衆議院

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第4号 平成19年3月29日(木曜日)

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平成十九年三月二十九日(木曜日)

    午後二時三十分開議

 出席委員

   委員長 中山 太郎君

   理事 愛知 和男君 理事 近藤 基彦君

   理事 福田 康夫君 理事 船田  元君

   理事 保岡 興治君 理事 枝野 幸男君

   理事 園田 康博君 理事 赤松 正雄君

      新井 悦二君    伊藤 公介君

      猪口 邦子君    大塚 高司君

      加藤 勝信君    片山さつき君

      亀井善太郎君    川条 志嘉君

      佐藤ゆかり君    柴山 昌彦君

      杉村 太蔵君    平  将明君

      谷  公一君  とかしきなおみ君

      渡海紀三朗君    中野 正志君

      西本 勝子君    野田  毅君

      葉梨 康弘君    早川 忠孝君

      林   潤君    平田 耕一君

      深谷 隆司君    福田 峰之君

      藤井 勇治君    藤野真紀子君

      堀内 光雄君    松本 文明君

      盛山 正仁君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    安井潤一郎君

      岡本 充功君    玄葉光一郎君

      鈴木 克昌君    田中眞紀子君

      田村 謙治君    筒井 信隆君

      中川 正春君    長妻  昭君

      平岡 秀夫君    柚木 道義君

      石井 啓一君    大口 善徳君

      笠井  亮君    辻元 清美君

      糸川 正晃君

    …………………………………

   議員           加藤 勝信君

   議員           葉梨 康弘君

   議員           船田  元君

   議員           保岡 興治君

   議員           枝野 幸男君

   議員           小川 淳也君

   議員           鈴木 克昌君

   議員           園田 康博君

   議員           赤松 正雄君

   衆議院法制局第二部長   橘  幸信君

   衆議院憲法調査特別委員会及び憲法調査会事務局長  窪田 勝弘君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十九日

 辞任         補欠選任

  石破  茂君     大塚 高司君

  越智 隆雄君     川条 志嘉君

  坂本 剛二君     佐藤ゆかり君

  渡海紀三朗君     平  将明君

  中野 正志君     松本 文明君

  二田 孝治君     片山さつき君

  保利 耕輔君     猪口 邦子君

  山崎  拓君     亀井善太郎君

  逢坂 誠二君     柚木 道義君

  古川 元久君     田村 謙治君

同日

 辞任         補欠選任

  猪口 邦子君     西本 勝子君

  大塚 高司君     とかしきなおみ君

  片山さつき君     盛山 正仁君

  亀井善太郎君     福田 峰之君

  川条 志嘉君     杉村 太蔵君

  佐藤ゆかり君     藤野真紀子君

  平  将明君     渡海紀三朗君

  松本 文明君     中野 正志君

  田村 謙治君     古川 元久君

  柚木 道義君     逢坂 誠二君

同日

 辞任         補欠選任

  杉村 太蔵君     越智 隆雄君

  とかしきなおみ君   石破  茂君

  西本 勝子君     保利 耕輔君

  福田 峰之君     山崎  拓君

  藤野真紀子君     坂本 剛二君

  盛山 正仁君     二田 孝治君

    ―――――――――――――

三月二十九日

 国民投票法案の廃案・撤回に関する請願(辻元清美君紹介)(第四六九号)

 同(穀田恵二君紹介)(第四九八号)

 改憲のための国民投票法案の廃案を求めることに関する請願(笠井亮君紹介)(第四九九号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第五〇〇号)

 同(笠井亮君紹介)(第五二二号)

 同(辻元清美君紹介)(第五七五号)

 同(笠井亮君紹介)(第五九二号)

 憲法九条改悪のための国民投票法案反対に関する請願(照屋寛徳君紹介)(第五三七号)

 同(阿部知子君紹介)(第五七三号)

 同(保坂展人君紹介)(第五九〇号)

 国民投票法案の徹底審議・廃案を求めることに関する請願(辻元清美君紹介)(第五六〇号)

 同(辻元清美君紹介)(第五七四号)

 同(石井郁子君紹介)(第五九一号)

 国民投票法案の廃案を求めることに関する請願(辻元清美君紹介)(第五七二号)

 同(笠井亮君紹介)(第五八九号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外五名提出、第百六十四回国会衆法第三〇号)

 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外三名提出、第百六十四回国会衆法第三一号)

 派遣委員からの報告聴取


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     ――――◇―――――

中山委員長 これより会議を開きます。

 第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案及び第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 この際、両案に対し、保岡興治君外三名から、自由民主党及び公明党の共同提案による両案を併合して一案とする修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を求めます。保岡興治君。

    ―――――――――――――

 日本国憲法の改正手続に関する法律案

 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案

 に対する併合修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

保岡委員 ただいま議題となりました与党自由民主党及び公明党共同提出の日本国憲法の改正手続に関する法律案並びに民主党提出の日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の両案に対する与党自由民主党及び公明党共同提出の併合修正案につきまして、提出者を代表して、提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 国民投票法案については、一昨年九月に設置された本委員会におきまして、国会に提出される以前から、各会派からの意見表明、専門家を招致しての参考人質疑、委員間の自由討議など、さまざまな観点から活発な議論が繰り広げられてまいりました。

 昨年には、これらの調査と並行して、理事懇談会において、憲法改正国民投票法制の是非を含めて、その具体的な制度設計に関する論点整理を合計七回にわたって行いました。

 委員会における調査及び理事懇談会における論点整理の協議の時間は、総計で約五十時間に及んでおるところでございます。

 それらの調査を踏まえて、昨年五月には、与党と民主党からそれぞれ国民投票法案が提出され、本委員会は両法律案の審査に全力を傾注してまいりました。より充実した審議をするために、本委員会のもとに小委員会を設置して、論点ごとに小委員会における参考人の意見表明、小委員と参考人との懇談、委員会における質疑を繰り返しました。

 また、先週は中央公聴会、昨日は新潟、大阪での地方公聴会を開催いたしました。

 これらを合わせますと、両法案に関する審査は約五十時間にも達しています。このようにこの法律案に関する調査審議時間は、総計で約百時間にも及びます。

 私どもは、対案を提出された民主党のみならず、共産党、社民党、国民新党の御主張にも十分耳を傾けながら、真摯に対応し、よりよい御意見はそれらを踏まえて思い切って修正するという姿勢で臨んでまいりました。こうして議論を繰り返しているうちに、法案提出時に見られた与党案、民主党案の違いは、もうほとんどなくなったのであります。

 そこで、私どもは、委員会における議論の到達点を修正案という条文の形で確認したいと考え、この修正案を提出した次第でございます。

 以下、本修正案の主な内容について御説明申し上げます。

 第一に、国民投票の対象についてですが、憲法改正国民投票と一般的な国民投票とでは、その本質を全く異にするものであり、その詳細な制度設計についてはさらに議論を深める必要があることから、今回は憲法改正国民投票法制に限定して制度設計を行うのが適当であると考えております。

 しかし、憲法改正を要する問題等についての国民投票制度につきましては、議会制民主主義を基本とする現行憲法のもとにおいても検討に値するものと考えられます。

 そこで、この憲法問題予備的国民投票とでも言い得る法制度を中心とした一般的国民投票制度については、この法律の公布後速やかに、その意義及び必要性の有無、具体的な制度設計のあり方について検討を行い、必要な措置を講ずる旨の検討条項を附則に置くことといたしております。

 第二に、投票権者についてであります。

 諸外国では成人年齢に合わせて十八歳以上の国民に投票権を与える例が非常に多いようでありますが、他方、投票権年齢や選挙権年齢及びそれらの基礎となっている民法の成人年齢を引き下げることは、我が国の他の法制度、社会的制度への影響が非常に大きいのであります。

 そこで、これらのことを勘案し、投票権年齢を満十八年以上とした上で、この法律が施行されるまでの間に、満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、公職選挙法、民法等について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとし、この法制上の措置が講ぜられて、満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができるまでの間、投票権年齢を満二十年以上とする旨の規定を附則に置くこととしております。

 第三に、投票用紙への賛否の記載方法及び過半数の意義についてでございます。

 この点については、投票人の意思を酌み取ることを重視する観点から、さらに検討を加え、あらかじめ投票用紙に印刷された賛成、反対の文字をマルで囲むこととし、無効票をできるだけ少なくする方式に変更した上で、賛成の投票数が賛成の投票数と反対の投票数の合計の二分の一を超えた場合に国民の承認があったものとしております。

 第四に、国民投票運動が禁止される特定公務員の範囲については、選管職員等に限ることとしております。

 これは、本委員会での議論を通じて、憲法改正国民投票における意見表明は、主権者国民が直接に国政に対して発言できる重要かつ貴重な機会であり、それは裁判官や検察官等の職種についている者でも同じように保障されるべきであると考えたからであります。

 第五に、公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の制限については、地位利用の範囲を明確にした上で存置することとしております。その上で、これに違反した場合にも罰則を設けないこととしております。

 なお、以上の公務員の国民投票運動に関する制限に関連して、国は、この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる旨附則に規定することといたしております。

 第六に、組織的多数人買収罪については、適用対象を最も悪質な部分に限定するため、勧誘行為を明示的なものに限定するとともに、投票に影響を与えるに足りる物品その他の利益という要件についても、多数の者に対する意見の表明の手段として通常用いられないものに限ると限定した上で存置することとしております。

 第七に、国民投票における周知広報については、まず、国民投票公報には憲法改正案及びその要旨並びに憲法改正案に係る新旧対照表その他参考となるべき事項に関するわかりやすい説明を記載することとしております。

 また、説明会の開催の規定については、これを削除することといたしました。

 テレビや新聞等における無料広告枠においても、賛成意見、反対意見を公正かつ平等に扱うこととしております。その上で、一般の団体については、無料枠の割り当てを受けた各政党等において、その一部を指名する一般の団体の利用に供する形で使用することができることが明確となるよう修正しました。

 第八に、テレビ、ラジオにおける有料広告については、禁止期間を国民投票の期日前二週間に延長するとともに、放送事業者は、国民投票に関する放送については、放送法の規定の趣旨に留意するものとする旨の規定を設けることとしております。

 最後に、この法律の施行期日及び憲法審査会の審査権限については、施行を公布の日から起算して三年を経過した日とするとともに、それまでの間は、憲法審査会は調査に専念することを明記することとしております。

 以上が、この修正案を提出しました理由及びその内容の概要でございます。

 今回提出しているこの修正案のほとんどは、本委員会における議論から導き出されたものでございます。

 昨日の大阪地方公聴会では、民主党の元副議長の中野寛成氏が、憲法関連基本法の一つである国民投票法案の取りまとめに当たっては、与党は度量を、野党は良識を示すべきであるとの意見を述べられたと伺いました。私もこの言葉には共感を覚えます。この修正案は、私ども与党としての精いっぱいの度量を示したつもりでございます。この修正によって、憲法改正国民投票法案は、憲法改正の基本的手続を定める公正中立なルールとして、さらに十全なものになったと自負しております。

 今までも野党の皆さんからは建設的な御意見をちょうだいしてまいりましたが、できますならば本修正案に賛成、あるいは本修正案を基礎としての共同提出に向けての調整など、どういう形でかは別として、皆様方の良識を示していただけるならば、私ども与党側としても、さらなる度量を示す余地があることを明確に述べておきたいと存じます。そして、今後とも、あるべき憲法改正国民投票法制の構築に向けて、より幅の広い合意形成を目指してまいりたいと思っております。

 付言しますと、これまでの本委員会での御議論の成果を大切にしたいとの基本的姿勢に基づき、冒頭に申し上げたように、今回の修正案は併合修正という方式をとることによって、与党提出の法律案と民主党提出の法律案の両案に対する修正案とした次第であります。

 何とぞ速やかに御賛同あらんことをお願い申し上げる次第でございます。

中山委員長 以上で修正案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

中山委員長 これより両法律案及び修正案を一括して質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。近藤基彦君。

近藤(基)委員 自由民主党の近藤基彦でございます。

 一昨年九月から始まった本特別委員会における憲法改正国民投票法制に関する論議も、いよいよ大詰めを迎える感がしております。

 諸外国の国民投票法制の調査を踏まえた約五十時間に及ぶ調査を踏まえて、与党案、民主党案がそれぞれ提出されたのが昨年の五月二十六日でありました。その両案についても、先週の中央公聴会、昨日の新潟及び大阪での地方公聴会を含めて、既に約五十時間の法案審査がなされてきました。その間、昨年の十二月十四日には、本委員会において、与党、民主党それぞれの提出者から修正項目に関する意見表明がありました。そして、それを総括する形で、一昨日、まず与党から先行する形で修正案が正式に提出されたところであります。

 最後まで与野党を超えた幅広い合意形成に向けて望みを捨てずに、真摯な議論が行われてまいりますことをお祈りしつつ、本日は、この一昨日提出されました与党の併合修正案を中心に質問をしたいと思います。

 まず、国民投票の対象についてお伺いをいたします。

 与党修正案は、国民投票の対象を憲法改正のものに限るとした上で、憲法改正問題についての国民投票制度に関する検討条項が置かれております。これは、対象を絞り込んだ一般的国民投票制度ということも言えると思います。与党の提出者に対して、このような検討条項を盛り込んだ趣旨をお伺いしたいと思います。

 また一方、民主党の提出者からは、一般的国民投票制度について三つの案を検討中であると伺っております。すなわち、昨年十二月十四日の委員会において、A案として対象を限定した一般的国民投票、B案として憲法関連問題に限定した憲法予備的国民投票、C案として、国民投票法制の是非及び具体的制度設計のあり方について本法案が成立後速やかに検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる旨を附則に明記するという案が示されました。

 そこで、民主党の提出者にお伺いしたいと思いますが、B案はまだわかるのですけれども、A案に言う何らかの限定とはどのようなものを想定されているのでしょうか。このことについての現時点での検討はどこまで進んでおられるのでしょうか。また、与党の修正案は民主党のC案そのものであるように思うんですけれども、この修正条項についてどういったお考えをお持ちでしょうか。

 与党、民主党にそれぞれお聞きをしたいと思います。

保岡委員 一昨年及び昨年の海外派遣による調査あるいは文献調査によりますと、諸外国においては、それぞれの国の特性に応じてではございますが、一般的国民投票制度というものを法体系の中に組み入れている例も少なくないのでございます。しかし、現行憲法は国会を国の唯一の立法機関であると規定して、基本的に議会制民主主義を採用しており、これらを補完するものとしての直接民主主義の制度は、わずかに最高裁判所の裁判官の国民審査、地方自治特別法における住民投票、そして憲法改正国民投票の場合に限定されています。

 一般的国民投票制度は、民主党御提案のようにその効果が諮問的なものであるとしましても、事実上の拘束力があり得ることは否定できない。この憲法の定める議会制民主主義の根幹にかかわる重大な問題でありまして、むしろ憲法改正事項そのものではないかとの懸念も払拭できないものでございます。また、そもそも国民投票が必要的な要件とされておって、かつ、その結果に法的拘束力がある憲法改正国民投票と、任意で諮問的な効果が想定される一般的な国民投票とでは、その本質を全く異にするものであることなどにもかんがみますと、今回は憲法改正国民投票法制に限定して制度設計するのが適当であると考えております。

 もっとも、一般的国民投票制度といっても、その対象を広く国政上の重要問題一般とするのではなくて、個別の憲法問題に限定した諮問的、予備的国民投票制度については、議会制民主主義の例外として国民投票を要する旨を定めている憲法九十六条に関連するものとして、比喩的に言えば、憲法九十六条の周辺に位置するものと言うこともできます。ただ、発議の形式や議決要件など、その具体的な制度設計についてはまだまだ議論が必要で、今直ちに本法律案に明記する段階に達しておらないので、慎重な検討が必要ではないかと思います。

 そこで、このような憲法改正問題についての国民投票制度の是非について、本法によって創設される憲法審査会において今後検討すべき重要事項の一つとして附則に明記する修正をしたところでございます。

 なお、この論点については、昨年十二月十四日に、民主党提出者から、対象に一定の限定を加える案、憲法改正に係る予備的国民投票に限定する案、このような限定的な国民投票法案について、憲法審査会の所管とすることを前提に、その是非や具体的制度設計についての検討条項を附則に明記する案を党内で議論し、結論を得たい旨の御発言がございました。今回の与党修正案は、民主党が検討している、今最後に申し上げた案の一つを採用したものでございます。

 以上です。

園田(康)議員 民主党案につきまして、一般的国民投票を検討している現段階での話、それから、何らかの方法というものはどういったものであるのかということと、そして、与党の修正案についてどのような感想を持っているかという点でございました。

 私ども、当初お答えをさせていただいております一般的国民投票、これは立憲主義にかかわる問題について国会がみずからの意思に基づいて諮問的に国民の意思を問い、その主権者の意思を十分に考慮しながら権限を行使するということは、これは憲法に何ら反することではないというふうに考えております。むしろその趣旨にかなっている。

 昨日の地方公聴会でも御指摘がありましたし、させていただきましたが、諸外国、イタリアですとかスペインですとか、そういったところでも当然のごとく一般的国民投票制度というものはそれぞれの国の特性に応じて法体系に組み入れている、当初から憲法改正とともに一般的な国民投票も組み入れているという例は少なくございません。

 もっとも、前国会において、一般的国民投票制度におけるその効果が、諮問的なものであるとしても事実上の拘束力はあり得るということは確かに否定はできません、そして、議会制民主主義の根幹にかかわる問題ではないかとの指摘を受けたのも事実でございます。

 そこで、先ほど質疑者から御指摘がありましたとおり、十二月の十四日、枝野議員からも表明をさせていただいておりますけれども、三つの案、すなわち、A案といたしまして一般的国民投票の対象を何らかの方法で限定する、B案といたしまして一般的国民投票の対象を憲法関連問題に限定する、これはいわば憲法改正にかかわる予備的国民投票という形に近づくのかなというふうに思っております。そして、C案といたしましては、具体的な制度設計について本法成立後速やかに憲法審査会で検討するといった修正を検討する旨を申し上げた次第でございます。

 そこで、何らかの方法で限定をするといいますのは、何の規制もかけずに聞きたいことを国民の御意見としてそのまま国民投票にかけるということではありませんで、法律案を何らかの形で審議する、その法律案に限定をして、関連する案文で国民の意見をお伺いするというような国民投票という形で何らかの方法というものは考えられるのではないかなというふうに思っているわけでありますが、現在もこの三つの案について真摯な検討をさせていただいておりますし、また、今度の四月の五日には中央公聴会も行われるわけでありますので、そういった方々の御意見を幅広くちょうだいしながら、最終的に私どもも考えてまいりたいというふうに思っております。

 ところで、今回の与党修正案についてでありますけれども、先ほど提案者からもお話がありましたが、この附則の検討規定についての評価でございます。

 これは、与党における検討につきましては私どもも敬意を表させていただきたいというふうに思っておりますし、これまでの議論の結果がこういう形であらわれているのかなというふうに思っております。しかしながら、今私が申し上げましたC案に似ているようで、実は本質的に違うところ、認識の差がまだあるのではないかというふうに考えております。

 それは、私どもが本法成立後に速やかに憲法審査会で検討すると言っておりますのは、その具体的な制度設計についてでありまして、この限定された形であったとしても、一般的国民投票制度を本法に盛り込むこと自体の是非まで先送りをしようというものではございません。すなわち、先ほどの御説明でいきますと、その一般的国民投票制度については、この法律公布後速やかにその意義及び必要性の有無まで検討するというふうにこの附則の中で書かれているわけでありまして、ここまで先送りをするものではないということを申し上げておきたいというふうに思っております。

 いずれにいたしましても、私ども現時点で考えているC案と申しますのは、まず、本法の本則において一般的国民投票制度を創設すること、そして第二点、この制度の施行、適用については今後憲法審査会においてその具体的な制度設計を待って行うものとすることといったイメージがC案として考えているところでございます。

 以上でございます。

近藤(基)委員 次に、公務員の国民投票運動について与党の提出者にお伺いをいたします。

 公務員には、国家公務員法及びこれに基づく人事院規則あるいは地方公務員法などによって政治活動が制限されています。今回提出された修正案では、この公務員の政治活動の制限規定と公務員の国民投票運動はどのように整理されたのでしょうか、お聞かせいただきたいと思います。

船田委員 お答えいたします。

 今御指摘の国家公務員あるいは地方公務員の政治的行為の制限の規定でございますが、現状では、国家公務員は、人事院規則によりまして、選挙、国民審査の投票、地方公共団体の議会の解散または公務員の解職の投票において投票するようにまたはしないように勧誘運動をすること、こういったものを限定列挙した上でこれを禁止し、刑事罰でもって対処するということであります。

 しかし、その国家公務員の中で、いわゆる署名運動、示威運動や政党機関紙の配布などと異なりまして、政治的目的を持たない賛否の勧誘運動について限定して見た場合には、このような運動は列挙された行為には直接該当しないために国家公務員によるこのような運動は禁止されない、このようにみなされます。

 一方、地方公務員の場合には、地方公務員法三十六条において、公の選挙または投票において投票をするようにまたはしないように勧誘運動をすることを禁止される政治的行為として挙げております。ここで言う公の投票というのは、本来、住民投票などを想定したものですけれども、しかし、たまたま国民投票も入るというふうに解釈をされてしまいます。そうなると、署名運動などを伴わない単なる賛否の勧誘運動についても、同法において禁止される政治的行為に当たってしまう。もちろん、懲戒処分の対象となるわけでございますが、このように同じ行為を国家公務員がやる場合と地方公務員がやる場合で差ができてしまう、ずれが生じてしまう、こういうことになります。

 そこで、私どもは、このばらつきを是正するには、政治的行為の制限規定をこの国民投票運動に限っては適用除外とすべきではないか、このような考えを一時我々としては考えた次第でございます。しかしながら、すべて適用除外といたしますと、先ほど申し上げましたようなビラの配布であるとか機関紙であるとか、あるいはその他のさまざまな政治活動ということについて自由になってしまう。果たしてこれでいいんだろうか。やはり公務員は公務員としての職務の公正さということを考えた場合には、一定の制限も必要である、また自由度も必要であるということで、そこを丁寧に仕分けしていこう、こういうふうな考えに至ったわけでございます。

 ただ、具体的に何が自由であるか、何が制限される行為であるかということについてはなお検討が必要であるということで、現段階におきましてはこの適用除外というのは採用しないことといたしましたが、少なくとも普通常識的に考えられる賛否の勧誘あるいは意思の表現、表示、こういったことについて制限されないように国家公務員法、地方公務員法を改正していこう、見直していこう、そのための検討をこれからやっていきましょうということを附則に入れて、この三年間の間に鋭意検討するべきではないか、このように整理をした次第でございます。

 以上です。

近藤(基)委員 次に、委員会審議でも特に議論になったマスコミに対する規制の件でありますけれども、与党の修正案には、一般放送事業者等は「国民投票に関する放送については、放送法第三条の二第一項の規定の趣旨に留意するものとする。」という条項があります。この趣旨はどのようなものであるのか、特に、昨年の十二月の段階で表明されていた料金その他の広告条件の賛否平等取り扱いに関する配慮規定とはどのように違うのか、お聞かせいただきたいと思います。

船田委員 今の御指摘でありますが、確かに、昨年の十二月の時点で、料金その他の広告条件の賛否平等の取り扱いを求める配慮規定を入れたい、こう申し上げましたが、これはあくまで有料の広告放送、いわゆるスポットCMというものにおいてのみ適用されるもの、このようなことで整理をしようとしたわけでございます。

 しかし、その後、あるいはその以前から、参考人質疑、あるいはさまざまな御議論をいただきまして、放送、雑誌、新聞業界からいろいろな御意見がありました。また、放送あるいは出版に関するさまざまな議論をいただいたわけでございますが、特に活字媒体ということについては、これは国民が目で何回でも見直しができるあるいは考慮することができる。しかしながら、放送の場合には、これは一過性といいましょうか、もちろん何回か同じ内容が繰り返されるものもございますけれども、どちらかというと人々の感情あるいはさまざまな印象というものに訴えかける、そういった部分が非常に多いということを感じてきたわけでございます。

 そこで、一部の賛否平等の取り扱いということではなくて、放送すべてにおいて、現在、法としてあります放送法の第三条の二第一項の規定、主にこれは政治的な公平さを保てというものが中心にございます、そのほかにも虚偽報道はいけませんとか、あるいは賛否両論ある場合には多様な角度からさまざまな意見をなるべく紹介するようにといった規定がありますので、この規定については、国民投票運動あるいは憲法の改正案の問題についてもできるだけ幅広く、そして抽象的にこれを遵守していただく、放送法の趣旨に留意をしていただくということが全体として必要ではないか、このような結論に達した次第でございまして、放送法第三条の二第一項の規定を遵守するように、あるいはその三条の二第一項の規定に十分留意をするようにというような条文をつけさせていただくということになりました。

 しかしながら、これは決してメディアに対する新たな規制ではありません。現在かかっている放送法の規定をそのままもう一度書かせていただいた、そのことに注意をしてください、こういう程度の意味でございますので、その点は御理解いただきたいと思います。

近藤(基)委員 今回の与党の修正案というのは、併合修正という大変珍しい方式をとっているわけでありますが、併合修正とはどのようなものなのか、そしてなぜそのような方式をおとりになったのか、お聞かせください。

保岡委員 まず、議案に対する修正でございますけれども、衆議院の先例集において、議案の修正範囲というものは非常に広範になっておりまして、字句を修正したり議案の内容を変更するものはもとより、議案を併合したり題名を変更するなど、それらはすべて修正の範囲内であるということになっております。

 そして、お尋ねの併合修正とは、共通事項のある複数の議案を修正の対象として、それらを一本化した上で、異なっている部分についてはいずれかの議案の内容を採択するなどとする修正の方法とされているところでございます。

 なお、こういった修正の方法は他にも幾つか例がございます。

 今回の修正案は、これまで与党案、民主党案を一括議題として繰り広げられてきた衆議院憲法調査特別委員会での丁寧な議論を踏まえたものでございます。また、憲法改正国民投票法案は、本体である憲法改正と同様に、できるだけ幅広い会派の合意を得て成立させるのが望ましいことは、これまで与野党問わずに共通の認識として委員会でもたびたび表明されてきたところでございます。今回の併合修正という形式は、このような修正案の内容及び趣旨を反映するにふさわしい修正案の形式として採用したものでございます。

 すなわち、昨年五月に提出された与党案原案、民主党原案を修正の対象として、さらに昨年十二月十四日に表明された両案提出者を代表した修正発言をそのまま取り込んでいる本修正案は、与党案の修正でも民主党案の修正案でもなく、その両案を基本としつつ、それぞれのよいところを採用して一本化するというものであって、この併合修正案の形式は、まさに名は体をあらわす、この委員会の運営の精神、この法案の審議の基本的精神を踏まえた修正案だと考えております。

近藤(基)委員 今、与党の側から併合修正案、併合修正というものに関して御答弁があったわけでありますけれども、与党の修正案は、提出者の言をかりれば、民主党の意見を柔軟に取り入れたものであるということでありますが、私は、できる限り早く与党案と民主党案が一本化した形で、併合修正ではなく共同修正案という形で提出していただきたいと思っております。

 長い間時間をかけて民主党案と与党案を審議してきたわけでありますので、併合修正という形にまでこぎつけたということでありますから、ここは一歩踏み出して共同修正という形で出せればいいなと思っておりますけれども、この点について民主党のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

枝野議員 私からお答えを申し上げます。

 与党の皆さんが、この間の委員会、小委員会、公聴会等の議論を踏まえて今回修正案を出されたということに対しては敬意を表したいと思いますし、一定の評価を申し上げたいというふうに思っております。

 ただ、残念ながら、今回、きょう趣旨説明されました修正案を拝見いたしますと、何点か重要なところで違っているところと詰め切れていないところがあります。

 趣旨説明にもございましたが、大変重要な公務員の政治活動について、結局この重要な部分の結論が出ていないということになっております。それから、与党案の中では結論は出ておりますが、この間、公聴会などでも、あるいはその他外側からもいろいろと意見が出ておりますが、テレビスポットCMの規制が二週間でも足りないのではないかというかなり強い意見も、実はこれは当初想定をしていなかった声でありますが、世の中的にも大変たくさん出てきております。それから、我々が大変こだわっておりますいわゆる一般的国民投票についても先送りをしています。こうしたことについてきちっと議論をして成案を得られれば、それが一番望ましいことであるというふうに思っております。

近藤(基)委員 ありがとうございました。時間が来ましたので、終わります。

中山委員長 以上で近藤基彦君の質疑は終わりました。

 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。

 最初に、法律の呼称について保岡委員にちょっと抗議を申し上げたいと思うのでありますけれども、保岡委員は先ほど併合修正案の趣旨説明の中で、「国民投票法案については、」ということで、この法案を国民投票法案というふうに呼んでおられるわけでありますけれども、本来、この特別委員会にかかっている法案、特に与党提案のものは日本国憲法の改正手続に関する法律案ということであって、どこをどう読んでもそういう呼称をこの委員会で使うということは適切ではないと私は思います。私は、あえて憲法改正手続法案というふうに呼ぶべきであるということを指摘させていただきたいと思います。

 というのも、皆さんも既にいろいろ指摘されておられますけれども、マスコミの世論調査なんかで、例えば国民投票法案については賛成だ、反対だ、あるいは必要だ、必要でないというような世論調査をするときに、よく必要だということが六割とか七割あるじゃないかというような指摘をされる方がおられるんですけれども、その設問を見ると、国民投票の手続を定める法律をつくることは必要だと思いますかとか、国民投票法案を今の国会で成立させるという安倍首相の考え方に賛成ですかと、あえて国民投票法案あるいは国民投票という言葉を前面に押し立てて物事が考えられているというところに何か保岡委員の作為的なものを感じますので、まずその点をちょっと抗議させていただきたいというふうに思います。

 それで、まず私のこの憲法改正手続法案についての基本的な認識を明らかにした上で、質問に入りたいと思います。

 私自身は、まさにこの憲法改正手続法というのは憲法の附属法的なものであって、国民主権が制度的に直接行使できる貴重な手段であるという意味においてこの手続法というものがあるということは、これは否定してはならない話であるというふうに思っています。しかし、国民主権が本当に直接行使できるのであれば、それができるだけ透明性高く、公平、中立に行使できるというためには、冷静に議論できるときにできる限りしっかりとした議論をしていくというところが私は前提だというふうに思います。

 そういう意味では、現在、安倍首相が憲法改正というものを支持率確保とか選挙のための手段として主張し始めているという状況では、冷静に議論できるような状況になっていないというふうに思います。また、国民に関しては、マスコミなどで先ほど言いましたように国民投票あるいは国民投票法案というふうによく利用されていることから、法案の本質を十分に理解しているかどうか、私はちょっと疑わしいのではないかというふうに思いますし、この憲法改正手続法案の内容についても、ほとんどまだよく知っておられないというのが実情ではないかというふうに思います。

 以上の状況を踏まえましたら、ここは採決を急ぐというよりも、むしろ一たん仕切り直しをして審議することが必要であるということをまずもって申し上げたいと思います。

 そこで質問に入ります。

 ちょっと用意されていなかった質問を聞きますので、これはきょうじゃなくて結構でございますから、後日確認をさせていただきたいんですけれども、今、近藤委員の方からなぜ併合修正案なのかということで質問があって、ちょっと答弁があったように思いますけれども、保岡委員がみずからこの憲法改正手続法案の提案者となり、さらにみずからその修正案を提出するというのは、これは私は論理矛盾だというふうに思います。まず、みずから出した法案を取り下げた上で、直したものを提案してくるというのが本来あるべき姿であるというふうに思います。そういう意味では、この手続について瑕疵がないのかどうか、この点を後日しっかりと詰めた上で説明をしていただきたい。きょうは質問通告をしていませんので、その点については後日確認をさせていただきたいというふうに思います。

 それでは、通告をした中身に従って質問に入ります。

 まず、国民投票の対象ということでありますけれども、今回の与党修正案では、民主党がもともとの法案で主張していた国政における重要な問題に係る案件の国民投票というものは採用されておらず、いわゆる一般的国民投票制度、まあ、民主党が主張していたようなものでありますけれども、これは事実上葬り去られたと言わざるを得ないではないかというふうに思います。

 もともと民主党がこういう一般的な国民投票制度というものを提案したにはいろいろな背景があるんだろうと思いますけれども、私自身は、巨大与党がいる中で一般的国民投票制度をつくりましょうと言ってもなかなか乗ってくれない、そういう状況の中であれば、憲法改正手続法の中で国民投票というものがつくられるのであれば、この機会に非常にかたい与党に少しでも動いてもらいたいというような気持ちも込めて提案されたんだろうというふうに思いますけれども、結局は事実上葬り去られたというふうに言わざるを得ないと思いますけれども、そういう理解でよろしいんでしょうか。これは与党の方に質問でございます。

保岡委員 結論からいえば、決して葬り去られたものではございません。

 しかしながら、先ほどるる御説明申し上げましたとおり、諮問的な一般的国民投票とはいえ、事実上拘束力を持つ。かつ、日本国憲法は議会制民主主義を採用して、国会を唯一の立法機関であると規定して、直接民主主義の制度はそれを補完するものとして限定して、先ほども例に挙げた三つを対象に認めている。こういったことを考えると、一般的国民投票について、一般化した法制度というものは、これは違憲の疑いもあるから、そのあたりも十分議論してみなければ、軽々に結論を出すべきものではないということも考えているところではありますけれども、先ほど申し上げたとおり、この法案が施行されるときに動き出す憲法審査会において、速やかに、いわゆる憲法に関する予備的国民投票法制というものについて、その意義や是非、その他制度設計についても必要とあらば検討していく。そして、その中で、さらに一般的国民投票法制の違憲性があるかどうか、その他いろいろ論議を多少広めて、民主党が御提案になっているようなことについて深く論議をしていくことについてはやぶさかじゃない。

 ただ、違憲の疑いがあるかもしれない一般的国民投票法制を検討条項にまで加えることはできないという判断で、九十六条周辺の憲法に関する予備的国民投票制度にとりあえず限定して、速やかな検討を進めることを附則に規定させていただいた次第でございます。

平岡委員 今の保岡委員の答弁は、事実上の拘束力があるようなものをつくるのは憲法違反の疑いがある、要約すればそういうことですけれども、それは今回附則で盛り込まれた、憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度だって同じですよね。これを実行すればそれなりに事実上の拘束力は生じてきて、例えばそれに反するような改正提案を出すということはできなくなってしまうという意味においては全く同じだと思いますね。そういう意味では、私は、理由にはなっていないと。つまり、もう一般的国民投票制度についてはやらないということを私は宣言したのと同じだというふうに思います。まあ、そこは意見ですから。

 それで、今回の附則につけられた予備的な国民投票制度でありますけれども、これについていつまでにという点について言えば、この法律の公布後速やかにという位置づけになっておりますけれども、一体いつまでを考えているのかという点を明確にしていきたいと思うんです。

 私は、これは、憲法審査会ができて、そういう憲法改正の問題を審議するのであれば、まずこういう国民投票をやって、その状況を踏まえてから審査に入るというのが本来あるべき姿なのかなというふうに思うわけですね。そうだとするならば、問題の性格からして、憲法審査会で審査が開始されるまでの間に必要な措置がとられるべきであるというのが筋であるというふうに思いますけれども、どのようにお考えになりますでしょうか。

保岡委員 憲法改正を要する問題、憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度、附則に規定したこの関係のことについては、どのような意義があるか、また、どれほど必要性があるか、どんなケースが想定されるか、そういったそもそも論から、制度を設けた場合に、前にも申し上げましたように、さらにそれを明確に対象を限定する、あるいはどうするか、どのような発議の形式をとるか、議決要件をどうしたらいいのかなど、具体的な制度設計についてはまだ本法によって創設される憲法審査会においてさまざまな角度から慎重に検討が必要だという認識で、附則に規定したとおりの修正を行ったんです。

 しかし、できるだけ早期に検討を加えて必要な措置を講ずることができればそれにこしたことはないと思いますから、検討を急ぐのはやぶさかじゃありませんし、鋭意検討をしたいと思いますが、いつまでに検討を終えるべきかということを今の段階で確定的に、その内容も検討していない、先ほど決めなきゃならない具体的な制度設計まで得るために必要ないろいろな検討がたくさんありますので、それを今ここで時期を申し上げることは適当じゃない、そう思います。

平岡委員 憲法改正に重大な影響を与えるかもしれない予備的な国民投票制度がいつまでにできるかよくわからない、とにかく、とりあえずこの憲法改正手続法案を成立させていただいて、後から考えますというような位置づけというのは、私はおかしいというふうに抗議を申し上げておきたいと思います。

 それから、次の質問は投票権者の範囲であります。

 今回の与党修正案の附則の第三条を見ると、法制上の措置がどこまで講じられなければならないのかが明確ではない、こういうふうに思います。もう既に御存じのところでありますけれども、附則の第三条に書いてあることは「年齢満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、」と。「等」という言葉が入っていますし、検討を加えられるべき法律も、「公職選挙法、」「民法その他の法令の規定について」というふうに書いてあります。一体どこまで検討しなければ必要な法制上の措置をとらなければかが明確にされていないという法律は、これは法律としての拘束力として非常に不明確である。このような明確でないものについて、私はこれは承認することはできない。これについてはどこまでなのか、明確にさせていただきたいというふうに思います。

