答弁本文情報
昭和四十年十二月十三日受領答弁第五号
(質問の 五)
内閣衆質五〇第五号
昭和四十年十二月十三日
内閣総理大臣 佐藤榮作
衆議院議長 ※(注)田 中 殿
衆議院議員山下榮二君提出西宮市におけるLPガス・タンクローリー転覆爆発事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員山下榮二君提出西宮市におけるLPガス・タンクローリー転覆爆発事故に関する質問に対する答弁書
一 産業災害の発生は、人命尊重の見地からみて、まことに遺憾で、政府としては、重要な施策の一つとして関係各省の連絡を密にし、対策を進めているところである。とくに化学災害については、近年の傾向にかんがみ、高圧ガス取締法、消防法、労働基準法等に基づく監督指導の強化、関係規則の整備等によつて対策の強化をはかつている。
また、将来の産業構造の変化等に対応する産業災害防止対策については、産業災害防止対策審議会において、鋭意検討を進めているところである。なお、先般の西宮市におけるLPガス爆発事故にかんがみ、政府においては、LPガスを含む危険物等の運搬中の事故防止に万全を期するため、関係各省が協議のうえ、「危険物等の運搬中の事故防止の徹底を図るための緊急対策」を決定し、これに基づいて事故防止措置の強化を進めている次第である。
一 LPガスの移動に関する規制の強化の点については、十二月十四日をもつて移動の経路の制限、移動の計画の届出、長距離運搬の場合の交替運転の義務づけ等を内容とする高圧ガス取締法施行規則の改正を行なつている。なお、タンクローリーの速度制限の点については、現行の規制を強化するよりも、むしろ現在の速度制限の完全遵守措置を講ずることが実状に即するものと考えられるのでこのような観点から、タンクローリーに運行記録計を取り付けることを促進するほか、関係事業所及び運転者に対する指導・監督及び取締りを強化する所存である。
最後に、タンクローリーの運転資格の制限の強化の必要性については、実態を十分に調査のうえ検討することとしたい。
一 今回の事故によつて損壊した安全弁等はタンクの上部にあり、かつ、マンホールの後部にあるため、従来のタンクローリーの衝突転落等の事故にあつては、損壊例の見られないものであつたが、これが今回の事故において損壊したのは、満載状態でスピード違反をし、転倒のうえ、通常予想されない角度で激突したという事情によるものと考える。しかし、政府としては、LPガスの保安対策の万全を期し、あわせてこの種の事故の再発を防止するため、今回の経験を参考に、高圧ガス取締法施行規則を改正して、安全弁等の突出部の防護措置を義務づけるとともに、タンクローリー等の安全運転の励行について一そう強力な措置を講ずることとした次第である。
一 高圧ガス取締法施行規則の有資格者による監視制の施行猶予期間における行政措置の点については、同規則の改正時点において、有資格者の絶対数がきわめて少なく、事業者側において直ちにこの規定を適用し得ないという実態があつたため、有資格者の養成に必要と認められる期間だけ猶予期間を設けたものであつて、政府としては、強力な行政指導により、猶予期間中ではあるが、来年四月を目途として有資格者の同乗を実施させるため、現在、有資格者の早急な養成に努めているところである。
一 事故原因者の長時間労働の点については、労働基準法違反が認められることは、御指摘のとおりである。労働基準監督機関において、当該事業場に対して法に基づく厳正な措置をとるとともに、今回の事故にかんがみ、本年十一月全国一斉に危険物等の運搬を業とする事業場に対して労働基準法に基づく監督を実施したところであるが、今後においても、これら事業場に対しては、監督指導を一層強化し、安全運行体制の確保を図る所存である。
一 被害者の救済措置等に関し、まず、国道上の事故であるため国が責任を負うことという点については、今回の事故が道路の設置又は管理の瑕疵に基づくものではないことが明らかであるから、法律上、国に賠償責任はないと考える。なお、死亡その他の人的被害については、自動車損害賠償保障法による損害賠償金の確保に十分配慮する所存であり、被害者に対し同法による損害のてん補について、被害者直接請求の制度の周知に努めた結果、十一月下旬に死亡事故一件の請求が行なわれ、その後現在までに重軽傷数件の請求が行なわれている状況である。今後支払機関における早期支払を促進することといたしたい。
また、同法による支払の限度額の問題については、これが引上げについて現在検討を行なつているところであり、早急に結論を得たいと考えている。
なお、交通事故による物的被害についても、強制保険制度を設けよ、との御意見については、自動車保険とは別個に、危険物等による事故に基づく損害についての強制保険の制度を現在検討中であるので、これとあわせて検討することといたしたい。
一 国税の減免措置については、次の措置を講じている。
(1) 被災者に対し、個別説明、ポスターの掲示等により国税の減免等の手続について広報を行なつている。
(2) 事業所得者のうち昭和四十年分の納税額のある者に対し、雑損控除の適用による予定納税額の減額を行なつている。
(3) 給与所得者のうち源泉所得税の還付請求書の提出のあつた者に対し、納付済税額の還付を行なつている。
なお、給付所得がある被災者で国税の減免措置の手続をしていない者に対しては、昭和四十一年三月の確定申告時に、その手続を指導することといたしたい。
(1) 住宅建設資金を必要とする場合には、住宅金融公庫から、新築住宅については、個人住宅資金の特別貸付を、損傷した住宅の補修については、改良住宅資金の特別貸付を考えている。このため住宅金融公庫において、これら資金の融資制度の説明会を開催する等広報に努め、所要の措置を講じている。
(2) 政府関係中小金融三機関は、被災者の店舗復旧等の事業資金に関し、既に一部について実情に応じ償還期限、担保等についての緩和措置を講じ、融資を行なつており、今後とも必要に応じ融資を行なう考えである。