衆議院

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第1号 平成14年11月29日(金曜日)

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平成十四年十一月二十九日(金曜日)
    午後二時五十分開議
 出席委員
  法務委員会
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 棚橋 泰文君
   理事 加藤 公一君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      川崎 二郎君    倉田 雅年君
      左藤  章君    佐田玄一郎君
      下村 博文君    谷畑  孝君
      中野  清君    保利 耕輔君
      増原 義剛君    松島みどり君
      保岡 興治君    吉川 貴盛君
      吉野 正芳君    鎌田さゆり君
      中村 哲治君    平岡 秀夫君
      水島 広子君    山内  功君
      山名 靖英君    藤島 正之君
      木島日出夫君    瀬古由起子君
      植田 至紀君
  厚生労働委員会
   委員長 坂井 隆憲君
   理事 熊代 昭彦君 理事 長勢 甚遠君
   理事 野田 聖子君 理事 宮腰 光寛君
   理事 釘宮  磐君 理事 山井 和則君
   理事 福島  豊君 理事 武山百合子君
      岡下 信子君    奥谷  通君
      後藤田正純君    佐藤  勉君
      田村 憲久君    竹下  亘君
      棚橋 泰文君    谷本 龍哉君
      平井 卓也君    松島みどり君
      三ッ林隆志君    宮澤 洋一君
      森  英介君    谷津 義男君
      山本 幸三君    吉田 幸弘君
      吉野 正芳君    渡辺 具能君
      家西  悟君    石毛えい子君
      大島  敦君    鍵田 節哉君
      金田 誠一君    五島 正規君
      土肥 隆一君    三井 辨雄君
      水島 広子君    江田 康幸君
      桝屋 敬悟君    佐藤 公治君
      小沢 和秋君    阿部 知子君
      中川 智子君
    …………………………………
   議員           平岡 秀夫君
   法務大臣         森山 眞弓君
   厚生労働大臣       坂口  力君
   法務副大臣        増田 敏男君
   厚生労働副大臣      木村 義雄君
   法務大臣政務官      中野  清君
   厚生労働大臣政務官    渡辺 具能君
   衆議院法制局第二部長   柏熊  治君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君
   政府参考人
   (法務省矯正局長)    中井 憲治君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (厚生労働省職業安定局高
   齢・障害者雇用対策部長) 太田 俊明君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    上田  茂君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
   厚生労働委員会専門員   宮武 太郎君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出、第百五十四回国会閣法第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、第百五十四回国会衆法第二〇号)


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより法務委員会厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 先例によりまして、私が委員長の職務を行います。
 第百五十四回国会、内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、これに対する塩崎恭久君外二名提出の修正案、第百五十四回国会、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに第百五十四回国会、水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案及び修正案を議題といたします。
 各案及び修正案の趣旨の説明につきましては、これを省略することといたしますので、御了承願います。
 これより質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。水島広子君。
水島委員 水島広子でございます。
 久しぶりにこの法案に対する質疑をさせていただくわけでございますけれども、通常国会でのこの法案の審議を通して、不可解だったことがだんだんとわかってきたわけでございます。なぜ政府はこんな形の法案をつくったのかということが私にはどうしても理解できなかったのですが、答弁を伺っているうちにだんだんとわかってまいりました。
 どういうことかというと、日本の行政にはつきもののことだと言えますが、法務省と厚生労働省が、どちらも今までの自分たちの仕事に非があったということを認めずに法案をつくろうとするとこういう形にならざるを得ない。法務省側は、鑑定の運用に関して問題があるということを認めようとしない。また、厚生労働省は、諸外国よりも四十年はおくれていると言われている日本の精神医療の現状についての責任を認めようとしない。足りなかったのは特別な患者さんに対するこの法案だけだったのだというふうにまとめたいために、合理的な説明を求められると矛盾に満ちてくるのだろうということです。
 通常国会での私の質問に対する答弁は、率直に申し上げますと、ひどいものであったと言えると思います。ぜひ、この国会においての審議の中では、本当にきちんとした正しい答弁をしていただけますように改めてお願いを申し上げます。
 そんな状況の中で、このたび、与党から修正案が提出されたわけでございますけれども、まず、修正案をなぜ提出したのかを改めて提出者にお伺いいたします。
塩崎委員 水島委員の方から、今、この修正案をなぜ出したのか、こういうお話でございました。
 我々自民党あるいは与党の中でも、この問題につきましては長い時間をかけて勉強し、そして今回、政府提案という形ではありますけれども、法案になって出てきたわけであります。そして、審議の過程を通じ、そしてまた、そこに至るまでの我々の党内での議論の中でも、かなり、今お話がございました現状の足らざる点、そしてまた直さなければならない点については、正直言って率直な議論がありました。ありましたが、今回はこのような形で、とりあえず一歩前進をしようということで政府案として出てきたわけでございます。
 したがいまして、議論の中で政府案に対する批判は真正面から受けとめて、そして、問題点をできる限り明らかにしながら、直せるところは精いっぱい直させていただいて、そして今回、もう一回修正という形で、我々議員の立場から、与党三党で修正をさせていただいたということでございます。
 もちろん、ですから、この中でまだまだ議論がし尽くされていないというところもたくさんあるわけであって、もう言うまでもなく、この重大な他害行為を行った触法精神障害者の処遇の問題につきましては、保安処分の問題から始まって、ずっと長い歴史があって、国会でも平成十一年に附帯決議もあって、やらなければいけないと言われていた。我々自民党の中でもやっていた。池田小学校の事件が不幸にして起きてしまった。これが一つのきっかけとして、またこの議論に加速をさせて、そして今回のことになってきたわけであります。
 今お話があったように、精神医療についても、正直言って本当に随分おくれてきているし、また、医療の中でもこの精神医療というのは特に理解が十分されていない、医療関係者の中でも余り理解がされていない。こういうことがあるわけでありますので、今回、特に精神医療の底上げということを含めて、今後の課題を明確にしながら、我々の、医療と司法の間で、言ってみれば、あっちだこっちだと引っ張り合いをやっていたんですけれども、やはりここで一つの答えを出して、一歩前進をするというふうにさせていただきたいと思っているわけでございます。
 したがって、今回のこれで終わりだというようなことではない。これからまたさらに、医療、福祉、精神に関することについて、そしてまた司法の問題も含めて、これをきっかけとして、政府も、そして我々立法府としても議論を進めていく、そんな気持ちで今回の提案をさせていただきました。
山本委員長 各委員の皆様、御静粛にお願いいたします。
水島委員 それでは、今の塩崎議員の答弁に基づきまして、修正案が提出されたということについて、法務大臣と厚生労働大臣はどのように受けとめていらっしゃるでしょうか。それぞれお答えいただきたいと思います。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによりまして、その社会復帰を促進することが肝要であるというふうに考えておりまして、さきに提案させていただきました政府案は、このような者に対する適切な処遇を行うための新たな処遇制度を整備するため、さきの通常国会に提出させていただいたものでございます。
 政府案につきましては、御審議等を経まして、野党や関係団体の中に反対もございましたことから、今回、与党の方におきまして、これらの御意見等を踏まえた上で修正案を取りまとめられ、提出されたものと承知しております。
 今後とも、この修正案も含め、国会におきまして御審議をいただいた上で、できる限り速やかにこの法律案を成立させていただきたいと考えております。
坂口国務大臣 法務大臣と同趣旨の気持ちでございますが、少しだけつけ加えさせていただきたいというふうに思います。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については、今必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることにより、その社会復帰を促進することが肝要であると考えておりまして、先般、政府案を提出させていただき、そして皆さん方からいろいろの御議論をいただいたところでございます。
 こうした皆さん方の御議論がございまして、それを踏まえて与党の方から、今回、修正案を御提出いただいたものというふうに理解をしている次第でございます。したがいまして、このような御意見を含めまして、今国会で御審議をいただくことを大変光栄に思っております。
水島委員 それでは、修正案の各論について伺ってまいりたいと思います。
 今回の修正の大きなポイントは、第三十三条を初めとする条文で、いわゆる再犯のおそれ要件を、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため」入院をさせて、「この法律による医療を受けさせる必要」があると認める場合というふうに直したことです。
 私は、原案の条文は、再び対象行為を行うおそれの予測が可能であることを前提に書かれたものであって、科学的に正しくないということを主張してまいったわけでございます。リスクの評価というのは、精神科医であれば常にするべきものですけれども、その人がどのような問題行動を起こすのかというのは、病状のみによって左右されるものではなく、ソーシャルサポートの状況ですとか就労状況ですとか、さまざまな因子によって影響を受けるわけです。そのようなことまで予測をすることはだれにとっても不可能であるわけでございます。
 今回の修正がそのような意見を反映させたものであるのかどうかをここで確認させていただきたいと思うのですけれども、「同様の行為を行うことなく、」というのは、そのような文言が入っておりますのは、精神科医に予測を要求するという意味なのか、それとも、あくまでも同様の行為というのは症状の可能性の一つにすぎず、精神科医に要求されているのは、その時点での治療の必要性の判断、治療のあり方の判断なのか、どちらなのでしょうか。提出者にお伺いしたいと思います。
塩崎委員 御指摘のように、政府案では、この本制度により処遇を行うか否かの要件というのは、心神喪失の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無とされていたわけでありますけれども、これについては、今お話ありましたように、再犯のおそれの予測の可否としての議論がなされてまいりました。
 この政府案の要件では、特定の犯罪行為やそれの行われる時期の予測といった不可能な予測を強いるというような指摘がございましたし、それから、このような者の円滑な社会復帰を妨げることになる現実的かつ具体的なおそれがあると認められるもののみならず、何となく、漠然とそういった危険性のようなものが感じられるにすぎないようなものまでこの制度の対象になるんではないかといった問題があったということだろうと思います。
 したがいまして、今回、今御指摘の点につきましては、この修正案によって、このような表現による要件を改めて、この法律による手厚い専門的な医療を行う必要があると認められることが中心的な要件であることを明確にしたということであります。それは、今回、御案内のように、裁判官と精神科医たる審判員が一緒に合議体で判断をするということでございます。
水島委員 そうしますと、法務省に重ねてお伺いしたいんですけれども、この修正案の手続に基づいて、精神科医、審判員が、この人には今はこの治療が必要だ、この治療が必要でないというふうに判断をして、そして治療が必要なくなったと判断した方が、この法律の制度の枠の外に出て普通に生活を送っている中で不幸なことにまた同じような事件を起こしてしまったというような場合に、この審判員であった精神科医というのは責任を問われることになるんでしょうか。
樋渡政府参考人 お答えいたします。
 審判の中で裁判官と協議して、審判員が裁判官とともにそのような決定を下すわけでございますから、通常そういったようなことは考えられないと思います。
水島委員 では、今の同じ箇所につきまして、治療可能性との関連についてお伺いしたいと思います。
 原案では、治療可能性との関連が不明確であって、再び同様の行為を行うおそれがあれば、治療の可能性がなくても入院させるというふうにも読めたと私は思っておりますけれども、修正案についてはどうなんでしょうか。社会復帰を促進するためには治療を受けさせる必要があるというふうに書いているということは、当然、治療可能性がある者を対象としているというふうに理解してよろしいんでしょうか。
塩崎委員 結論としてはそのとおりでございまして、今回の要件は、「精神障害を改善し、」として、そしてまた、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるときということになっておりまして、この法律による手厚い専門的な医療を行う必要があると認められることが本制度の処遇を行うための要件であるということを明確にしたわけであります。
 したがって、治療可能性のない者については、医療の必要性が認められないということでありますから、当然この要件には該当しないということで、入院ないしは通院のこの法律のもとでの決定が行われることはないということだと思います。
水島委員 今回、第十三条におきまして、裁判官の役割の項が新設をされているわけでございますけれども、これはなぜ新設されたのでしょうか。また、ここで言う裁判官の意見というのは何に関する意見なんでしょうか。これも提出者にお答えいただきたいと思います。
塩崎委員 裁判官は、当然役割は司法の立場からということで、言わずもがなで書いていなかったわけでありますし、裁判所法の第七十六条というところに、裁判官が評議において意見を述べることは、言ってみれば当然の義務ということになっていたわけであります。しかし、今回、この法案を政府案の段階で議論するときにさまざまな御批判あるいは御心配が示されて、この合議体の構成員であります裁判官それから審判員のそれぞれの立場というものを明確にすべきではないだろうか、こういう問題意識から、今回、この裁判官の立場というものを明確にしたわけであります。
 そして、何を裁判官が言うのかということでありますけれども、今回、この法律のもとで医療を受けるということになった場合には、当然のことながら、これは強制的に医療を受けていただくということになるわけです。ということは、人身の自由を奪うということに、拘束することになりますし、また人権上の配慮からも、やはり司法の知見を持った裁判官がそういった点を配慮して判断をするという立場が必要だろうということで、ここを明確にして、裁判官にそのような立場から意見を言っていただこう、こういうことでございます。
