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第3号 平成14年12月4日(水曜日)

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平成十四年十二月四日(水曜日)
    午前十時三十分開議
 出席委員
  法務委員会
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 棚橋 泰文君
   理事 加藤 公一君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      倉田 雅年君    左藤  章君
      笹川  堯君    下村 博文君
      中野  清君    林 省之介君
      平沢 勝栄君    保利 耕輔君
      松島みどり君    保岡 興治君
      吉川 貴盛君    吉野 正芳君
      鎌田さゆり君    日野 市朗君
      平岡 秀夫君    水島 広子君
      山内  功君    石井 啓一君
      木島日出夫君    藤木 洋子君
      植田 至紀君    原  陽子君
  厚生労働委員会
   委員長 坂井 隆憲君
   理事 長勢 甚遠君 理事 野田 聖子君
   理事 宮腰 光寛君 理事 山井 和則君
   理事 福島  豊君 理事 武山百合子君
      岡下 信子君    奥谷  通君
      後藤田正純君    佐藤  勉君
      田村 憲久君    竹下  亘君
      棚橋 泰文君    西川 京子君
      平井 卓也君    松島みどり君
      三ッ林隆志君    宮澤 洋一君
      森  英介君    山本 幸三君
      吉田 幸弘君    吉野 正芳君
      渡辺 具能君    家西  悟君
      石毛えい子君    大島  敦君
      金田 誠一君    五島 正規君
      城島 正光君    土肥 隆一君
      三井 辨雄君    水島 広子君
      江田 康幸君    桝屋 敬悟君
      佐藤 公治君    小沢 和秋君
      山口 富男君    阿部 知子君
      中川 智子君    川田 悦子君
    …………………………………
   議員           平岡 秀夫君
   議員           水島 広子君
   法務大臣         森山 眞弓君
   厚生労働大臣       坂口  力君
   法務副大臣        増田 敏男君
   厚生労働副大臣      木村 義雄君
   法務大臣政務官      中野  清君
   厚生労働大臣政務官    渡辺 具能君
   衆議院法制局第二部長   柏熊  治君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君
   政府参考人
   (法務省矯正局長)    中井 憲治君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (法務省人権擁護局長)  吉戒 修一君
   政府参考人
   (厚生労働省職業安定局高
   齢・障害者雇用対策部長) 太田 俊明君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    上田  茂君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
   厚生労働委員会専門員   宮武 太郎君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出、第百五十四回国会閣法第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、第百五十四回国会衆法第二〇号)


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより法務委員会厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 第百五十四回国会、内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、これに対する塩崎恭久君外二名提出の修正案、第百五十四回国会、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに第百五十四回国会、水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案及び修正案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山花郁夫君。
山花委員 民主党・無所属クラブの山花郁夫でございます。
 政府案と民主党案、そしてこの臨時国会になりまして与党の修正案というものが出てまいりました。与党の修正案の中で幾つか私はまだ疑問があるところがあるんですけれども、その前提として、政府案の方について少々基本的なことをお聞きしたいと思います。
 法務大臣、刑事法の基本的な話だと思いますけれども、心神喪失であるとか心神耗弱の場合に刑法では犯罪が不成立であったりあるいは刑の減免があるわけですけれども、これはそもそもどういう理由に基づくものでしょうか。
森山国務大臣 近代刑法は、いかに違法性の強い行為でありましても、行為者を法的に非難するためには、行為者に責任能力、つまり物事の善悪を判断し、かつその判断に従って行動する能力がある場合に限るべきであるという考え方から、責任能力がない場合には処罰し得ないという責任主義を基本原則といたしております。
 このようなことから、我が国の刑法では、責任能力がない者を心神喪失者とし、その行為は罰しないこととし、責任能力が著しく減退した者を心神耗弱者とし、その行為はその刑を減軽するということにしているものと承知しております。
山花委員 つまりは、責任主義がとられているということは、責任能力がなければペナルティーは科し得ないのだと。そうでないとすると、例えば、具体的に今法案で審議になっているケースでいいますと、そういう主義をとらないと、犯罪を犯したから処罰されるのではなくて、心神疾患にかかっているがゆえに処罰されるというようなケースが出てきてしまうからだというふうに理解をいたしております。
 そこで、厚生労働大臣、さきの連合審査会のときの御発言で少々気になる御発言がございました。
 山井委員の質疑の中で、山井委員の方から、大変失礼な質問になるかと思うんですがということで、運悪く御自身が、あるいは山井委員は私でもいいんですけれどもというお断りをしていますが、精神疾患を患って心神喪失状態でだれかにけがをさせてしまった、そのときに大臣だったら、住みなれた地域の措置入院で、人手をそこに多くしてもらってそこでいいケアを受けたいか、それか、見ず知らずのところの専用病棟に入って、いつ出られるかわからないんですけれども、その方が親切ですからいいですよといって、そういう見ず知らずのところに行くのとどちらがいいでしょうか、こういう質問がありました。
 坂口大臣は、大変率直なお気持ちを言われたのかもしれませんけれども、私自身がどこの病院に行きたいと言う、それはなかなか通りにくいことになるのであろうという御答弁です。ただ、その前段の御発言ですが、私自身が精神病に罹患をいたしまして、そして心神喪失の状態になった、そして重大な過失を犯したということになりました場合、その重大な過失の内容にもよるかというふうに私は思いますが、それは取り返しのつかないような重大な過失を私が犯したということになればという前提がついております。二回繰り返しておられます。自分でどこへ行きたいという判断はなかなか自分では言えないことになるのであろう、こういう御発言があったわけでありまして、私はそのときに聞いていて大変疑問を持ったのです。
 つまりは、今回の政府提案の法案というのは、地域医療ではなくて、こういった今回の法案の措置をとられるということが何かペナルティーのようにも聞こえてしまうわけであります。先ほどあえて法務大臣に基礎の基礎の話をお伺いしたんですけれども、つまり、何か心神疾患があることが原因となってペナルティーを科される、それはしようがないんだと言っているようにも聞こえてしまったんですけれども、あの御答弁の真意をお聞かせいただきたいと思います。
坂口国務大臣 前回、山井議員からお尋ねがございまして、私は、自分がそうした立場に立ったときに例えて御答弁を申し上げたというふうに思っております。仮に自分が重大な他害行為を犯した場合には、その後のみずからの行動について率直に希望を申し立てることがはばかられるのではないかという個人の考え方を示したわけでございまして、それは私の思いでございます。
 それは先回にも申し上げたと思うんですが、正常であるという私の現在の立場から考えることですから、それはあるいは違うかもしれませんがということも申し上げたと思いますけれども、そのときに申し上げた気持ちといたしましては、一つは、自分がそういうことを犯したということに対する罪の意識みたいなものを持っている。あるいは、今回つくります指定病院というのはそれほど各地域に多くできるというわけではありませんから、地域の精神科の病院に行くということはなかなかできにくいんだろう。やはり同じ県の中であったとしても、少し離れたところに行かなければならないのではないかというような思いも込めて御答弁を申し上げたというふうに記憶をいたしております。
山花委員 少々論点がずれたような気がいたします。問題は、主観的にどう思われるかということよりも、客観的な制度として、それが不利益な扱いになるのではないかどうか、そういうことではないかと思います。
 この点については疑義がありますけれども、時間が限られておりますから、その点留保させていただいて、先に質疑を急ぎたいと思います。
 法務大臣にお伺いをいたします。
 これも既に議論で出てきていることかと思いますが、改めて確認をさせていただきたいと思います。
 今回のこの政府案については、その対象となる行為は六つの類型となっておりますけれども、この類型を拝見いたしますと、例えば現在の刑法典、あるいは特別法も含めてですけれども、無期懲役が規定されているものを基準として、それより刑の上限が高いもの、あるいは懲役十年を超えるものというような形ではなくて、あえて六つの類型について対象行為とされているわけですけれども、この点について、どういう趣旨で類型化がされたんでしょうか。その立法事実についてお答えください。
森山国務大臣 新たな処遇制度におきましては、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害及び傷害致死に当たる行為を対象行為といたしまして、心神喪失または心神耗弱の状態でこれらの行為を行った者を本制度の対象としております。
 このうち、殺人、放火及び傷害致死につきましては、いずれも個人の生命や財産に重大な被害を及ぼす行為であります上、これらの行為に及んだ者の中に心神喪失者等が占める割合が相当程度高くなっているということが認められるわけでございます。例えば、平成八年から十二年までの五年間におきまして、検察庁の受理人員中に占める重大な他害行為を行った心神喪失者等の割合は、全体で約〇・二%でございますが、殺人におきましては約七・八%、放火においては約八・八%、傷害致死においては約三・四%というぐあいになっております。
 また、強盗、強姦、強制わいせつ及び傷害につきましても、同じように個人の身体、財産等に重大な被害を及ぼす行為でございまして、同様に他の行為に比べまして心神喪失者等によって行われることが比較的多いということが認められるわけでございます。
 このように、対象行為として類型化した行為につきましては、いずれも個人の生命、身体、財産等に重大な被害を及ぼす行為でございまして、心神喪失者等によって行われることが比較的多いものであるということにかんがみまして、心神喪失等の状態でこれらの行為を行った者につきましては特に継続的かつ適切な医療の確保を図るということが必要だと考えたことから、このように対象を考えたものでございます。
山花委員 厚生労働大臣にお伺いしますが、全く同じ御認識ということでよろしいんでしょうか。それとも、もし何か違う理由がございましたら――ないということでよろしいですね。ないということですから、多分これで明らかになったことが一つあると思います。
 つまりは、今回のは医療、看護を目的としているんだという御説明が今までされてきましたけれども、実際はこれは法務の統計に従って類型化がされているわけです。医療的な観点から、こういうようなことを行った人についてはこういう治療が必要だからという観点では政府案はつくられていないということは指摘をさせていただきたいと思います。
 次に、これはもうきのうの質疑でもございましたけれども、また法務大臣にお伺いしたいと思います。
 私は、どうも今回の法案の大きなフレームでよくわからないところがありまして、と申しますのは、結局、今申し上げましたように、法務上の統計に従えば言われていることにもある程度の合理性があるのかもしれません、私は必ずしも納得はしておりませんけれども。ただ、そういった重大な他害行為をした場合に限って、言ってみれば身体の自由を、憲法論議でいえばこれは居住移転の自由であり、人身の自由でありますから、これを制限する、いわば不利益な処分を課すわけですから、そういう場合に限って処分を課すという話になりますと、まさに社会防衛的な発想ではないか。つまりは、今御答弁がありましたように、これは本当に生命とか財産とか身体、そういうものを保護法益とする重大な侵犯事件である、こういう場合について不利益な処分を課すというわけですから、まさにこれは社会防衛的な発想ではないか、このように考えられるわけですけれども、この点、どう説明をされるんでしょうか。
森山国務大臣 この制度による処遇は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対しまして、継続的で適切な医療を行うということなどによりまして、その社会復帰を促進するというために行われるものでございまして、犯罪を行った者に対する制裁を本質とする刑罰とは異なったものであることはもとより、社会防衛を直接の目的とする保安処分などとも全く性質が異なるものと考えております。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有しているというハンディキャップに加えまして、人の生命、身体、財産等に被害を及ぼす重大な他害行為を行ったというハンディキャップも持っているわけでございます。また、このような者が有する精神障害は、重大な行為と結果を引き起こす原因となるものでございますから、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いものであるというふうに考えられます上、仮にそのような精神障害が改善されないまま、再びそのために同様の行為が行われるようなことになれば、そのような事実は本人の社会復帰の重大な障害となるのでございまして、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠であると考えます。
 そこで、このような者については、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、また、退院後の継続的な医療を確保するための仕組みなどを整備することによりまして、本人の円滑な社会復帰を促進することが特に必要であるというふうに考えられますことから、今回新たな処遇制度を創設することとしたものでございます。(発言する者あり)
山本委員長 不規則発言はおやめください。
山花委員 今の御答弁でありますけれども、私は必ずしもちょっと納得ができないんです。つまりは、社会復帰を目的とするというお話ですけれども、法務委員会で森山法務大臣と私は死刑制度の問題であるとかあるいは監獄の問題などについても議論させていただいておりますけれども、刑罰であったとしても、社会復帰というのは一つの目的となっていると思います、それだけとは申しませんけれども。
 今回の法律案についても、もちろん医療も確かに必要でありましょう。そのことと社会復帰というのは確かに連関しておりますけれども、刑罰、例えば普通の懲役刑で刑務所に入って、しかし、そこでの矯正の理念というのは、やはりもう一度そういう犯罪を犯さないような人になって帰ってもらうというところではかなり共通するところがあるわけでありまして、今回の政府案で、私の質問に対する答弁としてはちょっとまだすとんと落ちないところがあります。
 というのは、だんだん説明を、御答弁を聞いていますと、後ろの方は確かに納得できるところがあるんですけれども、そうだとすると、この六種の罪種に限る必要はないんじゃないか。要するに、私は、前半部分はちょっとどうかなと思いながら、後半部分についてはそういう思いがあります。ただ、ちょっと先を急ぎますので、指摘だけにとどめたいと思います。
 与党案の提出者にお伺いをしたいと思います。
 厚生労働大臣や法務大臣はこのように御答弁されているんですけれども、過日の委員会でも、修正案を出した趣旨というのは、やはり医療を中心的な目的とするということをはっきりさせたいんだ、そういったような御答弁があったと思います。
 ここでちょっと指摘をしたいんですが、そうだとすると、今るる私からも政府の方に申し上げましたとおり、医療を中心的な目的とするんだとすると、政府案に対する修正を行うのであれば、対象行為についても修正しないと論理が一貫しないんじゃないでしょうか。なぜ六つの罪種のところについては修正を施さずにこういう修正案を出したのか。言いかえれば、医療を目的とするんだとすれば、今回、そんなにもともとの案がすばらしいのであれば、重大な他害行為を行ったケースに限る必要はないじゃないですか。いかがでしょう。
塩崎委員 医療を目的というよりは、医療によって社会復帰を図るということが目的ということだと思います。
 そこで、今、対象行為そのものについて限定をする理由がないんじゃないか、こういうお話がございました。心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、いわば二重のハンディキャップを負って、精神障害であるということ、そしてまた重大な犯罪を犯して他害行為をしてしまったということでありまして、このハンディキャップというのは比較的軽微な他害行為を行った場合とでは格段の相違があるということだろうと思います。そこで、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、その社会復帰を促進するためには、今申し上げたような手厚い医療、専門的な医療を行ってその精神障害を改善することが必要不可欠だ、こう言っているわけであります。
 また、このような者が有する精神障害は、重大な行為と結果を引き起こす原因となるものでありますから、今御指摘のとおり、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いということである上に、仮にそのような精神障害が改善されないままに、また再びそのために同様の行為が行われるようなことになれば、そのような事実が本人の社会復帰の重大な障害になってしまうという、言ってみれば悪循環を起こしてしまう。それを断ち切らなきゃいかぬということで、手厚い専門的な医療が必要だ、こう言っているわけであります。この制度において、このような理由から、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者を限って対象とするということにしているわけであります。
 医療の問題につきましては、この制度によって、いわゆる一般の医療機関に入院している患者で高度かつ専門的な医療が必要な者について、指定入院医療機関、今度できるものですが、これを活用して治療を行うということが制度上排除されているわけではないわけであって、御質問よりも少し広がりますが、このような者についても、本制度による医療の実施状況を踏まえた上で、必要に応じて指定入院医療機関を活用するなどの適切な対応というのは検討されてもいいんだろうと思うんです。
 ですから、ここで高度な医療をやりますが、目的は社会復帰ということでございます。
山花委員 法案の具体的な条文についてお伺いをしたいと思います。
 その方向性がいいか悪いかはまだ議論の余地はあるんでしょうけれども、今回の政府案のやり方がいいかどうかは別として、論理的に一貫させようとしたら、つまりは、社会復帰を目的として医療を中心として考えるんだということであれば、六種の罪種に限定するというのは、先ほどの法務大臣の御答弁だってこれは法務上の統計の話だというわけですから、必ずしも医療を根拠とする話ではなかったように私は受けとめております。
 そこで、与党案の、特に三十四条なんですけれども、よくわからないところがあります。私は、六種の罪種よりも広げようとしているようにも見えるんです。と申しますのも、政府案は、「継続的な医療を行わなくても心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために」というところで、「再び対象行為を行うおそれが明らかにないと認める場合を除き、」ということで、「対象行為」という言葉を使っております。これに対しまして与党案の方は、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、」と「同様の行為」というふうに言葉が変わっております。
 先ほど法務大臣からも、今回のこの法案というのは刑事法とは違うのだという御答弁がありました。そのとおりだと思います。刑法ではありませんから、また刑法の特別法ということにもなりませんから。そうだといたしますと、刑事法の場合は、基本的に類推解釈が禁止されている、拡張は許されるけれども類推は許されないというテーゼがありますけれども、そういうことになっております。
 ところで、今回のこの法案というのは、法律の一般論として申しますと、類推解釈というのがある程度できるものである、そういうものだと思うんですけれども、政府案の場合には「対象行為」となっていますから、類推解釈をしようにもある程度枠がかっちり決まっているわけであります。これに対しまして、「同様の行為」というふうな言い方をしてしまいますと、類推の基礎が非常に広がる、このように思われるわけであります。
 わかりやすく申し上げますと、当委員会でいいますと、例えば与党の理事という規定の仕方があれば、これは、私も法務委員会の野党の理事ですけれども、恐らく類推の基礎はないんだと思いますが、与党の理事さんと同様の立場といったときに、それは目的論的にいろいろな解釈をしますから、ただ委員会運営に責任を持つ人だという類推の基礎があれば、類推解釈できますよね。
 つまりは、「同様の」ということは、広げる余地があるというふうに読めるんですけれども、これは政府案と比べてそもそも広いのか、狭いのか、あるいは同じなのか、この点について御答弁ください。
塩崎委員 ただいまの山花委員のような御疑問を持たれるということでございますが、結論から言いますと、同じでございます。つまり、「同様の行為」というのは、法第二条第二項各号に掲げる対象行為のいずれかの行為をいうということでございます。
山花委員 ということは、その対象については修正案の中では全く変化がないということだと思います。
 もう一点伺いたいと思います。
 この三十四条についてなんですけれども、政府案はこう書いてあります。「継続的な医療を行わなくても心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」、こういう書き方をしておりますが、修正案の方は、日本語的には緩やかになっているように読めます。「対象行為を行った際の精神障害を改善し、」ということで、昨日の参考人の質疑でも、因果関係が不明確になったじゃないかという指摘がありました。私もそう思います。
 例えば、例えばの話です、統合失調症の人がいらっしゃったとします。その人が深酒をして泥酔状態で人をあやめてしまったとします。
 政府案ですと、このケースで、心神喪失の状態で対象行為を行ったかもしれませんけれども、その「原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれ」ということについては因果関係がはっきりしておりませんから、泥酔状態が原因となって人をあやめた、もともとからアルコール中毒とかで、飲むと粗暴な振る舞いをするという症状がもともとあった人であればそれはまた違うんでしょうけれども、たまたま深酒をして泥酔状態になって心神喪失状態で人をあやめたというケースは恐らく入らないと思います。
 ところが、今回の修正案ですと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、」ということですから、対象行為を行った際心神喪失状態で、あるいはお酒が原因で人をあやめているかもしれないけれども、対象行為を行った際にその人が統合失調症であれば、対象行為を行った際に精神疾患があって、その際の、あくまでも「際の」という言葉ですから、その機会にというふうに読むのが普通だと思いますけれども、そういうふうに読ませるつもりなのか、いや、そうじゃなくて、もともとこれは政府案と全く同じことなのか、その点について御答弁ください。
塩崎委員 引き続き解釈で紛らわしいことで大変恐縮でありますが、「行った際の精神障害を改善し、」と書いてあるわけでありまして、行った際の心神喪失状態を言っているわけではございません。したがって、この「対象行為を行った際の精神障害」という部分は、やはり精神障害が原因で対象行為を行ったという意味で、先ほどの例でいきますと、泥酔状態だけで心神喪失になっているときに行ったことであるならば、それは入らないということだと思います。
山花委員 要するに、政府案と趣旨としては同じように読むのだという御答弁だと思います。ただ、私は、立法技術として、際にというのは、普通はそう読まないと思いますよ。その点は少し疑問があります。際にというのは、その時点でどうであったかという話ですから、そこは少し読み方に疑問があるんですが、答弁でそうだということですので、そう読むのが立法者の趣旨だというお話ということになるのだと思います。
 ところで、そうだとすると、与党案提出者にお伺いしますけれども、対象行為について、精神科のお医者さんと裁判官、裁判官とは言わないんでしたっけ、実際は裁判官の人が一体何を判断されるんでしょうか。これは結局政府案と同じような判断をするのか。つまりは、判断の対象とその基準について御答弁いただきたいと思います。
塩崎委員 これまでも繰り返し御答弁してきたことが含まれていると思いますけれども、要件につきましては、もう御案内のとおりであって、裁判官は、専門とする法律に関する知識、学識経験に基づいて意見を述べるということになり、また審判員の方は、医療における、医学における専門的な知識で意見を言う、こういうことになっているわけであります。
 修正案においては、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療が必要と認められるか否かという要件を判断するに当たりまして、例えば、身近に適当な看護者がいるのかどうかとか、そういうような生活環境に照らして治療の継続が確保されるのかどうか、それから、やはり常に身近に十分な看護能力を有する家族がいて、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することができるような状況にあるかどうか、こういうような純粋な医療的な判断を超える判断というものを裁判官というのはするべきではないのか。
 政府案におきましては、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無を判断するということであったわけでありまして、そのときに、対象者の生活環境に照らして治療の継続が確保されるか否か、それから対象行為を行いやすい状況にあるのかどうかというような考慮をするというのが政府案であったと思うのです。
 結論的に申し上げますと、修正案、政府案、その処遇の要件が異なりますけれども、裁判官はそれぞれの処遇の要件について、それらの純粋な医学的判断を超える事柄をも考慮して、法律に基づく、あるいは法律に関する学識経験に基づいた判断を行うということだと思います。
山花委員 いや、その法律的な知識、学識経験に基づいて何を判断するかというその中身が問題だと思うんですよ。社会復帰に必要なための医療の継続があるかどうかというのは、それはお医者さんだって判断しますよね。
 ちょっと水島委員にその点について。そういうことは医療じゃないのかどうか。あと、医療を中心として考えるということを突き詰めていけば、先ほどから申し上げていますように、六つの罪種に限定する必要はないと思いますけれども、その点、民主党案はいかがお考えでしょうか。
水島議員 答弁いたします。
 まず、医療の判断であるかどうかという点なんですけれども、やはりその人の生活環境を調べて、どのようなソーシャルサポートがあるかというようなことを調査した上で医療の環境を調整していくというのは、医療現場で日常的に行っていることでございまして、ただ、人手が余りにも足りないので、その底上げをすべきだということをかねてから訴えてきているわけでございます。
 また、六つの罪種に限るべきではないのではないかという御指摘ですけれども、私たちはそのように考えましたので、民主党案ではあくまでもこの問題を、精神医療の底上げ、そして司法と精神医療の連携の充実、それこそが解決策なのだという観点から民主党案を提出させていただいておりますので、ぜひこの法案が成立するように引き続きよろしくお願いいたします。
山花委員 時間が参りましたので終わりますけれども、まだ随分疑問点が残ったなということだけ申し上げまして、質問を終了いたします。ありがとうございました。
山本委員長 次に、金田誠一君。
金田(誠)委員 民主党の金田誠一でございます。
