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昭和五十一年五月十四日提出
質問第一二号

 公衆浴場の確保に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十一年五月十四日

提出者  紺野与次郎

          衆議院議長 前尾繁三郎 殿




公衆浴場の確保に関する質問主意書


 最近十数年間の公衆浴場の減少は、国民の保健衛生上もはや放置できないものがあります。
 厚生省の統計によつても、全国で一四・九%の減、東京都では昭和四十年から五十年で七・九%の減であり、とりわけ東京都心三区(千代田区、中央区、港区)では、四一・四%とまさに激減というべき状態です。
 公衆浴場確保対策委員会が精力的な審議により早急に適切な答申を出すことを強く期待していますが、同時に同委員会の審議中にも公衆浴場業の転廃業が相次ぎ、利用者に多大な不便をもたらしていることを思えば、今日の時点で、行政の責任において直ちに可能な施策をとることが必要です。
 公衆浴場業を営む者は、多くは転廃業を望んでいません。現在の状況から、ある業者は「進むもならず、引くもならず」と悲痛な叫びをあげています。
 また、料金の値上げについても、必ずしも好ましいと思つているわけではありません。
 今回、東京都では入浴料金を百円から百二十円にしましたが、業者は「できることなら、百円玉一ケで風呂に入れるままにしておきたかつた」といつています。
 公衆浴場利用者は、いわゆる低所得者層が大多数であり、また、大都市中心部では中小零細商工業者をも含んでいます。高地価の大都市中心部では限られたスペースを営業のために最大限に利用しており自家風呂の設置は容易ではありません。
 料金が上がると、利用者は入浴回数を減らすなどの自衛措置をとるわけで、例えば東京都港区の浴場組合の試算では、料金が七十五円から百円になつたとき、利用者は八・三%の減、同じような傾向として、広島県、山口県、仙台市などの統計では一〇〜二〇%の利用者減と言われています。
 大都市中心部ではビル化が進み、人口は減少の一途をたどつていますが、住民のすべてが転出するわけではなく、こうした地域での公衆浴場の転廃業は、住民に深刻な事態を引き起こしています。
 以下、東京都での幾つかの切実な例をあげますが、政府は、こうした国民の著しい不自由について、親身になつて解決を図るべきです。
イ 千代田区三崎町のある印刷業者は、近くの公衆浴場がなくなつたため、十分以上も歩いて行くのですが、女の夜道の一人歩きは物騒なので、やむを得ず自家用風呂を作りました。私も見てきましたが、増築する余地は全くないので、営業スペースを削つて浴槽を置きましたが流し場まではとれません。そこで風呂桶にフタをかけて、その上で体を洗う、それで流したら、フタをとつて浴槽につかる。こういう有様なのですが、ここへ近所の人達が、もらい風呂に来ているのです。
ロ 中央区八丁堀のある製本業者は、八丁堀、新富町に公衆浴場がなくなつてしまつたので、仕事をしまつてから、店の車に家族と従業員を乗せて、新川まで入浴に行きます。運転出来る人がいない日は風呂はやめるし、冬の寒い日や天気の悪い日は、年寄り、子供はおいてゆくといつた状態です。
ハ 港区赤坂のある飲食店では、近所の公衆浴場がなくなつてから、一定のスペースをさいて自家風呂を作りました。しかし経営者の家族が順に入るのが精一杯で、閉店後に従業員を入れることが出来ない。
  従業員にしても夜遅くまで家族に迷惑をかけるわけにはいかないし、一度に何人もの従業員が入れる程広くはない。そこで遠くまで風呂に入りに行くことになりますが、結局は入浴回数を減らしています。
ニ 文京区小日向でも、入浴のためにバスに乗つたり、お年寄りが急な坂道を上り下りしたり、下宿やアパートを移転するなど、深刻な訴えがきています。
  こうした傾向は、都心三区から文京区、台東区、品川区、新宿区、渋谷区、江東区、墨田区及び豊島区などに広がりつつあり、事態は容易ならざるものです。
  なお、公衆浴場を確保することは、単に保健衛生上の問題だけではなく、地域コミュニケーションの確保、中小企業の雇用確保、商店街の繁栄、水資源、燃料資源の節約など多方面に効果が及ぶものです。
  以上のように、公衆浴場確保対策はいまや極めて緊急の問題となつています。
  よつて次の事項について質問いたしたい。

