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電気事業法等の一部を改正する等の法律案に対する附帯決議

 

 政府は、電力・ガス・熱供給システムの改革を着実に推進するため、本法の施行に当たり、以下の点に留意すべきである。

 

一 附則第七十四条に基づく「電気事業に係る制度の抜本的な改革の実施に係る検証」に当たっては、電力システム改革の目的である「電気の安定供給の確保」と、「電気の小売に係る料金の最大限の抑制」及び「電気の使用者の選択の機会及び電気事業における事業機会の拡大」を実現するため、各段階での検証を適切な場で行うものとすること。また、附則第七十五条に基づくガスシステム改革に係る検証についても、天然ガスの安定供給を確保しつつ、「ガスの小売に係る料金の最大限の抑制」、「ガスの使用者の選択の機会及びガス事業における事業機会の拡大」を図るという改革の目的を実現するため、改革の各段階での検証を適切な場で行うものとし、電力・ガスのいずれについても、あらゆる可能性を排除することなく、検証の結果に基づき目的達成のために必要な措置を講じて着実に進めること。

 

二 電力システム改革後においてもあるべきエネルギーミックスの姿を実現するため、必要な政策措置について総合的に検討し、政府として責任を持ってその実現に向けた取組を強力に推し進めること。

 

三 電力システム改革後も再生可能エネルギーの導入が最大限加速するよう、固定価格買取制度を安定的かつ適切に運用するとともに、東日本・西日本、更には全国大での系統の広域融通による一体運用や系統運用ルールの見直し等のソフト面での対策や、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域における地内送電線の整備実証を含めた再エネ系統関連事業の成果を踏まえた更なる推進、電力広域的運営推進機関主導による地域のポテンシャルを踏まえた適切な系統整備の検討等のハード面での対策に加え、再生可能エネルギー発電設備の高効率化・低コスト化に向けた技術開発、再生可能エネルギー電源の導入促進に向けた規制改革・手続簡素化、安定的な再生可能エネルギー電源である地熱の支援強化による開発加速化、蓄電池の低コスト化に向けた研究開発等を積極的に行うこと。

 

四 徹底した省エネルギー社会を実現するため、先端省エネ技術の普及拡大、中小企業に対する省エネ診断の実施、スマートメーター設置の最大限の前倒し実施、建物の断熱化対策の加速や需要家への働きかけも含めたエネルギー供給サイドにおける省エネの推進等に注力するとともに、電力システム改革を着実に進めることで、ネガワット取引等の新たな需要管理施策を強力に推進すること。

 

五 我が国の最終エネルギー消費量の過半を占める熱利用の効率性を高める観点から、コージェネレーションの普及拡大、太陽熱や地中熱等の再生可能エネルギー熱及び工場排熱等の未利用熱の利用促進のための施策を講じること。

 

六 原子力発電の稼働が進んでいない中で海外からの化石燃料の輸入が増加し、国民負担の増大が懸念されていること、特に、電力が市場に十分に供給されることが市場における競争環境上重要であることに鑑み、平成二十八年を目途に電力の小売全面自由化の実施が予定されていることを踏まえ、必要となる電力の需給状況の安定が確保されるための有効な措置を講じるべく努めること。

 

七 原子力事業者において今後国内において増加する原子力発電所の廃炉の円滑な実施や新規制基準への対応、使用済核燃料の処理、地球温暖化対策及び電力安定供給への貢献等の課題への適切な対処が可能となるよう、事業環境の整備に向けて、平成二十八年を目途に電力の小売全面自由化の実施が予定されていることを踏まえ、必要な措置について速やかに検討し、遅滞なく実施するものとすること。また、原子力政策を含むエネルギー政策が国民の理解なくしては成り立ち得ないことに鑑み、その制度的な選択肢や負担の在り方等も含め、十分な国民への説明と議論、理解のもと慎重かつ丁寧に行われるようにすること。

 

八 原子力事業者が共同で実施してきた再処理等の核燃料サイクル事業や原子力損害賠償制度については、小売全面自由化により競争が進展し、また、原子力依存度が低減していく中においても、安定的・効率的な事業実施が確保される必要があることから、国と事業者の責任負担の在り方を含め、遅滞なく検討を行うこと。特に、核燃料サイクル事業については、民間企業の活力の発揮を前提としつつ、実施主体である認可法人に対して拠出金の形で資金が支払われる最終処分の仕組みを参考として遅滞なく検討を行い、電力市場における小売全面自由化が平成二十八年を目途に開始されることを踏まえて、措置を講じること。

 

九 電力の小売全面自由化に伴って電力の安定供給が決して損なわれることのないよう、本年四月に設立された電力広域的運営推進機関の機能の適正な行使等を通じた必要な供給予備力の常時確保を図ること等により、万全の措置を講じること。また、発電事業者、送配電事業者及び小売電気事業者が連携して災害時など緊急時における電力の安定供給を確保するための仕組みについて、経験と技術を身に着けた人材が関係事業者に確保、育成されるよう、十分な検討を行い、適切な措置を講じること。

 

十 電力の小売全面自由化に伴う新規参入事業者の電源調達を容易にするため、卸電力取引市場における電力取引の活性化に向けた施策をこれまで以上に進めるものとし、電力の小売全面自由化に間に合うようできるだけ速やかに、従前の一般電気事業者等による余剰電力の供出促進策に加え、多くの電力の買手の参入を促すための多様なメニュー構成や適切な卸電力価格の形成等を通じた、魅力ある卸電力市場の在り方について検討を行うものとすること。

