衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
昭和五十四年三月二十二日提出
質問第一六号

 雇用問題に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年三月二十二日

提出者  上田卓三

          衆議院議長 (注)尾弘吉 殿




雇用問題に関する質問主意書


 現行の雇用政策には極めて重要な問題点があり、その対策は緊急を要すると考える。
 従つて、次の事項について質問する。

一 「完全雇用」の概念について
  雇用対策全体が、これまで経済成長政策に従属させられ、雇用・失業対策というよりは、むしろ、労働力流動化、あるいは積極的活用の側面においてのみ展開されてきたことは多くの人々によつて指摘されている。
  そのことと関連して、「完全雇用」の概念がその時々の経済情勢に左右され、あいまいにされてきた傾向があると考える。
  第二次雇用対策基本計画(昭和四十八年)では、「高い経済成長を背景に、量的な面での雇用状態は著しい改善をみた」、しかし、能力開発、適職、働きがいなど質的な面での改善が遅れていると指摘し、質量両面を併せもつものこそ「真の完全雇用」だとしている。
  ところが昭和五十一年の第三次基本計画では、「成長率低下のもとでインフレなき完全雇用を達成・維持すること」を課題とし、その前提として「昭和四十年代の高度成長の下で、『雇用の質的改善』が進んだ」と述べているのである。
  ここに見られるように、「完全雇用」を量的な側面でのみとらえる、言い換えると、統計上の数字の上で失業率を減し、有効求人倍率が一若しくはそれ以上であれば良いという発想は、現実の就業構造における複雑さ、職種、年齢、地域的な偏位性などを無視する、極めて乱暴な発想と言わねばならない。
  今日、雇用対策の強化・拡充を図るに当たつて、その政策目標とされている「完全雇用」とは、一体どのような状態を想定し、目指しているのか、労働大臣の見解を明らかにされたい。
二 現行雇用政策の問題点について
  「完全雇用」とは、質・量ともに併せもつたものとして政策の目標に置かれるべきものである。
  このためにも、現行雇用政策の不十分性を洗い出し、改善を図り、よりきめ細かな施策を要求する立場から、次の質問を行う。
 1 雇用保険法に基づく雇用安定事業及び雇用改善事業の予算の大幅未消化について
   現行雇用保険法の労働省原案が中央職業安定審議会に諮問されたのは、昭和四十八年十二月で、当時は、「買い占め、売り惜しみ」や、続くオイル・ショックによる激しいインフレが起きつつあつた。政策立案当局が、それ以後起こつてきた失業の深刻化を十分に予測し、失業保険法の廃止、現行法への法改正を提案したか、どうか私は疑わしいと思う。むしろ、高度成長下の「労働力不足」を前提にして、先に述べた雇用対策法の延長線上に構想されたものではないかと思つている。
   そのことは、昭和四十九年以後、急速に進んだ「雇用調整」に対応し、「一時帰休」に対する「雇用調整給付金」制度が急きよ設けられ、法施行に先立つ、昭和五十年一月から実施しなければならなかつたことにも明らかである。
   そこでおたずねしたいのは、第一に、現行施策のそれぞれがあまりにも緊急対策的であつたため、特別立法を含めて各種の制度が乱立し、いかなる助成・給付があり、どのように利用できるのか、一般には分かりにくくなつていることである。そこで、これら制度の有効性を基準に、それぞれの統廃合を含め、利用しやすいように簡素化すべきだと考えるが、見解を明らかにされたい。
   第二に、これらの助成金や給付金の適用条件をできるだけ緩和し、交付・申請手続きを簡素化すべきである。
   ちなみに、雇用安定資金制度の利用率が極めて低く、五十二年度予算のうち、支給決定額はわずか八・七%であつたことから、昨年秋の臨時国会で、一部適用条件の緩和のため、法改正がなされている。他の制度についても、早急に見直し、改善すべきだと考えるが、どのような検討をされているのか、明らかにされたい。
   第三に、今述べたこととも関連して、各種の助成金・給付金は、一種のバラマキになつており、給付水準も低いため、利用率が低く、予算が余つている。
   例えば、昭和五十三年度における「定年延長奨励金」は年額、中小企業十八万円、大企業十三万五千円、「高年齢者雇用奨励金」は月額一万三千円で一年間給付であり、その水準が低く、魅力に乏しい。五十二年度の予算の消化状況を見ても、「定年延長」の方は予算四十七億四千万円に対し、決算二億六千万円、「高年齢者雇用」の方でも予算八億六千万円に対し、決算四億四千万円でしかない。
   ここでもやはり、制度改善による有効利用を図るべきである。特に、中高年労働者の雇用問題が深刻化している折から、これらの労働者の雇用安定・失業防止を下支えする政府の施策を重点的に拡充・整備すべきだと考えるが、労働大臣の見解を明らかにされたい。
 2 現行職安行政の問題点について
   こうした雇用促進にかかわる各種援護措置が全く機能していないムダ金に終わつている、このことの主要な原因の一つに、職業安定所の機能の問題がある。
