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昭和五十三年四月十九日提出
質問第二八号

 小麦関係食糧行政に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十三年四月十九日

提出者  神田 厚

          衆議院議長 保利 茂 殿




小麦関係食糧行政に関する質問主意書


 小麦は米に次ぐ重要食糧であり、これが需給の円滑化を図ることは政府の責務であると確信するので、農林省が現に実施している小麦関係行政の若干の問題点について関係当局の責任ある回答を求めたい。

一 政府所有原麦売渡方法の不合理から派生する問題点について
  農林大臣は、食糧管理法第四条の三の規定に基づき政府所有原麦を製粉業者に売却しているが、その売却量を算定するに当たつて国民一人当たり粉食需要の凍結政策をとり、近年における年平均人口増加率を一・三%と仮定し、この人口増加分を上回る原麦の売渡しを差し控える方針を堅持している。しかしながら、このような市場の実勢と隔絶した小麦需給計画の運用をもつてしては需給の円滑を図ることは不可能である。それは配給統制を実施しない以上、粉食需要はその時々の事情により流動するものだからである。そこでここ数年の傾向を概観すると、需要に対する供給が伴わないため製粉企業の原麦在庫量は著しく低下し、適正水準を大きく割つているが、これは小麦粉の実需が原麦の供給を上回つているがために、適正原麦在庫量を維持し難いために生ずる現象である。そして、かかる状態がもたらすものは、小麦粉市場の正常な買い手市場から不正常な売り手市場への移行なのである。
  周知のとおり買い手市場は、買い手側が売り手側よりも強い立場にあり、売り手市場は、売り手側が買い手側より強い立場にある。
  商品の価格は、完全競争を前提とする限り、その需要量の力関係によつて決まるものである。従つて商品の需要量がその供給量に及ばない場合には、売り手側はその商品の販売を互いに競り合うことになり、買い手側は最も有利な条件で自由に取引きできる相手を選択することになる。これを買い手市場というのであるが、自由社会における市場の正常な在り方が買い手市場であることは、独占禁止法がその第一条において「不公正な取引方法を禁止し、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇用及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。」としていることからみても疑いない。
  従つて、農林行政当局が現在実施している国民一人当たり粉食需要の固定化政策から派生する小麦粉市場の売り手市場化傾向は、自由経済社会の経済原則に逆行するものであり、独占禁止法の本旨からみても絶対に容認し難いもののようにみえる。
  以上の理由により左記について回答を求める。
 1 農林省は、小麦粉市場の実勢と隔絶した粉食の一人当たり需要の固定化政策を今後も持続して、その売り手市場状態を解消しないつもりか。それとも事態を改善するつもりか。もし事態を改善する用意があるとするならば、その具体的方法を明示されたい。
 2 前記のごとき農林省の原麦売渡引締め政策がもたらす小麦粉市場の売り手市場化を、公取委当局はどのように認識しているのか。もしこれが独占禁止法の精神に沿わないものとすれば、公取委は農林省当局に対し善処を求めるべきだと思うが、この点について公取委当局の見解を明示されたい。

二 政府所有原麦売渡方法の不合理から派生する問題点について
  農林大臣は、食管法第四条の三の規定によつて、政府所有原麦を「随意契約」方式により製粉業者に売却している。ところが農林省はこれが実施に当たつて、昭和五十年以前の実績割と能力割の二本建てによる売却量算定基準を撤回して、一〇〇%実績尊重売渡方式を採用、現在に及んでいる。そして、それとともに以後製粉工場を新増設しても、その経済的操業に必要な原麦の売渡しは行わないとする原則を確立した。ところがその当然の結果として、製粉業者が公正かつ自由な販売競争によつて新規に顧客を獲得しても、需要の増大に見合う原麦を入手することが全く不可能となつたので、製粉業者の販売競争は著しく鈍化するに至つた。
  これは独占禁止法が擁護し助長しようとしている公正かつ自由な競争秩序の事実上の崩壊に外ならないが、製粉工場の事実上の新増設禁止措置の実施に伴う新規参入の停止、技術水準の上昇に伴う設備の更新及び近代化並びに省力化投資の停滞なども、この制度更改によつてもたらされたものである。なお、このような自由競争秩序の崩壊を促すもう一つの要素に、前記の原麦売渡引締め政策がある。それは実需を下回る原麦の売渡政策が続く限り、小麦粉市場の売り手市場状態が一変することはないのだから、業者は有利な買い手の出現を待つだけで、販売競争などの必要はどこにもないからである。
  新憲法は、その第二十二条において職業の自由選択権を保障しているが、独占禁止法もこの線に沿つて新規参入を困難とする独占的企業の存在を許さない旨を規定している。
  この点からいつても、農林省が採用した製粉工場の事実上の禁止措置には重大な問題が秘められているが、一〇〇%実績割の原麦売渡方式も、独占禁止法の目的とする公正かつ自由な取引秩序を正面から否定する措置のようにみえる。
  食管法は、その第四条の三の第一項で、麦の政府売渡方法として随意契約、一般競争契約、指名競争契約のいずれを採用するかは、農林大臣の自由だとしている。
  従つて、何も随意契約方式にこだわることはない。それ故、実績と競争契約方式を併用して基本を実績割とし、一定比率を競争契約による売却方式とすれば、市価は基準となる実績売却コストによつて決定するから、競争入札分は、合理化努力によつて製造コストを引き下げない以上応札してもマイナスになる。従つてここに競争原理が導入され、売り手市場の弊害は必ず一掃されよう。このように現状を打開することは十分可能なのに、なぜ百弊続出の一〇〇%実績割に固執するのか理解し難い。また、新規参入阻止の条件を解除したとしても、実際問題として、それが業界の安定を覆すようなことになるなどとはとうてい考えられない。
  以上の理由により左記について回答を得たい。
 1 一〇〇%実績割を再検討して、公正かつ自由な競争原理を導入する用意があるか。
 2 製粉工場の事実上の新増設禁止措置を撤回して新規参入、新増設を経済的に可能とする競争秩序を導入する用意があるか。
 3 事実上の工場新増設禁止措置と、憲法第二十二条の職業の自由選択権及び憲法第十四条の法の下における平等権との関係について、政府はどのように認識しているか。見解を具体的に明示されたい。
 4 公正かつ自由な取引秩序の擁護と助長を目途とする公取委の、一〇〇%実績割方式及び工場の事実上の新増設禁止措置に対する見解を具体的に明示されたい。