 まず、大きな一点目として、本法案の基本的な性格についてお尋ねをいたしたいと思います。
 感染症患者や精神病患者に対する法制については歴史的な変遷をたどってきたと思います。過去には社会防衛に重点が置かれ、その代表がらい予防法やエイズ予防法であったわけでございますが、これらは既に廃止をされているところでございます。一方、患者を人権の主体としてとらえ、適切な医療の提供を中心とする立法もあり、社会防衛は目的ではなく、その医療の結果としてとらえられていたという法律もございました。その代表例は、必ずしも十分とは言えませんが、結核予防法というものがあったと思うわけでございます。
 ところが、精神医療に関しては、感染症に比較しても著しく立ちおくれており、入院患者数や入院期間から見ても、外来治療あるいは社会復帰という側面から見ても、適切な医療の提供あるいは人権という観点は極めて弱いものであったと思います。結果として社会防衛的要素が色濃く残っておりまして、前近代的な医療環境になっているのが現状でございます。大臣よく御承知だと思うわけでございますが、精神医療の分野は、我が国に残されたやみの部分といいますか、恥部とでも申しましょうか、そういう状態に現在あると思うわけでございます。
 しかし、残念ながら、今回の法案は、人権を基礎にした適切な医療の提供というよりも、社会防衛の色彩が極めて濃いものとなっております。すなわち、らい予防法、エイズ予防法の類型に入る法案でございます。それというのも、現行の精神保健福祉法に手をつけず、その上で何かができると考えていることにそもそもの間違いがあると思うわけでございます。
 したがって、本法案は廃案として、人権と適切な医療の提供というものを基礎にして、現行法の改正を含む新たな法体系を組み立てるべきと考えているところでございますが、厚生労働大臣の御所見を賜りたいと思います。
坂口国務大臣 大変、金田議員から大局的な立場のお話がございました。
 精神医療というものにつきまして、現在おくれているということにつきましては、私も率直にこれは認めなければならないというふうに思っております。そのことを前提にしながらも、しかし、本制度の目的は、第一条に明記されておりますとおり、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、継続的な、そして適切な医療を行うことにより、その社会復帰を促進することにあるわけでございます。すなわち、本制度は適切な医療の提供を基本とするものでありまして、社会から隔離することを目的にするものではございません。この点をひとつ御理解いただきたいというふうに思います。
 それから、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、必要な医療を確保しまして、不幸な事態を繰り返さないようにして、その社会復帰を図ることが重要でありまして、そのために、精神保健福祉法における措置入院制度とは異なっているというふうに思います。
 指定病院等をつくるということにつきまして、先日来、それならば、一般の病院にもそれは当てはまることではないかという御指摘もあったところでございます。したがいまして、一般病院につきましても、これは充実をさせなければならないというふうに思っております。先日も、これは充実をしますということをここで申し上げたわけでございますけれども、しかし、私がここで充実しますというふうに申し上げても、君一人でできるのかという話に多分なってくるんだろうというふうに思いますが、ここは真剣にやはり考えてそうしなければならないと実は思っております。
 したがいまして、厚生労働省の中に、一つの部局だけではなくて、全体で一つ、精神保健、医療、福祉、そのトータルの推進本部をつくりまして、そして全体の精神医療の底上げができるように、これは真剣に図っていきたいというふうに思っております。
 それをやろうと思いますと、多分いろいろのことがございます。一つは、医師なり看護婦なりの配置の問題や、それから、その人たちがそれで足りるのかどうかといった問題もあると思います。それは、現在、そうはいいましても、急にその人たちをふやす、とりわけ医師の数をふやすということはなかなか難しいことだというふうに思いますが、一般の精神医療も含めて、そこをかさ上げをしていこうということになりますと、現在入院をしていただいている皆さん方をもう少し地域に戻すということが当然そこで並行して行われないと、精神病院の中身というのは変わってこないというふうに思っている次第でございます。
 したがって、地域にそういう受け皿をつくるということとセットでこれは進めていかざるを得ないというふうに考えておりまして、それらのことも含めて、地域の問題もやらせていただきますが、先ほど申しましたような趣旨というものも御理解をいただきたい、そう思っております。
金田(誠)委員 大臣、よく精神医療の実態について御存じのお立場から、大変誠意を持って御答弁をいただいたと受けとめさせていただいております。いわゆるハンセン病問題、この全面解決という大変な決断をされた大臣でございますから、決してわからないわけではないというお立場で、この法案は厚生労働省はかかわりが少ないわけでございますけれども、そういう中でも精いっぱいの御発言をされているなということは伝わってまいりました。しかし、だからこそ言わせていただきたいと思うわけでございます。
 本法案は、「医療及び観察」という表題にはなっているものの、本質的には刑事法制でございます。社会の法秩序を維持するというのが基本的なこの法律の性格でございます。「北風と太陽」というイソップの童話がございますが、本来太陽の政策が、法を犯した犯さないにかかわらず、今精神病患者さんに求められていることではないのか。その基本的なところが日本の恥部ともいうべき状態になっている。この間、大変な御努力をそれぞれ厚生行政の側面で私はされてきたと思うんですが、突破できない状況に現在ある。精神病院は、この二十一世紀の日本においてあれが病院と言えるのか、そういう実態にあるということは大臣一番よく御承知だと思うわけでございます。そういう中で、その土台の上にこの刑事法制を組み上げた場合にどうなるかということが今問われているわけでございます。大臣として本当に今決断をするべきときに来ている、私はこういうことを申し上げたいと思うわけでございます。
 本質的に刑事法制であるということは、もう釈迦に説法でございますが、決定は裁判所が行う、観察は保護観察所が行う、法務省が所管をする、法務委員会で採決をされるということからも明らかでございます。太陽の政策ではなく、まさに法秩序の維持。私は、これは必要ないなんということは申し上げるつもりはありません。国家として当然法秩序の維持は必要でございます。いわば北風の立場でございましょうかね。しかし、今精神病患者さんに必要なことは、現行の余りにも劣悪な、前近代的な精神病医療、この仕組み全体を変えていく。その中で、あるいはその上で、不幸にして法を犯した方について特別な手当てが必要なのかどうなのかという検討がされなければならない時点に今あるんではないでしょうか。
 そういう意味からいいますと、らい予防法やエイズ予防法と同じ類型と申し上げましたけれども、それは褒め過ぎかもしれません、少なくともこの二つの法律は医療の分野の体系であったわけでございますから。今回は、法秩序の維持、その体系なわけでございます。
 厚生労働大臣、今の精神医療の実態をよく知るお立場から、今の時点でこういう法律が本当に上程されていいものなのか、再度御所見を賜りたいと思います。本当に今、私ども政治の場にある者の決断が迫られている。今しかないと思います。
坂口国務大臣 法秩序の維持ということも大事なことでございましょう。一方において法秩序を守りながら、そして、その再発を予防していくというようなことも考えていかなければなりません。そうした意味で、一度重大な他害行為というものを行った人に対しまして、みずからの行為についての認識を高める、そしてまた、みずから抑制することを促すための専門的な医療ということも必要でございましょう。
 私は、一般的な精神科の病気、その治療、それを高めなければならないことも事実、現実問題としてそこがおくれてきていることも率直に先ほど認めたところでございまして、それに対するかさ上げも同時にこれは行っていかなければならない、そういうふうに申し上げたところでございます。
 前回、どなたの御質問でございましたか忘れましたけれども、ハンセン病のことが問題になりましたときに、やはり精神医療についても早急に考え直さなければいけないということを内部で議論をしたことがございます。それを行いますためには、これは厚生労働省の中におきましても担当部局がやっておるだけでは前に進みません。そうした意味で、これは厚生労働省の中で全体の意思として前進をさせる。そういう意味で一つそこを担当する本部をつくって、そして全局が同意してそれをやっていこう。それで、厚生労働省の中だけではこれはいかない話で、各省庁にも及ぶ話でありまして、財源も必要なことになってまいりますから、そこは、それはそれで進めていく意思を持ってやっていこうと。
 そうはいいますものの、これを進めていきますためには、しかしまだ財源的な問題だけでは足りない、人材の問題等もその中にはあるわけでございます。だから、精神科の先生が足りないという場合にそれをどうするかということもあわせて考えていかなければならない。そうしたこともあわせて考えながら前進をしなければならないわけでありますが、現在の状況を考えますと、社会的入院という言葉がありますように、もうそれは地域にあるいは家庭にお帰りをいただいた皆さん方も多くお見えになる。その人たちを地域やあるいは家庭に引き取るということと同時にやっていかなければ、充実をした現在の精神医療というものを前進させることはでき得ない。それを同時にやっていこうとすれば、地域でのいわゆる地域福祉というもの、あるいは中間施設と申しますか、一度に家庭に帰すといいましてもそれはできないだろうと思いますし、御家族のお見えにならない方もあるだろう。それは中間施設なのか福祉施設なのか、そうしたものもあわせてこれは総合的に前進をさせなければならないというふうに思っている次第であります。
 しかしここは、この法案を出させていただきます以上、一方においてこの法律があり、一方において一般精神病院の問題があり、ともにこれは車の両輪で前進をさせなければならないという決意を持っているということを申し上げたところでございます。
金田(誠)委員 大臣がおっしゃりたいことはよくわかります。お気持ちもよくわかります。本来あるべき姿ということを描いておられるということもわかります。しかし、それは大臣の頭の中にあるだけでは実になってこないわけですね。
 今、日本の精神医療というこの土壌があって、それをしっかりしたものにつくる、それがなければ社会復帰なんかできませんよ。多少人員配置の多い、多少きれいにした病棟に入ったところで、そこに入ったって、今度は新たなレッテルが張られるんじゃないですか。その上で社会復帰なんかどうやってできます、今の状況で。
 まず現行の精神医療、医療ですよ、これを本来のものに仕立て上げていく。それと同時並行に、不幸にして法律を犯すことになった方々の処遇はどうあるべきなのか、これは一緒に考えないと、木に竹を接いだようなことでその場しのぎをしても傷が深くなるだけだ、私はこういうことを申し上げたい。大臣もよくそれはわかっておるんじゃないですか。
 今求められていることは、精神医療そのものの構造改革、まさに構造改革ですよ。例えばハンセン病の全面解決をやってこられた大臣ばかりに困難な決断を迫るということは本当に申しわけないと思っております。よく御決断していただいた。今、やはり政府としてもう一度決断のときだと私は思います。何もするなと言っているわけじゃないんですよ。全体をリフォームしよう、構造改革しよう、そういう中できっちりと話し合っていけば済む話じゃないですか。ぜひそのことを申し上げたいと思います。
 ちなみに、事務的なことで、事前通告していなくて恐縮でございますが、この法案の中で厚生労働省の所管部分というのは第何条、何条というふうに分かれているんですか。これは全部法務省がやっているものなんでしょうか。ちなみに、第何条、第何条、第何条は厚生労働省の判断でここは出させていただいたとか、これからも変えられるとか、責任は厚生労働省にあるとか、そういうものを事務的にちょっと教えてくれませんか。
坂口国務大臣 その事務的な話は、私もそこまではなかなか割り切って御答弁をできませんし、多分それはなかなか、そう二つに竹を割るように割れないんだろうというふうに思っております。あるいは事務局が答弁するかもわかりませんが、その前に、先ほど先生がおっしゃったのは、私が思っていることとそんなに違わない、同じことを先生言っておみえになるんではないかというふうに思っています。
 この他害行為を行ったような人たち、そういう人たちに対する問題をやらなければならないのと同時に、一般の精神病院のことにつきましてもあわせて前進をさせなければならない。一方を今のままに置いておいてはいけないというのは、私も同じ考え方を持っているということを申し上げた。
 私が今ここで私の頭の中だけで言っているわけではなくて、これは厚生労働省の中にそうした対策本部をつくって、もう積極的に動きますということを申し上げているわけで、これは私個人の意思として言っているわけではございません。これは、必ずここは突破口を開こう、そして、今入院をしておみえになりますいわゆる社会的入院と言われる人たちをどう解放できるかということを、必ず着手をしよう、前に進めようということを申し上げているわけでありまして、決して金田議員と違うことを私は考えているわけではないというふうに思っております。
上田政府参考人 この法案におきます厚生労働省の担う部分でございますが、まず医療の部分でございます。第三章の医療でございます。それから、第四章にございます地域医療による処遇につきましては、法務省と一緒に担うものでございます。
金田(誠)委員 大臣とは認識は同じなんだと思うんですね。そうであれば、刑事法制としてのこの法案が今なぜここで出てくるのか、このことを申し上げたかったわけでございます。
 そうであるならば、厚生労働省所管の医療の体系の中で、まず現行の精神医療の構造改革が行われ、さらに法を犯した方々についての処遇というものが医療の体系の中でまずきちんと打ち出され、その上で法務省にどこまでかかわっていただくのか、これが大臣、順序でないでしょうか。大臣のおっしゃることを素直に解釈すればそういうことになる。そうなっていないから今この法案は成立させずにもう一度仕切り直しすべきだと私は思うわけでございます。公明党の皆さんも……(発言する者あり)何かおっしゃっていましたか。
山本委員長 不規則発言はできるだけお控えください。
金田(誠)委員 公明党の皆さんも席にいらっしゃると思いますけれども、大臣一人に決断をさせるんでなくて、与党の中の公明党の役割を私は果たしていただきたいと思います。ハンセン病の全面解決で役割を果たされたわけですから、ぜひひとつ、本質に立ち返って、原点に立ち返って。
 私は、触法の方々に何もするななんと言っていることでは全くないわけですよ。私ども民主党もそういう立場ですよ。ぜひひとつお考えをいただきたい。池田小学校の事件から流れとしては出てきました。しかし、そういう浮ついた報道の中で右往左往するんではなくて、もっと本質、原点を見据えた、それこそ骨太の方針を出していただきたいな。これはお願いを申し上げたいと思います。
 厚生労働省から今事務的な御答弁いただきましたけれども、この法案第何章とかというのは厚生労働大臣の決裁によって出しているというものなんですか。その辺、私は役所のことは余りよくわかりませんので。この法案の主務官庁というのは法務省でないんですか。その中でも、第何条、第何条というのは、これは法務省関係ございません、厚生労働省ですというものなのかどうなのか。ちょっとその辺を教えてください。
樋渡政府参考人 全体的に法務省と厚労省とが御相談申し上げながらつくったところでございまして、当然に厚労大臣の御決裁も、法務大臣の御決裁もいただいているところでございます。
金田(誠)委員 だから、どういう区分けになっているのかということを聞きたいわけですよ。裁判所がどうこうというものは、保護観察所がどうこうというのは恐らく法務省でやっているんでしょうし、医療行政という立場からどこまでどうかかわっているんですか。法務行政というか、刑事行政というか、刑事政策というか、それがどういうウエートになって、双方どういうかかわりになっているのかということを知りたいわけですよ。何か書いたものできちっと説明してもらえませんでしょうかね。
樋渡政府参考人 それぞれの専門の立場から意見を申し上げながらこの法案をつくってきておりまして、要は、こういう重大な他害行為を行った方々の社会復帰を図るためにどうすればいいかというところから意見を出し合ってまいったものでございます。
金田(誠)委員 刑事局長が答弁しているということは、この法律は全部刑事局の所管だという話なんですか。
上田政府参考人 先ほど申し上げましたように、医療につきましては厚生労働省が担当しているわけでございますが、基本的にはそれぞれ全体について法務省と一緒になって取り組んでいるところでございます。
金田(誠)委員 だから、その一緒になっているなり方を聞いているわけですよ。どういうふうに一緒になっているんですか。どこまでどういう権限で、何条何項のこの部分はこうだ、この部分はこうだというふうになっているの。それとも、法務省所管で、一般的に合い議というんですか、そういうことで厚生労働省の意見を聞いたということなんですか。その辺、ちょっと、私言われてもわからないものですから、わかるように紙に書いてくれませんか。
樋渡政府参考人 繰り返すようなんでございますが、それぞれの所管のことで意見を出し合いながら、しかしながら法律が一体なものでありますから、一体に考えて出しておるものでありまして、どちらが主管かということにはないというふうに思っております。
金田(誠)委員 これはどちらが所管かということではないんですか。
 では、責任はだれかわからないという話なんでしょうか。
樋渡政府参考人 失礼いたしました。
 そういう意味ではございませんでして、両方が主管だということでございます。
金田(誠)委員 これは、権限としては全く対等ということなわけでしょうか。その中の担当の割り振りみたいなものはあるんですか、ないんですか。
樋渡政府参考人 医療の関係につきましては、当然に厚労省の方で主体的に考えていただかなきゃならないことでございまして、私が先ほど申し上げましたのは、言葉足らずでございますけれども、主と従の関係にはないということでございまして、両方が管掌する法律だということでございます。
金田(誠)委員 役所の仕組みのことをお聞きをしておるわけでございますが、そういうものは何か内閣の取り決めみたいなものがあるものなんでしょうか。
樋渡政府参考人 そういうものはないというふうに承知しております。
金田(誠)委員 これは何か、どちらかがウエートが高いとかということはないんですか。全く対等なものなんですか。
樋渡政府参考人 そのようにお考えいただきたいと思います。
金田(誠)委員 まだ理解できませんが、後でまた質問させていただきたいと思います。
 次に、法務大臣に伺いたいと思いますけれども、今、精神医療あるいは感染症のことで歴史的経緯にも触れさせていただいたわけですが、このことは犯罪者に対する処遇についても言えると思うわけでございます。
 過去においては、拷問などということが常識だった時代もあり、残虐な処刑が日常的に行われていた時代もあったと思うわけでございます。しかし、人類は進歩をしてきた、時代は進歩をしてきたと思うわけでございまして、例えば死刑制度について言えば、一九九一年に死刑廃止条約が発効して、九九年の時点では絶対的廃止国七十四、相対的廃止国十一、事実上の廃止国三十九、この合計、死刑廃止国百二十四カ国に上っているわけでございます。これに対して、死刑存置国七十カ国にすぎないわけでございます。残念ながら、我が国はこの人権後進国のグループに今なお入っている、極めて残念な状況にあるわけでございます。
 あるいは、受刑者の処遇についても、精神病院と同様に、先進諸国と我が国とでは大きな落差がございます。そうした中から、名古屋刑務所の事件も私は起こるべくして起こったと思うわけでございます。
 今回の法案は、我が国における以上のような人権感覚の後進性のもとに発想されたものと思います。すなわち、人権や適切な医療の提供という発想からではなくて、社会防衛、予防拘禁という観点からの立法であって、そのことは先ほど来答弁者として刑事局長が再三立っておられることからも明らかだと思うわけでございます。
 したがって、本来あるべき法案は、人権と適切な医療の提供を基本にして、医療という立場から精神保健福祉法の改正を含む新たな法体系が組み立てられる必要がある、こう思います。その場合、主たる官庁は、法務省刑事局などではなくて、厚生労働省でなければならないと思うわけでございますが、法務大臣の御所見を賜りたいと思います。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにして、その社会復帰を図るということが重要でございまして、今申し上げましたように、必要な医療を確保するという点では、厚生労働省の重要なお仕事であり、確かに今まで十分でなかったという御指摘があるわけでございますし、大臣御自身もそれをお認めになっておられるわけですから、その点について、この機会に新たな思いで、その内容の充実、改善、向上をぜひ図っていただきたいと思いますが、この法律自体の目的は、そのような人々が十分な、必要な医療を受けることができて、そして不幸な事態を繰り返さないようにする、社会復帰をしていただくということがもう一つ目的でございます。
 ですから、そのためには、この法律に基づいて入院をしていただくということを決定されましたならば、その入院を御本人の意思、希望とは直接関係なく、一種の身体拘束になります入院をしていただくということを強制しなければいけませんので、それは人権の問題にもかかわりますから、その点から適当であるかどうかということを判断しなければいけないという意味で、法務省もかかわってまいるわけでございます。
 そういう意味で、両省がそれぞれの立場で知恵を出し、お互いに協力をして、最初の目的でございますこのような人たちの社会復帰を図るということをやっていきたい、それが目的でございますので、ぜひ御理解をいただきたいというふうに思います。
金田(誠)委員 申し上げていることが全く御理解いただけなくて残念でございます。
 次の質問に入らせていただきますが、大きな二つ目、去る七月十二日の連合審査におきまして質問をさせていただきましたけれども、その積み残し事項についてお尋ねをいたします。
 古田政府参考人は、殺人その他の重大犯に当たる行為をした人で心神喪失等の人は二千三十七名、そのうち過去十年間に同様の重大な他害行為をしている人は二百四十名、約一一・七%という答弁をしております。
 私は、その二百四十名の内訳がどうなっているのかと資料要求をしたところですが、その後、音さたございませんので、どのようになっておりますでしょう。
樋渡政府参考人 法務省といたしましてはこれを提出する準備ができておりますので、後刻提出したいと思っております。
金田(誠)委員 それではよろしくお願いを申し上げたいと思います。
 同じく七月十二日の連合審査で、私はこのように申し上げました。毎年平均約四百人の対象者があり、重大犯罪の再犯率が一一・七%とすれば、第四十二条による入院等の決定は、四百人掛ける一一・七%ですから、四十人から五十人程度になると理解していいか、このような質問をしたところ、明確な答弁はなかったわけでございますが、改めて両大臣からそれぞれお答えをいただきたいと思います。
坂口国務大臣 毎年約四百人の対象者があったときに、重大犯罪の再犯率が一一・七%だからその人だけか、こういうお話なんだろうというふうに思いますが、毎年平均して出てまいります対象の四百人の中にはさまざまな内容の人たちがいるというふうに思いますから、いわゆる重大犯罪の再犯率だけでこれを見ることというのは少し無理があるのではないか。中には、もっと軽いけれども、しかし治療を要するという人たちもお見えでございましょう。したがいまして、この重大犯罪の再犯率だけでその数字を出すことは少し無理があるのではないかというふうに私は思います。
森山国務大臣 七月十二日の委員会で政府委員から御答弁申し上げましたとおり、入院等の決定は処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が個々の事件に応じて判断するものでございますから、検察官による申し立てがなされたもののうち入院等の決定がなされる者の割合について、確定的なことを述べることは大変難しゅうございます。
 御指摘の約一一・七%と申しますのは、平成八年から十二年までの間に心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のうち、本件犯行以前の十年間に重大な他害行為の前科前歴がある者の割合でございます。したがいまして、この数字は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者がその後重大な他害行為を行う割合という意味での再犯率ではございません。
 このような再犯率というものは、その統計的な調査に困難があるわけでございますが、仮にこれが算定されたといたしましても、その後の措置入院等によりまして精神障害が改善した、治ったかなどということを考慮しないことになってしまいますので、入院等の決定がなされる者の割合を想定する場合における参考には直接なるとは言えないと思います。
金田(誠)委員 お二方それぞれから、どの程度の方が例えば入院をさせる旨の決定の対象者になるのかは御答弁なかったわけでございます。そのようにお聞きをいたしました。
 しかし、この法律が仮に通ったとして、第四十二条による入院の決定等がどういう形でどの程度なされていくのか、それは非常に重要な判断要素でございます。これについて、確定的なことを話していただきたいとは申し上げません、おおむねこの程度を想定していると。
 例えば、今までこの対象者と言われる方がこの法律以前にはいろいろな形でそれぞれ処遇をされていたと思うわけでございますが、仮にこの法律があったとすればどういう処遇になるのかということなどは、これは調べようと思えば調べられる話でございまして、こういう法律を出すに当たっては当然なされているんだろうと私は思っております。やみくもに、約四百名の方が対象者、この数字は出ているけれども、その結果、入院、通院、その他の振り分けがどうなるのか全くわかりませんという話で法律を提出しているわけではないだろうと思うわけでございますね。しかし、お二方からはそれぞれ御答弁は今ないのでございますが、これはどのようになっておりますでしょうか。
森山国務大臣 法務省の調査によりますと、平成八年から平成十二年までの五年間におきまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のうち精神保健福祉法の措置入院となった者の割合は約六六・五%となっております。この数字が直ちにこの法案の制度においてもそのまま妥当するとは考えられませんけれども、この制度による処遇を受けることとなる者の数を推定するのにはこのような数字も一つの目安かなというふうに思われます。
金田(誠)委員 厚生労働大臣、どうでしょう。
坂口国務大臣 これは法務省からちょうだいしたものだというふうに思いますが、平成十二年度中に精神保健福祉法に基づきまして検察官から都道府県知事に対し通報がなされた事例は、重大な他害行為に該当するケース三百四件のうち、六四・五%が措置入院というふうになっております。したがいまして、今法務大臣からもお話ございましたが、この範囲の中の数字ではないかというふうに思っております。
金田(誠)委員 いわゆる再犯率というのは一一・七%、後で資料をいただきますけれども、そういうことで数字をお示しいただいているわけでございますが、今度この法律ができれば、措置入院の比率、六六・五とか六四・五とかということで今それぞれお話がございましたが、こういう形で入院が決定されていくという話なんでしょうか。
樋渡政府参考人 再犯率を出すのが難しいといいますことは法務大臣のおっしゃったところでございまして、また、厚労大臣の方からも、そういう人たちだけが対象になるのじゃないというお答えをなされておりますが、正確な数字は、おっしゃるようになかなか出せないのでありますけれども、この制度のイメージ的なことを申し上げますと、まず、御指摘のありましたように、年間約四百人ぐらいの方が重大な他害行為をなさるといたしますと、正確な再犯率ではありませんけれども、その一一・七%の方が過去にそういう前歴を持っておられるということでありまして、そうしますと、その約四百人の方々は、この後ほとんどの方が措置入院等によりまして治療を受けておられます。これを、本案の修正案のお言葉をおかりすれば、同様の行為を行うことなく社会復帰をされた方がたくさんいらっしゃるはずでございまして、これも治療を受けた効果であります。
 反対に申し上げますれば、一一・七%の方といいますのは、不幸にして社会復帰をされながら再び同様の行為をされた方か、あるいは治療を受けておられる中で、または完全に社会復帰されていない中で不幸にもまた同様の行為をされた方ということになるわけでありまして、両方とも治療を受けていただくということが必要だろうという意味で、その確実な数字は、これはこの法案に基づきまして裁判所が判断して確定していくことでありまして、正確な数字は申し上げられませんけれども、しかしながら、先ほど法務大臣が申し上げましたように、四百名というのはリミットでございまして、そのうちの措置入院の方が約七割近くいらっしゃるから、多分それよりは少ない数字だろうというところまでは何とか言えるだろうというふうに思っております。
金田(誠)委員 措置入院の方の比率がこういうことだということはわかるわけでございますが、これは自傷他害のおそれですよね。これは要件が異なるわけでございます。法案の第四十二条、原案には原案の要件が示されていて、修正案には修正案の要件が示されている。これは自傷他害ということではないわけでございますね。しかし、出てきた数字は、自傷他害の措置入院ということが一つの目安ということでお示しをされているわけでございます。
