になって対応するということが今可能な一つの方法かなと思っております。

 ただ、もしそれが物すごくふえたときに果たしてそういうことができるのかということで、今後もそのような部分に対して何らかの法的措置が、今回はなかなか全部はできなかったと思うんですけれども、将来にわたって引き続き御検討いただきたいというのが私どもの考えであります。

 それでよろしいでしょうか。

笠委員 今ちょっと雑誌のお話がありましたので、少しお伺いをしたいんです。

 今でも、著作権者と出版権者、契約を結ぼうと思えば結べるわけですけれども、現実には今そういう状況にはないということでございますが、ただ、今後はそういったことをいずれやはり考えていかないといけないということで、逆に瀬尾参考人のお立場からちょっと伺いたいんです。

 この雑誌に係る著作物について、今回法案が改正をされることで、今後、その契約を結んでいく必要性、あるいは、それが促進をされるというふうにお考えか、その辺のところを伺わせていただきたいと思います。

瀬尾参考人 今の雑誌についての海賊版の問題でございます。

 まず最初に、海賊版に対しての知見をちょっと申し上げますと、実は、海賊版というのは、法律だけで取り締まって全くなくなるという性質のものではないということをまず念頭にお置きいただきたい。

 私がクール・ジャパンのプロモーションをしている中で、アニメとかテレビ番組等は非常に海賊版が多くて、やはり問題となっております。それにも対応することをいろいろ手を打っておりますが、単純に法的な権利が存在することのみによって海賊版というのは取り締まれるものではなく、一つの方法として今有効な方法は、許諾をしていくこと。逆に許諾をすることとそして取り締まることがセットで初めて効果が出るというふうにほかの分野ではほぼセオリー化してきているという状況を、まずお話しさせていただきます。

 その上で、今、雑誌についてなんですけれども、雑誌については雑誌協会さんというところがございまして、日本文藝家協会さんと日本写真著作権協会そして雑誌協会によって、数年前になりますか、雑誌の契約に関するガイドラインというのを、多分、権利者側と出版者側で初めてガイドラインをつくって公表しております。今でもそれぞれのホームページでごらんいただけますが、その中には、信託的譲渡をするということも踏み込んでございます。

 つまり、先ほど申し上げましたように、契約に関して、我々が全ての権利を保持することだけでなく、我々の欲しいところは残し、そして、出版者さんが必要である部分はきちんとそういう処理をして契約をすべしということをガイドラインとして定着させております。これを発展させて、より深い契約もしくは出版権設定のような契約も雑誌について行っていけば、少なくとも今出版者さんがお望みのような部分に関しては実現ができるし、海賊版対策も可能であろう。

 ただ、繰り返しますが、それだけで海賊版はなくならない。その上にどうするのか。官民、それから、国と国の間できちんとした取り組みをしていかないと海賊版はなくならないというふうに私は考えております。ただ、国内の雑誌についてはまさに進めていきたいし、進めているというところであるというふうにお話しさせていただきます。

 以上です。

笠委員 関連して、土肥参考人にもお伺いをしたいんですが、これは雑誌ということだけでなく、海賊版対策、やはり今後本当に重要な柱で、次我々がやるべきその課題というものをちょっと具体的にお話しいただくのと、あと、その中でも、先ほど相賀参考人からもありました、今回もみなし侵害規定というものが検討されました。ただ、きょう午前中の文化庁の答弁でも、この法的なハードルが今なかなか高いんだというような答弁もございました。その点をこれからどういうふうに乗り越えていくのか、また、具体的にどういうような形で我々が取り組んでいけばいいのかという御示唆があれば、土肥参考人の方からお願いをしたいと思います。

土肥参考人 御質問ありがとうございました。

 二点御質問を頂戴いたしました。

 一つは、海賊版対策、これを雑誌だけではなく、一般的に広く実効的な海賊版対策ができないのかどうか、こういうことであろうと存じます。

 これは、ネットの海賊版対策というのは、いわゆる一対一で、原告が被告に対して一つ一つ潰していくということは非常に無理でございます。リアルワールドの中の特許侵害とか、ちょっとそういうような話ではないものですから、そうすると、個人が個人を捕まえてということも必要ではあるんですけれども、これに全てを頼ることはできないように思っています。

 プレーヤーとしては、当然出版権が設定されるわけでありますから出版権者は海賊版対策をとるべき重要な当事者となると思いますし、著作権者も同様であります。

 それから、さらに、海賊版というのは、基本的には、ネットの上のどこかの、例えば掲示板とかそういう場で行われるわけであります。そういう場を提供している者は、これは自分は知らないというふうに言っていいのかというふうにも思っています。

 つまり、確かに、いわゆる導管というんですか、情報を通す導管としての役割をプロバイダーはやっているというふうに考えるのも、プロバイダーの種類の中にはあろうと思いますけれども、事雑誌とかあるいは書籍の海賊版に関するそういうプロバイダーが今やっていることについて、これは自分たちとは関係のない第三者がやっているんだというふうに言うことはできない。そこにはやはり何らかの形で協力する責任があるんではないかと思います。つまり、当事者がそれぞれ努力をしていって海賊版、海賊行為というものは減らす必要があるというふうに思います。

 それから、国も要するに、別の話になりますけれども、昭和九年に不正競争防止法ができて、最初の判決が出たのが三十年ぐらいなんですけれども、その間、日本には不正競争に関する判例は全くありません。それは、不正競争が一切なかったかというと、当然ないはずがないわけであります。それは余りにも問題があったので、個人が個人を潰すということがなかなかできない。国のレベルになるんですね。

 つまり、今現在ネットの上で行われていることは、個人というよりも、先ほどいろいろ御紹介があるんだろうと思いますけれども、国がいろいろなミッションをつくって、関係国と国のレベルでやるべきこともある。だから、国、出版者、著作権者、関係プロバイダー、こういったものが一体となって海賊行為というのをやめさせる。やめさせた上で、ネットという場を、トランスペアレンシーといいますか、透明性のある、そういうマーケットにすべきである。そこに電子書籍の市場も成立していくのではないかと思っております。

 それからもう一点ですけれども、みなし侵害の問題でありますけれども、これは、現在著作権法百十三条というところにみなし侵害の規定があるんですけれども、あの規定をごらんいただくとわかるんですが、基本的に輸入とか所持が侵害としてみなされています。

 釈迦に説法で恐縮なんですけれども、黒いものを白と言うというのがみなしになるわけです。黒いものを黒と言うのは、みなしには基本的にはなりません。だから、所持とか輸入という支分権該当行為でない、つまり、本来著作権侵害行為でないものを侵害と言うというのがみなし侵害の基本、百十三条の基本にあるわけであります。

 今般のお話というのは、送信可能化行為というものを出版権者の本来持っている複製権の侵害とみなす。もともと複製権は侵害だし、送信可能化行為も侵害なんですね。だから、そういうみなし侵害規定を使って今回の海賊版に対する一つの制度として入れるということは、極めてハードルが高いというのはそこにあるわけであります。だから、黒いものを黒というふうに言うことは少し難しいというのが審議会における議論でございました。

笠委員 最後に、相賀参考人に一点だけお伺いをしたいと思うんです。

 先ほど土肥参考人からも、例えば純粋プラットフォーマーに対するいろいろなおそれ、危惧、ただそれは、そこがお金を持っているんだから、出版社を買収すればそれはもう防ぎようがないというようなお話もありました。もちろんこれから出版権者と著作権者の揺るぎない信頼関係をつくっていくことが非常に大事だと思うんですけれども、その点に対する危惧と、あと、特に中小の出版社の方々は心配されているんですね。そこに対して先ほど何らかの助けていくような仕組みというようなお話もありましたけれども、その点を改めて少し具体的にお伺いして、私の最後の質問にしたいと思います。

相賀参考人 ありがとうございます。

 一つは、そういう大きなプラットフォーマーあるいは通信業者、こういったものが出版社をつくって入る可能性は十分にあります。それは我々は自由な競争だと思っておりますし、それに勝つためにも我々はしっかりとした契約を結んでいくということを先ほど申し上げました。

 ただ、もう一つは、とはいっても、予想を超えるようなそういう動きが十分考えられる。そこで今考えているのは、もし私が相手の会社というか予想されるような立場だったらどういうことをやるのか、それに対して我々はどういう防衛を今から手を打つべきかということも、専門家の、いわゆる弁護士さんの力もかりて考えております。今ここではまだ言えないんですけれども、どういう対応策があるのかということを今からも勉強して、何らかの対応策を業界としても考えていきたいと思います。

 それから、非常に力が弱い出版社、特に、今までデジタルをつくったことがない編集者にとって、デジタルの契約を結べよといってもどうしたらいいのかわからない。そういうときに何らかの形で、手とり足とりと言うと失礼ですけれども、相談に乗って、こういうふうにしましょう、しかも、そのデータは我々のコントロールできるサーバーに預けておけばしかるべくちゃんと管理されますよというような受け皿、これを、具体的に言えば出版デジタル機構の周辺にぶら下げた形でつくりたいなということで今検討しております。具体的にはそこまでやってございます。

 どうもありがとうございました。

笠委員 どうもありがとうございました。終わります。

小渕委員長 次に、鈴木望君。

鈴木(望)委員 日本維新の会の鈴木望と申します。

 きょうは、著作権法の一部改正の審議ということで、相賀参考人、土肥参考人、瀬尾参考人のお三方にお忙しい時間を割いていただきましておいでいただきまして、まことにありがとうございます。

 それでは早速、いろいろ陳述された事柄につきまして、ちょっと離れるかもわかりませんが、さきの二人の委員が事細かに質問されましたので、もっと大きな観点で質問させていただければというふうに思います。

 今回の著作権法の一部改正法案を私ども審議する過程の中で、いわゆる著作、当然、一つの価値あるものが生み出される、そういう意味で著作権というのは非常に重要なんですが、それを生み出すために、こういったことを考えてみたらどうか、今、世の中の耳目はこういった方向に関心が向かっているよという意味のものも含めた企画。また、それに基づいて出されてきた原型案なるものを、いろいろと意見を言って、より価値のある創作物にしていく編集権、編集者の役割。また、一応でき上がったものが本当に世の中の客観的な評価にたえ得るのか、他人の既にできている著作物を盗用しているんじゃないのかどうかという意味までも含めた校閲。そういったものがいかに大事なのかということを非常に私ども痛感させていただいたところでございます。校閲につきましても、そういったことがきっちりなされていれば、あるいは小保方さんのような事件というのは生まれなかったのかなという感じもしないでもありません。

 そういう意味で、企画、編集、校閲という出版権の中核的なものを、今後とも、時代はデジタル時代とかといろいろあるんでしょうけれども、そういったものをいろいろな時代の変化がある中でずっと守り通していく、そのためにはどういうことに注意してやっていけばいいんだろうか。そこら辺について、相賀参考人と土肥参考人に、もし御意見がありましたらお伺いをさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

相賀参考人 ありがとうございます。

 ちょっと質問の順番が変わるかもしれませんが、編集者にとって一つ重要なのは、作家あるいは執筆者がつくった文章を、一つはやはり大勢の人が読みやすいように変えていく。やはりおもしろくなければ人は読まない。おもしろさというのは、別に簡単なものにとか笑うものじゃなくて、知的刺激を与えられるような文章に、余りにも専門的なものは読めないわけですから、それをより多くの人に手渡すための作業があります。

 もう一つは、やはり明らかな間違いを直さなきゃいけない。それは、字の間違い以外に、校閲として、明らかな知識の間違いに手を入れていかなきゃいけない。それが本当に合っているかどうかも誰もわからないんですけれども。そういう意味では、デジタル時代は非常に校閲には恵まれた環境ですが、それに、いわゆるただの変換ミスというものが同時にふえておりまして、それだけ、機械に頼らずにやはり人間の今までの経験で直す部分も格段にふえているということで、編集者の役割はますます重要になってくると私どもは思っております。

