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平成十二年五月三十日提出
質問第三九号

国指定の文化財建造物(民家)等に関する質問主意書

提出者  穀田恵二




国指定の文化財建造物(民家)等に関する質問主意書


 現在、全国の国指定文化財建造物のうち、民家は六四〇棟。そのうち五一〇棟が個人所有であり、その維持管理は、所有者にとって大変大きな負担となっている。重要文化財に指定された民家の多くは木造であり、屋外にあるため絶えず風雨にさらされ、台風や地震などの影響を直接受けている。また、多くが住居として利用され、かつ、一般に公開されていることから、人為的な原因による損耗が避けられない。その上、所有者には、現状変更の禁止・制限や公開が望まれているなど日常生活に関わる多くの負担と制限が課せられている。
 所有者の多くは、古くから受け継がれてきた家屋に対する愛着と、文化財保護行政に貢献するという誇りと使命感をもって、これらの文化財を将来に伝えようと並々ならぬ努力をされている。しかし、個人の能力による維持管理は限界にきており、所有者の努力にこたえるためにも、文化財保護行政の拡充が緊急に求められている。
 したがって、以下の事項について質問する。

一 国指定の文化財建造物(民家)の個人所有者の負担軽減について
 (1) 大規模保存修理事業における個人所有者の負担は、大変重いものがある。例えば、京都の二条陣屋を解体修理しようとする場合、総額で約三億円、そのうち約二〇%が自己負担になると予想されるため、所有者の負担は約六〇〇〇万円にのぼる見込みである。京都の冷泉家で実施されている解体修理工事の事業費は、阪神大震災の後、耐震補強工事が付加されたことにより、五億五〇〇〇万円の当初見込みを大きく上回ったといわれており、所有者の負担は約一億三五〇〇万円にのぼる見込みである。
     現行制度による国の補助率は二分の一を基本としており、所有者の負担能力及び修理工事期間に応じて補助率を決定する仕組みとしており、上限は八五%とされている。この補助率は大きいように見えるが、対象である文化財が入手困難な資材と高度な技術と技能を必要とする工法を利用しているため費用がかさみ、かつ、規模も大きなものが多いことから、所有者の負担は大変重くなる。こうした負担を理由に、大規模修理の申請を見合わす例も出ている。
     文化財建造物の大規模修理が、所有者個人の能力を超えた費用負担のために見合わされている事態は一刻も早く改善しなければならない。その最大の障害である費用負担の大きさを軽減するため、大規模保存修理補助金予算を大幅に増額し、補助率の引き上げを行うべきではないか。
 (2) 文化財建造物の維持管理にあたっては、修理にあたっての資材が入手困難であることや高度な技術と技能を必要とする工法であることから、現代の普通家屋とは異なり、費用が割高にならざるを得ない。さらに、庭の整備や畳替え、個別の損耗箇所の修理が日常的に必要となる。個人所有者にとって、大規模保存修理のみならず、小規模修理への補助はなくてはならないものである。しかるに、現在、一〇〇万円以下の小額補助金を打ち切ることが検討されていると聞いているが、これは事実か。
     また、畳やふすまの補助単価は、一九七九(昭和五四)年に決められて以来変わっていない。一九七九年から一九九九年までの二〇年間で、畳表の張替費は約七四%、ふすまの張替費は約七六%値上がりしている(総務庁統計局『消費者物価指数年報』一九九九年度)。このもとで補助単価が変わらないということは、実質的補助金の切り下げになる。その上、一九九八年度からは、それまで四三〇〇万円であった補助金の総額が、四一〇〇万円に減額されている。
     文化財建造物個人所有者の負担を軽減するため、小規模修理に対する補助基準の見直し・補助単価引き上げと、総額の大幅引き上げを行うべきではないか。
 (3) 維持管理費用と並び、個人所有者にとって、相続税及び相続登記時の登録免許税の負担が大変重くなっている。
     現在、相続税の軽減措置は、相続財産評価額の六〇%を控除するというものである。この六〇%という数字は、一九八五年に文化庁と国税庁との間で決められて以来変わっていない。重文民家所有者の全国組織である「全国重文民家の集い」も、二三年にわたり、毎年相続税の減免を要望しつづけている。