   今、極めて注目すべき二つの具体例を示す。一つは、五十二年十二月に倒産した波止浜造船の離職者調査の結果である。七十六人の離職者のうち、職安を通じて再就職した者はわずか十六人、二一%に過ぎないことが判明している。もう一つは、昨年大阪地評による東大阪市の伸線関連業離職者の追跡調査によれば、五十二年度分で、職安を通じて再就職した者は百七十八人中十三人、何と七・三%という数字が出ている。これに限らず、求人 ― 求職活動の職安経由率は、全国的に一〇〜一五%と言われている。
   そこで伺いたいが、我が国の雇用対策は、機構的に職安を窓口として行われていること、しかも、これら構造不況業種の離職者対策はその重点として取り組まれているにもかかわらず、今示したように全く利用されていない。むしろ「知人や新聞の方が頼りになる」というような職安機能の低下の実態を、労働大臣はどのようにとらえられるのか、正直な感想と原因に関して見解を明らかにされたい。
   もう一つ、労働省調査による中高年齢者の就職状況を見ると、五十二年十月段階で、全国平均で中高年者の就職率はたつた五・三%でしかない、というものである。勿論、この数字の背景には、政府が中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法(以下「中高法」という。)第十一条の二、第十一条の三で定められた、「雇用率の達成に関する計画の作成」「雇入れ等の要請」「若年者の雇用規制」といつた諸対策を自らサボタージュしているという事実があるが、もう一つ、求職側のみならず、求人企業自体も、職安に統括されていない、職安の指導を無視しているという実態がある。要するに、政府がいくら各種の雇用援護措置を乱発したところで、その実施窓口である職安は実際の労働市場から全く排除されている。
   そこで、職安機能強化策として、当面以下のものを要求する。第一に、新規中学、高校卒業者の求人に当たつて、提出を義務付けられている雇用計画作成を、大学や短大卒求人企業にも課すこと。このことを通じ、需給状況の一元的把握が強められると考えるが、見解を明らかにされたい。
   第二に、現在、求人・募集に当たつて通勤圏外にのみ義務付けられている職安への事前通報制を、通勤圏内募集に当たつても義務付けること。このことによつて、新聞、雑誌等で全く野放図に求人活動を行い、中高法等の雇用率を無視している多くの企業の求人活動が、職安に集中されると考えるが、見解を明らかにされたい。
   第三に、職安行政の機能強化を目的に設置されている地方職業安定審議会の充実である。
   今日、月一回以上開催の規定すら守られておらず、たとえ開かれても、中身は全く形骸化状況である。職安機能強化のためにも、すぐさま職安審充実、強化の大臣通達を出し、真に現場の雇用促進にこたえられる審議会に改めていくべきだと考えるが、見解を明らかにされたい。
   最後に、職安の社会的責任が一層増す中で、実は職安自身の合理化が進行し、大阪においては、ここ十年間で数百人の職員が減されたと言われている。もし事実とすれば、全く許せない事態である。各職安ごとの職員実働数の現在までの推移を知りたい。同時に、キメ細かい相談活動を行う上からも、職安職員の増員を要求したいが、これに対する労働大臣の見解を明らかにされたい。
 3 中高年労働者の雇用の確保と拡大について
  ― 東大阪市雇用開発センター(仮称)に国庫の助成について ―
   東大阪市では、経済情勢の悪化によつて地場産業の伸線業を初め、市内の雇用問題が大きな課題となつてきている。そして、昨年同市にある部落解放同盟蛇草支部の仕事保障要求闘争の中でつくられた「労働事業団」の市による直営化要求をきつかけに、市全体の雇用対策、とりわけ中高年齢者、同和地区出身者、心身障害者、寡婦など最近の雇用危機に最も強く影響を受け、就職が困難になつている人々に対して「雇用の開発、能力の開発」を行い、生活の安定と「生きがい」を確保することを目的に、公益財団法人「東大阪市雇用開発センター」を五十四年度開設すべく準備が進められてきている。
   ところが、同センターの設立に当たつて現行法制度上の隘路になつている現状があり、こうした自治体の独自の努力に対する政府の強い援助を要請するとともに、この点について政府の見解をただしたい。
   その第一は、労働行政の財源を含む権限の市町村への大幅な委譲を行うべきである。現行労働行政は、そのすべての権限が国、府、県の分野に属している。ところが、雇用問題を初め地域の勤労市民の要求は、直接市町村に向けられ、地域の実情に応じた施策が求められているのである。この点について見解を明らかにされたい。
   その第二は、同センター設立の上で問題となるのが、職業安定法にある「労働者供給事業の禁止」条項である。
   言うまでもなく、この条項は昭和二十二年頃横行していた「中間搾取」「強制労働」を取り締まるためにつくられたものであり、同センターの目的、趣旨、性格などを考えれば、この条項に抵触する筈はないのである。従つて、労働大臣の認可に当たつては、この条項の弾力的運用を求めたいのであるが、見解を明らかにされたい。