 それと、大学等にはコピーを検索する、いわゆるスペルチェックというようなものが日本語版でも徐々に今普及しておりまして、まだまだレベルは低いんですけれども、これの将来性は大変大きなものがあると思います。

 デジタルが進むことによって、出版のより可能性としては、単純にいえば、高齢化社会の中において、大きな字になる、いわゆる版面がそのままの形でそのまま読めるのも大事なんですけれども、目がちょっと弱い、そういう人は大きな字に変えられる。それともう一つは、非常にいわゆる多言語化が進む中で、さまざまな言語に翻訳も進んでくる。ちょっとしたことが翻訳で読める。さらに、子供向けにルビを全部つけることもできますし、音声化もできます。

 そういったあらゆる可能性が今度デジタルによって開かれる、これは出版者にとって大きな可能性が広がると私どもは考えております。

 以上です。ありがとうございます。

土肥参考人 御質問ありがとうございました。

 私は、編集、校正、従来の紙で行われておったようなああいう作業がますます重要になるのではないかというふうに思っています。

 いわゆるデジタル社会、ネットワーク社会というのは、ある意味非常に透明性が高い社会、環境になりますので、ある出版者の出すものの質、これが非常に問われることにもなりますし、さまざまなそういう比較サイトみたいなものがたくさんネットの上にはございます。ああいう、さまざまな事業者が提供するサービスとか、有体物でも結構なんですけれども、さまざまなものを的確に長所短所を比較しながら購買者に対して情報を提供する、こういうことにこれからはますますなるわけでありますから、出版者の提供する電子書籍の質というものがさらに問われていくことになるんだろうと思います。

 ですから、編集という作業、校正という作業というのは、従来以上に私は大事なものになってくるように考えております。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 企画、編集、校閲という今まで出版業務が持ってきたものが今後はますます重要になってくるというお二方の御意見でございました。ありがとうございます。

 そういったものを受けて、瀬尾参考人にお尋ねをしたいなというふうに思うんです。

 やはり、第一に考えるのは、さはさりながら、企画、編集、校閲というような一連の行為というのは非常に重要であるというのは明確になったわけですけれども、やはりどう考えても、一番の重要な御本人は著作者だろうというふうに思うわけであります。こういう複雑な時代の中で、いかにそこら辺の折り合いを保っていくのか。

 また後で新しい時代に対応した契約のあり方についてどのようなお考えを持っておられるのかもお聞きしたいと思いますが、まずは、企画、編集、校閲、それと著作者の権利をどうやってうまくマッチさせていくのかについて、御意見がありましたらお聞かせいただきたいと思います。

瀬尾参考人 今の御質問でございますけれども、日本の編集というのは非常に高い技術というか非常に重要なポジションを持っていて、著作に対して非常に重要なパーツである、これはもう論をまたないというふうに思います。

 ただ、実は、出版者と著作者というのは、優位である部分がそれぞれあって、非常に微妙な関係にございます。

 といいますのは、例えば著作権において言いますと、著作者があっての出版物。その場合には、編集がございますが、そちらが従になりますけれども、でも一方で、著作者は出版者がいないと出版ができないんですね。つまり、経済的利益を出版者に頼っている場合が多い。経済的に考えますと、著作者よりも出版者の方が優位であるというふうに言えます。

 このように、お互いが高低を持ち合いながら、お互いを認め合ってしているのが現在の状況にあるんですけれども、ただ、今ちょっと正直その間に溝ができてしまっているために契約がうまく進んでいない部分があるんですね。契約自体は行われているんですけれども、その契約に不満がある著作者もございますし、不満がある出版者もいらっしゃるという状況の中で、やはり、この二つを一体にしてやっていくためには、個人、個者というのは難しいと私は思うんです。

 つまり、個人の著作者が、いやいやこの契約はちょっと厳しいからもっと優位にしてくださいと言うと、そういうところには出しませんよということもあり得ますし、逆にまた、あんたのところになんかに出版させないとか、そういうふうなことになってきてしまうということがあるような気がするんですね。

 ここでは、団体の中できちんとフェアな契約というのが日本では非常に難しい。つまり、公正である、社会的にこれぐらいはきちんとすべしである、それが著作者のわがままでもなく出版者のエゴでもないところで決まっていくものを、これから団体の役目として決めていくべきであろうというふうに思います。

 ただ、団体というのがそのような形でやったとしても強制力はございませんから、自由契約になるので、こういう考え方自体を広めることが実はガイドラインをつくる上でももっともっと重要なのかなと思いますが、何にしましても、日本という、これまでなあと言えばおうと言う持ち合い方が、契約というお互いの権利、状況をきちんと担保するようなものに移行していく、電子はそういうきっかけになっているのではないかなというふうに思います。それを強く進めていきたいというふうにも考えます。

 以上です。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

 今の瀬尾参考人の御意見も含めて考えてみますと、これからは、契約というもののあり方、また、契約をどういうふうに位置づけていくのかというのが非常に重要になってくるのかなという感じを受けるわけでございます。

 特に、第一出版権、第二出版権、しかも相手が、今までどちらかというと出版業界と著作者という関係から、もう一歩進んでプラットフォーマーが出てきて、プラットフォーマーはどちらかというと国内じゃなくて国外の世界で活躍をしている事業者ということになってくると、契約のあり方、また、これがいい契約だということが一つあったとしても、それが標準化されていないと困る。

 また、第一出版権、第二出版権の両方をやるのか、組み合わせでやるのか、片っ方でやるのかというようないろいろな場合において、あるべき契約の標準タイプみたいなものも今後つくっていかにゃいかぬというようなことで、そのような事態に対して今後きちんと対応していくということが、この著作権法がスムーズに生かされていくのかどうかの鍵を握っているような感じもするわけです。

 今後の契約の一般化といいますか標準化といいますか、一番大事なのは著作権者であるというふうに、これはお三方どなたも認めるところだと思いますけれども、そういう中で今後どういうふうな努力をしていけばいいのか。お三方、相賀参考人、土肥参考人、瀬尾参考人に御質問させていただきまして、私の質問を終わりにしたいと思います。よろしくお願いします。

相賀参考人 鈴木先生、ありがとうございます。

 先ほどどこかでお話が出ていたと思いますが、今、日本文藝家協会と私ども出版業界で一緒に新たな契約書のひな形、必ずしも同じものじゃないと思うんですけれども、ひな形というのは一つのモデルでして、何パターンかつくらざるを得ないと思うんですけれども、これを進めておりますので、まずこれが一つ。

 それからもう一つは、現在は何となく日本国内でのみの契約というのが頭に浮かぶんですけれども、実は海外で英語版が勝手に出されるときがあります。そのときに、明らかに英語版は別な言語ですので、その契約がされていないと我々は何にもできません。しかも、それがデジタルで出された場合は非常にもう手が出ないということになりますので、一つの可能性としては、例えば、私は海外でも幾つか会社をやっているんですけれども、そういうところでデジタルファーストという言葉がありまして、紙の本にするとお金がかかるので、日本語でも英語でもデジタル上にまず一応出して、それで権利をある程度押さえながらその後に日本語版を出すというような今までと違う発想、これもこれからは必要なのかなと思います。これはまだ今後検討していきたいと思っております。

 どうもいろいろとありがとうございます。

土肥参考人 質問をありがとうございました。

 契約をするというのは、本来個別的な話だろうと思っています。モデル契約案、ひな形、こういったものをつくる場合に注意をしてほしいなと思っているのは、どうしても、出版者なら出版者、それから著作者なら著作者の団体の中で意見統一、意思統一をするということになると、下でなかなかまとまらないで上でまとまるというか、つまり、例えば出版者でいうと、出版者全体の合意がどうしても出版者の側に有利になる、そういう方向で固まる可能性は、やはり世の常としてさまざまな場面における意思決定において起こるわけです。その逆の場面も同じでありまして、著作者の場合も、著作者の団体が意思統一をするとなるとやはりそちらの方に偏った形でのものになってくる。

 これを避けるためには、やはりいろいろなものを、つまり、標準というものができるだけたくさんあっていいんじゃないかと思っています。つまり、いろいろあるものの中から選べるような、そういうことをつくってもらうと同時に、そのことをきちんと周知していただく、特にクリエーターの方においては。

 それで、具体の契約において、先ほど冒頭申し上げましたように、本来契約というのは個別的なものである。著作物は違う、期間は違う、それからクリエーターも違う、出版社もいろいろ違うわけですから、そういうものに対応するような形にしていただければな、こういうふうに期待をしております。

 以上でございます。

瀬尾参考人 契約についてですけれども、実はガイドライン等をつくってフェアな契約を進めるということは非常に重要なことで、まず第一番でございます。ただ、だからといってそれを使われるかというと、それが使われるところには直結しません。

 それではどういうことが必要かというと、現場の編集者、それから現場の著作者、そして社会の中でも、余りに不平等でエゴイスティックな契約はいけないんじゃないか、公正取引委員会さんにかかるまではないんだけれども、いかにもアンフェアじゃないかという契約についてはやはりよくない契約であるとする社会的な風潮というか浸透、その知識や何かがきちんと浸透していなければいけないと思いますので、まずそのガイドラインをつくることと同時に、契約をしなければいけない、そしてそれについてお互いで誠意を持って話さなければいけない、そういうことを著作者にも出版者にも、これは現場レベルの話でございます、それと社会的にもそういうことを進めていただくことで、初めてこれが進む。

 一つの何かをつくったからこれが進むというものではございませんので、それについては、業界もしくは社会的な訴え、全てをトータルで浸透させていくような施策というのが必要ではないかなというふうに考えております。

 以上です。

鈴木(望)委員 ありがとうございました。

小渕委員長 次に、中野洋昌君。

中野委員 公明党の中野洋昌でございます。

 本日は、相賀参考人、また土肥参考人、そして瀬尾参考人、お三方、大変お忙しいところ、御意見をさまざま聞かせていただきまして、心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。

 私、午前中の国会審議でも質問をさせていただいた点が何点かございまして、その論点につきまして、一部先ほどの議論と重複をする部分ももちろん出てきますけれども、参考人の皆様にぜひ御意見をお聞かせいただきたいというふうに思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 まず相賀参考人にお伺いをしたいんですけれども、私、午前中の質疑で、今違法にインターネット上で流通をしているような、例えば雑誌をそのままコピーしてそのまま流通をしているようなああいうものについて、先ほどもみなし侵害のような議論もおっしゃっておられましたけれども、要は、普通に電子書籍で出したものがそのまま流通すれば出版権ということでばしっと対応ができる。他方で、今出回っているものは、雑誌をスキャンしたりであるとか、あるいはまた、吹き出しを自分で勝手に外国語に翻訳をしたものであったりとか、どこまでちゃんと出版権で対応ができるのか、こういう議論をしたわけでございますけれども、文部科学省の方からは、出版権で全部対応し得るということでやっていくんだというふうにおっしゃっておられました。

 先ほども、雑誌一つとっても、では、今までは雑誌に限ってそういう一つ一つ出版権の設定みたいなことはなかったのを、今後そういうふうに議論していけばやれるかもしれない、そういうお話もございましたけれども、現状、出版者側でとられている、インターネット上に違法に出回っている海賊版のようなものについて今はどのように対応されているのか。そして、これから著作権法が改正をされた後に、これはかなり有効的に対応できるようになるのか。どのようにされていくおつもりなのか、これを少しお伺いできればと思いますけれども、よろしくお願いいたします。

相賀参考人 現状で海賊版に対してやっていることが二つありまして、一つは、特に漫画の分野ですけれども、実際やっているのが日本国内なのか海外なのかわからないんですが、膨大な本が、本が出た瞬間ぐらいにもう翻訳がされて出ております。これについては、いろいろとロボットを使って、あるいは人の手もかりていろいろなネット上を調べて、明らかにこれは違法ですよという方には注意を促して直してもらいます。中には、あっ、やっちゃいけないのかと。

