衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成五年三月二十二日提出
質問第八号

義歯の診療報酬の適正評価に関する質問主意書

提出者  新村勝雄




義歯の診療報酬の適正評価に関する質問主意書


 今、高齢者の多くは快適な食生活を通して健やかな老後をおくりたいとの願いを強めています。国が現在推進している「八〇二〇運動」も重要な施策であり、官民一体となって大いに実効をあげていく必要があるでしょう。
 しかし高齢者の現状はこの掛け声とは程遠く、多くの高齢者は入れ歯のお世話にならざるを得ない状況にあります。しかも昨年一月にNHKが放映した「入れ歯のハナシ」によれば、日本の入れ歯人口一千万人のうち約半数が入れ歯が合わないと悩んでおり、その構造的な原因の一つに保険制度の問題があることが明らかにされています。入れ歯に対する悩みについては、最近千葉県の歯科保険医の団体が県内の老人クラブを対象に実施したアンケート調査(回答数千二百人)でも同様の結果が出ており、使用感を含めて本当に入れ歯に満足しているお年寄りは全体の四割弱にしか過ぎず、残りの六割強は何らかの支障を訴えていることが明らかになっています。ちなみに保険診療で入れ歯を製作したお年寄りは全体の約七割でした。
 一方、義歯を提供する側の歯科医療従事者も、低い診療報酬の中で様々な診療努力や経営努力を余儀なくされています。適合の良い義歯を製作するためには、十分な時間、手間ひまをかける必要がありますが、歯科医師は保険診療の不採算をカバーするために必要な診療過程の省略さえ余儀なくされています。歯科技工士に至っては低い工賃と長時間労働のもとで、専門職としての誇りが持てず、転廃業する者も続出しております。
 厚生省はこれまで、義歯の部分は赤字であっても、全体として歯科医療経営が成り立てばよいとのトータルバランスの考えに基づいて歯科医療行政を行ってきましたが、事態は極めて深刻です。今後入れ歯を必要とする高齢者が増大し、その入れ歯が歯科医師にとって不採算であるということは、不採算が限りなく拡大していくことを意味し、そのような中にあっては適合の良い入れ歯など望むすべもありません。もしこのような状況が放置されるならば歯科医療経営が破綻するのみならず、国民の歯科医療そのものが成り立たなくなる恐れすらあります。
 これらの状況を憂い、義歯の診療報酬の適正評価を求める立場から、左記の事項について質問致しますので、将来ビジョンを含めて明確に回答されるよう要望します。

