衆議院

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第9号 平成16年3月25日(木曜日)

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平成十六年三月二十五日(木曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 斉藤斗志二君

   理事 小野寺五典君 理事 中谷  元君

   理事 西田  猛君 理事 三原 朝彦君

   理事 末松 義規君 理事 藤田 幸久君

   理事 河合 正智君

      今津  寛君    江藤  拓君

      金子 恭之君    木村  勉君

      岸田 文雄君    倉田 雅年君

      近藤 基彦君    桜井 郁三君

      塩崎 恭久君    竹下  亘君

      谷本 龍哉君    玉沢徳一郎君

      西川 京子君    野田 聖子君

      萩生田光一君    早川 忠孝君

      宮下 一郎君    望月 義夫君

      山下 貴史君    池田 元久君

      生方 幸夫君    岡島 一正君

      小宮山泰子君    首藤 信彦君

      田嶋  要君    達増 拓也君

      長島 昭久君    原口 一博君

      伴野  豊君    前原 誠司君

      松本 剛明君    山田 正彦君

      横路 孝弘君    赤松 正雄君

      丸谷 佳織君    赤嶺 政賢君

      照屋 寛徳君

    …………………………………

   政府参考人

   (防衛庁長官官房審議官) 富田 耕吉君

   政府参考人

   (外務省中東アフリカ局長)            堂道 秀明君

   参考人

   (帝京大学法学部教授)  志方 俊之君

   参考人

   (独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事)           酒井 啓子君

   衆議院調査局国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別調査室長        高木 孝雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十五日

 辞任         補欠選任

  橘 康太郎君     宮下 一郎君

  木下  厚君     小宮山泰子君

同日

 辞任         補欠選任

  宮下 一郎君     早川 忠孝君

  小宮山泰子君     木下  厚君

同日

 辞任         補欠選任

  早川 忠孝君     橘 康太郎君

    ―――――――――――――

三月十六日

 イラク派兵反対、自衛隊の撤退に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一〇一六号)

 同(石井郁子君紹介)(第一〇一七号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一〇一八号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一〇一九号)

 同(志位和夫君紹介)(第一〇二〇号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一〇二一号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一〇二二号)

 同(山口富男君紹介)(第一〇二三号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一〇二四号)

 自衛隊のイラク派兵中止、即時撤退に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一〇七五号)

同月二十四日

 イラク派兵反対、自衛隊の撤退に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一二八六号)

 同(志位和夫君紹介)(第一二八七号)

 同(山口富男君紹介)(第一二八八号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動等に関する件


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     ――――◇―――――

斉藤委員長 これより会議を開きます。

 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動等に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、政府参考人として防衛庁長官官房審議官富田耕吉君及び外務省中東アフリカ局長堂道秀明君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

斉藤委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

斉藤委員長 この際、政府から説明を聴取いたします。防衛庁長官官房審議官富田耕吉君。

富田政府参考人 イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊の部隊の最近の活動状況について御報告をいたします。

 まず、陸上自衛隊の部隊については、現地の治安状況等に関する情報の収集や人道復興支援活動実施のための諸調整を引き続き実施しつつ、具体的には次のような活動を行いました。

 三月十七日及び二十四日には、さきに我が国からサマワ市の母子病院に供与した医療器材の使用方法について、自衛隊医官から現地医師に対して指導助言を実施しました。

 また、三月十八日以降、ムサンナ県内の小学校を逐次訪問し、自衛隊OBの寄附金により購入された文房具を寄贈しております。

 三月十四日にクウェートに到着した本隊の一部は、二十一日までにサマワの宿営地への移動を完了いたしました。さらに、残りの派遣部隊は二十二日にクウェートへ到着したところであり、これですべての派遣部隊が本邦を出国したことになります。

 人道復興支援活動として行われる給水活動や公共施設の復旧活動等の実施に必要な要員、器材は、逐次サマワへ到着しております。今後、準備が整い次第、速やかに活動を開始する予定であります。

 次に、航空自衛隊の部隊については、三月十七日から二十四日までの間、人道復興関連の物資、人員及び関係各国、関係機関等の物資、人員の輸送を五回実施したところであります。

 引き続き、イラク国内の各飛行場の安全性や輸送ニーズ等を慎重に勘案しつつ、C130機による輸送を行ってまいります。

 最後に、海上自衛隊の部隊については、輸送艦「おおすみ」及び護衛艦「むらさめ」が、クウェートにおける陸上自衛隊の車両等の陸揚げを完了し、現在、本邦へ向けて航行中であります。

 以上でございます。

斉藤委員長 次に、外務省中東アフリカ局長堂道秀明君。

堂道政府参考人 イラクの治安情勢について御報告申し上げます。

 昨年三月二十日のイラクに対する武力行使から一年を経たところでありますが、イラクの治安情勢に関しては、依然として厳しい状況が続いております。治安状況につきましては、地域によりその脅威の度合いは異なるものの、全般として予断を許さず、南東部に関してはイラクの他の地域に比べ比較的安定しているとの基本的な構図に変化はありません。

 十七日、バグダッドのカラダ地区におきましては、自爆テロが発生し、民間人七名が死亡、三十五名が負傷する事案が発生いたしました。他方、米中央軍が十八日に発表したところでは、指名手配を受けている旧体制関係者五十五名のうち、これまでに四十五名が拘束または殺害されているなど、米軍による掃討作戦も継続されております。

 なお、サマワにおいては、十七日、雇用機会等を求めるデモが発生しましたが、平和裏に終息しております。

 現地の情勢に関しては、引き続き十分に注意を払っていきたいと考えています。

 イラクの政治プロセスに関しては、三月十八日、バハル・アル・ウルーム統治評議会議長及びブレマーCPA行政官より、アナン事務総長に対し、暫定政府樹立プロセス及び選挙準備に関する国連の支援を要請する十七日付書簡が発出されました。これに対しアナン事務総長は、十八日付で、可及的速やかにブラヒミ事務総長特別代表及びそのチーム並びに選挙支援チームをイラクに派遣する旨の返簡を統治評議会に発出しております。

 安保理は、昨二十四日、現地時間でございますが、この書簡の交換を歓迎するとともに、六月三十日に主権が移譲されるイラク暫定政府の形成及び二〇〇五年一月末までに行われる直接選挙の準備におけるイラク国民への支援及び助言を与えるために、可及的速やかにブラヒミ事務総長特別代表及びそのチーム並びに選挙支援チームをイラクに派遣するとの事務総長の決定を歓迎し、強く支持する旨の議長声明を発出いたしました。

 なお、十九日、シーア派のシスターニ師の事務所より、ブラヒミ事務総長特別顧問に対し書簡が発出されております。同書簡において、基本法はイラク国民の多数の支持を得ておらず、同法が安保理決議で言及されることにより国際的正当性を得ることを懸念する旨述べられています。

 我が国としては、選挙などの分野で知見を有する国連の関与を確保しつつ、今後ともイラク内の各派の間で幅広い合意を得ていくことが重要であると考えております。この点に関しましては、来日したバハル・アル・ウルーム議長ほかの統治評議会メンバーに対しても申し入れたところであります。

斉藤委員長 これにて説明は終了いたしました。

    ―――――――――――――

斉藤委員長 次に、本件調査のため、本日、参考人として帝京大学法学部教授志方俊之君及び独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事酒井啓子君に御出席をいただいております。

 この際、両参考人に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。両参考人におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 最初に、志方参考人、酒井参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと思います。

 なお、御発言の際は委員長の許可を得ることとなっております。

 それでは、まず、志方参考人にお願いいたします。

志方参考人 志方でございます。

 当委員会で参考人としての発言の機会をいただきまして、大変ありがとうございます。

 お手元のレジュメを全部説明する時間もございませんので、三ページの一番上、特に、「第二部 イラク問題」のところからお話を申し上げたいと思います。

 イラク戦争をめぐる五つのキーワードのうち三つ、「「安全保障」のキーワード」と「「政治」のキーワード」と「「経済」のキーワード」ということで、「「安全保障」のキーワード」のところが三つ書いてございます。

 まず、このイラク戦争そのものは、やはり同時多発テロというのがなければなかったであろうということから、やはり国際的テロリズムというものの再発ということが一つのキーワードになっていると思います。

 それから、大量破壊兵器。イラクについては、大量破壊兵器について二回もIAEAの査察が入っております。そして、国際テロリズムと大量破壊兵器が結びついたら大変なことになる、こういう一つの心理状態というものがございます。

 それから、同時多発テロは、ガソリンが満タンになった航空機をビルにぶち当てる、こういうことで行われたんですが、バイオテロとか化学テロとかそういうものを使われましたら、二千八百人というような犠牲者では済まなかったろう、この十倍も二十倍もの犠牲者が出るという公算がございますので、この先制攻撃ということは、今まで禁じ手として机の下に入れてあったものが、現実的な選択肢の一つとしてテーブルの上に上がってきた。これを実際に実行したのが、私はアメリカであろうと思います。

 矢印がそこに二つございますが、「国際社会が抱える三つの共通な課題(または疑問)」ということでございますが、三つあります。

 一つは、「先制攻撃はどんな状況で許されるのか?」ということであります。

 むやみに先制攻撃はやってはいけないけれども、何万人もの市民が危機に瀕しているという場合に、政治としては何か手を打たなければならないのではないかということが議論される。これが、日本、アメリカに限らず、世界じゅうの国が一つの疑問符を打っているところでございます。

 二番目は、「非人道的な行為を止めさせるために、どの程度の非人道的な行為が許されるのか?」ということであります。

 これは、コソボ紛争がその一例でございます。アルバニア系の人が、コソボ地区に住む人が、セルビア人を主体としたユーゴ連邦軍に追い出される、排除される、その過程で五千人近くの方が亡くなったわけでありますが、これをやめさせるために国連は手を打たず、結局NATO軍がこれをとめに入ったわけでありますが、そのときに、米英を中心とした空爆が行われた。そのためにかなりの方が、ベオグラードの市民なんかは亡くなられた。これも本当に何千人の方が亡くなったかわかりませんが、五千人の人間が非人道的なことで亡くなった、それをとめるために、それと同等またはそれ以上の人を傷つけていいものだろうかという、これも根源的な疑問でございます。これに対する答えもまだ人類は出していない。

 三番目は、「民主主義社会を守るためにどの程度の非民主的行為が許されるのか?」。

 これは、今、世界を旅行してみればわかります。徹底的に持ち物の検査をされたり、夜、何もしないのに不審尋問を受ける、いろいろそういうことがございますけれども、やはりこれも、民主主義社会を守るためにはある程度やむを得ないんだという、これもどこで折り合うかというところが大きな疑問であります。

 これは人類全体が今直面している問題でありまして、それに答えを出したのがアメリカとイギリスであります。なかなかそこまで踏み切れない国々は、それに反対をしたり、あるいは日本のように、そのことには理解はするけれどもということで、それによって起こった被害を何とかして回復しようというところに自分たちの行動をとるという、いろいろな国が出てきたということであります。

 それから、「「政治」のキーワード」では、有志連合、それと国連安保理による安全保障の秩序というもの、両方に限界があるということがはっきりしてきたということであります。これはどこかでやはり折り合いをつけなきゃならないものではございます。

 三番目は、イラクは世界第二位の原油埋蔵量を誇っておりまして、この石油資源というものがなければ、またイラクの問題もこれほどもめなかったのであろう。そういう意味で、北朝鮮問題が今相当時間をかけて解決する方向で動いているのは、やはり北朝鮮の地下に世界で第二位の石油埋蔵量があればこういうことにはなっていないんだろうと思うんですね。そういうことを考えますと、まずイラク問題が先、そして、それにある程度めどがついたら北朝鮮の方に世界の関心が向いてくる。日本は最初から向いているわけでありますが、それはそれでいいと思いますが、世界の優先順位はそういうことになっておる。

 それから、二のところの「わが国が存立する上での必須要件と最大の脅威は」というのは、まず必須の要件からいいますと、我が国は、四つの小さな島に一億二千万という半端でない数の人口が住んで、資源というものはございません。それが世界で第二位の経済力を持っておれるということは、資源保有国が我が国に喜んで資源を供給してくれている、年間八億トン弱ということでございます。これが第一であります。これができなくなると我が国は存立しない。

 それから、資源保有国から我が国に至る長大なシーレーン、六千マイルとも言われておりますが、こういうものですね。これは、ユーラシアンブルーベルトという中近東から日本に至るもの、東南アジアを通ってくるものと、太平洋を越えてくるパシフィックブルーベルトというものがございます。ほとんどのものはこのユーラシアンブルーベルトを通ってまいります。これが阻害されない、どの海でもフリーパッセージといいますか、自由航行というものが保障されているということが日本にとって最大の国益の一つであります。

