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平成九年十二月十二日提出
質問第二四号

「国営諌早湾干拓事業」に関する質問主意書

提出者  秋葉忠利  川内博史  近藤昭一  笹山登生  (注)井英勝




「国営諌早湾干拓事業」に関する質問主意書


 平成九年六月十八日付け質問主意書に対する政府の答弁書及びこれに付随する資料提出で明らかになった点にもとづき、改めて、以下の質問を行う。

一 生態系、環境アセスメント関連
 1 平成九年六月十八日提出の質問主意書の中で、諌早湾を含む有明海全体の底生生物及び魚類に関する調査を行ったことがあるかとの質問を行ったのに対し、平成九年七月二十二日付け政府答弁書において、政府は、九州大学、農林水産省西海区水産研究所などの調査結果を引用するだけであったが、その後の再質問に答えて、諌早湾干拓事務所が平成六年八月二十日〜同二十三日の間に実施した調査結果として全有明海干潟の生物調査結果を公表した。このように調査結果を遅れて公表した理由は何か。
 2 上記調査結果によると、諌早湾干潟は、生物の種類では、八つの有明海干潟の中で最下位、一平方メートル当たりの生物の現存量も八番目で、上位にある干潟の約五分の二ないし半分に過ぎない。これらの調査結果は、民間の専門家の調査及び一般的な認識に著しく反する結果であり、しかも、この調査は有明海全体の広大な干潟全体をわずか四日間で行ったとあり、極めて信憑性に疑いがある。一体この調査は、誰が(調査者の名前、所属、経歴を明らかにする)、どのような方法で行ったものか。また、生物の種類、現存量欄の具体的な詳細を明らかにされたい。
 3 農水省が現在捜索中という、長崎南部総合開発計画にかかわる環境影響評価書(九州農政局作成)及び昭和五十二年三月作成(環境編)、昭和五十二年五月作成(漁業編)、昭和五十四年三月作成(漁業編2)の「諌早湾淡水湖造成に伴う湾外漁業に与える環境影響評価報告書」(九州農政局・長崎南部総合開発調査事務所作成)によれば、本件事業による諌早湾干潟の消滅によって、諌早湾外の有明海の漁業に対して影響が及ぶという結論が書かれているが(別添)、この結論と本件環境影響評価書の「諌早湾以外の魚類等にはほとんど影響を及ぼすことはない。」という結論とはどのような関係にあるのか。
   「南総計画」のアセスメントと本件アセスメントは一体のものではないのか。また、本件アセスメントの結論の根拠となったのはどのような調査(調査者、その所属、調査年月日、調査方法など)に基づくものかを明らかにされたい。
 4 渡鳥の移動について、政府答弁書では、事前に調査して実際にこれを確認したのではなく、根拠もなく単に移動を期待しただけであることが明らかにされた。結局、事後のモニタリングを行うというのであるが、もし、近い将来、モニタリングの結果、渡鳥の生態系(個体数、繁殖数など)に取り返しのつかない結果を生じたことが明らかになった場合、政府としてどのような対応を考えているのか。潮を入れて干潟の再生を図る可能性はあるか。何も対応策がないとしたら、締め切って干潟と生き物と鳥類を死滅させておいて、事後的にモニタリングをするということにどのような意味があるのか。
   また、その場合、日本政府として、ラムサール条約やいわゆる二国間の渡鳥条約の締約国として国際社会ないし相手方政府にどのような責任をとるのか。
二 調整池の水質関連
 1 最近、潮受堤防の外側のアサリ漁場や海苔養殖場の一部に漁獲高や生産高に顕著な低下が見られ、本件調整池の排水との因果関係が指摘されている事実を認識しているか。この点について、農水省、環境庁として、早急に現地でのヒアリングを含む調査を行う用意があるか。
 2 農水省の平成九年十月二十九日発表の水質に関する報告の中で、調整池のCOD等の数値は環境影響評価の目標値(平成十二年目標)に近い水準で推移している旨の記述があるが、そのように最近になって水質が安定した理由は何か。そこで述べている三項目の水質保全対策と因果関係があるのか。単なる季節的要因(農閑期、秋の少雨、水温の低下など)に過ぎないのではないか。政府の見解を示されたい。