水島委員 それでは、もともとあったところでございますけれども、十三条第二項の方での精神保健審判員の意見は何に関する意見なのかということを、同様にお伺いしたいと思います。
塩崎委員 裁判官は今言ったような立場からということでありまして、今度は、この審判員は、当然のことながら精神科のお医者さんであられるわけでありますが、例えば不起訴になってきたりしたときには一たん鑑定を経てきたりするわけでありますけれども、改めて他の医師に鑑定をしていただくというようなことについての判断を下す、あるいは、自身がやはりさまざまな条件を見て医学的な知見から判断を下すということで、裁判官とは全く違った立場からの意見を述べ、この合議体の中で判断を一緒に下していく、こういうことだと思います。
水島委員 今、裁判官と精神科医のそれぞれの意見というのが違った立場からなされるものであるというふうに確認をさせていただいたわけでございますけれども、今回、この医療という観点から附則がつけられたわけでございまして、この附則の内容は当然の内容であるとはいっても、これがどれほどきちんと実現されるのかということについて、いろいろと疑問があるということを言われているわけでございますが、これについての拘束力というのはどの程度あるものなのでしょうか。絵にかいたもちになりかねないという批判もあるわけでございますけれども、私は、やはり法律にする以上、こうして法的根拠を持たせる以上は、実現させる義務が政府に生じると考えております。
 この法案が成立した場合に、そして現実に社会的入院者が七万二千人いると言われている中で、このような附則がついた法律が成立したとしましたら、厚生労働大臣はそれをどのように受けとめて、現実にどういうことをされますでしょうか。
坂口国務大臣 平成十一年の患者調査におきまして、条件が整えば退院可能な方がどれだけあるかということを調査しましたところ、今御指摘になりましたように、約七万二千人という数字が出たわけでございます。この七万二千人の方々の退院ですとかあるいは社会復帰を促進しまして、我が国の精神保健、医療、福祉全般にわたり水準の向上を図ることが重要であるというふうに思っております。
 今回、この附則に御指摘の条文が盛り込まれたわけでございまして、この問題により力を入れて取り組む必要があるというふうに思っているわけでございます。こうして条文の中に入れていただきました以上、私たちはこのことを真剣に考え、そして前進をさせなければならないというふうに考えております。さらに、今後これを具体的にどういうふうに進めていくかということにつきましての計画等を明確にしなければならないと思っておるところでございます。
水島委員 もう少し具体的に、この附則の内容を私たちが判断する上で、もう一言お答えいただきたいんですけれども、七万二千人の社会的入院の方たちを何年間で解消するというふうに、この附則から数値目標を立てられますでしょうか。
坂口国務大臣 これは前にもあるいは申し上げたかもわかりませんが、今までは一応十年というふうに言っていたわけでございます。
 これから厚生労働省としてやらなければならないことはたくさんあるというふうに思いますが、一つは、ホームヘルプサービスを充実させていかなければなりませんから、在宅生活を支援する福祉サービスの充実を図らなければいけません。また、グループホームでありますとか福祉ホームでありますとか、住まいの問題が大事になってまいりますから、その整備ということもございましょう。それから、生活を訓練します生活訓練施設、あるいはまた、地域における生活支援センターといったようなものを整備していかなければならないというふうに思います。あるいはまた、さらに、時にはまた悪くなられる方もございましょうから、精神科の救急システムの整備でありますとか、あるいは、これは患者さんの側のことではございませんけれども、地域住民の理解の促進ということも欠かせないことだというふうに思っております。
 これらのことをやっていきますと、マンパワーもかなり養成をしていかなければならないというふうに思いますし、私たち、十年というふうに申し上げたわけでございますが、できる限り、その十年よりも早くできれば、それにこしたことはないわけでございますので、これは積極的に進めたいと思っている次第でございます。
水島委員 長過ぎるかどうかという議論はさておきまして、とにかく最長十年というのが大臣の公約であるというふうに今伺わせていただいたわけでございます。
 ここで、通常国会での厚生労働省の答弁についてきちんと確認をさせていただきたいことがあるわけでございますけれども、人格障害についてです。七月五日の連合審査で、我が党の五島委員が「人格障害による心神喪失あるいは心神耗弱状態ということがあり得ると考えているのか」という質問をしたのに対しまして、厚生労働省は、「人格障害のみを有する者につきましては、我が国では一般的に完全な責任能力を有すると解されております。」と答えられ、また法務省も、一般にあり得ないことと答弁されているわけでございます。
 私は精神医学者としてこの答弁には非常に疑問があるわけでございますけれども、人格障害と一口に言っても、分裂病型人格障害において見られる関係念慮や妄想様観念などは妄想との連続線上にあると考えられておりますし、また、境界性人格障害の診断基準の中には、一過性の妄想様観念または重篤な解離症状も含まれております。
 境界性人格障害の人が、その症状の一つとして一過性の解離状態となり、そのときに重大な犯罪を犯したとしたら、責任能力は問えないと思いますけれども、そのような方は本法案の対象となるのでしょうか。これはきちんと答弁をもう一度していただきたいと思います。
上田政府参考人 人格障害のみを有する者につきましては、我が国では一般に完全な責任能力を有すると解されており、心神喪失等とは認められないため、本制度の対象となることは想定されないものであります。しかしながら、人格障害の精神症状が著しいため、精神疾患が併発している状態に至り、その疾患によって心神喪失等が認められた場合には、本制度の対象となり得るものであります。
水島委員 ちょっと変な答弁だったので、何か専門的な質問になって申しわけないんですけれども、人格障害の症状の一つとして解離状態があるようなときに、それは併存とは言わないと思うんですけれども、今、併存する精神疾患によってというふうに答弁されたわけですけれども、間違っていませんか。
上田政府参考人 精神疾患が併発と申し上げました。
水島委員 併発ですか。どっちでもいいんですけれども、それは症状の一つが起こっただけであって、精神疾患が併発したとは言わないと思うんですけれども、ちょっともう一度お願いします。時間がないので、早くここを通過したいんですが。
上田政府参考人 私、先ほどお答え申し上げましたのは、基本的にと申しましょうか、一般的な、基本的なお話をさせていただきまして、人格障害のみ、そして先ほど申し上げました、人格障害者で精神症状が著しいために、何度も申して失礼いたしますが、精神疾患が併発している状態、そういう状態について心神喪失と認められた場合ということでお話しさせていただいております。
水島委員 ごめんなさい。何かこういうことをここで細かく言うつもりはなかったんですけれども、人格障害の症状の一つとしての解離症状があるということは、別の精神疾患を併発しているのではなくて、その人の診断病名というのは、私は、やはり人格障害のみというふうになるはずだと思うんですけれども、もう一度ちょっと答弁をし直していただけますでしょうか。
 ここで要するに私が伺いたいのは、人格障害という診断名しか持っていない人であっても重篤な解離症状を一時的にでも示し得るわけですから、そのときに重大な犯罪を犯せば本法案の対象になるのではないかと思いますので、ということは、通常国会での厚生労働省の答弁は間違っていませんかということを言いたいんです。
上田政府参考人 部分的な症状については該当いたしませんで、先ほど私が申し上げましたように、精神症状が著しいためというような状況で申し上げているところでございます。
水島委員 答弁になっていません。
 精神症状が著しいために人格障害の人が重大な犯罪を犯した場合の話をしているのであって、きちんとお答えいただけますでしょうか。その方は、診断名は人格障害だけであっても、本法案の対象になり得るか。イエスかノーかでお答えいただきたいと思います。
上田政府参考人 対象にはなりません。
水島委員 話が変わりました。人格障害の方が、その症状の一つとして一過性の解離状態となって、その解離状態である間に重大な犯罪を犯した場合には、責任能力が問えないときの法案であり、また、治療可能性があるにもかかわらず、この法案の対象にはならないという答弁として理解してよろしいんでしょうか。
上田政府参考人 先ほど来私が申し上げていますのは、人格障害者の方で精神障害が合併している方についてと私は申し上げているわけでありまして、ですから、一過性ですとか、そういう部分的な症状については該当しないということで申し上げているところでございます。
水島委員 ちょっと時間がもったいないので、これは後日、私が質問できましたら、あるいはほかの方に質問していただいても結構ですけれども、今の答弁は大変おかしい答弁です。専門家の方もいらっしゃるんでしょうから、人格障害についてもう一度きちんと検討していただいて、もっと正しい答弁をしていただかないと、きょうは質問の時間がもったいないのでここまでにいたしますけれども、今の答弁は本当におかしかったと思います。
 次に質問を続けさせていただきますけれども、矯正施設内での精神医療の質には大きな問題があるということがかねてから指摘をされてきておりますけれども、刑期を終えると同時に措置入院になる人が少なくないことからも、精神医療がきちんと行われていなかったということがわかるわけでございます。
 矯正施設内の精神医療の質については、今回のこの法案の枠の外にあるわけですけれども、これについてはどうされるつもりか、法務大臣にお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 刑務所や拘置所におきます精神科医療につきましては、刑や勾留の執行機関という枠組みの中でその医療体制を整え、近隣の医療機関等の協力を得ながら、できる限りその充実に努めることが重要であると考えております。
 そのためには、専門的な知識や技術を有する医療関係職員の能力の研さんをさらに図るべく、海外へ派遣いたしましたり、学会への参加をさせましたり等によりまして、最新の知見を取り入れさせるほか、一般職員に対しましても精神科医療に関する知識の啓蒙に一層努めるなど、これまでにも増して精神科医療の質の向上に鋭意努めてまいりたいと考えております。
水島委員 ぜひ質の向上はお力を尽くしていただきたいと思います。例えば、イタリアでは、刑務所の中にその人の主治医とか看護師とかソーシャルワーカーが訪問をして治療ができるというふうに、けさイタリアの方から伺ったばかりでございますけれども、やはり自分がなれ親しんだ治療環境がちゃんと刑務所の中でも受けられるということは、一つ非常に参考にすべき点ではないかと思いますので、ぜひそんな観点からも御検討いただければと思っております。
 また、本法案の中の指定入院医療機関について、今度は厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。
 これについては、もうとにかく質のよいすばらしい医療が受けられる医療機関なんだということを今まで説明されてきておりますし、先ほどからの大臣の御答弁を伺いましても、とにかくよい医療を提供しなければいけないのだという趣旨であると伺っておりますけれども、そんなすばらしい医療機関だとしたら、犯罪を犯さなければ入れないというのはおかしいのではないか。犯罪を犯していない人は質の悪い医療、犯罪を犯した人は質のいい医療というのはおかしいんじゃないかという批判がかねてからあるわけでございます。
 もっと柔軟に、一般の患者さんも使えるようになった方が、結果として医療の透明性も向上すると思うわけですけれども、今後この指定入院医療機関についてはどういう方向で考えていかれるのか、厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 本制度におきますところの指定入院医療機関につきましては、まず、本制度の対象者に対して継続的かつ適切な医療を行うために計画的に整備をするということになっておりまして、原則としては対象者以外の者を入院させることは考えていないわけでございます。
 しかし、今御指摘になりましたように、それじゃ、一般の精神病の皆さん方はどうするのかというお話があるわけでございます。これは車の両輪で、一般の精神病の皆さん方に対する問題にも進めていかなければならないというふうに思います。一番最初に先生からおしかりを受けましたけれども、決して今まで十分であったと思っているわけではございませんで、反省すべきところは反省をしているわけでありまして、ぜひ、一般の精神病の皆さん方に対しますところも充実をさせていかなきゃならない、両方相まって前進をさせていかなければならないというふうに思っております。
 そういうことを前提にした上で、しかし、今回つくりますこの施設、この中が限られたベッド数でございますから、満床になるのか、それともあきが出るのかということはわかりませんけれども、そこへ、一般の皆さん方の中で重症であるいはまた急性で必要な人があるということであれば、それは完全に除外するというわけでは決してないというふうに理解をいたしております。
水島委員 今回の修正案では、精神保健観察官の名称が社会復帰調整官に変わっているわけでございます。これについては、実態が変わらないのに名称だけを変えても仕方がないのではないかという批判が既にあるわけでございますけれども、今回、なぜこの名称を変更されたのかということを提出者にお伺いしたいと思います。
 また、精神保健福祉士は、どんな状況にあっても自己決定を尊重し信頼関係を築く中で精神障害者の権利と尊厳の回復の支援に努めるところに国家資格者としての存在価値があるということを精神保健福祉士協会の方たちもおっしゃっているわけでございますけれども、この本来の役割とこの法案の中で期待されている精神保健観察という役割とが矛盾するということはないのでしょうか。
塩崎委員 今回、社会復帰調整官という名前にこの前の精神保健観察官から変更したわけでございます。一番の理由は、何といっても、そもそも観察をされるというのがいかにも精神障害者に対してどうだろうかということで、この法律自体の目的が、精神障害者の方の社会復帰をさせるということが最大の目的でありますから、やはりそれにふさわしい名前にすべきじゃないだろうか、こういうことで社会復帰調整官という名前にさせていただいたわけでございます。
 今、本来の役割と今回の役割との関係はどうなんだという御質問でございますけれども、基本的には、やはり地域社会における障害者の社会復帰に向けてのコーディネーターとしてPSWの方に働いていただこう、こういうことでありますから、本来の役割と今回の役割が相入れないということは全くないというふうに思っているわけでありますし、あらゆる面で、このような立場になられた精神障害者の処遇につきましては、非常にプライバシーにも配慮しながら、地域へ再び溶け込むことができるようなことをよく考えていかなきゃいけないということで、今回、この観察所は、保健所とか地域保健センターとか、そういうところとのコーディネーターの役もするということになっていますから、そんな中において、PSWである社会復帰調整官が本来の役割を担いながらこの新しい仕事をしていただくということで御活躍をいただきたいというふうに思います。
 今までの措置入院での一番の欠点は、退院をしたけれども、後の医療が必要であるにもかかわらずきちっと医療を受けないということを、私も地元で精神科の先生方から本当に悩みとして聞くことがよくありました。そういうことがないように、きちっと医療に通院をしながら、また、復帰できるような形になるためにも、この調整官には頑張っていただきたいなというふうに思っております。
水島委員 確認の質問でございますけれども、精神保健福祉士の主管でございます厚生労働大臣といたしましても、本来の仕事の役割とこの法案の中での役割が矛盾することはないとお考えになっていらっしゃいますでしょうか。
坂口国務大臣 今提案者から御説明のあったとおりでございまして、矛盾するものではないというふうに思っております。
 この法案の対象者の円滑な社会復帰を図りますために、先ほどもコーディネーターというお話がございましたが、コーディネーターとして対象者本人と接触を保ちながらさまざまな機関との連携協力体制の整備等を行っていくためには、この精神保健福祉士は欠かせない存在であるというふうに思っている次第でございます。
水島委員 また、この法案に関しまして、現在、重大犯罪を犯した人で、検察まで至らないうちに警察段階で二十四条通報されている人というのがいらっしゃるわけですけれども、この方たちは、要件を満たせば必ずこの新法の対象になるのかどうかということを確認させていただきたいんですけれども。