 措置入院の数字が、今回の法案、原案、修正案、修正案はどうなのかまだ御答弁いただいておりませんが、提出者、修正案も同じ考え方になるんでしょうか。後でちょっとそれはお答えいただきたいと思いますが、新法による入院も措置入院の比率が一つの目安になるという根拠をお示しいただきたいと思うのです。
上田政府参考人 先ほど大臣の方から、重大な他害行為に関するケース三百四件のうち六四・五%が措置入院になっているということにつきまして御説明申し上げましたが、措置入院と申しますのは、いわゆる自傷他害という要件での判定でございます。したがいまして、今回の要件と自傷他害の関係でいきますと、自傷他害の概念が広いわけでございますので、我々といたしましては、この六四・五よりも少ない数字というのが考えられるというふうに思っております。
 いずれにしましても、御参考までに措置入院の状況を御説明申し上げたところでございます。
金田(誠)委員 提出者の方から。提出者の修正案でも同じ考えかどうかというのをさっき質問したんですが。
塩崎委員 今回これを修正しても、合議体が新たな組み合わせで、裁判官と精神科のお医者さん、審判員として、それぞれの鑑定に基づき、それから、先ほど来ずっと質問が出ておりますけれども、裁判官としての知見に基づいてさまざまな判断をして、意見の一致を見たところで判断をするということでありますから、基本的には、先ほど答弁があったように、さあ、この四百人のうちのどれだけがというようなことはなかなか今確定的に申し上げることは難しいだろう。特に、今どうなのかということが大事なわけでございますので、難しいということだと思います。
金田(誠)委員 この法律がもし動き出したらどうなるのかが示されなければ、判断も非常に難しいということになりますね。
 今、一つの目安、これより少ないということで出たのが、森山大臣は六六・五、坂口大臣は六四・五%と、ちょっと違いますが似たような数字が出ておりますね。これが自傷他害の場合こうであった、しかし、もっと概念は狭くなるのでこれよりも少ないだろうというお話でございましたが、仮に六五%程度というような話になりますと、再犯率、実際は一一・七ということになりますから、五〇%以上の方が予防のために収容される、それも自傷他害ということの措置入院ではない形でこの新たな法律の対象になる、こういうあいまいな話でやろうとされているわけですか。
 六六・五なり六四・五より、これより少ないだろうという話です。この程度の数字しか出ませんか。少ないだろうでは、一一・七になるものなのか、五〇になるものか、四〇になるものか、いずれにしても、相当その必要のない方が入院させられるという話なわけですよ。それが、これよりは少ないだろう程度の話で納得しろと言われても困るんですが。
上田政府参考人 先ほど、入院等の決定につきましては、処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が個々の事件に応じまして判断いたすものでございますので、そういう意味で、現時点で確定的なことを述べるのは困難であるということを申し上げました。しかしながら、議員の方から、この点についてのデータについて私ども把握していないのかという御質問だったと思います。そういう意味で、重大な他害行為に該当するケースについて措置入院の状況を御参考までに御説明したところでございます。
金田(誠)委員 ですから、今の数字は措置入院の数字なわけですよ。新法の原案による数字でもなければ修正案による数字でもないわけですよ。我々、この法律ができたらどうなるんだということを判断できないままに、示されないままに賛否を問われても困るわけですね。
 そこで、両大臣にお願いでございます。中をもうすっかり飛ばしまして、時間がなくなりましたので、最後の質問で用意していた部分をお願い申し上げたいと思います。
 具体的な事例について、入院、通院、その他がどう振り分けられるか、法案の可否の判断に当たり、私はどうしても必要だと思うわけでございます。これは、確定的に一人一人まで全部確定しろなんて言うつもりはありませんよ。しかし、六十何%、措置入院の数字しか出ていません、それよりは少ないでしょうという話では余りにもこれはお粗末じゃないですか。ある程度誤差を見ても、この程度のものは入院になるし、この程度は通院、その他と、想定でいいですよ。一定の根拠のもとにこう想定するというものはぜひ必要だと思うわけでございます。
 例えば、平成十二年四百十七人の対象者ということでこの資料集に数字が載っていますが、それぞれどう振り分けられるのか。固有名詞なり事件の詳細などはプライバシーにかかわると思いますから、そんなことは求めません。そういう固有名詞などに及ぶことのない、プライバシーに及ぶことのない範囲で、概略、犯行の状況なり病状、これがわかる形で、こういう方は入院措置ですよ、こういうのを、例えば平成十二年四百十七人、これについて、御専門の立場から振り分けをして数字をお示しいただけませんでしょうか。そのぐらいのことをやるのは、この法案審議に当たっては私は当然のことだと思いますが、いかがでしょう。
森山国務大臣 今先生御指摘の四百十七人というのは、平成十二年に検察庁で不起訴となった被疑者のうち、精神障害のため心神喪失及び心神耗弱と認められた者並びに第一審裁判所で心神喪失及び心神耗弱が認められた者の人数というふうに理解いたしておりますが、入院等の決定は、その事件を取り扱う裁判所の合議体が、個々の事件に応じまして、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎といたしますとともに、同じ第三十七条第三項の意見及び対象者の生活環境をも考慮いたしまして判断するわけでございますので、具体的な事件についてどのように判断がなされるかということを想定するのは大変困難でございまして、なかなかお答えがしにくいというふうに思います。
金田(誠)委員 そんなことはないのではないですか。現実に四百十七人という対象者が例えば平成十二年の場合はいらっしゃるわけです。十二年でなくてもいいですよ、十一年でも十年でもいいわけですけれども、そういう方々が、この法律ができればおおむねどういう処遇を受けるのか、その程度のことをお示しいただかなければ、これは判断のしようがない。
 それをやってみてくださいよ。それは、専門のお医者さんだって厚生労働省にはいらっしゃる、専門の法律家は法務省にいらっしゃる。手分けして、皆さんがどういう想定でこの法律を出しているんですか。措置入院の数字しか出ないということじゃないでしょう、新たな体系をつくるというんだから、それは出してください。――刑事局長の話じゃないでしょう、これは。何を考えているんですか。(発言する者あり)
山本委員長 樋渡刑事局長。
 不規則発言は御注意ください。(発言する者あり)不規則発言でございます。不規則発言に御注意ください。委員長の秩序維持の権限がありますので、委員、中川委員、御注意申し上げます。
樋渡政府参考人 端的に申し上げまして、現在、そういう資料はございません。要は、入院等の決定は事件の記録のみに基づくものではございませんでして、この法案の三十七条第一項に規定する鑑定や、生活環境に関する資料等が必要でございますから、そういうものがまだ出されていない段階で想定することは困難でございます。
金田(誠)委員 これでは審議ができませんので、委員長に、この資料を政府で作成して提出するように求めたいと思います。
山本委員長 理事会において協議させていただきます。
金田(誠)委員 時間になりましたので、終わります。
山本委員長 午後一時から連合審査会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時二分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時二分開議
坂井委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。五島正規君。
五島委員 民主党の五島でございます。
 午前中に引き続きまして、この法案について質疑を行いたいと思います。
 午前中、森山大臣もおっしゃっていたわけですが、我が国において、犯罪行為を犯した人に対する法的制裁でございますが、これは罪刑法定主義、行為主義、責任主義、この三つが原則になっている、これが我が国の刑法の基本であるというふうに理解しております。すなわち、言いかえれば、将来犯罪を犯すかもしれないということを理由として刑罰を処すことはできない、これは原則だろうと思います。まして、その人が危険な人物かどうかというふうなことを想定して処分することができないことは言うまでもありません。
 そういう意味において、心神喪失状態にあり重大な他害行為を犯した精神障害者に対してのみ、将来の犯罪行為を予想して行政処分あるいは何らかの処分を課すということは、いかなる理由において可能なのか、その点をまずお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 この制度による処遇は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、継続的で適切な医療を行うこと等によりまして、その社会復帰を促進するために行われるものでございまして、犯罪を行った者に対する制裁を本質とする刑罰とは全く性質が異なるものでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有しているというハンディキャップに加えまして、人の命、体、財産等に被害を及ぼす重大な他害行為を行ったというハンディキャップをも背負っているということが言えます。また、このような者が有する精神障害は、重大な行為と結果を引き起こす原因となるものでございますから、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いものであると考えられますし、仮にそのような精神障害が改善されないまま、再びそのために同様の行為が行われるようなこととなりますと、そのような事実は本人の社会復帰の重大な障害となるのでございまして、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠でございます。
 そこで、このような者につきましては、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、また、退院後の継続的な医療を確保するための仕組みなどを整備することにより、本人の円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられますことから、今回新たな処遇制度を創設することといたしたものでございます。
五島委員 この法案自身がなぜ法務委員会に付託されたか、そのこと自身が私には理解できません。今の森山大臣のお話は、司法の問題を超えて、我が国において精神医療の問題、精神障害者の社会復帰の問題について不十分だから、法務委員会の方であるいは司法の方で手をかしてやるという、要らぬおせっかいでおっしゃっているにすぎない、そのように思います。そもそも、現状の中において、司法の分野において、精神障害者として犯した犯罪、あるいは、とみなされた犯罪行為、そのことにおいて不十分な点は何なのか。まさに簡易鑑定であり、警察官通報であり、それが必ずしも適切に処理されてこなかった、そこのところが法務委員会の最大の反省しなければいけない問題ではないでしょうか。
 現実問題として、今回のこの法案の大きな話題になった池田事件の問題につきましても、過去において数回、いわゆる精神障害者であるところの、心神耗弱状態にあるという形で刑が免除されたりしています。すなわち、人格障害によるそういう犯罪行為を司法の方においてよくきちっと整理しなかった、この反省に基づいたこの法の改正というのは、何らここには出ていないじゃないですか。
 司法、特に法務当局が反省しなければいけないのはその点であって、そして、精神障害者の医療あるいは社会復帰について、私は、大臣として森山大臣が現状を批判なさることは当然だと思いますし、大事な問題だと思います。しかし、それはそれとして、厚生労働政策の中においてきちっと筋道をつけていく、それが正しいあるべき姿だというふうに考えますが、法務大臣、どうお考えですか。
森山国務大臣 この法案を御提案申し上げた趣旨は先ほど申し上げたとおりでございますが、確かに今までの法務行政、あるいは精神障害を持ちながら重大な他害行為を行った人に対する扱いが全く問題がなかったわけではない、私もそのように認識いたしております。
 ですから、特に精神障害を持つ方に対する処遇として、医療の面でさらにレベルの高い治療をしていただくということが必要であり、特に精神医療全体について、いろいろ問題があるようでございますので、それらの問題も含めて、その質の向上ということを考えていただかなければならないという考え方から、厚生労働省にも御協力をいただいて、医療の面で特に力を入れていただきたいというふうに思っているところでございます。
五島委員 厚生労働大臣にかわっておしゃべりになる必要はないわけでして、現在の法務当局が現状において反省しなければいけない点をこの法律の中にどういうふうにきちっと書いているか、そこのところが全く書けていないということについて、これではだめじゃないかと。
 また、ちなみに申し上げておきますが、精神障害者が他害行為を行うということは精神医学的なことではありません。そういうふうな行為というのはあくまでも症状による二次的な結果です。精神障害を持っている人が他害行為を行うというふうなことにはなりません。あくまで症状による二次的な結果であることは言うまでもありません。二次的な結果としての行動は、症状以外に多くの外部条件によって左右されるものであり、また恒久的なものではありません。その意味では、精神の障害を来していない人であっても、外部条件によっては自傷事件や他害行為を起こし得るわけでございます。それにもかかわらず、あたかも精神障害者に特有な症状が他害行為であるかのように他害行為、他害行為とおっしゃっている。私は、これはとんでもない話だろうというように思っています。
 事実、既に数十年前から、医師の適切な指導と家族の協力があれば、自傷事件や他害事件の相当な部分は防ぐことができている、また短期間にその症状を消失させることが可能であります。例えば、近所の人に被害妄想がある、妄想幻覚があるというような場合でも、その人に妄言や暴行のおそれがあることを話し、その対策を具体的に家族に指示しておいたためにその危険を未然に防いでいくということは、日常の精神科医療の中において行われていることです。
 そういう意味において、この自傷、今回の場合は重大な他害行為というまだわけのわからない症状の二次結果というものの第三者に与える被害の大きさによって区別するわけですが、そういう重大な他害行為を行ったかどうか、そのことは症状の結果であり、いかにそういう症状を未然に防ぐかということが本来、基本でなければならないというふうに思います。
 ところが、この間の話を聞いていますと、いろいろな表現を使いながら、依然として、精神障害者は危険な存在、精神障害者は社会にとって邪魔なもの、そういうふうな疾病差別、人権無視、そういうものがどうもこの社会にもこの国会にも底流として根強く残っているというふうに思わざるを得ません。
 医療の立場においては、患者の症状の改善と治療、そして病状のコントロールによる症状の悪化の防止、そしてさらに言えば、その予防活動においてのみそうした安全というものが期待できるのではないかというふうに考えているわけでございますが、厚生労働大臣、他害行為をたまたま起こしてしまったその患者さんに対する治療処分をすることによって、そのことによって本当にそういう社会の安全というものは確保できるのかどうか、また、そのような手段が精神医学的に正しい手段とお考えかどうか、お伺いします。
坂口国務大臣 先生が今御指摘になりました総論的なお話は、私もそのとおりと思って聞かせていただいているわけでございます。しかし、重大な他害行為を犯した人たちにとりましては、一般の精神医療に加えて、やはり治療をしなければならない分野があるのではないかというふうに思っております。
 午前中にも申しましたとおり、そういう皆さん方に対しましては、みずからコントロールすることを促す、あるいはまたみずからの行為についての認識を高める、そうした治療というものが必要であるというふうに思っておりまして、そうした皆さん方と一般的な精神治療を受ける皆さん方の問題を区別して、一般の精神病の皆さん方についてはどうでもいいことと思っているわけでは決してない、この皆さん方の治療も高めていかなければならないということは、きょう午前中にも申し上げたところでございます。そして、そこを高めていくためには、委員も御指摘のように、あらゆる角度から改善を加えていかなければならない。例えば、診療報酬なら診療報酬体系の中におきましてもそうした問題は改善を加えていかなければならない。人の配置の問題につきましても改善を加えていかなければならない。そうしたこともあわせて、これはトータルで前進をさせるということがなければならないというふうに思っている次第でございます。
五島委員 今厚生労働大臣が、総論ではお認めになる、しかし各論のところではとおっしゃるわけですが、総論をお認めになった現状が、現実の精神医療の社会と比べてみると余りにも格差が大きい、これが現状ではないでしょうか。私も、重大な他害行為を行った人、その人の社会復帰というのは大変なんだというのはよく理解します。多くの場合は、その対象者が家族である場合もございます。症状が消失することによって自分の犯した症状の結果に対して大変な罪悪感を感じ、そのことによって社会復帰がおくれたり、あるいは、またまた症状が悪化したりするケースがあるということもよく聞かされるところです。
 そういう意味においては非常に慎重な治療行為が必要ですが、少なくても、それは総体としての治療体制の整備であって、急性期の病症という問題に限った問題ではありません。また、そもそもそういうふうな他害行為が起こることは予防できるかどうかといえば、今回のお出しになった法案、とりわけ、修正者の方がお出しになったPSWを中心とした方々による精神保健観察官というふうな制度、これがなぜこういう人たちにだけ必要なのかと思うわけですが、こういうふうな在宅における精神治療というものがスムーズに受けられるシステムを厚生省として採用していただければ、かなりの部分でこれは予防できることはおわかりいただけると思います。そういう部分が全く未整備の結果、結果として世間全般に、精神病患者は恐ろしい人、悪い人、そういうイメージが定着し、そして、今回の池田事件のようなことが起こった途端に、総理ともあろう人が精神病患者とそうでない人との区別もできないというような発言につながったのではないでしょうか。
 この点を考えますと、当然のことですが、こうした精神障害の患者さんに対して、司法が関与できない、すなわち責任能力がないと判断した段階で純粋医療の分野の中において手厚い介護がされるべきであって、そのことは、施設に閉じ込めるということによって決して解決できる問題ではありません。すなわち、精神病の患者さんを極力、一日も早く社会に復帰させ、社会の中で治療できる体制、完全治癒を求めるのではなくて、社会の中で治療できる体制を整備しない限りは、結果において、いかに言葉を飾ろうとも、そうした患者さんが不定期の拘束刑に処せられたのも同じようなものになる、そういう自由の束縛、拘束になってしまうことは明らかだろうと思います。
 今入院医療において期待できるのは、重大な他害行為を行うに至った心神喪失の状態、これを入院治療で改善することはできます。しかし、こうした患者さんの社会復帰の問題までを考えた場合は、この入院という手段において解決できるものではありません。その点につきまして、厚生労働大臣と、それから今回修正案をお出しになった塩崎議員の御意見をお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 他害行為を行った人に対しましてどういう治療をするかということは先ほども申し上げたところでございますが、その人たちをいつまでもそこに入れておくというのではなくて、それは社会復帰をさせるためにどうするかという立場からやるわけでございますから、その人たちが間もなく地域やあるいは家庭に帰りましたときにその人たちを受け入れる、そういう施設というもの、あるいはまた家庭の環境といったようなものを整えなければならないわけでございますから、その入院の期間と、そして家庭に帰った、地域に帰ったときの問題と双方同時進行でやっていかなければならないというのは、もう御指摘のとおりでございます。
 それはPSWとか特定の皆さん方にも活躍をしていただかなければなりませんけれども、そういう人たちだけではなくて、やはり地域の保健婦さんでありますとか、あるいはまたその保健婦さんがおります保健所でありますとか、多くの皆さん方が御協力をいただいてこれはできることだというふうに思っております。そういう体制を整えていかなければならない。
 ここが不十分であるということを率直に私も認めているわけでありまして、こうした全体のかさ上げをしながら、その中で、しかしその全体のかさ上げをすればそれで一〇〇%できるかといえばそうではなくて、やはり他害行為を行ったような皆さん方に対して特別にしなければならない治療というものも存在するのではないか、こういうことを申し上げているわけでございます。
塩崎委員 今五島議員の方からお話がございましたとおり、入院治療だけで事足りるというようなことは決してないわけであって、大事なことは、退院をした後の医療が継続をされること、そしてまた社会で受け入れる体制があること、この二つがなければいけないであろうと思いますし、また、社会が受け入れるということは、やはり差別意識をなくすということも大事であって、私は、この政府案に対する質問を私自身がしたときにも、文部科学省を呼んで、小学校の段階からでもこの差別をなくす教育をやるべきじゃないか、こういうことを申し上げたわけであります。
 今回の法律では、社会復帰調整官が中心となって、コーディネート役で地域での受け入れを進めるようにということで、いわゆる保健所などもいろいろ連携しながらやるということになっておりますけれども、今、その体系が全く不十分だというのがそもそもの認識であります。
 今回私たちも、きのうちょっと答弁で申し上げましたけれども、この医療の、特に高度な医療を行う今回の法律だけで終わってしまうんでは、二段ロケットの二段目に点火しないんでは、何のためにやったんだということになってしまうということで、やはりこの第二段目に確実に点火をするということが大事であります。
 今回の法律とそれから現状の措置入院制度で、一つあえてこちらの方が一番進んだかなと言えるのは、今回、PSWを中心としたそういった知見を持った人が治療を続けられるような体制をつくっていくということは、今の措置入院ではお医者さんが退院をさせてもその後帰ってこないということで悩んでいらっしゃるのを見て、ここは一つ進歩ではないのかなというふうに思っております。
五島委員 今、坂口大臣とそれから修正案提出の塩崎議員のお話を聞きまして、思いのところにおいて一致する部分はかなりあるかと思いますが、そういう思いを具体的にあらわしたのが実は民主党の提案している法案ではないかと思っています。その点、今そこに我が党のエースである水島議員がこの法案の提出者の立場でお座りなんですが、法案の内容については結構ですが、今私がお伺いした点についてどうお考えか。
水島議員 まさに五島委員のおっしゃるとおりでございまして、私たちがこの法案を考えるときに基本的な考え方として持っておりましたのは、やはり精神障害を持った方たちを社会的にもまた医療的にも地域で孤立させないということがあらゆる問題の解決につながっていくのだというふうに考えまして、この民主党案を提案させていただいたわけでございます。
 法案として提出しておりますのは民主党案でございますけれども、あわせて精神保健福祉十カ年戦略という政策文書を発表させていただいておりまして、このことによって、本当に差別や偏見なく、安心して、また働く権利も保障されながら、精神障害者の方たちが地域で暮らしていける仕組みを提案しておりますので、そのような趣旨でございます。
五島委員 今、塩崎議員もそれから大臣の方も、必ずしも施設の中における治療だけではなくて、こうした患者さんの社会復帰の困難性、そこもきちっとサポートすることが大事だというお話でございます。
 事実、修正案の中には、再犯の将来予測に対する入院ではなくて、「社会復帰」という表現に変わっています。表現の上では確かに非常にマイルドでいいわけですが、現実を考えると、実はこのマイルドさというのが必ずしもどうなんだろうという不安を持たざるを得ません。
 というのは、二つございます。
 一つは、現状においても七万人を超す精神病患者が社会的入院として精神病院の中に入院しています。なぜこのような多数の社会的入院患者が存在しているのか。それは、かかって社会復帰が困難であるという状況にあるからではなかろうか。また、各国を見ましても、こうした重大な他害行為を起こした人の入院期間というのは、社会復帰に非常に時間がかかるというのが通例でございます。その理由は、先ほど私が申したような点も一つの理由になっています。
 そのことを考えますと、結果として、精神障害者が症状の結果二次的に起こしたそういう行為というものをいかに未然に防止していくかという体制に重点を置かない限りは、結局、刑法の世界からは何としても了解できない、しかし社会的防衛として何か要るのじゃないかという形で、限りなく保安処分の発想に入っていかざるを得ない問題をここは持っているというふうに思うわけです。それはやはり、一にかかって、現在の精神医療の貧困さ、そして、そうした障害者の社会復帰の制度の不整備、これは医療だけの問題ではありません、さまざまな社会保障体制全体の問題、社会の仕組み全体の問題、教育の問題、おっしゃるとおりあります、そういう全体の問題ではないか。そこのところをどうするのか。
 簡単に社会復帰と言われるけれども、現在七万人を超すこの社会的入院患者、なぜ社会的入院をしているとお考えなのか、厚生省にお聞きしたいと思います。これは、医療機関が強引に退院させないのか、それとも社会に復帰するにも復帰する手段がないからそうなっているのか、その点についてお伺いします。
上田政府参考人 ただいま議員お尋ねの社会的入院に至る背景の問題でございますが、患者さん個人個人によってさまざまな状況があるというふうに考えております。
 一般的に、退院して地域で生活を行う際に、住まいの確保の問題ですとか、あるいは家事等の日常生活の遂行において困難がある場合ですとか、あるいは通院や服薬を中断し症状悪化を来すおそれがあることですとか家族等の協力が得られないこと、こういうような退院後の生活を営む上での不安や困難が指摘されているところでございます。
 また、もう一方では、諸外国に比べて精神病床数が多い、あるいはこれまで入院中心であった問題、あるいは入院中に、患者本人に対するリハビリテーションですとか早期退院に向けた家族等への働きかけ、また相談指導等、こういうことが十分に行われていない、いわば医療機関における問題点もあるわけでございます。
 また、退院後の地域での受け皿、社会復帰施設等々、こういった受け皿が不十分であったこと、こういう問題もあるわけでございまして、私どもといたしましては、やはりこういった課題について積極的に取り組んでいく必要があるというふうに考えているところでございます。
五島委員 厚生労働省自身が現状をよく理解しておられるじゃないですか。それを解決しない限りだめなんですよ。それをどう解決するかということを先行させていかない限り、こういうふうな精神障害者がその症状の結果不幸な事件を起こすということを繰り返すわけですね。そこをどうするかという問題を置いておいて、今回この法律によって重大な他害行為を起こした人については濃厚な治療を施して社会復帰させるとおっしゃっている。本当にそういう重大な他害行為を起こした者だけが社会復帰が可能なんですか。厚生省はどうお考えなんですか。これができれば可能なんですか、その人たちは。
坂口国務大臣 一般の精神病の皆さん方を地域においてどう治療するか、あるいは地域においてどう受け入れるかということが不備だという御指摘は、率直に言ってそのとおりというふうに思っているわけでございます。ここを改善していくということが大事でございますが、一方において、新しい施設をつくって、そしてそこからお帰りになる人も、同様にこれは現在の段階では無理でございます。これは今後ここを一般の病棟の皆さん方も含めて改善をしていかないといけない。
 一つは、これは住まいあるいは施設の問題だというふうに思います。もう一つは、人の問題だというふうに思います。人の問題といいますのは、それに携わる、手を差し伸べていただく専門的立場の人たちだというふうに思います。そういう養成も一緒に進行させなければならない。あわせまして、やはり社会全体の考え方というものも差別的な考え方を持つようなことがあってはならないわけでありまして、そうした面も改善をしていかなければならないということでございますが、いずれにいたしましても、これはやはり政府が動くということをまずやらないといけないんだろうというふうに思っております。
 そういう意味で、厚生省の中にも対策本部をつくりまして、各局がそこで協力をしてどうやっていくかということを考える、そして他の省庁の皆さん方にもできればお入りをいただいて、そして早急に前進させるためにはどういう手順でどういう方法でいくかということをやらないといけない。あらゆることがこれに絡んでくるわけでございますから、一つの機会がなければなかなかこういうことはできないわけでございまして、今回のこの法案が出ましたこの機会に、その機会をとらえて全体に前進をさせるということをやりたいというふうに決意をいたしております。
五島委員 大臣自身が今重大な御発言をなされたわけです。やはり全体の体制ができない限り、この法案ができても無理だろうと。まさに認識しているではないですか。そうだとすれば、民主党が言っているように、この精神科医療の現状のありよう、それを変えていくことに対して、もちろん政府が率先してやる必要があるんですが、そこのところをやっていくということにおいて解決するしかない。