 要するに、著作権法上まずいですよという注意をまずいたします。悪質な業者は今度は別なところから出たりなかなか抑え切れないのが現状ですが、そういうことでは、やはり非常に売れ筋の作家と話し合って実際に出版権をとって対応しているところもあります。具体的に動いております。

 それから、海外ではそれはなかなかもっと難しくなるもので、海外で何をやっているかというと、私ども、あるいは講談社、集英社もそうですけれども、実際にどんどんデジタル版を出しております。海外での海賊版の言い分は、本家というか、もともと出した出版社が出していないから海賊版を見ているんだという説得力のあるようなないような説明をされるので、こちらが本物ですというものをちゃんと出すことによって抑えられます。それなりの良識が働いておりまして、ちゃんとした正式なバージョンを出すと、ちゃんとそれを見てもらえます。

 もちろんそれ以外にもいろいろあるんですけれども、そこに余りまた一々訴訟とかをやっているとお金が足りないので、ある程度は諦めている。東南アジアは、これから経産省の力もかりて少し海賊版に乗り出そうかな、今そういう現状であります。

 よろしいでしょうか、それで。

中野委員 ありがとうございます。

 私、きょうの午前中の質問でもう一つ文部科学省とやりとりをしたのが、今回新しくデジタルで出版権が設定をできるようになるわけでございますけれども、当然電子出版自体は今までもやっている。要は、配信の契約みたいなことをして、当然今まで電子出版をやっている人たちがいる。今回新しく出版権というものが正式に設定をされるので、また個々に恐らく契約を結び直すという流れになってくるかとは思うんですけれども、今までやっていることと今回新しくまたできることと、要は、現場で混乱しないのか。施行するに当たって現場が混乱しないようにしていただきたいということをお願い申し上げまして、文部科学省の方は、そういう意味では、要は今までやっているのとは別の権利だからそれは混乱はしないと思いますというような回答ではあったんです。

 実態、出版者の立場から、今回の施行に当たって何か不安なことはないか。こういうところをもう少し交通整理してもらえるとやりやすいんじゃないかとか、何かもし御意見があれば、伺えればというふうに思います。

相賀参考人 なかなか痛いところというか、実は現状では、今動いている方とはデジタル版の契約も一種お願いしますという形で進めているのが現状です。

 今回、著作権法の改正によって、むしろどの出版者も当たり前だと、この一つの機運と言うんでしょうか、これを一つのてこにしてできる限り進めていこうというのが一方で進んでいくと思います。

 ただ、もう一つ。過去にしていない場合、まさにおっしゃるとおり、今、紙の本ももう出していないという作家のところに行ってデジタルの権利だけ下さいというのは、非常に言いにくいというのは想像できると思います。紙の本を出していないじゃないか、今は全然重版出していないじゃないかと。現状で出しても返品が多いのでということ。それから、担当している方がかわっていることもあります。

 そのときに、では何をすべきかというのはまさにもう一つの仕事で、先ほどちょっと触れたんですけれども、別な、例えば我々がコントロールする会社が過去の非常にいい作品の方のところに行って、今の出版社とももちろん連絡をとりますけれども、第三者的な会社がそういう過去の作家のところからデジタル版の権利を、著作権の契約を結んでいく。それをだんだんためて、またそういうものを現状の商売の邪魔はしない範囲である程度やっていく。つまり、復刻版で出しているところもあるので、そういうところにデジタル版を出しますと復刻版で商売している方は非常に困るというようなこともあるので、この辺をコントロールしながらやれる組織を今後つくっていかなきゃいけないなというふうにその辺は考えております。

 以上です。

中野委員 ありがとうございます。

 実際に運用するとなると大変にやはりいろいろな御苦労があるだろうなとは思ってはいたんですけれども、また引き続き、しっかり状況を見させていただきながら、我々も必要な措置をまたしっかりやっていきたいというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。

 では、続きまして土肥参考人にお伺いをしたいんですけれども、私は午前中の質疑で、国内の海賊版の流通も大変に大きな問題があるけれども、特に、例えば漫画とかアニメとか海外において海賊版の被害というのが大変多いんじゃないかという議論をさせていただきました。

 先ほど相賀参考人からも、海外でデジタルで出版をして対応できるようなケースもある、こういうこともお伺いをしたんですけれども、やはり国によっては状況はさまざまかなと思いまして、政府の方も二国間のやりとり、協定というかそういうものを中心にして、あくまで相手国の著作権法の中で担保していただくような、こういうお話をされておられました。やはり、中国とか東南アジアとか大変にそういう流通が多い国もございまして、これが特効薬というのはなかなか難しいかもしれないんですけれども、有効な手だてがないかなというふうに思っておるんです。

 土肥参考人、ずっと議論にかかわられてきた中から、こうした海外の海賊版の対策というのはどういった手を講じていけばいいのかというのをおわかりになる範囲でお答えいただければというふうに思うんですけれども、いかがでございますか。

土肥参考人 質問ありがとうございました。

 非常に難しい問題でございます。おっしゃっておられたように、基本的に海外で行われる著作権侵害行為について日本の著作権法は原則これは及ばないと思います。

 当然、こういうものを考える場合に、とにかく侵害行為はあったわけですから、まずどこの国の裁判管轄があるのかというそこが問題になると思うんです。日本の場合だと、民事訴訟法の規定の中でそういう国際裁判管轄を定めた規定がありますので、そういうものが考えられて裁判管轄が決まることになります。

 その次に、ではその裁判管轄のある裁判所で、準拠法をどこの国の法律にして侵害の成否を判断していくのかということになると思うんです。著作権侵害の場合、複製行為ということになりますとこれは少し難しいというふうに言わざるを得ないんですけれども、公衆送信の場合はまだ知恵を出す範囲があるのかな。つまり、一応、不法行為の侵害結果発生地というところがその法の適用の問題になってきます。

 例えば、中国なりアメリカなりにサーバーを置いてそこでいわゆる海賊版をネットの上に上げて悪いことをやっている、こういう場面なんですけれども、例えば日本語で日本のユーザーに向けてそういうことをやっている、つまり、サイトを見ると日本語で、日本円で定価は幾ら幾ら、何とかかんとかというような、そういう場合は、侵害行為の結果の発生というのは、侵害行為そのものは中国とか外国で行われるわけですけれども、結果の発生は日本でも起きてきているというふうに考えられます。

 そうすると、そういうことをやる人というのはサーバーは外国に置いていても日本人の場合がありますので、そこを捕捉することになれば、事複製と違って、公衆送信の場合は結果が発生する可能性は十分あるのではないかな、こういうふうに思っております。

 こういう議論は、出版関連小委の中では実は出なかったんですけれども、従来の法制小委とかそういう場面の中ではぽつぽつと出ておりました。

 以上でございます。

中野委員 ありがとうございます。

 なかなか難しい論点だなとは思いますけれども、確かに実際の被害というものもかなり出ていることでございまして、やはり政府にも引き続き対応をお願いしてまいりたいなというふうに思います。

 そして、瀬尾参考人にもお話をお伺いしたいんです。

 私は、午前中の質疑でも、クール・ジャパン、瀬尾参考人はクール・ジャパンの関係でもお仕事をされていたかと思いますけれども、日本のコンテンツを海外へ出していくという政策について質問をいたしました。

 何でこういう観点で質問をしたかといいますと、私個人的に思っておりますのは、日本のコンテンツは非常にすぐれている、海外にも通用する、こういうお話はあるんですけれども、コンテンツをつくっている方々、若い人たちもしっかりこの世界で頑張っていこうと思えて、そういう後継者がどんどん育っていって、やはりそういう形にしていかないといけないなというふうに思います。

 そのためには、著作をしていく環境というのもやはり改善していかないといけないでしょう。例えば、クール・ジャパンでいいますと漫画とかアニメとかがよく例に挙げられますけれども、では、仮に日本のアニメーターの方の給料はどうかといいますと非常に安い、なかなか目指そうという気持ちも薄れてしまう、こういう現状もあるな。やはりそういう状況では、幾らコンテンツをどんどん海外に出すと言っても、どんどんいろいろな人が育っていかないといけないな、こういういろいろな思いもあります。

 やはり海外でどんどんビジネスになってそれが市場を拡大していくというのは非常にいいことだな、こういう思いもありまして、この海外展開をどうやったらしていけるのか、こういう質問もさせていただきました。

 瀬尾参考人は今までいろいろなお仕事に携わられてきたと思いますけれども、一つは、これから日本のさまざまな出版物などのコンテンツを海外に出していく上で、政府としてどういうところを後押ししていくとそれがうまくいくのか、また、どういうことを後押ししてほしいのか、これを一つお伺いしたいのと、もう一つは、やはり著作をしていく方々の環境をもっとよくしていくためにはどういう取り組みが考えられるのか、この二つをお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

瀬尾参考人 今、クール・ジャパンのことで御質問をいただきました。また、著作者の創作環境の改善という、この二点について御質問をいただいたと思っております。

 クール・ジャパンにつきましては、実際には先ほどのナショナルアーカイブ。ナショナルアーカイブというのは、私の考えますところに、日本の国内でアーカイブをつくるだけではないと。そのアーカイブは、きょうの資料にお挟みしました世界地図がございますけれども、今、ヨーロッパではヨーロピアーナ、アメリカではグーグルを中心としたアーカイブができております。これと連結していくような世界的なアーカイブの一端としての日本のアーカイブというふうに考えております。これは実はクール・ジャパンのインフラになり、ここにためていくことによって海外に連携していくというベースになるであろうというふうに考えております。

 その中で、実はアジアがTPPの議論の中で大変知財に興味を持ち始めましたし、著作権処理もしくは知財の流通に乗り出してきております。その中で日本がリーダーシップをとって、ナショナルアーカイブ施策を中心に、いわゆる海外へコンテンツを配信するインフラをつくっていくということが重要ではないかなと思っております。また、これについては、特許を初めとする世界的な知財システムもオーバーラップしていくというふうに考えます。

 ですので、実は先ほどの二枚お挟みしましたナショナルアーカイブと孤児作品処理、この二つについて推進していただき、それに乗っけてこれをクール・ジャパンのインフラとしていただくことで海外への発信はいくのではないかなというふうに思っております。

 ただ、もう一つこのクール・ジャパンの重要な点は、先ほどのような小さなクリエーター、それから地方でつくられている非常にローカルな著作物、それですばらしいものはたくさんあります。日本の地方ではたくさんすばらしいものもあるし、小さくてもすばらしいコンテンツがたくさんあるんです。それをナショナルアーカイブが吸い上げて、プロモーションして海外に出していくことで、日本の経済政策と文化政策、ともに進むであろうと思っております。

 先ほどの二つ目の御質問であるクリエーターの経済環境なんですが、これまでは非常に経済原理が強かったためにそうなってきてしまっている。これからやはり販路といいますか流通が促進されること、それと、大手を通さない地方のそういったクリエーターたち、もしくはそういったルートが確保されることによって、より自由で、かつ、そういう非常に苦しい環境以外でも物がつくれるように、今はそこにいないと物がつくれないから我慢しているのであって、新しい創作環境をつくるインフラにもなっていくと思います。

 ですので、この二つきょう資料でお持ちしましたことは、今後の日本の施策であると同時に、コンテンツの制作を基本的に変えていく大きな施策としてお考えいただけたらと思います。この電子出版権はそれの完全にゲートウエーであって、ここを入ったところからそういう話が進んでいくというふうに考えております。

 以上でございます。

中野委員 以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

小渕委員長 次に、柏倉祐司君。

柏倉委員 みんなの党の柏倉でございます。よろしくお願いいたします。

 きょうは、相賀参考人、土肥参考人、瀬尾参考人、大変お忙しいところわざわざお越しいただきまして、ありがとうございます。

 これは出版業界の大きな目玉だとは思うんですが、きょうは、この法律そのものの理解を深めるという意味でも、素人と言うと変なんですが、出版業界、その背景に余り理解のない人間がこの問題にどう携わっていいのか、そういう私の初歩的な質問が中心になりますが、ぜひ質問させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 この法律を理解しようとしていろいろな本を読みますと、必ず出てくるのが、著作隣接権というものを今回盛り込む盛り込まないという議論があったということでございます。

