衆議院

メインへスキップ



第10号 平成25年5月23日(木曜日)

会議録本文へ
平成二十五年五月二十三日(木曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   会長 保利 耕輔君

   幹事 伊藤 達也君 幹事 岸  信夫君

   幹事 中谷  元君 幹事 葉梨 康弘君

   幹事 平沢 勝栄君 幹事 船田  元君

   幹事 武正 公一君 幹事 馬場 伸幸君

   幹事 斉藤 鉄夫君

      青山 周平君    泉原 保二君

      上杉 光弘君    衛藤征士郎君

      大塚  拓君    川田  隆君

      河野 太郎君    白石  徹君

      白須賀貴樹君    鈴木 馨祐君

      高木 宏壽君    高鳥 修一君

      土屋 品子君    土屋 正忠君

      土井  亨君    西村 明宏君

      野田  毅君    馳   浩君

      鳩山 邦夫君    原田 憲治君

      松本 洋平君    武藤 容治君

      八木 哲也君    保岡 興治君

      山下 貴司君   山本ともひろ君

      大島  敦君    篠原  孝君

      辻元 清美君    古川 元久君

      三日月大造君    山口  壯君

      伊東 信久君    小熊 慎司君

      坂本祐之輔君    新原 秀人君

      三木 圭恵君    大口 善徳君

      浜地 雅一君    小池 政就君

      畠中 光成君    笠井  亮君

      鈴木 克昌君

    …………………………………

   衆議院法制局法制企画調整部長           橘  幸信君

   衆議院憲法審査会事務局長 窪田 勝弘君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十三日

 辞任         補欠選任

  西川 京子君     八木 哲也君

  武藤 容治君     川田  隆君

  保岡 興治君     白須賀貴樹君

  山本ともひろ君    青山 周平君

  篠原  孝君     辻元 清美君

  西野 弘一君     小熊 慎司君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     山本ともひろ君

  川田  隆君     白石  徹君

  白須賀貴樹君     保岡 興治君

  八木 哲也君     西川 京子君

  辻元 清美君     篠原  孝君

  小熊 慎司君     西野 弘一君

同日

 辞任         補欠選任

  白石  徹君     武藤 容治君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(緊急事態と憲法をめぐる諸問題)

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(国会と司法の関係をめぐる諸問題(裁判官弾劾裁判所及び裁判官訴追委員会等)そのほか)


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

保利会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件、特に緊急事態と憲法をめぐる諸問題について調査を進めます。

 まず、衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局法制企画調整部長橘幸信君。

橘法制局参事 衆議院法制局の橘でございます。

 本日は、緊急事態に関する主要論点につきまして御報告をさせていただくことになりました。よろしくお願い申し上げます。

 さて、本日のテーマは、現行憲法に規定があるものではございません。したがいまして、幹事会での先生方の御示唆も踏まえまして、これまでの各条章に関する検証の際のように、論点表に基づきまして、A、明文改憲、B、立法措置、C、いずれも必要ないといった分類によることなく、お手元配付の詳細資料、衆憲資八十七号を用いながら御報告をさせていただきたいと存じます。

 まず最初に、本日のテーマであります緊急事態という用語と、非常事態という用語について、一言御説明をさせていただきたいと存じます。

 一般には、この両者を区別して用いることはそう多くないように存じますが、この両者の関係につきましては、昭和三十年代の内閣憲法調査会で議論になった経緯がございます。そこでは、緊急事態のうち、その緊要性、異常性が特に高い事態のことを非常事態というとの意見が述べられる一方で、他方では、必ずしも緊急ではない非常事態もあり得るということで、非常事態について、緊急事態を包含する、より広い意味を持つものとして理解するべきとの意見も述べられていたようです。

 ただ、本日は、この点には踏み込まずに、両者を特に区別しないで御説明申し上げますこと、まずはお許し願いたいと存じます。

 さて、その上で、このような緊急事態あるいは非常事態の制度について憲法との関係で論じられるときは、先生方には文字どおり釈迦に説法かと存じますが、いわゆる国家緊急権という表現が用いられることが通例でございます。

 そこで、国家緊急権とは何かでありますけれども、この定義につきましては、衆憲資八十七号の四ページ冒頭に掲げておきましたように、戦争、内乱、恐慌、大規模自然災害など、平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序、すなわち、人権保障と権力分立でもって表現される憲法秩序のことでありますけれども、これを一時的に停止して非常措置をとる権限などと説明されるのが一般的であります。

 ただ、これまでの国会での先生方の御論議におきましては、必ずしも憲法秩序の一時停止といったようなレベルのものに限定せず、大なり小なり、緊急な事態に対応するための措置全般について議論の対象とされてきたように存じます。

 そして、一昨年の東日本大震災を経験した今日、この広い意味での国家緊急権をめぐって議論されている最大の論点は、このような制度を憲法に明文をもって規定するべきか否かという御議論であるかと存じます。

 この論点自体は、決して新しいものではなく、日本国憲法制定の際にも、また、先ほど言及いたしました内閣の憲法調査会でも議論されてきた論点ではあるのですけれども、従来から、積極、消極の両論が根強く主張されてまいりました。

 衆憲資八十七号の一ページにお戻りいただきますと、冒頭に、設けるべきとする意見と、設ける必要はない、あるいは、法律を整備すれば足りるとする意見とを掲げておきましたが、それぞれの論拠を一言で申せば、まず、積極論の立場からは、国家の危機に際して、そもそも通常の統治システムによる対応では不十分なことから国家緊急権に基づく緊急的対応が求められるわけであるが、それは濫用のおそれのある強権であるがゆえに、あらかじめその行使の要件や手続、限界を憲法に明記しておく必要があるということであります。

 他方、消極論の立場からは、いかに国家緊急権の発動要件等を厳格に憲法に記したとしても、過去の経験からして決して歯どめにはならず、濫用の可能性の方が高い、そうであるならば、むしろ、現行憲法の許すぎりぎりの枠内、すなわち公共の福祉の解釈の枠内で立法を整備し、事態に対処することの方が望ましいといったことが述べられてまいりました。

 要するに、両論とも、国家緊急権を根拠とした緊急事態における権力の集中や人権制限などの措置が極めて濫用のおそれのある強力なものであることについては認識を共有しながらも、それをどのようにしてコントロールしていくべきかという点において、一方の論者は、憲法に明文規定を置くことによって、それが例外であることを明確に意識しながらコントロールすべきだと考えるのに対し、他方の論者は、平時の制度である公共の福祉の解釈という原則的制度の枠内で対処し、その例外性を強調しないことによってコントロールした方が結果として濫用を防げると考える点で異なっているように存じます。

 以上の点が本日の御報告の中心的論点であるのですが、この点を敷衍しながら、以下では、現行憲法の制定過程を含めた現行憲法下における我が国の緊急事態法制の御紹介と、諸外国の憲法規定における緊急事態条項を参考にしたこれまでの国会での御議論のポイントについて御報告してまいりたいと存じます。

 まず、現行憲法との比較のために、旧明治憲法における緊急事態条項を眺めておきたいと存じます。

 衆憲資八十七号の五ページから六ページをごらん願います。

 旧憲法下におきましては、緊急事態における非常措置として四つの制度が定められておりました。一つは、天皇による緊急勅令の制定権、八条。二つ目は、同じく天皇による戒厳宣告の大権、十四条。三つ目は、一度も発動された事例はなかったようでありますけれども、軍の大元帥たる天皇による非常大権、三十一条。そして四つ目が、政府による緊急財政措置、七十条でございます。

 しかし、日本国憲法制定の際、当初のGHQ草案にはこのような緊急事態に関する規定は全くなかったことから、日本国政府との間で議論になったようでございます。

 この点、日本国憲法の制定過程にお詳しい上智大学の高見勝利先生によりますと、GHQは、非常時の際は超憲法的な内閣のエマージェンシーパワーによって処理すればよいとの主張だったようでありますが、日本側は、これから憲法をつくろうとするときに超憲法的な運用を予想するようでは、憲法に緊急権の定めが置かれていた明治憲法以上の弊害の原因になる、全てが憲法の定めるところによって処理されるようにすることがむしろ正しい道筋ではないかと反駁し、その結果、現行憲法五十四条の参議院の緊急集会の制度と、もう一つ、七十三条六号ただし書きにある政令への罰則委任の規定が設けられたとのことでございます。

 つまり、現行憲法は、大災害などの緊急事態についても当然に予想した上で、あくまでもこのような憲法の枠内で対処すべきだし、また対処可能だと考えていたというのです。

 衆憲資八十七号の二十六ページ以下に掲げておきましたように、確かに、現行憲法のもとにおきましても、一つ、警察法上の緊急事態措置、二つ、自衛隊法や一連の有事法制、国民保護法制などによる緊急事態措置、三つ、災害対策基本法などによる大規模災害に対する対応など、各種の法制度が定められているところでございます。

 そこでは、それぞれの事態に応じた応急対応措置として、一定の要件のもとでの政令による緊急措置や一定の者に対する土地使用の禁止や物資保管命令、業務従事命令等の権利制限規定なども設けられているところでございますが、これらはいずれも、現行憲法の公共の福祉の具体化と言えるものです。

 しかし、一昨年の三・一一以降、これらの現行法制の措置は十分ではなかったのではないか、それは単に立法措置が未整備、不十分だったからなのか、それとも現行憲法に明文の緊急事態条項がなかったからなのかという御議論がなされてまいりました。その際に参照されてきたのが、諸外国の憲法規定における緊急事態条項であったように存じます。

 衆憲資八十七号の三十四ページから三十七ページに、主な国の緊急事態条項について一覧表の形でまとめておりますので、御参照願います。

 この資料によれば、例えば、イタリアのように比較的簡潔な規定を持つ国もございますし、他方、ドイツのように実に詳細な緊急事態条項を持つ国もございます。

 また、三十六、三十七ページの下の欄に掲げておきましたように、最近ではかなり成文法によって規律されるようになってまいったとは言われますけれども、英米法系の諸国においては、一般に、行政府が公共の安全を維持するために必要な範囲内で権限を行使することができるとする、いわゆるマーシャルルールという不文の制度が存在し、緊急事態においてはこれで対応可能という国もあるようです。

 これら諸外国の憲法規定を概観しつつ、大ざっぱにその共通事項をまとめてみたのが、冒頭の一ページのポンチ絵の下半分の図でございます。

 すなわち、まず第一の要素として、緊急事態としてどのような事態を想定するのか、武力攻撃事態などに限定するのか、それとも治安的な緊急事態あるいは大規模自然災害や事故などについても念頭に置いて規定するのかという、緊急事態の範囲あるいは対象に関する論点がございます。これに関しては、それぞれの緊急事態の種類ごとにその認定方法や効果などを類型化して定めるべきかどうかといった論点も含まれているかと存じます。

 次に、二番目の要素として、そのような緊急事態を誰が認定するのかという論点がございます。

 多くの国では、行政府の長、例えば大統領や首相にその権限を与えている場合が多いようですが、その際には、それが濫用されないようにするために二つの制度装置を用意している国が少なくありません。一つは、あらかじめ対象地域や期間を限定することであり、もう一つは、そのような緊急事態認定への民主的コントロールとして、議会の事前または事後の関与を定めていることです。

 そして三つ目の、そして最大の要素は緊急事態宣言の効果ですが、これはさらに三つの項目に分類して説明することができるように存じます。

 一つは、緊急事態への迅速な対処を可能とするために行政府の長への権力の一時的集中を図ることです。すなわち、内閣あるいは内閣総理大臣に対して、法律にかわる緊急命令の制定や予算に計上されていない事項についての緊急な財政出動、さらには、地方自治体の長などへの直接的な指示、命令の権限等を付与することです。二つ目は、一定の人権、例えば移動の自由や財産権などに対する平時以上の制限や役務従事命令などの規定です。そして三つ目が、国会議員の先生方の任期延長や解散権の制限といった例外規定であります。

 一つ目と二つ目の効果につきましては、かなりの部分、現行憲法のもとでも公共の福祉の解釈による立法措置で対応可能ではないかとの御主張がありますが、三つ目の例外措置については、現行憲法のもとにおいては対応困難とされているように存じます。

 この点については、従来の緊急事態に関する国会論議の中では必ずしも大きな論点となってこなかった嫌いもあるように存じますので、若干敷衍して御説明させていただきたいと存じます。