 司法の側からいえば、第三者に対して重大な他害行為を起こした人は責任が追及できないからといって刑罰を科すことはできない、ひょっとしたら残念なのかもしれません。しかし、これは我が国の法定主義の中においてそういう制度になっている、建前になっているんです。いつまでもそんなことにこだわってもらっては困る。その問題については、やはり医療なり社会福祉なり、そういう分野のところにおいて、これをいかに社会復帰させていくか、治療していくか、あるいはそれを未然に防止していくか、そこのところにお任せいただくしかない内容だろうと思っています。
 また、先日のこの質疑の中でも、大臣もお認めになられましたが、新たにつくられる病棟は他害行為を行った患者のための専用病棟であるかのように言われたわけですが、それ以外にもベッドがあいておれば急性期の精神病患者の入院治療も可能であるかのようなお話になっていました。恐らくそうだろうと思います。患者さんそのものの中に、重大な他害行為を症状の結果起こしたか、それとも起こさずに、未然に心神耗弱状態を回避するために入院してきたか、病状の上において差があるわけではありません。そうだとすれば、当然、そうした精神科の急性期の治療病床の整備が必要なことは言うまでもありません。
 今の精神科医療というのは、余りにも人的にもお粗末。結局収容するだけの機能しか持っていない精神科病院も数多く見られる。そういう状況の中からいえば、我々は、そういう急性期の医療病床を精神科医療の一環として整備することについては何ら反対していない。むしろ必要だと考えている。これが、何も他害行為を行ったかどうかということに限らずに、医学的に必要な人に対してはやっていけばいい。決して、重大な他害行為を行った人の数がこうだからこれだけでベッドが足りるというふうに考える必要もない。必要な病床の整備、そして一日も早くそういう急性期の病症から離脱させていく、その上で在宅において継続した治療ができる、その体制を整備すべきことは言うまでもありません。
 また、そのことに必要ないわゆる社会復帰のための体制、これはこれまで全然やられてこなかったことなんです。先ほどの大臣のお話ですが、この議論は、大臣、もう三十年以上続いている話なんですね。にもかかわらず、厚労省はいまだにこの問題にほとんど解決の方法をとっていない、とれていない。なぜこんなに精神科医療については改善に時間がかかるんでしょうか。
 そのことを含めて大臣の御意見をお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 過去にさかのぼっていろいろ考えれば、それはそのときそのときのさまざまな要因もあったんだろうというふうに思いますが、しかし、他の医療が進んできたのと比較をいたしますと、この精神科の領域というのはおくれてきた。
 一つは、人の配備という問題につきましても非常におくれてきている。先生も医学の御出身ですからよくおわかりいただいているというふうに思いますが、なかなか精神科医になる人が少ない、これも事実でございます。一つのクラスからお一人、多くてもお二人というぐらいな程度でありまして、なられる方が少ない。しかし、一方におきまして、精神科の領域で治療を受けられる皆さん方の数というのはかなりふえてきていることも事実でございますし、最近とみにここが増加をしてきている。
 そうした環境の中で一つはおくれてきたということもあり得るというふうに思いますが、やはりそれだけではなくて、精神科領域の治療につきましては、先進的な諸国におきましては新しい治療方法というものがかなり進んできている。日本の国の中におきましても、一部分ではありますけれども部分部分ではそうした新しい医療というのも行われているんだというふうに思いますが、大変残念でございますけれども、それが全体的に広がりをまだ見せていない、そういう状況に現在あるわけでございます。
 そうした医療の側の問題もあるというふうに思いますが、そのほかに、やはり地域として、精神病で入院をなすっている皆さん方をどのように受け入れるようにするかといったような考え方が少なかったことも事実でございます。あわせて、行政の方もそうした面における積極性に欠けていた。そうしたことの複合的な原因の結果によって現状があるというふうに私は認識をいたしております。
五島委員 おくれてきた理由についておっしゃったわけですが、ここに「歪められた日本の公衆衛生」という冊子があります。これは一九七二年に公衆衛生学会の若手研究者がつくった冊子でした。その時代、保安処分の問題で公衛学会も揺れ動いていました。そして、そのときにさんざん議論した話というのは、今の大臣のお話しになった内容も私が言っている内容も含めてほとんど議論されてきた。だけれども、三十年間たっても何ら変わっていないんです。
 やはりここは、保安処分といいますか医療処分でもって精神障害者の問題を考えていく、あるいは措置入院でもって社会から障害者を隔離していく、そういう発想ときっぱりと縁を切った障害者対策というものに厚生省自身が踏み切らないとまた三十年同じ状態が続くわけですよ。三十年前というのは、今私が大変尊敬している水島先生はまだ子供ですよ。それだけ長い間、ほかの医学はどれだけ変わったかということを考えた場合に、いかに精神医療の世界がその後変わっていないか。人材が少なかったというお話もございます。しかし、きのう来ておられた南さんを含めて、ちょうどあの世代の看護婦になられた方々、優秀な看護婦さんや保健婦さんは一斉に精神科医療に走って、これこそやはり日本の大事な問題だとして大変な形でそこへ走って、その中で学者になったりいろいろな形で経験してこられています。そのエネルギーも現実の社会の中にはほとんど実を結ばせていない。
 このことを考えた場合に、私はこのような法案というものは本来撤回していただきたいと思うんですが、議会の問題ですからそれは与党としては難しいでしょう。しかし、少なくても、民主党が出しています、医療を変えていくこの大綱的な法案、十分に御審議いただいて、これをやはり採用していただきたい。そうでない限り、大臣、こんな法案のために、結局、たまたま症状の二次的な結果として他害行為を行った、そのことだけにとらわれてその人たちを医療処分にし、そして最も困難な、すなわちその人たちを社会復帰させるために大変なエネルギーを割く。そのエネルギーを現在の精神衛生全般が抱えている問題の改善に割いていけば未然に防げる、そのことを考えた場合に、ぜひ我が党案を真剣に検討していただきたいと思います。
 いずれにいたしましても、障害者、特に精神障害の方々に対する人権無視に対する対応、先ほど法務大臣は、たしか金田君の質問に対してお答えになっておりました、人を拘束する以上法務がかかわるのは当たり前だと。私もそれはそうだと思います。そうであれば、この何十年間、精神科病院の中における人権無視、枚挙にいとまはありませんよ。それに対して人権擁護委員会なり法務省はどういうふうにこたえたんですか。そこのところをきちっとお考えいただかないと、一体法務大臣はどういう立場でもってこの問題にかかわろうとしておられるのか、厚生労働大臣はどういう形で対応しようとしているのか。さらに言えば、心神耗弱状態でない状態の犯罪人をあたかも心神耗弱、病気の症状の結果であることと取り違えて多くの措置をしてこられた、そういう法務の責任はどうなるのか。その点はこの法案では何ら明らかになっていないと思います。
 最後に、この点について再度、法務大臣、厚生労働大臣、そして修正案の提出者、民主党の対案提出者、お一人ずつに御意見をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
森山国務大臣 この法案の提案をさせていただきました趣旨は、最初に御説明申し上げたとおりであり、またきょうの先生の御質問に対しましても冒頭で申し上げたとおりでございます。要するに、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して継続的な適切な医療を行うということによってその社会復帰を促進するということが目標でございまして、精神障害の適切な治療というところは厚生労働大臣の主たる御責任でございますが、大臣も大変新たな決意を持って精神医療の内容の向上、充実を図るということを繰り返しお話ししていただいているわけでございますので、その成果を待ちたいと思いますし、また、私どもの方は、その方が治療を受けていよいよ社会復帰をしようというときに、社会復帰をなさるのに必要な、社会復帰の調整をする調整官というものを用意いたしまして、その方が環境を整え、そしてきちんと社会復帰ができるような条件を整備するという仕事をやりたいというふうに考えております。
 そのようなことで、私どもの方、法務省といたしましては、精神障害のために重大な他害行為をされたというような非常に大きなハンディキャップをお持ちの方の順調な社会復帰ということをいろいろな面でお手伝いをしたい、そういうことでこの法律は提案しているわけでございますので、そこのところを御理解いただきたいと思うところでございます。
坂口国務大臣 何度かもう同じことを申し上げさせていただきましたので、特別につけ加えることはございませんけれども、我々の持ち場のところでいかにして現状を改革し前進させるかということがとりもなおさず現在問われている。そのことがこの法律とも大きなかかわりを持ってくるというふうに理解をいたしておりまして、言葉を多く申し上げますよりも、いかにしてここを実現していくかというそのプランニング、前進のためのスケジュールといったものを早く明らかにしていきたいというふうに考えております。
塩崎委員 平成十一年に精神保健福祉法の改正がございまして、そのとき、これは衆参ともにでもございますけれども附帯決議がありました。そこに、「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進めること。」こういうふうになっているわけであります。
 今回、私たち、この法案を考えるに当たって、自民党の中でも、与党の中でもいろいろな意見が出ました。そもそも、措置入院制度と一般精神医療がうまく機能してさえいればこのような問題は起きないわけであります。
 では、どういうものをこれから新たに加えなきゃいけないんだろうかといろいろ考えた末に、そもそも司法が絡むべきかどうかというのは精神障害者の家族の皆さんや御本人たちからも提起のあったことでもあり、それから、今の措置のように都道府県が関与することだけでいいのか、あるいは司法が関与するのか、あるいは全国のネットが要るのか、厚生省なのか、法務省なのか。さまざま悩んだ結果、今回、このような形で一歩何しろ前進をして、そしてこの間、昨日ですか、木村副大臣が、現在の措置入院制度と、それから今回の観察制度とを有機的一体化する努力を今後していくんだということを答弁していたと思いますが、私たちとしては、当然これに先行して高度な医療を施すということを実現するというこの制度をつくりたいと思います。
 最終的には、先ほど申し上げたような、原点に立ち返って、一本化した中で、精神科の医療と、そしてまたこういった問題を起こした場合の処遇のあり方、そして何よりも大事なのは、社会復帰の体制づくりというものをどうつくっていくのか、そういう思いで今回この法律を出させていただいた、そしてまた修正をさせていただいたということでございます。
水島議員 民主党といたしましては、先ほど御答弁申し上げましたように、精神医療の全般的な底上げはもちろんのこと、司法の役割ということで考えますと、司法と精神医療の連携の強化、これを今回の法案の中で提出しておりますのは、鑑定センターを設置して鑑定を適正に行っていくということを提案しておりますけれども、そのほかにも、司法と精神医療が関係する問題はたくさんございます。
 例えば、矯正施設における精神医療のあり方もそうでございますし、先ほど五島委員が御指摘なさったような、今現在、医療の現場で精神医療を受けているけれども人権が侵害されているようなケース、これについてはやはり精神医療審査会がもっときちんと実のあるものになる必要があると思っておりますので、いろいろな観点から、この司法と精神医療の連携というものを強化していけるように、さらに提言を続けてまいりたいと思っております。
五島委員 それぞれの御答弁を聞いておりまして、何となく質疑がむなしいという感じがします。問題点は両大臣ともおわかりになっておりながら、そこに対して切り込むのでなくて、そして従来、三十年以上も前からあったそういう精神障害者に対する差別意識、これは病状の二次的な結果なんだ、症状の二次的な結果なんだ、それをどのように防ぐかというのは、未然の段階における医療の体制によってしか防げないよということ、おわかりいただけていると思うんですが、依然としてその結果にこだわって、結果的に将来の予測に対するそういう一定の医療処分的制度をつくろうとしておられる。我々としては、そういうふうなことに対しては到底同意できないということを申し上げまして、私の質問を終わります。
坂井委員長 次に、平岡秀夫君。
平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。
 きょうの審議ですけれども、昨日の参考人質疑に引き続いての審議ということでございますので、参考人の方々からいろいろお話を伺ったことも踏まえて、きょうは御質問させていただきたいと思います。
 今回の新法は、皆さん方政府あるいは修正案提案者の方々のお話を総合すると、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の社会復帰を図っていく法律なんだというふうに言っておられます。確かに法律にもそういう文言が出てまいります。出てまいりますけれども、私はこの法律の実体は全く違うというふうに思っています。
 仮に修正案の提案者が修正した中身であったとしても、それは全く違う。私は、名づけてこれは赤ずきんちゃんのオオカミ法案というふうに呼びたいというふうに思っています。幾ら赤ずきんちゃんに登場してくるオオカミがおばあちゃんになろうと思ってお化粧をしたり仮面をかぶってみても、法案の実体は全くオオカミである。こういう法案になっているということを後で質問の中で皆さん方とともに立証していきたいというふうに思っています。
 仮に、皆さん方が言われているように、これが社会復帰を促進していくための法案であるということであったとしましょう。ただ、この法案については、多くの人たちが、新たな差別を生み、そしてむしろ社会復帰を困難にしていくというふうに評価をしています。
 昨日参考人として来られましたPSW協会の大塚さんも、この法案は目に見えない壁をさらに高く積み重ねていくような、そんな法案になっているような不安がするというふうに言っておられました。もう一方、日本看護協会の南会長さん、この方は、今精神保健福祉施策の方向性というのは、入院施設中心から在宅、地域で当たり前に暮らすことができる社会へ、こうした方向での精神保健福祉政策でなければいけないというふうに言っておられました。
 我々はいろいろな勉強会でも勉強いたしましたし、きのうの参考人質疑でも私質問させていただきましたけれども、例えばイタリアのトリエステなどでは、バザーリア法が制定されまして、地域の協力体制を構築しての開放医療ということが進められております。こうした精神医療の方向あるいは司法精神医療の方向というのが世界的な方向であるとも、そのイタリアの医師の方々から伺いました。
 そこで、まず最初に質問でございますけれども、今精神医療あるいは司法精神医療の進むべき方向性というのは、地域の協力体制を構築していく開放医療の方向にあるのではないかというふうに思っていますけれども、この法案はその方向に逆行するものではないでしょうか。
 法務大臣と厚生大臣にお伺いいたします。
森山国務大臣 私は精神医療の専門家ではございませんので詳細なことはよくわかりませんが、しかしいろいろな新聞の記事とか雑誌などを読みまして、おっしゃるような説が大変に有力になっているということも知識としては存じておるつもりでございます。
 しかし、そのような医療を行うという考え方が大変望ましいということが支配的であることはわかっておりますけれども、例えば、イタリアにおきましても、入院による医療はすべて放棄されたというわけではないようでございまして、その必要が認められる限り、入院による医療も行われているものと聞いております。
 この法律案によります制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有しているというハンディキャップに加えて、人の命、体、財産等に被害を及ぼすという重大な他害行為を行ったというハンディキャップをもあわせて持っている者でございますから、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行うこと等によりまして、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であるというふうに考えられますので、そのために必要があると認める場合には、医療関係者を手厚く配置して、かつ設備の整った指定入院医療機関に入院させることによりまして、手厚い専門的な医療を行うことにしているものでございまして、これが現在の精神医療の方向に逆行するということはないと思います。
木村副大臣 先生御指摘の点でございますけれども、欧米諸国の多くでは、司法精神医療を必要とする患者さんに対しまして、早くから専門的な医療を行う体制や専門の病院を整備いたしまして、適切な入院が行われているわけでございます。
 本法案は、司法精神医療の考え方を踏まえまして、こうした患者さんに対しましても、手厚い専門的な医療を行うことにより、早期の社会復帰を図ることを目的としたものと思うわけでございまして、あわせて、与党の修正案の附則にも明記されておられますように、一般精神医療の福祉の底上げを図ることにより、先生が今おっしゃっておられます入院中心から地域中心へ、地域での措置へという方向を目指しているところでございます。
平岡委員 今言われた入院中心から地域中心へというような法案にどこがなっているかというと、全然そんなところないような気がしますけれども、そこはちょっと議論はさておいて。
 この法律は、今回、入院をさせるという要件をちょっと修正で変えたわけでありますけれども、この修正案の意図はどこにあるのかというのはもう何回もここで議論されていますから、その答弁を前提にして進めていきたいと思いますので特に質問はいたしませんけれども、この新しい判断要件、入院のためのあるいは医療のための判断要件という言葉、ちょっと見ますと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため」この法律による医療を受けさせてと、こういうふうになっているわけでありますね。
 そうしますと、この法律による医療というのがやはり一つの大きな判断要件のファクターになっていると思うのですけれども、この法律による医療と一般の精神医療との違いというのはどこにあるのですか。
塩崎委員 今御質問の点につきましては、何度も申し上げておりますけれども、もともとこの法律の最大の目的は精神障害を治して社会復帰してもらう、したがって、そのための重厚なる医療ということであります。当然のことながら、精神科特例の話がこの間来、随分出ておりますが、この配置基準にしても手厚くすることが確実に必要でありましょうし、また、医療設備あるいは施設、病棟、それから技術面、スタッフ面、そういうものにおいて圧倒的に今までの医療よりもいいものをつくっていかないといけないということではないかと思いますし、また、今回は特に、これを全額公費で見るということで、一般の医療とはまた違うということではないかと思います。
 それから、何度かいろいろな議論がありましたけれども、司法精神医学というものが今までの日本というのは非常におくれていたということもあって、この辺についても、しっかりとした研究に基づいた医療というものを目指していくということで、今まだ随分おくれているわけでありますから、努力に努力を重ねていかなければならないというふうに思います。
平岡委員 ちょっと参考までにお伺いしますけれども、今回、修正案で「再び対象行為を行うおそれ」というのを取ったわけでありますけれども、先ほど読み上げたような新しい要件になっているわけであります。ということは、これは、今まで原案にあった再犯のおそれあるいは「再び対象行為を行うおそれ」ということの判断ができないということを前提としてこのような条文になったのか、ここを確認したいと思います。
塩崎委員 政府案において、本制度による処遇を行うか否かの判断要件というのは、先ほどの「再び対象行為を行うおそれ」の有無とされておったわけでありますけれども、これについては、広く再犯のおそれの予測の可否として、いろいろと批判を受けてきたところでございます。
 この点につきましては、特定の具体的な犯罪行為とか、あるいはそれが行われる特定の時期の予測とか、そういうものは不可能と考えられ、また、漠然とした危険性のようなものを感じられるにすぎないような場合に、「再び対象行為を行うおそれ」に当たるとすることはできないと考えられるわけであります。
 そういう限りにおいて、そのようなおそれの予測ができないという批判も我々としてもよく理解できるところでありまして、政府案の要件では、この点に関して、不可能な予測を強いたり、漠然とした危険性のようなものが含まれかねないという問題があったということで、今回の修正案によって、このような表現による要件を改めたということでございます。
平岡委員 今の答弁は、端的に言えば、再犯のおそれの判断ができないというふうに修正案提案者としては判断してこういう提案をしたというふうに私には聞こえましたので、それを前提に話を進めていきたいと思います。
 ただ、新しいこの要件は、せんだっての木島委員の質問の中でも、要件になっていないじゃないか、将来のことばかり言っていて、現在、今判断しようとすることについて全く判断基準を示していないんじゃないかというふうに指摘がありました。私もまさにそのとおりだと思うのですね。
 先ほど読み上げました新しい修正案に基づくこの判断基準、判断要件というのは、具体的にはどういうことを言っているんですか。どういう具体的な基準というものがあるんですか。
塩崎委員 繰り返しになりますけれども、この要件を新たにした理由は、先ほど申し上げておりますけれども、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、その精神障害のためにこのような行為を行った者でありますから、本人の社会復帰を促進するためには、まずもってこの精神障害を改善することが重要である。そして、そのような精神障害の改善のために医療が必要と認められる場合に本制度による処遇を行うのが適当だ、こういうことでございます。
 したがって、例えば、審判の時点で既に対象行為を行った際の精神障害がなくなっちゃっている、寛解しており、さらに医療の必要性が認められないような場合にはこの要件には該当しない。したがって、入院、通院の決定は行われないということになるわけであります。
 それから、修正案において、これに加えて、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合をも要件としたわけでありますが、この理由は、本制度が、本人の同意がなくとも入院等をさせるというものでありますから、医療の必要性が認められる者のすべてを本制度の対象とすることはまずいわけであって、これを限定することが適当であるところ、仮に、対象行為を行った際の精神障害のために同様の行為が行われることになれば、本人の社会復帰の重大な障害になってしまうという観点から、このような事態が生ずることがないように配慮をする必要があると認められる者に対象を限定するということが適当だろうと言っているわけであります。
 したがって、例えば、精神障害の程度が比較的軽くて、また、身近に十分な看護能力を有する人が、あるいは家族がおって、継続的な通院が十分期待できるような場合には、この要件には該当しないで、入院も通院も決定は行われないということになるわけでございます。
平岡委員 今最後に言われたことはどこに書いてあるんですか。そんなことはどこにも書いてないですよね。
 今、精神障害がなければ、あるいは治っていればこの要件には該当しないというふうなことがありました。じゃ、精神障害がある場合、どんな症状を現在示していたらこれに該当するんですか。どういう精神障害の状態であるならばこの要件に該当して、入院して治療を受けさせなければならないということになるんですか。
塩崎委員 それは四十二条の条文がすべてを語っているわけであって、この修正をいたしました「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」ということで今申し上げたような判断をしているわけでございます。
平岡委員 全く答えになっていないじゃないですか。どういう精神障害の症状を示していればこの要件に該当するんですかと聞いているんですよ。今言われたのは、入院をさせる場合の目的、こういう目的で入院をさせる必要があるというその目的を言っているだけであって、こういう場合には入院させなきゃいけないんだという判断基準は全く示されていないんですよ。
 精神病でなければ、精神障害がなければ入院をさせなくていいというふうにさっき言われました。精神障害があることが必要であるということも認められました。では、どういう症状をその精神障害の人が示していたらこれは入院が認められるんですか、入院が決定できるんですか。
塩崎委員 それはまさに今回の要件であって、今回のこの法律の医療が必要だと思われる場合に必要だということを言っているわけでございます。
平岡委員 入院が必要だから入院させます、それじゃ全然基準を示していないですよ。みんな怒りますよ、そんな基準。どんな症状がある精神病患者がこの入院を決定するための要件に該当すると、これをちゃんと示してください。
塩崎委員 この法律に定めて、社会復帰をするために、今申し上げた四十二条の、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために、この法律に定めた医療を受けてもらうために入院をさせるということでありますから、この条文で私たちは今の解釈をしているということでございます。
平岡委員 これは何回繰り返しても仕方ないので、ちゃんと政府として、私が質問している、精神障害があることが要件だというふうに言われたんですから、ではその精神障害がどういう症状を示しているか、どういう状態であるならばこの法律の要件を満たすのかということについての政府としての統一見解というのを示してください。
 今やっても多分だめでしょうから、これは後からまた出してもらった上で質問させていただくということにさせていただきたいと思います。
 委員長、よろしいでしょうか。
坂井委員長 また後で協議をしてください。
平岡委員 では、その点の質問は留保させていただいて、ちょっとこれに関連してまた質問していきたいと思いますけれども、この新しい修正案に基づく入院決定の要件については、せんだって水島広子議員の質問の中で、塩崎委員の方からこういう答弁がありました。治療可能性のない者については処遇要件、医療入院要件に該当しないということで、入院ないしは通院のこの法律のもとでの決定は行われることはない、だから入院可能性だけではいけないんだということは言っておられました。
 逆に聞きたいんですけれども、精神障害が仮にあっても、一般の精神医療で治療可能な場合には、この法律による医療によらず、一般の精神医療で対処するということでいいんでしょうね。
塩崎委員 基本的にそういう一般の精神医療による処遇が行われるということで結構だと思います。
平岡委員 さっき五島委員の質問の中で、これは対象者が多分年間四百人ぐらいいて、そのうち措置入院が六十四から六十六ぐらいあるでしょう、この法律による対象となる入院患者というのは、これと全く同じじゃないけれども、これよりは少し少なくなるでしょうというようなことを言われました。
 さっき言った措置入院している方、既にこういう方々もおられるわけですよね。だから、この人たちは基本的にはこの法律の対象にならないというふうに今の塩崎さんの答弁では考えていいということになりますよね。それでいいですね。
塩崎委員 あくまでもこの法律に基づく手厚い医療が必要かどうかということで判断をするわけでありますから、必ずしも今おっしゃったようなことにはならないとは思います。
平岡委員 いや、それでさっきこの法律による医療と一般の精神医療、どこが違うんですかというふうに聞いたんですよね。
 いろいろ言われました。配置基準を手厚くする、施設をよくする、技術、スタッフ面をよくする。これは別にこの法律によらなくたって、一般の精神医療の世界だってその必要性は求められているんですから、一般の医療の世界の中でちゃんとやるべきなんですよ。それをやらないで、この法律だけちょっとかさ上げして、この法律による医療でなければこの人たちは社会復帰できないんだ、これはおかしいじゃないですか。そんなことはちょっと一般の人たちには理解できないですよ。どうですか。
塩崎委員 何度か申し上げておりますけれども、さまざまな症状があり得るわけであって、審判をする際にその精神障害の状況を見て、そして判断をするということでありますから、いろいろなケースがあって、先ほど来お話し申し上げているように、最終的に対象行為を行った際の精神障害がもう既になくなっているというような場合にはやはり一般医療でということも十分ありますし、それから措置でいくということもあるわけでありますから、さまざまなケースがあるというふうに考えます。
 大事なことは、この新しい法律に基づく手厚い医療によって社会復帰が促進されるようになるかということが大事で、特に精神障害を改善をした上でそうなるということが大事だということだと思います。
平岡委員 今の答弁、後でよく自分で読み直していただきたいと思うんですけれども、精神障害がなくなっている人は、これは措置入院だって別に入院なんかさせられないんですよね。そのなくなっている人は、さっきのこの新しい要件でもこの法律の対象にならない。法律の対象にならない人を出してきて答弁されたんでは、答弁は先に進まないですよね。この法律の対象になる人、そして精神保健福祉法の世界の中でも措置入院の対象になる人、この人たちを比べてみて物事を今議論しているんですからね。
