衆議院

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昭和五十四年三月二十二日提出
質問第一三号

 在日韓国・朝鮮人の地方公務員任用に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年三月二十二日

提出者  上田卓三

          衆議院議長 (注)尾弘吉 殿




在日韓国・朝鮮人の地方公務員任用に関する質問主意書


 現在、大阪府の八尾市において市内の労働組合、民主団体、一般市民等多くの人々が、「八尾市公務員一般事務職・技術職差別国籍条項撤廃市民共闘会議」を結成し、広く市民運動を展開している。
 これは、市の公務員の一般事務職・技術職の受験資格の中に「日本国籍を有する者」という条項があり、現実に八尾市に居住する約七千人の外国人の大半が、在日韓国・朝鮮人であることを考えるとき、国籍条項は、在日韓国・朝鮮人を排除するものであると言わざるを得ない。さらに、このことは単に在日韓国・朝鮮人の公務員任用の道を閉ざすのみならず、民間企業の就職差別に口実を与えるという二重の意味で民族差別につながるものと思われる。また、そのような事実は、ひるがえつて広く日本の民主主義と人権確立に深くかかわる問題である。以上の考えに立ち、市民共闘会議は結成されたのである。
 市民共闘会議では、昨年十二月二十五日と今年二月二十日の二回にわたつて八尾市総務部と話合いを持つたが、市側は、「住民感情が許さない」「在日韓国・朝鮮人は市民ではない」などと、全く差別意識を露骨にした応対をし、参加の市民を驚かせるなどの一幕もあり、この国籍条項の持つ意味の何たるかを如実に示す結果となつた。しかし、市民の鋭い追及の中、最終的に「市職員採用における国籍条項の撤廃について、担当部局である総務部としては、撤廃すべきであるとの考えに立つており、時期については、三月末を目途に撤廃すべきである。」との確認書を得、一定の前進を見た。
 このように、在日韓国・朝鮮人の悲惨な差別の実態に深く関心を示し、その撤廃を叫ぶ声が日一日と高まつている今日、さらに内外人平等を高らかにうたいあげた「国際人権規約」の批准が予定され、国内法の整備が急がれる現時点で、今ひとたび、在日韓国・朝鮮人の生存権、とりわけ地方公務員任用の件につき、その根本的解決がなされなければならないものと考える。
 よつて、次の諸点につき政府の見解を承りたい。

一 在日韓国・朝鮮人の歴史的特殊性と定住性について
 歴史的特殊性
   現在の我が国の外国人に対する処遇の施策は、その中身において、実に実態を無視したものであると言わざるを得ない。とりわけ、六十五万人といわれる在日韓国・朝鮮人は、ただ単に外国人一般として片付けられない歴史的な特殊性を持つている。
   周知のとおり、我が国は、あの過去の忌まわしい侵略戦争の中で朝鮮半島を植民地にし、そこに住む多くの人々を強制・半強制的に日本に連れてきた。現在の六十五万人の在日韓国・朝鮮人は、その人々と子孫たちである。
   つまり、在日韓国・朝鮮人は、自らの意志に反して日本に居住せざるを得なかつた人々であり、その責任は、明らかに我が国にある。そのような意味において、現在日本に居住する在日韓国・朝鮮人は、他の外国人とは全く異なる歴史性を持つ外国人である。
 定住性
   一九七四年四月一日現在の法務省統計によると、在日韓国・朝鮮人総数六十三万八千八百六人中、日本生まれの二世・三世が四十八万三千百八十五人で、実に七五・六%を占めている。このことは、他の外国人とは異なり、過去の特殊な歴史的経過等の事情により、我が国に永く居住し、我が国以外に生活基盤を求めることがもはや不可能になつていることを示している。つまり、明白な定住化傾向にあるということである。
   しかしながら、そのような定住化にあるにもかかわらず、生活における諸権利は、著しく制限されている。税金は日本人と平等に払いながらも、権利は制限される。これは、義務と権利の関係からしてみても全く理不尽であると言わざるを得ない。
   このことは、在日韓国・朝鮮人は、他の外国人のように商用や旅行・留学等で一時的に滞在することとは根本的に違い、その生活上における諸権利は、納税義務との関係からしてみても、日本人と全く平等に与えられるべきものであることを如実に物語つている。
   このように我が国に居住する外国人の大半は在日韓国・朝鮮人であるが、彼らが、日本に居住するに至る歴史的経過及び定住化傾向等を考えるとき、他の外国人とは違つた特殊な性格を持ち、我が国の責任に深くかかわる問題点を含んでいる。よつて、画一的な一般外国人の処遇とは別途に、その生活上の諸権利を考慮する必要があると考えられるが、政府の見解を示されたい。