 衆憲資八十七号の二十ページから二十一ページにかけて、自由民主党の近藤三津枝先生の質問主意書とこれに対する答弁書の要旨を掲げておきましたので、御参照願います。

 すなわち、東日本大震災が発災した一昨年は統一地方選の年でもありましたが、被災地における選挙事務執行の困難性などを勘案して、特例法を制定することによって被災自治体の議員や首長の選挙期日を延期し、その任期を延長するような措置が講ぜられたところでございました。しかし、もしこのような大災害が参議院の通常選挙や衆議院の任期満了の直前あるいは衆議院解散の直後に起こった場合、立法措置でもって同様の特例を定めることはできるのかというのが、この御質問の趣旨でございました。

 これに対する政府の答弁書は、一言で言えばノーでございました。なぜならば、国会議員の先生方の任期は憲法で四年あるいは六年と定められているし、また、衆議院が解散されたときは四十日以内に総選挙を行うとされていて、これらに対する例外規定は現行憲法上一切ないからでございます。

 近藤三津枝先生は、この答弁書に対して重ねて、どうしても選挙を実施しなければならないのだとしたならば、物理的に選挙事務の執行が不可能な被災地では選挙が行われず、被災地の代表たる国会議員がいないままの新国会が召集され復興立法が議論されていくことになってしまうのではないか、これでは被災地住民の参政権が事実上奪われてしまうという、別の意味で憲法規定の趣旨に違反してしまうことにならないか、それでも法律でもって選挙期日の特例、議員任期の延長等を措置することはできないのかとの再質問をされたようでございますが、答弁書では、御指摘のような場合であっても、公職選挙法のもとでこれらの選挙が執行されることになるというものでございました。

 このようなことを背景にして、緊急事態における対応措置について憲法に明文規定を設けることの是非がこれまで議論されてきたところでありますが、その概要につきましては、衆憲資八十七号の八ページから九ページの内閣の憲法調査会での御議論や、二十三ページから二十五ページにまとめてございます衆議院憲法調査会での御議論などもあわせて御参照いただければ幸いに存じます。

 以上、雑駁ではございましたが、緊急事態に関する御報告を終わります。ありがとうございました。

保利会長 以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終わりました。

    ―――――――――――――

保利会長 これより自由討議に入ります。

 この自由討議につきましては、幹事会の協議に基づき、まず、各会派を代表する委員が順次発言を行い、その後、各委員が自由に発言を行うことといたします。

 それでは、まず、各会派を代表する委員の発言に入ります。

 発言時間は五分以内とし、その経過については、終了時間一分前及び終了時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 発言は自席から着席のままで結構です。

 発言の申し出がありますので、順次これを許します。中谷元君。

中谷(元)委員 自由民主党の中谷元です。

 緊急事態に関しては、自由民主党は、日本国憲法に章を起こしてつけ加えておくべきであると考えます。

 国民の生命、身体、財産の保護は、平常時のみならず緊急時においても国家の最も重要な役割です。このため、自民党の草案では、東日本大震災における政府の対応への反省も踏まえて、緊急事態に対処するための仕組みを独立の章として憲法上明確に規定しました。これは、国家の危機管理というものは、いざというとき、混乱、超法規の対応をするのではなく、平素から権限と義務を整備しておくべきであると考えるからであります。

 その内容の柱は、第一に、有事や大規模災害などが発生したときに、内閣総理大臣が閣議にかけて緊急事態の宣言を行うこと、第二に、その宣言の効果として、内閣総理大臣などに一時的に緊急事態に対処するための権限を付与するというものです。

 まず、緊急事態の宣言の手続について、国会との関係では、総理が緊急事態の宣言をするには、事前または事後に国会の承認が必要です。事前の承認が当然原則ですが、緊急事態に鑑み事後になることもあり得ると考えられます。なお、国会承認の議決については、衆議院の優越を規定しています。

 次に、緊急事態宣言の終了について、その期間を百日に限定する規定を設け、百日を超えて継続するときは事前の国会承認を要するとしたところであります。加えて、国会が議決したとき、宣言は解除されるものと規定をいたしております。

 次に、緊急事態の宣言の効果について、まず明確にしておかなければならないのは、宣言を発したら内閣総理大臣が何でもできるということではなく、宣言の効果は憲法に規定をされている事項に限定されるべきということです。

 宣言の効果として、まず、緊急政令の制定と地方公共団体の長に対する指示を規定しています。これらは現行の災害対策基本法や国民保護法等に例があり、憲法上の根拠がなくても立法措置は可能ですが、憲法上の根拠があることが望ましいと考えて置いた規定です。加えて、内閣総理大臣による緊急の財政支出についても規定をしています。

 この緊急政令と緊急財政支出は、事後に国会の承認を得ることを必要としており、政令は、承認が得られなければ、直ちに廃止しなければなりません。

 もう一つ、緊急事態の宣言の効果として、国民が、国や地方自治体が発する国民を保護するための指示に従わなければならないことを規定いたしております。現行の国民保護法において、こうした憲法上の根拠がないために、国民への要請は全て協力を求めるという形でしか規定できなかったことを踏まえたものです。これについては、緊急事態においても基本的人権を最大限尊重すべきことをあわせて規定しております。この規定内容などに関して、緊急事態であっても基本的人権は制限すべきでないといった意見もありますが、国民の生命、身体及び財産という大きな人権を守るために、必要な範囲でやむなく他の人権が制限されることもあり得るものと考えます。

 その他、緊急事態の宣言が発せられた場合に、衆議院が解散されないこと、国会議員の任期の特例や選挙期日の特例について規定をいたしました。東日本大震災の後、被災地の地方議員の任期や統一地方選挙の期日は法律で特例を設けることで延長されたのですが、国会議員の任期や選挙期日は、憲法に直接規定をされているので、法律でその例外を規定することはできず、憲法に規定を置く必要があるためです。

 なお、衆議院が解散されている場合に緊急事態が生じた場合については、選挙が施行されるまでの間は、参議院で、緊急集会で対応することを想定して、特に規定を置きませんでした。ただ、このような場合には、前衆議院議員の身分を一時回復させるべきではないかといった意見があったことも申し添えます。

 以上、自民党を代表して、自民党の緊急事態に対する憲法の考え方を説明させていただきました。どうもありがとうございました。

保利会長 次に、山口壯君。

山口(壯)委員 民主党の山口壯です。

 緊急事態に関して、民主党の基本的考え方について発言させていただきます。

 二〇〇五年の民主党憲法提言では、憲法に非常事態に関する規定を置くべきか否かに関して、国家緊急権を憲法上に明示し、非常事態においても、国民主権や基本的人権の尊重などが侵されることなく、その憲法秩序が維持されるよう、その仕組みを明確にしておくと記しています。

 その趣旨は、通常の行政執行体制では事態に機動的に対処できない場合に備えて緊急事態に関する規定を置くという方向性は示しながらも、あくまでも、国民主権や基本的人権といった憲法の原理を緊急事態においても維持するという点にあります。憲法の中に緊急事態を想定した規定をあらかじめ設けることにより、基本的人権の制限に歯どめをかけるとともに、行政権の濫用に対する国会による民主的統制を確保しようとする趣旨です。非常事態とはいえ、無制限に何でもできるのではなく、最低限の枠をはめ、立憲主義を貫くべきと考えます。

 このような民主党の考え方は、憲法論議以外の場面でも一貫しています。

 二〇〇三年に成立した武力攻撃事態対処法は、いわゆる有事法制の根幹をなす法律ですが、当時野党であった民主党の主導のもとで法案を修正しています。すなわち、民主党の主張に基づく修正により、日本国憲法十四条の法のもとの平等、十八条の奴隷的拘束及び苦役からの自由、十九条の思想及び良心の自由、二十一条の表現の自由などの基本的人権に関する規定が最大限に尊重されなければならないことが明記されています。このような趣旨は、憲法の緊急事態条項の内容を検討する際も基本に置くべきと考えます。

 基本的人権の最大限の尊重に加えて、民主党が緊急事態への対処について重視するもう一つの原則は、国会による民主的統制の確保という点です。

 武力攻撃事態対処法の修正においても、武力攻撃事態に対処するための措置の終了について、国会の関与を強めるべきという指摘を行い、国会が終了すべきことを議決した場合に武力攻撃事態であることの認定を廃止するという趣旨の修正を加えました。

 これとの関連で、行政権の濫用をチェックするための民主的統制を行うための主体である国会の組織と機能は緊急事態においても常に維持されなければならず、そのために、民主党の憲法提言には、国家非常事態における内閣総理大臣の解散権の制限を緊急事態条項の内容として例示しています。これは、緊急事態のもとで衆議院が解散されてしまえば、行政権の濫用を監視するという国会の機能が果たせなくなるため、そのような事態を避けようとするものです。

 以上、憲法の中に緊急事態を想定した規定をあらかじめ設けることにより、基本的人権の制限に歯どめをかけるとともに、行政権の濫用に対する国会による民主的統制を確保しようとするのが民主党の考え方です。

 なお、今後、憲法の緊急事態条項の具体的内容を検討する際には、このような観点に加えて、ドイツなど多くの諸国の例に見られるように、緊急事態といっても、戦争のような事態と災害等の場合とを分けて規定することもあり得ると思います。

 例えば、災害の場合には、権力集中といっても被災自治体の現場での対応を支援する形のものになるでしょうし、また、人権制限も、災害から国民の生命、身体や財産を守るための人権調節的なものになるでしょうから、国民として許容する余地が大きいと思います。

 他方、戦争の場合には、外部からの武力攻撃を排除することを主目的とするものであり、また、そのための権力集中や人権制限は大幅なものとなることが予想されますから、国民一般がこれを許容する度合いは災害の場合とは決して同一ではなく、より慎重な検討が必要になってくると思うからです。

 以上、民主党の基本的な考え方を申し上げさせていただきました。

保利会長 次に、小熊慎司君。

小熊委員 日本維新の会の小熊慎司です。

 日本維新の会としましては、緊急事態の規定をしっかりと憲法に明記すべきと考えます。

 日本維新の会は、国の役割を、外交・安全保障、危機管理、マクロ経済政策などに絞り込んで、地方の権限を強化するとともに国の機能を強化するということをうたっております。当然、緊急事態体制を強化する方向で統治機構の改革を推進すべきだという立場に立っております。

 現在、我が国には、緊急事態への対応を平素から検討し、緊急事態に対する体制を整備する恒常的な組織が政府には存在しておりません。緊急事態があるたびに、各省庁の寄り合いによる対策本部が設置される仕組みとなっております。その背景には、現行憲法に緊急事態に関する規定が欠落しているという憲法上の欠陥が存在すると考えます。あえて憲法上の規定を探せば、衆議院解散中の参議院の緊急集会規定、憲法第五十四条だけです。しかし、この規定をどのように活用するかについての施行令はありません。

 憲法上の規定がなくても緊急事態に対応する法令を整備することは可能ではありましたけれども、緊急事態に対処するためには、国民の人権を制約、例えば、生活必需品の強制徴収や移動の自由の制限、物価の統制などをする必要があるために、緊急事態に関する法令整備に反対してきた勢力もありました。このため、緊急事態法制は、大規模災害等で多数の人命が犠牲になるたびに少しずつ改善、整備をされてきたのが現状です。

 そこで、緊急事態に対する体制を整備するためにも、以下に述べる規定を置くべきと日本維新の会は考えます。

 他国からの武力攻撃はもちろん、大規模な自然災害、原発事故、大規模なテロ、外部からの武力攻撃、パンデミックなどの緊急事態に迅速かつ効果的に対処するとともに、有事にあっても憲法秩序を維持し、権力の濫用や簒奪を防ぐため、内閣総理大臣による指揮命令権の行使と国会による民主的統制を明記するということを主張させていただきます。

 また、さらには、次に述べる三点も、憲法に明記する方向で検討が必要と考えます。

 一つに、内閣総理大臣への権限集中と、緊急事態における内閣総理大臣の指揮命令に対する国会のチェック体制及び国会議員の任期について、また解散の制限など。第二に、緊急事態における移動の自由や財産権などの人権の制約、国民の役割、被災者救助や被災地支援等とその補償の措置。第三に、地方公共団体は、他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、国の指示に従い、緊急事態に対処する責務を有すること。

 以上の三点も憲法に明記する方向で検討を加えるべきと我々日本維新の会は考えます。

 この際、私自身は福島県出身であります。二年前の三月十一日の夕方から被災地を駆けめぐってきたときに、やはり国民の生命と財産を守るべき国の役割が果たされていないという現場を目の当たりにしました。

 自衛隊の皆さん、警察の皆さん、消防団、消防署の署員、地域の皆さんも災害にしっかりと対応してきたところではありますけれども、残念ながら、原発事故の起きた福島県においては、二十キロ圏内の家族の捜索は、自衛隊が入ったのは五月の連休からです。それ以前には、地元の方々、そして、これはある意味、署員の安全ということを考えれば正しくなかったのかもしれませんけれども、福島県警以下福島県の警察の皆さんは、装備がない中でも二十キロ圏内の家族を捜索されました。

