衆議院

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第5号 平成13年10月13日(土曜日)

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平成十三年十月十三日(土曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 加藤 紘一君

   理事 亀井 善之君 理事 河村 建夫君

   理事 久間 章生君 理事 鈴木 宗男君

   理事 安住  淳君 理事 岡田 克也君

   理事 田端 正広君 理事 山岡 賢次君

      逢沢 一郎君    赤城 徳彦君

      石川 要三君    石破  茂君

      衛藤征士郎君    大野 松茂君

      坂本 剛二君    実川 幸夫君

      下地 幹郎君    下村 博文君

      田村 憲久君    西川 京子君

      浜田 靖一君    原田 義昭君

      松宮  勲君    宮澤 洋一君

      米田 建三君    伊藤 英成君

      鹿野 道彦君    金子善次郎君

      桑原  豊君    玄葉光一郎君

      古賀 一成君    島   聡君

      末松 義規君    藤村  修君

      細川 律夫君    横路 孝弘君

      渡辺  周君    上田  勇君

      河合 正智君    中塚 一宏君

      木島日出夫君    山口 富男君

      今川 正美君    辻元 清美君

      井上 喜一君    近藤 基彦君

    …………………………………

   防衛庁副長官       萩山 教嚴君

   防衛庁長官政務官     平沢 勝栄君

   国土交通大臣政務官    木村 隆秀君

   参考人

   (富士銀行執行役員人事部

   長)           木川  真君

   参考人

   (軍事アナリスト)    小川 和久君

   参考人

   (医療NGOペシャワール

   会現地代表)       中村  哲君

   参考人

   (松阪大学政策学部教授) 浜谷 英博君

   参考人

   (静岡大学人文学部教授) 小澤 隆一君

   参考人

   (東京国際大学国際関係学

   部教授)         前田 哲男君

   衆議院調査局国際テロリズ

   ムの防止及び我が国の協力

   支援活動等に関する特別調

   査室長          鈴木 正直君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月十三日

 辞任         補欠選任

  桑原  豊君     細川 律夫君

  古賀 一成君     金子善次郎君

  中野 寛成君     藤村  修君

同日

 辞任         補欠選任

  金子善次郎君     古賀 一成君

  藤村  修君     中野 寛成君

  細川 律夫君     桑原  豊君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法案(内閣提出第三号)

 自衛隊法の一部を改正する法律案(内閣提出第四号)

 海上保安庁法の一部を改正する法律案(内閣提出第五号)




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     ――――◇―――――

加藤委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法案、自衛隊法の一部を改正する法律案及び海上保安庁法の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。

 本日は、各案審査のため、参考人として、富士銀行執行役員人事部長木川真君、軍事アナリスト小川和久君、医療NGOペシャワール会現地代表中村哲君、松阪大学政策学部教授浜谷英博君、静岡大学人文学部教授小澤隆一君、東京国際大学国際関係学部教授前田哲男君、以上六名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 木川参考人、小川参考人、中村参考人、浜谷参考人、小澤参考人、前田参考人の順に、お一人十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際は委員長の許可を得ることになっております。

 それでは、木川参考人にお願いいたします。

木川参考人 富士銀行の人事部長の木川でございます。本日は、こういう席にお呼びいただきまして、まことにありがとうございました。

 九月十一日に米国で起きました同時多発テロ、これで実は私ども富士銀行も多大な損害をこうむっております。そういう被害の状況を織りまぜながら、私の意見を少し申し述べさせていただこうというふうに思います。

 その前に、今回のテロ被害に当たりまして、きょう御参加されている皆様方を初め極めて多数の皆様方から、温かいお見舞いの言葉をちょうだいしております。この場をおかりしまして、厚く御礼を申し上げたいというふうに思います。

 それでは、まず、ニューヨークにおける私ども富士銀行及び私どもの現地の関連会社等が受けました被害の状況について御報告を申し上げたいというふうに思います。

 私どものニューヨーク拠点は、業務量が非常に大きな、私どもの海外の拠点の中では最大の拠点でございまして、行員が約七百名、そのうち日本からの派遣行員が百十七名という陣容でございまして、今回テロの対象になりました二つのワールド・トレード・センターに勤務をしておるというふうな状況でございました。

 今回の事故では、日本からの派遣をした行員が十二名、それから現地で採用をした行員六名、合わせて十八名、それに加えまして、今度みずほ統合でたまたま当行のオフィスに来ていた日本興業銀行の現地の幹部社員の方一名、合わせて十九名がみずほフィナンシャルグループとしては行方不明になられてしまった、こういう状況にあります。そして、現在のところ、一名の方の御遺体が発見をされているという状況でございます。

 当日の状況につきましては、もう皆様方、マスコミの報道等で御存じだとは存じますが、私の方からも簡単にちょっと御報告だけさせていただこうというふうに思います。

 現地時間の九月十一日の朝早い時間でございましたが、二つのワールド・トレード・センタービルに二機の旅客機が激突をしたということでございます。

 最初に激突をしたのは、北側の方の、我々ワンワールドと言っていたビルでございまして、このビルの四十八階から五十階に第一勧業銀行のオフィスがございます。そこに実は私どもの行員が約百五十名勤務をしておりました。そして、彼らについては、幸いにしてというか、たまたま激突をした場所がかなり上層階でございましたものですから、全員が難を逃れることができたわけでございます。

 その一方、その直後に二機目が激突をした南側の方のツーワールドというビルでございますが、そちらの方には私どものメーンオフィスがございまして、約五百五十名の行員が当時勤務をしておりました。そして、その全員が最初のビルに激突をしたその直後から避難を開始しまして、ほとんどの行員は無事に避難し終わったということでございました。

 しかしながら、私が聞いた情報では、避難の途上で、外に出るのは危ないんだ、北側のビルの事故であって、南側のビルは安全だというふうな館内放送が流れたようでございまして、それを受けて、実は行方不明になった方々は避難をそこでやめて銀行のオフィスの方に戻っていったというふうな目撃情報を私自身聞いております。その後間もない、九時三分というふうなことを言われていますけれども、二機目の旅客機が私どものオフィスのちょうどその付近に激突をしたわけでございます。

 行方不明になったほとんどの人間というのは、私どものニューヨークの拠点における幹部社員でございまして、彼らはその館内放送を受けて、責任感からだと思いますけれども、オフィスに戻ったというふうに考えられますけれども、同時に避難をしていた連中は全員無事に避難し終えているということを考えますと、その彼らの行動が今の時点では大変悔やまれるというふうに思えてなりません。

 一機目の激突の直後に、私ども現地から東京サイドに第一報が入りました。それを受けて、当行の東京の方に緊急対策本部を設置いたしました。私どもの副頭取、平出という副頭取がその委員長を務めまして、行員の安否確認、それから情報収集というのを開始したわけでありますけれども、現地も大変混乱をしておりまして、もちろん東京サイドも混乱をしていたのですが、そういう中で、電話も通じにくいということで、結果として、行方不明者が何名であるのかということを確定するのにも時間がかかるというふうな状況でございました。

 その後も、行員の安否確認というのを大前提、最優先の課題としまして、現地の病院などにニューヨークにいる行員を総動員しまして回らせまして安否確認というのを続けてきたわけでございますが、先ほど申し上げましたように、御遺体が確認できた一名を除いて、今時点でもその他全員が行方不明のままというふうな状況になっておるわけでございます。

 次に、業務関係でどんな状況であったかということを御報告したいと思います。

 まず、ビル自体が崩壊をしてしまったということで、私ども、メーンオフィスが全くなくなってしまったというのが最大の被害ということになります。ただ、業務上の観点でいいますと、幸いにしてコンピューターのシステムにつきましては、去る九三年に、皆さん覚えていらっしゃると思いますけれども、同じトレードセンターのビルに爆破テロがございまして、そのときの教訓で、ハドソン川の対岸にございますニュージャージー州に、私ども、コンピューターセンターを改めてつくりまして、そちらの方でコンピューターが作動しておりました。その結果、いろいろな業務データというのは完璧に残っておりまして、お客様には余り御迷惑をかけないような最小限の時間で復旧が一応できたということは不幸中の幸いだったというふうに思います。

 ただ、私どもにとってかけがえのない多くの幹部社員、これが依然として行方不明になっているということであるとか、メーンオフィスがなくなったということで、日本のお取引先の会社さん初め、多数の会社さんからオフィスを提供したいというお申し出をちょうだいし、その中で、今現在間借りをさせていただきながら、複数のオフィスで営業をしておるわけでありますが、その関係で、現地採用の行員のかなりの人数がまだ自宅待機を強いられているというふうな状況にございます。そういう意味では、業務遂行上、まだまだ大変厳しい状況にあるというのが現実でございます。

 実は十月九日、つい先日でありますけれども、当行は現地におきまして、メモリアルサービスという現地の慣習にのっとったセレモニーを開催いたしました。それに私も参加をいたしまして、実は一昨日戻ってきたばかりでありますけれども、そのときに見た状況、聞いた状況、これを踏まえてそのときの印象を申し上げますと、現地で見ました被害の大きさというのは、もう予想を超える、テレビ画面で見たものとは全然違う、まさにそれを見た瞬間、私、茫然といたしましたけれども、そういう印象を持ったと同時に、やはり人のメンタル面での問題、これが実は極めて深刻だというのが率直な印象でございました。

 行方不明となっている行員の御家族の皆様方のみならず、危うく難を逃れた行員の生々しい話を直接聞きましたけれども、彼らが受けた心理的なストレス、その影響ははかり知れないぐらい大きかったというふうに思います。事故直後から、銀行としては、そういうメンタル面でのケアについてはできる限りのことをしようと思いまして、いろいろ仕組みもつくり、ワークをさせてきたわけであります。

 しかしながら、約一カ月たちましたけれども、この一カ月たった現在においても、ケアを要する状況、これは何ら変わっていないというのが現実でございます。むしろ、その当時のパニック状態というのは、表面的には消えておりますけれども、やはり心の傷というのは非常に奥深く潜んでいるというふうな印象を強く持って帰ってきた次第でございます。

 以上が、被害の現状ということでございますけれども、最後にちょっと私の方から、この事件を踏まえて感じていることというのを幾つかお話し申し上げたいというふうに思います。

 今回の事件、これは、企業活動が現在のように非常にグローバル化しておりまして、多くの日本人が世界の各地で営業活動をしている、仕事をしているという状況を考えますと、アメリカという他国で発生した事件であるというふうに片づけるには余りにも身近な事件だったというのが実感でございます。また、ハイジャックされた飛行機がまさにオフィスのビルに突入をするというふうな、そういう出来事自体、私ども一民間企業の危機管理という観点での想定をはるかに超えた出来事であるというふうに思いますし、また、こういったテロが、昨今のいろいろなうわさ話にも出ていますけれども、ニューヨークのみならず東京でも起こり得るんだというふうなことを考えますと、何だか言い知れぬ恐怖心というのがわき上がってくるというのが今の偽らざる気持ちということでございます。

 それからまた、米国の金融の中心地であるニューヨークのダウンタウン、この中でも象徴的な建物であるワールド・トレード・センタービル、ここがテロの対象になったというのは、私ども金融に携わる人間にとっては大変実はショッキングな出来事でございます。と申しますのも、今現在、御承知のように、金融機関の仕事というのは、例えば日本の企業で、日本の銀行であっても日本国内で完結をするというのはほとんどございません。一つの取引が全世界につながっているケースがございまして、その決済の仕組みが一瞬にしてとまった瞬間に、実はこれが世界の金融不安の引き金になりかねない、こういうふうな状況でございますし、またそれ自体、株価も大幅に下がるとか企業活動が停滞をするとか、世界経済にやはり多大なる影響を及ぼしかねない事件であるということであるからであります。

 そういう観点で申しますと、幸いにして、実はアメリカの政府あるいは金融当局は、極めて迅速に的確な手当てをしていただきました。その結果、表面に出てくる影響は軽微に済んだわけでありますけれども、ただ、これが同じように日本で起きたときに同じようなリスクが発生するんだということについては、ぜひここで申し上げておきたいというふうに思います。それが我々にとっても大事な教訓になろうかというふうに思います。

 いずれにしましても、実際に現場を私見てまいりまして、それから、先ほど申し上げたように、行員と生に話をしてまいりました。そういうことで、改めて卑劣なテロ行為に対する強い憤りと、それから、その怒りをどこにもぶつけられないといういら立ち、これを感じているということを申し上げまして、私の冒頭での陳述にさせていただこうと思います。ありがとうございました。(拍手)

加藤委員長 ありがとうございました。

 次に、小川参考人にお願いいたします。

小川参考人 御紹介いただきました小川でございます。軍事問題の専門家の立場から、今回の同時多発テロ、そしてこれを受けた我が国の行動について、若干の考えを述べさせていただきたいと思います。

 実は、今非常に奇妙な感じでこの部屋に入ってきたのですが、先月四日、山形へ向かう山形新幹線の中で加藤委員長とばったりお目にかかりまして、とにかく日本の安全保障、危機管理というのは、幼稚園でいうと年少組のレベルのまま推移している、このままでは専門家としては座視できないので、とにかく政治が力を発揮していただきたいということを実はお願いしたその直後に、一週間後にこの同時多発テロだったわけです。ですから、何かの因縁かなという思いでここに立たせていただいているわけでございます。

 実は、私ども軍事専門家の間では、このような形の戦争が二十一世紀において国際的な重要な課題になるだろうということは半ば常識となっておりました。これは、一九八〇年代の初めごろからであります。東西冷戦の構造が崩れる中で、そのたがで締めつけられていた民族対立あるいは宗教対立などが噴き出す。そして、弱き者はテロ、ゲリラという格好で強き者に立ち向かう。これは、一つの戦争のあり方であります。これをどのような形でなくしていくのか、これが恐らく日本の平和主義にとっても一番問われるところであろうと思うんですね。

 しかし、そんなことを知識として持っていた私でございますけれども、やはりワールド・トレード・センターにハイジャック機が突っ込むさまを見て、実は言葉を失ったんです。そして、簡単にでき、しかも、テロリストの立場から見るとこんなに破壊的な効果の大きい戦術というものが目の前に展開されている、その恐怖におののいたわけであります。これをどうやって封殺していくのか。これは恐らく、日本の立場を超えて国民がみずからの問題として考えなければいけないことだろうと思ったんですね。

 例えば、最初は、高度な操縦技術がなければああいう飛行機の飛ばし方はできないとかいうコメントもいろいろな専門家から出ました。ただ、少なくとも、自衛隊の末端にいて、飛行機の世界に今友人がたくさんいる立場から言いますと、あれはハイジャックに成功しさえすればできる話なんです。パイロットは乗客の人命第一ですから、そして自爆するなんて思っておりませんから、もう言うがままに飛ぶんですよ、最後のところまで。そして、例えばワールド・トレード・センターが数キロ先に見えてきたら、パイロットをどかす、あるいは殺害をする、後は操縦桿を握っていればそのまま行くんです。

 それは、報道機関の中には、あれは四十五度で傾いて突っ込んだからビルの構造まで研究したという。まあ、そうかもしれない、しかしそうじゃないかもしれない。その証拠に、水平飛行のまま突っ込んだビルも同じように崩壊しているじゃないですか。だから、いろいろな違ったことを書かないと我々の商売成り立たないわけでございますので、それはそれで参考にしたい。

 あるいは、ワシントンのペンタゴンの五階建ての低層ビルに大型機でアプローチするのは難しいという。でも、現にフライト・データ・レコーダーの中身を見りゃわかるじゃないですか。一回低空で飛び抜けて、急旋回したやつがどんと当たった。私がハイジャッカーだったら、パイロットに、ペンタゴンの連中に目に物見せてやりたいから低空で飛び抜けろと言いますよ。そうすると、自爆するなんて思っていないから、飛び抜けてくれますよ。それで、旋回して、再度、ファイナルアプローチに入ったときに操縦桿を奪えばいいんです。ノープロブレム。しかもあれだけの破壊効果、これをどうやってとめるのか。

 だから、これは後で必要があればお話をいたしますが、危機管理の基本、これを終わることなく、エンドレスとも思われるような息の長い営みとしてずっと続けていくこと、その中でしかこういったテロというものはなくならない。

 同じテロといいましても、今報道機関が大きく取り上げておりますが、フロリダとそれからニューヨークにおける炭疽菌の問題、これだってそうですよ。

 私自身は、生物化学兵器の専門家じゃないけれども、少なくとも日本の消防、警察、自衛隊が第一線で持たなきゃいけない生物化学兵器ハンドブックというものを翻訳した人間でございます。これは、今消防庁などは、消防庁長官の指示で第一線がみんな持つようになっている。でも、それなんかを見ますと、やはり私どもの研究がすごくおくれているというのは随所に見られるわけであります。

 ただ、その中で炭疽菌について言いますと、これ、すごく長く生きるんですよ。今回のやつも、五十年ぐらい前にアイオワ州の大学の研究室から出た株らしいということですが、いや、五十年も生きているのかというんですけれども、その生物化学兵器ハンドブックを見ますと、第一次大戦中に捕虜になったドイツ人将校、ドイツ軍の将校が持っていたものを連合軍が押収した。それが一九九七年の時点で生きていたというんだから。これは兵器にしちゃうと一週間ぐらいで死ぬそうでありますが、我々は、やはりきちっとそれを認識して、その恐ろしさに対処しなきゃいけないということなんです。

 そういうものを目の当たりにしながら、私は、この事態に対して我々はどうすべきかと思ったんですが、最初の段階で、残念ながら、我が政府の意思の表明というものは若干当事者意識に欠けるだろうと私は思った。これは国家意思の表明ですからね。国として、世界に向いてどういう行動をとるかという話。それは、例えば、アメリカに対して支援をするとか協力をするという言葉が前に出ちゃったでしょう。何ば言いよっとかという話なんですね。熊本弁で言いまして済みません。でも本当ですよ。

