衆議院

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第10号 平成16年11月26日(金曜日)

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平成十六年十一月二十六日(金曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 河上 覃雄君

   理事 河村 建夫君 理事 櫻田 義孝君

   理事 平井 卓也君 理事 松島みどり君

   理事 鈴木 康友君 理事 細野 豪志君

   理事 吉田  治君 理事 高木 陽介君

      遠藤 利明君    嘉数 知賢君

      北川 知克君    小杉  隆君

      佐藤 信二君    坂本 剛二君

      菅  義偉君    竹本 直一君

      谷畑  孝君    中西 一善君

      西銘恒三郎君    野田  毅君

      平田 耕一君    望月 義夫君

      森  英介君    山口 泰明君

      山本 明彦君    奥田  建君

      海江田万里君    梶原 康弘君

      菊田まきこ君    近藤 洋介君

      高山 智司君    中山 義活君

      計屋 圭宏君    肥田美代子君

      松崎 公昭君    村井 宗明君

      渡辺  周君    江田 康幸君

      塩川 鉄也君

    …………………………………

   経済産業大臣政務官    平田 耕一君

   経済産業大臣政務官    山本 明彦君

   参考人

   (社団法人日本経済団体連合会経済法規委員会競争法部会長)

   (住友化学株式会社特別顧問)           諸石 光熙君

   参考人

   (社団法人経済同友会代表幹事)          北城恪太郎君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員)   安保 嘉博君

   参考人

   (法政大学法学部教授・法学部長)         岸井大太郎君

   参考人

   (弁護士)

   (元中央大学法学部教授) 伊従  寛君

   経済産業委員会専門員   熊谷 得志君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月二十六日

 辞任         補欠選任

  大畠 章宏君     肥田美代子君

同日

 辞任         補欠選任

  肥田美代子君     大畠 章宏君

    ―――――――――――――

十一月二十六日

 原子力発電等に関する請願(近藤基彦君紹介)(第三八三号)

 同(柳澤伯夫君紹介)(第五一六号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第一九号)

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案(仙谷由人君外十六名提出、衆法第四号)


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     ――――◇―――――

河上委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案並びに仙谷由人君外十六名提出、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、参考人として、社団法人日本経済団体連合会経済法規委員会競争法部会長・住友化学株式会社特別顧問諸石光熙君、社団法人経済同友会代表幹事北城恪太郎君、弁護士・日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員安保嘉博君、法政大学法学部教授・法学部長岸井大太郎君、弁護士・元中央大学法学部教授伊従寛君、以上五名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、参考人各位からお一人十分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず諸石参考人にお願いいたします。

諸石参考人 経団連で競争法部会長を務めております住友化学の諸石でございます。このような機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 独禁法改正に対する経団連の考え方について御説明申し上げます。

 まず、私どもの基本的な考え方につき一言申し上げます。

 公正かつ自由な競争の実現は、経済を国際化、活性化し、国民の利益を増大することにつながるものであり、経済憲法と言われる独禁法は、常に時代の変化に対応して見直す必要があると存じます。また、それに伴って、公正取引委員会につきましても、法がより一層適正に執行されるよう、準司法機関として真にふさわしい体制を整備することが不可欠であると考えております。

 このような考え方は、そもそも今回の独禁法改正のきっかけとなった平成十四年の独禁法改正の際に、この経済産業委員会において行われた附帯決議の趣旨と全く同じであると考えております。平成十四年の改正では、刑事罰の上限が一億円から五億円に引き上げられましたが、その際の附帯決議には、課徴金、刑事罰、公取委の調査権限のあり方を含めた独禁法違反行為の措置体系全体について早急に見直すことがうたわれております。

 現在、独禁法改正につきまして、政府案と民主党案の二つの法案が提出されておりますが、それぞれの改正案がこの経済産業委員会における附帯決議の趣旨に十分こたえているものかどうか、慎重に御審議いただきたいというのが経済界の率直な気持ちであることを、御理解いただきたいと存じます。

 それでは、具体的な論点について、経団連の考え方を申し上げます。

 まず、課徴金の問題でございます。

 公正取引委員会は、課徴金の算定率の引き上げの根拠として、公正取引委員会が集めて、その詳細な内容は公表しておられないデータに基づいて、カルテル前後による価格の変動率の単純平均が一六%程度であることなどを理由とされております。

 この変動率を過去の事件ごとに不当利得を算定したデータと称しておられるわけですが、これは、データが正しいといたしましても、さまざまな要素を捨象して、たまたまカルテル行為前後での価格の変動を見たというものにすぎず、カルテル、談合による事業者の不当利得や経済的利益とは関係ないものでございます。

 これまで経団連は、課徴金は、本来、事件ごとに個別算定すべきであると申し上げてまいりました。しかし、公正取引委員会は、個別算定はできないと主張しておられます。つまり、このデータは法的根拠にはなり得るようなきちんとしたものではないことを、公正取引委員会がみずから認められているということになります。

 また、平成十四年に実施したばかりの刑事罰の強化による抑止効果についても、全く検証がなされておりません。

 仮に課徴金の算定率を引き上げるのであれば、この国会の審議において、このようなあやふやな公正取引委員会のデータによるものではなく、国民の納得が得られるようなきちんとした根拠を明確にしていただきたいと存じます。

 私どもといたしましては、現実の企業の利益率を踏まえるならば、現行の六%でも十分に高く、違反行為の抑止力に乏しいとは言えない状況にあると存じます。

 次に、課徴金と刑事罰の関係について申し上げます。

 我が国の独禁法は、課徴金と刑事罰が併科されるという世界的にも例の少ない制度となっており、憲法上の二重処罰の禁止に抵触するおそれもあります。

 仮に課徴金を引き上げるのであれば、併存する刑事罰との調整が必要であり、法人に対する制裁は課徴金に一本化し、刑事罰は行為者個人のみを対象とするか、課徴金と刑事罰のどちらかを選択的に適用すべきではないかと存じます。米国では刑事罰、EUでは課徴金に一本化されているという諸外国の法制度に照らしても、このようにすっきりとした法体系にすることが法制度の国際的調和の面からも望ましいものと存じます。

 このような課徴金と刑事罰の調整をした上で課徴金制度の見直しを行うのが本来あるべき姿であり、課徴金の引き上げのみが先行することのないよう慎重に御審議いただきたいと存じます。

 第三は、適正手続の確保です。

 この点は、私どもが最も重要視している事項であります。

 課徴金を引き上げ、公正取引委員会の権限を強化するのであれば、独占禁止法がより一層適正に執行されるよう、準司法機関として真にふさわしい体制を整備する必要があると存じます。

 政府の改正案におきましては、現行の事前審判手続による比較的慎重な処分方式を改め、一たん排除措置命令と課徴金納付命令が出された後に、不服のある場合に審判を請求することができることとされております。これは、処分を受ける者の立場を不当に弱めるものであると言わざるを得ません。

 また、排除措置命令の中には、営業の一部譲渡のような企業にとって極めて重大な処分も含まれておりますが、このような重大な措置を事前手続なしに一方的に行うことには危機感を抱かざるを得ません。

 しかしながら、現行の審判手続におきましても問題があることも否定できません。

 現行の審判手続は、裁判官役と検察官役が同じ公正取引委員会事務総局の職員であり、いずれの最終決定権者も同じ公正取引委員会の委員であります。そのため、事前に証拠を見てクロと判断を下した委員が予断を持った上で審判に当たるという、近代法の対審構造からかけ離れた被審人に極端に不利な仕組みになっております。

 そこで、このような被審人に不利な現行手続を改め、判事経験者を中心とする審判官の独立性を高め、事業者に対等の立場で反論を主張、立証する機会を与え、予断を持たない公正な立場から、適正な証拠に基づいて判断が下されるようにすべきであると考えております。

 また、政府及び民主党の両方の改正案で犯則調査権限の導入が提案されておりますが、現在公正取引委員会が行っている行政調査では、例えば、立入検査に来た公取委の職員から具体的な被疑事実や法適用を告知されず、事業者は反論、防御のしようがないことや、提出を命ぜられた書類をコピーすることすら認められないこと、また、事情聴取の段階におきましても、審査官は自分の考えたストーリーに沿った供述しか調書にせず、さらに、黙秘権の告知はもとより、供述調書の修正ができることや署名捺印を拒否できることも告知されないといったやり方で行われているという問題がございます。

 このような、行政調査でありながら、あたかも裁判所の令状に基づく捜索、押収のようなやり方で実施されている調査の現状を正すことが先決であると考えております。

 なお、公正取引委員会が以上のような適正な手続のもとで法を執行するためには、公正取引委員会事務総局の体制強化も不可欠となります。

 現在、公正取引委員会は、法曹資格者は、事務総局職員約七百名のうちわずかに八名と聞いております。また、公正取引委員会の委員も、官僚出身者が五名中三名を占めております。米国の連邦取引委員会や司法省反トラスト局のスタッフは、その大半がローヤーやエコノミストであり、これに近づくためにも、公正取引委員会の職員につきまして、経験豊富な法曹資格者や経済実態、分析に精通した学識経験者などを積極的に採用し、準司法機関にふさわしい、質の高い集団にすべきであります。

 他方、人材の充実が公正取引委員会の単なる焼け太りにつながってはいけません。特に、審判官につきましては、現行五名いる審判官のうち四名が公正取引委員会の職員である現状を改め、審判官組織を公正取引委員会から分離した上で、その大半を判事経験者にすべきであると考えております。

 以上が私どもの考え方でありますが、ここで申し上げた課徴金のあり方、審査、審判のあり方などを含めた抜本改正につきまして、政府及び民主党のいずれの法案におきましても、法施行後二年以内に、検討の上、所要の措置を講ずることが法案の附則に明記されております。

 これらの検討課題は、準司法機関としての公正取引委員会のあり方という根本的な問題であります。これを当事者である公正取引委員会に任せていたのでは、徹底した改革の実現は困難であると存じます。ぜひ、国会審議におきまして、今後の改革を進める体制につきましても明確な方向をお示しくださいますようお願い申し上げます。

 以上、経団連の考え方を申し述べさせていただきました。ありがとうございました。(拍手)

河上委員長 どうもありがとうございました。

 次に、北城参考人にお願いいたします。

北城参考人 おはようございます。経済同友会の代表幹事をしております北城でございます。

 本日は、独占禁止法の改正に当たりまして、私どもの意見を述べさせていただく機会をいただきまして、まことにありがとうございます。経済法制で非常に重要な独禁法の改正に当たりまして、与党、野党の先生方、また公正取引委員会の職員の方々が熱心に取り組んでいらっしゃることに敬意を表したいと思います。

 まず、経済同友会の独禁法に対する基本的な考え方でありますけれども、私どもは企業経営者の集まりでありまして、企業の社会的責任、CSRと呼ばれておりますけれども、この実行が非常に重要であるというふうに考えておりまして、談合であるとかカルテルというような犯罪行為がなくならないということに対して、非常に問題と思っております。民間企業の活動が社会から信用され、国民から信用されることによって初めて多くの分野で株式会社あるいは民間企業が活動できるというふうに思っておりますので、こうした不正行為がなくなるような体系をつくっていくということが重要ではないかというふうに思っております。

 具体的な論点でございますが、最初に課徴金の問題について意見を述べたいと思います。

 残念ながら、現在、カルテル、談合がなくならない理由の一つには、もちろん官製談合等の問題がありますけれども、制裁としての抑止力が不十分ではないかというふうに感じております。

 過去の談合あるいはカルテルに基づく超過利潤、これはある程度期間がたたなければ具体的な算定が難しいということで、公正取引委員会の方で幾つかのデータを出していただいておりますが、事件が起きた段階ではすぐわからない。排除勧告等が行われた後で実際に価格が下がる等の経済的な効果が出てくるわけですので、私は、超過利潤が談合、カルテルでは得られると思いますので、超過利潤に対する制裁金の額が多くなければ抑止力が働かないというふうに思っております。

 前回、課徴金の算定、大企業、製造業等で六%というような算定率が出されておりますが、これは平均的な営業利益率をもとに算定されたというふうに伺っておりますが、談合であるとかあるいはカルテルをつくるということは、通常であれば、平均的な営業利益率を上回る利益が得られるということでこうした行為が行われていることが多いというふうに思っております。

 そういう意味では、現在の六%、あるいは中小企業で三%等の課徴金の額は、不当利潤、超過利潤に対して私は少ないというふうに思っておりまして、やはり犯罪を犯すことが得になるというような制度であってはならないというふうに思う次第でございます。

 海外の例を見ましても、米国ですと一五%から八〇%ぐらい、平均二〇%ぐらいの制裁金があるというふうに聞いておりますので、そういう意味では、犯罪を起こさない、そのための抑止力が必要だと思います。これは、必ずしも企業経営者が率先して犯罪を起こしているということだけではないと思いまして、第一線の社員が起こした不祥事もあると思いますが、しかし、不正を行うことで利益が得られるというような発想にならないためにも、大きな抑止力をつくっていただきたいというふうに思っているわけです。

