衆議院

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第4号 平成27年6月4日(木曜日)

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平成二十七年六月四日(木曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 坂本祐之輔君

   理事 井上 貴博君 理事 小松  裕君

   理事 冨岡  勉君 理事 馳   浩君

   理事 山本 幸三君 理事 津村 啓介君

   理事 伊東 信久君 理事 伊藤  渉君

      青山 周平君    井林 辰憲君

      尾身 朝子君    大隈 和英君

      神谷  昇君    神田 憲次君

      熊田 裕通君    古賀  篤君

      田所 嘉徳君    渡海紀三朗君

      豊田真由子君    中川 俊直君

      中山 展宏君    藤井比早之君

      古田 圭一君    松島みどり君

      宮崎 謙介君    八木 哲也君

      小川 淳也君    大串 博志君

      長島 昭久君    平野 博文君

      丸山 穂高君    輿水 恵一君

      中野 洋昌君    島津 幸広君

      真島 省三君

    …………………………………

   参考人

   (国立研究開発法人理化学研究所理事長)      松本  紘君

   衆議院調査局科学技術・イノベーション推進特別調査室長           行平 克也君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月四日

 辞任         補欠選任

  宮崎 謙介君     熊田 裕通君

  伊佐 進一君     中野 洋昌君

同日

 辞任         補欠選任

  熊田 裕通君     宮崎 謙介君

  中野 洋昌君     伊佐 進一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 参考人出頭要求に関する件

 科学技術、イノベーション推進の総合的な対策に関する件(理化学研究所の改革について)


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     ――――◇―――――

坂本委員長 これより会議を開きます。

 科学技術、イノベーション推進の総合的な対策に関する件、特に理化学研究所の改革について調査を進めます。

 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として国立研究開発法人理化学研究所理事長松本紘君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

坂本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

坂本委員長 この際、松本参考人に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用のところ当委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、松本参考人から十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に簡潔、端的にお答え願いたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、衆議院規則により、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 それでは、松本参考人にお願いいたします。

松本参考人 皆様、おはようございます。国立研究開発法人理化学研究所理事長を拝命してございます松本紘でございます。

 本日は、このような機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 理化学研究所は、この四月一日から、研究開発成果の最大化ということをミッションとする国立研究開発法人に衣がえをいたしてございます。

 時を同じくして、私も四月一日に理化学研究所、理研と言わせていただきますが、理研の理事長に着任をいたしました。

 このミッションを実現するに当たりましてどうすればいいかということで、私も理研にいたわけではございませんので、まず、理研の内部を知る必要がある、問題点があればそれをちゃんと処理する必要がある、そういうつもりで、着任してからおよそ四十日間、一カ月と少し、連休が入りましたので四十日ぐらいになりましたが、その間、理研にあるほぼ全ての事業所、十七のセンターを訪問して、議論を重ねてまいりました。

 それぞれの事業所で、センター長を初めとする研究管理責任者や若手など、約百五十名の方々と議論を重ねてまいりました。そして、面談をする中で、それぞれが抱えておられる問題、あるいはシステムの問題と感じているような問題というものを提起していただきまして、そこで出された意見を参考にして、研究開発成果の最大化に向けて、きょうこれから御説明をさせていただきます、お手元に一枚物の資料があると思いますが、理研科学力展開プランを取りまとめたところでございます。

 理研科学力展開プランは、理研が総合研究所として研究開発のポテンシャルを高め、至高の、つまり最高の科学力をもって国の科学技術戦略の担い手となるための方針を示そうとするものです。理研自身の発展と同時に、我が国の発展のために理研がなすべきことという観点を考慮してまとめさせていただいてございます。

 我が国は世界第三位の経済大国と言われておりますが、日本が世界トップクラスの経済力を維持し、人類文明の発展のために、また自然環境との共生のためにも、科学技術の強い力によるイノベーションが必要だと思っております。そのために、理事長として、理研がなすべきことを明確に示して、理研をどう導いていくか、私の考えを五つの柱にまとめさせていただいております。

 一つ目は、研究開発成果を最大化する研究運営システムを開拓及びモデル化するということです。

 理研は国立研究所でありまして、研究成果を生み出すことが第一のミッションです。研究者は、研究を通じて社会貢献するために日夜努力をしております。その努力を最大限成果として世に出していくためにも、研究所のマネジメント、ガバナンスがとても重要と考えております。そのためには、不祥事を二度と起こさないこと、新たなシステムを構築し、若い研究者の元気を取り戻すことが必要です。

 理研は、優秀な研究者を集めるために、研究機関としては、一九八六年という比較的早い時期から任期制の人事制度を導入してまいりました。そして、任期制と従来からございました定年制の二つの異なる人事制度を混在させて運営をしてきておりました。しかしながら、今日に至り、任期制研究者のキャリアパスが見えにくいなどの問題が生じてきています。このことから、さらに研究に集中できる環境を整えるためにも、人事制度を一元化し、運用していくことが必要だと考えました。

 また、理研が全体として力を発揮するためには、本部が全体の目標管理、評価、資源配分を行うなどの機能を果たさなければなりません。センターごと、個別事業を最適にするというのではなくて、理研全体の強力なマネジメントのもとで、全体最適となるように努力をしていきたいと思います。そのためには、基盤的な研究資金である運営費交付金の中長期目標期間における安定化が不可欠だと考えております。

 これらの課題は、多くの大学にとってもまだ解決していないことであり、大学や企業の研究所からも、理研のこのモデルはいいモデルだというふうに言ってもらえるものをつくり出したいと考えております。

 二つ目は、至高の科学力で世界に先んじて新たな研究開発成果を創出するということです。

 この趣旨としては、もちろん理研単独でもすぐれた研究成果の創出に取り組みますが、さらに、全国の大学や研究機関と一体となって、国の科学力を総体として向上させ、国力としての研究開発成果の最大化を図りたいと思っております。

 人類社会の課題解決という問題は取り上げられて久しいですが、それを目指すためには、さまざまなミッションに対応できるよう、総合研究所として広範な分野の研究開発を進めていきます。また、基礎研究をしっかりと推進し、深化させたいと思います。このことにより、世界に先んじた研究成果の創出に取り組んでまいりたいと思っています。

 もちろん、次の社会をにらんだビジョンを策定し、それに向けて科学技術がいかに貢献できるかということを明らかにし、着実に実行してまいりたいと思います。

 理研は、野球でいいますとキャッチャーとして国が投じるボールを受けますが、キャッチャーがサインを出しますように、理研からも国にいろいろ申し出、提案をしていきたいと思ってございます。

 三つ目は、イノベーションを生み出す科学技術ハブの形成をするということでございます。

 先ほど、国力としての科学力ということを申し上げました。理研はオール・ジャパンでイノベーションに取り組むのですが、アンダー・ワン・ルーフで、大学や研究機関、あるいは企業をつなぐ中核としての機能、これを果たしたいと思っております。それを私たちは科学技術ハブと称しています。

 大規模で、理研でしかできない研究はもちろんございます。しかし、理研だけではできない研究も多くございます。優秀な研究者を理研に集める、そして大きな成果を生み出す、そのためには、例えば、クロスアポイントメントの制度を大学の研究者に適用することによって、大学に籍を置きながら理研の研究にも参画できる、そういうふうにしたいと考えております。この取り組みを通して、理研の研究や制度を大学の方々ともシェアをしながら広めてまいればよろしいのではないかと考えております。

 四つ目は、国際頭脳循環の一極を担うということです。

 理研の運営を国際的なスタンダードに近づける、現在でもたくさんの国際研究者が来ておりますが、スタンダードに近づけることによって、海外からの研究者がより参画しやすい環境を整えたいと思っております。

 例えば、研究支援スタッフ。海外の研究機関では、論文を書くためのサポート、実験機器のエキスパート、あるいはソフトエンジニア等の技術者が研究者の周辺にたくさんいます。

 海外から著名な研究者を呼ぶと、その研究室には世界から優秀な研究者がやってまいりますし、世界のさまざまな研究文化、あるいはその国の文化が一緒にやってまいります。海外からの研究者が定着するかどうかは、こうした環境をいかに国際的な標準にするかということがポイントになろうかと思っております。

 英語の公用語化につきましては、新聞報道でも見出しになっておりました。英語で議論するということは、将来、国際的なリーダーとなる若手研究者にとってはとても重要なことです。国際学会等で活躍するための必須のスキルと言えるでしょう。セミナーやシンポジウムの公用語は英語ですから、理研内部でも英語で議論することによって、お互いにこなれたフレーズを身につけていただいて、みずからの考えをきちんと発信できるようになることを期待してございます。

 最後の五つ目でございますが、世界的研究リーダーを育成するということです。

 資源の乏しい我が国は、これまでも科学技術により国を興すという戦略で臨んでまいりました。また、御案内のように、火山や地震の多発する国土においては、科学的な防災、減災対策ということも大変重要だろうと思っております。

 科学力は、それを担う科学者そして技術者の強い意思と、それが多くの人たち、つまり、国民によって支えられることが重要となります。世界的に活躍する新しい研究リーダーを育成する、出てくるということは、多くの人たちが科学技術に夢を持つということにつながります。