 3 調整池の水質保全のために本件事業予算からどの程度、どのような目的で出費したか、また、今後どの程度の出費を予定しているのか。
 4 農水省は調整池の淡水化で近隣の塩害が防止できるとするが、その効果はどのようなものか。また、淡水化によって干拓地の塩抜きにどの程度の効果があるのか。さらに、干拓地の造成まで淡水化しないことによって、その後塩抜きのために余分にかかる費用はいくらか。
三 防災関連
 1 長崎地方裁判所に係属中のいわゆる「自然の権利裁判」の証拠調手続において、現地干拓事務所長が、@排水効果について、本件潮受堤防は、普通程度の雨に対する自然排水すなわち「常時排水対策」を目的としたものであり、平成九年五月や同年七月のような大雨に対する排水効果を予想するものではなく、大雨による低地の湛水には効果がない、A洪水対策に関し、本件潮受堤防の洪水対策の効果は、低地地域に限定されるものである(結果として、洪水対策に関し、本件潮受堤防の洪水対策の効果は低地地域に限定される)旨の証言をしている。これは、現場の現職の最高責任者の裁判所での証言であるから、農水省(政府)の見解と理解してよいか。あらためて、@、Aに対する政府の見解を示されたい。
 2 潮受堤防の洪水、高潮対策の効果について、高潮と洪水の同時襲来を想定した防災効果であるから、その防災効果は、本明川上流四キロメートル付近までに限定されるのではないか。
 3 これまでの大雨に際し、調整池の水位をマイナス一メートルに保とうとしても、外潮位と降雨の程度の関係で水位が保てずに結局排水が予定したとおりにうまくいかなかったという事実は認めるか。これは、そもそも、もともと、洪水流量と高潮の水位に何の関連性もないのに、これを機械的、意図的に操作した結果ではないのか。さらに、地域によっては、潮受堤防が存在しなければ自然排水がうまくいっていたのに、排水門が極めて狭隘な潮受堤防によって、かえって、湛水被害を惹起した地域が相当面積ある事実は認めるか。
 4 農水省が本件潮受堤防の設置により防災効果(排水、洪水対策)があったことの根拠とする二度の現地での大雨(平成九年五月、同年七月)による湛水被害に関し、それぞれ、いつ、どの地域に、どの範囲の面積の湛水被害が見られたか、現地から受けた報告の内容の詳細を明らかにされたい。さらに、その報告のもととなった報告者(名前、所属)、調査者(名前、所属)、調査日、調査時間帯、調査場所、観察方法などを明らかにされたい。これらの点については、民間の調査結果と農水省の発表内容が大幅に食い違っているために、これまで何度も農水省の発表の根拠を問うてきたものである。あらためて明確な回答を求める。
 5 平成九年六月十八日提出の質問主意書に対する七月二十二日付け政府答弁書によると、本明川にかかる防災の責任者である建設大臣が、河川法にもとづく「工事基本計画」において、当該河川の洪水、高潮の発生防止目的を達成できるよう策定していることを明言している。これは、潮受堤防は防災に不必要であることを認めるものと理解してよいか。仮にそうでないとすると、それまでの建設省の防災計画に不備があったことにならないか。この点についての見解を問う。
   答弁書では、潮受堤防の高潮に対する効果は認めているが、すでに、建設省で高潮対策を講じている以上、潮受堤防の設置は二重投資にならないか。また、高潮対策に関し、建設省と農水省で事前協議を行ったのか。その際の協議の内容を、協議の過程で作成された文書の内容を明らかにすることにより説明されたい。
 6 有明海沿岸における高潮対策として、建設省により、広く海岸堤防(高潮堤防)、防潮水門、排水ポンプが築かれているが、有明海の最新の海岸堤防はどこに、いつ、どのような工法で建設されたか。また、その際のコストは一メートル当たりいくらであったか。工事費の費用負担割合を示されたい。
 7 新干拓地(千六百四十七ha)のうち、調整池の管理水位マイナス一メートル以下になる土地の面積を明らかにするとともに、これを前提に、設置される予定の中央排水機場のポンプの排水能力(四四m/s)では一時間あたりどの位の降雨量に対し耐えられるかその計算結果を明らかにされたい。