樋渡政府参考人 精神保健福祉法第二十四条に基づきまして警察官が都道府県知事に通報した者でありましても、その者が対象行為を行った者であり、それが被疑事件として立件送致され、本法律案第二条第三項に該当する場合には、本法律案の対象者となると思います。
水島委員 また、もう一つ現状について確認させていただきたいんですけれども、簡易鑑定で不起訴となった後に、医療機関に行きましてから、そこの医師によって責任能力が認められるのではないかと判断されたようなケースがもう一度刑事手続に乗りにくいということを現場の精神科医の方たちから私はよく聞くわけですけれども、これはどういうふうになるんでしょうか。
樋渡政府参考人 不起訴処分といたしました事件の再起につきましては、法令上の制約があるものではございませんで、お尋ねの場合、検察当局におきましては、その医師の意見等を考慮し、詐病等の事実が疑われ、再捜査の必要があると判断した場合などには、再度刑事事件として取り上げることとなるというふうに承知しております。
水島委員 司法と精神医療のそこの連携について非常に現場でうまく運用されていない点が多々ございますので、そこについてはぜひ法務省としてもきちんとした御指導をいただけますように、現場の医療機関が困ってしまわないように、それを改めてお願いを申し上げます。
 また、私たちが提出をしております民主党案では、鑑定センターの設置をして鑑定の適正化を図ることを考えているわけでございますけれども、鑑定の適正化ということに関して、法務省と厚生労働省はそれぞれ何をされるつもりであるか。これは両大臣にお答えいただきたいと思います。
坂口国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者についての適切な処遇を決定するためには、まず、今御指摘になりましたように、責任能力の鑑定が的確に行われることが肝要でございまして、この問題を含めた司法精神医学の研究基盤をしっかりと構築をして、全体のレベルアップを図っていく必要があると考えております。
 そうしたことを踏まえまして、来年度から、国立精神・神経センターに司法精神医学に関する研究部を設置いたしまして、そして診療部門との協力のもとで、臨床疫学、社会学、心理学などを合わせた総合的な観点から司法精神医学の研究を行う予定でございまして、御指摘の課題につきましても真剣に取り組んでいきたいと考えております。
森山国務大臣 事件の捜査処理に当たりまして必要となる精神鑑定につきましては、事案の内容や被疑者の状況等に応じまして、適切な手段、方法を選択する必要があると考えております。
 この関係で、簡易鑑定というのがございますが、これは従来適切に行われてきたというふうに考えますが、またさまざまな御意見があることもございまして、さらにその適正な運用が行われますように努力したいと思います。
 専門家の御意見等も踏まえながら、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医などをも加えた研究会等においてこれを活用すること、検察官等に対していわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、また、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるよう運用を検討することなどの方策を講ずることを検討したいと考えております。
水島委員 私たちは鑑定センターをぜひ設置していただきたいということで、これはまだお願いをしたいわけでございますけれども、いずれにしても、そこで期待されている機能について、今御答弁いただきましたような内容を本当に積極的に推進をしていただけますようにお願いいたします。
 最後に、この修正案の提出者に確認をさせていただきたいわけでございますけれども、今回、第一条の第二項がつけ加わりまして、円滑な社会復帰に対する努力義務という項目がつけ加わったわけでございます。
 これについては、こんなものをつけても法律の本質が変わらないではないかというような意見もあるわけですけれども、確かに、この努力義務規定がつけ加わることによって、おまえはどうせ社会復帰などできるわけがないなどというような偏見に満ちた発言は関係者には許されなくなると私は思っておりますし、この第一条の第二項の内容を否定するものではないわけでございますけれども、このような第二項がつけ加わったとはいっても、第一項の目的が修正されていない以上は、この法案の目的は再犯の防止であるということは変わらないということを指摘されている方たちが、そういう不安の声があるわけでございますけれども、この点について、最後にきちんと提出者にその心をお伺いしたいと思います。
塩崎委員 今回、第二項にあのような形で改めて関係者の責務を書かせていただいたのは、さきの国会での議論の中でさまざまな御疑問、御心配が出てきたからこそ加わったものの一つであって、やはりその精神が一番大事だということで、そのようなことを改めて書いたということでございます。
 そして、もちろん、我々党内で議論したときも、そして今でも、これが社会防衛を目的としたものでは決してないということで、特に今回は、医療に当たっていただくことによって社会復帰が早くできるようにということが最大の眼目だということでありますので、継続的な、そしてまた高度な医療を受けて早く社会復帰をしてもらうということで、決して社会防衛のために閉じ込めるというようなことではないし、そのための手だては、水島議員も御案内のように、いろいろな形で、必要になれば出られるように申し立ても早くするとか、そういうことをずっと加えたつもりでございますので、そのようなことではないというふうに言わせていただきたいと思います。
水島委員 本日、今四十五分間いただいて質問してまいりましたけれども、本当に表面的にざっとこの修正案の内容を確認させていただくような質問しかできなかったわけでございます。さらに踏み込んで伺いたい点、またさらにきちんとはっきりさせておかなければいけない点も多々ございますので、ぜひ、この国会、会期末も近くなってきておりますけれども、きちんと審議時間を確保していただいて、十分な審議を尽くしていただきたい、そして日本の精神医療が確実に前進していく、そんな結果につなげていただきたいということを改めてお願いを申し上げまして、質問を終わらせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。
山本委員長 次に、山井和則君。
山井委員 久しぶりにこの法案の審議となりました。
 先ほど水島議員からも御指摘がありましたように、通常国会での御答弁というのは非常に意味がわからなかった。そのことで今回修正案を出されてきたようでありますが、ぜひとも明快な答弁をお願いしたいと思います。
 本日、十二ページに及ぶ資料をお配りさせていただきました。主に坂口大臣にお伺いしたいと思います。塩崎議員、また森山大臣にもお聞きする面もあるかと思いますが、この資料を見て、またいろいろ御答弁をいただければと思っております。
 まず冒頭、通常国会での私の質問から入らせていただきます。
 通常国会での質問の中で、森山大臣からの答弁で、この法案は池田小学校事件の宅間容疑者を対象としない、そういう御答弁をいただきました。そして、そのことについて、小泉首相も恐らく御存じであろうということをおっしゃっておられました。というのは、この法案の議論は、そもそも池田小学校事件の際に、小泉首相が、こういう精神医療に不備があるのではないかということをおっしゃったことがきっかけになっているわけであります。
 そのとき森山大臣にお願いしましたのは、ぜひとももう一度、小泉首相が、この法案は池田小学校事件は対象にならないということを御存じなのか、そしてそのことに関してどういう感想、意見を持っていられるか聞いていただきたいということをお願いして、大臣から、そうしましょうという御答弁をいただいたわけですが、そのことについて、小泉首相の御意見、お伺いしたいと思います。
森山国務大臣 先生からのお話がございましたことを小泉首相にもお伝えいたしました。
 前にも申しましたけれども、もともと総理は特定の事件を対象として発言されたのではございませんで、池田小学校の事件をきっかけに、一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因する不幸な事態を繰り返さないように、そのための対策が必要であるという趣旨を述べられたものでございますから、特段のコメントは改めてはございませんでした。
 なお、御指摘の事件につきましては、現在公判係属中でございまして、責任能力の点も含め、最終的には裁判所によって判断されることになるわけでございますので、その点は御理解をいただきたいと存じます。
山井委員 二点、納得できない点があります。
 一つは、特定の事件に対して発言したんではないということですが、これは明らかに池田小学校事件に対するコメントを求められて、マスコミに対して発せられた発言であります。それを今になって特定の事件は関係ないと言うのは、余りにも無責任じゃないか。この法案の審議の一つのスタートなわけですから、そこは根本的におかしいと私は思います。
 もう一点は、特段のコメントはないと。総理の言葉がきっかけでこういう審議が始まって、通常国会で継続審議になって、今回仕切り直してもう一回やろうというのに、コメントがないというのはどういう意味ですか。もう一度お願いします。ないというのはどういう意味なんですか。
森山国務大臣 先ほど修正案の提案者からも水島議員の御質問に対するお答えがございましたが、その中にありましたように、この種の問題は、大分前からいろいろなところで議論をされてき、さまざまな研究や調査が行われまして、何とかしなければならないという問題意識があったのでございます。
 もう大分前からそのような意識がありましたところへ、たまたま昨年池田小学校の事件が起きまして、特に注目を浴び、このような精神障害のために深刻な犯罪を犯すというようなことが起こった場合にはどうするんだろうかという問題意識が一般的に大きく広くなりまして、そのことについてこの際よく考えて対策を講ずるべきだということを総理がおっしゃったわけでございますので、それは……(山井委員「なぜコメントがないのかと聞いているんです」と呼ぶ)はい。そのようなわけでございますので、池田小学校の事件とこれは直接は具体的に関係はございませんし、先生の御意見、お話をお伝えいたしましたけれども、そういうことで今法案の審議の最中でございますということを申し上げて、ああそうですかということでございました。
山井委員 ああそうですかじゃないでしょう、重要な法案なんですから。やる気があるならやる気があると、そして、そんなはずじゃなかったんならそんなはずじゃなかったと。首相のリーダーシップで、それがきっかけでこれは始まっている法案なんですからね。そこはしっかりしていただきたいと思います。
 今回、修正ということでありますが、塩崎議員にお伺いしたいと思います。
 今回、先ほどの水島議員に対する答弁を聞いておりますと、これは、四十二条の修正によって範囲は狭くなったということなんですけれども、範囲がより限定されたということですね。それでは、限定的になったならば、もともとの政府案では対象になっていたのにこの修正案では対象にならなかったケースというのはどんなケースか、具体的にお答えください。
塩崎委員 さきの国会の審議の中で、あるいは私ども地元で精神医療に携わっているさまざまな方々と話をしたときにやはり問題になったのは、例の「再び対象行為を行うおそれ」ということでありました。
 先ほども申し上げたように、特定の具体的な犯罪行為の予測とかあるいは時期の予測などという不可能なことを想起させるようなことでもあったし、また、漠然とした危険性というか、もう何でもかんでも全部入れちゃおうみたいなことに感じ取られていたところもありましたし、先ほど水島議員からお話があったように、社会から隔離をするんじゃないだろうか、そういうような形のことなんではないだろうかという疑念がさまざまあった上に、さらに、こういうことで危険人物というレッテルを張ってしまうんじゃないかというような意図があるんじゃないかというような誤解もたくさんあったわけです。
 これを率直に我々は認めて、この表現を変えようということでございまして、今回、特に要件を医療の必要性という要件に限定をするということです。政府案でいきますと、医療が必要だということがもちろんあったわけでありますけれども、しかし、では医療が必要な人だったら全部そうなるのかというと、また、先ほどのようないろいろな問題を引き起こしてしまうだろうということで、この中で、特に、こういうような同じような行為を行うことなく社会に復帰できるような配慮をする者だけがそうなるんだ、この対象になるんだということにしているわけであって、いわば入院等の要件を明確化し、そして、本制度の目的に即した限定的なものにしようということであって、先ほどちょっと議論が出ましたけれども、医療の対象ではないという人までが入るかもわからないというようなことがないようにしていこうじゃないかということだろうと思っております。
山井委員 純粋な医療の必要性ということなんですが、先ほどの水島議員の質問ともかぶるんですが、それでは裁判官はなぜ関与するのか。水島議員の質問に対しては人権上の配慮であるということなんですね。ということは、確認したいんですが、これは再び事件を起こすとか、そういうことの意見なり判断は裁判官はしないんですね。塩崎議員。
塩崎委員 先ほど来申し上げているように、この制度では、高度な医療をもって障害を克服してもらって、早く社会に復帰してもらおう、こういうことが最大の目的で、その入り口でこの審判が行われるわけであります。
 そのときに、精神科のお医者さんである審判員とそれから裁判官が合議体で判断するわけでありますけれども、そのときの裁判官の判断というのは、先ほど申し上げましたように、この合議制の中で決まった場合には強制的に医療に当たってもらうということになるわけですから、人身の自由を奪うということになります。そして、その際に、当然、人権の配慮等が必要であることは先ほど申し上げたとおりでありますけれども、裁判官として、例えば、このままの場合で医療を本当に続けられるような環境にこの人がいるのかどうかとか、それから生活環境そのものがどうなんだというようなことについては、必ずしもこれは医師が判断する問題ではなくて、やはり司法の立場から、人権にも配慮し、また、医療に従事できるのかどうかといった環境とか、その人の置かれている状況とか、そういうものを判断するための、法律の言ってみればプロとしての知見をもって、ここで二人のうちの一人として判断をする、こういうことだろうと思います。
山井委員 ちょっと私、納得できないんですけれども、そうしたら、生活環境で再び事件を起こすかどうか、危険な生活環境かどうかということを裁判官はやはりそこで判断するわけですか、今の話によると。
塩崎委員 例えば、通院する場合の治療が継続できるような生活環境にあるのかどうかとか、そういうことを判断することであって、何か物事を起こすんじゃないかとか、そういう判断ではないと思っております。人権を奪う、あるいは自由を奪うというのは、強制的にこの法律に基づく医療に当てるわけでありますから、その自由を奪うという意味においてやはり司法の判断というのが必要であるということを申し上げているわけであります。
山井委員 でも、措置入院でそういうことというのは医師がやっているわけですね。
 では改めて聞きますが、きょうの私の資料の三ページ目を見ていただいたら、措置入院が非常にばらつきがあるんですね。丸をしてある大阪では人口十万人当たり〇・七人、佐賀県では九・四人というふうに、同じ日本で十四倍もある。まさに、塩崎議員が御指摘された、これは基準がやはり余りにもあいまいで、人権上の問題があるんじゃないかという気がするわけですけれども、塩崎議員の論理からいくと、そうしたら、今後は措置入院にも裁判官がやはり判定を一緒にする、そういう方向性で措置入院の方も変えていくというふうな理屈になると思うんですけれども、塩崎議員、いかがですか。
塩崎委員 今回、この法律に至るまでの自民党の中での議論に私も参加をしておりましたが、その際に、この制度をどこが責任を持ってやるのかというときに、今回のように国がやるということも一つの選択肢としてありましたし、それから都道府県がやるという選択肢もあったわけであります。
 先ほど山井議員がおっしゃいまして、措置の場合にはお医者さんが判断をしているということでありますけれども、実際の処分権としては、これは知事ないしは指定都市の市長がやっているはずなんですね。ですから、そこの行政が、もちろん人権にも配慮をするんでしょうが、判断をするか、それとも裁判官がするかという選択肢の中で、我々はやはり司法の中で判断をしてもらおうということを言ったわけであります。
 特に、今いみじくもおっしゃったように、全国で今ばらつきがあるというお話がありました。まさにこれは、我々が今後議論しなければいけない、言ってみれば措置入院制度の抱えている問題点の一つであって、我々もそうだと思っております。それは都道府県の知事に任されている形で運営されているわけでありますので、そういうばらつきが出てくるわけでありますけれども、今回この法案では、国、全国一本で考えようということであります。