 私たちは、二つの意味であの事件については当事者なんです。一つは、日本の平和主義というもの、これは、二十一世紀最大のテーマである国際テロを撲滅していくためにどうしていくかという責任が問われる立場じゃないですか。その意味でも、やはり行動しなきゃいけない立場であります。これが日本の平和主義の実現であります。

 いま一つは、我が国の国民が、二十四人という方が命をねらわれた。そういう意味でも、やはり当事者としての自覚を持たなきゃいけない。協力をする、支援するというのは、国家意思の表明としては、これは人ごとの話ですよ。だめだということは政府首脳にも申し上げた。

 その流れの中で私が申し上げたのは、ですから、少なくとも容疑者、容疑組織があぶり出されて国際的な裁きの場に引き出されるまでは、少なくとも日本は、アメリカだけじゃなくて、国際社会と主体的に共同行動すべき立場である。その後は、それぞれの考え方で動くということもあるでしょう。でも、その段階までは、少なくとも我々は最大の力を発揮できなきゃいけない。一番難しいとされている自衛隊の派遣についても、憲法の枠内できちんと役割分担ができるようにしなきゃいけない。この問題を迅速に、しかも最大限やるためには、これまでの、同盟関係に関する議論の延長線上ではだめだ。だから、新しい法律できちっとくくって、周辺諸国も心配しないような形で行動する。当然ながら、同盟関係に関する議論は、これも正面からきちんと議論していけばいい。その辺をやりましょうという話で申し上げたことがあります。

 それで、現在の流れは大筋そういう方向になっておりますので、私としては、今度は中身を詰める番だと思っているんですが、やはり二つの点で非常に懸念がございます。

 一つは、自衛隊の行動に関して、これは政治家の先生方も勉強は随分していらっしゃいますが、やはりもうちょっと考え方を整理する必要があるし、官僚機構もやはり知識に欠けるところがある、認識に欠けるところがある。その結果、自衛隊を出しても、隊員を危険にさらすばかりで、十分な任務の達成ができないというような現実が目の前にある。これは、少なくとも、例えばPKOなどに自衛隊を派遣するに当たっても、基本的な構想がないということが浮き彫りになっている問題であります。だから、その辺をどうしていくかという問題。

 それからもう一つは、国内の危機管理の問題であります。

 我々は、今回のテロ事件においての重要な当事者である。しかも、相手の立場で見ると、日本は、今回のテロがあろうとなかろうと、アメリカの最重要な同盟国でございます。日本国がなければ、アメリカの覇権というものは、これは確立できないぐらいの立場でございます。それは客観的な事実としてあるし、そうであればこそ、ソ連、ロシアの時代を通じて一九九七年まで、あの国の核弾頭をつけたミサイルは日本列島に照準を合わせていたじゃないですか。デンバー・サミットでエリツィン大統領が照準を外すと言って初めて、それは、そういう心配が一応ない時代になった。まあ、照準というのはすぐ戻せますけれどもね、戻せば。だからそれは、アメリカと事を構える場合、日本列島を核で吹き飛ばす必要がある場合もあるからねらうわけであります。そこで、我々が持たなきゃいけない当事者意識というのは明らかなんですよ。

 だから、今回、テロリストグループの立場から見ても、日本は、世界と共同行動をとっているという立場から見てもやはりターゲットになり得る、我々は少なくともテロをやられないだけの抑止力を備えていることを見せつけなきゃいけない、そういった立場なんです。そのために、やはり政治は行動し、税金を使わなきゃいけない。これは、党派を超えてきちんとやらなきゃいけない話なんです。

 ただ、この国会周辺、総理官邸の周辺をテロリストの目でいつも僕は見て歩いているんですけれども、警察官のたたずまいを見ただけで、ああ、これはテロ対策なんかない国だとわかります。警察官が命がけでやっているということは僕は評価しますが、その警察官、このままだったら、あっという間に殺されちゃうんですよ。だから、やはりハイレベルの能力を備えているということが伝わるようなことはやっておかなきゃいけないだろうと思っています。

 これは駆け足で、あと三分ぐらいでばっと今の話をいたしますが、例えば自衛隊を派遣するに当たって、武器をどうするかとか、武器使用についてどうするかとかいう問題はありますが、少なくとも、難民の救援などに自衛隊を出す場合でも、例えば、タリバン勢力というのは大した軍事力は持っていないんですよ。しかし、それが例えば難民キャンプに迫っているという情報が入って、難民を保護しながら若干撤退しなきゃいけないという状況が出てきた場合、どうするんですか。外務省の役人たちなんか、もう自分でチャリンコで行って、何か怖いやつがいたら、くるっとUターンしてぱっと逃げればいいと思っているらしい。

 しかし、軍事組織の行動というのは、そんな軽いものじゃないんです。非常に鈍重なんです、特に陸上部隊というのは。これは、自衛隊の中でも陸海空でまだ認識が一致していない。海上自衛隊、出港準備した船だったら、乗り物に乗っているからばっと出られると思っている。だから陸上自衛隊は重いと言うけれども、おまえら何言っているんだという話をするんですね。もうちょっと勉強しようよというので、今度、十九日にやるんですよ、防衛庁の中で。

 例えば、アメリカの陸軍の師団だって、普通の師団が動員命令が出てから戦場で戦闘加入するまで、マニュアルどおりにいったって三十日かかるのだから、重い。しかも、難民を抱えて下がらなきゃいけないということになりますと、遅滞行動という言葉が必要になるのですよ。つまり、迫ってくる敵に対して、少なくとも重迫撃砲でどんどん撃ち込んで、足どめをかけながらじりじり下がるということは最低限できなきゃだめなんです。でも、このぐらいの遅滞行動ができるぐらいの装備品を持っていたって、正規軍同士の戦闘には加入できないんですよ。

 だから、そこのところできちっと線を引けば、憲法の枠内で、例えばPKFに自衛隊の普通科連隊を出して、国際的にも日本の果たすべき役割をきちっと全うするということはできるという議論はあり得るわけであります。

 私自身は、必要があれば後でお話しいたしますが、PKFに関しても日本モデルというものが憲法の枠内で実現し得る。これは、防衛庁の中心的な課長さん方とも話をし、自衛隊の高級幹部たちとも話をし、多分これで国際的にも国内的にも大丈夫だろうけれども、問題は、あとは政治だなと。内閣法制局の方々がきちっと理解をしてくだされば、あとは政治がそれをクリアすればできるだろう。

 これは逆に言いますと、日本は国際的な貢献をしていないじゃないかという外圧によって、いきなり憲法を侵犯しないための歯どめでもあるのですよ。悪法は法なんて言い方をすると怒られるけれども、憲法の完成度を高めなきゃいけないという問題はいっぱいあるわけです。この憲法が足かせになって何もできないということじゃだめだし、しかし、憲法に問題があるからといって、がっと外圧に押されてこれを侵すようなことがあれば、自国の憲法も守れない信用ならない国となりますから、その面から我々は国益を損ねるわけであります。

 だから、やはりそういった歯どめにもなるような形で一つの自衛隊の派遣のあり方というものを、PKFということも念頭に入れながら考え、今回のテロ対策にも活用していただきたい。

 それから、危機管理の中でテロ対策ということでいいますと、昨年の九州・沖縄サミットの時点で線を引きますと、現在どうかという問題は社会的責任があるから言いませんよ、テロリストに手口を教える。アメリカでいうと国会議員は口が軽いということになっているから、日本の国会議員はそういうことはないと思うけれども、いろいろ問題になりました。

 ただ、やはりこれは、去年の九州・沖縄サミットの時点でいうと、本当に幼稚園年少組。警察は、日本の警察はいい点いっぱいあるのですよ、しかし、テロ対策についてはもう本当に無知。自分たちが国際的に見ても全然役割を果たせないということについての自覚がない、そこが問題である。これは、警察庁の上層部には全部言いましたよ。自衛隊もテロ対策はだめなんです。ただ、それを自覚しているところはかわいい。そこら辺の違いなんです。

 でも、それをはっきりして、まず、国会、皇居の警備も含めて、順番でいえばやはり警察なんですよ。これはいいのです。だから、野中さんが講演で、警察がだめみたいじゃないかとおっしゃるから、だめなんですよというのが私の意見ですよ。ただ、だめだということを自覚して、警察の能力を上げてやるということをやらないと、自衛隊をどうしたってしようがない。そこに、やはり警察力じゃ対抗できないような事態がありますので、それはタイムラグが生じない格好で能力を上げた自衛隊がカバーできるようにしていく。

 だから、とにかく皇居や国会の周りに迷彩服が立っていれば戒厳令みたいだ、そのイメージはわかります。そうならないようにするというのがその前の段階ですから、そういったことは、やはり政治がきちっと議論をしていただければ一気に実現できる話であります。これが日本の平和主義を実現する営みの一つであるということで今回の議論を進めていただければ、これにまさる幸せはございません。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

加藤委員長 ありがとうございました。

 次に、中村参考人にお願いいたします。

中村参考人 皆様、御苦労さまです。中村と申します。

 もう現地に行きまして約十七年半になりますが、私、実は国内で何が起きているのかよくわかりませんで、失礼ですけれども。ただ、向こうから戻りまして、余りに現実を踏まえない図式に基づいた議論だけが先行、失礼な話でございますが、本当にアフガニスタンの実情を知って話が進んでおるのだろうか、率直な意見を持つわけでございます。

 きょうは、私は、全くの政治音痴でして、左も右もわからないという中で、さっき忌憚のない意見ということをおっしゃいましたので、忌憚のない意見を述べたいと思います。

 ただ、その際に、そう言いますと、すぐ烙印を押されまして、日本全体がもうテロ対策、アメリカを守るためにどうするんだ、タリバンというのは悪いやつだという図式で動いておりますので、あたかもこれを守るような発言をいたしますと、すぐタリバン派だと言われる。私は、断っておきますが、タリバンの回し者ではありません。それからイスラム教徒ではありません。キリスト教徒でございます。こういう、憲法がどうだとか、そういう法律のことはよくわかりませんので、ともかく、今現地で何が起きているのか、何が問題なのかという事実を皆さんに伝えたいというふうに思っております。ただ、どうもイメージと違うという点がございましたら、どうぞ忌憚なく後で御質問いただければと思います。

 私たちの活動を簡単に紹介いたしますと、ペシャワール会というのは一九八三年にできまして、十八年間、現地で医療活動を続けてきました。現在、パキスタン北西辺境州の国境の町ペシャワールを拠点にいたしまして、一病院と十カ所の診療所がありまして、年間二十万名前後の診療を行っております。現地職員が二百二十名で、日本人ワーカーが七名、七十床のPMS(ペシャワール会医療サービス)病院を基地に、パキスタン北部山岳地帯に二つの診療所、アフガニスタン国内に八つの診療所を運営いたしまして、国境を越えた活動を行っております。

 私たちが目指すのは、山村部無医地区の診療モデルの確立、ハンセン病根絶を柱にいたしまして、貧民層を対象に診療を行うことでありますが、後で申し上げますように、今回の干ばつ対策の一環として、ことしの春より、無医地区となりましたカブールに五カ所の診療所を今でも継続しております。

 この間、皆さん御記憶のように、一九七九年十二月に旧ソ連軍の侵攻がありまして、十万の大軍が侵攻いたしまして、以後何と二十二年間、アフガニスタンは内戦の要因を引きずってきたわけでございます。この内戦だけで、死亡した戦闘員あるいは外傷による戦死者だけで七十五万名、恐らく民間人を入れますと二百万名。これは私、目撃者として、確かにほとんど死んだのは、女、子供、お年寄り、ほとんどこの戦闘とは関係ない人々であったわけですね。六百万名の難民が出て、それに加えて今度の大干ばつ、そしてどういう原因か私もよく知りませんけれども、報復爆撃という中で、もう痛めに痛めつけられて現在に至っております。

 この中で、先ほど申しましたように、アフガニスタンを襲いました世紀の大干ばつ、大げさなように聞こえますが、これは本当に危機的な状況でございまして、私たちの活動もこれで終わるかもしれない、アフガニスタンの半分はこれで砂漠化して壊滅するかもしれないということで、昨年から必死の思いで取り組んできたわけでございます。

 WHOや国連機関は、昨年春からこのことについて警告を発し続けておりましたが、国際的に大きな関心を引かなかったんですね。もちろんこれは、テロ事件などと違いまして、政治的にも意味合いが違いますし、慢性に起こるものですからなかなか関心を引かなかった。

 アフガニスタンが一番ひどくて、被災者が千二百万人、四百万人が飢餓線上にあり、百万人が簡単に言うと餓死するであろうという発表がありましたのは、約一年半前でございました。もちろん、人命のとうとさというのは数ではかれるものではありませんけれども、我々簡単に百万人が餓死するだとか言いますけれども、実際に目の当たりにしますと、先ほどお話がございましたが、映像で見る状態と実際に現場で見る状態は違うんだ、もっと生々しいものなんだとおっしゃいましたが、まさにそのとおりでありまして、実際の修羅場を前にすれば決して生易しいものではない。食糧だけではなくて飲料水が欠乏して、次々と廃村が広がっていくという事態が起きたわけでございます。下痢、簡単な病気で主に子供たちが次々と命を落としていったわけでございます。

 私たちとしては、この事実をみんなに訴えながら、言うだけではだめですから、真っ正面から組織を挙げて対策に取り組んできました。診療を中心に、医者がこんなことを言っちゃいけませんけれども、病気なんかは後で治せる、まず生きておれという状態でございまして、診療所を中心にいたしまして、アフガニスタン東部一帯の干ばつ地帯に速やかに展開いたしまして、水源確保事業、ともかく、食べ物はなくても何週間か生きておられるわけですね、水がないと二十四時間以上生きられない、そういう状態であったわけです。

 そこで、私は医者でございますけれども、水を得ようということで水源確保事業に取り組んでおりまして、現在まで約六百六十ほど水源に取り組んで、そのうち五百五十カ所、利用水源を得ております。中には、一たん難民化していなくなって砂漠化した村が、水路、現地にカレーズあるいはカナートと呼ばれる伝統的な水路がありますが、それを三十本復活して、一万数千名を養えるだけの緑地を回復する。それで全部戻ってくるという奇跡的なことも起きたわけでございます。

 医療面では、ことしの一月、国連制裁が何と、私たちも初めのうち、我々が頑張ってくれば必ず国際的に大きな援助がどんと来るんだ、こんなのをだれも放置しておかないだろう、エチオピア大干ばつ以上の規模であるということでしたが、やってきたのは制裁でございました。そのために、ただでさえ少なかった外国の救援団体が次々と撤退していくという中で、まさにアフガニスタンは孤立化への道をこれによって深めていったわけでございます。

 私たちとしては、それだからこそ必要なんだということで、カブールの、事実上、カブール市内は、もとの裕福なカブール市民というのはほとんどいない。二割、三割程度しか残っていない。あとは、先ほど申しました干ばつによりまして逃れてきた難民たち、国内難民ですね、これであふれておる状態でございまして、現在、百万人から百五十万人、この約一割がことしの冬を生きて越せないだろう、この約三割から四割が慢性の飢餓状態で、簡単な病気で死んでいく、こういう状態でございます。

 私たちとしては、だれもやらないなら、ニーズがあってだれもやらないのなら我々が行く、我も我もと行くところなら行く必要がないというのが我々の方針でございまして、緊急にことしの二月から、正式には三月から診療所を開設したわけでございます。

 これでもまだ不十分だということで、水源の目標数をことし以内に一千カ所、カブール診療所を年内に一挙に十カ所にしろということでおぜん立てをしている最中に、九月十一日の同時多発テロになったわけでございまして、私たちの事業は一時的にストップいたしました。初めのショックから立ち直って、今、拡大こそしていませんが、今までやってきた事業は、爆撃下にありながらも、勇敢なスタッフたちの協力によりまして、何事もなかったかのように継続しております。

 今、私たちが恐れておるのは、難民難民という議論が先ほどからございますけれども、カブール、これは首都カブールが最も大きな町ですけれども、カブールだけではなくてほかの都市もそうですが、飢餓です。飢餓であります。現地は今から寒い時期に入ってくる。市民は越冬の段階に入ってきておる。今支援をしなければ、ことしの冬、先ほど申しましたように約一割の市民が餓死するであろうというふうに思われます。このため、私たちは、緊急の炊き出しとでも申しますか、食糧配給を開始いたしまして、既にその準備は完了いたしました。

 私たちが訴えたいのは、難民が出てからでは、これは手間もかかるし金もかかるというだけではなくて、悲劇が大きくなる。難民を出さない努力というのをまずやらなくちゃいけないというのが、現地におる私たちとしてはぜひ訴えたいことでございます。

 どこか、ペシャワール側で見てみますと、これは日本側に帰っても驚きましたけれども、難民が出てくるのを待っておる。ペシャワールには現在百四十数団体が集結しておりまして、難民が出たらこうしよう、ああしようと言っているけれども、実際のいわゆる我々が想像するような難民は今のところ発生しておりません。私たちが全力を挙げて取り組むのは、少なくとも、けがをして逃げてくる人たちは別として、飢餓による難民は一人もペシャワールに出さないという決意で全力を挙げて現在の仕事をやっていくつもりでございます。

 話が長くなりましたけれども、難民援助に関しましてもこういう現実を抜きにして、ちょっと失礼かもしれませんけれども、どうぞお怒りになりませんように、こういう現実を果たして踏まえて議論が進んでおるのかということに、私は一日本国民として一つの危惧を抱くわけでございます。

