衆議院

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第1号 平成18年11月2日(木曜日)

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本小委員会は平成十八年十月二十六日(木曜日)委員会において、設置することに決した。

十月二十六日

 本小委員は委員長の指名で、次のとおり選任された。

      愛知 和男君    加藤 勝信君

      近藤 基彦君    葉梨 康弘君

      福田 康夫君    船田  元君

      保岡 興治君    枝野 幸男君

      鈴木 克昌君    園田 康博君

      赤松 正雄君    笠井  亮君

      辻元 清美君    糸川 正晃君

十月二十六日

 近藤基彦君が委員長の指名で、小委員長に選任された。

平成十八年十一月二日(木曜日)

    午前九時開議

 出席小委員

   小委員長 近藤 基彦君

      愛知 和男君    加藤 勝信君

      葉梨 康弘君    福田 康夫君

      船田  元君    保岡 興治君

      枝野 幸男君    鈴木 克昌君

      園田 康博君    赤松 正雄君

      笠井  亮君    阿部 知子君

      糸川 正晃君

    …………………………………

   日本国憲法に関する調査特別委員長         中山 太郎君

   議員           加藤 勝信君

   議員           葉梨 康弘君

   議員           船田  元君

   議員           保岡 興治君

   議員           枝野 幸男君

   議員           鈴木 克昌君

   議員           園田 康博君

   議員           赤松 正雄君

   参考人

   (ジャーナリスト)

   (真っ当な国民投票のルールを作る会事務局長)   今井  一君

   参考人

   (日本弁護士連合会副会長)            吉岡 桂輔君

   参考人

   (日本弁護士連合会副会長)            松本 光寿君

   参考人

   (日本弁護士連合会憲法委員会事務局長)      菅沼 一王君

   参考人

   (成蹊大学法学部講師)  福井 康佐君

   参考人

   (日本自治体労働組合総連合副中央執行委員長)   田中 章史君

   衆議院法制局第二部長   橘  幸信君

   衆議院憲法調査特別委員会及び憲法調査会事務局長  内田 正文君

    ―――――――――――――

十一月二日

 小委員辻元清美君同日委員辞任につき、その補欠として阿部知子君が委員長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員阿部知子君同日委員辞任につき、その補欠として辻元清美君が委員長の指名で小委員に選任された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外五名提出、第百六十四回国会衆法第三〇号)

 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外三名提出、第百六十四回国会衆法第三一号)


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     ――――◇―――――

近藤小委員長 これより会議を開きます。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 先般、小委員長に選任されました近藤基彦でございます。

 小委員の皆様の御協力をいただきまして、公正円満な運営に努めてまいりたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。

 第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案及び第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の両案を一括して議題とし、本日は、特に国民投票運動規制・罰則に係る事項について審査を行います。

 本日は、両案審査のため、参考人としてジャーナリスト・真っ当な国民投票のルールを作る会事務局長今井一君、日本弁護士連合会副会長吉岡桂輔君、日本弁護士連合会副会長松本光寿君、日本弁護士連合会憲法委員会事務局長菅沼一王君、成蹊大学法学部講師福井康佐君及び日本自治体労働組合総連合副中央執行委員長田中章史君に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。

 本日の議事の順序について申し上げます。

 まず、今井参考人、吉岡参考人、福井参考人、田中参考人の順に、それぞれ十五分以内で御意見をお述べいただき、その後に懇談を行いたいと存じます。

 なお、発言する際はその都度小委員長の許可を得ることになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 御発言は着席のままでお願いいたします。

 それでは、まず今井参考人、よろしくお願いいたします。

今井参考人 おはようございます。

 具体的な意見陳述の前に、一言ごあいさつを申し上げたいと思います。

 それは、当衆議院憲法調査特別委員会の皆様方への私たちの気持ちというものをちょっと述べたいと思っているんですが、昨日も読売新聞の方から取材を受けた際にお話し申し上げたんですが、中山太郎委員長を筆頭に当委員会の皆様方が、院内での議論とは別に、私たち市民グループ主催の公開討論会に、もちろん委員会としてではありませんが委員として積極的に出席をしてくださって、そして意見をよく聞いてくださる。おまけに、海外調査にも行かれて、各国の制度を積極的に勉強されている。こうして参考人をたびたび招いて意見を聴取されている。

 こういった活動をただ形式的にやっているだけじゃなくて、市民グループ主催の公開討論会でも海外調査でも、そしてこうやって参考人の聴取でも、自分たちの過去の主張に拘泥されずに、積極的にいい法案をつくっていこうというふうに具体的に努力されている姿は、この一年半通して非常に明確に私たちに見えております。

 そういう意味でいったら非常に民主的な運営をされていると思いますし、私たちが今まで考えていた国会の審議の、嫌な言い方ですけれども常識を覆すような展開をされているということについては非常に敬意を表したいと思っています。今後とも、いつ制定されるかわかりませんけれども、こういった姿勢を続けていっていただきたいと思います。

 きょうも、四人の参考人を招いていただいて、形式的な審議ではなくて、それぞれの意見を是々非々で積極的に生かしていこうとされているということを信じております。その上できょうは意見を述べさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

 まず、本日は、公務員及び教育者の国民投票運動における規制の問題、あるいはそれに関して罰則を適用するかどうかといったことについて議論をするというふうに伺っております。

 まず、公務員と教育者の地位利用。地位利用というのは何を指すのかが余り明確ではないのでこの後の議論で皆様方と深めていきたいと思っているんですが、一応私が想定しているのは、例えば公務員でいったら、福祉に属するようなところの仕事をしている公務員が、今度例えば改憲に賛成しなかったら、あるいは反対票を投じなかったらあなたの介護はしないよとか、あるいは教育者でいえば、大学の先生が、持論を展開するだけじゃなくて、今度もし九条改憲に賛成だあるいは反対だ、そういう投票をしたら、秘密投票ですからそんなことわかりませんけれども、あなたには単位をやらないよみたいなことを言ったりほのめかしたりするようなことが地位利用じゃないかというふうに私は考えております。

 当然ですが、そういうことは世界の常識としてあってはならないことだというのは、ここにおられる皆さん方の共通認識だというふうに私は思っています。その上で、やってはいけない、あってはいけないと思っていますが、しかし、その禁止規定を憲法改正手続法の中に盛り込むことについては賛成しかねるというのが私の主張であります。

 では、そういった可能性が常にあるという国民投票運動の中で、あしき行いをいかにして制御して取り締まるのかということなんですが、これは本当に悩ましい問題なんですが、一言で言ったら、それは日本人の良識の力とかあるいは日本社会の民主主義力で制御するしかないというふうに考えています。

 その論拠として、たびたび皆さん方が諸外国に調査に行かれていますが、その報告書の中でもそれがかいま見えるんじゃないかと思っています。具体的にちょっと紹介をしたいと思います。

 この衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団報告書、平成十八年十月を見ますと、例えば二百九十八ページですが、七月二十四日にデンマークで、公務員の国民投票運動についてクリステンセン判事に保岡議員が質問をされています。

 保岡さんが一定の公務員が選挙キャンペーンや国民投票運動で自分の意見を表明する場合にはどのように取り扱われているのかという質問をしたときに、クリステンセン判事が、判事がテレビや新聞で自身の意見を述べることは違法ではない、しかし、中立性を保てない場所での意見は、国民の信頼を失うことにつながるので常識として差し控えているというふうに答えていらっしゃいます。

 続いて、例えば、各省の職員について、仕事中は大臣が賛成の立場であるならば賛成のキャンペーン運動をするが、仕事が終了した後のプライベートな時間に自分の意見を述べることは表現の自由として保障されている。だが、現実にはキャンペーン運動に参加している公務員は非常に少数である。公務員は口を閉じておく方がよいということである、特に高い地位にある公務員は。これはどの国の公務員にとっても常識的なことではないだろうかというふうに答えています。

 ここで二回常識的という言葉が使われているんですね。法律によって規制されているんじゃなくて、常識だというふうに言っています。

 三百二十六ページ、翌日七月二十五日には、テレビのニュースキャスターの政治的発言について、同じく保岡議員がペーデ選挙コンサルタントに質問をしました。そこでペーデさんが、ニュースキャスターをしているときは自分の政治的意見を述べてはならないことになっているというふうな回答をした後、保岡議員が再び、これは三百二十六ページの一番下です、メディアの規制に違反した場合の制裁の有無について尋ねていますが、次のページでペーデ選挙コンサルタントがこんなふうに言っています。ニュースキャスターの例では今までこのルールに違反した者はいないが、もし違反しても処罰はされない、しかし、世間からの批判は浴びることになるだろうというふうに答えています。

 次の三百二十八ページです。滝実議員が、公務員は大臣を助けるための活動は許されるが国民投票に反対する立場の運動は行ってはいけないのかというふうに質問したら、ペーデ選挙コンサルタントが公務員が国民投票運動に参加してはいけないという法的規制はないと言って、その三行下を見たら、慣習というか常識として考えられていると。そして、またその二行下に、常識で考えても理解していただけるのではないかというふうに言われています。

 その後、今度は公明党の斉藤議員が、裁判所の裁判官、検察官、警察官、選挙管理者、国立大学の教授などは国民投票運動において意見表明や投票運動をすることは可能かというふうに聞いているくだりがありますが、これは三百二十八ページです。これについて、ペーデさんが、大学の教授の意見表明は基本的に自由である、裁判官は議論に参加してもよいが、伝統的にキャンペーンに参加することには消極的である、これに対して大臣に非常に近い公務員についてだけは慣習的な制約がある。他方、他の検察官、警察官、選挙管理者などの特定公務員については特段の規制はないというふうに答えています。

 この報告書だけじゃなくて、前回の報告書を見ても、こういうふうに規制しているとか、制限しているとか、罰則規定があるとかいうことについて述べているくだりはどこにもないんですよね。これを見てみると、どうやら諸外国ではこの公務員の問題、教育者の問題、メディアの人々、キャスターの問題ですか、このキャスターの問題についてはきょうのこととは別ですからおいておきますけれども、基本的に公務員については常識的な判断、もしそれに反するようなことがあったら国民的な批判で制裁するということが基本姿勢ではないかというふうに受けとめました。

 本日、この後、懇談における確認事項で伺いたいと思っているんですが、私のそういった認識がおかしいのか。つまり、諸外国においてきちっとそういうふうな法的な規制をしているところがあるんだったら、ぜひお伺いをしたいというふうに思っています。

 最後に、私の持ち時間があと数分ありますので。

 私はもともと国民投票と住民投票を主として取材を進めてきました。ここで、日本の住民投票におけるルール設定と運動の実態について若干述べて終わりたいと思います。

 一九九六年の八月四日に、住民投票条例に基づく最初の住民投票が新潟県の巻町で行われました。それから十年が経過しております。この十年間に、住民投票条例に基づく住民投票の実施件数は三百六十五件を超えております。そのうちの九割がこの三年間に実施されています。

 皆さん御存じのように、住民投票条例を制定したときに罰則規定についても設けております。例えば我孫子市、まだ実施されていませんけれども、我孫子市の市民投票条例にはこういうくだりがあります。投票運動、第十条「市民投票に関する投票運動は、自由とする。ただし、買収、脅迫等投票資格者の自由な意思が拘束され、又は不当に干渉されるものであってはならない。」それから、名護市の市民投票条例もほとんど同じ規定です。それから、最近、岩国市の住民投票が行われましたけれども、岩国市の住民投票条例では、投票運動、第十一条「住民投票に関する投票運動は、自由とする。ただし、買収、脅迫等市民の自由な意思が拘束され、又は不当に干渉されるものであってはならない。」というふうに書いてあります。しかし、罰則規定は設けておりません。

 きのう、おとといと、岩国市の市長、井原さん、それから名護のこの住民投票条例の案文をつくった宮城保さん、彼は後に名護市職労の委員長も務めましたけれども、お二人に取材をして、こういった規定に基づいて住民投票を実施して、罰則規定もない状態で、何か混乱があったかと伺ったんですね。具体的にそういう告発があったかと。この公務員あるいは教育者が地位を利用して運動した、これはおかしいじゃないかと選管に告発があったり、あるいはメディアの方にそういった告発あるいは抗議があったかどうかと聞いたら、一件もなかったというんですよね。特に、井原市長は、当初、正直不安だったと。罰則規定を設けていないから、大変むちゃくちゃなキャンペーン運動が展開されるんじゃないかと思ったんだけれども、非常にある意味上品に行われたというふうに言っています。

 もちろん、住民投票と国民投票では、その法的拘束力の及ぶ範囲が違いますし、さまざまな違いはありますが、首長あるいは議員という代理人を通さないで、重要な案件について主権者が直接決定するという本質においては一緒です。その一緒というところでいえば、こういうふうに具体的な規制の条項を設けなくても、私が知る限り、全国で行われた住民投票は大きな混乱なく行われたというふうに認識しています。

 特に、最後に申し上げたいのは、一番ひどかった事例が、逆に前代未聞のことをやっているんですが、二〇〇四年の二月十五日に、島根県の宍道町という宍道湖のすぐそばの町なんですが、住民投票条例の制定に基づく、合併の是非を決める住民投票が行われました。ここで、条例の中に、賛否を主張する投票運動は行わないものとするという規定を盛り込んだんです。これは全国の住民投票条例の中でたった一つです。運動をしてはいけない、運動をやらないんですよという。

 だから、どこでも住民投票では賛否が激しい積極的なキャンペーン運動を展開したんですけれども、ここは、この前もNHKが特集をしていましたけれども、しいんとして、全く運動ができない。ビラもまけない、駅前で何かを言うこともできない、一切してはならないと。ならないとは書いていない、やらないと書いてあって、してはいけないとは書いていないんですけれども、やらないものとすると書いてあるんですよね。そうすると、全く運動が行われない住民投票運動というのがいかに貧しいものになっていくかということを私は目の当たりにしました。

 だから、そういうのを見ても、ここは日本人の良識の力、日本社会の民主主義力、それを私たちは信用して、まずできるだけ規制は行わないで国民投票を実施した方がいいのではないかというふうに私は考えております。

 時間が来ましたので、以上です。ありがとうございました。(拍手)

近藤小委員長 次に、吉岡参考人、お願いいたします。

吉岡参考人 日本弁護士連合会副会長の吉岡桂輔であります。

 本日は、このような場で発言する機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする当会は、一九九七年の人権擁護大会で、国民主権の確立と平和のうちに安全に生きる権利の実現を求める宣言を行うなど、これまで全国の弁護士会、弁護士とともに、日本国憲法と国際人権規約などを踏まえて、基本的人権の擁護に力を尽くしてまいりました。

 さらに、昨年の十一月、鳥取県で開催されました日本弁護士連合会の人権大会では、憲法に関しまして、立憲主義の堅持と日本国憲法の尊重を求める宣言を行いました。この宣言の中で、「憲法改正をめぐる議論において、立憲主義の理念が堅持され、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義など日本国憲法の基本原理が尊重されることを求めるものであり、二十一世紀を、日本国憲法前文が謳う「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」が保障される輝かしい人権の世紀とするため、世界の人々と協調して人権擁護の諸活動に取り組む」決意を宣言いたしました。

 それでは、本日の私の簡単な意見の要旨に従いまして、順次陳述してまいりたいと思います。

 まず、今憲法改正手続法を制定すべきか否かについて、簡単に一言だけ述べさせていただきます。

 弁護士会内の議論状況でありますが、憲法改正手続法制定につきまして、それが憲法九十六条に規定されている憲法改正のための国民投票を実施するために必要な法規であるということは認めつつ、一方、現在、既に政党などから憲法改正案、その他改憲に向けた意見が公表され議論がされている状況において、日本弁護士連合会として改憲の是非など改憲論の問題点を十分検証することのないまま、改憲のための手続法について意見を述べることにつきましては、早計ではないかという危惧も会内にありましたことは事実でございます。

