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昭和五十九年七月十三日受領
答弁第二四号

  内閣衆質一〇一第二四号
    昭和五十九年七月十三日
内閣総理大臣 中曽根康弘

         衆議院議長 (注)永健司 殿

衆議院議員稲葉誠一君提出刑事訴訟法上の諸問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員稲葉誠一君提出刑事訴訟法上の諸問題に関する質問に対する答弁書



一について

 「無罪の推定」という概念は、刑事手続にあつては、検察官によつて有罪であることにつき合理的な疑いをいれない程度の立証がされない限り、被告人を有罪としてはならないという刑事裁判における立証責任の基本原則を表すものとして一般に用いられている。我が国の刑事訴訟法上明文の規定はないが、犯罪の証明のないときは無罪の言渡しをしなければならない旨規定している同法第三百三十六条にもその趣旨が表れている。
 英米法においてこのような「無罪の推定」の概念が認められていることは、陪審に対し説示すべき事項等に関する判例上明らかであり、これを明文で定めている法令も存する(カリフォルニア刑事法第千九十六条)。

二について

 第一審で有罪判決の宣告があつた場合における上訴審においても、前述のような「無罪の推定」が刑事裁判における基本原則であることには変わりはない。

三について

 我が国の刑事訴訟法は、同法第一条の目的規定において明らかにされているように、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、客観的真実を明らかにすることを究極の目的とするいわゆる「実体的真実主義」を基本原則として採用している。
 このことは、右の規定のほか、同法が第三百十九条第三項において有罪の自認のみによつて有罪とすることを禁じ、第二百九十八条第二項において職権証拠調を認めることとし、更に第三百八十二条において判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があることを控訴理由の一つとしていることなどからも明らかである。
 なお、旧刑事訴訟法も、証拠能力の制限等において差異を有するものの、実体的真実主義を基本原則としていたことは、現行法と同じである。

四について

 英米法系の法制においては、検察官又は訴追側の控訴権は制限されており、一般に、無罪判決に対しては控訴を認めず、また、無罪判決以外の裁判に対しても一定の場合に限つて控訴を許すこととしている例が多い。このような法制が採用されている理由としては、陪審裁判を受ける権利が被告人に保障されている英米法系の訴訟構造にあつては、陪審による評決、特に無罪評決は絶対的最終性を持つものとして尊重されていること、また、このような訴訟構造を背景にして、アメリカ合衆国においては同国憲法修正第五条でいわゆる二重の危険禁止条項が規定されていることなどが挙げられている。
 下級裁判所が再審開始決定をすることとされている国の一つであるドイツ連邦共和国の再審手続においては、再審請求の理由があるとして再審開始決定があつた場合には、検察官が抗告することを認めないこととされている(同国刑事訴訟法第三百七十二条後段)。この規定は、千九百六十四年十二月十九日成立の刑事訴訟法改正法案の連邦議会での審議において、裁判所が原裁判に疑念を抱いて再審開始決定をした場合には検察官が再度の審査を求め得ることとするのは相当でない旨の議論に基づき、追加修正されたものである。

五について

 被告人及び被疑者がその意思に反して供述をする必要がないことは憲法及び刑事訴訟法において保障されており、そのことが通常「黙秘権」と呼ばれているが、その実体は、被告人又は被疑者につき、右のような保障がなされているという地位ないしは状態を意味するものと解される。
 被告人又は被疑者が、公訴事実又は被疑事実につき、直接又は間接にこれを否定する供述を行うことを「否認」といい、全面的又は部分的に供述を行わないことを「黙秘」というのであつて、両者が異なることは、明らかである。

六について

 検察官が論告求刑において再犯のおそれに言及することもあるが、それは、当該被告人に対する量刑上考慮されるべき事情の一つを指摘するものに過ぎず、そのことによつて保安処分を事実上認めたこととなるわけではない。

 右答弁する。




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