 例えば、いろいろ考え方はありますけれども、テロという暴力手段を防止する道に関しましても、これは暴力に対しては力で抑え込まないとだめだということが何か自明の理のように議論されておる。私たち、現地におりまして、対日感情に、いろいろ話はしませんけれども、日本に対する信頼というのは絶大なものがあるのですね。それが、軍事行為に、報復に参加することによってだめになる可能性があります。

 ほかの地域ならともかく、アフリカだとか南アメリカは私はよく知りません、あの地域しか知りませんので、現地に即して言いますと、例えば自衛隊派遣が今取りざたされておるようでありますが、詳しいことは後で御質問で受けたいと思いますけれども、当地の事情を考えますと有害無益でございます。かえって私たちのあれを損なうということははっきり言える。

 私たちが必死で、笑っている方もおられますけれども、私たちが必死でとどめておる数十万の人々、これを本当に守ってくれるのはだれか。私たちが十数年間かけて営々と築いてきた日本に対する信頼感が、現実を基盤にしないディスカッションによって、軍事的プレゼンスによって一挙に崩れ去るということはあり得るわけでございます。

 この点、あと、要するに言いたいことは、まず現地はどうなのか、実情はどうなのかということを踏まえた上で何かを決める。私はそういう偉い人ではありませんから、どうしようと日本国民の一人として法律に従いますけれども、アフガニスタンに関する限りは、十分な情報が伝わっておらないという土俵の設定がそもそも観念的な論議の、密室の中で進行しておると言うのは失礼ですけれども、偽らざる感想でございます。

 私ばかり話していると後の方が話す時間がありませんので、一応私の話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

加藤委員長 ありがとうございました。

 次に、浜谷参考人にお願いいたします。

浜谷参考人 御紹介いただきました浜谷でございます。

 何か後ろで座っていますと、そこの三つ目の席と四つ目の席の境目がどうも賛成と反対の境目のような気がしておりますが、そういう意味では私はちょっと微妙でありまして、ここに立ってどういう発言から始めようか、多少迷っております。

 御承知のように、もう言い古されたことでもありますが、九月十一日のいわゆる米国の中枢をねらったテロというものは、多様な価値観を認容する国際社会というものに対するまさに挑戦でありまして、無差別かつ未曾有の大量殺りく、また、大量破壊というものを平然と行ったというまことに卑劣な行為だというふうに言わなければなりません。近代社会の秩序というものをそういう形で一方的に無視したいわゆる偏狂と独善といいますか、そういうものに対しては、まさに東西を問わない国際社会が強い怒りと対決姿勢を示してそれに対応しようとしたというのはいわば当然であります。この許しがたい行為に対し、我が国がまさに主体的な判断とそれから行動によって、国際社会との連帯を強めながら、いわゆるできる限りの対応を全力で行うということは、国際社会の一員としてのまさに義務的な行為でもあると考えます。

 しかし、テロ事件発生以降、突如浮上したこの新法制定の動向というのは、有事法制の整備というものを焦眉の急であるというふうにして長年主張してきた私にとっては、まさに意外な展開でございました。

 当初、対米支援法案というような、何といいますか、テロに対する当事者意識が欠如したというか、そういうネーミングにも少し当時はあきれておりました。ただ、現行法制の想定している事態をはるかに超えた、まさに新しい事態だということを考えますと、いずれにしろ、新法で対応せざるを得ないということも確かでありますし、泥縄の感はまさに否めないわけでありますが、現政府の対応はおおむね首肯できるところでもあるわけであります。

 ところが、この状況にありまして、従来の憲法解釈、それから政府解釈、政府答弁という枠を一歩も出ないという姿勢を見るにつけまして、果たしてこのことが国民の素朴な疑問やまさに疑心暗鬼といったものを完全に払拭して、正しい理解と支持が得られるのかどうかということについてはいささか不安になったということも事実でございます。その最大のものは、やはり集団的自衛権の問題とそれに伴う武力行使の一体化論でございます。

 新法は新しい理念と解釈に基づかなければ、従来の対応策と基本的に何が異なるのかということが大きな疑問であります。また、新規の行動や範囲が拡大したとすれば、従来の解釈に変更が伴うということも必然だからであります。解釈疲労をまさに起こしつつある憲法でございますが、また一つ危うい解釈をそれに加えるということによって、我が国の安全保障の確立という問題には決して資することはないのではないかという感じがしております。

 以下、早急にかつ同時並行的に進めるべき我が国の対応というものについて、三点だけ絞ってお話をしたいと思います。

 まず、日本にとって重要なのは、予測しなかった新しい事態に対して、当事者意識を持っていかなる主体的な行動をするかということでございます。

 時代の要請も、まさに事件や事故の起こるたびに、いわば対症療法的に特別法を制定するような個別対処ではなくて、あらゆる性質の危機を想定した基本法の制定ということではないかと思います。その意味では、本法案もかかる基本法のまさに一部を構成するものでなければならないというふうに思うわけであります。

 その際は、できる、できないという従来のまさに見解の相違からくる不毛な論議というものをそろそろ卒業して、すべきことの自覚と、それからしないことということの明確化というものを歯どめとして法案に盛り込むということは重要であると考えます。

 加えて、基本法には、徹底したシビリアンコントロールとしての国会の関与というものを考えるべきだろうというふうに思います。

 よく一般には、原則事前、緊急時には事後というような対応がなされるわけでありますが、それよりは、自衛隊の派遣後について、二カ月程度の特定期間の経過ごとに事前承認を国会がするということが最も効果的であろうと思います。

 これは、アメリカが海外で軍隊を行使しますときに、大統領は戦争権限法という法律によって縛りをかけられます。アメリカですらそうであります。日本でもそれができないわけではないだろうというふうに考えます。

 また、現行法制では、国会が一度承認を与えてしまいますと、それを取り消す法制度はないというふうに聞いております。場合によっては、自衛隊の派遣の継続に対して、その意味で、国会が拒否権を行使するということすらも制度化できるのではないかというふうに考えております。

 いずれにせよ、時々刻々と変化します状況を的確に把握して、ともに行動する関係参加国との情報交換を密にしながら、継続派遣や撤退について、我が国の政府と国会が主体的に共同判断をするということが重要なポイントではないかと考えております。

 二番目は、日米同盟を基軸とした防衛協力体制の問題であります。これは、対テロ政策というものにも共通した我が国の安全保障上の基盤であるならば、まさにより強固な体制づくりというものが望まれるわけであります。

 その際、集団的自衛権の行使というものを禁じた解釈は、いずれにせよ、抵触への不安と常に闘いながらの窮屈な活動内容に終始するわけでありますし、場合によっては、同盟国との信頼関係を破綻させるような、そういう事態さえ生起させかねないというふうに考えるわけであります。

 そもそも、集団的自衛権の行使は不可能として、そしてそれに該当しないとする活動範囲を拡大しながら武力行使との一体化に限りなく近づける主張と、集団的自衛権の行使は可能として、そして我が国国会と政府の主体的な政策判断による制約的な行使というものとは、実はそれほどの違いはないのではないかというふうに思うわけであります。いずれが合理的な政策であるかというのは、この点では自明であります。行使を可能にしたからといって、常にフル規格で行使しなければならないというわけでは当然ありません。

 そこには民主主義的な正当性を持った機関の重い政策判断があるわけでありまして、とりわけ、現行政府解釈が確立した時代と現代では、その国際環境、国際安全保障環境そのものが変わっておりますし、まさに我が国の安全保障政策が基盤的に再検討されるべき時期に来ているのではないかというふうに思います。

 第三には、日本は、現行の米国の対応について、個別的な自衛権による行動というものから、集団的安全保障の枠への組み入れというものを模索すべきことを主張したらいいのではないかというふうに考えます。

 確かに、国連決議の一三六八というテロ非難決議は存在するわけでありますが、これが直接的な武力行使を容認したというものではないということは明らかであります。アメリカの行動がこれから長期化するにつれて、今のままでは、国際社会の合意に基づく行動と、そう主張することがやがてもたなくなるのではないかという危惧を持つわけであります。国際合意を担保する手段として、解決後もにらみながら、国連機構の利用を進言すべきでありますし、その中では、あらゆる事態を想定した中東諸国との交渉に日本の果たすべき役割も大きいのではないかというふうに考えております。

 いずれにしましても、テロを根絶するためには、国際社会の強固な連帯と協力、また長期的、総合的な対応というものが不可欠でありますから、有事法制の整備の一環として、一日も早い体系的な発想による安全保障基本法というものが制定されて、そして国際社会の一員としての名誉ある地位の確立を急ぐべきではないかというふうに考えております。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

加藤委員長 ありがとうございました。

 次に、小澤参考人にお願いいたします。

小澤参考人 静岡大学で憲法学を担当しております小澤です。

 私は、日本国憲法の原理に照らしてみて、今回の三法案には看過できない問題点が多く含まれていると思います。いずれも重要な点ですので、ぜひとも慎重な審議を求めます。

 まず、特別措置法案について五点指摘をさせていただきます。

 第一は、集団的自衛権の行使に当たるのではないかという点です。

 私は、一九九九年四月七日の本院のガイドライン特別委員会において参考人として出席し、周辺事態法等について意見を述べました。その際、同法での日本の対処が集団的自衛権の行使に当たるのではないかという点を指摘しましたが、今回の法案は同じ問題点がより一層浮き彫りになったと思います。

 十月八日以降の軍事行動を、米英は国連憲章五十一条に基づく個別的及び集団的自衛権の行使と説明しています。この行動が自衛権行使についての国際社会の合意に照らして妥当なものかは疑問の余地があります。しかし、それはともかく、両国が自衛権行使として安保理に報告したのはこれは事実です。小泉首相もこのことを了解しているようです。

 ならば、今回の法案における外国の軍隊等への自衛隊の協力は、戦闘に直接参加しなくても集団的自衛権の行使に当たります。現に、NATOは、今回の事態を条約の五条事態と認定し、加盟国は補給、空港、港湾等の使用許可などを内容とする支援を行うとしています。法案では、自衛隊が外国の領域にまで出ていって補給、輸送等の支援や戦闘員の捜索救助活動を行うのですから、NATO諸国よりも踏み込んだ支援を行うことになります。これはもはや集団的自衛権の行使にほかならず、憲法上これを行使できないとしてきた政府の見解と矛盾いたします。

 第二は、武力の行使の概念についてです。

 法案は、対応措置は「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。」としています。しかし、憲法第九条一項に言う武力の行使は、もともと、正式な戦争ではない事実上の武力行使を含めて放棄する、そのために盛り込まれた言葉であって、禁止の対象を戦闘行為に狭く限定する趣旨のものではありません。輸送や補給などの後方支援も、支援の対象が武力行使である以上、それも含めて憲法第九条一項の禁止しているものと解釈すべきです。

 法案の対応措置のうち、少なくとも協力支援活動、捜索救助活動は、九条一項によって武力行使として禁止されていると思われます。

 第三は、戦闘地域との区分についてです。

 法案は、これらの活動を戦闘行為が行われていない地域で実施するとしていますが、テロ攻撃を絡めた軍事行動の場合は、どこがいつ戦闘地域になるか、とりわけ定かではありません。戦闘行為が行われている地域とそうでない地域の区別は極めて困難を伴うと思われ、事実上区別がなくなる危険性を持っております。

 第四は、武器の使用であります。

 法案では、自衛隊が携行する武器の範囲が限定されておらず、武器使用の要件が、自衛隊員だけではなく、自己の管理のもとに入った者の生命、身体の防護にまで拡大されています。

 小泉首相は、さきの答弁で、この規定の趣旨を、幅広い場面で自衛隊員以外の者と活動することを想定されるためとしています。これは、共同して活動する米軍等の防護までをも含み得るような表現であり、自衛隊が米軍とともに事実上の戦闘行動にかかわるという疑念がぬぐえません。

 第五は、国会への事後報告についてです。

 法案は、対応措置の基本計画の決定と変更、その内容について、事前に国会に諮ることなく、事後報告でよいこととなっています。周辺事態法の場合は国会の事前承認を原則としていたわけですから、これとの均衡を失していますし、何よりも、議会制民主主義を軽視しているとのそしりを免れません。ただし、この点が改められても、既に述べた四点の問題点が治癒されるものでもありません。

 次に、自衛隊法改正案についてです。

 改正法案は、自衛隊が治安出動下令以前の情報収集活動、在日米軍と自衛隊の施設等に対する警護活動の規定を新設し、自衛隊が活動できる要件を大幅に緩和しております。

 また、これらの活動に際して武器使用が可能とされていますが、これらは、使用の要件、使用する武器の種類などが過度に広範かつ不明瞭です。これは、国民の基本的人権を不当に制限するおそれが大きいものであります。

 また、今回の改正では、防衛秘密の漏えい罪を新設し、それに対して、国家公務員法上の処罰規定よりも格段に重い刑事罰を科しています。これは、憲法九条を規定して軍事的価値の優先を否定した日本国憲法のもとでは、なし得ないことであるというふうに考えます。

 テロは、いかなる意味においても正当化できません。ただし、その根絶のためには、国連憲章と国際法に基づく容疑者の特定、逮捕、裁判による厳正な処罰を通じた国際的な包囲が必要です。

 現に、一九八八年に起きたイギリス上空でのパンナム機の爆破事件、このときの容疑者とされた人間は、国連を中心とした国際社会の経済制裁による粘り強い圧力と当事国の交渉の結果、リビアから引き渡されて、オランダのハーグに置かれた特別の裁判所で裁判にかけられております。

 国際社会は、このようにしてテロに対して毅然と、そして粘り強く法の裁きを行っているのであります。今回の事態も、こうした国際社会の努力の成果を踏まえて対処、解決されるべきだと思います。

 テロに対して報復の武力攻撃を勝手にしかけることは、テロ活動を国際的に追い詰める、その正当性を傷つけ、さらなるテロの誘発をもたらす危険な行為です。

 また、今回、報復攻撃の対象地域になっているアフガニスタンでは、攻撃を避けようと大量の難民が発生、増大し、生命の危機に瀕しております。先ほどその点は、中村参考人が具体的な現地の状況に即してお話しいただいたと思います。

 難民の生活で一番悲惨な目に遭うのは、女性、子供、老人など弱い人々です。こうした難民の救援とその増大を抑える国際的な努力に積極的、主体的にかかわることこそ日本の使命であると思われます。

 日本国憲法は、専制と隷従、圧迫と偏狭が地上から除去されることを求めて、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認しております。その上に立って定められた九条と前文の間には、すき間はありません。すき間は、テロも報復戦争もノーだという国民の心と政治との間に、また、絶対的な貧困と圧倒的な恐怖による絶望のふちでテロリズムに心を寄せてしまう民衆と、国際社会のリーダーシップの間にあると思われます。このすき間を埋めることこそ、そして、それに全力を注ぐことこそ我が国のなすべきことだと思います。

 このことを貴院に求めて、私の陳述を終わらせていただきます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

加藤委員長 ありがとうございました。

 次に、前田参考人にお願いいたします。

前田参考人 前田哲男でございます。

 戦争と日本の距離がこれほど小さく短くなったことは戦後かつてなかった、そういうふうに思います。熱に浮かされたような議論がこの由緒ある委員会室を満たすのも、何十年ぶりのことでありましょうか。深く危惧しております。

 確かに、事件は衝撃的でありました。痛ましいものでありました。私たちは、今もあの映像、イメージに拘束され、支配されています。国際テロリズムという共通の敵、脅威とどのように直面し、対決し、それを根絶するか、私たちは真剣に論じなければなりません。そのことこそ、ここで論じられるべきです。

 しかし、それと、アメリカの軍事行動に日本の自衛隊を武装し海外に派遣することとを一体化させる、それは明らかに違う次元の問題であろうと思います。そのことを区別して私たちは論じなければなりません。しかし、そのように論じられておりません。

 多分、あのアメリカが激情に身を震わせ立ち上がっている、そのことに射すくめられているのだと思います。巨人は忍び足で歩くといいます。アメリカは、忍び足で歩いておりません。残念ながら、大国の資格を疑いたくなります。このようなときにこそ、忍び足で歩くことがアメリカに求められ、また、私たちはそのようなことを同盟国であればアメリカに期待すべきだと思います。

 アメリカの民主主義は、また健全な一面も持っています。

 一九六四年の八月にトンキン湾で、アメリカの駆逐艦マドックスとターナー・ジョイが北ベトナムの魚雷艇に公海上で攻撃を受けたという事件が起こりました。トンキン湾事件と呼ばれます。アメリカの世論は憤激しました。ジョンソン政権は、議会に実質的な戦争権限を求める決議案を提出しました。下院は四百六十八対ゼロ、上院八十六対二、ただ二人の上下両院反対議員を出したのみで、ジョンソン大統領は実質的な戦争権限を手に入れました。後は御承知のとおりです。五十四万人の地上部隊が、翌一九六五年の海兵隊ダナン上陸をきっかけにベトナムに上陸し、ベトナム戦争に入っていきます。

 しかし、アメリカの議会は立ち直りました。アメリカの世論も、長くそのような激情に身をゆだねませんでした。ベトナム戦争がアメリカ社会の中で、またアメリカ議会の中でどのように問い直され、反省され、また収拾されたかは、御承知のとおりです。大統領の戦争権限法に修正が加えられたのも、アメリカ議会のこの件に関する大権授与が過ちであったということに由来しています。

 今回、アメリカ議会は、トンキン湾事件と同じような反応を示しました。アメリカ世論もそのように見えます。しかし、かつての経緯を考えるならば、またアメリカは反省するかもしれない、また、アメリカ議会、世論はそのような健全性を持っているのだということを知るならば、そこに働きかけるということも私たちの、同盟国としての務めであるのかもしれない、助言を与えることも貢献であるのかもしれない、そのように思います。