 8 潮受堤防の設計震度が〇・〇八四では、具体的にどの程度の震度に対して堤防は耐え得るか。干拓地が地震に弱いということを示す過去の事例(児島湾や八郎潟のケース)を承知しているか。そうであるとすると、なぜ、ことさらに、このような低い設計震度を設定したのか。高潮満潮時に地震で高潮堤防が決壊するとどのような事態が発生するか。そのような最悪の事態を予想したか、また、そのための対策を考慮したか。
 9 一九七四年(昭和四十九年)三月策定の長崎県南部地域土地改良事業計画において、常時管理水位はEL( ― )〇・八mとなっているが、常時管理水位を小潮平均干潮位と同程度とみれば、当時と現在とでは、常時管理水位基準を判定するうえで、その判断環境がどう変化したのか明らかにされたい。
   また、現時点で、EL( ― )〇・八mの常時管理水位とした場合のデメリット(例えば、自然排水困難地域が、何ヘクタール増加するかなど)を具体的に明らかにされたい。
四 農業関連問題
 1 戦後の干拓事業にかかる干拓地(場所、完成時期、面積)をすべて挙げよ。また、それぞれについて、現況(酪農地、水田、畑作地、放棄地、転用地のそれぞれの面積)を明らかにされたい。
 2 この十年間で農地から宅地に転用された面積を、全国、長崎県、関係の市町につきそれぞれ明らかにされたい。(十年間の資料がなければ、異なる期間のものでもよい。)
 3 農水省は、将来の食糧危機に備えて本件干拓事業が必要であるというが、他方で2のように、自ら巨大な農地を消滅させている。この二つの矛盾する政策について、本件事業の根拠法である土地改良法に基づく同法施行令二条一号では、事業の必要性につき、「当該土地改良事業の施行に係る地域の土壌、水利その他の自然的、社会的及び経済的環境上、農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資するためその事業を必要とする」ことがその要件となっているが、近隣の優良農地の宅地への転用を認めず、また、現在の放棄地(干拓地の相当面積が放棄されている。)を有効に利用すれば、本件事業による農地造成はまったく必要ではないのではないか。にもかかわらず、本件事業は右要件を充足しているとするなら、その積極的理由を明らかにされたい。
 4 前記施行令二条四号では、受益者農家の負担能力内の要件として、投資額と収益額を比較して十分に農業経営が成り立つことを挙げている。そこで、現時点の本件干拓地における各営農モデル(土地購入費、年間償還額、経費−土地改良費、設備投資額及び年間償還額、粗収入)を明らかにされたい。この点については、中海干拓や羊角湾干拓地に関する営農モデルなどを参考にされたい。
   以上の結果、現在も将来とも収支が合わないということが明らかな場合には、事業自体の続行が違法になるのではないか。その場合、事業をただちに中止すべきではないか。
五 財政問題
 1 事業計画で挙げる災害防止効果(年間四十億四千万円)の「災害」の具体的中身は何か。予想される人損、物損、被害地域、地域ごとの具体的な被害内容などの項目を挙げ、具体的に説明されたい。
 2 農水省の発表によると、潮受堤防建設の当初予算が四百四十億円のところが、完成時で千百九十億円と約二・七倍に膨らんでいる。このように予算が膨張した理由を工事内容、工法の変更、追加など具体的に明らかにされたい。
 3 内部堤防建設を含む「開畑工事等」の工事ごとの当初の細目(内堤防、干拓地造成費、排水機場、建設道路などの詳細)の予算と、完成時点での同予算を明らかにされたい。
 4 完成までの予算を二千三百七十億円に修正しているが、予算はこれ以上膨張することはないか。枠をはめることが可能か。可能ではないというのなら、潮受堤防建設で二・七倍にも予算を膨らませたように予算としての意味をなしていないのではないか。現在の技術的経済的要素を考慮して、今後必要とされる建設費はおおよそどの程度と見込んでいるのか。
