質問本文情報
昭和五十七年三月二十五日提出質問第七号
在日韓国人に対する行政差別に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
昭和五十七年三月二十五日
提出者 青山 丘
衆議院議長 福田 一 殿
在日韓国人に対する行政差別に関する質問主意書
現在日本に居住する在日外国人の中で、そのほとんどの割合を占めるのが在日韓国人であり、六十七万在日韓国人のうち八十五%以上の人々が日本生まれの二世・三世である。
彼らは、日本国民と同じ環境のもとで同じ義務を果たして生活しているが現状は、日本国民と同じ権利を享受することは許されていない。在日韓国人に対する差別は残念なことにまだまだ根強いものがある。
特に行政上における差別は、ここ数年来わずかながら改善されてきたとはいえ、在日韓国人の生活を安定させるものとは言い難い。
日本で居住せざるを得なかつた彼らの特殊な歴史的背景にかんがみ、政府は在日韓国人の居留上における権利確立のための諸施策を、更に推し進める必要があると考えられる。よつて以下の点につき質問する。
政府は外国人登録制度の合理化を図るために、外国人登録法(以下「外登法」と言う。)の一部改正案を今国会に提出したが、外国人登録証明書(以下「証明書」と言う。)の申請及び引替交付の年齢制限を現行十四歳より十六歳に引き上げ、証明書の切替交付を三年から五年に伸張するなど、これら改正点は在日外国人の手続きの煩雑さを緩和するという見地からは評価できる。
しかしながら、一般の外国人とは異なる特殊な背景を持つた在日韓国人の場合、今更その背景までも言及する必要はなかろうが、彼らの立場を理解した上で細部にわたつて考慮すべきであると思われる。よつて次の事項を明らかにされたい。
1 外登法第十三条により外国人は証明書の常時携帯を義務付けられているが、これに関しては国会の場でも多くの議論が交わされてきたところである。従来より政府は、常時携帯ということの解釈はいわば常識的な範囲内とし、在日韓国人に関しては、外国人である限り日本に在留する外国人については全く平等にこの制度を適用するという見解を示している。
常識的な範囲内での常時携帯ということであつても、街頭で不確かな日本語で大声を出していたということだけで証明書の提示を求められた例もある程である。
日常、証明書携帯に関するトラブルで最も多いのは、交通取締り警官から運転免許証と合わせて証明書の提示を求められる場合であるが、そもそも証明書がなければ運転免許は取得できないわけであつて、換言すれば免許証を持つていることそのもので証明書は不要と考えることもできる。運転免許証の提示即証明書不要は極論であるけれども、他の場合であつても、証明書の常時携帯・提示というのは今や実質上何の意味も持たないと思われる。よつて常時携帯・提示義務を廃止あるいは一部改正すべきと考えるがどうか。
また、廃止すべきでないとすれば在日外国人に平等に適用するという原則ではあつても、特殊な事情を持つた在日韓国人に対しては例外的措置をとるべきと思われるがどうか。政府の見解を示されたい。
2 前項の携帯・提示義務と合わせて指紋押なつ義務についても、かねてより廃止・改正の声が多かつた。
およそ外国人である限り、在日外国人として登録する制度は必要であつても、犯罪人を連想させるかのごとき指紋押なつ制度は早急に改善すべきである。そもそも押なつ義務の目的というものは、外国人登録証明書の偽造・変造を防止するということであるが、それならば何も切替交付などの度ごとに押なつする必要はないと考えられる。今回法改正がされて五年ごとになるとはいえ、指紋は万人不同・終生不変のものであつて、新規登録の際原簿に記録をしておけば、引替交付・再交付・切替交付の申請の場合それを照合するだけで確認はできるのではないか。証明書所持者自身が、正当な所持者であることを証明する手段として指紋押なつ制度が必要かつ不可欠のものであるならば、果たして押なつはどこまで必要か現行制度の見直しを望むものであるがどうか。見直しをする意向があるならば具体的にどのように見直すつもりか合わせて見解を示されたい。
3 現行の外国人登録事項は二十項目の多数に及び非常に煩雑を極めている。住民基本台帳法は外国人には適用されないが、「外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ」(外登法第一条)るために外登法があるのであつて、その精神は日本国民における住民基本台帳と同趣旨と考えることもできる。この見地からその登録事項を住民基本台帳並みに簡素化すべきであると考える。
「職業」「勤務所又は事務所の名称及び所在地」についての登録は、在日韓国人に対する企業並びに事業所の偏見的差別によつて変更事項がかなり頻繁であると聞く。これらの事項を踏まえ、前述の見地から登録事項簡素化が必要と思われるがどうか。
