質問本文情報
平成二年十二月十八日提出質問第三号
ゴルフ場使用農薬に係わる水道水質目標及び排水指針値に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
平成二年十二月十八日
提出者 松原脩雄
衆議院議長 櫻内義雄 殿
ゴルフ場使用農薬に係わる水道水質目標及び排水指針値に関する質問主意書
本年五月十七日付け厚生省発表のゴルフ場使用農薬に係わる暫定的水質目標及び五月二十四日付け環境庁発表のゴルフ場使用農薬による水質汚濁の防止に係わる暫定指針値は、自然環境保全及び生活環境保全の上で極めて重要な意味を持っている。しかるに水道に関して、生態系のことは全く考慮に入れていないとしか考えられない水質目標値を設定している厚生省の姿勢は、自然環境保全の上から極めて重大な問題を含んでいる。また、数値の根拠が明示されていないため、生活環境保全の上で十分な数値であるかどうかの判断が全く不可能である。
各都道府県レベルでは、これらの目標及び指針値に従って既に施策が進行しようとしており、現にこの数値に基づいて水質調査を既に実施しつつある都道府県もあると聞き及ぶ。従ってこのまま放置すると生態系及び国民の生活環境に重大な影響の及びかねないことが懸念される。
従って、次の事項について質問する。
厚生省の水質目標値をこの試算値と比較すると、クロロタロニルが五十三倍、フェニトロチオンが四十倍、キャプタン、トリクロルホンが十二倍等となるのに対し、逆にシマジンでは〇・一七倍と小さくなっている。
何故このようなばらつきが発生しているのか、目標値の計算根拠が一切明示されていないため、国民にとって判断の方法がない。
一日摂取許容量(ADI)に基づかないで計算したか、独自の一日摂取許容量のデータが存在するか、全く便宜的な数値であるかのいずれかである。
1 厚生省の水質目標値は、WHO/FAOのADIのデータに基づいて計算したか。
2 WHO/FAOのADIのデータに基づかず計算したとすれば、どのような理由でADIを考慮しなかったか。
また、どのような基準によって計算したのか、根拠を示されたい。
3 また、ADIについて独自のデータが存在するのであれば、そのADIのデータ及びその根拠となったデータの存在を明示されたい。
二 排水指針値が示された二十一種類の農薬のうち、少なくともオキシン銅、キャプタン、クロロタロニルの三種類については、指針値がコイの半数致死量(TLm)を上回っている。〔別表2〕
魚類の中でも比較的毒物に強いと言われるコイに関して半数致死量を超えているのであるから、他の魚類に関してはさらに影響が深刻であると考えられる。昨年十一月北海道で発生したヤマメとドナルドソンの大量死事故は、養殖池のオキシン銅によっているにもかかわらず、オキシン銅の排水指針値〇・四ppmは、ドナルドソンの致死量とされる〇・二ppmより高く設定されている。指針値にこのような事故の教訓が全く生かされていないのは遺憾である。
水道水質目標が全く生態系を考慮していないとすれば、その十倍に設定された排水指針値も当然生態系を考慮していないことになる。コイのみならず、コイよりも致死量の少ない動植物の保護、さらにはこれらの動植物に及ぶ慢性毒性、遺伝毒性が全く考慮されていないとすれば、今後全国の河川・湖沼で魚類を始めとする動植物の絶滅ないし減少が進むことが懸念される。
1 排水指針値に関して、二十一種類の農薬全てに機械的に水質目標の十倍としている。しかしながら、人体への影響と動植物への影響は農薬によって異なるのが当然であり、場合によっては動植物の影響のほうが、人体への影響よりも、より深刻な事例があっても不思議ではない。
このような設定は数値そのものの信用性を失わせると考えるがどうか。また、このような設定をした根拠を明らかにされたい。
2 北海道における魚の大量死事故の教訓が数値の中で生かされていないのはどのような理由からか、理由を明らかにされたい。
3 コイのTLmを上回る排水指針値は、生態系を全く考慮していないのではないか。
4 このような生態系を無視した水道水質目標及び排水指針値の設定によって、今後全国の河川・湖沼で現在より以上の魚類などの減少ないし死滅が懸念されるが、環境庁の見解を明らかにされたい。
三 殺菌剤キャプタンに関しては、農薬安全使用基準で魚毒性C類の分類基準はコイによるTLmが〇・五ppm以下であるが、排水指針値では三ppmであり、安全使用基準と明らかに矛盾する。しかも安全使用基準では「河川、湖沼、海域および養殖池に飛散または流入するおそれのある場所では使用せず、これらの場所以外でも、一時に広範囲には使用しない」となっている。
1 ゴルフ場排水について、かかる指針値を設定したことは、ゴルフ場での使用を容認したこととならないか。
2 排水指針値は安全基準とこの点においても明らかに矛盾するのではないか。
3 魚毒性C類の農薬によるコイのTLmが〇・五ppmであることは、コイ及びコイよりも毒性に弱い魚類とその他の動植物の死滅を容認したと考える。自然保護を使命とする環境庁は、農水省の安全使用基準を無視して生物死滅の可能性のある指針値を示したことにならないか。
右質問する。
〔別表1〕
WHOの考え方に基づく計算値と厚生省発表の水質目標値

〔別表2〕
水道水質目標値、排水指針値とコイの半数致死濃度(TLm)