船田委員 お答えいたします。

 投票年齢につきまして、今の公職選挙法は二十であります。それを国民投票法におきましては本則十八ということにいたしますと同時に、諸外国でも、二つの投票の制度といいましょうか、これはいずれも年齢は一緒であります。また、それはほとんどの国においていずれも十八ということになっておりますから、そういう措置をとるというのが当然であると思っております。

 そこで、これから十八にしていくときに、関連法令である公職選挙法、それから民法が非常に大きなものでございますが、これの改正を行い、そしてできるだけ十八になるように早急にこの検討を進めるということになります。

 その二つの法律以外はどうかということでございますが、関連する法律というのは現在二十八程度あるというふうに言われております。もちろん、そのすべてを十八にしなければいかぬのだということを言っているつもりはございません、検討はいたしますけれども、検討した結果、二十のままでいいという法律もあるでしょうし、やはり十八にしなければだめだという法律もあると思います。その仕分け作業というのはこの三年間の間に鋭意行って、必要な改正を行うという趣旨でございます。

 では、いつまでにその改正が行われるか、またいつまでに施行されるかという関係でございますが、この三年間の間は、やはり必要な法案については改正をするというところまでがせいぜいだろうと思っております。その施行あるいは適用ということについて三年以内というのは、これは大変厳しい話である。むしろ、その法律の趣旨あるいは法律の適用範囲、そういうものからして施行期日あるいは適用範囲、適用時期というのが、周知期間の問題等もあります、あるいはまた準備期間というものもありますので、改正から施行されるまでの期間というのはそれぞれ法律によって違ってくる。だから、三年以内にすべて施行というのは適当ではない、このように考えております。

 そういったことも前提にして、少なくとも公職選挙法、民法の改正はきちんとしなければいけない。と同時に、特に民法に関係するものとしては少年法や刑法があると思いますけれども、特に民法と関連するところでやはり十八にしなければ整合性が合わないということについては、これはできるだけ改正を試み、改正の努力をする。そして、最終的には国会が、ほかの法律の年齢の上における整備状況が問題ないということがわかれば、附則三条の規定が解除されまして国民投票が十八から行われる、このようになるわけでございまして、そのストッパーを取るか取らないかということは、また我々が有権的に、主体的に解釈をしていく問題である、こう考えております。

平岡委員 今の船田委員の説明を聞いていたら、私は、選挙権年齢が十八になればそれで出発できるということで、こんなにたくさんその他の法令の規定とか何たらかんたらというようなことを述べているのは、まさにこれはやらないということを宣言しているのじゃないかというふうに思いますね。

 さらに、選挙権年齢とか成年年齢なんかについて言えば、何もこの国民投票における十八歳の投票権の年齢と同じでなければならないという必然性は私はないと思うんですね。それぞれの目的に応じてそういうものがあればいいというふうに思います。それを考えると、私は、憲法改正の時点で、二十歳以上の投票権の方が有利であると仮に発議者が考える場合には、改正は行われない可能性もあるというふうに思います。

 例えば改正の内容が、憲法九条の改正が行われることによって、徴兵制への道が開かれる危険性が出てくるような憲法改正が行われるとしたら、多分、徴兵制にとられるかもしれない十八歳の人たちは反対に回る可能性が高い。そうだとしたら、これは十八歳にしないでやはり二十以上にしておこうぜ、その方がこれは賛成多数で承認されるかもしれない、こういう判断の余地が残っているものだというふうに思います。そういう意味では、十八歳以上投票権は事実上葬り去られたというふうに言わざるを得ないということを指摘しておきたいと思います。

 時間がないので、次の質問をさせていただきたいと思います。過半数の意義についてであります。

 私は、前回質問した際も、憲法九十六条の規定ぶりを素直に読めば、過半数というのはその投票の過半数ということでありますから、投票総数の過半数になるというふうに素直に読めば考えられると思いますし、日本国憲法が硬性憲法というふうに言われている性格からしても、この過半数の分母というのは、投票総数、いろいろな投票の仕方があるかもしれませんから、棄権票というのは除いた上でということをこの前も言いましたけれども、投票総数であるべきだというふうに思います。これはなぜ有効投票数の過半数というふうにしなければいけないのか、この点についてお答え願いたい。

船田委員 過半数としてはいろいろな説があって、有効投票総数の過半数、投票総数の過半数、また場合によっては有権者総数の過半数、いろいろあると思っています。

 その最後はともかくとしまして、有効投票の過半数か投票総数の過半数かという議論でございますが、確かに、投票所に足を運んで何らかの意思表示をした、それを丁寧に我々はカウントしていかなければいけない、こういう大原則があると思います。ただ、民主党の原案にあるように、白票も有効と認め、これを反対票と同じ母数に入れる、母数に入れるということは結果として反対票と同じ、こういうカウントをするということは、これは白票を投じてしまった方の民意をかなりゆがめて判断をするということになりかねない、私はこう思っております。もしその懸念が排除されないということであれば、私は、白票というのは無効にするのが当然である、このように考えました。

 ただ、これまでのこの委員会での議論の中でできるだけ無効票は少なくしていこうじゃないか、また、国民の意思表示が非常に多様であるように多様な国民の意思表示を丁寧に酌み取る方法も必要であろう、こういうことで私どもが提案をいたしました、賛成、反対両方の文字を最初から投票用紙に印刷しておくこととして、投票人は、賛成の場合には賛成にマル、反対の場合には反対にマル、あるいは、消極的な賛成の方は反対にバツでも結構です、消極的な反対の方は賛成にバツでも結構ですということで、さまざまな民意がある、それをできるだけ広く酌み取ろうということで白票を少なくするように私たちは工夫をさせていただいたというふうに思っております。

 こういうことの結果として、もう既に、実は、衆議院選挙を引き合いに出して申しわけないんですが、前回の総選挙における無効投票率というのは、小選挙区制では二・七六%、比例代表では三・四〇%でありますので……(平岡委員「ちょっと、私質問してないので、それはいいです。そんなことは聞いてないので、いいです」と呼ぶ)

 説明の一部でございます。投票総数と有効投票総数は限りなく近づける、私はそう思っておりますので、これは平岡委員の御趣旨と変わらない結果が生じると私は思っております。

平岡委員 先ほど言いましたように、やはり憲法に書かれていることをできるだけ忠実に考えた方がいいと私は思うんですね。というのは、もし投票をやって、限界的な事例のときにこの投票が無効か有効か争いになった場合、今回、無効の事由についてはこのことが入っていませんけれども、例えばこの憲法の解釈では、投票総数の過半数であるというふうに考える人が無効訴訟を起こしてくる可能性だってあるわけですね。そういうときには、法的安定性から見たときには、できるだけここはかたい選択をしておく、できるだけ憲法の条文に近い規定にしておく必要があると私は思うんですね。そういう意味からしても、私は、ここは有効投票数の過半数じゃなくて投票総数の過半数であるということが憲法違反のおそれがない、ひいては投票が無効にされるということがない、そういう事態になるというふうに思いますので、これはやはり私はおかしいというふうに思います。

 それで、ついでに、無効の話が出ましたから、せんだって、私、無効の話を聞かせていただいてどうも議論がかみ合わないなというふうに思っていたので、ちょっと念のため聞いておこうと思うんです。

 一部無効というのは、これは全部無効じゃなくて地域的に一部の地域での無効という位置づけをされているようでありますけれども、それを前提に考えた場合は、国民投票の一部無効の場合に再投票が行われる際に、その投票に係る規制とか手続、例えば広告放送制限だとか国民投票運動の禁止、あるいは広報協議会における広報、それからそれらについて規制はだれが対象になるのか。その投票地域にいる人だけが対象になるのであって、それ以外の人はならないのか。そういうことについて、法律を見たら何も規定していないということですね。私は、これでは仮に無効になったときにはちゃんとした投票ができないというふうに思いますね。だから、そういう意味では、まだまだこれはちゃんとした詰めが行われていない法律案だというふうに思いますけれども、いかがですか。

保岡委員 国民投票の一部無効の場合に再投票が行われる際のことについて御質問がありましたが、広報協議会による広報をどうするかということが問題になりますが、これらについては一部無効の地理的範囲の広さ、狭さ、例えば東京の千代田区のみが無効とされたのか、ほぼ全部、全国的に広がる無効に近いのか、投票から一部無効が確定するまでの期間、要するに、当初の国民投票と近接した時期に行われるのか、もう相当期間経過後に無効判決が出て行われるのかなどによっていろいろ異なる判断があり得ると思うんですね。

 したがって、あらかじめ一義的に法律で定めるのではなくて、例えば広報協議会は、従前の広報協議会がそのまま存続中でございますから、国会法百二条の十一で決める。投票期日は国会が定めるということは百三十五条の三項に決まっておりますし、公報発行の有無は両院議長が決定で定める、これは十七条に書いてあります。その他は、現時点で想定できないような何かがあれば、細目は政令に委任されている。これは百四十五条にそれがありますし、それに基づいて国会は行政監督権を通じてコントロールするということを考えております。

 それから、先生が先ほどおっしゃった、法案の提出者が修正案の提出者になる例はないようなお話でしたが、これは例は少なくないんですね。後刻、例を含めてお答えをしたいと思います。

 それから、先ほどの投票年齢について、もう状況によっては二十歳でそのまま置くつもりじゃないかというような趣旨のお話でございますが、附則の第三条は、この法律が施行されるまでの間に年齢満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう必要な措置を講ずるものとする、こういうことになっておりまして、国はこういう義務を負ったということでこういう法の制度を整える責任がある、決して有名無実になる性質のものではない、そう思います。

中山委員長 この際、委員長として申し上げておきます。

 予定の質疑時間が終了しておりますので、結論をお急ぎくださいますようお願いいたします。

平岡委員 はい。長くなっているのは私の責任じゃなくて答弁者の責任ですから、私に注意されるよりは向こうを注意していただきたいですね。

 それで、今、保岡委員が言われた話を前提に附則の第三条を書いたら、違う附則ができますよ。これまでの経過措置について船田委員とも議論しましたけれども、十八歳以上というのが本則で決められたら経過措置で定めるのは何なのか。三年後には十八歳となるから、その間に必要な措置の法律を講じなさいと書くのが経過措置であって、そうでなければ今の保岡委員の説明は間違った説明ですね。そのことを指摘して、私の質問を終わります。

中山委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口善徳でございます。早速質問させていただきたいと思います。

 百六十四回国会において、与党、民主党、それぞれから法案が提出され、本委員会において精力的に議論が行われてきたわけであります。そして、一昨日、併合修正案という形で、与党案と民主党案を尊重した形の修正案が出されたわけでございます。

 そこで、具体的にお伺いをしてまいりたいと思います。

 三月二十二日に、江橋公述人が、「私は、憲法改正に際しては、早い段階で、改憲作業に入ることの是非と、その場合にどの部分をどのような方向で改正するべきなのか、一度は国民の意向を聞くべきであろうと考えております。こうした最初の段階の手続を省略して、国民の意向も聞かずに議会内で改正の作業を始め、改正案ができて初めて国民の同意を求めるというのは、いかにも一方的で不十分ですし、その結果、国民の意向との間にそごが生じ、肝心の国民投票でせっかくの改正案が否決される危険性も高くなります。」こういう公述をされております。私は、この御意見については、非常にこれを尊重すべきである、こう考えておるわけであります。

 まず、国民投票の対象についてお伺いをしたいと思うんです。

 今、この趣旨説明のところで、附則十二条の解釈として、憲法問題予備的国民投票とでも言い得る法制度を中心とした一般的国民投票制度については、この法律の公布後速やかに検討を行って、その検討条項を附則に置くこととする、こういうことでございます。

 そこで、この憲法問題予備的国民投票というものは江橋公述人が公述されたものと同じものなのか、それから、この憲法問題予備的国民投票とでも言い得る法制度を中心としたということでありますが、中心というのは周辺もあるわけですね、この中心部分と周辺部分についてお伺いをしたいと思います。

赤松(正)委員 今大口委員が御指摘をされました国民投票の対象についてでありますけれども、先ほど御指摘になったように、先般の中央公聴会で法政大学の江橋崇公述人が指摘をされたこと、あるいはまた、以前、私もこの委員会におきましてそういう可能性について言及をいたしたことがございます。

 民主党の皆さんの方から提起されているいわゆる国政上の重要課題についての国民投票というのは、別途検討しなければいけない課題である、こんなふうに思いますけれども、個別の憲法改正の対象を何にするのか、国民の意図はどの辺にあるのかということについては、この法律の中に定められております憲法審査会において、私どもがしっかりとこれから現行憲法のありようについてあらゆる角度から議論をしていくという状況と、並行した形で予備的に国民の意思を同時に確かめる、そういう意味合いで諮問的な予備的な国民投票というものが必要ではないか、そんなふうな考えから今の附則の中に置かれているということでございます。

 ただ、先ほど平岡委員に対する答弁の中でありましたように、幾つかの点で具体的な制度設計をする上において重要な課題があるというふうに思います。なかなかそう簡単にはいかないところがあるので、その辺のことについて、先ほど四点ほどありました、意義あるいは必要性、あるいはどういうものを対象にするのか、また、発議の形式をどのようにするのか、議決要件をどうするのか、そういった具体的な制度設計については相当に突っ込んで検討しなくちゃいけないということがありますので、その是非も含めて憲法審査会の場においてしっかりと議論をし、詰めていく必要がある、こういうふうな考えでございます。

大口委員 次に、投票権年齢についてお伺いをしたいと思います。

 この修正案附則三条一項に、この法律が施行されるまでの間に、これは三年ですね、公職選挙法、民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとすると規定されているわけです。ここで必要な法制上の措置を講ずるということについて今御説明もあったわけでございますけれども、公職選挙法、民法、その他二十八本の法令がある。そこで、この三年間の間に、どれとどの法については法改正までやる、法改正プラス施行までやる、どの法律については法改正までで施行までは間に合わない、こういうふうに最低限どういうものについて必要な法制上の措置を講ずるべきなのか、これについて明確にお答え願いたいと思います。

船田委員 お答えいたします。

 先ほども平岡委員にお答えしたところでございますが、また、今、大口委員おっしゃるように、公選法、民法、これは二十の年齢に非常に密接に関連をした法令であります。この国民投票法案が十八にする大前提として、少なくともこの二つは改正をしなければいけないと思っております。ただ、改正をして公布をいたします、それから施行するまでの間、いわゆる準備期間なり周知期間というのがあるわけですが、それはそれぞれ法令の種類、内容によっていろいろ変わり得るわけであります。

 したがって、私どもは、その二つの法律についても、あるいはそれ以外の法律についても、改正をまず三年以内にきちんと行う、必要なものはきちんと行う、しかし、その施行については三年から後になっても一定期間は許されてしかるべきであろうと。改正は少なくとも必要なものは全部やる、こういう考え方でございます。

 ただ、どの法律を改正すべきかどうかということについては、今明確に申し上げるわけにはいきませんで、これからのまさに検討課題であるということでございます。ただ、この二つの法律を含めて改正をした上で、さらに関連する法律の改正をある程度必要なものは行いまして、そして、附則の第三条に国民投票法のいわゆるストッパーがついておりますので、これを削除するかしないかということは、そのときに改めて判断をする、こういうことになろうかと思っております。

 ただ、私、個人的に考えておりますのは、この三年間の間にできれば少なくとも公選法につきましては施行されることが望ましい、このように考えております。

 なお、仮に三年という期限ぎりぎりに法改正がなされたとしても、その数カ月後には施行適用されるものだ、このように承知をしております。

大口委員 次に、公務員等、教育者の地位利用による国民投票運動の禁止規定についてお伺いをいたします。

 本委員会では、与党案原案について地位利用という概念があいまいではないかという指摘がございました。これを受けて、修正案の百三条で「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、」こういう限定が加えられたわけであります。

 この修正した条文は、公職選挙法における地位利用による選挙運動の禁止規定と意味内容は同じであると理解してよろしいのか、これがまず一点。

 それから、与党原案では地位利用禁止規定に違反した場合罰則が設けられていましたが、百三条に違反しても罰則規定は存在しません。違反行為に対してどのような制裁が予定されているのでしょうか。

 それから、本委員会において公務員職権濫用罪で対応するという議論もあったと記憶しております、私も議論いたしました。国民投票の場面ではどのような行為があれば公務員職権濫用罪で対処することになるのでございましょうか、お答え願いたいと思います。

船田委員 地位利用につきまして、私どもも、原案において罰則つきということで考えておりました。しかしながら、この委員会のこれまでのさまざまな議論を通じて、そこまでというのは、国民の権利であります国民投票運動をできる限り自由に闊達に行うという趣旨から、それはやはり少し行き過ぎだろうというふうに考えが至ることとなりました。

 そこで、今御指摘のように二つ修正をさせていただきました。

 一つは、対象となる行為が明確になりますように地位利用の概念を明確にする。すなわち、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力または便益を利用すること、こういうふうに限定をいたしました。この内容につきましては、公職選挙法における地位利用とその意味内容は同じでございますけれども、修正案におきましては、その地位利用の意味内容をさらに具体化したもの、このようにお考えいただきたいと思っております。

 なお、この罰則がないかわりと言ってはなんですが、罰則はございませんけれども、しかしながら、やはり公務員の場合には、特に悪質な行為ということになった場合には、信用失墜行為等の公務員法制上の懲戒処分、これは行政処分でございますが、そういうものによる制裁は当然あり得るというふうに思っております。

 なお、公務員の職権濫用罪、これは刑事罰でございますけれども、これにつきましては、一律にどれがそれに当たるかということをお答えすることはやや困難であります。個別具体的なケースに応じて判断すべきものと思いますが、公務員としての地位を特に悪意を持って利用する、こういったものに限られていくのではないかというふうに思っております。

 以上です。

大口委員 次に、国民投票公報のあり方についてお伺いをいたします。

 昨年十二月十四日の本委員会において、民主党提出者から、政党等による新聞広告については、国民投票公報があるので必要がないのではないか、こういう見解が示されました。先週行われた中央公聴会においては、浅野大三郎公述人が、投票すべき候補者を選ぶための情報の場合と制度の改正または創設が適当かどうかを判断するための情報の場合とでは、それぞれ何がより適した情報媒体であるかは違い得るであろう、国民投票の場合は読み返しができる活字による情報提供の大切さがより高まるのではないか、こういう意見が述べられたわけでございますが、国会に議席を有する政党等の行う新聞広告の一部公営制度について、現在、検討状況はどうなっているのか、民主党提案者にお伺いしたいと思います。

鈴木(克)議員 では、私の方から御答弁させていただきたいと思います。

 基本的には、昨年の十二月十四日の時点と大きくは変わっておらないということであります。今御発言がありましたように、新聞については国民投票公報で代替できる、基本的にはそのような考え方をいたしております。その分、例えばテレビとかラジオといった無料枠に充てた方が国民の皆さんへの周知徹底という意味では効率的ではないのかな、こんなことを考えておりまして、新聞等における無料枠の設定は削除していくという方向で今私どもは考えております。

 以上であります。

大口委員 次に、これは修正案に関する論点ではございませんが、個別発議の原則についてお伺いします。

 法案には、「憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。」という規定がございますが、この点に関連して、本委員会において、憲法九条の改正と環境権の創設を一括して国民投票に付すのは明らかに好ましくないという提出者からの御説明がありました。この立場に立てば、憲法の全面改正はできなくなるのではないか、こういうふうに考えております。

 そこで確認の意味で、内容において関連する事項ごとをどのように判断するのか、これは赤松委員と民主党の提出者にお伺いしたいと思います。

赤松(正)委員 今、個別発議の原則ということでお尋ねがございました。

 まさに、先ほども申し上げましたけれども、今の現行憲法をどうするのかという本格的な議論は憲法審査会の場で行われる、こんなふうに理解をいたしておりまして、その中でさまざまな議論が展開されるわけであろうと思うんですけれども、私どもは、いろいろな考えが国会議員の皆さんの中にあって、この委員会を構成しておられる皆さんもそれぞれ考えが違うわけですけれども、先ほど御提起になったような、例えば環境権といったものを新しく設けるといった場合に、それを憲法九条と一緒にして問う、こういうことはあり得ないというふうに思います。個別の案件ごとに聞くというのが原則であります。

 同時に関連するものが例えば一つ二つあるという場合には、それをくくってやる場合もないわけじゃないだろうと思いますけれども、原則的には個別に発議をしていくというふうなことであるのではないか、こんなふうに私は考えているところでございます。

 以上です。

鈴木(克)議員 個別発議の原則について私の方からも御答弁させていただきます。

 基本的には、今赤松委員から御答弁があったこととよく似ておるわけでありますが、国家の基本ルールの変更ということでありますので、まさに民意を正確に反映させなきゃならないということであります。したがって、今大口委員がおっしゃったように、九条の改正と環境権を一緒にということは非常に大きな混乱を招くということになるわけでありまして、決して好ましいものではない、このように考えております。したがって、それはきちっと分けていくということを明記していきたいというふうに思っています。

 ただ、問題は、内容がどういうふうにまとまりのある事項として判断をするかというところが一番問題でございまして、いずれにいたしましても、矛盾のない憲法体系を構築するという要請から、しっかりと内容ごとにまとめていく、そして別個に上程をするという形を考えていくべきだ、このように考えております。

 いずれにいたしましても、具体的な憲法改正の内容の理解に密接に関係するものでありまして、この手続法の議論に当たっては、これ以上この場で言及することは差し控えさせていただきたい、このように思っております。

大口委員 次に、施行期日についてお伺いします。

 与党案原案では施行期日が公布から二年を経過した日というふうにされていたわけですが、修正案で、附則一条で公布から三年を経過した日と修正されたわけでございます。この理由について、これも赤松委員にお伺いしたいと思います。

赤松(正)委員 当初二年ということであったときの経過というか、第一義的には、この二年につきましては、本法を施行するための十分な準備期間の必要性ということから、戦後六十年余りを経て初めて行われることであるということで、その内容の重要性をかんがみて、国民への周知や実施のための準備期間、そういった観点から二年というふうなことが主軸になって決められたというふうに私は理解しております。

 同時に、当然、それにあわせて、先ほど来申し上げております憲法審査会においてしっかりとした議論をしていかなくちゃいけない。例えば憲法の具体的な条項につきまして、衆議院憲法調査会の最終報告書において改正すべきだとする意見が多数であったというふうな具体的な項目が幾つかあるわけですけれども、そういった論点を基本にして、さらに実際改正するに値するのか、それとも法律の対応で済むのかどうか、その辺の詰めをしっかりしていくという観点から、じっくりとした議論をする必要がある。そういった意味で、二年では少し短過ぎる、もう少し時間をということで三年にしたということが二つ目の理由であろうと思います。

 さらにつけ加えますと、先ほど来、幾つか附則に掲げている部分があります、そういったものの検討、あるいはまた、十八歳に投票権年齢を引き下げるといったことに伴うさまざまな関連法案の準備問題、こういったことも含めてより慎重にきちっとした議論をする、その期間として三年、こんなふうに御理解いただきたいと思います。

大口委員 最後に、民主党の枝野先生にお伺いをしたいと思います。

 枝野議員は、昨年十二月の十四日の本委員会において、憲法記念日には国民投票法制が国会で成立していることを期待している、こういうふうに発言をされました。それは、やはり枝野議員がこの憲法特別委員会において並々ならぬ精力を傾けられ、そして、与党、民主党が本当に合意を目指していく思いがこういう形で発言に出たのではないかなと思います。そして、そのお気持ちがお変わりでないのかどうか、それが一つ。

 それから、昨日、与党が我が党案を丸のみしない場合どうするか一切議論していない、我が党は独裁政党ではない、党のしかるべき議論の上で判断する、当然民主党さんは独裁政党ではないと私も信じております、そういう点で民主党の今後のこの議論についてもお伺いしたいと思います。

枝野議員 まず第一のお尋ねでございますが、私は、本来、六十年前の五月三日に国民投票法制ができていたことが望ましかったし、そうあるべきだったという立場であります。ただ、その後つくられてこなかった経緯については、いろいろな歴史的な事情があって、当時の社会情勢等からありますので、私は、立法不作為という立場には立ちません、それには一定の合理性があったというふうに思っています。

 そして、昨年十二月の状況では、私は、十分にことしの五月三日までに、冷静な場における広範な合意が可能な状況であるというふうに思っておりましたので、五月三日までに成立させることが望ましいし期待をすると申し上げました。望ましいとは思いますが、残念ながら、せっかく、少なくともこの十年ぐらいの間に、改憲、護憲に偏らない中立公正な国民投票法制をつくり得るような環境がつくられてきていたにもかかわらず、どなたかがたった一人でそれをぶち壊しにした、そういう状況であるということを指摘しておきたいというふうに思います。

 後者につきましては、私どもの案をいずれどこかで、もう一度中央公聴会などありますし、それを踏まえて議論をして、いずれどこかで民主党として修正案を出させていただくつもりでおりまして、それについて公明党さんを含め与党の皆さんにも賛成をしていただけると思っております。

大口委員 以上で質問を終わります。

中山委員長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょう、修正案を出したからすぐ審議せよという形で、地方公聴会の翌日に無理に委員会を設定して、しかも趣旨説明と、質疑をそのままその後やるというやり方については、私は、憲法という最高法規にかかわる法案審議にはとりわけあってはならないことだということを強く感じております。

 それで、先ほど来、自民党の趣旨説明を含めて、自民党の側からは、もう大詰めである、そして何か締めくくりに近づいたかのようなお話がありますけれども、委員会でもたくさんの論点、問題点がありますし、特に国民の中ではこれからだと強く感じているということを申し上げたいと思うんです。

 そこでまず、これまでの公聴会の公述人や、それから昨日の地方公聴会の意見陳述者の意見を、提出者はどう受けとめていらっしゃるかについて伺いたいと思います。

 三月二十二日の公聴会では、六人の公述人のうち少なくとも五人の方が、また、昨日の地方公聴会では、新潟では四人中三人、そして大阪でも四人中三人で、またもう一人の方も拙速はだめだということを言われましたし、慎重にやるべきだ、セレモニーに終わらせるなということが共通して出されました。中には、一度廃案にすることも含む根本的な検討が必要である、一から出直しをという御意見もありました。

 さらに、今、地方議会でも、改憲手続法案に対して慎重審議、廃案を求める意見書が採択され始めております。私が承知しているところでも、高知県の須崎市では改憲に直結する改憲手続法案を廃案にすることを求める意見書が、同じくまた南国市では慎重審議を求める意見書が、さらに、高知県でいいますとそれ以外にも四つの自治体の議会、また岡山県でも二つの議会で同様の意見書が採択をされております。

 地方公聴会の委員派遣の報告についてはこの後あるということなので改めてその中身を踏まえて審議する機会があると思いますが、いずれにしても、こうした国民の中、あるいは地方公共団体の議会などから出ている意見について、法案提出者で直接地方に行かれたという点でいいますと、船田委員、赤松委員、それから枝野委員はどのように受けとめていらっしゃるか、そして、今後の法案審議にどう反映させるおつもりかを伺いたいと思います。

船田委員 お答えいたします。

 これまでも笠井委員と一緒に中央公聴会あるいは地方公聴会へ出かけてまいりました。特に、きのうも新潟、大阪ということで大変ハードなスケジュールでありましたけれども、それぞれの地域におきまして大変有意義なお話をいただきまして、大変考えるところが多かったと思っております。

 もちろん、成立を急ぐ必要はないという御意見も一方でありながら、国民投票法案、国民投票を行う手続というものについての必要性は、言うまでもなく国民の最も基本的な憲法をどうするかということの主権者としての大きな手段であるということで、これを整えるということについては、その必要性を多くの方々が認められているということも確認をいたしました。

 また、成立を急ぐ必要はないという御意見もありましたけれども、一方では、これから先、この憲法の中身の議論が始まる、あるいは各政党においてそれぞれの考えが明確に示される、そういう以前の、今であればこそ冷静に公正なルールを決めるということができるのではないか、だから、今現在、それを行うことは妥当である、こういった意見も強く出されていたところでございます。

 賛否両論といいますか、急げ、急がないという議論はそれぞれありますけれども、これはやはり、私は、決して急ぎはしませんけれども、今がそれを冷静に判断し、冷静に決めていく好機ではないか、こう理解をしたわけであります。

 問題点が多いという指摘もございますけれども、私たちは、そういった問題点の御指摘一つ一つに耳を傾けながら、できる限り修正を加えながら、その問題点を少なくしていくという努力を今日まで続けてまいりました。過半数の意義、それから無効票を少なくするためにどういう工夫が必要であるか、あるいは、できる限り国民運動が自由闊達に行われるために、運動の規制、メディア規制等も含めてできるだけ少なくしよう、こういった点についても努力を重ねて修正案にしっかり盛り込んできたつもりでございますので、そういったさまざまな御意見というものを十分に拝聴しながら今日に至っていると思っております。

赤松(正)委員 今、笠井委員から公聴会等についてどういうふうに受けとめたのか、それから今後どうするのか、二つの御質問があったと思います。

 まず、受けとめ方の方ですけれども、私は、今の船田委員とも関連するんですけれども、適切かどうか、サイレントマジョリティーという部分があって、要するに、憲法が今あって、その附属法たる国民投票、憲法改正の手続法がないということに関して、これはぜひ用意すべきだという多数の意見があるというふうに私は思っております。

 そして、現実に反対する人が公聴会にも大勢いたじゃないか、こういう御指摘については、いささか憲法の、とりわけ九条についての、これが先ほど直結するというお話がありましたけれども、ちょっと過剰ではないのかなと。

 私どもは、御承知のように、憲法九条については変えるべきではないという強い考え方を持っておりまして、その政党が与党の一角を形成していて、そしてこれからの憲法審査会、たびたび繰り返しますけれども、憲法審査会の場でしっかりと、改めて、初めてと言っていいぐらいにきちっと改正を前提にした議論をしよう、必要がないという結論ももちろんある、こういうことをやろうとしているときに、いささか絡め過ぎの御意見というか、そういう部分が結構見えたなということを感想として持っております。

 それから、これからどうするのかということにつきましては、先ほど枝野委員の方から非常に重要な提起があったと思います。私ども公明党としましては、何としてでも民主党と一緒に法案を出したいという強い願いを持って今日までやってまいりました。私はまだあきらめておりませんので、枝野さんの方から出てくる案についてしっかりと見ていきたい、そんなふうに思っているということを申し上げさせていただいて終わります。

枝野議員 まず、地方公聴会の感想ですが、全体として受けとめましたのは、安倍晋三君のせいで日本の憲法議論は十五年ぐらい後退したなという印象であります。つまり、本来、憲法の議論というのは九条だけではない。九条についてもいろいろな方向での改正の方向性がある。国民投票法制については、改憲をするとかしないとかということと全く関係なく、客観的、中立的につくらなければならない。こういう方向で、憲法調査会発足以来、七、八年ぐらい積み重ねてきて、ようやくそういう方向での認識が広まりつつあった中を、ことしの一月以降の安倍晋三君の発言がぶち壊しにしてしまった。十五年ぐらい日本の憲法の議論は後退をしたというふうに印象として受けとめています。

 それから、具体的な中身については、一つは、やはり具体的にここでの議論が十分に国民の皆さんに周知されていないなと。わあ、ひどいなと思ったのは、新潟でも大阪でも、与党と私どもが修正の協議をしていると勘違いをしておられまして、協議は一切していない。皆さん一緒にここでやっていることが修正協議だとすれば修正協議なのかもしれませんが、この委員会とか小委員会での議論しかしておりません。にもかかわらず、修正協議をしていると思い込んで、それを前提に発言をされている方が両方でいらっしゃった。全くここでの議論が伝わっていないな、こういう状況では拙速という声が出るのも当然であるなということ。

 それからもう一つは、最低投票率をつくるべきだという声がたくさんありましたが、ここでの議論が十分に伝わっていれば、そういう意見があっても結構ですが、それはちょっと無理な主張じゃないかということは十分説得できているつもりでおりますが、そこのところが十分周知されていないなということ。

 それからもう一つは、やはりこれは我々自身がこれから詰めなきゃいけない。つまり、先ほど申し上げましたテレビのスポットCMについて、表現の自由という観点からできるだけさわらない方がいいのか、それとも、資金力の多寡で影響力が大きいのでスポットCMは全面禁止も含めて考えた方がいいのか。これは公述人の、しかもそれぞれの憲法についての立場の違いを超えて多様な意見があるということでもありますので、これは相当研究し、議論をしなければいけないのではないか、こういう印象を持ちました。

笠井委員 今、それぞれの感想もありましたけれども、やはり、出されていましたように、中身をめぐってもいろいろな意見が出されたということが一つ。

 それから、法案そのものの必要性は別としても、それ自身が大きな議論があるわけですが、同時に、今もありましたが、多くの国民に知らされていない、国民は知らないという状況が厳然としてある。中央公聴会でもそういう御意見が与党推薦の公述人からも複数出たわけであります。というもとで、拙速ではいけないという共通した意見が出されているというのが当然のことだと私は思いますし、これについてはさらに必要な意見も聞く、そして、地方も二カ所にとどまらず、きちっとやはり国民の中で議論をするということで徹底してやる必要がある、これは強く求めておきたいと思います。

 同時に、過剰な動きというようなことで、九条に絡めて御意見がありましたが、絡めているのは国民の側じゃなくて、まさに首相自身が絡めてきているという状況で、その一体のものとして今出してきているということがいよいよはっきりしているんじゃないかと思うんです。

 そこで、改めて、今どういう政治状況のもとでこの審議がされているのかという認識を伺いたいんです。

 二十二日の公聴会も昨日もそうですが、多くの意見陳述者、公述人から指摘をされましたけれども、安倍首相自身が特にことしに入って、みずからの内閣で改憲をすることを目指すと言い、参議院選挙で争点にする、そのためにまずは手続法の成立だというふうに言ったわけですけれども、そうした発言に対して、やはり危惧している、抗議すべきだということが賛成の方からも出されました。また、憲法九十九条、九十六条に反する違憲発言だという指摘もありました。さらには、自民党新憲法草案の実現に沿うものだという意見もありましたし、これは大阪でも、賛成の立場の方も含めて、憲法を政争の具にしているという指摘もありました。

 私は、これに加えて、従軍慰安婦の問題に関する安倍首相の発言がアジアだけじゃなくて米国においても厳しい批判にさらされる中で、やはり侵略戦争に反省のない勢力が九条を変えて海外で戦争できる国にする、そのために手続法が位置づけられているということがもはや常識になってきているということだと思うんです。きのうの公聴会でも改めて感じました。

 そこで、法案提出者は、これまで、改憲するかしないかにかかわらず公正中立なルールをつくるんだということを趣旨説明以来言われてきたわけでありますが、そういう理由が今なお国民の理解を得られるものと考えているのか、そこはぜひ聞きたいところです。

 手続法案は、安倍内閣が目指す改憲のために必要な法制としてもう位置づけられていることは明らかではないか。先ほど、法案審議についてはもう五十時間やってきたということを修正の趣旨説明で言われましたけれども、私は、その趣旨説明の前提というのは、これは改憲と一体じゃないんです、公正中立なルールをつくるんです、そういう趣旨で説明をされて出したわけですから、明らかに今の状況は、総理そして自民党総裁自身がこれは改憲のために成立させてほしいと言っているわけで、趣旨説明とは違う状況になっているもとで今審議が行われているんですから、本来、五十時間じゃなくてゼロからカウントし直すべきだ、大詰めどころかこれからだというふうに思うんです。あるいは、もう撤回する、改めてもう一回考え直すというのが当然自民党としてはやるべきことだと思うんですが。

 まず、与党の提出者、代表して自民党で結構ですが、そうしたことについて、引き続き趣旨説明の趣旨は変わっていないというお考えなのかどうか、今の状況についてどうなのか、伺いたいと思います。

葉梨委員 趣旨説明の趣旨は変わっておりません。私どもの出している法律案というのは、特定の改憲のためのルールでもございませんし、また護憲のためのルールでもなく、これはあくまで公正中立なものであるというふうに認識をしております。

 先ほど、枝野委員から、安倍晋三君ということで、安倍総理ではなくてわざわざ安倍晋三君というような発言がございましたけれども、安倍さんも、総理としてということではなくて、一人の国民としてあるいは一人の国会議員として発言をされているというふうに認識をしていますし、自民党の総裁としてこの国民投票法案の成立には御支援をいただいているというふうに認識をしておりますが、あくまで、私どもの出している法律案は、特定の改憲のためのルールでも特定の護憲のためのルールでもなく、公正中立なものであるというふうに認識をしております。

笠井委員 今ありましたが、国民はだれもそんな説明は納得しないですよ。内閣総理大臣で自民党総裁がはっきりと公式の場で言っているわけですよ、これは改憲をやる、そのためのもので、ぜひ今国会で成立させる、そして参議院選挙で争点にして、その後議論、改憲を進めていくというわけでしょう。新憲法草案をベースにして、他党とも中身を詰めていきたいとまで答えているわけですよ。だから、そういうことを言われても全くお話にならない。国民だれもそんなことで、あれは個人で全く別です、応援している一個人にすぎませんなんという話にならないと思うんですよ。