 そういう意味では、今回の改正案、政府・与党あるいは民主党さんの案を伺いますと、大企業、製造業等で一〇%ということで二けたということではありますけれども、私は、二けた、一〇%でもまだ低いのではないかという感じがしておりますし、また、業種あるいは業態の大きさによってはさらに低い数値になっておるということですので、さらに本来であれば抑止力の高い課徴金を設定し、こうした犯罪行為を行わないという社会的な認知が広まることを期待しておるわけであります。しかし、現状に比較しまして一歩前進ということで、まずは、今回提案されております課徴金の引き上げを実行していただければというふうに思っております。

 次に、措置減免の問題であります。

 こうした談合等は密室で行われるということもありまして、なかなか公取の方も実態を把握しにくいということもあるようです。さらに、こうした違反行為は会社の中での監査等で発見されることもあるわけですが、こうした問題が社内で発見された際に、企業の側から自主的にそれを公正取引委員会に申し出るということのインセンティブが働く仕組みが必要だというふうに思いますので、問題が見つかったときには企業がみずから問題を申告する、それを推奨するためにも、措置減免はぜひ導入していただきたいというふうに思います。

 一社にするか二社にするか、あるいは三社までにするかということについてはいろんな判断があると思いますが、私は、措置減免の導入は必要だと思いますし、現実に日本企業でも、海外の訴訟等においては措置減免を利用して、みずから申告して課徴金あるいは制裁金の削減を実現しているということもありますので、こうした制度の導入が必要ではないかというふうに思います。

 また、刑事罰との問題に関してですが、刑事罰は非常に重大な事件だけに限られるというふうに聞いておりますので、刑事罰が導入された際に、刑事罰で与えられる罰金そのものが制裁としての課徴金を減額するということでは、全体としての企業の負担金が変わらないということになってしまいますので、これは政府・与党案で出ている刑事罰の二分の一を削減するということで妥当ではないかというふうに思っております。

 また、犯則調査権の導入については、これは公正で透明性の高い適正な手順が保障されるのであれば、私どもは賛成したいというふうに思います。

 また、審判手続に関しましては、審判の迅速化、簡素化ということで意義があると思っています。特に、事前に当事者が意見を述べる機会を与えられるということは評価できるのではないかというふうに思っておりまして、審判の独立性の観点ではさらに法曹経験者等をふやしていただくということは必要だと思いますが、審判手続の改正についても進めていただきたいというふうに思っております。

 さらに、官製談合の問題については、これは独占禁止法だけでは対処できないところもあると思いますが、民間だけではこの問題は解決いたしませんので、官製談合を阻止するような面での運用ないしは法制度の強化というのはお願いをしたいというふうに思っております。

 その上で、公正取引委員会には、優越的な地位の乱用であるとか不当廉売等のいろんな経済問題がありますので、こういった問題についてさらに積極的に取り組んでいただくとともに、公正取引委員会の活動そのものが社会から信頼を得られるような、あるいは企業から信頼を得られるような、より透明性の高い活動をしていただければというふうに思っているわけでございます。

 今回の独禁法の改正によりまして、こうした経済犯罪が少しでも減ることを期待しているところでございます。

 以上、意見を述べさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)

河上委員長 どうもありがとうございました。

 次に、安保参考人にお願いいたします。

安保参考人 私は、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会所属の弁護士、安保嘉博と申します。消費者利益を実現するために、独占禁止法が我が国で機能してほしいと日ごろから切望している国民の一人でございます。

 本日の質疑におきましては、消費者利益を確保していくには独禁法改正はどうあるべきかということにつきまして、日弁連ではなく、一消費者の立場から発言をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

 我が国においては独禁法の執行力が弱く、このため、カルテル、入札談合、新規参入排除を繰り返す事業者が少なくなく、これによって多くの消費者利益が犠牲にされ、また、活力ある企業の意欲をそいで、ひいては国内外の競争力を低下させているというふうに認識をしております。

 とりわけ、カルテル、談合というものは、共謀するだけで国民、消費者から多額の財産を奪い取るということで一種の詐欺であるということで、これは国際的にも贈収賄等の社会的犯罪に匹敵する極めて重大な犯罪であるということで、欧米、アジア諸国でも認識されているところでございます。この観点をまずしっかりと認識する必要があると思います。

 そこで、今回の改正案について意見を申し上げます。

 まず、課徴金についてですが、日弁連意見書では、少なくとも二〇%以上への引き上げが必要であるとしております。現在の法案では、政府案、民主党案とも基準率が一〇%ということですが、これで十分な抑止力が働くのか疑問に感じております。

 独禁法研究会報告書の資料では、最近五年間の主要カルテルによる損害推計額は平均二〇・九七%とされておりますし、私たち日弁連が全国の自治体に対してアンケート調査をしたわけですが、その調査結果によっても、談合が困難な制度をとれば一五から二〇%は落札率が下がるというふうになっております。逆に言えば、談合による利益は一五から二〇%はあるということになります。こういうことに照らしますと、制裁として二〇%程度の課徴金は必要なのではないでしょうか。それを課されてもプラス・マイナス・ゼロとなるからであります。脱税を考えてみましても、脱税した金額だけを追徴されるのであれば、脱税をやめる人はいないと思います。

 今回導入されるリーニエンシー制度を利用する動機づけを違反行為者に与えるためにも、課徴金の水準は相当高く設定しておかないと、リーニエンシーが機能しないと思います。しかし、現在の六%をいきなり何倍にもというのは無理があろうかと思います。今回一〇%で立法し、抑止効果を見ながら数年かけて国際水準に持っていくというように、できればお願いしたいと思っております。

 次に、課徴金減免制度、リーニエンシーについて申し上げます。

 独禁法違反行為の中心であるカルテルといいますものは、仲間同士が密室で謀議によって成立させる犯罪ですから、もともと物証が少なくて、公取委にとって調査の端緒もつかみにくい、そういう犯罪であります。共同謀議者の内部告発がないと証拠固めがしにくいということです。

 このようなカルテルを摘発するためにも、欧米でこの十年来大きな効果を、このリーニエンシー、つまり、違反行為者が他の謀議者に先駆けて違反事実を申告すれば制裁を免除する制度が採用されてきております。ヨーロッパだけでなく、韓国でも採用されております。この立法化を急いでいただきたいと思います。

 ただ、多少法案には問題があるように思います。

 第一に、この制度は、カルテルの端緒をつかんで、かつ立証資料を得るというのが目的だと思います。したがって、対象者を余りふやすことは、その目的からして問題があるのではないでしょうか。カルテルの立証は、普通、一人では無理でしょうけれども、二人の供述があれば立証はできると思います。三人、四人とふやす必要はないのではないでしょうか。

 第二番目に、課徴金減免制度について、本来のリーニエンシー以外に、政府案では、調査開始の一カ月前に二年未満の違反行為をやめた事業者の課徴金を二割減額する制度、民主党案では、法令遵守体制を持っている事業者が調査開始前に違反をやめたときには三割減額する制度を設けるとしておりますが、課徴金の引き上げが一〇%という低い水準に抑えられるのであれば、このような制度は甘過ぎるのではないかなというふうに考えます。

 次に、課徴金は、先ほど言いました法令遵守体制等を見ながら減免すべきだという案が出されておりますが、やはり、課徴金を課して違反行為を抑止するためには、手続が迅速でなければならないと思います。また、手続の透明性も当然必要です。ですから、減算するルールとしては、厳密な本来のリーニエンシーだけでいいのではないでしょうか。さまざまな要素を加味して減算するということになりますと、公取委の課徴金を課す手続に非常に時間がかかってしまいます。やはり、公取委はあくまで行政機関ですから、一律定型的に処分をしていくという形が大事だというふうに考えております。

 次に、刑事罰との関係でございますが、課徴金と刑事罰を一本化すべきであるという議論がありますが、これには反対です。両方の制裁が必要というふうに考えます。悪質重大事案に対しては、課徴金を課するだけでは不十分で、さらに刑罰を科する必要がある。刑罰は個人だけに科せばいい、法人に対しては科す必要はないという議論がありますが、そういうふうにしますと、実際上スケープゴートにされるのは企業の一番末端の実行行為者だけ、なかなか上層部までは刑事事件では摘発できにくいというのが実情であります。やはり、法人自体を処罰する必要性というのは我が国であると思います。

 次に、審判手続の見直しでございますが、政府案では、勧告制度を廃止して、意見陳述による手続を経た上で速やかに排除措置命令が出せるようにすること、また、課徴金納付命令を争っても、後で確定すれば延滞金を付加することにして争い得にならないようにするなど、独禁法の執行力を強化する改正が図られようとしておりますが、賛成いたします。

 これに対して、手続上問題であるという指摘がありますが、例えば課税処分を見ましても、更正・決定という行政処分がまずなされて、不服があれば国税不服審判所で争うという手続となっておりまして、それと同じ構造でして、問題はないと考えております。

 入札談合との関係において、我が国ではいわゆる官製談合が多いから、官の側の取り締まりも厳しくすべきであるという議論については、全く同感でございます。ただ、その議論に手をとられて、今回の独禁法改正作業が遅々として進まないというのでは非常に困ります。独禁法違反の問題は、単に入札談合の問題だけではありません。新規参入排除の問題、民間事業者間のカルテルなど、非常に大きな問題が山積しております。消費者利益一般にかかわる問題です。官製談合防止法など、他の法令による対処を望みたいと思います。

 以上が、消費者利益を代弁する立場からの意見の概要でございますが、何よりもお願いしたいと思いますのは、我々すべてが消費者であるということです。そして、独禁法は、間違いなく我々消費者の利益を実現するための法律であるということです。

 今回の改正の検討事項の中で、本当に重要であり、消費者利益と経済活性化に最も影響するために実現をしなければならないのは、まず第一に課徴金の引き上げ、加算制度導入、二番目にリーニエンシーの導入、三番目に犯則調査権限の導入、そして、四番目に審判手続の見直しであります。その他の事項ももちろん重要でありますが、今後の見直しによる検討課題として先送りしましても、これらはぜひ速やかに改正法を成立させるようにお願いしたいと思います。

 日弁連も私個人も、独禁法改正につきましては何の利害関係もメリットもございません。仕事上の関係もありません。本日は、ただ消費者問題にかかわっている弁護士として、一消費者として、一国民として、国民の代表者である皆様に思うところを愚直に述べさせていただいた次第でございます。所属政党のいかんを問わず、きっと心ある議員の先生はいらっしゃると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 どうもありがとうございました。(拍手)

河上委員長 どうもありがとうございました。

 次に、岸井参考人にお願いいたします。

岸井参考人 それでは、意見を述べさせていただきます。

 私は、法政大学で経済法の研究と教育を行っている者で、主に独占禁止法を専門に勉強している者であります。きょうは、独禁法の専門という立場から、今回の法改正について意見を述べてみたいと思います。

 まず、私の立場を申し上げますと、政府案について、必ずしも十分なものだとは思っていないんですけれども、従来に比べて数歩前進であるということで、改正も早期に必要だということで、基本的にこれを支持する立場から発言をしたいと思います。これについて民主党の方から対案が出されておりまして、これも読ませていただきましたので、民主党の対案と比較しながら、改正の論点を説明してみたいと思います。

 まず最初に、課徴金制度、これはどういう目的でつくられているか。先ほどの参考人のいろいろなお話で、犯罪に類比して説明するという、これは一般に非常にわかりやすいんですけれども、厳密に言いますと、課徴金制度というのは、違反行為による経済的な利得を失わせることによって違反行為の抑止効果を発揮させる行政上の措置であります。したがって、刑事罰と異なりまして、行為の反道徳性に着目するものではありません。したがって、行為者の故意とか過失あるいは情状といったようなものを考慮する制度にはなっていないわけであります。これは、課徴金制度の導入当時から基本的に変わっていない。

 そのことを前提にしまして、まず、課徴金と刑事罰の二重処罰、あるいはこれにかかわる調整ということが、改正案でもあるいは民主党の案でも出されております。政府案の場合は二分の一、民主党案は全額控除ということであります。これは、憲法の二重処罰のおそれに該当する、これを回避するためだというふうに説明されております。しかし、二重処罰というのはそもそも何かというと、刑事制裁が二重に科されたから二重処罰になるのであります。一般的に、何らかの行政的な制裁あるいは制裁的な性格を持った措置が二つ重なっていたからすぐに二重処罰になるのではないわけであります。

 問題は、そうすると、課徴金がその目的、効果において刑事制裁と同等とみなされるような措置であるかどうか、これが判断基準になる。この基準から見ますと、政府案の場合、民主党案の場合ももちろんそうですけれども、そもそも故意、過失というようなことを問題にしておりません。それから、引き上げ率も経済的な利得の範囲にとどまっている、こういうものでありますから、刑事罰と異なる行政上の措置という性格は、改正で引き上げてもなお明確であろう。改正案程度ではそもそも二重処罰の問題は生じない、中には違う意見の方もいらっしゃいますが、これが経済法の研究者の大勢の見解でありまして、そもそも、政府案で二分の一を控除する、こういう調整規定も不要ではないか、これが一般的な見解であります。

