質問本文情報
平成四年五月七日提出質問第八号
ILO第一四〇号条約(有給教育休暇に関する条約)の批准促進に関する質問主意書
提出者 金子満広
ILO第一四〇号条約(有給教育休暇に関する条約)の批准促進に関する質問主意書
国際労働機関(ILO)は一九七四年の第五九回総会で、第一四〇号条約、有給教育休暇に関する条約を採択した。有給教育休暇とは、条約の定義によれば、「労働時間中に一定の期間教育上の目的のために労働者に与えられる休暇であって十分な金銭的給付を伴うもの」とされている。
この条約は、きわめて重要な内容をもっている。休暇をとることのできる教育の種類は、職業訓練にとどまらない。「一般教育、社会教育及び市民教育」、また「労働組合教育」も含まれている。さらに条約前文で、「世界人権宣言第二六条が、すべて人は、教育を受ける権利を有すると宣言していることに留意し」と述べられていることでも明白なように、この条約は、労働者の権利の一環として有給教育休暇を保障しようとしているのである。
労働者の全人格の発達にかかわる教育を、有給で保障するような制度は、我が国においても早期に実現しなければならないし、そのためにも、この条約の即時批准が求められている。ところが政府は、この条約の採択に賛成しておきながら、それから一八年たった現在も批准しようとはしていない。
よって、次の点を質問する。
また第一一八回国会では、「条約の解釈上等の問題につきまして、その点でもう少し検討すべき点が残っております」「実は率直に申し上げまして、IL0当局の方にそういう疑義解釈を投げかけたわけでございますが、私どもまだ返事をいただいていない」(衆議院予算委員会第四分科会)と答えている。
@ ILO条約の解釈権についていえば、一昨年の総会でILO専門家委員会が報告を行い、国際司法裁判所によって反するものとされない限り、専門家委員会の見解が有効かつ一般的に認められるべきものとしている。政府は、条約の解釈権に関して、この総会への報告を認めるべきであると考えるが、どうか。
A 昨年のILO総会には、専門家委員会が「有給教育休暇に関する第一四〇号条約及び第一四八号勧告の報告についての一般調査」(以下「一般調査」という。)を提出している。この「一般調査」では、ある政府から疑義解釈の問い合わせがあったことも紹介しつつ、有給教育休暇の定義、解釈が具体的に示されている。これによって、条約の解釈の問題を批准の障害とすることはできなくなったのではないか。
B 「一般調査」が出されてすでに一年近くが経過しており、政府が検討する十分な時間があったが、この「一般調査」の内容と、我が国の現行法規、国内慣行との関係について、検討の到達点を示していただきたい。
二 政府は、条約が有給休暇の対象としている「職業訓練」についていえば、有給教育訓練休暇を与えている企業が少ないことが、批准の障害であるとしてきた。第一〇二回国会では、「(低い)普及率の中では、事業主主体の社会のコンセンサスといいましょうか、事業主サイドのものでございますが、なかなか得にくい状態がございます。したがいまして、もう少し社会の理解を得られた段階で検討をさせていただきたい」(衆議院社会労働委員会)と答えている。
@ 有給教育訓練休暇の実施率が低いことが問題だというなら、普及率を高めるために努力することこそ、政府に求められていることではないのか。
A 条約を批准するうえで必要なのは、対応する国内法令の整備である。これまで実施率などが問題にされたことはない。職業訓練についていえば、「職業能力開発促進法」が有給教育訓練休暇を規定し、国の助成の制度も定めており、国内法令は整備されている。この条約に限って休暇の実施率を批准の要件にするのは適当ではないと考えるが、どうか。
三 政府は、第一一八回国会で「社会教育について、定義、内容につきまして不明確であるということが現在問題点でございます」(参議院外務委員会)と述べている。
@ 我が国には社会教育法があり、そのなかで社会教育とは「学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーションの活動を含む。)」と定義されている。定義は明確ではないか。この定義では何か不都合なことでもあるのか。
A 社会教育法に基づき、青少年及び成人が積極的に社会教育活動に参加することは、政府としては大いに奨励すべきことだと考えるが、どうか。これを有給とすることは、社会教育活動への参加を奨励する、重要な手段の一つになるのではないか。
B 社会教育活動等への参加のために、いわゆるボランティア休暇制度を導入する企業が増えている。政府としては、このような制度を奨励する考えはあるか。
四 先の「一般調査」によると、労働組合教育のための休暇は、多くの国が法律か労働協約で保障している。ところが日本政府は、「わが国の労働組合法第七条に不当労働行為がずっと並んでおりますが、その中に、使用者が『労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。』こういうことになっておりまして、使用者の負担、すなわち有給ということは使用者の負担でありますから、使用者の負担で労働組合が労働組合教育を行うということを目的とするこの教育について、やはりどうしても抵触をしてくる」(第九一回国会・衆議院予算委員会)と答弁している。労働者の権利の擁護を目的とした労働組合法を、労働者の権利確立の障害とする態度は、はなはだ遺憾である。
@ 行政庁等の主催する労働者教育、及び労働組合が組合員の福利、厚生のために開催する教育への参加を有給で保障することは、全く問題はないと考えるが、どうか。
A 戦後の労使協議の積み重ねのなかで、労働組合の大会等への参加を有給で保障するようになっている例は少なくない。それは、労働組合法の基本的な前提が使用者による労働組合への支配、介入を防ぐことにあり、大会等への参加の保障は、そうした支配、介入に当たらないからである。政府は、すでに実施されているこれらの例が、使用者による労働組合への支配、介入になっていると考えているのか。
B 労働組合の行う教育活動も、法律上はこの種の大会等と同じ扱いになると考えるが、どうか。
右質問する。