答弁本文情報
昭和四十六年一月二十六日受領答弁第三号
内閣衆質六四第三号
昭和四十六年一月二十六日
衆議院議長 ※(注)田 中 殿
衆議院議員※(注)長亀次郎君提出沖繩問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員※(注)長亀次郎君提出沖繩問題に関する質問に対する答弁書
一 (1)(イ)(ロ)
政府は沖繩住民の不安を除去するため、従来から機会あるごとに在沖繩毒ガス兵器の早期撤去につき米側と話合いを行なつてきたが、さきに第一回移送分一五〇トンが安全に撤去されたことは、その第一歩を踏み出したものである。
米側の説明によれば、米国本土においては毒ガス兵器の移送について住民避難に関するご指摘の安全基準はない由であり、現に米国オレゴン州への毒ガス兵器輸送の計画立案に当たつてもかかる基準が適用されたとの事実はないと承知している。他方、政府としても今回第一次の移送に当たつては、右移送作業の安全性確認のため調査団を派遣し、現地において米側との密接な接触を通じて綿密な実地調査を行なつた結果、今回の移送が安全であるとの確信を得た次第である。
政府としては、毒ガス兵器の早期撤去につき米側と話合いを行なつてきたことはご承知のとおりであり、今後とも最善の努力をいたしていく所存である。
沖繩における米軍人、軍属の犯罪については、政府としても大きな関心を寄せていることはいうまでもなく、米側に対し沖繩住民の生活不安除去の観点から、従来より機会あるごとにその防止につき善処あるよう強く要求してきている。しかしながら、政府としては沖繩の施政権者たる米側の沖繩における個々の裁判につき、当、不当を指摘してやり直しを求めたりする立場にはない。
ただ、沖繩が米国の施政権下にあるという特殊事情があるにせよ、政府としては沖繩住民の福祉には当然深い関心を有しており、かかる観点から、今後とも犯罪の発生を防止して沖繩住民の不安を取り除き、米側裁判制度の運用がかかる沖繩住民の福祉に沿つて行なわれるよう、米側の配慮を求めていく考えである。
政府としては、米軍人、軍属による犯罪に対する裁判が、沖繩住民の感情を十分に汲みとりつつ、最も公正に行なわれるべきものと考えており、時宜に応じ米側と折衝を行なつてきたところである。なお、高等弁務官は、一月五日今後沖繩における米軍人犯罪に関する軍事法廷に、琉球政府オブザーバーの出席を認めることとした。
沖繩住民に対する米軍人、軍属の犯罪についての裁判結果及びその執行状況に関しては、これまで米側も適宜これを公表していると承知している。
米軍人、軍属の犯罪による被害者に対する損害賠償は、沖繩の施政権者たる米国政府がその責任において公正に処理すべきことである。
政府は、沖繩住民が戦後長期間にわたり種々の苦難を経験してきた事実を十分念頭に置きつつ、沖繩の本土並み復帰実現のため全力を尽したいと考えている。
昭和四十四年十一月二十一日の日米共同声明第八項に示されているとおり、米国政府の最高責任者たる大統領が、沖繩の「核抜き」返還を確約しているのであるから、沖繩の「核抜き」返還についてこれ以上明確な保証はないと考える。
B52の問題については、沖繩住民の福祉を慮り、従来より米側に対し、住民に不安を与えないよう好意的配慮を求めてきた。
昨年九月二十四日、米側より日本政府及び琉球政府に対し、その撤去につき通報があり、すでに撤去されたものと認められる。
沖繩返還の際、米側に提供されることとなる施設・区域については、当然日米安全保障条約及び地位協定の手続きに従つて提供されることとなる。
しかして、不要不急の基地に加えて、沖繩の民生及び経済開発、発展のためその移転、返還が望ましい施設・区域もあろうかと思われるので、政府としては、これらの点を踏まえ、日米安全保障条約の目的に照らしつつ、米側と鋭意検討を進め、日本側の意向が十分に反映された形で決定が行なわれるように努力していく所存である。