 小澤公述人も言われましたけれども、改憲の中身の問題と手続法を制定する問題が関連していることは国民にとっては常識になっているということでありますけれども、法案提出者はこうした国民あるいは市民の皆さんの常識の外でこの法案の論議を行っているというふうに言わざるを得ないというふうに思います。

 関連して民主党の提出者に伺いますけれども、民主党はそんなつもりで法案をつくろうというふうに思っていないんだと、先ほど安倍晋三君というお話もありましたが。安倍首相自身の一連の発言を見れば、やはり、安倍総理、首相は、自身の内閣が目指す改憲のために手続法の整備を位置づけている、そう見ざるを得ないと思うんですけれども、いかがでしょうか。

枝野議員 葉梨委員はよく理解をされていて、半分だけ安倍晋三君と、総理と申し上げなかったのは、彼が使い分けていることはまやかしだという趣旨で私は総理と申し上げなかったのですが。

 ちょっと余計なことを申し上げますと、一般的に、自由民主党総裁と内閣総理大臣が同一人物である場合でも、国会においては、自由民主党総裁としての立場でいろいろなことをお尋ねしてもお答えにならないのですよ。例えば、党内のいろいろな汚職問題とか、国会運営についてとか、総理としてじゃなくて自民党総裁としてお答えくださいと我々がお尋ねをしても、内閣総理大臣だからそれは答えない、行政府の立場だから答えないと言っておきながら、この点だけは少なくとも何度か答えて、ようやくまずいと思って最近やめているようですが、少なくとも、何度もそういう立場で答えたという事実は残っているということであります。少なくとも、自由民主党の総裁が、あるいは内閣総理大臣が安倍晋三君であるという状況の中では、自民党の皆さんが今のような御説明をされても説得力は持たないだろうと思います。

 ただし、私たちは全く別の視点で、全く別の立ち位置でこの法案を提出させていただいておりますので、自民党がどういう立場であるのかにかかわりなく民主党はそういう立場でおります。いずれにしても、この法律の施行は民主党の原案は二年ですが三年にしようと思っていまして、三年以内には総選挙がございますので、そのときには安倍晋三君は総理大臣ではないようにするのが我々の責任だと思っていますので、この法律施行のときにはそういったよこしまな考えの方は総理大臣ではないという前提で我が党の法案を提出しております。我が党の法案を可決していただくということであれば今のような問題は生じないということだと思います。

笠井委員 今の点に一言言えば、別の視点と前提、目標を民主党が入れるのは御自由なんですけれども、民主党提出者が幾ら改憲とは無関係の公正中立なルールと言われても、やはり安倍政権下でつくられる手続法は安倍内閣が目指す改憲のための手続法ですし、そういう制度をつくることによって、それをどの時点で、じゃ、民主党になっているかどうかということ自体も、目指すのは結構ですが、制度としてはそういうことにつながっていくということは明確だと私は思うんです。

 もう一点、修正案作成の経過に関連して伺いたいんですが、これは与党の側で結構ですが、昨日の公聴会でもいろいろ御意見がありました。先ほど趣旨説明の中で、修正案のほとんどは委員会の議論から導き出された形で言われましたが、きのうの地方公聴会でも、陳述者の中で、やはり昨年十二月十四日に出された修正案の方向とは異なる内容がこの数日の間に決められたということで驚きの声がありました。

 特に、公務員法における政治活動の制限規定を適用除外にすると言っていたものを、適用除外にしないと言ったり、それから、修正案の第百四条、国民投票に関する放送についての留意という、これは原案にも、また昨年十二月十四日に示された修正の方向の中にもなかった規定が突然盛り込まれたりもしているわけです。

 与党案の提出者、またこの委員会の中でも、法案の論議というのはすべてオープンにして、特にこの委員会の場でやっていくんだということを繰り返し言ってこられました。そして、公聴会で出された意見を反映させるというふうに言われてきたわけですけれども、今指摘した点などについては、この委員会で議論したり、あるいは公聴会などで出された意見なのかどうか。そういうものではないというふうに私は思うのですけれども、そういうことも含めて、修正したことの経過について、これは与党の修正提出者で結構ですが、どなたかに伺いたいと思います。

船田委員 与党の修正案に至る経緯ということでありますが、昨年の五月に与党案それから民主党案がそれぞれ出されまして、それから本会議、そして委員会、ある程度の時間議論をいたしました。もちろん与野党間協議というのはありませんで、この場でいろいろと議論をし、そしてお互いによい部分を取り入れながら、それぞれ修正すべき方向というのを模索してきたと思っております。

 今お話をいただいたメディア規制の部分、ちょっと言葉は悪いんですけれどもあえて言うとメディア規制の部分、それから公務員法制と国民投票運動の関係、そういうところなどについても既に委員会の中でさまざまな議論があったわけでございます。

 確かに、十二月十四日時点での修正の方向について私がここで説明を申し上げましたときには、放送法の適用の点、それから公務員の政治的行為の制限規定の適用除外、そのことも申し上げてきたわけでありますが、若干、その後の議論というものがございました。

 確かにこれは、我が党内における、あるいは公明党さんとの調整という中で出てきた新たな問題でございます。このことについては確かに党内でも相当いろいろな角度から議論がありまして、そのことを私どもは十分に議論をし、そして公明党ときちんと協議をした上で、この修正案に反映をさせるということといたしました。

 この点については、確かにこの委員会でかつては出ておりましたけれども、最近になってはそういう議論がなかった点で、多少唐突という感が否めないかもしれませんが、私どもとしては、今国会が始まってからしばらくこの委員会における議論がなされなかった。いろいろな理由がありますけれども、なされなかったために、本当は議論していただきたい部分でありましたけれども、それを我が党内あるいは自公の中で議論したという形で今日まで来ていた、そういうふうに御理解をいただきたいと思っております。決して、密室であるとか、あるいは今まで全く考えていなかったことを新たに考えるというものでは全くございません。

笠井委員 今、唐突という点では正直にお認めになって、この委員会や公聴会の中で必ずしも出たものでなくて、意見を反映させるものではないということの答弁があったと思うんです。

 内容の点で一点だけ伺っておきたいんですが、修正案の中で、ない問題といいますか、国民投票における最低投票率の問題でありますけれども、二十二日の公聴会でも、また昨日の地方公聴会でも、最低投票率の設定、あるいは有権者の過半数が投票に参加するような仕組みが必要ということが強調されておりまして、そういう御意見がありました。

 私は、それを拒否するということは理論的にも成り立たないし、また、やはりそういうことをきちっとやるということが国民の側からも、あるいは、そもそも硬性憲法という点からも要請されているというふうに感じるんですけれども、にもかかわらず、修正案ではそのことについては一顧だにされていないというのはどういうわけか。はなから検討する気がないのかどうか、その辺はいかがなのか、伺いたいと思います。

葉梨委員 昨日の新潟公聴会、私は出席しておらなかったんですけれども、新潟大学の田村助教授、さらには、大阪公聴会においては今井参考人が最低投票率を設けるべきではないと力説されていたというような御報告を受けております。

 この件については、既にこの委員会でも種々議論がされておりますけれども、せんだっての中央公聴会におきましても、公述人の方から、我が国の憲法の制定過程において、すべてを国民投票にかからしめる形のものが急に出てきたというような話がございました。

 我が国の憲法というのは、当然、基本的人権に属するものもあれば、統治機構に属するものもあるということで、種々いろいろなものをカバーしております。その中で改正を行っていくということになると、すべての案件について一定の投票率を確保できるのかどうかというような問題もまた生じてこようかと思います。

 しかしながら、大きな問題についてはやはり投票率というのを上げる努力というのはしなければならないし、笠井委員とも一緒にスペインにも行かせていただきましたが、スペインの王位継承権をめぐる国民投票、憲法改正について向こうの議員さんたちが、投票率をぜひとも高いレベルにしていかないと王制に対する正統性というのはなくなっちゃうなというようなことをお話しされていたことも御記憶になっているかと思います。

 やはり、我々としては、投票率を上げる努力ということはしていかなければならないと思いますけれども、さはさりながら、制度としてワークする制度ということを考えていきますと、今回は最低投票率を設けないという形にしています。

笠井委員 時間になりましたので一言だけ。

 制度としてワークするということでは、低い投票率でも成立できるようにという本音なのかなと私は思いまして、結局、国民のための投票手続法案といいながら、やはり少数の国民の賛成でも改憲案が承認されかねないという国民の中から出ている疑問やそういう懸念には一向に答えようとしていない、そこにやはり提出者の姿勢の根本的なところがあらわれているというふうに私は感じます。

 私、今、法案と修正案についてはまだ何ページも聞きたいことがありますが、きょうは時間になりましたから、また引き続き質疑をさせていただくということで、きょうは終わります。

中山委員長 次に、辻元清美君。

辻元委員 社民党の辻元清美です。

 この間、公聴会があった話は先ほどから出ておりますけれども、きのうの地方公聴会、新潟と大阪に私も参りました。本当に憲法問題、要するに憲法とは何かということも含めまして、しっかり、どっしりとして考え、そして論じられる方が各地にいらっしゃるということを痛感して帰ってまいりました。

 特に、憲法そのものとは一体何なのかと。全員がおっしゃったのは、権力を縛るものであるという土台の部分でしっかり共通認識を持っていないとその後の議論が進まないというように、この公聴会でも認識をいたしました。

 さて、そこでお伺いしたいんですが、きのうも公聴会に船田提出者も一緒に行っていらっしゃいましたけれども、先ほどからの議論の中で、船田提出者の御意見を伺いたいなと思います。

 どこへ行っても、やはり公述人から安倍総理の発言のことが出ました。特に、ことしの初めに総理が、自分の内閣の間に改憲を目指すとか、今国会で国民投票法案の成立を期すという、かなり強いトーンの発言をされたわけですね。その後、ちょっとまずいかなということで期待するとかに変えていらっしゃるようなんですけれども、年の初めの会見などでかなり強いトーンでおっしゃったわけで、この発言は消えないと思います。

 船田提出者にお伺いしたいんですけれども、私はやはり、これは何人かの公述人の方も指摘されたように立法府への介入じゃないかというように思います。ですから、この法案に賛成、反対を問わず、護憲の立場、改憲の立場を問わず、国会でやっていることに口出しするなというのが本委員会の立場ではないかと思うんですが、船田提出者はいかがでしょうか。

船田委員 御指名いただきまして、ありがとうございます。

 先ほど葉梨提出者からも話をいただきましたけれども、私も同じ考えであります。やはり、安倍総理の御発言というのは、安倍総理の政治家としての見識を述べられたというふうに思っております。もちろん、そのことが国会に影響ないということは、それはないと思いますけれども、しかし、私どもはそういうスタンスでこの国民投票法案の議論をしているとは全く思っておりません。

 これまで本当に、五年以上にわたりまして相当、憲法調査会のときから議論をし、そして、調査会の結論におきましても、憲法改正の法手続を整えるということについては多数の意見を占めた、こういう一昨年の報告もしたことであります。そういうことにのっとってこの特別委員会ができ、そして昨年、法案をそれぞれ提出して、真摯に今日まで議論してきております。

 そのことに対して、それを急げとかおくらせろとかそういう議論は、もちろんいろいろなところではありますけれども、私たちはそれにこだわらずに、やはりよりよい制度の確立を目指して今日までやっているということでありますので、私は、そういう観点で、安倍総理が御発言になったとしても、我々はそれに動かされないで今日まで議論していることは申し上げたい、これからもそうだというふうにお誓い申し上げたいと思います。

 それから、安倍総理が御発言されたからといっても、あるいは憲法の改正をするというためといっても、実は、公正なルールをつくることによって、憲法改正、どういう点をどう改正するか、あるいは改正しないかということについて、国民の皆さんが主権者として判断をする、その大事な道具をつくるわけであります。

 ですから、国民の皆さんが、これはだめだ、この改正はだめだとすれば、それは反対をすればいいわけであります。これはいいなと思えば、それは賛成票を投じればよい。すべては国民の皆さんにゆだねられる、そういう投票の結果になる、こう思っておりますので、憲法を改正するために、あるいは我々自民党の憲法改正草案を実現させるためにこれをやっているということでは決してない。

 三分の二という条項もあります。発議要件として三分の二がございますから、少なくとも現時点においては、自民党だけが原案をつくり、そしてそれを通すということには決してならない、そういう前提で私どもは議論をしております。

 以上です。

辻元委員 今の御発言の中に、急げとかおくらせろという、今のところはそういう声がありますがと御発言されたんですが、どこからあるんですか。

船田委員 それはさまざまな議論でございますし、公聴会、中央公聴会でも地方公聴会でも、急ぐべきである、急ぐべきではない、両方の議論があるというふうに思っております。

辻元委員 きのうの地方公聴会でこういう発言がありました。立法過程は政治そのものであると。それから、特に、憲法を扱う懸案、今回の法案は特に慎重であらねばならぬという趣旨の御発言がたくさんあったと思うんですね。

 私はかばうことはないと思いますよ、船田さん。本音で答弁された方がいいと思うんです。そうじゃないと、国会って一体何なんだということになりますよ。だって、一般の方々も、公述人、専門家の方もそうですけれども、いろいろなところで、安倍総理が介入しているじゃないかと、ちまたでも言われているわけですね。

 ですから、私は、提出者として堂々と、これは国会の議員立法なんだから総理大臣が一々口出ししてくるのはおかしいとおっしゃったらどうですか。それの方が重みがあります。

船田委員 総理大臣として、あるいは、ある有力な政治家として介入しているかしていないかということは、主観の問題でありまして、私は少なくともそうは思っておりません。冷静に議論をしながら、この法案をできるだけよいものにしようということで議論をしているだけの話です。

辻元委員 同じことを民主党の提出者にお伺いしたいと思いますけれども、民主党の方はそういう態度である、立法過程は政治そのものであると申し上げましたけれども、やはり今自民党の提出者も似たり寄ったりというか、同じような答弁で、私はさらに、この国民投票法案、ヨーロッパなどにも行きまして調査しましたけれども、議会内のコンセンサス、それから国民とのコンセンサス、これが一番大事なのが憲法にまつわる議論の進め方であるということを嫌というほど私たちは聞いてきたと思うんですけれども、提出者もこのような姿勢であるということをどのようにお考えでしょうか。

枝野議員 多分、船田さんも本音では思っていらっしゃると思います、本当に迷惑な話だなと。本当に時代を十五年さかのぼらせてしまって、まあ、それは歴史的にはいい部分もあったと思います、全面否定するつもりはありませんが、戦後の日本はいわば護憲と改憲という私からすれば神学論争でずっとやってきたものが、冷戦構造の崩壊と五五年体制の崩壊で、ようやくこの十五年ぐらい、その護憲、改憲の二元論から脱却をしたはずであったにもかかわらず、安倍さんの登場によって、また護憲、改憲の二元論で政治の対立構造を意図的につくり出して、しかも、行政府の長である安倍さんの発言の内容は、実は十五年おくれではなくて百五十年おくれで、立憲主義そのものについての理解が欠けている。

 つまり、立憲主義というのは主権者が公権力を憲法というルールを通じて縛るというのが立憲主義でありまして、明治維新のそれこそ山口県の総理の先輩方が、明治の初期において、近代化に当たってまずは立憲主義をちゃんとやらなきゃならないということで、議会をつくり、明治憲法をつくった。その立憲主義という、主権者が公権力を縛るルールで、我々国会議員も当然でありますが、その縛られる最も対象であるのが内閣総理大臣、行政府の長であるという根本原理をわきまえない発言をされて百五十年前に戻ってしまった。政治論的には十五年、政治思想的には百五十年戻してしまった。

 その結果として、ポスト冷戦、ポスト五五年体制で、イデオロギーにこだわらずに冷静な議論をしようとやってきた人間は、多分、中山委員長を初めとして自民党の提出者の皆さんも苦慮をされているんだろうなと同情を申し上げます。

 ただ、現場の皆さんがそういう努力をされてきたとしても、残念ながら、そういう方が党首をされている党の提案に我々が乗るということは、それこそ立法過程というのは政治過程でありますから、なかなか困難というか、我々の立ち位置が誤解をされることになり、結果的に、護憲、改憲の二元論から脱却をしつつあった我が国の政治を、時代を後ろに戻させることに協力することになってしまいますので、それはやはり避けなければいけないなというふうに思っております。

辻元委員 この間までは、両案の提出者は割と、仲よくとは言いませんけれども、息を合わせて答弁をしていたわけですね。

 しかし、今このような状況になっていて、私は、今後、憲法の議論はさまざまな場所でされると思いますけれども、やはり一番根底のコンセンサス、賛成も反対も、それから意見が違う人たちもコンセンサスを持って話をしていくというところ、それも、議会内のコンセンサスではなく、内閣からえらい号令がかかるようなことで壊されるということは、やはりその過程そのものが、憲法を扱うという土俵そのものが壊れている。

 公述人の方々も、そこのところを酌み取って、だから今急いではいけないと、この間から来ていただいた方が口をそろえるように、四人並んだら四人ともそうおっしゃった公聴会もあったわけですね。ここを私はしっかりと受けとめるべきだと思います。

 ですから、最初に申し上げたいのは、慌てた採決とか、それから、この選挙前のどたばたとしたときに強行に進めることだけはくれぐれもやめた方がいい。今後、憲法というものをどう取り扱っていくかということに大きくかかわりますので、船田委員にもう一回お伺いしますけれども、そのようなことがないようにしていただきたいと思います。

船田委員 今、辻元委員のお話の中で、内閣の号令によって動かされているという御発言でございましたが、それは事実誤認でございまして、私は、少なくとも我々提出者は、この議会制民主主義の中で、しっかりと議会の責任として、この憲法改正の、あるいは改正をしないための国民投票法案というのを整備することがやはり国会の責務である、こういう使命感に燃えて今日までやってきております。内閣が何と言おうと、それは我々には関係ないことでありまして、そのことについては、枝野さんを初めとする民主党との信頼関係、同じ土俵の上に立って今でもやっている、このように言っても言い過ぎではないと思います。

辻元委員 先ほどからプロセスとかコンセンサスという言葉を申し上げている意味は、与党提出者の皆さんもよくおわかりだと思うんですね。ほかの法案と違いまして憲法を扱っているということです。

 では、ちょっと角度を変えて見解をお聞きしたいんですけれども、与党提案者の、発議は国会のみができる、要するに与党案によると憲法改正原案は国会のみに与えられているという解釈でよろしいですか。

保岡委員 そのとおりです。

辻元委員 ということは、きのう大阪の公聴会でも、内閣に憲法改正原案の提出権はないというのが学界でも今や通説になっているという御発言がありましたけれども、そのとおりでよろしいですか。

保岡委員 今度出しました併合修正案では、国会のみが発議されることになっていますが、講学上というか、内閣が憲法改正原案を国会に出せるかどうかという点については、これは別途、内閣が検討して国会の判断を仰ぐべきことであると思いますが、発議そのものは国会だけができる、こういうことだと思います。

辻元委員 そうしたら、もう一回確認しますけれども、本案は国会のみの提出権ですね。まず提出して、発議ですから。

保岡委員 この法律では、国会が発議する手続を定めたものでございます。

辻元委員 この後、内閣の提出権を認めるという予定はないですね。

保岡委員 それは内閣の判断だと思います。

辻元委員 提出者としては、国会のみに認めるということで、内閣が判断して出してきたら、この国民投票法案では国会のみの提出ということになっているわけですから、国民投票法案とそごが出るんじゃないですか。

保岡委員 この併合修正案は、別に、国会に限定して提案権を認める趣旨ではありません。国会が提案して、審議して、議決して、発議するということの手続を定めているだけで、内閣の提出権まで排除する趣旨ではありません。

 ただ、内閣が将来原案の提出権を持つかどうかについては、将来内閣が判断して、国会で審議をして、我々がそこで主体性を持って、今のこの提案している法案が成立した後の状況を踏まえて判断すべきことだと思います。

辻元委員 そうしますと、ちょっとお聞かせいただきたいんですが、今の修正案、今与党が出していらっしゃる法案は、国会に提出権があるということを予定して仕組みをつくっているわけですね。

 そうすると、内閣の提出権は内閣が判断するということであれば、内閣が提出してきたら、今の制度設計は何か問題があるんですか。このままでいいんですか。

保岡委員 これは国会自身が原案を出して発議する手続を定めておりまして、内閣が提出するケースを排除している趣旨は別にないと思いますね。

 そういう点で、純粋に国会の手続として議論して、それで制度として完成した設計をしてきたつもりで、内閣の原案提出権とは特に関係ないと思います。

辻元委員 内閣はこう言っているわけですね。この間、私、予算委員会で塩崎官房長官とこの点で議論をしました。内閣に憲法の改正の提出権があるというふうに政府は考えていますというのが答弁なんです。

 内閣は自分たちに提出権はあると言っているわけですね。そうしたら、内閣に提出権があるからといって提出してきたら、この中に国会法の一部改正もありますけれども、どこで審査するんですか。

保岡委員 今の我々が審議いただいている法案のままでは、内閣に提出権をここで認めていませんから、内閣の提出権はないわけですね。ですから、内閣が提出できる法案を内閣が用意して我々の国会にその法案の是非を仰ぐという形で、そこで内閣提出の法案の手続が、これを利用できるところは利用するという形に多分制度設計はなると思いますが、それは、我々があくまでも主体性を持って、法案審議の形で議決して、結論を得ていくということになると思います。

辻元委員 ちょっと詳しくお聞きしたい。

 利用してというのは、どこを利用するんですか。

保岡委員 どこを利用するかは、多分、私がここで述べることではないと思いますが、イメージしますと、提出権が内閣にあると定めた後の手続も、ほぼ、我々国会が原案を提出して審議するときと基本的には変わりないけれども、内閣が提出することによって加味する要素、ちょっと私は今そのことを全く想定していませんので直ちにここで制度設計できませんが、そういう要素があればそれを加味するということだと思います。

辻元委員 といいますのは、修正案を出されていますけれども、これは国民投票を行うという手続の部分と国会法の一部改正をひっつけて、相変わらず修正案も出されました。

 その中に憲法審査会というものがありますが、この憲法審査会の機能は三年間は調査に専念するということですが、それ以降、国会における憲法審査会の議論によって、憲法改正原案の審査や、それからつくるということまで想定しているわけですよ。それがこの手続法に一体化されて法案の中に入っているわけですね。そうすると、これは国会にだけ提出権があるというふうな手続法です。それもひっついた手続法です。

 しかし一方、この間、私と議論しますと、内閣に提出権があるんだと政府は言っておるわけですよ。さらにこの前、参議院の方の審議では、法制局の担当者が内閣に提出権が認められない手続法は違憲だという発言までしているわけですね。議事録に残っていますよ。

 そういう状況で、内閣の長である安倍さんはこの法案を早く急げ急げと言いつつ、内閣に提出権のない法案は違憲だというかつての内閣の解釈もあるわけですね。そして、さらにはこの法案、実際に政府は内閣は提出権を持っていると言うわけですから、これと、今皆さんがお示しの法案を出したとしても、これは国会でしか認めていなくて、憲法改正原案の提出権については内閣と解釈が変わっているわけですよ。

 内閣と国会、意見が違うことがあってもいいです。しかし、事憲法の提出権について違っている。かつ、そうすると内閣が提出してきたらどうするんですか。そのとき考えるんですか。これは、そうしたら修正するんですか。

保岡委員 我々が今御審議をいただいている法案は、内閣の提出権とは関係なく、国会が原案を提出して発議するその手続を定めるものでございますから、内閣が将来、憲法上いろいろ、提出権があるかどうか意見は分かれますよ。しかし、今の内閣法制局の見解は、多分、内閣にも提出権があるという立場をとっていると思います。しかし、それに基づいて内閣が提出して原案を出してくる憲法改正の手続は、我々が今ここで審議をいただいている法案の中身を準用する部分もあるかもしれないけれども、全然別の内閣提出の手続を別途法案として提出する、そういう性質のものだと思いますよ。

辻元委員 手続というのは、どういうのを手続と。その場合は、内閣がまた別途国民投票法案を出してくるということですか。というふうに考えられますか。

保岡委員 そうでなければ、内閣が原案を提出して国会の発議に結びつけるシステムを制度設計して、法案として提出してこない限りは、単に提出権があるといってそれを確認する法案を出すというようなことだけで、この法案が全部利用できるかどうかは別の問題だと思います。

辻元委員 今この問題を提起しましたのは、結局、内閣総理大臣がこの間に国民投票法案の成立について発言をしているということも問題なんですけれども、提出権が国会のみか内閣もあるのかというところも私たちの中で十分議論していないわけです。

 今、いろいろな解釈があるとおっしゃったわけですね、今指摘した問題点だけでも。そうしたら、内閣に提出権があるんだというのをつい先日の予算委員会で発言されていますので、そうすると、内閣は内閣でまた国民投票法案のような手続法をつくるのかとか、今、修正案を出されていますけれども、私が今お聞きしてもわからないです。

 ですから……(発言する者あり)保岡提出者、聞いていただきたいんですけれども、提出権というのは、憲法改正原案をどこがどう出せるかというのは非常に重要な問題ですから、少なくとも国会の意思としては内閣には提出権がないんだったらないで統一すべきだし、それから、そのないということを確認した上でこの法案をつくっているから内閣は間違っておるんだという立場をとるのか、そういう基本的なことも、今の質疑でも、答弁者の答弁は私はわかりません。

 ですから、余り、ちょっとこっちを聞いてくださいね、今の質疑はわからないわけですよ。ここはすごく重要なポイントだと思います。

 今後、これは混乱します。なぜかといいますと、憲法改正を私の内閣で期すと必要以上に言う総理大臣が今いるわけですよ。数年間にすると言っているわけですよ。私みたいな護憲の立場から見たら、改憲の立場、護憲の立場、いると思うけれども、物すごく怖いですよ、いつ、どんな形でやってくるのかしらと。ですから、国会としてはそこはどういうふうに考えているのかということをしっかり統一すべきだし、そういう議論を深めなくちゃいけないと思うんですよ、提出権がどこにあるのかとか。

 今、私はこの時点で、予算委員会でつい先日質問して驚きました。ですから、この委員会、もう時間ですから、引き続きまたこの点について質疑をさせてほしいと思いますけれども、この基本的なところも、国会と政府の認識がずれているように思いますし、この法案というのは、ではどういうことなのかと。今後、こういう政治状況の中で、どんなことが起こり得る、いろいろな起こり得ることにきちっと対応もしなきゃいけないわけです。

 きょう問題提起をこれは初めてしたわけですから、この点をもっと深めさせていただきたいと思っておりますので、慎重な、そして十分な審議をしてほしいと思います。これは、公述人の中からもその発言がきのう出ているわけです。

 そして、今度、次の質疑の場ではもう一点、憲法審査会の有権解釈。これは違憲かそれとも合憲かという解釈もするというような機能を付与するという話についての懸念も表明されていますけれども、憲法審査会に何ができて何ができないかという点も今のうちにしっかり議論をしておかないと、この後、法律は例えば何か、があっと強行につくられたとしても、権限と、それから内閣との関係を整理しておかないと、この後、憲法論議が非常に不幸なものになってしまうと思うので、その根本的な部分をしっかり委員会で審議していただけるように時間を十分とっていただきたいということを申し上げて、きょうは問題提起だけにとどめておきます。

中山委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 昨日は新潟、大阪で皆さんと一緒に地方公聴会に参加させていただきました。非常に感じたことは、やはり皆さん、慎重にと。せっかくここまで来たんだから慎重にという御意見だったのかなというのを強く感じたわけでございます。

 そういう中で、本日、保岡先生の方から併合修正案趣旨説明と。そこに提案の理由というのがございまして、これを読んでおりますと、私どもは、対案を提出された民主党のみならず、共産党、社民党、国民新党の御主張にも十分耳を傾けながら、真摯に対応し、ということで、国民新党のこともいろいろ聞いていただいて非常に感謝申し上げます。

 ただ、公聴会というもののあり方、これは議会制度協議会でも議論されておるところでございますけれども、そういう中で、本日この修正案が出され、ここには、こうして議論を繰り返しているうちに、法案提出時に見られた与党案、民主党案の違いは、もうほとんどなくなったのであります。そこで、私どもは、委員会における議論の到達点を修正案という条文の形で確認したいと考え、というふうになっております。

 まずは赤松先生と保岡先生にちょっと率直に御意見を聞きたいんですが、赤松先生は昨日、私と一緒に大阪の公聴会の方に参加されたわけです。そこで記者会見がございまして、そのときに、修正案がもう一回出されることはありますかというふうに記者の方からお尋ねがあったかと思います。そのときには、時間の政治だというような形でお答えになられたんではなかったかなというふうに思いますが、これを見ておりますと、私どもは委員会における議論の到達点というふうに書いてあります。最後の「おわりに」というところを見ておりましても、私ども与党としての精いっぱいの度量を示したつもりでありますというふうにも書いてあるわけでございまして、もうこれが限度なのかなと。

 といたしますと、これから、四月五日に中央公聴会があるわけでございますが、その公聴会の公述人の意見を聞いた後、もう修正されることがないのか。それとも、民主党にもこの後聞きたいと思うんですが、修正案が出た場合、またしっかりとその審議をするつもりがあるのか。まず冒頭、これをお聞きしたいなというふうに思います。

赤松(正)委員 私の方の名前が出ましたので、申し上げます。

 私がきのうの大阪の記者会見で申し上げたのは、私は、政治の場におけるさまざまな決定事項というのは、今の時点で将来のことを確定するということは非常に難しいと思うんですね。

 つまり、時間の政治学と言ったのは、要するに、我々はこうしたいと思っている。憲法については、とりわけ、先ほど来お話が出ていますように民主党の皆さんとの長い経緯がある。だから、民主党の対応、自民党の対応、公明党の対応、一応合意を形成していって、憲法改正のための国民投票法案というこの手続法をどうするかということについては変数があると思うんですね。だから、そういう部分を今の時点で必ずこうだというのは言えないという意味できのう申し上げたわけで、非常に魅惑的なというか、取り入れるに値するようなものが出てきたら、それは私は十分勘案するべきである、こんなふうに考えているということでございます。

 ただ、さっきの枝野委員のお話を聞いていると、私の片思いなのかなという思いもかなりしますけれども。

保岡委員 御指摘いただいたように、先ほどの提案理由の説明で、現時点で到達した一番いい考え方を示させていただくということを申し上げたわけですけれども、先ほど民主党の方から、今後党内の合意を得て最終的な修正案を出しますというお話でしたから、それを拝見して、それで、ああこれなら一致してもいいなという御提案であれば、我々は今提案している併合修正案を改めてまたそこで共同修正案の形で再提出するということは考えているわけで、それは先ほど申し上げたとおりで、最後まで粘り強くやりたい。

 この際言わせていただきたいんだけれども、とにかく安倍さんがどうだとか、いろいろ御議論がたくさんありました。でも、我々、憲法改正の手続法としての国民投票法制については、先ほども申し上げましたとおり、いろいろ議論を繰り返しているうちに、百時間に及ぶ努力をしているうちに、法案提出時に見られた与党案、民主党案の違いはもうほとんどなくなっているんですね。ほぼ一致しているんです。

 ですから、さらにいい案が出てくるといっても、どのあたりに出てきてくれればいいなというイメージはあるんですよ。もしそれがはっきり出てくれば、我々が乗れるものであれば乗ろうと。そこまで考えている、最後の、本当に百時間に及ぶテーマ、それについて各面からの、あるいは各角度からの御意見などをすべからく踏まえて私たちはやってきて、決して他の政局に影響されて、何か内容をゆがめて、また到達していないにもかかわらず、熟度もないにもかかわらず先を急いで法律を成立させようとしているのではないということを明快に申し上げておきたいと思います。

糸川委員 ということは、これは確認でございますが、現時点の到達点ということで、これは現時点という言葉が入っていなかったものですから、一応その確認も踏まえて質問させていただいたわけでございます。

 今その中で、もうほとんど民主党案との相違点がなくなったと。ただ、その中で出てきたらいいなと思うところはあるというふうにおっしゃられますと、ではどこというふうに聞きたくなるのも質問者のあれでございますが。

 その前に、まず民主党から、与党側はもうほとんど相違がなくなったというふうに言っておりますけれども、民主党の提出者として、このように提案理由にあるわけですけれども、どのようにお感じになられているか、お答えいただけますか。

枝野議員 ほとんど違いがないということの意味はいろいろありまして、そもそもスタートからほとんど違いがないといえば違いがない。なぜかといえば、憲法九十六条に基づいての手続ですから国会の三分の二以上の多数決で発議して国民投票をやって二分の一以上の賛成という大枠は一緒なので、この大枠からずれる提案はあり得ないわけだから、もともと似ているのは当たり前なわけなんですよね。そういう意味からすればスタートだって大きな違いがないといえばないわけで、そういう意味からいえば大きな違いはないのかもしれません。

 しかし、実際に運用するときに問題が生じない中身になっていなければならないということを考えると、例えば、この間、この委員会の議論では公務員の政治活動の自由の規制を憲法改正国民投票運動には適用しないという方向で議論をされていたはずで、だからこそ、全く政治活動の規制がなくなるんだから地位利用についてだけは何かしなきゃいけないですねというのが我が党のこれまでの議論だったわけですが、政治活動の自由の規制を適用除外にするというのがなくなってしまったら、そちらにも連動して、これは話が違いますねという話になってきます。ところが、片方しか手をつけていないというのは多分見落としだと思うんですが、かなり拙速でやられて見落としをされたんじゃないかなと思いますが、というようなことがあります。

 それから、先ほどの辻元さんの議論のように、一見一致をしているように見えるところも、例えば、私どもは、少なくとも私は、現行憲法の解釈として内閣には発案権はない、原案提出権はないと思っています。少なくとも現行憲法では発案権を認めるかどうかは国会の裁量にゆだねられているという前提に立たないと、この法案はおかしいはずです。にもかかわらず、与党の方が現行憲法は内閣の発議権があるという前提での法案であれば、そのベースになっているところが全然違ってきて、この法案の意味が違ってきます。後になってそれこそつけ加えられる余地があるのかどうかというので全然違ってきます。私どもは将来にわたって内閣に発案権を認めるということを想定しておりませんので、そういうことで、一見一致しているように見えても、議論を積み重ねると違っているということもあります。

 さらに言えば、そもそも、我が党案は確定していないところがたくさんあるので、違いがなくなったのでありますと、笑い事ではなくて、実はまじめに考えていただいて、本当にテレビコマーシャルどうするんですか。二週間でいいのか、それとも全面禁止すべきなのか、これは本当に私自身もわからないです、現状では。つまり、相当考えないと、もちろん、表現の自由、報道の自由という重要な要素がある一方で、直前二週間はなくなるからいいけれども、それまでは金に飽かせてばあっとコマーシャルが出ることになっても構わないということであれば、それはそれでまた出てきた投票結果に対する信頼性の問題にもかかわってきますので、ここはさらなる検討、議論が必要なところだというふうに思っています。

 ですから、もうほとんどなくなったというふうには私は思っていないということです。

糸川委員 ではそこで、保岡先生、今、民主党の提出者はこのように感じておるわけですね。先生は先ほど、できれば出てきたらいいなと思う修正の部分があるんだというふうにおっしゃられたかなと思うんです。そうしますと、せっかくこういう場ですから、どの辺が出てきたら円満にいくのか、もしお答えになれるようでしたらお答えいただきたいし、お答えになれないようでしたら結構でございます。

保岡委員 例えば、一般的国民投票のことについては、我々、民主党案を丸のみというわけにはいきません。しかし、我々が提案している範囲内で適切なものであれば、またその御意見を加味して修正する余地はあるとか、あるいは、公務員の政治活動の適用除外の問題にしても、とりあえず現行法のままにしてこの法案を出す結果になりましたけれども、国民投票法が行われる状況になる、少なくとも原案が出て、そして原案が議決されて発議される、国民投票運動が始まる、そういったことを前提として、この法案が施行されるまでの間、三年間に間に合うわけですから、附則十一条にあるように、「公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」これについて、具体的な案が用意されて提案されるならば、それがなるほどと思うことであれば乗れるとか、その他いろいろあると思います。

 あると思いますが、さらなる知恵を出していく、あるいは、我々が今後の検討に乗せていることで、今出せるいい知恵があれば、それは取り入れるという余地はあろうかと思います。

糸川委員 ありがとうございます。ちょっと答えにくい質問だったんじゃないかなと思うわけでございますが。

 今、公務員の話が出ましたので、与党修正案の提出者にお伺いいたします。

 与党案では、国民投票運動が禁止される特定公務員としまして、開票の事務を担当する選挙管理委員会職員のほか、裁判官、検察官、警察官、こういうものが定められておりましたけれども、修正案によって、民主党案と同様、裁判官、検察官、警察官の国民投票運動を禁止しないことというふうにされたわけでございますが、その趣旨はどういうことでしょうか。

葉梨委員 当然、これまでの議論の中で、やはり憲法に対しての自分の意見の表明は広く認められるべきだということを踏まえた上での修正なんですけれども、大きくは買収罪の関係ともかかわってくるんですが、公選法というのは取り締まりによって公正を担保するという面が実務的にも法制的にも強いんですね。ですから、警察官、検察官あるいは裁判官、公安委員、こういったものについては禁止規定を罰則をもって担保しているわけですけれども、今回、特定の組織的な多数人買収罪についても、相当な限定を付して、取り締まりによって公正さを担保するということはゆめゆめ考えておりません。したがいまして、開票事務を担当するもの、こういった特定公務員の範囲を限らせていただいたということなんです。