山井委員 理解できませんが、措置入院は裁判官がいなくても人権に配慮できて、今回のものは裁判官がかまないと人権に配慮できないという、その違いをもう一回言ってください。
塩崎委員 知事も当然それは人権に配慮をしているだろうということを言っているわけで、つまり、措置というのは知事の判断で処分でありますから、そのときにしているはずだということを申し上げているわけであって、私どももいろいろな議論の中で、患者の皆様方もそうでありますけれども、障害者も裁判を受ける権利があるということも随分聞きました。そういう中で、人権が守られるはずである裁判の場でこのような処分が決められるということを我々は選択したということでございます。
山井委員 その理屈だったら、今回の法案も、別に裁判官じゃなくて知事が決めたらいいんじゃないですか、都道府県が。
塩崎委員 申し上げましたように、議論の途中でそういう意見もございました。しかし、今回は国が、全国どこでもやはりこのような高度な医療を施すことによって、法に触れてしまった精神障害者の皆様方がまた社会に早く復帰できるような形にしていこうというスキームにしたわけでございます。
山井委員 答弁になっていないと思います。
 なぜ措置入院は裁判官がかまずに人権に配慮できて、今回のものは裁判官がかまないと人権に配慮できないのか、その説明をもう一回してください。
塩崎委員 今回は裁判官が人権に基づく判断もしますということを申し上げているわけであって、措置の中では、その立場にあるのは、措置をする知事がしなければいけないはずだということを申し上げているわけでございます。
山井委員 堂々議論になると思いますが、これは一つとにかく指摘しておきたいと思います。裁判官が関与する理由というのが非常に不明確であるということであります。
 その次に、塩崎議員に続いてお伺いしますが、この専用病棟、入院は大体どれぐらいになると修正案をつくられた立場から思っておられますか。
塩崎委員 どのくらいにというのは、すぐれてこれは医療の問題であります。
 我々は、今回の修正は、いろいろな批判が先国会でもございましたし、全国からいろいろな意見が私どもにも寄せられてまいりました。つまりそれは、先ほどお話があったように、隔離をするんじゃないか、つまり入ったら出てこないんじゃないかということが皆さんの御懸念であったわけでありますから、長さという点においては、それは医療が必要な間は入っていただくかもわからないけれども、医療が必要じゃなくなったら、もう可及的速やかに出られるようにしたいということで、この制度の中でもごらんをいただいたとおり、今回特に修正をいたしましたのは、入院が決まった後でも三カ月間は本当は退院の申し立てができなかったものを、すぐに、翌日からでも申し立てはできる。つまりそれは、医学的に見て医療を施す必要がなくなったにもかかわらず入れられている人が、おかしいじゃないかといって申し立てをすることができるということでありますから、いつまでという、期間を特定するというのはなかなかこれは難しいと思います。
山井委員 塩崎議員、地域の当事者の方々と話して、今回の法案は無期限に閉じ込めるんじゃないか、そういう心配があったということを先ほどおっしゃっておられましたが、今の答弁ではその心配は全く消えないんですね。個人的なイメージでもいいですけれども、一年ぐらいを考えておられるのか、三年ぐらいか、五年ぐらいか、十年ぐらいか、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。
塩崎委員 それは、それぞれの人の持っておられる障害の医学的に見た難易度によって、その治療ができるのかどうか、どのくらいの期間でできるかどうかにかかるわけであって、それが一年とか五年とか、そういうことは予測はできるわけはないし、私も医者ではありませんし。
 それと、一番大事なのは、むしろ今山井議員がお尋ねになっているのは、不必要に長くなるんじゃないかという御懸念からそういう質問をされているんだろうと思うんです。それは私たちも、長期の入院が今の一般の精神医療の中でもとても多いわけでありますから、最近は少し短いのもありますけれども、むしろ本当にいいのかなという短さもあるのかもわからないし、何でこんなに長いんだというのもたくさんあって、それが先ほどの社会的入院の答弁になっていると思うんです。ですから、山井議員と私たちの懸念は全く同じものを持っていて、その目をもって私たちは立法府としてこの法律を見ていかなければいけないし、その施行状況をウオッチしていかなければいけないんだろうというふうに思っております。
山井委員 私は塩崎議員のようにそれほど楽天的ではないので、やはりある程度何年ぐらいかというものをイメージしないと、治療が終わったら出られるからということで法案を進めるというのは、やはりちょっと問題があるんじゃないかなと思っております。
 そうしたら、お医者さんでもあります坂口大臣、大体これは何年ぐらいと想定されているのか。それによって、一年なのか、五年なのか、十年なのかによって法案の意味が全然違ってまいりますので、坂口大臣、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 これは、前通常国会におきますときにも御答弁を申し上げたという記憶がございますが、厚生労働省の調査したものによりますと、平成十二年度におきまして、検察官通報による重大犯罪ケースで措置入院となりました患者さんにつきまして調べましたところ、半年で約五〇%が措置解除というふうになっております。半年で五〇%になっております。
 本制度におきましても、五年とか十年とか、今御指摘になりましたような長い間を想定いたしているわけではございません。原則として六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否というものを確認することになっておりますし、また、その時点の病状等を考慮いたしまして入院継続の要否を判断することになっております。
 したがいまして、これらのことを総合的に勘案いたしましたときに、その調査をいたしましたことを我々は念頭に置いて考えていきたいというふうに思っている次第でございます。
山井委員 今の坂口大臣の答弁からも、どれぐらいかというイメージが正直言ってわからないわけですね。
 言ったらなんですけれども、これはやってみないとわからない、人によってもさまざまだ、運が悪かったら十年、二十年になるかもしれない。そういうところが当事者の方が一番心配していることで、それだったら、きっちり起訴されて刑罰を受けた方がまだ、あと五年かとか、あと三年かとかいうことが言えるんじゃないかというふうな声が当事者の方からあるわけです。
 そこで、私の資料の一ページ目を見ていただきたいんですけれども、これは通常国会でもお示しした資料で、ドイツの場合は二年、四年、四年、イギリスの場合は、高度な病院から軽度な病院までいろいろありますから、十三・八カ月とか、三百五十日とか、各国によっていろいろありますが、坂口大臣、私は一番心配していることが三つぐらいあるんですね。
 一つは、今予算要求されていることで、専用病棟を建てて、最初は東京とか九州とか、全国に二、三カ所じゃないかと想定されるんですけれども、地域から離されてしまうわけですね。遠く遠くの地域に集められて、離されてしまうということ。
 それと二番目は、レッテルを張られる。あの患者さんは精神病院の中でも犯罪をされた大変なところから来られたらしいわよというようなレッテルを張られてしまうかもしれない。ただでさえ、私の知り合いも言っていましたけれども、精神障害者の方が精神病院から退院するときに、アパートを二十軒回っても全部断られる、病院から出てきた方はお断りですと。それが、こういう専用病棟からだったらますます難しくなるのではないか。
 それと、先ほども言いましたように、三番目は、当事者の方々もいつまでここに入っていたらいいのかわからない、もしかしたら、乱暴なことをやっていたら二十年、三十年いるのかもしれないと思ったらやはり、リハビリというか治療というか、そういうのにも身が入らないかもしれない。不安が募る。つけ加えるならば、そんな遠く行ってしまったら、なじみの友達にももう会いにくい、家族にも会いにくくなってしまうかもしれないんですね。
 例えば、イギリスのブロードモアという司法精神病棟でもこういう問題があって、思っていたより社会復帰が難しいということが、長期化しているという問題が出ていて、直接はもう地域が受け入れてくれないから、ほかの病院を転々として、ブロードモアにいたということを消さないと地域が受け入れてくれない、そんなことも起こっているわけです。
 次の二枚目、見てください。ドイツの例。これも、傍線が引いてありますように、「平均入院期間は約六年。九〇年ごろは四、五年だったが長期化している。これは全国に共通する傾向だ。」これは下のところですね、今の現状はどうかというと、「少なくとも保安の機能は果たしているが、治療となると難しさが伴うのが現実のようだ。」「施設収容には「無期限の自由刑」の側面があることは否めない」。
 坂口大臣もドイツのハンブルクの司法精神病棟を見学されて、そこを見てこられたと思うわけですけれども、私は心配しているのは、塩崎議員とか坂口大臣は、いや、もう治療したら早く帰すんですというつもりでこの法案をつくられた、ところが、いざふたをあけてみたらそんな簡単に帰せなかったということでは、これは大変なことになるわけですから。
 今言った、地域から切り離される、スティグマ、レッテルを張られる、そして無期限ということで本人の不安も大きい、こういうことで、かえって社会復帰が難しくなるんではないかということに関して、大臣、いかがですか。
坂口国務大臣 今三つのことをお挙げになりましたが、まず、先ほどもお聞きになりました期限のことでございますけれども、今までのその統計的なものによれば、先ほど言いましたように、半年の人が五〇%ということであったということを先ほど申し上げたわけです。
 今回の修正案を出していただくことによりまして、この修正案によりましては、社会復帰が可能かどうかということが一つの大きな目安になるようになりました。今まではそうしたところが、私は政府案を提出した側でございますけれども、しかし、そこは今回ほど明確でなかった。今回の修正案の方が社会復帰ができる。これは、いわゆる病気として診た場合に社会復帰がもう可能だというふうに判断されるときには、それは社会復帰をしてもらうということになったわけでありますから、私は、ここはかなり明確になったというふうに思っているわけでございます。
 したがいまして、これは、お帰りをいただいたときに地域でどう受け入れるかという問題がその次に出てくるわけであります。レッテルを張られるというお話がございましたが、今回つくりますこの施設は、これは特別にそこだけの施設をつくるわけではございませんで、現在存在をいたします国立あるいは県立のような、そういう精神病院の、その中のどれかの病棟を改造させていただくなりいたしまして、そしてそこをこの施設にするということでございます。
 したがいまして、その病院ももともと精神病院じゃないか、精神病院から帰ってきたじゃないかというレッテルまでは取れないかもしれませんけれども、しかし、その中のどこに入っていたかということまでは問われないようにすることができ得るというふうに私は思っている次第でございます。
 もう一つの、遠隔のお話がございました。これは、最初の段階は若干お許しをいただかなければならないのではないかというふうに思いますが、できる限り、各地域、それぞれの地域にこれは建設をしていくというふうにしたいと思いますけれども、全体として九百床ぐらいのものでございますから、四十七都道府県全部につくるというわけにはまずいきますまい。そうしたことで、何々地方というようなことでは御辛抱をいただかなければならないというふうに思いますけれども、できる限りそれは分散をするように検討していきたいというふうに思っている次第でございます。
山井委員 二つの簡単なことを大臣にお聞きしたいと思います。
 大臣もお医者さんなわけですから、治療というのは本人のためにあるということはもちろん一番御存じだと思いますし、その治療では今インフォームド・コンセントということが言われています。要は、こういう病院に入るかもしれないその精神障害の当事者の方々が、この法案、この専用病棟をどう思っていられるのかということは非常に重要だと思うんですね。嫌々入るのか、ある意味でいい病棟だったら喜んで入るのかということで。
 それで、大臣は、その当事者の方々の声というのを聞かれたことがあるでしょうかということをお聞きしたいと思います。
坂口国務大臣 いわゆる精神病院に入っておみえになります、あるいはまた入っておみえにならなくても精神病と言われる病気を患っている皆さん方には、私は接したこともありますし、お声は聞いたことも何度もございますが……(山井委員「その病棟について聞かれたことありますか」と呼ぶ)今回のこの病棟はこれからできるわけでありますから、そうした皆さん方に私は接触するわけはありませんし、それはお聞きをしていないというふうにお答えする以外にないわけでございますが、一般の精神病院へ入っておみえになる患者さん、あるいはまたこれから入ろうとする人たちの御意見というのは、私は何度も聞いたことがございます。
山井委員 そういう精神障害者の当事者の方から、何人かの話を聞くと、やはりこれはいつまで入れられるかわからないし、住みなれた地域から離れるというのは、もし自分がそういう事件を起こしたら、それだけはやめてほしいということで反対を表明していられるわけなんです。
 それともう一つ、大臣にお伺いしたいんですが、これは非常に失礼な質問になるかと思うんですが、自分の身として考えて、まあこれは私でもいいんですけれども、運悪く、精神障害を患って心神喪失状態でだれかにけがをさせてしまった、そのときに、大臣だったら、住みなれた地域の措置入院で、人手をそこに多くしてもらってそこでいいケアを受けたいか、それか、見ず知らずのところの専用病棟に入って、いつ出れるかわからないんですけれども、そこの方が新設ですからいいですよといって、そういう見ず知らずのところに行くのと、どちらがいいでしょうか。
坂口国務大臣 私自身が精神病に罹患をいたしまして、そして心神喪失の状態になった、そして重大な過失を犯したということになりました場合、その重大な過失の内容にもよるというふうに私は思いますが、それは取り返しのつかないような重大な過失を私が犯したということになれば、私自身がどこどこの病院へ行きたいと言う、それはなかなか通りにくいことになるのであろう。まあ今私は健全でありますから、健全な立場で考えているのかもしれませんけれども、それは、自分でどこどこへ行きたいという判断はなかなか自分では言えないことになるんだろう。それ以上ちょっと申しようございません。
    〔山本委員長退席、坂井委員長着席〕
山井委員 国連の人権憲章の中でも、精神障害者も地域に密着した医療を受けられる権利があるというふうに書かれているわけであります。
 そして、今の大臣の話を聞いていると、悪いことしたら自分の自己決定もできないで、何か刑務所みたいなイメージを私は持ってしまったんですけれども、治療というのはそこで治すためにあるわけですから、やはり自分は、住みなれた地域で、知り合いも家族もすぐに面会に来てもらえるようなところで治療を受けたいというふうに思いますから、そういう意味では、やはりこれは措置入院を、人手とかハード面もよくして底上げしていくということが本道ではないかと私は思います。
 坂口大臣、またお伺いしたいんですが、資料を見ていただいたら、これは社会的入院の問題ですね、ページ四、日本は世界の国に比べて平均在院日数が飛び抜けて長いわけですね。これはもう余りにも有名なグラフですけれども。それで、病床数においても、四ページですが、七〇年代以降、ベッドを欧米が減らし出してから、日本はベッドをふやした、こういう状況であります。
 次の五ページに移ります。
 二十年以上入院している人が五万人、そして、先ほど水島議員の質問にもありましたが、条件が整えば退院できる方が七万二千人というふうになっているわけであります。これは世界的に見て私は異常だと思います。これほど社会的入院がいる国というのは日本だけなわけですね。
 坂口大臣、先ほどの水島議員への答弁の中でも、反省すべき点は反省するということもおっしゃっておられましたけれども、そのことも関連するかと思いますが、十万人もの社会的入院の方が帰れない、そして、二十年以上、五万人の方も入っておられる。こういう現状をどう思われますか。
坂口国務大臣 この表を拝見いたしまして、今御指摘をいただいたと同じようなことを私も思うわけでございます。
 先ほどもお答えを申し上げたわけでございますが、前回の調査では七万二千人ということになっておりますが、いわゆる社会的入院という人たちは、これよりもふえることはあっても減ることはないんだろうというふうに思っております。この人たちを早く地域にあるいはまた家庭に帰っていただくようにするためにはどうしたらいいのか考えなければならない点を先ほども申し上げたところでございますが、これは、幾つもの点を検討し、そして改革を行い、新しくつくるべきものはつくっていかないといけないというふうに思います。