政府は、サンフランシスコ平和条約第三条に基づく米国の施政権が昭和四十四年十一月二十一日の日米共同声明によつて「核抜き、本土並み、七二年返還」で返還されることが合意されているのであり、このために目下日米間の返還協定を交渉中である。
沖繩の施政権が日本に返還されることとなれば、サンフランシスコ平和条約第三条の規定は、同条の対象とする全地域についてすべて意味を失うのであるから、同条は空文化することとなる。このような事態は、条約、特に多数国間条約についてはたびたび生ずるが、かかる条文は実質的に意味を失つているのであるから、これをさらに失効させたりすることは必要ではない。
サンフランシスコ平和条約第十九条(a)にいう日本国の領域に沖繩が含まれないと解すべきではなく、同様に沖繩の住民が同条にいう日本国民に含まれないと解すべきではない。いわゆる対米請求については、政府は今日まで、米琉両当局者より必要な資料の提示を求め、あるいは、各種現地調査の機会を利用する等の方法により実態のは握に努めており、また、琉球政府をはじめ現地の各種団体からも様々の形で問題の提起が行なわれている。政府としては、この問題の複雑なことに留意し、慎重に検討しており、公正妥当な解決に努める考えである。
沖繩にある米国所有の民生用資産で、復帰後も沖繩住民にとつて必要かつ有益な資産の引継ぎは、日米間で公正かつ衡平な解決を図つていくこととしており、引継ぎに関連して何らかの支払いを行なうことはあり得ると考えているが、いくら支払うかは今後の交渉の問題である。
(一) 沖繩における外資の復帰後の取扱いについては、琉球政府の意向を考慮しつつ、日米双方納得のいくような方法で取り扱つてまいりたい。
(二) 沖繩の本土復帰前に、沖繩にある外国企業に対して沖繩の法令に基づき適法に課税されていたものについて、復帰後において遡及して課税し直すことはできないと考える。
(三) 沖繩にある国・県有地の一部について、米国民政府がその管理権限に基づき外国企業と賃貸借契約を結んでいるものについては、個々の契約の経緯、契約の内容及び契約の対象となつている国・県有地の使用実態等を検討のうえ、適切に措置したいと考えている。
ガルフ社に管理権を与えた指令は、沖繩の復帰とともに失効し、これに基づく管理権も消滅することとなるのであり、関係者はいずれも十分これを承知している。
沖繩返還に際して米側に施設・区域を提供するに当たつては、できるだけ円満に実施しうるよう、妥当な措置を検討してまいりたい。
返還協定について米側と合意した際は、当然国会に提出してその承認を得ることとなる。
政府としては、交渉の段階において、その内容を公表することはできないが、交渉に当たつては、沖繩住民を含むわが国国民全体の利益に即した施政権返還を実現すべく努力している。
沖繩の経済振興を図るための特別立法措置については、現在政府部内において沖繩復帰対策の一環として検討中であり、返還協定及び本土法令の適用に伴う暫定特例措置に関する法律案と一括して本年中に国会に提出することを目途として、その準備をすすめている。
沖繩の振興開発については、機会あるごとに担当大臣をはじめ政府としての見解を表明してきているとおり、十分配慮した計画をたて、その推進を図つていくことが必要である。なお、その実施に要する経費については、今後の検討問題といたしたい。
沖繩の復帰対策の策定については、復帰準備に関する琉球政府との連絡調整及び復帰準備委員会による検討等沖繩現地の機関との緊密な連携を保ちつつ行なうこととしており、これらを通じ、沖繩住民の民意を十分に尊重することができると考えるので、ご質問のような機関の設置は考えていない。
現在米国民政府が管理権を有する国有地・河川については、復帰の際それらについての権利、権限がわが国に返還され、わが国の法令によつて律せられることとなる。
しかし、国有地、河川等の利用は、住民の福祉を図るうえで重要な問題と考えられるのでご質問の点については、沖繩の復帰対策の策定と関連させて慎重に検討することとしたい。
