衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成十一年六月二十四日提出
質問第三五号

薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する再質問主意書

提出者  中川智子




薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する再質問主意書


 今年六月七日、新たにクロイツフェルト・ヤコブ病患者の家族や遺族が、国などを相手に損害賠償を求めて東京地裁に提訴している。今回提訴した患者三名のうち二名は、厚生省のサーベイランスが発表した六十一名に含まれていない。
 移植手術を受けてから発症するまでに数年から十数年かかり、今後もこうしたケースで薬害患者はさらに増えると思われる。
 宮下厚生大臣は所信表明のなかで、「国民の健康や安全を守ることは、厚生行政の原点であり・・・」と述べているが、厚生省の承認した「ヒト乾燥硬膜」が汚染され、結果的に国民の健康を守りきれなかった、というよりは人の命を奪ったのであるから、この時点で厚生省の責任は果たされていない。
 薬害エイズ事件後、薬害の根絶を誓っておきながら過去を教訓としない厚生省が、これ以上薬害を繰り返さないためにも、原因の究明や責任の所在を明確にする必要がある。
 従って、次の事項について質問する。

一 今年二月十八日に提出した質問主意書で、「病死した人の死体から取って病原体などが付着している可能性のある乾燥硬膜を医薬品や生物製剤としてではなく、医療用具としたのはなぜか」という問いに「ヒト乾燥硬膜は、開頭手術等により硬膜等に欠損が生じた場合において、当該欠損部位の補てん等の整形の目的で直接身体に縫合する等の方法で用いられる物であり、骨接合板、骨接合用ねじ等の用品類と同様に身体の整形に直接使用される物であるので・・・」とヒト乾燥硬膜の使用目的や使用方法などを説明した上で、「薬事法第二条第四項に規定する医療用具のうち、薬事法施行令別表第一医療用品の項第四号の整形用品に該当する」と答弁している。
 1 医療用具は、あくまで人工物であり、手術等における一時的、補助的用具である。ヒト組織由来のヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」が、なぜ薬事法施行令別表第一医療用品の項第四号の整形用品に該当するのか。前述の答弁書の内容では不十分であり、理解できない。有用性ばかりに目が向き、ヒト組織を素材としているにもかかわらず、病原体付着の危険性評価がされなかったのではないか。中央薬事審議会での議論等も含めて、医療用具と決定した過程すべてを明らかにされたい。
 2 ドイツではヒト乾燥硬膜は医薬品であるが、病死した人の死体から取って病原体などが付着している可能性のある乾燥硬膜を、なぜ日本では医薬品にしないのか理解できない。絆創膏を医薬品としているが、理由は何か。また、絆創膏を医薬品とし、ヒト乾燥硬膜を医療用具と区別した理由は何か。ヒト乾燥硬膜を医薬品にできない理由を示し、説明されたい。
 3 一九八七年当時、「ライオデュラ」の輸入販売業者から、FDA安全警告やアルカリ処理工程導入の報告を受けていないと答弁しているが、当時、報告義務はなかったのか。また、「ライオデュラ」が医薬品であった場合はどうか。
 4 ヒト乾燥硬膜を、医薬品とするか、医療用具とするかで、当時、報告義務等で違いがあったとすれば、医療用具としたことで、結果的には被害の拡大を招いたことになる。また、ヒト組織の安易な流通や開発を促すことにつながったと言える。再度伺うが、「ライオデュラ」を医療用具とした当時の厚生省の判断に瑕疵はなかったと断言できるのか。
二 危険性が僅かでもあれば、被害を未然に防止する観点からより厳しい基準を設け、企業に対しても常にチェックするという姿勢で臨み、不幸にして被害が出てしまった場合は、被害者の救済を最優先し、被害の拡大を防ぐ緊急の措置や原因の徹底究明を行うのが、「国民の健康や安全を守る」厚生省のとるべき態度である。