 私も、その二十キロ圏内に入ったときに、宮城県や岩手県で一週間後、十日後に助かった命のことを考えれば、あの二十キロ圏内でも助けられた命があった。それは、緊急事態に対する整備がなかったことで失われた命もあった。ここは政治がしっかりと決断をしてここに明記して、国民の生命と財産を守る。何もしないことで生じるリスクをしっかりと取っていくことが必要だというふうに考えます。

保利会長 次に、斉藤鉄夫君。

斉藤(鉄)委員 公明党の斉藤鉄夫でございます。

 公明党を代表して、緊急事態と憲法をめぐる諸問題について見解を述べさせていただきます。

 緊急事態に際して国家が有する機能については、第一に、平時の立憲体制の範囲内における臨時的、一時的な統治機構、作用の変更としての緊急権、第二に、憲法上、憲法秩序の一時的な停止、一定条件下における一国家機関による独裁的な権限行使等を認める緊急権、いわゆる憲法制度上の国家緊急権、そして第三に、憲法秩序の全面停止または否定の上に超憲法的な独裁的権力の行使を認める不文の緊急権、いわゆる憲法を踏み越える国家緊急権、以上の三つのパターンを考えることができると言われております。

 我々がここで緊急事態と憲法をめぐる諸問題として議論すべきは、第一の平時の立憲体制の範囲内における臨時的、一時的な統治機構、作用の変更も対象となりますが、特に、第二の憲法秩序の一時的停止、一定条件下における一国家機関による独裁的な権限行使といった、憲法制度上の国家緊急権が重要な議論となると思います。

 この憲法制度上の国家緊急権は、一般に、憲法秩序を崩壊させる政治の動きを事前に防止し、または事後に是正する装置という意味において、憲法保障制度の一形態であるとも言えます。

 しかし、他方で、一時的であれ、立憲的な憲法秩序を停止し、一国家機関への権力の集中と強化を認めるものでありますから、立憲主義を破壊する危険性を有しております。したがって、その権限行使は、厳格な要件のもとにおいてのみ認められるべきとされているわけであります。

 このため、もし国家緊急権を実定化するにしても、一、その権限の行使が立憲主義体制の維持及び国民の権利、自由の擁護という明確な目的に限定されること、二、その権限の行使は、緊急事態に対処するための一時的かつ必要最小限度のものであること、三、緊急事態とは、憲法に定める通常の手段では対処できない事態であり、かつ、それが客観的に明らかである場合をいうこと、四、緊急事態の終了後、国家緊急権に基づき講ぜられた措置等について、議会及び裁判所において政治的及び法的責任が追及され、また、国民がこうむった不利益について十分な回復措置が講ぜられること等の要件が設けられるべきであると一般に考えられているわけであります。

 さて、この現行日本国憲法に規定のない国家緊急権について、公明党の中に両論がございます。

 ミサイル防衛、国家テロなどの緊急事態についての対処規定がないことから、新たに盛り込むべきではないかという意見。例えば、緊急事態にどう対処するかという基本法案とともに、憲法に緊急事態に対応するための規定をきちっと設けるべきであるという意見があります。

 一方、あえて必要はない、法制上の措置で済むという意見。例えば、大災害など非常事態に対処する法整備はしなければいけないが、直ちに国民の諸権利との調整とか憲法につけ加えなければならないというところまでの議論ではない、法整備をする中でそういう必要があればやればいいという意見。また、憲法の中に明文の国家緊急権の規定を入れてしまうということは、ぎりぎりの段階まできちっと法規にのっとった形で対応する努力を放棄してしまうのではないかと危惧する意見もございます。

 いずれにしましても、今後予想されるさまざまな非常事態に向けまして、人権保障のための体制整備が不可欠であり、そのために統治機構のあり方についてより踏み込んだ議論が必要であるという認識は共有していると思います。

 その際、重要なことは、非常事態において、居住、移転の自由や営業の自由といった一定範囲の人権の制限が必要となる場合があり得たとしても、その場合においても、国民の生存を確保するという、やはり国民の最上級の人権を守るということをその目的とすべきであるということです。非常時における人権の制限というものは、あくまでも国民の生存を確保するという国民の最上級の人権を守るためにという目的こそが大事であり、それとは無関係の国家の利益を守るためではないということを確認しておきたいと思います。

 つまり、国民主権の原理に立つのであれば、国民の利益と無関係な国家の利益というのはあり得ず、人権制限の根拠もやはり人権保障に求める以外にないのではないかと思われます。非常時においてこそ国民主権の徹底が必要であり、そうでなければ、内容不明な国家の利益を守ることを理由に強権が発動され、広範な人権制限が行われる危険が生じてしまうのではないかと思われます。

 以上です。

保利会長 次に、畠中光成君。

畠中委員 みんなの党の畠中光成です。

 憲法の論点である緊急事態に関して、みんなの党の意見を申し述べます。

 みんなの党は、昨年四月に、憲法改正の基本的考え方において、憲法上、非常事態法制の整備を明記するとお示ししています。

 有事や大災害といった緊急事態では、内閣総理大臣に権限を集中し、国民に何らかの協力をお願いしなければいけないなど、平常時の法制の限界を超えることが想定されます。よって、その法律の整備は徹底して行わなければなりませんが、事憲法に関しては、それでもなお自由と人権を守る最後のとりでとして機能しなければならないと考えます。みんなの党の考える憲法における緊急事態項目の追加はそれを規定するためのものです。

 そもそも、近代立憲主義の考え方に鑑みれば、憲法とは、個人の自由を保障するものです。したがって、我が国の基本的人権の保護が規定されている基本法典である憲法に人権の制限にかかわる事項を追加することは、本来であれば望ましいことではありません。ついては、追加するに際しても、その条項をいかに制約的なものにすべきかを第一に考えるべきです。

 緊急事態が適用される対象や期間、地域、また制限された人権の回復については、きちんとした議論が必要です。加えて、このシステムが暴走することがないよう、事前または事後の国会での承認制度、国会による取り消しに関する規定なども設けられるべきと考えます。また、三権分立の観点から、ドイツの制度を参考に違憲立法審査権をさらに一歩進め、内閣、国会の認めた緊急事態について司法がストップをかけられる制度の導入も検討に値すると考えます。

 繰り返しになりますが、みんなの党は、緊急事態に際して、いかに人権を制限するかではなく、いかに自由と人権を守るかを最重要として検討していることを前提として、以後申し述べます。

 さて、緊急事態が適用される対象について私見を申し述べます。

 例えば、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの巨大な自然災害、大規模なテロや外部からの武力攻撃、サイバー攻撃などが考えられます。さらには、実際には発生しませんでしたが、二〇〇〇年問題などの全国的なコンピュータートラブル、新型インフルエンザなどによるパンデミックの脅威といった事例がこの事態に該当してくるのではないかと思われます。

 このような緊急事態の中で、我々の記憶に新しく、教訓としていかなければならないのが東日本大震災であり、我が国の歴史に類を見ない福島第一原発の放射能災害です。

 みんなの党の椎名毅議員も事務局の調査員としてその作成にかかわった、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を見ると、発災後の緊急事態対応について、官邸、規制当局、東電経営陣にはその準備も心構えもなかった、官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった、東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかったといった厳しい指摘がなされています。

 ここから見てとれるのは、首相及び官邸といった意思決定権者への正確な情報伝達の必要性であり、平時における危機管理体制構築の重要性です。我々政治家の究極の責務は、国民の生命財産を守ることです。その責務を果たすためには、仮にこれまでの歴史にない事態であったとしても、最大限の知恵を絞り、冷静な判断を下さなくてはなりません。そのための危機管理体制は、既に複数の法制で整備されています。しかしながら、それらの法制の枠に適合しない、もしくは想定していない事態が発生することも、もちろん考えておかなければなりません。

 みんなの党は、このような観点から、法律の上位にある憲法に、緊急事態における首相の権限を明記する必要があると考えています。憲法における緊急事態の扱いは極めて重要です。みんなの党は、憲法改正のみならず、その他の国民投票のあり方をしっかり規定することによって、憲法が守るべき国民の自由や人権を重層的に担保することが必要だと考えています。これは、今後の憲法審査会において意見表明することになろうかと思います。

 以前も申し上げましたが、みんなの党の考える憲法改正は、国民の手に政治を奪還するためのものです。これを御理解いただき、以上をもってみんなの党の意見表明とさせていただきます。

保利会長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 初めに、本日のテーマ設定について一言しておきます。

 昨年来、本審査会で行ってきたのは日本国憲法の条章ごとの検証であって、言うまでもなく、現行憲法には緊急事態についての特別の章立てはありません。したがって、このテーマ設定は本来の検証の趣旨ではありません。いわゆる緊急事態なるものについては、既に第四章の検証の際にさまざまな意見が表明されており、今回それを改めてあえてとりたてて扱うべきではありません。

 にもかかわらず、設定された以上、意見表明を行うものであります。

 今必要だと主張されている緊急事態に関する規定とは何か。大規模な自然災害、外部からの武力攻撃などの際に、憲法の例外規定を設けたり、憲法の諸規定を停止しないと対処できないというものですが、果たしてそうでしょうか。大震災などの大規模災害に当たって、緊急事態に関する規定ではなく、日本国憲法を文字どおり生かすことこそ必要なのであります。

 このことは、今回の東日本大震災への対応をめぐっても明らかになっています。大規模災害に万全の備えを行い、それでも起きたときに最大限対処できる法体系を整備し、被害を最小限に抑え、そして、危ない原発をつくらない、動かさない、被災者の生活となりわいの再建にとことん努力する、こうしたことこそ東日本大震災、東京電力福島第一原発事故の最大の教訓ではなかったでしょうか。

 だからこそ、あれから二年余り、国会において超党派で行ってきたことは、そのためにさらに必要な法律や制度の整備であり、国会事故調の設置を初め福島原発事故の原因究明であり、現在審査中の災害対策基本法改正案にも、曲がりなりにもそうした趣旨が一定盛り込まれているのであります。

 日本国憲法を十二分に生かし、人権を守ることを土台に、憲法十三条や二十五条を初めとした諸原則の具体化を図り、防災と被災者支援を最優先にする社会をつくることこそ、大規模災害に備え、対処する最も確かな道です。むしろ、大規模災害に対処する法律や制度が既にあるものについても、政府がそれに基づく対処を怠ったり、あるいは構造改革によって地方自治体のマンパワーが不足したために被害を大きくしてしまったことなどこそ、真摯に反省すべきなのであります。

 憲法に緊急事態の規定を設け、総理大臣に権限を集中すれば大規模災害に対処できるなどというのは、これまで二年余り国会で議論し、超党派で努力してきた方向とも違う主張であり、それこそ問題のすりかえだと言わなければなりません。

 外部からの武力攻撃に対処するために緊急事態の規定が必要などとも言いますが、そのような事態を起こさせない、そのためにこそ日本国憲法があるのであって、この点でも、憲法を生かす政治こそ求められているのであります。

 すなわち、憲法前文と九条に基づき、国家間のもめごとが起こってもそれを絶対に戦争にしない、紛争を戦争にしないという外交によって解決することであります。軍事力ではなく外交力を発揮し、日本と世界の平和構築のために積極的に行動することで外部から攻撃されない日本をつくることこそ、憲法の要請です。

 日本国憲法が、明治憲法で規定されていた緊急勅令を拒否し、国民主権主義、基本的人権の尊重、恒久平和主義などの諸原則を根本に据えたのは、明治憲法のもとで、天皇が法律にかわる緊急勅令を発し、侵略戦争遂行のための体制をつくっていったという苦い経験があるからにほかなりません。

 憲法制定議会で金森徳次郎憲法担当大臣は、緊急勅令は、行政当局にとっては重宝だが、国民の意思をある期間有力に無視し得る制度であり、民主政治の根本原則を尊重するかの分かれ目だと、国家緊急権を設けなかった理由を明確に述べています。緊急事態の規定が必要との主張は、こうした歴史に逆行するものと言わなければなりません。

 恒久平和の原則を徹底することで緊急事態を生じさせないとしたことは、まさに諸外国の憲法にはない日本国憲法の先駆性を示すものであり、その最も確かな道であることを指摘し、意見表明とします。

保利会長 次に、鈴木克昌君。

鈴木(克)委員 生活の党の鈴木克昌であります。

 緊急事態について意見を申し上げます。

 生活の党では、前にも申し上げておりますけれども、九十六条先行改正論のような政治的背景からの議論ではなく、将来の日本の国家像をしっかりと描いた上で、党内で冷静に、理性的に憲法論議を行っております。