糸川委員 では、公務員の国民投票運動について、国家公務員法、地方公務員法等の政治的行為の制限の規定適用除外をする、こういうような発言が昨年の十二月十四日にございましたけれども、今回の修正案ではなぜ適用除外をしなかったのかについて、お答えいただけますでしょうか。

葉梨委員 これも、小委員会あるいは委員会の議論の中で、国民の一人として、国民投票あるいは憲法についての勧誘行為、あるいは自由な意見の表明ということは、公務員であっても認められるべきであろうと思います。ですから、十二月十四日に与党の提出者の方からもああいった発言がなされておるわけです。

 今回の修正案について、その内容を変えているわけでは実はございません。

 といいますのは、公務の中立性を担保します国家公務員法の世界あるいは地方公務員法の世界というのが片一方でありまして、公務員だからといって、例えば、あからさまに勤務時間中に憲法について示威行動を行うだとか、あるいは組織的に政党活動を行うだとかといったものは、そもそも職務専念義務の問題もあるし、公務の中立性の問題もあるし、信用失墜行為に当たる場合もある。ですから、そういったものについては、公務の中立性という世界で、地公法なり国公法でしっかり対処していただくということが法律的には整合性を持ってくるわけなんです。

 ですから、この国民投票法の世界においては、附則において国民投票の勧誘あるいは自由な意見の表明が阻害されることがないようにというような規定を置いて、しっかりとそれは三年後までに国公法ないし地公法の世界で対処していただくということを考えています。

糸川委員 次に、国民投票広報説明会開催の削除について御質問したいんです。

 憲法改正国民投票におきましては、憲法改正案を発議した国会が責任を持って憲法改正案を広報するということが求められておりますけれども、広報協議会が作成する公報には具体的にどのような事項が記載されると想定されているのか。また、修正案では説明会の開催が広報協議会の事務から削除されてしまったわけでございますが、その趣旨、その理由についても提出者の方からお伺いしたいというふうに思います。

船田委員 お答えいたします。

 国民投票公報、いわゆる公報パンフレットでございますが、これは、憲法改正原案について発議をするに至りました国会の各政党また議員が直接関与することによって、その内容につきまして国民の皆様に周知をする責務は当然あると思っております。また、それが好ましいことだというふうに思っております。

 そこで、その公報の内容について大きく分けますと、三つ出てくると思います。

 一つは、なぜ改正案を出すに至ったか、それから、その改正案の議論の中身、非常に客観的な部分、要旨、提案理由も含め、あるいは国会における審議の経過なども含めて、まず客観的に示す部分が一つあります。

 それから、賛成意見、賛成とした政党の皆さんでお考えをいただいて、賛成意見はこういう理由でありますということを述べる、反対の意見は反対の意見として、反対された政党を中心にそれもつくっていただくということで、しかし、これまで原案におきましては、その賛否の関係につきましては、各政党の国会における議席数を踏まえて賛成、反対の分類を決めるということにしておりましたけれども、諸外国の例、それから、賛成、反対のいずれかを国民に問いかけるという場合には、その賛成意見が極端に多い、逆に反対意見が極端に多いということはないと思いますが、賛成意見が極端に多いというような資料を提示することは適切ではないということで、賛否同量といいますか、賛否を同じく平等にするということとしたわけでございます。そこが修正点のポイントでございます。

 それから、説明会をなくしたというのは、これは、説明会というのも確かに広報協議会の一つの任務かなと思っておりましたけれども、たまたま政府が主催をいたしましたタウンミーティングに関して、残念でありますが昨年不祥事が発覚をいたしました。そういうこともありますので、広報協議会が説明会を公的に公平に行うということはなかなか難しいだろうというような判断になりまして、各政党や市民団体が自主的に開催するものにゆだねることが適当であるということで、説明会をこの私どもの原案から削除した、こういう経緯でございました。

糸川委員 やらせをなくすために広報協議会でしっかりと管理をしてやっていただきたいなというふうには思うわけでございます。

 もうほとんど時間がございませんので、最後に与党と民主党双方に聞きたいんですけれども。

 これは私も地方公聴会で質問させていただいたんですが、与党の原案、民主党案ともに、投票日前の七日間の有料広告放送の制限を定めておったわけでございます。修正案では、その期間というものが十四日間とされたわけでございます。こうした規制というものは表現の自由に対する重大な制約であるという意見もあるわけでございます。なぜ七日間から十四日間に規制を拡大することにしたのか。

 それから、民主党は、昨年の十二月の委員会におきまして表明されました修正の方向性において、この問題については検討中であるというふうにされております。この規制が必要であるとした場合には、一律に国民投票運動の全期間の規制の方が、むしろ表現の自由の保障にとってはより制約の度合いが少ないのではないかなというふうに考えられるとのことでもありました。民主党は修正案のこういう点についてはどういうふうに考えるのか。

 与党と民主党双方にお伺いしたいと思います。

船田委員 お答えいたします。

 有料広告の放送に限るわけでありますけれども、これにつきましては、これは初めてやることでありますので、どのような不測の事態が起こるかわかりません。ただ、諸外国の例を見ておりますと、投票日前数日間というのは相当広告の機会がふえるといいますか回数がふえる、あるいは内容的にも、人々の心といいますか感性とか、扇情を起こすような、そういったやや激しい内容の有料広告が発せられる可能性が十分にあるということでございます。

 諸外国もさまざまでございますが、例えばフランスでは三週間とか、あるいはその他のヨーロッパの国々でも二週間程度というようなものが多いわけでございます。そこで、我々、当初七日間で済むかなと思っておりましたが、やはりもう少し余裕をとらなきゃいけないだろうと。

 また、同時に、いわゆる期日前投票、これは公選法において許されるようになったことでございますが、当然のこととして、この国民投票におきましても期日前投票制度というのは当然できると思っております。それも十四日とすれば、その期日前投票が始まるときにはそのような有料広告放送はない方が望ましい、こういう観点であります。

 それから、広告主が金に糸目をつけずどんどん広告宣伝を行うということをどう是正するか、これも私ども大変悩みました。もし全部それを平等に扱うことにすれば、むしろテレビの有料広告放送は全期間なしにする方が一番公正だろうと思います。しかしながら、全部、全期間やめるということは、広告主の表現の自由といったものとの関連から、やはりこれは行き過ぎであるというふうに私どもは考えました。

 その二つの観点からぎりぎりの判断をすれば、これは十四日間が適切である、このように結論づけた次第であります。

小川(淳)議員 民主党の立場からお答えをさせていただきます。

 もともと、私どもは、最大限自由闊達な議論を確保したいということで、メディア規制には大変消極的でございました。しかしながら、委員も御指摘のとおり、感情に直接訴えたり、扇情的な報道の可能性があるということで、スポット広告についてのみ与党案と同様七日間の制限規定を当初置いていたわけでございます。

 しかしながら、先ほど来、与党側からも御説明ございましたとおり、既に期日前投票は二週間前に始まるわけでございますし、また財力の多寡が直接こうした運動に影響し過ぎる懸念については耳を傾けなければならないということで、再修正をされました二週間前の規制については、その限りにおいては一定の評価、善処されたものだと思います。しかし、私どもは、より抜本的な、根本的な解決のためには、むしろ全面禁止という姿勢の方がより率直なのではないかという点に立って現在検討をいたしているところでございます。

 なお、つけ加えさせていただきますが、この有料広告、スポット広告以外のさまざまな報道番組、評論番組、討論番組については一切自由でございまして、むしろこうした報道番組を通じて最大限自由な議論を喚起していくという立場に変わりはございません。申し添えさせていただきます。

糸川委員 ありがとうございました。終わります。

中山委員長 以上で糸川正晃君の質疑は終わりました。

    ―――――――――――――

中山委員長 次に、両法律案審査のため、昨二十八日、新潟県及び大阪府に委員を派遣いたしましたので、派遣委員から報告を聴取いたします。枝野幸男君。

枝野委員 団長にかわりまして、派遣委員を代表いたしまして、その概要を御報告申し上げます。

 派遣委員は、中山太郎委員長を団長として、理事愛知和男君、理事船田元君、理事園田康博君、理事赤松正雄君、委員石井啓一君、委員笠井亮君、委員辻元清美君、委員糸川正晃君、それに私、枝野幸男を加えた十名であります。

 なお、新潟においては、田中眞紀子委員及び筒井信隆委員が現地参加されました。

 地方公聴会は、三月二十八日の午前に新潟市のホテル日航新潟の会議室において、午後に大阪市のホテルニューオータニ大阪の会議室において、第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案及び第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の両案をテーマとして開催しました。

 初めに、午前の新潟市での地方公聴会の概要について御報告しますと、まず、中山団長から派遣委員及び意見陳述者の紹介並びにあいさつ等を行った後、新潟大学大学院実務法学研究科助教授田村秀君、新潟県弁護士会会長馬場泰君、新潟大学名誉教授藤尾彰君及び新潟国際情報大学情報文化学部教授越智敏夫君の四名から意見を聴取しました。

 各意見陳述者の意見内容につきまして、簡単に申し上げますと、

 田村君からは、投票権者を十八歳以上の者にすることは、諸外国の例から見ても適当であり、民法など関連法令の議論を急ぐべきであり、また、最低投票率制度が法案に規定されていないことは適当であるとの意見、

 馬場君からは、憲法改正は国民の熟慮と総意に基づいて行うことが必要であり、そのためには最低投票率制度の導入が必要であるとの意見、

 藤尾君からは、過半数の意義を投票総数の過半数と解すべきであり、白票、無効票も投票総数に含めて計算すべきとの意見、

及び

 越智君からは、憲法は権力抑制のための安全装置であることにかんがみ、憲法改正国民投票制度はなるべく憲法を変更しにくいものであるべきであるとの意見

がそれぞれ開陳されました。

 意見の陳述が行われた後、各委員から、本委員会の活動に対する評価、一般的国民投票のあり方、国民に対する適切な周知期間、最低投票率制度の導入を否定する論拠の妥当性、憲法改正手続法を早急に制定する必要性の有無、憲法改正議論に関する世論調査に対する評価などについて質疑がありました。

 次に、午後の大阪市での地方公聴会の概要について御報告いたしますと、まず、中山団長から派遣委員及び意見陳述者の紹介並びにあいさつ等を行った後、[国民投票・住民投票]情報室事務局長・ジャーナリスト今井一君、新時代政策研究会会長中野寛成君、関西大学法学部教授吉田栄司君及び弁護士中北龍太郎君の四名から意見を聴取いたしました。

 各意見陳述者の意見内容につきまして、簡単に申し上げますと、

 今井君からは、憲法改正手続法を制定しないことは国民の制憲権の侵害である、最低投票率制度には棄権運動のおそれがあり反対、一般的国民投票制度には原則賛成との意見、

 中野君からは、憲法論議は国権の最高機関である国会の主導で行うべきであり、国民投票法案の議論に当たっては拙速や党利党略は避けるべきとの意見、

 吉田君からは、両案は、両院協議会、国民投票無効訴訟等の規定や最低投票率制度の不採用の点で憲法学界の見解を反映せず、違憲の疑義があるとの意見、

及び

 中北君からは、両案は九条改憲が目的なのは明らかであり、国民主権に基づく憲法改正国民投票手続の本来のあり方に反しているとの意見

がそれぞれ開陳されました。

 意見の陳述が行われた後、各委員から、現時点での憲法改正手続法整備の必要性、本委員会の今後の運営のあり方、公明党の加憲に対する考え方、公務員等、教育者に対する運動規制の効果、影響、内閣の憲法改正原案提出権の有無、有料広告放送の規制のあり方などについて質疑がありました。

 なお、会議の内容を速記により記録いたしましたので、詳細はそれによって御承知願いたいと思います。また、速記録ができ上がりましたならば、本委員会議録に参考として掲載されますよう、お取り計らいをお願いいたします。

 以上で報告を終わりますが、本会議の開催につきましては、関係者多数の御協力により、円滑に行うことができました。

 ここに深く感謝の意を申し上げる次第であります。

 以上、御報告申し上げます。

中山委員長 お諮りいたします。

 ただいま報告のありました現地における会議の記録は、本日の委員会議録の末尾に参照として掲載することにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

中山委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔会議の記録は本号(その二)に掲載〕

    ―――――――――――――

中山委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時二十五分散会

     ――――◇―――――

  〔本号(その一)参照〕

    ―――――――――――――

   派遣委員の新潟県における意見聴取に関する記録

一、期日

   平成十九年三月二十八日(水)

二、場所

   ホテル日航新潟

三、意見を聴取した問題

   日本国憲法の改正手続に関する法律案(第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出)及び日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出)について

四、出席者

 (1) 派遣委員

    座長 中山 太郎君

       愛知 和男君   船田  元君

       枝野 幸男君   園田 康博君

       石井 啓一君   笠井  亮君

       辻元 清美君   糸川 正晃君

 (2) 現地参加委員

       田中眞紀子君   筒井 信隆君

 (3) 意見陳述者

    新潟大学大学院実務法学研究科助教授      田村  秀君

    新潟県弁護士会会長   馬場  泰君

    新潟大学名誉教授    藤尾  彰君

    新潟国際情報大学情報文化学部教授       越智 敏夫君

 (4) その他の出席者

    議員          船田  元君

    議員          枝野 幸男君

    議員          園田 康博君

    衆議院法制局第二部長  橘  幸信君

     ――――◇―――――

    午前九時四十分開議

中山座長 これより会議を開きます。

 私は、衆議院日本国憲法に関する調査特別委員会派遣委員団団長の中山太郎でございます。

 私がこの会議の座長を務めさせていただきますので、よろしくお願いをいたします。

 この際、派遣委員団を代表いたしまして一言ごあいさつを申し上げます。

 皆様御承知のとおり、当委員会では、第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案、第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の審査を行っているところであります。

 本日は、両案の審査に当たり、国民各界各層の皆様方から広く御意見を承るため、当新潟県におきましてこの会議を催しているところでございます。

 御意見をお述べいただく皆様方におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。どうぞ忌憚のない御意見をお述べいただきますようよろしくお願いをいたします。

 それでは、まず、この会議の運営につきまして御説明を申し上げます。

 会議の議事は、すべて衆議院における委員会議事規則及び手続に準拠して行い、議事の整理、秩序の保持等は、座長であります私が行うことといたします。発言される方は、その都度座長の許可を得て発言していただきますようお願いいたします。

 なお、御意見をお述べいただく皆様方から委員に対しての質疑はできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願います。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 最初に、意見陳述者の皆様方からお一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答え願いたいと存じます。

 意見陳述者及び委員の発言時間の経過のお知らせでありますが、終了時間一分前にブザーを、また、終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 なお、御発言は着席のままで結構でございます。

 次に、本日御出席の方々を御紹介いたします。

 まず、派遣委員は、自由民主党の愛知和男君、船田元君、民主党・無所属クラブの枝野幸男君、園田康博君、公明党の石井啓一君、日本共産党の笠井亮君、社会民主党・市民連合の辻元清美君、国民新党・無所属の会の糸川正晃君、以上であります。

 また、現地参加委員として、田中眞紀子君、筒井信隆君が御出席をされております。

 次に、本日御意見をお述べいただく方々を御紹介いたします。

 新潟大学大学院実務法学研究科助教授田村秀君、新潟県弁護士会会長馬場泰君、新潟大学名誉教授藤尾彰君、新潟国際情報大学情報文化学部教授越智敏夫君、以上四名の方々でございます。

 それでは、まず田村秀君に御意見をお述べいただきたいと存じます。

田村秀君 本日は、日本国憲法に関する調査特別委員会地方公聴会の場にお招きいただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、大学で行政学や公共政策、その中でも特に地方自治を研究する者でございます。ですから、憲法学の専門家ではございませんので、そのような者がこの憲法の改正手続に関する法案に対して意見を述べることが適切なのか、迷いもございましたが、一方、日本国憲法におきましては第八章で地方自治の規定が置かれていることもございますので、そのような面から私の意見を述べさせていただきたいと思っております。何分トップバッターでございまして、ちょっと緊張しておりますが、よろしくお願いいたします。

 まず最初に、国民投票に関するこれまでの議論についてでございます。

 この意見陳述人の話を承りましてから、事務局から膨大な資料を送っていただきました。短時間でございましたので、すべてを読み込むことはできませんでしたが、それらを見ますと、この衆議院の特別委員会におきまして、各党の議員の皆さんが真摯な議論を重ねてこられたこと、そしてまた、多くの参考人を招かれて各界各層の意見に耳を傾けられてきたことに敬意を表したいと思います。

 国民投票法案につきましては、憲法が施行されてから六十年を迎えようとする今日、九十六条に定められております改正手続を具体的に整備するというものでございます。そもそもこのような手続法がなかったことは、これは多くの方が指摘しておりますが、やはり不備であったのかなというふうな感じがいたします。

 そしてまた、その手続を定める国民投票法案につきましては、いわゆる与野党の対決法案というようなものというよりも、それぞれの方の英知を結集し、相互の案のよいところを取り入れてつくられていくべき、そのような性格じゃないかと私は考えております。その意味で、修正案が昨日提出されたと聞いておりますが、非常にそのような形で歩み寄りが見られているのではないかというふうに評価しております。

 それでは、時間も限られておりますので、論点を絞りまして私の意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず、国民投票の投票権のことについてでございます。

 これは、今回の修正案で二十歳から十八歳にということになっているわけであります。諸外国を見ますと、ほとんどの国が十八歳で成人といいますか選挙権を付与しております。国によりましては、二十歳あるいは二十一歳で被選挙権を付与している国も少なくありません。

 私は大学におりまして大学生と接する機会が多いわけですが、最近では高校四年生だとか大学生も大分以前に比べますと幼くなったとかそういうような指摘もあるわけでございますが、実際に彼ら、彼女らと話してみますと、それなりに自分の考え方を持っておりますし、私は、十分に判断できるんじゃないかと。この際、選挙権の付与ということも当然十八歳以上にしていくべきではないかというふうに考えるわけであります。

 ただ、関係する法令が多々あります、また、民法の規定等もございますので、そういうものの議論を早急に始めるべきではないか、このように考えております。

 次に、国政における重要な問題に係る案件の発議手続について、これは民主党の案の方についてのものでございます。

 私は地方自治を研究する者でございますが、全国各地で、新潟県でもそうでございます、先般も川口町で合併に関します住民投票が行われております。このような住民投票は、法律に基づくものもございますが、その多くは条例に基づきまして自主的につくられております。また、最近では、自治体の憲法ともいうべき自治基本条例というものをつくる自治体がふえております。その中で住民投票の規定を置くところもふえております。具体的なものとしては、やはり市町村合併の是非というものが多いわけでありますが、そのほかにもさまざまな施設の立地、そういうことなどが争点として挙げられております。

 もともと国も地方も間接民主主義を基本としつつも、特に地方自治体の場合、住民に身近な存在ということがございますので、その間接民主主義を補うものとして直接民主主義の制度が、既に幾つか解散、解職請求等の規定がありますし、このような形で自主的に各自治体がやられているのかと。もちろん、余りそういう住民投票を乱発するというのはどうかと思いますが、やはり必要なときには住民投票を行うということもそれなりに評価できるのではないかというふうに考えております。

 ただ、住民投票が行われる背景の一つとしては、国と違いまして、公選の首長制度と地方議会の制度、いわゆる二元代表制をとっております。国の場合は議院内閣制でございます。そうしますと、時として首長と議会の意思がねじれるという現象がございます。どちらも住民の代表ですから、なかなかお互いの立場を譲らなくなるということもあるわけであります。そのような場合に、住民の声を直接聞くことによって重要な政策を決める際の参考にする、これは非常に意義のあることだと思います。

 いずれにしましても、国レベルでもこのような国民投票というべきものが非常に重要だと思いますが、ではどのようなテーマがふさわしいのか、また、発議は三分の二でいいのかあるいは過半数でいいのか、そしてまた、実施方法、実施時期など、さまざまな点をもっと詰めていただきたい、私はかように考えております。

 ですから、基本的には必要なものだと思いますが、これは今回の憲法改正の国民投票とは別の形でしっかりと議論をしていただきまして、ある意味では特別委員会を設けるなりして真摯な議論を重ねていただきたいと考えております。

 地方自治というのは、まさにさまざまな政治の実験の場でありますので、これまでも情報公開制度ですとか行政評価など、地方が先行して国が行ってきたものは多々ございます。そのような意味からも、私は、一般的な国民投票というものも一定の意義があると思っておりますが、そのような形で別途しっかりと議論をしていただきたい、かように考えております。

 次に、メディアの規制の問題でございます。

 これについても、この委員会の場でさまざま議論がされております。もちろん、表現の自由、報道の自由を尊重することは当然のことでございます。そのようなことからすれば、原則としては自主的な規制なのかなというふうに考えるわけであります。また、委員会の中で無料広告枠ですとか有料CMの問題なども議論をされておりますが、私は、ここでは多少違った観点から意見を述べさせていただきたいと思います。

 この法案が制定されまして、将来、実際に憲法改正の発議がされるといたしますと、さまざまな情報、さまざまな意見などが政党や市民団体、シンクタンクなどから出されまして、それがメディアに取り上げられるということになろうかと思いますし、また、メディアの方でも自主的な報道番組等さまざまなところで取り上げられるかと思います。ですから、基本的には自主規制でいいとは思うのですが、これは一市民としての意見でありますけれども、最近のさまざまな番組の捏造の問題を見てしまいますと、そのような捏造された情報で世論が操作されてしまうのではないか、そのような危惧を感じるところでございます。

 憲法の改正となった場合に、我々がその問題を判断する場合に、私を含めて多くの人は、メディアからの情報、その中でも、新聞もそうですが、それ以上に特にテレビの報道などを参考にすると思います。あるいは特集番組なども組まれるのではないか、最近はやりの討論番組なども多々やられるのではないかと考えられます。そういう中で、環境権の問題ですとか、あるいは地方自治の分野であれば、最近議論が始まっております道州制のことを明確に位置づけるべきだとか、そういうことが、さまざまな識者の意見ですとか、あるいは世論調査の結果ですとか、データなどが示されて、それらを参考にして我々は賛成か反対かということを決めるんだと思います。

 しかしながら、私が危惧しておりますのは、一連の番組の捏造として取り上げられているものだけじゃなくて、少なからず、これは適切な表現かどうかわかりませんが、いいかげんな資料といいますか、客観性に極めて乏しいデータなどが取り上げられている例があるということを指摘させていただきたいと思います。これが憲法の議論で起こってしまうと、非常に心配だなという危惧があります。

 具体例を挙げますと、これはあるテレビ局で、少し前ですが、日本の地方議会の待遇がよ過ぎるという批判の根拠として、諸外国との比較を行っていました。その中で、イギリスは無報酬でボランティア的だというような情報を挙げておりました。これは実は何十年も前の話でありまして、今ではイギリスの地方議員も、日本ほど高くはないにしましても、その自治体の規模等にもよりますが、年間数百万から一千万程度もらっている議員も少なからずおります。ですから、こういう報道がされてしまうと、一定の方向に操作されてしまうんではないかという危惧がございます。

 これは、うそというよりも調査能力の不足、もっと言えば、番組制作の予算ですとか下請の問題とかもあるんじゃないか。

 このほか、最近ではインターネット調査というものがよく使われております。最近では、神奈川県が公衆の場での禁煙に関するアンケートで、日本たばこがそれに動員をかけまして結果がゆがめられてしまった、これも報道されております。インターネット調査というのは世論調査とは違うんですが、しかし、それがあたかも世論調査と同じようにマスコミで取り上げられることもございます。

 このような実態を考えますと、もちろん事前検閲ということはいけませんが、事後的に何らかの検証といいますか、疑義が示された場合に、その調査ですとかデータの根拠、手法などについて詳細にきっちりと開示する仕掛け、そういうものが必要じゃないかというふうに考えます。

 これがいわゆるダイエットの問題などであれば、生産者はともかく、消費者の側はさほど実害がないかもしれませんが、憲法の議論でございますので、その資料といいますかデータといいますか、そういうものに明らかな誤りがあるのは困るわけであります。そういうものをチェックするといいますか、第三者的な機関が私は必要ではないかと。これは広報協議会という場でいいのか、メディアの方が業界としてやるのがいいのかよくわかりませんが、私としては今後の課題として問題提起させていただきたいと思っております。

 このほか、法案の中に国民への周知ということで六十日から百八十日の問題があります。

 この辺、期間の問題は非常に難しいわけであります。長過ぎても議論が間延びしてしまうでしょうし、また短過ぎても十分な議論がなされないというふうに考えられます。この辺、初めてのケースでございますので、諸外国の例などもいろいろ調べられているようでございますが、諸外国に比べますと、この期間というのは十分長くとられているのかなというふうに私は考えております。その意味ではおおむね妥当ではないか、このように考えております。

 そのほか、新聞等で、またこの委員会の議論の中でも、最低投票率についてということが時々議論になってございます。

 これも、事務局の方から送っていただきました資料を見せていただきますと、諸外国、国によって状況はかなりまちまちでございます。その中でも、日本がいろいろな制度設計として参考にするような国では余り用いられていないのかなという感じがいたしておりますし、また、そもそも日本国憲法にはそのような規定がないということもございます。

 私自身は、三分の二というハードルを国会の中で設けていて、さらにそのような最低投票率を設けるということまでは不要ではないかなというふうに考えておりますし、また、実際何%かとなりますと、これは議論百出でございますし、コンセンサスをとるのも非常に難しいのではないかなというふうに思っております。

 いずれにいたしましても、このような形でさまざまな議論がされまして、もちろん、この議論というのは、衆議院だけじゃなく、やはり参議院としてもしっかりと議論をしていただきたいと思いますが、ブザーが鳴りましたので、以上で私の意見陳述を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

中山座長 ありがとうございました。

 次に、馬場泰君にお願いいたします。

馬場泰君 皆さんおはようございます。新潟県弁護士会の馬場でございます。

 本日は、意見陳述の機会をいただきまして、まことにありがとうございました。

 新潟県弁護士会は、二月二十八日に臨時総会を開催いたしました。そして、この国民投票法案についての決議をいたしました。お手元に資料として配付をしております。

 憲法を改正するかどうか、どのように改正するかについては、国民が決めるべきものだというふうに考えます。弁護士会、それから弁護士も国民の一員として論議に加わっていきたいというふうに思います。と同時に、法律の専門家として、あるいはその専門家の団体として、国民の間で十分議論が深まるように私どもも微力を尽くしていきたいというふうに考えているわけでございます。そのような立場から決議を上げました。

 弁護士会の会員というのは、これはいろいろな立場や意見を持っております。憲法改正に関するスタンスもさまざまでございまして、そうした中で、今回、総会で一致して決議を上げました。一致した点は、憲法の改正は国民の熟慮と総意に基づいて慎重になされるべきであるというこの一点であります。

 なぜ憲法の改正は慎重に行わなければならないのか。申し上げるまでもありませんけれども、社会、国民生活の計画的、安定的な発展のために必要だというふうに考えます。憲法は、国家組織の基本を定め、国民と国家との基本的な関係を定め、家族関係や経済関係など、現行の日本の国家、社会制度、国民生活の基盤になっています。その頻繁な改変というのは社会の安定性を害することになります。長期的な事業、国家的な事業は五十年、百年のスパンで組まれているわけですけれども、これが頻繁にその基盤が改正されるということになりますと、国民の世代間にわたる力の結集を妨げることになりかねない。そういう意味で、国や国民生活の原理原則の変更は慎重に考えて対処しなければならないというふうに考えます。

 しかし、問題は、私は次の点にあるというふうに考えます。

 より本質的には、憲法の本質は人権尊重の徹底を期するためのものでありますけれども、憲法は、憲法という法形式、これは単なる基本法、最高法規というだけでは決してありません、国民の権利と自由を守るために国家や公権力に対して制限を加えることを本質としています。憲法は、まず第一に国家に対して国民の権利と自由を守ることを義務づけることを本質として制定をされている。一般には立憲主義というふうに申し上げます。

 現行憲法の基本原則については、おおむね一致した議論としては、国民主権、人権尊重主義、平和主義、場合によっては三権分立主義を加えております。しかし、究極的には、人権尊重、国民の権利と自由の確保こそが憲法の最も根本的な原則であるというふうに私どもは考えます。人権を守るためにこそ、よりよい政治制度としての民主主義がある、国民主権主義がある、究極の人権侵害である戦争の放棄がある、そして、強大な国家権力の発動を牽制、抑制する組織原理として三権分立制度がある、このように考えております。

 そして、この憲法による人権の保障を徹底、確実にするために、いわば国家に対してたがをはめる形で憲法があるわけですけれども、この憲法がたがが緩まないようにその改変を厳格にしているという、硬性憲法という考え方であります。

 また、憲法自体は、国民投票によって、すなわち、民主主義によって改変が可能であるわけですけれども、民主主義といえども、手続的には多数決という形であらわれるわけですが、それでも侵すことのできない人権というものがあります。人権の保障を本質とする憲法の改正は、究極的には国民の多数決によって決定されるにしても、その過程においてできる限りの熟慮と国民の総意によることを求めているというふうに考えるべきだと思います。

 いま一つ視点を変えて申し上げますと、憲法の改正は歴史的事業であります。

 明治憲法の制定は、明治維新を経て、近代日本の礎となるものでありました。そして、現行憲法は、戦争の惨禍を経て生まれたものであります。さきの戦争で戦死した人、戦災死した人は数百万、アジア周辺を加えますと数千万というふうに言われているわけであります。国民自身、政府による戦争の惨禍に苦しみ、また、周辺諸国民に対し多大の被害をもたらした。その反省に立って、侵略と戦争を捨て平和に徹し、暴走のないよう民主主義を確立し、人権保障を貫くかたい決意を持って現行憲法は制定されたのではなかったでしょうか。そして、六十年の長きにわたって国民がこれを支持してきたのではなかったでしょうか。

 現行憲法は、我々国民としての戦後の決意であり、アジアや世界の人々への約束であったはずです。今、この戦後改革に匹敵する歴史的な展開を、あるいはまた明治維新と並ぶ歴史的な転回を、今我が国は本当に必要としているのでありましょうか。現行憲法の改正は、将来の世代と世界に対して重い責任を負って慎重に行わなければならない、国民の熟慮と総意に基づいて行わなければならないと考えるゆえんであります。

 ところで、現在審議されている国民投票法案についてでございますけれども、果たして国民の熟慮と総意を求める内容になっているでしょうか、熟慮と総意を引き出すような制度設計になっているでしょうか。

 意見の要点についてはレジュメに書いたとおりでございまして、詳しくは弁護士会の決議をお読みいただきたいと思いますが、私は、一番問題なのは、最低投票率に関する規定を欠いていることです。これでは、ごく少数の国民の意思で憲法改正が行われてしまうおそれがある。これが総意に基づく、国民の総意に支えられた憲法でしょうか。

 例を挙げておきますけれども、例えば投票率が四〇%、五〇%の場合、無効投票を入れてその過半数という御提案のように承るわけでございますけれども、わずか二〇%、二五%の投票で憲法の改正がなされてしまうわけであります。私どもは、基本的な設計において誤っている、これでは国民の総意に支えられた憲法改正にならない、このように考えます。

 なお、この最低投票率の問題については、憲法上要求されていない、必ずしも必要でないという議論がございます。しかし、憲法は、もともと硬性憲法、熟慮と総意に基づく憲法改正であることを求めているわけです。その方向に沿う形での国民投票法を制定することは何ら憲法の精神に反するものではない、むしろその精神に沿って新たに改正されようとする憲法の基礎を固めるものであるというふうに考えます。

 第二点目は、国民の自由な意思形成の点で問題がある点でございます。

 ラジオ、テレビのCM放送の影響は非常に大きい。しかし、その一方で巨大な費用を要するわけでございますが、この利用については、賛成、反対の双方が公平にできるよう合理的なルールを定める必要がございます。無料放送についてはなるほど賛成、反対の意見表明について御配慮をいただいているようでございますけれども、それ以外の一般の有料のCM広告等については、必ずしも十分な配慮がなされているというふうに考えません。これでは憲法が金で買い取られる、極論いたしますと金で買い取られることになってしまうのではないか。テレビコマーシャルの影響は大変強うございまして、その効果を考えますと、このような懸念が払拭できないのであります。

 国民投票は、国会の発議があってから、ただいま議論されている議論では六十日ないし百八十日の間に行うというふうになっております。二カ月もしくは六カ月ということでございます。どのような内容の憲法改正が国民に提案されるのか、これは国会における発議を待たなければ明らかにならないところであります。

 この一日、二日の間に、与党の国民投票法案に関する修正案がまとまったようであります。その過程の中で、公務員の政治的行為の禁止に関する条項を、従前は適用しないというふうに言われていたところのものが、この一日、二日の間にこれが大きく変わっている。これでは、まさに発議がなされるまでどのような内容で国民に対して憲法改正が提案されるのかわからないことになってしまうではありませんでしょうか。そういう意味で、発議後の二カ月もしくは六カ月というのは非常に短過ぎる。これではまるで国民に即断を求めている、十分に考えるあるいは十分に国民の間で議論するいとまも与えずに結論を出そうとしているというふうに非難されてもやむを得ないのではないでしょうか。

 憲法改正に当たっては、国民の間で自由で活発な意見交換が必要です。今まで申し上げたように、公務員の政治的行為の制限は適用しないという形で与党、民主党の間の修正協議がなされてきたというふうに承るわけでございますけれども、これがこの一日、二日の間に大きく転回をした。政治的行為に名をかりて公務員の国民投票運動、憲法改正に関する活動というものを大きく制限する可能性が出てきています。さらに、教育者についても、その地位を利用した国民投票運動が制限をされようとしている。この教育者というのは、言うまでもなく民間の教育者も含むわけでございます。

 これで果たして、この公務員、教育者の数は数百万というふうに言われているわけですけれども、こうした多くの人々の、多くの国民の活動を封じた形で果たして本当に自由な憲法に関する議論が行われたというふうに言えるのでしょうか。私は、このような規制は、公務員や教育者の言論の自由を抑圧し、憲法改正問題についての活動の権利を奪うもの、国民の間の十分な討議と意見交換を妨げるものというふうに考えます。

 国民の間には、今大きな閉塞感が漂っています。ここで論ずることではございませんけれども、貧困層がますます貧困化している。一部で、政治に対する憤りを持ちながら、しかし、それが国政に反映されない無力感から無関心が広がっているように思われます。こういった状況の中で、国民投票に関する議論はさらに低調であるというふうに私は考えます。国民投票法案に関する国民的な論議あるいは国民的な理解は必ずしも十分であるようには思いません。国民がその早期の成立を必ずしも望んでいるようには思えないのであります。過日、東京で開催された中央公聴会で、今国会で成立を求めた公述人は一人もいなかったというふうに承っております。もう一度国民的な論議に立って、真に国民の熟慮と総意に支えられる憲法のシステムをお願いし、意見陳述を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

中山座長 ありがとうございました。

 次に、藤尾彰君にお願いいたします。

藤尾彰君 御紹介いただきました藤尾です。

 本日は、意見陳述の機会をお与えいただき、まことにありがとうございました。主に、憲法九十六条一項後段の「その過半数の賛成」という文言の意味について意見を申し上げます。

 「その過半数」の意味につきましては、有権者総数の過半数という説、投票総数の過半数という説、有効投票総数の過半数という説、大体この三つが論理的にはあり得るのではないかと考えられているわけですけれども、憲法九十六条一項後段の「その過半数」の「その」というのは、その前に規定されている国民投票を受けてその国民投票のという意味だと思いますので、「その過半数」というのは、その投票の過半数、すなわち、投票行動した人間だけを指し、たとえ有権者であっても棄権したような人間、投票所にも足を運ばなかったような人間、これは当然に九十六条の言う「その過半数」のうちには入ってこないというふうに考えられますので、有権者総数の過半数という考え方は憲法九十六条一項後段の規定からして文理上成り立たないというふうに思います。

 ただ、九十六条を離れて、憲法の国民主権主義の原理、あるいは憲法改正の安定性と言うんでしょうか、あるいは正統性、そういう見地からするならば、やはり有権者の過半数の賛成を得るくらいの憲法改正がまことに望ましいというふうに思います。そういう点で、議員の方々も含めて、すべての国民がそういう方向に努力すべきではないかというふうに考えております。

 それはともかくとしまして、昨年十二月十四日、自民、公明、民主の三党は、改憲手続法案についての修正協議を行って、憲法改正案の承認には、憲法改正国民投票において投票総数の過半数、有効投票の過半数じゃなくて投票総数の過半数の賛成を必要とすることで一致したというふうに伝えられております。

 ところが、ここに言う投票総数とは、国民投票の効果を定めるところで括弧書きがありまして、投票総数と言いながらそれに括弧がつきまして、「憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数をいう。」として、いわゆる白票とかあるいは他事記載をしたような票は、憲法改正案に対して賛否の意思が明確に読み取れないという意味で無効票である、無効票扱いにするというふうにして投票総数から除外し、結果的には有効投票の過半数の賛成を必要とするという考え方と同一に帰しているというふうに申し上げていいだろうと思います。

 なぜそういうふうになったのかということについて、表現上、有効あるいは無効という言葉をなるべく使わないという観点からこうなったんだといったような与党案提出者の説明がありますが、それは恐らくは趣味の問題であって、法律上意味のあるような発言であるとは考えられません。