 午前中の金田委員の質問の中にも、年間四百人ほどおられる中でどういうふうに振り分けられるんでしょうかという質問がありました。私もそれに加えて、四百人の方々の中で措置入院と今回の法案の対象になる人たちがどのように振り分けられることになるのか、これもあわせて政府からちゃんと説明をしていただきたい。きょうそれができるかどうかというのはわかりませんから、この質問はきょうの午前中の金田議員の質問を聞いていてちょっと新たに思いついたわけでございますので、その点を含めて、金田議員の質問に答えるのと同じときに私の方にも答えていただきたいというふうに思います。
 それで、とりあえず次の質問に移ります。
 先ほど社会復帰を目的とする法律であるというふうに言われました。精神保健福祉法の第一条を読んでいただければわかるように、精神病障害にかかった方々の社会復帰ということをうたっています。そうであるならば、一般の精神病院に入院している人たち、特に問題とされているのは社会的入院をしている人たちが問題になっていますけれども、この人たちの社会復帰についてはやはり促進していかなきゃいけない。そのためにどうしていくのか。皆さん方が、これだけの医療が必要だ、この法律に基づく医療というのが社会復帰のために必要だというなら、それと同等のレベルの医療をこの人たちにも提供するということができていなければおかしいじゃないかと思うんですね。皆さんがやろうとしていることと実際に生じてしまうことが、全く違うことが世の中で生じてしまう。
 どうでしょうか。一般の精神医療に入院している方々、社会的入院になっている方々も含めて、社会的復帰についての措置をこの法律が施行されると同時に、もしこれが成立するならですよ、やらなければいけないと私は思うんですけれども、その点についてはどうお考えでしょうか。
坂口国務大臣 御指摘のように、一般の精神病院に入院をされている皆さん方の社会復帰というものも、これはあわせてやっていかなければならないというふうに思っております。
 ここをおくらすということは全体におくれることになりますから、社会復帰に対しますさまざまな要件がございます。地域におきましてオーケーをしなきゃならない問題もございましょうし、家庭において受けられるときにどうするかといった問題もあると思います。
 そうした問題に対しまして、地域において、お帰りになった皆さん方の御相談に乗れる体制、そしてその人たちが居住する場所、あるいはまた福祉施設等々も含めて居住する場所、その問題が大事だというふうに思います。そして、そうした居住するだけではなくて、もし仮にまた病気が、必要になったときには再度それが急に受けられるような体制というものも必要でございますから、それらのことをあわせた地域における体制を必要とするというふうに思います。
 そのための人の配置、人の必要性、やはりそうしたこともあわせて、これはぜひ緊急に進めたいというふうに思っております。
平岡委員 今、私、質問の中で、ちょっと逆説的に質問したものですから、仮にこの法律が通ったらとかと言っちゃったので、訂正します。
 この法律は通るべきではないということをまず言いたかったわけでありまして、まず、一般的な精神医療の世界でちゃんとした手当てができない限りは、そういうことができていない段階でこんなものを持ち出すのはおかしいということを言いたかったんです。
 その同じような脈絡で、もう一つ、行刑施設内における精神医療の問題についても質問したいと思います。
 昨日も、富田参考人が、今、刑務所の中における医療というものの拡充とか質的転換が焦眉の課題であるというふうに言っておられました。私たちも、八王子の医療刑務所にも見学に行きまして、確かに、医療刑務所の中で行われている精神医療というのはかなり寂しいものがあるなというふうに感じました。
 やはり、この行刑施設の中にいる人たちの中でも精神病になっている方々がいるわけですね。例えば、ある人は、ある犯罪行為をしたときには決して心神喪失じゃなかったけれども、やはり精神病を患っておられて、判決を受けた。それで有罪になった、刑務所へ入った。だけれども、症状が悪化して、心神喪失と同様のような状態での精神障害に陥ってしまったという人もいるわけですね。そういう人たちも一応有罪は出るわけですね、後の刑の執行をどうするかという問題はありますけれども。医療刑務所の中には、そういう治療を受けている方々がおられる。こういう人たちも含めて、社会復帰をどうしていくかということを考えていかなきゃいけないわけですね。
 だから、さっきから言っているのは、今回、皆さん方がこの法律の対象としようとしている不起訴になったような人たち、それから実際には別の犯罪ででも実刑になった人たち、そして犯罪とは全く関係ないけれども精神病を患っていて非常に社会的復帰が難しい人たち、こういう人たちがいろいろなところにばらばらばらっとおられるわけですね。そういうときに、ここだけを取り出して、ここは社会復帰だと言ったって、だれが信用しますか。
 まず、行刑施設内における精神医療の問題について法務省としてどう取り組むか、こういうこともちゃんと示せない限りはこんな法律は信じられませんよ。先ほどは、皆さんが社会的復帰と法律に書いたらいかにも社会的復帰ができるような、言葉でごまかしているような気がします。既にあるところについてきっちりとした対応を政府が示してこそ、政府として信用してもらえるんじゃないですか。
 行刑施設内における精神医療の問題について、この法律が予定しているのと同等の医療というものがなぜ実現できないのか、実現すべきではないかという点について、御質問したいと思います。
森山国務大臣 この法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、その病状を改善し、社会復帰を促進することを目的としたものであることは、たびたび申し上げたとおりでございます。
 こういう者の社会復帰を図りますためには、重大な他害行為の原因となった精神障害を改善することが不可欠でございまして、そのために特に手厚い専門的医療が必要と考えられるわけでございます。
 これに対しまして、刑務所は、受刑者の健康を回復させ、心身ともに健全な状態で社会復帰を図ることを目的としておりまして、御指摘のような社会復帰を図るという点ではこの法案と共通するものがございますが、あくまで刑の執行機関という枠組みの中でございます。
 もとより、刑務所におきましても、その医療体制を整えまして、近隣の医療機関等の御協力を得ながら、できる限りその充実に努めることが重要でございます。そのために、矯正の医療体制に対するさまざまな御意見を考慮いたしながら、専門的知識や技術を有する医療機関の職員につき、海外への派遣や学会への参加等によって、その能力の研さんを図り、最新の知見を取り入れさせるなど、これまでにも増して精神科医療の質の向上に鋭意努めてまいりたいと考えております。
 また、関係する諸機関のさらなる御協力を得るなどいたしまして、その体制を強化して、矯正施設における精神科医療のなお一層の充実に努めなければならないと思っております。
平岡委員 全く私の問題提起に対して直接的に答えていただけなくて、刑務所なんだからこれでいいんじゃないのというような答弁だったと思います。
 先ほど私、ちょっと冒頭申し上げました。この法案は赤ずきんちゃんのオオカミ法案である。今まさに、大臣の答弁の中にそのきっかけがあったと思います。
 例えば、七十六条にこんなくだりがあります。ちょっと質問が飛んでいますけれども、裁判所は、この対象者について、当該対象行為以外の行為について有罪の裁判が確定し、刑の執行が開始された場合には、この法律による医療を終了する旨の決定をすることができると書いてあるんですね。これはどういうことですか。
 皆さん、この法律で今対象者になっているような人たちに対しての社会復帰を図ろうと言っているのに、この人が別の事件で刑の執行を受けることになったら、もうその医療なんかは中止してしまって刑務所に入れちゃえばいいと。刑務所へ行ったら、先ほど大臣が言われたように、刑務所は、社会復帰はちょっとぐらいは考えていますけれども、刑の執行ですからそれ以上のことは考えていませんと。それじゃ、この法律は一体何を目指しているんですか。本当に社会復帰を目指していると言えるんですか。こんな赤ずきんちゃんのオオカミ法案はおかしいと思いますよ。
 大臣、これは通告しているところですから、なぜ七十六条にしてこんなことができるのか、御答弁願います。
森山国務大臣 裁判所により入院または通院の決定を受けた者は、本制度による医療を受けるべき法的義務を負い、また、厚生労働大臣や指定医療機関も、これらの者に対して本制度による医療を行うべき法的義務を負うわけでございますが、当該対象行為以外の犯罪行為について有罪の実刑判決が確定した者につきましては、一定の期間刑務所に収容されて刑に服することとなりますので、当該対象者や指定医療機関の法的義務を免除することができることとするのが適当であると考えられますので、第七十六条第一項は、このような場合に裁判所がこの法律による医療を終了する旨の決定をできるということにしたものでございます。
平岡委員 それは、書いてあることをただ単に解説しただけであって、私が聞いている、なぜこんなことができるんですかということには直接答えていないと思うんですね。
 次に、この質問に関連して言いますと、じゃ、これが終了したら次はどうするんですか。この人は、本来であれば、この法律に基づいたら、社会復帰をするために手厚い医療を受けなければならないというふうに裁判所が判断した人ですよ。その人に何をどうするんですか。その裁判所の決定を無視して、刑務所の寂しい医療、これをさせるんですか。どうですか。
森山国務大臣 この法律による医療を終了する旨の決定をした後は、当該対象者について医療が必要な場合には、刑務所において医療が行われるわけでございます。
 刑務所における医療は監獄法等に基づいて行われておりまして、精神医療といたしましては、例えば、医療刑務所等に収容してカウンセリングなどの精神療法、作業療法または薬物療法等の専門的な治療が行われるほか、一般の刑務所等において薬物療法等の必要な治療が行われているわけでございます。
 この法律による医療を終了する旨の決定を受けた者が刑務所等に入所した場合、これまで受けていた医療に関する情報を入手し治療の参考にすることによりまして、引き続き刑務所等における精神科医療が適切に行われますように、今後ともその体制の整備を行ってまいりたいと考えております。
 なお、刑務所におきます精神科医療につきましては、刑の執行機関という枠組みの中でその医療体制を整え、近隣の医療機関等の協力を得ながら、できる限りその充実に努めることが重要であると考えております。そのため、矯正の医療体制に対する種々の御意見を考慮しながら、専門的知識や技術を有する医療関係職員につき、いろいろな研修の場を設け、あるいは知見を広げる機会を与えまして、これまでにも増してその質の向上に努力をしていきたいというふうに考えております。
 御指摘のさまざまな御意見を十分に考えまして、できるだけその質の向上に努めていかなければいけないと考えております。
平岡委員 七十六条の対象になった人たちに対して、刑務所の医療施設の中でどういう医療が提供されるのか、これをちゃんと示していただきたいと思います。
 これもちょっと具体的には質問通告していませんから、すぐに答えられれば答えていただければいいんですけれども、すなわち、手厚い医療をしなければならないというふうに判断された人が、刑務所の中でやはり同じような手厚い医療を受けなければならない、そういうふうに処遇してもらわなければ困るんですよ。
 今大臣の答弁の中に、近隣の病院から手助けしてもらうと。近隣の病院というのは指定入院医療機関ですか。違うでしょう、普通の病院でしょう。普通の病院は、この法律に基づく指定入院医療機関よりももっと配置基準なんか劣っていて、施設も劣っていて、そういう病院ですよ。そういう病院から来てもらったって、この法律による医療の水準なんか受けられないでしょう。
 何か本当にこれは矛盾した法律ですよね。さっき言ったように、赤ずきんちゃんのオオカミ法案。この点について、さらに私はいろいろ聞いてみたいと思います。
 二十五条には、検察官が例えば三十三条の申し立てをしたような場合には意見を述べなければならない、「意見を述べ、及び必要な資料を提出しなければならない。」と書いてあるんですけれども、意見を述べなければいけないということはどういうことなんでしょうか。どういう意見を述べることになるんですか。
樋渡政府参考人 この法律案は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対しまして、継続的に適切な医療等を行うことによって本人の社会復帰を促進することを目的とするものでありますことから、このような者に対して本制度による処遇の要否及び内容を決定する手続におきましては、その手続に関与する者の意見を聴取するとともに、十分な資料に基づいて適切な処遇を決定する制度とすることが肝要であると思います。
 このような観点から、本制度におきましては、検察官に限らず、指定医療機関の管理者または保護観察所の長につきましても、本制度上の処遇の申し立てをした場合には意見を述べなければならないとしております。この意見は、適切な処遇についての申し立て者の見解を述べるものでございまして、刑事罰として科すべき具体的刑罰に関する意見である検察官の論告またはそういう意見とは全く異なるものであります。
 具体的には、対象行為の存否、責任能力の有無について意見を述べるほか、処遇の事件につきまして、法律的な観点から意見があればこれを述べることができるというふうに思っております。
平岡委員 三十三条では、四十二条第一項の決定をすることを申し立てなければならないということで、四十二条のどういう決定をしてくださいということを申し立てる仕組みにはこの法律はなっていないんですよね。
 これは二十五条で意見を申し立てるということは認められていますよね。それで、二十五条の意見の中で、こういう処遇をしてほしいということを検察官は申し立てられるんですか、できないんですか。
樋渡政府参考人 法律的な観点から述べるべき意見であれば述べることもできるというふうに考えますが、必ずしもその処遇を、例えば入院治療が必要である、通院治療が必要であるという具体的なことまで述べなければならない義務を課しているわけではございません。
平岡委員 述べることを認めているんですか。検察官は、どういう処遇をしてくれというふうに意見を述べてもいいんですか。
樋渡政府参考人 おっしゃるとおりでございます。
平岡委員 なぜそんな権限を検察官に与えるんですか。これは、裁判所で裁判官と精神保健審判員が二人で、この人に対してどのような処遇をしようかということを決めていくという仕組みですよね。何でこんなところで検察官が出てきて、この人については入院が適当であります、この人については通院が適当でありますというようなことを言うんですか。その意味がまずわからない。
 あわせて、六十四条の抗告のところですけれども、六十四条の抗告の中に、検察官が裁判所の決定に対して、処分の著しい不当があるということがあるならば、それを理由として抗告をすることができるとなっているんですよね。何で検察官がこの処遇について文句をつける必要があるんですか。
 これは、医療的判断、社会復帰のために医療が必要であるかないかということを判断するという仕組みになっているにもかかわらず、何か公器を代表する検察官が、このままほうっておいたら社会に不安を与える、このままであれば刑罰にかからないこの患者さんに対して、見せしめができない、そんなことで検察官がまるで意見を述べ、そして抗告をする、そういう仕組みになっているじゃないですか。これは大臣にお願いします。
森山国務大臣 検察官は、第六十四条に規定するとおり、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認及び処分の著しい不当を理由として抗告することができるということになっております。
 このうち、「法令の違反」とは、実体法の適用の誤りまたは審判手続の法令違反を申しますし、「事実の誤認」とは、事実認定の誤りを申します。そして、「決定に影響を及ぼす」または「重大な」とは、そのような違法や誤認が最終的な結論に影響を与えるものであることを言うわけでございます。また、「処分の著しい不当」とは、通院期間の延長決定または鑑定入院期間の延長決定をした場合に、定められた延長期間が著しく不当に長い、または短い場合を申します。
 この法律は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対し、継続的に適切な医療等を行うことによって本人の社会復帰を促進することを目的とするものでありますから、検察官はこのような者について、この制度による適切な処遇を受ける機会を確保するため、裁判所に対し、原則として本制度により申し立てをしなければならないこととするとともに、その結果なされた裁判所の決定についても一定の場合に抗告することができることとして、その適正を確保しようとしたものでございます。
平岡委員 修正案の提案者にお伺いしますけれども、こんなような構成になっていて、本当に胸を張って、この法律は社会復帰のための法案であるというふうに言えますか。
 今言ったように、検察官が、何かこれだけの継続した入院が必要であるというような判断を下して、抗告もできる、意見を述べられるという、そんな仕組みになった法律案、これは本当に社会復帰のための法律案と言えるんですか。
 塩崎さんは表面的なところしか見ていないんじゃないですか。オオカミの仮面とお化粧のところだけしか見ていないですよ。
塩崎委員 検察官も当然医療的な判断は尊重しなければいけないということだと思います。
平岡委員 それを言われたら、この法案はそうなっていないということを私は指摘せざるを得ない、先ほどから言っているように。だから、この法案は赤ずきんちゃんのオオカミ法案だと私は言っているんです。
 次に、三十三条の二項には、一定の場合には検察官の申し立てができないことになっているんですね。なぜ二項に書いてあるような場合には申し立てができないんですか。とりあえずは法務省でいいですけれども。
樋渡政府参考人 三十三条の第二項は、検察官は、対象者が刑務所、少年院等に引き続き収容されることとなるときや新たに収容されるときは、本制度による申し立てをすることができない旨規定しておりますが、現行法上、措置入院よりも刑事手続を優先させることとなっている上、このような場合には、当該対象者に対しましては刑務所、少年院等において指導監督とともに必要に応じて精神医療を行われることなどから、これとは別にあえて本制度による処遇を行うこととすることは適当ではないと考えられますことから、本制度による申し立てを行わないこととしたものでございます。
 このように、同条項は、本制度による処遇を行う必要がない場合等に本制度の対象外とすることを規定したにすぎず、この法律による医療を刑事罰の代替としてとらえているものではございません。
平岡委員 ここでもやはり、何か処分を受けて刑務所とかあるいは少年院に入っていたらこの法律の適用はないようにしよう、つまり、この法律による医療の提供はない、社会復帰をこの法律によって図っていく必要はない、そういう法律になっているんですね。
 全く違うじゃないですか。皆さんが、この法律は社会復帰を目的とする法案である、対象者になったら、この人たちに対して、できる限り早く社会復帰ができるように手厚い医療をしていこうと。どこで手厚い医療をこの人たちは受けられるんですか。また少年院とか刑務所の中の寂しい医療しか受けられない。
 やはり皆さんの気持ちの中に、この人は刑罰を受けているんだから、もうこの法律で処遇する必要はない、つまりこの法律は、刑罰を科せられない人に、そのかわりとして長い間入院してもらおう、そういう法案になっているとしか言えないじゃないですか。
 三十三条三項、ここで何かよくわからぬ条文があります。被害者の傷害が軽い場合で、いろいろなことを考慮して、その必要はないと認めるときには申し立てをしないことができる。これはどういう意味ですか。どういう場合に申し立てをしないことが具体的にできるんですか。
樋渡政府参考人 本制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者を対象とするものでありますが、殺人や放火等と異なりまして、傷害につきましては比較的軽微なものもあり得るところでございまして、そのような場合については、あえて本制度の対象とするまでの必要のない場合もあると考えられるのでございます。
 そこで、第三十三条第三項におきまして、傷害のみを行い、他の重大な他害行為を行わなかった対象者につきましては、傷害が軽い場合に限り、当該対象者が行った行為の内容、当該対象者の病状、生活環境等を考慮しまして、当該対象者に対して本制度による処遇を行うまでの必要性がないと判断される場合には本制度の対象としないことができることとしたものでございます。
平岡委員 どういう場合がその必要はないと認めるときかというのは明確ではありませんでしたけれども、この規定が何を意味しているか。
 今回の修正案では、三十三条の一項で、どういう場合に申し立てをしなければならないかということについても改正がされています。仮に三十三条の一項がそういう形であるならば、三十三条の三項なんか要らないんですね。明らかにここは、入院させてこの法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合、申し立てをしなければいいんですから。
 この三項の規定はつまり何をしようとしているかというと、要は微罪ですね。傷害罪では微罪のときには検察官が起訴しない、そういうことが行われているわけですね。それと全く同じような構図ですね。社会復帰を図るために申し立てをしようとしているんじゃないんですよ。微罪だから勘弁してやろう。そうじゃないでしょう。微罪であっても、本当に社会復帰のために治療が必要な人ならば、本当に皆さんが社会復帰を目的とする法律であるというふうにこの法律を言われるのであれば、その人たちも手厚い医療をしてあげる、そして本当に社会復帰ができるようにしてあげなきゃいけない。これは微罪だから勘弁してやろうという規定じゃないですか。
 四十六条、却下の決定の効果、これは第一項の趣旨は何でしょうか。同じ対象行為について公訴を提起できないというふうにしていることは、この法律による処遇が刑事罰の代替である、言葉を返して言えば、社会復帰を目的としたものではないということをみずから認めている規定じゃないですか。どうでしょうか。
樋渡政府参考人 本法律案第四十六条の第一項は、本制度における裁判所の終局決定が確定した場合は、検察官は当該決定にかかわる対象行為について起訴または再度の申し立てを行うことができない旨規定しております。
 本制度では、検察官におきましては、裁判所に対し資料を提出し、意見を述べ、あるいは審判期日に出席することができることとしており、また、決定に不服がある場合には抗告をすることもできることとしておりますことから、本来、本制度の審判により対象者に対する適切な処遇が決定されるべきであると考えられます。
 しかも、仮に、本制度の審判手続により決定がなされ、これが確定した後であっても、さらに当該対象者を起訴し、あるいは再度の申し立てをすることができることとしますと、法的安定性を害し、当該対象者の法的地位を不安定なものとすることになりますので、これを認めることは適当ではないと考えたものでございます。
 このように、本条は当該対象者の法的地位の安定性の見地から、本制度の再度の申し立てや刑事処分を制限するものでありまして、同一の犯罪について二重に刑罰を科されないことを保障する趣旨から規定するものではございません。
平岡委員 いろいろと説明の仕方はあるかもしれませんけれども、五十九条を見ていただきますと、五十九条では、通院処分の対象者に対して、保護観察所長による入院の申し立てを認めています。つまり、一たんは通院処分という決定が行われて、その後保護観察所長が入院をさせた方がいいということで申し立てをする仕組みになっているんですね。
 先ほどの刑事局長さんの答弁では法的安定性のようなことを言っておられましたけれども、このように決定を受けた人に対して、さらに通院処分ではなくて入院処分に処置を、この前、意見の一致とかいうところで話がありましたけれども、入院処分と通院処分はどっちが処分が重いんですかと言ったら、入院処分だから、意見が一致しないときは通院処分だという答弁がありましたけれども、こういうように、皆さん方の頭の中では入院処分の方が通院処分よりも処分が重いというふうに思われているわけですね。こういう人に対して、何でまたこれは申し立てができるんですか。
 先ほどの刑事局長の答弁では、法的安定性に欠けるから公訴の申し立てはできないんだ、こんなことを言っておられましたけれども、何でこれは今度はまた、通院処分になっている人が入院処分になるように申し立てをしてもいいと、法的安定性に欠けるようなことを認めるんですか。
樋渡政府参考人 本制度による処遇は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し継続的で適切な医療を行うこと等により、その社会復帰を促進するために行われるものでありまして、犯罪を行った者に対する制裁を本質とする刑罰とは全く性質が異なるものであります。
 また、通院患者につきまして、その精神障害の状態等にかんがみ入院させる必要があると認める場合は、保護観察所の長が地方裁判所に対し入院の申し立てをすることとしていますが、これは、対象者に対する継続的で適切な医療を確保し、本人の社会復帰を促進するためのものでございまして、刑罰やこれにかわる制裁を科すことを求めるものではありません。
 このように、本制度による処遇を行うことは、対象者の刑事上の責任を問うものではございませんで、対象者を二重の危険にさらすことにはならないと思っております。
平岡委員 通院処分を受けている人について言うと、百十五条の中に精神保健福祉法の規定により入院が行われることを妨げないという規定もあって、何も入院処分に切りかえなければ入院ができないというものじゃないんですよね。こっちの方でもうちゃんと医療的には対応できる仕組みになっているんですよね。そうであるにもかかわらず、あえて五十九条の規定を設けた趣旨というのは何ですか。やはり皆さん方は、社会復帰を促進するというんじゃなくて、できれば閉じ込めたい、閉じ込めたい、そういう意識がこの法律の中に脈々と流れているんじゃないですか。
 参考までに、この法律の附則で改正されている精神保健福祉法第二十六条の三についてちょっとお聞かせ願いたいと思うんですけれども、この中に「同法の対象者」、これは心神喪失者医療観察法案の対象者であって「同条第五項に規定する指定入院医療機関に入院していないもの」というのがあるんですけれども、この対象者というのは、具体的に言うとどういう人ですか。
樋渡政府参考人 通院患者のことでございます。
平岡委員 通院患者というのは、通院処分を受けた人ですか、それとも、それを受けていなくて、何も処分を受けていないような人も含めてなんですか、どっちでしょう。
樋渡政府参考人 最初から通院治療の決定を受けた者、それと、退院をして通院治療の決定を受けた者、両者を含んでおります。
平岡委員 ちょっと細かい話になりますけれども、対象者というのは、一体いつからいつまでを対象者とこの心神喪失者医療観察法案では言っているんでしょうか。これは、きのう一応質問通告を出して、きょうは取り消したんですけれども、何か話がこんがらかってきたので、そこを整理したいと思います。
 ちょっと時間がかかっているようですから。――委員長、何です、これは。こんな状態じゃ質問できないですよ。ちょっととめてください、これは。
坂井委員長 ちょっと、速記をとめてください。
    〔速記中止〕
坂井委員長 速記を起こしてください。
 平岡君。
平岡委員 さっきの対象者、いつからいつまでがこの法律では対象者になっていますか。
上田政府参考人 本法律案においては、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったと認められた者が不起訴処分または無罪の確定判決を受けたときに対象者として取り扱われることとなります。
 一方、これらの対象者は、この法律による医療を行わない旨の決定またはこの法律による医療を終了する旨の決定が確定した場合、また、通院による医療を行う期間が延長されることなく三年間が経過した場合には、もはや本法律案による処遇を行う余地がなくなりますので、その段階で本法律案の対象者としては扱われなくなります。
平岡委員 精神保健福祉法の二十六条の三に書いてある対象者というのは、既に処分の決定を受けた人ですよね。処分の決定を受けた人も対象者なんですか、心神喪失者医療観察法案では。既に決定を受けた人はもう決定を受けた人として、新たにこの法律の対象になる人じゃないんじゃないですか。
上田政府参考人 先ほど申し上げましたように、通院医療という医療を受けている者でございますので、対象者でございます。
平岡委員 二十六条の三の規定があるのならば、先ほど言いましたように、通院処分を受けている人について改めて入院処分の申し立てをしなければいけないという理由はないんじゃないか、これによって医療は確保されるんじゃないかというふうに私は思います。
 そういう意味においても、この法律の中に脈々と、心神喪失の状態で他害行為をした人については、刑罰を代替するようなものをかけたり、あるいは保安処分に該当するようなものをかけたり、そうしたことをしたい、そういう思想が脈々と流れているというふうに言わざるを得ません。
 これは例を挙げれば切りがないんですよね。百十四条第二項、ここでも、第四十三条で入院等をしなければならないというふうに決定された人たちについても、刑事事件等で身体を拘束されている間はその決定を適用しない、つまりこの法律による入院をさせない、そういう規定になっているんですよね。何でさせないんですか。入院をさせて、医療を行わせて、社会復帰を促進する必要があるなら、それはどんどん医療を提供して、社会復帰が進むようにしてあげなければいけないんじゃないですか。何でこれをとめるんですか。これも後から法務大臣にお答えいただくように追加した質問ですから、ちょっと答えていただければと思います。