 このような党内議論をもとに、去る五月九日に発表した「憲法についての考え方」では、一つ、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義、国際協調という憲法の四大原則は、現在においても守るべき普遍的価値であり、引き続き堅持すること。二つ、国民主権から発する諸原理の安易な改正を認めないという憲法の趣旨から、現行の改正手続規定は、堅持すること。そして三つ目として、憲法の基本理念、原理を堅持した上で、時代の要請を踏まえ、国連の平和活動、国会、内閣、司法、国と地方、そして緊急事態の関係で一部見直し、加憲すること。

 以上の三点を基本的な考えとしております。

 まず、内閣による緊急事態宣言について申し上げます。

 この中では、緊急事態は、見直し、加憲の項目として位置づけられているわけですが、それでは、どのように見直し、あるいは検討を行っていくかということについて、以下、状況を御説明いたします。

 まず第一に、緊急事態に際し、対応策を迅速かつ強力に推進することができるよう、内閣による緊急事態宣言の根拠規定その他の緊急事態に関する事項について規定するとしております。もっとも、憲法だけで具体的な要件や効果が全て書き切れるものではなく、詳細は法律に委ねざるを得ないものと思われます。そこで、憲法の規定に基づいて、法律で定めるべき事項についてもあわせて検討を行うこととしております。

 続いて、内閣総理大臣を含む全国務大臣が欠けた場合についてであります。

 従来の法制度では全く想定しておらず、対処の方向性が見えない事例についても取り上げており、大規模テロなどにより内閣総理大臣を含む全国務大臣が欠けたとき等の臨時代理について、憲法上の根拠規定を置くことも必要であるとしております。

 国会議員の任期延長等についての検討については、緊急事態中に国会議員の任期が満了したが、物理的に選挙を行うことができず、国会議員が不在となって国家機能の継続に支障を来す場合等を想定し、緊急時における国会議員の任期延長等について検討することが必要であります。

 なお、そのような検討を行う際は、国会議員の任期を延長するための特例措置や、衆議院解散の禁止などの措置について検討することはもちろん必要であります。

 それに加えて、私としては、緊急事態がいつ起こるかわからないものであることを踏まえると、衆議院が解散された後、総選挙が実施されるまでの間に緊急事態が起こった場合への対処について、前衆議院議員の身分を一時回復させるような措置も検討に値するように思います。

 先ほど述べましたように、内閣総理大臣を含む全国務大臣が欠けたときを想定するとすれば、新しい内閣総理大臣を指名するという国会の機能は、参議院の緊急集会で対処するというよりは、やはり両議院がそろった状態で果たされるのが望ましいと考えるからであります。

 以上、緊急事態について意見表明をいたしました。御清聴ありがとうございました。

保利会長 これにて各会派を代表する委員の発言は終了いたしました。

    ―――――――――――――

保利会長 次に、委員各位による自由討議に入ります。

 発言を希望される委員は、お手元にあるネームプレートをお立ていただき、会長の指名を受けた後、御発言ください。発言が終わりましたら、ネームプレートは戻していただきますようにお願いをいたします。

 発言は自席から着席のままで結構であります。また、発言の際には、所属会派及び氏名をお述べいただきますようにお願いをいたします。

 なお、幹事会の協議によりまして、一回当たりの発言時間は五分以内といたしたく存じます。

 発言時間の経過につきましては、終了時間一分前及び終了時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、発言を希望される委員は、ネームプレートをお立てください。

船田委員 自民党の船田でございます。

 先ほど笠井委員から、今回のテーマの設定については現憲法にないことであるのでいかがなものかというお話がございましたが、幹事会でもお話を申し上げましたように、この緊急事態につきましては、きょうも傍聴においででございますが、かつて、中山太郎憲法調査会長のときに相当な時間をかけて議論をした、そういう経緯もございました。

 また、先ほどみんなの党さんからも御指摘がありましたように、東日本大震災という大変大きな経験、教訓を我々は得たわけでございます。その教訓がまだ十分にこなされていないそういうときに、やはり緊急事態ということについてこの憲法の論議においても議題とするのがふさわしいのではないかということで、幹事会で決めたことでございますので、ぜひ御理解をいただきたいと思っております。

 緊急事態につきましては、憲法で規定すべきかすべきでないかということですが、多くの政党の皆さんが、制定すべきである、あるいは盛り込むべきである、こういった御意見をいただきました。

 確かに、英米法の体系によりますと、いわゆる緊急時が発生したときには行政が最大限のことをやる、必要なことは何でもやる、こういうことで処理できるんだ、そういう考え方から、イギリス、アメリカにおいてはこの緊急事態というのは特に憲法には書いてありません。また、マーシャルルール、こういう不文の制度があるんだということで説明をされているわけでございます。

 しかし、私は、もし、非常時において、その規定がないことによって行政の権限が無制限に拡大をされる、あるいは権限の濫用が行われるということを考えた場合には、やはり憲法においてそれを防止するための規定を設けるということは大変大事だろうというふうに思います。

 では、具体的に緊急事態でどういう規定を必要とするのかということでございますが、一つは、緊急事態の定義をやはり明確に書くということ、例えば、外からの武力攻撃、あるいは内乱による社会秩序の混乱、さらには大規模な災害など、ある程度限定、制限列挙というのがふさわしいのではないかというふうに思っております。

 また、誰がこの緊急事態を宣言するかということについては、諸外国の例にもありますように、大統領、日本の場合には総理大臣が宣言をするということであります。しかしながら、やはりこの宣言におきましては、国会の承認を得るというのは、少なくとも民主国家である限りは当然やるべきであるというふうに思っております。

 それでは、その宣言によってどういうことが行えるのかということですが、これもこれまで議論が出ておりますように、法律と同じ効力を持つ政令を発することができるとか、予算外であるけれども、財政の特別な支出を行うことができる、あるいは地方自治体の長に総理大臣が指示することができる、こういったことを盛り込むべきであると思っております。

 また、このような中で、国民の権利の制限ということも、一定程度これはやむを得ないということだと思いますけれども、その場合でも、基本的人権は最大限尊重されるという文言はやはりきちんと入れておくべきではあると思いますし、また、緊急事態が終了した後、国民の中で、さまざまな被害をこうむるということもあり得るわけでございますので、できる限り被害あるいは財産の回復を図るということを入れ込むことは必要であると思います。

 さらに必要なのは、緊急事態が終了する、このことをきちんと書くべきであると思います。事態がおさまったときには早急に終了措置をとるということ、いわゆる解除宣言の明記であります。また、その中間でチェックをする、こういったことも大事ではないかというふうに私は思っております。

 このようなことを盛り込んだ緊急事態の規定は大変重要であると私は考えております。

 以上でございます。

古川(元)委員 民主党の古川元久でございます。

 私は、憲法というのが、国民主権、基本的人権の尊重、こうしたものを最大の憲法秩序として規定している、こうした観点から考えても、緊急事態においてもこの憲法秩序が確保されるような、そうした仕組みを、憲法を初めとしてきちんと担保していくということは極めて重要なことであるというふうに考えております。

 その上で、そうした考え方のもと、緊急事態におきましては、これはやはり行政主導でこの事態の対処に当たりますので、その場合であっても、行政が基本的人権を侵害したり、あるいは結果的に国民主権をないがしろにするようなことにならないように、それが事後的にもきちんと担保できるような、そうした仕組みを、平時において、できる限りこれは法的な枠組みで議論して整備をしていくということが重要であると思います。したがって、まずは、さまざまな緊急事態を想定した法整備というものが極めて重要だと思います。

 私自身、官房副長官のときに、新型インフルエンザ等対策特別措置法の作成を事務方に指示して、昨年成立をいたしました。強毒性の新型インフルエンザなどが蔓延をした場合には、その事態に直ちに対処するという意味では、一定限度のさまざまな私権の制限、そういうものも必要になってくるわけであります。

 こうしたものについては、そのときになって緊急事態だからということで行政が勝手にやるということじゃなくて、やはり事前に、平時に議論をした上で、どこまで認められるのか。また、そうした制限をした場合には、それをどう事後的にもチェックして、また損害があればそれを担保するのか。やはり、そうしたことは平時に法的な枠組みでしっかり規定をしていくということが大事だと思います。

 しかし、それでもやはり想定し得なかった緊急事態というもの、また、そうした緊急事態に対処するための法律で十分対処できないところが出てくる可能性がないとは言えないわけでありますから、やはりそういった意味でも、緊急事態における基本的な憲法秩序を維持するための規定というものは憲法の中に規定すべきじゃないか、そのように私は考えております。

 以上です。

高鳥委員 自由民主党の高鳥修一でございます。

 一昨日、五月二十一日に、災害対策特別委員会におきまして、泉田新潟県知事が参考人として発言をされております。

 泉田知事は、新潟県中越地震、これは平成十六年でございますが、それと平成十九年の中越沖地震、この二度の地震で陣頭指揮をとられた経験をもとに、FM局の開局、ガソリンの成分調整を例に挙げながら、時代によって、生活スタイルによって、見えてくる災害の形態が変わり、必要な対応も変わるとして、包括的な適用除外措置、これを設けてほしいという趣旨を述べられました。

 少し具体的に申し上げますと、FM局の開局というのは、災害情報あるいは避難情報を地域の住民に伝えるのに極めて有効でありますが、開局をする手続に時間がかかります。また、ガソリンの成分調整というのは、外国で車を動かせるガソリンであっても国内での成分調整に時間がとられるという問題がございます。そして、時代によって必要な対応も変わるというのは、例えば阪神・淡路大震災の時代にはパソコン通信の時代でありました。中越地震のときになりますと携帯が相当に普及をいたしまして、さらに今ではツイッターとかフェイスブックとかもかなり普及をいたしておりますので、携帯でネットの情報を見る時代となっております。それに従いまして、携帯を充電するテーブルタップが大量に必要になるということであります。

 これはあくまで一つの例でございますけれども、非常に重要なポイントを含んでいると私は思うのです。それは、時代によって生活スタイルが変わり、そして必要な対応も常に変化をしていくということでございます。全ての起こり得る危機に対して個別に対応し切れない可能性を否定できないわけでありまして、包括的な緊急事態宣言を規定し、手続を簡略化して迅速にやらなければ、被災者を迅速に救出できないものと考えます。

 それから、先ほど説明がございましたけれども、災害時の国会議員の任期延長について。

 地方議員の任期は地方自治法九十三条によって、また首長は第百四十条によって規定されているので、特別立法で延長できるわけであります。東日本大震災のときにも法の手続によって延長されたわけであります。国会議員の任期については憲法第四十五条、四十六条によって規定をされており、法律の制定によって国会議員の任期は延長できない、これは平成二十三年十一月十一日の近藤三津枝議員の質問主意書に対する政府答弁書にもございます。

 非常事態を生じさせないように努力すべきといっても、自然災害をとめることはできません。したがって、予算にはない支出を緊急的に迫られる場合もございます。やはり緊急事態規定は必要であると考えます。

 そして、ドイツなど諸外国においても細かく緊急事態が規定をされており、非常時に国家が混乱をし対応が後手後手に回らないためにも、平時において緊急事態に対応するルールを憲法上規定しておくべきであると考えます。緊急事態でさえも超法規的措置ではなく憲法の範囲内で、憲法の規定に従って対処するためにも、規定は必要であると考えます。

 以上でございます。

辻元委員 緊急事態関連を憲法に入れるかどうかを検討するに当たりまして、特に、東日本大震災がございましたので、その現場から、何が一体できなかったのかということをまず検証することが必要だと思っております。

 私は、東日本大震災発災二日後から、総理大臣補佐官として被災地の支援に当たりました。そのときに、今の体制で総理大臣のできること、できないことは一体あるのかという議論や、さらには、被災地支援のための各種会合をしながら、各省庁連携をしながら被災地支援を進めましたが、現行法律上できないことも出てきたことは事実です。これは、その後、災害対策基本法等、迅速に改正をして対応できるようにしていくというようなことがございました。特に、現場の検証が必要である、そして、私たちの今までの政治のあり方はどうだったのかということを考えさせる局面が多かったです。

 先ほど、福島の現場からの声がございました。国の役割がなされていない、どういうことかと。最も大きな原因は、それまで原子力事故、原発の事故はないということを想定して日本は動いてきました。例えば、避難の区域をIAEAなどでは三十キロ圏内に指定するように、これは前安倍政権のときですが、日本に対しての指導がありました。しかし、原子力安全委員会でそれを検討しようとしたことを経産省がとめて、日本は相変わらず、十キロ圏内でいいんだと。そして、三十キロに広げる、または原発事故のときの対応を法整備などで整備し過ぎると、原発は事故が起きるということを認めてしまうのでそれは必要ないというような議論が繰り返され、その結果、このような大規模な原発事故への対応がなされてこなかったというような現実があります。