 それから三番目は、我が国は、その資源に付加価値をつけて競争力のある工業製品、現在約一億トンを輸出しているわけでありますが、このことが成り立たなければならない。1は「他の追随を許さぬ高度な技術」。それから2は「勤勉な労働力」。3が抜けていますが、これはやはり治安でございます。こういうような治安と技術と勤勉な労働力、この三つがなければまた日本は存立し得ないわけであります。

 四番目は、日本が付加価値をつけた生産物をまた各国が買ってくれる。日本の製品だけは買わないというようなことがあっては困る。

 そういう四つのどれ一つがだめになっても日本は存立し得ない。

 そうしますと、その下の方に、(4)というところに白丸が四つあります。これを読んでいただければわかりますが、「わが国ほど世界中が平和であることを必要とする国はない」。オーストラリアとかカナダは、資源は物すごくあって、広大でありますし、人口も少なくて、世界で何かこういうトラブルがあっても一年や二年は何もせずにやっていける、ほとぼりが冷めるまで待てるわけでありますが、日本はそれができません。

 したがって、日本の国だけが平和であってもだめだということだけは十分に言えます。

 そして三番目、「最大の脅威は国際社会における孤立である」ということであって、幾ら自衛力が今の三倍、四倍あっても、日本の国は安全ではない。世界の国々から孤立するということが最大の脅威である。

 そして四番目は、我々としてやるべきことは、「自国を危険にしない努力、及びそれと同じ程度に国際的責務を果たすべき」である。そして今回、我々の自衛隊、私は自衛隊にいたので自衛隊の立場で申しますが、国際的に貢献する日本、貢献というのはコントリビューションと言いますが、これは、何かしてさしあげるという響きがあります。しかし、そうではなくて、日本は何かすべきであるという責務、いわゆるオブリゲーションというものを持っている。それは、できれば代償を得ない、ノーブレスオブリージュであるべきである。

 それから、その下のところに「日本がアメリカに依存しているもの」というのがございます。これは、安全保障上依存しているものであります。

 これは六つありまして、まず、核抑止力のすべてをアメリカに依存している。

 それから二番目は、通常戦力でも戦略的な攻撃力、日本は盾、アメリカは矛、そういうことで日米安保というのは位置づけられている。

 それから三番目は、安全保障に必要な情報を米国に依存している。我が国も情報収集衛星を二つ上げて見ておりますけれども、解像度も余りよくなく、また、二個しかありませんので、二日に一遍同じ場所をやっと見れるという程度でございます。ほとんどのものはアメリカからもらう。

 それから四番目、日本は軍事技術での基本的な部分、ブラックボックスの部分はまだ依然としてあるわけであります。

 それから五番目は、エネルギー輸送路の防護。これは米海軍が直接日本の商船を護衛しているわけではありませんが、アメリカの秀でた海軍力が、先ほど言いました自由航行というものを保障しているわけであります。したがって、日本の船がとめられたことはありません。

 それから六番目は、食糧自給率が四〇%で、ほとんどお米でありますが、六〇%が輸入ですね、これはカロリーベースでございますが。そのほとんどは小麦とトウモロコシと大豆でありまして、これも、一部がオーストラリアとかカナダでありますが、ほとんどは米国であります。それから、水資源。これはバーチャルウオーターと書いてありますが、小麦そのものは乾いたものでありますけれども、その小麦をアメリカが生産するためにアメリカの真水、これがかなり使われているわけです。こういうものをバーチャルウオーターと言うのですが、その量を換算しますと、日本人が飲んでいる水とほぼ同等のものが、アメリカの木材、アメリカの大豆、アメリカの牛肉を育てるために使われたアメリカの真水であります。

 こういうことで、六つのことを依存しております。

 要するに、エネルギーの輸送路から、食糧から、情報から、技術から、こういうものすべてを一つの国が一つの国に過大に依存すること自身は、私は芳しくないと思います。やはり、イコールパートナーである必要はありませんが、この中の一つでも日本がアメリカにとって重要な国である必要がある。しかし、どれをとっても、日本がアメリカにこれを上げるからということはできませんね。人間関係でも、AさんとBさんで、AさんがBさんにこれほど依存するということは、本当の友情というのは育たないと思います。

 したがって、我が国としては、この六つのうちのどれでもいいです、一つだけ、やはりアメリカにとって日本のこれはすばらしいというものがあってしかるべきだと思います。

 それで、次のページに入りまして、四ページの「第三部」、上から十五、六行目のところに、「我が国の防衛にとっての課題は何か」ということであります。

 「防衛の構造改革」ということがありまして、我が国の防衛構造というものは四階建ての建物に考えることができます。

 四階が自衛隊でありまして、防衛庁ですね。三階がその手続としての自衛隊法あるいは防衛庁設置法があります。二階が有事法制でありまして、武力攻撃事態法というのはもうできまして、今、国民保護法というものが一階に面した二階にある。一階に安全保障基本法あるいは防衛基本法というのがあるべきなのですが、これがございません。基礎が憲法であります。

 したがって、日本の防衛力というのは四階から建ててきた。これは土木建築の原理からいっても難しいことでございます。

 基本法の定義は、そこにありますように、「国政に重要なウエイトを占める分野について国の制度、政策、対策に関する基本方針を明示した法律」ということで、インターネットで調べてみますと、一から二十六まで基本法がございます。一番古いのが、一九四七年、占領時代にできた教育基本法であります。

 このどれもが私は重要であると思いますが、例えば十八番に循環型社会形成推進基本法というのがございます。これは言ってみれば、資源をリサイクルしよう、ごみを分別収集しようという法律であります。これも非常に重要なことでありますが、我が国の防衛はごみの分別収集と同じぐらいに重要だと私は思うんですが、その防衛基本法がございません。これは政治の怠慢と言わざるを得ません。

 陸上自衛隊とか、自衛隊に私はおりましたのですが、やはり自衛隊というのは、日本は法治国家ですから、しっかり法律の上で、できれば基本法、そして憲法の中で位置づけるべきものであると思います。法律がない武力集団ほど怖いものはございません。

 それで、防衛基本法というものをなるべく早くつくっていただきまして、こういうことを書いていただきたい。我が国は、国際紛争があった場合には、何としても政治的な対話でこれを解決する、もしそれがだめなときには外交的な交渉をディールでやる、それもだめなときには経済援助とかいわゆる札束でいく、この政治も外交も経済もすべての面で相手が納得してくれないという場合には、我が国はこういう場合にのみ防衛力を行使するということを明示した法律がないと、外国は非常に日本を怖がると思うんですね。

 日本の自衛力というのは、かなりの軍事集団でございます。外国から見れば怖い存在であります。それがどういうときに使われるかということが法律上明示されていないことほど怖いことはございませんし、また、それは抑止力にもなるんですね。こういうことをすると日本は軍事力を使うぞということでそれを差し控えるということもありますし、国民も安心をします。そういう意味で、防衛基本法を早くつくっていただきたい。

 それから、最後でございますが、新聞が二つございます。産経の方を読んでいただきますと、我が国は、やはり私は野党にも頑張っていただきたい。自衛隊以外にイラクの国民を助ける方法はいっぱいあります。したがって、自衛隊でなくてもいいということを行動で示していただきたい。議論だけではだめです。

 それから、その次のページに入っていただきまして、「軍事研究」の巻頭言の最後のところを読んでいただきます。新渡戸稲造氏の本を読んでいますと、「本当のサムライは、強いが、決して自分から先に刀を抜かず、弱きを助け、決して恩をきせない。そしてサムライが立ち去った後に清々しい花の香りが残る」ということを書いてございます。イラクに行った派遣部隊が、まさにこの武士道の精神を現地に花開かせて、自衛隊がイラクを去った後、サマワの人たちあるいはイラクの国民が、本当に日本の自衛隊はほかの国の軍隊とは違うということを体感していただきたい、そういうことを願うものでございます。

 大変ありがとうございました。(拍手)

斉藤委員長 ありがとうございました。

 次に、酒井参考人にお願いいたします。

酒井参考人 アジア経済研究所の酒井でございます。本日は、この委員会にお招きいただきましてありがとうございました。

 私は、本日、イラク支援に対して日本が一体どういう形で支援ができるかということをメーンにお話しさせていただきたいと存じます。

 その前に一点だけ、この委員会の名称ともかかわることでございますけれども、テロと現在のイラクに対する支援というものについての関連性について、一言だけ申し上げておきたいと存じます。

 私は、今、アメリカを中心として昨年行われましたイラク戦争が、テロに対する闘い、九・一一のアメリカでの同時多発テロ事件以降進められているテロに対する闘いの一環であるというふうに位置づけられておりますけれども、この位置づけ方に対してそろそろ見直していく必要があるのではないかということを一言申し上げておきたいと思います。

 これは、九・一一の首謀者と言われておりますビンラディンやその他アルカイダといった、いわゆるアフガニスタンを拠点にしてその当時活動していた国際テロ集団がああいった事件を起こしたということで、いわゆるアルカイダを中心とした国際テロ組織の掃討作戦にアメリカがその後乗り出していったんだと。そういう意味では、アフガニスタン戦争までは比較的、直接的な連関性のある行動であったというふうに考えられますけれども、それ以降、イラク戦争、フセイン政権の打倒、そしてその後の戦後統治ということは、これは必ずしも、いわゆるアルカイダあるいはビンラディンと直接つながりのあるものではない、国際テロ組織を壊滅するために有効な手段としてイラク戦争が機能したわけではないということがあろうかと思います。

 これは繰り返しになりますけれども、御存じのように、大量破壊兵器の問題、あるいはビンラディンとフセインのつながりといったような、戦前にアメリカがしばしば引用していたような証拠というものが見つかっていないというようなことがあろうかと思いますけれども、いずれにいたしましても、ここで対イラク支援とテロに対する闘いというものを切り分けて考えていくということは、大変必要なことになってくるのではないかと思います。

 すなわち、テロに対する闘いということであれば、イラク支援とはまた別の形で、本来、しっかり警察等々を起用して、国際的なテロ組織を撲滅するというような方向は別の方途で考えなければいけないわけでありまして、イラクに支援をすればテロが根絶されるというのは極めて短絡的な発想ではないかというところだけ、一つ申し上げておきたいと存じます。

 それを踏まえまして、それでは、イラク支援ということに限って何が今求められているかということをお話しさせていただきます。

 お配りいたしました資料、大変読みにくい資料になっておりまして恐縮でございますけれども、三枚ございます。一枚目は英語の表が二つついたもの、二と三は、これはイラクの今一番発行部数の多いアルザマーンという新聞の国際版と地方版、イラク国内バグダッド版と、三つございますけれども、そのうちからとってきたものでございます。

 まず、その資料一のところ、資料一をつけさせていただいた理由は、この表は、これは実は著作権の許可を得ずに勝手に引用させていただいておりますので若干問題になるかもしれませんけれども、NHKさんを中心としてオックスフォード・リサーチ・インターナショナルという調査会社がこの二月から三月にかけて行われたイラク国内での世論調査の結果の一部でございます。

 この設問はちょっと順番が逆になっておりますけれども、問いの十一、下の方でございますけれども、表の下の方では、イラクの復興においてどの国が最もリーダーシップをとってほしいか、主導権をとってイラクの復興を進めてほしいかというポジティブな問いでございます。上の方の表はそれと逆でございまして、どの国にとってほしくないか、どの国には積極的に関与してほしくないかという表が上の表でございます。

 これを見ますと明らかなように、積極的に復興に協力してほしいというふうに挙げられている国は、まずアメリカがございます。これは、まず第一番目に協力、リーダーシップをとってほしいという、ファーストカントリーというところを見ていただくと明らかなんですけれども、まず第一にアメリカにその中心になってほしいという回答が最も多い。そして、さらに注目すべきは、それに続いて一番リーダーシップをとってほしいのは実は日本なんだという答えが大変数字的には近接した形でアメリカに続いております。

 この質問から何を読み取るかということで、日本がそれだけ大変期待が大きく持たれているということが読み取れるわけなんですが、重要な点は、両方ともまず第一の国として中心になってほしいという回答なわけです。すなわち、アメリカが第一で、二番目に日本に手伝ってほしいという順番ではないわけなんです。つまり、ある意味では、アメリカがいいか日本がいいかという、一種、代替のような形でイラクの人たちが日本とアメリカを選んでいるという形になります。

 ちなみに、参考までに申し上げておきますと、そうした一番リーダーシップをとってほしい国に続いてどの国に、二番目にはどの国に頼りたいかというところでは、数字として高いのはフランスとイギリスということになります。

 そういったことを全体に考えると、今イラクを占領しているイギリスとアメリカに依存せざるを得ないと考えてイギリス、アメリカを支持する人々と、それと違った形で、日本やフランスなどのように、少なくとも戦争に加担していない国に期待したいという声が高いというふうに理解するのがここで読み取れるのではないかと思います。