二 義務と権利は、裏腹の関係であることを考えるとき、在日韓国・朝鮮人の税の負担率は、日本人の二〇%に比べ二八%と高く、その額も国税及び地方税併せて約千五百億であるとされるが、現実には、還元されない事実がある。具体的には、社会保障制度等をはじめとする行政的施策による生活の諸権利から除外されているわけであるが、このことは、全く不公平な行政施策と考えるが、政府の見解はどうか。
三 在日韓国・朝鮮人の差別の現実について
  在日韓国・朝鮮人は、一九四五年我が国の敗戦と同時に当然一切の抑圧と差別から解放されるべき立場にあつた。にもかかわらず、彼らに対する差別は依然として続いている。これは、我が国が、過去に犯した侵略・植民地政策の誤りを深く反省することがなく、とりわけ、在日韓国・朝鮮人に対する非人間的差別と抑圧には、一切責任をとろうとしなかつたことによるものと考える。
  その結果、現在もなお、在日韓国・朝鮮人に対する不当な差別は続き、低生活を余儀なくされている。さらに、このような低生活の実態は、差別意識を再生産し、悪循環を起こしている。在日本大韓民国居留民団の実態調査によると、在日韓国人五千世帯のうち、日常交際の中で日本人から差別を受けたことがある人が三三%もあり、度々あると答えた人も二五%にのぼることが明らかにされている。とりわけ注目すべきものは、「あなたは、日本の官庁、官吏から差別をうけたことがありますか。」という問いに対し、「ある」と答えた人が四〇%にものぼり、「度々ある」と答えた人が一八%もあつたという驚くべき事実である。
  このことは、ひるがえつて我が国の基本的人権に対する尊重の不十分さと、民主主義の根本が問い直されていることを赤裸々に物語つている。
  右にみたとおり、我が国の社会全体に流布されている差別意識には根深いものがあり、とりわけ民族的偏見の意識は、国際的平和と協調を基調とする憲法の趣旨に反するものであり、この差別・偏見意識の払拭が急務の課題であると考える。よつて、この解決のため、政府自らが率先して啓蒙活動を推進する必要があると考えるが、どうか。
  する用意があれば、具体的に示されたい。
四 在日韓国・朝鮮人の就職差別と地方公務員の国籍条項について
  在日韓国・朝鮮人の生活における種々の差別を最も基本的に支えているのは就職差別である。日本国憲法第二十二条「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」、職業安定法第三条「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」、労働基準法第三条(均等待遇)「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」、国際人権規約A規約第六条(労働の権利)「1、この規約の当事国は、働く権利を認め、かつ、この権利を保障するため適当な措置を執る。この権利は、すべての者が自由に選択し又は承諾する労働によつて生活費を得る機会を求める権利を含む。」等々に示されるように、在日韓国・朝鮮人に対する就職、就労上の差別は明らかに不当なものである。このことは、一九七四年六月十九日、日立製作所の民族差別に対する横浜地方裁判所の判決にもその不当性と違法性が示されている。判決は、「戦後も現在に至るまで、在日朝鮮人は、就職に関して日本人と差別されて」きたことを認め「我が国の一流と目される大企業の間においても在日朝鮮人が、朝鮮人であるというだけの理由で、採用をこばみつづけていることの違法性」を言明している。さらに「在日朝鮮人に対する就職差別、これに伴う経済的貧困、在日朝鮮人の生活苦を原因とする日本人の蔑視感覚は、在日朝鮮人の多数の者から真面目に生活する希望を奪い去り、時には、人格の破壊まで導いている現状にあつて」とし、就職差別のもたらす非人間性を明らかにしている。このような就労・就職における差別は数字の上にも具体的に表われている。一九七四年四月一日現在の政府統計によると、在留外国人の職業についての調査の中で、在日韓国・朝鮮人の職業は、他の外国人に比較しても著しく不安定なものとなつている。例えば、管理的職業では、米国六・三%、中国二%に対し在日韓国・朝鮮人は〇・四%と低く、反対に単純労働者は、米国〇・〇一%、中国〇・七%に対し在日韓国・朝鮮人は一一%と異常に高いことが明らかにされている。これは、在日韓国・朝鮮人が、他の外国人に比較し定住化傾向が高く、本来ならば、その職業と経済・社会的地位は最も安定してしかるべきはずであるにもかかわらず、このような矛盾した結果となつているのは、まぎれもなく日本社会の根強い民族差別が原因になつていることは、容易に察せられるところである。