三 製粉副産物たる麩の市況変動に伴う措置の不合理に伴う弊害について
  農林省は昭和五十一年の一月に原麦売渡価格を二〇%引き上げ、さらに同年七月から一六・四%の引上げを行つた。その際、食糧庁長官は行政指導によつて小麦粉の標準価格を第一回値上げ分は二〇%、第二回値上げ分は一六%とする旨を決定、これが励行を関係業者に勧告した。しかしながらこれは理論的に不合理な決定である。
  なぜならば、製粉原価の中で占める原麦の比率は七〇%内外だからである。従つて、もし原麦の原価比率を七〇%とすれば、原麦売渡価格を二〇%引き上げたら小麦粉を一四%、一六・四%引き上げたら小麦粉を一一・五%引き上げれば、それで原麦の値上げに相当する差損は一掃されるはずだからである。そしてこれは第一回の値上げ分には六%、第二回値上げ分には四・九%の便乗値上げ分が含まれている疑いがあるということである。そこで本員は、昭和五十二年五月十九日の衆議院農林水産委員会において、この便乗値上げ分を粉価の値下げというかたちで消費者に還元すべきではないかとする趣旨の質疑を行つたのである。
  ところがこれに対し政府委員は、当時麩の市況が軟調であり、原麦の値上げに相当する麩の値上げは至難なので、その差損を小麦粉の値上げ幅を拡大することによつて補てんせしめる外ない為、止むを得ず右のとおりの行政指導を行つたと答弁した。
  ところが現実の麩の市況をみると、それは昭和五十一年六月から堅調に転じ、その堅調は昭和五十二年末まで持続した。その当然の結果として一次加工産業の経常利益が倍増したことは、上場製粉企業の決算成績にみられるとおりであるが、現在は、この麩の市況が軟調に転じた為にその利益が一変して差損となつている。
  これは、食糧庁が行政指導のやりつぱなしで、適宜の措置をとらなかつたために生じた行政的失点といわれても止むを得ないことのように思えるが、理論的には、このような矛盾を一掃するためには、次期麦価改定の際、従来の差益を農林省が吸収することを前提とした売渡麦価を決定することが望ましい。しかしながら、そのような政策をとつたら営利企業たる製粉企業の経常利益が激減することになること必至であるから、製粉企業としては恐らくかかる事態に陥らないために、実質的な売渡粉価の値上げという方法によつて、これを消費者に転嫁しようとするであろう。
  現在の小麦粉市場は売り手市場なのだから、これはその気になればできることだからである。
  従つて、かかる不合理を早急に一掃する制度を確立することが肝要であるが、それには次のような方法しかないように思える。
  すなわち麩の市況の変動を勘案した原麦売渡価格とし、原麦売渡しの都度その価格を調整するシステムを採用する。そしてこの方式を米審に諮問し、その承認を得て実施する。
  麩の価格変動差を小麦粉の市価に反映させる方式も理論的にはあり得るが、それには多くの困難が予見される。
  そこで本件に関する農林省の見解を求めるのであるが、麩の市況の変動に伴う弊害を一掃するために現行制度を改正する用意があるのか。もしそれがないとすれば、その理由を明示されたい。

四 円高ドル安及び関税の前倒し引下げに伴う輸入食糧(完成加工品)の増加対策について
  急激な円高ドル安現象の進行によつて、輸入食糧は実質的に大幅値下がりしたが、食糧品関税の前倒し引下げが具体化すると、輸入食料の採算面における優位性は、さらに決定的となる。
  そこで国内の有力産業資本は海外に生産拠点を移し、加工食料品の対日輸出方式を採用すべく鋭意努力しているが、大多数の中小企業にとつてそれは不可能なことである。
  ところが国内の食糧品加工業者は、国際価格と隔絶した割高な政治価格の原材料をもつて食料品を加工販売しているので、とうていこのような輸入加工食品の増加に対して対抗することはできない。
  従つて、事態がこのまま推移すると我が国の食料品加工業は大打撃を受けることになろうが、政府当局はこうした客観状勢の変化に対して、国内産業保護のために必要な措置を講ずる用意があるのか。事態の推移を傍観するつもりなのか。この点に関する見解を具体的に明示されたい。

 右質問する。





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