 次に、資料の二と三をごらんいただきたいと思います。

 これは、先ほど言いましたように、イラク国内のアラビア語の新聞でございますけれども、ここをなぜ挙げたかといいますと、一面で日本のことが載った日を挙げております。三月のみに限っております。これは、一月、二月は自衛隊の派遣云々で、国際ニュースとして日本が一面に載ったことは多いんですけれども、三月、今現在自衛隊がサマワにいる中で、その活動を含めて日本が現地のアラビア語新聞の一面を飾った二つのケースです。

 一番目は、資料二の方は、これは名前がちょっと不明確なんですけれども、自衛隊の佐藤隊長が現地の発言として、社会労働省と合意に至ったというタイトル、ヘッドラインが躍っております。

 これは、実は中身を見ますと、先ほど外務省の御説明にもありましたように、自衛隊が給水活動を行うとか病院の修復を行うとか、常に言われているような自衛隊の活動内容の説明をしたという記事内容でございますけれども、その中でもとりわけヘッドラインとして取り上げられているのは、社会労働省と失業対策について自衛隊がアグリーした、合意したというヘッドラインが躍っているということで、ここから、要するに、イラク人が自衛隊に、よく言われているように、失業を何とかしてほしいというような期待が非常に強く出ているということをこの新聞報道ぶりで見ていただけるのではないかと思って掲載した次第です。

 そして、さらにつけ加えて言えば、今月二回目に日本が第一面に躍ったのは、私もこれは存じ上げないんですけれども、静岡で今度開催される青年フェスティバルというものがある、それにサマワの青年が招聘されていますということが、これはバスラ版、地方版でございますけれども、それが第一面に躍るというような報道ぶりでございます。

 すなわち、何を申し上げたいかというと、日本での自衛隊がサマワで何をしているかという報道ぶりと現地での日本に対する報道ぶりはかなり違うということを申し上げたい。すなわち、同じ自衛隊を取り上げるにしても、自衛隊の給水活動云々ということよりも、まず失業対策で何とかしてほしいというような期待が前面に出た報道になっているということを申し上げたかったわけです。

 そうしたことを踏まえまして、あと五分で、では具体的に日本がどういう支援策を行うことが最も有効かという点に移らせていただきたいと思います。

 その意味では、今申し上げましたように、失業対策等々というようなことに対する期待からもおわかりのように、日本が最も求められていることは、イラク全体の経済活性化ということであります。これはサマワだけに限らず、イラク全体の復興、産業活性化というようなことに日本がもっと積極的に関与していってほしいということであります。

 これに対して、具体的に、ではどういう活動が今のイラクの経済復興、経済活性化に一番効果的かというと、これは恐らくバスラという町、都市、地域での活動が一番有効であろうと私は考えております。

 イラク国内では、発電所、製油所あるいは石油コンビナート、港湾施設等々、これはもう社会主義体制をとっておりましたころから、バスラの周辺というのは油田地帯でもありますし、一大産業集積地になっております。この産業集積地が港湾施設も含めて復興することが可能になれば、イラクの経済復興はほとんど、三分の一から半分は終わったものというぐらいに極めて効果的な事業でございます。

 こうした南部バスラの計画的な、総合的な開発というものがまず求められている。そして、そうした産業集積地の多くがかつて日本の企業が携わったことのある事業であるということを考えると、何とかしてこうしたバスラを中心とした経済施設の復興に関与していくということが非常に有効ではないかと思います。

 二番目の有効策としては、そうはいいましても、まだなかなかイラク国内に日本人が入って事業を展開するということが難しいということがよく論点として指摘されますけれども、それに代替する案といたしましては、国外でのイラク人の技術者あるいは医師あるいは知識人に対する研修、技術協力といったようなものをもっと積極的に進めることが可能ではないかと思います。

 とりわけ、この点に関しては、最近発表されましたようなイラク通信網の改善計画、これに日本が積極的に乗り出すという発表が総務省の方からなされた、あるいはその前に、電力回復について外務省が積極的に乗り出すというような案が出されておりますので、そうした方向で進めることは十分可能だ。特にヨルダンへの文民派遣というような、そういった方向での事業をもっと大きな形で進めていくことは可能ではないかと思います。

 とりわけ、これは政府だけではなく、民間企業が協力して行うことも十分可能なプロジェクトではないかと思います。といいますのは、いずれの民間企業とお話をさせていただいても、どこも今イラク国内に入ることができない以上、イラクでの事業展開をローカルスタッフに任せなければいけない、イラク人のスタッフに任せていかざるを得ない、あるいは、今後事業を展開する上でイラクのどういう、だれにアドバイスを求めればいいのかということを非常に皆さん切望されております。

 そういう意味では、逆に、そうした、だれが知識を持っていて、イラク人のだれに頼るべきかということを探るということもさることながら、むしろ積極的にこれから育成していく。今後日本企業が国内に入っていったときに右腕になって働いてくれるようなイラク人の知識人、あるいは政府の役人ということで考えてもよろしいかと思います。

 例えば、地方行政の立て直し、イラクの今後の暫定政権の立ち上げ、あるいは選挙の実施というようなことを考えれば、必ずしも技術者や医師といったようなところだけではなく、中堅官僚、あるいは選挙実施のノウハウといったようなものを、民間レベルあるいは政府レベルで両方ともにいろいろな形で技術協力をして、それが有効に実るだけの今後の余地というのは大変大きなものがある。よりイラク国外での技術協力というものを考えていくことができるのではないかと思います。

 それから、最後になりますけれども、三番目に、繰り返し申し上げてきたことですけれども、対イラク復興支援は、やはり最終的には民間企業あるいは民間ベースの協力につないでいくという必要があるのではないかと私は考えております。

 これはもちろん、先ほど申し上げましたように、かつて日本の民間企業はイラクの高度成長にさまざまな形で寄与してきたという点もございますけれども、さらに言えば、イラクが産油国であるということを忘れてはいけない。すなわち、イラクが自力でイラクの石油を輸出して、財政を自律的に取り扱うようになれる日が来れば、そのときには、ある意味では、いわゆる援助とか支援とかいうような、一種、施し、施されるというような関係によってしか成り立ち得ないような国ではないということであります。

 つまり、イラクが現在、主権移譲あるいは今後の戦後復興ということで一番強く求めているのは、そうした一人前の国家として、昔のように石油を売って、堂々とその石油収入によっていいものを日本から買うという、一種の対等な関係を最終的に目指しているということを忘れてはならないのだろうと思います。

 つまり、よく言われるように、支援支援という、いわゆる援助というようなことを中心に考えるがゆえに、余りにも援助漬けの体制に、国の方向性を間違った方向に導いてしまうということだけはやはり避けなければいけないわけでありまして、その意味では、極力、最終目標としての民間ベースの平等な商取引に基づいた二国間関係ということを構築するために、どのような支援が今必要かということを考えていく必要があるのではないかというふうに考えております。

 以上で私の方の御報告を終わらせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)

斉藤委員長 ありがとうございました。

 以上で両参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

斉藤委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。竹下亘君。

竹下委員 おはようございます。自民党の竹下亘でございます。

 志方参考人、酒井参考人には、わざわざ私たちの委員会に御出席を賜り、本当に貴重な意見をお聞かせいただきまして、心から感謝を申し上げる次第でございます。

 イラクをめぐる状況、なかなか、だんだんよくなったなという実感を持てる状況には残念ながらまだない状況にあります。

 そういう中で、私は、自衛隊の諸君が、厳しい気象条件の中、さらには、略奪、強盗、テロ、ゲリラ、非常に危険があるといいますか、安全とは決して言えない中で懸命に努力をしておる、しかも、現地からの報道によりますと、日に日にその評価を高めてきておるということに心から激励をすると同時に、ある種、おっ、やってくれているなという喜びも感じ始めておる一人でございます。

 願わくば、先ほど志方さんがおっしゃいましたように、自衛隊の諸君が立派に仕事をなし遂げ、イラクにさわやかな武士道の、花のすがすがしいにおいを残して帰ってきてほしい、全員無事で帰ってきてほしいということを皆さんとともに祈り、激励をし続けていきたいと思っておる一人でございます。

 さてそこで、イラクのことよりも、私が一つ心配なのは、日本人の心の動きでございます。

 まず最初に志方さんにお伺いをしたいなと思いますのは、イラクは今危険だから自衛隊の派遣も、その自衛隊の派遣を憲法違反だという判断を持つ人たちと正直言って議論をしようとは思いません、しかし、国際支援はしていくべきだ、しかし今は危険だから自衛隊は行くべきではない、もっと安定してから行けばいいじゃないか、こういう議論が、私に言わせますと、残念ながら、あたかも正論のごとくマスコミ紙上でも言われておる。これは私は、日本人の心にとって大変危険なことではないかなと。自分だけ安全だったなら、自分だけよかったなら、ほかの人はあるいはイラクの国民はどうなってもいいという、いわゆるそういうひとりよがりの精神にまさにつながるおそれがあるんじゃないかなと危惧をいたしておる一人でございます。

 そうした中で、自衛隊の諸君がサマワを中心として活動をしておる。そして、その派遣に対する、危険な中あるいは厳しい気象条件の中で活躍しておる諸君に対して、国民の評価が世論調査をするたびに高まっておるということに、私は、やはり日本国民はわかってくれるなという思いも一方で抱いておる一人でございます。

 そうしたことを含めまして、今の風潮、さらにはこれからの、支援が具体的になっていくにつれて、日本人の心といいますか精神的な動きというものに対して、志方さんは今どういう分析をしていらっしゃるのか。あるいは、きのうのテレビの番組で、坂本竜馬が、もう一回日本を評価するというか、おもしろい言葉を、再度日本を洗濯申し候という言葉を使っておったわけでございますが、ちょっと抽象的な質問になって申しわけないんですが、どうお考えなのか、どう受けとめていらっしゃるのか、お話をお聞かせ願いたいと思います。

    〔委員長退席、小野寺委員長代理着席〕

志方参考人 日本人の心の洗濯をもう一度やるという話でありますが、私は、国家あるいは国民の国際社会に対する責務といいますか、そういうものは三階建ての建物だと考えます。

 一番下に、共通の価値観を持つという、いわゆるコモンバリューといいますか、この点は、日本は先進民主主義国家とほとんど共通のものです。例えば、政治における民主主義とか経済における市場主義経済、あるいは外交における相互主義、それから軍事における専守防衛、あるいは軍事力というのは使われたら使うけれども自分からは使わない、そういう点では、日本はほかの先進民主主義国家とほとんど価値観を共有していると思います。

 その二階の部分は、今度はバードンシェアリング、いわゆる負担も分担するということでありますが、これは主としてお金とか汗の問題であります。お金については、ODAを含めて日本はもう優等生でございます。それから、汗をかくということでは、自衛隊もPKOに行っていますし、日本の若者はNGOでも行っておりますし、私も、これはそれほど世界にひんしゅくを買うようなことではないと。むしろ、ゴラン高原なんかはもう八年目に入っておりますが、それから東ティモールにも現在行っておりますし、その他いろいろやっております。そういうことを考えますと、バードンシェアリングというところでも日本はかなり優等生的に動いております。

 その上のリスクシェアリングというところ、ここにいきますと、今まではそれをしなかったわけであります。なぜしないかというと、危険なことは、危ないからとか嫌だからというのではなくて、我が国には平和憲法があるからということを理由に、しなかったということの方が、私は正しいんだろうと思うんです。言ってみれば、外国から見ますと、それは、憲法というものを盾に危ないことだけは引き下がる。

 人間関係でも、価値観も共有する、これは総論賛成でございます。それからバードンシェアリング、負担も共有する、分担する、これは各論賛成であります。総論賛成、各論賛成、最後のインプリメンテーション、実際やろうとすることになると嫌ですというのは、一人の人間としても余りいい人間とは言えないと思うんですね。

 こういうことを五十年間やってきて、二十一世紀になっても、危ないことだけはやらない。これでは、そういうことを政治がやっているわけですから、国民はその政治を見て育ちますから、ああそうだ、お金も上げるぞ、汗もかくぞ、しかし危ないことだけは逃げりゃいいんだ、そういうことをやって、国民の精神が洗濯されるわけがないわけですね。

 やはり政治が命がけでやっていく。自衛隊を出さないならば、自衛隊以外のものでどうやってイラクの人たちを助けることができるかという対案を示していないんですね。反対するなら、だれでもできるわけであります。必ず、反対するときには、だからこうやってやるんだという対案を立てていただきたい。それを国民が見ると、どっちを選択するか。私は、政治というのは選択肢を示すものであると思うんですね。Aが賛成と言えば、これは反対、それを見ているだけで国民は育つわけがありません。

 それで、それを国民がわかるようにしていただきたい。例えば、自衛隊以外でどうやってサマワの子供たちの命を助けるかということをはっきり言っていただきたい。それを言わないならば、サマワの人たちは死んでもいいんだと言っていただく方がまだましです。(発言する者あり)