 しかし、既に各党から法案の提出もなされている段階において、これらの法案について看過することができない問題点が存する以上、国会での審議、国民の間における議論に資するために、少なくともその問題点を指摘すべきであるということから、これまで二回、意見書を作成し、公表してまいりました。本日配付いたしました二〇〇五年二月十八日付の意見書と二〇〇六年八月二十二日付の意見書の二通でございます。

 そこで、以下、本日は、主に本年八月二十二日付の意見書に基づきまして、各論点につきまして述べてまいりたいと思います。

 まず、国民投票運動を規制することについて述べたいと思います。

 憲法改正国民投票法案は、憲法を改正すべきか否かについての主権者としての国民の意思決定を仰ぐものでございます。一方、選挙は、特定の候補者を当選させ、あるいは特定の政党に属する候補者を当選させるために実施されるものであり、そもそも両者はその性質が大きく異なるものであります。

 したがいまして、特定の候補者あるいは特定の政党に属する候補者を当選させるためになされる運動を罰則をもって規制する公職選挙法の手法が憲法改正手続法に用いられること自体について疑義があります。

 憲法改正手続におきましては、いかに主権者である国民が萎縮することなく自由に憲法改正についての意見表明ができるか、憲法改正の最終決定者である国民の間においていかに自由闊達な議論ができるかといったことが重要であります。その意味において、与党案も、そして民主党案も、「表現の自由、学問の自由及び政治活動の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定しているのは注目されますが、これは憲法の保障する基本的人権を侵害してはならないという当然の理を確認したものであります。

 したがって、憲法改正手続法については、憲法改正についての国民の意見表明の自由が実質的に確保されなければならず、ましてや罰則をもって規制すべきではないというふうに考えます。

 次に、国民投票運動が規制される特定公務員の範囲について述べます。

 与党案、民主党案が、投票事務関係者がその管轄区域内において国民投票運動をすることを規制することは、国民投票の公正さの担保という趣旨から理解できるものと考えます。中央管理選挙会の委員等についても同様です。しかし、このような規制が裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官などにも及ぶとすることは反対です。

 特に、裁判官、検察官は、法曹として、弁護士と同様、諸立法について専門家として意見を述べることが期待されております。また、現に意見を述べるのみならず、立法に関与している立場にある者も存します。このような立場にある者が、各法律等の上位にあり、かつ、法律等が合憲か違憲かの判断の前提となる憲法の改正の是非について自由に意見を表明することが規制されるということは理解しがたいものがあります。

 その規制の根拠として、職務の中立性が挙げられることがあります。しかし、現に商事に関する事件を担当している裁判官が商法改正について執筆をしたり、各種意見を述べることが職務の中立性に反するなどといったことはおよそ考えられず、この理は憲法改正についても何ら異なるものではありません。

 また、公安委員会の委員、警察官についても、これらの者が憲法改正の是非についての意見表明をする自由を全面的に規制することも合理的根拠がないものと考えます。

 次に、公務員、教育者の地位利用による国民投票運動の禁止について述べます。

 与党案においては、公務員と教育者について、地位を利用しての国民投票運動も禁止しております。しかも、その範囲は、公務員については国家公務員、地方公務員のみならず特定独立行政法人、特定地方独立行政法人、日本郵政公社の役員もしくは職員にまで及び、教育者も学校教育法に規定する学校の長及び教員をいうとされており、相当広範であります。

 そもそも、憲法改正についての意見表明を規制すべきでないことは前記のとおりでありまして、このような地位利用という不明確な概念でもって公務員、教育者の活動を規制することは、これらの者の意見表明や活動を萎縮させる現実的危険性を持つものであり、反対であります。

 まず、地位を利用してという概念は極めてあいまい、不明確であって、どのような行為が地位を利用したことになるのかが特定できず、公務員や教育者が憲法改正についての意見表明や活動をすることはすべて地位利用に該当するという解釈運用がなされるおそれがないとは言えません。そのようなおそれがある規定が置かれること自体が萎縮効果を生じさせることは明らかであります。

 また、公務員が意見表明や憲法改正の是非についての活動をするのみならず、公務員の地位を利用して、職務権限に直接絡めて賛成投票もしくは反対投票をすることを強制するなどの事態が万一生じた場合は、公務員職権濫用罪その他既存の法規にも抵触するものでありまして、憲法改正手続法に規定を置くまでの必要はありません。

 また、教育者については、例えば大学においては、教授が憲法改正について賛成もしくは反対の意見を講義において述べることは、常識的に地位利用には当たらないと説明されることがあります。しかし、あいまいさが残り、限定的な解釈運用がなされるという保障はありません。また、大学以外の高校、中学、小学校などにおいて、この地位利用の規定が教師に対して萎縮効果を与える可能性があります。そのため、学校において憲法改正についての議論がタブー視され、本来、これからの社会を担っていくべき学生たちにこそ議論してほしい憲法問題が学校の場では議論されないという現象すら生じかねません。

 このような地位利用という不明確な概念でもって、しかも罰則をもってまでして規制することは、罪刑法定主義にも抵触するおそれがあり、反対であります。

 最後に、組織的多数人買収、利害誘導罪の設置について述べます。

 与党案は、組織により、多数の投票人に対し、買収や利害誘導等をした者に対する罰則規定を設けています。しかしながら、特定の候補者や政党に投票させるために買収行為をする者を処罰する公職選挙法と異なり、そもそも憲法改正国民投票に関して買収等や利害誘導等がなされ得るのか。また、罰則で禁止することは投票についての自由な活動を阻害しないのかなどについて十分検討されないまま、このような罰則規定を設けること自体疑問があります。

 まず、与党案の規定を見ましても、どのような行為が処罰されるのか不明確と言わざるを得ず、同罪の構成要件は、組織により多数の投票人に対し憲法改正案に対する賛成または反対の投票をし、またはしないことの報酬として、金銭、物品その他の財産上の利益もしくは公私の職務の供与をし、もしくはその供与の申し込みもしくは約束をするということや、その者またはその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係等を利用して憲法改正案に対する賛成または反対の投票をしないことに影響を与えるに足りる誘導をしたときなど、極めて不明確な要件のもとに、広範な規制を招きかねない内容になっており、罪刑法定主義に抵触するとともに、憲法改正にかかわる国民の自由な表現活動を萎縮させる危険性が高いものと言えます。

 以上のとおり、多くの問題があることを指摘させていただきまして、私からの意見陳述といたします。御清聴ありがとうございました。(拍手)

近藤小委員長 次に、福井参考人、お願いいたします。

福井参考人 福井でございます。

 本日は、お招きいただきましてありがとうございます。

 私は、国民投票と直接民主制を研究している者でございます。私は、現在、西欧、ヨーロッパ、アメリカの主要十カ国の国民投票の運用実態を調査いたしまして、ちょうどその調査結果をまとめ上げまして出版の準備をしているところでございます。その過程で、幾つか本日のテーマの御参考になりそうなことを申し上げたいと存じます。できる限り実例をもって説明申し上げたい、そう考えております。

 具体的には、諸外国の運用を参考にして、国民投票における情報の流通と、それが国民投票における国民の投票行動及びその投票結果にどういう影響を与えるかという視点でお話し申し上げたいと思います。多少法的な話とはずれるんですが、余り一般に投票行動というのは紹介されていないと思いますので、お話し申し上げたいと思います。それが選挙運動の規制と罰則の問題につながることになれば幸いでございます。

 それでは、お手元のレジュメを御参照いただきながらお話ししたいと思います。

 まず、アメリカを初めとして、欧米の政治学の分野では今直接民主制が随分研究されているようになっているんですが、そこで国民投票、住民投票における投票行動の研究が多くなされていますので、それを幾つか御紹介したいと思います。

 まず一番目として、一般に投票者は、情報を十分に獲得していない場合は、国民投票ないしは住民投票において投票する案件、私は投票案件という言葉を使っているんですが、このまま使わせていただきたいと思います、投票案件に反対票を、つまりノーの票を入れると言われています。つまり、投票者は一般に情報不足のときは現状維持の方向に投票すると言われております。そうすると、このような事実を重視するのであれば、政府、国会で合意ができて、成立を目指すということであれば、むしろ情報の流通を拡大し、国民の間に議論が拡散する方向で行くべきではないか、原則的にそう思うわけです。

 二番目に、今のように、情報不十分であればノーと言うということに加えて、一般に投票者は投票案件に不安を感じると反対票を投じる傾向にあるとも言われております。このため、投票案件への反対キャンペーン、これはネガティブキャンペーンなどと申しておりますが、それが非常に効果的であると言われております。

 まずアメリカでは、一般に政治資金の多さが、例えば賛成、反対で分かれますと、むしろ多くは反対側ですね、企業がバックについていたりして反対側に多くの資金があって、政治資金が多い方が住民投票の結果を左右しているのではないかと言われています。

 もともと住民投票は、アメリカの場合、いわゆる環境保護運動であるとか、一般の住民の武器と言われているんですが、現実には政治資金の多い方が勝ってしまう。そうすると、それが住民投票の趣旨に反するのではないか。

 それは、いわゆるポピュリストパラドックスという言葉をよく使っているんですね、要するに住民投票が住民のためじゃなくて金のある方のものになっちゃっているということを言われているんですが、実は、それをアメリカの政治学者が丁寧に調査したところ、一応こういう現在の結論になっております。最近の研究では、政治資金の多さを利用することによって投票案件を成立させることはできない、ただし、大量のテレビコマーシャル等を利用することによって成立を妨害することができると言われております。

 実は、国民投票にもいろいろな形態があるわけでございますが、いろいろな国の国民投票の実態を調査してみますと、必ずしも賛成側、反対側でお金のある方が投票案件の成立、承認をかち取るという形にはなっていないのが実態でございます。むしろヨーロッパの運用などを見ますと、政府提案に対して、政治資金の少ない反対側が反対の勝利をする、そういうような事例も多々見られる状態でございます。

 このような不安をあおるという選挙戦術は、必ずしも政治資金をたくさん使うという今申し上げました場合だけではなくて、例えば影響力のある団体の活動あるいは人物の発言が投票案件に反対する作用を持つということがよく見られます。

 例えば、具体例を挙げさせていただきますと、アイルランドの例を挙げさせていただきたいと思います。

 アイルランドは、議会が憲法改正を国民に提案する国でございます。比較的簡単にといいますか、発議要件が緩くて、下院の過半数で実質的には提案することができるわけなんですが、この国で一九八六年に離婚禁止の規定を削除する国民投票が提案されました。もちろん御承知のようにカトリック国なわけですが、八〇年代の半ばを過ぎますと、もう離婚禁止は、そろそろ、余り適切じゃないんじゃないか、そういうような意見が国民の間に多かったわけですが、ここでカトリック教会が巻き返しの強い反対キャンペーンを実施しまして、実際は大差で否決してしまっております。

 同じように一九九五年に、十年後にもう一度離婚を認める憲法改正についての国民投票を実施しているわけなんですが、この場合も当初七〇%近い世論調査が離婚承認は賛成なんだと言っているわけなんですが、同じように教会等の強い反対キャンペーンによって、最終的には五〇・三%対四九・七という非常な僅差で承認されたという事実がございます。このように反対キャンペーンというのはかなり効果的なんだということを申し上げたいと思います。

 そうすると、こういう投票行動、選挙結果において反対キャンペーンというのは非常に効果的なんだという事実をもとにした場合、この事実をどう評価するかという話になると思うんですが、一つは、レジュメがありますので、否定的に評価する場合、例えば、せっかく与野党で合意ができてこれから提案しようというのに、過度のあるいは要らざる反対キャンペーンを容認すると、進歩的なもしくは必要な改革ができなくなってしまうんだということになります。だから、テレビやラジオ等で大量にコマーシャルを流す、反対キャンペーンを流す等の選挙運動は規制すべきではないか、そういう意見もあるかと思います。

 一方では、このような事実に対して肯定的な評価もあり得るわけです。その場合は、国民が情報不足であったり、あるいは不安を感じてノーというような否決の票を入れることは必ずしも悪いことではない。これも国民の判断の一つであるし、国民自身がいろいろな意味で危険を感じて賛成票を入れないということは、考えようによっては国民みずからが最後のとりでになっているんだ、そういう考え方もできるわけです。慎重な投票者であるということを、必ずしもそう否定的に評価すべきではないのではないかと思われます。

 それで、次の三番目に参りたいんですが、諸外国の運用を見ておりますと、後戻りができない決定を国民投票で問われる場合があるということがあります。例えば、王制を廃止しますとか、通貨統合したりするような場合なんですね。一度してしまうと逆向きになかなか返らないという決定がございます。時代や趨勢に逆行しにくいものもあるわけです。

 例えば、日本の場合、九条を改正して自衛権を明記し、あるいは海外派兵まで認めるというような、仮にそういう憲法改正案になりますと、ここでは恐らく後戻りできないんじゃないかというような心理も働くんじゃないかという形が推定されます。こうした場合はまさに不安が醸し出されるわけで、先ほど来申し上げておりますネガティブキャンペーンが効果的になる可能性が出てくると思います。

 続きまして、四番目として、投票者の情報獲得と理解力という点に行きたいと思います。

 一般に、政治学の分野では、投票者には情報獲得に限界があると言われているわけなんですね。そうすると、先ほどから申し上げていますように、ノーと投票するという傾向にあるわけなんですが、逆に、別の形で情報の獲得のための行動に出るということも言われております。

 まず、選挙ではどういう形で投票者が情報を獲得するかということなんですが、一般に投票者は何から情報を得られるかといいますと、パンフレット、政府発行のパンフレットがどの国でも比較的よく読まれていると言われております。それから次に来るのが新聞、あるいは先ほどから申し上げましたコマーシャルということでございます。

 アメリカの場合はコマーシャルやダイレクトメールがパンフレットの次の情報源になっておりまして、次に、スイスの場合は一般にはプロパガンダと言われています広告、ポスター、スローガン、写真というようなものがかなり影響力のあるものと言われております。これはある程度実はその弊害も言われておりまして、まさにプロパガンダなわけで、その真偽のほどがわからない。そうすると、一律に禁止するのもしにくいし、かといって野放しにすると影響力も強いということで、その弊害と影響力についていろいろと言われております。

 アメリカの場合は、情報獲得がなかなか難しい場合は、投票者は、一般に友人に聞いたり、あるいは支持政党の意見を聞いたり、あるいは人気のある政治家の発言を参考にして投票する、投票のかぎを求めて情報不足を補っているというふうに言われております。

 そして、五番目に行きまして、例えば、日本の場合もそうだと思うんですが、ヨーロッパでは、与野党を含めて、政党間あるいは政治的なエリートの間で合意が成立して国民に信を問う、国民投票を実施するという形態がよく見られるわけなんですが、ところが、その場合、実際ふたをあけると、一般国民との間には意識の差がかなりあるということがよく見られます。

 仮に日本で国民投票が発議された場合、衆参両院の三分の二以上の賛成を獲得しているわけですから、そうすると過半数は楽に賛成票がとれそうだという合理的な予想も成り立つわけですが、西欧諸国の運用を見ると、必ずしもそうなってはいないということが見られます。

 それは何に原因があるかといいますと、まず第一番目に情報の流通が不十分である。それから、投票する改正案、投票案件について、国民の間に理解が十分に行き渡っていない。もっと言うと、国民の説得に失敗しているわけです、簡単に申し上げますと。そういう意味では、繰り返しになりますが、むしろ情報の流通を拡大する方向に行くべきではないかというふうに考えます。

