衆議院

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第4号 平成16年6月1日(火曜日)

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平成十六年六月一日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席小委員

   小委員長 遠藤 武彦君

      岩永 峯一君    木村  勉君

      中谷  元君    西銘恒三郎君

      宮下 一郎君    渡辺 博道君

      武正 公一君    中野  譲君

      増子 輝彦君    松原  仁君

      渡辺  周君    漆原 良夫君

      丸谷 佳織君    吉井 英勝君

    …………………………………

   外務委員長        米澤  隆君

   参考人

   (慶應義塾大学法学部教授)            小此木政夫君

   参考人

   (特定失踪者問題調査会代表)

   (拓殖大学助教授)    荒木 和博君

   外務委員会専門員     原   聰君

    ―――――――――――――

三月十日

 小委員松原仁君同日委員辞任につき、その補欠として松原仁君が委員長の指名で小委員に選任された。

同月十八日

 小委員中野譲君同日委員辞任につき、その補欠として中野譲君が委員長の指名で小委員に選任された。

同月二十六日

 小委員漆原良夫君同日委員辞任につき、その補欠として漆原良夫君が委員長の指名で小委員に選任された。

四月二十七日

 小委員漆原良夫君同日委員辞任につき、その補欠として漆原良夫君が委員長の指名で小委員に選任された。

五月十二日

 小委員松原仁君同日委員辞任につき、その補欠として松原仁君が委員長の指名で小委員に選任された。

同月二十七日

 小委員赤嶺政賢君同日委員辞任につき、その補欠として吉井英勝君が委員長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員吉井英勝君同日委員辞任につき、その補欠として赤嶺政賢君が委員長の指名で小委員に選任された。

同月二十八日

 小委員赤嶺政賢君同日委員辞任につき、その補欠として赤嶺政賢君が委員長の指名で小委員に選任された。

六月一日

 小委員加藤尚彦君及び赤嶺政賢君同日委員辞任につき、その補欠として渡辺周君及び吉井英勝君が委員長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員漆原良夫君同日小委員辞任につき、その補欠として丸谷佳織君が委員長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員渡辺周君及び吉井英勝君同日委員辞任につき、その補欠として加藤尚彦君及び赤嶺政賢君が委員長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員丸谷佳織君同日小委員辞任につき、その補欠として漆原良夫君が委員長の指名で小委員に選任された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 北朝鮮による拉致及び核開発問題等に関する件


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     ――――◇―――――

遠藤小委員長 これより北朝鮮による拉致及び核開発問題等に関する小委員会を開会いたします。

 北朝鮮による拉致及び核開発問題等に関する件について調査を進めます。

 本件調査のため、本日、参考人として、慶應義塾大学法学部教授小此木政夫さん及び特定失踪者問題調査会代表・拓殖大学助教授荒木和博さん、お二方の御出席をいただいております。

 この際、両参考人に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、お忙しいところ、まげて御出席願いましたことを厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 今さら申し上げるまでもなく、去る二十二日、小泉首相が再訪いたしまして、五人の御家族と一緒に帰国してまいりました。このこと自体については素直に喜びたいと思っております。しかしながら、まだ曽我ひとみさんの御一家等が残っているわけで、今後の解決に向けて期待をいたしているところでございます。

 さらに、平壌宣言は、申し上げるまでもなく、国交正常化、経済協力支援、そして拉致問題解決、さらには核の廃絶という四項目が盛り込まれているわけでありますが、我々は、拉致問題に関する小委員会であると同時に、核に関する問題についても取り組んでいるところでございます。

 とは申せ、特定失踪者十人、さらに二百人を超えるのではないかと思われるような方々がいらっしゃることを思うときに、非常にこの事態を深刻に受けとめておるところでございます。せんじ詰めれば、この国は、日本という国は、たった一人の日本人を救えるかどうかということを問われているのがこの問題ではなかろうか、こう思っているところでございます。

 とはいえ、我々、不明にして、北朝鮮の実情等についてはまことに詳細に知ることはできません。そうした意味で、北朝鮮全般についてきょうはいろいろとお話を承ると同時に、特定失踪者やその他拉致と疑われるような方々の問題につきましてもいろいろとお話を承りたいと存じ、本日お招きしたような次第でございますので、よろしく御指導くださいますようにお願い申し上げ、ごあいさつといたします。ありがとうございました。

 両参考人におかれましては、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようにお願い申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、小此木参考人、荒木参考人の順に、お一方二十分程度御意見を述べていただき、その後、小委員の質疑に対しお答えいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際は小委員長の許可を得ることとなっております。発言は着席のままで結構でございます。

 それでは、小此木参考人にお願いを申し上げます。

小此木参考人 本日は、お招きいただきましてありがとうございます。大変光栄に考えております。

 私、北朝鮮の問題を長らく研究しておりますが、必ずしも拉致問題の専門家ということではございませんで、むしろ、話の重点としては核開発問題の方に比重をかけてお話し申し上げたいと思っております。お隣に荒木さんという大変な専門家がおられますので、後ほど、質疑の過程では、私の意見ももちろん申し述べたいというふうに思っております。

 北朝鮮の問題、何が一番変化したのかと申しますと、この問題がグローバル化したということであります。ユーラシア大陸の東の果てにある小さな半島の北の問題という意味では、大変ローカルな問題に終始していたわけですが、しかし、ある時期から北朝鮮問題というのは大変グローバルな性質を帯びるようになってまいりました。

 その直接的な契機というのは二つございまして、一つは、北朝鮮自身が核とかミサイルとかという大量破壊兵器の開発に着手したということでございます。

 その理由というのは、私は、イラクとは違うというふうに考えておりますが、例えばイラクで行われておりますのは、行われましたのはと言ったらいいでしょうね、イラクで行われましたのは地域的な覇権の確立ということでありまして、サダム・フセインがそれをねらったわけであります。しかし、北朝鮮で行われていますのは、地域覇権の追求ではございません。北朝鮮という国は、幾ら何でも、ロシアや中国や日本に対抗して地域覇権をねらっているということではないんです。そうではなくて、体制の生き残りということに尽きるわけです。

 しかし、どんなローカルな理由に基づくものであれ、核やミサイルを開発するということになりますと、兵器自身が持っている普遍的な性格というのがありますから、問題自身がグローバル化されていくということにならざるを得ないわけです。朝鮮半島から飛び出してくるこういった兵器をどうやって開発させないかという問題が、周辺の国あるいは世界の問題になっていくということでございます。

 いま一つは、これは北朝鮮の問題であるというよりはアメリカの問題ですが、二〇〇一年の九月に、あのニューヨーク、ワシントンの忌まわしいテロ事件がございました。あの事件以後、アメリカ人の世界観がと言うと大げさかもしれませんが、ドクトリンが大幅に変更されたわけでありまして、テロとの闘争というものが主要な課題として登場してまいりました。

 そうなりますと、大量破壊兵器の開発に努めているという意味では、北朝鮮もイラクも同じように見えるわけでありまして、実際に同じであるわけですが、つまり、東アジアの小さな国でやっていることと中東の世界の関心を集めてやっていることとが同じような観点から解釈されるようになったということでございます。イラク、イランと同様に、北朝鮮も悪の枢軸ということになってまいりました。

 もちろん、こういったグローバルな観点からの変化というものはあるわけですが、しかし、にもかかわらず、地域的な、あるいは地政的な制約というものがあることも指摘しておかなければいけないと思います。

 それは、例えば、北朝鮮の場合には、パレスチナ問題があるわけでもありませんし、石油が出てくるわけでもありません。そういう意味では、戦略的な利益というものが見えないわけであります。

 北朝鮮と戦って核問題を力によって解決するということを行おうとすれば、全面戦争に拡大する可能性がある。アメリカ兵の犠牲はどうなるのか、韓国の市民の犠牲はどうなるのか、こういうような問題も出てくるわけであります。あるいはまた、イラク戦争のように、アメリカと一緒に戦ってくれるイギリスのような軍事的なパートナーが極東にいるわけでもございません。ロシアや中国が積極的に賛成するとも思えないということで、なかなか力で解決するということが難しいというのが現在の状況ではないかと思うんです。

 恐らく、去年の今ごろ、湾岸戦争でアメリカが圧勝していたころ、このころが力を背景とした外交を推進するチャンスであったというふうに思いますし、そのときに解決されていれば一番よかったわけでありますが、イラクの占領が混乱し、アメリカの大統領選挙が今後に控えているというような状況では、そういう情勢というものは期待しにくいわけでございます。

 さて、北朝鮮の側でございますが、彼らは極めてローカルです。自分たちのことしか考えていないのであります。ですから、自分たちがやっていることが世界的にどんな影響を及ぼすかとか、どれほどの迷惑を周辺に及ぼしていくかということよりも、体制の生き残りということを専ら考えているわけであります。イラク戦争から幾つかの経験を学び取ったと思いますが、そういったものを整理してみますと、彼らが考えているのは、例えばこういうことです。

 結局、アメリカの地上軍をバグダッドに侵攻させることなしにはフセイン政権を打倒できなかった。しかし、イラクがもし核開発に成功していれば、アメリカはバグダッドに侵攻できなかっただろう。であれば、そのことを朝鮮半島に当てはめて考えていますから、自分たちが核兵器を持って、東京に到達するようなミサイルに搭載することが可能であれば、米軍は平壌に侵攻することができないんだという結論になるわけであります。あるいは、イラクが国際的な査察を受け入れたのは失敗であった、こういうことになるでしょう。そんな観点から、彼らは核に対する執着というのを容易に捨てようとはしておりません。

 リビアのケースはございます。我々は、北朝鮮もカダフィと同じように核兵器を放棄して、国際社会の中に参入してくれることを望んでいるわけですが、なかなか彼らはそうはしようとしていないというのが現状ではないかと思います。

 なぜカダフィと同じようにしないのかということを考えてみますと、恐らく、自分たちが先に核兵器を放棄した場合、カダフィになろうと思ってサダムにされてしまうのではないかということを恐れているんだろうと思います。

 ですから、北朝鮮が提案しているものというのはすべてロードマップ方式で、同時行動という形で、核兵器の完全な廃棄というのは最後に設定されているわけでありまして、あらゆる条件が整って、自分たちの生存が保証されるようになって初めて核兵器を放棄すると言っているわけであります。それさえも、それが現実のものになるかどうかということに関しては、留保しなければならないところがございます。

 いま一つの理由というのは、金正日体制そのものにあるのではないかというふうに思っています。あの体制は、百万の軍隊を擁して本土決戦に備えているわけでありますから、先軍領導体制、そういう体制を維持している以上、簡単にアメリカにひざを屈することはできないのであります。もしそれをやってしまえば、金正日総書記の権威というものが完全に失墜してしまいます。つまり、体制の維持が危うくなるということでありまして、そんな幾つかの理由から彼らは容易にこれを放棄しようとしていないというのが、現在までのところではないでしょうか。

 さて、日本や中国がやってきた外交というのは、これはリージョナル、地域的なイニシアチブの発揮であったというふうに思っております。つまり、アメリカが専らグローバルな視点から北朝鮮問題を見ているのに対して、そして北朝鮮が専らローカルな視点で自分たちのことだけを考えているのに対して、その間で、リージョナルな立場から日本や中国は動いてきたわけであります。小泉総理の最初の北朝鮮訪問も、そういう観点から理解できると思います。

 日本は朝鮮問題に関しまして、ほとんど自主性を発揮できないでおりました。これは冷戦時代、やむを得ないことであったというふうに思うんです。米ソが、あるいは米中が対立していて、南北が対立している状況のもとで、日本が北朝鮮との関係を改善するというようなことは不可能であった。それは韓国との関係の断絶を意味したわけであります。

 したがいまして、日本の北朝鮮外交というものがある程度の行動の自由というものを持ち出したのは、冷戦が終結してからのことであります。つまり、一九九〇年代に入ってからであったというふうに言っていいと思います。

 しかし、その過程で日本は二つ、大きな、悪夢のような経験をしております。

 一つは、クリントン時代の一九九三、四年の例の核危機でございまして、今から考えてみても、あのときにクリントン大統領が思いとどまらなければ、朝鮮半島で軍事的な紛争が発生したかもしれなかったわけでありまして、それが第二次大戦以後最大の軍事的な危機となって日本を襲っただろうというふうに考えることができます。

 しかし、全く別のシナリオもございまして、二〇〇〇年の秋にアメリカのオルブライト国務長官が平壌を訪問いたしました。そして、クリントン大統領の北朝鮮訪問さえ云々されたわけです。これは、アメリカが日本の頭越しに北朝鮮との関係の改善、もちろんミサイル問題の解決というものを模索していたわけではございますが、関係改善を図ったということでございます。もしあのときにクリントン大統領が本当に平壌を訪問していたら、ニクソン大統領の中国訪問以上の衝撃が日本を襲ったかもしれません。