小野寺委員長代理 参考人が発言中です。静粛にお願いします。

志方参考人 まあ、これが日本の政治というものですね。

 そういう意味で、私は、日本人の心を洗濯するならば、政治が洗濯していただきたいと思います。

 以上でございます。

竹下委員 国家は、どんなに経済的に豊かになっても、心が精神的におかしくなったときに国家は滅びると言います。その意味で、日本の柱というものを私たちはこれからももっともっと求めていかなければならないということを、まさに今回のことを通じて改めて痛感しつつある。そして、そのことを日本国民は日に日にわかりつつあるから、イラクに対する自衛隊の派遣に対する評価が高まりつつある。私は、日本国民はまだまだしっかりしているということも改めて痛感をいたしておるような次第でございます。

 それから、酒井参考人にお伺いをさせていただきたいんですが、酒井さんは中東、特にイラクに大変造詣が深いということもお伺いしております。また、先ほどちょっと伺いましたら、私たちの同僚の宮下議員と小学校の同級生ということだそうでございまして、何か急に親しみを覚えたような次第でございます。

 イラクの中で、今、基本法に対しまして、シスターニさんが、これをすぐそのまま安保理で取り上げるのは問題じゃないかというような趣旨の書簡を送られたというふうに伺っておりますが、今議論されております基本法は、国民の支持あるいは多数派のシーア派の支持といったものがどの程度得られておるのか、あるいは得られていないのか。そして、どの点が一番の不満なのか、あるいはどこかを変えれば解決するめどがあるのかといった、ちょっと技術的な面も含めまして、お伺いをさせていただきます。

    〔小野寺委員長代理退席、委員長着席〕

酒井参考人 ただいま、基本法に対するシスターニ師を中心としたシーア派の反対ということについての御質問がございました。

 これは、一言で申し上げれば、今、基本法あるいはそれをつくった統治評議会に対するイラク国民の反発というものは大変大きなものがあるというふうに申し上げてよろしいかと思います。

 先ほどお配りいたしました資料と同じ世論調査の一部にそれを示すような内容が載っておりまして、イラク人が一体今の復興統治体制の中でだれを信用するか、だれに一番期待を持つかということで、一番大きく挙げられているのは、まだ見ぬ形ではあるけれども、イラク人の政府、そしてイラクの人々、これがすべてのことに責任を持ち、リーダーシップを持って動いていくべきだという回答がもうトップに来ております。そして、それを補完するような形で、アメリカの占領体制にある以上はアメリカに依存せざるを得ないということで、アメリカという名前が載っております。かなり下の方に統治評議会という名前がございます。

 要するに、それだけ今の統治評議会は今の国民には疎遠のものである。もっと言えば、統治評議会の三分の二が亡命イラク人であります。イラク国内に基盤を持たない。

 逆に、イラクの国内の人たちはどういったところに政治的な代表性を求めているか、自分たちを代弁する者はだれかというふうに考えていくと、そのように、統治評議会も自分たちを代弁してくれない、ほかに何も代弁する組織がないということで、シスターニ師のようないわゆる宗教指導者のところに、自分たちの意見を代弁してほしいということで意見を言っているわけなんです。

 そういう意味では、この基本法に対する反対というのは、シスターニ師個人が何か問題があって反対しているというよりは、今のイラクの国民、亡命イラク人を除いた、国内に住むイラク人の大半がこれに対して反対をしているというふうに理解した方がいいんだと思います。

 その反対の第一の点は、一番大きいのは選挙の問題でございます。

 これは、先日来問題になっておりますけれども、シスターニ師を中心として、シーア派住民の多くが、選挙によって次の暫定政権が選ばれることを希望している。しかしながら、アメリカ及び統治評議会は、とりあえず今選挙は時期尚早であるということで後送りにしておりますので、この間の暫定政権で決められること、暫定政権の決め方あるいは暫定国会の決め方、それから、一番重要なのは恒久憲法ですけれども、憲法をいわゆる選挙で選ばれていない人々の手によって決められてしまうという形が基本法に盛り込まれております。

 基本法の一番の問題点というのはそこでございまして、行政や治安の維持といったものまで、すべてすべてイラク人の民意に基づいたものを行わなければいけないというふうに主張しているわけではないわけなんです。少なくとも恒久憲法だけは、憲法だけは国民の意見が反映されたような形で策定してほしいというのが今のイラクの国内世論の大半でありまして、残念ながら、統治評議会はそうした意見を吸収できるような立場には全くないという意味で信頼を失っているということだと思います。

竹下委員 確かに、イラク人による自由で民主的な国家をつくってほしいという、これは多分イラク人自身の心の叫びであり、世界の民主的な国家が望んでいること。日本のできることも、イラク人による民主的な自由な国家をつくるのにどれだけお手伝いができるかという点、それ以上でもそれ以下でもない。日本が何かを引っ張っていくなんという――やはり最終的には、先ほどおっしゃったように、恒久憲法を自分たちの手でつくりたいんだというその思いが出てくるように、イラク人の手で国家というものをつくっていかなければならない。新しい国家づくりの難しさというものが本当に如実に出ておると思っておるところでございます。

 もう一つ、余りマスコミ報道はされておりませんが、実は、不幸にして、イスラム教の教えの中に、女性と男性を峻別するというか、差別するという言葉を使っていいのかどうかわかりませんが、そういうものが存在をいたしております。これは、自由で民主的な国家をつくるという目的を達成するためにはどうしても乗り越えなければならない壁であると同時に、しかし、宗教という心の問題であって、踏み込むこと自体に、日本人もそうですが、大変ためらいを覚える問題であります。

 お二人の方々に、宗教と女性、イラクの復興といったような問題についてどうお感じになっておりますか。

 まず、志方参考人の方からお願いをいたします。

志方参考人 私は、それは突き詰めていけば、男女本当にフィフティー・フィフティーの同権だと思いますけれども、やはり今のように、過去がある、宗教の枠というものがあれば、一挙にそういうところまでいかないと思います。いかせることの方が難しい。

 むしろ、今言われているように、二五%は少なくとも女性から代表を出すように、リコメンデーションといいますか、そういうことをイラクの国民に、新しい政府にやっていくというような、そのぐらいが一番実現可能で抵抗も少ないのではないか。一挙にフィフティー・フィフティーは難しいと思います。

酒井参考人 大変大きな問題でございますけれども、宗教と女性ということで考えれば、イスラム教の場合は、これは誤解を受けがちなんですけれども、もともとは、それこそキリスト教でも、男性が先にありき、女性が次につくられたというような順番があるということは確かにございます。ただ、その議論がそのまま今の現実生活に生きているかといいますと、例えばイランなどを見ておりましても、イランにおける国会議員の女性の比率というのは非常に高いものがございますし、同じイスラム教徒の国でも、サウジアラビアの場合は女性は車を運転することができない。しかし、同じように厳格にイスラムを適用しているイランの場合は、逆に女性のタクシードライバーがたくさんいて、社会進出はむしろ大変進んでいるということがございます。

 すなわち、これはどういうことかといいますと、イスラム教といいましても、どの程度融通をきかせた解釈をするかということによって随分国の体系は違ってまいります。

 特にシーア派の場合は、合意というものをイスラム教の一番大きな根幹に置いているところがございます。すなわち、教条的に過去の判例に従うとか慣習に従うとかいうようなことよりも、今現在そこにいる人々の合意によって、これはこう変えましょうというようなことがあれば、それは新しいシステムとして成り立っていくんだというのがイスラム教の法体系の中に入っておりますので、必ずしも女性が常にイスラム教圏の中で冷遇されているというようなことでは決してございません。

 二五%云々という、いわゆる国会議員比率の問題でございますけれども、これは若干論点が違っておりまして、つまり、女性であれあるいは少数民族であれ、すべてイスラム教徒、あるいはすべての人々は神の前に平等であるという原則から考えれば、ある特定の性別、ある特定の民族に特定のパーセンテージを付与する、特権を認めるというようなやり方はおかしいのではないか、まさに民主主義に反する、まさに自由に選挙をして、それこそ、ふたをあければ女性が七〇%の国会議員を占めていてもよろしいのではないでしょうかというのが反対の論点の一つでございますから、二五%の数字が多過ぎるということで議論が問題になっているわけではないと存じます。

竹下委員 終わります。ありがとうございました。

斉藤委員長 次に、池田元久君。

池田委員 民主党の池田元久でございます。

 参考人のお二方に心から感謝を申し上げます。

 わずか二十分でございまして、イラク問題がテーマでもありますので、酒井参考人の方に質問をさせていただきたいと思います。

 今、お話を聞いておりましたが、まずそこで浮かんだのがアメリカの中東民主化構想、これはかかわり合いが大いにあると思うんですが、酒井参考人はどのように認識されていらっしゃるか、お尋ねをしたいと思います。

酒井参考人 アメリカの中東全体に対する民主化構想ということでございますけれども、確かに、今回のイラク戦争において、イラクのフセイン政権という独裁体制を打倒しなければいけない、それこそが民主化の一歩であるという発想が根幹にあったことは事実であろうかと思います。

 その意味では、イラク戦争後、イラク人の間に、イラクはこれからはアメリカあるいは先進国を主導とした民主的な国になっていくんだという期待があったかと思いますが、残念ながら、現実に今、アメリカがイラク国内で行っていることは、むしろ民主化とは逆行する形になっている。

 具体的には、先ほど申し上げましたように、イラクの国民自身が直接選挙を要求している、しかも、実は市町村レベルでもう既に人々が、もうアメリカがノーと言うのであれば選挙をやってしまえというぐらいに自発的に草の根の選挙をやっている状況にあるにもかかわらず、アメリカは、残念ながら、そういった選挙は後延ばしにしようという単純に見れば民主化とは逆行したような政策をやっているということが、アメリカのいわゆる民主化政策の一番の矛盾ではないかというふうに存じます。

池田委員 すべて、看板と実際といいますか、本音と建前というものが国際政治でもあると思うんですが、先ほど、テロとの関連性について非常に明晰な考えを述べられたので、全く同感をいたしました。アフガンの問題とイラクの問題は別でございまして、そこをリンクさせた、そして考えるというのは違うという御見解は、正しいと私は思います。

 アメリカの中東民主化構想なるものも、あの専制的なサウジ政権を支持したということだけを見ても明らかでありますし、かつて、フセインと手を結んだこともあるわけです。ラムズフェルドはバグダッドに行って手を結んだこともあるわけでありまして、そこは冷厳な目で見なければならないと私は思っております。

 きょうは意見開陳の場ではございませんので、以下、質問をさせていただきます。

 このナショナル・サーベイ・オブ・イラクというのは大変興味がありました。まず、ポジティブな方では、アメリカと日本にそれぞれ期待をすると。そして、ネガティブな方では、イスラエルは、これは例外的ですから多いですね。その次に、アメリカに対して非常に反発といいますか、役割を果たしてほしくないと。一方、日本に対してはカウントが入っていない、要するに、ネガティブの方ではほとんどないということでありまして、ここにやはりイラクの人々の希望といいますか、求めているものがあるというのは、全くそうだと思います。

 それで、これから求められるというのは、全体の活性化、経済では活性化でありますが、私が関心がありますのは政治プログラムでありまして、去年十一月の合意、それから、国連とCPA、統治評議会の話し合い、そしてようやく基本法というものができたわけですが、今、竹下委員からも質問がございました。

 アフガンの場合には、ロヤ・ジルガという方式で、ブラヒミさんがサポートしてやりました。私も前に、アフガンに暫定政権ができた直後に入って、いろいろ議論をしてまいりましたが、アフガンも複雑といえば複雑なんですが、大分イラクというのは、シーア派、スンニ派、それからクルド人、さらにトルクメニスタンですか、その辺の距離というのは、なかなか一つの議会を構成するのは難しいのか。その辺はどうなのか、どうなっているのか、その辺を研究していらっしゃる酒井さんにお尋ねをしたいと思います。

酒井参考人 アフガニスタン同様、イラク国内も非常に複雑なので、今後の政治プロセスの中でどのような形でまとまっていけるのかということが御質問の御趣旨かと存じます。

 ただ、これは三つ以上あると複雑だというふうに言ってしまうと大変わかりやすい話なんですが、実は、イラクの国内の構成を見ますと、今御指摘がありましたように、例えば民族的には、アラブ民族とクルド民族、そして御指摘のあったトルコマン人やアッシリア人といった、本当に数%という一けた台のパーセンテージを持つ人口が幾つかあるということでありますから、大ざっぱに分ければ、アラブとクルドという二つの民族中心なわけです。そして、宗派的に分かれておりますけれども、これもシーア派とスンニ派という二つでございますから、大ざっぱに分けて、アラブのシーア、スンニ、クルドという三つでございます。

 三つを複雑と言うかどうかという問題でございまして、その意味では、例えばユーゴスラビアやアフガニスタンあるいはレバノンといったような、非常に狭い国土で少数の、少なくとも三つよりも大きい数で分かれているような国よりはまだ単純な構造ではないかと私は思っております。