 最後に、幾つか細かい点で指摘していきたいと思います。

 六番目として、実は、投票する改正案、案件が確定して運動に入るわけなんですが、一般に、時間がたつと反対票がふえていくということが言われています。そうすると、長ければ長いほど不安がかき立てられ、否決方向に行く傾向にあるということ。それから、投票をする案件に長期政権の批判票が集まりやすい。人物が、プレビシット的にある人が好きだから投票するのと逆で、ある人が嫌いだから、総理大臣が嫌いだから改正案も反対だということになりやすい。それから、逆に、首相、大統領が就任直後で人気がある場合は提案が承認されやすい、そういう傾向が強く出ていると指摘されております。

 最後になりますが、これは私の意見なんでございますが、もし与野党の合意ができた、そして憲法を改正したいということでございますと、反対票が出にくい運動形態にするよりも、例えば過度のネガティブキャンペーンは禁止するんだという方向よりも、むしろ情報が多く行き渡り、議論が拡大する方向の選挙運動づくりをすべきではないかと思われるわけです。

 前回申し上げましたが、硬性憲法というのは、衆参三分の二で承認して、さらに国民投票でも過半数ということでございますから、つまり漸進主義的にゆっくり改正しようというのが趣旨でございますから、そういうことでしますと、諸外国の運用を参考にしながら、国民投票の初心者であることを認識して、慎重に国民投票法あるいはその運用の仕方を考えていくべきではないかということを繰り返し御指摘させていただきたいと思います。

 これで終わりにさせていただきます。(拍手)

近藤小委員長 次に、田中参考人、お願いいたします。

田中参考人 田中でございます。

 本日、この場を与えていただきました小委員長を初め委員の皆様に、最初に感謝を申し上げたいというふうに思います。

 レジュメと資料をお手元に用意させていただきました。資料といたしまして、私どもの自治労連の弁護団がありまして、弁護団とともにつくりました国民投票法、国民保護計画などについての資料と、二月以来、私ども、自治体の知事、市町村長さんたちと地方自治や憲法について懇談や、メッセージのお願いなどをしておりまして、「憲法への想い」というメッセージを寄せていただきまして、それをまとめた資料がございます。ぜひ後で参考にお読みいただけたらと思います。

    〔小委員長退席、愛知小委員長代理着席〕

 私ども日本自治体労働組合総連合、略称自治労連ですが、全国の地方自治体で働いています公務員や関連労働者二十万人で組織をしております。地方自治と住民の暮らしの発展、そして自治体労働者、関連労働者の権利擁護を統一的に考えて運動する労働組合でございまして、先ほど申し上げましたような首長との懇談なども今進めているところでございます。

 私自身、昭和四十八年に埼玉県所沢市役所に入職をいたしました。そのときに宣誓書に署名捺印をしたということをいまだに記憶があるわけですが、ここにありますように、「私はここに、主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、且つ、擁護することを固く誓います。私は地方自治の本旨を体するとともに、公務を民主的且つ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、全体の奉仕者として、誠実且つ公正に職務を執行することを固く誓います。」、こういう宣誓書でございます。憲法九十九条、憲法十五条の規定に基づいて、服務の宣誓に関する条例に基づいて宣誓をしてきた。私は、公務員というのはこの立場で仕事をするんだということを原点にして、今も活動や仕事をしているところでございます。この立場から幾つか意見を述べさせていただきたいというふうに思います。

 レジュメの二番でありますが、大きな観点といいますか、憲法改正に伴っての国民投票運動については、先ほど来からの各参考人の方が申し上げられていますように、表現の自由を最大限に尊重すべきではないかというふうに思っています。国民は、憲法改正についての賛否を判断する上で必要な情報が自由に提供されて、知る権利が保障されることによって主権者としての権利が行使されるというふうに思っています。

 したがって、憲法改正という国や社会のあり方を決定するまさに国政上の最重大問題でありますから、国民が主権者としてこの国の統治過程に参加するために、情報の自由な交換と賛否の意見の自由な発表、そして、知らせるための表現の自由が最大限保障されるべきだというふうに思います。これは吉岡参考人がおっしゃっておりましたように、公職選挙法のいわゆる特定の候補者などを選ぶ選挙と違う、極めて広い概念があるからだというふうに思っています。提案者の答弁も国民投票運動ができるだけ活発に行われることは法の趣旨だというふうに述べられておりますが、国民投票運動は自由を基本として、原則規制すべきではないというふうに思います。

 私ども、この間、市町村合併に伴う住民投票、全国で四百二十を数える投票が行われましたけれども、この取り組みに積極的に参加をしてまいりました。一つは市町村合併については主権者である住民が決めるべきであるという立場と、その決定に当たって、公務労働者、公務員はその専門性を発揮して住民が正しい判断をするための情報をたくさん提供しようではないか、そういう立場での討論を呼びかけてまいりました。公職選挙法も適用されないという中で、まさに町の将来について住民の中での活発な討論が行われたところでは住民投票が非常に活発に行われ、成功しているというふうに思っています。

 また、私どもの組織があります埼玉県上尾市での住民投票運動でしたけれども、賛成の方も反対の方も、ディベートの際に必ず対等の時間を保障し、同じように宣伝も行い、分け隔てなく地域の中で合併の是非について討論が行われることによって住民投票が成功するということがありました。また、この取り組みの中でも多くの公務員が運動にかかわってきたわけですけれども、このことによって地位利用などによる問題や弊害は起きていないということについても申し上げたいというふうに思います。

 次に三点目ですが、先ほど申し上げました服務の宣誓をした公務員、全国で五百万人いるというふうに思いますが、このただいま審議されています法律案につきましては、五百万人の自由な活動を制限し、罰則をつけていくということについて、これは重大な問題点があるというふうに思っています。

 近代憲法の原則、いわゆる立憲主義というふうに言われるわけですけれども、公権力の濫用を規制することと私への権力の介入を禁じるというのが立憲主義の基本原理ではないかというふうに考えております。そういう点で考えますと、本来、公務員も一人の国民として意見を自由に表明できるということが基本ではないかというふうに思います。

 先ほど今井参考人から御説明ありましたけれども、国際的な水準から見ても、規制や罰則を定めていることについては大変異常ではないかというふうに思います。憲法擁護尊重義務を負って宣誓をしている公務員が、憲法の命運が問われるこのときに、権力者によって投票運動をした際に犯罪者にされる危険性を持っているという点で大変重視をしています。公平性や中立性という名前による規制ではなくて、意見表明することを基本的に認めるべきであるというふうに思います。

 したがって、特定公務員の国民投票運動の禁止、公務員等の地位利用による国民投票運動の禁止、教育者の地位利用による国民投票運動の禁止の問題について次に述べたいというふうに思います。

 一番につきまして、特定公務員の運動についての一律禁止ということについては削除すべきではないかというふうに思っています。

 国民投票の公正さを維持する上で、国民投票の事務を管理する立場の選挙管理委員の方々が対象となるということについては若干理解できるわけでありますけれども、それ以外の裁判官、検察官、警察官、収税、徴税の職員などの特定公務員の問題については、憲法改正案についての賛否が問われるという国政上の最重要な問題として、その職務から離れた勤務時間外における市民生活の場で、一市民としての意見表明をする行為が全面的に禁止されることになって犯罪者とされてしまうということについて、それがなぜなのか、この合理的な理由は私は見受けることができません。

 二点目につきまして、公務員の地位利用の問題についても削除をすべきではないかというふうに思っています。

 公務員の地位利用は、基本的にもってのほかだというふうに思っています。勤務時間内に仕事を通じて行うということは基本的にはあり得ないというふうに思いますし、もしあった場合には、現行の法律その他の規定に基づいて処罰されるべきではないかというふうに思っています。ましてや、地位利用と無縁な勤務時間外において行われる政治的行為でさえも、最近の事例を見てみますと、警察権力の介入など濫用の事例が起きています。公権力の介入や濫用をなくすという点を考えますと、削除をすべきではないかというふうに私は思っています。

 例えば、幾つか職場の中で心配だという事例などもございまして、ここに記述をさせていただきましたけれども、公務員が勤務時間外において、出勤や退庁時間に職場施設外の出入り口付近で、出勤、退庁する他の公務員に向けて改憲案についての賛否を問う意見表明をするような行為は、地位を利用した国民投票運動に該当するとされて捜査の対象となってしまうのかどうかということについて、既に職場の中でも大変問題視、疑問視する声が出されています。

 また、公務員であることが地域の多くの人々に既に知られているその公務員が、休日に地域においてこれらの人々を聴衆とする集会の場で、あるいはそのような地域で宣伝カーで国民投票運動をしたときには地位利用とされるのかどうかということについても心配の声や疑問の声が出されています。

 さらに、公務員であることが地域において知られている住民の自宅を訪問して国民投票運動をしたり、地域の掲示板に改憲案の賛否についての意見表明をして、そのことを国民に呼びかけるような行為、これも地位利用とされるのかどうかということについてもいろいろな声が出されています。

 これらの行為が、先ほど申し上げましたように、最近の事例で見ますと、政治的な判断のもとに濫用されている、警察権力の介入などが起きているという点で、危険性が極めて高いというふうに思いますし、国民投票運動が萎縮してしまうということについて私どもは大変危惧するものであります。

 四点目でありますが、地位利用でない国民投票運動までも規制の対象にしている国家公務員法は適用除外と明記をすべきではないかという問題であります。

 民主党案では、国民投票運動について、規制、罰則について必要最小限にとどめるべきだとして、規制ゼロから考える、刑法や国家公務員法等、他の法律で刑事制裁が定められている行為類型については新たに罰則を設けないというふうに説明をされています。規制ゼロについては大変重要な問題として私ども歓迎をしたいというふうに思っていますが、そのように考えるのであるとすれば、少なくとも国民投票運動の場面においては、国家公務員法の政治活動の規制条項について国民投票運動については適用しないということを明記すべきではないかというふうに考えております。

 最後になりますが、私たち、現在、自治体労働者、公務労働者として、現在の憲法を守り、生かすべきだというふうに考えております。今、北九州市で生活保護申請が拒否されたということで餓死事件が起きるとか、埼玉県のふじみ野市でプールで幼い少女が亡くなる事故があるとか、本来、住民の命や人権を守るべき地方自治体のところで残念ながら人の命が奪われたり人権が損なわれるような事態が起きておりまして、今こそ自治体職員として、まさに憲法を生かして、住民が安心して暮らせる地域や国づくりをすべきではないかというふうに考えて取り組みを進めています。

 世界の世論も九条を守った国際貢献を求めている。今、アメリカ、カナダ、メキシコなどから公務労働者が日本を訪問して、四カ国でさまざまな討論をきょうまでしているところですけれども、まさに外国の代表の人たちも九条を発展させてほしいという声が多数であります。地方自治体関係者も、先ほど申し上げましたような憲法への思い、たくさんの知事さん、市町村長さんもメッセージをいただいておりますが、現在の改憲の動きに対して大変注目をしているのが実態であります。

 この国民投票法につきましても、五月の朝日新聞の世論調査などを見ても、不十分な議論のうちに決める必要はないというのが五三%だというふうに聞いております。拙速な成立強行ではなく、大いに国民的な議論を尽くされることをお願いいたしまして、私の意見表明とさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔愛知小委員長代理退席、小委員長着席〕

近藤小委員長 以上で各参考人の御意見の開陳は終わりました。

 これより懇談に入ります。

    〔午前九時五十九分懇談に入る〕

    〔午前十一時五十八分懇談を終わる〕

近藤小委員長 これにて懇談を閉じます。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、大変ありがとうございました。小委員会を代表して心から御礼を申し上げます。

    ―――――――――――――

近藤小委員長 この際、お諮りをいたします。

 本日の本小委員会における懇談の記録につきましては、本日の小委員会議録の末尾に参照として掲載することにいたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

近藤小委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔懇談の記録は本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

近藤小委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十九分散会

     ――――◇―――――

  〔参照〕

懇談の記録



近藤小委員長 これから懇談形式にて順序を定めずに発言をしていただきます。

 小委員の御発言の持ち時間は一回につき五分以内とし、その範囲内で発言並びに参考人及び法律案提出者に対し質疑を行っていただきます。

 なお、その際には、小委員長の指名に基づいて、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いいたします。

 時間の経過につきましては、終了一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 御発言を希望される小委員の方は、お手元のネームプレートをお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。

 それでは、ただいまから御発言を願いたいと存じます。御発言を希望される方は、お手元のネームプレートをお立てください。

 なお、懇談形式でございますので、各会派おおむね一巡をしたところで参考人の皆さん方にも御参加をいただきたいと思っておりますので、よろしくお願いを申し上げます。

 まず、各会派の先生方、どなたか参考人への質問等がございましたら、どうぞ。

赤松(正)小委員 では、あいうえお順で。

 まず、福井先生のお話の中で、要するに、いわゆるネガティブキャンペーンというものが効果的だという、つまり、投票案件に不安を感じると反対を投じる、したがって反対キャンペーンというものがノーという票をふやす上において効果的であるということです。逆に、いわゆる肯定的キャンペーンをがんがん、これはすばらしき新しいものを提示するものだという肯定的キャンペーンをすることによる結果というものは、逆に賛成票を投じることにつながるのかどうかという、裏返しの話を聞かせていただきたいということが一点。

 それから、日弁連の皆さんの御意見に対しまして、冒頭のところで、改憲論の問題点を十分検証することなく改憲のための手続法について意見を述べることについてはいろいろな意見が分かれていると吉岡参考人の方から話がございましたけれども、私の認識は、先ほども各党で改憲云々とおっしゃいましたが、現実に改憲に向けての試案が出されているのは自由民主党だけで、ほかの政党は形としてはそういうものが整っていない。

 ですから、今の憲法がどういういい点を持っていて、あるいは、つまり過不足というか悪い部分というか欠けているもの、そういうものをきちっと冷静に検証するということは非常に大事なことだと私は思っているんですけれども、その辺についてのお考えを聞かせていただきたい。

 以上、とりあえず二点。

福井参考人 賛成キャンペーンの効果ということでございますが、一般に国民投票は政府や議会が提案するタイプと下から国民が発案するタイプと二つあるわけなんですが、上から議会、政府が提案する場合は、多くの場合はもう政治サークルといいますか、与党、野党が合意の上で提出する場合が多いものですから、賛成してほしいという形で提案しているんですが、その場合、賛成キャンペーンというのはそれほど盛り上がらなくて、たまに人気のある政治家とかそういう人が提案するときに非常にそれにつられてというようなパターンが多いと思われます。

 逆に、下から住民が発案する場合は、例えば環境保護であるとか政治改革であるとか、そういうことは非常にインパクトが強くて、提案されると支持が最初から非常に高いことが多いわけなんですが、それが最後まで続きませんで、だんだん切り崩されていって、すとんと落ちて五〇%を切ってしまう、そういうようなパターンが多いというふうに、私は、研究した結果、考えております。

吉岡参考人 恐縮ですが、ちょっと質問の趣旨を私がとらえ切れていなかったかと思いますけれども、冒頭、私が申し上げましたことは、日弁連の中で憲法自体、本体の議論については、もちろんまだまだ、一つにまとまったということではないわけですね。それから、私が先ほど各党と言ったのは、確かに御指摘のとおりで自民党だけが今出している。しかし、各界からもいろいろな、新聞社とか出されていることがあります。それについては今まさに内部で議論しているところなんですね。

 それで、きょうちょっと資料を出して、先ほど言いましたとおり、少なくとも改憲に当たって立憲主義を堅持しましょうということについては日弁連としては一致しておりまして、それが昨年の人権大会の宣言になっております。中身の議論というのは、今まさにその上でなされているということなんですね。それで、先生の趣旨をちょっと私が取り違えていたらまた御質問を受けますけれども、ただしこの改正投票法については、とにかくこれは意見を述べなきゃいけない、それについて、かえってそれが改憲を加速することにならないかという懸念があるという状況を先ほど説明したということでございます。