 これは二つとも悪夢でございまして、朝鮮半島で軍事紛争が発生することも、アメリカが日本の頭越しで北朝鮮との関係を改善するということも、日本にとっては決して利益にはなりません。簡単に言ってしまえば、その二つの悪夢の間で日本が振り子のように、北朝鮮に対して強硬な姿勢をとるのか、対話の姿勢をとるのかということで揺れ続けてきたというのが、この十年間の実態ではないかというふうに理解しております。

 しかし、九月十一日のテロ事件以後、イラクに続いて北朝鮮でも紛争が起きるかもしれないというような観測が急速に高まったわけですから、そして、そういう圧力のもとで北朝鮮が日本に対して大変弱い立場に立たされたということでございまして、そのタイミングで小泉総理が平壌を訪問した。ある種の合理性というものを持っていたように思います。

 中国が六カ国協議で果たしている役割というのは御承知のとおりでございますが、私は、要するに、日本がやろうとして途中で挫折したことを中国が引き継いでくれた、別の形で引き継いでくれたんだ、このように思っております。中国の首脳は、日本がやっているようなやり方はできません。六カ国の協議の北京での開催という形でリージョナルなイニシアチブを発揮しているんだというふうに考えてよろしいかと思います。

 さて、現在の状況というのは、決して日本にとって好ましい状況ではございません。先ほど、力による解決の機会というのが失われつつあるというふうに申し上げましたが、こういう状況というのは、イラクの混乱が続く限り、あるいは大統領選挙が終わるまで、そう簡単に変わらないだろうというふうに思うのであります。しかし、その間、北朝鮮の核開発は続行しているわけであります。

 私は、ブッシュ外交に非常に大きな誤りが一つあったというふうに思っておりますが、それは何かといいますと、北朝鮮を厳しく責め立てるのは結構なんですが、寧辺の核施設の稼働を再開させてしまったということであります。

 それはそれとして、凍結した上で責め立ててもらわないことには日本としては大変困るのでありまして、八千本の使用済み燃料棒が再処理され、新たに五、六発の核兵器の開発が可能になりました。五メガワットの原子炉も稼働しております。こういう状況でプルトニウムの蓄積が行われていけば、数年を経ずして北朝鮮は核保有国として登場してくるわけであります。

 アメリカは、もちろんそれを望んでおりません。核物質が海外に移転されることを警戒しておりますが、しかし、我々の立場からいいますと、アメリカも中国もロシアも核大国でございます。核大国と核に縁のない日本とでは立場が違うのでありまして、日本にとって一番悪い状況というのが現在進行している、このように申し上げてよろしいのではないかと思うんです。

 さて、そういった核の手詰まり状況というものを反映して、また拉致問題がその間動かなかったといういら立ちがございまして、今回、小泉総理はそういったものを背景に北朝鮮を訪問した、このように思っております。

 一年八カ月前に戻って原点からやり直そうというのが今回の訪問の趣旨であったというふうに私は理解しておりますが、しかし、そのことに関して、やや過大な期待というものが集まったのも事実でございます。平壌に行って一年八カ月前の原点を確認して、そこから再出発するんだ、それ以上でもそれ以下でもないというふうに、もう少しきちっと説明しておくべきだったというような気がいたします。しかし、説明してみたところで、やはり期待の高まりというのは避けられないのかなという気もいたします。

 この問題に関してはいろいろな評価がございますが、マクロの観点から見た場合に、今動かさなければなかなかチャンスが生まれてこないという見方が一つございましょう。ミクロの観点から申しますと、もう少し成果が欲しかったということになるんだろうと思います。マクロとミクロとやや対立した側面がございまして、そこで国民の評価もなかなか定まらないということになるんだろうと思います。

 しかし、先ほど来申し上げているような核の状況、そして、アメリカの大統領選挙を目指して北朝鮮側が外交戦略というものを組み立てているということから考えますと、このあたりで日朝交渉再開のめどをつけておくということは、大局的に見た場合に大変重要なことだというふうに思います。また、そのことなしには五人の方は帰ってこなかっただろうというふうにも考える次第でございます。

 今後も、核問題と日朝交渉とは連立方程式のように結合していくだろうと思います。一方の答えだけを出すということは不可能でありまして、両方の答えを同時に導き出さなければいけないということだろうと思います。その過程において、拉致問題の完全な解決というものを図るということが重要だろうと思います。

 したがいまして、北朝鮮に対してCVID、完全な、後戻りできない、検証可能な廃棄というものを迫る、と同時に、拉致問題の解決なしには国交正常化はあり得ないという、この二つの連立方程式を日本に有利な形で解いていかなければいけないということだと思うんですね。

 私は、ことしの秋の大統領選挙と前後して、新たな外交的な動きというものが当然始まるというふうに思っております。北朝鮮の態度も今のままであるというふうには考えておりません。そのチャンスというものをいかに利用するか、大統領選挙後につなげていくかということが重要であろうかと思います。

 大統領選挙が終わりますと、ブッシュ候補とケリー候補のどちらが当選するかによって、またゲームの様相に変化が生まれてくるかもしれません。しかし、いずれにしましても、大統領選挙後をにらんで、ことしの秋には大きな外交的な動きというものがあろうかというふうに考えております。ある意味で、それは日本にとってチャンスでもあるというふうに申し上げておきたいと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

遠藤小委員長 ありがとうございました。

 次に、荒木参考人にお願いいたします。

荒木参考人 このような場をお与えいただきまして、ありがとうございます。特定失踪者問題調査会の代表をいたしております荒木でございます。

 今、小此木先生の方から大状況については御説明がありましたので、私は、この拉致問題に特化してお話をさせていただきたいというふうに思います。

 私が現在代表をしております特定失踪者問題調査会と申しますのは、一昨年の小泉総理の訪朝によりまして、曽我ひとみさんという政府が認定していなかった拉致被害者が出てまいりました、それをきっかけといたしまして、当時、私は救う会の事務局長をやっておりましたが、救う会の方に、非常に多数の御家族から、自分のところの子供の失踪も拉致をされたのではないかというようなお問い合わせがありまして、調べているうちに、これはどうも私たち自身が拉致の全体像を見誤っていた可能性があるということで、この失踪者の問題を専門的に取り扱う団体をつくろうということで、昨年の一月十日に発足しました全く純粋な民間団体でございます。

 お手元の資料について簡単に御説明いたしますと、お手元に二つポスターがございます。その一つ、この青いポスターが現在、四月にできております一番新しいポスターです。この中に、百九十八人の失踪者の方が載っかっております。それからもう一つ、黄土色の地のポスターは、これはその前のポスターでございます。

 二つ入れましたのは、実は、一番新しいポスターが、人数が百九十八人になりまして、もうデータが書き込めなくなったもので、失踪の時期ぐらいしか入っていない。その前のポスターは、百八十人のときのポスターですので、簡単ですが、大体失踪の状況が入っております。御参考までに両方を入れさせていただきました。

 現在まで我々のところにございます失踪者のリストというのは、御家族からのお届けがありました約三百五十人を合わせまして四百人ほどになります。そのうち二百人の方について公開をいたしました。

 二百人を公開して、これまで、拉致ではない、日本国内にいるということがわかった方が、公開の方の中で三人でございます。この青いポスターに出ている方でも、お一人、ポスターが出た直後に日本国内にいたことがわかった方がございます。この左側の下から三段目の一番右の方ですが、山本晃之さんという方、この方は拉致と関係なく日本国内にいたということがわかっておりますが、公開した方でこれまでにわかった方は合計三人、非公開の方でお二人。

 ですから、これまで四百人についてやってまいりまして、わずか五人でしかないということに、我々として、正直言いましてかなりの衝撃を受けております。問題が非常に深刻なのではないだろうかというふうに考えている次第でございます。

 この四百人の中で、現在、我々は、二十八人の方につきまして、拉致の疑いが濃いということで五回に分けて発表をいたしました。今のところ二十八人ですが、私がこのポスターをずらっと見て、この人はそうじゃないかなと思うようなものを数えていくだけでも、あと五十人ぐらいはおります。ですから、恐らく相当な数に上るのではないだろうかというふうに考えております。非公開の方にも当然そういう方はおられます。

 そしてまた、私どものところにお問い合わせのない御家族というのは、もちろん相当数おられます。自分の子供が拉致だろうというふうに考えておられても、マスコミに出て騒がれたくないとか、自分のプライバシーを明かしたくないとかいうようなことで、我々のところにお届けがない方がこれは相当数いることが大体想定されます。

 また、現在の政府の認定しております拉致被害者の中で申しますと、原敕晁さんとか久米裕さんのように、身寄りがほとんどない方について拉致をしているケースが相当ある。これは逆に、身寄りのない方をねらってその人たちを拉致するということによって、家族はもちろん名乗り出ることはないわけですから、そういうものを目当てとしてやった方については、もちろん私どものところにも警察にもそういう調査あるいは捜索の依頼は来ないということでございます。

 ですから、私どもは、今、どんなに少なくても百人以上の日本人が拉致をされているというふうに申しておりますが、実数は恐らくそんな生易しいものではないであろうというふうに認識をいたしております。場所は、北海道から沖縄まで、日本海側も太平洋側も内陸も全く関係なく起きております。そういうお届けのない県が一県か二県しかないというような状態でございまして、全国至るところでやられているというふうに認識をいたしております。

 そういうことから考えますと、現在の政府でやっております認定の十件十五人というのは一体どういうことかということになります。結論から申しますと、現在の政府の認定している十件十五人というのは、全くと言っていいほど意味のない認定でございます。十件十五人の中で、これを政府、警察と言っていいんでしょうか、政府の方で調べて、だれも知らないときに、これが北朝鮮による拉致であるということを真っ先に公表した例というのは、実は一件もございません。

 これまでのケースの中で、アベック拉致の三件六人、横田めぐみさんについては、ジャーナリストが調べて明らかにしたものでございます。そして、辛光洙、原敕晁さんの事件、あるいは田口八重子さんの事件は、工作員が捕まって自白したことによってわかりました。ヨーロッパ拉致の三人につきましては、その中のお一人であります石岡亨さんが人づてに札幌の実家に出した手紙によってわかった。曽我さんに至っては、誘拐犯である北朝鮮の方が明らかにしたことによって政府が認定をしたということでございまして、政府の方から積極的に認定をしたケースというのは、今までただの一件もございません。

 現在、いろいろマスコミ等で問題になっている方で、我々が拉致の可能性が高いというふうに言っている方に、松本京子さんとおっしゃいます、昭和五十二年の十月二十一日に鳥取県米子市で失踪した女性がおられます。

 松本京子さんにつきましては、私どもは、この調査会ができる前、救う会の時点から拉致の可能性があるということで調査をいたしてまいりまして、平成十二年の十一月一日に、当時民主党の衆議院議員でございました金子善次郎議員から院に対しまして質問主意書を提出し、そこで聞いていただいております。

 この事件について、「本件について、政府は朝鮮民主主義人民共和国との関連をどう認識しているか。」という質問主意書を提出いたしました。これに対しまして、平成十二年の十二月五日に答弁書がありました。これに、「本事案については、鳥取県警察において、家出人捜索願を受理し、所要の調査を実施したが、北朝鮮に拉致されたと疑わせる状況等はなかったものと承知している。」というふうに書いてございます。

 しかし、一昨年十月末のクアラルンプールで行われました日朝交渉で、政府は、水面下でございますが、この松本京子さんにつきまして、他の政府未認定拉致被害者お二人、田中実さんと小住健蔵さんと合わせまして、三人につきまして北朝鮮側に安否の確認をいたしております。

 また、先般、細田官房長官は、地元のマスコミの取材に答えまして、この松本京子さんの件について、あとの今まだ身元不明の政府認定被害者十人に準ずるような扱いをするというようなことをおっしゃっております。

 このギャップは一体どこにあるのかということを考えますと、結局、拉致と疑わせる事案をかなりの数、警察は持っているにもかかわらず、情報を公開していないということではないかと疑わせるものがあるわけでございます。

 さらに、もう一つ、お手元にお配りいただきました「山本美保さんに関する中間報告」というのがございます。

 これはどういうことかと申しますと、昭和五十九年の六月四日に甲府市で失踪いたしました当時二十歳の山本美保さんという女性に関しまして、私どもは拉致の可能性が高いということで発表しておるわけでございますが、ことしの三月四日に御家族のところに警察から突然電話がございまして、失踪十七日後、昭和五十九年の六月二十一日に山形県遊佐町の海岸に漂着した遺体と双子の妹さんのDNA鑑定が一致をしたという電話が入ってまいりました。翌日、その書類を御家族が見たわけでございます。警察の発表では、この遺体は山本美保さんに間違いがないという発表をいたしておりました。

