民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 経済価値の乏しい相続土地の国庫帰属については、申請人の負担軽減の必要性も踏まえ、承認要件や申請人の費用負担の在り方を検討するとともに、施行後五年間の運用状況を踏まえ、検討を行うに当たっては、土地所有権の放棄の在り方、承認申請者の要件、国庫帰属後の土地の利活用の方策その他の事項についても検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。また、承認申請があった際には、関係機関や地方公共団体との連絡・連携を密にし、土地の有効活用の機会を確保するよう、地域の実情に沿った運用に努めること。
二 相続登記等の申請の義務違反の場合において、法務局における「正当な理由」の判断や裁判所に対する過料事件の通知の手続等過料の制裁の運用に当たっては、透明性及び公平性の確保に努めるとともに、DV被害者の状況や経済的な困窮の状況等実質的に相続登記等の申請が困難な者の事情等を踏まえた柔軟な対応を行うこと。
三 相続人申告登記、住所等の変更登記をはじめとする新たに創設する職権的登記について、登記申請義務が課される者の負担軽減を図るため、添付書面の簡略化に努めるほか、登録免許税を非課税とする措置等について検討を行うとともに、併せて、所有者不明土地等問題の解決に向けて相続登記の登録免許税の減免や添付書面の簡略化について必要な措置を検討すること。
四 在留外国人が各種相続手続に必要な書類を収集することに困難を伴う例があることなどを考慮し、在留外国人の身分関係を証明しやすくするための取組について、必要な検討を行うこと。
五 遺産分割協議が行われ、その結果を登記に反映させることは確定的な権利帰属を促進し、不動産所有権の分散化の防止につながるもので、本改正の趣旨にも沿うものであることから、関係機関及び専門職者は連携体制を強化し、その促進に向けて、積極的に周知広報を行うこと。
六 登記官が他の公的機関から死亡等の情報を取得し、職権で登記に符号を表示するに当たっては、死亡等の情報が迅速にかつ遺漏なく登記に反映されるよう、情報収集の仕組みについて更に検討し、必要な措置を講ずるとともに、死亡者課税を極力避けるべく死亡者の情報についての各種台帳相互の連携を図ること。
七 両法案に基づく新たな所有者不明土地対策としての各種施策を着実に実施し、所有者不明土地問題の解決を図るため、法務局の十分な人的体制及び予算の確保を図ること。
八 所有者不明土地等問題の地域性や土地等の種類に応じ、それぞれの実情を踏まえた解決に向けて、効率的な管理と申立人の負担の軽減を趣旨とする所有者不明土地等の新たな財産管理制度の諸施策を実施するに当たっては、司法書士や土地家屋調査士等の専門職者の積極的な活用を図るとともに、制度の趣旨及び請求が可能な利害関係人や利用ができる事例等について周知を図ること。また、財産管理制度において、管理人による土地等の処分に対する裁判所の許可が適切になされるよう、借地関係等の利用状況や売買の相手方を慎重に調査すべきことを関係者に周知徹底するとともに、本法施行後の実務の運用状況を踏まえ、必要に応じて裁判所の許可に対する利害関係人の不服申立て制度の導入等を検討すること。
九 今回の所有者不明土地対策のための見直しは国民生活に重大な影響を及ぼすものであることから、国民全般に十分に浸透するよう、積極的かつ細やかな広報活動を行い、周知徹底に努めるとともに、本法施行前に発生した相続について相続登記等の申請義務化に関する規定や遺産分割に関する規定が適用されることについては、国民の混乱を防止する観点から、特に周知徹底を図ること。
十 法定相続人の範囲の特定に係る国民の負担に鑑み、令和五年度から実施される戸籍証明書等の広域交付の実施状況等を踏まえ、更なる負担の軽減策について検討するほか、所有者探索に関して、国や地方公共団体から委託を受けた専門家の調査における戸籍証明書等の取得の手続の円滑化についても、オンライン化等を含め、検討すること。
十一 国土の有効利用を図る観点から、国土調査事業及び地図作成事業を迅速に実施して不動産登記法第十四条地図を整備し、土地の筆界の明確化を図るよう努めるとともに、ランドバンクの果たすべき役割について検討するとともに活用の強化を図るほか、新たに創設される管理不全土地管理命令についての地方公共団体の長による申立てを認めることを検討すること。