 この点で、政府案の二分の一ということも問題はあるんですけれども、民主党案の全額控除というのは、さらに進んで、私は非常に問題が多いというふうに思います。

 どうしてかといいますと、先ほども参考人の一部の方が説明していましたが、カルテルの抑止効果というのを発揮させるためには、刑事罰一本とか課徴金一本とか、これ一本でやって必ずしも十分効果が上がらないので、組み合わせということが非常に大切になってくるわけです。まさに、刑事罰を科す事件というのは重大、悪質で、課徴金だけでは抑止効果が十分に上がらないから刑事罰、法人処罰として罰金も科す、こういうことでやっているわけです。ところが、この課徴金から今度はまた罰金を全額引いてしまうわけです。そうすると、通常の場合、これはまたもとに戻ってしまうわけですね。これだと、法人に刑事罰を重ねて科す意味がなくなってしまう。何のための刑事罰かということになってしまうわけです。

 その意味で、政府案は罰金の半額が残りますからまだいいのでありますが、民主党案の場合は、重大、悪質な刑事罰を科すべき違反行為、これに対する抑止力を大きく後退させてしまうというふうに私は考えております。

 次に、審判手続の見直し、手続の問題が非常に強調されておりますので、この点を先にちょっとお話ししてみたいと思います。

 政府案においては、いわゆる勧告制度というのを廃止して、意見陳述等の事前手続を設けた上で排除措置命令ないし課徴金納付命令を行って、その後不服があれば審判を開始する、こういうことになっております。

 現行制度との違いというのはどこにあるかというと、現行制度は先に審判を行って、その後命令を出すわけですけれども、政府改正案では、審判より先に命令が出されるということです。この意味は、命令に、行政命令でありますから、執行力が生じるということになります。つまり、これに違反すると過料が科されたり、課徴金であれば支払いをすぐにしなければいけない、こういうような効果が生じるわけです。

 何でこういうふうなことをしたかというと、これは従来の審判制度の運用の経験から出てきているわけでありまして、どういうことかというと、勧告や納付命令を争う、そうすると、審判が行われている間は執行はできないわけで、被疑行為が継続します。排除措置命令は出せません。そうすると、違法状態が何年も継続して是正されない、こういうような結果が生じます。

 あるいは、課徴金の場合は、審判で争えば審決が出されるまで支払わなくていいわけですから、支払いの引き延ばしの手段に使われるわけです。多いものですと、排除措置命令の審判とそれから課徴金の審判を合わせて、四年も五年も課徴金の支払いが引き延ばされる、こういうようなことが起こっております。

 この引き延ばしというのは非常にうまいものでありまして、例えば五億円の課徴金が課されたということを考えてみます。一年引き延ばすと、その五億円分を一年払わなくていいわけですから、例えばそれをほかに運用したりあるいは事業に投資して、三%の利益が上がる。五億掛ける三%で一千五百万円が、これは一年引き延ばすだけで浮いてしまうわけですね。そうすると、これは弁護士費用を支払っても十分に元が取れる、こういうことになってしまうわけであります。

 こういういわば制度本来の趣旨を逸脱したような運用がなされて、もちろん、そうではない場合もあるんですけれども、実際にそういう例が多くなっている、こういうものに対処しようとしたものであります。

 ところが、民主党案の方は、こういう手続の見直しを一切しないで、当面現行制度を維持する、こういうようなことを言っているわけで、この点では、規制の実効性という点からして非常に問題があるのではないか。

 これに対して、事前手続であったのが事後手続になるので適正手続の保障が後退する、こういう批判もあるわけです。しかし、この批判は的外れであるというふうに思います。どうしてかといいますと、まず、事業者が違反行為について争う機会、しかも行政審判という準司法的な手続で争う機会が保障されているかどうかを見ますと、現行制度は命令を行う前に争う、しかし、改正案でも命令が出された後すぐに審判で争うことができるわけで、争う機会の保障という点では、これはどちらも変わりないわけであります。

 さらに、政府案では、現行制度のようにいきなり勧告をする、これは一種の不意打ちになる危険があるわけですけれども、そうではなくて、命令を行う前に意見陳述の手続を設ける、こういう形にしております。それから、勧告を争う審判では、通常、排除措置命令の内容というのが争えない、現在はそうなんですけれども、新しい制度でありますと、排除措置命令の内容についても争える。その意味では、適正手続の保障は現在よりも進む、こういうふうに考えられるわけであります。

 政府案で一つ論点になりますのは、排除措置命令や課徴金納付命令が執行できるということで、これは従来に比べて、確かに事業者にとってみると、今までは時間をかけてその間は執行されなかったのに執行されるということで、不利になるわけですが、これは適正手続の保障の後退というふうに私は言えないと思います。これは、そもそも通常の行政処分では執行不停止が原則であります。したがって、この点では、従来の一般的な原則に戻るにすぎないわけであります。

 それから、事業者が享受してきた手続上の利益とは一体何か。中身を考えてみますと、これは被疑行為を何年も継続したり、課徴金の支払いを引き延ばす、時間稼ぎをする。これは、制度本来の趣旨を逸脱した手続の利用、これに基づく利益ということになりますから、競争の促進という独禁法の目的からしても、正当化できるような手続上の利益ではないというふうに私は考えております。ですから、政府案は、こういう現行制度の不備を是正するものとして、妥当であろうというふうに思います。

 最後に、一部に行政審判制度と事前手続を結びつけて、これが不可分だというふうにするような意見もございます。しかし、これもちょっと立法を見てみればわかるわけでありまして、例えば、独禁法と類似の審判手続あるいは実質的証拠法則を採用しております電波法などでも、これは事後手続として、処分に対する異議申し立てとして行政審判手続を設けておりまして、こういう立法例は少なくないわけであります。

 要は、それぞれの領域、分野の特質、それから規制の経験などを踏まえまして、規制の実効性と適正手続の保障、これをどうバランスさせるか、こういう問題でありまして、そこでいかに最適な設計をするか、こういう観点から考えるべきで、特定のドグマで、事前か事後かといったようなことで一律に判断をするということは、おかしいというふうに思います。

 最後に、手続に関して、公取の審判制度について、審判官とそれから検事役の審査官が同一の組織に属しているのではないか。これについてはいろいろ誤解があるのでありまして、例えば、これだと審判官という裁判官役が、審査官、検事役の集めた資料を見られるかのような、そういうような発言が先ほどもございましたけれども、こういうことは絶対ないのでありまして、法律上、職能分離ということで、審査官と審判官ははっきり組織上も分けられておりまして、わずかでも審査に関与した者が審判官あるいは場合によっては委員として事件に関与すると、これは内容のいかんにかかわらず、手続的にその審決が取り消されるというのが、これは判例もございます。その意味で、審判手続におけるいわゆる裁判的な、準司法的な手続というのは、現行制度でも基本的には十分に保障されている。

 今後は、例えば現在でも、審判官の一部は、裁判官の方が検事として出向して実際の事件の審理に携わっておりますが、こういう方向はどんどん拡大して、法曹資格者を拡大すべきだということはもちろんのことであります。

 最後に、もう時間がなくなりましたので、課徴金の減免制度について一言だけ申し上げます。

 これについても、民主党案は、政府案と異なって、コンプライアンスの構築とか入札談合関与行為についての報告ということを理由に、二〇%から五〇%の減額を認めるような制度を設けております。しかし私は、これも、こういう中途半端な減免を認めますと、結局、減免制度の効果を減少させてしまう危険があるということで、支持できないと思っております。

 特に、コンプライアンスの構築について申し上げますけれども、違反行為の抑止のための企業のコンプライアンスの整備というのは、これは言うまでもないわけであります。しかし、問題は、民主党案のような減額が本当にそういう効果を持つのか、こういうことであります。そもそも、コンプライアンスの構築による減免というのは、その体制が違反行為の発見、抑止に十分に効果的でなければ意味がないわけであります。さもないと、形だけ、あるいは効果の少ないコンプライアンスが、課徴金をまけさせる口実に使われてしまうということになります。

 コンプライアンスが実効性を有するということの最も確実な証明は、違反行為を調査開始前に発見して、措置減免制度を利用して、全面的に協力するということで違反行為の申告、報告をした、こういう場合です。つまり、政府案の減免制度の利用それ自体が、コンプライアンスが実効的であるということの最も確実な証明であります。

 ところが、これ以上にコンプライアンスの構築による裁量的な減免を認めるということになりますと、その実効性をどうやって判断するのか、こういう問題が出てくるわけであります。

 これについて、民主党案は、ちょっとはっきりしないところもあるんですけれども、調査開始前の一定期間までに一定の基準を満たすコンプライアンスを構築しておけば、調査開始までに違反行為の報告をしなくても、最大三〇%の減額、しかも裁量的な減額を認めるということなわけです。そうすると、これは、そこで構築されたコンプライアンスが一体どの程度実効性があるのか、効果がどれほどあるのかということについての証明がなされていないわけで、必ずしも十分ではない。不完全なコンプライアンスでも、ともかく調査開始前につくっておいて一定の基準を満たせば減額を認める、これではコンプライアンスがやはり課徴金減額の口実に使われる、そういう危険を十分防ぐことができないのではないか、こういうふうに考えるわけであります。

 時間が参りましたので、最後に、独禁法の改正について、率の問題とか、いろいろありますけれども、やはり早期にこういう制度を設けて、改正を成功させて、違反行為を実際に防止していく。官製談合なども、そういうような課徴金の抑止効果が実際に働いて初めて、官製談合についても見直そうじゃないか、そういう動きが出てくるわけでありまして、両者を並行して進めるということが特に重要である。こういうことを申し上げて、私の意見陳述を終わりたいと思います。(拍手)

河上委員長 どうもありがとうございました。

 次に、伊従参考人にお願いいたします。

伊従参考人 弁護士の伊従でございます。

 本日は、この委員会で独禁法改正案に関する意見を陳述する機会を与えられて、大変光栄に存じております。

 独禁法は市場経済における最も基本的な法律であって、新しい社会経済情勢のもとで同法を見直し、整備、強化することについては、適切であり、賛成でございます。

 それから二番目に、政府改正案、民主党の改正案は、独禁法の効果的な抑圧のため、課徴金の引き上げと違反行為調査への協力者への課徴金の減免措置を主眼としていますが、これについても基本的に賛成でございます。

 それから三番目に、自由民主党の独禁法調査会は、本年五月十九日に、独禁法改正に関して、入札制度の改善及び不当廉売と優越的地位の乱用規制の強化の検討要請を行っておりますが、この要請についても賛成でございます。

 しかし、政府案それから民主党案については若干の重要な問題点がありますので、これについて述べさせていただきます。

 第一は、両案とも、課徴金と罰則の二重制裁制度をとっていることでございます。

 課徴金制度が導入されたのは、石油危機のときに、大企業の値上げカルテルが横行し、それに対して刑事制裁をやったけれども、実務上非常に難しいというので、課徴金制度が導入されたわけでございます。したがって、その後十三年間にわたって、これは、刑事告発はしないで課徴金で運用したわけです。

 一九九〇年に日米構造問題協議で、米国から、日本の独禁法違反に対する制裁が不十分であるということになって、そのときに刑事告発と課徴金賦課と両方の二重制裁制度を導入したわけです。その後、課徴金につきましては、御存じのとおり、課徴金率が一・五%から六%に、四倍になり、それから罰則は、企業に対して、五百万円が五億円になって、百倍になっております。

 今回また課徴金の大幅引き上げをするわけですが、こうなりますと、これははっきりした二重制裁になるわけです。これは先ほど指摘がございましたけれども、憲法の二重処罰違反のおそれも出てくるわけです。従来は、課徴金制度は不当利得の剥奪だ、こういうことでしたけれども、今回は、これは制裁に変わっていますから、二重処罰の問題が出てくるわけでございます。

 民主党案では、この点については刑罰との重複を避けておりますので、この点は改善されていると思います。

 問題は、二重制裁制度のもとで独禁法の運用がどうなっているかという、制度の運用実態の分析が行われていないことです。どういう状態になっているかといいますと、いろいろな弊害が出ています。

 第一に、課徴金の適用されているのはほとんどが中小企業です。これは平成十五年度、昨年度でございます、ことしの四月までの一年間ですが、課徴金納付対象事業者の数は四百六十八名で、その八九%が中小企業者。それから、課徴金総額では八四%が中小企業者でございます。

 独禁法は、本来、大企業のカルテルを抑制して中小企業者の事業活動の機会を保護するわけですが、これが逆になっているわけです。どうしてこういうふうになったかといいますと、これは、刑罰の適用によって証拠原則が厳格になってくる。いつ、だれが、どこで、何を、だれとしたかということを供述調書で固めなければならない、これは個人犯罪の問題です。ところが、独禁法の問題は、これは会社の行為です。会社の行為の場合には、これはどこの国でもそうですが、情況証拠、それから経済経験則を使ってやるわけです。それが使えないようになっている。このために、証拠収集の容易な中小企業に集中している。これが一つの問題。

 それから二番目に、それと関連がありますけれども、入札談合制度が圧倒的に多いことです。平成十三年度、十四年度では、全体の違反事件の中で入札談合事件が八九%、八一%です。こういうふうな状態で、入札制度というのは発注官庁が発注官庁の物資調達の便宜のために競争制度を導入しているわけですから、ここに問題があれば、まず入札制度の改善、自民党調査会が言っているように入札制度の改善を図るべきなのに、それを独禁法の適用でやっている、こういう状態になっているわけです。