森山国務大臣 第百十四条第二項は、刑事事件に関する法令の規定により身柄を拘束されている者、または少年の保護事件に関する法令の規定により身柄を拘束されている者については、現行法上、措置入院よりも刑事手続を優先させることとなっている上、このような場合には、当該対象者に対しては刑務所、少年院等において指導監督とともに必要に応じて精神医療も行われることなどから、これらの法令の規定により身柄が拘束されている間は御指摘のような上記入院等の決定に基づく対象者の医療を受けるべき義務は生じないことといたしまして、この法律による処遇を行わない旨を明らかにしたものでございます。
平岡委員 ここでも先ほど来からずっと指摘している問題が同じように存在しているわけですね。
 それで、さっきの対象者の話にちょっと戻しますと、さっき、この法律による医療が終了したような人とか、何年間たった人、こういうことで、そういう人は過去に重大な他害行為をした人であることには間違いないんですよね、過去にしたことについて言えば。
 この前坂口大臣が、七月五日の委員会で、一度犯罪を犯した人とそうでない人とを一緒に医療をするのは難しいんだ、こういうふうに答弁しているんですよね。そうだとすると、仮にこの法律の対象者でなくなったとしても、過去に一度犯罪を犯した人が今度病気になりました、また精神病にかかってしまいました、そうしたときに、その人と一般の人たちを一緒に治療させることは困難だということになるんですか。またこの法律の適用の対象にするんですか、この法律はそんな人を適用の対象にしていないでしょう。既に一度犯罪を犯した人であっても一般の人たちと一緒に医療を受けるということは当然あるんですよね。なぜそれが今回の法案では認められない、今回の法案では別に治療をさせなければいけないということになるんですか。その辺が全然わからない。
 先ほど来から言っているように、まるでこれは心神喪失の状態で重大な他害行為をした人たちに対して、刑罰が科せられないからその代替の長期入院、入院を強制する、あるいはその人たちを閉じ込めることによって社会の治安を保つ、こういう法案になっているとしか言えないじゃないですか。あらゆるところに皆さん方の論理の矛盾、社会復帰を促進するんだというまやかしというものがこの法律の中にいっぱいある。こんな法はとても認められないですよ。
 もう一遍出直して、本当に修正案提案者の塩崎さんが、こういう法案にしたいんだ、社会復帰を促進するための法案にしたいんだと言われるなら、我々と一緒になっても、政府と一緒になっても、そういう法案をつくって、もう一遍審議しようじゃありませんか。修正案提案者、どうですか。
塩崎委員 先日来この議論を重ねて、先生方の御批判に同調したくなる誘惑を何度も覚えるわけでありますが、しかし、では仮に今この法律を全く通さない、全く成立させない、全く導入しないで今おっしゃっているような医療の底上げというものを、我々ももちろん言っていますし、厚労省も一応やっているわけでありますが、それをやった方が本当に全体が進むのかどうかというところで悩んだ末に私は、やはり一歩前進する方が大事だろう。
 そして、さっき申し上げたように、今回のこの法律により、医療というものが、今おっしゃっているような刑罰のかわりではなくて、本当の意味での重厚なる医療によって障害を治し、そして社会復帰ができるようにするような医療にし、なおかつ、先ほど来申し上げている、措置入院制度が不十分なものであるということであって、今回つくることによって二重構造にいわばなるわけでありますから、これを一日も早く一体化して、このような特殊な形じゃない形で一本のものになることが私は個人的には一番大事なんだろう。そのためにはやはり一歩前進することの方が、今ここで何もしないで、医療の、例えば精神科に診療報酬をもっと重厚に分けるということがどれだけ難しいかは大蔵省出身の平岡先生よく御存じのとおりでありまして、そういうことをあわせ勘案して、今回私たちの修正をあえてして、一歩でも前に進もうということにさせていただいたわけでございます。
平岡委員 今二重構造と言われましたけれども、二重構造じゃなくて三重構造ですよね。行刑施設内における精神医療も、やはり同じように社会復帰の問題について考えていかなきゃいけない。措置入院もそう。今回皆さん方が言われているこの問題についても、やはり一緒になって考えなきゃいけないんですよ。これだけ取り出して、これだけやればあとはいい、知らぬ、それじゃやはり法律として不十分ですよ、制度として不十分ですよ。これから努力するというのなら、まずその努力を示してからこういう法案を出してくださいよ。
 きょうはたくさん宿題をお出しいたしましたから、その宿題をいただいて再度十分に審議をさせていただくということを私としてはお願い申し上げまして、時間が来ましたので質問を終わらせていただきます。
坂井委員長 次に、石原健太郎君。
石原(健)委員 今回の法案の中に、精神保健判定医、精神保健指定医といったような言葉が使われておりますが、それぞれの定義づけ、また、この二つが別個になっている理由等について御説明いただけたらと思います。
上田政府参考人 精神科医療におきましては、本人が病識を欠く場合があるという精神疾患の特性のために、患者本人の意思にかかわらない入院医療ですとかあるいは一定の行動制限を行うことがあります。精神保健指定医は、そのような入院あるいは行動制限の判定を行う者として厚生労働大臣から指定された者でございます。
 また、本制度による入院等の決定を行う合議体の構成員として精神保健審判員が設けられておりまして、精神保健判定医は、精神保健審判員の職務を行うために必要な学識経験を有する医師として厚生労働大臣が作成する名簿に掲載された方でございます。
石原(健)委員 その名簿に登載される資格というか要件、そうしたことについて御説明いただけたらと思います。
上田政府参考人 臨床経験ですとかあるいは措置鑑定の件数の実績というようなものが要件となります。
石原(健)委員 指定医の最近の指定されたときの平均年齢というのは何歳ぐらいになるんでしょうか。また、他の診療科目にもこういう指定医とか判定医とか、そういったような肩書がつく診療科目があるんでしょうか。
上田政府参考人 初めに、精神保健指定医の新規指定時の平均年齢について御説明申し上げます。新規指定時の年齢につきましては、これは平成十三年度の関東甲信地区における申請者についてその平均値を算出したところでございますが、三十五才でございます。
 次に、精神保健指定医のように、医師の資格に上乗せをしている、その資格を設けている理由についてのお尋ねでございますが、精神科医療におきましては、本人が病識を欠く場合があるという精神疾患の特性のために、患者本人の意思にかかわらない入院医療ですとかあるいは一定の行動制限を行うことがございます。したがいまして、こういった医療に従事する医師については、特に患者の人権にも十分配慮した医療を行うために、その必要な高い資質を備えていることが求められるわけでございます。
 このような観点から、一定の精神科実務経験を有し、そして、関連する法律等に関する研修を修了した医師の中から、患者本人の意思によらない入院あるいは行動制限の判定を行う医師として、厚生労働大臣が精神保健指定医を指定する制度を設けているものでございます。
 このようなことで資格制度を設けているわけでございますが、類似の制度といたしましては麻酔科の標榜医の許可、このような医師の資格がございます。御参考まででございます。
石原(健)委員 そうしますと、やはり精神科の医療というのは、他の医療分野と比較しても相当複雑で難しい分野というふうに理解してよろしいのでしょうか。
上田政府参考人 先ほども申しましたが、精神障害者、精神疾患を持っている方がかなり病状が悪化しますと、先ほど来病識がないというお話をさせていただきました。一般的には、患者さんはいろいろな症状を訴えてお医者さんに行かれるわけでありますが、今申し上げましたように、もちろん症状が軽い精神疾患の患者さんにつきましては病識をお持ち、しかし、悪くなった場合に、そういう状況がございます。そうしますと、そういう患者さんにいかに治療的にかかわるかという、ほかの医療にない特色が一つございます。
 それから、先ほど申し上げましたが、行動制限ですとか措置入院制度ですとか、こういういわば身体の拘束、自由の拘束というような面がございます。そういう意味で、やはり人権的な配慮を十分持った、そういった視点を持った医師ということが問われるわけでございまして、そういう観点から、先ほどの資格のお話ですとか特性について、このような状況だということでございます。
石原(健)委員 次に、刑事局の方にお尋ねしたいんですが、簡易鑑定とか鑑定ということがありますけれども、そのお医者さんの選定はだれがどのように行っているのか、御説明いただけたらと思います。
樋渡政府参考人 お答えいたします。
 各地方検察庁におきましては、精神保健診断室を設けましたり、都道府県内の精神保健指定医等の中から、鑑定実績のある医師やその紹介のある医師等に対し、適宜鑑定を依頼するなどいたしまして、鑑定医の確保に努めているところでございます。
 精神鑑定の嘱託に当たりましては、各検察官においてそのように確保された医師を鑑定人に選任しているところと承知しております。
石原(健)委員 現行の簡易鑑定のあり方に対しては、いろいろな批判もあるようですけれども、どのように受けとめておいででしょうか。
樋渡政府参考人 事件の捜査処理に当たって必要となる精神鑑定につきましては、事案の内容や被疑者の状況等に応じて適切な手段、方法を選択する必要があると考えております。この関係で、特に簡易鑑定のあり方につきましては、さまざまな御意見や御批判があることは十分に承知しております。
 当省といたしましても、それらの御意見等を真摯に受けとめまして、不十分な鑑定に基づいて安易な処理が行われているとの批判を決して招くことのないようにすることはもとより、一層その適正な運用を図るとの観点から、専門家の意見等をも踏まえつつ、まず一つは、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医等も加えた研究会等においてこれを活用すること、二つ目は、検察官等に対しいわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、三つ目といたしまして、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるような運用をすること、等の方策を講ずることを検討したいと考えております。
石原(健)委員 次に、修正案の提案者にお伺いしたいのですけれども、社会復帰ができる状態というのはどのような状態を考えておいででしょうか。
塩崎委員 社会復帰が完全にできるという意味でしょうか、それとも退院をできるという意味でしょうか。
石原(健)委員 修正案に使われている社会復帰という言葉について御説明いただければいいのですけれども。
塩崎委員 今回の法律での枠組みは、退院をした後、社会復帰調整官が観察所を中心にコーディネーター役になって、いろいろな形で地域での医療を重ねながら社会に復帰をしていくということでありますから、医療を続けていようともやはり社会の中で暮らしていける、そしてもちろん、将来的にできるならば自立ができるような形になっていくということが社会復帰だと思います。
石原(健)委員 何か、きのうの参考人のお話などを聞いておりますと、社会復帰というのは非常に難しいんだという話がありましたし、これまでのお話の中で、精神病院に既に七万二千人も滞留している人たちもいるということも聞かせていただいております。
 これまでの統計などから見て、対象者が社会復帰できる見込みというのはどのくらいあるものなんでしょうか。
塩崎委員 当然のことながら、それぞれのケース・バイ・ケースで、いろいろな病状があって、医療の内容等で予測することはなかなか難しいわけでありますけれども、少し厚生労働省に、我々も正直言って難しいことはきのうの参考人のお話を聞いても実感としてよくわかったわけでありますが、改めて、少しデータを探してみましたところ、いわゆる対象者ですね、この対象者が措置入院となって、その方が大体どのくらいで措置が解除されるんだろうかというのをまず見てみますと、大体半数の方々が半年で一応は解除されているわけであります。しかし、その大半が入院を続けているという数字が出ておりまして、それを見てもなかなか難しくて、例えばちゃんと退院をしているというのがせいぜい一割という形になっておりますから、今おっしゃったように、相当これは頑張らないと社会復帰というのは難しいなということを私も改めて感じているわけでございます。
 しかし、さりとて何もしないで今のままでいくというわけにもいかないということで、今回、今の措置入院制度にはない、社会復帰調整官によるアフターケアというものを考えているということでございます。
石原(健)委員 厚生省の方にお尋ねしたいんですけれども、今回、指定入院医療機関というのができるわけですよね。最初のうちは問題ないと思うんですけれども、そこに入院した人たちが、退院してもいいぞという状況になってもどこも行き場所がなくてそこに滞留する、今、一割ぐらいの人が退院だ、こう言っていましたが、残った人たちはどんどん滞留していくかもしれないんですよ。そうした場合、施設の建設というのは追いついていくものなんでしょうか。そういう見込みがあるんでしょうか。
上田政府参考人 先生御指摘のように、社会復帰を進める、あるいは退院を進めるためには、やはり地域に住まいですとかグループホームですとか各種の相談支援サービスあるいは社会福祉施設等々の、いわゆる社会福祉対策が非常に重要になってくると思います。
 それで、私ども現在、精神保健の審議会におきまして、こういった全般的な精神保健福祉対策について御審議をいただいておりまして、近く報告をいただくことになっております。あるいは、障害者プラン、障害者計画におきまして、こういった精神保健福祉対策につきましても、そういった取り組み、具体的な目標を掲げながら取り組むことでまとめているところでございます。
 また、大臣の方からお話がございましたが、私ども、省を挙げて、対策本部をつくりまして、こういった精神保健福祉の総合的な取り組みについて、それぞれの局から成る幅広い分野で総合的に、積極的に進めてまいりたいというふうに考えております。
石原(健)委員 そうしますと、対象者が退院できる状態になって、特に行く先もないというような対象者についてはそのまま病院に置くんですか。それとも、ほかの精神病院か何かに移動するというような考えなんでしょうか。
坂口国務大臣 今、病院でお見えになりますいわゆる社会的入院というふうに言われている人の中はさまざまだと思います。
 例えば、御家族、御両親等が亡くなられた方もございましょうし、あるいは社会的な適応ができにくくなるほど長くお見えになった方もお見えでございましょう。そうした人々を受け入れますためには、やはりそれが福祉施設というふうにいった方がいいのか、あるいはまた、医療の中のいわゆる中間施設的なものがいいのか、これは専門家の御意見を少しお聞きしなければいけないというふうに思いますけれども、一度に御家庭にお帰りになるというのではなくて、やはり一度地域になれていただく場所というものが必要になるというふうに私は思っております。
 したがって、そうした、ある程度医療も行うことができ、そして生活環境になれていただくというようなところを一段落つくって、そしてその後、例えばどこかで働いていただくというような方は、そうしたことを踏まえて、そして雇用といったような問題にも結びついていく可能性はある。しかし、年齢の問題とかいろいろの問題でそういかない人たちもいるだろう、その人たちはしばらく福祉施設の中でお住まいをいただく以外にないのではないかというふうに思いますが、いわゆる病院の中で今までのようにお住まいをいただくというよりも、やはりもっと地域との接点の中で、さまざまな生活ができる環境の中でお過ごしをいただくということが大事ではないかというふうに思っております。
石原(健)委員 大変いいお考えをお聞かせいただいて、ありがとうございました。
 次に、修正案の提案者にお伺いしたいんですけれども、保護観察所長とか社会復帰調整官などの業務内容が法律でいろいろ細かく決められておるわけであります。法律でそういうことが決められているということは、その人たちはそれなりの責任を感じて、かなり精神的な負担にもなると私は感じるんですけれども、どのようにお考えでしょうか。
塩崎委員 先ほどの御質問にもお答え申し上げたように、データで見ても、今でも措置を解除されたときにほとんどが入院を続けているという状況を考えてみますと、社会復帰をするということは本当に難しいことだというふうに思います。
 そうしますと、当然のことながら、現場の最先端でお世話をすることになりますこの社会復帰調整官というのは、地域社会において、本当にハンディキャップを二重の意味で負った精神障害者の方の日常的な生活の中で接して処遇を実施していくわけでありますから、当然、専門家といえども、かなりこの業務は大変で精神的な負担も大きいだろうというふうに思うわけであります。
 保護観察所長を含めて、この人たちが単独でやるわけではないわけでありますから、コーディネート役というふうに何度も申し上げておりますけれども、指定医療機関あるいは精神保健福祉センター、保健所等々との連携をどううまくつくっていくのかということが、この人たちだけに重荷がかかるということを避ける道でありましょうし、関係者が協力をしていくという体制があって初めて社会復帰もできるわけでありますから、そういった調整官や所長の負担を軽くする意味でも、そしてまた本人の社会復帰をスピードアップするためにも、協力体制をつくっていくことが大事だというふうに思います。
石原(健)委員 今回の法律で、保護観察所は、処遇終了の申し立て、通院期間の延長の申し立て、再入院の申し立て等を指定入院医療機関とか通院の医療機関の管理責任者と相談して行うのだと思うんですけれども、そういう、最初に申し立てるときにやはりそれなりの判断力とか責任というものも出てくると思うんですよ。そうすると、どうしても終了の申し立ては、もし万が一何かあったときマスコミにたたかれたり周囲からいろいろ言われたりということも考えたりすると、やはり慎重にならざるを得ないと思うんですよね。そして、再入院の申し立てなんというのは、そういう点からいうと積極的になりやすいんじゃないかと思うんですよ。
 そういうことが重なると、どうしても入院期間の長期化とかあるいは通院の長期化ということに結びつきやすいんじゃないかと思いますけれども、その点についてはどうお考えですか。
塩崎委員 この新たな処遇制度におきましては、例えば保護観察所長は、通院中の対象者につきまして、処遇の終了、今お話ありましたとおり、通院期間の延長とか再入院、それぞれの必要性を認めるわけでありますけれども、その場合には指定通院医療機関の管理者の意見を聞いて地方裁判所にその旨を申し立てる、この場合、指定通院医療機関の管理者はこれらの必要性について医療的観点から意見を付すということになっているわけでございます。
 それから、保護観察所長あるいは社会復帰調整官それから本制度にかかわる医療関係者等には、本制度において継続的な医療を確保してその社会復帰を促進するためにさまざまな責務が規定されているということでございます。
 したがって、これらの所長あるいは関係者に求められている責務というのは、いずれも確かに大変で、慎重にならざるを得ないという傾向になりがちかもわかりませんが、その時々において、やはり法律に書かれているような適切な判断を行わなければならない。そして、その責任はまことに重いというふうに考えておりますけれども、本制度の最終的な目的が本人の社会復帰の促進にあるわけであり、そのために必要な仕組みが設けられたわけでございますから、保護観察所や指定医療機関においても、法の求めるところに従って対象者の社会復帰の促進を図るために適切に業務が行われなければならないというふうに思っております。
石原(健)委員 法律によりますと、入院した後のこととか通院のときのこととかいろいろ細々と、手とり足とりふうに法律で決められているわけです。決められているからこそ、観察所の所長とか調整官はいろいろ動きやすい部分もあるのかもしれないのですけれども、反面、こういうことは法律で決めずに、むしろそれぞれの観察所や何かの自主的な判断にゆだねた方が将来の運営がやりやすいんじゃないかという感じもするのですけれども、その点についてはどうお考えでしょうか。
塩崎委員 石原先生の今の御見解も一つのお考えだと思いますが、対象者の社会復帰を促進するためには退院後もやはり継続的な医療を確保するということが大変重要でございます。
 そのため、本制度におきまして、退院後の対象者については、精神保健観察等の処遇を実施する過程で保護観察所の所長が、処遇の終了とか、先ほど申し上げた通院期間の延長、再入院、それぞれの必要性を認めた場合は、指定通院医療機関の管理者と協議の上で地方裁判所にその旨を申し立てなければならないということになっているわけでございます。
 したがって、これらについて明確に法律に要件を定めなければ、本制度による処遇に携わる保護観察所や指定医療機関の判断の適正を必ずしも期しがたいということで、必ずしも妥当ではないのかなというふうに思っております。
石原(健)委員 次に、保護局の方にお伺いしたいのですけれども、百九条に、対象者の円滑な社会復帰に対する地域住民等の理解と協力を得るよう努めなければならないとありますけれども、具体的には何をどのように努めるというふうに考えていらっしゃるのでしょうか。
横田政府参考人 お答えいたします。
 この制度の対象者の地域社会における円滑な社会復帰を促進するためには、指定医療機関、保護観察所、地方公共団体等による取り組みだけではなく、精神障害者社会復帰施設はもとより、ボランティアとして精神障害者の社会復帰を支援している個人や民間団体等の協力を得ることが重要であると考えております。
 また、地域住民等の精神障害者に対する差別や偏見を取り除いてその理解と協力を得ることも、対象者の円滑な社会復帰を図る上で欠くことができないものと思います。
 そこで、第百九条におきまして、そのような民間の活動を促進するとともに、このような民間団体等と連携いたしまして地域住民等の理解と協力を得るよう努めなければならない、そういう義務、責務、そういうものを保護観察所の長に課したもの、これが百九条でございます。
 そこで、お尋ねの具体的な取り組みでございますけれども、これは、地域の事情によりまして異なる点があり、またさまざまな態様があると考えられますけれども、例えば精神障害者の社会復帰を支援するボランティア団体などの協力を得たり、またこれらの団体などと共同して本制度の対象者の社会復帰の必要性について理解と協力を求めるための啓発活動を実施したり、あるいは地域の実情に即して対象者や家族と地域住民との交流の機会を設けるなど、地道に息の長い活動を続けていくことなどが考えられます。
 さらに、新たな処遇制度におきまして対象者の社会復帰の実績を積み重ねていくことが、長期的に見れば、長い目で見れば地域住民等からの理解と協力を得ることにつながっていくものと考えております。
 以上でございます。
石原(健)委員 これはプライバシーのことだと思うのですよ、入院していたとか通院していたということ。そのプライバシーのことが地域住民の理解と協力を得るようにということで表に出ると、かえっていろいろ難しい問題も出てくるのじゃないかということを危惧するわけですけれども、その点についてもさらに十分な御配慮をいただくようにお願いをして、質問を終わります。
 ありがとうございました。
坂井委員長 次に、木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 措置入院の決定要件と、政府原案と私は呼びますが、略称して心神喪失者の医療観察法案の治療処分の決定要件と、そして提出されております修正案における治療処分の決定要件と、大変議論が錯綜してわからなくなってきておりますので、私、議論を整理して質問をしたいと思います。
 最初に、政府原案の提出者である坂口厚労大臣と森山法務大臣にお聞きします。特に坂口厚労大臣です。
 政府原案に対して私が初めて質問したのが前国会の七月五日であります。精神保健福祉法の措置入院の要件と、本法、政府原案の治療処分の決定の要件とが同じなのか違うのか、大変関心の大きなところでありますから、質問をいたしました。
 坂口厚労大臣も覚えておるかと思うのですが、基本的な答弁は、違うと。再犯のおそれと自傷他害のおそれ、何が違うかと言ったら、タイムスパンが違うんだ、措置入院の自傷他害のおそれの判断をするのは比較的短いタイムスパンだ、そして本政府原案の入院、通院治療処分決定に当たる際の要件は非常に長いスパンで物を見るんだ、そういう答弁でありました。私は、大変説得力があるなと思って聞いておりました。
 本年六月二十八日の議事録、ここにありますが、当初坂口厚労大臣はそのような答弁をしていたこと、間違いございませんでしょうか。確認をします。
坂口国務大臣 一〇〇%覚えておりませんけれども、そういう御質問を受けて、たしかそのようにお答えをしたというふうに記憶をいたしております。
木島委員 ところが、この答弁がまずいと思ったかどうか、今修正案の提案者になっております漆原委員が、さきの通常国会の七月五日、その問題を取り出しまして、坂口厚労大臣に答弁の修正を詰めております。議事録がありますので、読んでみます。私が質問して答弁された、そのことを修正させるための質問だと理解します。
 平成十四年七月五日、法務委員会厚生労働委員会連合審査。「○漆原委員 この自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれの関係について、厚生労働省においても今の法務省の答弁と同じように考えていいのかどうか。」法務省は同じだという答弁なんですね。それでこういう質問になるんです。「特に、六月二十八日の当委員会におきまして、厚生労働省の方からは、自傷他害のおそれは短期的な予測であるのに対し、再び対象行為を行うおそれは長期的な予測であるという意味の答弁がなされたというふうに記憶をしておりますが、今の法務省の答弁」、その七月五日のこの質問の直前、法務省の当時の古田刑事局長の答弁があるので、それと違うんですね、それを意味しているわけです。「今の法務省の答弁と若干違うのかなという気がしているところでございますが、厚生労働大臣にお尋ねしたいと思います。」これが質問であります。
 それに対して坂口厚労大臣から、答弁。「自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれというのは、その判断過程でありますとか判断方法の基本的な部分は異ならないというふうに思っております。」非常に長い答弁があるんですが、基本的には、私が質問したのに対する答弁、長期的な視野で物を見ているか短期的な視野で物を見ているかで、違うんだという、比較的説得力あるかなと私が感じた答弁を根本的にここで修正してしまって、同じなんだという答弁に切り変わっているわけであります。
 もう御案内のように、漆原委員と坂口厚労大臣は同じ政党に属しておりますので、私の答弁をここでひっくり返してしまったのかなと思うんですが、どうなんですか。
坂口国務大臣 そのときの答弁は、こういうことを答弁いたしております。自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれは、今おっしゃいましたように、その判断過程や判断方法等の基本的な部分は異ならず、いずれも一定の期間を想定して予測を行うものではなく、法務省と同様の考えでございます、こういうふうに言っているわけでございます。基本的な物の考え方は違いませんけれども、いわゆる自傷他害の部分というのは、一時的な、いわゆる瞬間のことではなくて、も含めてですけれども、もう少し長いスパンでやはり考えなければならないということを、私は一番最初御答弁申し上げたときに言ったと思うんです。
 したがいまして、判断過程だとか判断方法というのには変わりはないけれども、しかし、将来の予測ということをする場合には、これは私は少し長い期間で見なければならないというふうに思っているということを言ったというふうに思います。
木島委員 森山法務大臣にお聞きします。
 思い出してほしいので、述べます。六月二十八日の同一の私の質問に対して、坂口厚労大臣の答弁に続いて、森山法務大臣の答弁はこういう答弁なんです。「厚生労働大臣から御説明があったとおりでございますが、精神保健福祉法が規定する自傷他害のおそれも、この法律案が規定する再び対象行為を行うおそれも、いずれも強制的な入院を認めるために必要とされる要件でありまして、また、精神障害を原因として生ずる病状から一定の問題行動が引き起こされる可能性の有無を判断するものであり、両者は基本的には同様のものでございます。」明確なる答弁なんですね。これが法務省の見解かと思うんです。
 ただ、違うのは、もう当然ですが、精神保健福祉法の自傷他害のおそれは、決して、その他害の中身は殺人、放火等重大な問題だけじゃない、軽い罪であってもこちらの方は適用になると。しかし、政府原案の方は、御案内のような殺人とか傷害とか放火とか、これに、法律で特定した重大な犯罪を同じように再び行うおそれということで、その対象が違うのは当然、それは答弁しています。
 それから、森山法務大臣の答弁の中で、「このようなおそれの有無を判断する際の資料につきましても、自傷他害のおそれの判断に際しましては、実務上短時間の措置診察により判断されていること等から、判断資料には一定の限界があります」と。要するに、自傷他害のおそれの方は非常に、すぐにやらなければいかぬから判断材料は少ないんだと。それに対して、本法、政府原案の方は、「対象者を一定期間病院に入院させて鑑定や医療的観察を行うこととしていることに加え、検察官や対象者、付添人に資料提出や意見陳述の権利を認めるなど、より広範な資料が収集できるようにしておりますので、より的確にこのようなおそれの有無を判断することができるような仕組みとしております。」だから、判断材料は非常に大きい、広い、深い。しかし、タイムスパンの違いはないんだ、基本的には同じなんだ、こういう、これまた一つ筋の通った答弁をしているんですが、覚えていらっしゃるでしょうか。