   第三は、同センターの設立に当たつては、国、府の一部には職業安定事業や職安機能と重複することを理由に、設立に消極的な評価がなされてきたむきがある。
   同センターは、先にも述べたとおり、地域の雇用情勢と住民要求、とりわけ中高年齢者等の切実な雇用対策への要求に基づくものであり、むしろ国、府の施策、いうところの職安機能の不十分さが、自治体をして独自の取組みを開始せしめているのである。政府は従来の施策の弱さを率直に認め、東大阪市の独自の努力に対して積極的に援助を行うべきであると考えるが、見解を明らかにされたい。
   第四に、今後の検討事項として是非確認していただきたい課題として、同センター設立後、センターの会員となつた人々の労災保険の包括的な加入を認めてもらいたいということである。中高年齢者、とりわけ高齢者、心身障害者の人達は、社会参加、生きがい保障の観点から、働く機会を保障することが重要な課題となつており、その際、常用雇用の形態には必ずしもならない。その場合でも、その人々の労働には危険もつきまとうため、労災保険への加入が必要となつてくる。現行法では認められていないこの人々の保険加入を是非認めていただきたいが、それについての見解を明らかにされたい。
三 日経連・関経協等に見られる労働組合敵視、不況を口実とした組合つぶしの実態について
  経済不況下で、企業の減量経営のために多くの労働者が雇用や労働条件の危機を迎えている。しかし、労働者の生活と労働の危機は、やむを得ない経済状況というよりむしろ、資本家の意図的な組合敵視策の結果である場合が多い。
  私は現在、全国金属大阪地本さん下のいくつかの組合から争議支援の要請を受けている。その中の一つである全金田中機械支部の闘いにかかわつて、組合側から多くの資料提供を受けたが、それらをつぶさに研究してみると、経営上部団体である日経連・関経協の組合敵視策が、田中機械の自己破産に至る一連の経過の中に具体化されていることに気づいたのである。
  私が入手したある資料によると、日経連は六〇年代後半より中小企業における賃上げ要求に注目し、特に関西での全国金属の行動を重視してきた。例えば、昭和四十六年には、春闘の総括のために大阪で常任理事会を開催し、全金の高額賃上げをとり上げ、全国金属に関係する企業や高額回答を出した企業を、「全国金属の猛烈な攻勢に耐えかねて」経営の責任を全うするものかどうか疑わしいと批判している。また、「このような会社に融資している金融筋の協力をのぞんでやまない」と金融上の締めつけをも要請している。
  また関経協は、昭和四十九年から五十年にかけて、「全国金属労組対策について」という方針を策定し、業種別対策、拠点企業、組合役員の出ている企業などへの対策、組合対策、責任者の配置などを示した。この際にも、金融筋の協力要請を示唆している。こうした対策の影響力がいかに大きかつたかは、昭和五十年二月二十五〜二十六日にもたれた春闘対策のための「中小企業問題研究会」への出席者が三百五十名にも及んだことからも明らかである。さらに、昭和五十一年には同様の集会を開催し、関経協顧問弁護士や、当時の地労委使用者側委員を講師として出席させ、首切りのやり方や、組合との交渉の仕方などの細かい指示を行つている。
  こうした一連の行為が、その後あちこちの企業で組合への支配介入、敵対行為を呼び起こし、多数の争議を引き起こしたのである。特に、賃金、労働協約等で、組合の要求の先行している業種への集中的な攻撃が行われたことは、当時の地労委への提訴事件を分析するならば、明らかである。
  今述べたように、七〇年前後、日経連・関経協が進めてきた組合への敵視策は、不況下で一層露骨で激しいものになつた。
  田中機械の自己破産申請に至る経過を見るならば、主力銀行である三菱銀行や経営に大きな影響を与えていた新日鉄が、それまでの実績にもかかわらず、意図的に離反工作、発注の停止を行い、他の金融筋やユーザーに大きな心理的影響を与えた。昨年の春以降は、こうした田中機械の苦境にさらにムチ打つように、大阪日日新聞や新大阪新聞などが、いかにも倒産したかのような見出しの下に、大キャンペーンを展開し、危機説を広げ、企業信用を急落させたのである。
  私は、田中機械で働く労働者が、自らの賃金の遅配、欠配をも辞さず、企業再建のために苦闘していた現実を知つているが故に、こうした関西財界の、一体となつた企業丸ごと組合つぶしに対して大きな怒りを覚えている。
  特に、現在の不況の下では、本来、企業の存続と雇用の確保のために、すべての関係者が全力を挙げるべき時に、組合つぶしのために企業を破壊してしまう、これらの関係団体の社会的責任が追及されるべきだと考える。
  私は、一昨年の予算国会の中で、当時の石田労相の、労働組合に対する姿勢をただす質問を行つたが、最近の佐世保重工業の再建に見られた、政財界一体となつた政治的救済に対して、一方では、このような極めて政治的で意図的、正に差別的とも言うべき企業丸ごとの組合つぶしが行われていることに対して、労働大臣の見解を明らかにされたい。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.