 その後、我々はこれをいろいろな形で調べましたところ、その中間報告がここに書いてあることでございますが、現在、我々の調査では、この遺体が山本美保さんであるというふうに疑わせるものは警察の発表したDNA鑑定以外には全く存在していないということでございます。

 というのは、遺体のつけていた着衣等々が全く本人のものと異なること、あるいは、失踪して四日後にバッグの見つかった柏崎市の海岸から遊佐町まで、十三日の間に、この間を遺体が流れて着くということはまず九九・九九%考えられない。考えられるとすれば何かの船にひっかけられて引っ張られた場合なんですが、そのような損傷の跡は見られないというようなこと等々がございまして、我々は現在、この警察の発表に疑義を感じて調査を続けているところでございます。

 そのようなこと等々を考えますと、残念ながら、現在、日本政府がこの拉致問題についてどこまで真剣に対応しようとしているのかということに対して、私どもといたしましては疑問を感じざるを得ません。十件十五人というのは、この十件十五人を守るためではなくて、十件十五人で拉致問題を食いとめるためではないだろうかというような疑問すら持っているわけでございます。

 ある外国系のマスコミの方は、日本の警察の方から、数年前の話ですが、四十何人のそういうリストを見せられたということをお話ししておられた方もございましたし、実際、警察の方にお聞きをしても、この十件十五人以外に拉致を疑わせる失踪事件は存在するということをおっしゃっているわけですが、これがそれ以上に、十五人以上に広がらないということは非常に大きな問題でございます。

 というのは、現在、日本では、警察を基礎とした認定によってしか基本的には外交交渉に出さない。先ほど申しました松本京子さんあるいは田中実さん、小住健蔵さんの例というのは極めて特殊なケースでございまして、もちろんこれも表には出していないということですから、そうすると、国民の方が、拉致というのは十件十五人だけではないだろうかというふうな、極めて危険な誤解を生みやすいということでございます。その危険な誤解をもとにして、先般、五人の御家族がお帰りになったから前進だというふうに考えるのは、やはり若干時期尚早ではないだろうか。

 百人以上の日本人が拉致をされていて、現在のところ、それを取り返す手段が、今、日本政府がとっておりますのは外交交渉しかない。そして、その外交交渉でのカードを家族五人を帰すところで切ってしまったということは、我々としては非常に危険であるというふうに思うと同時に、さらに、この問題について、恐らく多数の日本人がやられているということを認識しているにもかかわらずこれを明らかにしていないということは、後から考えれば、これは大変な不作為ということになる可能性があるのではないだろうかなということを私どもは考えております。

 ですから、この十件十五人という枠にとらわれず、相当の数の拉致がされているという前提で、特にこの解決のために御尽力をいただきたいとお願いしたい次第でございます。

 もともとこの拉致の問題は、昭和六十三年の三月に参議院の予算委員会で共産党の橋本敦議員が御質問をされまして、この中で主権侵害の問題も含めて質問をされております。当時の梶山静六国家公安委員長は、これが事実であれば断固とした措置をとるという答弁をされているわけですが、現実にはその後も政府は動いてきておりません。

 逆に、第一次の日朝交渉のときに田口八重子さんの問題が出てきているわけですが、これに対しても十分な対応ができなかった。また、その第一次日朝交渉のときには既にわかっていたはずのほかのアベック拉致等々につきましても一切出していないということでございまして、これは国民の生命財産を守るという立場からいたしますと非常に問題があるのではないだろうかという認識をいたしております。

 そしてまた、もう一つ、この国の機構の中の問題でございますが、先生方おわかりだと思いますけれども、曽我ひとみさんが拉致であることを北朝鮮側が発表したときに、警察であれ、だれであれ、我が国の政府機関の中で、曽我ひとみさんの拉致に二十四年間気がついていなかったということに対しまして、謝罪をした人はただの一人もおりません。これはどういうことかといいますと、この国の国家機関の中に、拉致をされた人がだれであるかということを捜す責任を持った機関が存在していないということでございます。

 私自身も、民間団体とはいえ、救う会の事務局長をやっておりましたわけで、この曽我さんのことについて、佐渡の看護婦さんがいなくなっているという話までは知っておりましたが、それ以上のことをしなかったということは自分自身にも責任を感じておりますが、警察は、当時、新潟県警も曽我さんの事件については拉致とは見ていなかったということでございまして、そういう曽我さんが明らかになったということはやはり重視をしていただかなければいけないであろうというふうに思います。

 曽我さんのときの状況を、このポスターにございます百九十八人の中に例えば入れてみたとしても、我々は決して曽我さんを可能性が高い方の中には入れていないと思います。曽我さん以上にこれは怪しいと思われるケースというのはもっとたくさんございますので、そういう意味からいいますと、この拉致問題全体が一体どれくらい進んでいるのかということは、もちろん我々民間団体がやっても限りがございますので、やはり国としてこれに正しい対応をしていただかなければいけない。

 そして、北朝鮮という国は、これから先も拉致をやる可能性はあるというふうに私は思っております。現在のこの国の海岸の状況等々を見れば、私どもは簡単に侵入することはできると思いますし、また、拉致をやろうと思えば、これは拉致というのを海岸線で袋でも持って待ち構えてやるというふうに考えれば特別なことになるんですが、実際には拉致というのは、自分の意思で行くところから極めてシームレスにつながった犯罪行為でございます。

 一番いいのは、本人が自分の意思で北朝鮮に渡る。これは、よど号の妻たちがまさにこの例でございます。しかし、よど号の妻たちも、彼女たちがずっと向こうにいるというふうには思っていなかったわけで、無理やり結婚させられた。あのときに彼女たちが、自分はそんなつもりじゃなかった、日本に帰ると言って騒ぎ出せば、これも拉致になると思います。

 そこからだんだんに、自分の意思ではないけれども、だまされてどこかに行って、そこから暴力的に連れていかれた、どうしようもない場合は最初から暴力的に連れていくというふうにつながって、拉致が相当の数行われているということでございます。

 言うまでもなく、あの有本恵子さんらヨーロッパの拉致の場合は、北朝鮮に行くところまでは御自分の意思でございました。

 ですから、そういう意味で言いますと、拉致の件数というのは極めて大きいのではないか、そして、それに対して我が国は十分な対応をしてこなかったのではないだろうかということを感じております。

 どうかこの委員会の場でも御理解いただき、国会の中で反映させていただければとお願い申し上げまして、私の発言を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

遠藤小委員長 ありがとうございました。

 これにて両参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

遠藤小委員長 これより両参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。まず、中谷元君。

中谷小委員 両参考人から大変参考になる御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

 まず、北朝鮮の核問題につきまして小此木参考人に伺いますが、きょうのお話によりますと、アメリカの事情で、イラクなどによって力の解決のチャンスがあったけれども、それが今困難になったというお話でありました。

 今後、北朝鮮にどのように臨んでいくのか、日本はどういう態度で接していくのかという点で、どうしたらよろしいかということですが、九〇年代の中盤時代に、私は小此木先生から、北朝鮮がちょうど飢餓が深刻で、経済不況で、まさに北朝鮮を手術、患者を手術すべきか、それとも放置すべきかというお話で、手術を行うことも考えられるというお話を聞いた記憶がございます。その手術を行うにしても、今の体制が続くまま交渉するのか、体制が弱まるのを見て交渉するのか、このような状況も見ながら外交判断をしていくということでございます。

 今回は、拉致問題の解決のために食糧支援とか人道支援を行いましたが、結局、二回目の会談もせずに首脳会談を終えてしまったわけでありまして、何やら北朝鮮の状況を見ていますと、手術を今行うことに対して感謝をしてもらうような状況ではないんじゃないかというふうに思えるところもございますが、北朝鮮のこの現状と今後のアプローチにつきまして、先生の御意見を伺いたいと思っております。

小此木参考人 大変大きな問題を提起していただきました。

 世の中にはなかなかすっきりとした答えができない、出てこない問題というのがございまして、北朝鮮のケースというのもその一つではないかというふうに思うんです。いずれのやり方をとっても欠点があることは明白であります。

 つまり、外部から圧力を加えることによって体制の変更を迫るというやり方、この場合には、コストが非常に大きなものになるだろうというふうに思うんですね。今の体制が維持されることを願っている人はどこにもいないというふうに思います。あの体制は変わるべきである、保存する理由というのは全くございません。

 しかし、どういうふうにしてそれを変えるかということになりますとどうしても意見が割れてくるわけでありまして、力の政策で、外部から圧力を加えてあの体制を崩壊させる、それによって問題を解決する手続というのは大変大きなコストを要するだろうというふうに思います。それは私が説明するまでもないわけですが、あれだけ武装した国が、黙って武器を放棄して、そのまま体制の崩壊を見守るというふうに考えることは難しいだろうというふうに思います。

 現状においては特にそうでありまして、イラクでの戦争のために、アメリカは在韓米軍の一部を転用する計画を進めています。つまり、国内における兵力の逼迫というものがあって、海外に駐留する部隊の中からそういうイラク用の兵力というものを抽出しているわけでありまして、韓国からもそれをやろうとしているわけです。そういうような状況のもとで武力解決が朝鮮半島で可能かということになりますと、これはほとんど実行も不可能だということになってくるだろうというふうに思うわけでありまして、先ほど申し上げたのはそういう趣旨であります。

 したがいまして、我々としては、できる限りあの体制を段階的に内部から崩壊させていくということによって体制移行というものを進めたい、それがコストの削減につながるということではないかと思います。

 私は、軟着陸というような言葉は一度も使ったことはないんですが、ソフトランディング論者だというふうに巷間言われておりまして、ソフトランディングという言葉は非常に誤解の多い言葉です。つまり、体制がそのまま維持されるというふうに考えるわけですね。ロケットを打ち上げられて、おりてくるときには同じ姿でおりてくるわけですから、今の体制がそのまま続くんだというふうに考えるとしたら、そのようなことはあり得ようはずもないわけであります。

 そうではなくて、体制の変更を段階的に行っていくというだけのことでございまして、体制が変更されずにそのまま保存されるべきだというふうに主張したこともございません。恐らく、あの体制の変更ということであれば、そういう体制移行の段階に入りつつあるんだろうというふうに私は見ております。

 例えば、小泉総理が一回目の訪朝をした時期、それに合わせて北朝鮮が行ったことは何であったのかと申しますと、七月一日の経済管理改善措置と言われるもの、つまり開放・改革に向けての動きであったり、新義州に特別行政区をつくろうというような動きであったり、つまり、外の経済力に依存して何とか生き残ろう、その一環として日本にも期待をしてきているわけであります。

 あの小さな国が、外部の世界にさらされて、そしてさまざまな形で情報や物が入ったときに、どれだけ今の体制を維持できるだろうかということを考えますと、それは体制の変更を迫るものになっていくだろうというふうに思うわけであります。

 そもそも北朝鮮の経済は、もはや社会主義経済に戻ることが不可能であります。社会主義経済は破綻してしまったんですよ。産業連関が壊れてしまって、計画経済が維持できない状態に陥っているわけです。今北朝鮮の各地に出現している自由市場が、平壌市内で大体二百カ所というふうに言われておりますが、そういうものは、今後ふえることがあっても減っていくということはないだろうというふうに思います。

 つまり、そのような形での体制の変更の道という方がはるかにコストとしては小さくて済む。しかし、段階的な変更というのは何年かかるんですかという問題は当然出てくるでしょう。そんなに長く待てないというような御指摘も当然あろうかと思います。しかし、今の状況から見て、例えば二十年、三十年、あの体制が維持されるというようなことを考えることはなかなか難しいと思います。つまり、金正日総書記の代が終わるころにはあの体制はやはり非常に大きな変化を迎えざるを得ない、こんなように考えているのであります。そういうような全体的な状況の中で、日本も北朝鮮政策というものを考えていかなければいけないということだと思うんです。

 細かい問題につきましては、後ほどまたお答えさせていただきたいと思います。

中谷小委員 もう一点、六カ国協議の今後の見通しについて、アメリカは、発電も含む全核廃棄、また検証可能な体制ということですが、要はNPTへの加入、それからIAEA、国際機関の査察を受け入れなきゃいけません。北朝鮮はエネルギー政策だと言っていますが、どのようにすればこれは受け入れすることができるのか。今作業部会やっていますが、解決方法がありましたらお教えいただきたいと思います。

遠藤小委員長 参考人に申し上げますが、お一人の持ち時間が十分以内となっていますので、どうぞひとつ御承知おきください。

小此木参考人 北朝鮮が今考えているのは、要するに、クリントン時代の枠組み合意に戻りたいということだろうというふうに思います。あの合意は、御承知のように、核を凍結する代償として軽水炉の建設というものを、日本や韓国あるいはヨーロッパ諸国の責任において、そして、もちろんアメリカがイニシアチブをとってやるということであったわけです。