 そして、今でも森山法務大臣は、自傷他害のおそれの要件と、本法、政府原案の再び対象となる行為を行うおそれ、再犯のおそれですね、その基本的な対象は同じなんだという答弁を維持されますか。
森山国務大臣 先生がお読みくださいました以前の委員会で答弁申し上げました内容はそのとおりだろうと思いますし、現在も変わっておりません。
木島委員 漆原提案者に質問したいんですが、提案者が実は七月五日には質問者になって、坂口厚労大臣の答弁が変更になったわけですが、提案者は現在も、精神保健福祉法の自傷他害のおそれの要件と、あなた方は修正案を出していますが、政府原案の再犯のおそれの要件は、決してタイムスパンの長い、短いの違いはないんだという立場でしょうか。
漆原委員 たしかあのときは、自傷他害のおそれは短いスパンだ、政府案の方はもっと長いんだというふうな私が受けとめた厚生労働大臣の発言があって、基本的には、私は、時間的な制約、時間的な長さの問題ではないのではないかという観点から質問させていただきまして、今でも同じ考えを持っております。
木島委員 では、これは非常に大事なところですから、法務省刑事局長、どういう考えでしょうか。
樋渡政府参考人 お答えいたします。
 精神保健福祉法におきます自傷他害のおそれも、本法律案、政府案でございますが、それにおける再び対象行為を行うおそれも、いずれもその者の意思に反してでも精神医療を行うために必要とされる要件であるという点は同じでございます。また、いずれも、その者の現時点の精神障害の有無、内容を診断した上で、このような精神障害を原因として現に生じている病状、または今後生じ得る病状を診断し、今後そのような病状により一定の問題行動が引き起こされる可能性があるか否かを判断するものでございまして、その判断過程や判断方法も同じでございます。
 このように、自傷他害のおそれの判断と再び対象行為を行うおそれの判断は、その基本的な部分に違いはないと思っております。
木島委員 では、厚労省、精神保健福祉法の所管は厚労省ですから。厚労省の、大臣ではなくて、部長、どうでしょうか。
上田政府参考人 自傷他害のおそれについては、短期間の即時的な予測であるなどと言われることがありますが、精神保健福祉法においても、一定の期間を定めてこれを判断することとされているわけではなく、また、現実に目の前で自傷他害行為を及ぼそうとしているような場合のみこのようなおそれがあると判断しているわけでもございません。
 他方、本制度においても、一定の期間を定めてその間に同様の行為を行うことがあるかどうかを判断することとしているわけでなく、まして長期間の予測を求めているわけでもございません。入院患者についても、六カ月間の予測を行うこととしているわけではなく、指定入院医療機関の管理者が平素から常にこれを判断し、入院継続の必要性がなくなった場合には、直ちに退院許可の申し立てをしなければならないとしているのでありまして、六カ月間というのは、裁判所が指定入院医療機関の管理者の判断をチェックする期間を意味するものにすぎないものでございます。
 なお、現在の実務上、自傷他害のおそれの判断は主に短期間の措置診察の結果に基づいて行われておりますが、本制度においては、一定の期間病院に入院させて行われる鑑定や医療的観察の結果、検察官あるいは付添人等から提示された意見や資料、保護観察所による生活環境の調査結果等、より広範な資料により慎重に判断することができる仕組みとしているところでございます。
木島委員 非常に整理された答弁になりました。法務省も厚労省も、法務大臣も厚労大臣も、精神保健福祉法の自傷他害のおそれも政府原案の再犯のおそれも、決してそのおそれの有無を判定するに際してのタイムスパンの長さで違いがあるのではないんだという統一見解になりました。
 修正案の提案者である塩崎提案者からお聞きします。先ほど同僚委員の質問に対して、なぜ今回修正案が政府原案にある再犯のおそれを削ったのか、そして字句の修正をしたのかという質問に対して、非常に長いスパンでそんな再犯のおそれがあるかどうかなんか判定できないじゃないかという厳しい批判があったので削ったんだという答弁をされました。その答弁を維持されますか。
塩崎委員 政府案においては、本制度による処遇を行うか否かの要請は、何度も言われておりますけれども、心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無とされていたわけでありますけれども、これについては、再犯のおそれの予測の可否として議論がされていて、この点については、特定の具体的な犯罪行為やそれが行われる時期の予測は不可能と考えられ、また、漠然とした危険性のようなものを感じられるにすぎないような場合に、再び対象行為を行うおそれに当たるとすることはできないと考えられる、その限度で、そのようなおそれの予測はできないという批判も理解できるわけでございます。
 政府案の要件では、この点に関し、不可能な予測を強いたり、漠然とした危険性のようなものも含まれかねないというような問題があったことから、今回の修正案によりまして、このような表現による要件を改めたものであります。
 精神保健法の措置入院においても自傷他害が今要件とされているというお話がありましたが、その判断が行われているわけであって、そのような判断方法によって、時間感覚ではない予測をしているというお話は、今あったとおりでございます。
木島委員 そうすると、厚労省も法務省も、自傷他害のおそれの判定と再犯のおそれの判定とは決してタイムスパンの長さで違いがあるんじゃないんだということなんです。
 そして、今、再答弁いただきましたが、修正案の提案者である塩崎提案者は、そういう比較的長いタイムスパンでなんかは再犯のおそれを判定しにくいんだということも理由の一つとなって、再犯のおそれという言葉を削り去ったと。
 そうすると、確認しますが、あなた方の立場ですと、精神保健福祉法の自傷他害のおそれの判定も、ちょっとそれは根本的には問題だということに行き着かざるを得ないんですが、そう聞いてよろしいんですか。
塩崎委員 精神保健福祉法の措置入院においても自傷他害のおそれが要件とされておりまして、その判断が行われておりますが、それと同様な判断方法によって一定の他害行為の予測を行うことは不可能ではないというふうに考えております。
木島委員 政府原案の再犯のおそれはだめだが、措置入院の方の自傷他害のおそれはいいんだという論が、全然私は理解できないんです。
 タイムスパンの長さ短さの問題じゃないんだということをさっき私は確認しました。根本的な問題提起なんですね、修正案というのは。自傷他害のおそれの精神保健福祉法を根本から破壊するような修正を提起されているんじゃないかと思うんですが、厚労省、そういう受けとめはないんでしょうか。
漆原委員 今の点は、塩崎提案者から再三説明がありましたが、再犯のおそれというのを要件とする政府原案については、何々罪という特定の具体的な犯罪行為や、あるいはそれが何月何日に行われるかといった時期の問題の予測、これは不可能ではないかという批判がいっぱいあります。それは、ある意味ではそのとおりだなというふうに思います。もう一点は、漠然としたおそれということで、何か危険性のようなものが感じられるにすぎないような場合でも、再び対象行為を行うおそれに当たるという解釈が広がる可能性があるという指摘もなされております。
 したがって、そういう政府案の要件では、この点に関し、不可能な予測を強いたり、あるいは漠然とした危険性のようなものも含まれかねないという批判、問題点がありましたことから、私ども、今回の修正案では、このような表現による要件を改めて、必要性とその範囲を明確にさせていただいた、こういうことでございます。
木島委員 そうしますと、だから、精神保健福祉法で言う自傷他害のおそれだって、自傷のおそれは自殺のおそれですから、それは今回議論から省きますよ、他害のおそれですよ、他害のおそれの他害だって、一般的な犯罪じゃないでしょう、具体的でしょう。火をつけるかもしらぬ、殺人するかもしらぬ、あるいは傷害をするかもしらぬ、暴行するかもしらぬ。同じじゃないですか。
 それから、精神保健福祉法の自傷他害のおそれだって、タイムスパンが結構長いものもある。現に、比較的長いタイムスパンで判定して精神病院に送り込んでいる、措置入院をやっているわけですよ。
 そうすると、私は、精神保健福祉法の自傷他害のおそれという措置入院の根本的枠組み、修正案はこれに根本的な疑問を突きつけている、そう受けとめざるを得ないんですが、そんなことでいいのかしらということを厚労省に問うたんですよ。修正案の提案者からそう突きつけられているんじゃないかと。答弁してください。
漆原委員 もう一度確認させていただきますが、政府案に対しては、たくさんの人から先ほど申し上げましたような問題点が指摘をされておりました。また、当委員会でも、社会防衛するものじゃないか、あるいは保安処分ではないのかという観点からたくさんの批判、指摘がなされておりまして、私どもは、そこのところを誤解のないように要件を書いて明確にしたということでございます。
上田政府参考人 政府案の「再び対象行為を行うおそれ」という文言が特定の具体的な犯罪行為やそれが行われる時期の予測と誤解されるのを防ぐ意味で修正されたというふうに認識しております。
木島委員 質問はそうじゃないんですよ。だから、そういう根本的提起は、あなた方が厳然として守り貫いている精神保健福祉法の自傷他害のおそれの認定による措置入院の根本を破壊する提起じゃないか、どう受けとめているんだと。これだと、措置入院の問題だってこれは修正を迫られますよ。なぜかというと、私は、措置入院について全部勉強してきましたよ、政府原案も勉強してきましたよ。法律のつくり方は、将来のおそれです。将来犯罪するんじゃないか、将来自傷他害するんじゃないか、将来同じような再犯をするんじゃないかという、将来のその精神障害者の行為をするおそれを現在あるかどうかを認定する、現在それが認定できるからこそ人身を拘束する行政処分ができるんだと。私、金曜日詰めましたね、これは憲法三十一条にもかかわる問題だ、だから単なる目的じゃだめですよと。現在認定できるかどうか。認定する対象は将来のおそれですよ。その将来のおそれが非常に批判にさらされて厳しいというので、それを葬り去ったんでしょう、修正案提案者は。その論理構造からいったら、措置入院、根本的に壊されますよ。厚労省はそういう認識ないのかと、そこを質問しているんです。
上田政府参考人 先ほども申し上げたところでございますが、自傷他害のおそれについては、短期間の即時的な予測であるなどと言われていることはありますが、精神保健福祉法においても、一定の期間を定めてこれを判断することとされているわけではなく、また、現実に目の前で自傷他害行為に及ぼうとしている場合にのみこのようなおそれがあると判断しているわけでもございません。
木島委員 もし厚労省がそんな立場で精神保健福祉法の措置入院制度を考えているのなら、今回、与党の中から出てきた修正案ですよ。これ、受け入れられるんですか。精神保健福祉法の措置入院の枠、仕組みを守れると思っているんですか。そこなんですよ。守れないというのなら、それで結構です。守れるというのなら、守れる理由を述べてください。これは本当に大変な修正の提起だと私は受けとめているからこういう質問をしているんです。
漆原委員 修正案の提案者としては、精神福祉法で言うところのおそれというのを否定しているわけじゃない。要するに、政府案に言う「再び対象行為を行うおそれ」というこの要件では、いろいろな誤解を招く、あいまいさが残る、皆さんの指摘もある、そういうことで要件を明確にしようということで提案したわけでございまして、自傷他害のおそれという概念を私どもは、私個人に言わせていただければ、否定しているわけではない、こういうことでございます。
木島委員 だから、その理由を説明してくれというんですよ。何で精神保健福祉法の自傷他害のおそれは守れて政府原案の再犯のおそれの方は壊せるのかという、その理屈が全然わからないんですよ、私。
漆原委員 先ほど申しましたように、たくさんの人が疑問を持っておられる、たくさんの人がいろいろな問題点を指摘しておられる、したがってその要件を明確にしよう、こういう観点で提案をさせていただきました。
上田政府参考人 今回の修正案は、当初の政府案につきまして、先ほど来、誤解をなくす視点から修正したというふうにとらえておりまして、私どもの精神保健法による自傷他害のおそれ、この点についての指摘、批判というふうには我々はとらえておりません。
木島委員 どうも説得的な答弁が出ていないと思います。これは非常に大変な問題ですからね。この二つの法案の根本にかかわる問題です。精神障害者の皆さんへの措置入院制度、また今回、犯罪を犯した精神障害者に対する入院、通院、強制的な治療処分制度という、基本的人権の根幹にかかわる問題の中核概念に関してこのような説得力を持った答弁ができないようなこと自体が、私は大変な問題だと思いますので、ほかの質問もしたいので、きょうのところはこれでとめておきます。
 それから、前回金曜日に私、それとの関係で質問した問題が、まだ決着がついていないと思うんですね。きょうの同僚委員の質問に対する塩崎提案者の答弁を聞いていますと、ますますそういう懸念を持つようになりました。
 いいですか、整理しますよ。私が金曜日に提起したのは、政府原案に対する修正案の根本は、政府原案では再犯のおそれが入院処分の要件である、しかしそれが削られて、治療をし、再び同じような行為をしないようにし、そして早期に社会復帰をする、そのために入院、通院の必要があるときというふうに修正しましたね。だから、私が金曜日に詰めたのは、前段は目的じゃないか、要件ではないではないかという質問で詰めたのです。それに対して漆原提案者は、そうじゃないんだと明確に答弁しました。治療の必要性ということが第一の要件である。第二の要件で、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会復帰をすること、これを第二要件にして絞り込んだんだと。要件は二つだと。治療の必要性の要件が第一の要件。そして、この治療の必要性に何々のためという修飾句をつけて、副詞句をつけて絞り込んだんだ、それも第二の要件なんだ、入院決定処分をする要件なんだと、明確な答弁ですね。
 しかし、先ほどの塩崎提案者の答弁を聞いていますと、いろいろ述べておりましたが、結局、再犯のおそれは将来のことに対する認定で、現在できないんだ、批判もされたから削ったんだという答弁なんですね。そうすると、塩崎提案者の方は、修正された後の治療処分の法的要件、それはもう入院の必要性だけということになりはしませんか。その前段は目的にすぎないという答弁だったんじゃないですか。だから、塩崎さんの答弁と漆原さんの先日の私の質問に対する答弁は根本的に違っていると私、きょう聞いたんですが、塩崎さん、どうですか。何々のためというのは要件なんですか、要件じゃなくて単なる目的にすぎないのか。塩崎さんの方から答弁を求めます。
塩崎委員 政府提案の要件は、もう言うまでもなく「再び対象行為を行うおそれ」というのだけが要件だったわけですね、政府提案の場合は、有無は。それが、医療の必要性の有無については明記をされていなかったというところから、今回この医療の必要性というものを前面に出してきているわけであります。
 したがって、入院等の決定の要件は、まず一つは、さっきの、ためという木島先生のおっしゃっていることは、まず、精神障害を改善するためにこの法律による医療が必要であると認める場合であること、それに、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療が必要であると認める場合であることというのが、入院等の決定の今回の修正での要件ということでございます。
木島委員 そうすると、塩崎提案者も、今回の修正案の文言である、ためというところまでの前段、治療をすること、再び同様の行為をしないようにすること、そして社会復帰を促進すること、それは一つ一つ全部要件なんだ、治療の必要性と同じような要件なんだという考えに立っている、そういう面では漆原提案者の答弁と同じなんだ、そう伺っていいですか。
塩崎委員 結構でございます。
木島委員 それでは、政府原案と修正案の法案第三十七条と五十二条の鑑定についてお聞きをいたします。
 これは大変重大な、治療処分を審判するために必要な鑑定の問題です。政府にお聞きしますが、政府原案では、鑑定の対象は何でしょうか。
樋渡政府参考人 政府原案では、「再び対象行為を行うおそれ」でございます。
木島委員 いわゆる再犯のおそれの有無ですね。正確に答弁してください。
樋渡政府参考人 失礼いたしました。
 正確に言いますと、「の有無」でございます。
木島委員 修正案提案者に聞きます。
 三十七条、五十二条の鑑定、いずれも修正されております。修正案提案者によりますと、そうしますと、その鑑定の対象は何でしょうか。
漆原委員 三十七条で言う鑑定の対象は二つあります。一つは、精神障害を改善するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるか否か、二つ目、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるか否かの二点でございます。
木島委員 そうなんでしょうか。三十七条の「対象者の鑑定」、修正された文言を読んでみますよ。「裁判所は、対象者に関し、精神障害者であるか否か及び対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて、精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師に鑑定を命じなければならない。」
 そうすると、命じられる鑑定の対象というのは、この文章をよう読むと、つまるところ、この法律による医療を受けさせる必要があるか否かなんじゃないですか。
漆原委員 再三、四十二条の要件は何かということで答弁させていただきましたが、二つあると申しました。同じ要件がこの鑑定の対象であるというふうに理解しております。
木島委員 そうすると、二つあるとおっしゃられますから、では、その最初の方はいいでしょう。後の方です。この法律による医療を受けさせる必要があるか否か、これも鑑定の対象だということ、間違いないですね。
漆原委員 そのとおりです。
木島委員 しかし、この法律による医療を受けさせる必要があるかどうかは、鑑定事項じゃなくて、法的判断の部分じゃないでしょうか。
漆原委員 おっしゃるように、まさに医療の観点からその判断をしていただくということでございます。
木島委員 鑑定の本質にかかわるものですが、鑑定というのは、事実鑑定か法律鑑定か、いずれにしろ、専門的知識によって、ある一定の対象に対して事実を明らかにするか、国際法の難しい問題なんかこうですよという法的鑑定をするか、そういうものですね。この法律による医療を受けさせる必要があるか否かなんというのは、そういう面では、鑑定対象じゃなくて鑑定医の意見じゃないですか。
漆原委員 そういう医学的観点に立って、医学的意見を聴取する。鑑定は、事実鑑定のほか、おっしゃったように、法律鑑定もあるんでしょう。そういう意味では、医療的観点に従ってその鑑定意見を述べてもらう、こういうことでございます。
木島委員 あなた方の言うこの三十七条一項の鑑定の条文をつくりかえてしまいました。それが私は破綻していると見ているんです。
 それは、三項を読んでください。第一項の規定により鑑定を命ぜられた医師は、当該鑑定の結果に、当該対象者の病状に基づき、この法律による入院による医療の必要性に関する意見を付さなきゃならぬと三項にちゃんと書いてあるじゃないですか。この法律による入院による医療の必要性に関する意見をつけろと三十七条の三項に書いてある。
 ですから、この法律による医療の必要性があるかどうかは、まさに鑑定事項じゃなくて意見なんですよ。三項でそれを明示している。ところが、あなた方は、一項で、それは鑑定事項だなんということを言わざるを得ない。この矛盾、どう説明するんですか。
漆原委員 この三項の場合は、まさに入院させるかどうか、入院させる場合には意見を付するという、医師の入院による医療の必要性に関する意見、こういうことでございます。
木島委員 それは一項にだって書いてあるじゃないですか。この法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて鑑定を命じなきゃいかぬと、同じことが書いてあるじゃないですか。一項の鑑定と三項は意見ですよ。整合性のある答弁できないんじゃないですか。
漆原委員 一項の鑑定は、入院とは書いていないんです。「医療を受けさせる必要があるか否かについて、」が鑑定の対象でございまして、三項は「入院による医療の必要性に関する意見」、こういうことで、一項の鑑定と三項で言う内容は違っております。
木島委員 いや、そうじゃないんですよ。医療の中に二つあるんですよ、入院と通院。たまたま三項は入院のことを言っているだけであって、それ以外の条文、これは入院以外の通院の必要性に対する意見というのはあるんじゃないですか、別のところで。だから、本当にこれは鑑定事項のところでももう完璧に破綻しているんじゃないですか。
漆原委員 先ほど来申しましたように、一項の場合は入院か通院か、三項の場合は入院というふうに規定がなっておりますので、先生がおっしゃるような破綻しているということはないというふうに思います。
木島委員 では、この皆さんの、政府原案でもいいでしょうが、入院以外の医療の必要性についての意見というのはどうなっているんですか。どこかに条文、あるんですか、ないんですか。――調べておいてください。
 要するに、なぜこんな質問をしているかというと、やはり鑑定対象は、政府原案のように、再犯のおそれの有無なんですよ。将来にわたって非常に難しい判定をしなきゃならぬ。非常に難しいでしょうけれども、再犯のおそれが現にあるかないかを鑑定人に命じるんですね。
 ところが修正案は、再犯のおそれじゃまずいというので削り込んじゃって、そういう部分は全部目的条項にして、治療を受けさせる必要があるかどうかが審判の対象であり鑑定の対象だとせざるを得なくなっちゃったから、本来、そんな治療を受けさせる必要があるかどうかなんというのは鑑定事項じゃなくて意見なんですよね、意見にすぎないようなものをこう書かざるを得なくなってしまった、そこでもやはり私は修正案提案者には無理があると。
 この鑑定というのは非常に大事です。現在の措置入院が簡易鑑定でずさんだ。まことにずさんきわまりない簡易鑑定によって、多くの精神障害者の皆さんが理不尽にも入院を余儀なくされている。十年、十五年、二十年、その根幹にあるのがずさんな措置入院、まともな鑑定もやられていないという、その非常に大事な鑑定を規定した部分が三十七条なんです。その三十七条の鑑定事項が何かという根本問題について、私は、鑑定というのは事実鑑定か法律鑑定じゃないか、あなた方の修正案は意見を求めるようなことを鑑定と平気で称している、法律的にもこれは成り立つものじゃないということを指摘しておきたいと思います。
 時間がありませんが、昨日当連合審査会にお呼びをいたしました多くの参考人の皆さんは一様に、法案に賛成する方も反対する方も一様に、今、日本の精神医療で大問題は、地域医療がないということだ、貧弱だということだと指摘をされました。法案に賛成する立場の松沢病院の院長先生も、しっかりいい医療をやって、入院医療をやって地域に帰そうとしても、現在の日本の精神医療、保健、福祉では地域に帰せない、恐ろしくて帰せないという趣旨のことを公述なされました。そこが私は根本問題だと思っております。
 そこで、塩崎提案者が再三答弁の中で、この法案が成立しないと、少なくとも現在の非常に不十分な精神医療を一歩前進させることができない、だから一歩前進させるためにも法案を通してくれという答弁を再三おっしゃいました。問題なのは、政府案ないし修正案が成立することによって本当に一歩前進になるかどうか。そこが根本だと思うんですね。確かに、入院は、お金を使って病棟をつくってお医者さんの数もふやして、重厚な入院になるかもしれません。それは私は否定しません。問題は、地域に帰ったときの手当てがあるかということですよ。政府原案、ありますか。
坂口国務大臣 午前中にも議論になったところでありますが、まさしく一つの問題点はそこでありまして、そこも並行して行わなければならないというところに一つの問題点があるというふうに思っております。
 したがいまして、それはこれからひとつやらなきゃならない、そこをしっかりやるという決意表明をきょうもしたところでございますし、ただ単に決意表明だけではいけません、この省の中の体制も整えなければなりませんし、そして省だけではなくて、これは財政的にもかかわる話でございますから、各省にまたがる話、これは積極的にそこの対応もしなければなりません。そしてまた、これは地方自治体にも協力をしていただかなければならない問題でございます。そうした問題も含めて、前進をさせたいというふうに思っております。
木島委員 坂口厚労大臣、ようおわかりになっていますから、口で言っただけじゃだめだという思いで今答弁されている。まさにそうなんですよ、だめなんですよ。しかし、政府原案には何も書いていない。余りにもひどいので、修正案の提案者が附則三項をつけたんでしょう。
 読んでみます。「政府は、この法律による医療の必要性の有無にかかわらず、」これは一般的な精神医療の問題に広げまして、「精神障害者の地域生活の支援のため、精神障害者社会復帰施設の充実等精神保健福祉全般の水準の向上を図るものとする。」
 ないよりは、法律に書いた方が一歩前進だと私は思います。しかし、これは何ですか、中身は。そして、これを実行する制度的担保はこの法律の中にありますか。予算をとってくる法律的な担保はありますか。一番大事なところなんですよ。ここが徹底的に本当に法律的にも担保を持って充実される、お医者さんたちが重厚な入院医療をして地域に帰せる、そうなったらちょっと質的に変わるかもしらぬ。ところが、それはあるかという質問で、私、時間ですから終わります。答弁してください、提案者。
塩崎委員 今月末に障害者プランというのが新しく出てまいりますが、今やっている障害者プランを見ても、例えば福祉ホーム、進捗率はことしの四月で五六%、入所授産施設に至っては二五%、福祉工場は二五%、こういうおくれでありますから、今木島先生がおっしゃったとおり、どこに担保があるのかということを心配になるのはよくわかるところであって、そこが我々の附則をつけた理由の一つであるわけでありますし、もう一つは、この附則の中で五年後の見直しというのを私たちは入れさせていただきました。
 私たちも、正直言って、どこまで政府がやるのかということは大変心配であります。予算も限られている中でどれだけやれるのか。それから、きのう来いろいろと、例えば山井議員が繰り返しおっしゃっていた、アパートを探すことすらもできないという中で、では、今申し上げた入所の施設整備が進んでいない、二五%の進捗率ということは、これは民間に任せてもだめだ、私は個人的にはそう思っているんです。したがって、例えば刑務所から出てきたときには更生保護施設があるように、そういったものをこの精神障害者のためにも、特に今回のような対象者の場合には考えていかなければいけないんじゃないか。
 そんなことも考えながら、この五年後の見直しというのは、五年の間にできないならば、やはり立法府の責務としてこれはさらにもう一段考えなければいけないということで、担保があるのかということであれば、五年後の見直しというのを入れたということが立法府としての責任であろうというふうに思います。
木島委員 時間ですから終わりますが、五年の見直しが担保だというのじゃ、ちょっといかぬですね。
 私は、地域精神医療、保健、福祉が本当に充実することは非常に大事だし、それが本当に盛り込まれていれば、賛成するにやぶさかじゃないんですよ。しかし、それがなくて入院だけが重厚になったら、私は安易に入院させると思うんです。そして、五年でも十年でもほうり込んでおくことにならざるを得ない。そうすると、本当に皆さん方、精神医療を前進させたいという思いでこの法律をつくったはいいが、思いはわかるけれども、地域に戻す担保がなければ、結局それは精神病院にほうり込む期間を長引かせるだけというふうに転化してしまう、皆さんの思いが逆になってしまうというおそれを非常に感じておりますので、その問題は次回たっぷりと私やりたいと思いますので、きょうは終わります。
坂井委員長 次に、中川智子君。
中川(智)委員 社会民主党・市民連合の中川智子です。
 私は、議員になって六年余りたちます。小さな党ですから、いろいろな委員会を兼務いたしまして、たくさんの法案審議に意見を述べさせていただき、たくさんの質問もしてまいりましたが、この法案ほど審議に値しない法案はなかった、初めてです。提案された根拠さえ成立していません。そして答弁は矛盾だらけ。全く有事法制論議と一緒で、審議をすればするほど矛盾が出てきます。予測や、おそれや、何かわけのわからないところでまた新たな差別法ができるのかと思いますと、本当に身の毛がよだつ思いがいたします。
 まず最初に、法務大臣と坂口大臣に、基本的なところで、大臣みずからの言葉で一言、御答弁をいただきたいことがございます。
 一つには、この法律というのは本末転倒。この国の貧弱な精神科医療はそのままで、本来そこをきっちりやって、それからこのような法案の議論というのを進めなければいけない、そこを放置したまま、そして、これらの貧弱な政策によって生み出された差別や偏見を今以上に、それを解決する方向に向かう法律ではなくて、今以上に、当事者の方も、そしてまた国民すべてが生きにくくなる悪法であると断じます。
 私は、森山大臣にまず伺いたいのですが、きのうも雨降る中、この何日、患者団体の当事者の方々が座り込みをして、この法案の廃案を訴えていらっしゃいました。当事者、患者団体は、もうこれ以上私たちを生きにくくするような法律はつくらないでほしい、仲間のために、顔が出せる自分たちがやっとの思いでここに来たと言って座り込み、そして、いろいろな訴える文書を手渡していらっしゃいました。