 それから三番目に、こういう中小企業が対象になる一方、国際的に見て、一九九〇年代に各国の独禁法で一番重要な関心を持ったのが、国際カルテルの取り締まりです。二〇〇二年までの十年間に、欧米諸国で取り上げられた国際カルテルは、合計しまして三十件を超えております。その大部分に日本企業が加入しているのに、それに対して日本の独禁法は一件も課徴金納付命令を出していない、これが国際的に非難されているわけであります。この点を改善しない限り、こういう改正問題というのは実体的には意味がない。まず、その運用実態を分析して、それから独禁法改正を考えるべきだ、こういうふうに考えます。

 もう一つ重要な点は、課徴金制度が最高限度額もなく、それから執行が一律で、裁量ができない、機械的にやっているということです。こうした場合、ケースによっていろいろ出てくるわけですが、非常に乱暴な事件が出る可能性がある。

 例えば、昭和五十一年に石油カルテルが告発されたわけですが、その石油カルテルが現在行われた場合にどうなるかといいますと、このカルテルに対して仮に改正案の一〇%の課徴金をかけるとすると、石油業界全体で課徴金が、カルテルが三年間行われたとすると五兆四千億円、それからトップ企業については一兆二千億円になります。これでは石油業界は壊滅するわけです。やはり石油業というのは我が国産業の基幹産業であって、そういうものがつぶれるようなやり方というのは、これは問題がある。

 ですから、これについてはシミュレーションをちゃんとして検討しないと困る。一〇%では非常に低くて、二〇%にもという意見がありますが、本当に計算してやっているのかどうか、こういうところが検討不十分であると私は思います。

 それから二重制裁のほかに、第二の問題としては、政府案では、企業の自主的な法令遵守促進の考慮がされていないことです。欧米諸国ではどこでも、制裁金については最高限度額があって、その限度額の中で裁量基準があって、それに基づいてやっている。その裁量のときには、企業が独禁法遵守体制をとっているかどうかが非常に重要な問題になる。日本の場合にはそれがないわけです。

 市場経済のもとでは、企業の自主的な遵守体制ができるかどうかということが非常に重要です。例えば公害問題を見ても、前は、公害法違反があれば罰則ということでしたけれども、現在、日本の企業では、環境問題について自主規制をして、環境報告書をつくっている、それが中心になっているわけです。そういう制度を促進することが重要なので、今度の改正ではそれが全然考えられていない。これがやはり重要な問題であると考えます。

 それから第三番目に、既に出ておりますが、事前審判制度を変換して、簡略な聴聞の後に排除措置命令、課徴金納付命令を出すことを政府案は定めております。これは重要な問題です。

 独禁法違反というのは、中心になるのは、どこの国でもそうですが、競争の実質的制限という非常に抽象的なことです。これを具体的に規制するためには、具体的な事例に従ってよく検討して、判例でやっていく、判例法的な性格が非常に強いわけです。その場合に、事前に問題点を提示しないで、いきなりばっさり役所の方が処分するというのは、これは非常に手続的におかしい。どこの国でも、そういうことをとっているところはありません。全部、慎重な事前手続をとってから処分する。

 公正取引委員会が準司法機関と言われているのは、裁判所と同じように、まず事前の審理をして、処分は最終だということです。どこの国でも、日本でも、罰則を先にかけて、後、文句があるんだったら裁判所で争え、こういうことはないわけです。ですから、こういう事前制度をやめるということは、公正取引委員会の準司法的な手続をやめるということになるわけです。

 民主党の案ではこの事前審判制度を維持しており、私は、これは高く評価し、支持いたします。

 それから、自由民主党が提案している不当廉売や優越的地位の乱用行為について、改正案の対策は不十分です。排除措置をして、それに違反した場合に罰則をするというのは、これは現在でも行われています。

 ドイツでは、一九九八年に独禁法を改正して、コスト割れ販売、不当廉売ですが、これの特別規定を入れまして、二〇〇〇年にはドイツ・ウォルマートなどディスカウンターを三社処分いたして、ウォルマートは裁判所で争ったんですが、ドイツ・カルテル庁はこれに対して制裁金を科しています。ウォルマートはカルテル庁に審決を争ったんですが、二〇〇二年の十一月に、ドイツ最高裁判所はカルテル庁のこの処分を支持しています。ですから、この新しい流れに従って、不当廉売などについては、規制の内容を具体化して罰則をかけることをしなければ意味がないと思います。

 それから、政府案それから民主党案ともに、附則で、今言いましたような制度問題、二重制裁だとか審判制度だとかいろいろな問題について、二年後に再検討するということがありますが、これは二年後ではなくて、今のような問題は喫緊の問題なので、現国会において審議していただきたいと思います。

 今回の改正は、七七年以来の二十五年ぶりの抜本的改正と言われています。七七年改正は、議会に法案が出てから三年かかっている。それで、最後には国会で全会一致で通しております。今回の問題についても、十分な国会の審議を期待いたします。

 どうもありがとうございました。(拍手)

河上委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

河上委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。北川知克君。

北川委員 おはようございます。私は、自由民主党北川知克でございます。

 本日は、自由民主党を代表して、参考人の皆様方に御意見をお伺いいたしたいと存じます。

 本日は、各参考人の皆様方におかれましては、大変御多忙の中、貴重な御意見を賜り、本当にありがとうございました。また、常日ごろより各方面、各界で御活躍のことでありまして、ここで改めて敬意と感謝を申し上げる次第であります。

 先ほど、安保参考人の方から、一個人として陳述をするというお話がありましたけれども、きょうは、各参考人の皆様方には、まず、どのような立場でお越しをいただいているか、その点をお聞かせ願えればありがたいと思いますけれども、よろしくお願いいたします。

諸石参考人 私は、日本経団連の経済法規委員会競争法部会長をいたしておりまして、経済界、経済団体を代表する立場でございます。

北城参考人 私は、経済同友会の代表幹事の立場で参加させていただいております。

 経済同友会は、経営者が個人の立場で参加しておりますので、企業とか業界の代表ではございませんが、経営者の団体である経済同友会の代表幹事の立場で参加させていただいております。

岸井参考人 私は、現在、法政大学法学部の教授をしておりまして、同時に法学部長もしております。先ほど申し上げましたように、独占禁止法の専門家という立場で発言をさせていただいております。

伊従参考人 私は、大学を出ましてすぐに公正取引委員会に入りまして、公正取引委員会に約四十年間おりまして、その後、中央大学法学部で独禁法、国際経済法を教えまして、その後は弁護士になっております。

 私は、独禁法について大学のときから関心を持って、独禁法についての関心を持つ者としての立場から陳述しております。

北川委員 ありがとうございました。

 それでは、質問に移らせていただきたいと思いますけれども、この独占禁止法、戦後のGHQによる経済民主化政策の一環として、また、当時の巨大な財閥としてカルテル組織に対する経済集中力の排除を目的として制定をされたものであると認識をいたしておりますけれども、その後、経済実態の移り変わりとともに、幾つかの改正を経て現在に至っているわけでありますけれども、私といたしましては、今日、経済状況が随分変わってまいりました。

 特に銀行の合併等、巨大な、メガバンクと言われますけれども、合併等が行われ、また、さまざまな業界で集中、再編が進んできております。かつての財閥が復活するのではないかなというような思いをしておるのでありますけれども、片や、規制緩和によりまして、今まで官が行ってきた仕事といいますか事業等々を民間が行うようになりまして、新たな事業に競争を導入してきております。その中で、独占をめぐる新たな諸問題があらわれてきているのではないかなという思いもいたしております。

 そして、このような中、現在の状況を踏まえ、独占禁止法の大改正が必要であろうと思っておりますけれども、しかし、現実には、世の中が動いている中でそうそう簡単にも大改正ができないわけでありまして、今回は、その中で、現在の最優先課題として、後を絶たない談合、カルテルに対する効果的な措置が必要という認識のもと、課徴金の引き上げなど一連の措置を一刻も早く講じる必要があるということから行われるものであると理解をいたしております。

 これを前提に、今回の改正案につきまして、まず、岸井参考人の方から、先ほど政府案と民主党案を比較した中で、細々な点まで御説明をいただきましたけれども、今回の政府案、民主党案、成立をしたならば、両方の法案がありますけれども、どちらの案が実効性が上がるか、違反行為に対する抑止力として、どちらの法案が実効性があるのか、この点をお聞かせ願えればありがたいと存じます。

岸井参考人 実効性についてのお尋ねですが、結論から最初に申しますと、政府案でも私はなお十分ではない点が多々あると思っております。

 ただ、民主党案と政府案を比較しますと、民主党案の方が、先ほど言ったリーニエンシーとか罰金の全額免除といったような点で、政府案よりも私は抑止効果は落ちるというふうに思っております。

北川委員 ありがとうございます。

 いずれにしろ、なかなか難しい状況があろうと思いますけれども、一刻も早い成立が必要であろうと思っております。

 次に、先ほど経団連の代表ということで御意見を賜りました諸石参考人にお伺いをいたしたいと存じますけれども、今回の政府案をまとめていくに当たりまして、政府・与党が一体となっておよそ一年近く議論をしてきたことであります。したがって、随分法案の中身についても練り上げられてきたところがあると思います。

 そして、この過程においては、我が党の独禁法調査会等々でも、昨年から取りまとめまで十四、五回論議をされてこられたと思います。本日お越しいただいた経済団体の皆様方からも、四月、八月、九月と三回、意見の交換を見てきたわけでありますけれども、このようにして、何とか本年中にこの法案を成立させていきたいというのが、我が党、そして政府等々、経済界が一体となって努力をしてきたものであろうと理解をいたしております。

 この点につきまして、諸石参考人に、この法案を何とかことし中に成立させていこうというこの考え、経団連としての考え、両方お聞かせを願えればありがたいと思います。

諸石参考人 ただいま御指摘ございましたように、この法案の提出までに、大変に経済団体からの意見もお聞き取りをいただいて、議論をする機会をつくっていただきまして、その点は高く評価いたしております。

 その成果がこの法案の中に生かされている点も多々ございますが、なお経済団体といたしましては、十分納得したというところまでは行っておりません。その意味では、この国会の場におきまして、さらに十分な御審議をいただきたいと存じております。

北川委員 今お話をお伺いさせていただきまして、本委員会でもこの独禁法に対する審議がなされてきておるわけでありますが、我々、この法案を審議するに当たって、さきの通常国会からの引き続きの課題でありますし、今国会で成立をするものであろうと思っておりました。

 しかし、この法案、なかなか今国会で成立が困難であるというような状況になってきておりまして、成立を目指してきた我が党としては、非常に遺憾であるなという思いをすると同時に、先ほど来、消費者の立場となって一刻も早く成立をすることが国民の利益にかなうという意見もありました。そのことを思ったときに、残念であるような気がいたしておりますが、この点につきまして、諸石参考人、もう一度御意見をいただければと思います。

諸石参考人 独禁法というのは経済憲法でございまして、これがいい法律になっていくということにつきまして、経済団体としても願いは同じでございます。

 ただ、事が重大なだけに、十分審議を尽くしていただきたい。その結果、今国会で成立するのであれば一番ありがたいし、ただ、前回の例を見ましても、先ほどの参考人の発言にもございましたように、三年をかけて審議をされた例もございます。その意味で、慎重かつ迅速に御審議をお願いできればと思っております。

北川委員 ありがとうございます。

 今回成立が難しいと言われる中で、先日、我が党の議員がこの委員会でも質問をいたしました。今回成立が困難になってきた理由として、経団連の方が今言われた、慎重な審議が必要であるという意見もありますけれども、先日の二十四日には、産経新聞等で、経団連の方とそして民主党さんとの報道がなされました。仮にこうしたことで法案成立に対する反対、引き延ばしが図られるようなことがあるのならば、経団連の意見を聞きながら調査会で議論を進めてきた我が党としては、極めて心外に思うところでありますが、この点につきまして――新聞記事は御存じでございますか、参考人の御意見をちょうだいできればと思います。

諸石参考人 一部の新聞に御指摘のような報道が出ましたことは存じております。当然そのような事実はございませんで、これにつきましては、経団連として当該の新聞社に対し抗議をいたしまして、釈明、謝罪を受けております。

北川委員 ありがとうございました。

 今御意見をちょうだいして安心をいたしております。長年構築をしてまいりました我が党と経団連の信頼関係を損なうことのないようにお願いをいたしておきたいと存じます。

 それでは、法案の中身についてお伺いをいたしたいと思います

 今回新たに設けられる課徴金減免制度、いろいろ議論があるのでありますけれども、談合、カルテルの発見のため、一つの大きな解決策になるものと期待をしているところでありますけれども、この制度は非常に難しい面もありまして、特に欧米でも、対象社数を絞ったり、一番目、二番目、三番目という差をつけていかなければ意味がないというようなことも言われております。

 他方で、経団連の方も、ことしの七月に出された意見書で、民主党の案と同じように何社でも来てもいいよというような部分がありました。しかし、最大五割まで割引をしますという民主党の案、そして、本当に機能していくんだろうかなという疑問も感じるところもあります。そもそも、違反事業者の中で疑心暗鬼も生まれませんし、どこかの会社が何かの事情で行くことになったので、ではみんなで行きましょうということになれば、これこそ談合になってしまうのではないかなという思いをいたしておりまして、この点についてお聞かせを願えればと思います。