 いずれにしても、その三つの距離関係でございますけれども、確かにクルド民族に関しては、これは、湾岸戦争以来十三年間にわたって、既にかつてフセイン政権のもとを離れてきてまいりました。その意味では、既に自治の実績があり、外交も行ってきたということもございますので、中央政権に対する凝集力といいますか、それはなかなか難しいものがあろうかと思います。もちろん、今、独立ということを目指しているわけではないにしても、かなりの自治権を獲得しないとおさまらないというような方向性は確かにクルドの中にはあろうかと思います。

 しかし、同じようなことが宗派対立に言えるかというと、実は私は、それはそうではないと思っております。もともとイラクは大変世俗的な国でございまして、子供たち、女性たちもベールをかぶらずに生活しているのが一般的な人々でございましたから、宗派の対立というものはそれほど大きな問題にはなってこなかった。よほど宗教熱心な人以外はそれほど問題になってこなかったわけです。

 ところが、残念ながら、今の統治評議会などの構成を見ておりますと、ある意味では、無理やり人口比率に沿った形でそのポスト配分を決めているというようなところがございます。そうしたことから、むしろ戦後、とみに宗派的な違いというものが政治的な意味を大きく持つようになってきてしまっているという現状がございます。そうした流れの中に、逆にイラクの国内社会は、むしろ、こうした宗派対立にあおられないように、乗っていかないようにという極めて強い自制心を持って活動しているというふうに見えます。

 先日、カルバラで大規模な爆弾テロ事件がございましたけれども、あの直後に、スンニ派のモスクでは献血運動が真っ先に行われる、あるいはスンニ派、シーア派の間で和解の対話をしていこうというような動きが非常に活発に見られますので、私は、実は、シーア派とスンニ派の宗派的な問題というのは、戦後の一時的なもの、あるいはアメリカがどうも人口バランスに基づいた配分というような、先ほどの女性のパーセンテージではございませんけれども、そういうようなところに随分拘泥しているがゆえに問題になってきている部分があって、自然な形ではそれほど大きな対立軸にはなり得ないのではないかというふうに存じます。

池田委員 ブラヒミ特別代表が、治安の改善と全員の協力が得られれば直接選挙は実現可能という見通しを最近明らかにしている。今の話だと少し楽観的になってまいりましたが、ただ、もう一点、米国寄りの勢力でつくっているイラク統治評議会から外された勢力を取り込むべきだと言っているわけです。これはなかなか難しいと思うんですが、いかがでしょうか。

酒井参考人 おっしゃるとおりかと思います。

 統治評議会を広げなければいけないわけですけれども、残念ながら、アメリカのこれまでの戦後政策において、統治評議会以外のイラク国民に対するパイプというものを構築してこなかったという点がございます。とりわけ深刻なのは、旧体制、旧フセイン政権を支えてきたバース党あるいは旧軍隊といったような、必ずしもフセインを支持してきたわけではないけれども、やむなくつき合わざるを得なかったというような中間層が大変大きくイラク国内には存在するわけであります。

 国連などは、どちらかというと、そうしたところも取り込んで広範なイラク社会を代表するような形に持っていくべきだという議論だと思いますけれども、アメリカの場合は、先ほどちょっと申し上げましたようなアメリカなりの民主化という意向が強過ぎて、こうした旧政権に関与した者を一切入れないとか、そうした障害が若干出ているかと思いますので、その点では簡単に折り合いがつくとはなかなか思えないと思います。

池田委員 次に、経済の活性化ということをおっしゃいました。実は私、一九九〇年の九月、イラクがクウェート占領した直後に、湾岸戦争の四、五カ月前でありますが、人質の解放を求めてバグダッドに入りました。空域封鎖の始まった日で、大変緊張した中で入りまして、人質解放の交渉をしたんですが、そのとき、バグダッドは非常に生き生きとしていました。

 ところが、二〇〇〇年の夏に、予算委員会の出張で、自民党の久間理事などと一緒にバグダッドに入ったんですね。もう大変疲弊していましたね。ちょうどそれだけの時間を置いて見ました比較です。ですから、他国が攻撃しなくても、経済的にはもう相当落ち込んでいたわけです、オイル・フォー・フードというのもやっていましたが、経済制裁をやっていましたからね。

 ですから、今はそういうくびきというか、なくなったわけですから。あの国は非常に名誉を重んずる国でありまして、我々の国も古いかもしれませんが、何せシュメール人が文字を三千年も前につくったという、世界の歴史では大変エポックを画した、そういうところの国であります。ですから、これは、他国の軍隊が行って長期間の占領するとかなんとかというのではなくて、一つ勢いがつけば、石油もありますから、復興は、相対的といいますか、軌道に乗れば早いんじゃないかという感じを受けておりますが、その辺いかがでしょうか。

酒井参考人 まさしく御指摘のとおりかと思います。

 先ほども申し上げましたように、イラクの場合は、そもそも経済制裁を受ける以前の産業インフラ、生活インフラはかなり整っていた国でございますし、技術レベル、人材のレベルでも大変よいポテンシャルのある国だというふうに理解しております。

 ですから、そうしたところを、失われた十年間の技術あるいは経済制裁下で放置された産業施設の復旧というようなことを進めていけば、かなりその後の経済再建というのは順調にいくのではないかというふうに私は見ております。

池田委員 これは予算委員会で質問できなかったんですけれども、援助といいますか、支援の仕方で、例えば、今回、自衛隊がイラク南部に行きまして復興支援活動に要する経費は、十五年度二百六十八億、十六年度百三十五億、合わせて四百三億もかかっているわけですね。そのうち給水活動にかかわる経費には、給水機材費などとして約九億円計上している。

 これに対して、大きなNGOの代表の方がおっしゃっていたのは、八万人から十万人を対象とした浄水・給水活動では数千万から一億円単位で済むということでありまして、我々はやはり、国の財政も考えればこの方がはるかにいいんじゃないかと。

 それからまた、時間がありませんので一遍に申し上げますが、軍隊的なものは自己完結型でありますので、地域社会に根差さない、溶け込めない、雇用の拡大につながらない、さらに、費用がかさむということで、これはもう冷静に考えて、やはりそういうシビリアンの援助がいいんじゃないか。別に与党、野党も何も関係ないですよ、これは日本の国益からいってですね。

 そういう点で、酒井さん、どのようにお考えになるか、お尋ねします。

酒井参考人 御指摘のとおりかと存じます。

 自衛隊が現地で行う先ほどの給水活動等々の指摘もございましたけれども、残念ながら、イラク国内で求められていることは、いわゆる給水、配られる水ではなくて上下水道であるというような、もっとシステマチックな復興が必要であるというようなことがはっきりと意見のそごとして出てきております。

 コストに関しましては、私も残念ながら実務の面でどのくらいコストが違うかというところまでは申し上げかねますけれども、しかしながら、おっしゃったとおり、確かにシビリアンの部分で復興していくことこそが私は一番重要な点であるというふうに感じております。

 これは、とりわけ、先ほど世論調査のところで出てきておりましたように、アメリカが期待されながらしかも望まれていないということの最大の原因は、これは占領軍であるという点が一番大きいわけです。つまり、軍を派遣しているということに対するアレルギーといいますかフラストレーションというのは、これはイラク人の生活の中で大変大きな問題になっている。

 その意味で、日本がその代替案として期待されているとすれば、恐らくは、それは、力任せに、銃を持って復興支援だというふうにやって来るような人たちとは違うだろうという期待であろうかと思います。そういう意味では、やはり文民として期待されている部分を全面的に押し出していくのが一番有効な日本の貢献策ではないかというふうに考えます。

池田委員 予算委員会だと思うんですが、自衛隊の派遣期間が六月で切れた後、イラクに駐留する場合には相手国の同意をとるのかと私が聞きまして、そのときには余りはっきりしませんでしたけれども、細野君の質問に対しては、同意をとるということを川口外務大臣は答弁されました。

 しかし、いずれといいますか、六月末に移行政権ができて、それから直接選挙をやれば、来年の一月から暫定政権ができるということになります。

 自衛隊の派遣を見直す大変いい機会じゃないかということも酒井さんはおっしゃっておりますが、イラクの国民の期待に沿う支援の仕方はどうかというのは今お答えいただきましたので、要するに、自衛隊の派遣をどうするかという時期がいずれ遠からず来ると私は思います。

 沖縄の例を見ればもう明らかで、民族の違う軍隊が駐留するというのは大変摩擦を生みます、問題を生じます。それでなくても、イラクの人たちは誇りが高い。しかも、サウジの王様は何と言っているかというと、メッカ、メジナの守護をする王様であると言っているわけですね。プリンス・スルタン基地というアメリカ軍の基地があって、これがイスラム過激派の一つのよりどころ、アメリカに対する反対の大きなよりどころとなっているわけでありまして、異民族の軍隊が駐留するということは、我々日本の感覚からいってもどうかなという感じがいたしますが、その辺の、アラブの民衆といいますか、感じ方はどのように予測されますか。

酒井参考人 これは、イラク人の間でのアメリカの駐留に対する反応と周辺のアラブ人のアメリカ軍の駐留に対する反応というのはやはり若干違ってきているかと思います。

 イラク人の反応は先ほどから申し上げておりますので、アラブ人という、周辺のアラブ諸国、ヨルダンやエジプト、サウジといったようなところに限らせていただきたいと思います。

 これは、ある意味ではイスラエルとの関係を非常に強く意識せざるを得ない。すなわち、占領という問題が、イスラエルのパレスチナ占領ということと常にオーバーラップしてアラブ人の頭の中には認識されるということを考えておく必要がある。

 ということは、すなわち、これはよく言われていることですけれども、イスラエルがパレスチナをじゅうりんしているようにアメリカがイラクをじゅうりんしているんだというようなパラレルな認識がこのままでは定着してしまうということで、イラク人にとっては、それは若干違うんだというところは認識できているわけですけれども、アラブ社会の中にこれ以上反米感情、アメリカに対するアレルギーというものを強めていかないためには、いかにいわゆる占領ではないんだ、良好な二国間関係に基づいた支援なんだということを強調していく、そういう切りかえがやはり必要になってくるのではないかというふうに思います。

 お答えになりましたかどうか。

池田委員 まだまだ質問したいんですが、ありがとうございました。

斉藤委員長 次に、河合正智君。

河合委員 志方先生、酒井参考人におかれましては、御多忙のところ、突然の私たちの要請におこたえいただきまして、心から厚く感謝申し上げます。

 志方先生の御意見は従来からお伺いしておりましたけれども、酒井参考人は、私、テレビでしか拝見したことがなくて、そのテレビの印象と、実際にお会いしてみて、全く違うことに気づきました。テレビの印象は、非常に悲観的な御意見で最後結ばれている印象でございましたが、本日は、非常にポジティブな印象を受けました。いろいろお伺いさせていただきたいと思います。

 まず、志方参考人にお伺いさせていただきます。

 先ほどの御意見、陳述されました中にも関係しますけれども、アメリカの厚生長官が日本に参りまして、この方は生物テロ攻撃対策を担当しているトンプソン厚生長官でございますけれども、米国では炭疽菌騒ぎなどの教訓から生物テロ対策を重視して、全土に拠点を設けて医薬品、医療器具等を用意している、どこでテロが起きても七時間以内に対応できる態勢をとっているということをおっしゃっております。

 それに対しまして、日本はオウムの地下鉄サリン事件を経験した国でありますのにその体制が非常に不十分だと私は思いますが、この生物化学テロに対する対応について、御意見をお伺いしたいと思います。

志方参考人 私は東京都の防災担当の参与も務めておりまして、都民を、そういう生物テロあるいはテロでなくてもSARSの蔓延とか、言ってみればバイオハザードでありますが、そういうものからどうやって守るかという計画とか、訓練も一部やっております。

 まず一番最初は、どういう状況になるのかという実態がよくわからないということが一つであります。

 いろいろな学者の方にも来ていただいて、数学的な手法とか人間工学的な手法とかそういうことで、そういうものがまかれた場合にどのように感染していくのかという実態の調査、それをどのようにとめたらいいのか、あるいは、とめるときにどういうことが障害になるのかというようなことをやってみました。

 現在、生物剤として使われそうなものは炭疽菌でありますが、これは、フィージビリティーといいますか、使う側からいうと非常に使いやすいものであります。ただし、これは人から人へ感染するものではないものでありますから、その現場にいた人がなる、潜伏期間が四日ぐらいありますから気がついたときにはかなりの人が感染している、そういう怖さがあります。

 それからもう一つ、SARSも、これはテロ的ではありませんが、やはりSARSであるということがわかるまでにかなりの時間があります。ですから、例えば、お医者様が、この人はどうも普通の肺炎でないと気がついて、その人からとった検体を研究所とかそういうところに持っていって、間違いなくこれはSARSの真性であるということがわかった時点でその方を隔離することができるわけでありますが、法律上、疑いだけで隔離することはできませんので、かなり蔓延してしまいます。