  しかし、このような厳しい民族差別が今日に至るも未だその解決の展望が見い出せ得ないのは、民間企業に広く深く根を張る民族的偏見のためであることは、周知のとおりであるが、今日、改めて問い直されなければならないのは、その差別に対する行政指導である。本来ならば、行政が主体性を持つて民間企業の誤つた差別体質を厳しく指弾すべきはずであるが、当の行政自らが、企業でさえ明文化していない国籍条項を堂々と掲げていることは、客観的に、民間企業の差別に口実と自信を与えることになつている。このような事実は枚挙にいとまがないほどである。実にこのゆ着ともいうべき差別的なれあいの関係が、在日韓国・朝鮮人の生存権を奪い、時には人格の破壊をももたらす結果となつているのである。つまり、公務員の国籍条項は、行政自らの差別的排除と民間企業の差別に口実を与える、という二重の意味で重大な問題性をはらむものである。
  また、自治体においては、公務員の職種のうち、現業・専門分野等に限定して採用している例も少なくないが、このような限定方法は、在日韓国・朝鮮人の職種が右の政府統計にみられるごとく、極めて低賃金、不安定な分野に偏在している現状にあつては、客観的に「日本人は、事務労働を、在日韓国・朝鮮人は、単純肉体労働を」という差別的定式を補強することにつながるものと考えられる。
  総括的に述べると、地方自治体の職員募集要綱における国籍条項は、在日韓国・朝鮮人に対する就職差別が厳しい現実の中にあつては、民間企業の差別的排除に口実を与える結果となる。また、現業・専門等に限定した採用方法は、在日韓国・朝鮮人が低賃金、不安定な職種に限定されている現実の中にあつては、その職種における差別的区分、定式を規定することになる。まず、行政自らが、主体的に率先して、在日韓国・朝鮮人に対し自治体職員の門戸を全面開放し、もつて民間企業に対する指導を積極的に展開する中で、はじめて問題解決の糸口がつかめるものと考える。
 1 右にみたとおり、在日韓国・朝鮮人に対する就職差別及び職種における差別は厳しいものがある。このことは、広く我が国における雇用の問題の重要な位置を占めるものと考えられる。現在行われている身障者、同和地区住民、中高年齢者に対する雇用施策と同様、在日韓国・朝鮮人に対する積極的な雇用施策が必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。必要ないとすれば、その理由を示されたい。
 2 地方公務員の国籍条項による外国人排除は、他の一般外国人とは異なる歴史的社会的事情を持つ在日韓国・朝鮮人にとつては、より深刻かつ重大な問題と考える。また、その国籍条項の撤廃もまた、他の一般外国人より著しく積極的意味を持つと考える。そのような観点に立ち、在日韓国・朝鮮人に地方公務員の門戸を特段の配慮を持つて解放すべきであると考えるが、どうか。政府の見解を示されたい。また、特段の区別をする必要がないとすれば、その理由を示されたい。
五 国際人権規約と地方公務員の国籍条項について
  一九六六年十二月十六日国連総会において、世界人権宣言の理念をより具体化し、国際条約としての強制力をもたしめた国際人権規約が採択された。その後、一九七六年一月三日経済的・社会的・文化的権利に関する国際規約(A規約)が発効し、続いて同年三月二十三日市民的・政治的権利に関する国際規約(B規約)と選択議定書が発効した。我が国は、国際人権規約の審議採択にも、国際人権会議の批准促進決議にも参加し、賛成しているが、批准はまだできていない。このような閉鎖的姿勢は世界各国の批難の的となり、「人権後進国日本」を国際的にさらけ出すこととなつた。そのような流れの中、昨年五月三十日内閣によつて調印がなされ、後は、国会承認を待つばかりとなつた。
  この国際人権規約の基本精神は、外国人を内国民待遇に扱うという「内外人平等の原則」である。今後、この精神をどう具現化するかということが課題となるわけだが、我が国では、その対象は、いうまでもなく在日韓国・朝鮮人の処遇である。これまで、社会保障その他で、「国籍」をたてにした排除が数多くみられていたが、内外人平等の精神は、このことを真つ向から否定し、すべての人々に平等なる権利を保障することを定めている。そのような考えに立つとき、地方公務員の国籍条項もまた、人権規約の精神に背くものであり、当然その撤廃がなされてしかるべきである。国際人権規約A規約第六条は、「労働の権利」を定め「すべての者が自由に選択し又は承諾する労働によつて生活費を得る機会を求める権利を含む。」としている。このことは、現在の在日韓国・朝鮮人に対するいかなる就職差別も禁止し、地方公務員からの排除も、その精神からして当然厳しく戒しめられるべきものである。