船田小委員 きょうは、四人の参考人の方々、またその関係の方々においでいただきまして、ありがとうございました。

 今井参考人から、公務員の地位利用につきましては、これはやはり常識的に考えて置くべきではない、このような御発言がございましたけれども、我々もできればそうしたいなということで与党案をまとめてきたわけでございますが、これは以前にも、または現在でもそうですけれども、公務員とはいえ、やはり一部不祥事がありましたり、また地位利用による問題が発生したりということが現実問題としてどうしても排除できないものですから、私どもはなるべく性善説に立っていこうとは思っているんですが、国民の常識とか、あるいは国民の批判によって、不正を行う、あるいは地位を利用することに対して抑制する、そういうことでできればいいと思っているんですが、なかなかそれが我々の考えでは難しいのかなというふうに思っておりますので、そのあたりをもう一回、日本人の常識それからいわゆる公務員の常識というものが果たして今日本の国内で、そもそも論でございますが信用すべきであるのかどうかということのお話をちょっといただければと思います。

 それから、吉岡参考人には、最初にお話しをいただいた、憲法の改正の中身あるいは是非ということについて議論が進んでいく前に手続法の議論をするというのは早計ではないか、早過ぎるのではないかというお話でございましたが、私はむしろ今だからこそ手続を決めるべきであると。もう少し憲法の改正の議論がどんどん各政党間で高まっていきますと、どうも自分たちに有利なように手続法を決めるということもあるかもしれない。我々はそうであってはいけないと思っているんですが、そういうことを考えると、やはり静かに共通のルールをつくるにはむしろ今の方が私は適切な時期ではないか、こう考えるんですが、どのようなお考えであるかということをお聞かせいただきたいと思います。

 それから、福井参考人には、諸外国の例なども挙げていただいて、直接民主制ということの、あるいは国民投票のさまざまな事例をありがとうございました。特に印象深かったのが、情報が不足したときには国民投票はむしろ反対を多くする可能性がある、こういうことでございます。あるいは、国民というのは現状維持あるいは慎重な投票行動というのをこれまでも示してきた、こういう御指摘でございまして、やはり我々は、今の福井参考人のお話を否定的に考えますとこれはなかなか国民投票は難しくなるのでございますが、逆に肯定的にとらえて、やはり情報をできるだけ国民の皆様に提供するということが国民投票の成否を左右するのではないかというふうに考えております。私ども、広報協議会の設置をいたしまして、そこを中心に広報活動をやろうということを考えておりますけれども、その広報協議会のあり方について、さらに福井参考人から何か御示唆いただければありがたいなと思っております。

 最後に、田中参考人にお尋ねいたしますが、国民運動の表現の自由を最大限に発揮してほしい、あるいは規制をゼロにしてほしい、あるいは公務員法のある部分は適用除外にしろ、こういうことで大変前向きの御発言をいただきまして、大変参考になった次第でございます。ただ、そもそも、自治労連の皆様のお立場として、この国民投票法をお認めいただくのかいただかないのか。私は、聞いていると、大変前向きに国民投票制度は導入しよう、そういう前提でお話をいただいているように聞こえましたけれども、そのあたりはどうでしょうか。

 以上でございます。

近藤小委員長 四参考人への御質問でありますけれども、時間的な制約もありますので、できるだけお答えを短目にお願いいたしたいと思います。

今井参考人 船田さんからの質問にお答えしたいと思います。

 まず、公務員と教育者については、先ほど田中参考人の方から配られたレジュメの方にも、これまで多くの公務員も運動にかかわったが地位利用などの問題や弊害も生じていないというような一文が配られています。これは田中さんの方から答えていただいたらいいと思うんですが、せっかくですので私の方から、公務員、教育者に限定しない話なんですけれども、ちょっと聞いていただきたいのは、私は、基本的に日本人、今の有権者、主権者を信用してやろうというふうに言っていますが、それは美化して信用しようと言っているわけではありません。実態は確かにいろいろな意味で厳しいものがあると思います。

 その一例として、皆さんよく御存じのように、一九九七年の十二月二十一日に、沖縄県名護市で、米軍のヘリ基地建設の是非を問う市民投票が行われました。先ほども紹介しましたけれども、この条例の第十五条の「投票運動」のところに、「市民投票に関する運動は、自由とする。ただし、買収、脅迫等市民の自由な意思が拘束され、不当に干渉されるものであってはならない。」というふうに書いてあるんですよね。あるにもかかわらず、じゃ、どんなことが起きたかといったら、まず、不在者投票率が二〇%を突破したんですね。これは皆さん、容易に想像がつくと思いますけれども、不在者投票で二〇%を突破したんですよ。

 どういうことかといえば、賛成派と反対派があったわけですけれども、毎朝、特定のグループあるいは派の方の経営者たちが、出社してきた社員を、就労する前にマイクロバスで市役所の横にある不在者投票所に運んでどんどん投票させていった。それが積もり積もって投票日の五日前にもう二〇%を突破という事態に陥ったわけですね。それで、記者会見を開いて、この事態についてどうするんだということで問題になったんです。

 脅迫してはいけない、これは脅迫であったかどうか、経営者に脅迫されたと告発した人がだれもいませんから脅迫ということにはなっていないんですけれども、どう考えても異常です。不在者投票が二〇%に達した。それも、自主的に行ったんじゃなくて会社の車に乗せられて行っているということなんです。

 それからもう一つ、公職選挙法が適用されないということで。投票日の六日ぐらい前にある割烹に私は取材に行きましたけれども、賛否どちらか言いませんけれどもグループが、ある割烹に市民に来ていただいて、こういうふうに投票してくださいというお願いをしたんです。これはいいんです、自由にやってもらったら。ただ、帰りに千円札の束を持って三千円ずつ渡す、そのときにこう言ったんですね。心配しなくていいからね、公職選挙法は適用されないから全然大丈夫だから、捕まることはないからね、はい、持って帰って持って帰ってと言って三千円ずつ配ったんですね。私は、そういうことも知った上で言っています。

 これはかなりひどい例です。さっき申し上げた全国三百六十五件の住民投票でみんながみんなこういうことをやっているわけじゃないです。こういう例もあります。しかし、名護の場合は、これは沖縄振興策のお金がたくさん落ちるというようなこともあって、ある意味、相当目先の銭金に影響を及ぼすような、自分の懐ぐあいに影響を及ぼすようなことであると考えた人が多かったわけですね。

 しかし、我々がこれから想定している国民投票というのはそういうことじゃないと思うんです。自分たちの価値観とか国家観を決めることであって、九条をどうするのか、あるいは民主党さんが言っているような憲法改正にかかわること以外の重要な案件、例えば死刑制度なんかもそうだと思うんですけれども、そういうことを聞くときに自分の目先の損得は関係ありませんから、こういったことはまず起こらないと思います。

 先ほど紹介しました報告書の中で、この報告書でもその前の報告書でも売買収について委員の皆さん方が各国の方に質問されていますが、その答えは、どこでもそうですけれども、スペインでも国民投票において売買収で逮捕された事例は一つもないとか、デンマークも一つもないとか。普通ないんですよね。しかし、船田さんの質問に答えるとしたら、そういう危険性は常にあります。

 だから、必ずいいものになるとか最初から決めてかかるのは幻想です。衆愚政治にするのかしないのか、きれいな国民投票にするのかしないのか、水準の高いものにするのかしないのか、それはひとえに主権者の自覚と努力にかかっているというふうに私は思っています。

 以上です。

吉岡参考人 本日、日弁連の出しました二つの投票法案に対する意見書について先ほど述べましたけれども、まず最初の二〇〇五年二月十八日の意見書を出す段階で、日弁連理事会の中でかなりの議論がございました。今委員の御指摘のとおりの静かなうちにというような意見もわからないわけではありませんが、むしろ、そうではなくて、やはりこれは改正のための手続法ですから、これについて意見を述べることはまさに改正に一挙に進むんではないかということのかなり強い反対の意見がありました。

 ですから、理事会では出すか出さないかについてかなりの激論があったわけでありますけれども、とりあえずそれはおいて、この投票法案について現実にそのような案が出ているのであれば、それに対して法律家としてきちっと問題点の指摘をしましょうというところでこの意見になったということでございます。

福井参考人 広報協議会等でどのように議論を盛り上げていくかという御質問だったと思いますが、ちょっと事例を出して御説明したいと思います。

 国民投票には成功したものと失敗したものがあるわけで、成功した例としては一九七五年のイギリスのEC加盟の国民投票がある種いい例だと思うんですね。投票率が六割五分ぐらいで、賛否がはっきりと分かれておる。しかも、国民の参加も非常に多くて、実施したのは与党労働党が分裂したのでそれを回避するためというのが一つの理由になっているわけなんですが、政党も労組も一般国民も、それから普通の人たちも議論に参加して盛り上がって決着をつけた。これはある意味で成功例なわけですね。

 失敗例というのは、逆に全然盛り上がらない、二〇%そこそこで何か知らないうちに決まってしまった、あるいは、投票率は五〇%そこそこなんですが五十一対四十九という何かぎりぎり僅差で決まってしまう。失敗した例というのは、実はその結果の正当性に非常に疑問を感じる例がございまして、できればこういうのは避けたいというふうに考えております。

 それで、どう盛り上げるかという話なんですが、実はそれは逆で、むしろ盛り上がるものを取り上げるべきなんじゃないのかと思うわけなんですね。まさに議論の必要なものがあるからこそ憲法改正を出すわけですから、盛り上げようじゃなくて、盛り上がったものを取り上げるという話が筋ではないかと。例えば、もし人権を入れるんだとすれば、国民の間からどうしてもこの人権を入れてほしい、憲法九条を改正するのであれば、なぜ改正しなくちゃならないんだ、改正は盛り上がってするんだ、そういう順番が筋ではないのかと考えます。

 以上でございます。

田中参考人 御質問にお答えいたしますが、自治体の職場の中で、また私たち組織の中でも、国民投票法問題の評価につきましてはさまざまな意見がございます。ただ、私たちの労働組合の一つの確認といたしまして、現在出されている憲法の国民投票法案につきましては、先ほどお話もありましたけれども、自民党が昨年十一月に出されました自民党憲法草案が一つの議論の材料になると思います。

 この憲法草案について、実は資料の十九ページに私ども中央執行委員会としての見解も掲載をさせていただいておりますが、いわゆる自民党案につきまして、立憲主義の原則から大きく踏み越えた中身になっているのではないかというふうに受けとめておりまして、その点から見ますと、そのことを進めるための投票法というふうにどうしても受けとめざるを得ませんので、今の国民投票法案については問題があり、原則的には反対だという立場でございます。

 同時に、公務員という、職務を執行する仕事を持っておりますので、法案が問題だからといってそれで終わりということではございません。私たち公務員労働組合としても、問題点を指摘しながら、同時によりよくするためにはどうしたらいいかという提案もきちんとしなきゃいけないという立場でございまして、そういう点で、先ほど来、基本的には今回の法案については問題ありということですけれども、国民投票そのものについては、こうあってほしいということも含めて御発言をさせていただいたということでございます。

阿部(知)小委員 社会民主党の阿部知子と申します。

 本来、この委員会は我が党の辻元清美が出席させていただいておりますが、きょうは私がお時間をいただきまして皆さんの貴重な御意見を伺うことができましたこと、冒頭感謝申し上げます。

 さらに、この懇談の運営に当たって、通常ですと大会派別にいかれますが、あいうえお順ないし何と申しますか順で指名していただきまして、大変にこれもまたありがたいことと思います。

 冒頭、今井さんもお話しされましたけれども、やはりこうした懇談ないし審議はじっくり、しっかり、ゆっくりということが私は大事だと思います。なぜそう思うのかと申しますと、きょうは国民投票法案にかかわります運動の問題を主に皆さんに御意見いただきましたが、そもそも論を言わせていただければ、そして、私がきょう初参加であるのでお目こぼしもいただければと思いますが、最も根本は憲法と国民の距離にあると私は思っております。

 国民投票法案については、NHKの調査等で、六六%の方がまだ御存じなく、知っているとお答えになった二七%のうち約四分の三は、早急にこうした改正法の手続をつくっていくこともどうも問題だと思っておられるという調査等々にのっとりますと、大変に国民との間にずれが生じかねない。しかしながら、こういう論議の場でありますから、あり得るとすればどういうことが考えられるべきか。そこで、皆さんの中にももっと、状況がどのようになって、その中で国民投票法のことを話されるべきだという見解もおありだったと思います。我が党も基本的にはそういう立場をとります。そのことを申し上げた上で、せっかく来ていただきました皆さんには質問をさせていただきます。

 まず、今井一さんにお願いしたいのですが、真っ当なというところは最もやはり大事で、それはすなわち国民との距離であると思います。数多いレファレンダムの中でも、国民、住民みずからが求めた住民投票と、町村合併等々、外から形が与えられたものではやはり異なっているだろう。この辺を、たくさんごらんになってきたお立場からお教えいただきたいと思います。

 二点目は日弁連の吉岡さんにお願いいたしますが、私は、もともと今井さんたちに呼んでいただいた憲法の討論会に中山先生と御一緒したときに、私どもは小児科医なのですが、まず、子供たちに、学校教育においても憲法の問題がもっともっとしっかりメッセージされて、すなわち、これからを生きていく、もし私たちがやった選択によって最も多くを規定されていく未来である子供たちの問題が、そこにどのような形で憲法ということが伝わっておるかということが問題であるということでは中山先生と認識を一にするものなのですが、最近とても心を痛めておりますのは、学校の未履修問題、いわゆる必修を未履修であったという問題で例えば学校の先生が自殺をなさる等々、今の教育現場で果たして本当に先生たちがきちんと子供たちにそうした憲法の意味とか学ぶことをメッセージできているだろうか。あるいはまた、今度国民投票法とかで運動制限になった場合にはもっと深刻になろうと思います。

 あと、福井先生には、やはり国民がどの程度関心を持っているかということが大事だということで、私はやはり現実には最低投票率をきっちり法定するという問題だと思いますが、これはいかがか。

 田中さんには、各自治体で頑張っておられて、レファレンダム、住民の投票と国民投票の違いもあろうかと思います、国のマターにかかわりますので。この辺の御意見を賜りたいと思います。

今井参考人 今阿部さんが言われたのは、直接請求のことについてですか。(阿部(知)小委員「住民投票です」と呼ぶ)ついでですから申し上げますと、先ほど申し上げたみたいに、巻町以降、三百六十五件を超す住民投票が行われているんですが、そのうち、否決されたものも含めると、直接請求の件数が五百三十……。要するに、さっき言ったのは、実施されたのが三百六十五件で、否決されたものも含めると千件を超えているわけですけれども、直接請求は全体の五二%で五百三十五件、可決率は一九%でした。それから、議員提案は二百十二件、可決率は四三%。首長提案は二百八十七件、可決率が九〇%ということで、住民投票においても直接請求は行われているけれども、実際に可決されたのは二割弱だということなんですね。そういうことで、三百六十五件のうち、首長提案で可決二百五十九件、議員提案で行われたのが九十件、それから直接請求は百二件というふうになっております。これは、まだ実施されていない、条例が制定されたところも含めての数です。

 住民投票条例においてもなかなか直接請求で通らないんですけれども、阿部さんのおっしゃっている意味はよくわかります。レファレンダムというのは本来、国民投票であれ住民投票であれ、国民からのイニシアチブ、直接請求によって行われるのがいい姿じゃないかというふうな御意見はよくわかります。

 しかし、私としては、日本の現行憲法の九十六条の規定は事実の問題としてイニシアチブを認めていませんから、スイスやイタリアみたいに一定数の署名が集まれば国民の方から発案ができるという制度になっていませんので、法的拘束力のある国民投票については。これはもう現行憲法上、そういうことになっていますから、それでまず一回やるしかないわけです。