 著作隣接権というもの、私のような素人の考えで言いますと、やはり、本をつくるというのは、作者のクリエーティビティーの土台に立って、編集、構成、当然本を売るわけですから広告、そういった戦略、さまざまに重層的に折り重なって一つ著作物が世に出るわけです。

 いかに世に出るまで大変なのかということがわかれば、この著作隣接権というものに対する世の理解もやはり深まっていく、これは前向きに検討していけるんだと思うんです。

 今回は残念ながらこういった形では反映されていないのは承知しておりますが、今後やはり進めていく上でも、ここのところ一番興味があるのが、これはもう出版業界の赤裸々な現実として、どれぐらい物が出てきて、要は作者が、たたき台といいますか、本を書く、原作が出てくる、それをどのように企画、編集、構成、そして世に送り出していくのか。どこの部分で一番労力が要るのか、コストがかかるのか、時間がかかるのか。こういった現実のところを教えていただければと思います。

 相賀参考人にお願いいたします。

相賀参考人 ありがとうございます。

 一言で言うと、千差万別。こう言ってはなんですけれども、まさに先生の原稿をそのままほぼ使える、ただ、形にする場合にはどうしても、もちろん装丁とかどういう形態にするかとか世の中に出すためのいろいろな工夫が編集者には求められますので、全く個人で出されている方もいるんですけれども、やはり編集者がそこにかかわることが多うございます。

 ただ、物すごく手間のかかる場合も実際はあります。さまざまなアイデアから、取材を一緒にして、あるいは資料を集めて、それがまた本当に果たして世に出せるのかわからない段階から一緒に、本当に苦楽をともにしてつくっていく場合もあります。まさにさまざまなものがあるので、本当に千差万別と言う以外ないんです。

 今いろいろとネット上で、みずからまさに本のような形にしてレイアウトまでして出される方もいます。これがふえておりますし、世の中の人は本を読むよりも本を出す方が多いんじゃないかというぐらい、大変に創造的な行為をされる方は大勢います。その中からまた紙の方に戻るものもたくさんありますし、作家が育っていく場合もあります。まさに、出版者だけが本をつくる時代がもう終わっているなという感じさえいたします。

 同時に、アメリカでもそうですけれども、イギリスでもそうですけれども、ネット上で大変にヒットした作家がやはりある特定の出版者と契約を結び、またそれのさまざまな二次、三次的な展開をしている例も多々あります。

 今の時代は何か紙、デジタルだけじゃなくて、商品化権とか、いわゆるその作品が持つさまざまな可能性を、例えば映画原作、テレビ原作、あるいはノベライゼーション、あるいはコミック化、こういったさまざまな別なものに置きかえていくという作業も発生する可能性があるので、今の編集者は多分単純な昔の編集者とはもう変わってきていると思います。

 その辺が今の新しい方向かな、そんな形で考えておりますが、これで説明になっていますでしょうか。

柏倉委員 どうもありがとうございます。

 やはりそれだけ千差万別で、一つの本といっても、教科書から現代風の小説までいろいろあると思います。

 今回の問題で、著作隣接権を今後考える上で、やはり出版物というのはそういった出版者の御苦労、御苦労といいますか、あらゆる労働によって成り立つものであるという理解を深めることが大事だと思うんです。

 そこで、例えば、出版に至る過程を、作品、これは創造物ですから例えば創造権としましょう、編集を編集権、校正を校正権、こういった形で権利を細分化して切り分けて、そして、ネット媒体、もしもそういうメガプラットフォーマーがあったら取引すればいいじゃないかというようなお考えを持っている方もいるようなんですが、そういった発想についてどのように思うか。これはもう感想だけで結構です。相賀参考人、もし思うところがございましたら教えていただければと思います。

相賀参考人 瀬尾さんの前で話しにくいんですけれども、時々、編集者にも権利があったらどんなにいいだろうと思うことは正直言ってありますが、やはり、作家の生活を長い目で見ると、できる限り作家が将来にわたって生活を維持できて、いい作品が生まれるためにあらゆる環境を整えるのが一番の仕事だと思っておりますので、我々はそこではあえて、もう会社として給料をもらっていますから、それ以外のものを求めることはもうゼロに近いと思います。

 ただ、独立した編集者で、作家とパートナーを組み、やっている方はいます。それは、いわゆる原作あるいは補助的な仕事としての契約を多分作家と結んでいるんじゃないでしょうか。そういう形ではあると思いますが、現状の出版者では、権利を細分化して持つということはちょっと考えられないと思っております。

柏倉委員 どうもありがとうございます。

 当然、著作権者の権利を一義的に考えて出版者はやられているということで理解をさせていただきました。ありがとうございます。

 次なんですが、お三方にこれはちょっとお伺いしたいんです。

 電子書籍に関する新たな出版権を規定する今回の改正案なんですが、さきの小委員会報告書を読みますと諸外国の事例も結構書いてありまして、私もおもしろく読ませていただいたんです。ただ、中には、法改正をしないと出版者は一つも差しとめができないということにはなっていないように思うんですね。

 ちょっとこれは、なぜ日本ではやはり今回このように必要になって、海外では必要にならずにもうこの問題がクリアできているのか。法の窮屈さといいますか、運用の非柔軟性というところも指摘されますが、その辺に関するお考え、思いがございますれば、お聞かせいただければと思います。できれば、お三方にお願いしたいんですが。

相賀参考人 もともと海外では、一般には、例えばこういう例があると思うんです。ディズニー映画というのがあります。あるいは「スーパーマン」という作品があります。あれはもともと原作者がいましたけれども、全部会社が権利を持っております。日本の場合は、全てほとんど、キャラクターは原作者、作家が持っております。つまり、アメリカでは割と権利を買ってしまおうという考え方が強くあります。日本では、作家はあくまでもなるべく権利を持ち続けていこうという文化がございます。ですので、我々としては、買い取るということがまずほとんどありません。

 ただし、非常に専門的な書籍、医学書のかなりの部分は、先生自体がまず何らかの仕事についております、研究者なり学校に。主たる収入源が別なところにあるので、いわゆる作家とは違って印税収入に頼らなくてもいいという方々は、どちらかというと出版者に預けて、それを自由にいろいろとデジタルバージョンとかやってくれと、まさにアメリカ的なやり方をするところもございます。だから、日本の出版界の中には実はさまざまなやり方があるんですが、権利譲渡ではなく、ほとんどが委託契約でやっているというのが現状です。

 ただ、アメリカでも実際には、何か勝手に全部やるというわけじゃなくて、逆に、ちゃんとやってくれなければ解除するというような著作権者の権利もちゃんと認められておりますので、ただ買ったから何でもできるよというわけではないというふうに聞いておりますし、この辺はまさに、どこの国のが一番いいとかではなくて、我々にとって一番著作権者との間に信頼関係が醸成できる仕組みをこれから考えていきたいと考えております。

土肥参考人 御質問ありがとうございます。

 御質問に対する回答としては、今回の私どもの小委で作成した報告書の中にも書いてあると思うんですけれども、我々が検討のそもそもの入り口にしたのは、先生おっしゃるところの隣接権のものが一つ、それから独占的ライセンシーに対して訴権を与えるというのが一つ、それから出版権制度の拡充、それから契約でやる、こういうような四つぐらいの選択肢の中から今日のような形にたどり着いたわけであります。

 もちろん著作権法というのは重要な知的財産権の一つなんですけれども、ほかと比べると、知的財産法の中で、例えば特許とかそういう法律とパラレルに置かれているような制度を見ると、違う点が結構あるんですね。

 その最たるところはライセンスのところなんですけれども、著作権法の場合のいわゆるライセンスの制度というのは、例えば特許法なんかと比べると非常に変わっています。ですからゆえに、ライセンス権の設定はできるんですけれども、著作権者がかわってしまいますと、その新しい著作権者に対抗するすべが制度上ないんです。したがって、どういうふうに実際にはおやりになるかというと、先ほどから議論にもあったんだろうと思うんですけれども、権利の一部の譲渡を受ける、そういう手で対抗力を備えられたりすると思うんです。

 外国では、独占的ライセンシーというのは訴権を持っているんです。つまり、差しとめ請求権を行使できるわけです。したがって、今度の出版権でもって電子出版というようなものをつくって、そこで出版権者に差しとめ請求権を与えるというやり方をしたわけですけれども、特にアングロアメリカン法系の場合は、独占的ライセンシーが訴権を持っておりますので、つまり、出版権者もアングロアメリカン法系の独占的ライセンシーも著作権者の意思に基づいて設定されるわけですけれども、著作権者の意思に基づいて出版権もつくられるし、アングロアメリカン法系の独占的ライセンシーも意思に基づいて生まれるんですけれども、外国の場合は、その独占的ライセンシーが自己の名をもって差しとめ請求権を持っていますので、とめられるということになるんですね。

 日本の場合は、著作権法独特なんですけれども、それをもし仮にいじるとなると、著作者がすごくたくさんいろいろな種類の方がおられて、例えばテレビ局の方とか、いろいろな方がおられるんです。あるいはコンピュータープログラムの業界の方とかさまざまな。そういういろいろな方に影響を与えられるようなことをもし今回やるとしますと、もっと大変な混乱になる可能性もあるわけです。つまり、そっとしておいてくれというふうにおっしゃる方も相当おいでになるはずなんです。

 そういうようなそっとしておいてほしいという人のところまで、独占的使用許諾権に関して例えば訴権を与えてというふうなことをやっていくということは望まなかったというわけでございます。

 ですから、選択肢の中に、我々は横目では見たんですけれども、そういう方法はとりませんでした。ですが、外国はそういうことができているということでございます。

瀬尾参考人 諸外国と比べてということで、私は専門家ではございませんけれども、端的に申し上げますと、日本の出版と著作者の状態というのは世界でもまれに見る状況であるということをまず御認識いただくことが重要だと思います。

 それは、三千七百社という非常に多い出版社さんがいて、集約化されない。つまり、合併したりとか強いところがどんどんとっていくとか、小学館がいっぱいとってしまうということもございませんで、みんなちゃんと成り立っている。三千七百社がいっぱいいろいろなものを少しずつでもつくっているというのは、非常にまれです。通常は、やはり経済原理に基づいて、どんどん買収が行われて、売れるものは集約化されていって、それと同時に権利も譲渡されて、出版者が権利を持つということになります。

 ですので、当然そこで裁判も、出版者が著作権を持って裁判ができるという状況がある。これは、先ほど相賀参考人が言われたような、日本では著作者に著作権を維持する慣習があるということで、ちょっと違うと思います。

 私はよく思うんですけれども、ここのところ、やはり諸外国の法制と日本の法制その他をいろいろ比べることが多うございます。当然、国際条約的な中での整合性というのは必要だと思いますが、私は、今の電子書籍のあり方と、今度、出版権も含めまして、日本は日本独自のものでよろしいのではないかなというふうに思っております。実際にこれからアジアでできてくるアジアスタンダードのもとをつくるのは日本の法制であって、ヨーロッパとアメリカに倣う必要はない、これは私のちょっと持論なんですけれども、そう思います。

 ですので、諸外国を横目で見つつも、日本の多種多様な創作の環境、または出版社の存在、そういうことをきちんと生かせるような状況をつくって、要するに、法に合わせて現実を当てはめるのではなくて、現実に合わせて日本の法をつくって、そしてアジア的なあり方というものについて、私ははっきりした知見なりその方向性を日本が示していけばいいというふうに思います。

 また、それがアメリカやヨーロッパの法制ときちんと融和するような形を我々がつくるというような意気込みと視野を持って進めるべきだと思いますので、いろいろな問題点はございますけれども、日本の特性というのは存続すべきだし、そのような形での制度または契約ということを進めていくべきではないかなというふうに考えております。

