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昭和五十八年九月二十九日提出
質問第四号

 私鉄運賃値上げに関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十八年九月二十九日

提出者  四ッ谷光子 辻 第一

          衆議院議長 福田 一 殿




私鉄運賃値上げに関する質問主意書


 私鉄大手十二社は、九月六日、平均一六・七パーセントの運賃値上げを一斉に申請した。勤労者世帯の実収入が二十八年ぶりに前年より減少するという状況のなかでの私鉄運賃の大幅な値上げは、国民生活に重大な影響を及ぼすものであり、認めることはできない。しかも、申請各社は京成を除いては黒字であり、巨額な内部留保を持つている。今回の値上げ申請は正当な根拠があるとは言い難いものである。
 そこで、私鉄運賃の値上げに関する十の疑問について、以下質問する。

一 黒字なのになぜ値上げするのか。
  私鉄大手十二社の運賃値上げ申請は収支の悪化等を理由としているが、京成を除く十一社はいずれも黒字である。十二社の経常利益は合計百八十四億円もあり、このような黒字会社の値上げは絶対に認めることができない。
  私鉄各社は、配当金や法人税等を費用に算入して収支悪化を主張しているが、これらは本来利益金の処分として支払われるものであり、経費として算定されるべきものではない。しかも、東急では経常利益の八・七倍の配当金、法人税等を計上しているのを始め、南海が六倍、東武が四倍など、軒並み経常利益を上回る配当金、法人税等を費用に算入して赤字を装つている。西武など四社は、配当金、法人税を差し引いてもなお黒字である。
  いつたいなぜ経常利益の数倍もの配当金などを利用者が負担しなければならないのか。黒字である私鉄企業の、このような不当な経理による赤字宣伝はやめさせるべきではないか。
二 なぜ一斉値上げなのか。
  申請各社の経理内容は、三十三億五千万円の利益をあげている近鉄から二億八千万円の赤字を出している京成まで、さまざまである。にもかかわらず、「二年ローテーション」を当然のこととして繰り返される一斉値上げ申請は「便乗値上げ」のそしりを免れないものであり、国民の強い批判の声があげられている。
  経営格差のある各社がなぜ一斉に値上げする必要があるのか。
三 原価の水増しを認めるのか。
  前回の値上げの際の申請原価とその後の実績を比較すると、原価の多くの項目で実績額が申請額を下回つており、申請原価が八十九億円も水増しであつたことを示している。
  なかでも修繕費は、申請が十六億六千万円も水増しであつただけでなく、査定額さえも七億九千万円過大であつたことになる。ところが、今回の値上げ申請でも修繕費は百六十一億円(三二・一パーセント)も増加する見込みを計上している。前例のように今回も水増しではないかと考えられるが、修繕費がなぜこれほど増加することになるのか。
  また、減価償却費の算定については、車両にも定額法を適用し、かつ耐用年数も実態に即したものに改善すべきではないか。
四 収入隠しを許すのか。
  前回の値上げ後の雑収入の実績は十二社合計で十五億円(一七・二パーセント)増加しているが、今回の申請では反対に四十三億円(四四・二パーセント)の減少を見込んでいる。なかでも京阪の八一・五パーセント(三億七千万円)減、東急の八〇・九パーセント(六億六千万円)減を始めとして八社が五〇パーセント以上の極端な減少見込みを計上している。こうしたことは通常考えられず、実績に照らしても収入の過少計上とみられるが、雑収入の極端な減少見込みの根拠を明らかにされたい。
五 なぜ国鉄運賃より高くなるのか。
  今回の値上げ申請では、特に関西の各社の五〜二十キロ圏を中心として国鉄運賃より高い区間が続出している。
  南海の八〜十キロ区間では国鉄の百四十円を三割近くも上回る百八十円になるのを始め、十二〜十五キロ区間で四十円、近鉄の七〜十キロ、京阪の八〜十キロ、十三〜十五キロ区間で三十円高くなるなど、国鉄運賃よりも十円から六十円高い区間が多数発生する。