 「終身の計は人を樹うるに如くはなし」という言葉がございますが、人を育てることが最も重要だろうというふうに考えております。若手研究者を長期的に安定的に雇用する道を開く、そして海外へ留学させるなど、夢を持って研究に取り組めるよう環境を整えてまいりたいと思っております。

 キャリアパスとしては、若いときに研究をやってずっと研究者という方もおられますが、それ以外に進まれる方もあるわけで、そういう意味では、研究者以外への道も開拓することによって、各人の能力を最大限活用するということが我が国にとって重要ではないかと思っております。

 最後になりますが、理研の各センターを私は訪問させていただきました。私の印象は、理研には随分すばらしい研究者がいるな、もちろん大学にもすばらしい研究者はおりますが、理研は特に固まってすばらしい研究者がいるなというふうに感じました。

 また、大学では実現できないような超大型の研究施設、スーパーコンピューター「京」、あるいは大型放射光施設SPring8、エックス線自由電子レーザーのSACLAなどが整備されており、多くの方々に利用されております。これは、学界、学者だけではなくて産業界の方にも利用されております。

 それぞれの研究室にも、こういう大型設備以外の最先端の設備が入っておりまして、この分野では私たちは世界一ですと胸を張って言ってくれる人がたくさんおられました。大変うれしく思いました。日々新しい成果を生み出して、世界の科学技術を牽引しているというプライドを感じることができました。

 明治時代には、非常に意気盛んな若者、優秀な若者が海外に出て、新しい知見を西洋から持ち帰って、また同時に、日本は優秀である、日本人とはこんな魂の持ち主だということをその時代にアピールしてこられました。

 今後も、我が国の優秀な研究者が海外で活躍し、また、海外の研究者が理研で活躍されるということを考え、理研の、そして我が国の科学技術や文化に対する評価を高めていかねばならない、こんなふうに思っているところでございます。

 以上、簡単に御説明いたしましたが、理研科学力展開プランを理研の経営方針として、今後、この五つの柱に沿った戦略を具体化してまいりたいと思ってございます。

 委員長、委員の先生方の御指導、御鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

 ありがとうございました。(拍手)

坂本委員長 ありがとうございました。

 以上で松本参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

坂本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田所嘉徳君。

田所委員 自由民主党の田所嘉徳でございます。

 貴重な質問の機会をいただきまして、心より感謝を申し上げたいと思います。

 また、ただいまは松本理事長より、理研の充実、そして我が国の発展にかける大きな意気込みを聞かせていただきまして、大変頼もしく思ったわけでございます。

 そこで、もうほとんどの事業所を訪問して多くの研究者とも議論をしてきたということでございます。まさに、現場から得るものは大変重要なことがあるだろうと思います。

 私は、理研のこれまでの経緯を見てみますと、急激に研究所がふえてきたということがあろうと思います。そういう中で、大変特別なのは、九割も任期制の研究員がそれを担っているということでございます。それがどのような効果、あるいは障害を招来しているのか、それをちょっと聞きたいというふうに思っております。

 そして、STAP細胞問題がありましたが、そういったものとの関係、あるいは理研の信頼回復の処方箋というものをどう考えておられるのか、お聞きしたいと思います。

松本参考人 お答えいたします。

 任期制の研究員が多いというお尋ねでございましたが、九割ぐらいが任期制の研究者でございます。先ほど申し上げましたが、一九八六年、割合早い時期に任期制の導入を図ってございます。

 今世紀に入りましてからいろいろな戦略センターを設置してまいりましたが、センターそのものも有期でございますので、そこで働く研究者も有期、基本的には、毎年更新でございますが、五年までとしてございます。優秀な人はさらに五年までいけるというような制度になってございます。

 これの長所、短所でございますが、長所は、非常に多くのフレッシュな研究者が常に理研に入ってきて、理研から大学なりほかの研究機関に流れていくという、頭脳循環には大きな貢献をしてきたと思います。

 一方、短所の方は、期間が五年といいましても、最初の年は、理研に来て、その研究テーマに取り組むための準備期間としてほぼ費やされます。その次の年から本格的な研究に入って、研究成果を出して論文にまとめるというプロセスが入るんですが、最後の一年間は、恐らく次の職探しということで、大変忙しい。そういうことで、五年と言われても実質三年、こういう不平不満が若手の中にはございました。

 それをどうしようかということでございますが、全員を定年制ということはもちろんできません。フィルターをかけて、いい人を残していって、そして、長期的な研究に取り組みたいというビジョンをしっかりと持っている方に関しては、テニュアトラックという制度を新たに設けまして、そこに乗せていろいろな資質を見ていく。そうすることによって、将来の理研のコアとなる人物が定着するということもありますし、優秀な方はここから出ていって、大学等で活躍される、そんなふうに考えてございます。

田所委員 テニュアトラック制度というんでしょうか、そういった移行制度というものも研究者の意識高揚ということにもなるだろうと思いますし、しっかりと取り組んでいく必要があるんだろうと思います。

 先ほどの話の中でも、研究成果の最大化ということが言われておりました。これを聞きますと、どういうことをもってその効果を評価するのかということでありますが、被引用論文であるとか国際共著論文等において評価するんだというようなことが言われておりますけれども、私は、もっと直接的に、産業活動にどのくらい寄与をしているのか、あるいは、国際的に先端を行って特許等でどういう価値を得られているのか、金銭的な評価があるかもしれません、いろいろな面を含めて、そういったものをしっかりと評価するということが重要であろうと思いますが、その点についてどう考えているのか、お聞きしたいと思います。

松本参考人 ありがとうございます。

 国際的なことも視野に入れて研究者をどう評価していくか、これは大変難しい問題であります。

 現在、御案内のように、ランキングというのが世界じゅうで大変横行しておりまして、西洋の目から見た、西洋文化の中から見たランキングというのが出ております。

 研究者は、国内はもちろん、いろいろな研究機関を渡り歩く方もおられますし、一カ所でずっとやられる方もおられますが、いずれにしても、その標準がそろっていないといい研究ができないわけで、引用論文数とか国際共著論文数というのは彼らの視点からいっても重要ですし、我々の視点からいっても重要だと思います。

 ちなみに、理研は、発表する論文のおよそ半分が国際共著論文になってございます。これは非常に多いと思います。それから、引用される論文も、トップテンとかトップ一%に、よく引用される論文の比率が理研は非常に高うございます。大学、研究機関を含めて、日本で一番質の高い研究論文が出ている。

 お尋ねの評価ですが、そういう研究者として当然の引用論文数とか内容もありますが、ほかの、研究者がどういう研究成果を生み出すか、つまり、アウトプットじゃなくてアウトカム、論文を生産するだけじゃなくて、どういうふうに社会に貢献するかという点も評価してまいりたいと思ってございます。

田所委員 今説明を受けましたが、もうちょっと現実的な、産業寄与とか特許等の現実的なものも考慮してもらいたいなというふうな思いを私は持つわけでございます。

 また、全体の中で本部機能を強化するということがございました。私は、二つの面があるというふうに思っております。

 それは、STAP細胞の問題などが起きたようなことがないように、さすがに理研は研究者の集団であって、そういう中にあって、そういうことが発生しないような、しっかりとした内部統制のシステムといいますか、そういった機能がまず重要だろうというふうに思っています。

 もう一つでありますけれども、私は、どんな成果を求めて課題をつくっていくのか、全体をリードしていくのかということが本部機能に求められる大きな力だろうというふうに思っております。日本の成長の、産業の米となるような研究開発というものを推進していく、そういう選択というものが非常に重要だろうというふうに思っております。

 例えば、今、がんなども、免疫療法が重要であるとか、一方では重粒子線等を使ったものが必要なんだとか、いろいろなことがありますが、限られた資源の中でどう選択をして進めていくのか。白眉プロジェクトというようなものも考えられていたようでございますが、こういったものをしっかりとリードしていく、そのことが重要だろうと思います。それをどのように進めようとしているのか、その点を聞きたいと思います。

松本参考人 お答えいたします。

 お答えする前に、一言だけ。先ほどの質問で、産業とのつなぎをどうするんだ、どう評価するんだというお話がございました。それは大変重要と思っていまして、例えば、パテント一件は論文何件に相当する等々、分野によってしっかり見きわめて、評価点に加えたいと思ってございます。

 今のお尋ねの件でございますが、本部機能をどう強化するのかというお尋ねでございますが、これは、今まで理研は各センターの主体性を尊重して、それぞれのセンターが成果を追求するというスタイルで研究を進めてまいりました。それなりに成功してきたと思います。

 しかしながら、先ほど申し上げましたように、理研は本年四月に国立研究開発法人となり、研究開発成果の最大化がミッションになりました。言いかえると、ダイナミックな最適資源配分を行わなければ全体最適ができないということでございますので、社会の要請に応える新規事業の立ち上げなどが行えるように、本部機能の強化、調整機能強化をしてまいりたいと思ってございます。

 具体的な取り組みといたしましては、役員については、研究現場経験や研究管理経験の豊かな研究者を複数採用いたしました。

 また、理事長室というものを設けまして役員を強力にサポートするという体制を設け、今委員おっしゃいました全体の社会の流れというものを把握して、大きなビジョンを常に描くということにしてまいりたいと思います。