 5 土地改良法に基づく同法施行令二条三号では、経済性の要件を挙げ、投資効率を当該土地改良事業から生じる効用(農作物純収益額+維持管理費節減額+営農労力節減額)を{資本還元率×(一+建設利息費)}で除し、さらにこれを総事業費で求められることになっており、その効率係数は一以上でなければならない。そこで、本件事業策定時と現在時点での効率係数を計算式とともに明らかにせよ。投資効率が法定基準から大幅に下回ることが明らかな場合には、事業の続行自体に社会的、経済的意味が失われ、なおもこれを続行することは違法になるのではないか。違法となる場合には、即刻事業を中止すべきではないか。
 6 本件事業において、投資効率の算定にあたって、災害防止効果(防災機能に基づく)という外部経済的な要素を重視している(その効果は年間に四十億四千万円と算定している。)。しかし、干潟を喪失させることによって失われる干潟の浄化作用、漁業資源、鳥類や底生生物などの環境資源、干潟の持つ観光資源などが全く考慮されていない。これは常識に反するし、法の趣旨(前記施行令二条一号)にも反するのではないか。あえて、これらの外部不経済を無視した理由は何か。仮に、このようなやり方が政府の決めたこと(農業農村整備計画作成便覧第四版)にもとづくものであるとするなら、そのような方法を変更することを検討すべきではないか。
六 国際条約関係
 1 本件事業に係るラムサール事務局に対する日本政府の英文報告書の中で、@本件干拓事業によって失われる干潟は、諌早湾に重要な地域(SUBSTANCIAL AREA)の内の三分の一に過ぎず、その他の地域には手をつけない、A潮受堤防の前面の有明海で捕獲されるムツゴロウの数は増えている、B有明海の佐賀県側の既存堤防の前面では、毎年四十ヘクタールの干潟の成長があるとの報告がなされている、との報告がそれぞれなされている。これらの報告内容はすべて真実か。また、真実だとすると、これらの報告の根拠となった資料をすべて、それぞれについて明らかにされたい。
 2 これまでの政府の答弁によると、本件事業に伴う環境アセスメントに際し、ラムサール条約や世界遺産条約自体、および、これらに関連する環境アセスメントにかかる諸ガイドラインを全く考慮した跡がない。このような政府の政策は、各条約締結国としての責任を放棄したものといえないか。そのようなガイドラインを全く無視してよいという国際法上、ないし国内法上の根拠があればそれを述べよ。
七 干潟の賢明な利用について
 1 すでに佐賀県の干拓事業は熊本県羊角湾干拓に続いて中止の方向になったが、諌早でも防災効果(洪水、常時排水対策)を発揮しないこと、かえって、上流ダムと低地の排水ポンプの効果的な設置でこれらの防災対策は十分に可能なこと、また、高潮被害に対して、他の有明海沿岸で行われているのと同様の海岸堤防で比較的安価に対応できること、さらに、造成農地についても収支が合わず多くの入植者が望めないことが、それぞれ明らかな状況になった時に、政府として本件事業を中止するべきであるが、その事を明らかにされたい。土地改良法に基づく事業を中止することが法的に困難な理由はあるか。また、その中止した例は存在するか。中止した場合にどのような点が問題となるか、具体的に列記されたい。
 2 排水門の操作を天候の変化を事前に予知しながら適切に行い、排水対策や高潮対策を講じながら、水質浄化のためにとりあえず潮を入れることを検討するべきではないか。
 3 民間の研究で、潮を入れた場合でも、農水省が水門を開けない理由に挙げているガタの巻上やミオ筋への土砂の堆積を回避する方法があることが判明している。農水省として、この民間の研究方法に異論があれば、その根拠を示されたい。また、諌早干拓事業の継続によって、水質保全のために民間に余分な負担を強いたり、予算措置を講じたりするよりも、このような賢明な方法を民間と共同で検討するべきではないか。見解を求める。
 4 当初予定の干拓地の面積を大幅に縮小して、いわゆる地先干拓として一定の干拓農地を確保するとともに、干潟も相当部分を残し、干拓地の農業用水も調整池からではなく別途これを確保して、潮受堤防を全面開放するというように現在の事業内容の変更をすることは、土地改良法の枠内で可能か。このように事業内容の変更を行うに伴って生じる問題として考えられるものはどういう事柄か。