 さらに、その上、先ほど来他の意見陳述人もおっしゃっていますが、与党案も民主党案も、国民投票の成立に必要な最低投票数を設けておりませんので、場合によっては、有権者の四〇%の投票でも国民投票は成立し、そのうちの半分が白票、他事記載などの理由で無効票、なぜ半分ということは、二〇%ということになりますが、理由は後で申し上げます、そして残りの二〇%のうちの一一%が賛成票、九%が反対票、こういう結果が出たとしても、この国民投票は立派に憲法改正の承認を国民はしたんだというふうになってしまうわけです。有権者のたった一割そこそこの人間によって、日本が例えば海外で戦争する国になる、これがたった一割前後の人の賛成によって決まるというふうなこともあり得るということです。

 しかし、改憲案に対する賛否の意思が読み取れる票だけを有効票として、白票などを無効票として投票総数から除外し、これを国民投票のらち外に追放してしまうということが国民主権原理と憲法九十六条一項後段の規定に照らして許容されるかどうかということになると、極めて問題があるように考えております。特に、国会が発議したんだから、イエスかノーか答えろというのは不遜の限りと言わざるを得ないと思います。要するに、白票を投ずるということは、答えない、けしからぬという発想だと思います。

 そもそも憲法九十六条一項後段は、発議された改憲案の承認には国民投票において「その過半数の賛成を必要とする。」としまして、改憲案に賛成する者のみに賛成の意思を投票用紙において明確に表明することを要求しているのであって、それ以外の者には別段何の意思表示も求めてはいないと言うべきであろうと思います。

 ここのところは、ちょっとうまく言えないんですけれども、民事訴訟などにおける一種の証明責任論のようなものが働いているんじゃないか。すなわち、憲法を変えようとする立場の人間は、できる限り自分たちの主張が支持されるように頑張るといったような責任が課せられているというふうに考えます。

 だからこそ、当初の民主党案は、「投票人は、投票所において、投票用紙の記載欄に、憲法改正案に対し賛成するときは○の記号を自書し、憲法改正案に対し反対するときは何らの記載をしないで、」ということは白票でということになります、「これを投票箱に入れなければならない。」とされているのは、まさに今の僕の憲法九十六条一項後段の解釈に沿っているのではないかというふうに考える次第です。今の白票等は憲法九十六条一項後段に言う賛成をしていない票として投票総数に算入するのが、憲法九十六条一項後段の趣旨であろうというふうに理解しております。

 冒頭、有権者総数の過半数という考え方は憲法では想定できないということを申し上げたんですが、有権者総数の過半数という場合は投票所に足も運ばない人間ということになるわけですけれども、白票等を投ずる人間は文字どおり投票所に足を運んで、投票所の受付で投票用紙の交付を受け、投票の記載をする場所で投票用紙に何らかの記載をする、あるいは何らの記載もしないでその投票用紙を投票箱に入れた票であるわけですから、そこには投票行動というものが立派にあったということは明確であるかと思います。これを無効票として投票総数から除外するとなると、先ほどの有権者総数の過半数という場合の棄権した人間が、投票所に足を運ばなかった人間がカウントされないのは当然としても、投票所に足を運んだ人間が白票を投じれば同じ扱いなんだ、カウントしないんだというのは、権衡を失っているというふうに思います。

 そして、先ほど四〇%の投票率で云々ということを申し上げましたが、こういうふうになってきますと、白票は無効票だということで投票総数の中に入ってこないということになると、投票率は二〇%しかないということになるのか、それとも投票率を数えるときには白票も一票と数えるのか、そのあたりもおかしな議論が出てくる可能性があるかと思います。

 さらに、憲法改正国民投票では、改正事項が複数にわたる場合、項目ごとに賛否を問う個別方式をとるのか、全項目をまとめて賛否を問う一括方式をとるのか、あるいは内容的に関連する事項ごとに区分して、そのそれぞれについて賛否を問う関連事項方式をとるか、あるいは関連事項方式をとる場合に、関連事項の区分の仕方が果たして適切であるかどうか、投票用紙における賛否の記載の仕方がどうなっているか、改正事項が多岐にわたる場合、投票用紙の数をどうするか等、いわば制度のせいで膨大な白票などのいわゆる無効票の発生が見込まれるかと思います。

 さきの例で半数の票が白票などを理由とする無効票になることを予定したのも、こういう事情を考慮したからにほかなりません。それだけに、賛否の意思が明確に読み取れる票だけを有効票とみなす自民、公明、民主の修正合意というものは、膨大な白票等を無視する点で実際上も極めて大きな問題をはらんでいるのではないかというふうに考えます。

 最後に、白票や他事記載などで賛否の意思が明確でない票を無効扱いすることから生じる極めて重大な問題を指摘したいと思います。

 それは、白票などの無効扱いされた票と反対票とを合計すると、賛成票をはるかに上回る結果が出た場合です。

 先ほどの例でいいますと、賛成票は一一%、反対票は九%、白票等の無効票は二〇%。すると、白票というものを、本当にこれは無効票にすべきものではない、有効票だ、反対票に数えるべきだということになると、二九%の反対で、圧倒的多数で改正案は否決されたことになるわけです。そのことが要するに公になってくる、国民が知るところになった場合、こういう国民投票はインチキだ、政権党がいわばどさくさに紛れて改憲をかすめ取ったんだ、こんな改憲に何の正統性もない、こういう声が国民の中から出てきても決しておかしくはないというふうに思います。

 かつて、韓国で、李承晩が大統領の時代に、初代大統領に関してのみ憲法の三選禁止規定を撤廃する改憲案が国会に提出されたことがあるんですが、そのとき、国会議員の議席は二百三議席で、三選賛成の票は百三十五票であったわけです。ところが、三分の二の多数が必要ということで、百三十六票ないと改憲は成立しないはずだったんです。だから、一たんは改憲は成立しないという決定を国会でしたんです。

 ところが、改憲派の方は、二百三の三分の二というのは、正確に数えると百三十五・三三三三と続くんだそうです。すると、四捨五入すると百三十五票で足りるんだということで改憲を強行したことがありました。これが一九六〇年の韓国における四・一九学生民主革命、そしてそれに引き続いて起こった李承晩の失脚の遠因になったことは、韓国においては選挙腐敗と金銭腐敗、こういうものがなにしたわけですから、遠因になったことは間違いないと思います。

 法的には、国民投票法が予定している国民投票無効の訴訟とは別に、こんな投票制度自体は違憲無効である、こんな投票制度に基づいて行われた国民投票も違憲無効である、そういう国民投票によってなされたとされる憲法改正も違憲無効であるということで、憲法問題としてこれが議論される余地は十分あるのではないかというふうに考えております。

 そういう点で、「その過半数」とは投票総数の過半数であり、かつ、この投票総数の中には白票等賛否の意思が明確でない票も含まれるというふうに改めるのが賢明ではないかと思います。

 委員各位の御賢察をぜひお願いしたいと思います。終わります。

中山座長 ありがとうございました。

 次に、越智敏夫君にお願いいたします。

越智敏夫君 新潟国際情報大学の越智です。きょうはここに呼んでいただいて、どうもありがとうございました。

 私の専門は政治理論、政治思想で、特に市民あるいは市民社会という概念を中心に研究しています。

 きょうは非常に簡単なことだけをお伝えしたいと思います。レジュメを準備しましたので、それに沿ってお話ししたいと思います。

 最初に一つだけ、前置きみたいなものなんですが、この国民投票法案というものについて、一部の議論として手続法なんだという言い方がされますけれども、それは非常に問題が多いと思います、個人的には非常に気に入らないというか。手続法だからこれはニュートラルに決めることができるという議論が時々されるんですけれども、当然、手続法とはいえ、というよりは、どのように改憲をするかというその方法を決めること自体非常に政治的ですし、それをいつ出すかというようなものを、改憲したい側はなるべく早く手続法をつくろうとか、阻止する側はつくらないでおこう、その政治の中にあるので、手続法だから事務的に決めていいじゃないかという議論そのものは僕は非常に問題が多いと思います。

 そして、その中身ですけれども、これは非常に簡単で、どこまで簡単に改憲できるか、あるいはさせないか、その幅があって、そのどこにこの手続を決めるかということだと思います。具体的な内容はこれまで三人の方もいろいろおっしゃっていますので、僕は基本的な憲法に関する考え方というか改憲に関する考え方を市民政治あるいは国民主権という観点から考えたいと思います。

 「結論」といきなり書きましたが、基本的に国民投票法は、なるべく憲法を変えにくくするべきだと僕は考えます。国民投票法の内容次第で簡単に改憲できたりできなくなったりするわけですけれども、今の日本国憲法を変えるルールとしては、なるべくそのハードルを高くする、憲法を変えにくくする投票法案にしておくべきだと思います。

 理由は三つです。

 そこに三つ書きましたけれども、まず、政治学の目的というのも大げさですが、人類は痛い目に遭っているわけで、何で痛い目に遭っているかというと、権力に痛い目に遭っているわけですよ。五千年とかそれぐらいかけて何とか権力をコントロールする知恵を人類は見つけてきたわけです。政治学は、そうした権力の暴走、絶対権力が出現するようなことだけは避けたい、それは二十世紀に入ってもナチズムなりなんなり、いろいろなところで権力の暴走というのは見えるわけで、そういうものをコントロールする知恵を何とかつくってきました。

 当然それは、例えば権力分立のように、権力を一人の人間に任すとまずいから三つに分けましょう、法律をつくる人間と執行する人間と判断する人間の三つに分けましょうとか、あるいは、権力を国民国家で一個にするとまずいので中央と地方に分けましょう、そういうふうにいろいろ分けていきます。その中でいろいろな知恵が人間もついてきて、例えば権力を三つに分けたとしても、ある人間を信頼することは危ない、どんなにいい人でもそれは危ない、だから任期を決めましょう。例えばアメリカの大統領のように、どんなに国民の支持が高くても八年以上はやらせませんとか、そういう時間の安全装置とか、いろいろな安全装置としてそうした権力分立とか任期の問題を人類は編み出してきたわけです。

 その中で、そうした編み出したものをまとめる、国家構成、憲法は、コンスティチューションは小文字で書けば骨格とかそういうふうに訳されますけれども、そうした安全装置の総体として憲法というものを人類は何とか手にしてきたわけで、こうした一種の安全装置の総体としての憲法をどう変えるかということ自体は慎重にあるべきだろう。安全装置そのものを簡単に変えていくと、本体そのものの破壊される危険性は高まるわけですね。

 そういう意味で、安全装置の総体としての憲法、特にそこに基本的人権というものが入っているのは、その安全装置としての憲法は国民一人一人のためだけではない。つまり、基本的人権というのは、我々市民一人一人の権利を守るというだけではなくて、その市民によって構成される国家そのものも人権を基本に構成した方が安定する、そういう一種の功利主義的な、国家のためでもあるという側面もあるので、なるべく人に迷惑をかけない安定した国家をつくるために、そうした基本的人権を基本に据えた憲法というのはいじるべきではないと僕は考えます。

 先ほどちょっと任期の話をしましたけれども、例えば総理大臣なり大統領なり政治家なり、ある問題があったとしても、いざというときは国民は選挙で落とせるわけで、この人はだめだと思えば落としてしまえばいい、参議院だったら六年、衆議院だったら最長四年という安全装置で。それが憲法にはないですから、実際、今の日本国憲法だって、もう戦後何十年ずっと使っているわけで、そういう安全装置の改変というのは慎重にあるべきだろう、つまり、なるべく変えにくくするべきだろうと思います。

 二つ目の理由は、これは日本国憲法のもう少し具体的な特徴に入っていきますけれども、日本国憲法というのは非常に抽象的なんですね。ほかの憲法に比べても、表現が抽象的なところが多い憲法だと思います。よく言えば普遍的な内容が語られているわけで、そういう憲法を変えるというのは、これまでの戦後の、俗に言われる解釈改憲、九条を見てもわかるように、あの九条のもとでこういう国ができているわけで、それがいいか悪いかというのは当然また別問題ですけれども、現実的に、九条の文言から現在の自衛隊というものを生む、そういう戦後政治が具体的にあるわけですね。

 それは抽象的な表現をどう現実の政治のプログラムの中に入れていくかという中で起こってきたことですけれども、こういう抽象的な憲法を変えるということは、一層その解釈改憲の幅は広がるだろう。つまり、憲法を変えたからといって、これまでここまで解釈してきた政治家の皆さんが憲法を変えたからこれからは解釈改憲の幅を狭めますということはあり得ないんですね。だとすれば、その解釈改憲というものは一層広がっていくだろうと思いますし、個人的に非常に気になるのは、現在の憲法の議論、改憲の議論の中で、国民をコントロールする、憲法によって国民の義務であると。そういうものは政治思想の中ではやはり認められないと思うんですね。憲法というのは、先ほど言ったように、人間、一人一人の市民が国家をどうコントロールするか、その目的が最大のものだと思いますので、そういう中で、憲法の基本機能というか、人間が国家をどうコントロールするかというものが消えていってしまう、それは問題だと思う。

 ですから、それを再確認する、つまり、市民、国民が国家権力をどのようにコントロールするか、その武器としての憲法というものを再確認するためにも、憲法というのはなるべく変えにくくするべきだろうと思います。そうでなければ、はっきり言うと、憲法の改定というか、それは一種の疑似クーデターを、ちょっと物騒な言葉ですけれども、疑似クーデターや疑似革命という意味を持ってしまいますので、そういうものを簡単にそのときそのときの与党ができるようにするべきではないだろうと思います。そうしなければ、今後の日本政治の混乱というのが起きるのではないかと思います。

 三つ目の理由ですけれども、これは今言ったことと関連するんですが、今、こういう手続法が出てくる政治の流れがあって、議席のバランスがあってこうなっているわけですけれども、そのときそのときの与党の案が通りやすい改憲の方法というのは、一種の改憲の応酬みたいなものを生む可能性があるわけですね。

 つまり、十年後、二十年後には議会内のバランスがどうなっているかわからないわけで、例えば社民党が政権をとる、あるいは民主党が政権をとる、そうなったときに、この前の憲法は問題があったから、あるいはこの前の改憲案は問題があったので、今度は新しくつくりましょうと。そういうふうに、政治は一寸先はやみだといいますけれども、そのやみの中で何が行われるかわからないわけで、今は公明党と自民党が与党でこういう改憲が正しいと思いますと出して、では、次の政権はやはりまずかったからもとに戻しましょうと、そういうふうに国の構成、国家構成に関するものが各政権ごとに変えられる可能性が出てくるわけですね。

 そういう現在の議会バランスだけではなくて、将来の議会がどうなるかを考えたときに、今そのハードルを下げて、そのときそのときの与党の案が通りやすいようなものにすること自体は、今の与党だけではなくて、将来の日本の政治を考えたときに、改憲そのものを毎回政治的なイシューにしてしまうという問題が出てきて、別に改憲をイシューにすることが悪いということではないんですが、そのことによって他の重要な政策の審議等ができにくくなる、簡単に言えば混乱すると思いますので、そういう政治における時間の観念を考えれば、現在の多数派は将来少数派になる可能性もあるので、そこでさまざまな改憲案が常に議論されていくような状況は避けるべきだと思います。

 以上の三つの理由で、憲法はなるべく変えにくくする。つまり、ハードルを上げて、硬性憲法の特質は守るべきだと思います。

 あとは各論なんですが、レジュメの二枚目に書いたようにいろいろな問題があります。ここでは二点だけ考えを述べさせていただきたいと思います。

 一つは、公務員による運動というところです。

 きのう、おととい、本当に毎日変わっていて、修正案等がマスメディアで報道されるのも本当にここ一週間ぐらいというのも個人的には気に入らないんですが、どういう議論がされているのかというのが余り報道されなかったので、そこも問題だとは思うんですけれども。

 きのう等の報道では、例えば罰則規定は設けない、そういうことが言われていますけれども、基本的に、憲法の九十九条には、公務員というのは憲法を守らないといけない、大臣も含めてですけれども公務員の憲法遵守義務というのがあるんですね。ということは、公務員というのは改憲に立場上賛成できない。つまり、公務員は現在の国家構成を認めた上で公務員をするというのが前提ですから、そこで公務員に運動を禁止するというのは、僕は二重、三重におかしいんじゃないか。言ってしまえば、公務員というのは憲法改定には反対しないといけない立場ではないかという考えもあり得ると思います。

 これは、意見陳述者は委員の皆さんには質問できないということなんですけれども、本当は質問したいところで、そもそも発議はだれがするのか。つまり、内閣総理大臣というのは、まさに公務員として憲法を必ず守る、憲法遵守義務の最も強い人が内閣総理大臣なわけで、責任内閣制のもとでその発議をだれがするのかというのは非常に気になるところです。

 それで、発議そのものだけではなくて、公務員の運動の規定というのはやはり問題があるかなと思います。

 もう一つは、これも他の意見陳述者の方が言っていることですけれども、最低投票率の問題です。

 これは本当にさっきから言っているように、ハードルをどこまで高くするかということで、最低投票率を高くすれば当然憲法は変わりにくくなるわけで、それを取ってしまえば憲法は変わりやすくなる、その一つだと思いますが、個人的にはこの最低投票率は設けるべきだと思います。

 どうしてかというと、そもそも日本の議会は国民の意思とずれが大きいんですね。簡単に言えば、死票がたくさんあるわけです。御存じのように、小選挙区制になって以降、一層ずれがあります。つまり、国会の中の議員の割合、与党、野党の割合と国民の投票行動には致命的なずれがあるんですね、今の選挙の結果。ということは、国民がどういうふうに思っているかということを、議員の方を前にして言うのは申しわけないんですけれども、体現していないんです、今議員は。すごくずれが大きいわけです。

 特にこういう改憲というシングルイシューのどうしますかというようなものに関して聞くときに、議員の三分の二が発議に賛成したんだから、それは国民の意思を体現しているとは言えないと僕は思うんですね。ですから、そこでは国民の意思を確認するための何らかのハードルをつけるべきだ。つまり、国会議員と国民あるいは市民の意思のずれがある以上は、改憲案を国民投票で国民に問うときには何らかの形でまた別の安全装置をつけるべきだろう。それは、最低投票率なり絶対得票数なり、そういうものに結実させるべきだろうと思います。

 新潟の大学で教え始めて僕は七、八年なんですけれども、新潟は、御存じのように巻の住民投票がありました。原発を住民がとめるということをやったわけですけれども、あの住民投票を研究していて思ったのが、何をするにも時間がかかるということなんですね。では、どうしますかといって、いきなり投票するかどうかとか、そういうのはすぐ決まらないわけで、あの巻の皆さんは、賛成派、反対派いろいろありますけれども、本当に議論をして、暴力を生まないで議論の中でああいうルールを決め、特に自主管理投票等を行って時間をかけてその結論を出したわけで、それはローカルコミュニティーがそういう問題で政治を勉強していく例だと思います。

 この国民投票というのはよく住民投票と比べられますけれども、はっきり言うと、現在の国民投票の議論は巻町に比べれば全く実がないというか、巻町の皆さんの議論の方がよっぽど民主的だったなと思います。ですから、もっと時間をかけて議論していただきたいというのが僕の最終的な意見です。

 どうもありがとうございました。

中山座長 ありがとうございました。

 以上で意見陳述者からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

中山座長 これより意見陳述者に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。愛知和男君。

愛知委員 自民党の愛知和男でございます。

 きょうは、公述人の皆様方、お忙しいところを朝からおいでいただきまして、貴重な御意見をいただきましたことをまず御礼申し上げたいと存じます。ありがとうございました。

 時間が十分ということでございますので、非常に限られておりますから、焦点を絞ってというか、公述人全員にお話を伺っておりますと時間が足りなくなりますので、少し絞っていきたいと思いますが、田村公述人にお伺いをしたいと思います。

 最初に、国民投票に関するこれまでの議論について、いろいろと膨大な資料を送ってもらったというお話がございました。私どももそれなりに辛抱強く大変な努力をしてまいりまして、時間数でいいましても百時間以上の調査審議等をやりましたし、公聴会も一生懸命やりましたし、また海外調査なども随分やりまして、国会の中で悪口を言う人は、憲法調査会は海外調査会だなんというようなことをささやいたりする人がいるぐらい外国の例なども随分勉強をして、そしてまた、お互いの中でも随分議論を細かくいたしまして、与党の案も随分修正をして、昨日、具体的に修正案を出したわけでございますが、その間のプロセスというのは、私もかなり長く国会議員をやっておりますけれども、こんなに辛抱強くやったというのは余り経験をしておりません。こういうことにつきまして、田村公述人ちょっとお触れになりましたけれども、どのように評価をされておりますか、重ねて御意見というか感想をお伺いしたいと思います。

田村秀君 それでは、質問に対して述べさせていただきます。

 やはり、議会ですからさまざまな意見の対立もあるでしょうし、またそれを闘わせるのが国会の場の意義だと思うんですけれども、その前段として、結果的には新しいことをやるわけですからなかなか参考になるものがない、そういう中で海外の事例、あるいはこの中にあるように地方自治体の住民投票の事例なども非常によく盛り込まれておりまして、そういうものを時間をかけて議論されたということは、私は非常に評価されるべきだと思います。

 どれだけ時間をかければいいかというのはよくわかりませんが、やはり議論をした上で、民主主義として決をとるというのがこれまでのやり方でもありますし、これからもそうだと思います。いずれにしましても、実は、修正案につきまして、まだプレスといいますか新聞のあれでしかよく見ていませんので十分わからない点もあるんですけれども、それを踏まえてまた議論していただきたいな、このように考えております。

愛知委員 修正案で幾つかの点がございますけれども、先ほどちょっと馬場公述人でしたか、お触れになりましたけれども、公務員の政治的行為の制限について定めております国家公務員法、地方公務員法等の規定につきましては、これを適用除外とするという案もあったわけですが、最終的に修正案としては、適用除外とすることはせずに、附則において、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう必要な法制上の措置を講ずるということを附則に書くということで、今度の国民投票法をそういう内容にした。

 これは、国家公務員法、地方公務員法、両方にこの規定がばらばらだというような前提があるものですから、ひとまずこういうふうにしまして、これからこの点について法制上の措置を講ずるという、これからの含みといいましょうか課題を残したような修正案にしたのでございますが、この点についていかがですか。馬場公述人の方がいいかしら。

馬場泰君 与党と民主党の間で大変精力的に修正協議がなされてきた、そして、先ほど田村公述人からもお話がありましたように、この委員会で非常に熱心に議論に取り組まれてきたということについては、私も評価をしたいと思います。

 ただ、そのことが十分国民に伝わっているかどうかという点で疑問に思うわけでございますが、今ほどの点については、これは比較的早い時期に公務員の政治的行為の適用除外が民主党との間でまとまっていたというふうに認識をしております。これは大変すばらしいことだ、これは一般の選挙の問題とは違う、一般の政治課題についての議論とは違う、先ほど来申し上げているように国家の骨格、国民の生活基盤にかかわる憲法の議論、そういう意味でその議論をなるべくオープンにしようという、これは諸外国もそういうふうにしているわけですけれども、そういう態度をとられたのは大変立派だというふうに私どもは評価をしておりました。

 ところが、最終段階で、これはどなたの御発言かわかりませんけれども、特定の団体の国民投票運動を自由にさせていいのかという議論の中で自民党が後退をされたというふうに仄聞しているわけですけれども、これは大変残念なことだというふうに思います。もちろん、この部分についてどういうふうに固まっていくのかは今後の議論にゆだねられているところではございますけれども、この段階で、つまり、精力的な修正協議が重ねられてきたこの最終盤においてそういう変更が行われたということについては大変残念に思っております。

愛知委員 全然違うことでございますが、田村公述人にお願いいたしたいと思います。

 民主党の案にあります一般的国民投票の問題につきまして、地方自治の場合には首長と議会という二元代表制というものもあるので住民投票というものも非常に意味がある、それを敷衍して国政の場でも同じようなことというのは余り短絡的過ぎるのではないかというようなこと、しかし、将来の課題として、もしかしたら基本的にこういうものは必要かもしれないというような趣旨のことをお述べになったと理解いたしておりますが、もう一度その辺につきましてお願いいたします。

田村秀君 必ずしも短絡的かどうかというのはいろいろ議論があると思うんですが、確かに地方自治体で住民投票が起こる一因にそういう二元代表制ということもあるのかなと。私としては、国政上の問題においても、また、一般的でいいのか憲法に限った予備的投票がいいのかという議論もありますが、そういう国民投票、いわゆるレファレンダムといいますか、そういうものの制度を導入していく必要はあると考えています。

 ただ、今すぐやるとなりますと、もう少しきっちり議論を詰めて、私は、実現していただきたいがゆえにしっかりと議論していただきたい。そのようなことで、ここで今盛り込むのはなかなか難しいのではないかな、もう少しさまざまな角度から議論した上でちゃんとした成案にしてほしいという私の考えを述べたところでございます。

愛知委員 時間がなくなりました。最後にコメントだけで終わってしまうかもしれませんけれども、最低投票率のことを大分大勢の方が言われました。どうもお聞きしておりますと、投票率が低かった場合のことを念頭に置いて言っておられる。私は、これは国民に対して大変失礼な話だと思うんですね。日本は、もっともっと日本の国民のレベルというのは高いわけですし、憲法などという大事なものに対して投票率が四〇%やそこらというようなことなどは、ちょっと想定しにくいと私は思いますね。したがって、そういう点からいっても、最低投票率をわざわざやるというのはいかがなものか。

 それから、憲法九十六条自体で過半数となっていて、そこにこれが書いていないわけですから、最低投票率を導入するとなりますと憲法の改正そのものに関係するということになってしまう。

 まあ、幾つかの点から、最低投票率を設けるというのは筋違いの話だと私は思っております。

 コメントだけになってしまいましたけれども、以上、どうもありがとうございました。

中山座長 次に、園田康博君。

園田(康)委員 民主党の園田康博でございます。

 きょうは、それぞれのお立場で諸先生方からお話をいただきまして、本当にありがとうございます。私自身も、そしてきょうここに派遣をされております委員全員も、真摯に受けとめさせていただくことが大変多かったのではないかというふうに思っております。

 私ども民主党の立場で申し上げますと、まず、国民投票法案といいますのは、憲法九十六条に書かれてある、現行憲法に手続規定というものがあり、そして、主権者たる国民の憲法制定権というものからかんがみますと、やはり手続法というものは必要ではないかということを考えているわけであります。同時に、これは憲法改正というものがあるかないか、是非、賛成あるいは反対ということにかかわらず、こういった今の現行憲法に書かれてある手続規定をきちっと整備しておく必要があるのではないかというふうに思っておるわけであります。

 先ほど越智先生から政権交代となれば憲法改正がその都度行われるということであってはならないということでありますので、当然のごとく、この手続法制を考えていく際には、賛成、反対だけの話ではなくて、国民総意のもとで、きちっとした議論でつくられていくべきであろうというふうに考えております。

 そういった意味で、本来ならば憲法改正論議が深まる前にきちっとこの手続法制をやっておかなければいけなかったのかなというふうに思っておる次第でございますが、そういった点で、今回国会の中で議論させていただくことに大変感慨深いものがございます。

 ただ、一点残念なことがございます。と申しますのは、私ども国会の中で議論をしておるものが正確に国民に伝わっていないというのが、今諸先生方からお話を伺って一つ感じたことがございました。それは、修正協議、修正協議というふうにおっしゃっておられたわけでありますが、実は私ども民主党は、自民党さん、公明党さんの与党の提案者の方々と修正協議をした覚えもありませんし、修正協議をしたという事実もございません。すなわち、これは各党間あるいは提案者同士でそういったことが何か国民の知らないところで行われているということではいけないということから、憲法調査特別委員会の中でしっかりとした議論をし合い、そして国民の目に見える、そういう形の中で国民合意を得ていく過程をつくっていかなければいけない、そのプロセスを大事にしていかなければいけないという思いがございましたので、そういった意味では、何か各党間で協議をしたということはございません。

 ただ、私どもも、委員会の中できょうのように参考人の先生方からさまざまな御意見をいただくなりして、当初の私ども民主党の原案の中でもこれは少し変えた方がいいのではないかというような点がございましたので、そういった点で幾つかそういう発言をさせていただいた経緯はございます。その点だけまず冒頭申し上げておきたいと思います。

 きょうは、いろいろ御議論をいただきまして、まず、田村先生からのみ国民投票の対象として私どもが提案をさせていただいておりますいわゆる一般的国民投票制度を憲法改正の国民投票にプラスして一緒の制度の中できちっと盛り込んでいくべきではないかということで、今回、私ども民主党は、諮問的ではございますけれども、一般的な国民投票、重要案件にかかわる問題についてはこれを制度の中でぜひ成立させていきたいというふうに考えた次第でございます。

 そこで、先ほど田村先生からはお話をいただきましたので、馬場先生、藤尾先生、越智先生に、私どもの国民投票法案に関する考え方を少しお示しいただければなというふうに思っております。

 先ほど少しお話がありましたように、イタリアですとかスペインですとかスイスにおいては、憲法改正と一般的な国民投票とが一つの法律としてつくっているという例も諸外国では見られるということもございます。ただ、私どもの当初の原案からいたしますと、これは代議制民主主義との兼ね合いから、ここにいきなり直接民主制的なものを諮問的とはいえ持ってくるのはどうかなというふうに考えておりまして、いわゆる国政問題に係る案件についての一定の限定を加えるという案がまず一つ出てまいりました。

 それから、これは憲法改正の前段、予備的な国民投票という位置づけでつくってはどうかという形も考えられるのではないかなというふうに思っておるところでございまして、いずれにしても、具体的な制度設計については今後の審査会等々できちっとした議論を盛り込んでいきたいというふうに考えているわけですが、一般的国民投票制度の必要性並びに制度設計に関して何か御意見があればお聞かせをいただきたいというふうに思います。

馬場泰君 最初に、修正協議の点について御指摘をいただきました。私どもの認識不足でございまして、おわびを申し上げたいというふうに思います。

 重要課題についての国民投票の問題についてでございますけれども、本日は新潟県弁護士会の代表として参っておりますが、十分な議論をしているわけではございません。ただ、大変有意義なことだというふうに思います。私は個人的には、先ほど越智先生から御紹介のあった巻の原発に関する住民投票の関係でも若干関与した経過がございますので、大変有意義だろうというふうに思います。

 憲法改正でいろいろ議論されている国民の権利の国民と国家の関係であるとか、あるいは九条二項の関係であるとか、これも非常に重要ではございますけれども、同じように重要な問題として例えば原発の問題がある。原発が、原発銀座と言われているわけですけれども、地震がございました。さらに、年金がどうなるのかという議論もあるわけですね。そういう中で、国民の生活に影響の大きな問題については、間接民主主義を補うものとして直接民主主義的な手法を取り入れていくべきではないか。今回の民主党の御提案については、大変すぐれた御提案だというふうに理解をしております。

藤尾彰君 制度自体は大変結構なことだと思っているんですが、憲法改正国民投票というある意味では非常に重要な問題でいろいろな角度からの議論がなされていて、むしろその問題に専念すべきではないか。だから、憲法改正国民投票法が成立した後で、別立てとして国政に係る重要問題についての国民投票といったような法案を提出されたらいいんじゃないでしょうか。

越智敏夫君 一般的な国民投票法案というか、それは賛成です。基本的に、憲法以外の重要な、例えば女性天皇を認めるかどうかとか、そういうものについて国民の判断を仰ぐ、それは望ましいと思いますので、一般的な国民投票法案というものには個人的には賛成します。

園田(康)委員 大変失礼いたしました。時間がなくなってまいりましたのでコメントだけになるかもしれませんが、公務員の政治的行為の制限規定に関して、私どもも、当初の原案からこの部分に関しては適用除外をしていこうではないかと。すなわち、国家公務員と地方公務員の規定の差の中から、当初の案でいきますと、国家公務員ではそれが想定されていなかったということで、これが適用除外という形にしてしまうと、地方公務員と国家公務員は同じ公務員という立場でありながらここで差が生じてしまう、運動の中で差が生じてしまうということは私は問題ではないかなというふうに思っておりますので、これは私からの指摘、コメントとして受けとめていただければなというふうに思います。

 本日は、本当に貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。

中山座長 次に、石井啓一君。

石井(啓)委員 公明党の石井啓一でございます。

 本日は、陳述人の皆様には大変ありがとうございます。

 田村先生と馬場先生にお伺いをしたいと思います。

 改正の発議から投票までの期間の問題でございますけれども、田村先生はおおむね妥当と考えられるというふうに御評価いただいておりまして、一方で馬場先生の方は、六十日以降百八十日は余りに短過ぎる、少なくとも六カ月以上は必要である、こういう御主張でございます。確かに、短いと国民が十分改正に関する検討の時間が持てないということで問題でございますが、一方で、長過ぎると国民の関心が薄らぐということもございますので、やはり短過ぎず長過ぎずということが私は必要なんだと思います。

 諸外国の事例を見てみましても、今手元にある資料では、例えば韓国ではこの周知期間は三十日以内、スペインでは三十日以上百二十日以内、フランスでは約三カ月、イタリアでは三カ月以内、スイスでは四カ月以内、デンマークでは六カ月以内、こういう事例もございますので、この六十日ないし百八十日という期間は私は適切な期間ではないかなというふうに思っておりますが、お二方の御意見を伺いたいと存じます。

田村秀君 発議してから二カ月―半年ということで、一見すると半年というのは長いようで短いという見方もあるとは思うんですが、国会の発議がある前から改正の議論が当然あるわけですね。国会でも恐らくけんけんがくがくの議論になると思いますし、あるいは原案を国会に出すときも相当の議論があるのかなと。そういうことがあって、さらに二カ月―半年ですから、私は決してその半年は、半年というのだけとらえるとちょっと短いという理屈もあると思うんですが、そこまでとらえると、恐らく一年とか二年はかかっているでしょうから、必ずしも短いとは言えないのではないか。

 しかも、先生御指摘のように、事務局の資料などでも、長くても七カ月というのがありますけれども、デンマークで六カ月とか、韓国では一カ月ですか、いろいろあるわけでありまして、一カ月というのは確かに余りにも短いかと思いますから、二カ月、六十日から百八十日というのは私は妥当ではないかというふうに考えております。

馬場泰君 改正のための手続法が先か、改正の中身が先かという議論がもう一つあろうかと思うんですね。

 改正法が改正の中身の議論に引きずられていろいろ変わっていくのはむしろ手続法の中立性からは好ましくないという議論もあるのかもしれませんけれども、今現在議論されている、自民党からは新憲法草案をいただいているわけでございますけれども、これは憲法の全面的な改正に等しいものではないでしょうか。例えば部分的な、提案されている環境権を設けよう、環境権を新たに盛り込もうという議論であれば、今ほど田村先生あるいは石井先生御指摘のように、それほど議論に時間をかける必要はないのかもしれません。

 しかし、今取りざたされているのは、大きく現行憲法の原則が変わろうとしている、国民の責務が強調されようとしている、そしてまた、硬性憲法のこの憲法改正手続が大きく緩められようとしている、これは私は象徴的だと思うんですね、憲法九条の問題を持ち出すまでもなく非常に象徴的だと思うんです。そういう意味では、やはりこの二カ月―六カ月というのはいかにも短過ぎはしないだろうか。

 確かに、国会のさなかにも大いに議論はされるでありましょう。しかし、最終的にどういう形で発議をされるのか。投票方法にも関係することであります。どういう形で国民が投票するのか。それとの関係でいいますと、やはり議論は十分なされなければならない。国民の関心が薄れたというお話がございますけれども、そのような状態で憲法の改正が果たしてできるのであろうか、私はむしろそのことを問うべきではないかというふうに思います。

石井(啓)委員 今、馬場先生から自民党さんの改正案を念頭に置いた御発言がございましたけれども、私どもの議論は全くそういうことを前提に置いて考えているわけではございませんので、また、実際の発議の手続を考えてみましても、両院の三分の二の多数が必要でございますから、自民党さんの改正案がそのまま発議案になることはほとんど考えにくいことでございますので、そういう御心配は必要ないのではないかということを申し上げておきたいと思います。

 それからもう一つ、投票方法でございますけれども、今出されている案においては、内容によって関連する事項ごとに区分して投票する方法ということで出させていただいていますが、馬場先生の御指摘では具体的なあり方を国会にゆだねられているので不十分だという御指摘でございますが、これも田村先生、馬場先生、お二方にお聞きしたいと思います。

 一括投票というのは、確かに相互に関連のない事項をまとめて国民に判断を求めるというのは、例えば安全保障に関する事項と環境に関する事項をまとめて国民に判断を求めるというのは、少し難しい判断を国民に求めることになりますので、私どもも適切でないと思っておりますし、また、一方で条項ごとに投票するということになりますと、場合によっては非常に数の多い投票ということになりますし、また、相互に関連する条項の賛否が分かれてしまうということになると改正の意図が実現できないということにもなりますし、そういった意味で、関連する事項ごとに区分して投票する方法というのが、私は投票方法としては適切ではないかというふうに考えております。

 田村先生、馬場先生の御意見を伺いたいと存じます。

田村秀君 確かに、一括というのは、どういう内容が一括で出てくるかにもよるんですが、これはかなり国民の側も意見が分かれると思いますし、私はすべきではないとは思っております。