 先ほど言いましたように、そういうトップ機能は重要なんですが、下からの声も重要で、ボトムアップとトップダウンをいかに調和させていくかということがこの研究所の大変重要なミッションと考えてございます。

 また、イノベーションにおきましても、先ほども申しました科学技術ハブというものを設けて、大学や産業界と一緒になって、イノベーションが進むような重要な課題に取り組んでまいりたいと思ってございます。

田所委員 今お話が出ました科学技術ハブ、あるいは国際標準による外国人研究者の招聘等についても大きな要点として挙げられておりますけれども、私は、大学や研究機関、産業界と連携するとただ言っても、自動的に進むわけではないんだろうというふうに思っております。これを具体的にどのように進めていくのか、大変難しく、重要だろうと思っております。

 また、国際標準の環境をつくって、そして優秀な研究者を呼ぶということでありますが、英語ができるというだけでは、そんなに強いとも私は思いません。

 先ほどSPring8とかスーパーコンピューターの話も出ました。大強度陽子加速器なども私の茨城にはありますが、そういった施設等を目指して、それが外国人研究者のインセンティブになるのかもしれません。

 そういうものを含めて、外国人の研究者あるいは科学技術ハブというものをどう実現するのか、少し具体的に説明してもらいたいというふうに思います。

松本参考人 どういうふうに組み上げていくかということは大変難しい、いつの時代も難しい問題でございますが、私は、例えば、科学技術ハブと申し上げましたが、産業界とどうするのか。

 実は、理研は、産学連携にももちろん力を注いでまいりましたが、産学連携本部というものが一番上に見えるようになってございません。ですから、早速四月から、産学連携本部というものを明確に見えるように設置いたしました。

 そこには、共同研究をする企業の方々もたくさん来られています。それを強化するということはもちろんでございますが、先ほどハブと申し上げましたのは、例えば産業界を眺めておりますと、同業者同士の連携というものは割合多いんですが、異業者同士が出会う機会が余りないという声も聞いてございます。そういう意味で、理研は、いろいろな業種の方々を集める、そして議論するということにも注力してまいりたいと思います。

 国際的なことは、委員御指摘のとおり、大変立派な施設もございますし、それを使うために来られる方もございますし、研究者が優秀なために集まってくるという方もございます。

 そういうものをフルに活用して国際的なフィージビリティーを上げるということが一つでございますし、今後は、各拠点を海外に展開するということも大変重要だろうと思ってございます。

田所委員 研究所はまさに属人的な要素が非常に大きい。そういう中で、やはり、研究者が本当に熱意を持って、しっかりと研究に打ち込む姿勢を持つようにする必要があるんだろうと思います。

 それをどこに求めるのか。帰属意識は定年制の職員ならもっと強いのかということもあるだろう。あるいは、発明の対価などが大きな訴訟にもなりましたが、そういう中にあって、どういうふうな位置づけにするのか。特許などもそうであります。あるいは、招聘の中では魅力的な年俸みたいなものを外国の人などには示していくとか、いろいろなこともあるんだろうと思います。

 研究者が力を発揮できるようなリードの仕方を、ベンサムやミルを持ち出すまでもなく、人間、功利的なこともあります、そういう中にあって、積極的にその属人的な研究所において力が発揮できるように、どうしていくのか。

 最後に、特定国立研究開発法人というものが、理研を対象として検討もされてきたわけでございます。これは、非常に大きな主務大臣の権限とか、あるいは研究開発等の特殊性というものも配慮すべきだという、非常に強い方向性も打ち出されているわけであります。これらをどのように考えているのか、その点をあわせて聞きたいと思います。

松本参考人 お答えいたします。

 まず、若手をどういうふうに元気づけるか、あるいは研究者全般をどういうふうに元気づけるかという大変重要な問題がございます。私は、これが現在の理研においては最も重要だろうと思っています。

 いろいろ回りまして、話をいたしまして、研究者の声が直接理事長に届くというシステムも必要だということで、早速やりました。いろいろな意見が出ましたが、去年と比べて理研は明るくなった、研究に自信が持てるようになったという声がたくさん寄せられました。こういうムードをつくり上げることも本部の仕事の一つかと思ってございます。

 研究者が研究にプライドを持つ、日本人としてのプライドを持ち続けるということが一番のモチベーションではないかと思ってございます。属人的ないわゆるサラリー等の評価につきましても、きちっとやってまいりたいと思います。

 それから、お尋ねの、特定国立研究開発法人の指定の件でございますが、これは、私どもの理解としては、政府、国会においてお決めになるものと承知してございます。もし指定されれば、その役割を果たせるように全力を挙げて取り組みたいと考えてございます。

田所委員 松本理事長、ありがとうございました。

 明るくなった理研において、大きな成果を出して、産学連携等も進めて、我が国の発展に資するような、そういう研究所として、しっかりとリードしていただきたいというふうに思います。

 ありがとうございました。

坂本委員長 次に、津村啓介君。

津村委員 民主党の津村啓介でございます。

 松本理事長、本日は、貴重なお時間をお割きいただきまして国会までお運びいただきまして、ありがとうございます。

 理研は、古く一九一七年の創立ということでございますので、再来年には百周年を迎えるということでございます。最近では、昨年の出来事もありましたので、先ほどから、不祥事の防止であるとか信頼の回復という言葉も出ておりましたけれども、長い理研の歴史、そして日本の科学技術の世界における位置づけということを考えましたら、今回の科学力展開プランの意味合いというものを、もう少し大きな、地理的あるいは歴史的なスコープで議論もさせていただきたいというふうにまずは思うわけです。

 松本理事長は、昨今の世界の科学技術政策の潮流といいますか、今どういう変化が大きな意味で起きているのか、その中で日本の位置づけというのがどう変わってきているのか、その中で今回の理研の新しいプランをどう位置づけていらっしゃるのか、大所高所の観点から少し御説明いただきたいと思います。

松本参考人 お答えいたします。

 大変大きな質問を投げかけていただきました。

 私は、現代文明が科学技術によって支えられているということはかたく信じている人間の一人なんですが、もともと人類文明というのは、学術があって、その学術に基づく科学、科学は学術の一部でございますが、そのサイエンスに支えられて技術がある、その技術が実社会にインプリメントされて、つまり移っていって、豊かな社会に、徐々にではありますけれども、進んできた。

 現代社会の問題は何かという御指摘でございますが、これは、基本となる学術の進展、あるいは科学の進展の方法にも一つ問題があります。もう一つは、市民の方にも問題があります。

 市民の方は、まず、豊かな社会をみんな望むようになりました。豊か、豊かということをやっていますと、言葉は適切な表現ではないかもしれませんが、豊かぼけをいたします。本来は、いろいろな制限をよく考えて、市民一人一人が考えて、科学を有効に利用していく、または有効に利用できるように科学技術を育てるというマインドが必要だろうと思います。これは、残念ながら、西洋の、特に米国の方がそういう意味合いは市民の間に広いんじゃないかという気がいたします。しかし、日本もかなりそういう方向に動いてまいりました。

 そこで、では、科学はどうかという全体のビジョンですが、デカルトが要素還元論というのを出しまして、どんどん細かい学問をやりましょうと。その方向で学問は進んでまいりました。科学技術もそうです。現在の社会を見渡してみますと、細かい技術がいっぱいありまして、それぞれに専門家が張りついております。それぞれの専門家はお互いに競っているわけですから、自分のすごく狭い分野だけを見るようになります。これが欠陥でございまして、横串を通して、科学全体あるいは学術全体を見渡して科学技術を進める、あるいはそういうリーダーになってもらうという人を今後育てていくことが世界的にも必要ではないかと思っております。

津村委員 ありがとうございます。

 今、理事長のお話の中にも、科学者、研究者の側の課題と市民社会の側の課題、ここの間をつないでいくということが、そういうためのリーダーといいますか人材を育成していくことが非常に重要というお話がありましたけれども、今回の科学力展開プランを拝見いたしますと、どちらかといいますと、理研のガバナンスといいますか、あるいは科学者としてのあり方みたいな方に少しウエートが置かれていて、国民との対話でありますとか市民社会に対する働きかけみたいなところがなかなかこの文言の中からはストレートには見えてこないと感じました。

 そんなことは当たり前ということで書かれていないのかもしれませんので、改めて少し敷衍していただければと思うんですけれども、市民とのコミュニケーション、科学コミュニケーションという意味ではどういった方策をお考えでしょうか。

松本参考人 お答えいたします。

 これは大変重要なことを御指摘いただいているんですが、当たり前のことというふうに表現されましたが、当たり前でも大変重要だろうと私どもは認識してございます。

 去年の出来事もございましたし、科学者の倫理観はどうかというような問題もございましたが、一番重要なことは、社会、市民を含む社会と科学の関係を一人一人の科学者がしっかりと認識するということだろうと思っています。その中には、当然、自分の研究成果を社会に発信するときに、コミュニケーションができるような表現ということはもちろん必要ですが、同時に、社会をどう持っていくビジョンを持っているかという、研究者個人個人の思いを外に発信することが重要です。

 そのために、今度は広報に哲学者を理事として招請いたしました。つまり、科学と社会の接点は、まさに研究者個人個人、そして市民個人個人の間をつなぐフィロソフィーがなければならない、そういう思いで広報を担当していただきます。そういう視点で運営してまいりたいと思ってございます。