諸石参考人 私どもは、公正取引委員会の調査開始前に自発的に申し出た者に対しては考慮がされるべきであると考えております。

 なお、独禁法違反事件のすべてがいわゆる会社ぐるみ、トップの指令のもとに行われているというものではございません。幾らコンプライアンスを徹底しても、それが守られないことがある。その場合に、これを調査いたしますと、実行者と会社との間は非常に鋭い緊張関係が出てまいります。そこで、事実を把握するために、他社の法務部門、他社の弁護士と相談をして事実を確認する、そういう必要がございまして、いわゆる悪いことをした人が一緒になってということではございません。その点を御理解いただきたいと思います。

北川委員 ありがとうございます。

 続きまして、北城参考人にお伺いをいたしたいと存じますけれども、北城参考人はIT産業の中で仕事をされておられます。経営のかじ取り等々で迅速に対応しなければならないということもおっしゃっていただいておりまして、先ほども意見の中で、企業が犯罪、不正を犯して利益を得るようなことがあってはならないということもおっしゃっていただきました。

 その中で、今回の政府案の、一定の事前手続で排除措置命令と課徴金納付命令が出るようにという案になっておりますけれども、この命令等々が直ちに実行されて、違反行為が差しとめられるべきかどうかも直ちに裁判所で審理をしてくれるという内容であります。非常に迅速に行政、司法が判断してくれるような仕組みとなっておりますけれども、北城参考人の今の企業での経験等も踏まえながら、この点についての御意見をいただければと思います。

北城参考人 企業側の意見を事前に聴取して、それを参考にしていただけるということでありますので、迅速に審判手続が開始される、あるいは課徴金が課せられる、同時に行われるということについては、賛成をしております。

北川委員 ありがとうございます。

 もう一点、今回の、審判における迅速な判断においては、透明性を持つ、欠かしてはならないということでありますけれども、今回、審判官の質、先ほど来からも各参考人の皆様方から御意見をちょうだいいたしております。今、国の方でも司法制度改革、そして法科大学院の制度も成立をいたしまして、これから司法の資格を得た方々をふやしていこうということでありますけれども、今回も、このような審判制度の中に積極的にこの法曹資格者の方々を登用していくべきではないかなと私は思っております。

 法科大学院の合格率が低いとか、いろいろな問題があります。これを引き上げるためにも、このような場でその資格を得た方を生かしていくのが大事ではないかなという思いをいたしておりますけれども、今回の法案の中にも、公正取引委員会、こういう方々を、審判員の人数をふやすという案も出ておりますけれども、この点につきまして北城参考人の御意見をちょうだいいただければありがたいと思います。

北城参考人 審判官は、独禁法の運用に当たっての裁判官としての役割を持ちますので、やはり法曹界の経験のある方がふえていくということが望ましいと思っておりますし、また、法曹界の人口がふえるような施策もとられておりますので、現実に裁判官あるいは弁護士を経験した方ではなくても、いろいろな面で法曹関係に従事したような方が参加されることは望ましいと思いますが、特に、裁判官を経験した方がなられることが望ましいと思います。

北川委員 ありがとうございました。

 ぜひ、この法案の成立の中から、審判員の方々にこのような資格者の方を登用していただきたいという思いであります。

 続きまして、安保参考人にお伺いをいたしたいと存じます。

 今回の法改正、消費者あってのものだと先ほど意見を述べていただきましたけれども、談合、カルテル、いずれにいたしましても、消費者は本当にばかを見るだけで、何も言うことはありませんというような意見もあったと思いますけれども、そういう意味では、この談合事件やカルテル事件の中でも悪質なものについては刑事事件としてきちんと取り上げて、企業の体質を改めてもらわないといけないと思う部分もあります。ただし、その場合には、経済界が主張しておられる二重処罰の問題等がどのようにかかわってくるのか。

 そして、安保参考人は、人権のとりでと言われる日本弁護士連合会の役員もされておられます。法曹資格者としてさまざまな問題に取り組んでこられたわけでありますけれども、今回の見直し案につきまして、今申し上げました人権問題や二重処罰問題について、もう一度どのような考えであるかということもお聞かせを願えればと思います。

安保参考人 課徴金を行政罰と位置づけまして大幅な引き上げをすると、刑罰との関係で、憲法三十九条が禁止している二重処罰に当たるのではないかという議論がございます。この点に関しましては、私が所属しております日弁連が意見書を出す際にも議論をさせていただきました。

 これに対する日弁連の見解は、行政罰である課徴金と刑罰は制裁の趣旨、目的、手続が異なるのであって、二重処罰の問題は起こらないというものであります。憲法三十九条後段の定める二重処罰の禁止は、「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」という文言にあらわれているとおり、同一行為について刑事手続を二重にすることの禁止であります。追徴税、加算税等の行政制裁と刑事罰を課しても二重処罰の問題は生じないとする最高裁の判例もあります。したがって、この問題についてはそういうふうに考えております。

北川委員 ありがとうございました。

 時間が参りましたので、質問を終わらせていただきますけれども、先ほど来から申し上げております各参考人の皆様方には、大変貴重なお時間を賜り、ぶしつけな質問で失礼をいたしましたけれども、お許しをいただきまして、きょうの御礼とさせていただきます。

 まことにありがとうございました。

河上委員長 次に、鈴木康友君。

鈴木(康)委員 民主党の鈴木康友でございます。

 本日は、参考人の皆様には、御多用の中をお運びいただきまして、本当にありがとうございます。今回の独禁法の改正は本当に久しぶりの大改正ということでございますので、私たちもしっかりと、慎重にこの審議をしてまいりたいというふうに思います。

 さて、時間も限られておりますので、早速質問の方に入らせていただきたいと思いますが、まず初めに、今回、独禁法研究会のメンバーでもいらっしゃる岸井参考人に御質問をさせていただきたいと思いますが、最近の課徴金事件の状況を見ていますと、そのほとんどが入札談合に絡むものでありまして、しかもその対象は、大部分がこれは中小企業になっているんですね。

 一方で欧米の実態を見ていますと、その摘発の中心がやはりカルテルになっておりますし、この十年ぐらいでも国際カルテルの摘発事件が二十件以上あって、その多くに日本の企業もかかわっていたという事実もございます。ところが、日本の中では、こうした国際カルテルに対して一件の課徴金も課されていないわけであります。こうした日本の公正取引委員会の独禁法の運用実態というものを見ていきますと、極めて特異な状況ではないかというふうに思わざるを得ません。

 そして、今回のこの改正の中でこうした運用実態について十分な分析、検討をなされたのか、あるいは、その分析、検討をなされたとするならば、今回の改正案にどのように生かされているのか、まずその点についてお伺いしたいと思います。

岸井参考人 お答えします。

 最初に、中小企業の事件が非常に多いということなんですけれども、最近の傾向でいきますと、入札談合の事件というのは、一時はほとんどが入札談合の事件ということがあったんですけれども、最近は製造業とか素材産業の事件もふえておりまして、例えば最近ですと新日鉄のステンレス鋼の事件でありますとか、それから、今こちらにいらっしゃいますけれども、化学業界のカルテルの事件、これは審判が今係属中でありますけれども、大企業のカルテルもそれに劣らずというか、規模が非常に大きいですから、あります。そのことをまず、誤解のないように申し上げておきたいと思います。

 それからもう一つ、カルテルの実態ということなんですけれども、日本の現状が特異だというのは、私は逆に特異な見解だと思いまして、というのは、例えば国際比較をする場合に、EUとかアメリカとかございますけれども、EUの場合ですと、EUというのは超国家組織ですから、各国の国内市場で完結するカルテルというのは、全部国内法でやっているわけですね。

 ですから、EUの事件だけ見ていると国際カルテルが多いというのは、これはある意味で当たり前の話でありまして、イギリス、ドイツ、それぞれの国で、中小企業ももちろん含めて、むしろそちらの方は、例えばドイツなどでは州で、非常に規模の小さい事件は州で独禁法を適用するというような事件もありまして、中小企業がそもそも対象にならないとか、そのウエートが日本で非常に大きいとかというのは、むしろ認識が逆なのではないか。各国では、個別の加盟国とか、あるいは、アメリカでありましたら州の独禁法とか、そういうものを見れば、中小企業も同じように適用をしております。

 それからもう一つ、国際カルテルの話ですけれども、国際カルテルというのは市場をまたがるということになりますから、やはりそれぞれの国の地理的な状況というのが影響しております。日本は島国で、非常に国内市場が小さいので、国内市場というか地理的な範囲が小さいので、例えばアジア規模に拡大する、最近はそういう事件がふえているんですけれども、そうすると、各国と協力しないと国際カルテルの摘発ができないということになっております。

 これもEUなどでは、もう常にEUレベルで、いわば国際化した独禁法の適用がなされているので、まさに日本は、EU並みに、例えばアジアでどうやって国際カルテルをアジア規模で有効に摘発していくか、そういうことを議論すべきものというふうに考えております。

鈴木(康)委員 続きまして、諸石参考人と北城参考人にお伺いをしたいと思いますが、今回の改正のポイントの一つが課徴金の引き上げにあるということでございます。

 政府案の中では、そうした仕組みを大きく変えないで課徴金の引き上げをされておりまして、その性格が、今まででしたら不当利得の剥奪ということでありましたけれども、制裁的色彩が非常に強まっているということだろうと思います。

 私たち民主党案では、この課徴金を、行政制裁ということを明確にするために行政制裁金という形に衣がえしまして、事件の重大性あるいは悪質性というものを考慮しながらその制裁金を柔軟に加減算するという仕組みにしまして、先ほど来出ている基準であります最大二〇%というものを当面の最大の基準にしているわけであります。

 日本経団連さんの見解では、事件の重大性、悪質性の程度に応じて課徴金の額を柔軟に加減算する仕組みの構築を提言されていますし、あるいは、同友会さんの方も、行政上の制裁へ転換されることを受けて、課徴金制度のあり方を初め、措置体系の根本から見直す必要があるというふうな指摘をされておりますけれども、そこで、この政府案あるいは民主党案に対する評価をお伺いしたいと思います。

諸石参考人 課徴金の率という点につきましては、最初に申し上げたとおり、不当利得という点から申しますと現行でも十分に抑止効果があると私ども考えておりまして、その意味では、経済界、利益が低下しているというような実態も御理解賜りたいと思います。ただ、制裁を引き上げるということであれば、その性格を明確にして、刑罰との関係もはっきりさせるということが必要だと思います。

 その意味で、政府案につきましても、その性格は不当利得の剥奪から制裁に軸足を移していると理解しておりますし、民主党案におきましては、行政制裁金ということでそれを明確にしておられる。そういう性格づけをはっきりして混乱が起こらないようにするという点は評価いたしております。

北城参考人 私は、談合等による不当利益は、その算定が、談合がなくなった後何年かたって、いろんな入札が行われたときの価格と比較しなければわからないということで、悪質性についての認定は非常に難しいのではないかというふうに思っています。

 そういう意味では、公正取引委員会の調査した過去の事例に基づく不当利得を剥奪するという意味での課徴金の引き上げについては賛成をしておりまして、実際、私は一〇%ではまだ低いというふうに思っております。これは、営業利益で見れば確かに一〇%は高いんですが、不当利得で見れば、一〇%という水準は過去の事例と比較しても低いのではないかと思っています。

 一方で、繰り返し事例について、民主党案は五〇%ないし一〇〇%増額するというふうな案がありまして、私は増額するということには賛成でございます。ただし、事案の内容を審査して削減するというのは非常に恣意的な色彩が入りますので、私は一律に決めた方がいいと思います。しかし、繰り返し事例については、たしか政府案では五〇%、民主党案では一回で五〇%、繰り返しは一〇〇%というふうに書いてありますが、私は、こういった犯罪を繰り返すことに対しては厳しい制裁を科すべきではないかというふうに思います。

鈴木(康)委員 続きまして、先ほど来議論のテーマになっています課徴金といわゆる刑事罰の問題について、諸石参考人と北城参考人に御質問したいと思います。

 今回、政府案の中では罰金の二分の一が課徴金から控除されるということになっておりまして、どう考えても、私はこの理論的根拠がどこにあるのか、よくわかりません。結局、まだこの課徴金と刑事罰の関係というものが引き続き残ってしまうと思うんですね。

 民主党案では、先ほどから申し上げておりますように、行政制裁金へ一本化をしまして、刑事罰は行為者個人のみを対象とするという措置体系の抜本的見直しというものを見据えて、今回、行政制裁金から罰金を全額控除するということにしています。何もこれは制裁を軽減するという意味合いではなくて、今申しましたように、まさに措置体系の見直しというものを見据えたものでございまして、率につきましては今後も検討の余地はあると思いますが、そういう意味であるということを御理解いただいた上、政府案と民主党案に対しますそれぞれの評価をお願いしたいと思います。

諸石参考人 刑事罰と課徴金が憲法の禁止する二重処罰に該当するかどうかということにつきまして学界でも意見が分かれていることは、今までの参考人の説明でもあったとおりでございます。

 最高裁判例が、ある範囲での現行の刑事罰と課徴金の併科を憲法違反でないとしておりますが、これはある範囲ということでありまして、課徴金を無制限に引き上げた場合に、性格が違うということだけで、同一事案に対する抑止効果をねらう刑事罰と課徴金が両立し得るものか、疑問に思っております。