 そこに戻りたがっているわけでありまして、したがって、彼らは、その過程で、現在起きているような状況、つまり、軽水炉建設がとまったりあるいはエネルギーの支援が中断しているような状態というものを何とかしたいというふうに考えているわけです。

 言い方を変えますと、恐らく、そういうものを代償として核兵器の凍結というところまで再び持っていきたい、さらに、それから先は、軽水炉の建設を再開してください、こういう要求になってくるだろうというふうに思うのでありますが、その種のバーゲンというものが実際に可能かどうかというのが問題の焦点だろうというふうに思います。

 我々は、CVIDというものを完全に実現するのであれば結果的にそういうものが実現するということはあり得るかもしれない、しかし、核兵器を凍結しただけの段階でそういうものを与えることはできないというのが今までの日米韓の立場であったのではないかというふうに理解しております。

 三回目の六カ国協議で大きな進展があるとは思えませんが、しかし、四回目の協議になりますと、これは十月前後になると思いますので、そのころになれば北朝鮮も相当真剣になってくるだろうというふうに思うんです。外交的な交渉によって問題を処理するということになれば、その中間で何らかの妥協をせざるを得ないというような局面もあり得るんだろうと思います。

 ただし、それはCVIDへの道筋というものがはっきり見えたものでなければいけないし、そして、それが途中で中断するのであれば我が方の提供するものも途中で中断するような、そういった仕組みというのが必要になってくるだろうというふうに思うんです。

 しかし、これは外交でありますから、大変ダイナミックな動きというのがきっと秋の段階ではあり得るんではないかというふうに思っております。

遠藤小委員長 これから漆原、増子、吉井、三委員から御質問いただくわけですが、お一人の持ち時間は、原則、行って来いで十分以内となっていますので、両参考人の方もひとつ、念のため申し添えておきますので、よろしくお願い申し上げます。

 次に、漆原良夫委員。

漆原小委員 公明党の漆原でございます。よろしくお願いします。お二人の参考人、きょうはありがとうございました。

 私の方は、まず、荒木参考人にお尋ねしたいと思います。

 民間団体で特定失踪者問題調査会ということで、大変な数の調査をしてこられまして、また、費用も大変だったと思いますね。そういう意味では、民間団体ですから、調査の限界もあったと思うし、また、費用的にも大変御苦労されているんじゃないかと思います。

 先ほどお話があったように、政府は、特定失踪者問題については、十件十五人ということでどうも門戸を閉じているというふうに思うんですね。ただ、金正日が拉致を認めたわけですから、あの時期に、疑わしいものは原則拉致なんだという考え方に立って、全部政府がそれを受け入れて調査する義務があるんだという発想にならないといかぬのじゃないかと私は思っているんですね。

 そういう意味も含めて、本来ならば、政府横断的な、政府の中に特定失踪者問題の調査の対策本部を政府としてつくり上げる、そして、全力を挙げてこの調査に取り組んでいくというふうなことが僕は望ましいんではないかと思うんですが、この辺についてはいかがでしょうか。

    〔小委員長退席、中谷小委員長代理着席〕

荒木参考人 今の漆原先生のお話と私も基本的に同感でございます。

 これはもともと国がやるべきことであるというふうに思いますし、私どももそういうふうな声を随分聞いてまいりましたが、現在のところ、今これを調べるのは、捜査権を持っている警察しか基本的にできません。

 警察の調べ方というのは、皆さんおわかりのように、証拠を積み上げて、そして、最終的には犯人を逮捕して、あとは法廷の場でというふうな形になります。しかし、この事件はすべて、いなくなったときにほとんどの方が北朝鮮と何の関係もない方ですから、家族はもちろん警察も、北朝鮮に拉致されたということを疑わない。疑わない状態で来ておりますので、警察の場合はほとんど、いいところ家出人の捜索願。それで、ごく特殊な、事件性が疑われるケースだけ調査をする。しかし、それも、拉致という観点からではなくて、例えば、会社の金を使い込みしていなかったかとか、家庭内の何か不和がなかったかとか、そういうふうなことで調べますので、この状態で二十年、三十年参りますと、もう証拠に当たるものはほとんどなくなってしまいます。そうすると、警察が幾らやっても、これを拉致だという判断をすることはできない。

 私どもも、実は最初、それに近い形で証拠集めをしようと思ったんですが、やはり限界が参りまして、これは発想を転換して、非常にたくさんの数の方がやられていることは間違いない、そうすると、では、我々のところに来ている方の中で言えばだれが一番それに近いのか、上から逆に見ていく方法をとりました。そうするとかなりのところがわかるというふうに思っておりまして、ですから、これは、現在の警察のアプローチの仕方ではやはり解決には限界があるであろうと。

 可能であれば、委員のおっしゃいましたような対策本部のようなものがあって、それが一種の情報機関のような働きをして、北朝鮮のそういう工作活動が行われているという前提で、だれが拉致をされているかという方向から捜していくような機関ができていただければということを私どもも思っておりますし、何回か政府に対する要請もしております。もしその方向で進んでいただければ、我々としては本当に望ましいところでございます。

漆原小委員 もう一点、荒木さんにお尋ねしたいんですが、今回、十人の安否不明者、そしてまた特定失踪者の再調査ということを北朝鮮は約束したわけですね。それをどう実効性あらしめるかということが非常に問題だ、あの国のことですから非常に問題だというふうに私は思っておりますが、その中で、総理がみずから進んで、制裁措置を行わないという発表を金正日と約束しましたですね。

 私は、本当に経済制裁をやらないということを今の段階で言わない方がよかったのではないかなという、要するに、安心をするわけですね。だから、経済制裁はあり得ますよ、むしろ、この調査をきちっとやらなければあり得ますよということを言うぐらいの気持ちでよかったんじゃないのかなというふうに思っているんですが、その総理の発言も含めて、この十人、それから特定失踪者の皆さんの再調査の実効性の確保について、どんなふうな御見解をお持ちでしょうか。

荒木参考人 この再調査というのは、向こう側に任せる限り、もちろんまともなものが出てくるはずはないです。

 ですから、それをやるためには何が必要かといいますと、日本側でどこまでこれについて調べられるか。それは、単に日本国内でもかなりの形の協力者とかそういうものから調べることは可能だと思いますが、その他の国も通しまして拉致被害者に関する情報を積極的に収集して、そしてそれを統合していく、それを北朝鮮側にぶつけていくという作業をしなければ意味がないのではないか。

 そして、当然、委員がおっしゃいましたように、そのバックボーンとして、制裁を初めとするカードを積極的に使っていくという必要がございます。今回、あの十人の御家族にいたしましても、あるいは特定失踪者の御家族にいたしましても、制裁というカードを放棄してしまったということに対する失望は極めて強いものがございまして、これは我々も同様でございます。

 しかし、抜け道と申しますか、平壌宣言を遵守すればというただし書きがついた上での話でございますので、相手側は今の状態でも事実上破っているに近いということですから、これは、我々といたしましては、その気になればまた制裁ができるということなのであろうというふうに理解をいたしております。それはぜひカードとして今後も保持してもらいたいというふうに思っております。

 以上でございます。

    〔中谷小委員長代理退席、小委員長着席〕

漆原小委員 最後に、小此木参考人にお尋ねしたいんですが、先ほど、あの国は自分の体制の生き残りしか考えていない国なんだというふうにおっしゃっていましたが、そのとおりだと私も思います。その国に対して、今回、人道支援という格好で二十五万トンの食糧と一千万ドルの医薬品の提供をしたわけですね。

 私どもは、日本の政府は人道支援という名前を使っていますが、あの国は、人道支援という名前ではなくて、むしろ政治支援なんでしょうね。決して人道支援というふうに多分思っていないと思いますが、今回、政府が人道支援名目で二十五万トンの食糧、それから一千万ドルの医薬品の支援をしたことについて、御意見をお尋ねしたいと思います。

小此木参考人 北朝鮮政策において、人道支援というものがきちっと行われてきたことは過去にほとんどなかったというふうに私は理解しております。

 つまり、それは人道というものの概念にかかわる問題でありまして、そもそも政治的な見返りを求めないというのが人道なんです。政治と切り離すところに人道の意味があるわけですから。したがって、相手が独裁政権であるから、あるいは非人道的な政権であるからこちらは人道支援をしないという論理は、概念的には成り立たないんです。独裁政権であればあるほど国民は困っているだろう、だから人道的な支援をしなければいけないというのが人道支援の本質だろうというふうに思うんです。

 しかし、過去において日本がやってきたことというのは、そういう意味では、やるべきときにはやらず、やらなくてもいいときには大量にやるというような、何か、やや、ちょっとバランスを欠いたようなやり方であったんではないかと思うんですね。これは、いずれも政治的な配慮が働いたからだろうと思うんです。ですから、一年間に五十万トンも六十万トンも提供してみたり、幾ら困っている人がいても全くやらなかったりというようなことになったわけでありまして、それを正すという意味であれば、私は結構なことだというふうに思っているんです。

 二十五万トンという量というのは相当大きなものだというふうに思いますが、通常であれば、人道支援の量というのは多分十万トンとか二十万トンとかというようなものであろうかと思うんです。今回、そのあたり、若干の政治配慮が再び働いたのかなという気はしております。しかし、これを機会に、北朝鮮に対しても、余り政治とは関係ない形での人道支援という本来の形に戻していくべきではないかというふうに思っております。

漆原小委員 ありがとうございました。

遠藤小委員長 次に、増子輝彦委員。

増子小委員 民主党の増子輝彦でございます。きょうは、お二人の参考人の方に心から御礼を申し上げたいと思います。

 まず、荒木参考人にお聞きをいたしたいと思います。

 今回の小泉再訪朝の結果、五人の方は帰ってこられたということで、私も、一定の成果はあったというふうに評価はいたしております。しかし、今回の訪朝の最大の目的は、この五人プラス曽我さんの御家族の帰国よりも、むしろ、横田めぐみさん初め十人の安否不明者の方々を具体的にどういう形で、北朝鮮からきちっとした形で安否についての確認をするかということ、加えて、荒木参考人が大変心血を注いでまいりました特定失踪者についても何らかの形の金正日総書記からの言質をとることが、実は訪朝の最大の目的であるべきはずであったろうというふうに私は思っているわけです。

 荒木参考人も何かで書いておられたような気がいたしておりますが、最初から小泉総理は、この十人の皆さんの安否とか特定失踪者のことは頭になかった、あくまでも八人、できれば八人、日本に連れ帰ってくればそれでよかったというように、私も実は心配をいたしておったわけでありますが、結果的にはそういうふうになりました。

 この辺の見解について、荒木参考人の御見解をお伺いいたしたいと思います。

荒木参考人 今委員おっしゃられたとおりでございまして、この問題は、五人の家族八人の帰国最優先ということでやってまいりましたが、確かに優先事項ではあったかもしれませんが、最重要事項ではなかった。拉致問題の最重要事項というのは、すべての拉致被害者を救出することが最重要事項でありまして、家族の問題というのはそれに附帯して出てくる問題でございました。それでも、引き離されていた蓮池さん、地村さんの御家族が帰ってくることができたということはもちろん評価すべきことであるとは思うんです。

 しかし、問題が例えば十五人だけの問題であれば、そこで、そこまでできたんだから、では、あとの十人はこれからということは言えるのですけれども、実際には、その十人についても全く消息がなく、それ以外の人については手がかりすら全くないというような状態でございまして、ということは、あと百人以上の方は、ある意味でいうと、今回の訪朝によって全く無視をされたというふうに言えないこともございません。

 しかも、実際の被害者そして御家族の中には高齢の方が大変おられまして、私がこの調査会で調査を始めてからも、直接お会いした方で、お二人亡くなられております。それ以外にも、御家族で亡くなられている方、現在病床に伏しておられる方というのは何人もおられまして、そういう意味では、極めて時間的な制約がある問題です。本当に一刻一秒を争うような問題でございまして、それについて、今回のやり方をもし続けていけば恐らく大部分の拉致被害者は亡くなってしまうであろう、あるいはその御両親も恐らくほとんどこの世を去ってしまうであろうというふうに思っております。

 そういう意味でも、今回の訪朝の結果に対しまして、私としては大変重大な疑義を持っているということでございます。

増子小委員 と同時に、小泉総理は大変罪な方だなと私は実は思っているんです。なぜならば、今回五人の方がお帰りになったこと、先ほど申し上げたとおり、大変よかったんですね。もちろん、曽我さんについては、これからどこかでジェンキンスさん初め御家族の方とお会いになって、その帰国のためのことをいろいろお話をされていくんでしょう。それはそれでよろしいと思うんです。