津村委員 ありがとうございます。

 自然科学は古くは自然哲学と言われていたわけで、だから哲学者ということではないかもしれませんが、これから新しいその理研の姿を見ていくことを楽しみにいたしております。

 実は、質問の一つの柱に、ガバナンスの話を聞かせていただこうと思っております。

 先ほど田所さんが大変すばらしいといいますか、的を射た御質問をされていましたので、少し重なる部分がございますけれども、今回、五つ戦略を出されるに当たって、東洋経済のインタビューを拝見したんですけれども、もともと、研究とガバナンスの二つは、これは必ず必要だろう、そして、日本人は偶数だと据わりが悪いので、ほかにも大事なことがあるので五つにしましたというようなことが書かれていたわけです。

 研究はある意味では当たり前でありまして、やはり今回、松本理事長には、ガバナンス改革のところが、周囲からの期待も大変大きい部分だと思います。

 その点、三代目の大河内所長以来の主任研究員制度、これは終身雇用、それから最近では、比較的大きな予算を扱って国からのミッションを扱う戦略センターということで、先ほどから終身雇用と定年制と任期制のポリシーミックスを少し見直していきたいというお話ですが、ここは一番皆さんが、あるいは、先ほどからの世界全体の科学技術政策の潮流として、この新しいテニュア制度というものをどう構築していくかというのは、本当にぜひ答えがあるなら見せていただきたいという、他の研究開発法人あるいは大学の皆さんも大変注目されているところだと思います。

 もう少し具体的に、今思っているイメージを御披露いただけると大変助かります。

松本参考人 テニュアトラックを導入してテニュア制という制度に持っていきたいということを申し上げましたが、研究者のモチベーションをどういうふうにすくい上げるか。研究所ですから、研究者が主にいるわけですね。もちろんそれをサポートする事務スタッフもおりますが、そういう人たちの意欲をどう持ち上げていくか。これもよく言われることですけれども、トップダウン方式がいいのか、ボトムアップ方式がいいのか。実は、私は両方必要だろうと思っています。

 両方という意味は、ガバナンスを一番責任を持ってやる執行部、理事、理事長ですね、そういう人たちは、全体の戦略をしっかり見きわめて、こうするということを申し上げますが、細かい戦術とか研究のやり方とかテーマとかいうものは、研究者の層から上がってこなければなりません。ただし、勝手に自分の研究をやりたいということではだめだということをしっかりと全体が共有してやるというガバナンスが最もふさわしいと思ってございます。

 そういった意味で、新しいテニュア制度をこれから構築するんですが、研究者の中にも、ずっと理研にいて理研のコア研究者となってくださる方と、理研にいる期間、腕を磨いて、すばらしい研究環境で研究をやって、大学に行きたいという方もおられますよね。あるいは、長期の研究をじっくりやりたいんだという人もいますよね。いずれも、長期とか、ある程度成果が出るまでというような制度は、今の任期制度の中では難しいという声が非常にございました。だから、やはり人事制度を二つ持つんじゃなくて、両方やる。

 センター長も、非常に優秀な方がセンターを運営しておられます。研究者としても立派、人物としても立派な方がおられますが、研究センターの任期が来れば一応そこで雇用関係は終わりという形に現在なっております。そういう人も、しっかりと理研の中のコア研究者として次のミッションも経験を生かしてやってもらう。フレキシビリティーのある、適応性のある研究者として成長してもらいたいという思いもあって、一元化ということを申し上げてございます。

 テニュアトラック制度は、十分によく考えて、モデルとなるようにつくり上げていきたいと思っております。

津村委員 定年制がどのぐらいの割合でというところまで、できれば踏み込んでいただきたかったのですが、これから現場の意見を大切に聞きながら進められていくということなのかなというふうに解釈させていただきました。

 それともちょっとかかわるんですけれども、STAP細胞の研究不正の事後対応等の議論がこの間るるあったわけですけれども、理事長は、STAPはストップというふうにおっしゃられて、もっと前向きな話をしていこうじゃないかということで、今回の、背中が丸まってしまっている、背筋を伸ばして頑張れる体制をつくるということをおっしゃっているわけです。

 これは、スピード感といいますか、この間、少しスピードが遅かったという批判もあって、今回の新しい理事長御就任ということもあるんだと思っているんですが、この科学力展開プランは大体どのくらいの時間軸で進めていかれるお考えですか。

松本参考人 科学力展開プラン、これは就任してから一カ月半ぐらいで取りまとめたものですが、それだけに、大筋の枠が示されておりまして、細かいことはまだこれから詰めるということが多くございます。

 スピード感という意味では、私はスピード感が最も大事だと思っています。世の中の変動が非常に激しい中、日本の大学とか研究機関がやや遅いという非難が諸外国からも寄せられております。

 したがいまして、私は、人事制度が一番難しいので、きょう言ってあしたというわけにはいきませんが、これは一年以内をめどにやっていきたいと思ってございます。

 種々の改変が伴いますから、現在進行中の研究が大きくスローダウンしないということは絶対条件だと思っております。その中で、できるだけ速やかに私どものビジョンを実現していくよう努力をしたいと思ってございます。

津村委員 ありがとうございます。

 一年という一つの節目も含めて御答弁いただきましたので、大変力強いお言葉だったと思います。

 最後になるかもしれませんが、少しお尋ねしにくい質問になりますけれども、今回の松本理事長の御就任というのは、ちょうど国立研究開発法人への衣がえというタイミングと軌を一にしておりまして、また、大学改革でも内外に大変名をはせられた松本理事長の御就任ということで、大変期待の集まっているところでございます。そうした中で、早速十七の拠点を回られて、一カ月半でこれだけのプランをまとめられて、私ども、大変期待をしているところでございますし、国会でも、しかるべき時期には、理研に関する法案等の審議も含めて、応援できるところを応援していかなければいけないということを思っているんです。

 一つ、どう受けとめていいのかなというふうに思いましたのが、前理事長の野依さんの今回のJSTのセンター長就任という人事でございます。これは松本理事長が御判断されたことではありませんけれども、しかし、今回、引責という言葉が適当かどうかは別として、STAP問題に一つの区切り、節目をつけるという意味合いが、この野依さんから松本さんへの交代には込められていたと思いますし、そこが松本理事長への期待とコインの裏表であるわけです。

 その後、JSTのセンター長に野依さんが、十一年五カ月という長い理研理事長から移られたことというのは、理研改革のイメージと少しそごがあるといいますか、違和感を感じたわけですけれども、新しい理事長として、松本さんはこの件にどういう御感想を持たれたか。私は、松本さんもある意味では当事者のお一人だと思うので、あえて伺うんですけれども、そのことが一点。

 一方で、野依さんのことを批判めいた形で御質問するのは本意ではありませんので、松本さんから見た野依前理事長の御功績について、あわせてお尋ねしたいと思います。

松本参考人 お答えのしにくい質問でございましたが、お答えしたいと思います。

 御案内のとおり、野依前理事長が就任されて、独立行政法人としての理研というものを立ち上げられました。その時期にはかなりの御苦労があったのではないかと推察してございます。ノーベル賞を受賞された優秀な研究者でいらっしゃることは誰も疑いようがない事実でございますけれども、かなり力を発揮されまして、現在の理研まで、去年の事案が起こるまで、SPring8を利用拡大したり、「京」を立ち上げたり、いろいろ、日本の科学技術の最先端を引っ張ってこられたというふうに私は思っております。

 御苦労は大変多かったと思いますが、残念ながら、昨年の事案で大変つらい思いもされましたし、いろいろ精いっぱいやられたのではないかと思ってございます。

 研究者としてはもちろん私は尊敬しておりますし、いわゆるマネジャーとしても、その時期その時期、最大限の努力をされたかなと思います。

 ただ、去年の事案は、いろいろな観点からいいますと、非常にフィーバーになりましたので、タイミングよく情報を発するという意味では、少しおくれをとったようなことがあったのかもしれません。しかしルールは、百五十日までに調査をやるという、内部で文科省主導のルールがありますから、それにのっとって粛々とやっておられたように外からは見えました。

 以上、私の感想でございますが、野依先生は非常に優秀で、日本国は外国と違って、一般的に、世の中に定年制というのがあるんですよね、年齢で、あるところから若い人にバトンを渡すというような風土がございますが、外国に行きますと、そういうことを言うと、シニオリティー・ディスクリミネーションと言われて、年齢じゃない、能力だというふうに言われておりますので、それぞれのポストは、あるいは仕事は、個人個人の能力に応じて最適なところに就職するというのがいい社会ではないかと思ってございます。

津村委員 御丁寧な答弁、ありがとうございました。

 時間が参りましたので、終わります。

坂本委員長 次に、伊東信久君。

伊東(信)委員 維新の党の伊東信久でございます。

 松本紘理事長、本日は、お忙しい中お越しいただきまして、まことにありがとうございます。

 理事長の東洋経済でのコメントで、「光はその辺に散在している状態ではたいした力はありません。しかし、コヒーレントにするとレーザー光のような強いパワーを持ちます。同様に、理研に在籍するひとりひとりに共通意識を持ってもらい、皆でその方向に進んでいく。」とコメントされておられました。