 以上です。

柏倉委員 大変示唆に富む御意見、ありがとうございました。これで終わります。

小渕委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 結いの党、信州長野県の井出庸生と申します。

 きょうは、参考人の皆さん、お忙しいところありがとうございます。よろしくお願いをいたします。

 まず相賀参考人にお伺いをしたいんですが、先ほどの委員と先生とのやりとりの中で、現状の海賊版対策、人の手であったり機械、ロボットを使って把握をされているとおっしゃいましたが、実際どのぐらいの人員ですとか時間をかけて現状のそういう海賊版の状況を把握されているのかというところを教えていただければと思うのですが。

相賀参考人 ありがとうございます。

 私の経験ではなくて、集英社という一つの出版社の場合、月に一万件の海賊版の摘発をしているそうです。それに対する費用は結構な金額、ちょっと金額は知らないんですけれども、お金がすごいかかっているということを聞いてみんなもびっくりしていまして、うちはそんなに売れている作品がないせいか、そんなにやっていないんですけれども。

 やはり、物すごく売れているものほど海賊版が出るということで、その辺は私どもの経験ではちょっとわかりませんが、今のところその数字しか把握しておりません。

 よろしいですか。

井出委員 そうしますと、これから電子書籍に出版権というものがこの法改正で認められる形になったときに、出版者側としては、海賊版対策を何か強化していこうとか、監視する体制ですとか摘発体制を強めていこうということがこれから一つの流れとしてあり得るのかどうなのかというところのお考えをちょっと、相賀参考人にお伺いしたいのですが。

相賀参考人 この法律が通った後のことは、さまざまにやらなきゃいけないことがあるんですが、そのうちの一つは、確かに海賊版に対してどう対応するかなんです。

 我々、同時的に契約をして、紙を出したときには既にデジタルの契約も、さらに言うと、正直言って、作品によってタイミングがずれる場合もあると思うんですけれども、紙の本を世の中に出した瞬間にはデジタルバージョンも出すというふうにいたしますと、はっきり言うと、いわゆる海賊版に対してはもう対抗できるというふうに考えております。そういったことを各出版者ができる限りやる。

 それから、はっきり言って、売れるものほど同時的に出すということが防衛的になるかなと思います。ただ、中には、紙の本をなるべく多く売ってからデジタル版というような考え方もありますし、それから、デジタルでは出さない、紙だけで売るぞという考え方の出版者も出ると思います。そのときに海賊版をどう抑えるかがやはり今回非常に悩ましい問題で、それに対して、契約をもとに何らかの形での訴訟という形で動かざるを得ないかなと思っております。

 以上です。

井出委員 そうしますと、海賊版の対策に強い出版者、また、今、紙を出すと同時に電子版もというお話がありましたが、そういう力を持っている出版者というのがこれから主流になっていくのかなという印象を持つんですが、相賀参考人のお考えとしても、業界はそうなっていくとお考えですか。

相賀参考人 その心配をやはりどうやって乗り越えるかということなんですけれども、小さな出版者の場合、ほとんどデジタルに手を出していない出版者がたくさんあります。

 それで、そういったところには、例えばの話ですけれども、デジタル機構というようなところで、紙の本を出したら同時にデジタルの契約も欲しい、それを預けてください。それに対して、あるいはデジタルの商品化ではなくても、サーバーにデータを持っているだけでももう既に持っていることになりますし、そこから必要なところへ電子書籍にそれぞれ出せるので、つまり同時にもう持っているということで、そこが海賊版を抑えるという取り組みをすれば抑止効果になるのではないかというふうに考えております。それは十分にこれから検討する課題だと思っております。

 ありがとうございます。

井出委員 次に、著作者のお立場からということで瀬尾参考人にもお伺いしたいんですが、今私がちょっとお話しさせていただいたように、先ほど出版社が三千七百社あるというお話もありましたが、そういったものが集約化されていくのではないかというお考えと、それについて著作者の立場としてどういう期待また懸念を持たれているか、お聞かせください。

瀬尾参考人 今の御質問なんですが、私は、日本の三千七百社と言われている出版社ができ得る限りデジタルの時代にも残ってほしい、それを著作者としても後押しをしていきたいというふうに思っております。

 といいますのは、それだけたくさんの、いわゆる売れる売れないだけでなく、きちんと社会的価値を持った書籍の出版が三千七百社によってなされているというふうに理解をしています。

 ですので、例えば集約されていけば、当然、売れるものから優先で、経済原理のまさっている出版物の方が多くなってくるのではないかと思いますけれども、それだけではなくて、例えば年間十冊程度しか出さない出版社さんが、その分野もしくはその需要において非常に重要な本をつくっている場合もございます。また、それに伴って、非常にニッチなテーマを追い続けていくことできちんと出版が成り立つ著作者も多うございますので、そのような多岐にわたる出版者、著作者というのをいかに維持していくか、これは日本の文化の基本的な部分ではないかというふうに思います。

 一言つけ加えさせていただきますと、日本の文化の特徴の中で諸外国と違うのは、著作者と利用者の間に、いわゆるハイアマチュアというか、創作者予備軍と呼ばれる、濃いファンと呼ばれるような層が非常に厚く日本はいるのが特徴でございます。これによって、例えばコミックマーケットとか、著作者に準じてあったり、もしくは非常に熱心なファンであったりする方たちがたくさんいる。こういう方たちの出版なり創作活動を支えているのは、やはり多様な出版者さんだろうと思います。

 ですので、統一されて、どんどん経済原理によって集合されていかないようにするべきというのがまず一つの考えでありますけれども、では、翻って海賊版対策はどうするんだ、小さいところはできないじゃないかというふうに当然言われてしまうと思うんですけれども、先ほどにも申し上げましたけれども、海賊版対策というのは、単純に訴訟を起こして落とすことで一方的に減らすことはできないと私は思っております。複合的なものだと思っております。

 ですので、先ほど申し上げた、施策として、団体もしくは国、もしくは国に準ずる組織がそのような小さな創作者、創作出版者を守るために海賊版対策をすることで、海賊版が出てしまった後の措置というのは限定的になるだろうというふうに思っておりますので、いかに事前の総合的、組織的な海賊版対策をしていくか。その中には、許諾を出す、先ほどデジタルファーストという言葉がございましたけれども、私は、許諾を出していくことが非常に重要な海賊版対策の鍵だと思っておりますので、そのような形で海賊版に対抗していくということが有効ではないかなというふうに考えております。

 以上です。

井出委員 ありがとうございます。

 引き続き瀬尾参考人にお伺いをしたいんですが、ナショナルアーカイブ構想の話ですね。私も非常にそういったものは進めていくべきではないかなと思っておりますが、実際これからそういったことを進めていく上で今大きな障壁ですとか、こういったものを越えていかなければいけないというところをもう少し御所見を伺えればと思います。よろしくお願いします。

瀬尾参考人 ナショナルアーカイブ構想につきましては、先ほど馳先生からも皆様も、いろいろなところで話題に出ていることかと思いますが、ただ、世界的なネットワークの一つになるべきではないかというふうに申し上げました。

 実際に、例えばもう一つ申し上げられるのは、今特許のシステムがアーカイブ化を行っております。つまり、世界でどこでも特許が検索できるようなシステム、その迅速化が求められています。これと非常に仕組みが似通っておりますし、このような世界的なネットワークの一端の中でナショナルアーカイブを考えていくということなんですが、まず喫緊にしなければいけないのは、日本が、アーカイブの仕様をきちんと決めて、そして周りの世界のアーカイブとコネクトできるような仕様を決めて、それの標準化を行っていくということが重要だと思います。

 それともう一つは、これは知財戦略本部でも話されていることですが、現在あるアーカイブをきちんとまとめたポータルをつくっていくこと。それともう一つは、ナショナルアーカイブとは何ぞやといったときに、誰がどう使ってどうペイするのかという当たり前のことをきちんと議論して実現していくこと。

 ここでこういうことを言うのもなんですけれども、ナショナルアーカイブ促進法のようなきちんとした旗印と方向性を最初にまずお示しいただくことが実は私は一番重要なのかなと、ちょっと場が違いますけれども申し上げたいと思います。これにつきましては、先ほど言ったアジアということをきちんとにらんだ上で、喫緊に日本が手を挙げるということで全てが始まっていくのかな。

 障壁につきましては、非常に広範囲なものになりますので、各所轄官庁さんそれぞれで部分的ではなかなかやりがたいということが挙げられると思いますし、例えば国会図書館さんを含めて、分散してしまっているものをどこでどうまとめていくかということが重要かなというふうに考えておりますが、今のような状況で、手順を踏み実現していく、少なくともこの四月度からの議論の中で何らかのアクションというのを起こしていくスピード感があると、これはTPPの知的財産の環境の変化に対する対応手ともなり得るものだというふうに考えております。

 まあTPPがどういう結論になるか全くわかりませんし、どういう議題かも存じ上げませんけれども、漏れ聞くところによりますと、その部分につきましては日本としての対応策が必要であろう。それによって創作者が基本的なダメージを食らうこともあり得るというふうに判断しておりますので、かなり喫緊な課題としてのナショナルアーカイブシステム構想をまずお考えいただいたりすることが大事なのではないかなと私は個人的に思っておりますし、お願い申し上げるところでもございます。

 以上です。

井出委員 ありがとうございます。

 次に、土肥参考人にお伺いをしたいんです。

 先ほどのお話の中で、契約は本来自由であるべきものだと。私もそれは全くそのとおりだと思いましたし、あと、各団体でいろいろ合意をしていけばそれぞれの団体に有利なものになってしまうので、標準的なガイドラインですか、いろいろなパターンのものをつくって周知をしていけばいいというお話があったかと思うんですけれども、私もガイドラインの必要性も感じる一方で、余りガイドラインを精密につくってしまうと、逆に契約の自由のところ、果たしてそこは大丈夫なのかなという心配があるんです。

 ガイドラインについて、具体的に、例えばどういう立場の人間が作成をしていくですとか、そこのガイドラインについてもう少し詳しいお話を土肥参考人からいただきたいのですが。

土肥参考人 質問ありがとうございます。

 今、ガイドラインの策定なり、それから、標準的な幾つかの契約のひな形というのが経産省を中心に検討されているんじゃないかというふうに思います。

 私はそれに一切かかわっておりませんので何ともこの点については言えないんですけれども、先ほど申し上げたのは、やはりどうしても当事者はできるだけ自分たちの利益を最大化する、そういう方向に物事を決めていくことになりがちであります。

 もちろん、クリエーターもそれからパブリッシャーも重要な当事者でありますけれども、その背後には一般ユーザーという者がいるわけですね。ガイドライン、あるいはいろいろな法の制度もそうなんですけれども、その制度の中でどれぐらい最大の利益をその制度が守ることになるのか。つまり、ほんのわずかな一部の利益しか守らないというような制度は、制度としてはうまくないんだろうと思うんです。だから、可及的に大きな利益を一つの仕組みの中で保護していく、それは、クリエーターもパブリッシャーも一般ユーザーも含めた、そういう利益を志向していただきたい。

 ガイドラインを策定する中で、先ほど言ったように、どうしても自分たちの利益を最大化したいというふうにお考えになるのでありましょうから、恐らく、そういう策定の中には、第三者的な、中立的な、そういうメンバーが入ることで、常にどちらかに偏しないようなものをできるだけたくさんつくってもらうということを期待しているわけでございます。

 以上でございます。

井出委員 本日はありがとうございました。終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

小渕委員長 次に、宮本岳志君。

宮本委員 日本共産党の宮本岳志です。

 きょうは三人の参考人の皆様方、まことにありがとうございます。私の方からもお礼を申し上げます。

 まず、出版者の代表である相賀参考人にお伺いをしたいんです。

 今回の法改正が、一方で、違法な複製やファイル共有ソフトを利用しての違法配信という、つまり海賊版対策、これのために打ち出されてきたということを先ほどから聞いておるわけですけれども、まずは事実問題として、現状で海賊版による被害はどのようなものがあって、被害額がどれぐらいになっているか、わかる範囲でお答えいただけますでしょうか。