 その上でいったら、こういう言い方をしたらなんですけれども、議会制民主主義の中で、衆参各院の国民から選ばれた三分の二の議員が発議をするということで、つまり、国民への提案をするということで国民投票が実施されるというのは、おかしな制度ではないと私は思っています。半数じゃなくて三分の二ですから、これは相当な数だと思っています。ドイツのように三分の二をとったらそれでもう憲法改正ができるというわけじゃない、国民への提案にとどまっているわけですから、日本の制度はおかしな制度ではないというふうに私は思っています。九十六条はおかしな制度じゃないと思っています。

 あとは、ではその九十六条を具体化する憲法改正手続法、国民投票に関するルールづくりが非常に大切だというふうに思っています。もう一言申し添えれば、後々、最初は諮問型でもいいですから、重要な案件についてはイタリアやスイスのように一定数の国民の署名が集まれば国民の発案権を認めてもいいんじゃないか。これは民主党さんがそんなふうな提案もされているみたいですが、そういうこともあわせて今後は考えていっていただきたいというふうには思っていますが、今の九十六条の制度はおかしな制度じゃないと私は思っています。

 以上です。

吉岡参考人 委員御指摘の、子供のさまざまな問題につきましては、日弁連にも子どもの権利委員会がございまして、さまざまな現場において救済活動を行っているところであります。

 いずれにせよ、未来の子供たちにきちんと憲法の意味内容を伝えていくということは大変重要なことだと思います。ですから、今回の改正投票法案に関しても、運動が不当に規制されて、きちんと伝えるということに関して萎縮が起こるとかそういうことがあってはならないということは御指摘のとおりだと思います。

福井参考人 最低投票率をどう考えるかということだと思いますが、例えばイタリアは五〇%の投票率にしなければならないという有効要件があって、デンマークも国民投票の中には反対の割合を投票者の三〇%にするとかいう規定があるわけなんですが、日本の場合はそれは基本的にないわけなんですね。

 ちょっと比較憲法的、あるいはヨーロッパの私の調べた範囲内の運用と比較しますと、三分の二に対してさらに例えば有権者四〇%というルールを必ずつけるとか、あるいは最低投票率五〇%にするとかということになりますと、実際はかなり高いハードルになっちゃうんじゃないかなというような気がするんですね。現状において三分の二というのはかなり高いものですから、さらにまたそれを加えるということになると、比較憲法的に見るとさらにますます高いハードルをつけることになる。そこまでつけることができるのかどうかということと、投票率とかあるいは有権者を何%にするとかという条項は、多くの場合、明文で規定されているんですね。日本は明文に規定されていませんから、その点、反すると言うこともできるんじゃないかと考えております。

田中参考人 お答えします。

 住民投票と国民投票は違うのではないかということですが、実際に先ほど市町村合併に伴う住民投票という例を挙げさせていただきましたので、そういう意味では、憲法改正国民投票ということの性格ですとか国民の受けとめ方ですとかは違うことになるだろうなというふうに思います。

 ただ、一つの事例として、国民が投票する、いわゆる住民投票が行われるということとのかかわりの中で規制がどうなのかという小委員会の問題提起でしたので、実際に行われた全国の市町村合併に伴う住民投票の例として、規制がない中でより活発な論議が行われたというふうに思っておりましたし、また、根っこのところでは、地域の将来を決めるという点で、また日本の将来のあり方を決める、まさに国の基本を決めるということですから、そういう点では根っこでは通じるところもあり、そういう中では十分な国民の議論が保障されるべきだという点での私の発言でございました。

笠井小委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょうは、お忙しい中、各参考人の皆さん、ありがとうございました。大変貴重な御意見をいただきました。

 私も今やりとりを伺いながら、先ほど船田委員と日弁連の御意見というか立場との関連で、船田委員が改正の議論が高まっていくと有利な方向に持っていくようなものになるんじゃないか、静かに共通のルールをつくるというのが今だというお話があったんですが、既に安倍総理自身が自民党総裁として、スケジュールも含めてかなり具体的に改憲を言われて、九条という問題も改めてインタビューで言われたりしているので、まさに静かにルールというようなことで与党の側から提案も出る、あるいはこういう手続法が時期ではないというのがますますはっきりしたんじゃないかという感想を持ちながら今やりとりを伺ったところです。そういう意味では、出されている法案というのが一番肝心な国民の意思を冷静かつ客観的に反映する仕組みに全体としてなっていない、もう既にそういう状況になっているということの中での問題点を感じているということです。

 その上で、また後でも機会があると思いますが、まず一つは、憲法改正の国民投票と運動規制とのかかわりで日弁連に伺いたいんです。

 先ほども御紹介がありましたが、意見書を出されて、そこで、憲法改正を行うか否かは国の最高法規たる憲法に関して主権者たる国民の意思を直接問うものであって、最も根源的に国民、市民の自由な活動が保障されなければならないというふうに述べられております。

 それで、今度提出されている法案を見ますと、百二条で、共通してなんですけれども、国民投票運動なる概念そのものを定義している。「憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為」というふうに定義していることについてなんですけれども、このこと自身が運動規制の規定を置くことを前提にしているというふうに考えられるんです。そういう立法思想そのものを国民主権原理との関係でどういうふうに見たらいいのか。日弁連としての、あるいは個々でも結構ですが、御意見を言っていただければと思います。

 もう一点は、田中参考人に伺います。現場の公務員ということでこの法案をどう受けとめているかということとの関連です。

 お話にもありましたが、地位利用との関係で、地位利用と無縁な勤務時間外において行われた政治的行為でさえも、最近の事例で見ると警察権力の介入などの濫用の事例が起きている。どういう事例に対して、そして、こういう事例があるからということで、現場の公務員の皆さんが、そんなことがあるのでやはり自分は時間外にはもうやらない方がいいかなとかいうようなことを含めての、実際に萎縮するような動きがあるのか、思いがあるのかということについて伺いたいというのが一つ。

 それから、その上で、地位利用による運動の禁止ということになりますと一層の萎縮を生むことになると、幾つか問題点を現場の公務員の立場での声ということで紹介されましたが、実際にそういう萎縮ということとのかかわりで、現場ではどういう公務員の皆さんの受けとめがこういう案に対してあるかということについて伺えればと思います。

菅沼参考人 日弁連の憲法委員会の事務局長の菅沼一王でございます。よろしくお願いします。

 今の御質問で、日弁連の意見書の文言からはなかなか読み取れない部分があるので、この意見書を作成する段階でどういう議論がなされたかということを御紹介して回答にかえさせていただきたいと思います。

 まず、先ほどの運動という言葉について、ある意味では、選挙もある候補者を当選させるかどうかという投票に結びつく運動という、憲法改正国民投票も投票ですから似通った面があることは否定できないんですが、委員会あるいは各地の弁護士会の中でも、いわゆる選挙のための運動と憲法改正という問題については、単にそれにマルをつけるかどうかということだけではなくて、国民の中に憲法のあり方も含めていろいろな議論をしてほしいという要素があるので、むしろ国民の憲法問題についての意見の表明の自由なり、それに向けた活動をどうするかということで、運動という概念とやや違うのではないかという議論がされていることはございました。

 ただ、では、かわる言葉をうまくこちらが提示できたかというと、そこまではいっていませんが、運動という言葉自体の用い方にまず非常に抵抗があったということでございます。

 それから、もう一点の定義でございますけれども、国民投票運動ということが、今御指摘のようにまず規制を目的としている意味合いがあるのではないかということが前提としてあったことと、ただ、前の議員推進連盟の案のときは、憲法改正案に対し賛成または反対の投票をさせる目的をもってする運動となっていたので、今回勧誘する行為ということである程度の限定をされたということは評価をしてございます。

 ただ、勧誘する行為といっても、結局は、憲法改正についてのどちらかの意見というのは最終的には投票行為に結びつくわけですから、これで果たして限定できるのだろうか、そういう意味では投票運動という言葉にやはり抵抗があるというのが議論の状況でございました。

 議論状況だけの御説明で恐縮ですが、回答とさせていただきます。

田中参考人 お答えいたします。

 一つは、具体的な事例でございますけれども、これは、国家公務員の方が日曜日などの勤務時間外に職場から遠く離れた自宅の近所で革新政党のビラを配ったことを理由にして逮捕、起訴された事件、東京地裁では有罪判決が出されておりますが、いわゆる国公法堀越事件などがあります。本人が知らない間に警察の方々によってずっと尾行をされ、監視をされていたということなども裁判の中で明らかになっておりまして、この問題が起きて以降、国家公務員の私どもの仲間から聞きましても、自由に意見表明ができなくなるとか、自宅周辺とか地域でもこういういろいろな活動に参加しにくくなったということが既に言われておりまして、まさにその萎縮効果が全国的に起きているというふうに思っています。

 同時に、今現実に公務員の職場におきまして、例えば私も、私の場合、地方公務員法の対象になるわけですけれども、研修などの期間に必ず、政治的中立性という問題と労働基本法が剥奪されておりますのでスト権がないという二つの問題が強調されるということがありまして、そうすることによって、ある意味で、公平性とか中立性という名前によって、逆に、住民の方を向いてまさにすべての国民にひとしくサービスを提供するという職務から見ても少し問題になるような、要するにヒラメ型といいますか、上の方を向く公務員がつくられていってしまっているという事例などもあります。

 そういう点で、その地位利用ですとか公平性、中立性を理由にしたさまざまな規制が、本来、先ほど宣誓書を読ませていただきましたけれども、公務員に与えられている職務との関係でも萎縮効果を生み、逆に住民と距離が生まれてしまうということがあるんではないかというふうに思っています。

 ちなみに、国家公務員法も、マッカーサー指令が出る以前の旧国家公務員法には上司の命令について瑕疵がある場合には意見表明する権利が既に明記をされておりまして、そういう意味で、やはり公務員というのは自由に意見表明できる権利があってこそ本来の職務が執行できるのではないかというふうに考えております。

枝野小委員 まず、先ほど田中参考人が、自民党の草案は立憲主義に反する中身を前提とするのでだめだというお話です。民主党案はそうではありませんで、民主党の憲法提言は自民党のように立憲主義に反しておりませんので、御理解をいただければと思います。

 その上で、田中参考人から御指摘いただきました、レジュメで言う四番の話、公務員法一般における政治活動の規制が、この法律本体で規制をかけなくてもかぶってしまうというのは、私どもとしても若干うっかりしていたところでありますので、これは私どもとしてはそこの整合性がとれるように、国家公務員法、地方公務員法の必要なところは手直しをしなければいけないと思っております。これは小委員長、この後、できれば、事務方の方が整理をしてくれていると思いますので、一般的な公務員法で運動規制にかかってしまう部分の整理を報告していただければと思いますし、また、その上で、与党の提案者の方もこの点はぜひ御検討をいただきたいというふうに思います。

 その上で、私ども、公務員の活動は一切自由ということで提起をしているんですが、若干迷いがありまして、そのことを日弁連と田中参考人に御意見を伺いたいと思います。

 今、皆さん御指摘をされているのは、一般の現場の公務員の皆さんの運動のことを心配しておられます。ここは自由であって全然構わないと思うんですが、極端なわかりやすい話をしましょう。例えば国土交通省の、今、道路局長というんですかね、道路局長が全国のゼネコンの皆さんに、私は改正に賛成であるだなんて言って大量に私信を送るとか、総務大臣が言うのはしようがないとは思うんですが、総務省の電波の責任者の局長や課長が全国のテレビ局、ラジオ局に対して、私は改正に賛成であるだなんて言って働きかけをするとか、つまり、幹部の公務員が自分の所管する業務にかかわるところに対して働きかけをすることが、特に公務員法一般の規制も全部外してしまうとなると、起こり得るんではないのかなと思います。

 私は、あえて言えば、そうだとしても、萎縮的効果のことを考えれば仕方がない、やるならやれということかなと思っておるんですが、そういう点についてどういうふうにお考えになっているかを両参考人にお尋ねしたいというふうに思います。

 それから、もう一つ、刑罰、買収の話でありますけれども、これはむしろ今井参考人と日弁連にお尋ねをしたいというふうに思います。

 これも基本的には萎縮効果のことを考えると自由でやむを得ないと思いますが、本当に極端な悪質なものが万が一出てきたときに、全体の投票そのものに対する信頼、つまり、一億人の有権者を相手にするわけですから、そんな金をばらまこうが何をしようが投票結果に大きな影響を与えるということにはならないと思いますので実質的弊害はないかとは思うんですが、そうはいっても、何かちょっと変わった社長さんが、大金持ちがお金をばらまいて賛成しろとか反対しろとかいうようなことが報道されたり何かしたときに、全体としての投票自体の信頼が失われる可能性があるんではないかということは若干危惧がありまして、本当に悪質なところだけはだめなんだよということができないかどうかということを考えないではないんですが、その点についての御意見を聞かせてください。

橘法制局参事 衆議院法制局の橘でございます。

 枝野委員御指摘の地方公務員法及び国家公務員法の政治活動規制についてお答え申し上げます。

 地方公務員の一般職でございますが、地方公務員法三十六条二項におきましては、政治的行為の制限として、公の投票において特定の事件を支持し、またはこれに反対する目的をもって一定の政治的行為をしてはならない。この公の投票というものは、現在国民投票法はないわけでございますので通常は住民投票等を考えておられるとは思うのですけれども、文理上、これに手当てをしなければ、国民投票は最たる公の投票に該当するように思われますので、これに該当することになってしまうのではないかというふうに推察いたします。

 他方、現在の一般職の国家公務員については、国家公務員法の百二条第一項で、政党または政治的目的のために人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。この人事院規則では、公の投票といったような言葉ではなくて制限列挙で禁止行為が定められており、その制限列挙で定められている中には国民投票が読み込めるような条文はない。ということは、逆に言えば、このまま国家公務員法の手当てをしなければ、一般職国家公務員に関する政治的制限規定はかからないというようなことになってしまうのではないのかということが、現行法そのままとした場合の状況かと思います。

 以上です。

田中参考人 幹部の公務員の働きかけの問題についてということですが、ちなみに、各種選挙などが行われる際に、必ず市長名で公務員の政治的中立性の問題とその地位利用などを行うなという文書が出るわけですけれども、多分、私が思うに、市町村などの例で考えますと、それに該当する管理職員というのは何人ぐらいいるのかなということで、そういう地位を利用して特定の候補者なり特定の政治的な方向について誘導するような権限を持ったり力を持っている職員というのは本当にごく限られた人数ではないか。

 ちなみに、公職選挙法などにつきましても、公務員の内部において、人事権ですとか予算権ですとかということも含めて、それらの権限を持っている職員が部下または職務上の関係にある公務員に対して誘導を行うような場合には問題なんだということが規定されておりますので、こうした現行の規定の中で対処できているのではないかというふうに思いますし、一般の公務員につきましては地位を利用したくてもその地位がないというのが実態でございますので、そのように考えてもいいのかなというふうに思っています。

吉岡参考人 この点は、どこまで考えられるかということがあろうかと思いますね。幹部の公務員、それこそそういう幹部になる方の見識、良識を考えると、そんなことはどうだろうかという感じがいたします。私どもの意見書としては、いずれにせよ、それよりも主権者としての意見表明の方が重要だろうというところから意見になっておるということでございます。

 一方、同じく買収の問題もそうだと思います。同じように、いわゆる一般の選挙で選挙区がかなり小さいところでは考えられるかもしれませんけれども、日本全国一億何千万の人が投票する中で、そういうことについて果たしてどうだろうかということの意見になっております。

今井参考人 私もほとんど同じ意見なんですが、先ほども申し上げたように、例えば、憲法九条についての改正の是非を問う国民投票が将来行われたとしても、それは憲法九条について問われているのと同時に、主権者の価値観とか国家観が問われているということだと思うんですね。同時にそれは、主権者の民度といいますか、先ほども申し上げたみたいに主権者の良識とか主権者の民主主義の力自体が問われているんだと思います。