  本年六月八日の厚生省との交渉で医薬安全局企画課医薬品副作用被害対策室の担当者は、「医薬品副作用の救済制度は、医薬品を適正に使用して生じた副作用についての対策である。医療用具は多岐にわたっており、医療用具による被害は、副作用というより誤作動や欠陥によるものと言わざるをえない。医療用具については、救済事業には馴染まないと考えている・・・医療用具によって生じた被害は、基本的には製造物責任に基づくメーカーの責任であると考える・・・現在の制度には馴染まないということである。HIVの時は(医薬品副作用被害救済・研究振興調査)機構法を改正したが、ヤコブについては現在係争中であり、裁判所の判断を待ちたい。」と述べている。
 1 ヒト乾燥硬膜を医療用具として承認したのは厚生省である。医薬品として承認していれば救済の対象となったのか。
 2 医療用具による被害は欠陥によるもので救済事業には馴染まないと述べているが、欠陥のある医療用具を承認した厚生省に責任は全くないのか。医薬品による被害の救済事業は行うが、医療用具による被害者のヤコブ病患者は救済しないということである。しかしながら、患者にとっては医薬品であろうと、医療用具であろうと、医療行為を介して感染したことにかわりはない。救済しようとする視点にたてば、当然法律の改正等をしてでも救済できるし、すべきではないか。
 3 HIV事件では、裁判所での和解成立以前に、附則を設けて、HIVウイルスの混入した血液製剤を、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法の救済対象とした経過がある。HIV事件も副作用の問題でなく、ヒト由来製品である血液製剤に病原微生物が混入していたもので、ヒト由来製品である乾燥硬膜にヤコブ病原体が付着した本件と全く違いはない。血液製剤が医薬品で、ヒト乾燥硬膜が医療用具であったという違い以外に、両者に差をつける実質的理由は何もないと思われるがどうか。
 4 厚生省は、これまでの委員会等の質問のなかでも、裁判で係争中を理由に、被害者の救済どころか情報公開すらしようとしない。医療行為を介し感染した今回のような被害者の救済は、被害者側から慰謝料請求、主な補償措置、刑事責任を求められたとしても、司法行為及びその進行、結果とは独立した問題である。行政的救済や社会的救済に裁判の存在を理由として、条件を付けたりすることに合理性はなく、許されるものではない。発症するとほぼ一、二年で亡くなる被害者は、いま生命の危機と闘っているのに、裁判所の判断を仰いだ上で、被害者を救済するというが、いつになるか分からない裁判所の判断が出た時点で、被害者本人に対してどんな救済の方法があるというのか。治療法のない病気の患者に治療費の免除等の措置をしているというような答弁はやめていただきたい。
三 厚生省は、一九八七年のFDA安全警告の認識の方法と時期についての問いに対して九六年五月の厚生省特定疾患調査研究事業におけるクロイツフェルト・ヤコブ病等に関する緊急全国調査研究班の設置を契機として情報を得たと答弁している。
 1 FDA安全警告は、米国政府の公式行政措置なので、その情報入手は、厚生省の担当部署の通常業務でなければならないと考えるがどうか。また、一般的に米国政府の重要な情報については、在外公館を通じて入手していないのか。厚生省からの出向職員もいたのではないか。
 2 「公の刊行物の交換に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の取極」の窓口である国立国会図書館を通じて入手していないのか。
四 九六年に厚生省がFDAへ送った緊急ファックスで、「(米国の状況についての情報はわれわれには)決定的に重要であり、それによってわれわれが適切な決定を下せるようになると確信している」と緊急ファックスまでしておきながら、九七年三月二十七日のWHOの勧告まで緊急命令を出さなかったのはなぜかという質問に対し、『厚生省においては、ヒト乾燥硬膜の安全性に関して、平成八年六月十九日に中央薬事審議会伝達性海綿状脳症対策特別部会において検討に着手し、同年八月一日に開催された特別部会においては、資料として提出されたFDA安全警告等も審議の対象とした上で、同日付けの特別部会意見において「ヒト乾燥硬膜の製造会社はドイツに二社あり、現在は、クロイツフェルト・ヤコブ病、B型肝炎、C型肝炎等に罹患している可能性のあるドナーを排除する基準及びクロイツフェルト.