 それは、一つは、一番大事なことは、やはりそれを受け入れるための人材だというふうに思います。その地域の人材がスクラムを組んで、そして受け入れなければならない。ただ単に一つの職種の人だけではなかなか無理だろう。例えばその地域に医師がいたとしましても医師だけでは無理でありますし、先ほどからの福祉士のお話も出ましたけれども、そうした皆さんにもお願いを申し上げなければならない。あるいは保健婦さんのような形で絶えず病気の御相談に乗る人も必要でございましょう。そうしたチームワークをどうつくっていくかということであろう。
 それからもう一つは、お住まいをどうするかということでございます。そうした意味で、これはいわゆるグループでお住まいいただくようなところをつくるのか、それとも一般のところでうまくそれができるのか、そうしたことも検討をしていかなければならないというふうに思っております。
 したがいまして、十年というふうに申し上げましたのは、それらのことをもろもろ考えると、これを全体に、各地域に戻すということをしようと思えばそのぐらいの年月がかかるのではないかということを想定して申し上げたわけでございますが、何も十年かかろうというふうに初めから思っているわけではございませんで、できる限り十年を縮めていくことができればというふうに、率直にそう思っている次第でございます。
山井委員 これは十年かかると、七ページの新聞記事を見ていただいても、七万二千人のうち四〇%以上がもう六十歳以上の高齢化になっているんですね。
 それで、社会的入院ということは、これからすぐにでも退院できるかもしれないのに、基盤が整わないから退院できない。
 次のページ、お願いします、八ページ。
 これは、国立保健医療科学院、まさに国の方が研究されたことでは、要は、精神病院の長期入院の原因というのはスタッフの不足だと。スタッフが多いところは早く帰れるということがわかっているわけです。さらに、下の基盤整備のところでも、福祉ホームや福祉工場、通所授産施設、こういうのは計画に比べて計画どおり進んでいないわけですね。
 ハンセン病の問題であれだけ人権が大切だということで先頭を切ってリーダーシップをとられた坂口大臣だからお聞きしたいんですが、社会的入院とわかっている人が、こういうスタッフの不足とか基盤整備ができないからということで十年間もし病院に入れられるとしたら、それは第二のハンセン病の問題で、人権上問題があるんじゃないですか。そういうことは、坂口大臣、どう思われますか。
坂口国務大臣 御病気になられた皆さん方のことを中心にして考えなければならないことはそのとおりというふうにして思います。しかし、体制も十分でなくて皆さん方をお迎えするということになれば、余計に皆さん方に御迷惑をかけることにもなるわけでありますから、やはり社会的入院が存在するということを解消するためには、その原因になっているところを取り除いていかなければならないというふうに思います。
 それは、先ほどから申しましたように、人の問題もあり、施設の問題もあり、それから、やはり地域の、それを受け入れる意識改革の問題も、率直に言って私はあるというふうに思います。ですから、そうしたことをやって、総トータルでどうやっていくかということを考えていかないといけないわけでございまして、それらのことを考えながら、これは前進をさせていく。
 確かに、ハンセン病の問題が起こりましたときに、この問題は必ず精神病の皆さん方の問題として議論をされるであろう、内部ではそういう話もしたわけでありまして、早くこの精神科の問題に厚生労働省としても手をつけると申しますか、早くこの問題を解決するように努力をしなければならないねということを当時の局長とも話したところでございます。
 ぜひそうした意味で進めていきたいというふうに決意をしているところでございます。
山井委員 でも、七万二千人いて、そして退院に十年間かかってしまうということを認めるということは、これはもう国が立法不作為を認めているということになりますよ。六十歳の方が、あと十年かかったら七十歳。下手したら、今すぐだったら出れるかもしれないけれども、今出れなかったら一生もうその施設の中ということになってしまうかもしれない。その人の人生、どうなるんですか。
 それで、今の、そう簡単には地域の理解も進まないから一歩一歩帰していく、そう簡単に地域に復帰できないという、まさに坂口大臣のその答弁と、今回の専用病棟からは治療を行って速やかに地域に帰ってもらうというのが、私ははっきり言って矛盾があると思うんです。
 社会的入院でもう本当に帰れるという人が、いや、いろいろ受け皿がなくて、地域の理解もなくて、十年間かかりますと言って、犯罪で事件を起こして、そして手厚い医療が必要、そういう判定をされたような人がすっと地域に帰れる、退院できる。そこは、今回の専用病棟からは速やかに、先ほどおっしゃったように半年とか一年という数字も出ていましたけれども、それぐらいで帰れるというエビデンスというか根拠は何かあるんですか、坂口大臣。
坂口国務大臣 これは今までのデータを信頼する以外にないわけでありまして、そういうデータが出ているということを申し上げているわけであります。それに基づいて、新しい施設をつくりました場合にも、恐らくそれに準じた形で行われるだろう。そういうことになれば、早く地域での体制をつくらないといけないわけでありますから、その地域の体制もつくり上げていきたい。そのことは、とりもなおさず一般の精神病の皆さん方を地域で受け入れる体制とも重なるわけでありますから、特段、特別な人たちだけを受け入れるというわけではなくて、地域でも受け入れる体制をつくっていくということになるわけだと思うんです。
 社会的入院というのは、御承知のとおり、そうした地域の問題もありますし、受け入れの問題もありますし、また医療側の問題もあるかもしれません。しかし、それだけではなくて、いわゆる御家庭の事情というものもあって、そして長くお見えになる方もあるわけであります。そうしたことを考えますと、例えばもう御家族が存在をしないといった場合に地域で受け入れるためにはどうしたらいいかというような問題も起こってまいります。そのときには、もう少し福祉的な施設をつくって、そうして地域で生活をしていただけるようにするというようなことも考えていかなければならないでしょう。
 そうしたことをやはりトータルで考えていかなければ前進しないということを申し上げたわけでございます。
山井委員 いろいろなデータからそういうふうに恐らく推計するということなんですが、はっきり言ってこういう病棟はやってみたことがないんですよね。だからこれははっきり言ってわからないんですよ、実際やってみないと。長くなるかもしれないし短くなるかもしれない。私が言いたいのは、そういうふうにどこかでモデル事業もやっていないような病棟をつくって、早く帰れるはずだということで法律をつくってしまっていいのかということなんです。
 だから、私が提案したいのは、これは来年度予算要求で四十八億円ですか、専用病棟のこととか人材の養成が出ています。これは、法律というより、この法を施行するというよりは、モデル事業でやってみる。先週、国立病院の独立行政法人化の議論しました。そこの中で、国立病院は独立行政法人化して政策医療をやっていくんだというお話ありましたよね。まさにその政策医療のモデル事業としてこれをやっていく。それで何年で帰れるのか、もしかしたら今までの措置入院よりも長くなっちゃうかもしれない、短くなるかもしれない、その進捗状況を見てから、早く帰れる、効果があるとわかった時点で法律にするというのがやはり責任ある立場なんじゃないですか。
 恐らく短期で帰れるとか、先ほどの塩崎議員の、いや、わからないけれども治ったら帰れるとか、それではやはり法案の議論はできないんじゃないですか。大臣、私の意見に対していかがでしょうか。
坂口国務大臣 おっしゃっている意味は私も理解しているつもりでございます。これからやる話でございますからやってみないとわからない面も率直に言ってそれはあると思うんです。しかし、現在までのさまざまなことを考えますと、そういうことにしてはいけないということも一方であるわけですね。長い間そこへ入れておくというようなことにしてはいけない。だから、そういう意味で私は今回この修正案を出されたんだろうと思う。
 今回出されたこの修正案は、いろいろ違った点はありますけれども、その中の一つは、社会復帰というものに非常に力点が置かれている。ですから、社会復帰をさせるためには治療を行わなければならないということをここで言っておみえになるわけでありますから、やはり社会復帰というものを中心にして考えていくということになれば、私は、今までの精神病院の中の状況といったものとは違った新しいものがそこから生まれてくるし、そのことは現在の一般の精神病院にも大きな影響を与えるだろうというふうに思います。
 したがいまして、こうしたこととあわせて、先ほどから御指摘になっておりますように、一般病院につきましても同様のことを車の両輪として行っていかなければならない、即刻これは手をつけていかなければならない問題だということを先ほども水島議員にも申し上げたところでございます。
山井委員 もう時間が来ましたので一言だけ意見を言って終わりますが、今まさに車の両輪ということをおっしゃいました。そのとおりで、こういう司法精神の問題と地域に密着したケアをどうするのか、人手をどうするのかということは、車の両輪なんです。ところが、社会的入院が世界で唯一七万二千人もいるということ自体が、一般の精神医療の人手が足りない、そして地域ケアが足りないということの明らかな証拠なんです。つまり、車の両輪の片輪がパンクしちゃっているわけですよ、今の状況では。このままこういう病棟だけつくっても帰れないということになる危険性があるわけです。
 そういう意味では、やはりこれはちゃんと両輪が動き出す、つまり、一般医療の人手をふやして地域ケアと社会復帰の体制もきっちりつくったときにこの法案をセットで議論する、そのときまでこういう法案を議論するというのは時期尚早であるということを最後に申し上げて、私の質問を終わります。
坂井委員長 次に、石原健太郎君。
石原(健)委員 今議論されている制度によりますと、裁判所の決定があった対象者は指定医療機関に入院したりまた通院したりしなくてはならなくなると考えられますけれども、何年ぐらいでそうした病院は整備されていくおつもりなのか、お聞きいたしたいと思います。
坂口国務大臣 地域において安心して生活をしていただけるようにするための整備というものは、先ほどからも議論をいたしておりますように、一つはやはり受け入れのチームをどうつくっていくか、人の問題でございます。それからもう一つは、この方々が地域にあるいは家庭に、家庭にお帰りになるときには住宅等は要らないわけでありますけれども、中には御両親のお見えにならない方もお見えでございますから、そうしたときには地域の受け入れの場所、住所というものを定めなければならない。
 それは、生活が十分に御自身でできる方もお見えになれば、そうではなくてある程度やはり手を差し伸べなければならない方もお見えになる場合には、その方々がお入りになる、福祉施設というと言葉は悪いですけれども、やはり生活をしていただく場を提供しなければならない、そうした問題がございます。さらにまた、急にまた病状が悪化しましたときに緊急に対応できるようにもしなければならないとか、もろもろのそうしたことを考えていかなければならないわけでございまして、住まいの場所でございますとかあるいはまたチームプレーといったものを考えましたときに、住まいの方は早くつくろうと思えばつくることができるわけでございますが、しかし人の養成というのはそうそうなかなか簡単にまいりませんしいたしますから、若干の時間は私はかかるというふうに思っております。
 私たちも、十年と言いましたときに、できれば五年というふうに言いたかったわけでございますけれども、人の問題もございますしいたしますと、なかなかそこまで、大きなことを言ってできなかったらどうするんだといっておしかりを受けることもありますので、そこまでは言えなかったわけでございますが、できる限り早く私たちもやりたいというふうに思っているわけでございます。
石原(健)委員 次に、今度の法律による対象者は、今までと違って新たに特別につくる病棟に収容されるというふうにも聞いておりますけれども、その理由は何なんでしょうか。
上田政府参考人 今回対象となります者につきましては、殺人、放火等の重大な他害行為を行い、検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち、精神障害のため心神喪失もしくは心神耗弱を認められた者、あるいは第一審裁判所で心神喪失を理由として無罪となった者、あるいは心神耗弱を理由として刑を減軽された者、こういう者が対象になるわけでございまして、私ども、一年間の対象者数につきましては最大四百人程度ではないかということを推計しているところでございます。
 そしてまた、具体的な期間についてはまだまだ把握できない面もありますけれども、先ほど大臣の方からお話し申し上げましたように、一年間で約半数が退院できるということを仮定して推計した場合に、法施行後十年後に約八百から九百床程度が必要になるというふうに考えているところでございます。
石原(健)委員 私は全く素人ですから、あくまでもいろいろな人のお話によってのことなんですけれども、精神病の治療というのは何か隔離的にやったからどんどん早く治るとか、一般のところにいるから治療上まずいとか、そういうことはないというような話も聞きますけれども、そういうことは検討されたんでしょうか。
上田政府参考人 今回の指定入院医療機関におきましては、厚生労働大臣が定める基準において、医療関係者の配置基準を手厚くすることなどによりまして、医療施設や設備が十分に整った病棟において、高度な技術を持つ多くのスタッフが頻繁な評価や治療を実施するものでございます。
 また、今回の修正案により、法案の附則第三条第一項に規定されていますが、本制度は、最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとすることとしております。例えば、欧米諸国の司法精神医療機関で広く実施されております精神療法を導入するなど、高度かつ専門的な精神医療を行うものであります。
石原(健)委員 そうすると、いろいろ比較検討して最終的にこういうふうな方法が一番というふうに、どういう方たちと御相談なさってこういう方法が考えられたんでしょうか。
上田政府参考人 ただいま申し上げました医療のあり方などにつきましては、私ども、研究者等におきましての研究などの成果を踏まえながら、このように取り組んでいるところでございます。
石原(健)委員 年に四百人ぐらいの予想される対象者があるということでしたが、医療スタッフの人数などはどのように配置されるお考えでしょうか。
上田政府参考人 指定入院医療機関における具体的な配置基準につきましては、現在検討を行っているところでありますが、司法精神医学が確立し、手厚い医療を実施している諸外国の例も参考にしつつ、平成十五年度中には適切な配置基準を定めることとしたいというふうに考えております。
 なお、外国の例といたしまして、イギリスの地域保安病棟につきまして御紹介させていただきますと、この病棟におきましては、入院患者二十五名に対し、医師が四名、看護職員が日勤で八名、準夜勤では八名、深夜勤では六名、また、精神保健福祉士が二名、臨床心理技術者二名、作業療法士二名、このように配置されているというふうに聞いております。
 こういった状況も参考にさせていただきたいというふうに考えているところでございます。
石原(健)委員 一般の精神病院と総合的な大病院なんかでも、医療スタッフの数がいろいろのようです。
 今までのお話をお聞きしますと、やはりスタッフが大勢そろっていることが治療に大きな効果を上げるというふうにも受け取れますけれども、先ほどの質問にもありましたが、そういうことであれば、一般の精神病院のスタッフなんかも、どんどん、もっとふやしていくという工夫も必要じゃないかと思うんですけれども、その辺はいかがでしょうか。
上田政府参考人 ただいま委員の方からは、一般の精神病院の人員配置についての御指摘でございますが、私どもも、精神病床の人員配置については充実していく必要があるというふうに考えております。このため、平成十二年の医療法改正によりまして、病院単位の人員基準から病床単位の人員基準に改正されたことに伴いまして、従来の精神科特例を廃止して新たな基準を設けたところでございます。
 具体的には、精神病床を二つに分けておりまして、一つは大学附属病院及びいわゆる総合病院の精神病床と、その他の精神病床に分けまして、前者については、一般病床と同じ基準を平成十五年九月から適用することとしておりまして、また後者については、療養病床と類似の基準を平成十八年三月から適用することとなっているところでございます。