  さらに昨年五月三十日国際人権規約調印の際、政府は、公務員のスト権、公休日の補償、高等教育の無償化等については留保宣言をしつつも、内外人平等に関しては留保宣言を行つていない。これは、政府が、在日韓国・朝鮮人に対し内国民待遇の権利を保障せんとする積極的な意志の表れと当然察せられる。そのような観点に立ち、政府の現段階での国内体制の整備の進展状況を具体的に示されたい。
  また、具体的にどの点において検討がなされているのか、仮に障害があるとすれば、どの点のどのような理由によるものか、併せて明らかにせられたい。
六 法律・行政実例からみた地方公務員の国籍条項と「公権力の行使」「団体意思形成への参画」について
  ちなみに、外国人を地方公務員に任用するについて、法律では国籍に関する制限は設けられていない。地方公務員法第十六条は、いわゆる「欠格条項」が定められているが、そこには国籍要件はない。ところが、旧憲法下における官公吏については、「日本臣民」という資格要件が定められていたこと、さらには、外務公務員法に明確な国籍に関する制限が設けられていることを考えるとき、当然の論理的帰結として、外国人の地方公務員の任用は、法の精神からみても妥当、可能であると考えられる。
  ところが、地方公務員法とは別に、人事院、自治省、内閣法制局の見解・行政実例には、さまざまな解釈が存在する。
  一九五二年七月三日の自治省回答(地自公発第二三四号)では、「外国の国籍を有する者を一般公務員に任用することについては、地方公務員法その他の国内法と制限規定がないので、原則としてさしつかえないものと解する。」とされ、また、一九五三年三月二十五日の内閣法制局第一部長回答では、「一般職には、日本国籍を有しない者であつても、官職につく能力を有する者と解すべきである。」として、外国人の地方公務員任用について肯定的解釈を行つている。
  しかしながら、一九五三年六月二十九日の人事院事務総長の見解では、「公務員に関係する当然の法理として公権力の行使又は国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするとの解釈がなされている。」として、外国人の公務員任用に一定の限界を示している。
  ところが、この「公権力」と「意思形成」の範囲は明確に示されていない。ちなみに、この限界について言及した例としては、一九五三年三月二十五日の内閣法制局第一部長の回答がある。回答は、「しかしながら、国家主権の維持、及び他国の対人主権の尊重の見地から、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使、又は国家意思の決定への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とする者と解される。」として、公権力及び国家意思の形成の一定の概念規定を国家主権の問題としている。
  つまり、ここで問題とされる「公権力」「意思形成」とは、「国家主権の維持」と「他国の対人主権」の尊重が脅かされる可能性のある職種に限定されるべきものであることが明らかにされている。
  このことは、「公権力」には広義と狭義の意があり、公務員の任用に関して問題になるのは、「国家主権」にかかわるか否かという点である。このことを裏打ちするかのように、人事院任用局監修、日本人事行政研究所発行の「任免関係質疑応答集」二十八頁では「またたとい公権力の行使に当る公務員であつても、例えば都道府県又は市町村の農地委員のごときは、一般の公務員と異なり、社会的利益の代表者としての性格が強く(農地調整法第十五条ノ二第三項参照)、その選挙権及び被選挙権も、国民たる地位において与えられるというよりは、むしろ農地を所有し、または耕作の業務を営むことに附随して与えられるものと見るべきであるから(同法第十五条ノ三参照)、既に農地を所有し、または耕作の業務を営むことの認められた外国人に対して農地委員たる資格を認めることは、これによつて直ちにわが国の主権が侵されるおそれがあるとは認められないのみならず、利害関係人たる外国人の正当な利益を擁護し、ひいては、その者の本国の主権を尊重するという点からいつて、却つて憲法の趣旨に適合するゆえんであるということができよう。」とし、公権力のすべてが問題になるのではないことを明示している。さらに、これらのことを総括的にまとめたものが、前掲書二十九頁「要するに、外国人が公務員たりえないという一般原則は、その職務の性質上外国人をこれに任用しても自国の主権の維持と他国の主権の尊重とを基調とする憲法の趣旨に反することにならない場合に限り、その例外が認められるものと解すべきであろう。」(以上二文は、一九五三年三月二十五日、法制局一発第二九号、内閣総理大臣官房総務課長栗山廉平あて、法制局第一部長高(注)正巳回答による。)の部分である。