 右質問する。



(別 添)

長崎南部総合開発計画に係る
環境影響評価書

(計画、影響予測編)

九州農政局

IV 水産生物等に与える影響

 1 水産生物への影響
  1 ― 1 魚 類
 締切が完成すると諌早湾は消失し、堤防築造による諌早湾口周辺の流況、海底地形、底質等に変化が生じ、堤防外側に隣接する海域では、諌早湾内外との海水の混合交流が断たれるため、締切前に比べ、塩分は多少高めとなり、水温は冬期は高めに夏期は低めになる。
 また、排水門、除塩暗渠、地区内水排除施設からの排水による水温、塩分、栄養、塩等の水質面での変化が予測される。
 これらの環境変化のうち、堤防周辺部海域での流況(流向、流速)の変化は外海性海域と有明海奥部との間を季節移動する、シログチ、キス、コノシロ、ヒラ、クロダイなどの移動経路、滞留場所を変化させると考えられる。
 また底層流の変化によって生ずる堆積物の移動、海底地形の変化は、コノシロ、ニベグチ類、ウナギ、マアナゴ、ボラ類、スズキなどの底生魚類に影響を与えると考えられるので、これらの魚類の魚場形成にも変化が生じるものと思われる。
 水温、塩分の変化については締切前の諌早湾口域が示す変動巾に比して締切後に予測される変化の範囲は僅かであり、この水域に分布する魚類におよぼす影響はさほど大きくはないと考えられる。
 透明度、濁りについては、全般的には締切前とほとんど変化はないと考えられ、排水による栄養塩の変化、夏期の溶存酸素の低下についても、その影響の範囲は排水門付近に限られているので、ほとんど影響はないものとみられる。
 このような理化学的環境変化に基づく影響に比して、諌早湾が有する産卵場、幼稚仔成育場、餌料生物生産場としての高い価格が消滅することによって生じる影響はより重要である。
 産卵に関しては、諌早湾で産卵するムツゴロウ、ハゼグチ、その他のハゼ類は完全に産卵場を失い、サッパ、コノシロ、コイチ、デンベエシタビラメなども湾口域から湾内にかけて産卵場を失うこととなるほか、湾口域で予想される流況、海底地形、底質などの海況の変化はメナダ、クロダイ、シログチ、マナカツオ、イヌノシタなどの産卵に影響を与えるであろう。
 また諌早湾消滅は、周辺海域で産卵して幼稚仔が湾内に入り、秋冬の期に水温の下降につれて沖合へ移動するマナガツオ、スズキ、シログチ、キス、トラフグ、ムラサキシタビラメなどの魚類資源に影響を与えるほか、湾内で生産され、潮汐によって隣接する島原半島沖合海域に供給されている橈脚類などのプランクトン群集は、魚類やその他の生物の餌料生物として重要で、その供給源の消失による魚類等の生育への影響もあると考えられる。
 従って、諌早湾消滅の魚類資源に与える影響に関してはハゼ類などの各水域に定着した魚類は、種として湾外にも残るので、諌早湾の消滅に伴って湾内の分布に見合う生産量だけが消滅すると考えられる。
 また、諌早湾内との湾外の間を移動する魚種に対する影響は有名海に占める諌早湾の再生産力の比に相当することになろう。これらの魚類の成魚の分布、幼稚仔魚の分布、産卵域に照らして、その生活史の全期又は一時期を諌早湾で過すことにより、諌早湾の消滅が湾外の再生産にも関りをもつと見られるコノシロ、サッパ、ヒラ、ボラ類、ヒイラギ、マナガツオ、スズキ、コイチ、シログチ、キス、クロダイ、キビレ、フグ類、シタビラメ類などの漁獲量を統計資料によって大きい目に推計すると、長崎及び天草海域においては全魚獲量の30%(農林統計、昭45〜47平均)を占めている。
  1 ― 2 甲 殻 類
 諌早湾からその湾口に隣接する海域にかけて分布する甲殻類のうち、内湾性の強いアキアミやシバエビは沿岸浅海域が産卵場であり、クルマエビ、ヨシエビなどのエビ類やガザミの産卵場は広く有明海の中南部海域から湾口海域にも及んでいるがこれらの幼稚仔の多くは、いずれも沿岸浅所を成育場としている。
 島原半島北部沿岸の多比良から神代を経て西郷付近に及ぶ干潟や浅所でもクルマエビをはじめその他のエビ類及びガザミ、イシガニなどの幼稚仔が比較的多く生育することが知られており、成長するにつれて沖合の深い水域に移動して魚獲資源に添加されて行く。
 これらの甲殻類に対して、締切堤防南側で予測される微細土砂の堆積は幼稚仔の生育環境を悪くするおそれがあるほか、幼稚仔の浮遊期には流速の変化により何