 

十一 送配電部門の法的分離に当たっては、電力の安定供給や、従業者の作業安全が損なわれることのないよう、一般送配電事業者が需給調整、周波数維持等の最終的な安定供給責任を果たすために必要かつ十分な調整力・予備力を確実に確保できる仕組み及びルールを適切に整備するものとすること。

 

十二 電力市場における適正な競争を通じて、電力システム改革の目的の一つである「電気料金の最大限の抑制」が確実に達成されるために必要な措置を講じるものとし、規制料金の撤廃は、需要家保護の観点から電力・ガス取引監視等委員会の意見を聴いてその時期を十分に見極めて行うとともに、新規参入事業者が公平な条件で競争できるような価格形成が図られるようにするなど、適正な電気料金実現のための措置を講じること。また、「広域系統運用の拡大」という電力システム改革の目的を踏まえつつ、電気の地産地消等を通じた地方創生にも資するよう、託送料金制度において、発電所の立地地点別に託送料金を変えるなど、混雑状況など系統運用状況を改善する効果にも着目した料金体系とするべく検討を進めること。

 

十三 ガスの保安の確保がガスシステム改革の大前提であることに鑑み、小売の全面自由化及び導管部門の法的分離に係る詳細な制度設計及びその実施に当たっては、導管部門と新規参入者を含めた小売部門の連携が十分に図られ、経験と技術を身に着けた人材が確保、育成されるよう、また、あらゆる可能性を想定しながら、不安の払拭に遺漏なきよう万全を期すこと。

 

十四 LNGの低廉かつ安定的な調達が、ガスの安定供給の確保とガス小売料金の最大限の抑制の実現の上で重要であることに鑑み、導管部門の法的分離に係る詳細な制度設計及びその実施に当たっては、LNGの調達に悪影響を及ぼさないよう、十分に配慮すること。あわせて、事業者による天然ガス利用拡大の取組が損なわれないための仕組みについて、遅滞なく検討を行うこと。

 

十五 ガスの導管部門の法的分離の対象となる事業者の範囲に関しては、法的分離が公益的観点から導管部門の公正中立な開放を担保するものであるとの趣旨を踏まえ、欧米の動向等も参考にしつつ、適切な基準を設定すること。

 

十六 電力及びガスの小売全面自由化の趣旨に照らし、規制料金に係る経過措置の対象事業者については、需要家保護の観点に十分留意しつつ、エネルギー間の競争状況等についても慎重に見極め、電力・ガス取引監視等委員会の意見を聴いた上で指定するものとすること。また、経過措置の対象となる場合でも、委員会が競争状況等について継続的に監視・検討を行い、必要がなくなった時には、可及的速やかに規制料金を撤廃すること。

 

十七 熱供給システム改革について、その実施後における需要家保護に万全を期すこと。

 

十八 電力・ガス取引監視等委員会については、エネルギー市場における十分な競争条件が整うとともに安定供給及び厳格な保安体制が確立し、小売の全面自由化が健全かつ定常的に実現され、市場取引が一層公正・適切に進められるよう、強力に監視を行うものとし、その独立性を十分に確保するため、経済産業大臣は委員会の意見を最大限尊重し、経済産業大臣が委員会と異なる判断を行う場合には、十分に説明責任を果たすこと。また、委員会運営の公正性及び中立性に疑念を抱かれることがないよう、その選任に当たっては、法の趣旨を踏まえ、電力会社及びガス会社に在職する者並びにこれらの会社の経営に影響力を与えてきた者の委員長及び委員への任命は厳に慎むとともに、その事務処理の状況について、毎年、広く国民に公表すること。さらに、電力・ガス・熱の取引の監視等のために必要最小限な組織とし、肥大化は極力避けること。

 

十九 電気事業及びガス事業の法的分離に伴う行為規制については、従業員の人事異動等の規制は労働者の権利の制約であるとの懸念から法律に明文規定が設けられていないことを踏まえ、特定の従業員を特定の業務に「従事させてはならない」とする規定については、「兼職を禁止する」という規定の趣旨に沿った運用を確保することとし、今後の詳細な制度設計や電力・ガス取引監視等委員会における基準やルールの検討・運用に際しては、電気事業及びガス事業の実態や関係者の意見を踏まえるとともに、客観性、透明性や中立性について十分な確保を図ること。また、過度な規制によって従業者の職業選択の自由や電力・ガスの安定供給及び保安の確保等に不可欠な人材の育成等に影響を与えないよう、兼職禁止の対象や範囲については、中立性確保の観点から必要かつ合理的な限度にとどめるものとすること。

 

二十 電力・ガス・熱供給システム改革の遂行に際しては、今日まで電力・ガス等の安定供給を支えてきた電力・ガス等関連産業の労働者の雇用の安定や人材の確保・育成、関連技術・技能の継承に努めるとともに、改革の過程において憲法並びに労働基準法に基づく労使自治を尊重するものとすること。また、電気事業の労働者について一定の形態の争議行為の禁止を定める「電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律」については、自由な競争の促進を第一義とする電力システム改革の趣旨と整合性を図るとともに、憲法で規定される労働基本権の保障も踏まえ、附則第七十四条の検証規定に基づく第三弾改革に係る改正法の施行後の検証時期に併せ、「労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会」報告における再検討の指摘に基づき、その廃止も含めた検討を行い、結論を得るものとすること。

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