  以上の解釈を総合判断するとき、地方公務員の一般事務職員及び技術職員に在日韓国・朝鮮人を任用することが、「これによつて直ちにわが国の主権が侵される」とはとうてい考えられない。さらに、在日韓国・朝鮮人の定住性は、彼らをして我が国の民情に通暁せしめている事情をみるとき、在日外国人、とりわけ在日韓国・朝鮮人は、地方公務員の一般事務職・技術職に当然採用されてしかるべきである。
  ところが、実際には大多数の自治体では、一般事務職及び技術職の受験資格に「国籍条頃」を設け、在日韓国・朝鮮人を排除している。このことの根拠になつているのは、一九七三年五月二十八日の自治省回答(自治公発第二十八号公務員第一課長回答)である。これには、「公権力の行使又は地方公共団体の意思形成に参画することが、将来予想される職員(一般事務職員・一般技術職員)の採用試験において、日本の国籍を有しない者にも一般的に受験資格を認めることは、適当でない。」とあり、一般事務職員、技術職員の管理職が「公権力」及び「意思形成」にかかわるとしている。しかしながら、なぜ一般事務職員及び一般技術職員の管理職が「公権力」及び「意思形成」にかかわるのか、その基準は明らかにされていない。先にみた「国家主権の維持」という一定の基準にかんがみた場合、これはどうみても納得できるものではない。のみならず、一九五五年三月十八日の人事院事務総長の見解は「公権力の行使又は、国家意思の形成への参画にたずさわる公務員であるかどうかは、当該公務員の任用にかかる官職の職務内容を検討して具体的に決定すべきものと解する。」として、「公権力」及び「意思形成」の範囲を、画一的あるいは抽象的でなく、具体的に職務内容を検討して決定すべきと解釈している。
  さらに、一九四九年五月二十六日の自治省回答(自発第五四六号愛知県知事あて自治課長)では、「現行法規上外国人は、県職員となることについて別段の制限はないと考えられるかどうか」という問い合わせに対し「制限ない。一般職に外国人を県職員に採用することの可否については、任命権者において判断すべきものと考えられる。」と回答している。これは、具体的判断を各自治体に委ねるという、いわば、地方自治精神の尊重にかんがみたものと察せられる。
  つまり、「公権力」及び「意思形成」の範囲は、「国家主権の維持」の問題であり、その中身は、「職務内容を検討して具体的に決定」し、その採用の可否については、「任命権者において判断すべき」ものである。
  以上の考えに立つとき、先にみた、一九七三年五月二十八日の自治省回答(自治公発第二十八号公務員第一課長回答)は、全く非合理的かつ独断的であり、重大な問題をはらんでいる。
  このことは、昨年三月二十四日の内閣委員会での私の質問に対する今村(久)政府委員の答弁の中でも明らかにされている。当時、私の「どこまでが公権力でどこまでが国家意思というように理解されておるのか」という質問に対し、今村(久)政府委員は、「結局一般的な画一的な基準というものがなかなかむずかしい……いまいろいろ情勢が非常に変わつておるようでございますから、国際人権規約の問題等に絡みましても、ただいま私ども勉強中でございますけれどもこの情勢に即応するような形で十分検討してまいりたいというふうに考えております。」と答弁されている。要するに、画一的基準がむずかしい、情勢に即応するよう検討する、ということである。
  以上の基本的な考えに立つとき、先の自治省回答は、現段階に至つて重大な問題性をはらみ、その改廃を含めた再検討が、早急な課題であることは言うまでもないことである。そこで次の事項を明らかにされたい。
 1 在日外国人の地方公務員任用に関する行政実例に示される「公権力」とは、「公権力」全体を一般的に示すものでないと考えるが、政府の見解を示されたい。仮に全体を一般的に示すものとすれば、一九五三年三月二十五日法制局回答に矛盾すると考えるが、どうか。
 2 在日外国人、とりわけ定住性の下、日本の民情に通暁した在日韓国・朝鮮人が、地方公務員の一般事務職員、一般技術職員の管理職に登用された場合、具体的にどのような不利益・不都合が生じるか。仮に生じないとすれば、いかなる理由によつて管理職に登用できないのか。政府の見解を明らかにせられたい。