諫早湾淡水湖造成に伴う
湾外漁業に与える
影響調査報告書
(漁業編I)

昭和52年5月

九州農政局
長崎南部地域総合開発調査事務所

B 諌早湾周辺長崎県側海域漁業への影響
 1 水産生物への影響
  1.魚 類
   (1) 理化学的環境変化による影響
本計画が完成すると諌早湾は消失し、堤防構築による湾口周辺の流況、海底地形、底質等に変化が生じ、堤防外側に隣接する海域では、諌早湾内外との混合交換が断れるため、締切り前に比べ、塩分は多少高目となり、水温は冬期は高目に、夏期は低目となろう。
また、排水樋門ならびに除塩暗渠および同ポンプからの排水(平年で日平均110万トン)と地区排水(毎秒2.2トン、日平均19万トン)などによる水温、塩分、栄養塩等の水質面での変化が予測される。
次にこれらの変化が魚類に及ぼす影響について考察する
    1)流速、流向
締切り前の上げ潮および下げ潮の最強流速は、沖合で秒速70cm、予定される締切堤防付近で秒速50cm程度で、小長井町、多比良両方向とも岸に向うにつれて弱くなっている。流向は、北側で北流 ― 南流、南側では、上げ潮西流、下げ潮東流になる傾向がある。
 締切り後は、沖合で秒速60cm、締切堤防に近づくにつれ流速は小さくなり、堤防中央全面で秒速30cm、堤防基部では非常に小さくなる。流向は沖合では、締切り前とほぼ同様であるが、締切堤防に近づくにつれて、上げ潮北流、下げ潮南流となり堤防前面では、堤防にそって流れることが予測されている。
 締切り前後における流速の変化は、上げ、下げともに小長井町側では、多少の増加、国見町神代(以下「神代」という。)側ではかなりの減少の傾向が予測されている。特微的な事項としては、多比良側の堤防前面では秒速25〜30cmの流速の減少が生じ、小長井町側の堤防前面では、殆んど停滞する海域が出現することである(図6、7)。流向については、上げ、下げで締切り前は、堤防前面海域での北側で北流 ― 南流、南側が西流 ― 東流であったものが締切りによって北流 ― 南流に変化し、堤防にそった流れになることである(図8、9)。
 当海域は、もともと中央部沖にマエヤノ州があり、小長井町、多比良沖ともに海底地形および陸域地形の影響をうけて、複雑な流況を呈する海域であり、堤防構築によって前途のような流速、流向の変化が生ずるとすれば、外海性海域と有明海湾奥部との間に、季節移動を行うシログチ、キス、コノシロ、ヒラ、クロダイなどの移動経路、滞留の場所に影響を及ぼすことが考えられる。また、「諌早湾内の比較的外海性の海域で産卵するマナガツオなどや、少なくとも一時期、または部分的に諌早湾口域で産卵するコノシロ、スズキ、シログチ、クロダイ、ムラサキシタビラメなどの産卵に影響を及ぼすであろう。」