 その意味で、抜本的に考えますと、やはりどちらかにするか、あるいは事件ごとに振り分けるということが適当だと思いますが、それまでの調整として、政府案、民主党案でいろいろ御検討いただいたその御努力というものは評価しております。

 ただ、刑事罰と課徴金が両方ございますと、それに対応する側としましては、それに不服である、事実が違うという場合に、争う手間、時間というのは両方かかる。あるいは、調整をいたしますと、課徴金を払った後で刑事罰が出て、無罪であった、あるいは情状からして罰金は非常に低かったという場合に、無罪であったならば課徴金は減額してくれない、あるいは情状が酌量されて少なくなってもその分は課徴金で取られる、そういった問題は依然として残りまして、この性格の異なった二つのものを金額的に調整するということにつきましては、どうしても最後まで問題が残るのではないか。だから、その意味で、一〇〇%罰金を控除するということは一つの考え方であるとは思いますが、それだけですべてが解決するわけではないというふうに考えております。

北城参考人 私は、課徴金は行政上の措置だというふうに理解しておりまして、行政効率を高めるために、すべて刑事罰で適用するのではなくて、大半の事件、事案に対しては行政上の措置として課徴金で対応する、あるいは行政の制裁金として対応するということだというふうに理解しておりまして、非常に重大かつ悪質の少数の案件についてさらに刑事罰を科すというふうに理解しております。そういう意味では、両方が科せられるのは非常に少数の事件だというふうに理解しておりますので、二重処罰には当たらないというふうに思います。

 一方で、刑事罰で与えられた罰金、これを課徴金から減額するかどうかということですが、私は本来は減額する必要はないというふうに思っております。これは、今回の政府案が出る過程の中で二分の一というような見解が出されたということで、私は本来、減額する必要もないと思いますが、しかし、二分の一ということであれば、罰金によって科される額が本来の課徴金の上にかかるということなので、賛成をしております。

 こういった額が大きいという議論もありますが、しかし、法律に違反するようなことをしなければ罰金はかかりませんので、そういう意味では問題ないのではないかというふうに思っております。

鈴木(康)委員 続いて、岸井参考人と伊従参考人に御質問したいと思います。

 今回、政府案の中に、排除措置命令と課徴金納付命令が新たに制度として創設されて、今までの事前審判制度が事後審理制度に変わるわけであります。私は、これはやはり大きな問題だと思うんですね。今回、特に制裁措置というのが非常に強くなっているわけでありまして、そういう意味では、適正手続というものを保障するためにも、やはり事前審判制度というのを私は残しておく必要があるというふうに思います。

 政府案ですと、とにかく全部がクロであるということを前提にしてこの制度設計がされているような気がしてならないわけでありまして、後から金利をつけて課徴金を返せばいいではないかということでありますが、お金の面はいいとして、例えば排除措置命令を受けた、例えば審判の後シロだったとして、これはいろいろな影響が来るわけでありまして、それを排除措置命令が出た以前に原状回復するというのは、非常にこれは現実的には難しいことだろうと思うんですね。

 そういうことを考えますと、確かに今、現実的な問題として、課徴金の支払いを先延ばしするためにいたずらに審判が横行しているということもあると思いますが、そういうことであれば、審判開始決定と同時に課徴金の仮納付をさせるというようなことを制度として付与すればいいわけでありまして、私は、やはり根本的には、事前審判制度というのをきっちり残しておく必要があると思うんです。

 こうした面について、独禁法研究会で十分御審議をされたのかということを岸井参考人にお伺いするとともに、伊従参考人にも御所見をお伺いしたいと思います。

岸井参考人 それでは、お答えさせていただきます。

 適正手続の問題ですけれども、先ほど申し上げましたように、適正手続というのは、これは何でもかんでも適正手続を完璧に保障すればいいというものではなくて、規制の実効性とのバランスで考えるべきもので、先ほど申しましたような問題があるので、事前手続と事後手続、考え方として、形式的には非常に大きく変わってくるんですけれども、先ほど申し上げたように、実際の手続のプロセスを見ますと、大きな変化は私はないというふうに思っております。

 今御質問のありました、事前に執行されるという問題ですけれども、これは政府案をごらんになるとわかりますけれども、公正取引委員会の判断で排除措置については執行の停止をすることができるということになっております。私は、これは非常に重要な規定で、私個人の意見としては、どういう場合に執行を停止するのかということは、例えば裁量基準とかガイドラインみたいなもので明確にすることが必要なんじゃないかと考えておりますが、こういう形で、今言ったような一律の硬直的な執行というのは、これは政府案でも手当てがちゃんとされておりまして、これで基本的には十分なのではないかなというふうに思います。

 それから、課徴金について仮納付というようなことを言っておりますけれども、やはりこれは、そうすると、仮納付で払ったお金を例えば供託するとかということになりますと、ではそれをどこに供託するのか、そのお金の性格はどうなるのか、非常にいろいろ仮納付手続自体がまた非常に細かくなってまいりまして、しかも、従来の勧告による不意打ち的な手続も残るわけでありまして、それならばこういう形で整理するのが、いわばワンストップショッピングで、一括して、しかも命令も、それから課徴金も、違反行為の内容も細かく争えるわけですから、そこでやればいいんじゃないか、こういうふうに考えております。

伊従参考人 私は、審判制度につきましては、先ほど言いましたように、独禁法は基本的に判例法であって、いきなり処分するような法体系にはないと思います。

 アメリカは、当然これは、問題があった場合に、司法省は問題点を裁判所に言って、裁判所で措置をとる。それから、連邦取引委員会の場合は、現行の公正取引委員会の事前審判制度と同じ形になっています。要するに、独禁法違反については、違反の対象というのは、競争を制限するというので抽象的でわからないから、これはまず実態について情報を開示して、その後で処分するというのが原則です。ヨーロッパにおいても同じです。これはやはり、独禁法を運用する場合の最も基本的なことです。

 要するに、手続がしっかりしていなければ独禁法は運用できない。しかも、それによって出てきた判例によって具体化するわけです。日本は判例がほとんどない。アメリカは教科書に出ている判例でも一万件を超えているし、EUの独禁法についても、これは一千件を超えています。ですから、そういう判例法のあれをしないでいきなりばっさりやるというのは、これは私は基本的に反対です。

鈴木(康)委員 時間でございますので、ちょっと最後に一点だけ、伊従参考人に御質問をしたいと思います。

 最近、不当廉売の問題というのが非常に深刻なんですね。私どものところにも、電機商組合さんや酒販組合さんから本当に悲鳴に近い声が上がってきているわけでありまして、この問題について、過去二十年間、一件の審決もされていないんですね。これはもう本当に私は公取の怠慢だと思うんです。

 我々は、この私たちの改正案の中でも、何度も警告を受けるような悪質な累犯については行政制裁金の対象にできるというふうに考えておりますけれども、今後さらに検討して、二年後にまた見直しということもありますので、法改正のことも考えていきたいと思いますが、この不当廉売に対する規制について、最後にちょっと御見解をお伺いしたいと思います。

伊従参考人 不当廉売につきましては、特に現在問題になるのは小売段階、小売業界における不当廉売だと思います。非常に零細多数な事業者がいると同時に、国際的に極めて著名な多国籍のメガ小売業者がいるわけでございます。それが平等に競争するためには、やはり一定のルールがなければいけない。それで、大企業の場合には多数の商品をやって、その一部をコストを割って売るということで、これはどこの国でも対応しています。

 先ほど紹介しましたように、ドイツでは一九九八年に独禁法を改正して、その中にコスト割れ販売の規定を入れて、それに対しては行政制裁金を科して、それが最高裁で認められています。それから、アメリカでは州法で、州の公正取引規制法で罰則をつけています。

 日本がそういう問題について避けるということは、これは要するに、安売りとなると消費者が喜ぶ、こういうあれがあるんですが、小売段階での公正な競争が破壊されれば、長期的に見てこれは消費者のためにならない。そのためには、不当廉売の規制については、自由民主党の独禁法調査会が提言しているように、厳しく規制すべきだと思います。

鈴木(康)委員 時間でございますので、これで終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

河上委員長 次に、高木陽介君。

高木(陽)委員 公明党の高木陽介でございます。

 参考人の皆様方には、本日はお忙しいところをこのように当委員会にお越しいただきまして、しかも貴重な意見を陳述いただきましたことを、改めて御礼申し上げたいと思います。

 冒頭、それぞれの参考人の皆様方が、十分間ずつという短い時間での陳述でございましたので、まだまだ言い尽くせない部分もあるかもしれませんので、この質疑を通じながらまた貴重な御意見を拝聴できればと思いますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。

 さて、今回の独禁法の改正でございますけれども、我が公明党といたしましてもプロジェクトチームを立ち上げまして、都合二十回にわたっていろいろと議論を重ねてまいりました。

 そういった検討を重ねる中で、今回の改正案、政府の方でもそれをしっかりと受けとめていただいたと思いますし、その中でも、特にカルテル、入札談合等、こういったものに対する抑止力、これは相当程度強化されたものであると私どもは認識をしております。その意味で、公正かつ自由な競争が促進する、消費者にとっては大変有意義なものになると考えておりますけれども、逆に、中小企業にとっては競争が激しくなって、大変厳しいものになるというような懸念もあると思います。

 そこで、まず北城参考人にお伺いをしたいと思います。

 今回の改正で、市場原理が有効に機能すると、IBMも大企業なんですけれども、うかうかしていると経営危機が訪れる、こういったことも考えられると思うんですね。アメリカの本社の方ではそういった大変な苦労を乗り越えられたと聞いておりますし、逆に、中小企業であっても、技術力またはそれぞれの努力があれば、新規参入がしやすい。こういった中で、長年、北城参考人は、IT業界というところで、生き馬の目を抜くというか、大変な中で経営の第一線に立たれた。そんな意味で、今回の改正案が公正かつ自由な競争、これは政府案のことで結構なんですが、促進されていくかどうか、こういった基本的なことに関して御意見を伺えればと思います。

北城参考人 基本的には、公正な競争が確保されるということが重要だと思いますし、競争が厳しくなったときに経営が成り立たないということであれば、逆に新しい事業分野に進出する、あるいは経営効率を高めるような経営の施策をとるべきだというふうに思います。そういう意味では、入札談合等に依存して経営をするのではなくて、公正な競争のもとで競争ができるように、企業の経営のあり方を変えるべきだというふうに思います。

 そういう意味で、抑止力を高めるための制裁金が今回増額されるということは、基本的には抑止力として働くということで、私は一歩前進だというふうには思いますが、しかし、過去の事例から見ると、まだ課徴金の額そのものは低いのではないかというふうには感じております。

高木(陽)委員 冒頭の意見陳述の中で、北城参考人が、企業というものは社会、国民から信用されて初めて成り立つというような、そういう趣旨をおっしゃられましたけれども、今、そういった部分では、そもそも企業がそういった悪いことをしない、こういう前提であるわけですね。

 これは北城参考人が、ことしの九月二十二日の同友会の代表幹事としての定例会見の発言要旨、ちょっと読ませていただいたんですけれども、独禁法強化に伴って企業経営が厳しくなるという意見もあるが、違反をしない限り、課徴金が引き上げられても企業経営には何ら影響がないはずである、法律に反しない企業行動をとることが非常に重要だ、経済同友会は企業の社会的責任を推進する立場からも、法律に違反しない企業活動の推進を期待している、こういうふうにお話しされているんですけれども、まさにそのとおりだなと思います。

 その上で、今、今回の改正案は一歩前進だ、抑止力にはプラスになるけれども、まだまだだというような趣旨の御発言がございました。そこで、具体的にお伺いしますが、この課徴金というのは何%程度だといいというか、抑止力としても、または法律としていいのかという、こういった点、御意見を伺えればと思います。

北城参考人 公正取引委員会の事例による分析によれば、過去の超過利潤は一六・五%というふうに伺っておりますので、その程度の水準の課徴金が必要ではないかというふうに思います。

 それから、現在、製造業、大企業、あるいはそれ以外の業種、小売、卸、あるいは企業規模等に応じて制裁金の額が違っておりますが、これは過去の営業利益から出た現在の体系を踏襲したものというふうに理解しております。しかし、今後、公正取引委員会には、過去の事例の分析を通して、業種あるいは企業規模に応じて超過利潤の水準がどこにあったのかということをよく調べていただいて、全体として整合性のある課徴金を導入していただければ私はよろしいと思いますが、しかし、そのために時間がかかるということであれば、まず現在の法案の改正をやっていただければというふうに思っております。

高木(陽)委員 続いて、諸石参考人にもお伺いしたいと思います。

 北城参考人のお話というのは、大企業たるもの、談合、カルテル体質など、こういうのは一掃しなければいけない。経団連の方もそのようにお考えだとは思うんですけれども、そういった中で、最近、経団連の御意見として、コンプライアンス、いわゆる法令遵守体制の整備、これに向けて本当に努力されている。これはこれで大いに評価したいんですが、ちょっとここで疑問に思うのは、その経団連の意見書というか独禁法改正に当たる御意見の中で、コンプライアンス体制を設けていれば、いわゆる課徴金は減額すべきだという、民主党案も同様な考え方に立っているようでありますけれども、国際競争で勝ち抜いていくためには当たり前の話というか、コンプライアンスをしっかりしていくというのは当たり前の話。企業たるもの、ちゃんとしていかなければいけない。そんなところで、コンプライアンスがあれば課徴金が減る、なくてもしっかりとやっていかなければいけないところなんですけれども、ここら辺のところの関係性について、諸石参考人はどのようにお考えなのか。