 私は当時、被災地、福島の対応もしておりましたが、これは放射能との戦争で、戦後の日本の最大の危機だったと思うし、今もその戦争は続いていると思うんですね。そういう現状の中で、例えば津波に対しても、早くから議員が指摘をし、そして津波の対策が不備ではないかということに対しても、大丈夫であるという、どちらかというと、今から検証すれば、根拠のない政府の答弁を繰り返してきた。

 そうであるならば、やはりこれは緊急事態をめぐる文言を憲法に書き込むかどうかという点で、自民党の皆さんも、災害対策基本法や国民保護法、必ずしも憲法上の根拠が必要ではないが、望ましいかどうかの検討であると先ほどおっしゃったかと思うんですが、今の法整備であったり、大規模災害、特に原子力に対するテロの対応ということについても、原子力規制委員会の中で議論されているかといえば、委員長に聞いても、取り扱いではないと。

 政府の方では一部議論が始まっているようですけれども、今の私たちがやるべきこと、そして今の憲法下でもできることを考えた上で、しかし、ここが問題があるから緊急事態の項目を憲法に書き入れるべきじゃないかというように、やはり、大きな災害に面したわけでありますから、それへの対処がどうだったのか、どこに不備があるのかということをまず徹底的に検証した上で憲法議論に入らないと、何か、先ほど公明党の斉藤幹事の発言の中にも、憲法にその条項を入れれば、何か免罪符とは申しませんけれども、何でもうまくいくような、そういうことになりかねないという御指摘もありましたけれども、私も同様の危惧を持っております。

 この緊急事態を議論する際に、何かやはり実態を伴った議論ではないような印象も受けますので、特にこの大きな災害を経た上で、今の憲法下で本当にできなかったことは何なのかということを突き詰めて考えていく必要があるのではないかと思います。

 もう一点、特に武力事態などが起こったときの人権の制限などについてですが、私たちは、過去の戦争の反省に立って、現行憲法下で戦後体制を築いてきました。過去は、やはり拡大解釈をした上で、今すぐそういうことが起こるとは想定しにくい場合もあるかと思いますが、例えば治安維持法であったり表現の自由の制限ということが戦争を長引かせ、泥沼化させていったという歴史も持っているわけです。

 ですから、私たちは、緊急事態に人権を一定制限されるということ、憲法の中にそのような解釈ができることを入れるということが、国民を守ることになるのか、それとも、過去の歴史では、戦争がさらに泥沼化に突っ込んでいったという歴史もございますので、そこも過去に鑑みてよく議論しないと、今の災害があったからすぐにこれは必要だ、または緊張が高まっているから必要だという拙速な議論にはならないのではないかという点を指摘させていただきます。

 以上です。

馬場委員 日本維新の会、馬場伸幸でございます。

 緊急事態条項を憲法に設置するということについては、先ほど我が党の小熊議員の方から意見を申し上げました。私の方からは、この緊急事態条項について、もう少し掘り下げた意見を申し上げたいと思います。

 この緊急事態条項については、緊急事態の宣言というものが設置されることになりますが、この宣言には、内閣総理大臣への権限集中など、強力な効果が与えられることになろうかと思います。そのため、国会による民主的統制の確保が不可欠であります。

 国会の民主的統制、民主的コントロールの確保については、ポイントは三点あろうかと思います。

 まず一点目、対象地域と期間の限定であります。

 緊急事態の宣言の際には、対象地域と期間を限定すべきと考えております。この期間はおおむね九十日以内、そして必要に応じて国会の承認を経て九十日の延長を可能とするものであります。

 対象地域と期間を限定するのは、緊急事態の宣言に、内閣総理大臣への権限集中を初めとする強力な効果を与えることとするためです。緊急事態の宣言の効果は、平時における憲法の枠組みから見れば非常に例外的なものであり、この宣言が歯どめなく続き、憲法秩序が破壊されるようなことがないようにとの配慮が必要であります。また、対象地域の限定については憲法に明記されていないことから、法律でしっかりと規定することが必要であると考えています。

 続きまして、二つ目のポイントであります。

 二つ目のポイントは、二十日以内に国会の承認を求めること、また国会による緊急事態宣言の解除を規定するということであります。

 緊急事態の宣言については、二十日以内に国会の承認を求めなければならないという規定を置くべきだと考えています。国会に緊急事態の宣言そのものの解除を議決する権限を与えるべきであると思います。

 緊急事態の宣言は、平時における行政権に対する民主的統制を、一時的そして部分的に緩めることであります。そこで、そのかわりに緊急事態の宣言の是非を国会の判断に委ね、あるいは国会に緊急事態の宣言そのものの解除を議決する権限を与えることにより、国会による民主的統制を確保するべきであります。

 緊急事態の宣言については、二十日以内に国会の承認を求めることとし、国会による民主的統制をしっかり確保するため、法律でしっかり期限を付する必要があると考えています。

 続いて、ポイントの三番目であります。

 三番目のポイントは、両議院議員の任期延長、また衆議院解散の制限の項目を設置するべきと考えております。

 緊急事態の宣言が発せられている間は、両議院の議員の任期は延長されるとともに、衆議院は解散されない、また、衆議院の解散後に緊急事態の宣言が発せられた場合には、その解散はなされなかったものとみなすというような規定を考えております。

 緊急事態に際して行政権に権限を集中させるならば、行政権を監視し、制御する国会の役割はなお一層重要となります。衆議院の解散や議員の任期満了により国会議員が欠けて、国会が機能不全に陥ることがないよう、規定を設けるべきと考えます。特に、衆議院解散後に緊急事態の宣言が発せられた場合に、その解散はなされなかったものとみなすこととすべきであります。

 憲法第五十四条の参議院の緊急集会の規定は、衆議院解散後、総選挙を経て特別会が召集されるまでの最長七十日の間について国会の機能を代行させるための制度であり、当該期間を超えるような長期間にわたり国会の機能を代行させることは問題ではないかとの疑問があります。この件については十分な検討が必要でないかと考えております。

 以上でございます。

小池(政)委員 みんなの党の小池政就です。

 一点問題提起と、また、法制局に御質問をさせていただきたいと思います。

 当審査会の審議におきましては、国家全体の緊急事態ということが主に今議論されておりますけれども、地域的な緊急事態ということもあり得まして、その際には地域的な対応ということも当然求められるわけであります。

 まず、法制局さんにお聞きしたいのは、緊急時に国、地方の関係もしくは地方の権限を見直す、改めるといった議論がこれまでなされているか。また、国外においてそのような体制というものがあるのかどうかということをお聞かせいただきたいと思います。

 それに関しまして、当審査会では、第八章地方自治に関する審議の中では、平時においての条例による法律の上書き、上乗せ、横出しといった議論がなされまして、私個人的には、手続を迅速化するという目的であったりとか地域性を反映させるという目的の中では、憲法上の原則を変える必要はないんじゃないか、そういう慎重な意見を持っているんです。

 ただ一方、今回の災害におきましても、先ほどからほかの委員からの事例の紹介もありますように、被災地におきましては、建築基準法でありますとか廃棄物処理法等におきまして、復旧復興の障害になっているというような現状もあるということを認識しております。

 その際に、個々の法律制定の際に、緊急事態や地方の特色を考慮してある程度柔軟に法律を制定するということも考え得ると思うんですが、緊急時において地域または国の関係を改めるということももしかしたら考えることはできるのではないかなということも、一方で考えているものですから、法制局の方から参考となるような御回答をいただきたいと思います。

橘法制局参事 小池先生、御質問ありがとうございます。

 幾つか御質問を頂戴いたしました。

 緊急事態における国、地方の関係について、我が国ではどう考えればいいのか、また、諸外国ではこれに関するような類似の規定はあるかということが一点目であったかと存じます。

 我が国現行憲法下におきましても、二〇〇〇年以降、地方分権の進展、推進が見られるまでは、賛否両論の評価が現時点においてはなされると思いますけれども、機関委任事務という体制がございました。そのようなことを前提といたしますと、現行憲法下における第八章地方自治の章のもとにおいても、立法措置でもって、中央政府からの地方政府に対する一定の指示等の権限を創設することは恐らく不可能ではないのだとは思います。

 ただ、先生あるいは先生の会派が御主張されておられますように、例えば憲法において道州制のようなものをお決めになり、かつ道州の優先的、専管的な立法事項をお決めになるといったような場合には、そのような憲法秩序に対して、緊急事態ということをもって中央政府からの一定の指示権を認めるというような場合には、あわせて憲法上にそのような根拠規定がなければならないという議論が成り立つのかもしれません。

 手元の資料で大変恐縮ですが、きょうの衆憲資八十七号の三十四ページ、五ページにドイツの例を掲げておきました。ドイツは連邦制をとっておりますから、州の権限が大変強うございます。例えば、三十五ページ、ドイツの欄の主な措置の中に、連邦政府による州政府に対する指示というようなことがございますが、これは、通常の憲法秩序の中では許されない州政府に対する指示が防衛事態において認められているのだと考えられますし、その右の欄には、州の立法権限に属する分野についても連邦が競合的立法権限を行使することができるというようなことも憲法秩序の例外の一つかと存じます。

 第二点は、緊急事態におけるいわゆる条例による上書き権、緊急事態あるいは大規模自然災害の際に、被災地復興の現場を担われる被災自治体により広範な自治立法権を与えるべきではないのかということは、この東日本大震災の際にも、私ども衆議院法制局、議員立法の面でもお手伝いさせていただきましたが、復興特区法の中でも先生方が大変に御議論になられた点であるかと存じます。

 そのときに、条例による大幅な上書き権という御提案があり、それについても関連委員会、復興特別委員会で御議論になられたところであるかと存じますが、ただ、現行憲法のもとにおいては、国会が唯一の立法機関である、白紙委任になってはならないという枠内での個別具体的な条例への委任である、その範囲内で条例の上書き権は許容されるのだ、そういう解釈が政府当局においてなされたように思います。

 現行憲法下において認められる条例の上書き権はそのようなものである。それを超えて、もし、国の立法、法律規定の例外を条例で認めようとすれば、それは憲法論議に発展する可能性が高いのではないかと思料いたします。

 以上です。

笠井委員 幾つか述べたいと思います。

 一つは、船田幹事から、きょうのテーマ設定についての私の質問にコメント、反論がありましたので申し上げたいと思うんですが、憲法調査会でこの緊急事態について議論があったことは私も十分承知しておりますし、我が党委員もこの問題について意見をるる述べたところであります。

 私が言いたかったのは、条章ごとの検証ということで、幹事会で総選挙前にかなり議論をやった上で、一章一章やっていこうねという話だったのと異質の話になっているということで、条章ごとの検討、検証の中で、この緊急事態についてはないじゃないかということについての指摘や意見は既にあったわけで、これを改めてとりたててやることがどうなのかということで、そのことについては、幹事会でも、あえてやることには、必要ないということで反対も表明したところであります。

 それをやはりやろうというふうに提案されましたが、私も何度も言いたくないんですが、そうやって設定した会議で、自民党委員の方々、がらがらですよ、またきょうも。いいかげんにしていただきたい。与党だって、まあ、与党、野党というふうに言いませんが、公明党も空席が目立つわけで。こういう形で、必要だからと言っておきながら、みずから委員が出ない。こちらは真剣にやるんですよ、設定されたら。そういう態度をとってもらいたくないと思います。

 それから、二つ目に申し上げたいんですが、今、先ほど緊急事態が必要といういろいろな議論を伺っていても、憲法を変えて緊急事態というのを宣言しないと対処できないということはないというのを、改めて私は確信しました。平素から憲法に基づく具体化をし、災害対策をする、防止をする、防災をするということ、あるいは、起こったときにもどうするかという対処をしておくということで、不断にやっていくということを積み重ねながらそういう事態を防ぐことが本当に必要だし、それをやってこなかったことがむしろ問題なわけであります。

 原発についてだって、結局は安全神話という問題があったわけですよね。そうやって想定外だということで想定してこなかったというので、原発をつくり、動かし、対策もとってこなかったというところであります。

 そして、金がなくなってどうするんだといったときは予備費を出せばいいわけで、あるいは必要なら補正予算を緊急に組むということもできるわけでありますから、これは緊急事態を宣言してやらなきゃいけないということの根拠にならないと思います。