諫早湾淡水湖造成に伴う湾外
漁業に与える影響調査報告書
(漁業編II)

昭和54年3月

九州農政局
長崎南部地域総合開発調査事務所
 操業条件に影響する環境要因としては、流向、流速、潮目形成、海底地形、底質、風浪などの物理的変化があげられる。
流向、流速や潮目の変化は、刺網、あんこう網、流し網など潮流を利用した漁法に影響を与えるが、潮目の形成やその移動、変化は一般の漁業に何らかの影響をもつであろう。流向、流速の変化は堤防前面沖を除くと大きくはないので、操業技術上の適応で解決できるものと思われる。
 海底地形、底質の変化は、部分的に漁場漁法が変化する海域を生じさせるが変化の程度が小さく、かつ締切り後徐々に変化するので操業技術上の適応が可能と考えられる。
 長崎県側海域は、秋冬期北〜北西、春夏期南東〜南南東の風向が支配的であるが、締切り後の風向の変化はないものと考えられる。締切後堤防に当る波浪は、堤防構造が緩傾斜であるため砕波され、返し波現象は生じないであろう。しかし流向の変化による波浪の影響が考えられる。すなわち締切り前の流向がおよそ西、東流であったのに対し、締切り後の流向はおよそ北、南流に変化する。その際、下げ潮時南方向の強い風が吹いた場合には、締切堤防前面海域では風浪の影響が多少生ずることがあるかも知れない。
  2.諫早湾の消滅による生物資源への影響
   1) 魚 類
有明海に分布する魚類のうち少なくとも生活史の一時的に諌早湾にも現れる種類は28科35種程度があげられるが、水産上重要な魚類の仔稚魚は常に諌早湾を含む湾奥部にもかなり分布している。これらと諌早湾との係り合いは、湾奥部に周年にわたって分布し、そこで産卵し、同水域で成育する
魚類;有明海内でまたは有明海と外海との間を季節移動し、湾奥部で産卵し、同水域で成育する魚類;外海または有明海の外洋的水域で産卵し、湾奥部で成育する魚類に大別できるが、ムツゴロウ、ハゼ類、アリアケシラウオ、メダナ;コイチ、シログチ、コノシロ、マナガツオ、クロダイ;スズキ、ボラ、トラフグ、キビレ、ムラサキシタビラメ、などがこれに該当する。又、有明海の外洋的水域が主たる分布域となっているものに、マダイ、ヒラメ、メイタガレイ、タチウオなどがある。
 諌早湾奥部の干潟で産卵するムツゴロウ、ハゼグチ、その他のハゼ類は、完全に産卵場を失うが、これらはその水域に定着する種類であるので諌早湾外の有明海湾奥の資源に対しては影響が及ばないと考えてよい。
 有明海湾奥部から熊本県沿岸へかけての沿岸水帯で産卵し、諌早湾でも産卵が見られるコノシロ、コイチ、デンベエシタビラメ、諌早湾口域に産卵場があるメナダ、クロダイ、シログチ、マナガツオなどはその産卵場の一部を失う。
 特にメダナ、クロダイはこの海域が重要な産卵場であることが知られている。この海域の流況、海底地形、底質が変化することが予測されるので、これらの魚類の産卵への影響は無視できない。また諌早湾に豊富な浮遊生物は、仔稚魚の必須餌料であり、また小型のエビ類、アミ類は幼魚期の餌料として最適である。諌早湾の周辺海域で産卵されるマナガツオ、スズキ、シログチ、キス、トラフグ、ムラサキシタビラメなどの幼稚仔は諌早湾内にも入って成育し、秋冬の期に沖合へ移動する。このような産卵場、成育場の消滅は湾外海域の魚類資源にもそれなりの影響を及ぼすであろう。