  国鉄は巨額の長期債務や特定人件費など私鉄にない原価要因を抱え、深刻な経営破綻に陥つている。黒字である私鉄の運賃がなぜこのような国鉄の運賃より高くなるのか、その明確な根拠を示されたい。
六 不合理な事業報酬制度は再検討すべきではないか。
  経営内容にかかわりなく鉄道資産額等に一定の率(申請では八・三パーセント)を乗じた企業利潤を保障する事業報酬制度は、根本的に再検討する必要がある。
 1 事業報酬対象資産には工事中の未稼動設備、いわゆる建設仮勘定も算入している。鉄道部門の建設仮勘定は十二社合計で三千億円(八三年三月)、有形固定資産の四分の一に相当し、重要な運賃値上げ要因にされている。
   将来、開業された時に初めて利用者が輸送サービスを受けることができる工事中の資産にまでなぜ事業報酬を保障し、現在の利用者がそれを負担しなければならないのか。
   また、電力会社の電気料金の原価計算では建設仮勘定の五〇パーセントを事業報酬対象資産としているのに、私鉄事業には一〇〇パーセントの算入を認めている根拠は何か。
 2 事業報酬対象資産を構成する設備投資の財源の少なからぬ部分は各種引当金や準備金等の内部留保資金が充当されている。十二社の有価証券報告書によれば、八三年四月以後の「設備の新設、重要な拡充もしくは改修又はこれらの計画」の所要額の四二パーセント(平均)は自己資金で賄うことになつている。
   事業報酬は支払利子や配当金に充当するものとされているが、基本的には利子や配当を要しない資金による資産についてまで事業報酬を計上していることになる。
   とりわけ重大なことは、これらの資金の重要な財源の一部である減価償却引当金等はすでに運賃原価に算入され、利用者はそのつど運賃で負担してきたものであることである。利用者からの運賃収入で得た設備投資資金にまで支払利子や配当所要額を計上し、再び運賃原価に算入して利用者に負担させるということは許されないと思うがどうか。
七 兼業部門の利益を鉄道部門に還元させるべきではないか。
 1 私鉄大手各社の不動産事業などの兼業部門は、鉄道事業の存在を利用して高収益をあげている。
   例えば、三井不動産など不動産会社大手十社の営業利益率(営業利益の売上高に対する割合)が一八パーセント(八二年度決算)なのに対し、私鉄大手十二社の不動産事業など兼業部門の営業利益率は二八パーセント(同)にものぼつている。とりわけ東武、京王、小田急、東急、近鉄、南海の各社は四〇パーセントから五〇パーセント近い利益率をあげている。
   従前より、兼業部門利益の還元について鉄道利用者、消費者団体等から強く要求されているにもかかわらず、いまだに具体化していないのは極めて遺憾である。早急に兼業部門利益の鉄道部門への還元の具体的方策について結論を出し、実施すべきであると思うがどうか。
 2 政府は私鉄各社の投融資部門を「独立」した部門として取り扱つているため、営業外収益のなかの受取配当金や受取利息のほとんどが鉄道部門の収支に反映されない。営業外収入は十二社合計六百三億円(八二年度)が計上されているが、鉄道部門の収支への配分はわずか九十八億円、一六パーセントでしかない。
   営業外収益の源泉である投融資部門の資産額は十二社で五千百億円(八三年三月末)にのぼつている。この投融資資金には鉄道事業の収益から生じた内部留保金の一部が充当されていることは明らかである。投融資資金の調達まで「独立」させているなどということは企業経営の“イロハ”に反することである。ちなみに、十二社の内部留保金は三千九百億円にものぼつている。
   投融資部門から生じる収益を鉄道部門の収支に全く反映させない現在の原価計算方式は、はなはだしく公正さを欠くものであり、抜本的に再検討すべきであると思うがどうか。
八 サービス改善約束はどうなつたか。
 1 運賃値上げのたびごとに私鉄大手各社はサービス向上を掲げてきたが、今日なお著しく立遅れている。