 熱に浮かされたような議論が有害である歴史の教訓を私はもう一つ、この委員会室であるのかどうか知りませんが、しかし、この国会で行われた一九三一年、満州事変のときの内閣及び議会のあり方について、述べてみたいと思います。

 関東軍が満州で軍事行動を起こしました。それは、満蒙生命線論という、当時受け入れられていた国民的な支持を当てにして行われた独断の軍事行動でした。それに対し内閣は、事件不拡大を要請しながら、しかし、起こった事実を認定し、戦費を支出しました。閣議は半々に分かれたと記録されています。戦費を出さなければ軍隊は動けません。しかし、内閣が出し、議会は承認しました。そのような違法な行為を内閣が認め戦費を支出する、是認したことによって、軍部は、既成事実を起こせば内閣が追認してくれるという得がたい教訓をそこから引き出しました。大本営機密日誌にはそのことが明瞭に記されています。以後、日本がどのような軍事行動に身をゆだねていったか、私たち知るとおりです。

 今回は、自衛隊が関東軍であると言うつもりはありません。多分、アメリカの軍事行動がそのような引き金を果たしているんだと思います。満蒙生命線論が国際テロリズムの脅威に対する挙国一致的な支持であるのかもしれません。しかし、そのような、熱に浮かされたような議論に幻惑されて、文民統制あるいは議会、内閣が持っている権限を一たん踏み外すならば、踏み外したときどのようなことが起こるか、そのことを満州事変以降の歴史は私たちに教えている、このことも私は指摘したいと思います。

 いろいろ申したいことがあるのですが、時間が極めて限られておりますので、幾つか私の考えを述べたいと思うのですが、十月の八日にアメリカが軍事行動をアフガニスタン、タリバーンとビンラディンマシーンと呼ぶ組織に対して行ったことにより、この法案の性格は一変したと思います。すなわち、十月五日に上程された法案の性格と十月八日以降の法案の性格は変わったと思います。そこに規定された自衛隊の任務における客観的な情勢が変わったからです。

 ジュネーブとハーグの条約に代表される戦時国際法は、武力紛争が起こったとき、その武力紛争が戦われる地帯を作戦地域というふうに言います。また、その作戦地域を支える、戦争を準備する、そういう地域を戦争地域というふうに申します。

 すなわち、アフガニスタンは作戦地域、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン及びインド洋は戦争地域という、戦時国際法上の地位を十月八日以降得たことになります、持ったことになります。アメリカが戦闘地域というふうに指定したのは、まさにこの戦時国際法の概念をアメリカ流に取り入れたからにほかなりません。

 日本の自衛隊が武力行使はしない、戦場には出ないというようなことを言い、ここで約束し、そのようなことを法案に書いたとしても、また、それが我々日本の合意であったとしても、客観的な事実として、作戦地域と戦争地域という戦時国際法のルールが十月八日以降確立したという、そのことに関して否定のしようがありません。日本国憲法が出る場所はありません。戦時国際法の場所です。

 戦時国際法に関しては、ハーグとジュネーブで交戦規則及び捕虜、文民、傷病者に関するジュネーブ条約が第一から第四までございます。また、それを一九七〇年代に、新しい二次大戦後の武力紛争に合わせて、内戦でありますとか非国際的な戦闘、武力行使にも適合した追加議定書が二つ結ばれています。

 このジュネーブの第一追加議定書、第二追加議定書に日本は加入していません。入っていません。批准も調印もしていません。ということは、これから派遣される自衛官、幹部自衛官も隊員も、国際法はどのように武力紛争に対する軍隊の対応を定めているのか教育を受けていない、知識を持っていないということを意味します。日本は、そのような、外国における武力紛争に入らないことを前提に、安全保障政策そして自衛隊に対するシビリアンコントロールを行ってきたわけです。

 それが今、そのもとを正さずに、交戦規則を定めた国際条約を批准、そしてそれに従った教育を行うことなしに外国に参戦させる。では、なぜジュネーブ追加議定書第一、第二を批准しないのでしょうか。それが先であるべきです。

 もう一点、自衛隊法とのかかわりについて申し上げます。

 自衛隊法は、第三条に任務を規定しています。自衛官が入隊するとき宣誓する、事に臨んで危険を顧みず、身をもって任務完遂を行うという宣誓は、まさにこの第三条、すなわち「直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、」に向けられています。そのほかではありません。自衛隊法が自衛隊員に求めている任務は、「直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛する」、そのことです。

 このような規定を変えることなく、もし自衛隊法を改正するというのであれば、任務規定に国際テロリズムに対する行動、あるいは周辺事態に対する行動、PKOに対する行動を自衛隊法第三条に任務として付加するのであれば、それはまだ筋が通ります。しかし、PKOも周辺事態も、自衛隊法三条には全く反映しておりません。第百条、雑則です。

 雑則の一は土木工事の受託。雑則の二、教育訓練の受託。雑則の三、運動競技会等への支援、雪祭り支援、オリンピック支援、国体支援です。雑則の四、南極観測支援。その中に、雑則の八、邦人輸送。雑則の十、周辺事態、後方地域支援。雑則自衛隊です。そこに今度、雑則の十一を入れるというのでしょう。これは自衛隊に対する、自衛官に対する正しい待遇ではない、正当な待遇でもない。

 もし自衛官を、自衛隊を外国に派遣したいのであれば、すべきであると考えるのであれば、末を直してもとを放置するのではなしに、もとを正すという議論の立て方をすべきだろうと思います。それがなされていない。これは法の下克上と言わなければなりません。このような法の支配が続くと、その国家は不健全になると思います。それがあらわれているのがこの法案であろうということを私は痛感いたします。

 以上であります。ありがとうございました。(拍手)

加藤委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

加藤委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。亀井善之君。

亀井(善)委員 自由民主党の亀井善之でございます。

 参考人の皆様方には、きょう土曜日、お休みのところを御出席賜りましたことを大変感謝申し上げる次第でございます。

 このテロの問題、先ほどもお話しいただきましたが、富士銀行の木川さんのところでは十二名の方、あるいはまた現地の方々が犠牲に遭われておる、このようなお話をちょうだいし、本当に心からお見舞いを申し上げ、このテロの問題、いろいろお話も伺いましたが、私は、何よりも我が国も当事者であるということをやはりしっかり考えていかなければならないのではなかろうか。多くの日本人が犠牲になったわけでもありますし、あのようにまだ六千人もの方が行方不明、こういうようなことでありまして、私どもは当事者として、自由主義あるいは民主主義、さらには市場経済、これらに対する大きな挑戦でありますので、国際的な連帯のもとに我が国の努力をいたしていかなければならない、このように考えておるところであります。

 そのような意味合いにおきまして、こうして御協力をいただき、国会審議をさらに充実させていただく。そして、早期にこれらの対策をしっかりつくっていく。その法案をつくるためにこうして御出席をいただく。また、先般来、新聞やマスコミ等々も、こうして休日にもこのような国会審議をする、このことは国民の皆さん方からも大変期待をされておるわけであります。早期に私たちはこれを成立させて、実行のためになお一層努力をしてまいりたい、こう思っております。

 そこで、小川参考人にお伺いしたいわけでありますけれども、基本計画の問題につきまして、国会報告、こういうことで今いろいろ審議をしておるわけでありますが、この点につきまして、事前承認、こういう考え方もあるわけであります。このことにつきましての小川参考人のお考えをお聞かせいただければ、このように思います。よろしくお願いいたします。

小川参考人 御質問ありがとうございました。小川でございます。

 事前承認の問題というのは、シビリアンコントロールからいっても、基本的に重視すべきことだと思います。しかし実際に、迅速に必要な行動をしなければいけないという場合に、それがどれぐらい可能であるかという問題が常に問われる。事前承認が得られるか得られないかということについての議論がそれこそ神学論争的に繰り返される中で、事態に対して責任を果たすことができないということになりますと、これはまさしくその角度から日本の国益を損ねるということになります。

 ですから、私は、先ほど国際法の専門家の参考人の先生がおっしゃいましたように、やはり戦時における法律のあり方というものを明確にしながら、この国会がきちんとシビリアンコントロールを行うための制度を定めていく、そのきっかけとして今回の法律をしていくことが望ましいと思っております。どうもありがとうございました。

亀井(善)委員 ありがとうございました。

 それでは、中村参考人に伺いたいわけであります。

 先ほど来、いろいろ現地での御経験、こういう面につきましてお話を承りました。また、日本を離れておった、こういうお話で、いささか私ども考え方を異にするところもあるわけであります。

 その中でも、御発言の中で、どういう理由であのような爆撃が行われているかわからないというような意味のお話もされたりしております。さらには、難民支援、今度のこの法案の中にも、自衛隊が憲法の枠内でそれなりの努力をするということをやるわけでございまして、そういう面で、自衛隊の派遣、有害無益で何の役にも立たない旨、このような御発言も耳にしたわけであります。この辺の問題につきましてはぜひお取り消しをいただければと、こう思うわけでありますが。

 さらには、先ほど申し上げましたとおり、まさに当事者であるわけでありまして、私どもも多くの犠牲者も出しておるわけであります。今回のことにつきまして、最後に、お示しをいただきました二ページのところに、「現在の英米の蛮行の伴侶と見なされぬ活動こそ、日本の安全保障である。」このようなことを記されておるわけであります。

 私どもはやはり、我が国が当事者、そして国際貢献をする、こういう意味合いにおきまして、憲法の枠内でいろいろの努力をするわけであります。この辺、大分考え方が違うわけでございまして、ぜひこの点等々につきまして御意見をお聞かせいただければ、このように思います。

中村参考人 多々調子外れな点があったということは、皆さんにもそう聞こえると思いますが、逆に、日本全体が一つの情報コントロールともいえるような状態の中に置かれておる中で、私の率直な感想を述べただけでございます。

 と申しますのは、これはこれから述べることについて深く関連してまいりますけれども、私が見る日本の現状というのは、初め、無限の正義の米国対悪の権化タリバンとの戦い、こういう図式ですべてが動いておるということは、まず一つその前提がおかしい、土俵がおかしいのではないかというのはそういうことでございまして、現地は何も知らされておらないのではないかと。

 ひどい新聞になりますと、ビラをまけば反タリバン勢力が立ち上がってたちまち崩壊する、言論統制が現地で行われるということでございますが、現地で最も事情を知っているのは一般庶民でございます。これは意外に思われるかもしれませんけれども、現地で最も信頼性があるのは、パシュトゥー語のBBC放送、これによって、私もペシャワールにいて、アフガニスタンから電話がかかってきて知ったわけでございます。

 現地の人は極めて冷静に現実を読んでおります。これは失礼ですけれども、日本大衆、日本国民全体、それから、非常に先生方には申しわけないんですけれども、先生方以上に一般庶民の方が冷静に事態を判断しておるということは言える。アメリカのことも伝わってきますし、アフガニスタンのことは、もう当事者本人ですから、ある意味で非常に冷静なのはアフガニスタンの民衆であろうということをまず申し上げておきたいと思います。また、ああいう部族国家で言論統制しようというのが無理があるんです。

 そういう事態の中で私はそう申したわけでございますが、憲法の枠内、これも私、実は恥ずかしい話で、よく法律のことを知らないのですね。

 憲法の枠内と申しますが、実際に自衛隊が、日本では自衛隊と申しますが、英語で言いますと、これはジャパニーズアーミーというのですね、ディフェンスアーミー。必ず、日本軍としか訳しようがないですね。日本軍が難民キャンプに来るのかということで、憲法枠内どうこうというのは、これは日本側の内輪の論議でありまして、現地ではそうは見られない。ジャパニーズアーミーがアメリカンアーミーに協力しておる、こうしか見られないわけですね、どう見ても。

 ああいう駆逐艦が来る映像がわっと流されてきたりとか、日本軍が来て難民キャンプを設営するとかいうことでございますが、憲法の枠内と枠内でないということは、恥ずかしながら、この私、日本を長く離れておりましてよくわかりませんけれども、現地の大部分の人々にとっては、これはジャパニーズアーミーで、憲法がどうかというのはよくわからないというのが現実ではないかということだと思います。

 それから、私の表現が、書かれた表現が英米の蛮行というふうなことは、やや刺激的な言葉でございますけれども、これは私は、このニューヨーク・テロ事件の蛮行というならば、現在進行しておるアフガニスタンへの空爆は蛮行と……(発言する者あり)それは違うというふうにおっしゃいますけれども、テロリスト、テロリズムの本質は何かと申しますと、これは、ある政治目的を達するために市民も何も巻き添えにしてやるということがテロリズムであれば、これは少なくとも、テロリズムとは言わないまでも、同じレベルの報復行為ではないかというふうに理解しております。

 まず、例えば自衛隊が……(発言する者あり)ちょっとお聞きしてください。

加藤委員長 参考人の発言中の不規則発言はお控えください。

中村参考人 例えば、武器を持った日本の兵隊さんが、兵隊と言えば、日本では兵隊じゃありませんと言うかもしれませんが、これは外から見ると兵隊なんです、ジャパニーズアーミーと書いてある以上は。兵隊さんが難民キャンプを現地で設立したということは、非常に大きなミリタリープレゼンスととられる。これは疑いないんですね。

 こういうことは現地ではあり得ないことでして、私がいろいろ言うよりも、パキスタンの、これは名前は匿名でしてくれということでしたが、おっしゃったのは、それは冗談であろうと。今までそんな形で軍隊が来たことはなかった、パキスタンは警察組織もある、軍隊組織もあるれっきとした一独立国家である、これを守るのはパキスタンの警察の仕事であろう、これは日本の評判を落とす悪い冗談であろうということをおっしゃったんですね。

 恐らくこれが、みんな言いにくいけれども、日本というのはパキスタンにとって一番のODA供与国なんですね、だから悪口はなかなか言いにくい……

亀井(善)委員 結構です。

 それでは、最後に木川参考人にお伺いしたいと思います。

 先ほどちょっとお触れにもなりましたが、国際金融、日本でいえば大手町がまさにその中枢ではなかろうかと思います。このところにあのような事態が起きたときに、これは大変なことになるんではなかろうかな、こう想像するわけでありますが、専門的な立場で、そのような事態となったときのいろいろな問題、時間が限られておりますが、ひとつ御指導いただければと思います。

木川参考人 銀行員の立場からちょっと発言をさせていただこうと思いますけれども、先ほど私、冒頭に申し上げましたように、実は、ワールド・トレード・センターがテロの対象になったというのは、金融の観点からいうと非常に重要なポイントになっていると思います。

 金融活動自体がボーダーレス化をしていまして、我々、人も世界じゅうに散らばって活躍をしていますし、金融自体が、どこで何がボタンを押されようとも、一瞬にして世界じゅうを駆け回るわけでございます。

 そういう意味で、ニューヨークでああいう事件が起こった、それで、ああいう建物が崩れ、それから人がたくさん犠牲になられているということだけではなくて、我々が震えたのは、世界じゅうの金融が壊れるかもしれないという恐怖感だったわけでございます。そういう観点で、あの問題は、日本で起こったことと同じような次元で、我々、当事者で考えざるを得ないんだろうということでございます。

 大手町も、世界に冠たる金融市場、国際金融市場でございます。そこで、我々がこういうテロが起こらないように防衛する、自衛措置を講ずる、民間企業としてもやるというのは当然でございますけれども、この前の事件でおわかりのように、事が起こった場合に瞬間的に国あるいは中央銀行が正しい措置を講じていただけなければ、実は、我々、今こういうふうにゆっくりとお話ができるような状況じゃなかったかもわからない。それと同じような事態が仮に東京で起きて、それで日本発の金融不安の連鎖が始まったということになりますと、これはやはり大変な問題になろうかと思います。

 そういう意味で、国として、あるいは中央銀行として、今からそういうものに対する備えをしていただきたい。米国政府が、あるいはFRBが何をやったかということは一々申し上げませんけれども、ありとあらゆる金融措置を瞬時に講じられました。そういうことについての準備は怠りなくやっていただきたいというのが私の意見でございます。

亀井(善)委員 ありがとうございました。

 終わります。

加藤委員長 これにて亀井君の質疑は終了いたしました。

 次に、渡辺周君。

渡辺(周)委員 民主党の渡辺でございます。

 限られた時間でございますので、早速端的にお尋ねをして、ぜひ参考人からのお考えをいただきたいと思います。

 まず、中村医師にお尋ねをしますが、連日、米英の報復から、報じられる現地の状況の中に、反米の大きな動きが起きている。先般も、市街地で催涙弾やあるいはゴム弾を撃って警官隊がデモ隊を排除したと。あるいは、報道機関も非常に危険な目に遭っているというような状況があるわけです。

 ペシャワールで医療活動を始められて十七年、そんな中で、現地の状況を最も知っている方のお一人として、国民性あるいは風土、それから当然イスラムの宗教的背景、さまざまなことに熟知されていると思いますが、現状、これからこの地域の治安はどうなりそうか。あるいは、今後の対日的な感情。先ほど、最初のお話の中で、非常に日本に対する感情はいいんだというお話がございました。

 それは、中村医師のような方が一生懸命地域の医療活動に奉仕をされている、貢献されているということもありましょうが、一つには、歴史的にも日本は宗教戦争をしたことがない。あるいは、イスラム社会に対して武器の提供をしたこともなければ侵略もしたことがないということもあって、非常に日本に対するシンパシーは高いというふうに聞いておりますし、また事実、そのように先ほどおっしゃられましたけれども、その点について端的にお答えをいただきたいなと思います。よろしくどうぞ。

