答弁本文情報
昭和五十二年四月八日受領答弁第一三号
内閣衆質八〇第一三号
昭和五十二年四月八日
衆議院議長 保利 茂 殿
衆議院議員土井たか子君提出照射食品に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員土井たか子君提出照射食品に関する質問に対する答弁書
一について
食品照射に関する研究開発は、「食品照射研究開発基本計画」(昭和四十二年原子力委員会決定)に基づき、国立試験研究機関、日本原子力研究所、理化学研究所等において、計画的に研究開発を進めてきたところである。
同基本計画においては、馬鈴しよ、玉ねぎ、米、小麦、ウインナソーセージ、水産ねり製品及びみかんの七品目について、各品目ごとに、毒性試験、栄養成分の変化に関する研究等食品としての安全性及び健全性に関する研究、放射線の照射効果の研究等を行うこととなつている。
馬鈴しよについては、所期の目標を達成し、昭和四十八年度より実用化されている。
馬鈴しよ以外の六品目については、一部の研究開発が残されており、昭和五十二年度完了を目途に研究開発を進めている。
(1) 照射馬鈴しよの出荷量は、昭和四十八年産一三、三七五トン、昭和四十九年産一八、二三五トン、昭和五十年産二〇、六一四トン及び昭和五十一年産(見込み)一二、〇〇〇トンとなつている。
また、出荷先(昭和四十八年から昭和五十年までの計)は、関東(六四パーセント)、北海道(二九パーセント)、その他となつている。
(2) 各省庁の担当部署及び所掌事務は、別表第一に示すとおりである。
食品照射に関する研究開発のための現在までの予算及び配分先は、別表第二に示すとおりである。
昭和四十八年度農産物放射線照射利用実験事業において、士幌町農業協同組合が実施した照射プラントの設置等の事業の内容及びその経費は、次のとおりである。
(1) 設置した施設等
イ 放射線照射装置
コバルト六〇線源、線源駆動装置等機器設備
ロ 建物附属施設
照射棟四四九平方メートル、管理棟三〇三平方メートル、コンベア棟一七九平方メートル、照射用荷捌室九八一平方メートル、その他附帯設備一式、フォークリフト一台、コンテナ二、〇〇〇個
(2) 右の設置に要した経費
イ | 事業費 | 三八九百万円 | |
ロ | 負担区分 | ||
国 | 二三〇百万円 | ||
北海道 | 二三百万円 | ||
士幌町農業協同組合負担金 | 一三六百万円 |
なお、補助対象外の事業として同農業協同組合は、浄化そう、重油タンク、器具備品、電気設備(外線)等(五百万円)を設置している。
五について
(1)及び(2) 食品衛生調査会の審議資料の概要、研究機関、研究者及び公表された雑誌名等は、別表第三に示すとおりである。
(3) 照射馬鈴しよの発芽抑制メカニズムについては、解明されていない。
(4) 照射馬鈴しよと非照射馬鈴しよとは外見上何ら差異がなく、また、化学分析法等による判別もできない。
したがつて、照射馬鈴しよを判別する方法としては、発芽期に発芽が抑制されるか否かを調べることである。
(5)及び(10)から(12)まで 照射馬鈴しよの長期毒性試験は、実験動物としてマウス及びラットを用い、その体重及び臓器の重量変化、病理組織学的検査等について、これらの動物にとつて全生涯に相当する二年間にわたり、経時的な試験を行つた。その結果は、次のとおりである。
@ マウスについては、照射によるものと思われる影響はみられなかつた。
A ラットについては、三〇キロラド及び六〇キロラドを照射した馬鈴しよを与えたそれぞれの群において、非照射馬鈴しよを与えた群と比較して、百五週後に雌の体重増加量の減少が認められた。また、六〇キロラドを照射した馬鈴しよを与えた群においては、六か月後に卵巣重量の減少が認められた。これらは照射馬鈴しよの摂取による影響と考えられるが、その原因及び原因物質は不明である。
一方、これらの変化をみた実験動物について、病理組織学的検査等を行つたところ、何ら異常は認められなかつた。
また、実用線量(一五キロラド)を照射した馬鈴しよを与えた群においては、何ら変化は認められなかつた。
これらの結果及び他の試験結果等から照射馬鈴しよの長期投与による悪影響は無いものと判断し、その後、調査は行つていない。