     「重文民家は、愛着の思いで見守る家族と共にあることが最も望ましい」ということは、文化財保護関係者すべてが認めるところである。にもかかわらず、かつては次善の策とされた地方公共団体等への公有化が増加しつつある。
     そこで、相続税の減免措置について、現行の六〇%控除を改め、所有者負担の実態に即して減免措置を拡大すべきではないか。また、相続登記時の登録免許税の軽減を図るべきではないか。
二 檜皮葺建築物の原料である檜皮及び原皮師など伝統技能者・技術者の育成について
 檜の表皮を使って屋根を葺く檜皮葺の建築物は、一二〇〇年の歴史を持ち、国指定の文化財で七一二棟、指定外を含めれば二〇〇〇棟があるといわれている(『文化庁月報』一九九八年一〇月)。文化財保護関係者の試算によれば、指定文化財だけで年間約三三八〇平方メートルの檜皮が必要であり、未指定文化財の分を含めると約七八〇〇平方メートルが必要とされている。他方、檜皮の供給量は年間約一七四〇平方メートルと試算されており、必要とされる量の二割強にすぎない。文化庁も、二〇〇〇年度重点施策で、「特に原材料の不足を指摘されている檜皮葺屋根の葺き替えについては、資材確保の方策も含め重点的に取り組む」と述べざるを得ない状況である。
 また、檜の表皮の採取者である原皮師の高齢化・人材不足が進んでおり、昨今の檜皮不足の大きな要因となっている。
 (1) 檜皮葺建造物の維持・管理に必要とされる檜皮は、年間約七八〇〇平方メートルといわれており、これを供給するために必要な檜林の採取面積は、約三三四〇ヘクタールと試算されている。全国の国有林には、樹齢八〇年以上の檜林が約一万二四〇〇ヘクタールあるといわれており、檜皮を確保するために、こうした全国の国有林の積極的活用が緊急に求められている。政府は、一九九八年、日本共産党の寺前巖議員への回答の中で、「国有林においては、個別に採取希望があるヒノキ林について、国有林の管理経営上支障がないと認められるときは、文化財保護にも資することから、檜皮の売却を行ってまいりたい」と答弁しており、その推進が求められている。そこで、その後の個別採取希望のあった檜林面積・檜皮量と売却実績を明らかにされたい。また、国有林について檜林の面積の現状及び檜林として活用可能な面積についてどのように把握しているのか。
     さらに、現在、林野庁で、近畿中国森林管理局内の国有林野に、保存修復用資材の供給、景観の保全のための森林施業等を行うために、「世界文化遺産貢献の森林(仮称)」を今年度中に設定する予定で検討が進められているというが、今後の檜皮の具体的供給計画・目標を明らかにされたい。
 (2) 原皮師の仕事は、ロープ一本で檜の大木に登り、甘肌と呼ばれる木部に密着している形成層を傷つけないように細心の注意を払いながら、カナメモチ(バラ科の常緑木)で作った手製のへラを入れて、檜皮を立木から(注)ぎ取るという重労働である。原皮師は、現在全国で九名しかおらず、平均年齢も六〇歳代と高齢化が進んでおり、後継者の養成が求められている。
     原皮師育成の制度としては、(社団法人)全国社寺等屋根工事技術保存会の行っている檜皮採取研修があるが、これは一九九九年度から始まったばかりであり、受講者も四名しかいない。また、同保存会では、檜皮葺・こけら葺の研修も行っているが、一九九〇年度以降、受講者が常に四名にとどまっている。ところが、研修への応募者は、一九九二年度(五名)、九六年度(七名)、二〇〇〇年度(六名)と受講者数(各年度とも四名のみ)を上回っており、意欲があり応募をしても、研修が受けられないという状況がある。その原因について、同保存会理事の原田多加司氏は、「予算やスペースの関係で年四〜五人が精一杯である」(『文化庁月報』一九九八年一〇月号)と述べている。保存会に対する国庫補助金は、一九九六年以降一四〇〇万円となっているが、うち八〇〇万円は茅の研修・確保に対する補助であり、檜皮・こけら研修に対する補助金は、一九七四年以来二六年もの間、年間六〇〇万円にすえおかれている。
     国庫補助を拡充するとともに、研修スペースを拡大し、檜皮研修の充実を図るべきではないか。
 (3) 文化庁では、現在、「文化財府を支える用具・原材料の確保に関する調査」を行っており、本年度中に調査が完了する見込みと聞いているが、何を調査対象として、どのような規模で調査したのか。また、公表の時期はいつかを明らかにされたい。

 右質問する。





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