 そういう意味でいったら、そういった売買収が行われたとしたら、例えば私の地元の大阪でそういうことが行われたとしたら、それは大阪の程度をあらわしているということにすぎないのであって、大勢には影響がないと思いますし、そのときにだれが批判をするかといったら、まさにメディアの出番だと思っています。メディアがそういうところできちっと批判をして、いかにこれが恥ずかしいことであるか、程度の低いことであるかということを強く訴えれば、それは大きな問題にはならないし、例えばメディアで実名を公表してもいいと思うんですよね、そういうことをやった人がいたら。だから、そういうことで対処させればいいんじゃないかというふうに思っています。

 以上です。

近藤小委員長 時間もちょうど真ん中ぐらいに来ておりますので、これから参考人の方にもお入りいただいて、なおも懇談を進めていきたいと思っております。

 それに当たって、今井参考人の方から文書で確認事項ということで御提示が出ておりますので、事務方の方からお答えをさせていただきたいと思います。

橘法制局参事 御報告、御答弁申し上げたいと思います。

 昨年とことしの二回、中山委員長を団長とされ本特別委員会の委員の先生方をメンバーとする、衆議院から派遣された調査議員団が合計九カ国の国々を訪ねて調査をされました。そこでは、面談において各国の国民投票法制を調査されるとともに、その際ちょうだいした文献をも帰国後翻訳するなどして調査をされ、その結果は今井参考人御指摘の二冊の報告書にまとまっております。

 調査対象国九カ国、すなわち、オーストリア、スロバキア、スイス、スペイン、フランスそしてポーランド、イタリア、デンマーク、エストニアでございますが、公務員等に主体を限って国民投票運動規制の条項を設けている、そのような御回答をちょうだいしたのがスペインとフランスでございました。スペインでは現職の軍人、警察官、判事、検事及び選管委員の国民投票運動は禁止されますということ、フランスでは公務員による投票用紙、政見発表書等の配布は禁止されますということの規定が選挙法典にあるようでございます。

 もう一点、買収罪でございますが、何らかの買収行為が禁止されているというような御回答あるいは文書をちょうだいした国々は、オーストリア、スイス、スペイン、デンマークなどでございます。先ほど今井参考人も御指摘になられましたが、例えばデンマークでは、ペーデ選挙コンサルタントから、選挙だけではなく広い意味での買収罪は刑法に規定されています、しかし、この買収罪が実際に適用されたことは聞いたことがございませんといったような御回答をちょうだいしているところでございます。

 なお、文献等によりきっちりと検証はされていませんが、昨年、スペインのフンコ政治憲法研究所長を訪問した際に中山団長がちょうだいされましたベニス委員会の関係文書というのがございます。ベニス委員会というものは、欧州評議会の独立の諮問機関であり、正式名称は法による民主主義のための欧州委員会というのだそうでありますが、この報告書で紹介されている国々の中で御指摘の事例が三カ国ほどございました。

 ロシアでは、官庁または公務員が国民投票運動を行うことは禁じられているというようなこと。アルメニアでは、公務員の投票運動の禁止は、その権限を用いる場合、地位利用というようなことを意味するのかどうかわかりませんが、その権限を用いる場合に限定される、なお、裁判官、警察官、軍人については投票運動が絶対的に禁止される。グルジアでは、投票運動の禁止の規定は選管のメンバーにしか適用されない。

 十分な検証ではございませんが、以上が、昨年、ことしの海外調査の結果かと存じます。

 以上です。

近藤小委員長 参考人の方々で提案者に御質問等がもしある方は、ネームプレートをお立てをいただいて、五分以内で御発言をいただきたいと思います。

葉梨小委員 田中参考人に事実関係をお伺いしたいと思います。

 意見陳述の中で、公務員の地位利用について、地位利用ということで最近の事例を見ると警察権力の介入など濫用の事例が起きている、公権力の介入や濫用をなくすために削除すべきであるというような御意見を言われました。資料を見てみますと、確かに、国家公務員法の世界であるとかあるいは刑法の住居侵入の適用、そういったものについては私もいろいろと新聞等でも報道されているというのは知っておるんですけれども、公職選挙法上の地位利用、これが警察権力の濫用になったというような事例についてお教え願いたいと思うんです。公選法の地位利用の適用事例というのは、それほど数は現在のところ多くないはずなんですけれども、具体的な事例をお教え願いたいと思います。

田中参考人 私も、その辺について専門家でもございませんので詳しく承知しておりませんので、ちょっと具体的にはお答えできないと思います。

 先ほど意見陳述の際に申し上げました地位利用につきましては、国家公務員法なり人事院規則なりそういう問題からの事実関係の問題でありまして、公選法について特に意識をして述べたものではございません。

愛知小委員 それでは、簡単に幾つか素朴なことをお伺いするというか感想を申し上げたいんです。

 今井参考人が国民の良識あるいは常識というものにゆだねると。私はそれはそれでいいと思うんですけれども、国民の良識なり常識はどうやったら醸成されるんでしょうか。ちょっとその辺を伺いたいということが一つ。

 それから、何人かの参考人から、主権が国民に存する云々という、国民主権の話が出ました。この国民主権というものの、実際具体的に国民が行使するというのがまさに国民投票です。国民投票ができないようにしておいて国民主権も何もないんじゃないか、非常に素朴にそう思います。どうお考えになるか、伺いたい。

 それから、憲法を改正するのに反対だから国民投票法というものをつくらないというのは、僕は全然これは理屈が通らないと。憲法を改正するかしないかという話と、制度として国民投票法というものをつくるかどうかというのは全然別問題でありまして、憲法の改正ができないようにするために国民投票法をつくらない、制度上できないようにしておくというのは、全然これは話が、筋が違うんじゃないかと私は思うんですね、非常に素朴な話でございますが。

 以上、幾つか申し上げたんですが、どなたかからでも。今井参考人から。

今井参考人 愛知さんのお話にお答えするとしたら、ここにおられる議員の皆様方は、国会議員におなりになる前となられてから、つまり立法に携わってからの御自身とその前の御自身とではかなり違うと思うんですよ。やはり身が引き締まる思いといいますか、いろいろな意味で成長されたと思うんですね。賢くもなられたと思いますし、責任感も増されたと思います、立法に携わるわけですから。それと同じように、全国の住民投票の事例でも同じなんです。

 これは世界の国民投票でもそうですけれども、自分たちに最終決定権が与えられると、住民というのは少し賢くなって、少しモラルが増すんですね。スイスで軍隊を廃止するかどうかの是非を問う国民投票が二回行われました。それから国連加盟の是非を問う国民投票も行われていますし、EU加盟についても行われています。それまでそのことについて関心がなかった国民が、その国民投票のときには相当皆勉強しているんですよね。それは自分たちに最終決定権があるからです。現地のスイス人なんかに聞いてみたら、残念ながらやはり、それが案件にかかって国民投票の期日が決定したら勉強するけれども、しなかったら自分たちに決定権がないと思って余り勉強もしないと。

 だから、それを当てはめると、今の日本人について、愛知さんもそうだし、私もちょっと首をかしげたくなるようなこともいろいろあります。ありますけれども、例えば軍隊を保持するのかしないのか、そういうことの最終決定権、国会は提案しますけれども最終決定権はあなたにありますよということになると、かなり自覚は高まると思います。

 そういう意味でいったら、一番の国民を高めるお薬は何かというと、最終決定権があなたにあるんだということを知らない国民が多すぎるということだと思います。憲法改正の是非を問う最終決定権、それを決める最終決定権が自分にあるんだということを少し理解してくださったら、認識してくださったら多少は変わると思います。

 でも、私たちの調査でもそうだし、ほかの機関の調査でもそうですけれども、憲法改正の手続について正確に知っている人、特に最終決定権が国民にあるということを知っている人は全体の二割にも満たない状態です。最終決定権は国会にある、あるいは内閣にある、裁判所にあると思っている人が多いんですよね。そんな状態では、とてもじゃないけれども、愛知さんがおっしゃったような、なかなか醸成はされない、程度は高くならないと思います。

 まず国民が最終決定権が自分たちにある、そのことをきちっと認識して自覚することが第一番だと思います。当委員会が、改正手続法の中身についてどんどん深めていくと同時に、国民が周知、理解をするということについても今後御尽力をいただけたらと思っています。

 以上です。

松本参考人 一言だけ。

 必ずしも日弁連の意見として統一しているわけではないんですが、憲法改正に反対の向きが手続法案に反対するというのは、これは純粋に言えば政治的な動きであるというように思います。ですから、法理論的に言えば、賛成、反対を問わず、定めるということには法的な、理論的な正当性があるということは確かに言えるんですが、ここだけは聞いていただきたいのは、立憲主義から派生します我が憲法の恒久平和主義につきまして、それが改正の限界を超えるか超えないかというような議論もありますけれども、非常に日弁連の内部で恒久平和主義が崩されるのではないかということに強い危惧感を持っている会員がいるということでございまして、そういう方が全く政治的な立場ではなしに、やはり法理論的にもこういう重大な改正が当面する場合にはにわかに賛成しかねるということではないかというように思います。

 以上です。

福井参考人 国民主権があるにもかかわらず国民投票法が制定されていないのは原理的に言うと国民主権が行使できない状態なんじゃないかという御趣旨だと思うんですが、外国の例を引いてみますと、例えばイタリアは国民投票を憲法に規定されてから実際にするまで二十年以上かかっている、執行法をつくるのに二十年以上かかっているわけなんですね。また、アイルランドも国民投票が憲法にありながら、実際するには二十年以上かかったりしているわけです。

 私、先ほど申し上げましたように必要性があって改正がなされるというのがまずなんだと思うんですが、まさに今はこのように議論が盛り上がっているというのは、必要性が盛り上がりつつある状況なのかなということなんじゃないかと私自体は理解しているわけなんです。規定があっても国民投票を全然しない国というのは現実にはたくさんあるわけなんですね。全く凍結された状態で使っていない、あるいは使いたくても使えないほどハードルが高過ぎる国民投票の制度というのはたくさんあるわけなんで、それが一つの私としての答えでございます。

田中参考人 国民主権原則から見まして、憲法規定でも、例えば広島で、戦後、九十四条を使われて市民投票を行われていますけれども、原則としては憲法にも規定されておりますので、そこはやはり尊重すべきだし、現に先ほど申し上げましたような市町村合併や町の将来とか地域の将来を決める問題について住民投票が行われるということについては、きちんと制度的に保障すべきだというふうに思っております。

 ですから、憲法でも改憲の手続がきちんと明記されているということについては認識をしているわけでございますが、先ほど申し上げましたように、今なぜ国民投票なのかということを考えますと、日弁連の方もおっしゃっていらっしゃいますような立場で私ども考えておりまして、明確に立憲主義を全く覆すような議論が行われる中で国民投票法が審議をされる、その法案の中身につきましても、先ほど来も朝日新聞の世論調査などもお示ししましたけれども、憲法のあり方そのものが議論が不十分な中で、しかも国民が自由に議論ができないような中での法案の審議というふうになっていることについて大変危惧をしておりまして、そういう点では我々としてはやはり問題ではないかというふうに指摘をさせていただいたということでございます。

園田(康)小委員 民主党の園田康博でございます。

 きょうは、参考人の皆様方、大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。私からは、できましたら全参考人の皆様方から御意見をちょうだいしたいと思っております。

 教育者についてでございます。公務員につきましては先ほど来ちょっと議論になっておりますので、もう一点、教育者についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

 それに関して先ほど今井参考人からは単位をやるから自分たちの意見を踏襲しろというようなことが考えられるものとしてはあるんではないかというような話もあったわけでありますけれども、そのほかに、果たして先ほど日弁連の皆様方からも、大変規定の内容があいまいである、したがってこの規制をかけること自体がやはり無理があるんではないかというようなお話もあったわけでございます。

 特に私自身も今大学で講座を持たせていただいておりまして、憲法を実際に教えている身であるわけですけれども、例えば私は必ず出席をとる、そしてその出席を、全出席がいわゆる単位取得の構成要件であるという形で教えているわけでありますけれども、そこにおいて、憲法の講座で私なりの講義を行って、それをしっかりと諸君らが認識せよという形で行った場合、これもいわゆる単位取得についての威勢をかけた地位利用に当たるかどうか。もしこれが当たるというふうな形が考えられるようであれば、ちょっと御意見をいただきたいと思うわけでございます。福井参考人にもぜひ外国の事例でそういったものがあったかどうかというものもあわせてお願いをしたいというふうに思っております。

 同時に、あと福井参考人のお話の中で、情報流通の拡大というお話があったわけでございますけれども、私、この言葉をどのように理解をしていいか、まだちょっと漠然としていたわけでありますけれども、例えばインターネットとかそういったものを念頭に置いて御発言をされたのかなというふうに私なりに理解をさせていただいたんですが、この情報流通の拡大というものがどういったものであるのか、もう少し具体的に、もし事例があればお教えいただければなというふうに思います。

今井参考人 最近の大学生は随分おとなしくなったから、大学の先生からそういうふうに言われたら反論もできずに従ってしまうんじゃないかというようなことも時折耳にしますが、本来、大学というところは自由闊達な議論が行われるところであって、例えば駒沢大学の西修先生は、やはり改憲がいいんだ、九条を変えた方がいいんだということを告示前も告示後も堂々とキャンパスで言い続けて、それはキャンパスの外でも自分の教室でも言い続けられたらいいと思うし、それから早稲田大学の水島朝穂さんは、現在と同じように九条改憲は間違っているとずっと言われればいいと思うんですね。そこで学生たちが反論したいことがあれば反論すればいい。

 私は過去に経験があるんですけれども、私は大学のとき哲学科だったんですが、教師が解説したデカルトの解釈について、全然教師と違う解釈をテストで書いて、単位をもらえないかなと思ったら、優だったんですね。大学っていいところだなと思ったんです、中学や高校とは全然違うと思って、先生と違う意見を書いてもちゃんと認めてくれるんだと思って。本来、大学というのはそういうところだし、これからもそうだと思うんです。

 まさか水島朝穂さんが、九条改憲に賛成ですとある学生が答えたからといって単位をやらないなんということはまずあり得ないと思うし、西さんだってそういうことをしないと思う。堂々とそういうことをやればいいし、万が一それを理由にしてそういうことをしたら、さっきも言ったみたいに世間や報道者がそれを非難すればいいのであって、私は、できるだけ規制を設けずに、大学の自治とか学問の自由とか、百花繚乱、花開くそういう議論の方を期待したいというふうに思っています。

 以上です。

吉岡参考人 御指摘の教育現場における問題ですけれども、私ども意見書に書きましたとおり、地位を利用しているかどうかということは、結局は、例えばコンメンタールを読んでも、個々の事例ごとに判断するということになるんですね。そうすると、その限界が非常に難しいだろう。

 それから、そもそもその対象の教員がどうかというところも、実は、講師は含まれるのかとか、非常勤講師はどうなんだろう、助手はどうなんだろうと、まずそこからもう非常な争いがございます。それから、例えば学部の学生、他学部の学生に教えたらどうだろうかということについても入る入らないの議論がございます。それから、ある先生が学校をやめた後でもとの教え子に言ったらどうだろうか、これまた議論がある。そういうふうに、非常に地位利用については概念があいまいだということがあるんですね。

 ですから、私どもは、あくまでそういうことに関して罰則を設けるということは自由闊達な意見表明に萎縮効果があるだろうという懸念をこの意見書で表明させていただいているわけでございます。

福井参考人 私も今現場で、まさに法学部で憲法と行政法の授業を持っているわけなんですが、大学生は、私の考えるところ、一応判断力がありますから、大学の先生が言ったことを余りうのみにしないんじゃないかなと思うんですね。

 それから、単位が怖いという話もあるんですが、最近は、先生、教師に対する授業評価というのをやっていまして、そっちも怖いのでほどほどにという感じなんじゃないかなというふうに私は思っております。それで、このような議論は恐らく外国では余り起きないんじゃないかなと思っております。