 それから、設備の問題では、東京都のようにしっかり訓練をしているところでも、感染症にかかった人あるいはその疑いのある方を運ぶための救急車とか、中が減圧されたアイソレーターという担架とか、それから、それを受け取ってくれる病院、そういう隔離病棟をちゃんと備えた、中が陰圧になっていなければいかぬわけですね、そういうようなところも非常に少ない。

 通報、組織、これは非常に重要です。そういうことを考えますと、バイオテロ対策というのは、今、緒についたばかりであります。

 ワクチンも、例えば天然痘の場合は、今、ワクチンを急ピッチでつくっているところでありますけれども、まだ日本人全体に打つことができない、非常に限られた数、優先をつけて打っていく。天然痘のウイルスの場合は、潜伏期間中に我々がやっていた種痘をやればかなり救命率が高くなるということで、時間の勝負になります。

 そういう意味で、アメリカのように、全国に拠点を持って、そういう資材、器材を持ってすぐ飛んでいくような組織。

 それと、アメリカの場合は、国防総省がそういうものに対する責任を持った一つの官庁として指名されて、それに対してほかの省庁が全部協力することになっておりますが、日本の場合には、カラスのウイルスのこともありますように、まず最初、何か起こると、これは食べ物だから農林水産省、そしてその次は、病気だから厚生労働省、カラスがどうも危ないとなると環境省というぐあいに縦社会でやっておりますから、やはり横に連携するようなもの、これはもう危機管理監のオフィスでかなり研究はしておりますが、法律的にはまだ、感染症法も一部改正されただけでありまして、そういう者を早期に隔離するということが難しい。

 やはりこれは、横の連絡網、資材、器材、それから主管とする省庁を決めて、それに対してみんなが協力するというのがいいと思います。

河合委員 同じく、先ほど先生が申されました、日本がアメリカに依存しているものの六つ、一つでも依存しないものがないと真の友情は育たない、この六つのうちで、どれか一つ、依存しなくてもやっていける、距離が一番近いものは何だというふうにお考えでしょうか。

志方参考人 国会の議論を聞いておりますと、アメリカ追随ということで政府を非難する議論が多いんですが、こうすれば追随しないで済むということもやはり議論していただきたいなと思っております。

 それで、まず第一でありますが、核については、日本は非核でいくという国民の強い決心がございますので、これはアメリカに依存する以外はない。ロシアや中国の核の傘に入るという選択肢はないように思います。

 それから二番目の、通常戦力でも、弾道弾だとか巡航ミサイルの相当長く飛ぶものとか、航空母艦とか戦略爆撃機とか、こういうものを自衛隊が持つということに私は疑問を持ちますので、これも選択肢にはならぬのではないか。

 それから三番目、やはりこれではないかと。情報のうち、アメリカが不得手とするような情報、こういうものについては日本の方がまさっている。

 それで、日本にCIAのようなものをつくるのかというと、これもなかなか日本の風土には合わない。

 したがいまして、私は、アメリカの情報の一番弱いのは、ユーラシアに関する、東南アジアとか中央アジアとか中国、朝鮮半島、台湾、こういうところに対するヒューミント、人間を介した情報の取得、これがアメリカは非常に弱いのではないかと思うんですね。もう人工衛星とか、そういうものではアメリカの上を行くなんということはちょっと考えられませんので、やはりヒューミントですね。

 しかも、それは、昔流で言うスパイというようなものではなくて、日本の有為な青年が何十人も一つの国に入っていって、そこで、そこの国のためにしっかりと奉仕をしてその国の土になるような、そういう気持ちで入っていく。それは一つの国でいいんです。例えばタジキスタンならタジキスタンでもいいんですが、その国の政界にも日本出身の人がいる、経済界にもいる、軍部にもいる、いろいろなところにいる、学界にもいる、そういうような体制をやって、そこの国のために一生懸命その人たちがしっかり頑張る。しかし、何かあったときに、日本がそういう判断をしなきゃならないときに、その人たちが日本にいろいろアドバイスをしてくれる。こういう体制をつくった方がいい。

 したがって、タジキスタン語ぺらぺらの若い有為な男女を養成して、その国に二、三十人行って、その国の土になってもらうというような、そういう学校をつくったらいいと思うんですね。そして、アメリカに、アメリカが考えているようなことではないよというようなことを日本がアドバイスできるような体制がいいのではないか。

 四番目の、技術的な問題も、これはなかなか、今、アメリカの軍事技術を上回るようなことできません。

 それから、エネルギーの輸送路を海上自衛隊が守るということもほとんど難しいので、やはりアメリカの第七艦隊に対するいろいろな協力体制をとるしかない。

 それから、食糧自給率を、四〇%というのはいかにも一億二千万の人口を抱える国としては少な過ぎるので、せめて、十億の人口を抱えているインド並みに八〇%ぐらいまで上げる。

 これは容易なことではございませんし、そうなると食糧のプライスも上がりますが、その辺はやはり、国民を説得して、少し高くなっても、食糧安全保障とかエネルギー安全保障――エネルギーでも、中東にこれほど依存している国は日本だけでございます。やはりエネルギーの輸入先を分散するとか、そうするとエネルギーのプライスもコストも高くなります。そういうことはやはり国民を説得してやらないと、いつまでもアメリカ依存体質から抜け切ることができない。

 特に、きょうは自民党以外の先生方もいらっしゃるので希望いたしますが、アメリカ一辺倒ということを批判するならば、どうしたらアメリカから少しでも離れることができるかということをしっかりと国民に明示していただきたい。いろいろマニフェストというのも勉強してみましたけれども、なかなか、読んでも、ここ数年で日本の食糧自給率が数%上がるとはとても思えませんので、もう少し現実的な対案を示していただきたいと思います。

河合委員 酒井参考人にお伺いさせていただきます。

 私たちも、自衛隊による人道復興支援というのはイラクの復興の十の過程の中の最初の一ではないかと位置づけておりますけれども、先ほどの酒井参考人の陳述の中で、対テロというのは別の方途ですべきではないかと。確かに、論理的にはこういう考え方は十分成り立つと思いますけれども、具体的にどうすべきであったでしょうか、また、今後どうすべきだとお考えでしょうか。

酒井参考人 私も警察関係、安全保障関係の専門ではございませんので、具体的にどうということを細かく申し上げられるだけの能力はございませんけれども、ただ一つ申し上げられるのは、アルカイダあるいはその他の国際テロ組織がまず具体的にどういう環境の中でどういう形で存在しているのかということに対して、果たして正確に把握していたかどうかという問題があるかと思います。

 先ほど、イラク戦争は対テロ戦争のためには有効な方策ではなかったというふうに申し上げたのは、まさに、フセイン政権のときにはアルカイダはイラクにはほとんどいなかった、少なくともフセイン政権の統治していた部分にはいなかった、逆にフセイン政権が崩壊した後に入り込んでしまったということを考えると、本来なかったところにアルカイダをむしろ持ち込んでしまうというような逆効果を生んでいるということが一つあろうかと思います。その意味では、アルカイダならアルカイダといったようなテロネットワークの正確な把握というものがまず必要であったと思います。

 さらに言えば、もっと遠因から言えば、そうしたアルカイダなどのようなテロ組織が生まれるような土壌は、それぞれ、例えば中東諸国にせよ、中央アジア諸国にせよ、どういうような背景で彼らが生まれてきたのかということのその根絶に力を注ぐべきであったというふうに思います。

 そして、今現在ということを申し上げれば、例えば、先ほど、今のイラク支援とテロへの闘いが違うというふうに申し上げた最大の理由は、それではアメリカは今イラク国内でテロに対する闘いを十分に有効に遂行しているかというと、全くそうではない。むしろ、これはカルバラでの爆破事件で明らかになりましたように、イラク国内でテロ事件が起こるたびに、それの反発として米軍に対する批判が国内から噴出している。すなわち、米軍はイラク国内にいるにもかかわらずちゃんと有効にテロをとめられていないではないか、だとすれば一体何のためにいるんだという議論になっているわけですね。

 例えば、イラク国内であれだけ国外からテロリストが入ってきているというようなことが報道されている割に、では国境警備がどの程度きちっとできているのかということになると、そういうことはほとんどできていない。むしろ、イラク人の側から、業を煮やして、先ほどお配りいたしました資料のほかの記事を見ておりましたらば、まさに、宗教指導者であるシスターニさんが、国境から非合法的な形で入国する者はこれを宗教的に禁ずるというような宗教令をあえて出さなければいけないほどにアメリカの対テロ政策はできていないというのが、実は今のイラク人の認識なわけです。

 ですから、その意味では、イラク国内で今米軍が展開しているような駐留方式、これでは、テロに対する抑止には全くなっていないどころか、逆に、米軍がイラク国内にいることでむしろテロリストたちを引きつけてしまっている、そして、米軍が動くたびにテロリストがそれにくっついて回るというような世界環境自体をやはり変えていく必要があるということ、それこそが一番の対テロ政策の根本ではないかというふうに存じます。

河合委員 テロを引きつけているものに対する対テロ政策が必要だという、まさにこのリアリズムというのは、酒井参考人の貴重な御意見としてお伺いさせていただきます。

 きょうお伺いしました御意見というのは非常に経済的な側面の御意見が中心であったと思いますが、私は、先ほど参考人も触れられました、宗教対立を生んでいるもの、それをまた乗り越えるもの、それは文明間の対話という人類としての大きな課題を私たちは持っておりますけれども、自衛隊の人道復興支援、それから、参考人がおっしゃいました経済的な支援のほかに、例えば文化ですとか教育ですとか環境ですとか、そういった側面の支援もやがてその次のステージとして必要になってくると思いますが、参考人はどのようにこの点についてはお考えでしょうか。

酒井参考人 もちろん、文化、教育、環境等々についての支援というのは、今後、大変重要な支援案件になってくるかと存じます。ただ、そのときに、一体何をどういう形で支援するかというのは大変重要なポイントかと存じます。

 といいますのは、先ほど御指摘のありました文明間の対話、これは大変重要なことでございますけれども、その前提に、ではイラクが文明間で対立しているのか、文明間で衝突しているのかというと、そうではないわけですね。

 つまり、先ほど申し上げましたように、必ずしも、宗派で、シーア派とスンニ派が対立していて今治安が悪いわけではないわけです。治安が悪い原因は、先ほど言いましたように、国外の、亡命イラク人がイラクの国内事情もよくわからない形で行政運営、経済運営を行っている、そうした武家の商法で物事が進んでいるところに対して、実際に物事がわかっている国内のイラク人が自分たちにやらせろというところが今一番の焦点になっているわけでありまして、そういう意味では、必ずしも文明とか文化でぶつかっているわけではないわけですね。ですから、まずそうした部分を解決していくことが重要。

 逆に、先ほどちょっと申し上げましたけれども、アメリカの統治政策が、統治評議会の構成にもわかりますように、どうしても、もともと文化、文明は分かれているものだ、シーア派は何人、スンニ派は何人、クルドは何人というふうに分けておかないとややこしいんだというような前提で物事を動かしておりますから、イラク人にしてみれば、逆に言うと、今、そうやってアメリカがむしろ宗派分断的な政策をとる一方で文化的な和解をしましょうというふうな政策を持ち込んだところで、ある意味ではマッチポンプ的な形になってしまう。ですから、今、一体緊急に何が必要とされるかということは、必ずしも文化的な対立や教育ではない。

 これは繰り返し引用いたしますけれども、先ほどの世論調査でおもしろかったのは、いろいろな分野において、外国なりどういう組織が主導権をとって復興を進めていくかという設問がございました。その中で、確かに今、現時点では、治安維持、外国から攻められてきたときにだれが責任を持ってイラクを守るかという問いに関しては、実は、外国軍、アメリカ軍という回答が多かった。ある意味では日本のようなイメージでございますね。とりあえず今は国防はアメリカにお任せしたいというようなイメージをイラク人は回答しているんですが、その中で、最もここの分野だけはイラク人が独自にきちっとやらなきゃいけないんだという回答を示した項目がある。それは教育でございます。

 ですから、ある意味では、かえって、外国が今の時点で下手に協力の手を差し伸べることが、ここの部分だけはイラク人が自分たちでやりたいと思っているところにさわってしまう可能性がある。そこら辺を留意しつつ、長期的な目的として文化・教育事業にも積極的に関与していくことは必要かと存じます。

河合委員 両参考人から貴重な御意見をちょうだいしましたことを心から感謝申し上げまして、質問を終わります。ありがとうございました。

斉藤委員長 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 先ほどから、志方参考人そして酒井参考人のお話を伺いながら、大変有意義な委員会の参考人審査になっているなということを感じながら、この場に立っております。