相賀参考人 被害額として今資料を見ますと、五年間なので、つまり累積したものなので、千五百から三千億ぐらいという、要するに、ではその間の数字は何だというぐらいちょっと把握し切れていないというのが真実で、つまり膨大な数の海賊版があって、何か抑えると、すぐにまた消えてどこかからあらわれるというモグラたたきのような存在であるので、ちょっと正直言って把握し切れていない。できるところでやっている、できないところはもう諦めている。

 例えば台湾では、日本の出版界はコミックスの大体九七、八%、台湾地域で出しておりますが、大陸の方ではそれが全部繁体字のまま、いわゆる簡体字に直さないでそのままインターネット上で見られておりますが、私どもにとってはそこのところは手が出せない。台湾とは契約上ちゃんとしているんですが、デジタルはどこへ飛んでいくかわからない。こういったことが全世界で起こっていまして、北米の漫画で五年間が三千億円、これは事実なんです。

 結局、日本語版よりも、英語版に直した瞬間に、それぞれの本当に優秀な翻訳者以上に世界じゅうの優秀な翻訳者たちが、こぞってマニアが各国語に訳していくんですね。そういった漫画だけじゃなくて、今は文学作品も同じように、お互いにここはおかしいんじゃないと言いながら、どんどん翻訳をして勝手にやっている。

 これをどうやって抑えていくかというのは、やはり、今回の法改正によってデジタルバージョンを我々が出版権としてはとれるということは大変な武器になります。これをいかに生かしていくかということはこれからの大きな課題なので、まずその取っかかりに入ったというか端緒に入ったということで、本当にありがたく私は思っております。

 どうもありがとうございます。

宮本委員 ありがとうございます。

 そういう海賊版に対する対処ということは、私どもももちろん必要だということで受けとめております。

 それで次に、小委員会に参加をされた瀬尾参考人にお伺いしたいんです。

 小委員会では、出版者への権利付与のあり方として、著作隣接権の創設、それから電子書籍に対応した出版権の整備、それから訴権の付与、あるいは契約による対応、四案が示されて検討が行われました。

 著作権者の中では、積極的に著作隣接権の創設を支持する立場もあれば、現行のまま契約での対応を望む消極的な立場もあったように、私、中身を見せていただいて感じるわけです。

 それぞれどのような背景からそういう積極的な立場あるいは消極的な立場が出てきているのか、御紹介いただければありがたいと思います。

瀬尾参考人 今の御質問なんですが、非常に長い長い道のりを経て、私も、実は公な会議以外の会合というのが多数ございまして、もう本当に三年も四年もこれにかかわり合ってまいりました。

 その中で、今御指摘をいただきました四つの案について、まず著作隣接権についてですけれども、これは自動的に発生してしまう権利ということで、これだけ多種多様なつくり方と内容がある出版物全てに自動的についてしまうということで、なかなか合意が得られなかったということがあります。これは審議会内でも合意が得られませんでしたし、それまでの検討会の中でも合意が得られなかった部分でもあります。

 その次に出てきました出版権ということなんですけれども、これについては、最後に残っている案で、ちょっとおきます。

 あと、それから訴権と、もう一つは契約によるということで、実は著作者の中では、契約だけでいいじゃないか、契約してちゃんとすれば、どうせ契約しなきゃできないんだから、契約だけでいいんじゃないという話がたくさんございました。

 ただ、出版さんとパートナーシップを持っていく上で、きちんとその要望があったものについてはお応えすべきというふうなことから、やはり、それは契約から一歩進んできちんとステータスをお認めしましょう、そして一緒に進んでいきましょうということで、一歩進んだ内容としてまとまった、それに合意をしたということで、契約のみというところから一歩進んでおります。

 訴権につきましても、基本的な権利というよりは、先ほどから海賊版のお話も出ておりますが、実際に訴訟に至ってしまうというのは、実は最後の最後でございまして、もっと事前に海賊版は阻止することが望ましいという考え方がございます。最後まで行ってやっと防止できるということではやはり弱いということがございます。ということは、訴権というのは最後の部分でございますので、これもまた御要望とも沿いかねる部分もございますし、なかなか難しいだろうと。

 そこら辺を勘案いたしまして出版権ということで、出版権につきましても多種多様な案がございまして、きょうは皆様に御条文をごらんいただいていますけれども、これをまとめるために本当に長いこと関係者は苦労してまいりました。譲り合うところを譲り、そして出すべきところを出ししてきたものでございます。

 ですので、一言で出版権というふうに申しましても、非常にデリケートな部分を含んでいるということで、ここら辺が、著作者にも納得でき、かつ、出版者の皆様にしても一緒にやっていくためのあかしとして使えるものであるということで、ここにおさまったということでございます。

 ですので、この出版権の設定と内容につきまして、正直申しまして、全員がフル満足しているわけではございませんが、ここでしか落としようがなかったという結論、みんなの善意の結晶だというふうにお考えいただいてもよろしいかなというふうに私は思います。

 以上でございます。

宮本委員 本当に長い間の議論が、私も議連を通じて皆さん方との議論にかかわってきたわけですけれども、その中で、出版関連小委員会で主査を務められた土肥参考人にお伺いしたいと思うんです。

 そういう四つの案から検討を始めて、そして今回、出版権の整備ということになりました。その点で、著作隣接権の創設であるとか、現行のままで、契約でいいじゃないかという対応といったものではどういった不都合が存在したのか、この点について土肥参考人にお伺いしたいと思います。

土肥参考人 御質問ありがとうございます。

 どういう不都合ということも確かに議論の一つではあるんですけれども、例えば、出版権制度というのは昭和九年、ですから一九三四年、そこで生まれているわけです。隣接権制度というのは現行法になって生まれましたので、一九七〇年以降ということになります。

 旧著作権法の時代に、いわゆる情報を一般ユーザーに伝達する者に権利が与えられていたのは、出版者だけなんです。つまり実演家は、当時は桃中軒雲右衛門のケースもありましたので著作者というふうに扱われておりましたし、それから、レコード製作者はみなし侵害で対応されるということになっておりました。

 そういう意味からすると、出版者は、一九三四年にそういう権利を他に先駆けて認められていたわけです。そういう権利があるという歴史的な意味も相当あるんだろうと思うんです。

 つまり、そういうものをうっちゃって、従来どおり契約でいいじゃないかとか、あるいは隣接権というものを導入したらどうだろうか、そういう考え方のアイデアは非常におもしろいといいますか、いいものがあると思うんですけれども、法律というのは、どうしても社会的な利益主体の調整手段としての役割というのが大きゅうございますので、やはりクリエーター、パブリッシャー、そういう方たちが寄り添って、こういうものでいきたいと。

 例えば隣接権の場合でありますと、先ほど瀬尾委員もおっしゃっておりましたように、クリエーターの意思に基づかないそういう権利になってくるわけです。それはそれでもちろんいいんでしょうけれども、恐らく御案内だろうと思うんですが、では、原版の作成あるいは固定というんでしょうか、そういうようなところで権利が自動的に発生する場合の権利のスコープみたいなものは、実はそんなに広くないんですね。

 そういうようないろいろなことを考えますと、クリエーターの方、パブリッシャーの方が自然に歩み寄れて一つの制度をつくっていこうじゃないかということになったのは、やはり出版権制度、出版制度の長い伝統の中の知恵として採用されたんじゃないかな、このように考えております。

 以上です。

宮本委員 長い議論の上に立った一つの知恵として出されたということがよくわかりました。

 それで、ここで、写真家でもございます瀬尾参考人にお伺いしたいんです。

 先ほど、日本は日本のやり方でよいということも別の質疑者に対しておっしゃっていましたけれども、今回の法改正とは直接関係はないんですけれども、写真の著作権をめぐっては、保護期間が文芸作品に比して短くなっているという問題があります。とりわけ、現存者の一九五六年以前の著作権が消滅する事態が生じているという問題があるんです。

 古い話で、私も議事録を持ってまいりましたが、我が党の山原健二郎議員が九九年六月の文教委員会でこの問題を取り上げて、日本写真家協会会長の田沼さんの言葉も引いて、この作品は著作権が切れているので使用料は払いませんと言われ、私はまだ生きているんだよ、ただで使われちゃたまらないという言葉を引いて、田沼会長の、幸い、良識のある日本の出版界では、旧法を機械的に当てはめず、写真も文学、美術並みに扱っている。しかし、電子出版やインターネットなど、ニューメディアのユーザーが参入してくると、現在のような良識を期待することは困難になってくるだろう。こうおっしゃった言葉も紹介をしております。

 そこで、やはり権利者と写真の利用者との契約などは、良識に頼るのではなくて、きちっと権利として確立されることが求められていると思うんですけれども、写真の著作権の保護期間の問題、特に現存者の著作権が消滅する問題について、残った時間、お話しいただいて、私の質問は終わりたいと思います。

瀬尾参考人 ありがとうございます。

 非常に私ども積年の問題についてお触れいただきまして、ありがとうございます。

 ちょっと事態を説明いたしますと、ほかの文芸作品や何かは、著作者の死後五十年の保護期間ということで保護されておりました。ただ、写真に関しましては、その公表後十年という非常に短い保護期間で扱われておりました。現行の著作権法では死後五十年でほかと同じになってございます。これは、先生方に本当に御尽力をいただいて法改正をいただいて、今では写真もきちんとそういった権利がいただけるようになっていますが、昔のものについて遡及をしないという法不遡及の原則から、生きている人間のものであっても、田沼の名前が出ましたけれども、我々の会長でもございます田沼武能の写真の著作権はかなりの分で切れております。御本人は健在で、きょうも事務所で仕事をしておりましたけれども、そういう状況がございます。

 これにつきまして何らかの手当てをということでお願いをしてまいりました。その願いは今でも変わりません。ただし、なかなか、法を遡及して適用することの難しさということもございますのと、もう一つは、それを立法するまでの経緯を考えると、残念ながら、高齢に至った写真家の皆様がお亡くなりになってしまうような状況も出てきております。

 実際には、できるだけ速やかにこれを具体的に実現するということで、やはり契約によって、あるというふうな形のように御配慮いただく場合とか、何らかの御配慮をいただくような形でお使いいただく。またもしくは、御本人が存命であれば著作者人格権は存在しておりますので、当然、人格権を尊重していただくということで、出版さんと非常にお話し合いをさせていただいております。

 その結果、実質的には、今の段階で大きな侵害もしくは、気分の悪い方は何人かいらっしゃったというふうに聞いておりますけれども、実質的に大きく問題になってはいないということでありますので、我々としては、そのお願いはしつつも、やはり、それを実際実現するプロセスにおいて周りの皆様にかける労力と効果を勘案した中で、主義主張としてはお願いをしつつも、具体的な解決策を進捗するという形で今解決を図っております。

 この一件を見ましても、出版さんといかに密接にお話しして契約していくかが重要だということは、その件についてもあらわれているかというふうに思います。

 ぜひ、この問題がございますことにつきましては、先生方皆様につきましても、写真の著作権が非常に不当に、不当と申し上げてよろしいでしょう、短かったことにつきまして問題が起きていた。著作権行政というのは非常に微妙なものでございますが、そんな過去の部分についても、写真についてはぜひ御承知おきいただけたらというふうに思います。