 松本理事長の研究者としての功績は、今さらこちらで述べるまでもなく偉大なものであり、理事長に就任されたといえども、やはり研究者の一面もあるかと思います。

 私自身、臨床医としまして、椎間板の中に針をぶすっと入れまして、そこに光ファイバーを入れまして、レーザー光で椎間板を焼き切るという治療をやりつつ、阪大の国際医工情報センターでレーザーの研究というのもやらせていただいております。コヒーレントというのは波長のこともあると思うんですけれども、その波長をそろえるのに、四百五ナノメートルがいいのか、千十五ナノメートルがいいのか、日々四苦八苦しているんです。

 私は、招聘准教授という役職を拝命させていただいています。私のボスの教授が工学部の教授でございまして、そのまたセンター長が医師、外科医の先生なんです。

 例えば、野球の世界でいうと、プレーイングマネジャーという選手兼監督がまれに存在しておりまして、現在では中日ドラゴンズの谷繁監督、一昔前ではヤクルトの古田監督、もっとさかのぼれば南海ホークスの野村監督、タイガースの村山監督とおられました。

 先ほど理事長は、理研はキャッチャーで、サインを出すとおっしゃっておられました。所属する組織のマネジメントをしつつ、かつ研究の細かな指示もされると思うんですけれども、例えば、CiRAの山中教授は、こちらで参考人として来られたときでも、やはり私は研究者であって、研究所には別にCEOのような立場の人を置いていただきたいという御意見もございました。

 さて、松本理事長は、理化学研究所を運営するに当たり、研究者としてのお立場と経営者としてのお立場があるかと存じますけれども、この双方の立場に対するお考えをまずお聞かせください。

松本参考人 私も、大学にいて、若いころは研究をがんがんやっておりました。恐らく、教授になって半分ぐらいまでは、教育と研究だけに打ち込むことができました。しかし、年齢が重なりますと、いろいろな役職が当たります。選挙でそういうふうになっていくわけです。そうしますと、研究ガバナンスということを意識するようになります。

 私は、そうして結局定年まで行って、実は企業に就職して研究開発等をやろうと思っていたんですが、副学長という指名を受けまして、それからひょんなことで総長になりまして、九年間、学術ガバナンスということをやらせていただきました。

 おまえはガバナンス寄りか研究者寄りか、そのマインドを失っていないかというお話だと思います。

 研究の具体的なテーマ、私も興味のあることは幾つかあります。私も割合いろいろなことに興味を持つものですから、たくさんの種類の研究をやってまいりました。それを一個一個しっかりやるということも、思いを持つことは研究者として当然なんですが、一方では、それに集中し過ぎますとバイアスがかかると思っています。別の立場で自分の研究とほかの人の研究をバランスよく見るというのは、ぜひ必要です。

 そういう意味で、研究から少し退いて、関心のある若手の人たちには声はかけますが、細かいことに余り深入りしないという立場でやりたいと思ってございます。というのは、いろいろなセンターがございますし、いろいろな専門分野がございますので、ガバナンスという観点では、研究の手法とか研究のあり方とか、そういうものについては経験がございますからアドバイスはできますが、中身についてはやはり研究者自身が考えないといけない、こういうふうに思って、ガバナンスを発揮していきたいと思ってございます。

伊東(信)委員 丁寧にお答えいただきまして、ありがとうございます。

 本当に、例えば中日ドラゴンズの落合監督などは、名選手であって名監督であったと思うんですね。例えの中に、名選手というのは名監督にあらずというような例えもありますけれども、松本理事長は、名選手であり名監督である。かつ、落合監督の批判じゃないですけれども、落合監督は余りちょっと人気はなかったんですよね、だから、人気のある落合監督に松本理事長はなられるんじゃないかと期待しております。

 落合監督が人気がなかった一つの理由として、いわゆるマスコミの対策というか、広報の仕方が余りうまくなかったような気がします。

 さて、STAP細胞の問題になるんですけれども、私自身は、単にSTAPのペーパーがネイチャーにアクセプトされた、それだけのことなんですね。そこからの議論はいろいろ世間を騒がせておりますけれども、理化学研究所というのは、やはり思い返せば、理事長のコメントにもありますけれども、教育機関ではなく研究機関でありまして、特にティーテル、学位を与えるわけでもない。そうなると、先生と生徒といった師弟関係ではないので、マスコミが大々的にあおっていたチェック機能といった意味では、教育機関と理化学研究所の体制自体を混同したように私は感じたんですよ。

 ただ、やはり広報に関しては、まあ過去のことですけれども、いろいろ問題というか、かかわった人間が別々に出てきて、それぞれの言い分をばらばらにアナウンスしていました。ばらばらに会見しても、いたずらに世間の関心を買ってしまうことでありまして、私自身、世界レベルの研究者の方々が肩身の狭い思いをしているというのは非常に心が痛む思いでありましたし、研究に関してはやはりオール・ジャパンでサポートしていく必要があって、足の引っ張り合いをしている場合じゃない、国際社会を生きるために。

 そこで、新たな体制のもとで、そういったところに労力を注ぐのは理事長としては本当に不本意かもしれないですけれども、この体制のもとでのこういった問題も踏まえての新しい広報の体制に関してのお考えをお示しください。

松本参考人 御指摘のように、研究者コミュニティーが社会との接点を持つのは広報ということになります。大変重要な問題だと考えております。

 昨年のSTAP問題に関する報道のあり方は、少しどうかという批判もございます。

 これは、私はこういうふうに考えています。

 今後、いろいろな意味で研究成果を発表してまいりますが、まず、発表文の中身が非常に難しい専門用語だけになっておって、記者の皆さんもよく理解できない、まして市民にはそれが伝わらないというようなことはやめましょうということを言っています。だから、広報には十文字以内でタイトルをつけてくださいと。

 それから、メディアの方々にもぜひ勉強していただきたいという思いが非常に強うございます。

 そういう意味で、私は、理研では理事長記者懇談会を月一回開催するとお約束をいたしました。そうすることによって、ふだんから、いろいろな科学リテラシーの話とか内容について記者とシェアするというバックグラウンドを醸成することが何よりも大事と思ってございます。

 その上で、いろいろ個別の研究発表というものに取り組んでいただきたい、こんなふうに思っております。

 そういう意味で、広報担当理事には、社会面に強い、指導力をお持ちの理事、女性でございますが、羽入理事に来ていただいて、一緒になってそういうことを進めてまいりたいと思ってございます。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 おっしゃるとおり、マスコミの方もせめてペーパーのアブストラクトだけでもちゃんと理解して臨んでほしかったなというのが、そのときの私の感想でございます。

 そこで、ちょっと話を、時間もあれなので、どうしてもお聞きしたいことなんですけれども、国立研究開発法人になられての理事長の就任ということで、そこからの法整備というのはまだできていない状態でお聞きするのもなんなんですけれども、人材に関しまして。

 例えば、海外から優秀な人材をいわゆる給与の枠を超えて入れるにしても、逆に、日本の優秀な人材が海外に流出するのを防ぐためにいわゆる報酬とかのことを考慮するにしても、例えば、医学の範囲に関して、再生医療の範囲では、東京大学の中内教授などは、理事長も行かれていましたけれども、カリフォルニア州のスタンフォード大学に研究室を構えておられる。だけれども、医学の範囲でもこの例も結構まれでして、野球でいうと、イチローを初めとする日本のプロ野球の人材がメジャーリーグに流れることを防ぐというのも大事だったんですけれども、それだけのプレーヤーが果たして日本の中でどれだけ育てられて、ただ報酬だけで縛れるものなのかどうかということが一つ。

 逆に、海外からの優秀な研究者なんですけれども、例えば、メジャーリーグの四番バッターというのは、日本のプロ野球にはやはり来ないと思うんですね。シンガポールを含めアジアに行かれるレベルのアメリカの研究者、ヨーロッパの研究者であれば、日本の中にももっともっと優秀な人材がおられると思うんです。研究というのは、医学の範囲でも工学の範囲でもいろいろな、自然科学というのは多岐にわたると思います。だから、優秀な四番バッターを九億円で引っ張ってくるよりも、一億円の年俸を九人にした方が研究自体が潤うと思うんですね。それが若手のやる気にもつながると思うんです。

 研究者育成に関する予算づけを、毎回私自身は訴えておるんですけれども、いわゆる主任研究員、中間管理職の研究者、これらがマネジメント能力を伸ばすことが必要だと思うんです。こういった、国の施策としての予算づけになってしまうと思うんですけれども、一人のビッグネームというよりも、たくさんの中間の方々を手厚くする方が必要ではないかと私自身は考えておるんですけれども、理事長の考えをお聞かせください。

松本参考人 研究開発成果の最大化というのがミッションになりましたから、今委員御指摘のことも一つの要素になろうかと思います。

 研究者全体が社会の中でどういう社会的地位を持つかということにも関係するんですね。プロ野球選手のような、数億円というような収入を持つ人はいないわけですけれども、やはり、こつこつ真面目にやってきた人たちが自分の仕事に誇りを持って、その誇りが維持できる程度の社会的評価というのが必要だろうと思ってございます。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 理事長は、コメントの中にも、答弁の中にも、産学連携の話をされております。