一 厚生省は高齢化社会に向けた歯科保健対策の一環として「八〇二〇運動」を推進していますが、歯科疾患実態調査等によると残念ながら中長期的には喪失歯数の大幅な減少は見込めず、義歯の需要がますます増大することが予想されています。これらの状況を踏まえ、厚生省としてどのような施策を講じていくのか、成人歯科健診の制度化問題を含めてその方向性を明らかにしてください。
二 高齢化社会を迎え国民の義歯に対する要求はますます大きくなることが予想されていますが、歯科医療に対する各種世論調査では「保険給付の拡充」を望む声が圧倒的であり、高齢者の多くは「保険で安心して良質の義歯を作りたい」と願っています。厚生省は保険給付としての義歯の重要性をどのように認識しているのでしょうか。
三 平成二年に日本口腔保健協会が行った高齢者に対する歯の咀嚼機能回復モデル事業調査によりますと、上下とも入れ歯の具合が悪いと答えた人は八%、上下いずれかが具合が悪いと答えた人が九%でしたが、昨年報道されたNHKの入れ歯スペシャル番組では、入れ歯人口一千万人の内、約半数が「具合が悪い」としていました。厚生省としてはこの二つの調査結果のギャップをどう考えますか。また厚生省として独自に詳細な調査を行う意思はありますか。その見解を明らかにしてください。
四 義歯作製に係わる歯科医師の技術格差については、個々の歯科医師の技能や診療姿勢以外に、診療報酬など保険制度の問題があると言われています。厚生省はそれらの指摘を認めますか。また歯科医師の臨床技術を高めていくために、厚生省としては一般歯科医養成研修事業の推進以外にどのような方法を考えているか、見解を明らかにしてください。
五 昨年四月に診療報酬の改定が行われましたが、総義歯については印象採得や仮床試適、義歯指導料等で若干点数が引き上げられたものの、スタディモデルや補綴時診断料、咬合採得、製作料、装着料など基本的診療行為がすべて据え置かれ、「技術料重視」という掛け声とは程遠い結果に終わりました。これらの結果について厚生省としてどう評価し、今後どのようにすべきと考えていますか。
六 診療報酬の考え方について、厚生省は「全体の各技術の評価によって経営が成り立てば良い」という、いわゆるトータルバランス論を展開してきましたが、その考えは今日に至るも変化はありませんか。
七 歯科医師の義歯作製に係わる診療報酬は、総義歯上下の場合で約五万円であり、この五万円の診療報酬から従業員の人件費や技工料、材料代、水道光熱費等を賄うことになります。厚生省は歯科医療従事者が総義歯上下を作製するためにどの程度時間をかける必要があると考えているか、チェアサイド及びラボサイドのそれぞれについて明らかにしてください。
八 歯科治療の特殊性は、それぞれの診療行為に相当の時間がかかることであり、その時間のかけ方によって治療の質に差が出ることです。したがって歯科の技術料の適正評価という場合、少なくともハンドワーク部分については診療行為の平均的な所要時間に基づいて合理的に定めるべきと考えますが、厚生省としてはどのように考えますか。また厚生省として診療報酬の適正評価に向け、どのような具体案を検討していますか。
九 保険給付のレジン床義歯と保険給付外の金属床義歯について、人工臓器としての機能にどのような違いがあるのか、製作時間や使用材料等を含めて明らかにしてください。また片顎十五万円から三十万円といわれる金属床義歯の料金の妥当性及び片顎三万円といわれるレジン床義歯との料金格差をどのように考えるか、見解を明らかにしてください。
十 金属床義歯など保険給付外項目の保険導入について、患者・国民のニーズや歯科医師の技術料評価の在り方及び保険財源等との関連で、将来的にどうすべきと考えているのか、タイムスケジュールを含めて明らかにしてください。
十一 経済界のシンクタンクの一つである三菱総合研究所は「入れ歯は一兆円産業」として義歯が企業の巨大なマーケットになることを予測していますが、これは明らかに義歯が保険給付から除外されることを想定しており患者の不安をかき立てるものです。厚生省としては、将来にわたって義歯の保険給付を守ることを国民に明らかにすべきと考えますが、いかがでしょうか。
十二 「公的保険の補完」との触れ込みで、民間歯科保険が出回っていますが、発売開始以降の契約件数及び給付件数を年次別に明らかにすると共に、それらの動向について公的保険との関連でどう考えるか、また今後生保業界をどう指導していくのか、厚生省の見解を明らかにしてください。
十三 今後、人口の高齢化が進み、高齢者の所得水準が低下することが予想される中で、保険の義歯に対するニーズはますます大きくなりますが、一方で歯科医師の診療報酬が不採算のまま放置されるならば、厚生省のトータルバランス論が破綻するのみならず、保険で義歯を製作する歯科技工士がいなくなり、歯科医療そのものが成り立たなくなる危険性も高いと思われます。厚生省としてはどのような基本方針で対応していきますか。
十四 低い技工料金と劣悪な労働条件、苛酷な同業者間競争の中で、歯科技工士の転廃業が進んでいますが、厚生省としては歯科技工士の役割をどのように認識し、高めようとしていますか。また歯科技工士など国家資格を持つ専門職の技術料については、診療報酬の中できちんと位置付け、評価すべきと考えますが、そのような考えはありませんか。
十五 医療保険審議会などで、医療制度の「抜本改革」に向けた審議が行われており、その中で公的保険の役割や保険給付の範囲などが有力な検討課題となっています。しかし保険給付範囲を縮小したり変動給付率制を導入することは、国民の受診を狭め疾病の重症化をもたらし、ひいては医療費増の悪循環を招く恐れがあります。したがって医療制度の「抜本改革」を行う場合は、小手先の医療費抑制ではなく、疾病予防や保険給付の拡充を含めた総合的な対策が必要と考えますが、厚生省の見解はいかがでしょうか。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.