 しかし、もっと大変なことは、横田さん御夫妻初め多くの家族会の皆さんが、今回の小泉訪朝について、二十数年、場合によっては三十年以上も我が子、肉親が失われているということの中で大変な御苦労をされている方々が、率直な気持ちを総理にぶつけたことによって大きなバッシングを受けておられるということ、非常にこれはつらい思いをされているし、私たちも大変困ったことだなと。

 本来であれば、拉致の問題解決というのは、こういう方々をどうやって救って国家の主権を回復するかということ、まさに国民の安全と生命財産を国が守るということが最大の国家の責任だと私は思っているんです。この御家族へのバッシング等について、ある意味では意図的にやられているような風潮も出ているようなところがあるんですが、ぜひこの家族会の皆さんに対して、我々は守ってあげなければいけない、支援をしなければいけないというふうに思っているんですが、この件について、荒木参考人のお考えを端的にお願いいたします。

荒木参考人 簡潔に申します。

 今回のことにつきましては、やはり拉致の全体像というのを政府が知らせてこなかったことにあるのではないか。十件十五人だけであるということであれば、五人が帰って、その家族も帰ってきたわけですから、あともう少しそれを続けていれば問題は解決する、それなのに、家族五人が帰ってきたという成果があるのに、それに対して厳しいことを言うのは何だろうかということになるんだと思います。

 しかし、実際には、それ以外の方はもう既に数十年の間待たされているわけでございまして、そしてまた、問題ははるかに大きな問題であるということについてやはりしっかりとした説明を国の方でする、もちろん国会でもぜひお願いしたいと思いますが、そういうことをしていかなかったことによる誤解が今回のバッシングを生んだのではないだろうかというふうに思っております。

 私ども横から見ている人間からすれば、御家族があれだけお怒りになるのは当然だと思いますし、私も、あのとき全く同じことを申しておったと思います。

 以上です。

増子小委員 我々は、真剣に家族会の皆さんを支えていかなきゃいけない責任があると思うのです。

 このような日本の国内状況は北朝鮮に当然もう伝わっているのですね。まさに北朝鮮の思うつぼだと思います。国内が二分されている、日本はこういう国内事情だぞ、やり方によってはもっともっと、米でも、いろいろなものを引き出すことができるぞということがあると思います。そういう意味では、我々はしっかりここをしていかなきゃいけないと思っております。

 小此木参考人にちょっとお伺いをいたしたいと思います。

 今回の小泉再訪朝につきましては、二元外交の成果ではないかというようなことも言われている部分がございます。それは、山崎自民党前副総裁が行かれていろいろと下交渉をした結果、それに基づいて今回のこの訪朝というものの結果が出たというふうにも一部で報道もされております。外務省は、二元外交ではない、あくまでも一元というような話をされておりますが、私は、今回はまさに二元外交的な結果ではないのかと思っているわけです。

 今後の北朝鮮との交渉の中で、拉致問題だけではなくて、核開発、ミサイル等の問題も含めまして、日本の外交というものが、このような形の中で外交を進めていくことが果たして国益にかなうのかどうか。むしろ、正攻法で堂々と日本が外交を進めていくことがより重要だと思っておりますが、二元外交とも言われる今回の小泉訪朝についての御見解をお伺いいたしたいと思います。

小此木参考人 私も二元外交というような言葉を使って当初見ていたのでありますが、というのは平沢議員ですとか山崎議員が北朝鮮を訪問されたときのことでございますが、しかし、結果的に見ますと、これは二元外交ではなかった、非公式チャンネルを使ったということなんです。外交は一元的なんですね。ですから、どうも二元外交という表現は間違いであるというふうに思いまして、最近は使っておりません。

 ただ、そういう形で非公式チャンネルを総理が使われることの是非とかいうことになってきますと、いろいろ御意見があろうかとは思います。

 ああいう形でやったことは正常でないことは事実でありますが、しかし、考えてみますと、相手はああいう体制の国であって、しかも、金正日総書記が一人ですべてを掌握しているような国ですから、首脳外交というやり方がどうしても選択されることになりがちだろうと思うんですね。あるいは、拉致という問題自体が非常に特異な問題でありますから、こういった問題の解決というのが通常の外務当局間の外交によって本当に可能だろうかというような指摘も出てくるだろうと思います。

 ですから、今回の外交につきましては、やむを得ない面もあったというふうに私は理解しております。通常の場合であれば、御指摘のとおり、二元的なものですとか非公式なものというのは余り望ましいものではないだろうと思います。

 あるいは、今回の外交はやや急ぎ過ぎであったのではないかというような批判もメディア等にはございます。国内の政局と絡めていたのじゃないかというような指摘さえ出ているわけですが、そういったものというのはやはりやや慎重にやらなければいけないことではないかと思います。そういう批判を浴びないような外交をやってほしいという気持ちは私も持っております。

増子小委員 ありがとうございました。

遠藤小委員長 次に、吉井英勝委員。

吉井小委員 日本共産党の吉井英勝でございます。

 私は、今回の小泉総理の訪朝問題につきましては、日朝平壌宣言を日朝関係の基礎として再確認したということ、それから、拉致問題、核問題の一定の合意を見て、国交正常化への前進の方向が確認されたということは非常に大事なことだと考えております。

 そういう上に立って、小此木参考人がきょうもお話しいただきましたけれども、日朝交渉と六カ国協議、この連立方程式の話ですが、連立方程式の解を出すというのはなかなか大変なことだと思うのですが、まず最初に、核の面から。

 かつて、米ソ対決の時代はお互いに核軍拡を進めて、結果的に地球を何回も何十回も破壊し尽くすぐらいの核ができてしまったというところから核廃絶へという流れが一度できてきて、軍縮もありましたが、最近この流れが弱くなってくる中で、日本にとって、まず、北朝鮮の核開発、この核の問題を解決すること、同時に、六カ国協議で解決するということと、そして世界の核兵器廃絶の流れを改めて大きくしていくということ、これが、日本にとっても極東アジアにとっても世界全体にとっても、平和と安定にとって非常に大事な課題になるというふうに考えるのですが、そういう角度から、お話しいただいた連立方程式、今後、その解を見出すためにどう進めていくことが大事なのかという、ここのところを最初に伺いたいと思うのです。

小此木参考人 我々、外交の分野に原理主義的な考え方を持ち込むのは大変危険だというふうに考えております。

 原理主義というのはいろいろな原理主義がありまして、民主主義国家にも原理主義があります。そもそも犯罪行為を犯しているのは北朝鮮なのである、あるいは核を開発しているのは北朝鮮なんだ、悪いのは先方であることは歴然としているじゃないか、それに対して代償を与えるとは何事かというような種類の議論というのは大変わかりやすい。民主主義国家であれば当然守られるべきルールでありますから自明のことなんですが、しかし、相手の国というものがございまして、相手の国が民主主義国家でない場合、大変厄介な話になってくるわけですね。イスラムの国家でどれだけ手をやいているかということを考えますと、北朝鮮というのも、別の形での原理主義国家というふうに考えた方がいいと思います。

 彼らは彼らなりの理屈というのがありまして、彼らの理屈からいえば、日本はそもそも戦前の植民地支配の清算をしていないじゃないか、だから我々は敵対関係にあるんだ、核の問題も拉致問題も解決したかったら、まず過去の問題を解決するのが順番じゃないか、こういう種類の発想というのを常に持っております。そういう国を相手にしているんだということを念頭に置かなければいけないと思うのです。ですから、一般論として、核は世界的に廃絶されるべきだとか犯罪行為は取り締まられるべきだということを幾ら言っても、それは通用する相手ではないということなんですね。

 したがいまして、あめとむちとか、あるいは圧力と対話とかというような言葉が使われるわけですが、こちらの側も相当に覚悟して、駆け引きもやらなければいけないということだろうと思うのです。特定船舶の問題も法案が出ているようでございますが、そういった圧力というものは当然かけていかなければ、外交的な成果というものも上がらないだろうと思うんです。

 しかし、外交というのは、タイミングがございますし、相手のあることですし、また一緒にやってくれる国々もあることでありますから、タイミング的に申しますと、私は、やはりことしの秋以降にならないと山場は出てこないだろうというふうに思っております。できるだけ多くのニンジンをぶら下げて、しかし同時に、後ろからはむちを振ることもあり得る、そういう体制を秋に向けてつくっていかなければいけないということだと思うんですね。結局、日朝交渉を再開させるということの意味合いというのはそのあたりにあるというふうに私は思っております。

 日朝交渉が再開されれば、当然、国交正常化に伴う経済協力の問題が議論されるわけですし、そうなりますと、北朝鮮側に、あなたたちはどのプロジェクトを優先しているのか、まず発電所が欲しいのか、あるいは道路を整備したいのか、鉄道の近代化をやるのか、プロジェクトを出してくださいというようなことで議論が始まっていくわけでして、そうなりますと、そういう議論が始まっていきますと、ようやくニンジンの大きさというのに気がついてくるわけでありますから、やはりニンジンをぶら下げることの重要さというのがあって初めて、核の問題においてもある程度の譲歩をしようという気がしてくるんだろうというふうに思うんです。

 御質問に対して明快な答えができなくて申しわけないのでございますが、アメリカが行おうとしている圧力、日本も場合によってはそれに参加するんだという決意を示しながら、同時にニンジンをぶら下げてやっていかなければいけない、しかも、その山場が秋口に来ているのではないかという気がしております。

吉井小委員 私も今、核兵器廃絶のことは念頭に置いて、世界の大きな流れをつくる中でのローカルに今起こっている問題として、連立方程式についてお聞きしたわけです。

 あわせまして、その連立方程式で、ラングーン事件だとか大韓航空機爆破事件だとかの国際的無法行為、それの清算の問題と、そして日朝間にあります拉致事件の問題あるいは日本漁船銃撃事件だとかの無法行為、これを、やはり国際社会に北朝鮮自身が復帰する条件をつくる、北朝鮮自身がそれをやることが北朝鮮にとっても自国の平和と安定につながっていくんだと。

 核兵器に頼るだとか力に頼っていたのでは、それはその国自身の、体制をどうするかというのはその国の国民の皆さんが決めることですが、少なくとも、体制がどうあれ、平和と安定にとってはそれは保障されないんだということが、やはりそれが進んでいかないことには、そちらの面でも、やはり日朝交渉と六カ国協議を初めとする国際的な取り組みの連立方程式をどう解いていくかということが非常に大事になっているんじゃないかと思うんですが、この点についてのお考えも伺いたいと思います。

小此木参考人 平壌宣言に関しては、その内容に関していろいろ批判もあるんですが、私は、なかなかよくできた外交文書だというふうに思っております。ただいま御指摘されたようなことは、すべてあの宣言の中でどこかに触れられているわけですね。

 あの宣言を遵守させるということ、これが重要なわけでありますから、十名の方の安否の問題を含めて、領海侵犯の問題その他、そのような不法行為、すべてやめてもらわなければいけないわけですし、そういった問題と南北間のテロ行為等を同じ次元で扱うのがいいのかどうかは若干疑問はございますが、我々としては、一つ一つ詰めていくということが重要ではないかと思うんですね。それが詰められていったとき、彼らもルールを守るような体制ができたということになるわけですから、初めて国際社会の中に参入することが可能になってくるということだろうと思います。

吉井小委員 時間が参りました。ありがとうございました。

遠藤小委員長 これより自由質疑を行います。

 この際、小委員各位に申し上げます。

 質疑につきましては、幹事会の協議に基づき、原則として、一回の発言につき質問は参考人お一人に対し一問のみとし、簡潔に御発言いただきますよう御協力をお願いいたします。また、御発言は、小委員長の指名に基づいて、あらかじめ所属会派及び氏名をお述べいただいてからお願いいたします。

 発言を希望される場合は、お手元にあるネームプレートをお立ていただき、発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。

 なお、発言は着席のままで結構です。

 それでは、発言を希望される方は、ネームプレートをお立てください。

松原小委員 民主党の松原仁であります。

 荒木さんにお伺いしたいわけであります。

 この特定失踪者の表を見ますと、西暦二〇〇〇年以降も、特定失踪者で、荒木さんがこれは北朝鮮に拉致された可能性が高いという人間がたくさんいるわけでありますが、これは現実に、どういう背景で、何を目的として行われているのか。

 実際、この拉致問題がこれだけクローズアップされてきて、もはや北朝鮮はこういったことをしないというふうなことを金正日自体が言っているわけでありますが、現在進行形なのかどうか、この辺をお伺いいたしたいと思います。

荒木参考人 このポスターにございますのは、我々、ゼロ番台リストと通称しておりますが、拉致の可能性が完全には排除できないというリストでございまして、この中の二十八人が、拉致の可能性が高いという通称千番台リストというものでございます。

 その中には、西暦二〇〇〇年以降の方は今の時点ではまだ入っておりません。今の時点で、一番新しい方で千番台リストに入れてあるのは一九九一年の方でございます。ただし、今やっていないという証拠は何もない。それから、これからやらないということも全く言えません。それで、一九九一年以降の失踪事件でも、それ以前の拉致を疑わせる事件と同様の消え方をしているケースというのはやはりまだ何件かございます。

