答弁本文情報
昭和五十一年十一月二日受領答弁第五号
内閣衆質七八第五号
昭和五十一年十一月二日
衆議院議長 前尾繁三郎 殿
衆議院議員久保田鶴松君提出全国金属労働組合とその組合員に対する不当労働行為に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員久保田鶴松君提出全国金属労働組合とその組合員に対する不当労働行為に関する質問に対する答弁書
一について
質問の別紙に掲げられている企業に係る命令、判決又は決定のうち政府が現在までに調査し、確認したものの理由及び内容と経過の概略は、次のとおりである。
1 日特金属工業株式会社(以下「日特金属」という。)については、東京都地方労働委員会の昭和五十年六月十七日の命令では、会社が昭和四十六年十月二十日に全国金属労働組合日特金属支部の組合員九名を指名解雇したことについて、これは、会社が経営危機に伴う人員整理に際して組合活動家を企業内から排除する意図の下に行つたものであり、不当労働行為であると判断したうえ、会社に対して、被解雇者九名の原職ないし原職相当職への復帰等を命じている。
2 株式会社電業社機械製作所(以下「電業社」という。)については、静岡地方裁判所沼津支部の昭和五十年七月四日の決定では、会社と総評全国金属労働組合静岡地方本部電業社支部との間の団体交渉が同年三月五日に打ち切られ、その後同支部の団体交渉再開の要請に対し会社がこれを拒否していることについて、会社側に団体交渉を拒否する正当な理由がないこと等を理由として、会社に対して、速やかに団体交渉をすべき旨の仮処分を命じている。
3 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「日本アイ・ビー・エム」という。)については、神奈川県地方労働委員会の昭和五十一年三月十九日の命令では、総評全国金属労働組合日本アイ・ビー・エム支部の組合員十二名の昭和四十三年十二月分賃金の取扱いについて、これら組合員の同月分の賃金はいずれも同一条件者の平均賃金額より低額に抑えられているが、これは、会社がこれら組合員を組合活動家であるが故にことさら嫌悪し、賃金体系を利用しつつ昇給の都度経済面から不当に差別したものであり、不当労働行為であると判断したうえ、会社に対して、同月分及びそれ以後の賃金の是正等を命じている。
1 日特金属においては、一についての1の命令に対し、これを不服として、昭和五十年七月十二日、中央労働委員会(以下「中労委」という。)に再審査の申立てを行つており、現在のところこの命令を履行していないと聞いている。
2 電業社においては、一についての2の決定に対し、これを不服として、昭和五十年七月五日、静岡地方裁判所沼津支部に対して異議申立てを行つているが、この決定に従つていると聞いている。
3 日本アイ・ビー・エムにおいては、一についての3の命令に対し、これを不服として、昭和五十一年四月十四日、中労委に再審査の申立てを行つており、現在のところこの命令を履行していないと聞いている。
日特金属、電業社及び日本アイ・ビー・エムの三企業に関する労働関係諸法規違反の申告や人権侵犯などの申告の件数及び処理状況の概略は、次のとおりである。
1 労働基準監督機関に対する申告については、昭和五十年四月以降、電業社及び日本アイ・ビー・エムの事業場において労働基準法に違反する事実があるとして、それぞれの労働組合の役員等から所轄労働基準監督署に対し、それぞれ九件及び一件の申告が行われている。
所轄労働基準監督署においては、申告に係る事業所に対して臨検監督を実施し、その結果、電業社に係る申告のうち労働基準法第二十四条、第三十九条等に違反する事実が認められたもの二件については、これを是正するよう勧告を行い、是正させたところであり、また、日本アイ・ビー・エムに係る申告については、現在、引き続き調査中である。
2 人権擁護機関に対する申告については、昭和五十年四月以降、電業社の従業員から所轄地方法務局に対し、上司等から人権侵犯を受けた旨の申告が一件あり、現在、同地方法務局において調査中である。
日本労働組合総評議会全国金属労働組合又はその組合員による不当労働行為救済申立事件のうち、政府が現在までに調査し、確認した事件で現在中労委に係属中のもの(質問の 別紙に掲げられている企業に係るものを除く。)は十七件であり、その企業名、件数及び内容の概略は、次のとおりである。なお、これらの事件の大部分については、現在審問ないし審問後の手続が進められているところである。
(1) 丸善ミシン株式会社について、配置転換拒否を理由とする懲戒解雇、会社による組合旗の撤去等の問題に関する三件の事件がある。
(2) 日本エヌ・シー・アール株式会社について、組合事務所の明渡し請求、昇給及び一時金支給の差別取扱い等の問題に関する二件の事件がある。
(3) 中外電気工業株式会社について、会社の職制による労働組合への支配介入等の問題に関する一件の事件がある。
(4) 大阪金属加工株式会社及び丸紅株式会社について、会社の職制による労働組合への支配介入、労働争議の解決金に関する労使協定の履行等の問題に関する二件の事件がある。
(5) ハッピーミシン製造株式会社について、組合幹部に対する懲戒処分等の問題に関する二件の事件がある。
(6) 山形小松重車輛株式会社、山形小松フォークリフト株式会社及び株式会社東商について、会社の職制による労働組合への支配介入等の問題に関する一件の事件がある。
(7) 日本サーキット工業株式会社について、就業時間中の団体交渉出席者に対する賃金カット等の問題に関する一件の事件がある。
(8) 国光製鋼株式会社について、賃金引上げ及び一時金の査定における差別取扱いの問題に関する一件の事件がある。
(9) 日産自動車株式会社について、組合事務所及び掲示板の貸与における労働組合間の差別取扱いの問題に関する一件の事件がある。
(10) 株式会社大阪工作所について、労働組合の交渉委員に被解雇者が含まれていること等を理由とする団体交渉の拒否の問題に関する一件の事件がある。
(11) 株式会社淀川プレス製作所について、一時金支給の差別取扱い等の問題に関する一件の事件がある。
(12) 竹内鉄工株式会社について、賃金等の差別による労働組合への支配介入等の問題に関する一件の事件がある。
使用者が労働関係諸法規を遵守すべきことは当然であり、政府としては、かねてから労働関係諸法規の違反の防止に努めてきたところである。
政府としては、労働基準法等に違反する行為を行つた使用者に対しては、労働基準監督機関において是正勧告を行い、特にこれに従わないような悪質な事案については、送検等の措置を講じてきたところであり、また、労使関係の問題については、都道府県当局の協力を得て、不当労働行為の防止と健全な労使関係の確立の促進に努めてきたところである。
個別の労使紛争において使用者に不当労働行為があつたかどうかについては、労働委員会等の権限ある機関が判断すべきことであるので、政府としては、とかくの見解を述べることは差し控えるべきであると考える。ただ、紛争が特に長期化しているようなもの等については、政府としても、関係の都道府県当局を通じてその実情のは握に努め、必要に応じ関係者に対し助言・指導を行つているところであり、今後においても、労使当事者の自主的解決への努力に期待しつつ、労使当事者の話合いの促進等紛争の早期かつ円満な解決のために努力してまいる所存である。