   2) 甲殻類
 諌早湾を産卵場あるいは幼稚仔の成育場としている主な 漁獲対象種は、アキアミ、シラタエビ、シバエビ、クルマエビ、ヨシエビ、サルエビ、スベスベエビ、ガザミ、イシガニ及びシャコ、トゲシャコである。
 シバエビは締切堤防周辺海域の資源としても補給されていると思われるので諌早湾の消滅による影響が諌早湾の湾外にも及ぶものと考えられる。一方、クルマエビやガザミなどは、ガザミの産卵場が一部、諌早湾口域の神代側で認められているほかは諌早湾では産卵は多くない。しかしいずれも諌早湾が幼稚仔の成育場として利用されており、かつ移動性の強い種類であることから、これらが締切堤防近隣海域の漁獲資源に添加されると思われるので、諌早湾口域の漁場に対する影響だけでなく、それ以外の漁場へも幾分影響が及ぶものと考えられる。
   3) 貝 類
 諌早湾には、タイラギ、クマサルボウ、アヅマニシキ、バイ、アサリ、サルボウ、アゲマキ、ハイガイ、カキなどの多種の貝類が分付し、湾内生産物の主体を占めるほどである。これらが湾内で産卵し、成育するが、同時にその一部の幼生は湾外に流出しているものと考えられる。特にタイラギ、クマサルボウ、アヅマニシキ、バイ、アサリの5種については、諌早湾の湾口域からその隣接海域にかけて引き続き分布し、生産されている。
 諌早湾に豊富な小型プランクトンや微小生物及び小型懸濁物質が消滅することを考慮すると諌早湾消滅が締切堤防近隣の海域に及ぼす影響は、理化学的環境変化に比べると大きいものと推定される。
   4) イカ、タコ類
 諌早湾口域は、カミナリイカ、シリヤケイカ、コウイカ、ベイカ、マダコ、イイダコ、テナガダコ、ビゼンクラゲなどの主要な産卵場となっており、また湾内一帯は幼稚仔の成育場となっている。
 一方、諌早湾口域からその隣接海域にかけても、引き続きこれらイカ、タコ類の産卵場であり主要な漁場となっているが、コウイカ類やマダコなどは有明海の南部、或は外海から産卵のため北上回遊してくる種類であり、また、ベイカやイイダコなどは内湾性が強く、泥場を好んで周年生息することからあまり大きな回遊はしないと考えられている。したがって諌早湾の消滅による諌早湾からの添加量の減少が考えられるが、その影響は締切堤防近隣の海域を除けばさほど大きくはないものと考えられる。
  3.諫早湾締切工事中の影響
 締切堤防予定線の水深は、中央の最深部で14m南北取付部付近では浅くなって3m内外、平均9mである。締切堤防は基礎地盤の強度に応じた構造設計上の理由から、法勾配の緩やかな堤防が要求され、非常に大きな提体積を持つことになるが築提材料は締切予定線付近の海中砂を堀削使用し、堀削跡は一方で淡水湖の容量確保、水質維持に重要な役割を果たす。堤防の施行は波浪による浸蝕の防止、潮流による砂の流亡軽減、堤防の滑り破壊に対する安全等を考慮して、全線下部よりほぼ一様に嵩上げする漸高方式を採用する。
 施工機械はポンプ浚渫船と土運船(底開き)の組合せを計画する。
 海中土砂はポンプ浚渫船によって採取し、土運船によって築提線まで運搬して、直接水中で盛土する。土運船の吃水との関係で標高( ― )2.00mまでは、ほぼこの水中盛土





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