 基本的には、日本の中の状況はそれ以前と変わっておりませんし、確認をしたわけではありませんが、ある雑誌に出た亡命者の情報では、西暦二〇〇〇年の南北首脳会談の後に北朝鮮は拉致をやめたというような表現がございまして、これであれば、その直前まではやっていたということになります。また、それを逆に考えますと、再開しようと思えばいつでも再開できるわけでございまして、拉致自体は現在進行形であり、また今後も行われるということは可能性としては十分に存在する。逆に言うと、北朝鮮が拉致をやめた理由自体が存在しないというふうに思っております。

木村(勉)小委員 自民党の木村勉でございます。

 小此木参考人にお尋ねしたいと思います。

 北朝鮮と日本との交渉や六カ国協議が長引くことは、北朝鮮と日本にとって、どっちがプラスでマイナスなのか。

 私が心配するのは、今のこの核開発とミサイルのテポドンやノドンが合体して核の弾道ミサイルに結びついたら、真の脅威が日本に襲ってくると思っておりますので、余り時間がないな、できるだけ、もっとむち、むちで圧力をかけるということを私は考えているんですけれども、いや、そこまで行くにはあの国の技術力からしてまだ時間があるからそんなに心配しなくてもいいと言えるのか。核とミサイルの一体化というものに対する時間的な見方、どう判断されているのか、お聞かせください。

小此木参考人 どちらに有利かというのはなかなか判断が難しいのでありますが、決して北朝鮮に一方的に不利なことはないというふうに思っております。

 彼らは、強がりも半分あるんでしょうが、交渉が成立しない限りは核開発を継続し続けるだろうというふうに思うんですね。そうなりますと、今の段階がどこまで来ているかということが重要なわけですが、ただ単にプルトニウムが蓄積されているだけだとは考えにくいわけでありまして、ただいま、ミサイルに搭載可能な形で軽量化することに彼らは必死で努力している最中だろうというふうに思います。

 ですから、そのためにどのぐらいの時間がかかるかというのはわかりませんが、例えば数年、二、三年というふうに考えますと、あの体制が二、三年のうちに崩壊するということは考えにくいわけでありますから、今のような手詰まりの状態が続いていくということになれば、やがて核保有国が出現することになる、こういうことでございます。

 木村先生が御指摘のような懸念というのを私も非常に強く感じております。

武正小委員 民主党の武正公一でございます。

 オレンジ色のこのポスターで、上から六段目、右から三番目の藤田進さんは、私の高校の四つ先輩に当たります。この襟元にあるバッジはスポーツ関係で賞をとるともらえるバッジでありますし、右側には校章があるわけであります。田口八重子さんの実家の川口で、周辺に住んでおられる藤田さんほか五名の方がやはり失踪者であるということも、四月四日、大宮で、日本再生フォーラムの場で家族の方からお話を伺った次第でございます。

 私は、この小委員会に横田滋さんが来られたときにお伺いをしたお話、すなわち、昨年の夏に家族会は政府と約束をしたと。すなわち、五名の家族の方が帰ってこられたら国交正常化交渉に入って、その交渉の中で十名の生存の安否を確認するんだ、こういったことを昨年夏に合意して、今日も政府を信頼してこられておると。

 過日、横田滋さんの首相との二十二日の発言、最悪の結果というのは、あの温厚な横田さんをして大変なああいった発言をする、その背景には大変重いものがあるというふうに私は拝見をいたしました。

 それは、この小委員会のときにも、横田さん、昨年夏の政府との約束はそのとおりなんですかということに対して、そうなんです、ただ、それは政府を信頼するということがやはり前提なんだ、そういったことを言っておられました。

 私は、そういう意味では、やはり今回の総理訪朝は、そうした家族会の政府に対する、交渉をゆだねてきた、任せてきた、信頼をしてきた、それがやはり破られたというような、そういう思いがあの家族会と首相との発言にいみじくもあらわれたというふうに考えております。

 そうしたとき、今政府からは、五名の御家族が帰ってこられた、そしてまた、ジェンキンスさん、曽我さん、第三国で面会をすることも約束を取りつけた、いよいよ国交正常化交渉に入るんだというような政府の発言があるんですが、私はやはり、十名の生存の安否も確認できないまま、こうしてずるずると北朝鮮主導の交渉に入っていって本当にいいんだろうかという疑問をかねてより持っております。この点も外務大臣にもただしたことがございます。

 こうした私の考えについて、このまま国交正常化交渉に本当に入っていいんだろうかということについて、荒木参考人はどのようにお考えになりますでしょうか。

荒木参考人 やはり委員がおっしゃいます懸念は私どもも同様でございまして、御家族は、特にこの間の訪朝のときに、あるいは全く情報がもたらされなくても、せめて制裁とか援助などに関するカードを総理が放しておかなければ、まだ一定の御理解はされたと思います。

 この間、長い間苦しんでこられて、特にこの七年間、家族会で活動されてこられて、北朝鮮という国がいかに大変な国かということはもう御家族は身にしみてわかっておりますので、そう簡単に解決するものではないということは十分に御承知の上です。もちろん、二十何年にわたって苦しんでおられていますから、一刻も早く片づけてもらいたいということはありますが、しかし、やはり難しいということについてはもう理解をしておられる。

 その御家族がああやって怒りをあらわにしたのは、このことだけでともかくカードをみんな切ってしまったのではないか。そもそも総理が訪朝されるということ自体が極めて国家として重要なカードであったにもかかわらず、そのカードをいとも簡単に切ってしまって、その先の方々の問題につなげることができなくなるのではないか。そしてまた、かつて米支援等々を行ったときに、やはり家族の方々がこの拉致問題を前に出してもらいたいということを実際には聞き入れてもらえずに米支援等が行われてきたということがございますから、今回もそこにまた逆戻りしてしまうのではないだろうかという懸念が御家族の中に非常に強かったということは言えると思います。

 そしてまた、かすかな期待として、やはり何かしらの情報は出てくるのではないかと。ただ、御家族も恐らく、情報が出てきたとしても、また北朝鮮側の情報ですからかなりいいかげんな情報であるだろう、しかし、それであっても、その情報をもとにしてまたこちら側から突っ込んでいくことができるのではないかという本当に一縷の望みを持っておられたわけですが、それが残念ながら実現しなかったということでございます。

 この状態でさらに国交正常化交渉がどんどん進んでいくということになれば、ますますこれに対する御家族の不信感、そしてそれは当然、国民全体の不信感へとつながってまいると思いますので、今後のことにつきましては、極めて慎重な対応をしていただきたいというふうに切に願っております。

渡辺(周)小委員 民主党の渡辺でございます。

 荒木参考人にお伺いいたします。

 先ほど来出ております、この交渉がこのまま再開されるようなことになってはならない。その中で、こういう言い方はちょっと誤解を、気をつけて言いたいと思いますが、今回五人の、蓮池さんと地村さんの子供さんたちが帰ってこられた、そのことによって、蓮池さん、地村さんたちが北朝鮮でのことを、少しずつですけれども、お話を始められました。

 これまでもちろん、子供が帰ってこられなかったということで、言うに言えないことがあっただろう。これから恐らくかなり慎重な発言をされると思うんですけれども、この方々が、目撃情報、あるいは北朝鮮の中で拉致されているときにどういうことをしていたのかということが、例えば子供さんたちが帰ってきたことによって、もちろん何かしゃべることによって残されている方々、例えば曽我ひとみさんとジェンキンスさんたちが再会できなくなるかもしれない、あるいは生存している方々が何らかの形でまた北朝鮮の国内で隔離をされたり、あるいは存在を否定するようなことを何かするかもしれぬ、そのことを考えればなかなか思うような発言ができない。

 その中で、今回の家族の帰国によって、この方々が少しずつでも、例えば公表しないまでも何らかの形で情報を伝えない限りは、これから交渉していく上で日本の政府はカードを持てない。その点については、なるほど、警察が認定していない事実とはいいながらもやはり重大な関心を寄せていると思うんですけれども、この点について、今後どういうふうに進展をするか。

 そして、それによって交渉、やはりこちらもカードを持っていないと、これから再調査をするといっても、いわゆる百五十項目出した、この百五十項目も結果的にどういうことになっているのか全然わからないままで、我々も知っている限りで言えば、もう生年月日はでたらめ、火葬したということもでたらめ、これだけやりながら、なかなかその事実を突き詰めてそれを否定することが、日本政府としてやはりこれから交渉の上でやらなきゃいけないわけですけれども、この点について、今回の御家族の帰国、子供たちの帰国によってどういう進展が考えられるだろうか。その点についてお尋ねをしたいと思います。

荒木参考人 この点につきましては、実は私自身も、総理の訪朝が発表になる前に五人の方々にお手紙を出しまして、もうしゃべってもらいたい、結局はあの体制と闘わなければ問題は解決しないのだということを説得するお手紙を出したことはあるんですけれども、残念ながら返事はいただいておりません。

 マスコミ等々から伝わってくる情報で、やはり少しずつお話をされているということはあるんですけれども、彼らの方から本当に積極的にそれをどんどんしゃべっていくということは非常に難しいだろうと私は思っております。

 というのは、彼ら自身が北朝鮮を出るときに、もし何かしゃべれば、子供を帰さないということだけではなくて、場合によったら日本国内でテロをやるということまで脅迫をされている可能性がある。あるいは、されていなくても、ああいう国ですから、彼ら自身からすれば、そういう可能性があるというふうに感じているかもしれません。ですから、やはりしゃべりにくいというのは、今もそれほど変わらないと思います。

 ただ、一つの大きな山でありました子供さんたちの帰国ができたわけですから、あとは、たとえ外部に出さないにしても、やはり政府機関が、これは強制力を持たせることができるかどうかというのは難しい問題だと思いますが、ある程度積極的な事情聴取を行って、情報を持っているということをやっていただく必要があるのではないか。それを当然、今後、北朝鮮が再調査という言い方をしているわけですから、それにぶつけていくということは絶対に必要なことだと思います。

 北朝鮮の今までの国のやり方からいたしますと、向こう側にいるということが明らかになった場合に、その拉致被害者とか関係者に対して危害を与えるということは、まずあり得ません。よく、もし何かやったらば北朝鮮にいる人がやられるのではないかというようなことを言われるときがありますけれども、基本的には、向こう側にいるということを北朝鮮は認めた時点から、逆に待遇をよくすることはあっても、危害を加えるということは、まずあの体制からいって考えられないです。

 ですから、そういう意味でも、情報を集めて、その情報を、特に五人の情報を中心として検証して、それを北朝鮮にぶつけていくということが絶対的に今後必要だというふうに思っております。

西銘小委員 自由民主党の西銘恒三郎でございます。

 少し視点を変えまして、安全保障という観点で、枠を広げて小此木参考人にお伺いをしたいのであります。

 核の問題を含めて、朝鮮半島の緊張状態、六カ国、中国、ロシアもかかわってくる中で、私は、もうちょっと南の方の台湾海峡、五百基のミサイルが配備されているというような状況も出てきておりますが、この朝鮮半島の情勢と台湾海峡の、九六年ですか、米空母が入ったような状況もありますけれども、安全保障という意味では両方十分ににらんでおかないといけないのかなというような思いもしたりするんですが、その辺のところで小此木参考人の御意見を聞かせてください。

小此木参考人 東アジアに存在する軍事的な紛争地域というのはこの二つでありますから、大きなものは。したがいまして、この二つの問題が相互に影響し合っているというのは間違いないだろうというふうに思います。

 私は、例えば、中国が六カ国協議等で一生懸命努力するその動機というようなものを考えてみますと、そういったものの中にはやはり台湾問題というのもあるんだろうと思うんですね。

 例えば、我々の方は余りそう深刻に考えていないんですが、中国人は、やはり北朝鮮の核武装というものを認めると、核の連鎖反応が極東地域に起きやしないかということを相当強く懸念しております。つまり、韓国や日本が核武装に踏み切るかもしれない、こういう議論ですね。ですが、それをさらに突き詰めますと、それが台湾に波及するかもしれない、こういうところにいくわけでありまして、そんなような形で、実は、朝鮮半島の問題と台湾の問題というのはやはり関係しているんだということがわかるわけです。

 他方、現在の核問題というのは、核問題が何らかの形で解決されるというような楽観的な見通しを持った場合に、そこで生まれる、六カ国に関連するような安全保障体制というようなものが誕生してくるわけでありますから、そうなった場合に台湾の問題というのはどうなるだろうか、中国にとっては今よりずっと扱いやすい問題になっていくだろうと思うんですね。