 3 外国人の地方公務員の任用における問題点は、「国家主権の維持」に具体的に損害を与える可能性がなければよいと解せば合理的であると考えるが、どうか。政府の見解を示されたい。
 4 地方公務員への外国人の任用については、多くの行政実例が存在しつつも、地方自治の精神から、各々の自治体の実情にかんがみて、最終的判断は、各自治体の任命権者に存すると考えるが、どうか。
七 内外人平等、国籍条項撤廃は時代のすう勢であることについて
  第二次世界大戦以降の世界の人権政策は、相互主義から内外人平等へと大きく移り変わり、その即応が、我が国でも大きな課題として提起されている。
  とりわけ、国内における外国人の処遇については、我が国は、自らの犯した責任として在日韓国・朝鮮人の差別の問題が具体的課題として挙げられている。
  国外では、スウェーデンで、在留外国人に地方公務員の任用はもとより地方議会の選挙権及び被選挙権まで認めている。また、国内においても、国鉄、専売公社、電々公社等三公社や司法修習生及び国立大学教員等についても外国人に門戸が開放されている。また、大阪府では、公立の小・中・高・大学の教員も外国人が任用されている。地方公務員に至つては、全国で約八十五の自治体が、現業・専門等の分野で国籍条項が撤廃されている。さらには、兵庫県下九市一町(尼崎市、川西市、伊丹市、宝塚市、西宮市、三田市、高砂市、西脇市、芦屋市、猪名川町)で、また大阪府下では岸和田市が、一般事務職員・一般技術職員を含むすべての職種の受験資格から国籍条項を撤廃し、すでに採用している例も少なくない。これらの市の多くは、地方公務員の国籍条項が民間企業の差別を助長するとして人権尊重の見地から撤廃に踏み切つている。また、採用後すでに六年目を迎えた自治体も「具体的に支障はない。むしろ、撤廃してよかつた。」とその感想を率直に述べている。
  今後、このような自治体は、まさに時代のすう勢としてますます増えるものと思われる。
  以上みてきたとおり、在日韓国・朝鮮人の地方公務員任用については、積極的・合理的理由なくして排除することは重大な人権侵害であるのみならず、すべての差別を撤廃しようとする時代のすう勢の中で、在日韓国・朝鮮人を公務員に任用することによつて、日本人の彼らに対する理解を深め、もつて人権意識の高揚と国際性を豊かにせんとする流れに明らかに逆行するものであり、広く日本の民主主義の根幹にかかわる問題である。よつて次の事項を明らかにされたい。
 1 一九五七年十月十四日の人事院事務総長の見解では、「技術的業務を職務内容とする官職については、日本の国籍を有しない者でも就くことができるものと解する。」として、現業・専門分野への外国人の任用を可能と解釈している。事実、そのような観点に立ち、全国で約八十五の自治体で、一般事務職員・一般技術職員を除くほとんどの職種で国籍条項が撤廃されているが、まだ撤廃していない自治体も多い。地方自治の統一性からみて、このことは決して好ましくないものと考える。すべての自治体において現業・専門分野における国籍条項を撤廃するよう、政府が指導すべきと考えるが、どうか。政府の考えを明らかにせられたい。
 2 先に法律・行政実例の観点から、地方公務員の一般事務職員・一般技術職員の国籍条項には、合理的理由は存在しないと考える。さらに、現実に、十市一町で、一般事務職員・一般技術職員を含むすべての国籍条項が撤廃されている現実をみた場合、今日、一九七三年五月二十八日の自治省回答(自治公発第二十八号公務員第一課長回答)は、現状にそぐわないものと考える。よつて、その改廃を含めた再検討の必要があると考えるが、どうか。政府の見解を明らかにせられたい。
 3 すでに多くの自治体で、現業・専門分野で国籍条項が撤廃されているが、このことは、今までにみた行政実例に何ら抵触するものではない。しかし、現業・専門においても管理職の登用はあり得るがどうか。このことが、一般事務職員・一般技術職員の管理職とその意味においてどのような差異があるのか。具体的に示されたい。
 4 一九七三年五月二十八日の自治省回答にみられるところの「公権力の行使又は、地方公共団体の意思の形成に参画することが将来予想される職員」とは、具体的にどの職階・職位を指すのか明らかにせられたい。
   また、明らかにされた職階・職位が、いかなる基準及び根拠をもつて「公権力」「意思形成」にかかわるのか、併せて明らかにせられたい。

 右質問する。



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