 例えば、研究所のビッグネームの方に大きな年俸を与えることも、これは夢を与える意味でも非常に必要なことではないかと私個人では考えてはおるんですけれども、一方で、本当に職人の方というか研究者の方というのは、そんなことよりも研究費と思われる方も多い。

 それでも、やはりいわゆる報酬というのが評価につながりますので、自分自身の評価というのであれば、そこで産学連携、つまりは、研究所に行くよりは民間の、医学であれば、製薬会社で研究した方がより年俸がいいのであれば、例えば、私は招聘准教授という立場なので、いろいろな兼職ができるわけですね。そのあたりの研究所と民間との流動性、これはマインドの問題なのか、システムの問題なのかというのは、今後、我々もちょっと考えていかなければいけないんです。

 そういった産学の流動性を、もっともっと自由化するようなシステムというのを、私自身も考えておるんですけれども、理事長のお考えをお聞かせください。

松本参考人 人材の流動性ということを御指摘いただきましたが、これは大変重要なことです。

 産学というふうに今おっしゃいましたが、研究者と産業界の方々が協力する、これは当然、イノベーションを起こしていく上では不可欠だろうと思っています。

 ただ、そのやり方は、例えば産業界の方が理研に来られて研究者と一緒に研究する、これは必要なフェーズです。そこから先が難しいと思っておりまして、これは先ほど御質問も出ましたが、研究者の評価をどうするかということとも関係がございます。

 つまり、共同研究をして、イノベーションにつながるようなシーズをつくるんですが、そこから実際に製品にしようと思うと、その先が長いんですね。そこは、論文に余りならないような細かいチューニングが必要です。そこのところの評価が、今研究者の評価に上積みされておりません。したがって、そこまではやるけれども、そこから先は、もう別の研究に行っちゃって、企業の人は勝手にやってください、そういう事態が実は起こっておるかと思います。

 そこで、先ほどちょっとお答えいたしましたが、研究者の評価の中に、例えば、製品化するのにすごい努力をした部分については論文何編に相当するというような基準を新たに設けない限り、しかも、それが日本の大学と共有されない限り、なかなかそこまで進まないと思っておりますので、ぜひ理研としてはモデルケースを考えてみたいと思ってございます。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 ペーパーであれば、インパクトファクターとかがあると思いますけれども、そういった、パテントに関しての点数化というか、数字化というのも非常に大事なことだと思います。

 松本理事長のリーダーシップにより、理研職員の力がコヒーレントされ、強い光になることを期待いたしまして、理研の新たなる第二章も期待いたしまして、私の質疑を終了させていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

坂本委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉でございます。

 きょうは、松本理事長、大変お忙しい中当委員会の参考人質疑に御出席をいただきまして、心から御礼を申し上げます。

 現在は、御存じのとおり、来年から始まる第五次科学技術基本計画の策定の時期でもございます。また、現政権において、経済政策として、アベノミクスと呼ばれる経済政策を実行中でございますが、文字どおり、三本目の矢である成長戦略の中核を担うのが科学技術・イノベーションという世界であることは、これは論をまたないことだろうと思います。

 そうした観点から、私どもも、昨年の常会で、議員提案によりまして研究開発力強化法を改正し、先ほど来出ておりますが、有期雇用の状態にある方の、次善の策ではあると思いますけれども、これまで五年が限度だったものを、法律上、十年まで可能にさせていただきまして、いよいよ、先ほど来ございますとおり、特定国立研究開発法人という制度をつくって、世界のさまざまな研究機関に伍する活動ができるような体制をまさに立法府として整備していこうというところでSTAPの問題が残念ながら発生をして、その法律の成立の時期が少しずれ込んでいるというのが現状だろうと思います。

 これまでも御質問がありましたけれども、まず、研究活動における不正ということについて、改めてまとめて御答弁をいただきたいと思います。

 二十六年度中だけでも、文部科学省の資料によりますと、全国の研究機関の調査委員会において、十一件の研究不正が認定をされている。そして、昨年の八月に、新たなガイドラインが作成をされました。衆議院の調査室がまとめていただいた資料の中に、松本理事長の就任当初の報道のコメントも掲載された記事がございまして、その中で、「研究倫理に基づく自己管理も必要だが、それだけでは防げない。共同研究者同士による意見交換や、外部からの客観的評価など何重もの防止策が必要だ」というふうにも述べていらっしゃいます。

 改めて、ガイドラインはできました、あとはこれをどう実効ならしめていくかということが、大多数の研究者の方が本当に真剣に取り組んでいただいているにもかかわらず、一つのこうした、またSTAPの問題が特に世間にもクローズアップをされておりましたので、大きなブレーキになってしまったことは、本当に残念きわまりないことだと思います。

 やはりこういったことを未然に防ぐために、我々も力を合わせていかなければならないと思いますので、再発防止の取り組みについて、まず冒頭お伺いをしたいと思います。

松本参考人 お答えいたしたいと思います。

 研究不正というのは、残念ながら、いつの時代にも起こってきた。過去形、そうですね、完全にゼロになることを理想といたしますが、起こらないように常に研究所としても取り組むということが大変大事だと思ってございます。

 昨年の事案も十分に考慮いたしまして、理研では、アクションプランというのをつくって、これは、今委員御指摘の事柄を我々は着々とやるというプランを立ててございます。

 具体的に申し上げますと、例えば、不正でもいろいろございますが、研究を共著論文で一緒にやったときにお互いがチェックしていなかったという事案が昨年ございましたが、研究倫理のきちっとしたトレーニングということも必要と思いまして、全所にEラーニング等を通じて受講するように言いました。昨年の段階で、一〇〇%受講させております。もちろん、新しい人がまだ入ってきていますので、その一〇〇%は少し落ちているかもしれませんが、落ちないようにきっちりと指導してまいりたいというのが一点。

 もう一つは、各事業所ごとに研究倫理教育責任者というのを置きました。そういう人たちに、研究倫理の教育を日常からちゃんとやってもらうということが一つですね。

 それから、共著論文等を出される場合に、著者はいろいろ作業を共同でやるわけですけれども、論文になるときに、どういうデータが使われたか、そのデータは本当に現場で見たものかということをお互いにチェックし合うというシステム、これは常識なんですが、その常識を外れる場合があるということを想定して、あなた方はちゃんとチェックしましたかというチェックリストを全部つくりまして、共著者全員に見てもらって、サインをしてもらうという方向に検討してまいりたいと思います。

 ただ、御案内のように、多分御存じと思いますが、百人とか二百人の著者の、でっかいCERNの研究なんというのは、百人にそこにサインしてもらうだけで半年かかりますので、そういうことは例外だと考えたいと思いますけれども、普通の数人でやられる研究者の論文については、きっちりしたことをできるような枠組みをつくって指導してまいりたいと思ってございます。

伊藤(渉)委員 改めて確認をさせてもらいました。ありがとうございます。

 一方で、当然、研究機関ですので、研究者の皆さんの自由な発想、自由な活動を妨げることがあってはならないとも思いますし、特に、こういう課題が発生したときに、いろいろな書類の作成がふえたりして、そのことに随分手間がとられるということもできるだけ避けていかなければならない。一番本質的には、研究ということに時間を割いていただくことが当然重要だと思いますので、その辺のかじ取りをぜひともお願いしたいと思います。

 冒頭申し上げたとおり、我が国は成熟した国家でございますので、これからの経済の持続的な発展を考えても、イノベーションというものを起こし続けていかなければならないというふうに思います。

 そういう意味では、先ほどあるとおり、人の問題、そしてそれを起こす場の問題、またそれが起こされる環境、ソフトの問題、さまざまありますけれども、まず、いわゆるイノベーションを可能にする場について、少し理事長のお考えをお聞きしたいと思います。

 先ほども津村委員の質問に対してお答えをされておりましたけれども、私も全く同感で、私もエンジニア出身です。

 いわゆる直観的な物言いをしますと、産業革命以降、効率を上げるためにいろいろなものが細分化されて、その細分化された中で効率が追求されて、随分世界は発展を遂げてきたと思います。

 これから必要なことは、まさに細分化された結果、その細分化された部分部分のプロフェッショナルはたくさんいるんですけれども、全体を見ながら統合していく力というものを培っていかなければ、これからイノベーションを発揮していくことはなかなか難しい。目ききという言葉で表現されることもございますし、そういった人材をしっかり育成していかなければならないというふうに思います。

 それを可能にする場というか機関というか、それに、理研はもちろんですけれども、国立大学も重要な役割を果たしていっていただかなければならないと思います。

 最近は、よくオープンイノベーションを生み出す場という表現がされますけれども、国立大学や理研を初めとした研究機関がその場たり得るために必要なことは何かということを理事長の御見識の中から御披露いただければ幸いでございます。

松本参考人 お答えいたします。

 答えといっても、ユニークな、答えがないような、難しい問題だと思います。

 委員御指摘のように、研究分野、技術分野が非常に細分化しております。それぞれのプロはいるんですが、その道のことに関しては言うけれども、ちょっと外れますと、私はそれは専門じゃありませんと逃げ腰になるという傾向が見受けられます。