中村参考人 では、手短にお話しします。

 先ほど御指摘がありましたように、ペシャワール、これはパキスタン、アフガニスタンともに、私たち、両国でまたがってずっとこの十七、八年活動しておりますけれども、最も親日感情が強い地域でございます。中近東一般がそうだと聞いておりますけれども、特にあの地域は、アフガニスタンは親日感情が強い。これは詳しいことは申しませんけれども、ともかく、例えば外国人という場合に、外国人出ていってくれと、おれたちも出ていくのかと言うと、いや、先生たちはちょっと外国人のうちに入らないというくらい親日的なんですね。それが、先ほど申しましたように、軍事的なプレゼンスによって一挙に崩される可能性がある。

 私が言いたいのは、これによって、日本のテロ防止という場合に、やはり敵意を減らすということが一つの要件だと思うんですね。そういう意味では、力によって敵意が減るということはないわけで、恐怖は与えられても本当に人々の気持ちを解かすことはできない。私はそう信じますね。例えば、私が逆の立場であれば、このやろう、このやろうとたたかれても、敵意は増すばかりで、本当に何か報復しようという気持ちが強まるばかりだと。これが一つ言いたかったことでございます。

 この対日感情が、日本の出方によっては大きく変わってくる可能性があるということを一国民として言いたかったわけですね。私たちの子供たちがどうなっていくのか、私たちの孫たちがどうなっていくのかということまで視野に入れて、敵を減らすという大きな視点が要るのではないかということでございます。

 治安は、ペシャワール市内は非常に良好でございます。これもまた言いにくいことでございますけれども、日本の警察や自衛隊も含めまして、はるかに現地は治安部隊の実戦を積んでおります。これは、パキスタンの治安部隊の仕事でありまして、外国軍隊が、言葉もわからないという中で、とてもあのまねはできるものではない、もし悪くなったにしても。しかし、そういう事態は現在考えられておりません。

 新聞で報道されておるのはごく一部の動きでありまして、大半の住民は、これはアフガン人、パキスタン人を含めまして、もっと我々よりも常識をある意味で持っておりまして、バランス感覚で動いておるというのが現実でございます。急いでどかどかと行って守らなきゃという状態は現在ないということでございます。

 とりあえず。

渡辺(周)委員 先ほどからちょっと軍事的プレゼンスというようなお言葉があって、どういうふうに私も中村参考人が理解していらっしゃるのか、時間がない、本当はもっとゆっくりお話をしたいんですけれども。

 ただ、我々サイド、今ここで我々といいますか日本の中で議論をしているのは、例えばけさの新聞にもございましたけれども、北海道の千歳にあります北部方面隊を中心に医官の派遣を今考えている。PKOのときの数名規模じゃなくて、今度は、これは多い少ないということは、私も専門家じゃないのでちょっとわかりませんが、医官や歯科医師を二十人ぐらい派遣をして、そこにさらに看護婦さんであるとかあるいは輸送を担当する方々が、これは法案成立後の基本計画の中で当然盛り込まれてくるわけでありますけれども、実際そういう方々が、今これは新聞報道ですが、例えばエアテントなどによって仮設診療所や、移動式の治療車両を持っていくんだというようなことになっています。

 ただ、これは先生のお考えとちょっと違う、確かにこれは医官として行くわけでございまして、もし行くということになれば、このパシュトゥーン部族の方々、特にこの方々は、近代的な国家観とかあるいは近代法とか、あるいは組織や機構が存在しないという中で、例えばこういう方々が行って、もっと言えば、言葉も風習も知らぬ、特に、ある意味慣習法で秩序が成り立っているというふうに我々聞いていますが、そんな中で、日本の、もし行った場合に、これは行くということを仮定した場合に、果たしてどれぐらいの実効的な活動ができるのかということを、現地で医療活動している方のお立場として、もしそういうことになったらどうなんだということを、御意見があればちょっと言っていただきたいと思います。

中村参考人 初めに忌憚のない意見をということであって、それを私は信じて言いますけれども、どうぞ笑ったり怒ったりなさらないでください。まず聞いてください。

 結論から言いますと、これは余り役に立たないのではないか。私、医者としての立場から申しますと、言葉がわからない、何が危険かわからない、それから、どういうことでこの人たちが怒るのかわからない、どういうことが悲しいのか、どういうことがうれしいのかわからないという中で、臨床医学といいますか医療行為というのは成り立ちません。そういう情報の中で、手術場で外科の先生がわっと機械的な仕事をする仕事は別として、恐らくできないのではないか。

 現地には千六百人の失業したお医者さんが、パキスタン人の医者がおります。現に、UNなどは、UNHCRなどは、こういう人々を吸収いたしまして現地で使う。もちろん、例えばアメリカ人が、逆の立場を考えてみればわかる。日本で何かあったからといって、突然アメリカ人の医者が派遣されてくる。いつから悪いのか、どこが悪いのか、肩凝りがしますか。肩凝りなんという英語はないんですね。そういうふうにして、そういう状態を御想像いただければ大体よくわかると思います。

 それに、慣習法で回される現地、パキスタン政府は、難民キャンプの設立を極端に嫌っておりますから、むしろ難民を強制送還する動きであった。これはパキスタン政府も余り喜ばない。同時に、国境地帯は、自治区と呼ばれる、簡単に言うと無法地帯でございます。そうなりますと、これは非常にややこしいことになるのではないかと私は危惧いたしておるわけでございます。

渡辺(周)委員 その中で、現実問題として国内で今我々が議論している中で出てくるのは、例えば、では難民支援のために日本の自衛隊の方々が行った場合、難民キャンプの中にも、難民の方々の話を聞くと、これは二つに分けて言いますが、守るというような支援をする中で、例えばそこに偽装したいわゆるテロリストがいたら、その場合は日本の行った自衛隊はどう対応できるんだということがまず一つ。

 それから、例えばペシャワールというところは、タリバンの、九割を占めると言われる宗教学校があって、空爆があったときにも、もう翌日あたりには、そこに、我々はジハードに参加するんだ、自分たちはアフガンに帰ってとにかく米英と戦うんだという非常に高揚した気分が報じられたわけでありますけれども、そういうところに行った場合に、本当に大丈夫かということが一つ。

 そして、その後、落ち着いた中で、例えば医療活動という形で支援をするにしても、国境の町の幾つかのルポなんかを見ますと、枯れ草を燃料にして、地下四メートルも五メートルも掘ってしょっぱい水を飲んで、しかも支援のための物資を口に入れて、とにかく疫病が蔓延しておる。マラリアであるとか、肝炎であるとか、結核であるとか、そういった病気が蔓延している中で、果たしてそれへの対応ができるだろうかということも考えるわけでありますが、まさに被災民ということを考えて、あるいは現状の、例えば難民の方を見ていながら、もっと言えば、NGOの方が百四十団体も対応できるのであれば、日本のある程度鍛えられた方々ならば準備期間があったら現地へ行って対応できるんじゃないかというような見方もまたあるわけですが、もう時間もありませんが、その点について、中村参考人、もしお考えがあれば聞かせていただきたいと思います。

 もう一つは、もし日本が、現地として最も喜ばれる、空爆が終わっても、いずれこのリハビリテーションというものが間違いなく長い時間をかけてやらなきゃいけないという中で、では日本として何をやるのが最善であるかということを、もう時間もありませんので、お答えをいただければなというふうに思います。よろしくどうぞ。

中村参考人 手短にお答え申し上げます。

 今すべきは、このせっかく築かれた、これは私だけではなくて、日本が営々と百数十年かけて築いた一つの信頼感というのが現地で根づいておる、これをまず崩さない。私たちの先輩の残してくれたものを大切にしながら、そして、抽象的になりますけれども、平和を待ち、その上で何か建設的な事業をする。こうやって、大きな国際的貢献、それもほかの国にできないような貢献ができるというふうに私は信じております。

 とりあえずはどうするかということですが、こればかりは、国もできずに国連もできぬこと、これをやるのがNGOの本領でありますから、我々は、日本国民を代表してと表向きには言いませんけれども、一日本人として、最も一番いい道というのは、今死にかけている人たちをともかく助けて救援を待つという活動を直ちに開始したい。一家族二千円で一カ月生き延びられるわけですね。これを分配するシステムが今は確立しておらない。WFPはどんどん入っていきましても、その段階でつまずいておるというのが実情でありまして、それが来るまで我々は必死であそこでやります。

 これは政府援助とは直接関係ないかもしれませんけれども、一つの、私は右翼ではありませんけれども、一日本人として、せっかく先輩たちが血や汗を流して得た成果、我々が十数年かかって築いた信頼のきずな、これを守りながら最大限のことをして、皆さんの、政府の、本当によく情報を集めた上で動く建設的な事業を期待しております。まず、きちっとした情報を得た上で、決して慌てることはありません、ちゃんと状況を見きわめた上で最も有効な道を探ること、これを皆さんに強く訴えます。

 さらに、餓死については、私たちの行為は決して自民党だとか共産党だとか社民党だとか、そういうことではなくて、一人の父親、一人の母親としてお考えになって、私たちの仕事をぜひ、せめて邪魔しないようにというか、積極的に個人の資格で参加していただきたいというふうに、これは個人的な訴えでございますけれども。

 これで私の答弁を一応終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

渡辺(周)委員 本当に時間がなくてもったいないぐらい、まだ議論を深めたいところだったんですが、十五分という時間になりました。

 最後に、小川参考人……(発言する者あり)ああ、そうですか。一問だけ……(発言する者あり)

加藤委員長 時間です。(渡辺(周)委員「残念です」と呼ぶ)

 これにて渡辺君の質疑は終了いたしました。

 次に、上田勇君。

上田(勇)委員 公明党の上田勇でございます。

 きょうは、参考人の先生方には御足労いただきまして、大変貴重な御意見を伺うことができまして、心から御礼を申し上げます。限られた時間でございますので、本当は各先生方から、いろいろとお話をいただいたことにたくさんお伺いしたいこともあるんですけれども、その中から幾つか絞ってお伺いをしたいというふうに思います。

 まず初めに小川先生にお伺いをいたしますけれども、今回のこのテロ事件、その前後を通じての我が国の情報というんですか、インテリジェンスの能力というようなことについてちょっとお伺いをしたいと思うんです。

 私は、外交の情報というのは非常に重要なかなめの一つであるというふうに思っておりまして、世界でどういうことが起きているのか、それを的確に、どういうことを意味しているのかを分析する、そういう能力というのが非常に重要だというふうに思うんですけれども、どうも今回、テロ事件が発生した前後から見てみると、アメリカとかヨーロッパ諸国に比べて随分と日本のそういう情報の収集あるいは分析の能力というのが、何かおくれているなというのが正直な印象でありまして、全部アメリカとかヨーロッパの情報を教えてもらっていて、しかも国内にあると、今度は省庁間の壁が、垣根が高くて、それもまたさらに能力を低下させているようなことになっているんじゃないのかなというのが正直な印象なんです。

 これは実は、本当はよくわかっているんだけれどもそれを知らんぷりをしているという高等戦術なのかどうかわかりませんけれども、その辺の、先生のそういう専門的な見方から、一つは我が国のインテリジェンスの能力についての評価、それから何をどういうふうによくするところがあるのか、あるとすれば、御提案があれば御意見を伺いたいというふうに思います。よろしくお願いいたします。

小川参考人 御質問ありがとうございました。

 情報の問題というのは、実は、世界の情報専門家の間での共通認識というところから考えていくといいと思いますね。

 情報というものは、それをとりに行った人間のレベルに応じたものしか手に入らない。だから、どこかの企業情報でも、新入社員が相手の会社の情報をとりに行って一生懸命やっても、やはり新入社員のレベルのものしか手に入らないんです。ただ、やはり、こちらの社長が乗り出していって、向こうのオーナー経営者と会って、肝胆相照らすようになって一晩語り明かせば、普通だったら金積んでも教えてくれないような成功の秘訣だって教えてくれることもあり得る。

 だから、やはり情報をとりに行くときには、我が方が客観的に見てどのレベルにあるかということを自覚して出ていかないことには、手に入るべき情報も手に入らない。猫に小判みたいなことになりかねないわけであります。

 そういったことでいいますと、我が国はまず情報を語る資格がない。何か。情報機関がないから、そんなことじゃないんです。情報機関の大もとをなす国際的に通用するシンクタンクがないじゃないですか。

 CIAだって、旧ソ連のKGBだって、工作、謀略をやる部門はもちろんある。これが悪名高いわけですが、一番大もとは、巨大な、レベルの高いシンクタンクですよ。それから、やはり自分の国の安全、あるいは世界の安全のために必要な地域研究などを積み重ねている。そういったものがあって初めて世界の情報を入手できる基盤ができるわけであります。

 だから、例えば我が方でも、形の上では情報機関めいたものはありますよ。でも、そこの人たちは、例えば警察官僚の人がどんどん上がっていってポストにつく、それで、私は普通の人が入れないCIAに招待してもらいました、だから何だというのだという話でしょう。君らがそんなことをやって出張旅費を使ってきたって全然我が方の情報収集能力は高まっていないじゃないか、税金泥棒じゃないかという話ですよ。だから、情報をとりに行くためにはどういったものが必要かということから考えていかなければいけない。

 私は、日本の場合、情報機関をいきなり持つなんというのは、これはもう国内の議論にもなじまないし、大体日本人は危機管理能力は全然ないですから、下手にそういったものを持てば、今は使っちゃいけない言葉なので言いませんが、何とかに刃物という感じになりかねない。だから、やはり謀略、工作の部門などを除いた高度なシンクタンク、できれば透明性を持たせたシンクタンクを持ち、それを、小さく産んで大きく育てるという言葉がありますが、例えば内閣府などに設置して、それに例えば危機管理についての研究をする部門などを附属させ、日本のあらゆる危機に対する頭脳システム、司令部機能を持たせていくというあり方から始めていくというのが現実的ではないかなと思っております。

 これにおいて一つ参考になるのは、情報機関とは全く別ですが、アメリカの連邦の緊急事態管理庁、FEMAというのがありますね。ああいったものを小型版でもいいからスタートさせるということなどは、非常に現実的ではないかなと思ったりいたしております。

 ちょっとお答えになったかどうかわかりませんが、ありがとうございました。

上田(勇)委員 ありがとうございます。

 次に、今度のこのテロ対策の特措法の内容について、今、国会の事前承認、承認が必要かどうかということが大きな論点にもなっておりますので、きょうも小川先生、それから浜谷先生からもその点についての論及がございまして、それぞれ御意見を伺ったわけでありますけれども、ぜひ両先生にちょっと御意見をお伺いしたいのですが、私は、以前、ある本で読んだこと、また、先日もちょっとアメリカの国防総省の関係者の方々からお話を伺った中で、ベトナム戦争の教訓の一つとして、議会とかあるいは行政官といわゆる軍隊、軍人の役割が非常に混乱して、お互いが違うところまで口を出すようになったことが大変混乱の原因になったというふうなお話がありました。それは、本来は政治家あるいは行政官というのは、政治目的、目標あるいは戦略といったことをきっちりと明確にし、実際にそれを運用するときの要員であるとか作戦行動とか装備品だとか、そういったものは専門家に任せるべきじゃないかというような話も実は伺ったことがあるのです。

 そうすると、今回、国会の事前承認といったことを、これはどうなるかわかりませんが、もしそれを前提と考えるとすれば、私がお話を伺った方の意見をもとにすれば、そういう混乱の原因にもなりかねないのではないかというふうにも考えられるのですけれども、その辺、いわゆる政治家、行政官、それと軍人、軍事の専門家のそういう意味での役割の明確化、そういったことについて、ぜひ小川先生、それから浜谷先生も、それぞれ御意見を伺えればというふうに思います。

浜谷参考人 御質問ありがとうございます。

 私は、国会の関与というものが、たとえ報告であれ承認であれ、国会が関与しない政策はあり得ないというふうに考えております。その場合に満たされなければいけないことは、いわゆる迅速性というものと、それから政策の的確性という両方の概念だと思います。それを両方満たすためには、いわゆる報告というものと、それから承認というものをうまく使い分けるということが一番効果的ではないかと思います。

 アメリカの戦争権限法はまさにそれをやっているわけでありますが、議会への大統領の報告というものと、それを受けた議会のそれに対する授権というもの、これがうまく組み合わさって、迅速性と政策の的確性というものが機能している。ですから、日本でもそういう制度をとり得るのではないかというふうにさっき簡単に申し上げたわけであります。

小川参考人 御質問ありがとうございました。

 専門家などの役割分担の明確化という角度から若干お話をしたいと思いますが、日本と比べてアメリカというのは、民主主義のシステムというのはやはり成熟した面があります。ですから、納税者あるいは国民の代表としての、例えば議会であるとかジャーナリズムであるとかアカデミズム、シンクタンクが高度な専門家集団を持ち、政府とチェック・アンド・バランスの関係でうまく国を動かしていっているという面は確かにあるんです、日本よりは。それでもベトナム戦争において混乱が生じたというのは、一つには政治家の関与がよい形にならなかったという問題だと思うんですね。それを日本に置きかえて考えますと、やはりアメリカのことを語る以前の段階でございます。

 例えば、政治家の先生方が勉強するに当たって当てにするのは、例えば官僚であります。大変優秀な人たちがそろっている。それから、例えば軍事であると自衛隊制服組であります。ただ、両方に欠けている能力があり、それを補うためにどうしたらいいかという議論をしないとだめなんです。

 例えば、防衛庁内局の中心的な課長さんたちとしゃべっていて、僕も専門家の端くれですからかなり突っ込んだ話になる。ただ、やはり、あるレベルで線を引くと、軍事知識がない官僚が九五%という言い方が向こうから出てくるぐらいなんです。これは高める努力をしなきゃいけない。広い視野は持っています。大変優秀です。