 宮本先生、これは感謝申し上げて終わりたいと思います。

 以上でございます。

宮本委員 ありがとうございました。以上で終わらせていただきます。

小渕委員長 次に、青木愛君。

青木委員 生活の党の青木でございます。

 本日は、相賀参考人、また土肥参考人、瀬尾参考人、三名のそれぞれの参考人から大変貴重な御意見をいただきまして、まず御礼を申し上げます。ありがとうございました。

 私からも何点か質問させていただきますが、重なりますけれども、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 まず、今回の法改正が必要になった経緯といいますか、海賊版対策に関して、これまでそれぞれのお立場でどのような取り組みをされてこられたのか。不正データの削除要請一万件という数字が挙がっておりましたが、削除要請したその後の結果についてちょっと先ほどお伺いできなかったものですから、これまで、それぞれのお立場で大変御苦労があったかというふうに思います。特に著作権、個人ではなかなかこの海賊版への対応というのは困難な面もあっただろうというふうに思っておりますので、まずは、この法改正に至るまでのそれぞれのお立場での対応、どのようにこの海賊版に対抗されてこられたのか、御意見を伺えればというふうに思います。

相賀参考人 御質問ありがとうございます。

 海賊版に対しては、先ほど申し上げましたように大変に数が多いんですけれども、どこどこにこれは困ると言うと、やめますと言ってまたどこかで始めるように、イタチごっこというのが現状で、減ってはいるんだろうなという感触しかないんですが、よくわかりません。またふえているのかもしれません。

 一番困ったのは、そのプロセスにおいて私ども手紙を出すんです、こういうものでは大変に困りますと。中には封をあけずに返すところがあります。日本の出版者にはそういう権利がないことがどうもばれているらしくて、ネット上には、出版者から来てももうみんな返せばいいんだよ、著作権者から来ないと相手にしなくていいんだよというのが、そんなことはないと思うんですけれども、封ぐらいあけたらどうだと思うんですけれども、そういうようなことが幾つかありまして、ちょっと我々も無力感を感じていて、何らかの権利が欲しいなというのが一つあります。

 ただ、現実には自炊訴訟というのがございまして、そのときもやはり同じようなことが起きたんですけれども、これについては一審では勝訴しましたけれども、やはり出版者には権利がないということで、五人の方の、五人でしたっけ、作家の方にかわりに立っていただいて、それを我々がバックアップする形で裁判をせざるを得なかった。

 こういったことの積み重ねが、現在、こういった権利をぜひ欲しいということにつながった一つだと思います。

土肥参考人 御質問ありがとうございます。

 削除要請なんですけれども、当然御案内なんだと思うんですけれども、この削除要請というのは、コンテンツのホルダーがプロバイダーにするわけです。プロバイダーは削除したという数字は出すんですけれども、出すといいますか、内々では出していると思うんですが、削除要請がどのぐらいあったからこれだけの削除をしたというふうなことをもし出すと、恐らく彼らに響いてくることはあるんじゃないかと私は思うんです。

 つまり、これだけの削除要請がありながら実はこれだけのものしかしなかったということになると、何らかの影響があるというふうに私は想像するんです。ですから、そこのところはかなり抑えているんじゃないかと思います。

 あと、著作権の世界は、信頼性確認団体というのが当然あるわけですので、信頼性確認団体が削除要請をすれば、一応プロバイダーは他の場合と比べると簡単に削除してくれるはずになっています。それは、実際そういうふうにされているのかどうかよくわかりませんけれども、著作権の世界というのは、大変な世界のように私にはちょっと感じるところがあります、インターネットでですね。

 ロレアル・イーベイ、これはEUの裁判所の判決で非常に有名になった。ロレアルが原告で、イーベイ、プロバイダーがその被告になって、侵害訴訟で、これは商標なんですけれども、検査官がレポートを書くんです、日本でいうと最高裁の調査官がレポートを書くのと同じようなものだと思うんですけれども。その中で、ヨーロッパの場合、侵害品が七〇%あると書いてあるんです。同じようなケースで、東京地裁知財高裁の楽天のケース、名前を出していいのかわかりませんけれども、被告が楽天のケースの場合は、侵害品の割合が少ないんですよ。

 ある信頼性確認団体の方が言われるには、日本の場合、それは商標なんですけれども、商標の場合一、二%だと言われるんです。ヨーロッパで七〇で、何で日本の場合一、二%なのかというのは私にはよくわかりませんけれども、やはり何か理由があるんだろうと思っています。

 ここは著作権の問題なので、本来著作権でお答えした方がよかったのかもしれませんけれども、御参考になればと思って。

 以上でございます。

瀬尾参考人 海賊版対策の実態ということで、実際には、例えば著作権団体、例えば写真でございますとか美術とかグラフィックもしくは文芸もございますけれども、直接著作者が裁判をしないと裁判ができないにもかかわらず、実は出版者さんがそれについてほとんどやってくださるということが多いという現実があります。

 ただし、それにつきましても、数としてはそれほど多くはないというふうに訴訟は聞いております。といいますのは、訴訟費用とその被害金額を考えた場合、ほとんど赤字になってしまうということも多いというふうに聞いております。

 ですので、先ほど前にお話が出ました、ADRという手法で、訴訟に至らずに解決するとかの方法でないと実際には訴訟を起こしにくい、こういう状況があるのかなと思います。

 そういったことに関しまして、ちょっとこれは先ほどのクール・ジャパンの方の話でアニメとかの方を例にとりますと、先ほども申し上げました、許諾を出すということで落とす。例えばアジアのある国におきまして非常に海賊版が流れていたときに、そこのトップブランド、最も大きなシェアに安くても許諾を出すんです。あなたのところに許諾を出して、あなたは正しいんだから、ほかのところはみんなにせものなんだからあなたが落としなさいと言って、その自国内で許諾したところに落としていただく。そして、逆にまた法的にも少しずつ追っかけていくということで、海賊版対策は効果が出たという話を聞いております。

 いかに出た海賊版を落とすかではなくて、海賊版が出にくい状況にするかということも含めて、許諾とそれから訴訟とをあわせていかなければいけないということを考えております。

 実は、先ほど自炊という、これは自分で御飯をつくることじゃございませんで、本をデジタル化することなんですが、自分でやる分には権利制限の中で合法ですが、それを代行する業者というふうな形で今係争中でございます。私はそれにもかかわっておりましたけれども、著作者としては、許諾を出してはどうかと。要するにこれは違法なんだけれども、許諾を出せばオーケーである。したら、そういうニーズとか、いろいろ例えば体の不自由な皆さんとか、そういう方たちにも利用していただける形としてデジタル化が必要であるとすると、許諾を出していく方向で逆に海賊版を対策すべきじゃないかという考えを実は持っておりました。

 そのようにいろいろな方法がございますけれども、単純に、違法であるからといってそれをたたくだけでは実は問題は解決しないというところが問題かなと思います。

 ただ、それにつきましても、著作者がみずから行うということに関してはかなりハードルが高いので、ADRの普及もしくは出版社さんとタッグを組んでの対策というふうなことをしていかなければいけないのかなというふうに考えております。

 以上です。

青木委員 それぞれ大変参考になる御意見をいただきまして、ありがとうございました。

 もう一点、三名のそれぞれの参考人にお伺いをさせていただきますが、先ほどから話が出ております著作隣接権について、それぞれのお立場でお伺いをさせていただきたいというふうに思います。

 今回の法改正に当たって、四つの方策が検討されました。中でも、特にこの著作隣接権、午前中の質疑でもお伺いをしたんですけれども、レコード会社ですとか放送事業者にはこの隣接権が付与されておりまして、文化庁にお尋ねをいたしましたところ、これは国際条約で国際的な枠組みがあるんだというのが午前中の答弁でございました。

 なぜ出版者にはこの隣接権というのが付与されない状態にあるのか。付与した場合、付与しない場合のそれぞれの立場でのメリット、デメリット、社会に与える影響、ユーザーに与える影響等々、それぞれのお立場でお聞かせをいただければと思います。お願いします。

相賀参考人 隣接権があればどんなに楽かと思ってスタートしたのは事実でございますが、やはりそれは、自動的に権利が付与されるということに対して著作権団体は非常に不安を持っていたということもございます。

 今、その過去に戻っていろいろと言うのは余り生産的ではないと私個人的には思っていまして、むしろ、今回こうやって権利を持つことによって、もし隣接権があればきっと今までと同じようなやり方をしていただろうけれども、今こうして新たな段階に入った以上、各社一生懸命、デジタルの権利も版の著作権もちゃんと権利を結んで、それに対してそれを有効に今後生かしていく、この方向に切りかえていきたいと思っております。

土肥参考人 御質問ありがとうございます。

 その点に関しては、先ほども御質問いただいたのでお答えしたところもあるんですけれども、確かにパブリッシャーとしては、原版というんですか、作成する、レコード製作者のように音を最初に固定をする、そういうレベルで隣接権が与えられるということは歓迎されるんだろうと思うんですけれども、先ほど説明させていただいたように、法制度というのは、さまざまな利益主体をどうやって調整するか、利益調整の社会的な手段というふうに認識しておるわけでありまして、やはり、パブリッシャーのそういう権利というものがクリエーターのその意思との関係で生まれてくるということの方が、利益調整手段としての著作権法の中に据わりがよかったということなんですね。

 あと、それではその権利が強ければいいんですけれども、実は版ということになりますので、パブリッシャーが固定される、作成されるのはその版ということになって、著作物というわけではないわけですので、では、それで結構有効にパブリッシャーとして海賊版対策ができるかというと、必ずしもそうとも言えない面があるんだろうと私は思っています。

 特にクリエーターの方で言われたのは、特に絵の方、美術の方は、自分たちの描いた絵そのものが、その原版をつくられるとそれが隣接権者の権利なんですかというふうに言われまして、なかなかクリエーターの方たちの賛成は得られなかったというわけであります。

 出版関連小委としては、幅広い利益主体にとって歓迎される、受け入れられる制度ということになりますと、出版制度の見直しというところに行かざるを得なかったというところでございます。

 以上です。

瀬尾参考人 隣接権の得失というふうにお尋ねでございますけれども、自動的にできてしまう、権利が生じるということはもちろんなんでございますけれども、ただ、今、隣接権が生じたとき、その本に隣接権が生じるんですが、デジタルとかさまざまな形で出版物ができたときに、それに自動的に全てにいわゆる隣接権が及んでしまうとなると、かなり膨大な範囲に、つまり、デジタルも含めた相当広い範囲に権利が必要になってきてしまう。それだけ大きな権利が自動的に著作物に乗っかってしまうということに対して、非常に著作者団体は危惧を覚えた。

 今、土肥参考人からも美術の話が出ましたが、絵本の作家が全部自分で絵も描き字も書いてつくって、ただそれを束ねて出版すると上に権利が乗っかっちゃうのは納得できないとおっしゃったことが結構印象的にあります。

 自動的というのは、これまでの契約の中で解決していこうということについては、やはり一点、なかなか遅疑を生む部分があるんじゃないかなということがありました、権利者の中では。

 その中で、ではどうしたらいいということで今のほかの手当てになったんですが、そういった意味では最もよくなかった点というのは、著作者と出版者の間に非常に相互不信を生んだ議論だったと思っています。お互いで、何を考えているんだ、お互い敵対しているんじゃないか。先ほど申し上げたように、契約は信頼関係の上で初めて正当にできる。その中で、あの議論によって著作者と出版者の中で非常にお互いを相疑うようなそういう風潮と雰囲気が醸されたことが、何といっても著作隣接権議論の最大のマイナス点だというふうに思います。

 ですので、早くその議論を出て、次にどうするかということを、こちらにいらっしゃる議連の先生方の御指導も含めて、そこから脱却して最後の終着点が見えたということでございますので、デジタル化の時代に非常に難しいということもございますし、範囲の設定も難しかったですし、著作者の遅疑も生んだし、大きな溝をつくったということですので、著作隣接権に関しては、また、海賊版に対しての効力云々の実効的な部分もございますけれども、私はそういうふうに捉えておりますので、速やかに今のような形で決着を見られたというのは、よろしかったのではないかなというふうに考えております。