 これは、そもそも学問あるいは技術、科学の世界からいうと、ひずんだ状態になっていると思います。そういう意味では、異分野の方々との交流というのは一番重要でございまして、それができ上がった専門家同士を会わせて議論するというのも一つの方法ですが、もう少し若い時代から異分野と接触する機会を設けないと、異分野と接触するという習慣が身につかないんですね。

 京都大学では、白眉というセンターを設けまして、全く分野は問わない、いろいろな分野の人が集まっていらっしゃいという一つの研究者集団をつくりました。こういう人たちは若いんですが、異分野と交流することだけを一つの条件にしましたので、非常にいい研究成果が出ております。科研費の獲得率も断トツに高いですし、いろいろな新しい研究の芽が出ております。

 こういった異分野の研究者、つまり、工学とか医学とか、あるいは場合によっては社会科学の人も一緒にしてやりましょうという動きは大変重要で、理研では社会知創成事業という事業をやっておりまして、これは野依理事長が言い出されたことなんですが、そういう人を集めましょうという機運がございます。

 そこにもう少し、産業界の人も、いろいろな異業種を呼び集める、そして、異分野の研究者を集めて例えば談話会を開く、こういうことをふだんからやらないと、いきなり何かイノベーションをやるために集まってちょうだいというだけでは効果が薄いのではないかと私は認識してございます。

伊藤(渉)委員 ありがとうございます。

 私も、日本全体ではさまざまな取り組みが行われているというふうに認識をしておりまして、このゴールデンウイークは、文部科学省の予算でセンター・オブ・イノベーションという予算があって、金沢工業大学は、炭素繊維を使った次世代のインフラの研究をされておりました。これも、現地に赴いて私も初めて知ったところですが、炭素繊維自体の生産は日本が六割持っているのに、それを商品化して世の中に売っている率は極めて少ない。結果として、経済という意味でも大変損失をこうむっているというようなお話も伺ってきました。

 また、日本政策投資銀行は、iHubと呼ばれる取り組みをしておりまして、少し経費を政策投資銀行が捻出しながら、まさに異分野の方が集まっていただいて議論していただく場を提供している。

 そういった取り組みがさまざまなされているんですけれども、これはまさに政府そして我々の課題なんですけれども、では、日本じゅうで起こっている全体を政府が把握できているのかということも、これはもう我々が改善していかなければいけない課題として認識をしております。またこれからも、さまざまな形で御指導いただければと思います。

 時間が短いですので、最後にお伺いするのは、やはり人の問題です。これも、先ほど来出てまいりました。

 今、整備をしようとしている第五次科学技術基本計画においても、人の問題については、流動性の世代間格差という表現が実はされております。

 これはどういうことかというと、若手の研究者の人は、先ほど理事長も問題意識を持っていただいている任期つきの雇用が大変多く、ある意味、それは逆に流動性が高い。一方で、シニアの研究者の方は流動性が低いというふうに、我々は実際に大学で仕事をしていないので、現場を見て感じているというよりも、いろいろな書かれたものを読んでそういうふうに認識をしているわけですが、それを改善するために、先ほど来出てきているテニュアトラック制度の導入あるいはクロスアポイントメントの活用などという言葉をよく読んでおります。

 最終的には、やはり物を形にしていくのは人の力でございますので、今言われているようなテニュアトラックやクロスアポイントメント制度の活用を通して、シニアの方も含めて、いわゆる研究の世界に流動性を高めていかなければならない、今こういう方向で計画は策定をされていっているんですけれども、この方向性自体に対する認識は理事長も同じかどうか。また、研究者の流動性を高めるということについて、一方で、やはり安定した雇用がないと落ちついて研究ができないということも報道などを見ていると出てくるものですから、そのあたりの理事長の御見識をお伺いしたいと思います。

松本参考人 お答えいたします。

 流動性と安定性というのは相矛盾する言葉なんですね。どちらも必要だという認識は皆さん持っている。

 流動性というのは昔はなかった社会だったんですが、若手の研究者の流動性制度が導入されてから、若手はすごく動くようになりました。もうちょっと言いますと、動かされるようになりました。

 シニアの人は流動性が低いというお話もございましたが、実は、シニアの人も流動しないといけないというふうに強く思っております。

 そのために、理研は、科学技術ハブという概念を出しまして、いろいろなところに理研の出張所、あるいは大学の中に理研が出ていく、あるいは理研に来ていただくというような制度を設けまして、シニアの人がそこのポジションから動く必要はないけれども、実質的な中身、アイデアであるとか、あるいは学生であるとか配下の若い人であるとかが交流できる場というのを設ける制度を設けなければいけないということで、取り組みたいと思ってございます。

 これが日本じゅうに広がりますと、ポジションは持っているけれども、ほかに必ず力を発揮できる場所がある、そういうことをやるべきだと思っております。

 理研は、幸い、大学にはないような設備とか、大学にないようなグループを組む仕組みがございますので、ぜひ皆様方に活用いただいて、理研が日本全体の科学技術ハブとなる役割を果たしてまいりたい、こういうふうに思ってございます。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 短い時間でございましたが、大変参考になるお話をお聞かせいただきました。

 我々としては、理事長がお持ちの手腕を存分に発揮いただけるように、法整備も含めてしっかり取り組んでまいることをお約束申し上げまして、私の質問にさせていただきます。

 ありがとうございました。

坂本委員長 次に、島津幸広君。

島津委員 日本共産党の島津幸広です。

 松本理事長におかれましては、忙しい中、本当にきょうはありがとうございました。

 私からも、理研の問題とともに、日本の科学研究をどう発展させていくかについて質問させていただきたいと思います。

 STAPはストップと言われているわけですけれども、やはりこの事件というのは科学研究に対する社会の信頼を裏切る行為であり、それが日本を代表する研究機関で起きたという衝撃は非常に大きいものがあります。

 今回の事件で、政府が研究不正を監視する機関をつくればいい、こういう意見もありますけれども、私はそれは正しくないと思うんです。研究とは、あくまでも政府などから独立して、自分の関心と好奇心、使命感でやるべきです。政府がそこに介入してきたら、政府批判の研究ができなくなってしまいます。不正が発生したときには、自分たちで不正を防ぐ体制をつくる必要があります。そうしないと、政府がどんどん口を出してきて、そのうち政府に逆らう研究がなくなってしまう、こんな危険があるわけです。

 理研における再発を防止するための対応は、先ほど御説明がありました。こうした取り組みはもちろん必要だと思うんですけれども、私は同時に、日本の科学研究の構造問題にも目を向けることが大切だと思うんです。

 研究不正再発防止のための提言書でも、通常の手順を踏まえずに小保方氏を採用したとして、その背景に、iPS細胞を凌駕する画期的な成果を獲得したいとの強い動機があった、こうしています。成果至上主義があったわけです。そして、その背景に、過度な競争があおられている研究環境があると思うんです。

 大学や研究機関の基礎的経費が年々減らされ、一部の革新的研究に多額の資金が集中される。研究者は、資金とポストの獲得のために、短期で結果を出すことが迫られています。こうした成果至上主義と過度な競争が不正を生む温床になっているという指摘があるわけです。

 この点についてどう受けとめ、そして、具体的にどう理研では対応していくのかということについて、まずお聞きしたいと思うんです。

松本参考人 委員御指摘の不正は、当然あってはいけないというふうに強く思っているところでございます。

 いろいろ制度をやっても、それだけじゃだめよねというお話もございました。研究者は、研究者である前に人でなければならないと強く信じているところです。あらゆる人がそれぞれの立場で強い倫理観を持たなければ、日本のよき社会の伝統を守ることはできないというふうに思ってございます。それは、研究者を抱えてございます理研としても、何度も発信をこの四月以来しているところでございます。

 それから、過度な競争がこういうことを起こすドライビングフォースになったんじゃないかという御指摘、当たらずとも遠からずというところは一部あると思います、一部でございますが。

 やはり研究者ですから、研究の最先端のことをやりたいという気持ちはどの分野でも同じだろうと思います。そういう意味では、競争はどうしても入ります。しかし、それが過度なとなりますと、どこで過度かという判断が個人個人によって違うと思います。

 やはり、競争は競争でも、フェアな競争ということは研究者の場合は十分になければならない、研究者である前に人でなければならないというのが強い信念でございまして、それをベースに、いろいろ理研の不正防止についても、研究者の自由な発想は大事にするけれども、それぞれの胸に手を当てて、これでええかということは常に反省をしながら進んでくださいということを申し上げたいと思います。

島津委員 ありがとうございます。

 どこまでが過度かという話があったわけですけれども、いずれにしても、科学者としての倫理規範の確立を促すとともに、やはり、不正の温床となるような業績至上主義、それを助長する過度に競争的な政策を改める、これが今回の事件で求められている政治の責任だと私は思っています。

 一部の研究機関への競争的資金の集中が今あります。これが健全な研究者養成の障害になっているという意見もあるんです。

 スーパーグローバル大学に研究費や人件費を集中投資する一方で、各大学の基礎的経費が削減されています。大学間の格差と競争を一層広げる、こういう事態にもなっているんです。

 日本の民間を含む研究開発費に占める基礎研究の割合は一五%程度、これは欧米諸国と比べても低い水準になっています。成果至上主義、業績を上げる競争が研究現場に押しつけられたことから、直ちに成果が上がる研究や外部資金がとれる研究が偏重されるようになり、基礎研究の基盤が崩れ、学問の継承が危ぶまれる分野も生まれる事態になっているということも聞いています。

