安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法施行に当たり、次の諸点について十分配慮すべきである。
一 我が国が国際的に約束した二〇五〇年カーボンニュートラルや二〇三〇年度温室効果ガス排出量削減目標の達成、また気候変動に関する政府間パネルの報告への対応等に向けて、更なるエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換の一層の促進等に必要な技術開発や支援措置等にできるだけ早急に取り組むこと。また、太陽熱や廃熱等も含め、大規模投資や長期間のリードタイムが不要な既存のエネルギー源等の活用の在り方についても積極的に検討を進めること。
二 ロシアによるウクライナ侵略及びこれに伴う経済制裁等を踏まえ、我が国のエネルギー安全保障の確保、我が国産業や国民経済に必要な資源・エネルギーの安定供給及び価格の抑制に全力で取り組むこと。
とりわけ、電力需給逼迫の常態化や電力コストの高騰など安定的で効率的な電力需給基盤の先行きに懸念が生じている現状に鑑み、喫緊の措置として、再生可能エネルギーその他国内で稼働可能な電源の最大限の活用により当面の電力供給の確保のための実効性のある施策を講ずること。
併せて、事業者に対する支援等を通じて、資源・エネルギーの調達先の一層の多角化及び適切なポートフォリオによる化石燃料の安定調達に努めるとともに、代替資源の研究開発支援、再生可能エネルギー等の一層の導入促進、蓄電池の活用、地域間連系線の整備や大規模発電施設に偏らない小規模分散型電源への転換促進への支援、我が国海域における鉱物資源の開発及び事業化支援等による資源・エネルギーの自給率の向上に向けた実効性のある取組等を総合的かつ早急に進めること。
三 電力自由化の下での我が国全体の供給力確保に対しては国が最終的な責任を負うべきであることに鑑み、中長期的に必要な規模の電源の維持・確保に向け、容量市場について、その制度目的に照らし不十分な点や改善すべき点がないか検証しつつ、その安定的で着実な運用を図るとともに、電力自由化の下での安定供給とカーボンニュートラルの両立に資する投資環境を早急に整備すること。併せて、発電所休廃止に係る事前届出制の運用に当たっては、休廃止を行おうとする事業者の自律的で合理的な経営判断を最大限尊重すること。
四 揚水発電は、電力需要変動に対する調整機能や再生可能エネルギーの出力制御の抑制等に有用であることに加え、災害等により他の発電方式が十分活用できない場合の電力供給源として極めて重要な役割を果していることを踏まえ、揚水発電の最大限の活用及び維持開発が図られるよう、必要な制度措置の検討を早急に進めること。
五 水素・アンモニアについては、その特性に応じ、エネルギー効率及び経済性に配慮しつつ、用途毎の利用の在り方を明確にして活用するよう努めること。また、今後の再生可能エネルギーの導入状況や技術開発の進展状況、製造コスト等の観点から不断に検討を加え、できるだけ早期に温室効果ガスの排出を可能な限り抑えた製造方法等への移行を進めること。
六 大きなポテンシャルを有する営農型太陽光発電の導入拡大に向けて、政府においても逐次その状況を把握し、引き続き、関係省庁で連携して、導入促進のため必要な措置を講ずるよう努めること。
七 「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構」の出資・債務保証の範囲拡大に伴う業務の実施に当たっては、多額の国費を用いるものであることを踏まえ、我が国に必要な資源・エネルギーを確保するための支援措置の有効性及び効率性に十分に配慮するよう留意すること。
八 エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する基本方針の策定に当たっては、気候変動対策及びサステナビリティに関する国際的な議論及び動向を踏まえ、市場メカニズムを通じた民間企業による企業価値と競争力を高めるための経営判断及び自助努力による取組に十分に配慮すること。
また、特定事業者等、特定輸送事業者及び特定荷主等による非化石エネルギーへの転換に関する中長期的な計画の作成に当たっては、サステナビリティに関する基準やESG評価への対応のために作成している計画の活用を可能とするなど、その負担を最小限に留めるよう配慮すること。
さらに、主務大臣によるエネルギーの使用の合理化、非化石エネルギーへの転換及び電気の需要の最適化のための指導及び助言に当たっては、民間企業におけるサステナビリティに関する基準やESG評価への対応と整合を図り、その普及拡大に資するよう努めるとともに、サプライチェーン全体による取組や再生可能エネルギーの卸売市場の活用といった経営判断を尊重すること。
併せて、取組の評価に際しては、エネルギー使用の合理化にかかる年一パーセントという基準の妥当性について現実に即した不断の見直しの議論を行いつつ、実質的にエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換の効果が高い場合は高評価が得られるようにするとともに、評価結果に基づく罰則の適用や低評価の結果公表は慎重に行い、高評価の結果を積極的に開示するなど、事業者にインセンティブを与える措置を積極的に講ずること。