 じゃ、自衛隊制服組はどうか。私と同い年の人間は、もう方面総監で次は陸幕長というところにおります。米軍で一番をとった人間もおります。狭い専門分野について深い知識を持った人間はいっぱいいるんです。ただ、広く見ながら、それをどう国民に問題提起していくかというような立場がまずない。そして、プレゼンテーションの能力なんか全然訓練を受けていない。だから、海上警備行動発動のとき、統幕議長をここに呼んできたけれども、あいつは何もたもた言っているんだと政治家の方々から批判が出るというのは当たり前なんですよ。きちっと説明する能力を備えていないから。

 だからやはり、そこにおいては、どういう立場の人がそういったことをやるかはともかく、ある意味で通訳、ある意味で接着剤になるような専門家をやはり養成して、きちっと国民との間の議論ができるようになる、その部分を政治家の方々が先頭に立ってつくっていただくということが、一つ、遠回りのように見えても正攻法ではないかなと思っています。

 日本の場合、政治が関与して何かを混乱させる以前の段階でございます。それは、我々はきちっと現実を見詰めた方がいいと思います。どうも御質問ありがとうございました。

上田(勇)委員 済みません。ありがとうございました。

 それでは次に、中村先生にちょっとお伺いしたいのですが、先ほどから現地の情勢も、ずっと長く活動されてきて、大変貴重な御意見を伺ったというふうに思います。やはり中村先生は、ずっと現地で活動されていて、一番現地の方々と直接接触もする、皆さんの、そういう意味では、アフガン、パキスタンの方々の意見が一番おわかりだというふうに思うのですけれども。

 それで、日本にいていろいろな報道を聞いたり、これは日本のメディアもあるし外国のメディアもあって、いろいろと我々としては疑問に思うような点がございます。そういう意味で、現地で直接接する機会のある中で、ぜひその辺のお話を伺いたいというふうに思うのです。

 大変な危機的な状況にあるというのがありまして、そうすると、極めて素朴な疑問として、これだけ食糧が不足している大変危機的な状況にあるのに、なぜ今タリバンの政権は、そういうふうに民衆を犠牲にしてまでこれほど、ウサマ・ビンラーディン氏やアルカイーダというような組織、それを守るというような、その理由というのは何なのだろうかという非常に素朴な疑問が一つあります。

 そうすると、じゃ、そうした政権というのは本当に一般の民衆の方々の支持を得られているのだろうかというような点も率直な疑問ですし、一部の報道では、このタリバンの政権というのが、例えば女性にいろいろ抑圧的であったり、教育の機会に対する抑圧があったり、非人道的な処刑を行っているとか、あるいは国際機関のそういう援助物資を略奪しているなんというような報道も一部あったんですが、これは報道で伝えられていることなんで、果たしてこういったものというのは本当に現実のことなのかどうか、ぜひ、それは現地におられる先生の視点で率直なところを教えていただければというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。

中村参考人 一つ一つ具体的にお話ししたいと思います。

 なぜタリバン政権がかくまっておるのかというのは、これも話せば長くなりますが、簡単に言うと、アフガニスタンというのは日本が考えるような一つの近代国家ではないのですね、部族国家。各地域には、ジルガ、長老会、国会議員の方々にはうらやましいかもしれませんけれども、選挙のない世界なんですね。各地域のジルガ、長老会といいますが、これが、例えばタリバンが来た、これに抵抗すべきか、引き受けるか、あるいは積極的に協力するかというのを決定した上でこのタリバンというのは受け入れられるわけですね。

 ですから、あのソ連軍十万人をもって制圧できなかったアフガニスタンが、あの広大な地域が、わずか一万五千名のタリバンの軍隊で制圧できるわけがない。これは、民衆が、それまでの、タリバンが来る前まで、私、カブールにも時々行きましたけれども、我々の車は強奪される、我々の診療所は重機関銃で武装する、私も間違われて逮捕されて殺されそうになる、市内で砲撃はある、婦女暴行、略奪は日常茶飯事という中で、タリバンの平和がこれを、民衆の平和な生活をもたらしたという側面があるわけでございます。

 さらに、これに関連して、先ほどおっしゃいました人権団体、例えば女性にブルカをかぶせるだとかいろいろなことを外国の団体は非難されますけれども、中には非常に荒唐無稽なものもございますけれども、大半は、タリバンというのは田舎を基盤とする政権、言葉は悪いですが田舎者の政権なんですね。だから、アフガニスタンの人口を構成します九割以上の農民、遊牧民たちの慣習法をそのまま持ってきておるというのが実情でございまして、この女性のかぶり物もそうでございます。

 それから、女性の教育につきましても、私ども、カブールの中に五つの診療所があって、そのうち二つに……

加藤委員長 済みません、中村参考人、ちょっと短くお願いいたします。

中村参考人 はい。持っておりますが、女性はちゃんと働いております。本音と建前とかなり違うということを申し上げたいと思います。

上田(勇)委員 ありがとうございました。

加藤委員長 これにて上田君の質疑は終了いたしました。

 次に、中塚一宏君。

中塚委員 自由党の中塚でございます。

 参考人各位におかれましては、土曜日早朝から大変御苦労さまでございます。

 土曜日に審議があるというのは、実は異例なことなわけですけれども、私ども自由党としましては、ふだんから有事法制をちゃんと整備するべきだし、また、日本の安全保障という中の延長線上で、国際貢献ということについてもふだんからちゃんと考えなきゃいけないし、また、それを法律にしておかなきゃいけないということを一貫して主張してきたわけです。

 残念ながら、そういったことは今日に至るまで全然なされておりませんで、もちろん、今の特措法というのは自衛隊を海外に派遣するための法律ということですから、そのこと自体がテーマになってしまうのはしようがないんですけれども、そもそも、自衛隊を海外に派遣するということ、特に今回、アメリカが個別的自衛権の行使であるということを鮮明に主張しているわけですね。その米軍に対し支援を行うということがこの法律の中身に入っている以上、やはりそこは、本当に日本がそういったことができる国、法律としてそういう仕組みを持っているのかどうかという、そもそもの問題というのを議論していかなきゃいかぬのだろうというふうに思うわけです。

 もし今回、自衛隊を海外に派遣し、アメリカを支援するということになりますと、私は、これは日本の戦後の安全保障政策をもう百八十度転換するような話になっていくんだろうというふうに思っております。それこそ、今まで政府がずっと一貫をして、行使できない、いまだに行使できないと言っている集団的自衛権ということ、これにかかわる問題にならざるを得ないわけですね。

 ですから、もし本当にそういったことを、自衛隊を派遣しようというのであれば、まずはやはりそこの部分から議論をしていかなければいけないのではないか。その上で、その議論が終わった後で手続的な問題を特別措置法ということでやるのであれば、それはそれで議論をすることに応じても、それは政治の筋道としては成り立つのかなというふうに思うわけですが、浜谷参考人に、こういったそもそもの日本の安全保障政策、また、有事法制のあり方ということについて御意見を伺いたいと思います。

浜谷参考人 有事法制につきましては、私どももかねがねその早急な整備というものも主張してきたところであります。

 今回の件で申し上げますと、湾岸戦争以来、いわゆる湾岸シンドロームというものにさいなまれつつも、十年の間、目覚ましいいわば有事法制の整備が行われてこなかったということと、それから、現在時間がないということとは実に矛盾しているのではないかというふうに思います。今回の土曜日の審議を見ていましても、時間がなければここまで国会は柔軟になれるわけですから、それから見たら、有事法制の整備は即座に議論しても構わない問題ではなかろうか。

 私の個人的な感覚からいえば、こういうまさに武力行使そのものを横目でにらみながらの法整備というのは、実に環境としてはふさわしくないというふうに思っております。これは必ずしも正常な判断が、もちろん能力のある方々でしょうけれども、正常な判断が狂うということは間々あるわけでありまして、やはりこういうことは平時に行われていなければ本来はよくないことだというふうに思います。

 したがって、政府もいわゆる有事法制の整備というものに本腰を入れて取り組んでいただきたいというのが率直な感想であります。

中塚委員 次に、有事法制の整備ということに次いで、また日本の安全保障の基本的な政策ということが非常に重要になってくると思うんですけれども、私どもは、そもそも自衛権というものを個別的、集団的というふうに分けて考えること自体ナンセンスなんじゃないかというふうに思っております。

 政府は、個別的自衛権は当然持っているし行使できる、ただ、集団的自衛権については、持っているけれども、憲法で禁じられているから行使できないということをずっと一貫して主張してきているわけです。私どもは、個別的であれ集団的であれ、自衛権というものは当然ある、しかし、それを行使するのは抑制的に使っていかなきゃいけないというのが、本来の日本国憲法第九条の持っている意味なんだろうというふうに考えております。

 特に、集団的自衛権が行使できないというふうに言い続けていること、そして、それをもとにいろいろな法律を組み立てているということが、今回だけではなく、日米の防衛協力、そういったことについても大変大きな阻害要因になっているのではないかというふうに考えておりますし、また、そのことが国際貢献というものを不可能にしてしまっている、本当に有効な国際貢献というものを不可能にしてしまっているというふうに思われる部分もたくさんあるわけですが、この自衛権の問題につきまして、浜谷参考人の御意見をお伺いしたいと思います。

浜谷参考人 この自衛権の問題につきましても、私のかねての持論でありまして、いわゆる自衛権というものは、個別的、集団的と区別することに何の意味があろうかということでありまして、あくまでこれは自衛権なわけであります。例えば、いわゆる個別的自衛権では対応不能になった、しかし、集団的自衛権は一切行使できない、よって国家は滅びましたということになりますと、自衛権の本質にもとるというふうに考えざるを得ないわけであります。

 問題は、その集団的自衛権そのものの行使、できるということと行うということの差でありまして、できないと言うから問題になるわけであって、できるけれども使わないということだってあり得るわけでありまして、それがいわゆる国会の歯どめでございます。何のために国会があるかというのは、まさにそこにあるわけでありまして、行け行けどんどんという風潮を、冷静な議員の方々が多数集まった段階で、集まった席上で、ちょうちょうはっしのやりとりをしながら一つの政策を見つけ出していくということでありますから、その政府の解釈ではどうもそれが不可能になりつつある。

 さっきも憲法自体が解釈疲労を起こしているというふうに申し上げましたが、常に針の穴の溝を通すような、そういう解釈に終始したというのであれば、国際貢献そのものが、常にいわゆる法律との抵触におびえつつも自分の任務を果たさなきゃいけない、そういう非常に不完全なものになるのではないかということを危惧しております。

中塚委員 構造改革という言葉がもう今一大ブームになっておりまして、そういった意味では、日本が今回のように海外へ自衛隊を派遣し、米軍を、またイギリス軍を支援するという仕組みになっているのかどうか。だから、本当にそういったことを政府がやりたいというふうに考えるのであれば、まさに安全保障政策においても、構造改革、仕組みを変えていくというための努力をしていかなきゃいかぬのだろうというふうに思うわけでございます。

 だから、まずは政府は、今回自衛隊を海外に派遣をするということであれば、やはりこの憲法の解釈というものを変更するべきであろうというふうに私ども考えております。人間があってそれで法律があるわけで、法律があって人間があるわけではありません。しかし、さはさりながら、やはり法治国家でございますので、その辺をなし崩しにしては政治にはならないだろうというふうに考えております。

 そこで、小川参考人にお伺いをしたいのですけれども、軍事アナリストというお立場から、実務面でこの集団的自衛権の行使ということについて。

 今のこの特別措置法の中でも、集団的自衛権の行使ができないから武力行使と一体化にならないというようなことがたくさん羅列をしてあるわけですし、また、前方、後方というようなことについても線を引くというふうな仕組みになってしまっておるわけですけれども、ここは専門家のお立場として、やはりこれは、もし派遣をするのであればという場合なんですけれども、集団的自衛権というものが行使できないという抑制を取っ払った方が有効な協力というものが、またそして、自衛官自身の身の安全ということも守りやすいのではないかというふうに思うわけですが、御意見、いかがでございましょうか。

    〔委員長退席、亀井(善)委員長代理着席〕

小川参考人 御質問ありがとうございました。

 私自身は、集団的自衛権の問題については、日本という国が掲げてきた平和主義とか、あるいは外交を国連中心主義でやるといった原理原則に沿うような外交・安全保障構想を描き、それを個々の政策として実行する中で周辺諸国の日本に対する不信感を払拭し、その中で初めて集団的自衛権の行使について万全の体制をとることができるという順番で考えております。

 残念ながら、日本というのは、周りの国から見ると凶状持ちでございます。凶状持ちとは何だと言われたので、昔、罪になるようなことをしたと見られているのですよといったような説明をするのですけれども。だから、やはりこれは本当に、時間をかけてじっくりと周辺諸国の不信感がなくなるような外交などをやっていかなきゃいけない。

 ただ、それまでの間は、やはり集団的自衛権はあるけれども行使できないなんということを言っていると、これは同盟関係を構築する上で、相手がアメリカであろうと中国であろうと同じなんですけれども、相手から見たら当てにならぬやつだなという話ですから、これはもう我が国の安全にかかわる話でございます、国民の命にかかわる話でございます。だから、私は、これは正面から憲法改正の議論をして、憲法の完成度を、平和憲法の理念を実現すべく高めていく、肉づけをしていくという歩みを進めながら、同時に、やはり集団的自衛権に関する日本なりのモデルを提示して、その範囲内で実行していくということを一つのステップとして置くべきだと思っています。

 私自身は、たまたまちょうどアメリカの、当時ブルッキングスの主任研究員であったマイク・モチヅキ氏が同じことを同じときに言ったので、同じようなことを考える人がいるんだなと言って二人でしゃべったのですが、日本国憲法と、それから日米安保条約と国連憲章の三者の整合性で読み込み、集団的自衛権の日本モデルというのは描き得るだろうと思っています。

 日本国憲法は、国連加盟を否定しておりませんし、当然ながら国連憲章のどの条文をも否定していない。一方、日米安保条約は、第一条、第七条、第十条において国連憲章との関係がうたわれている。当然ながら国連憲章のもとの条約だという意味のことが第一条に書かれているわけであります。そして、国連憲章の対応するところが百三条ですね。これは当然ながら、そういった個別の国が結んだ条約に対して国連憲章の方が優越するとなっている。

 そこにおいては、集団的自衛権、個別的自衛権を定めた国連憲章第五十一条の文言について我々はどう向き合うのかという話になってまいります。国際的な平和を実現するために国連の安保理が機能するまでの間という言い方がなされていたと思いますけれども。

 であれば、国連安保理が機能した状態とはどういう状態なのかということを明確に定義をし、それが実現したという段階までは日本は集団的自衛権をきちっと行使をする。しかし、その段階では撤収というのは非常に難しいのですが、やはり日本側の軍事行動をとめて、同盟国との間で既に調整しておかなきゃいけないのですが、米軍に対する支援もやめる、そういったことは可能だと思っているのです。

 ただ、本来的には、やはり日本という国が普通の、世界の平和に責任を持つ国としてどういう形で実行力を持つかということから入っていきますと、日本の国内でしか通用しない、あるいは与野党間の力関係において生まれてきた議論というのは、いま一度整理をすべきであると思っております。

 先ほど来、前田先輩からも、頭に血の上った議論というのは、やはりしない方がいいというお話がありまして、大変適切なアドバイスであると思いますし、私は、この国会の審議そのものが大変冷静で建設的だと思っております。ですから、今回の事態を機に、急がなきゃいけないという思いに駆られる必要はありません。しかし、着実に日本が責任を果たすということで議論を進めていっていただきたいと思います。

 どうもありがとうございました。

中塚委員 そういった意味で、集団的自衛権行使というのは抑制的にしていかなきゃいけないということを申し上げましたが、そこで、最後に浜谷参考人にお伺いします。

 手短にお答えいただきたいのですけれども、集団的自衛権行使の中身について、国会承認によって歯どめをかけていくという活用の仕方というのはいかがでございましょうか。

浜谷参考人 具体的中身というよりは、そういう審議をしているとやたら時間がかかってしまうものですから、いわゆる国会の関与の中で総体的な取り上げ方というのが一番適切ではないかというふうに考えています。

 例えば、アメリカの戦争権限法によりますと、いわゆる軍隊を投入してから四十八時間以内にはとりあえず議会へ報告書を提出するわけであります。その後、議会は、それを受けた段階で、六十日間の間にその行為を認めるか認めないかの判断を求められる。それを認めないという場合には、大統領は六十日間の満了前に米軍を撤退させなければいけないということであります。

 私も一つの論文で、日本の国会のあり方そのものと制度的にダブらせながら、国会関与の方法という日本型の方法というものを探った論文を書いたこともございます。

 日本の国会では、いわゆる議院内閣制のもとでの制度、その制度を生かす上では、アメリカ型の議会拒否権という――アメリカの議会拒否権というのは、これは憲法違反だという判決もありまして、私も憲法違反だと思っているのですが、まさに議会が政府の行動を拒否するということも、議院内閣制のもとであれば、日本ではそれは憲法上許される行為ではないかということもありますから、いざとなったら国会拒否権によって軍隊の撤退を求めるということも含めて、迅速さと政策の的確さという両方を満足させるには、こういう制度がいいのではないかというふうに考えております。