本実験成果は、科学技術庁原子力局編「原子力平和利用研究成果報告書」(昭和四十三年版から昭和四十六年版まで)に公表されている。
(6) 照射馬鈴しよの栄養成分の変化について、調査した成分は、でんぷん、たん白質及びビタミンB1・B2・Cである。
調査の結果、ビタミンCについては照射直後、一時的にその減少がみられたが、貯蔵中のビタミンCの減少は照射馬鈴しよの方が非照射馬鈴しよより少ないため、照射後五か月では両者の間に差がほとんど認められなくなつた。
その他の栄養成分については、変化はほとんど認められなかつた。調査した栄養成分は、全体の約二〇パーセント(残りはほとんど水分)である。
(7) 馬鈴しよに付着している土中の微生物に対する照射(一五キロラド)の影響に関する実験の結果によると、照射直後及び照射後三か月においては殺菌の効果はみられなかつた。
本実験成果は、科学技術庁原子力局編「原子力平和利用研究成果報告書」(昭和四十四年版)に公表されている。
(8)及び(9) 照射馬鈴しよから抽出された成分によつて突然変異が誘発されるか否かを明らかにすることを目的とした研究の内容等は、別表第四に示すとおりである。
照射馬鈴しよについては、食品衛生調査会において、当時得られた最新の科学的知見に基づき、審議が行われたものである。
朝日新聞社に問い合わせたところ次のとおりの回答を得た。
「「くらしの科学」の内容は、藤巻・松山・梅田三氏から聞いた話を総合して、一般読者にわかりやすいよう朝日新聞社科学部でアレンジしたものです。三氏の話の中には重複しているものも多く、また、三氏の見解を総合して一つの答としたものもあり、どの答が誰れのものと同定することはできません。」
なお、三氏からも同趣旨の回答を得ている。
照射馬鈴しよが食品として許可されている海外の国は、米国、カナダ、ソ連、イスラエル、スペイン、デンマーク、オランダ、ウルグアイ及びイタリアと承知しているが、その生産量については不明である。
照射食品の種類別各国の許可状況は、別表第五に示すとおりと承知している。
なお、許可を受けた側の名称は、不明である。
米国食品薬品庁(FDA)は、一九六八年七月、陸軍省から出されていた照射ハムの許可申請を却下するとともに、既に許可していた照射ベーコンについても許可を取り消した。
その理由は、照射ベーコン及び照射ハムを与えたそれぞれの動物群に悪影響が認められたこと及び実験計画とその実施の一部に大きな欠陥があることの二点であると承知している。
なお、米国においては、これら食品について引き続き研究が進められている。
照射玉ねぎの次世代へ及ぼす影響に関する実験については、国立衛生試験所において、実験動物としてマウスを用い、繁殖及び催奇形に関する実験を実施しているところであり、昭和五十二年度中にその結果を取りまとめることとしている。
照射馬鈴しよの店頭表示及びこれを原料として使用している旨の表示について、食品衛生の観点からは義務付ける必要はないと考える。
馬鈴しよは、生食用、加工食品用及びでんぷん原料として広く利用されており、我が国の国民食生活において重要な地位を占めている。
このため、従来からその品質の向上を図るとともに安定的な供給を確保するための事業を実施しているところであり、その一環として昭和四十八年度に農産物放射線照射利用実験事業を国の補助事業として実施したところであるが、現在のところこのような事業を実施する具体的な計画は持つていない。
食品照射に関する試験研究の成果は、これまでも「原子力平和利用研究成果報告書」等において公開してきたところであり、今後ともこの方針は変更されるものではない。
食品照射に関する研究開発を推進するに当たつては、海外の実験資料についても国際協力等により積極的に入手に努め、その活用を図つているところであり、今後とも海外の実験資料は積極的に活用したいと考えている。
別表第一 各省庁の担当部署及び所掌事務

別表第二 食品照射に関する研究開発のための予算及び配分先

別表第三 食品衛生調査会の審議資料の概要、研究機関、研究者及び公表された雑誌名等



別表第四 照射馬鈴しよによる突然変異に関する研究

別表第五 照射食品の種類別各国の許可状況