 ただ、その一方で、今先生御指摘のように、余りにも細かく、もし五十とか百とか分かれてしまいますと、我々投票する側で考えてみますと、それこそ混乱を生じてしまうのではないか。ある程度内容の関連するところはくくっていただくということが、国民の判断する側にとっても重要かと思います。

 ただ、問題は何が関連するのかというところについて、余り幅広くあれもこれもということになってしまいますと、それはまたよろしくないのじゃないか。それはこれ以上抽象的なことを言ってもあれなので、その辺はくくり方ということについても国会の中でしっかりと御議論いただきたい、このように考えております。

馬場泰君 私も田村先生と同意見でございまして、問題はくくり方だろうと思うんですね。そのくくり方のところで国会の裁量が大きく認められるような形ですと、これは、政治の世界はどうしても多数決ということになるわけでございますので、そういう意味では先々どうなるか少し不安があるということでございます。

 もちろん、逐条ごとに、今ほど五十、百項目の投票ということがございましたけれども、これは国民にとっては大変な負担ですので、できないというふうに思います。合理的な範囲で、お互いに矛盾しない範囲のくくり方をすべきではないか、そのことをこの国民投票法案の中でしっかり明記すべきではないかという考えです。

石井(啓)委員 最後に、時間がなくなってきましたので、私のコメントだけにしたいと思います。

 馬場先生、越智先生からは、憲法改正はやりにくくすべきだ、変更しにくくすべきだということがございました。確かに、そんなに頻繁に憲法を改正されては国民生活に大変大きな影響がありますから。ただ、硬性憲法という性質は、今の憲法九十六条でもう十分担保されているわけです。すなわち、両院の三分の二の多数で発議がなされ、また国民投票の過半数の賛成が必要だと。ここで十分担保されていると思います。

 一方で、国民投票法自体は、この九十六条の手続として、恣意的に変えやすくしたり変えにくくしたりすることは避けるべきだと思うんですね。この国民投票法自体は、改正しようとする側にもあるいはさせない側にも、中立的な、あくまでも国民の意見を公平、中立、正確に反映させる法律でなければならないと私は思っているということを申し上げておきたいと思います。

 以上でございます。

中山座長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょうは、四人の陳述者の皆さん、本当にお忙しい中、貴重な御意見ありがとうございました。

 伺っていて、新潟における憲法に対する熱い思いと問題への関心の高さについて、私自身も、祖父母が佐渡で、父親も新潟市の出身ですので、改めて新潟の皆さんの思いに触れた思いがしました。

 それで、私たちは、この手続法案については、九条改憲への条件づくりであり、しかも改憲案を通しやすくするという点で反対という立場をとってまいりましたが、きょうも、賛成、反対は別にしても、やはりいろいろな問題点については時間をかけて、きちっと国民に知らされてということも含めて御意見があったことを委員会としても重く受けとめるべきだということを感じております。

 そこで、まず藤尾さんに伺いたいんですが、今どういう状況の中でかということで言いますと、特にことしに入って安倍首相自身が改憲をするとみずから言われて、そのための手続法成立をぜひということで号令をかける。けさのNHKニュースでも、従軍慰安婦問題でアメリカの中でも懸念が出ているということで、戦争にまともに反省のない勢力が九条を変えて、海外に出ていって戦争をする国づくりをするということに対しては、内外からも懸念と批判が高まっているという状況だと思うんです。

 そういう中で、藤尾さん御自身はいろいろなことにかかわってこられて、昨今の憲法をめぐる状況、そしてまた、この手続法案の審議をめぐる状況について新潟県民としてはどういうふうに受けとめているとごらんになっていらっしゃるか、お答えいただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

藤尾彰君 今笠井委員がおっしゃったように、最近の、特に安倍首相の発言云々といったようなこと、あるいは外務大臣の発言とか、あるいは自民党の政調会長の発言とか、そういうふうないろいろのものから県民の多くは相当危険な状況を認識しているんじゃないかというふうに思います。

 そういう中で改憲手続法案が強行採決、強行採決ということが新聞やテレビに何度も出るということ自体、この審議のあり方というものは、本当に、わざわざ公聴会まで開いてということなんですけれども、四月の十四日ごろですか、要するに一斉地方選挙の前半戦が終わったころに委員会採決をし云々といったようなことが、そして、民主がのってこなくても自公だけでもやるんだといったようなことが平気で新聞やテレビに流れて、それに対して委員会として抗議したというふうな話は聞いたことがない。そういう意味では、何を目指しての改憲手続法案かということは透けて見えてくるというふうに言うべきではないかと思います。

笠井委員 先ほどの御意見をそれぞれ伺った中で、馬場さん、藤尾さん、越智さんは、改憲案が少数の国民の賛成でも承認されかねないという両案の問題を指摘されたというふうに思います。

 そこでお三方になんですけれども、私も、憲法という国の最高法規が少数の国民の賛成でも改正されかねない両案については、根本的に間違っているというふうにこれまでも委員会でも再三言ってきたわけですが、提出者の側から最低投票率はつくらないんだということで理由を主に三つ言われてまいりました。一つは、そういうことをするとボイコット運動を誘発しかねないんだ。それから二つ目には、改憲案によっては高い投票率が期待できないということもあるので、設定するとかえってやりにくくなる。そして三つ目には、九十六条にない加重要件を課すことは憲法違反だという、主にその三つの理由で最低投票率をつくらないということが言われてまいりました。

 しかし、私はそれはいずれも成り立たないというふうに思うんですけれども、先ほど問題点を指摘された馬場さん、藤尾さん、越智さん、そうした最低投票率をめぐる議論についてそれぞれコメントをいただければということ。

 それから、時間の関係で、藤尾さんには加えてですが、先ほど馬場さん、越智さんから公務員、教育者への運動規制の問題で御指摘があったんですが、藤尾さん御自身はこういう規制について、今修正も含めて案が出ていますが、どういう効果を、影響をもたらすというふうにお考えかどうか、藤尾さんにはその点についてもあわせてお答えいただきたいと思います。

 お三方にお願いします。

馬場泰君 最低投票率の問題について、非常に低い投票率を前提に立論している、もちろん立論するのは懸念をするからでございまして、この指摘に対してむしろ国民に対して失礼ではないかという御指摘をいただきました。本当にそうであれば大変結構だと思うんですが、残念ながら、国政選挙の投票率はどんどん下がってきている状況にあります。

 そういう中で、私どもとしては、やはり心配な局面を前提にしなければならない。国民に対して低い得票率しかないという指摘はかえって失礼ではないかというのであれば、むしろ最低投票率を設けるべきではないか。最低投票率を悠々超えた形で、国民の総意を結集した形で憲法の改正を堂々と行うべきではないかというふうに考えます。

藤尾彰君 憲法の改正というのは、多くの場合、例えば旧仮名遣いを新仮名遣いに変えるといったようなことはある意味では国の進路にかかわるとは言えないかもしれませんけれども、九条二項を削除する、そして自衛軍を創設するといったようなものは国の進路に大きくかかわる問題で、国民的な規模の討論と国民的な規模での投票参加というものがあるべきだろうというふうに思います。そういうふうな点で、最低投票率を定めないというのは、成り行き任せ、ある意味では無責任というふうに思います。

 現に、お隣の国の韓国では、憲法百三十条で、有権者の過半数の承認が必要だ、すなわち、最低投票率は五一%以上でなければならない。その数字は出ていません、過半数でなければならないというふうに言っている。恐らく、そのあたりが合理的ではないかというふうに僕としては考えます。(笠井委員「公務員の問題を一言」と呼ぶ)

 公務員の問題に関しましては、最近、公務員の言論、表現の自由に絡む事件が続発しているという形で、そういう中でまた公務員並びに教育者の地位を利用した国民投票運動といったようなものに対する規制ということになってくると、やはり公務員、教育者合わせて何百万人という人たちを相当に萎縮させるのではないかというふうに思いますので、基本的には自由というように……。だから、よくよく問題になる例を挙げて、例えば点数をやるからおれらの憲法改正に賛成しろといったような、そういう具体的に直接害悪が見えるようなものを列挙して禁止するといったようなことがいいんじゃないでしょうか。

越智敏夫君 国民がボイコットするかとか、そういう見方ですけれども、僕はボイコットも一つの政治表現だと思いますから、そこでボイコットをして改憲案を否決する、つまり、最低投票率を決めて、そういうことを国民が判断すれば、それはそれでしようがないと思います。

 ただ、ちょっと気になるのは、国民が行くか行かないかというのは議員の皆さんが議論するところではなくて、この改憲の方法は、議員の皆さん、つまり国会が憲法をどう考えているかを示す姿勢のあり方なので、そこがすごく気になりますね。つまり、皆さんが憲法をどうしたいのか、議員がどうしたいのかということを示すわけで、そこでハードルを下げると、結局国会は憲法を変えたいという表現をするということだと思います。

笠井委員 ありがとうございました。終わります。

中山座長 次に、辻元清美君。

辻元委員 きょうはどうもありがとうございました。非常に深い議論を、御意見を聞かせていただいたという思いでおります。憲法をめぐりますと、よく改憲か護憲かという対立構造になるんですが、きょうの皆さんの御意見は、そういう立場というよりも、やはり社会の安定を図るため、それから安全装置としての憲法という、非常に、そもそも憲法を大事にするというか、そういう姿勢がひしひしと伝わってまいりました。ありがとうございます。

 それで、まず四名の方にお伺いしたいんですけれども、そもそも今急いでつくる必要があるのかどうかというところなんですね。

 先ほどから現状の政治状況と、それから、三権分立という発言もございましたけれども、このところ、立法府ではなく行政の長である内閣総理大臣が急げという号令をかけたという報道なんかにも接し、私はこういう状況の中で憲法にまつわることを取り扱うことに非常に懸念を持っております。ですから、現状の政治状況と、それから物すごく急いで、何か再来週にも採決するなんということを言うような報道もありまして、私は、公聴会も始まったばかりで、十分な御意見をさまざまな方にお聞きし、まだまだ議論が必要だと思っていますが、その点についてどうかという点。

 まとめて質問します。

 それからもう一つ、手続法がつくられてこなかったというのは、単に憲法の九十六条に規定されているのにつくらなかったのは立法府の怠慢だとか言う人がいますが、私は違うという主張をしてきました、立法府の選択であったと。これは、やはり歴史的な経緯を見て、つくってこなかったということに意味を見出した歴史があったのではないかというふうに思います。ですから、歴史的な日本の経過と今までつくらなかったことについてどのようにお考えかという点が二点目。

 そして三点目は、改正をしにくくする、変えることをしにくくするというのは、これは今の憲法、よく九条が争点になりますけれども、九条を守りたいからとか守りたくないからではなくて、やはり憲法の持つ意味からだったと思うんですね。アメリカではシングルサブジェクトルールというものが決められていますけれども、アメリカはどんどん追加していき、それも一個ごとに、かなり厳格に一個ごとやる。関連する事項とかではなくて一つずつ。その意味は、急激な社会の変化をもたらさない、混乱を抑制すると。ですから、かなり制度設計の面でそういう個々の点が重視されていると思うんですが、一括とか関連する事項ということも言われていますけれども、この点について、先ほどから越智さんはまだお答えになっていらっしゃらなかったと思うんですが、越智さんにこれは追加でお聞きしたい。

 それからもう一点、これは越智さんと馬場さんから先ほど住民投票のお話もいただいていますので。巻町の例があります、先ほど越智さんの方から巻町の例は民主主義は何かということを非常に根源から考えたと。そういう観点から見ると、国会の議論とちょっと乖離があるような御発言があったように思うんですけれども、実際に、馬場さんと越智さん、住民投票について先ほどから言及いただいていますので、今の国会議論と照らし合わせてどのようにそのプロセスをごらんになっていたのかをお聞きします。

田村秀君 私には二点かと思います。

 まず最初の、急げか、だらだらかというようなことであります。(辻元委員「だらだらとは言ってないです、慎重に」と呼ぶ)

 拙速は確かにいけないと思いますが、議論がある程度深まれば可決すべきかと思います。私は、衆議院はそれなりに議論されているのではないかなと。むしろ参議院議員の方でどれだけ議論されるのかなと。もし参議院議員で余り議論されなかったら、それこそ憲法改正で参議院は要るんですかと言う人も出てくるのではないかなというふうには思っております。

 それから二つ目の、これはなかなか難しいところで、一概に怠慢とまでは言えないと思うんですが、ないものを今つくるということは一定の意味があると思っております。

馬場泰君 国民投票法の制定を急いでいる点ですが、私は先ほど来申し上げているように、国民的な議論が不十分である、国会の議論も不十分である。殊に最低投票率の問題、有料広告の規制に関する問題、これはもちろん表現の自由にかかわることですので、関係団体とも十分な協議をしなければならない。

 確かに、国会の委員会の中で非常に精力的に議論されてきたことは、私は評価したいと思います。しかし、他の重要法案もございまして、教育基本法の改正等もございましたが、残念なことに、国民に十分このことが伝わっていない。そういう意味では、私は、今国会においては急ぐべきではない、今もっと重要なことがあるのではないか、本当にそう思います。

 二点目ですが、手続法がなかったことについてはどう評価するかという問題です。

 歴史的な考えで見なければならない。憲法改正に関する手続法の議論がされたのはごく最近のことではないでしょうか。憲法改正が可能な国会状況になって初めて議論されてきたのではないでしょうか。私の承知するところでは、戦後のごく早い時期に、自治省でしたでしょうか、改正手続法案について議論された時期があったようです。その後は、憲法改正に関する議論はありましたけれども、改正をしたい、自主憲法を制定したいという議論はありましたけれども、手続法が欠けているのはそもそも憲法の欠陥だ、立法の不作為だ、立法の怠慢だという議論は、私は寡聞にして知らないのであります。

 そういう意味では、憲法の改正が具体的に視野に入ってきた時点で初めて改正手続法の議論がされているというのが歴史的な現実ではないでしょうか。

 巻町の件については越智先生に多くを譲りたいと思いますけれども、住民投票については非常に最初は反発されたんですね。間接民主主義の原則をとっている、民主主義の否定だという議論まであった。正確にはちょっと申し上げかねますけれども、まず、住民投票を実施すべきだという住民の自発的な投票をやったんです。それこそ自分たちで、会場を町から貸してもらえないという中で自分たちで手配をして、投票箱を自主管理する形で始めたんですね。そういう形で取り組んできた。そのことを、越智先生は、大変時間をかけて丁寧に地域の民主主義を実践してきたというふうに言われているんだと思います。私も同感です。

藤尾彰君 僕のきょうの意見陳述は、主に憲法九十六条一項後段の「その過半数の賛成」をどう理解するかという問題であったわけで、その中心に位置するのが白票等の取り扱いということであったわけですけれども、きのうの修正合意と言ってはいけないんでしょうか、ともかく白票は無効票とするということは堅持されるようですが、そうなりますと、先ほども言いましたように、いわば日本の人口が三分されて、賛成が三分の一、反対が三分の一、そして三分の一が白票といったような結果を無理やりに強要するようなシステムになっているんじゃないか。

 では本当に、賛成票は三分の一しかないにもかかわらずそれで憲法改正ができるとしていいのか、国民はそれによしとするかといえば、しないだろうと思うんです。そういうことで非常に大きな混乱が生じるだろうということを申し上げたわけです。そういう点で欠陥法案だというふうに思います。したがって、強行採決とかそういうことはすべきではないと。

越智敏夫君 いろいろなことを振られたんですけれども、まとめて話します。

 手続法をつくらなかったというのは、それは怠慢ではなくて、確かにそれを選択したんだと思います。つまり、手続法をつくらないことで改憲を阻止するという現実的な政治性があったことだと思います。

 ただ、今の状況論としていえば、具体的な改憲案が出てきて、それをどうするかというので、どさくさの中で手続法案がつくられることだけは避けるべきだろうと思います。

 手続法案というのは、さっきから手続というような言い方は嫌いだと言っていますけれども、こっちを変えるのは大変ですから、一たん手続法というのをつくってしまうと、これはニュートラルだとみんな言って、実は全然ニュートラルじゃないものが政治的な力を発揮してしまうのが手続という問題なので、いいかげんなものをつくるぐらいだったらちゃんと議論してつくるべきだろうと個人的には思います。

 巻の話は、やはり巻の人たちはずれを感じたんだと思うんですね。巻の町議会と自分たちの判断にずれが出て、それをどういうふうに表明するかということで住民投票が行われてきたんだと思います。先ほど馬場さんもおっしゃったように、みずからの意見を表明するためにみずからが動く、そういうふうに自分の問題として巻は原発のことを考えたわけですけれども、憲法も自分たちの問題として考えるべきであろうと思います。

 それはどういうことかというと、はっきり言うと、議員の皆さんというか政府になるべくフリーハンドを与えない、つまり、国民がいろいろな影響を受けるわけですから、そこで政府を縛ることをなるべく強い形で示すしかない、それが自分のことを自分で決めるということだと僕は思います。

辻元委員 ありがとうございました。

中山座長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、各意見陳述人の方々におかれましては、大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。私も十分という非常に短い持ち時間でございますので、早速質問をさせていただきたいと思います。

 三月十三日付の朝日新聞に、この世論調査に憲法改正手続法の整備につきまして六八%の国民が賛成をしているということでございました。他方、二月二十日付の読売新聞の世論調査では、安倍政権に取り組んでもらいたい政策として、憲法改正は六・二%でございました。

 これは各陳述人の方々にお聞きしたいんですけれども、今新聞をいろいろ読んでいますと、例えばけさの新聞ですと修正案という話、少し前ですと五月に成立かとか、いろいろな情報というものが発信されているわけでございますが、特に田村助教授の著書で「データの罠 世論はこうしてつくられる」というようなものですと、データというものを見て自分の考え方を変える人がいるとか、こんなのは当てにならないといって無視を決め込む人もさまざまなデータが公表されることによって影響を受けることだけは間違いない、こういうふうにおっしゃられているわけでございまして、こういう世論誘導的なものが例えば今回の憲法の手続法の成立に向けて与える影響というものに関して皆様はどのような御感想をお持ちか、お聞かせいただけますでしょうか。それぞれ四人の陳述人の方々にお聞きしたいと思います。

田村秀君 拙著を紹介いただきましてありがとうございます。

 私自身、実は世論調査とかそういうものもそれなりにいろいろ研究しているところなんですが、確かに今先生御指摘のとおりさまざまな影響を受けますし、また、世論調査も注意して見なきゃいけない点が多々あるかと思います。例えばどういう順番でどういうことを聞いているかとか、その選択肢のあり方とかいろいろあるわけです。その辺も含めていろいろな課題がある、問題点があるということで、先ほど意見陳述でもメディアに対しての私の考えを申したわけでありますが、確かに影響を受けると思います。

 今回のことにつきましては、朝日新聞と読売新聞ですか、それは私は見ていないんですが、多くの国民がそのような手続についてはやはり必要だろうということを、非常に重要視しているあらわれだと思っております。

 ただ、安倍政権で実現していただきたい、どういうものをどういう順番で聞いたかもわかりませんので一概に言えませんけれども、確かに今目の前にある問題としては、教育の問題もありますし、新潟でも格差の問題は非常に痛感します、やはりそういうところを短期的に見ればということなのかなと思います。

 ただ、いずれにしましても客観性を装うさまざまなデータが少なからずある。それは、意図するものは非常に悪いですけれども、意図しなくても出てきてしまう。そのことも含めて、私は、憲法改正の議論だからこそ、将来の話ですけれども、広報とかメディアのところで、事前的なものはともかくとしても、いろいろな仕掛けというか検証をする、そういうことを通じてできるだけ建設的な議論をしていただきたい、こういうふうに考えております。

馬場泰君 今ほど御指摘の世論調査の方法であるとかそのデータの読み方について、私は残念ながら知見を持ち合わせていませんので、差し控えさせていただきたいというふうに思います。

 ただ、田村先生からも御指摘のように質問の仕方によってかなり結果が異なってくる。後の六・二%の数値にもありましたように、今一番国民が何を心配しているのか。私は、本当に漠然たる将来に対する不安が広がっているのではないか、あるいは政治に対して自分たちの声が届かないというもどかしい思いが広がっているのではないか、その雰囲気が、例えば憲法を改正すれば少しは世の中明るくなるかもしれないという形で前の数字にあらわれてきているのかなというふうにも思いますけれども、先ほど申し上げたように、ちょっとその点については何とも申し上げかねるところであります。

 いずれにしても、この憲法の改正問題については国民の熟慮と総意に基づいて行わなければならない。それを体現するような形で国会においてもあるいはマスコミにおいても大いに議論をしていかなければならないのではないか。この間のマスコミの報道、憲法あるいは手続法案に関する報道が低調なのがちょっと私は残念に思っています。

藤尾彰君 世論調査ということですが、確かに問い方によったり、あるいは問う順序の問題だとか、いろいろななにで国民世論が正確に反映するんじゃなくて、相当にゆがんだ形で反映されるということが多いんじゃないかというふうに考えています。そういう点で、世論調査の結果はこういうものだな程度の参考にしかできないんじゃないかというふうに思っております。

越智敏夫君 世論調査そのものは、それはいろいろな新聞社なりテレビ局がやりたければやればいいので、そこでの質問事項などはそれぞれが考えるしかないし、いい質問もあれば悪い質問もあるのは当たり前のことだと思うんですが、僕は、その世論調査も含めてさまざまな国民の意見を聞くあるいは調査をするということはやるべきだと思います。

 これはその周知期間にも関連してくるんですが、基本的に、私が何回も言っているようになるべくフリーハンドを国会に与えるべきではないと僕は思っていますから、その周知という世論調査なども含めた運動期間というのはなるべく長い間とって、もう国民がうんざりするぐらい、一年ぐらい憲法憲法とか言いながら、また憲法かよみたいな、そのことによって国民が国のつくり方を自分のものと考える。

 巻町の場合は電力会社が用地買収をしてから二十七年という期間がかかっていますから、別に二十七年議論をしろとは言いませんけれども、例えば六十日なんといえば、雑誌、月刊誌なんかだと、ある憲法案が出て、それをゲラに入れて来月号になんて、もうそのときには投票になってしまうわけで、月刊誌の議論なんか考えても、やはり六十日から百八十というのは幾ら何でも短いですし、もう一つ気に入らないのは、六十日から百八十というのは幾ら何でも幅があり過ぎると思うんです。じゃ、それを六十にしますか百八十にしますかで、またそのときそのときの政治のダイナミズムがそれを決定してしまう、そういうフリーハンドを僕は個人的に皆さんには与えたくないんです。そうしたものもなるべく確定して、例えば三百五十日から三百六十日とか、なるべく幅を狭くして、長い期間とって、国民がテレビとか新聞とか雑誌とか何を見ても憲法と。見てうんざりして、それで、ああ、自分の問題だなと考えるようなことを世論調査も含めてするべきだと僕は思います。

糸川委員 ありがとうございます。

 なぜこういう質問をしたかといいますと、田村陳述人の中に番組捏造とか、先ほど陳述人の方々がおっしゃられていましたけれども、要はどういう聞き方をするかによって回答が変わってくるわけですよね。そういうもので誘導されていって、結局、ここには番組捏造による心配というようなことを書いてございましたけれども、最後に一問、田村陳述人にお聞きしたいんですけれども……

中山座長 先生、もう時間が来ていますから。

糸川委員 そうですか。では、私のコメントだけにいたします。

 ですから、そういう点で、これから我々がしっかりと審査する期間というものを持って、どういうデータが出ていくのか、そして、調査はどうやって調査したのかということをしっかり管理しないと、世の中に出ていくものによって、間違ったものが世に伝わると回答も間違ってしまうんではないのかなということで危惧をしておりましたので、こういう質問をいたしました。

 きょうは本当にありがとうございました。

中山座長 これにて意見陳述者に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 意見陳述者各位におかれましては、御多忙の中、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。

 本日拝聴させていただいた御意見は、当委員会の審査に資するところ極めて大なるものがあると存じます。ここに厚く御礼を申し上げます。

 また、この会議開催のため格段の御協力をいただきました関係各位に対しまして、心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)

 これにて散会いたします。

    午前十一時四十四分散会

    ―――――――――――――

   派遣委員の大阪府における意見聴取に関する記録

一、期日

   平成十九年三月二十八日(水)

二、場所

   ホテルニューオータニ大阪

三、意見を聴取した問題

   日本国憲法の改正手続に関する法律案(第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出)及び日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出)について

四、出席者

 (1) 派遣委員

    座長 中山 太郎君

       愛知 和男君   船田  元君

       枝野 幸男君   園田 康博君

       赤松 正雄君   笠井  亮君

       辻元 清美君   糸川 正晃君

 (2) 意見陳述者

    [国民投票・住民投票]情報室事務局長

    ジャーナリスト     今井  一君

    新時代政策研究会会長  中野 寛成君

    関西大学法学部教授   吉田 栄司君

    弁護士         中北龍太郎君

 (3) その他の出席者

    議員          船田  元君

    議員          枝野 幸男君

    議員          園田 康博君

    議員          赤松 正雄君

    衆議院法制局第二部長  橘  幸信君

     ――――◇―――――

    午後四時一分開議

中山座長 これより会議を開きます。

 私は、衆議院日本国憲法に関する調査特別委員会派遣委員団団長の中山太郎でございます。

 私がこの会議の座長を務めさせていただきますので、よろしくお願いをいたします。

 この際、派遣委員団を代表いたしまして一言ごあいさつを申し上げます。

 皆様御承知のとおり、当委員会では、第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案、第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の審査を行っているところであります。

 本日は、両案の審査に当たり、国民各界各層の皆様方から御意見を承るため、当大阪府におきましてもこの会議を催しているところでございます。

 御意見をお述べいただく皆様方におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようよろしくお願いを申し上げます。

 それでは、まず、この会議の運営につきまして御説明申し上げます。

 会議の議事は、すべて衆議院における委員会議事規則及び手続に準拠して行い、議事の整理、秩序の保持等は、座長であります私が行うことといたします。発言される方は、その都度座長の許可を得て発言していただきますようお願いいたします。

 なお、御意見をお述べいただく皆様方から委員に対しての質疑はできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願います。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 最初に、意見陳述者の皆様方からお一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答え願いたいと存じます。

 意見陳述者及び委員の発言時間の経過のお知らせでありますが、終了時間一分前にブザーを、また、終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 なお、御発言は着席のままで結構でございます。

 次に、本日御出席の方々を御紹介いたします。

 まず、派遣委員は、自由民主党の愛知和男君、船田元君、民主党・無所属クラブの枝野幸男君、園田康博君、公明党の赤松正雄君、日本共産党の笠井亮君、社会民主党・市民連合の辻元清美君、国民新党・無所属の会の糸川正晃君、以上でございます。

 次に、本日御意見をお述べいただく方々を御紹介いたします。

 [国民投票・住民投票]情報室事務局長・ジャーナリスト今井一君、新時代政策研究会会長中野寛成君、関西大学法学部教授吉田栄司君、弁護士中北龍太郎君、以上四名の方々でございます。

 それでは、まず今井一君に御意見をお述べいただきたいと存じます。

今井一君 [国民投票・住民投票]情報室事務局長の今井です。

 本日は、公述人として指名していただきどうもありがとうございます。

 議員の皆様方には、本日午前新潟の方で公聴会を行われて、そのまま飛行機で大阪にお越しだというふうに伺っています。お疲れのところ大変ですが、充実した公述の場にしたいと思っていますので、ひとつよろしくお願いします。

 まず、委員の皆様にも、きょう傍聴席におられる皆様にも資料が行っていると思いますが、お手元にあったらこの資料を出していただきたいんです。意見陳述の要旨と、もう一つ、添付の資料A、B、C、Dというのがあります。それをまず見ていただきまして、順番からいえば一番からいくんですが、二番の方からちょっとお話をさせてください。二番は意見陳述の要旨の三ページ目に当たります。

 成立要件として最低投票率を設けることについて、まずしゃべらせていただきます。憲法改正の是非を問う国民投票の成立要件として、その手続法の中に最低投票率を設けることについては、幾つかの理由で賛同できないというのが私の意見です。その理由をこれから述べます。

 まず一つ目ですが、国民投票や住民投票の本来の意義というのは、それが原発のことであれ、ダムのことであれ、空港のことであれ、あるいは憲法のことであれ、ある案件に関して十分な情報を得ることを前提に、市民がよく学んで、考え、話し合い、みずからの良心にのみ従って結論を出すこと。そして、その多数をもって主権者の意思とし、政治や行政にその意思を反映することです。

 しかし、過去の事例が物語るように、この制度に例えば五〇%といった最低投票率を成立要件に加えると、自分たちが主権者の多数の支持を得られないと考える陣営が投票権者に棄権を呼びかけ、不成立に持ち込むことによって事実上の勝利を得る戦術に走ることがあります。この戦術については、それもまた一つの戦術で認めるべきだという意見もあるでしょうが、もともと住民投票、国民投票の意義というのは、主権者がよく話し合って結論を出すことですから、こういう戦術はできるだけとらないようにするルール設定を行うべきだと思います。

 具体的に言います。

 去年三月に住民投票が行われた岩国の住民投票のことを例に持ち出して、岩国だって五〇%ルールを設けたんだから、憲法改正の国民投票だったら当然のことじゃないかというふうに言われる人がいます。実は、私、きのうも岩国の市長の井原勝介さんと電話で長い時間、話をしていました。

 そのことについて聞いたら、市長がこんなふうにおっしゃっていました。うちのことを事例として持ち出すんだったら、だから最低投票率は設定しない方がいいんだということを言うために持ち出してほしい、今持ち出されているのは逆の意味で持ち出されているというふうに言われたんですね。

 なぜかというと、たまたま岩国の場合は投票率が五〇%を超えました。これが成立となりました。しかし、残念なことに、厚木の米軍再編の移転について、まともな議論が一切行われませんでした。反対派は反対ということで運動を一生懸命しましたけれども、賛成の方は、ひたすらボイコット運動をしかけて五〇%の投票率を割り込ませて不成立に持ち込ませる、そういう形で事実上の勝利を得ようという運動に終始したんですね。これは本当に不幸なことで、岩国の市長としては、成立はしたけれども非常に残念だという思いが今でもあると。

 最近、彼はずっと言っているんですけれども、やるんだったら、投票率で成立要件、ハードルを加えるんじゃなくて、絶対得票率で加えるべきだったと。例えば千葉県我孫子市の条例では、賛否どちらか多数をとった方が全有権者の三三%、三分の一を超さないと成立とみなさないというルール設定もあります。ヨーロッパでもこういうルール設定をしているところがあります。そうすると、ボイコット運動は起こらなかったということです。

 添付の資料のBを見ていただきたいんですが、これは二〇〇〇年に徳島で住民投票が行われたときのものです。このときも、可動堰反対派は運動を展開しましたけれども、賛成派は自分たちが負けると思ってひたすらボイコット運動をしかけました。きょう傍聴席にはこのときの住民投票の請求代表人の住友達也さんもお越しになっています。

 この表を見ていただいたらわかりますように、黄色いマーカーで記してあります。反対の総数が全有権者の四九・六%でした。なぜこれが成立したかというと、賛成の人も投票に行ってくれたからです。だからぎりぎり五〇%を上回ったということです。この場合も、やはりまともな議論が行われなかったということでは不幸なことでした。住民投票の現場でこういった形でボイコット運動が行われてまともな議論が行われないということは、もう過去の事例で明らかになっています。

 国民投票ではどうかというと、つい最近、ポルトガルでも国民投票が人工妊娠中絶の問題で行われました。人工妊娠中絶を合法化すべきであるというグループと、してはいけないというカソリック教会を中心としたグループで激しくやり合ったんですけれども、結局、合法化に賛成が五九%、反対が四一でしたけれども、投票率が四四%ということで無効になりました。

 世界では、こういうふうに国民投票で投票率について要件を加えているところがあります。それは私の要旨のところを見ていただけたらわかるんですけれども、これのページでいいますと……。いずれにしても、世界で最低投票率を要件に加えているところは憲法にそれを明記しています。

 三ページを見てください。諸外国において最低投票率を成立要件にしない国として、アイルランド、イタリア、スイス、フランス、スペイン、トルコ、ペルー、ウガンダ、イエメン、エジプト、オーストラリアなどがあります。

 他方、有権者の五〇%以上の投票を成立要件としている国として、ロシア、韓国、ウズベキスタン、カザフスタンなどがあります。この国々は、いずれも憲法によってそれを明記しています。一般法によっては明記していません。ロシア連邦憲法百三十五条をそこに記してありますから、後で読んでいただけたらと思います。韓国についても、大韓民国憲法の百三十条二でそのことを記してあります。

 だから、私は、一般法によって投票率を三〇%と規定したり七〇%と規定したりするのはよくないと思います。どうしても最低投票率を設けるんだったら、その時々の国会あるいは権力が恣意的にハードルを上げ下げできる一般法じゃなくて、他の国々と同じように憲法に明記をすべきだと思います。そのためには憲法九十六条を改正しなくてはいけませんけれども、それなくして最低投票率を設けることについては反対をするということです。

 次に、三番に行きます。意見陳述の要旨の三番、一般的国民投票について発言させてください。

 民主党が日本国憲法の改正だけではなくて一般的国民投票についても制度化を図ろうじゃないかということでこの間提案をされていますが、私自身、この提案に基本的には賛成です。例えばエネルギー政策、死刑制度、自衛隊の海外派遣など、憲法改正以外の重要な案件について、これを政府提案、議会提案及び国民発案によって諮問型の国民投票にかける制度を導入することには賛成です。ただし、現在民主党より示されている国政問題の国民投票、一般的国民投票については一点是正を進言したいと思っています。

 それは何かといいますと、今の民主党の案は諮問型の国民投票、法定拘束力のない国民投票ということなんですが、私はそれについて異議はありません。ただし、国民から例えば原発の問題で国民投票にかけてほしいという請願とか要望があって、ではそれをかけようあるいはかけないと決めるのは、最終的に国会が決めるということになっているわけですね。これは現在の住民投票の条例制定に関する直接請求でも同じことです。

 これはどうなるかといいますと、一番ひどいときは三年三カ月にわたって三十四件直接請求が連続否決されたことがあります。徳島市、神戸市、大洲市、人吉市、刈羽村と三十四件連続否決されました。その中には、ダム問題で住民投票をやりたいと言った人吉市で四八・五%もの法定署名を集めたにもかかわらず否決されたり、徳島市のように四九%もの署名を集めたり、とにかく過半数近い署名を集めても議会がそれを拒否するということが三十四件も続きました。

 私が心配しているのは、諸外国のように、一定数の署名が集まって、その署名を添えて国民から請求があれば必ず国民投票をやるんだというふうなルール設定にしないと、国会がかけたくないことは結局かからないということになってしまうと思います。だから、一般的国民投票については、この資料にもありますように、実を言うと憲法改正の手続に関する、つまり憲法改正の是非を国民に問う国民投票の制度と同じぐらい非常に難しくて複雑でさまざまな問題をはらんでいます。

 民主党を含め、国会議員の皆さん方、立法府の皆さん方には、改めて一般的国民投票について十分な制度研究をしていただいて、きっちりとした案を再び出して、速やかに制度化をしていただきたいというのが私の意見です。

 最後に、意見陳述の要旨の一番に戻ります。その前に三番。せっかく資料を用意しましたので、資料のCを見てください。これは、朝日新聞とNHKが〇一年と〇二年に国民投票制度の導入について国民に問いただして、その結果を発表したものです。

 これを見てもらうとわかりますように、朝日新聞では、憲法を改正して重要な問題は国民投票で決める、つまりこれは諮問型ではなくて法的拘束力のある国民投票の実施をできるようにすべきだという意見です。これは五三%。それから、憲法を改正しないでこの制度を導入し、投票の結果を政府や国会に尊重させる、つまり諮問型国民投票の実施を求めるもの、賛成するものです。これが二七%。合わせて八〇%です。つまり、法的拘束力のあるものという非常にラジカルというか本格的なもの、それから諮問型、合わせて八割の人が大事な問題は国民投票で決めたいというふうに答えているわけです。下はNHKの放送文化研究所の世論調査ですけれども、これも合わせて八一%です。

 何が言いたいかといいますと、一九九六年八月の新潟県巻町の住民投票から始まって、十年間で、日本で今三百七十四件の住民投票が行われています。この実施数は世界で一番です。今や日本人はこういった住民投票や国民投票を活用することを求めるようになっています。この朝日新聞やNHK放送文化研究所の世論調査でも見られるように、国民投票についても、たくさんの人が大事なことは自分たちで決めたいというふうに思っています。これは間接民主制を否定するものじゃないというふうに私は考えます。したがって、先ほども申し上げたように、本格的にこの制度の導入を立法府で検討していただくことをお願いしたいと思っています。

 最後に、一番に戻ります。

 憲法改正手続法の制定については、私は、国会議員が公平かつ合理的な憲法改正手続法の制定を怠ったり阻んだりする行為は国民の憲法制定権を侵害するものだというふうに思っています。最近、辻元さんが憲法は国民のものであって安倍総理のものじゃないというふうにおっしゃっています。そのとおりだと思います。しかし、安倍総理のものじゃないけれども、辻元さん一人のものでもない。社民党や共産党だけのものでもない。もっと言えば、憲法九条を守りたいという人たちだけのものでもないんですね。