 当事者、そして心ある精神科医、また人権をしっかりと見据えたならば、これは絶対成立させてはならないという日弁連の意見書、さまざまな要望書、そしてこの議論の中でも、この法律はもうやめてほしい、審議さえストップしてほしい、大臣はやはりそのようなさまざまな声にしっかりと耳を傾けるべきであると思います。
 特に、患者、当事者が反対している声をどのように受けとめていらっしゃいますか。
    〔坂井委員長退席、宮腰委員長代理着席〕
森山国務大臣 この法案について、いろいろな方がいろいろな御意見をお持ちだということは私も知っております。また、国会の中でも、さまざまな党で、さまざまな議員によって、いろいろとお考えがあるということもよくわかっております。
 しかし、重大な他害行為をした、それが精神的な問題のためにそのようなことになってしまったという人々を、何とかその治療をして状況を改善して、そして立派に社会復帰をしていただくということはとても大事だと私は思います。
 そのために、いろいろな手段、手だてを講じて努力しようというこの法案は大変必要だと私は思いますので、いろいろな御意見があって、それらを受けとめて、また、議員の中から修正案も出していただいておりますので、それらをあわせ考えまして、精神障害と、それから重大な他害行為をしてしまったという大きなハンディキャップを背負った方々の社会復帰のために、ぜひこの法律を役に立てたいというふうに私は考えております。
中川(智)委員 大臣の心に二百万人の心を病んでいる人たちの声が届いていないということがはっきりいたしました。そのような声を受けとめる心を持った人に法務大臣をやっていただきたい、そのように私は思います。
 続きまして、坂口大臣に伺います。
 私は、なぜらい予防法を教訓とできなかったのかということを痛切に思います。らい予防法は、らいという疾病を持った人たちを医療の名において強制的に療養所に入所という法律をつくりました。しかし、それは、医療の名において社会と隔絶させて、社会復帰をできなくする中身のものでした。文字どおり、最初は療養所の中に高い壁がありました。それは、昨年の五月十一日、その壁は取り払われましたが、心の壁を取り払うことはいまだに困難な状況です。
 医療の名において、また高い壁をつくってしまう。見た目はきれいな病院であるかもしれないけれども、社会復帰ができなくなる、そのような中身だということを私たちは訴え続けています。
 大臣、あの方たちは、ハンセン病の元患者の人たちは、亡くなってお骨になってもふるさとに帰れなかったじゃありませんか。このように、強制隔離をするということは、ふるさとも奪い、家族も奪うことなんです。そのことがなぜ大臣におわかりになっていただけないのか、本当に私は理解に苦しみます。らい予防法の反省、それを大臣にも一回伺いたいと思います。
坂口国務大臣 まあ、中川先生にぼろかすに言われるのも、大分なれてまいりましたから。決してきょうだけの話じゃございません。もういつもしかられておりますから、なれておりますが。
 今、ハンセン病との比較で言われましたけれども、ハンセン病の場合は、確かに長い間隔離を続けてまいりました。今回、我々が考えておりますのは、そういう隔離を長い間させるということではなくて、早く治療をして、早くもとへ戻そうということを言っているわけで、そこは全然違うというふうに私は思います。
 そこのところの違いというものがありますし、そして、一般の精神病院あるいは患者さんの皆さん方の施設というものを充実させなければならないことは、先ほどから申し上げているとおり。しかし、他害行為を行った皆さん方に対する施設はなくていいかといえば、私は、これはやはり何らかの形でつくり上げていかないといけないというふうに思っております。
 そういう双方のことを考えながら、この法律は提案をされたというふうに理解をいたしておりまして、ハンセン病のときのあの問題とこの問題とは全く別次元の問題だと思っております。
中川(智)委員 大臣らしからぬ答弁でした。
 大臣、ハンセン病の療養所の人たちは、皆さん、元患者でしたよ。皆さん、治って、療養所の中にいらしたんですよ。そうだったでしょう。治っていたんですよ、皆さん。だけれども、本当に、その法律があることによって、出たくても出られなくなったんですよ。
 だから、このような法律は、治ったって再び出られない、出ることに大きな縛りをかける、八〇%の人たちがいわゆる予防拘禁的なものになってしまうというのは、さまざまなデータの中からはっきりしているじゃありませんか。私はやはり、もうちょっと大臣らしい答弁がいただけるまでこの審議は続行するというお約束をしていただきたいと思います。
 では、次に移りますが、関連いたしまして、再犯のおそれの修正案に関しては、先ほどの木島委員のお話の中で、同じ答弁かと思いますので、いわゆる出口ですね。
 これは、大臣は先日、御答弁の中で、措置入院の場合は六カ月で措置解除になる者が五〇%いるというような御発言がありました。確かに、重大な他害行為を行った人が六カ月後に措置解除になるのは五二・九%ございます。しかし、そのうち、措置解除後に、約八〇%の人が何らかの形で入院を継続しています。それは資料によって明らかです。これでは、五〇%も措置解除になっているから、だれもが長期になるということではないという説明の理由にはなっておりません。
 大臣は、本当に治ったら出ていただく、そのように今もおっしゃいました。やはり、心配しているのは、きっちりと退院という姿をどのような形で私たちは確認すればいいんでしょうか。出口が非常に不明確。上限はどこなのか、それに対しての御答弁をお願いします。
坂口国務大臣 現在の一般精神病院に入院をしておみえになる皆さん方の中で、長い方もおみえになります。これは、やはりすべてが社会的入院というわけではないんだろうというふうに思います。
 私は、初期の段階での治療というものが大変大事であった、そこが、初期の段階での治療が怠られたと申しますか十分でなかったがために、これが長期になってしまったのではないかというふうに思います。したがいまして、これは早期に判断をし、そして早く治療することによって、以前のことを思いますと治療方法も非常に改善をされたわけでございますから、私は早く復帰をしていただけるようになるというふうに思っております。
 ハンセン病のときには、あれは隔離をするという法律でございました。これは早く社会復帰をしてもらうということを書いてある法律であるということを御理解いただきたい。
中川(智)委員 やはり隔離法としか受け取られない中身なんですよ。ですから、本当に、新たな差別法、人権侵害を新たに生み出すものだということを声をからして言っているわけです。
 では、関連しまして、現行の措置入院制度の場合は、症状の改善というのが見られたときに医療保護入院に切りかえられるという制度があります。しかし、今回のこの法案では、指定入院医療機関以外に選択肢がないと読み取れます。みずから病院を選ぶことができない、そんな中で、症状の改善が見られ、医師がそろそろ外出、外泊をして退院のための準備治療をと判断した場合、その医療体制が整っているとは思えないのですね。つまり、一般の精神医療で言う医療保護入院に切りかえる方法がこの法案にはないと思います。
 そこで伺いますけれども、症状が改善された場合、患者はどのような体制での医療が考えられていますか。これは障害保健部長で結構です。
上田政府参考人 本制度における通院患者さんにつきましては、本人が希望されるような場合に精神保健福祉法による入院を行うことができます。したがって、この法律による入院医療の必要がないものとして指定入院医療機関からの退院が認められ、通院医療を受ける者が、精神保健福祉法に基づき地域の病院に入院することも、制度上、可能であります。
中川(智)委員 そこの具体的なプロセスが見えないんですけれども、可能であるということの中身をもう少しきっちりと御答弁ください。
上田政府参考人 法百十五条に、こういった医療を妨げるものでないという規定がございます。
中川(智)委員 では、それに関連して伺いますけれども、例えば、これは通信の手段なども制限されると思うんですね。その場合、入院患者さんは、密室の中でさまざまな治療が行われ、社会復帰をするならば、やはり社会復帰に備えた外部との交流、ボランティアの方でもいいです、友達とか、そして外部の精神科のお医者さんというのは自由にきっちりと交流できるというふうに理解してよろしいんですね。
    〔宮腰委員長代理退席、坂井委員長着席〕
坂口国務大臣 指定入院医療機関に入院をされました場合の処遇の基準でございますけれども、これは社会保障審議会の意見を聞いて一応定めることになっておりますが、精神保健福祉法における基本的な考え方と変わらないというふうに私は思っております。
 精神保健福祉法におきましては、例えば精神病院入院患者の院外における人との通信、あるいは来院者との面会は、患者と家族、地域社会との接触を保つことが医療上の重要な役割を果たすというふうに思っておりますし、そうした人権は守られるというふうに理解をいたしております。
 原則として、自由に行われるというふうに思っております。
中川(智)委員 そこは非常に大事なことだと思います。今の大臣の御答弁に対しまして、もう少し具体的に、また次回、質問したいと思います。
 また、高度な医療ということが非常に目玉になっているわけですが、高度な医療という中に精神外科手術なども含まれるのでしょうか。これは大臣に質問通告してありますが、例えばロボトミー手術とか、ロボトミーなどは医療の一部でございますけれども、精神外科手術というのもこの高度な医療の中には入りますか。
坂口国務大臣 端的にお答えを申し上げれば、そういうものは想定いたしておりません。そして、ロボトミーといったことは、もう現在ほとんど行われてもおりませんし、たとえよそのところで行われていることがあったとしても、この指定病院におきましてそうしたことは考えておりません。
中川(智)委員 大臣、それは、行われていないということを私たちはどのように知ることができるでしょうか。
坂口国務大臣 それは、御家族の方だとかお友達だとかというようなことが面会をされましたらすぐにわかる話でございまして、そういうことは一切行わない。皆さんをいかに回復させるかというものは、精神科的に回復させるか、いわゆるもう少し、精神科的にと言いますと言葉は悪いかもしれませんが、手術などというようなことではなくて精神科的にとしかちょっと言いようがないですけれども、回復をしていただくようにするということでございます。
上田政府参考人 ただいまの精神外科手術につきましては、私ども、専門家の、あるいはそれぞれの医療の状況を聞く範囲におきましては、我が国において実施されていないというふうにお聞きしております。
中川(智)委員 今の局長のは、大臣と一緒ということですね、中身は。
坂口国務大臣 一緒です。
中川(智)委員 そうですね。
 次に、附則の第三条二項で、精神病床の人員配置基準が書かれておりますが、医療刑務所の実態というのが非常に問題が多い。北九州医療刑務所は、収容者数二百五十七人に対しまして、精神科のお医者さんは非常勤を含めてたった三人ですね。岡崎の医療刑務所は、二百二十人に対しまして、精神科のお医者さんは三人。やはり拘禁されたことによる精神的な疾病というのは、もっと医療体制をきっちりしないと、それは附則の中でうたわれているわけですけれども、この見直し、精神病床の人員配置基準の見直しは具体的にいつまで、どのような内容で見直しをするのか、それに対してお答えを願いたいと思います。
中井政府参考人 お答えいたします。
 現在、全国の行刑施設には、平成十四年四月一日現在で、医師三百六名が配置されておりまして、内訳を申しますと、常勤が二百十七名、それから非常勤が八十九名でございます。このうち精神科医は四十八名でございまして……(中川(智)委員「ちょっと済みません。現状はいいです。いつまでにきっちり見直すのか」と呼ぶ)今後とも状況を見まして、適宜検討させていただきたいと思います。
中川(智)委員 ちょっと、大臣、余りにひどいですよね、今の御答弁。附則に書かれているんですよ。附則というのは法律と一緒ですよ。具体的なものはこれからなんということで、よくもこんなことを書きましたね。
坂口国務大臣 今の御質問は、精神病院の精神病床のお話でしょうか。(中川(智)委員「はい」と呼ぶ)それならば私の方でございますので。
 この病床の機能にふさわしい人員配置というものをしなきゃならない。急性とか重症ですとか、あるいは高度で集中的な医療を必要とする患者さんですとか、そうしたことも考えながらこれは配置をしなきゃならない。
 現在のところ、御承知のとおり、大学病院等の場合にはかなり、医師の数も十六対一とか、看護婦さんの場合にも四対一でございましたか、そういうことになっておりますが、一般のところは医師の数も四十八対一といったようなものになっている。ここの見直しを行わなきゃならない。ここの見直しに早急に着手しますから。
 ただし、これを着手しようと思いますと、精神科の先生なり看護婦さんなり、足りなくなってくるということだってあり得るわけでありますから、これはあわせて、地域にいかに福祉施設なりなんなりをつくって、そして地域にその入院している人を戻すという話と並行してやらないといけないというふうに思っている次第でございます。
中川(智)委員 ちょっと質問が混乱しまして、申しわけございませんでした。
 坂口大臣の御答弁で結構ですが、やはり早急に、この附則の中に書かれていることですから、具体的に数も示し、予算も合わせないと、これは法案としてのていをなしていないと思います。
 最後に、もう一問だけ。袴田巌死刑囚がいわゆる精神的に病んでいるということで、緊急に医療が必要だと私は考えております。
 先日、社民党の保坂展人氏が質問いたしましたけれども、そのとき森山法務大臣は、やはり少し常軌を逸し始めた精神状態なのかもしれないと思いますということで御答弁くださいました。私は、医療刑務所なり、医療をしっかり受けれるところに、ましてや、確定死刑囚でありましても再審請求をしています。せめて、再審請求をしている死刑囚に対しましての医療は必要だと思います。
 袴田さんは冤罪を訴えていて、二年余りは一生懸命手紙を出して無実を訴えてきた。ところが、判決の後、精神的に徐々に病んできた。それはそれは長い毎日の獄中で、きょう執行されるかもわからないという、その恐怖の中で精神が病んでしまった。でも、冤罪を訴え、そして再審請求をしているんですね。このような受刑囚に対しては、医療刑務所に移すべきだと思います。
 最後に一言、法務大臣の御答弁を伺って、質問を終わります。
森山国務大臣 特定の被収容者の具体的な状況については、プライバシーに関する事柄もございますので、余り詳しくお答えするのはいかがかと思いますが、お尋ねの死刑確定者が親族との面会を望んでいないとか、その他のことについては報告を聞いております。
 この人が現在どのような状況にあるかなど、このような国会の場で余り具体的にコメントすることは本人のプライバシーへの配慮から適切ではないと思いますが、せっかくのお尋ねでございますので、その後の、現在の状況につきまして、収容先の施設に確認させるなどいたしました上、必要があれば適切に対応させたいと考えます。
中川(智)委員 ありがとうございました。
坂井委員長 次に、阿部知子君。
阿部委員 引き続きまして、社会民主党の阿部知子ですが、残りの二十五分をよろしくお願いいたします。
 先ほど中川智子も申しましたように、きょうも大変冷たい雨の中を、連日、精神に障害を持つという病歴をお持ちの方、あるいはその方たちと一緒にこの日本の差別多き社会を何とか変えていこうという方々が、外での行動あるいは傍聴を行っておられます。そうした方々の気持ちに本当にこたえ得る法案なのか否かということをめぐって、きょうもまた連合審査が行われましたが、私の拝聴いたしますところ、論議は大きく食い違い、また思いも食い違っているように思います。
 そこで、まず修正案の提案者である塩崎先生に伺わせていただきますが、そもそもこの法案はだれのためのものでしょうか。
塩崎委員 当然のことながら、不幸にして法に触れる行為をした精神障害者の方々の社会復帰のためでございます。
阿部委員 塩崎先生も御存じのように、措置入院においては自傷他害。一人の精神を病んだ患者さんが自分を傷つける場合と相手を傷つける場合は実は紙一重でございます。本当に紙一重です。その中にあって、この法律の枠組みは、他害ということをとりわけ際立たせた法律の内容となっておりますが、そのことはお認めになりますでしょうか。
塩崎委員 精神障害のもとでの行為についての同様の行為ということでございますから、他害行為ということが前提でございます。
阿部委員 恐縮ですが、今のは御答弁ではなくて、私の聞いたのは、精神障害ゆえに自傷他害というのは紙一重である、ここでとりわけ他害ということを取り上げられた意図、目的、これは私は明確にした方がいいと思うんです。そして、そうならばそうで、私が申し上げるようなセーフガードが必要ですから、ここを明確にしていただきたい。なぜ自傷は含まれず、他害のみこの法律の骨格であるのかという点です。
塩崎委員 重大な他害行為を行ったことが今回問題になって、社会復帰を妨げてしまうということであるわけでありますから、そこのところに焦点を当てているということでございます。
阿部委員 そうであるならば、この法案のもともとの骨格は、塩崎先生がおっしゃったような御本人のためということを超えて、他害という行為が社会に及ぼす影響をまず大きくクローズアップしているという、この基本的な構造をまず確認していただきたいと思います。いかがでしょうか。
塩崎委員 その他害行為が精神障害によって起こされ、そしてそれがゆえに社会復帰ができないということは、御本人にとっても大変不幸なことでありますから、その精神障害を治すための医療でもあり、そして、先ほど来ずっと議論をしていた、限定的な要件のもとでの高度な医療を受けて社会復帰をしていただこうということでございます。
阿部委員 そういうのを強制医療と申すわけであります。そして、木島委員の御質問もその点を極めて鮮明に投げかけられましたが、先生方には一切お答えがございませんでした。
 例えば措置入院とどこが違うのかということも、もうこの委員会、二回の連合審査も含め、あるいはさきの国会での委員会も含めて、木島委員が明確におのおのの大臣の御発言、あるいは今回の修正提案の方々の御発言をなぞられながら確認をいたしましたが、そもそも、この法案がなぜ措置入院というものと違って、何を目的としておるのかということも実は半分隠されたまま、そでの下になったまま審議が進められております。そして、このような形で本当に精神を病む方たちが隔離されていくのではないかという不安が強いからこそ、雨の中も皆さんお立ちなのだと思います。
 そして、私は、この法案を考える場合に、塩崎先生とある意味で出発点は一緒の部分があります。この方たちは、精神に病を得るという不幸と、かてて加えて、他をあやめる、あるいはこれはさっきも申しましたように自分の命をあやめるかもしれない、そうした状況に追い込まれた二つの不幸を背負っております。問題を原点に立ち返ったならば、私は、三点にわたって、このことはこの審議の前にぜひとも準備されなければならない分野のおのおのの総括があると存じます。
 一人の方が精神に障害を持ち、そのことと関連して犯罪を犯されたといたします。塩崎先生、申しわけございませんが、この方たちには一体どういうコースがこれからございますでしょうか。お願いします。
塩崎委員 現在の制度でのお話でございますね。(阿部委員「この法案が成立してからでも結構です、どちらでも」と呼ぶ)
 現在の法律でいけば、措置の手続に検察から行くということが常識的なことだと思っております。
阿部委員 実は、精神に障害をお持ちでも刑に服することができるというふうに判断されれば刑務所に、それなりの裁判の過程を経て刑に服する方もおられます。それから、先生がおっしゃるように措置入院の方もおられます。であるならば、その双方、先ほど中川智子が質問いたしましたが、刑に服しながら精神を病む方もおられます、この方たちの現状はどうであるのか。そして、もっと広げれば、刑に服する拘禁下に置かれた方たちの医療がどうであるのか。そして、もう一方で、措置入院という形で、これは治療という形の時間を精神病院で受ける方たちがおられます。また、この背景には精神病院の現状がどうであるのかがございます。
 私は、以下、この二つを分けて、そして今度の法案は新たな第三のグループをつくる法案ですが、第三をつくる前に一と二の現状の問題点がきっちり認識されなければ、第三は割れなべにとじぶたになってしまいます。一と二のおのおのに重大な問題があり、おのおのが解決していくべき、物事には手順というものがございますので、そのことからなすべきだと私は思います。
 そこで、森山法務大臣に伺います。
 私は、精神を病む方も含めて何らかの御病気をお持ちで刑に服している方、あるいは刑に服しておって精神の病を含めて御病気になられた方たちの取り扱いについて、せんだってもお伺いいたしましたが、どうしてもかかる人権侵害は座視し得ないと思う事態が次々と生じております。
 せんだっての質疑の継続をやらせていただきたいと思いますが、実は、九九年から二〇〇二年九月までの三年間で、刑務所の中で保護房に収容中の五人の受刑者の死亡がございました。この五名の死亡に至る過程で、いつ医師の診察を受け、死因についてはどのように分析、判断されておるか。これは恐縮ですが、実務者サイドでも結構です。お願いいたします。
中井政府参考人 最初に、矯正当局からお答えできる範囲で申し上げたいと思います。
 今お尋ねの五件のうち、実はこれは司法解剖が行われておりますので、死因の点はそちらの方を御確認いただきたいと思いますけれども、司法解剖が行われていなかった事件について申しますと、二件ございます。この二件につきましてはいずれも、医師によりまして急性心不全であるという診断がなされたとの報告を受けているところでございます。
 内容についても申し上げましょうか。よろしいですか。
阿部委員 いつ医師の診察を受けたかということを教えてくださいというのが一点です。
 そして、内容については福島瑞穂の方にお答えいただきましたので、私から読みますので結構です。
 おのおの亡くなられた五名は、いつの時点で医師の診察を受けておられますか。
中井政府参考人 それでは、順次お答えいたします。
 平成十一年の府中刑務所の案件でございますけれども、十一年の八月十日、これは九日に保護房に収容されたわけでありますけれども、十一年の八月十日の時点で、本人の様子がおかしいということから医師が急行いたしまして診察を実施しておりまして、直ちに病舎の集中治療室へ搬送し、所要の治療をしたものの、同日中に死亡した、こういう流れでございます。
 続きまして、第二件目の横須賀刑務所の平成十二年の案件でございますけれども、平成十二年十二月三日に保護房に収容いたしましたところ、翌四日に、動きが少なく、呼びかけたが反応がないというようなことがございましたので、外部の病院へ救急車で搬送いたしまして、当該病院で診察、検査等を受け、所要の治療をしたわけでありますが、同日、死亡が確認されたという案件でございます。
 続きまして、三件目の平成十三年の名古屋刑務所の案件でございますけれども、これは平成十三年十二月八日に舎房で大声を発するというようなことがございまして、保護房に収容いたしました。その後、暴行等のおそれがございましたので革手錠も使用いたしましたけれども、十三日に革手錠の使用を解除しております。しかし、その後におきましても、やはり大声を発するなど一般房に収容できなかったことから、保護房への収容自体は継続しておったわけでございますが、同月の十四日でございますけれども、着衣の一部に血の跡がちょっと認められましたので、直ちに保護房収容を解除いたしまして、医師が診察いたしまして、当該部分の縫合手術等を行いましたけれども、よく十五日に容体が変わりまして死亡したという案件でございます。
 平成十四年の府中刑務所の案件でございますが、平成十四年の三月十四日、やはり大声を出したりあるいは騒音を立てるといったようなことから保護房に収容されたわけでございますけれども、四月の二日に保護房の収容は一たん解除されまして、さらに同じ日にまた大声を出したり騒音を出すということでもう一度保護房に収容されております。
 そのような経緯を経まして、四月十三日に至りました段階で、本人に声をかけても反応がないというようなことで、保護房をあけまして様子を見たところから医師が関与いたしまして、同日、府中刑務所の医務部でございますけれども、そこに搬送されまして医師が診察しておる。そのほか救命措置等を講じたけれども同日中に死亡が確認された、こういう時系列でございます。
 最後が、平成十四年の名古屋刑務所の案件でございますが、十四年五月二十七日に暴行のおそれがあるということで保護房に収容し、あわせて革手錠を使用したわけでありますが、その後、急に静かになり応答がなくなったということで、同日中に医師により診察がされ、さらに救急措置を講じたけれども同日中に死亡した、こういう時系列になっております。
阿部委員 五例を全部言っていただきましたのでお聞きの委員には印象が薄れたかもしれませんが、私が指摘したい点は、ほぼ、医師の診察は呼吸がもうほとんど停止状態ないし心不全といって心臓がとまったような状態、心停止に近い状態、あるいは十時に容体が急変、十一時に死亡と言われるような府中刑務所の事例。そして、本当に、おっしゃいませんでしたが、横須賀の事例は、診察したところもう冷たい状態、急変で診察して脳腫瘍であったことがわかった。私は、医師としてこれを読みますと、この方たちは日ごろどんな治療を受けていたんだろうか、どんなふうに医療にアクセスしていたんだろうかと本当に身も震える寒い、怖い思いがいたします。
 そして、このおっしゃいました名古屋での事例は、七日間保護房に収容されて、診察があったのが七日目で、直その日に亡くなっておられます。死因が腹膜炎ということです。もし数日早ければ、もちろん革手錠もしました、腹部を締め上げたでしょう、それゆえに腹膜炎はひどくなったものと思われますが、剖検書を見せてくれと言っても出していただけません。だれも本当のこの人の死を解明できない中で、実はもう一例ありますが、六名が亡くなっておられます。
 そこで、森山大臣に伺いたいと思います。
 大臣には、今名古屋刑務所の受刑者で大臣に情願、直接に自分の受けている暴行について法務大臣に対して自分の現状を訴えた受刑者があり、現在彼は裁判を起こしておる途上でありますが、この情願について、受刑者たちの辛うじて開かれた窓口ですが、実は却下というか、取り上げられずに終わっておりますが、こうした事態をどのようにお考えでありましょうか。
森山国務大臣 名古屋刑務所におきまして発生いたしました一連の問題につきましては、まことにとんでもないことと私も考えておりまして、何とも御説明の申し上げようがない、甚だ遺憾だ、申しわけなかったと申し上げるほかございません。
 今、その真相は検察、また矯正局自身の、また人権擁護局等の手によってそれぞれの立場で調査をいたしておりますので、それらが明らかになったところでしかるべき処置、処分もしなければならないと考えております。
 矯正施設の被収容者の人権保障とか被収容者に医療を受けさせるための権利保障に関しまして、名古屋のあの一連の事件とはまた別に一般的にいろいろな御意見や御指摘があるということもよく承知しております。また、これらを真摯に受けとめなければいけないというふうに考えております。被収容者の人権保障という視点が大変大事だということも肝に銘じているところでございます。
 被収容者の健康管理や病気になった場合の医療措置につきましては、矯正施設が一方において刑や拘留等の執行機関であるという大きな枠組みはございますが、被収容者の申し出に対してより一層適切に対応すること等を含めまして、矯正医療がさらに充実し、人権を損なうというようなことが決してないように鋭意努めてまいりたいと考えております。
阿部委員 私が伺いたいのはもっと具体的な二点で、例えば、この方たちの本当の死亡原因。普通は病院で病死されたら解剖いたします。そして、そこから、よく最近のはやりですが、遺体は語るとか死体は語るとか言われて、そこから真実がわかる場合もございます。だがしかし、この方たちの解剖の所見は、私どもが幾ら要求しても今の仕組みの中では検察庁の情報公開という形での提示はいただけません。この方たちの死に至る本当の原因をどういう形で検証し得るのか、その点についてもう少し明確に、一点。
 それから、私があえて、法務大臣に情願、要するに、自分に起きた人権侵害について何とか対処してほしいという申し出をした方が却下されておる。この事態を踏まえて、具体的にどう改善していかれるのか。今回の法の枠組みが、司法と医療とのかかわり、その両方のよいところを寄せてのように言われますが、おのおのの問題点を解決しておかなければ合わさったものは絶対よくなりません。
 責任のなすりつけ合い、キャッチボールのようにきょうも本当にむなしい論議が行われました。一つ一つ、一点一点改善しないと、人の生命と本当に一生がかかった問題は安易に私たちが法律化したときに大きな被害を生みますので、恐縮ですが、私の時間はもうほとんど、残余の質問は申しわけなかったですが、今の、大臣の二点の御答弁をお願いしたいと思います。
 剖検書は見せていただけますか、一点。それからもう一つ、情願、大臣に対して直接なされた、受刑者の自分の権利保護を願うものはなぜ棄却されたか。二点、お願いします。
森山国務大臣 個別の具体的なことについてはお答えいたしかねますけれども、今大変厳しく御指摘いただいたさまざまな問題点につきましてしっかりと受けとめて、改善に努力したいと思います。
阿部委員 私は見せていただけなければ納得できませんし、人が死ぬとはそれだけ重いことです。自由を奪われた中で起こるさまざまな事態に、本当に日本の法務省はみずからの存在をかけて立ち向かってほしいと思います。
 また次の連合審査で厚生省サイドの問題は指摘させていただきたいと思います。ありがとうございました。
坂井委員長 本日は、これにて散会いたします。
    午後五時十九分散会


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