 それから、今の大学生の評価という問題、判断力という問題を含めて言いますと、小中高の場合はどうするかというのが一つの問題点。恐らく懸念されている方もたくさんいらっしゃるんじゃないかと思うんです。これも長い憲法学上の問題の、例えば教科書検定とかそういう問題でも出てくる議論なんですが。高校生ぐらいまでは恐らく判断力もあるであろう、小中になってくるとすり込みが起きる可能性も出てくるということなんですが、私は個人的な意見としては、仮に場合によってはすり込みが起きるようなことがあっても、そこで先生がいろいろな話をすることは、うちに持ち帰って話したりとかいうこともございますから、仮に一方的な話であっても、国民投票が今度あって、こういう感じなんだということを学校の先生が話す方が、むしろ議論が拡大するという意味では望ましいことではないのかなというふうに考えます。

 その関連で情報流通の拡大ということなんですが、私がイメージしていますのはアメリカの住民投票でございまして、その場合、署名を集めてイニシアチブをつくるという形で、市民が盛り上げていくタイプのものを私なんか割と想定しているものですから。そうすると、その署名を集めたり、あるいは集会を開いたりとかという間に議論が拡大していくわけなんですね。そこにはお金の規制は基本的にしないんですよ。基本的に、お金がかかるということは、かけることによって議論が拡大していくんだという発想なわけです。そうすると、私が情報流通の拡大というふうに申し上げたのは、むしろ制限はかけるなという、そうすると自然にだんだん広がっていくものではないのかと。国民が憲法を改正したいという問題を取り上げ、それがだんだん盛り上がっている過程でいくとすれば、むしろ制限をかけないことによって、いろいろな、大学の先生も言い、高校の先生も言い、学校の先生も家庭でも話す、そういう形でどんどん広がっていくというのが、初めてもし国民投票をやるのであれば、そういう盛り上がり方が一番必要なんじゃないかと考えております。

田中参考人 教職員の問題につきましては、レジュメには書いてございませんが、二枚目の2の公務員一般の概念と同じように認識をしておりまして、いわゆる時間外での活動などについても規制されていくのではないかという危惧がございますので、基本的には大変問題があるというふうに認識をしております。

 先ほどお話もありましたように、まさに主権者として国の根本のあり方を決める投票ということになりますから、まさに自由にさまざまな立場で議論が展開されることこそ求められるのではないかというふうに思いますので、教職員の立場からも、多分そういう活動が積極的に行われる方がより国民的な関心が広がるのではないかというふうに思います。

保岡小委員 まず、さっき自由民主党が立憲主義に立っていないようなお話もありましたが、これは再三申し上げておりますように、近代憲法が国の権力行使に対してこうあってほしいという意思を明確にする、命令といったり、まあ、国の基本的なあり方、国民のあり方を定める憲法について、そういう基本的な近代憲法以来の憲法の持つ性質については我々も同感して一致しているところです。

 ただ、今の憲法にある、一般的に憲法にある国のあり方について、従来の国の歴史とかこれからの理念や目標というものや、ある種の国民の勤労の義務とか教育を受けさせる義務とか納税の義務とかという義務をどう理解して憲法の性格の中にきちっと論理的な根拠を持って示すかということの議論が私たちは大事だと言っていて、そういう点での検討が必要だと言っているにすぎないということをわかっていただければと思います。

 それからもう一つ、そういった意味で憲法というのは、国の基本や国民の基本的なあり方を定める決定的に国民主権の重要な権利行使でありますから、これは長い歴史の中で、日本も六十年憲法を改正しなかった、だから国民のあるいは国の置かれている状況も物すごく別世界のように変わってしまった。憲法と事実が乖離していないか、こういう議論が起こってくるのは当然で、党としても、それぞれそういった憲法の規範性を軽からしめないように、地に足がついたものにするためにいろいろな案や議論が出てくるのは当然。また、それに対して反対の意見が出てくるのも当然。

 しかし、確かにそういう重要な憲法改正の主権行使の具体化というのがないと、先ほど来お話に出てくるように、国民が主権を持って、しかも国民投票という制度で憲法を定めるんだということすらなかなか一般の国民に知れていないということになる。しかも、国民投票というのは、世界の例から見ても、国民投票を一たん実施すれば、仮にそれが法的な制度として位置づけられていようが諮問的なものであれ決定的な影響を与えるということを考えると、なおさらそういう憲法論議が具体化される前に、できるだけ早く公正な客観的なルールを決めることは必要だという認識で我々は論議を進めていっていることを御理解いただきたいと思います。

 それともう一つ、私は、そういった意味で、先ほどお話のありました中で、公務員の意見表明、これは裁判官であれだれであれ、意見表明は自由ということは我々の共通の認識でございます。ただ、その意見表明と、投票あるいは投票しないことの勧誘行為との区別があいまいな点はあるかなという気はしますけれども、それは良識によって、常識によって判断していく以外にない、そういうふうに思っております。

 そういった意味でクリステンセン判事の御発言、私の質問に答えていただいたときに、ああ、やはりそういうものかなということをしみじみ思いまして、私もどちらかというと、裁判官は公正中立で、国民運動なんかするのかな、していいのかなと真に思っておりましたが、こういう物の考え方があるのだと改めて思って、こういうところは再考の余地があって、お互いに与野党協議で検討していく課題じゃないかなと思っております。

 それともう一つ、メディアのことで、きょうのテーマにちょっと外れるかもしれませんが、先ほど福井先生からTVのコマーシャルとか反対キャンペーンといったものが度を過ぎると国民の自由な投票行為に影響が大きいというお話がありましたが、自民党は投票日一定期日前のこういった趣旨のキャンペーンを自粛する法案になっていますが、そういうことについてできたら今井さんと福井参考人からお答えいただければと思います。

今井参考人 メディア規制については、天野祐吉さんが前回参考人として来られて、非常に的確な発言をされたと思っています。それで、各国の調査の報告も盛り込まれていますが、勝敗という言い方をしたらおかしいですけれども、どちらが多数派を形成するのかについて、特に新聞、テレビを使った広告という形での国民投票運動は、これを規制するのかしないのかという重要な問題だと思っています。これについては引き続き当委員会の方で議論を深めていただきたいと思っていますけれども、私としては、枝野さん、不在者投票じゃなくて何というんでしたかね。(枝野小委員「期日前投票」と呼ぶ)期日前投票。私としては、期日前投票が始まる当日からはもうメディアを使った広告はしてはいけないというふうにしていただきたいというふうに思っています。そこでもう既に影響を受けるからです。

 現在、例えば保岡さんたちが提出された案はたしか一週間でしたよね、投票日の一週間前からいけないという。諸外国によっては二週間とか三週間前というようなところもあるんですが、私は、日本の場合、どういう期日前投票の規定になるかわかりませんが、期日前投票が始まったらもういけないというふうにしていただけたらいかがかなというふうに思っています。

福井参考人 今の御質問で、テレビコマーシャル等の影響で自由な投票活動に影響が大きいということだったと思うんですが、私は今伺っていて、自由なという言葉にちょっとひっかかりました。

 考え方は二つあると思うんですね。もともと持っていた意見が故意に曲げられたという考え方、それから、もともと意見がちゃんとなかったんだけれども反対意見で不安を感じてやめてしまったということであれば、それは自由な意見が制限されたという考えと、もともと意見が中途半端だったので落ちついたんだという考え方と二つあると思うわけですね。

 それのどちらをとるかということなんですが、私は、住民投票を見ていますと、国民投票を見ていますと、スイスの場合もそうなんですが、大きく三つに分かれているわけです。一つは、投票行動ですね、初めから意見がしっかりしている人たちは大体三割ぐらいなんですね。それから、浮動票もしくはころころ意見が変わりそうな人たち、これは投票にも行ったり行かなかったり。最初に申し上げた方々は必ず行くわけです、必ず行ってしっかりとした意見を持っている。もう一人は時々行って意見がころころ変わる可能性がある。もう一つの人たちは関心がない。大体この三つの層で分かれているわけです。恐らくアメリカもそうだと思うんですが。

 この場合はコマーシャルはどこに影響するかというと、私が申し上げた二番目の層の方々にあると思うんですね。そういう人たちがもともとしっかりとした意見を持っていなくて、コマーシャルを受けている間にだんだん意見が変わっていく。これはねじ曲げられたのか、それともそこに落ちついたのかという評価が、これは皆さんで御議論いただきたいなというふうに考えております。

 必ずしもネガティブキャンペーンが、確かに効力も大きいんですが、アメリカの住民投票なんかを見ていますと、むしろ住民が提案したものの中でも、例えば環境保護やあるいは政治制度改革とかというのもある程度成立していますから、説得力さえあればそういうネガティブキャンペーンには負けないものもある。ですから、結局、負けないものもあるというレベルであれば、むしろネガティブキャンペーンですら情報を提供し議論を拡大しているんだという考え方もできるのではないかと私は思います。

近藤小委員長 福井参考人、何か御質問か御意見等があれば、どうぞ。

福井参考人 引き続き民主党案ということで、せっかくこういう機会を光栄にもいただきましたので、御質問させていただきます。

 私は、今、国民投票を研究しておりまして、自分としてはこういう案がいいのじゃないかなという案をある程度固めているんですが、その中で民主党案の重要問題国民投票というのを大変興味深く感じているところでございます。

 そこで、まず最初に、どういう場合に何を国民に問おうとしているのかということを、具体的なイメージをぜひお聞かせ願いたいというふうに考えております。よろしくお願いいたします。

枝野小委員 抽象的に必ずしも整理し切れるかという問題がありましたので、あくまでも国会の議決でこれは国民に直接聞いた方がいい、国会が決めないで直接決めた方がいいと、少なくとも諮問という線の引き方で法律的には案としてはつくっております。

 イメージとしてあるのは、例えば、数年前に各党が党議拘束を外して、脳死が人の死に当たるのかどうかと。これは政党の中で党議拘束を外したぐらいですから、こういう政治的な国会の中での判断というよりも、むしろ国民の生死観にかかわる話だから直接聞いた方がいいのではないだろうかと。これは党内的にもほぼコンセンサスがとれて、こういうのは当たりますねと。それから、これは党内にも若干議論はありますが、もし皇室典範の皇位継承順位を変えるような話を近い将来するのだとすると、皇位継承順位というのは内容的にも実質的に憲法ですからという絡みもあり、また、どういう結果になるにしても将来の天皇が、国会議員がどこか知らないうちに勝手に決めたでは天皇制の継続という観点からも若干疑問が残る。自分たちみんなで決めたんだという方が天皇制に対する国民の信頼というかシンパシーも高まるだろうと思いますので、こういったテーマは諮問的国民投票に付するにふさわしいテーマではないか。ただ、個別にはその都度判断するしかないかな、こんなふうに思っております。

阿部(知)小委員 話が二めぐりくらい戻って恐縮ですが、運動規制と罰則という本日の当初の論議にもう一度戻らせていただきたいと思うのです。

 まず、その前段、教育者のさまざまな運動の問題については、私は冒頭も申し上げましたが、今、教育現場自身が萎縮しておると。そういう現状を踏まえた上で、教員の方の自殺や子供の自殺も多いし、本当にここで話されていることがきっちり担保できるような取り組みはどこにあるのかということは少し疑念が生じておりますということを一点申し置いた上で、その他公務員の運動規制あるいは罰則の問題で、これは与党にも民主党にも日弁連にもお伺いしたいのですが、そもそも公職選挙法は、憲法で申しますと十五条にのっとって、そこに基づいた法の規制でありますし、それが今度九十六条の国民投票法のさまざまな罰則等々にあるいは規制にそのまま横滑りするというようなことはどうお考えなのか。していないと民主党はおっしゃるでしょうけれども、与党の皆さん、あるいは日弁連の皆さんには、その各法律が持つ法から得る利益とは何であるのか、法益との関係でお考えを教えていただきたいということが一点目。

 二点目は、そもそも、今の国家公務員法でも、人事院の規則等々でも、これは参考人の田中さんがおっしゃいましたが、我が国の国家公務員等々にかかわりますさまざまな活動に関しましては、国家公務員法の百二条の一項、あるいは人事院規則の十四の七等々で時間外においてもさまざまな制約も課せられており、これは国際社会では我が国以外には存在しないのではないかと言われるような状況下で、せんだって、田中さんの御紹介のような事案も、チラシをまいてということで、社会保険庁の職員が時間外の活動でしたが問題に問われるというようなことも生じておるわけです。

 そうすると、与党の皆さんは、今回の幅広い、いわば国民投票にかかわるさまざまな運動がやはりあればよいというきょう皆さんの御意見でしたから、そういうことから考えて、現行の国家公務員法あるいは人事院規則等々はどのように現状考えておられるのか。これは民主党の皆さんにも一緒で、一応、枝野さんがたしか本会議で少し御答弁でありましたが、それらに加えて新たに政治活動の規制等々を加えていく気持ちはないんだと。先ほど法制局からもお話しでしたが、しかし、なおかつ現状の国家公務員法、人事院規則等々でもかなり制約されている中にあるのではないか。私は、逆に担保できるものを、もっと広く運動が担保されるべきと思いますから、その点民主党はいかがかと。あるいは日弁連には、冒頭投げました与党の皆さんへの御質疑と同じものをお伺いしたいと思います。

保岡小委員 我々も民主党とその点は共通だと思いますが、選挙運動と国民投票運動というのは、片や人を選ぶ選挙あるいは政党を背景にする政党を選ぶ選挙、そういう国家の基本的なあり方を選択する投票とはおのずから大きな違いがあるので、運動規制は両方パラレルだとは思っておりません。したがって、どちらかというと地域が限定して特にこの人というような選挙というものはそれなりのルールがあると思いますが、広く国の基本的な一般的なあり方を問う投票というのは原則自由ということで、公正さを担保する必要最小限度という点では民主党と全く共通していることだと思います。

 それから、地方公務員とか国家公務員の政治的中立を確保するそれぞれの法制と、公務員の特別な立場からする運動規制が必要かどうかという問題は、先ほど枝野先生からもお話がありましたが、先ほどの法制局の見解などをよく踏まえて、これからの議論を踏まえて、最も適切なあり方をしっかりと整理して考えて、原則自由な国民投票運動ができるという基本に立ちながら答えを求めていきたい、そういった意味では今後の検討課題だと思っております。

枝野小委員 選挙とは違うということの前提で我々は考えてということであります。

 ただ、あえて申し上げれば、そうはいっても新しい制度をつくるのでどういうことを考えなきゃいけないかというのはあったわけで、そのときに従来の選挙に対するさまざまな規制は参考にはしました。ただ、参考にしましたが、その中でどれを外すのかではなくて、この中で国民投票の場合にも同じことが当てはまるのはどれかということで若干ピックアップした。つまり、投開票にかかわる人というようなことですね。そういう意味では、やはり原則自由、全然逆の発想から考えたということであります。

 それから、公務員一般の政治活動の話でありますが、先ほど申しましたとおり、我々としては、憲法改正国民投票運動に関しては全く自由にできるように現行の公務員諸制度の規制のところを取っ払うための修正を準備したいというふうに思っていますので、これは与党でもそうしていただければありがたいと思います。

 その上で、一般的な政治活動については、現行のものがいいという判断をしているわけではありませんが、ここは、では全部取っ払えばいいのかというと、先ほど私が指摘をしましたとおり、幹部の公務員がその地位を利用していろいろなことをやったりするのは、これはちゃんと縛らないといけないですね、一般的には。そこの政治的中立性は担保しなきゃならないというようなことを考えると、どこをどう自由にして、どこをちゃんと縛っておかなきゃいけないのかということの仕分けが要りますので、これはこれで、これは総務委員会なんでしょうか内閣委員会なんでしょうか、そういうところの場で議論をきちっとするテーマであるかなというふうに思っています。