 そんな形で、間接的ではありますが、台湾問題、台湾海峡の問題と朝鮮半島の問題というのはやはり相互に連結しているだろうと思います。

 日本にとっては沖縄の問題も当然それに絡んでくるわけでありまして、沖縄の基地や米軍の兵力の問題というのはやはり朝鮮や台湾と絡んでくるわけですから、長い展望で言えば、いずれも重要な形で密接に関係しているということじゃないでしょうか。

中野(譲)小委員 民主党の中野譲でございます。

 きょうは、いろいろと大変参考になるお話を聞かせていただきまして、ありがとうございます。

 荒木参考人にお尋ねをしたいんですが、私、今回の小泉さんの訪朝を見ておりますと、その前から、これは本当かどうかは別としまして、私が思うに、どうやら小泉さん自身がおしりを決めたのかなという気がしているんです。

 というのは、うまくいけばあと二年半ある小泉政権の中で何とか日朝の国交正常化を実現したいというふうにおしりを決めて、それで今回、御自身のこともいろいろあって、訪朝されて、いろいろとカードを切り過ぎたという話があるんですが、私、この特定失踪者の問題を小泉さんは余り考えていないのかなと。これを排除すれば、逆に言うと、余りカードを切り過ぎたということではないのかなという気がしているんですよね。

 今、あとはジェンキンスさんを初めとして家族の方をどのように日本に連れ戻すか、そして、この十名の失踪者の方々をもう一度再調査してくれというところでこの拉致問題を切ってしまって、そして今度は、国民の目を核問題の方にシフトしようとしているのではないのかなという気がしております。

 例えば、九五年以降に、米支援を含めまして百数十万トンの食糧支援をしている。このポスターを拝見しますと、そういった中で三十名以上の方々が、もしかしたらこれは拉致をされたのではないのかというような疑いがある。そして、小泉さんが最初に、一昨年ですか、訪朝されたときに前後して、また数名の方々がこのポスターに写真が載っているということを考えると、私、本当にこの特定失踪者の問題を考えるのであれば、今回、何かしらのメッセージをきちっと送っていないと、この問題は二年半の間には当然これは解決をしないという気がしているんですね。

 そこでお聞きしたいんですが、先ほども与党の委員から、特定失踪者の問題を政府、日本国としてやれというような意見もありますが、それであれば、私たちは評論家ではないので、与党の立場でぜひ小泉政権にお話をしていただきたいと思うわけですが、荒木参考人御自身がずっとこの問題にかかわってこられて、今、そういった、この特定失踪者の問題がまさにこれから切り捨てられるのではないかなというような危惧があるのかどうかということと、何とか日朝の国交正常化の話し合いを始めたいというところは、今はこれはもう一度考え直すべきではないかというところはどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。

荒木参考人 危惧は、我々ももちろんですが、この方々の御家族はさらに切実な思いでございまして、ともかく、今回のことに本当に一縷の望みをかけておられました。

 非常に難しいと思っておられた方が大部分ですが、それでも、例えば自分の家族ではないにしても、だれかこの特定失踪者の中で出てきてくれないだろうか、そうすれば自分たちのところにもやがてつながるかもしれないという、本当に切実な思いを持っておられたんですが、それは皆さん非常に裏切られて、あちこちでいろいろお話をお聞きしますが、非常に強い失望を持たれたというような思いでございます。しかも、前に申しましたように、このカードをいろいろ切ってしまったということで、これは本当に切り捨てにつながるのではないかという危惧を持っておられる方は非常にたくさんおられます。

 国交正常化の問題に関しましては、やはり今、当然この問題がクリアされるまでは、我々としては慎重にしていただきたいと思います。

 これは、北朝鮮に拉致をされたといっても、北朝鮮の中の例えばゲリラグループが日本人を拉致したということであれば、国交正常化交渉をやって日朝の関係をよくして、それによって解決をしようということができるわけですが、問題は交渉している相手が拉致をしているということでありまして、要は、日本国はその誘拐犯相手に交渉をするわけですから、そのときに単なる信頼関係で解決できるはずはない。信頼関係で解決できるのであれば、もともと、そんな国は拉致などしているはずがないということでございます。

 基本的には、この問題の解決にはやはり制裁とかそういう力を持って当たるしか方法はないと私は思っております。実際、今回も、北朝鮮側がその制裁というもののカードを総理に切らせたというのは、制裁をされるということが彼らにとっていかに恐ろしいことかということの裏返しでもございますので、こういうようなものを使ってやっていくということによってのみあの国は動くのではないかと私は思っております。

宮下小委員 両先生、きょうは貴重なお時間、お話をありがとうございます。

 私は、主に小此木参考人にお聞きをしたいわけですけれども、今、荒木参考人の方から、相手の政権自体がこの拉致という問題を起こした、そこにこの問題の難しさがあるというお話がございましたけれども、私も、いろいろなお話を聞く中で、十人の方の安否、また特定失踪者の方々の安否を知るかぎはその政権のありようにあるのではないかという思いが強くしております。

 それで、死亡と向こうが言ってきた十人の方についても、生存の情報もありながら死亡と言ってきているというようなことを考えますと、やはりその体制にとって、その人が生きていると表明することが不利になるからこうした死亡というような格好で出してきているのではないかというふうにも感じます。やはり根本解決は、この政権自体が全く変わって、むしろこの金正日体制を弾劾するような政権が成立して初めてすべての方の情報が明らかになるのではないのかという気もしております。

 そんな中で、先生先ほど、自由市場もどんどんできてきたりして、計画経済も崩壊しつつあり、体制は順次変わってきているところであるというようなお話がございますけれども、その変わった先にでき上がる政権がやはりこの金正日体制に準拠したものであるならば、抜本的解決がそれでも行われないことがあり得るのではないか、そういった気持ちもしております。

 先生、見ていらっしゃって、この政権が十年や二十年続くと思っている方はいらっしゃらないでしょうという御発言もございましたけれども、この体制が変わってどういう体制になるというふうにお考えなのか、そして、新しい体制のもとで本当の根本の解決ができるのかできないのか、そこら辺について御見解をいただければと思います。

小此木参考人 いや、十年、二十年続くかもしれません、三十年は難しいと思いますが。つまり、金正日が生きている間は難しいかもしれないということですね。あの種の体制というのは、体制自体が人格化されてしまっているわけですから、その人格が生存している間はなかなか変わらない。しかし、金正日総書記の年齢を考えますと、三十年というのは難しいだろう、そういうふうに申し上げたつもりでございます。

 御指摘のように、体制が変わらないと、我々が求めているようなものはすべて出てくるというようなことにならないんじゃないかと。確かに体制の問題と密接に関係しているというふうに思います。ソ連の場合でも、結局、ペレストロイカ、グラスノスチというようなものがあって、ゴルバチョフ以降になって初めて内部の情報というのは外に出てくるようになったわけでありますから。したがって、今の政権が続いている限り、なかなか難しいのではないかということになってくるわけです。

 私は、拉致問題を見ていて、特に十名の方の再調査というようなことに関して、ちょっと一般に議論されていない観点から、やはり難しいんじゃないか、それは簡単な話ではないというふうに感じる部分があるんです。

 荒木さんもちょうど横にいらっしゃいますから、お聞きいただきたいんですが、それは、北朝鮮自身にとっても、安否の確認に関して外部の世界にきちっと説明できるような材料を確保しているかどうかということなんですね。

 つまり、安否の確認ですから、まず最初に、生きていらっしゃるのか亡くなられているのかというようなことが問題になるわけですが、我々は当然生きていらっしゃるはずだというところから始めるわけですが、もし仮に亡くなられているとしても、亡くなられているということを日本側に証明することは、多分、北朝鮮自身にとっても相当難しい話なんじゃないか。それは、隠しているという意味で申し上げているわけじゃなくて、多分その証拠というのがないんじゃないか、説得できるだけの証拠というのを持っていない。

 ということはどういうことかと申しますと、拉致された方々が仮に亡くなったとしても、きちっと一人一人のお墓を整備して、いつでも証拠を提示できるというような状態には多分なっていないんだろうというふうに私は考えるんですね。ですから、洪水に遭ったとか海で行方不明になったとか、ああいうようなことを言わざるを得ないのではないかというふうに思うのです。そうだとすると、我々が追及して安否の確認をしようとしても、実際に物理的にできないという可能性は十分にあるということなんですね。

 ですから、先ほどお話しいただいた体制の問題とともに、安否の確認というのも、やろうとすれば簡単にできるというような種類のものではないんじゃないかという気が私はしております。まあ、余り愉快な話ではなくて、そのようなことを申し上げなければいけないのは残念なんでありますが。

丸谷小委員 発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。公明党の丸谷佳織でございます。

 小此木先生にお伺いをさせていただきます。

 最近、外交政策を議論する際に国益という言葉が非常に多く語られるようになっておりますけれども、いずれの国にとりましても、国益というものは、国際社会の中で密接に関係をしている各国との相互依存関係の中での国益という視点をやはり議論していかなければ、間違った道を歩むことになってしまうとも考えております。

 ところが、北朝鮮との外交を考えるときに、日本と北朝鮮との相互依存関係とは何か、これは安全保障と経済ということになるのか、また、北朝鮮外交の中でこの相互依存関係の中での国益という考え方自体が通じるのかどうか、この点を教えていただきたいと思います。

小此木参考人 これはなかなか難しい質問ですね。

 日本と北朝鮮の間には、相互に依存しなければいけないような関係というのは通常の形では存在しないわけですね。少なくとも我々の側には存在しないという意味で、相互依存ではないだろうというふうに思うのです。

 ただし、であれば、北朝鮮と無縁な形で我が国が存在できるかと言われると、それはそんなことはないわけでありまして、まあ、彼らの側がそれを許してくれないということではないかと思うのです。

 ですから、相互依存ではございませんが、国益のために両国の間の関係を整理しておかなきゃいけない、そういうような状態を免れることはできない、そのことは言えるように思うのであります。

吉井小委員 日本共産党の吉井です。

 先ほどに続いて小此木参考人に伺いたいんですが、この間、五月二十四日に産経新聞で先生が座談会でお話しされておるのを見ていまして、「今回の北朝鮮の外交は、短期的にみれば成功だろう。しかし、長い目で見て成功しているのかといえば疑問だ。」ということ、また、「北朝鮮も相当、近視眼的で、肝心な的を外している気がしないでもない」ということを言っておられるのを読んでいまして、これは北朝鮮にとってどんなふうに見ているのかなということが一つ。先生のお考えを伺いたいと思ったのが一点です。

 もう一点、先ほどのこととかかわるんですが、核兵器の開発をやめさせる、解決するということとともに、エネルギーの問題は、九〇年代危機のときにも、それで軽水炉ということでありましたけれども、その後いろいろな経過がありました。日本の経済界の方たちも含めて、必ずしも表に出ている話でもありませんけれども、この核問題解決の後、軽水炉という道もまたあるんですけれども、軽水炉によらない発電のシステムとか、あるいはサハリンやシベリアからの石油とか天然ガスを含めたパイプラインが朝鮮半島全体を貫いていけば、そこからのエネルギーの供給を得るとか、いろいろなことが経済分野にかかわる方たちの間でも核問題とあわせて検討されているということも伺っておりますが、その辺についての先生の見方を伺いたいという、この二点です。よろしくお願いします。

小此木参考人 北朝鮮に関しまして、彼らも近視眼的で成功していないかもしれないというようなことを確かに申したように記憶しております。

 それはどういう意味かと申しますと、私の観察が正しいかどうかはわからないんですが、どうせ小泉総理を受け入れて日朝交渉を再開するのであれば、もっと拉致問題等においても積極的に動かなければ、将来スタートする交渉も前進しないだろうということなんですね。

 この場でも非常に厳しく北朝鮮の態度に関して追及されておりますが、相当程度進展しない限り日本の国民の理解というのも得られないわけですから、例えば十名の方の安否の問題に関しても、白紙に戻って再調査しますというだけではなくて、もう一歩何か彼らの誠意を示すようなものがなければいけないんだろうと思うんですよね。それをなぜやらないのかということなんです。当面やる必要がないからやらないんだということであればそれは非常に近視眼的だ、多分そんなような意味で申し上げたんだろうと思うのです。

 彼らの方が今回、外交的に、外交日程において若干余裕があったような気がいたします。それは、先ほど来申し上げていますように、核問題の山場というのは十月、十一月でございますから、それまで時間的な余裕があって、日本側の方が急いでいるというふうに考えたんでしょう。ですから、やや足元を見たようなところがありますが、そういうような細かい駆け引きというのは、大局的に見た場合に余り利口ではないというふうに思うのであります。

 軽水炉の件ですが、それは将来的に話が煮詰まってくれば、つまり、全面凍結の見返りというようなことが議論されるような段階に至ればということですが、当然、そのためには、全面的な凍結が完全な核廃棄へのステップだということが確認されなければいけないし、ウラン濃縮型のものもそれに含まれている、廃棄されるんだということが確認されなければいけないわけです。

