答弁本文情報
昭和五十年二月二十五日受領答弁第七号
内閣衆質七五第七号
昭和五十年二月二十五日
衆議院議長 前尾繁三郎 殿
衆議院議員土井たか子君提出東京国際空港におけるジョージ・オーグル牧師の人権に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員土井たか子君提出東京国際空港におけるジョージ・オーグル牧師の人権に関する質問に対する答弁書
一について
一九七四年十二月二十日付け、アメリカ合衆国メソジスト教会ジョーンズ氏より宮澤外務大臣あての書簡に対する回答は、在米日本大使館より行うよう指示した。
十二月十四日の当該大韓航空〇〇二便の機長名は、金浩渕(KIMHO YOUN)である。
韓国中央情報部員がとう乗していたとは承知していない。
強制退去を受けた者は、その本人の本国以外に寄港できないという国際法又は国際慣習はない。
ある国家により強制退去処分に処せられた者は、そのことのみにより、外国において特別の国際法上の地位を有することにはならない。
昭和四十九年十二月十四日二十二時十分ころ、運輸省東京空港事務所航務課から、東京空港警察署に対し「五十二番スポットに出発準備で駐機中の大韓航空〇〇二便にとう乗券を持たない外人二名が入り機外に出ないで困つている。機長が警察官の派遣を要請している。」との連絡があり、同署では警察官十一名を急派した。
二十二時十五分ころ、同機内に立ち入つて調査したところ、外国人二名は、米国人記者と名乗り「機内に韓国から強制退去を命ぜられたオーグル氏が乗つているはずであり、面接取材したい。」と申し立てており、乗務員達は両名の機内立入を拒否して口論していた。
警察官がオーグル氏とう乗の有無について質問したのに対し、機長は「乗つていない」と答え、更に機内にいた大韓航空東京支店員も乗客名簿にオーグル氏の名前はないと申し立てた。
しかし、念のため、機長の同意を得て、警察官五名が手分けして日本語と英語で「オーグルさん」あるいは「ミスター・オーグル」と呼びながら、乗客席、手洗所など機内を調査したが、本人はもちろん、誰からも何の申出もなく発見に至らなかつた。その他何ら不審な状況も認められなかつた。
その後、十二月十八日乗務員二名から、同二十日機長から、それぞれ事情を聴取したところ、いずれもオーグル氏が同機にとう乗していた事実を認め、特に機長は「オーグル氏より東京で降りたいとの申出があつたが、私の立場上困るので、このまま機内に残るよう説得したところ、了解して座席に座つていた。」と陳述し、機内における監禁の事実はなかつたとしている。
また、本年二月十三日、オーグル氏から事情を聴取したところ、「東京でトランジット客とともに降りようとすると乗務員等に押し止められ、更に機長に降りてはならないといわれたので座席に戻り、その後通路を行つたり来たりしていた。」と説明した。
以上の状況から、東京空港において、オーグル氏が機内で監禁の状態にあつたと認めるのは困難と思われる。
御指摘のような仮定の事実を基に、主権侵害問題を論ずるのは、不適当と考える。
機長が乗客の旅券を取り上げる権限を有するか否かは、他国の領域内における場合を別とすれば、当該航空機の所属国の国内法上の問題である。
国際法上、他国の領域内における機長の権限については、明確でない点が多いが、少なくとも、航空機が他国に着陸した後においては、一般国際法上機長としての特別の権限が一般に認められるわけではない。
東京空港警察署は、四及び八についての項で述べたとおりの措置をとつたところであるが、当時、オーグル氏の存在が確認されず、また、大韓航空〇〇二便の出発時間も切迫していたので、警察官は、機内に残つていた米国人一名(後にジェームス・ステンツェル氏と判明)を促してともに機外に出たものである。
なお、他の米国人一名(後にドナルド・オーバードーファー氏と判明)は、既に機外に出ていた。