 その後の人員基準のあり方につきましては、今後、検討会を設けまして、さらに検討を進め、この二種類の人員配置基準について、適用すべき精神病床の範囲等について早急に結論を得ることとしたいというふうに考えているところでございます。
石原(健)委員 先ほど大臣の方からも、地域精神医療の充実に一生懸命取り組みたいというお話もありましたし、また、精神病院の充実等についてのお話もありましたが、また私からさらにきちっと計画的にどんどん進めていかれることを要望させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 それから次に、今度の法案に基づいて入院の決定を受けた者が、必要以上に不当に長期にわたって入院することは防止されるべきであるというような考えが示されていますけれども、この法案ではこの点についてどのような配慮がなされているか、お聞かせください。
上田政府参考人 本制度におきましては、裁判所による入院決定の後、原則として六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認することとしており、また、指定入院医療機関の管理者は、入院患者について、その時点の病状等を考慮して常に入院継続の要否を判断し、そして入院の必要があると認めることができなくなった場合には、直ちに裁判所に対し退院の許可の申し立てをしなければならないこととしております。あわせて、入院患者側からも裁判所に対し退院の許可の申し立てをすることができることとしていることから、入院期間が不当に長期にわたることはないというふうに考えております。
 このように、本制度は、対象者の人権保障にも十分に配慮した制度となっているというふうに考えているところでございます。
石原(健)委員 今度の法律では、麻薬とかアルコールなどで一時的に責任能力をなくして重罪を犯した人の処遇についてはどのように考えておられるでのしょうか。今までと同様なら、今までと同様ということでいいんですけれども。
樋渡政府参考人 急性薬物中毒や急性アルコール中毒等によります精神障害が一過性のものでありまして、本制度による処遇の要否等を決定する時点におきまして当該対象者が精神疾患を有していないと認められる場合には、本制度による処遇の対象となることはないと考えられます。
石原(健)委員 今、アルコールで一過性にですか、責任能力なくして罪を犯しちゃった人がまた同じようなことを何回か繰り返すなんということもあるんじゃないかと危惧されるんですけれども、そういう人にはどういうふうに対処されているんでしょうか。
樋渡政府参考人 繰り返しをされましても一過性である場合には同じことでございますが、ただ、診断名が急性薬物中毒や急性アルコール中毒のみのときでありましても、重い意識障害や譫妄が併発しており、現在でも、この現在といいますのは処遇の要否を決定する現在でございますが、現在でも精神疾患を有していると認められる場合には、本制度の対象となり得るものと考えます。
石原(健)委員 今度の制度で、退院後の継続的な医療を確保することも重要であると考えられます。保護観察所がその役割の一端を担うと考えられますけれども、保護観察所は、どのようにして対象者の継続的な医療を確保していかれるのか、また、その社会的復帰の促進を図ろうとされているのか、お聞かせいただきたいと思います。
横田政府参考人 お答えいたします。
 この対象者の社会復帰を図る一番の手だては、何と申しましても病状が改善することでございます。したがいまして、委員御指摘のように、退院後の継続的な医療の確保が重要であることは全くそのとおりであると思います。
 そこで、この法案におきましては、保護観察所が対象者の継続的な医療を確保するための処遇として、幾つかの手だてを考えております。
 まず、政府案の百六条に定めておりますけれども、精神保健観察というものを行うこととしております。これは、具体的には、保護観察所、また、政府案でいいますと精神保健観察官、与党修正案におきますと社会復帰調整官ということになりますが、そのような専門の官職の担当者が、医療機関、保健所等の関係機関と十分に連絡をとり合いながら、対象者の通院状況や生活状況を見守り、対象者本人や家族からの相談に応じ、そして通院や服薬を継続するように働きかけていくということを行います。
 それから、このような精神保健観察の過程で、継続的な医療を確保する上で必要と認める場合には、地方裁判所に対しまして、入院によらない医療を行う期間の延長や、場合によっては再入院を申し立てるということもございます。しかし、他方、本制度による処遇の必要がなくなったと認める場合には、処遇の終了を申し立てるということを規定しております。これは、五十四条あるいは五十九条に定めております。
 それから、さらにもう一つ、この新しい制度の大きな柱の一つでございますけれども、対象者の社会復帰の促進を図るためには、指定通院医療機関による医療や援助、そして都道府県や市町村による援助などが計画的かつ効果的に行われる必要がありますが、このような関係機関、関係者等の関係といいますか、それを調整していく、それによってそれぞれの持つ力を最大限有効に発揮して対象者の社会復帰を図るということが必要になります。
 この法案におきましては、保護観察所、あるいは先ほど申し上げました専門の官職の者が、いわば地域社会における処遇のコーディネーターという役割を担いまして、こういった自治体であるとか、あるいはその他、民間も含めまして、対象者の社会復帰のいろいろな援助をしている関係機関と協議をして、連絡をとり合いながら、より有効な方策を探っていくということを考えています。
 その一つとして、これは法案に規定しておりますけれども、こういう保護観察所が都道府県知事及び市町村長と協議をして具体的な実施計画というものをつくりまして、そして、それに従って社会復帰を図っていくということを行うようにしております。
 このように、本法案におきましては、このような処遇策をいろいろ実施することによりまして、対象者の継続的な医療を図り、そして社会復帰の促進を図るということにしております。
 以上でございます。
石原(健)委員 対象者が通院する場合、通院の費用とか、そこに行く交通費というのはだれがどのように負担するんでしょうか。
上田政府参考人 本制度の医療は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者について、裁判所が、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため本制度による医療を受けさせる必要がある、このように認める場合に、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の防止を図り、その社会復帰を促進することを目的として行うものでありますので、一般の精神病とは異なり、国が公権的観点から行う公共性の高い医療であります。
 また、裁判所の決定に基づき、全国で公平一律に厳格に実施すべきものであるということから、国において一元的に行う医療として、全額国費によることとしております。
 また、本法案における通院医療につきましては、それぞれの対象者にとって社会復帰を図るにふさわしい居住地、環境において医療が行われることが適当であるというふうに考えております。このため、指定通院医療機関については、民間の診療所等も含めて幅広く確保することにより、居住地から容易に通院できるようにしたいというふうに考えております。
石原(健)委員 日本全国すべてにわたって、すぐ近くに通院できる病院があるというわけにもいかないと思うんですよ。電車に乗ったり、バスに乗ったり、タクシーに乗らなくちゃならないときもあるかと思うんですけれども、一般的に、こういう対象になるような方は余り裕福でない方もいらっしゃるんじゃないかというような危惧も持たれるんですけれども、そういう方の交通費はどういうふうになるんでしょうか。
上田政府参考人 ただいま申し上げましたように、指定の通院医療機関につきましては、やはり身近な環境において、あるいは居住地において医療が行われるということが適当というふうに考えておりますので、また、指定医療機関も民間の診療所等も含めて幅広く考えておりますので、そのように通院医療が身近に受けられるような体制を考えたいというふうに考えております。
石原(健)委員 やはり交通費にも困るというような人も場合によってはいるかもしれませんので、今後、そういうことについてはどうするか検討していただけたらありがたいと思います。
 それから、またちょっと戻りますけれども、検察官が裁判所に申し立てをした場合、要否が決定されるまでの日数は大体どのくらいが予想されているかお伺いします。
樋渡政府参考人 検察官による申し立てから裁判所の決定がなされるまでの日数につきましては、具体的な案件を前提とした実務の運用にかかわるものでありますから、現時点で予想することは困難であります。
 しかし、検察官による申し立てがなされた場合には、この法律により、医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合を除き、鑑定その他医療的観察のため、対象者を入院させ、裁判所の決定がなされるまでの間在院させる旨命ずることとなっておりますが、その入院期間は原則として二カ月を超えることができないとされております。
石原(健)委員 医療が必要な場合、大体決まった、みんなホームドクターみたいなのがあると思うんですけれども、精神を患っている方にもそうしたお医者さんがおいでだと思うんですよ。その二カ月間、できればそういうお医者さんに治療を受けることがいいんじゃないかとも思われますけれども、この二カ月間、長い場合なんでしょうけれども、治療はどういうふうに確保されるんでしょうか。
樋渡政府参考人 ただいま申し上げました二カ月間という鑑定入院中には、鑑定その他医療的観察という目的を踏まえつつ、投薬その他の必要な医療が行われるということになると考えております。
石原(健)委員 では、次に、この要否の決定に不服があった場合は不服の申し立てをすると思うんですけれども、高等裁判所では裁判官だけの判断となるようですけれども、医学的な視点からの判断も必要ではないんでしょうか。
樋渡政府参考人 抗告審は、みずから積極的に調査を行って対象者の処遇の内容を決定するものではございませんで、地方裁判所の決定を前提として、決定に影響を及ぼす法令違反の有無を判断することは当然といたしまして、事実認定や処分の当否については、原決定が著しく合理性、妥当性を欠くものではないかとの観点から判断し、原決定を維持できない場合には、これを取り消して、再度地方裁判所に差し戻し、または移送する役割を担うものでございますので、その判断内容は、裁判官による判断になじむものであると考えております。
石原(健)委員 現在の制度のもとでも、鑑定を何度かやり直すというようなことがあったり、鑑定がいろいろひっくり返ったりするようなこともあると思うんですよ。今度の制度だと、地方裁判所の一度のお医者さんの判断で指定入院しなくちゃならないわけですね。何かちょっと、今までの制度に比べると、一人のお医者さんの判断でその人の将来の方向が決まっちゃうというような感じもするんですけれども、その辺はどういうふうに考えておられますか。
樋渡政府参考人 この法律案によりますと、裁判官とお医者さんの審判員との合議体でその処遇を決めるということになっておりまして、その際には、最初の審判には当然、付添人もつくこととなっております。
 そういうように、対象者の方の人権に配慮しながら決定を下していくものでございまして、それに不服であれば、先ほどお尋ねにありました抗告をしていただきまして、その抗告審で裁判官が原決定がおかしいということになれば、もう一度その審判をやり直すというように、手厚くしているつもりでございます。
石原(健)委員 質問を終わります。ありがとうございました。
坂井委員長 次に、木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 前国会で審議してまいりました心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療観察等に関する法律案につきまして、一昨日、法務委員会におきまして与党三党から修正案が出ましたので、それについて中心的にお聞きしたいと思います。
 修正案について、提案者は、四点にわたって趣旨説明をいたしましたが、その第一は、「本制度による入院等の要件を明確化し、本制度の目的に即した限定的なものとすることについてです。」とありますので、きょうは、その問題に絞ってお伺いしたいと思います。
 提案者がこう主張している中心的な条文は、入院等の決定にかかわる第四十二条だと思います。検察官の申し立てを初め、すべての文言がこの条文に沿って書きかえられています。非常に大事なことなので、条文を読んでみます。
 入院処分の要件でありますが、政府案は、「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」、これが要件であります。このような場合には、「医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定」ができる、これが行政処分であります。それが、与党三党の提案者によりますと、こう変わりました。要件の部分はこういう言葉になっております。「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」、一応これが要件の部分だと思うんです。こういう場合には、「医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定」ができる、これが行政処分です。
 この処分を受けますと、当該精神障害者にとっては、身体の拘束を初め重大な制約を受ける、余りにも重大な行政処分でありますから、要件は厳格でなければなりません。
 御案内のように、憲法三十一条は、基本的には刑事手続にかかわる条文でありますが、法定手続の保障が明文化されております。最高裁の判例によりますと、これは刑事手続だけではなくて、この精神は行政処分にも当てはまるんだという判決もあるわけでありますから、それに沿って質問をしたいと思うんです。
 最初に、提案者に聞きます。
 修正案の文言を吟味いたしますと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、」とあります。これが、入院をさせて、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合の目的のような文言になっております。
 三つのことが書かれていると私は思います。一つは、精神障害の改善であります。二つ目には、「これに伴って同様の行為を行うことなく、」これは恐らく再犯の防止ということであろうかと思います。そして三つ目には、「社会に復帰することを促進するため、」社会復帰の促進。要するに、精神障害の改善、再犯の防止、そして社会復帰の促進、この三つを目的として、そういう目的をもって入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があるかどうか判断するんだ、そういう三つの目的をこの条文では法定しているんだと伺っていいでしょうか。
塩崎委員 もともと、再犯のおそれという解釈は私どもは初めからしてないわけでありますけれども、木島先生が御指摘のように、政府案においては、再び対象行為を行うおそれの有無のみが要件であったということだと思います。
 それで、医療の必要性の有無については明記されていなかったということでありまして、今回の修正案では、今お話がありましたが、この精神障害を改善し、そしてまたさらに、この法律による医療を受けさせる必要があると認めるときということにすることによって、この法律による手厚い専門的な医療を行う必要があると認められることが中心的な要件とすることを明確にしたわけでございます。
 今、三つが目的ではないかということでございますが、確かに、精神障害を改善するということは、当然この改善がなければ社会復帰ができないわけでございますし、それから、同様の行為を行ってはやはり社会復帰ができないということでありまして、もともと、この法案の当初からの最大の目的は、不幸にして重大なる他害行為をしてしまった精神障害者に社会復帰をしていただこうというプロセスをつくっているわけでありまして、そういう意味で、同様の行為を行うことなく社会復帰をしてもらうということがむしろ、二つ、今三つとおっしゃいましたが、この二つを目的にしているというふうに私どもは感じております。
木島委員 二つでも三つでもいいんですが、質問の中心的な中身は何かといったら、この条文をよう精査しますと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、」この文言は、治療を受けさせるための目的であって、治療処分決定をするための要件ではないんではないか、そういう質問なんです。
塩崎委員 やはり社会復帰をするためには、その行為を行ったときの精神障害が取れなければいけないわけであって、今申し上げたことは、医療が本当に必要なのかどうかということを判断するための要件ということでございます。