 逆に、緊急事態を宣言すれば、強大な権限を持った政府が人権侵害などに走りかねない。それを防ぐためにこそ、この憲法で、国民主権に基づく民主政治の徹底、とりわけ議会の強化による政府のコントロールを最も重視しているわけであります。それを、コントロールは大事だからということであれこれ条件をつけたとしても、総理が法律にかわる政令を定めることができるなどの権限強化と人権制限の規定をやること自体が、私が初めに申し上げたとおり、憲法制定議会でそういうことはやっちゃいけないんだというのが歴史の教訓として言われているわけであります。

 最後に、選挙にかかわって幾つかありました。この間の議論でもありました。

 衆議院議員の任期満了もしくは解散後に大規模災害が起きた場合の対応をどうするんだということでありますけれども、憲法は、第四十五条で衆議院議員の任期を四年と定めているだけで、四十七条で、議員の選挙に関する事項というのは法律で定めることになっております。衆議院の任期満了近くに大災害が起きた場合、衆議院議員の任期は変えることができませんが、選挙の期日の延期は法改正によって可能であります。その場合に、衆議院議員がいない時期が一定時期生じることになりますけれども、そこで、五十四条二項の参議院の緊急集会によって国会としての機能を果たすべしというのが憲法の規定であります。

 解散後の規定、対応でありますけれども、解散後に大規模災害が起きた場合、任期を延長するようにすべきという御主張もありましたけれども、そうしようと思えば、一度失った前議員の身分を回復しなければいけません。

 しかし、それは、自民党の改憲草案のQアンドAというのを私は拝見して勉強させてもらっていますが、Q三十七のところで、そうした意見もあるけれども、衆議院議員は一度解散されればその身分を失うのであり、憲法上参議院の緊急集会も認められているので、そういう意見は採用しませんでしたと答えで述べているわけです。その上で、五十四条二項で、解散後に大規模災害が起きた場合でも対応し得るものになっていると。

 それから、解散後に緊急事態が起きた場合に、国を挙げて選挙をやっている場合かという発言も前にありました。しかし、これも自民党の改憲草案のQアンドAの三十三ページで、その後に書いてあります。「緊急事態下でも総選挙の施行が必要であれば、通常の方法ではできなくとも、期間を短縮するなど何らかの方法で実施することになる」と自民党自身が言っているわけで、選挙をやるんだと自民党は言っているわけですよね。だから、その辺もきちっとやはり踏まえてもらいたいと思います。

 現行憲法に緊急事態の条項を設けていないのは、むしろ憲法の先駆性をあらわすものであって、欠陥でも何でもないということを重ねて申し上げておきたいと思います。

葉梨委員 自由民主党の葉梨康弘でございます。

 先ほど辻元委員がおっしゃられた内容というのは、私は非常に重要だというふうに思っています。決して反論するつもりで意見を申し上げるつもりではありません。

 今現在、私、自民党の中で東日本大震災復興加速化本部というのがございます、そこで事務局長というのを務めておりまして、与党として、東日本大震災の復興の加速化に向けた作業を大分行っております。

 民主党政権下においてどのようなことがあったかということについても、特段ここの場で批判的なことを申し上げるつもりではありません。事東日本大震災の復興に関しましては、いささかおくれた嫌いは否めないんですが、果たしてこれが政治の問題なのか、法律の問題なのか、憲法の問題なのかということは、よく精査して議論をしてみる必要があろうかと思います。私は、どちらかというと政治の問題が結構大きかったんじゃないかと。そして今、その加速化に向けて、私ども、与党に復帰して一生懸命取り組んでいるところでございます。

 そして、当時、もし緊急事態というような憲法上の規定があったときどうなんだろうなということを考えてみたときに、衆議院の任期が延長されて、例えば、五年間あの政権で復興が担われていたら一体今どうなっていたのかなということを考えると、むしろ恐ろしいぐらいの気持ちを持っております。申しわけありません、民主党の方々には。ただ、これは私の個人の感情でございます。

 ということで、緊急事態というのが憲法上あるということが、果たして今回の東日本大震災の復興の助けになったのか、あるいは、妨げにはならないにしても、特段関係があるのかないのかということについては、よく精査をして議論をしていくことが必要だというふうに私も思っています。

 ただ、復興ということを考えたときに、やはり、今笠井委員もおっしゃられましたけれども、私自身、個人的にそこのところもよく精査をしていかなきゃいけないと思っているんですが、これは党の意見ではございません。やはり、衆議院の任期満了に近い、あるいは衆議院が解散されているというときに、参議院の緊急集会があるからいいじゃないかという話もあるんですが、今の国会のように、このようなねじれという状況が常態化するということになりますと、やはり国民の負託を受けた強力な政権がしっかりと復興を担っていくということも私は大切なことじゃないかなというふうに思っています。

 ですから、東日本大震災の場合、全くこれは個人的な意見でございますけれども、九月ごろには被災三県でもう選挙ができるようになりました。それと同時に、本当だったら、この緊急事態ということじゃなくて、早期に総選挙を行って、二十三年の秋ぐらいに解散をして、そしてその時点で、決して自民党とは申し上げませんけれども、しっかり国民の負託を受けた強力な政権が復興を担っていれば、もっと加速したんじゃないかというぐらいのことを私は個人的には思っておるんですけれども。これは個人的な見解でございます。

 その中で、憲法上の議論として、やはり国会の、衆議院の解散との調整、これはやはり憲法上の議論としては残るのかなと。ですから、ここの審査会の場でも、よくそこら辺を、もし時間があればですけれども、東日本大震災における復興の状況、あるいは現地の状況等も精査しながら、何が政治の問題なのか、何が法律の問題なのか、何が憲法の問題なのか、そこら辺のところを振り分けて、丁寧な議論を行っていったらいかがかなというふうに思っております。

 以上でございます。

山口(壯)委員 民主党の山口壯です。

 先ほど葉梨さんから、何か非常に党派的な発言がありましたけれども、党派でいえば、これを見ていて、我々民主党は全部出席しているけれども、自民党の空席が余りにも多過ぎるんじゃないのか。私は、極めてこれは不愉快に思います。まともに議論をしている党派がどこなのか。極めて不愉快です。

 それから、先ほどの復興の点についても、実際に何が問題だったかということをきちっと見てから物を言っていただきたい。当時、私は党にいて、超党派の、ある意味で、自民党それから公明党、いろいろな党がありました。全て、みんなが寄って、毎日、何が問題なのかということを把握しながら、政府に対してもいろいろと要望をしていくという中で、例えば、我々のこの仕組みの中で、町村があり、県があり、そして国がある。その中で、現実にほとんどの職員の人がいなくなったところをいろいろな県からも応援を出して、そして補強しながら、それでもなおかつ足りない。

 それは、兵庫県の人が急に福島県あるいは宮城県、岩手県に行って、その地区のことがわかるかといったら、それはわからないわけですね。それでもみんな全国体制でやっていった。それでも、あれだけのことですから、非常に歯がゆい思いをみんながされたということは、そのとおりでしょう。その中で、政治が、例えば官僚制度とどういうふうにつき合っていくのかも含めて、我々ももう一回、心を空にして振り返っています。

 その中で、例えば、官僚制度がきっちり国、県それから市町村を含めてきれいに流れるように、機能するためにはどうしたらいいのかということも含めてやっていかないと、何か知らないけれども、政権がかわったら本当はうまくいっていたなみたいな議論が出てくるようじゃ、国会としての本当の議論とは言えないと思うので、もう少しそこら辺は大人の議論をしていただきたいと思います。

中谷(元)委員 緊急事態に、やはり私権の制限の必要がないという御意見もありますが、実際、事件とか事故とか災害で、被災者にとりましては、一刻も早く救援の手を待っているわけで、その点は、国も地方も、警察、消防、自衛隊など、懸命に被害の拡大の防止とか人命救助をしているわけです。

 現場へ立ってみると、やはり瓦れきをのけるときも、誰の所有物であるのか、誰の家であるのかを確認しないと、勝手にのけることができないケースもあります。それから、立ち退きの要請も、応じてくれる人、応じてくれない人がいます。避難の指示もそうです。物資の調達も、例えば燃料が足りなくて地域の人たち全員が非常に困っていましたけれども、こういったときも統制をかけたり、また、食料の供給なども必要でもあります。

 やはり、権利と義務という関係をきちんと法律で定めておかなければ対応ができない、そうすると処理がおくれる、人命、助かる人も救えないという事態もございますので、やはり危機管理上、いざというとき、混乱して超法規の対応をするとか曖昧模糊とするのではなくて、平素から権限と義務を整理しておいて、総理大臣の命において、この期間は政令などで統制をするし、また、そういった時期においてはその指示に従うということが必要ではないか。

 例えば、飛行機に乗っても、緊急事態は機長の指示に従ってくださいと。それは、飛行機に搭乗している乗員乗客全員の命を守るためのものでありますので、特に、そういうところで私権の制限をするといったような問題は、そういうふうに考えていくべきだと思っております。

辻元委員 今、中谷幹事からの御発言がございましたので、その意見に対して申し上げたいと思います。

 今、中谷幹事は機長の御発言もされたんですけれども、具体的に挙げられた最初の事例、私権の制限が必要な根拠というのは、私はいささか希薄ではないかというように思います。

 今回、自衛隊も非常に大きな役割を果たし、自衛隊を中心とした救援活動をしていくに当たって、弊害や活動を阻害する要件があったのかということを具体的にお示しにならないと、権利の制限というときの根拠として漠然とした一般論で議論する、その上に立って、緊急事態を憲法に書き込むというのは非常に大きいわけですから、もっと具体的な根拠を持って御発言していただかないと説得力を欠くし、むしろ権利の制限というところだけがひとり歩きしかねないのではないかと思っております。

 今回、被災者の救援や支援、あれだけ大きな被害、そして原子力発電所の事故もあったという、今まで人類が経験をしたことのない事態に遭遇をいたしました。それに当たっても、日本での対応は、日本人だけではなく外国人もたくさん居住しておりますけれども、一言で言えば、誤解を恐れず言えば、かなり団結力があったんですよ。本来憲法で規定されている公共の福祉に鑑みて、被災者も、そして地方自治体も、それぞれの人たちが自分たちの権利だけを主張するのではなく、お互いにどうすれば助け合えるか、地域が復興できるかということをかなり示した事例にもなるかと私は思っております。

 ですから、中谷さんが特に党を代表して先ほど発言をされましたので、権利の制限や権利と義務との関係で、先ほど事例に挙げられたようなことでおっしゃるのならば、そして、東日本大震災を経験した私たちであっても、ちょっと説得力に欠けるかなと思いましたので、一言申し上げさせていただきました。

保利会長 中谷さんから御発言があるようですが、この条項は中谷発言で終わりにしたいと思います。

 それで、この場は各委員の皆さん方の自由かつ冷静な発言をする、論述をするという場でございますので、余り激しいやりとりにならないように注意をして、お願いを申し上げたいと思います。

中谷(元)委員 具体的な事例をということで、例えば、瓦れきの処理に出た警察、消防、自衛官にとりましても、車とか家屋などが散乱していても、所有者を確認しないと勝手に動かせない。そうなりますと、人の命を救うときも時間的なロスがかかってしまいます。

 それから、他人の家への立ち入りまた立ち退き、こういうのも徹底されていないと、その許可を待っているために時間の経過が必要であります。

 また、避難の指示に従っていただくかどうかということにおきましても、私の自由ですと言われた場合に思い切った対応の措置もできません。

 また、物資の調達におきましても、石油などが必要な場合においても、一週間も二週間もそれがなくて、地域全体が非常に不自由な、不便な、また命にかかわるような状態もありましたけれども、優先的に物資を届けるということは、ある程度政府から命令を出して、石油を持っている人も供出をし、また制限も、統制するというような対応があれば、そのときの措置には非常に必要でありましたが、憲法上そういう規定がございませんのでそういった強制措置ができなかったというような具体的な事例を挙げさせていただきます。

保利会長 以上で緊急事態と憲法をめぐる諸問題についての自由討議は終了いたします。

    ―――――――――――――

保利会長 次に、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件、特に国会と司法の関係をめぐる諸問題(裁判官弾劾裁判所及び裁判官訴追委員会等)そのほかについて調査を進めます。

 まず、衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局法制企画調整部長橘幸信君。

橘法制局参事 幹事会での御指示に基づきまして、先生方の御議論の参考に供するため、国会と司法をめぐる諸問題のうち、特に弾劾裁判所等に関する事項につきまして、お手元配付の参考資料、衆憲資八十八号を御参照いただきながら、ごく簡単に御報告をさせていただきます。

