答弁本文情報
昭和五十三年六月二十七日受領答弁第五六号
内閣衆質八四第五六号
昭和五十三年六月二十七日
衆議院議長 保利 茂 殿
衆議院議員田口一男君提出日本化学工業株式会社のクロム工の疫学調査に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員田口一男君提出日本化学工業株式会社のクロム工の疫学調査に関する質問に対する答弁書
一について
クロム酸塩製造労働者に発生したがんのうち肺及び上気道のがんについては、昭和五十一年一月三十一日付け基発第百二十四号の認定基準通達に基づき労災認定を行つているが、現在、クロム障害に関する専門家会議(以下「専門家会議」という。)において、肺及び上気道以外の部位のがんとクロム酸塩製造工程における業務との因果関係について検討を行つており、その検討資料とするため日本化学工業株式会社のクロム工についての疫学調査を実施しているものである。
専門家会議は、クロム化合物を取り扱う労働者の健康障害と業務との因果関係について検討を行うことを目的としている。
昭和五十三年二月二十八日の衆議院社会労働委員会において、田口委員が、疫学調査は「実質的には専門家会議がやつたことと同じだ、こういう理解になるのですか。」と質問したのに対して、桑原政府委員が、これに同意する趣旨の発言をしたのは、その際にも答弁したとおり、
1 疫学調査の実施自体は、労働省が行つているが、調査の設計について、事前に専門家会議の意見を聴いていること
2 調査結果は専門家会議に提出し、その評価を求める予定であること
を考慮して発言したものである。
なお、労働省においては、疫学調査の実施について専門家の協力を得て行つているところであるが、その専門家の氏名については、調査結果についての専門家会議の評価を受けた後において、その専門家の了承を得られたならば明らかにすることといたしたい。
現在行つている疫学調査は、昭和二十二年九月一日に日本化学工業株式会社に在籍していた労働者のほか同日前に同社を離職した労働者についても対象として行つているが、松淵組のような下請企業の労働者については、同社に吸収されて本工となつた者を除き今回の疫学調査の対象とはしていない。
下請企業の労働者を疫学調査の対象から除外したのは、これらの事業場においては親企業における場合に比して長期間にわたるデータの保存が十分でないため、疫学調査としての母集団のは握及び構成要素の確認が困難であり、これらの不確定の要素を含めることは、疫学調査全体の意味を損なわせることとなるからである。
なお、日本化学工業株式会社の下請企業の過去の実態については、現存する資料も十分でなく、その詳細を知ることは困難である。
一般に、疫学調査を実施するに当たり、必要とされる資料は企業に依存せざるを得ない状況にある。しかしながら、調査項目、データの抽出、労働者の追跡の範囲等は、調査実施者が科学的な分析に十分堪えられるように専門的な立場から指定しており、企業が提出した資料をそのまま疫学調査の資料として用いるものではない。
今回の疫学調査においても、企業が提出した資料を、まず行政庁が点検し、その上で、調査実施者が専門的な立場から当該資料の確度の吟味等の精査を行つている。
クロム酸塩製造工程における業務とがん、特に肺及び上気道以外の部位のがんとの因果関係を解明するためには、調査はできるだけ広範囲の者を対象として行うべきであるとの石田前労働大臣の見解もあり、労働省においては、その趣旨に沿つて、適正かつ科学的な調査を実施しているところである。