中塚委員 ありがとうございました。

亀井(善)委員長代理 これにて中塚君の質疑は終了いたしました。

 次に、木島日出夫君。

木島委員 日本共産党の木島日出夫です。

 六人の参考人の皆さん、大変貴重な御意見をありがとうございました。時間の制約がありますので、まず小澤参考人にお伺いをいたします。

 参考人は先ほど、憲法九条一項が禁じている武力行使について、戦闘行為に狭く限定する趣旨のものではないと陳述をされました。ところが、この委員会でも小泉首相は、憲法前文の国際協調主義と九条の戦争放棄、武力行使の禁止との間にはすき間があるのだ、そして武力行使の解釈にも幅があるという言い方をして、今回のテロ対策特別措置法は憲法に違反しない、そういう答弁を繰り返しております。先ほど参考人から、すき間は民衆と政治のリーダーとの間にあるという指摘は、私もまことに同感であります。

 そこでお聞きしたいのですが、改めて憲法九条と憲法前文との関係、国際法は戦争を違法化する、武力行使を原則禁止する、そういう大きな流れの中にありますが、この流れの中で、我が国の憲法の前文と九条との位置づけ、国際法上の位置づけについてお聞かせ願いたい。そして同時に、これらの二十一世紀の今日的意義について、まず御意見を聞かせていただきたいと思います。

小澤参考人 とても大きな質問ですので、短い時間でなかなか答え切れませんけれども、手短にさせていただきます。

 まず、日本国憲法の前文の趣旨、それと憲法第九条との間の問題ですけれども、先ほど陳述のところで簡単に述べさせていただきましたように、日本国憲法は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」、このように確認をしております。この、まさに恐怖と欠乏といったものによって苦しめられているのが、現在のアフガニスタンの人々の置かれた状態ではないかと思います。

 日本国憲法の前文は、先ほども言いましたように、全世界の国民がそういう状態から免れて、そして平和のうちに生存する権利を持っているのだ、このように述べ、そしてその上に憲法第九条を定めている。この関係をぜひとも御確認いただきたいわけであります。

 そして、御質問にありました二番目の武力行使の問題でありますけれども、これは、もともと二十世紀の国際社会が平和探求をしてきた。その中で、まず一九二八年のパリ不戦条約で、史上初めて戦争の違法化がされた。そして、その後、国連憲章によって、単なる、正規の戦争だけではない、事実上の武力行使一般が違法なものとされた。日本国憲法の第九条の、武力の行使の禁止、放棄というのは、まさにこういった国際社会の流れを踏まえているわけですね。

 これが、PKO法の審議のときに、PKO活動の中における武器使用と武力の行使を目的とした軍隊の派遣との違いを際立たせるために、この武力の行使という言葉にかかわって、戦闘行為というふうに、さも限定されたものしか禁止されていないような印象を与えるかのような形にされてしまいましたけれども、先ほど言いました長い国際社会の歴史の中で武力の行使という言葉を解釈するならば、それは、実力の行使を任務とする人的・物的組織体の活動全体、これの禁止だ、これを国際紛争解決の手段として禁止する、こういうことだと思います。

 その中には、当然兵たん活動も含まれてくるわけでありまして、であれば、狭く戦闘行為を九条一項は禁止しているということではないのだろうと思います。

 そして、二十一世紀に向けての平和の問題につきましては、先ほど来集団的自衛権の問題が出されておりますが、集団的自衛権に基づくところの同盟による平和ではなくて、むしろ国際協調、国際社会全体の枠組みの中での平和、集団的安全保障の枠組みこそ実効的に機能させる、こちらの方の平和保障を追求していくべきだというふうに考えております。

 以上です。

木島委員 ありがとうございました。

 続いてお聞きしますが、海外に展開する自衛隊の行動については、まさに憲法が禁止する武力行使に当たるか否かをめぐりまして、この国会でも議論が積み重ねられてまいりました。

 小澤参考人は、周辺事態法のときにも参考人としておいでいただきましたが、今回のテロ対策特別措置法における自衛隊の海外出動はPKO法や周辺事態法に比べてどのような特質があるのか、憲法九条とのかかわりを焦点にして意見を述べていただきたいと思います。

小澤参考人 まずPKO法とのかかわり合いでありますけれども、PKO法における武器使用や武力の行使といった問題は、まさに憲法上その違憲性が問題になっているところの自衛隊が海外に派遣されて、そして武器使用を行うという、そこのところに大きな問題点があるのではないかなというふうに思っております。

 ただし、PKO活動自体は、一応停戦合意が成立をした段階におけるその確保のための活動だということで、その活動本体それ自体が武力の行使ではないという点においては、周辺事態法が想定しているような事態と今回の法案の事態とはなお区別されるだろうとは思います。

 周辺事態法と比較して、今回の法案における自衛隊の支援活動と支援対象である外国の軍隊との関係を考えてみますと、これは周辺事態法よりもさらに輪をかけて外国の軍隊の戦闘行為との一体化の危険性がより強い中身になっているのではないか、その意味においては、武力行使禁止を定めた日本国憲法九条に抵触する問題が非常に強い法案ではないかなと思います。

 その理由は、まず第一に、当該国の同意に基づくとはいえ外国の領域において活動する。その活動地域は、先ほど前田参考人の方から戦争地域だという御紹介がありましたけれども、私も今ここで表現させていただければ、当該国というのは、基地を米軍等に提供しているわけでありますから、テロリストとそれを支援する国家にとっては敵対国とみなされる。それが法的に正当かどうかはともかくとして、そういうふうに現実にみなされるということは確かなことだろうと思います。もとよりテロ行為というのは違法なものだということはそのとおりでありますが、それが実行される危険性の高い地域なわけですね。

 第二に、テロ行為という行為の性格からくるものですけれども、人心を恐怖に陥れて、そして戦意を阻喪させる、そういうふうな目的を持って行われるこの行為は、後方の活動の方がむしろねらわれやすいのではないか、こういう危険性すらあります。

 こういうふうに考えますと、外国の領域でも実施されること、相手がテロリズムであること、それから戦闘行為が行われていない地域において実施するというこの条件は、その確保が非常に困難をきわめるのではないかというふうに考えております。

 以上です。

木島委員 ありがとうございます。

 それではもう一点だけ、武器の使用の問題でありますが、テロ対策特別措置法案では、武器の使用の対象、防護対象として、これまでの周辺事態法やPKO法と違って、自己の管理のもとに入った者まで含めました。内閣法制局は、この委員会の質疑の中で、これはこれまでと同じように急迫不正の侵害に対する正当防衛だ、いわゆる自然権であって、憲法で禁ずる武力の行使ではないとおっしゃっております。

 手短に、この政府の見解を憲法学者から見てどう見るか、御答弁願いたい。御答弁というか、御意見を陳述願いたいと思います。

小澤参考人 手短に。武器使用を自然権で説明するということは、PKO協力法と比べて格段に困難になっているというふうに考えられます。PKO法の場合は、自己及びともにいる隊員の生命、身体の防護のために使用するということですが、今回の法案は、それに、「その職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者」の防護も加えられたわけですけれども、この職務いかんでは、相当に広い地域と相当に多くの管理する者を抱えることになるだろうと思います。捜索救助活動はかなり広い地域で実施されることになるでしょうし、また、難民キャンプでの活動は極めて多くの人々を管理することになるわけですから、これはもはや自然権では説明できないことになるのではないかというふうに思います。

 以上です。

木島委員 ありがとうございました。

 それでは、中村参考人にお伺いをいたします。

 参考人が、地域の実情を踏まえまして、今大事なことは難民支援よりも難民を出さない努力だと述べられました。感銘深くお聞きをしたわけであります。

 そして、その中から、中村参考人は、自衛隊の派遣は有害無益だと陳述をされました。自衛隊は現地の人から見ればジャパニーズアーミーだ、ジャパニーズアーミーがアメリカンアーミーと共同していると見られるとおっしゃいました。そこで、現地の状況を踏まえて、自衛隊が派遣されることがどんな点で有害なのか、具体的に詳しくお聞かせいただきたいと思います。

    〔亀井(善)委員長代理退席、委員長着席〕

中村参考人 手短に。

 これは前の繰り返しになりますけれども、現地は対日感情が非常にいいところなんですね。これは世界で最もいいところの一つ。その原因は、日本は平和国家として、戦後、あれだけつぶされながらやってきたという信頼感があるんですね、我々の先輩への。それが、この軍事的プレゼンスによって一挙にたたきつぶされ、やはり米英の走り使いだったのかという認識が行き渡りますと、これは非常に我々、働きにくくなるということがあります。

 さらにまた、難民キャンプに一国の軍隊がわっと自分の国の、先ほど言いましたように、例えば神戸の震災のときにオーストラリアの人たちが助けに来る。では、その人たちを助けるためにオーストラリアの軍隊がわあっと来まして、神戸の町でキャンプを守るというのはないわけですね。これはお巡りさんが守るわけですね。これは現地でも同じことでありまして、パキスタンはれっきとした一独立国家なんですね。このことをみんな忘れていやしないか。何か白人がインディアンを襲撃して、もうどこでもやっているような、それとちょっと違う。逆の立場に立って、一独立主権国家としての立場も尊重しながら考えていただきたいわけであります。

 そういう意味で、有害無益というふうに申し上げたわけでございます。

 以上です。

木島委員 ありがとうございました。

 時間の関係がありますので、ほかの参考人の皆さんには質問できませんでした。御容赦いただきまして、終わります。

加藤委員長 これにて木島君の質疑は終了いたしました。

 次に、辻元清美君。

辻元委員 参考人の皆様、いろいろな角度からのお話ありがとうございます。

 特に、木川参考人におかれましては、いろいろ御心労もおありのところ御発言をいただきまして、心から敬意を表したいと思います。本当にありがとうございます。

 さて、私は最初に、私が持っている疑問点を前田参考人にお伺いしたいと思います。

 それは、アメリカが今回武力行使に踏み切りましたが、その根拠を個別的自衛権の発動というふうに最初にブッシュ大統領は言いました。そして、戦争であるという発言も繰り返してきたんです。そして、私は、この個別的自衛権の行使に当たるのかどうかという点なんです。

 国連憲章の五十一条ですと、当分の間、何かいきなり攻撃を受けたときに、かみ砕いて言えば、国連の安保理などで話し合う間の当分の間、個別的及び集団的自衛権を各国は行使するというように理解しているわけなんですが、今回はこれに当たるのかどうか。

 といいますのは、先週あたりから、ブッシュ大統領の発言の中に、アフガン攻撃という言葉も出てきています。そして、一年かかろうが、五年かかろうが、十年かかろうがやるんだという発言も出てきている。そしてさらに、これはイラクそれからインドネシアがターゲットになる可能性があるというような発言まで、アメリカの関係者から出てきている。これに対しては、ブレア・イギリス首相はすぐに反応いたしまして、牽制を打っています。

 それで、そういう発言が飛び出す中で、まず最初の場面での個別的自衛権の発動というのも、国連憲章と照らし合わせてどうなのか。それから、その後の事態を見ているところで、これは、自分の国ががんがん攻撃されているときに五年かかっても十年かかっても戦うんだというのと違うんですね。いろいろなところで、別の国で、アメリカで戦うわけではなく、アフガンであったり、自国でないところでの戦いを続けるということが、これは国連憲章の言われるところと照らし合わせてどうなのかという点。これは、私、本当に疑問に思っております。

 それから二点目。もう一点続けてお聞きしたいんですが、きのう、小泉総理とも議論いたしまして、二つのことをおっしゃるわけです。日本の主体的な活動だと言うとき、あるときはそうおっしゃる場合もあるんですが、あるときは、日米同盟を大事にした対米支援だというようなトーンの発言もあるわけです。

 日本の法的根拠なんですが、私は、実質的な対米支援だと考えられると思うんですが、その際、日米安保条約というのがあります。日米同盟というこの根拠は、日米安保条約だったと思うんです。しかし、この日米安保条約ですと、日本の施政権内での日米双方に対する攻撃、または広げても極東ということになる。周辺事態法のときもこの議論をいたしましたが、周辺事態法は、この日米安保条約から枝葉のように出ている法律だということが考えられると思います。

 さてそこで、今回の新法なんですね。物品の供与などについてもACSAという日米の条約がございます。そうなってくると、今まで日本の安全保障を議論してきたこの法体系から、ぱっと新法が、浮き草のようにつながりが持てない。きっとこれは、実質的に対米支援、実質的なんだけれども、しかし、対米支援ではどう考えても今までの法体系の中でつじつまが合わないので、いや、主体的な支援だということで、急遽、私ははっきり申し上げれば、そのつじつまを合わせるような形で出してきたんではないかと。

 ところが、今回、自衛隊という実力部隊を海外に出すという大きな局面です。これは何も演習に出すわけではないわけです。実戦が行われているところに出していくということです。

 こういう議論もありました。物を運んだりするだけだと。演習のとき日本の国内で物を運ぶお手伝いをするのと、実戦を行っているところに物を運ぶというのは、これは概念が違うと思います。そういう点もあいまいなまま、一番の根幹の安全保障の議論の法体系からはみ出した形で法律を成立させるということは、私は、これは後で禍根を残すんじゃないかという憂慮を抱いております。

 この二点について、いかがでしょうか。

前田参考人 最初の、自衛権の問題に関しては、二つの側面があると思います。

 一つは、国連憲章五十一条に言う個別的または集団的自衛権の自衛権というのは、もう言うまでもなく、国連憲章がよって立つ主権国家と主権国家、国家と国家の間に存在する行為、権力の行使というものであるわけで、オサマ・ビンラディングループとアメリカ合衆国との間に自衛権は存在し得ない、私組織でありますから。

 ただ、アメリカは、八六年ぐらいから、ローインテンシティー・コンフリクト、低強度紛争という概念を取り入れて、その中で、国際テロリズムは自衛権の範疇に入るという拡大された解釈をとってまいりました。その一番新しい例を、私たちは、クリントン政権末期にアフガニスタンとスーダンに対するトマホーク、ビンラディングループの居どころに向けて発射されたトマホークに見るわけですが、これは拡大された自衛権概念の適用であったわけです。

 今回は、それを援用しつつ、かつ最終的な八日からの武力行使は、ビンラディングループをかくまうテロ支援国家としてのタリバンに向けられたという、そういう自衛権、両方で正当化していると思います。

 いずれにしても、アメリカは、拡大された、国境を越える追跡権、ホットパーシュートというふうに言いますが、そういう追跡権を主張してきたという事実があります。

 もう一つの側面は、国連憲章五十一条は、おっしゃったとおり、国連安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間の暫定的、限定的、一時的な個別的または集団的自衛権を認めているにすぎない、すぎないというか認めているということですよね。オールマイティーとしての国家の自衛権を認めているわけではない。

 先ほど、小澤参考人の陳述にありましたとおり、戦争違法化という二十世紀に入っての流れの中で、国連憲章は第二条において戦争違法化を明言していて、平和の破壊、侵略に対しては国連憲章第七章四十二条以下の国連における軍事的措置に任せるということを原則としています。

 そういう中で、限定的な意味しか持たない個別的自衛権をにしきの御旗のように振りかざして、それを武力行使の正当化の要件とするのはいささか無理があるというふうに考えます。

 第二点目の新法の法的基盤、安保条約との関係についてお尋ねになったと思います。

 安保条約はもともと、集団的自衛権が日本にない、日本が集団的自衛権を行使し得ないということを前提に成り立った条約であります。NATO条約とも違う、ANZUS条約とも違う。米韓相互防衛条約とも、米比相互防衛条約、アメリカがほかの国と結んだ条約ともまるっきり違う組み立てになっています。それは憲法があるから。日本が武力行使をしないということを憲法に定めているから、安保条約を結ぶに際して、ほかと違う条約のつくりがなされたという経緯を持っています。

 NATOは、今回、第五条で集団的自衛権の行使を発動しましたが、締約国の一またはそれ以上の国に対する行動に対し、集団的自衛権が行使できるというふうに書いてあります。ANZUS、米韓、米比は、太平洋地域におけるいずれか一方に対する武力攻撃に対し、双方は軍事的行動をとるというふうに書いてあります。

 我が国の日米安保条約はこの条項を落としています。そう書いてありません。我が国の施政のもとにある領域における、いずれか一方に対するというふうに書いてあって、太平洋におけるいずれか一方、つまりハワイ、グアムに対する日本の防衛義務を明記しておりません。これはほかの条約と全く違うところです。そのかわりに、第六条において、極東における国際の平和と安全の維持に寄与するための施設及び区域、つまり米軍基地の使用を認めている。これはほかの条約にはないところですね。

 アメリカ・フィリピン相互防衛条約はそういう条項を持っておりませんから、アメリカはフィリピンに対して米比基地貸与条約という別の協定を結んで基地を借りておりました。したがって、米比基地貸与協定が失効しますと、基地はなくなります。ゼロになります。しかし、米比相互防衛条約は依然存在しています。

 そういうことは可能なんだけれども、日米安保条約は第五条で、我々がアメリカのハワイ、グアムを防衛し得ないかわりに、アメリカに対し、アメリカの国益です、極東における国際の平和と安全というのはだれが判定するか、アメリカ政府が判定するわけですからアメリカの国益です、まあ事前協議の条件がありますが。

 ともかく、そういうアメリカの国益のために在日米軍基地を使わせることでバランスをとっている。相互主義になっているわけで、ただ乗りでも何でもない。むしろ、我々の方が多く負担しているというふうに言っていいぐらいのつくりになっているわけです。

 したがって、本論に戻るわけですが、新法は日米同盟に依拠するとすれば、そのようなものを日本が提供する義務がないわけですから、NATOとも米韓とも米比とも違う日米同盟は条約の基礎に立っているわけですから、そこから新法が導き出されるはずがない。