一 公衆浴場料金が、いまだに物価統制令の適用を受けているということは、公衆浴場業のもつ公共性、公益性を特に強く認めておることのあらわれと理解しておりますが、政府当局としても、そのように考えておるのかどうか、始めに伺いたい。
二 次に、東京都物価局、東京都の千代田、新宿、港各区の浴場組合や全浴連幹部の方達の話を聞いてみると、転廃業の時期が、相続あるいは代替り(実権を次の世代にゆずる時期)に多いこと、また、建物や施設の建て替え、大修繕、中普請などの時に多いことが判つてきました。直接的にあらわれてこないにしても、少なくともこれらの時期が引金になつて「この際に思いきつて」転廃業する場合が多いのです。統計上の転廃業の理由として「営業不振」としているものの中にも、こうしたことが、かなり隠されていることが判つてきました。
 (イ) このような実態を把握することは、今後の施策を打ち出す上で、非常に重要な問題ですが、全国的にどのような状態であるとみているか、数字もあげてお答え頂きたい。
 (ロ) 料金は抑制されているが、水、燃料、電力等の費用は上がる、人件費も上がる、生活費も著しく上がるという関係から、膨大な投資額に比して極めて収益性の悪い「うま味のない商売」の一つが公衆浴場業です。その上に、政府の施策による自家風呂の普及、都心部では人口の減少など悪条件があります。こうした点から東京都を始め、六大都市の中心部と周辺部及び幾つかの代表的な地方中小都市では、転廃業の理由は、どのような違いがでているのか。
三 相続税法第十二条、同施行令第二条では、課税価格に算入しない財産をあげているなかで「……その他公益を目的とする事業」をあげており、同法施行令付則第四項で「当分の間」学校法人でない私立幼稚園等を公益事業とみなし、免税対象としております。公衆浴場業のもつ公共性、公益性からいつてこの際、緊急の対策として公衆浴場業について法人形態をとつている場合も含めて、公衆浴場業を続ける場合には、相続税を軽減する特別措置をとり、いわゆる代替り時期の転廃業防止に資すべきです。この点についての政府の見解をただしたい。
四 建て替え、修繕などの時期に当たつての転廃業を防ぐ上では、資金の問題があります。公衆浴場業のもつ公共性、公益性にかんがみ、単に環境衛生事業一般として平面的にみるのではなく、特に今日の時点でみるならば公衆浴場確保政策として、環境衛生金融公庫融資について特別に見直す必要があります。本年度予算の要求に当たり、環衛公庫が出した予算要求内容をみると、現在公衆浴場業がおかれている実態を反映して、極めて控えめであるが、納得しうるものです。しかし、本年度予算では、その一部しか認められていないので、なぜ、ささやかな要求さえも斥けたのか伺いたい。
 (イ) 貸付限度額では、例えば東京都における標準的浴場の営業面積二百〜二百三十平方米で、これを建て替え、鉄筋化、不燃化を図ろうとすれば建築費だけで三千万〜四千万円、設備の更新を含めれば、優に五千万円を超えるものであり、予算要求額の五千万円という限度額は、決して過大なものではありませんでした。限度額の引上げについて、どのように考えているか、まず伺いたい。
 (ロ) 償還期間も、建物や最近の設備の相当程度のものの実際的な耐用年数からいつて、二十年とすることは合理的であると思うが、どうか。
 (ハ) 利率についてみるならば、全国で少なくとも二十二都府県と相当の市、町、村が四〜五%を超える分についての何らかの利子補給をしていることでも判るとおり、利率の大幅な引下げは時の必要となつています。建物や基本的設備については特別に緊急に、思いきつた利率の引下げをすべきであると思うが、どうか。
五 公衆浴場業は、同じ程度の営業規模をもつ他の業種に比べて、広大な土地建物を必要としており、固定資産税が問題となります。地価の高騰、とりわけ大都市では、その中心部と周辺部との地価の著しい格差があり、従つて固定資産税の負担にも大きな格差があります。東京の場合、都心区では周辺都市の地価の三倍、四倍ですが、これは企業努力にかかわりなく、か酷なハンデキャップとなつています。
 (イ) 地方税法第六条第一項には、公益等によつて非課税の対象とすることが出来るようになつています。公衆浴場業のもつ公共性、公益性からいつて少なくとも、一定の面積まで、例えば二百平方米までを非課税の対象とするか、脱衣場、洗場、カマ場に相当する面積を非課税とするなどの措置を、緊急にとるべきであると思うが、政府の見解を伺いたい。
 以上の外にも、燃料の確保と価格の問題、水道料金と公営企業法の問題、地方公共団体が設置する公衆浴場に対する援助の問題など様々な問題がありますが、今回の質問では、実施可能な緊急な施策にしぼりました。
 公衆浴場業の今日の事態を引き起こした責任は、歴代自民党政府による土地政策、エネルギー政策、物価政策、中小企業政策などにあることは、今更多くを言う必要はないと思います。政府は、自らの失政の結果について、公衆浴場業者に転嫁することは許されないし、全国二千万人に及ぶ公衆浴場利用者に不自由を与えるいささかの権利もありません。政府自らが、招来した結果を速やかに改めるよう強く要望いたします。

 右質問する。





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