ヤコブ病の病原物質と考えられるタンパク質の一種であるプリオンを不活化する水酸化ナトリウム処理工程を導入して」おり、「データ、プロセス及び両社からの説明による限り、現在適用されている安全対策により、現在供給されているヒト乾燥硬膜は、臨床的には安全と考えられる」との評価を行うとともに、「今後安全性を高めるため、ドナー選択の強化等に努めること」、「今後とも必要な情報収集に努めること」及び「未処理の製品については既に医療機関には存在しないと両社から報告されているが、念のため両社から納入した医療機関に対し、改めてしかるべき情報提供を再度行わせること」が適当であると述べたところであり、厚生省においては、これを踏まえ、同年八月五日付けで各都道府県に対して未処理製品の医療機関における存在の有無につき調査を依頼する等の所要の対応を行ってきたところである。』と答弁している。
 1 ヒト乾燥硬膜の安全性に関して、平成八年六月十九日に中央薬事審議会伝達性海綿状脳症対策特別部会において検討に着手し・・・としているが、ヒト乾燥硬膜の輸入・販売の承認申請時に、安全性に関しては充分審議したのか。
 2 Bブラウン社がプリオンを不活化する水酸化ナトリウム処理工程を導入したのは、八七年五月で、ライオデュラの製造中止を発表したのは、九六年六月で、輸入販売業者が自主回収を発表したのもこの年である。厚生省がこれらの事実を知ったのはいつか。これは重要な問題なので、充分に調査をして正確に答えていただきたい。
 3 未処理の製品については既に医療機関には存在しないと両社から報告されたのは、いつか。また、その報告の内容を明らかにされたい。
五 『平成九年三月二十七日に世界保健機関(WHO)が「ヒト乾燥硬膜の移植例から五十例以上のクロイツフェルト・ヤコブ病が発生していることにかんがみ、今後ヒト硬膜を使用しないこと」との勧告を行ったことを踏まえて、厚生省においては、直ちに同月二十八日付けでヒト乾燥硬膜販売輸入業者に対し、薬事法第六十九条の二の規定に基づき、ヒト乾燥硬膜の販売等の一時停止、回収及び納入医療機関に対して直ちにヒト乾燥硬膜の使用を停止すべき旨の連絡を行うことを内容とする緊急命令を発したところである。』と答弁している。
 1 WHOが、五十例以上発生しているとしているが、そのうち何例が日本で発生したのか。数と割合で答えられたい。
 2 CDC症例報告やFDA安全警告等を知った後も、いろいろな言い訳をして、適切な対応をしなかった厚生省が、WHOの勧告でただちに緊急命令を行ったことが理解できない。それはなぜか。厚生省は、世界中が注目し、薬害エイズを世界中に報告したことでも有名なCDCやFDAの情報を重要視していないのか。
 3 「・・・人工硬膜や自己筋膜の使用等ヒト硬膜に代替する方法が存在していることに鑑み・・・」とあるが、いつから存在したのか。
六 予見可能性について質問したのに対し厚生省は、「昭和六十二年までにヒト乾燥硬膜の移植によるCJD発症の危険性を予見することは到底できなかった旨の主張を行っているところである。」と答弁しているが、アメリカ、カナダ等では、第一症例報告後、第二症例の発生の危険を予知して、警告等の措置をとっている。アメリカ、カナダ政府が予見できたのに、厚生省が予見できなかったのはなぜか。また、厚生省が予見可能になったのはいつの時点か。
七 予見可能性というのは、予見しようとする積極的な意思があるかないかで、かなり違ってくる。七六年にガイデュセックが、クールー、CJDの研究でノーベル賞を受賞した年に、厚生省の特定疾患研究は始まっている。当然世界の研究に関心があったはずである。
 1 七七年にノーベル賞を受賞し世界的にも権威あるガイデュセックらが発表した「患者からとった器官および組織は、移植に使用されてはならない」という表題の論文を厚生省(以下、厚生省とは、国立予防衛生研究所等の研究施設、さらに厚生省特定疾患スローウイルス感染と難病発症機序に関する研究班を含む)は当然に知っていたと思われるが、その入手時期はいつか。