 これは周辺事態法も同じです。周辺事態法は、第五条に立脚するのか、第六条に立脚するのか、だれも答えられない。第六条は、ただ基地を提供する、施設及び区域の使用を許す、それ以外のことは決めていませんから。しかし、第五条は我が国の施政のもとにある領域ですから、周辺事態が、周辺という事態が生まれようがない。すると、周辺事態法も安保条約に依拠し得ない。そこで、主体的というような新しい概念が出てくる。これは法のもとの正しいあり方ではない。そうなれば安保条約を改定すればいい。したがって、その無理は、周辺事態法から発して、今回さらにきわまったというふうに私は感じています。

辻元委員 確かに、周辺事態法のときも、安保条約を改定してからというのが筋じゃないかという議論も多々ありました。

 もう一問だけ中村参考人にお伺いしたいと思うんですが、アフガニスタン復興ということで力を尽くされてきたお話を伺いまして、それではどういうことをすればいいかですね。食糧とか医薬品など、足りないものがあるのか。たくさんあると思う。

 といいますのは、私は、湾岸のときは、あのときに抗生物質を二百六十万錠、マレーシアのNGOから預かりまして、シンガポールの港からアシュドットまで運ぶということをやりました。そのときは、抗生物質が足りないということで、至急にと。ただ、入港の前日にスカッドミサイルが撃ち込まれまして、それでキプロスに緊急入港して、キプロスにおろしたりしました。そういうときは、やはり即刻動けるという態勢がすごく大事だと思っていて、その任務をNGOは担っていると思います。

 先ほどから自衛隊の議論が出ておりますが、私も、カンボジアのときも、それから湾岸のときも国会議員ではありませんでした。外から見ていると、国会の中の議論は自衛隊の議論ばかりしてはるなと私も思っていたんですよ。自衛隊の隊員の方の能力が劣るんじゃなくて、自衛隊のシステムとして、援助と違うんですね。それはよく議論した方がいいと思うんですね。ですから、援助とは全く違う機能、要するに戦う部隊としての機能ですから。

 ですから、やはり援助は援助でというふうにした方がいいと思っていますが、そういう意味で、今すぐにできること、どういうことがあるか、具体的なアイデアがあれば、最後に教えてください。

中村参考人 手短にお答えします。

 繰り返しになるかもしれませんけれども、これは、私たちNGOと国がすることと少し違うんですね、おっしゃるように。すぐさま動けて、そして最もニーズが高いところに集中的にする。これは、国境だとかそういうのを超えてやるというのがNGOの特徴でありますが、私は国粋主義者ではありませんけれども、一日本国民として誇りを持って何かをやるとすれば、私たちが築いてきた信頼、日本とのきずなを保つということが、それは結果としてあるわけですが、直ちに飢餓難民予備軍に対して、一人も飢餓難民を出させない、特にカブール市、それからジャララバード市、国境に近い町々から一人も出させないということは、我々すぐできます。既に着手しております。そのノウハウも我々持っておる。

 それから、医薬品についても、八つの診療所は無事に回転しております。これは、わざわざ日本から持っていかなくとも物は流れているけれども、購買力がないという奇妙な状態なんですね。イラン・ボーダーもあいております。それから、パキスタンの二千四百キロメートルの国境は絶対に閉鎖できない。小麦粉も自由に入れられる状態でありまして、小麦粉の値段も決して落ちておらない。購買力がない。

 こういう状態でありますから、我々、ちょっと皆さんと認識のずれがあるというのは、実情を知って当然と思って話していることが伝わっていないということがあると思いますが、私たちができることはまずそういうことなんですね。飢餓難民を出さない。それから、少しでも難民、これは犠牲になったらかえって悲劇が大きくなるんですね、これを出させない。

 そして、よその大きな国連組織だとか日本の支援、日本の支援に関していいますと、これは先ほど申しましたように、国連支援だとか、フィルターを通してやりますと、本当に日本の顔が見えなくなってしまうという援助がありますので、これは国連支持、私は日本の事情をよく知りませんけれども、日本は直接ぼんぼん物資を送ってやればいい、日の丸をつけて送ってやればいい、それなら何倍か効率が違う、安く上がるということは確かに言えると思います。

 確かに、間接経費で膨大な費用が消えておるというのは事実でありまして、日本が本当に自分たちの顔の見える援助、実際アメリカでも、額は非常にわずかなのに、アメリカがやったといって直接小麦粉を送ったりしているわけですね。日本の場合は、すべてWFPだとか国連機関を通して送るというのではなくて、日本が直接送ってよろしい。別に日本人が出かけなくてもいいんですから、これは日本が上げましたといえば、私は、恐らく数倍あるいは十倍の物資が入っていくのではないかというふうに思います。

 ちょっと時間がありませんので、そういうふうに思います。

 建設的な事業に決して慌てなくていい、慌てなくていい。こういう時期こそ我々は頭を冷やしてよく実情を見て、そしてその上で、国の大事を先で考えていきますが、とりあえずアフガニスタンに関しては、我々NGOに任せる。任せてくれとは言いませんけれども、我々はやりますので、時間をかけてじっくり検討して、一番いい援助を探っていただきたい。そのためには、建設的な事業を日本みずからの手で組織するということであろうというふうに思います。

 ちょっと舌が足りませんでしたが、一応それで御勘弁願います。どうもありがとうございました。

辻元委員 ありがとうございました。

加藤委員長 これにて辻元君の質疑は終了いたしました。

 次に、井上喜一君。

井上(喜)委員 保守党の井上喜一でございます。参考人の皆さん方、きょうは本当に御苦労さまでございます。

 まず、小川参考人にお伺いいたしたいと思います。

 今、我々がやるべきことは、テロをいかに防止していくか、あるいはテロをいかに撲滅していくか、こういう課題に真剣に取り組んでいくことだと思うんですね。今国会に提案されておりますテロ防止対策法なり自衛隊法の改正、あるいは海上保安庁法の改正、これはいずれもこれに対応したものだと思うのでありますけれども、全部じゃないと思うんですね。

 そこで、日本としてやるべきことはどういうことがあるのか、この提案三法にとらわれることなく、小川参考人の御意見をお伺いいたしたいと思います。

小川参考人 御質問ありがとうございました。

 私は、軍事問題の専門家だからすぐ軍事力を使えばいいという立場では、逆にないんですね。先ほど冒頭陳述で申し上げましたように、私たちは、二十一世紀最大の課題であるテロをなくしていくために大変大きな責任を有することである、二十一世紀ということで見ますと、日本の平和主義というのはそこで尽きるようなところがあると思うんです。そのために、どう主体的に行動するかということが問われている。

 だから、例えば、容疑者あるいは容疑組織がだれになるかというのは、これはいろいろな議論がありますが、洗い出されていく中で、その人たちを国際的な裁きの場に引き出す、そういったことについては、国際的な共同行動をとるということがあって、その活動の中に自衛隊も含まれてくるという話なんですね。これが新法でくくるという話なんですが、本来的に国家の安全と繁栄を実現していくためには、そういう具体的なあり方、あるいは今起きた出来事に対するあり方とは別に、本当にエンドレスとも思えるような営みをしなきゃいけない。

 これは、先ほど来ペシャワールでずっと活動してこられた中村先生もおっしゃっていましたように、やはりテロの根っこをなくすために我々は何をするかという話が一番大もとなんです。だから、私は、医学に例えて公衆衛生学的アプローチというのが一番基本だよということを言っているのですね。

 だから、例えばイスラム世界の原理主義によるテロであれば、やはり根っこにある南北問題、貧困というものをなくすためにどうしていくのか、あるいは民族対立、それから宗教対立、血で血を洗うような歴史を、それこそ二千年の歴史をさかのぼって、やはりその過去の克服をどうやっていくのか、そこに日本はどのようにかかわることができるのか、そういったことをやらなきゃいけない。

 また、イスラム原理主義といってもいろいろな組織があって、温度差もある。アメリカに対するまなざしもそれぞれ違うし、日本に対するまなざしも違う。それをきちんと研究をして、それぞれに対する処方せんを描けるだけの力をつけ、医学でいうと、これは予防医学的アプローチと僕は言っていますけれども、新しい特効薬を探さなきゃいけない、それを実行していく、そういったものが同時になきゃいけないのですね。

 だから、中村参考人がおっしゃったように、難民を出さないようにする、あるいはお互いにぎすぎすしないように、心が和み合うようなことができていなければ何を言ってもだめだというのは、はっきりしております。

 ですから、やはり今回の法律の審議に当たりましても、そういったことを視野に入れながら、我々は、みずからの安全と繁栄だけではなくて、世界の平和のためにどのようなことができるのか、そして、していくべきなのか、そのために我々が持ってきた法律や制度をどうしていくべきか、そういった議論をさらに進めていただければと思っております。

 ありがとうございました。

井上(喜)委員 どうもありがとうございました。

 次に、中村参考人にお伺いいたします。

 私、中村参考人のお話を、アフガンを愛するまじめなお医者さんあるいは敬けんなる牧師さんが話をしておられるような感じを持ってお聞きをいたしました。

 そこで、簡潔にお答え願いたいのですが、中村参考人、このビンラーデンだとかアルカイーダの幹部とお会いになったことはあるのですか。

中村参考人 会ったことはありません。私の同盟者ではありません。

井上(喜)委員 中村参考人のお話は、日本は当地においては大変評判もいい、そういうことを大事にして、人道支援なんかを中心にやっておけば自然とテロなんかなくなるんじゃないかというようなお話に伺ったのでありますけれども、どうしてこのビンラーデンだとかアルカイーダがテロをやめるのですか。どうもその辺のところが常識的に理解できないのですよ。ほっておいたら絶対テロはやまないと思うのですよ。いかがですか。

中村参考人 私は、テロを封じる武力的な手段を否定しているわけではありませんで、テロの発生する土壌、根っこの背景からなくしていかないと、これは、ただ、たたけたたけというげんこつだけではテロはなくならないということを言っているわけです。

 本当に人の気持ちを変えるというのは、決して、先ほども申しましたように、武力ではない。やはりそれの発生する土壌、軍事評論家が一番知っていると思うのですね。私たち医者の世界でいえば、外科手術というのは最後の手段であって、やはりそのための手を打つ、これは政治家ではありませんけれども、私たちはまずそれが結果として、そういう効果が必ずあらわれてくると。

 今せっかく築き上げられている中東諸国、それから特にアフガニスタン、パキスタンの対日感情を温存すること、これは、日本国民を守るという観点から非常に重要なことではないかというふうに思う次第でございます。

井上(喜)委員 今のお話、多少広く理解をいたしますと、武力行使だけではいけないんだ、あと、小川参考人のお話のように、いろいろな考えられることがありますので、幅広く各種の対策を考えるべきだ、こういうような御趣旨とお伺いをいたしました。

 そこで、次に、木川参考人ですか、お伺いしたいのですけれども、ニューヨークで起きたような事件が日本で起こると、とてもニューヨークのようにはいかなかっただろう、もっともっと大きな被害あるいは後遺症が残ったんじゃないかというようなお話だったと思いますが、今、日本の危機管理の中で何が一番欠けていると思いますか。いろいろなことじゃなしに、一番欠けていることは何だと思われますか。

木川参考人 日本の金融機関に欠けていることという御質問ですけれども、その辺のところについてはなかなか明確にお答えはできないのですが、日本の金融システムをみずから守る、ガードする仕組みというのは、今の仕組みでいうと、特にテロのような状況に対する仕組みというのは、個々の金融機関の、言ってみればリスク管理の枠組みで守るという領域を超えていないのですね。

 したがって、そういう状況でこういうものが起こった後の事後処理の、言ってみれば、ディザスターが起こったときのリカバリープランみたいなもの、そういうものについて、国レベルで一緒につくっていかないといかぬ。それは、国に全面的にお願いをするということだけではなくて、やはり全銀協ベースでそういうものもあわせて考えるというふうに思っています。そういうものが欠けているといえば欠けているのだろうなというふうに思っています。

井上(喜)委員 そこで、次に小川参考人に再びお伺いするのであります。

 お話を聞いておりますと、日本の役所の方とも随分お話をされているようでありますが、危機管理の体制、これは阪神・淡路の大震災以来、かなり整備をされてきたと思うのでありますが、どちらかといったら運用面で危機管理の体制をつくっていくということだと思うのですね。

 日本の役所の組織として、こういうような運用面でお互いが連携をして危機管理の体制をつくった方がいいのか、あるいは危機管理法なりテロ対策法といいますか、そういうような法律をつくりまして、もう少し権限を一元化していくとかいうようなことで体制を整備していった方がより的確な危機管理の体制がつくれるのか、あるいはテロの予防対策がつくれるのか、その辺についての御意見をお伺いいたしたいと思います。

小川参考人 御質問ありがとうございました。

 私は、安全保障問題それから危機管理の専門家の端くれとして、確かに政府の方々ともかなり突っ込んだ話をしてまいりました。

 それで、はっきり言いますと、これまでのいろいろな危機において、日本の政府はだめじゃないかというのをかなり厳しく、恐らく一番厳しく批判してきた立場なんです。そういう批判を今度それなりに受けとめて、一緒にやろうと言ってきたのが日本の官僚機構だというのが私の今のかかわり方なんですよ。だから、責任をとらないというのは大変な問題なんですけれども、とにかく、そこで今一つ出ていて私が提案しているのは、先ほどちょっと申し上げましたように、アメリカの緊急事態管理庁、FEMAのような、司令塔組織のようなものを小さくてもいいからつくっていくということについても、法律から入るのではない、既存の官僚組織から入るのではない。

 過去の例えば代表的な危機がありますね。阪神・淡路大震災とか、それから日本海での重油流出事故とかいろいろあります、地下鉄サリン事件とか。そういったものに対して、どういう対応であれば合格点であったかというのは後から書けるのですよ。だったら、その合格点をとるためにどういう組織が必要で、どういう人事が必要で、どういうシステムが必要か、そこから組んでいって、現在の法律の枠内でできるかどうか、そして新しい法律が必要なのかどうか、その辺を考えようということに実はなっているのです。その動きを実は内閣府の中で始めようとした段階で今回のテロが起きてしまって、ちょっとおくれているのですね。

 ただ、象徴的なケースを一つだけ、国家機密をばらすようなことを申し上げますと、去年の沖縄サミットの段階で厚生省の医者のチームが、生物化学兵器を使ったテロに対して備えた。僕もちょっとかんでいた。そのときに、サリンを使われたときに首脳たちだけでも助けなければいけないから、解毒剤の硫酸アトロピンを準備した。これは実はアンプルと注射器に分けて入れていたのです。釣り用のベストにつけて待機していた。これはいいのですよ。

 ただ、あのときびっくりしたのは、日本で一番テロ対策で意識が進んで知識も持っていた厚生省のドクターたちですら、テロとかあるいは戦場のような場所でサリンの解毒剤、硫酸アトロピンを使うための注射器は自動注射器でなければならないという知識を持っていなかった。だから、アンプルを割っている間に汚染されて死んでしまうのですよ。

 湾岸戦争のときでも、イスラエルの市民は全部、ボールペンぐらいの長さの自動注射器を渡されていて、ぱきっと折ると一・五センチぐらいの針が出る。それを太ももの外側の筋肉に服の上から突き立てる。そうすると、一回当たり〇・六ミリグラムの溶液が失神しても注入されるから死なずに済む。ところが、その知識がない。

 それで、今度その知識がもたらされたというところで、では、やろうやと。大量に買えば一本百円もしないわけですから。そうしたら今度は、薬事法で自分に注射を打っちゃいけないというのでできないという話でしょう。むちゃくちゃな国ですよ。

 だから、やはり合格点の答案をとるためにはどういうシステムが必要なのかから入っていって、そこで法律という格好で立法府が力を振るっていただくというのがすごく望ましい方向ではないかと思っております。

 ありがとうございました。

井上(喜)委員 浜谷参考人にお伺いいたしたいのでありますけれども、御所論、大変示唆に富むお話だったと思うのでありますけれども、私ども、この法律についての国会承認というのは必要じゃないじゃないかという立場なんですね。

 といいますのは、法律の目的が非常にはっきりしておりますし、しかも自衛隊のやります中身もはっきりしている、基本計画に書くこともきちっと書いてある、しかも二年の時限法なんですね。この法律の承認を国会でされるということは、自衛隊を派遣するということについての承認をいただいたものと同じじゃないか、あえて国会承認を受ける必要はないんじゃないかと思うのであります。にもかかわらず、アメリカのような一般論は別であります、戦争の場合だとか。

 これは非常に限られた授権法だと思いますので、私どもは、事前承認というのは必要じゃないんじゃないかと思うのでありますが、あえて事前承認が必要だと言われるなら、いかなる理由なのか、お聞かせいただきたいんです。

浜谷参考人 私が申し上げたのは、是が非でも事前承認ということにこだわる必要はないと。要するに、最初は報告でも構わない、迅速性といわゆる政策の的確さという両方を満足するためにはどうかという話でアイデアを申し上げたわけであります。ですから、必ずしも、今委員おっしゃるような事前承認そのものにこだわったわけではないということがまず一つであります。

 それから、承認行為というのは、いわばこれは自国の軍事組織を時によっては犠牲者が出るかもしれないような行動のために使うわけですから、それなりの、要するに使わせる方の側にも責任があると思うんですね。それがまさに、主権者国民の委託を受けた国会の責任だと思うんです。

 したがって、国会議員がそのときに一つ一つの支持と、それから承認を与えるという行為を見れば、現場に行っている人たちも実に働きやすいし、誇りを持ってその活動ができる。そのためには、やはり国会が積極的にかかわるということに重大な意味を私は見出すわけであります。

井上(喜)委員 どうもありがとうございました。

 終わります。

加藤委員長 これにて井上君の質疑は終了いたしました。

 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言お礼を申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただき、また貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 次回は、来る十五日月曜日午前九時から委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時四十八分散会




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