 しかし、にもかかわらず、話が煮詰まってきた段階では、軽水炉でなくても通常型の発電所でもいいんじゃないかというような議論は、数ある議論の中で一つのテーマになってくる可能性は十分にあるだろうと思います。アメリカは特に軽水炉の提供に関しても今は非常に懐疑的になっておりますから、別な形のエネルギー資源というものも考えられてくるだろうというふうに思います。

中野(譲)小委員 民主党の中野譲です。

 小此木参考人にお伺いをしたいんですが、小泉さんがずっと、拉致問題の解決なくして国交正常化はないと。私も、新人議員で、外務委員会でいろいろとお話を伺っていますと、どうもニュアンスが、川口さんを含めて、答弁も変わってきているのかなと。最初の私の理解でいくと、当然、この御家族の方々、そして今失踪されている方々、そしてまだ拉致と認定をされていない方まで含めてが、これが拉致問題の解決だというふうな理解をしていたわけですが、最近、どうもこの三番目のところが非常に薄まってきている。

 そして、日朝の平壌宣言の中で拉致という言葉が出てきてなくて、今後交渉していく中で、北朝鮮としてはぎりぎり譲ったところで、この十名の失踪者のもう一回の再調査までを拉致問題だ、その先は特に小泉さんから話を伺っているわけではないんだから、この特定失踪者に関しては拉致問題には含めませんよというふうになったときに、平壌宣言で拉致問題が書いていなくて、そして、日朝間の諸問題を解決するという中に辛うじてこの拉致問題を入れるというところで考えたときに、小泉さんが、日朝の平壌宣言を遵守する限りは経済発動はしないということを、もうカードを切り捨ててしまったような状況であると、今後、日朝間の交渉の中でこのカードを切ることが果たしてできるのかどうか。

 切ったときに、それは約束が違うじゃないかというふうにあの国はまた言う可能性が非常に大きいわけですが、国家のトップとしての首相として、戦略的には、これは長期的に見た場合はどのように考えられますでしょうか。

小此木参考人 私は、拉致問題に関して、特に十人とか、それ以上の特定失踪者の問題等に関しては、北朝鮮側に協力体制をつくらせる、体制をつくらせるということが非常に重要だというふうに考えているんです。

 例えば、ベトナム戦争後のアメリカの行方不明米兵の捜査なんかにいたしましても、米越の国交正常化のための非常に大きな障害になったわけです。しかし、こういったものも両者が協力する形で捜査が履行されたわけでありまして、それは結局、彼らがどこまで誠意を持ってその問題の解決に取り組んだのかということを証明する場を与えるということではないかというふうに思っているんです。

 誠意を持って協力しないのであれば、それは拉致問題の解決のために努力していないということになるのでありますが、何人の方で打ち切りということではなくて、こちら側の疑問に関して、十人でも、二十人でも、三十人でも、あるいは百人でも、二百人でも、出された問題に関して誠意を持って回答できるような体制というものをつくってもらうということが重要なんだというふうに考えています。

 制裁の問題との関係で申しますと、私は、そういう体制というのは制裁によって実現するというふうには考えていません。法案を成立させて、圧力を加えていくということは、それは結構なことだと思います。ただし、実際にそれを実行に移すというようなことが可能かということに関しては、非常に懐疑的であります。

 よく考えていただきたいんですが、六カ国協議で、日本以外の国は、日本以外の国はというのは適当ではないかもしれない、六カ国協議で、我々は交渉によって問題を解決していくという体制をつくったわけでありまして、その六カ国のうちの一カ国だけが単独で制裁を始めるということは、六カ国体制というものを崩壊させることにつながるわけでありまして、多分、日本以外のどの国も歓迎しないでしょう。反発する国も当然出てくる。つまり、日本の外交的な孤立化ということであります。

 また、単独ではなくて、アメリカの大統領選挙以後に共同で制裁に当たるということであれば、これは国連の安保理事会を通してやっていくというような手続が必要になってきますし、実際にその時点で、先ほど来申し上げているような状況で、本当にそれができるのかということに関しては、イラク情勢これあり、疑問に思っております。

 それから、我々がもし本当にそれをやるとすれば、相当の覚悟が必要でございまして、日本国民全体が覚悟しない限りそれは難しいだろうと思います。イラクで数人の方が拘束されたということで大騒ぎするようなことであっては、ならず者国家の首を絞めるようなことはできないのでありまして、彼らは当然それに対して対抗措置をとってくるというふうに考えなければいけないだろうというふうに思います。

 通常であれば、北朝鮮は拉致している方々の安全というのを保証するだろうと思いますが、首を絞められるということになれば何を言い出すかわかりませんから、向こうにいる人たちの安全というものも考えなきゃいかぬというようなことになってくるわけでありまして、実際にそれを実行に移せるかということになると、大変懐疑的に私は思っております。

 ですから、法案の制定というのが多分望ましい圧力だとは思いますが、実行というようなことは簡単な話ではないと思っております。

渡辺(周)小委員 それでは、小此木参考人にお尋ねをします。

 韓国に我々も何度も行きますと、例えば二十代、三十代ぐらいの若い方々は、韓国にとって脅威になる国はどこかといいますと、もう北朝鮮ではなくて、アメリカであると。スポーツイベントの合同でいろいろなことをやって、サッカー初めユニバーシアード等々で、美女軍団なんというので、そういう意味で心理的な抵抗感がなくなった、精神的武装解除がかなり進んでいると見るわけであります。

 そうした中で、韓国は対北朝鮮という意識が大分変わってきまして、盧武鉉政権でこれから、ウリ党がこれだけ多数を占めますと、今後韓国と北朝鮮はどうなっていく、特に韓国側から見てどう変わっていくだろうか、その点について御指摘いただけますでしょうか。

遠藤小委員長 簡潔に。どうぞ。

小此木参考人 簡潔にということでございますが、私は、やはり韓国も世代が変わったということは間違いないと思います。私のついていけないような部分も既に出てきております。しかし、何が一番変わったのかというと、それは、親米だとか反米だとかということではなくて、やはり、冷戦が終結した後、韓国人が認識する脅威の質が変わったんだというふうに思います。

 それまで、北が攻めてくるということを考えていたわけでありますが、実際にどうであるかということになりますと、金日成主席が亡くなり、飢餓状態にあえいでいるような姿を見て、あるいは西海岸での海戦の結果等を見て、そういうようなものに対する認識というもの、つまり、南北の体制のバランスというものはやはり韓国に有利に変わってきてしまっているということについては、だれもが認めているところだろうと思うのです。

 そうなりますと、特に九月十一日のテロ事件以後、むしろ、イラン、イラク、北朝鮮ということで、悪の枢軸だ、先制行動もあり得るというようなことの方が彼らは心配になってくるわけですね。北が攻めてくるよりは、アメリカが先制行動をやった結果、戦争が起きて巻き込まれるかもしれない、そういう脅威認識が生まれてしまっている。

 今までは、アメリカが撤退するということになると大変なことになる、北が攻めてきたときどうするんだと、見捨てられることを懸念していたわけですが、最近の韓国は、見捨てられの懸念ではなくて、巻き込まれの懸念を感じるようになってきている。非常に大きな変化だというふうに思います。しかし、これは合理的に説明可能なことだというふうに思います。

 いま一つ、先行きのことを考える場合にどうかということであれば、私はそんなに心配していないんです。それは、韓国人のナショナリズムというのは、何といっても韓国のナショナリズムであって、統一された朝鮮のナショナリズムでもなければ、北朝鮮のナショナリズムでもありません。韓国という国をどうするかということを彼らは考えているわけでありまして、あの国が社会主義体制になってもいいなんて思っている国民はやはりいないのであります。

 北朝鮮の脅威に関しては認識が変化しているかもしれませんが、しかし、では、統一のためであれば生活の水準を半分に下げてもいいかと言われれば、だれもがそんなことは考えていない。韓国に拠点を置いたナショナリズムであることには変わりはないし、韓国の体制は、民主主義であり市場経済であるということにおいて我々と同じなんだということを強調したいと思うんですね。もしそこのところをおろそかにしますと、何か我々の方でも韓国と北朝鮮の区別がつかないような、とんでもない話になってしまうんだろうと思うのです。

遠藤小委員長 荒木参考人におかれましては、十一時五十分までとの約束でございます。荒木参考人に限って、あと一問程度、どうぞ、どなたか。――ございませんか。

 それでは、武正公一委員。

武正小委員 小此木参考人にお伺いをいたします。

 国際社会は、北朝鮮に対して、核開発の凍結でなくて、いわゆる完全で検証可能かつ後戻りできない、CVIDを求めておりますが、先ほど小此木参考人が言われたように、北朝鮮はそれをかたくなに拒否しているということであります。

 では、北朝鮮が日本をどのように考えているかということで、識者からの指摘にもあるように、米国を譲歩させるための道具としか日本を見ていないのではないか、すなわち、日本と本気で核問題を討議するはずはない、こういう指摘があるわけでございますが、この指摘についてどのようにお考えになりますでしょうか。

小此木参考人 今回の小泉総理と金正日総書記の会談でも、核の凍結というのは非核化に向けての第一歩である、凍結には当然査察が伴うという発言があったと伝えられています。

 これはやや微妙な発言なんですが、今まで六カ国協議の場で北朝鮮側は、全面凍結が最終的な放棄の一段階であるということを認めてきませんでした。あるいは、ウラン濃縮に関しても、それを否定し続けてきたわけです。こういったものはどこかの段階で変わるんだろうと思いますが、日朝交渉が再開された後、重要な局面においては、北朝鮮が、核問題に関しても、アメリカに対してではなくて日本に対して譲歩してくるという可能性はあります。それはあると思います。

 それはどういう意味かと申しますと、本来はアメリカあるいは六カ国協議の場で譲歩すべきことであるわけですが、それをその場ではやらずに、日本に対して譲歩してくるということがあり得るということなんですね。それは小泉総理の得点になるわけでありまして、その得点をもってブッシュ大統領をもっと説得してくださいというようなたぐいの駆け引きというのは、当然に可能性として出てくるだろうというふうに私は見ております。

 必ずそうなるというふうに思っているわけではございませんが、そのような外交というのは彼らは得意な外交です。全く関係のない場で重要な発言をしている。例えば、ミサイルに関して、なぜプーチンさんにアメリカがミサイルを上げてくれたら開発をやめてもいいなんというようなことを言う必要があるのか。そういう種類の発言というのが日本向けになされる可能性は、日朝交渉の場で、あるいは首脳の会話で今後十分にあり得るだろうと思っています。

増子小委員 小此木参考人にお伺いをいたしたいと思います。

 先般、中国の帰路、列車事故が北朝鮮でございましたけれども、一説には北朝鮮内のテロではないかというような動きも報じられている部分もありますが、そのような動きが果たして北朝鮮の中にあるのかどうか。

 いや、やはり金正日体制は盤石であって、あれは単なる事故でしかないということであるならば、今後、日朝交渉の中で、やはり今回のように小泉総理が訪問することによってしかこの日朝関係が改善されていかない、すなわち、国交正常化交渉というのはあくまでも形式であって、その都度日本の総理大臣が訪問し、拉致あるいは核等の問題についてもいろいろな意見を言いながらこの日朝国交というものについての改善をしていくというカードしかないのか、このところの見解についてお尋ねを申し上げたいと思います。

小此木参考人 鉄道事故に関しましては、すべてが解明されているということではありませんから、全く疑問がないということではないのでありますが、しかし、北朝鮮の中に相当組織的な抵抗グループというものが存在して、あれほど大規模な事故を計画的に引き起こしたと考えるのには無理があるんじゃないかというふうに見ております。

 結局、今の北朝鮮の中に反体制組織というものが存在しない、あるいはそれを組織することが難しいというところがあの体制を存続させているかぎでありまして、それは秘密警察を初めとする監視網というものがしっかりとしているということであります。

 北朝鮮の多くの人たちは、金正日体制に対して以前ほど忠誠心を持っていないでしょう。ますます失っていると思いますが、そういった方々は、脱北というような形で消極的に抵抗している。しかし、不満を持っている人が脱北すればするほど、国内にはそういう組織というものは生まれないわけですから、なかなか簡単に、内部的に反乱が起きるとか暗殺事件が計画されるというようなことではないんじゃないかというふうに思っております。

 盤石というわけではありませんが、そういう意味では、今の体制がしばらくの間継続するということを前提にして我々は物を考えていかなければいけないし、対応していかなければいけないということだろうと思います。

遠藤小委員長 以上をもって参考人に対する質疑は終了いたします。

 小此木参考人には、貴重な御意見を、また御懇篤なる御意見を賜りまして、まことにありがとうございました。小委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十四分散会


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