木島委員 非常に難しいことを聞いているように思われるかもしらぬですが、そうじゃないんです。行政処分をするときの要件というのは、処分時に厳に存在しなければいけませんね。これは行政法の根本原則です。行政処分の根本原則だと私は教えられてきました。
 もう一回確認します。行政処分をする要件というのは、行政処分をするときに厳然として存在しなければ行政処分できませんね。答弁願います。
塩崎委員 この審判で判断をするときに、その行為を行ったときの精神障害がないとか、そういうことではちょっと判断ができないという意味で、おっしゃっていることはそのとおりだと思います。
木島委員 答弁、認められました。
 当然なんですよ。行政処分するときには、行政処分の要件が厳存しなければ行政処分ができっこないんです。私はそういう法律解釈を今詰めているんですよ。よう読んでみなさい、あなた方の提案、修正案を。
 そうしますと、この前段、対象行為を行った際の精神障害を改善すること、それに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進すること、これらはいずれも、治療処分という行政処分をするときに厳然として存在することではなくて、治療処分の結果、将来こういうことを目的として、あるいは治療処分をした効果として、障害も改善したし、再犯のおそれもなくなったし、社会復帰も促進することができたという、将来の効果ではないんですか。
 目的であり、将来の結果であり、希望する効果、そういう将来の話をこの前段の「ため、」というところまでに皆さん方は書き込んだんじゃないですか。法律をまじめに読めば、そうとしか私はとれません。これは本当に大事なところですから聞いておるんです。行政処分の要件ではない書きぶりなんです。
塩崎委員 このプロセスは、医療を施さない限りは精神障害が治らないという場合に限っているわけでありますから、その条件があるのかどうかということは当然判断をしなければいけないことであって、その障害を解消するための医療に強制的に当たってもらうわけでありますから、行政処分を判断するときに、医療的な判断をした上で治療のプロセスに入ってもらうということを判断するということは、おっしゃっているとおりだと思います。
木島委員 私も、この目的はようわかるんですよ。そのとおりだと思うんですよ。精神障害を改善すること、そのために重厚な医療をしっかりやること、そしてそれによって同様の行為を行うことがないようにすること、これは再犯、同じような犯罪を犯さないようにすることでしょう、そして社会復帰を促進すること、まさにそのとおりなんです。それは、全面的に賛成ですよ。
 しかし、この法律の書きぶりは、それらの目的は、入院処分という重大な行政処分をする要件ではなくて、目的に皆さん方は書き込んでいるんじゃないか。
 そうすると、この条文を行政法の立場からよう読み込みますと、要件は何かといったら、後段だけなんですよ。「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要がある」とき、それのみが要件じゃないんですか。そうとしか読み取れません。それでいいですか。違うというのなら、違うという明確な法的理屈を述べてくださいよ。
漆原委員 本制度による処遇の対象となる者は、その精神障害を改善するために医療が必要と認められる者に限られまして、このような医療の必要性が中心的な要件でございます。
 医療の必要性があるからといって、では全部その対象になるのかというと、そうではない。医療の必要性のある者のうち、さらに、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮をすることが必要な者だけに限定した。
 したがって、これは、医療の必要性が要件と、その必要性の中でさらに対象行為を限定する、この二つの要件があって初めてこの決定ができるという構成になっております。
木島委員 そうなってないんですよ。そうしたのはまさに政府原案なんですよ。政府原案をよう読んでください。「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」。ですから、政府原案は、まさに先ほど提案者の筆頭がここで答弁したように、再犯のおそれを取り込んだんですよ。医療処分という重大な行政処分を行うその時点で、はるか将来の、先の話で、この精神障害者が再犯をするおそれがあるかどうか非常に難しい、しかし、その難しいことを取り込んだんですよ、政府案は。まさにそれが入院処分をする、行政処分するときに必要だと。
 それで、さんざんさきの通常国会では、そんな何年先になるかわからないような再犯のおそれなんかは、入院処分する、行政処分するときに判断できやしないじゃないかという厳しい批判が出て、それでそれを外したんじゃないですか。さっきそれらしい答弁を筆頭者はしていたじゃないですか。
 だから、今回あなた方は、行政処分をするときの大変大事な要件から外して、目的に切りかえたんじゃないか。それが政府案から与党三党の修正案への変化ではないか。間違っていますか、私の見方。
漆原委員 「対象行為を行った際の精神障害を改善し、」とは、心神喪失の状態で重大な他害行為を行った者は、その精神障害のためにこのような行為を行ったものであることから、本人の社会復帰を促進するためには、まずもってその精神障害を改善することが必要であるとの観点から、そのような精神障害の改善のために医療が必要と認められる場合であることを要件とする。したがって、例えば、審判の段階で医療が必要でないということであればこの要件に該当しない、したがって入通院の決定は行われない、こうなるわけであります。
 さらに、「これに伴って」、「これ」というのは対象行為を行った際の精神障害の改善でございますけれども、「これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、」というのは、仮に、対象者によって対象行為を行った際の精神障害のために同様の行為が行われるようなことになれば、本人の社会復帰の重大な障害になることは間違いないわけですから、このような観点から、このような事態が生ずることがないように配慮する必要があると認められる場合、これを加えて要件にしたわけでございます。
木島委員 要件になってないじゃないですか。
 では、聞きますよ。日本語ですよ。非常に大事なんです、これは行政処分の要件の問題ですから。「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、」というのは、日本語としては副詞句です。この副詞句はどこにかかるんですか。独立した副詞句ですか、それとも後段のどこかの文言にかかる副詞句ですか。
漆原委員 「対象行為を行った際の精神障害を改善し、」ですよね。この精神障害の改善をした結果、あるいは精神障害の改善に伴った結果、同様の行為を行うことがない、そういうふうに社会に復帰することを促進するために入院させるんだ、こういうことじゃないでしょうか。「対象行為を行った際の精神障害を改善し、」ですよね、一つは。そして、その改善に伴って同様の行為を行うことがなく、社会に復帰することを促進するために、入院をさせて治療を受ける必要がある場合だ。だから、二つの要件になっているんじゃないでしょうか。(木島委員「なっていないじゃないですか」と呼ぶ)なっていると思います。
木島委員 なっているというんなら、政府原案に行くんですよ。政府原案の法律の書きぶりは、それをまさに取り込んだからこういう法律になったんですよ。法制局、そうでしょう。私の言っていることが正しいでしょう。政府原案の方は、まさに将来のことを取り込んだんですよ。だから、日本語としても、「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」と、そういう非常に長ったらしい日本語に、法律にせざるを得なかったのは、将来のことを処分時に認定するという取り込みをやったからこそ政府原案になったんじゃないですか。これは法制局、私の言っている方が素直なこの日本語の読み取り方じゃないですか。これは本当に大事なんです。何が審判の対象であるか、後から聞きます。お医者さんと裁判官、二人で審判するんですが、審判の対象は何かという問題にかかわってくるんです。
 審判の対象は、修正案ですと、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があるかどうかのみ、それまでに至る日本語の副詞句はその目的にすぎない、審判の対象から外れたというふうに私は読み取っているんですが、読み取らざるを得ないと見ているんですが、私の読み取り方の方が法律の読み取り方としては正しいんじゃないですか。これは法制局に聞きます。
柏熊法制局参事 お答えをいたします。
 この修正案文の読み方でございます。「必要があると認める場合」ということが要件である、これは裁判所が判断する際、現在判断する際の要件である、木島先生おっしゃったとおりだと思います。
 それで、「必要がある」というのは何のために必要があるか、その必要性の中身あるいは内容について二つのことを言っていると理解しております。
 一つは、改善するために必要があると認める場合、それからもう一つは、ちょっと長くなりますけれども、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、必要があると認める場合というふうに、読み方としてはそういうふうに理解しております。
 以上でございます。
木島委員 だんだん輪郭見えてきましたね。だから、行政処分の要件は、入院治療の必要性ですよ。そして、前段の精神障害の改善とか再犯を防止して社会復帰を促進するためというのは、その入院治療処分の目的でしょう。「ため」というのはまさに目的を示している日本語じゃないですか。何々の促進のため入院加療処分をすると。目的に入り込んだんじゃないですか。現在、厳存する要件ではなくて。
漆原委員 先ほど申しましたように、この後段がないと、治療の必要性のある人が全部入ってくる可能性がある。それじゃ広過ぎる。だから、申し上げましたように、「これに伴って同様の行為を行うことなく、」という要件を入れることによって絞った。だから、治療の必要性ということを第一の要件にして、さらに第二の要件で、これに伴って同様の行為を行うことなく社会復帰をするということを第二の要件にした、絞り込んだということでございます。
木島委員 法制局に聞きますよ。入院治療の必要性を確かに目的で絞ったと思うんです。これこれの目的のため入院治療処分をすると。しかし、その目的は全部将来のことでしょう、この条文の書きぶりは。精神障害者にしっかりした治療をする、同様の行為は行わないようにする、そして社会復帰を促進する、いずれも将来のことでしょう、書きぶりとして。そんな将来の事実、まさに目的であり、効果、結果ですよ。それは行政処分するときに厳存する問題じゃないでしょう。厳存していないものでしょう。そういう書きぶりに皆さん方はしたんじゃないか。そこを詰めているんですよ。そこが政府案と根本的に違ったところだと私指摘しているんですよ。
 政府案は、まさに将来のことを現在に取り込んだんですよ、再犯のおそれ。再犯のおそれがあると現在認められるときにのみ政府案は入院処分ができる。それで非常に難しいシビアな問題になってしまったんです。それを逃げようとして目的にほうり込んだんじゃないですか。
柏熊法制局参事 お答えいたします。
 先ほどと繰り返しになって恐縮かと思いますが、「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」、これは要件でございまして、現在裁判所が入院の要否等を判断する際の要件、現在判断する要件でございます。
 それで、「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」、この「必要がある」その必要性の中身、内容につきましてさらに限定をしておる。それが何のために必要があるかということで、一つは、対象行為を行った際の精神障害を改善するために必要がある。それからもう一つは、「これ」、これと申しますのは、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためというふうにこれを理解しております。
 以上でございます。
木島委員 わかりました。必要性の中身を前段の三行、「ため」のところまでで明定した、法定したと。
 それじゃ、聞きますよ。入院処分、行政処分をするときの審判の対象に、精神障害を改善すること、同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進すること、これは審判の対象に入るんでしょうか。裁判官とお医者さんはそれを審査して、あると認定したときにのみ入院処分ができるんでしょうか。
柏熊法制局参事 お答えいたします。
 本法律による処遇の決定の要否の要件でございます。その際、要件は、ここに書いてありますとおり、これこれのために「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める」、認めたか否かということでございます。
木島委員 そうすると、提案者に聞きたいんですが、さっき、政府原案は、再犯のおそれという、非常に遠い将来発生するかどうかという難しい問題を入院処分するときに判断しなくちゃならぬ、それは非常に難しい、不可能じゃないかという答弁をしましたね。それと根本から抵触しちゃうんじゃないですか。(発言する者あり)ええ、結局同じことになりますから。要件になるとなったら、同じことになるんですよ。
漆原委員 修正案において「同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、」という文言を要件に加えた趣旨は、医療の必要性が認められる者のうち、特に対象行為を行った際の精神障害のために同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要な者に対象を限定するためのものであるということは前に申し上げましたが、そのため、単に漠然とした危険性のようなものが感じられたとしても、社会復帰の妨げになるような同様の行為を行う具体的、現実的な可能性もない場合には一般の精神医療による処遇が行われ、本法案による処遇が行われない、こういう大きな違いがあります。
木島委員 もう時間で、終わります。
 そんな答弁するんだったら、政府案に戻らなきゃいかぬのですよ。政府案に戻らぬといかぬのですよ。このたった一文でも、中核概念です、これは、非常に憲法三十一条にかかわる概念ですから、徹底した審議が必要だということを申し述べて、質問を終わります。
坂井委員長 次に、阿部知子君。
阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
 冒頭、委員長にお願いがございます。
 ただいまの状態は、明らかに法務委員会メンバーの定員割れと拝察いたします。今の木島委員の御質問を初めとして、法体系としても極めてあいまいで、拡大解釈すら可能となるようなこの法案の審議に、法務の担当委員が過半数おられるや否や。お願いいたします。とめていただきます、ここで。確認をお願いいたします。
坂井委員長 ちょっと速記をとめてください。
    〔速記中止〕
坂井委員長 速記を続けてください。
 再開いたします。阿部君。
阿部委員 今の、お尋ねの件の出席定数だけ教えてください。
坂井委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
坂井委員長 速記を始めてください。
 再開します。阿部君。
阿部委員 では、審議に入らせていただきます。
 先ほどの木島委員の御質問は、極めて法体系にかかわる重要な御指摘だったと思います。私は、そのことを医療という分野に引きかえて、少し例示をしながら、この法案の骨格をまずお尋ね申し上げたいと思います。
 先ほどの木島委員の御質問の骨子は、この法律はそもそも、精神障害の改善、あるいは同様の行為を行うことなく社会復帰を促進、いずれも今後のことが現在行政処分を行うことの条件になっておる、今後のことを条件にされたらそのときの処分が行えないではないかという御質疑だったと思います。
 明確な御答弁はなかったですが、これをこれまでの医療の中における精神医療の分野のことに多少引き比べますと、例えば措置入院の場合は、自傷他害、そのときに自分を傷つけたり、あるいは精神の混乱ゆえに相手を傷害してしまう、これを要件としてございます。
 こういう説明をお聞きになった上で、このこれまでの措置入院と違う法体系を、あえて将来のことまで含めて広くおとりになった根拠をまずお教えください。そして、場合によっては、これは非常に、精神障害を病む方たちの人権の侵害、生存権を脅かすことになってまいります。自傷他害という一方の措置入院、これは現在のことでございます。このことが要件になって、医療的なある意味の行政処分が措置入院でございます。そうではなくて、これからのことを要件とされた場合に起こり得る人権の侵害、私は多大にあると思いますが、その点に関して、塩崎先生の御答弁をまず伺います。