   車両冷房化率は京成三五・一パーセント(八三年三月末)、東急五四・二パーセント(同)にとどまつている。とりわけ京成、東急、近鉄の各社は、前回の値上げの際に約束した八一年度冷房化計画が八二年夏時点でも達成していなかつたほどである。
   ラッシュ時間帯の混雑も、西武・池袋線と新宿線、京王・京王線と井の頭線、小田急・小田原線、南海・南海線は、ここ五年間に一層ひどくなつている。
   駅施設等の改善、障害者対策も極めて問題が多い。今日深刻な状況になつている駅前自転車置場も、鉄道事業者自ら設置したのは八十四カ所、全駅数の六パーセント強に過ぎない。トイレのない駅も、東急の五二パーセントを筆頭に、京浜急行が三五パーセント、京阪が二七パーセントもある。
   障害者対策をみても、京成、東急、京浜急行、阪神の各社は「斜路」の設置が皆無であり、車イス用通路も、京浜急行、西武、京成の各社は一割程度の駅にしか設置していない。誘導ブロックもほとんどの会社が二〜三割の駅にしか設置しておらず、京成、西武は一〇パーセント台である。西武、京成、阪神の三社は転落防止施設さえ設けていない。
   これらの事例は、もうけにならない投資はやらないという私鉄の経営姿勢を如実に示している。政府は、駅施設等の改善、障害者対策の促進について、年度ごとの達成目標を明示して強力に指導すべきではないか。
   また、サービス改善状況にかかわりなく全社一律の基準で利潤を保障している現在の査定方法は、利用者の立場を無視したものと言わなければならない。対策の遅れている事業者に対しては特別の対応をする必要があるのではないか。
 2 道路と鉄道の立体化によつて生じる鉄道の高架下用地は公共利用を優先すべきである。
   私鉄の立体化事業は、「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定」(建・運協定)によつて、私鉄は七パーセントの工事費を負担すればよいことにされている。私鉄と自治体等の費用負担割合からみても、七パーセントしか負担しない私鉄側が九割の高架下用地を独占的に利用できるという現在の協定は極めて不合理である。しかも、高架下用地の利用価値が近年著しく上昇し、私鉄各社がこれらの土地を使つて関連事業等で高収益をあげていることをみても、「協定」締結時は七パーセント程度とみられていた高架化による私鉄の受益相当額は、今日でははるかに拡大しているとみなければならない。
   いま、特に市街化地域等では自転車置場や公園等の公共施設の不足が深刻になつており、住民、関係自治体等から鉄道高架下用地の公共利用の拡大が強く要望されているところである。
   地方自治体が公租公課相当額で借用できる高架下用地の枠を一〇パーセントに制限している現行協定を抜本的に見直し、公共利用を大幅に拡大すべきではないか。
九 運輸審議会の構成、運営を改善すべきではないか。
  私鉄運賃の値上げ申請は運輸審議会にかけられるが、同審議会の多数は高級官僚出身者で占められ、また、非公開審議であることなどに国民の批判と不信の声があがつている。
  利用者の声が反映した公正な審議を保障するために、利用者代表を含む構成に一新し、会議の公開、会議録の作成、公表を早急に実施すべきであると思うがどうか。
十 私鉄各社の政治献金はやめさせるべきではないか。
  私鉄大手各社が「赤字」を理由に運賃値上げを続けながら、毎年多額の政治献金をしているのは極めて重大である。八二年度には、自民党、民社党、新自由クラブに、十三社が二億八千万円の献金をしている。
  「公共輸送機関」を自称し、運賃値上げに当たつては、自民党政府の認可を受ける立場にある私鉄大手各社が政府与党などに多額の献金をしていることに国民が重大な疑惑を持つのは当然である。このような政治献金はやめさせるべきではないか。

 右質問する。





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