政府としては、本土と沖繩間の渡航制限の緩和について従来から努力を重ねてきており、また渡航手続きの簡素化も図つてきたところであるが、今後とも渡航制限の緩和については引き続き米側と話合つていく所存である。
また、政令第二一九号は本土と沖繩とが出入国管理の法制を異にしているため、制定されたものであり、現時点ではこれを廃止することはできない。
琉球列島への転籍制限については、すみやかに撤廃するよう米側に要望している。
沖繩住民の人権の尊重については、政府は従来から重大な関心をもつているので、日米琉三者による沖繩の復帰準備施策の検討の過程で引き続き慎重に検討し、十分配慮してまいりたい。
政府としては、沖繩の本土復帰までは米国が施政権者であり、その施政権者としての責任を果たすよう要望しているところである。
いわゆる国政相当経費の負担及び復帰前における地方交付税制度の適用等の問題については、琉球政府の執行している国政、県政両事務の区分が必ずしも明らかでないこと、琉球政府は、本土における国税相当税を自ら収納していること等、本土と異なる行財政制度上の複雑な諸事情があり、これを一義的に結論づけることは困難であるが、政府としては、琉球政府及び市町村の財政の現況を考慮し、円滑な復帰を図る見地から、引き続き行政運営費及び国政事務費の充実を図るとともに、その他の事業費についても能うかぎり、本土制度に準じた措置を講ずるよう努めているところである。
なお、琉球政府の一般会計の借入金の処理については、慎重に検討することとしたい。
沖繩の施政権が返還されるまで、本土の各種社会保険制度そのものを直ちに沖繩に適用することは困難であるので、本土法に準じた制度を沖繩において制定整備する方法により、沖繩住民が本土と等しく社会保険の恩恵を受けられるよう、技術的、財政的な援助を行なつていく方針のもとに、所要経費のうちの国庫負担分については、毎年財政援助を行なつている。
沖繩における軍関係労務者の解雇については、本土並みの予告期間が置かれるよう米側に申し入れるとともに、離職者に対しては、本土における「駐留軍関係離職者等臨時措置法」に準じた再雇用促進のための措置が円滑に実施されるよう、琉球政府に対して必要な援助を行なうこととしている。
復帰前の借料は米側との契約の問題であるので、その責任において公正に処理されるべきものである。
土地境界の調査と所有権の確認は、現在日本政府の援助のもとに琉球政府法務局土地調査庁において実施中であり、ご提案のような委員会の設置は考えていない。
沖繩の教職員はじめ、沖繩住民が米国の施政権下にあつて日本国民としての教育を確保するために今日まで努力してこられたことに対して深く敬意を表するものであるが、復帰後においては、沖繩の児童、生徒が本土の児童、生徒と同じ制度の下で同じ水準の教育を受けることができるように配慮することこそ沖繩の祖国復帰の有する大きな意義の一つであるので、教育委員会制度についても本土の法令を適用するよう措置することとしたのである。
復帰後の沖繩における学校施設設備等の教育条件の整備については、沖繩の経済、社会の開発、発展を図るための施策の推進に関する立法措置の一環として、その計画的な実施を検討していきたい。
日米共同声明でいう「変更なしに沖繩に適用される」関連取決めとは、安保条約の締結に際し同条約とともに国会の承認を得た交換公文及び地位協定をさしている。これらの取決めの枠内で定められている既存の細目の沖繩への適用については、技術的理由あるいは沖繩の地域的特殊事情に照らして特に調整すべきものがあれば別として、一般的にはそのまま変更なしに沖繩に適用されることとなろう。
地位協定の改正については、現在検討を行なつていない。
施政権返還後、沖繩の防衛責任を第一義的にわが国が負うことは、当然である。
沖繩の施政権返還に伴い、同地域の防衛責任は第一義的にわが国が負うこととなり、政府は全般の防衛態勢の一環として、陸上警備、沿岸哨戒及び防空にあたる部隊を配備することを予定しているが、配備時期その他については現在検討中の段階である。