塩崎委員 先ほど来繰り返し、政府提案では「再び対象行為を行うおそれ」、この有無のみが要件であったということでありますけれども、今回は、医療の必要性の有無ということを明確にすることによって、現在この医療が必要なのかということを判断するということの重要性を強調しているということでございます。
阿部委員 医療は、基本的な生存権、憲法二十五条で保障されただれもが持っている医療を受ける権利でございます。あえてここで精神障害の改善を、何度も申しますが、行政処分の要件とされている。将来のこと、全部将来です。「改善」は、今じゃなくて将来です。再犯も、再犯という言葉を使ってなくても、「同様の行為を行うことなく、」も未来であります。そして社会復帰は、先ほどの坂口厚生労働大臣の御答弁では、この国の精神医療を底上げするために十年かかるかもしれないという遠い将来であります。それらをなぜ今の時点で構成要件にするのか。もう一度お願いいたします。そして、構成要件でないとおっしゃるなら、この法律の構成要件は何ですか。
塩崎委員 繰り返し漆原先生からもお話ありましたが、構成要件というのは、やはりこの新しい文章そのものでございます。
 それで、もう一回同じようなことを繰り返すことになるわけでありますけれども、今回の修正は、そのときの精神障害を改善する、そして「この法律による医療を受けさせる必要があると認める」ということにすることによってこの法律による手厚い専門的な医療を行う必要がある、これを認められたときが中心的な要件であるということを言っているわけでございますから、要件は、この新しく加わった文章全部というふうに申し上げた方がいいと思います。
阿部委員 では、もう大変に単純で恐縮ですが、それらはすべて将来のことですよね。この一点だけお願いします。改善は将来ですよね、社会復帰も将来ですよね、再び同様行為を行うことがないのも将来ですよね。では、将来を要件になさっているのですね。もう一言でお願いします。
塩崎委員 医療は現在のことであります。
阿部委員 では、医療以外は将来というふうに伺っていいのでしょうか。今の御答弁は「医療は」とおっしゃいましたから、「は」は他と区別しておるんですから、医療以外は将来でしょうか。
塩崎委員 いや、そういうことではなくて、繰り返しまどろっこしいようで大変恐縮でありますけれども、ここに書いてあるとおり、「精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を」というのは、その過去にあった行為を行わないで社会に復帰をするということを促進するために医療が要るか要らないかということを今判断するということでございます。
阿部委員 将来に起こることに対して医療が要るか要らないかを判断するような法体系というのは、これまでないわけであります。本当にここを真剣に考えていただきたい。
 そして、もし医療が要るか要らないかの判断であれば、医師だけで十分ではないですか。これは、わざわざこの法体系に裁判官が関与しているところの大きな枠組みの理由ですので、今塩崎先生が御答弁なさったように、医療の必要性ということをなぜ裁判官が判断なさいますか。
塩崎委員 先ほど来、山井先生や水島先生のときにもお答えをしたと思いますけれども、この新しい高度の医療、精神医療を受けるというのは、強制的に受けていただくということになるわけであります。その心は先ほどお話があったとおりでありますけれども、その際に裁判官が判断するのは、人身のやはり自由を奪うということになってその病院に入っていただくわけですから、それを判断するのに医療だけで判断をすることができない要素というものが多々あるわけであります。そういうことを判断するのが裁判官の役割だということでございます。
阿部委員 塩崎先生もちょっと整理をしていただきたいのですけれども、それは従来の措置入院でもやっておるわけです。裁判官は何を判断するのですか。裁判官が合議で求められる内容は、何に関して求められているのですか。お願いします。これは明確にしていただければ審議は進むと思いますので。しかし、されない限りこうやって――本当にこれ、非常に人権侵害の網をばっと広げたような法案になっておりますから。裁判官は何をここで判断されますか。医療的判断ではないですよね、どうでしょうか。
塩崎委員 今回、裁判官とそれから審判員の役割というのを書き分けたわけであります。したがって、それぞれの知見に基づいて判断をするということになって、今おっしゃるとおり、医療の判断をするというわけではもちろんないわけでありまして、今回、この四十二条の、今申し上げ、先ほど来議論の対象になっているところについて判断をするわけであって、それぞれの立場で判断をし、そしてその合議で結論を出すということになっているわけであります。だから、二人が違うことを言った場合には軽い方をとるというのは、先生も御存じのとおりだと思います。
阿部委員 恐縮ですが、「それぞれ」の「それ」の方は医療で出たんです。「ぞれ」の方をお願いします。「ぞれ」が、裁判官が何を判断なさるのか。「それぞれ」はいいです。「それ」は医者が判断。私はこのことも次質問いたしますが、「ぞれ」の方なら「ぞれ」、裁判官が何を判断なさるのでしょう。
塩崎委員 これも先ほど来もう既に答弁をしたことなので、つい丁寧には言っていなかったんですが、例えば、この対象者がどういう生活環境のもとで暮らしているのか、あるいはその医療を続けていかれる状況にあるのかどうか等々を考えるとともに、法律の専門家たる裁判官が、人権にもかかわる医療に強制的に当たってもらう、入院をしていただくということを判断するというのがその「ぞれ」の役割ではないかと思います。
阿部委員 では、今の御答弁で、例えば、その患者さんというか病む人の生活環境とか治療を続けられるかどうかは、措置入院でも判断しているわけです。だから措置の解除が起こるわけです。それで、今先生の御答弁で、これまでの医療の枠内でやっていないことであるというのでおっしゃったのは、強制的な入院だとおっしゃいました。この件は逆に、措置入院も医療の名による強制的な入院なわけです。
 では、司法の名による強制的な入院を論議なさる、そのことを決める中身は何でしょうか。これが、今までですと、再犯のおそれということを司法は判断するんだとおっしゃっていました。しかし、この法律では全く影が見えません。何を司法がお決めになるのか、司法が強制的にこの方に強いるものは何であるのか、それをお願いいたします。
塩崎委員 繰り返して申し上げて恐縮でありますけれども、判断するのは、この新しい四十二条第一項第一号のところの文章そのものを判断すると言うしかないと思います。
 政府案のときの、いわゆる「再び対象行為を行うおそれ」というこの文言があったがゆえに、例えば、先ほど来お話があったように、将来の時期とか、あるいはどういう犯罪をするのかとか、そういうようなとても予期できないようなものを予期しろというのかというような誤解を招いたり、先ほども申し上げましたけれども、漠たる危険性があるがゆえに全部それを社会から隔離するために入れてしまうという誤解もあったわけでありますし、レッテルを張られて危険人物だというようなことにもつながりかねないということで、先ほど来申し上げているように、限定的に医療の必要性というものを書き込んでいるというのがこの三行の心であります。
阿部委員 論議がずっと平行線で、なぜ裁判官が要るかについて、やはり本当に明確な御答弁をいただいていないのです。もうきょうずっと、どなたの質疑にもそうでございましたが、それがこの法案の一番の問題点ではないか。
 このことのために裁判官が必要で、これこれの役割を果たし、逆に、司法の名において一人の人権を拘束する場合にどういうセーフガード、安全弁を持つべきかというように、きちんと論議をしていかなければ、いつまでたってもこの法案は、結局何をしたいための法案なのか、そして、だれの人権が侵害され、それは拡大のおそれがないのかということが、一向に明らかではございません。
 そして、もうこれはこれ以上はやめますが、きょう私が何度もお尋ねした、裁判官は何を判断なさるのですか、何を役割としてなさるのですかということは、次回また継続して御答弁いただきたいと思います。
 そして、引き続いて、医師の判断というところに参りますが、これは大きく医療側にほうり投げられたボールでございますが、果たしてこの中で医師に要求されるものは何であるかという項目を私なりに調べてみました。
 そういたしましたところ、三十七条にございます。三十七条の3ですが、ここでは、医師が「この法律による入院による医療の必要性」を判断すると。この法律による入院の医療の必要性と、これまでの措置入院による入院の医療の必要性を医師は、申しわけございませんが、分けることができません。
 何を言っているかというと、精神障害をお持ちで自傷他害という状態があれば、私どもはそのことを何としてでも軽減させようと思い、そして、現時点ですぐ自殺の危険、他害の危険があれば、措置入院で処置しております。「この法律による入院による医療の必要性」なるものは今までの論議で一切明らかでございませんが、「この法律による」というのは、社会復帰を見込んだ法律である、あるいは自傷他害をこれからしないという、これも、でも私どもは通常そのように願いながら医療をしておるわけです。
 私は、この法案を一人の医師として投げかけられましたときに、この法律による入院の必要性ということを、これまでの措置入院による必要性と分けることができません。この点について、恐縮ですが、今度は、提案者にもう一度伺うと悪いので、坂口大臣にお願いします。
 いいですか。済みません、では、塩崎先生に行けというので、塩崎先生お願いします。
塩崎委員 今の先生の御質問は、医療の中身を言っておられるんですか。
阿部委員 いいえ。法律的に三十七条の3の「この法律による入院」というのは、これを医師が判断する場合に、今までの措置入院による入院あるいは措置入院下の治療と、特にこの法律による入院の医療の必要性に関することを判断しなきゃいけないので、その具体的な中身とまでは申しませんから、その違いですね、何をおっしゃっているのか。これは言葉が羅列しているだけで、言語明瞭意味不明瞭というところですので、お願いします。
塩崎委員 冒頭にも申し上げましたけれども、精神医療のこの日本の数十年間のおくれという御指摘がございました。今回、司法医療という言葉も使うようになっていますけれども、今回のこの医療というのは、やはり新しく医療施設や設備も十分整った病棟で高度な技術を持つ者が当たるという精神療法を実施するということが前提で、全額公費でやろうということで今準備をしているわけでありまして、この新しい高度な医療ということが今おっしゃっている三十七条の医療ということでございます。
阿部委員 新しい高度の医療、司法医療というふうに今おっしゃられたようにもお聞きいたしますが、先ほど来申しました一人の医者としてこの文章を投げかけられたとき、何度も申しますが、措置入院と異なる医療ということを判断するに足る明確なイメージが浮かびません。司法医療なる言葉は使われましたけれども、これは先回の委員会でも随分問題になりましたが、必要の最初の段階で、これからの治療の中身のことまでにわたって、こっちはこっちコース、こっちはこっちコースとはなかなかできません。
 少なくとも判断できるのは、今この人がほっておいたら自殺しちゃうか、何か加害するか、これは判断できます。ただし、治療経過の中で、これからこのようにやっていけば、逆にある意味の、おっしゃるような司法医療的なものも必要でないかもしれないし、ここが、何度も言いますが、大きく問題なのです。判断する時点でそれをこっちコース、こっちコースと分けられない。未来の予測、未来のことにまでわたって今を判断せよと言われるのは困難が過ぎるということを医療面からも申しております。これも指摘にとどめます。
 もう一点予告がしてございまして、森山大臣が御臨席でいらっしゃいますので、質問をさせていただきます。
 私は、前回この法案が継続審議になります直前に、森山法務大臣に、刑務所内の医療あるいは拘置所内の医療、そしてあるいはまた医療刑務所内の医療、特に精神医療の現状について、例えば視察に行っていただけたか、そしてどの程度御認識がおありかということを伺いました。
 もちろん、その後お時間もあったし、大臣は行ってくださったことと思いますが、私があのときこの疑問を投げかけました大きな懸案の事項が、実は名古屋の刑務所で発生いたしました。革ベルトによって刑務所に服役中の方を拉致したんですね、取り押さえた。実は、特に名古屋刑務所では、わずかこの二年間で二名の死亡者と一名の重篤な腹膜炎が生じております。
 二名の死亡者のうち、昨年の十二月の方は、刑務所内で革ベルトをはめられたまま、腹膜炎だということで死亡されています。普通の年齢で考えて、そしてわずか二日間の独房状態でした、今どき腹膜炎で亡くなるということは、よほどの治療のおくれか症状の見落としか、あるいはその前に本当の何らかの原因があるのかもしれません。
 私は、恐らく収監時には御病気、基礎疾患のない方がなぜ二日で腹膜炎で亡くなられたかということが一点、そしてそのような医療状態に人々が刑務所内で置かれているということについての森山大臣の御認識を伺いたいと思います。
森山国務大臣 御指摘のように、前回の国会の審議の中で医療刑務所を見たかというお話がございました。
 そのときはまだその機会を得ておりませんでしたけれども、国会が終わりましてすぐに、ことし八月九日でございましたか、大阪府方面に視察に参りました際に、大阪医療刑務所についても視察を行いました。その目的は、精神障害を有し専門的な治療を必要とする受刑者が医療刑務所においてどのような治療を受けているか、実地に確認するということでございました。
 そのような観点から視察いたしましたところ、同所の医師が個々の患者に合わせて、じっくりと受刑者の考えを聞いたり気持ちをほぐしたりしているのを目の当たりに見まして、きめ細かく治療されているのだなということを感じたわけでございます。もちろん、私は医療の専門家ではございませんので、それ以上のことはわからなかったわけでございますが。
 さらに、今御指摘になりました名古屋刑務所の件は最近表に出てきたことでございまして、私どもも非常に驚き、かつ申しわけないことだったと思っております。
 今、この件については、検察において、また矯正局の内部において、また人権擁護局においてそれぞれにきっちりと捜査をしている最中でございまして、その全容がわかりました上でまた御報告もし、処分もしたいと考えております。
阿部委員 私は、森山大臣が大阪の医療刑務所に行っていただいたこと、ありがたいと思います。そして、もう一歩足を延ばして名古屋の刑務所にも行っていただきたかった。
 私はあのとき、医療刑務所だけでなく、刑務所、拘置所、御存じですかとお尋ねしました。そして、もしもっとそのときに行っていただけていればこのようなことがなかったと思いたいです。少なくとも九月の、腹膜炎で四十日の入院をされたような事例はなかったかもしれません。
 しかし、その前に、既にことしの五月と去年の十二月、死亡例が相次いでおります。保護房におって革手錠下で、実は五人の死亡例がほかの刑務所内でもございます。おのおのが脱水、水がない、干からびる、あるいは熱中症、暑くて温度調節ができない。子供や赤ちゃんでもあるまいし、大の大人が熱中症や脱水で亡くなるとはよほど医療ケアが悪い場合以外には考えられません。
 こうした医療実態を放置しておいたままこういう法案が出されるということは、司法当局において、司法の名において強制的に収容している方たちに、もう一方で人権の視点に立った十分なセーフガードをお持ちでないんだと私は思います。そういう手法のない、発想のない、具体的なシステムのないところに今回のような法案を提案される理由と見識を私は疑います。まずは名古屋での事例をはっきりさせて、なぜ腹膜炎くらいで死んだのか、私は問いたいです。そんなこと、今のこの世の中の医療技術と医療レベルと医療知識で起こり得ないです、普通に考えて。普通でない状態に刑務所の中の受刑者が置かれているとしたら、そのことをまず、司法に携わる最高トップの森山大臣は全力を挙げて改善していただくべきです。
 私は、細かに残余の質問ございますし、来週また法務委員会で名古屋刑務所の視察がある由ですから参加もさせていただきまして、引き続く審議をお願いしたいと思います。
 ありがとうございました。
坂井委員長 次回は、来る十二月三日火曜日午後一時から連合審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後五時五十一分散会
     ――――◇―――――
  〔参照〕
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案に対する修正案
 裁判所法の一部を改正する法律案
 検察庁法の一部を改正する法律案
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案
は法務委員会議録第十三号に掲載


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