 私たちは、九条だけじゃなくて、例えば、一条、天皇制についても、それを変えたいということを言ってもいいし、憲法九十六条を改正して国民に憲法改正の発議権を持たせるべきだということを主張してもいいわけですね。国民は唯一、立法府と違って、裁判所と違って、内閣と違って制憲権、憲法を制定したり改廃したりする権利があります。この権利を立法府が阻むということは許されないことで、合理的かつ公平な改正手続法の制定を私は求めます。

 以上です。

中山座長 ありがとうございました。

 次に、中野寛成君にお願いいたします。

中野寛成君 中野寛成でございます。

 きょうは、こうして久方ぶりに国会の機関の中で発言をさせていただく機会をお与えいただきまして、委員長初め各党の理事の皆さんに心から感謝を申し上げたいと存じます。

 ただ、毎日の新聞報道等を見ておりますと、何かもう既に採決前夜みたいな報道がなされておりますので、きょうのこれが単なるセレモニーに終わらないことを願いたいと思います。

 さて、日本国憲法は、施行後、この五月三日をもって六十周年を迎えることとなりました。昔の帝国憲法がたしか五十八年ぐらいの命であったと思いますが、そういう意味では大変長命の、しかも一度も改正をされない状況の中で今日を迎えているという意味では、世界の憲法史の中でも希有な存在であろうというふうにも思います。

 しかし一方、日本の民主主義は、その間に大変大きな進歩と変化を遂げてきたというふうに考えております。特に、いわゆる戦後民主主義から一歩前進した最近の日本の民主主義の特色は、情報公開と情報の共有、そしてそれに基づく住民参加あるいは国民参加、このことが大変顕著になってきたと言えるのではないかというふうに思います。

 そういたしますと、憲法論にいたしましても、国会で発議の前に大いに議論をすることは、国民の判断を得せしめるために、その議論そのものが国民に対する大きな情報公開でなければならない、そういう性格を持つものだと思います。そして、その結果、国会において発議がされますれば、まさに国民参加による投票が行われるという意味で、新しい日本の民主主義をより一層成熟、発展させる上においても、この憲法論は大変意味のあることだというふうに思っております。

 同時にまた、一方、日本の憲法論議は、国際社会の中において、先進国の憲法であるだけに世界に与える影響もまた少なからずあるものと考えなければなりませんし、日本人がそのことを自覚しなければならないというふうに思います。そういう意味で、注目される二つの憲法論議と書きましたが、日本国憲法の論議と、そして新しく制定が目指されておりますEUの憲法というのは、国際社会にとっても大変意味のある、また注目すべき憲法論であろうというふうに思うのであります。

 そこで、よく安倍総理が戦後レジームからの脱却と言われますが、私は、何か戦後レジームからの脱却ではなくて戦前への回帰みたいな印象を持っておりまして、できるだけ、多くの国民の皆さんとともに冷静に憲法のあるべき姿を論ずるときに、挑発的な言葉を政府側から投げかけるのはやめてもらいたいというふうにさえ思うのであります。

 むしろ、百二十年前につくられた帝国憲法でもなく、六十年前の現在の日本国憲法の初期に戻すのでもなく、今後五十年、百年先の世界と日本を見据えながら新しい憲法を論じたいものだ、このようにも思うところであります。

 さて、憲法と同時に、ここに私は憲法関連基本法と勝手に名づけましたが、憲法と同時に議論されておくべきもの、それが皇室典範、そして国の仕組みという意味で国会法、内閣法、裁判所法、そして地方分権をどう位置づけるかということから地方自治法、そして国民の一番大切なかなめである教育基本法、これがなし崩し的に先般改正をされてしまったことは私は残念であります。むしろ、憲法論とともに、もっと慎重に論じる機会を持ってほしかったというふうに思います。

 同時にまた、特に安全保障に関する規定については、憲法でそれほど詳しく規定するということは不可能であります。憲法とともに、日本の安全保障に対する考え方を国民にもまた広く国際社会にも明確に示すという意味では、憲法とあわせて安全保障基本法的なものが論じられ、また制定されるべきではないかというふうに思います。このことをわざわざ述べた理由は後ほど申し上げたいと思います。

 日本では、今申し上げた安全保障の問題を初めといたしまして神学論争という言葉が一時期はやりました。今なお残っているのかもわかりません。しかし、その神学論争がいつまでも続くということは、これは学説の中で学者の皆さんが論じていただくことは結構でありますが、それが裁判であるとか行政にいろいろな形で影響をいつまでも与えることはよくないと思います。いずれにせよ、どこかの段階で有権的解釈を決定する。今、それが政府なのか国会なのか、これまた神学論争が続いているような感じがいたしますけれども。

 また、時の政府によるいわゆる恣意的な解釈改憲をなくすためにも、私どもは何らかのシステムを持つ必要があると思います。その一つが憲法改正でありますが、しかし、そこへ至らない場合でも、当面、本当は違憲立法審査権があります最高裁判所に期待したいところですが、これはできるだけ範囲を狭義にしようとする性格がどうしてもあります。よって、むしろ新しい憲法のもとで憲法裁判所を設けるべきもの、そこにおいて有権的解釈が決定するというシステムをつくっていくべきだと思いますが、これとても憲法が改正されなければできないものだと思います。

 そういたしますと、とりあえず、今論じられております国民投票法において、国や国民の権利義務、あるいは死生観などを大きく左右する重要案件について結論を出す方法として国民投票にかける。もちろんその前に、国会において開かれた議論がなされ、国民の判断のもととなるべき情報がしっかり提供されることが必要でありますが、そういうシステムを持っておくことは大切なことではないかというふうに思います。例えば道州制の問題であるとか、皇室典範の中の、先般来大変議論を呼びましたけれども、女性天皇あるいは女系天皇是か非かという問題、また環境権と権利義務との関係、また安全保障の問題等々、いろいろな問題が想定されるのではないかというふうに思うところであります。

 それでは、国民投票のあるべき姿について申し上げたいと思いますが、国民参加。

 冒頭私は情報公開と国民参加が新しい民主主義の原点だと申しましたが、十八歳以上、そして公務員やマスコミにも自由に論議をしていただく、論評をしていただく。これは特定の政党や人を選ぶ議員選挙ではありませんので、そういう意味ではできるだけフリーに、できるだけ多くの国民に参加をしていただく。また、その参加の仕方も、できるだけ自由闊達な議論がなされる場を設けることが大切であろうと思います。

 また、神学論争への結着と書きましたが、改憲に賛成であろうと反対であろうと、憲法九十六条に規定されている改正手続法がないことは国会の不作為だと批判されてもやむを得ないと思いますし、改憲阻止の手段として国民投票法案に反対するのは単なる戦術論にすぎない話でありまして、別次元のことだというふうに思います。むしろ、憲法九十六条に基づいて整々と国民投票法案を作成するのは国会の義務でもあろうというふうに考えるものであります。

 そして、あくまでも私は国会がもっと主体性を持って議論をし、また決断をしていただきたいと思うのであります。発議権はあくまでも国会にあるということであります。そして、最終決定権は国民にあるということであります。私は、政府などに余計な口出しをしてもらいたくない。司法や行政が口出しをしない、むしろ国会、立法機関に憲法に定められた主体性、主導権を持たせて、国会主体のもとに憲法論や国民投票法が議論をされてしかるべきだと思います。

 ましてや、何月何日までに国民投票法を成立させるとか期限を切ることまで言って、国会のなすべきことに対して、総理として言っているのか総裁として言っているのかわかりませんけれども、それらのことについて軽々に発言をするさまは、まさに国会軽視、ある意味では憲法軽視と言っても過言ではないのではないかというふうに思うのであります。

 そういう意味で、私は、憲法論議及びこの国民投票法案については、行政や司法の関与を排して、国会、とりわけこの憲法調査特別委員会の主導権のもとに整々と議論をし、そして国民の納得のいく結論を出してもらいたいものだというふうに思えてなりません。憲法特別委員会の権威、またそれをやはりすべての人がもっと認めるべきであります。とりわけ行政や司法機関はこの委員会の権威をもっと認めるべきであり、軽々な口出しはしてもらいたくないと思います。また、当委員会としても、当事者能力を発揮して、背景に煩わされないで、むしろ主体性を持って議論をし、結論を出していただきたいと思うのであります。

 拙速や、時の総理に言われたからといって、それが何か参議院選挙の対策だ何だということもよくうわさされますけれども、まさに静かな環境の中で粛々と、この国のあるべき姿、国民の暮らしをいかに守るべきかの方途について、日本の国の基本法としての立派な姿を私はここでまとめていただきたい。そのときに、よく与野党で、私も経験があることですけれども、政策論でいろいろな国会対策上の戦略、戦術を駆使することはよく見られることであります。しかしながら、国会を正しく機能させようと思えば、党利党略を排するということであります。

 そのときに必要なことは、与党の度量と野党の良識が相まってそれがやっとできるのであります。相手の度量のなさを批判し、相手の良識がないと批判をし合う中に、正しい成熟した国会の姿は生まれないというふうに思うのであります。そして、そのよき見本をこの憲法調査特別委員会が示していただきたいというふうに私は期待をするところであります。

 また、この国民投票法については、一見いたしますと部分的改正手続に絞られるような感を持ちますが、解釈の仕方によってそうではないという説明もありますが、部分的改憲であれ、改正であれ、また一括改憲であれ、その選択の道筋を法律の中では残しておく、そして国会の判断にゆだねるということを私はやっていただきたい。

 憲法論議は、日本の民主主義の質とか成熟度を国際社会に示すものであります。憲法はマニフェストとか政策、政争以前の、日本と日本人の哲学の集大成と言っても過言ではないと思います。美しい国と唱えながら汚い政治をやるということでは困りものでありまして、どうか本委員会ですばらしい今後の日本の民主主義の模範となります運営が今後ともになされますように、党利党略や拙速も避けながら、賢明な御判断をお願いいたしたいと思います。

 終わります。

中山座長 ありがとうございました。

 次に、吉田栄司君にお願いいたします。

吉田栄司君 関西大学の吉田でございます。

 私は、一法学部に所属する一憲法研究者の立場から、提出されている憲法改正手続に関する法律案二件に関しての意見陳述を行わせていただきます。

 冒頭、御出席の議員の皆様方にお尋ねしたいと思います。

 私、年度初めに先立って、学部のゼミナールの合宿からここの場に駆けつけましたのでこのような格好でここに登場しておりまして、その失礼をおわびいたします。と同時に、必ずしも十分な資料を持ってきてはおりませんが、体系書を三冊持ってまいりました。

 法学部関連の研究者が所属する二大法領域、御承知のとおり日本公法学会と日本私法学会。憲法、さらに各種の行政法、警察法であるとか租税法であるとか、国民、住民と機関、国家機関、地方機関を含めてですが、そういった縦関係を規律する法領域、公法学会。現在の日本公法学会の会長がどなたか御存じですね、京都大学名誉教授の佐藤幸治氏。前日本公法学会会長、東京大学名誉教授樋口陽一氏。さらに、全国の百を超える四年制法学部において圧倒的な支持を得ている体系書、東京大学名誉教授、九九年に亡くなられた芦部信喜氏。とりあえずこの三冊を持ってまいりましたが、この三冊について、国民主権原理及び具体的な九十六条解釈問題といいますか、そこらの記述についてはかなり綿密に読み込んでいるというふうに思われる方はお手をお挙げください。

 必ずしも皆さんではない。そのこと自体、私としては、残念ということをまず申し上げたい。そのことを踏まえて、ちょっと私の立場からの意見陳述を行わせていただきます。

 御承知のとおり、今申し上げたことに重なるわけですが、実は九十六条というのは一カ条二項目に分かれていますが、二項の記述というのは、まさに日本国憲法全体の根底的な原理であるところの国民主権、これのまさに最重要具体化条項という把握が学界での通説的な理解です。その点からいいますと、国民主権をどうとらえておられるのか首をかしげざるを得ないようなところがやはり多々見受けられる。それを踏まえて、そういう点をまず申し上げた上で、九十六条が設定しているいわゆる三段階の手続構造について私の意見を述べさせていただきます。

 九十六条一項は、実は国民主権原理を前文以降で具体化しているところの国民代表制のシステムと、議院内閣制との絡みを読み込む必要のある条文だということです。重要な点としてまず申し上げたいことは、発議の主体を各議院と位置づけて、そこに衆議院の優越を読み込んでいない、打ち込んでいない。法律の制定、予算、条約あるいは総理大臣の選出等々の規定のところにあらわれる衆議院の優越ということを実は一切排除した形で、国会における憲法改正発議権行使というものを打ち込んでいる。これが実は極めて重要だというふうに学界ではとらえている。

 具体的にどういうことかと申しますと、今回の案に出てきている両院協議会につきましては、九十六条を解釈する限りにおいては必要的な両院協議会制というものは排除される、任意的にとどまる、こういうことをやはり読み取る必要があるだろうということを冒頭、九十六条一項に関しては御指摘申し上げたい。

 さらに、各ハウス、各院における発議案の原案提出権につきましても、法律案の原案提出権、現に国会法で定められている五十六条等で、予算を伴う場合はまた要件が異なりますが、さらにその案に対する修正動議提出権、ここらのハードルが極めて高く設定されている。これは、両ハウスの構成議員一人一人が全国民代表だということ、野党であろうと与党であろうと。一人一人が全国民代表なのだということを必ずしも十分押さえた法的枠組みではなかろうということも申し上げておきたい。

 三分の二の母数としての総議員については、今回、自民党案の方で一定の妥協ということも行われているようです。これは割愛します。

 国会におけるそういった発議が行われた後、今まさにここで議論されようとしている国民投票制、つまり国民に国会が設定した案についての賛否を問うという手続を憲法は課している。九十六条一項後段の規定ということになります。これが今まさに国民投票法案あるいは改正手続法案の主体、メーンの手続ということになるわけですが、これもまた国会における発議に続いてそれ以上に国民代表制把握の具体化を求められている手続なのだ、国民による承認手続というものは、ということをやはりしっかり押さえる必要がある。

 根底的な国民主権原理の把握がなぜこういう形で国民投票を求める規定となってあらわれているのかということもここにしっかり読み込まないと、憲法改正国民投票法の具体的手続というのは実は出てこない。あえて突っ込んで申し上げると、違憲の憲法改正国民投票法になってしまいかねないということで、この第二段階の手続こそ極めて重要ということになるわけです。

 まず、国民と言った場合にそれが一体どういう範囲のものを指すのか、これについてはさまざま議論がございます。これにつきましても、民主党が、衆参両院議員の選挙権者、憲法でいえば十五条三項が定める成年者による普通選挙という、この成年者の規定の年齢要件を引き下げて、世界的な趨勢でもある十八歳というところを打ち出しておられて、与党案は公選法上と同等の二十という形で案を当初提示しておられた。それが今回の修正で十八歳に落とされるということになっている。

 学界といたしましては、憲法を、この十五条三項が打ち出す成年者、その具体化は、御承知のとおり、民法四条、満二十年をもって成年とすというこの規定を受けて、公職選挙法上九条でやはり満二十年をという形で年齢要件を設定している。

 国民投票の手続、資格者、投票権者は、選挙権者とは別途に当然に設定し得る。国政選挙、国会議員の選挙権者よりも引き上げるという選択をすることも、理論的には可能といえば可能です。それだけ重大なことだから、それだけの判断能力を持った方々という形で、三十歳以上に引き上げることは理論的には可能とも言えるけれども、抽象的統一体としての、一の1で書いたことにかかわりますが、全国民にできるだけ引きつけた形、近づいた形で有権者団を設定すべし、設定するように、人類史的、比較憲法史的な発展はあるということからすれば、世界がもう十八歳以上の男女という形で国政選挙の、国会議員、国民代表者の選出権を設定するに至っているということからすると、当然にやはり引き下げてしかるべき、より近づける、十六まで落とすという選択もあり得るといえばあり得るわけですね。そういう中で今十八歳が打ち出されているということは、それなりに私は評価をする、学界も評価をする。

 ただ、それ以上にやはり考えなければいけないのは、国会議員の選挙とはまた質を異にする投票なのだということからすると、在外の日本人、御承知のとおり多く海外に出ている日本の成年者、有権者に対する投票権の保障、さらに、場合によっての定住外国人、在日の外国人の選挙権、投票権は別途さらに検討して組み入れる可能性を追求すべきではないか、そういう見解が学界内にこの間強くなってきてもいる。

 さらにつけ加えますと、選挙犯罪者を含む在監者、選挙の公正を害している方々も憲法改正について発言をし得る、意思表明をし得る有権者の一人、投票権者の一人として、やはりもっと強く、もっとしっかりと検討した上で入れていく。選挙とは異なる投票なのだということで考える必要もあろうかということもつけ加えさせていただきたい。さらに言えば、投票所に行きにくい入院患者等々に対する配慮等々ももっと行われてしかるべきだろう。

 投票方法について先ほど今井意見陳述人から、最低投票率設定には疑問を呈する、あるいは絶対投票率設定の意味という御発言がございました。ここらにつきましても、より多くの、全国民にできるだけ近い投票権者、成年者の声を反映させるような国民投票であるべきだろうということからすると、衆参両院選挙のように投票日を一日だけ設定してそれで処理をするということが果たして妥当なのかどうなのか再検討すべきだろうという意見が学界内にございます。一週間にわたって投票を続けさせる、あるいは、一定の投票率を設定しておいてそこに達しない限りは再投票、一定のところへ行くまで国民に投票を呼びかけ続けるというような手だても憲法改正については検討してしかるべきではないかという意見がございます。そのことを私としても御提案申し上げたい。

 さらに、投票期日につきましても、実は今回の手続法案はある種全面改正を前提にしたような議論になっておりますが、一カ条だけを処理するという形の場合も発動されてしかるべき手続法案ですから、提起される改正の量に応じてこの期日を広げるであるとかいうような細かい手だてが必要です。さらに、運動規制についてもさまざま申し上げたいところでございます。すなわち、人権にかかわりますから。

 最後に強調しておきたいことは、投票権者たちが、憲法上保障されるはずの自分の投票権がこの手続法によって侵害されていると主張するということを十分に考えて裁判手続を整備すべきだというふうに思います。

 ところが、現在出ている案は東京高裁にだけ出訴できる。御承知のように、国政選挙の選挙無効の主張は八高等裁判所にできます。そして、最高裁に持ち込まれる。これが極めて限定された形でしか認められていないということは、人権侵害の中で極めて重要な裁判を受ける権利侵害ということ、これを強調しておきたいと思います。

 以上です。

中山座長 ありがとうございました。

 次に、中北龍太郎君にお願いいたします。

中北龍太郎君 大阪弁護士会の中北龍太郎です。

 私は、主に二つのテーマについて話をしたいと思います。一つは、改憲手続法の目的、その政治的側面であります。もう一つは、与党案、民主党案、これらを本法案と略称しますけれども、これらに共通する手続法としての重大な欠陥について、その問題点を明らかにしたいと思います。

 まず、第一のテーマに入りたいと思います。

 冒頭、この法案の目的は何かということを考えたいと思います。それを見きわめるために、まず、法とは何かということを考えてみたいと思います。

 法哲学の名著「法の窮極に在るもの」、尾高朝雄教授の著書で、法の究極にあるものは政治であると喝破をされています。また、刑法学の泰斗で元最高裁判事である団藤重光教授は、立法過程はまさに政治過程そのものであると指摘をされています。

 なぜこんな法理論を持ち出すかといえば、本法案は手続法である、中立的な法律なんだ、だから一日も早く制定しなければならないと正当化されているからであります。しかし、本法案は、まさに極めて重大な政治的性格、目的を有しています。

 御存じのとおり、二〇〇五年十月に自民党新憲法草案が発表されました。その案作成に安倍首相も深くかかわっておられました。その安倍首相は今、私の内閣として改憲を目指したい、参院選でも訴えていく、そのために今国会で改憲手続法の制定を期待すると何度も力説をされています。この発言からも、改憲手続法の政治的目的、その政治的色彩が濃厚であることが明らかだと断言できます。

 言うまでもなく、憲法はこの国の形の根本を決める法律です。この憲法をどのように変えようとしているのか。自民党新憲法草案の線に沿って改憲をしようとしていることは疑う余地がありません。この線に沿って日本の根本を変えるために、そして今国会で改憲手続法の制定が急がされている、それが現在の状況であります。改憲手続法の制定目的はまさにこの点にあり、単なる中立的な手続法などでは断じてないと明言できると思います。この点を肝に銘じて、国会において御審議いただきたいと思います。

 ところで、自民党新憲法草案は、周知のとおり、憲法九条の改正に最大の力点を置いています。九条がターゲットにされているという指摘もあります。軍隊をつくり、国際安全保障活動に従事させる、すなわち海外派兵をさせていく、それを自由にできるようにしていく、これが改憲の最大の目的です。

 中野氏からも御指摘がありましたように、安倍首相の唱える戦後レジームからの脱却、これが改憲のねらいであります。しかし、ファシズムと戦争の反省に立って生まれた戦後平和憲法、これをしっかり守っていくことが日本の平和にとって極めて重要なことではないでしょうか。その戦後平和憲法が今なし崩しにされようとしていることに多くの市民が強い危惧を抱いています。

 日本国内の論議にとどめず、世界的な視野でこの改憲問題を見ていくために、一つの例として、中米のコスタリカを挙げたいと思います。

 コスタリカも、一九四九年に非武装憲法をつくり、軍隊を捨てました。米国と協調関係を持っている点でも日本と共通をしています。そして、コスタリカは、隣国のニカラグア紛争に際し、米国から軍事協力を強く求められました。当時のコスタリカ政府は、さまざま紆余曲折がありましたけれども、これを拒否し、軍事協力ではなく和平を確立していくというところに汗をかき、そして見事にそれを成功させました。アリアス大統領はノーベル平和賞を授与されています。隣国の平和秩序を構築することによって非武装憲法を守り抜いています。そして、ホームページなどを見ますと、その冒頭に、軍隊を捨てた国と誇っています。国を挙げて非武装憲法を誇りにしているのです。

 これに対し、日本ではどうでしょうか。政権を挙げて平和憲法を崩そうとしています。こうした動きに、市民の平和に対する危機感は日ごとに強まっています。今、イラクの現状を見ればどうでしょうか。戦争の惨状、失敗だったということ、アメリカの戦争政策が破綻をしているということは、今やだれの目にも明らかになっています。米国の戦争に協力する方向での改憲は平和憲法の破壊です。日本はコスタリカの歩みにもっともっと学ぶべきではないでしょうか。

 以上が第一のテーマです。

 第二のテーマに移りたいと思います。憲法改正国民投票のあるべき姿について述べていきたいと思います。

 憲法改正に国民投票で過半数の承認が必要ということになっています。それはなぜでしょうか。言うまでもなく、憲法は、主権者である市民が、市民の福利と平和の保障のために、政府に対し権限を与え、そして政府の権力行使にコントロールをかけるための法律です。すなわち憲法は、市民がみずから、市民の手で、市民のためにこの国の形を決めるためにつくる法だからであります。これは、日本国憲法に限らず、近代憲法の極めて普遍的な原則であります。したがって、国民投票手続のあるべき姿、原則は、こうした近代憲法における普遍的な立憲主義、国民主権、民主主義の原理にかなったものでなければなりません。

 しかるに、本法案は、立憲主義、国民主権、民主主義の原理に根本から反しています。それらと矛盾をする重大な欠陥、問題点があるのであります。時間の制約もあり、幾つか問題点を指摘いたします。

 まず、投票率、得票数の問題です。

 国民投票で市民の大方の賛成、大多数の賛成を得る、これが改正のための必須の条件ではないでしょうか。五分の一程度、四分の一程度、あるいはそれ以下の賛成で憲法をつくりかえる、この国の形の根本を決めるというようなことがいかに国民主権に反しているかということは、極めて明らかなところであります。

 しかるに、本法案は、そのような極めて少数の賛成で改憲できる仕組みが組み込まれています。市民のすべてが主権者である、こうした国民主権の原理、市民の多数意見によって憲法を制定するという立憲主義の原理に明らかに反しています。せめて日本弁護士連合会が提唱している、有権者総数の三分の二という最低投票率プラス投票総数の過半数の賛成票が必要とされなければならないところであります。

 第一の問題に続いて、第二の問題を指摘したいと思います。

 当然、国民投票は、民主主義の原理から、主権者である市民の自由な討議、そしてルールは公正なものでなければなりません。ところが、本法案にはこの点が根本から欠けていると言わざるを得ないのであります。

 一つは、公務員、教育者に対する表現抑圧の問題です。本法案は、公務員、教育者の地位を利用した国民投票運動を禁止しています。罰則は外されていますけれども、懲戒処分などで憲法問題に対する自由な表現を著しく封殺することになります。

 そればかりではなく、昨日、自民党の修正案が発表されたとのことであります。その中に、公務員法における罰則つきの政治的行為の制限規定が従来外されていたと聞きますけれども、今回、新たに改憲国民投票法にも適用されるという修正案が発表されました。ますます表現への抑圧が強まっています。

 公務員らは私たち市民と日常接しています。また、教育者は市民のオピニオンリーダーの役割も担っています。その数は五百万人を超えます。彼らに対する、改憲問題に関する表現抑圧は、自由闊達な討議を、民主主義を封殺することになるのではないでしょうか。このような言論抑圧は諸外国に比べて極めて異常な規制だと断ぜざるを得ないのであります。

 また、この自由な討議、公正なルールの保障という観点から見た第二の問題点は、有料広告が投票日前の二週間の期間を除いて野放しになっているということです。今、改憲を進め、賛成をしているのは、権力やお金を持っている人に多いと言われています。お金に飽かせてマスメディアを駆使して賛成意見をどんどん垂れ流していく、そんな情報操作、大衆操作の危険が大であります。これでは全く公正なルールとは言いがたく、お金で改憲が買われてしまう、そんな指摘もなされているところであります。

 さらに、自由な討議、公正なルールの観点から、憲法改正案を周知広報する機関を国会に設置し所属議員数の比率で構成されるという点も重大な問題であります。これでは、改憲派が多数を占めている国会の現状からして改憲に有利なキャンペーンが張られてしまって、公正な討議が保障されないということになってしまいます。日本弁護士連合会は、こうした危惧を踏まえて、公正な第三者機関が周知広報任務を担うべきだと提案をしています。

 国会発議から六十日後に国民投票ができるようになっていることも十分な討議の機会の保障を奪うものです。このような民主主義の観点から見た本法案の幾多の重大な問題点はますます明らかになってきております。

 そして、さらに、本法案には投票対象が不明確だという根本的な問題がございます。本法案では、国民投票において賛否を問う対象が内容において関連する事項ということになっています。これでは、例えば自民党新憲法草案の九条改憲案を例にとりますと、自衛軍の設置には賛成だけれども海外派兵には反対だという意見が、国民投票において正確に反映できないことになってしまいます。自衛軍の設置には賛成だが海外派兵に反対という意見が多い中で、これでは市民のこうした意見を国民投票に正確に反映できないことになってしまいます。海外派兵ができる憲法に変えられるかどうかが改憲問題の最大の焦点である中で、こうした正確な意見が踏まえられないまま海外派兵を認める憲法に変えられてしまうというのはとんでもないことだと言わざるを得ないのであります。

 今目指されている改憲は残念ながら自民党新憲法草案に沿ったもので、それは平和、民主、人権の憲法を根本から破壊することになりかねません。そして本法案は、立憲主義、国民主権、民主主義の原理から重大な疑義があります。それは結局、本法案が、こうした改憲を実現するためのルールではあっても、市民が主体的に憲法をつくるための手続、すなわち最大の主権行使である憲法改正、国民投票にふさわしいものでは全くないと言わざるを得ないのです。したがって、今国会における拙速な成立ではなく、一からの抜本的見直しが求められています。

 あと若干時間がありますので、今井氏の発言について若干コメントしておきます。

 ボイコット運動を問題にしておられますけれども、それはさまざまな弊害の中の一つだけにスポットライトを当てて問題にされているものです。問題は、成熟した討議が十分に行われ、そして多数の支持で改憲の是非が決められるということである。それがまさに問題です。本法案にはそうした点で多くの欠点がありながら、それを指摘せずに、ボイコット運動などを一面的に指摘される今井氏の論議は非常に偏ったものであると断ぜざるを得ないのであります。

 まだまだ言い足りないことがありますが、この程度にしておきます。どうもありがとうございました。

中山座長 ありがとうございました。

 以上で意見陳述者からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

中山座長 これより意見陳述者に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。船田元君。

船田委員 四人の陳述者の皆様、きょうは大変御多忙の中、私どもに意義ある御意見を開陳していただきまして、まことにありがとうございました。

 私からは、まず、そもそも論というんでしょうか、基本的なところで、すべての陳述者の方にお伺いいたします。

 私がこれから言う三つの選択肢がございますので、御自分の意見と一番近いものを選んでいただき、なぜそうかという理由も、もしできればつけ加えていただきたいと思います。

 設問は簡単であります。国民投票法案あるいは法制が今必要なのかどうかということでございます。

 Aという意見は、憲法改正するかしないか、それはやはり国民の重要な権利の行使である。これが行使できるように国民投票法制を整備するというのは国会の当然の責務である。同時に、今、自民党は憲法草案を出しましたけれども、まだ完全に煮詰まっているという状況ではございません。まだまだ冷静といいますか波静かな状況であるわけですが、そういう今こそ公平公正なルールづくり、立法を目指すべきである。これがAという意見であります。

 Bの意見は、確かに国民投票法案を制定することは国会として当然やるべきものである。しかしながら、今はまだ改正の方向性とか、また改正案の議論も十分に整っていない。ですから、整ったときに改めてその制度は考えるべきではないか。つまり、現時点においては拙速を避けるべきであるというのがB。

 最後のCでございますが、そもそも現行憲法を変える必要はないのだ。だから、憲法を変えるか変えないかを国民の皆様が決めるこの制度もつくるべきではない。これがCであります。

 もちろん、その他の意見もあるかと思いますが、それぞれ、A、B、Cいずれかということでお答えいただきたいと思います。

今井一君 私はAです。その理由は明快です。

 現在、例えば憲法九条について言えば、度を越した解釈改憲が長年続いているというふうに思っています。憲法九条の本旨と実態とは著しく乖離をしている。ここにおられるだれもがそれを認めざるを得ないんじゃないでしょうか。言葉をかえて言えば、私たち国民が持っている制憲権が既に侵害されているというふうに私は思っています。主権者としてこういう状況は極めて不愉快です。これを国会の場が是正できないんだったら、私たち国民の手でやるしかないというのが私の考え方です。

 憲法九条の本旨と実態との乖離を埋めるには、道筋は二つしかありません。実態に合わせて憲法九条を改正するか、あるいは憲法九条を守るという答えを国民が出して実態をそれに合わせて引き戻していくか、どちらかしかないというふうに私は考えています。現に、度を越した解釈改憲によって私たちの制憲権が侵されているのに、憲法九十六条に明記された明文改憲の是非を問う私たちの主権行使の機会も奪われるということであれば、私たちの制憲権は二重に侵害されるというふうに考えざるを得ません。

 したがって、今私が立法府に望むことは、この改憲を是とするか非とするかは国民が決することであるんだから、改憲を志向することは誤りだと主張するにとどまらず改憲をさせないために手続法の制定を阻むという行為は、先ほども申し上げたように国民が憲法を制定したり改廃したりする権利そのものを否定することになると思います。

 今、立法府、国会議員がなすべきことは、公平で合理性に富んだルール、つまり立法のために邪心なく幅広い合意形成に尽くすことであって、個人あるいは党としての改憲、護憲の姿勢や、目先の、つまり参議院選挙の選挙戦略などにとらわれず、必要なことを邪心なく行ってほしい。つまり、公平かつ公正なルールづくりに徹していただきたいということです。

 これが私の答えです。

中野寛成君 私はBです。

 先ほどから幾つか申し上げましたが、大変重要な法律です。よって、一たん制定をして、またいろいろ検討を重ねて直せばいいではないかという簡単なものではない。やはり考えられる問題点は現段階において可能な限りきちっと是正をしておくということが極めて重要だと思います。

 そういう意味で、国民の改憲論以外に、例えば、先ほど私流に申し上げますと解釈改憲を防ぐ、有権的解釈を明確にすることなどのためにも、改憲以前の問題もあります。それらのことや、また十八歳の問題も、いろいろ中山委員長が御苦労いただいていることは報道を通じて知っておりますけれども、これらもやはり他の法案を含めて明確にしておくべきだというふうに思います。

 何よりも、残念ながら、安倍総理の発言によって既にこれが政争の具にされてしまっているということが極めて残念であります。

 そういう意味で私はBです。

吉田栄司君 私自身もBです。

 今井陳述人の御意見に出てまいりましたように、憲法規範が、文言が憲法現実と余りに乖離している、こう言われました。まさに第二章九条に関しての御指摘かと存じます。この点についてのみということであれば、これまた検討の対象にもなろうか、あれこれ議論をして。ところが、今回出たのはほぼ全面改正案のようですね。それを前提としての手続法案提出ということは、皆様御承知のとおりです。

 私の先ほどの意見陳述の冒頭で出させていただきました、現在の日本公法学会、会長ではなくて理事長という用語をとりますが、京都大学名誉教授佐藤幸治氏。御承知のとおり司法制度審議会の答申を提出された方でもあるわけです。私の意見陳述レジュメの最後、四の冒頭、九十六条二項のところで書かせていただきましたが、天皇の公布手続について「この憲法と一体を成すものとして、」という文言がございます。この文言をしっかり読む限りにおいては、まさに規範を重視する限りでは、現にある憲法典の全面改正を全く予定していない、こう指摘しておられるわけですね。というようなことからして、九十六条を具体化するための手続法律というものが必要だということは見てのとおりなわけです。

 が、現時点で、先ほどから繰り返すことになりますが、九条の改正をいわば前提としつつ、その取り巻きのようなところを全部ひっくるめてというふうに扱う、そのための手続法案の提出ということからすると、やはり拙速という判断をせざるを得ないということです。

中北龍太郎君 選択問というのは難しいもので、ぴったりくるものはないんですが、近いと言われればCが近いかと思います。

 一つは、まず憲法と現実のずれが生じ、そして、中野委員が指摘されているように、憲法と現実とのずれが生じたがために神学論争的に陥ってしまっているということだろうと思います。現実を憲法に近づける努力、憲法尊重擁護義務を負う国会議員の方々は、まずこの点について汗を流すべきであろうというふうに思っています。

船田委員 ありがとうございました。

 最後に、これは感想だけですが、中野陳述者から、与党の度量と野党の良識、これはまさに至言でございますので、踏まえて頑張りたいと思います。

 ありがとうございました。

中山座長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 民主党の枝野でございます。

 四人の陳述者の皆さんには本当にありがとうございました。大変参考になりました。

 時間がございませんので、まず私から中野先生に、今政局の道具にされてしまっているという状況の中で、先ほども方向性をお話しいただきましたが、この委員会はどう議論を進めていったらいいのか、御示唆をいただければと思います。

中野寛成君 私は、まず当委員会の主体性、もちろん国会に設けられ、かつ各党の代表が出ているわけですから、主体性といっても党利党略的なたがから外れることは難しいかもしれません。しかし、事憲法に関する委員会という使命感と誇りを持って、当委員会の主体性と権威が守られるということを私は期待したいと思いますし、先ほど申し上げましたが、司法、立法、行政、三権の中で立法機関が国権の最高機関として位置づけられ、しかもその立法機関にのみ発議権がゆだねられているということに思いをいたして、とりわけ、司法や行政から口出しをされない、それをされたとしてもはねつけるぐらいの権威を持って頑張っていただきたい。

 私は、当委員会に大変期待する立場から申し上げております。

枝野委員 ありがとうございます。

 吉田陳述人と、中北陳述人もそうかなと思うんですが、お二人のお話を伺っておりますと、自民党の憲法改正草案のためにこの国民投票があるからけしからぬというようなニュアンスにも聞こえますが、少なくとも、私ほか三名提出の法案は自民党改正案などのようなことをかけることを全く想定しておりません。自民党改正草案は立憲主義のイロハがわかっていないものですので、我々がこういうベースのところで議論をすることはあり得ないと思っております。

 少なくとも、参議院の今の状況を考える限り、これが発議をされることはあり得ないという政治状況でございますし、このどちらの法案でも三年後に事実上施行されますし、三年後には我々が与党であるつもりでおりますので、むしろ我々の考え方がベースになると思っております。その場合には、今お二人の議論の前提となっている自民党草案のためだからということにならないということですので、民主党案がベースで議論をするということだったらいいということでよろしいでしょうか。

吉田栄司君 違います。

 吉田からまず発言させていただきますが、私は先ほどの意見陳述で、冒頭、提出されている二件に関する意見陳述と申し上げました。

 九十六条の解釈に照らして、いずれのものにつきましてもこういう憲法上の疑義がある、あるいは学界上指摘されている点がある、それらが具体化され切っていないということを申し上げました。具体的に重ねて言う時間的余裕もないでしょうから、国会内はもちろん、さらに国民投票の手続のところでの投票権者関連、あるいは公務員、中北さん御指摘のところを私ははしょりましたが、さまざまな人権侵害の疑義の残る規定が多々あるというふうに考えております。