 米英がイラクに戦争を開始した三月二十日から、ちょうど一年を経過したところです。アメリカとイギリスは、有志連合をつくって、この戦争を始めました。

 そこで、志方参考人と酒井参考人、お二人に伺います。

 一年たってみて、例えば、スペインで与党の政権が倒れて、そして、米軍の撤退が新しい政権によって主張される。あるいは、南米のホンジュラスのマドゥーロ大統領も、「アメリカがイラク側に主権移譲する六月末を期限とすることで国会の承認を得たのであって、派兵の延長は求めない。」さらに、ポーランドの大統領も、「大量破壊兵器問題で釣られたことは全く不愉快だ。我々は作り話でだまされた。」このように発言をするようになっております。

 一年たって、アメリカの対テロ戦争は逆に国際的には孤立を深めているのではないか、こういう意見を持つわけですが、両参考人は、この一年たってみて、対テロ戦争ということで始めたアメリカのこの戦争、そして、それが有志連合という形で形づくられていったけれども、その中に亀裂が生じている、これらについてどのような御意見をお持ちでしょうか。志方参考人から最初に伺います。

志方参考人 スペインとかホンジュラスとかポーランド、これは今先生が御指摘のとおりだと思います。今、米英以外に三十数カ国ですか、有志連合に入っているわけでありますが、そのうちの幾つかはそういうぐあいに、思っていたことと違うというように考える国が出てきても私は当然だと思います。全部の国がそうなるとも思いません。そういう国があってもおかしくないし、それは、その国で主体的に決めればいいことでございます。

 それからもう一つは、我が国の場合は、米国のイラク戦争、米英がイラクに対して先制攻撃をかける、こういうことに関しては理解をするという立場から、では、そのまま放置するか、お金だけ出しておこうか、そういう選択と、やはり少し危険であってもイラクのために人道復興支援をしようということも進めた方がいいと。

 国連の機能というのは、予防展開というのがまずございます。それから、平和執行、PEOというのがございます。それから、平和回復。そして、できた平和を維持する。そして、新しい国づくりをスタートさせる。

 こういうプロセスでありますけれども、我が国が関与できそうなのが、予防展開、マケドニアに予防展開しましたが、ああいうようなこともちょっと、それが失敗するとそこが戦いになるわけでありまして、なかなか自衛隊が行くのにはなじまない。それから、平和執行、ソマリアでやったような、ああいうことももちろんなじまない。それから、平和回復、ある程度手術が終わって平和回復になったときにやれるかどうかという、今回、そこに踏み込んだんだと思うんですね。それまでは平和維持でありまして、人様がつくった平和を維持するために行くというようなことでやっていたわけですね。

 そういう意味では、少し、今回、日本は、平和回復のところまで、なるべく早くイラク人によるイラク人のためのイラクの政府をつくることを支援する、そのためには早く人道復興支援をした方がいい、そういう意味で入っているのでありますから、何か起こったような場合に我が国がそれを主体的に判断すればいいのであって、どこかの国を見ながらやることはない。それは、日本の国も立派な独立国ですから、自分の考えで決めればいいと思います。先生の御意見のとおりだと思います。

酒井参考人 イラク戦争から一年たったということで、有志連合のさまざまな動きということで御質問でございますけれども、対テロ戦争というふうに位置づけられたイラク戦争がいかに出発点で方向性が違っていたかということについては、先ほどの陳述で申し上げたとおりかと思います。

 そういう意味では、そうした、そもそも大義名分と実際の行動がずれていたではないかということの問題点の指摘というのは、これは今の有志連合の中でのさまざまな国の対応の違いにまさにあらわれてきているかと存じます。

 これは大変大ざっぱな分け方かと思いますけれども、私は、アメリカと共同歩調をとってイラク戦争に加わった、あるいは今有志連合という形で加わっている国々の間でも、大きく分ければ二つあるかと思います。

 それは、まず第一に、これは前提といたしまして、今、ポーランドがああいうことを言っておりますけれども、どこの国も恐らく、大量破壊兵器が本当の理由でイラク戦争が行われたということを信じてアメリカに同調したという国は余りないのではないかというふうに思います。

 いずれにしても、どういう理由であってもアメリカはイラクを攻撃するというような前提があって、その中からどういう自国の国益を追求していくかというところで、少なくともポーランドやあるいはその他の旧東欧諸国などに関しては、アメリカの協力、今後の協力なり、あるいはイラクとのこれまでの旧東欧諸国の関係ということを考えれば、戦後の復興事業における利権等々というようなものを期待して有志連合に加わったというところが多かったのかと思います。

 スペインなどは、戦争直前まで、イラクにおいては、経済制裁下のいわゆるオイル・フォー・フードの計画でかなり大きな商売を行っておりましたから、イラク戦後もそうしたイラク国内で築いた経済関係の地歩というものを生かしていきたいというような国益が恐らくあったんだろうと思います。

 それじゃ、そうした国々はまさに今、その当時に望んだような戦後の復興事業における利権あるいは復興事業によるメリットというものが一年間たってどれだけ得られたかということを考えれば、明らかに、そのコスト、リスクの方が大きい。駐留していることによって払っているリスクの方が圧倒的に多くて、それに見返るだけのイラク国内での事業展開が見られなかったという意味で、若干見直しを考えている国がふえているということなんだろうと思います。

 もう一つの種類は、恐らくイギリスでございまして、イギリスの場合は、アメリカについていった理由は、こうしたポーランドやスペインとはまた別のところに恐らくあると思います。

 それはどういうところかといいますと、アメリカの統治、イラク占領がアメリカ単独でいかせてしまっては大変厄介なことになる、非常にバランスを欠いた統治のやり方になってしまうので占領統治が失敗してしまうだろうということもあって、知恵袋のようなつもりで恐らくブレアさんは合意していったのではないかと思います。

 しかし、そのような形で知恵袋としてアメリカについていくというようなやり方をとった国でも、残念ながら、その知恵袋が十分に生かせているかといえば、それは決してそうではないという現状に至っている。

 いずれの側面においても、戦前に期待していたような自国の役割が今の有志連合の枠の中では十分に果たせないという認識が、イギリスの側にしてもそうですし、ポーランド、スペインの側にしても高まっているのではないかというふうに認識しております。

赤嶺委員 どうもありがとうございました。

 そこの有志連合で亀裂が生じ、そういうもとで米英の占領が続き、そして今、イラクでは、基本法がつくられて、独立に向かっての一つの政治プログラムがスタートしております。

 当委員会等で何度も問題になりましたが、イラク人が完全に主権を回復する前に外国軍隊の駐留がイラクの政府との間で合意された場合に、それは将来にわたってイラクの不安定、現在のような不安定を継続していくものになるんじゃないかという不安を私は抱いております。それは、私が沖縄県の出身で、二十七年間の米軍統治下というものをよく知っているからです。米軍統治の枠内で復興支援なるものがいろいろ行われたにしても、それは、日本人としての誇りを満たすものではなくて、屈辱でしかありませんでした。

 そういう体験を持っているがゆえにこういう質問をするわけですが、今の統治評議会とCPAと国連の枠組みで一つの政治プログラムをつくっていこうというときに、やはり国連が主導権を握る、あるいは国連がもっと中心的な存在として位置する、米英占領当局の権限を国連に移した上でやっていくという国連の枠組みに切りかえて政治プログラムを進めていくという配慮がなければそれは成功しないんじゃないかということを考えますが、イラクの国内事情に大変詳しい酒井参考人にその辺の御意見を伺えたらと思います。

酒井参考人 御指摘のとおり、今の占領下において物事が進められているということに対する国民の不信感、それがまず第一に払拭されなければいけないということがあるかと思います。

 何はともあれ、今の占領を早く終わらせるということが大変重要になってくるわけなんですけれども、先ほど申し上げましたように、では占領が終わった後にどういう体制が立てられるのかということ、どんな体制でもいいから占領が終わればよいというわけではこれは決してないわけであります。

 その意味では、先ほど申し上げましたような統治評議会、国民に必ずしも信頼のない統治評議会の延長線上で暫定政権をつくっていくというような今の路線がそのまま引き継がれていくようでは、これは必ずしも今後の国民の信頼回復ということにはつながらないということになろうかと思います。

 国連の役割ということでございますけれども、確かに、占領を終えるために、占領を終えてその後だれもケアしないというような状態に至るということは最悪でありますから、その意味では、しっかりとした国際社会、国際機構が戦後の体制を支えていくような、そういう必要性があるかと思います。

 しかし、若干懸念すべき点は、必ずしも今の国連というものがイラク人にどれだけ信頼を得ているかというと、これはかなりネガティブなものになってしまうということであります。

 これは、先ほどお配りした数字などをごらんいただいても、今後、イラクの復興にどの国が中心的になってやっていくべきかというような設問のときに、必ずしも国連の数字は大きくない。少なくとも、先ほど申し上げましたように、アメリカ、日本というふうに来た後で、それと並ぶような形で国連というものが期待されているわけではないわけなんです。

 これは、ひとえに、かつて経済制裁の時代に、経済制裁によってイラク人の生活を苦しめてきたというその母体が国連であったという記憶は、やはりなかなかぬぐい去ることができない。それは、言いかえてしまえば、国連といったところで、結局のところは、アメリカの言いなりである、あるいは安保理事国の言いなりであるということで、国連が占領にかわって出てきたところで、アメリカの窓口、要するに代弁者としての国連でしかないんだというようなことになってしまえば、これは逆に、昨年起こったような国連事務所爆破事件のような形で、国連自体がターゲットになってしまうという危険性があるかと思います。

 その意味では、どこを窓口にするかということは重要な問題ではございますけれども、その実態がどう運営されるかということはより大きな問題として取り組むべきだと思います。

赤嶺委員 どうもありがとうございました。

 最後の質問になろうかと思いますけれども、最近のアラブ首長国連邦の有力紙アルバヤンに書かれている記事を読んだのですが、「さらば友好的な日本人よ」という論説を目にすることができました。

 日本がイラクの占領に参加することは、みずからを友好的で平和的な国として演出してきた努力を台なしにするものである。日本がイラクで引き受けた米国の占領の手助けをするという役割のために、祖国の独立を守ろうとするイラク人が日本軍を標的にするのは当たり前であろう。占領に抵抗することは国際法に照らしても合法的な行為なのだ。

 このように、米英の占領について、イラクの人たちの感想、感情の持ち方、これを指摘しているわけですが、ずっと懸念されてきました自衛隊の派兵によるイラクやイスラム、アラブ社会との関係、これについて、最後に酒井参考人の御意見を伺いたいと思います。

酒井参考人 残念ながら、そのドバイの新聞にについて、現物、実際のその記事を拝見しておりませんので、ちょっとコメントが難しいところがございますけれども、確かに、御指摘のように、アラブ諸国の間で日本に対する評価が下がったというふうに考える知識人は少なからずいるというふうに見ております。

 先ほどの陳述でも申し上げましたように、日本がイラク、あるいはアラブ世界全体というふうに申し上げてもよろしいかと思いますけれども、そうしたところから高い期待、高い評価を得てきた背景として、やはりアメリカと違うという点があるかと思います。

 アメリカと違うというのは何が違うかというと、恐らく、ヨーロッパ、欧米ではなくてアジアだ、そういうような側面もあろうかと思いますけれども、それ以上に、まず、中東において植民地経験がないこと、そして、いずれにしても中東に軍を送らないこと、力任せに、力をもってイラク人、アラブ人をあごで使うというような関係ではなくて、対等に、丸腰の関係で民間企業がさまざまな国において国づくりに貢献してきたということが恐らく一番の評価になってきたんだろうと思います。

 そういう意味で、日本が変わってしまったんだというふうに考える国は確かにいるだろうと思います。ただ、それが、先日の報道等にありましたように、ではアルカイダが即座に日本に来て大規模なテロを行うというようなことが実際にあるかどうかということに関しては、必ずしもそこまでターゲットにはなっていないのではないかというふうに思います。

 ただ、ここでやはり気になるのは、先ほど言いましたように、アメリカと違うと言ったときに、軍の派遣の問題もありますけれども、日本の対中東和平問題、パレスチナ問題、対イスラエル関係という点でのアメリカとの違いということがやはりアラブ諸国との間では十分に重要になってくるかと思いますので、その意味では、例えば今回のアハマド・ヤシン、パレスチナ・ハマスの指導者に対する爆殺事件などに対して、ヨーロッパ諸国でかなり強い非難が出されているのに対して、日本が果たしてどこまで、アラブ人の側から見て、アラブの気持ちをわかってくれる日本であるというふうな発言ができているかというと、若干危ないところもあるのかなという気がいたします。

 そういう意味では、軍の派遣ということもさることながら、全体的にアラブ諸国が最も気にしているパレスチナ問題に対して日本がどういう独自のスタンスを立てていくのかというところはやはり重要なポイントになるかと思います。

赤嶺委員 終わります。

斉藤委員長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳でございます。

 私も、赤嶺委員と同様、二十七年間のアメリカによる沖縄統治を経験し、その中で生きてきた者でございます。沖縄におりますと、膨大な米軍基地との関係で、この国の安全保障の問題というか、あるいは安全保障の影の部分というか負の部分というか、そういうことがよく見えてくる場合がございます。一方で、なかなか、私を含めて、中東問題、中東情勢はよく見えてこない、わからない部分もございます。きょうは、両参考人に、大変貴重な御意見を拝聴することができ、感謝を申し上げたいというふうに思っております。