 短いので、先ほど札を立てていた話を、懇談ですからちょっとお話しさせていただきたいと思うんですが、この間の議論の中で、公務員、教育者の地位利用の話については、地位利用の範囲があいまいではないかということの指摘を特に参考人の皆さんから言われていまして、これは地位利用という条文が先ほど葉梨先生のお話のとおり既にいろいろな法律にあるわけですから、従来のさまざまな実務の積み重ね、判例の積み重ね等でこういうふうに心配ないんですよとおっしゃるんであれば、与党にこれは立証責任があるというふうに思いますので、これは次回までに立証作業をしていただく必要があるんではないかというふうに指摘をしておきたいと思います。

 それから、買収罪のことについては、これは逆に前例その他がありませんので、もう一言、特に日弁連だと思いますが、この構成要件ではこういうのが当たってしまう可能性があるとか、こういうところに萎縮効果が働く可能性があるとか、もう一言、二言、これでは危ないんだということについての御指摘をいただいた方が今後のこの部分の議論に資するんではないかと思いますので、後ほどお願いをいたします。

 以上です。

近藤小委員長 与党の方は、今の枝野先生の御質問は次回に整理をしてということでお願いをいたします。

 日弁連はどなたかお答えを。阿部先生と枝野先生の御質問のところです。

菅沼参考人 時間もあれでしょうから、なるべく短く。

 まず一番目に、今、学校の先生が萎縮しているという問題については、先ほども吉岡副会長の方から御回答したように、確かにそういう問題がありますね。それと、これはきょう議論している法律だけの問題ではなくて、もっと法律以外にも、通達の問題だとか現状をどうするかということは、これからも考えていきたいということでちょっと御回答にさせていただきたいと思います。

 それから、公選法との違いについて、実は前にも、ある議員の先生にも、いわゆる選挙と大分違うのでこういう規定ではどうなのかという従前の案のときにもお話をしたときに、十分そこの配慮はこれからすると、それで違いは十分認識しておりますという御回答をいただいてはおるんですが、現実に今出ている案を見ると、こんなに罰則をする必要があるのかという疑問はやはり持たざるを得ないと思います。全くゼロでいいかということは宿題にさせていただきたいですが、こんなに広範な罰則、特に内乱罪みたいな規定まで置く必要があるのかなという疑問は持っております。それと、ゼロではなくても、先ほどからお話が出ているように原則自由だと、だから罰則をこの法律で置く必要はないのが原則かなと。

 それから、刑法だとか国家公務員法だとか、既存の法律で甚だしい場合は制限ないし禁止できるんではないかという気持ちと、それから、既存の法律がこの場面で乱用されるおそれがないように十分気をつけていただきたいということまで申し上げて、一応回答とさせていただきます。

 先ほどの枝野先生の、どういう構成要件という……

枝野小委員 構成要件では、本当に悪いものだけではなくて、適用される可能性があるというような趣旨ですよね。

菅沼参考人 こちらから余り言うのは……。

 一個だけ、例えばある弁護士会でも団体でも、会場を有料で借りて、人を呼んで、例えば大学の先生をお金を出して講師で呼んで話を聞きましょうと。ある程度の人数だったからお茶ぐらいは出しましょうと。無料ですよと。そんなことまで供応に当たるようなおそれはないかと。例えばそういう例も考えると、どこまで広がっていくかという線がこのままでは非常に引きづらい。だから、こちらから、その線が引きづらいのであれば、民主党さんもおっしゃっているようにむしろつくらない方が、つくったことによる萎縮という問題以上のことはないのではないか、基本的にはそういう考えでおります。

 以上です。

笠井小委員 若干のことで申し上げたいと思うんですが、一つは、先ほど愛知委員が言われた御意見とのかかわりで、きょうの質疑、参考人の方からも伺いながら、私は福井参考人が国民の間で盛り上がってから改正するのが筋だというふうにおっしゃったことが非常に大事な点なのかなというふうに受けとめました。やはり国民の間で改正について盛り上がったときにそのための手続をどうするのかということで定めていくということになれば、私は、おのずと共通のルールというか落ちついたルールができるんではないか、むしろそのように感じているところで、改憲に反対である国民にとっては、改憲は必要ないわけですからそのための手続法は要らないんだというのは、ある意味自然なことではないかと思ってきょうの議論を伺っていました。

 若干のことを参考人の方々に伺いたいんですが、一つは、今井参考人と福井参考人に、国民投票ということについてですが、いつやるかは別として、日本では経験がない、選挙とも違うという話がありました。そもそも、国民投票で運動をするということになると、憲法制定権者である国民は、だれでも、どこでも、どんな場面でも、いつでも自由に意見表明をして、そして議論をするという過程というのが大事なんだろうと思うんです。そうすると、さっき日弁連の参考人もおっしゃっていたんですが、その中で、では勧誘というのはどこから勧誘になるかというのは非常に微妙な問題で、これはそういうふうに受けとめる場合もありますし、意識的に勧誘して、こうしようね、入れてねと言う場合もあるしということになってくるわけなんですが、やったことがない国民投票というのを一体どういうものとして考えていらっしゃるか。福井参考人は特に諸外国で言うと大体どういうイメージを考えていらっしゃるか。ちょっと漠とした話になりますが、つまり、勧誘とかということとの関係で運動を規制するしないという話が出てきますので、端的に伺えればと思います。

 それから、日弁連の方に伺いたいんですが、きょうの御意見の中でも地位利用という不明確な概念で公務員、教育者の活動を規制することは、これらの者の意見表明や活動を萎縮させる現実的危険性ということで言われております。先ほど、教育の現場でタブー視するということを冒頭にも言われましたけれども、それ以外に、現実的危険性と言われるのは例えばどういうことを想定していらっしゃるのかという点が一点。

 もう一つは、六月一日の本会議でこの法案について質疑をやったときに、与党の提出者が、公務員について具体的に禁止される行為というのは、さっきもありましたが、許可、認可の権限を有する公務員が関係者に対してその権限に基づく影響力を利用する行為だというふうに答弁しました。しかし、今回の法案を読みますと、地位利用というふうに書いてあるだけで、何の限定も法文上はないわけですよね。だから、このような地位利用という法案の書き方から、与党の提出者が答弁したような限定というのが可能というふうにみなすことができるのか、例えば捜査当局はそういう運用を実際にするというふうにお考えかどうか、その点について伺いたいと思います。

今井参考人 笠井さんがおっしゃったことにちょっと異論があるんですね。それは、国民投票というのは、改正をしようという意思が国民の中から、議員だけじゃなくて国民の中から盛り上がってきたときに手続法も制定されて国民投票も実施されるべきではないかと、本来国民投票とはそういうものじゃないかというふうなことを共産党の方々はいろいろなところで御発言されていますけれども、私は、事実はそういうことだけじゃないというふうに思っています。

 例えば一九九一年にバルト三国が、皆さん方、調査団がエストニアの方に行かれましたけれども、九一年二月、三月にバルト三国が独立しました。これは笠井さんおっしゃるとおり、独立をしたい、もうソ連から出ていきたいんだという気持ちが盛り上がって実際にそれが行われたわけですね。同じ年の三月十七日、バルト三国の国民投票は二月九日と三月三日ですけれども、同じその三月に、ソ連邦を解体するかどうかの是非を問う国民投票が行われています。これは、ソ連の憲法のたしか第五条だったと思うんですけれども、「全人民討議、全人民投票」というのに基づいて行われた。だれがやったかというと、ゴルバチョフが提案したんですけれども。これは別に連邦を解体させたいという声が盛り上がったわけじゃないんですよね。そういったバルト三国の動きに対して対抗する措置として、本当にソ連がなくなった方がいいのかどうかソ連人に聞いてみようじゃないかということでやったわけですよね。

 あるいは、スイスでEUの加盟の是非を問う国民投票が二〇〇一年の四月四日に行われていますが、これはスイス人の中から私たちもEUに加盟しようじゃないか、しようじゃないかという声が盛り上がったわけじゃないんですね。大事な問題だからこれはやはり決めた方がいいんじゃないかという声が国民からも議会からも政府からも出てきたから、ではやりましょうということになったわけです。御存じのように、ヨーロッパの地図を見たらわかりますけれども、経済地図を見たらわかりますけれども、ど真ん中のスイスだけはEUに入っていないわけですよね、国民投票で否決したわけですから。

 だから必ずしも、こういう方向性、憲法改正、あるいは新しいどこか同盟への加入、そこにみんなが、国民が行きたくなったら、あるいはそういう気持ちが高まったらやるということだけじゃないんですよね。いろいろなパターンがあるということが事実なんで、それをぜひ御認識いただけたらというふうに思っています。

 特に、私は、九条の場合は、笠井さんの言うことも一理あると思いますけれども、国民の中には、自分は具体的に憲法九条を変えた方がいいとも確信を持っていないし、変えない方がいいとも思っていないけれども、非常に重要な問題だと、解釈改憲が進行する中でこのことについてははっきりさせた方がいいんじゃないかと考えていらっしゃる人は相当数いると思います。この人たちは明確に変えた方がいいとは思っていませんけれども、これは国民投票で決着をつけた方がいいんじゃないかと。例えば私がそうなんですけれども、そういう人もいるわけですから、そういう人がふえたらやはりやってもいいんじゃないかと私は思っています。もちろん、九十六条の手続を踏んでの話ですけれども。

 以上です。

笠井小委員 国民投票とはどういうことであるか、勧誘という問題で御質問したんですけれども。

 先ほど御質問したのは、国民投票というのはやったことがないことであって、あらゆる場面で国民が意見表明して、議論して、そしてやるということに、いつかは別として、なるのではないか。日本ではやったことがない、選挙とも違うという話だったんですが。そのときどういうものとして国民投票運動というのがあるのか。勧誘というのは、どこから勧誘になるかというのは難しいですね。これはつまり、先ほどの日弁連のお話だと……

今井参考人 勧誘というのはどういう意味ですか。

笠井小委員 この法案にもありますけれども、勧誘することが運動になるというふうに書いてあるわけですけれども。つまり、意見表明して自由に議論することと勧誘というのは、なかなかこの境目は難しいだろうと。受けとめる側もありますし。つまり、国民投票運動というのはどういうものとして考えていらっしゃるか。その規制とのかかわりになるんですけれども、そこのところについて今井さんのお考えは。

今井参考人 私はさっきも申し上げたように、勧誘とか運動とか意見表明とか、そういう垣根はできるだけ取っ払った方がいいと思っています。それは非常に恣意的にならざるを得ないと思っています。

 先ほども申し上げましたように、どう考えても非常識だとか、おかしいじゃないかということがあれば、その都度報道者なり政治家なり国民が批判すればいいことであって、その都度それを是正していけばいいのであって、最初から明確な垣根を設けたとしても、それは非常に恣意的になってよくないんじゃないかというふうに考えております。ただし、批判は強烈にすべきだと思います、そういうひどい、あしき行いをした場合には。

吉岡参考人 今の具体的危険性ということについて、具体的事例ということは特に持ち合わせしてはございませんが、委員御案内のとおり、いろいろな場面で、例えば私ども漫画のパンフにも書かせていただきましたけれども、当然、学校現場で、生徒から、先生、憲法改正についてどうなんでしょうとかと聞かれることは十分あり得るわけですね。そういう場合にどうやって教師は答えるか、どこまで答えたらいいのかというようなことを考えていきますと、これは地位利用かどうかなかなか微妙な問題があるだろう。

 そして、一番問題なのは、地位利用かどうか最終的に判断されるのは、例えば具体的に立件されて、最高裁判所で有罪になったときが有罪なんですよね。その前に、例えば逮捕されることだけでもこれは大変な犠牲になるわけですから、そういう意味で萎縮効果が十分考えられるということを御指摘させていただいて、回答とさせていただきます。

福井参考人 まず国民投票のイメージということでございますが、国民が発案する場合と議会、政府がする場合と二つございまして、最初に国民が発案する場合を考えてみますと、私は、自分の制定したい法律をつくるということが恐らくかなりのインパクトがあって、これはやはり政治参加の喜びというか教育機能というか、そういうものは物すごく高いのじゃないのかなと思っています。

 ただ、アメリカのイニシアチブという制度は、実はかなり運用の難しい制度でございまして、いろいろなハードルといいますか、濫用が起きないようにフィルターをかけていかなくては難しいんですね。そういう意味では、日本では将来的に今すぐという話はなかなか難しいんじゃないかなとは思っています。

 それからもう一つ、政府が実際に行うタイプの国民投票、政府、議会が提案するタイプの国民投票なんですが、多くの国の場合は大体やむにやまれず国民投票するしかもう問題の解決法がないだろうという形でやっている場合が多いんですね、特に議会が提案する場合は。与党内が分裂する、連立内閣が壊れそうである、それから、議会と大統領がデッドロックに陥っていて、もうこれをやるしかないんだというような形でやる場合が多い。そうすると、大体、必然的に盛り上がるんだというイメージがございます。ですから、盛り上がって下から上がっていく国民投票ですから、自然に、むしろ規制をかけなくても黙って上がってくるんじゃないかな。そういう場合は、勧誘、まあ細かい議論はもちろん必要なんだと思いますが、むしろ余り規制をかけない方向で行くべきではないのかと。

 私が気になりますのは何を改正しようとしているのかというのが、特に憲法の研究者の中では九条ということを念頭に置いているのかとは思いますが、私、一つ気になるのは、憲法を改正すると、それで九条に自衛権を明記し海外派兵の可能性もあるというような形に仮にしたとします、もしその改正案が否決されたときというのは一体どういうふうになるんだろうなということをかなりまじめに考えたことがあるんですね。それは現状追認なのか、それとも、いや、軍隊は要りませんよという意味なのか、これはわからないんですね、どういう意味なのかということが。

 そういうことも含めて、案をどうやってつくるかというのは、ぜひ今後も御検討いただきたいというふうに考えております。

笠井小委員 先ほどの六月一日の本会議の与党の答弁との関係で、地位利用ということについて、そのときに与党の提出者が許可、認可の権限を有する公務員が関係者に対してその権限に基づいて影響力を利用する行為だというふうに答弁しているのですけれども、この法案自身では地位利用という言葉しかないわけです。そういう書きぶりから提出者が言うような限定というのは可能というふうに読めるのか。捜査当局がそういう運用をするのかということについてなんですけれども、先ほど御質問したのは。

菅沼参考人 それは日弁連が運用するわけではございませんので、現実にどういうことになるかというのは、かなり幅広く、いろいろな場面が考えられるだろうなと。だから、そういういろいろな場面が考えられないように法律はつくっていただきたいというのがこちらの考え方。ちょっとこれは本当に日弁連で議論したかというとあれですが、基本的にはそういう姿勢でお答えしていいかなと思っていますけれども。

近藤小委員長 時間が迫っておりますので、保岡先生がプレートをお上げですが、他の先生はよろしいでしょうか。

 それでは、保岡興治君。

保岡小委員 先ほど枝野先生の御質問に答えて、菅沼参考人からお話があった買収の、あるいは必要性、これについては例に挙げられたようなお茶とかジュースとかお菓子、いわば公職選挙法では供応接待になりかねないようなものであってもそういうのは報酬に当たらない、あるいは賛成、反対の投票をしない、またはしないことに対する影響を与えるということまでは言えないということで、我々もそれは今回提案している買収の類型には入らないと考えているんですが、今後、ない方がいいと、買収なんかはもう自由でいいんだというお考えもあろうかと思いますし、そういう御意見もありましたが、なお本当にこれは運動の公正さを担保するためにやはり必要だという限定されたものを我々は工夫しようと、そういった意味では再考していこうと、与野党の協議の中でさらに工夫はないかという観点に立っていますので、さらにいろいろ御意見をいただく機会があればと思っております。

近藤小委員長 予定の時間になりましたので、これにて懇談を終了いたします。


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