諸石参考人 自由競争が自由主義経済、資本主義経済の基本でありまして、そのために公正競争を守る、そのために独禁法を強化する、これは当然のこととして、私どもも支持しております。

 ただ、そのために、罰則を強化すればそれだけで済むのかというと、それこそ、芝生に入れば死刑と言ったらだれも芝生に入らない、まあ極端な例ではございますが、やはり違反を抑止するためにはいろいろな方策を総合的にとらなくてはいけない。そのいろいろな努力のうちの一部だけを取り上げるのが問題があるのではないかと申しております。

 コンプライアンスということでありますが、今日、企業はコンプライアンスに取り組んでおります。コンプライアンスに取り組んでおりましても、残念ながら違反が生ずるという事態はございます。先ほどどなたかの御意見にありましたが、違反が起こったということはコンプライアンスが失敗したんだから、そういうコンプライアンスは評価に値しないということであれば、これは世界の大勢からいえば違うのではないかと思います。

 アメリカの法人処罰に関する量刑基準というのがございます。量刑基準でございますから、法人が違反をした場合の話。それをどう処罰するかということについては、コンプライアンス体制をどう整備していたかということに基づいて、それを中心に量刑基準を決めております。そういうことによって企業がコンプライアンスを進めることを推進しようという考えでございまして、日本でも同じような考え方をとるべきだ。

 コンプライアンスをやるのは当然でございます。ただ、そこで違反が起こったからそのコンプライアンスは何の役にも立たないということではなくて、いろいろな事情がございます。そういう中で、どれだけ真摯な努力を続けたか、それも、形だけということではない、きちんとしたコンプライアンスを評価するということは、国際的にもそういう手法が確立しております。そういったものを日本でも取り上げていただきたいと考えております。

高木(陽)委員 続いて、安保参考人にお伺いをしたいと思います。

 安保参考人も、弁護士としてというよりも、一消費者としてというお話でスタートされましたけれども、まさに我が公明党も、消費者重視の立場で今までさまざまな活動を展開してまいりました。そういった意味では、今回のこの独禁法の改正というのは、まじめに働いている人がばかを見ない、そういうことが基本だと思うんですね。そういった中で、カルテルなど違反行為をした、厳しく規制していこう、そういうような考え方に立っていると思うんです。

 そういった談合、カルテル、悪質的なものに対しては刑事事件としてきちんと取り上げていく、企業の体質も改めてもらわないといけないと思いますけれども、そういった中で、質疑の中でも出てまいりました二重処罰の問題ですね。先ほど安保参考人も、この二重処罰の問題、少しお話しになられましたけれども、これが今回の課徴金の引き上げによって本当にそうなるのかどうか。学説は分かれているという意見もありましたけれども、もう一度その点をお伺いしたいことと、もう一つ、審判手続の見直しですね。

 これも、適正な手続の保障という観点から問題ないか、そういった指摘もありますけれども、民主党案の方はそのあたりについてさわられておられない。安保参考人としては、弁護士として被告または原告それぞれの立場で法廷活動をしてこられた方でありますから、今回の見直し案について、適正手続の観点からどのように評価しているか、お聞かせ願いたいと思います。

安保参考人 二重処罰の問題につきましては先ほど申し上げたわけですが、さらにつけ加えさせていただきますと、制裁金が余りに重くなるとやはり問題ではないかという議論が確かにあります。ただ、これは本来、二重処罰禁止の憲法三十九条の問題ではなくて、罪刑均衡の原則といいますか、そちらの原則との関係の議論だと理解しております。

 確かにこの原則も非常に重要な原則だと思います。ただ、それが憲法三十一条の対象として保障されているのかどうかについては、どうもそこまではまだどの学説もおっしゃっていないように思います。ただ、罪刑均衡の原則というのは、政策的にはやはり考慮されなければいけない原則だと思います。ただ、今回の程度の課徴金の引き上げによって罪刑均衡の原則に抵触するという問題が起きるとは考えておりません。これが第一点の質問に対するお答えでございます。

 二番目の、審判手続見直しは適正手続上問題がないのかという点でございますが、既に他の参考人もおっしゃっていますが、第一に、勧告制度を廃止して違反行為の排除措置命令が出せるようにする、速やかにそれが出せるようにするということは、行政処分をする際の通常の手続にのっとりまして十分な反論、反証の機会が与えられている限り、問題はないというふうに考えております。

 それから二番目に、排除措置命令と課徴金納付命令が同時にこれからはなされることの問題ですが、これは、不服申し立てがなされた場合には強制徴収はできないという仕組みを今回政府案は採用しておられまして、不服申し立てが最終的に認められなかったときには延滞金を課すという制度であります。この点につきましても、やはり被対象者の争う権利と迅速な違反行為の是正という二つの要請をバランスよく調整しようとした制度であるというふうに、これも日弁連の提言をまとめる際に議論があったわけですが、私どももこの制度が一番ベターであるというふうに考えました。

 以上です。

高木(陽)委員 岸井参考人にお伺いをしたいと思いますが、岸井参考人は欧米の制度も大変詳しいというふうにお伺いしておりますけれども、もう一つ、コンプライアンスの問題でちょっとお伺いをしたいと思うんです。

 先ほど経団連の諸石参考人からも御意見をお伺いしましたけれども、欧米の方でこういった考え方、コンプライアンス体制、これを強化して課徴金を減額するべきかだとか、そういったような考え方というのは、ヨーロッパまたはアメリカ等々諸外国でどうなっているのか、そこら辺のところをお伺いしたいと思うんです。

岸井参考人 それでは、先ほどの説明につけ加えてお答えさせていただきます。

 コンプライアンスの問題ですけれども、まず、今回の改正案とのかかわりでいきますと、今回の改正案の減額制度というのは、広い意味での減免制度というとありとあらゆるものが入ってくるんですけれども、措置減免ということで、調査に全面的に協力した場合あるいは証拠を提出した場合に減免されるということで、これの制度が基本であるということが私の基本的な考え方でありまして、コンプライアンスについて、諸外国でいろいろ、広い意味での減額を認める例というのはあるんですけれども、これは、調査への協力とかということとはまた別で、コンプライアンス体制を構築したこと自体についていろいろ配慮をするということであります。

 この場合、先ほど申しましたように、EUなどでは、まあアメリカは刑事罰でちょっと特殊性がありますので、EUの例でお話しさせていただきますが、EUの場合は、コンプライアンスの場合は、まず、減額だけではない。コンプライアンス体制を構築してその後すぐ違反行為を行った場合に、増額した例もあります。つまり、コンプライアンスの構築というのはプラスにもマイナスにも働き得るわけで、その辺は、非常に別な裁量、考慮、こういうのを考えた制度をつくらないとだめなわけです。

 それからもう一つは、EUでは、当初はコンプライアンスをいわば促進するという意図もあって、課徴金のいわば安売りを、減額の安売りを八〇年代にしたことがありましたが、いわば効果が余り上がらないコンプライアンスをつくって、やりましたからまけてくださいということをやってきて、最近はこれは非常に厳しくなっておりまして、実際にコンプライアンス体制がきちんと機能しているか、これを非常に詳しく調べなきゃいけないんです。

 ところが、詳しく調べるというと、結局、だれが実行して、どこでどういう会議をだれがやって、その内容が上司にどういうふうに伝わったか伝わらないのか、組織内部の意思決定まで全部詳しく調べないと、本当にコンプライアンスが、形だけではなく、あるいは体制をつくっただけではなく、効果があったかどうかということを判断できない。これは、実は日本の制度でいきますと、刑事事件で実行行為者を特定すると同じぐらいの労力がかかってくるわけであります。

 ですから、私は、そういう意味で、行政措置としてやるというのは、EUなんかの例と比べても、日本の制度ではちょっと難しい。やるんだったら、私は、刑事罰のところでコンプライアンスを考慮して、罰金を例えば増額するとか減額するとか、そういうようなことからまず始めてみてはいいのではないか、そういうふうに考えております。

 以上です。

高木(陽)委員 時間が参りましたけれども、最後に伊従参考人にお伺いをしたいと思います。

 先ほどの意見陳述の中で、裁量的制裁金というふうな言い方をされたと思うんですけれども、いわゆる行政制裁金を個別に、裁量的に見ていくみたいな言い方だったと思うんですが、その点について、今まで、公取の実態として、ずっとやっておられた実体験を踏まえて、現実問題としてそれが可能なのかどうか、今の公取の体制も含めて。その点の御意見だけ伺えればと思います。

伊従参考人 まず、裁量制度について言いますと、独禁法の制裁は、企業に対しては、ヨーロッパは行政制裁金一本、それからアメリカでは刑事制裁金一本。ヨーロッパの場合には、ドイツ、フランス、イギリスなどは、個人に対しては刑罰を科しています。

 それで、これらの制裁制度の中で、制裁の最高額を決めていないのは日本だけです。どこでも最高額を決めているわけです。ただし、その最高額の中で、今度は、先ほどから話に出てまいった量刑ガイドラインというのをどこでも出していて、それに基づいてやるわけで、裁量のないのは日本だけです。最高額もない。これは世界で特異なあれで、要するに、裁量が誤るんだったら裁量ガイドラインというのをはっきり出せばいいわけなんで、裁量が勝手になるというのは間違いだと思います。

高木(陽)委員 以上で終わりたいと思います。参考人の皆様方、どうもありがとうございました。

河上委員長 次に、塩川鉄也君。

塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。

 きょうは、参考人の皆さんに貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。

 私、最初に岸井参考人から御質問させていただきます。

 課徴金制度の見直しについて、政府案について二点ほどお聞きしたいんですけれども、違反行為を早期にやめた場合は課徴金を二割減額する措置というのを、今回、政府案の中で、途中の経過はよくわからずに持ち込まれたわけであります。これはどのように評価されるかということと、あわせて、課徴金算定期間につきましては、当初の四月時点の案では三年から四年にするのを、それが、法案の中ではもとの三年に戻ってしまいました。この点についても、どのように評価をされておられるのかお聞きしたいと思います。

岸井参考人 お伺いの点でありますが、最初の、早期に申告した場合、報告した場合、二〇%減額ということですけれども、これは改正の途中で入ったわけで、私も、これはこれからどういう効果が出るのかということは、ちょっと不透明なところがあると思っております。

 ただ、こういうような制度が入った理由は、早期申告を促すことでカルテルの崩壊を早める、そういう効果をねらっていると思うので、その点で一定の効果はあるのかなというふうに考えております。

 それから二番目の、繰り返しの場合の期間が四年から三年になったという点でありますが、私は、この点については率直に言って極めて不満を持っておりまして、四年という期間は維持すべきであったのではないか。実際に、繰り返しの場合は、公取の調査でも売上高の平均二二%ぐらいの利益が上がっているというデータも出ておりますので、実質的に期間をふやして現行、通常の率の倍にするというのは、私は最低限必要であったのではないか、そういうふうに考えております。

塩川委員 ありがとうございます。

 続けて岸井参考人にお聞きしますが、課徴金と刑事罰の組み合わせと制度設計のお話を伺いました。それとの関係で、事業者に対する制裁は課徴金に一本化をし、刑事罰は行為者のみを対象とすべきだという意見がございます。これについてどのようにお考えか、法人刑事罰の重要性の問題にも触れてお答えいただければと思っております。

岸井参考人 それでは、お答えいたします。

 この点については、経団連の提案などでも、どちらかに一本化すべきだ、こういう意見が出ておりまして、一見するとこれはわかりやすいんですけれども、私は、特に日本社会における罰金などの法人処罰の意義ということを強調して、やはり両方残すことが必要だというふうに考えております。

 といいますのは、実際の刑事罰の事件をごらんになっていただきたいんですが、日本では、刑事罰を科しても、実行行為者として個人が処罰されるのは、大体、部課長クラスまでなんですね。つまりこれは、実際には知っているんでしょうけれども、日本の組織というのは、下部に権限行使をゆだねるという日本的な意思決定のいわば実態というか慣行がございますので、社長とか代表取締役、ここまでの、トップまでは個人処罰ではなかなかいかない、ほとんど例がありません。

 そこで、日本の制度で法人に罰金を科すということは、これは代表者として法人の代表取締役の名前も当然出ます。それから、法人がやはり刑事的な責任を負わされたということで、社会的にもいろいろ制裁というか、いわゆる刑事罰の信用剥奪効果というのが働いて、これは効果がある。私は、日本のトップ経営者に対する効果的な制裁という意味では、現在、法人処罰、法人に対する罰金というのが実は有効というか唯一のものではないか。ほかのところでは、こういう形で実質的にですけれども制裁を科すということは、現在のところできないんですね。