 まず、弾劾裁判所につきましては、憲法六十四条におきまして、「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定されております。弾劾裁判所は、この規定によって設けられている独立した特別の憲法上の機関でございます。

 次に、このような機関を設ける趣旨につきましては、衆憲資八十八号の一ページ目に掲げておりますように、次のように説明されております。

 すなわち、裁判官は憲法や法律に基づいて公正な裁判を行い、国民の権利を守るという重い責任を負っており、他の国家機関や政治的、社会的勢力からの圧力や影響を受けずにその職務を遂行できるようにするため、独立した職権行使や、心身の故障による職務執行不能の場合以外の罷免の禁止、在任中の報酬の減額禁止など、その身分が手厚く保障されているところである。

 しかし、他方、司法といえども主権の存する国民の信託により裁判所に属せしめられたものであり、裁判官の地位の根拠も究極的には国民の意思に求められるものである以上、裁判官であっても国民の信頼を裏切るような行為を犯した場合にはやめさせることができなくてはならないというわけで、この裁判官弾劾の制度は、裁判官の身分保障の必要性と一定の場合の罷免の必要性との調和のために設けられた制度だと言うことができるかと存じます。

 憲法では、このような弾劾裁判所について、「両議院の議員で組織する」と述べるほかは、どのような場合に裁判官を罷免できるかという弾劾あるいは罷免の事由も含めて、全て法律に委ねているところでございます。しかし、だからといって、法律でいかなる事由も定めてよいとは解されておりません。

 そもそも、弾劾とは、一般に、国民の意思を根拠とする訴追に基づいて、公権力により公務員を罷免する制度でございまして、憲法六十四条が当然に予定する裁判官の弾劾の事由も、根本的には、裁判官が国民の信託に反すると見るべき場合であって、身分保障による特別の保護を与えるに値しない場合に限定されると解されておりますから、その罷免事由を過度に広範かつ漠然とした基準で定めることはできないものと解されているところです。

 このような考え方に基づきまして、これを具体化しているのが、衆憲資八十八号の四ページ冒頭に掲げました現行の裁判官弾劾法の二つの罷免事由でございます。

 一つは、「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。」であり、もう一つは、「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。」とされているところでございます。

 次に、多くの先生方、特に訴追委員や弾劾裁判所の裁判員を務めておられる先生方がこの場にも多くおられますが、そのような先生方にとりましては文字どおりの意味で釈迦に説法であるとは存じますけれども、御指示でございますので、お許しいただきまして、この裁判官弾劾法に定める弾劾裁判の組織と手続について御報告を申し上げたいと存じます。

 まず、裁判官を弾劾するためには、二つの機関がこれに関与することとされております。衆憲資八十八号の三ページをごらんください。

 一つは、憲法六十四条が「罷免の訴追を受けた裁判官」と述べているところから、裁判官弾劾法では、裁判官を訴追する機関として裁判官訴追委員会を設け、衆参それぞれ十人の訴追委員と五人の予備員で構成するものとされております。

 もう一つは、この訴追された裁判官について弾劾の裁判を行う裁判官弾劾裁判所でございまして、衆参それぞれ七人の裁判員と四人の予備員とで構成されるものとされております。

 次に、その手続ですが、衆憲資八十八号の四ページから六ページにありますとおり、まず、裁判官訴追委員会の訴追手続がございます。訴追委員会において調査を開始する契機となるのは、一つ、国民からの訴追の請求、二つ、最高裁判所からの訴追の請求のほか、三つ目として、新聞報道等によって、みずから職権によって調査を開始することもできるとされております。

 訴追請求の数自体はかなりの数に上っており、その九五%近くが誤判不当裁判等の職務上の義務違反等を理由とするものであるようでございます。そして、これらの請求に基づいて審査をして、罷免の訴追の決定をするには、衆参それぞれに十人中七人以上の訴追委員の出席のもとに、出席をした訴追委員の三分の二以上の多数によらなければならないとされています。

 次に、訴追委員会による訴追状の提出を受けて、弾劾裁判所は罷免訴追事件として手続を開始することになるわけですが、弾劾裁判所での公判手続は、刑事裁判に類似した手続で進められてまいります。

 その手続は、衆参それぞれに七人中五人以上の裁判員の出席がなければ開廷できないものとされており、また、最終的に罷免の判決を宣告するには、その審理に関与した裁判員の三分の二以上の多数によらなければならないとされております。

 罷免の判決が宣告されたときには、その被訴追者は、裁判官としての身分を当然に失うほか、検察官や弁護士となる法曹資格等も失うことになりますし、また、退職金等も支給されません。

 ただし、先ほども言及いたしましたように、一般の公務員とは異なり、その在任中、報酬の減額が禁止されておりますから、訴追され、その職務の執行が判決までの間停止された裁判官であっても、罷免の判決が出るまでは、その報酬は全額が支給されることになっております。

 なお、一旦罷免の判決を受けた元裁判官について、五年を経過した場合において相当の事由があるときなどの場合には、その失われた法曹資格等を回復させる手続も定められております。

 最後に、過去の事例等についてでありますけれども、まず、先ほども申し上げました訴追請求につきましては、衆憲資八十八号の十五ページに掲載しておりますように、一般国民の方々からはかなりの請求がなされていることがわかります。そして、その九五%が誤判不当判決等の職務上の義務違反等を理由とするものであることも、この資料からおわかりになると存じます。

 これに対して、罷免の判決が下されたのは、同じ資料の九ページ以下に掲載しておりますとおり、制度発足以来七件でございます。職務上の義務違反等を理由の一つとして掲げている二件を含めて、その全ての事案について、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったことを理由とするものでございます。直近の罷免事例である本年四月に罷免が宣告された事例も、女性の下着盗撮等を理由とするものであったようでございます。

 以上、国会と司法をめぐる諸問題のうち、特に弾劾裁判所等に関する御報告を終わります。

保利会長 それでは、自由討議に入りたいと存じますが、実はもう一つ、土屋委員から御要求があっておりました答弁をこの場で求める形になっておりましたが、きょう御本人が御出席でありませんので、次回に回したいと思います、この部分は。記録に残す必要がありますから、この部分は次回に回したいと思います。

 ただ、御存じのように、既に事前に配付されておりますので、「憲法前文で「神」に言及している諸外国の憲法の例について」というのが配付されておりますので、これは次回に回したいと思いますが……。

 本人が今来ましたので、それでは、せっかく資料も用意しておりますから、この部分については追加の御説明をお願い申し上げます。法制局、よろしくお願いします。(発言する者あり)お静かに願います。

橘法制局参事 失礼いたします。

 幹事会での御協議に基づく保利会長の御指示に基づきまして、先週の憲法審査会において土屋正忠先生及び上杉光弘先生から御下問いただきました事項につきまして御報告をさせていただきます。少々お時間を頂戴いたしますことをお許しください。

 まず一つは、諸外国の憲法前文におきまして、神に言及した事例はどのぐらいあるのかというものであったかと存じます。

 お手元配付の、「憲法前文で「神」に言及している諸外国の憲法の例について(メモ)」と題する資料をごらんいただければと存じます。

 まず、この調査はあくまでも、この一覧表の下欄の参考文献欄に掲げております世界各国の憲法集をデータベースとしたもので、決して悉皆調査ではございませんが、確認ができました六十七カ国の憲法を対象としたものであることについてお許しいただきたいと存じます。

 この六十七カ国の憲法のうち、前文を有する憲法が五十九カ国ございました。多くの国の憲法において、何らかの形で前文を持っていることが推察されます。

 その前文を持つ憲法のうちで、何らかの形で神に言及している国が二十カ国ございました。そこで言う神は、恐らくキリストであったりアラーであったり、さまざまだと思われますが、この一覧表からは、ヨーロッパ各国や南北アメリカあるいはイスラム圏の憲法などに多いことがわかります。

 なお、先生方には旧聞に属する事柄かもしれませんが、二〇〇四年の、当初のEU憲法条約草案の前文におきまして、神に言及するかどうかが大変な議論になったことなどにも照らして考えますと、諸外国におきましては、神に言及するかどうかは、憲法の制定やその改正の際の大きな論点になり得るのだということを改めて痛感いたすところでございます。

 もう一つ頂戴いたしました宿題は、我が国の憲法制定過程を念頭に置きつつ、主権制限がなされていた占領下などにおいて憲法が制定された事例はあるのかというものでございました。これについては、配付させていただきます資料はございませんので、口頭で御報告させていただきます。

 まず、前回の憲法審査会の席上におきまして上杉先生から御示唆いただきましたドイツの憲法、当時の西ドイツのボン基本法の制定過程について調べてみますと、敗戦後のドイツ西側地区は、我が国のように、被占領国の政府を通じた間接統治の形態ではなくて、基本的に米英仏三カ国による直接統治による占領でございました。そして、この三カ国による西側占領地区軍政府によって、西側ドイツの十一州の首相が集められ、憲法制定会議を招集する権限を与えられて、ここで、一九四九年五月にドイツ連邦共和国基本法が制定、施行されたのでございました。

 ただ、この制定過程において、三カ国の占領軍政府が直接に憲法草案を作成するようなことはなかったようでありますけれども、しかし、各占領軍当局は、憲法の大枠を指示したり、また、審議の各過程にも積極的な介入を続けていったとの事実もあるようでございました。

 なお、この基本法施行と同時に、ボンを首府とし、アデナウアーを首相とする連邦共和国臨時政府が発足したのでありましたけれども、西ドイツの占領はその後も続き、西ドイツが主権の完全な回復を果たしたのは、それから六年後の一九五五年五月五日であったと言われております。

 この意味では、我が国とは事情が異なりますが、ドイツの基本法も、占領下での制定であったと言えるかと存じます。

 他方、日本、ドイツと並んで、さきの大戦において敗戦国家となったイタリアにおいては、一九四三年のムソリーニ解任によってファシズム体制に終止符が打たれた後、連合国との休戦協定、反ファシスト政権の樹立、連合国によるローマ占領などを経て、一九四五年四月末になって、イタリア全土が解放され、そこから憲法制定作業が本格化していったと言われます。しかし、この全土解放後も、米英軍による連合軍は、一部地域での施政権を完全には返還せず、たびたびの軍事的な影響力によって制憲議会を威嚇したとの事実も指摘されているようです。

 そのような圧力のもとで、制憲議会の選挙と、共和制か王制かを選択する国民投票を経て、制憲議会における議論を行い、さまざまな党派間の取引を経た憲法的妥協が実を結んで、一九四七年十二月に圧倒的多数で新憲法が採択され、翌年一月一日から施行されたとのことでございました。

 したがいまして、イタリア憲法の制定過程も、日本、ドイツとはまた違った意味での敗戦後の特殊な状況下における憲法制定事例と言えるもののようでございます。

 このほか、本件調査の過程で、駿河台大学の北原先生の「占領と憲法」との文献に接しました。そこでは、アメリカによるカリブ海諸国やフィリピンに対する直接占領統治下において、民主化の一環として憲法制定がなされた事例が幾つか御紹介されておりました。

 例えば、一九三五年のフィリピン憲法の制定に当たっては、アメリカ連邦議会の法律によって、憲法制定後十年後の独立を保障する一方で、フィリピンの憲法制定権に一定の枠をはめ、共和政体をとることや、権利章典を必ず掲げることを求めていたとか、また、一九一八年のハイチ憲法の制定に当たっては、占領によって獲得した利益を確保するために、その憲法改正案は、アメリカ人によって詳細に検討され、修正されていったとの記述もございました。

 これらの事例も、広い意味での占領下における憲法制定、そして、憲法制定に関する他国の介入事例と言えるのかもしれません。

 以上、大変に中途半端な調査で申しわけございませんが、先生の御下問に対する御報告とさせていただきたいと存じます。

 以上です。

保利会長 では、それで宿題の回答をしたということで御承知おき願います。

 以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終了いたしました。

    ―――――――――――――

保利会長 国会と司法の関係をめぐる諸問題(裁判官弾劾裁判所及び裁判官訴追委員会等)そのほかについて自由討議をいたします。

 御発言のある方は、どうぞ札をお立てください。

武正委員 民主党の武正公一でございます。

 現憲法の検証を憲法審査会は進めてまいりました。特に一章から四章については、この通常国会が始まる前、昨年行われておりましたので、一章から四章についてもおさらいをする中で、現憲法についての検証を先週で一通り終えたという中でございます。

 きょうについては、これまでの検証をする中で、足らざる点、あるいはまた再度深掘りをする点、こうした点を行おうという中で、先ほどは緊急事態法制について、そして今御説明があった司法と立法府の関係、弾劾裁判所あるいは裁判官訴追委員等についての議論の深掘りということになっております。