 一点強調したいことは、国民投票を広く導入すれば、それは憲法が打ち出している国民主権の具体化に資するとは必ずしも学界はとらえておりませんということです。

 以上です。

中北龍太郎君 私の申し上げたことについて、枝野議員の誤解が若干あると思いますが、私は、安倍政権が目指している改憲は自民党新憲法草案をベースにしたものであろう、こういうふうに申し上げました。民主党が憲法提言を出されていることも重々承知をしております。

 その民主党案においても、立憲主義の観点から市民が権力を縛るための命令であるという憲法の性格が弱められている点、そして自衛隊の海外派兵に踏み込んでいる点など非常に重大な問題を抱えている。このような改憲が多くの市民にとって本当に必要なことなのかが問われていると思いますし、改憲手続法案についても、自民党と民主党、かなり修正協議が行われて、近いものになっております。差があるのも事実ですけれども。

 いずれにしても、先ほど指摘しました、国民主権、立憲主義の原点から大いに問題があるので、国民の意見を聞いて一から論議を進めるべきだというふうに思量いたしております。

枝野委員 新潟でも園田委員が申し上げたんですが、ちょっと事実誤認がありまして、自民党と民主党で修正協議はしておりません。どうしてそういう報道になっているのかもよくわからないんですが、修正協議なんて一切しておりませんで、国会で議論をして、それぞれその議論を踏まえて我々はこう思う、我々はこう思うというのが一致している部分がたくさん出てきている。それは、今井陳述人がおっしゃるように、合理的なものを目指していればそういう方向になるのは当然だろうと思っています。

 もう一つ、お二人にお尋ねをしたいんですが、国民の意思、国民が望んでいないとか、どうしてそんなに自信がないのかよくわからないんですね。国民が望んでいない発議がされれば、国民投票で当然否決をされると思います。まして、国民主権原理とか憲法の基本原則にかかわるような重要な問題については投票率も高くなるだろうし、その結果、国民が望んでいなければ否決をされるんではないかというふうに思いますが、なぜ自信がないのかということが一つ、国民投票で否決をすることについてです。

 それからもう一つは、皆さん、やはり憲法九条とかそういうところばかりに目が行っているんですが、例えば私は私学助成金は憲法違反だと思います。これは法制局の解釈が間違っていると思います。私は、私学助成金をやめればそのままでいいと思うんですが、もし私学助成金を続けるのであれば現行憲法を変えるべきだと思います。

 それから、裁判官の報酬を減額してはいけないと文理上読めることになっています。これはこの間減額しました。これはぎりぎり解釈で読めるかなというふうに思いますが、憲法の規範力を明らかに弱めている。つまり、文理上、下げてはいけないことになっているのを国会で下げてしまっています。少なくともこういうところだけは早く変えないと憲法の規範力は下がると思います。これについては、特に裁判官の給与減額の話のところは大方の国民に異論もないと思います。

 しかし、こういうところで国民投票をやって投票率が上がるとは到底思えないんですが、それでも最低投票率をつけて、こういう文理とずれて憲法の規範力が弱まった方がいいとお考えになっているのかどうかをお答えください。

吉田栄司君 御質問の趣旨が私は理解できません。私が意見陳述で一、二、三、四とローマ数字で柱を立てましたが、その三についての私の見解についての御質問ですか。

 今おっしゃられた、私があたかも国民投票を実施することに自信がないような何らかの発言をしたように受け取られたかに聞こえたのですが、それでその理由を問われているような気がしているんですが、理解できないんです。

枝野委員 了解です。それならいいんです。

 逆に言えば、若干お二人の似ていらっしゃる部分があったので、誤解されなければそれでいいんです。つまり、国民投票をすること自体はいい、そのルールさえしっかりしていればいい、そういうことでよろしいんですね。つくること自体は構わないということでいいんですね。

吉田栄司君 私は、冒頭船田議員からの御発言に対して、Bを選択して答えております。

中北龍太郎君 枝野議員の立案は、目的と手続をできる限り分離して論議しよう、こういう気配を私は濃厚に感じています。やはり実際の政治過程において、手続的問題と目的的側面とはいつもつながり合って立法過程が展開されているということをやはり十分踏まえるべきであろうと思います。

 そういう意味で、国民の意思については、自民党の新憲法草案、民主党の憲法提言についてはノーの声が多数である、そういう了解はしております。

枝野委員 時間がないですが。

 中北さん、だったら国民投票にかけてもらって否決してもらったら、こんな議論はなくなるんですよ。何で国民投票を避けるのかがよくわからないということと、それから吉田先生の方は、最低投票率が必要だというお立場ですよね。私が申し上げた例えば裁判官の報酬の減額とか、そういうときに最低投票率をつけたらという質問にはお答えいただけませんか、どうなるんだろうかと。

吉田栄司君 長くなると困るなと思いつつですが、私、実は一のところで一定の時間があればお話ししたかったことにかかわります。

 日本国憲法は、主権者国民自身に決定権を与えるのを限定しています。つまり、前文一段で打ち出しているように、国民代表制をメーン枠組み、中心的な機構と採用した上で、代表者自身が現に、生にいる主権者意思と乖離するということが当然にあり得る、そういう前提に立って、国民がまさに決定権を行使する場面を九十五条、九十六条、そして御承知の七十九条、こういうところにだけ打ち込んでいる。このことをしっかり重視するのが学界の多数の意見であり、私自身もそう把握をしている。

 つまり、先ほど言いかかりましたが、あらゆる重要と思われる問題について次々に国民に問うということを求めている憲法ではないというふうに、学界として、あるいは私自身も研究者の立場でとらえているということです。

枝野委員 憲法改正事項ですよ。裁判官の報酬減額をしちゃいけないと憲法に書いてあるのを現に国会は減額しているんで、文理とずれているわけですよね。僕はぎりぎり合憲だと思いますが、でも、文理とずれているのを放置していたら憲法の規範力は弱まるじゃないですか。それは仕方がないんですか。

吉田栄司君 七十九条理解を含めて、八十条、裁判官の地位に関して実定憲法が打ち出している規範をどう具体化するかは結局……(枝野委員「ぎりぎり合憲だと思いますよ」と呼ぶ)そうですね、法律という形で国民の代表者が、いわば裁判所法プラス関連法案のところで予算その他の処理を含めて憲法解釈して処理をされる。これが憲法の枠組みということになろうというふうに把握しているということになります。

中北龍太郎君 国民投票の問題については、まず、何のためにどういう内容で国民投票を行うのかという問題、そして、国民論議が十分煮詰まっていない。憲法は市民がつくるものですから市民の盛り上がりの中で国民投票が実施されるべきであって、そういう意味で先ほどの選択肢でいいますとBという意見もその面に限っては妥当しているし、さらに、国民投票手続には重大な問題がある。それから、二つの具体的な問題については合憲と解釈し得る十分な余地がある。むしろ、自衛隊の存在こそ憲法に違反している疑いの方がはるかに強いと言えるのではないでしょうか。

中山座長 次に、赤松正雄君。

赤松(正)委員 公明党の赤松正雄でございます。

 四人の公述人の皆さん、大変にありがとうございました。

 先ほど来の自由民主党また民主党のお二方からの話と、私も自分の立場、公明党でございますので、ちょっと公明党のことをわかっていただいていないかなという感じがいたしました。

 吉田先生と中北弁護士のお二人にまずお聞きいたしますが、先ほど吉田公述人が安倍政権云々、枝野理事からの質問に対しておっしゃいましたけれども、今回の国民投票法案は自民党だけではなくて与党として公明党も一緒に参画をいたしております。公明党の基本的な憲法に対するスタンスというのは御承知いただいているかと思いますが、決して全面改正ではなくて、憲法の三原則、基本的人権、国民主権そして恒久平和主義、これをきっちりと大事にして、ここの原理をしっかり踏まえた上で、仮に加えるところがあるならば、国民的合意をしっかり得た上で、変えるべきものが仮にあるならばそれを加憲の対象にしていこう、こういうスタンスでございます。

 お二方にまず簡潔にお聞きしたいんですけれども、実はこの国民投票法案、先ほど一番原則的なことを船田委員から聞かれてそれにお答えいただきましたから、それを踏まえていただいた上で、この国民投票法案の中には、実は憲法審査会という機関が設定されて、その憲法審査会の中で、今の一九四六年憲法のありようといいますか、現実の憲法が今展開される部分について、どこがどうかということについて具体的に議論をする、調査をする、しっかりやろう、こういうふうになっているわけでございます。

 したがって、冒頭に申し上げましたように、自由民主党は自由民主党として自分たちはこうだというのを出しておられますけれども、私たちはそれを全然、別に問題にしていないわけじゃありませんが、そういうことに同調するつもりは全くありません。

 公明党としては、一緒に政権を組んでおりますけれども、憲法に対しましては今申し上げたように今の憲法を大事にするという基本において、先ほど枝野委員から一、二提起がありましたけれども、そういう問題も含めて、今の時点で仮に新たにつけ加えるものがあるとしたらどうだろう、こういう議論をしっかりやっていこう、こういうふうに思っているんですが、その辺についての考え方をお二方からまず聞かせていただきたいと思います。

吉田栄司君 繰り返しになって恐縮ですが、私自身は、船田議員に対する回答でも申し上げましたように、九十六条を具体化する手続法規定、そういうものがそれなりに憲法上必要と学界は当然考えるといえば考えるわけです。

 ですから、今公明党のお立場を表明されましたが、現行憲法のありようについてさまざまに調査をし、国民的な合意を得られるものがあるならば、そういうものをまた抽出するような営みをし、加える必要のあるものがあれば加えていく、そういう立場。これをどう評価するかということになりますと、憲法学界としては、私自身もそうですが、当然かというふうに見るということになろうかと思います。

 ただ、現在出てきている、まさに与党のお立場でということでは船田議員へのお答えにもなるわけですが、十分な議論が踏まえられた上での手続規定の具体化提案とも思えないということで拙速という評価につながる、こういうことでございます。

 その上での拙速の評価軸につきましては、九十六条のまさに解釈論としてきょうるる展開させていただきました、三段階の九十六条の文言の具体化ということについて、学界の中で比較憲法学史的な議論がなされているわけですが、それらを踏まえての原案提出にはなっていないのではないか、そういうマイナスの評価を下さざるを得ないというのが私の評価ということになります。

 以上です。

中北龍太郎君 先ほどの船田議員の選択肢のBでいえば、まだまだ改憲論議が煮詰まっていない中で国民投票法、改憲手続法をつくるのは拙速だという選択肢だったと思いますけれども、今公明党の赤松議員がおっしゃられたように、自民党新憲法草案に公明党は同調されていないということですね。これを見ても、与党でさえ改憲問題について煮詰まっていないということです。ましてや国民の間で煮詰まっているわけがない。

 加憲という立場をおっしゃいましたけれども、その加憲の案も、まだ条文として発表が十分煮詰めた形でされていないと思います。これから見ても、まだ憲法論議が高まっていない中で、拙速であるというBの選択肢も相当程度妥当な面があると言うことができると思います。

赤松(正)委員 今の中北公述人のおっしゃったことに対しましては、先ほども申し上げましたけれども、煮詰まっていないというふうにおっしゃったわけですけれども、憲法審査会の三年の議論、まず最低三年ですが、別に三年がすべてじゃありませんけれども、三年を端緒にしていよいよ本格的な議論をそこで始めるというふうな認識で私どもはおりますので、ちょっと誤解があるのではないかなという印象を持ちました。

 時間がありませんので、次に中野公述人と今井公述人のお二方にお尋ねしたいんですが、お二方に共通しているのは、解釈改憲を許さないというか、現在の憲法に対する解釈改憲の現実というものに対して強い危機意識というのを持っておられるとお見受けいたしました。

 私は必ずしも解釈改憲、一〇〇%そうだとは思わないので、解釈改憲イコール拡大解釈というふうなことなんでしょうが、私は、適正解釈という側面がある、むしろ縮小解釈、そして拡大解釈ということがあって、正しい解釈は那辺にありやということについてはちょっと意見が分かれるところがあるんですが、それはちょっと置いておきまして、お二方にぜひお聞きしたいのは、今度仮に九条に関して改正の対象になったとして、私のスタンスはそうではないんですけれども、実は新たなる解釈改憲、皆さんのおっしゃっているような解釈改憲を生み出す、だから憲法九条についてはもうさわらない方がいいんだ、私の意見じゃないですよ、そういう強い意見があるというのは、今の解釈をさらに拡大していくというか、そういう側面で徹した方がいいという考え方を持つ方がいらっしゃるわけですね。

 そういう意味で、私は、中野公述人が先ほどおっしゃった憲法九条のくだりで、憲法関連基本法とおっしゃった中での安全保障基本法の制定というのは非常に重要な意味を持つと思うんですけれども、仮に憲法をさわらないということにして、その関連の、今井公述人にも一緒に聞きますが、例えばそういう安全保障基本法なるものをつくる場合のスタンスといいますか、解釈改憲を許さない、聞かなくてもわかったような聞き方になっちゃいますけれども、どういうふうに考えられるかについて、簡単にお願いいたします。

中野寛成君 憲法改正ということになりますと、例えば憲法九条をどのように変えるかということは大変重要な議論も呼びますし、時間もかかる。そういう中で、一つは、現行憲法のもとでも安全保障基本法をつくって補完するという方法もあるでしょうし、それから神学論争になっている部分については、最近やっと自衛隊が合憲であるということはおよそ国民の皆さんの共通項になったとは思います。

 しかし、例えば海外派遣の問題にいたしましても、西ドイツ当時、ソマリアへドイツ軍を派遣するときに憲法裁判所にかけたという事例がありますけれども、そういうものが日本にはありませんから、そういう意味では、この国民投票法によって、国会で議論をし、そして国会の意見を付して国民投票に付するということはあってしかるべきではないかというふうに思うわけです。

今井一君 ブザーが鳴りましたので、一言だけ。

 三年間の猶予期間の間に、私は、自衛隊問題について諮問型の国民投票をやるというのも一つの策ではないかと思っています。それは、自衛隊を現状のままでいい、名前も自衛隊。あるいは、自衛隊を自衛軍にして交戦権も認める、言ってみればこれは憲法改正になるわけですけれども、そして海外派兵も認める、集団的自衛権の行使も認めるという一つの案。あるいは逆に、自衛隊を改組して災害救助隊とか国境警備隊に特化する。こういう三つの選択肢について事前に国民に問うことを考えてもいいんじゃないかというふうに思っています、諮問型で。そうすると憲法を改正する必要もないし、まあそんなことです。

赤松(正)委員 大変ありがとうございました。終わります。

中山座長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょうは四人の陳述者の皆さん、本当にお忙しい中、貴重な御意見をありがとうございました。

 私たちの党でいえば、今度の手続法案は九条改憲の条件づくりということで、その案を通しやすくするものになっているということで反対の立場でありますが、先ほど来の議論で、これまでなかったようなことについていろいろありました。私は、今これは政党や立法府の都合ではなくて、国民自身が改憲を必要としてこなかったからだ。そして、先ほど新潟でも御意見があったんですけれども、まさに国民自身がそういう選択をしてきたということが指摘をされておりました。そういう中で、改憲を視野に入れる人たちの中で議論が始まっているんだということも言われていたというふうに私は感じております。

 先ほど来、多くの問題点とともに、セレモニーに終わらないように、そして、もっと時間をかけて、拙速はだめだということで、こういう問題については委員会としても重く受けとめて今後審議を徹底してやるべきだということを強く感じたところであります。

 そこで、まず吉田さんに伺いたいんですけれども、先ほど国民主権原理との関係で両法案の根本的問題点という御指摘がありました。それに加えて、既にお答えもあるのかもしれませんが、中野さん、中北さんからは最近の安倍首相の言動とのかかわりでということであったわけでありますが、安倍首相自身が改憲ということを打ち出して、そのために手続法を今国会で成立という号令をかけて、しかも新憲法草案をベースに他党と協議するとまで言われていると。さらに、けさのNHKでも従軍慰安婦問題でアメリカでも懸念が起こっているという中で、やはりあの戦争にまともな反省のない勢力が九条を変えて、そして海外で戦争する国づくりに乗り出すということについて内外で強い不安、批判があるということは事実だと思うんです。

 そこで、吉田さんに伺いたいんですが、昨今の憲法をめぐる状況、そしてまた、そういうもとでこの手続法案の審議をめぐる状況について、御自身を含めて府民の中でどういうふうに受けとめがあるかというふうにごらんになっているか、憲法を研究されている立場で伺えればと思うんですが、いかがでしょうか。

吉田栄司君 私の意見陳述のレジュメ、ローマ数字で一、二、三、四、五と立てた実は二で時間のないまま飛ばしたところがございます。それは、国会による発議手続を定めた九十六条一項が、衆議院の優越性を排除した両院対等制をもって最高機関としての国会にその原案提出権をゆだねている、こういう話をさせていただきました。その後、二の2のところで、内閣それ自体が国会による発議手続の原案提出権を持つかどうか問題というのが実はある、こう書きました。これは時間がないので発言の中でカットしたところですが、その点を実は中北さんが御指摘だったんです。

 やはり、注目すべき違憲発言というふうに安倍首相の改憲発言を憲法学界はとらえているということ。どういうことかと申しますと、九十六条そのものが内閣が原案を提出することを予定していない規定だと。御承知のとおり、実定日本国憲法の最後の方に補則規定が百条以下百三条まであるわけですが、実質的には九十九条で終わるわけです。その九十九条こそ、天皇、摂政を含めて、言うまでもなく国会議員も国務大臣も裁判官も含めてですが、すべての公務員が憲法をまさに擁護、実現すべき義務を負うという規定なんですね。

 そういう中であえて憲法を変えるべきだということを発言し得るのは、国民代表としての国会議員だけなのだということを憲法は打ち出している。原案提出権を内閣の閣僚たち、つまり国務大臣たちは発言できない、ましてや内閣総理大臣は発言できない、そういうふうに憲法学界はとらえている。その限りにおいて、本年冒頭の安倍総理大臣の改憲発言というのは、憲法から逸脱をした九十九条違反、九十六条違反の御発言というふうに憲法学界はとらえているということをやはり強調をさせていただきたく存じます。

 さらに、御承知のとおり、九条の会というのが全国的に草の根で広がっておりまして、大阪府は、お聞き及びかとも存じますが、全国でこの一月末に六千を超えるに至っているとも言われているこの会の実に一割を超える、大阪は首都東京都内の会の結成数に比べても断トツと言ってもいい、一割を超えるといいますか、六百を超えているというところで、桂米朝氏や藤本義一氏らを呼びかけ人とするこの会は、大阪では非常に、私が事務局長をさせていただいていますが、私自身びっくりするような広がりを見せているということはあろうかと思います。

 そういうことを発言する場ではないとは存じますが、そういう御質問でしたので一言だけつけ加えさせていただいて発言を終わります。

笠井委員 もう一問ですが、公務員、教育者への運動規制の問題ということで、先ほど中北さんからも言及がありました。それで、地位利用の問題さらには修正案をめぐる問題ということで御指摘があったわけですが、これは中北さんと吉田さんに伺いたいんです。実際こういう規定がもたらす効果といいますか、国民投票運動にどういう影響を与えるか。吉田さんが先ほど人権論との関係でということで、はしょったけれどもとおっしゃったんですが、どういう効果と国民投票運動に影響を与えるかということについて一言ずつ伺えればと思いますが、いかがでしょうか。

吉田栄司君 私の意見陳述のレジュメの今度は三の4にかかわる点で、先ほどちらっと申し上げたところを改めて聞いていただいてありがとうございます。敷衍させていただきます。

 御承知のとおり、公務員になるには試験が課される。当然に、法的な知識、憲法知識、法的枠組み、その意義、人権の意義、民主制、民主的手続の意義、そういうことについてもしっかりと認識を持った方でないと公務員になっていただくわけにいかない。全国民に奉仕する全体の奉仕者という性格を十五条一項が打ち出している。

 ということでいいますと、まさに広い視野と深い認識を国あるいは社会についてしっかり持っている人たちが公務員。税金をもらい、税金を使う立場、そういう職業。先ほど申し上げた天皇、摂政、国務大臣、国会議員、裁判官。当然、書かれていませんがその他一切の公務員ということですから警察官から何から。こういう公務員についてこういう規制を課すと。

 一たん緩められるような原案になっていたところをまた最近復活してきているというふうな御指摘が先ほど中北さんからもございましたが、公務員のそういった活動を認めないということは、広い視野を持った、ましてやその先端のところと言っては自分が偉そうに聞こえて恐縮ですが、憲法研究者たち、こういう教育公務員さらに教育関連あるいは法学者、憲法学研究者、それらが発言することができなくなるということは、広く国民に憲法改正の意義等々を知っていっていただく上では、国民全体にとってやはり大きくマイナスになるだろうというふうに私は思います。

 以上です。

中北龍太郎君 同趣旨でありますけれども、こうした言論規制が加えられると、刑事罰の問題さらに行政処分の問題が生じまして、権力の濫用によってさまざまな不当なことが行われる。その結果、国民投票運動が非常に大きく萎縮してしまう、そんな規制効果が大だということです。

 公務員は全体の奉仕者として市民に尽くしています。そして、教職員はさまざま憲法や法律を教えています。その方々が五百数十万おられて、そこが全く発言できない、あるいは相当規制されるということになればブラックボックスができてしまって、国民投票運動がますます盛り上がらなくなってしまうという、非常に重大な問題だと考えざるを得ないのです。

笠井委員 時間になりましたので終わります。

 ありがとうございました。

中山座長 次に、辻元清美君。

辻元委員 きょうは本当に四名の皆さん、ありがとうございました。それぞれの立場で貴重な御意見をいただきました。

 まず、この国民投票法案の取り扱いの国会の審議状況について中野陳述者から、非常に国会経験も長い大先輩ですけれども、私は懸念を表明されたのかなというふうに思いました。特に、今参議院選挙を控えているんですね。今井一さんからも選挙戦略にとらわれずという発言がありましたけれども、もう選挙の三カ月ちょっと前なんですよ。ばたばたと強行採決というか、始まって以来の、公聴会を決めるのも委員長職権で立てるというような事態を招いているわけです。

 私は、憲法の取り扱いということでは、今、国会は、特にこの憲法調査特別委員会は残念ながら異常事態を迎えているのではないかというぐらい、何かおかしなことが起こっているように思うんですね。私は、こんな選挙の数カ月前にばたばたと物事を決めるということは事の性質上あってはならぬと思っております。頭を冷やして、選挙が終わってからもう一回一呼吸置いてよう考えたらええやないかと思っているんですが、今井さんと中野さんに御意見を伺いたいと思います。

今井一君 傍聴人の方は余り御存じないかもしれませんけれども、この憲法調査特別委員会というのは、戦後いろいろできた委員会の中でも本当に特別だったと思っています。といいますのも、今発言された辻元さんは社民党、笠井さんは共産党で、自民党や民主党に比べたら議席はすごく少ないですけれども、ほかの党と同じ発言時間をずっと委員会でも与えられ続けてきましたし、国会の与野党の攻防とは関係のない形で超然とした議事運営をされてきたというふうに思っています。それは辻元さんも笠井さんも認めておるところだと思います。

 ただ、今辻元さんがおっしゃったのは最近のことだと思うんですよね。本当にそれは私も懸念しております。今も言ったみたいにこの憲法調査特別委員会というのは政局から超然としたところで議事を運営してきたにもかかわらず、一部のリーダーがこれを政局にしようと。A氏とO氏というふうに言ってもいいかもしれませんけれども、政局にしようと。ずっと政界を渡り歩いてきた人だからついついそういうふうにしちゃったのかもしれませんけれども、大きな過ちだったと思います。ほかの委員会ならともかく、この委員会を政局の具にしてはいけなかった。そうしたことが過ちで、せっかく辻元さん、笠井さんも含めてきちっと議論を重ねてきたのに、ここに来てちょっとばたばたしているような感はあります。

 しかし、何とかこのまま、さっきも言ったみたいに、目先の選挙とか党利党略にとらわれないで、公平かつ合理的なルール設定を進めていただきたいというのが私の思いです。急げとかそういうことを私は言う気はありません。ひたすら言っているのは、合理的かつ公平なルール設定ということで、辻元さんや笠井さんにも改めてお願いしたいと思っています。

 以上です。

中野寛成君 私は、本来この国民投票法というのは、六十年前に、憲法施行または公布と同時に、もしくはその直後につくられておくべきだったものだろうというふうに思います。今こうして憲法論がかしましくなったときにこれを議論しなければいけないということは、ある意味不幸なことかもしれません。しかし、ないということ自体がおかしいわけでありますから、これは議論をし、やはりしかるべきときに制定をされるべきものというふうに思います。これは憲法九十六条を補完するものですから、賛否にかかわらず、つくらなければいけないものだろうというふうに思います。

 ただ、先ほど来言っておりますように、OさんかAさんかわかりませんがAさんの方が先に挑発してしまった。私の立場から言うとそう思えてなりません。口に出してしまったということは、もはや政争の具にしてしまったということだと思います。先ほど吉田公述人が国会の憲法に関する発議権についても触れられましたけれども、そういう意味で私は大変残念だったと思います。

 大体、両方が議論をしたりするときには多数決で最後は勝つ、そちらの方が度量を持ち、良心を持たなければいかぬのです。そこから始まるわけで、鶏が先か卵が先かという話ではないというふうに私は思います。

 この段階では、大阪弁で言う、せいてせかん話という言葉もあります。急ぐことだけれども、しかし拙速はいかぬ。滋賀県へ行きますと、琵琶湖を渡るときに、比叡おろしに巻き込まれてはいけないので、船で行けば短距離で済むけれども湖岸を回った方がいいよということで急がば回れという言葉ができました。やはりここは改めて仕切り直すといいますか、前提は前提として置きながら、この憲法調査特別委員会における冷静な審査を引き続きお願いしたいというふうに思っています。

辻元委員 私が今申し上げた点は非常に深刻だと思っているわけです。改憲、護憲とか、この法律が必要かどうかということを超えて、やはり、特に先ほどから指摘がある、立法府ではなく内閣の立場から口出ししてくるということは、権力を縛るものが憲法であるのに、その縛られる立場の人が権力を持って早うつくれとか、こうせいと介入してくるということは、あってはならぬことだと思うんです。

 そこで、吉田陳述人に、先ほど内閣の憲法提出権の話がありました。私、この間、予算委員会でもこの件を官房長官と議論したんですが、今の政府の立場は、内閣にも提出権があるという答弁をしておるわけですね。これは憲法学界から照らして間違っているというかおかしな意見だというふうに思われるのかどうか。

 それから、引き続き、時間の関係もありますので中北陳述人にもお伺いしたいんですけれども、最近は、先ほど九条の会の話がありましたけれども、憲法を守ろうという立場の人が、国民投票法案は今要らぬというのと合体した運動の数はふえてきているように思うんですね。それと同時に、国民投票法は必要だという数もふえてきているんですけれども、その人たちも慎重にやってくれ、こう言っているわけですね。その中身は、やはり今の政治状況と切り離せないと思います。

 というのは、先ほどから話になっていますが、立法過程は政治そのものであるというところで、今の、過去の戦争の反省問題やらイラク戦争への関与問題とか、それから中野陳述者の御発言の中からは戦前への回帰じゃないかなんという御心配も出ておりましたけれども、そういう政治状況と相絡んで、懸念の声はふえていると私は理解しているんですが、大阪ではどうでしょうか。どういうような状況かお聞きしたいと思います。

吉田栄司君 私への御質問、先ほどの発言に重ねる形になりますが、二の2の一行目、現行内閣法五条は、憲法七十三条の内閣総理大臣の権限規定を受けて、国会に対して総理大臣が内閣を代表して議案を提出できるという規定になっているところに、「法律案、予算その他の議案」、こういう書き方をしていて、憲法改正発議案というものを打ち込んでいないという論点にかかわります。

 これにつきましては、二の国会による発議手続のところに矢印で打ち込んで、先ほど発言で触れましたように、九十六条一項前段の理解には、憲法全体が採用する国民代表制とは何なのかということと、議院内閣制とは何なのかということがかかわると申し上げた、そこの点にかかわる。

 すなわち、御承知のように、議院内閣制なるシステムは、衆議院内閣制、下院内閣制、国民代表が行政府の構成を決定していく、そして行政権行使についての責任を追及していく、そういう構造だというふうに一般に理解されているわけです。その限りにおいて、国会とりわけ下院の衆議院の多数派と内閣そのものはそれなりの一体性を持ち得る、こうとらえ得るといえばとらえ得るわけです。が、しかしということで、国民代表制との関係、さらに先ほど申し上げた衆議院の優越性を排除したこの手続規定、つまり参議院の重視、こういうことをも読み取り、内閣は九十六条上主体として登場できないようになっているということをしっかり押さえる必要がある。

 したがって、原案提出権は内閣にないし、ましてや内閣総理大臣にはないという理解が、少なくとも九〇年代、そして二〇〇〇年代の憲法学の体系書においてはそういう意見が多数になってきている。六〇年代前後、五〇年代後半の段階では拮抗していたと言い得るんですが、つまり議院内閣制の理解からして内閣に原案提出権は読み込み得る、そういう意見と拮抗していたんですが、この間は内閣にはないという方が多数になっていると私は見ております。

 以上です。

中北龍太郎君 大阪は、安倍首相のように、美しい国をつくる、あるいは戦後レジームからの脱却、そうした政治観念を掲げて政治を動かしていくという政治姿勢に対しては極めて強いアパシーを持っております。地域で暮らす一人一人の市民の福利を地道に図っていくのが政治であるべきだという大阪の政治的風土、そして大阪空襲もあって、平和を他の都府県に負けず劣らず、より強く平和を愛している府民が多数おられます。そういう中で、改憲のための国民投票法を急ぐべきではないという意見が非常に強い。そういう思いで辻元議員を国会に送り出して、大阪のそうした平和の意見を反映してもらいたいというのが大阪人の率直な気持ちです。

辻元委員 ありがとうございました。

中山座長 以上で辻元清美君の発言は終わりました。

 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、四人の陳述者の皆様方、大変貴重な御意見をありがとうございました。私からも質問をさせていただきたいと思います。

 冒頭、先ほど辻元委員からも質問がございましたけれども、中野陳述人にお伺いしたいんです。

 先日、私ども国民新党の代表であります前衆議院議長綿貫民輔が、代表としてではなくて前議長として、今現在、この国民投票法案で中央公聴会の日程強行採決というものが与党単独で行われてしまったということがありましたものですから、そこで衆議院議長に対しまして意見書を提出したわけでございます。

 先ほども、政争の具になってしまっているじゃないか、Aさん、Oさんの政争の具になっていると。今回、この法案をめぐって、与党の強硬姿勢というものが安倍政権の改憲姿勢をアピールする選挙対策になってしまっているのかなというふうにも考えるわけでございますが、実際、このような状況下で審議されております国民投票法案が真に国民の声を反映しているかどうか、これは前衆議院副議長という立場から見ましてどのようにお感じになられているか、お答えいただけませんでしょうか。

中野寛成君 私は、国民の皆さんは当委員会の審議状況、そして国会が全体としてどう対応するかということをじっと見詰めていると思います。そして、その過程の中で整々粛々と議論をし、採決をされた場合には、やはり国民もそれに基づいてこの法の運用を図っていこうと素直に思うことができるだろうと思います。しかしながら、先般来のことにつきましては、それぞれの背景にある政党の国会対策上の理由もあるかもしれません。しかし、一番大きいのは、やはり安倍総理のあの発言がきっかけになっていないのかということを憂慮いたします。

 そういう意味で、綿貫前議長のとられた行動も私としては共鳴するところがありますし、最近はややもすると、与野党の差が衆議院において特に開いておりますので、政府・与党側からの強い要請、圧力によって国会の運営が強引に進められるというところが見受けられるような気がしてなりません。むしろ昔は、与野党の議席差が拮抗していたということもありますが、同時に自民党単独政権であったということもあって、マスコミ用語的に言うならば単独審議、単独採決などという言葉があり、それなりの遠慮というものもあったのではないかと思いますけれども、そういうところが、たがが外れてしまったような感じがしてなりません。

 どうぞこういうときにこそ、連立を組んでおられる公明党の皆さんが与野党の橋渡しの役をむしろ果たしていただくともっと国会が充実したものになるのではないか。間違っても公明党さんが、野党の顔を立てるなよ、ひとつ自民党はもっと頑張れ、公明党がついているんだからというようなことにならないように、ぜひ、むしろ与野党間のかけ橋の役を果たしていただくことを期待しております。

糸川委員 ありがとうございます。

 では、今井陳述人、吉田陳述人、中北陳述人に有料広告放送の制限についてお尋ねしたいんですが、与党案、民主党案ともに、投票日前、与党案の方は修正で一応二週間ということでございますが、有料広告放送の制限というものを定めておるわけでございます。

 この問題については、資金力によって不平等を招来するおそれがあることから全期間禁止すべきではないのかという御意見もありますし、表現の自由というものに対する重大な制約であって、こうした禁止をすべきではない、放送業界の自主規制に任せるべきである、こういうような御意見まであるわけでございますが、この有料広告放送の制限について三人の陳述人の皆様方はどのような御意見をお持ちか、お聞かせいただけますでしょうか。

今井一君 三年前にスイスに行って、そのルール設定について勉強してきました。スイスでは、新聞の意見広告については全面的に自由ですが、テレビのスポットCMについては発議と同時に全面規制ということになっています。フランスでは三週間前から規制ということになっています。これは民間の場合ですけれども。

 日本はどういう選択をするのかということがずっと問われ続けてきたわけですけれども、今、糸川さんがおっしゃったみたいに、発議以降全面禁止にすべきだという意見もあれば、二週間でいいじゃないか、あるいは一週間でいいじゃないかという意見もあります。現在出ている修正案は、私の記憶するところでは、民主、自民・公明、つまり与党案、民主党案、両方ともたしか二週間になっていると思います。これは非常にフランスに近いルールになっていると思います。

 実は、この問題で一月二十一日に、私たちの会が主催をしまして、民放労連の委員長だとか、それから現職のテレビのディレクターだとか、それから通販生活というカタログ雑誌の社長、広告を出す側ですよね、今は報道ステーションのスポンサーでもありますけれども。こういう人たちが集まってシンポジウムをやりました。簡単に言えば、カタログハウスの社長と、もう一人、住友達也さんという吉野川の住民投票の請求代表人は発議と同時に全面規制で、あとの方々は、毎日新聞の方も含めて全員、法規制はやはりよくない、自主規制でやるべきだと。野放しもよくないけれども法規制はよくない、自主規制でやるべきだというふうに言われたんですね。

 私は、それはそれでいいと思うんだけれども、問題は、そう言いながら具体的な自主規制案を民放労連も新聞労連も、実はつい二週間前も新聞労連に招かれて勉強会へ行ってきたんですが、自主規制と言いながら全然具体的な案をつくってない、出さないことなんですね。そのことを幾ら言ってもだめなんですよ、彼らは。もし自主規制と言うんだったら、法規制がけしからぬと言うんだったら、自分たちで自主規制をつくるべきだと思う。

 そういった一月二十一日のシンポジウムを私たちが開いても、東京で開いているのに東京のテレビ局はどこも取材に来なかった。そのくせ自主規制と言っている。とんでもない話であって、自主規制と言うんだったら自分たちで案をつくって示すべきだと思う。そうじゃなかったら今の二週間が通るしかないと私は思っています。

吉田栄司君 憲法学界といたしましては、当然のことながら、二十一条を最大の根拠条文といたしまして、憲法改正に関しても、広く主権者国民の人権としての表現の自由、さらに受け手としての知る権利、二十一条の複合的な情報提供、情報受領、情報収集というような情報の流通に関しての理論構築の中でこの問題をどう位置づけるべきか、議論に議論を実は重ねているところでございます。

 あるべき改正手続上の原案に対する賛否の賛成反対の報道、これをどう人権論的に構築し、プラスつまり助成、マイナスつまり規制というようなことをすべきか、るる議論をしていますが、やはり二点、媒体によってさまざまに区分すべきだ。活字なのか、先ほど新聞か放送かというのはございました。媒体によって区分すべきだし、同時に、その主体、個人レベル、研究者レベルから始まって、メディアという法人、報道機関あるいは政党というふうに、その主体がどういう形でどう絡み得るのか。そこらは区分しながら制限のありようというものはもっともっと慎重に議論され、国民に資する形で法制度化されるべきだろうというレベルになおとどまっている。私もそれ以上は申し上げられません。

 以上です。

中北龍太郎君 今、吉田先生がおっしゃられましたように、表現の自由と賛否の公正性の確保、この調和をどう図っていくかということだろうと思います。

 自主規制の問題が今井陳述人から御指摘ありましたけれども、マスコミよりも国会、政党の自主規制が必要ではないのかと思います。これについては諸要素、いろいろな主体の問題、媒体の問題などをきめ細かく詰めた論議がこれから必要になっていると思います。

糸川委員 ありがとうございました。

中山座長 以上にて糸川君の発言は終わりました。

 これにて意見陳述者に対する質疑は終了いたします。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 意見陳述者各位におかれましては、御多忙の中、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。

 本日拝聴させていただいた御意見は、当委員会の審査に資するところ極めて大なるものがあると存じます。ここに厚く御礼を申し上げます。

 また、この会議開催のため格段の御協力をいただきました関係各位に対しまして、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 これにて散会いたします。

    午後六時十四分散会


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