 その意味で、私は、両者を残すというのが極めて重要なことであるというふうに考えております。

塩川委員 ありがとうございます。

 次に、安保参考人に伺います。

 消費者の一員、一人としてというお話で、お話しいただきましたが、団体訴権について少しお聞きしたいんですけれども、日弁連の昨年の意見書でも、「独禁法違反行為に対する民事的救済制度の改正強化については何ら検討がなされていないが、極めて残念」として、意見書では、独禁法違反事件の被害者は、一般的に中小零細企業や消費者であり、差しとめ請求を提起するための経済的、時間的な負担が大きいことはもちろんのこと、小企業が、違反者である大企業に対抗することは、取引関係の維持の面からも極めて困難である、このような場合に差しとめ請求を行使しやすくするためには、一被害者だけに原告適格を認めるのではなく、事業者団体や消費者団体による団体訴権を認めるべきであるとしております。

 この団体訴権を求める理由についてお聞かせください。

安保参考人 団体訴権の必要性についての御質問でございます。

 これにつきましては、既に独禁法二十四条というものが数年前に設けられておりまして、要するに、独禁法違反行為に対して被害者が民事裁判で差しとめをすることができるという制度が設けられたわけです。これは、公取委の人的資源、要するに人数が非常に少ないということで、独禁法の運用を民間、私人に任せるという意味での立法だと思います。

 これについては非常に活用が期待されたわけですが、残念ながら、ほとんど差しとめ訴訟というのは起きていないというふうに聞いております。

 なぜかといいますと、消費者にとっては非常に、例えば不当表示、再販売価格拘束、不公正取引によって被害を受けることが多いわけですが、ただ、消費者については、一度だまされてしまえば差しとめを求める法律的な利益がないということで、一消費者は差しとめ制度を使って企業の不当表示を差しとめる手続を求める利益がないということで、活用できません。こういった場合に消費者団体に訴権というのを認めて、独禁法違反行為、特に消費者に被害を与える不当表示等々の不公正取引について差しとめる権限を与えるという必要性が出てくるんだと思います。一応、簡単ですけれども。

塩川委員 ありがとうございます。

 次に、諸石参考人に伺います。

 経済産業の調査室がつくりました資料の中で、経団連としての独禁法の提言ということで、二十一世紀の前半を展望するようなものということでお出しになったということで、拝見いたしました。

 ここに、課徴金制度の見直しについての項目がありまして、こちらに「カルテル防止の観点から、課徴金を制裁として位置付け、それにふさわしい水準にすることが求められます。」このようにありまして、「課徴金を「行政上の制裁」とするならば」「事件の重大性・悪質性の程度に応じて課徴金額を柔軟に加減算する仕組みを構築する。」、加算する場合には二倍とか、減算する場合には三割減とかいうことが書かれているんです。

 この基準額についてなんですけれども、基準額というのは何%ぐらいが適当だとお考えなのか。二十一世紀の前半を展望するような、そういうスパンでお考えになったときに、基準額としての課徴金の額は幾らぐらいが適当なのか。その点をお伺いしたいと思います。

諸石参考人 基準額につきまして、私ども、積極的に何%にしろということは申しておりません。が、現行の六%というのでも、事業者の利益水準ということを考えれば十分に抑止効果があるということを申しております。

塩川委員 重ねてお伺いしますが、やはりアメリカですとかヨーロッパ、EUなど、行政制裁金、罰金額の水準が大変高いとお聞きしております。要するに、欧米に比べて著しく課徴金額の水準が低いのが日本だと思うんですが、そういう国際的なバランスとして日本が低いと言われている現状については、どのようにお考えですか。

諸石参考人 経団連の考え方としましては、今までの日本の制度をベースにして、それをどう直していくかということで考えてまいりました。したがって、いろいろな改正が同時になされて、そういう中で例えば刑事罰との調整であるとか適正手続であるとか、そういう全体の中で国民的な議論をしていくべきだというふうに考えております。

塩川委員 もう一点、課徴金の算定期間につきまして、意見書を拝見しますと三年間に限るということがありました。そうされる根拠というのは、どのようにお考えでしょうか。

諸石参考人 三年を四年にという案が出てまいりましたが、これまたなぜ四年であるのかよくわからない。私どもとしましては、今まで三年であった、それを積極的に変える理由はない、こう考えております。

塩川委員 ありがとうございます。

 次に、北城参考人にお伺いいたします。

 経済同友会としても取り組んでおられます企業の社会的責任、CSRに関してお伺いしたいと思っておるんですが、この経済産業の調査室にいただいた定例記者会見の発言要旨の中で、九月二十二日付になっておりますが、独禁法に関連して、カルテルや談合がなくならない状況の中で民間企業が社会から信頼されるためには、法律に違反した企業に対して厳しいペナルティーを科すなど、法律を守る必要性を理解するための手段が必要だ、このように述べて、独禁法の強化に伴って企業経営が厳しくなるという意見もあるが、違反をしない限り、課徴金が引き上げられても企業経営には何ら影響がないはずである、法律に反しない企業行動をとることが非常に重要だ、経済同友会は企業の社会的責任を推進する立場からも、法律に違反しない企業活動の推進を期待している、このように述べておられます。

 そこで、お聞きしますが、やはり企業は社会的存在として、当然のことながら、環境の問題ですとか雇用の問題ですとか、地域社会や取引先、こういった関係の中で企業活動を行っておられる、そこへの社会的責任というのが今重視をされてきていると思います。このような企業の社会的責任の重要性について、見解も出されておられますし、そういう意味でも、その実行をする上でも、それを保証する、担保する上で、一定のルールづくりというのが必要ではないかなと私は考えますが、この点は、北城参考人はどのようにお考えでしょうか。

北城参考人 企業の社会的責任の中に、どういう面で考慮が必要であるか、それに関してどのようなルールをつくるかという意見も現在出ておりますし、我々も議論をしておりますが、しかし、社会的責任ということに何を含めるかというのが広く国民の中で理解が深まっていないという段階ですので、現在は、いろいろな企業の取り組みのいい事例を紹介し合っているということです。

 そして、この独禁法の改正に関して言えば、カルテル、特に談合がなくならないということで、談合の事件が繰り返し報道されるということは、やはり企業に対する信用を非常に失わせる行為であるということから、これは、官製談合をなくすための施策も別途必要ではあると思いますが、あわせて、こうした入札談合によって不当な利益を得るということは社会的に認められないのであると、抑制が働くような課徴金の引き上げが必要だというふうに思っております。

塩川委員 ありがとうございます。

 伊従参考人にお伺いいたします。

 伊従参考人はかつて出版物の再販制度の問題などについてもいろいろ御発言をされまして、私どもも勉強させていただきました。きょうの意見陳述の骨子の中につきましても、中小業者のお立場での御意見がありました。小規模小売業者は大規模小売業者の不当廉売により淘汰されつつある、このような指摘、私自身も共感をするものであります。現時点でも、大手小売業者、大手量販店の横暴な中で、電機商組合の方なども、こういうのを見直してほしいという形での提言なども出されているとお聞きしております。

 そこで、この不当廉売の規制と優越的地位の乱用規制の強化に当たって、ドイツの事例について、私、こういう事例があるのかと勉強させていただきました。大規模小売業者によるコスト割れ販売の禁止規定を導入し、行政制裁金の対象にし、連邦カルテル庁は、ドイツ・ウォルマートが牛乳など三品目について違反として行政制裁金を科したというお話がありました。これは、もう少し背景といいますか、どんな事件で、どういう理屈でこういうことが行われたのかということについて、ぜひ御意見を伺わせていただければと思っております。

伊従参考人 独禁法という、いろいろ見方があるんですが、基本的にはやはり、大企業の地位の乱用行為、経済力の乱用行為を取り締まるということだと思うんです。カルテルや何かについても、従来言われているのは、生産財や何かの大企業の分野でカルテルが行われて、それを取り締まらないと川下の中小企業や何かが不利益をこうむるというので、基本的には営業の自由の問題ですけれども、それは、中小規模の事業者の営業の自由を守るということがやはり実質的には重要だと思います。

 そういう意味で、小売業界においては、今国際的な、要するにメガ企業といいますか、大企業が世界中で活躍している。国内では非常に零細な、従来からの企業もいる。それで、これはもう経済の情勢の変化によって淘汰される場合というのがかなりあると思うんですが、やはりこれは、最後の段階まで事業チャンスというのを維持しないといけない、そのために、不当廉売それから優越的地位の乱用について、こういう規定については各国ではやはりさまざまな工夫をしているし、例えば、優越的地位の乱用行為、いわゆる購買力の乱用については、供給業者がそういう大規模小売店に対してフェーバーを与えること、ほかよりも差別的なフェーバーを与えること、アメリカではそういう差別価格の規制は厳しくやって、これは三倍額の損害賠償になるから、大企業や供給者の方でもそれをしない、そういう形でやっている。

 不当廉売の問題については、ドイツでは、これは従来不正競争防止法でやっていたけれども、やはりケース・バイ・ケースで、なかなかうまく規制できないというので、一九九八年、独禁法の中に、コスト割れ販売をそれ自体で禁止すると。それで、先ほど言いましたように、ドイツ・ウォルマートや何かに対して処分したわけですが、これは品目は、食品について、牛乳、マーガリン、砂糖ですから、わずか三品目です。それについてやったということでもって、かなり高額の行政制裁金を科している。ウォルマートはこれを争って、高裁ではウォルマートが勝ったわけです。カルテル庁は最高裁に上告して、最高裁でカルテル庁が勝った。

 それで、カルテル庁の長官の説明では、不当廉売を規制すると消費者に何か不利益があるようだけれども、そういうことはない、合法な価格と違法な価格との差はごくわずかで、しかもやるのは非常に短期間で、消費者の受ける利益が少ない、それによって小売業者がどんどん淘汰されている、もう現実を見てもどんどん淘汰されている、そういう段階でそういうものを規制することはむしろ消費者のためにもなる。要するに、結局は、中小企業が淘汰されれば、これは価格はまた上がるし、それから商品の種類も少なくなってしまいます。現在、グローサリー、食品雑貨では、先進国では、フランスなど六カ国では、上位五社のシェアが六〇%を超えています。だからどんどん淘汰されている。そういう段階で早く規制しなければいけない、こういうことがドイツの方で。

 これはやはり日本としても、ちょうどこのところで、自民党の方から、そういう不当廉売については規制すべきだ、こういう提案があるので、ちょうどいい機会なので、ぜひこれはこの改正の中に入れていただきたいと思います。

塩川委員 ありがとうございます。

 最後に、五人の参考人の皆さんに一言ずつお答えいただきたいと思っておるんですが、それぞれのお方の独禁法に対する見解や立場や提案があると思いますけれども、法案として、今回、政府案と民主党案が出されております。この二案について、どちらの案を評価されるか。どちらも評価できないというのであれば、どちらがよりよくないとお考えなのか、そういうことでお答えいただければなと思うんですけれども。

北城参考人 私は、政府案、自民党、公明党の与党案だと思いますが、それと民主党案、いずれも、独禁法の強化という意味では評価をしたいと思いますが、個別のテーマについては、それぞれいい点もあると思いますが、全体として私は、自民党、公明党の出されている政府案で進めていただくことで一歩前進ではあるというふうに思います。

 中で、民主党が主張されているような繰り返しの違反等については、さらに強化をするような御検討もいただければありがたいというふうに思います。

安保参考人 どちらの案も問題があり、不十分な点があると思いますが、政府案の方がまだましかなと考えております。

岸井参考人 先ほど申し上げましたように、政府案でもまだまだ不十分でありますが、数歩前進だというふうに考えております。

 それから、先ほどちょっと加算の話が出ましたが、民主党案で、繰り返した場合に二〇%というのは、これは三回以上やる、二回、三回やるというのは数がずっと限られてしまうんですね。ですから、加算制度をやるんだったら、回数にかかわりなく一挙に、それこそ二〇%とかそういう水準にされるのがいいのではないか。その意味でも、効果としては政府案の方が上だというふうに考えております。

伊従参考人 私は、最初に申しましたように、今度の改正案の課徴金の引き上げ及びリーニエンシーについては、基本的に賛成でございます。自民党の独禁法調査会の提案している不当廉売それから優越的地位の乱用行為についての規制を強化することについても、賛成でございます。

 問題点は、政府案それから民主党案両方にございますが、やはり二重制裁を前提にしている。これは沿革的にそういうふうになって、今課徴金を引き上げる。既に罰則の方は五百万円が五億円で百倍になって、課徴金の方も今まで引き上げられて、さらにやる、これは二重制裁になる。憲法上の二重処罰の問題を別にして、こういう制度のもとで、要するに、先ほど言いましたように、極めて中小企業に課徴金事件というのが集中しているという不合理が出ている。ですから、この点については問題で、この点は両案とも解決していないと思います。

 ただ、私は、やはり今度の改正で最も重要であるのは手続の改正で、事前審判制度、それを政府案は改正しようとしている。これは世界の大勢から離れることなので、要するに、今後のグローバルな独禁法の運用の調整のためにも非常にマイナスである、そういう面で私は民主党案の方を支持いたします。

諸石参考人 どちらの案がいいのかというのは大変難しい御質問でございまして、たくさんの項目がございます。それぞれに長短がございます。両方の問題点を除いて、いいところをとった案をつくっていただきたいとお願いしたいと思います。

塩川委員 どうもありがとうございました。

河上委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の皆様には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 次回は、来る十二月一日水曜日に委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時二分散会


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