 最初に、酒井参考人にお伺いいたします。

 先ほど他の委員からも御質問がございましたが、イラク人への主権移譲プロセスについて助言をするために近く現地入り予定のブラヒミ国連事務総長特別顧問に対して、イスラム教シーア派の最高権威シスターニ師から、イラク基本法を拒否するように要請をする書簡が届けられた、こういう報道に接しました。

 書簡はまた、報道では、米国が検討を始めたとされる新安保理決議に同法の内容が反映されることへの懸念を表明して、国連側が応じない場合に、ブラヒミ氏が率いる選挙専門家チームというのでしょうか、それとの面会も拒否をするというふうなことのようでございますが、この背景というのでしょうか、シスターニ師の書簡の背景等についてお教えいただければありがたいなと思います。

酒井参考人 先ほども指摘させていただきましたけれども、基本法はシーア派のシスターニ師が反対をしているという現状でございます。これは、シスターニ師が個人で反対しているというわけではなくて、イラク、必ずしもシーア派だけではないかと思いますけれども、主にシーア派の住民の世論動向を反映させたものとして、そういう発言として出てきたというふうに考えた方がよろしいかと思います。

 といいますのは、実は、シスターニ師は、御存じのように、基本法の調印の前後に、同じように、この基本法では問題があるよということでクレームを言っておりますけれども、最終的には合意して、調印はそのままスムーズに行われて、その後、シスターニ師は、後づけで、いろいろ問題があるということを後になって言う。つまり、前もって反対の意を表明するのではなくて、補足意見というような形で後から反対を言うというような形で事をおさめようとしたわけなんです。

 ところが、残念ながら、それで事がおさまらなかった。むしろ、世論の中には、あれじゃけしからぬ、なぜあのまま基本法をいかせたんだというような批判が恐らく強く上がってきてしまったがゆえに、シスターニさんとしても、より一層強く、何とか基本法をとめる方法を模索せざるを得なかったんだろうと思います。

 そういう意味では、まず、基本法で何が問題になったかというところは、先ほどちょっと触れましたけれども、少数民族を中心とした一部のイラク人の中に、一種、拒否権という特権項目が含まれているということでございます。

 これは、具体的にはクルド人ということになるわけですけれども、クルド人が憎くてやっているというわけではない。むしろ、クルド人であろうが、トルコマン人であろうが、あるいはほかのアラブ人であろうが、すべて国民は平等であるべきだという、これもむしろイスラム教的な平等概念にのっとった発想かと思いますけれども、そうした部分から、一部の国民に特権を与えるような条項は除くべきだと。

 そして、先ほど言いましたように、任命によって選ばれた統治評議会、あるいは任命によって今後選ばれるであろう暫定政権が憲法を決めていくというような主体性のない国体づくりということに対してそもそも疑義を呈しているというのがその批判の点かと思います。

 ただ、これが完全に決裂するかどうかというのはまた、今申し上げましたように、シスターニ師自身も、どちらかというと調停的な役割を果たす人でありますし、そもそも彼は全く政治的な野心はない。繰り返しになりますけれども、国民の世論動向を代弁するような形で、あるいはほかに代弁するような場がないので、シスターニさんが代弁せざるを得ないというような状況にありますので、いわゆる交渉相手として彼がむしろ出てくるということになると、かえって宗教が政治に介入してしまうということになるわけです。ですから、余り、逆に、彼が政治的に発言力があるから、彼を政治の場に巻き込んで、彼を黙らせれば物事が解決つくんだというような方向で持っていくことは、大変大きな間違いになる。

 あと、補足で申し上げますと、この中で問題になっているのは、ブラヒミ特使の問題がございます。

 ブラヒミ特使は、もともとアルジェリア出身の方でありますので、そういう意味では、実は、フセイン政権の時代のイラクとアルジェリアの外務大臣として何らかの関係があった方ですから、その意味では、戦後、むしろ、フセイン政権後ということでフセイン政権色を払拭しようとしている今この時期に、かつてフセイン政権との、外交関係とはいえつき合いのあった人物を特使にして送り込むということ自体がイラク人のアレルギーを呼び覚ましているという部分はやはりあるかと思います。人選の問題ということはあるかと思います。

照屋委員 基本法が制定されたときに、シスターニ師が、恒久憲法の制定に向けてむしろ基本法は障害となるだろうというふうな趣旨の声明を公表しておられました。これは、米英と統治評議会が進める国づくりの手法に疑問を呈したのかなと。そして、今度の書簡では、基本法の調印を迫った米国への強い反発があるのかなというふうにも思うわけであります。

 酒井参考人は、多分、新聞での論評だったと思いますが、私が読んだもので、基本法では主権移譲の受け皿となるべき暫定政権の選出方法があいまいなまま残されたというふうな論評をしておられたと思います。この基本法の、私たちが注意をしなければならない問題点、これから関心を持たなければならない問題点というのはどういった点がほかにあるんでしょうか。

酒井参考人 これもまた繰り返しになるかと存じますけれども、基本法で今後一番焦点になってくるところは、今後の暫定政権がどれだけ民意を反映した形で設立されるかということでございます。

 基本法制定前に国内で一番もめていた問題は、やはり直接選挙をやるかやらないかという点でございます。国内のイラク人の多くが直接選挙を望む、それに対して、時期尚早であるという形でアメリカが拒否するということから、結局のところは、暫定政権をどうつくるかというところが白紙のまま基本法が制定されてしまったということになります。

 では、もめた以上は、ある程度、そのもめた解決策として、国内の、そういった国民の意思をある程度反映した形で暫定政権をつくるというような手法がとられればいいんですけれども、残念ながら、今はとにかく主権を移譲することが先だということが先に立ってしまいまして、そうした詰めの部分は全く行われていない。

 むしろ、暫定政権は今の統治評議会に若干プラスアルファということで立ててしまえばよいというような簡便なやり方がとられようとしているというところがございますので、それでは、まさに今、統治評議会が国民から不信感を持たれているというところの、アメリカに任命されただけであるというその不信感をただ延長するような形になってしまうかと思います。

 そうしたところで、これは基本法の中でということではございませんけれども、注目すべき点として、先ほどもちょっと申し上げましたが、実はイラク人の間で、実際に国民の間で自発的に選挙をやっていこうという動きがございます。これはとりわけシーア派の地域でそうした動きがあって、特にサマワの南部のナシリヤというところでは、多くの市町村で、実際に国民がみずから自分たちの市評議会を選ぶというようなやり方をとっております。

 ですから、もう既に草の根レベルで進んでいるようなことをどこまでCPAなりアメリカなりが認めていくかというところを、むしろもうちょっと積極的に認めていくような方向で暫定政権を模索していく必要が出てくるのではないかと思います。

照屋委員 両参考人にお伺いをいたします。

 昨年の五月だったでしょうか、ブッシュ大統領によるイラクの戦争終結宣言、ところが、その戦争終結宣言後に、むしろ、アメリカに対する攻撃がふえておるんですね、六月以降。その原因というのを両参考人はどのように分析しておられるんでしょうか、お教えください。

志方参考人 昨年の五月一日にブッシュ大統領が航空母艦の上で行いましたのは、戦争終結宣言ではなくて、戦闘、主要な戦闘の終結宣言でございました。それは、いわゆる通常、大砲とか戦車を使う、そういう戦闘が終わった、もう相手にはそういうものもないし、ということであって、戦争が終わったという宣言はないわけであります。

 それで、米国の戦力構成からいきますと、そういう主要なものが全部破壊されたフセイン軍は、手持ちのもの全部、機関銃とか小銃とか手りゅう弾とか小さいロケットとか、そういうものを持って、民間の服に着がえて地下に潜ってしまいましたので、こうなりますと、さすがアメリカの正規軍といえども難渋するわけであります。したがって、それ以降、いろいろな攻撃が起こる。これはテロ的な攻撃でありますから、なかなか防ぎようがございません。ですから、それが実態だと思います。

 我が国の場合は、八月十四日までは、特別攻撃隊が沖縄の沖に行っておりましたし、本当に最後まで抵抗したけれども、詔勅の後は一切抵抗せずに占領下に服した。そして、六年間の軍事占領を受けたわけであります。ドイツも十年間占領を受けました。

 そういう意味では、まだイラクは降伏していないわけですね。ですから、戦闘が続く。その戦闘に対してゲリラ的な戦いを挑んでいるわけですから、なかなかこれは米軍としてもできない。

 イラクの面積はほぼ日本と同じぐらいで、そこに約十五万の米英その他がいるわけであります。広さからいくと日本と同じでありまして、今、陸上自衛隊も十五万、日本におりますが、我々国民は陸上自衛隊を見たことがない。鳥を何か袋に詰めているところとか、そういうところは見ますけれども。要するに、日本と同じような国を十五万でもって安全を保つということがいかに難しいかということであります。

 ですから、早く民政移管といいますか、そういうことをやるのが私はいい方向だと思いますけれども、それに伴う苦痛もございますから、すんなりとはなりませんが、そういうものはやはりある程度覚悟した上で民政移管にいくということだと思います。

酒井参考人 戦後、対米攻撃がふえていることの原因ということでございますけれども、これは、一言で言いまして、アメリカの占領政策の失敗ということに尽きます。

 統計的にごらんいただいても、戦後すぐ、一カ月半の間は、アメリカに対する攻撃というのは、非常に少ないというか、ほとんど見られないわけです。しかし、六月の後半以降、徐々に徐々にふえて、秋口からはかなり本格的になってきているということがございます。

 これはいろいろな理由があるかと思いますけれども、アメリカが戦後、占領政策を五月の半ばごろからいろいろな形で着手し始める、とりわけ五月十六日には、イラク国軍やバース党の幹部を公職追放に処するというような、旧政権に対するパージ政策を本格的に始めたのがこの五月の終わりごろになります。ですから、そうした政策が徐々に効果をあちらこちらにあらわしてきた過程で、本来ならば自分がパージされるはずではないと思っていたような人たちまでパージされてしまったことに対する不平不満といったようなものが、こうした治安の悪化につながっているというふうに思っております。

 ただ、では、こういった米軍に対して反発している人々がフセイン政権のいわゆる残党、支持している人たちであるかというと、それは決して正しくはない。例えば、フセイン政権が倒れたことを喜ぶという人たちは、国民の八割から下手をすると九割近くにもなる。あるいは、先ほどの世論調査でいえば、今後のイラクのリーダーはだれがなってほしいかというような設問、自由回答のときに、設問に対してフセインという名前を書いた人も確かにいます。しかし、それはわずか三%近くというような、ごくごく少ない数でしかないわけですね。

 ですから、むしろ、フセインからはもう早く脱却したい、フセイン政権のくびきからは早く離れたいと思っていた人たちが、しかし、次の新しい体制のもとで、アメリカの指導のもとで乗ろうとしたけれども乗せてくれなかった、自分たちは排除されてしまったというような人たちの間でアメリカに対する不満が高まっていることが今回の対米攻撃の激化につながっているというふうに私は理解しております。

照屋委員 最後に、酒井参考人に、イスラエルによるハマスの精神的最高指導者ヤシン師の暗殺が、アラブ社会というか中東社会というか、それに今後どのような影響を及ぼすものというふうにお考えでしょうか、お教えください。

酒井参考人 これは大変大きな悪影響が予想されるというふうに思います。

 ヤシン師をどういうふうにとらえるかということはいろいろ議論はございますけれども、しかし、これは先ほど言いましたサダム・フセインと違って、少なくとも、国内、パレスチナ人の間に大変大きな支持、信頼を得ている人物なわけでありまして、必ずしも、イスラエルが主張するように、テロのゴッドファーザーであるというふうに位置づけることは間違っているわけです。

 そうした人をああいう形で攻撃したということは、これは、アラブ諸国にとってはもともと根強く残っている、イスラエルの正規軍によるテロというような印象を今後ますます強めることになる。既にハマスは、イスラエルに対して全面攻撃というような対応をとっておりますし、それに対してイスラエルの側は、アラファト自治政府議長すらも暗殺するというような態度を表明しているということを考えれば、どう考えても、アラブ諸国としては今のイスラエルの政策に対して徹底的に激しい対決姿勢をとらざるを得ない。

 となってくると、これは当然のことながら、そのイスラエルをバックアップしているアメリカに対する批判、非難というものもアラブ人を中心に高まってくるということになりますから、イラクということでいえば、イラク方面、イラク国内に多く入り込んでいる反米勢力、これがますますふえるという危険性をやはり想定する必要があるかと思います。

照屋委員 終わります。

斉藤委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、両参考人に一言ごあいさつを申し上げます。

 両参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。本委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げる次第でございます。ありがとうございました。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十五分散会


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