 以上でございます。

青木委員 大変前向きな御意見、ありがとうございます。次の質疑につなげさせていただきます。

 ありがとうございました。

小渕委員長 次に、吉川元君。

吉川(元)委員 社会民主党の吉川元です。

 参考人の三人の皆様、本当に貴重なお時間をいただき、当委員会に出席いただき、また貴重な御意見をいただいたこと、本当に感謝を申し上げます。長い長い質疑でしたけれども、私でいよいよ最後となりますので、あともうしばらくおつき合いをいただければというふうに思っております。

 私自身の問題意識といたしまして、今回の法改正、海賊版の対策であるだとか、そういう点を含めて大変大切な中身を含んでいるというふうにも思っております。

 また同時に、今回は電子書籍ということですけれども、やはり紙媒体の書籍ということも、これは大変な重要なものだろうというふうに思っております。

 これは午前中の委員会でもお話をさせていただいたんですけれども、電子書籍の場合は、例えば本の名前がわかっていれば、検索をすれば一発で出てくるわけです、これは紙媒体でも一緒ですけれども。ただ、ふらっと入った本屋でたまたま本棚で見かけた本、ぱらぱらと一、二ページめくってみると、ああおもしろそうだ、今まで興味がなかったけれどもおもしろそうだということで購入をして、そこからいろいろな視野が広がっていくということもこれは往々にしてあることでありますから、やはり、紙媒体の書籍というものが今後どうなっていくのかということについて非常に強い問題意識を持っております。

 そういう点で、まず相賀参考人の方にお尋ねをしたいと思います。

 同一の書籍が紙媒体と電子書籍双方で出版された場合、現状、価格の設定というのはどういうふうになっているのかということ。電子の方も含めて紙媒体というのがまずあるんだろうというふうに思いますけれども、その場合にはやはりさまざまな、企画、編集、あるいは印刷、手配、流通、また、返本された場合のいろいろな費用等々もかかってくるだろう、そういうのも含めてコストが計算されているだろうというふうに思いますけれども、電子書籍の場合は今後その価格が紙媒体よりも低下をしていくのではないかというふうにも思っておりますが、この点についてどのようなお考えをお持ちか、お聞かせください。

相賀参考人 質問ありがとうございます。

 まず、電子出版の現状というのをちょっと大まかにお話ししますと、二年前の資料で申しわけないんですけれども、二〇一二年度、このとき紙媒体の売り上げが、毎年減っていたんですけれども、一応、雑誌、書籍合わせて一兆七千四百億円でした。このときの電子書籍が約七百二十九億、七百三十億ぐらいですので、約四%。

 今後どうなるかというインターネットメディア総合研究所という民間機関の予測では、電子出版市場、三年後、二〇一七年で約二千四百億円規模になると見られております。この時点では紙の出版物の落ち込みが残念ながら毎年二%ずつと計算すると一兆五千五百億円。ですので、電子出版が約一三・四%ぐらいが二年、三年後ぐらい。

 その中でやはり紙の魅力をどうつくっていくかというのが我々の一番の喫緊の課題ですけれども、書店の数が一万四千軒ございます。それから、一年間に十点以上出版をしている出版社の数が約千社以上あります。こういう中で多様なものをいかにして出会いをつくるかというのが、リアルショップは置き切れないという単なる物理的な問題を、やはりデジタルがかなりカバーできるのではないか。

 今、理想としているのは、できればデジタルである程度の本を見つけて、あるいは地方に送られてこない本をデジタルである程度の概要を見て、それでリアルショップで本を買っていただく。もしそれがなければすぐ注文をしかけていただければ、注文も、今のような十日後ですとか二週間後ではなく、本当に今のいろいろなネットの書店はすばらしい、二日後、三日後には来ますので、それを我々の業界もやはり学んで、あるいは何らかの形で提携もして、そういうお客様、地方のどこにいてもすぐに手に入るという部分をつくっていかないと、まさに、書店は消えてデジタルのみになってしまう。

 はっきり言って印税の点でも、どうしても電子書籍は七、八割の値段ぐらいが今の現状なんです。そうすると、当然、マージンで暮らしている取り次ぎ関係も、あるいは書店、印税も減ってしまいますので、やはり持続的な知の再生産に破綻を来すというふうに考えておりまして、いかに紙の本をちゃんとやっていくか。

 ただ、おもしろいものは、紙の場合、新刊以外に、いわゆる古本、古書、新古書と呼ばれているものもたくさんありまして、それは実は五倍ぐらいの値段で売られているものもありまして、それがまたネットの中でも非常に増殖しているみたいな、値段がまさに非常に流動的になっております。

 再販価格維持を我々はできるのですけれども、やはり、地方によってもどこでも同じように手に入ると言いながら、ネットの中での余りの値段の動き、これはお互いに話し合ってどこかである程度の線をつくっていかないと、単なる安売りという形が果たして本当に知の再生産につながるのかという問題をはらんでおります。

 以上です。

吉川(元)委員 それに関連しまして土肥参考人にお尋ねをいたします。

 今まさに相賀参考人の方から言われましたが、紙媒体については再販価格維持ということで行われておりますが、他方で電子書籍というのはそうはなっていない。午前中も少し公正取引員会を呼んでお話を聞いたんですけれども、この場合、やはり価格の上げ下げが非常に簡単にといいますか、できるというふうになって、そうなってくるとディスカウントのバーゲンセールということも可能になりますし、それから、やはり私が非常に危惧するのは、同一書籍でも紙と電子で物すごく差がついてしまう。あるいは、人気、不人気、不人気と言うと失礼ですけれども、まだまだ今から成長していこうという作家の皆さんにとってみても、この点については非常に私自身は危惧を持っております。

 こういう異なる制度が、コンテンツということでは同じなんですけれども、電子とそれから紙ということで違うということについてどのような感想あるいは考えをお持ちか、お聞きいたします。

土肥参考人 御質問ありがとうございます。

 基本は、要するに紙媒体と電子の場合、当然、作成のコスト、紙がないわけですし輸送コストもないわけですし、それは紙と比べると安くなるというのは、これは必然だろうと思います。

 では、紙の方が高いから困るのかということなんですけれども、皆さんどのように感じておられるかわかりませんが、私などは、やはり紙による一見性といいますか、ぱらぱらできるというんでしょうか、全体を見ることができる、書籍の利用におけるこういう便益というのは、私は小さいものではないと思います。もちろん、一方、場所をとったりそういうことをいたしますので、収納のスペースというものを伴わないだけに、電子書籍の当然メリットもあるわけです。

 ですから、そういう紙を重視される方はやはり紙の本を購入されるでありましょうし、それから、電子のようなものがいいという方は電子のものを購入されていくんだろうと思います。

 その中で、市場原理に基づいて特に電子のものは紙より当然いろいろな面で安くなっていきますし、レコードがCDとなって、その後配信されましたけれども、その段階でやはり下がっています。当然、そういうレコードで起きたことは書籍の場合にも起きてくる。

 そういう電子の無形のコンテンツの方を必要とする方にとって、より安価に購入できるということは、それは非常に一般ユーザーにとって利益のあることだと思いますので、それをどこまで下げていくことによって、クリエーターに対する当然受けるべき対価の額、報酬の額というものが減ってしまうということがあっては、やはり本来の趣旨からすると反すると思いますけれども、そこはきちんと従来どおり一定の原理に基づいて電子の場合にも価格というのは落ちつくんではないかな、そういうように私としては想像しておるということでございます。

 以上です。

吉川(元)委員 相賀参考人の方からぜひ。

相賀参考人 フランス、ドイツでは出版価格法という別な法律をつくられておりますので、我々もそれを見ているんですけれども、日本もそろそろ、独占禁止法の中のいわゆる例外的な再販売価格維持契約ができるというのから外れて、新たな出版価格法も検討する時期に来ているのかなと私は思っております。

吉川(元)委員 ありがとうございます。

 それでは次に、瀬尾参考人に少しお伺いしたいと思います。

 ちょっと古い話で恐縮なんですけれども、ホームページを見させていただいておりますと、二〇〇九年八月に、グーグルブックの検索訴訟の和解案に対する声明というものが掲載をされておりました。グーグル社が無断で大規模なスキャンを実行して複製物の蓄積を行ってきた事案というふうに承知をしておりますけれども、この点に関して、なぜ、グーグル社というのは、いわゆる挿入された写真を権利保護の対象ではないと主張したのか。

 また、これはまさにネットの特性だと思うんですけれども、日本と異なった法体系といいますか、著作権法等々を持つ外国との間でトラブルになった場合にどのように対応すべきで、また、どのような条件整備が必要だというふうにお考えになっていらっしゃるでしょうか。

瀬尾参考人 グーグルの裁判の件ですが、我々としては一番問題にいたしましたのは、実は、著書といって本が一冊あった場合に、著作者名が出ております。でも、実際、その本は、装丁、イラスト、写真、その他いろいろなものでやっと一つができるということなんですね。当然その権利自体も譲渡されるわけではなく、それぞれが持っている状態がある。にもかかわらず、著作者名のみの許諾をもって足りるとしているところに問題があった。つまり、著作物の許諾を得る対象として写真が入っていなかったというのが一番大きな問題だと思っていました。

 ただ、今後、これはデジタル化によって非常に大きな問題になってくると思います。つまり、出版物は複合著作物です。それに対してどこまで権利をどうするのか。主張し過ぎたらばらばらになってしまいますし、例えば雑誌にしてみると、一冊で二百人から三百人の権利者がいる。これに関しては、もうどうにもならなくなってしまうことも考えられる。ですので、将来的にこういう複合した著作物の状態をどのように整理していくかという契約が我々にも求められているという教訓にはなりました。

 それと、アメリカの法体系と日本の法体系の違いと、それからアーカイブ化というお話でございます。

 先ほどのアーカイブの話を繰り返させていただきますけれども、日本でもきちんとしたアーカイブを持って、そして日本なりの趣旨を立てないと、単純にアーカイブは嫌だ嫌だというだけでは済まない。済まないし、では日本はどうするんだといったときのきちんとした指針というのは、やはりもう要る時期に来ているように思います。

 ですので、グーグルは目を覚まさせていただく一つの警鐘だったと思っていますし、また、それは、今の写真のような複合的な著作者に対してどう対応するかという問題、それから、次のデジタル化に至ってどうするかという問題を提起しているというふうに思います。

 ですので、アメリカ内でもいろいろ訴訟があったりしておりますし、文藝家協会さんなんかは、アメリカに行ったりしながらいろいろな交渉をされたりしています。

 ただ、よくあれは一つの黒船と言われますが、私は黒船と思わずに、それはきちんと我々の目を覚まさせてくれた、やはり黒船ですかね、でも、夜も眠れずではなく、きちんとあれによって日本が対応して、現状を改善するためのきっかけになればということを思っておりますし、写真分野としてどうこうというよりは、著作者全体のデジタルに対する対応を考え直すいい契機になったなというふうに思っております。

 以上です。

吉川(元)委員 そうしましたら、最後に一問だけ相賀参考人にお尋ねしたいと思います。

 電子書籍の場合、ダウンロードで購入する場合というのは問題はないと思うんですけれども、ネットサーバー経由で電子書籍を配信する場合、電子書店が何らかの理由で事業を取りやめる、実際にあった事例ですけれども、そうなった場合に、書籍を購入した人がそのサービスを受けることができなくなる、こういう事案が発生をしております。

 出版界の代表としてこういった事案についてどのように考えておられるのか、最後にお聞きします。

相賀参考人 御指摘のとおりで、それは大変に問題になっております。

 理屈では、確かに潰れればしようがないというのはあるんですけれども、今それをどうやってカバーするか。むしろネット書店の方がそれを考えているので、出版界としては、読者のために、また著作者のためにも、ぜひ引き継ぎのシステムをつくってほしいというふうに考えております。

 よろしいでしょうか。

吉川(元)委員 時間が来ました。これで終わります。

 ありがとうございました。

小渕委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の皆様におかれましては、本日、大変貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

 次回は、来る四日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時散会


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