二 退去強制並びに潜在居住者の処遇について
1 協定永住権者及び永住者の退去強制処分は、いかなる場合においても本人の意志に反してあつてはならないものであり、さすれば現行の永住権は単に名目上のものになつてしまうとも限らない。特に在日韓国人の場合、その特殊性により居住の条件が永住となつたものであつて、退去強制処分は速やかに廃止すべきである。見解を示されたい。
2 現在、潜在居住者いわゆる不法入国者はかなりの数にのぼると言われており、在日韓国人の場合その数は数万人とも言われているが、もとより正確な数は把握する術もない。
しかしながら、彼らを単なる密入国者として処理するには人道上余りにも問題があると思われる。つまり、戦後の混乱の際離散した親族を頼つて入国した者もいるわけで、長期にわたり日本に滞在している者も少なくないと伝え聞く。日本に生活基盤を持ち真面目に働く潜在居住者については、人道的見地から彼らの人権を保障すべくその処遇を望むものであるがどうか。
三 公務員採用について
国家公務員法・地方公務員法上、日本国籍を有しない者の公務員就任禁止規定はない。この点に関して従来よりさまざまな論議がなされてきたわけであるが、昭和五十四年四月十三日付「在日韓国人・朝鮮人の地方公務員任用に関する質問に対する答弁書」(以下「答弁書」と言う。)において政府は、「従来から、公務員に関する当然の法理として公権力の公使又は公の意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としないものと解している。このことは、国家公務員のみならず、地方公務員の場合も同様である。」との統一見解を出している。
しかしながら、現に数多くの公的機関で公務員募集要項に国籍条項を明記しており、日本国籍の有無が公務員の就任に必要とされる能力であるかどうか疑問の生ずるところである。在日外国人の公務員就任について論ずる時、「公務員に関する当然の法理」という曖昧模糊とした原則のみが前面に押し出されて、具体的な論議がなされないのが現状である。在日韓国人に対する根強い差別感という事実に直面して、「公務員に関する当然の法理」原則だけを楯に、及び腰で対処しようとするかのごとき政府の態度であるが、次の事項につき明らかにされたい。
1 「公権力の行使又は公の意思の形成への参画にたずさわる公務員」について、地方公務員の場合はその判断を当該地方公共団体に委ねているが、国家公務員の場合、具体的にはどのような職種・職階を指すのか。また、その職種・職階がいかなる基準・根拠をもつて規定されるのか明らかにされたい。
2 先の答弁書において、地方公務員採用について政府は「公権力の行使又は公の意思の形成への参画にたずさわる地方公務員であるかどうか」については、「当該地方公共団体において具体的に判断されるべきもの」としている。また、日本国籍を有しない者を「任用するかどうかは、当該地方公共団体において判断されるべきもの」という見解を出している。即ち、政府としては任用についての判断を地方公共団体に委ねたものと理解できる。
しかしながら、各地方公共団体における地方公務員受験資格の中に国籍を明記してあるのは、任用するしない以前の問題、受験すらさせてくれないという意味である。実際、国籍条項を撤廃あるいは明記してない自治体は数多くあり、現業専門の分野で活躍する在日韓国人も少なくはない。が、数の上からはまだまだ受験資格の中に国籍条項を明記している自治体の方が圧倒的に多く、このことが一般私企業における就職差別を助長させていることは明らかである。政府が地方公共団体に判断を委ねると言つても、このように各自治体によつて対応が異なるのをどう見るか。
また、明言を避けて地方へ責任を転嫁したかのごとき印象を受ける答弁書における政府の見解は、今後将来にわたつても変わることのないものと看做しても良いものかどうか併せて示されたい。
四 国民年金適用について
本年一月一日より外国人に対しても国民年金法が適用され、三十五歳未満の人たちは加入できるようになつたが、三十五歳以上の約二十五、六万人は加入しても二十五年の加入必要期間を満たすことができないため、事実上積残された状態にある。昨年の国民年金法一部改正の審議の際、この点についてもかなり論議されてきたが、政府側の答弁は「検討する」の一言で具体的方向すら示すことはなかつた。
在日韓国人の場合、戦前から日本に居住しているかあるいは歴史的経緯の中で日本に居住せざるを得なかつた高齢者の人々にこそ社会保障という手を差伸べるのが日本人としての義務ではなかろうか。国民年金全面適用に向けて経過措置なり特例措置なり、何らかの施策を講ずる必要があると考えられるが具体的な考えを示されたい。
右質問する。