 科学あるいは技術の多面的な発展を促すための振興策と、研究者がじっくりと研究に取り組める環境づくりがやはり必要だと思うんです。そのためには何が必要だというふうにお考えになっているんでしょうか、お聞かせください。

松本参考人 これは大変時間のかかる、人を育てる、人が基本でございますから、その人が健全な考え方を持つということがまずベースになければならないと思っております。

 例えば、資金の集中化とか基礎研究費の低下ということは、統計データを見れば、明らかにそうなってございます。これをストップさせて、いろいろな研究者が健全な気持ちで研究に取り組める環境、これは理研で、あるいは理研の研究者に対してはある程度できます。ある程度できますが、それが全国になりますと、これは国の施策の力もかりなければならないと思ってございます。

 理研では、いわゆる戦略センターには、有期で採用される、若い元気のある研究者がどんどん入ってきております。話を聞いておりますと、やはり、自分は次の職業を探すために、この与えられた五年間、実質は三年間ですが、そこで成果を上げたいという気持ちは皆さん強いですね。ただし、一部の方には、今度百五十人ほどの方と話をいたしましたが、じっくりこの研究をしたいんだけれども、理研の制度ではなかなか難しいよね、でも、それができるように何とかしてもらえませんかねという声もありました。

 そういったいろいろな若手の声も、あるいは調査もして、先ほど申し上げました多様なキャリアパスが可能なような仕組みというものをつくってまいりたい、こういうふうに考えてございます。

島津委員 ありがとうございます。

 研究者がじっくりと研究に取り組める環境づくりのためには、私は、国の科学技術予算の配分、これを全面的に見直して、今偏重があるわけですけれども、人文だとか社会科学の役割をもっと重視する、あるいは基礎研究への支援を抜本的に強めることも必要だと思っています。また、大学の日常運営に必要な経費、基盤的経費の増額も図っていく。そういう中で、じっくりと教育研究できる条件整備も進めていく必要があると思っています。

 研究現場では、先ほどもちょっと議論がありましたけれども、ポスドクと呼ばれる、任期制の非常に不安定な雇用に置かれている若者がふえています。研究を支えているこうした若手研究者の待遇改善は急務だと思います。

 先ほどからも述べられているテニュアトラック制を発展させ、期限終了後の雇用先の確保をあらかじめ義務づける制度をつくることだとか、あるいは、ポスドクの方の賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大などを進める、そのために必要な経費は国が責任を持つ、我が党は、こうした改善を進めるべきだと考えています。

 冒頭、先生のお話でも、若い研究者の元気、あるいは定年制と任期制の一体化というお話もありました。若手研究者の待遇改善についての先生のお考えをお聞かせ願いたいと思います。

松本参考人 若手研究者がどれぐらいの待遇であれば意欲を失わないかということは、大変重要な問題だと思っております。

 私は、研究者になった昔の自分を振り返ってみました。私は、工学部を出たんですが、企業に行こうというふうに強く希望していたんです。ひょんなことで大学に残ることになりましたが、明らかに企業の方が待遇がいいんですね。

 でも、大学に残りたいというやつもいるんですよ。それは何かというと、プライドですね、研究に対するプライド。だから、若手に対しては、プライドが持てる環境、これが一番重要だろうと思います。それは、研究環境であったり、研究に対する評価であったり、よくやっているということが周りから応援してもらえるという環境をつくる、これが最も重要だろうと考えてございます。

島津委員 ありがとうございます。

 制度的にもやはりきちんとしていくことが私は大事だと思っています。

 次に、産学連携についてお聞きいたします。

 産業と学術が連携して協力し合うことは、お互いの発展にとって有益なことです。しかし、大企業の利潤追求に大学が追随するような連携は、大学本来の役割が弱められ、研究成果の秘匿や企業との癒着などの弊害が生まれます。

 産学連携の健全な発展のためには、国からの一方的な押しつけでなくて、大学の自主性を尊重し、基礎研究や教育など、大学本来の役割が犠牲にされないようにしなければなりません。また、産学連携を推進する国の事業や共同研究への補助は、地域や地場産業の振興にも力を入れて、中小企業の技術力向上への支援も拡充しなければならないと思っています。

 健全な産学連携を進めるために、私は、国がガイドラインをきちんとつくるべきだと思うんです。先生、このガイドラインはどのようなものであるべきかということについて、お考えがありましたらお聞かせ願いたいと思うんです。

松本参考人 産学連携につきましては、ほとんどのセクターの方々が、これはやるべきだというお考えです。

 ガイドラインにつきましては、私はにわかには考えを持っておりませんが、御参考のためにこういう話をしてみたいと思います。

 日本が、戦後、苦しい状態から立ち上がった。戦前も、日本はそれなりの努力をして、いろいろ産業界と学術界が手を結んでいたということは事実でございます。例えば京都大学の例を申し上げますと、京都には優秀な企業がまだ本社を東京に移さずに頑張っておられますが、そういった創始者は、ほとんど、大学と実質上の共同研究をやられた、いわゆるアントレプレナーの方々でございます。

 そういうふうに、何かをやっている企業があって、その一部を産学連携するというんじゃなくて、企業全体というか社会構造全体に貢献できるような大学の構造をやるべきだというふうに私は常々思ってございます。それはいろいろな形がありまして、個別テーマもございますでしょうし、新しい産業を起こすという意味で異分野の人を集める努力もそうだろうと思います。

 例えば、中小企業の方々が、最先端の機械がどんどん新しくなるので、とても自分たちでは買えないから、ついていけないというケースがありますよね。そういうのは、大学できちっと最先端の機器を持っているところがその中小企業の方々に来ていただいて、それである程度、二年とか三年、実習を受けて、社会に帰ってきてまたスタートアップする、こういうサービスも京都大学でやってございます。

 そういった、大学でもたくさんやっておりますし、理研でも、当然ながら、いろいろな優秀な設備を持っているわけですから、いろいろなセクターの方々に来ていただいて、レベルアップを図っていただくということも必要かと思ってございます。

島津委員 ありがとうございます。

 時間がありませんので、最後に、女性研究者の問題です。女性研究者の地位向上と研究条件の改善について伺いたいと思うんです。

 研究者の中に占める女性の比率が、今一四%程度です。非常に少ない現実があります。大学教員で見てみると、女性は二二%。これを国立大学に限ると、一五・二%です。これは、世界の中でも極めて低い水準となっています。しかも、大学では、助教、講師、准教授、教授と階層が上がるにつれて女性の割合が低くなる。一方、専業非常勤講師のような不安定雇用職では、女性の割合が五割を超えている。女性研究者は、男性に比べて劣悪な地位に置かれているわけです。

 家庭における家事、育児、介護などを女性が担っている、あるいは出産、育児期間後の復帰が困難など、女性の不利な条件が多々あるわけですけれども、しかし、女性の才能が埋もれているという現状があるわけです。

 男女共同参画を進めていくために研究機関が行うべき対策、あり方についてのお考えをお聞かせ願いたいと思います。

松本参考人 女性の力を日本社会がもっと活用すべきである、これは安倍総理以下政府も力強く取り組んでおられると思いますが、研究コミュニティーにおいても、やはりこれは大変重要なことだろうと思っております。

 高等教育をパスして研究者になる方が多いんですが、高等教育に進まれる女性の数というものが大いに関係するんですね、研究者の女性比率というのは。

 御存じと思いますが、日本の大学院で女性学生、院生は、約四分の一ぐらいだと思います。研究者の数は、それに比べて少ないですね。これは、大学院に進む女性の学生の数が過去には非常に少なかった、そういう方々が研究者適齢期になられた、数は当然少ないままですよね。だんだん学生がふえてきますと、比率の構造が年齢とともに上がってまいります。

 そういうことを見ながら当然やるんですが、加速度をつける必要があるんじゃないかという御意見もありますので、各大学、各研究機関では努力をしてございます。

 理研では、女性管理者の比率は、現在、約九%から一〇%です、九・五%。それから、女性の研究者比率は一五・五%。これは比較的多い方だと思います。職員の方は女性が非常に目立ちまして、私が来てからも、随分たくさんの方が活躍しておられると思います。

 そういった意味で、女性が力を発揮していただく環境というものは、研究環境にせよ、かなり理研は進んだ取り組みをしているというふうに私は理解してございます。託児所とかいろいろな、もろもろの事柄に先進的に取り組んでいると思いますので、こういう意味でも、理研が研究組織としてのモデル化という形で努力をして、取り組んでまいりたいと思ってございます。

島津委員 ぜひ理研が女性の能力を発揮できるように頑張っていただきたいと思います。

 理研の研究不正再発防止のための提言書では、研究者倫理の基礎となるのは、論文のインパクトファクターでも、獲得研究費の額でも、ノーベル賞の獲得数でもなく、自然の謎を解き明かす喜びと社会に対する貢献だと強調しています。

 科学研究の健全な発展を支えるために、きょう伺った御意見もしっかり受けとめて、頑張っていく決意を述べて、質問を終わります。ありがとうございました。

坂本委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。

 この際、松本参考人に一言御礼を申し上げます。

 松本参考人には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時七分散会


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