 2 八二年にポールブラウンやガイデュセックらが、エチレンオキサイド滅菌では完全な不活化ができないことを指摘したことについても、厚生省は当然知っていたと思われるが、その入手時期はいつか。
 3 八六年に米国神経学会ヘルスケア問題委員会が、硬膜によるCJD感染の危険を指摘したことを、厚生省は当然知っていたと思われるが、その入手時期はいつか。
 4 仮にこれらの情報を全く知らない上、八七年のCDCの初症例報告やFDA安全警告を見落とした厚生省が、八九年に危険性を予見することは到底できなかったと主張する事に対して、厚生行政に対する不信は国内だけにとどまらない。ガイデュセックとともに世界的にも有名なジョゼフ・ギブスは、製造過程で、安全対策として(早くから危険性が指摘されていたにもかかわらず、日本が承認した)ガンマ線滅菌を行ったという事実こそが、驚愕に値すると述べている。なぜ到底できなかったと主張できるのか。また、予見をしようとする意思が当時あったのか。
八 厚生省は、「ライオデュラ」の変更申請があった七九年と八七年に承認しているが、変更の内容を明らかにされたい。なお、二度目の申請はCDC症例報告と同じ時期であるので添付資料等も含めてすべてその内容をお答えいただきたい。
九 『昭和六十二年当時国立予防衛生研究所においてはCDCの週報「MMWR」を入手し、これに掲載された記事のうち重要と認識されたものについて、同研究所が毎月発行している「病原微生物検出情報」に掲載することとしていたが、「(中略)ヒト乾燥硬膜移植後のCJD関連の記事については、当時記事を掲載するかどうか所内の編集会議で検討したが、当時、CJDは発症原因としてのプリオン説がまだ確立しておらず、ヒトへの感染機構、病因論自体が極めて不明瞭であり、当該記事にも病原体及び病原診断としての情報が含まれていなかったことから、掲載する必要性の高いものとの認識はなく、編集責任者の判断でしばらく状況をフォローしてみることになったと思う。」との回答があったところである。』と答弁している。
 1 プリオン説が定説化されているかどうかは関係なく、第一症例報告で、アメリカ、イギリス、カナダは警告を出している。八七年に第一症例を知っていて放置したことは事実で、そのことで被害が拡大したことの責任は問われなければならない。国立予防衛生研究所の任務は何か。
 2 「編集責任者の判断でしばらく状況をフォローしてみる」とは、どういうことか理解できない。その結果も含めてどのように対処したかを、具体的、詳細に説明されたい。
 3 厚生大臣はこれまでの委員会での答弁で(政府委員も答弁しているが)、「予研では知っていたが、本省に届いていなかった」とか、「連携がうまくいっていなかった」と答えている。予研は厚生省の機関である。内部の縦割りの弊害は言い訳にはならない。国民にとっては、予研も含めすべて厚生省のやったことである。「研究所自体に行政組織として健康危機管理という事象に取り組む意識というのが必ずしも十分ではなかった」と呆れた答弁をしているが、予研も含めすべての最高責任者は誰か。
 4 「知らなかった」ことや、「認識していなかった」ことは責任を問われないのか。知らなかったことが、人の命を奪っているのである。
   厚生省は、これまでの委員会や質問主意書で質問したことに、的確に誠意をもって答弁していないし、その答弁も自省に都合のいいように解釈したものと思われる。
   委員会においては、政府委員は大臣を補佐する程度の答弁であるべきなのに、聞いてもいないことを長時間にわたり説明するなど、質疑時間に制限のあることを考えると極めて不誠実と考える。
   人命を救助するという美名のもとに厚生省は、臓器移植や最先端技術を使った治療、ヒト組織の開発等にばかり注意を注いでいるのではないか。もちろんこれらをすべて否定するものではない。しかし、これまでの公害や薬害で、厚生省が初歩的な安全対策をとらなかったことで亡くなった人の数は膨大である。それらを踏まえ、もう一度厚生行政の原点に戻って責任を全うしていただきたい。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.