公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府及び関係者は、本法の施行に当たっては、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 教育職員の時間外在校等時間を令和十一年度までに一箇月当たり平均三十時間程度に縮減するという本改正法附則第三条第一項に規定する目標を達成するため、地方公共団体の裁量にも留意しつつ、その実現に向けた工程表の策定を行うこと。
二 教育職員の勤務条件の更なる改善のための措置について検討するため、本改正法附則第六条に規定する教育職員の勤務の状況を調査するに当たっては、これまで教育職員に対して行われた勤務実態調査にも留意し、その方法について十分に検討すること。また、教育職員の勤務条件の更なる改善のための措置を講ずるに当たっては、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法における教育職員の健康及び福祉の確保という理念と教育職員の勤務の状況との差を埋めることができるよう必要な措置を講ずること。
三 教育委員会は、時間外在校等時間が上限時間を超える学校に対して、当該学校の業務や環境整備等の状況を十分に検証し、在校等時間の長時間化を防ぐための取組に万全を期すこと。
四 時間外在校等時間を形式的に上限の範囲内とするために、週休日・休日を含めて、実際の時間外在校等時間より短い時間を記録することのないよう周知徹底すること。また、校長等が虚偽の時間外在校等時間を記録させることがあった場合には、信用失墜行為として懲戒処分等の対象となり得ることについても周知すること。
五 時間外在校等時間の上限時間を遵守することのみを目的として、自宅等への持ち帰り業務を増加させることがあってはならないことについて、周知徹底すること。また、本来、業務の持ち帰りは行わないことが原則であることから、持ち帰りが行われている実態がある場合には、校長及び教育委員会は、その状況を適切に把握するとともに、国はフォローアップを行うこと。
六 学校における働き方改革の目的は、子供一人一人の特性や関心に応じた学びの実現であり、その目的のため、教育課程の編成の在り方について専門的な議論を深めるとともに、教職員定数の改善などの教育条件の整備も一体として同時に進めること。
七 学校における働き方改革については、単に教育委員会や学校のみの責務とするのではなく、地方公共団体の関係部署が一体となって、取組を強力に推進すること。また、教育委員会は「教師不足」の解消を図るための対策に万全を期すこと。
八 労働基準監督機関の権限を行使する人事委員会及び人事委員会を置かない場合の地方公共団体の長は、教育委員会が教育職員の業務量を適切に管理し、健康と福祉の確保を図るよう、その役割を十全に果たすこと。その際、社会保険労務士や法律家など外部の専門家の知見も活用し、教育職員が働き方について相談できる体制の構築に努めること。
九 教育職員の過労死等の公務災害が疑われる事案が発生した際には、服務監督権者である教育委員会及び校長は速やかに調査を行い、再発防止に向けた取組を講ずること。
十 国及び地方公共団体は、学校における働き方改革を円滑に推進できるよう、いわゆる「学校・教師が担う業務に係る三分類」に基づく取組が確実に実施されるよう、必要な財政措置等の条件整備を講ずること。また、国は、「教員が担うべきではない業務」を明確に示すとともに、教育委員会及び学校段階において、教育課程上の工夫を含めた業務改善の取組を整理・共有すること。さらに、こうした改革の趣旨について、国が主体的に保護者や地域に対して理解を促す広報や発信に取り組むこと。
十一 主務教諭の配置による教諭の職務内容・職責の変化がないことを踏まえ、主務教諭の配置のために、教諭の給与を引き下げることのないよう、地方公共団体に周知徹底すること。また、主務教諭の配置によって、学校内外で円滑に協力・協働体制が構築できるよう、周知すること。併せて、主務教諭の配置が地方公共団体による任意設置となっていることから、その配置人数分の義務教育費国庫負担金を確実に措置すること。
十二 義務教育等教員特別手当を校務類型に応じて支給するに当たっては、現在行われている一律支給部分について、その支給ができないとの誤解が生じないよう周知すること。併せて、学級担任に義務教育等教員特別手当の支給を加算することについて、複数担任制を採っている場合にも支給が可能であることを周知すること。
十三 子ども・子育て支援制度の枠組みにおいて措置されている幼稚園教員の処遇改善に資する財政措置とその効果について、継続的にフォローアップを行うこと。
十四 国は、教育職員の業務の縮減のため、教育職員の担当授業時数を軽減するための教育課程の実施と抜本的な教職員定数の改善に努めること。また、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、教員業務支援員等の学校における専門スタッフの配置の一層の拡充及び処遇改善に努め、地方公共団体の財政力に起因した配置の格差が生ずることのないよう、必要な財政措置を講ずること。併せて、国及び地方公共団体は、部活動の地域展開等を確実に進めるための措置を講ずるとともに、全国規模の「学校人材バンク」の構築などを講ずること。
十五 令和の日本型学校教育を担う専門職としての教育職員の専門性の向上・キャリア形成のため、研修や教員養成段階への支援に加え、授業実践が共有できるプラットフォームの形成と教育データベースを整備し、多様な子供への効果的な授業実践や支援とその成果を科学的に分析・共有する仕組みを構築すること。その際、現場の教育職員の負担とならないよう配慮すること。
十六 教育職員のメンタルヘルスを良好なものとする前提として、学校における労働安全衛生管理体制の整備が不可欠であることを踏まえ、産業医や健康管理医等の選任等、教員の健康確保措置の環境整備に際し、地方公共団体間で格差が生ずることのないよう、国が必要な支援を行うこと。また、学校における勤務間インターバルの取組を進めるため、国は必要な支援を行うこと。
十七 教育職員の安定的な確保及び質の向上のため、教育職員の免許制度及び養成・採用の在り方について検討を行い、その結果に基づき、法制上の措置その他の必要な措置を講ずること。また、教育職員の専門性・多様性の確保のため、教育職員の採用選考の実施時期及び回数等について、教育委員会による工夫改善の取組を促進すること。