 また、会長から今、そのほかということでありましたが、幹事懇談会では、そのほかについても、これまでの検証の中で再度議論あるいは討議をすることをこの時間の中で設けようということで、きょうこうした形で設けられております。

 また、先ほど来、この憲法審査会、特に与党側で空席が目立つということについては、先ほど私の方からも与党筆頭幹事の方に申し入れをいたしまして、お呼びかけをいただいているということでありますが、重ねて、憲法の検証ということを与野党の議員が真摯な形で進めてきたこの憲法審査会、憲法調査会あるいは憲法調査特別委員会以来の十三年間の来し方、そうした真摯な取り組みをさらにこの審査会でも党を超えて進めていきたい、そのことについては再度お願いを申し上げたい、求めておきたいというように思っております。

 そこで、今の裁判官訴追委員会あるいは弾劾裁判所の件でありますが、既にこの場でも討議が行われております。御承知のように、特にそうした立法府と司法府の関係が議論になった背景には、二〇一一年三月、衆議院のこの状況について違憲状態という最高裁の判決が出、そして二年を経て、ことし、相次いで、昨年の衆議院選挙についての違憲、違憲状態あるいは無効判決、こうしたものが出る中で、十四条、法のもとの平等といったことでの指摘があったことが大きいというふうに思っております。

 衆議院あるいは国会においては、今回のそうした判決、これはある面、非常に衝撃を持って受けとめられたというふうに理解をいたします。この場でもいろいろ議論が出たのは承知をしております。私からは、そうはいっても、この三権の中での司法府の判断、これはやはり真摯に受けとめるべきであるといったことは申し上げた経緯がございます。

 そうした中、司法の消極主義、そして一方、司法積極主義、こうしたことが既に問われております。

 司法消極主義、司法の自己制限につきましては、立法府、行政府という政策決定者の決断は最大限度の謙譲と敬意を持って扱うべきだとの立場でございます。

 一方、司法積極主義については、司法は本来受動的機能であり限界があるものの、政治の諸過程で、立法権の不足のためでなく、問題が政治家によって無視されている理由など、不適切であることが明らかにされた場合の立法の分野においては司法府が行動する必要性は最も強いといった考えにものっとっているところであります。

 もちろん、民主党は既に主張しておりますが、違憲立法審査を専門に行う憲法裁判所の設置を検討するということで、司法府の違憲立法審査権の充実を求めていることはもう既に表明をさせていただいております。

 この立法府と司法府の相互作用につきましては、米国では立法、司法の動的な相互作用を通じて達成されるといったことが試みられている一方、日本では静的、消極的な相互作用とされておりまして、違憲判決の重さを重視し過ぎて極めて迅速に応諾するか、応諾しないで放置するという極端な対応形態がとられているのがやはり課題ではないかと考えております。

 今般提起されております裁判官訴追委員会、これにつきましては、受理件数がこの三年間、五百七十二件、六百三十九件、八百三十九件となっておりまして、私も裁判官訴追委員になっておりますが、受理件数が極めて多い中に、その処理体制、これにはまだまだ工夫が必要ではないかと考えております。

 そういった意味では、先ほど、米国の動的な相互作用ということが提起をされておりますが、例えば、司法、立法の間の人事交流、あるいは訴追事案を検証する体制の強化、あるいは訴追委員会と弾劾裁判所の連携、こうしたことが行われる中で、司法と立法の動的な相互作用、これが必要ではないかと考えるところであります。

 以上でございます。

保利会長 なお、この自由討議におきましては、国会と司法の関係をめぐる諸問題に加えまして、憲法について自由に御発言をいただいて結構であります。

船田委員 自民党の船田でございます。

 先ほど武正会長代理から御指摘をいただきました点、また野党の皆様からも御指摘をいただきましたが、与党、とりわけ自民党の空席が目立つ、こういう話でございまして、これにつきましては鋭意努力をしておりますが、他の委員会等との兼ね合いもありましてなかなか厳しい状況にございますが、できる限り出席を促しておりますので、ぜひ御理解をいただきたいと思っております。

 そして、弾劾裁判あるいは訴追委員会の関係に話を移したいと思いますが、先ほど橘部長からもお話がありましたように、裁判官が独立した公正な裁判を行うためには、国会、内閣などによってその地位を脅かされないようにする、その必要は当然あると思います。

 ただ、裁判官でありましても、国民の信頼を裏切るような行為を犯した場合には、これはやはり罷免をするということが当然必要であると思いますので、罷免事由が明確にある、そういうものについての手続はやはりきちんととらなければいけない。そこで、検事役である訴追委員会、そして裁判官役である弾劾裁判所、これが国会に設けられていることは大変理にかなったものだというふうに思っております。

 私もかつて裁判官訴追委員会を経験いたしました。また、現在では弾劾裁判所の第一代理裁判長になっておりますので、発言は慎重にしなければいけないと思っておりますが、その経験から、ちょっと申し上げたい点がございます。

 一つは、今、武正代理からもお話がありましたように、国民からの罷免訴追請求が非常に多いのでございます。その中には、誤判である、誤判であって不当である、あるいは、訴訟手続が十分に行われていない、訴訟手続が不十分である、そういう事由を挙げているものが全体の六〇%を超えている、こういう状況にございます。

 これにつきましては、いろいろ考えますと、裁判の経過あるいは結果についての不服なり不満、そういったものが、やはりそのはけ口を求めるということでこのような罷免訴追請求が行われているのであろうというふうに思っておりますが、これを制限するとかなんとかということではなくて、やはり正しい罷免の事由というのはどこにあるのか、どれが罷免の事由に当たるのかということについてPRが大変不足しているというふうに私は考えております。正しい罷免事由、そういうものに対する正しい理解というものを国民の皆様にお伝えするという努力は必要であると思っております。

 もう一つの、弾劾裁判所でございます。

 先日も、中谷幹事と一緒でございましたけれども、ある弾劾裁判にかかった案件の処理をさせていただきました。

 弾劾裁判所は一審であり終審でございます。つまり一回きりのものでございます。もちろん私どもは慎重に評議を行いました。そして結論を出したわけでございますが、非常に責任を重く感じております。もしできれば一審ではなくてもう一審あってもいいのではないか、こういう気持ちも抱きながら、しかし一審で決めなければいけないということで、気持ちをしっかりと固めてその判決を出させていただいたわけでありますが、しかしながら、やはり弾劾裁判所のあり方については、これは少し工夫をする必要があるのではないかということを感じた次第でございます。

 以上でございます。

中谷(元)委員 当面問題なのは、裁判官の弾劾裁判所での扱いが、法律上は、裁判官の法律により、職務上の義務違反、職務の懈怠その他の威信を失う非行となっておりますが、これまでの弾劾裁判所の事例を見ますと、一週間の欠勤とかセクハラとか、いわゆる服務的なものまでこういった場で判断を下さなければいけないかという疑問であります。この程度の問題は内部審査で、服務審査ということで、司法の、裁判所の中で行うべきではないかと。

 その上、司法は法律のプロで、判例を重ねて量刑を判断する能力もありまして、裁判官の罷免権とか懲戒権をなぜみずからでやらないのか。国家公務員には懲戒規定がありまして、服務違反については免職とか減給、注意、戒告などの処分が定められていますが、こういった規定をしっかり司法の中で持てば、セクハラとか無断欠勤とか、こういったものにおいては服務的な判断として懲戒規定を設けて実施をするべきではないかなというふうに思います。

 もう一つは、最高裁の違憲判決、憲法における判断、これが司法だけで絶対なのかということでございます。

 特に選挙制度につきまして、無効判決、違憲という判断ですが、立法の判断によって議員の定数が配分をされ、各県においても格差是正ということで一つずつ配置をして人口比で分けておりまして、このことは、憲法にも、こういった議員の配置は法律で定めるという規定がありますが、それの上で今回の司法判断が下されました。

 私は、もう少し、国の統治、地方自治そして都道府県の地域枠、地方の置かれている事情、交通、地勢、国土保全、こういったもろもろの要素もあるわけでありますので、こういった判断におきましては、司法だけではなくて、やはり立法、行政、国民の意見、こういったものも入れて判断をするべく、憲法裁判所などのような組織が必要ではないかなというふうに思っておりまして、司法の中での憲法の判断におきましては、引き続き議論する必要があるのではないかなと思っております。

 以上です。

鳩山委員 現在、訴追委員長を務めておりますので発言をするのは控えるべきかと思いますが、逆にお話をしたいとも思うわけでございます。

 実は、訴追委員は衆参十人ずつ、予備員が五人ずつですから、衆議院、参議院、それぞれ七人以上ならば議事を開いて議決できるわけでございますが、これがなかなか人が集まらなくて、訴追委員会を開こうとしても、どうしても七人ずつが集まらないというので、流れてしまうというか、訴追委員会を開けなかったケースがことしも二回ほどあるわけでございます。

 そういった意味では、我々国会議員みんながもっと訴追という権能について意識を高めていかなければならないだろうと思っておりますが、その原因の一つは、オリンピックぐらい、四、五年に一度ぐらいしか弾劾裁判は開かれなくて、その結果は大体罷免だというふうになっているからだろうと思うわけでございます。

 ただ、国民から、あるいはまれに最高裁から、訴追請求される案件はかなり数が多いわけですから、定期的には開いて不訴追とか訴追猶予というのを決めなくちゃならないんですが、きょうの、何か空席が目立つぞという話が随分ありましたけれども、訴追委員会もそのことで結構悩んでいるということでございます。

 憲法を読むと、確かに罷免か罷免でないかということになるんでしょうけれども、いわば有期刑がないような、無罪か、無期とか死刑しかないような形、これは憲法を読むとそうなるんだと思うんですね。

 でも、先ほど中谷幹事から話があったのも、内部でもっといわゆる懲戒処分みたいなものをきちんとできれば裁判官はしっかりするのではないかというお話があったけれども、私は、そういう意味で、よほどひどい、だから罷免確実、それなら訴追しようという件が四、五年に一度しかないというところに、本当に、訴追委員会というもの、結果として弾劾裁判というものが機能しているのかどうかなという疑問を感じることがございますので、罷免か罷免しないか、二つに一つでいいのかどうか、あるいは何かもっと中間的なものがあってもいいのかどうか、そういう権能を国会が持っていいのかどうか、憲法上は議論していただきたいと思います。

馬場委員 日本維新の会の馬場伸幸でございます。

 今の、話題になっております弾劾裁判関係とは少し離れますが、この場は、憲法にかかわる問題はどの分野も発言してもよいということだそうでございますので、本日ここにお集まりの議員の皆様方、各政党の憲法のスペシャリスト、またそれぞれの党を代表されておられる方々ばかりだと思いますので、一言お願いを申し上げておきたいと思います。

 この憲法改正問題につきまして、なくてはならないといいますか、最終的に、憲法を改正するためには国民投票というものが必要でございます。国民投票法というのは既に施行されておるわけでございますが、御承知のように、三つの宿題というものが残されております。この三つの宿題のうちの二つは時限が決められておりまして、その時限はもう既に過ぎております。そして、なおかつ、三年が経過をしようといたしております。

 私たち国会議員は、国民の代表として、国のあり方、憲法のあり方というものを議論する立場にあるわけでございますが、我々みずから決めた時限について守られていない、しかも既に三年が過ぎている。小学生、中学生であっても、宿題を三年もやらなければどういうことになるかというのは、ここにお集まりの皆様方はよくおわかりをいただけると思います。

 我が党は、この国民投票法の改正案を既に国会に提案させていただいております。いっときも早く国民投票法の改正案をこの憲法審査会の場で議論する、そういうことをぜひ進めていただきたいというふうに思います。

 衆議院の、我々議員の定数問題についても、司法の場でも国会の不作為等が言われております。私は、この国民投票法の三つの宿題、これも国会の不作為ではないかというふうに考えておりますので、ぜひ、審査会のメンバーの皆様方には、我々の思い、そして考え方を御理解いただきますように、この場をおかりいたしましてお願いを申し上げたいと思います。

 以上でございます。

保利会長 国民投票法の改正については、維新さんから法案が出ておるというふうに伺っております。恐らく、議院運営委員会で協議をして、本会議をやるかどうかというところまで話をして、それからここへおりてくるのではないかと思います。その上で御議論をしたいと思います。幹事会でよく検討いたしたいと思います。

 ほかに御発言はございませんか。

 ないようでございますので、これで国会と司法の関係をめぐる諸問題そのほかについての自由討議は終了させていただきます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、散会いたします。

    午前十一時二十一分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.